GACKT「シンデレラガールズ…か」 (313)

奇跡、というのは信じるだろうか。

無理だ、できるわけがない。
有り得ない。

大人になってそう思う者達もいるのではないだろうか。

僕も、そうだった。




彼女達に、出逢うまでは。

アイドルマスター。

アイドル達をトップまで導くゲーム。

僕は、それを現実に体現した。

彼女達に、現実に出逢ったのだ。

今、彼女達がどんな生活をしてるかは分からないけれど。

きっと、素晴らしい人生を歩んでいるのだろう。

大丈夫だ。
僕と彼女らは、心と心で繋がっている。

だから、分かる。

そんなもんだ。



僕は、彼女達に、色んな事を教えた。

僕も、彼女達から色んな事を学んだ。

それは、人を信じる心。
共に歩んでいく絆。

彼女達のおかげで、僕はまた一歩前進することができた。

またお前か期待

映画のほう読んだでー

彼女らと別れて、はや数ヶ月。

僕は再び彼女達のゲームが発売したということで、それを買いに行ってみることにした。

そこで、親友のYOUと会った。

彼もまた、ゲームを買いにきたという。

そこで、彼から興味深い事を聞いた。


シンデレラガールズ。

携帯ゲーム版、アイドルマスター。


だが、一度素晴らしいものを見てしまうと、中々新しいものには手が出せない、というのが僕の悪い癖だった。

「でも、とりあえず神崎 蘭子を見てみてよ。
そしたらやりたくなるかもしれないよ?」

「うーん。じゃあ、そうしようかな?」

百聞は一見に如かず。

僕はとりあえず、新しいゲームをやってみることにした。

YOUが言っていた神崎 蘭子。
ダウンロードコンテンツとして存在するらしい。

個性的、という範疇では計れない、特殊な性質な女の子。

そういえば、伊集院 光さんが中二病という言葉を作ったな。

彼女はまさにそれだろう。

まあ、こういう子もいるだろうから、仕方ないか、あはは。

だが、彼女はどうやらプロデュース出来ないらしい。

残念といえば、残念かな。

そんな事を思っていると、まただ。

あの眠気が、僕を襲った。

まさかな、なんて少しだけの期待感を抱いて、会えたら何て言おうか。

久しぶり、かな?

元気か?かな。

しかし




まさかあんな事になるなんてな…

もう三回目なんだ。
何となくだが、この感覚には慣れていた。

小さなベッドに、妙に明るい部屋。

というか、狭い。


筈だった。



あれ?
家は、何も変わっていない。

どういうことか?

お前か
まってた

期待しちゃうからな!

もしかしたら、期待しすぎたのかもしれない。

そう奇跡は何度も訪れない、ということか。

仕方ないな。

なんて、肩をすくめていると、手にもっていたゲーム機の感覚が無い。


…冷静になって考えてみると、どうやら僕はやはり「移動」したらしい。

しかし、今までとは違う。


そういえば、保険証があったはずだ。

そこに765プロの名前が書いてあったら、間違いなく僕は戻ってきたと言えよう。

とりあえず、財布から保険証を取り出す。





「CGプロダクション?」

これは、僕の働いていた所では無い。いや、あくまでここでの話だが。

もしや、765プロが改名したのか?

はたまた、もしや潰れてしまったのか?

…いや、有り得ない。
彼女らはトップアイドルなのだから。

そうそう簡単にはやられないさ。
なんせ、僕が育てたんだから。


とりあえず、このCGプロダクションに行ってみることにした。

765プロは、その後だ。

CGプロダクション。

それなりの施設に、それなりの規模。

僕の知っている事務所は、そこには無かった。

どうやら、期待は裏切られたようだ。

僕は踵を返し、帰ろうとした。

すると、聞いた事のない女性の声が僕の耳に届く。

振り向くと、そこには栗色の髪を三つ編みにした緑色のスーツの女の子が笑顔で立っていた。

「GACKTさんですね?
私は、千川ちひろです!」

千川 ちひろ。
僕は知らない。

だが、彼女は僕を知っている。

これは、激しいデジャヴだ。

そういえば、あそこに行った時もこうだった。

まあ、あの時はカメラマンだったけどね。あはは。

そうか。

また、一から始めるのか。

悪くないかな。

そうだなあ。

じゃあ、やってみようか。

「GACKTさんですね?
私は、千川ちひろです!」

千川 ちひろ。
僕は知らない。

だが、彼女は僕を知っている。

これは、激しいデジャヴだ。

そういえば、あそこに行った時もこうだった。

まあ、あの時はカメラマンだったけどね。あはは。

そうか。

また、一から始めるのか。

悪くないかな。

そうだなあ。

じゃあ、やってみようか。

すまん連続でやってしまった。

ちひろについていくと、少々広いオフィスに案内された。

いや、普通くらいだ。
あっちが狭すぎたんだな。

どうやら僕は、今日からがプロデューサーとしての初仕事日らしい。

何とも都合の良い話だ。

既に用意されたデスクに座ると、アイドル達の名簿があった。

いや、あっただけだった。

「ねぇ。アイドル名簿に名前が一つもないんだけど」

そう。
名簿とは名ばかりの白紙のファイル。

そのくせ異常にページ数がある。

まさか、とは思うが。

「アイドルがいないってこと?」

「えへへ…でもそれ、昨日も言ってましたよ?」

そんな事は知らないよ。
というより、僕の意識が無い僕も言ってたんだな。

それは当然か。

と、いうことはだ。

僕の初仕事は必然的に何かが分かってしまった。

「はい!!勿論、勧誘ですよ!」

早速、僕は凄まじい壁に阻まれる事になった。


ひどい話だなあ。全く。

参ったなあ。
僕はナンパなら何度もしてるけど、アイドルの勧誘なんて初めてだよ。

でも、やらないわけにはいかない。

とりあえず、名刺と、資料を揃えてカバンに詰める。

さて、街へ繰り出すとしようかな。


そうだなあ。
東京都内、まずはどこへ行こうか。

僕は事務所から一番近い、渋谷を歩く事にした。

支援ですよ支援!

とはいえ、少々喉が渇いた。

喫茶店にでも行くとしようか。

どこかに手頃な店は無いかと周囲を見回してみると、ふと、一人の少女が目に入った。

黒い長髪の髪。
制服のボタンを開けて胸元のネックレスが見えるようになっており、少し不良感を漂わせる。
周りを気にせず真っ直ぐに歩く傍若無人さ。

一目でこの子は才能があると分かった。

気が付くと僕は、その少女に向かって駆け出していた。

少女が振り向く。
その目は不審者を見る目だ。

まあそうだろうな。あはは。

どうしよう。そうだなあ。

多分、この子にはナンパなんて手段、通用しないだろうな。

「…どなたですか?」

沈黙に耐えられなかったのか、彼女が口を開いた。

鞄に手をかけており、恐らく僕にぶつけるつもりなんだろうな、と思った。

相当警戒されてるらしい。

僕は素直に、名刺を渡すことにした。

「シージープロダクション…?」

「シンデレラガールズ。出来たばかりの新しいプロダクションだよ」

シンデレラガールズ。
その名前は僕は好きだ。

女の子は誰でもシンデレラということだ。

何の変哲もない子達を、シンデレラにするプロジェクト。

といっても、12時までとかの期限は無いが。あはは。

学校の帰りと言うことらしく、夕飯を奢ると言ったら、意外と素直についてきてくれた。

「ふーん。じゃあ、私が1番目なんだ」

「そう。お前が一番初めのシンデレラになるんだ」

「…まだ行くって決めてないけど」

それもそうか。あはは。

何せ何の功績も無い出来たてのプロダクションに行くのだから。

仕事があるかどうかも難しい。

彼女、渋谷 凛が渋るのも無理はないか。

何だか駄洒落みたいになったな。

なんてこった!続きが見れるとは!wktk!

「まあ、僕がいるから安心していいよ」

「…あんたの事、何も知らないんだけど」

「僕、こう見えて名プロデューサーなんだ。任せてくれればいいよ」

「凄い自信家だね。…まあ、悪くないかな」

どうやら好感触のようだ。

そうそう。男はこれくらい強引じゃなきゃあ、ダメだよ。

「とりあえず、話はこれくらいかな。それじゃ、あまり遅くなったらダメだから、あがりにしようか」

明日、彼女に事務所に来るよう伝え、今日は帰ることにした。


「え、ちょ、…一万置いてっちゃった。…ハナコに何か買っていこうかな」

今日の収穫は一人か。

まあ初日だし、大目に見ようかな。

それに、彼女は来る。
間違いない。

一人目から、面白い人材に巡り会えた。

しかし、今度は何もかも全て一からやるのか。

あの時より遥かに難しいな。

だが、壁が大きい程、燃えるのが男ってもんだ。


シンデレラガールズ。
やってやろうじゃないか。

彼女らには申し訳ないが、どうやら今回はライバルになりそうだな。

首を洗って待っていてくれ。

僕は今回も手は抜かないからな。

アイマス見たことないがこれは面白い

絶対支援!

凛を勧誘した翌日、事務所のドアを開けると、そこには既にちひろが笑顔で待っていた。

「GACKTさん!おはようございます!」

トテトテと走ってくる姿が愛らしい。
だが、僕がそれ以上に注目したのは、その後ろだった。


「…遅いよ。プロデューサー」

凛、見た目と反して随分真面目な子なんだな。

「早かったんだな。待ち合わせまで30分以上あるぞ?」

事務所の椅子に座って、真っ直ぐに僕を見つめる。

「別に。早く起きちゃっただけだし」

そうか。だが、良い事だ。
頭を撫でるとくすぐったそうにしていた。

「ちょ…昨日の今日で、踏み込みすぎだよ…」

あはは。そういう性分なんだ。
許してくれ。

「GACKTさん、凄いんですねぇ…」

ちひろが苦笑いしながら僕にお茶を差し出した。

そうだな。少し早いが説明会を開くとしようか。

「…つまり、目指すはトップアイドルってことだね?」

「当たり前だ。僕は一番じゃないと嫌なんだ」

且つてもそうだったようにね。



ちひろはどうやら、765プロについては知っているようだが、僕のことは知らないらしい。

まあ、行ったり来たりしてるから当然か。

今の彼女達の現状を聞くと、どうやら何度も賞を獲得しているらしい。

あはは。鼻が高いよ。
しかし、今の僕にとっては、最大の宿敵でもあった。

何だか、複雑な気持ちだよ。

まあ、今はこの事務所に全力を尽くすとしようかな。

彼女らにはいつでも会えるのだから。

「…と、いうわけだ。本格的な事は明日から始める。今日はこれで終わりだが、何か質問は?」

3時間程度の打ち合わせを終える。

「うーん…今は、無いかな」

そうか。じゃあ、僕はまた人材を探してくるとしようかな。

「じゃあ、気を付けて帰ってくれよ。また明日な」

「うん。またね」

小さく手を振って、帰っていく。
彼女には、やはり期待できる何かがあるようだ。

「ちひろ。事務的な事は頼むからな」

「はい!お任せください!」

しかし、お前もアイドルに向いてるんじゃないか?という言葉は言わないことにしておいた。

再び、街へと繰り出すことにした。

とりあえず、目標は15人程度にしておこう。

そして、また余裕が出てきたら、増やせば良いことだし。

しかし、それにしても5月だというのに暑い。

スーツのせいだろうか。

これからは、もう少し薄手にしよう。

さすがにプロデューサーがクールビズにはできないからな。

ふと、目に入ったアイスクリームの店。

三人程度だろうか。

談笑してアイスを食べながら、こっちへ歩いてきている。

その中の一人に、僕は目をつけた。

どこが優れているのか、と言われれば、答えは特に出ないが。

その子は、どうだろう。

いわゆる、バランス型だろうか。

体型も、顔も、一定水準を上回っているが、より優れた、という感じではない。

いや、勿論全てにおいて優れているという言い方もできるが。

そして、僕が一番注目したのは、あの笑顔。

とっても、良い笑顔だ。

春香、まるでお前みたいだよ。

僕は、迷わず声をかけることにした。

「ねえ。ちょっといいかな?」

突然目の前から話しかけられて驚いたのだろう。

アイスが落ちてしまった。

あはは。後で弁償するよ。十倍返しくらいで。

「わ、私ですか?」

そう、君。

「僕は今、トップアイドルの卵を探しているんだ」

両端の友達が、その子をチヤホヤしだす。

その子は、信じられない、といった表情だ。

「…わ、私が?」

そう。君だ。

「……でも、私、何やっても普通だし、アイドルなんて…」

いや、僕が目をつけたんだ。
普通な訳がないよ。

「良かったら、僕と一緒に来てくれないか?勿論アイスは弁償するし」

とりあえず、その子は半信半疑といった感じだが、僕の話を聞いてくれるみたいだった。

「わ、私、昔から勉強も、体育も、何もかも人並みで…」

席に座ってからも、自分を卑下するようなことを言う彼女。

彼女は、島村 卯月。

両端の友達が言うには、テストは常に平均点、かけっこは三~四位、料理の腕も人並み。
という、人並み少女らしい。

だが、そんな事はどうでもいいのだ。

「僕が君達を見た時、一番目に入ったのは、卯月だったんだ。

あの笑顔、僕は最高だと思うけどね」

黄色い声援が卯月に飛ぶ。
彼女自身、そういうのに慣れていないのか、顔が真っ赤だった。

「大丈夫さ。友達も応援してくれてる。だから、来てくれないか、僕の元へ」

「…ええと、わ、私なんかでいいんですか?」

あはは。この自身のなさは、あとあとで何とかするとしよう。

「お前が、いいんだよ」

…どうやら、答えは決まったようだ。
そして、さっきの笑顔で、こう答えた。

「はい!頑張ります!!」

いいじゃないか。素晴らしい笑顔だ。

この子もまた、期待できそうだな。

卯月と別れ、まだ時間に余裕があったので、もう少し探索することにした。

他に素晴らしい子はいないだろうか、と。

その時、風のイタズラか僕の胸ポケットからハンカチが飛んでいった。

取りにいこうとすると、向こうでキャッチしてくれた少女がいた。

彼女の顔を見た時、僕は先ほどの風をイタズラだと思ったことに反省した。

何せ、今僕の目の前まで走ってきた少女、とても可愛らしいからな。

「んー!ちょーど喉渇いてたんだよねー!」

彼女の名前は本田 未央。

凛や卯月に比べると短い茶髪に丸っこい瞳。
そして、見るもの全てが明るくなりそうな太陽のような雰囲気。

全体的なスタイルも抜群だ。

今日は豊作だな。




「未央。アイドルをやる気はないか?」

「アイドル!?うん!やる!」

あはは。ほんと、豊作だよ。

新たに二人を加え、三人となったCGプロダクション。

今日はその三人の初顔合わせということだ。

凛は少し遅れるということで、未央と卯月が先に顔を合わせることになった。

「島村 卯月です!これからよろしくお願いします!」

「本田 未央!卯月ちゃん、よろしくね!!」

いやあ。この二人は波長が合うかもしれない。

そうしていると、事務所の扉が開き、凛が入ってくる。

一目散に卯月と未央が走っていった。

元気に挨拶を交わす二人。

しかし、それに反して。

「渋谷 凛」

それだけ言って椅子に座ってしまった。

二人もあれ?といった感じだ。

だが、めげずに凛に話しかけようとする。

この子らはそういう空気が苦手なようだ。まあ、そりゃそうだろうなあ。未央なんてまさにそうだ。

だが、凛の一言で彼女らは石化してしまうほどショックを受けることになった。

「…私、仲良くなんてする気ないから」

ピシッ

二人からそう聴こえた気がした。



あはは。

こりゃあ、大変な事になりそうだ。

しばらくは、元の世界には帰れそうもないな。

とりあえずここまで
何か出したいモバマスキャラいたら書いといて

眠い寝る
続きまた明日やります

モバマスはストーリーがまだできてないのにすげえなw

前2作も読んだけど>>1のやりたいようにやれば良いんでね?
凛が居るからTPもいけるだろうけど

>>44
そう?
じゃあたくみん推し

>>45
すいません、嘘つきました
塩見周子ちゃん!頼みます!

>>46
周子可愛いです

寝れない
続けます

この事務所に来て一週間が経過した。

そこで分かったのが、いかに1から教えるのが厳しいか、ということ。

前に研修生の子を預かった事はあるが、彼女らもそれなりにレッスンはこなして来た存在だった。

しかし、この三人、いやこれからここにくる子達は、本当にズブの素人。

レッスンの経験も、人前で歌った事などカラオケくらいしか無いような子達なのだ。

おまけに、台本の専門用語、暗黙の了解扱いの礼儀作法、土地勘。

それら全てを叩き込まなければならないのだ。

これは盲点だった。

まずは、勉強から始めなければならなかったのだ。

「…だから、まずは挨拶。これ、基本だ。
その時に、所属先、自分の名前を言うんだ。

勿論、全部自分からやるんだぞ?」

「はい!分かりました!」

唯一元気な返事をする卯月。
一方未央は頭を抱え、凛は肘をついて聞いている。

これで本番大丈夫なのか、と不安になるが、初めはこうだ。

仕方ないさと自分に言い聞かせた。

それよりも、まずは凛を周りに溶けこますことが先決だった。

先日、凛の発言により凍りついた事務所内の空気。

凛は気にすることなく、本を読み出していた。

未央も卯月も固まったまんまだ。

ちひろがお茶を人数分出し、とりあえず三人を座らせた。

二人にとって、地獄のような時間だっただろう。

目の前にいる凛は一切こちらには目もくれず、ひたすら本を読んでいるのだ。

二人のぎこちない笑顔がかわいそうに思える。

僕はいたたまれなくなり






外でコーヒーを飲むことにした。

「あ、あの、凛…ちゃんって、本が好きなの?」

「…別に」

「な、何だかクールだね!かっこ良いよ!!」

「…」

「「………………」」

外での男のゴールデンタイム中、やはりかと言う感じで二人が泣きながら走ってきた。

「GACKTさ~ん。あの子怖いよ~!」

「こ、これからあの人とやっていくんですか~?」

当然の反応だな。
だが、僕と話した時にはあんな感じではなかったが。

…恐らく、若さゆえの過ち。というやつだろう。

誰だってそういう時期があるものだ。

ムダに刺々しくなる時期が。

少し、凛と話してみるとするか。

二人にジュースを渡し、入り口で待つように言った。

「凛。随分な反応だったな」

凛がこちらを振り向く。
何を突然。というような顔だ。

「だって、馴れ合いっての苦手だし」

「これから一緒にやっていく仲間だ。仲良くしておいて損は無いだろ?」

バツが悪そうに、本に視線を戻した。


…そういえば、どんな本を読んでいるのか。

気になって後ろから覗き込む。


「………!!?」

バン!

驚いたのか反射的なのか。
本を思いっきり閉じた。

発生した風が目にくるなあ。


「……み、見た?」

「いや、見えなかったよ。何で見せてくれないんだ?」

「…べ、別に、恥ずかしいから」

そうか。気になるな。


「…!ちょ、取り上げないで!見ちゃダメ!!」

…成る程な。


本の内容は、小説ではなく、芸能界に関する知識本だった。

…やっぱり僕の目に狂いは無かったようだ。

顔を真っ赤にしながら俯く凛を撫でながら、そんな事を思った。




「おー…あの凛ちゃんがあんなに手篭めにされてる」
「す、すごいねー…」

その翌日。
まあ、今だ。

勉強会をしているのだが、二人と凛の席は三つ分ほど離れていた。

まだ、仲良くする気は無いらしいな。

全く、どこの事務所にも世話の焼ける奴はいるもんだ。













「へっくちゅん!…風邪かな?」

僕は、ダンスレッスンを担当した事は無い。

出来ないわけではないが、誰かに教える程の技術は無いからな。

歌なら大歓迎だが。

と、いうわけでトレーナーを1人、雇っている。

中々の技術、だと思う。

ステップ一つにも熱血指導していた彼女は、まるで律子を思い出させる。

この中で一番の運動神経を持つのは、やはり未央だろうか。

それとも順応の早さか。

いずれにせよ、動きの一つ一つにキレがある。

卯月と凛は同程度、というところだろうか。

それでも、やはり三人とも才能がある。

最後には三人とも同じ動きになっていたのだ。

トレーナーが微笑みながら、僕を見た。

ボーカルレッスンは僕が引き受ける事にした。

1人ずつ、どこまで出せるのか。
とりあえず今の実力を見たい。

凛は少し声が低めなのに対し、二人は少し高め。

まあ想像通りというやつだ。


…よし。
この三人の親睦を深めるついでだ。

「カラオケに行こうか」

カラオケといっても、あくまでレッスンだ。

歌唱力を知るのに丁度いい。
それに、互いの趣味も分かるからな。何となくだが。

卯月と未央は、喜んでいた。

凛は少し迷っていたようなので、抱えて連れていく事にした。

http://www.youtube.com/watch?v=rGjfdeHMe-k

「わあ…GACKTさん、凄いです」

「これなら、モテモテだろうねっ!」

「……自分が歌いたかっただけじゃ…」

うんうん。
段々凛もほぐれてきたかな。

次は卯月に歌わせるとしよう。

GACKTすげえわ

卯月、未央と続き、凛にマイクが渡される。

「い、いいよ私は。恥ずかしいし…」

「だけど、アイドルになったら、そんな事は言えなくなるぞ?
恥ずかしいカッコもするし、歌もある。

今のうちに慣れておけばいいさ」

「そーだよ凛ちゃん!それに、凛ちゃんの歌、聴きたいな?」

「私も私もー!」

卯月に続き、未央も急かす。

凛もどうやら観念したようだな。

マイクを取り、歌い出した。

三人とも、レベルはまだまだ低いが、熱意は伝わってきた。

そう。一生懸命に歌えば聴いてる奴らは分かってくれるんだ。

やっぱり、この子達はアイドルの素質があるということを再確認した。

「凛ちゃん!今度また一緒にカラオケ行こうね!」

卯月や未央が凛に話しかけている。
凛の方も、まだまだ口数は少ないが、段々慣れてきたようだ。

この子達に、絆のようなものが生まれた瞬間だった。

あとは、これが切れないように上書きしていくだけだ。

だが、それは彼女達に任せるとしよう。

この子達なら、大丈夫だと思うからな。

僕は、方言を喋る女の子は好きだ。

訛った言葉で囁かれるのはとてもゾクゾクする。

京都弁や博多弁。

僕にはたまらないよ。


さて、何故僕がこんな話をしたかというと。

それは僕の目の前でステーキにかぶりついている1人の女の子によるものだ。

今朝僕は、道中1人の女の子を拾った。

文字通り、拾ったのだ。

都内にある公園で、ベンチに座りながら寝ている女の子がいた。

とてもすごいイビキをかいて、いや、イビキでは無かったな。

これは、腹が鳴った音だ。

このままほっとくのはちょっとマズイかなと思い、近くのステーキハウスに連れていったのだ。

何故肉かというと、僕自身炭水化物は食べないし、何よりこの子の肌の色が心配だったのだ。

大阪弁の女とか最高

この子の名前は塩見 周子というらしい。

肌が異常なまで白く、つり目が特徴の子だ。

「いやー助かったよ。あのままだったら完璧飢え死にしてたね」

恥ずかし気もなく言ってくる。
ここまではっきり言われると、清々しささえ覚えるよ。

しかし、見た所まだ未成年者。
親はどうしたのか。

「それがさ、あたし家追い出されちゃって。しばらくは貯金でやってたり、献血で稼いだりしてたんだけどね。
それも尽きちゃってさ!」

明るい顔で話すようなことではないだろう。

あまりにも生々しいので、苦笑しかできなかった。

出身は京都。

だが、家を追い出されたので居づらくなったそうだ。

だから東京まで来たらしい。

何とも見切り発車な性格だ。

「どうして追い出されたんだ?」
「んー…まあ、あたしニート予備軍だったし?実家も手伝わない奴なんていらない!って」

世の中のニート諸君。
他人事では無いからな。

とりあえず、京都までの電車賃を渡して、実家に帰るよう伝えた。

アイドルに誘おうかとも考えたが、金銭的に無理だろう。

アイドルだって、一応お金はかかる。

仕事が入って、ようやくお金が貰える仕事なのだ。

とてもじゃないが、彼女には勧められない。

勿体無い気もするが。

実家に戻ってからでも、遅くはないだろう。

「じゃあ、気をつけてな」
流石に申し訳ない、と金を受け取るのを拒否した周子を押し切り、駅まで歩かせる。

このまま放っておけば、それこそ彼女の予言通りになりかねないからだ。

とにかく、実家についてからでも遅くはないので、ということで彼女を帰すことに成功した。




さて、仕事をサボった言い訳はどうしようか。

そんな事を考えていると、周子が向こうから手を振っている。

「実家に帰ったら絶対恩返しにいくからね!待っててね!!」

…さて、彼女がごんぎつねにでもなってくれるのか。

いや、それだとバッドエンドになるな。

まあ、何にせよ話半分で聞くことにしておいた。

その翌日、人を1人ずつスカウトするのは時間と労力がかかるので、思い切ってオーディションを開催することにした。

できたばかりのプロダクションにどれだけ集まるのか、心配ではあるが。

「じゃあ、遂に私達も先輩アイドルになるってことだね!?」

「…まだ仕事してないんだから、先輩も後輩もないでしょ」

未央の能天気な言葉に凛のツッコミが入る。

いや、悪いのは僕か。

もう少し待っててくれ。

今は土台作りがしたいんだ。

だから今のうちに実力をつけておいてくれ。




一週間もすると、何人か応募があった。

こういうのは何ヶ月もかけて行うものだが、いかんせんこの事務所ではキツい。

とりあえず、一週間で切ることにした。

書類選考には、僕だけでなく、ちひろも参加している。

しかし彼女はどうも外れている
感がある気がする。

「みんな、可愛らしいですね!」

…博愛主義なのだろうな。
それともただのアホなのか。


そうしていると、一枚の応募書類に目が止まる。

漢字だけではパッとこなかったが、写真と、名前の読みですぐに分かった。

僕は、彼女とあと二人の面談を決めることにした。

面談は、会議室で行う。

凛達も見てみたいと言ってきたが、彼女達が集中出来なくなるという事でそっと覗く程度にさせておいた。

しかし、あの三人、ほんと仲良くなったなあ。

ドアの隙間から下から卯月、凛、未央と覗いているのを見てそう思った。

僕の目の前に座っている三人。

二人は初対面だが、一人は知っている。

キツネのような目をさらに細めた笑顔で僕をずっと見ている。

それは後にしておくとしようかな。

「じゃ、右から自己紹介して」

「か、神谷 奈緒、です…」

「応募の理由が書いてないけど?」

「そ、それは、友達が勝手に応募して…」

ああ。この子は人前で話すのが苦手なのか。

あはは。僕にそっくりだ。

太い眉に、ポニーテール。

可愛らしいじゃないか。

「そっか。でも来てくれたって事はそういう事って、期 待していいんだよね?」

何故強めに言うかというと、正直僕は、この面談は必要無いと思っているからだ。

選んだ時点で、既に合格は決まってる。

それを彼女に態度で伝える事にした。

「…え、えっと、は、はい」

それに、この子も満更ではないみたいだし。

「北条 加蓮です」

「君は、親が送ったみたいだね」

そう。この子は親が送ってきたのだ。

まさか、応募書類に「娘をよろしくお願いします」なんて書かれてるんだから。

でも、それを抜きにしても彼女は良いと思った。

やはり、才能のある子はインスピレーションを感じる何かがあるのだ。

「あの、質問なんですけど…」

「?」

「私、病弱だし、あまり激しい運動はできません。それでもいいですか?」

「僕の事務所では、基本的に歌唱力重視だ。それに、病弱なのは治せばいい」

僕だってそうだったんだから。
まあ、今でもそうなんだけどさ。

大丈夫さ。何とかなる。

彼女は、うーんと唸りながら席に座った。

どうやら、緊張しているのは奈緒だけらしいな。

あはは。病弱な割には図太い神経じゃないか。

そして最後。

「じゃあ、お前は改めてお願い」

「はーい。塩見 周子。18歳。京都生まれです!」

まさか、恩返しにくるとはこういうことだったか。

親とは仲直り出来たのかどうか分からないが、東京に来る金があるということは、まあそういうことなんだろう。

「あ、ねえねえGACKTさん」

「?」

「あたし、家無いからGACKTさんの所泊めて?」

バァン!

ああ。やっぱりそうなるよな。


ドアの向こうの三人組が、転がる様に入ってきた。

「ちょ、ちょっとプロデューサー!どういうこと!?」

凛が僕の胸倉を掴み前後に揺らす。

僕は無実だ。
何もしていない。

「で、でもあの人、GACKTさん家に泊まるとか言ってますよ!?」

知らないよ。
向こうが勝手に言ってるんじゃないか。

「何かGACKTさん、痴漢冤罪で捕まった人みたいだね」

そうだな。的確な表現だ。


何が起こっているのか分からない、といった表情で僕を見つめる奈緒と加蓮を尻目に、周子はいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。


これから僕はどうなるのだろう。

まあ、なるようになるか。

何にせよ、これで6人のアイドルが集まった。

あともう少ししたら、本格的に活動するとしようか。


だから、凛。

「そろそろ離してくれ」
「ダメ!ちゃんとわけ話すまで離さない!」

「…てへ☆」



あはは。楽しみになってきたよ。ほんと。

眠い寝る

営業。

僕にとってはもう慣れてしまったことだ。

人に頭を下げるのはあまり好きではないが、彼女達のためだと自分に言い聞かせる。

765プロで培った地力はここでは通用しないらしい。

それどころか、僕の事は皆忘れてるようだ。

それもそうか。
あの子達以外は、僕の事を忘れているのだから。

まあ、何度も何度も足を運んでいるうちに、何とか仕事をもらう事ができたよ。

初めての仕事は、デパートでの小さな規模のライブ。

僕がここに出したのは、凛、卯月、未央。

彼女達も、初仕事ということで、少々興奮気味だった。

しかし、連れていくのは全員。

仕事とはどういうものなのか、それを見て学ぶ事も重要だと思ったからだ。

控え室とは名ばかりの、舞台袖に設置された机と椅子。

「なあGACKTさん。こういうのってちゃんと部屋があるんじゃないのか?」

奈緒が聞いてくる。
仕方ないだろう。これが今のお前達の身分なんだ。

「そのうち、1人ずつの部屋を用意させてやるさ。だから頑張ろう」

頭を撫で、なだめておくことにした。

それよりも問題は、凛達だろう。

「ど、どうしよう、お客さんいるみたいだし、失敗でもしたらやばいんじゃ…」

卯月が震えている。あはは。まるで雪歩みたいだ。

「大丈夫さ。誰がお前達を教育したと思っているんだ?」

それでも、焼け石に水というやつか。

うーん。彼女達をなだめるにはどうしたらいいかな。

「凛。お前は大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫…」

青い顔で言われても、説得力は無いな。

無理もないか。この間までテレビを見る側だったんだ。

まさか自分がこうなるとは夢にも思わなかっただろうし。

あの未央でさえ、黙っているんだから。

「…」

どうだろう。
僕は765にいた時、どうやって送り出したかな。

もう一年以上も前だ。
中々思い出せないな。

いや、特別何かをした事は無いな。


それでも、彼女達は765のメンツとは違う。

そこまでの器はまだ備わっていないか。

「そうだなあ。じゃあ、このライブが成功したら、何か一つ願い事を聞いてあげるよ」

僕に言える事はこれくらいかな。

あはは。やっぱりこれくらいじゃ緊張は解けないか。

うーん。
僕は初めてのライブでは何をやって過ごしたかな。

それこそ大昔の事だから、覚えてないや。

リハーサルは何とかこなしても、本番は違う。

何せ、お金が絡んでくるんだから。

学校の文化祭とは違う。

本番までの時間がどんどん近づいてくる。

もう控え室に言葉は流れなかった。

参ったなあ。


そうしていると、舞台の観客席からの声に、卯月が反応した。

「あれ?…今日、ライブだなんて伝えてないのに…」

卯月の視線の向こうを見てみると、そこには見覚えのある子達がいた。

僕が卯月をアイドルに誘った時、彼女の両端にいた子達だ。

『未来のトップアイドル!島村 卯月!』

あはは。可愛らしい手作りの応援旗だ。

卯月の応援に来てくれたんだな。

でも、どうして友達にライブの事を伝えなかったんだ?

「失敗したら、残念な姿を見せる事になりそうで…」

まあ、気持ちは分かるかな。

けど、来ていたのは卯月の友達だけではなかった。

よく見たら、周りにいるのは女子高生や男子高校生。

凛や未央の学校の制服を着てる子達ばかりだ。

みんな、優しいじゃないか。

「どうして…」

凛が呟く。

「皆、お前達の晴れ舞台を見たいんだよ。

あはは。これじゃ学園祭だな」

「もうっ…何だか、緊張が解けちゃったよ!」

さっきまで喋らなかった未央が口を開く。

いいじゃないか。
これだけ人だかりがいれば、他の見物客もやってくるし、自ずと他人も見てくるさ。

「友達の家族だったりして」

「もう、周子さんたら…」

周子の軽口に、卯月が笑う。

いいじゃないか。ようやく調子が戻ってきた。

これなら、大丈夫だな。

「よし、行ってこい」

「あ、プロデューサー」

「?」

「さっき、何でも一つ叶えてくれるって事、忘れないでね」

…あまり、緊張をほぐしすぎるのも、だめみたいだな。

まあ、いいか。
彼女達の笑顔が戻ったなら、それでいい。

じゃあ、今度こそ、行って恋。

結果として、ライブは大成功。

途中、何度か危ない所もあったものの、チームワークでカバー出来た。

今日のライブで、彼女達の絆はより強固なものになっただろう。

そう、確信した。

「ねえ、プロデューサー」

ライブが終わり、車で事務所まで送っている最中、助手席に座っていた凛が僕に話しかけてきた。
しかし、卯月や未央は分かるが、奈緒や加蓮、周子まで寝るとはどういうことか。

「どうした?願い事か?」

「うん。私達三人で決めたんだ」

なんだろう。晩御飯を奢れかな?
それとも、欲しいものでもあるのかな?

「…欲しいもの、うん。そうだね」

「何が欲しいんだ?」

「プロデューサー。私達三人、ユニット組みたい」

「ユニット?…そうだな。確かに、今日もお前達は一緒に舞台に出た事だしな」

「うん。それで分かったんだ。
私、この二人がいいって。
…この二人と、ユニットを組みたいって」

短期間で随分変わったな。
いや、元々こういう子なんだろう。
それがたまたま、今日がきっかけで表に出ただけだ。

そうだな。

ユニットか。

いいじゃないか。

「でしょ?名前も考えたんだ」

ほう。何だ?

「私達、アイドルになって、伝説を作りたいんだ。
誰も破れないような伝説を」

「いい響きだ。伝説。僕は好きだな」

「違うよ。そうじゃなくって」

「『ニュージェネレーション』ってどうかなって…」

新しい伝説か。
悪くない。

「なら、名前負けしないようにしなきゃな」

「うん。そのつもり」

「頼りになるじゃないか。
なら、お前達にはアイドルに革命を起こしてもらうぞ?」

「起こすよ。絶対起こしてみせる」

これは、僕はとんでもない逸材達を発掘してしまったな。

こんなにも強く、真っ直ぐに高みを目指すなんて。

そうか、ニュージェネレーション。

…春香。この子達はきっと将来、とんでもない存在になるぞ。

これからの彼女達に、期待しようじゃないか。

すると、懐かしい感覚。

すっかり忘れてしまっていたよ。

「なら、お前達に僕からプレゼントだ」

後で、聴かせてやるとしようか。

http://www.youtube.com/watch?v=sCyX7DCc-1U

「…………」

「…………」

今僕は、この場からどのようにして切り抜けようか考えている。

平静を装ってはいるが、拳の中は嫌な汗でぐっちょりだ。

ほんとは、泣きたいくらいだよ。


ニュージェネレーションのデビュー曲として、僕の曲を提供した所、まさかのオリコンチャート2位と素晴らしい記録を叩き出した。

ちひろも随分喜んでいたよ。

奈緒や加蓮、周子も、まるで自分の事のように喜んでいた。

とても良い結果だよ。

けれど、僕は大事な事を忘れていた。

作詞作曲は僕。

CDを買えば、自ずと僕の名前がある事が分かる。

自分の名前なんて書くんじゃなかった。

いや、勿論皆の記憶は消えているから、GACKTと言われても誰かは分からないはずだ。

しかし、例外はあったのだ。






今、CGプロダクションに、765プロダクションの面子が殴り込みに来ている。

誰か、助けてくれ。

>>1
ありがとう 周子ちゃん入れてくれて嬉しいわ
最後まで応援しとるよ!

「だ!か!ら!なんで、あなたはこの事務所にいるんですかって聞いてるんですよ!!」

律子がデスク両手をついて、僕に詰め寄る。

成り行きなんだ。勘弁してくれ。

「成り行きぃ!?あなたねぇ!!全然戻ってこないと思ったら、他のプロダクションに現れて!
あなたの事務所は765プロでしょ!?違いますか!?」

食ってかかるなよ。唾が飛ぶ。

CGプロはというと、人数と面子に気圧されて、事務所の隅で震えていた。

ただ一人、凛を除いて。

「昔は昔なんでしょう?今は私達のプロデューサーなんですから、お引き取りください」

今や天下の765プロだ。
あの周子ですら何も言わず、我関せずの立ち位置でひたすらお菓子を食べている。

しかし凛は、全く臆する事なく、律子に顔面を押し付けるが如く詰め寄っていた。

「大体、765プロは今セルフでやってるって聞きましたよ?
それに比べて私達は出来たばかりのプロダクションです。
そんな私達から、一人しかいないプロデューサーを奪うんですか?」

「う、奪うってあなたねぇ!」

「律子さん」

律子の後ろで成り行きを見ていた、リボンが特徴のアイドルが口を開く。

「ええっと…今、渋谷さん達はGACKTさんしかプロデューサーがいないんだよね?」

「…はい」

「そっか…うーん。なら、仕方ないですかねぇ…」

「春香!?」


「だって、今渋谷さん達の前からGACKTさんがいなくなったら、すごい困ると思います」

「それはまあ、そうだけど…」

「だから、良いです。GACKTさんがいるってだけでも、良かったですから」

「春香…」

「だから、今は大丈夫です!」

どうやら、分かってくれたようだ。

「じゃあ、帰りましょう?律子さん」

「…そうね。私も言いすぎました。GACKTさん、渋谷さん、ごめんなさい」

「いえ、いいんです」

「ほら、美希、いつまでもGACKTさんに抱きついてないで、いつでも会えるんだから!」

「ハニィィィィィィィィィィ!!!!!!」


いやあ、美希は相変わらずだなあ。

結局、春香達は嵐のように現れ、嵐のように過ぎ去っていった。

加蓮がホッとしている。
そんな怖かったのか。

「怖いっていうか、あんなに声出されたら過呼吸起こしそうでさ」

お前には、どこか草原でのロケ仕事でもとってやらないとな。

「凛、すまないな。秘密にしてて」

「…いいよ。言えない事情があったんでしょ?」

「言えない、か。そうだな。今は少し、な」

「なら、いいよ。私、プロデューサーのこと信じてるから」




すると、今まで我関せずだった周子が口を開いた。

「ねえ。そんな悠長な事言ってていーのかな?」

「…どういうことだ?」

「?」

事務所内の人間が周子に注目する。一体なんだというのか。

「…天海さん、だっけ?

…あの人、最後になんて言ったと思う?」

…?大丈夫、か?

「違うよ」
「『今は』大丈夫って言ったんだよ?」

………どうやら、僕は、開けてはいけないパンドラの箱を、開けてしまったらしい。

あはは。参ったなあ。

とりあえず、第一章ってことでここで終わり

>>94
乙だわー マジで楽しみにしとるよ

>>95
まとめ見て思い出したんだけど、YOUって関西弁話してたなぁ

盲点でしたわ

乙!乙!

ジェネレーションって世代って意味じゃん

やべえ恥ずかしい

まあ適当に補完しといて

次回はいつ頃っすかね?

ほら、新世代の名前を背負うって意味なら伝説レベルだから……はい……

765プロがここの事務所を訪れてから数日後。

ニュージェネレーションの三人組は徐々に活動範囲を広げつつあった。

そして今回。

彼女らはロケ仕事の前乗りで、仙台に来ていた。

「うまっ!牛タンうまっ!!」

未央がバクバクと牛タンにかぶりついている。

「未央、食べ過ぎ。太るよ」

凛が当然な事を言う。

全く、この子には節制と言うものはないのだろうか。

「だけど、せっかく来たんだから!それにこんな高いお店、今まで来れなかったんだよ!?」

そうだな。
それは言える。

お前達の力によるものだよ。

「プロデューサーのおかげだよ。ありがとう」

この子は、ほんと素直になったな。

「卯月、お前も遠慮しなくていいんだぞ?」

卯月は、安くもなく高くもない物を食べていた。

さて、僕も食べるとするか。

なんたって僕は肉博士なんだからな。

更新来てた

しえん

支援だわー

今回は週刊誌の表紙のモデルと、取材。

ニュージェネレーションの名前の由来と、これからの抱負など、まあ普通の取材ということだ。

それと今回はモデルの女の子も同時に取材を受けている。

同じくらいの年齢と言う事で、互いの職業についての対談もあるのだ。

相手の女の子は、垂れ目で身長が低く、おっとりとした感じの女の子だった。

仙台が出身地とも言う事もあり、中々丁重な扱いを受けていた。

それにしても、やけに僕のほうをチラチラ見ている。

全く、モテる男は辛いな。

ふむふむ

彼女の名前は佐久間 まゆ。

モデルの経験からか、常にカメラに見られている事を意識して、姿勢や表情を変えている。

その手馴れた感じ、彼女達には学んでもらいたいものだ。


凛達は、初めての経験ということもあり、終始噛んだり、どもったりと記者を困らせていた。

まあ、これから慣れていけばいいかな。あはは。

僕は黙って見守るだけだ。

それに微笑ましいじゃないか。
慣れてない仕事を一生懸命やろうとする子供達を見るのは。

やがて時間も終わり、それぞれ個別の写真を撮ることになった。

丁度凛が撮っている時だろうか、モデルの子が僕に向かって歩いてきた。

「あの子達のプロデューサーの方ですかぁ?」

おっとりした喋り方だ。
なんだか眠くなるよ。

「そうだけど、どうかしたの?」

すると、そっと右手を僕に差し出してくる。

何かくれるのだろうか。

だが手のひらには何もないようだが。

「名刺、貰えますかぁ?」

「…?名刺?さっき君のマネージャーに渡したけど」

「いえ。個人的に貰いたいんです。ダメですかぁ?」

それくらいなら、一枚でも二枚でもあげるよ。けれど何に使うのか、僕には理解できなかった。

まさか、あんな事になるなんてな。

いや、予測できるわけがないんだが。

「GACKTさん!凛ちゃん達も、お疲れ様です!」

事務所に帰ると、常に常駐しているちひろがお辞儀で迎えてくれた。

「ただいま。ちひろ」

えへ。と聞こえてきそうな笑顔だ。
魅力的だな。彼女も。

すると、ちひろが両手を差し出してくる。

何だ?名刺でも欲しいのか?

「違いますよ!お、み、や、げ!」

…ああ。そういうことね。

仕方ない奴だなあ。ほら。


「あっ、上げないで!届かないです!!」

彼女もほんとにいじりがいがあるよ。

「こらGACKTさん。ちひろさんいじめんなよ」

レッスン終わりの奈緒がブスっとしながら僕を見る。
お土産なら全員分あるから、安心しろよ。

「そうじゃないよ…」

?何だか歯切れが悪いようだ。

すると、ちひろがコソッと耳打ちしてきた。

ちひろから聞いた内容はこうだった。

「なあ、ちひろさん。今日って凛達仙台まで行ってるんだよな?」

「そうよ?でもそれがどうかしたの?」

「…私と凛達って、ここに来た時間、あんま離れてないよね?」

「…そうねぇ」

「じゃあ、何でGACKTさんは凛達ばっかり構うんだ?」

「構うだなんて…まあ、一番初めに来た子だから、愛情もあるんでしょうけど…」

「…私達だって、レッスンばっかりじゃつまんないよ」

「奈緒ちゃん…」

「それに、私だけじゃない。
加蓮や周子さんだって、きっとそう思ってるよ」

「……!」
「構って欲しいのね!?」

「ちーがーうー!!!」

「…そうか。そんなことが」

奈緒が言う事は分からないでもないな。

…正直、凛達を贔屓しているのは、あるかもしれない。

でも、まだ、任せられない部分もある。

奈緒はまだマシだが、加蓮や周子はまだアイドルの職業を甘く見ている部分がある。

それで失敗でもされたら、CGプロダクションは終わりだ。

だから、今は実力云々より、アイドルとは何たるかを見極めてほしいんだ。

その厳しさを分かる事で、見方も大きく変わってくる筈だ。

…でも、そうだな。
もう少ししたら、彼女らに特別指導でもしよう。

ちゃんと仕事ももらえるようにするから、安心してくれ。

「なあ、GACKTさん。特別指導って聞いたからついてきたけど、どこにいくつもりなんだ?」

あはは。
着いてからのお楽しみさ。

「ねえGACKTさん。この辺ってこないだ来た人達の事務所がある場所じゃないの?」

加蓮が僕に呟く。
随分勘が良いじゃないか。


「え?…まさか、正気なの?」

あはは。



そのまさかだよ。

「……言いたい事は分かりました。ですが、容認できません」

そう言われると思ったよ。

「あり得ませんよ!他の事務所の子を仕事場に連れてくなんて!」

律子が眉を吊り上げて机を叩く。

そう。
特別指導とは、奈緒、加蓮、周子を765プロに連れていき、仕事場に見学にいくというものだ。

後ろの三人は物珍しそうに周囲を見渡している。

そりゃあ、天下の765プロの事務所がこんな狭いだなんて思いもよらなかっただろうからな。

「だが、これで分かっただろう?事務所の規模なんて関係無い。

どれだけ努力したかが重要なんだ」

三人が意外そうな顔をする。

「え?765プロの人達って初めからトップだったんじゃないの?」

「そんなわけないさ。この子達だって初めは小さい仕事ばかりだった。
ライブが成功してやっと番組に出させてもらえる様になったんだ」

「その通りだよ」

「?」

事務所の一室から老人が歩いてくる。いや、隠す必要もないか。

「社長か。久し振りだな」

765プロの社長、高木順次郎。

思えば彼との出会いが始まりだったな。

「GACKT君。君の頼みというなら、引き受けるとしようじゃないか」

「社長!?本気ですか!?」

律子が食ってかかる。
だが社長は笑うのみである。


「いいじゃない。そいつらに厳しさってもんを教えてやる良い機会よ」

口を開いたのは伊織だ。

挑発するかのように、奈緒達の目の前に立つ。

「お!竜宮小町のリーダーだ!可愛いなー!」

「ちょっと!何すんのよ!頭撫でんじゃないわよ!」

周子のなれなれしさにタジタジなようだ。

まあ仕方ないさ、そういう奴なんだ。

僕と会った時もそうだった。

だが、これから彼女達は、厳しい場面に直面することになるだろう。

今の自分が、いかにアイドルを甘く見ているか。

すぐに分かるさ。

「では、今から説明をさせて頂きます」

今回竜宮小町が担当する仕事は、ニュースの1コーナー。

生放送ということもあり、どこからか聞きつけたファン達が大勢押し寄せていた。

「うわー…圧巻だなあ…」

加蓮が感想を述べる。

だが、それだけで驚いてはいけない。

「言っとくけど、注目されるアイドルならこれくらい当然なのよ。あなた達もトップになるつもりなら、こんなんで驚いてちゃいけないわ」

律子が苦笑しながら話す。

「それに、生放送だから、失敗してもやり直しがきかない。
それで焦ろうもんならその姿が全国に放送されるわ。
そしたら、赤っ恥じゃすまないわよ?」

律子が加蓮達を静かに追い詰める。

彼女たちの顔がどんどんこわばっていくのが分かる。

だが、律子は当然の事を言っているのだ。

「かわいそうだが、プロの世界というのはこういうものだ。
…ビビってしまったか?」

奈緒はともかく、加蓮はメンタルが弱そうだ。

「……」

押し黙ってしまったようだからな。

「面白そうじゃん!」

沈黙を破ったのは、周子だった。

「私、やってみたい!頑張ってみるよ」

この子は、鋼のメンタルを持っているかもしれない。

なら、やれるとこまでやってもらうとしようか。

「大丈夫だよ!GACKTさんがいるんだし?」

そう言いながら僕の腕に抱きついてくる。

「……がーくーとーさん?」

そんな睨まないでくれ。
懐いてしまったんだ。

「そんな犬みたいに言わないでよ、どうせならキツネがいいかな?」

コン!とキツネのモノマネをしながらポーズを取る。

「…ふふっ。周子さんおかしー!」
「ほんと、キツネそっくりだな!」

すると、さっきまで沈んでいた二人が笑い出した。

どうやら周子には周りを明るくする力があるようだ。

これで少しは緊張がほぐれたかな?

「……!」

だが、伊織が静かにしなさい、とジェスチャーを送っているので、おふざけはこの辺にしておこうか。

「…不思議な子達ですね。春香達とはまた違う何かを持っていそうです」

だろう?何せ僕が選んだんだからな。

「…せいぜい、期待してますよ」

言葉とは裏腹に、律子は笑顔だった。

後で、ジュースでも奢ってやるとしよう。

「今日一日本物を見てきてどうだった?」

「うーん。まだ先は見えないかな」

「だけど、何か自信ついたな」

何でだ?

「だって、最高のプロデューサーがついてくれてんだもんな!」

今更じゃないか。
気づくのが遅いよ。

「なら、明日から本格的に営業に回るとしようか」

「「はいっ!」」

どうやら覚悟はできたようだ。

…まあ、そうだな。

ポケットの中のCDは、まだ見せないでおこう。

それは、彼女らが人前で動く事に慣れてからだ。

その時は、すぐ来そうだがな。

事務所に戻ると、ちひろが一人の女の子と会話をしていた。

おや、どこかで見覚えのある女の子だな。

「あ、あの子って読モの佐久間まゆじゃないの?」

加蓮が指をさす。
こらこら、そんなことするんじゃあないよ。

すると、気がついたのか僕に向かってゆっくりと歩いてきた。

以前のように、ゆったりゆっくりと。

「GACKTさぁん。まゆ、会いたくなって、来ちゃいましたよぉ?」

おや、随分自由奔放なんだな。
仕事はどうしたのだろう。

「やめちゃいましたぁ」

「は?」

「だから、ここに来たんですよぉ」

ぴとり、と僕に寄り添ってくる。

おかしいな。美希ですら凌ぐこの感じ。何だか怖いよ。

だが、もっと怖いのは。

僕の後ろで腕を組む彼女達だがな。あはは。


「GACKTさん!どういうことだよ!」

「私だけじゃ飽き足らず、そんな女の子まで…」

「裏切るんだあ。あぁ、貧血が…」

奈緒以外おかしな発言をしているが、気にしないでおこう。

それよりも今はこの子だ。

いきなり辞めてくるとは驚いた。そんなに僕が好きなのか?

「はぁい。だぁい好きですよぉ」

…参った。降参だよ。

両手をあげ、お手上げのポーズだ。











「……プロデューサー。なにやってんの?」
「……犯罪ですねぇ」
「おお、こりゃ犯罪ですわ」





………ああ、JESUS。

元、モデルの佐久間まゆ。

彼女がこの事務所にやってきてから、何度か取材がやってきた。

まあ突然やめられて東京の小さなプロダクションに行くとなったら、そりゃあ不審がるだろうな。

僕は当たり障りのない回答をしてやり過ごすことにした。


「うふ。運命の出会いがあったんですよぉ?…勿論、この事務所のことですからね?」

危ないなこの子は。


だが、それの影響か、さらにCGプロダクションは注目されることになった。

あまり嬉しくない注目のされかただけどね。


しかしこの子は人前に立つことが慣れている。

それに、モデル時代で培った様々な技術もある。

スタート地点なら凛達より遥かに上だ。

期待値は大きい。

後は体を動かす技術だけだ。

彼女は一旦トレーナーに預けることにした。

支援

「私達の、歌?」

そうだ。
そして、今回彼女達を呼んだのは他でもない。

「周子、奈緒、加蓮。お前達にはユニットを組んでもらうことにした。

リーダーは奈緒。…できるか?」

奈緒の顔が真っ赤になる。
恐らく、期待と不安半々といった感じなんだろう。

「で、でも私、リーダーなんてやったことないし、可愛くないし…」

「それを判断するのはお前じゃないさ。お前を見る者達だ。

それに、可愛くなかったらアイドルオーディションに合格なんかさせないさ」

しかし、随分自分に自信が無いんだな。眉毛か?

「ま、眉毛はどうでもいいだろ!」

「あっははー。奈緒ちゃん太いもんねー」

「し、周子さん!いじんなよ!」

二人のやりとりを横目で見ていた加蓮が口を開く。

「GACKTさん。ユニットはいいとして、名前はどうすんの?」

名前?

うーん…名前か。

いくつか案を考えたが、あまり出てこなかった。


「名前は、お前達で決めてくれ。
凛もそうだったしな」

デビュー曲となるCDと楽譜、歌詞を彼女らに渡すと、周子が目を見開いた。

「お!この曲名かっこいいね!私達の名前にしようよ!」

デビュー曲が、ユニット名か。
悪くはないんじゃないかな。

「ただ、僕の歌は難しい。
この歌は尚更だ。
だから、まず僕のレッスンに扱かれてもらうぞ?」

すぐ歌えるわけじゃないんだ、と奈緒がぼやくが、仕方ないさ。

カラオケ気分で歌って、誰が買ってくれるんだ?

まあ、何にせよ目標が出来たんだから、三人とも頑張れよ。

ユニット名は、メタモルフォーゼ、か。

新世代の次は、変身か。

変態は僕だけで充分さ。

http://www.youtube.com/watch?v=X6O4UonfKyM

「加蓮、もっと声張って。あと奈緒、僕の真似しなくていい。周子は、1人で進み過ぎだ」

「うぇー…もう喉ガラッガラだよGACKTさん。休憩させてくれよー」

ついに奈緒がへばった。

まあそうなるだろうな。

「水買ってきたから飲んで。
10分後にまた始めるから」

僕は素人にもプロにも、歌にだけは素直でいたい。

だから遠慮無く意見を言う。
それに彼女らはこれから歌を聴かせる側なんだ。

うまくなってもらわねば困る。

「GACKTさん。上手いよね。何かやってたの?」

周子が質問をしてくる。
そうだな。やってたよ。

765でも手助けした事はあるしね。

「GACKTさんもデビューすればいいのに」

「今は、プロデューサーだからな。

さ、いつまでもへたり込んでないで、始めるよ」

「「えー!?早いよー!!」」

文句言ったから、次は休憩無しにしようかな。
あはは。冗談だよ。
加蓮、泣いちゃだめだよ。

「プロデューサー。随分熱心だね」

「まあ、本人達も早くデビューしたいと言ってたからな。だったらそれなりに厳しくするさ」

「でもGACKTさん。何だか楽しそうですね!」

ああ。楽しいよ。まるで子供達を育ててる気分だ。

「でも、GACKTさんってライオンみたいだね。
谷から落とすみたいな」

「失礼だなあ。確かに僕はライオンだけど、それはベッドの上って決めてるんだ」

途端にニュージェネレーションの顔が赤くなる。

そっか。やっぱり思春期だもんな。あはは。

「……変態」

凛、それは僕にとっては褒め言葉に過ぎないよ。

「いずれはお前達二組には事務所の看板を背負って立つ存在になってもらうつもりだ。頼んだぞ」

「うん。任せてプロデューサー」

凛が不敵に笑う。
いい顔をするじゃないか。

僕の下にいるからには、それくらいの心構えでいてもらわなければな。



「じゃあ、今日はこれくらいにしようか。また明日、朝から始めるよ」

「「はーい…」」

相当疲れたらしいな。あはは。

さて、僕はお酒でも飲みに行こうかな。

僕の好きなお店は、人気の少ない静かな、それでいて全体的に暗いバーだ。

家で飲もうかとも思ったけど、残念ながら僕1人しか家にいないので、こうやって飲みに出かけるんだ。

しかし、どうやらこの辺にはバーはあっても土曜日ともいうこともあり、うるさい客でいっぱいだ。

仕方ない。どこか別の場所を探すとしようかな。

そうしていると、目の前に小さな居酒屋が現れた。

……人も少ないし、それなりにいいお酒が飲めそうだ。

「…ここにするか」

文句は言えまい。
カウンターに腰掛け、ウィスキーを注文することにした。

「山崎でいいですかい?」

大将が聞いてくる。
構わないさ。僕もそれは好きだし。

相当珍しいお客に見えてるんだろうな。

確かに店に入った時大概の人は生ビールだろうし。

入っていきなりウィスキーを頼む客なんて、そうそういないだろう。

だが、僕はこれが好きなんだ。

他人の目を気にすることはないさ。

そうしていると、隅っこにいたであろう女性が、席を立ち僕の隣へと移動してくる。

女性にしては背が高く、おまけに細身だ。

栗色の長めのボブヘアー。

オッドアイなんてほんとにいるんだな。


「お隣、よろしいですか?」

大吟醸を大事そうに抱えている。

酒類は違えど、僕は彼女に自分に似た何かを感じた。

続ききたーー!!!

「お酒、好きなんですね」

無言を肯定と受け取ったのか、勝手に僕の隣に座る。

あはは。逆ナンなんて久し振りだよ。

「そうだね。君も好きなのか?」

「ええ。大好きです」

フフ。そう笑みを浮かべる彼女に妖艶さを感じた。

「良かったらご一緒に楽しみませんか?」

そうだね。
君みたいな可愛い子と飲めるならいくらでもいいよ。

「フフっ。ありがとうございます」

束の間だが、しばしの休息といこうか。

「神威 楽斗…変わったお名前なんですね」

「よく言われるよ」

まあ皆GACKTって呼ぶけどね。

プロデューサーって呼ぶのは凛くらいか。

彼女、高垣 楓はさもおかしそうに笑っていた。

「兄さん、随分珍しいですね」

大将がつまみを作りながら聞いてくる。

「そうだね。僕みたいな客は珍しいだろ?」

すると、違う違うと右手を左右に振る。

「楓さんが男に自ら近づくなんて今まで一回も無かったんだ」

楓さん。ということは、彼女は常連客なのか。

「ええ。贔屓にさせてもらってます」

グイッと日本酒を飲みながら、大将にウインクした。

何かの合図か、もう話すなと言わんばかりのジェスチャーだ。

「あはは。光栄だよ。君はどっちかといえばナンパされる方なんだな」

「まあ、されないことはないですね」


一応付き合うとは言うのだが、結局離れていくのだそうだ。

「楓さん、酒強いからねぇ。大抵の男は途中で酔い潰れて帰っちまうんだ」

確かに、先程からチビチビ飲んでいる割に瓶の中の減りが早い。

一升飲み干す気だろうか。

「じゃあ、僕は残りの少数に含まれるのかな」

僕だって負ける気は無いんでね。
ましてや自分の得意分野だ。

「そうですか?でしたら、勝負といきましょうか」

土曜日の夜。
互いに子供っぽい争いが始まった。

「……」

あはは。やっぱりまだ若いなあ。
船を漕ぎ出してるじゃないか。

「お客さん、強いねえ。長い間この店やってるけど、あんたみたいな人は初めてだよ」

あはは。ありがとう。

そろそろお開きかな。

「まだ、終わってないですよぉ…」

つまみを箸で取りながら、僕の目の前に出す。
あまり行儀は宜しくないみたいだな。

「イカは、イカが?」

「は?」

どうやら相当酔ってるのかな。
こりゃあ、世話しないといけないかな。

「ああ、良いんですよ。それ、いつもの楓さんですから。

…いやね?楓さんに付き合えるくらいの酒豪もいない事は無いんですよ。

けど、楓さんオヤジギャグ好きだし、何だかおっさん臭いっていうのもあって、向こうがギブアップしちゃうんですよ」


…訂正。彼女と僕は全然違うみたいだな。

「じゃあ、僕はこれくらいで帰るよ。彼女をよろしく」

彼女の分と僕の分のお代を置いて帰る事にした。
まあ、こういう時は男が出すもんだし、気にすることはないよ。

すると、スーツの裾を掴む何かに止められる。

「もうお帰りなんですか?寂しいです」

暗に、いやかなり直接的に帰るなと訴えてるようだ。

だけど僕にも仕事があるからなぁ。

「僕の事が気になったら、いつでもおいで。歓迎するよ」

名刺を彼女の手に握らせ、帰る事にした。

「楓さん、残念だったねえ。いい男だったのに」

「……」

「あんたが自分から声かけたんだ。よっぽど気にいったんだろ?」

「……」

「気にすんなって。それに会いたいならおいでって言ってくれたんだ。まだいくらでもチャンスはあるさ」

「……CGプロダクション、プロデューサー…GACKT、さん」

「まだ若いんだ。あの人、アイドルのプロデューサーなんだろ?なら、アイドルにでもなってみればどうだ?…いや、流石に冗談が過ぎたか?」

「……!!…じゃあ、私もこれで帰りますね」

「………おいおい。マジかよ」

楓さんかわいいよ楓さん

「…じゃあ、メタモルフォーゼの三人組のデビューはこの日ということで…」

ちひろとそれぞれのアイドルの日程を考えている。

こういった綿密な打ち合わせは必要不可欠だ。

そうしていると、事務所の扉がコンコンと叩かれる。

この大人しい叩き方は凛かまゆだろう、と思ったが、来たのは思いも寄らぬ人間だった。

「君は、確か先週の…」

「?GACKTさん、お知り合いの方ですか?」

まあ、知り合いというか、偶然飲みの席で一緒になった程度だ。

彼女も一応会社員と聞いていたので、平日の昼間にこんな所に来るとは考えられないが。


「えへへ。来ちゃいました」

楓。まさか本当に来るとは夢にも思わなかったよ。

「会社、辞めちゃったんですよ」

何で僕のとこにはむちゃくちゃな子が来るんだろうか。

まあ、これくらいハチャメチャな方が面白いから、いいかな。あはは。

楓がやってきてはや数日。

徐々に事務所の勢いも増してきた。

そこで一度、初の試みをやってみようと思った。


「LIVEバトル、ですか?」

「そう。相手はまだ決めてないけど」

他の事務所の子達とLIVEバトルをさせてみようと思ったんだ。

「そうですねぇ…確かにファンもどんどん増えていってます。
士気を高める目的でも、悪くないでしょうね」

そう、これからトップを目指すんだ。
他の事務所のアイドル達を追い抜き、頂を目指さなければならないんだ。

というわけで、ニュージェネレーションのLIVEの告知をすることにした。

しかしすぐに対戦の申し込みが来た。


まさか、これが事件の引き金になるとは、思いもしなかったよ。

「私達が」
「他のアイドルと」
「LIVEバトルですか」

まあ、経験しておいて損はないだろう。
僕も初めてだし、一緒に頑張ろうじゃないか。

「それで、対戦相手って誰なの?」

凛が聞いてくる。
まあ、当然の質問だな。

だけど、とっても言いづらいよ。

なんたって、相手は







天下の765プロなんだからな。

三人が驚く。
まさか、デビューしたてのアイドルユニットにトップのアイドルが宣戦布告をしてきたのだから。

しかも、相手はたった1人。


「天海 春香さん…」

…ああ。周子の言う通りになってしまったな。

まさか、かつての相棒が敵になるとは。

「無理だよ!勝てるわけないじゃん!」

未央が僕に詰め寄る。

「だけど、今のお前達の実力がどの程度なのか分かる良い機会だよ」

「そりゃ、そうだけど…」

「……私、やりたい」

凛が口を開く。

「凛ちゃん、本気なの?」

隣にいた卯月が心配そうな顔で凛を見る。
だが、凛の目は本気だ。

「だって、舐めてるとしか思えないよ。
確かに私達、デビューしたてだけど、1人で来るなんて、馬鹿にしてるんじゃないの?」

そうだな。1人だからそうだとは限らないが、恐らく挑発だろう、と思う。
いや、王者の余裕か。

いずれにせよ、春香がこちらを甘く見ているというのは分かった。

「…しょーがない!じゃあリーダーが言ってることだし、いっちょ頑張りますか!」

未央が胸を張る。
あはは。この子達の絆はどんどん強くなっていっているな。

頼もしい限りだ。

「よし決まりだ。じゃあ、二週間後、LIVEバトルに向けて頑張ろう」

僕も負けず嫌いなんだ。
ここまで舐められて黙っている訳にはいかないよ。

三人が猛特訓している間、僕は会場に行くことにした。

まあ、敵情視察も兼ねてだ。

なんせ、今日は春香も来てるんだからな。

偶然会っただけなんだけどな。

「GACKTさん。こうして話すのは何ヶ月ぶりですかね」

バトルの舞台を見つめ、春香が口を開く。

「さあ。覚えてないな」

まあ、半年以上ってとこだろうな。
凛がうちに来てからの時間も含めたらこんなもんだろうか。

「半年と、一ヶ月、三日ぶりです」

数えてたんですよ。と微笑む春香。
随分だな。そんなに僕が好きなのか?

「…はい。GACKTさんと過ごした時間、忘れてませんよ」

「…僕も、忘れてないよ」

「じゃあ、どうして765プロじゃないんですか?」

「…」

成り行き、ともあるが、じゃあ僕はどうして続けているのだろうか。
それはきっと、僕の性分なんだろうな。

「僕は、一度任されたら徹底的にやりたいんだ。無論、彼女達もトップにしてみせる」

お前達のようにな。
そう付け加えると春香が黙りだす。

「…私はまだ、納得してません。
だから、一つ賭け事をしませんか?」

賭け事か。戦うのは僕じゃないんだがな。

「…GACKTさん、私が勝ったら、765プロに戻ってきて下さい」

なんとなくだが、予想できたよ。
参ったなあ。

「どうして僕なんだ。他にも優秀なプロデューサーはいるだろう?」

「GACKTさんが良いんです。GACKTさんじゃなきゃ、駄目なんです。
私、ほんとはあの子達に嫉妬してるんです」

そうか。1人での勝負というのは、彼女達への後ろめたさからくるものがあったからなんだな。

「…いいよ。その代わり、負けることはないから」

「…私、こう見えて、成長したんです。あの頃とは大違いですよ?」

いいじゃないか。燃えてくるよ。

「勝負事は、勝たなきゃ嫌なんだ。全力でやらせてもらうよ」

「…こちらも、ですよ」

そう言うと、舞台に立ち僕に背を向ける。何をするというのか。

「…よっ!」

…春香、見ない間に随分運動神経が上がったな。

お前はバク転だなんてキャラじゃないだろう。

「えへへ。敵情視察なんでしょう?サービスですよ。サービス。
…じゃ、期待してますね?」

ウインクして、出口へと向かった春香。
期待というのは、凛達に向けての言葉か、はたまた僕を765プロに戻す事への期待なのか。

いずれにせよ、強大な壁ということは間違いなさそうだ。

…僕も、期待させてもらうとしよう。

勿論、凛達に向けての言葉だからな。

いつものLIVEとは違う空気に包まれた会場。

今からここで二組と、いや一組と1人がLIVEをする。

そしてバトルをするのだ。

相撲でいったら横綱と幕下の力士みたいなものだ。

765が勝って当然、なんて言われてる。

しかしもしかしたら、なんて物珍しさから東京外からも観客が押し寄せている。

いやあ、ひどいもんだ。

「だけど、逆に開き直れるよ。勝って向こうの鼻あかしてやるんだから」

正直、一番燃えてるのは凛だ。

人一倍負けず嫌いなのが影響したか。

それに凛の言う通りだ。
負けて当然と言われてるからかえって開き直れるというものだ。

「じゃ時間だな。行ってこい」

大丈夫。なるようになるさ。








春香との約束は、言わない事にしておいた。

天海 春香さん。

765プロの看板アイドルの1人。

それでいて、GACKTさんの元相棒。

今日のバトルの方式は、両者が交互に歌って踊って、その後30分の観客たちによる投票で勝敗が決まる。

順番は、春香さんが最初で私達が次。

こういうのは後者の方が有利だと思うんだけど、それをあえてしないという事は、余程の余裕があるのだろう。

私は、正直腹立たしかった。

王者の余裕なのは分かっているけど、ここまで譲られるとこちらにもプライドがある。
まるで踏みにじっているような感じ。

絶対に勝ってやる。
そしてあの人に言ってやるんだ。

舐めるな、って。


だけど、その感情は春香さんのLIVEを見た瞬間、消えてしまった。

観客全てが春香さんのファンでは無い。

そんな事は分かっているのに、今会場の全体が春香さんに目を奪われている。

それは私も。

これがトップを走り続ける765の実力。

私はもう負けてしまった気分になっていた。

しかし、卯月が励ましてくれた。

「凛ちゃん。初めからこんなの分かってたんだよ。だから、開き直って、私達は私達のLIVEを全力でやろう!」

「卯月…」

「私ね、今すっごい楽しいんだよ!だって、こんな大きい会場でLIVEできるんだもん!」

卯月が私と未央の手を取る。

「だから、行こ?」

何て屈託のない笑顔なんだろう。

そうだ。分かっていた事だ。

だったら開き直るしかないじゃないか。

それは私も思ってたことじゃないか。

「……卯月、未央。行くよ!」

私達に緊張はもう無かった。

やってやる。

こうなればもう出たとこ勝負ってやつなんだ。

私達は、今までにないくらいのパフォーマンスをする事が出来た。

隣の舞台の春香さんの顔が変わった。

そうか、今私達は春香さんの顔が変わるくらい実力があるんだ。

なら、行けるよね?卯月、未央?

二人もこれまでにないくらい笑っていた。

楽しそうに、LIVEをしていた。

GACKTさん。待ってて。
すぐに勝利の報告してあげるから。





そして、遂に投票結果が発表された。

「投票結果!!4862票、天海 春香さん!!」

次、私達だ。
この会場の人数はざっと一万くらい。

なら、ほぼ互角といったところだろうか。

私達は三人とも両手を握り、神様へ祈っていた。

「4860票!!ニュージェネレーション!!」

……え?

聞き間違いだろうか。
二票、私達の方が少ない。

まさか、そんな、嘘だ。


「何と二票差!!!天海 春香さん!くらくも勝利を納めました!!!

ニュージェネレーションの三人組の健闘を讃え、皆さん大きな拍手をお願いします!!」



私達は、負けた、んだ。

おかしいなあ。涙が止まらない。

負ける事なんて、予想してたはずなんだから、泣くことなんて無いのに、何でだろうか。

「…凛ちゃん」
「…凛」

私は、悔しいんだ。
とっても、悔しいんだ。

もしかしたら、勝てたかもしれないのに。

頑張りが、足らなかったんだ。

そう考えると、涙が止まらなかった。

控え室、重い空気が漂っている。

まさか凛が立てなくなるほど泣いてしまうなんてな。

卯月や未央が凛を慰めていた。

そうしていると、控え室の扉がノックされた。

出てきたのは、春香だった。



「…」

凛が春香を見る。
その目は充血で真っ赤だ。

春香もまた、凛を見据えていた。

「勝者の余裕ですか?」

凛ちゃん、と卯月が制止する。

「…違うよ。謝りにきたんだ」
「謝る?何を?」

「……正直、見くびってたの、凛ちゃん達のことを」

凛がキッと春香を睨みつける。
しかし、春香は気にすることなく話を続けた。

「…でも違った。凛ちゃん達は本当に凄かったよ。もしかしたら、泣いてたのは私かもしれない」

「言葉なら、何とでも言えます」

「そうだね。ごめん。…でも、約束は、約束だから」

GACKTさん。と呼ばれる。
あまり、こういうとこでは話したくない内容なんだけどなあ…。

「…?プロデューサー、どういうこと?」

「…今日、お前達が負けたら、僕は765プロに戻る事になるって話だ」

「「!!!?」」

どういうこと!?と凛が僕に詰め寄るが、春香がそれを止める。

「それだけ、GACKTさんが凛ちゃん達を見込んでいたってことだと思うよ」

「でも、私達は何も聞いてない!!」

「…この話をすれば、お前達は無理をする。だからだよ」

…再び、沈黙が訪れた。

すると、春香がわたしの

おおミスった
ごめん

すると、春香が無言で出ていこうとする。
ここで春香を止めなかったら、凛達は誰が面倒を見るというのだろうか。

そう思った僕の腕が自然と春香の腕を掴んだ。

「…待ってくれないか」
「…」

「もう一度、チャンスが欲しい。その時まで、待ってほしい」

春香はこちらを振り向かない。

「次までにもっと実力を身につけさせる。だから、お願いだ」

凛達は静かに見守っていた。
その心情は分からないが。

すると、春香の肩が震えだした。

「…すか」
「?」

「何で、凛ちゃん達なんですか?」

今度ははっきりと聞こえた。

「どうして!!どうして私達じゃないんですか!?

今までGACKTさんは、私達とやってきたのに!!

何で、あなた達なの!?

GACKTさんを、GACKTさんを返してよ!!!」

振り返った春香の顔は、涙に濡れていた。

そして、その矛先は、凛達に向けられていた。

「返してよ!!GACKTさんはあなた達のプロデューサーじゃない!!」

「春香さん…」

先程とは打って変わって

先程とは打って変わって春香が泣きじゃくって、凛達が黙ってしまった。

「私達は、ずっと一緒だったのに!何で凛ちゃん達に取られなきゃいけないの!?…こんなのって、ないよ…」

「…春香、僕が何故、凛達を育てると決めたと思う?」
「…?」

「僕がお前達と別れた時、手紙を送ったよな。
僕は初めてお前達に会った時、正直やっていける自信が無かった。
けど、それらを払拭してくれたのは、お前なんだ、春香」

「…」

「そして今、僕はお前以上に世話の焼ける子達を相手にしている。
この子達は、まだ本当に未熟で、まだアイドルを甘く見ている」

凛達を見回す。
三人とも、黙って僕の話を聞いているようだ。

「だけど、彼女達には何か、無限の可能性を感じたんだ」

「…僕は、それを見てみたい。
彼女達の可能性を開いてみたい。
…戻るのは、それからでも遅くはない」

「がく、と、さん…」

鼻声で呟く。そういえば春香の泣き顔を見るのも久しぶりだな。

「…だから、待ってほしい」

そうだ。まだこの子達は強くなる。
今日、お前に負けた事によって、さらに高みを目指す事ができる。

「…」

春香は、その目で凛達を見る。
何を思っているのだろうか。

しばしの沈黙の後、春香は涙を強引に拭き、すっと立ち上がった。

「…分かりました!今日は見逃してあげますよ!
その代わり、次は無いからね?凛ちゃん!」

笑顔でビシッと凛を指差す。

凛達も笑顔で応える。

うん、と一言放って、春香は出ていった。

「…」

私は、どうして譲ってしまったのだろうか。

本来なら、ユニットを組んで、大差をつけて勝つつもりだったのに。

それもしなかった。
いや、出来なかった。



さっき、凛ちゃん達を見たとき、不思議と親近感を覚えた。

目が涙で濁ったせいか、はたまた神様の悪戯か。

それはどちらでもいいか。

私の目に映ったのは、私だった。

最初の頃の、まだアイドル成り立ての私。

そうだ。私もGACKTさんに育てられたんだもんね。

じゃあ、しょうがないか。

もう少しの間だけ、貸してあげるよ。

後で千早ちゃんに慰めてもらうかな。

いや、まずはこの真っ赤な目を何とかしなきゃ。

それに、また凛ちゃん達とは戦うんだ。

次は、本気で行くからね。

…少しだけ、さようなら。
GACKTさん。

「へー。そんな事が」

周子がパスタをクルクルしながら呟く。
あまり興味は無いのか。

「そんな事はないよ?それにGACKTさん持ってかれたら、私が困るよ。
暮らしていけなくなっちゃうじゃんか」

そう。周子は本当に僕の家に泊まっているのだ。

「人が増えてきたら寮を作る予定だから、そっちに住むといいよ。
晩御飯も同居人に作ってもらえ」

「つめたーい。こんな美少女と同棲できるってのに」

「まずは、結果を出してからだな。
もうすぐデビューも控えてるんだ。
あまり大っぴらに同棲なんて言葉、使うんじゃないよ」

「はーい」

口が小さいからか、包めたパスタが入らなかったようだ。

全く、この事務所はほんと、世話の焼ける奴が多いよ。

「パスタを…う~ん…浮かばない」

僕の隣の飲兵衛に至っては、話すら聞いていないみたいだからな。

何にせよ、良かったよ。

これからは、どんどん力を伸ばしていくつもりだからな。凛。

いや、お前だけではない。
他の子達もだ。

一度負けたら、二度は負けない。

なんたって、僕は筋金入りの負けず嫌いだから。

倍、いや、百倍返しでやってやるよ。

ワインを飲み干し、誓うことにした。

「ここには日本酒が無いんですね」

「お前はいい加減大人になれ」

とりあえず第二章終わり

春香とのライブから数日後、僕は街の喫茶店で休憩していた。

この仕事には決まった休みが無い。

だからこうやって自分で休みを見つけるのだ。

まあ、一日というわけにはいかないけどね。


それに今日はメタモルフォーゼのデビュー兼スタジオでの曲収録だ。

そのせいか、三人組は少し緊張しているようだった。

「そう固くならなくていい。
何度だってやり直しはきくし、悪いところは抜いてそこにまた歌を埋めていく。

時間はかかるだろうが、いずれ終わるさ」

「そうじゃなくてさ。
GACKTさんからダメ出しされそうでやなんだよ」

奈緒が言う。何が悪いというのか。

「前にも言ったけど、僕は音楽には妥協しない。いくらでもやり直させるつもりだから、そのつもりだから」

「うぇー。やっぱりかよー…」

ベターっと机に突っ伏す。
あはは。可愛いじゃないか。

他の二人はというと、パフェに舌鼓を打たせていた。

「んー!おいひい!」
「あ、加蓮それ一口」
「あー!ズルいズルい!さっきも食べたじゃんか!」
「年功序列というやつさ、はっはっは」

この子達も、随分度胸が座ってきたな。

まあ、これからまた厳しい生活をしていくんだ。

今は楽しんでくれればいいさ。

ふと、周子の後ろが気になった。

「…ん?GACKTさんどーしたの?」
「いや、お前じゃないさ。後ろのあの子が気になってな」

「…?うわあ、でっかい女の子だなあ」
「それに何だか色々つけてるね。ファンシーな感じ」
「ってかでかすぎて一緒に来てる人達が腕しか見えないな」

まあ、それより今日は収録だ。

「さ、行くとしようか。
いつまでも食べていたら遅刻するぞ」

他の二人は食べ終わったようだが、加蓮がまだなようなので、急かす事にした。

「うえー待ってよー」

あはは。がんばれ。

三人を先に行かせて、代金を払おうとする。
ふと、先程の女の子が気になってチラリと見てみる。

巨大な身体とは逆に、見る人を魅了する程のベビーフェイスだった。

そのギャップのせいで、つい凝視してしまったせいか、その女の子と目が合ってしまった。

にぱっと聴こえてきそうな笑顔で僕に満面の笑みを浮かべる。

面白い子だなと思い、手を振り応える事にした。

代金を支払い、出口に向かうと。

まだ手を振り返していた。

それも元気にぶんぶんと。

あはは。面白いなあ。

まるで産まれたての赤ん坊みたいだ。

流石に大きすぎるけどね。

「へぇー。これがスタジオかぁ…」

こらこら、あまり見回すんじゃないよ。

「今日、ここで歌収録するメタモルフォーゼの三人組、神谷奈緒と、北条加蓮、塩見周子」

「はい。お待ちしておりました。
今日は宜しくお願いします」

「「宜しくお願いします!」」

そうそう。
ちゃんと礼儀正しくできたな。

あ、僕が言えた事じゃないかな。

にしても、初仕事が曲収録だなんて、珍しいアイドルもいたものだよ。

それから、やはりダメ出しせざるを得なかったので、結構時間がかかってしまった。

「やーっと終わったー…」

奈緒と加蓮を家まで送り、二人帰路につく。

「だけど、最高のものに仕上がった、だろ?」

「えへ。まぁねー」

そこまで素直に言われるとかえって腹が立つな。
デコピンで済ますか。

「いったーい!ひどいぞー」

ぶつぶつ愚痴る周子を尻目に、ふと一人の女の子が目についた。

これが普通の女の子だったらそのまま通り過ぎたのだが、その子は無視できなかった。

うずくまって泣いており、何より大きすぎる。

朝、見たあの赤ん坊のようで世紀末の主人公くらいの身長の子だ。

とりあえず、話しかける事にしようかな。

「どうしたの?」

その子は振り返ると、また泣き出した。
これでは僕が泣かしたみたいじゃないか。

周子と二人で近くのファミレスに連れていくことにした。

しかし、僕が女の子を見上げる日が来るなんてな。

少しだけビビっちゃったよ。

「にょわ~…」

聞いてみると、どうやら酔っ払いに絡まれてその体躯を馬鹿にされたらしい。

大の男が女の子を罵倒するなんて、全く世も末だよ。

「気にしなくていいよ。別にその酔っ払いと知り合いってわけでもないんだしさ。
赤の他人なんだから、どうでもいいじゃん?」

周子が僕のサラダをつまみながら言う。

「でも、悲しいんだにぃ…」

先程から、この子の話し方にちょくちょく聞き返したくなるのは何故だろうか。

「そういえばさ、なんで僕の顔見てまた泣いたの?」
「怖かったんだにぃ…」

あはは。純粋だなあ。傷ついたよ。

「まあ、ケガが無くて良かったよ」

「にょわ…優しいんだにぃ」

は?と聞くのはダメだろうか。うん、世の中には色んな子がいるんだし、やめておこう。

「…ねぇGACKTさん。この子、誘ってみたら?」

周子が囁く。
確かに個性的な女の子だが、あまりにも大きすぎる。

僕にはライブで、他の女の子が映っている時、見切れるこの子が思い浮かんだ。

けど、何だろう。
この子には、人を魅了する物がある。
ベビーフェイスは勿論だが、それ以外にも何かがある。

「…君、名前は何だっけ?」

「?諸星きらりだにぃ!」

にぱっとまたあの笑顔とポーズで応える。

「きらりか。もし良かったら、アイドルをやってみる気はないか?」


「アイドル?きらりが?」

「そう。そしてこの子もまた、アイドルなんだ」

周子の頭をポンと叩く。
エヘン、と聞こえてくる。

「きらり、おっきいにぃ…きっと怖がられるにぃ…」

自覚はあるのか。

「そんなものはただの個性だよ。それに、可能性が無ければ誘ったりしない」

「…にょわー」

「気が向いたらで構わないよ。もし、アイドルになりたかったら、僕のとこにおいで」

「…GACKTさん、かぁ…」

僕の名刺を見ると、何やらケータイで調べているようだ。

どうしたというのか。

「きらり、まだよくわかんないけど、GACKTさんのこと好きだにぃ。だから友達に登録するよ☆」

…あはは。可愛いらしいじゃないか。

代金を支払い、店の前で別れる事にした。

「…ねえGACKTさん。あの子、来ると思う?」

「来る来ないは自由だよ。
それに、あの子にも夢があるかもしれないからね」

「夢、かぁ…」
「あの子の夢って、何だか想像出来そうだね」

…確かに。

メタモルフォーゼのデビューシングルは徐々に売り上げを伸ばしているようだ。

さすがにそう上手くはいかないか。

しかし、まだ事務所のアイドルでデビューしていないものたちはいる。

それに、まだまだ目標人数まで達していないんだしな。

これからもどんどんスカウトしていくとしようか。

書類を作りながらそんな事を考えていると、向こうからドスンドスンと聞こえてくる。

ああ、どうやら来てくれたみたいだな。




「にょっわー!!」

…これで、八人目、か。

きらりが事務所に入ってから、やけに室内が明るくなった気がする。

僕は基本的に一人でいる時は電気をつけないでいる。

暗いのが好きだから。

だが、きらりはそんな事お構いなしに僕に飛びついてくる。

「ガクちゃんおっつおっつ☆」

これで高校生だから驚きだ。
もう少し大人しくできないものだろうか。

「GACKTさんは人気ですからねぇ。はい、お茶ですよぉ」

まゆがお茶をいれてくれたようだ。
そろそろ休憩にしようか。

それに、まゆと楓のデビューも考えなければならないからな。

まゆにはモデル経験がある分、他の子達より有利だった。

才能云々以前に、経験がある。

しかし彼女達、まゆと楓には歌手をやる点において弱点があった。

「はぁ…はぁ…」
「ふぅ…」

まず、声が小さい事と、スタミナが無い事だ。

どちらもアイドルをやっていく上では必要不可欠。

肝心な二つが、二人には欠けていた。

「が、GACKTさん、もう、休憩に、しませんか?」

「事務所内で一番の年長者の僕がまだ立ってるって言うのに、僕の半分くらいしか生きてないお前たちが座り込んでるってのは、どういうことだ?」

僕はレッスンやトレーニングの際、アイドル達と一緒にやっている。

こうする事でさらに士気を高める事ができるし、何よりアイドル達と一緒の気分を味わう事で絆を育んでいく事になると思ったからだ。

「せめて、もうちょっとお手柔らかにしてほしいですねぇ…」

まゆですら音を上げている。
まあ、無理をして倒れられても困るから、仕方ないな。

「じゃあ、そろそろお茶でも飲もうか」

「無茶してお茶飲む…ふふ」

「やっぱりまだ出来そうだな」

「ごめんなさい」

「じゃあ、楓さんとまゆちゃんは一人ずつでデビューさせるんですか」

「うん。この二人は一人ずつの方が映えると思うから」

それもあるが、楓はやはり年齢差がマズイのと、まゆは恐らく何人かで踊るより一人でゆったりとした方がいいと踏んだのだ。

「まあ、それぞれ個性もあるんだ。大丈夫だよ」

「GACKTさんが言うなら、大丈夫ですよ!」

そういえば、気になった事がある。

「ちひろってさ、いくつなの?」

「女性に年齢は聞いたらダメなんですよ?」

まあ、僕より年上なんて事はないだろう。
無いはずだ。

「…もうこんな時間か。良かったら二人ともどうだ?晩御飯でも」

気付いたらもう夕方になっていた。
楓は一人暮らしだし、まゆは無条件でついてくるだろうから、良しとしようか。

予想通り、二人はついてきた。

「GACKTさんの車に乗るの、初めてです」
「高そうな車ですねぇ…」

まあな。

「二人ともどこか行きたいところはあるか?」

「まゆはGACKTさんとならどこでも良いですよぉ」
「居酒屋がいいです」

「じゃあ、近くの洋食屋にしようか」

最近良いところを見つけたんだ。
というところも付け加えて。

「…居酒屋ぁ」

残念ながら、僕は今日車なんだよ。

ここのハンバーグは美味しい。

味も見た目も、僕好みだ。

さて、二人のCDデビューだが。

悩みどころが多かった。

なんせ心配なのだ。彼女らが僕の歌を歌えるのかが。

この二人に実力が無いわけではない。
ただ、前に言った通り、スタミナと声量に難があるのだ。

どちらも努力すれば治るのだが、いかんせん時間がいる。

まゆはまだ子供だから良いとしても、楓は一人暮らしだ。

仕事が無ければ食い扶持も無くなる。

最悪、辞める事を勧めるしか無いのだろうか。

いや、おそらく彼女は辞める気は無いだろうな。

ふわふわした感じだが、芯は通っている。

そう簡単には諦めないだろう。

それに、才能があるんだ。

僕も彼女を潰したくはない。

どうしたものか。

「GACKTさん。お悩みのようですね」

「ああ」

「…私達のことですよね?」

「!」

これは驚いたな。僕としたことが、顔に出ていたらしい。

いや、それほど悩んでいたということか。

「私、GACKTさんの歌、歌ってみたいです」

「楓…」

「頼りないかもしれません。でも歌ってみたいです」

初めてだな。この子がこんなにはっきり言うのは。

「無理をしろ、と言うならします。がんばります。
…だから、辞めたくありません」

まるで、子犬のように訴えかけてきた。

あはは。どうやら僕も丸くなってしまったな。

これじゃあきらめろなんて言えないじゃないか。

「…分かったよ。まゆも、頑張れるか?」

「はぁい。まゆも頑張りますよぉ」

そうか。なら、お望み通りこれからも付き合ってもらうかな。

「じゃあ、明日からはもっと厳しいから。よろしくな」

「「はい!」」

楓、笑うと子供みたいだな。

「じゃあ、考えたんだ。二人の歌」

「ああ。と言うか、お前は早く寝たらどうだ?」

「うーん。じゃあ寝る前にその歌聴かせてよ。そしたら眠るよ」

全く、周子はここを出ていく気はあるのだろうか。

仕方ないな。
それに僕も再確認したいし。


http://www.youtube.com/watch?v=-9GBKvfOhvQ

http://www.youtube.com/watch?v=eHIzW4ka_tE

「おお。まゆなんかぴったりだね」

…まあな。

学生の夏休みも終わりに近づき、事務所内には不穏な空気が流れていた。

誰かが争っているわけではない。

むしろ、会話なんてほとんど無い。

僕とちひろ、楓くらいか。

高校生組は、ひたすらシャーペンをはしらせている。

「…だから、早めにやっておけと言ったのになあ」
「私も、経験ありますよ」
「なっつーやすみはーやっぱりーみじかいー♪」


今、彼女達は課題に追われていた。

まあ課題なんて、適当にやっておけば良い。

要はテストで点を取れればいいのだから。

あ、今は総体評価じゃないのか。

「そうですね、今は学校の仕組みも変わりましたからねえ」

ちひろが冷たい麦茶をいれて持ってくる。
ああ。美味しい。

「ゆとりがゆとりを持つ…」

「それはダジャレじゃあないな」

個人差はあれど、やはりというか、全員宿題をやり忘れるとはな。

クーラーをガンガンにきかせてやりたいところだが、そうしたら眠くなるし、何より外に出た時辛いからな。

「節電って素直に言えばどうなんだろうな…」

ほら奈緒、手が止まってるぞ。

「私はもうすぐ終わるからいいんだよ。問題なのは未央と加蓮くらいだろ」

そうだな。この二人はまあ予想通りということか。

しかし周子、助かったな。

「まあねー。大学行こうかと思ってたけど、お金無いし?」

結果オーライだよ。とも付け加えてきた。まあそうだな。

しかし意外なのはまゆだ。
こういうのは手っ取り早く済ましそうなのにな。

「実は一つやり忘れてまして…」

そういう事もあるのか。まあ何とかなるさ。あはは。

しばしの沈黙の中、奈緒が何か思い出したようたように口を開いた。


「そーいやさー。去年なんだけど、学校で一番成績良かったやつが、この時期にいきなり退学したんだよな。クラスは違ったんだけど、結構衝撃的でさ」

へえ。多分、教師と付き合ってたとかそんなんじゃないのか?

「んー…いや、あれと付き合ってたら、犯罪というかなんというか…」

「?セックスしなければいいんじゃないのか?」

すると、今まで黙ってた者達も含め、顔を真っ赤にして反応した。

「「変態!!」」

あはは。だからそれは褒め言葉だって。

「はーっはーっ…ゲフン、…違うんだって、私と同じ学年なんだけど、見た目は10歳くらいの奴でさ。学生服も特注品だったんだよ」

へー。そんな奴がいるんだな。

「きらりとは正反対だにぃ」

まあな。お前はお前で異常だけどな。

「でもさ。退学してどうしてるんだろうね」

凛が手を止め、奈緒に聞く。

「そりゃわかんないけどさ。何か親が金持ちらしいから、大丈夫なんじゃないの?」

「へー。けど辞めた理由って何なんだろうね」

「さあなー。五月病ならぬ夏休み病じゃねえの?」

ふふ。と楓だけが笑っていた。

「そういえば、GACKTさん。いつかのお酒の勝負、まだつけてませんでしたね」

いきなり懐かしいことを言い出す。

それに、あれは僕の勝ちだろう?

「いえ、私はギブアップしてませんから。だから、今日どうですか?」

クイっとジェスチャーしなくても、言いたいことは分かったからいいよ。

「ええー。でもGACKTさん居酒屋行くと、全然帰ってこないからやだなあ…」

あはは。まるで旦那の帰りを待つ嫁だな。

「そう?えへへ」
「周子さん?GACKTさんが許可してるから許しますけど、身体の接触は許しませんよぉ?」

うっと周子がビクつく。
そういえば、漫画やアニメでヤンデレってのがたまにあるな。

まゆはそれに準ずるんだろう。

「そうなんですか。じゃあ、私の家で飲みましょうか」

じゃあ、というのはその場合おかしいと思うけど、まあ良いかな。

「女の子の誘いを断るほどダメな奴じゃないよ。良いよ、行こうじゃないか」

やったあ、いつもの低いようで高いテンションでガッツポーズを取っていた。

楓の家は、1LDKのマンションの一室。

ちょっと狭いけど、まあ良いかな。

「じゃあ、早速カンパイを…」

座ると同時に缶ビールを空けるとは、やはりこの子はオヤジ臭い。

「ねえ。冷蔵庫の中お酒とつまみしかないんだけど…」

周子が若干引いた感じで楓に質問している。未成年者には辛いだろうな。

「じゃあ駐車場の自動販売機で何か買ってこようか。
混ぜるジュースも欲しいし」

周子を連れて、マンションの駐車場へ行くことにした。

「ああ。そういえば」

「?」

楓がビールを飲み、TVを見ながら喋りだす。

「私の隣の人、奈緒ちゃんが言ってた子とそっくりなんですよ」

…まあ、話半分で聞いておくよ。

そのままとびらを開けると、神の悪戯か、いや、多分これはもう必然性だろうな。

丁度扉を開けていた隣の家の女の子と目が合った。

「…?」

いや、まさか今日聞いた分の子がいきなり現れるわけがない。

恐らく、親戚かはたまた妹でも来ているのだろう。

こんな小さな子が17歳とは到底思えない。

よくて10歳くらいだろう。

Tシャツに半ズボンで髪はボサボサ。

まだオシャレにも興味が無いんだろうな。

いつまでも見ていると悪いので、
謝っておくことにした。

「ごめんね。怖がらせちゃったかな」

「失敬な。杏はこう見えて元JKなんだぞ」








…ああ。JESUS。

きらりが出てこれば遠からず杏が出てくるとは思ったけど
やっぱ出てくると嬉しいね
引き続き支援

あんきらキタァアア!!シエン!

「じゃあ、親からは勘当されたんだ」

「そだよ。だからおばあ達に仕送りを貰ってるのさ」

「胸張って言える事では無いなあ」

この双葉杏という女の子。
僕にとっては、申し訳ないが最悪の烙印を押さざるを得ない子だな。

「ま、一応暮らしていけるし、もうしばらくはこうしてるつもりだよ」

「じゃあ、おばあちゃんが仕送り出来なくなったらどうすんの?」

周子が煎餅をパリパリ食べながら聞く。こら、こぼすんじゃないよ。

「そんな先の事は考えないよ。面倒臭いし」

「そっか。君の人生だから、好きにすればいいよ」

「?そのつもりだよ?」

周子はどうか分からないが、楓は気づいてくれているだろう。

僕の眉間にどれだけ皺が寄っているか。

さすがの楓もオロオロしてるようだ。

「そーいえば楓さん。この集まりって何?」

「知らないの?私、メタモルフォーゼの一員、塩見周子だよ!」

そのポーズ、どこで考えてきたんだか。

「へー。じゃあこの人も?」

「違うわよ杏ちゃん。この人は私達のプロデューサーよ」

凄い手腕なんだからね?と微笑む楓。

それを聞くと、杏の顔が変わった。

「ねぇ。じゃあ杏でもプロデュースできるの?」

先程から僕はこの子に背を向けている。

暗に話したくないというメッセージを送っているのだが。

「悪いけど、誰彼構わずスカウトしてるわけじゃないんだ」

首だけ向けて言い放つ。

「でも、杏みたいなの珍しいでしょ。もしかしたらそういう趣味の人に売れるかもよ?」

「そうかもしれないな。なら他を当たってくれ」

仮にこの子を入れたとして、この子がウチでやっていけるとは到底思えない。

才能があっても、それを生かすものが無ければ駄目だ。

「名プロデューサーなのに?」

「僕は、努力しない人間は大嫌いなんだ」

…いけないな。つい本音が出てしまった。

我ながら子供っぽいよ。

だけどこれで諦めてくれるなら、いいかな。

「失敬な。杏、楽するための努力は惜しまないつもりだよ」

RPGでは一面でレベル90にするくらいなんだからね。

…そんなものは、自慢にはならないよ。

「…なら、来てみると良い。その代わり、僕のシゴキは楓でさえ泣き出すほどだぞ?」

「ふふん。印税生活の為なら、いくらでもやってやるとも」

面白いじゃないか。
なら、乗ってやるとしようか。

それから僕は、一人で事務所に来る事、文句は一言も言わない事を条件に杏を事務所に招く事にした。

しかし、僕の予想を裏切って、杏はたった一人で事務所まで歩いてきた。

その上、激しい運動にも、疲れこそすれ、たったの一度も弱音を吐かなかった。

一体、この子は何なんだ?
僕には、何がなんだか分からない。

初めてこんな子は初めて見る。

一日目が終わり、杏が僕に詰め寄ってくる。

「どーお?杏、意外と根性あるでしょ?」

……そうだな。だが、まだまだこんな甘いものじゃないからな。

「へへん。望む所だよ」

少々悔しいが、まあ仕方あるまい。

現に彼女はやってのけたのだ。

そうしていると、ドアの向こうからもう聞き慣れた足音が聴こえた。

…ああ。まだ最大の難関が存在したな。

自分をゲームのキャラと思うとモチベーション上がるよね

「にょっわー!!この子が杏ちゃんにぃ!?かーわーいーいー!!!」

「ぐぇー」

どうやら、楓がレッスン最中にきらりに口走ってしまったようだ。

まあ、いずれは顔を合わせるのだから、それが早まっただけだが。

「杏ちゃんおっすおっす☆諸星きらりだにぃ!」

「ぐおおおおやめろジョッカー、ブッ飛ばすぞぉ…」


…どうやら、良いコンビが誕生したようだな。

>>192
そんなの常日頃からだぜ

杏ときらりが運命の出会いを果たしてから一週間。
杏はまだ続けていた。

そろそろギブアップするかと思ったんだがな。

「酷い扱いだなあ。そろそろ杏の事分かってよ」

「そうだな。もう声もガラガラになってきたみたいだしな」

そう言って杏に喉飴を渡すと、即座に口にいれた。

「なんだ、喉飴かぁ。杏は甘いやつがいいんだよ」

「そのうち買ってくるさ。それよりも、本格的なアイドルの仕事について話していこうじゃないか」

「おーようやくかぁ。やったあ」

だが、このすぐ後に杏は恐怖の時間を味わう事になるだろうな。

「ねぇGACKTさん」

「何だ、まだ話の途中だぞ」

杏が僕の話を遮って口をだす。
まあ、不満なのは見て取れるよ。

「なんでこのケンシロウみたいな奴が杏とユニット組むのさ。
アンバランス過ぎるでしょ。これじゃ一緒に撮影も出来ないよ」

二人の身長差はおよそ50cm。カメラでもよっぽど距離を取らなければ、杏の下半身が消えるかきらりの上半身が消えるかどちらかになってしまうほどだ。

「良いじゃないか。凹とつコンビってやつさ。それにきらりご指名なんだ」

「えぇ…」

「…杏ちゃん、きらりの事キライ?」
「……そう言われたら、違うしか言えないよなぁ」

「やっぱり杏ちゃん、可愛いにぃ!」

「ぐぇぇぇぇぇ」

あはは。まるで名物コンビだ。

これはインパクトも大きいし、何よりこの二人、見た目に反してかなりの才能がある。

さて、この二人がユニットを組む事で化学反応が起きるのか、見ものだな。

「杏ちゃんまるでぬいぐるみ扱いですねぇ」

ちひろがお茶を沸かして持ってきた。
まあ間違ってはないかな。

「杏はぬいぐるみなんかじゃないぞー」

きらりに抱きかかえられながら言うセリフではないな。

よかったじゃないか。これでタクシーがいらないぞ?

「あ、それ言おうと思ったのに…」

さて、この二人にも、曲を提供するとしようかな。

http://www.youtube.com/watch?v=mbgBnsgnG4k

「何だか怖い感じだにぃ…」
「それに、これ私達のキャラに合ってんの?」

「まあ、あってないな」

「えー。じゃあ妥協しちゃってるじゃんか」

「だけど、合わせる事もできるはずだ。PV撮影もするから、その絵コンテを見てくれればいい」

「絵コンテって…」
「わー☆きらりと杏ちゃんの名前がいっぱい書かれてるにぃ」
「杏、子供の役じゃんか…」
「きらりは、迷い人?」

そう。この歌は、きらり演じる人間が、自分の死んだ子供を神として崇め、舞い降りた天使が偶然か、運命の悪戯か、自分の子供の顔にそっくりだった、という感じだ。

「何だか、映画みたいだね」
「かっこいいにぃ。杏ちゃん、羽の生えた天使だって☆」

「まあ、おおよその話は分かったみたいだから、これからの撮影に向けてシェイプアップもしてもらうぞ、特にきらり」

「にょわっ」

「しばらくは、甘い物は禁止だな」

「にょわ~…」

あはは。可愛いけど、だ~め。

「それと杏、これだけは言っておくよ」

「ん?」

「凛達でもデビューまで一ヶ月使った僕がたったの一週間でデビューさせるんだ。それがどういう意味かは、分かってくれるな?」

「……肝に銘じておくよ」

始めてかな。杏が笑ったのは。

じゃあ、今から二人には演技力を鍛えてもらわなきゃな。

いいねー

僕の事務所には個性的な女の子達がたくさん存在する。

家出少女やヤンデレ少女、オヤジ臭い女の子に巨大、ミニマム少女。

しかし個性的だからこそ売り込みやすい一面もある。

きらりや杏はそこらにはいない体躯の持ち主で、物珍しさからの取材も多い。

現在も近所の公園にて記念撮影を行っている。

陽射しが強いので撮影以外の時間はテントの中で待機している。

僕も日光は嫌いなので、テントに常駐している。

「GACKTさん、飴ー」

杏の仕事に対する意識もそれなりに高まってきた。

後は楽をするという意識を捨てる事だ。

何せ二人の仕事ぶりを見にきた野次馬達がいるんだからな。

大体20前後だろうか。

数々の男性達が携帯電話のカメラで二人を隠し撮りしている。

本当はよろしくないのだが、有名税というやつだ。

大目に見てやるか。あはは。

しかし、その中には二人ではなく、一人の少女を撮っている者もいた。

誰を撮っているのか。
気になって彼らの視線の先を見ていると、そこには、一風変わった少女がいた。

銀の髪のツインテール。
魔術師のような黒装束に身を包み、黒の日傘をさしている。

それに、この子には見覚えがある。

それは、僕の親友から少しだけ紹介された一人の女の子。

確か、名前は…。

「…神崎、蘭子…」

「…?ガクちゃん、どうしたんだにぃ?」

きらりが僕に話しかけてくる。

いけない。どうやら無意識にテント外へ出ていたらしい。

今は二人の仕事現場だ。
他の子に現を抜かしている場合じゃないな。

「いや、何でもないよ。じゃあ、始めようか」

次に振り返った時、もうすでにあの子はいなかった。

「あー…GACKTさんの車は快適だなあ」

事務所の社用車は、人は入るが性能があまり良くない。

というよりこの世界にはどうやら僕の家と車はあるようなので、せっかくあるなら、という事で使用している。

「お前もやる事がないなら、来年辺りに免許を取る事をオススメするよ」

学校に行ってないんだし、休みの日は家でゴロゴロするより何か有意義な事をした方がいい。

今は若いんだし、やれる時にやっておいても損は無いはずだから。

「やだよ。来年からもこうして乗せてもらうんだから。
それに杏じゃ運転出来ないよ」

ほらーと足をのばす。確かにそれじゃブレーキもアクセルも踏めないな。

まあ、日本の技術は凄いんだ。
そのうちお前でも運転出来る車が出て来るさ

今日は午前中にきらりと杏の屋外での取材。
午後からはニュージェネレーションのバラエティ番組の撮影。

まさか、こんなにも早くテレビにゲストで呼ばれるようになるとはな。

「プロデューサーのおかげだよ。ありがとう」

あはは。それは僕のセリフだよ。

と、いう言葉は言わないでおこう。

言った本人の顔は真っ赤だったしな。

「ゲスト、として呼ばれる形ではあるが、向こうに失礼の無いようにな。

緊張してても構わないから、それだけは守ってくれ」

そのバラエティの司会はゲストから話を引き出すのが上手くて有名だからな。

そのうち緊張も和らぐだろう。

「でも、いきなり歌ってとかムチャぶりされたらどうしたら良いんですかね?」

卯月がまるで素人のような質問を投げかけてくる。
いや、まだまだ素人同然だから仕方ないかな。

「心配しなくても向こうだって空気は読んでくれるさ。
芸能界に長くいる人は総じてそうだから、大丈夫だよ」

気楽にやれ、とまでは言わないが、それくらいの心構えで行けばやりやすいだろう。

「誰だってデビューしたては分からない事だらけだ。何かまだ不安な事はあるか?」

三人がうーん。と唸る。
どうやら、もう特に無いらしいな。頼もしい限りだよ。

番組の進行は滞りなく進んだ。

その後、楽屋挨拶を済ませてきた凛達が興奮気味に僕の所へと戻ってきた。

「どうしたの?」

「あのね!司会者の人に将来性があるって言ってもらえたんだ!」

未央が嬉しそうに語る。良かったじゃないか。
頭を撫でておく事にした。

それと同時に、ちひろから僕の元へ連絡があった。

どうやら、LIVEバトルの申し込みらしい。

まさかこんな早く春香から来たのか、と思ったがそれは違った。

どうやら他の事務所らしい。

「相手はどういう子なの?」

「ええっとですねぇ…前川 みくさんだそうですよ?」

「へぇ。そう」

前川みく。デビューは凛達とそう変わらない。
大方765と互角の勝負をしたウチに勝って名を上げようという所だろう。

「構わないよ。それと今回はニュージェネレーションじゃなく、凛一人で出す」

ええっ!?と凛が隣で驚いている。
「大丈夫。負けはしないよ」

何たってお前は僕がスカウトしたアイドルなんだからな。

「…じゃあ、向こうに伝えといて。OKだって」

隣を見ると、卯月と未央が凛をちやほやしている。
凛はというと、一人でのLIVEに少々不安な様子だ。

「春香に勝つって僕と約束しただろ?ならこの程度の相手にビビってたら駄目だ」

そう。将来はトップになるんだ。

良い前哨戦じゃないか。

向こうのアイドルには悪いが、僕達の事務所がトップになる為の踏み台にでもさせてもらおうか。

対戦相手のプロフィールを見ると、凛とそう変わらない年齢で、いわゆる猫系アイドルと言われていた。

ふうん。
この子にも才能はあるようだ。

だけど入る事務所を間違えたかな。

それを生かしきれていない。

前川みくのCDを聴いていてそう思った。

「プロデューサー。私なんかで良かったのかな…」

凛はまだ不安らしい。
確かに初陣戦で敗れてしまったからな。

自信が無いのも当然だろう。

「僕の事は信用出来ないか?」

「そんな事ない!…でも、私自身が信用出来なくて…」

尻すぼみになっていく。
彼女もまだ子供という事か。

「勝てる見込みがあるから、推薦したんだ。
それに、向こうだって同じ気持ちさ」

そう。向こうもまだ駆け出しのアイドル。

条件は殆ど変わらないんだ。

「…そっか。そうだよね。…私、今度こそ勝ってみせるよ!」

その意気だ。頑張って恋。

「そうだ、凛」
「?」

まだまだこの子には可能性があるんだ。
それを引き延ばす為にも。

「お前のシングルだ。覚えておけよ」

「…うん!」

僕も、もっと頑張らなくちゃな。

http://www.youtube.com/watch?v=umokFQpgZY4

前川みくとのLIVEバトル当日。

前回よりは少ないものの、それなりに人は集まっていた。

やはり凛達も有名になったということだろう。

「やっぱり相手の人のファンもそれなりにいるんだね」

「じゃなきゃ、バトルなんてしかけてこないさ」

凛が使った「それなり」。
どうやら、勝つ自身があるみたいだな。

「うん。だって、プロデューサーが隣にいてくれるから」

あはは。僕はお前の父親みたいだな。

「…ばか」

今の一言は、聞かなかったことにしようかな。

「…そうだな。じゃあ、勝ったら何かご褒美でもあげようか」

「…ほんと?」

ああ。本当だ。

「…じゃ、考えとくよ。行ってくるね」

どうやら、火をつけてしまったようだな。

相手には悪い事をしたかな。








投票結果は、凛の圧勝に終わった。

対戦相手の前川みくがまさか、と言わんばかりの顔で立ち尽くしている。

互角だと思っていた相手に大差をつけられたのだから、無理もないか。

控え室の扉をノックする。

凛のいる部屋ではなく、向こうのアイドルがいる部屋だ。

扉を開けると、そこには前川みく一人が座って泣いていた。

マネージャーやプロデューサーは
どうしたというのか。

こういう時、一番近くにいてやらなければならないのに。

「ねえ、君さ、他の人達は?」

涙に濡れた顔でこちらを向く。

見られたくないものを見られたようで、急いで服で目を擦る。

そういえば、荷物がやけに少ない。

彼女にはスタッフが数人ついていたみたいだが。

それを尋ねると、初めは沈黙を守っていたが、やがて観念したのか口を開く。

鼻声でしどろもどろになりながらだったが、要約するとこうだ。

捨てられたらしい。

…そういうことか。

全く、何故こうも結論を急ぐのか。

負けたら次の為に対策をたてるか、努力すれば良いだけの話だ。

それをしないという事は、新しいアイドルに時間をかけたくないと、見切りをつけたという事だろう。

しかし、衣装のまま泣いているこの子を見ると、本当に捨てられた仔猫のようだ。

だが、丁度良いじゃないか。
向こうに頼みにいく手間が省けた。

「まだ、アイドルを続ける気はあるか?」

?何を言い出すのか、と目で訴えている。

「なら、僕の下にくればいい。僕なら、君をトップの仲間に出来る」

しかし、向こうにもプライドはある。

それもそうか。
惨敗した敵事務所に拾われるなんて、馬鹿にしてるのかとも思える行動だ。

中々結論が出せず、渋っていた。

だけど、僕も意外とせっかちなんだ。

「いいから。
…黙って僕に、ついてこい」

どうやら、彼女も分かってくれたようだ。

差し出した僕の手を、そっと握った事で、了解してくれたことが分かった。

「と、いうわけで今日からここでお世話になる前川みくだにゃ!よろしくにゃ!」

皆が歓迎している中、奈緒が僕の腕を引っ張り隅に連れていく。

「おい!またあんな変な奴連れてきたのかよ!これじゃイロモノ事務所じゃんか!」

あはは。良いじゃないか。

「良くないっての!」

「それに、個性ばかりで集めてるわけじゃないさ。
僕は可能性が無ければ連れてこないし、来ても断わる。

…勿論、お前にも可能性はあるんだ。
裏切らないでくれよ?」

すると、奈緒の顔がみるみるうちに赤くなる。

「わ、分かったよもう!」

この子は、とてもいじりがいがあるな。
面白いよ。

「ま、眉毛をいじくるなあ!」

CGプロダクションにも随分活気が溢れてきた。
アイドルの数も増え、土台も仕上がってきている。

「お!見て見てGACKTさん、この子達凄いよ!」

加蓮が昼前のニュース番組を見ている。
何か気になるものがあったのか、僕を呼んだ。

「姉妹でモデルなんて、凄いよねー。エリートまっしぐらじゃん」

その番組では、若くしてカリスマモデル、と銘打った姉妹が取り上げられていた。

「城ヶ崎姉妹か。最近有名だな」

「スタイルも良いし、今時のギャルって感じだよね~」

チラッと奈緒を見る。

…確かに、あれとは真逆な感じだな。

「モデルになる要素は全て持っているみたいだな。
だが、羨ましがるな。お前達は羨ましがられる方なんだからな」

「はーい。分かってますよー」

そんな話のあった翌週。まゆの雑誌取材があった。

その雑誌では他に、例の城ヶ崎姉妹も取材するらしい。

そのせいか、スタッフ勢が多すぎて狭苦しい。

…まゆには悪いが、僕はコーヒーでも飲みに行くとしようかな。

トイレ近くに自動販売機があったので、そこに行くとしようか。

いつものコーヒーを買おうと歩いていると、急いでいたのか、一人の女の子が走ってきて、僕にぶつかってしまった。

「…いったぁ~」

ピンク色の髪に、今時の服装。
爪にはネイルアートを施しており、中々のオシャレ番長だ。

「大丈夫?」

「え?…あ」

手を差し出すと、その子は僕を見て固まってしまった。

きらりの時みたいに怖がらせてしまったかな?

仕方ないので、起こしてあげることにした。

「さ、立って」
「は…はいぃ///」

何だろう。加蓮の話とは全然違うな。
ギャルというから、食ってかかってくるかと思ったけど。

今僕の前にいるのは、顔を真っ赤にして俯く初々しい少女だ。

「確か君は、城ヶ崎…のお姉さんの方だったよね?」
「…み、美嘉、です…//」

「美嘉か。今日はよろしくね。CGプロダクションの、神威 楽斗だよ」
「は、はいぃ///」

握手をすると、彼女の手は手汗でビシャビシャだった。

あはは。これでギャルか。今時の子はこんな感じなのかな?

急いでるみたいだったし、これくらいにしておこうかな。

「あ!お姉ちゃんやっと来た!おっそーい!」
「ごめんねって!じゃあ、始めよっか?」
「うん!」
「…………GACKTさん、かぁ…」カサ

「?どうしたのその名刺?」

「な、何でもない!!」













「うふ。GACKTさんたらぁ…」

それからまゆと城ヶ崎姉妹の取材は滞りなく終わり、車で家まで送っていると、まゆがふいに聞いてきた。

「GACKTさぁん。あの子、お気に入りなんですかぁ?」

あの子?…ああ、美嘉のことか。

「自己紹介しただけだよ。通りでぶつかっちゃってさ」

「そうですかぁ?でも何だか、すっっごくGACKTさんの名刺見てましたよぉ?」

「あはは。モテるからな」

「もう。浮気は、ダメですよぉ?」

浮気か。僕には無理な話しだ。

「まゆ。イイ女の定義ってなんだと思う?」

「そうですねぇ…やっぱり、可愛くある、ことですかぁ?」

まあ、顔は重要だな。
「でもな、顔だけじゃダメなんだよ。
それだけならエッチして終わりだ。
顔は3時間で飽きる。
心は、一生、触れていたいと思えるものだ。
むしろ、触れていたいと思わせる女でいてくれ」

「うふ。恥ずかしいですけど、GACKTさんが言うなら、まゆは何でもしますよぉ?」

この子は、ちゃんと話を聞いてくれているのか。

まあ、一番大事なのは心なんだ。

これから何年も付き合うんだ。

「だから、一緒に育んでいこう。
勿論、凛達も同じだ」

「いけずですねぇ…でも、そこが良いんです」

まだ先は見えない。
けど、もうすぐだ。

もうそろそろ、時期かもしれないな。

秋が過ぎて、遂に冬が訪れた。

街のネオンが、夜の雪を彩る。

ここで僕は、懐かしい顔触れと再開することになった。

夜の東京を仕事終わりの楓と歩く。

「じゃあ、周子ちゃんは寮に入る事になったんですね」
「周子だけじゃないさ。まゆと杏。まあ一人で暮らしていた奴らだな」

少し早いクリスマスプレゼントなんて洒落た事じゃないけど、小規模だが寮を建設した。

まゆはわざわざ事務所近くのアパートを借りて生活していたと聞くし、それなら寮の方がお金もかからないし、広いはずだ。
杏は距離感的な問題で、それなら通勤も楽になる。
周子は単純問題、僕の家にいつまでも置いておくわけにはいかない。

「まだ空きはあるから、お前もどうだ?」

聞いてみると、楓はクス、と笑い静かに顔を横に振る。

「あのマンションから近い所に行きつけの居酒屋があるし、何よりその方がGACKTさんと一緒にいれますから」

そういえばあのマンションは僕の家に近かったな。

だから楓の家に飲みにも行けたんだし。

全く、モテる男は辛いなあ。

「あら、アイドル達のCD販売ですね」

見るとそこには、テントを張りLIVEの告知とCD販売をしている三人組がいた。

おや、随分懐かしいな。

「頑張って下さいね!」
「おう!ありがとうな!」

「私、ずっとついていきます!」
「ありがと仔猫ちゃん♪チャオ☆」

「これからもめげずに頑張って!」
「お姉ちゃん優しいねぇ。ありがと」












「何やってるんだお前達は?」
「げえっ!765プロの!」

「じゃあ、GACKTさんはこの子達の知り合いだったんですね」

まさかジュピターがこんな事をしているなんてな。

「はは…クロちゃんが捕まっちゃったからさ…」

翔太が暗い顔で語る。
どうやら裏金を溜め込んでいたらしい。

本来支払われるはずのギャラから使途不明な引きをされてるので不審に思ったらまさか、ということだった。

「まあ、結果オーライですかね?あのまま居たら僕達もやばかったし」

「つまり、お前達は下克上を果たしたって事か。やるじゃないか」

翔太の頭を撫でるとへへ。と返ってきた。

「でも、そんなニュース流れてませんでしたよ?」
そういえばそうだな。

「何か、捕まる前にテレビ局に金銭流し込んだとかそうじゃないとか…」

翔太が言う。身内もわからないと言う事は余程人には言えない事をしたのだろう。

「しかし、もう少しやる男だと思ったんだけどな…」








「おい!何で誰も俺の心配しねぇんだよいででででででででででででで!!!!」

「いってぇ…にしても、あんたがまさか765を辞めたなんてな…」

「辞めたわけじゃないさ。今はCGプロダクションにいる、それだけの事さ」

「そんなのアリかよ…」

冬馬にはまだ分からないさ。

「だが、頑張っているようだな。安心したよ。クサってるんじゃないかって」

北斗が前髪を気にしながら語る。

「そうですね…確かに初めの頃は、気力も尽き掛けてました。でも、俺たち見たんですよ。あのLIVEバトルを」

「?…ああ。春香とニュージェネレーションのか」

「はい。あれでまた火がつきましてね。俺たちも頑張って返り咲くんだって!」

「一番燃えてたのは冬馬だったよねー」
「なっ!!あったりめーだろ!」

あはは。変わってないな。
まあ、ここで会うのも何かの縁だしな。

「今から晩御飯でも行こうか。僕が奢るよ」

「おっ!兄ちゃん太っ腹だねぇ」

翔太はあの双子と気が合いそうだな。
…いや、あの子達のほうがヤバイかな。

「それと、CDを一つ貰うよ。お前達の実力を見ると言ってまだだったからな」

「おう!聴いてくれよ!」

…依然より、とても良い顔をしてるな。
一度挫折したことで、さらに強くなったみたいだ。

「じゃ、かんぱーい」

女の子一人に男四人とは中々珍しいかもな。

「私、そんな気にしてませんよ?」

だろうな。お前も本質は男みたいなもんだからな。

「…そんなことより、どうだったんだ!?俺たちの歌は!」

先程テント内のコンポを借りて歌を聴かせてもらった。

たしかに、黒井の言っていた言葉はあながち嘘ではなかったようだ。

「…まあ、80点くらいかな」

「80、か…まだまだって所かよ…」

あはは。僕がそこまでつけるってのは、相当ってことだよ。

「…技術はある。だけど曲調と歌詞が僕好みじゃない。それだけの事だ」

そう言い放つと、三人は少年のように顔が明るくなった。

いや、まだまだ少年だったな。

「分かったよ。約束だ。曲、作るよ」

三人がハイタッチしている。
僕も昔はこんな感じだったな。

少し早いクリスマスプレゼント、か。

使うなら、今かな。

そういえば、あの子の誕生日だったっけ?

…何か、送っておこうかな。











「…くちゅん!…風邪でしょうか?」

「GACKTさん。嬉しそうな顔してますね」

楓がふふ、とにこやかに笑いながら僕の頬をつつく。

「自分の若い頃を思い出していたんだ」

「GACKTさんの、若い頃ですか…気になりますね?」

楓がジュピターの三人に語りかける。
三人ともうんうん。と話している。

そうだなあ。

あまり長いこと話すのは得意じゃないんだけどなあ。

まあ、いいかな。

・・・・。

「で、バンドを辞めてから、暫くは色んな所でバイトしたり、音楽やったりしていたよ」

ソロになってからの事は言わない事にしておいた。

矛盾が生まれそうだからな。

「そうなのか…だから、歌も上手かったんだな」

まあ、ロックスターだからな。
あはは。この子達の世界では違うか。

「GACKTさんは、音楽活動はしないんですか?」

楓が質問してくる。
してるよ。とは言えないな。

「気が向いたら、始めるよ」

「だったら、俺たちと組んでくれないか!?」

「?」

冬馬がいきなり立ち上がったので少しビックリした。

「俺たちジュピターと、ユニットを組んでほしいんだ!!」
「俺からも、よろしくお願いします!!」
「頼むよ兄ちゃん!!」

続いて北斗、翔太が立ち上がる。
まるで断ったら世界の終わりみたいな雰囲気だ。


「やって差し上げたらどうです?」

僕の後ろで楓が喋り出す。

「だって、まだまだやり足りないんでしょう?
だったら、やってみたらいいと思います」

…僕の心情を、分かっていたのかな。

765プロの最初のビッグLIVEを思い出す。

確かに、助けるつもりで出たのに、随分楽しかったっけ。

やっぱり、僕は音楽から離れられないなあ。

「…仕方ないな。じゃあ、やってみようか」


ちなみにこの後、ジュピターの三人組は居酒屋の店員から注意を受けるほどうるさいガッツポーズをしていた。

あはは。ほんと、若いっていいなあ。

「じゃあ、ジュピターとしばらくユニット組む事になったんだ」

凛が少し不機嫌そうな顔で僕を見てくる。
なぜ怒っているかは分かるが、あえてとぼけておこう。

「…私達も、見ててね」
「勿論だ。お前達もトップにする。僕もまたトップになる」

すると、凛がさもおかしそうに笑う。

「…ごめん、ついおかしくって…だって、トップアイドル多すぎなんだもん。何だか面白くて」

あはは。確かにそうだな。

「僕は、やるからには一番が良いから。傲慢かもしれないけど、お前達も僕もトップになるよ」

「…うん。分かったよ。GACKTさんも頑張ってね」

どうやら、分かってくれたようだ。

さて、じゃあ、始めるとしようかな。











こちらの準備は出来たよ、春香。

さあ、全面戦争といこうか。

「765プロダクションvsCGプロダクション、ですか…」

ちひろが目を見開いて驚いている。

「正しくは、神威♂学園祭だよ」

「いや、それも言いたい事はありますが、何故またこんな大仰な事を…」

「言っただろ?僕は負けず嫌いなんだ。やられたら百倍返しにする。それが僕の信条だから」

「しかし、GACKTさん本人や、ジュピターまで参加するのはどうかと…」

「あいつらはフリーだったからな。それと僕も、使える武器は使いたいんだ」

「本気なんですか…?」

勿論、本気だよ。

表向きは765とCGの合同ライブ。

しかし、本当は大規模のLIVEバトルなんだ。

「やるからには、徹底的にやるよ」

「…分かりました。だったら、負けないで下さいね?」


初めからそんな気はさらさら無いよ。

「…はい。はい。では、その通りに」

律子さんが何やらシリアスな空気で電話を切る。

その顔は、何か決心したようだった。

「律子さん、どうしたんですか?」

「…春香。CGプロダクションのちひろさんから直々にLIVEバトルのご指名よ」

「!?…そうですか」

「でも、あなた達だけじゃないわ。765プロ全体よ」

え?ま、まさか?

「…どうやら、全面対決する気ね、GACKTさんは」

「って事は、相当長い時間になりそうですね…」

「そしてそれだけじゃない。向こうにはジュピターもいるわ」

「ジュピターまで!?…そういえば、黒井社長、捕まったって言ってましたね…」

しかしまだ、律子さんは何か伝えようとしている。

随分歯切れが悪いようだけど、何だろうか。

「…それと、出演者には、GACKTさんもいるわよ」

え?

「ええええええええええ!!?」




『神威♂学園 de セメナ祭!!』

「…うん。こんなもんかな」
「GACKTさん。悪趣味ですよ…」

「…」

「…隣、よろしいかな」

「…生憎、僕にそういう趣味はないよ」

「はっはっは。相変わらずで安心したよ」

一人、バーで飲んでいると、765プロの社長、高木が隣に座って来た。

「君とこうして飲むのは、一年とちょっとぐらいぶりかな?」

「…覚えてないや。乾杯」

「乾杯!」

今になって思う。
彼のような人間が、僕の世界にもいればいいのに、と。

「…怒っては、いないみたいだね」
「何を言うかね。むしろ、わたしは嬉しいんだよ」

「嬉しい?」

「…君がCGプロダクションのプロデューサーになったと知った時は正直驚いた。

しかし、やはり君もまだ現役だったんだな、と実感させられたんだよ」

現役、か。


「自分より若いもの達が夢をひたすら追い続ける姿を見るのは、いつまでも嬉しいものさ。
…それに、離れたからこそ、こうして気楽に飲み交わせることもあるのさ」

「…」

「だけど、私達も手は抜けないよ?」

「…社長、僕の性格は知ってるはずだ」

「はっはっは。いや悪いねえ。つい言ってみたくてね。

…それと春香君から伝言だ」

春香か。大体分かっているけど、一応聞く事にした。

「私達が勝ったら、今度こそ戻ってきてください、それと、もう離れないでください、だと」

「あはは。まるで親元を離れられない雛鳥だな」

「私も、春香君の想いは知ってるつもりだ。
彼女だけじゃなく、美希君や皆の、ね」

「…残念ながら、負けないからね」

「ははは。相手にとって不足なし、か」

乾杯。

お互い、一歩も譲る事なく、一年ぶりの飲み会は幕を閉じた。

いいねぇ!

「とうとう明日、か。ねぇプロデューサー」

LIVEの告知ポスターを見ながら凛が話しかけてくる。

「何?」

「…私、成長したかな?」

「してなければ、バトルなんて仕掛けない」

そんなのは愚問だ。

「…そっか。それに、プロデューサーも出るんだもんね」

「ああ。楽しみにしててくれ」

「でもさ」

「?」

「さすがにこの名前はダメじゃないの?」

『神威♂学園 de セメナ祭!!』

そういえば僕の名前は、ここでは有名じゃないもんなあ。


会場は横浜アリーナ。

観客動員数は5万といったところか。

だが、よく765も日程を合わせられたものだ。


そして当日、観客は満員となり、熱狂に包まれていた。

いよいよ来たか

「わー…すっごいにぃ…」

きらりが控え室のモニターで会場を見ている。

慣れてない以前に、経験が無いからな。

まるで異国の地へ放り込まれた気分なんだろう。

「あーやべ…俺らまで緊張してきた…」

「どうしてだ?」

「いや、俺らにもかかってるんだろ?勝負の行方は。さすがに緊張するぜ?」

「…どうかな。僕は何ともないけど」

「GACKTさんは筋金入りの不沈艦だからな。でも、随分スッキリしたな、GACKTさん」

奈緒が僕の頭を見つめて感想を述べている。

良いだろ?お前もやるか?

「やるわけないだろ!!」

「でも、似合ってるよ、プロデューサー」

「ありがとな。僕は何でも似合うけど」

「清々しいまでのナルシストだな…北斗、お前も見習えよ」

ちょっと口が過ぎるな。
悪いのはこの口かな?

「いででででででで!!!」

あはは、と皆が笑う。

いいじゃないか、その調子だ。

心構えも十分、実力も十分。

さて、向こうの様子はどうかな?

「…」

「春香、随分気落ちしてるわね。
それじゃあ負けちゃうわよ?」

「伊織…」

「…あんたの気持ちは分かってるつもりよ。それに、あいつの鼻っ面へし折ってやるチャンスなんだし、負けるわけにはいかないわ」

「…うん、そうだね!
今日は全力でいくよ

「…うん、そうだね!
みんな!今日は全力で行くよ!」

「「…765プロ!ファイトー!オー!!」」

今回は凛ちゃん達が先攻だという。

恐らく、GACKTさんが最後に来るんだろう。

あのGACKTさんの事だ。何か凄い事をやってくるだろう。

そう思っていたが、予想は大きく裏切られた。

私の目の前で繰り広げられていたのは、今までにないほどの、観客の声援に包まれるCGプロダクションの女の子達。

この前とは実力が大幅に違う事は明らかだった。

その上、人数も増え、尚且つその人達もかなりの実力だ。

それを見て、一つの結論に至った。

そうか。

GACKTさんは自分が出る事で彼女達を助けようと思ったんじゃない。

ただ、出たかっただけなんだ。

私は前にGACKTさんが千早ちゃんに話した事を思い出す。

「その時誓ったんだ。死ぬまでバカやっていこうって」

今GACKTさんは、そのバカをやろうとしてるんだ。

でもそこに負けるなんて言葉は無い。

勝つ事しか頭に無い。

私は黙って、モニターの彼女達に釘付けになっていた。

そして次はとうとうジュピターが現れる。

何やら今までの衣装とは違う、袖の無いワイシャツにネクタイ、まるで学生みたいだ。

学生。

学園。

神威 学園。

私はハッとしてGACKTさんの名前を思い出した。

「神威 楽斗…」

『今日は俺らはジュピターじゃないんだ!実は神威学園の理事長がどうしてもLIVEやりたいっていうから、紹介するぜ!!」


そして、私の目の前のモニターに映ったのは

ジュピターと組んだGACKTさん。

『Yellow Fried Chickenz!!!行くぞお前らァァァァァァ!!!!!!』

http://www.youtube.com/watch?v=djkk4QG9IPU

圧倒的。

まさに、他を寄せつけない程。

まさか、こんなLIVEが見れるなんて。

私達はモニター越しに彼に釘付けだった。

律子さんも、伊織も、言葉が出なかった。

いつもはおちゃらけている亜美も真美も、全く言葉を発する事がなかった。

トップアイドルとか、そんな範疇では無い。

そこには、まるでGACKTさん一人の独壇場と化したLIVEが繰り広げられていた。

「これが、GACKTさんの、パフォーマンス…」

律子さんが呟く。
そういえば律子さんはGACKTさんのLIVEを生で見るのは初めてだったっけ?

まるで、ロックスターのようなパフォーマンス。

初めて見るはずなのに、観客の全員が心を奪われている。

あはは。
分かっていたはずなのに。

GACKTさん。ズルいなぁ…。















結果は、私達の負けとなった。

「…」

千早ちゃん達は、ただ呆然と立ち尽くしていた。

私はというと、何故か悲しいという気持ちが浮かんでこなかった。

だって、本気でやったんだし。

それで勝てなかったのなら、踏ん切りもつくものだ。

会場ではアンコールの声がかかっていた。

GACKTさんは、両手を挙げて答えている。

すると、GACKTさんが私達の舞台にゆっくりと歩いてきた。

真っ直ぐに、ゆったりと。

いつものような不敵な笑みで。

そして、私の目の前で止まった。

                  /:::::::-、:::i´i|::|/:::::::::::ヽ
   r‐、            /::::::,,、ミ"ヽ` "゛ / :::::::::ヽ

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   lー |   /、, /     i::::::::l゛  /・\,!./・\、,l::::.:::!
   _」  、__ ノ  /      .|`:::|   " ノ/ i\`   |:::::i
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/ {   ! /  j r !       ヽ i   /  l  .i   i. /
l .!  l,イ }/ ノ  l        l ヽ ノ `'''`'''''´ヽ、/´
l、ヽ /¬‐-チ = ノ       /|、 ヽ  ` ̄´  / 中国人を日本に導入します
ヽヽヽーィ、 ノ   !    ,---i´  l ヽ ` "ー-´/
 }ャ‐'ー' `ヽ、_ノ . '´ ̄   |  \ \__  / |\


どうした、安倍政権! 隠された中国人移民の急増と大量受け入れ計画 正論5月号

TPP妥協無しで安心していけない安倍首相は国家戦略医療特区で国の3分の1を売り渡している。

★外国人労働者の受け入れ拡大は、14年5月12日の国家戦略特区諮問会議で、★民間議員★が提言した。
因みに国家戦略特区諮問会議の★民間議員★は公平に選ばれる事がなく竹中平蔵に近い人が選ばれると月刊日本2月号佐々木実氏記述にある。
http://gekkan-nippon.com/?page_id=436
そして竹中平蔵は特区で働く外人のためのメイドの外国人低賃金労働者を入れろと発言しているという。
月刊日本5月号江崎道朗氏記述から。
東京、神奈川、千葉の一部と関西で人口4千万この広大な地域が崩壊する。
底辺の労働者の賃金が更に低下する。★ワタミ渡邊ニンマリ★

特区で一般社員残業代ゼロ、正社員の解雇規制撤廃で特区では正社員はいつでも首に出来る。

「春香。僕のワガママに付き合わせてごめんな」

全く。遅いですよ、GACKTさん。

「でも、良いんです。私達だってたくさんワガママを言いました。
…だから、チャラでいいですよ」

本当は悲しいけど。
それに、きっとこれは、GACKTさんがやりたかったことだから。

「GACKTさん。私達もこれで踏ん切りがつきました。

もう、大丈夫です」

どうして、そんな悲しい顔をするんですか?

あれ?おかしいなあ。GACKTさんが見えないや。

「もう、大丈夫、ですから、だから…」

それ以上は言葉が出なかった。
GACKTさんに抱き締められた事もあるけど、遂に堪えきれなくなった涙が溢れ出したのだ。

「ごめんな。…ごめん」


良いんですよ。
それに今日は、合同ライブなんだから、こんな悲しい雰囲気はダメですよ。

「ほら、GACKT!いつまでも黙ってないで!アンコールがかかってるんだから!」

伊織がGACKTさんの腰を叩く。

周りを見回すと、けたたましいアンコールが会場を包んでいた。

あはは。これじゃあ、まだまだ帰れないですね。

「…そうだな」

再びGACKTさんがマイクをとり、ジュピターの三人組を呼ぶ。

GACKTさんの声とともに、また観客が盛り上がっていた。

http://www.youtube.com/watch?v=2IJZhV4vN7g

>>245
おお。なんだこれ分かったよ氏ね

「…」

その歌は、きっとお客さん達に向けての歌でもあるが、私達にも向けての歌なのだろう。

もう、本当、いけずなんだから。

あは。これじゃあ貴音さんみたいだな。

「ほら春香も!ぼさっとしてないで、行くわよ!!」

もう、バトルは終わった。

なら、これからは楽しもうじゃないか。

私達も、バカになろう。

今この瞬間だけは、バカになって、楽しもう。

このライブが終わったら死んでもいいくらい。

CGプロのみんなも、私達の後に続いて踊り出した。

やっと、会場が一つになった気がした。

これが、LIVEなんだなあ。

ああ、楽しいや。

保守

「結局、凛ちゃん達が勝っちゃったね。
…私達も、まだまだ未熟だったかな」

春香が凛と握手を交わし、それに続いて互いのチームが互いを見つめあった。

しかし凛は、納得していないようだった。

「…私達だけじゃ、勝てませんでした」

チラリと僕の方を見る。

「あの…春香さん」

何かを口走ろうとした凛のほほを春香の指が制止する。

「…その先は、言わないでいいよ。
今は、自信が無いからそんな事を言うだけ。

これから先、勝ち続けていくことで、今日の事は自信に繋がっていくよ」

だから、何も言わなくていいの。

そう言った春香の顔は、これまでに無い程晴れやかだった。

春香も言うようになったな。

「GACKTさんのおかげですよ!えへへ…」

「お前は、ホント成長したよ」

「ありがとうございます!」

そう言うと、春香は765プロの皆に声をかけ、静かに出ていった。

「何だか、清々しく去っていったね」

未央が呟く。
…まだまだお前は未熟なようだな。


春香。

…ごめんな。

「春香。私達は全力を尽くしたわ」

「それで負けた。ならまた戦えばいいわ。
次は、もっと練習して、もっと完璧にして」

「それと、汗もたくさんかいたでしょう?」

「後で、水分はちゃんととりなさいよ」

「…そんな水分を消費してたら、脱水症状を起こすわ」

「だから、このハンカチ、使いなさい」

「…もう、泣かないの」

それから、765プロ宛てに荷物が届いた。

差出人は不明。

けれど、封を開けると、すぐに誰だか分かってしまった。

全く、もうちょっと工夫してくださいよ。

これじゃバレバレですよ?バレバレ!

もう、忘れたくても忘れられませんよ!

…いや、忘れちゃ、ダメか。

だって、私達の、元、プロデューサーなんだから。

http://www.youtube.com/watch?v=FRtzDBar6oA




春香達との決別(?)から数日後、僕の事務所にはよく765プロの子達が来るようになった。

美希は休みの日はほぼ毎回、双子や響に真、千早に。

「…春香。この間の感動的な別れはどうしたんだ?」

「えへへ…それはそれ、これはこれ、ですよ!」

勘弁してくれないかな。まゆが後ろで歯軋りしてるんだ。

「うーん。でも、一番長く居たのは私だしね♪」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…」

こりゃあ、参ったよ。あはは。

終わらないでくれー

乙!

闇に飲まれよの出番はなかったのか

年末の学園祭を終え、正月を迎えたCGプロダクション。

事務所の子供達も、表情が和らぎ、年明けの朝を楽しんでいた。

「あけましておめでとうございます!GACKTさん!」

ちひろがいつものスーツ姿ではなく、着物姿で僕を迎える。

「おめでとう、ちひろ」

「GACKTさんはいつものスーツとは違いますね!」

「元々黒が好きだから」

しかし、凛達も可愛らしい着物姿だ。

さすがアイドル。と言わざるを得ない。

さて、正月の生放送ロケも待っている事だ。

名前が年明けに相応しいということで、ニュージェネレーションの三人組が司会として呼ばれた。

じゃ、行くとしようかな。

あ、そうだ。

ちひろの方を振り向く。

「?」

「その姿、とても似合ってる。綺麗だよ」

「えへへ…ありがとうございます!」

控え目なガッツポーズがまた良いな。

きたーー!!!

ニュージェネレーションの三人組による正月の生放送。

やはり、一年のスタートという事もあり、さすがに緊張するかと思ったが、どうやら今のあいつらには余計なお世話だったようだ。

ベテランも驚くほどの司会進行に、スムーズに番組も進んでいった。

しかし、やはり長い。

収録時間はいつもの倍以上で、しかも延々とカメラに映されるのだ。

どうやら多少の疲れも見えているようだな。

「じゃ、そろそろ頼めるか?みく」

「任せるにゃ!」

ここいらで凛達に起爆剤を投入するとしようかな。

みくが乱入してきて、凛達も少々驚いたようだが、すぐに平静を取り戻した。

これなら大丈夫そうだ。

しかし、話は変わるがこの生放送。

僕にも出演を依頼してきた。

確かに光栄だが、僕を出すならまずウチのアイドルを使ってほしい。

でなければ、僕がプロデューサーである意味が無くなるのだから。

LIVEは別だがな。

僕にとって、LIVEはエッチと同じだから。

たまには溜まった性欲を吐き出しにいかなきゃな。

そして、長かった番組もようやく終わり、カメラが止まる。

「あー!疲れたよGACKTさーん!」

未央がいの一番に僕に向かって走ってきた。

あはは。まだ元気じゃないか。

「でも、よく頑張ったな」

「へへ!もっと褒めてよー」

その後、卯月も疲れていたが、いつもの笑顔で歩いてくる。

みくと凛はというと、向こうで何かを話していた。

言い合いでもしてるのかな?と思ったが、それは杞憂なようだ。

二人とも、可愛らしい笑顔で話し合っていたのだから。

みくにとって凛は、ライバルでもあり、心を許せる仲間の一人になったということか。

良かったよ。ほんと。

「あ、ねえねえ見てGACKTさん、すっごい可愛い人いるよ!」

未央が観客席を見て、僕に話しかける。

彼女の視線を追ってみると、そこには。

あの子がいた。

一風変わった服装に、銀髪の。

そう、神崎 蘭子だ。

彼女は無表情で機材を片付けるスタッフと出演者たちを見ていた。

そして、僕と目が合った。

彼女は僕の視線に気付くと、ハッとなって逸らした。

そしてそのまま出ていってしまった。

…何だか、追わなきゃいけない気がする。

「?GACKTさんどこ行くの!?…行っちゃった…」

「…」

「…ねえ、君」

蘭子に話しかけてみると、肩がビクッとして、ゆっくりとこちらを向いた。

そういえば僕もまた黒スーツだったから、何か親近感を覚えるなあ。

「…」

「ちょっと、話がしてみたくてさ」

「き、貴様それ以上近づけば、この右腕の封印を解くぞ!!」

「は?」

………………は?

「何って?」

「こ、この右腕の…」

「え?ちょっとごめん、もっかい言ってくれるかな?」

「…ふぇぇ」

「あ~あ。泣かしちゃった~」
「いけないんだ~」

未央と卯月が後ろからいじる。

何故彼女が泣いたのかは分からないんだけど…

「ごめんよ。怖がらなくていいから」

くすんくすんと座り込んで泣いてしまった彼女の頭を撫でると、まだ真っ赤な眼で僕をおそるおそる見上げてきた。

ふうん。これが蘭子の顔か。
ゲームで見た時とは少し違うかな。

「…ふぇぇ」

ああ。また怖がっちゃったか。

「…GACKTさん。無表情で見つめられたらそりゃ怖いって…」

闇に飲まれよの人キター!

「わ、我の魔術から逃れるとは、貴様の闇の力は凄まじいものなのだな…」

少し間を置いて、落ち着いたらしい。

だが、これならさっきの方が良かったな。

これじゃ、会話出来ないよ。

「ねえ。普通に話してくれると嬉しいんだけど」

「ヒッ…」

どうやら僕に対する恐怖心を植え付けてしまったようだ。

だけど、仕方ないだろう?

「あ、あのさ、えっとぉ…名前は、何?」

さすがの未央も少し引いた感じだ。

後から来た凛とみくも、この子のキャラについていけていないらしい。

「…神崎、蘭子、です…」

やはり、蘭子だったのか。

僕が凛達より先に会った、というか見た女の子。

しかし、現実に会ったら会ったで接しづらいなあ。

「蘭子か。ごめんな。つい可愛くて話しかけちゃったからさ」

「ふぇぇっ!?」

あはは。キャラ作ってるわりには維持出来てないなあ。

凛のジト目は無視しておくことにしようか。

http://livedoor.4.blogimg.jp/goldennews/imgs/e/6/e6ace375.jpg
画像作られててワロタ

「そういえば、蘭子はどうして一人で来たんだ?」

「…えっと…」

蘭子の話を聞くと、どうやら年齢が近い事もあるニュージェネレーション達の活躍を見たかった、という。

「そっか。じゃあ、アイドルに憧れてたりするの?」

「は、はい。それと、その…」

何だろう、歯切れが悪い。
顔を下に向け、目だけをチラチラとこちらに向けている。

「そういや、蘭子ちゃんはいわゆる中二病ってやつなのにゃ?」

「えっ!!」

みくはもう少しオブラートに包む事を覚えなきゃな。

わざわざ傷口に塩を塗る事もないだろうに。

「えっと…その…」

ほら、しどろもどろになっちゃった。

「ごめんにゃあ…」

「でも、GACKTさんと蘭子ちゃんってなんだか格好が似てますね!」

突如卯月が口を開いた。
まあ、似てない事はないかな。

それを聞くと、蘭子は顔を赤くしそれっきり俯いてしまった。

…ああ。親近感が湧いたんだな。

「悪いけど、僕は中二病じゃないからなあ」

あはは。ごめんね。そんなショック受けないで。

過去、蘭子に接してきたPの中では1番容赦ねーwww

中二が形無しだwww

がくちゃん結構中二患ってただろww

「いいんじゃない?GACKTさんも子供っぽいとこあるんだし」

凛がクス、と笑いながら喋る。
やだなあ。子供っぽいのはロッカーの証だよ。

「蘭子、だったらお前の実力をうちで試してみないか?」

「え…」

「やりたいんだろ?アイドル」

ここで会ったのもお互いなにかの縁だ。

それに、顔立ちも整っている。

「わ、私も、アイドルに…?」

「そうだよ!蘭子ちゃんもアイドルになろうよ!」

卯月が蘭子の手を握りブンブンと振り回す。
あはは。ビビっちゃったかな?

「心配しなくてもウチのアイドルたちは皆こんな感じだ。
それに、絶対有名にしてみせるよ」

「ほ、ほんとですか?」

「僕は嘘はつかない主義だから、ね」

少しだけ、考えているようだ。
まあ、それもそうか。

「おまえ1人で決めろとは言わないさ。親御さんとゆっくり話して決めてくれればいい」

とりあえず、名刺くらいは渡しておこう。
来る来ないはべつにして。

その翌週、やはり年明けか、ということもありまゆと杏以外は家族と予定があるようで休暇をとっていた。

今日は二人もレッスンだけだ。

僕も今日は早く帰るとしようかな。

「ちひろ、たまには二人で食事にでも行くか?」

ちひろに声をかけると、顔が明るくなり、はい!と返ってきた。

じゃあ、この書類を書いたらお店を探しにいこうか。

「まゆも行きたいですよぉ」

まゆが後ろからスーツの裾を引いてくる。

あはは。ごめんよちひろ。二人っきりのデートはまた今度だ。

杏はゲームの続きがあるという事で帰ったらしい。

しかし、まゆもいいタイミングで来たものだ。

いや、この子なら必然か。

「必然ですかぁ。なら次は運命ですねぇ」

この子の話を聞いているとほんとに眠くなる。

だが、その眠気も突然の来訪者によって止められた。

「闇に飲まれよ!!!」

「ヒッグ…ヒッグ…グスン」

「大丈夫ですかぁ…?」

「GACKTさん、せめて何かのリアクションくらい取ってあげてくださいよ…」

「泣きやみませんねぇ…」

「…」
http://ext.pimg.tw/emily1021/4b7188c11f0b3.jpg

「とりあえず、ウチでやっていくってことでいいのかな?」

顔を真っ赤にして俯いてはいるものの、頷く。

言われて恥ずかしいなら何でそんなキャラをしてるんだろう。

まあそれは野暮ってやつか。
今更かな?あはは。

どうやら親に話してみたところ、逆に勧められたらしい。

こういう職業をやる点において気をつけなければいけない事は、決して売れるわけではないという事。

水商売みたいなものなんだ。
指名が無ければお金は入ってこないし、完全出来高制だから、月給0なんて事もあり得るんだ。

だから、普通は親から止められると思うのだが、この子の親は僕に大きな期待をしてくれているらしい。

じゃあ、期待に応えなきゃな。

「蘭子。これからよろしくな」

彼女は素直に握手に応じた。

さて、この子が来た事で僕はこれからどうなるのか。

近いうち、何らかの変化が訪れるだろう。

だけど今は、今を楽しむとしよう。

蘭子、よろしくな。

蘭子にはそれ相応の実力はあるようだ。

キャラについては何も言う事は無いが、いわゆるカリスマ性というものがある。

僕には分からないけど、このキャラもブームとまではいかないが、蘭子のファンには気にいるものがあったようだ。

番組や取材においてもこの子がそのキャラを披露することで、待ってましたと言わんばかりの歓声が起こる。

しかし、何度も言うけど僕には理解しかねる為、僕の前では禁止にしている。

これは僕の個人的な見解もあるが、ただ話すのに時間がかかるので嫌なだけだ。

この話を蘭子にした時、真っ赤な顔をして黙りこくってしまったが。

さて、そろそろこの子にも歌手としてデビューしてもらうとするか。

「私の歌…ですか?」

「そう。どうかな?」

曲の名前を聞いただけで気に入ってくれたようだ。

あはは。確かにこの子には似合ってそうだな。

http://www.youtube.com/watch?v=a7uGCLXooKo

「PVの撮影もあるし、お前の着たそうな衣装がたくさんあるから選んでおくと良いよ」

「はい!分かりました!」

…?

何だろう。

今一瞬、視界がぶれたような感じがした。

液晶に砂嵐が舞うような、そんな感じだ。

そういえば、前に足ツボマッサージをしてもらった時、目が悪いとか何とか言われたなあ。

隊長、元気にしてるかな。

少しだけ、ホームシックになった。

まあ、これも無い物ねだりなんだし、と自分に言い聞かせておく事にした。

蘭子イチオシのワイ、ワクワクの展開ktkr

あれから、時たま視界がぶれることがあった。

目が眩むことも、倒れることもないんだけど、邪魔だなあ。

こればっかりは仕方ないかな。

奈緒達の曲も提供しなきゃいけないしな。

「なぁ。GACKTさん。私達今日は午後から番組収録あるんだけど、レッスン入ってるぞ?」

「あれ?番組収録って何のこと?」

「は?」

…何だろう。おかしいな。

確か奈緒たちは今日レッスンだけじゃなかったっけ?

「…GACKTさん。疲れてんじゃないのか?
たまには休んでくれよ…」

奈緒が心配そうな顔で覗き込んでくる。

「心配しなくていいよ。ありがとう」

「…」

「どうしたの?」

「いや、いつもだったらここで眉毛いじられるから構えてたんだけど…」

いつも?何のことだろうか。

そんな覚えは無いけどなあ。

「やってほしいならやるよ。奈緒はMなんだなあ」

「ちょ、やめろって!…GACKTさん、ほんとに休んだ方がいいぞ?」

あはは。僕はまだまだ現役だよ。

それから何度もうっかりすることがあった。

前はやってたことをやらなかったり、仕事のことを忘れてたり。

特に人間を忘れることはなかったんだけど。

しょうがないなあ。病院にでも行こうか。

あれ?

何だか、既視感があるな。

これは、まさか、な。








「…そろそろ、来たみたいね」
「?」

後ろを振り向くと、銀髪の女性が僕を見つめていた。

誰だろうか。

どこか貴音を彷彿とさせる。

「…君、誰?」

彼女は何も言わず、ただ僕を見つめる。

やだなあ。ナンパならもっと可愛らしくしてほしいな。

「貴方が、ここに来て、もうすぐ一年になるわ」

そういえば、もうそんな経つのか。

…あ。

「どうやら、なんとなく理解したようね」

もうすぐ一年。

記憶に無い発言、行動。

これを僕は知っている。

前に765でもあったこと。


「…僕は、もうすぐ消えるのかな?」

「そうね。しかし今回は特別。

…貴方に、選ばせてあげるわ」

選ぶ。

必然的に何か分かった。

元の世界か、ここの世界か。

どちらか好きな方を選べ。

「…選ばなかった方は、どうなるの?」

すると、彼女の眉が少しだけ下がった。

「…選ばなかった世界は、貴方の頭から消え去り、その世界でも、貴方がいない事になる」

つまりこういう事だ。

ここを選べば、この世界での僕の功績も、僕の記憶も残るが、YOU達は僕の事を忘れる。勿論僕も、YOUを忘れる。

元の世界を選べば、同じような事が起きる。

春香達も凛達も僕を忘れ、僕も彼女達を忘れる。

「どうして、そんな選択肢を僕に?」

「…元々、あり得なかった事だからよ。
ただ、それだけの事」

じゃあ、どうして僕はこの世界に来たんだ。
何故、春香達や凛達と関わらせた。

「貴方の言う可能性、かしらね。
…誰よりも音楽を愛した貴方が、彼女達にどんな未来を与えるのかを、見てみたかったのよ」

そんなの、自分勝手じゃあないのか?
それではまるでモルモット扱いじゃないか。

「…ええ、そうね。ごめんなさい。完全に私の気紛れなのよ」

「…なら、記憶を失くさない事だって」

「それは無理よ。
貴方がいた世界と、この世界は、並行世界。
何度も貴方が行き来することで、やがて二つの世界は交錯してしまう。
それが、何を意味するか分かる?」

「…」

それは、とても考えたくないが、恐らくこうなるだろう。

元々の世界では彼女達は創作物。

それがいきなり現実に現れたとなれば、彼女達も、元の世界の者達も激しい混乱を起こす。

「私は、静かでいてほしいのよ…なら、最初からこんな事を起こすなという話よね」

「そうだよ。いい迷惑じゃないか。
…けど、しょうがないね」

よく考えれば分かる事。

初めからあり得ないんだ。

僕が人の創作した世界に行くだなんて。

「…まだ、時間はあるわ。
よく、考えて頂戴」

そう言うと、彼女は風に消え去り、姿を消した。


「…後一週間で、決断しろ、か。
あはは。時間が足りなすぎるよ」

親友か。娘のような存在達か。

僕は、その場に立ち尽くすしかなかった。

「…どうしたの?プロデューサー」

凛が僕の顔を覗き込み、尋ねてくる。

とても、心配そうな顔だ。

なんでもないよ、と言いたいが

ほんと、僕は嘘が苦手なようだ。

顔に出てしまう。

「…なあ、凛」

「何?」

「もし僕と、永遠に別れる事になったら、どう思う?」

「え?」

何を言っているんだ?といった顔だ。

「いいから、答えて」

すると、凛は悲しそうな顔をして、呟いた。

「…嘘でも、そんな事言わないで。
別れたくなんかないよ」

「…そっか、ごめんな」

残り、六日間。

「…あら?GACKTさん」

珍しいですね。と言ったのは律子だ。

これまで彼女達とは何度も別れ、会ったが、これから永遠のお別れとなるとどうだろうか。

久しぶりの雪歩が淹れてくれたお茶を飲みながら、これから起こりうる一時の惨劇を想像した。

「くっそー!響にはダンスじゃ勝てないのかなぁ…」

「あっはは!自分にダンスで勝てる奴なんていないさー!」

「…?何か、事務所が騒がしいね」

「そうだなー。きっとまた亜美と真美が律子に怒られてるんだぞ」

「でも、律子の声しかしないよ?」

「えー?」ガチャ


「ふざけた事を言わないで下さい!!!!!」

「「うわぁっ!」」

「ごめんな。変な事を聞いちゃったかな?」

律子がワナワナと肩を震わせ、真っ赤な顔で怒鳴り散らしてくる。

「もう会えないかもなんて、冗談でもやめてください!!私達が、何度悲しい思いをしたか、分かってるんでしょ!?」

「り、律子?」
「どうしたんだ?怒りがなら泣いてるぞ?」

「!?…二人とも、GACKTさんが、いきなり、もうお別れだなんて口にするから…!」

すると、しばしの沈黙の後、真と響が抱きついてきた。

「やだぞ!プロデューサーとお別れなんてやだぞ!!」
「ボクの事、お姫様扱いしてくれるんじゃなかったんですか!?」

「あはは。二人とも、力強くなったな」

痛い、とは言わないでおこうかな。

バッと離れた二人は、それでもこらえきれなかったらしく、また泣き出した。

子供っぽい所は変わらないみたいだ。

やめてくれよ。

それじゃあ、帰れないじゃないか。

残り、三日。

僕は、今だ決断ができずにいた。

そんな時、一つの着信があった。

「…春香、どうしたの?」

『…GACKTさん、今から会えますか?』

今から、か。

まだ日は落ちてないし、そうだな。

「いいよ。どこで落ち合おうか?」

『…GACKTさんなら、分かってくれると思います』

「え?」

『待ってますね!』

それっきり春香は電話を切ってしまった。

掛け直すのもかっこ悪いし、どうしようか。

春香がいそうな場所。

765プロじゃなさそうだし、春香の学校でもなさそうだ。

一体何処だろう。

春香が行きそうな所。

「…あ」

ここだ。

春香に、お別れを告げた場所。

そして、僕がこの世界に来た時、初めにいた場所。

この廃墟だ。

「…こんな所で、ずっと待っていたのか、春香」

「待ちくたびれました!…寒いですよ、もう」

男なら何をすべきか。

春香の求めていたものは分かったが、僕は静かにコートを彼女に着せた。

「…いけず」

こう見えて、節操ある男だからな。

「私、GACKTさんが好きです」

「知ってるよ」

「…だから、もし永遠にGACKTさんが消えたら、悲しいです。すごく」

律子め、事務所の全員に告げ口したな。

「GACKTさんは、向こうの世界ではどんな人だったんですか?」

「…そうだね…」


それから僕は、本当の事を話した。

この世界は、僕の世界の住人が作った創作物だと。

僕は向こうでは歌手だということ。

僕は親友の紹介で、お前達を知ったこと。

春香は一切表情を変えず、ただ優しく聞いてくれた。

「…信じてくれなくていい。
でも、僕は今、究極の決断を迫られている」

「…私は、信じますよ。
だって、GACKTさんが私達に嘘をついたことなんて、ないじゃないですか」

「春香…」

「でも、安心しました!」

「え?」

すると、春香は立ち上がり、僕に最高の笑顔を向けた。

日が落ちる寸前の光を結集させたかのように、春香を後ろから照らしだした。

「…だって、私達、もう会ってたんですよ!だったら、悲しいことなんて何一つのありません!」

「…」

「私達は、いつでもGACKTさんに会えるし、GACKTさんもいつでも私達に会えるじゃないですか!

…だから、大丈夫ですよ!大丈夫!」

そう言って春香は、静かに立ち去った。

そして、向こうから大声でこう叫んだ。

「私は!絶対に!GACKTさんのこと!忘れませんからねー!!」

コートは記念に貰っておきます!とも。

あはは。
全く。

自分の半分も生きてない女の子に泣かされるなんてな。

「は?新曲?」

「ああ。後、この曲で僕達は解散することにした」

「はぁ!?まだ組んだばっかりなのに!?」

あはは。

大丈夫さ。お前達は僕がいなくても成功するから。

それは確信してる。

最後のLIVE、カッコつけて終わらせてくれよ。

折角可愛い子達を呼ぶんだから、な。

その日、プロデューサーから私達と765プロの皆さん方がとあるバーに呼ばれた。

その日だけは、私達にも向こうにも仕事がある人がいたのだが、全てキャンセル。

恐らく、みんなきっと何かがある事を確信してるんだろう。

じゃなければ、一晩にこんな集まって店一つ貸切にするわけない。

そして、誰一人笑っていないのだから。

そして、私が今、一番会いたい人が壇上の上に立った。

今までにない、優しい顔をして。

これから、何をするのか、何となく理解できた。

もう、私はGACKTさんに会えないのだろう。

きっと、そうなのだ。

じゃなければ、春香さん達があんな涙に濡れた顔するわけがないんだ。

やめて、やめてよ、GACKTさん。

私の足が勝手に動き出す。

舞台に上がろうとする。

だけど、それは周子さんに止められた。

「男の人の晴れ舞台なんだから、邪魔したら駄目だよ」

周子さんは、私の肩にそっと手を置き、座らせた。

「凛ちゃん…」

周子さんが私を抱きしめる。

私の顔は、さぞ涙に濡れているんだろう。

前が見えないんだから。


でも、耳は聴こえる。

GACKTさんの言葉が。

私達に向けての言葉が。

「人生に迷ったときは、難しい方、困難な方を取れ。 これ、基本だ。その方が同じ時間を過ごしても得られる物が多い。 失った時間は帰ってこない。 みんなそれぞれ、タイムリミットがあるんだ。 なるべく早くに多くの知識と経験を手に入れた方が、 人生が鮮やかに彩る。選択肢は常に難しく、苦しい方だ」

これから、私達は色んな困難があるのだろう。

そして、GACKTさんもまた、そういった事を経験してきたんだ。

これは、GACKTさんの最後の言葉なんだろう。

ありがとう、そして、さようなら。

http://www.youtube.com/watch?v=6m4DdaHlGfQ

・・・・。

「…」

僕の、この世界での最後のLIVEが終わった。

もう、会う事はないだろう。

立つ鳥跡を濁さず、だ。

「…もう、悔いはないみたいね」

あの女性が、再び、今度は僕の前から現れた。

「ああ。もう大丈夫だ。これで、忘れられる」

「…そう。じゃあ、最後に私から一言、言わせて頂戴。

…貴方は、本当に良い人よ。
それこそ、独り占めしたいくらい」

「…ありがとう。そういえば、君の名前は?」

「…高峰 のあって名付けられたかしら?」

のあか。この瞬間だけは、忘れないよ。

ふと、声がして後ろを振り向くと、彼女達が走ってきていた。

もう何を言っているかも聞こえないけど、分かるよ。流石に。

そんな名前を叫ばなくても、大丈夫だよ。

これからもまた、会えるから。

…今度は、僕の方からだ。

楽しい思い出を、ありがとう。

そして、さようなら。

・・・・・。

「…!」

「あれ?ガッくんやっと起きた?」

「…YOUか。なにやってるんだよ?」

「えー?何ってアイマスやん、ガッくんもやってたやろ?」

「アイマス?何それ?」

「…え?ガッくんぼけた?」

「いや、本当に知らないよ。それより何?このゲーム」

「え?うわ、流石ガッくん。
SR+のアイドルしか集めてないんだ」

「…え?」

「いや、凄いなあ。あれ、蘭子はまだSRのままなんや。
後一枚なんだね」

「蘭子?」

「もうガッくんどうしたんだよ。
それに何で泣いてんの?」

「え?あれ、おかしいな…自然に溢れてくるよ」

「何かあったん?ほら、ハンカチ」

「ああ。ありがとう。とりあえず、このゲームのこと教えてよ」

「えー…分かった。分かったから泣かないでよ」

「しかしガッくん。全部クリアーしたんだね。後はグリマスだけだよ!」

「…そっか」

「?どしたの?」

「いや、もういいよ。
何だか分からないけれど、やめておくよ」

「そっかぁ。じゃあ、久しぶりの頭文字Dやる?せっかく地下にあるんやし!」

「ああ。言っとくけど、僕は負けないから!」

『…ありがとうございました!GACKTさん!』

「ん?」
「ん?」

「何これ」

「え?いや、今春香のボイスボタン押したんやろうけど…あれ?別におかしい所は無いか。まあ、いいや!行こうか!」

「…うん。分かったよ」

「あ、ガッくんまた泣いてる!」

「…うーん。年かな?」

「まっさかー!」


そうだなぁ。

あのゲームは知らないけど、折角進めたなら、やってみるか。

じゃ、とりあえず。

今の子から始めようかな?

あはは。

くぅ疲

完結

モバマスアニメ化待ち遠しいぜ!!

やばい泣けた

乙!最後まで追っかけ終わったしアイマスやるかなぁ……

全作読んだ!
本当に良い作品だわ
お疲れ様!

周子出してくれてありがとう!

ただもう少し蘭子がたくさん出てくれると良かったのだが

>>302
蘭子は一枚も持ってないんや…

果てしなく乙
もっと長く読んでいたかったよ

最後のほう読みながら「MISSING~笑顔を見せて~」と「REDEMPTION」聞いてみたら泣けたわ

>>304
その歌は大好きです(^q^)

>>303
ああいや責めてるわけやないんで
単に自分の推しってだけなんで気にしないで
いい話だったよ乙
俺ももっと読みたかったわ

やばい>>301むちゃくちゃ貼り間違えてんじゃん

まじでごめんなさい

>>307
ドンマイw

あと最後になって気付いたんだけど、この世界のCGプロダクションって
「Camui Gackt プロダクション」なんかもね

>>308

その案貰ったああああああ!!!

>>309
ああ、狙ってたわけじゃなかったのかww
その辺を意識してモバマスとのコラボに踏み切ったのかなと思ってたww

まあ、もしまたちらっとでもなんかやってくれるとしたらマジで楽しみにしてるよ
Gackt好きで765好きでモバマス好きな俺にはこの上ない良SSシリーズだから

>>310
また何か浮かんだらやるよー

今更だけどやっぱりアニメ見てからの方が良かったわ…

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