雪歩「私と貴女のFirst Stage」 (47)
始まりは突然
終わりも突然
それはよく耳にすることだけど
観測している立場の人からしてみれば
それは突然でもなんでもない
そうなるように定められたモノ
言い換えれば必然あるいは運命のようなモノである……と
私は思う
「…………………………」
カチッ……カチッ……カチッと
時計の針が私を挑発しながら時間の流れを指し示す
今日もまた
どこかで唐突に何かが始まり、唐突に何かが終わるだろう
私のこの目にそれは映っていない
私のこの耳にそれは聞こえてこない
でも、どこかで何かが起こったことは確実
だって世界には何もない日なんてない
私達が観測していないだけで、世界は常に変化しているのだから
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翌朝……ううん
朝にしてはあまりにも早すぎる時間に
アイドルである私と同じ事務所に所属する千早ちゃんから電話がかかってきた
内容は――
『萩原さん……貴女の家に春香はいるのよね?』
確認だった
いるのかという問いではなく
いるはずだという断定の言葉
「ううん、私の家にはいないよ? どうかしたの?」
「そんなはず、ないわ。そんなはず……っ」
寝起きの朦朧とする意識の中で
現状を理解できないままに答えた私
それに対して千早ちゃんは
かなり深刻そうに呟いた
>>2訂正
翌朝……ううん
朝にしてはあまりにも早すぎる時間に
アイドルである私と同じ事務所に所属する千早ちゃんから電話がかかってきた
内容は――
『萩原さん……貴女の家に春香はいるのよね?』
確認だった
いるのかという問いではなく
いるはずだという断定の言葉
「ううん、私の家にはいないよ? どうかしたの?」
『そんなはず、ないわ。そんなはず……っ』
寝起きの朦朧とする意識の中で
現状を理解できないままに答えた私
それに対して千早ちゃんは
かなり深刻そうに呟いた
「どうかしたの?」
段々と起きてきた頭で考えながら
千早ちゃんを刺激しないように細心の注意を払って問う
『春香が……』
「春香ちゃんが?」
『春香が……どこにもいないらしいの』
世界が――変わった
ある視点では突然的に
ある視点では必然的に
「……嘘、だよね?」
『こんなことで嘘つくわけないわ!』
千早ちゃんが怒鳴る
普段の姿からは想像もできない声
不安と恐怖と絶望に包まれたそれは悲鳴のようにも感じる
『ごめんなさい……貴女に怒鳴る意味なんてないのに……ッ』
「千早ちゃん……」
その辛そうな声に私の心が酷く痛む
まるで直接捻られているかのように
痛くて痛くて……一瞬呼吸を忘れてしまうほどだった
「み、みんな……には?」
『連絡したわ……でも、みんな知らないって……』
千早ちゃんの顔は見えない
でも、声からその状況は鮮明に伝わってきて
冷や汗が浮かんできた
「警察には?」
『プロデューサーがしてくれるって……でも、でもっでもッ!!』
千早ちゃんが恐怖を曝け出す
目の前にいたなら鬼気迫る。または狂気に満ちた……と、言うのが正しいかもしれない
最近はすぐには動いてくれないという話をニュースで良く耳にする
だから千早ちゃんは不安なんだね
大切な弟を失ってしまった
その辛すぎる過去から立ち直らせてくれた大切な人を
失うことになるかもしれないということが
「……落ち着いて」
『落ち着けるわけ無いでしょう!?』
「それでも……落ち着こう」
『萩原さん……?』
いつもより声を落とし
氷のように冷たく感じる声で告げる
「焦っていても何も変わらない。だからまずは落ち着いて、それから考えよう」
『っ……そう……ね……』
私の氷は千早ちゃんの頭を冷やすことができたのだろうか
目の前にいない以上定かではないけれど
電話の奥での深呼吸に少しだけ……私も安堵の息を漏らした
「落ち着いた?」
『ええ、ごめんなさい……』
「ううん。それよりも春香ちゃんについてみんなからは?」
『………………』
千早ちゃんの答えは沈黙
勿体振るような内容でもないし
そのままが答えなんだろう……連絡は無し
あるいは、春香ちゃんについての情報の進展もなし
「……そっか」
『萩原さん、私――』
「ダメだよ」
『でも』
「ダメ。こんな真夜中に出歩くなんて絶対にダメ……ましてや春香ちゃんが行方不明ならなおさらね」
私の言っていることは正論だったと思う
でもそれは私達関係者からしてみれば
圧倒的に間違いな言葉
『貴女……冷静ね』
「…………………」
『ドッキリならそう言って……今なら笑って許せるから』
千早ちゃんは最後の希望であるかのように
殆ど力無くそう呟く
でも……非情ながら
「千早ちゃんに対してこんな酷いドッキリなんて出来るわけないよ」
『………………ドッキリって言って』
「千早ちゃん」
『お願い……実はドッキリだったって……お願い……』
「千早ちゃん……ドッキリなんかじゃないよ」
私は冷徹に千早ちゃんへと言葉をぶつける
冷酷で、冷徹で、非情で、残酷なことであろうと
これはドッキリなんかじゃない……だから、なんの足しにもならない嘘をつくことはできなかった
千早ちゃんの嘆きの声を電話越しに受けて
その声が憔悴しきった寝息に変わる頃
私は静かに電話を終わらせた
「……千早ちゃん」
千早ちゃんが春香ちゃんのことを好きだということは
私だけでなくみんなも知っている
というより、千早ちゃん【だけ】が好きなわけじゃないからね
そんな春香ちゃんの誘拐事件によって
世界は大きく変化するはず
「……春香ちゃん」
不安と恐れは私にもある。ないわけがない
だけど……だからと言って行動しないわけには行かない
「でも……まずは休まないと……」
起きる予定の時間まで2、3時間しかない
それでも少しでも万全の状態で動くために
私はゆっくりと目を瞑った
そして私と千早ちゃんを含めて
765プロダクションのアイドル全員が事務所に集まった
……ううん、正確には春香ちゃん以外の全員が集まった
「もう聞いてるだろうけど……春香が行方不明になったわ」
伊織ちゃんの悲しげな切り出し
それ以前からみんな俯いていたけど
より深く俯く者、何かを叩く者
拳を握り締める者、色んな反応をする人がいて
「はるるん……」
「春香が家出なんてありえないぞ!」
「春香……一体何が……」
「春香ちゃんも迷子……とは流石に言えないわよね~……」
それぞれが春香ちゃんを思って嘆き
どんよりとした重い空気が事務所を埋め尽くそうとする中
あまりにも突然すぎて
今の状況を受け入れたくない
そんな気持ちがみんなの中から見え隠れしていた
きたい
「でこちゃん、携帯のGPSとかは機能してないの?」
「……残念だけど携帯は全くわけの解らない所に捨てられていたわ」
伊織ちゃんの一言で
みんなの呼吸さえも止まる
ぐうの音も出ないなんていう冗談みたいな言葉では
今のこの場には相応しくない
唖然、呆然
それでもまだ相応しくない
それほどまでにみんなは絶望していた
静寂に包まれる事務所
そこに響く扉の開閉音にみんなの目が向かう
春香ちゃんがひょっこり現れるんじゃないか
そんなみんなの期待を裏切って現れたのは
社長、小鳥さん、プロデューサー、律子さんの4人だった
春香ちゃんの話に進展はなく
精神的なことも考えて仕事は無くした
だから家でおとなしくしていろ
それがプロデューサー達の言葉だった
「プロデューサー……春香さんは? 春香さんはどこにいるんですか?」
「…………解らない」
「ふざけないでください! 警察は? 警察は何してるんですか!?」
「動いてくれてる……だけど全く情報は得られていないそうだ」
やよいちゃんと千早ちゃんに対して
プロデューサーは冷酷な真実を告げる
隠す意味なんてないからだ
「今日は……帰るんだ。俺達が車で送るから」
「律っちゃん! 亜美達も探す!」
「そうだよ! みんなで手分けした方が良いよ!」
亜美ちゃんや真美ちゃんが言い放って
それに対して律子さんは
俯いていた顔を上げ……睨む
「あんた達まで危険に晒すわけにはいかないのよ」
「ですが……春香は今どのような目にあっているのかも解らないのでしょう?」
「でもね貴音ちゃん。だからと言ってみんなにまで迷惑はかけられないの。事務所云々の前に親御さんからのお願いよ」
小鳥さんはそう言って辛そうに顔を伏せる
小鳥さんに限らず、律子さん達もみんなの気持ちを解っている
でも、だけど止めるしかなかった
それはきっと痛いほどに気持ちを解っている小鳥さん達にとっては物凄く辛いこと
けど……止める
それはこれ以上、何らかの被害が出ないようにというプロデューサー達の思いだった
渋々解散したみんなはそれぞれの家に送り届けられて
私は自分の部屋のベッドの上で横になっていた
みんなからの情報がメールで集まってくる
それは全部一斉送信になっていて
メンバー全員が全ての情報を共有していたけど
その中で私だけに宛てた伊織ちゃんからのメールが紛れ込んできた
「……どうかしたのかな」
最初は一斉送信ミスかと思ったけど……違うらしい
サブタイトルには『これは雪歩だけに』と書かれていたのだ
そしてその本文は
『雪歩は誰から行方不明の件を聞いたの?』
というたった一文だった
特に隠す理由もなく
私は千早ちゃんから電話が来た。と正直に返す
それに対する伊織ちゃんの返しはメールではなく電話だった
『雪歩』
「伊織ちゃん?」
伊織ちゃんの声は緊張ではなく恐怖に震えていた
まるで開けてはいけない箱を開けてしまったかのような震え声
『雪歩……あんたも千早からなのね……』
「え?」
伊織ちゃんは言う
仮定でしかない言葉を
憶測に怯えながら――告げる
『全員千早からなのよ……春香の行方不明を聞いたのは』
それを聞いた瞬間
ピシッ……っというものすごく嫌な音が聞こえたような気がした
『千早はなんで行方不明だって解ったのかしら』
「家に呼んでて来なかったから……とか?」
『それにしてはおかしいと思わない? 自分の家に来る予定なのに私達の家にいるかどうか聞くなんて』
「え、でもそれは……」
それは決してありえないことなんかじゃない
行方不明になったかもしれないんていう事態を認めたくないが為に
誰かの所にいると信じ込む一種の現実逃避だから
『千早が怪しいわ……そうよ……動機だってあるわ』
「伊織ちゃん?」
『春香が誰にでも平等に接するのが嫌で……独り占めしようと……』
「そんなこと……」
『無いなんて言えないでしょ!?』
「っ!」
あの嫌な音がみんなの絆にヒビが入った音だと気づいた時にはもう
それはボロボロと脆く崩れ去って
立派な疑心暗鬼が生じてしまっていた
一旦ここまで
>そんな春香ちゃんの誘拐事件によって
……ん?
全くと言っていいほど見当違いな推測
それを信じてしまうあたり
伊織ちゃんも気が気じゃないみたいだね……
分かるよそうなっちゃう気持ち
深夜0時丁度から数えても
すでに12時間以上が経過していて
それでもまだなんの進展もないんだもんね
時間帯によっては
車一台でも不審車両となりそうだけど……
「伊織ちゃん、千早ちゃんは違うよ」
『どうしてそう言えるのよ。解らないじゃない!』
「あの声、あの表情、全部が演技の可能性も捨てきれない。でも、違うよ」
私はあくまで冷静に言う
伊織ちゃんが暴走仕掛けている今
話をしている私が冷静でいなければいけない
もっとも
冷静でいる理由はそれだけでもないけど
「千早ちゃんの家は結構いいマンションだから監視カメラで見張られてるんだ」
『だから……?』
「裏表の出入り口、駐車・駐輪場各所にある防犯カメラのどこにも映らないなんて不可能だよ」
『………わからないじゃない。袋とかダンボールに詰めて運んだ可能性もあるわ』
それじゃ怪しすぎるよ……
夜の時間帯にカートを引いてたりしたらもう全然ダメ
そもそも、それならもうすでに千早ちゃんは取り調べ受けてるレベルだよ
「そんな簡単な相手じゃない」
『………………』
「もう何時間も経ってるのに情報がないんだよ?」
『……そうね』
「それはつまり、一番怪しい千早ちゃんではなかった。ということになる」
伊織ちゃんでも怪しいと疑う千早ちゃんを
警察が調べてないわけがない
「少し頭を休めようよ伊織ちゃん」
『でも!』
「伊織ちゃんも春香ちゃんのこととっても大切に大事に愛しく思っているのは解ってるよ」
だけど
それでも少しは休むべきだって私は思う
「私だって春香ちゃんに会いたい、触れたい、話したい。それを我慢してるんだから」
『……雪歩』
「だから、ね? そのままじゃいざという時にダウンしちゃうよ」
『…………分かったわよ。でも、仲間を仲間だとは思えないわ』
「春香ちゃんが悲しむよ。私達が疑心暗鬼になって壊れていくなんて未来は」
崩れ去っていく私たちの絆
でも
伊織ちゃんが私だけに話してくれたおかげで
それはまだ最悪の状態にまで至っていない
『っ…………あいつの名前出すなんて卑怯よ』
「私は本当のことを言っただけだよ。それを春香ちゃんは望まないって」
『分かってるわよそんなこと……でも、でも……このままお別れなんて絶対に嫌なのよ!』
伊織ちゃんの涙に濡れた声が響く
それはみんなも思ってること
それでもみんなはみんなを疑わずに情報を共有して
春香ちゃんが少しでも早く見つかるようにと出来ることを頑張ってる
「そうだね……だからこそ休もう。今のままじゃ何をしたって無意味だよ」
伊織ちゃんに厳しく、でも優しく
私は静かにそう言って電話を切った
「……ふぅ」
伊織ちゃんとの電話を終えて
思わず零れた溜め息
疑心暗鬼に陥ったのは流石に焦ったなぁ
あのままじゃ全てがダメになっちゃうもんね
「さて……」
メールが一切届かなくなった携帯を手に取り
全ての情報に目を通してベッドの上に落とす
「みんな不安だもんね。怖いもんね」
みんなはテレビを見なくなるかもしれない
今のこの情報共有だってなくなってしまうかもしれない
それは
春香ちゃんが遺体で見つかったなんていう、最低最悪の情報に怯えているからだ
結果から言うと
春香ちゃんが行方不明になってから
早くも遅くも一週間が経過している
にも関わらず未だに進展はなく
765プロのアイドルであるみんなは
焦燥しきってこのまま死んでしまうかもしれない
そう思うほどに限界が来ていた
「……まだ生きてるんだよな?」
「響ちゃん……」
「だってまだなんにも言われてないぞ! 見つかってないぞ! だから!」
「響!」
パァン……っと
乾いた音が事務所に響く
四条さんが響ちゃんをビンタしたのだ
「なに……するんだ!」
「っ!」
その仕返しと言わんばかりに
響ちゃんが四条さんを押し倒す
「春香が生きてるって希望を持って何が悪いんだ!」
「ひ、響、貴音は別に」
「真は黙ってて!」
響ちゃんが怒鳴る
怒りをあらわにして
四条さんの襟首をつかみあげて睨む
「貴音はそう思ってないのか? 春香はもう殺されたって、そう思ってるのか!?」
「そんなことは……」
「じゃぁなんでそんな諦めたような顔してるんだ!」
「みんなもだぞ! そんな簡単に諦められるのか!?」
「…………………」
諦められるわけがない
受け入れられるわけもない
ただ、進展することのない絶望に
みんなの心が蝕まれていただけ
響ちゃんの言葉はみんなを揺らす
そして
鎮め、沈めていた感情を呼び起こしていく
「諦めてるわけないの……」
美希ちゃんが呟く
「春香さんは無事だってそう信じてます」
やよいちゃんが呟く
「諦めてるわけないでしょう? でも、だからこそ何もできないことが歯がゆいのよ」
そしてそれに千早ちゃんが続けた
「……………………」
「……響、先程は失礼いたしました」
「貴音」
四条さんは響ちゃんの顔に手を伸ばし
優しく包んで微笑む
「あなたの言葉は刺激が強かったのです……弱いわたくしには」
「いや、自分も言うべきじゃなかった……ごめん。みんな考えないようにしてることだったのに」
「考えないようにしてたからこそ、誰かに言われるべきだったのかもしれない」
響ちゃんの言葉に対して
真ちゃんがそう言う
そろそろ頃合かもしれない
みんながまた決起した今だからこそ……動くべきだよね
「そうだね。私達はそうすることで出来ることさえも出来なくしちゃっていたんだから」
「どういうことかしら」
あずささんがピクッと反応する
きっとあずささんは私と同じように……ではないけど機会を伺ってたんだろうな
「……アイドル活動を再開しましょう。そうすれば、もしかしたら春香ちゃんに声が届くかもしれないから」
「こんな状態で再開するって言うの?」
「でもいおりん、たしかにゆきぴょんの言う通りかもしれないよ」
「そだね……亜美達は自分達が出来るアイドルって仕事をまだやってなかった」
少しだけ渋った伊織ちゃんも
真美ちゃん達の話を聞いて頷く
「何も変わらない今、私達がまだしていない事をして変えるしかないっていうことね」
「うん」
「わたくし達に出来ること……一番大切なものを忘れていました」
今置かれている状態は
とても笑ったり騒いだりできるようなものじゃないと思う
でも、だからこそそうする必要があるだろうし
春香ちゃんだって自分のせいで765プロが潰れるなんてことは望まないだろうから
「……春香のために歌いましょう。みんな頑張って探してる。だから貴女も諦めないでって伝えましょう」
千早ちゃんはそう言いながら目の前に手を差し出して
みんながそれに手を重ねていく
一人足りない765プロの輪
いつも声を出してくれる春香ちゃんの代わりは誰もやらない
それは春香ちゃんを絶対に取り戻すという決意の表れのようにも感じた
仕事を再開したことによって
制限されていた行動範囲も広がって
私達はみんな色々と動くようになっていた
「……結構時間、かかっちゃったなぁ」
部屋で一人呟きながら
天井の明かりを見つめる
部屋の中でのそれはまるで太陽のよう
「そろそろだね」
リズミカルな時計の音を聞きながら
服を着替えて帽子を深々とかぶる
もう、みんなが寝静まった時間
私はこっそりと家を抜け出した
家から徒歩で2時間ほどの場所にある家
誰も使ってない
なんていう怪しい場所じゃない
むしろ使われている家
だからこそ……最適なんだよね
「………………」
誰にも見つからないように家に向かって
周りに気づかれないように家の中へとはいる
「こんばんは」
「!」
中にいた家主ではない人影は
私の声にビクッと怯え
動かせない足を懸命に動かして壁際に下がった
「っ…………」
「しーっ」
私に怯える女の子……なんて言う必要もないかな
みんなが血眼で探す春香ちゃんは
私だとしても警戒したまま動かない
「大丈夫、大丈夫だから」
ゆっくりと春香ちゃんへと手を伸ばす
その間も春香ちゃんは足を動かして背中に体を密着させて
その度に鎖がジャラっと音を立てる
「すぐ外してあげるから」
建築業をしている家には
たとえ鎖であっても切り落とせるような道具がある
それを使って足と手を自由にして、最後に春香ちゃんの猿轡を外した
「……雪歩」
「逃げるよ。春香ちゃん」
助け出してあげても
春香ちゃんは警戒を解かずに
私のことを見つめる
「見つからないうちに早く」
「や、やだ……」
春香ちゃんは首を振る
きっと……私が誘拐犯だと思っているんだろう
仕方がないよね
こんな場所に乗り込めるような人なんて
犯人じゃないとは思いにくいよね
逃げ出したら酷い事をされる
そう刷り込まれていて
私と逃げたことを口実に
その酷い事をされるって思っているんだろう
「……だったらいいよ。私はここから動かないから」
腕時計で時間を確認して
春香ちゃんを見つめる
「春香ちゃんは自由に逃げて」
「え……?」
「私は春香ちゃんの行き先に一切関知しない」
時計の針が
チクタクチクタクと時間を刻み
それが春香ちゃんを焦らせる
雪歩は疑わしい。でも、雪歩が味方でそれを置いていったりなんかしたら。と
様々なことに悩んでいたのかもしれない
春香ちゃんは2分ほど考え込み、私の手を握った
「雪歩のこと……信じるよ」
「春香ちゃん」
「……いこっ」
春香ちゃんは私の手を取ったまま走り出して
家を飛び出す
「どこに行くの?」
「警察」
「そうだね、それが一番――」
「っ!」
私達の足が止まって
春香ちゃんが口元を手で押さえて首を振る
「…………………」
私の持ち出した鞄の中がガシャガシャと音を立てていたから
――とは思いたくないけど
というか違うけど
私達の前に何人かの男の人が現れたのだ
「逃げたな?」
「っ……」
春香ちゃんの握る手に力がこもる
怖いよね……分かるよ
私だって男の人は怖いから
だけど……今は私以上に怖いよね
何されるか解らないんだから
「大丈夫だよ。春香ちゃん」
「雪歩……?」
カバンからはみ出していた柄を握って
大きめのスコップを取り出す
「私の必需品、携帯よりも大事だったりするかも」
あははっと春香ちゃんに微笑みを向けながら
スコップの先を目の前の男の人に向けて
「退いてください。どいてくれないなら――手段は選ばないですぅ」
にこっと微笑んだ
「ゆ、雪歩!」
「春香ちゃん……私が助けてあげるから」
「ゆ――」
春香ちゃんの手を振り払って
一直線に男の人へと向かう
私の唐突な行動に驚いたのか
男の人は仰け反って動きが鈍り
そのお腹へと力一杯スコップを叩き込む
「春香ちゃん、行って!」
「でも……」
「いいから早く!」
「っ………」
一人を叩いたことでできた抜け道
春香ちゃんはそこを駆け抜けて私へと振り向く
「絶対、絶対助けに行くから!」
「うん」
春香ちゃんの走り去る姿を見送って――私は男の人たちと対峙した
そして
春香ちゃんが完全にいなくなったのを確認してから
スコップを下ろす
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「ちょっときましたよ……雑誌じゃ意味がないっす」
……そう
男の人たちは協力者
春香ちゃんが疑っていた通り
私がその黒幕
春香ちゃんを手に入れるためなら……男の人達とだって手を組める
「逃げてください」
「あの……本当に」
「約束は守りますぅ」
「そ、それなら」
男の人たちが逃げていく
お金で雇えるような安い人達
……これだから男の人は嫌い
男の人がいなくなって
パトカーの音がどこからか響く
「……準備しないと」
血糊を使うことも考えたけど
そういうのは検査とかされたらバレるし
本気で春香ちゃんを手に入れるためなら……ね
「っ……うぅぅ……」
ナイフを構えて
勢いよく体の節々を切る
自己防衛本能かなんなのか
あんまり深くはなかったけど
血はしっかりと出て行くせいで
目の前が少しだけ暗くなって
私は思わず倒れこんでしまった
「や、やりすぎたかな……」
血が流れ出ていくのを感じる場所がじんわりと熱くなっていく
一番大きく切れた足を手で押さえながら
なんtか壁に寄りかかった時だった
パトカーの音がかなり近くまで来て
路地裏であるこの場所に足音が響き渡った
「雪歩!」
「……春香ちゃん」
「しっかりして、雪歩!」
春香ちゃんが泣きながら私の体を抱きしめる
これが私が春香ちゃんを手に入れるための第一段階
誘拐されて、私を疑って、自分の代わりに傷ついた私
春香ちゃんはそんな私を絶対的な仲間だと、絶対的に信頼できる相手だと思い
私の存在が春香ちゃんの中で大きく育っていくだろう
そして――最後には
「えへへ……春香ちゃんが無事で……良かったぁ」
「馬鹿っ雪歩の……馬鹿っ!」
春香ちゃんの悲しそうな顔に対して私はそう微笑む
そして最後には……身も心も手に入れる
私無しでは生きられないように……ふふっ
でも今は疲れたからお休み
急ぎすぎたら何も得られない
だから今は――春香ちゃんの温もりと涙と、喜びだけで我慢することにした
終わり
ヤンデレ雪歩x春香+865プロ
続きは未定
乙
続き期待
>>40訂正
「や、やりすぎたかな……」
血が流れ出ていくのを感じる場所がじんわりと熱くなっていく
一番大きく切れた足を手で押さえながら
なんとか壁に寄りかかった時だった
パトカーの音がかなり近くまで来て
路地裏であるこの場所に足音が響き渡った
「雪歩!」
「……春香ちゃん」
「しっかりして、雪歩!」
春香ちゃんが泣きながら私の体を抱きしめる
これが私が春香ちゃんを手に入れるための第一段階
誘拐されて、私を疑って、自分の代わりに傷ついた私
春香ちゃんはそんな私を絶対的な仲間だと、絶対的に信頼できる相手だと思い
私の存在が春香ちゃんの中で大きく育っていくだろう
そして――最後には
「えへへ……春香ちゃんが無事で……良かったぁ」
「馬鹿っ雪歩の……馬鹿っ!」
春香ちゃんの悲しそうな顔に対して私はそう微笑む
そして最後には……身も心も手に入れる
私無しでは生きられないように……ふふっ
でも今は疲れたからお休み
急ぎすぎたら何も得られない
だから今は――春香ちゃんの温もりと涙と、喜びだけで我慢することにした
これで第一段階かよ…
続き気になる
865プロなら誘拐もやむなし
865……?
8ンダイナ65プロ
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