兄「妹にベロチューで起こされた話」 (123)
口元の違和感で目を覚ます。明らかに俺のものではない物音がする。
ぼんやりと目を開ければ、目の前に妹の顔があった。
なんだ、夢か。そう判断するまで時間はかからなかった。
俺の頭はまだ正常に動き始めていなかった。
妹「……おはよう」
もぞり、と妹が動く……耳元で彼女の声がする。
夢にしては随分リアルな感覚。
むくり。俺の中で何か暗いものが首がもたげる。
まずいな、と思うと同時に、このもどかしさをどうにかしたい気持ちも強く動いた。
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兄「なにしてんの」
かすれ声で呟く。返事はなかった。
妹の吐息を頬に感じた。何か熱いものがその頬を撫ぜた。
妹の舌だった。
汚いだろうに、無精髭を生やした俺の頬を、妹は何度か繰り返し舐めた。
兄「なに、やってんだ」
何が起きているのか理解できない。
ようやく動き始めた頭が、ぶっ飛んだ現状を把握しようと努力している。
これは夢じゃないのか。じゃなかったとしたら、妹はなぜここにいるのか。
ぐねりと動く舌を離し……妹は俺と目を合わせた。
妹「夜這い」
兄「夜這い、て」
妹「もしくは、目覚まし」
兄「目覚まし?」
妹「そう」
唇を何かが覆った。何か。
考えなくとも分かったが、それを理解するのは酷だった。
おはようのキス。普段は聞いただけでぶん殴りたくなるような単語が、頭のなかに飛来する。
妹の鼻息。湿った熱さ。唇を僅かに吸われたかと思えば、妹の舌が俺の唇を舐めた。
貪るような舌の動きが、依然として燻ぶる暗いものに触れる。
投げ出していた右の手を持ち上げ、妹の背中に回した。
柔らかい。ぐっと力を込めれば、応えるように妹は身を寄せてきた。
淫らな水音。それを発しているのが自分と妹だと思うと、やはり夢の中にいるような感覚に陥る。
兄「……ぁ」
妹「……苦しい?」
兄「大丈夫、だけど」
妹「……舌、出して」
言われるがまま舌を突き出す。間を開けずに、妹が舌を絡めてきた。
熱い。ざらざらとした舌と舌が触れ、絡み合う。
妹は目を閉じていた。その頬はこの薄暗さでも分かるくらい紅潮していて、珠のような汗が伝っている。
暑い。窓を閉ざした部屋は、停滞した空気で満ちていた。
再び唇が触れる。妹の舌は別の生き物のように動き、俺の口内を犯す。
妹「……ぷは」
やがて、永遠のような口付けが終わる。
口元に垂れたよだれを、妹はそっとパジャマの裾でぬぐう。
繝代Φ繝?┳縺?□
妹「目、覚めた?」
兄「起きたよ。そろそろどいてくれない?」
妹「……重かった?」
兄「そうでも」
ふん、と鼻を鳴らし、妹はベッドから降りた。
妹の柔らかな重みがふっと消える。
どうも名残惜しいと感じてしまう自分がいた。
妹「私、部屋戻るね」
兄「おう……あ、ちょっと」
くるりと妹が振り返る。長い黒髪が揺れる。
はだけたパジャマと、汗でしっとりと濡れた肌。
開いた口が乾く。
妹「なに?」
聞くべきかどうか躊躇われた。
だが、ここで聞かなければいつまでも聞けないだろう。
兄「なんでこんなことした?」
単純明快な問い。その答えもやはり簡単なもので。
妹「兄のことが好きだから」
俺は何も言えなかった。そう反応すると分かっていたのだろう。
ばたん、と音を立てて部屋の扉が閉じる。残ったのは、俺と、
今もまだ唇にある、柔らかな妹の感触だけだった。
何も考えてないけどもう少しだけ続けたい
よかろう
続けたまえ
よっしゃ、全裸待機は風邪ひくから靴下はいて待ってるで
せめてパンツ被れよ
ほ~ パンツ畳んで正座して待ってる
描写が艶かしい
既に臨戦態勢に入っている
馬鹿野郎お前ら、それじゃ風邪引くだろパンツ2枚重ねで上に着とけ
妹は昔から無口だった。いつも無表情だけど、美味しいものを食べると顔を綻ばせる。
何を考えているのか分からなくて、たまに突拍子もないことをやりだす。
今朝のように。
妹「いただきます」
兄「……いただきます」
食卓に並んだのは俺と妹だけだった。母は既に仕事に出かけていた。
いつもの朝食のはずなのに、どうしても今朝の出来事が頭にちらついて、手が進まない。
兄「……美味い、これ」
妹「……そう」
よかった。ぽつりと呟いた言葉はやけにしんみり聞こえた。
兄「今日遅いんだ」
妹「知ってるよ」
兄「そか。洗濯頼むな」
妹「うん」
言葉少なな会話。今の俺にはこれでも精一杯だった。
ご馳走様、と席を立ち食器をシンクに入れる。
壁にかけた時計は七時を指していた。まだ、待ち合わせの時間まで余裕は――
と。
妹「……」
いつの間にか妹が側に来ていた。
ぎゅ、と腕を掴まれ、危うくまだ持っていた食器を落としかけた。
兄「な、え、どうした」
俺はすっかり動転する。
手に持った食器か隣の妹か、どちらに気を向けるべきかなんて訳の分からないことに迷った。
妹「……ごめん、兄」
兄「ごめんって、なんだよ、今朝の……」
妹「それもあるけど、そうじゃなくて――」
妹は背が小さくて、隣に並んでも頭一個分は差が出る。
そんな妹の顔が、ぐいと伸びてきて、
俺は再び唇を奪われた。つま先立ちの妹に。
今朝の体験が鮮烈に甦る。ぞわぞわと胸の奥が痛い。
この感覚はなんだろう。あまりにも後ろめたい、背徳的な感覚。
妹「……」
兄「……」
口付けは短かった。妹は最後にぐっと押し付けてから、ゆっくりと顔を離した。
紅潮した頬。蠱惑的な目。目が合うと、ますます赤くなって俯いてしまった。
俺は食器をシンクの中に放り込んだ。
掴まれていた腕に、力がこもった。
妹「ごめん」
繰り返すように妹は呟いた。向き合おうにも腕を掴まれていて動けない。
妹に右肩を向けたまま、俺は目のやり場に困って壁時計を見ていた。
気まずい沈黙だった。何を言うべきか分からなかった。
兄「なんかあった?」
口をついて出たのは、そんな在り来りな言葉だった。
びくりと大きく肩を震わせ、妹は俯いたまま首を振る。
兄「無理すんな」
妹「……ごめん」
兄「何度目だよ、それ」
妹「……迷惑だった?」
俺は言葉に詰まった。
妹は顔を上げて、俺を見ていた。真っ直ぐな目だった。相変わらず頬は赤いけれど。
妹の震えが、掴まれた腕を通して伝わってくる。
兄「……ううん」
妹「……嘘つき」
兄「嘘じゃないって。でも……」
妹「うん。分かってる。分かってるから……言わないで」
兄「……ごめんな」
妹「……悪いのは私だよ」
そう言って、妹は口元を歪めた。
真っ直ぐな目が揺らいで、じわりじわりと、光の反射が増えていく。
彼女の瞳に映った俺の顔は、光に歪んで馬鹿みたいな形をしていた。
声も出さずに、妹は静かに泣いた。
甲高いインターホンの音がした。はっとする。もうそんな時間か。
妹は空いた右手で目元を拭って、顔を上げた。
兄「……妹」
妹「……待たせちゃ悪いもんね」
赤く腫らした両の目を閉じて、妹は一度頷いてみせた。
妹「ありがと。わがままに付き合ってくれて」
そう言って、妹は俺の腕を離した。柔らかい圧迫が消える。
それで、お終いだった。
兄「……行ってくるよ」
妹「……うん」
妹「いってらっしゃい」
おわり
え?!
アーッ
(-ω-)…
(゜Д゜)え…終わり?
良いプロローグだ
おい
なんだプロローグか(納得)
続きはよ
兄「……ん」
奇妙な夢を見た。
妹が俺の腕にしがみつき、泣き出す夢。
今朝の出来事のせいだろう。二度寝早々、夢に影響を及ぼすとは。
枕元の時計を確認する。午後一時。
軽く部屋の扉が叩かれた。
妹「……まだ寝てるの?」
ゆっくりと扉が開き、妹が顔をのぞかせた。
夢で見た時のしおらしさはどこへ行ったのか。いつも通りの無表情だった。
兄「今起きた」
妹「不健康」
兄「日曜だし……」
妹「せっかく、起こしてあげたのに」
兄「あれは……」
妹はするりと隙間から体を滑り込ませ、後ろ手で扉を閉めた。
そのまま近づいてくるのを見て、俺はつい体を起こす。
妹「寝てていいのに」
兄「どっちなんだよ」
妹「もう一度してあげようかと」
ぎしり。ベッドの上に膝を乗せ、妹は勢い良くカーテンを開いた。
窓を開くと、外の街の喧騒が遠巻きながら聞こえてくる。
平和だ。ぼんやりそんなことを考えた。
妹「今朝は承諾なしだったから」
足をベッドの脇から投げ出して、妹は俺の隣りに座った。
妹「今度は許可とって、やる」
兄「……もう勘弁かな」
妹「……そう」
どうにも言葉に困り、頬をかいた。妹との距離感がつかめない。
妹「……残念」
兄「……俺が困る」
妹「もっともっと、困ればいいと思う」
兄「なんで……」
妹「好きだから。困らせたい」
兄「……軽々しく好きなんて言うもんじゃない」
そう言うと、鼻を鳴らしてそっぽを向く。
変なところで意固地だ。
妹「……じゃない」
兄「え?」
妹「ん……なんでもない。そろそろお昼ごはんだよ」
妹は立ち上がった。
着替えてきてねと残し、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
残された俺は、しぶしぶ普段着に着替え始める。
妹「あ、そうだ」
がちゃり。
兄「……」
妹「今日母さん遅くなるって」
兄「……」
妹「買い出しお願いだってさ」
兄「……おう」
妹「うん。じゃ」
ばたん。
上半身裸のまま静止していた俺は、ため息をついて用意したシャツに袖を通す。
からりと晴れた、暑い日だった。
きっと続けたいと思ってる
ならば、待つだけだ。
信じてた
待ってる
待ってるぞ
期待して待ってる
俺には幼馴染みがいる。
妹は「お姉ちゃん」と慕い、幼馴染みもまた妹を実の妹のように見ていた。
そんな幼馴染みの部屋にお邪魔している。けして邪な理由ではなく。
幼「ここのところなんだけど」
兄「うん。……んー、文法おかしくないか?」
幼「だよね、だよね。どうすればいいかな?」
兄「そうだな……この接続詞はいらんだろ。主語と述語をはっきりとさせて……」
同じ大学の同じ学部、学科は違ったが、被っている講義が多いこともあって顔を合わせる機会は多かった。
その内の一つがレポート提出の課題。
早々に書き上げた幼馴染みに添削を依頼され、ここにやってきていた。
幼「ありがと。こんな感じでどうだろ」
コピーされたレポートに目を通す。
細やかな字で、問題に上がっていた箇所が修正されていた。
いいんじゃないか、と頷き一息ついた。
幼「よかったー、見てもらって」
兄「役に立てたならなにより」
幼「お礼におやつあげる」
兄「もらう」
市販のクッキーを手渡される。ふわ、と芳香が鼻をくすぐった。
妹とはまた違う女性の匂い。
部屋のものと似た匂いではあったが、こうして距離を詰めて嗅ぐと未だに穏やかではない。
幼「なにどぎまぎしてるの」
即バレだった。
幼「私らの付き合いも長いわけじゃない? そろそろ慣れたらどう?」
心打ち砕かれるような正論だった。
妹の前だったら情けなさで憤死していたところだろう。
俺は動揺を押し隠し、幼馴染みから少し距離をとった。
兄「苦手なんだって。お前でもさ、女子なんだし」
幼「私は悲しいよ」
兄「……なにが?」
幼「なんでも」
幼馴染みはぴらぴらとレポート用紙を弄っている。
俺は言葉が見つからず、用意された自分のジュースを飲む。
幼「まだ彼女いないの」
危うくカルピスを吹き出すところだった。
兄「なに、いきなり」
幼「そんな女子の匂い嗅いで動揺するってことは」
兄「……お前にゃ関係ない」
幼「ひどい言い草だ」
兄「うるせーやい」
幼「火1のノート見せてあげないよ?」
兄「んぇぇ」
ほんとーに出来ないわけ。
幼馴染みは随分しつこく話題を変えようとしなかった。
妙な眼力の強さに、俺は少しうんざりする。
兄「そう簡単に出来るもんじゃないだろよ。お前と違ってさ」
幼「私だっていないよ」
兄「あれ? この前、サークルの誰それと……」
幼「変な噂立ってたね。嘘だよ嘘。なんもない」
兄「浮気がバレた時に言うセリフみたいだ」
幼「マジに今日の兄は失礼だね」
ノートで頭をはたかれた。わりと痛い。
俺は咳払いを一つして、空気を変えるために立ち上がった。
兄「トイレ、借りるな」
幼「あい。いってらっしゃい」
扉を開けて廊下に出ると、部屋の匂いはふっと消える。
トイレで用を足している内に、慌ただしかった心の内はなんとか落ち着きを取り戻した。
兄「らしくない」
と、思う。妹と言い、幼馴染みと言い。
もしかしてまだ夢の中なのか。
だとすれば、とんだバカな夢があったもんだ。
それから暫く他愛もない雑談をして幼馴染みの家を辞した。
午後六時を少し回ったくらいで、まだ外は明るかった。遠く夕暮れの色が漂っているのが見えた。
徒歩一分で自宅に到着する。こう言う行き来の良さは幼馴染み同士の強みだろう。
ただいま、と言いながらドアを開いた。
返事はなかった。
この時間なら妹も家にいるはずだが、部屋にいるのだろうか。
兄「音楽でも聞いてんのか」
大して疑問にも思わず、俺は靴を脱いで自室に向かった。
がちゃり、と部屋の扉を開けてまず鼻を突く、匂い。
平素の俺の部屋では決してしない奇妙な匂いだった。
そしてそれは、不思議と、今まで嗅いだことがないにも関わらず、何の匂いなのかすぐに分かった。
「……ん、ぁ……っ」
くぐもった声が、部屋の奥、ベッドの上から――こんもりと山になった布団の中から聞こえてくる。
声に合わせて、白い山はもぞもぞと震動する。
入り口にいる俺には気付いていないのか、その動きは徐々に激しさを増していく。
「ぅ……にい、さっ……兄さんっ……」
不意に目眩がした。
額に手をやった。熱い。風邪でもひいたのだろうか。
頬に手をあてる。熱い。ああこれは風邪だろう。
俺は右肩をクローゼットの扉に預け、妹の情事を観察する。
「ん、んあっ……あっ……」
ぎしっ。ぎしっ。ベッドが軋む音がする。
蠢く白い布団の山は、端から見れば丸まった虫のようで――なんとも、言えない。
ふと、一際大きくベッドが揺れ、白い山の動きが止まった。
やってくるのは、耳が痛いほどの沈黙。
静かにベッドに近づく。荒々しい声が布団越しに聞こえてくる。
俺は覚悟を決め、妹に被さっていた布団を勢い良く退けた。
あ、と妹の口が開く。熱に浮かされ潤んだ目と視線が交錯する。
妹は服を着ていなかった。真っ白な肌に付着した汗が、夕日に照らされ扇情的に輝く。
丸まった両足の付け根――彼女の秘所はとろりと濡れていて、ベッドのシーツを湿らせていた。
喉がからからだった。言おうと考えていた言葉が、喉につっかえて出てこなくなる。
妹「……」
兄「……」
お互い沈黙する。真っ赤だった彼女の顔は、今や首まで赤みがさしている。
俺は相変わらず言葉が見つからない。
どうにか平和的にこの場を切り抜けるための。
ふと、妹がゆっくりと体を起こす。その動作を追う。
身丈にあった小ぶりな双丘の頂を目にした途端、俺は言われようのない罪悪感に襲われ目を閉じた。
妹「……今日」
暗闇を妹の言葉が裂いた。
妹「母さん、遅くなるって」
兄「……今朝、聞いた」
妹「……うん。言った」
妹と目が合った。夕日をバックに、彼女の瞳は強い色を滾らせている。
その色は――なぜだろう、先程見た幼馴染みのそれと似通っている気がして。
妹「兄さん」
やはりまだ夢なんじゃないか。
そんな感覚が拭えない。
つづく
乙
おつつ
乙つつ
本番もあるのか
本番はまだかな
はよはよはよはよはよはよ
先に目をそらしたのは、俺だった。
拭われた布団の側に妹の衣服が丸まって置かれていた。淡い色の下着が見える。
兄「服、着な」
呟いた言葉は現実味が無くて。
このまま踵を返して部屋の外に行けたらどんなにいいことか。
妹「……」
妹は返事を寄越さなかった。服を着ようともしない。
寒いだろ、と付け加えるように言うと、ようやくのろのろと動き始めた。
兄「……」
ここにいるのもどうかと思い、俺は黙って部屋の外に出ようとした。
妹「待って」
兄「なに?」
妹「いてほしい」
兄「服着るんだろ。邪魔だろ」
妹「それでも。お願い」
妹の言葉が背中に刺さった。
俺は少しだけ迷ってから、振り返ってベッドの隅に座った。
ぎしり、と俺の重量をベッドのスプリングが伝える。
妹「ありがと、兄」
いつの間にか、妹の呼び方は「兄」に戻っていた。
服を着終えた妹が俺の隣に座る。
俺はぼんやりと時計を見ていた。
そろそろ夕飯の準備しないとな、とか、そういや買い出しまだだったな、とか。
そんなことばかりが頭に浮かぶ。
妹「引いたよね」
沈黙を破ったのは妹だった。
どう応えるべきか迷ったが、考えるのは今更な気もした。
兄「……うん」
妹「……気が付かなかった」
兄「夢中だったな」
妹「うん」
頬を赤くして、妹は俯いた。
妹「いつもはしてないから」
兄「え。あ、そう」
妹「ほんとに……」
兄「うん。信じるけど……今日が初めて?」
妹「……」
兄「なんか言ってくれ」
妹「……三回目くらい」
兄「……」
妹「今朝のことを思い出しながら、今日は……」
兄「分かった……別に説明しなくていいから」
妹「……ごめんなさい」
素直な言葉だった。俺は曖昧に頷いてみせる。
謝罪は聞けたけれど、この感情の行き場が分からない。
妹に対して抱くこの感情を言語化するなら、疑心、だ。
なぜこんなことをするのか。
なぜいきなりしだしたのか。
なぜ、俺なのか。
それがさっぱり分からなかった。
分からなかったから――その理由を蔑ろには出来ないから、俺は直接聞くことにした。
兄「なぁ」
妹「なに?」
兄「……俺が好きって言ってたよな」
妹「うん」
兄「本当に?」
妹「冗談でこんなことしないよ」
兄「……なんで俺なんだよ」
妹「それは……」
妹の答えは、突然響いたチャイムによって遮られた。
こんな時間に誰だろうか。俺は妹を一瞥する。
兄「行ってくる」
妹「うん。お願い」
兄「……部屋戻ってていいよ」
妹「……」
妹は黙って頭を振った。
そか、とだけ残して、俺は部屋を出た。
家のドアの向こうにいたのは、数十分前に別れたばかりの幼馴染みだった。
幼「さっきぶり~」
ふざけた様子で、ビニール袋を持った右手を持ち上げてみせる。
兄「俺なんか忘れ物した?」
幼「そーじゃなくて。今日うち母さんたち遅くてさ、一人でご飯食べてって言われてたんだけど」
兄「あー……それって」
幼「鍋の具材」
ああ。
幼「一緒にどう?」
いたずらめいた笑顔で、幼馴染みはそう言った。
つづく
はよ
あくしろよ
まだかよ
明日の夜に。
待ってる!
舞ってる
幼「三人で鍋なんていつぶりだろうね~」
陽気な調子で、鍋に次々と食材を投入していく幼馴染み。
中学校以来かな、と同調しながらてきぱきと食器を配膳していく妹。
その様子を眺めながら、頬杖をつく俺。
三者三様。居心地が悪い。
幼「そんな湿気た顔してないでさ、手伝ってよ」
兄「一人で十分だろ」
幼「分かってないねぇ、こう言うのは協力が大事なんだよ」
兄「お前が食べたいだけ入れればいいんじゃないかな」
幼「お肉ばっかになるよ」
兄「そこはさ……」
ふと顔をあげると、席についた妹と目があった。
無表情なその感情の色は読み取れない。不機嫌そうにも、いつも通りにも見える。
兄「どうかしたか」
妹「ん。お箸」
兄「ああ……」
さんきゅ、と言って青い模様が差した箸を受け取る。手元においてから、鍋の中を覗き込んだ。
幼「お肉一番は私だよー」
兄「野菜もちゃんと取ろうな」
幼「ベジタブル担当は、お二人に任せるよ」
兄「あのねぇ……」
妹「お姉ちゃん」
幼「ん? なに?」
妹「私もお肉欲しいな」
幼「ん……あ、うん。勿論、独り占めなんてしないよ」
ありがと、と息をつく妹。
端から聞いていれば平素の会話にも思えるそれが、あんなことの後ではどうしても意味深げに聞こえてしまう。
この場合、変に想像を働かせる俺が悪いのか……。
幼「兄ぃ。お茶取って」
兄「ああ」
幼「ありがと。そろそろ行けそうだね」
兄「お、それじゃあ――」
幼「あーっ、お肉は私だってー!」
そんなこんなで腹も膨れ、時計は八時を回った。
母から今日は帰れないとの連絡を受け、俺たちはいつも通り風呂を沸かす。
一方幼馴染みの両親は既に帰宅しているはずなのだが、幼馴染みは一向に我が家を出ようとしない。
そしてあろうことか、
幼「今日泊まろっかな」
なんてことを言い始めた。
兄「着替えは?」
幼「取ってくるよ。すぐそこじゃない」
妹「……私の部屋で寝る?」
幼「いいの? 久々に妹ちゃんと濃厚なトークがしたかったんだぁ」
妹「……私も!」
兄「あ、そう……別に構わんけど……」
妹が良いと言うなら、俺がぐずる意味も無い。
翌朝の賑やかさが少し増すだけだ。
それならそれで、それだけなら――良かったのだが。
ノロノロ運転で申し訳なす
ええんやで
やばい盛り上がってきた
④
はよ
まってる
マダー?
ご無沙汰してます
妹が泊まりに来たりなんだりで慌ただしくしてました
明日更新したい したい
え?妹にベロチューされた?(すっとぼけ)
妹が泊まりに来てあんな事やこんな事だと…
幼なじみもいたりして
何を言っているんだ、妹とならナニ一択に決まってるじゃないか
風呂が沸いたタイミングで、幼馴染みは一度家に帰った。
妹「先にお風呂入ってくるね」
兄「ああ」
順番は特に気にする必要もないだろう。
まさか妹と一緒に入りたいなどと、あいつが言い出すとも思えなかった。
妹が洗面所に消えたのを見て、俺は自室に戻った。
短い休日も終わり、明日からまた学校が始まる。
幸い明日は午後からだが、一通りの予習は済ませておきたかった。
鞄から指定された教科書を取り出し、パラパラとめくる。
こんこん、と部屋の扉が叩かれたのは、それから数分後のこと。
兄「はい」
幼「入っていい?」
幼馴染みだった。今帰ってきたのか。
リビングに誰もいないと見て、俺の部屋にやってきたのだろう。
短い予習を終え、俺は椅子を立った。
幼「おじゃまするね。妹ちゃんがお風呂?」
兄「うん」
幼「そっか。兄の部屋に来るの久々かも」
兄「逆は多いんだけどな」
幼「そーね」
ぼふ。何の躊躇いもなく、幼馴染みは俺のベッドにダイブした。
薄いピンクのスカートが揺れる。少しは恥じらいを持った方がいい。
幼「あー。久々」
のびのびとした口振りで幼馴染みは呟く。
俺は扱いに困り、とりあえず元の椅子に座る。開いたままの教科書を鞄に投げ込んだ。
兄「お前も風呂入ってきたら?」
幼「妹ちゃん嫌がるよ」
兄「どーだろ」
幼「まーいいの、たまにはさ」
何がいいのか、俺には分からなかったが。
幼「兄の部屋で二人になるの、貴重だしね」
幼馴染みは満足しているようなので、特に口出しはしなかった。
幼「兄はさー」
兄「うん?」
幼「将来の夢とかあるの」
兄「……なんだいきなり」
随分とまた突拍子もないことを言う。
見れば、口元に酔っぱらいのような笑みを浮かべて、幼馴染みは天井に目を向けていた。
幼「なんか昔のこと思い出しちゃって。男の部屋久しぶりだから」
兄「ふーん……夢ねぇ……?」
幼「小さい頃は宇宙飛行士だったよね?」
兄「やめろよ恥ずかしい」
ほじ返されたくない過去だった。小学校低学年か、そこらの。
そんな夢は、中学に上がる頃には捨てたはずだった。
幼「あん時は大真面目だったのにぃ」
兄「お前だって、なんだっけ? こっ恥ずかしいこと言ってたろ」
幼「んー? まあね」
兄「自覚あるのかよ」
幼「うん。恥ずかしいけど。でも、まだその夢は捨てたつもり無いよ」
兄「……へぇ」
ジャイ子
意外だった。
幼馴染みの夢、と言うわけではなく、小さな頃に抱いた夢を今も捨てずに持っていること自体が。
幼「……覚えてないの?」
兄「ああ……なんだっけ。せっかくだし、教えてくれよ」
幼「……」
数拍の間が、妙に長く感じた。
幼馴染みはぐっと上半身を起こし、俺と目を合わせた。
あれ、と思う。何か地雷を踏んだだろうか。彼女の表情は見るからに強張っていて、頬は僅かに赤みがさしていて――
やがて、幼馴染みは目をそらした。
幼「やだ。教えない」
兄「……そうか」
それから妹が風呂から上がり、幼馴染みが入った。
俺の入浴は最後だった。当然といえば当然のことだ。
浴槽に身を沈めて、ふうと息を吐く。
今頃二人はどんな話をしているのか。
興味はあったが、そこに混ざる勇気はなかった。どうせ適当にからかわれて終わりだ。
なるべく時間をかけてゆっくりと体を洗い、俺は風呂を出た。
二人は早々に妹の部屋へ引き上げていったらしい。
小さな話し声が壁越しに聞こえてきた。
兄「妹、上がったぞ」
「うん」
兄「もう寝るから」
「分かったー」
間延びした返事。
どうやらお楽しみのようだった。おじゃま虫はとっとと部屋に戻るとする。
少しだけ明日の予習をしてから、俺はベッドに潜った。
――また、だ。
俺は生ぬるい感覚で目を覚ます。
暗がりの中で、定まらない視界がぼんやりと妹の顔を映した。
俺が目を覚ましたのに気付いてか、妹はぴたりと動きを止めた。
妹「……起こしちゃった」
兄「……」
予想はできていた。だが、想定していた言葉は喉から出なかった。
ああ、と乾いた呻き声が漏れた。
妹「……」
兄「……なに?」
妹「……怒ってる?」
兄「あんまり……」
まだしっかり物を考えられなかった。前回よりも意識は鮮明だが、頭が深い思考を放棄している。
妹「……よかった」
小さくはにかむ妹が、何故だかとてもいじらしく見えた。
妹「……兄?」
兄「ん……」
妹「……キ、ス。して、いい?」
兄「……」
言葉が出なかった。どう応えるべきか。応じていいものか。
長い沈黙に不安になったのか、妹はそっと俺の上からどいた。大きなベッドの隣に寝転がって、きゅっと腕をつかむ。
少し震えてる気がしたが、これは俺の鼓動がうるさいからか。
兄「……好きにすればいいと思う」
結局出せた言葉は、そんな責任逃れの一言だった。
妹「……しない」
妹は小さく頭を振った。寝返りを打つと、妹は躊躇いがちに頭を俺の胸に押し付けてきた。
お互い何も言えなかった。
妹「……好きなんだ。兄のこと」
兄「……うん」
妹「……返事は?」
兄「……」
妹「……しつこいのは嫌い?」
兄「何……」
妹「嫌だったら、嫌って言ってほしい。そしたら、もう、しないから」
妹「こんなこと、普通はしちゃいけないんだけど」
自嘲するような口振りだった。俺が身を捩ると、妹は顔を上げた。
暗闇の中でも、妹の顔はよく見えた。
潤んだ目尻。赤みのさした頬。大きな黒い目に、吸い込まれそうな錯覚を覚える。
俺は……。
兄「俺は、」
がちゃり。
続く。
よいですね
羨ましい妹だ
はよ
ジャイ子言ったやつ絶許
兄が大学生で妹高校生とか?それとも両方大学生?
兄「……」
妹「……」
幼「……むにゃ……ん……」
兄「…………」
妹「…………」
幼「……部屋間違えた……」
ばたん。
……はあ。
肩で大きく息をつく。
妹「気付かれなくてよかったね」
兄「……と言うか、あっちの部屋に戻ったら分かるんじゃないか? お前はここにいるんだし……」
妹「たぶん……大丈夫。細工はしてきたから」
兄「あ、そう……」
ふと顔を向ければ、妹がこちらを見ていた。
妹「兄。あのね」
兄「うん……?」
妹「どうして、私が兄を好きになったか……話してなかったと思って」
兄「……聞きたいな」
妹「うん。言わないと、だよね」
妹は一度目を瞑る。
その瞼がもう一度開かれるまでに、俺は様々な想像を巡らせる。
妹「ずっと、ずっと前のことだから、覚えてないかもしれないけど」
妹「二人で星を見に行ったの。覚えてる?」
俺は思い出す。星の見える丘へ、二人で行った夜のことを。
もう六年は前のことだ。俺は中学生で、妹はまだ小学生だった。
妹は幼い頃、体が弱かった。
些細な怪我がきっかけで病院に行ったりしていた。身長なんて俺の腹くらいまでしかなかった。持ち上げれば、あまりの軽さに驚くくらいで。
ある日、妹が「星を見に行きたい」と俺に言った。
昔からやけに冷めていたが、どこか夢見がちなところもあった。
俺達は満月の日を選んで、夜こっそり家を出て丘を登った。夏だったのに少し肌寒くて、帰ってから妹が風邪を引いたのを覚えている。
満天の空を見上げ、俺達は願い事を言い合った。
俺は、妹の体が丈夫になるように。
妹は、もっと身長が伸びるように。
実際妹が健康になるのはそれから何年も経ってからで、未だに身長は俺の肩辺りまでしか無い。
願い事はそう上手く叶わなかったけれど、妹にとっては貴重な体験だったそうだ。
妹「変なことを言うけど……あの日兄に連れて行ってもらえなかったら、私は今も病気に弱いままだったと思う」
兄「そうか……?」
妹「うん。だって、丘の上まで手をひいてもらって、すっごく安心できたから。
兄が私のために願い事をしてくれて、私はとても嬉しかったから」
妹「兄のおかげで、私は前向きでいられたんだよ」
兄「……」
妹「……あの時から」
妹「あの時からずっと、兄は私の憧れだった。大好きな人だった」
妹「この気持ちは、一度も揺れてないよ」
兄「……妹」
妹「……私はね。自分に嘘はつけないから、ずっと正しいことをしてるって思いながら生きてた」
妹「兄のことが好きなのも、私にとっては正しいことだって……」
妹「でも……」
妹「兄にとって私の気持ちは……迷惑じゃない?」
兄「……そんなこと、ない」
俺は腕を回して、妹を抱いた。一度離れていた距離が、再びゼロになる。
妹の柔らかさが、心臓の音が、触れた肌を通して伝わってくる。
は、と妹が息を呑んだ。腕を掴んだ手に力がこもる。
鼓動が早い。震えているのは、俺も同じだろう。
妹「……いいの?」
兄「うん」
妹「……ごめんね」
兄「なんで謝るんだよ?」
妹「だって、私、」
兄「……今までのことなら、もういいさ。お前がそこまで、とは、知らなかったし……。
俺も踏ん切りがついてなかった」
妹「……ありがとう」
兄「うん」
妹「兄。こっち、見て」
兄「ん……」
思っていたより近くに、妹の顔があった。お互いの吐く息が感じ取れる距離。
俺達は暫し無言で見つめ合う。
妹「本当に……いいんだよね」
兄「うん」
妹「兄に正面から好きだって言って。いいんだよね?」
兄「今更な気もするけど」
妹「兄に大丈夫って言ってもらえるだけで、ぜんぜん違うよ」
兄「そういうもんか?」
妹「そういうもの」
兄「そうか」
妹「うん。好き。大好き」
兄「……割と照れるな」
妹「……ねえ」
兄「……今度は何だ」
妹「キスして欲しい」
兄「……俺から?」
妹「うん……ずっと、私からだったから」
兄「そりゃ、そうだろよ……」
妹「……だめ?」
兄「……ちょっと待って」
目と鼻の先に妹の唇がある。物理的な距離は極わずかだ。
だが、その距離を自力で埋めるのに、どれだけの覚悟がいるだろうか。
妹「……ん」
妹が目を閉じる。言外に覚悟を決めろと言われている気がして、俺は余計に焦る。
はて、うちの妹はこんなに可愛かっただろうか。やはりこれも夢なのではないか。
思考回路が焼き切れるより早く、俺はなけなしの勇気を振り絞った。
地の文が力尽きそう
一応続くよあとちょっと
乙
乙
支援
まだか?
待ってるぞなもし
わたしは
いつまでも
待ってるよ
来たかと思ったじゃねぇかsageてくれよ
はよ
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修羅場に期待