女「おかか、お好きなんですか?」(42)


私は、コンビニでアルバイトをしている。

大学に入学して少し経って、余った時間をつぶすためと、特に目的はないけれどお金を集めたいから。

サークルとかクラブとか、いろいろ回ってみたけれど、どれもピンと来なくって。

友達とも、いつも遊ぶってわけでもなく。

とにかく暇だったから。バイトをしてみた。

コンビニにはいろいろな人がやってくる。団体でやってきて、お酒とかを買っていく人。

ストッキングを買っていく女性。

いつも同じものを頼む常連さん。

そんな常連の、いつもタバコのピースとおかかおにぎりを買っていく、男の人。

彼との話。


彼との出会いは、私がまだ新人だった頃。

まだ、初めてのアルバイトでテンパっていたころ。

レジに3人のお客様が並ぶともう駄目だった。
焦って焦って。

ようやく2人をやり過ごし、最後のお客様。

それが彼だった。

まだ入店して日の浅い私でも、顔を覚えてしまった位、来店していた彼。

いつもの時間にいつも同じものを買っていく人。

でもその時初めて私は彼の声を聞いた。

続きます

短いです

はーい

いーは


私は並んでいたお客様をさばけてホッとしていたんだろう。

5000円と1000円を間違えて渡してしまった。

本当は8000円返さなくてはならないところを、4000円しか返せていなかった。

確認も雑だった。何でこんなミスをしてしまったのかわからなかった。

「これ、お釣り違いますよ」

そう言われた時にはひやっとした。

汗がどばっと。脇のあたりから。

なんでヒヤッとするのに汗が出るのか。

「ご、ごめんなさい」

私はあわてて交換しようとしたから、手に持っていたお返しの258円を床にばらまいてしまった。


彼はくすっと笑った後
とても優しい声で

「大丈夫?待ってる人もいないしゆっくりでいいよ」

そう言って、笑顔を浮かべ待っていてくれた。

その時だろうか。

我ながらこんなんでいいのかっていうような初恋が始まったのは。

続きます

期待


それから、彼が来店するたびにちょっと話をするようになった。

私はその時間が好きだった。

アルバイトに身が入って、彼にもう変なところは見せたくないと、必死に働いていた。

「もう一人前だね」

彼にそう言ってもらえた時には本当にうれしかった。

照れてろくにお礼も言えなかったけれど、そんな態度が変に思われなかったか家に帰ってからずっと考えていた。

いつのまにか好きで好きでたまらなかった。

なんて単純なんだろうって笑っちゃうような、そんな初恋だった。


彼は、買っていったピースを店の前の喫煙スペースですって行くのが常だった。

毎回1本。

それをゆっくり吸っている。

その姿がとてもかっこよかった。

学校の男子とは違って、ばかみたいに騒いで吸っているのではなく、なんだかゆっくりとした時間があった。

大人って感じがした。

続きます

続きはよ











はよ

何も焦る事はないさはよ。


「おかか、お好きなんですか?」

お客もいなくて暇なときに、レジに商品を持ってきた彼に私は聞いてみた。

彼がそのおにぎり以外を買っているのを見たことはなかったし、先輩に聞いてみてもそれ以外を買ったことを見たことはないという。

枕崎産カツオ使用:おかかおにぎりだった。

枕崎を調べたところ、鹿児島県だった。

「あ~これね。実家が鹿児島でさ。

昔は毎日のように食ってて、二度と食うもんかって思ってたんだけどさ。

おふくろの味っていうか。

一日食わないと落ち着かなくなっててさ・・・」

そう言って照れたように笑っていた。


一人暮らしなんて大人だなって思った。

大学生にもなると一人暮らしをしている人は大勢いて、実際私の友人にも男女問わずいるというのに。

彼らには、そんなこと思ったことなかった。

惚れたせいなのかな。

何度もしつこいくらい大人だ大人だって言っているけれど、どこか静かで、丁寧な仕草とかそう言ったところが本当に魅力的だった。

続きます

支援はよ

>>1のペースでゆっくりはよ。


大学の友人に、合コンに誘われるたび、
「好きな人がいるから」
そう言って断ってきた。

実際に彼のことが好きだからっていうのもあるけれど、ただ面倒くさかっただけだった。

そんなところに行く時間があるならば、シフトに入って彼と会いたかったし。

「告白とかしないの?」

そう言われたりもした。

けれど、そんなことはできなかった。

初恋で臆病だった。

もちろんそういうのもあった。

でも突然、ただの店員に告白されても困るだろう。


いくら最近よく話すようになったからって。

私も、突然告白されたりしたら気持ち悪いって思ってしまうだろう。

そしてその店を利用することはなくなるだろう。

彼が来なくなってしまうのは困る。

何せ名前すら知らないのだ。

もちろんメアドも、電話番号も。住所も。

2度と会えなくなってしまうだろう。

そうなるのは困る。

続きます

乙はよ


でも、そんなことを言っている場合ではなかったのかもしれない。

そんなかっこいい人には彼女ができて当然だった。

ある日、彼の隣にはこれまたお似合いのおしとやかで、上品そうな女の人が隣にいた。

騒ぐようなタイプではなかったけれど、静かに彼の隣にいて、「彼は私のものです」
とそう主張していた。

彼はおにぎりを買わなくなった。

「おかかおにぎりなら作ってあげるし、そればっかりじゃ健康に悪いよ。」

彼女がそう言っているのを聞いて、彼は少し困ったように

野菜の入ったお弁当を手に取った。


それから、彼が来る時には彼女がいつも一緒に来て、タバコとお弁当と、おそらく彼女がたべるサラダパスタを買っていくようになった。

いつも仲がよさそうに店内を練り歩いて、お弁当を買っていったり、お菓子を買っていったり、お酒を買っていく。

彼女の幸せそうな顔が目に入るたびに、私は何度も“辞めよう”そう考えるようになった。

所詮、叶わぬ恋だったのだ。

おそらく彼も、ネームプレートに乗る私の名字しか知らないだろう。
最悪、名前すら知ってもらえてないかもしれない。

店員の名前なんて、クレームを出すときくらいにしか見ないだろう。

続きます

Oh……


そんな生活が半年くらい続いたころだろうか。

彼女を連れてこない日があった。

“今日は彼女いないんですね“

そう聞こうと思ったけれど、声が出なかった。

もうずっと会話をしていないせいで、緊張してしまっていたし、怖かった。

その日の買い物は、タバコと、お酒とそしておかかのおにぎりだった。


それから、ずっと彼女の来店はないまま、彼の買い物も変わらないまま3週間ほどたった。

いつもは私の交代時間の30分前くらいに来る彼が、なかなか来なかった。

水曜日には必ず来ていたのに。

58分になって彼はようやくやってきた。

そしていつものようにレジへと商品を持ってきて、外でたばこを吸うようだった。

私は、急いで交代してもらって、急いで着替えて、急いで髪をと整えて、彼のそばに言った。

「最近、彼女こないですね」

続きます

おつ
次が楽しみだ


地雷踏んだかな?

女「おかんが、好きなんですか?」


彼は戸惑っていた。

まずい、そう思った。少しなれなれしすぎた。

慌てて、弁解しようと思ったけれど、なんていえばいいのかわからなかった。

10秒ほど沈黙が降りた。

「ふられちゃってね」
彼はそう言って、下手な作り笑いをした。

なんて答えていいのかわからなかった。

もしかして私はコミュ障なんじゃないかと感じていた。

大学でもぼっち気味なのは確かだった。


私は何とか会話をつなげたかった。

彼と話をしたかったし、これからも同じ関係を、それよりももっと深い関係を望んでいた。

付き合うなんて高望じゃなく、せめてメル友くらいにはと。

でも、彼はもう煙草を吸いきってしまっていた。灰皿にたばこを移していた。

なにか言わなきゃ。なんとか話題を作らなきゃ。

そう焦っていたけれど、なにも思いつかなくて、私は黙ってしまっていた。


彼は、灰皿で火を消した後、ちらっと私を見たような気がした。

私はうつ向いてしまっていて、目の端で何となくそう感じただけだから自信はない。

そして、新しい火を付けた。

新しいたばこに口を付けて、大きく息を吸い込んで。

そして、思いっきりはいた。

綺麗に広がっていく煙の跡が印象的だった。

「良ければ、愚痴聞いてもらえるかな?」

そう言った。

私の恋が、ようやく前進した。

「もちろんです」

人生で最も自然に浮かんだ笑みでそう答えた。

終わりです

レスや支援ありがとうございました

次回作を2週間以内には立てると思いますので、見かけた際にはよろしくお願いします


トリップ無しだから分からないかもしれんが自作にも期待。

トリップあった方がいいですかね?

好きにすれば良いと思うよ。
作品がどこかしら似てればわかるし。

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