P「きっかい」 (27)
超短編をいくつか投下します
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千早「家」
時々、自分の家が怖くなる。
弟のいない悲しみ、罵りあう両親……そんなものから逃れたくて家を出てからというもの、私はずっと一人。
だから、孤独には慣れている。
私はアイドルなんて職業についている。
最近は、そこそこ売れてきた。
だから、経済的にはなんの問題もない。
では、一体何故なのかしら。
不安に思う事など何もないのに、何故。
夜、一人でいると暗闇が怖い。
昔はそうではなかった。この家に来たばかりの時も、そうではなかった。
最近なのよ。
最近、家が怖いの。自分の家が。
まあ、家というよりは部屋だけれど。
誰かに、じっと見られている気がする。
振り向いても、何もない。ただ暗闇がそこにあるだけ。
お風呂に入り、頭を洗っている時なんかは、風呂場の外に誰かいる気がする。
勿論、誰もいる筈はないのに。
夜寝る時、電気を消すのが怖い。
何も見えないしばらくの間、何かが周りで動いている気がするから。
しばらく家を空けると、何かが変わっている気がする。
何かがなくなっているわけでもない。
何かが移動しているわけでもない。
それでも、何か違うの。
ヘッドホンで音楽を聴いていると、家のどこかで物音がしている気がする。
外してみても、音はしない。
動くものなど、ないのだから。
最近、親友の春香が家に来なくなった。
誘っても、お茶を濁すの。
私が何かしてしまったのかしら。
それとも……?
そんなある日、帰宅した私は何気なく「ただいま」と呟いた。
どこからか、「おかえり」と聞こえた気がした。
私は、自分の家が怖い。
あずさ「迷」
私はよく、道に迷ってしまいます。
どんなに近い場所でも、例えよく行く場所でも、迷ってしまいます。
以前友達にこう言われました。
「認知症じゃない?」
その友達は、今でも私に敬語を使います。うふふ。
それはさておき、最近気づいたことなんですが。
どうも、私が迷った時に行き着く場所には、共通点があるようです。
それは、「死」が関係している場所という共通点。
事故現場だったり、自殺の名所だったり。
それに気づいて、別の友達に相談してみたところ、
「あんたそのうち、迷ってあの世に行くんじゃない? きっと死者に呼ばれてるんだよ」
と、言われました。
なにこれこわい・・・
支援!
私はあの世を信じてはいませんが、この間迷った時は、気がつけば霊園にいました。
単なる偶然ではありますが、あんまり続くと不気味ですよね。
ところで、今度心霊番組に出演することが決まったんです。
内容としては、夜の心霊スポットでロケをする、というものです。
スタッフさんの話では、この番組はやらせで、心霊スポットというのも、実際は何の噂もないただの廃墟だそうです。
でも、この廃墟、行ったことあるんですよね。
まあ、だからなんだって話ですけど。
美希「夢」
ミキは、寝るのが好きなの。
寝てると、夢を見れるから。
夢は、ミキを楽しませてくれるの。
いつも決まって楽しい夢。
悲しい夢や、怖い夢なんて見たことないの。
でもね、最近、楽しい夢は見れないの。
かといって、悲しい夢も怖い夢も見ないよ?
最近見る夢は、現実の夢なの。
ミキの言ってること、わかる?
わかるよね。
でね、その夢で見ることは、次の日に絶対起きるの。
春香が転んだり。
雪歩が穴掘ったり。
あずさが迷子になったり。
響のペットが逃げたり。
亜美と真美が悪戯して怒られたり。
全部ミキの目の前で起きるの。
え? いつものこと?
うん。プロデューサーにもそう言われたの。
よく見る光景だから、夢に見ちゃうんじゃないかって。
でも、
千早さんが風邪を引いてお休みしたり。
やよいが弟と喧嘩して元気なくしてたり。
真クンが足を怪我しちゃったり。
貴音が、お金足りなくて食い逃げと間違われてたり。
律子の眼鏡が割れたり。
こういうのも、いつものこと?
違うよね。
だからミキ、最近なんだか寝るのがちょっとだけ怖いの。
それでも、いつの間にか寝てるんだけどね。
そういえば、今日は一度も夢見てないの。
これって、喜ぶべきなのかな?
貴音「髪」
わたくしは、幼い頃は「普通」でした。
いえ、あくまで外見上のことです。
中身は、今も昔もさほど変わってはおりません。
普通かどうかは分かりかねますが。
何が言いたいのかというと、子供の頃のわたくしは、今とは違い黒い髪を持っていた、ということです。
幼き頃のわたくしは、皆に羨まれるほどの黒い髪を持っていました。
両親も、かつて友達と呼んだ者達も、皆がわたくしの髪を褒め、皆がわたくしを可愛がってくださいました。
ある日、わたくしは友達と、自らの家である屋敷で遊んでおりました。
「かくれんぼ」という遊びに興じていたと記憶しております。
鬼が数を数え始めると、皆は散り散りになってあちこちに隠れだしました。
わたくしが、自らの隠れ場所を探しておりますと、
「綺麗な髪ですね」
という声が聞こえました。
振り向くとそこには、今のわたくしと同じ、銀色の髪をした女が立っております。
わたくしは、思わず、
「きれい……」
と呟きました。
するとその女は、
「それでは、換えてあげましょうか」
と言いました。
わたくしは、ただ一言、
「うん!」
と答えました。
その瞬間、女は消え去り、わたくしは自身の愚かさや浅はかさ……そして、この世には掛け替えのないものがある、ということを知りました。
その晩は両親に激しく叱責され、一晩中泣き明かしました。
それからというもの、わたくしには絶えず奇異の視線が向けられます。
ですが皮肉なことに、わたくしの今のこの立場は、この髪によるものが大きいのも事実。
恐らく、この髪がなければ、わたくしがこの道を進むことはなかったでしょう。
わたくしは今でも思うのです。
あの女はいったい何者で、目的は何だったのでしょうか、と。
ひょっとすると、わたくしをこの道に導くために現れたのかもしれない……と。
真美「鏡」
昔ね、真美の家には、大きな鏡があったんだ。
それでね、鏡の前に立つとさ、真美がいる、じゃなくて、亜美がいる、ってよく思ってたんだよね。
逆もあったよ。
亜美と向かい合わせになるとさ、あれ? 今見てるのは亜美? それとも鏡? って思う時が、よくあったんだ。
周りの人はもちろん、お父さんとお母さんも見分けられなかったぐらいだしね。
真美達もお互いがよく分からなくても、仕方ないよね。子供の頃のことだもん。
亜美とは昔っから、お互いが考えてることなんかすぐに分かっちゃうぐらい仲がよくってさ。
自分でも、嘘でしょ? って思うぐらい、分かり合えてたんだよねー。
何もかも同じだったよ。
顔も、性格も、服も、好みも、あの頃は髪型も。
大体のことは本当の本当に同じだったよ。
ん? 今は髪型が違うって?
まあね。
理由? うーん、なんとなくかな。
うん、なんとなく。
うん。
関係ないけど、本当に関係ないけど、ちょっと前に我が家で話題になったことがあるんだよね。
写真が無いの。亜美の写真が。
最近のはあるんだけど、どうも昔の写真がないんだ。
どれくらい昔のかというと、真美の家に鏡があった頃ぐらいまでのかな。
お父さんもお母さんも、当の亜美も不思議がってたよ。
どの写真を見ても、真美ばっかりだって。
でも、真美には別のことが不思議だったよ。
どうしてみんな、亜美の写真がないってわかるのかな?
だってその頃は、髪型まで同じだったんだよ?
それからかな、真美が亜美と違う髪型にしだしたのは。
雪歩「穴」
私は、穴を掘ります。
失敗しちゃった時や恥ずかしい時など、とにかく自分をダメダメだと感じた時に、穴を掘ってしまいます。
どこからスコップを取り出しているか……ですか?
それは、また別の機会で。
みんなは、どうして穴を掘るのか不思議がっています。
最近ではもう慣れちゃったみたいで、とくに訊かれることはありませんが、昔はよく訊かれました。
何故、私が穴を掘るのかを。
特に、はっきりとした理由はありません。
なんとなく掘りたくなってしまうんです。
と、以前の私はそう思ってました。
でも、今は違います。
思い出したんです。
それは、この間の撮影で失敗してしまった時のことでした。
私は、例によって穴を掘り、埋まろうとしました。
いつもなら、プロデューサーが止めてくれるんです。
でもその時、プロデューサーは別の所にいました。
だから、私は埋まりました。
穴に入っただけ? いいえ、本当に埋まりました。
どうもあの辺りの土は崩れやすかったみたいで、私が穴の中に入った途端、入り口が崩れ、私は生き埋めになりました。
少し話は逸れますけど、このことは、その夜お父さんに怒られました。
「どうしてそのぐらい分からなかったんだ。お前はその程度か」
と。
私も同じ感想です。
どうしてあの時、土質を見分けられなかったのでしょうか。
穴掘りとして一生の不覚です。
話を戻しますね。
生き埋めになった時、不思議と私は恐怖や不安、息苦しさを感じませんでした。
あったのは、安らぎ。
まるでお母さんに抱きしめられているかのような、優しくて、柔らかな、安らぎ。
同時に、私は思い出しました。
昔、どこかで同じ経験をしたことを。
お母さんから聞いたのですが。
まだ自我もないほど小さい時、私はお父さんの会社で、誤って大量の土に埋まってしまったことがあるんです。
ですから、きっとその時です。
その時、私は感じたのでしょう。
あの安らぎを。
多分、私はこれからも穴を掘ってしまうと思います。
何か嫌なことや、辛いことがあった時。
きっと今までもそうだったんです。
私が穴を掘る理由は、それなんです。
私は、穴を掘ります。
悲しい時や、辛い時、穴を掘ります。
あの安らぎを求めて。
以上です
読んでくださり、ありがとうございました
なんか足んねえよな?
真美のが好みかなおつ
春香達は?
乙
だが、勝手に続きを待ってるとする
乙
いいssだった、かけ値なしに
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