ほむら「清丸国秀?」 (184)

「魔法少女まどか☆マギカ」及びその外伝とのクロスオーバー作品です。
スレタイで知ってる人には明らかですが、クロス相手に関しては次回以降。

元ネタが元ネタだけに、えぐい描写が出て来るかも知れません。
余り極端な描写は作者自身が受け付けないと思いますけど。
シリアスとそうでない所の度合いについても、正直出たとこ勝負になるかも。

作品考証に就いては………結構アレンジ、改変でやらせてもらいます。
基本は踏まえるつもりですが、中にはご都合も、地雷踏んでたらすいません。

色々と、投石はご勘弁をお手柔らかに、ってなりそうな予感が本当の所で。

投下間隔も予定と言うほどのものは難しいです。

ぶっちゃけて言えば、思い切ってスタートしないと余り考えすぎても始まらない、って感じで。

それでは投下、スタートします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402376833

げえっ、最終確認中にリターン押してた。
まあ、予定分の本文確認は終わった、筈だしこのまま行きます。

>>1

 ×     ×

「またまたあっ!」

部屋に飛び込むなり、呉キリカが叫び声をあげる。

「また、こんなに根を詰めて、
能力も使ったんだろ。今、浄化するからね」

「そうね、キリカ」

パソコンのあるデスクから振り返り、美国織莉子が疲れた笑みを向ける。
デスクやその周囲には、印字されたもの、手書きのもの、
資料や走り書きが散乱している。
それでいてその内容は常に理知的なものであり、
彼女の明晰な頭脳と、何よりも執念を伺わせる。

「浄化するのも、キリカに任せきりですものね」
「いいんだよっ!」

キリカはオーバーアクションに両腕を広げ、大声で否定する。

「いいんだよそんな事はっ。
織莉子のためならなんて事はない。私が心配なのは………」

「はいはい、お茶にしましょうね」

にこっと微笑んだ織莉子の言葉に、キリカはぴょんと飛び上がる。

「その前に………」

>>2

 ×     ×

風見野市内、廃教会。
壁を背に座り込んだ佐倉杏子は、無言で林檎を噛み砕く。
その眼差しは剣呑だった。

林檎が芯となり、杏子は宝石を取り出す。
舌打ちして立ち上がった杏子は、振り返った。
さっと掲げた左手に、窓から小さな紙包が飛び込む。
杏子が紙包を開く。その中身はグリーフシードだった。

「………福岡か………」

 ×     ×

薔薇の庭園。

「キリカ、紅茶にお砂糖は何個入れる?」
「3個!あとジャムも3杯!」
「まるでシロップを飲んでるみたいね」
「あァッもうッ!!」

相変わらず元気に飛び跳ねているキリカを見て、
美国織莉子は微笑みを浮かべる。
やはり、この娘がいなかったら自分はもう壊れてしまっていたかも知れない。
その思いを新たにする。

「?」

キリカの動きが止まった。
自分の紅茶にミルクを注いでいた織莉子の動きが止まっている。
織莉子は、ミルクの泳ぐティーカップを凝視していた。

>>3

「織莉子っ!?」

ミルクの器がテーブルに落ちた。
それと共に、織莉子が頽れる。
織莉子は蹲り、左手で口を押えて懸命に何かに耐えている様だ。

「織莉子!?大丈夫だ織莉子大丈夫っ!
そのまま、そのまま呼吸を整えて、吐きたいなら吐いて構わない、
今、すぐに浄化するから楽しい事を考えて織莉子っ!!」

叫びながら、キリカはその目を見開き額に皺を刻む。
織莉子の心をこれ以上乱さぬ様に、心の中で宣告する。

(お前、もう許されないよ)

 ×     ×

福岡市内の路上を、血まみれの男が徘徊していた。
年齢はまだ若い、と言えば若いと言えるかも知れない。
血まみれな時点で尋常ではないが、その顔つきも又、当然の如く尋常なものではなかった。
半可通な知識であれば、シャブ中が徘徊している、と言っても通じる光景だ。
その男の姿が、通りから路地裏へと消えた。

「な、なんだあっ!?」

血まみれの男が路地裏で引きつった声を上げる。
そして、自分を路地裏に引きずり込んだ相手を見る。
見た所、既に彼にとっての上限を二つも三つも超えていそうな十代中盤の少女。
髪の毛をポニーテールに束ねて、鼻から下を覆う様に布を縛り付けている。

「おふっ!」

少女は、男の腹に無言で脛を叩き込む。
強烈な一撃に、男の体がくの字に曲がった。

>>4

「清丸国秀だな?」

少女、佐倉杏子が、既に爆発寸前の殺気を込めて尋ねる。

「ああ゛?なんだよー、おまえもかよババァがよぉー」

だるそうに答えた男、清丸は、頬に食らった裏拳の衝撃で近くの壁まで吹っ飛ぶ。

「付き合ってもらうぜ」

杏子は、清丸にもう一撃食らわせ、意識を飛ばしてから担ぎ上げる。

 ×     ×

杏子は、人通りの少ない裏道を、
予定の場所まで可能な限りのスピードで疾走していたが、途中で足を止める。
それは、歴戦の勘か、或いは、鋭敏になった肉体的感覚が告げたものか。
その辺に清丸を放り出し、杏子は飛び退く。
彼女のいた辺りを銃弾が突き抜け、壁に突き刺さる。

「しっ!」

杏子が手にした槍に節がつき、地面を削った多節棍が小石を飛ばす。
路地裏から拳銃を向けた者が、石礫を食らって悲鳴を上げた。
杏子が、多節棍を槍に戻す。

「うぜえっ!!」

大振りの登山ナイフを手に杏子を襲撃した数人の男が、
瞬く間に杏子の槍に叩きのめされる。まだ穂先を突き刺すまではいっていない。

>>5

「!?」

次の事態には、杏子も目を丸くした。
左右から殺到する十人前後の集団。
彼らは、手に手に肉切り包丁を更にでっかくした様な青龍刀を振りかざし、
殺気を込めて杏子に迫っていた。

「なんなんだよっ!?」

杏子が、ぶうんと槍を振り回す。

「丸でゴキブリだな」

這う這うの体で路地裏に逃げ込んだ清丸は、声と共にその襟首を上から掴まれた事を理解する。
周囲には、拳銃を手にした男が転がっていた。

 ×     ×

「うあああっ!!」

清丸が放り出されたのは、既にほぼ解体された工場跡地だった。
顔を上げた清丸は、強力な負の眼差しを目の当たりにする。
それは、丸で虫でも見るかの様な目つきだった。

丸で虫の様に見下げられた清丸は、著しく不快な笑みを以て返礼し、腹に脛を叩き込まれた。
距離から言って、眼差しの主と攻撃の主は別人の筈だ。
何度か蹴りを叩き込まれた清丸は、地面に大の字に転がる。

相手は、白と黒だった。
清丸に虫でも見る様な視線を送っていたのが白い装束、
無言の暴力を叩き込んでいたのが黒い装束。
装束と言ってもいい、どこか芝居がかった二人組。

どちらにしろ、この二人が女で鼻から下に布を巻いていて、
そして清丸が許容できる年齢の上限を明らかに突破している以上、
清丸にとってはどうでもいい事だった。

大の字になった清丸の不快な笑みを見て、黒い少女呉キリカはもう一撃蹴りを入れようとしてやめた。
結局の所キリがない。こんな事で終わらせても仕方がない。
キリカの記憶は余りに忌々しいあの時点へと遡る。

>>6

 ×     ×

「大漁大漁っ、嗚呼、織莉子織ー莉子ー」

あの日の夜、呉キリカは、確保したグリーフシードの一つを掌で跳ねながら、
その時までは上機嫌で無限の愛の源へと見滝原の路上を軽やかに踊り進んでいた。

「あ?織莉子?」

キリカがにこやかに声をかけるよりも早く、
キリカの限りなき愛の行先、美国織莉子は猛ダッシュでキリカとすれ違っていた。

「織莉子、待つんだ織莉子っ!!」

そんな織莉子を追跡し、全力疾走或いは飛翔すらしながら、キリカは懸命に叫んでいた。

「見ただろう、もうここは東京だっ!
魔法少女の力でこんな無茶な道行を続けたらっ!!」

その通り、最早自分も相当危険な所に踏み込んでいる筈だが、
呉キリカにとって無限の愛に比ぶればそれはとっても、まあ、些細な事だった。
ようやく、織莉子の足が止まった。

「どうしたんだ織莉子?」
「キリカ?」

ようやく返答した織莉子は、それでも心ここにあらずだった。

「こんな無茶をして。浄化を急がないと、ソウルジェムを出して」

キリカの言葉に、織莉子は無言で従う。

「あーあ、私のも、ちょうど狩りが上手くいったから良かったものの………」

キリカがようやく周囲を見回す。
東京都内である事は途中の標識で理解していたが、そこは郊外の雑木林。

「織莉子っ!?」

又、織莉子が駆け出した。

>>7

「用水路?」

織莉子が足を止めた先を見てキリカが呟く。

「織莉子?………!?」

キリカが前に回った時、織莉子の目は見開かれ、唇が震えていた。

「………また………まにあわ………嫌………どうして……嫌………

………どうして………そんな………救えなかった………嘘………嫌………」

譫言の様に繰り返す織莉子が、すとんと膝から頽れる。
キリカが、もう一度用水路に視線を向ける。

「な、あ?………まずいっ!!」

キリカが、改めて織莉子のソウルジェムにグリーフシードを押し付ける。
だが、スピードが速すぎると見るや、

「ごめんごめんごめん織莉子っ!!」

キリカは、織莉子の体が地面でどさりと音を立てるのを聞きながら、
ダッシュでその場を離れていた。
織莉子から、この魂の宝石の事は聞いている。
今の自分の心が平静とは程遠い事も自覚している。
織莉子を起こして、そして織莉子を落ち葉まみれにした事に平身低頭頭を下げるのは、
二人分の魂に輝きを取り戻してからだ。

>>8

 ×     ×

(グリーフシード丸々何個か分を費やしてようやく人心地つく事が出来た。

お陰で、キュゥべえを呼ぶのが間に合わず、

丸々何個か分とまともにやり合う羽目に陥ったのは些細だ。

重要な事は、あれ以来、織莉子はひどく不安定になった。

それこそ、いつ、突発的に魔女になってしまうのかと言うぐらい。

このクズが織莉子の善意を踏み躙り、

このクズが織莉子の優しい心を砕いた)

呉キリカは改めて口に出して宣告する。

「お前、もう許されないよ」

キリカがその手に鉤爪を伸ばす。

「よし刻もう。

お………君の手を汚す価値も、殺す価値もない。

精々手足と何か汚らしいものを刻んでから警察の前に放り出してあげるよ」

>>9

「!?」

キリカが右腕を振り上げ、織莉子がハッと身を前に乗り出した時、
キリカの右腕に衝撃と、そして激痛が走った。

「っ、たっ………」

肉も骨も砕けた範囲は小さくない。
只の人間ならこれだけでショック死してもおかしくない、
何か月も動かせない、再起不能でも普通の重傷、傷自体ももっと大きかった筈だ。

「銃撃?(攻撃方向に速度低下………)」
「いけないっ!」

苦痛に耐え、痛覚を遮断するか少しだけ考えて、まずはこれで凌げるだろうとキリカが遅延魔法を発動した直後、
織莉子の叫びと共にキリカの背中にババンッと着弾の痕跡が刻まれる。

「どう、して………」

背中にいくつも赤い花を散らしながら、耐え切れずにキリカの体が地面に倒れこむ。
キリカは真上から明確な殺気を感じたが、それはすぐに消失する。
その代わりに、水晶球が空を切っていた。
周囲に、いくつもの水晶球が浮遊している。

>>10

「……いけ、ない………織莉子………」
「聞きなさい」

それは、息を呑む程に厳しい織莉子の声だった。

「これ以上傷つけると言うのなら、刺し違えてでも貴女を、殺す」

何秒か何分か、
息を呑む様な時間が過ぎ、織莉子はすとんと膝をつく。

「織莉子!?織莉子織莉子織莉子っ!!」
「脅威は、過ぎ去った」
「ごめん織莉子私がこんな頼りないから、
すぐに、すぐに魔力を使ったソウルジェムを浄化しないとっ!」
「先に、貴女の傷を、自分の、心配を」

 ×     ×

警視庁警備部警護課。

「清丸国秀は福岡南警察署に出頭した。
現地は相当に混乱しているらしい。
断片的な情報だが、既に清丸を狙って武装した、
恐らくは裏社会に関わる者同士の衝突すら発生しているらしい」

今回はここまでです。

どう考えても東京ダッシュは無茶だったよな………

続きは折を見て。

藤原竜也本人のクロスSSはたまに見るけど藁の盾クロスは初めて見た

話がぶつ切りすぎてさっぱりわかんないけど原作もそういう導入なの?

清丸とかガチクズだから清丸死亡エンド希望

長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」
1 :暗黒史作者 ◆FPyFXa6O.Q [saga]:2013/05/18(土) 00:45:23.45 ID:LTpOvEyL0
「魔法先生ネギま!」と映画「エンデュミオンの奇蹟」(とある魔術の禁書目録)
のクロスオーバー作品です。

ネギま!の終盤からのサザエさん時空が映画の時期にリンクしています。

自分でも先が計り切れませんが、当面の予測として
多分、ネギま!側がメインの進行になります。
ネギま!一通りと禁書の映画(と前提になる禁書)観てないと厳しいと思います。

正直言って、自分の禁書の知識、地雷あるかも(汗)、
ご都合独自解釈もありますが、爆炎上げて吹っ飛んでる様でしたら、お手柔らかに

それでは投下、スタートです。

◆FPyFXa6O.Qの検索結果
http://www.google.co.jp/?gws_rd=ssl#q=%E2%97%86FPyFXa6O.Q

これは痛い

まーた痛いコテがまどかSSに来たのか…(絶望)

感想どうもです。

>>13

どっちかと言うと私の書き癖の様です。
今回は間違いなく意図的にやってるけど、自分が読者として読んでも正直やり過ぎ。
続きも含めて演出と言えるか単に下手なのか、その辺はお任せします。

改めて本作に関する説明。

基本的には
「魔法少女まどか☆マギカ」
上の外伝「魔法少女おりこ☆マギカ」
映画「藁の楯」

が元ネタのクロスオーバー作品。
まどか、おりこの基本は知らないと厳しいと思う。
「藁の楯」は小説要素も入ってるかも。

以上を基本として、
その他、多少変なのが紛れ込んだり若干のオリキャラがいたりもしますが。

元ネタの基本を踏まえつつ、場合によっては大きなアレンジ、改変、ご都合が入ってたりもします。

あんまり極端なのは作者自身が受け付けない筈ですが、
それでも不快要素注意。

解説以上。

それでは今回の投下、入ります。

>>11

 ×     ×

『佐倉さん』
「織莉子か」

テレパシーでの呼びかけに、杏子は口に出して応じる。

『警察が本格的に動き出しました、合流予定に移動して下さい』
「分かったよっ」

杏子は舌打ちして周囲を見回す。
人間基準では桁違いの運動能力を以て、ものによっては猛獣よりも強い魔女と戦う魔法少女。
そんな魔法少女の杏子でも、
それなりに実戦慣れした青龍刀の五人や十人束になって殺すモードで殺到して来られたら、
槍や多節棍でチャンバラするのはそれなりに骨が折れる。
取り敢えずそいつらは全員その場に伸びてはいるものの、肝心の清丸国秀は既に逃走した後だった。

 ×     ×

「織莉子」
「無事でしたか」

とあるビルの屋上で、杏子と織莉子が言葉を交わす。

「あんた、私をハメたんじゃないだろうな?」

言いながら、杏子は織莉子に剣呑な眼差しを向ける。
織莉子の前に回るキリカを、織莉子の腕が無言で退ける。

「否定する程間違ってはいないわ」
「てめぇっ!」

杏子が織莉子に槍を向け、織莉子はキリカを制して穂先の前に立つ。
杏子は、槍を引く。
織莉子の瞳に浮かぶ悲しみ、杏子が共鳴した悲しみ。
それが見える以上、信じざるを得ない。

「で、なんなんだよあいつらはっ!?」

織莉子は、新聞とスマートフォンを差し出した。

>>19

 ×     ×

暁美ほむらは、少々苛立ち交じりに携帯電話を使っていた。
先ほどまで福岡南警察署周辺にいたのだが、マスコミや野次馬が集まって来たので早々に離脱した。
そこまでは分かるのだが、警察署から離れても離れても人口密度がなかなか下がらない。
そこいらじゅうで携帯電話を使っている。
万一の事を考えると、当たり前に使われているカメラ機能が最高に鬱陶しい。
ようやく、警察署から相当に距離をとった後で、携帯相手に悪戦苦闘していた。

「もしもし、よく聞こえないんだけど」
「清丸国秀の出頭は確認した」

携帯電話の向こうから、くぐもった様な声が辛うじて判別できた。

「当然ね。逮捕はされたの?」
「いや、現時点では任意の事情聴取と言う事になっている。
確かに、出頭したのは君から連絡を受けたのとほぼ同じ時刻と言う事だ」
「当然ね、私が見届けて連絡したんだから」

「君が突き出したのか?」
「いいえ、勝手に警察署まで逃げ込んだわ。
あの状況から一人で抜け出して警察署に転がり込むって、
生存本能だけはゴキブリ並にあるみたいね」

「ああ、その程度には知恵が働く」
「じゃあ、お役御免でいいかしら?この先はそちらの仕事でしょう」
「それで済む話なら、
わざわざ危険を冒して君に接触してはいない」
「そうね」

ほむらは、嘆息して電話の相手、
既に敵以外の何物でもないこの淀川と言う男と出会った時の事を思い返していた。

>>20

 ×     ×

ほむらと淀川が出会ったのは、山口県下関市内だった。

「ママー」
「しっ」

(まどかは休日を利用して家族と一緒に親戚の結婚式に出席。
イレギュラーな事が起きる時間軸ね)

鹿目家の宿泊先近くの路上で、ほむらはふと天を仰ぐ。
太陽の光はバイザー式のサングラスが遮っている。

(とにかく、こんな所でうっかりばったりなんて事になったら言い訳がきかない。
そこの所は入念に支度をしておいたからいいけど)

ほむらは心の中で呟き、アップに束ねた黒髪の上に乗っかったチューリップハットの縁をつまむ。
ざっ、と、小さくも鋭い動きに、左右二つに束ねた黒髪がふわっと揺れた。
既に人ならざる者の相手が主とは言え、実戦経験を重ねた事で身についた感覚。

「囲まれた?」

ほむらは、風邪用マスクの向こうでそっと呟く。
通行人の大半が、どうも通行人ではないらしい。
その中の一人、どこにでもいそうでそれでいて忘れられない何かを放っている中年の男性がほむらに歩み寄る。

「広範囲に人員を配置している。
今、君が私に無断でこのポイントを離れたら即座に射殺する様にとね」
「何を言っているんですか?」
「ご同行願おう、暁美ほむら君」

 ×     ×

「警視庁公安部未詳事件対策分隊の淀川さん、ね。
住所も電話番号もメルアドもURLもツ○○ターアカウントもフ○○スブ○クも無いのね」
「まあ色々不都合がありまして」
「それで、ご用件は?」

渡された名刺を一瞥した暁美ほむらは、長い後ろ髪をふぁさぁと撫で上げて質問する。
建物に入るのに不都合と言う事で、
三日三晩シミュレートを重ねたまどか遭遇対策装備は全面的に武装解除済みであった。

>>21

「今時、女子中学生をホテルの部屋に連れ込んで、
それだけでも問題になるんじゃないかしら?」

ホテルの一室で、応接セットのソファーに掛けたほむらは軽口をたたくが、既に察していた。
自分達同様、或いは自分達とは違った意味で、常識が通じる相手ではないと。

「元々は小さな部署でしてね」

淀川は語り始めた。

「そもそも未詳とは、未だ詳しくは分からない。
通常の定義に当てはまらない、言ってしまえばオカルトの分野に対応する部門だと言う事です。
そんなだから、精々が二人か三人、
例えば組織犯罪対策部の何でも屋辺りみたいに、はっきり言って左遷先の部署だった訳ですよ」
「だった、ね」
「ええ、事情が変わりましてね」

女子中学生相手に敬語で喋り続ける中年男。
しかし、ほむらが感じるのは薄気味悪い威圧感。

「本来オカルトの領域に属する非科学的、或いは現在の科学では説明のつかない存在。
そんなイレギュラーな存在に就いて、我が国の情報機関を統括する者は
極秘裏に、それでいて本格的な事情の把握が必要であると判断した。

その結果、元々の担当部署を大幅に改編、担当者を全員更迭した上で、
公安警察の極秘精鋭部隊として再編、拡大して本格的な調査に着手した。
これが我々に就いてのおおまかなあらましで、その結果、
そうしたイレギュラーの一端として浮上したのが君、暁美ほむら君と言う事だ」

「いい年をしてこんなホテルに中学生を連れ込んで電波話?
そういう痛い話に食いついて来るタイプだとでも思われたのかしら?」

ほむらがその美しい黒髪をファサッと掻き上げる、その手つきにはいつものキレが薄い。

「大体何?政府が本格的にイレギュラーの調査とかって、
私が宇宙人か未来人か超能力者で世界征服の手先だとでも言いたいの?」
「いや、もう少し現実的な問題だ」
「ここまでの話のどの辺に現実なんてものが存在しているのかしら?」

>>22

「公安部門がイレギュラーの対策に本腰を入れたのは、
国防に関わる領域で少々見過ごし難い事件が頻発したからだ。

事件の性質上詳しい説明をする訳にはいかないが、事が表面化した場合、
同盟関係にも重大な影響が発生し、ついでに内閣の一つや二つ吹っ飛ぶ。

その元凶となった者に対しては、死刑が通常である内乱容疑の適用を前提とした警察の総力を挙げての捜査、
それでも生ぬるい、特殊部隊を動員しての軍事的な抹殺、殲滅を視野に入れなければならない。
少しでも関わり合いのある者のことごとくを秘かに拉致、拷問して居場所を吐かせるぐらいの事も避けられない。
何よりも、事件の内容が内容だけに、社会不安も尋常なものでは済まなくなる。

その程度には重要な国防上、主に軍事兵器に関わる分野での重大事件に関して、
イレギュラーが関与している、イレギュラーの存在を認めざるを得ない。
それが分かったからこそ、国は現在の科学を超えたイレギュラーに
秘かに対処する我々の様な部署を本格的に稼働させた、と言う事だ」

「そそそそそそそそそそれでわわわわわわわわわ私が
そそそそそそそそそのイレギュラーだかなんだかだったりとかしたりいたしましたとして、
それでそのわたくしめに一体どどどどどどの様なご用件なのでございましょうか?」ブァサァッ

ほむらの質問を受けて、淀川が差し出したのは新聞だった。

「何、これ?」

ほむらは、差し出された一部の新聞を見て怪訝な顔をする。

「映画の小道具?でも、本物の殺人犯よね。
映画とかドラマになるには早すぎるんじゃ………何かの実験?………」
「正真正銘の募集広告だ」

「………現代の中学生の常識を試されているのか
私があなたの頭を試さなければならないのか、一体どっちなのかしら?」
「君が出歩いていたのであろう事を考えると、その発想はあながち間違ってはいない。
一般的なニュースサイトを見てみるといい」

ほむらは、勧められるままに用意されたノートパソコンを操作し、その手を止める。

「本物、なのね」

一般的に言って非常識で異常な出来事には割と慣れているほむらではあったが、
異常性のベクトルが違いすぎて気の抜けた様な返答しか出来ない。

>>23

「この男を殺して下さい、御礼に10億円差し上げます」

ほむらが、手にした新聞の全面広告を読み上げた。

「この男に就いて、知っている事は?」
「清丸国秀、ここに名前も書いてある。
確か、八年前だかにも幼女暴行殺害事件を起こして、
出所後にも又似た様な事件を起こして、ええ、いたいけな幼女を惨殺して逃走中。
これで良かったかしら?」

ほむらは必要最低限の解答を述べる。
本当は、今自分が説明した事件に就いて、ほむら自身やや大きめの関心を寄せていた。
だが、それを告げるつもりは全くない。
そして、ほむらがなぜ関心を寄せていたのか。
その理由を淀川が知っている筈はない、と、今はそう思っておく。

「最大の問題は、今回殺害されたマル害、被害者の祖父が蜷川隆興だった、と言う事だ」
「蜷川隆興?」
「通称蜷川財閥、蜷川電機グループの総帥。
既に役職は退いているが、実質的な立場は変わらない。少なくともこの広告が出るまでは」

そこまで言われて、ほむらも何となくイメージできる。
それこそ、名前ぐらいは中学生が知っていてもおかしくないぐらいの超大物財界人だ。

「ちょっと待って、あの娘は祖父母と暮らしていたと聞いたわ。
蜷川氏と暮らしていたの?」

「いや、マル害は父方の祖父母と暮らしていた。
両親は養育に不適切だと言う事で、家庭裁判所から親権を停止されていた。
蜷川氏は、マル害の母方の祖父に当たる訳だが、
その母親に当たる娘と疎遠、実際の所は若い頃のトラブルで勘当、絶縁の状態にあったため、
孫の事を気にかけていた蜷川も父方の祖父母に譲った。
蜷川は何度か孫に会いに行っているが、その様子は只の孫馬鹿のお爺ちゃんだったと言う事だ。
その父方の祖父母が東京の知人に会いに行った、それに同行した際に起きた事件だった」

「そういう事」

返答したほむらの視線が、テーブルを向く。
淀川が自分の隣に移動して来た事に就いても、今の抵抗は眉毛を動かすにとどめる。
淀川は、ノーパソを操作してとあるウェブサイトを表示する。

>>24

「これは、キヨマル・サイトと呼ばれているサイトだ」
「キヨマル・サイト?」

淀川の操作で画面は動画を表示し、その動画は再生直後に停止された。

「蜷川隆興、この事件、殺人教唆広告事件のキーパーソンだ」

淀川が言う。
画面には、一人の老人が映し出されている。
そして、ほむらの現実感覚から言って映画のセットにしか見えない莫大な札束も一緒に。

和装でソファーに掛けて映し出されている蜷川の姿は、余り健康そうには見えない。
老齢や事件の心的影響もあるが、ほむらの勘はもう少し別の気配を嗅ぎ取っていた。

それでも、その威厳は只者ではない。
それに加えて、不健康さが凄絶なものをほむらに突き付ける。
淀川が停止を解除し、画面の中の蜷川が口を開く。

「この男、清丸国秀を殺して欲しい。私の………」

皺がれた第一声は、ほむらの脳裏に焼き付けられた。

「………孫娘を殺した男だ
私は心臓を患っている、もう長くはない。
生きる意味を失った年寄に、こんなものは紙屑同然だ………」

ほむらの凝視する前で、蜷川は賞金の支払い条件を説明する。
清丸国秀に対する殺人罪、又は傷害致死で有罪判決を受けた者、複数可。
国家の許可を持って清丸国秀を殺害した者。
このどちらかの条件を満たす事。

「このサイトを閉鎖する事はできない。私は何でも買える
子どもの命以外は」

動画が終わった時、ほむらの肌にはじっとりと汗が浮かんでいた。
随分と忘れていた、あの苦しさすら蘇りそうだ。

「狂ってる………」

ほむらが呟き、いつの間にか掴んでいた右手を自分のみぞおち辺りから離す。

>>25

「蜷川が本気なのは理解したわ」

意識的に呼吸を整えながら、ほむらは新聞を手にする。
ほむらは痛感した、蜷川は本気だ。
そして、「狂っている」と敢えて口に出さなければならない。
無意識でもほむらにそう思わせる、蜷川の呼びかけにはそんな何かが秘められていた。

「それにしたって、状況も狂っているんだけど、
こんな広告とかサイトとか、いくら蜷川が大物でも………」
「大物が狂ったから出来た事だ」

淀川が言う。

「三大新聞社の整理部、印刷局、約65名が辞表を提出し、弁護士を立てて一切の事情聴取を拒否している。
その全員が買収、或いは脅迫もあったのかも知れない。
何れにせよ、捜査一課が清丸への脅迫容疑で強制捜査に着手する予定だが、
蜷川本人は行方不明、辞任した広告関係を締め上げても何も出て来ないだろう。

現状では脅迫容疑、実際に殺人が着手された時点で殺人教唆に切り替える事になるが、
実刑判決上等の買収が行われたと見るべきだ。

中には脛に傷を持つ者もいたのかも知れないが、堅気の新聞社でこの広告を確実に公表する、
それだけでも想像を絶する金額、人脈だ。
サイトも規制の難しい海外から更に様々な防護策をとってこちらからの干渉を防いでいる」

その時点で、ほむらは言葉を失った。

「蜷川は蜷川電機グループの総帥、経団連会長も歴任した大物財界人だが、
町場のアンプ屋から一代でそこまで上り詰めた立志伝中の人物、お上品な財界紳士じゃない。

若い頃は経済新聞の連載にはとても書き込めない数々の修羅場を潜り抜け、
殺し屋、脱税、詐欺師その他諸々の裏の世界にも精通しながら罪に問われた事もない。
政治家、財界、官僚、そこにはマスコミや警察の上層部も含まれる。
表でも裏でも分厚い人脈、親交がある。恩義も貸し借りも山ほどある怪物だ。

報道では個人資産一千億円とも言われているが、それは表向きだ。
タックスヘイブンの預貯金を含めると兆に届くのかも知れない。
孫が二十歳を過ぎたら表の資産だけでも譲る事が出来る様に、
自分の死後に関する手配を始めた矢先の事件でもあった。
そんな、日本を揺るがす程の怪物が、一人の屑のために全てを捨てて本気になった」

淀川の言葉を聞きながら、ほむらは目立たぬ様に懸命に呼吸を整え心を整える。

>>26

「それで、その蜷川氏による殺人予告と私と、一体何の関係があるの?」

苛立ったら負けだ、そう自分に言い聞かせながらも、
ほむらは一歩踏み出す。

「当然この広告は警察、警察庁長官、そして政府筋の逆鱗に触れた。
国家に対する公然たる挑戦だと。
それに対して、B担当、暴力団担当や公安は容易ならざる事態になる、そう分析した。

つまり、裏社会の人間の中にも、この賞金稼ぎに乗る動きがある、
それもかなり大規模に、そういう事だ。
それだけに、警察庁も危機感を強めている。
只、これだけの話なら、こうして危険を冒して君と接触したりはしない」

「長い前ふりだった訳ね」

「財界の超大物であり、警察にも大きな影響力を持つ蜷川氏の孫娘が惨殺されたと言う時点で、
清丸の失踪もあって警察庁長官から全ての警察のあらゆる部署に徹底捜査の厳命が下った。
ああ、あらゆる部署にだ。
徹底した関係捜査の情報を照合した、その中で判明した事は、
我々の扱うイレギュラーとマル害の間に接点があったらしい、と言う事だ」

ほむらは、臍下丹田に力を込める。

「覚えがないわね」ファサァ
「ああ、君ではないな」

ほむらは、安堵で頽れそうになる体を気力で懸命に支える。

「だが、まずい事に、そのイレギュラーの中にはアンタッチャブルイレギュラーも含まれている」
「アンタッチャブル?」

「ああ、過去に我々の部署でどうもそれらしいと踏んで着手したものの、
どういう訳か監視用の機材も人員も、
事によっては接近すらする前にあっと言う間に排除され、手痛い警告を受けた。
しかも、彼女は表側でも少々厄介な人脈と繋がっている。
だから、我々としても当分は手出しは出来ない、そう判断した」

話を聞きながら、ほむらは嫌な予感しか感じていなかった。

>>27

「そして、ここに来て、マル害と接点のあったイレギュラーが奇妙な動きを見せ始めた。
更に悪い事に、清丸の事件に関する不確定な裏情報にもその動きが符号するらしい。
只の人間の犯罪なら我々の出る幕ではない。
だから、イレギュラーであろうと推察している君に接触した。

そこで君の使命だが、
今や法律に基づく逮捕、起訴、有罪の成功に国の威信がかかっている清丸国秀を、
イレギュラーによる干渉から保護する事。以上だ」

「どうして私があなた達の指示に従わなければならないのかしら?」
「断る、と言うのなら、君の行動は今後国家の総力を挙げての妨害を受ける事になる。
加えて、今言った通りの事情で、もし清丸がイレギュラーの手で命を落とす様な事になれば、
国家とイレギュラー全体の全面戦争にも発展するだろう。
状況が状況で対象が対象だ、無傷とは言わない、国家の威信が保てる程度の負傷に留めてもらえばいい」

流石に、まずい事になった。
色々あったが地が只の中学生のほむらには、どこまでがハッタリなのか程度が判別できない。
だが、少なくとも笑い飛ばして終わらせる事が出来る現実も度胸も存在しなかった。
加えて、彼らの言うイレギュラー、それが本当だとしたら、
関わっているのが何者なのかをほむらの知る限りで推察してもひどく悪い予感しかしない。

「只で、とは言わない。
承諾してくれるなら、ご両親には命懸けの仕事に相応しい経済的な便宜を図る事を約束する。
無論、不審を抱かれない形式を整えた上での便宜だ」

腹をくくるしかないのか、両親の仕事と医療設備、技術の都合により、
ほむらが中学生にして見滝原のマンションに一人暮らしをしている事を含め、
両親に一方ならぬ負担を強いて来た事は子供心にも痛感してきた。
沈黙するほむらに、淀川は四枚の写真と調査資料を差し出す。

「平凡な家族を一つ社会的に破滅させる事も肉体的に破滅させる事も、
我々には容易い事」

淀川の口の中に鍛えられた鉄の味と生ぬるい鉄の味が広がり、歯が四本へし折れる。

今回はここまでです。
淀川さんはオリキャラです。
それっぽいキャラや設定をテキトーにパロった要素が色々入ってます。
続きは折を見て。

国家的に認知されてるならワルプルギス対策の協力でも依頼すりゃいいのに

つまんね

それでは今回の投下、入ります。

>>28

 ×     ×

「なんだよこれっ!?」

青龍刀軍団の襲撃を受け、清丸を取り逃した後のビルの屋上での事。
本人も気が付いた時には、佐倉杏子は魔法少女の力で新聞を丸ごと引き裂いていた。

「てめぇ、マジであたしの事担いでんじゃねぇだろうなっ!?」

杏子が目の前の美国織莉子をギロリと睨むが、織莉子は悲しげな眼差しを向けるだけだ。

「本当にそうならどれだけ良かったか」

そう言って、織莉子は小さく首を横に振る。

「じゃあ、マジなのか?」
「ええ。蜷川隆興、あの娘の母方の祖父よ。
養育こそ父方の祖父母に譲ったけど、一人の祖父、お爺ちゃんとして心から慈しんでいた。
だけど、その蜷川氏はこの国を揺るがす程の富と人脈を手にした巨大企業のトップだった」
「それでこんな広告やサイトが、信じられねぇ」
「私も、実物を見るまでは」
「こうなるって分かってたのか?」

「イメージは把握していた。あの娘の死をこんな馬鹿騒ぎに巻き込みたくなかったし、
こんな形で蜷川氏の、祖父としての苦しみを表に出したくなかった」
「だからあたしにも声をかけたのか?」

「ええ。でも、間に合わなかった。
こんな事をしなくても、今は厳しいから子ども相手の再犯、十分死刑になる案件よ。
恐らく前回の事件でDNAを登録されていて、ここまでの状況から無罪も心神喪失も無いと思う。

それでも、只、法律に任せて楽に死なせて終わらせる。
それではキリカもあなたも収まらない。
いえ、そんな言い方は卑怯ね。私自身、この手で八つ裂きにしてやりたいと心の底から思う」

「あんな屑、織莉子が手を汚す程の価値はない」

最後に僅かばかり、それでもえぐり込む様に力を込める織莉子に、
キリカも吐き捨てる様に言う。

>>31

「こんなものじゃ済まないわ」

織莉子が、新聞を拾い上げて続けた。

「蜷川氏は本気よ。この広告もそうだけど、法律的にはあり得ない懸賞金の引き渡しまで、
彼の培って来た途方もない、国を動かす程の途方もない財力、権力。
その全てを擲ってでも無理を押し通すつもりよ。

これから続々と、ええ、警察に確保された事なんてどうでもいいと言うぐらい、
屑の命を奪うために続々と亡者が群がって来るわ。

それでも私の手で、と言うのは、
これも異常な力に頼り感情任せに法を捻じ曲げる只のエゴ、何も生み出さない自己満足。
いっそ金目当てだと言う方が清々しいのかも知れない、どこが違うのか分からない。

あなたはどうするの?警察と賞金狙い、どちらにしてももう清丸の命は無い、
結果が同じなら彼らに任せて静かに弔いますか?」

「それが利口なんだろうな。ああ、魔法少女の力なんて、徹頭徹尾自分のために使うモンだ。
魔女相手でもなし、警察どころか金目当ての連中ともぶつかりかねない。
賞金を受け取るには有罪判決を受ける事って言ったな、魔法少女じゃ無理だろ。
そんな敵討ちなんて、もう死んじまったのに一銭にもならない自己満足にも程がある」

ガン、と、杏子の裏拳が叩きつけられた屋上の柵がひしゃげた。

「あんたらが絡んで来なかったら、今頃あいつは魔法少女か泥棒の片割れか、
あんたらのお陰で真っ直ぐに生きる事が出来た、出来た筈だったんだ」
「ええ。家族との平和な暮らし。平凡でも、とても温かな大切なもの」

織莉子が言い、織莉子も杏子もてんでの方向で下を向く。

「あんたらがあいつの背中を押した、それで平凡な幸せを手に入れた」
「そうだよ、織莉子があの時、それで、あんなに幸せそうだった」

「私が大した事をした訳じゃない。
本当に強かったのよあの娘は、自分の手で幸せを掴み取るぐらいに強かった」

「ああ、あんな辛い目にあって、それでもあんなガキが、
只の人間のガキが奇跡も魔法も抜きで自分で掴み取った当たり前の幸せ、
それをあの屑野郎が踏み躙った」

段々と震えの大きくなる声でそう言いながら、杏子は両手で柵を掴み織莉子に背を向ける。

>>32

「分かんねぇ、あたしにだって分かんねぇよ。
分かってるのは、あたしが、魔法少女になってからもう何人殺したかも分からない、
正義だなんだと口に出す資格なんてとっくに無くなってる人殺しだって事さ。
あのクソ野郎はそんなあたしの前から大事なものを奪って行った。奴はあたしの獲物だ。
あんたらはどうなんだ?結局捕まえ損ねたのか?」
「面目ない」

キリカが返答してにいっと笑った。

「そっちも邪魔が入ったのか?」
「ああ、結構痛い目見た」

杏子の問いにキリカが答える。

「魔法少女が痛い目って、やっぱヤクザかあっち系のマフィアか」
「魔法少女」
「何?」

織莉子の返答に、杏子の声が鋭くなった。

「他の魔法少女が噛んで来たのか?」
「ああ、そうだね。確かに魔力を感じた気もしたし」

杏子の問いにキリカが答えた。

「どういう事だ?賞金目当てか?」
「違うわね。清丸を守る側についたみたい」

杏子の問いに織莉子が答える。

「なんだと?どういう事だ?」
「分からない。分かっているのは、彼女が清丸を守る側で戦っている事だけ」
「ビジョン、予知か」

織莉子の答えに、杏子が吐き捨てる。

>>33

「何考えてやがる。まさか、正義の味方ってんじゃねぇだろうな」
「そうかも知れませんね。賞金目当ての亡者共、対立する魔法少女、警察。
一文の得にもならない闘いになりますよ」

「言った筈だ、奴はあたしの獲物だってな。
金のために奴を殺す?正義の魔法少女?やってみろよ。
あたしは徹頭徹尾自分のために魔法を使う。
大事なものを奪われた、そのオトシマエは必ずつける。
邪魔するってんなら叩き殺すまでだ」

「ま、私自身が直接的に大事に思ってた、って事もちょっとは否定しないけどさ。
それよりも何よりも、私にも退けない理由がある。
誰をどれだけ傷つけたか、それに対する私の勝手な判断で、あいつは許されないよ、絶対に」

頭の後ろで手を組んで行っていたキリカの語尾は、明らかに真顔を思わせるものだった。

「行きましょう」

哀しみと威厳、織莉子の一言には、
相手がやんちゃな杏子であっても、人を率いるには十分な力が込められていた。

 ×     ×

「警視庁捜査一課の者だ、清丸を引き取りに来た」

九州中央病院の廊下で、神箸正樹は警察手帳を示して張り番の刑事に尋ねた。

「今、治療中たい」
「清丸はどこだ?」

銘苅一基の目の前で、清丸の居場所を聞く神箸と
治療中を理由に退去を求める福岡県警の刑事との間で押し問答が続く。

「任せる?任せてどうなった?」
「何やと?」

そのやり取りは、宣戦布告の一線を楽々と踏み越えた。
元々、ここは福岡県警の縄張り。
加えて、銘苅から見ても、神箸は若手のいかにも血気盛ん、
と言うよりはまんま暴力刑事だろうと言うタイプの刑事だ。

>>34

元々、警視庁刑事部捜査第一課自体が、一課の中の一課として自他共に認めるプライドがある。
それに加えて、神箸が言う通り、清丸が現在ここで治療中である理由が理由だ。
福岡南警察署に任意で一時保護された清丸国秀が、警察署内で刃物を持った警察官に襲撃された。

命に関わるケガではないが、そういう事情で病院に搬送され治療を受けている以上、
東京本部の一課としては福岡県警に易々と任せていられないし、
福岡県警は福岡県警で、縄張り内で自分達に資格がない事を面子にかけて認める訳にはいかない。
警察も又、セクト主義縄張り根性の塊であるお役所、早速面倒な事だと銘苅は一度周囲に視線を走らせる。

大体、銘苅等東京側にしても一枚岩ではない。
東京で発生した殺人犯の身柄引取りと言う事で東京警視庁刑事部捜査一課が出張っているのだが、
銘苅は同じく警視庁でも警備部警護課に属するセキュリティーポリスつまりSPだ。
見た目からして違いがある。

東京側四人の内二人がSP、銘苅も、同僚である女性SP白岩篤子も、
要人警護が本業とあってどこかスマートでスタイリッシュだ。
精悍な中にもあくまで折り目正しく紳士的な対応の銘苅、
ばっさりとしたショートカットもSPである女性警察官としていかにも、に見える、
一抹の疲れを覗かせながらもきびきびと職務をこなしている白岩篤子。

今回蜷川による暴挙を受け、
SPとしては異例の被疑者護送のために警察庁の総力戦の一環として動員された。

一方の刑事部捜査一課は最初から暴力的な若造の神箸、
そして、その神箸の上司に当たる奥村武。
一見平凡だがどこか一癖ありそうなサラリーマン、
こういうのが刑事としてやり手なのだろうと言うタイプだ。

「多くの捜査員は職務を全うしようとしている」

脇の部屋から、新たに登場した刑事。

「見下した様な態度はやめてくれんかね」

と、神箸と、そして県警側の刑事を宥めている。
ラグビー経験者と言われればそれを信じてしまう様な、
ガッチリとした体格に坊主頭の中年刑事。

>>35

「申し遅れました、福岡県警の関谷です。移送に同行します」

ガッチリとした坊主の刑事、関谷が自己紹介をする。どこか人懐っこく憎めない。
身内にも被疑者にもこういうタイプの「人情刑事」なのだろうと銘苅は見当をつける。
ここまででも事態は十分イレギュラーだが、
更に弾け飛んだイレギュラーがすぐそこにまで迫っていた。

「お嬢ちゃん何ね」
「ここは行けんよ」

一度関谷に脇にどけられた県警の刑事の言葉に、銘苅もそちらを見る。
異様な美少女がそこにはいた。
どう見ても中学生ぐらいだろう。
大人から見たら小柄な全身をすっぽりと覆うトレンチコートと
見事な黒髪がコントラストが異様さを際立たせている。
顔立ちも整っていて一見して美少女と言える容貌だったが、
その美しさはミステリアスな、
大げさに言うなら冥界の使者にも例えたくなる雰囲気すら漂わせている。

丸でお人形、白岩篤子はそう思った。
白岩篤子が同性として、長く艶やかな黒髪に一瞬でも羨望を禁じ得ない。
そんな素晴らしい黒髪に整った顔立ち、そして、脆さの伺える華奢な雰囲気も、
日本人形の様でもあり、鴉の黒の衣装が似合いそうなミステリアスな人形の様でもあり。

或いはそれは、白岩が遥か彼方に過ぎ去った、
そんな年頃の少女だけが輝きと共に持つ儚さなのかも知れない。
なんか9ミリ弾が14発程作者の方に飛んで来てるのはおいといて。

「警視庁警護課銘苅一基警部補」

ぴたりと足を止めた少女が口を開く。
暗く、謡う様に名を呼ばれ、銘苅は怪訝な顔をする。

「警視庁捜査一課奥村武警部補、福岡県警捜査一課関谷賢示巡査部長」

少女は、名前を呼んだそれぞれに向けて封書を差し出す。
関谷は別にして、それぞれの背後で部下が油断なく身構えていた。

>>36

「なんだぁ………」
「科学警察研究所暁美ほむら」

神箸に皆まで言わせず、暁美ほむらはIDカードを示す。

「アメリカ滞在中、行動心理分析の面でFBIに協力してきた。
今回の異常事態を受けて、
警察庁による異例の措置で形式上の身分を取得して同行する様に命じられた」
「プロファイラーか」

淡々としたほむらの言葉に銘苅が呟く。

「私は漫画に出て来るオールマイティ飛び級天才科学者じゃない。
言語が少々不自由な上に学術理論ではなくインスピレーションに偏っている。
只、事情があって上の指示に従って協力するだけ。
渡した書類の判子には見覚えがある筈。それでも疑うなら、
この識別番号で上司に確認をとって下さい」

(アメリカ帰りと言えば経歴をリセットしても通用するなんて、
全く安直な発想ね)

「すっこんでろよ」

この自分が演じる脚本を書いた相手に心の中で嘆息するほむらの前で、
早速に、神箸がずいっと進み出た。

「美少女探偵wの出る幕じゃねぇんだよ。
机の上のお勉強でどうこう出来るヤマじゃねぇんだ」
「美少女探偵と言うのは認めていただけるのかしら」
「んだとぉ?」

「どこの八十年代のヤンキー漫画よ?」
「なぁ………」
「まぁー、まあまあまあ」

先ほどと同じく、神箸の肩をぽんと叩いて関谷が気勢を削いだ。

>>37

「わしも賛成出来んなぁ。
只でさえ惨か事件、その上この先もどんな修羅場になるか想像がつかん。
お嬢ちゃんを連れて行くのは危険過ぎるし見ていいもんじゃなか」
「そんなもの、腐る程見て来た」

人懐っこく語り掛ける関谷を、ほむらは静かに見上げる。

(何ね、この娘………)

漆黒に澄んだほむらの瞳を覗き込んだ時、関谷はどおっと汗の吹き出す錯覚すら覚える。
関谷も捜査一課の、それも、可能な限り人と人との情や絆で仕事をして来たタイプの刑事だ。
その中で、理不尽な事件に巻き込まれた多くの遺児を見てきた。
性質は、似ている。だが、濃度が違う。違い過ぎる。
途方もない哀しみを煮詰めて、更に突き抜けた様な哀しみ、強さと脆さの危うい均衡。

(何を見て来たらこげん………)

「すいませんがそれは聞けません」
「おいっ!!」

ふぁさぁと黒髪を掻き上げ関谷の横をするりと通り抜けるほむらを見て、
いよいよ神箸が怒号を発した。

「スカシてんじゃ………」

ほむらの肩を突こうと腕を伸ばそうとしたその瞬間、ほむらは固有魔法を発動する。

(全く、人前じゃあちまちまと面倒ね)

嘆息しながら、ほむらはほんの僅か、腕の軌道から我が身を反らしてから魔法を解除する。

「あなたは命令が聞けない程愚かなの?」
「な、あっ」

小柄な少女にするりと懐に入られ、神箸は絶句する。

>>38

「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない」
「て、め………」

ほむらのコート越しにぐっと体に押し付けられる固い感触、
そして、まっすぐ前、つまり、神箸の胴体を見ているほむらの空虚な瞳。
神箸は、若手で血の気が多いとは言っても東京の一課の刑事である。
ようやく感じ取る事が出来た、その冷え冷えとした何かを。

「時間は有限の筈よ。
いい加減清丸国秀の移送に着手すべきじゃないかしら」

スプーンを掲げてそう言うほむらに視線を向けられ、
ここで警視庁捜査一課組を仕切る奥村武が頷き動き出した。

 ×     ×

ほむらを含む移送チームは病院の処置室に移動する。
既に処置は終わっており、
奥村が逮捕状を示し、東京での殺人事件の容疑者として正式な逮捕手続きに入る。

「あなた達だけで大丈夫かなって」
「どういう意味だ?もう一度言ってみろこの野郎!!」

長椅子に掛けていた清丸の言葉に、神箸が激した。

「やめて下さいよそういうの!!」

叫び声を上げる清丸と殴りかかる勢いで突進する神箸との間にSPの二人が割り込み、
それが神箸の癇に障り更に押し問答となる。

>>39

「僕はね、二回も殺されそうになってるんですよ。
不安になるのは当たり前でしょう!!
殺されそうになってみなさいよっ!!」

その間に、清丸は更に絶叫していた。
ベッドの上で地団太を踏み床を転げ回り、
何と言うか、ほむらとしては頭が痛くなるとしか言い様のない状況だ。
暴力刑事はいい加減にして欲しいし、清丸は根本的にズレてるし。

清丸の言葉は他の人間が言うのであれば文句なしに正しい事を言っている、
と言うのがとてつもなく不快だ。

取り敢えず、黙りなさいと怒鳴って口に銃口を突っ込ない様に自制している所だが、
見た所、他の面々の本心も似たり寄ったりだろう。
それでも、するりと一分の隙も無く防御に移動したSPはさすがだ。

「僕の気持ちも分からないのにっ!!べたべた触らないで下さいよ僕に触るなああああっ!!!」
「鎮静剤を」
「はい」

喚き散らし、しまいに清丸は排水口に体を寝かせる様にして
その側のシャワーで水浴びを始める清丸を前に、医師が看護師に指示を出す。
ほむらとしては、或いはこれが噂に聞く精神鑑定狙いかとも思わないでもない。
そして、そんな清丸を後目にほむらは移動していた。

「おい、この二人は警視庁のSPだ。
移送中はこの二人がお前を守ってくれる、安心しろ」

奥村がそんな清丸を宥める中、看護師が用意を終え、
注射器を置いたバットを手に歩き出す。

「注射器の中身はなんですか?」

その看護師に声をかけたのは銘苅だった。

「ポケットの中身を見せて下さい」

白岩が看護師の斜め前に移動し、関谷が看護師の斜め後ろで目を光らせる。
物腰柔らかな銘苅の対応が、じりっ、じりっと看護師を追い込む。

>>40

「ああ………あっ!!」

看護師がキャップを外した注射器を振り上げるのと、
ほむらが人並みの脚力で思い切り看護師の脛を蹴り上げるのと
白岩が看護師の腕を掴み上げるのはほぼ同時だった。
バランスを崩した看護師に処置室にいた背広軍団が殺到し、
看護師を完全に押さえつけてポケットから薬瓶を取り出していた。

「これは、カリウム製剤です」

薬瓶を見て、医師が驚愕した。
看護師の嗚咽と共に、
通常は行わない静脈注射により心停止を引き起こす劇薬である事も説明される。

「さすがだな」

一仕事終えた銘苅がぽつっと言った。

「真っ先に看護師の動きを目で追って、
さり気なく立ちふさがっていたのは彼女だ。なぜ分かった?」
「なんとなく、としか言い様がないわね。
言語化すると情報の伝達に齟齬が生じる」

銘苅の問いに、ほむらは答える。

「インスピレーション、か」
(看護師だからなんとなく違和感を感じたけど、
十億円の威力は想像を絶しているわね。
そして、流石に目敏い。やっぱり迂闊に動く事は出来ない)

辣腕のSPのあり方に舌を巻き、
ほむらは改めて魔女狩りよりも遥かに面倒な仕事を思う。

今回はここまでです。続きは折を見て。

全然レス付かなくてワロタ

だっておもしろくないんだもん(小声)

それでは今回の投下、入ります。

>>41

 ×     ×

九州中央病院の処置室では、取り押さえられた看護師が
殺人未遂の容疑で県警の刑事に連行されていた。
それを後目に、警視庁捜査一課の奥村武警部補が携帯電話を使っている。

「少し厄介な事になった」

通話を終えた奥村が言った。

「整備士が飛行機に細工をしたとして逮捕された。飛行機での移送は中止だ」

暁美ほむらは天を仰ぐ。乾いた笑いが漏れそうだった。

「東京まで移送だろ、しかも、こんな状態で。ヘリコプターでも飛ばして………」
「バズーカ」

奥村の部下、神箸正樹が言ってる側でほむらが呟く。

「正確にはバズーカ的なものね。
冷戦時代の遺物がアフリカ辺りにゴロゴロしてる、
軍事介入した米軍の軍用ヘリだって撃ち落とされてるわ。
日本の暴力団にも流れ込んでるわね。

十億円を当て込んで用意されたら、離着陸周辺から狙われたら対処の仕様が無い。
どっち道、空路だとミサイルでも撃ち込まれたら防ぎようがない」

>>44

「ミサイルぅ?」

神箸が呆れた声を上げる。

「おいおい、俺らが戦ってるのは自衛隊か?米軍か?
それとも基地から担いで盗んで来るって言うのか?」
「少なくとも個人で盗み出す馬鹿はいないだろうがな」

神箸の言葉に、多少は考えたらしい奥村が続く。

「正直、それぐらいの気構えでやる必要がある」

そこに、SPの銘苅一基が口を挟んだ。

「ここまで見ても、十億円の心理的な影響は想像を大きく上回ってる。
狙われた時の事を考えると脱出できない空路は危険過ぎる」

 ×     ×

「どれに乗ってるか分かるか?」

福岡市内のビルの屋上で、双眼鏡を覗いていた佐倉杏子が尋ねた。

「それが分かったとしても、
あれを突破して清丸国秀を引っ張りだすのは私たちでも難しい」
「あんなの、露払いは私一人で十分だよ」

美国織莉子の言葉に、呉キリカが鼻で笑って応じる。

「ありがとうキリカ。でも、もう少し効率よくやるわ。
少なくとも、あれとまともにぶつかるのは得策じゃない」
「見込みはあるのか?」

杏子の問いに、織莉子は頷いた。

「予知か?」
「ええ。でも、事態は流動的に混乱してる。
この先の事を決めつけるのも良くないわ」
「じゃあつかず離れず様子見だな………食うかい?」

織莉子は、理解の早い杏子からチョコ菓子を受け取った。

>>45

 ×     ×

「これじゃあ、あんたら必要なかったんじゃないのか?」

護送車の座席にふんぞり返り、神箸が銘苅に笑いかける。

「圧倒的武力を見せつける威圧型移送、
それが警察庁が選んだ移送方法と言う訳だ。
しかも警備対象車は五台。
そのうちのどれに清丸が乗っているかも分からない」
「何が一番怖いのか、上は全く分かっていない」

状況を説明した奥村に銘苅が言う。
機動隊用の大型輸送車を使った護送車は福岡市街を出発して高速道路を進んでいる。
護送車の走行する区画は、警察が貸し切り状態の通行規制を敷いて周辺には膨大な警察車両、
そして、囮となる同型の輸送車が何台も、機動隊員を詰め込んで走行している。

「懸賞金につられた一般の人間はさ程怖くはない、
武器の入手も困難だし、訓練もされてないからな。
一番怖いのは、訓練されて武器を持つ者」
「警察官」

銘苅の言葉に、同乗する女性SP白岩篤子がアンサーを出す。

「武装した350人に、十億円に近付くチャンスを与えた訳だ」

(いざとなったら、人間相手ならどうとでもなる。
私じゃなくても、あの銘苅と言う男なら恐らく)

銘苅の冷徹な分析を聞きながら、同乗したほむらは心の中で呟く。
無論、ほむらが恐れているのは魔法少女の介入だ。
警察官も看護師も整備士も信用出来ない狂った状況で魔法少女を信用する理由はない。
まして、ほむらはその対処のために公安当局を名乗る淀川からここに派遣されており、
淀川の情報に心当たりがないでもない。

とにかく、まともな大人複数の前での魔法大戦は当然避けたい、後のリスクが大き過ぎる。
だからと言って、魔法少女が本気で戦いに来たらそんな配慮をしていられるか疑わしい。
ほむらの嫌な予感が的中していた場合、この防衛戦を戦うには非常に厳しい相手。
ほむらはその事を身に染みて理解している。

>>46

(あの最悪の結末の後、私は先手を打とうとした。

だけど、更に先手を打たれて守勢に追い込まれた。

泥沼の内部抗争が終わった時には、

巴マミの上半身はソウルジェムごと消失、佐倉杏子は人魚の魔女の結界で爆散し、

見滝原の街は体育館を中心にガレキと挽肉に埋もれて

遥か彼方に黒い大木が天高くそびえ立っていた)

幸いにもと言うべきか、その後の展開では、
さり気なく警戒している間に向こうから接近して来る事は無かった。
丸でバグの様なイレギュラーだったらしい。
と、思っていたら、このとんでもないイレギュラーな展開。

(ここで出て来ても不思議じゃないわね。
だとしたら最悪だけど、あいつらがキレてるのは私が一番よく分かってる)ギリッ
(やはり、なんなんだあの娘は)

銘苅がほむらにチラと視線を向けて心の中で呟く。
見た目、属性からして当たり前な事ではあるが、この護送車の中でもほむらは完全に浮いている。
他の面々が嫌でもなんでも多少はコミュニケーションを取ろうとする中、
ほむらは我関せずと黙って座席に座っている。

だからと言って、銘苅としても、
相手がどう見ても女子中学生では話題の作りようがない。
それよりも銘苅が気にかかったのが、

(空っぽの目)

そんなほむらが見せる虚ろな瞳だった。
別に銘苅としても少女に詳しい訳ではないが、それでも、只、年頃にアンニュイなだけには見えない。
ほむらの目の空虚さは、丸でがらんどうを思わせる。
そんな目を、銘苅はどこかで見た気がする。

>>47

「おい、今笑ったろ」

「又か」と言うのは、ほむらと銘苅の共通認識だった。

「殺されそうになってビビッてたのに余裕だな。
お前みたいな屑は、一生命を狙われる恐怖におびえてりゃいいんだよっ」
「お巡りさんも大変だなって」

「あ?」
「高卒だからこの暑い中あんな格好で立ってるんでしょ。
刑事さんも高卒なの?」

脳筋神箸と屑清丸のやり取りに、首の一つの振りたい所だが、
ほむらは黙って座っているだけだ。
それは、この場の人間関係から意図的に遮断していると言う事でもあった。

元々が無理のあり過ぎる偽装と力技でここにいる以上、
そもそも演技に向いている訳でもない自分があの暴力刑事に絡まれるのもほむらとしては御免こうむる。

詰め寄った神箸の前に白岩が立ちふさがる。流石に動きに淀みがない。
神箸と白岩が言い争いとなり、
機械的な迄に「警護対象」のみを定義に行動する白岩の言葉に神箸は更に激昂する。

「殺さなければ殴っていいと言う訳じゃないんだ」

見かねた様に銘苅が介入する。

「あ?あんたこいつの味方かよ?」
「殴るんだったら警視庁の取調室でやってくれ、それなら我々には関係ない」
「いや、それも駄目たい」

思わずうんうん頷いた人のいい関谷が慌てて打ち消す。
銘苅が、本当に少女らしい、くすっと笑った笑顔を視界の端にとらえたのは一瞬。
護送車が急停車した時、ほむらの顔つきは戦場と言う本番に臨むものとなっていた。

「どうしたあっ!?」

立ち上がり大勢を崩しながら関谷が車の無線機に飛びつく。

「出口から逆走して!?」

>>48

 ×     ×

護送車を飛び出し、高速道路上で周囲を伺っていた奥村と神箸の側に、
護送車の屋根からほむらがドーンとばかり着地した。

「車に戻って、出来るだけ遠ざかる様に言って。
あれが爆発したらこの護送車でも命の保障は無い」

ほむらが奥村に告げた。

「おい、テキトーな事………」
「統計よ」

言いかけた神箸に、ほむらはそれだけ言い残し駆け出した。

デンデンデーデデーン
デンデンデーデデーン

「おいっ!神箸っ!!」
「はいっ!!」

チャチャーチャチャーチャチャーチャチャーチャッ
チャチャーチャチャーチャチャーチャチャーチャッ

奥村の怒号を背に神箸もその後を追う。

チャラチャーチャラチャァーチャラチャーチャチャチャチャーチャチャーチャチャチャー

「待ておらあっ!!」
(がっちり見られてる、時間停止は使えない)

背後から迫る怒号に、ほむらは心の中で舌打ちをする。

「おいっ、そのガキ確保しろっ!!」

神箸の怒声に、近くにいた制服警察官がほむらに殺到する。

>>49

「!?」

次の瞬間、制服警察官の塊が白い光に包まれ、
神箸が気が付いた時には、ほむらはその囲みを突破して先を走っていた。

「なんなんだよあのガキっ!!」

悪態をつき、神箸がその先を走る。
その先で、ほむらは丸で短距離選手の様な物凄い勢いでダッシュしている。

「冗談じゃねぇっ!!」

この先には、出口から逆走したタンクローリーが突っ込んで来ていると情報が入っている。
神箸のプライドのどの部分に相談しても、
警察官の作業上の安全確保の問題に於いても、女の子一人突っ込ませる訳にはいかない。

神箸の目に暴走するタンクローリーが見えた時、
ほむらはダンダーンと停車したパトカーを踏み台にしてそちらへと突っ込んで行った。
ほむらは一度時間を停止し、自分の居場所を把握する。
自分とタンクローリーの側で発煙筒を焚いてから元の場所に戻り時間停止を解除する。

「なっ!?」

神箸の見ている前でほむらやタンクローリーの周囲が白い煙に包まれる。
それを見計らい、ほむらは再び時間を停止した。
イヤホンの差さった左耳に左手を当てる。

(仮にここで魔法少女が来ても、あのSPなら時間ぐらい稼げると思ったけど、
今回はそっちじゃなかったみたいね)

イヤホンに接続された無線機は護送車に放り込んだ盗聴器に繋がっている。
無論、今は聞こえない。

(後になって魔法少女が絡んでいた、何て言われても面倒なだけ。
結局は全部確実に潰すしかない)

タンクローリーの中輪、後輪に至近距離からベレッタM92Fの銃弾を撃ち込む。
弾丸は、銃身を離れた所でほむらの接触圏を外れ、時間停止の影響で空中静止する。

(正直これでどうなるか分からない、
後は魔力の許す範囲で可能な限り距離をとる)

>>50

「?」

パトカーを押しのけてフルパワーで突っ込んでくるタンクローリーを前に、
短銃を抜いた所で神箸は異変に気付く。
タンクローリーの後部から異常な金属音が響き、急激な減速が始まった。

「下がれっ!!」

神箸が怒鳴り、周囲の制服警官も後退する。
タンクローリーが停車し、神箸と警察官が運転室に接近する。

「!?下がれえっ!!」

フロントガラスの向こうで、運転手が長いコードのついたスイッチを引っ張り出していた。
どう見ても尋常ではない。
神箸は、フロントガラスに向けて発砲しながら絶叫していた。

 ×     ×

爆発音と共に窓の外がオレンジ色に染まり、護送車が激しく振動した。
それが収まった時、銘苅一基も、
銘苅に引きずり倒されて銘苅の体の下で床に伏せていた清丸も取り敢えず無傷だった。
既に運転手からハンドルを奪い取り全速後退していた白岩が身を起こし、周囲を確認する。
取り敢えず死者重傷者はいないらしい。

「神箸っ!!」

奥村が護送車を飛び出し絶叫する。
そこに、負傷した制服警官に肩を貸しながら、神箸が戻ってきた。

「無事かっ?」
「ええ、俺は」

奥村の問いに神箸が答える。

「タンクローリーの足止めをしたのは、多分暁美ほむらだ」
「それで、暁美ほむらは?」

神箸の沈黙に、奥村が絶句した。

>>51

「呼んだかしら?」

そんな二人の側に、ほむらがすいっと現れる。

「いや、お前、あそこからどうやって………」
「消防から防火服借りたのよ。
確かにほぼ無傷で戻って来たのは奇蹟みたいなものだけど」
「っざけるなてめぇっ!!」

しれっと言い放つほむらのコートを神箸が掴む。

「俺らの目の前であんなふざけた真似されて、
それで死なれちゃ俺らの首飛ぶんだよ!!」

「私に接触らないで」
「あ?」
「自分の身は自分で守れる。元々、私の存在は書類上は幽霊かゾンビみたいなもの、
あなた達が守るべき人間じゃない。
そういう指示で私はここに来ている。あなたの首に関わる事じゃない」

「あのなぁ………
警察官が放っておける訳ねぇだろーが、常識で考えろクソガキ!!」
「………悪かったわ、ごめんなさい」

神箸の怒声を聞き、きょとんとしていたほむらが頭を下げる。
神箸の手から力が緩んだ。

「戻らせてもらう。私は私の仕事があるから。
この膠着が長引けばそれだけ敵に有利になる」

ふぁさぁと黒髪を掻き上げたほむらが護送車に戻った。

「なんなんだあのガキ」
「コミュ力があるかはとにかく、
あの修羅場にも全く呑まれない、それも指図し慣れてる。
どういう場数踏んで来たんだかな」

吐き捨てる神箸に奥村が言った。

今回はここまでです。
タンクローリーの考証に関してはノリって事で一つ。
続きは折を見て。

> デンデンデーデデーン
> デンデンデーデデーン

うわぁ…^^;

それでは今回の投下、入ります。

>>52

 ×     ×

「馬鹿な奴だ、清丸の乗ってる車両も分かんねぇ癖に」

警視庁捜査一課の神箸正樹巡査部長が護送車に戻り吐き捨てる様に言う。
粗暴に見えて実際粗暴な所の多々ある男だが、
つい先ほどタンクローリーと短銃で渡り合い、
爆発現場から制服警察官を救出しつつ脱出して来た程度には熱い警察官でもある。
その神箸の言葉を聞き、暁美ほむらの感じていた違和感が形になる。
気が付いた時には、ダッと駆け出して窓に張り付いていた。

「気が付いたか」

そんなほむらに関谷賢示が声を掛ける。
大柄で鷹揚、お人よしの人情派と言った風情の関谷だが、
大都市を含む福岡県警捜査一課のデカ長(巡査部長)としての目は持っているらしい。

「あのヘリコプターね」
「ああ、あのマスコミのヘリ、ずーっとこの車両を追ってる気がするんだが」

ほむらの言葉に関谷が言う。

「まずいな」

同じく外を見ていた警視庁のSP銘苅一基が呟く。
周辺に、野次馬と警察官がわらわらと集まってきている。
窓から外を凝視していたほむらは更なる違和感を覚える。

野次馬が手に手に携帯電話を持っている。
そして、携帯とこちらを見比べる野次馬の目には、何か確信めいたものが伺える。
嫌な感じだ。「隠密裏」では済まない予感すら感じられる。
関谷が携帯で状況を確認するが、タンクローリーの残骸の撤去が終わっておらず先には進めない。

>>54

「銘苅さん」

携帯を操作していた女性SP白岩篤子が切迫した声を出す。

「見て下さい、キヨマル・サイトです」

白岩の周囲に集まった面々が絶句する。
キヨマル・サイトに映し出されているのは、地図だった。
カーナビゲーションを精密にした様なものだが、
拡大していくと周辺の道路状況が車の位置関係に至るまで精密に再現されている。
何よりも問題なのは、その中に清丸を示す赤い光点が点灯されている事だ。

「気のせいやなか、筒抜けたいっ」

関谷が声を上げる。
キヨマル・サイトの地図上の赤い光点は、
大量の車両の中から確実に清丸の居場所を示している。

「至急ここから移動を、何?」
「どうしました?」

警視庁捜査一課側の移送チームトップ奥村武警部補が携帯電話を使い、移送を要請する。
銘苅が奥村に声をかけた。

「分かった。待ってくれ。
警察庁の高峰警視正がこちらに向かっている。
情報漏れに関する事だろう。
移送方法も再検討するつもりらしい」
「ここから動けないと言う事ですか?」

悠長な事態を説明した奥村に白岩が尋ねる。

>>55

「下り線封鎖、野次馬も全部どけてくれ。
この車には誰一人近づけるな」
「これだけいれば、情報を流す警察官がいても」
「まだ警察官が流してるかどうかは分からんやろう」

携帯電話を通じて奥村が指示を出す。
外を見た白岩が不信感を募らせ、関谷がそれに応じる。
やはり、関谷はお人よしに過ぎる。ほむらは直感的にそちらの考えに傾く。

居場所の秘匿が鍵となるこの作戦で、実際に情報漏れが起きている。
清丸は実際に警察官の襲撃を受けており、
これだけの人数を信用する根拠があるとはとても言えない。
その険悪になりかけた状況に口を挟んだのは、清丸国秀だった。

「あの、結婚とかしてますか?」

清丸が銘苅に尋ねる。

「指輪してるから。小さな娘さんとかいませんか」

ほむらが思った事は、ここが魔女の結界であればどれだけ良かったか。
即座にこの連続幼女暴行殺害犯にして
諸悪の根源の両脚撃ち抜いて寄せ餌かグリーフシードの栄養源にしてやったものを。

白岩が緊迫した動きを見せる。
護送車に機動隊員二名が接近していた。
銘苅の指示で、清丸が護送車の後方へと押し込まれる。

「高峰警視正より伝令です」

護送車の壁中央の扉の前に立ち、機動隊員がきびきびとした口調で言う。

「警視庁の奥村警部補はおられますか?
「開けてくれ」
「待て!」

奥村と、制止する白岩の声が錯綜した、と思った時には、
既に戦いは始まっていた。

>>56

ほむらが舌打ちして時間を停止する。
このまま、血相変えて短銃片手に突入して来た機動隊員の
両手両足を拳銃で撃ち抜いてやれば片は付くのだが、もちろんそういう訳にはいかない。
素早く周囲を見回し、妥協点を探す。

時間停止を解除し、決めたポジションに跳ぶ。
もう一度時間を停止し、軌道を確かめる。
余り頻繁に、長時間に発動すると濁りが加速されるため、効率的にやる必要がある。

「おおっ!」

時間停止が解除され、関谷の野太い叫びが響く。
片膝ついたほむらが特殊警棒を思い切り振り抜き、
護送車に突入していた機動隊員が脛を一撃されて前のめりに転倒する。
倒れた機動隊員に関谷と神箸が殺到するのを見届け、
ほむらは立ち上がりファサァと黒髪を掻き上げた。

「!?」

耳を劈く(つんざ―く)、と言う表現がそのまま当てはまりそうな銃声だった。
狭い護送車の中での銃声そのものの威力は想像を超えていた。
天井に向けて発砲された銃声に続き、
身を起そうとする機動隊員の振り回す短銃の銃口が刑事達を足踏みさせていた。

「くっ!」

駆けつけようとしたほむらのコートの襟がぐいっと後ろに引かれた。

「下がってろクソガキ!」
「ちょっとっ!?」

神箸がほむらと入れ替わり動こうとした所、再び耳を劈く銃声が響き渡った。
奥に引きずり倒された清丸の前に銘苅が跳び、
片膝立ちになった機動隊員が放った銃弾が銘苅の胴体を直撃する。
今度こそ関谷の手で銃を握った機動隊員の腕が天井を向けられ、神箸がそれに続いた。
もう一人の機動隊員は白岩と奥村によって護送車の外に蹴り出されていた。

>>57

 ×     ×

「ズレてたら即死でしたよっ!!!」

護送車に、防弾チョッキを手にした救急隊員のゆっくりした大声が響く。
それは、銃声の轟音により一時的に聴覚の低下した銘苅に向けられていた。
銘苅に当たった銃弾は防弾チョッキを直撃しており、後を引く程の外傷にはならなかった。

「大丈夫ね?」
「くじいただけだ、俺は大丈夫です」

座席で手首をぶらぶらさせていた奥村と関谷が言葉を交わした。
応急処置と機動隊員の連行を待って、待ち人が現れる。

「あの様な不埒な考えの者が出た事を
警備指揮の責任者として諸君らにお詫びしたいと思う」

三人連れの先頭に立った高峰警視正が、
全く詫びていない態度で堂々と宣言した。

「だが、その上で協議した結果
現在の方法で移送を継続する事は不可能と判断した。
本日の移送は中止する」

丸で存在しないものの如く、脇の座席に着席したままのほむらも事前に説明を受けていたが、
48時間以内に行わなければならないのは検察官への送致であって、
東京に移送する事は法律上絶対ではない。

検察官が公判を請求する起訴は被告人となる被疑者の所在地で行う事も可能であり、
東京地検から福岡地検に資料と担当検事を送れば済む話だ。
只、事件現場から離れると色々不自由が生ずると言う以上に、
蜷川の挑発に屈する形を作る事は、やはり国家的な面子の問題が生ずる。

「提案があります」

そう告げたのは、銘苅だった。

>>58

 ×     ×

とあるビルの屋上。

「この騒ぎでこの辺りの空気が澱んでいるのかな?
想像以上に沸いてるよ」
「へぇ、じゃあアタシも一狩り行こうかな」

戻って来た呉キリカからグリーフシードを受け取り、佐倉杏子がひゅんと槍をふるう。
その側で、美国織莉子がすっと立ち上がった。

「それは時間切れね佐倉さん」
「あ?」
「見えたのかい織莉子?」

キリカが織莉子にグリーフシードを渡し、織莉子がにっこり微笑み頷いた。

「道筋が一つ出来上がったみたい。行きましょう」

今回はここまでです。続きは折を見て。


頑張れ

なんでレスに一々アンカ付けてるんだ…?

>>61
一応続きって事で意味はあったんですが、
仕様みたいなものだと思って下さい。

立て込んでましたが
遠からずこちらに戻ると思います。

今回はご挨拶のみ、失礼。

支援

生存報告だけ

マジすまん

a

お久しぶりです。
それでは今回の投下、入ります。

>>59

 ×     ×

「大丈夫です、気づかれてません」

走行中の救急車の中で、
携帯電話のキヨマル・サイトを確認していた白岩篤子が告げる。
清丸の居場所を示すサイト内地図の赤丸は、未だ高速道路上を移動している。

「よぉく警察庁のお偉方が許したもんだ。
350人体制の移送部隊は大がかりな囮部隊。
そんなあんたのアイディアが効いたんやろうな」

関谷賢示が感心した口調で銘苅一基に言う。

警視庁警備部警護課 銘苅一基警部補(SP)
同上 白岩篤子巡査部長(SP)
警視庁刑事部捜査一課 奥村武警部補
同上 神箸正樹巡査部長
福岡県警刑事部捜査一課 関谷賢示巡査部長
警察庁科学警察研究所(形式上) 暁美ほむら

高速道路上で機動隊に警備されている何台もの大型輸送車。
それを丸丸囮にして、本体となる幼女暴行殺害容疑者清丸国秀は、
この六人の移送チームと共に救急車で秘かに高速を脱出していた。

「奥村さん、この車両にしましょう」

一般客に紛れながら東京行の新幹線に乗り込んだ銘苅が奥村に声を掛ける。

「この車両を閉鎖してくれ」

移送チームが押し込める様に清丸を客室に移動させる中、
奥村が車掌に声をかけ、肩を組む様にして話を付ける。

>>66

 ×     ×

清丸と同じ車両内に着席し、暁美ほむらは一人考える。
清丸が全く違う場所にいると言う事、
それが分からない限り通常の襲撃者はここに辿り着けない。

だが、ほむらには、その不可能を可能にする通常ではない心当たりがある。
そして、その心当たりこそが、ほむらがここに投入された理由でもある。
まさか正面突破して来るか。この場所では他の方法が難しい。
そうなると、常識と力量を兼ね備えた大人の警察官集団の前だ。
魔法少女としての対処は相当難しい事になる。

「銘苅さん」

携帯をチェックしていた白岩が銘苅に声を掛ける。

「これは………」

銘苅がうめき声をあげ、嫌な予感を覚えたほむらもそちらに向かう。

「いつからだ?」

銘苅の問いに、白岩は救急車の中では高速道路上だった事を応える。
確かに、それはほむらも確認した。
その、キヨマル・サイトの地図で清丸の居場所を示す赤丸は、
今は自分達が乗車している新幹線のこの車両、七号車である事までを正確に示していた。

>>67

 ×     ×

「何してんの、おまえらも出せよ。
携帯のGPSしか考えられないだろ」

自分の携帯を分解しながら要求しているのは、神箸正樹だった。

「こん中に情報ば漏らしとる奴がおるとでも言うのかね?」

大真面目に言う関谷に、暁美ほむらが一瞬冷たい視線を向けた。
銘苅一基がその眼差しに気づいた。
この中の何人かが、その眼差しに気づいた。

確かに、関谷の言葉は余りに甘く、お人よしに見える。
逆に、ほむらの眼差しにはその甘さが微塵もない、
この状況の甘さに対して容赦のない軽蔑を示す。
今は素知らぬ顔をしているが、痛い目を知っている者の目に見えた。

「あ?そうとしか考えられないだろ。
車掌はずっと俺の近くにいて外部には連絡してない。
そうなりゃこの六人以外ない、早く出せよ」

その間にも、所持品検査を要求する神箸と白岩の問答が徐々にヒートアップする。
結局、誰が裏切り者か、今の所は分からない。
互いに自分の部下に飛び火すると、銘苅も奥村も当然こいつに限ってと断言する。

「居場所を教えるだけで蜷川から報酬が出るとしたらどうだ?
誰にも疑われない様に職務は職務として全うしているだけだとしたら?」

それを言い出したのは、奥村だった。

「そもそも彼には、清丸の様な男を殺してやりたいと言う強い動機がある」

奥村が、銘苅を指して言う。

「三年前の奥さんの交通事故だ」
「それと何の関係が?」

白岩が苛立った口調で奥村に行った。

>>68

「彼の奥さんをひいたトラックの運転手は、
飲酒運転で前に同じ様に人をひき殺した前科があったんだ。
人をひき殺した奴が交通刑務所を出て、
今度は無免許で彼の奥さんを酔ってひき殺したんだ。
人間の屑だよ、清丸の様なな。
そんな人間は殺してやりたいだろ、私ならそう思う。

「もういいやろ、長年生きてれば色々ある。
俺にも被害者と同じ年の孫がいる。目の中に入れても痛くない。
だからって、清丸は殺さん」

奥村の言葉によって満たされた不穏な空気は、
関谷の言葉を見事に綺麗事として無力化する。

「あんた、その運転手許したのか?」

神箸が尋ねた。

「許してはいない
だが、そいつ殺してどうなる?
死んだ妻が戻って来るか?」
「どうしてそう割り切れるんだ?」
「割り切れちゃいない」

神箸が、丸で我が事の様に苛立ち叩き付ける。
そして、諸悪の根源である、清丸による今回の女児惨殺事件。
その現場に臨場した時の事を口にしていた。

「テレビの報道なんかじゃ伝えきれない無残な、
本当に無残な遺体だったよ。
あんなの人間の出来る事じゃねぇ。
忘れられねぇんだよ、あの遺体が。
俺はあの娘の親じゃねぇ、親じゃねぇが、
清丸を殺してやりたいと正直思ってるよ………おい」

神箸の声が不穏なもの、明らかに殺気と言うべきものに変わった。

>>69

「お前、今笑ったろ」

神箸が掴んだのは、ほむらのコートの胸倉だった。

「おい、よさんか」
「今の話のどこに笑う所があんだよっ!?
大体、てめぇが一番怪しいんじゃないのか、あ?」

関谷の制止は完全に無視されていた。

「離して」
「スカしてんじゃねーよっ!」
「あなたに命令される筋合いはないわ」
「上等だよ、ここで情報漏れって生きるか死ぬかって時によ、
上がどうこう言ってられるかよ」
「そう」

ほむらの静かな返答と共に、神箸の腹に硬い感触が押し付けられる。

「又ハッタリか………」
「よせっ!挑発するなっ!!」

銘苅の鋭い制止に、神箸が息を呑んだ。

「レディスミス」

白岩が、ほむらのコートの腹から突き出て神箸の腹に押し付けられたもののニックネームを呟く。

「科警研の技官がなぜ拳銃を所持している?」

銘苅が冷静に、そして威厳を込めて尋ねた。

>>70

「護身用、こんな所に丸腰で来る訳ないでしょう。
便宜上、警察官と言う事にもなっているわ、少なくともこの拳銃はね。
但し、表の名簿には掲載されていない、
仮に発砲してライフルマークが採取されても、最終的にその様に処理される。
そういう仕組みよ」

ほむらによる分かった様な分からない様な説明。
しかし、警察官であっても警察官としての通常の名簿に掲載されないセクションはいくつかある。
そもそも、ほむらの年齢で上の承認を得てここにいる事が根本的におかしいのだから、
もう一つ二つ超法規が重なってもおかしくはない。
ここまで怪しい人間が本当にスパイでした、と言う想定もどう考えるべきなのか。

「…そうね…」

その一瞬の笑みは、銘苅を含む全員が認知した。

「惨たらしい死体を見たら嫌悪感を催し、
そして、親しい、愛しい相手であればある程、
彼女を殺めた者が分かっているのであれば、八つ裂きにしてやりたいと憎悪し憤る。
当たり前の感情ね。気に障ったのなら申し訳なかったわ」

打って変わって真面目に頭を下げた後、ほむらは歩き出した。

「どこに行く?」
「少し、気になる事があるの、そこから向こうを見るだけよ。
只、ここまで露骨に怪しいスパイも珍しいでしょうし、
その立場で銃口の前に立つ程私はタフでもない」
「一理あるなぁ」

ほむらの言葉に、関谷がすっ呆けた反応を示した。

>>71

「じゃあ、他に内通者がいるってのかよ。
あんたは………」
「仕事に生きろ」

何か言いかけた神箸に視線を向けられ、銘苅がぽつりと言った。

「ああ?」

「死んだ妻が言った。
人を守るのがあなたの仕事だろうと。
それがなかったら、俺はそいつを殺しに行ってたかも知れない。
その言葉だけが、この三年間の俺を支えてる」

「ボディチェックだ早くしろ」

そう言って、神箸は自分の上着を脱いだ。

「この状況で一番大事なのは、可能性を一つ一つ潰していく事だ。
それが今の俺たちの仕事だろう。疑って済まなかった」

神箸が言い、銘苅に向き直る。

「あれはどうする?」

五人のボディチェックを終えた後、
奥村が車両連結部近くにいるほむらを目で指して言う。

「消去法で言えば一番怪しい、と言う事になるんだが」

そう言って、奥村がバリバリと後頭部を掻く。

「どう見たって怪しい」

言ったのは神箸だった。

>>72

「あんなのをわざわざスパイに使うかってぐらいにな」
「裏の裏って事もある」

神箸の言葉に奥村が言う。

「それに、スパイにしちゃあ命張り過ぎだ。
あんなガキがあれだけ命張って、それで内通者って意味が分からねぇ。
あそこまでしなくても、怪しまれない方法なんていくらでもあった筈だ」

そういう神箸は苦虫を噛み潰した様な、それでいて何かを認めている。
そんな口調だった。

ほむら自身が言う様に、スパイにしては余りにも怪しい、怪し過ぎる。
それも一つの作戦だとも考えられるが、
それでも、ほむらとのこれ以上のトラブルは避けたい、その思いが否定できない。
ほむらには、経験を積んだ彼、彼女達が直感的に感じ取っている何かがある。
それは、信頼と危険、その両面だった。

銘苅は考察する。先ほどの反応、極度に論理的な物の考え方をする天才タイプなのか、
或いは、既にそうした感覚が摩耗しているのか。
後者だとするならば、一体何を見て来たらそうなる。
暁美ほむらの眼差しには、常にその疑問を思い起こさせる何かがある。

 ×     ×

「見つからないか」

ほむらを除く面々のボディチェックが一通り終わり、神箸が言う。

「このチームじゃないとしたら、なんでこの場所まで?」
「こういう事もあるかも知れない。
高峰警視正の後ろにいた男、あれは公安だ。
付けられていたかも知れない」

白岩の疑問に奥村が言った。

>>73

「後は………」

神箸が言いかけた時、その「最後の容疑者」暁美ほむらがふらりと戻って来た。

「斜太興業」
「あ?」

唐突にほむらが口にした名前に神箸が習慣の様に毒づく。

「見滝原の暴力団。その動向を大至急調べて欲しい」
「いるのか?」
「ええ」

銘苅の問いにほむらが肯定する。

「なんでそんなの知ってるんだよ?」
「たまたま別の事件で多少の知識があったのよ」

うさん臭そうに尋ねる神箸に、ファサァと黒髪を掻き上げたほむらが応じる。

「私が直接問い合わせてもいいけど、これ以上怪しまれるのも面倒だわ」
「分かった、B(暴力団)担当に当たってみよう」

そう言って、奥村が自分の携帯電話を使う。
程なく、折り返し電話が戻って来た。

「………いい状況じゃないな」

電話を切った奥村が言う。

「斜太興業は関東でも武闘派で知られた組織だ。
だが、最近何かデカいヘマをやったらしい」
「ヘマ?」

奥村の言葉に白岩が聞き返す。

>>74

「ああ、詳しい所までは分からなかったがな。
かなりの大損害を被って、関係者が何人も指が飛んだやら
ヘドロの海でコンクリートブーツの海水浴やら相当な事があったらしい。

その時期、あのエリアでは周辺組織が一色触発の危険があって、
斜太がそこに介入すると言われながら、
なぜかそうはならず機会を逸した事も関係あるのかも知れん。

B担当のルートで地元に問い合わせてもらったが、
その斜太の有力な武闘派メンバーが姿を消してる」

「まさかマルBが」
「そのまさか、十分あり得る」

関谷の言葉に、奥村が言った。

「斜太が最近大損害を被って金銭的に相当に追い込まれているのは確かだ。
B担当の情報じゃあ、刑務所上等の鉄砲弾で
十億狙って来るぐらいやりかねないって事だ」

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>75

 ×     ×

警視庁警備部警護課 銘苅一基警部補(SP)
同上 白岩篤子巡査部長(SP)
警視庁刑事部捜査一課 奥村武警部補
同上 神箸正樹巡査部長
福岡県警刑事部捜査一課 関谷賢示巡査部長
警察庁科学警察研究所(形式上) 暁美ほむら

乗り込んだ東京行の新幹線の七号車を実質占拠した清丸国秀移送チームのこの六人。
奥村からの情報提供が終わり、めいめい自分の仕事を始めていた。

「警察だ、ここは通れねぇよ」

七号車と六号車の間の通路で、六号車側の出入り口に立った神箸が言う。
同じ通路の七号車近くには奥村もいる。
六号車からやって来た黒スーツのいかつい集団。
ほむらの立場から言えば一方的な顔見知りだが、
例え面識がなかったとしてもまずカタギには見えない斜太興業の組員達だ。

「なんで?」
「なんでもいいからあっち行けって言ってんだ」
「なんだこの野郎」
「とっとと回れ右して席に座ってろ」

神箸が、短銃をいかつい黒スーツの先頭に向けた。

「白岩、下げろっ!!」

その様子を見て銘苅が声を張り上げ、
白岩がぎゃあぎゃあ喚き立てる清丸を七号車八号車間のトイレに押し込める。
神箸の気迫に気圧されたかの様に、ヤクザ達は回れ右して六号車へと戻っていく。
次の瞬間、銃声が響く。

車両間の扉の窓ガラスに蜘蛛の巣が走り、
その窓の前に突如現れたき○らマ○カが弾け飛んだ。
神箸がスーツに着弾の赤い華を散らして倒れ込み、
床にきら○マギ○がどんと落下する中、奥村はさっと乗車ドア近くの角に隠れる。

>>77

「すまんがここは通れんよ」
「なんだとこの野郎」

八号車では、ずんずんずんと肩を怒らせて直進していた一人の黒スーツの男が、
関谷に告げられて即座に拳銃を抜いた。

七号車八号車間の通路では、当初銘苅が七号車側を見て白岩が銘苅と背中合わせとなっていたが、
くるりと回転ドアの如く位置を変える。
慌てて背広をはぐり短銃に手を伸ばす関谷を銘苅が後ろから押しのけ、
黒スーツの腿を撃ち抜いた。

七号車から六号車に向かう通路では、被弾した神箸が床に倒れ込みながらもヤクザに向けて発砲。
奥村が七号車近くの乗車ドアのあるへこみの角から六号車側に短銃を発砲している。
だが、それで多少の足止めを受けたヤクザも又拳銃で反撃し、
奥村が慌てて引っ込んだ乗車ドア近くの角に銃弾が弾ける。

これは、今の常識と言うには昔話になるが、日本の警察官は銃の使用にそう慣れていない。
かつては発砲した時点で出世が終わると言われた程だ。
事、捜査一課は人間対人間の仕事、
刑事が銃を使うに至る事自体、事前の調べの甘さと言う感覚がある。

そして、日本国内を拠点とする暴力団は、警察官への直接暴力を避ける。
警察と暴力団は一面において似通っている、それは「顔」の商売だと言う点で。
故に、身内を傷つけられたら徹底的に反撃する。十倍百倍の人数ですり潰し殲滅する。
その意味で、同じ国内をシマとしている以上、規模と公権力を持つ警察にかなう筈がない、
似ているからこそ、常に接している警察の事を暴力団は良く知っている。

時代が変わりそうした常識も随分緩くなったが、根幹の部分はそうそう変わらない。
被弾した神箸が通路に倒れ込み、本気で銃撃戦を開始している斜太興業の集団に対して
奥村一人で対処するのは簡単ではない。

「おいっ!!」

心臓が飛び出しそうな勢いで奥村が絶叫する。
神箸を跳び越えヤクザが七号車に殺到しようと言う通路に、
勇躍飛び出したのはゴーグルを装着した暁美ほむらだった。

「ぐあっ!?」

気付いた時には、先頭のヤクザが手から拳銃を落とす。
その腕にはスローイングナイフが突き刺さっていた。

>>78

「ガキャアアアッ!!!」

通路に銃声が響き渡った。
次の瞬間、ヤクザ達の周囲で大量の小麦粉スパイス爆弾が破裂。
その混乱の中、一瞬の隙を突かれたヤクザ達の腕や脛にほむらの握る特殊警棒が次々と叩きつけられ、
通路は阿鼻叫喚の巷と化す。
そんな中、警棒の当たりがやや甘かったらしいヤクザが、
通路に転がる拳銃に懸命に手を伸ばす。

「寝てろ」

その声にほむらがそちらを見ると、立ち上がった神箸が通路の床の拳銃を蹴飛ばし、
そのままその足をヤクザの腹に叩き込んでいた。

「寝てろ、ってあなたに言われたくないんだけど。
ケガは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃねぇよクソガキ、アバラいってやがる。
余計な仕事増やしやがって」
「そう。ありがとう」
「くそっ、俺まで白ずくめの胡椒漬けかよ」

礼を言い、鼻を鳴らす神箸を後目に、ほむらはファサァと黒髪を掻き上げて七号車に足を向ける。

「!?クソガキっ!!」

ほむらが振り返った時には、その視界に神箸が立ちはだかっていた。
時間停止を発動させ、事態を把握する。
六号車に戻って潜伏していた若いヤクザが、通路出入口の扉に滑り込み拳銃を両手持ちに片膝をついていた。

時間停止解除とほぼ同時に、主人公一人称語り形式ノベライズ芳○○版が空中で弾け飛び、
腿に被弾した神箸が体勢を崩した。
ヤクザが次弾を発砲する前に、野球の硬球がヤクザの鼻を直撃する。
その一瞬のひるみの間にほむらは床に伏せ
ヤクザの両腕と腿が駆けつけた銘苅、白岩のSPコンビに撃ち抜かれていた。

つまんね

>>79

「っ、てぇっ」
「ごめんなさいっ!!」

尻もちをついた神箸にほむらが駆け寄り、叫び声を上げて取り出したタオルで赤く染まる腿を縛り上げる。
本当の所、神箸の介入がなくても対処は出来た筈だ。
実際にその気配に感づいた矢先の事だった。
それでも、ほむらはその恐怖を知っている。瞬時の油断で命を落とすその恐怖を。
神箸はその恐怖の瞬間に身を挺して割り込んで来た。

「ありがとう、ごめんなさい」
「俺は警察官、つったろクソガキ。
クソガキでも、清丸の楯よりゃ百倍マシだ」

その後、処置をSP二人に任せるが、その結果は割と楽観的なものだった。

「特に素早くも力が強い訳でもない」

処置を終えた銘苅の側で奥村が言った。

「だが、動きに一つも無駄が無い。
向こうの攻撃が勝手によけて自分から当たりに来るみたいに攻撃がヒットしてる。
丸でテレパシーか予知能力者だ」
「ちょっと………勘がいいだけよ」

ほむらを目で指す奥村の言葉にほむらが言う。

「この結果を見ても実力は確かなんだろう。
だが、いつだって相手より優位な立場にいると思いこむのは禁物だ」
「………肝に銘じます」

銘苅の真摯な言葉に、ほむらも頭を下げた。

>>81

 ×     ×

新幹線は相生駅で停車し、そこで救急隊員が乗り込む。
銘苅が乗車口で短銃を構え、救急隊員以外の立ち入りを許さなかった。
神箸は斜太興業のヤクザ達と共に救急搬送される。
直撃であれば命が無い所だったが、被弾した銃弾の威力が途中で相当減殺されていた事もあり、
その段階でも見通しは明るいと言っていいものだった。

「誰が撃たれたの?
あの、あの切れやすいお巡りさん?
やっぱバチって当たるんだね」
「後ろから撃たれたくなかったら黙ってなさい」

清丸とSP二人がトイレから七号車に戻って来ようとする。
清丸に釘を刺した白岩と目が合った時、ほむらはコートの懐に手を入れていた。
奥村は乗り込んで来た兵庫県警機動捜査隊と打ち合わせをしている。

「この相生駅は車庫が無いので、次の姫路駅で現場検証を行うそうだ。
そこで兵庫県警が既に待機している。
乗客は姫路でおろし、乗り換えさせるそうだ」
「姫路駅で停車するのは無理です」

奥村の言葉に、車掌が反応した。

「今、上から連絡がありました」

車掌によると、清丸サイトの影響で姫路駅に殺到した大群衆によって
整理に当たった職員が線路に突き落とされたのだと言う。

「それで、この列車は姫路駅を通過して
新神戸駅に向かう事になりました。
あなたたちもそこで下車して下さい」
「いや、我々は」
「これは、会社の最終判断です」

車掌の口調に、撤回の見込みは皆無だった。

>>82

「いや、大丈夫ですよ
新神戸駅には120人の機動隊員が配備されてるらしいですから」

押し切った事を弁解する様に車掌が言うが、当然逆効果だった。

「それが困るんですよ」

白岩の言葉を、車掌は理解出来ない様であるが、
それが移送チームの総意である事は見るからに分かる事だった。
だからと言って、警察官として、警察官だから危ない等と外部に向けて認める訳にはいかない。

「どうしますか、そんな大人数がいる中で?」
「一般客に紛れて逃げる」

白岩の問いに銘苅が応じる。銘苅は窓のカーテンを上げる。

「どうして誰もいない!?」

窓のカーテンを上げた銘苅が叫んだ。

「乗客の安全を考えて、無人のホームに停車します。
コンコースで機動隊がホームへの通路を閉鎖して、乗客が上がってこない様にしてます。
この列車はここで車庫に入ります」

銘苅達も相当困っている様だが、ほむらとしても死活問題だ。
もし無人のホームで警備の警察官を敵に回す様な事になれば、
どさくさ紛れを取り繕うほむらのやり方での対処には限度がある。
そこに魔法少女まで介入して来たらカオスだ。清丸はおろか自分の命も危ない。
だが、こうなってはやるしかない。

>>83

 ×     ×

新幹線が新神戸駅に停車し、乗客達は我先にと降車しホームを走り出す。
その流れに紛れて、目深にフードを被せた清丸を連れて移送チームも動き出す。
動き出した矢先だった。

「清丸うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっっっっ!!!」

絶叫の方に目を向けると、叫んだのは一人の中年男だった。
身なりは清潔とは言い難い。その手にぶら下げた大振りの包丁に気づき、
ホームに出た乗客は悲鳴を上げてその近くから走り去る。

「戻れっ!!」

銘苅が叫び、白岩、奥村が清丸を車両に戻す。

「止まれ、警察だっ!!」

銘苅が空に向けて発砲するが、包丁男の反応は鈍い。

「俺は駄目なんだ…

こんな小さな町工場一つ

満足に切り盛りできなかった。

今の時代に俺の居場所なんて

あるわけねぇんだ…

………清丸うううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっっっっ!!!!!」

マーマー

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>84

 ×     ×

(又、魔女の口づけ?いや、違う、魔力は感知されない。
なら素でトチ狂った?十億円の魔力………
確かに、今の状況で魔女に出て来られても対処するのは難しいけど、どちらにせよ厄介………)

 ×     ×

警視庁のセキュリティーポリス銘苅一基は、新神戸駅のホームで人質を取った包丁男に、
乗って来た新幹線の乗車口から短銃を向け、対峙していた。

遺族となった大富豪蜷川隆興により十億円の賞金を懸けられた凶悪犯清丸国秀の移送中、
清丸を連れてホームを移動しようとしたものの、
この事態を受けて銘苅の部下白岩篤子が清丸を新幹線の七号車に押し込む様に連行する。

同行する警視庁捜査一課奥村武は無線連絡を行っていた。
新幹線の乗車口に立つ銘苅から見て、車両からホームを見て左側の位置にいる包丁男は、
左腕で三歳ぐらいの男児を抱き抱えている。

「まーま、まーまっ、うええええっ!!!」
「タツヤを放せえっ!!」
「っせえっ!!清丸っ、清丸を出せえっ、この子殺すぞおっ!!!!!」

一瞬の差で、手を引いている所を抱き抱える寸前に子どもを奪われた母親が絶叫し、
包丁男が振り回す刃に後退を余儀なくされる。
それでも相当に気が強いらしい。
確かに母親、人妻の年輩雰囲気でもあるが、
ショートカットのいかにもバリキャリが似合いそうなセンスの女性だ。

>>85

「包丁ば捨てんねっ」

銘苅の側から呼びかけたのは、
逮捕地点から移送に同行していた福岡県警捜査一課の人情刑事関谷賢示だった。

「よせ戻れっ!」

銘苅は鋭く言う。
とにかく、清丸に関わる状況をこれ以上かき回されたくない、
可能な限り一直線で目的地に向かいたい、それが最優先だった。
地元の事件は地元に任せる、見た所十億円目当て、それも素人の食い詰めだ。
いっそ自分達が立ち去ればあの男も諦めがつくだろう、

「あの子ばほっとく訳にはいかんやろ」
「それは俺たちの仕事じゃない」
「奴は本気やぞ、追い詰められとる」

銘苅の説得にも、関谷は折れようとしない。
本当ならば、刑事として、人間として正しいのだろう。
だが、今のこの異常事態に於いてはこの男は、甘い。
最早その評価を銘苅の中では覆せない。

そこで、気が付いた。もう一人の仲間である少女の事を。
唐突な上からの指示で移送に同行している、
説明上は科警研の技官にして所属不詳の警察官、ミステリアス美少女暁美ほむら。
気付いて、そして、息を呑んだ。
それは関谷も同じ様だった。

二人の側で姿勢を低くしていた暁美ほむらの顔からは、
元々見事な黒髪とコントラストしていた色白の頬が蒼白になる程に血の気が引き、
きりきりと歯噛みして切れ長の目が吊り上がっている。

ほむらとは長い付き合いでもないが異常な付き合いだった二人にとって、
ここまで、自分を含め誰の命に関わる状況でも意図しなければ表情が作られない程に超然としていた、
そんなほむらの今の表情は明らかに尋常なものではなかった。

>>86

「俺たちの仕事は、清丸の移送と警護だ」

銘苅が改めて宣言する。

「あの子を見殺しにするぐらいなら、警察官などくそくらえたい」
「やめ、て………」

関谷が踏み出そうとした所で、その声を聞いた。
その声はホーム上、銘苅達から見て前方左寄りの位置からだった。

「………やめて………お願い、タッくんを放して………」
「姉ちゃんか。危ない、近づいたらいかん」

人質の姉と思しき、後ろ髪を赤いリボンで二つにくくった中学生ぐらいの少女が
虚ろな目でふらふらと接近し、関谷が言葉で制止する。
そう言えば、と、同年輩ぐらいのほむらに銘苅が視線を向けると、
ほむらは目を見開き、ぱくぱくと口を動かしていた。

「お願い、やめて………タッくんを放して、私が身代わりになるから………」
「やめろまどかっ!!」
「やめなさいっ!!!」

母親と同時に耳を劈く声で絶叫したほむらが、
さっ、と、新幹線乗車口の壁の陰に隠れて鼻から下にハンカチを縛り付け覆い始めた。

「頼む、タツヤを放してくれ。
私が、私が人質になるから………」
「っせえええっ!!近づくと殺すぞおっ!!!
清丸っ、清丸出せえええええっっっっっ!!!」

母親がふらふらと包丁男に近づこうとするが、振るわれる刃が接近を拒絶する。

>>87

「お願い、やめてよぉ………」

ふらふらと接近を再開していた姉娘が、ふと足を止めて虚ろな眼差しを下に向ける。

「その必要は無いわ」
と言う意味不明な供述と共に姉娘の足元に向けて
鬼の様にベレッタの9ミリ・パラを連射している。
そんな暁美ほむらに向ける銘苅の眼差しは、狂人を見るそれに他ならなかった。

「何をしてるっ!?」
「威嚇射撃よ、これ以上カオスにしたい?」

目を見開き絶叫する銘苅に、ほむらは吐き捨てる様に答えてバッと後ろ髪を払うが、
そのほむらの目つきは、
どう見ても銃口の先に仇敵がいるとしか思えない狂気に近い憎悪に満ちていた。

「おいっ、何やってんだっ!!」
「許可なく近づいたら命の保障はしないっ」

母親の絶叫が響く中、
ほむらは新幹線入口の壁の陰から、衣装の小道具に仕込んだ変声機を通して宣告する。

「心臓を撃ち抜いても刃物を動かす程度のインターバルは、
鼻の真ん中から撃ち抜いて中枢神経を完全に破壊する………」

しまいに、ベレッタを手にブツブツ言い出したほむらを見て、
この際自分が一発で決着をつけるしかないか、
しかし、自分が撃ち殺してしまった場合、処罰はされなくとも相当面倒な事になる、
と銘苅が考えた矢先、早速に邪魔が入った。

「もう、どうにもならん、あきらめんか。な」

言いながら、両手を上げて包丁男に接近するのは関谷だった。

>>88

「っせぇぇぇぇぇっっっっっ!!!
清丸を出せえええええっっっっっ!!!!!」
「今なら、まだ引き返せる、な」

興奮する包丁男を、関谷は古典的に諄々と説得しながらゆっくり接近する。
包丁男の遠景に、駅の時計が銘苅の視界に入った。
移送スケジュールと浪費時間の事が頭をよぎるが、
とてもそれを計算できる精神状態ではない事に気づき、考えるのをやめる。

その間に、関谷のオーソドックスな説得は案外効いている様だ。
徐々に興奮が静まり、包丁が緩みそうになる。

「お前にも家族がおろう、な」

その瞬間、包丁男の表情が急変した。

「誰のためにいぃぃぃ………」
「よせっ!!」

包丁を振り上げる包丁男の前で、関谷が短銃を抜いた。

「!?」

次の瞬間、銘苅の視界が爆音と共に白煙と閃光に覆われた。

(SATか、MAAT―大阪府警捜査一課特殊班―の介入?
いや、違う。音響が小さ過ぎる)

銘苅はさっと立ち上がり、本来業務を思い出して新幹線の客車に駆け戻った。

今回はここまでです、続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>89

 ×     ×

新神戸駅で関谷刑事が説き伏せようとしていた人質犯説得が破局を迎え、
タツヤを小脇に抱えた包丁男が包丁を振り上げた瞬間、
暁美ほむらは新幹線の乗降口でコートの中で盾に手を伸ばしていた。
その次の瞬間、爆音と共にホームが白煙に覆われる。
それと共に、ほむらは時間を停止して床を蹴りホームに飛び出していた。
ほむらの耳は、鼻は、覚えていた、忘れる訳がない。

(どこにいる?)

視界を覆う白煙の中、ほむらは一旦時間停止を解除する。
視界が効かない状態で、時間停止魔法で魔力を消費し続けるのは非効率的だ。

「おおっ!?」
「ごめんなさい」

関谷が、抜いた短銃を前に向ける前に、胸板に水晶球を叩き込まれホームに倒れ込む。
ゆぅーっくりと包丁を振り下ろす包丁男の左腕に肘打ちの一撃が入り、
包丁男がゆぅーっくりと顔をしかめている間に人質はひょいと奪われて離れた床に着地する。

「はいはいはいっと」

そして、包丁男は右腕を掴まれ、半ば一回転の上に手放された。
包丁男の背中が叩きつけられた自動販売機が大当たりを告げて、どかどかドリンクを落下させる。

「あ、こらっ!」

人間ハンマー投げを成功させた呉キリカがハッと下を見ると、
救出された人質は既にトテテと歩き出していた。

>>90

「待て、っ」

そして、キリカがそれを追跡する時間は与えられなかった。
互いに条理を超えた時間と速度の交差の末に、
互いの銃弾と爪の攻撃を交わした暁美ほむらと呉キリカがざっと距離をとる。

「ふうん。綺麗な長い黒髪に普通の拳銃。
君が“守護者”かい?」

キリカの言葉に、ほむらは無言を貫く。
たんたーんっと、二人は車両の屋根に跳び移った。

 ×     ×

「おおおおおおおおっっっっっ!!!」
「ひいっ!?」

事態に困惑する鹿目まどかに、
自動販売機の側から立ち上がった包丁男が猛然と迫っていた。
ストレートな恐怖がまどかを硬直させる。

「………どけええええっっっっっ!!!」
「刑事さんっ!?」

絶叫と共に振り下ろされた包丁が、まどかの目の前に現れた関谷の左腕に食い込んでいた。
痛そう、等と言う次元の話ではない。

「姉ちゃん、はよう、いかんね」
「はいっ!」

まどかがその場を走り抜け、包丁男は食い込んだ刃を引き抜く。

「ま、たんか、貧血、か………」

まどかを追う包丁男を追跡しようとして、関谷は膝をつく。

「タッくん、タッくんっ!!」
「ねーちゃ」

走りながら、まどかが叫ぶ。返事を聞いた。

>>91

「タッくんっ!」
「ねーちゃ、ふええぇ」

まどかがしゃがみこみ、駆け寄ったタツヤを抱き締めた。

「こっちよっ」

そのまどかに鋭い声がかけられる。

「こっちに、警察に保護してもらいましょう」
「はいっ」

まどかが即座に従ったのは、その声が持つ気品ある迫力の故だった。
ごく限られた視界の中で相手を見ても、その声に相応しい魅力的な女性だった。

高校生ぐらいと思われるが、若い女性と言って差し支えない大人びた、それに留まらない気高い雰囲気。
動きやすいもので、値が張る訳でもないがセンスのいい服装に、左側のサイドポニーに束ねたさらさらの長い髪。
何より、平凡の自覚を痛感しているまどかが瞬時に気圧される程に
気高い雰囲気の大人びた美少女であり、スタイルも素晴らしい。

全体にすらりとしていながら、むしろゆったりとした服の上からもどかんと突き出しているのも分かるぐらいだ。
タツヤを抱き抱えながらその気品と迫力に瞬時に呑まれたまどかは、
相手のその美しい瞳に一瞬よぎった暗い陰りに気づく事もなかった。

「どけえええええええっっっっっ!!!!!」

ホームを駆ける包丁男が振り下ろした刃は、ハンドバックに食い込んでいた。
次の瞬間、包丁男はリバーに一撃を食らい、武器をバックに残し仰向けにぶっ倒れる。

「おい」

その声に前方を見た包丁男は、赤く燃える鬼を見た。

「私の子どもらに何してくれたんだてめぇは?」バキッ、ボキッ

背筋の凍る様な冷気を感じ、包丁男を背後を見る。

「詢子さん、無茶しちゃいけないよ。
僕たちの子どもをあんなに怖がらせて、
それがどういう事か、分かっているのかな?」

包丁男が見上げた先で、白く光る眼鏡がくいっと上げられる。

>>92

×     ×

「うっせぇガキだなぁ………男かよ(けど見た目はいい線いってるか)」

包丁男の登場で新幹線七号車座席に引っ張り戻された清丸国秀は、
人質として抱えられている幼児に窓越しに不敵な眼差しを向けていた。
その間にも、事態は進展する。

「あー、ババァだなぁ、
けど歳の割にロリっぽいし、ギリギリいけっかなぁ」
「後頭部撃ち抜かれたくなかったら黙ってなさい」

白岩篤子が天井に向けている銃口が次に誰に向くか不確定な状態のまま、
爆発音と共に窓の外が白煙に覆われた。

「清丸、清丸は無事かっ!?」
「はいっ!!」

七号車に飛び込んだ銘苅に、白岩が返答する。

「ぐあっ!!」

その時、車両間通路からうめき声が響き、銘苅がそちらに銃口を向ける。
何かが物凄いスピードで飛び込んで来て、銘苅がそちらに発砲する。
だが、気が付いた時には、銘苅は胸板を横に蹴られて床を滑っていた。
通路側にいた筈の奥村や斜太興業襲撃事件の初動に当たっていた兵庫県警の捜査員の動きはない。

「白岩下げろっ!!」
「はいっ!!」

襲撃者はその間に一気に距離を詰めようとしたが、
素早く半身を起こした銘苅の銃撃を受けて座席の陰に逃げ込む。
その間に、白岩は清丸を八号車側通路のトイレに押し込む。

(なんだこのスピードは?薬物?)

座席から座席に跳躍する赤い襲撃者。
発砲しながらSPの銃撃が丸でついていけないスピードに銘苅は異常性を覚える。

>>93

「くっ!」

襲撃者佐倉杏子が手にしていた槍の柄が銘苅の手から短銃を叩き落としたかと思うと、
その槍が多節棍に変化して銘苅を拘束した。

「待てっ!」

銘苅が無意味な叫びを上げ、杏子が八号車に向かおうとした所で、
八号車に向かう扉が開き戻って来た白岩が短銃を杏子に向ける。
次の瞬間には、杏子は白岩の視界から消えていた。

「!?」

杏子の蹴りが白岩の手から短銃を弾き落とす。
そして、杏子の拳が白岩を当て落とそうとする。
次の瞬間、杏子は床に転がっていた。

「くっ!」

逆に当て落とされそうになった杏子が、白岩の左手を無理やり振り解き、
瞬時に多節棍を回収しなから跳躍して退却する。

「あっぶねぇー、合気道?只の人間でも流石はプロかよ。
けど、分かったろ?清丸渡してくれない?」
「君は武器を持って人を襲った。手を上げて出て来なさい。
さもなくば、命の保障は出来ない」

ようやく、相手がほむらと同年輩の少女である事を把握した銘苅が
多少の優しさと誠意を込めた威厳で警告する。
杏子は鼻から下に布を巻いているが、
油断なく銃口を向けているSP二人が聞いた所では声が意外と幼い。

「あのさ、分かったろ?プロみたいだけどあんたらの力じゃどうにもならないって。
それでも、中途半端に強いからこっちも手加減出来ない。
清丸かばって死にたい訳?」
「死ぬつもりはない、警護するのは我々の仕事だ」

銘苅の言葉の揺るぎなさは、杏子の心に苛立ちを呼び込む。

>>94

「清丸に、あの屑野郎にそんな価値あるのかよ。
立派だよ、あんたら命張って仕事して、立派なの分かるよ。
そんなあんたらが命かける価値あるのかよっ」
「武器を捨てて出て来なさい、清丸に手を出す事は我々が許さない」

銘苅も、白岩も決して譲らない。
身を楯にして清丸のいる連絡通路への扉を死守する腹だ。
命懸けの「戦士」を見て来た者として、杏子にもその本気は伝わる。

「なんでだよ………」

杏子が、ぎりっ、と歯噛みをする。

「そんな事したって………他人の、それも本物の屑のために自分の命かけて………
爺さんが狂っちまうぐらい大事な、家族を奪った奴………
………うぜぇうぜぇうぜえっ!!」

叫び声と共に杏子が跳躍した。
長期戦は出来ない、あくまで奇襲で終わらせなければ、
警察組織そのものを敵に回しては流石に話にならない。
SP二人が発砲するが、杏子の動きには追いつけない。
杏子は、斜め前の座席の陰に隠れてそのまま跳躍前進を繰り返す、その予定だった。

「?」

だが、次の跳躍では、杏子は後退していた。
一瞬だが、銘苅は、杏子の表情に驚きと焦燥を見た。

(魔力、それも強力………!?)

次の瞬間、杏子と銘苅、白岩の間のホーム側の窓が爆発と共に吹き飛んだ。
更に、素通しになった窓から、一斉射撃と言うべき銃弾が反対側の窓に突き刺さる。

「清丸狩りに乗った魔法少女がいると聞いて来たけど、あなただったのね」

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>95

 ×     ×

「待ってくれっ」

佐倉杏子は、窓から新幹線の車内に踊り込みじゃりっと破片を踏みしめる巴マミに呼びかけた。

「金のためにやってる訳じゃない」
「それでも、私たちが関わるべき事件じゃないわ、これは法律の仕事よ。
まして、こんなに警察や社会が注目している事件、
まほ………私たち全体の立場が危うくなる」

優秀なSPである銘苅も短時間、頭の中の優先順位がクラッシュしていた。
新たに現れた少女、何か中世の兵士を思わせる服装にベレー帽、それにミニスカートを合わせている。
髪型は中世の、兵士と言うよりも薔薇の花が咲いているフランスの宮殿が銘苅の部下白岩篤子には連想される。

とにかく、その新たに現れた巻き髪の少女の左手には、これ又極度に時代物の小銃が握られている。
但し、それだけでは事態は把握できない。
新幹線の窓を爆発物でふっ飛ばし、明らかにその手持ちの小銃では手に余る連続射撃が行われている。
普通に考えるなら仲間がいる筈。

会話の内容からして、仲間割れ。赤い少女の異常な戦闘能力巻き髪少女の火力。
何か大きなカテゴリーの集団の中で、清丸狩りに手を出す赤い少女が異端。
巻き髪の少女はそれを連れ戻し、或いは始末しに来た。そう推測できる。

「これ以上続けるなら、
機動隊が本格介入する前に私と戦う羽目になるわよ。この狭い新幹線で」

ベレー帽を右手に取ったマミの言葉に、
その言葉の一つ一つの意味を最もよく知る杏子がぎりっと歯噛みする。

>>96

 ×     ×

騒ぎの中、鹿目まどか、タツヤは、
美国織莉子に誘導されて関係者用のエレベーターから通路に入り込んでいた。

「このまま行けば警察と合流できるわ。
私は友達が待ってるから」
「有難うございました」

ぺこりと頭を下げ、まどかは走り出す。
その背中を、織莉子は暗い目で見据えていた。
そして、懐に手を入れて硬い感触を握りしめる。
その瞬間、タツヤを抱っこしたまどかがくるりと振り返る。

「え?」
「本当に、有難うございました。
タッくんもありがとうって」
「あーとー」
「ど、どうしたしまして」

きょとんと返した織莉子の前で、頭を下げたまどかとタツヤは笑みを交わす。
家族だから愛しく尊い、それ以外の理由なんて要らない。
まどかの優しい、タツヤの安心しきった表情は物語っている。
呆然と二人を見送った織莉子の表情に緊張が走る。

「君っ!」

踵を返して曲がり角に走り込んだ織莉子を、
駆けつけた兵庫県警機動捜査隊の捜査員が追跡する。
そして、床に転がされた大量のビー玉大水晶球に足を取られていた。

>>97

 ×     ×

「ヴァンパイア・ファングッ!!」

乗って来た新幹線とは別車両の屋根の上で、
暁美ほむらは呉キリカの一撃を辛うじて交わしていた。

(とにかく速い、速すぎるっ!)

時間停止を掛けた時には、髪の毛に触れるか否かの瀬戸際だった。
その一線を越えていたら、その思いに背筋が凍る。
時間を停止している間に至近距離からベレッタを撃ち込み、時間停止を解除する。
次の瞬間には時間を停止し、前方に飛び込む様にして、
自分の背後で回転しながら首を刈る寸前のキリカの爪を交わす。

(一撃ごとにこんな事をしていたらソウルジェムが保たない。
至近距離からの銃撃すら交わされるとなると………)
(瞬間移動?速さの概念じゃない事だけは確かだね)

どうやら双方消耗戦となっている事を察したらしく、
距離をとって相手を見定め始めた。

「!?」

キリカの周辺で大量の手榴弾が爆発する。

(やったか、って言うのは大概外れてるって言うわね)

そう思うや、ほむらは時間を停止する。
案の定、横殴りの爪がほむらの首にかかる寸前だった。

(でも、なんとなく分かった。
爆発からの流れから見て、瞬間移動でも時間停止でもない。
単純に速い?と、言うよりは………)

キリカに向けてベレッタを連射し、時間停止を解除する。
次の瞬間、時間を停止すると、銃弾を交わしたキリカはすぐ側まで迫っている。
距離をとって時間停止を解除したほむらの前で、キリカは様子見をする。

>>98

(やっぱり、瞬間移動の類。いや、瞬間移動にしてもおかしい。
私の術中で移動の前後の連続性が丸で無い)

キリカはふと思い出す。
退屈な授業中、落書きしたパラパラ漫画。

(そうだ、間が抜けている………)

何かに気づきそうなキリカの前で、
ほむらはベレッタの銃口を上に向けて注意深くキリカを見据えている。
ほむらが魔法少女であれば、謎の移動も魔法、ソウルジェムの消耗は警戒している筈だとキリカも見当を付ける。
もっとも、それは他人の事を言えない。ほむらを術中にとらえている間に決着をつける必要がある。

つまり、双方回避手段を失った時点で、死ぬ。
その瞬間、相手に狩られるか絶望するかだ。
ほむらは時間停止を発動させた。
新幹線の車両の屋根に、幾つもの手榴弾を置く。但し、全てキリカの後ろ側に。
そして、キリカの前に戻ると、コートの袖に手を入れた。

「へえ………」

ベレッタとレディスミス、二挺拳銃を手にしたほむらにキリカは声を漏らす。

「そろそろ、決着つけましょう」
「そうだね………!?」

前に踏み出そうとしたキリカの脚が止まる。

(引き揚げよ、これ以上は警察の本格介入に間に合わない)

頭の中で織莉子の声を聴いたキリカが踵を返して跳躍した。
取り敢えず、今の所ピンも外れずに転がる手榴弾は只の鉄くずだ。

>>99

 ×     ×

新幹線七号車、破壊された窓から赤い少女が飛び出して逃走する。
それを追う様にして巻き髪の少女もホームに飛び出した。

「銘苅さん」
「我々の任務は警護、犯人の事は刑事の仕事だ」

そう言いながら、正直関わり合いたくない、と言うのが銘苅の本心だった。
程なく、入れ違う様に暁美ほむらが壊れた窓から飛び込んで来た。

「これは………清丸は無事なの?」
「ああ」
「そう」
「おい、状況は?」

そこに、同行していた警視庁捜査一課奥村武が戻って来た。

「清丸は無傷だ」
「そうか、いや、すまん。
気が付いたらぶっ倒れてたってのが本当の所だ、
小柄な………恐らく女だったと思う」
「ああ、それで合ってる。こっちもついさっきまでやり合ってた所だ」

奥村の言葉に銘苅が応じる。

「そうか、それでマル被(被疑者)は?」
「逃走した」
「取り逃がしたのか?ああ、元々逮捕はそっちの仕事じゃないか」

そこに、急行した兵庫県警の捜査員が本格介入を始めようとしていた。
その時、銘苅と奥村が動き出す。

>>100

「出ろっ!!」

それは、狂気の沙汰だった。
銘苅と奥村が短銃を振りかざし、
正規の捜査のために新幹線に乗り込もうとする捜査員を威嚇しホームに追い払う。

「このまま出せっ!!」

そして、車掌に命令する。
どこから見てもハイジャックです本当にありがとうございました。
確かに、取り巻く状況が狂気の沙汰である以上、正常に対処していては自分の命が危なくなる。
ほむらとしても、むしろ銘苅の適応能力を称賛したい所だった。

 ×     ×

「聞きたい事がある」

発車した新幹線の車内で、銘苅が着席したほむらに声をかけた。

「新神戸駅で我々は襲撃を受けた、君と同年代の少女からだ」
「そう。十億円は恐ろしいわね」

「本人は違う、と言っていた。
赤を基調とした中国風の装束でポニーテール、槍を手にしていた。
何よりも異常な身体能力戦闘能力で、
躊躇なく銃撃した俺と白岩、プロのSP二人でも追い払うのがやっとだった、
いや、実力で追い払う事すらできなかったと言うのが正しい」

斜め下を見ながら、ほむらは来るべきものが来たと考える。
無論、心当たりなど一人しかいない。

「この涼しい窓も、そのコスプレ少女の仕業だと言うの?」
「いや、コスプレはコスプレだが別人だ。
ベレー帽を被った巻き髪のヘアスタイルのこちらも同年代の少女、或いはその仲間。
年代物の小銃を持っていたが、どうも、赤い少女を止めるために来たらしい」

ほむらは、気合で嘆息を飲み込む。

>>101

「そして、ここにもう一人、同年代の不審な少女がいる」

銘苅がほむらに銃口を向けた。

「君が敵ではないのは分かっている。
だが、こちらも命がかかっている、これ以上説明抜きで放置する訳にはいかない」
「あなたもプロなら理解している筈よ」

ほむらは、短銃を向ける銘苅を一瞥して淡々と告げる。

「諸々の疑問点に目をつぶって、私と組んだ方がいい。
清丸を東京まで護送するつもりがあるのならね。
あなた達ではアレに対応できない」
「やっぱり、アレとやらのために派遣された、そういう事なんだな」

「ノーコメント。
もう一度言うわ、あなたは理解している筈よ。
私を痛め付けて戦力を減らしてあなた達だけでアレと対処するか、
ここで十億円を山分けするか、利害の一致を信じて私と共に対処するか。
どの選択が一番利口であるかと言う事を」

「何とかその、アレとやらに就いて喋ってくれんかね」

奥村が口を挟んだ。

「申し訳ないけどお断りするわ。これも、私自身の利害の問題」
「殺されても吐きそうにない、と言うよりも締め上げると言うなら
躊躇なくこちらを絞め殺す、そんな面だな」

奥村の言葉に、ほむらは静かに視線を外す。

「話しなさい、これは子供の遊びじゃない。
警護をやめるつもりはない、そうである以上命がかかっている」

ほむらに銃口を向けたのは、白岩篤子だった。

「一つだけ言っておく」

両手を反対側のコートの袖に突っ込んだほむらが口を開いた。

>>102

「私に敵意を向けるなら私に手を触れないで、その瞬間に死ぬわよ。
命懸けはこちらも同じだから。
そして、あなた達の領分を外れた所でまで、あなた達に命を張らせるつもりもない。
だから、私の口を割らせる事は諦めて」
「アレは我々の領分ではない、そう言いたいのか」

銘苅が尋ねる。

「この際だから言ってしまえばそういう事になるわね。
状況が状況である以上、新神戸の時の様に完全に切り離す事は難しい。
それでも、その事であなた達に命懸けの仕事はさせない」

喋りすぎだ、と思いつつもほむらは答える。
これでも納得は出来ないだろうが、それでもだんまりだけで押し通せるほど、
ほむらの知力も精神も強いものではない。

車両内でSPが警護する清丸を襲撃したのは佐倉杏子で確定。動機から考えても間違いない。
杏子一人でもSPの手に余った筈だ。
そして、呉キリカ。呉キリカがいると言う時点で、自動的に黒幕が確定する。

トラブルで停車する新神戸駅を狙って二人、
恐らく黒幕を入れて三人の魔法少女がピンポイントで総力戦をかけて来た。
その事自体、黒幕の正体が美国織莉子だと告げているとの同じ事だ。
ほむら一人では厳しい、杏子を止めに来たと言う巴マミにどこまでの事が出来るか。

それでも、この警察官達に相手をさせる訳にはいかない。
最早独立愚連隊でも生易しい有様だがそれでも警察官だ、
その表の情報に魔法少女が紛れ込むのは当然好ましくない。

何よりも、三人揃って自分の優先順位のために何をやらかすか分からない連中だ。
それでも、比べて言えば佐倉杏子はまだ可愛げのある方だが、美国織莉子と呉キリカ、
この二人が何か覚悟を決めてこの事件に介入しているのだとすると、これは最悪でも生ぬるい。
決して引きそうにない職務熱心な警察官が対処していい相手ではない。
この現実と、狂気の沙汰で職務熱心な警察官達、この折り合いをどうつけたものか。

ここは、賭けるしかない。佐倉杏子と直接対決したのであれば、
プロのSPだからこそ現実問題として対処出来る相手ではない、
これ以上ぶつかれば無駄死ににしかならない事を理解した筈だと。

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>103

 ×     ×

「新神戸の事件はどうなりましたか?」

視線を斜めに落としていたほむらが口を開く。

「包丁の男は救急車で病院直行だ、回復を見て逮捕される。
関谷部長は一般人を保護した際に包丁で切り付けられて重傷、
こちらも救急搬送されているが今の所命に別状はないらしい」

話を反らされ身を乗り出しそうな奥村を制して銘苅が答える。

「人質は?他に死傷者は?」

「人質の男の子は姉と共に警察に保護された。
一応病院で診察を受ける事になっているが特段の問題はなさそうだ。
それ以外の死傷者の報告も入っていない」
「そう………一般人の被害は最小限ね」
「一般人、ではないんだろう」

銘苅の言葉に、ほむらはつと銘苅を見る。

「人質の姉、君とはどういう関係だ?」
「クラスメイトよ」

銘苅の問いに、ほむらはあっさりと答える。

>>104

「その気になってあの娘を調べたらすぐに分かるでしょうから。
私も一応表向きは普通に学校に通ってる。
こんな所で出くわして少し驚いた」
「そうか」

銘苅の返答はあっさりしたものだった。

「これだけは覚えておいた方がいい。
君はまだ子供だ。我々もそうそう負けはしない」
「よく、分かってる」

銘苅の言葉にほむらが応じる。
それはよく分かっている。
元々、自分が高度な腹芸などにはとても向かない性格だと言う事も。

「話を戻そうか」

奥村が口を挟んだ。

「ノーコメント。アレの事に就いて一切口を割るつもりもなければ
あなた方を巻き込むつもりもない。
万一次に遭遇したら、殺すつもりで撃ちまくって構わない。
これ以上怪我人を増やしたくなければ私からの情報は諦めて」

ほむらは、再び視線を斜め下に落とす。
美国織莉子、呉キリカは福岡では明らかに清丸を狙っていた。
だから、キリカの退却と共にとっさに新幹線の清丸の所に戻った。

そのまま銘苅が新幹線を急発進させて現在に至る訳だが、
呉キリカとまどかが同じ駅にいた。本来であればその時点で事態は最悪だ。
だからと言って、ここで清丸の警護を放棄して淀川を敵に回すと言うのもリスクが未知数だ。
今の織莉子が清丸に優先順位を置いている、そちらに賭けるしかない。
もし、その賭けに敗れた時は、その時は

>>105

「!?」

強烈な振動がほむらの思考を停止させる。
とにかく座席につかまって振動をやり過ごしている内に、新幹線は停車していた。
そして、ほむらが顔を上げると、通路出入口付近で、
車掌が車内の警察官から一斉に短銃を向けられホールドアップしている。

その車掌の説明によると、
何者かが線路上に障害物を落としたため現状では走行不能と言う事だ。
かくして、夜間、懐中電灯で前方を照らす銘苅以下一同は途中降車、
徒歩での行動を開始した。

 ×     ×

「あー。
ねえ、ねどこまで歩くんですか」

清丸の言葉に、
こっちが聞きたい、と言う本音を、暁美ほむらはもちろん口には出さない。
そもそも、ここがどこだかもよく分からない。
とっくに夜は明けて、とにかく緑豊かな山間部の橋の上を清丸と残った移送チームは歩いていた。

「あー、ねえ、ねどこまで歩くんですか?
もう歩けない。
一日中歩いてるのに車一台通らないじゃないですか。
こんな行き当たりばったりじゃなくてちゃんと計画とか立てて行動してください」
「黙れ」

捕縄で引かれながその場に転がり駄々をこねる清丸を、
奥村がうんざりと一蹴する。

「どうしました?」

そこに、一台の車が通りかかる。
人の良さそうな中年の男性が運転する乗用車だ。

「お車をお借りします」

運転手に告げた銘苅は、手にした短銃の銃口を運転手に向けていた。

>>106

「そのまま」

銘苅が運転手を車外に連れ出した所で、ほむらが警察官の面々を手で制した。
まず、開いた窓から運転席を眺め、
助手席に回ってドアを開きダッシュボードを開ける。

「抜き身で物騒ね。
山菜採りのシーズンだったかしら?」

ほむらがナイフを掲げて助手席から出て来た時、
車の持ち主は獣じみた唸り声と共に首を絞める手つきで清丸に向けてダッシュしていた。
そして、さっと清丸の前に回った白岩の膝を腹に叩き込まれる。

「なぜ分かった?」
「このクズが言ってた。夜通し一台もってね。
運よくいい人による恵みがある偶然、そんなものを信じていない、それだけよ」

奥村の質問にほむらが答えた。

「め、ぐみ………」

白岩に組み伏せられ、右腕をねじ上げられながら男が呻く。

「西野めぐみちゃん」

男を組み伏せながら、白岩が呟く。
ほむらも思い出す。事前に渡された資料にあった名前だ。

「ああー、めぐみのお父さんか」

嬉しそうに懐かしそうに口を挟んだのは清丸だった。

「そう言えば目元がよく似ている。
あの子よかったなー、ぷりぷりして」

今更ながら、清丸の頭に9ミリ・パラが着弾していない自分の忍耐力を、
暁美ほむらは少々誇りに思う。

>>107

「僕ね、めぐみのね、」
「黙れえっ!!」

嬉しそうに言い募る清丸に奥村が怒鳴るを通り越した怒りを浴びせ、
奥村に組み伏せられた男は獣の様に唸り続ける。
そして、ほむらはつと考える。
西野めぐみの父親がここにいると言う事は、

「!?」

男の後頭部が白岩の鼻に激突した。
その一瞬の隙に男は脱出し立ち上がる。

「止まりなさいっ!」
「よせっ、丸腰だっ!!」

男の前に回り、ベレッタの銃口を男に向けて叫ぶほむらに奥村が叫ぶ。
とっさに、実際には男の獣染みた叫び声に当てられて行動していたほむらは
さっと銃口を下ろし、突進して来た男に振り払われる。
銘苅が清丸の前に回り、特殊警棒を振り出す。

後から思えば、正直頭に血が上っていた。
そんな状態のほむらは、転倒してから時間を停止し、
正確に狙いを付けてから地面を回転する様にして男に足払いを入れた。
転倒した男の前に回り、掌に握ったスパイスを男の顔面に叩き付ける。
そして、男と距離を取り、息を切らせて安堵していたほむらが目を丸くした。

「ちょっ!?」
「おおいっ!!」

立ち上がり、猛然と走り出した男は、
そのまま車に飛び込み運転して突っ込んで来た。
一同、とっさに身を交わす。
車は公道に突っ込もうとする。

「冗談じゃないっ!!」

叫んだほむらは時間を停止し、車の後輪に至近距離からベレッタを撃ち込んでから元の場所に戻り、
時間停止を解除してベレッタの引き金を連打する。

>>108

 ×     ×

「うー、うー」
「タッくん、気持ち悪そう」

車の後部座席に乗った鹿目まどかが、
隣のチャイルドシートに座る弟の具合を見て心配そうに言った。

「車に酔ったのかな?」
「ちょっと外の空気でも吸うか」

夫である知久の言葉に、運転席の詢子はハンドルを切る。
車は堤防上で停車し、一同降車する。

「んー。流石にちょっと疲れたなー」

堤防に座った詢子が体を伸ばして言った。

「やっぱり、高速に乗った方が良かったんじゃないかな?」

知久が言う。

「いやぁ、特にこの二、三日、完全に先の読めねぇ状況だからな。
帰り道の大まかな方向が見事にバッティングしちまった、
あの様子だと、護送してる警察も隠れて動いてるみたいだし、
正直、あいつが東京に着くか死ぬか決まるまでホテルに泊まり込みたい所だ。
高速でタンクローリー突っ込んだ馬鹿まで出てきた、
巻き込まれるのが嫌ならこのルートの方がいい」

と、言う訳で、新神戸駅の騒ぎから一泊しながら、
レンタカーでこの静岡県内何某所に辿り着くまでを立案した詢子が言った。

「あの、清丸、って言ってたよね」

タツヤと戯れていたまどかが口を挟む。

「ああー、クソッ、あんなふざけた事件にまどかやタツヤ巻き込みやがって」

吐き捨てた詢子の殺気は隠せるものではなかった。

>>109

「どうしてあんな事………」

「さあな、確かに金は欲しい。
十億って金が想像を絶してるってのは確かだ。
ラジオで言ってたが新神戸の犯人、
自分の会社が傾いたってなりゃあ自分も周りもプレッシャーは半端ない、
それこそ命懸けって話になる。
それでも駄目だ。あんな方法で金を手に入れるなんて、
本当に家族の事を考えりゃあ出来るもんじゃねぇよ」

「うん」

「まどかやタツヤにもしもの事があれば、
私だってどうするか分からねぇ。
それは分かるが、その時はこの手でだ。
あの爺さん病気だからかも知れねぇが、気に食わねぇ」

「詢子さん」
「ああ」
「飲み物買って来ようか、さっき自動販売機あったから」
「ああ、頼む」

 ×     ×

静岡県内のちょっとした集落を、一人の不審人物が歩いていた。
どことなくボロボロの風体で、
前に突き出した両腕を手錠で拘束された上にその手錠に捕縄まで縛られている、
そんな男がふらふらうろつき回っているのだから、不審人物と言っても差支えないだろう。

不審人物は、ささっ、と、塀の角に身を隠す。
視線の先には一人の少女の姿が。
新神戸駅で見かけた、獲物だ。

年齢的にはアウトだと思うのだが、一見して未だ歳よりも幼げな雰囲気に、
少し背伸びした濃い色のリボンでくくった髪の毛も悪くはない。
そういう訳で、不審人物がひーっ、ひーっ、ふーっ、と呼吸を整え
足元の大き目の石を持ち上げる。
その背後で、散弾銃を逆さ持ちにしてゴオオと燃え上っている鬼の存在に気付く事なく。

今回はここまでです。続きは折を見て。

もう続きは来んのか

それでは今回の投下、入ります。

>>110

 ×     ×

本来、散弾銃の使用目的は人を殴打する事ではない。
まして、弾丸を装填した状態で銃身を握り薬室側で思い切り相手を殴りつけたりした場合、
散弾銃の本来の機能により殴った側の命の保障はない。

その事を思い出した暁美ほむらは、
散弾銃を自身の魔法少女仕様携帯武器庫に収納すると、
目の部分に穴を空けた紙袋を被り、時間を停止して清丸国秀に接近する。

西野めぐみの父親による暴走車事件のどさくさに逃走した清丸は、
前手錠のまま手近な石を持ち上げ立ち上がった所だった。

清丸の限りなく真横に近い斜め前に移動したほむらは、ざっ、ざっと、右足で地面を蹴り、
思い切り引いた右脚の膝を清丸の腹に叩き込む。
奇妙なオブジェ人形と化した清丸を見て、
ふと、先輩からなぜ時間の停止していたドラム缶が移動しているのかと質問を受けた
懐かしい記憶に浸る。

麻酔を染み込まれたガーゼとタオルその他を使って清丸を拘束したほむらは、
近くで目を付けておいた一軒の家に移動する。
時間を停止し、そこで無防備に昼寝をしている女の子を避けてベランダから
その平屋建ての家の中に入る。

「失礼、警察です」

小さなキッチンから移動しようとした母親らしき女性に、
シューティンググラスとロシア帽を装着して時間停止を解除したほむらが左手で身分証を見せる。
ほむらの右手には、銃口を上に向けたベレッタM92FSが握られている。

「現在、凶悪事件被疑者清丸国秀移送の極秘任務を遂行中です。
知っての通りの事情により、非常に危険な状況に於いて極秘に行動する必要があります」

そこまで一気に言って、ほむらは母親に手近な置時計を渡す。

>>112

「今から約十分後、この時計でここに来るまで、娘さんと一緒にバスルームに入っていて下さい。
それまでバスルームから出たら命の保障は出来ません。
既に銃を使った襲撃事件が多数発生している事を踏まえた上で速やかに協力願います」

かくして、母娘をバスルームに隠し、隠しておいた清丸を家の一室に放り込んでから、
ほむらは、この家の電話から銘苅の持っている西野めぐみの携帯電話に架電する。

「確保したか?」
「ええ」

そして、ほむらは家の名前と目印を教える。

「そこの押入れに清丸が、バスルームには住人の女性と子供が実質監禁されてる。
あなたのやり方に倣わせてもらったわ」
「分かった」

程なく、銘苅と白岩、奥村がその家に駆け付ける。
奥村と白岩が清丸を連行する。

「警察です」

バスルームに入った銘苅が女性を解放した。

「色々と事情がありまして、連絡はこちらで行いますので
極秘捜査と言う事でこちらから連絡があるまで普段通りの対応をお願いします」

>>113

 ×     ×

まばらな住宅地の電柱に背中を預けていたほむらは、
そこで移送チームと合流する。
チームは歩き出した。
すっ、と、目を細めたほむらが時間を停止する。
そして、さささっと簡単な周辺偵察を終えて元の位置に戻り、時間停止を解除する。

「!?」

ざっ、と、ほむらが片膝をついて前方の曲がり角にベレッタを連射する。
次の瞬間、近くの家の陰から曲がり角を曲がって駆け出して来た若い男が、
鉄パイプを手に脚を血まみれにしてつんのめる。

そして、後方に当たる曲がり角でも、駆け出した一団の先頭が大きな石を踏み付けて転倒する。
次の瞬間には、清丸の周囲で三人の警察官が一斉に短銃を構える。
銘苅が確認すると、鉄パイプやバットやゴルフクラブやナイフを手にした集団に
前後の曲がり角から挟み撃ちを受けていたが、
双方の先頭が転倒し、後続は悲鳴を上げて逃走していた。

「いてぇ、いてぇよぉ、病院連れてってくれよおっ!!」

取り残された鉄パイプ男を少々締め上げた所、
川崎の半グレ集団と言う事だったが、ここまで銃撃戦が報道されていた移送チーム相手に
不意打ちに失敗して正面対決する度胸はなかったらしい。

「警察です」

近くの平屋建てのベランダから怖々と覗く住民に銘苅が警察手帳を見せる。

「我々は我々の手配を行います、救急車をお願いします」

それだけ言い残し、一同は走り出した。
一同は、住宅地の近くのまばらな林に駆け込む。
他の面々も気づいたらしいが、足音に気づいたほむらは時間を停止する。

状況を確認し、元の位置に戻って時間停止を解除したほむらはベレッタを撃ちまくる。
正式な軍用拳銃であり、多少の慣れもある。
その上、相手の位置を正確に確認し、
時間停止を組み合わせて狙い撃ちにしているのだから先手の優位はとる事が出来る。
結果、数人の襲撃犯はほむらの先手必勝で怯んだ所を押しまくられ、総崩れとなっていた。

>>114

襲撃犯は中国製のレッドスターを所持しており、
後に分かった所では、襲撃犯は極道関係、
それもその世界で命が危ない規模の借金を背負った一発逆転組だった。

ヤクザ崩れは手近な木に拘束し、この場を離れてから県警に通報するとして、
一同は近くに駐車した車まで辿り着く。
しかし、これで推測の正しさは証明された。

その事を納得したほむらは時間を停止し、ハンケチに麻酔を染み込ませ、
ここにいる面々を一人ずつ片づけていった。

 ×     ×

ほむらは走っていた。
移送チームの事はそれはそれとして、この近くにいると分かった以上、
出来る事ならここを離れるまで安全を確認しておきたい。
その思いは、間違ってはいなかった。

塀の陰から無事な姿を確認したのもつかの間、
ほむらの顔から血の気が引く。

「こんな時にっ!?」

悪い事に、ほむらの視線の先のまどか自身、
何か考え事をしている様な、憂いた顔をしている。
新神戸であんな事に巻き込まれたのだから無理もない、と、思うが、
もう一度言うと、よりにもよってこんな時に、である。

「そっちは駄目っ!!」
「え?あ?ひゃあああっ!!!」

>>115

 ×     ×

「な、何?」

鹿目まどかは、見覚えの無い田舎町をとぼとぼと歩いていた。
あったと思った自動販売機は見つからず、家族の元に戻ろうと思ったのだが、
やはり、昨日のショッキングな体験が尾を引いている。

理解できない、家族が殺されたら、十億円なんて想像もつかないお金があったら、
怖い、怖い、いつもの団欒、いつものドライブが例えようもなく尊いのが改めて分かる。
だからこそ、孫を殺されたと言う老人、その狂気も本当は遠いものではないのかも知れない。

なんとなく頭の中でぐるぐると考えている内に、まどかの周囲の景色が異様なものとなっていた。
とにかく、何かで見た絵画の様な、周り全部の風景が絵の具で描いた様な、
とにかく、訳が分からない。

「まどか、まどか」
「えっ?」
「恐ろしいのかい?それなら」
「その必要はないわ」

聞き覚えのある声とけたたましい銃声と共に、蹲ったまどかが目を開いた時には、
どこからともなくまどかに呼びかけていた声は消え去っていた。

「な、何?何っ?」

まどかが気が付くと、何か得体の知れないものがうようよとまどかに接近している。

「まどかっ!!」

叫び声と共にまどかの周囲に猛烈に着弾し、
まどかに近づいていた使い魔は次々と姿を消していく。

「ほむら、ちゃん?」

腰を抜かしたまま見上げたまどかが目にしたのは、
ごく最近自分のクラスに転校してきたクラスメイト暁美ほむらが拳銃片手に息を切らせている姿だった。
その瞬間にも暁美ほむらは、慣れた作業でまどかから見て得体の知れないものである使い魔を
ベレッタのマガジンを交換しながら片づけていく。

>>116

「ほむらちゃん、これは?………」
「そこを動かないで。
大丈夫、私が守るからまどかはそこにいて」
「ほむ………つっ」

まどかは冷たいぐらいに言い放つほむらに駆け寄ろうとして、
ほむらがまどかの周囲に張った防護バリアに弾かれた。

「その壁の中にいたら大丈夫だから」

そう言って、ほむらは僅かに目を細める。
大きな気配が近づいている。
前方から幾つも迫る触手に、ほむらはベレッタを撃ちまくり牽制した。

「あれが、ここの魔女」

ほむらが呟く。
まどかの目に見えるのは、何か巨大なものが段々と空から地面近くまでふよふよと下りてきている事。
それは、エイリアンと言われればそう思えるかも知れないものだった。

(奥行がありそうな結界なのに魔女本体がここまで、
人の気配に引き寄せられた?)

ほむらは、一旦ベレッタをホルスターに収めデザートイーグルを抜く。
大口径のデザートイーグルでダメージを与えながら仕留めるタイミングを計る。

「!?」

次の瞬間、ほむらは逆さづりにされていた。

「ほむらちゃんっ!?」
「な、っ!?」

見ると、ほむらの背後で地面からもこもこと巨大なものが盛り上がり、
その巨大なものと繋がった触手がほむらを吊し上げていた。

「そん、なっ?一つの結界に別々の魔女が?」

言いながらほむらは背後の魔女にマグナム弾を叩き込むが、
不意を突かれた事もあり効果的とはいかない。

>>117

「くふっ、ふふっ、無様ですねー」

ほむらは、その声に目を向ける。
ほむらやまどかと同年輩だろう。
そして何より、その姿はほむらであれば一目でそうと分かる特徴的なものだ。

「地元の魔法少女かしら?
私は通りすがり、ここに居つくつもりはないわ。グリーフシードも譲ってあげる。
だから、ここで争うのは無意味よ」

「暁美ほむらさんですねー」

その癇に障る声と内容に、ほむらの目が細くなる。

「あなたが反対側についたから、対抗上私が雇われたんですよー。
魔法少女には魔法少女、でも、あなたがここを切り抜けたら、
仕方がないから今度こそ全面戦争ですねー。

だって、私たちって参加したらイレギュラー過ぎるんですから、
ゲームの運営として本気で潰すって事でしょうねー。
だからー、今、降参するなら私が先方に口を利いてあげますよー」

「ほむらちゃんっ!」
「まどかっ!!」

悲鳴にそちらを見ると、まどかが使い魔の群れに囲まれている。
ほむら自身が消耗している状態ではバリアも長く保たない。

「この娘が大事なんですよねー、
早くしないとまずいんじゃないですかー?
でも、大変ですねー、こんなどんくさいの守りながらって、
ほんとグズなんだからーキャハハー」

笑い声が終わる前に、
自分を逆さづりにする魔女にM202ロケットランチャーを撃ち込んだ暁美ほむらは無表情だった。

>>118

 ×     ×

「あ、ああ、あ………」

圧倒的優位に立っていたと確信していた優木沙々が今目の前に見ているのは、
紅蓮の炎と魔女だったものの肉塊、

「何か、まどかがどうとか聞き捨てならない寝言が聞こえたんだけど空耳だったかしら?」

「ハイ、ユウキマドカサマハメガミサマデスカナメササハクズデス
モトイカナメマドカサマハメガミサマデゴザイマスワタクシユウキササメハクズデゴザイマス」

そして、M60を両手で支えスリングでバルメM78を吊るし
両脇両脚のホルスターにガバメントをぶっこみ
背中にレミントンM870と正宗と釘バットとチェンソーを背負い両頬を緑色に塗り
天に向けて光る二本の懐中電灯と棒手裏剣複数を鉢巻に挟み込んだ暁美ほむらの姿だった。

「その情報を誰から聞いたのか、詳しく話してもらいましょうか?」
「は、はいっ、それを話したら見逃してもらえるんですか?
も、もちろん、今後ほむら様、まどか様に手を出す様な事は一切決して天地神明に誓って………」
「そうね、[ピーーー]のは最後にしておいてあげる」

(た、助かった、時間さえ稼げば後は隙を見て洗脳して、
そのまま引き渡してビバいっちおっくえぇーんっ♪
計画通りっ! 計 画 通 りっっっ!!!
賢い、賢い私っ!!)

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>119

 ×     ×

「ほむらちゃん」

優木沙々の始末がついた後、眠らせておいたまどかが目を覚まし怖々と声をかける。
既に魔女の結界は解消されていた。

「今の、なんだったの?ほむらちゃんは………」

そんなまどかの両肩を、ほむらはがしっと掴んでいた。
焦っている、或いは疲れているとほむらは自己分析する。
だが、無限の選択肢に惑わされず、
迷いなくとるべきコミュニケーションをとる事が出来るのは楽だった。
これも今回の銘苅流とでも言うべきか、選択肢が無いと言うのは、
事、ほむらにとっては思った以上に楽だった。

「もう、少しだけ待って。今度………今度、学校でちゃんと説明するから、
今はさっき見た事聞いた事は誰にも言わないで」
「う、うん」
「ありがとう」

まだ、少しおびえている様だが、それでもまどかは応じてくれた。
それは信じられるとほむらは思う。

「携帯持ってる?ここから少し行った所に商店があるわ。
そこから、迷子になったって家族の方に連絡して。
実際そうなんでしょう?」

「う、うん。なんか、恥ずかしいけど」
「いい、今は色々物騒だから、お願いだからそうして」
「分かった」

ほむらの真面目な口調にまどかも真面目に応じる。

なんか酉変になってますが治った様ですので続けます。

>>120

「それから、白い得体の知れない見た目だけは可愛いかも知れない生物が
変な勧誘をして来たとしても、絶対に応じたりしないで。
もし、それで考える事があるなら私に相談して」

「う、うん」
「それじゃあまどか、くれぐれも気を付けて」
「うん。よく分からないけど、ほむらちゃんも」
「心配には及ばないわ」

ほむらは、ファサァと黒髪を払い、まどかに背を向けてその場を去る。
そう見せかけて、物陰から物陰へ、
まどかの取り敢えずの安全が確認できるまで見守り続けた。

 ×     ×

銘苅一基の視界に、光が戻った。
地面に転がされている銘苅の目隠しと猿ぐつわを外しているのは、暁美ほむらだった。

「これは、どういう事だ?」

こういう時でも、銘苅の口調は荒いと言う程のものにはならない。

「もう少し待って」

ほむらが応じる。
どちらにせよ、地面に転がされたまま両手両足が動かない以上、銘苅も手の打ちようがない。

「これを外しなさい、早くっ!」

銘苅が顔の拘束を外された後、
同様の扱いを受けた白岩篤子がほむらに迫るものの、こちらも手足の拘束はなされたままだ。
銘苅の記憶では、清丸を護衛し、車に乗り込もうとした所で、
暁美ほむらが銘苅の背後に回り、銘苅に麻酔を嗅がせた。

そうである筈なのだが、それは異常な事だった。
銘苅も本職のSP、中学生ぐらいの女の子にそんな真似をされる隙を金輪際作る筈がない。
それは、同じく優秀なSPである白岩とて同じ事の筈。
まして、出会った時から徹頭徹尾異常さを隠そうともしない暁美ほむらが相手であれば尚の事だ。
しかし、現実は自分が覚えている通りだった筈だ。

>>121

後は、目隠し猿ぐつわで両手両足も拘束され、眠らされたり移動したり、
途切れ途切れの事しか覚えていない。
ほむらは、二人のSPの両腕を拘束していたテープを
アーミーナイフで切断してから二人の側を離れる。

「今は、脚はそのままでいて」

ほむらはそう言って、二人にナイフの刃先を向けた。
銘苅は周囲を見回す。地面は土がむき出しの建物の中、製材所か何かの跡地の様だ。

「手荒な真似をした事を謝罪します。ごめんなさい」

ほむらはその場に立ち、頭を下げる。
その態度は、本心の様であった。

「裏切り者は奥村だった」
「そうか」
「信じてくれるの?」
「話の内容による」

ほむらの説明に銘苅が言う。
元々、銘苅から見て自分の知る白岩が護衛対象を売るとはどうしても考えられない。
逆に、ほむらは余りにも怪し過ぎる上に、清丸を守るとか殺すとか、
その辺りとは別の意図がある様にも見える。
実の所、一番納得できる結論ではある。

「あれから、私は清丸を含む四人を別々の場所に監禁した。
結果、キヨマル・サイトは奥村の監禁場所に清丸の現在位置を表示した。
彼自身が言っていた通り、居場所を報せるだけで蜷川から報酬が得られる。
恐らく何らかのGPS、それも体内に直接取り付けていると見ていい」

そう言いながら、ほむらはスマートフォンを操作し、
奥村の監禁場所の周辺の看板と地図とキヨマル・サイトを
画像、動画を表示し照合しながら説明を行った。

「無論、今は私の言う事を信じてもらうしかない。
その上でお願いがあります。
あなた達は拘束を解かれた後、先に千代田区内に行って待機していてもらいたい。
清丸は私が一人で移送して東京地検近くであなた達に引き渡す」

>>122

「それを信じろと?」

ほむらの依頼に白岩が呆れと怒りを露わにする。

「賞金が欲しければ、とっくに清丸の生首ぶら下げて近くの警察に自首してる。
率直に言ってこの移送チームは死に体、
向こうは、奥村が使えなくなってやり方を変えたわ」

「どういう事だ?」
「清丸が奥村を昏倒させあなた達を人質にとって逃走した、そういう筋書きになってる。
警察庁はその筋書きを了承して清丸に射殺許可を発令した」

裏切り者を炙り出した後、淀川が告げた事をほむらは説明した。

「国家の許可をもって清丸を殺した者」

銘苅の言葉にほむらが頷いた。

「その状況で私たちが清丸を連れ歩いたら、
説明する前に勢いで射殺したとしても罪に問うのは難しい、そういう事ね」

白岩も事態を飲み込んだらしい。

「だから、あなた達は千代田区に潜伏していて、
私ならそこまで安全に運ぶ手段がある」
「それを信用しろと?」

白岩のその言葉には、やはり呆れた感情がこもっている。

「お願いが無理なら命令するしかないわね」

ほむらは、二人のSPにベレッタの銃口を向ける。

「出来るのか?」

銘苅が言う。

>>123

「君に、人を殺す事が出来るのか?」
「今更」

銘苅の問いに、ほむらはぽつりと答える。

「お願いしても無駄みたいね。まあいいわ」

ほむらは、ファサァと黒髪を掻き上げる。

「どちらにせよ、あなた達は私のプランに乗るしかない。
邪魔はさせない。そう、邪魔はさせない今更邪魔はさせない。
もう、何人も殺して来た、私の望みは一つだけ。
あそこに置いてある缶の中にあなたの武器と足のつかない携帯が入ってる。
引き渡しの時にこちらから連絡する」

数歩歩いたほむらが、カッターナイフを地面に落とした。

「待てっ!」

銘苅が叫ぶが、現実問題として、
二人のSPは両脚をテープでぐるぐる巻きに縛られている。
手で解いてもカッターナイフを使ってもいいが、
それまでは、下手をすると只の女子中学生からでもタコ殴りにされかねない。
まして、暁美ほむらは奇妙なトリックを使う上に武装もしている、とても勝ち目はない。
しかし、ほむらは足を止めた。

「銘苅一基、白岩篤子。
あなた達は、私なんかが決してかなわない
プロであり立派な警察官であり立派な大人。
私はあなた達を心から尊敬し、謝罪します」

銘苅から見えるのは黒髪だけ、その口調はあくまで鉄面皮。
それでも、僅かばかり伝わるものは存在していた。

>>124

 ×     ×

銘苅達と別れた後、ほむらは、目にした瞬間に手を上げていた。
それを合図に、ほむらの目の前にタクシーが停車する。
車に乗り込み、仮の行先を告げて後部座席の背もたれに体重を預ける。

「先に預かっておいて」

そう言って、ほむらは運転手に一万円札を渡した。
経費に多少の余裕はある。
これ以上、余計な体力も魔力も使いたくない。
実際、精神的にも相当に疲労している。
あの優木沙々が魔女使いで本当に良かったと思う。

「検問、清丸ですか」
「お陰で今日は商売あがったりだから」

検問が渋滞を引き起こす中、ほむらの問いに
気のいい中年女性の運転手が答えた。

「今、どういう事になってるの?」
「なんか、移送中の警察官を人質に逃げ出したってねー、
警察挙げての大捜索だわ」

やはり、聞いた通りだと、ほむらは心の中で嘆息した。

「警察が逃走した清丸を探してる。
警察官を人質にしているなら射殺命令が出ていてもおかしくない。
国家の許可の下で清丸を殺せば十億円、ってネットで見たと思う。
それに、今までも何人も清丸を殺そうとしてるってニュースで見た」

「嫌って言う程聞いたよ、
この人殺そうとした人たちの事ね」

不謹慎と言う事はあるが、現状では最も目立つ世間話なのだろう。
何かくたびれていそうで、
そして聞きかじった風に話題を振る女子中学生に、
運転手もニュースで聞いたらしい話を合わせる。
新神戸の包丁男は借金苦の中小企業経営者、
留置係は妻が入院し、看護師は夫がリストラされ、機動隊員はギャンブルが祟ったと言う。

>>125

「お金ですか」
「そ、結局みんなお金に困ってるの」

ぽつりと言ったほむらに、運転手が応じた。

「自分が捕まっても家族にだけは金を残そうとしている人ばっかでさ、
蜷川って大金持ちが仕掛けたゲームに貧困者が参加してるって構図になってんのね。
いくら持ってんだか知らないけど、お金があればなんでもできんの?」

ほむらは、目を閉じていた。
お金、十億円、本当は只の女子中学生である自分に、
本当にその重さが理解出来ているのかは分からない。

しかし、蜷川は言った。自分に買えないものはない、買えないのは孫の命だけだ、と。
それば、十億円に群がる者にとっても同じ事なのだろう。
そうまでして、買えるものなら買いたい、そういうものがある。
その感覚は、ほむらにとっても決して無縁ではない。

ほむらは、わずかに右目を開き、音楽を中断して割り込んだラジオのニュースを耳にした。

今回はここまでです。続きは折を見て。

今1番面白いから頑張って

つまんね

それでは今回の投下、入ります。

>>126

 ×     ×

「オラァ、ばばあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

気のいい女性運転手のタクシーを降りた暁美ほむらは、
予定していたおあつらえ向きの採石場で耳障りな絶叫を聞いていた。

「ここどこなんだよ、これ解けっつってんだろ!
警察がこんな事していいと思ってんのおおおおおっっっっっっっ!?!?!?」

目隠しに耳栓を装着され、後ろ手錠で地面に転がされた清丸国秀は、
右脚に嵌めた手錠とダンベルをやや長い鎖で接続され、容易に逃げる事が出来ない状態だ。

「ねえ、解いてよ、解いて下さいよぉ、
解けっつってんだろばばぁぁぁあぁっっっっっ!!!!!
ねえ、ねえねえねえ、もしかしてもしかして警察じゃないとか?
警察じゃないとか?賞金とか狙ってんの?

いや、いやいやいや、それ、それまずいでしょう、
こんな事で大金手に入れても駄目だって、絶対幸せにならないからやめた方がいいって、
ね、今なら引き返せる、見なかった事にしてあげるからさああっ!!!!!

だからこれ解けって解いてよ解いて下さい
解いてよ解いてよ解いてよ解けっつってんだろババァァァァァッッッッッ!!!

これは罠だ、
僕は○○じゃない、信じてくれよおおおおおっっっっっっっっっ!!!!!」

ヤケになったのか黒い帯状の目隠しを嵌められて拘束されて転がりながら
昔の映画の台詞かなんかを叫び始めた清丸の腹に、
取り敢えず一撃蹴りを入れてからほむらは周囲を見回す。

次の瞬間、ほむらは時間停止を発動しながらざざっ、と向きを変え、
突っ込んで来る標的目がけてベレッタM92FSを発砲してから時間停止を解除する。
しかし、時間停止を解除した、と、思った時には、
ほむらは斜め前方の気配に向けて発砲していた。

>>129

そして、その銃撃にも手ごたえは無い。
既にコートは脱ぎ捨て、衣装に刃が掠めた感触を感じながら、
ほむらは地面を転がりそれでも発砲を続け立ち上がる。

ダダンッ、と、立ち上がり様に発砲したほむらは、
その隙に時間を停止してベレッタのマガジンを交換した。
そして、近くで飛び跳ねながら静止している呉キリカに背後から接近、
ドンドンドンと至近距離から発砲して距離をとる。

時間停止を解除すると、キリカは振り返り様に銃弾を交わし、
凄まじい勢いでほむらに迫って来る。
ほむらは即座に時間を停止し、そのキリカを正面から銃撃して距離をとる。
しかし、時間停止を解除した、と思った時には、キリカは跳躍していた。

「ヴァンパイア・ファングッ!!!」

ほむらはとっさに時間を停止し、とにかく攻撃の射程を離れる。
時間停止を解除すると、長く連なった爪が、
幻のほむらを唐竹割りにする勢いで地面の岩に叩きつけられている所だった。

時間を停止し、発砲しながらその場を離れ、時間停止を解除する。
毎回の時間停止は魔力の消耗は激しいが、
そうしないとほむらの首はとっくに胴から離れている、
それぐらい、キリカの速度は尋常ではない。
そして、至近距離から発砲されたにも関わらず、
キリカはその銃弾をするりと交わして、ごう、と、ほむらに迫っている。

時間停止をしたほむらは、静止したキリカの周囲を回りながら、
残りの弾丸を撃ち尽くしマガジンを交換して離れた場所で仰向けに倒れ、時間停止を解除する。

「やっぱり、間抜けだね」

度重なるほむらの銃撃を交わし、
既に立ち上がってキリカに銃口を向けているほむらにキリカは口を開いた。

「はっきり分かったよ、倒れていた君を爪に掛けた筈なんだが、
今回は幾らなんでも間が抜け過ぎてる」

そういうキリカに、ほむらは銃口を向けたままじりっ、じりっと交代する。

>>130最後の行 ×交代→○後退
では続き

>>130

「だけど、私は、例え連続であってもゴールでそのスキップを凌駕するっ!!」

銃声と共に両者が交錯し、距離をとった時、
ほむらは衣装の裂け目を増やして肩で息をする。

「さあさあさあっ!スキップで逃げ回っていつまで続くのかなっ!?」
「根競べなら負けないわ!!」

撃っては逃げ、叩いては逃げ、目まぐるしく壮絶な攻防戦が繰り返し展開される。
ほむらは、時間停止をしながら両手持ちにしたベレッタとレディスミスを撃ちまくり、
キリカから大きく距離をとっていた。

「さあさあさあっ!これで終わりかい黒髪のゴールキーパー(守護神)ッ!?!?!?」

その銃弾をするりと交わし、キリカは猛然とほむらに迫っていた。

「!?」

キリカが気が付いた時には、その周辺には大量の鉄塊、
何れも握りこぶし大の鉄のパイナップル。

「エリア単位で破壊すれば、って?」

それに気づいた時、キリカはにへらっ、と笑みを浮かべていた。

「もらったあああああっっっっっ!!!!!」

轟音と共に視界がゼロに近くなったその時、キリカの腕は力いっぱい、
横殴りの爪を動かそうとした。

「たぁぁぁぁぁぁぁぁが、ぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁ………」

背中の激痛と共に、キリカはその場に倒れ伏した。

>>131

 ×     ×

「いた、あぃ………これ、って………」
「死にたくなければ余計な事は考えない事ね」
「あぁ、分かって、るよ」
「ならいいわ、後始末が面倒ってレベルじゃないから」
「先の先、読まれた、かな」
「そういう事ね」

そう行って、ほむらがファサァと黒髪を払う。
今の激戦で、キリカの能力の性質に就いてはおおよその察し、
分析とまではいかなくとも勘所を掴む事は出来た。

結果、ほむらは時間停止をして爆弾を仕掛け、
起爆させて距離をとって時間停止を解除したすぐ後に、
直ちに時間停止を発動し、自分の位置を変更して銃撃を行った。

爆発を切り抜けたキリカはほむら目がけて突進する。
だが、そのほむらは残像、突進開始と同時にほむらは場所を移動し、
キリカが目標地点に到達するのと同時に背中から銃撃される。
あの爆発に巻き込まれたキリカがどう動くかを予め読んだほむらが、
時間停止による二手先の予測攻撃を展開していた。

「やっぱり、間抜けだ。
速度で縮めても、無いものとは根本的に違う、って事か」
「計画通り、って所かしら、
この展開もっ!!」

ほむらの銃撃を受けて、空中で複数の水晶球が爆発した。
その時には、ほむらは爆発から距離をとっていた。
ほむらの銃口の先では、槍を手にした佐倉杏子が舌打ちをしている。

それでも、ほむらの足は銃口を上に上げながらじりっ、じりっと後退している。
とにかく、未だ水晶球を浮遊させながらほむらに接近している
美国織莉子の精神的圧力が尋常ではない。

そして、織莉子の意図がほむらにもある程度察せられている今、
直接に二面攻撃を受ける事を避けるのが利口だった。

>>132

「キリカ?」
「お、りこか?済まない」

キリカの側でしゃがみこんだ織莉子は、小さく首を横に振る。

「佐倉さんと向こうの対処に追われて、
キリカ一人を行かせたんだもの」
「済まない、決して潤沢ではないものを………」

ソウルジェムを浄化され、キリカは改めて頭を下げる。
そして、よいしょと立ち上がる。

「三対一、清丸を引き渡してくれるかしら?」
「断る、と、言ったら?」
「三対一、そのままの意味になるだけ」

相変わらずのプレッシャーと共に、織莉子は圧倒的な現実をほむらに告げる。

「何がおかしいんだい?」

ほむらの唇の緩みにキリカが問う。

「織莉子を侮る、と言うのなら、まず私が刻むよ」
「別に侮りはしないわ、ええ」

ほむらが応じる。美国織莉子、出来る事なら、
今すぐこの場で全火力を使って塵も残したくもない相手だ。

「だけど、今さっき、こんな採石場なら特撮映画で通りそうなぐらい、
ちょっと派手過ぎる演出だったわね」

ほむらの言葉を、織莉子は静かに聞いている。

「正直、最初から三人がかりで来られたら危なかった。
だけど、実際に一人で斬り込んで来た。
と、すると………」
「確かに、派手だったわね」

その声の主も又、こっ、こっ、と、こちらに接近してきていた。

>>133

「居場所を知る合図にはちょうど良かった」

杏子が、苦り切った顔でそちらを見る。

「あなた達こそ、引きなさい。
清丸事件なんて、魔法少女が関わる事件じゃないわ。
特に佐倉さん、あなたが関わっているのならね」
「もう、あんたとは関係ねぇよ」

マスケット銃を向け、冷静に宣告する巴マミに、
佐倉杏子は無理に言葉を吐き捨てる。

「振り切れなかったみたいね」

杏子と二人、予知能力を駆使しつつなんとかマミの追跡を逃れていた織莉子が呟く。

「数の上ではまだ、こちらが有利」

織莉子が続けた。

「魔法少女同士の闘いとなれば、それは殺し合いになる。
あんな男のために、その覚悟はありますか?」

一瞬、その目を地面を転がる物体に、丸で蛆虫を見る様な視線を走らせ、
威厳に満ちた口調で織莉子は問うた。

「魔法少女には魔法少女のルールがある。
こんな大事件でそれを無視したら、魔法少女自体の立場が危うくなる。
そんな事も分からないのかしら?」

言いながら、マミはかつてなく粘っこい、熱湯の様な汗を全身に感じる。
穏やかな口調ながら、美国織莉子の眼差しはそれだけのプレッシャーをマミに浴びせていた。

「うぜえっ!!」

どこか甲高い声で叫んだのは杏子だった。

>>134

「これ以上は無駄だっ、どうしても、ってんなら、
こいつでって事になるぜマミ先輩」

次の瞬間、採石場にマスケット銃の銃声が響き渡る。
気が付いた時には、杏子がざざっ、と、一度接近したマミから距離を取り、
マミのマスケット銃が鈍器と化して空振りしていた。

そして、痛感する。
本来杏子が強がりたかった、あの時の自分ではない、と言う上達をマミは一応心の中で認めたが、
肝心の杏子の方が今一度の交錯でそんな風に胸を張る事に躊躇を覚えていた。

(やっぱり………)

爆発音が響き、土煙の向こうが無人である事を察したほむらが心の中で舌打ちする。
ベレッタを撃ちまくりながら既に接近していたキリカの攻撃を回避し、
時間を停止して織莉子の側に駆けつける。

「くっ!」

キリカが置き土産の手榴弾の爆発を回避している間に、
ほむらは織莉子を銃撃する。
しかし、その銃弾はするりと交わされていた。

振り返り様のほむらの銃撃を受けて水晶球が爆発し、
逆に言えば、織莉子は無傷のまま。
そうしている内に急接近しているキリカを銃弾で牽制する。
今一度、織莉子とキリカが接近した瞬間を狙って手榴弾が爆発した。

>>135

 ×     ×

「?」

不意に、周辺が静まり返っている事に巴マミは違和感を覚える。

「巴マミ」
「あなたは?」

自分の衣装の袖を掴む黒髪の同業者にマミは尋ねる。

「暁美ほむら。あなたには美国織莉子、あの白バケツに専念して欲しい」
「どういう事?」

「この群れを仕切っているのは美国織莉子。
能力は予知能力、私の能力では相性が悪い。
多分、魔力の燃費の関係もあって予知も自由自在って訳ではないと思う。
あなたの技術なら読まれて対処するよりも先を行って対処できる」

「暁美さん?確か、今日が初対面よね?」
「あなたの実力は分かってるし利害は一致している筈。
そして、美国織莉子を狙ったら真っ先に呉キリカ、あのショートカットが露払いに来る」

更にその先を続けるほむらの言葉に、マミはじっと耳を傾ける。

「乗ったわ」
「ありがとう」

ほむらがマミの袖から手を放し、時間停止を解除した。
同時に、マミが両手でスカートの両端を摘み、
落下した二挺のマスケット銃を前に向ける。

「ミンチに刻まれたい様だなっ!!!」

織莉子を狙った銃弾を爪で弾き飛ばし、キリカが猛然と突進した。

>>136

「ヴァンパイアッ………」
「やばいっ!!」

跳躍したキリカに叫んだのは、佐倉杏子だった。

「他人の心配?」
「うぜえっ!!!」

叫びながらも、問いかけと同時に思いもかけぬ方向から飛んできた銃弾に、
杏子は冷や汗を覚える。

「ファング、ッ!?」
「ティロ・フィナーレッ!!!」

キリカが爪の連なりを振り下ろそうとした時には、
マミが解いていた衣装のリボンは抱え筒と化していた。

「おおおっ!!つうっ!?」

何とか、本来攻撃に魔力を集中していた爪を使って強烈な砲撃を反らし、
その勢いで空中を迷走していたキリカが目を見開く。
どおんどおんどおんどおんどおん、と、空中で次々と手榴弾の爆発が起こり、
キリカは這う這うの体で辛うじてその一瞬先を逃走する。

「やっちまったぁー」

杏子が思わず左手で顔を押さえる。
その視線の先では、ようやく着地したキリカが、
着地と共に噴出したリボンによって黄色い繭と化していた。
その時には、どんどんどんどんどんっ、と、
マスケット銃の使い捨て連射を交わした織莉子がすとんと着地していた。

>>137

「私を餌にしてキリカの行動範囲の予測を狭めた、って所かしら?」
「どうやら、本当みたいね」

じっとりと汗をかきながら、マミは呟く。
今の自分の攻撃とそれに対する交わし方、
予知能力者だと言う説明は納得できるとマミの勘は告げる。

そして、嫌な汗は織莉子も同じだった。
巴マミの実力は相当なものだ、ここまでの実戦慣れ、技量の持ち主が相手となると、
予知と行動とのラグを突かれる危険性は十分ある。
それがあの暁美ほむらの狙いである事も含め、聡明な彼女は十分に理解していた。

どの道、相手が魔女でも魔法少女でも、
楽な戦いなどありはしない。そうであるならば、賭けるしかない。
予知能力が先か、ヴェテランの技量が先か。

「どけっ!」
「行かせはしない」

槍を振って威嚇する杏子に、距離をとって銃口を向けるほむらは冷静に告げる。
予知能力があったとしても、本気のマミに魔法少女同士のタイマン勝負を挑む事の意味を、
杏子は誰よりも知っている。

実際、銃弾と水晶球が交錯する激戦も、杏子自身の経験からか、
織莉子がじりじりと押されている様に見えてしまう。
そして、臨時同盟のよしみで織莉子を救援しようにも、それを妨げているのが暁美ほむら。
既に、強行突破しようとして、急所外に銃弾を埋め込まれている。
とにかく、対処しようにも手札が見えない厄介な相手だった。

「くああああっ!!」
「!?」

黄色い繭が破れ、キリカが絡まるリボンを振り解きながら動き出す。

「無理をしては駄目っ!!」

織莉子が叫び声を上げた。

>>138

「さっきの傷も含めて限界に近い、今は………」
「何て事ないよ、織莉子」

ドス黒い怒りのオーラを帯びたキリカを見て、ほむらは心の中で舌打ちする。
このままキリカが戦闘を再開した場合、
後一押し二押しで更に厄介な事態になりかねない。
そうなったら、最悪四対一になる。

(頭に血が上っている間に、…す、か………)

「指一本たりとも触れさせないっ!!!」

形振り構わず時間を停止し、織莉子に向けて急行したほむらに向けて、
目の前で爆発した手榴弾のおそーく見える爆発を跳び越えてキリカが突進していた。

「ゴ、メ、イ、サ、マ、リリアンッ!!!」

ほむらが楯に手を向けた瞬間、
ドガガガガッ、と、皆の目の前の岩場に勢い良く降り注ぎ、突き刺さった。

今回はここまでです。
今更ながら、マミさんの帽子ってベレーじゃないなあれ、すいません。
続きは折を見て。


現行では唯一ハズレじゃなく面白いから頑張れ

感想どうもです。
それでは、思い切りご都合ゾーン突入します。

それでは今回の投下、入ります。

>>139

 ×     ×

暁美ほむらは、ぎょっとして足を止めた。
目の前の地面には、西洋風の剣が一本、岩を貫いて突き刺さっている。
さっと周囲を見ると、周囲の面々もおよそ同じ状況らしい。
そして、崖の上から一人の人影が、マントを翻して颯爽と着地した。

「美樹さん!?」
「美樹さやか!?」
「ふうん、あんたも魔法少女だったんだ、転校生」

マミとほむらが叫び、
すとんと着地したさやかとほむらが向かい合う。

「こっちに来たの美樹さん?」
「ごめん、やっぱほっとけなくてさ」
「どういう事?あなた、何時の間に魔法少女に?」

マミと言葉を交わすさやかにほむらが尋ねた。

「んー、あんたが転校して来る前かな?
魔女に襲われてる所をマミさんに助けてもらってさ」
「ちょっと待って、確かに上条恭介は入院してるけど大したケガじゃない、
あなたが契約する理由は無い筈。それに、そんなに早く………」

>>141

「ああ、何か変な話してるけど、それあたし。

運転手が変なもの吸ってただかで、
あたしの見てる前でタンクローリーが時速百キロぐらい出して恭介に突っ込んでさ、
恭介歩道歩いてたのにあっと言う間に
空中きりもみ回転して地面で十バウンドぐらいして痙攣してたのね。

で、あたしはちょうどそこに通りかかって声かけようとしてたんだけど、
その時まで契約保留してたけどそうも言ってられないし、
あそこまで行くと却って冷静になるんだね。

流石に傷一つ無いってのはまずいって事で、
さささっと一か月後に完全回復する程度に傷治してくれって、
すらすら言えちゃったんだなこれが」

「そ、そう………って、まどかはっ!?」

「まどか?知らないよ。
魔女に襲われた日はまどか風邪で休んでたし、
危ない事に巻き込みたくもなかったからね、
基本、まどかと離れてからマミさんと魔法少女やってたって事で」

「どこまでイレギュラー………
それで、どうしてここに?」

「うん、清丸事件に魔法少女が関わってるって、
それでマミさんが現地に飛ぶって話聞いて。
マミさんはあたしに来るなって言ったんだけどさ、
なんかどんどん事態が悪くなってるからいてもたってもいられなくて」

「そうなのです」
「?」

ふと気が付くと、さやかの側に一人の女の子がいた。

「なぎさちゃんも来たのっ!?」
「そうなのです」
「ごめん、気が付いたら電車乗って付いて来ててさ」

驚くマミに、さやかが頭を下げる。

>>142

「えーと、この子は?」

呆れた口調でほむらが尋ねる。

「百江なぎさちゃん、魔法少女。
なんか病院の廊下でソウルジェム黒くして悶絶してたの
助けてあげたら懐かれてさ」
「そうなのです」

その時、ほむら初め数人の魔法少女が、はっ、と気配を察して振り向いた。

「ふぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」
「えーと、あれって?」

帯状の黒い目隠しに後ろ手錠を装着し、
ボコボコのズタボロのボロ雑巾状態ながら、
しっかと立ち上がり鎖で足首と連結されたダンベルを引きずり
着々とスローモーにさやか達の方に移動している不審人物を指してさやかが尋ねる。

「清丸国秀」
「あー」

ほむらの回答に、さやかがぽんと手を叩く。

「取り敢えず刻む?」
「なぎさちゃん」
「はいです」

キリカの問いを受け流し、さやかがなぎさに声をかける。

「お゛、お゛お゛お゛、お゛お゛お゛お゛………」

なぎさの接近に合わせる様にごごごと体だけを前に突き出そうとする清丸の前で、
なぎさがぷくーっと何かを吹き、
清丸はそのまま全身を大きなシャボン玉の中に収納し空に向けて皆の視界の中で小さくなる。

>>143

 ×     ×

「さ、話を続けようか。
そういう訳であたしのクラスメイトで、まあ、友達ではあるんだわ」

実の所、ほむらにその自覚は薄かったが、
考えて見るなら今回はまどかと一応の友好関係を保っている。
必然的にそういうくくりになるのかとここで改めて考える。

「グリーフシードでいいなら今回は沢山あるから、
それ山分けでいいからここはあたしに免じて引いてくれないかなー」

さやかは片目を閉じて、やや冗談めかしてつつつーっとサーベルを真横に向けてから、
持参した袋を開いて見せた。

「このグリーフシード、どうしたの美樹さん」

確かに、袋の中のグリーフシードは、
ほむらも括目した程に尋常な量ではなかった。

「なんか、ここに来るまでにやたら魔女と遭遇してさ、
いちいち退治してたらこうなったって訳」
「あー、それ、こっちも同じだわ」

そう言って、杏子はすっとグリーフシードを掲げる。

「あんたは?」
「そういうあんたは?美樹さやかっつったか?」
「うん、美樹さやか」

「ああ、あたしは佐倉杏子。
そう言われてもなぁ………」
「やるっての?」

剣呑な眼差しを向ける杏子に、さやかも硬い口調で尋ねる。

>>144

「マミ先輩の新しい弟子かよ」
「知り合いですか?」
「ちょっとね。そういう事。だから、美樹さんと戦うなら、
今度こそ私と戦う事になるわよ」

マミの言葉に、杏子は鼻を鳴らした。

「どうだい、織莉子?」
「厳しいわね、決して弱くはないわ」
「ちょっと待って」

指を顎に乗せて考え込んでいたほむらが呟く。

「あなた、美樹さやかよね」
「そうよ、何言ってるのよ転校生」
「魔法少女になったのよね」
「そうだけど」

「美樹さやか、あなたはどこまで愚かなの?」ファサァ
「はあっ!?喧嘩売ってる訳転校生っ!?」
「どうかしら?」ファサァ
「じゃあこれでどうっ!?」

さやかの周囲にずらあっと並んだ剣が一斉にほむらに飛び込む。
無論、威嚇のつもりだ。

「これに付いて来れる!?」
「根競べなら負けないわ!!」

ドガガガガガガガガガッッッッッ

「話、続けましょうか」
「そうだね、あたし達がやり合っても何の得にもならない」

肩で息をした双方に合意が成立した。

>>145

「あなた、美樹さやかよね」
「そうよ、何言ってるのよ転校生」
「魔法少女になったのよね」
「そうだけど」

「美樹さやか、あなたはどこまで愚かなの?」ファサァ
「はあっ!?喧嘩売ってる訳転校生っ!?」
「どうかしら?」ファサァ
「じゃあこれでどうっ!?」

さやかの周囲にずらあっと並んだ剣が一斉にほむらに飛び込む。
無論、威嚇のつもりだ。

「これに付いて来れる!?」
「根競べなら負けないわ!!」

ドガガガガガガガガガッッッッッ

「話、続けましょうか」
「そうだね、あたし達がやり合っても何の得にもならない」
「あなた、美樹さやかよね」
「そうよ、何言ってるのよ転校生」
「魔法少女になったのよね」
「そうだけど」

「美樹さやか、あなたはどこまで愚かなの?」ファサァ
「はあっ!?喧嘩売ってる訳転校生っ!?」
「どうかしら?」ファサァ
「じゃあこれでどうっ!?」

さやかの周囲にずらあっと並んだ剣が一斉にほむらに飛び込む。
無論、威嚇のつもりだ。

「これに付いて来れる!?」
「根競べなら負けないわ!!」

ドガガガガガガガガガッッッッッ

>>146

「話、先に進めてくれないかしら」
「「はい」」

にっこり優しいお姉さんの微笑みを湛える巴マミの側で、
百江なぎさは列車搭載の銀色の砲身を大汗を浮かべて眺めていた。

「で、グリーフシードは売る程あるのよね」
「まあ、こんだけあるから」
「あなた達」

さやかの返答を聞いたほむらが、織莉子チームに向き直った。

「清丸の命まで取る必要はあるかしら?」
「答えはノーね」

織莉子がきっぱり言った。

「形だけでもなんでも、清丸の終わりが被害者、
そんな形の終わり方に納得はしない」
「ああ、それはそうだ」
「まあ、同感だね。織莉子がそういうなら」
「オーケー、その方針ならなんとかなりそうね」
「聞かせてもらおうかしら?」

ほむらの言葉に織莉子が尋ねる。
ほむらによる方針の説明と同意を経て、
なぎさが浮遊していた清丸を地面に降下させる。

「久しぶりね、この感触」
「ナイスショット」

スパーンとアイアンを振ったほむらにさやかが合いの手を入れた。

「じゃあ、一番にやらせてもらうわ」
「豹変だね」
「だからよ。今の今まで、
都合により一応あの屑の護衛をしていた私のソウルジェムを
少し想像してもらえるかしら?」

キリカの突っ込みを背に、明らかに野球仕様のスイングを振り抜いたほむらの口許には、
呪いよりもおぞましい笑みが浮かんでいた。

>>147

 ×     ×

気が付いた時には、美国織莉子は静まり返った空間にいた。

「あなたに頼みがある」
「何かしら?」
「蜷川隆興の居場所を知りたい」
「知ってどうするの?」

「分かっている筈よ。魔女の大量発生。
こちらに向かって無理な進撃をしたかその途中で同士討ちで消耗したか、
所詮、魔法少女でも考える事は同じ。
どの道、魔法少女では賞金条件を満たせない事も知らない愚かな末路。
この馬鹿騒ぎを終わらせる」

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは、今回の投下、入ります。

>>148

 ×     ×

「誰だ?」
「丸でホテルのスイートか何かね」

暁美ほむらは強がりを言いながら、内心では息を呑んでいた。
ベッドの上でじっと目を閉じて横たわっていた老人、
その老人が、ほむらが時間停止を解除して一歩踏み出した途端に口を開いた。
それも、強面でも威厳でもない、それでいてほむらの足を釘づけにする声。
場所は病院の個室。
だが、一般的な病室のイメージとは遥かにかけ離れた高級感に溢れている。

「暁美ほむら、公安が雇ったイレギュラーか」

老人は、天井を見たまま静かに語る。

「話が早いわね。
人を呼んでも無駄、痛い目を見たくなければ余計な事はしないで」

そう言って、ほむらは22口径コルトを目の前の老人、蜷川隆興に向けた。

「あの馬鹿げた懸賞金を取り消しなさい」
「断る」

命令から回答までの間は二秒にも満たなかった。

「そう言われて、あなたを楽に死なせたりはしない」
「仮にここで私の全身の骨を外したとして、
その後の私の言葉にどの様な意味がある?」

蜷川の言葉に、ほむらは目を細めた。

「警察官が、己の職務を全うしただけの警察官が何人も重傷を負った。
異常な大金によって道を踏み外した人間も何人もいる。
死人も出た、清丸の母親も自殺をした」
「お気の毒な事だと思う」

>>150

「なぜ、他人事みたいに言えるの?
襲撃犯にしても責任の一端は………」
「その通り、私の責任だ」

「あなたは間違っている」
「どんなやり方も全て間違いだ」
「あなたは、間違っている」
「なぜそう思う?」

もう一度、繰り返したほむらに蜷川が問う。

「あの子はこんな事を望んでなどいない」
「死んだ人間は喋らない。死んだら終わりだ」
「本当に、そうなの?」

「喋った様な気がするだけだ。自分がそう信じたいだけだ。
死んだ人間は、喋る事が出来ないんだよ。
君は、刑法を読んだ事があるか?」

「刑法?」
「刑法は何も禁じてはいない、罪と罰が書かれているだけだ。
その刑法に従い、あの男は処理される」
「清丸による再犯を許した社会への復讐?」
「私のエゴだ」
「その通りね」

「何が悪い。それがルールなのだろう。
暗い、暗い林の中に連れて行かれた。
闇の中でどんなに怖かっただろう、どんなに。
そして、ドブに捨てられた。なんでそんな事が許せる。
私にとっての絶対はその事だけだ。その事だけが絶対だ。
全てが等価であるならば、私のエゴのために罪を犯し罰を受けよう」

「分からない」
「大切な人を、その人がいなければ生きていけないという人を、
理不尽なやり方で奪われたならば」

>>151

ぼすっ、と、白い敷布団に穴が開いていた。

「すまない」
「何がかしら?」

ファサァと黒髪を払うその右手は、ほむらが自覚出来る程に
汗が浮かびキレを失っていた。

「失言だった」
「ここであなたを殺して死体を公衆に晒せば事は終わる。
十億円の根拠は、莫大な現金を保有しているあなた個人の意思ただ一つ。
あなたが死んだ時点であなたの示した契約は宙に浮く」
「本当にそう思うか?」

「当たり前でしょう。実行したら犯罪でしかない、
むしろ実行するなと法律が義務付けている、
一文の得にもならないそんな契約を誰が引き継ぐと言うの?
少なくとも、あなたの遺体が発見された時点で誰しもそれを考える」
「本当に、そう思うか?」

いかにも不健康な嗄れ声。
だが、それだけに、理屈としてはハッタリだと思いながらも
勝負にならない程の格の違いをほむらは感じざるを得ない。

「あの子はこんな事、望んではいない」
「なぜ分かる?」
「知っているから」
「何を知っている?」

「誰よりも強く、正しい。優しい子だった。
私なんかがとてもかなわない、そんな子だった。
あなたのしている事は、あの子の強さ、本当の価値を汚している」
「その正しさ、優しさは裏切られ、私は生きる望みの全てを奪われた」

「もう一度言う、懸賞金を取り下げなさい」
「断る。あの屑のために私を殺す理由はあるのか?
君が協力すると言うのなら二十億出そう、三十億でもいい。
必要だと言うのならば、莫大な武器弾薬の手配、
公安に対して君の情報を抹消し君に触れない様に厳命を発する事も請け合おう」

>>152

「既に警察は買収済みね」
「私は随分大物らしい」

「何を今更。犯罪で大切な人を喪った銘苅一基、
そして、携帯を調べさせてもらった、母親である白岩篤子。
確かに二人共優秀なSP。
だけど、捜査一課の面子も含めて人為的なものとしか思えない」

「なるほど悪くない」
「あなたには、私怨がある」

そう言って、ほむらは蓋つきポリバケツを蜷川の枕元に置いた。

「心臓が悪い、と警告しておいた筈だが。
君もその辺りの不自由は知らないでもないのだろう」

バケツの中から髪の毛を掴んで引っ張り出した生首をバケツに戻し、蜷川が言う。

「許せない事は二つ、一つは私に対抗するためにまどかの情報を利用させた事。
その事だけでも八つ裂きにしてでも飽き足らない。
そしてもう一つは、奇蹟を弄んだ事」

そう口に出して、
ほむらは銃口を蜷川に向けたまま一歩前にベッドに近づく。

「もちろん、本人の責任もある。
巨額の報酬を目当てに人殺しに手を染めるなんて、悪い事に決まってる。
食べるに困った事も無い只の中学生に、
お金の本当の価値なんて分からないかも知れない。

もしかしたら、それでも屑一人の命で十億円を受け取るのが正しい選択、
例え刑務所に入ってでも今よりはみんなが幸せになれる、
そんな事情があったりするのかも知れない」

徐々に早口になりながら、ほむらは霞みそうな目で拳銃の狙いを定め続ける。

>>153

「それでも、奇蹟を弄び人の心の弱さを弄んだ。
大切に思う心、大切な人を喪った痛みを弄んだ。
私はあなたが許せない」
「なぜか完治したと聞いたが、私よりよほど心臓が悪そうだ」

蜷川に言われるまでもなく、ほむらは自分の動悸と息切れを自覚していた。

「この病院に、結構大規模に爆弾を仕掛けさせてもらった」
「手荒な事をするな」

「爆発五秒前にマスコミ各社に予告メールが入る。
もちろん人的被害は避ける配置よ。
いくら警察が買収済みでも、後の事を考えるなら物には限度がある」
「表沙汰にする事で私を逮捕させるか。それで、懸賞金は止まると?」

「少なくとも今のあなたとの交渉は出来ない。
ええ、単純に私の力不足よ。
元々、この手の交渉は得手な方じゃない私に、
とても手に負える相手じゃないもの」

「残念だ」
「何がかしら?」
「私にはむしろ、最も近く、近い所にいる様に見える」
「そう?」

「何が映っている?その瞳に、何が映っている?
見たのだろう。色褪せ、空虚な世界を。
それでも、空虚な妄念であっても縋らずにはいられない世界を」
「黙りなさい」
「少し、休もう。迎えが来るまで」
「いい夢を」

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>154

 ×     ×

東京都千代田区日比谷公園内某所。

「連れて来たわよ」

暁美ほむらが、銘苅一基、白岩篤子の前で、前手錠をはめられた清丸国秀を引きずり倒す。

「よく、無事だったな」
「なんとかね。まあ、色々あったわ。
状況が状況だから、一万回程嬲り殺しの目に遭った程度の
精神的ダメージはあるかも知れないけど、些細な事ね。後は任せたわ」

ファサァと黒髪を払うほむらだったが、銘苅に真っ直ぐ見据えられ、
ほむらも真っ直ぐ相手を見返す。

「………蜷川隆興はどうなったかしら?」
「分からない」
「分からない?」

白岩の返答にほむらが聞き返した。

「担当は捜査一課、私たちに直接情報は入らない。
元々入院していた病院で爆破事件があって、
その転院に伴って蜷川本人の居場所は警察の監視下に入ったけど、
健康上の理由で逮捕状は執行されていない」

白岩が、新聞を読んでも分かる実状を端的に答えた。

「あの、爆発事件があった病院に蜷川が入院していた、それは確かなのね?」

多分、ここにいる二人よりも自分の方が確実に知っている事実をほむらが尋ねる。

「それは確かだ」

銘苅が答えた。

>>157

「爆発事件を受けて、蜷川は事実上自前のドクターカーで病院を脱出、
別のVIP専門病院に転院すると共に、弁護士を通じてその事実を警視庁に通告した。

病院側が移動を含むこれ以上の刺激は生命の危険があると診断したため、
東京地検と警視庁の刑事部は逮捕状の執行を中止、
任意の事情聴取のための折衝を行っている。

前の病院の理事長と病院長、蜷川サイドの弁護士一名が東京地検宛の上申書を公表。
容体の悪い蜷川氏の治療のため、
外の刺激から遮断するために所在を隠匿する形となった。
これは全て外部との対応を一任された自分達の責任であるとして、
その職や資格を返上する意思を示している。

それを受けて、捜査一課では、
彼らの権限を越えた犯人隠避事件として関係先を家宅捜索、
三人を書類送検する予定だ」

「茶番なのか無能なのかはっきりしてくれないかしら」

冷たく言い放つほむらを前に、
気色ばむ気配を見せた白岩の横で銘苅は深く頭を下げた。

「命懸けで我々に協力し約束を果たした君に、
警察官として只々恥じ入るばかりだ。
だが、多くの捜査員は職務を全うしようとしている、
その事は分かって欲しい」
「あなた達を間近に見てそれが理解出来ないのなら、
それは本物の馬鹿よ」

「今も言った通り、現場の捜査員の多くが、蜷川逮捕のために
昼夜を問わず靴底をすり減らして捜査を続けていた、それは本当だ。
だが、警察上層部が当初から蜷川の居場所を把握していたのはまず間違いない。
公安部は知っていて静観、刑事部でも上と直結する所はそれを把握して
現場がそちらに行かない様に捜査をコントロールしていたと見るべきだ」

ほむらの言葉を受け、頭を上げた銘苅が言った。

>>158

「爆破事件で状況が変わった、と言う事かしら?」
「ああ。だから、一課の中では何か意図が、
それが目的だったんじゃないかとそう見る向きもある。
捜査は始まったばかりだが、高性能の軍用火薬を使って、
複数個所を爆破していながら死傷者の発生は避けられている。
病院と言うものをよく知っている人間のやり口だと言う話もある」

「被害が少なくても、病院で報道されたみたいな爆破事件が起きたら、
当然警察も本気で捜査せざるを得なくなるわよね」

銘苅の説明に、ほむらが続けた。

「病院でそれだけの爆破事件が発生すれば、
病院が被害者側とは言え、公開の捜査で正式な記録が多数作られる事は避けられない。
その状態で今まで通り警察が蜷川を見逃そうとすれば、どこかで齟齬が出る。
記録に不自然な抜けを作って虚偽公文書作成行使に問われるか
記録上そこに存在する蜷川を逮捕せずに後で犯人隠避に問われるか。
そういう事になるわね」

白岩が答える。

「そこまでしても尚、警察が蜷川を隠す事に協力し続ける、
なんて考えるのは流石に無理がある。
まず、直接自分に責任が被って来る現場の警察官が黙ってはいない。
買収や脅迫で全てを塞ぐには、数が多い上に急な事で誰を狙うべきか把握し切れない。
それが分かっていたからこそ、蜷川は警察との協力関係を維持するためにも病院を脱出した。
それが本当の所だろう」

「爆破事件の目的が蜷川の炙り出しだとすると、そこまではいい感じね」

銘苅の推測にほむらが言う。

「表面上でも居場所を確定させたのは大きい。只、逮捕は出来なかった」
「目的がそうであるなら」

ほむらの言葉を、銘苅は否定しなかった。

「今の病院に移ると共に、病院と蜷川の代理人弁護士が、
病院の所轄警察署の署長に蜷川入院の事実を告げている。
病院側は警視庁捜査一課からの打診に対して
蜷川隆興氏の病室からの移動は生命が保障できないと反対の意見書を提出している」

>>159

「そして、警察はそれを受け入れたの?」

「結論を言えばそういう事になるな。
東京地検と警視庁の刑事部、科警研、警察病院から選抜されたチームが病院側と協議した上で、
その報告を受けた刑事部、その上の判断で病院側の判断を妥当として逮捕状の執行は見送り。
選抜チームと病院側が任意聴取にどこまで応じられるか協議している所だ」
「法務省、警察庁に直結したチームが病院側との交渉と分析、上への報告を独占して、
捜査一課の現場に余計な事をさせていないと言う事よ」

銘苅の言葉を白岩が噛み砕いた。

「腰が引けている、恐れている。それでいいのかしら?」

「ああ、否定する程間違ってはいない。
最高レベルの権威の医師団が意見書を出して来たとは言え、これだけの事件だ。
本来であれば病室まで外部の医師を伴って逮捕勾留の是非を直接判断する。
今回は蜷川共々元検事総長クラスの弁護士を立てて来たが、
病院の性質上所轄を初め警察内部にも交渉チャンネルを持っている。
元警視総監クラスのOBやバッジ(政治家)が水面下で関わったと言う情報もある。

多額の負担で最高の医療を提供しつつ、
ある程度の所までは病気と言う事で体裁が整うならば融通を効かせる。
警察、検察を含めた政財界のトップクラスの世界でそういう暗黙の了解が出来ている、
前の病院も今の病院も元々そういう性質の病院だ。
どちらかと言うと、俺達の方が捜査一課よりも詳しいかも知れないな」

「ある程度の所までは」

「ああ、流石に今回はやり過ぎだから今の病院も隠し通す事はしていないし
少なくとも表向きは隠して来た前の病院は刑事事件としての立件を避けられなくなっている。
それでも、前の病院が蜷川の計画のための時間稼ぎに協力したのは確かだ。
そういう病院の事情を熟知した蜷川が死に物狂いで買収と脅迫を仕掛けて来たら、
暗黙の了解では対処できなかった、そういう事だと思う」

「便利な病院だと言う事で上の方で程々に利用する暗黙の了解が出来ていて、
無理な事をする人間はその利害共同体が暗黙の内に排除する。
でも、蜷川に対しては、便利な病院が一つ倒れてもそれが出来なかった。
利害共同体が排除しようにも、蜷川が全くそれを恐れなかったから」

ほむらの推測に銘苅が頷いた。

>>160

「元々、蜷川は政財界、官僚、警察も含めた裏情報に精通している。
トップクラスからミドル、現場クラスまで表も裏も、
通り一遍の人心掌握術で済まなかったからこそ今の蜷川財閥がある。
今回の事件それ自体が、警察にとって大きな弱味になってしまっている」
「警察側に協力者がいる、それも上の方に、そういう事。
そうじゃなければ説明が付かない事が多すぎる」

「素人が見ても分かる事だな。
蜷川は遺族であり、ここまで狂った計画になるとは思わなかったかも知れないが、
この事件に関して金を受け取り、違法な協力をした。
事がここまで大きくなった以上、今となっては致命傷になる。
既に警視総監の勇退が許されるか、と言う次元の話になっている」
「そこまで」

この、超然としている程に清廉な、只、屑の楯として命を張って来た男とは、
何と無縁な世界が隣り合わせているものかと、ほむらはあきれ果てる。
銘苅や白岩にとって、蜷川は文字通り命懸けの敵だった筈だ。
それを命じた者たちの話がこうだとは、
実際その現場にいたほむらとしては、そいつら全員銃口と白刃の真ん前に立たせたいところだが、
ほむらですらこうであるならば銘苅や白岩の心中など最早想像の埒外だ。

「これはSPの裏情報を含めてだが、
大物政治家と警察トップクラス、蜷川サイドが
極秘にトップ会談を繰り返して落としどころを探っている。
だが、難航しているらしい。
最大の問題は蜷川サイドだ、今までの様な腹芸が通じない。
蜷川サイドが圧倒的に強力な状態で交渉のバランスが取れないらしい」

「蜷川は自分が暗殺されても裏情報が暴露される様に手配してる、
そういう風に関係先にも伝えていると思っていい」
「当たりでしょうね」

ほむらの言葉に白岩が言った。

「気を付けて」

ほむらが続ける。

>>161

「蜷川隆興は地位や名誉どころか完全に命を捨ててかかってる。
何でも買える、孫の命以外は。彼のこの言葉には一片の誇張も存在しない。
本人の命はおろか地位も名誉も遺された他の家族の事も何もかも、
今の蜷川には惜しむべきものは何一つ存在していない。
守りたいものを山ほど抱えて高見にいる人間がかなう相手じゃない。

そして、あなた達は、
失礼な事を言わせてもらえばそういう人間たちに縛られて仕事をしている。

その一瞬のために、あなた達の上にいる人間全てをぶち抜く事が出来る、
そういう人間から屑一人を守り抜かなければならない、
例え後僅かな距離でも、これはそういう闘い………
今更、私なんかが言うのは失礼の極みだったわね」

「いや、改めて率直に口に出してもらうのは心構えの上で助かる」

のめり込み過ぎた。
そう思い、すっと黒髪に指を通したほむらに銘苅は言った。

「どの道、私の今回の仕事は東京地検まで清丸を移送する事。
銘苅一基警部補、白岩篤子巡査部長。無事を祈らせてもらいます。
その結果としてやむを得ず清丸国秀の無事も」

「君の無事も祈らせてもらおう。
この先、どういう闘いに赴くつもりかは分からないが」
「いただいておきます
後は、お願いします」
「分かった。ありがとう」
「………こちらこそ」

互いに礼を交わし、尊敬すべき警察官達は清丸国秀を引きずる様にして去って行った。

結果だけを先に記すならば、
銘苅一基、白岩篤子により護送された清丸国秀は、
東京地検による勾留請求その他を経て殺人その他の容疑で起訴。
一審東京地裁から最高裁判所まで一貫して維持された死刑判決は後に執行される。
蜷川隆興は殺人教唆容疑で逮捕起訴され、
容疑を素直に認め事件の詳細を自白。懸賞金を取り消す。

今回はここまでです。
恐らく次回で最終回となります。
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>162

 ×     ×

とある墓地で、少女の一団が一組の老夫婦とすれ違った。

「持ち直したみたいね」

すれ違った後、巴マミが口を開いた。

「転校生に手伝ってもらって少し手を打ったからね。
心の方はあたしの魔法じゃ無理だけど」
「それでも、今にも力尽きそうだった肉体に少しでも力を戻す事が出来た」

美樹さやかと暁美ほむらの会話を、佐倉杏子が斜め下を向いて聞いている。

「心の事は時間と共に、人と共に、それしかない」

美国織莉子が言い、杏子が顔を上げる。
ほむらが振り返った。

「それじゃあ、これから例の打ち合わせを」

 ×     ×

「とぉーりゃあああっっっ!!!」

辺り一面瓦礫の山の中で、
美樹さやかが目の前の瓦礫を剣でぶった斬った。

「ふぅーっ、サンキュー」

その瓦礫の向こうから出て来たのは、
槍でスペースを維持していた佐倉杏子だった。

「ひっどい有様だな。それで、結果は?」

杏子の問いに、さやかが親指を上げる。

>>163

「やったのか?」
「うん、退治って所まではいかなかったけど、
第二目標はクリアした」
「おー」

さやかの説明に、杏子が気の抜けた様に感嘆する。

「ワルプルギスの夜、ここまで凄まじいものだったとはね。
攻撃も全然当たった気がしなかったよ」

呉キリカが、こちらもドロドロの格好で姿を現した。

「それでも、無人ルートを通ってなんとか海の果てに追い払う事は出来た。
あの魔女の規模を考えると、次善の策の成功で勝利条件クリア、
と言ってもいいわ」
「お帰り、織莉子」
「その代わり、あんたとほむらは近年稀に見るテロリストだけどな」

杏子が言い、織莉子が苦笑いする。

「ま、いいんじゃないの?
ワルプルギスの夜があんだけ圧倒的な大怪獣だったんだ。
あたしらの攻撃なんか、それで傷ついたかどうかも分からない。
あれで死人が出なかったんなら御の字だ」

杏子が反り返って言った。
暁美ほむらと美国織莉子は、その能力を主に逮捕回避の方面にフル稼働させ、
近年最悪レベルの爆弾テロリストとして日本国内を恐怖のどん底に叩き落としていた。

関東一円を中心に、強力な軍用火薬を使いながら死傷者が出ない様な、
それでいて、人為的に死傷者を避けた事を察知されない様な爆破事件を続発。
その上で身代金要求も繰り返し、フェイクに見えない様に
「偶然の不可抗力による失敗」、更にその後にデモンストレーションとしての爆破、
この繰り返しで事件を引き延ばしていた。

主な企画立案はぶっ飛んだ効率厨の発想に定評がある元お嬢様だったが、
その結果として、最終的にとある一日に限って見滝原から設備の少ない海岸に抜ける
一つのルートを機動力のある警察、消防自衛隊を除き無人化する事に成功。

>>164

なお、淀川とか言うオリジナルキャラクターに関しては、
織莉子の助言を受けたほむらが直々に話を付けている。
イレギュラーの世界にワルプルギスの夜的なものが存在する旨を説明した上で、
爆破事件で死傷者は出さない、邪魔をするなら今すぐ国が傾くレベルの場所で死人を出す、と、
その事が骨の髄まで理解出来る程度のOHANASHIが終わっていた。

そして、事前の作戦会議通り、ワルプルギスの夜の撃破と言う第一案が難しいと判断された時点で、
なんとしてもそのルートにワルプルギスの夜を乗せて海まで通過させる。
プランBとして用意されたこの作戦が実行され、成功していた。

「なんとか、上手くいったわね」

そこに、暁美ほむらが現れた。

「本体の対策はほぼそちらに任せきり、
私はあれで良かったのかしら?
お陰で集めた兵器もかなりの部分が無駄になって、
今更持って帰れないからスーパーセルが解除されたら大変よ」

「指紋は拭いておいた?次は鉄格子の向こうの転校生って事は?」
「抜かりはないわ」

さやかの問いに、ほむらはファサァと黒髪を払って答えた。

「あの避難所の体育館の死守は絶対条件。
結果論として無駄になっても、
それは想定の範囲内で仕方のない事よ」

織莉子がきっぱりと言う。

「その分、マミが頑張ったのです」

百江なぎさが口を挟んだ。

>>165

「ああ、うん。
体育館ルートの高速道路で人間要塞やってたほむらも
筋肉モリモリマッチョマンの変態ってレベルじゃねぇ凄さだったけど、
マスケットでそれに全然負ける気しないマミさんって」
「ああ。大体、列車砲ってあれ、マスケット、って言うか銃って言うのかよ」

さやかの言葉に、最早わだかまりとかなんとか、
そんなチャチなものが吹っ飛ぶ何かを見せつけられた杏子が乾いた笑いと共に言った。

「もうっ。それでも、
ワルプルギスの夜にはどれだけダメージを与えられたか心許ないぐらいなんだから。
最優先で保護しなきゃいけない避難者を暁美さんが死守しててくれたから、
こちらも思い切り攻撃に専念できた」

窘めた口調のマミが真面目に言い、周囲を少し悲しげに見回す。

「………この様子じゃあ、お茶会は当分先ね」
「行くのか?」
「ええ」

杏子の問いに、ほむらは答えた。

「どうして?確かにまどかは契約したけど、
だけど、今だってまどかは」

「確かに、ワルプルギスの夜は回避してまどかをその戦闘に加えずに済んだ。
だけど、あの騒ぎで手薄になった事もあって、
まどかの契約を防げなかった事に変わりはない。
行き掛り上ここまで付き合ったけど、私の戦場はここじゃない」

言い募る、ほむらを友達だと思っている、それは十分伝わっているさやかをほむらが遮る。
たった今まで命懸けで戦い抜いて来た面々の中で随分な言い草だが、
ここにいる面々は多かれ少なかれ理解していた。

>>166

「いいんじゃないの?」

杏子が言う。

「只一つだけ、守りたいものだけを最後まで守り通せばいい。
魔法少女なんて元々そんなものさ」

「それが出来るのなら、私は止めない」

美国織莉子が続ける。
ほむらにとって、織莉子に対する理屈ではないどす黒い感情が雲散霧消した、と言ったら嘘になる。

それでも、好き嫌いを言っている余裕の無い事を一番知っているほむらが、
こちらの身近に、と言う計算も含めて声をかけて作ったチーム。
その中で、帝王学が培ったものなのか、織莉子の自分には無い高見の分析力、リーダー性。
目標がおよそ一致する中で、ほむらもその点は認めざるを得ないものだった。

何よりも、魔法少女の真実に就いては、
このかつてない大規模チームの中でも相当な情報戦、神経戦が展開された。
その中で、味方に付けたらこれ程心強い相手はいない、この事を認めざるを得なかった。

契約してしまったまどかに対して、最強の上の最強として、
最終防衛ラインとして絶対死守しなければならないと言う理屈で
結局の所は避難所に待機したまま釘づけにする事が出来たのは
間違いなく織莉子あってこその事だった。

「分かったよ。じゃあ、あっちのあたしにもよろしくね」
「ええ」

さやかの言葉にほむらが応じるが、多分、それは嘘になる。
今回は余りにもイレギュラーが多すぎた。
最終的な結果だけは、今までの経験から言っても相当にマシな部類のものとなったが、
そこに至るまでの調合を人為的に再現する自信はほむらには全くない。
だからと言って、そのまま再現するには問題が大き過ぎる。
又、自分の出来る所からやり直すしかない。

>>167

 ×     ×

「主任」
「戻ったか」

警視庁刑事部捜査一課神箸正樹巡査部長が、
主任として自分の上司を務める奥村武警部補に声をかけたのは、
警視庁管内のとある所轄警察署の廊下だった。

「マル害の容体は?まだ生きて………」
「生きてはいる、だが、事情聴取を待ってられる状況じゃない事は確かだ」
「どんだけやられたんですか?」
「最低でも拳銃、散弾、ゴルフクラブが使われてる」
「うわっ」

別件の出張から戻ったばかりの神箸に奥村が言い、
神箸が呆れた口調になる。

「両腕両脚を、先端に傷を入れた拳銃弾を関節に撃ち込まれた上に散弾で銃撃されて、
顎をドライバーでナイスショットだ。
119番に繋いで受話器を上げられた病院近くの電話ボックス周辺に転がされてた事もあって、
一命こそ取り留めたものの、まあー、後の事はアレだろうな」
「マル害の身元、間違いないんですか?」
「ああー、間違いない、清丸国秀、
前の事件で出所した直後に被害に遭ってる」

奥村が神箸に資料を渡す。

「従って前の事件の遺族も捜査対象にはなってはいるが、アリバイが成立してる。
事件の内容から言って殺人教唆の線もあり得るが、
元々前の事件でも大した補償を受けた訳でもなし。
少なくとも素人が大金を動かした形跡も出ていない」

>>168

「それじゃあ、まさか天誅、って奴ですか?」
「それだ、上が嫌がってるのはな。
事件の内容が内容だ。長引くと社会的にリンチ礼賛の世論になりかねない。
上もそいつを嫌って、捜査一課から帳場(捜査本部)を幾つか縮小してでも人数かき集めた上に、
手口から組対(組織犯罪対策部)、それにハム(公安)も水面下で動き出してる」

「警察の威信、ですか。こっちは前の事件の記録ですね」
「ああ」
「ある程度聞いてはいましたけど、ひどいモンです。
俺が親なら自分で殺ってる」
「おい」

奥村が、いかにも一応と言う感じで窘める。

「けど、流石にそんなクソ野郎がマル害でも、
東京のど真ん中でこれだけの事やっといてのうのうと、
ってのはあり得ないですから」
「まあ、そういう事だ」

奥村が動き出し、神箸も
ざまぁwwwwwwwwwwwwwwwww
で埋め尽くされた画面を閉じてスマートフォンをしまい込み、その後を追った。

ほむら「清丸国秀?」
―了―

後書き

なんとか、ここまで辿り着きました。
こちらの事情も含めて、結構長引いてしまいましたが、
年内に終える事が出来ました。

このアイディアが浮かんだ時、どうやって終わらせようかと、まずはそこを思案しました。
その中で、暁美ほむらと蜷川隆興。
この取り合わせをイメージした時、goサインが出ました。
只、その魅力をどれだけ引き出せたか、と言う点では頭を下げるしかないのが実際ですが。

一方で、清丸に就いては………ごめん、これ無理。
率直に言って、不快過ぎるってのもあってアレを文字で表現するのは私の手に余りました。

>>169

映画の蜷川と銘苅、この二人とほむらとの関わりはやってみたかったです。
キレ易いお巡りさん神箸も異常過ぎる状況を差し引いた別の一面を描いてみたかったり、
あの移送チーム、いいキャラが揃ってましたし、
ほむらとの絡みを考えるのも楽しかったです。

と、そこで、書き始めてからはたとぶつかった事が一つ。
ほむらって大人に対してどんな喋り方するんだ?

原作で直接関わっているのは早乙女先生だけですし、
先達の作品を幾つか見ても、案外ほむほむ平常運転で喋っていたり。
一方で、私の見立てでは、魔法少女と言う特殊な関係以外の所で、
社会的な関わりでメガほむとどれぐらい変わるのだろうか?と。
まあ、なんとかかんとかノリとこじつけで進めてみました。

後は客層、そう言やまどマギと藁の楯、両方楽しんでる人ってどのぐらいいるのだろうか?と、
これも書き始めてから気が付いたものの、
その辺はもう自分がやりたいからやった、と中央突破で。

魔法少女側ですが、このクロスでプロットを考えた場合、
メインの衝突は新神戸駅の一発勝負以外難しいなと、そういう事になってああ言う感じに。
特殊能力とそれを隠さなければならないシチュと幸いにも一般兵器を使うほむらと言う取り合わせで
対人間の乱戦をほむらがどうさばくか、これは描いてみたかった事ではありますが。

なんか、映画にも出て来た特撮映画で三色の煙でも上がってそうな採石場の戦闘では
キリカがどんどんアホの子になっていった気もしますが、
逆に織莉子が色んな意味でチートっぽくなったり。
実際、おりキリとほむらの戦闘を字にするとこれかなり難しいんですよ。
どいつもこいつも大長編で無駄に苦戦してるどこぞの青狸と言いますか、
反則技っぽいのが揃ってますから。

ほむらに就いては、途中でこんな経験があれば、
その後でもっと上手く立ち回る事が出来そうな気もしますけど。

それでは、読者様と勝手にお借りした原作に心より感謝を述べて
縁がありましたら又どこかでお会いしましょう。

―――――予告映像――――――

「今度。聞かせて欲しい。
君の村の話を」


「盛況ですわね」
「お蔭様で、こうして観光客とお茶を楽しむ事が出来る。
そちらさんも負けてはいないと聞いているんだけど」
「次の機会にご案内しましょう」
「楽しみにさせてもらおう」


「青、ですか?間違いなく。
すいません、もう一度スペルを………
………敢えてずらした?反発による爆発力を………
分かりました、こちらで手を打つです。
これ以上は関わらないで下さい………
もしもし?もしもし、どうしたですかっ!?」


「ここで完治が無理なら病院に運べ、
この場合、誰に交渉を頼めばいいんだ?
とにかく、形だけでも出来る前にこの事があいつに知れ、たら………」
「何これ?」
「もしかしてキレてるのか?」

「愚問、って言葉知ってる?
だから、私の目の前のミイラの製造過程
私にも分かる様に詳しく話してくれないかな?家ごと蜂の巣になる前に」
「だが、断る」
「よろしい、ならば」

>>171

「そちらで何が起きているのですか?」
「そっちに関わりがあるのか?」
「別件で正規にそちらに入っていたこちらの生徒が二人、巻き込まれました。
一人は行方不明、もう一人は重傷を負ってこちらに逃げ戻って来ました」

「その事を誰が知ってる?」
「クラスの主要なメンバーには既に」
「反応は?」
「完全に沸点を突破しています、兄様の想像の十倍増しで」

「止めろっ!!」
「はい」
「その件も含めてこっちで決着をつける、あいつらをこの件に噛ませるな。
勢力と勢力の問題をなんとか水面下に沈めてる段階だ。
ここであいつらが噛んで来たら他も黙っちゃいない、完全に噴出しちまう。
下手打ったらプランごと吹っ飛ぶぞ」


「へ?え?じゃあ………」
「ん?俺の事知ってんの?」
「えええええええとええとあのあのあのだからその
ウニがウニでウニのウニだからじゃなくてうちうちうちうち………」


「あの者達が関わっていると言うのか?
それで、その者の特徴は?」
「酸っぱいサクランボ、
ロシア産に匹敵する逸材に出会えるとはね」
「何を言っている?その者の特徴を」
「だーかーら、ぺろっと食べちゃいたいぐらい、
か、わ、い、い、ぼ、う、や」

>>172

「なん、だこりゃ?
近衛か?すぐにこっちに来てくれ。急げっ!!」
「おいっ、何を勝手な………」
「勝手だ?どの口でほざきやがる?
私らはいい、何人巻き込んで馬鹿騒ぎしてやがるんだクソ魔術師っ!!」


(水流操作?違う、水流操作でこれに干渉する事は出来ない。
これも、何か違う能力?系統のブレを利用して無理やり干渉を………)


「途方もない、光と光が交差して、
闇と闇が、全てを飲み込み………」

製作快調、じゃねーよ。
多分無理。

予告終了
本作はここまでです。
HTML依頼は折を見て。

正直まどマギっぽくなかったけど逆に新鮮で面白かった。
乙でした。

感想どうもです。

>>174
私の作風から言って
嬉しい褒め言葉有難うございます。

遅くなりましたが、
ぼちぼち依頼行ってきます。

戦闘シーンが良かったな。
……聞くのが怖いけど緑色の子なんだろうなぁ。

クソ

過剰装飾と描写不足で『何が』、『どうして』、『どうなった』のかが非常にわかりづらい
つまりは、情報の整理がうまくいってないのではないか、と感じます

次いで気になったのはキャラクタのブレ
より正確にいうならば、地の文によるキャラクタ描写のブレ
公安とほむらが会話するシーンにおいては露骨な下げ描写であるのに
その次の刑事たちとのシーンではほむらを持ち上げる描写になっていて首を傾げてしまう

キャラクタの心情がブレることとキャラクタとしての描写がブレることは全くの別物

それと、ふりがなは難読漢字よりもキャラクタの名前に欲しいな、と


面白いつまらないの二択でいうのならば、つまらないにやや針がふれるかな、
というのが個人的な所感です

>>178
談義スレでもお見かけしたかと思いますが

感想に対する感想は思う所が無いでもないですが、
当面整理がつかないので

まずは依頼が通る前に丁寧な感想お礼申し上げます。

談義の事も含めて印象だけで言えば、
読者として読み返したら多分かなりの部分がそうなんだろうなかそうかも知れないか。
所により私としても思う所があったのかも知れないけど、今はちょっとご勘弁を。

振り仮名に就いては確かにww
実際、私自身が漢字変換で結構苦戦したぐらいですから。
クロス先を見た延長で書いててその辺すっぽ抜けてましたすいません。

>>178
うるせえ!文句抜かすなクソアンチが
お前みたいなのは読まなくていい!知ったかぶりが!

>>178宛で追加

もちろん知らずに書いたつもりはありませんが
割とノリと勘で書いた部分はあるので

同一人物であれば談義で言ってたあなたから見たマミさや像との比較に
少々興味がわきました。

ほむらに関しては、特に作中人物との関わりに就いては
私自身色々迷いぶつかりの自覚が無いでもないので。

こちらから詳しい返事は出来ないかも知れませんが
もしよろしかったら(こちらは既に依頼済みですので)こちらでも

SS批評スレ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1333168263/846)

終了後に連レス失礼。

おもしろかった

他の作品をおしえてください

糞糞

SS本文だけでなく感想に対するレスまでもが読みづらい

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