大陸歴681年──
長きにわたる勇者と魔王の戦いがついに幕を下ろした。
勇者「これからは人類と魔族、手を取り合って生きていこう!」
魔王「うむ!」
どちらかの勝利ではなく、完全和解という形で──
しかし、勇者と魔王の戦いは完全和解という“結末”こそ世界中に広まったが、
“経緯”となると、実のところ知る者はほとんどいなかった。
彼らの戦いを記録する第三者がいなかったためである。
そこで──
勇者「なぁ、魔王」
魔王「なんだ?」
勇者「俺たちは共に人類と魔族の英雄ということになっているが」
勇者「そうなった経緯を皆に知られてないってのは、なんかもったいない気がする」
勇者「で、ちょっと考えたんだけどさ……」
勇者「俺たちの戦いを映画にしないか!?」
魔王「面白い!」
こうして、勇者一行対魔王軍の戦いの映画化が決定した。
勇者「出演者はどうする?」
魔王「どうせなら、なるべく全員本物のメンバーを使おうではないか」
魔王「幸い、お前たちもワシらも主要メンバーは生き残っているしな」
勇者「それはいい! 絶対ウケる!」
魔王「でもって、監督や演出、脚本に一流どころを備えれば」
魔王「素晴らしい映画が出来上がるにちがいない!」
勇者「予算は国王陛下に出してもらえばいいし、バッチリだな!」
こうしてスタッフが招集され、映画撮影は始まった。
監督「よろしくお願いします」
脚本家「勇者様たちの冒険を脚本にできるなんて、光栄の極みです!」
演出家「精一杯やります!」
勇者「うんうん」
魔王「よろしく頼むぞ」
しかし──
勇者「なんだこの脚本は!?」
脚本家「え……?」
勇者「世界平和を願う国王に支援され」
勇者「勇者一行は人々のために立ち上がった、とあるが」
勇者「んなわけないだろう!」
脚本家「では、なんのためなんです?」
勇者「報酬のために決まっているだろうが! ──なぁ!?」
戦士「おうよ」
魔法使い「そのとおりよ」
僧侶「お金のためですわ」
勇者「君にも脚本家としてのプライドはあるだろうし、多少の脚色は許すけどさ」
勇者「これは記録映画でもあるんだから、その辺りはしっかりしてくれないと!」
脚本家「す、すみません」
国王「あと、ワシが勇者を支援していたのは世界平和のためではなく」
国王「将来的に戦略兵器として、勇者を利用するためだったんじゃ」
国王「結局、途中で計画が明るみになり」
国王「勇者を戦力として独占してはならぬという条約を結ばされたがのう」
国王「あれはミスったわい。ほっほっほ」
脚本家(知らなかった……だいぶ情報封鎖されてたんだな)
勇者「とにかくすぐに書きなおすように!」
脚本家「わ、分かりました……」
魔王「なんだ? このおどろおどろしいセットは?」
演出家「魔王城の内部を表現したセットですが」
魔王「失敬な!」
魔王「我が城は最新鋭のオフィスにも負けないほど機能的なのだ!」
魔王「魔力エレベータ完備! 空調設備もバッチリ! 会議室も多数用意!」
魔王「売店を備えた休憩コーナーもある!」
魔王「ろくに取材もせず、勝手なイメージで城を作らないでもらいたい!」
演出家「申し訳ありませんでした……」
監督「……ここでキングオークと勇者様に斬り合っていただきます」
勇者「斬り合う?」
監督「ええ、名乗りをあげてからカキンカキンと……殺陣をやってもらいます」
勇者「なんだそりゃ?」
監督「え」
勇者「俺たちの戦法は常に先手必勝、奇襲ありきだ」
勇者「最初の一撃で戦闘力を奪えなかったら、即逃げる」
勇者「無駄な危険は避けるにこしたことないし、斬り合いなんてほとんどない」
勇者「リアリティがなさすぎる! 変更してもらおう!」
監督「は、はいっ!」
他にも──
魔王「四天王がバラバラに順序よく勇者一行を襲う?」
魔王「わざわざ戦力を分散するなど、そんなことするわけなかろうが!」
監督「では、四天王はどのように勇者様たちを?」
魔王「四天王全員で、勇者たちが寝ている宿屋に奇襲をかけさせた」
魔王「だが、勇者らは宿屋の主人を身代わりにして逃げおおせてしまったのだ」
勇者「あの時は大変だったよ」
勇者「でも宿代払わなくてすんだのは嬉しかったけど」
魔王「ハッハッハ……」
勇者「ハッハッハ……」
監督「ハ、ハハ……」
脚本家「こちらはクライマックスの、勇者様が魔王城に乗り込む場面の脚本です」
勇者「勇者一行は大声を上げ、魔王城に乗り込む……?」
勇者「こんなことしてないぞ」
脚本家「え?」
勇者「仲間たちや買収した魔族を利用して、城に油をまいて、放火したんだよ」
勇者「結局中にいた魔王は影武者だったから倒せなかったしね」
魔王「ワシはワシで勇者がいないスキにいくつかの町を滅ぼしたしな」
勇者「痛み分けだったなぁ、あれは」
勇者「──で、色々あって完全和解したわけだ」
脚本家(色々ってえらいはしょったな……)
こうまで意見が合わないと、行きつく結論は結局──
勇者「いい加減にしろ!」
監督「!」ビクッ
勇者「君たちは俺たちの戦いを理解してないにもほどがある」
勇者「──というか、理解しようとしてないだろう!」
魔王「もうよい、これからは我々が独自に映画を作る!」
魔王「お前たちはクビだ! 出ていけ!」
監督「……分かりました」
勇者「さぁ魔王、これからは俺たちで思う存分映画を撮ろうではないか!」
魔王「うむ、そうだな!」
勇者「なにしろ、歴史的な戦いを本人たちが演じるわけだからな……」
勇者「徹底的にリアルな映画にしよう!」
魔王「もちろんだ」
魔王「それこそ、あの長く険しい戦いを完全再現するつもりで臨もうではないか」
勇者「でも、そうすると入れたい場面が多すぎるな」
魔王「ワシらとて全てを覚えてるわけではないし」
魔王「とにかく覚えてることは全部入れてしまうぐらいの気持ちでいこうではないか」
勇者「そうだな! 上映時間が長いにこしたことはないしな!」
そして──
勇者「やったぁぁぁ! 完成だ!」
魔王「フフフ、ワシらの戦いがついに世に出るのだな!」
勇者「これが大ヒットすれば──というかするに決まってるが」
勇者「さらに俺たちの名声は高まるぞ!」
魔王「フハハハハッ! 笑いが止まらぬわ!」
しかし、気がかりな知らせが届く。
戦士「オイ勇者、大変なことになった!」
勇者「なんだ?」
戦士「なんでも、俺らがクビにした監督どもも勇者映画を作ったみたいだぜ」
戦士「俳優や女優を雇ってな」
戦士「もちろん脚本なんかも俺たちのとは全然ちがうらしい」
勇者「なんだと? ……まったく往生際の悪い奴らだ」
勇者「まぁいい、俺たちの映画の相手になるわけがない」
魔王「うむ、なにしろこっちはほとんどが本人」
魔王「しかも戦争を、ほぼ忠実に描いているわけだからな」
魔王「“偽物”が“本物”に勝てぬのは、絶対の真理だ!」
勇者「そのとおりだ! 格の違いを思い知らせてやろう!」
こうして二つの映画の上映が始まった。
< 勇者魔王戦争 >
上映時間:15時間25分
報酬のために働く勇者と、魔族内での支持率低迷打破のため人間界へ攻め込む魔王!
二つの正義が激突する!
不意打ち、騙し打ち、賄賂が入り混じる血みどろ抗争!
配役はほとんど本人!
< 勇者VS魔王 ~二人の英雄~ >
上映時間:150分
愛と平和のために戦う勇者と、魔族のプライドを賭けて人間に挑む魔王!
二つの正義が激突する!
ド迫力の戦闘を、最新鋭の“魔術グラフィックス”で表現!
勇者や魔王軍の主要メンバーを、あの有名俳優や有名女優が演じる!
結果は──
勇者「……まさか、こんなことになるなんてな」
魔王「……うむ」
勇者「俺たちの映画は宣伝やるのも忘れてたし、ろくに客が入らず」
勇者「なんか早くも幻の映画と化しているとか」
勇者「もちろん大赤字だ。ま……これは陛下の金だからいいけど」
魔王「一方、奴らの映画はあっという間に興行収入100億ゴールドを突破し」
魔王「今もなお記録更新中だとか」
勇者「…………」
魔王「…………」
勇者「それだけならまだしもさぁ」
勇者「なんかもう、あっちの映画の戦争が史実みたいなムードになってるよな」
魔王「ああ」
勇者「こないだ道で、モンスター100人斬りすごかったです、とかいわれたけど」
勇者「あれは向こうの映画での話で、俺はそんなことしてねえし」
魔王「うむ、ワシもそれと似たようなことがあった」
勇者「俺たちの戦いってなんだったんだろうな」
魔王「さぁな」
勇者「…………」
魔王「…………」
勇者「どうする?」
勇者「いっそ、もう一度戦争起こすか?」
魔王「うむ、それも悪くはなかろう」
魔王「だが──」
ワイワイ…… キャーキャー……
「あっ、“本物”の勇者様と魔王様だ!」 「サインして~!」 「キャ~!」
「映画で二人の戦い見ましたよ!」 「かっこよかったぁ~」 「ステキ!」
魔王「奴らの映画に出ていたのが俳優というのは周知の事実で」
魔王「ワシらが本物の勇者と魔王であるというのは変わらぬし」
魔王「あの映画によってワシらは美化され、結果として名声を得た」
魔王「これはこれで、よいのではなかろうか」
勇者「まぁな」
勇者「俺たちの映画が受けなかったのは残念だが」
勇者「チヤホヤされるの好きだし、もうわりとどうでもいいかなって」
魔王「ワシもだ。リアリティよりも大事なこともあると分かった気がする」
勇者「それじゃ……俺らのファンに囲まれながら豪遊するとしますか!」
魔王「面白い!」
おわり
これで終わりです
ありがとうございました
あと>>1の一行目で盛大に誤字ってしまいました
「大陸歴」→「大陸暦」です
失礼しました
結構格好良く改変されてる歴史って多いもんな
乙
乙!面白かった
乙!
>15時間25分
手綱ひく奴いないとこうなるよね
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