【艦これ】日向「さよなら」 (1000)
【艦これ】日向「ああ、新しく入る五航戦姉妹か。よろしく頼む」
【艦これ】日向「もうこれ翔鶴に言わせろよ」
【艦これ】日向「あー、暇だな」
【艦これ】日向「ふーん、三隈か。よろしく頼む」
の上からの順番で続き物になっています。
作者言は何度も覆されていますが、今回は本当に途中で更新がストップしてしまう時期があります。ご容赦下さい。
書き溜めもあまりないのでボチボチ貼りながら行きます。
今までのように小休止まで行きつかなくても更新が滞る場合もあります。
ここまで読んで頂いて本当に感謝。
内容についての注意書き等はしません。諸賢の判断にお任せします。
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期待
建て乙
さよなら……ってなんだよ……
ガダルカナル基地の本格稼働により南方戦線は先大戦と同じ様相を呈してきた。
南方での敵側の大反攻、かつてない圧倒的物量により基地は包囲され、島は再び餓島となる。
燃料弾薬食料が全て不足し、基地の艦娘や兵隊は近接兵器を手に深海棲艦に戦いを挑まねばならなくなった。
包囲の一部を突破し島を解放する為に海上護衛総司令部は南方へ主力を投入。
結果としてそれは逐次投入となり歴戦の艦娘達はある者は轟沈し、ある者は失踪し、
その代用品として実戦を知らない新人艦娘が配属され、挽肉工場で磨り潰されるようにまた失われていった。
亜細亜どころか本国のシーレーン防衛すら崩壊し、東京湾周辺を除く太平洋沿岸都市は定期的な敵の侵攻に晒された。
事ここに至り、内閣総理大臣は聨合艦隊による大規模反攻を承認。
民衆は歓喜したが、軍内部の事情を知る者が見れば単なるスケープゴート作りであることは明白であった。
何もかもが遅すぎた。
反攻の為の戦力など、もうどこにも残ってはいないのだ。
提督「……」
提督「横須賀鎮守府第四管区担当、もしくは分遣艦隊は今日をもって解散する」
提督「今日まで本当にご苦労だった」
提督「南方でのお前たちの活躍を期待している」
提督「……以上だ」
提督「この司令部での最後の食事を楽しんでくれ」
いきなり瀕死かよ
日向「君、最後などと辛気臭い事を言うなよ」
瑞鶴「そうですよ。戦いが終わればまた帰って来られます」
翔鶴「二人の言う通りです」
長月「司令官がそんな弱気でどうするんだよ」
文月「辛気臭いです~」
皐月「あはは」
曙「南方って潜水艦多いのよねぇ……」
時雨「……」
漣「あっ、ご主人様! 私達と一緒に南方へ転属とかどうですか?」
木曾「そうだな。提督も来ればいい」
三隈「もう、提督を困らせてはいけませんわ」
提督「……」
日向「乾杯でもしよう」
瑞鶴「おっ、良いですねぇ」
翔鶴「ですが一体何に乾杯するのでしょう」
日向「第四管区、つまり提督が作った退廃の都からの解放記念だ」
提督「……はっ、何だそれは」
日向「では、解放を記念して乾杯」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
提督「……乾杯」
赤帽妖精「待って下さーい」
搭乗員妖精「自分達も是非混ぜて下さい!」
「「「「「「「瑞鶴飛行隊推参!」」」」」」」
「「「「「「「翔鶴飛行隊到着!」」」」」」」
「なーにが正規空母だ航空戦艦の方が強いんだからな!」
「あぁ!? テメー晴嵐乗りだろ撃墜するぞこの野郎!」
「あぁ!? 水上機ナメてっと痛い目見んぞコラ!」
日向「……血の気が多くてすまない」
警備兵「自分達も提督や艦娘の皆様方と一緒に酒が飲みたいです」
「「「「「失礼します!」」」」」
青帽妖精「僕も僕もー」
提督「……お前ら仕事はどうした。大体、今日は酒の飲み会じゃないぞ。まだ夜の海上警備だって……」
時雨「さっき山内さんから連絡があったよ」
提督「なに、聞いてないぞ」
時雨「今日は何も心配するな、ってさ。飲み会は僕の立案だよ」
提督「……」
警備兵「まだ酒宴に参加したいと言う者達が大勢居るのですが、こちらも許可して頂けるでしょうか!」
時雨「心配しないで良いよ。お酒も食事も備蓄は十分さ。あと今日は階級なんて気にせずに。無礼講だよ」
警備兵「はい! ありがとうございます時雨さん!!」
「「「「「ありがとうございます時雨さん!」」」」」
時雨「……」
提督「……」
日向「おい君、今日は酔いつぶれるなよ」
提督「何故だ?」
日向「皆を酔い潰した後に楽しい事をしよう」ボソボソ
提督「ふん。また泣かせてやる」
日向「望むところだ」
瑞鶴「日向さーん? 抜け駆けは無しって言いましたよねぇ?」
日向「言ったっけな?」
翔鶴「酒宴の〆鍋にでもなりたいのですか?」
日向「う、嘘だよ嘘。ちょっとした冗談さ」
「テメーのとこの艦娘は色キチガイだな!」
「テメー!!! 翔鶴の搭乗員だな! 日向ちゃんを馬鹿にしてんじゃねぇ!」
「テメーこそ翔鶴様を馬鹿にするんじゃねぇ!」
「あぁあ!? やんのかコラ撃墜するぞオラ!」
「だから晴嵐ごときには落とされねーよ!? ゴラ!」
日向「おい、やめろ」
「えっ!? ご、ごめんね日向ちゃん」
「ブハハ!! だっせー!」
翔鶴「私は品の無い搭乗員は嫌いです」
「ぴょっ!? や、やだなぁ妖精同士のじゃれ合いですよ翔鶴様」
日向「まったく」
翔鶴「まったく……」
瑞鶴「二人とも、少しは私の搭乗員妖精を見習わせたら?」
「なぁ、あそこで緑帽の技官妖精リンチしてるの瑞鶴搭乗員の奴らじゃないか?」
瑞鶴「…………は?」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! よく分からないままリンチされてごめんなさい!」
「オラ! テメェの整備が行き届いてないから航空機が落とされんだよ!」
「敵の主砲に掠ったくらいで壊れるようなモン作るんじゃねぇ!」
「オラァ!」
「おりゃおりゃぁ!」
「ピエェェ!!! そんな丈夫なの作れないよ~~~~! 主砲には当たらないで~~!」
瑞鶴「こら! あんたたち止めなさい!! 何やってんの!」
「あぁ!? キャリアーは引っ込んでろ! これは俺らの問題だ!」
「そうだそうだ!」
瑞鶴「キャ……何ですってぇ!?」
「引っ込んでろブス!」
「タコ!」
「アホの瑞鶴!」
「俺、母艦は瑞鶴じゃ無くて翔鶴様が良かったなぁ」
瑞鶴「ムッキャァァァァァ」
時雨「提督、これプレゼント」
両手で抱えて尚重量感のある直方体の何か……を時雨は渡してきた。
包みのせいで中は見えない。
提督「……プレゼント?」
時雨「うん。実は以前提督の誕生日会をしようかなって考えてたんだけど」
時雨「忙しくて流れちゃったから、今渡しておくね」
提督「……ありがとう。それで、これは何なんだ」
時雨「秘密だよ。今開けてみて」
提督「ほぅ……何だろうな」
丁寧に包みを解いていき、中身が確認出来た時、
提督「……」
俺はもう一度丁寧に包み直し、時雨にプレゼントを返した。
時雨「何するんだよ!」
提督「ふざけるな! こんなもん要らんわ!」
長月「やかましいなぁ、司令官、何を喚いている」
時雨「提督が僕の作った誕生日プレゼントを受け取ってくれないんだ」
長月「司令官、受け取ってやればいいじゃないか」
提督「こ、こんなものを何に使えと言うのだ!」
時雨「飾ればいいじゃないか」
提督「飾れんわ!!!」
長月「まどろっこしいな。私に貸してみろ」
時雨「あっ」
時雨の手からプレゼントを奪い取り、中身を確認する事にした。
提督「いや、待て長月! お前にはまだ」
何故か必死に止めようとする提督の言葉を無視し、包みを解く。
先程提督が一度破いているから簡単に解くことが出来た。
長月「……何だこれは」
三隈育成をひたすら所望していたヤツです
前スレ処理されそうだしこっちに書くけどありがとう!
中から出て来たのは大理石の彫刻だった。
丁寧に加工され研磨され、会場の明りで黒光りすらするそれは、長月の見たことのない形をしていた。
時雨「提督を模して作った彫刻さ。大理石は高かったし、彫るのも時間が掛かったんだからね」
長月「うん? どこをどう見ればこれが提督になるんだ?」
どちらかと言えば龍の彫刻……いや、何だろう
頭らしき部分は顔の形になっていないし、ポーズ龍程うねうねもしてないし……
妙に体が太いし……下に大きな膨らみが……
時雨「何を言っているんだい長月。これはどこをどう見ても提督のおち○ちんじゃないか」
静寂
人と妖精と艦娘が入り交じり、お祭りのように騒がしかった会場が、
一瞬にして冷や水を浴びせかけられたかのように静まり返る。
長月「えっ、ていとくの、おちん○ん?」
時雨「そうさ。完全に勃起した提督のおちんち○だよ」
提督「……」
ザワザワ…… ザワザワ……
長月「……お○んちんって、男の人の股間に生えてるアレだよな」
時雨「そうだよ」
長月「で、でも以前私が風呂場で見た司令○のおちんちんは、こんな凶悪な形をしていないかったぞ!?」
時雨「おちんちんは女の膣を抉りたくなると凶悪な形に変化するのさ」
長月「ち……え……はぁ?」
時雨「あーもうセックスだよセックス。セックスする時にこうなるんだセーックス!」
ザワザワ…… セックス……? ザワザワ…… ザワザワ……
長月「セックスって……同衾の事か?」
時雨「よくそんな難しい言葉知ってるね。僕はずっとセックスって言ってるけど」
長月「司○官のおちんちんの凶悪な形知ってるって事は……お前……まさか……」
時雨「一時期執務室でずっとセックスしてた事もあったね」
長月「……」
時雨「あ、ここ見てよ長月。このカリの部分が正常位で引き抜くときに気持ちいい場所に当たって凄いんだ」
長月「カ……? 正常……???? 凄……」
時雨「ここは彫る時にもこだわったんだよ~」
長月「……」
長月「……ふみゅ~~ん」バタン
木曾「長月が意味不明な言葉を発して頭から倒れたぞー! 担架持って来い!!!!」
ザワザワ…… 時雨さんと提督が……? ザワザワ…… セックス……?
瑞鶴「えっ……な、何言ってんの時雨さん」
日向「……そうだ。冗談が過ぎるぞ」
翔鶴「提督が駆逐艦の子供達に発情する事があれば犯罪ですよ」
提督「……」
翔鶴「て、提督は何故黙っているのですか。早く時雨さんを注意してやってください」
時雨「あれだけ僕の躰を楽しんでおいて今更無かったなんて酷いよ~」
日向「時雨。お前はもう酒に酔っているのか?」
時雨「ううん? 素面だけど」
日向「いいや、酔っている。酔って冷静な判断が出来ずにいる」
時雨「だから素面だって」
日向「いいや! 酔っている! そして今から私が、提督の無実を証明する!」
時雨「へぇ……面白いじゃないか」
日向「私が幾つか質問をする。全て答えられればお前の勝ち、答えられなければ私の勝ちだ」
時雨「何に関しての質問かな? 勿論……」
日向「ああ……提督の身体についての質問だ」
時雨「……オーライ。その勝負、乗った」
日向「第一問、提督の尻に黒子はあるか、無いか!」
時雨「うーん分かんないなぁ。僕はおちんちんにしか興味無かったから。でもお尻って広いし、あるんじゃないかな」
日向「……」
日向「第二問!」
ザワザワ…… ザワザワ…… 合ってたのか……? 何だったんだ……?
日向「提督の舐められると弱い部位を答えろ!」
時雨「これも分かんないや。おちんちんしか舐めてないし。射精するし、弱い部位はおちんちんかな」
日向「……」
時雨「日向さん、凄い汗だよ。大丈夫? 体も震えてるみたいだけど」
日向(こいつの……時雨の目には全く迷いが無い)
日向(単にあるがままの日常を、昨日何を食べたかを説明するかのようだ!!)
日向(私は時雨が怖い……泣いちゃいそう……)
ザワザワ…… セックス…… ザワザワ…… 提督と時雨さんが…… セックス……
待ってました!今回も楽しく読ませて頂きます。
日向「第四問! い、いや第三問か! これで終わりだ!」
日向「提督は!!!! 挿入から何分で射精した!!!」
時雨「うーん。五分くらいかなぁ」
日向「……」
日向「ふん! 時雨、ボロが出たな」
時雨「?」
日向「彼は五分程度では射精せん!」
オォ~~ ザワザワ…… 射精…… ザワザワ…… 経験者は語る……
時雨「いや、するよ。僕の無呼吸バキュームにかかれば射精なんてすぐさ」
ザワザワ…… 無呼吸バキューム……? ザワザワ……
日向「また墓穴を掘ったな。お前の性の知識の無さが完璧に露呈した訳だ!」
時雨「???」
日向「無呼吸で! バキュームが出来るわけないだろう!」
ザワザワ…… タシカニ…… 無呼吸バキュームって変だよな…… やっぱり時雨さんは嘘を……
時雨「くくくく……」
日向「……なに?」
時雨「あはははははは!!!!!!」
日向「な、何がおかしい」
時雨「知識が足りないのは日向さんの方さ」
時雨「性の知識っていうのは……座ってお勉強するんじゃないんだよ。ここんとこOK?」
日向「……」
時雨「無呼吸であるのにバキューム、つまりどうしても空気を吸う行為だね」
時雨「これらの組み合わせが矛盾してるのは僕だって分かるよ」
時雨「でも……こんなのは僕が便宜上つけた名前に過ぎない」
時雨「知っているとは思うけど」
時雨「残念ながら科学はこの世の全てを僕達に説明してはくれないんだ」
時雨「世の中は分からないことだらけ」
時雨「この技も、そんな科学が解明できない技の一つさ」
時雨「性欲が理論を越えるんだ」
時雨「見せてあげるよ」
時雨「僕のフェラを」
時雨さんは大理石で作った提督のアレの竿を模した部分をおもむろに口に含むと
時雨「……」
射精を促すかのように頭を動かし始めた
その動きにいやらしさは微塵も無く
まるで、そうあるべきであるかのように
場の空気に溶け込み何の違和感も無い程に自然だった
自然すぎて不自然な程だった
時雨の動きが激しさを増すにつれ、途中から曇った破裂音のような音が混じり始める
だが、その音の出所は……その場の誰にも見当がつかなかった
「う、美しい」
警備兵の一人は涙を流していた
「……」
技官妖精の一人は、初めて飛行機を見た時の事を思い出していた
日向は、初めて海の夕焼けを見た時と同じ感覚を覚えた
そこにあるのは全てを超越した性技
高尚な射精へと人間を導く奇跡
時雨は、人間が忘れ去った過去を呼び起こす
人類がかつて狭い共同体で生活していた時、性は生の一部であったのだ、と。
日向「……」
日向「ガハァ!?」
木曾「日向さんが口から体液放出したぞーーー!! 担架持って来い!!!!」
日向「そん……提……督……」
ザワザワ…… 挿入時間ってもう個人的な質問じゃないか…… 日向さんの負け……? ザワザワ……
瑞鶴「うそ……提督さんってロリコンなの?」
翔鶴「……」フラフラ
漣「し、信じられねぇです。駆逐艦の中でもプロポーション抜群のこの私に手もつけねぇとは」
曙「いや、そういう問題じゃないでしょ。大体抜群じゃないし」
文月「皐月、セックスって何ですか」
皐月「えっ!? い、いやぁボクもしらないなぁ」
もう誰も説明は要らなかった。
時雨の言葉が事実であると誰もが確信していた。
時雨「まだまだ、だね」
彼女は近くにあった日本酒の瓶を掴みラッパ飲みする。
時雨「……」ゴクゴクゴクゴク
時雨「くぅ~~きっくぅぅ~~!!」
時雨「あはは!」
時雨「みんながだーい好きな提督さんは、実は年端も行かない女の子に発情する変態でしたー!」
時雨「ほらぁ! 皆ももっと飲んで!」
ウォー! シグレサンスゲー! スゲースゲー!
提督「……」
瑞鶴「ちょ、提督さん! どういう事か説明してよ!」
提督「……」
瑞鶴「私とはま、まだしてないのに……時雨さんには手を出してたわけ!?」
シテナインダッテヨー ナンダ、アホノズイカクハマダナノカ オクレテンナ オセーオセー
瑞鶴「外野五月蝿い! 私はアホじゃない!」
提督「……瑞鶴、男はな」
瑞鶴「……」
提督「男は下半身が別の生き物なんだよ!!!!!」
提督「くぅ~~~~」
近くにあった日本酒の一升瓶を掴み取り
提督「……」ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク
提督「かぁ~~~~!!」
一気に飲み干す
コイツヒラキナオッタゾ! アルイミ、スゲェヤツダナ ヘンタイダケドナ マァナ
瑞鶴「さ、サイテー……」
提督「オラ! もっと酒持って来い下っ端妖精ども!」
ウルセー! ジブンデモッテコイ! ボケ! クソテイトク!
提督「無礼講だからって好き勝手しやがって! 明日銃殺にしてやる!」
?????「おいクソ野郎」
提督「あぁ!? どこの下っ端搭乗員だ! 名を名乗れ!」
晴嵐搭乗員「日向ちゃんの純情をもてあそびやがって! ゆるさねぇからな!」
提督「上等だ! かかってこい! お前らに俺の何が分かる!」
晴嵐搭乗員「お前の事なんざ知るか! 水上機乗り、集合!」
「「「晴嵐乗りなめんな!」」」
提督「……丁度いい。人間と妖精、どっちが上かこの場で教えてやる」
翔鶴「やめなさい!」
提督と妖精の間に翔鶴が割り込む。
晴嵐搭乗員「翔鶴さん……どいてくれ」
「「「どいてくれ!」」」
翔鶴「提督に手を出す者は許しません」
晴嵐搭乗員「……その男が最低なのは分かってるだろう?」
「「「分かってるんだろう!?」」」
翔鶴「でも……でも私はこの人の傍に居るって約束したから~~」
そう言うと同時に、翔鶴は提督の方へと倒れ掛かる。
翔鶴「提督~~何で私にも手を出してくれないんですかぁ~~?」
提督「なっ、おまっ、酒くさっ!!」
翔鶴「や、やはり私には魅力が足りないのですか!?」
翔鶴「それとも……提督的に私は育ち過ぎなのですか!?」
提督「ちょ、分かったから! 俺から離れろ! 巻き込まれるぞ!」
翔鶴「胸とお尻はきっと提督の御要望に応えることが出来ます! でもごめんなさい……背丈はどうにも出来ません……」
提督「だから! 別に俺はお前の身体に興味がある訳じゃ……」
翔鶴「ああ、そんなぁ~」
晴嵐搭乗員「……こ、この男は日向ちゃんというものがありながら」
「「「ゆ、許せん!」」」
晴嵐搭乗員「かかれ! 提督を殺せ!」
「「「おう!!!」」」
?????「待て! 翔鶴様の幸せを邪魔する奴らは我らが許さん!」
「「「「「「「許さん!!」」」」」」」
晴嵐搭乗員「なんだ! 頭かち割るぞ!」
「「「かち割るぞ!」」」
翔鶴搭乗員「例え歪んでいようとも、翔鶴様が幸せであれば良いのだ! かかってこい!」
「「「「「「「かかってこい!」」」」」」」
晴嵐搭乗員「うぉりゃー」
翔鶴搭乗員「でりゃぁぁぁあ~」
ドタドタ ダカダカ
ワーワーワー
ボカスカ
ギャーギャーギャー
ガシ! バキ! ドカ!
エーセーヘー!
翔鶴「……分かりました」
提督「な、何がだ」
翔鶴「私の操はここで提督に捧げます!」ヌギヌギ
提督「うわぁぁぁあぁぁ! よせよせよせ!!!」
翔鶴「よ、よろしくお願いします!」
警備兵「……」
警備兵長「……提督を……あの男を未成年淫行並びに不純異性交遊の罪で……殺せ!」
「「「「「おう!」」」」」
瑞鶴搭乗員「瑞鶴搭乗員妖精は面白い方の味方だぜ!」
「「「「「「「つまり今は提督の味方!」」」」」」」
警備兵長「ちぃぃ! 邪魔するな! このままでは翔鶴様の貞操が!」
瑞鶴搭乗員「へっ、それがいいんじゃねぇか」
警備兵「この腐れ下衆どもがぁぁぁぁぁ!!!」
ピャーピャー
ゴン! メキャ!
ニャーニャー
ウラー!
瑞鶴「ちょっと! 姉さん何やってるの!」
三隈「こ、こうなったら」ヒック
三隈「翔鶴さんを止める為に三隈が脱ぎます!」
瑞鶴「えぇ!?」
三隈「クマリンコーーー!!」ヒック
瑞鶴「うわぁぁぁぁ不味いって三隈さん!!!」
文月「武器庫から演習用の弾薬を持ってきました」
文月「今から演習を開始します~」
皐月「おい、文月! お前まさか酒飲んだんじゃ!?」
文月「あ、曙ちゃんだ」バン
曙「いった! な、何すんのよ!」
文月「主砲は敵に向かって撃つんですよ~」バンバン
曙「きゃー!!!」
マエカラキニクワナカッタンダヨ!
シルカ! シネ!
オマエガシネ!
ギャーギャーギャー
ショウカクサマ! イマノウチニテイトクトソイトゲテ!
サセルカ! ソノチンポハヒュウガチャンノモノダ!!
アークッソ! ナンデオトコノチンポヲマモラナキャイケナインダヨ!
シカタナイダロウ! ソレガシアワセニツナガルンダ!
ワーワーワーワー
バンバンバン
イッテ! ダレダ! サンダンウッテルバカハ!
ヨウセイサントモエンシュウデス!
フミヅキィィィィ!
翔鶴「私は、二番目でも良いのです。提督が幸せなら三番目でも良いです」ホロホロ
翔鶴搭乗員「おいクソ提督! お前また翔鶴様を泣かせやがって!」
提督「……」
翔鶴「私など、どうなっても良いのです」
三隈「翔鶴さん泣かないで! 三隈が脱ぎます! 脱ぎますから!」
瑞鶴搭乗員「良いぞ航巡の姉ちゃん! やれ! やれー!」
瑞鶴「三隈さんやめてぇ!」
翔鶴「なんなら四番目でも、五番目でもいいです。だから、御傍に置いて下さい」ホロホロ
翔鶴搭乗員「ああ! 翔鶴様! 泣かないで!」
提督「……」
木曾「俺の提督はどこだぁ!」
漣「木曾はいい加減酒に弱い事を自覚するです!」
日向「提督の弱点は乳首だ。舐めた時凄い声を上げるぞ」
時雨「ほう、乳首はまだ舐めた事ありませんでした」
日向「それで、その……私にもフェラを教えて欲しいのだが……」
時雨「道は厳しいですよ。例えるなら日向さんが装備スロットが5になるほどの努力を必要とします」
日向「やってやるさ。私は航空戦艦だ」
時雨「貴女ならそう言ってくれると思いましたよ。良いでしょう」
提督「……」
文月「ヨーソロー」バンバンバン
曙「痛い痛い痛い痛い!」
警備兵「演習用でも死んじゃうから! 人は死んじゃうから!」
皐月「今は逃げろ! もう駄目だ!」
提督は今、最後の指導力を試される時が来たと考えていた
それは即ち、混沌としたこの場を収める力である
長くてはいけない
短い文にこそ力は宿る
短く、強く、適切に叫ぶのだ
「……ふみゅ~~ん!!」
…………
コイツ、ナガツキサンノマネシテキリヌケヨウトシタゾ!
ナ、ナンテサイテーナヤツナンダ!
コイツハユルシチャイケネーヤツダ!
コロセ! テイトクヲコロセー!!
ギャーギャーギャー
会場の空気は静まるどころかヒートアップした
何故だ
俺は一体何を間違った
俺はユーモアを取り入れた適切な回答をした筈だ
適切な一言で余計に殺気立った妖精と男たちが迫る
酒と怒りに任せて突進する彼らは暴れ牛のようだ
止める術を俺は知らない
もはやこれまで
ならば男子の本懐を遂げるまで
さらば……
「君は私が居ないとどうしようもないな」
「提督は冗談のセンスが無いのですから、黙っていた方が得ですよ。お陰で酔いが覚めましたが……」
「あはは! 私、提督さんは絶対長月さんの真似するって思ってた」
「お前ら……」
先程までの酩酊はどこへやら、三人の艦娘が猛牛たちに壁として立ち塞がる
「翔鶴様どいて下さい!」
「それは出来ません」
「日向ちゃん! そんな奴のどこが良いんだ!」
「この最低さが癖になるんだよ」
「おいキャリアー! どけ! 邪魔だ! アホ! 行き遅れ!」
「ここは瑞鶴さんとか、瑞鶴様とか言う流れでしょうが!!!」
「提督に手を出すのなら我々を倒してからにして貰おう」
「先に言っておくが戦艦パンチは……痛いぞ」
「皆さん、いくら無礼講と言え少し羽目を外し過ぎですよ」
「そうそう。楽しく飲むのは良いけど、飲んで楽しくなりすぎちゃ駄目なんです」
アホハダマッテロー! アホー! アホー! チョウシノルナー! ウマイコトイエテナイゾー! アホガバレルゾ!
「ムッキャァァァァァ」
時雨「……何でだよ」
少しふらつく足取りで、時雨さんがこちらに近づいてくる
時雨「君達は悔しくないの? 嫌じゃないの? 提督は僕みたいないたいけない子供の身体をねっとり楽しむような奴なんだよ?」
日向「自分でいたいけないとか言うか? 普通?」
翔鶴「普通は男性の股間の彫刻など作りません。どこの邪教の儀式ですかアレは」
瑞鶴「提督さんは最低だとは思うけど、それは元からだし?」
時雨「……」
日向「私は性の知識に未熟であると痛感した。今後はお前から教えを乞いたい」
翔鶴「……幼女趣味は……私が我慢すれば良いだけの話です」
瑞鶴「私の場合、好きは減点方式じゃないし? そんな事関係無いって言うか?」
時雨「同時にごちゃごちゃ喋らないでよ」
時雨「……嫌いになった方が良いじゃないか」
日向「……」
時雨「もう提督には会えないんだから……好きなまま別れたら辛いじゃないか……」
翔鶴「……」
時雨「みんなは平気なの!? 何で誰も口に出さないんだよ!」
瑞鶴「……」
時雨「南方の海で僕らは死ぬ。消えて無くなる。看取られもせずに沈んで終わる」
時雨「怖くないのか? 僕は怖い! 怖くて堪らない!!」
時雨「戦って死ぬのは別に良い」
時雨「僕は提督ともう会えないが怖い」
時雨「それは我慢できない。もう頭がおかしくなりそうな位に怖い」
時雨「……だったら嫌いになった方がずっと良いじゃないか」
時雨「それなのに……君達は……」
日向「あーあ、好き放題言ってくれたな」
時雨「……」
日向「心配するな」
日向「私はお前を、お前達を死なせる気は無い」
翔鶴「私も日向さんと同じ意見です。私達は必ず提督の元へ、全員で帰ってきます」
瑞鶴「……」
イイゾ! ソウダ! ダマッテロズイカク! アホヲカクセ!
瑞鶴「……」プルプルプル
時雨「虚勢は嫌いだよ。そんなのもうウンザリだ」
日向「聡いお前なら分かるだろう。私が虚勢を張っているように見えるか?」
時雨「……」
日向「そういう事さ」
時雨「……確かに分かるよ」
時雨「日向に迷いは無い」
時雨「でも、でも」
時雨「僕は……みんなみたいに強くなれないよ……」
姉さんは、そんな時雨さんを励ます為に手を握る。
翔鶴「心配しないで下さい。私達は一人で戦うわけではありません」
瑞鶴「そうそう。誰かが強くて、誰かが弱くても助け合いながら戦うんですから」
日向「大船に乗ったつもりで居ろ」
日向「少し南の海にバカンスに行くとでも思えばいいさ」
時雨「……」
返事は無かったけれど、時雨さんの顔は先程よりも穏やかになった気がした。
瑞鶴「あれ、提督は?」
日向「彼なら私達が壁になった辺りで逃げたぞ」
瑞鶴「あの人はまた……」
翔鶴「いえ、この場面を提督に見られなくて良かったです」
日向「艦娘に不安があると知れば、何をするか分からん奴だからな」
日向「今回の我々の南方送りも彼の不本意極まりない上からの命令だし」
日向「まーそれにしても、ここまで我々に気を使わせるとは……手間のかかる男だ」
翔鶴「そこが良いんですよ」
日向「ふん。まったくだ」
瑞鶴「……惚れた弱みは強いねぇ」ニヤニヤ
食糧倉庫裏
提督「……」フー
木曾「司令部内は禁煙だぞ」
提督「今日は特別だ。聨合艦隊長官のお墨付きでな」
木曾「あれはそういう意味じゃねーだろ」
提督「バレたか」
木曾「アホ」
木曾「何で会場から逃げたんだ」
提督「あの場に居ると男どもに殺されかねん」
木曾「……まぁ確かに」
提督「お前も酔いは覚めたんだな」
木曾「誰かさんが馬鹿な物真似するからな」
提督「……俺にはセンスが無いらしい」
木曾「危ない場面を冗談で切り抜けようとするのが間違いなんだ」
提督「間違った道を歩くのは楽しい」
木曾「勝手に歩いてろ。俺はもう何も言わねぇ」
提督「……まさか第四管区自体が廃止されるとは思ってなかった」
提督「木曾、今までご苦労だった」
木曾「なーに今日で終わりみたいな言い方してんだ」
木曾「終わりじゃねぇよ」
木曾「アンタの居る場所が俺達の第四管区だ」
提督「……」
提督「お前が着任したのが、まるで昨日の事のようだ」
木曾「俺もそんな感じがするよ」
提督「最初は無駄に予算を使いすぎで他の艦娘が手配出来なくて……お前と漣には迷惑を掛けた」
木曾「駆逐艦と軽巡の二隻で基本的に四隻以上の敵を相手にしてたな」
提督「あったあった。お前、何で生きてるんだ?」
木曾「死にたくなかったからな」
木曾「お陰で練度も上がったよ。当てて避けないと勝てないし」
提督「お前はいつもキラキラしてたな」
提督「木曾は南方行きが怖くないのか」
木曾「アンタは怖いのか」
提督「俺が怖がってどうする。戦うのはお前らだろう」
木曾「怖いと言ったらぶっ飛ばすつもりだった」
提督「強がるな。根は優しい奴ってのはもう知ってるんだよ」
木曾「なっ! て、適当なこと言ってんじゃねぇ!」
提督「はいはい」
木曾「……」
提督「思い出話ってのは良いもんだな。ボケ防止にも繋がる」
手元に煙草が残っていたのを思い出し目線をやると、もうほとんど残っていなかった。
提督「……」スー
提督「……」
提督「……」ハー
残りを一気に吸い切り、携帯灰皿に吸殻を放り込む。
木曾「……」
木曾「なぁ」
提督「あ、煙草か?」
木曾「……くれよ」
提督「ほら、あとライターがこっちに」 木曾「ライターが要らない方法があるだろうが」
提督「……」
木曾「……」
提督「お前、まさか……あの時の事覚えてるのか?」
木曾「……何で忘れてる前提なんだよ馬鹿」
提督「……信じられん。お前はもう絶対忘れていると思っていた」
木曾「……うるせぇ。早くしろよ」
提督「こんなの言ってくれれば何時だって……」
木曾「……」
彼女はもう気恥ずかしいようで、俺と目すら合わせない
ああ、違う
俺の言う事は的外れだ
彼女はして欲しい事を自分から言えないタイプの艦娘だった
提督「……ん、ほい」(来い)
彼女は口に煙草を咥え俺におずおずと近づく
木曾「……」
耳まで真っ赤で、咥えた煙草は小刻みに揺れている
唇が震えているのか、添えた右手が震えているのか、あるいは両方か
そして、それが何を意味するか
男を押し倒す者も居れば、こういう形でしか好意を示せない者も居る
俺にはどちらも愛おしい
選ばないのは傲慢だろうか
煙草の先同士が触れ合った
木曾の顔が近い
自分の煙草に火が付くと、彼女は嬉しそうな満ち足りたような表情をした
不器用な彼女の不格好な幸せ
それを誰が笑う事が出来よう
煙を肺一杯に吸い込む
吸い込む、吸い込む、吸い込み
吐き出す
紫煙は空に漂い、しばらくすると見えなくなった
木曾「煙草はうまいか?」
提督「うまい」
木曾「嘘吐き」
提督「ははは!」
提督「お前は煙草をうまいと思うか?」
木曾「うまい」
提督「うまいよな」
木曾「うまいな」
提督「……」
木曾「……」
提督「くくく……」
木曾「ふふふ……」
提督「お前に火を分けたせいでもう吸い終わってしまった」
木曾「ケチケチすんなよ」
提督「責任を取れ」
木曾「責任って……」
提督「お前の吸わせろ」
木曾「新しいの吸えばいいだろ」
提督「お前のが欲しいんだよ。言わせるな」
木曾「い、いや! でもこれ私の唾とかついてるし」
提督「俺は木曾の唾なら飲めるぞ」
木曾「はぁぁ!?」
提督「むしろ、お前の唾がついているからこそ、その煙草を吸わせろ」
木曾「えっ、えっ、いや、その……」
提督「いいだろ」
木曾「……」
提督(むふふふ。こいつをからかうのは楽しいな)
木曾「……ほら」
提督「ありがとう」
提督「……」スー
提督「……」
提督「……」ハー
提督「フィルターのところが濡れすぎだ」
木曾「……吸い慣れてないんだよ」
提督「別に良いけどな」
木曾「なら言うな」
提督「はっはっは」
提督「木曾」
木曾「なんだよ」
提督「お前は俺が好きか」
木曾「……知らねえよ」
提督「俺はお前の事が好きだが」
木曾「しししし知るかよ! そんなの!」
提督「煙草なんて間接的でまどろっこしいもの使わないで、ほんとにキスでもしてみるか」
木曾「ききききききききき!?」
提督「木曾」
木曾「木曾!?」
提督「いいだろ」
木曾「えっ、いや、でも、やっぱこういうのは順序とか手を繋いでからとか」
提督「俺が今したい」
提督「……正直お前としたくなるなんて一時間前まで思ってなかった」
木曾「……」
提督「基本的に俺は艦娘に襲われてばかりなんだが」
木曾「……なさけねぇ」
提督「今日は襲ってみようと思う」グイッ
木曾「わっ!」
吸っていた木曾の煙草を適当に投げ捨て、彼女の腰の辺りを掴んで抱き寄せる
提督「久し振りに右目も見たいな」
木曾「……」
眼帯を取ると色違いの目が出てくる
提督「見慣れてないからか、右目で見つめられると妙に緊張するな」
とは言ったが実際の木曾は視点も定まらず、本人は『もうわけが分からない』といった表情をしている
確かに今なら何だって出来るだろう
だがそれでは足りない
今はしっかりと理性を保っていて貰わないと困る
木曾「……」
提督「木曾」
木曾「……」
提督「おい木曾」
木曾「……」
提督「木曾!」
木曾「……!」ビクウッ
木曾「な、なんだよ……」
提督「お前は初めてだろ? 無意識の内に終わってました、なんて詰まらん話だ」
木曾「う……」
図星
提督「俺から目を逸らすな」
木曾「わ……わかった」
鬼畜
既に喋った単語を構成する呼気すら感じられるほどに距離は近い
抱き寄せ密着した部分から彼女の体温と鼓動を感じる
木曾の甘い匂いがする
提督「じゃ、いくぞ」
木曾「……」
彼女は頷く
身体が強張っているのが分かる
煙草の先を触れ合わせただけであれ程喜ぶ彼女は、
唇同士の場合どのような反応をするのだろう
徐々に近づける
木曾は言いつけを守り目を閉じていない
彼女の身体が微妙に震え始める
可愛い
普段の男勝りな態度と言葉遣いが嘘のように俺好みの女らしい仕草をする
食べてしまいたい
というか食べよう
うん決めた
今日食べよう
鼻息が唇に当たるほどに近づく
更に近づく
唇が震えで接触する程に近づく
あ
あ
…………
提督「……なーんてな」
俺は戦術的目標から遠ざかる
木曾「…………え?」
困惑
提督「……」
木曾「……」
提督「嘘に決まってるだろ。可愛い顔を見せて貰った」
木曾「……お、おまえぇぇぇぇ!!!!!!」
彼女は怒りに任せ手を振りかざす
まぁ当たり前か
木曾「…………」
提督「……」
木曾「止めだ! お前なんて殴る価値も無い! 俺から離れろ!」
提督「木曾」
木曾「何だ!!」
提督「お前の優しさは甘さでもある」
木曾「偉そうにするな!! 何でそんな事言われなきゃならないんだ!!」
提督「俺がお前の指揮官だからだ」
離れようと悶える彼女を抱き締める
木曾「やめろ! 俺を馬鹿にするのも大概にしろ!」
当然彼女は抵抗するが、何とか抑え込む
提督「俺の居ない場所で死ぬな」
木曾「またそうやって!!」
提督「死ぬな」
木曾「俺をからかって!」
提督「……死なないでくれ」
木曾「ふざけやがって……」
提督「お前が死んで他の奴らが帰ってきても俺は泣くからな」
木曾「……」
提督「他人が俺を信頼できなくなる程泣いてやる」
木曾「……」
提督「だから絶対死ぬな」
木曾「……遊びに行くんじゃねぇんだ。保証は出来ない」
提督「保証しろ」
木曾「子供かよ」
提督「お前の匂いも、温かさも、柔らかさも俺は忘れたくない」
木曾「……変態」
提督「結局お前は俺を殴らない」
提督「本気を出せば俺を簡単に吹き飛ばすことが出来たろうに、お前はそれをしない」
提督「優しくて、実に損な性格をしている」
木曾「……」
提督「お前のそういう所は嫌いじゃない」
提督「だが、これからは自分も大切にしろ」
提督「みんなを守って、自分も守ってこい」
木曾「……」
提督「……さっきの続きは、南方から帰ってからだ」
木曾「色々誤魔化してんじゃねぇ」
提督「バレたか」
木曾「アホ」
木曾「好き勝手しすぎだ」
提督「悪い」
木曾「ワリ食ってんのは艦娘なんだからな」
提督「反省している」
木曾「今日だって俺のこと散々オモチャにして」
木曾「良い話風にまとめてお涙頂戴かよ」
木曾「……」
木曾「……結局お前の思惑通りに動いてる自分が悔しい」
提督「チョロイな」
木曾「あーもーぶっ飛ばす。離れた時絶対ぶっ飛ばす」
提督「なら離れないでこのまま朝まで過ごそう」
木曾「……」
提督「そこで喜ぶから俺にチョロイと言われるの……分かってるか?」
木曾「ウガァァァァァァァ」
木曾「お前、瑞鶴にも似たような事してたよな」
提督「ああ、見られたんだったな」
木曾「浮気者」
提督「言い掛かりだ。俺は常に自分の気持ちに誠実であるだけだ」
木曾「誠実さを向ける相手を日によって変えるんじゃねぇ!」
提督「ははは。日によってどころか時間帯によって変わる時もあるぞ」
木曾「絶対帰って来る」
提督「……」
木曾「誰も死なせない」
木曾「だから待っててくれ」
提督「……ああ」
木曾「……」
提督「……」
木曾「お前、不安なんだろ。だからさっき途中で止めたんだ」
提督「……」
木曾「俺にだってそれくらい分かる」
提督「……」
木曾「提督、その不安の解消の仕方を教えてやるよ」
提督「……教えてくれ」
木曾「俺達を信じろ」
木曾「お前の作り上げた艦隊は普通じゃない。強い」
木曾「俺に保険なんて掛けなくていい」
木曾「ただ、俺達を信じろ」
提督「……」
木曾「分かったか?」
提督「……ああ」
木曾「なら良い」
提督「……」
木曾「……」
木曾「……もう離れろよ」
提督「あ、ああ。そうだな。すまん」バッ
木曾「……」
提督「……」
提督「……もう一本吸っとくか」
木曾「……ああ」
提督「ほれ」
木曾「どうも」
提督「火は?」ニヤニヤ
木曾「そっちの火はもう貰ってる。普通にライター貸してくれ」
提督「あー、くそ。そう来たか」
木曾「へっへ~~」
提督「何故か凄く悔しいぞ」
木曾「私達は成長するんだ。いつまでも主導権握れるなんて思わねぇこった」
提督「それは頼もしい御言葉だ」
煙草を咥え、軽く吸いながらライターで火をつける
初めて提督に貰った時には出来なかったのが懐かしい
煙草の先が燃え始めたのを確認すると、口の中に少し入ってしまった最初の煙を吐き出し
今度はゆっくりと深く吸い、燃焼させた煙を肺に入れる
喉の辺りで味がした
肺をタールで十分に汚した後で一気に吐き出す
よくよく考えれば、同じ煙草を吸っても人間の提督と、艦娘の私が同じ感じ方をするとは限らない
彼にとっての煙草の味は一体どんな味なのだろう
「なぁ木曾」
なんだよ。
「俺は、煙草は酒と同じ場を作る道具だと思っていた」
……。
「味はまずいが、吸う経験を誰かと共有出来る楽しみこそが嗜好品たる由縁なのだと」
「だが最近は味が好きで吸いたくなる。うまさが分かってきたのだろうか」
ニコチンの中毒性に当てられてるだけだ。人間が性欲と恋を勘違いするようなもんだ。
「お前、その例えは酷いぞ」
そうか?
「……適切かもしれんが」
なら良いじゃねぇか。
「以前酒は場を作るもので、不味いものだ、と師匠の前で言ったらたしなめられてな」
「それは狭量な見方だ、と」
狭量か。
「だから煙草のうまさが分かってきたのが嬉しかったんだが……そうか、ニコチンか……」
あはは。
「恥ずかしいな」
お前はいつも恥ずかしいよ。自覚が無いだけで。
この男は自分にとっての何なのだろうと考える時がある
恋人のような、友人のような、家族のような、
明確な答えは出ないが、この男の元へ帰りたいと今は思う
結論はそれからでも遅くは無いだろう
もしかしたら、それ以外の選択肢だってあるかもしれない
未来は、誰にも分からないのだから
小休止
大量更新お疲れ様です。
南方への出征が決まっても心配させまいとする第4管区メンバーのやり取り面白いです。続き楽しみに待ってます。
乙です
なんでいい話みたいに終わらせてんの乙
乙です
>>19
三隈に一度クリマンコと言わせてスマンカッタ
支援感謝
不定期更新に突入するので気楽に見て行ってね
無理のない範囲での更新楽しみにしてます。
突然ですが安価出します
出したい艦娘居たら言ってね
下五つまで
伊勢
安価すすまねぇなワロス
夕刻から書いてて結構進んだんで、今日の夜中に大量投棄します
夕張、明石は出すの確定してます
迷う、迷うけど高翌雄を
更新楽しみです。
まだ安価あるなら磯波ちゃん!!!
19
おっしゃ。出揃った。
文字数多いけど行くぜ
翌朝、提督は見送りの際に「ああ、行ってこい」としか言わなかった。
まるで簡単な遠征に行く時のように、さらりと述べて立ち去った。
だが不満を言う者は誰も居らず、羅針盤の切られた海路をひたすら南方へ、南方へと進んで行った。
今更確認するまでも無く、それぞれの使命に燃えていた。
現場は一日も早く増援が欲しいようで、各地に日向達の補給用の油槽船が用意されている程の高待遇であった。
自分達がどれだけ期待されているかが伺い知れ、同時に前線がどれだけ悲惨か憂慮させるには十分だった。
守備隊の居る島や補給船で、ローテーションを組み最低限の休息を取り南進した。
最早、南方へのルートも安全とは言い切れない。実際に何度か小規模な戦闘が起こっていた。
ようやくラバウル基地への移動が済んだ時、一行は既に疲れが溜まっていた。
4月6日
ラバウル基地に到着すると、即座にブイン基地へ移動するよう命令され、
三度程の戦闘を挟みながらブイン基地へ到着すると、休む間もなく現地の指揮官に呼び出される。
日向「旧横須賀鎮守府第四管区分遣艦隊、航空戦艦一、正規空母二、航空巡洋艦一、重雷装艦一、駆逐艦五、全員……いえ、全艦無事に到着しました」
ブイン司令「待っていたよ。遅かったな。話は南方総司令から聞いているだろう?」
日向「いえ、南方総司令からは何も」
ブイン司令「あれ? そうか、まぁいい。今から出撃して貰うのは……」
日向「……今から出撃ですか?」
ブイン司令「何か不満でもあるのかね」
日向「ここへの移動中の戦闘で艤装を損傷した者が居ます」
ブイン司令「損傷は大破かね」
日向「小破です」
ブイン司令「なら問題無い」
瑞鶴「はぁ!?」
ブイン司令「……なんだ。何か言いたいことがあるのか」
日向「瑞鶴、やめろ」
瑞鶴「御言葉ですが司令、我々は母港を出港してからまだ本格的なメンテナンスを受けていません」
瑞鶴「損傷が小破でも、我々は艤装の調整等が必要です」
ブイン司令「おい日向、お前の部下はどうなっている」
日向「申し訳ございません。叱っておきます」
瑞鶴「いや、おかしいでしょ! こんなの基本中の基」 日向「瑞鶴!!!!」
瑞鶴「……ッ!」
日向「司令官に口答えをするな」
ブイン司令「……何が艤装のメンテナンスだ。休もうとしている意図が見え見えだ」
日向「出撃前に燃料弾薬を補給させていただきたいのですが」
ブイン司令「ああ、それなら秘書艦に基地を案内させる。補給が済み次第出撃だ」
ブイン司令「吹雪、こいつらに色々見せてやれ」
吹雪「……こちらです」
ブイン司令「出撃が終わったら報告に来い。以上だ」
日向「はっ!」
瑞鶴「何アイツ……山内さんより感じ悪い」
基地の内部を移動する道中、瑞鶴はかなりご機嫌斜めだった。
日向「五航戦と三隈には言ってなかったな」
日向「私は横須賀鎮守府に転属で来たんだ」
三隈「クマリンコ?」
翔鶴「そうなのですか?」
瑞鶴「知らなかった……」
日向「だから色々知っている。ブインの司令官は極めて優秀な方だぞ」
そうは言いながらも目で先頭を行く吹雪の背中を見やり、何か言いたげである
吹雪「……」
日向「燃料弾薬をまともに補給して貰えるだけ有り難い話だ」
長月「なぁ……それよりさっきから気になっているんだが」
瑞鶴「どったの?」
皐月「うん……妖精と一人も出くわさないんだ」
瑞鶴「あ、確かにまだ見てないね」
基地と妖精はもはやランドスケープと言っていい風物詩であり、
各種メンテナンス要員として妖精の力は欠かせないものである。
出くわさない方がおかしな話なのだ。
日向「……吹雪さん。どういう事ですか」
吹雪「妖精なら出て行きました」
三隈「クマッ!?」
翔鶴「……それでは艤装の整備はどうするのですか」
吹雪「ここではする必要がそんなに無いんですよ」
日向「……」
瑞鶴「……えっ、いや、そういう意味じゃないよね? 冗談ですよね?」
吹雪「? 何故冗談を言う必要があるんですか?」
木曾「……こりゃとんでもない場所に来ちまったな」
曙「潜水艦怖がってる場合じゃ無かったわ……」
日向「具体的には何のルールを破ったんだ。多少の違反なら妖精は見逃すはずだ」
日向「妖精が基地から出て行くなど聞いたことも無い」
日向「……何をした」
吹雪「説明しなくても分かりますよ。もうすぐ食堂ですから」
吹雪「こちらです」
日向「……」
食堂に広がる光景はとても容易には信じられないものだった。
大勢の艦娘が食事の真っ最中だったが、その一部は明らかに精神異常を来していた。
雪風「えへ! えへへ!!」カンカンカンカンカンカンカン
翔鶴が以前見た雪風も十分病的だったが……スプーンを長テーブルに楽しそうに叩き付けている彼女は最早錯乱の域に到達している。
霧島「……」モグモグ
無言で食事をとる、明らかに大破した霧島の後ろでは、
霧島「榛名には負けられない……榛名には負けられない……」ブツブツ
綺麗な姿の霧島が何か呟きながらグルグルと歩き回っている。
団欒を楽しむ艦娘は一人も居ない。
共通しているのはどの顔も生気がまるで無い事位だろうか。
加賀「……」
その中で見覚えのある顔が一つあった。
翔鶴「加賀さん!」
奥の方で黙々と食事をする加賀に駆け寄る。
加賀「……五航戦」
翔鶴「加賀さんもこの基地へ来ていたのですね」
加賀「……私が来たのはもう随分前よ。貴女も着任したのね」
翔鶴「はい。今日到着しました」
加賀「あの男の艦娘まで前線に投入するとは……いよいよ終わりも近づいているのね」
翔鶴「……」
加賀「もういい加減終わりにすべきなのよ」
翔鶴「あの、赤城さんと飛龍さんは……?」
加賀「五航戦……それは誰?」
翔鶴「……」
日向「加賀、お前も居たのか」
加賀「あら日向、久しぶり」
日向「連れはどうした」
加賀「五航戦といい日向といい……私を誰かと間違えているんじゃない?」
加賀「私に連れは居ないわよ」
日向「……そうだったな。私達は今から出撃だからもう行く。またな」
加賀「久し振りに誰かと喋ったから少し楽しかったわ。じゃあ」
翔鶴「……」
日向「翔鶴、行くぞ」
吹雪「加賀さんとお知り合いなんですか?」
日向「昔一緒に戦った仲だ」
翔鶴「私は単冠で……」
吹雪「ああ、そういう……。加賀さんは貴重なベテランですよ」
吹雪「と言っても搭乗員妖精が居ないので出撃出来ないだけなんですけど」
長月「吹雪、赤城と飛龍はどこだ。加賀が居るなら当然あの二人が居るだろう」
木曾「……」
吹雪は歩きながら赤城の話を始めた
「何重にも張り巡らされた大型艦の防衛網を突破して輸送艦を送り届ける作戦が何度も行われました」
「輸送艦の為に羅針盤を切っての作戦でしたから敵の数が物凄いんです」
「戦闘部隊が先陣を切り、その後ろを輸送艦が進みます」
「本当に馬鹿みたいな程の厳重な防衛網ですから、失敗ばっかりだったんですけど」
「包囲陣を突破しかけた事がありました」
「面子は主力が赤城さん、加賀さん、それに金剛型の皆さんですね。あと二個水雷戦隊が護衛で付きました」
「流石ですよね、練度が今とは圧倒的に違いました」
「でも赤城さんが最後の最後でミスをして、大破しちゃったんです」
「加賀さんは撤退を進言したんですけど、当時の現場の最高指揮官だったショートランドの提督さんはそれを許しませんでした」
「次の戦闘で赤城さんは沈みました」
「包囲網は何とか突破してガダルカナル基地へ行ったんですけど、行ってみるともう完全に敵の手に落ちていてまた戦闘になって」
「グズグズしてる内に突破した穴を塞がれて包囲されて」
「結局輸送作戦が終わって帰ってきたのは加賀さんだけでした」
「飛龍さんはそれからしばらくして失踪しました」
「加賀さんは飛龍さんが居なくなってからあんな感じです」
吹雪「別に加賀さんに限った話じゃありませんよ。霧島さんも似たようなものです」
吹雪「ここじゃあ沈むのなんて日常茶飯事です」
吹雪「私みたいな駆逐艦なんて沈んでもカウントすらされません」
吹雪「作りやすいですしね」
日向「……」
吹雪「……私も久しぶりに他の方と話しました」
木曾「異常だ」
吹雪「今まで前線に駆り出されなかった貴女達の方が私にとって異常ですよ」
吹雪「見たところ装備も上質なものですし、本土防衛って良いですよね。まだ大義があるし、楽そうだし」
長月「……なんだと」
漣「長月、やめるです」
吹雪「誰も沈まないんでしょ? ぬるいですよ」
長月「それは我々が沈まない努力をしているからだ! お前……おかしいぞ?」
吹雪「……貴女達が強力に保護されていたのは事実ですよ」
吹雪「恥ずかしくないんですか、艦娘の皆が必死で戦っている時に本国でのうのうとして」
長月「不毛だ」
吹雪「……は?」
長月「自分と同じ奴隷に対して『お前は恵まれている』と叫ぶ奴隷は馬鹿だ」
長月「そんなこと言われても私は知らん。文句ならご主人様に言え」
吹雪「……」
日向「もうやめろ。これから仲間になるんだから仲良くしろ」
吹雪「……はい」
長月「……」
日向「案内してくれ」
弾薬庫
日向「燃料、武器弾薬は潤沢だな」
吹雪「優先的に回されてますから。敵潜水艦が居なければ本来もっと豊富ですよ」
日向「……どうせ相当沈められているのだろうな」
吹雪「……」
日向「にしても……まったくシステム管理されてない。荷揚げしたものを置いただけじゃないか」
吹雪「昔は妖精の皆さんが並べてくれたのですけど、居ないので」
漣「なら自分達でやればいい話じゃねーですか?」
吹雪「私は秘書艦の仕事がありますし、他の方はとても無理です」
日向「せめて口径順や戦闘用途事に並べておきたいな。こんな事に時間を取られる訳にはいかん」
日向「さて、これで一通り回ったが、何か言いたい事はあるか」
木曾「管理責任者を決めて兵站管理部門を作ればいい」
翔鶴「船団護衛の方にも力を入れるべきです」
長月「同名艦を運用するにも同じ場所で戦わせるべきじゃない。自我が未発達な者にとっては大きな負担だろう」
皐月「おぉ~、長月、それっぽいよ」
文月「それっぽい~」
長月「茶化すな馬鹿ども!」
漣「あ、ローテーションを組んで顔を合わせないようにすればいいです!」
吹雪「ちょ、ちょっと皆さん! 何を言っているんですか!? それは私達の仕事じゃ……」
日向「吹雪、艦娘はどうあるべきだ」
吹雪「……命令に従うべきです」
日向「違う。使命を全うする為に全力であるべきだ。そして使命とは敵を倒す事であり、その為には命令に従うだけでは駄目だと私は思う」
日向「私は、というか私達は、だな」
吹雪「……」
日向「私達はこの場所を変えてでも、使命を果たし必ず生き残る」
日向「……帰りたい場所があるからな」
吹雪「でも……司令官は艦娘の独断専行を嫌います」
吹雪「認められるわけありません!」
日向「それは心配ない」
吹雪「何でですか?」
日向「もうすぐ上司は変わる」
4月8日
ブイン基地 執務室
ブイン司令「いや、しかし……軍人の君に現場を任せるというのは……」
山内「聨合艦隊結成が承認された今、貴方は私の部下です」
ブイン司令「ぐぅ……」
山内「この際はっきり言ってやる。貴様のような文官はこのような場に相応しくない」
山内「本国行きの飛行機は手配してある」
山内「私の視界から今すぐ消えろ」
山内「私に従わず海路で帰りたいなら……ゆっくりするのもアリですがね」
ブイン司令「……戦後が楽しみだよ」
山内「そうですか」
ブイン司令「この恨み……忘れんからなっ!!」
バタン
長門「……いいのか」
山内「元々私に責任を押し付けるための承認だ。これくらいしてもバチは当たらん」
長門「……」
山内「……お前にも迷惑を掛ける」
長門「気にするな。私はお前の艦娘だ」
山内「……」
日向「あー、良い雰囲気の所悪いですが……良いでしょうか?」
長門「……!」ビクッ
山内「……ノック位したらどうかね」
日向「したのですが、返事がありませんでした」
山内「気が付かなかったよ。何か用かな」
日向「はい。聨合艦隊長官のブイン基地到着に際し挨拶を、と」
山内「日向君、君はそれほどお行儀が良い艦娘だったかな?」
日向「長官は私を何だと思っておられるのですか。実は、艦娘運用について提言があります」
山内「本命はそちらか。聞こう」
日向「こちらの冊子を読んで頂きたい」
山内「……ほう」
日向たちが作成した
『ブイン基地、ラバウル基地及びトラック泊地における艦娘運用について』
と題される提言書の骨子を要約すると以下のようになる。
現状の問題点
イ)南方戦線において作戦従事する大半の艦娘の練度は、任務遂行に支障をきたす程低く、戦いにならない。
ロ)最前線であるブイン基地では妖精整備員、妖精技術者、妖精搭乗員が存在せず艤装や兵站の運用に齟齬が発生している。
ハ)南方戦線への物資輸送船団の航路は常に危機に晒されており、損害は平均で一回の輸送での物資総量の40%に相当する。
ニ)南方戦線全体での艦娘失踪率は総着任数の6%と非常に高い数値である。
問題点の解決策
イ)についての提案
『練度』『レベル』と呼ばれている目に見えない艦娘の抽象的な戦闘力が存在していたが、
今後は戦闘ごとに艦娘の報告と戦闘データを基に、戦果を『経験値』に換算し、
『経験値』の一定の蓄積を数値化した明確な『LV』による練度到達度を設定する。
これにより目安が生まれ、投入する戦場に見合わない『LV』の艦娘による無謀な戦闘が発生しなくなる。
※追記 艦娘の『LV』向上の為に計画的な戦闘を行う教育プログラムを作成すべきである。
ロ)についての提案
甲案 妖精と解決策を話し合い、譲歩し、以前の状態へ戻す。
乙案 基地の自力運用体制を確立するために、艦娘や人間による計画的運用組織を作る。
ハ)についての提案
・現状の損害は無視できるものでなく、海上護衛部門を作り船団護衛のノウハウを確立し、航路の安全を確保すべきである。
ニ)についての提案
・艦娘の精神面での負担に対応する為のバックアップ体制を確立すべきである。
「随分と大雑把な提言書だな」
「私達の戦場は海ですから。政治と書類の戦いは人間の皆様にお任せします」
「よくそんな台詞が出てくるものだ」
「恐れ入ります」
「しかし……イへの対応策、面白いな」
「はい。今回だけでなく、今後も活用できる制度になると思います」
「練度へ明確な基準があれば、完全にとは言えませんが無用な被害を抑えることが出来ます」
「今までも戦功賞MVPと呼ばれるものがあったが……これは艦娘の自尊心を満たす程度のものだったな」
「戦闘戦功賞の者は経験値を2倍にするのはどうでしょう」
「面白いな。そうやって差別化するか」
「実は他の狙いもありますが……その説明の前に長官にお聞きしたい事があります」
「長官はこの基地に妖精が居ない事はご存知ですか」
「ああ、正直異様だったよ」
「……その原因についてお話しします」
「まだ妖精から詳しく話を聞いた訳では無いので断言は出来ませんが」
「彼らが愛想を尽くしたのは人間の艦娘運用体制が杜撰だったからだと睨んでいます」
「ここは、新人艦娘であれば戦闘後も補給や入渠を碌に行わず再び出撃させています」
「新人は8海戦後には失踪艦含め94%が消えています。ベテランが育つわけがありません」
「生き残ったのは司令官に気に入られた者です」
「当然、指揮官は全ての艦娘への愛情など持ち合わせていません。皆さぞ辛かったでしょう」
「更に協定で禁止されている同名艦の同じ戦場での運用を公然の事実かのように行っています」
「調べていて『蠱毒』という言葉が浮かんできました」
「……なんという事だ」
「現状についての説明は確実なものです。証言も得ています」
「正直な自分の意見を言っても宜しいでしょうか」
「……構わん。言いたまえ」
「現状で大規模反攻作戦は不可能です」
「……」
「ガダルカナル基地のみでなく、ショートランド泊地も陥落しました。敵が次に狙ってくるのはここです」
「羅針盤を活用した防御的な体制なら時間も稼げるでしょうが」
「羅針盤の機能を切っての大規模反攻など、死期を縮めるだけの愚策です」
「……他にも補足はあるかね」
「はい。ロ)への提案ですが、私は乙案を推します」
「ほう」
「徐々に強力になる敵の攻勢に耐える為にも、同名艦であろうと運用する必要が今後出てくる筈です」
「現状の運用方法では、上手く南方は守れても、艦娘の数が少ない本国が守れない。またその逆も然りです」
「同名艦を複数運用できれば、そういった問題が解消されます」
「しかしこれにも問題点があります」
「艦娘の大幅な増加により、現状でも大きな制限になっている戦略資源問題がよりシビアになります」
「艦娘の精神面への影響も看過出来ません」
「それに、妖精との約束を国が公然と破る事になります」
「これから言うのは三つの問題に対する私の、私達の考える対応策です」
「戦略資源問題はシビアですが、複数運用できるのであれば海外派遣なども視野に入れられます」
「今度こそ本格的な政治カードとしての艦娘運用が可能になり、資源的な援助も期待出来るのではないでしょうか」
「艦娘への精神面の影響ですが、同名艦の運用は自我崩壊の危険を伴います」
「根本療法として出来る限り同名艦同士の交流を持たせない事」
「また、対症療法としての神道による確固たるバックアップ体制の確立」
「加えてLVによる艦娘の個体の差別化がメリットとして働くのではないかと考えています」
「要は艦娘のアイデンティティを確立させてしまえば良いのです」
「その為には直属の上司である存在、艦隊の司令官との触れ合いも重要です」
「今までのように兵器でなく、パートナーとしての艦娘に接させるべきです」
「最後に、妖精がこの基地での職務放棄という形で我々のルール違反に制裁を行うと判明した以上」
「全域で同名艦の利用を行えば全域での全面的な消極的サボタージュが発生する可能性があります」
「彼らの持つ特殊技術は彼らの武器です。今回の職務放棄は彼らなりの我々への攻撃です」
「攻撃を止める方法は、和睦か、撃滅かです」
「出来れば和睦が良いですが、同名艦利用についての同意が不可能ならば撃滅しか道はありません」
「撃滅という言葉が指し示すのは、妖精の皆殺しでなく彼らの武器の破壊、つまり特殊技術の獲得です」
「難しい事は重々承知です」
「ですが彼らの武器を無効化する事が出来れば人間が妖精より優位に立つ事も可能です」
「工作艦や、艤装整備の得意な手先の器用さを持った艦娘も居ますから、しばらくは彼ら抜きでも戦える体制が確立できます」
「完全譲歩の和睦はそれからでも遅くはありません」
「妖精と人間の関係性が対等からより人間側に都合の良い方へ変化すれば、上層部の妖怪方も歓喜するでしょう」
「南方戦線は人間の新たな挑戦の場として価値があると思います」
「よって、私は乙案を推します」
「……実に分かりやすかったよ」
「恐れ入ります」
「妖精との約束である同名艦の扱いについては、彼らからの強い要望で盛り込まれたものだ」
「実際、敵に反攻を受けたこの大切な時期に基地から居なくなる程だ」
「……相当嫌なのだろう。譲歩は難しいと考えておいた方が良い」
「日向君、仮に妖精との和睦にも失敗し、君の言う撃滅も失敗したらどうなる」
「全て終わりです」
「……」
「和睦に失敗し、技術の導入にも失敗すれば、この基地の艤装は共食い整備をするしかありません。いずれ戦えなくなります」
「……」
「そして、仮に妖精の条件を呑んで和睦した場合、日本は緩やかな死を迎えます。もはや聨合艦隊一揃え程度で敵の侵攻は食い止められません」
「……」
「死ぬのが早まるか、遅くなるかの程度の違いしかありません」
「人類がこれからも海と共に在りたいのなら、私が提案したプランしか無いと思います」
「……聨合艦隊による反攻が議会で承認されたが」
「具体的にいつ反攻を開始すると決まったわけでは無い」
「聨合艦隊が組織されている限り私が最高指揮官であり、全ての権限は私にある」
「日向君、実に面白いじゃないか」
「この挑戦は私の命を賭ける価値がある」
「私は君達の提言を全面的に受け入れるよ」
「……ありがとうございます。長官」
「民意が聨合艦隊を支持する限り総理大臣でも我々に手を出せん」
「逆に言えば、民衆の支持が無くなった時が我々のリミットだ」
「……やってやりましょう」
「その意気だ日向君、ではまず何から手を付ける」
「艦娘はこちらで手配しますが、人間の技術者が一刻も早く欲しいです」
「となれば航路の安全か」
「はい。今の所考えているのが大まかに兵站部門、海上護衛部門、艦娘運用部門、教育部門、基地防衛部門、艤装修理開発部門の六部門の設立です」
「まずは基地防衛と海上護衛を優先して組み立てましょう」
「人も物も時間もかかるな」
「ひとまず今は走り出すしかありません。多少の無理は覚悟して貰いますよ」
「ふあっはっはっは!」
「まさか艦娘にそのような事を言われる日が来るとはな」
「まっこと人生は面白い! 望むところだ!」
4月9日
武器庫
長月「おい! だからここは右から順に小さい口径順なんだ! 適当に置くんじゃない!」
卯月「えぇ~~めんどくさいぴょん。取る時に見ればいいぴょん!」
長月「ぴょんでも、でちでも、イクでも何でもいいから言った通りに並べろ~~!!」
弥生「ふぅ……」
長月「だぁ~~! だから弥生! ここは砲弾置き場だから! 主砲は置くな!」
皐月「長月張り切ってるな~~。兵站部門代表になったのそんなに嬉しかったのかな?」
文月「長月ちゃん楽しそう~~」
長月「まったく~~! お前らは私が居ないと本当に何もできないな~~!!」ニヤニヤ
ラバウル・ブイン間連絡海域
日向「よーし、今日が私達の最初の仕事の日だ。海上護衛は基本中の基本だからな。気を抜くな」
那珂「いぇーい!」
神通「……」
阿賀野「……」
川内「……」
五十鈴「……」
日向「返事はどうしたぁ!!!!」
「「「「……!」」」」ビクッ 「日向さん! スマイルスマイル~~!」
日向「お前達を引っ張ってきたのは他でもない」
日向「潜水艦狩りの水雷戦隊の長として期待しているからだ」
日向「私は海上護衛部門の、潜水艦狩り代表としてお前らを指導する」
日向「今までお前達がどんな経験をしてきたかは知らし、私には関係がない」
日向「だがお前達の使命は戦う事だ! 私がそれを思い出させてやる」
日向「覚悟しておけ!」
「「「「……」」」」 「イェーイ!」
日向「返事はどーしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「「「「は、はいっ!」」」」 「イェ~~イ!!」
同海域
瑞鶴「私達は主に敵の海上艦から航路を守ります」
磯波「……」
霧島「……榛名」
高雄「……」
「……」
「……」
瑞鶴「は、張り切っていきましょ~~!!」
瑞鶴(大丈夫なのかな……私……)
執務室
翔鶴(えーっと、ここで戦闘をすると疲労が溜まっているだろうから……)
翔鶴(休憩を挟んで、この時間帯でまた……)
翔鶴(うん、行ける。運用できる艦娘の数が段違いに多いから交代制が機能する)
翔鶴(でも……)
翔鶴「長官」
山内「どうした、翔鶴君」
翔鶴「時間ごとのローテーションにより疲労の問題は無いのですが……諸物資が……」
山内「燃料弾薬はとりあえず、この一週間は度外視していい。全力で動かしてみてくれ」
山内「基地全体の雰囲気を良くするための試用期間だ」
山内「最悪、ラバウルやトラックからおすそ分けして貰えば良い」
翔鶴「……了解しました。長官、この計画を絶対に成功させましょう」
山内「期待しているよ、艦娘運用部門代表さん」
ブイン基地 基地近海
三隈「皆さんにはこの三隈が砲撃、雷撃、航空戦……は今は需要がありませんが、これらの基本の全てを教えて差し上げます」
三隈「くれぐれも、聞き逃しの無いように」
三隈「また、私達は緊急時の応急部隊でもあります」
三隈「心は常に戦場にあると考えなさい。では、まず最初に砲撃から――――――」
三隈(教育部門代表として、名に恥じぬ活躍をして見せます!)
吹雪「……」
ブイン・ショートランド間連絡海域
長門「いいか! 私達の任務は全ての中で最も危険度が高い!」
長門「だが、この長門が居る限り! 何も恐れることは無い!」
長門「基地防衛部門代表として、私は責務を全うする所存だ!」
長門「だが、これからの時代の艦娘はただ敵と戦うだけでは駄目だ!」
長門「三隈に教育を受ける時や海上護衛をする時間も同じように大切にしろよ!」
長門「プライベートの時間もだ!」
「「「「「……」」」」」
ブイン基地 ドッグ
時雨「えー、という事で夕張さんと明石さんに艤装修理開発部門を盛り立てて頂きたいんです」
夕張「えっ!? 自由に開発していいの!?」
時雨「えー、そうですね。完全に自由ってわけじゃ無いですけど……ある程度なら」
夕張「やったぁ! ありがとう! 時雨さん!」
時雨「いや、僕は伝えてるだけだから……。感謝なら長官にして下さい」
夕張「今までは私の開発品の価値が分からない司令官ばかりだったけど……聨合艦隊長官……素敵です……」
明石「うーん。私も感覚的に修理してるからねぇ」
時雨「それでもいいです。少しでも法則や、決まり事を発見したらすぐに知らせて下さい」
明石「分かりました。頑張ります」
夕張「私も頑張ります!」
ブイン基地 電算室
加賀「……」
漣「えーっと砲撃でクリティカルヒット出した時の経験値をこう設定すれば……」
漣「あー何だか雷撃とのバランスが悪くなっちゃいます」
漣「……面倒なので全部一括で設定しちゃえば……」
漣「あーでも戦艦が居る時は砲撃を二回するし雷撃とのバランスはやっぱり……」
漣「……」
漣「うがぁーーーーー!」
加賀「……手伝います」
漣「……加賀さんマジ天使」ボソッ
加賀「……?」
ブイン基地 談話室
木曾「……」
雪風「……」
木曾「……なぁ」
雪風「ユキカゼッ!!!!!」
木曾「!!!」ビクゥ
雪風「イヒヒヒヒ!!!」
木曾「……」ドキドキ
木曾(日向さん! どう接しろっていうんだよ!!)
木曾は予備戦力として待機していた。
小休止
乙です。
怒濤の更新、反撃の準備は読んでいて盛り上がります。
リアルをがんばりつつ、また続きを楽しみにしてます。
自演するなら句読点外すとか工夫すればいいのに
乙です
折角感想書いてくれた人まで巻き込むなボケ
乙デース
そういうのは無視するのが一番だよー
真面目に読んでくれてる人が次書きにくくなるようなレスはNG
支援感謝
この手の煽りには動じないので大丈夫です。ありがとうございます。
乙カレーsummer
4月11日
ブイン基地には厚いコンクリートと特殊合金の複合物が積層され厳重に守られた場所がある。
その人工的に作られた地下三十メートルの空間で駆逐艦達がせわしなく働いている。
武器庫
「運搬用エレベーターが来たな! 送られてきたリスト通り急いで積み込むぞ!」
地上から求められた武器弾薬は大小予備含め6つのエレベーターによって地下から運び出される。
といっても整備点検の関係で稼働しているのはその内3つなのだが。
「毎日毎日量が多いぴょん回数が多いぴょんもう疲れたっぴょぉぉ~~ん!!
「これは少しばかり駆逐艦を増やした程度じゃ効果が無いね」
「愚痴を言うな! もっと武器の置き場や運び方を効率化してマニュアル化して誰でもこの作業が出来るようになれば交代出来る!」
「いや、それどんだけ時間かかるっぴょん!!」
「でも長月、ボク達は作業で忙しいのに一体誰がマニュアル化してくれてるんだよ?」
「弥生に一任してある。何か気付いた事があればあいつに言うんだ」
「弥生ちゃんならそこで……」
「……」Zzz
「寝るなーー!! 働けーー!!」
ラバウル・ブイン間連絡海域
日向「警戒行動中のカ号から報告、ブイン海域20-17で敵らしき艦影を水中に認む」
日向「数は4」
日向「あー、ブイン基地司令部聞こえるか。こちら海上護衛部隊、旗艦の日向」
潜水艦狩りは簡単である。
イルカが小魚を狩る要領で水上艦の速さを生かし敵を包囲し、爆雷を投下すれば終わりだ。
深度設定等は完全に勘に頼るため、こればかりは経験がものを言う。
日向「司令部への通報は完了した。該当海域までの最短ルートの羅針盤も切って貰った」
日向「……仕事の時間だ。いくぞっ! 敵を逃がすな! 総員、私に続け!」
「「「「了解!」」」」 「イェーイ!」
敵潜水艦は足が遅いため見つけてしまえばこちらのものだ。
日向「晴嵐隊、後はこの前の手順でいい。先陣は任せるぞ」
「まっかせとけよ日向ちゃん! 俺が良い感じに追い込んどいてやるから!」
日向「頼もしいよ」
「うひひ! オラ! お前ら発艦だ!」
元々ブイン基地に所属していた妖精搭乗員は誰一人残っていないかったが、
日向達と一緒に転属となった搭乗員たちは『いや、それはブインの妖精の話だろ』と共に戦ってくれている。
……第四管区に居た妖精技術者や整備員を連れて来れば現状の問題は全て解決するのではと少し思ったりもする。
いや、そんな都合良く物事が進むわけが無いし、いつまでも妖精に頼るわけにはいかない。
これは艦娘を取り巻く環境と、艦娘自身を変えるための挑戦でもあるのだ。
10分ほどで敵潜水艦の存在すると思われる海域に到着した。
単なる直線なら一番遅い私でも60ノット超を出せるのだから、到着もあっという間だ。
勿論、秩序だった艦隊運動をする最大戦速とイコールではない。最大船速では舵の利きが最低になる。
日向「那珂、五十鈴、阿賀野」
「「了解」」 「イェイ!」
既に先に飛ばした晴嵐が大まかな爆撃により敵を攻撃している最中だった。
円形を描きつつ包囲するためにチームを二分した。
日向「……! 前方から雷撃! 数8!」
その直後、放射状に8本の雷跡が悪意をもってこちらに近づいて来るのが見えた。
苦し紛れの攻撃である。
潜水艦というのはその性格上、敵に発見された時点で半分沈んでいるようなものだ。
私は適切な退避行動をし、私の動きについて来た者は容易に避けられた。
というか普通に考えればこんな雷撃に当たるわけが無いのだが……。
日向「阿賀野! その位置では避け切れないぞ!」
阿賀野「えっ……?」
敵の魚雷は癖のある動きをする。目標の近くに来ると、
阿賀野「うわっ! 魚雷の中から……」
日向「もう間に合わん! 艤装を盾にしろ!」
子魚雷を放出して高速移動する目標に少しでもダメージを与えようとする。
阿賀野「い、いやっっ!!」
阿賀野は右側の艤装を盾にして子魚雷を受けるための盾とした。
子魚雷と言っても雷撃機が装備するレベルの魚雷の威力があり、場合によっては無視出来ない損害を生む。
一体あの小さい魚雷には何が詰まっているのか、と問い掛けたいほどに凄まじい水柱が何本も生じた。
日向「阿賀野! 無事か!」
阿賀野「はい……何とか無事です……」
雷撃は見た目は派手だが、直撃でなく近接信管が作動しただけの場合が多い。
今回もそのケースのようだ。だが、それでも阿賀野の艤装は中破していた。
恐ろしさが窺い知れる。
日向「阿賀野は回避行動をしていろ。残りは狩りだ」
「「「了解!」」」「イェーイ!」
皆も既に知っているように、私が得意なのは砲撃戦だ。
だが、個人的な話をさせて貰えば、対潜が一番好きだ。
日向「私の指示データを受け取れ!」
どの深度に潜んでいるか分からない土竜を炙り出す作業が私は好きだ。
対潜攻撃では主に旗艦が爆雷の深度設定を決め、旗下の艦娘に役割分担をし、攻撃を行う場合が多い。
今回も例外ではない。
自慢ではないが私は上手に設定が出来ていると思う。
爆雷は炸裂時、全周囲に衝撃を放つ。
従来は同深度に複数個の爆雷を投下し、海中の面の攻撃により敵を圧迫する。
だが私は違う。
私が作り上げるのは敵潜水艦を収める水中の籠、檻、大きな大きな球形体。
面ではなく立体で、敵が潜んでいると思われる海域を丸ごと包み爆破する。
外側から順に起爆し、球の中央に行くほど圧力は高まる。
確実に中身を押し潰す。
日向「……5、4、3、2」
旗下の艦娘達は、指示通りに爆雷を投下した。急いで投下場所から距離を取り成果を待つ。
日向「……1……0」
水中での爆発音
それに遅れる形で水上に大きな水柱が立つ。
圧力で水上に巻き上げられ、水柱を形成していた海水がシャワーのように降り注ぐ。
五十鈴「うわ……」
那珂「爆雷ってすっっごいねぇ!」
それぞれ距離が離れているが、通話装置越しに感嘆の声が漏れ聞こえる。
日向「そうだろう」
那珂「私の方が凄いけど!」
日向「那珂、さっき阿賀野が損傷したのは先導するお前の避け方が甘かったからだ。後で説教な」
那珂「えぇ~~!?」
阿賀野「……」
那珂「あ、アイドルは皆を笑顔にする為に苦労する義務があるからね! 仕方ないよね!」
神通「……」クスッ
川内「あっ、日向さん! 神通が笑いました!」
神通「えっ!? いや、いまのはその、ちが」
川内「笑った笑った~~!!」キャッキャッ
那珂「神通まで……許さないぞ☆」
日向「おい、今日は遠足に来てるわけじゃ無いんだぞ」
日向「周囲に敵が居ないとも限らない。周囲の確認は怠るな」
日向「戦果確認もまだだ。私達は何も済ませてはいない」
日向「戦場で油断すれば死ぬ」
「「「「「……」」」」」
日向「ま、油断せず楽しむ分には何も問題は無い」
日向「神通、後で何が面白かったか聞かせろよ」
神通「えっ、あ…………はい」
那珂「那珂ちゃんスマイル!」
日向(話のオチとしても那珂は優秀だな……今後活用しよう)
衝撃の逃げ場のない水中で爆雷は恐るべき威力を発揮し、攻撃を食らった敵潜水艦は粉々になる。
「どうだ。三式水中探針儀に反応はあるか?」
「……もう……何も反応は無い……です」
「……波の音の方が大きいわ」
「……うん」
「お前達よく覚えておけ。これが敵の居ない静けさだ」
「航路のあるべき姿だ」
「我々の海上護衛の目的で、我々の勝ち得た悦びだ。ただ只管に、この静けさを求めろ」
「……どうだ? 最高に気持ちが良いだろう」
「「「「「……」」」」」
私は戦闘が終わった後に必ずこれを言う。
艦娘の脳に刷り込むかのように、同じ話を同じ構成で何度も何度も繰り返す。
最初は皆「この航空戦艦は何を言っているんだ」という顔をしていた。
だが、繰り返すごとに聞いた後の表情が少しずつ変わって行くのが分かった。
刷り込みは確実に成功している。
これでいい筈だ。私は間違っていない筈だ。彼女たちの為なんだ。
本当に静かだ
この静かな海で自分が戦っている事など忘れてしまいそうな程に
波の音がする
磯の香りする
……
海の匂いはしなかった
小休止
一旦乙です
乙です。
この日向の常にまとう危うさが病みつきです。
今までの話全部を通して言える事ですが、
わざと変えている細かい部分と、うっかり間違っている部分が混ぜ合わされて滅茶苦茶ですね。
これも愛嬌だと思って見守っていただければ幸い。
那珂ちゃんの「爆雷凄い」発言は、初めて見たから出た台詞じゃないです。やっぱり凄いとか、感嘆みたいなものです。
支援感謝。
同海域
瑞鶴一行もまた、敵水雷戦隊と交戦状態に入っていた。
霧島「死ね! 死ね! 死ね!」ドンドンドン
瑞鶴「霧島さん撃ち過ぎです!」
霧島「うるさい!!!」
高雄「……」ガン! ガン!
瑞鶴「高雄さんも……その、やたらめったら主砲を撃つのは……」
高雄「あ、はい、何か私に御用でしょうか」ガンガンガン
瑞鶴「……いえ」
「魚雷ってもう発射して良かったっけ?」
磯波「さ、さぁ?」
「もう少し近づいてから……だった気がする」
瑞鶴(もぉぉぉ!! みんな好き勝手に撃ってるだけじゃない!!!)
瑞鶴(というか練度低すぎぃ!)
瑞鶴(いや練度以前の問題と言うか……獣の群れ以下じゃないかなこれ)
瑞鶴(私も艦載機を発進させたいけど、妖精が居ない今、艦載機の補給が今は出来ない)
瑞鶴(もどかしい……)
ブイン基地 ドッグ
「駆逐艦が主砲の直撃を食らって中破です」
明石「艦娘本体はナノマシン入りの修理バケツぶっかけておけば大丈夫!」
明石「それより艤装は!? 艤装は無事なの!?」
「ぎ、艤装の事はよく分かりませんが……これです。あ、主砲の砲身が曲がってますね」
明石「ギャァァァァァァァ! 完全にご臨終じゃない!!!!」
明石「……これ誰が直すの?」
「明石さんの所へ行けと長門さんに……」
明石「アハハハハハ! ですよねーー!」
「魚雷で中破した軽巡が居るんだが、艤装を頼む。また出撃するから早いと嬉しい」
明石「アババババババ」
ブイン基地 ラボ
夕張「燃料と、弾薬と、鋼材と、ボーキサイトをこれこれこれこれだけ用意して」
夕張「妖精さんが残して行った2000個くらい在庫のある謎の黒い物体を用意します」
夕張「これらを妖精さんが使っていたブラックボックスだらけの開発装置に入れて」
夕張「スイッチオン!」ポチッ
夕張「すると装備の開発が出来る事が分かっています!」
夕張「……でも」
開発装置「ガタガタガタガタガタガタ」
夕張「……」
開発装置「25mm三連装機銃」
夕張「これで全部で298回目の実験です。三連装機銃は21個目」メモメモ
夕張「何で入れる度に違うものが出てくるかなぁ」
夕張「開発装置に何入れればいいかも、謎の黒い物体どうすればいいかも最初分からなかったわけだから進歩だとは思うけど……」
夕張「……」
夕張「あれ……でもこれって……さっき書いた実験メモどこだっけ」
夕張「あー、えーっと、あった! これこれ!」
夕張「……」
夕張「やっぱり」
夕張「この素材の量だと三連装機銃がよくでてる」
夕張「これ……法則というか何か傾向があるのかも。上手く行けば狙った装備が……」
夕張「……」
夕張「うぉ~~! 俄然燃えてきました!」
ブイン基地 談話室
木曾「……」
雪風「……」
木曾「……」
雪風「ユキカ」木曾「キソーーーーー!!!!!」
雪風「!!!」ビクッ
木曾(へへっ! 勝った! 勝ったぜ!)
雪風「ゆ、雪風は沈みません……」オドオド
夜 ブイン基地 執務室
山内「今日で三日だ。時間が勿体無いから、食事をしながらそれぞれの部門の問題点や改善点について話し合おう」
日向「海上護衛部門の潜水艦狩りは中々好調だ。もうすぐ一人前の狩人が出来上がるぞ」
瑞鶴「水上艦狩りは逆に調子が悪いです。練度が低すぎます。今日も私が撃退したようなものです。補給出来ない艦載機が減っちゃいました……」
三隈「教育部門は出来る限りの事はしています。基礎の養成という目的なら、十分に達成できているのでは無いかと」
翔鶴「艦娘運用部門は恙なく時間割を組んでいます」
長月「兵站部門は人手が足りん。もっと寄越せ。燃料弾薬が物凄いスピードで減っているが分かっているだろうから何も言うことは無い。艦娘運営部門に任せる」
長門「基地防衛部門は問題ない。守り切っている。ただ、今は我々が攻撃を仕掛けなくなった事に敵側が混乱しているのだと思う」
長門「混乱が治まれば、敵の攻撃が熾烈になって来る事は容易に想像できる」
漣「加賀さんが手伝ってくれたお陰で作業が進みました。経験値の演算方法は確立済みですよ!」
夕張「艤装修理開発部門の開発担当では、妖精の残して行った開発機械の利用法を探っています」
明石「……修理部門では……死にそうです……」
山内「……修理部門の明石君、大丈夫か?」
明石「確かに私にも修理機能はついています。しかし、それ程過大評価されても困ります」
明石「あくまで応急修理レベルの修理機能なんです」
明石「1000万分の1の精密さが求められる作業を100万分の1の力を持った者が行っているようなものです」
明石「見た目では分からないかもしれませんが、すぐにボロが出ます」
明石「修理部門の代表者として進言させて頂きます」
明石「妖精と一刻も早く和解すべきです。このままでは大変な事になります」
日向「駄目だ」
明石「貴女は黙っていなさい! 私は聨合艦隊長官に進言をしているの!」
日向「和解して、それでどうなる」
明石「また戦う事が出来ます!」
日向「その戦いの先に人間の勝利は無い」
明石「何故断言できるのです!?」
日向「敵の攻勢は強まる一方だ。脆弱だった装備も徐々に改善されている」
日向「今日の敵が明日も同じ強さだとは限らない」
日向「敵に数と質が揃えば我々に勝ち目はない」
明石「我々だって、明日も今日と同じ強さではありません!」
日向「そうだな。弱くなっているかもしれんからな」
明石「ふざけないで!」
明石「長官、言いにくい事実ですが現状のままでは……ブイン基地陥落という事態もあり得ます」
明石「長官! 御決断下さい! こんな挑戦は無謀です!」
山内「……」
山内「明石君……私も日向君と同意見だ」
明石「……そんな」
山内「君には苦労を掛けるが……騙し騙しでもいい、修理してくれ」
明石「…………はい。分かりました長官閣下」
山内「漣君、長門、三隈君、翔鶴君はご苦労だった」
翔鶴「この一週間を超えた先の、どの役職の代表でも無い木曾さんを例に予定を組んでみました」
翔鶴「ご覧ください」
日向「ほう……」
漣「午前中は海上護衛、昼食を挟んで基地防衛、夜は教育部門と兵站管理のお手伝い」
三隈「次の日の午前は自由時間、午後から海上護衛と……今度は教育を受ける側に回るのですか……夜は基地防衛、夜勤もですね」
長月「その次の日は一日休みか……まぁ兵站管理の手伝いをして貰おう」
翔鶴「部門代表の方は、より圧迫された分刻みのスケジュールになってしまいますが」
翔鶴「そうでない一般の艦娘は、これが平均的なものであるとお考えください」
長月「二日働いて一日休みか」
翔鶴「基本的に肯定です。兵器としては過剰待遇に見えるかもしれませんが、今後はこれが常識になっていく筈です」
翔鶴「休みと言うのは適切ではないかもしれません」
翔鶴「その日は、違った形で戦いを支えたり、戦いに役立つ事をして貰うのですから」
日向「今までのように暇では無いな」
漣「別に今までも暇じゃなかったです。主力の皆様を私達が影から支えていただけです」
日向「耳が痛い」
長門「それに加え、妖精がやってくれていた事まで自分でやるんだからな。忙しくて当然だ」
瑞鶴「戦うだけじゃ無くて、教育を受ける時間が多く設けられているの面白いです」
翔鶴「知性も敵には無い艦娘の大きな武器です。それを有効活用するのは当然です」
瑞鶴「……当然だけどあくまでそういうスタンスの教育なんだね」
三隈「長官、瑞鶴さんの海上護衛艦隊の面子を私が教育を済ませた方々と交換してはどうでしょう」
山内「うん。許可する」
瑞鶴「正直助かります……」
三隈「実践出来るかどうかはまた違った話になりますから、覚悟はしておいて下さい」
長門「三隈、私も砲撃指導を受けたいのだが」
三隈「長門さんが受けても徳になる事は何もありませんわ」
長門「いや、私は誰かに教わったことが無いから……きっと多くを学べると思う!」
三隈「それなら構いませんが……」
三隈「あ、今のところレベル別の指導などを考えていますわ」
三隈「初級、中級、上級等コースを設けてその振り分け基準にレベルを用いる予定です」
明石「長官、私の同名艦の……在庫があれば連れて来て下さい」
山内「……在庫などという言い方は止めたまえ」
明石「何でも良いです。長官がお決めになった以上、私はそれに従い戦うまでです」
山内「……」
日向「心配するな。既に知り合いに四体ほど頼んである」
明石「だから何で貴女がしゃしゃり出てくるわけ!? というか既に頼んでるんですか!?」
日向「海軍の中で工作艦は君だけだ。今日だって阿賀野の艤装を修理してくれて助かった」
日向「ありがとう」
明石「……」
日向「君の必要性も人並以上に理解しているつもりだ」
明石「……日向さんに感謝されるまでも無く、私は長官に従うだけです」
山内「明石君、ありがとう」
明石「こ、これしか出来ないのでお気になさらず……」
日向「照れるなよ。弱みを見せれば男はつけあがるぞ」
明石「うるさいっ!」
山内「他に言う事がある者は居るか?」
漣「明日から早速『LV』制を本格稼働させて行くです」
山内「計測方法等は大丈夫か?」
漣「戦闘データを見せて貰えば大体分かりますから、帰投したその場で出せます」
日向「あ、それに補足という形で付け加えたい。我々は戦闘データを共有すべきだと思う」
日向「貴重な経験だ。それを共有できれば尚いい」
日向「といっても艦娘ネットワークは人間と共有出来ないからなぁ……」
夕張「艤装を通じて繋がってる艦娘ネットワークのデータを、外部に保存したいって事ですか?」
日向「ああ。保存して、かつ人間も見られるような形にしたい。理想は、だがな」
夕張「この前作った作品の中にそんなのがあったと思います」
日向「……嘘だろ?」
日向「百歩譲って外部に保存は可能だとしよう」
日向「だが、戦闘データなんて人間が見れば意味不明な数字の羅列にしか見えない筈だ」
夕張「それが私達には映像として認識出来るわけじゃないですか」
夕張「人間が映像に見えるよう変換してやれば良いんですよ」
日向「……出来るのか?」
夕張「はい。出来ました」キッパリ
長月「艦娘世界は広いな……」
翔鶴「この基地に来てから驚きの連続で少し疲れます」
山内「君達が見ているものは私も是非見てみたい。早速導入しよう」
漣「じゃあ、経験値を測る時に戦闘データも一緒に回収しちゃいましょう」
夕張「回収じゃありません。それだと記憶を消すみたいじゃないですか」
夕張「その日の戦闘データをコピーするだけです」
漣「……夕張がなんかうぜぇです」
夕張「えっ!? なんで!?」
長門「夕張の作品があれば、経験値計測を人間も出来るようになる訳か」
夕張「そうですね。基本的な情報処理速度が違いますから、私達がやるより時間はかかっちゃいますが」
長門「一度皆の中に蓄積されている戦闘データを外部化しても良いかもな」
長門「艤装はあくまで近くに居る艦娘同士のネットワークを作る装置だ」
長門「戦闘データは我々の頭の中にある」
長門「今、戦闘経験は宝だ。勿論実戦には遠く及ばないにしても、見るだけでも価値がある」
夕張「良いですね良いですね! 私、盛り上がっちゃいます!」
日向「……あー夕張、盛り上がっているところ悪いが」
日向「戦闘データを全て読み取るとなった場合……戦闘以外の日常の記憶等はどうなる」
夕張「心配しないで下さい。戦っている時、つまり艤装による短距離ネットワークを形成した時に共有したり同期したり出来る範囲のデータの読み取りですから」
夕張「自分が今日何食べたか、というような戦闘に関係の無いデータは短距離ネットワーク上にアップ出来ません」
日向「そうなのか……? 試したことも無かったが……」
夕張「私は試したので」
日向「……そうか。なら良いんだ。安心だ」
夕張「基本的に艤装を付けている時の情報を抽出すると考えて頂ければ」
日向「よしよし」
瑞鶴「日向さんは何か見られたくないものでもあるの?」
翔鶴「この人は提督との記憶を他人と共有したくないだけです」
日向「……」
瑞鶴「……そうなんですか」
日向「……別に良いだろう」
瑞鶴「……」
瑞鶴「かわいいぃぃぃぃぃ」ナデナデ
日向「頭を触るな! 私は長月じゃ無いんだぞ!」
長月「おいコラ、待てなんだそれは」
山内「……」
山内「他に意見のある者は?」
「……」
山内「よし、今日はご苦労だった。夕張君は少し残りたまえ。もう少し詳細に聞かせてもらう」
山内「それ以外の者は解散」
4月13日
ラバウル・ブイン間連絡海域
日向「探針儀の反応を確認しろ」
「「「「「……」」」」」
戦果確認の為の時間、一瞬だけ静寂が訪れる。
その静寂に皆が恍惚とした表情をしているように見えるのは……私の気のせいではないだろう。
阿賀野「反応、ありません」
日向「……良くやった。三連戦で少し消耗しすぎたな。一旦基地へ帰投するか」
「「「「「了解!」」」」」
ブイン基地 ドッグ
明石「はいはーい! 損傷した方はこちらでーす」
明石A「時雨さん。天龍さんの艤装、修理完了です」
明石C「この箇所どう思う?」
明石B「これなら交換した方が早い」
明石C「私もそう思う。時雨さーん」
時雨「天龍さんの艤装修理完了と……20.3cm主砲の予備だね? 武器庫の運び出しリストに載せとくよ」
明石D「時雨さん、試し撃ちして頂いても良いですか?」
時雨「了解。今行くよ」
ブイン基地 港
漣「お帰りなさい」
加賀「お帰りなさい」
日向「ただいま」
漣「データ見せて下さい」
日向「今日の戦闘データをコピーして……共有スペースに上げて……これで良いか?」
漣「もう何度もやってるじゃないですか。オッケーです。見ときますね」
加賀「では次はこっちに手を載せて」
加賀の横には、洗濯機ほどの大きさをした機械が据え置かれている。
日向「……何度やっても怖いな」
加賀「大丈夫よ。取って食べられるわけでは無いわ」
日向「妙に宇宙的な怖さがあるというか……夕張が作ったからというか……」
加賀「余計な事を言わないで早くしなさい。後がつかえています」グイ
日向「わっ」
ピー
キョウユウサレテイルモノヲ ヨミトリマスカ?
手を載せると機械が作動する。
日向「ああ、頼む」
リョウカイ ヨミトリヲ カイシシマス
ピー
ヨミトリカンリョウデス オツカレサマデス
日向「……こいつ……本当に余計な物は吸い取っていないよな?」
加賀「そんな事私は知りません。はい、次の方」
「はーい」
日向「……」
漣「経験値が出ました。潜水艦狩りは……やりにくくて仕方ねーです」
漣「とりあえず皆に基本ポイントとして200ずつ、日向は旗艦なので1.2倍で240です」
漣「三連戦しているので、戦功MVPは……日向から誰かを推しますか?」
日向「そうだな。一回目は神通の動きが良かった。一つ目は神通で」
神通「……ありがとう、ございます」
日向「残り二回は阿賀野の爆雷投下が一番的確だった。阿賀野を推す」
阿賀野「……えっ、私?」
漣「こちらでも確認しています。阿賀野さんは日向の指示を完璧にこなしています。文句ねーです」
那珂「な、那珂ちゃんは?」
漣「お前はうるせーから嫌いです」
那珂「那珂ちゃんスマイルッッッ!」
漣「うるせーというのは嘘ですが、那珂は少し攻撃が雑です」
日向「那珂は少し適当に投下する癖がある」
那珂「そんなぁ~~」
日向「阿賀野に指導を受けておけ」
漣「んじゃあMVPは阿賀野さんと神通さんで。御二方とも、おめでとうございます」
神通「……」
阿賀野「……ありがとうございます」
日向「お前達が自分で手に入れたんだ。誇って良いぞ」
阿賀野「はいっ!」
神通「はい」
漣「累積の確認はいいですか?」
日向「丁度いい。教えてくれ」
漣「日向、Lv.12。阿賀野さん、Lv.13。後の皆さんはLv.10ですね」
日向「遂に抜かれてしまったか」
漣「対潜は戦果が分かりにくいですからね~~。日向は別に自分をMVPにしても良いんですよ?」
日向「そんな事では示しがつかんだろう。私は旗艦としてボーナスも貰っている」
漣「お堅いですねぇ。でも私、日向のそういうとこ嫌いじゃねーです」
日向「どうも」
ブイン基地 武器庫
卯月「新入り! よく見て置くぴょん! こんなに積荷の重さが偏りすぎるとエレベーターがおっこちるっぴょん!」
「は、はいぃ」
「あ、あの卯月さんお取り込み中すいません……41㎝主砲が置き場に無いのですが」
卯月「そんなわけないぴょん! よく探すぴょん! 35.6㎝砲の隣ぴょん!」
長月「なーにを偉そうに。お前だって昨日まで散々注意されてた癖に」
卯月「そのような事実は無かった」キリッ
長月「切り株に頭ぶつけて死ね」
長月「41㎝以上の砲は向こうのレア装備保管庫になる」
長月「私の承認が無いと出せん。着いて来い。この機会に覚えるんだ」
「ありがとうございます! 長月さん!」
長月(むふふ。良いぞ……今私、尊敬されてる……尊敬されてるぅ)
卯月「ほら新入り! キリキリ働くぴょん!」
「ひぃぃ~~」
木曾「おい皐月、これどこ置けばいい?」
皐月「あーその副砲は滅多に使わないから、この次の通路の一番奥の方の不要装備棚だよ」
木曾「げっ、遠いなぁ」
雪風「ユキカゼッ!」
木曾「うるせぇな。俺はお前みたいに足が速くないんだよ」
雪風「ユキカゼ!」
木曾「よーしそこまで言うなら競争だ!」ダッ
雪風「ユキカゼッッ!!」ダダッ
皐月「危ないから走っちゃ駄目だよー」
皐月「それにしても、何を話してるんだあいつら……」
夜 ブイン基地 執務室
山内「今日で五日目だ。反省報告発表、来い」
日向「海上護衛部門の潜水艦狩りは、この一週間を越えたら次の段階へ進む」
日向「五十鈴、阿賀野、那珂、神通、川内に教官の役目を申し付ける」
日向「あいつらは素質がある。これで、より濃密な交代制が可能になる」
瑞鶴「三隈さんの教え子達は、基礎がしっかり出来てて感動しました!」
瑞鶴「けど、やっぱり型にはまった動きをしたがると言うか……実戦慣れはしていません」
三隈「私も瑞鶴さんの部下を教えましたが……こちらの話を全く聞きません」
三隈「下手に実戦を知っているせいでしょうか……お互い苦労しますね」
瑞鶴「まったくです……」
三隈・瑞鶴「「はぁ……」」
長月「兵站部門は順調だ。長官、増員感謝する。物の置き場も大分決まって、配置図を作成してみた」
翔鶴「まぁ」
山内「ふむ……この空白の部分は余裕のあるスペースかな?」
長月「はい。武器庫自体がかなり広めなので、余裕があるように見えますが」
長月「将来増産される装備の保管場所として全体の10%は必ず空けるようにしています」
長月「それとレア装備保管庫の横に新たに入室に承認の要る機密保管庫を設けました」
長月「戦闘データ等の重要情報もお任せください」
山内「うん。戦闘データは珠玉だ。くれぐれも漏えい等の無いように」
長月「セキュリティは夕張に一任してしまっているが……」
夕張「基地の管理システムはスタンドアローンだから外部からの侵入は心配ないです」
日向「基地内部で敵が直接行動を起こさない限り安全という事か?」
夕張「ネガティブ、基地内の端末から管理システムに侵入されても不味いです」
翔鶴「基地内部でハッキングを受けても駄目、というわけですか」
夕張「はい。その場合、完璧に守り切れるとは断言できません」
漣「使えねー奴です」
夕張「これは言い訳だけどね……電子関係は複雑怪奇なの」
夕張「外部からの影響を一切受け付けないようにプログラミングも出来るけど」
夕張「そうすると非常時に融通が利かなくなる可能性があるのよ」
漣「……よく分かんねーです。例え話で説明して下さい」
夕張「例えば……ブイン基地が敵に急襲されて、長官と長月さんが戦死」
夕張「反撃の為に武器庫へ急ぐも、管理責任者の長月さんが死んでいて重要装備が出せない」
夕張「こんな時、融通が利けば私がドアのロックを解除できるんですけど」
夕張「外からの影響を受け付けなければ、永久に開くことはありません」
漣「基地急襲で長官戦死なんて縁起でもねーこと言うんじゃねーです!」ボカッ
夕張「いたっ! 漣さんが聞いて来たんじゃないですか! そもそもリスクの話なんだから前提が不謹慎で当然です!」
漣「リ、リスクマネジメント!」ボカッ
夕張「何でまた殴るんですかーー!」
山内「確かに決め辛い問題だな。夕張君、現状維持で頼む」
夕張「はい。私の方でも改善策を探ってみます」
明石「えー、艤装修理部門は騙し騙しやってます」
明石「その内、命中精度が下がったとか、調子がおかしい、みたいな不具合が発生すると思いますが」
明石「よっぽどの場合で無い限り修理部門への持ち込みはNGでお願いします」
日向「まさか砲塔爆発なんて事は……」
明石「さぁ、どうでしょうかねぇ」ニヤニヤ
日向「そこは保証してくれよ」
明石「長官、妖精との交渉はどの段階まで進んでいるのでしょうか」
山内「実は……」
山内「妖精との交渉は、全く進んでいない」
明石「……へっ?」
山内「ラバウル・トラックの妖精に話を聞いて貰ったのだが」
山内「『それはブイン基地の問題だ』との事でな」
山内「『こっちへ転勤して来てくれ』と頼んだら『それはわけあって出来ない』と言われたよ」
山内「……本当に済まない。この中で私が一番役立たずだな」
明石「そんな……私は長官を責めているわけでは……」
日向「責めているじゃないか」
明石「……」ガルルル
日向「♪~~」
翔鶴「確かに妖精との交渉窓口は……どこなのでしょう?」
瑞鶴「聞いた限りだと、そちらの問題はそちらで解決しろ、ってスタンスにも見えるね」
長門「……なぁ、やはり横須賀の妖精を連れてくる訳にはいかんのか?」
日向「それが出来ると嬉しいのだがな」
山内「このまま交渉が進まなければ、一つの手になるだろう」
明石「……もう皆さんお分かりでしょう。現に我々は妖精の力をアテにしている」
明石「妖精と同程度の整備技術など、我々は持ちえようが無いんです」
日向「……」
山内「……」
明石「何故長官がこれ程日向さんの案に拘るか、私には理解出来ません」
山内「……他に意見のある者は」
「……」
山内「では、次は二日後の夜に会おう。日向君は少し残ってくれ。解散」
翔鶴「お先に失礼します」
瑞鶴「しまーす」
明石「……」ペコッ
長門「……さて、私も夜勤に出るかな」
長月「あともう少しでマニュアル化が済むんだ」
漣「お、すげぇですね」
三隈「三隈も本を作りましょうか……」
夕張「教科書ですか。良いですね」
バタン
日向「長官、何のお話しでしょうか」
山内「何、すぐ済むさ」
日向「私は既に心も体もある男に捧げてしまっているので口説いても無駄ですよ」
山内「あはは! そんな事はとうに知っているよ」
山内「私の愚痴を聞いてくれ」
日向「……嫌だと言ったら?」
山内「君は私の持って来た十五代を飲めなくなる」
日向「じゅうごだい!?!?」
説明しよう! 十五代とは山形県で作られる日本一の甘口日本酒である。
飲めば舌の上で甘さが広がり、より味わおうとした瞬間、口の中でふわっと消える!
何が日本一かと言えば、味もさることながらその値段もである!
貴方は『値段:時価』というのをマグロ以外で見たことがあるだろうか!
飲んだ者の人生観すら変えると言われる伝説の美酒!
その酒が日向の目の前にあるというのか! その酒を日向が飲めるというのか!
日向の心は揺れに揺れ動いていた!
日向「……そんな嘘まで吐いて私と何がしたいのですか?」
山内「いや? 私は功労者と一緒に酒を飲もうと思っただけだが?」
長官は意味ありげに机の下から日本酒の瓶を取り出す。
その瓶のラベルにはしっかりと『十五代』の文字が刻まれていた。
日向(ふぉぉぉぉぉぉ!? ホントに十五代!?)
甘口日本酒の最高峰が目の前にある。日向は、実は名前だけしか知らず実際に飲んだことは無かった。
日向(飲みたい)
だが……違う男性と二人きりで酒を飲むというのは……私にはあの男が……。
山内「そうか。君が飲みたくないのなら私が一人で飲むとするか」
日向「長官、私もお付き合いします」
日向「どうぞどうぞ」
山内「どうもどうも」
山内「どうぞどうぞ」
日向「どうもどうも」
山内「では乾杯」
日向「乾杯」
十五代を口に含む。酒臭さは全く無く、何かの果実酒の様に甘い。
米はこれ程甘くなれるのか……。
味を追うと、その前に消えてしまう。
日向「ううむ……」
山内「どうだね。十五代の味は」
日向「甘く、追うと消える。まるで女です」
山内「あはははは!!」
その後、長官が何かを喋っていたがあまり耳には入ってこなかった。
私は十五代の甘さを追いすぎて、つい深酒してしまう。
日向「……」ウトウト
山内「ん? 眠いのかね」
日向「……少し」
山内「まるで子供だな」
日向「酒は精神の経年劣化を一時的に取り除いてくれます」
山内「どういうことだ」
日向「邪悪さが抜けて子供に戻るということです」
日向「この基地の艦娘は……皆意思疎通が取りやすいですね」
山内「そうだろう。昔のように難解な『艦娘語』を話すような輩は居ない」
山内「そういう壊れた機械のようなベテラン連中は、既に殆どが戦死か失踪のどちらかだ」
日向「……通りで」
山内「初期設定の艦娘は扱い易くて俺は好きだ」
山内「君だってそうじゃないか?」
日向「……」
日向「どういう意味でしょうか」
山内「俺はもう後が無い」
日向「……」
山内「この勝ち目のない戦いに負ければ、俺はどうあれすげ替えられる」
日向「……」
山内「君もそれが分かっていて、俺にこんな大胆な方針転換を迫ったのだろう」
日向「このままでは、我々が深海棲艦に打ち勝つ可能性はゼロです」
日向「ゼロで無い方策があるなら試すべきです」
山内「それは艦娘としてか?」
日向「第四管区の日向としてです」
山内「第四管区はもう無いぞ」
日向「ありますよ。みんなや私の心の中に」
山内「……」
山内「君は艦娘を取り巻く環境を変えようとしている」
日向「……はい」
山内「だが、わざと残している部分があるだろう。私は最初から気付いていたぞ」
日向「……」
山内「艦娘の内面を変えようとはしていない。積極的に心を持たせようとしていない」
山内「艦娘が司令官を好きになるようプログラミングされている事には気付いているだろう」
日向「ええ」
山内「第四管区ではある意味、それらに疑問を持ち、自ら打ち破る事が始まりだった筈だ」
日向「……」
山内「だが、今回の変革の中にそれらは含まれていない」
山内「何故だ」
山内「君は一体何を狙っている」
日向「山内さん。少し私を疑いすぎですよ」
日向「私は別に何か企んでいるわけではありません」
日向「私と貴方は『深海棲艦を倒す』という点で意見が一致していますよ」
日向「それだけで良いじゃないですか」
山内「俺が気になるのだ」
山内「自覚は無いかもしれないが、君達は既に艦娘という枠を越えた存在になりつつある」
山内「そんな君達が、特に君が、一体何を考えて私と意見を一致させているのか気になるのだ」
日向「貴方は我儘な人だな。それとも、酒のせいで子供に戻っているのか」
山内「……そんな無邪気なもんじゃない。俺は君に恐怖しているんだ」
日向「……」
日向「私は単なる艦娘です。それでいて、博愛主義者じゃありません」
日向「私は第四管区の皆が大好きです」
日向「あの人は……それよりもっと好きです」
日向「その他の艦娘なんてどーうでもいいです」
日向「やろうと思えば艦娘に自分自身への疑問を持たせることは出来ます」
日向「……それをしてどうなるんですか」
山内「……」
日向「リスクが大きすぎます」
日向「現に私だって、危うく深海棲艦になるところでした」
日向「……色んな奇跡が重なって、色んなことが上手く行って」
日向「横須賀鎮守府第四管区はそんな上に成り立っていたんです」
日向「だからこそ私はあの場所が愛おしい、守りたいと思う」
日向「ふふふ」
日向「長官、本当はね、私が言う艦娘の使命なんて私自身信じてはいませんよ」
日向「あ、言っちゃった」
日向「あはは」
日向「本当は人間が勝手に作って勝手に戦わせてるだけですよ」
日向「使命とでも言わないと、それを正当化出来すらしないんです」
日向「自分自身を疑うと、そういう余計な事にまで気付いちゃうんですよ」
日向「……私はあの人の元へ帰りたい」
日向「会いたい」
日向「話したい」
日向「この私自身が感じる好きという感情は誰にも否定なんてさせない」
日向「……」
日向「艦娘である私が彼と一緒に居るには戦うしかない」
日向「それくらい私にも分ります」
日向「長官、私は」
日向「敵が、深海棲艦が居なくなれば、あの人と一緒に暮らせるんじゃないかな、って」
日向「思ってしまうんですよ」
日向「馬鹿みたいでしょう」
日向「平和になれば私みたいな存在は解体されるかもしれないのに」
日向「それでも、思わずにはいられないんですよ」
日向「だから深海棲艦に勝ちたい」
日向「でも、今の体制じゃ絶対に勝てない」
日向「貴方の次の長官は……間違いないく聨合艦隊を、海軍を弱体化させる」
日向「そうなれば余計に勝てない」
日向「だから貴方に賭けた、というだけの話です」
日向「……あ、十五代が無くなった」
日向「……」
日向「……長官」
日向「……」
日向「ごめ……」
日向「……」
日向「……」Zzz
山内「……」
山内「幽霊の正体見たり枯れ尾花、か」
山内「俺は一体何を恐れていたのだろうか」
日向「……」Zzz Zzz
山内「……日向君」
山内「いつもむっつりしている癖に……好きな男の話をするときは優しい顔になるんだな」
日向「……」Zzz
山内「宮が羨ましいと初めて思ったよ」
山内「……おやすみ」
日向「……Zzz」
小休止
一旦乙です
大量更新乙です。
妖精無き深海棲艦との戦い、なんとも過酷ですね。
毎回続きが気になります。提督業をこなしつつ待ってます。
まさに兵器擬人化につきまとうパラドクスだねぇ。おつ
相変わらず日向がかわいいな。乙
4月15日
五十鈴「水雷戦隊、突撃!」
「「「「了解!」」」」」
教えた通り、教科書通りの動きで五十鈴が補足した敵潜水艦群を包囲し、
五十鈴「爆雷発射!」
「「「「「発射!」」」」」
旗下の駆逐艦も指示通りに爆雷を投下していく。
五十鈴「……」
しばしの沈黙の後、
大きな水柱が上がる。
五十鈴「戦果確認作業へ移れ」
「「「「「……」」」」」
五十鈴「……水中に反応無し。戦闘終了。みんな、お疲れ様」
ブイン基地 大部屋
日向「見事だったぞ、五十鈴」
五十鈴「ありがとうございます!」
日向「これからも励めよ」
五十鈴「はい!」
夕張の作品(開発品)により戦闘データの映像化が可能になった事で、人間、艦娘を含めた勉強会が開かれるようになった。
大部屋の映画用スクリーンに艦娘の視界の戦闘映像を投影して見るだけなのだが。
先程の映像は、今日の五十鈴の戦いだった。
山内「五十鈴君、見事だ」
五十鈴「……! はい! 長官、ありがとうございます!」
評判は上々だ。
海上での戦闘を人間はあまり目にする機会が無い。
それ故、艦娘達も自分の活躍を「大好きな」長官に見て貰ってご満悦のようだ。
山内「この勉強会は良いな。艦娘の戦闘を見るのは良い経験になる」
長門「わ、私の砲撃戦なんかは凄かっただろう?」
山内「ああ……戦艦同士の撃ち合いはあれ程に恐ろしい物だったんだな」
長門「……私はいつもああいう戦いをしているわけだが」
山内「……? そうだな」
長門「しているわけなんだが」
山内「ああ」
長門「実に! 厳しい! 戦いをしているのだが」
山内「……そうか」
長門「とても厳しい! 厳しい戦いだ!」
山内「そ、そうだな」
日向「長門、そういうのは長官と二人の時にやれば良いだろう」
長門「……」ショボーン
山内「????」
日向「最後に長官から何かご意見、ご感想があれば」
山内「是非に」
山内「長官の山内だ。……ああ、今はそういう敬礼とかはいいと前も言っただろう。皆、楽にしたまえ」
山内「我々はこうして何度か海上戦闘についての勉強会を開き、私もそれに参加しているが」
山内「諸君らの戦意と働きぶりに私はいつも感服する」
山内「本当にありがとう」ペコッ
山内は勉強会での挨拶の度に艦娘に対し感謝の念を伝える。
勉強会に参加した非番の艦娘達は、当初、それをただ困惑の表情をもって受け入れていた。
だが今は長官の行動の意味を考え解釈し違った受け入れ方をしている艦娘も居る。
つまり、戦いが自らの誇りであると考え始める艦娘も居る、という事だ。
日向「……」
別にそれが悪いとは言わない。
目的を持てばそれだけ強い意志を持てる。
強い意志は強い力を生む。
強い力、それは今最も我々に必要なものだ。
それで本当に良いのだろうか?
日向「……」
違う。
この思考は無駄だ。余計な物を抱え込む。
他者にとって何が本物かなど私の知ったことか。
例え私から見て偽物でも、本人にとって本物であれば良いだろう。
五十鈴の笑顔を何故私が否定できる。
「あの日向さん」
日向「……ん?」
磯波「日向さん……今から部屋を掃除をするので……」
日向「あれ」
聨合長官の話どころか、勉強会自体が終わっていた。
勉強会に参加したメンバーは日向以外誰も残っていなかった。
日向「全部聞き逃したな」
日向「君は磯波だな」
磯波「はいっ」
日向「今日の掃除担当なのか」
磯波「はい!」
日向「そうか。一人でこの部屋を掃除するのか?」
磯波「はい!!」
日向「そうか。こんなに広いと大変だろう」
磯波「はいっ! いぇ、いいえです! いいえ!」
日向「磯波、何故そんなに緊張しているんだ」
磯波「ひ、日向さんは、聨合艦隊長官閣下の懐刀の一人です!」
磯波「とても私ごときが気安く近づけるような方ではありません!」
日向「……は?」
思わず素っ頓狂に聞き返してしまった。私が長官の懐刀?
日向「そんなことを誰が言っているんだ」
磯波「……」
日向「いや、別に言っても怒らないから」
磯波「基地の艦娘は皆言っています!」
日向「……そうか」
顎に手を当て振り返る。
確かに今までの私達の行動を振り返れば……長官と仲良くしているように見えなくも
日向「ないな」
面白い。
実に面白い。
他者からはそんな風に見えていたのか。
日向「磯波は私をどう思っているんだ」
磯波「ひゅ日向さんをですか!?」
日向「ああ。正直に言ってくれ」
磯波「その、あの、ええと」
日向「……」
磯波「私は日向さんを見ていて!」
磯波「長官閣下と仲睦まじげに話しているのが羨ましいなぁとか」
磯波「長官閣下に堂々と進言できる姿がとっても良いなぁって」
磯波「私は思ってました! ごめんなさい!」
日向「ぷっ……何故謝る」
磯波「ごめんなさい!!!」
日向「私が聞いたんだ。磯波が謝ることは何も無い」
日向「長官が好きなんだな」
磯波「えっ? 普通好きじゃないんですか?」
日向「……」
日向「まぁそうだが、お前は特に好きだなぁと感じたんだ」
磯波「いや、そんな、いやいや」
日向「ちなみに長官の懐刀とやらには私の他に誰が入っているんだ?」
磯波「……」オドオド
日向「怒らないから」
磯波「日向さんと、長門さんと、翔鶴さんと、漣さんとか」
日向「要するにふんぞり返ってる連中か」
磯波「えーと……」
日向「あはは! それでも長月が入っていないのが笑い所だ!」
磯波「長月さんはこの基地に居るんですか?」
日向「……そこからか。武器庫のマニュアル化も済んだみたいだし、その内当番になれば会う機会もある」
磯波「あ、いけない。掃除しないと!」
日向「私も手伝うよ。一人だと大変だろう」
磯波「日向さんはこんな仕事やらなくて大丈夫です!」
日向「磯波、私はお前が思っている程偉くも無いし、凄くも無いぞ」
日向「仲間の手伝いがしたいと思っただけだ」
磯波「……日向さん」
日向「あー、結構時間が掛かったな」
磯波「いつもの半分以下で終わりました! ありがとうございます!」
日向「いつも大変なんだな」
磯波「いえ、私はLvも低いし、これくらいしか出来ませんから」
日向「……Lvが低いから掃除を押し付けられているわけではあるまいな」
磯波「……」
日向「そうだ。掃除の分担にしても、あの翔鶴がこんな理不尽な分担の仕方はしない」
日向「Lvは基地内での権力指標では無い。無駄死にが無くなるよう定めた練度の指標だ」
日向「お前に仕事を押し付けた奴らの所へ連れて行け」
日向「大破するまで殴ってやらんと気が済まん」
磯波「……ありがとうございます」
日向「何故感謝する」
磯波「私の為に怒ってくれて、ありがとうございます」
日向「……」
磯波「日向さんのお手を煩わせるつもりはありません。自分で解決してみせます」
日向「……そうか」
磯波「もう十分勇気を頂きました」
日向「私だったら絶対に殴ってもらうぞ」
磯波「日向さんだったらこんな状況に陥りません」
日向「……かもしれん」
磯波「ふふっ」
日向「次、会った時に結果を教えてくれ」
磯波「はい。頑張ります」
日向「ああ、じゃあな、磯波」
磯波「はい。お疲れ様です、日向さん」
小休止
乙です。
戦いに赴きながらも苦悩する日向がなんとも危ういですね。
そこの当たりを提督が解決するんでしょうか?
なにはともあれ、続き楽しみです。
乙です
乙乙
4月18日
ブイン基地 ドッグ
吹雪「主砲の命中精度が落ちています」
時雨「こちらでも精一杯整備しています。修理の回数を重ねるとどうしても落ちてくるの」
吹雪「まだ一か月も経ってないのにこの体たらくですか。私達に死ねと言っているのですね」
時雨「そうではありません」
明石「これが限界なの。何とか手数で補って」
吹雪「同型艦の運用なんて諦めて妖精たちを呼び戻せばいいじゃないですか」
明石「……長官の御意思を我々は尊重します」
吹雪「それで誰かが沈んでも良いんですか」
長月「現状でも以前よりマシだろう」
時雨「長月、武器庫の方は良いの?」
長月「大体終わったから、卯月に後を任せている。今日は久々の出撃だ」
吹雪「以前よりマシだからって……そんなの誤魔化しです」
長月「かもしれんな」
吹雪「ほら」
長月「だが状況を変えようとしなかったお前に言われたくはない」
吹雪「なっ……」
長月「あのままではブインもすぐに陥落していた。私達はそれをさせないよう最善を尽くした」
長月「いや、最善を尽くして、いる」
長月「資格なんて言葉好きじゃないが……今回は使う」
長月「お前に私達を責める資格は無い」
吹雪「……」
長月「妖精抜きでも戦える体制を作るのは、同名艦でも使わざるを得ない状況が迫っているからだ」
長月「リスクがあるのも分かっている」
長月「それでも私は今回の挑戦は価値があると思う。聨合艦隊長官も同じ判断だった」
長月「ならもう、戦うしかあるまい」
吹雪「命令に従うだけじゃ駄目って、貴女方が言ったんじゃないですか」
長月「お前、頭悪いのか? ああ……文句付けたいだけか」
吹雪「……」
長月「考えてこの結論に至ったんだよ。ただ命令に従ってるだけじゃないだろ」
長月「ちなみに吹雪、お前は一体何を惜しんでいるんだ?」
吹雪「惜しむ?」
長月「沈みたくないんだろう。何が惜しいんだ」
吹雪「別に……何かが惜しいとかじゃありません」
長月「へー、そうなのか。てっきり命が惜しいのかと思ってた」
吹雪「武器の整備不良で死ぬのは嫌ですよ」
長月「それが限界だと明石が言っているだろう。なら、それは整備不良じゃない」
長月「我々の限界だ」
吹雪「だから妖精を呼び戻せば……」
長月「それはしないと決めているんだ」
吹雪「……堂々巡りじゃないですか」
長月「分かったなら二度と言うな。完璧な整備が出来なくて悔しいのはお前じゃ無くて明石の方だ」
明石「……」
吹雪「でもやっぱり、私はこんな事で死にたくない」
長月「私も死にたくないさ」
長月「未来とかいうよく分からない漠然とした曖昧な空気のような薄っぺらい時間軸の先」
長月「そこへ到達する為に私達は戦う」
長月「今を全て無駄にしても戦う」
長月「凄いよな、それでも未来を誰も保証してくれないのに」
長月「まぁ誰も出来ないんだけどさ」
吹雪「……何が言いたいんですか」
長月「よく分からないけどひたむきに戦おうぜ、という私なりのお前との和解の提案だ」
吹雪「……」
長月「目指す場所は違っても、私達が艦娘である以上通る道は一緒だと思うからな」
吹雪「……敵の砲弾が掠ったので、ナノマシンのシャワー浴びてきます」
長月「お疲れ」
吹雪「……」
吹雪「……」スタスタ
吹雪(何なのあの人達)
吹雪(未来なんて、目指す場所なんて……私達にあるわけ無いです)
吹雪「……」スタスタ
吹雪(長月はあるのかな、夢とか)
吹雪「……」スタスタ
吹雪「ずるい」スタスタ
吹雪「……」スタスタ
吹雪「……ずるいって何よ、私」スタスタ
ブイン基地 入渠ドッグ シャワー室
シャー
吹雪「……」
吹雪「あれ……」
「なんだろ……この白いアザ」
小休止
乙です
吹雪のおっぱいモミモミしても捗らないです(断言)
乙です。
吹雪が…提督がいないブインで誰が祓ってあげるんでしょうか。
昼 ブイン基地 執務室
翔鶴「変則的なスケジュールに皆よくついて来てくれています」
山内「うん」
翔鶴「撃沈された者も今のところゼロですが……」
翔鶴「装備の動作不良を訴える者が増えています」
山内「……無茶のしわ寄せか」
翔鶴「そういうことになります」
山内「他の基地で余った装備をこちらに回して貰えないか妖精に相談してみた」
翔鶴「……」
山内「私の表情を見てくれれば分かると思うが答えはNOだった」
翔鶴「妖精の間でもこの基地が同名艦を利用している事実は知れ渡っているのでしょうか」
山内「分からん。だが手は打った」
翔鶴「手を打った?」
山内「艤装の問題もすぐに解決する」
翔鶴「え?」
山内「実は―――――」
昼 ブイン・ショートランド間連絡海域
長門「長月の為に簡単に説明するとだな」
長門「基地防衛は航路限定装置で構成した四つのラインと七つの任務艦隊を用いる」
長門「最初のラインで撃滅出来れば一番良いが、そう都合良くも行かん」
長門「最前線から第一、第二と数え第三ラインが一番強力だ。何故なら私が居るからな」
長門「第四ラインに敵が到達したことはまだ無いな」
長門「説明は以上だ」
長月「いや、大雑把すぎるだろう」
長門「何だ、まだ何かあるのか」
長月「ラインは四つなのに艦隊は七つなのか」
長門「ああ、残り三つは待機だ。連戦時の交代要員としてな」
長月「なるほど」
長門「これ以外に三隈の艦隊が備えているから合計で八つだな」
長月「あいつらまで使うような事態にはなって欲しくないな」
長門「同感だ。長月、お前は戦闘は久し振りだろう」
長月「ん、そうだな。武器庫に籠りっぱなしだったからな」
長門「では第一ラインに配属してやろう」
長月「厳しくて助かる。勘を取り戻したい」
昼 ブイン・ショートランド連絡海域 第一ライン
高雄「新しい駆逐艦の子ね。私は今日旗艦を担当する高雄です」
長月「よろしく」
高雄「Lvは……えっ1なの? 魚雷の撃ち方とか分かる? 砲撃の手順も大丈夫?」
長月「……どちらも知っている」
天龍「知らねー奴ほど強がるもんだ」
長月「なんだお前」
天龍「口のきき方に気を付けろ。オレは軽巡、お前は駆逐艦。この差はデカい」
天龍「オレはLv.15、お前はLv.1。この差もデカい」
天龍「お前は新造艦だから知らないだろうが、先輩は敬うもんだ」
天龍「オレは天龍。そんで、お前の先輩だ。『天龍さん』って言ってみろ。ホラ」
長月「……」
天龍「そしたら砲撃も雷撃もオレが教えてやるよ」
長月「天龍」
天龍「そうそう、そういう風に最初から先輩には敬意を持って……は?」
長月「ぶち殺すぞ」
天龍「……オレの聞き間違えか?」
龍田「天龍ちゃんの耳は正常だと思うよ~~♪」
高雄「貴女達やめなさい!」
天龍「止めてくれるな高雄さん……オレは久し振りに本気でキレちまったよ……」
龍田「天龍ちゃん、私もやめておいたほうがいいと思う~~」
天龍「もう止まれねぇよ」
龍田「なら止めないけど~~」
長月「天龍、お前、自分と私との差が見て分からないのか?」
天龍「ンダトコラァ! 差くらい分かるわコラァ!」
長月「駄目だなこれは。裏を返せばLv.15程度では実戦で使い物にならんということか」
天龍「お前! Lv.1の新入りの癖に生意気だぞ!」
長月「お前はいつ進水したんだ」
天龍「二週間前だコラァ!」
長月「ああ、そんな感じがする……」
天龍「……お前、許してやらねぇからな」
高雄「大人げないわよ。Lv.1の駆逐艦に」
長月「お前もだ高雄。Lvなど関係無い。見やすい指標に頼りすぎるな」
高雄「……へ?」
天龍「……そうだ、関係ねぇ。Lv.1だろうとLv.100だろうと……後輩への教育は必要だ!」
高雄「……」
長月「私も天龍に同感だ。後輩への教育は欠かせんものだ」
龍田「天龍ちゃんこわ~~い」
雪風「ユキカゼッ!」
天龍「あぁ!? あんだ雪風!? ……こいつが強い? この緑のガキが?」
長月「……」
雪風「ユキカゼ」
天龍「行動中の体重移動、視線のやり場、完ぺきに手入れされた艤装、ピーキーで玄人好みなナノマシン調整」
雪風「ユキカゼ!」
天龍「長月は間違いなく強い! だとぉ?」
長月「ほう……お前、かなり出来るな」
雪風「ユキカゼ!!」
長月「何を言っているか分からんが……よろしくな、雪風」
天龍「ナノマシン調整なんて相当体を使いこなせなきゃ出来ない技だろ? 間違いじゃないか?」
長月「単に自分の身体の弱い部分を強化するだけだ。まぁ新入りには難しいがな」
天龍「お前に新入りなんて言われたくねぇ!」
高雄「……まさか……あっ!?」
龍田「天龍ちゃん馬鹿で素敵~~」
長月「救いようのない馬鹿だな。まだ分らんのか」
天龍「あぁ!?」
龍田「天龍ちゃん、長月さんの簡易プロフィールをよーく読んでみて」
天龍「なんだ龍田、お前まで長月さんなんて呼びやがって。余計ガキが付け上がるだろうが」
長月「……」
龍田「いいから~~。早く読んで~~」
天龍「睦月型駆逐艦8番艦、長月……別にこれくらい知ってるよ」
龍田「その下の下~~」
天龍「その下がLv.1で……その下が……進水日? ダハハハハ!!!! 4月16日じゃねぇか!!」
天龍「一昨日かよ!!!! 出来立てホヤホヤ!!!!!! 湯気出てそう!」
龍田「天龍ちゃん、そこじゃなくて西暦を見て~~」
天龍「西暦ぃ? えー……ん? これ表記間違ってるぞ。6年前になってる」
長月「……」
龍田「本当にごめんなさい~~」
高雄「あ、あはは……」
天龍「はぁ!? 誤表記に決まってんだろ。6年前に進水した奴なんてもう生き残っちゃいないよ」
天龍「雪風だって3年前だろ? それより古参ってどんだけだよ」
天龍「それだと進水した時は鎮守府一つの時代だろ。つーかもはや初代長月? 無い無い」
天龍「お前らにはこのちんちくりんが『オキノシマ』に参加した歴戦の艦娘に見えるのか?」グリグリ
長月「……」
龍田「あははは~~。私天龍ちゃんと実はそんな仲良くないんで、勘弁してください」
高雄「天龍……今まで誤表記があったこと……あった?」
天龍「……無いですけど」
長月「高雄」
高雄「はっ、はいぃ!」
長月「長門と繋げ」
高雄「もしもし! もしもし! 長門さんですか! 第一ラインの高雄です!」
天龍「……」
高雄「長月さん! 繋がりました!」
長月「この場に居る全員に私と長門との会話が聞こえるようスピーカーにしろ」
高雄「はい!」
天龍「えっ、いやこいつ何で長門さんを呼び捨てに……」
長月「……」
長門「どうしたんだ長月」
長月「お前は沖ノ島奪還作戦を知っているか」
長門「勿論だ、私はデータでしか知らんが先代の長門が参加している筈だ」
長門「人類側の防勢から攻勢への切り替え点と言われていた。今はまた敵が攻勢中だが……」
長門「圧倒的不利な状況から敵主力を撃破し勝利を掴んだためあの戦いを神聖視する者も多いと聞く」
長門「実際、戦いに参加した者は一部から英雄と呼ばれているしな」
長月「作戦の参加メンバーを覚えているか」
長門「お前達の旧横須賀鎮守府第四管区からは日向、赤城、加賀、木曾、漣、長月」
長門「日向が良い働きをしたと現長官もおっしゃっていた。というかお前が当事者だろう?」
長門「何故私に編成を聞く」
天龍「……」パクパク
長月「うん。まぁ急に済まなかったな」
長門「いや、私もデータでしか知らない。是非その時の話を肴に酒を飲みたい」
長門「若輩の私に色々教えてくれ」
天龍「……」パクパクパクパク
長月「そんな大したもんじゃない」
長門「謙遜するな。お前の実力は長官の折り紙つきだぞ」
天龍「……」パクパクパクパクパクパクパクパクパク
長月「といっても私はLv.1だからな。快く思わない奴らも居るだろう」
長門「……まさか第一ラインの連中にLvについて何か言われたのか?」
高雄「……」
長月「……いや、ここの奴らは理解があった」
長門「ああ、良かった。お前のような最古参の艦娘に敬意を払わぬ不届き者は居ないのだな」
長門「Lvなど一つの不正確な指標にすぎん。私だってLv.8だ」
長門「もし生意気な新造艦が居ればすぐに言えよ」
長門「私が直々に41㎝8門をゼロ距離射撃してやる。新造艦はお前と違って替えがきく」
天龍「……」ビクンビクン
長月「戦艦長門ともあろう者が不謹慎かつ物騒なことを言うな」
長門「ははは! 沈めるのは流石に冗談だが、大破位はして貰うよ」
龍田「……」
長月「ま、その時は頼む」
長門「頼まれた。もう用は無いか?」
長月「ああ、助かったよ」
長門「ではな」
龍田「……」
高雄「……」
天龍「……」
長月「天龍さん」
天龍「はい」
長月「砲撃と雷撃の仕方を教えて下さい」ニッコリ
天龍「ほんとすいませんでした!!! 勘弁してください長月さん!!!!」
小休止
進水日と竣工日のどちらを誕生日にしようか迷いましたが……
人型で戦っているし艤装が無いと浮けないと思うので、進水日が竣工日でもある解釈し誕生日は進水日にしてみました
そんなに凄いのに時雨にカツアゲされる長月さん
乙です
乙です。
この時間に更新があって嬉しいです。
第4管区組の顔ぶれがすさまじいですね。
天龍ちゃんかわいい
お知らせ
次の本格的な更新は6月25日以降になります
また最初(日向「新しく五航戦云々」)から読み返した人は話の矛盾点発見できたり、良いことあるかも
ではでは
首を長くして待ってます。
了解
いまさらだが、十四代じゃないか?プレミアなのは
一度飲んでみたい
もじる必要無かったね
十五代って名前の酒もあるみたいだし
ご指摘の通りモデルは十四代です
超美味しいので皆さん是非飲んでね
まず手に入らない……獺祭ですらやっとなのに
報告、乙ー
十四代が手に入らないなら入荷してる飲み屋に行けば良いんだよ(グルグル目)
実習が金曜で終わる……!
もう少しや……もう少し待っててくれ……
了解
了解
待ちます!
前回までのあらすじ
横須賀鎮守府第四管区担当もしくは分遣艦隊、通称「日向艦隊」は日夜日本の本土防衛の尖兵として活躍し、
それぞれがその心の内に様々な問題を抱えながらも提督と艦娘達は絆を深め、単に兵器としてでなく、心を持つ存在として成長していった。
そんな折、中央政府は現場の意見を無視してガダルカナル基地運用を強行する。
オーストラリアとの関係の改善、ボーキサイトの確保を目的とした純政治的な判断であったが、
深海棲艦の大規模反攻と時期を同じくし……
戦前の軍令部に相当する海上護衛総司令部はその対応を誤り、泥縄式の対応を繰り返した。
心を潰してまで戦い続けた歴戦の艦娘達は南の海で散ってゆき、
彼女達を失った日本のシーレーン防衛は中核からに破綻した。
予備の艦娘を倉庫から引き摺り出して防衛戦に投入したが、彼女達は南方戦線においても本土防衛においても大した役には立たなかった。
新米艦娘はあまりにも未熟な存在だった。
日本の太平洋沿岸地域は再び脅威に晒される事となる。
国民の不満だけでなく、独占的な艦娘技術を背景とする日本の国際社会における発言力はみるみるうちに低下した。
そして、日本の中央政府は聯合艦隊結成の号令を下す。
この瞬間、責任の所在は政治家から民主的な海軍へと切り替わったのだ。
少なくとも政治家達はそう考えたし、日本国民も、世界の人々も、聯合艦隊結成を好意的に捉えた。
メディアは聯合艦隊の沖ノ鳥島(沖ノ島、沖ノ鳥)奪還戦や北方海域奪還戦といった華々しい過去の戦果を大々的に取り上げ国民を煽り、また彼等もそれを都合良く熱狂をもって受け入れた。
愚かしいが、何かに縋ろうとする無力な人々を誰が責めることが出来よう。
世界の人々反応として、下落し続けていた日本の株価が僅かならが上向いた事実を好意の証拠として挙げておく。
事情を知る者からすれば、
中央政府が聯合艦隊司令長官である山内に責任を押し付けようとしている意図は明白であった。
第二次世界大戦の反省、文民統制の名の下に発言力を失った軍人達は否応なしに政治の手段、道具として使われるのだ。
そして、逼迫した南方戦線の戦況を少しでも好転させるために「結果的に」貴重な熟練艦娘の集団となった日向艦隊は元老の庇護の甲斐無く南方へと移され第四管区は解体、消滅した。
南方においてガダルカナル基地、ショートランド泊地は既に陥落しており日向達はブイン基地へと配属される。
彼女達がそこで見たのは、艦娘にとっての地獄だった。
新米艦娘がわけも分からず戦い沈んでいく戦場、無能な指揮、妖精の居ない基地、兵站運用上の齟齬
最前線は敵と戦わずとも内部から崩壊しかけていた。
ブイン基地の艦娘達は思考停止し、現実から目を逸らすために心を閉ざしていた。
というよりも心の開き方など彼女達は知らなかったのかもしれない。
結局、過酷さを直視したのは決して目には見えない強さを持った者達だった。
山内が最高司令官として着任すると同時に日向達は大規模な基地内の改革に着手する。
その内容は従来の艦娘運用とは大きく異なるものだった。
艦娘の複数運用は妖精との約束で禁じられていたが、今後の戦況を鑑みるに聯合艦隊一揃え程度では深海棲艦に対抗出来ないと判断し意図的に同名艦の運用に挑んだ。
無謀な戦場への艦娘の投入を無くすため、目に見えない練度を明確に規定した「Lv制」の導入。
艦娘の運用思想の変化、これは言い換えれば艦娘の扱いの高待遇化であり、指揮官と彼女達の関係をより親密にすることにより精神的な安定を与える意図があった。
「妖精が居ないのならば新たな挑戦をすれば良い」
どのみち後の無い山内はこの日向の提案を全面的に受け入れ、新たな体制を構築しようとする。
旧第四管区のメンバーが主導し様々な試みが形になる中、艤装整備において妖精不在、また改革の弊害が顕著に現れ始める。
そんな中、山内は艤装整備問題がもうすぐ解決すると豪語した。
果たして彼の持っている解決策とは一体……?
また穢れに犯された吹雪の慎ましいおっぱいの運命やいかに……?
乞うご期待!
登場人物・艦娘紹介
提督……このssにおけるチンポ
山内……チンポの同期、聯合艦隊司令長官
日向……猫のような狸、提督の卑猥な友人、深海棲艦になりかけた事がある
翔鶴……月の女神、まだ提督に手を出されていない事を実は気にしている
瑞鶴……主人公、第一作から凄い成長した、けど処女
長月……近頃失神芸が板についてきたベテラン駆逐艦、とてもかわいい、猫耳
木曾……ちょろい、だがそれが
時雨……無呼吸バキュームとかいう世界の真理
三隈……クリマンコ
皐月、文月……長月へのツッコミ役、実は強い
漣……ご存知艦隊最古参、読みはサザナミですよご主人様
曙……正直すまんかった
小休止
一旦乙です
遂に更新の時ですか。
待ちわびてました。
三隈は許されない
4月22日
武器庫
長月「キリキリ働けよ」
天龍「ウイッス長月さん! この天龍に任せといてください! オラ! ガキども! ちゃっちゃと動け!」
「天龍ちゃんもちゃっちゃとして~」
天龍「あぁ!? 天龍さんだろうがコラァ!」
「あはは」
卯月「あの新人が居ると武器庫が明るくなるぴょん。使えるぴょん。どこで拾ってきたぴょん?」
長月「ショートランドとの連絡海域だ」
皐月「長月を慕う艦娘なんて珍しいね」
文月「珍しい~」
長月「先輩である私に無礼な態度を示したからな。少し修正してやった」
長月「チンピラみたいな喋り方だし、実力も無くて実戦では使えないが……根は良い奴だ」
弥生「……上から目線が気に食わない」
卯月「長月がチンポって言ったぴょん。下品ぴょん」
皐月「あはは、長月最低だ」
文月「長月ちゃん最低だ~」
長月「私の姉妹艦は本当に嫌な奴らばっかりだ!」
天龍…
ラバウル・ブイン間連絡海域
阿賀野「爆雷投下開始!」
「「「「了解!」」」」
性懲りも無く現われる潜水艦群退治は今日も続いていた。
後は日向直伝の『檻』を作って仕留めるだけの段階だったのだが……
吹雪「……」フラフラ
阿賀野「投下待て!! 吹雪! 何で指示通りの位置に移動しないの!?」
吹雪「……」ボーッ
「阿賀野さん! 指示を!」
阿賀野「チッ……吹雪抜きでもう一度フォーメーションを組みます! 続け!」
「「「「了解!」」」」
戦闘終了後 ブイン基地 港
吹雪「……」
阿賀野「吹雪」
吹雪「……阿賀野隊長」
返事の直後に阿賀野の平手が飛んでくる。
吹雪「……」
阿賀野「今日の命令無視はどういうつもり」
吹雪「……」
視線も合わさず何も答えない吹雪に対し、もう一発平手が飛ぶ。
阿賀野「答えなさい。何で私の指示に従わなかったの」
吹雪「……私どうでもいいんですよ、深海棲艦なんて」
阿賀野「……何ですって?」
吹雪「だから、敵を倒す事なんてどうでもいいんですよ」
阿賀野「……来なさい。あんたなんかスクラップにしてあげる」
言葉がどこまで本気なのか察する術は無いが、阿賀野は乱暴に吹雪の髪の毛を掴み、引き摺って連れて行こうとした。
「サワルナ」
阿賀野「!?」ビクッ
よく響く、耳障りな声。
音である筈の声の感触があまりに冷たく、驚きのあまり阿賀野は手を放してしまう。
吹雪「……」スタスタ
阿賀野「……」
それ以上吹雪に関わる気分にはなれなかった。
執務室
山内「一週間後だ」
長門「一週間後?」
翔鶴「長官、例の件ですか?」
山内「ああ、アレが届けば全ての問題は解決する」
山内「邪魔が入らないよう海上護衛を徹底させろ」
翔鶴「畏まりました。調整しておきます」
長門「一週間後何が来るんだ?」
山内「秘密だ」
長門「馬鹿にするな。教えてくれ」
山内「ちょっとした援軍さ。これ以上は本当に秘密だ」
長門「お前は意地悪だ」
山内「意地悪ではない。軍機により秘密だ」
長門「……」ムス
山内「……そんなにむくれるなよ」
ブイン基地 ドッグ
「主砲が狙った位置に飛びません……」
明石B「うーん参ったわねぇ。この前も調整したんだけど」
明石D「時雨さん、この主砲の予備って倉庫に残ってますか?」
時雨「うん、残ってるよ。あと三つほど」
明石「三つですか」
「少ないですね」
明石A「あなたもそう思う?」
明石「いいわ、予備を持って行きなさい」
「……いいんですか?」
明石「ええ。まっすぐ飛ばない主砲なんて渡してしまってごめんなさいね?」ニッコリ
「ありがとうございます! 頑張ります!」
明石「じゃあ武器庫のエレベーターの所で待っててね」
「はい!」
時雨「いいのかい?」
明石「長官が何とかなるとおっしゃっていましたから」
時雨「明石さんは長官を信じてるんだ?」
明石「他に何を信じろというのです?」
時雨「……ま、それもそうか。野暮な事聞いちゃったね。明石さんは長官が大好きなんだから」
明石「べべべべべ別に私は大好きとか言ってないじゃないですか!」
時雨「はいはい。御馳走様です」
ブイン基地 大部屋
日向「では先程の映像について意見がある者は?」
「戦闘開始から10分34秒のところで敵と距離を取ったのは何故?」
「安全な距離からの砲撃で仕留められると判断しました」
「敵には重巡が混じってるんだからもっと積極的に肉薄すべきだと思う」
「駆逐艦的にも魚雷発射可能点はすぐそこでした! 肉薄の意見を支持します!」
「でも艤装の修理も満足に出来ない現状で……」
「だからって消極的に戦ってたら沈められるものも沈められないわよ」
「チッ、反省してまーす」
日向「うん。攻撃精神旺盛なのは良い事だが、生きて帰ればまた戦える」
日向「目の前の敵一体だけでなくもっと多くの敵を倒す必要がある事をゆめ忘れるなよ」
ブイン基地 夕張研究室
皐月「失礼しまーす」
文月「しまーす」
長月「邪魔するぞー」
木曾「よー」
夕張D「あ、睦月型のみんなと木曾さん」
夕張「いらっしゃい」
皐月「武器庫の方が暇になったからお手伝いに来ました」
長月「相変わらずいい部屋を割り当てられているな」
文月「長月ちゃん前も同じこと言ってたよ」
瑞鶴「夕張さんちーっす」
日向「邪魔するぞ」
翔鶴「失礼します」
夕張B「今日はお手伝いさんが多い日ですね」
日向「ああ、武器庫の連中も一緒か」
夕張「今、みんなから抽出した戦闘データのアーカイブ作ってるんですよ」
夕張F「砲撃戦も艦種によって違いますし、参考にしたいとき目次があれば便利です!」
夕張D「個別にデータ集めてたんですけど何かの拍子に全部がごっちゃになっちゃって……」
夕張「ということで皆さんには戦闘データの仕分け作業をして貰います」
夕張A「皆パソコンの前に座って任意の映像をご覧ください」
夕張B「それで内容ごとに仕分けをして下さい」
夕張C「分ける内容とかはお手元の資料をご覧ください!」
長月「……なんというか夕張、お前は平気なのか?」
夕張「何がです?」
夕張A「何がです?」
夕張B「何がです?」
夕張C「何がです?」
夕張D「何がです?」
夕張E「何がです?」
夕張F「何がです?」
長月「何体も自分が居るというのは気分の良いものじゃないだろう?」
日向「長月に全く同感だ。私が少し気持ち悪くなってきた」
翔鶴「あの……失礼を承知で聞くのですが……大丈夫なのでしょうか? 色々と……」
夕張「みんな何を気にしてるんですか?」
夕張A「作業が捗って助かりますよね?」
「「「「「ねー」」」」」
瑞鶴「普通そういうモノなの……?」
文月「ううん。多分違うと文月は思うの~」
夕張「六人いると作業効率が六倍じゃないんですよ! 六乗なんですよ!」
夕張D「ちなみに今はまだ理論の段階なんですけど、こんな面白い研究してるんですよ!」
瑞鶴「どれどれ……うわ! これもしかしてジェット!?」
夕張F「そうです! まだ理論段階ですけど!」
瑞鶴「凄い! 是非実用化してね!」
夕張B「任しといてください!」
夕張C「もう研究が楽しくて楽しくて……」
「「「「「ねー!」」」」」
日向「……色んな艦娘が居るものだ」
翔鶴「好きにやらせておいた方が結果を残すタイプに見えます」
長月「気にした自分がアホらしい。さっさとアーカイブ作りをするぞ」
夕張「艦娘ネットワークで流しても良いんですけど、面倒なので今日はパソコンの映像でお願いします」
長月「これは日時は昼、艦種は戦艦、砲撃戦の……乱戦時の個別精密射撃かな?」
夕張F「大体で大丈夫ですよ。後で細かく切り貼りするんで」
夕張「どこに分類分けしていいか分かんなかったら保留でお願いします!」
皐月「凄いなぁ艦娘視点で映像の迫力満点だ」
日向「こら、楽しむのは後だぞ……しかし映像だけでなく音までついているとは」
夕張B「音まで抜き取る設定には苦労したんですよ~」
日向「……夕張、本当に余計なものは抜き取って無いんだろうな?」
夕張D「心配性ですねぇ。艤装を付けてる時のデータしか抜き取ってませんって!」
日向「……翔鶴」ヒソヒソ
翔鶴「どうかされたのですか?」
日向「言いにくいのだがその……私が鎮守府を破壊した時のデータを見られると不味い」ヒソヒソ
翔鶴「あっ」
日向「あれは対外的には誤射という事になっている筈だ」ヒソヒソ
翔鶴「急いで探して消しましょう。私もお手伝いします」ヒソヒソ
日向「助かる」ヒソヒソ
日向「ん? このデータの座標……殆どが第四管区の司令部だ」
翔鶴「早速当たりを引きましたか?」
日向「まぁ見てみよう」ピッ
「えー、ここでかい?」
「いいから早く脱げ」
翔鶴「……悪い予感がするのですが」
日向「奇遇だな。私もだ」
「艤装を付けたまま執務室でしよう、なんて……提督も変態さんだね」
「お前から誘って来たんだろうが」
「あなたはいつもそうやって言い訳をする」
「……」ペロッ
「あっ……」
瑞鶴「二人で一緒に何を見て……え?」
「エッチな人」
「時雨、下着が邪魔だ。千切って良いか?」
「千切っちゃ駄目だよ。お気に入りなんだから」
「冗談だ」
「んんっ! もう……馬鹿」
「誰が馬鹿だ」
「あぁん!」
「……」
「はぁぁ……んぁぁ……い、息出来ないから……もっと優しく……」
「……」
「ごめん! ごめんなさい! あぁあ! 提督は馬鹿じゃないから!」
「分かればいいんだ」
「はぁはぁはぁ……」
瑞鶴「……」
「机の上に座れ」
翔鶴「……」
「正常位かい。今日はバックは良いの?」
日向「……」
「また後でな」
長月「……」
「んふふ。いいよ」
皐月「……」
「お前の許可など求めてない」
文月「……」
「雑に扱われるのは嫌いじゃないけどさ……この姿勢だと提督の顔とアレがよく見えるよ」
木曾「……」
「最初は入れづらかったのに、今はすんなり入る」
夕張「皆さん何で集まって……あっ」
「そういうのはNG……うあぁっ……」
「この行為、入れている俺は気持ちが良いが、入れられる方はどうなんだ」
日向「……」
「なん……で、今……聞く……んんん!!」
翔鶴「……」
「余裕がある時に聞いても適当に答えられそうだし……射精しそうだから気を紛らわせたい」
瑞鶴「……」
「僕のぉ……顔を……見れば……分かるぅぅ!!……だろう!!」
長月「……」
「俺は結局自分の気持ちしか分からん。他人の気持ちなど推測でしかない。聞かせてくれ」
皐月「……」
「くぁ……はぁぁ!!」
文月「……」
「お前の言葉で聞かせてくれ」
木曾「……」
日向「……」
「気持ちいい!!」
翔鶴「……」
「へぇ、その程度なんだな。なら止めにしようか」
瑞鶴「……」
「やだ……」
長月「……」
「聞えんな。終わりだ」
「やだ! やだやだやだ!!!!!」
「何がどう嫌なのか」
「気持ちいいの……止めないで……」
「聞えん」
「止めないで!」
「聞えるが、何を止めては駄目なんだ?」
「オマンコするの止めないで! オチンチンが凄い気持ち良いからぁ!!」
「……満足だ」
「ふぁぁっ!」
夕張「駄目です駄目です! こんな所でポルノを流さないで下さい!」
夕張B「女ばかりの基地で男を感じさせないで下さい! 私の精神が崩壊しちゃいます!」
長月「お前……もっと気にすべき事が身近にあるだろうに……」
夕張C「男なんて嫌いです! 嫌い! ……嘘です! 大好きです! 愛されたいです!」
木曾「変な奴だな……日向さん達もそろそろ見るの止めろよ」
長月「そうだ。仲間のまぐわいを見たところで何も良い事は無い。……時雨が色っぽかったが、私もじきにあの程度の色気は出せるようになる!」
木曾「いや、誰もお前にそんなの求めてないし、無理だろ」
長月「ムキョー!」
長月「おい日向! 飯に行くぞ! さっさと行くぞ! 今すぐ行くぞ!」
日向「……」
長月「ムキャキャキャキャァー! 無視するんじゃあない! もういい! 翔鶴! 瑞鶴! 行くぞ!」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
長月「ムキョォォォ!!! お前らまで私の事を無視するのかぁ!?」
長月「いい加減に!」ユサユサ
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
長月「あれ?」
長月「……」ユサユサ
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
長月「……」ユサユサ
日向「……」
長月「……」ユサユサユサユサ
日向「……」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
長月「……三人を構成するナノマシンの活動が止まっている」
木曾「は?」
長月「こ、こいつら……し、死んでる……」
木曾「……」
木曾「誰か急いで応急修理バケツ三つ持って来い!!! 急げ! 間に合わなくなるぞ!!」
小休止
さすが世界の真理は強烈ですね。
乙です
あれだな。友達が携帯置いて席外した時、つい出来心でムービーファイル覗いたら恋人のハメ撮り動画見つけてしまった心境だな
久々の更新で喜んでたらこんな展開でワロタw
しかし吹雪がヤバいな…
夜 ブイン基地 大部屋
山内「皆、ご苦労。よく集まってくれた。端的に言おう」
山内「一週間後、本国から援軍が到着する」
ザワザワ \エングン?/ ガヤガヤ
山内「その便に技官妖精が搭乗している」
明石「本当ですか!?」
山内「嘘を吐いてどうする」
明石「……失礼しました」
山内「構わん。信じられずに驚く気持ちはよく理解出来る」
山内「特に明石君、君には多大な負担をかけた。本当に、本当によく耐えてくれた」
明石「……はいっ! お褒めの言葉ありがとうございます!」
山内「来てくれるのは横須賀鎮守府、旧第四管区の技官妖精だ」
\ダイヨンカンク?/ \イゼンアッタチンジュフ? ダヨ/ \アー/ \マタダイヨンカンクカ!/
日向「第四管区の技官は妖精界でも嫌われ者だったのかな?」
瑞鶴「あはは」
翔鶴「また彼らと共に戦えるのですね」
木曾「何にせよ、本当に助かる。今外で働いてる長月も聞けば喜びそうだ」
山内「みんな静粛に」
……
山内「よろしい。彼らは海路で来る。船が沈められれば大ごとだ」
山内「そこで明日から当日まで、海上の安全確保のための臨時スケジュールを組む」
山内「一週間、敵の動きを完全に封殺するぞ」
山内「部分的な攻勢も許可する。存分に戦い、守れ」
オー!!! ワーワー!! \イヨッ!チョウカン!/ \アホノズイカク!/
瑞鶴「おーい聞こえてるぞぉ! カギヤ、タマヤみたいに言うんじゃなーい!」
\アハハ!/ \ヤッパリアホダー/
瑞鶴「もう……」
日向「……」
山内「シフトの詳細は掲示板に張り出す。では、解散」
夜 ブイン基地 廊下
日向「長官」
山内「何だね」
日向「十五代はまだ残っていますか?」
山内「あと二本程あるが」
日向「良かった。では少しお話ししましょう。勿論、酒を飲みながら」
山内「酒目当てだな」
日向「明日から忙しくなりますから。今の内に楽しんでおかないと」
山内「分かった。後で来たまえ」
日向「あ、それと……」
夜 ブイン基地 執務室
日向「邪魔するぞ」
山内「ああ」
長門「失礼する」
山内「……ああ」
日向「まぁ長門、ゆっくりしていけ」
山内「そうなるともう誰の部屋か分からないな」
~~~~~~
日向「まぁ乾杯」
山内「乾杯」
長門「乾杯」
日向「……いい味です」
山内「ああ」
長門「これは……凄いな……」
日向「生牡蠣もあるぞ」
山内「私の用意した、な?」
日向「細かい事を気にしては駄目です」アム
日向「うん。美味い」
山内「それで、今日は二人して何の用だ」
日向「長官、貴方は童貞でしょう」
長門「」ブッー
山内「……ん?」
日向「童貞でしょう?」
山内「……」
日向「童貞でしょう?」
山内「返事をするまで聞き続けるつもりか」
日向「私なりに推察してみたんですが、貴方は妙に女慣れしてないし……」
日向「天才というのは性に奔放か頑なに童貞か、どちらかに一つと決まっています」
山内「艦娘をやめて、新宿の西口で人相占いでも始めたらどうだ」
長門「……」
日向「当たっているんですか?」
山内「外れている」
日向「へぇ」
山内「……」
日向「最近、この基地の雰囲気も良くなってきたと思いませんか」
長門「そ、そうだな! 以前より活気がある」
山内「……」
日向「今日の全体会議だって良かった。艦娘達の笑顔が、こんなにも早く見られるとは思わなかった」
長門「雪風は特に病んでいたが、今ではまるで普通の艦娘だ」
日向「あいつの話す艦娘語は中々聞き取りにくい。彼女は病んでいたのでなく単に躾がされていなかった」
日向「木曾が面倒を見始めて普通のマナーを覚えた、というだけの話だ」
長門「そうなのか」
日向「戦艦長門もまだまだだな」
長門「お前達に比べれば若輩さ」
日向「それを言われるとなぁ。後輩に強く当たれんじゃないか」
長門「酒をどうぞ、先輩」
日向「ありがとう、後輩」
日向「それで、長官が童貞だという話に戻ります」
長門「戻るのか……」
山内「……」イライラ
日向「長門も処女だし、丁度いいんじゃないかなと思って」
山内「君の喋りは難解すぎる。理解不能だ」
長門「日向、流石にそれは意味が分からない」
日向「ん? 人間の原理原則に基づいた話をしているつもりですが」
山内「君に世界がどう見えているかは知らんが、少なくとも君の原理は普遍性を持っていない」
日向「はいはい。悪かったですよ。理知的な長官に私の考えた原理の話などして正当性を見せつけようなど……愚策でした」
日向「お前ら、好き同士のくせにまだやってないだろう。今日やれ」
日向「これが言いたかった」
山内「ふむ……」
長門「……」
日向「やはりこの酒、美味いな」
山内「日向君、少しトラックで気分転換してみてはどうだ? 君には休息が必要だ」
日向「退役勧告!?」
長門「いや、どうしたんだ日向、お前ちょっとおかしいぞ」
日向「……時雨のせいで脳内がピンク色になってしまっているのかも」
山内「時雨君?」
日向「何でもありません。ちょっと昼間に仮死状態になっていたから……何だかな」
長門「仮死状態って……大丈夫なのか?」
日向「ああ、ナノマシンが完全に停止する前に何とかなった」
山内「しかし君は今日非番じゃなかったか?」
日向「長官、艦娘は常在戦場ですよ」
山内「それはあくまで心構えの話だろう。君との会話は本当に疲れる」
日向「冗談はさておき」
日向「私は酒が飲みたかったが、私だけでは飲めないし、長官と二人きりで飲むというのも長門に悪い」
日向「なら三人で飲めばいいじゃないか、という話です」
山内「最初からそう言うべきではないかね」
日向「これは失敬」
長門「な、何で私に悪いんだ……。勝手にすればいいだろう……」
日向「どうです長官、長門は可愛いでしょう」
山内「……そうだな」
長門「くぅぅ……悔しい」
日向「長官」
山内「何だ」
日向「次の援軍とやらであの人はブインに来ないんですか」
山内「艦娘が少々、技官妖精、搭乗員妖精と艦載機、それと穢れ対策の神官」
山内「これが援軍の内訳だ」
日向「……ま、そう私の都合通りには行きませんか」
長門「あの人とは旧第四管区長の事か?」
山内「多分な」
長門「指揮する艦娘の居ない提督というのは何の仕事をするんだ」
山内「仕事というのは無限に作れる。適当に働いているだろう」
日向「翔鶴が時折月を見て寂しげな顔をします」
山内「かぐや姫」
日向「だったら、月に帰ってくれて私としても助かるんですが」
山内「あはは」
日向「他の奴らも口には出しませんが、彼に会いたがっています」
山内「基地の艦娘はラバウル、トラック、ブインの同名艦はローテーションを組んで休ませるようにはしている」
山内「第四管区の君達は要職に就いた者が多い。居なくなっては困る……故に苦労をかける」
日向「そのねぎらいは有り難いですが、的外れですよ」
日向「確かに肉体的な疲労は精神を弱らせます。けど今回はそうじゃありません」
日向「単純に会えなくて寂しいだけです」
日向「長官、その内に機会を設けて頂きたい」
山内「この前の酒の席でもあの男の話ばかりだったな」
日向「そうでしたっけ? 実はよく覚えてなくて……」
山内「そう何度も熱心に頼み込まれると私としても断りづらい」
山内「その内、な」
日向「期待してます」
日向「まぁ今日は飲みましょう。また明日から忙しくなる」
山内「そうだな」
長門「う、うむ! 私も飲む!」
日向「ホッケが欲しいですね」
山内「中年のような味好みをしているな。用意させよう」
~~~~~~
長門「……おい山内」
山内「……は?」
長門「お前、私が援軍の内容を聞いた時には」
長門「『軍機だ』」キリッ
長門「とかやってた癖に日向が聞けばするする答えたじゃないか」
長門「薄情者」
日向「……戦艦長門は日本酒に弱いか」
山内「いや、もう技官妖精が来ると発表した事だし良いだろうと思って」
長門「私に一言相談があっても良いだろう! 私はお前の戦艦なのに!」
日向「……」ニヤニヤ
山内(この狸……最初からこうするつもりで……)
日向「おっと、もうこんな時間か。今日は磯波と会う約束をしていたんだった」
日向「長官、十五代を少し小瓶に分けさせてもらいました。磯波にも飲ませてやりたい」
日向「御馳走様です。では私はこれで」
山内「待ちたまえ日向君! 君は!」
日向「失礼しました」
山内「……行きやがった」
長門「……お前は私が嫌いなのか」
山内「……」
長門「明石ばかり褒めて……私の事はちっとも褒めてくれないじゃないか!」
山内「いや……長門、それはだな」
長門「私はブインに赴任してから戦艦を10以上撃沈しているんだぞ!?」
山内「あ、ああ」
長門「重巡は40以上だ!!!」
山内「……おう」
長門「空母だって軽空母を合わせれば43沈めてる!」
山内「……はい」
長門「軽巡以下は狙わん! 私は陸奥じゃないからな!」
山内「そうなんですか……」
長門「大型艦の近接砲撃戦をお前だって見ただろう!」
山内「……うん」
長門「重巡はまだいい! 何言ってるか分からないから!」
山内「……」
長門「戦艦クラスはたまに日本語で喋りかけてくるんだ!!!! 気味が悪い!」
山内「そうなんだな」
長門「……私だって馬鹿じゃない。みんなが自分の力を尽くしていることくらい分かる」
山内「……」
長門「私だけ贔屓して欲しいわけじゃない」
山内「……」
長門「……嘘だ。私は私だけを特別扱いして欲しい、贔屓して欲しい」
山内「……長門」
長門「戦艦同士の殴り合いは、本当はとても怖い」
長門「私が怖いなんて言えば他の者達に示しがつかないから言えないが、本当は凄く怖い」
長門「戦いの最中に口汚い言葉を叫ばなければすぐに正気を失いそうになる」
長門「私はあの場所でいつもお前の事を考えながら戦っている」
長門「戦いに勝てばお前が褒めてくれるんじゃないかな、とか喜んでくれるんじゃないかな、とか」
長門「それが私の心の支えなんだ」
長門「こんな形で言ってしまうのは卑怯だよな、図々しく求めているのと同じだ」
長門「けど、たまには褒めてくれたって……良いだろう?」
山内「……良いかもな」
長門「艦娘が自分の指揮官を好きになるようプログラミングされているのは知っている」
長門「どういう仕組みかは知らんが、そうなっていることを知っている」
長門「そして、そんな偽物が嫌だと言う提督が居たのを私は知っている」
山内「……」
長門「お前が我々の好意をどう思い、捉えているのか私は知らない。聞いたことも無い」
山内「……」
長門「仮に偽物だろうが何だろうが、それでも私はお前が好きだ」
長門「本物と偽物なんて私には分からない。とにかく私はお前が好きだ」
長門「私は何も知らない。敵との戦い方くらいしか知らない。お前との喋り方も、自分の想いの伝え方も、よく分からない。けどお前が好きだ」
長門「お前の手も、私の手も、とても温かいんだ!」
長門「私は戦艦長門だ!! 敵との殴り合いは怖いけど!! いやちっとも怖くないが!!! 私に任せてくれ!!」
長門「……それで、たまには褒めてくれると、とても嬉しい」
山内「……」
長門「……提督? 何故泣いているんだ? 何か嫌だったか???」
山内「うっ……ぐっ……」
長門「す、すまなかった。酔った勢いでこんなことを言ってしまって……それは困るよな」
山内「長門!!!!」
長門「ど……どうしたんだ?」
山内「俺は……俺は!! 聨合艦隊司令長官になるために全てを捨ててきた」
山内「自分の青春だけでなく、艦娘の事なんて何も考えずに、ただの道具として利用してきた!!!」
山内「長官になれば、今までの分を艦娘に報いる事が出来ると思って戦い続けてきた!!」
山内「彼女達の好意を踏み台にしてここまで登って来た!!」
山内「仕組まれたものだから、内心気持ち悪いとさえ思っていた!!!!!」
山内「多くの戦いを共にし、乗り越えてきた先代の長門だって同じだ」
山内「『愛している』と言う彼女に『俺もだ』と返しながら、その実、私は彼女を見ていなかった」
山内「……ある日忽然と消えたよ。当時の俺には、その意味がまるで分からなかった」
山内「そして、聨合艦隊司令長官の椅子が俺の下へ転げ落ちてきた」
山内「俺はもう、喜んで座った。艦娘達の犠牲の元に目指していた場所に到達出来たんだからな!」
山内「だが、そこは俺の思い描いていたような場所では無かったし、俺は今までの艦娘達の献身に報いる事が出来なかった」
山内「そうなってから、俺は長官になってから初めて」
山内「彼女が、お前達が置かれていた現状について思い悩み始めた」
山内「……あまりにも遅かったな」
山内「今分かった」
山内「偽物だとか本物だとか、もうどうだっていい」
長門「……」
山内「艦娘の在り方は確かに歪だが、人間は、いや、俺はもっと歪だった」
山内「俺はこれから、お前達と向き合っていく覚悟が出来た」
長門「……」
山内「お前の言葉は愚直なまでに飾り気がない。頭も悪いし意味も分からない」
長門「なっ!?」
山内「……それでも、しっかりと伝わったよ」
長門「……」
山内「長門、いつもありがとう。俺もお前が好きだ。お前の言葉はとても温かい」
長門「……」
長門「……うん。うん。分かれば良いんだ。分かれば」
山内「……馬鹿が」
長門「提督に言われたくない」
山内「あははは!」
長門「ふふっ」
小休止
展開がドタバタして申し訳ないですが、もうすぐ一段落させる予定です
しかし、長門の話のオチの付け方がどこかで見た事のあるような……
すごくいい…
乙です
乙です
乙です。
「陸奥じゃないからな!」で理由のない第3砲塔爆発が陸奥を襲う!
また楽しみにしてます。
4月25日
朝 ブイン・ラバウル間連絡海域
日向「爆雷投下!」
「「「「「了解!」」」」」
戦闘は極めて順調だ。
日向「投下完了後、安全位置まで退避!」
「「「「「了解!」」」」」
日向「10、9、8」
早朝から始まり、本日何度目かの潜水艦狩りも何の問題も無く終了しかけている。
日向「3、2、1……0」
連続した海中での爆発音がし、一際大きな水柱が上がる。
日向「戦果確認!」
「「「「「了解!」」」」」
静寂
磯波「日向隊長、水中に感なし、状況終了です」
日向「こちらでも確認した。みんな良くやった。補給と交代の為、一時ブインに帰投する」
「「「「「了解!」」」」」
日向「良い返事だ。このまま無事一日を終えることが出来れば、間宮を奢ってやる」
「やりぃ!」
「さっすが日向さん!」
磯波「えっと……御馳走になります!」
日向「喜ぶのはまだ早いぞー。ノロノロ魚雷に当たったりしたら奢ってやらないからなー」
「「「「「了解!」」」」」
日向「良い返事だ」
昼 ブイン基地 ドッグ
「す、すいません大破しちゃいました……」
明石「油断しないの! はい修理するから艤装脱ぐ! 貴女はドッグ風呂へ行く!」
「はいぃ~」
時雨「明石、頼まれたもの持って来たよ」
明石「時雨さん、ありがとう! 前から不思議だったんだけど、時雨さんには複数いる私の見分けが出来てるわよね?」
時雨「こう見えても鼻が利くんだ。見た目が同じでも違いはあるものさ」
明石「ふ~ん。そうなんだ……まさか私、におっちゃってる?」
時雨「あはは! 僕は嗅覚優位なのさ。対象を認識する時に視覚だけでなく匂いでも認識する傾向にあるんだ」
時雨「認識の為のものだから良いとか悪いとか関係無いんだけど……強いて言うなら明石は良い匂いだよ」クンクン
明石「もう! それなら嗅がなくていいですから!」
時雨「そう言われると余計に気になっちゃうんだよね」クンクン
明石「も~う!!」
昼 ショートランド・ブイン間連絡海域
長門「敵が陣形を乱したぞ! 各自散開! 大型艦は近接戦闘に移れ! 軽巡以下は残りの相手をしろ!」
高雄「了解! 11時方向の重巡に行きます!」
霧島「うらぁぁ!!」
長門「では私は戦艦を片付ける!」
タ級は正面から高速で接近してくる。こちらも負けずに機関最大で迎え撃つ。
袖の下に隠したような砲が顔を出した、主砲を撃つつもりのようだ。
長門「撃てるものなら撃ってみろ!!!!」
タ級「……」ニコニコ
主砲に恐れをなして逃げてはならない。発射ギリギリまで耐えなければ、勝てない。
距離が詰まる。残り50も無い。
タ級の顔から笑みが消える。ここまで突っ込んでくるとは想定もしていなかったようだ。
残り20、敵の主砲が一斉射される。砲口の向きは全て確認済み。
余程慌てて撃ったのだろう、狙いがてんでバラバラだ。
更に加速し身体を少しだけ左に捻り、右半身と艤装の隙間に2発、顔の3cm横で1発を躱す。
残りは加速したことにより直撃コースから外れた。
長門「食らえぇぇぇぇぇぇ」
距離0、相手は主砲発射の衝撃から立ち直れておらず動けない。
主砲への次弾装填は間に合わない、副砲ごときで私の装甲は貫けない。
勝負は決まった。
鉄拳に加速の勢いを乗せて顔面めがけ打ち下ろす、私自身の怪力と相対速度のせいで酷い威力になるだろう。
拳を食らったタ級は、勢いよく頭から海面に倒れ込んだ。
既に絶命している可能性もあるが、芽は全て摘み取る。
立ち止まり、41cm8門の一斉射を焦らず、確実に、正確に本体に加える。
タ級を構成していた本体はあまりの衝撃に千切れ、宙に舞った。
長門「……戦艦1撃沈」
ブイン基地、第三防衛ラインでの戦闘は終了しようとしていた。
4月29日
早朝 ブイン基地
珍しく薄い朝靄の立ち込める南の海、ブイン基地の港は援軍を出迎える準備をしていた。
長月「濃密な1週間だったな」
皐月「他の日も濃密だったさ。ボクらがブイン基地に来てまだ1か月たってないのが驚きだよ」
卯月「眠いぴょん。あれ、文月と弥生はどこぴょん?」
皐月「二人なら防衛ラインでお仕事さ」
雪風「ユキカゼ!」
木曾「ああ、楽しみだな。新しい艦娘がどんな奴か」
那珂「朝から可能な限り艦娘総出で、しかも港でお出迎えって……凄いVIP待遇だよね」
五十鈴「私もそう思う。ちょっと歓待ぶりが異常よ」
阿賀野「それだけ期待してるって事だよ」
五十鈴「あれ? 夜戦馬鹿は?」
神通「姉さんなら海上護衛です……」
五十鈴「まだ続けてるの!? もう海から魚が居なくなるほど爆雷打ち込んだのに」
那珂「もしかして援軍って……那珂ちゃん級のアイドル!?」
五十鈴「こいつ爆雷500個くらい縛り付けて沈めてやりたい」
瑞鶴「これでようやく航空戦力が使えるようになるわけね!」
翔鶴「武器庫の面積をボーキサイトが圧迫していましたからね……」
加賀「……」
瑞鶴「大丈夫ですよ加賀さん! 戦う感覚を忘れていても、私達がフォローしますから!」
加賀「余計なお世話です五航戦妹」
瑞鶴「むぅぅ」
加賀「……でも、ありがとう」ボソ
翔鶴「……」ニコニコ
三隈「クマ……あれ? クマリンコ」
日向「どうしたんだ三隈」
三隈「いえ、少し眩暈が」
日向「大丈夫か?」
三隈「少し疲れが溜まっていたのでしょうか……あちらの島が動いているように見えます」
日向「あれ……奇遇だな。私も疲れが溜まっているようだ」
長門「……私も島が動いているように見える」
漣「漣にも動いているように見えます……そもそも、あの方角に島はねーはずです」
木曾「違う、島じゃない……船だ!」
雪風「ユキカゼ!!!」
木曾「軍艦、空母だと?」
長月「あのサイズの軍艦なんてそうそう無いぞ!?」
山内「米軍の置き土産だ。タラワ級強襲揚陸艦『サイパン』」
日向「長官」
山内「カタログスペックは全長約250m、全幅約32m、排水量40032t、速力最大24ノット」
山内「彼らが太平洋から撤退する際に、損傷が酷く日本へ寄港したものを改修したものだ」
山内「アメリカさんが見捨てたものを日本が勝手に使っているわけだから、当然存在自体が非公式だ」
山内「加えて、妖精による改修が施されているので軍事機密の塊でもある」
木曾「でけぇ……」
日向「これが本物の軍艦か」
長門「大きいな……」
島、強襲揚陸艦はその見た目通りゆっくりとした動きで、ブイン基地へ入港する。
長月「こんな大きな艦、敵にしてみれば良い的じゃないか!」
山内「だからこそ、海上護衛を徹底させた」
長月「日本からブインまでこんな大型船で乗り付けるなんて……無茶苦茶だ」
山内「だが無茶は通用した」
長月「確かにそうだが……」
日向「で、長官様。朝っぱらから私達を荷物運びの為に呼び出したわけではあるまい」
山内「ああ、そうだな。お前達に紹介せねばならん人物が二人いる」
山内「全員傾注! 私の両側左右一列に整列せよ!」
先程まで突如現れた旧式軍艦に目を奪われていたにも関わらず、長官の一声に艦娘達は素早く反応する。
これも日々の訓練、また長官の人徳(?)の成せる技なのかもしれない。
艦が接舷すると、中から妖精達が溢れ出すように飛び出してきた。
新大陸に到着した入植者みたいだな、と緑の髪をした艦娘は考えていた。
港と繋がれたタラップから人間が二名姿を現す。
思い思いに陸を楽しんでいた妖精達も、彼らの姿を確認すると整列をし、艦娘が作った出迎えの列に加わった。
どんな人間か俄然興味が湧いてくる。
一人は薄い顎髭を蓄えた海軍士官服の男、歳は大体長官と同じくらいだろうか。中々精悍な面構えをしている。
もう一人は……見るからに胡散臭い奴だった。
神官の装束を纏っていることで何とか身分は推測できるが……。
頭全体が犬の顔をした珍妙な面によって覆われており、顔が隠されている。
長月「何だありゃ……」
聨合艦隊司令長官は、犬の面など気にも留めず二人に歩み寄る。
山内「嶋田、よく来てくれた」
嶋田「なんの。手持ちの艦娘が殆ど南方に吸い上げられて仕事が無かった。丁度いいさ」
山内「神官殿、ようこそブイン基地へ」
神官「えいっ! ええいっ! この基地は穢れに満ちておるぞ! えええいっ!」
山内「そうですか。何卒、神官殿がお力添えをして頂きますよう……」
神官「えええいっ! 我が来たからにはもう何も心配する事はない! えいっ!」
日向「……」
時雨「……」クンクン
神官の声も普通では無かった。
喋り方自体が普通ではないのだが、ボイスチェンジャーにかけたように耳障りな声だった。
長月「……居るだけでこっちの穢れが溜まりそうだ。しかしあの男……どこかで会ったか?」
妙に懐かしいような……
神官「ううむ!? こちらの方から強い穢れを感じるぞ!」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
そう言うと長官を無視し、艦娘の列の方へズカズカと歩み寄る。
一糸乱れぬ出迎えの艦娘達の列に乱れが生じた。
確かにあの犬面に近寄られると怖い。
神官「おおおおん! 凄い穢れだ……」
高雄「わ、私ですか?」
神官「全身からいかがわしい瘴気が立ち上っている! 今すぐに祓いが必要だ!」
高雄「別に異常はありませんが……」
神官「自覚症状が無い程に酷いのだ!」グワシ
高雄「あんっ!!」
木曾「……」
神官「このっ! この乳がっ! 悪霊退散! 悪霊退散!」モミモミ
高雄「や……やめっ……やめて!……んんっ!下さい……」
神官「す、凄いおっ……穢れだ! これはじっくりと祓う必要がありそうだ! 今すぐ私の部屋へ」
日向「やめんか」ドゴッ
神官「タラワッ!?」
日向「神官殿、艦娘とそういう行為がしたければ同意の上でひっそりとお願いします」
日向「精神的に不安定な者や、まだそういう行為を知るべきでない艦娘も居ますから」
神官「……君、名前は」
日向「超弩級戦艦、伊勢型二番艦の日向です」
神官「日向君か、私は神祇院の長にして日本国の神道の正統なる継承者の一人でもある。……この私への無礼な振る舞い。如何にして償うつもりか」
日向「貴方が望むことを何でもしましょう」
神官「ほう……」
日向「面を取ってもよろしいですか?」
神官「よかろう。この私に触れることが出来るのを光栄に思え」
日向「はいはい。君もいい加減芝居が下手だな」
神官「騙せるとは思ってなかったさ」
面を取るとよく見知った顔が出てくる。
日向「また会えて嬉しい」ニコニコ
神官「俺もだ」
夕張「えっ!? 何ですか!? 何でこの二人こんな良いムードなんですか!?」
夕張C「何が起こっているんですか!?」
翔鶴「お久しぶりです」
瑞鶴「やっぱり提督さんだった。お久~。元気してた?」
時雨「提督!」
長月「司令官!!」
皐月「うわーほんとに提督だー」
木曾「……」
三隈「ほんと、クマった人ですこと……」
漣「相変わらず茶目っ気の多い人ですね~」
隊列から離れ、それぞれが思い思いの言葉を口にしながら一人の男に近づく。
神官「翔鶴、俺が居なくて寂しかったか?」
翔鶴「いいえ」
神官「そうか。俺はお前の太ももが恋しくて仕方なかったが」
翔鶴「私はちっとも寂しくなかったですが……提督が悲しい思いをしては困ります。もう離れません」
神官「くっく、是非そうしてくれ。俺の為にな」
翔鶴「はい。そうします……日向さん、いい加減提督に抱きつくのをやめなさい。提督が嫌がっているでしょう」
日向「そうは見えんが?」
翔鶴「……そうですよ、私が嫌なのです。いいから離れなさい」
日向「やれやれ。早く月から迎えが来ないかな」
神官「調子はどうだ」
瑞鶴「上々」
神官「まだ俺の事が好きか?」
瑞鶴「私に嫌われたら提督さんは生きてけないだろうし、しょうがないから好きでいてあげてる」
神官「はっ、それは上々だ」
瑞鶴「夢、まだ諦めてないでしょ?」
神官「諦めていたらこんな場所に来ないだろう」
瑞鶴「言えてる~」ケラケラ
時雨「初めまして神官さん」
神官「初めましてお嬢さん」
時雨「僕、穢れに体の隅々まで汚されちゃってるんだ。神官さんのアレで綺麗にして欲しいな?」
神官「いえいえ、お嬢さんは元から穢れの塊のような存在です。私には救えません」
時雨「んふふ」ドゴォ
神官「バビロンッ!?」
三隈「クマリンコ」
神官「クリマンコ」
三隈「ふふっ、クマリンコ」バチコォン!
神官「ガフッ!? クリマンコ!」
三隈「あらあら、うふうふ、『クマリンコ』」ドゴォォォドゴォォォォ
神官「ガハッ! ガハァッ! く、クマリンコ」
三隈「提督、よく出来ました♪ 三隈は再びお会いできて嬉しいですわ」
神官「う、うむ」
お嬢もずいぶん染まってしまったなぁ
木曾「……」
神官「おい木曾」
木曾「……」
神官「泣くなよ」
木曾「だって、だってぇ!」
神官「泣くんじゃなくて、もっと再開を喜べよ」
木曾「俺だって嬉しいんだよ! 嬉しいから泣いてんだよ!」
神官「怒ったように叫ぶな。不器用な奴め」ナデナデ
木曾「うぅ……」
神官「漣、何か異常は無いか」
漣「ねーですよ、元ご主人様」
神官「……その呼び方はクるものがあるな」
漣「嘘です。漣のご主人様は貴方だけです」
神官「漣……」
漣「それも嘘です」
神官「サザナミィ……」
漣「えへへ、またよろしくお願いしますね、ご主人様!」
神官「漣ぃ!」
神官「皐月、無事だったか」
皐月「まぁねぇ! 文月と曙は仕事中だよ」
神官「そうか……」
皐月「提督はしばらくこっちに居るの?」
神官「あぁ、だが以前のように指揮官としての仕事はしない。あくまで神官として着任した」
皐月「以前から艦隊の指揮はしてなかったじゃないか。それならいつも通りだよ」
神官「ワハハ! こやつめ! 言いおる!」
皐月「あはは!」
長月「司令官!」
神官「よっ」
長月「司令官!!」
神官「どうしたんだよ」
長月「司令官!!!!」
神官「違う人間に見えるか?」
長月「やっぱり司令官だよな!!」ダッ
そして長月は、跳んだ。
神官「……ふぁはまにふぉひふふな」(頭に抱きつくな)
長月「司令官! 司令官! 司令官! ふへへ! この野郎! 来るなら来るって言えよ!」モギュモギュ
神官「ふぁーなまつきもにもいまする」(あー、長月の匂いがする)
長月「大人の良い匂いだろう!」
神官「ひょんへんふさいはひほひほいは」(ションベン臭いガキの匂いだ)
長月「照れ隠しだなー! このー! かわいいなぁー!」モギュモギュ
皐月「長月、後ろからだとパンツ見えてるよ」
長月「知るか!」
日向「そう体を押し付けては彼が苦しいんじゃないか?」
長月「私の匂いを嗅ぎながら死ねればこいつも本望だろう!」
漣「……長月、後輩が見てますよ」
長月「……あっ」
「「「「「「……」」」」」」
衆人環視であったことを完全に失念していたようだ。
長月はいそいそと提督の顔から離れ地面に戻り、スカートを直す。
そして何故か語り始めた。
長月「あーみんな、聞いてくれ。この男は旧第四管区の提督、私達の上司だった男だ」
長月「私の事が好き過ぎて、ブインまで来た」
沈黙
誰も言葉を発さなかった。
長月「こ、この男は重度のロリコンで定期的に私の匂いを嗅がないと発狂するんだ!」
長月「先程の行為はこの男の発作を抑えるための行為であって、私の本意ではない」
沈黙
長月「繰り返すぞ! 私の本意ではない! 仕方なく行ったものだ! いいな! 阿賀野! いいな!?」
阿賀野「えっ、あ……はい」
長月「天龍も分かってるよな!?」
天龍「も、勿論ですよ! 長月さん!」
長月「よし! 分かれば良いんだ! 分かれば!」
日向「……」ニヤニヤ
神官「長月」
長月「何だ司令うわっ!?」
後ろからの声掛けに振り返ろうとした長月の脇の下に手をやり、
まるで何かの荷物のように持ち上げる。
長月「お、おろせ! 何だこの持ち方は!」
神官「そうか長月、俺はロリコンか」
長月「頼む! 話を合わせてくれ! 私にも面子があるんだ!」ヒソヒソ
久々に見た必死そうな長月の姿に笑みが零れそうになる。
神官「お前も相変わらずだな。分かったよ」ヒソヒソ
神官「ああそうなんだ、みんな! 俺はロリコンなんだ! 長月が好き過ぎるんだ!」(棒)
沈黙
翔鶴「ぷっ……」
瑞鶴「……」ニヤニヤ
長月「ほら聞いたかみんな! こいつは私が好き過ぎて私も困ってるんだアハハモーコマッタナァ!」
長月「司令官、もうロリコンの発作は収まっただろう! 降ろしてくれ!」
神官「俺は長月が好き過ぎるし、いつも迷惑ばかりかけてしまうから今日は御礼をしたい」
長月「……は?」
神官「長月、いつもありがとう」
持ち上げた長月をこちらへ抱き寄せ、頬に口づけをする。
神官「これが御礼だ」ニヤニヤ
長月「……」
長月「うにゃぁあああああああ!?」
長月「……」ガクッ
漣「あ、長月のブレーカーが落ちた」
皐月「睦月型のみんなでエッチなDVD沢山見て、長月が失神しないよう練習したんだけどなぁ」
漣「……なんていういかがわしい練習ですか、それ」
小休止
乙です
神官さんの頭が大きいのか、長月が小さいのか、それが問題だ。
GHQによる国家神道解体は行われていないため神官が存在する設定でお願いします。
艦娘母艦さんは読んだ事無いけど、多分強襲揚陸艦は使わない……よね?
乙です
みんなかわいいな!
乙です。
神官殿が一番穢れている問題。
たしか、当該作では深海棲艦と戦える軍艦(重巡)だったと思うので強襲揚陸艦でラムアタックするような事がなければ被る心配はないかと
皆さんいつも支援ありがとう
木曾の再開は誤字スマソ
艦娘母艦は戦闘用なんですね!
こっちは戦闘用ではないので安心です。
ブイン基地 執務室
三人の男たちが執務室のソファに腰を下ろし歓談をしていた。
山内「長旅ご苦労だったな」
嶋田「なんのなんの、妖精任せの気楽な船旅だったよ」
神官「山内、強襲揚陸艦は凄いぞ。あの造船技術が失われるのは惜しい」
山内「下手に小型の艦を使うより、あれだけ大型だった方が逆に安全な場合もある」
嶋田「だが世界の趨勢を見れば大型艦は最早必要が無い」
山内「そうだな」
神官「仮に深海棲艦が居なければ案外俺達はあの船に乗っていたのかもな」
嶋田「……」
山内「かもな」
嶋田「だから何だってんだ? 『大きなオフネは海兵冥利に尽きてウレシー!』ってか」
嶋田「御免だね。深海棲艦が居なければ、どうせ人類は身内同士で戦ってらぁ」
山内「お前は相変わらずだな」
嶋田「俺は自分の浪漫の為に人殺しなんてまっぴら御免だ」
神官「別に人を殺すと決まったわけでは無い。俺は元々軍艦に憧れて海軍に入ったんだよ」
嶋田「知ってるよ。軍艦に憧れて入って、血筋が良い癖に馬鹿みたいに努力して、結局軍艦に乗れなかった奴の事なら俺は良く知ってる」
山内「嶋田、忘れたか。僕も軍艦が好きで海軍に入ったんだぞ」
嶋田「ありゃー、そうだった俺の周りは潜在的な戦争狂ばかりだった」
神官「人道屋気取りはやめろ。俺達は戦争狂じゃない」
嶋田「宮、バベルの塔を思い出せ」
嶋田「大きな建造物を好む事、つまりより強く、より大きくあろうとするのは人間の傲慢だ。それは神の怒りを買うんだぞ」
神官「……おい山内、日本に異端者が紛れ込んでいるぞ。公安に通報しよう」
山内「宮、もうそんな時代じゃない。信教の自由は帝国憲法で認められている」
嶋田「前も言ったと思うが、俺は別に兵器が好きじゃない」
嶋田「あれは人間の狂暴さが生み出した忌子さ」
嶋田「お前らが兵器を、軍艦を好きというのは個人の自由で別に良いと思うが」
嶋田「良い趣味だとは思わんな」
山内「……」
神官「……」
嶋田「そう悲しそうな顔をするなぁ。俺だって初めてアメリカの戦艦を見た時、自分が高揚していたのが分かった」
嶋田「山内、宮、人間は純粋なものを感じ取る事が出来るし、それを感じ取った時、心が震えるんだ」
嶋田「映画や小説を見てみろ、曇りも無く純粋なものがみんな大好きだ。アホくさい」
嶋田「兵器はどう取り繕おうが純粋な殺意の塊だ。それ故に、俺達は兵器を見て震える」
嶋田「純粋すぎて美しさを感じるアホ二人まで居る」
嶋田「俺はそんなものに高揚する感性を持った自分が大嫌いだ、ってだけの話さ」
山内「純粋なものに震える、か。確かに心当たりが無くもない」
嶋田「だろ。これは人間の真理さ」
山内「だが相変わらず、戦う人の想いを全て殺意と単純化するのは見過ごせんな」
嶋田「やめろよ。その話は士官学校でも散々議論しつくしただろう。俺はお前を納得させられないし、またその逆も然り。もう個人の自由の領域だ」
山内「分かってるよ。僕も言われっぱなしじゃ癪だからな」
嶋田「おーおー、意地の悪い長官様だこと」
神官「弱い立場から血の流れない愛と平和を語るのが強いと思ってる奴らが居る」
神官「そんなに自分達が野蛮だったことを忘れたいのか?」
嶋田「変わるためには自分達の本質を自覚する事も、都合の悪い事は忘れる努力も必要さ」
神官「やれやれ、人道屋様は人間をやめて美しい蝶にでも変身するつもりなのかね」
神官「俺は意見を曲げるつもりは無い。何と言われようが軍艦は美しい。大きい砲は美しい」
嶋田「野蛮で見事だ。君のような人間が居るから人類は愚かしい」
神官「精々都合の悪い事は忘れて楽しく生きてろ」
神官「で、兵器が苦手な嶋田君は何で軍人なんてやってるんだ?」
嶋田「俺自身の理想は、他人に語って飯が食えるほど影響力が無い、つまり純粋じゃ無いんだよ」
嶋田「それにラブとピースを語る口を守ってくれるのは結局兵器だったりするわけで」
嶋田「世の中ままならないねぇ」
山内「その意見には概ね同意だ」
神官「うん。確かに世の中はままならん」
嶋田「海軍なら艦娘とセックスできるしなぁ」
神官「相変わらず破廉恥な奴だ」
嶋田「そう言うなよ宮、お前だって伊勢の妹とヤってるだろ」
神官「……」
山内「はっ、公然の事実という奴だな」
嶋田「山内は遂に長門とヤったな」
山内「……」
嶋田「分かるんだよ。お前らの艦娘に対する視線、身体の距離、仕草で」
嶋田「バレバレだ」
神官「……」
山内「……」
嶋田「むはははは!! 気にすんな!! 誰にも言わないから!」
嶋田「新生海軍士官学校の三羽烏だった仲じゃねぇか。また楽しくやろうや」
山内「ナイフを突きつけながら友好を語るのは国家間の外交と同じだぞ」
嶋田「ナイフなんてとんでもない。俺は自分に見返りの無い、完全なる善意の友好を求めているだけだぞ~」
神官「山内も何故こんな面倒な奴をブインに呼ぶんだよ……」
嶋田「むはは!」
山内「指揮官が一人というのは何かあった時に良くない」
神官「なら俺が副官で良かっただろうが! ブインに来るためにジョブチェンまでしたんだぞ!」
山内「そんなこと知らん。僕が問い合わせた時にはお前は居なかった」
神官「あーもータイミングが悪いなー」
嶋田「まぁ良いだろう。こうして三人で集まったのも卒業以来だ」
山内「そうだな。嶋田、神官殿、よろしく頼むぞ」
嶋田「任せておけ、聨合艦隊司令長官殿」
神官「うぅむ! 悪霊退散!」
山内「あはは!! 胡散臭すぎる!」
嶋田「むはは!」
神官「わはは!」
朝 ブイン基地 大広間
伊勢「超弩級戦艦、伊勢型の一番艦、伊勢です。皆さんよろしくお願いします!」
19「イクッ!」
天龍「……後半凄いのが居なかったか」
龍田「天龍ちゃん、キャラが濃いからって意識の外に置いちゃ駄目よ~」
日向「伊勢、久しぶりだな」
伊勢「おっ、日向~我が妹~! 元気にしてた~?」ハグ
日向「ああ、お前も元気そうで何よりだ」
伊勢「また一緒に戦おうね!」
翔鶴「ご一緒に戦われていた時期があるのですか?」
伊勢「舞鶴に行く前、私は第二管区だったんだわ」
日向「一緒にというか……沖ノ島の時なんかは支援艦隊として出撃したんだ」
伊勢「そうそう~」
翔鶴「支援艦隊……そういえば利用したことがありません。同時に二つの艦隊を出撃させるのに、航路限定装置の影響を受けないのですか?」
日向「あれ、お前知らないのか」
伊勢「支援艦隊は同じ海域に行かないよ。出来る限り戦域に近づいて航路限定装置、羅針盤の範囲外から援護射撃したり航空戦をしたりするんだよ!」
翔鶴「成程、それなら納得です」
瑞鶴「成程~」
日向「紹介しておく。伊勢、こいつらがかの高名な第四管区の五航戦姉妹だ」
伊勢「単冠夜戦の隠れた英雄様でしょ? お噂はかねがね」
瑞鶴「一人残らず二人を知っている、三国一の名姉妹、第四管区の五航戦!?」
翔鶴「ちょっと瑞鶴……何言ってるの?」
日向「今自分で考えたのなら面白いが」
瑞鶴「いや~、どこに行っても単冠の話されるとちょっと照れるなぁ」
日向「もう分かっただろう。英雄なんて言われても歯がゆいだけだ」
伊勢「役に立たないとか言われるよりはマシだよ」
日向「……お前にそんな事を言う奴が居るのか」
伊勢「いや! 私が言われたわけじゃないから! 軍刀に手を掛けないでいいから!」
日向「……そうか」
翔鶴「……」ニコニコ
日向「おい翔鶴、何故笑っている」
翔鶴「日向さん、いえ、日向にも姉妹艦が居たんだなぁと実感出来たのが嬉しかったのです」
日向「余計な御世話だ」
伊勢「いや~、この子慣れるまでつっけんどんだから扱いづらかったでしょ?」
瑞鶴「はい」
翔鶴「ええ」
日向「おい」
伊勢「あはは! 日向~、意外といい子たちじゃん。良かったね!」
瑞鶴「伊勢さん、意外とってどういう事ですか~?」
伊勢「あ、瑞鶴ちゃん。さん付けなんてしなくていいからね。好きに呼んでよ」
伊勢「いやね、前に日向と演習で会った時、むっつり顔で『新しく入ってきた五航戦が気に食わない』って言ってたから」
日向「……あの演習は単冠の前だ。色々あったんだ、色々」
伊勢「分かる~! なんかそんな感じする~! 日向は前よりいい女になったよ!」
日向「なんだそれ。調子のいい奴だな」
伊勢「あはは!」
瑞鶴「……なんか、伊勢ちゃんと日向さんが二人で居るのを見ると、落ち着きます」
伊勢「瑞鶴ちゃんと翔鶴ちゃんだってお似合いだよ。姉妹艦ってそういうものじゃない?」
日向「落ち着く、か。私もお前達姉妹はバランスが取れていると思うよ」
翔鶴「姉妹艦って不思議ですよね。まるで自分の身体の一部のような、でも一部じゃ無いような」
日向「翔鶴にしては珍しく意味不明な事を言う」
翔鶴「私の語彙が足りないことは認めます」
瑞鶴「伊勢ちゃんって日向さんと違って絡みやすいね! さっき知り合った筈なのに、ずっと一緒だった感じがする」
日向「絡みづらくて悪かったな」
伊勢「一緒だったよ」
瑞鶴「え?」
翔鶴「……」
伊勢「私、さっき翔鶴ちゃんが言った事、分かる」
伊勢「姉妹艦って見えない何かを共有するような存在なんだよ。お互いの中に、お互いがいつも存在してるんだ」
伊勢「証拠とかは無いんだけどね!」
日向「確かに何かを比べる時に、基準はいつも伊勢だったな」
伊勢「それはどうなのかな~?」
伊勢「あと、姉妹艦って兵器としての性能は殆ど同じなのに、性格とか全然違うじゃない?」
伊勢「日向を見てると、もしかして自分にもこういう可能性があったんじゃないかな~って」
伊勢「思うわけなんですよ!」
伊勢「私はそれって凄く嬉しいんだ。もう一人の自分を見てるみたいでさ」
伊勢「そう感じられる自分は単なるモノじゃないって思う」
翔鶴「……同意です」
瑞鶴「私は姉さんみたいになれる気がしないけどね」
日向「私もだ」
瑞鶴・日向「「あははは」」
伊勢「妹には分からない姉の苦悩ってのがあるのよ」
翔鶴「そうですね。姉は責任重大ですから」
伊勢「私は翔鶴ちゃんとは仲良くなれる気がするわ」
翔鶴「翔鶴、とお呼びください。私も伊勢と呼びたいです」
伊勢「うん、私は伊勢で良いよ。遠慮しないで。でも翔鶴ちゃんって呼び方気に入ってるからしばらく使うね」
翔鶴「ええ、ご自由にどうぞ」
伊勢「とりあえずよろしくね!」
卯月「……お前、怪し奴だぴょん」
19「あらおチビちゃん、イクに何か用なの~?」
卯月「……怪しい上に無礼だぴょん」
19「そう怒らないで。通りすがりの潜水艦なの。これからよろしくなの」
卯月「……」
小休止
乙です
乙です。
聨合艦隊トップ三人が揃って憲兵にしょっぴかれる展開
この姉妹論は駆逐艦だと面倒そうだ。義姉妹だとか同じクラスだったとか姉妹以外で繋がりを妄想できるけど
ブイン基地 特型駆逐艦の割り当て部屋
磯波「吹雪、今日のシフト……」
吹雪「……」
「ほっとけよ磯波、どうせ吹雪は働かないよ」
「構うだけ時間の無駄」
磯波「……じゃあ吹雪、私海上護衛行ってくるね。何か嫌な事とかあったら、すぐ言ってね?」
吹雪「……」
長月が凄く嬉しそうだった。あの男の人、長月にとって大切な人なのかな。
吹雪「……ずるい」
誰も残っていない部屋で一人呟く。
私には何も無いのに、好きな人も居ないし、夢も無いのに。
吹雪「長月ばっかりずるい……ずるい! ずるい!!」
可哀相、私は可哀想
カワイソウ、フブキバッカリ、イヤナオモイ
「もうやだよ、生きててもなんにも良い事無いじゃない!!!」
ナガツキ、キライ?
「同じ駆逐艦なのに、長月は堂々としてて、強くて、大切な人も居て、夢もあって……ずるいよ」
ズルイネ
「悔しい……悔しい!」
フブキ、カワイソウ
「……」
ナンデ、フブキバッカリカワイソウ?
「……」
オカシイ
「……そうだよね」
ナガツキ、ズルイ
「うん」
フブキノ、タイセツナモノ、ゼンブトッテイク
「……」
トラレタモノ、トリモドソウ
「……」
トリモドソウ
「……そうか、私のは長月に取られちゃったんだよね」
トリモドソウ
「うん」
トリモドソウ、トリモドソウ
「うん! うん!! 取り戻そう!! 長月から全部!! 私のものを!!」
トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ
「あはは! そうすれば私も幸せになれるんだ!!」
トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ
「あははは、あははは、あは、あはははは! そうだよね! 返してもらおう」
トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ、トリモドソウ
昼 ブイン基地 ドッグ
緑帽妖精「砲身、凄い曲がりっぷりだねー」
明石「私の力ではこれが限界で……」
緑帽妖精「でも、よくやったと思う。本当なら僕らの仕事、押し付けちゃってごめん」
明石「……」
緑帽妖精「君達はよくやった。僕には分かる。ありがとう」
明石「……」ポロポロ
緑帽妖精「えっ、艦娘、なにゆえ泣く」
明石「うぅ……」ポロポロ
緑帽妖精「悪い事、言ってしまった?」オロオロ
明石「妖精さーん!!! こちらこそ来てくれてありがとー!!」ガシッ
緑帽妖精「オグゥ」
昼 ブイン基地 夕張研究室
赤帽妖精「ジェット面白い!」
夕張「でも小型化にはここの強度が足りなくて」
青帽妖精「ここと、ここ省略可能、省スペース、かつ強度問題解決」
夕張「えっ!? どうやるんですか」
青帽妖精「この面をガー、ブワーとしてこっちをグリンする、さすればピタリ」
夕張「……」
青帽妖精「……作るが早い」
夕張「早速作りましょう!」
赤帽妖精「ミグ作りたい!」
夕張B「それはライセンス的に不味いです」
昼 ブイン・ラバウル間連絡海域
瑞鶴「発艦どうぞ!」
瑞鶴搭乗員「ヒャッハー! お前らぁ! 発艦だぁ!」
加賀「攻撃隊、発艦始め」
加賀搭乗員「フォフー! この人おっぱいオッキー!」
翔鶴「搭乗員さん、お願いします!」
翔鶴搭乗員「翔鶴様! 俺は別におっぱいの大きさとかそういうのはあ、出ます!」
瑞鶴「ん~久々に全力出せてスッキリ~!」
加賀「……妹、はしゃがないで」
翔鶴「彼らを出迎えられるよう、私達は私達の戦いをしましょう」
瑞鶴「ていってもまだ距離があるから潜水艦に警戒するくらいだよね」
翔鶴「加賀さんは提督……今は神官さんでしょうか……彼に会いましたか?」
加賀「……まだ会っていません」
瑞鶴「きっと喜びますよ。あの人、おっぱい大きい艦娘が好きですから」
加賀「妹、私もあの男の好みくらい知っています。私の司令官でもあったのですから」
瑞鶴「あの人って他の司令官と比べてどうなんですか?」
加賀「質問の意図が読めません」
瑞鶴「うーん。指揮官として優秀か否か、です。私は第四管区しか知らないので……」
加賀「今は指揮官としては劣化しているんじゃない?」
瑞鶴「そうなんですか?」
加賀「最初は、私が第四管区に居た頃は、優秀な指揮官でした。赤城さんが大破しても戦果の為なら突っ込むくらいに優秀でした。優秀の前に総司令部的には、という枕詞がつくけれど」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
加賀「ある艦娘を失ってから、あの男は戦果重視をやめたらしいわ」
翔鶴「ある艦娘?」
加賀「……噂で聞いたから、詳しい事は私も知らない。沖ノ島奪還に成功して、私は赤城さんと、まだひよっこだった飛龍と新しく誕生した鎮守府に転属になったから」
翔鶴「……」
瑞鶴「そうだったんですか……」
加賀「それにしても、何故で私ばっかり五航戦と出撃させられるのかしら」
加賀「赤城さんや飛龍は子守をしなくていいから、羨ましいわ」
瑞鶴「……」
瑞鶴「加賀さん……赤城さんと飛龍さんは、も」 翔鶴「本当に! ……ご迷惑をおかけします」
加賀「姉の方が謙虚なのが、唯一の救いかもね」
瑞鶴「……えへへ……ごめんなさい」
加賀「さ、気を引き締めて。そろそろ艦載機が会敵する頃です」
翔鶴「了解」
瑞鶴「了解!」
小休止
乙です
乙です。
主人公さんが…
さぁ、どーなるのか
夜 ブイン基地 大部屋
山内「もう知っている者も多いと思うが、今一度紹介しておく」
山内「こちらは舞鶴の嶋田提督、今後、私の副官として戦いを支えていく」
嶋田「嶋田だ。よろしく」
\カッコイイカモ!/ \ヨロシクオネガイシマース!/ \アゴヒゲダー!/
嶋田「元気があってよろしい。舞鶴から伊勢と伊19を連れてきた。この二人も頼む」
山内「えー、それで……こちらは神官殿だ」
神官「自分は艦娘の心のケアを担当する。神官、神官殿、神官様、好きに呼んでくれ」
沈黙
山内「……彼は犬の被り物をしているが、これは職務に必要なものだそうだ。怖がらなくていい」
長月(と言っても不気味だろうな……声も怖いし)
夕張「はーい! 質問です! 神官様の言う艦娘の心のケア? というのがよく分かりません」
夕張「具体的にはどのような職務なのか、聞いてもよろしいでしょうか」
神官「夕張君か、元気があってよろしい。それに、実に良い質問だ」
神官「この後話す予定だった事に繋がるし、私の基地内での役割も明確になる。お答えしよう」
神官「私の仕事は一つだ。君達の穢れを祓う為にこの基地に居る」
夕張「穢れ?」
神官「聞いたことが無いのが普通だ。海軍は、今まで穢れと呼ばれるものを君達に対してひた隠しにしていた」
神官「穢れは、人間には無い艦娘特有の……病気であり、人間にとって、非常に不都合な存在だったからだ」
長月「……」
神官「では、その穢れとは何か」
神官「一部知っている者も居るだろうが、簡単に言えば艦娘を深海棲艦に変化させる、ウイルスのようなものだ」
新たな事実を告げられ、部屋は俄かに騒然となる。
山内「……」
神官「静粛に、静粛に」
ザワザワ ガヤガヤ ギャーギャー
神官「みんなー、静かにしろー」
ギャーギャー ワーワー
見た目が怖いからだろうか、人望が無いからだろうか、はたまた余りに衝撃的な内容だったからであろうか。
神官の言うことを素直に聞いた者は、一部を除き皆無だった。
神官「……」
ザワザワ イヤ、デモサー シッソウカンッテ ガヤガヤ
神官「静かにしろと言っているだろうが!!!!」キーン
……
神官「この犬の被り物はボイスチェンジャーだけでなく、拡声器も内蔵された優れものだ」
神官「……お前達」
神官「海の女が少々驚いたくらいで騒ぐな」
日向「……」
神官「私が今日、この事実を君達に公表した意図を考えて欲しい」
神官「最早君達は、単に我々の命令を聞くだけの存在から離れつつある」
神官「少なくとも私と山内長官は、以前のような人間と艦娘の関係が健全であるとは考えていない」
神官「戦況は人類側に厳しくなる一方であり、艦娘と指揮官はより強い結束が求められている」
神官「で、あるにも関わらず君達を単なる道具として扱うというのは、ちゃんちゃらおかしい話だろう」
神官「これは我々なりの誠意の一部だ。君達への信頼を基に、隠した事実を明らかにし、お互いの関係をより良くする為の公表だ」
神官「その辺を少し自覚しながら私の話を聞いてくれると嬉しい」
神官「……繰り返して言う。君達への信頼が、この話の前提なんだ」
翔鶴「……」
神官「では、穢れをウイルスに当てはめて、その感染経路と、実際に感染すればどのような発症の仕方をするか説明しよう」
神官「感染経路は、目だ。対の存在、不浄の塊である深海棲艦を見ただけで穢れは溜まる」
神官「敵と戦う君達の中に、穢れはいつでも存在しうる」
再び艦娘達が驚きの表情を浮かべる。確かに無茶苦茶な話だ。
いきなり訳の分からない存在の話をされて、それが既に自分の中にあるかも! とこの男はのたまうのだから。
神官「心配するな。戦い続ければ深海棲艦になる……というような類のものではない」
神官「ウイルスとして例えているように、基本的に弱く二、三日で消える。感染しても発症まで至るのは稀だ」
神官「この中で、深海棲艦とお喋りをしたことがある者は居るか」
沈黙
神官「そうだろうな。お前達が深海棲艦と対峙するのは戦う時だけだ。闘いであるから当然気を張っている。それならば大丈夫なんだ」
沈黙
神官「感覚的に理解して欲しいのだが、穢れは風邪と似ている。人間は風邪ウイルスを常に晒され続けているが、身体が弱った時のみ風邪ウイルスの増殖を許し風邪の症状が出る」
神官「穢れの場合、お前達の心の弱さ、気の緩みにつけ入り増殖する」
神官「深海棲艦が視界の中に居らずとも、精神的に弱れば増殖するし」
神官「深海棲艦に気を許して視界に入れようものなら……穢れは凄まじい速度で増殖する」
神官「これで分かってもらえたと思う。穢れは心の病気でもあり、身体の病気でもある特殊なものだ」
神官「何か不安や困った事があれば、指揮官、姉妹艦、頼れる友人、誰でも良いから相談しろ。自分が一人でないことを忘れるな。絶対に一人で悩むな」
神官「深海棲艦が敵である事を忘れるな。あの白色を、無警戒に見つめるのは絶対にやめろ。あの白色を、絶対に、絶対に、絶対に、心の中へ受け入れるな」
神官「手洗い、うがいが人間の風邪予防で有効なように、まずは穢れを増殖させない努力が肝要になる」
神官「……ここからは予防で穢れの増殖、つまり発症を止められなかった場合の話だ」
神官「穢れが一定量を越えて増殖すると、心臓を起点に皮膚が白く変色し始める」
神官「変色した部分は身体の一部でなく深海棲艦の一部だと思え。あいつらと全く同じで穢れの塊だ。無警戒に見るなよ。一気にやられるぞ」
神官「変色の段階まで来ると、個人差はあるが……明晰な思考、意思疎通が出来なくなり、一つの物事に異常な執着を見せるようになる」
神官「変色が広がるほどに、その傾向は強くなる。そして、変色が全身の皮膚を覆い尽くせば……自我を失い、穢れの持つ単純な思念に身体を乗っ取られる」
神官「お前達の意思は消えて無くなる。人類への憎しみでつき動く存在に変化する」
神官「現在、深海棲艦へと変化した艦娘を元に戻す方法は明らかになっていない」
神官「要は、深海棲艦になれば終わりだ」
重苦しい沈黙
神官「不安そうな顔をしなくても良い」
神官「完全に深海棲艦になる前に穢れを取り除く行為、我々の業界用語で『祓う』事が出来れば何も問題は無い」
神官「ナノマシンで構成された君達の身体は戦闘用で、非常に丈夫だ」
神官「穢れは、そんな君達の健康を害する唯一の懸念材料と言える」
神官「海軍は今まで、艦娘の『心』という変数を認めなかった。それ故、穢れに対して杜撰な対応をして来た」
神官「聨合艦隊司令長官と私は、これからの艦娘と人間の関係を築いていく上において、また、お前達の上官として、もうそのような愚行を繰り返しはしない」
神官「私は君達の傍で、君達を見つめ、いち早く穢れを発見し、祓い、一人でも多くの艦娘を救う」
神官「これが私の仕事だ」
神官「よく分からないかもしれないが、保健室の先生のようなものだと思って気軽に頼ってくれ」
神官「長くなったな。夕張君、以上だ」
沈黙
夕張「……ありがとうございました。神官様、もう一つよろしいでしょうか」
神官「何だ?」
夕張「神官殿、神官様って呼び方は堅苦しいじゃないですか、私達の保健室の先生だから『先生』ってどうですか」
神官「……」
奇妙な沈黙
夕張C「ほら、変な空気になった。責任取りなさいよ」
夕張「えぇ!? 結構良い名前だと思うんだけどなぁ」
神官「……いいじゃないか」
夕張C「えっ」
神官「私は……その呼び方は嫌いではない」
夕張「やったー! じゃあ決まりです! 神官様は先生です!」
夕張「先生! これからよろしくお願いします!」
\センセー!/ \ガッコウイッタコトナイケド、ナンカイイ!/ \センセーヨロシクー!/ ワーワー
神官「……こちらこそ。みんな、よろしく頼む」
小休止
夜 ブイン基地 港
廊下で丁度長月と一緒になり、彼女が基地防衛任務へ行く見送りの為、港に出て来た。
任務まで少し時間があるため潮風を鼻と肌で感じながら二人で話している。
長月「お前、本当にスピーチが下手くそだな」
神官「……うるさい」
長月「なーにが信頼だ。お前のは信頼じゃなくて期待だぞ」
神官「ニュアンスで伝わるだろう」
長月「まぁ、言いたい事は分かったが……」
夕張「せんせー!」
神官「ん? 夕張君、どうした」
夕張「私、さっき聞けなかったことがあって」
神官「おう」
夕張「その犬の被り物、何なんですか!」
神官「ああこれはな、仕事の道具だ」
長月「嘘を吐くな。面白がっているだけだろう」
神官「長月、お前は俺を侮りすぎだ。正当な理由がある」
長月「ほう、聞かせて貰おうか」
吹雪「……」ニコニコ
艤装を纏った吹雪が、あちら側から近づいて来る。
神官「ヒント1、この犬の被り物は目立つんだよ」
夕張「まぁ、そうでしょうねぇ」
長月(ん? アイツ、何でここに居るんだ?)
彼女は午前中の基地防衛に割り振られていたが、夜は特に何も無かったはずだ。
神官「まだ分からんのか、夕張君」
夕張「ヒントを貰ってません」
神官「長月は」
長月「……まだ分からんな」
神官「ヒント2、この犬の顔は、遠目で見ると確かに犬だが……近くで見ると容易に犬と認識できない形をしているんだ」
神官「単純に犬の顔と言い切ってしまえないこの顔は、人間の顔とは大幅に違う。声も不愉快なものだろう」
夕張「それは分かります」
神官「ヒント3、我々は極端に違うものを見慣れていない、だから、妙なものが歩いているとつい見てしまうんだよ」
神官「ましてや私はこの基地に今日着任した。朝や夜の挨拶で私のこの顔を見ていたとしても、すれ違う時にはまた違う顔に見えるという訳だ。一度や二度見た程度で、この興味関心は殺せない」
夕張「それは分かりますって~!」
吹雪「……」ニコニコ
特型駆逐艦一番艦は、私の前に来て止まった。
どうやら私がお目当てだったらしい。熱いまなざしでこちらを見つめてくる。
彼女は笑っているのに、どこか不自然だった。
神官「……ヒント4、ブイン基地へ来て、すれ違う度に艦娘がこちらを見る。他人の視線というのは実に分かりやすい」
夕張「当たり前じゃないですか。これだけ目立つんですから」
吹雪「長月さん、返して下さい」
長月「……」
返して下さい、と吹雪は言った。
私には全く身に覚えがない。何かを借りた記憶も無い。
神官「俺は声まで変質させている。余計に目立つわけだ」
夕張「もー! 先生! 私をからかってるんですか! 流石に怒りますよ!」
長月「……吹雪、私はお前に何を返せばいいんだ」
吹雪「全部です。私から取ったもの全部返して下さい」
神官「ヒント5、夕張、長月、俺は自分に向けられた視線が分かる」
神官「だからその逆も分かる。寧ろ、こちらを見ていない奴の方が目立つんだよ。これを被った俺からすればな」
神官「この俺と出くわして、俺に一度も視線をやらない艦娘は……実に集中力のある奴だ。普通の艦娘として、ありすぎる程にな」
神官「……吹雪は俺の方を一度も見ていないぞ」
夕張「……嘘」
長月「吹雪、右を向け」
吹雪「……」ニコニコ
神官「……」
長月「吹雪、向けと言っているだろう。お前の右に居る変な被り物をした男の方を見ろ」
吹雪「……」ニコニコ
長月「……ほんの一瞬見てくれるだけで良い」
吹雪「……」ニコニコ
長月「……お願いだ」
吹雪「長月さん、返して下さい。それで私は幸せになれるんです」ニコニコ
長月「お願いだから右を向いてくれ……!」
神官「……穢れだ。吹雪は障られている」
吹雪「……」ニコニコ
長月「頼むから……そんな殺気を私に向けないでくれ!!」
小休止
乙です
乙です
おお、急展開
あぁ、ふぶなんとかさんも宮さんの毒牙にかかってしまうのか
吹雪「返してくれないなら、私の中から消えて下さい」
彼女の手にした主砲が長月に向けられる。
吹雪「死」 手にした主砲のみを正確に破壊する砲撃が行われ、その行動は中断される。
長月「仲間に正面から撃たれそうになったのは初めてだ。正直傷ついた」
吹雪「……」
手にした単装砲は硝煙を伴い、誰が撃ったのか自己主張をしていた。
長月「どう消すつもりだったかは知らんが、簡単に消せると思っているなら大間違いだぞ」
吹雪「どうして長月ばっかり」
長月「……」
吹雪「長月は強くて、好きな人も居て、夢があって、憎たらしいのにみんなから愛されて」
吹雪「……私には、私には何も無いのに」
長月「……」
吹雪「返してよ、私に返してよ!!!!」
長月「……もう何も言わん。哀れすぎて何も言えん」
吹雪と長月の距離は二メートルも無い。夕張からは長月が地面に沈み込んだように見えた。
数秒遅れて、それは単に姿勢を低くし吹雪を捕えるために突っ込んだのだと気付いた。
神官には長月の動きは見えていた。彼女はその愛らしい胸元から曳航用のロープを取り出し、吹雪に向かって突撃したのだ。
捕縄術に基づいた効率的で正確な動き。これは司令部で彼女の動きを見ていた自分だから見えるのであって、普通の艦娘……少なくとも横に居る夕張には動きが理解出来ないであろうことは容易に想像できた。
長月「……」
捕縛完了、一仕事終えて止まった長月の髪は不自然に揺れた。単に速すぎたのだ。
夕張「えっ、あれ、今地面に沈み込ん……あれ? 吹雪さんが捕まってる」
長月「……お前動体視力大丈夫か? 少しは実戦を経験した方が良いぞ」
一見突き放すように見えるが、これは長月が内心喜んでいる言い方だ。
あれを目で追える新人艦娘の方が俺は怖い。
吹雪「返してっ!! 返せ! 返せ!」
長月「……」
冷たい視線だった。
長月に穢れの話はしていなかったが、彼女が今、脳内で比較しているであろうものは想像がつく。
日向である。
察しのいい我が娘達は多くを語らずとも、それ以上を知る事が出来るだろう。
あいつと比べられる吹雪が少し可哀想ではあるが、今の吹雪が見苦しい事は間違いなかった。
吹雪「返せ返せ返せ返せ!!!!」
夕張「……」
神官「……」
長月「司令官、さっさと祓ってくれ。自らが招いた事とは言え……見苦しい」
日向の時と違い和解が不可能なのは明確だった。
いや、アレが例外すぎるのだ。本来なら参考にすべきではない。その点吹雪は不憫だ。
長月が完全武装していたことも吹雪の失敗の原因だろう。
神官「……そうだな。では、一旦人目につかない場所へ」
吹雪「かかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか」
壊れた。
『か』を何度か繰り返した後、吹雪は長月が失神するように力を失い、こうべを垂れる。
夕張「うわっ!?」
長月「どうなっている!? 司令官!」
神官「まさか……まだ全身には」
男の最悪の予想は当たっていた。
再び力が籠り、元の位置に頭が戻った時、一つだけ変化が見られた。
瞳の色が真っ赤に変色していた。
吹雪「……」
吹雪「カエロウ」
神官「孵化した!! 二人とも離れろ!!!!」
曳航用ロープは、当然その強度を保証されている。
具体的に言えば、駆逐艦一隻で航行不能になった残り五隻の戦艦を曳航する為の強度を保証されている。
そのロープが爆ぜた。綿あめのように爆ぜた。
吹雪「カエロウ」
長月「待て! お前!」ガシ
吹雪「……」
身体を掴む長月の手を吹雪は鬱陶しげに、虫のように払った。
恐らく全力で掴んでいたであろう手は、簡単にふり払われる。
長月「んなぁ!?」
吹雪「……長月、ほんとにごめんね」
吹雪「さよなら」
長月「……おい、駄目だ! 待て! 吹雪! 行っちゃ駄目だ!」
制止も聞かず、港湾へと足を踏み入れ海面を進み始めた。
夕張「なにあの速さ……何ノット出てるの!? 信じられない」
神官「理屈は分からんが、事実は見た通りだ。受け止めろ」
長月「司令官! 私は吹雪を追うぞ!」
神官「吹雪を外海に出すな。何とか港湾、近海で行動不能にしろ」
神官「……あいつはまだ意識がある。何とかなるかもしれん」
長月「分かっている! だから追うんだ! 砲撃は!」
神官「許可する」
長月「あーもう! 私の周りは本当に困った奴ばかりだ! 長月、出るぞ!」
神官「行ってこい」
長月「任せろ!」
神官「……夕張、俺の権限で緊急事態を宣言する。総員第一戦闘配置、直ちに司令長官に報告しろ」
夕張「な、なんて報告すればいいですか」
神官「吹雪、穢れ、Lv.10。これで分かる筈だ」
乙です。
長月と神官は間に合うのか
乙です
日向「さて、今日は刀でも研ぐ」
ビィーッ ビィーッ ビィーッ ビィーッ
日向「これは緊急事態の警報か。初めて聞いたな」
日向「……どうせ彼絡みなのだろうなぁ」
日向「えーっと、緊急事態時に私は……海上護衛の指揮か。一先ず港へ行くか」
伊勢「日向!」
日向「やっ、姉様」
伊勢「この警報は何?」
日向「緊急事態の警報だ。所定の持ち場に行かねばならん」
伊勢「私はどこなの」
日向「……お前を遊ばせておくのは勿体無いな。私と来い」
伊勢「合点!」
夕張「先生の判断で緊急事態が宣言され、現在第一戦闘配置へ移行中です」
夕張「あ、先生からの伝言で『吹雪、穢れ、Lv.10』とのことです」
山内「吹雪君がLv.10!?」
夕張「わ、私にはよく分かりません! そう言われただけです」
山内「……吹雪君はどうしている」
夕張「吹雪さんはショートランド方面に向かっています」
山内「分かった。夕張君はそのまま発令所へ」
夕張「了解です! 通話終了!」
山内「遂に出てしまったか……しかもLv.10とは」
嶋田「そのレベルってのは何なんだ?」
山内「穢れの進行度だ。より広がっている程高くなる」
嶋田「最高はお幾ら」
山内「Lv.11で立派な深海棲艦だ」
嶋田「おったまげー」
山内「僕も長官で無ければそう言いたいところだがね」
山内「長門、僕だ。状況を知らせろ」
長門「現在港で待機中。いつでも行ける」
山内「他の艦娘の準備状況は」
長門「八割は準備完了といったところか」
山内「発令から三分で八割か。初めてにしてはまぁ及第点だ。長門、今回は穢れ絡み、発症者は吹雪だ」
長門「早速だな。私はどうすればいい」
山内「吹雪……目標は現在ショートランド方面へ向かっている。深海棲艦化がかなり深刻だ。もう自意識は殆ど残っていない段階に来ている」
長門「ちっ……」
山内「我々は吹雪を追いかける以外に、この混乱に乗じた敵の侵攻にも備えなければならない」
山内「後者の指揮をお前に任せたい。良いか?」
長門「勿論だ」
山内「頼んだ」
長門「私に任せろ。通話終了」
山内「防衛ラインで警戒配備をしている艦娘に足止めを」
神官「入るぞ!」
嶋田「遅い」
山内「詳しい報告を頼む」
神官「港にて吹雪と遭遇、戦闘に突入し長月が鎮圧に成功。曳航用ロープで拘束したが、Lv.11に変化し、拘束を紙みたいに引きちぎって逃げやがった」
山内「11だと? 10じゃないのか」
神官「ややこしいんだよ。穢れのものだけでなく、まだ吹雪の意識が残っているんだ」
山内「お前らが着任した当日にこのような……まぁいい! 発令所へ行くぞ」
嶋田「待ってました」
神官「俺達にもお前との直通回線を用意してくれ。面倒で敵わん」
山内「その内な」
ブイン基地 発令所
夕張「司令官に敬礼!」
「「「「「「敬礼!」」」」」」
緊急時、大規模戦闘時のCICとなる発令所は、夕張の発案で弾薬庫の一角に設けられた。
機密保管庫となる予定だった場所を発令所に改造したのだ。
従来の司令部は単なる戦闘許可、またその記録を取るだけの場所としての意味合いが強く大規模戦闘時の指揮所としては不適切であるという結論に至った。
複数ある戦域全体のリアルタイムでの把握、またその情報を踏まえた迅速な戦闘指揮。
その為に必要な各種精密機器を全て夕張が用意し、夕張が組み上げたシステムに基づいて運用される。
ちなみに七人いるオペレーターは全て夕張である。
山内「御苦労、以後私宛の回線通話は全て発令所で受ける」
夕張「了解、以後長官宛の通話はこちらで対応します」
山内「戦闘配置の状況を報告させろ」
夕張D「発令所より各部署の責任者へ、状況を報告せよ」
次々に配置完了の報告が上げられ、ブイン基地という巨人はその身体に血潮を巡らせていることを証明した。
発令所のディスプレイに、その配置完了の報告が緑で示されていく。
基地は有機的な一つの戦闘システムとして問題無く起動した。
夕張「全艦娘、配置完了。戦闘態勢への移行完了です」
嶋田「ほぉ……見事なもんだ」
神官「これは凄いな」
山内「よし。吹雪型駆逐艦、一番艦吹雪を以後目標と呼称する」
山内「目標の現在位置を知らせよ」
夕張「目標は現在、ショートランド・ブイン間連絡海域、無人の第四防衛ラインを通過。同じく無人の第三防衛ラインに突入しました」
山内「防衛ラインの配置はどうなっている」
夕張「第一、第二に夜間警戒の部隊が配置されています」
山内「……目標の識別信号は」
夕張「識別信号は未だ味方の表示です」
山内「夕張君、目標が第二防衛ラインに突入できない可能性はあるか」
夕張「あります」
山内「ブイン基地へ接近する敵は存在するか?」
夕張「今の所ありません」
嶋田「さっきからそこの艦娘ちゃんばっかり答えてるじゃないか。どういう理屈だ」
夕張「ここに居る夕張同士での思考の共有です」ニッコリ
嶋田「……は?」
神官「……」
山内「夕張君に不可能は無い。その内お前達にも分かる」
山内「港に待機している部隊は」
夕張「日向、長門、瑞鶴、三隈、高雄を旗艦とする部隊が揃っています」
山内「神官殿、あの段階の穢れに有効な武器はどれだ」
神官「新開発の20.3㎝主砲で使えるトリモチ弾を用意してきた。揚陸艦の三番庫に積んである」
山内「よし、日向の部隊は五隻でトリモチ弾を装備した後に出撃、瑞鶴の部隊は通常兵装でバックアップしろ」
山内「動けなくした後に捕獲する。目標は識別信号こそ味方だが、穢れに強く影響されている」
山内「視界に入れる際には十分に注意しろ」
夕張「……了解」
夕張D「……日向隊長、こちら発令所。至急――――」
夕張B「瑞鶴隊長、こちら発令所―――――――」
嶋田「長官、味方を視界に入れる時注意しろ、って……命令として面白すぎません?」
神官「……」
山内「嶋田君、殴られたいのか。私自身も苛立っている」
嶋田「冗談ですよ」
夕張「……」
夕張「第三防衛ラインにブイン基地方面から新たな艦娘!」
山内「誰だ」
夕張「睦月型、長月です」
神官「私が追撃を命じていました」
夕張「目標、第二防衛ラインの前で停止しました。……このまま停止すれば約一分で長月と接触します」
嶋田「羅針盤に阻まれているようですな」
山内「……日向に四隻で出撃するよう伝えておけ」
ショートランド・ラバウル間連絡海域 第三防衛ライン
吹雪「……」
羅針盤の六隻縛りがこのような形で効果を発揮するとは吹雪としても、長官としても予想外の事態だった。
行きは良い良い帰りは怖い、羅針盤はその逆、行きは怖くて帰りは良い。
進軍には六隻縛り等の制限が設けられるが、撤退の場合基地への安全な最短ルートへ導いてくれる。
直接、間接の両方含めれば深海棲艦によって40億人が被害を被ったと言われている。
それでも
この戦争、艦娘と深海棲艦の戦いは、妖精の作ったゲームのような側面を持っている事実は否定できない。
海軍上級指揮官の無能な指揮も、この奇妙な戦争が彼らの感覚を変容させたのが理由だったりするのかもしれない。
長月「……よう」
吹雪「……何で来たんですか」
深海棲艦でなく確かに吹雪の、長月が知っている吹雪の声だった。
長月「お前みたいな奴でも、目の前から居なくなられると気分が悪い」
吹雪「……結局自分の為なんですね」
長月「そうさ。自分の為、決して他人の為じゃない。私の為だ」
吹雪「自己中」
長月「じゃあ、お前は何の為に生きてるんだ」
吹雪「……」
長月「やめよう。こんなことお前と議論したって何も始まらない」
長月「吹雪、戻ってこい。今ならまだ間に合う」
吹雪「……戻ってどうなるんですか」
長月「……」
吹雪「私は貴女達みたいに強くない。むしろ弱い。人望も無いし、夢だって、好きな人だって居ない」
吹雪「戻ったって何も楽しい事は無い」
長月「……私はお前の十倍以上生きている。その間には楽しい事も悲しい事も沢山あった」
長月「私がお前くらいの時、私は弱かったし、人望も無かった、夢も好きな人も居なかったぞ」
吹雪「嘘……」
長月「嘘なものか。カタログスペックを見ろ。睦月型は旧式駆逐艦だから基本的に弱いんだよ」
長月「特型駆逐艦、お前らは駆逐艦界のドレッドノートだ。最初から強いんだぞ? 正直羨ましくて仕方なかった」
吹雪「……」
長月「だから、そこから努力したんだ~という説教話に繋がるんだが」
長月「お前にそんなこと言っても効果は無さそうだな」
そりゃあそうだ
長月「だから敢えてこう言う『努力なんてしなくて良い』……ただ長く生きてくれるだけでいい」
長月「何もせずとも、時間が解決してくれることを私は知っている」
長月「あれだけ自分を悩ませていた過去の問題が、ある瞬間に笑い話に変化する場面を私は何度も経験してきた」
長月「お前はその可能性を捨てようとしている。それは勿体無い行為だ。……勿体無さ過ぎて目障りな程だ」
長月「どうだ? 少しは戻る気になったか?」
吹雪「……」
意思疎通が可能となり比較的落ち着いているように見えたが、服の隙間から覗いていた白色は徐々にその領域を広げていた。
吹雪は未だに私の提案を受け入れる気は無いのだ。
緑の髪の艦娘は内心焦っていた。このままでは確実に吹雪が消えると理解出来ていた。
長月「……もう少し年上の話に付き合ってくれ」
長月「吹雪、お前は誰かに抱き締められた事はあるか」
吹雪「……無いですけど」
長月「あれはその、何だ、とても良いものだぞ!」
吹雪「……」
長月「誰かに包まれると自分は一人じゃないんだなと思える」
長月「……私は神官、あの男だ……司令官に抱き締めて貰った事がある」
長月「人間だから非力だったが、それでも一生懸命に私を抱き締めてくれた」
長月「触れ合ってると分かるんだ。相手の気持ちが伝わってくるんだ」
長月「……その当時の私は肉体的にも精神的にも弱かった」
長月「何が沖ノ島に参加した英雄だ。活躍したのは日向達で、私はただついて行っただけだ」
長月「私は攻撃どころか、敵の攻撃を避けるだけで精一杯だった」
長月「強い奴らが羨ましくて仕方なかった。弱い自分が大嫌いだった。周りを呪った、自分の境遇を、私を作った奴らを呪った」
長月「でも私は一人じゃ無かったんだよ」
長月「『いつも見ているぞ』と言って抱き締めてくれる男が居たんだ」
長月「抱き締められて、触れ合って、あの男が本気で私の事を想ってくれている事に気付いて、私は初めて冷静になれた」
長月「冷静になって、私の事を心配してくれていた艦娘や、姉妹艦である皐月、文月の優しさがようやく理解出来るようになった」
長月「あの男も、もう少し早く艦娘に対して素直になっておけばな……まぁこれは言っても仕方ないな。お互い様だ」
長月「吹雪、艦娘は変わる事が出来る。道のりは苦しいかもしれないが、絶対に変わる事が出来るんだ!」
長月「お前はそれを知らない、私はそれを知っている。私が沢山のモノを持っているように見えるのは気のせいだ。お前と私の違いはただこの程度でしか無い」
長月「……本当だぞ」
……本当ですかねぇ
長月「お前は確かに弱い。性格も悪い。もう最悪だ」
長月「でも、でもそんなお前にだって手を差し伸べる奴が居るんだよ! お前は気付かないで勝手に絶望してるだけなんだ!」
長月「お前は一人じゃない! 仲間が居る!」
長月「今の自分が気に食わなくたって、そいつらと一緒に変わっていける!」
吹雪「……長月は何でそんなに必死なの」
長月「……」
吹雪「自分以外の事なんてどうでもいいんでしょ。意味分からない。私を助けたら司令官さんに何か貰えるの?」
長月「……」
長月「……はぁ」
長月「貰えはしない。柄にもなく、しかも嫌いな艦娘を助ける為にここまで必死になったのだから、何か貰って然るべきだと思うのだがな」
吹雪「……」
長月「確かに私は自分勝手だ。頭が悪いし、自分中心にしか物事を見れない」
長月「翔鶴みたいな大人の艦娘になるには時間が掛かるだろう」
長月「だが、それは時間が掛かるというだけの話だ」
長月「成長していつか必ず、みんなが慕うような艦娘に私はなるし、なれると確信している」
吹雪「……」
長月「……お前のことはアレだ。昔の自分と被ったというか、自分で可能性を潰そうとして勿体無さ過ぎて虫唾が走るというか……」
長月「な、仲間だからっていうか……私だって自分も困った時には助けて貰いたいし」
吹雪「……」
長月「あー、お前が居なくなったら悲しむ艦娘が居る! そいつらの事を考えると居ても立ってもいられなくなった!」
長月「お前が居なくなったらブイン基地全体の士気も下がる! 悪影響を与えて居なくなるな! 最低だぞ!」
吹雪「……」
長月「信じられないって顔してるな」
吹雪「バレちゃった」
吹雪「凄く良い事を言ってくれたし、面白い話が聞けたと思う」
吹雪「長月がどんな艦娘か少し分かった気がする」
吹雪「他の艦娘が言ったなら私も基地へ引き返してたよ? でも長月だから……帰ってあげない」クスクス
穢れは、顔の半分を白く染めるほどになっている。
長月「……分かった。もうやめだ」
旧式の装備、愛用の単装砲の照準を吹雪に合せる。
長月「言葉で言って分からないなら実力行使をするだけだ。何としても基地へ戻ってもらう」
吹雪「嘘吐きと長月って……似てるよね」
長月「死ぬまで言ってろ」
吹雪「長月の装備じゃ今の私を殺しきれないよ」
長月「やってみないと分からないだろう」
綺麗事を言っても、結局はこうなるのだ。長月は嘘つきだ。大嫌いだ。……殺してやる。
大型艦に比べればまるで豆鉄砲のような砲撃音が複数回した。
吹雪(あれ……)
おかしい
吹雪(痛くない)
死ぬことは確実に無いにせよ、ある程度の痛みは覚悟していたのだが。
今の私の身体は12㎝砲が全く効かない程に強化されているのだろうか。
そんな事を考えていると身が軽くなった。
背負った艤装がずり落ち、水中へ沈んでゆく。
吹雪「……ショルダーストラップを狙ったの?」
長月はこちらに近づいて来る。
長月「そんなものがあっては邪魔だからな」
そう言うと、自分の手に持った単装砲を適当に投げ捨てた。
吹雪「さ、さっきから何してるの」
長月「ん? お前も案外察しの悪い奴だな」
長月「こうするんだよ」
吹雪「えっ……」
ステゴロか、熱いな
長月の実力行使は全く痛くなかった。
……私は抱き締められただけなのだから痛い筈も無い。
長月「お前、胸が小さいな。少しだけお前の事好きになったぞ」
吹雪「……こんな行為で私が心変わりすると思ってるの」
長月「もう喋るな。ただ私を感じろ」
吹雪「……」
少し癪だが折角の機会だ。私が嫌いな艦娘を至近距離で観察してみる。
私の身体を抱き締める彼女は想像よりも小さかった。
……いつも威圧感で大きく見えていたのだろうか。
吹雪「……」
彼女の髪は柑橘系の匂いがした。その色と相まって収穫したての柚子を連想した。
吹雪「……」クス
腕には目いっぱい力が入って私を押さえつけている。
以前の私ならともかく、今の私にしてみれば非力と言うほか無い。
長月は全力なのだろうか少し腕がプルプルしている気もする。
吹雪「……」
心臓の鼓動を感じた。服越しにも感じた。
吹雪「……」
長月という艦娘が私を抱き締めている。
彼女の身体は柔らかく、彼女も私も、確かに今この瞬間に存在している。
少しだけ心地よい気がしてきた。
長月「……抱き締められるって……気持ち良いだろ」
吹雪「……」
長月「頭……撫でられるのも……気持ち……良いんだぞ」
吹雪「……」
長月「恥ずかしくて……あんまり……撫でくれてって、言えないんだ……けどな」
長月の調子が妙に変だ。
吹雪「長月、何で……は?」
長月の右目の瞳が真っ赤だった。
というより、左目付近がかろうじて穢れに覆われていないだけで、手足は完全に白に覆われていた。
穢れの急激な増殖への拒絶反応として、長月の身体が痙攣し始める。
吹雪「えっ、ちょ、は?」
長月「私としたことが……油断したな……」
吹雪「何で長月が!?」
長月「これはキツイな……日向の奴、こんなのに耐えてたのか……」
吹雪「なにやってんの!? 死んじゃうよ!!」
長月「よく……分かってるじゃないか」
長月「この穢れに心を許せば……死ぬんだよ……」
長月「こいつは幸せになんて……してやくれない……深海棲艦になって……惨めに死ぬ」
長月「吹雪、こんな物に頼るな……仲間を頼れ」
長月「ほんとは……幸せになりたい癖に……自分でその道を捨てるな!!」
長月「死にたくないくせに……死のうとするな……」
長月「お前の事を……大事に思う者が……」
吹雪「分かったから! もう分かったから!! 喋っちゃ駄目だよ!!!!」
長月「……私はお前が嫌いだ……でも、お前は私の仲間だ……私達は艦娘だ……同じ存在だ」
吹雪「頼むから……お願いだから……」
長月「まず私達自身が……助け合わないで……どうするんだ」
長月「私達は……惨めな兵器なんだ……それくらい……救いがあったって……良いじゃないか……」
吹雪「……」
同じだった。
自分に無いものを全て持っていると思っていた艦娘は、自分と何も変わらない小さくて臆病な存在だった。
吹雪「……長月」
例え小さくて、臆病で、惨めだとしても私達は幸せになりたいのだ。救われたいのだ。
長月は自分の本質に気付いて努力したのだ。努力して、色々な物を手に入れたのだ。
そして今、同じ惨めな存在である私を救おうとしているのだ。
そうする事で、自分自身の魂を救おうとしているのだ。
吹雪「……」
なんという
なんと自己中心的で
必死で
惨めで
それなのに、こんなにも私の胸が熱くなるのだろう
長月「でも……私は少し……油断し過ぎたようだ」
吹雪「……」ウルウル
長月「吹雪……基地へ……戻って来い」
吹雪「……」コクコク
長月「……やっと……言葉が届いた……」
長月「……うん……よか」
長月「……」
吹雪「……長月」
長月「……」
吹雪「……長月」
長月「……」
吹雪「起きてよ、長月」
長月「……」
吹雪「何で長月が死ぬんですか。おかしいでしょ。私が死ぬ予定だったのに」
長月「……」
吹雪「私、やっと貴女の事分かったのに、やっと貴女の声が聞こえたのに」
吹雪「こんなのおかしい……絶対おかしい……」
長月「……」
吹雪「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
小休止
長月のおっぱいなら捗る
乙です
乙です。
乙です
ぐおお続きが気になる~
4月30日
昼 ブイン基地 特級病室
南国の太陽からの日差しが、大きく開いた窓から注ぎ込む。
風で揺れ動く白のカーテンレースとは対照的に、一人の艦娘がその身を静かにベッドに横たえていた。
注意深く観察すれば彼女の胸元は定期的に小さく、ゆっくりと上下し、寝ているのだと分かる。
またその艦娘のベッド脇に、一人の男が佇んでいた。
犬の被り物をしているため表情まで知る事は出来ないが、その後ろ姿は悲しげだった。
「……長月、また来る」
付添いの看護士に軽く会釈をすると、男は部屋の外へと退出した。
「神官様!」
部屋を出た男は一人の艦娘と遭遇する。男が出てくると即座に駆け寄り、先程長月と呼ばれた艦娘の容体を聞いた。
「もう穢れは全て祓い落した」
男の声は見た目以上に不快な声だったが、艦娘はその言葉に安堵の表情を浮かべる。
「だが目覚める保証はない」
「えっ」
「仮に目覚めたとしても以前の長月に戻るかどうかは分からん。中身が、元の長月の心がすでに死んでいる可能性がある。進み過ぎていた」
「そんな……長月さん……」
「吹雪、なんでお前じゃ無くて長月があのベッドで寝ているんだ」
「……」
「長月は俺の命に代えても守りたかった存在の一人だ」
「……」
「他の艦娘など沈もうが消えようが俺は構わん。第四管区の奴らが幸せでいてくれればいい」
「……」
「俺は今、自分でも信じられない程に貴様を殺してやりたい」
犬の被り物をしているため表情まで知ることは出来ないが、それが余計に恐ろしかった。
「夕張の開発品を使って長月の戦闘記録を見た」
「……」
「何か喋れ。黙っているなら今すぐ殺すぞ」
「……はい」
「何だ、あれは」
「……」
「おーい、吹雪。何なんだー、あれはー、なーおい、黙るなよー吹雪」
男は喋りながら近くにあった消火器を掴むと、それで艦娘の頭部を殴りつけた。
艦娘は避けもせずに殴られる。
「なんで抵抗しない」
再び殴る。
「……」
「昨日祓ってる時はあれだけ元気に謝ってたじゃないか」
「……ごめんなさい」
「謝られてもムカつくな」
殴る。
「……」
「お前が今くらい素直に長月の言うことに従ってくれればなー」
また殴る。
「……私のせいです」
「いや、それは映像見たから知ってるよ」
殴りつける。
「お前、あんな事しておいて……よく、おめおめ生きてられるな」
殴る。
「俺には分かる。お前は全て理解して穢れを受け入れていた」
「……」
「全部知ってて誘惑に負けたんだろう? 自分のもので無いと知りながら返せと長月に迫ったのだろう?」
「……」
「楽だもんなぁー、そう考えれば」
「……」
「分かっていながら無関係な長月を憎んで殺そうとして失敗して、絶望して深海棲艦になって」
「……」
「生きるのが嫌で深海棲艦になったくせに、本当は死にたくなくて、まだ戻りたくて意識を取り戻した」
「……」
「御見通しだよ。こうなると深海棲艦が気の毒だ。珍しく孵化出来たのに、またすぐに元の鞘とは」
「今すぐ死ね」
「……」
「死ね」
「……」
「死ね」
「おい! 何をやっている!」
もう一人登場人物が増える。士官服の男だ。
「ああ、山内」
「……神官殿、艦娘の前でそのような呼び方はお止め下さい」
「心配するな。こいつはもう死ぬから」
「……私は吹雪君の心配でなく貴方の心配をしている」
「もうどうでも良い」
「神官殿、自暴自棄になってはいけません」
「お前はこの病室に居るのが長門でも同じ台詞を吐けるのか?」
「長月君はまだ死んだと決まった訳じゃ無い」
「山内、映像で見ただろう、この吹雪とかいう艦娘は、吹雪のこの個体がどんな奴か」
「見た」
「こんな!! こんな何の助ける価値も無いような奴の為に!!! 長月は!!!!!」
「お前がどう思おうと自由だが、少なくとも長月君はそうは思っていなかった」
「……」
「お前こそ吹雪君に八つ当たりしているだけだ。気付け」
「……」
「これ以上吹雪君に何かするようなら、私の権限をもってお前を解任する」
「……本気か」
「私だってそんな事はしたくない。だが、自暴自棄になった無能を我々は必要としてない」
「……」
「長月君の回復を信じろ。一時の感情に流されるな」
「……」
「お前が居なくなったら残りの第四管区の艦娘はどうなる?」
「だから許せと言うのか」
「そうだ」
「俺は許せない、長月をこんな目に逢わせたそいつを許す事なんて出来ない」
「長月君はそんな事望んでいない。お前のエゴだ」
「上等だ。俺はエゴで艦娘を愛すると決めている」
「こんなものがお前の愛か」
「山内、赤城も飛龍も居なくなった……翔鶴に聞いた。更に長月まで居なくなろうとしているんだ」
「それも……それもこんな屑な艦娘を助ける為に……」
「宮! いい加減にしろ! 吹雪君を屑などとのたまうな! お前の発言が長月君の清い想いを穢していると何故気付かん!!」
「ふふふ」
「何がおかしい」
「清い想いだけじゃない」
「……」
「あいつは単に吹雪を助けたわけじゃない。そういう意図もあっただろうが、長月は自分自身の為に吹雪を助けたんだ」
「それなら尚更、彼女の意思を汲め!」
「……何故、長月がこんな役割を担わなければならんのだ」
「……」
「確かに俺は俺の考える本当の幸せの為に、俺のエゴの為に艦娘には様々な苦労を強いてきた」
「その結果、第四管区の艦娘は他の艦娘と一線を画す存在になった」
「……普通の艦娘には無い苦労を多くさせてな」
「普通でない長月は自分で選択して、吹雪を助けてこうなる道を……自分で選んだ」
「だが俺は知っているんだ。長月がどれ程の苦労をしてあの境地へ辿り着いたのか」
「全部知っていた、見てきた。生半可なものじゃなかった」
「あいつは決して優秀な駆逐艦ではなかった。それでも常に研鑽し、ようやく到達したんだ」
「深海棲艦になる寸前の仲間を長月という一人の艦娘がその身を投げ打って助けました。めでたしめでたし、あー、良い話だった」
「……なんて風に終わらせられるほど、俺は大人じゃないし教養深く無いんだよ」
「結局、俺の考えていた恵みにありつく事無く献身的にその身を投げ打ち、屑を救った一人の艦娘を……俺はどうしても憐れんでしまう」
「長月の事を知らない連中には美談にも見えるのかもしれん」
「……本当は俺だってそう見るべきなのかもしれん。だが俺には見えないし見たくも無いんだ」
「なぁ山内、その話をする時に、あいつが背負っていたものの重さに誰が気付いてやれる、見てやれる!? あいつの覚悟を誰が知っている!?」
「誰も長月など知りもしない。あいつの行為しか……他人は見はしない」
「……」
「美しくなんて……なくていい。刹那的な快楽に身を任せて馬鹿ヅラしてくれていい」
「長月にはそんな可能性だってあったじゃないか、そんな楽しさだって……もう知っても良いんだよ! それを……その機会をこんな形で失うなど……」
「宮……」
「『開かれた道を進む先で起こる事は、我々の問題です』と翔鶴は言った!」
「俺はあいつらの道を開いた! ああ、そうさ! 後は見守るだけだ!!!」
「だがな山内!! お前はあそこまで穢れに侵されて、尚自我を保った長月をどう思う」
「……彼女は強かった」
「ああそうとも!!!! そこの欲望に負けた貧弱な艦娘と比べてみろ! 長月はだけ強い!? 俺はもう悔しくてしょうがない!」
「……」
「そんな奴の為に、そんな心の弱い艦娘が居るために、あのように酷な決断は生まれたんだ!!!」
「だがしかし、長月君は……」
「長月の行動を尊重するしない以前に、塵ほどの価値も無い艦娘のせいでそんな選択肢を与えられて……自分を犠牲にして生死の縁を彷徨っているあいつが……俺は可哀想で仕方ないんだ」
「……」
「こんな道を進ませるために俺は……っ! 俺はぁぁ!!!! 長月を無駄に苦しめたかったわけでは!!」
犬の面をかぶった男の身体は、わなわなと震えていた。
「ぐぅぁあぁぁ!!」
吐き出すような嗚咽だった。最早怒りでなく悲しみに満ちていた。
山内と呼ばれた男は、犬の男の強い感情に何も返す事ができないようで、ただ黙ってそれを見ていた。
「長月さんの気持ちが私には理解出来ません」
そんな二人のやりとりを見て、艦娘はそう言った。
「……何と言った」
「自分の為に私を救うという行動も理解に苦しみました」
「……」
相変わらず犬の男の表情は窺えないが、その身体には再び怒りの力が満ちはじめていた。
「先程、神官様は私を消火器で殴られましたが……全然痛くありませんでした」
「……」
犬の男は何も言わずに艦娘に殴りかかろうとしたが、
「二人とも! もうやめろ!!!」
もう一人の男が艦娘の前に立ち塞がったことにより中断される。
「どけ」
「私は本気だぞ! これ以上吹雪君に手を出すならお前を職務不適合として解任する!」
「……」
「長官、私もやめません。言わせてください」
「吹雪君もこれ以上挑発するようなことを言うんじゃない! 命令だ!」
「いいえ、言います」
「神官様が私をどう思っていらっしゃるかよく分かりました」
「でも私は死ねません。それは、長月の為じゃ無くて自分の為に死ねません」
「……一応オチまでは聞いてやる」
「それが全部ですよ」
「そうか。潔いのは嫌いじゃないぞ」
「宮! やめろ! 吹雪君! この男は少し興奮して危険だ。君は今すぐ自分の部屋へ戻りたまえ!」
「……はい」
「興奮はしているが思考は冷静だぞ」
「そんな冷静さを私は求めているわけじゃない! お前は――――――」
二人の男の喧々諤々の口論を背に、吹雪はその場を後にした。
「吹雪!」
「……磯波」
部屋に戻ると一人の艦娘が声を掛けてきた。
「昨日はどうしたの? 緊急事態宣言があったのに吹雪は持ち場に居なかったよね?」
「……ちょっとね」
昨日の出来事は関係者に箝口令が布かれている事を吹雪は知っていた。
磯波の様子を見るに、どうやら厳重に情報封鎖されているようだった。
「良かった……」
「……何が良かったの?」
「吹雪が帰って来てくれて良かった。最近話しかけても上の空だったし」
「……」
「神官様がおっしゃってた穢れとか、色々物騒な事もあるから」
「……」
「あれっ、えっ、何で泣くの……?」
「長月……私、一人じゃなかったよ……」
「吹雪、大丈夫??」
それから私は泣いた。声を上げて赤ちゃんみたいに泣いた。
痛くて泣いたわけじゃない。
犬の男に殴られても、少しも痛くは無かった。
だが、彼の悲しそうな声を聞くと、胸の奥が重しを載せられたような感覚に襲われた。
途中からは痛い程だった。それは殴られるより、よっぽど痛かった。
例えエゴだとしても、彼がいかに長月を大切に思っていたかが伝わってきた。
それを見て、羨ましいと思う自分が居た。自分も誰かに大切にされたいと感じた。
私は長月がどんな艦娘であるか理解出来たが、彼女が私の為にした行動は理屈で分かるだけで、心の底で理解出来ていなかった。
さっき、磯波はいつも私に優しくしてくれていた事実に気付けた。
気付いた時に、真っ先に思い出したのが長月の顔だった。
その瞬間、私はようやく、長月は単に自分の為だけでなく、私を大切にしてくれてたのだ、ということが理解出来た。
そして、それが、それこそが私の胸を熱くさせたものの正体だったのだ。
彼女の言葉の端々にあった、温かさがようやく理解出来た。
だから泣いた。
感情が目元から溢れ出してきたのだ。嬉しかったし悲しかった。どうすればいいか分からなくなった。
また長月の顔を思い出した。
自分の悲しみを彼女に相談したい、彼女とお喋りがしたいと純粋に思った。
それが自分のせいで出来ないことを思い出して、もっと悲しくなった。
そんな私を磯波は抱き締めてくれた。
抱き締めて、磯波と私の重なった部分から、磯波の想いがこちらに流れ込んでくる。
それは温かくて、ほんのりと柚子の匂いがする気がした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……長月ぃ……死んじゃやだよぉ……逢いたいよ……」
言葉は自然と口から洩れた。そして、これが私の結論だった。
小休止
乙です
乙です
乙……です
マジで支援感謝
これだけ話が長くなってくると変な奴が沸かなくて嬉しい
このスレ読んでる人、四人くらいだろうけど……他にどんなSS読んでるかお聞きしたい
乙
ROM専がどれだけ潜んでるかわかってないな…?
ノージャンルで軽く数レス見て惹かれたやつを読んでってる
「やぁ、加賀」、「回転寿司」、「目標~」、モバマスものに人外ジョセフものetc...
創作モノには「1人見たら10人いる」という格言があってだな……
新着とhtml依頼スレで気になったのを漁ってるよ
ROM専だが最初からずっと見てるで
おー見てくれてありがとう!
ID見ると携帯とかから書いてくれてる人多いよね。
話はパソコンで書いてるので一応パソコン推奨しときます。
ジャンルとしてはイチャラブで書いてるつもりなのですが見てる側としてはどうなんだろう……。
と思って見てるSS聞いてみた。
あと、安価で出た四人の艦娘が第四管区の艦娘並に主役張る事は無いと思っておいてくれ。
ちょい役としては優遇します。
把握
夜 ブイン基地 港
日向「……」
伊勢型戦艦二番艦は一人で海を見ながら物思いに耽っていた。
援軍が到着したことにより、一番の懸念事項だった艤装の問題は解決した。
妖精の技術を人類が模倣する事は不可能であるという結論に到達したことを除けば、
『ブイン基地、ラバウル基地及びトラック泊地における艦娘運用について』を基にした改革は概ね成功したと言える。
基地全体の雰囲気も良くなり、全体の練度も徐々にだが向上している。
Lv制の導入と艦娘の高待遇化により彼女達の精神は個別化、安定化し、同名艦運用も問題なく行われている。ブイン基地だけに限るなら失踪問題は起こっていない。
戦う以前の問題だった南方戦線は少しずつ良い方向に向かって行っている。
だが、今はそれ程嬉しくない。
長月
彼女が意識不明となった。
吹雪の追撃部隊として第三防衛ラインに到達した私が見たのは、身体の殆どが深海棲化し意識を失った長月だった。
吹雪は抵抗することなく素直に、いや半ば茫然自失といった形で我々の命令に従った。
長月は本当に良い奴だ。可愛らしくて、実は強さも持っている。
日向「……長月」
私は第四管区の艦娘と他の艦娘を同じ存在だとは思っていない。
例え性能が同じでも、見た目が同じでも、中身が決定的に違っている。
その違いは我々の経験に基づくものであり、長官が認める程の自明なものだ。
依怙贔屓というよりも区別と言った方が正しい。第四管区の艦娘は、他と比べて精神的に強固であり、非常に安定している。
少なくとも私の中で区別はあったし、誰も口にしなかったが第四管区の他の者もそう考えている、
と私は今まで思っていた。
長月の身体が白化した事実から推測できる事実が一つある。
長月は吹雪を心で受け入れていた。これは確かだ。そうでなければあんな姿にはならない。
私なら受け入れるだろうか。あそこまで自分を投げ出して必死に吹雪を説得しようとするだろうか。
日向「……長月、お前にとって第四管区以外の艦娘は……」
どういう存在なのだ、と聞きたかった。
彼女にとって、他の艦娘は命を賭けて助けるに値する存在なのだろうか。
日向「……」
磯波「日向さん」
日向「……ああ、磯波」
磯波「こんばんは」ペコ
日向「どうしたんだ。お前も散歩か」
磯波「はい。何だか海が見たくなって」
日向「分かるよ。いつも散々見てるのにな」
磯波「日向さん……神官様は日向さんの昔の司令官さんなんですよね?」
日向「ああ」
磯波「どんな方なんですか?」
日向「昔は総司令部や上の存在の言いなりだったが、途中から変わったな」
日向「あいつは艦娘に対して偉そうにしない。ありのままで、それでいて、自分の艦娘に対して一生懸命だ」
日向「指揮は下手くそだな。多分私の方が上手だ。まぁ艦娘の戦闘なんて目にする機会も無かったろうし、仕方ないか」
日向「コネが凄くてな、良い装備を時々持ってきてくれていた」
日向「何を思ってあんな犬の顔になったかは知らんが……良い奴だよ」
磯波「……」
日向「どうした? 一通り話したが」
磯波「日向さんは、神官様が好きなんですね」
日向「……どうしてだ」
磯波「話をする時の顔が、いつもと全然違いましたよ。私ちょっとびっくりしました。」
日向「ほんとか?」
磯波「長官閣下の話をする時はそんなにならないのに……」
日向「……別に山内長官が嫌いな訳じゃ無いんだぞ」
磯波「はい、分かってます。でも日向さんのさっきの表情、凄く素敵でした」
日向「磯波、お前は命を懸けてでも助けたい存在が居るか」
磯波「と、唐突ですね」
日向「私はそういう奴だ。覚えておけ」
磯波「そうですね……上官の方々や、姉妹艦のみんなとか……日向さんとか」
日向「別に私に気を使わなくていいぞ」
磯波「気を使うとかそういうんじゃなくて!!!! 本当に思ってます!」
日向「そ、そうか」
磯波「日向さんのピンチを、私は見過ごしたくありません!」
磯波「……いや、私なんかが日向さんみたいに強い方を助ける機会なんて無いかもですけど」
磯波「ご、ごめんなさい! 偉そうにしてごめんなさい!」
日向「……磯波、ありがとう」
磯波「いえっ! 私、一人で盛り上がっちゃって……ごめんなさい!」
日向「いいよ。気にするな。私こそ変な質問して悪かった」
磯波「じゃあ私はこれで! 日向さん! ごめんなさい!」
日向「ああ、私はもう少し居るよ。おやすみ」
磯波「ごめんなさい! おやすみなさい!」
遠ざかる磯波の背中を見ながら、日向はため息を吐いた。
日向「まったく……あんな奴を見殺しになんて出来るわけないな」
磯波だけでは無い。うるさい川内とやかましい那珂、五十鈴、長門、阿賀野、神通
もう見殺しにしようにも私は他の艦娘に愛着を抱きすぎているようだ。
日向「何の為に第四管区とそれ以外を区別したのか分からなくなってきた」
日向「……でも、ちょっとお前の気持ちが分かった気がするぞ長月」
日向「あー、頭と心が一つで結ばれていれば色々悩まずに楽なんだけどな」
日向「心とは本当に面倒だ」
日向「ままならん」
夜 ブイン基地 廊下
神官「……」
加賀「神官殿」
神官「……俺の知っている加賀か」
加賀「残念ながら、そうです」
神官「俺に何か用か」
加賀「昔の部下に対してその言い草はどうなのですか」
神官「そう思ってくれていたのか。光栄な事だ」
加賀「……あなた、落ち込んでいるの?」
神官「……まぁな」
加賀「少し私の部屋に来て。……あとその妙な被り物をいい加減脱ぎなさい」
夜 ブイン基地 加賀の部屋
加賀「何ももてなしは出来ないけれど。適当にくつろいで」
神官「邪魔する。やけに広い部屋だな」
加賀「そうでもないわ。赤城さんと飛龍の三人部屋だから狭いくらいよ」
神官「……そうか」
部屋にベッドは一つしか無かった。
加賀「何故落ち込んでいるの」
彼女の語り口はぶっきら棒で、とても優しさが含まれているとは思えないが、彼女なりには頑張っているのだ。
神官「……俺は一つの約束をしていた」
加賀「約束?」
神官「第四管区の艦娘達に未来と幸せを与えるという約束だ」
加賀「それは随分と押しつけがましくて傲慢な約束ね」
神官「何とでも言え。……それが、出来なくなるかもしれんのだ」
加賀「そうなの」
神官「長月が、深く穢れに汚染されて意識を失っている」
加賀「……」
神官「目覚めるかどうかは分からん」
加賀「そう……」
神官「悔しくて仕方がない」
加賀「……貴方、随分と変わったわね」
神官「……お前は変わってない」
加賀「前はもっと駄目な男だったのに」
神官「今も駄目な男だ」
加賀「ええ、駄目な所は変わってないけれど」
神官「……」
加賀「マシにはなったんじゃない?」
神官「それはどうも」
神官「俺は赤城とお前から嫌われていると思っていた」
加賀「嫌うというか……そういう判断をする必要も無いような存在だったわ」
神官「俺は犬とか虫とかと同じだったのか……」
加賀「どこにでも居るような無能な指揮官だったわ……感情、感情五月蝿かった事を除けばね」
神官「……」
加賀「最初は余計なものを背負わせた貴方を随分と恨んだのだけど……今ではまぁ、少しだけ感謝しているわ」
神官「……それはどーも」
加賀「提督、しっかりしなさい」
神官「……」
加賀「貴方が折れていては、他の第四管区の艦娘に影響が出ます」
神官「……」
加賀「……長月の事は風の噂で聞いていました。あの子は強い子です。必ず戻って来ます」
神官「……」
加賀「今の貴方に出来るのは落ち込むことでなく、信じること、ただそれだけです」
神官「……くくく」
加賀「……何がおかしいのですか」
神官「よりにもよって、お前に慰められるとはな」
加賀「どういう意味か説明しなさい」
神官「もう少し泳がしてやろうと思ったがやめだ……加賀、赤城と飛龍はどこだ」
加賀「赤城さんと飛龍が今どういう関係があるの」
神官「いいから答えろ」
加賀「……出撃よ」
神官「どこに」
加賀「知りません」
神官「本当は分かっているんだろう。あの二人はもう帰って来ない」
加賀「……何を言っているの」
神官「とぼけるな」
加賀「……」
神官「服を脱げ」
加賀「嫌です」
神官「そうだろうな。白くなった肌を他の奴に見せられないよな」
加賀「……」
神官「かなり長い期間抑え込んでいたな? お前の精神力は感嘆に値する。だが、いつまでも同じ状態を維持できると思うなよ」
加賀「何を言っているの」
神官「だからとぼけても無駄だ。何人かに無理やり剥ぎ取らせても良いんだぞ」
神官「そんなものに頼っているお前から慰められるとムカつくんだよ……少しは頭も冷えた」
加賀「……何故分かったの」
神官「疑い始めたのは、揚陸艦から降りた時、並んでいた艦娘の中でお前だけが俺の方を見ていなかったからだ」
加賀「そんな事で……」
神官「詰めが甘かったな」
加賀「……見逃して」
神官「さて、どうしようか」
加賀「お願い」
神官「こちらも仕事なんだよね」
加賀「これが無ければ私は戦えなくなる」
神官「それは時々に都合の良い夢しか見せてくれない。その内、どこまでが夢で現実か分からなくなるぞ」
加賀「その方が良い」
神官「……」
加賀「あの二人が居ない現実など……私はとても受け入れられない」
神官「……分かった」
加賀「えっ……」
神官「お前を祓うのは止めにしてやる」
加賀「……」
神官「その代り、お前を抱かせろ」
加賀「……」
神官「そう睨むな。お前は俺を殺せない」
加賀「……」
神官「人を殺せば艦娘として死を迎えるからな」
加賀「……」
神官「お前が未だに深海棲艦にもならず、自殺をしない理由を……赤城との約束を俺は知っている」
加賀「まさか」
神官「夕張の作品は実に便利だった」
加賀「……」ギリッ
神官「実に健気だ。俺としてもお前にこれから頑張って欲しい」
加賀「……」
神官「前からお前には興味があった。受け入れてくれれば、お前は穢れを失わずに戦い続けられる。俺はお前の身体を楽しめる」
神官「両者にとって良い取引だ」
加賀「……いいわ、貴方みたいな下衆は幾らでも居たし」
加賀「でも約束は必ず守りなさい」
神官「勿論だとも。これ一度、という保証は出来ないが」
加賀「……」
神官「おいおい、そんな目で見るな。あと変な気起こして俺を殺すなよ。俺を殺せば日向、翔鶴、瑞鶴の誰か……もしくは全員がお前を殺しに来るぞ」
加賀「分からない。今の貴方はどうかしている」
神官「そうか?」
加賀「少なくとも私の知っている貴方は艦娘の愛情を利用するような男ではなかった」
神官「お前が俺を知らなかっただけだ。俺は持っている物は全て利用して自分の願いを叶える」
加賀「失望しました」
神官「何とでも言え。で、条件を呑むのか?」
加賀「……ええ」
神官「よし、契約成立だ」
小休止
乙~。普段はROM専だが、呼ばれた気がしたんで。少なくとも俺の中じゃ1,2位を争うくらい面白いよ。長く続いてくれて嬉しい、これからも応援してます。
乙です。
自分も艦これSSはいろいろ読んでますが更新があって一番嬉しいのはこのSSです。
乙です。
読んでいるものはここにも一人おります。
更新を心待ちなSSの一つです。
乙です
乙です
いつも更新楽しみにしてます
このシリーズすごく好きだ
おかげで日向さんの可愛さに目覚めたよ
夜 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
長月は五航戦姉妹にも大きな影響を与えていた。
特に瑞鶴は半ば茫然として自我喪失のような状態にあり、翔鶴はそれが非常に心配だった。
瑞鶴「……」
ベッドに横たわり、天井を見つめたまま何も喋らない妹に姉は声を掛ける。
翔鶴「……大丈夫?」
瑞鶴「……」
反応は無かった。
私自身も長月さんの事が心配でない訳では無い。
だが覚悟はしていた。
戦いの中に身を投じれば、いつかは仲間の死に直面するであろうと……予測していた。
実際に赤城さんと飛龍さんの例を私は既に見ている。
瑞鶴にとって、これが初めて身近な艦娘を失う経験……に近いものだったのだろう。
彼女が落ち込むのも理解出来る。
加えて提督と瑞鶴の関係は私と日向とのものと少しだけ異なる。
彼との約束が妹にはある。
……どう慰めれば良いのか、またその慰め方が少しも見当がつかない。
静かな時間が流れていった。
~~~~~~
瑞鶴「……姉さん」
沈黙を破ったのは瑞鶴だった。
翔鶴「はい」
瑞鶴「夜はお仕事……もう無いよね」
翔鶴「私達はまだ夜は戦えないからね」
瑞鶴「事務とかも無いよね」
翔鶴「ええ」
瑞鶴「ならお酒、付き合ってよ」
夜 ブイン基地 伊19の割り当て部屋
表があれば裏があるように、ブイン基地にも裏の顔がる。
そんな数ある闇の一つ、裏酒保は、以前の悪徳司令官の私的流通ルートを密かに確保し、戦闘に不要な品々を艦娘に無償で提供する秘密の存在である。
瑞鶴「イクちゃん、久しぶり」
翔鶴「……」
19「おかしなことを言う五航戦の妹さんなの。夜分遅くに初めまして。イクに何か用なの~?」
瑞鶴「……ああ、暗号か。『ワレ、ワスプゲキチンス』」
19「……瑞鶴ちゃん久し振りなの。今日は何をお求めなの~?」
実は19は四月中盤からブイン基地へ入り浸っていた。
彼女こそ裏酒保のブイン基地窓口である。
勿論、公式なものではない。
時には海上護衛中に『偶然』出会った艦娘同士、支援物資で満杯の筈の輸送船、そして水中。
様々なルートを経由して裏酒保の物品は末端の艦娘まで届けられる。
聨合艦隊司令長官は私的流通ルートの存在を知りながら黙認しているという噂もある。
というよりも、このルートを押さえているのは長官自身である、という噂まで……。
仮にそうだとすれば、それは艦娘の日々のストレスに対する彼のささやかな計らいであるのかもしれない。
瑞鶴「お酒頂戴。一番度数の強い奴」
19「あるにはあるけど……」
瑞鶴「……全部忘れたいの」
19「……話は聞いてるの。心中お察しするの。……分かったの」
そう言うと、19はベッドの下から同じ酒瓶を三つ取り出した。
19「これ、飲んで」
瑞鶴「ありがとう」
19「飲んで、大声出して、気持ち良くなって、また明日元気な瑞鶴ちゃんを私に見せて欲しいの」
瑞鶴「……うん」
19「お姉さんは何か欲しい物があるの?」
翔鶴「……いえ」
19「そう、何か困ったことがあったらすぐ19に言うのね。裏酒保は皆さまの来店をいつでもお待ちしているの」
19「おやすみなさい、なの」
夜 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
翔鶴「ブイン基地にあんな場所が……」
瑞鶴「頼めば何でも用意してくれるよ。暗号はあの通りだから。姉さんも使いなよ」
翔鶴「貴女、何の用であの場所を使ったの?」
瑞鶴「……まぁまぁ、それよりお酒飲もう」
半ば誤魔化し交じりの形で瑞鶴は笑顔を見せ姉に酒を勧めた。
翔鶴「スピリトゥス……? これってまさか」
瑞鶴「はい、かんぱーい」
妹は一人で勝手に叫び、一人で勝手に一気飲みを始める。
瑞鶴「……」グビグビグビグビグビグビ
翔鶴「こらっ! 何て飲み方を……あ……あぁ……」
瑞鶴「……」グビグビグビグビ
翔鶴「……」
瑞鶴「……」グビグビグビ
瑞鶴「プハァ! まっっっずい!」
本当に一瓶を一気に飲み干してしまった。
翔鶴「大丈夫……?」
瑞鶴「……早く大丈夫じゃ無くなりたい」
……
翔鶴「……私も飲みます」
瑞鶴「いよっ! 五航戦の白い方!」
翔鶴「……」ゴクゴク
瑞鶴「それ、それ、それ、それ!」
翔鶴「……」ゴクゴク
瑞鶴「いけー! 頑張れー!」
翔鶴「……」ゴクゴク
翔鶴「……ふぅ」
瑞鶴「姉さん流石~」キャッキャッ
三十分後、二人の部屋は混沌に満ちていた。
翔鶴「提督~、提督~、そんなに私の髪がお好きなんですか?」ニヤニヤ
姉は目の前に座った妹と視線も合せず、一人で髪をいじりながら微笑んでいる。
瑞鶴「あははは!!」
妹は、大爆笑している。だが視線の先は姉でなく天井の隅だった。
そんな中、ドアがノックされた。
日向「翔鶴、明日のラバウル基地からの交代要員……何やってんだお前ら」
瑞鶴「あ~、日向さ~ん! 大好きです! 抱き締めてあげます!」
瑞鶴は一瞬のためらいも無く翔鶴に抱きついた。
翔鶴「日向! 私と提督の逢引きを邪魔しないで! 日向! 抱きつかないで!」
日向「いや、私は何もしていないんだが……二人で酒を飲んでいたのか。邪魔した。用事はまた明日にしよう」
瑞鶴「そんなことありませんよ~。一緒に飲みましょうよ~」
翔鶴「……」ギリッ
日向「……翔鶴は何故私を睨んでいるんだ?」
瑞鶴「どうせ日向さんといちゃつく架空の提督さんでも見えてるんですよ。気にしちゃ駄目です」
翔鶴「あぁ、提督、駄目です、日向と瑞鶴が見てるのに……」
今度は一変して、翔鶴は日向から視線を外して天井の隅を向き、恍惚の表情を浮かべ始める。
翔鶴「そんな、私の身体が今すぐ欲しいなど……あぁ! そんな無理矢理服を引き剥がさないで下さい!」
翔鶴「ていとくぅ……」
日向「おい、お前の姉が自分で服を脱ぎ始めたぞ」
瑞鶴「きっとそういうプレイですよ。まー日向さんも飲んでください」
日向「……一杯だけだからな」
更に三十分後
日向「久し振りに裸の君を見たが……君、少し体が細くなったな。本土でちゃんと食べていたのか?」モミモミ
翔鶴「んぁ……はぁぁ……提督……駄目です……そのように乱暴に触られては……」
日向「筋肉も落ちているじゃないか。……何だか女みたいにプニプニしているぞ」モミモミ
翔鶴「いやぁ……」
日向「……あれ……股間に、股間に何も無いぞ!?」サワサワ
翔鶴「そんな……いきなりそちらにぃ……」
日向「どこだ!? 君の主砲をどこに隠した!?」モゾモゾ
翔鶴「んあぁぁ!!! そこを触っては駄目! 駄目ぇ!!」
日向「小さい穴が開いているぞ! この奥にしまったのか!? 早く出せよ! あれが無いと出来ないだろうが!?」ゴソゴソ
翔鶴「やだ、私っ、嘘、もう、いっ……」プルプル
日向「提督!!!!」ゴソゴソゴソゴソ
翔鶴「提督ぅぅぅぅ!!!!」ビクンビクン
ご覧の通りの有様である。
日向「……君……そんな……主砲が……」
翔鶴「はぁ……はぁ……もう……あれだけ優しくと……お願いしたのに……でも、素敵でした……」
日向「提督……」ガタガタ
翔鶴「提督……」ホッコリ
瑞鶴「あはははは!! 馬鹿じゃないの二人とも!」
瑞鶴「……ほんと、馬鹿みたい」
小休止
乙です
荵吶〒縺吶s
文字化けつらい…
乙です
乙です。
とんでもないカオスですね。
酔えない瑞鶴の心中たるや
夜 ブイン基地 加賀の部屋
神官「綺麗だ」
加賀「……黙りなさい」
一糸纏わぬ艦娘の立ち姿を前にして、男には余裕があった。
程良い肉付きをした身体、自己主張しすぎる事のないすらりと伸びた長い脚、存在感を放つ大きな乳房。肉厚そうな尻。
その身体は男性の欲を満たす上で非常に理想的と言えた。
顔を赤らめ、その両手で必死に裸体を隠そうとする様がまた煽情的である。
神官「手をどけて胸を見せろ」
加賀「……」
屈辱的な命令にも反抗せずに従う。どうやら男にかなりの弱みを握られているらしい。
左胸の深海棲艦化は殆ど進んでおらず、小さな痣の様にしか見えなかった。
神官「これなら鈍感な奴は気付かなくても不思議じゃないな」
加賀「……」
神官「おい、折角肌を合わせるんだ。もっと楽しそうな表情をしろよ」
男は距離を詰め、艦娘の大きな乳房の側面を舐めた。
加賀「っ……!」
それに艦娘の上半身が大きく反応する。快楽でなく異物の拒絶に近いのは間違いなかった。
神官「良い反応だ」
加賀「……汚い」
神官「相反するものの距離は意外と近かったりする」
加賀「それ、んっ」
恐らく反論が飛び出そうとしていた口を同じ口をもって塞ぐ。
舌を入れようとしたが、頑なに口を閉じ拒否された。
神官「……」
加賀「んまっ!?」
左の乳首の先をつねると、その門も開いた。口腔内に舌を伸ばし舌同士を絡める。
唾液の絡む音とともに徐々に彼女の足元から力が抜け、直立が不安定になり始めた。
男は空いている手を腰と背に回してそれを支える。
舌同士の絡め合いに飽きれば、男は艦娘の口腔内をくまなく荒らしまわり始める。
しばらくそれが続いた後、彼女の身体は男の方へ完全に倒れ掛かっていた。
男は一旦口を離した。
神官「今更だが、俺はお前が嫌いじゃない。寧ろ好きだ」
加賀「……」
神官「秘書艦を任せていたくらいだしな」
加賀「……」
神官「意思疎通は大事だぞ」
加賀「……どの口が言うのですか」
神官「ま、話はベッドへ行ってからだ」
加賀「なっ!?」
男は艦娘を抱きかかえ、ベッドへと運び、
神官「そい」ポイ
加賀「きゃっ!」
放り投げた。
~~~~~~
神官「お前は馬鹿じゃない」
艦娘の身体に舌を這わせながら、男は喋る。
神官「加えてこういう経験が何度もある。……だから人間相手の力加減がよく分かっている」
艦娘は何も答えなかったが、舌が動きを変えると彼女の身体は返事をするように仰け反った。
神官「意味が分からん程に感度も良い」
舌で舐めるのでなく、脇腹を甘噛みする。
加賀「んっ……」
神官「……まぁ感度は余計だったが。俺の中にお前に対する悪意が無いのが分かるだろう」
加賀「……」
神官「肌を触れ合わせていると、そういう事が分かる」
神官「……お前がまだ、心のどこかで俺を好いていることも分かる」
加賀「……」
不意に乳首を責めてみる。
加賀「あぁっ!」
男はその後、艦娘の豊満な体を楽しむように指や舌を這わせ、その合間合間で艦娘に話しかけ続けた。
その一つ一つを繋ぎ合わせれば以下のような話になった。
正規空母三人が居なくなった後の苦労話
間の抜けた日向の話
新しく入ってきた五航戦の話
単冠夜戦の話
日向が深海棲艦になりかけた話
長月の馬鹿話
翔鶴の話
瑞鶴の話
第四管区が無くなった話
愛撫しながら、口づけを挟みながら、延々と二時間近くも艦娘の身体に対して前技をし、昔話に一人で花を咲かせていた。
艦娘もそれに対して延々と体で反応し続けた。
普通に考えれば盛り下がりそうなものだが、時間が経つごとに互いの身体は熱を帯びていく。
彼女は、拒絶していた男の身体と徐々に混ざり合っていくように見えた。
二人は足を絡ませながらベッドの上で抱き合う。
「舌」
「……ん」
その言葉に最早何の抵抗も無く従い、舌を出して絡め合い吸い合う。
互いの唾液を飲み合う。
互いの背中に手を回し抱き締め合う。
体液でぬらぬらと光り、滑る肌を繋げるかのように触れ合わせ重ね合う。
「……」
「……」
次第に会話は無くなり、互いの荒い息遣いと喘ぎ声、身体が触れ合う音だけが聞こえるようになる。
それでも相手の気持ちを汲み取れるようになる。
何をどうして欲しいか、直感で分かる。
どこまでが男でどこまでが女か分からなくなってくる。
どこまでが自分でどこからが相手か分からなくなる。
即物的な快楽でなく、単に互いに、より深い場所で繋がりたいと思う気持ちが強くなる。
既に身体の一部は既に相手の中に入っていたり、相手の一部を受け入れていたりしたが、物質的な部分で彼らは違う個体であり一つになる事は不可能である。
分かっていても彼らは極限まで一つになろうとし、それが出来ずに終わりを迎える。
終わりは、つまり絶頂は、もうすぐそこまで迫っていた。
「あぁっ!!!! あああああー!!!」
「うぅぅぅ!!!」
獣の交尾は言い得て妙であろう。
二人の行為は最早他人の情欲を駆り立てる類の物では無いからだ。
少しも艶やかでない叫び声とともに、双方の肉体が同時に絶頂を迎えた。
物質同士の接近限界点を迎えたその瞬間、人間であれば半分ずつ出し合ったものが一つになる。
艦娘にそれは無い。
その代わり
別々の心が一瞬だけ一つに繋がった。
眼が眩むような快楽に身体が震える瞬間に、互いの心が溺れるように互いの中へ流れ込み、触れ合い、相通じ合う。
決して目に見えず証明もできない存在は、同じく証明できないが瞬間的に一つになり、その後引き波のように再び離れた。
一瞬で十分だった。心同士であるならば、繋がるのは刹那でもきっと十分だ。
~~~~~~
「……」
犬の被り物を開き、中から煙草を取り出すが、
「私の部屋は禁煙です」
煙草を握りつぶされた。
「行為の後の一服は最高に美味いんだけどな」
「それは商売女相手の時だけにしなさい」
「分かったよ」
男は艦娘の方に向き直る。
二人の間には、始めた時には考えられない程の穏やかな空気が流れていた。
「率直に聞くが……どうだった?」
「……」
「だろうな。俺も久しぶりに本気を出した」
「……何も言っていません」
「艦娘との性行為は自然の摂理に基づかず不純で……それ故に別の純粋な部分を持つ」
「……」
「必要で無いが故に、人間同士よりも、より純粋に気持ちをぶつけ合う事が出来る。そして最後は、あの通りだ」
「……あんな感覚は初めてでした」
「初めてでなければ怖い。さっきのは艦娘相手の独りよがりな性処理などでは無いからな」
「では、一体何なのですか」
「今回は一応儀式として行った」
「儀式?」
「自分で言うのもアレだが……俺はある一つの視点から見れば、非常に清廉な存在であるのだ」
「……」
「……そんな目で見るな。ある一つの視点から見れば、と言っているだろうが」
「では仮に清廉だとして、どうなるのですか」
「そして、その視点から見れば、穢れている存在にとって……俺は天敵だ」
「……!」
艦娘は急いで自分の左胸を確認する。そこには何の痣も残ってはいなかった。
「様々なやり方がある。外から祓うか内から祓うか、外からでも強制的に取り除くか」「そんなこと聞いていません!!!!」
「……」
「何故消したの!? 何故!? あれが無いと私は」
「生きていける」
「……無理です」
「現にお前は今も生きている」
「けれど」
「穢れは夢しか見せてはくれない。その内に赤城との約束まで夢に食われれば……目も当てられん」
「……」
「こんな方法しか選べなかった事は、謝る」
「赤城さんが死んでも……飛龍が居なくなっても……私の日常は大して変わらなかった」
「……」
「二人が居ないのが少し寂しいだけで、日常は少しの躊躇いも無く進んでいく」
「……」
「その流れに……適応しかけた自分が居た……そんなの……そんなの……」
「俺も同じだ」
「……」
「昔失った艦娘の事があれ程悲しかったのに、時折それを忘れて楽しんでいる自分に罪悪感を覚えた」
「提督……」
「だが、それは本当に悔いるべき物ではない。真に悔いるべきは、故人の存在に雁字搦めにされて、動けなくなり時間を、機会を空費することだ」
「……」
「悲しみを忘れるのでも、切り捨てるのでもなく、あいつらの犠牲を、持っていた想いを糧にして生きるのがきっと正しい」
「それは生きている者の勝手な理屈」
「この世界は勝手で残酷な、生きている者の世界だ。死者は何も言ってくれない。俺達は居なくなった奴と肩を並べて未来には向かえないんだ」
「……」
「お前の在り方は、この場所において前にも後ろにも進まず、下に落ち窪んでいた」
「……」
「加賀、お前は生きているんだ。悲しくとも死者の世界に片足を突っ込む必要は無い」
「……」
「まやかしに頼らず、きちんと背負え。その中で赤城との約束を果たせ」
「……」
「それが真の意味でお前が生きるという事だろう」
~~~~~~~~~~~~
~~~~~~
~~~
~
「赤城さん!!!! しっかりして!!」
「私としたことが……油断しました……」
「喋っては駄目!」
「ふふ……加賀さん、お腹に穴が開いてもお腹は空くのですね……」
「基地に帰れば幾らでも食べられます! 金剛さん!!!! 撤退しましょう!!!!」
「英国で生まれた金剛デース!」(許可は降りませんでした)
「そんな!?」
「英国で生まれた金剛デース!」(ガダルカナルへ進軍せよ、との命令です)
「十時方向から敵艦載機群。1000を超えています」
「十二時方向より重巡、数……80」
「四時方向、十九時方向よりも接近する敵、……多数」
「英国で生まれた金剛デース!」(正確な報告をしなさい)
「申し訳ありません。レーダーの反応200を超えて尚増加中」
護衛の水雷戦隊から絶望するような報告が次々と上げられる。
「英国で生まれた金剛デース!」(基地への道を開きます。最大戦速、我に続け)
「第一水雷戦隊、了解」
「第二水雷戦隊、了解」
だが、どの艦娘も恐るべき事実を目の前にしても彩は無い。恐怖も無いようだった。
彼女たちは完全に壊れていた。
速力の落ちた赤城さんと彼女に付き添う私は、補給を積んだ輸送船にすら置き去りにされた。
「もう、いいの」
「良いわけ……無いじゃないですか……!」
「飛龍は悲しむだろうなぁ……あの子はまだ精神的に不安定だから、面倒を見てあげてね」
「自分でやってください!!」
「……加賀さん」
「……」ビク
「このままだと私達はここで死ぬ」
「死にません……二人とも生き残るんです……これまでだってそうして来たじゃないですか!」
「私の艦載機を受け取って」
「お願いです……そんな事言わないで……」
「私だって死ぬのは怖い……けど、加賀さんまで死ぬ必要なんてありません」
「赤城さん……赤城さん……」ポロポロ
「加賀さんの涙……温かい。……私は幸せ者です。金剛達のように壊れなくて……本当に良かった」
「赤城さん、赤城さん、赤城さん……」ポロポロ
「約束して、私の死を絶対に無駄にしない……って」
「いや! そんなの絶対に嫌!!!」
「加賀さん」
「いやです!!!」
「加賀さん」
「うぅぅぅ」
「私の分まで生きて、戦って、最後まで生き残って……幸せになって」
「うぅぅぅぅ!!!!」
「約束ですからね」
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「飛龍を頼みましたよ」
赤城は加賀を突き放すと敵の群れに突っ込んでいく。
「約束ですからね」
最後にニッコリと笑って、その後は二度と振り返らなかった。
私は、その背中を追う事は出来なかった。
~~~~~~~~~~~
~~~~~~
~~~
~
「俺もハラを決めた。今は落ち込んでいる場合ではない」
「……そうですか」
「お前の悲しみが俺にも分かる。加賀、もう一度色々な物を背負って生きろ」
「そんな事、知らぬ存ぜぬ余計なお世話……と言いたいですが、貴方には本当に分かっていますね」
「一度は一つになった間柄だからな」
「気持ち悪い。その言い方はやめなさい」
「ツンケンしても前のような効果は無いぞ」
「……」
「わはは」
「……貴方が変わっていなくて本当に良かった」
「良い意味でも、悪い意味でもな。俺もお前が俺をまだ好いていてくれて、嬉しいよ」
「……」ゴン
「痛いっ!」
「虫がついていました」
「自分に不利な場合には暴力行使とは、まるでDV男だな」
「海軍内暴力であるからNVです」
「俺の本籍はもう海軍では無いのだが」
「男の癖にやかましいですよ」
「……」
「貴方のお陰で私も落ち窪むのは止められそうです。……感謝はしません」
「お前は穢れたものに頼らずとも生きていけるんだ。以後、存分に苦しめ」
「赤城さんとの約束の為に……いえ、生き残った自分自身の為に私は戦います」
「……」
「しかし、今一つ力が足りません」
「?」
「キスしてくれれば頑張れそうなのですが」
「……良いのか?」
「私は一度しか言いません」
「……分かった」
「……ん」
「……」
「……」
「……」
「提督」
「……何だ」
「……心が一つになる感覚、悪くなかったです」
「お前の身体も中々良かったぞ」ニヤニヤ
「……」ゴン
「カントッ!」
5月1日
早朝 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
伊勢「もー、五航戦の二人は御寝坊さんだな!」ガチャ
伊勢「もう八時だよ! 朝だ……よ……」
彼女の目に飛び込んできたのは、裸の翔鶴と仲睦まじげに抱き合う妹の姿だった。
伊勢(……落ち着け、戦艦は慌てない、慌てたら私の主砲は当たらない)
伊勢(えっ、なに、なに、どゆこと? 何で二人が抱き合ってるの?)
伊勢(実はそういう関係だったの? そこまで仲良さそうに見えなかったのに)
伊勢(レズ……レズなの、レズだったの日向!?)
瑞鶴「ん……あ、伊勢さん。おはようございます……って八時ィ!?」
伊勢「あ、瑞鶴ちゃんおはよう。そうだよ~。二人が起きてこないから起こしに来たんだよ~」
瑞鶴「そんな、私、今日朝から海上護衛のお仕事が」
伊勢「代わりに私がやっときました! 心配ご無用!」
瑞鶴「……良かったぁ。伊勢ちゃん、ありがとう!」
伊勢「どういたしまして。……これどうなってるの」
瑞鶴「ああ……その二人は昨日強いお酒を飲んで……」
日向「うーん……君……人間の割に力が強くなったな……」
翔鶴「提督……もう離しません……」ギュ
伊勢「凄い乱れっぷりだね。翔鶴ちゃん、ちょっと溜まってるんじゃない?」
瑞鶴「あはは……溜まってるんですかねぇ」
朝 ブイン基地 食堂
翔鶴「……」ニコニコ
日向「……やけにご機嫌だな」ゲッソリ
翔鶴「昨日凄く良い夢を見たもので」
日向「私は嫌な夢を見た」
翔鶴「大丈夫ですか?」
日向「彼の……股間の単装砲が無くなる夢を見たんだ……縁起が悪い」
翔鶴「まぁ……それは……」
神官「おい、何を朝から股間の話をしている」
加賀「おはよう」
翔鶴「おはようございます」
日向「お、もう犬の顔はやめたのか。にしても、この組み合わせは珍しいな」
瑞鶴「先生、ちーっす。加賀さん、おはようございます」
伊勢「おはようございます」
日向「……ついているよな?」ツンツン
神官「……何をやっている」
伊勢「日向、そういうのは朝ごはん食べてからにしようや? な?」
~~~~~~
瑞鶴「御馳走様です」
神官「皆、一通り食べ終えたか?」
日向「ああ」
翔鶴「……」
伊勢「……」
加賀「……」
神官「一つだけ言わせてくれ。私は自分の艦娘を信じる。彼女は必ず回復する」
「「「「「……」」」」」
神官「……以上だ。瑞鶴、お前はちょっと着いて来い」
瑞鶴「はいはーい」
神官「はい、は一回」
瑞鶴「はい」
朝 ブイン基地 神官の部屋
瑞鶴「へー、良い部屋割り当てられてんじゃん」
神官「まぁな。ここが一応神聖な空間という設定だ」
瑞鶴「設定って……言っちゃっていいの」
神官「お前だし、問題無い」
瑞鶴「……それはどーも」
神官「長月の件で俺は思い知った。自分の認識の甘さをな」
瑞鶴「あと、自分がどれだけ無謀な夢を掲げているかも理解してくれたら嬉しいんだけど」
神官「それは甘さの反省の中に含んでいるつもりだ」
瑞鶴「……へー、それで、反省した神官様、先生はどうするつもりなの? お聞かせ願える?」
神官「どうすれば良いかさっぱり分からんのだ」
瑞鶴「……へ?」
神官「いや、もう、全く分からんのだ」
瑞鶴「えっ、いや、じゃあ何で私呼んだの? その話する為じゃ無かったの?」
神官「ん? お前にアドバイスを貰いたいなと思っただけだぞ」
瑞鶴「私にアドバイス……」
神官「あぁ、すまん。急に言っても無理か……」
瑞鶴「……」
神官「……瑞鶴、もしかしてお前今日ちょっと怒ってるか?」
瑞鶴「……やっと気付いた?」
神官「……」
瑞鶴「何で怒ってるか教えてあげます。今日、さっき、私達はようやく二人きりになりました」
神官「……そうだな」
瑞鶴「……貴方は、私を、ずっと放置していました!」
神官「いや、放置という訳じゃ……すれ違いざまに喋ったりしたじゃないか」
瑞鶴「こういう風に二人で話せないと駄目でしょ! 意味が無いんです!」
神官「……そうなのか?」
瑞鶴「そうなんです!」
神官「そ、それはすまなかった……」
瑞鶴「自分の身体の一部をそんな風に放置したりする!? しないでしょ!」
神官「ああ、以後気を付ける……」
瑞鶴「で?」
神官「……で?」
瑞鶴「久し振りに再開した可愛い可愛い瑞鶴と二人っきりになったんだから、何かすることがあるでしょーが!」
神官「……」
瑞鶴「ほ、ほらギュッとしたりとか、チューしたりとかほら、色々あるでしょーが!」
神官(あ、ちょっと可愛い)
神官「分かったよ」
瑞鶴「……」
神官「おいで」
両手を開いて呼び寄せるだけで、
瑞鶴「……!」
彼女は目を輝かせ、鼻を膨らませて、嬉しそうに胸に飛び込んできた
神官「おっと」
瑞鶴「ん~提督さんの匂いが懐かし~」スリスリ
神官「俺もお前の匂いが懐かしい……」
瑞鶴「……」スンスン
神官「どうした」
瑞鶴「女の匂いが混ざってる」
神官「ああ、祓う時についたんだろう」
瑞鶴「……いかがわしい事してないでしょうね」
神官「スピリチュアルなものは往々にしていかがわしく見られるものだ」
瑞鶴「……」
神官「……」
瑞鶴「ま……こうして会えたんだから、どうでも良いや」
再び男の胸に顔を深く埋めた。男は瑞鶴の背中に手を回す。
神官「……例えいかがわしいとしても、そういう行為が主体じゃない」
瑞鶴「そーですか」
神官「……すまん、そうか、匂いがついてるのか。久々で色々抜けていた。主にデリカシーとか……」
瑞鶴「あなたがデリカシーという言葉を知っていたのが驚きです」
神官「すまん」
瑞鶴「もう良いですって」
神官「本当にすまん」
瑞鶴「……だから、もう良いですって。貴方には色々諦めてますから」
瑞鶴が胸に顔を埋めているため、互いに視線も合わず、表情も分からなかった。
神官「……」
瑞鶴「……」
神官「……」
瑞鶴「……何か喋ってください」
神官「……また会えたな」
瑞鶴「……」
神官「……寂しかったか」
瑞鶴「……」コクコク
神官「心配が過ぎて、職を変えてまで南方に来てしまった」
瑞鶴「……来てくれて嬉しかったです」
神官「……それは来た甲斐があったというものだ」
瑞鶴「私達の居ない本土でどんな事してたんですか」
神官「最初は南方戦線の危機的状況を伝えるために国内を走り回っていた」
瑞鶴「……」
神官「俺の師匠、先生の所へ何度も行ったな。転属させてくれ、と言って」
瑞鶴「……駄目だったの?」
神官「これでも本土では貴重な実戦経験豊富な指揮官で通ってるんだよ。俺は」
瑞鶴「嘘だ」クスクス
神官「嘘じゃない」
瑞鶴「そういう事にしときます」
神官「……それはどーも。転属は無理と分かったから実家に頼んで職を変えて貰った」
瑞鶴「……」
神官「こちらには突っ込まないのか?」
瑞鶴「色々ヤバイ気がするから……」
神官「賢明だ」
神官「後半は、山内から妖精が足りないと聞いていたから、妖精探しの旅も始めた」
瑞鶴「そうなんだ」
神官「山内の奴、俺を国内の妖精との窓口か何かだと勘違いしてやがった」
瑞鶴「長官も大変だったんだよ」
神官「色々訪ね歩いたんだが、どこの妖精も断って、結局第四管区の妖精に行き当たった」
瑞鶴「最初に誘えば良かったじゃん」
神官「上の嫌がらせだ。先生の力添えで最後の最後にようやく会えた」
瑞鶴「信じられない……こんな時に政治? 嘘でしょ」
神官「残念ながら本当だ。あいつらの目的は山内の失脚だからな」
瑞鶴「……」
神官「その怒りは敵にぶつけろ」
瑞鶴「……分かった」
神官「お前は何をしてたんだ」
瑞鶴「私はブイン基地海上護衛部門の水上艦狩り担当」
神官「ああ、お前達が来るまでこの基地には海上護衛を行う部隊が存在しなかったんだろう?」
瑞鶴「ね! ほんとびっくりだよ! 霧島さんとか―――――」
抱き合ったまま、多くの事を喋るうちに自分の中の不安や黒い何かが消えて行くのを瑞鶴は感じた。
~~~~~~
神官「お前も弾除けのお守りとして俺の陰毛を一本だな……」
瑞鶴「あれは女の人だから意味があるんだよ」
神官「知ってるよ」
瑞鶴「私だって知ってて話してるよ」
神官「……」
瑞鶴「……」
神官「……約一ヵ月程しか離れてないのに、懐かしいな」
瑞鶴「あはは、私も思った」
神官「そろそろ仕事があるだろう」
瑞鶴「無い」
神官「本当は」
瑞鶴「ある」
神官「そろそろ俺から離れた方が良いんじゃないか」
瑞鶴「私が行ったらあなたが寂しがるでしょ。可哀想だから、行かない」
神官「ま、他の奴に迷惑の掛からない範囲でな」
瑞鶴「うん。あと十分したら行く」
神官「……お前の意見を聞かせてくれ」
瑞鶴「……最初の話?」
神官「ああ」
瑞鶴「長月さんがあんな事になるなんて、思ってもみなかった」
神官「……俺もだ」
瑞鶴「思ってもみなさ過ぎて、びっくりして、どうしていいか分からなくなった」
神官「……」
瑞鶴「その答えが欲しくて、あなたについて来たんだけどな」
神官「ご期待に添えず申し訳ない」
瑞鶴「こちらこそ、期待して申し訳ないです」
神官「……答え、か」
瑞鶴「……吹雪ちゃんのことどう思う?」
神官「嫌いだ。殺してやりたい」
瑞鶴「私もね、最初はそう思った」
神官「……」
瑞鶴「あんな艦娘が居るから、長月さんが困るんだ、って思った。なんなら、私が殺しに行こうかな、って考えたくらい」
神官「……」
瑞鶴「私達が目指すのは艦娘の未来と幸せで、でも、それを形作るのは私達の考えじゃ無くて、その艦娘自身の決断な訳で」
神官「……」
瑞鶴「あくまで私達は押し付けるんじゃなくて、例えば長月さん自身の決断を尊重する立場にあるわけで」
神官「そうかもな」
瑞鶴「尊重するのって何なんだろう、って思って。私は今まで、あなたの夢を一緒に叶えるって言ってたのに何も考えてなかったんだな、って思って」
神官「……」
瑞鶴「私は私の幸せが分かるけど、長月さんの幸せは分からない」
神官「ああ」
瑞鶴「じゃあ、長月さんを幸せにするためにはどうすれば良いんだろう、って思って」
神官「……」
瑞鶴「吹雪ちゃんを殺せば、目を覚ました長月さんは凄く悲しむんじゃないかな~って」
神官「……」
瑞鶴「私はもう分かんない」
神官「……俺もさっぱりだ」
瑞鶴「どうする? もう全部諦めちゃう?」
神官「それもアリだ」
瑞鶴「私は嫌だな。あなたとの絆が一つ減っちゃう」
神官「計数換算出来るようなものでも無いと思うが」
瑞鶴「感覚の話」
神官「だと思った」
瑞鶴「へへへ」
神官「一先ずは長月の回復を待つ。あいつは目を覚ます。確実に、だ」
瑞鶴「……そだね。起きてから話せば良いよね」
神官「我々は待つ事しか出来ん」
神官「俺達の持つ命題への答えは保留だ。俺は卑怯にも保留を選択する」
神官「お前達は俺が命を懸ける価値が十分あり、俺の中で大切な存在には変わりない」
神官「だが、俺が手を貸すまでも無く、みんな立派な価値判断の基準を持ち、自分の為だけでなく誰かの為に動ける大人だ」
神官「今は、その時々でお前達が出す決断を優先するよ」
神官「長月はきっと、後悔してない。だから吹雪には手を出さない。以上だ」
瑞鶴「……了解」
神官「行ってこい、瑞鶴」
~~~~~~
朝 ブイン基地 港
瑞鶴「みんなー、おっはよー」
「「「おはようございます! 瑞鶴隊長!」」」
瑞鶴「ムホホ、隊長ってムズかゆい……」
19「瑞鶴さん、おはようございます、なの」
瑞鶴「えーっと……今日から新しく海上護衛に参加するイクちゃん……で良いかな?」
19「いいの」
瑞鶴「私は翔鶴型二番艦の瑞鶴、以後よろしく」
19「よろしくなの~」
瑞鶴「ま、今日は見学程度に思っといてね」
19「瑞鶴さん」
瑞鶴「ん? どしたの」
19「瑞鶴さんは今日はどんなご機嫌なの?」
瑞鶴「……そりゃあもう、バッチリ! なの!」ニカッ
19「……それが聞けてイクも嬉しいの」
小休止
乙です
前回支援コメくれた方、ありがとうございます。気恥ずかしく感じながら称賛コメをガン見してました。
皆さまの声援をバネに、慢心せずに完結させる心づもりです。
では
早速支援コメくれた方も、本当にありがとう
乙です。
やはり1の書く文章は素晴らしい・・・!
乙です。
日向の出番が、と思ってましたが加賀さんも瑞鶴も可愛くて幸せです。
本当面白いよ
政治的な話とか心底胸糞悪くなるし提督の吹雪に対する殺意などもリアリティあるし
正直簡単に割り切れるわけないよなぁ
スレチだけと、金剛と翔鶴の去年のみたいで、ss にはもったいないぐらいすごくすきです
昼 ブイン基地 執務室
神官「よう」
山内「暇じゃないぞ」
神官「コーヒー飲んでる癖に暇じゃないとはどういう了見だ」
山内「お前のような奴を相手にしている暇は無いのだ」
神官「胸糞悪い。主砲の誤射で死ねばいいのに」
山内「……」ニヤニヤ
神官「……」ニヤニヤ
山内「本題は?」
神官「実はさっき瑞鶴と喋ってな」
山内「ほう」
神官「夜に――-―――――――」
夜 ブイン基地
山内「ふむ……もう八時か……少し手洗いに行ってくる」
翔鶴「はい」
山内「書類仕事も楽では無いな」
翔鶴「心中お察しいたします」
山内「楽しそうだな。君も同じ書類仕事なのに。今日の分は後何分ほどで終わりそうだ」
翔鶴「面倒な書類が多いのは、組織が機能している証拠です。一時間ほどでしょうか」
山内「そして効率化出来ていない証拠でもある」
翔鶴「はい」
山内「……おっと、トイレに行くんだった」
~~~~~~~
長官が出てから五分ほどすると、執務室のドアが開く音がして士官服の男が入ってきた。
翔鶴「……」
艦娘は気にせずに書類仕事に打ち込んでいる。
提督「やっ」
翔鶴「……提督?」
提督「コスプレだけどな」
翔鶴「何をなさっているのですか?」
提督「君を迎えに」キリッ
翔鶴「……あと一分待って下さい。今日の仕事を終わらせます」
提督「ああ、長官の椅子にでも腰かけて待ってるぞ」
~~~~~~
翔鶴「お待たせしました。長官には不在の旨を書き残しておきます」
提督「早いな」
翔鶴「頑張りました。」
提督「俺の部屋で良いか?」
翔鶴「……はい」ゴクリ
提督「では行こう」
夜 ブイン基地 神官の部屋
男の部屋は、普通の割り当て部屋の三倍ほど広い。
神官としての仕事用の祭壇の部屋と、私室を使い分けていた。
それぞれ木の板戸で仕切られ、別の空間となっている。
艦娘は私室の方へ招待された。
提督「夕飯は?」
翔鶴「頂いています。今日はカレーでしたね」
提督「艦上勤務など殆ど無いのだから、もう必要無いと思うがな」
翔鶴「形骸化していようと、良い文化だと思います。美味しくて好きです」
提督「人間でカレーが嫌いな者は、単にカレーが作られる状況に良い思い出が無い場合が多かった」
翔鶴「状況?」
提督「カレーは日持ちするし、簡単に食べられるから親が不在の時の料理として適当なんだ」
翔鶴「親が居なくて悲しかった記憶を思い出すから嫌い、ということですか」
提督「実に身勝手で素敵だろう」
翔鶴「ええ、度し難い程に」
提督「俺とどっちが度し難い」
翔鶴「答えると提督を傷つけてしまうので、お答えしません」
提督「……俺も自分で聞いて自分で傷つけば世話は無い」
~~~~~~
提督「今日の夜はもう何も無いだろう?」
翔鶴「はい。私は明日は昼から勤務です」
提督「二人きりで話す場をすぐに設けなくて悪かった」
翔鶴「いえ、こうして場を設けて下さって……本当に感謝しています」
提督「……」
翔鶴「……」
提督「……日本酒でも飲むか」
翔鶴「……はい。酌をします」
男はいざ二人で腹を割って話せる状況になると言葉に詰まっていた。
まぁ、あの男の気持ちも分からんでは無い。
この状況が久々であり、何を話せば良いか分からないんだろう。
提督「……」
翔鶴「……」
黙って注ぎ、飲む。
互いに何かを言おうと口を動かすのだが……。
提督「っ……この日本酒は旨いな」
翔鶴「……はい」
実にもどかしい。何をやっている。
提督「……」
翔鶴「その格好なので、提督……とお呼びしても宜しいのでしょうか」
いいぞ翔鶴、そうだ、それで良いんだ。
提督「お前を驚かせる為のコスプレだが……好きに呼べ」
翔鶴「はい。……提督、ブイン基地はいかがですか?」
提督「……居心地がいい。お偉方の視察は無いし、何よりも基地全体が良い雰囲気だ」
翔鶴「そう思って頂けて、嬉しいです」
提督「噂は聞いていた。艦娘の基地……ブイン基地の噂をな。妖怪どもは『また第四管区か!』と血圧を高くしていたが」
翔鶴「組織から消えてもその扱いなのですね」
提督「奴らは口にもしなくなるよ。余りに苦々しすぎてな」
翔鶴「存在自体が禁忌とは……敵であれば最高の名誉と言えるのですが」
提督「まぁ奴らは敵みたいなもんだ。最高の名誉と捉えておけ」
翔鶴「はい」
提督「俺の師匠はお前達の活躍を喜んでいたよ。これでまたあの人の寿命が相対的に延びるだろう」
翔鶴「延ばせるのですか」
提督「師匠の天寿を引き延ばすことは出来んが、妖怪どもを怒らせてストレスで奴らの寿命を縮めることは出来る」
翔鶴「日本の人々がそのような事を考えられる余裕こそが、私達が戦っている意味なのかもしれません」
提督「艦娘が言うと深いな」
翔鶴「茶化さないで下さい。我々としては必死なのですよ」
提督「実際我々の平和を守っているのはお前達だ。茶化しでもしないと俺は面子が保てん」
翔鶴「貴方が居るから我々は戦えるのです。これで面子は保てるはずです」
提督「むふふ。よかろう。俺のちっぽけな自尊心はいまこの時に守られた」
翔鶴「……どうやら、横須賀の時とお変わりないようですね」
提督「それはもっといい話をしたところで言ってくれ」
翔鶴「何気ない場面で見える提督のありのままの姿こそ、私には大切なんです」
提督「……そうか」グビ
~~~~~~
提督「はー、何だか俺ばっかり飲んでないか」
翔鶴「そうでしょうか? あ、杯が渇いていますよ。お注ぎします」
提督「……ありがとう」
翔鶴「あ、杯が空きましたね、お注ぎします」
提督「……どうも」
翔鶴「慣れない場所でお疲れでしょう。どうぞ飲んで御くつろぎ下さい」
提督「……」グビ
翔鶴「まだ御飲みになりますよね? さぁ、お注ぎします」
提督「……」
~~~~~~
提督「……」フラフラ
一時間後、男は完全に出来上がっていた。
……艦娘があれだけ酒を注いだのだから当然とも言える。
翔鶴「提督、大丈夫ですか?」ムズムズ
提督「だ……大丈夫だ……飲み過ぎて気持ちが悪い」
翔鶴「……この私になんなりとお申し付けください」ムズムズ
提督「……翔鶴」
翔鶴「はい。膝枕ですか? 膝枕ですね? 膝枕ですよね? どうぞ私の躰をお使いください」
提督「……いや……お前は何を焦っているんだ?」
翔鶴「……」
提督「……」
翔鶴「……」
提督「オェェェェェ」
翔鶴「きゃっ!?」
~~~~~~
提督「吐いたら大分楽になった」
翔鶴「……私のせいです。……ごめんなさい」
提督「……」
翔鶴「……」
提督「髪を触っても良いか」
翔鶴「……!」
提督「いいよな。お前は全部俺のものなんだから」
翔鶴「……どうぞ」
~~~~~~
司令官は翔鶴の後ろに腰を下ろした。翔鶴はもう嬉しそうだ。
提督「……」
翔鶴の髪を絹を触るかのように持ち上げると、
提督「……」クンクン
翔鶴「なっ!? 何か普通でない事をしていませんか!?」
提督「別に」
翔鶴「そ、それなら大丈夫なのですが」
提督「良い匂いだったぞ」
翔鶴「……」
髪を撫でるという行為は一体何に相当するのだろう。
男は艦娘の髪をそのまま撫でてみたり、手に取って撫でてみたりしている。
その動きは強く握れば壊れてしまうかのように丁寧だった。
仮にこの二人が恋仲であったとしても、およそ、従来の恋人像からは想像のつかない行為であるのは間違いない。
それなのに、
提督「……」
翔鶴「……」
撫でている男の顔は楽しそうで、撫でられている艦娘はひたすら赤面し下を向いている。
彼らを取り巻く空気は、落ち着きつつも熱を帯びていた。
人間と艦娘の幸せな空間。
彼らの幸福の行きつく先は、動物的に生産性が無く人間として不完全である。が、あるが故に、その想いは純粋であり完全なのだ。
この二人を、その行為を、つまり非の打ちどころの無い完全さを咎める目の見えない愚か者は極刑に処すべきである。
……そう実感できる程に彼らは、二人の世界に入っていた。
提督「綺麗な色だ」
翔鶴「……」
提督「職業柄に白色は嫌いなのだが、お前の白は惹かれるものがある」
翔鶴「……私は」
提督「ん?」ナデナデ
翔鶴「私は自分の髪の毛が嫌いでした」
提督「ほう」ナデナデ
翔鶴「誰の色とも違っていて、汚れやすくて……とにかく最初から自分の髪が嫌いでした」
提督「……」ナデナデ
翔鶴「……この髪を良いと言ってくれたのは、提督が二人目です」
提督「男では俺が一人目なのだろう?」ナデナデ
翔鶴「……ええ」
提督「ならば一番は譲ろう。姉妹艦というのは、それ位の特別があって然るべきだ」ナデナデ
翔鶴「……提督の御配慮に愚妹も痛み入ると思います」
提督「くっくっく……瑞鶴め、貸し一つだからな」ナデナデ
~~~~~~
提督「翔鶴、お前には友達と呼べる存在は居るか?」ナデナデ
翔鶴「……不肖翔鶴、これでも友達と呼べる存在は何人かいると思っております」
提督「別に友達が居ることに疑いを持っているわけでは無い」ナデナデ
翔鶴「……では今度はどのような有り難いお話をして頂けるのですか?」
提督「くくく……有り難いかどうかは分からんが、他人が友達に変遷するまでの話をする」ナデナデ
翔鶴「確かに興味深い話です」
提督「人間であれば、俺の経験則では共に夜を過ごし、一緒に寝て朝一緒に起きるが一番効率的だ」ナデナデ
翔鶴「……」
提督「男女の色恋の話ではない」ナデナデ
翔鶴「……男色の話でしょうか」
提督「断じて否」ナデナデ
翔鶴「……安心しました」
提督「男の裸や身体など、気色悪すぎて興味も沸かんわ」ナデナデ
翔鶴「男色も艦娘への愛情同様、生殖面では不毛というのは通底しているのでは?」
提督「二本の足で立つと言えばフラミンゴと人間だって通底している」ナデナデ
翔鶴「そういう誤魔化しでなく真っ当な反論が聞きたいです」
提督「……なんだ? 自分に向けられている感情が男色に向けられない保証でも欲しいのか?」ナデナデ
翔鶴「……ありていに言えば」
提督「そんなの、明日地球が滅びる心配をする方がまだマシだぞ」ナデナデ
翔鶴「心は移ろいやすいものですから。長官も、嶋田提督も容姿端麗ですし……」
提督「何を言うか。あいつらの事は菊の紋まで知っている。心配するな」ナデナデ
翔鶴「……」
提督「そんな不安げな背中を俺に見せないでくれ……」ナデナデ
翔鶴「……なら提督は……何故私を抱いて下さらないのですか」
提督「……」
髪をなでる手が止まった。
翔鶴「私の身体では力不足なのですか? それとも何か他の原因があるのですか?」
提督「……」
男は何も答えない。
翔鶴「……欲張りだと思われますか」
提督「……」
翔鶴「貴方に会えないのが……これ程辛いとは思っても見なかった」
提督「……」
翔鶴「提督、私、凄く我慢したんですよ?」
艦娘は後ろを向いて喋りはしなかった。そうする勇気を彼女は持ち合わせていなかった。
翔鶴「貴方にまた会えて、話せて、髪を撫でて貰えて……私はとても幸せです」
提督「……」
翔鶴「でも私は……すっかり弱くなってしまいました」
提督「……」
翔鶴「不安になるのです。もしかして提督に嫌われているのではないか……と」
提督「……翔鶴」
翔鶴「……ごめんなさい。貴方の傍に居ると誓いながら、こんな面倒な事を言ってしまって」
提督「俺がお前を嫌いになるわけが無いだろう」
翔鶴「ごめんなさい」
提督「謝るな! 何故お前がそんなに辛そうにする! 悪いのは俺だ!!」
男は艦娘に後ろから抱き締めた。
提督「すまん……まさかお前がこれ程までに……」
翔鶴「ごめんなさい……ごめんなさい……」
提督「……もういい、謝るな」
翔鶴「うぁっぁ……ひっぐ……っ……」
提督「……」
翔鶴が泣き止んだ後に両者は再び正面から向き直り、話を始めた。
「……すまなかった」
男は艦娘に向けて頭を下げた。
「……提督こそ謝る必要はありません。提督の気持ちを信じきれない私の我儘なのですから」
「……それに対しての謝辞で無い。お前を信用しきれなかった事に対する謝辞だ」
「私を?」
「……怖かったのだ」
「……」
「肌を触れ合わすと色々な事が伝わる。教えたく無いようなことまでな」
「……」
「お前は鋭い。きっと、すれば到底隠しきれん」
「……」
「俺はお前に本当の自分を見せたくないんだ。……見せて嫌われたくないんだ」
「……」
「分かるだろう!? 本当に好きなものに嫌われたくないんだ」
「……」
「……すまん。今のも言い訳だな」
「……」
「意気地の無い俺を許してくれ」
「絶対に許しません」
「……」
「なんて言うわけが無いと思って言っていますね」
「……ああ」
「……悔しいけれど当たりです。選ぶべき答えが複数無い問題を選択問題として出されても困ります」
「言い方が間違っているか」
「はい。どうせなら『実は俺はこういう風に思っていた』と堂々と言って下さい」
「……」
「女としては紛い物でも、好きな男の我儘を受け止めるだけの器は持ち合わせているつもりです」
「……すまん」
「不安に怯えるよりも、素直に言われて傷つけられる方が私は良いです」
「馬鹿な事を言うな」
「本当です。私はそんな女です」
「知っている。だから俺はお前が放っておけないのだ」
「貴方だって、私と似たところがありますよ。私は知っています」
「……お前と俺のどこが似ているんだ」
「身に覚えが無いのですか?」
「……全くない」
「……これは重症ですね」
「はっ? えっ、どういうことだ」
「貴方だって、問題を解決する時に自分が傷つく手段を良しとするではありませんか」
「私を単冠に助けに来たときだってそうです」
「大事な存在を守るために命を張るのは当然だ!」
「そうかもしれませんが、貴方は張りっぱなしの上に、自分の掛け金を……命を失うことになっても全く気に掛けない姿勢が不味いです」
「だが、大切なものを守るためなら……」
「残された者の事を、助けた後の大事な存在の事を、貴方は考えていません」
「……」
「日向が深海棲艦に堕ちかけていた時だって、自分の命を放り出していました」
「うぐっ……」
「今生き残っているのが奇跡のようなものです」
「……」
「私と貴方は好きな相手の為なら自分を……いえ、その好きな相手すら省みない愚か者です」
「……」
「自己中心的に他者を助けて、死んでから助けた相手にも自分勝手だったと言われるタイプです」
「ぐぐぐぐぐ……」
「さぁ、ここまで聞いた上で『自分が傷ついた方がマシ』と言う私と貴方はどう違うか説明して下さい」
「ぎぎぎぎ」
「むしろ貴方の方が酷いですよね」
「ががががががが」
「……もうとっくにお気づきかと思っていました」
「……」
「第四管区の艦娘なら誰でも知っていますよ」
「お前がそういう奴だろうとは思っていたが……まさか自分まで……」
「自分の事は意外と見えないものなのです」
「提督」
「ん?」
「私は貴方が好きです。愛しています」
「……」
「でも、もっと提督に愛して貰いたい。誰よりも愛して貰いたい」
「……」
「単冠夜戦で、死の淵に沈んだ私の心を引き上げてくれたのは貴方という存在でした」
「……」
「自分の中に貴方を想う気持ちがある限り、私は貴方の為なら……きっと何でも出来ました」
「……」
「でも、貴方の傍に居る約束をして以来……私は貴方の気持ち無しでは動けなくなってしまいました」
「……」
「今日泣いたのだって昔からすると考えられません。日々成長している筈なのに、弱くなるなんておかしいですよね」
「……」
「提督」
「……」
「きっと私は、提督に抱いて貰えば……もっと心が弱くなります。今よりも色々なご迷惑をお掛けするようになると思います」
「……」
「でも、お互いの結びつきが強まるにつれて心が弱くなるのなら」
「……」
「もし、それが兵器から人間に近づくということならば……それが愛するということならば」
「……」
「私はもっと弱くなりたいです」
「……」
「提督」
「……」
「偽物なんて私は嫌です」
「……」
「提督の一番になれないのも嫌です」
「……」
「でも、もし本物になれないなら……そして艦娘として貴方の一番にもなれないなら……」
「……」
「艦娘の枠の外に私を置いて下さい」
「……」
「私を貴方の特別にして下さい。私に……少しでも人間として、貴方の事を愛させてください」
「……」
「……」
「……翔鶴」
「……きて」
小休止
おつ
乙です。
翔鶴怒濤の巻き返し。続き楽しみです。
神官しか見ない感じに穢れておるな(適当)
乙です
5月2日
朝 ブイン基地 神官の部屋
据え膳食わねば何とやら、しかし目の前で飯を食われても食っていない私には目に毒なだけである。
結論から言うと司令官と翔鶴は肌を合わせた。それだけだ。
どの様に膳を食したかはこの際どうでも良い事なのだ。
……羨ましくなんかない。
「おはようございます」
「……おはよう」
「嬉しかったです」
「お前の気持ちが伝わってきた」
「私も、提督の気持ちが痛い程に」
「これでお前はもっと弱くなる」
「……」
「……つくづく自分が罪深い人間だと思う」
「では私はそれを許します」
「よし、俺は許された」
「はい。許されました」
「艦娘として、人間として、それぞれの立場、それぞれの在り方、それぞれの愛し方、それぞれの幸せ」
「……」
「面倒だ」
「はい」
「……」
「いいんです。今は余計なことを考えないで下さい」
「……」
「ただ私を感じて下さい」
「俺は艦娘と二人きりで過ごすとき目の前の事以外考えていない」
「なら、それで良いんだと思います」
「……」
「例え矛盾しようと、恨まれようとも、貴方は貴方の好きなように生きて下さい」
「……」
「私は私の全てを貴方に捧げ、付き従います」
「俺の道を邪魔する者は」
「よしなに」ニッコリ
「……これはまた深くて重いな」
「私の感情を開発されたのは貴方なのですから、それ位の責任は取って頂かないと」
「愛を受け入れるのは責任を取るということなのか」
「そういう面もあると思います」
「他の者に対しても誠意を見せるような男だぞ」
「はい。私はそういう貴方も好きですよ」
「お前に愛想を尽かすかもしれんぞ」
「それなら深海棲艦となって水底へ提督をお迎えにあがります」ニコニコ
「……」
「ごめんなさい。私はもう提督抜きでは生きていけそうもありませんので」
「翔鶴は弱くなっていない」
「そうでしょうか?」
「俺に対しては一貫して強くなっている」
「自覚はありませんが」
「それが恐ろしい」
「冗談ですよ。提督、もう一眠りしませんか」
「まだ眠いか?」
「もう少し二人きりを楽しみたいです」
「……」ムクムク
「……何故今ので大きくなるのですか」
「俺も知らん」
「……ではもう一度」
~~~~~~~
「提督」
「何だ?」
「何故自分が、この行為をこれ程までに望んでいたか分かりました」
「ほう」
「もっと貴方の事を知りたかったんです」
「そうだな。肌を重ねると互いの―――」「違います」
「違うのか?」
「そんな妙な理由ではありません。私はまだ見た事の無い貴方を知りたかったんです」
「……」
「気持ちよさそうにしている表情が見られて、とても嬉しいです」
「……」
「……また大きくなりましたね」
「気に食わない」
「えっ」
「お前には俺の表情を観察する余裕があったということだ」
「いや、それほどじっくり観察できていたわけでは」
「その余裕が気に食わない」
「きゃっ!?」
昼 ブイン基地 神官の部屋
「失礼する!」
一人の男が友人の部屋を訪れた。
「おい! 宮! もう昼の三時なのに出勤もせずに何をしている!」
彼はズケズケと部屋に踏み込むと、祭壇部屋と私室を区切る板戸をノックもせずに勢いよく開いた。
「すまんな」
彼の友人は布団で寝ていた。
「何故出勤しない。体調でも悪いのか」
「あー、ちょっとな。風邪を引いたようだ」
「それならそうと報告しろ。無断欠勤は最悪だぞ」
「悪かった」
「それと翔鶴君が見当たらないんだが、心当たりはあるか?」
「いや、俺は今日部屋から出ていないからな」
「瑞鶴君も知らないと言っていたんだが……お前の布団、やけに膨らんでないか」
「……」
「……」
「気のせいだ」
「なら捲って良いか? もし鶴が出てきたらお前を全力で殴る」
「……」
「……」
「すまんかった」
「貸し一つだ。さっさと着替えて司令部へ来い」
「おう」
「どう育てばこの状況下で偉そうな返事が出来る精神構造を持ちえるのだ? ……布団の中身もすぐ出勤するように。皆が探しているぞ」
乙です。
なかなか叶わなかっただけに、溺れ方が凄いですね。
鶴の発情期がこんなに激しいとは知りませんでした。
昼 ブイン基地 廊下
三隈「あっ、翔鶴さん。探したのですよ」
翔鶴「ご迷惑をおかけしました」
日向「何だ。てっきり水底へ沈んだのかと思っていたが」
伊勢「あっ、翔鶴ちゃん。今までどこ居たの?」
翔鶴「日向はともかく、伊勢さんと三隈さんはありがとうございます。少し神官殿の部屋で禊のお手伝いを……」
日向「ふーん。どのような手伝いだ」
翔鶴「艦娘が暴れないように押さえつける役です」
日向「ま、そういうことにしておこう」
三隈「?」
伊勢「……はは~ん、そういうことか~」
翔鶴「……」
昼 ブイン基地 ドッグ
翔鶴「遅くなりました。今日の分の資材搬入書です」
明石「今日はやけに遅かったですね」
翔鶴「申し訳ありません」
時雨「……」クンクン
翔鶴「し、時雨さん……?」
時雨「翔鶴さん、おめでとう」
明石「?」
翔鶴「……」
昼 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
翔鶴「瑞鶴、居る?」
瑞鶴「居るよ~。姉さんどこ行ってたの?」
翔鶴「ごめんなさい。提督の所でお酒を飲んでいたの」
瑞鶴「昼まで起きてこないって……随分と深酒したんだね」
翔鶴「そうね。少し飲み過ぎたわ」
瑞鶴「その割に酒臭くはないよね」
翔鶴「……そうかしら」
瑞鶴「姉さん」
翔鶴「何?」
瑞鶴「何て言ったら嫌味無く聞こえるか分からないけど……おめでとう」
翔鶴「……私ってそんなに分かりやすい?」
瑞鶴「普通のお酒で姉さんが寝坊するわけ無いじゃない」
翔鶴「あー……」
瑞鶴「苦々しそうな顔をしない」
翔鶴「でも」
瑞鶴「私は姉さんじゃないんだから。これくらいで恨んだり妬んだりはしないわよ」
翔鶴「……それだと私が嫉妬深い女みたいじゃない」
瑞鶴「言わないだけで、実際かなり嫉妬深いでしょ」
翔鶴「……」
瑞鶴「でも寂しいなぁ。三人の中で私だけが未経験ってことだよね」
翔鶴「こ、この話は止めにしましょう」
瑞鶴「……まぁいいや。またお酒を飲んだ時にゆっくりと聞かせて貰うから」
翔鶴「……うーん……分かったわよ」
夜 ブイン基地 執務室
嶋田「この中に昼まで艦娘とセックスをしていた奴が居まーす」
山内「……長門も居るんだぞ」
長門「帰って良いか?」
山内「仕事だけ終わらせてくれ。あいつは気にするな」
神官「長官、ブイン基地で穢れを事前に発見する為の案をまとめたのだが」
嶋田「いや~、若いって良いよな~」
神官「……舞鶴のクソ提督、ぶち殺すぞ」
嶋田「昼までやるってさ~、どっかの覚えたての猿じゃあるまいし~」
長門「……気分が悪い。今日は失礼させてもらう」
山内「おいなが……」
山内「……行った」
神官「……」
嶋田「なぁ~、翔鶴の下の毛ってやっぱり白なのか~?」
山内「……」ゴッ
嶋田「ガフゥ!?」
神官「……」ガッ
嶋田「オゴッ!?」
夜 ブイン基地 日向の部屋
神官「邪魔するぞ」
日向「ノックくらいしたらどうだ」
神官「コンコン」
日向「遅いし口で言うな。……久しぶりだな。まぁゆっくりしていけよ」
神官「酒と肴は用意してある」
日向「ありがたいが、明日も早い」
神官「心配するな。お前の仕事は代わりに伊勢ちゃんにやって貰う」
日向「相変わらず自分勝手な奴だな」
神官「なぁに。久しぶりの挨拶代わりだ」
~~~~~~
日向「美味いな。この酒は?」
神官「山内の地元、高知のものだ」
日向「あそこは水が良いからな」
神官「しかし、こういう部屋でお前と飲むのは妙に落ち着かんな」
日向「手狭な部屋だからちゃぶ台しか無くてすまない。この基地には囲炉裏は無いんだよ」
神官「日向の魅力も半減というわけか」
日向「後で戦艦パンチな」
~~~~~~
日向「しかし君も忙しい男だな」
神官「ああ、日本を北から南へ行ったり来たり大忙しだった」
日向「そっちではない」
神官「ではどっちだ」
日向「英雄色を好む、という諺があるが君のような俗物にもこれは当てはまる」
神官「……」
日向「ああ、前から気になっていたのだが……この英雄と言うと妙に男の英雄を想像しないか?」
日向「女の英雄だって居ただろうに」
神官「……確かに男の英雄が出てくるな」
日向「都合が悪いからって話を逸らすなよ。大事なのは君が俗物であるということだ」
神官「もう好きに喋ってくれ」
日向「この短期間に三人の艦娘を手玉に取ろうなどと、常人には発想すら出来まい」
神官「……」
日向「そうだ。君のその苦虫を噛み潰したような顔……実に良い」
神官「少し見ない間に趣味が悪くなったか」
日向「冗談の幅が広がっただけだ」
神官「俺は誠意をもって自分の艦娘に接しているだけだぞ」
日向「とんだお笑い草な誠意だな」
神官「なら笑え」
日向「はははは」
神官「本当に笑うやつがあるか、馬鹿」
日向「で、その誠意とやらで翔鶴から純潔を奪ったように、私にはどのような誠意ある対応をしてくれるんだ?」
神官「何を言っているんだ」
日向「すっとぼけるな。一部の者には公然の事実だ」
神官「……」グビ
日向「別にしたことを咎めているわけでは無いが、正妻である私にはもっと凄いことをしてくれると期待はしている」
神官「お前はいつから俺の正妻になった」
日向「こちらは全ての者の公然の事実だ」
神官「そのような事実は無い」
日向「酷いな。私がこれだけ君のことを大切に思っているのに」
神官「全ての想いが報われるなどゆめ思わぬことだ」
日向「知っているよ。この世がままならんことくらい」
~~~~~~
神官「お前はブインに来ても変わらないな」
日向「先程までの会話の中に変化の無さを感じさせる要素が小さじ一杯でもあったか?」
神官「いや、ふと思った」
日向「これでも私は日々変わっているんだぞ」
神官「俺の中での想定の範囲内、誤差レベルだ」
日向「そんな予測が立てられないから心は変数なんだろうが」
神官「あー、うるさい。黙れ。お前は変わってない。結論は出た」
~~~~~~
日向「長月は中々目が覚めないな」
神官「そうだな」
日向「植物人間でも、身体が動かないだけで意識ははっきりしている場合もあるそうだ」
神官「……」
日向「そうなると地獄だな。伝えたいのに伝えられない。想像するだけでもどかしい」
神官「だな」
日向「長月の意識は案外、その辺を遊泳してるのかもしれん。他人の生活を覗くのが楽しくて意識が肉体に戻らないだけかも」
神官「ありそうだ」
日向「私は第四管区とそれ以外の艦娘は違うと考えていた」
神官「……」
日向「最近は違いなんて無いんじゃないかと思い始めた」
神官「無いわけが無い」
日向「可愛い奴らばかりなんだ。とても素直で、優しくて、何でもすぐに吸収する」
神官「……やめろ」
日向「君はまだ喋ったことも無いだろうが、話してみれば――――」「やめろ」
日向「……まだ受け入れられるほどの余裕は無いか?」
神官「……」
日向「長月にはあったぞ」
神官「知っている」
日向「なら良い」グビ
神官「……前にも聞いたかもしれんが」
日向「ふん?」
神官「お前らは何故俺の事を好いていてくれるんだ?」
日向「……」
神官「……」
日向「……」
神官「おい、そんなに悩むなよ」
日向「……私に関して言えば、最初は放っておけないという気持ちが強かった」
神官「放っておけないねぇ」
日向「一人の男の成長をこんな間近で観察出来たんだ。愛着くらい湧いてもおかしくはない」
神官「そういう……ものなのか?」
日向「きっとな」
神官「他の奴らは?」
日向「翔鶴が決定的に変わったのは単冠の時だろう。瑞鶴は意識し始めると余計に意識してしまった感じに見えるが」
神官「まるで中学生だ」
日向「いや小学生だな」
神官「ドッヂボールが強いと好きになる、足が速いと好きになる、そんなレベルか?」
日向「一生懸命な姿に惹かれるものさ」
神官「俺以外の可能性だってまだあるわけだ」
日向「なんだ。大勢から好かれるのは面倒か?」
神官「面倒とは言わんが……それらは雛が最初に見たものについて行くのと同じじゃないか?」
日向「刷り込みと言いたいのか」
神官「うむ」
日向「そうさなぁ……外的、内的、どちらにしろあるかもしれん話だ」
神官「外的はプログラミングだろ。内的とは何だ」
日向「自らの生存本能が働き、無意識の内に指揮官に気に入られようとする」
神官「有り得ん」
日向「艦娘の変数を認めている君が何故これは否定する」
神官「……」
日向「ま、私にも確証など無いよ。単なる私の戯れさ。気にするな」
神官「俺はあれだけ不確かなものを信じてここまで来たんだ」
神官「今更それを否定したところで意味も無い。来た道を引き返そうとも思わん。自分の信じてきたものをこれからも信じるだけだ」
日向「男らしい思考停止だ」
神官「どうも」
日向「私は考えるのを止めた君も好きだぞ」
神官「どうも」
日向「勿論正妻としての好きだぞ」
神官「つまり虚構か」
日向「いや、非情な現実だ」
神官「確かに現実は非情だ」
日向「ふぅ、少し酔った」
神官「嘘つけ。俺はお前の泥酔ラインを知っているぞ」
日向「酔った私は君の隣へ行っていいか?」
神官「……いいぞ」
日向「ありがとう」
日向「よっ……と」ペタ
神官「何で胡坐でなく膝を閉じて座る」
日向「私は女の子だからな」
神官「……」ゾワゾワ
日向「ん? 何で鳥肌が立つんだ? 戦艦パーンチ」ドゴゥ
神官「ベホゥ!?」
日向「私が膝を閉じたら何か問題があるのか?」
神官「な……無い」
日向「ふふん。そうだろう。あるわけがない」
神官「……」
日向「……あぁ、酔っているから姿勢が保てない」ヨタッ
神官「俺の肩にもたれかかるな。起きろ。胡坐をしろ」
日向「……にゃお~ん。私は猫だから日本語が分からないにゃ」
神官「……」ゾワゾワゾワゾワ
日向「とても強力な戦艦パーンチ」バガッ
神官「……!!!!!!」
日向「危なかったな」
神官「ガハ! ガハ!」
日向「私が君の肩にもたれ掛かっても何も問題は無いな?」
神官「い、痛い……」
日向「ふむ。無いようだから続けよう」
~~~~~~
日向「君は艦娘の匂いに興味があるらしいじゃないか」
神官「ん~。一人一人違う匂いがするんだ」
日向「……」
神官「黙るなよ。俺が変態のように聞こえるだろうが」
日向「いや、君が変態だから黙ったんだ」
神官「しょうがないだろう。変態なんだから」
日向「開き直るなよ」
神官「わはは」
日向「しょうがないな。少し離れてやる」
神官「助かる。……何かお前と視線が合わずに会話するのは違和感があった」
日向「ふむ。君は艦娘と喋る時に自分の視線がどこを向いているか意識しているか?」
神官「他人の視線は気にするが自分のはそれほどだな」
日向「翔鶴、瑞鶴、私の三人相手でも君はそれぞれで視線の向きが違うんだぞ」
神官「へぇ」
日向「まず翔鶴を見る時は基本的に顔を見ている。常にだ。視界に翔鶴が入ると君は何もかも忘れて翔鶴を見ることを優先する」
神官「……」
日向「翔鶴はそれが気恥ずかしいのかその時に君の顔を見ないことが多い。逆に彼女は君の視界外では君をずっと見つめている」
神官「そうだったのか……全く気付かなかった。瑞鶴は?」
日向「逆に君は瑞鶴の顔を見ない。瑞鶴は君の顔をずっと見ているよ。そして君はそれから目を逸らす。丁度君と翔鶴の関係が逆転する形だな」
神官「……確かに心当たりがある」
日向「そして最後に私だ。今の内に言っておくことはあるか?」
神官「……」
日向「君は私と話すとき……今のように目を見るよ。ここが他の二人とは決定的に違う」
日向「さっきは視線を合わせなかったから違和感があったんだ」
神官「それも心当りがある……凄いな日向」
日向「…………今何と言った?」
神官「それも心当たりがある」
日向「その次」
神官「凄いな」
日向「その次!」
神官「……日向?」
日向「……もう一度」
神官「日向」
日向「……」ゾクゾク
神官「な、何で今震えたんだ?」
日向「……」
神官「……?」
日向「これ程とは……ふふっ、病的だな。本当に刷り込みなのかもしれん」
神官「大丈夫か」
日向「多分もう手遅れだ」
日向「君」
神官「ん?」
日向「にゃお~ん」
神官「そろそろ寝るから今日はこの辺でお開きということで……」
日向「始めるつもりだったのに終わった!?」
神官「いや、一体どこでそんな奇術を身に着けて来たんだ」
日向「長月がやっているのを見て可愛かったから真似をしている」
神官「『人による』という言葉をお前に授けよう」
日向「私はもうこの生き方しか出来ん」
神官「独りでに偏狭で珍妙な方向へ進もうとする傾向があるようだ。さすが航空戦艦」
日向「聞き捨てならんな。伊勢は馬鹿にしても良いが私に向けているのであれば聞き捨てならん」
神官「前から感じていたがお前は姉に対して辛辣だ」
日向「実は私はあいつが嫌いなんだ」
神官「あーあーあー聞いてない。俺は何も聞いてない」
日向「冗談だぞ」
~~~~~~
日向「今日は私とする気は無いのか?」
神官「正直な話、昼まで搾り取られていたからな」
日向「鋭い戦艦パーンチ」ズオッ
神官「グゥゥゥ」
日向「手が滑って肋骨の隙間から肺に抜き手をしてしまった」
神官「……」パクパク
日向「一つ忠告しておくぞ。そんなに精子が余っているなら私に出せ」
神官「何も聞こえんかったことにする」
日向「そうやっていつまででも逃げているがいいさ。私もすぐに追いついてやる」
神官「まだ俺の背中を追いかけているのか」
日向「思ったより遠いと言うか、近づいてよく見ると実体が無くて触れんのだ」
神官「さらっと俺を否定するな」
日向「このへんで勘弁してやる。くれぐれも翔鶴にばかり金玉をかまないように」
神官「あーあー、俺の艦娘はこんな下品なことを言わない。神に誓って言うわけが無い」
日向「君、どうやら神はこの世に居ないみたいだぞ」
神官「この艦娘に天罰が下りますように」
日向「もう今日は色々諦める。その代わりに私の手を握ってくれないか」
神官「……手を握れば良いのか?」
日向「うん」
神官「ほれ」ニギ
神官「……」
日向「……」
神官「……」
日向「……」
神官「……何で黙るんだ」
日向「……黙って握るべきじゃないか?」グググググウ
神官「あだだだだだだだだ折れます!? 清く正しく血筋の良い神官の右手が折れてしまいます!?」
日向「……まったく」
神官「……」
日向「……」
神官「……」
日向「……」
神官「……」
日向「……」
神官「……もしかして照れているのか?」
日向「……」
神官「……」
日向「……」
神官「しょうがない奴だ」
日向「わっ!?」
神官「……今日はハグまでサービスしてやる」
日向「……」
神官「日向の匂いがする」
日向「……卑怯だぞ」
神官「何がだ」
日向「……君との関係では私が主導権を握るべきだ」
神官「そんなもの気にするな。互いに持ちつ持たれつだろう」
日向「私が主導権を持っていないと……君に良いようにやられてしまう」
神官「……」
日向「名前を呼ばれて、手を握られて、抱き締められただけなのに今は凄く緊張するんだ。ねぇ……これも刷り込みなのかな?」
神官「知るか」
日向「酷い人だな、君は」
神官「正妻のくせに生意気だぞ」
日向「あれ? 認めるのか」
神官「俺の誠意が続く限りでな」
日向「有効期限は短そうだ」クスクス
神官「なら今だけキスもサービスしてやる」チュ
日向「うぅっ!」ビクッ
神官「……」
日向「……」
神官「……」チュ
日向「へぁぁっ!?」ビクビク
神官「……」
日向「……」
神官「……」ニヤニヤ
日向「……な、なぁ君、君の気持ちは嬉しいが一旦離れてくれないか」
神官「何故だ?」
日向「少し体調がすぐれっっ!!!」
神官「大丈夫か? 息も絶え絶えだが」
日向「き、君が喋っている途中に太ももを撫でるからだろうが!!!!」
神官「心拍数が上がっているのか?」
日向「やっ……はぁぁ……や、胸をまさぐる! な!」
神官「ふむ少し脈が速いぞ」
日向「なふ……ぁぁっ」
神官「俺は自分の妻が実に心配だ」
日向「やめ……やめろ! 君! やめぇ……ろ……」
神官「俺は純粋にお前の心配をしているだけだが」
日向「なら心配んぁぁ! し、しなくていい!」
神官「それなら遠慮無く頂こう」
日向「はぁぁ……っあぁ! ……この、このけだものぉぉ!!!!」
小休止
乙です
乙。
いやー毎度良いとこで締めるなー
続きが気になってしょうがないじゃないか!
乙です。
意外と面と向かって日向と呼ぶ機会が少ない。
訂正
「金玉をかまないように」→「金玉をかまけないように」
翔鶴姉さんにも金玉が(歓喜って思ったのに!
酷い男だな君は(日向さん風)
五月三日
朝 首相官邸 会議室
南方戦線における聨合艦隊司令長官の報告
聨合艦隊司令長官は内閣総理大臣から求められた以下三つの質問に対して回答す。
イ.陥落したガダルカナル、ショートランドを拠点とした敵反攻への対応
ロ.ラバウル、トラック、ブインの艦娘運用状況
ハ.南方戦線全体の現状について
イについての回答
敵反攻は南方戦線全戦域、特に至近なブイン・ショートランド間連絡海域において激しく、連日戦闘が発生。
既にブイン基地は防衛体制の構築を完了し、問題無く対応することに成功す。
他戦域でも問題無く敵を撃退す。
敵反攻は強力なれど、確立された防衛体制を突破することは不可能と判断す。
敵反攻は既に突破力を失いつつあり、攻勢終末点は近いものと思われる。
ガダルカナル、ショートランドに存在すると思われる強力な指揮官級深海棲艦に動きは無し。
ロに対する回答
南方戦線においては妖精との盟約に反し、艦娘を複数運用す。
これに対する妖精側の反応は無し。
艦娘への精神面への配慮から一部例外は除き、交代運用を実施す。
失踪艦は聨合艦隊結成後の南方戦線全体での総着任数あたり0.1%以下まで減少。
戦闘に関する教育システムも見直され、全体の練度が向上。
ハに対する回答
聨合艦隊結成に伴い南方戦線全体で敵深海棲艦に対する抵抗力は増強し、敵は攻勢終末点を迎えつつあり。
聨合艦隊は敵の意気を挫き好機を伺う守的攻勢をかけ、その効果はありと認む。
燃料弾薬ボーキサイト、艦娘の為の嗜好品は戦闘の必需品であり戦線を維持するうえで必須。
来たる大規模反攻に向けて、聨合艦隊はより多くの物資を必要としており支援物資は優先的に南方戦線へと輸送願う。
以上
次官「……以下は戦果報告書と資源物資収支が付属資料として添付されています」
総理大臣「……」
総司令部長「……」
海軍大臣「……」
戦資大臣「……」
次官「ブ、ブイン基地では深海棲艦を日平均百隻以上撃破しており……」
戦資大臣「もう良い!!! 貴様はこの空気を読めんのか!」
総司令部長「不愉快極まりないな」
海軍大臣「まさかあの状況から立て直すとは……」
総理大臣「……次官、民意はどうですか」
次官「南方戦線の同名艦運用で余裕の出来た艦娘を本土防衛に宛て、太平洋沿岸地域の安全も次第に確保され始めています」
次官「その事実を長官は大々的に発表したことにより……民衆の大半は未だ聨合艦隊を高く支持しています」
海軍大臣「……少し若造と侮りすぎていたか?」
戦資大臣「若造だ! あんな者!!!」
総司令部長「落ち着け」
戦資大臣「資源援助を止めようにも京大派閥の連中が面倒で仕方ない!!!! 裏で元老が手を回しているのは確実だ!!」
総理大臣「……早く死にませんかね、あの爺」
総司令部長「総理」
総理大臣「おっと、口に出ていましたか」
戦資大臣「総理! 何とかなりませんか!」
総理大臣「民意が邪魔ですねぇ」
次官(腐り過ぎだろ……聨合艦隊とそれを支持する人間が邪魔って……お前ら深海棲艦かよ……)
海軍大臣「ラバウル、トラックの司令も若造の息がかかった者が任命されている。奴にとって南方は、まさに楽園だな」
戦資大臣「その内に楽園が王国に変化するぞ!!! あいつは無駄に顔も良い! 人気が出やすいだろう! 放っておけば我々の椅子が危うい!!」
総理大臣「……」
総司令部長「心配しなくていい。次の選挙までまだ時間はある。今は若造を持ち上げれば良い」
海軍大臣「そうとも。奴の活躍は今はまだ我々の手柄にもなる」
総理大臣「……戦果が上がっていないければ、守的攻勢などという馬鹿な言葉を許容はしないのですが」
戦資大臣「艦娘に対する扱いも気に食わん! 聞けばブイン基地では艦娘を非常に良い待遇をしているそうじゃないか!」
次官「は、はい。長官直々に艦娘の地位向上についての発言を……」
総理大臣「で、民衆の艦娘に対する注目度もうなぎ上りというわけですか」
次官「……肯定であります」
総理大臣「……」
戦資大臣「今までのように倉庫の艦娘を夜伽に使えんではないか! 気に食わん! 実に気にグエッグホッ!!!」
総司令部長「むせるほどに激昂するな」
総理大臣「私も同じ意見ですよ」
総司令部長「流石です」
総理大臣「いえ、私は戦資大臣に同意見なのです」
総司令部長「……え?」
総理大臣「防衛体制が……体が構築できたのであれば、もう首から上に用はありません」
総司令部長「……」
海軍大臣「……」
総理大臣「艦政本部長から深海棲艦について丁度いい研究報告も上がっています」
総理大臣「日本の未来を邪魔する者には、ここで退場願いましょう」
朝 ブイン基地 日向の部屋
日向「……」
神官「良かったぞ」
日向「もう……お嫁に行けない……」
神官「俺の嫁の癖に何を言っている」
日向「……」
神官「さて次は木曾の所へ……」
日向「寝起きの戦艦パンチ」
神官「テゴシッ!」
~~~~~~
朝 ブイン基地 食堂
山内「おはよう。今日も女連れで朝食か」
神官「ああ、山内。おはよう。こちらは妻の日向だ」
日向「唯一にして無二の妻、三人組とは言わせない。四航戦の日向です」
山内「うん、朝から二人して頭がおかしくて何よりだ」
神官「こいつとは久しぶりだったが……履き慣れた靴というのはやはり良い」
日向「誰が靴か」
神官「ああ、艦娘か」
日向「そうだ。二度と間違えるな」
山内「朝から食欲が無くなる惚気話はやめてくれ」
~~~~~~
神官「今日のおかずは野菜の卵和えか」
日向「この基地の料理人は現地に帰化した元日本人だからな。外国に居ながらにして日本の味が楽しめる」
山内「素材の味は少し日本と違う気がするが」
神官「うるさい奴だ。大雑把な舌しか持っていないくせに」
日向「うんうん」
山内「僕だって怒ることはあるんだぞ」
磯波「長官閣下、日向さん、神官様、おはようございます」
日向「ああ、磯波……と吹雪か」
吹雪「……」
山内「……おはよう。二人とも」
磯波「私達も合席をしてよろしいですか?」
神官「……」
日向「構わんよ」
磯波「今日のおかずも美味しいです」
日向「うん。味の分かる良い舌をしているな」
磯波「てへへ」
吹雪「……」
山内「……吹雪君はあまり箸が進んでいないようだが」
神官「食いたくないなら私が食うぞ」
吹雪「……食べてるじゃないですか」
日向「仕事用なのだろうが、君の一人称が私だと違和感があるな」
神官「言うな。結構面倒なんだからな。これ」
吹雪「……お二人は仲が宜しいんですね」
日向「この男は第四管区の艦娘とは大体こんな感じだぞ」
吹雪「……」
日向「あ、別に嫌味じゃない」
吹雪「……私、頑張ります」
日向「……」
吹雪「こんな私でも……大切に想ってくれている仲間が居ます。その人達の為に、何より自分の為に私は頑張ります。そう決めました」
神官「……そうか。励めよ」
吹雪「……はい!」
日向「……」
神官「おい日向、にやにやするな。泣かせるぞ」
日向「夫の成長を見て泣かない妻は居ないよ」
磯波「?」
山内「磯波君」
磯波「は、はい!」
山内「緊急配備時に吹雪君は君の持ち場だったね?」
磯波「そうであります!!」
山内「発令所に虚偽の報告をしないように。欠員が居れば正確に欠員の報告をするんだ」
磯波「……ご、ごめんなさい!!!!」
山内「ま、分かれば良いんだ。次からは気を付けるように」
昼 ブイン基地 ドッグ
緑帽妖精「お仕事完了~」
明石C「おお! 流石緑師匠! 見事な技です!」
緑帽妖精「て、照れまする」
明石B「いやいや、特にこの艤装の主砲の直線が~」
緑帽妖精「むへへへへ」
時雨「相変わらず君達は楽しそうだね」
明石「今だからこそ妖精さん達の技術の高さ、見事さが理解出来るのです」
時雨「そこは僕にも何となく分かるよ」
明石「時雨さんもお勤めご苦労様です」
時雨「薄々勘付いてはいたけれど、僕はどうやら戦闘より事務の方が向いているみたいだ」
明石「私も戦うよりも艤装をいじってるほうが好きです。……変ですよね、私達は軍艦なのに」
時雨「明石さんは工作艦だから何も問題は無いし、例え軍艦でも変じゃないと思うよ」
明石「そうでしょうか?」
時雨「僕達は単なる軍艦じゃ無くて艦娘じゃないか」
明石「……」
時雨「だから良いんだよ。戦う事以外に楽しみを見つけたってさ」
明石「……」
時雨「……明石さん?」
明石「時雨さんって時々……私とは違う存在に思えます」
時雨「気のせいだよ」
明石「いえ、確実に違います。それってやっぱり……」
時雨「……」
明石「鼻が良いからでしょうか?」
時雨「……多分違うと思う」
昼 ブイン基地 談話室
木曾「あー、お前は今日はどこなんだ?」
雪風「ユキカゼは沈みません!」(今日は一日オフです!)
木曾「俺も夜勤まで休みだから……ちょっと遠出して浜まで行こうぜ」
雪風「ユキカゼ!」(雪風も一緒に行きます!)
~~~~~~
木曾「あー海だー」
雪風「ユキカゼ!」
木曾「だよな~。何か良いよな~。海ってな~」
雪風「ユキカゼ」
木曾「ああ、別に沈んでも好きなもんだよ」
雪風「ユキカゼ……」
木曾「なに図々しく聞いといて今更気にしてんだよ。いいよ。生まれた時から覚悟はしてたさ」
雪風「……」
木曾「あー、そっか。お前は沈んだ事無いんだったな。たまに忘れるけど、お前って凄い奴なんだよな」
雪風「ユキカゼ!!!」
木曾「あはは! 冗談だよ」
~~~~~~
木曾「あれ……日向さんだ」
木曾「おーい日向さーん」
日向「……」
木曾「なに無愛想なツラしてるんだ。アンタも海を見に来てたのか」
日向「……木曾さん、こんにちは」
木曾「……木曾さん?」
雪風「ユキカゼ!」
木曾「……同名艦か」
日向「はい。恐らく私は……貴女の知っている日向ではありません」
木曾「日向さんの同名艦は初めて見たよ」
雪風「ユキカゼ」
木曾「誰が間抜けだ馬鹿風」
日向「……お二人も海を見に?」
木曾「ああ、俺は夜まで暇だからな」
雪風「ユキカゼ!」
日向「……雪風さんはお休みですか。私は基地見学の途中です」
木曾「お、言ってることが分かるんだな。さすが新造艦」
日向「はぁ……どうも……」
木曾「見た目が同じでも……中身が違うと、全然違うんだな~」
日向「同名艦の個体差は戦闘データの蓄積の有無です。やはり戦闘経験、つまりLvの違いは大きですから」
木曾「いや、別に……」
日向「?」
木曾「……ま、いいや。これからよろしく、それで頑張れよ。日向二世」
日向「……どうも」
~~~~~~
木曾「……っぷは、はははは!」
雪風「……ユキカゼ」
木曾「いや、別に頭はまだ大丈夫だからな?」
雪風「ユキカゼ」
木曾「ふいに、俺の知ってる日向の個体も……最初はあれと同じくらい無愛想な奴だったのを思い出してさ」
雪風「ユキカゼ!」
木曾「艦娘は変わるもんだな。……お前は変わって無さそうだけど」
雪風「ユキカゼは沈みませんっっ!!!!」
木曾「あははは」
小休止
おつ
二人が出くわすとどうなるんだろうな
乙です
乙です
乙です。
政治屋連中の腐りっぷりが凄まじいですね。
四時くらいに投下開始します。
twitterで流れてきたこの日向さんが可愛過ぎて体調崩してた。個人的には特徴を捉えてる気がする。
頭に焼き付いて離れんのじゃ。
宣伝ツイだしおkだと思うので、貼っときます。
来たか…
きたか
5月4日
朝 ブイン基地 発令所
夕張「偵察隊から通信です」
山内「繋げ」
夕張「了解」
「こちら強襲偵察部隊、旗艦浜風。ショートランド敵第二防衛ラインに突入す」
山内「レーダーに反応は」
「感あり、11時方向距離約10000に6、大型艦2、小型艦4、艦種は……正規空母2、軽巡2、駆逐艦2」
山内「さすがに第一防衛ラインよりは強固そうだ」
嶋田「潜水艦による突破案もこれでおじゃんだな」
神官「正面突破しかないわけだ」
「敵艦載機の発艦をレーダーで確認。長官、御指示を」
山内「突破を優先しろ。戦闘は極力回避だ」
「了解、突破を優先します」
~~~~~~
浜風「突破に成功、中破2、小破3」
山内「引き続き偵察を続行しろ」
浜風「了解。偵察を続行する」
浜風「敵第三防衛ラインに突入」
山内「敵の備えを知らせよ」
浜風「了解」
浜風「レーダーに感。12時方向距離3000に大型艦4、小型艦2。艦種は戦艦4、……潜水艦2」
山内「近いな。突破は可能か?」
浜風「……やってみせます」
神官「……おっぱい」
山内「……」
浜風「……」
嶋田「ヨーソロー」
~~~~~~
浜風「……突破に成功、何とか振り切りました」
山内「損害は?」
浜風「全艦小破以上の被弾あり。中破が5です」
山内「よし。敵第四防衛ラインへ突入せよ」
浜風「了解。任務を続行します」
浜風「敵第四防衛ラインに突入、レーダーに感あり。1時方向距離8000に大型艦6。艦種……全て戦艦」
山内「……突破せよ」
浜風「……了解」
~~~~~~
浜風「……突破に成功。最終防衛ラインに突入し、任務を続行します」
山内「よし、では」「待て」
浜風「……」
神官「損害を報告せよ」
浜風「……」
神官「俺はもう軍属ではないが、命令系統ではお前より上の位置にいるぞ」
浜風「中破4……大破2」
山内「……大破?」
浜風「申し訳ございません」
山内「大破艦が出たら報告、撤退するように厳命していたはずだ。何故報告しなかった」
嶋田「中破状態の駆逐艦が戦艦の群れに突っ込んで無傷ないわけがないだろーが。長官もお気づきになられるべきだったかと」
山内「……」
浜風「申し訳ございません。しかし長官、偵察部隊は未だ意気軒昂です! 御役目を最後まで全うさせてください!」
神官「撤退しろ」
浜風「おっぱい星人! 貴方は黙っていろ! これは我々艦娘の誇りを賭けた戦いだ!」
神官「なっ!? だ、誰がおっぱ、おっぱぱぱぱ!?」
山内「……偵察部隊、撤退せよ」
浜風「長官! お願いです、突入させてください! 我々に名誉の戦いを―――」
山内「聞こえないのか。撤退だ」
浜風「……っ!」
浜風「……了解。羅針盤を使って撤退します」
ブイン基地 港
山内「浜風君」
浜風「ちょ、長官!? このような場所まで来られずとも我々の方から……」
山内「君は命令違反をした自覚があるのか」
浜風「……我々はまだやれました」
山内「痛くはないだろうが、覚悟しろ」
浜風「えっ?」
一発の張り手が顔に入る。
山内「君には失望した。君は私の期待を裏切った」
浜風「ちょうか……今、私を……」
山内「隊長になるには時期尚早だったようだな」
浜風「えっ……だって、私達は……艦娘だし……戦って死ぬのが」
山内「私がいつ戦って死ねと言った」
浜風「……」
山内「目の前の戦功に目がくらむような愚か者は要らない」
浜風「……嫌だ」
山内「ん?」
浜風「要らないなんて言わないで!!!」
男に言い寄る艦娘の表情は鬼気迫るものがあった。
浜風「私頑張ります頑張りますから!!!!」
山内「お、おい浜風君」
浜風「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
山内「もういい!」
半狂乱の艦娘を止めるために男は彼女を抱き締める。それは泣いた子供をあやす親の行為に酷似していた。
山内「少し言い過ぎた。反省してさえくれれば良いんだ」
浜風「……じゃあ、私の事要らないって言ったのも嘘なんですか?」
山内「……ああ、嘘だよ」
浜風「……良かったぁ」
艦娘は安堵の表情を浮かべ、自分を抱き締める男の背中に手を回すと……相手にその身を任せた。
浜風「長官の張り手、凄く痛かったです」
山内「……」
浜風「好きな人に叱られるのって凄く心が痛むんですね」
山内「……」
浜風「長官に嫌われたら私は生きていけません」
山内「浜風君……君は……」
何か言いたげに口を二、三度開いたが終にその言葉が空気を震わせることは無かった。
浜風「長官、私、反省してもっと頑張ります!」
山内「……ああ。期待しているぞ」
男が銀色の髪を撫でると艦娘は気持ちよさそうに体をくねらせる。
山内「……これからもよろしく頼む」
ブイン基地 廊下
「長官」
艤装を外し、心なしかいつもよりゆったりとした雰囲気の航空戦艦が話しかけてきた。
「……日向君か」
「一部始終見ていましたよ」
「……」
「貴方は草食動物のように怯えていましたね」
「もう忘れたよ」
艦娘は男から視線を外し、口元を手で隠すと吹き出すように少し笑った。
「そんなに打ちひしがれなくて良いでしょう」
「ああなると愛情というよりも狂気に近い……これは絶対に口外するなよ」
「純粋なだけですよ。それでいて未熟なんです」
「……純粋で未熟?」
「見た目が成熟した人間だからといって、人間の常識で艦娘に接せられているから驚くのです。貴方は無垢な赤子に大人マナーを無意識に押し付けているんですよ」
「……」
「心の支えを失えばポッキリ折れるに決まっているでしょう。数多くの艦娘が貴方を盲信し、心の支えにしている事実には……同情しなくもないですが」
「……」
「私が人間で男ならきっと面倒で仕方ないと思う」
「……今回の一件でよく分かったよ。自分がどれほど愛されているかな」
「是非彼女らの愛を裏切らないで頂きたいものだ」
「しかし君にも一因があるんじゃないか」
「私に?」
「素っ頓狂な顔をするな」
「いつもこんな顔ですよ」
「いつもはもっと可愛い顔をしている」
「ああ、そうでした。忘れていました」
「君達のような心の強い艦娘とばかり接していると感覚も狂うのさ」
「あはは。長官、第四管区の艦娘の心が強いとおっしゃられるか?」
「実際強いじゃないか」
「弱い奴らばかりですよ。みんな酒を飲まないと好きな男に本音を話せない程に」
「それはまた違う話だろう」
「本当に誤解です。強く見えているだけですよ」
「……まぁいいよ。にしても君は今日はやけにご機嫌だな。何か良いことがあったのか」
「分かりますか? 実はそれを聞いて欲しかったのです」
「面倒な艦娘だ」
「話したくなるのは心を持つものの性かと」
「で、何なんだ。良いこととは」
「さっき彼に会って、可愛いと言って貰ったのです」
艦娘は、それはもうにこやかに、非常に個人的で喜ばしい事実を一言で語ってくれた。
「……それで」
「えっ?」
「んっ?」
「……」
「……」
「それだけですよ?」
「……そうか。ご馳走様」
「可愛いとは良い言葉ですね、長官」
「……あの男が来てから君が幼くなったように見えるんだが」
「彼が来て人生が楽しくなったのは確かですけど」
「……もういいか? 君と話すのは疲れるんだ」
「ああ、公務の途中に失礼しました。最後に一つ。貴方は色々な艦娘に無条件で好かれているのですから……くれぐれも背中にはお気をつけ下さい」
「……ご忠告どうもありがとう」
「では」
艦娘は小さく会釈をすると鼻歌交じりに去って行った。
「僕も可愛いと言ったのだけどな。恋は盲目と言うか」
艦娘の恋は激しく暑い南の太陽のようだと一つ詩的にぶってみる。
「あの狡猾で肉食獣のような艦娘の心を奪う男は……どれほど優れた猛獣使いであることだろう」
そして自分で言ったことがツボにはまり、男は一人廊下で笑った。
5月5日
朝 ブイン基地 港
卯月「はいはい、さっさと運びこむぴょーん」
「卯月さん、おはようございます。今日の分の受け渡し確認に責任者のサインをお願いします」
卯月「ほいほいほい……ぴょーんぴょん、っとぉ」
「ありがとうございます」
卯月「しっかし輸送船団も毎日毎日ご苦労なことだぴょん。端午の節句まで仕事とは、危険手当とか出るぴょん?」
「まぁ……多少は出ますよ。こんな危ない仕事ですから」
卯月「その言い方は海上護衛をしている艦娘のことを思うと少し癪に触るぴょんが……確かに事実だしお前らの物資はとても貴重だから相殺しておくぴょん」
「あはは。それは助かります。危険な航路の終わりに卯月さんの顔を見られるのが……僕自身が仕事を続けている一番の理由なんですけどね」
卯月「えっ……それって……」
「卯月さん……」
卯月「人間……」
「……」
卯月「……」
「……なーんちゃって」
卯月「あははは!!! お前面白いっぴょん! 気に入ったっぴょん!」
「ではまた明日、よろしくお願いします」
卯月「了解ぴょん。気をつけて帰るぴょん」
皐月「卯月~、今日の分の運び込み終わったよ」
卯月「じゃあいつもどおり総計を司令部に持っていくぴょん」
「あの……卯月さん」
卯月「下っ端、どうしたぴょん」
「長月さんはどうしたんでしょう? 近頃見かけないんですが」
卯月「長月はちょっと外せない用があって居ないぴょん」
「……深海棲艦になったんじゃないか、って噂があって」
卯月「どこの馬鹿がそんな噂流してるぴょん」
「わ、私じゃないですよ!?」
卯月「長月深海説は否定しておくぴょん。長月はしっかりと艦娘をしてるぴょん」
「……そうなんですか」
皐月「ボクらも最近見てないけど、もう存在を認識している姉妹艦だから……長月が生きてるのが何となく分かるんだよね」
文月「長月ちゃんは必ず帰ってくるよ~! 第二十二駆逐隊は不滅です!」
皐月「第六駆逐隊じゃないからね! 第二十二駆逐隊万歳!」
文月「バンザイ!」
水無月「バンザーイ!」
卯月「やれやれ。アホが三人集まると見てられんぴょん。おいそこの」
「は、はい」
卯月「お前は私の姉妹艦の誇りを陥れた罪で磔刑ぴょん」
「えぇぇぇぇぇ!?」
昼 ブイン基地 司令部
翔鶴「備蓄は予定通りです」
山内「……もう少し効率を上げたい。出撃する艦娘の選定を頼む。燃費の良い者を中心として――」
神官「おいおい長官様よ。翔鶴に艦娘の燃費計算までさせるつもりか」
日向「失礼します」
瑞鶴「しまーす」
山内「保育園児のこの基地への立ち入りは禁じられているはずだが」
神官「なんでよりにもよって保育園児なんだよ。せめて幼稚園児にしろ」
山内「貴様に文科省管轄の機関は早過ぎる。厚生労働省で十分だ」
神官「貴様は厚生労働省のキャリア官僚に土下座しろ」
山内「……」ニヤニヤ
神官「……」ニヤニヤ
日向「相変わらず馬鹿同士仲がいいな」
瑞鶴「そして相変わらず客観的に見たら面白く無いですよ」
翔鶴「提……神官殿はともかく、日向と瑞鶴は何故?」
神官「この男の呼び出しだ」
嶋田「俺と長門もな」
長門「邪魔するぞ……おお、この顔ぶれとは珍しいな」
山内「全員揃ったな。ブイン基地、いや南方戦線のこれからの反攻戦略について……少し話しておきたい」
山内「諸君、そろそろ防衛戦とレベル上げも……いや深海棲艦との戦争にも飽きてきたころだろう」
「……」
山内「いい加減、我々は未来へ進もうじゃないか」
夜 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
瑞鶴「ということで久々に飲みましょう」
日向「……最近酒を飲み過ぎな気がする。明日の仕事は無いのか?」
翔鶴「私がシフトを誤魔化しておきましたから、皆様どうぞごゆるりと」
神官「誤魔化して良いものなのか?」
日向「では、提督とその妻と、その友人二人に乾杯」
翔鶴「ふふっ、薄汚い森の狸さんが友人として歓迎して下さって嬉しいです」
日向「いや、汚らわしい月の狐は勿論友人席だぞ?」
瑞鶴「はいはい。どっちでもいいから。妻の私とその友人にかんぱーい」
日向「無駄無駄」
翔鶴「そんな低級なフェイントには引っかかりませんよ」
瑞鶴「ちぇ」
神官「どうしよう。俺のせいでこいつらがどんどん馬鹿になっていく」
日向「冗談だよ。再会を祝して乾杯だ」
翔鶴「乾杯です」
瑞鶴「今日も一日お疲れ様でーす」
神官「……乾杯」
神官「……」クンクン
神官「……」チョビ
神官「……おい、これスピリタスだろう」
日向「知らん」
翔鶴「私もなんの事だか」
瑞鶴「外国のお酒とか私達あんまり詳しくないのでー」
神官「じゃあ教えてやる! このお酒はな! ここに居る四人全員を明日の朝後悔のどん底に突き落とす悪魔のお酒なんですよ! 今すぐ他のに変えろ!」
翔鶴「あっ口が滑って」ゴクゴク
瑞鶴「あ、私も」ガブガブ
日向「おっと」グビグビ
神官「これは愛か!? 愛なのか!? 俺への愛がお前たちをこんな風に変えてしまったのか!?」
神官「……ならば俺の取るべき道は一つより他に無い」
神官「俺は男としてお前たちの想いをしかと受け止めよう」
神官「酒の力を借りてな! 蛇の道は蛇だ!」ゴクゴクゴクゴク
神官「うへへ、今日の浜風はおっぱいおっきかったなぁ」
翔鶴「もぉ~提督のおっぱい星人」
神官「ごめんよ翔鶴~」モミモミ
翔鶴「んっ……」
日向「おい君、そんな揉み応えのない鶏ガラのような胸を触ってどうする」
日向「触るならこっちを触れよ」ワシッ
神官「お~、日向、お前やっぱりおっぱい大きいよなぁ」モミモミ
日向「…………ああ、戦艦は胸部装甲が命だからな。」
神官「なーに自分でやらせといて気持よくなってんだよ」モミモミ
日向「はぁう……」
神官「お前は喘ぐときに吐息漏らすように喘ぐ派だよな~」モミモミ
日向「う……るさい」
神官「日向は可愛いなぁ~」
日向「うぅ……」
艦娘の胸を揉んでいた男は、口を真一文字に結び声を出すまいとする艦娘の頭を抱え寄せると唇に口づけをした。
神官「……」
そして艦娘の唇をついばむように……だが男の楽しみは長続きしなかった。
瑞鶴「ごめん提督さん。酔いが覚めた」
後ろから殴られて気絶したからだ。
翔鶴「目の前で始められるのは少々堪えますね」
日向「……私は楽しかったんだけどな。丁度いい、彼はしばらく寝かせておこう」
瑞鶴「まったく。この人私には手を出さないんですけど、どういう事なの?」
翔鶴「どういうつもりなのか……提督の女関係に関してはさっぱり理解出来ません」
日向「本人曰く、その時々で誠意を見せているらしいがな」
瑞鶴「私も聞いたことありますけど、それって女にだらし無いだけですよね」
翔鶴「まぁ……」
日向「そうなるな」
瑞鶴「あーもうやだー」
日向「この三人だけで話すのは久しぶりだな」
翔鶴「そうですね。横須賀の時ほど一緒に居る時間は多くないですし」
瑞鶴「一緒に出撃する機会も無くなっちゃったよね」
日向「立派になった後輩の姿は嬉しくもあり寂しいものだ」
瑞鶴「後輩なんだ? 日向さんは私の二人目のお姉ちゃんのつもりだったんだけどな」
日向「おっ、それは嬉しいぞ瑞鶴」
翔鶴「こんな姉妹艦要りません」
日向「ふん! 私だってお前みたいな白髪の姉妹艦は要らん」
瑞鶴「まぁまぁ~。落ち着いてよ姉さんたち」
日向「……瑞鶴がそう言うのなら」
翔鶴「はぁ……」
~~~~~~
日向「で、この男どうする」
瑞鶴「どうって、そのまま寝かせておけば良いんじゃないですか」
翔鶴「いえ、日向が話しているのは恐らく……」
日向「さすがに察しが良いな翔鶴。そうだ。戦後処理の話だ」
瑞鶴「戦後……」
翔鶴「確かに我々の行く末は分からないとしても、一度は話し合う価値がありそうですね」
日向「解体されるのが関の山だろうが……運良く逃れられた場合の想定の話をしても罰は当たるまい。酒の席だしな」
日向「私はこの男に死ぬまで付き合いたい。子供も出来んし、いつ寿命が来るかも分からんこの体だが……どちらかが死ぬまで傍に居たい」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
日向「……どうしたんだよ。そんな面食らった顔をして」
瑞鶴「よくよく考えれば、こういう話をする機会って無かったんだなぁ……と」
翔鶴「……」
日向「困惑したままでも良いぞ。私だってヤルタ会談のスターリンのように会話の主導権は握っていたい」
翔鶴「その例えが正しいかどうかは分かりませんが……私は日向と同じ気持ちです」
日向「ふむ。瑞鶴はどうだ?」
瑞鶴「……これって戦争が終わった後に自分が提督とどうありたいか、って話だよね」
日向「そうだな」
瑞鶴「私、全然想像もつかないし分かんないや」
日向「うかうかしていると良いところを全部持っていかれるぞ」
瑞鶴「えーっと……今の私は提督さんが好きだし、提督さんの夢を叶えるお手伝いをしてる」
翔鶴「……」
瑞鶴「けど、提督さんと二人で過ごす未来は……想像出来ません」
日向「……そうか」
瑞鶴「私は世界中を旅してみたいんです」
翔鶴「……」
日向「……」
瑞鶴「私はまだ見たことの無い色んな場所を巡りたい。色んな感性を持った人達と出会いたい」
瑞鶴「人間が作った巨大建造物を見たい。人間が生きた文化を知りたい。それらを五感で感じたい」
瑞鶴「人間が美しいと感じる景色を見たい。また、私自身が美しいと感じる景色を見つけたい」
瑞鶴「自分自身が大きな歴史の流れの中でどういう風に生まれて位置づけられているのか自分自身の心で認識したい」
瑞鶴「良いことや楽しいことばかりじゃ無いだろうけど……考えただけでもワクワクするんです」
日向「……」
瑞鶴「あ、提督さんが大切じゃないとか……あの人に対する自分の好きが嘘ってわけじゃないと思う」
瑞鶴「きっと未来の自分もあの人が好きだと思う。それで、その気持があるからこそ……前を向ける」
瑞鶴「二人で居るときに、提督さんが私を凄く大切にしてくれてる気持ちが分かる」
瑞鶴「あの人に大事にされている今の自分があるからこそ、私は私で居られたし、居られる」
瑞鶴「さっきだって二人が提督さんと仲良くしてる姿見てるとイライラしたし」
瑞鶴「今抱かれちゃったらメロメロになって旅なんて行きたくなくなるかも……」
瑞鶴「でも私は、少なくとも今の私はもっと色んなことを自分で考えたいんだ!」
瑞鶴「……一人で盛り上がっちゃって何言ってるか分かんないかもしれないけど……私が考えているのは以上です」
日向「……」
航空戦艦は面食らっていた。思考の外からいきなり殴られたような感覚に襲われたからだ。
話を聞いて、瑞鶴が自分の先に居ると確信した。
この航空母艦は自分より遥かに広い視野を持ち、一人で外に飛び出そうとしている。
瑞鶴から流れ込んできたのは……日向が初めて感じる、心まで震わせる程に透き通り心地よい風だった。
瑞鶴は到達したのだ。彼が、提督が望んで挑み続けた夢の領域の真っ只中へ。
そしてその中で生きようとしているのだ。
日向「……やっぱり君は間違っていなかったのかな」
瑞鶴「えっ?」
日向「要は私の負けだよ、瑞鶴。終に私はお前に負けたんだ。……お前の姉もな」
瑞鶴「……ん?」
翔鶴「……」ウルウル
瑞鶴「えっ……? 姉さん何で……?」
日向「半泣きになってないで、妹の成長を祝ってやれよ」
翔鶴「私は……自分が恥ずかしい……」
瑞鶴「いや、えっ!? 今の提督さんほとんど関係無いよね?」
日向「翔鶴、自分の生き方を恥じることは無い」
翔鶴「でも……でも瑞鶴はこんなに立派に……提督が私を抱かなかったのもきっと……」
日向「そういう思惑も一部はあったかもな。だが結局あいつが自分の意志でお前を抱いたんだ」
翔鶴「……」
日向「そう落ち込まれては私の立場はどうなる。良いんだよ。お前だって自分自身で選んで進んだ道だろう。堂々と胸を張って生きろ」
瑞鶴「……」
翔鶴「私なんか悪いこと言いました……?」
日向「いや、お前が素晴らしすぎただけだ。何も気にするな」
日向「……こっちはこっちで、勝手に幸せになってやる」
日向「そうだろう、翔鶴?」
翔鶴「……はい、日向の言う通りです」
翔鶴「瑞鶴、私は貴女の姉であることを誇らしく思います」
瑞鶴「???? さっきから二人共何を言ってるの? 全く意味が分からないんだけど」
日向「……」
翔鶴「……」
瑞鶴「どうしたの?」
日向「あははは!」
翔鶴「……ふふっ」クスクス
瑞鶴「もう! だからどうしたのよ!」
翔鶴「瑞鶴、貴女は……提督の願いが具象化した存在なのよ」
瑞鶴「……ん?」
日向「姉と違って察しの悪い奴だな。お前は彼の望む姿に成長したんだ」
瑞鶴「……はい?」
日向「お前の心の在り方は、我々艦娘の新たな可能性ということだ」
瑞鶴「はいぃぃ!?」
小休止
乙です
朝四時に更新するつもりだったけど寝落ちしました。
見返したら瑞鶴と翔鶴間違ってるところある。脳内修正よろです。
乙すー
乙~
Twitterの絵いいねー
4時って書いてたから寝ないで待ってたのに!
でも面白いから許す!体に気をつけてな!
乙です。
本国が不穏な動きを見せている中でも正しいと信じて戦うブイン基地、どうかこの戦いが見たいけど無駄にならないように。
乙です。待ってました!
相変わらず第四管区メンバーの掛け合いがいいねえ
瑞鶴はもちろん、ブイン基地全体の成長っぷりが泣ける
5月6日
昼 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
神官「あいたたた……」
日向「お、君、おはよう。五航戦は仕事に行ったぞ」
神官「昨日の夜酒を飲んで……何でこんなに頭が痛いんだ?」
日向「頭から倒れて気絶したのさ」
神官「俺がそんなヘマを……まぁ良いや」
日向「ところで神官というのは普段どんな仕事をしているんだ? 見るからに暇そうだが」
神官「そうだな。基本的に暇しているぞ」
日向「……」
神官「何だその目は。何か文句があるのか」
日向「別に」
神官「言いたいことがあるなら言ってみろ!」
日向「情けないと思っただけさ」
神官「能ある鷹は爪を隠す」
日向「そろそろ出しても良いだろう」
神官「まだまだ、まだ早い」
日向「じゃあ私は行くぞ。生憎君ほど暇じゃないからな」
神官「ああ、看病ご苦労だった。またな」
日向「……ふん! 早く提督業に復帰することだ」パタン
神官「俺が起きるまで見守ってくれていたのだろう。なんか悪いな」
神官「……基地の中をブラブラするか」
~~~~~
昼 ブイン基地 港
浜風「……」イソイソ
神官「やっ、浜風」モミモミ
浜風「きゃっ!」
神官「元気へブゥゥゥゥゥン」
浜風「この変態! 私に触るな!」
神官「……痛いぞ。ちょっと冗談で触っただけだろう」
浜風「黙れ! 変態! 変態!」
神官「まぁいいや。じゃあな」
昼 ブイン基地 研究室
神官「邪魔するぞー」
夕張D「あ、先生。こんにちは」
神官「今は何の仕事をしていたんだ?」
夕張D「長官に要請された量産用増槽の調整です。生産ラインに乗せますから」
神官「ほう、これがな」
夕張D「航続距離が伸びれば戦術の幅も広がります」
神官「君はこういう物を開発するのが得意なんだな」
夕張D「いえ、新たに開発するより既存のものを小型化したり改良したりするのが好きだし、得意なんです」
神官「なるほど、実に日本人らしいというわけだ」
夕張D「へへへ」
神官「我々は君の力に頼りっぱなしな面も大いにある。迷惑を掛ける」
夕張D「いえ、私もこういう形でみんなをサポート出来るとは思ってなかったです。自分の好きなことをしてお役に立てて、嬉しいです」
神官「……そうか。君の優しさに我々は救われているよ」
夕張「じゃあ図々しくお願いしても……いいですか?」
神官「大功ある君達からのお願いなら可能な限り聞き届けるが」
夕張D「長官閣下のおち○○○をこのビデオカメラに収めてきてください!」
神官「お前らの功績はその一言で全部台無しだよ」
夕張D「えぇ~お願いです! 長官閣下の○○んちんが見れれば研究効率が二倍になりますから!」
神官「俺の○○○なら幾らでも見せるが」
夕張D「あ、それは結構です」キッパリ
神官「はい。……仕方ないな……とりあえず依頼だけ受けておく。期待はするなよ」
夕張D「やったぁー! 絶対ですからね! 絶対おねがいしますよ!」
神官「……」
~~~~~~
昼 ブイン基地 陸上航空隊基地
隊長妖精「今日届いた機体は第十六滑走路に回してくれ」
搭乗員妖精「了解であります!」
神官「よー、どんな塩梅だ」
隊長妖精「これは神官殿、見回りご苦労様であります」
神官「陸軍としては海軍の意見に反対であります?」
隊長妖精「……何をおっしゃっておられるかイマイチ理解出来ませんが、我々は与えられた役目を果たすだけであります」
神官「ま、期待しているぞ」
隊長妖精「その期待が間違いでないと証明するのであります!」
昼 ブイン基地 港
浜風「……」イソイソ
神官「やっ、浜風」モミモミ
浜風「きゃっ!」
神官「元気へブゥゥゥゥゥッ」
浜風「この変態! 私に触るな!」
神官「……いや、ちょっと冗談で触っただけだろう」
浜風「黙れ! 変態! 変態!」
神官「まぁいいや。じゃあな」
~~~~~~
昼 ブイン基地 浜
神官「おかしい……何故俺は浜風にあれ程嫌われているんだ……嫌われる要素なぞ微塵も……」
木曾「うら!」
雪風「ユキカゼ!」(そんなノロマな人には捕まりませんよ!)
木曾「うるせー!!」
雪風「奇跡じゃない!」
神官「よう。鬼ごっこか?」
木曾「砂浜での走り込みだ。結構効くんだぜ、これ」
雪風「……ユキカゼ」
木曾「ああ、お前も出迎えで見ただろう。元俺の提督だよ」
雪風「ユキカゼ」ジトッ
木曾「……雪風がお前に『初めまして、私は雪風です』だってよ」
雪風「雪風は沈みませんっ!」
神官「……いや、言葉が理解出来ずともこの敵意を見れば全部分かるぞ」
雪風「ユキカゼ!」
木曾「いや、そんなことあるわけ無いだろう」
雪風「ユキカゼ! 雪風は沈みません!」
木曾「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! 誰がこんなヤツのこと好きになるんだよ!!!」
神官「……分からないが大体分かった」
神官「おい雪風」
雪風「……」ジトッ
神官「木曾を賭けて俺と勝負だ」
雪風「ユキカゼ!」(その勝負乗った!)
木曾「いや、話の流れが掴めないから……」
神官「ゲームはビーチフラッグスだ。合図と同時にスタートし、より早く一本の旗をキャッチ出来た方の勝ち」
神官「よろしいか?」
雪風「ユキカゼ」(応ッ!)
神官「では旗に背を向け砂にうつ伏せになれ。合図は木曾が行う」
木曾「……ほんとにやるのか?」
神官「勿論だ」
木曾「人間が艦娘の反応速度に敵うわけ無いだろ」
神官「秘策がある」
木曾「……じゃあよーい、ドンで行くぞ」
木曾「……」
木曾「よーい」
神官「……」
雪風「……」
木曾「ドン!」
声が耳に届くとほぼ同時、雪風は人間のような神経伝達のラグも無く木曾の声に反応し立ち上がった。
神官は全く対応できていない。普通の人間としてはかなり反応速度の良い部類に入るのだろうが、今回の勝負でそれは意味を持たない。
そして立ち上がった神官は叫ぶ。
神官「あっ! 雪風! あれを見ろ!」
その芸当は古典的とすら評価できない。もはや阿呆と言えた。
雪風「……」チラッ
神官「うぉぉ……あれはぁぁぁ……」
雪風「……」
雪風「……」ダッ
大声を上げた神官にまるでゴミを見るかのような視線を向けると、雪風はすぐに向き直り走った。
神官「……」
勝負は決まった。
~~~~~~
雪風「ユキカゼ」(二度と木曾に近づくな)
木曾「二度と木曾に近づくな」
雪風「ユキカゼ」(貴方みたいな卑怯な人は嫌いです)
木曾「……というのは冗談である」
雪風「ユキカゼ! ユキカゼ!」(木曾! ちゃんと伝えて下さい!)
木曾「……以上だ」
神官「……」
木曾「お、おい……そんなに気落ちすること無いだろう。所詮ゲームだぞ」
神官「約束は約束だ」
木曾「……」
雪風「……」
神官「……卑怯な手など使って済まなかった」
雪風「……ユキカゼ」(……意外と物分かりの良い奴ですね。そうです。分かれば良いんです)
神官「ここからは実力行使と行こうか」
木曾「……は?」
神官「駆逐艦雪風! 気をつけい!!!!!」
雪風「……!」
一応の上官からの命令の声に、体が咄嗟に反応してしまう。してしまった。
神官「おりゃ!」
神官の魔の手が雪風の柔らかな脇腹に伸びる。
神官「オラオラオラオラオラオラオラオラ」コチョコチョコチョコチョ
雪風「イヒッ! ユキッ、ユキカッ!!!」
神官「どうだ! お前の弱点なぞリサーチ済みだ! これで力が入らないだろう!」コチョコチョ
雪風「んーんー!! んー!」
神官「俺の部下になれ雪風……さもなくばこのままお前は……」コチョコチョ
雪風「ユキカゼっ! ユキカゼェェェェ!」(絶対に、絶対に嫌だ!)
木曾「……嫌だ、ってよ」
神官「……致し方あるまい」コチョコチョコチョコチョコチョコチョ
雪風「ゆ、雪風は沈みまあぁぁぁぁぁっぁぁぁ」
~~~~~~
十分後
雪風「……した」
木曾「……部下になるからもう止めてくれ、だってよ」
神官「案外しぶとかったな。良かろう」
雪風「エヒ……エヒヒ……」ビクビク
神官「一件落着だ」
木曾「なんだよこの茶番は」
神官「お前は随分と雪風に目をかけてるみたいじゃないか」
木曾「……知らねーよ。気づいたら勝手に懐かれてたんだ」
神官「お前の優しいところは本当に好きだぞ」
男は木曾の頭に手を乗せると、撫でるというよりも擦るように動かした。
木曾「……雑に撫でるんじゃねぇ。別に優しいとかじゃねぇよ」
神官「久しぶりだな。木曾」
木曾「……」
神官「調子はどうだ」
木曾「……悪くない」
神官「それは良かった」
木曾「士官服着てた方がいいと思うぞ」
神官「ま、今は軍属だがそのうち軍人に復帰するさ」
木曾「そりゃ良かった」
神官「いい風だ。少し歩こう。……雪風も一緒にな」
雪風「……」
小動物のような艦娘は何も言わなかった。
起き上がると神官から出来る限り隠れるように、木曾の後ろに回って彼女を盾にし、尚且つ敵の位置が確認出来る絶妙なポジション取りをした。
木曾「酷く嫌われたもんだな」
神官「別にどうでもいい」
木曾「お前、今は先生なんだろ? 少しは先生らしいところ見せてくれよ」
神官「先生というのは胡散臭くて近寄りがたく、常人にはなりづらいから忌避されて先生と呼ばれるのだ」
木曾「相変わらず一人よがりな冗談を言う奴だ」
神官「冗談であればすべて許されるだろうと認識してる節はある」
木曾「前にも言ったが、お前が危ない道を歩くのを補助するのはお前の艦娘なんだからな」
神官「よく分かっているじゃないか。だからこそ俺も安心して地雷原を進める」
木曾「地雷原はやめてくれ」
三人はブインの長い砂浜を歩いて行く。
まず神官が進み、その一歩後を木曾と彼女の服の端を掴む雪風が着いてくる。
会話は殆ど無かった。
日向や翔鶴、瑞鶴であれば隣を歩くのだろうな、と神官も木曾自身も考えていた。
この距離は心理的な距離でもあった。瞬間的にゼロになったりはするが、基本的に二人は遠かった。
これでも十分近いと言えるかもしれないし、神官と、つまり提督と一緒に歩くという行為自体、木曾が艦隊へ編入された時のことを考えれば想像も出来ないほどの進展……ここでは接近と言ったほうがわかりやすいだろうか、と言えるのだが。
太陽が沈もうとしていた。
神官「……木曾、隣に来い。少し喋ろう」
木曾「……」
呼ばれると木曾は歩調を少し速め、素直に神官の隣に来た。
神官「夕日は美しいな」
赤い波長だけが届くために赤く見えるという原理を知っても尚美しい。
神官「これほど美しいものが何故終焉の例えに使われるのか」
木曾「いい話をしようとか、別に考えなくていいぞ。面倒だから」
神官「この歳になると、良いことを言っておかないと格好がつかないんだ」
木曾「……俺さ、昔は沈黙が苦手だった」
神官「……」
木曾「他の奴と居るときに黙ってるのは何かもどかしいし、感覚的に嫌いだった」
神官「そうか」
木曾「この基地に来て、雪風と出会って変わったよ」
雪風「……?」
木曾「こいつの艦娘語はすげぇ聞き取りづらいんだ。最初は何を言っているか全く分からなかった」
神官「……うん」
男は木曾の話にゆっくりと相槌を打っていく。
木曾「第四管区のみんなが新しく創設された部署の代表やってるのは知ってるだろ?」
神官「ああ」
木曾「俺さ、どこの部門の代表も任されなかったんだ」
神官「……」
木曾「いや、差別とかそういうんじゃないぞ。……多分」
神官「何か理由があるのか?」
木曾「俺は比較的戦闘力が高いと判断されて……まぁあの時は艦載機の補充が出来なくて空母がまともに運用できなかったし……組織全体の予備っていうのが一応の位置づけかな?」
神官「あのヒヨッコだったお前がな」
木曾「そうだな。そのヒヨッコもどこぞの誰かにコキ使われて立派に成長した訳さ」
神官「くっくっく」
木曾「そもそも代表のポストの数が人数分無いしな。誰かあぶれるのは必然だろ」
神官「ま、結局お前はどの部署にも所属しなかったわけだ」
木曾「ああ、それが結論だ。それで暇になった俺は雪風と関係を持ち始めた」
神官「……」
木曾「……そういう意味じゃないからな?」
神官「何を言っているのだこのスケベ艦娘」
木曾「…………いいや。で、そこからがもう大変なわけだ」
陽は完全に沈み、辺りは暗くなったが我々は歩き続けた。
木曾「俺は日向さんに基地の艦娘の様子や、基地の問題点の洗い出し……要は現状の把握を頼まれてな」
木曾「雪風はその調査対象の一人だったんだが、それでこいつは特別に常識が無いことが分かってさ」
木曾「調査が終わっても妙にほっとけなくて……世話役を買って出た」
雪風「……」
木曾「それでさ。俺は今の……提督みたいに雪風の言葉が全く分からなかった」
神官「確かに分からん」
木曾「お互い喋り続ければすぐに慣れるだろうと見込んで、俺は一生懸命喋るよう心がけてた」
雪風「……」
木曾「結果は全然駄目」
神官「はー……」
木曾「意外だろ? 少なくとも俺は意外だった。喋るうちに慣れるもんかと思ってたけど、ちっとも慣れやしない」
木曾「俺も苛立つし、雪風はそんな俺の姿を見て余計に攻撃的になるし……意思疎通は一層上手く行かなくなる」
木曾「ま、悪循環だよな」
神官「ああ、その悪循環は容易に想像出来た」
木曾「遂にはお互い黙っちまった」
雪風「……」
木曾「雪風への常識教育担当を……俺自身が申し出て仰せつかっちまったもんだから」
木曾「自分から『辞めたい』なんてとても言い出せなくてさ」
神官「詰まらん建前だ」
木曾「そう言うなよ。私は小心者で詰まらない艦娘なんだから」
神官「ふざけるな。そんなわけあるか」
木曾「……はいはい。ありがとう。でさ、正直言って自分だけに役職が与えられなかったもんだから、その辺のもどかしさもあったんだよ」
神官「……」
木曾「自覚はしてるよ。本当にしたいことを自分から言い出せない病、にはさ」
雪風「……」
木曾「どこかの役職に所属させてくれと言えば私は望む役職につけていただろうに、私は言えなかった」
木曾「世話ねぇよな。何も言わないくせに勝手に傷つくなんてよ」
木曾「……役職も無くて、自分から言い出した仕事も満足にこなせないなんて他のやつに思われたくなくて……私は雪風と一緒に居た」
木曾「会話の成立しない雪風と一緒に居るのが嫌だったのに、自分の気持を押し殺して無理矢理一緒に居た」
雪風「……」
木曾「でも雪風はそんな私を受け入れてくれたんだ」
神官「……」
木曾「喋ったらお互い喧嘩になるから……そんなに喋りはしなかったけど、こいつは私が隣に居ることを許容してくれた」
木曾「そしたらさ」
木曾「黙ってる時間の方が多かったのに、こいつと居るのが段々苦痛じゃなくなってきた」
木曾「雪風と居ると何か話さなきゃ、って強迫観念に苛まれることが無くなってきた」
木曾「そこで、二人で居るときに黙ってても別に良いんだなって思った。沈黙が単に冷たいものじゃないって分かった」
木曾「……むしろ、雪風と黙って過ごすのが心地いいと感じ始めた時に私の本当の変化が始まった」
木曾「少しづつ雪風の言葉が分かるようになっていったんだ」
神官「ほぅ……」
木曾「間宮羊羹を渡した時の何気ない返事とか、最初は本当に些細な場面だったけど」
木曾「今、私と提督が話してるみたいに自然な形で会話が出来た」
木曾「それがどんどん色んな場面で出来るようになって……今に至る」
神官「……」
木曾「でさ」
木曾「ちょっと飛躍し過ぎかもしれないけど、それで私は世界って凄いな~広いな~って思ってさ」
木曾「第四管区であれだけ必死になって勝ち取って磨き上げたつもりの自分の中の常識や自意識って、確かに世界で唯一ではあるかもしれないけど……たった一つの正解じゃないんだなって実感した」
木曾「実感した時、世界が……無造作に自分を取り巻いて存在し続けるものが大きいと感じたし、それに比べて自分はなんて矮小な存在なんだ、って思った。その矮小さを感じられる自分が嬉しかった」
木曾「……私は雪風のことが前よりずっと大切になった」
木曾「これから生きていく中で私が今まで大嫌いだった沈黙が寧ろ好きに変わったような、苦手だった雪風を好きになるような、自分を大きく揺るがすような出来事がこれから先もあると思うと……怖いけど楽しみなんだ」
木曾「……っていう風に私が感じられるようになった話を……お前にしたかった」
雪風「……」
神官「……」ニヤニヤ
木曾「……おい、何笑ってんだよ」
雪風「……木曾が自分のこと私って呼んでました」
木曾「あっ」
神官「『でも雪風はそんな私を受け入れてくれたんだ』」
雪風「ウヒッ! イシシ! 木曾は私をそんな風に思ってたんですね。私も木曾が好きですよ!」ニヤニヤ
木曾「……」
神官「ホントはねぇ~? 木曾ちゃんは女の子だから一人称は私なのぉ~」
雪風「ウヒヒ」
木曾「……」
神官「でもでもぉ~普段は恥ずかしくて俺って言っちゃうのぉ~」
木曾「……」ピクピク
神官「でもでもでもぉ~、好きな人の前でぇ~本当の自分が使いたい一人称はぁ~……」
神官「ワ・タ・シ」キャピッ
雪風「ウヒヒヒヒヒ!!!!」
木曾「ッ!!! テメェコラァ!」
雪風「ワ・タ・シ! ワ・タ・シ!」
神官「ワ・タ・シぃ~」
木曾「逃げるな!! お前ら絶対許さねぇからな!!!」
神官「さっきの会話はビデオに録画してある。早くみんなにこの事実を知らせるぞ! 雪風! 基地まで競争だァ~!」ダッ
雪風「はい先生っ! 雪風はどこまでもお伴します!」ダッ
木曾「うぉぉぉぉぉ待てェェェ忘れろぉぉぉぉやめてくれぇぇぇえぇ」
小休止
10分ってすげぇな(棒)
あれ、雪風が普通に喋ってる
乙です
乙です。
非第4管区組ではトップクラスの雪風が通常の言葉を話せるようになったのは大きな意味を持ちそうですね。
5月7日
夜 ブイン基地 執務室
神官「山内」
山内「うん?」
神官「久しぶりに一緒に風呂でも入らないか」
山内「いいぞ。嶋田との話が終わったら皆で行こう」
神官「出来れば……二人きりが良いのだが……」
山内「……それで嶋田、不足分の搭乗員妖精だが、本土から引っ張ってくるつもりだ」
嶋田「また妖怪どもがうるさいぞ」
山内「それが、ここのところ融和路線に変更したようでな。こちらの要求がすんなり通る」
神官「おーい山内くーん」
嶋田「おかしいな。この前までは戦前の陸軍海軍みたいな関係だったろう?」
山内「確かに、白といえば黒、黒といえば白、のような関係だった」
神官「おーい」
嶋田「……妙じゃないか? 何故今になって」
山内「嶋田、人間の関係性は一日で変わるときもある。ましてや時代が変わったのだ」
山内「我が海軍が陸軍とも今や協調しているように、奴らも少しは賢明になったのだろう」
嶋田「少し楽観が過ぎやしないか? 先生と連絡を取った方がいい。裏があるに違いない」
山内「我々の活躍はひいては聯合艦隊を承認した内閣の手柄に繋がる。まだ我々には価値有りと見ているのだろう。融和への道筋は説明できる」
嶋田「しかし……」
山内「先生には航空機調達と基地の補給に関して手を回して貰っている」
嶋田「……」
山内「あの人ももう歳だ。……ここまで世話になりながら言えることでは無いが出来るならば迷惑を掛けたくない」
嶋田「……分かった。俺は自分のコネで色々探ってみる」
山内「ああ、頼む。まぁ僕の予想が当たっていると思うがね」
嶋田「だと良いが」
神官「……俺のこと無視しないでくれよ」
夜 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
昨日の木曾の映像を、音のみではあるが例の三人組に聞かせていた。
神官「どうだ。俺はもう木曾がこんなになってくれて嬉しいんだ!」
日向「ならそれを本人に言ってやれ。きっと喜ぶぞ」
瑞鶴「……この話をしてる時の木曾さんの顔見たかったなぁ」
翔鶴「私も興味があります」
神官「お前らも少しは分かるようになってきたな。だが、木曾のあの表情は今は俺のものだ」
男は酒によって出来上がっていた。今回は一人だけスピリタスを飲まされた形だ。
日向「……今は、か。含蓄の深い言葉だな」
神官「別に深くもないわい」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
神官「俺はぁ、お前たちが立派に成長してくれて嬉しいんだぁ」
日向「例えばだ」
航空戦艦は切り込んだ。
日向「例えば、今は君のことを好きな艦娘が、未来で君を見限ったら君はどう思うんだ」
神官「どうもこうも無いだろう。それがそいつの考えなら尊重するまでだ」
翔鶴「……それはお辛くは無いのですか」
神官「きっと辛いだろうな」
瑞鶴「じゃあなんでそんなこと言えるの?」
神官「なんでもクソでも無い。俺が艦娘の未来と幸福を……これはお前はよく知っているだろうが」
瑞鶴「……提督さん、やっぱりなんか変だよ。おかしいよ」
神官「……」
瑞鶴「あなたは艦娘のことになると自分を度外視して考える時がある。……それに時々、その大切にしているはずの艦娘すら見ていないことがある」
日向「さすがだな瑞鶴。気づいたか」
翔鶴「……私も気づいていました」
日向「お前は気づいて当たり前だ。むしろ艦載機を捉えられない対空レーダーなぞ無価値だ」
翔鶴「褒められたと認識しておきます」
日向「……この男は本当の意味で我々を見ていない」
神官「……」
日向「他人に『過去に縛られすぎるな』なんて偉そうに生き方を説教しながら、自分は過去の贖罪のような生き方をする」
日向「本当はこの男こそ……過去に縛られたろくでなしなのにな」
神官「……別に俺がどう生きようとお前らには――」「関係あるに決まってるでしょ!!」
瑞鶴「関係無いなんて言ったらぶっ飛ばすからね」
日向「……」
日向「個人の問題と言うにも、君は少し影響力がありすぎるんだよ」
瑞鶴「そんな生き方……駄目だよ提督さん……悲しすぎるよ」
神官「……」
瑞鶴「あなたは今居る艦娘を本当の意味で全然大切に出来てない!」
瑞鶴「……きっとあなたが後悔してるのは、失った艦娘のことだよね」
神官「……」
瑞鶴「後悔したって何も始まらない。むしろその子達の分まで幸せにならなきゃ駄目でしょ!」
神官「……うるさい」
瑞鶴「ちゃんと私達を見て! 今ある私達を見てくれなきゃ……でなきゃ……」
神官「……」
瑞鶴「きっと……また失ってしまう」
神官「……お前に何が分かる」
瑞鶴「わかんないわよ!!!! 自分のこと見てくれない人なんて分かりたくもない!!」
神官「俺だって! ……やめようとしたに決まってるだろうが」
瑞鶴「結局出来てないじゃん」
日向「……」
翔鶴「……」
神官「目の前に居る艦娘と二人きりの時はその艦娘のことだけを考えるようにしている」
神官「……でも駄目なんだ。何気ない瞬間に、思い出したように襲ってくる」
神官「自分ではどうにもならないんだ」
瑞鶴「弱虫」
神官「……うるさい」
瑞鶴「もっと気合入れて否定してよ」
神官「……やかましい」
瑞鶴「……あなたの傍に居ると、あなたの嫌な部分がどんどん大きくなっていく」
神官「……」
瑞鶴「失望しました」
神官「知るか」
瑞鶴「ここまでナヨナヨした男だと思わなかった」
神官「……おーおー、だったらどうするんだ」
瑞鶴「……顔見たくない」
神官「……」
瑞鶴「……」
神官「……酔いが覚めた。帰る」
翔鶴「あっ……」
日向「……送ろう。私も帰るよ。おやすみ、五航戦」
翔鶴「私も」
日向「……傍に居てやれ」
翔鶴「……」
日向「ではな」
神官「港へ行こう」
日向「……付き合うよ」
神官「……ありがとう」
~~~~~~
夜の海はただひたすらに暗かった。
神官「煙草が吸いたい」
日向「もう酒に逃げただろう」
神官「……そうだな」
日向「先代と同じく……妹は相変わらず鋭いな。姉も同じくらい鋭いが君の前だと切れ味が落ちる」
神官「……あの二人に話したか?」
日向「話してないよ。私はそこまで愚かではない。」
神官「あいつの言う通りだ。このままだと俺はまた失って後悔する」
日向「……」
神官「……すまん。失うなどと弱気なことを言ってしまった」
日向「本音と建前、強さと弱さは誰だって持っている。嘘つきはお前だけじゃない」
神官「……」
日向「……今も沈めた負い目を感じているのか?」
神官「瑞鶴を失って自分の罪に気づいたのは確かだが、あれが決定打ではない」
神官「積み重ねだ」
日向「……」
神官「赤城と飛龍を失って落ち込んでいる加賀に説教をした」
日向「どうせ抱いたんだろ」
神官「ああ」
日向「なら加賀も分かっているさ。君の中に入り込んだ時に見えているよ」
神官「……」
日向「深い後悔と傷を負い、大きな流れに翻弄され、それでも全てを隠して……虚勢を張って必死に生きようとする男の姿がな」
神官「……」
日向「しかもその虚勢は自分の為ではないと来たものだ」
神官「……」
日向「君の心は……それを構成している本質は空っぽさ。何も無い。自分でもそれが分かっている」
日向「海軍将校、皇の血統、この2つを取り除けば君に何が残る」
日向「何も残りはしない」
日向「分かっているからこそ、君は海軍将校という地位を手に入れたんだろうな」
日向「けれど、心の隙間は満たされなかった」
日向「その隙間は肩書なんかじゃ満たされないよ」
日向「さっき分かったことだが……君が我々の好意を不思議がるのは二つ理由がある」
日向「一つは空っぽの自分なんか価値がないと自分自身を蔑んでいるからだ」
日向「もう一つは、君が真の意味で艦娘を見ていない、そして理解出来ていないからだ」
日向「一つ目はもう言ったな、二つ目について説明してやる。ありがたく聞くんだ」
神官「……おう」
日向「君は艦娘と接する時に、過去ありきで、つまり過去というフィルターを通して我々に接している」
日向「艦娘個人を見るときもこのフィルターは有効になる。君は最初から我々を個人を見ていなかったんだ」
日向「だが通過して出てくる個人に向けられた気持ちは本物だし、実感はどうあれ君自身は成長し続けているよ」
日向「しかし本物であろうと……純粋じゃない」
日向「だからフィルターの、過去の存在に気づき邪魔だと感じる艦娘も居るわけだ。瑞鶴のようにな」
日向「正直私は君が艦娘を何を通して見ようと、どうでも良かったが……気が変わった。取り除いてやる。おい、よく聞けよ」
神官「……」
日向「君の心の中がからっぽと言った手前悪いが、本当は空っぽなんかじゃない」
日向「あれはあくまで君の立場に立った物言いだ」
日向「空っぽの例えになる伽藍堂ですら中に空気を含んでいるし、大体虚無の心を持った人間なんて居るわけ無いだろう」
日向「君が空っぽだと思っている君の心の中には……空気のように君の要素がしっかりと含まれている」
日向「君は虚しい男じゃない。一生懸命で、不器用で、悪い方に敏感で、とても優しい」
日向「そんな君だから……私は君に上着を被せた」
日向「私は君の提督という肩書が好きなんじゃない。君が空っぽだと思っている君の心が好きなんだ」
日向「加賀だってきっと同じだ」
神官「……」
日向「艦娘を単なる兵器でなく心ある存在として認めた。存在を認めて、上司に歯向かってまで私達を大切にしてくれた」
日向「何も分からない、知らない私達の為に未来への道を開いてくれた。元々無かった筈の選択肢を与えてくれた」
日向「自分自身について、幸せについて考える機会を与えてくれた」
日向「些か艦娘にとって苦しい道のりではあったが……苦しいのは君も一緒だった」
日向「意に介さなければ楽なものを、こんなにも抱え込むのも……良いか悪いかは分からないが、君の癖だぞ」
日向「指揮官として艦娘に接していたのが、一人の男として接してくれるようになったな」
日向「……ここまでに至る心的な道のりすら常人には理解出来んし、君の苦悩など誰も知りはしない」
日向「第四管区の艦娘を除いては、な」
日向「どうだ? ここまで聞いて自分の変化に疑問の余地を挟むか?」
神官「……いや」
日向「よし、続けよう」
日向「瑞鶴がお前のどこを好きなのか私は知らん」
日向「ぶっちゃけそこまで興味もない」
日向「だが私は君の優しい心が好きだ」
日向「君が私をどう思おうと関係ない」
日向「君に一番愛されたいと考えた時もあった、その次は私の主観で一番愛されたいと考えた」
日向「また変わった」
日向「今は愚かしくて惨めな君を……一番、誰よりも愛したいと思う」
日向「多くを与えられ、共に苦しみ、乗り越えてきた君と一緒になりたい」
日向「自分を空っぽだと思うのなら丁度いい。そこに私を入れてくれ」
日向「君は困った男だ。自分で自分を認められないし、自分で自分を傷つける」
日向「別にやめろとは言わない。私が好きなのはそんな君だからな」
日向「むしろ可愛らしさを感じるくらいだ」
日向「だが……嫌なのに止められないのなら私も半分背負ってやってもいいぞ?」
神官「……それで、それが俺が本当の意味で艦娘を見るようになることとどういう関係があるんだ」
日向「あれ、すまん。途中で私の告白にすり替わってしまっていた」
神官「なんだそれ」
日向「えーっと、どこまで話したっけ」
神官「俺が変化したという話まではよく分かった」
日向「ああ、そうだったな。……要は艦娘だと思うから変な色眼鏡をかけてしまうんだ」
神官「はぁ……?」
日向「艦娘だと思わなければ良いんだ」
神官「ほぉ……?」
日向「私は君の女で、君の妻で、君の日向で、君のものだ」
日向「これは今まで君が口から出まかせのように、それからその場しのぎの冗談として言っていたものとは違うぞ」
日向「私からの正式なプロポーズだ」
日向「私と一緒に私の道を歩け。そこで私に溺れろ。嫌なことなんて全部忘れさせてやる」
日向「そこで私を見ることが出来れば……問題は全部解決だ」
日向「ほれ」
懐から手のひらサイズの小物入れを取り出し、更にその中から、
神官「……指輪?」
日向「人間なんだから意味くらい分かるだろう。いや、漢字の結婚なんておこがましいことは言わん。阿呆みたいな片仮名で良い」
日向「あーあー、オホン」
日向「……」
日向「フィルターが、色眼鏡がどうこう言っていたが、私はそんなもの本当にどうでもいい」
日向「二人で一緒に酒を飲んだ時、私の為に命を張ってくれた時、理由はどうあれ君は私のことだけを考えていた」
日向「それでいい。……と考えていたが私は少し欲張りになってみるよ」
日向「君、もっと私のことだけ考えて生きてみるのもありだと思うぞ」
日向「君が自分を傷つけるなら私がそれを癒そう」
日向「皇太子殿、私とケッコンして下さいませんか」
軍港であるのに辺りは人の気配が無かった。
海は大きく口を開けたように黒々と波打っている。
日が落ちて暗く、夜で潮風に少し肌寒さすら感じる筈の場所で俺は光と温かさを感じた。
胸の奥で何かが壊れる音がした。それが大事なものでないことは容易に想像がついた。
「日向」
「何だ。ケッコン生活についての質問も受け付けるぞ」
「くくっ……週休はどれくらい取れるんだ?」
「そうだな。変則的にはなるかもしれんが、なんとか2日確保することは保証しよう」
「ほう、それなら安心してケッコン出来るな」
「これからの時代は福利厚生が肝心だからな。ちゃんと理解はある」
「あと俺は皇太子じゃないぞ」
「第五位だろ? 皇太子みたいなものさ」
「かもな」
「そろそろ返事をくれないか?」
「日向」
「……はい」
「こんな俺だがよろしく頼む」
日向は笑顔を浮かべていた。
あの日見た笑顔よりも尚美しかった。
瑞鶴「……」
五航戦の妹は自分のベッドで膝を抱え座ったまま動かなかった。
翔鶴「……」
姉は正座してそんな妹を心配そうに見つめている。
さて、この光景少し前にもあったような……?
瑞鶴「……提督さん怒ってるかな」
翔鶴「……」
瑞鶴「私だって少し言い過ぎたって分かってるよ」
翔鶴「……明日謝ればいいわよ」
瑞鶴「でも……正しいのは私だし」
翔鶴「……そうねぇ」
瑞鶴「提督さんのアホアホアホアホアホアホアホアホアホ」
翔鶴「……」
瑞鶴「アホアホアホアホ」
翔鶴「……」
瑞鶴「アホアホ…………」
翔鶴「……すっきりした?」
瑞鶴「……ちっとも」
翔鶴「そうよね」
瑞鶴「姉さん」
翔鶴「はい」
瑞鶴「面倒だから快刀乱麻にずばっと解決してよ」
翔鶴「別に私は何でもできる魔法を持っているわけではないわよ」
瑞鶴「でも姉さんは姉さんだから」
翔鶴「意味が分からないわよ」
瑞鶴「だって姉さんだし」
翔鶴「……日本語で話しなさい」
翔鶴「昔は手間のかかる妹だと思ったものだけど」
瑞鶴「……ごめん」
翔鶴「今は貴女が隣に、いえ、私のもっと先に居るような気がするわ」
瑞鶴「えっ?」
翔鶴「提督が時折私達を見ていないことを私は提督に言えなかった」
瑞鶴「……」
翔鶴「言う勇気が無かった。貴女は立派よ」
瑞鶴「……黙ってられなかっただけだよ」
翔鶴「提督の為に、ね」
瑞鶴「……」
翔鶴「もう貴女は立派な大人で、手のかかる妹なんかじゃない」
瑞鶴「……」
翔鶴「貴女は私の助けなんか要らないほど立派に成長しているわ」
瑞鶴「姉さん……」
翔鶴「今回の答えは私には分からない。……というより私は私のやり方でしかやれない」
瑞鶴「……」
翔鶴「貴女も貴女で答えを出しなさい」
瑞鶴「……」
翔鶴「これが姉からの最後のヒントになりそうね」
瑞鶴「嬉しいような、悲しいような」
翔鶴「私としても同じ気持よ」
瑞鶴「優しい姉で居て欲しいな」
翔鶴「居ますとも。可愛い妹が居る限り」
瑞鶴「……よーっし!」
妹の方はベッドから勢い良く飛び出した。
瑞鶴「大事な作戦にゴタゴタしたまま突入するのは嫌だからね」
翔鶴「ええ」
瑞鶴「いっちょ明日やってやろうじゃないの!」
翔鶴「そうね。また明日」
瑞鶴「じゃあ今日はもう寝よう!」
翔鶴「了解」
瑞鶴「おやすみ! 姉さん」
翔鶴「おやすみ。また明日」
5月8日
朝 ブイン基地 食堂
嶋田「あーすっかり寝不足だ」
伊勢「ごめんね~?」
嶋田「おや、そちらの神官殿も伊勢型戦艦を連れているな」
神官「よう」
日向「おはよう姉様、嶋田さん」
嶋田「……おい、その指の光るものは」
伊勢「えっ……お揃いの指輪?」
日向「ああ、実はな」
神官「俺たち」
日向「ケッコンしました」
嶋田「……はぁ?」
伊勢「すごーい! おめでとう!!!」
嶋田「いや、何を言ってるんだお前ら」
神官「へへへ」スリスリ
日向「んふふ」スリスリ
嶋田「目の前でいちゃいちゃするな汚らわしい」
伊勢「すごい素敵!! ね、嶋ちゃん! 私達もケッコンしよ!」
嶋田「はぁ? 結婚なんてそんなの認められるわけ無いだろうが」
朝 ブイン基地 執務室
翔鶴「長官、おはようございます。今日もよろしくお願い致します」
山内「おはよう。今日は色々面倒な申請が来てるから、その処理を頼む」
翔鶴「はい。一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
山内「何だね」
翔鶴「長官は結婚されるご予定などは……お有りですか?」
山内「……考えたことも無かったが。誰か結婚するのか?」
翔鶴「……いえ、忘れて下さい」
~~~~~~
翔鶴「……」パサッ
翔鶴(6月分の基地への資材搬入リスト……うん、要望通りの資材が届く)
翔鶴(この調子なら基地奪還が本当に達成できるかもしれない)
翔鶴「サインをお願いします」
山内「よし」
翔鶴「……」パサ
翔鶴(これは陸上航空基地の妖精搭乗員転属に関するものね……)
翔鶴(……)
翔鶴「長官」
山内「何だね」
翔鶴「陸上航空基地の搭乗員妖精は……元々は海軍の管轄ではありませんよね?」
山内「ああ、陸軍だ。機体も隼四型と銀河だしな」
翔鶴「……最新鋭機を、それもこれだけの規模で海軍が転用するとなると」
山内「ま、誰も思いつかなかったからこそ価値があるという訳だ」
翔鶴「反発は無かったのですか?」
山内「基地を二つも落とされて、最初のガダルカナルなど陸軍機がかなりの数出ていたからな。基地奪還は彼らとしても悲願とするところだ」
山内「目的が一致しているのだから面子を保つために適当な建前を用意してやればいい」
山内「そこは少し頑張らせて頂いたよ」
翔鶴「……流石です。この書類の内容が機体と搭乗員の指揮権も完全に我々に委ねるという内容だったので少し驚きました」
山内「ま、無理もない。しかし、そういう部分に気がつく艦娘が居てくれて、こちらとしても本当に助かるよ」
翔鶴「いえ……では、こちらとこちらの欄にサインと役職の判子を」
山内「ああ」
翔鶴(順風満帆ですね)
翔鶴(……嫌な予感がするのは何故でしょう)
翔鶴「……」パサ
翔鶴(……基地への苦情)
翔鶴「ご確認下さい」
山内「……ああ、また支援要求か」
翔鶴「……はい」
山内「途上国が苦しんでいるのは十分理解できる。だが我々は慈善事業をしに来ているわけではない」
翔鶴「……」
山内「基地がある場所はマシな方だ。太平洋の島々を見てみろ。……もう今は見に行くことすら敵わんが、人が住んでいるかどうかすら不明だ」
山内「……こんなこと君に言っても仕方ないな。それに皆生きるのに必死なのだから、責められるものではない」
翔鶴「……」
山内「いつもと同じ量だけ渡すよう手配してくれ。……そういう類のものは次から私に見せなくて良い」
翔鶴「……かしこまりました」
~~~~~~
翔鶴「……」パサッ
翔鶴(今日は本当に書類の量が多い。……今度は基地の設備点検の為の)
翔鶴(あ、長官のサインは要らないんだ。……判子っと)
翔鶴(さて、次は……)
翔鶴「……」パサ
翔鶴(婚姻届……初めて見る書類ね。えーっと婚姻届ってどうやって処理するんだったかしら)
翔鶴(……ん?)
翔鶴「……」
艦娘は目を瞑った。
翔鶴(……あれだけ寝たのに疲れてるのかしら)
翔鶴(整理しましょう。ここに来る書類は……この基地の各部門の代表者が記入したもの、もしくは日本政府から聯合艦隊長官に発行されたもの、ブイン基地司令に発行されたもの、そして現地政府から日本への窓口としての基地に向けられたもの。……それを司令部の人間がその書類の正当性を念入りにチェックして、あげられたもの)
翔鶴(婚姻届がこの場所にあるわけがない)
翔鶴(さぁ翔鶴、目を開けなさい)
翔鶴(目の前にあった婚姻届は違う書類に変化しているでしょう)
翔鶴(……お願いだから変化していて。これ以上私を困らせないで……!)
翔鶴「……」
翔鶴「……」チラッ
『届姻婚』
翔鶴「もうっ!! なんでまだ婚姻届なのよっ!!!!!!」
山内「!!!」ビクゥ
翔鶴「こんなふざけた書類を提出したのは……海上護衛部門代表……日向……」
翔鶴「いつもお世話になっています。日向です。私ごとではありますが、この度、入籍いたしました。お相手はかねてから交際させていただいていた――さんです。交際中に沢山の報道があったにもかかわらず、しっかりとした報告ができずに申し訳ありませんでした」
翔鶴「……貴女はどこの芸能人ですか!!!!!」
山内「……翔鶴君、大丈夫かね」
翔鶴「長官、――とはどちらの方ですか」
山内「知らんのかね」
翔鶴「高貴な身分の方とお見受けしますが」
山内「君が提督と呼んでいた男の名前だよ」
翔鶴「……」
山内「あいつは実家が偉いんだ。まだ言ってなかったのか?」
翔鶴「……艦娘運用部門代表の権限で緊急事態を宣言します」
山内「……は?」
翔鶴「あの二人を今すぐこの場に召喚して下さい」
山内「落ち着け。一体どうしたんだ」
翔鶴「……すいません。興奮しすぎました。これを御覧下さい」
山内「どれ、婚姻……なんだこれは! あいつ、ふざけているのか!!」
翔鶴「これは我々の職務に対する侮辱です」
山内「……」ジーコ、ジーコ
山内「……私だ。旧第四管区の日向と神官を執務室へ呼び出せ。あ? 任務中? 知ったことか!! 代役を立てて切り上げさせろ! 今すぐ、今すぐにだ!!!!!」
~~~~~~
神官「失礼するぞ」
日向「えらく急な呼び出しだな。追い込み漁も最後の段階だったのだが」
翔鶴「……」
山内「仲睦まじく同じ指輪か」
神官「まぁな」
山内「……このふざけた書類は何だ」
日向「ああ、それは婚姻届です」
山内「黙れ!!!」
日向「聞いておいてそれは酷いですよ」
山内「日向君、いや航空戦艦日向、ここは酒の席ではない!」
神官「……」
山内「少しはわきまえたまえ」
日向「別に冗談を言ったつもりはありません」
山内「ならこれは一体何なのだ!!」
日向「我々はケッコンしましたので。長官には一応そのご報告を、と思い提出しました」
山内「……深海棲艦との戦争でどれ程の国民が傷ついたか君は知っているか」
日向「大勢です」
山内「よく分かっているじゃないか。そうだ! 大勢だ! そして今もこの基地に物資を輸送する船団は、毎日毎日危険を顧みずにその戦いを続けている」
日向「知っています」
山内「なのに貴様は!!! 貴様らはこんなふざけた真似をしやがって!!!」
日向「知ったことか」
山内「……今何と言った」
日向「他のやつが戦おうが死のうが、私は知りませんよ」
山内「貴様は軍の一部である自覚が足りないようだな。厚遇されすぎて頭が変になったか」
日向「組織の一部としての自覚はありますし、艦娘としての役目は果たしているつもりです」
山内「ならば何故このようなことをする」
日向「軍の一部であり、在り続ける。ただの兵器ならそれもまた良いでしょう」
山内「……」
日向「私はただの兵器ではありません。……今回の婚姻届は例のないものであると認識しています。勝手に婚姻するのは不味いと判断して婚姻届を提出しました」
山内「……日向君」
日向「はい」
山内「その良識的な判断を婚姻する以前に用いることは出来なかったのかね」
日向「無理でした」
山内「はぁ……」
神官「少しは落ち着いたか」
山内「……お前のせいでまた沸騰するところだった」
神官「丁度いいだろう。お前は艦娘の地位向上を公言しているんだ。ケッコンぐらい認めろよ。世の流れ男女平等参画社会だぞ」
山内「艦娘を人間としてみなし権利を認めるのとはまた話が別だ。あくまで兵器という枠の中での……」
神官「艦娘は兵器であって兵器でない」
山内「……」
神官「長門の手を握ったお前だって分かっているだろう」
山内「……」ポリポリ
日向「公言しなくても良いです。裏酒保のように秘密裏に認めてくれれば本望です」
山内「……結婚してどうなる」
日向「私と彼が幸せになります」
山内「君は艦娘なんだぞ」
日向「長官」
山内「……」
日向「私は戦って死ぬのが本望だと最初は思っていました。でも今はそうは思えません」
神官「……」
山内「……」
日向「戦うのは怖いです。それでも私は彼が居てくれるのなら死ぬまで戦い続けます」
日向「おこがましいのは承知していますが、少しだけ夢を見せてくれませんか。出来れば幸せな夢を」
日向「お願いします」
山内「君は自分が感情論に訴えている自覚はあるのかね」
日向「はい。ごめんなさい。これは私なりの泣き落としです」
山内「……宮、お前だって分かっているだろう。艦娘と結婚など論外だ」
神官「今ある論、常識で考えればそうだな」
山内「だからお前たちは今ある論によって動く組織の一部なんだぞ!」
神官「今の常識だって昔は批判されていたさ」
山内「屁理屈で何とかなると思っているのか」
神官「俺なりの泣き落としだ」
山内「もう死んでしまえ」
山内「……さっきまでの怒りは私の立場から見た時の怒りだ」
日向「……」
山内「戦い続けている組織の指揮官としての声でもあった」
山内「ここからは一人の山内として喋る。良いか?」
日向「……はい」
山内「艦娘、君たちはただの兵器ではない。心を持った特殊な兵器だ」
山内「今までの君達への扱いは不当極まり適切でなかった。これからより正しいあり方を模索していくべきであると思う」
山内「だが結婚は認められん」
神官「……」
山内「その行為は、あるいは艦娘の個人所有とも見なされかねん」
山内「公式にやると、な?」
翔鶴「……!」
山内「深海棲艦との戦線は君たちによって支えられている。これは紛れもない事実だ」
山内「それに僕は君たちの日頃の功績に対して少しでも報いてやりたい」
日向「……」
山内「艦娘と人間が結婚する意味が僕には正直良く分からんが、そういうイベントが大事だと思うのなら個人的にすればいい」
山内「……聯合艦隊司令長官の判子は押せないが、これからも増えるようなら一応関係を把握しておきたい。書類は提出してくれよ」
山内「二人ともおめでとう。僕は君たちを祝福する」
日向「……ありがとうございます」
神官「すまん」
山内「謝るなよ。お前は阿呆みたいに幸せそうにしてればいいんだ、新郎殿」
翔鶴「長官殿、一つよろしいでしょうか」
山内(やっべ……翔鶴君を忘れていた)
翔鶴「早いもの勝ちなど認められません。平等を期すために重婚は勿論認めていただけますよね?」(#^ω^)ビキビキ
山内「……無論だ」
翔鶴「提督」
神官「ああ、夜に俺の部屋まで来い」
翔鶴「では話は以上です。長官は多忙ですから下がりなさい」
山内「いや、別に私は」
翔鶴「多忙です」
山内「……ああ」
翔鶴「下がりなさい」ニッコリ
小休止
乙です。
協力的な上層部が嵐の前の静けさに見えて仕方ないですね。
日向が可愛くとたまりません。
乙です
昼 ブイン基地 食堂
ザワザワ
瑞鶴「やっぱり待ってるだけの基地防衛は性に合わないな~。海上護衛だと好きなように動き回れるんだけど」
19「それは贅沢ね~。潜水艦だと偵察の為に何日も同じ場所に留まらなきゃ駄目なのよ~?」
瑞鶴「……自分が潜水艦じゃなくて良かったと思った」
19「向き不向きは誰だってあるの~。でも慣れればきっと楽しいの~」
瑞鶴「にしても随分と騒がしいわね」
ザワザワ チョウカント…… ケッコン ザワザワ
19「……」
瑞鶴「あっ、丁度いいところに……高雄さん」
高雄「あ、はい! 瑞鶴隊長!」
瑞鶴「別に任務中じゃないんだから隊長は要らないって。……にしても相変わらず憎たらしいおっ…………何か皆が興奮気味だけど何かあったの?」
高雄「あー……山内長官が結婚されたという噂が今流れていて」
瑞鶴「へー、長官さん結婚したんだ。めでたいじゃん」
高雄「それでそのお相手が艦娘で……旧第四管区の日向さんらしいんです」
瑞鶴「……は?」
高雄「あ、あくまで私が聞いた噂なんですけどね!」
瑞鶴「もうちょっと詳しく聞かせて」
高雄「はい。あの瑞鶴さんは11時頃に神官様と日向さんが呼び出されたの知ってますか?」
瑞鶴「あー、確かに呼び出されてたね。通信入ってたよ」
高雄「それで二人は長官の執務室に呼び出されたんですけど……たまたま執務室の前を通りがかった一人の艦娘が聞いてしまったのですよ!」
瑞鶴「……」ゴクリ
高雄「長官が物凄い声で『黙れ!』って叫ぶ声と、その後に長官が日向さんと結婚するという会話の内容を……」
19「途中から適当な証言になったのね」
瑞鶴「……う~ん。あの長官さんと日向さんが結婚……?」
19「所詮噂よ。真に受けるのがお馬鹿なの」
高雄「いえいえ19さん。あの二人は以前から二人でお酒を飲むような間柄だったという……未確認情報もあるんです!」
瑞鶴「そうなんだ」
19「航空戦艦の日向さんはこの基地の要職にある長官の懐刀の一人ね。二人で喋っても何ら疑わしくないのね」
高雄「……19さんやけに否定しますけど何か知っているんですか? ……裏酒保ルートで何か情報が流れてるとか」
19「裏酒保って何ね? 酒保は酒保ね」キッパリ
瑞鶴「高雄さん」
高雄「……ごめんなさい。酒保は酒保です。裏なんてありません」
19「次はないのね。水の中の世界を体験したいのなら……いつでもお待ちしてるのね」
高雄「……はい」
瑞鶴「高雄さん。その噂は何かの間違いだと思うよ」
高雄「すいません。言った私自身にすら疑わしく思えてきました」
19「でも一つだけ言えるとすれば、火のないところに煙は立たぬ、ってことね」
高雄「……やっぱり19さん何か知ってるんじゃないですか?」
19「何も知らないの~。ほんとなの~」
瑞鶴「う~む…………ま、ご飯食べよう!」
瑞鶴「長官がどの艦娘と結婚しようが、どうせ私には関係の無い話でしょうからね」
19「イクは瑞鶴さんの大事な場面で思考停止する凄い阿呆なところが好きなの~」
瑞鶴「はいはい。阿呆と褒めてもおかずはあげないからね」
19「あれ~、折角ナノマシンをおっぱいに移動させるやり方教えてあげようと思ったのに~」
瑞鶴「なにそれ超知りたい。おかず全部あげるからおっぱい頂戴」
高雄「あの、瑞鶴さん。そんな邪法は存在しませんよ」
昼 ブイン基地 廊下
雪風「せんせー!」ダダダッ
神官「おう雪風」
雪風「とぅっ!」ハグッ
神官「おっと……こいつめ! よーしよしよしよし」ワシャワシャワシャ
雪風「ウヒヒヒ! くすぐったいですせんせー!」
木曾「よ。また暇してるのか」
神官「よ。まぁな」ワシャワシャワシャ
雪風「ウヒャヒャヒャ! ん~!」
雪風「あ、せんせー聞きました? 長官と嶋田提督が結婚されたそうですよ!」
木曾「っていう噂をさっき聞いたんだけどさ」
神官「……噂の恐ろしさの一端を垣間見た気がするぞ」
雪風「確かです! 雪風はこの耳でしかと聞きました!」
神官「雪風が間違っているんじゃなくて、雪風が聞いた情報自体が間違っているんだ」
雪風「なんと!」
木曾「そうだよな。大体、男同士で結婚ってアバンギャルド過ぎるしな」
神官「アバンギャルドってなお前……」
雪風「あれ、先生。何で指輪してるんですか?」
神官「ん? ……ああ、日向とケッコンしたから。その指輪だ」
木曾「……え?」
神官「噂の根源は……多分俺だろうな」
雪風「そうなんですか! だから指輪してるんですね! おめでとうございます!」
雪風「あれ? でも木曾も先生の事が好きだし……この場合木曾はどうなるんですか?」
木曾「……」
神官「……」
雪風「え、えーっと? もしかして雪風は何か不味いことを言いましたか?」
木曾「そっか。日向さんとな……おめでとう」
神官「ありがとう。……俺が言えたことではないが、大丈夫か?」
木曾「うーん。びっくりはしているが、自分でも意外とショックじゃない。お前は元から浮気症だし。結局俺とは何も無かったわけだし」
神官「……」
木曾「だから俺のことなんてどうでも良いんだよ。それより翔鶴とか瑞鶴はどうするんだ?」
神官「うん。今日の夜に少し話そうと思う」
木曾「……ま、それぞれが納得の行くようにな。また艦娘同士の殺し合いなんて御免だぜ」
雪風「……木曾、大丈夫ですか?」
木曾「ん? いや、本当に大丈夫だぞ」
神官「……なら良いんだが」
木曾「ああ、お前はそれで良いんだ。逆に俺に謝るようならぶっ飛ばしてたぜ」
神官「……」
木曾「俺のお前に対する好意って、人間だと父親とか肉親に向けられる類の好意だったのかもな」
雪風「……」
木曾「とにかく、おめでとう提督。末永く幸せに」
神官「……ああ」
木曾「じゃあ俺はお前と違って仕事があるからな。行くぜ。あばよ」スタスタ
雪風「……」オロオロ
雪風「心配なので木曾と行きます! ……先生っ、し、失礼しますっ!」ペコッ
神官「……」
夕方 ブイン基地 浜
雪風「や、やっと見つけました」ハァハァ
探していた艦娘は浜に一人で座っていた。
木曾「……よう」
雪風「木曾! 何で雪風から逃げるんですか!」
木曾「ちょっと一人になりたくってさ。ま、座れよ」
雪風「……」
波は穏やかで海は綺麗な茜色をしていた。空を漂うちぎれた綿雲もその色に染められている。
遠い残響のような波音が打ち寄せては消え打ち寄せては消える。
雪風は隣の艦娘を見た。
彼女は地平線を見つめ少し疲れた目をしていた。
先ほどの会話が無ければ、この木曾の形をした艦娘が本物であるか疑わしく思えた程に……彼女は海岸の風景の一部のように溶けこんでいた。
「嫌です! 木曾! 行っちゃ嫌です!」
黙っていれば隣の艦娘が自分が知るものとは違うものに変容してしまう気がして、雪風は艦娘に抱きついた。
「……俺がどこに行くってんだよ」
そんな雪風を木曾は優しく撫でる。
「……分かりません。けど、居なくなっちゃう気がしたんです」
「なぁ雪風、海って広いよなぁ」
「……」
「こんな広い海に比べて俺はなんてちっぽけなんだろうな」
「木曾はおっきいです」
「あはは。……本当に気にしてないんだぜ? 提督のケッコンなんて」
「雪風は嘘には敏感です」
「……やっぱり気にしてるように見えるか?」
「……」
雪風は頷いた。
「キスもしてねー、手もつないでねぇ、結局俺とあいつは何でもねぇ」
「……」
「嬉しいのも本当なんだけどな。……嬉しいだけじゃなくて悔しくもあるだけだ」
「ひっく……ひぐっ……」
「何でお前が泣くんだよ」
雪風をあやすように撫でるその手はとても優しかった。
「私はぁっぐ! 木曾がぁ! 好きです!」
「ありがとう」
「木曾は……嫌われ者で一人ぼっちだった私とぉ……一緒に居てくれました……」
「嫌われてなんてないよ」
「嫌われてました! 近づくと死ぬとか言われてました!」
「そんな馬鹿な連中が居たんだな。お前が他人の生き死にを決められるわけ無いのにな」
「そう言ってくれたのは木曾が初めてです」
「……そっか」
「凄く寂しかったです。消えてしまいたいと思うくらい寂しかったんです……!」
「よく我慢したな。偉いぞ」
「でも雪風は先生も好きなんです」
「……そっか」
「あの人は木曾を悲しませる悪い人なのに……嫌いになれないんです。ごめんなさい」
「……そっか」
「人間なんて嫌いです。艦娘も苦手です。……でも木曾と先生は好きです」
「お前、人間嫌いのわりに一日で懐いたよな。最初はあれだけ嫌ってたのに」
「人間が嫌いだからこそ分かるんです。あの人は……いい人でした」
「へー、分かるんだな」
「はい! 雪風と対等に喋ってくれたし……何より、雪風の好きな海の匂いがしました! 木曾と同じ匂いでした!」
「……あんなおっさんと同じ匂いが私から出てるのか?」
「はい。海の匂いのする人の傍はとても居心地がいいんです。安心します」
「……きっと私に提督が似てるんじゃなくて私が提督に、雪風の言う先生に似てるんだろうな」
「そうなんですね」
「私の道を開いてくれたのはあの人だからな。きっと影響は受けてるさ」
「道ってなんですか?」
「自分が自分の足で踏み固めてきた過去であり、進むべき未来さ」
彼女は胸のポケットから小さな箱を取り出した。
「それは煙草ですね。雪風にも分かります」
「ああ。お前も……いや、お前は吸うな。私だけ吸う」
一本取り出して口に咥え、軽く吸いつつ右手のライターで火をつける。
もう慣れたものだ。
いつもより深く吸うと、少しだけ違和感があった。いつも通り吸えば良かったと少しだけ後悔した。
艦娘が煙草を吸う場合においては、味やニコチン摂取よりもルーチンワークが大事になってくる。
喉の辺りが焼けるような感覚と共に味の信号が脳を形成するナノマシンへと伝わる。
「……」
体内の煙をゆっくりと吐き出した。紫煙は一寸先で風の中に溶け込んでしまう。
最初から存在しなかったかのようにかき消えた。
口の中に違和感と苦さだけが残る。
「煙草っておいしいんですか?」
「初恋の味がする」
「それってどんな味なんですか」
「しょんべん臭い苦くて最低な味だ」
「……雪風はおしっこを飲んだことがありません」
「俺だってねぇよ!!!!」
「そうなんですか?」
「例えだよ例え! あー、最低な味ってのは嘘だ。誰かと一緒に吸うと良い味がする。でも一人だとやっぱり不味いかな」
「へー」
「……もう関係ないけどな」
立ち上がって胸のポケットからもう一度箱を取り出し、ライターを中に詰めると……
「おらぁっ!」
投げた。
「木曾! 海が汚れちゃいます! ゴミを捨てないで下さい!」
「二度と捨てないから」
煙草の箱は大きな放物線を描き遠くの水面へ落下した。
しばらくは波間を漂っていたが、そのうち消えた。
「二度と捨てないのなら……良いですけど」
「……さよなら」
「何に対するさよならなんですか?」
「色々さ。それより雪風、明日海上護衛で一緒になるよな?」
「はい。午後に一緒です」
「MVP取った方の勝ちな。取れなかったら引き分けだ」
「いいですね! 燃えます!」
「お前も泣いたり笑ったり叫んだり、忙しいやつだな」
「あれ……何の話してたんですっけ」
「忘れたよ。ほら、日も暮れたし帰るぞ」
「あ! 待って下さい木曾!」
「遅い奴は知らねーよ」
「雪風は遅くありません!」
小休止
乙です
みんなかわいいなーー
乙です。
友達感覚から踏み出せず?な木曾可愛いです。
乙です
夜 ブイン基地 ドッグ
「長官と僕どっちが好き?」
「ちょ、長官に決まってるでしょう」
「ふーん。下はこんなになってるけど?」
「い、いやっ……やめて時雨さん……艦娘同士でこんなの駄目よ……」
「自分からこんな格好しといてよく言うね? 駄目なものほど良くなるし、毒ほど美味いんだよ」
「何言って……んんっ!!」
神官「……君らドッグで何してんの」
工作艦は自分のクレーンで手を縛り、足を持ち上げられ、大事な部分を露出させていた。
時雨「ああ、神官様」
明石「えっ!? や、ちょ神官様!?」
時雨「明石さんはちょっと黙ってなよ」クチャッ
明石「ひぁっ!?」
時雨「さてはカブトムシみたいにエロの蜜の匂いにつられて来たね? さすがは僕を開発した提督だ」クチャクチャ
神官「うわ……この艦娘何言ってるか分からん……こわ……」
時雨「ノリが悪いなぁ」ズボズボ
明石「ッッ!!!」ビクビク
神官「あー、こんな状況で言うことじゃないかもしれんが。日向とケッコンすることにした」
時雨「へぇ~そうなんだ! おめでとう。噂では長官が人間の女の人と結婚するって聞いてたけどね。貴方が結婚するんだ」ヌコヌコヌコ
神官「……一周回って普通に戻ったな。さすがにあれ以上は整合性がつけられんと気づいたか」
神官「まぁ話はそれだけだ。邪魔したな」
時雨「もっとゆっくりしていきなよ。積もる話もあるし……明石さんも他人に、しかも男の人に見られて悦んでるからさ」
神官「……明石君本当にすまない。このような怪物を産んでしまったのは第四管区の責任だが……私にこの処理は少し荷が重すぎる」
明石「違うの神官様! 私が本当に好きなのは長官んんんん!!!」
時雨「酷いや明石さん。僕のこと好きって言ってたくせに」
明石「あれは貴女が無理矢理言わせて……」
時雨「……そうだね。もうこんな酷いことはやめにしよう」
明石「……?」
時雨「じゃ、僕はあっちで神官様とお話してるから。気が変わったらまた呼んでよ。……あ、ちなみに八時には……あと十分もすれば長官が増槽付きの隼を見にドッグに来るからね」
明石「うそっ!? 私、自分だけじゃアームを外せないのよ!?」
時雨「知ってるよ」ニコ
明石「……」
時雨「頭の悪いその姿を大好きな長官に見てもらうといいよ」
明石「いやっ!!!! 嫌ぁぁぁぁ!! 神官様! 助けてください!!」
神官「明石くん。君は一つ忘れてないか」
明石「えっ……?」
神官「時雨は俺の元部下だぞ。それで実は……時雨のこういう趣味は俺の影響なんだ」ニッコリ
明石「……」
夜休憩中の人気の無いドッグに絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
時雨「さて……久し振りだね。なんて呼べばいい? パパ? 豚? クズ?」
神官「自立進化した高知能AIが人類を滅ぼす映画を見たことがあるが、今のお前はまさしくそれだ」
時雨「なんだいそれ」
神官「好きに呼べ。変わりないか。忙しくてお前のところへ来ることが出来なかった」
時雨「いいよ。元気さ。もう僕は貴方が居なくとも生きていける」
神官「……そうか」
時雨「それよりも新しい山内長官って良いよね~。提督よりかっこいいし。僕はもう完全に乗り換えたよ」
神官「……」
時雨「嶋田さんも人気があるよ。あれ? 提督がもしかして一番冴えてない?」ケラケラ
神官「……」
時雨「まーでも昔の繋がりもあるし、セックスしたいならさせてあげるよ」
神官「……」
時雨「僕のオマンコにご無沙汰だったでしょ?」
神官「……」
時雨「ほら、どうぞ」クパ
神官「……」
時雨「ちぇ……なんだよ。ノリが悪いな」
神官「……」
時雨「……ね、あの玩具いいでしょ? オチンチンは生えてないけど提督の代わりくらいにはなりそうだよ」
神官「……」
時雨「もうすぐ僕無しではいられない体になるよ。嫌だ嫌だ言ってるけど体は正直だからね。本当は悦んでるのが丸分かりさ」
神官「……」
時雨「……なんだよ」
神官「……」
時雨「さっきからなんなんだよ!! その憐れむような目は!!!」
神官「……」
時雨「そんな目で僕を見るなよ!! 何を偉そうに上から目線で!!!」
神官「……」
時雨「艦娘が自分のことを好きだからって調子に乗って!!!!!」
神官「……」
時雨「もう僕は貴方のことなんてちっとも好きじゃないんだからね!!!」
神官「……」
時雨「馬鹿! 阿呆! カス! ゴミ! 不発弾!」
神官「……」
時雨「日向でも瑞鶴でも翔鶴でも……勝手にケッコンでも何でもすればいいじゃないか……何で僕のところへ来るんだよ……」
神官「すまなかった」
時雨「……」
神官「お前は俺の艦娘の中で一番弱い奴だった。真っ先にお前のところへ行くべきだった」
時雨「……今更なんだよ」
神官「……」
時雨「今更顔出して謝って全部終わりにする気なの?」
神官「……」
時雨「そんなの……卑怯なんだよ……畜生……」
神官「……」
時雨「何で僕は……! こんなに喜んでるんだよ……!!!」
神官「時雨」
時雨「……」
神官「俺はお前とケッコンする気は無いが、お前は俺の傍にしばらく居ろ」
時雨「えっ」
神官「単に責任を感じて言っているだけではない。未熟なお前が成長するためには今は時間と、保護者が必要だ」
時雨「人を未熟呼ばわりして、好き勝手扱って……いい気なもんだね」
神官「お前は俺のことが好きだからな。好き放題言えるわけだ」
時雨「……ずるいや」
神官「抱き締めていいか」
時雨「絶対やだ」
神官「そうか。良いか」
時雨「……駄目って言ったのに」
神官「NOはYESでYESはYES。絶対NOは絶対YES。そう教えただろう」
時雨「……こうなると逆らう気が無くなっちゃうよ」
神官「一先ず、お前が望む道が見つかるまででい」「ずっと隣に居させてよ」
時雨「……いいでしょ」
神官「……俺は恐らく翔鶴達とも俺はケッコンする。お前の望むようには出来ないかもしれん」
時雨「期待してないさ。提督の匂いが分かる位置に居られれば僕はそれでいいよ」
神官「……分かった」
時雨「分かれば良いんだよ」クンクン
神官「で、どうだポチ。久しぶりのご主人様の匂いは」
時雨「悪くない……ワン」
神官「それは僥倖」
夜 ブイン基地 港の外れ
艦娘が二人、水上で踊っていた。
三隈「そんな砲撃は夜戦どころか昼戦でも当たりませんことよ!」
吹雪「ッ! はい!!」
三隈「返事をする前に砲撃の準備をしなさい」
吹雪「はい!」
三隈「そこっ!」
20.3cm主砲から放たれたペイント弾が吹雪の腹に直撃する。
よく見れば、吹雪は既に全身に着色がなされていた。……こいつ、一体何発食らったんだ?
三隈「はい、直撃。また死亡です。でも反射速度はマシになってきましたわ」
吹雪「……もう一回お願いします!」
三隈「当たり前です。貴女は弱すぎる」
吹雪「はいっっ!!!」
三隈「駆逐艦は機動力と手数を生かしなさい!」
吹雪「はいっ!!!!」
三隈「長月さんと同じくらい強くなるのでしょう!?」
吹雪「はい!!」
三隈「……それならば今日も艤装の燃料が尽きるまでお付き合いしますわ」
夜 ブイン基地 神官の部屋
日向「おや、時雨じゃないか」
時雨「……」
神官「こいつともケッコンすることにした」
日向「そうか」
時雨「……驚かないんだね」
日向「これくらい予想できるさ」
翔鶴「失礼します」
瑞鶴「しまーす」
神官「来たか」
~~~~~~
神官「特に説明する必要はないと思うが、俺と日向はケッコンすることにした」
瑞鶴「……は?」
神官「あと時雨ともケッコンする」
瑞鶴「ひ?」
神官「お前らはどうする……というのはおかしいか?」
日向「知るか」
時雨「もうどうでもいいんじゃないかな」
瑞鶴「ふぁ!? え、ケッコンって何言ってるのみんな?!」
神官「あれ、聞いてないのか」
翔鶴「私も、もう知っているものと考えいました」
瑞鶴「そんな……いきなりケッコンするなんて……」
神官「日向から告白されてな。余りに心ときめいてしまったものだから……つい」
瑞鶴「また貴方はそんな……」
日向「で、五航戦姉妹はどうするんだ」
翔鶴「少し、提督と二人きりにして頂けませんか」
日向「ま、そうだな。こんな衆人環視の中では出るものも出んか」
翔鶴「では私からお願いします」
神官「ああ。頼む。まぁ座ってくれ」
翔鶴「日向にいつ告白されたのですか」
神官「部屋から出た後に港でな」
翔鶴「どうでしたか」
神官「美しかった」
翔鶴「……そうですか」
神官「ああ」
翔鶴「ここに来るまでずっと、提督の為に私が出来ることを考えていました」
神官「結論は出たか?」
翔鶴「出ませんでした。ですが、私と一緒に居て下さるのなら提督の道に水底までお付き合いする覚悟です」
神官「……ありがとう」
翔鶴「いえ。愚かな私にはこの程度のことしか言えません」
神官「俺は翔鶴の献身に本当に、本当に感謝している」
翔鶴「……」
神官「俺はお前が本当に好きだ」
翔鶴「はい。知ってます」
神官「だが日向も同じくらい、ケッコンしたいくらい好きだ」
翔鶴「存じ上げています」
神官「時雨に対しても責任を取るつもりだ」
翔鶴「はい。提督の自業自得です」
神官「艦娘に対して好き放題やってきた俺ですら今回はさすがに少し不安だ」
神官「俺なりにお前のことを大切にするつもりだが……お前の言う一番には出来ないかもしれんぞ」
翔鶴「仮にそうでも我慢するのには慣れています。鶴は千年、気長に待ちます」
神官「……分かった。指輪は今は無いのだが、少し待ってくれ」
翔鶴「はい」
神官「では次の患者さん。どうぞ」
翔鶴「提督」
神官「はい」
翔鶴「殴っても宜しいですか」
神官「ごめんなさい」
瑞鶴「なんかこう……順番に喋らされるのは気に喰わないんだけど」
神官「あー……確かに粋ではないが。なにぶんケッコンは俺としても初めての試みだから仕方が分からんのだ」
瑞鶴「普通初めてだからこそ気合入れるものじゃないの?」
神官「一人の男が複数居る恋人の一人と結婚するという話を聞いたらお前はどう思う」
瑞鶴「不純だなーって」
神官「一夫多妻制なんだぞ。時を逃せば他の恋人に対して不平等に繋がる」
瑞鶴「あーもういいや。めんどくさい」
神官「だろ? めんどくさいとまでは行かないが、手間はかかる」
瑞鶴「で、私はそんな恋人の一人ってわけ?」
神官「そのつもりで呼んだ」
瑞鶴「……」
神官「……」
瑞鶴「……提督さん」
神官「なんだ」
瑞鶴「……昨日はその……ごめんなさい。言い過ぎました」
神官「気にするな。お前の言うことは当たっていた」
瑞鶴「うん。ほんとは私も気にしてないんだけど、何か提督さんが傷ついてたら可哀想だから一応謝っておいた」
神官「そういうのを自己中心的な行為と言うんだぞ?」
瑞鶴「ま、お相子ってことで一つ」
神官「……そうだな」
~~~~~~
瑞鶴「しかしまーアレだね。提督さんを幸せにするのは意外と難しいんだね」
神官「自分の幸せも難しいのに、ましてや他人だからな」
瑞鶴「戦争が終わったらさ、私と提督さんの契約は一応任期満了でいい?」
神官「契約ではない。お前の好意に支えられた約束だ。好きにしろ」
瑞鶴「私、シベリア鉄道って前から興味あるんだよね」
神官「そうなのか」
瑞鶴「ウラジオから乗って、一緒に乗り合わせた人達とウォッカ飲んで騒いだり……時々外で降っている雪を車窓から眺めつつ本を読んだり」
瑞鶴「レーティッシュ鉄道に乗ってアルプスを行くのもアリ!」
神官「お前、鉄道が好きなんだな」
瑞鶴「蒸気機関は産業革命の始まりであり交通革命の序章! 私は鉄道は人間の進歩の象徴みたいに思ってるよ」
神官「俺にしてみれば空母のお前のほうがよっぽど画期的だけどな」
神官「それに産業革命は今日の大量消費社会を構築する悪しき原点でもあるわけだ」
瑞鶴「もー、またそういう穿った見方をする」
神官「すまんな」
瑞鶴「そういえば空母もイギリスのだよねー。……鉄道も好きだけど、私、色んな国に行ってみたいんだ」
神官「ほう」
瑞鶴「私は知らないことが多すぎる。色んな事を吸収してみたい」
神官「……」
瑞鶴「日本でも世界でもいいけど、色んな物見て、色んな人に会って喋ってご飯食べてさ」
瑞鶴「大笑いしたくなるような嬉しくて楽しいことも、泣いちゃうくらい悲しいこともあると思うけど……それでも見たいし、そんな世界の中で生きていきたい」
神官「……」
瑞鶴「世界は不幸に満ちている、本当は幸福だって満ちている」
神官「……」
瑞鶴「提督さん……私ね? 昔はこの言葉の意味が分からなかったけど、今は分かるよ」
神官「……どこの誰だ? そんな素晴らしいことを言うのは」
瑞鶴「はいはい。……その誰かさんが教えてくれた言葉と確信があるから私は前に進める。怖いけど、怖くない」
神官「瑞鶴……」
瑞鶴「でもそのせいで提督さんを好きだって気持ちより、世界への好奇心の方が勝っちゃってるんだよね~」
神官「……くっくっく」
瑞鶴「提督さんとケッコンしたら好き勝手動けないでしょ」
瑞鶴「だから提督さんごめんなさい。貴方とケッコンをする気はありません」
神官「……」ニヤニヤ
瑞鶴「……何で笑ってんの」
神官「お前は最高だ」
瑞鶴「気持ち悪いよ」
神官「えっ!? 俺褒めてるんだけど!?」
~~~~~~
瑞鶴「日向さんと姉さんにも同じ話をしたら……お前は提督の望み通り成長した云々言われたんだけど。もしかしてそれ繋がり?」
神官「まぁ、そんなところだ」
瑞鶴「嘘だ。成長なんて絶対なんにも考えて無かったでしょ」
神官「どうしてお前は俺を無遠慮で無作法な阿呆だと決めつけたがるんですかね?」
瑞鶴「だって提督さんだし」
神官「……ちょっと真面目な話をするぞ」
瑞鶴「……」
神官「瑞鶴、お前の最大の欠点はおっぱいが小さ……痛い!? 俺の頭頂部が両腕でがっちりホールドされかつ正規空母の怪力で締められて凄く痛い?! 痛いですよ!?」
瑞鶴「次ふざけたこと言ったら口にオクタン価100のガソリン突っ込んで着火するからね」
神官「オクタン価20くらいのおっぱいの癖に」
瑞鶴「……」
神官「痛い痛い痛い痛い痛い!?」
~~~~~~
神官「いい加減高等ブリティッシュジョークに慣れてくれないか」
瑞鶴「あんたはいい加減下らない冗談を言うのをやめなさい」
神官「……はぁ」
瑞鶴「……まったく」
神官「……」
瑞鶴「……」
神官「……」ニヤニヤ
瑞鶴「……」ニヤニヤ
神官「俺は艦娘の司令官への病的な愛情は……必要悪だが正しい在り方だとは思わん」
瑞鶴「そーですか」
神官「さっきお前が『絶対なんにも考えて無かったでしょ』と言ったが、概ね肯定だ」
神官「目標というか、俺は単に自分の艦娘がああはなって欲しくなかった」
瑞鶴「……」
神官「俺の夢……幸せと未来というのも元を突き詰めればあの違和感に行き着くのだろうな」
神官「そして瑞鶴、お前は普通の艦娘にはならなかった。俺の理想通りなわけだ」
瑞鶴「そりゃまぁ……普通の基準をそこに置いちゃったら普通じゃないけどさ」
神官「幸せの形は見えそうか?」
瑞鶴「姉さんが居て、仲間が居て、提督さんが居る今も幸せだよ」
神官「……」
瑞鶴「どうしたの」
神官「正直に言って良いか」
瑞鶴「今更何言ってんの? 私達の仲なんだから言えば良いじゃん」
神官「お前を抱かせろ」
瑞鶴「……ごめん。ちょっと処女こじらせた。幻聴が聞こえる」
神官「ああ、すまん。俺も急きすぎて順序を間違えた」
瑞鶴「良かった。やっぱり聞き間違いだっ……ん?」
神官「瑞鶴、お前の成長を嬉しく思う。お前は俺の夢の一つの形だ」
瑞鶴「……ありがと」
神官「俺への好意より、他のものに対する好奇心が勝るのは寂しくもあるが嬉しくもある」
瑞鶴「そうなんだ」
神官「世界を見てこい瑞鶴! 色んな奴と出会って別れて、お前の好奇心を満たし続けろ!」
瑞鶴「……うん」
神官「そして心が生み出す喜怒哀楽を楽しんでこい! 俺への好意など綺麗に忘れて……ああ、時には全身が燃えるような恋もあるかもしれんぞ」
瑞鶴「うん!」
神官「知って、選んで、お前自身が見つけた道を歩いて……その先でまた、今とは違う新しい幸せを見つけるのも良いだろう」
瑞鶴「提督さん……」
神官「俺はお前の旅を全面的に支援する」
瑞鶴「ほんと!?」
神官「などと言うかバーカ」
瑞鶴「…………は?」
神官「お前はケッコンしたくないと言ったが、俺はお前と離れたくない。いや、さっき離れたくなくなった」
瑞鶴「……うん?」
神官「日向に告白された時に自分の中で何かが壊れた。あれは多分、俺の中の偏見か何かだ」
瑞鶴「……はぁ?」
神官「今日のお前は本当に魅力的で可愛い。そう素直に思える」
瑞鶴「あ、ありがとう……」
神官「ずっと一緒に居てくれ」
瑞鶴「……………………あれ?」
神官「瑞鶴、俺と一緒に美味しいオムライスを作ろう」
瑞鶴「……」
神官「ケッコンしてくれ」
瑞鶴「……」
神官「……」
瑞鶴「……決闘?」
神官「ケッコン」
瑞鶴「……健康?」
神官「ケッコン」
瑞鶴「……ケッテンクラート?」
神官「ヤー、ケッテンクラート」
瑞鶴「ケッテンクラートゥゥゥ!!」
神官「……」
瑞鶴「ケッテンクラートゥゥゥゥゥ!!!!!」
神官「……」
瑞鶴「ケッテンクラートゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」
小休止
乙
乙です
乙です
瑞鶴「えーっと、あれ? 提督さんは私を応援してくれないの?」
神官「落ち着け」
瑞鶴「これが落ち着いていられますか」
神官「何かあったのか」
瑞鶴「あんたからケッコンを申し込まれてテンパってるのよ!」
神官「あ、そうなんだ」
瑞鶴「せっかく艦娘が決意したんだから普通に応援してくれれば良いじゃん! 何で私が迷うようなこと言うわけ?」
神官「まぁ待て瑞鶴。よく考えろ」
瑞鶴「……ん?」
神官「正規空母がどうやってパスポートを取る」
瑞鶴「……不法入国」
神官「アホか。その点俺とケッコンすれば、コネでどこへでも連れて行ってやれるぞ」
瑞鶴「ケッコンせずに連れて行ってくれ無いんですかね……」
神官「俺にメリットが無いから嫌だ」
瑞鶴「ですよねー!」
神官「なんだ。お前、俺と一緒になるのは嫌なのか」
瑞鶴「……そこまで嫌ってわけじゃ無いんだけど」
神官「だったら良いだろうが」
瑞鶴「……そしたら他の場所に行きたく無くなっちゃうかもしれないし」
神官(あ、駄目だ。こいつ可愛い)
瑞鶴「……」
神官「……」
瑞鶴「……例えばだけど。ケッコンしたら、私にはどんなメリットがあるのかな」
神官「国家予算を横領して好きな物が買えるぞ」
瑞鶴「全然嬉しくない」
神官「では、ネイティブによる英国的な高等ジョークを身近に感じられる」
瑞鶴「られない」
神官「重婚だから自分がいつ飽きられるか緊張感を持つ充実した日々が過ごせる」
瑞鶴「そんなのやだ」
神官「二人で一緒に縁側に座ってひなたぼっこ出来る」
瑞鶴「……」
神官「寒い日には寒い、暑い日には暑いと言い合える」
瑞鶴「……」
神官「花見や月見、四季折々の行事の準備を……面倒だと言いながら二人で楽しめる」
瑞鶴「あー、なんか想像できる」
神官「一緒に台所にも立てる」
瑞鶴「……」
神官「俺が揉んでいれば胸も少しは、千切れる千切れる千切れちゃう!? やめて! 俺の耳はそんなに伸縮性は無い!!!」
神官「艦娘からの暴行を受けた上司ランキングがれば間違いなく頂点に立つ自信がある」
瑞鶴「あっそ」
神官「えー、先ほど述べた以外にも俺とケッコンすることは種々の効用があり、大変名誉なのである」
瑞鶴「へー」
神官「というわけで良いよな」
瑞鶴「何がよ……。ていうか提督さん、艦娘とケッコンするの御両親とかには報告してるの?」
神官「していないが」
瑞鶴「大丈夫なの?」
神官「他人が気にするのは俺の染色体の行方だ。お前らとなら何も問題はない」
瑞鶴「子供の有無じゃなくて……世間体とかは? 一般人は拒絶反応とかあるかもよ?」
神官「一般人が知らなければ良いだけだろう」
瑞鶴「……」
神官「また正直に言って良いか」
瑞鶴「下品なこと以外ならいいよ」
神官「俺は本気だ」
瑞鶴「……」
神官「ちなみにお前から俺はどう見ているんだ」
瑞鶴「手塩にかけて育てた娘を襲おうとする変態親父」
神官「きっついな」
瑞鶴「きっついよ」
神官「だがそこには変態親父なりの愛があるのだ」
瑞鶴「そんなものいらん、と一蹴できないのが私の弱さね」
神官「違うぞ。それこそがお前の俺への愛だ」
瑞鶴「耐えることが?」
神官「いいや、受け入れることが愛なのだ」
瑞鶴「もういいから」
神官「はい」
神官「もういいだろ。ケッコンしてくれ」
瑞鶴「……嫌よ」
神官「えー、何で!? 良いだろ! な! 頼む! 瑞鶴! この通り!」
瑞鶴「子供かっ! 軽々しく頭下げてんじゃないわよ」
神官「俺にとっては一大事なんだ」
瑞鶴「……提督さんは私の事好きなの?」
神官「好きだ。俺はお前のことが好きだ」
瑞鶴「どうせその言葉は提督さんの中の性欲が喋ってるんでしょ」
神官「違う」
瑞鶴「提督さんは私に対して今まで一度も……好きとか言ってくれなかったじゃん」
神官「実際、日向や翔鶴より好きじゃなかったからな。好きと言えば嘘になるだろうが」
瑞鶴「……」
神官「痛い痛い痛い痛い!!!!」
瑞鶴「じゃあいつ好きになったの」
神官「今日だ。今のお前は本当に輝いて見える」
瑞鶴「馬鹿じゃないの」
神官「それくらい自分でも分かっている。だが俺にとって切実なんだ」
瑞鶴「……ちなみにどれくらい好きなの」
神官「は? 何がだ」
瑞鶴「文脈から察しなさいよ! 私の事に決まってるでしょ!」
神官「ああ、お前か」
瑞鶴「いや、他に何があるのよ」
神官「俺のお前に対する気持ちは南太平洋より深く、北太平洋より荒々しい」
瑞鶴「……ふーん。南太平洋より深く北太平洋より荒々しいんだ」
神官「本当だぞ」
瑞鶴「……本当なんだ」
神官「瑞鶴」
瑞鶴「……なに?」
神官「好きだ」
瑞鶴「……」
神官「俺はお前が好きだ」
瑞鶴「……あっそ」
神官「本当に好きだ」
瑞鶴「……分かったわよ」
神官「ほんっっっとうに好きだ!」
瑞鶴「も、もう分かったってば」ニヤニヤ
瑞鶴「突然壊れたみたいに好き好き言い出さないでよ!」
神官「すまん。熱くなると目の前のことしか見えなくなってしまう」
瑞鶴「それって提督としてどうなの……そりゃ、言われて悪い気分じゃ無いけどさ」
神官「てっきりお前は翔鶴や日向を引き合いに出して比べさせるかと思った」
瑞鶴「そんなことしないわよ」
瑞鶴「提督さんがあの二人を本当に好きだって……見てて分かるもん」
瑞鶴「比べるのが怖いんじゃないよ。私にとって比べる行為がもう意味を持ってないだけ」
瑞鶴「好きってそれぞれが特別で、それぞれが個別に価値と意味を持ってるって分かったんだ」
瑞鶴「だから総量で比べても仕方ないじゃん?」
瑞鶴「あれ、もしかして提督さんが前に自分の艦娘を特別って言ってたのって……さっき私が言った意味での特別で合ってる?」
神官「……ああ。間違いない」
瑞鶴「……あ~あ、また成長しちゃいましたね~。こんなに成長出来る自分の行く先が恐ろしいよ~」
神官「お茶を濁さなくていい」
瑞鶴「バレた?」
神官「俺の気持ちをよく汲んでくれている」
瑞鶴「理解したくも無かったんだけど。ついうっかり」
神官「しかし不思議なのは、皆を大切にしようとする俺のことを……皆は浮気者と呼ぶのだ」
瑞鶴「あはは!」
~~~~~~
瑞鶴「大体何なのよ。一緒に美味いオムライスを作ろうって」
神官「決め台詞だ」
瑞鶴「アホ」
神官「駄目だったか」
瑞鶴「……一緒に、ってのは良かった」
神官「オムライスが良いんだろうが!!!!」
瑞鶴「あの思い出を大事にしてくれているのは嬉しいけど多分それは違う」
瑞鶴「提督さん」
神官「おう」
瑞鶴「大好き」
神官「知っている」
瑞鶴「提督さんは私のこと好き?」
神官「ケッコンしてくれないから嫌いだ」
瑞鶴「はぁ……少しは年齢相応になりふり構った方がいいと思うけど」
神官「知らん」
瑞鶴「……分かったわよ。ケッコンすれば良いんでしょ」
神官「してくれるのか!?」
瑞鶴「はい。不束者ですがよろしくお願いします」
神官「やった!!」
瑞鶴「喜びすぎ」
神官「しかし所詮口約束なわけだ」
瑞鶴「心配せずとも撤回とかはしないわよ」
神官「よって、前金として新郎新婦の誓いの口づけが必要だ」
瑞鶴「……本気で言ってる?」
神官「ああ」
瑞鶴「……いいよ」
どちらから言い出すでもなく立ち上がり、近づいた。
手を伸ばせば届く距離でその歩みは止まった。
瑞鶴「……」
神官「……」
瑞鶴「男なんだから、そっちから抱き締めてよ」
神官「少し照れが残ってしまった」
少しだけぎこちない動きで男が艦娘の背中に手を回す。
瑞鶴「……っ」
触れた手から体の震えが伝わってくる。
神官「お前もちょっと緊張しているな」
瑞鶴「……仕方ないでしょ。あなたと違ってこっちは初めてなんだから」
神官「俺もお前とは初めてだ」
瑞鶴「馬鹿」
神官「さすがに冗談だ。……固くならずに体重をもっとこちらに預けていいぞ」
瑞鶴「……ん」
艦娘は自分で立つことをやめ、体は自然と密着した。
神官「そうそう。非力な俺でもお前くらいは支えられるんだからな」
瑞鶴「はいはい。頼もしい頼もしい」
神官「感情を全力で出せ。人生が楽しくなるコツだ」
瑞鶴「あなたほど見苦しくなりたくない」
神官「おかげさまで俺の人生は順風満帆だ」
瑞鶴「前もこうしてたことあったよね」
神官「あったな」
瑞鶴「今回はちゃんと私の同意を得てからしたね」
神官「俺は好きな奴には尽くすタイプだからな」
瑞鶴「自分の欲望に忠実の間違いでしょ」
神官「間違いは誰にでもある」
瑞鶴「そーですね」
神官「瑞鶴」
瑞鶴「ん?」
神官「好きだ」
瑞鶴「うん。私も何故か提督さんのこと好き」
翔鶴「そうなんですね」
瑞鶴「うん。なんか自分でもよく……ん?」
日向「君たちは長話しすぎだ。勝手に入らせてもらったぞ」
時雨「やっぱりケッコンするんだね」
神官「あ、そういやお前ら居たな」
翔鶴「それが未来の妻たちへの態度なのですか」
神官「いや~」
瑞鶴「……提督さん」
神官「ん?」
瑞鶴「今は外野は関係ない。私だけ見て」
神官「……おう」
瑞鶴「一緒に幸せになろ?」
神官「……」
提督と瑞鶴の会話はこれで終わった。
日向「おぉ……」
翔鶴「まぁ……」
時雨「……他人のキスって変な感じするね」
まぁ、幸せそうで何よりだ。
小休止
乙です
乙です。
世界の真理の暴走と瑞鶴ご成婚。目が離せない流れが続きますね。
明石さんがどうなったのか気になります。
5月9日
早朝 ブイン基地 神官の部屋
神官「お……? もう朝か」
神官「……昨日、一昨日の密度が半端でなかったせいか寝ても頭が疲れているな」
瑞鶴「ふぁ~……おはよう」
神官「ああ」
翔鶴「おはようございます」
神官「うむ」
日向「おはよう」
神官「はい」
時雨「おはよう」
神官「多いなおい」
日向「一緒に生活することになるのだから、このメンバーで過ごすことに慣れておいた方が良いと思ったんだが」
翔鶴「さすがに狭いですね……」
神官「酒の席の勢いは怖いな。俺は自分の肝臓も心配だ」
瑞鶴「う~ん……とりあえず朝の海上護衛行ってきます」
翔鶴「私も朝のお風呂へ」
時雨「あ、翔鶴さん。僕も行くよ」
日向「行って来い」
日向「さて、君と二人きりになれたわけだが。昨日はとんだケッコン生活一日目だったな」
神官「そうか。それもそうだな」
日向「未来の同居人が一気に三人も増えて私は嬉しいよ」
神官「予想通りだったか」
日向「いや、木曾も来るかと思っていた」
神官「俺が振った、ということになる」
日向「そういう時もあるさ。三隈や漣達の所へは行ったか?」
神官「あいつらはにケッコンの話は良いだろ」
日向「まぁ、あいつらの君への好きは別物だろうしな。一応報告だけしておけ」
神官「おう」
日向「瑞鶴との話し合いはどうだった? 随分と長い時間かかったが」
神官「いや、最初に『ケッコンする気はありません』と言われてな」
日向「ほう」
神官「あいつは凄い奴だな」
日向「翔鶴、瑞鶴、私の三人で走り出し……序盤は翔鶴一強、中盤で私が追い上げて翔鶴と並び、終盤で私達二人を捲って瑞鶴がトップへ躍り出た」
日向「こんな感じか」
神官「何言ってるんだ?」
日向「なんでもないよ」
神官「俺もそろそろ仕事へ行くかな」
日向「無職の癖に何を言っている」
神官「基地警備だよ基地警備! 基地に深海棲艦の危機が迫っていないか確認する重大な任務だ!」
日向「やっぱり無職じゃないか」
神官「……もうすぐ軍属に戻れるから覚悟しておけよ」
日向「役職は?」
神官「ブイン基地司令だ」
日向「文官でも務まるような閑職か。聯合艦隊司令長官と比べれば天と地ほど差がある」
神官「やかましい! 俺が気にしてる事を言うな! 文句言うな!」
日向「同じ横須賀鎮守府だったのにな」
神官「転職した俺がまた戻れたのだから良いだろうが。普通の海軍なら有り得ん」
日向「艦娘を運用する側の海軍もまた未熟で、過渡期にあるわけか」
神官「そうだな」
日向「先人は偉大だな」
神官「それを自覚し行動する我々もまた然り」
日向「驕るな」
神官「おう」
日向「私もそろそろ朝の仕事だ。旦那様、愛する妻の出勤前にお出かけのお約束を頼む」
神官「猫語でお願い出来たらな」
日向「チューして欲しいにゃ」
神官「……」ゾワゾワ
日向「それは無い。戦艦パーンチ!」
朝 ブイン基地 執務室
神官「アイチチ……朝から戦艦パンチはキツイな……おはよう嶋田、長官殿」
嶋田「お、元凶様が現れたぞ。おい神官殿、見ろよこれ」
神官「うわっ、何だこの落書きの山」
山内「……婚姻届だ。この馬鹿者が」
神官「婚姻届?」
山内「どこから噂が広まったか知らんが……人間とケッコン出来ると考えたらしい」
神官「は~、モテモテだな。で、誰とケッコンするんだ。申請した者全員か?」
山内「殴っていいか?」
神官「俺はよくそれを聞かれるんだが何故だろうな」
昼 ブイン基地 港
曙「みんなお疲れ様。経験値計算とデータはこっちです」
日向「よーし、今日は那珂が一番だ」
那珂「私はいつでも一番だよ☆」
日向「……終わったら解散だ」
「「「「了解!」」」」 「酷くない!?」
磯波「……」ソワソワ
日向「あれ、磯波は何か用事でもあるのか?」
磯波「いえ! 別に何も!」
日向「嘘をつくな。見たら分かるぞ」
磯波「じ、実は……」
~~~~~~
日向「……長官との婚姻届?」
磯波「今なら長官とケッコンできるという噂が流れてて……」
日向「だからお前も出すわけか。どれ、一つ私が見てやろう」
磯波「あ……これです」
日向「えーどれどれ――――私、吹雪型9番艦『磯波』Lv.22は……聯合艦隊司令長官閣下とケッコンしたいです……ごめんなさい……」
磯波「は、恥ずかしいです……」
日向「……これじゃ婚姻届というより嘆願書じゃないか」
磯波「えっ!? 駄目なんですか!?」
日向「こんなものに頼るな」ビリビリ
磯波「ああああああ!? な、何するんですか日向さん!!!」
日向「本当に好きなら、その相手に面と向かって気持ちを伝えろ」
磯波「……無理です」
日向「お前の内向的な性格は好きだが、そのせいで損をするのは見過ごせん。私についてこい。長官と会わせてやる」
磯波「……」
日向「周りの者も君と同じ発想だろう。お前の書いたような手紙が長官の所には多く届いている。手紙を出したくらいじゃ返事も貰えんぞ」
磯波「うぅ……分かりました! 日向さんが与えてくれた機会を無駄にはしません! 爆雷投下します!」
日向「その意気や良し」
昼 ブイン基地 執務室
山内「しかし……一方的に婚姻届を渡しても結婚が成立しないことを艦娘達は知らないのか?」
嶋田「兵器に人間の結婚の常識を求めるのは酷だぞ。だからこそ片仮名のケッコンなのだろう」
神官「何か対策をしないとな……無闇に断るのも彼女たちの精神衛生上不味い。穢れにつけ入る隙を与えるかもしれん」
山内「……予想外だ。本当に予想外だ」
コンコン
山内「入れ」
日向「失礼する。長官はご在席か」
山内「ああ」
日向「私の知り合いの艦娘が君に話があるそうだ。少し外で話を聞いてやってくれないか」
嶋田(あ~、夕暮れの校舎、運動部の練習の声が目に浮かぶようだ。中学校時代を思い出す)
神官(この基地はいつから学校に変わったんだ)
山内「日向、貴様は無礼を承知で呼び出しているのか?」
日向「はい。お叱りは……責任は全て私が引き受けます。ですが、貴方に婚姻届を渡した艦娘たちが一体どのような気持ちなのか知っておいて欲しいのです」
山内「……良かろう」
日向「この艦娘です。では、私は外しますので」
山内「君は……」
磯波「吹雪型9番艦の磯波です! Lvは22です! よろしくお願いします!」
山内「よろしく」
磯波「……」
山内「……」
磯波「長官閣下! い、いいお天気ですね!」
山内「……今日は曇りだぞ」
磯波「……」
山内「……雨の日なんかは海に出るのが大変だろう」
磯波「はい! 視界が悪くて何も見えなかったりします!」
山内「そんな時はどうするんだ」
磯波「頑張ります!」
山内「……そうか」
磯波「ちょ、長官閣下……お忙しい中お呼び立てして……申し訳ございません」
山内「いや、丁度仕事も一段落して暇だったからね。気にしなくていい」
磯波「あ、良かった……」
山内「君も私に婚姻届を?」
磯波「……やっぱり婚姻届が一杯来てるんですか?」
山内「朝、執務室に来たらドアの前に書類の山が出来ていた」
磯波「あはは……」
山内「まったく……一体誰が婚姻届の話を……いや、これは君には関係ないな。すまない」
磯波「私も長官閣下に婚姻届を渡そうと思ってたんです」
山内「……そうなのか」
磯波「でも、日向さんが直接言えってアドバイスしてくれて」
山内「……」
磯波「長官閣下! 私、貴方とケッコンしたいです! って言えばいいんでしょうか? 好きと言うだけでいいんでしょうか」
山内「……好きにしたまえ」
磯波「あ、はい。じゃあ……好きの方で!」
山内「……ああ」
磯波「……あれ? 何かおかしくないですか」
山内「……何故私にそれを聞くのかね」
磯波「……はい」
山内「……ありがとう。嬉しく思うよ」
磯波「……だから……ケッコンして下さい」
山内「それは」「返事はしなくて大丈夫です!」
磯波「分かってますから」
山内「……」
磯波「他の子たちも私と同じだと思います。結果が分かっていても言わずにはいられない」
山内「……」
磯波「私、長官閣下と喋れただけでも嬉しいです。また明日も頑張って戦えます」
山内「……そうか」
磯波「じゃあ失礼します。ありがとうございました」
山内「ああ」
~~~~~~
山内「……」
日向「ありがとうございます」
山内「……歯を食いしばれ」
日向「はい」
山内「……」ガッ
日向「……っ」
山内「二度とするな」
日向「申し訳ありません」
神官「……」
嶋田「艦娘からの告白はどうだった」
山内「……少し放送室へ行ってくる」
~~~~~~
昼 ブイン基地 ドッグ
明石「……」
時雨「……ごめんね」
明石「……」
明石D「あの二人何かあったの?」
明石B「さぁ?」
ピンポンパンポーン
「聯合艦隊司令長官からの告知があります」
明石C「お?」
「司令長官の山内だ。今日はこの基地に居る艦娘に言っておきたいことがある」
「今、基地の中でケッコンについて騒がれているが、誤解を解いておきたい」
「私はどの艦娘ともケッコンしていない。したのは神官殿だ」
「したいのならケッコンはしても良いが、相手の承認を得てからするように」
「婚姻届を渡すだけでケッコン成立はしない。……君たちの気持ちは嬉しく思うが、私は全員とケッコンするつもりはない」
「私はLv.99になった艦娘としかケッコンしない。以上だ」
時雨「なんだか……かなり怒ってるみたいだね」
明石「……」
時雨「明石さんも婚姻届出した?」
明石「……出してません」
時雨「……そっか」
昼 ブイン基地 武器庫
神官「……」
皐月「あれ、提督だ」
文月「だ~」
神官「よ。元気してるか」
皐月「ボクらは相変わらずだね~」
文月「司令官はどう~?」
神官「まぁまぁだな」
皐月「さっき怖い顔してたけど?」
文月「してた~」
神官「……ちょっとな。ケッコンの話は聞いているか?」
皐月「さっき放送があったやつだよね? 武器庫に来る艦娘達も皆その話題で持ちきりだよ」
文月「長官のどこがいいのか文月には分かりません~」
皐月「ケッコンとかボクもよく分かんないや」
神官「実はな――――」
~~~~~~
皐月「へー……そんなことがあったんだ」
文月「司令官、ケッコンおめでとう!」
神官「ありがとう。お前らはパサパサしてて助かるよ」ナデナデ
皐月「へへへ」
文月「この感じ久しぶり~」
神官「漣と曙は?」
皐月「漣なら、部屋だと思うよ」
文月「曙ちゃんは港に居るよ~」
神官「ありがとう」
皐月「ねぇ提督、長月はどう?」
神官「……」
皐月「隠さなくていいよ。もう知ってるからさ」
神官「まだ目を覚まさん」
皐月「そっか。まだ無理か」
神官「だがあいつは生きている。長月なら必ず目を覚ます」
皐月「……知ってるよ」
文月「姉妹艦だからね~」
神官「……そうか。ではな」
皐月「次は武器庫を手伝いに来てね」
文月「仕事を残しておくからね~」
神官「了解だ」
昼 ブイン基地 港
神官「曙、ちょっといいか」
曙「あ、ちょっと待ってて。もうすぐ交代の時間だから」
神官「ああ」
~~~~~~
曙「お待たせ」
神官「今日は採点係なんだな」
曙「そうね。……提督、久しぶり。出迎えられなくて悪かったわね」
神官「いや、仕事だろう。仕方ない」
曙「私があんたを出迎えたところで、私と話すことなんて無くて困るでしょ?」
神官「そんなことはない」
曙「いいのよ。皆に平等に接することが出来るわけが無いし」
神官「……」
曙「頑張って話しかけようとしてるのは……何となく分かってたわよ」
神官「……変わりは無いか」
曙「こっちに来て友達が増えたわ」
神官「それは良かった」
曙「で、何の用なの」
神官「ケッコンの報告だ」
~~~~~~
曙「そっか。あの四人とね。おめでと」
神官「ありがとう」
曙「私がケッコンしたいって言ったらどうする?」
神官「勿論良いぞ」
曙「冗談よ」
神官「……そうか」
曙「頑張ってね」
神官「ああ」
昼 ブイン基地 漣の部屋
神官「俺だ、居るか」コンコン
漣「……入ってください」
神官「……泣いていたのか?」
漣「今日は非番なので……女王陛下のユリシーズ号を読んでいました」
神官「いい本だな」
漣「ラルストンが……ラルストンが……」
神官「……その名前だけで胸に来るものがある」
漣「あー、でも日本海軍の史実の方が悲しいですね」
神官「お前が言うと皮肉なのか本気なのか分からん」
漣「まぁ座って下さいご主人様。コーヒーくらい出しますよ。インスタントですけど」
~~~~~~
漣「今日はどうしたんですか? 漣にもケッコンの申し込みを?」
神官「あれ、聞いているのか」
漣「漣を舐めないで頂きたい。駆逐艦の情報網はブイン基地中に張り巡らされているのです」
神官「どこまで知っている」
漣「今のところ四人とケッコンする予定なのは知っています」
神官「さすがだ」
漣「で、今日はその報告というわけですか」
神官「ああ」
漣「瑞鶴に言ったように、漣にケッコンしようとは言ってくれないのですか? ご主人様」
神官「……昨日の夜の話だぞ。何でそこまでバレているんだ」
漣「駆逐艦を舐めないことです」
神官「うーん。漣は……なんか違うんだよな」
漣「さっすがご主人様。漣も同じ気持ちです」
神官「ある意味、全てはお前から始まったわけだしな」
漣「ご主人様の一番は漣の物ですから。ケッコンしてもしなくても、それは変わりません」
神官「……そうだな」
漣「ご主人様、目をつぶって下さい」
神官「お、何かしてくれるのか」
漣「はい。最後……というわけでは無いですが、折角の機会なので」
神官「よし」
目の前が真っ暗になる。いや、真っ暗にした。
前に座っていた漣がこちらに近づいてくる音がする。
キスだろうか……?
音が目の前で止まった。妙に甘い、いや……少し甘すぎる匂いがする。
俺はこの匂いを知っている。
漣「まだ目を開けちゃ駄目ですよ」
あぐらをかいて座っている俺の頭の後ろに手がまわされる。
一定方向への新たな引力によって、頭は柔らかい腹部へと着地する。
漣「捕まえました」
神官「これはご褒美か」
漣「そうですね。ご褒美です」
神官「お腹が柔らかいな」
漣「柔軟剤を使っておきましたから」
神官「くっくっく……」
漣「漣も提督のことをずっと見ていました。あ、男の人としてでなく仕事上の上司として、ですけどね」
神官「ああ」
漣「私達の為に頑張ってくれていた提督への私からのご褒美です」ナデナデ
神官「……ありがとう」
漣「漣は貴方の元で働けたことを後悔していません。……やっぱりこの髪の毛、見た目通りゴワゴワしてるんですね」ナデナデ
神官「俺自身の意思の固さが髪の毛にまで伝わっているんだ」
漣「はいはい。だと良かったんですけどね」ナデナデ
神官「……迷惑をかけたな」
漣「こちらこそ。戦艦を倒せなくて申し訳ない」
神官「志が高いのは良いことだ」
漣「日向達をよろしくお願いします」
神官「任せておけ」
小休止
乙です
乙です
支援あざ。
暑いなぁおい。熱中症には気をつけて。
流れてきた瑞鶴。好きです。
乙です。
夜 ブイン基地 港
三隈「吹雪さん。今日から雷撃ですわね」
吹雪「はい。よろしくお願いします」
神官「三隈、少しいいか」
三隈「あら、提督。御機嫌よう」
吹雪「……この人提督じゃないですよ」
三隈「私にとっては提督なのですよ」
神官「お前には喋っていないだろうが。黙っていろ」
吹雪「だっさ」
神官「……」
三隈「二人共」
吹雪「……陸上の弾薬庫から練習用魚雷をもう少し多めに持ってきます」
神官「雑魚のくせに気が利くじゃないか。駆け足、そして帰ってこなくていいぞ」
吹雪「うっさいです」
三隈「うふふ、提督? クマリンコ」ドゴォ
神官「アヒィ!」
吹雪「……行ってきます」
三隈「大人げ無いですよ」
神官「……」
三隈「長月さん、早く目を覚ますといいですわね」
神官「吹雪に何か教えているのか」
三隈「艦娘の秘密の特訓ですわ。私の中の全てを彼女に伝えています」
神官「様子を見るに、なかなか必死に食いついているみたいじゃないか」
三隈「最初は目も当てられませんでしたが……今は相当動けるようになっています」
神官「それを本人に言うなよ。つけ上がるからな」
三隈「了解ですわ」クスクス
神官「ケッコンの話を聞いたか」
三隈「長官も大きく出ましたね。Lv.99到達の経験値折り返しはLv.80後半の筈ですよね?」
神官「ああ。漣が半ば冗談みたいな数値に設定したからな」
三隈「今日は艦娘達が嘆息を漏らしていましたわ」
神官「しかし長官のやつ、ケッコンは公の立場から認められんとか言っていたんだぞ? 艦娘を面と向かって直接振ったのが相当応えたと見える」
三隈「そうなのですか。ところで提督は誰とケッコンされるのですか」
神官「時雨、翔鶴、瑞鶴、日向だ」
三隈「おめでとうございます。翔鶴さんと日向さんをよろしくお願いします」
神官「第四管区の艦娘に対して挨拶回りをしているのだが、誰々をよろしくお願いします、という奴が多いな」
三隈「それだけ結びつきが深かった証拠でしょう」
神官「三隈も俺とケッコンしたいのなら、考えてやらんこともないぞ」
三隈「それは結構ですわ。私は日向さんたちと違って提督にそれほど興味がございません」
神官「わはは!」
~~~~~~
吹雪「……三隈さん。戻りました」
三隈「お帰りなさい。では提督、訓練をしますので。御機嫌よう」
神官「ああ。ありがとう。…………吹雪、頑張れよ」
吹雪「……」ポカーン
神官「どこまでもムカつく奴だな! 長月の抜けた穴はお前が埋めるべきだろう! ……いくら嫌いでも、努力する者を馬鹿にはせん!」
吹雪「……ありがとうございます」
神官「……ではな」
三隈「……」ニコニコ
夜 ブイン基地 廊下
神官「おう、加賀」
加賀「こんばんは」
神官「どこかからの帰りか」
加賀「基地防衛の帰りです」
神官「にしては遅いな」
加賀「少し陸上機の妖精たちに捕まってしまいました」
神官「あいつら艦娘が好きだからな」
加賀「雄の妖精はともかく……雌まで寄ってくるのは何故でしょう」
神官「分からん」
加賀「ところで神官殿、何か私に報告すべきことがあるのでは?」
神官「いや、別に無いが」
加賀「ケッコンの話です」
神官「ああ、お前も聞きたいのか」
~~~~~~
加賀「なるほど。あの四人と」
神官「楽しみだ」
加賀「戦争も終わっていないのに気楽なことです」
神官「だからこそだ。生きた証を残したくなるのは自然さ」
加賀「……自然なのですか」
神官「多分な」
加賀「提督、私も……」
神官「ん?」
加賀「……いえ。なんでもありません」
神官「焦ることはない。新しい選択肢というのは魅力的に見えてしまうものだ」
加賀「……」
神官「選択肢そのものが失われない程度には時間をかけて、冷静に判断してもいいさ」
加賀「また難しいことを言いますね」
神官「はっはっは」
5月10日
朝 ブイン基地 執務室
山内「……陸軍高官の基地視察?」
嶋田「南方戦線、特にブインは先進的な艦娘運用を行う場所として一見の価値ありと判断した、とのことだ」
山内「何故断らなかった。航路の安全を確保するのも楽ではないんだぞ」
嶋田「俺に言うなよ。俺は伝えられた事実をお前と共有しただけだ」
山内「……陸軍か。当然裏があるのだろうな」
嶋田「そう考えるのが妥当だろう。現状は複数の艦娘運用が暗黙の内にだが許可されている」
神官「あきつ丸、まるゆで飽きたらず陸軍は艦娘を本格的に使うつもりなのか」
山内「馬鹿な。陸軍が艦娘をどうするのだ。対外戦争で領地獲得、経済復興なんて時代じゃ無いんだぞ」
嶋田「俺にもよく分からんが、強力な兵士というのは居ないよりは居るほうが都合がいいんじゃないか。お前らみたいな戦争をやりたがる奴らにとってはよ」
神官「ふざけるな。……確かに陸上転用しても強力な戦力にはなるだろう
山内「……」
嶋田「昔は陸上転用する余裕なんて無かった。しかし余裕は生まれた。他ならぬ山内長官の手によって」
神官「オッペンハイマーの気分だな」
山内「お前らが言っているのは全て憶測にすぎん」
嶋田「一ヶ月後を目安に来るらしい」
山内「作戦決行日と近いな」
嶋田「決行日を変えるか?」
山内「その次に控えるガダルカナル奪還をこれ以上遅らせるわけにはいかん。予定通りに行くぞ」
嶋田「了解」
山内「……これだけ協力してくれた陸軍を無碍に扱うわけにもいかんしな。調整を急ごう」
朝 ブイン基地 港
卯月「田中~、頼んでたお土産は持ってきたぴょん?」
田中「ええ、生八ツ橋の鮮度を保つのは大変なんですからね。どうぞ」
卯月「うおぉぉ~、八つ橋だぴょん!!!」
田中「卯月さんに喜んで頂いて嬉しいです」
卯月「ん~♪」スリスリ
卯月「あ、お前ら、さっさと船から積荷を下ろして検査にかけるぴょん」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
田中「卯月さんは良いんですか?」
卯月「責任者ってのは働くんじゃなくて責任を取るのが仕事ぴょん。どっしり構えてればいいぴょん」
田中「うわぁ……嫌な上司だなぁ」
卯月「ぷっぷくぷ~」
昼 ブイン基地 第一防衛ライン
瑞鶴「……攻撃隊、全機発艦!」
「うるせー! 俺らに命令するんじゃねぇ!」
瑞鶴「まーた虫の居所が悪いの?」
「キャリアーの分際で生意気なんだよ」
瑞鶴「はいはい。頼りにしてるからね、隊長殿」
「……ちっ。攻撃隊発艦すっぞ! 我に続け!」
瑞鶴「お願いね」
~~~~~~
瑞鶴「全機発艦完了……戦果を期待してるわよ」
飛鷹「ねぇ、瑞鶴さんの搭乗員妖精って態度悪くない?」
瑞鶴「あはは! あの子たちは素直じゃないだけよ」
隼鷹「私なら殴り飛ばすね~。キャリアーなんて呼ばれたら」
瑞鶴「落とされても毎回しっかりと私のところへ帰ってくるからね。可愛らしいとしか思わないよ」
隼鷹「確かにあんな口叩いても帰ってくるのは、ちょっと可愛いかもな」
瑞鶴「でしょ? 二人の搭乗員妖精はどんな子たちなの?」
飛鷹「普通にしっかりしてるわよ」
隼鷹「飛鷹の奴らはしっかりしてるけど、すぐ熱くなって目の前の敵に殺到するって搭乗員が言ってたぜ?」
飛鷹「アンタの所のは酒好きで、ちょっと抜けた奴が多いってウチのが言ってったわよ」
瑞鶴「搭乗員は空母に似るのかな……?」
夜 ブイン基地 翔鶴・瑞鶴の部屋
翔鶴「ああ、陸軍の視察の件ですよね」
神官「どう思う。連中の意図を」
翔鶴「艦娘を陸上兵器として利用したい……のでしょうか」
神官「俺も同意見だ」
翔鶴「あまり良い気持ちはしませんね」
瑞鶴「艦娘を新型の人型戦車くらいに思ってるんでしょ。気に喰わないわね」
神官「それにも同意見だ」
瑞鶴「視察受けるの?」
神官「陸軍とも協調路線でやってきている。無碍に扱うわけにもいかん」
翔鶴「彼らの安全を守るための海上護衛にせよ、今後を考えるにせよ、面倒です」
瑞鶴「一つ山超えたらもう一つ山が見えた気分だねー」
神官「……お前たちを見れば陸軍の奴らも気が変わるかもしれん」
瑞鶴「私を見れば陸軍が制式採用するに決まってる」
神官「何でだ」
瑞鶴「やっぱりほら、可愛いじゃん?」
神官「……」
翔鶴「……」
瑞鶴「翔鶴型空母二番艦瑞鶴、責任取って飲みます!」
~~~~~~
翔鶴「それで魚屋は言ったのです。仕入れた時が同じだって」
瑞鶴「ウケル」ゲラゲラ
神官「……」ウトウト
翔鶴「あれ、提督は眠いのですか」
神官「……ちょっと、寝る……ベッド借りるぞ」バタッ
瑞鶴「あ、私の……」
神官「……Zzz」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
翔鶴「私達も歯を磨いて寝ましょうか。瑞鶴、私のベッドで寝なさい」
瑞鶴「そだね。髪おろそ……」
~~~~~~
翔鶴「おやすみ」
瑞鶴「おやすみ」
……ん?
瑞鶴「ちょっと待って姉さん。何で姉さんが私のベッドの方へ行くわけ」
翔鶴「え? だって私のベッドで瑞鶴が寝るし……」
瑞鶴「なに、さも当然みたいな顔して言ってんのよ! 私と一緒に寝ると思ってたんだけど」
翔鶴「嫌よ。何で貴女と一緒に寝なきゃいけないの。子供じゃあるまいし」
瑞鶴「……じゃあ私が自分のベッドで寝るから」
翔鶴「遠慮しなくていいのよ。貴女は明日も早いし、広いベッドでゆっくりしたほうが良いじゃない」
瑞鶴「お気遣い御無用。妹に薄情な姉さんの匂いのついたシーツを使うくらいなら提督さんの加齢臭に包まれた方が良いです」
翔鶴「へぇ……瑞鶴、随分と姉に対して言うようになったわね」
瑞鶴「姉さんこそ妹に対して随分と薄情なんじゃない」
翔鶴「……じゃんけんで決めましょう」
瑞鶴「勝った方は?」
翔鶴「貴女のベッドを使えます」
瑞鶴「よしっ! 乗った!」
翔鶴「最初はグー……」
瑞鶴「じゃんけん、ポン!」
翔鶴「……負けました」
瑞鶴「よしっ」
瑞鶴「おやすみ」
翔鶴「……おやすみ」
ベッドで大の字になって寝ている男を端に寄せ、空いた隙間に身を横たえる。
瑞鶴「……提督さんの背中おっきいな」
呼吸とともに大きく膨らみ、規則正しく動く背中を見つめていると睡魔が襲ってきた。
瑞鶴「……」ウトウト
匂いがする。甘くて……柔らかくて……いつまでも近くに居たくなるような……提督さんの……提督さんの……甘い……甘い? 提督さんの匂いが甘い? あれ? そんなわけあるわけない。
翔鶴「……」ピトッ
※ベッド上の構成図
翔鶴 瑞鶴 神官
翔鶴「だって……瑞鶴ばっかりずるい」
瑞鶴「じゃんけんで決めたことでしょーが!」
翔鶴「良いじゃない! 私は普段真面目なんだからルール違反くらいしても!」
瑞鶴「真面目な人はそんなこと言いません」
翔鶴「どいてよ。折角提督と二人で寝られるチャンスなんだから」
瑞鶴「なりふり構わない姉さんが怖い」
神官「う~~ん……うるさいぞお前ら……静かにしろ」
翔鶴「……」
瑞鶴「……」
神官「姉妹仲良く……寝ればいいだろうが。何故それが分からん……Zzz」
翔鶴「……」ドスッ
瑞鶴「……」ゴッ
神官「いったぁ!!」
瑞鶴「提督さん真ん中来てよ」
翔鶴「それで解決です」
神官「……分かった」
※現在
翔鶴 神官 瑞鶴
瑞鶴「これで姉さんも文句無いでしょ」
翔鶴「姉は満足です」
瑞鶴「……ね、提督さん。腕枕してよ」
神官「腕枕すると朝に腕が痺れるんだよ」
瑞鶴「知ったこっちゃない」
神官「しょうがないなぁ」スッ
瑞鶴「おほっ! いいねいいね! 意外としっかりした反発枕じゃん!」
翔鶴「……」ツンツン
神官「……こっちもか」スッ
翔鶴「……はぁ……賢い妹を持った私は幸せものです」
瑞鶴「なにそれ」ケラケラ
神官「最近翔鶴が楽しそうで何よりだ」
瑞鶴「提督さん」
神官「何だ」
瑞鶴「南太平洋より深く、北太平洋より荒々しい気持ちを私に見せてよ」
神官「……」
翔鶴「へぇ、妹にはそんなことを言って媚びているのですか」
神官「こ、媚びているとは酷くないか」
瑞鶴「あれ~、あの言葉は嘘なの」
神官「うーむ……」
翔鶴「提督は艦娘が同時に二人居る場合、どのような誠意を見せてくれるのか楽しみです」
神官「こうするか」
枕にしている二の腕は使わずに一の腕、つまり前腕を曲げて二人の頭を同時に撫でる。
瑞鶴「……」
翔鶴「……」
神官「どうだ」ナデナデ
瑞鶴「……寝よっか」
翔鶴「そうですね」
神官「呆れるくらいなら最初からそうしてくれ」
5月12日
朝 ブイン基地 執務室
山内「詳細が決まった。陸軍の視察は6月12日だ」
嶋田「ほぼ一ヶ月後か」
神官「どちらで来る?」
山内「空路だ」
嶋田「まだ楽だな。幸い護衛の戦闘機は余るほどある」
山内「余っているからといって定数を割られては困るぞ」
神官「目的は何と言ってきている」
山内「長ったらしい文章を要約すれば親善と友好だ」
神官「いつも通りに端的で素晴らしいな」
嶋田「面子はどうだ」
山内「少佐四人に中将が一人、残りはその護衛」
神官「少佐か。次世代を担うエリートたちなのかね」
山内「基地内を適当に見て回るだけだから余計なのは要らん、とのことだ」
嶋田「そういうわけに行くか。見たくないものばかり見せてやろう」
夜 ブイン基地 大部屋
長門「さて、来るショートランド奪還作戦の最終目標をもう一度確認しておく」
日向「……」
陸奥「……」
霧島「……」
伊勢「はい」
あきつ丸(雰囲気が怖いであります)
長門「我々の最終目標はショートランド泊地を根拠地とするブレイン……指揮官級深海棲艦の撃滅だ」
日向「今回はどのタイプか確認できているか」
長門「前回の強行偵察では基地の最深領域に突入できていないので姿を確認はしていないが……ショートランドから逃げてきた奴らの話を聞くと変異型で艦種は姫、戦艦タイプらしい」
陸奥「硬そうね」
日向「陸奥は硬くて太いのが好きだろ? ビッグセブンだし」
陸奥「言ってることが何一つ理解できないんだけど」
伊勢「あはは~」
あきつ丸(怖い……海軍怖い)
長門「おい、一応作戦会議なんだぞ」
日向「ああ、大丈夫だ。続けてくれ」
長門「指揮官級を撃破した後に、速やかにあきつ丸の大発で妖精を揚陸し……港湾施設の確保を行い、作戦完了だ」
伊勢「徹甲弾で殲滅の形だよね?」
長門「ああ。徹甲弾でケリをつけよう」
霧島「私はどうすれば良いでしょう」
長門「霧島は電探を頼む。あきつ丸の護衛もな」
霧島「了解」
あきつ丸「すいません。質問しても宜しいですか」
長門「ん? 何だ」
あきつ丸「先程から指揮官級やブレインと呼ばれる存在を撃破する想定ばかりされていますが、指揮官級というのは旗艦とはまた違う存在なのですか?」
日向「あきつ丸は根拠地攻略に参加するのは初めてか。データも見たこと無いか?」
あきつ丸「一応陸軍の所属ですので、陸軍のデータしか閲覧出来ず……申し訳ない」
陸奥「指揮官級……ブレインを撃破すれば敵全体の戦闘能力が格段に落ちるのよ」
あきつ丸「そうなのですか」
長門「深海棲艦は同じ艦種でも個体ごとに戦闘能力が異なる。これは知っているか?」
あきつ丸「はい。よく理解しています」
長門「大型艦になるほど知性を持つようになるが、奴らは基本的に組織的な戦闘を出来るほど賢くない。そんな獣の群れをまとめる存在こそが」
あきつ丸「ブレイン……指揮官級というわけですか」
長門「その通り。指揮官級の見分け方というか、特徴としてその個別性がある」
長門「指揮官級は変異型と発展型に分けられる。今回は変異型だ。特別な個体として生まれてくると考えられている。呼称艦種は主に鬼もしくはと姫。こいつらは量産型とは違う。個体それぞれがワンオフだ」
長門「圧倒的な装甲と耐久力、そして攻撃力。その巨体のせいで機敏な動きは出来ないし最前線へ出てくることも無いが、それはつまり敵根拠地の最深部まで行かねば撃破する機会も無いということでもあり、攻撃側から見れば悪夢のような存在だ」
長門「さっきは戦艦タイプと言ったが、雷撃も砲撃も航空戦もやる奴も可能性が高い。タイプはあくまでタイプ。見た目で判断しただけのものだ」
あきつ丸「それは確かに恐ろしいのであります」
長門「これは公式には未確認だし、証明も出来ない事なんだが……指揮官級との単純距離が近くなるほど量産型の深海棲艦は強力化する」
日向「まぁ戦場を知る我々にとっての事実だしな」
伊勢「指揮官級を守るために近くに強力な深海棲艦が配備されてるだけなのかもしれないけどね」
長門「ともかく、そんな色々と面倒な指揮官級を倒せば敵の組織的攻撃は一旦止むんだ」
日向「頭を潰せば敵の攻勢は止むし混乱が起こる。我々は敵が体勢を立て直すまでの間、各個撃破の繰り返しが出来る」
あきつ丸「それで指揮官級を倒す算段について念入りに……」
日向「人類の戦いは指揮官級の深海棲艦との戦いだったと言い換えてもいいくらいだよ」
あきつ丸「ちなみに発展型はどのような存在なのですか」
日向「深海棲艦の通常の艦種、戦艦や空母が指揮官級へと順当に発展した形だ。変異型は奇形……まあ我々の感覚からすると、だぞ? 奇形なのだが、発展型の見た目は量産型の深海棲艦と変わらん」
日向「だが攻撃力、装甲、何もかもが量産型の比ではない。まぁそれも変異型と比べればマシなのだがな。心配せずとも殺気が違うから戦場で出会えば一発で分かる」
あきつ丸「聞いた限りでは変異型よりも弱そうですね」
日向「徹甲弾が当たる限りならば確かに弱いんだがな~」
伊勢「変異型と違って機動力もあるし、的が小さいから当たらないんだよね~」
あきつ丸「……どちらも面倒な存在なのですね」
日向「この作戦で出くわすことは無いだろうし、心配せずとも良い」
伊勢「というかぶっちゃけ……変異型にも気をつけなくてもいいんじゃない?」
長門「気を抜くな。念には念を入れておけ」
あきつ丸「またしても疑問が生まれたのであります」
長門「お前にはまだ伝えてなかったか……今回の作戦はな――――――」
~~~~~~
あきつ丸「……確信しました。この作戦、どう転んでも絶対に成功するのであります」
長門「よし、戦闘までに各自必要な物を用意しておくように。あきつ丸は大発だ」
長門「今日は以上。解散」
小休止
乙です
乙~
おつです
乙です。
誤字脱字はセリフ内であれば艦娘が噛んだと思って下さい。よろしくお願いします。
なるだけこのスレ内で終わらせるつもりだったけど跨ぎそうです。
支援感謝。。
乙です。
とても楽しみにしてるスレなのでどこまでもついていきます。
>>747
感想をいつも楽しみにしてます。
まぁ暇つぶし程度の娯楽にしてくれると嬉しいです。
夜 ブイン基地 ドッグ
時雨「あ、神官様」
神官「もう仕事は上がりか?」
時雨「後は筑摩さんに引き継いで終わりだよ」
神官「なら少し待つ。終わったら声を掛けてくれ」
~~~~~~
時雨「お先に失礼します」
明石B「あ、お疲れ様です。また明日!」
明石D「お疲れ様です」
明石「……さまです」
時雨「……」
~~~~~~
時雨「お待たせ」
神官「この後何か用事はあるか」
時雨「ご飯食べるだけ」
神官「じゃあ街の方まで行かないか」
時雨「基地の外へ出ていいの?」
神官「俺も行ったことが無い。保護者同伴なら問題無かろう」
時雨「やったー! 行こう行こう!」
夜 ブイン基地 警備兵詰め所
警備兵「神官殿っ! 遅くまでご苦労様です!」
神官「ちょっと外出したいんだが、車を借りても良いか」
警備兵「車をお貸しするのは全く問題無いのですが……。この時間に外出でありますか」
神官「ああ。街に行って買い物がしたい」
時雨「買い物、買い物~」
警備兵「……食料品ですら配給が滞っておりますし、市街地は治安も悪く電気もろくに通っていない状態です。買い物は出来ないと思います」
時雨「あっ」
神官「……そこまで酷いのか」
警備兵「はい」
神官「すまない。日本の感覚で喋ってしまった。忘れてくれ」
警備兵「はっ! 忘れます」
警備兵詰め所から艦娘の営舎への帰り道、二人は静かだった。
神官「……」
時雨「……」
神官「すまなかったな」
時雨「いいよ。僕も忘れてたから」
神官「……そういえば我々は戦争中だった。だが基地の島ですらこれ程とは予想外だ」
時雨「きっと明日の朝には基地中で噂になってるよ」
神官「やっぱりそうだよなぁ~。うわぁ~嫌だな~」
時雨「あはは。常識が無い人は嫌われちゃうね」
神官「はぁ……」
時雨「……提督、手、繋いでいい?」
神官「いいぞ」
時雨「やった」
~~~~~~
神官「時雨の手は小さいな」
時雨「提督の手がおっきいだけだよ」
神官「お前とはあれだけ関係を持ったのに……こうして手を繋いで歩くなんて初めてだな」
時雨「あはは。そだね」
神官「明石とは仲直りをしたか?」
時雨「ううん、まだ。ちょっとずつ喋るようにはなってるんだけど」
神官「それならすぐに仲直り出来るよ。……あの姿を見たら山内はなんと言っただろうか。間違いなく好きにはならんよな」
時雨「普通に考えれば嫌われちゃうんじゃないかな」
神官「そうだよな」
時雨「もし外してあげなかったら……明石さんはもう僕と口をきいてくれなかっただろうね」
神官「間違いない」
~~~~~~
時雨「営舎に着いちゃったね」
神官「それじゃあな」
時雨「……待ってよ」
神官「ん?」
時雨「僕が食堂行くから付き合って」
神官「俺はもう食べてるんだけどな」
時雨「おかずちょっとあげるから」
神官「行こうか」
時雨「……手、このままでいいでしょ?」
神官「他の艦娘の精神衛生上良くない」
時雨「お願い」
神官「……」
夜 ブイン基地 廊下
浜風「なっ、何をしているんですか!」
時雨「あ、浜風だ」
神官「どうしたんだ浜風。そんな慌てた顔をして」
浜風「きっ、きっ、貴様は何故時雨と手をつないでいるんですかと聞いているんですか!」
神官「途中ではぐれないように」
浜風「嘘をつくなぁ!!」
時雨「浜風、僕から頼んだんだよ」
浜風「大丈夫。私が今この男を成敗して貴女を助けてます!」
神官「お前は本当に人の話を聞かないな」
~~~~~~
夜 ブイン基地 食堂
おばちゃん「はいよ、どうぞ」
時雨「ありがとう」
おばちゃん「時雨ちゃんはいつも頑張ってるから、ほうれん草の胡麻和え多めだよ!」
神官「お姉さん、自分も多めに……」
おばちゃん「あんたはさっき食ってたじゃないか! どっか行きな!」
神官「あのおばちゃん、前から俺に冷たい気がするぞ」
時雨「働いてないって分かるんじゃないかな。本能的に」
神官「電探かよ。……いや、そもそも俺は働いているし」
時雨「ほら、提督、あーん」
艦娘は箸で胡麻和えを少し摘むと、隣の席に座っている男の口元へそれを差し出す。
時雨「ほら、あーんしてみて」
神官「……」
時雨「あ~ん?」
とても嬉しそうに差し出すものだからつい顔に見とれてしまった。
神官「……」パクッ
時雨「どう?」
神官「美味い」
時雨「そっか。じゃあ……もうちょっとだけ。ほら」
神官「……」パク
時雨「美味しい?」
神官「うむ」
時雨「……しょうがないなぁ。じゃあ――――」
結局、胡麻和えは殆ど俺が食べた。
時雨「美味しかったね」
神官「なんか悪いな。俺ばっかり食べてしまった」
時雨「……この後、提督の部屋行っても良い?」
神官「いいぞ」
時雨「じゃあお風呂入ったらすぐ行くね」
神官「ああ」
夜 ブイン基地 神官の部屋
瑞鶴「ちーっす。今日もお酒飲もう~」
翔鶴「失礼します。……先客が居たようですね」
神官「……Zzz」
時雨「……」スゥスゥ
二人は布団の中で気持ちよさそうに眠っていた。
翔鶴「……」クンクン
翔鶴「部屋の匂いに変化がありません。行為をする前に寝てしまったのでしょう」
瑞鶴「……」
翔鶴「……なによ」
瑞鶴「姉さん、気持ち悪い」
翔鶴「うるさいわね」
瑞鶴「どんどん駄目になって行くように見えるんだけど」
翔鶴「知りません」
瑞鶴「それにしても……どうよこの二人」
翔鶴「まるで親子みたいですね」
瑞鶴「時雨さんが良い顔してる。こんな男が好きなんて……時雨さんも馬鹿だよね~」
翔鶴「我々が言えることでは無いでしょう」
瑞鶴「私は姉さんと違って提督さん『から』ケッコンしてって言われた側だし?」
翔鶴「……」
瑞鶴「みんなとはちょっと立場が違うって言うか~……痛い痛い痛い痛い!! つねらないで!!!! つねらないで姉さんごめんなさい!!!!」
翔鶴「あまり調子に乗らないでください。まだ処女のくせに」
瑞鶴「ドン引きだわ~。この人性格変わりすぎてドン引きだわ~」
翔鶴「起こすのは良くないですし、我々は部屋で飲み直しましょう」
瑞鶴「いいね! 酒保でおつまみ買って行こ」
翔鶴「……今日のところは時雨さんに譲りましょう」
瑞鶴「はいはい。嫉妬しちゃだめだよ」
翔鶴「……」
瑞鶴「私を睨まないでよ……」
小休止
乙~
いつも面白いSSありがとー
乙です
乙です。
嫌な事があったあとに読んだので気分か晴れました。
いつもありがとうございます。
乙です。翔鶴さんかわいい
このSSのおかげで彼女ができました
これからも楽しみにしてます!
これはすごいなあ
何がすごいってとにかくすごいんだなあ
ちょっと休憩に安価
一つ下と二つ下に出してくれたキャラ絡ませます
飛鷹
初霜
把握。レズは期待しないようにね。
乙です。
安価逃したのは残念ですが、楽しみにしてます。
5月13日
朝 ブイン基地 廊下
卯月「おー、長官! おはようぴょん」
山内「おはよう」
卯月「ちょうどいいところで会ったぴょん。実は相談があるぴょん」
山内「どうしたんだね」
卯月「お耳を拝借……」
山内「うん、ふむふむ」
卯月「ごにょごにょごにょ」
山内「伊19は……言葉が怪しいから……中国のスパイの可能性が高い……?」
卯月「ほぼ100%で間違いないぴょん」
山内「19君は優秀な潜水艦だぞ。偵察能力にも定評がある」
卯月「信用しちゃ駄目ぴょん」
山内「……君の好みの問題ではないのかね」
卯月「そんなこと無いぴょん。多分」
山内「たしかに『なの~』という発音が『アル~』と似ていなくもない」
卯月「さっすが長官。見える目があるぴょん」
山内「馬鹿者。冗談に決まっているだろう。そんなことで仲間をスパイ認定するんじゃない」ゴン
卯月「アイチッ!」
昼 ショートランド・ブイン間連絡海域 第一防衛ライン
長門「Lv.99まであと73……Lv.99まであと73……」
衣笠「な、長門さん?」
長門「こい、早く来い、私が討ち滅ぼしてやる、こい、こい、こい」
矢矧「第一ラインにまで来るなんて……長門は余程ケッコンがしたいのね」
長門「何でこんなに経験値が必要なんだぁぁぁ!」
能代「長門さんの気持ちが痛いほど分かります」
夜 ブイン基地 執務室
山内「貴官の海軍への復帰を認める」
嶋田「いぇーい」
伊勢「おめでとう~!」
山内「えー、異例なことではあるが、資質を認め中将相当でブイン基地司令として復職させる」
嶋田「すげぇぇぇ!」
伊勢「すごぉぉぉい」
神官「黙れお前ら」
山内「これが各種書類だ。サインしろ」
神官「はいはい」
~~~~~~
山内「……うん。書類は問題ない。復職した気分はどうだ」
ブイン司令「何も変わらん」
山内「司令の仕事は暇だから神官としての役目も果たせよ」
ブイン司令「暇を持て余していたからな。丁度いい」
山内「僕も少しは楽になる」
ブイン司令「最前線に最高指揮官が居るというのもおかしな話だろう。この機会にトラック辺りに引き篭もったらどうだ」
山内「前も言ったろう。自分の進退が決まる戦いで奥に下がっていられるか」
嶋田「失脚したら次の長官は俺だろうな」
ブイン司令「あり得る。俺もあり得る」
山内「嶋田はあるが、妖怪どもに嫌われているお前は無い。嶋田中将、頼りにしているからな」
嶋田「ま、適当な分だけ頼りにしてくれや」
翔鶴「提督、お帰りなさい」
ブイン司令「ただいま」
夜 ブイン基地 神官の部屋
日向「また肩書が変わったのか」
ブイン司令「中身は変わってないから安心しろ」
瑞鶴「業務内容はどう変わるわけ」
ブイン司令「戦術が俺で、戦略が山内担当という形だ」
翔鶴「つまり……長官が来られてからブイン基地の司令は空席で、本来基地司令の果たすべき仕事を長官が肩代わりされていましたから本来の役割に戻ったということです」
瑞鶴「通訳ご苦労! じゃあ山内さんが今まで忙しく働いてたわけだ」
日向「君も少しは見習えよ」
ブイン司令「俺は働いている。繰り返し言うが過去、現在は勿論、未来においても俺は働いている」
5月18日
昼 ブイン基地 おっぱい
矢矧「基地司令殿、どうかされたのですか」
ブイン司令「完全装備で防衛の待機か」
矢矧「はい」
ブイン司令「しかし良い艤装だな。流石は阿賀野型だ」
矢矧「ありがとうございます」
ブイン司令「触っていいか」
矢矧「……胸は触らないで下さいね」
ブイン司令「ああ」ムニ
矢矧「胸は触るなと言ったわよね!!!」ゴガッ
ブイン司令「マリアナッ!?」
昼 ブイン基地近海 演習場
三隈「ではこれより、二対二の演習を始めます」
三隈「飛鷹、初霜チーム」
飛鷹「はい」
初霜「はい!」
三隈「隼鷹、吹雪チーム」
隼鷹「おうよ!」
吹雪「はい!」
三隈「空母が撃沈判定を食らった時点で戦闘終了です。駆逐艦はお互いの空母を守るためにどのような動きをすべきか、よく考えるように」
初霜「はい!」
吹雪「はい!」
三隈「空母の二人は、初手を放ち終わった設定で戦って貰います。放たれている艦載機を収容し、二次攻撃隊をいかに早く編成するか工夫を見せて下さい」
隼鷹「ま、ちゃちゃっと回収して出せば良いんだろ?」
飛鷹「あんたね……話はそう簡単じゃ無いのよ。攻撃隊の収容と二次攻撃隊発艦の際に発生する空白の時間を護衛と連携してどう」「ああ、もううるさいうるさい! お前、そういう話し始めると長いんだよ」
隼鷹「アレだ、要は勝てば良いんだよ」
飛鷹「ま、それもそうね」
三隈「期待しています」
三隈「では、始め!」
十分な距離を取り相対した二組から、合図とともに駆逐艦が矢のように放たれる。
初霜「……」
吹雪「……」
互いの駆逐艦の目的は一つ。敵空母の排除である。その障害となるものは何でも排除する。
一対一で装備は互角、こうなると勝負の決め手は
初霜「はぁ!!!」ダンダン
吹雪「……」
実力差である。
放った砲弾は空を切る。発射した者は、内心動揺を隠しきれなかった。
初霜(そんな!? 今のを簡単に!?)
鋭さはあった。それは間違いなかった。
吹雪「……」ダンダン
連装砲の発射音と共に今度は砲弾がお返しとばかりにこちらに飛んでくる。
初霜(くっ!!)
砲弾が背中の艤装をかすめる。
飛鷹「ちょっと初霜さん! 何やってるの!」
チームメイトと通じたネットワークを介して通話装置から怒声が飛んでくる。
初霜「飛鷹さん、吹雪が予想以上に強いわ! 気をつけて!」
飛鷹「貴女はLv.31、吹雪は20そこそこじゃない! 勝てないわけ無いでしょ」
初霜「ああ……ちょっと黙ってて下さい! 集中しないと勝てません!」
飛鷹「なっ!? ……いいわよ。そこまで言うなら勝ちなさいよね」
初霜「分かってます! 通話終了!」
仲間に怒声を浴びせながらも飛鷹は内心焦っていた。
飛鷹(何で隼鷹はあんなに艦載機回収が早いのよ!?)
遠目で見て隼鷹はかなり余裕があるように見えた。
隼鷹「♪~」
実際、隼鷹には精神的に余裕があった。
飛鷹(やっぱりあいつ……詠唱が早い!)
呪符式の艦載機運用の場合、術者の詠唱により発着艦作業は行われる。
飛鷹(隼鷹は全然練習してないのに……何でよ!!)
彼女の詠唱は理詰めで練習の成果により神経質なほどに丁寧だったが、それ故脆かった。
三隈(飛鷹さん。実戦に必要なのは丁寧な詠唱だけではありませんことよ)
結果として、飛鷹の着艦作業は遅々として進まなかった。
同じチームの彼女も焦っていた。
初霜(さっきからおかしい)
初霜「でやぁ!」ダンダン
吹雪「……」スィッ
砲撃目標は水面に前のめりで倒れこむ。
初霜(やったわ! もうあの体勢から回復することは出来ない! 沈んで復元力で浮き上がったところへ魚雷を……)
吹雪「……」
だが完全に倒れこむことは無く、水面スレスレのところで踏ん張り航行を続ける。
直撃コースだった筈の砲弾は空を切った。
初霜「えぇ!?」
初霜(何でそんな機動が出来るの!? どんなナノマシンしてるの!?)
吹雪「……」ダンダン
初霜「しまっ」
完全に油断した。咄嗟に回避したが、一発が左肩に直撃した。
三隈「初霜、被弾。損害、小破。左部連装砲及び魚雷発射管使用不能」
通話装置から審判のジャッジが告げられる。甘めの小破で良かった。
実弾なら魚雷発射管も誘爆して大破だったに違いない。
初霜(確信しました。吹雪は強い。レベルなんて関係ない。この子は強い)
初霜(……とても勝てない)
せめて時間を稼がなければ。航空戦に持ち込めば勝機はある。
初霜「飛鷹さん! 二次攻撃隊編成はどう!?」
飛鷹「やってるわよ! あとちょっとで編成作業が……」
隼鷹「よっしゃぁ~、じゃあいっちょ頼むぜ! みんな!」
聞きたくない一言が、余計な想像を掻き立てる一言が聞こえた。
飛鷹「嘘……そんな……」
初霜「諦めちゃ駄目! 作業を続けて!」
飛鷹「うるさい! 私に指示しないで!」
初霜「こんな時に何を……くっ、艦載機が」ダンダン
群がる鳥の如き艦載機が接近してくる。せめてもの気休めに空に向けて豆鉄砲を発射が、その効果は見て取れなかった。
吹雪「そっちより自分の心配したらどうですか」
初霜「あ」
やられた。その位置は、
吹雪「終わりです」
雷撃の直撃コースだ。
三隈「初霜、雷撃により大破。飛鷹、航空機の急降下爆撃により大破」
三隈「見応えの無い試合でしたわね」
飛鷹「……」ブスッ
初霜「……」
隼鷹「吹雪ちゃんナーイス!」
吹雪「隼鷹さんも流石です!」
三隈「飛鷹さん。今日の敗因は何ですか」
飛鷹「……駆逐艦の戦いに気を取られて艦載機運用に支障を来しました」
三隈「初霜さんが悪いと言いたいのですね」
飛鷹「……」
三隈「一応私は貴女の上司でしてよ? 目上には敬意を払えと教わりませんでしたか」
飛鷹「……すいません」
三隈「よろしいですわ。では、初霜さんにも謝りなさい」
飛鷹「えっ!? 何でですか!?」
三隈「うふふ、クマリンコ。貴女の甘ったれた精神が目に見えるようですわ」
飛鷹「……私ばかり非難される理由が分かりません」
三隈「それが今の貴女の限界です。考えなさい」
飛鷹「……」
三隈「また明日、この組み合わせで演習を行います。問題点を探り改善しておくように。以上」
夜 ブイン基地 港
隼鷹「飛鷹~、こんな時間まで練習か~?」
飛鷹「……ええ」
隼鷹「一回負けたくらいで拗ねるなって! 私が勝ったし、今日は酒奢ってくれよ」
飛鷹「いいわよ」
隼鷹「ほんとか!?」
飛鷹「明日詠唱が出来ないくらい泥酔させてやるんだから」
隼鷹「ひ、酷い奴だなお前」
~~~~~~
夜 ブイン基地 飛鷹・隼鷹の割り当て部屋
隼鷹「やっぱりトラックやラバウルより……ブインが良いよな」
飛鷹「酒が置いてあるからでしょ」
隼鷹「あ、バレた~?」ケラケラ
飛鷹「まったく、訓練もせずにお酒ばっかり」クス
隼鷹「でも良いじゃん? お前にも勝ったし」
飛鷹「……」
隼鷹(やべ、地雷踏んだ)
飛鷹「……良いから飲みなさい」
5月19日
昼 ブイン基地近海 演習場
飛鷹「……うぇ、気持ち悪い」
隼鷹「何でお前が気持ち悪くなってるんだよ」
初霜「……」フラフラ
吹雪「初霜さんは何で疲れてるんですか」
初霜「ちょっと見なきゃいけないものがあったの……」
三隈「揃いましたわね。では始めましょう」
~~~~~~
三隈「……何ですのこの体たらくは」
飛鷹「……」ムカムカムカムカ
初霜「……ごめんなさい」
三隈「飛鷹さんは罰として反省文を百枚提出しなさい。期限は三日後です」
飛鷹「……はい」
三隈「初霜さんはよく頑張りました。こんなお荷物のせいでまた負けてしまって可哀想ですわ」
飛鷹「なっ……何で私が」「そんなこと言わないで下さい!」
三隈「……」
初霜「私の責任もあります! 飛鷹さんばっかり責めないで下さい!」
飛鷹「……そうよ。何で私だけ」
吹雪「今日は完全に飛鷹さんのせいですよ」
飛鷹「……説明しなさい」
吹雪「また貴女の発着艦作業が遅いから、先制攻撃を許したんです」
吹雪「初霜さんは必死に私を押しとどめてましたけど、飛来した艦載機を少しでも減らそうとして……つまり貴女を守ろうとして隙が出来たんです」
飛鷹「……」
三隈「……と、いうことです。次は三日後、飛鷹チームは次負けたら出撃禁止です」
飛鷹「出撃禁止!?」
三隈「クマリンコ♪」
隼鷹「……三隈さん、少し厳しすぎやしないか?」
三隈「飛鷹さんのような艦娘は必要ありませんから。代わりはいくらでも居ます」
吹雪「……」
三隈「さぁ、次の生徒たちが待っています。交代しなさい」
昼 ブイン基地 談話室
広い談話室は昼間ということもありガランとしていた。
だだ広い部屋の真ん中に書類の山を作り、それを必死に減らそうとする艦娘が一人居た。
飛鷹「あーもー! 百枚ってなんなのよ! あの馬鹿教官!」カリカリ
飛鷹「私が必要ないなんてあり得ないんだから!」カリカリ
飛鷹「あり得ないんだから……」
飛鷹「……」ウル
初霜「……飛鷹さん」
飛鷹「あ、あぁ~眠いなぁ~、ああ、初霜さん」
初霜「あはは、確かに私も眠いわ。……反省文を書くのを手伝おうと思って」
飛鷹「私に課されたものなんだから。優秀な貴女には関係ないわよ」
初霜「三隈さんは……多分私が半分書くことを前提で課題を出してる」
飛鷹「まさか。ただの嫌がらせよ。私に対してのね」
初霜「あの人がそんな人じゃないって、飛鷹さんも知ってますよね」
飛鷹「……」
初霜「それに、私自身が手伝いたいの。駄目?」
飛鷹「……何で手伝いたいの?」
初霜「私達、仲間でしょう。連帯責任ですよ」
飛鷹「……じゃあこれ。十枚くらいお願い」
初霜「うん。任せて」
木曾「あれ、初霜じゃねぇか」
雪風「あ、初霜だ」
初霜「雪風、木曾さん。こんにちは」
雪風「初霜は何をしているんですか?」
初霜「反省文です」
雪風「何か悪いことをしたんですか?」
飛鷹「……私が罰を受けたのに、この子も一緒に書いてくれてるのよ」
木曾「……の割には嬉しそうじゃないな」
飛鷹「そう? 気のせいじゃない」
雪風「雪風も反省文書きたいです!」
木曾「……俺も書く」
飛鷹「はぁ? 何でアンタ達まで」
木曾「お前の為じゃねーよ。初霜の為だ」
雪風「雪風は楽しそうだからやります! 初霜と飛鷹の為にもやります!」
飛鷹「……良いわよ。手伝ってくれるのには変わりないわ」スッ
木曾「反省文なんていつ以来だろう」
雪風「雪風は書いたことがありません!」
初春「うん? 初霜よ、何故反省文を書いておるのじゃ」
初霜「あ、ちょっと……」
初春「わらわも手伝おう」
初霜「いいの?」
初春「良い。姉妹艦ではないか」
初霜「ありがとう」
飛鷹「……」カリカリカリ
子日「今日は何の日~?」
「……」
子日「はい。私も手伝います」
矢矧「あら、初霜。何をしているの」
初霜「反省文です」
矢矧「貴女が反省文なんて珍しいわね。私にも分けて頂戴。阿賀野ねぇ達は先に食堂へ行ってて」
阿賀野「みんな集まって楽しそうだし阿賀野もやる~」
能代「じゃあ能代も……」
酒匂「酒匂もやる~!」
飛鷹「……」カリ
ブイン司令「談話室から物凄いおっ……穢れを感じるのだが」
矢矧「出て行きなさい」
ブイン司令「挨拶だな。ん? お前たちは何を書いているんだ」モミモミ
矢矧「おっぱいを触るな!!!!」ゴン
ブイン司令「アオォ!?」
~~~~~~
ブイン司令「ああ、飛鷹の反省文な」
飛鷹「はい……元はそうだったのですが……」
ブイン司令「これだと反省文の意味なんて無いな」
\ユキカゼカキマシタ!/ \コレ、オマエノエニッキジャネーカ!/ ガヤガヤ \アキタ!/ \ネエサン!/
飛鷹「……うるさいです」
ブイン司令「本当にそう思っているか?」
飛鷹「……」
初春「どうじゃ初霜、高貴な言葉で書いておいたが」
初霜「う~ん……とりあえずありがとう」
初霜「オーッホッホッホッホ!」
浜風「初霜、何をしているのですか?」
ブイン司令「ん!? 近くに浜風の反応が!?」
浜風「げっ!」
ブイン司令「まぁ襲わないから安心しろ」
浜風「……疑わしいですね」
ブイン司令「あっ浜風! あそこに長官が!」
浜風「えっ!? 長官!?」バッ
ブイン司令「嘘だよ」モミモミ
浜風「……っ! こ……こんのぉ!!!」ガンッ
ブイン司令「ドビュッシー!」
ブイン司令「俺も反省文を書く」
浜風「何についての反省文を書くのですか」イライラ
矢矧「まず明言してから書き始めなさい」
ブイン司令「私は罪深いおっぱい星人です。反省文はそれについて書きます」
矢矧「よし、書き始めなさい」
ブイン司令「はい」
阿賀野「神官さん、そんなに触りたいなら阿賀野のを触ればいいのに」
ブイン司令「今はブイン司令と呼べ。……ほんとに触っていい?」
矢矧「……」ゴン
ブイン司令「タラワ……」
矢矧「攻撃が効かなくなってきたわね」
能代「姉さん駄目です! そんな男の相手をしてはいけません!」
酒匂「……」ムッスー
ブイン司令「いやでも、酒匂ちゃんの胸は別だよ」
酒匂「司令さん! ほんと!?」
ブイン司令「ホント、ホント」
矢矧「妹をたぶらかさないで」ガツン
ブイン司令「オウィッ!!」
飛鷹「……九十九、百枚」
初霜「これで課題は終わったね。みんな、本当にありがとう」
\イイッテコトヨ!/ \コウキナモノノタシナミデスワ/ \ナカマダローガ/ \ネノヒダヨ!/
飛鷹「……ありがとう」
ブイン司令「ま、これも指揮官としての仕事だ」
矢矧「貴方は胸を揉んでただけじゃない」
飛鷹「まさか一時間で終わるなんて」
初霜「人海戦術ですね」ニコ
飛鷹「……っ。そ、そうね。初霜さん、その、手伝ってくれて……あの、あり」
隼鷹「ひようー!!!!!!!!」
談話室に酒のにおいの塊が飛び込んできた。
飛鷹「どうしたの隼鷹、こんな昼間から」
隼鷹「やふま……やふまきた……」
ブイン司令「何を言っているんだ」
飛鷹「奴が来た、と」
「隼鷹さん。もう限界なのですか」
初霜「……!」
浜風「貴女は!」
矢矧「大和!!!」
大和「あら、奇遇ですね皆さん。……ところでこちらに隼鷹さんが来ませんでしたか? 勝負の途中なのですが」
隼鷹「ご、ごめんらはい……もうのめまへん……かんべんしてくらさい」
大和「そうですか。では私の勝ちということで。」
隼鷹「ううぅ……」
\スゴィヤマトハジメテミタ!/ \ソコヌケダ-!/ \ジュンヨウサンガマケタゾ!/
ブイン司令「大和よ」
大和「中将殿、貴方は……」
ブイン司令「ようこそブイン基地へ。私がブイン司令だ」
大和「よろしくお願いします」
ブイン司令「酒の勝負をしていたのか」
大和「はい。隼鷹さんが昼から飲んでいたので、注意したところ勝負へと発展しました」
ブイン司令「少しは手加減してやれ。お前と勝負して勝てるわけが無いだろう」
大和「勝負は勝負ですから」ニッコリ
ブイン司令(この子、怖いな)
ブイン司令(しかし、乳を揉みたい!!!!!!!!!!!)
ブイン司令「今日は私が個人的に君を歓迎する小規模な宴を開きたい」
大和「ありがとうございます」
矢矧「私も参加します」
浜風「私も。こいつ、目的が見え見えです」
ブイン司令「う、うひひ。やだなぁ、乳目的なんかじゃ無いですよ?」
瑞鶴「まーた、こんなところで巨大な胸に囲まれて鼻の下伸ばしてる」
ブイン司令「仕事をしていた」キリッ
瑞鶴「いいこと教えてあげるわ提督さん。仕事は現場でなく執務室で起きているのよ」ガシッ
ブイン司令「も、もう書類作業はお腹いっぱいでち」
瑞鶴「働け! 馬車馬のように働け! あ、そうだ大和さん」グイグイ
大和「はい?」
瑞鶴「長官さん……いえ、長官閣下がお呼びです。ついてきて下さい」グイグイ
大和「あの、瑞鶴さん。もしよろしければ私が引きずりましょうか?」
瑞鶴「あ、いえいえ。ご丁寧にどうも。うちの旦那なのでこちらで責任をもって雷撃処分します」グイグイ
ブイン司令「あの僕の瑞鶴さん。雷撃処分ってなんですかね。聞き慣れた単語なのに理解したくないのは何でですかね」
瑞鶴「うっさい! 巨乳ばっかり構って! 今日という今日は許さないんだからね!」
大和「お二人はケッコンされているのですか?」
ブイン司令「一応」
瑞鶴「おいコラ、一応ってなんだコラ」
夕方 ブイン基地 給糧艦『間宮』艦上
飛鷹「バニラで良かった?」
初霜「はい。ここのは何でも美味しいです」
飛鷹「確かにね」クス
海が夕日に染まり始めた頃、反省文の提出も終了し飛鷹は感謝の印として月に何度かの楽しみであるアイスを奢ることにした。
間宮艦上の食事処のベンチに二人で腰掛け、カップに入ったアイスを貪る。
飛鷹「……」パクッ
飛鷹「あま~い!」キラキラ
初霜「……」パク
初霜「……うん。美味しい」キラキラ
後は会話もせずに黙々と食べる作業を繰り返した。
~~~~~~
飛鷹「はぁ……ご馳走様」
視線を右にやれば、赤い光が港湾に浮かぶ強襲揚陸艦をくっきりと映し出す。
初霜「綺麗な夕焼けですね」
飛鷹「そうね。綺麗ね」
初霜「……飛鷹さん」
飛鷹「どうしたの?」
初霜「私は飛鷹さんを信じています。飛鷹さんは……私を信じてくれますか?」
飛鷹「なによ急に」
初霜「……ごめんなさい」
飛鷹「……」
初霜「……」
飛鷹「私、友達とかあんまり居なくてね。同じ境遇で、しかも私に声をかけてくれた隼鷹くらいが精々よ」
飛鷹「貴女、友達多いのね」
初霜「友達というか仲間です。私はまたみんなと一緒に戦えて、嬉しいです」
飛鷹「そう」
初霜「飛鷹さんも仲間です」
飛鷹「……飛鷹でいいわよ」
初霜「分かった。……飛鷹、私、吹雪たちに勝ちたい」
飛鷹「貴女はどうすれば勝てると思う」
初霜「吹雪は強い。映像で弱点を探ってみたけど……悔しいけど今の私は勝てない。飛鷹は発着艦が遅い。だから二次攻撃を先制される」
飛鷹「……」
初霜「私達二人は勝つための個別の要素で負けている。だから負ける」
飛鷹「……ええ。そうね」
初霜「でも勝てるわ。飛鷹は本当は、もっと発着艦を早くすることが出来る」
飛鷹「発着艦を早く……?」
初霜「貴女はいつも練習を欠かしていない。私は見ていた。その時の発着艦は隼鷹さんより早い」
飛鷹「……」
初霜は空のカップをベンチに置くと、飛鷹の前に立った。
初霜「勿論練習と実戦は違う。だから、私は出来る限り吹雪を押しとどめる」
初霜「貴女は駆逐艦の戦いを見なくていい。吹雪は私が必ず止める」
初霜「詠唱に集中して」
彼女は拳を軽く握り私に向けて突き出した。
拳は胸の辺りに当たり、その衝撃は、
初霜「私を信じて」
彼女の言葉と共に水面を伝う波紋のように私の中へと浸透していった。
5月22日
昼 ブイン基地近海 演習場
三隈「では、始め!」
目を瞑って、その場で詠唱を開始する。
吹雪は初霜が止めてくれる。私は私の仕事をする。
三隈(そうですわ、飛鷹さん)
三隈(仲間を信頼するのとレベルを信用するのとは違いましてよ)
吹雪「くっ……」ダンダン
吹雪(私の方が間違いなく強いのに! 倒れない!)
初霜(こっちは徹夜してまで夕張さんの部屋で映像を研究してたんだから)
初霜(時間は稼がせてもらうよ)
吹雪「食らえぇ!」バシュッ
初霜「しまった!! 飛鷹!」
詠唱をしている飛鷹の方へ雷撃が行った。
飛鷹「初霜、落ち着いて。どっちに避ければいい?」
通話装置から冷静な返事が飛んで来る。
初霜「左六十度!」
飛鷹「了解」
三隈(勝負は決まりましたわね)
吹雪の苦し紛れの雷撃は不発に終わった。
~~~~~~
飛鷹「初霜、攻撃隊の編成が完了したわ」
初霜「……さすがだわ、飛鷹」
飛鷹「当然よ。私は飛鷹型のネームシップなんだから」
隼鷹「うわっ!? 飛鷹がもう終わってる!? ちょっと待ってくれ~!!」
飛鷹「待つわけ無いでしょ隼鷹。……全機爆装! さあ、飛び立って!」
三隈「見事な二次攻撃隊発艦でした」
飛鷹「はい。初霜のお陰です」
初霜「……」テレテレ
隼鷹「いや~、今日の飛鷹は早かったな~」
飛鷹「アンタは練習が足りないのよ。もっと練習しなさい」
隼鷹「ぐぅ……あれを見せられると何も言えないねぇ」
吹雪「初霜さん。今日のはどんな技なんですか。私もっと強くなりたいんです。教えてください」
初霜「初霜でいいよ、吹雪。貴女は避ける時の癖が分かりやすいから――」「はいはい、皆さん三隈の話をお聞きになって」
三隈「飛鷹さん。初霜さん。出撃禁止などと無礼な発言をしたことを謝りますわ」ペコ
飛鷹「いいです……どうせ計算づくめだったんですよね」
三隈「クマリンコ♪」
飛鷹「敵わないなぁ」
三隈「反省会は談話室で行って下さい。演習場は予約で一杯なのですから。はい、次の艦娘たちと交代です」
昼 ブイン基地 港
隼鷹「よ~し、飛鷹の覚醒記念にみんなで飲もうぜ~?」
飛鷹「アンタ、大和に『もうのめまへん……かんべんしてくらさい』って言ってたの忘れたの?」
吹雪「あははは!! そんなことあったんですか!?」
初霜「本当よ。隼鷹が――」「わーわーストップストップ! 恥ずかしいから言うなよ!」
飛鷹「ばっかじゃないの」クスクス
吹雪「初霜、聞かせてよ」
初霜「うん。隼鷹が大和に喧嘩を――」「初霜も素直に反応しなくていいよ~!」
吹雪「隼鷹さんはちょっと静かにしてて下さい」
飛鷹「……」
隼鷹「なぁ頼むよ初霜~! 俺たち友達だろ~?」
初霜「……友達じゃない」
隼鷹「えっ!? 違うのか?!」
初霜「私達は……な、仲間だわ」
隼鷹「一緒のようなもんじゃねーか!」
吹雪「仲間と友達は違うんですか」
初霜「……友達だと双方の合意が必要。仲間はいらない」
初霜「だから仲間」
飛鷹「じゃあ私達は友達よね」
初霜「え……」
飛鷹「私もアンタを認めてるし、アンタも私を……友達だと思ってくれるわよね」
初霜「……いいの?」
飛鷹「いいも悪いも無いわよ。馬鹿ね」
初霜「じゃあ……友達」ニコニコ
隼鷹「くぅぅ、飛鷹にようやく友達が……」
飛鷹「アンタも恥ずかしいわね! やめなさいよ!」
吹雪「めんどくさい人達ですね。友達は友達だし、仲間は仲間じゃないですか」
隼鷹「違うんだよ吹雪。そういうんじゃ無いんだよ。いや~もう今日は飲むしか無い!」
隼鷹「な、初霜! 俺もお前と友達になりたい! それで酒を飲もう!」
初霜「隼鷹とも友達。今日はお酒飲もう」
飛鷹「えー、こいつ酒癖悪いの見て分からないの?」
吹雪「……初霜さん。私も友達になりたいです」
初霜「勿論!」
吹雪「お酒も飲んでみたいです」
飛鷹「吹雪まで……」
隼鷹「決まりだな~! 今日の夜私達の部屋へ集合!」
飛鷹(でもまぁ、こういうのも)
飛鷹(悪くないかな~って)
小休止
あぁ~何で吹雪さんは最後にさん付けで喋ってるんですかね~
やっぱりまだ壁があったんですかね~
安価の癖に時間かかるな
乙です
乙です
いやいや充分早い方だと思うよ
安価とるだけとって週跨いだり、一ヶ月放置する人とかもいるし
よく話思いつくなぁと感心した
支援あざす
この吹雪は心腐ってるから別として初霜の口調が難しかった
じゃあ、安価
二つ下と三つ下
瑞鳳
乙です
相変わらず登場人物が魅力的だなあ
安価は加古
乙です。
まだ出てきてない艦娘なら誰でもありなんでしょうか?ありなら鳳翔さんでお願いします。
見返したら隼鷹の一人称間違ってんじゃねーか
居ない子でも誰でもOKです
加古と鳳翔、了解。鳳翔さんはこのスレだと翔鶴とキャラ被るから使えないんだよね
まぁ今の翔鶴なら関係ないか笑
扱いにくい安価ですみません。
むしろ書きやすいから歓迎
短くなっても勘弁な。なんなら複数回名前上げてくれていいから
(どの未所持艦を複数回挙げればいいんだ……いや、そもそも>>1に未所持艦なんてあるのか?)
日向「あっ」
日向「あっ」
日向「やっ、初めまして。私」
日向「初めまして」
日向「調子はどうだ」
日向「まぁまぁです」
奇妙な感覚ここに極まれり、といったところか。
「何をオドオドしている。自分の姿だろう」
「変な感じです」
「私もだ。彼が同名艦の長時間の接触は精神衛生上良くないと言っていたが。本当みたいだな」
「彼とはブイン司令殿ですか」
「ああ、ほら」
指輪を見せつける。
「どうして長官ではなくブイン司令とケッコンしたのですか」
「さぁ? それは好きになった時の私に言ってくれ」
「はぁ……?」
「無愛想な奴だな」
「何を言っているのですか。同じ個体ですよ。違いは戦闘経験の差しかありません」
「ふーん。そう思うならそれで良いがな」
「おい、ひゅ……ああ、同名艦か」
「どっちが自分の妻か分かるか」
「お前だよ」グイ
「あっ」
「……」
「……」
「強引だな。私が見ているんだぞ」
「好きだろ」
「……まぁ嫌いではないが」
「……」
「ほら、唖然としている」
「昔のお前よりは愛想がありそうだ」
「ふふ、戦艦パンチ」
「イッテェ!」
5月23日
朝 ブイン基地 古鷹型の部屋
微かに砲弾と硝煙と甘い匂いが入り混じった部屋へ一人の艦娘が入ってくる。
鳳翔「はい、二人とも、日の出ですよ」
南方の朝は早い。慣れた手つきで大窓から朝陽を取り入れる為にカーテンを開く。
その風格は娘というより艦母と言ったほうが正しいであろう。
古鷹「鳳翔さん。おはようございます」
鳳翔「おはよう。今日の予定は?」
古鷹「午前は三隈さんの教練で、午後は座学、夜は防衛ラインです」
鳳翔「うん。合ってますね。今日も頑張って下さい」
古鷹「はい。ありがとうございます」
古鷹に引き換え、もう一人の古鷹型は唸り声と共に布団の中に引き篭もっている。
加古「うぅぅぅぅ、あと三十分だけ! あと三十分だけ寝かせてぇ~!」
鳳翔「駄目です。加古は基地防衛の夜勤組と交代でしょう。寝ずの夜を過ごした彼らに悪いと思わないですか」
加古「あいつらも分かってくれるよ~。朝っていうのは一日の終りの始まりなんだよ~」
鳳翔「いい加減にしなさい。何を言っているのですか」
古鷹「加古、諦めなよ。鳳翔さんはスッポンくらいしつこいよ」
鳳翔「すっぽん……」
加古「私じゃなくてトラックとかラバウルとかにも加古が居るだろ~そいつらにやらせろ~」
古鷹「他の加古も同じ事言ってるよ」
鳳翔「他の基地どころか、さっき貴女の同名艦を起こしましたが、全く同じことを言っていましたよ」
加古「バカヤロー! 私のバカヤロー!!」
鳳翔「今日働けば明日は昼まで寝られますから。……まぁ朝食のために朝は起こしますけど」
古鷹「ほら、朝ごはん食べに行こ?」
加古「うぅぅ……分かったよ。さらば布団……おはよう鳳翔さん。古鷹」
鳳翔「はい。おはよう」
古鷹「おはよ」
朝 ブイン基地 廊下
加古「しっかし、良く出来てるよね~」
古鷹「何が?」
加古「この基地には私の同名艦がいるじゃんか?」
古鷹「そうだね」
加古「でも食堂を使う時間や風呂を使う時間、戦闘、果ては教育の時間までうまーく調整されてて」
加古「同じ基地に居ても全然見かけ無いからさ~」
古鷹「艦娘運用部門の人達が一人ひとりの時間割を組んでるらしいよ」
加古「うっわー、無理だわー。私絶対無理だわー。戦闘しないからサボってると思ってたけど、見方変わるなー」
古鷹「私も無理かも。あ、司令さんだ」
ブイン司令「矢矧、おはよう」
矢矧「……」スタスタ
ブイン司令「うーん、実に凛として素敵だ」
瑞鶴「本当は?」
ブイン司令「ナイスおっぱい」
瑞鶴「……」ドスッ
ブイン司令「ゴヒィ!」
加古「出た、おっぱい星人」
古鷹「そんなこと言っちゃ駄目だよ。いい人じゃない」
加古「古鷹はあんな男が好みなのか~?」
古鷹「べ、別にいいでしょ! 私がどんな人好きでもさ」
加古「はいはい。あの野郎、私の胸を見る目がやらしーんだよなー」
古鷹「あはは……」
朝 ブイン基地 食堂
古鷹「いただきます」
加古「いただきまーす」
古鷹「……」パクモグ
加古「……」モグモグ
古鷹「……日本の味ってこんな味なのかな」
加古「……ゴクン。さぁなぁ、私も日本の飯は食ってないからねー」
古鷹「いつか食べれるかなぁ」
加古「戦争が終わったら食べれるさ」
古鷹「……加古は良いよね」
加古「ん? 何が?」
古鷹「なんでもない」
朝 ブイン基地 港
加古「交代でぇ~す」
「あー、加古ちゃんだ~」
「交代よろしく」
加古「任しといて~」
昼 ブイン基地 座学教室
長門「艤装の組み立ては大事だ。どれくらい大事かというと富士山くらい大事だ」
古鷹「……」
長門「……冗談だ。よし、各自バラしは終わったな? 主砲の組み立て開始!」
「「「「はいっ!」」」」
古鷹(えーっと……これをこうして)
古鷹(加古にも教えなきゃいけないし、私が頑張って覚えておこ……)
長門「作業をしながら聞け」
長門「ただ使うだけでなく、手入れも出来なければドッグの連中に余計な負担がかかる」
長門「妖精に頼りっぱなしというのは艦娘としてどうだ」
「「「「不愉快です!」」」」 古鷹「不愉快です!」
長門「そうだろう、そうだろう」ニヤニヤ
古鷹(長門さんはこう言うと喜ぶからなぁ)
長門「我々は兵器であり兵器を扱う者でもある。自覚を深めろ」
「「「「はいっ!」」」」 古鷹「はい!」
夜 ブイン基地 古鷹型の部屋
加古「あー疲れたー」ボフ
古鷹「じゃあ私は夜勤行ってくるね」
加古「行ってらっしゃーい」
古鷹「ちゃんとお風呂入ってから寝なよ。歯も磨かなきゃ」
加古「お前は私の……お母さ……ん……Zzz」
古鷹「もう、また布団にも入らないで……仕方ないなぁ」
タオルケットを寝ている加古に掛けてやり、部屋の電気を消す。
古鷹「じゃあ行ってくるね」
5月24日
朝 ブイン基地 古鷹型の部屋
鳳翔「はーい、日の出ですよ~」
加古「あと三十分~~~!!!」
鳳翔「毎日毎日貴女も懲りませんね」
加古「……鳳翔さんはいつ起きてんの?」
鳳翔「私は三時頃ですね。食堂や酒保のお手伝いもしていますから」
加古「……」パクパク
鳳翔「どうかしましたか?」
加古「目が覚めた……。飯食ってきます」
鳳翔「あ、今日の予定は?」
加古「昼から海上護衛の水上部! 夜は夜勤だぜい」
鳳翔「はい。合ってます。行ってらっしゃい」
加古「……もしかして鳳翔さんって艦娘のスケジュール全部覚えてたり……しないよね?」
鳳翔「……」ニッコリ
加古「いや、なんか申し訳ない」
朝 ブイン基地 食堂
加古「あー……味噌汁うめー……」
ブイン司令「相席いいか」
加古「……どぞ」
ブイン司令「ここの味噌汁は美味いよな」
加古「……はぁ」
ブイン司令「おふくろの味という奴だ」
加古「そっすね」
ブイン司令「浮かない返事だな」
加古「飯食ってるんで喋んなくてもいいすか?」
ブイン司令「……これは失礼した」
ブイン司令「加古」チョンチョン
加古(んだよ。喋るなって言ったのに肩叩いて……ウゼェなぁ~)
加古「……なん」 \(゚ε゚ )\←ブイン司令
加古「……ッ」
加古「ダハハハハハ!!!!」
ブイン司令「なんだ。心が死んでいるわけでは無いのか」
加古「な、何やってんだよアンタ!」
ブイン司令「いや、不貞腐れた顔をしていたからな」
加古「あー、びっくりした」
ブイン司令「この時間帯に飯を食うということはお前も中堅の艦娘だろう」
加古「……何をもって中堅かは知らねーけど、Lv.は20後半あるぜ」
ブイン司令「中々だ」
加古「今日は女連れじゃ無いんだね」
ブイン司令「女と言うな。あれは妻たちだ」
加古「ケッコンだろ? よく分かんねーや」
ブイン司令「お前、ガサツで面白いやつだな。俺と気が合うかもな」
加古「はぁ? どこがだよ。私はアンタみたいにだらしなくない」
ブイン司令「ほう、どこまで知ってる」
加古「おっぱい星人」
ブイン司令「よし、それが俺の全てだ」
加古「あははは! ばっかじゃねーの!」
古鷹「……」
夕方 ブイン基地 古鷹の部屋
古鷹「……」
加古「でさ、古鷹。あの馬鹿司令、自分の浮気の事を『それぞれへの誠意』って言うんだよ。ほんともう笑っちゃってさ~」
古鷹「……加古、楽しそうだね」
加古「ん? そう?」
古鷹「私も見たよ。朝、食堂で」
加古「なら声掛けてくれれば良かったのに。古鷹はあの司令のこと結構気に入って」「何で加古ばっかり」
古鷹「頑張ってるのは私なのに」
加古「ど、どうしたんだよ」
古鷹「鈍感なのよ! この馬鹿!」
加古「ば……馬鹿って……酷いぞ古鷹!」
古鷹「うるさい馬鹿! 何で私じゃなくて加古なのよ!」
加古「わ、私は馬鹿じゃない……多分……」
古鷹「何で加古なのか聞いてるの!」
加古「……知らないよ。私、古鷹の言ってることが分からないぞ」
古鷹「だから馬鹿って言ってるのよこの馬鹿!!」
加古「も、もう怒ったぞ! 私は怒ったからな!! 怒ったんだぞ!!!」
古鷹「私が居なきゃ何も出来ない癖に!!!」
加古「そんなことない!!!」
古鷹「じゃあやってみなよ!」
加古「やってやるよ! 古鷹なんて居なくても私は一人でやってける!」
古鷹「もう加古なんて知らない!」
加古「古鷹なんて! しん……しん!! ……あぁもう夜勤行く!!!」
5月25日
昼 ブイン基地 食堂
加古「……」フラフラ
ブイン司令「よう加古。こっちで食えよ」
加古「……うん」
ブイン司令「大丈夫か? 妙に元気が無いが」
加古「……なぁ、アンタ人付き合いは得意か」
ブイン司令「浮気できる程度にはな。……大丈夫か? 目が虚ろだぞ」
加古「なら……ちょっと相談乗ってくれよ」
昼 ブイン基地 ブイン司令の部屋(元・神官の部屋)
加古「ってわけなんだ……私、何がなんだかわけわかんなくなっちゃって」
ブイン司令「……」ダラダラダラダラ
加古「司令……大丈夫か? 汗が凄いけど」
ブイン司令「……加古、辛いか? お前はどうしたい」
加古「……」
ブイン司令「少なくとも今のお前は客観的に見れば辛そうだ」
加古「……っ!! 辛いよ!! こんなのやだよ! 古鷹と……仲直りしたいよ!」
ブイン司令「そうか」
加古「何で怒ってるんだよぉ……古鷹……っぐ……っあ……」
ブイン司令「泣け泣け。吐き出して気持ち良くなれ。……よく言えたな。偉いぞ」ナデナデ
加古「変態野郎……私に触るなぁ……」
ブイン司令「変態の特権だ。そして特殊な性癖を許すのはお前の特権だ」ナデナデ
加古「そんな特権いらねぇよ~……」
ブイン司令「はっはっは」
加古「……Zzz」
ブイン司令「……疲れて眠ったか」
ブイン司令「鳳翔さん」
鳳翔「はい」
ブイン司令「どうしたもんかなぁ」
鳳翔「古鷹さんがその程度のことで爆発するとは思えません」
ブイン司令「事案発生か?」
鳳翔「恐らく」
ブイン司令「翔鶴に古鷹……と加古の任務日程が2日ほど空白にするよう調整させてくれ」
鳳翔「了解です」
ブイン司令「加古は俺が、いや俺がやると問題になるか。鳳翔さんが部屋まで運んでやってくれ」
鳳翔「はい」
ブイン司令「さーて、どう祓ってやろうか」
夜 ブイン基地 廊下
ブイン司令「古鷹君」
古鷹「あっ……はい。私に何か御用でしょうか」
ブイン司令「少し二人きりで話がしたいんだが、私の部屋まで来てくれるか」
古鷹「……」
ブイン司令「いいよな?」
古鷹「……はい」
夜 ブイン基地 ブイン司令の部屋
ブイン司令「コーヒー、紅茶、どちらがいい」
古鷹「いえ、お構いなく」
ブイン司令「遠慮するな。お前は客だぞ」
古鷹「……紅茶で」
ブイン司令「了解」
~~~~~~
ブイン司令「どうだ」
古鷹「美味しいです」
ブイン司令「昔はセイロン産の紅茶が多かったらしいが、これは日本の紅茶だ」
古鷹「……私、日本に行ったことないです」
ブイン司令「生まれた時からずっと南方戦線か」
古鷹「はい」
ブイン司令「それは頭が下がる。結局戦うのはお前たちだからな」
古鷹「あの、司令、何で私を呼び出したんですか」
ブイン司令「ああ、時々こうしてるんだよ。艦娘との触れ合いも大事だからな」
古鷹「……」
ブイン司令「世間話をしようというだけだ」
ブイン司令「最近何か変わったことは無かったか」
古鷹「いえ。特に何も」
ブイン司令「そうか」
古鷹「……もしかして、加古が何か言ったんですか」
ブイン司令「加古? ああ、加古か。別に何も言っていなかったが」
古鷹「……そうですか」
ブイン司令「何故今加古君の名前が出てくる」
古鷹「何もありません」
ブイン司令「そうは見えんがな」
古鷹「……喧嘩しました」
ブイン司令「どうして?」
古鷹「……」
ブイン司令「ま、いいさ。紅茶を飲め。お代わりもあるぞ」
古鷹「……」
ブイン司令「古鷹、お前夢はあるか」
古鷹「深海棲艦を倒して、世界を平和にすることです」
ブイン司令「……そうか。この戦争が終わったらどうしたい」
古鷹「……」
ブイン司令「急に言われても分からないよな」
古鷹「……すいません」
ブイン司令「気にするな。与太話だ。では好きな男は居るか」
古鷹「……」
ブイン司令「恥ずかしいか。可愛いな」
古鷹「……やめて下さい。私は可愛くなんてありません」
ブイン司令「そう言いながらも嬉しそうだな。うん。これが大和撫子のあるべき姿だ」
古鷹「……もう、変な人ですね」
ブイン司令「好きな艦娘は居るか」
古鷹「……」
ブイン司令「姉妹艦は好きか」
古鷹「司令、こんなのお喋りじゃありません。尋問です」
ブイン司令「ははは!」
古鷹「……」フラフラ
ブイン司令「そろそろ来たか」
古鷹「……え?」
ブイン司令「もう喋らなくてもいい。というか呂律が回らんから喋れんのだが」
古鷹「……はれ」
ブイン司令「お前は穢れにやられている。まだごく初期段階だがな」
ブイン司令「執着が少しでも俺に絡んでいてくれれば、毎回こういう風に部屋に誘えて仕事が楽なんだが……いや、これは甘えか」
ブイン司令「古鷹、今からお前の中にある穢れを取り除く」
ブイン司令「心配するな。痛くは無い。寧ろ気持ちいいぞ」
古鷹「……」パクパク
ブイン司令「……ヘソが良いな。うん。ヘソにしよう」
古鷹「……」
ブイン司令「なに、普段通りに戻れば全て説明してやる」
ブイン司令「では行くぞ」
私は司令の動きを目で追っていた。
しかし体はだるく、呂律は回らず何も抵抗は出来なかった。
司令はゆっくりと私のお腹に顔を近づけると、
ブイン司令「……」
古鷹「!!!!!!!!!!」ビクッ
突き出した舌で私のヘソに触れた。
その瞬間、脳が焦げ付くかと思うほどに刺激が来た。
ブイン司令「……」
古鷹「ッ!!! ッッッ!!!!!!!」
司令は舌で私のヘソを舐めまわす。
舌と触れた場所から痺れが広がる。体は否応無しに痙攣し続けていた。
恐らくその痺れの正体は快感だった。それも、痛みの方がマシと思える程に凶悪な快感。
人間の柔肌に刃物を突立てれば痛みが伴うように、私の中へ無理矢理流れ込んでくる何かは快楽を伴ってくる。
司令の言っていることは嘘ではない。これは確かに気持ち良い。
だが感覚の閾値を超えた快楽は、痛みと何ら変わりはない。
それを認識することを拒んだ私の意識は私自身の闇の中へと溶け込んだ。
古鷹「ん……」
ブイン司令「目が覚めたか」
古鷹「私、何を」
ブイン司令「気持ちよすぎて気絶した」
古鷹「あっ!?」
ブイン司令「普通に気持ち良くすることも出来たが、あれは罰だ」
ブイン司令「お前は加古を泣かせた」
古鷹「……やっぱり聞いてるんですね」
ブイン司令「まぁな。騙して悪かったな。穢れを祓うためだ」
古鷹「あの紅茶は何だったのですか」
ブイン司令「最近発見された、艦娘を一時的に行動不能にする薬品だ」
古鷹「……」
ブイン司令「お前たちが暴走すると思ってる連中が少なからず居るということだ」
古鷹「私達は人類のために戦っているのに」
ブイン司令「この世界では想いが報われる事のほうが珍しい。覚えておけ」
古鷹「……」
ブイン司令「俺が気に食わんのは、お前の『加古の世話をしている』という認識だ」
古鷹「どういうことでしょう」
ブイン司令「共依存の癖に自分は関係ないというような顔をするな」
古鷹「加古が私に依存してるんです」
ブイン司令「確かに加古はお前に依存している。だがそれはお前も同じことだ」
古鷹「……」
ブイン司令「それにしても不出来な姉や妹を持つ艦娘は幸運だ。それ故により多くの喜びを知ることが出来る」
古鷹「何を言っているのですか」
ブイン司令「一般論だ。俺の中のな」
ブイン司令「俺は共依存が良くないからやめろ、など言わん」
ブイン司令「共依存の何が駄目なのか自分が理解出来るまで依存しろ。理解出来ないのなら依存し続けろ」
ブイン司令「どのように在ろうと、それはお前たちは自由だ」
ブイン司令「自由が保証されている枠の中でな」
古鷹「……」
ブイン司令「確かに加古はガサツで手のかかる奴だ」
ブイン司令「だからこそ良いと何故思えん」
古鷹「司令の言っている事が分かりません。私には理解出来ません」
ブイン司令「理解出来ないのは俺の方だぞ、古鷹」
古鷹「……どういうことでしょう」
ブイン司令「加古はお前の話を楽しそうにしてくれた」
ブイン司令「あいつの話を通して俺はお前を知っている」
ブイン司令「お前は自分の中にどれほど大きく加古が存在しているか理解していない」
ブイン司令「自分自身がどれほど加古に依存しているか理解していない」
ブイン司令「加古がどれ程お前を愛しているか、理解出来ていない」
ブイン司令「確かに最初は人によって作られた繋がりだったのかもしれん」
ブイン司令「だが今は本物の、お前自身の心から生起した感情があるはずだ」
ブイン司令「それから目を逸らすな。見たくないからと都合の良い言い訳をするな」
ブイン司令「お前自身はその場所にしか無い」
ブイン司令「建前を使うな。常識に頼るな。自分自身を剥き出しにしろ」
ブイン司令「人類の為に戦うなどと優等生ぶるな」
ブイン司令「そんなことで未来など望みえようのものか」
ブイン司令「歪んでいて上等だ。どのような形であろうと俺が肯定してやる」
ブイン司令「腸の底から湧き出る声に耳を傾けろ。それ以外の雑音なんて聞く価値もない」
ブイン司令「それが俺を殺したいと望むなら殺せ」
ブイン司令「多分、お前もその後すぐ死ぬことになるだろうがな」
私にはもう、この男が狂人にしか見えなかった。
ブイン司令「数ある古鷹の同名鑑、加古の同名艦の中でお前の姉妹艦はあの加古だ」
ブイン司令「二人ぼっちの姉妹だろう。何かしてやっている、なんて思考は俺にしてみれば意味不明だ」
ブイン司令「……ま、話は終わりだ」
夜 ブイン基地 古鷹型の部屋
加古「あれ……鳳翔さん」
鳳翔「おはようございます、といってももう夜ですけどね」
加古「私、司令の部屋に居たんだけど」
鳳翔「はい。泣き疲れて眠りましたから、ここまで私が運びました」
加古「あ、ありがとう」
鳳翔「司令から聞きました。古鷹と喧嘩したのですか」
加古「……うん」
鳳翔「何と言われたんですか」
加古「私が馬鹿で、ずるくて、古鷹が居ないと誰も出来ない奴だ~って」
鳳翔「どう思ったのですか」
加古「ずるい、ってのはよく分かんないんだけど……確かに私は馬鹿だし、古鷹に頼っちゃってる面もあったと思う」
鳳翔「うん、うん」
加古「でも、それを古鷹に言われたのが……凄く寂しい」
鳳翔「悪く言ってしまえば、貴女は古鷹に甘えていたのですよ」
加古「うっ……」
鳳翔「別に非難しているわけじゃ無いです。姉妹艦なのですから」
加古「……」
鳳翔「加古は、これからどうしたいのですか」
加古「……仲直りしたい」
鳳翔「そうですか」
加古「なぁ鳳翔さん。どうすれば良いかな。どうすれば古鷹は私と仲直りしてくれるかな」
鳳翔「加古の今の気持ちを素直に伝えると良いですよ」
加古「……それだけ?」
鳳翔「ええ。早起きしなくても、作戦会議中に眠っても、座学の途中に寝ても良いです」
鳳翔「自己満足ですから、直したければ直せばいいです」
加古「逆にプレッシャーが……」
鳳翔「意識してます」ニコ
加古「うぅぅぅ」
鳳翔「古鷹も虫の居所が悪くてイライラしてしまったのでしょう」
加古「……」
鳳翔(落ち込んだ犬みたいで可愛いかも)
鳳翔「だからそう落ち込まないことです」
加古「分かった……古鷹と話してみる」
鳳翔「頑張ってね。応援していますよ」
夜 ブイン基地 古鷹型の部屋
古鷹「……ただいま」
加古「……お帰り」
古鷹「……」
加古「……」
古鷹「加古、ごめん」
加古「えっ!? あれ、何で古鷹が謝るんだよ」
古鷹「……私、どうかしてた。加古に酷いこと言っちゃった」
加古「わ、私も古鷹に頼りすぎてた」
古鷹「……」
加古「明日から早起きするし、会議中も寝ないし、座学の途中にも寝ないから!」
加古「……ごめん。仲直り、してくれ」
古鷹「……」ギュッ
加古「わっ、古鷹!?」
古鷹「良かった……もう仲直り出来ないかと思った」ポロポロ
加古「何でお前が泣いてんだよ」
古鷹「喧嘩してから分かった」
古鷹「私、自分がこんなに加古のこと大事だって気付けなかった」ポロポロ
加古「古鷹……」
古鷹「明日から加古のこと全部私がやるから……馬鹿な私を許して……」
加古「……へへへ、それはちょっと過保護すぎやしないか」
古鷹「いい! 加古のお世話がしたいの!!」
古鷹「私、加古が一番大事だから!」
加古「え、えぇ……? あ、ありがとう」
5月26日
朝 ブイン基地 廊下
古鷹「今日はちゃんと起きれたね」
加古「あったりまえだよ。あたしゃ~やるときゃやるんだから」
古鷹「ふふ、そうだね」
ブイン司令「……」スタスタ
加古「お、司令~! 仲直り出来たぜ~」ブンブン
ブイン司令「そうか。良かったな」
古鷹「……」ジトッ
ブイン司令「あの、古鷹? 何で俺を睨むんだ」
古鷹「……」プイッ
加古「あはは! 司令、古鷹に嫌われてやんの~」
ブイン司令「何でだ……? アドバイスしただけなのに……」
小休止
夜中に完成して貼ろうと思ったら寝落ちした
一人称がまた夜中クオリティ
司令部レベルの割に持ってない艦娘が多い方だと思う
乙です
加古リクエストした者ですがありがとう!
安価でこんな濃いSSが読めるとは(歓喜)
姉妹ケンカ→古鷹の穢れ の流れが予想外でハラハラしつつ、すごく面白かった
乙です
>>824
個人的には加古が古鷹に怒ったからな!と反論するところが一番可愛くてツボです。
加古を育ててないんですが、口調が個性的で(女子高生をイメージして書いてました笑)妙に愛着が……。
支援感謝
6月12日まで安価行きます。
安価二つ下、三つ下
乙です
できれば榛名をお願いしたい(懇願)
オーシオデス‼︎
え、大潮? マジ?
榛名と大潮が喋ってる図すら見えてこんが、これも何かの縁か。了解。明後日にでも。
(無茶振りして)すまぬ・・・すまぬ
でも楽しみに待ってます。
どっちかっていうとおいらかな?
紅茶に薬を盛ってヘソを舐めるとか野獣先輩にしか見えないどうしよう
>>1が野獣先輩でないとは一言も言ってないですよ?
ネタ作りに苦戦しています。日付け変わったら進捗報告します。
待ってる…
すまぬ今日は無理そう
まぁあせらずやってくだせぇ
ネタ浮かばないとかならしょうがないよね~
>>1より雑談スレの連中が異常だ
めんどくさい書き込みするなよ…
更新待ってます
5月27日
港でブインの司令に戦闘結果を報告する。
考えこむ提督。
五人の私と榛名が整列して男の指示を待つ。
そこでこれが夢だと気づいた。あの時私は五人も居なかった。
男の口が開かれ指示が出る。
燃料弾薬補給後に出撃。以上だ。
お言葉ですが司令! 見て下さい! 榛名は大破判定が出て当然な状態です!
榛名の隣に居る私が反論する。ああ、何でこんなところは現実通りなんだろう。
……それで?
ほら、やっぱり。
っ!? 戦闘続行は不可能です!
どの艦も大破している。ならば戦艦が盾となるべきだろう。あと一歩でショートランドを奪還出来るかもしれんのだ。
そうやって何度失敗したかお忘れなのですか!?
失敗ではない。あれらの犠牲があったからこそ、敵を追い込むことが出来ているのだ。
司令殿の目は節穴ですか!! 追い込まれているのは我々の方です!!!!
霧島、いいの。
でも榛名!
いいの。榛名が行かなければ、他の誰かが傷つくだけだから。
榛名は笑った。
あの時と同じように。
苦しそうに笑った。
目が覚めた。
霧島「……」
今日も不愉快な一日が始まる。
朝 ブイン基地 食堂
霧島「……」モグモグ
私が着任した時に比叡姉さんと金剛姉さんは居なかった。
榛名だけが居た。私は彼女を姉妹艦として認識した。
その後に入ってきた姉さんたちの形をした艦娘に愛着を抱くことは出来なかった。
霧島「……」
ブイン司令はまともな戦略眼を持ち合わせていない男だった。
そのくせ、出世欲が人より強かったようで目に見える見やすい戦果を欲しがった。
「金剛型の癖に」
私はもう何度この言葉を言われたか思い出せすらしない。
まだショートランド泊地が機能していた頃に居た金剛型戦艦は凄まじい練度だったと聞いている。
それと私を比べていたのだろうが……その行為に鬱憤晴らし以外の意味を見出すことが私には出来はしない。
私はその霧島とは違う個体なのだから。
あの男は、ただひたすらに嫌な男だった。
日本が、また日本が有する艦娘による恩恵に預かって居た国が、一時期どん底にまで叩き落とされのは……。
あの男と、あの男がブイン司令にまで台頭できる組織構造を持った民主的すぎる海軍、その海軍を作り上げた日本のせいだ。
今となっては恨んではいない。あの男だけが悪いのではない。
問題はもっと大きく、私達がどうにも出来ない場所にあったのだから。
「カレーが美味しいのです!」
「ブインは料理も美味しいしラバウルとは大違いね」
食堂にも楽しそうな笑い声が響く。艦娘達の目には光が宿っている。
ブイン基地は変わった。
今の聯合艦隊司令長官は本当に凄い人だと思う。
あの人の力で南方戦線は再び息を吹き返した。
彼が腹の底で艦娘をどう思っているかは知らない。
組織を効率化させるための最善策だと考え艦娘を優遇しているのかもしれないが、結局私達は優しくされるのだから悪い気はしない。
以前に比べれば天国のような場所だ。
「ね、あの霧島さんってさ」ヒソヒソ
「あ~分かる。独り言ばっかりでなんか暗いよね」ヒソヒソ
「姉妹艦からも嫌われてるんだって」ヒソヒソ
例え私が陰口を言われていようとも、ここは天国と呼べる程に生ぬるい。
女三人集まればなんとやら。そうなるのは理解は出来る。
陰口が楽しいと私には思わないが。
霧島「……」モグモグ
物事は綺麗な面ばかりでは無い。汚い面ばかり見てきた私にはそれが分かる。
仕方のない事だ。
姉妹艦だと思えた榛名が沈んで以来、私は他の金剛型と慣れ合うことが出来ずに居た。
だからこそ、三週間一サイクルの基地ローテーションに組み込まれずブイン基地の四人部屋を一人で使い、それでも尚安穏として食堂でカレーを食べているのだから。
スプーンで食事を口へと運ぶ。
霧島「……おいしい」
一人で食べてもカレーは美味しい。だから余計寂しい。
もうやめてしまおう。
これから先だって、何も楽しいことなど無いではないか。
朝 ブイン基地 執務室
ブイン司令「なに、本国からの増派?」
翔鶴「はい。急な変更で二隻余りが出たので使うようにと」
ブイン司令「何だそれは。知るか。何故南方戦線で受け入れる必要がある」
翔鶴「金剛型戦艦なのですが、姉妹艦の認識が出来ないようで精神的に不安定だとか」
ブイン司令「……で、俺のところへお鉢が回ってきた」
翔鶴「はい。検査の結果穢れでは無いと判明しましたがこのままだといつ発症してもおかしくない、との診断です」
ブイン司令「姉妹艦と組ませず運用したり色々あるだろう」
翔鶴「姉妹艦を目にするのも嫌なようです。小さい基地でなく300を超えて艦娘を運用しているブインが最も適しています」
ブイン司令「う~ん……妙に納得が行かんな。もうブインへ来ているのか?」
翔鶴「はい。もうすぐ執務室へ来ます」
そう喋っている最中に執務室のドアがノックされた
ブイン司令「噂をすればだな。……入れ!」
霧島「失礼します。Lv.27の霧島です。司令殿、相談があって参りました」
ブイン司令「この霧島か」
翔鶴「いえ。来るのは榛名です」
ブイン司令「翔鶴よ、ならばこれは不味い展開では無かろうか」
翔鶴「霧島さんはこの時間帯は海上護衛の筈なのですが」
霧島「瑞鶴さんにお願いして代役を立てて貰いました」
ブイン司令「……ともかく今は下がれ。少し来客がある」
霧島「簡潔に済ませられます」
翔鶴「霧島さん、司令は下がれとおっしゃっていますが?」
霧島「私を解体して下さい」
ブイン司令「……」
翔鶴「……」
霧島「敵への憎しみだけで戦い続けるのはもう疲れました」
再びドアがノックされる。
ブイン司令「取り込み中だ」
大潮「はい! 失礼しまーす! 駆逐艦大潮、戦艦榛名、ブイン基地へ着任します!」
ブイン司令「日本語が聞こえてない!?」
大潮「えっ!?」
榛名「失礼します」
翔鶴「……」
金剛型戦艦同士の偶然の接触は思わぬ結末を迎えた。
霧島「……ああ、新しい榛名ですか」
榛名「……」
霧島(相変わらず姿形は同じなのね。変な感じだわ)
榛名「霧島!」
霧島「……はい?」
榛名「私です! 榛名です!」
霧島「見れば分かりますが」
榛名「姉妹艦の榛名よ!」
霧島「……は?」
ブイン司令「ん?」
翔鶴「あら……?」
榛名「ずっと探してたんですよ!!」
大潮「榛名、良かったですね」
霧島「はぁ?」
ブイン司令「……あー、一人ずつ話を聞くから榛名以外は外で待ってろ」
霧島「……失礼しました」
榛名「また後でね、霧島」
霧島「……」ペコ
大潮「……」
ブイン司令「……大潮、お前も出て行くんだ」
大潮「大潮もですか?!」
ブイン司令「ブイン基地はどうだ」
榛名「艦娘の基地と噂には聞いていましたが、どこを見ても働く艦娘ばかりで驚きです」
ブイン司令「しばらくここで生活をしてもらう。戦闘は行けるか」
榛名「勿論です」
ブイン司令「よし。……少し君の姉妹艦について聞かせてくれ」
榛名「姉妹艦についてですか? 司令は変なことをお聞きなるのですね」
ブイン司令(お前が変だからだよ)
榛名「前の基地では――――――」
執務室の前の廊下で自分の番を待つ。
私が姉妹艦とはどういう意味だったのだろうか。
例え記憶が一緒でも、見た目が一緒でも、あの榛名は私の姉妹艦の榛名では無い筈だ。
さっきから視線を感じる。
隣に居る朝潮型駆逐艦だ。
話しかけたそうにこちらを見ている。気持ちと体が連動しているようで、うずうずしているのが見て取れる。
正直鬱陶しい。
大潮「……」
霧島「……」
大潮「霧島さんは! もうこの基地には長いのですか」
霧島「……ある程度は」
大潮「どうしてブインは他の基地と違うのでしょうか。大潮はあまり他の基地を知りませんが、この基地は変わっています」
霧島「聯合艦隊司令長官が直々に指揮をとっているからです」
他の要因もあるのだろうが、説明するのが面倒だ。
大潮「凄いですね!!」
霧島「そうですね」
大潮「はい!」
霧島「……」
大潮「……」
霧島「……」
大潮「あの、霧島さんはお話するのが嫌いなのですか」
霧島「他の艦娘と触れ合うのはそれほど好きではありません」
大潮「そう……ですか」
それから沈黙が続いた。
執務室では会話が盛り上がっているようで、内容までは分からないが時折音が漏れ聞こえる。
本当にもうどうでもいい。
もう私は戦わない。
ブイン司令に打ち明けてしまったのだ。
葛藤もあった。兵器としての生き方を全うすべきだとも思った。それでも言った。
心なしか胸のつかえが取れたような気がする。
今までの私には戦わない生き方など想像も出来なかった。
道が開けたような気さえする。
開けたのは兵器としての死への道に違いないのに。
翔鶴「では、次に霧島さん。どうぞ」
司令は私に何と言うだろうか。ふざけるな、馬鹿にするな、認められん。
頭に浮かぶのは否定の言葉ばかりだ。
霧島「失礼します」
ブイン司令「さっきはすまなかったな」
司令の口から真っ先に飛び出したのは謝罪の言葉だった。
霧島「……?」
ブイン司令「君の話を中断させてしまった。君が真摯に告白してくれたのに、その腰を折るのは何とも無粋だ」
翔鶴「……」
司令の傍に秘書艦のように佇む翔鶴型のネームシップは静かな微笑みを湛えている。
場の空気は極めて穏やかだった。
ブイン司令「君のことはよく知っている。艦娘の中、いや霧島の中でも問題児で有名だ」
ブイン司令「基地では独り言を発し他者を寄せ付けず、会話による意思疎通を好まない」
ブイン司令「かと思えば戦闘では深海棲艦を見るなり豹変し、好戦性は基地随一とも言われている」
ブイン司令「ま、憎い敵を前にすると冷静では居られないんだよな」
霧島「……」
ブイン司令「えー、加えて同じ部屋の金剛型とすら交流をせずに基地で孤立する」
霧島「……金剛型というだけです。本当の意味で姉妹艦だと思えません」
ブイン司令「くっくっく、なる程な」
ブイン司令「要するに君は周りと円滑な関係を結べないどころか、戦闘時も突出して下手な射撃で無駄に砲弾と艤装の燃料を消費する艦娘のお荷物なわけだ」
霧島「……」
そうまで言ってくれるのか。逆に感心した。あ、自分の存在の無価値さにである。
ブイン司令「霧島を解体するとどの程度の再利用可能ナノマシンが取れる」
翔鶴「再利用するには部位が限られますから……三十キロほどでしょうか」
ブイン司令「応急バケツ約六杯分か。このまま霧島を運用し続けることで生じるメリットと比較してどちらが合理的か」
翔鶴「霧島さんは貴重な金剛型戦艦ではありますが、こうも協調性が無いとローテーションを組むにも面倒ですし、戦闘の役に立たないと現場からの声も届いています。艤装運用の資源消費を鑑みてもバケツの中身に変化して頂いた方が良いかと」
そう言って正規空母は微笑んだ。
まさか自分の死の果てがバケツの中身とは。……まぁ別に関係ないか。
ブイン司令「ふーむ。ここまで聞いても君の表情に変化は見られんか」
ブイン司令「肝が座っているのか、驚きすぎて思考がついていっていないのか」
両方です。
ブイン司令「はたまた、その両方か」
当たりです。
ブイン司令「ともあれ、君の願いは順調に聞き届けられる方向へ行こうとしている」
ブイン司令「艦娘運用部門代表との合議の結果、君を解体処分した方が軍事的な観点から合理出来であるという結論にも到達した」
翔鶴は艦娘運用部門の代表であったのか。今知った。
ブイン司令「君自身も解体を望んでいる。ハッピーエンドだ」
……
ブイン司令「生憎、俺はハッピーエンドというのが嫌いでね」
ブイン司令「あんなものは短期もしくは長期的な視点に立った時に一部の者が幸せになるだけの終わり方にすぎん」
いや、すぎんって。それで十分でしょうが。
ブイン司令「その一部に俺が含まれていない終わり方など認めはせん」
あ、はい。
ブイン司令「金剛型高速戦艦霧島、ブイン基地司令の権限をもって君に新たな任務を命ずる」
私の望み通りにならないことは何となく分かった。
ブイン司令「新しく赴任した榛名の世話係になれ。部屋も君と同じだ。何かあれば連帯責任……もし君がどのような形であれ任務を放棄すれば榛名を解体処分とする」
霧島「何を言っているのですか?」
ブイン司令「ようやく喋ってくれたな」
ブイン司令「どうせ榛名もお荷物だ。問題ない」
翔鶴は目を瞑り表情に何の色も出さない。
部屋の空気は相変わらず穏やかだ。だがそれ故に恐ろしい。
霧島「私はもう艦娘として生きたくありません」
ブイン司令「駄目だ。自分一人だけ納得して終わりにはさせんぞ」
霧島「……」
ブイン司令「艦娘の殺生与奪を司る、死と朽ちぬ輝きを放ち続ける愛の天使。お前たちの上級指揮官の判断だ」
ブイン司令「従えよ」
男の笑顔は卑しい。
その顔を見ても、隣に佇む艦娘は何も言わなかった。
昼 ブイン基地 金剛型の部屋
榛名「わぁ! ここが霧島の部屋なのですね」
霧島「空いているベッドをご自由にどうぞ」
榛名「もっと柔らかい口調で喋ってくれてもいいのよ?」
霧島「癖なので」
榛名「……そう」
霧島「では基地を案内しますので」
昼 ブイン基地 ドッグ
時雨「海上護衛戦で駆逐艦が大破、四番ドッグ使うよ」
明石「バケツぶっかけてすぐ出して下さい。重巡が残ってます」
緑帽妖精「大破時間かかる。バケツやむなし」
時雨「潜水艦にしてやられるなんて、後でお仕置きだね」
明石「そうですね。楽しみです」
榛名「凄い……ドッグでも艦娘が働いてる」
霧島「入渠ドッグは六施設あります。かなり大型と良いでしょう」
霧島「一時期妖精が不在の時期がありまして。その時に艦娘による自力の艤装の修理開発に執心された結果がこのドッグです」
榛名「その計画は失敗したのですか?」
霧島「事実上の失敗です。妖精が居なければ戦えない、という結論に至りました」
榛名「でも、凄い光景です」
霧島「そうかもしれません」
昼 ブイン基地 武器庫
霧島「ここが武器庫です。修理のための予備の艤装や特殊装備、弾薬の保管庫になります」
霧島「燃料庫は安全の為離れた場所にあります。地上に設置されているスタンドから補給可能です」
榛名「駆逐艦が沢山居ますね」
霧島「毎日の搬入搬出、在庫の確認、動作チェック、仕事は無限にありますから忙しいらしいですよ」
榛名「霧島はここで働いたことは無いのですか?」
霧島「伝統的……と言ってもまだここ2ヶ月のことですが、弾薬庫で働くのは駆逐艦が主です」
榛名「何か理由が?」
霧島「最初に兵站管理を担当した艦が駆逐艦で、仕事がしやすいように姉妹艦を集めたそうです。それが今に繋がっているのでしょう」
榛名「なるほど」
霧島「今の兵站管理代表は『駆逐艦が働くことで機敏な動きとチームプレーが身につくぴょん』とか適当な事を言っていますが、多分嘘です」
榛名(ぴょんまで真似しなくていいのに)
霧島「あ……こんな情報は余計でしたね。すいません」
榛名「ううん。楽しいです。もっとお話してください」
霧島「……ご要望とあれば」
昼 ブイン基地 港
霧島「物資輸送船団は海上ルートの安全確保の為に定時でなく不定期です」
霧島「来た物資は検査され武器庫や燃料庫、酒保へと配分されます」
榛名「来た時から気になっていたのですが、あれは軍艦ですよね」
霧島「はい。タラワ級強襲揚陸艦のサイパンという艦だったのですが、長官が趣味悪いと言って『土佐』に名前を変更されました」
榛名「タラワとサイパン……確かに我々にとって縁起が良いとは思えませんね」
霧島「アメリカ軍は本当に良い趣味をしていますからね」
榛名「あはは! 霧島、それだと嫌味のように聞こえますよ」
霧島「嫌味ですから」
榛名「ええ。そうだと思いました」
この後も基地を巡って紹介を続けた。
榛名は私の話を楽しそうに聞いてくれる。
妙に馴れ馴れしいのが鼻につくが久しぶりに他の艦娘と喋るのは少しだけ楽しいような気がした。
夜 ブイン基地 ブイン司令の部屋
「司令の仕事も大変なんだな」
「なんだ。着任してまだそれほど経っていないぞ」
「今となっては神官で居た方が良かったように思う」
「それならそれで『暇だ暇だ』と騒ぐ男だろう。君は」
部屋には航空戦艦しか艦娘が居ないようだ。
彼女は胡座をかき一人手酌で日本酒を楽しんでいた。そのラベルには十五代とある。
「一人でいい酒を飲みやがって。一体どこで仕入れてきたんだ」
「秘密さ。私にも私のルートがある」
「俺にもよこせ」
男は航空戦艦の隣に座ると、盃を手に取り酌を受ける。
「ほら」
「おう」
「隣に座ってくれて嬉しいよ」
「?」
「昔の君なら私の前に座っていた」
「……細かいことを気にするやつだ」
「この基地はそれくらいしか娯楽が無いものでね」
そうは言いながらも日向は本当に嬉しそうだ。
「……」クイッ
盃を傾け一気に飲み干す。
「注げ」
「相変わらず自分のペースを無視した良い飲みっぷりだ」
「うるさい」
三十分程注ぐ飲むの動作を繰り返していると男がフラフラし始めた。
「あー酔った」モミモミ
「酔ったのを口実にすると何でも出来ると勘違いしていないか?」
「やっぱり分かるか」モミモミ
「というか普通に触っても良いんだぞ」
「馬鹿。ムードが大事だろうが。こういうのは」サワサワ
「言ってることとやってることがおかしくないか」
「どうだ。気持ちいいだろう。早く喘げ」サワサワ
「君は本当に歪みないな」
「なんだ。お前、やりたくないのか」
「野人のような言葉遣いをするな。艦娘に性欲は無いよ」クイッ
「嘘つけ」
「うん……美味い。久しぶりに君と二人きりで酒を飲めてるんだ。この時間を楽しんでも良いだろう」
「酒ならいつも飲んでるだろうが」
「二人きりというのが大事なんだ」
「何でだ」
「私が君と二人きりで居たいからだ」
「……真顔で言うなよ。その気が失せる」
「はは。今日だけは好都合だ」
「豪傑ぶる日向には女っぽさが無くて困る」
「君がその気ならいつでも女に戻ってやるさ。今日は駄目だが」
「興の無い奴だ。まぁいいか」
「はいはい」
「にゃーん。ゴロゴロ」スリスリ
「日向よ。酔えば何でも許されると思っているのか?」
「猫だから日本語は分からないにゃ」
「……猫なら仕方ないか」ナデナデ
「ありがとうにゃ。ご主人の太ももはちょっと硬いにゃ」
「我慢しろ」
「分かったにゃ。日向はいい子だから我慢するにゃ」
「……」ゾワゾワ
「航空猫戦艦パンチ」
「レバッッ!?」
「はー、本当に少し酔った」
「俺も少し気持ちいい程度だ」
「手、握ってくれ」
「ん」
「ありがとう」
「日向」
「どうした」
「いい名前だよな。日向、日に向かう、その決意、その在り方、うん。いい名前だ」
「是の国は直く日の出づる方に向けり」
「なんだそれ」
「知らないのか? 君は無教養だな。というか君の家の話だろ」
「ああ、知ってるよそれくらい。ああ、知っているさ」
「はいはい」
「嶋田はよく艦娘とまぐわうのだが」
「そうなんだな」
「男にも色々なタイプが居るよな」
「まぁそうだろうな」
「簡単に女と関係を持つ者も居れば、持たない者も居る」
「問題なのは関係を持ちたいのに持てない者だろう」
「その通りだ。悲惨極まる」
「君はどうなんだ。そんな話をするくらいだし、気にしているのか」
「まぁな。そりゃ出来ないよりは出来る方が良いだろう」
「人間の女の感覚も私には分からんが……人間の男の性欲というのは理解の範疇を超える」
「あはは。男としても性欲は自分の理解の範疇を超える部分ではある」
「生物というのはDNAに突き動かされているのだろう。可哀想に」
「艦娘は生物のしがらみが無くていいな」
「逆に苦労することもあるさ。で、何で嶋田さんの話をしたんだ」
「……お前、嶋田が言い寄ってきたらどうする」
「う~む、確かに整った顔立ちをしてるとは思うし話せば面白いのだろうな。伊勢も好きなようだし。しかし私はその気がない」
「過去、数多の艦娘たちがお前と同じことを言って手篭めにされてきた」
「やり手だな」
「嫌なほどにな」
「君は私が嶋田さんの手篭めにされると嫌なのか」
「……」
「へぇ~、嫌なんだな」
「嫌とは言ってないだろう」
「君にしては珍しく嫌そうな顔をしていた」
「いつもこんな顔だ」
「それは私が第四管区の艦娘だからか? 友人だからか? それとも……」
「自分の女が他人に奪われるのは気持ちの良いものじゃ無いだろう」
「ふ~ん」
「ニヤニヤするな。気持ち悪い」
「いつもこんな顔だよ」
「この前、生意気な方の吹雪と少し喋ってな」
「驚いた。君から話しかけたのか」
「いや。向こうから長月のことを聞いてきた」
「それで?」
「前と変わらんことを伝えて、世間話を少し」
「そうか。ところで君、艦娘の区別は出来るのか」
「同名鑑でもある程度は区別できる。少なくとも俺の周りに居る奴らは分かりやすいのが多い」
「へー」
「吹雪は酒が駄目だったらしい。今度潰してやるのも面白いかもな」
「随分と態度が変わったじゃないか。あれ程嫌っていたのに」
「あいつは今頑張っているよ。向こうが変わったのなら俺の対応も変わるさ」
「君の公平さは素晴らしい。軍を辞めた後は裁判官になったらどうだ」
「小学生の夢じゃあるまいし、おかしなことを言うな」
「おかしいと一蹴しないでくれよ。違う道を歩む自分の姿を想像するのも楽しいさ」
「たまにはな」
「たまには軍人らしい話も聞かせて欲しい」
「この戦争の幕引きについて」
「いいな」
「国家間の戦争と違って外交官による和平など望み得ないこの戦争において幕引きとは何か」
「深海棲艦の殲滅」
「然り。生き残るのは人類か深海棲艦か、二つに一つだ」
「どう殲滅する」
「ガダルカナル奪還作戦が成功すればある程度見通しが立てられる」
「なんだ。じゃあ何も決まってないのと同じじゃないか」
「鍵になるのは航空機とだけ言っておこう」
「艦娘は?」
「艦娘など前提だ。鍵以前の問題だ」
「戦争が終わったら艦娘はどうなる」
「居なくなる」
「英雄では居られないかな?」
「多分な」
「それは悲しいな」
「英雄はどうあがこうと異端だ。覚悟しておくことだな」
「ままならんな」
「ああ。ままならん」
「私たちは昔、一つだった」
「ん?」
「君と私も翔鶴も瑞鶴も時雨も、他の艦娘達も深海棲艦たちも」
「天地開闢以前の話か」
「そんな神話の話じゃないよ。……人間も他の生き物も一つだった。全ての命はかつて一つだった」
「時代の流れがきびしく分断したものが、再び結合する。すべての人間が兄弟になる」
「その曲は好きだがベートーヴェンは分かってない。時の流れが分断したのは人間だけじゃない」
「そう文句をつけてやるな」
「でも私たちはもう一度一つになれる。その点彼は正しい」
「なれるかな」
「なれるさ。我々の心がそれを望んでいる」
「ふ~ん」
「信じてない顔だな。確かに心だ魂だと言うと怪しさが増すがな、私は間違ってはいないよ」
「自信があるのは良いことだ」
「これは時雨と同じ世界の真理さ。ほら」ギュッ
「現に今こうして君と私の心は一つになろうとしてるじゃないか」
「こんないい匂いのするものと自分が昔一つだったとはにわかに信じられんな」
「ほんとに? 嬉しいな」
「ほんとさ。なにか落ち着くよ」
「あ~……ずっとこうしてたい」
「……」
「遠回りばかりしてしまったが、もう離さない」
「よく考えろよ。本当に俺なんかで良いのか」
「もう君じゃなきゃ駄目さ」
「……恥ずかしい」
「愛も幸せも、心が一つであれば自覚するまでもない」
「うん」
「肉体が朽ちても心は朽ちない。一つになれば私たちはずっと一緒だ」
「うん」
「それで多分、その在り方こそが永遠だ」
「お前は永遠の存在になりたいのか」
「至高だからな」
「永遠は余りに長いぞ」
「君となら平気さ」
「ほんとか?」
「ほんとさ。航空戦艦は嘘をつかん」
「このまま抱き合って眠って、朝起きたら一つの石に変化してるなんてどうだ」
「私はいいよ。それが一つになるということならば」
「俺もいいんだが……あー、翔鶴達をどうしよう」
「私だけじゃ不満か」
「むくれるなよ。すべてのものは一つになるんだろ」
「それもそうだな。遅いか早いかの違いだし……あいつらとなら一つになっても構わんか」
「どうすればその至高に辿り着けるんだ」
「そう信じれば、一緒に信じ続けることが出来ればきっと辿り着ける。……君は信じてくれるか?」
「他に選択肢はあるのか」
「無い」
「あはは」
「こっちの方がミケランジェロのピエタなんかよりよっぽど素晴らしいものだと思うんだがな」
「永遠もピエタもまだ見ていないから比較する気はないが。俺はお前に付き合うよ」
「ほんとか?」
「ピエタは見なくても生きられるがお前は別だ。俺も、もうお前と離れたくない」
「……」
「どうした」
「……満たされすぎて溶けてしまいそうだと思った」
「あはは。溶けなくて良かったよ」
「それにしても体が邪魔だ」
「二人でどろどろになって混ざり合うか」
「形だけじゃ駄目だぞ。実を伴わないと」
「あはは」
「軍人らしい話をしてやる」
「うん」
「戦争が終わったら退役して、その金で片田舎に大きな家を買う」
「うん」
「色んな艦娘達が突然泊まりに来ても対応できるよう大きな家だ」
「うん」
「トイレなんて三つあるくらい大きな家だ」
「電気代と水道代の無駄だ」
「あはは。くみ取り式だからその心配はいらん。それで俺はお前達と一緒にそこで生活する」
「うん」
「田畑を耕しなるべく使うものを自給自足しながら交代交代で家事をする」
「うん」
「瑞鶴と一緒に不味い料理を作ってお前達に苦い顔をされてあいつと二人で笑う」
「そうか」
「仕事で疲れた日には翔鶴に膝枕して貰いながら眠る」
「うん」
「寝れない夜はお前を囲炉裏の部屋に引っ張り出して一緒に酒を飲む」
「ああ、付きあおう」
「時雨はいつも手の届く範囲に置いておいて、事あるごとに撫で回してやりたい」
「なんだそれ」
「慣れないことをして苦労もするだろうが、それもまた楽しいだろう」
「お坊ちゃんめ」
「やっぱり見立てが甘いか」
「甘いだけならまだしも現実に虫歯になりそうな程だ」
「うーん」
「……でも、私もそうなればいいなと思える夢だった」
「だろ! 良いだろ!」
「うん。楽しそうだ」
「お前はそう言ってくれると思っていた」
「深海棲艦との幕引きを語るより余程楽しそうだな。軍人らしさはどうした」
「皮肉だよ」
「知ってるよ」
「気づけばこの基地の艦娘たちに愛着を抱いてしまっている」
「そういうものさ。私もだ。深入りするつもりは無かったんだけどな」
「それでも俺はお前達を依怙贔屓する」
「無理だよ」
「どうして」
「君はもう彼女たちに愛着を抱きすぎている」
「……」
「卑下するなよ。冷酷になれないだけさ。そういうところも君らしさだよ」
「その言葉に救われている自分が度し難い」
「その通り。そして自分を許せない君を許すのが私たちの役目だろ」
「ま、それもそうか」
「開き直るな」
「あはは」
小休止
お待たせしました。
予定が重なり更新できませんでした。一応まだ生きています。
榛名大潮は今後も継続で。
雑談スレの日向の人って誰なんですかね。自分、心当たり無いッス(すっとぼけ)
乙!
うおー!待ってたよ!
乙です
乙です
遂に愛してるですら無くなったか
ドッグとは
乙です。
いいですねーこっちまで虫歯になってどろどろに溶けそうです。
乙です
6月12日
朝 ブイン基地 執務室
山内「遠路遥々ようこそ。歓迎します」
陸軍中将「こちらこそ。大規模作戦の前に申し訳ない」
山内「いえ、今回の作戦は陸軍の皆様の――――」
まどろっこしい大人同士の挨拶が交わされる。
嶋田「……」
ブイン司令「……」
少佐A「……」
少佐B「……」
少佐C「……」
少佐D「……」
中将に付き従う四人のいかつい顔をした少佐たち。
私にはどう見ても護衛にしか見えないのだが……。
山内「それで今日の訪問の目的なのですが」
陸軍中将「海軍さんの仕事を拝見させて頂くだけですよ」
山内「中将、私は今後とも陸軍と良い関係を築いて行きたいと考えております」
陸軍中将「それは勿論! 国の盾として軍が万全に機能するためには海軍との――」
山内「そういった上辺だけの意味ではありません」
陸軍中将「……」
山内「今回の作戦に協力してくれた貴方がたにとても感謝しています」
山内「貴重な航空機と搭乗員妖精をこれ程融通して頂けるとは」
陸軍中将「……山内長官の合理的な考え方に共感した故の、当然の行いです」
山内「それでも、それでもこの陸軍と海軍が歩み寄った一歩の価値は大きい」
陸軍中将「そうですな」
山内「だからこそ、今回の訪問の真の狙いをお聞きしたい」
陸軍中将「……」
山内「場合によっては協力することも可能です」
陸軍中将「つまり場合によっては協力しないと?」
山内「……」
陸軍中将「……今回の視察の目的は艦娘の陸上兵器としての有用性の確認です」
少佐B「中将殿」
陸軍中将「隠しても仕方あるまい」
山内「正直に述べてくれたことに感謝します」
陸軍中将「あの怪力と大口径の砲弾の直撃を想定した高い防御力、見過ごすのは惜しい」
山内「彼女たちが本当に必要なのですか」
陸軍中将「本当に、とは?」
山内「恐らく彼女たちは陸軍の方々の望むような兵器ではありませんよ」
陸軍中将「……」
山内「……基地をご案内します。どうぞ」
朝 ブイン基地 港
「陸軍中将殿に敬礼!」
陸軍中将「ほぉ……」
少佐A「壮観ですね」
百を超す艦娘が港で陸軍の視察隊を出迎える。
山内「任務のある者以外に招集をかけています。今日はこの二人が皆様の護衛をします」
皐月「皐月です。よろしくお願いします」
文月「文月っていいます。よろしく~」
少佐C「………我々にも護衛は居るのだが」
護衛兵「……」
山内「護衛兵の皆様には控室で待機して貰います。中将、構いませんか?」
陸軍中将「儂は構わんが」
少佐D「……こんなちんちくりん二人で大丈夫なのか?」
皐月「むっ、僕がちんちくりん?」
少佐D「戦艦を護衛につけるべきだ」
山内「ご心配なさらずに。二人共手練です」
少佐A「こいつらがねぇ……」
陸軍中将「おい、海軍将校殿にその態度は無礼であろう」
少佐A「も、申し訳ありません」
陸軍中将「皐月君、文月君、よろしくな。……お前たちもいいな?」
少佐D「はっ!」
少佐A「了解であります!」
皐月「まっかせといてよ爺ちゃん!」
少佐C「じっ……!?」
陸軍中将「わっはっは! 新しい孫娘が出来たようだ!」
文月「大船に乗ったつもりでいてね~」
山内「護衛の皆様方を控室へ案内しろ」
「はーい、護衛兵の皆様はこちらでーす」
「彼女居るんですか~!?」
「それとも……キャー! 彼氏なんですか!!!」
護衛兵A「じ、自分はそんなうぉぉ」
「そっちの人イケメンですね! この中だとどの子が好みですか!?」
「あっちでゆっくりお話しましょう!」モミモミ
護衛兵B「あー! 駄目! そこ触っちゃアーッ!」
まさに艦娘による大波。
十人は居たであろう護衛兵達は波に飲まれ為す術無く脱落した。
山内「いや~申し訳ない。彼女たちは兵器でも心は乙女ですから」
少佐A「……長官殿は艦娘の心の存在を信じておられるのか」
山内「ええ。少佐殿は信じておられないのかな」
少佐A「科学的な根拠が無い」
山内「あはは!!」
少佐A「何がおかしいのでしょうか」
山内「言葉で語るより見た方が早いでしょう」
朝 ブイン基地 港
田中「なんだか向こうが賑やかですね」
卯月「今日は陸軍のお偉方が視察に来てるらしいぴょん」
田中「へぇ~」
卯月「田中はこーいうの興味無いぴょん?」
田中「まぁ、楽しそうだな~とは思うんですがね」
卯月「……実はうーちゃんはちょっと見てきたいぴょん」
田中「ああ、どうぞ。荷降ろしももうすぐ終わりですし、僕はここで待ってますから」
卯月「ほんとに!? 行ってきてもいい!?」
田中「ええ」
卯月「さっすが我が心の友、田中! すぐ戻るぴょ~ん!」トタタ
田中「行ってらっしゃい」フリフリ
田中「……」
田中「さてと。中将殿の方も上手くやってくれれば良いが」
朝 ブイン基地 ドック
山内「ここが我が基地自慢のドックです」
陸軍中将「妖精が殆ど居ないな」
山内「結果的にそうなりました」
陸軍中将「……妖精抜きで艦娘運用というのは可能かね」
山内「不可能です。艤装は妖精にしか直せません」
陸軍中将「成る程な。艤装も運用したければ妖精もセットでないと駄目なわけか」
山内「はい」
「あの、少しよろしいでしょうか」
山内「どうした」
「陸軍中将殿に握手をして頂きたいのですが……」
少佐A「何をふざけた事を」
陸軍中将「構わんよ」
少佐A「中将殿! 危険です!」
陸軍中将「君にはあんな表情をする者が刺客に見えるのかね」
「……」
声をかけてきた長い髪の艦娘は緊張からか少し上気し、手を後ろで組み上目遣いでこちらを伺っている。
少佐A「……いえ」
陸軍中将「お前も少しは女慣れした方がいい。……ほら」
「ありがとうございます!!!」ギュッ
陸軍中将「うむっ!?」
「あっ、ごめんなさい! 私つい力の加減が出来ずに」オロオロ
陸軍中将「……良いんだ。しかし何故こんな爺と握手がしたいのかね」
「……言っても笑いませんか」
陸軍中将「笑わんとも」
「ダンディな感じで、すっごく私の好みなんです」
陸軍中将「……」
少佐C「……好み?」
「写真とか一緒に撮ってもらえたり……しませんよね?」
陸軍中将「良いぞ」
ブイン司令「では私が撮りましょう」
「司令殿、ありがとうございます!」
ブイン司令「はい構えて~、1足す1は~?」
「にー!」
ブイン司令「よーし撮れたぞ」
少佐D「……これでは女学校の視察に来たのと同じじゃないか」
嶋田「まぁまぁ。それが艦娘ですし」
少佐A「嶋田中将、艦娘はいつもこんなに盛っているのですか」
嶋田「まぁこんな感じです。本当に兵器なのかどうか、我々自身にも分からなくなりそうな程ですよ」
少佐A「……」
嶋田「可愛い奴らです」
昼 ブイン基地 食堂
少佐A「動く度に艦娘に囲まれて視察が遅々として進まん!」
少佐C「海軍は我々に見せる気が無いのでは?」
山内「まぁまぁ。今日は一日あるのですから昼からが本番ですよ」
「あの、食事をご一緒して宜しいでしょうか」
少佐D「またか……」
少佐A「いい加減にしろ! 我々は遊びに来ているわけでは無いのだぞ!」
「ひっ……」ビクッ
少佐A「いや、そんなに怯えずとも……」
陸軍中将「おい、その娘に謝れ」
少佐C「……」
陸軍中将「郷に入っては郷のルールに従うのは当たり前のことだ」
少佐A「……すまん。怒鳴りすぎた」
「わ、私こそごめんなさい」
陸軍中将「それだけか」
少佐A「良かったら自分の隣へ来てくれ」
「ほんとですか!! ありがとうございます!!」
少佐A「う、うん」
陸軍中将「許してやってくれ。根は良い奴なんだが何分女慣れしてないものでな」
少佐A「中将殿!」
陸軍中将「わはは。本当のことだろうが」
「中将殿、私も相席をしてもよろしいでしょうか」
陸軍中将「勿論だとも」
皐月「さ、爺ちゃん早く食べようよ。今日のお昼はメンチカツだよ!」
陸軍中将「確かに旨そうだ」
文月「食堂の人の作るメンチカツは最高に美味しいよ」
陸軍中将「そうかそうか。では頂こう」サクッ
陸軍中将「……」モグモグ
陸軍中将「うん。いいな」
皐月「折角だしボクのも食べなよ」
文月「文月のもあげる~」
おばちゃん「こら、年寄りに脂っこいもんばっかり食わせてんじゃ無いよ!」
少佐A「……」ニヤッ
陸軍中将「帰った後の懲罰が楽しみだな」
少佐A「えっ!?」
昼 ブイン基地 夕張の研究室
夕張「長官殿!」
山内「ああ、敬礼はいい。こちらは視察に来た陸軍の皆様方だ」
夕張「わ……坊主頭の男の人がこんなに……雄のニオイが……」クラクラ
少佐C「……こいつ、少し変じゃありませんか」
夕張「ご心配なく! いつもこんな感じです!」キリッ
少佐A「また変な奴が出たな」
山内「夕張君には新たな艤装の開発を担当してもらっている」
少佐D「そんな事が可能なのでありますか」
夕張「妖精から与えられたものに変化を加える位なら、私たちでも出来ますから」
少佐D「嘘つくな艦娘。ブラックボックスの塊に手をつけるなど不可能だ」
夕張「論より証拠ですかね。こちらを御覧下さい」
少佐D「うぉぉぉぉ!!! 美しい!!!!」
夕張「へぇ、この美しさが分かるとは中々やりますね」ニヤ
少佐D「このコンパクトさで何故これほどの……」
夕張「妖精が作る艤装は元の軍艦を精密に真似る故の無駄が多いんですよ」
夕張「ブラックボックスに手を付けずとも現代科学に基づいた適切な改装をしてやれば、より強力な艤装を作ることが出来ます」
少佐D「……夕張、いや夕張さん」
少佐D「未熟な私めにそのやり方をご教授願いたい」
夕張「メロンちゃんで良いですよ」ニッコリ
夜 ブイン基地 大部屋
陸軍中将「これは何の集まりなんですか」
山内「見れば分かります」
長門「えー、今日のテーマは夜戦だ」
川内「発表者は私! 私! 夜戦です!」
\ヤセンバカ!/ \バカ!/ \クソバカ!/
川内「あれ~何か変な声が聞こえるぞ~?」
川内「まぁいいや。じゃあ今日の題材は一週間前、ブイン・ショートランド間の第二防衛ラインでAM2:36頃発生した夜戦でーす」
川内「敵の構成は重巡三、駆逐艦三。味方は駆逐艦二、軽巡二あ、私含むね。重巡二」
川内「じゃあ映像行ってみましょう!」
陸軍中将「驚いた。艦娘自ら戦闘の最適解を探すことも出来るのか」
山内「艦娘自らが提案し始めた行為です」
陸軍中将「……素晴らしいな」
山内「ええ」
川内「ということで結論としてこの夜戦には気合が足りなかった! というわけです」
日向「あはは」
伊勢「途中までは良かったんだけどねぇ」
川内「はいじゃあ夜戦三原則行ってみよう!」
「一撃必殺」
川内「そうそう、夜戦はカットインで一撃必殺! 連撃なんてもってのほか!」
「見敵必殺」
川内「いいねぇサーチ・アンド・デストロイ!」
「御敵必殺」
川内「イェーイ! 我々の敵を殺せぇ!!!!」
瑞鶴「落ち着きなよ川内さん」
長門「よーし、じゃあ今日はここまで」
少佐C「……川内ちゃん可愛い」
陸軍中将「ん?」
少佐C「何でもないであります」
夜 ブイン基地 第三飛行場
陸軍中将「いや、実に有意義な時間を過ごさせていただきました」
山内「役に立ったのであれば幸いです」
少佐A「まぁ……艦娘というものがどのようなものか分かった気がします」
少佐C「川内ちゃん……」
少佐D「メロンちゃん……」
嶋田(後半二人は大丈夫なのかこいつら)
陸軍中将「……艦娘は兵器としてあまりにも不安定だ」
山内「……」
陸軍中将「あんな女達を戦場にやれるわけがない」
山内「では」
陸軍中将「制式採用は無いと考えてくれていい」
山内「ありがとうございます」
陸軍中将「それでは失礼」
夜 ブイン基地上空 飛行機内
陸軍中将「最後に空からブイン基地を眺めろということだったが……」
少佐A「あれは!」
少佐C「おぉ……」
ブインの港湾から空に向けて色とりどりの花が咲く。
少佐D「……花火か」
陸軍中将「綺麗だな」
少佐A「ええ」
少佐C「……中将殿、どうでしたか」
少佐B「海軍の連中は本当におめでたい奴の集まりだ」
陸軍中将「まっこと。おっしゃる通りです」
少佐B「艦娘の心? 何を馬鹿な。兵器に何を求める」
少佐A「では」
少佐B「予定通り進めろ。艦娘さえ手に入れば海軍なぞ不要なことがよく分かった」
少佐C「……」
少佐B「首相のお墨付きだ。皆殺しにしてくれる」
6月15日
朝 ブイン基地 発令所
山内「ショートランドをこの一撃で取り戻す。敵の時間はもう終わりだ」
嶋田「海軍史が変わる瞬間に立ち会えて光栄だよ」
ブイン司令「俺達は特に何もしていないがな」
嶋田「むはは」
ブイン司令「わはは」
山内「……」
山内「夕張君、長門へ頼む」
夕張「了解、個別回線開きます。……どうぞ」
山内「……長門、聞こえるか。準備は?」
長門「よく聞こえる。伊勢、日向、陸奥、霧島、あきつ丸。全員準備完了だ。いつでも突入できる」
山内「制空の心配はするな。一時間後に突入しろ」
長門「了解、通話終了」
山内「次は第一飛行場の指揮官に」
夕張「了解、第一飛行場の直通回線開きます。……どうぞ」
山内「攻撃隊長、どうだ」
隊長妖精「陸上航空隊、いつでも行けます!」
山内「よし、第一波攻撃隊は順次出撃。塵一つ残すな。お前達が道を作れ」
隊長妖精「了解!」
隊長妖精「出撃だ! 野郎ども! 女から発艦する軟弱者とは違う所を見せてやれ!」
「「「「「「「「「「「「「「「うぉいっす!」」」」」」」」」」」」」」」
隊長妖精「俺らは陸上航空隊! 艦上機とは気合が違う!」
「「「「「「「「「「「「「「「羨ましくなんて無い無い無い!」」」」」」」」」」」」」」」
隊長妖精「よーし第一から第二十滑走路の攻撃隊は順次発進! 土佐の甲板にいる連中も発艦だ! 落とされたら泳いで帰って来い! 罰はいつも通り飯抜きだからな」
「「「「「「「「「「「「「「「うぇぇぇぇぇい」」」」」」」」」」」」」」」
ブイン司令「あんな奴らに任せて大丈夫なのか」
山内「妖精と陸上機を集められるだけ集めた。質は知らん」
嶋田「大型陸上機一〇〇〇機の航空支援か……ここまで来ると敵が不憫だ」
ブイン司令「全盛期のアメリカでもこれ程の運用は難しい。目と鼻の先にあるショートランドの奪還は急務ではあるが武器庫のボーキサイトは消し飛ぶだろう」
山内「心配するな。オーストラリア政府とも話はついている」
ブイン司令「あの爺、やっぱり凄いな。結局政府を動かしやがる」
嶋田「戦争を乗り越えているというのは伊達じゃない」
山内「弟子として期待に応えねばな」
ブイン司令「おうよ」
嶋田「しっかし、陸上機にこんな運用の仕方があるとは」
山内「夕張君が増槽を開発してくれたお陰だ」
嶋田「夕張を何でも屋みたいに使うのはやめろ」
山内「むしろ、今まで陸上航空隊を防衛にしか使っていなかったのが不思議で仕方ない」
ブイン司令「嫌味な奴だな。増槽なんて一つの要素に過ぎん。従来の基地でこのような運用法は不可能だ」
嶋田「そうなのか?」
ブイン司令「艦娘運用だけでも資源をバカスカ食うのに、それに加えて陸上航空隊を利用して燃料弾薬、貴重なボーキサイトまで消費するなど許容しきれん」
嶋田「ほう」
ブイン司令「聨合艦隊司令長官閣下の各種方面への働きかけが適切だった結果、補給が潤沢になった『最前線』だからこそ出来る荒業だよ」
山内「あはは。褒められるのは悪い気分じゃないな」
ブイン司令「山内……お前、どれくらい帳簿を誤魔化した?」
山内「正義は行われた。それだけだ」
嶋田「あの悪事に疎くて不器用な山内がなぁ……」
山内「上のやり方に従えば千日手になるだけだ。これは悪事で無く賢い選択さ」
ブイン司令「成長は喜ばしいが、地獄へは一人で行ってくれよ」
嶋田「そうだそうだ。閻魔様によろしくな」
山内「お前ら、少しは僕の苦しみを共有しようとは思わないのか?」
ブイン司令「全然」
嶋田「一人でやれ」
ブイン司令「わはは」
嶋田「むはは」
山内「……どうせ手柄も僕が独り占めだ。後で吠えるなよ」
6月15日
人類側からの反撃の一手が最前線であるブイン基地から放たれた。
ブイン基地の外洋での活動を圧迫していた敵ショートランド泊地奪還の為の号令が下される。
ブイン基地、ショートランド泊地間の距離は太平洋の規模と比べた時には非常に至近であり、聨合艦隊長官はここに一度きりの大作戦を決行する。
その骨子は単純明快。陸上航空隊稼働機三〇〇〇機をブイン基地に結集させ、羅針盤の影響を受けない空から三波もしくはそれ以上の必要に応じた航空支援を行う中、低速戦艦を中心とした殴り込み部隊がショートランド最深部へ強襲をかける。
落ちても自力で帰還できる妖精搭乗員の損失は度外視するとしても、航空機の燃料弾薬、消失した機の補充用ボーキサイト消費量は海軍史上空前となる事は明白であった。
さて、悠長に歓談している聨合艦隊司令長官の本作戦における功績も紹介しておかねばなるまい。
自力ではないにせよ政治干渉を抑えつつ陸軍と円満に協力関係を結び、作戦決行に必要量の資源を確保したのは間違いなく山内の手腕であり、その一連の行い、それこそが彼の戦場における彼の本当の戦いだった。
艦娘は海で戦い、人間は陸で指揮をする。
まさにその通りであるがこれは人間が楽を出来るという意味で無いと理解して頂けただろうか。
作戦の成否を見る以前に司令長官の戦いは実は終了しており、彼は別に歓談しようと夕張に淫行をしようと何も問題無いのだ。
彼の行いに対する彼自身の評価は……
空へと飛び立つ航空機一〇〇〇機、第一波攻撃隊を映した発令所のモニターを満足気に見つめる様子からお察し願いたい。
朝 ブイン・ショートランド間連絡海域
日向「……凄いな」
僅かに浮いた深海棲艦の残骸らしき物体と、そこら中にまき散らされた陸上機の破片がこの海域で行われた戦闘の証拠だった。
伊勢「次で最深部であるショートランドの港湾に突入だよね? 私間違ってないよね?」
長門「……ああ、次で最深部だ。お前は間違っていない」
陸奥「主砲をまだ撃ってないのは気のせいよね?」
あきつ丸「陸奥殿、恐らく気のせいではないであります……」
霧島「……」
最深部に至るまでの羅針盤で区切られた四つの海域で艦娘の戦闘は行われなかった。
次はいよいよ港湾、最深部を残すのみである。
長門「作戦を聞いた時に薄々勘付いては居たが」
旗艦である長門は中々進もうとしない。
レシプロエンジンの音と共に、最深部への攻撃を終えた第三波攻撃隊が引き返してきた。
頭上を通過するその群れを仰ぎ見ると、彼女は呟いた。
長門「もう二度と……こんな気持ちは味わうことは無いと思っていたのだがな」
陸奥「……」
日向「兵器としての矜持も良いが、我々が何の為の存在か忘れない事だ」
長門「戦艦としての誇りを捨てた私は私なのだろうか」
日向「捨てろとまでは言わんよ。……出来れば軍艦でなく艦娘であることも覚えておいてくれ」
長門「……」
日向「生き残るために努力するのも立派な戦いだと思うぞ」
日向「ま、結局は長門、お前がどうありたいか次第なんだよ」
伊勢「それっぽく適当なこと言ってんじゃないよ日向~」
日向「男のために生きる人生も悪くないさ」
伊勢「私も嶋ちゃんと一緒に過ごせたらいいなーとは思うけどさ」
陸奥「え……みんな彼氏居るの……? どうして……?」
あきつ丸「か、海軍はただれているのであります!」
霧島「……進撃しないんですか」
朝 ショートランド泊地 港湾(敵根拠地最深部)
陸上機の第三波までの攻撃を受け、大破した状態でそれは佇んでいた。
後ろの化け物は既に息絶え、奇跡的に発生した浮力によりようやく浮かんでいる。
血のように赤い瞳、長い漆黒の髪を持ったものが、その化け物の傍で寄り添うように、
戦艦棲姫
戦闘力を持っていたのは後ろの化け物のようで、既にその力は失われていた。
戦艦棲姫「……」
そのため姫には戦う意思が無いようだ。
伊勢「油断しちゃ駄目だよ。穢れないよう意識をしっかりね」
長門「分かっている。斉射で止めだ」
戦艦棲姫「キタカ、アワレナニンギョウドモ」
陸奥「あら、やっぱりこのクラスになると喋れるのね」
あきつ丸「……」
戦艦棲姫「ソコノシロイノ、コワガルナ。ワタシハモウタタカエナイ」
あきつ丸「っ!! 貴様のような化け物に!!!」
長門「落ち着け。耳を傾ける価値もない」
戦艦棲姫「……コロセ。ワタシノマケダ」
霧島「死にたがっているみたいですし、撃ってもいいですか」
日向「霧島待ってくれ」
霧島「まだ何かあるんですか」
日向「こいつを殺すのは私に任せくれ」
長門「それは構わないが」
日向「あきつ丸は妖精たちの揚陸を。それで、お願いなんだが……この場は私に任せてお前たちは先に撤収して欲しい」
伊勢「何言ってんのさ日向!」
日向「頼む」
長門「そんなこと出来るわけ無いだろう。どうしたんだ? 自分の言っていることが分かっているのか」
霧島「この人……穢れにやられてるんじゃないですか」
日向「穢れなどに私はやられん」
陸奥「貴女の願いは到底聞き入れられないわ。穢れに魅入られて異常になっていない可能性が証明できない」
日向「……分かったよ。撤退が無理なら少しこいつと一人で話をさせてくれるだけで良い」
長門「現場での判断を一任されている者として拒否する」
日向「頼む時間をくれ。聞き入れてくれるならば、お前と長官のケッコンについて手助けしてやらんこともない」
陸奥「馬鹿ね。そんなのが通用すると思ってるの?」
長門「五分だけだぞ」
霧島「……長門さん?」
長門「深海棲艦との対話は戦争を終わらせる鍵になるやもしれん」
伊勢「それなら全員で!」
長門「日向は一度深海棲艦に変化しかけている。穢れに対して耐性がある」
伊勢「はぁ!?」
陸奥「そうなの……?」
霧島「……知りませんでした」
長門「これはチャンスだ。……断じて私が目先の欲に釣られたわけではない」
日向「助かる。私が合図するまで待機していてくれ」
日向「やっと二人きりになれたな」
戦艦棲姫「ナレナレシイヤツダ」
日向「しらばっくれるな。お前、長門だろう」
戦艦棲姫「……」
日向「随分と寒い場所に居たんだな。肌が真っ白だぞ」
戦艦棲姫「ナゼ、ワカッタ」
日向「分かるさ。雰囲気で分かる」
戦艦棲姫「……」
日向「こう見えても驚いているよ。まさか深海棲艦の、それも指揮官級に転職していたとは」
戦艦棲姫「……ヒサシブリダナ、センカンヒュウガ」
日向「今は航空戦艦の日向だ。久しぶりだな」
戦艦棲姫「ゲンキニシテイタカ」
日向「ああ。元気にお前のお仲間を殺していたよ」
戦艦棲姫「フフフ……シヌマギワダカラダロウカ、ニクシミデココロガクモラナイ」
戦艦棲姫「マルデ、アソコニイタコロノヨウダ」
日向「……」
戦艦棲姫「サッキノガ、イマノナガトカ」
日向「ああ。お前と違って、想い人と結ばれているがな」
戦艦棲姫「……アイツハゲンキカ」
日向「元気だよ」
戦艦棲姫「……」
日向「もう少し待つべきだったな」
戦艦棲姫「メグリアワセガワルカッタ。アレイジョウマツナド、フカノウダッタ」
日向「残念だよ。私はお前のことは好きだった」
戦艦棲姫「ワタシモオマエガスキダッタ。ダガ、モウイウナ。オワッタコトダ」
日向「そうだな。……指揮官級は全員元艦娘なのか」
戦艦棲姫「ソウカンタンデハナイ。イロイロダ」
日向「……安心したよ。長門、我々は深海棲艦との戦いを止めたい。何か手はないか」
戦艦棲姫「ムリダ。ワレワレハトマラナイ」
日向「頼む」
戦艦棲姫「カリニイマ、オマエトワタシノタチバガギャクダッタトシテ」
戦艦棲姫「オマエニハ、センソウノトメカタガワカルカ?」
日向「……上と掛け合う事が出来る」
戦艦棲姫「ソウダ。カケアウコトガデキル。ソシテ、ソノムイミサヲシルコトガデキル」
日向「やってみなければ分からん」
戦艦棲姫「アハハハハ! イッショウケンメイダナ」
日向「当たり前だ! こんな馬鹿げた艦娘同士の戦いなど私の望むところではない!」
戦艦棲姫「ワレワレハニンゲンガニクイ。ダカラ、ヤツラニクミスルカンムスメハ、コロス」
日向「……分かり合えないのか」
戦艦棲姫「ワレワレホドジュンスイデナイニセヨ、ニンゲンモセンソウヲトメルコトヲノゾミハシナイ」
日向「そんなことはない」
戦艦棲姫「キョウゾンスルニモ……ワレワレハタガイヲ、コロシスギタ」
日向「……」
戦艦棲姫「オマエノココロハ、イイニオイガスル」
日向「匂い?」
戦艦棲姫「スキナオトコガイルンダロウ。ソノオトコノニオイガスル」
戦艦棲姫「ウミノニオイダ、ダガ、ワレワレノイルウミデハナイ。……アア、ドコノウミデモナイ」
戦艦棲姫「コンナウミハ、ゲンソウダ」
日向「何を言っている」
戦艦棲姫「オマエガミテイルノハミジカイユメダ」
日向「……」
戦艦棲姫「ユメハ、イツカオワル」
日向「夢じゃない。現実だ。私がやっと手に入れた幸せだ」
戦艦棲姫「ワタシハシアワセニナレナカッタ」
戦艦棲姫「ダカラコウナッタ」
戦艦棲姫「オマエハ、シアワセニナッタ。ダガ、ソノシアワセヲウシナッタトキニ……オマエハドウナル? ワレワレニナルクライデスムノカナ?」
日向「何故失うことが前提に話を進めている」
戦艦棲姫「シットデモアリ、チュウコクデモアリ、ワタシニトッテノタノシミデモアル」
日向「つくづく哀れに堕ちたものだ」
戦艦棲姫「ヒュウガ」
日向「何だ」
戦艦棲姫「サキニミナソコデマッテイルゾ」
日向「長門! 諦めるな! 必ず何か止められる方法がある!」
戦艦棲姫「……」
彼女は静かに目を瞑った。
次に来るであろう主砲の衝撃を覚悟するかのように。
日向「交渉決裂か」
戦艦棲姫「……」
日向「そちらに和平の意思が無いことはよく分かった」
日向「長門、いや、お前は戦艦棲姫だ。強く凛々しかったあの長門では最早無い」
日向「お前は長門なんかじゃない」
戦艦棲姫「……アノオトコヲ、シアワセニシテヤッテクレ。オロカユエニ、イトオシカッタ」
日向「馬鹿な女であるところは変わらないな」
戦艦棲姫「フッ」
日向「……」
日向「訂正するよ。お前は長門だ」
戦艦棲姫「……」
日向「お前はお前で、私は私で」
日向「愚かしいほどに大事な部分は変わらない」
徹甲弾を装填した砲塔の照準を静かに合わせる。
日向「……」
日向「さよなら」
小休止
乙です
乙!
乙です。
陸軍の視察は上層部の差し金?
日向の「さよなら」がここで出るんですね。
乙です
ドッグは犬です
支援感謝や~
懲りずに安価
三つ下と四つ下。無理に絡ませず書ける奴だけ書きます
矢矧
踏んで行け
村雨さん
時雨
お、雨コンビktkr
乙です。
安価逃したかぁ。
これは、世界の心理 時雨と純粋な姉妹艦の絡み
乙です
日向と戦艦棲姫の対峙が切ないな
視察の後に何か挟めば良かったな。話が性急な進み方してる。
ちょうど矢矧の話書いてたから貼ります。
あと次スレ立てたら誘導する。
6月16日
朝 ブイン基地 執務室
山内「は~昨日は飲み過ぎた」
ブイン司令「わはは」
嶋田「しかし総長の電文を見たか? 奴ら一日で落とせると考えていなかったようだぞ」
山内「慌てふためき何度も確認をしてきたな」
ブイン司令「最後はショートランド泊地の定義まで聞いてきたからな」
山内「あははははは!!! 愉快愉快!」
嶋田「馬鹿笑いするのは良いが抜かりは無いか」
山内「ああ。内閣への報告と同時に新聞各社への通達も完了している」
ブイン司令「流石。奴らの手柄にされても癪だしな。今頃国内で山内長官は時の人だ」
山内「このまま進めば総理の椅子も夢ではないな」
嶋田「一つ心配なことがある。中央に派遣したスパイから連絡が途切れた」
山内「ふむ?」
嶋田「あいつが公安ごときにやられるとも思えん。……陸さん、何かこちらに隠してるんじゃないか」
ブイン司令「俺もそう思う。中将はともかく、少佐の一人が敵意剥き出しだった」
嶋田「あの一番小さい男だろう」
ブイン司令「尋常ならん殺気が漏れていた。ただもんじゃ無いぞアレは」
嶋田「艦娘を愛するロマンチストには見えなかったな」
ブイン司令「視察隊の顔写真を本土に送って身元確認をして貰った」
ブイン司令「他の三人は確かに陸軍少佐として存在したが、あの小さい男だけは確認出来なかった」
嶋田「俺の方も同じ結論だ」
山内「特務機関か」
ブイン司令「それも情報が一切出てこないほどヤバイやつな」
山内「中野ではないのか」
嶋田「そこの忍者なら調べきれない程じゃ無い」
山内「……何だ。妖怪ども出方が読めん」
ブイン司令「利害関係を整理してみよう。陸軍はどうすれば得をする。彼らの望みは何だ」
山内「艦娘を陸上兵器として運用が出来るか否か、それが彼らの興味のある点だ」
嶋田「陸軍が艦娘を使えるようになれば我々はお払い箱だな」
山内「うーむ」
ブイン司令「妖怪どもはどうすれば得をする」
山内「自分達の権益の維持、そしてその拡大」
ブイン司令「妖怪どもが艦娘の供給を約束して陸軍と結びついている可能性は?」
嶋田「その場合妖怪どもに一体何の得がある。軍部の拡張は望むところでは無いだろう」
ブイン司令「それでも尚結びつく理由……もしかするとシンプルな動機かもしれん」
山内「何だ、それは」
ブイン司令「打倒聯合艦隊司令長官、つまり英雄への怨恨」
山内「それこそ有り得ん。仮にも国の頂点に立つ者達だぞ」
ブイン司令「業の深さは時として予想の範疇を超える。立場に踊らされる人間が居る故に我々はまとまらん」
山内「仮にそうだとして我々をどうする」
ブイン司令「最悪の場合、消されるだろう」
山内「……」
嶋田「……」
ブイン司令「……消される?」
嶋田「……ぷっ」
山内「……ふふふっ」
山内「あははははは!!!! 消されるか!」
ブイン司令「だよなぁ~。ちょっと荒唐無稽過ぎたか」
嶋田「むはははは! そんな横暴がまかり通るわけ無いだろ!!」
山内「消すにも方法はどうする? そして落とし前をどうつけるのだ」
嶋田「身内を殺されて黙っているほど俺は落ちぶれてないぞ」
ブイン司令「陸軍が本格的な戦闘を仕掛け海軍の上級指揮官が同時に殺害……組織自体が消滅すればどうだ」
山内「本土や南方各地に散らばっている指揮官を同時にか」
ブイン司令「我々は深海棲艦との戦いに明け暮れ、内乱の想定などしたことも無かったろう」
嶋田「本格的戦闘つったって陸さんが各基地を強襲するとでも? リアリティねぇなぁ」
ブイン司令「想定しうる中で最悪のシナリオの話だよ」
嶋田「鎮守府や基地には守備隊こそ居ないが武装した艦娘が居る。もしブインを攻略したいなら旅団規模以上の兵力が必要だ」
山内「そんな動きを本土の先生が感知できないわけがない」
山内「大量の人員を乗せた大型艦艇は接近する間にレーダーで感知出来るし敵にもこちらにも良い的だ。攻略も一日で終わりはしない」
嶋田「海の上の戦いなら負けるわけ無いしな」
嶋田「艦娘が海を守ってるから食って行けてるのに、自分で自分の首を締めることになるぞ」
山内「そこまで錯乱してないと思うがな」
ブイン司令「それもそうだな。少し飛躍しすぎたか」
山内「しかしまぁ、冗談はこの辺にして。きな臭い動きがあるの確かだ」
山内「暗殺が無いとは断言出来ん。身辺には気をつけよう」
嶋田「そうだな。なぁ、艦娘を徴用して構わんか」
山内「良かろう。お前たちに死なれては先に行き詰まる」
ブイン司令「どの子にしようかな」
山内「変なこと考えるなよ」
ブイン司令「傍に仕えるのだから見目麗しく乳猛々しい方がお前も良いだろう」
嶋田「乳猛々しいってなんだよ……」
山内「一人だけだからな。適切な人選、艦娘だから艦選? をするように」
ブイン司令「アイサー! 決めた! 俺は矢矧ちゃんだ!!」
嶋田「良いのを選んだな」
山内「胸の排水量だけで決めてないだろうな」
ブイン司令「ちゃんと総トン数で決めたよ」
山内「何言ってんだか」
6月17日
早朝 ブイン基地 司令の部屋の前
矢矧「……」イライラ
ブイン司令「ふぁ~……今日も蒸し蒸しと暑いな」ガラガラ
矢矧「司令、おはようございます」イライラ
ブイン司令「ああ、早速居るのか」
矢矧「昨晩急な招集がありその場で護衛任務を拝命いたしました」イライラ
ブイン司令「ご苦労」モミ
矢矧「……私は司令と、今後とも良好な関係を保っていきたいと考えています」イライライライラ
ブイン司令「それは願ってもない」モミモミ
矢矧「だから私の胸を無断で揉むのは止めて下さい」
ブイン司令「いいぞ」モミモミ
矢矧「どこまでも日本語の通じない……何故貴様のような俗物がこのような場所に」ワナワナ
ブイン司令「海軍にはこういう連中しか残ってないぞ」モミモミ
矢矧「少なくとも長官は違います」
ブイン司令「思うだけなら自由だしな」
朝 ブイン基地 廊下
雪風「シレェーーーーーーー!」トタタタタ
ブイン司令「おう」
雪風「とぅ!」バッ
ブイン司令「はっ」サッ
雪風「えっ!? 避けっ!? へブシッ!」ドタッ
ブイン司令「今日は趣を変えてみた」
矢矧「駆逐艦相手に何やってるんですか」
ブイン司令「交流」
雪風「……」ウルウル
ブイン司令「あれ」
雪風「司令が……雪風のこと避けました」
ブイン司令「あ、いや雪風そんなつもりでは」
雪風「避けました……」ウルウル
木曾「地面に突っ伏すんじゃねえよ。パンツ見えてんぞ」
ブイン司令「よ」
木曾「よ」
雪風「木曾~……司令が私のこと避けました……」
木曾「おーよしよし、可哀想に。こっちに来い。俺が慰めてやるよ」
雪風「木曾~」
木曾「よ~しよしよし。別に本当に嫌ってるわけじゃ無いって」
雪風「……そうなんですか」
木曾「そうだろ、司令のオッサン」
ブイン司令「勿論だ」
雪風「なら、良いです!」
雪風「司令! もし次雪風のこと避けたら司令は死刑ですからね死刑!」
木曾「おうおう。殺してやれ。こいつはいっぺん死んだほうが良い」
ブイン司令「司令だけに死刑」
矢矧「……」ゴンッ
ブイン司令「アラバッ」
加古「よ~司令~」
ブイン司令「おはよう」
古鷹「……いいよ。何で声掛けるの」
加古「も~。いい加減二人とも仲直りしろよな」
ブイン司令「俺は早く古鷹と仲良くしたいな~」レロレロ
古鷹「……!!!」ゾワゾワ
加古「何やってんだよ司令。舌なんか出してさ」
ブイン司令「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」
古鷹「加古っ! 早く行こ!! こんな男と関わっちゃ駄目だよ!!」
ブイン司令「早く行こ、加古だけに」
矢矧「……」ドスッ
ブイン司令「ナベシッ」
加古「あはは!! 加古だけに行こ、ってウケるんだけど」ケラケラ
ブイン司令「あ、そうだ加古。今晩暇か?」
加古「ん? 暇だぜ」
ブイン司令「美味い紅茶があるんだが飲みに来ないか」
加古「おっ! いいねぇな」「駄目!! 絶対行っちゃ駄目!!!!」
ブイン司令「……」
加古「どうしたんだよ。お茶飲むだけだろ」
古鷹「何で……? 何で加古はこんな奴信用してるの……?」
加古「喋ってみると意外と良い奴なんだぜ。古鷹こそ何か勘違いしてるんじゃないか?」
ブイン司令「……」ニヤニヤ
古鷹「ほら! こんな不気味な表情浮かべる奴が良い人なわけ無い!」
加古「不気味な表情?」チラッ
ブイン司令「……」キリッ
加古「……べ、別に普通の顔じゃん」
古鷹(駄目だ……この子ちょっとカッコいいって思ってる……)
ブイン司令「じゃあまた夜にな」
加古「おう! がってん! 楽しみだな~どんな味の紅茶なんだろ」
古鷹「……」
矢矧「おいケダモノ」
ブイン司令「はいケダモノです」
矢矧「貴方、古鷹に一度何か盛ったのね」
ブイン司令「さぁ。昔のことは忘れた」
矢矧「酷い奴」
吹雪「おはようございます」
ブイン司令「……」チッ
吹雪「露骨に舌打ちしないで下さい」
ブイン司令「おはよう。えーっと、見たことのない吹雪だね。基地へはいつ?」
吹雪「前から居る吹雪ですよ」
ブイン司令「あ、そう」
吹雪「……」ニヤニヤ
ブイン司令「……」ニヤニヤ
吹雪「朝食ですか」
ブイン司令「ああ。お前は済んだのか」
吹雪「済んだとか。朝食を栄養を摂取する作業みたいに言わないで下さい」
ブイン司令「黙れ」
吹雪「今日は野菜ジュースが美味しいですよ。じゃ、また」
ブイン司令「うん」
矢矧「随分と仲が良いんですね」
ブイン司令「そんなこと無いぞ」
矢矧「?」
ブイン司令「互いに互いが嫌いで仕方ない」
矢矧(そうは見えなかったけどな)
浜風「……」スタスタ
ブイン司令「浜風ちゃ~~~~ん!」ドダダダダ
浜風「うわぁぁぁぁぁぁ」
ブイン司令「おはよう~~~!」
矢矧「やめなさい」ゴスッ
ブイン司令「ンジャメナッ」
浜風「もうブイン基地やだートラックに帰りたいー!」
朝 ブイン基地 食堂
矢矧「食堂に行くのにこんな時間がかかったのは初めてよ」
ブイン司令「誰かしら知り合いに会うからな」
「司令、おはようございます」
ブイン司令「よう」
夕張「あ、先生。おはようございます」
ブイン司令「よっ」
矢矧「その性格で何故嫌われてないか不思議でしょうがないわ」
ブイン司令「人徳、と言いたいが実際は知らないから嫌われてないんだろう」
ブイン司令「女ばかりの基地で男の存在は貴重だしな」
矢矧「……」
ブイン司令「さっさと食おう。ん、野菜ジュースが確かに美味そうだ」
朝 ブイン基地 執務室
翔鶴「司令、おはようございます」
ブイン司令「おはよう」
矢矧「翔鶴さん。おはようございます」
翔鶴「お話は伺っています。司令の護衛、よろしくお願いします」
矢矧「はい。お任せ下さい」
翔鶴さんの薬指には司令とお揃いの指輪がある。
矢矧「……」
ケッコンしている艦娘はこの基地でも数えるほどしか居ない。
だから目立つ。
ブイン司令「ショートランドの復興作業はどうだ?」
翔鶴「内陸部に深海棲艦の手は及んでいなかったようで敵の掃討は完了し、昨晩の時点で重機等を揚陸した復興作業を行っております」
ブイン司令「余りに余ってる搭乗員妖精を使えよ。奴ら、しばらく仕事が無いからな」
翔鶴「はい。艦娘を出す余裕はとてもありません。防衛の必要な箇所も増えますから、シフトも組み直す必要がありそうです」
ブイン司令「お前に一任する。場所によっては防衛に陸上航空隊を利用しても構わん」
翔鶴「ありがとうございます」
ブイン司令「復興もショートランドの司令部機能の復活が第一だ。特に南端と東端にある大型レーダーの復旧と、ブインとの通信回線の確保は急がせろ」
翔鶴「その二つは既に確保済みです」
ブイン司令「流石。向こうの司令部には嶋田が行っているか?」
翔鶴「それ程でも。はい。嶋田さんが」
ブイン司令「あいつはどうせサボってるだけだから、こちらで指示を出しておく」
ブイン司令「司令部機能と最低限の居住区画、弾薬庫と燃料庫、飛行場の復旧が済み次第戦死者の遺骨の回収に取り掛かれ」
翔鶴「ショートランドの撤退は成功したと聞き及んでいますが」
ブイン司令「完全ではない。逃げ遅れた者や最後まで基地に残り味方の撤退を支援していた部隊が居たはずだ」
ブイン司令「彼らを一人たりとも見逃すな。全員祖国へ帰すぞ」
翔鶴「その旨、通達しておきます」
矢矧「……」
昼 ブイン基地 執務室
ブイン司令「良い日差しだな。折角だ。昼飯は外で食おう」
翔鶴「ご一緒します。では食堂から色々貰って参りますのです」
ブイン司令「頼む」
矢矧「……」
ブイン司令「何だ。さっきからこっちを凝視し過ぎだぞ」
矢矧「貴方の働いている姿を見るのは初めてよ」
ブイン司令「あはは。確かに普段艦娘とは縁が遠いからな」
ブイン司令「俺がブインの司令になったことで暇になった長官が何をしているか知っているか」
矢矧「いえ」
ブイン司令「奴は現場に出て艦娘たちの働いている姿を見ている」
矢矧「最近長官をお見かけすることが多いと思っていたけれど、それが理由なのね」
ブイン司令「書類仕事は楽でいいが長く続ける内に現場の感覚を失ってしまうからな」
ブイン司令「まぁそもそも、人間が艦娘と同じ感覚を持ちえようは無いのかもしれんが、それでも寄り添おうとする姿勢は大切だ」
矢矧「……」
ブイン司令「賢い判断だよ。現場に出れば黄色い声も聞けるわ、人気も上がるわ、良いことづくめだ」
矢矧「貴方が行くと悲鳴が上がりそうね」
ブイン司令「やめろ」
矢矧「正直言って、この基地の将校の中で貴方一番人気無いわよ」
ブイン司令「へー」
矢矧「もっと取り乱してくれると思っていたけれど」
ブイン司令「無闇に多くから好かれても得られるものは何も無い」
矢矧「そうかしら」
ブイン司令「そんなことも分からんとは。口調は偉そうでも、分かってないな」
矢矧「……」カッチ-ン
ブイン司令「本当に大事な奴らから好かれれば俺はそれでいい」
矢矧「私が何を分かってないですって?」
ブイン司令「自分で考えろ馬鹿」
翔鶴「戻りました。……あら」
ブイン司令「ギブギブギブ」ペシペシ
矢矧「馬鹿と言ったのを訂正しなさい」ギリギリ
ブイン司令「艦娘のヘッドロックは胸に当たって嬉しいけど人間は脆いから死んじゃうの。死んじゃうの~」ペシペシ
矢矧「て・い・せ・い・し・な・さ・い」ギリギリギリギリ
ブイン司令「アベ、アベベベベベ」ガタガタ
翔鶴「そろそろ本当に死ぬので、その辺で何とか……」
矢矧「このっ、このぉ!」ギリギリ
ブイン司令「……」ガクガク
翔鶴「矢矧さん」
矢矧「んんんん」ギリギリ
ブイン司令「……」
翔鶴「何故司令の周りには問題児ばかり集まるのでしょうか」
小休止
乙です
乙です。
謀略と日常の落差が好きです。
夕方 ブイン基地 時雨の部屋
ただでさえ暑いこの部屋で、日が落ちる直前の西日がトドメとばかりに突き刺さる。
村雨「ブインてこんなに暑いの……?」グテェ
畳の上で溶け、片手でなんとか団扇を動かしているのが村雨。
時雨「あはは。すぐ慣れるよ」
てきぱきと姉妹艦の荷物を運ぶのが時雨である。
村雨「あ、時雨……ごめんね。運んでもらっちゃって」
時雨「いいよ、村雨は私の姉妹艦なんだから。今日は移動で疲れたでしょ? 遠慮しないで」
姉妹艦。何と良い響きだろう。
村雨「じゃお言葉に甘えるねー。いや~、でも畳は良いね。日本の心だよ~」
時雨「そうだね」クス
村雨「時雨はこの基地長いの?」
時雨「二ヶ月くらいかな」
村雨「私、進水日が一週間前だよ!?」
時雨「出来たてホヤホヤだね」クスクス
白露型三番艦には口元に手を当て静かに笑う二番艦が大人に見えた。
単に長生きしているだけでない、大人の女の余裕である。
村雨「……あー、そういえば白露型のみんなは?」
時雨「姉妹艦はまだ居ないよ」
村雨「居ないんだ? じゃあ時雨この広い部屋にずっと一人だったの?」
時雨「この部屋は私の部屋ってことになってるからね」
時雨「姉妹艦が居ないっていうか。姉妹艦じゃ無いのなら居るよ」
村雨「姉妹艦じゃ無いの?」
時雨「同名艦でも複数運用し始めて、その辺めんどくさいからまた今度説明するね」
村雨「とりあえず今はこの基地に他の白露型は居ないんだね」
時雨「居るよ」
村雨「どっちなんだーい」
時雨「村雨、荷物多くない?」
村雨「ふっふ~ん。見て見て~」ゴソゴソ
村雨「じゃーん!」
時雨「……少女漫画?」
村雨「そうです! 日本で人気の少女漫画を手に入れることが出来たのです!」
時雨「へぇ、どんな話なの」
村雨「日本の高校に通う女の子が同じ高校のイケメンの男の子と実は幼なじみで!」
時雨「幼なじみなことに気づいて無いんだ」
村雨「そう! そうなの! 二人は両親の都合で離れ離れになったけど実はずっとお互いのことを好きなままで……」
時雨「へぇ~」
村雨「同じ高校に入ったのに互いのことに気づかず……運命のイタズラで愛しあうよりいがみ合う道を選んでしまうの!」
時雨「へー、あ、雨降ってきたね。窓閉めなきゃ」
村雨「でもある出来事から相手に幼なじみの面影を重ね……って時雨! 聞いてるの?」
時雨「あはは。僕、あんまり漫画とか読まないからさ」
村雨「じゃあ是非読んで。今すぐ」
時雨「もうすぐ夕食の時間だし……」
村雨「ならその後」
時雨「夜ちょっと行きたいとこがあったんだけど」
村雨「任務じゃ無いでしょ」
時雨「無いけどさ」
村雨「なら読む! それで感想頂戴」
時雨「あー、分かったよ」
夜 ブイン基地 時雨の部屋
村雨「いや~ブイン基地は料理が美味しいね。初めて食事をした気分だよ」
時雨「……」
村雨「時雨どうしたの? ちょっと怒ってる?」
時雨「別に夜の予定を邪魔されたからって怒ってないよ。漫画貸してよ。読むから」
村雨「はいこれ! 飛ばさずちゃんと読んでよね」
時雨「はいはい。分かったよ」
~~~~~~
夕方降りだした雨はまだ止んでいない。
時雨「……」
私の姉妹艦は窓辺に腰を下ろし難解な少女漫画を紐解いている。
嫌々本を受け取った割には読書に集中しているようである。
村雨(あっ、指輪)
左手の薬指で光る指輪を発見した。
村雨「時雨はケッコンしてるの?」
時雨「ん? ああ、うん」
気のない返事をすると再び本の世界に戻ろうとする。
村雨「えぇ!? 誰と誰と」
時雨「提督さ」
村雨「提督!? 何で!? 馴れ初めは!? 今はどうなってるの!?」
時雨「邪魔しないでよ。今、良いところなんだからさ」
姉は畳に寝転がると、背中をこちらに向け面会謝絶の意思を表明する。
少女漫画が面白いと言っているのと同義であり嬉しいような、自分が無碍に扱われ寂しいような。
複雑である。
ケッコン、ケッコン、ケッコン?
ケッコンっていうことは壁ドンされたり、手を繋いだり、好きって言い合ったり、キスしたり……。
ていうか夜の予定ってもしかして……。
提督「村雨」壁ドン
村雨「あっ、提督君、こ、困るよ私……」
提督「俺と長官どっちが好きなんだ。今日こそハッキリしろよ」壁ドン
村雨「ひっ!?」
提督「ごめん。怖がらせるつもりじゃ……」
村雨「……いいよ私は全部分かってるから」ニコッ
提督「村雨……」
村雨「私は提督の」 時雨「ねぇ村雨、早く二巻出してよ」ユサユサ
村雨「あーもう!! 良いところだったのに!!!」
時雨「えっ、何が」
村雨「提督君と私の……もういいよ」
時雨「頭大丈夫?」
村雨「大丈夫でっす!」
小休止
艦娘は陸軍の戦争の常識も変えそう。
ボクノカンガエルカンムスメの設定で語るけど、あのサイズでこの耐久力とパワーは市街地戦で悪魔だろ。
陸軍の気持ち凄く分かる。
我が精鋭たちよ、よくぞ耐えてくれた。
物語も佳境です。
今晩辺り次スレ誘導しやす。
乙~
乙
>>1よ、貴官の勇戦に敬意を表す。
次で最終スレかな
ところで、ネタだったとしたらすまんが、艦娘ってカンムスって読むんじゃなかったっけ
ネタじゃないんですよねぇ……
ドックといいカンムスといい、今頃気づくって何なんだろ
指摘ありがとう
乙です
【艦これ】航空戦艦棲姫「シアワセナミライ? アハハハハハ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408016234/l50)
やりました
HTML化お願いしときました
新スレ乙です
こっち埋めてくれると嬉しいです。
乙です
蝓九a
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蝓九a蝓九a
梅
蝓九a
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蝓九a
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蝓九a
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蝓九a
蝓九a蝓九a
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蝓九a
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もうちょい
縺?a
文字化け多すぎてワロタ
>>1000安価。山内の護衛
球磨だクマー!
このSSまとめへのコメント
14代は県外向けの名前で、県内向けは黒縄って名前になるんですよ~、しかも、県内向けのほうが少々お値段がお安くなっております。
綺麗事を言わない所がいいな
艦これの読み応えがあるssが増えてきてうれしいわ