im@s大歌舞伎 歌舞伎十八番の内『勧進帳』(かんじんちょう) (33)

あらすじ:兄頼朝の不興を買った源義経は武蔵坊弁慶の進言により、強力に身をやつし、弁慶を始めとした家臣たちは山伏姿となって都を落ち、奥州の藤原秀衡の元へと向かっていた。そして義経一行は加賀の国安宅の関に通りかかる


出演

武蔵坊弁慶:我那覇響

源義経:四条貴音

亀井六郎:菊地真
片岡八郎:天海春香
駿河次郎:高槻やよい
常陸坊海尊:音無小鳥

番卒:秋月涼
同 :双海亜美
同 :双海真美

冨樫左衛門:秋月律子


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〽旅の衣は篠懸の 旅の衣は篠懸の 露けき袖やしおるらん 時しも頃は如月の 如月の十日の夜 月の都を立ち出でて これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬも逢坂の山隠す 霞ぞ春はゆかしける 波路はるかに行く船は 海津の浦に着きにけり

貴音「弁慶」

響「はい」

貴音「このような所にも関所が設けられているとは…わたくし達が山伏に変装しているという事も既にばれているのでしょうね…」

響「おそらくは…」

貴音「これ程警戒されていては、陸奥へ行くのは無理かもしれませんね…わたくしは既に覚悟は出来ております。ですが、皆の生き延びてほしいとの言葉を無視する事は出来ません。皆の者、これから先はどうすればいいか、何か考えはありますか?」

期待

真「そんなの決まってるよ!僕達が持っているこの刀は一体何のためにあるのか…」

春香「この刀は主君である義経様を守るためにある!それを使うのは今この時!」

やよい「その通りです!番卒達を斬り倒し、関所を強行突破して陸奥へ行きましょう!」

小鳥「み、みんな、落ち着いて!」

真「悠長な事は言ってられない!」

春香「いでや関所を!」

三人「踏み破らん!!」

響「ちょっと待ってほしいぞ!」

春香「弁慶、何か考えがあるの?」

響「この関を無理矢理踏み破ったとしても、むしろ余計に警戒されるだけだぞ。そんなんじゃ絶対に陸奥へなんて行ける訳がない。だからこそ、義経様を強力に変装させてここまで来たんじゃないか」

やよい「確かにその通りです…」

響「とにかくここは自分に任せてもらうぞ!」

貴音「全て弁慶に任せましょう、皆、弁慶の言葉に従いなさい」

四人「承知いたしました」

響「では、義経様は一番後ろで自分達についてきてくれ!」

響「おーい!ここを通してくれー!」

涼「冨樫様、大勢の山伏達がこの関を通せと言っております」

律子「そう…あんた達、しっかりやりなさいよ」

真美「んっふっふ~、任せといて!」

亜美「怪しければひっ捕らえて、昨日の山伏みたく首をスパーンと刎ねちゃうよ!」

律子「抜かるんじゃないわよ…行きましょうか…」

響「お、やっと出て来たぞ」

律子「見れば旅の僧みたいね。私はこの安宅の関を守っている冨樫左衛門という者よ」

響「自分達は東大寺建立のための勧進をしているんだ。だからこの関を通してほしいぞ!」

律子「随分と殊勝なことをしているみたいだけど、ここは通せないわ。特に山伏達はね」

響「なんで山伏は通せないんだ?」

律子「最近頼朝、義経様二人の仲が悪くなってね。それで弟の九郎判官義経様が、藤原秀衝を頼って山伏姿で陸奥に向かっているらしいのよ。だから頼朝様の命令で私達がこの関を守ってるってわけ」

響「なるほど…でもそれは山伏の姿をした判官殿一行を捕まえろって命令だろ。本物の山伏まで捕まえろなんて命令されてないはずだぞ」

真美「いや、昨日も山伏を三人ほど捕まえて斬っちゃったからは、たとえ本物だろうと山伏は通せないよ!」

亜美「そうそう!山伏は絶対に通せないかんね!」

響「その斬った山伏は判官殿だったのか!もし違うようなら…」

律子「あーもう、うるさいわね!通せないものは通せないのよ!命が惜しかったらさっさと帰んなさい!」

響「言語道断だぞ!……もう自分達の力じゃどうにもならなそうだな…諦めて斬られるとするか!でも、本物の山伏である自分達を斬ったらどうなるか…わかってるんだろうな?」

律子「……」

涼「と、冨樫様…」

律子「わかってるわよ…本物の山伏を斬ったとあれば、仏罰が下る…やってくれるわね、私を脅すなんて……」

涼「ど、どうするんですか?」

律子「任せときなさい…近頃にしては随分立派な覚悟をお持ちのようね…そういえば、さっき東大寺建立のための勧進…とか言ってたけど、それなら勧進帳は持ってるはずよね?ここでそれを読んでくれない?」

響「か、勧進帳を読めって言うのか?」

律子「いかにも」

響「うぅ……こ、心得て候!」

響(まずいな…勧進帳なんて持ってないし…この巻物を勧進帳だって言って誤魔化すしかないぞ…)

響「そ、それつらつら…」

律子「……」

律子(怪しい…あの巻物、本当に勧進帳なのかしら…覗いてやろう…)

響「惟れば……」

貴音「……」

律子「……」

響「あっ!?な、何するんだ!」

律子「ちっ、ばれたか…」

響「……」

響(そっちがその気なら…自分の本気を見せてやる!)

響「大恩教主の秋の月は、涅槃の雲に隠れ、生死長夜の長き夢、驚かす人もなし!此処に中頃の帝おわします。御名を聖武皇帝と申し奉る。最愛の婦人に別れ、恋慕やみ難く、涕泣眼にあらく、涙玉を貫く思いを善路に翻し、上救菩提のため、廬遮那仏陀建立仕給う。しかるに去んじ治承の頃、焼亡し終んぬかほどの霊場絶えなん事を歎き、俊乗房重源、勅命の蒙って無常な観門に涙を流し上下の真俗を勧めて彼の霊場を再建せんと諸国勧進す!一紙半銭奉財の輩は現世にては無比の楽に誇り、当来にては数千蓮華の上に座せん。帰命稽首敬って、もうす!!!」

律子「……勧進帳を持っているのなら、あなた達は本物の山伏みたいね」

響「なら、この関を通らせてもらうぞ」

律子「その前に、ちょっとだけ質問してもいいかしら?」

響「質問?」

律子「仏門で修行する僧達は宗派とかの違いで様々な姿をしてるわ。その中でも山伏は特に恐ろしげな姿をしてるけど、その姿で仏門修行をしていると言ってもいまいち説得力に欠けるのよね。その姿をする意味は何かあるの?」

響「ふふん!そんなの簡単さ!修験道の説く仏法とは不動明王の説く中で、慈悲をあらわす「胎蔵界」と智をあらわす「金剛界」の二つを重要なものとしているんだ!そして険しい山や難所を踏み開いて、世の中に害を与える奴らを退治して、民達が平和に暮らせるようにするため、あるいは毎日修行に励んで仏功を積んで、その功徳で悪霊や亡霊を成仏させたりするんだ!山伏がこんな姿をしている理由、それは人に害を与える鬼や魔物を倒すためなんだぞ!」

律子「なら袈裟、法衣を身にまとって、仏に仕える姿をしているのになんで頭に兜巾をかぶっているの?」

響「この兜巾と上着の篠縣は武士の甲冑みたいなもので、さっき言った鬼や魔物と戦う時に身を守るために着てるんだぞ!」

律子「寺にいる僧は錫杖を持ってるけど、山伏は金剛杖を持っているわよね。その理由は?」

響「愚問すぎて答える気にもならないぞ…金剛杖は元々天竺の壇特山にいた阿羅々仙人が持っていた霊力のある杖で、胎蔵界、金剛界の功徳を内包しているんだ!で、その神聖な力を持つ杖を修験道の宗祖の役の小角って人が持って、道なき道を歩き回ったんだ。それから修験僧達はこの杖を使うようになったんだぞ!」

律子「仏門修行をしているのなら殺生を禁じられてるはずよね?それなのになんで腰に太刀を携えているのかしら?」

響「この剣は仏法、帝が作ったこの社会の法である王法を守らない奴ら、例えそれが人間であったとしても、世の中の妨げになる悪人共をすぐさま斬って捨てるためにあるんだぞ!」

律子「実体のない死霊や魔物が仏法、王法を邪魔しようとする場合は何を使って倒すの?」

響「九字真言を使って倒すんだ。簡単なことだぞ!」

律子「へえ…して山伏のいでたちは!」

響「即ちその身を、不動明王の尊形に象るなり!」

律子「額に戴く兜巾ないかに!」

響「これぞ五知の宝冠にて、十二因縁のひだを取ってこれを戴く!」

律子「かけたる袈裟は!」

響「九会曼荼羅の柿の篠縣!」

律子「足に纏いしはばきはいかに!」

響「胎蔵黒色のはばきと称す!」

律子「してまた八つのわらんずは!」

響「八葉の蓮華を踏むの心なり!」

律子「出で入る息は!」

響「阿吽の二字!」

律子「そもそも!九字の真言とは如何なる儀にや事のついでに問い申さんささ!何と何と!」

響「……九字の真言はそんな軽々しく語れるようなことじゃないけど、自分達が本物の山伏だという証拠に説明してやるぞ!九字の真言とは臨兵闘者皆陣列在前の九字。これを唱えて、その時に急々如律令と唱えれば、魔物を退散させることができるんだぞ!これだけ説明してまだ疑うって言うなら、いくらでも質問に答えるぞ!でも修験の道は広大、無限大で語りつくせるようなものじゃないんだ!諸仏諸菩薩、自分の言動に嘘偽りがないことをご覧くださいませ」

律子「ここまで淀みなく答えるとは…本物の山伏みたいね…疑って悪かったわ。お詫びにこの布施物を持って行ってください」

響「ではありがたく貰って行くぞ!よし行くか皆!」

四人「わかりました」

響「さあ早く行くぞ!」

貴音「……」

涼「冨樫様!あの強力…」

律子「なんですって!?そこの強力!止まりなさい!」

真「くそ!正体がばれたか!」

やよい「義経様を守らないと!」

春香「ばれたのなら、強行突破するしかない!」

小鳥「義経様の危機、やるしかないわ!」

響「ま、待つんだ!ここは自分に任せるさあ!」

響「強力!なんでついてこないんだ!」

律子「私が呼び止めたのよ!」

響「なんでこんな奴を呼び止めたりしたんだ!」

律子「この強力がある人に似てるって私の部下が言うものだから、呼び止めさせてもらったわ」

響「人に似てるだって?一体誰に似てるって言うんだ!」

律子「判官殿に似てるのよ!本物かどうか確かめるまで、身柄はこっちで預からせてもらうわ!」

響「こ、この強力が判官殿に似てるだって……そんな高貴な人に間違われるなんて良い思い出になるだろうなこの強力風情が!お前のせいでこんな面倒事に巻き込まれたんだ!お前のせいで…お前のせいで…こいつめ!思い知らせてやる!」

真「べ、弁慶!?」

春香「義経様を金剛杖で、あんなに打つなんて…」

響「この!この!どうだ、思い知ったか!さっさと立って関を通れ!」

律子「その強力は通せないわ!観念しなさい!」

響「はは~ん、わかったぞ!お前達はこの強力の背負ってる笈の中身が欲しいんだな!この盗人ども!」

律子「なんですって!」

響「そんなにこの強力が怪しいって言うのなら、荷物の布施物も一緒に預けてやる!好きなだけ取り調べると良い!それともここで、自分がこの強力を打ち殺してやろうか!」

律子「ま、待ちなさい!な、何もそこまでしなくても…」

響「それなら、なんでこの強力を疑ったりしたんだ?」

律子「わ、私の部下が似てるって言うから…」

響「だったらその疑念を晴らしてやる…この強力は今ここで、自分が打ち殺してやるぞ!!!」

律子「待ちなさい!!!」

律子「……判官殿でもない人を疑ったのは悪かったわ…私が間違っていたみたいね……早くその強力を連れて行きなさい」

響「あなたがそこまで言うのなら…今回は許してやる…強力、今後は気をつけるんだぞ…」

律子「………」

亜美「と、冨樫様、良いの?」

律子「行くわよ……」

涼「と、冨樫様!」

小鳥「行ったみたいね…」

貴音「……弁慶」

響「………」

貴音「あなたのおかげで、どうにかこの危機を脱することが出来ました。わたくしをあのように散々に打って関守を騙すとは、さすが弁慶です」

真「関守に呼び止められた時はもう駄目だと思ったけど…」

やよい「さすがは武蔵坊弁慶さんです!あんなこと弁慶さんしか思いつきません!」

春香「これならすぐに陸奥へ行けそうだね!」

響「……いくら相手を騙すためだと言っても…義経様をあんな風に…御免なさい…義経様……うう……」

貴音「弁慶…良いのですよ、泣かないで…この手でわたくしを助けてくれたのですね…ありがとう弁慶」

響「よしつねさま…うああ…うあああああ!よしつねさま…よしつねさまぁ…」

貴音「弁慶…ありがとう…あなたが居てくれたからわたくしはこれまでずっと戦ってこれたのです…わたくし、義経は兄頼朝の為に一生懸命戦ってきました」

響「ぐす……ずっと、戦いに明け暮れてきました……」

貴音「流浪の身になって三年…早いものですね…」

小鳥「義経様、そろそろ…」

貴音「思い出に浸ってる場合ではありませんでしたね…では、行きましょう」

律子「旅の僧達、少し待ってくれない!」

響「義経様、下がって」

貴音「ええ」

律子「先ほどは失礼をしたわ。そのお詫びとして酒を持って来たの。飲んでくれない?」

響「おお!ありがたく頂戴するぞ!」

真美「じゃあ注いであげるね!」

亜美「好きなだけ飲んでね!」

響「ちょっと杯が小さすぎないか?あのでっかい盆を持ってきてくれ!」

真美「え…う、うん」

響「じゃあ注いでくれ!」

亜美「このくらい?」

響「もっと」

真美「このくらい?」

響「もっと!もういい、自分で注ぐ!」

真美「うえ!?そ、そんなにいっぱい!?」

亜美「す、すげー…」

響「ぷはあー!旨いなあ!へへ…良い気分だぞ…あれ?あそこに何かあるぞ」

亜美真美「え、どこどこ?」

響「えい!」

亜美真美「痛っ!ちょっとぉ!」

響「あはははははは!悪かった悪かった!…酒を貰ったお礼として自分も一つ延年の舞を舞わせてもらうぞ」

律子「お願いするわ」

響「では…万歳ましませ 巌の上 万歳ましませ 巌の上 亀は棲むなり ありうどんどう あれなる山水の 落ちて巌に響くこそ」


〽あれなる山水の 落ちて巌に響くこそ 鳴るは滝の水 鳴るは滝の水 日は照るとも絶えずとうたりとくとく立てや

響(義経様、早く行って!)

貴音(わかりました…)

響「…じゃあ自分もそろそろ行くぞ!世話になったな!」

律子「ええ…達者でね…」

響「ああ!」

響「ここまで来れば大丈夫か……義経様達も大丈夫そうだな……冨樫殿、この恩は絶対に忘れないぞ…ありがとう…早く追いつかないと……」


〽虎の尾を踏み毒蛇の口を 遁れたる心地して 陸奥の国へぞ下りける


響「ハアッ!!!」



歌舞伎十八番の内『勧進帳』 終幕

終わりです。弁慶は真か響で迷ったんですけど、響で書いて良かったと思ってます。やっぱりひびたかは良いものですね

乙でした

おつ

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