春香「私だけが知っている」 (38)
春香「ねー亜美、後どれくらい?」
亜美「……もうちょっと」ギュゥゥ
春香「それさっきも聞いたよ」
亜美「いいじゃん…減るもんじゃないし…」ギュゥゥ
私は知っている
双海亜美は、本当は寂しがりやさんってことを
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亜美「はるるんおかえりー」
春香「あれ、亜美だけ?」
亜美「そだよー」
ある夜のことだった。
私が事務所に戻ってきた時、亜美はいつものゲームをしていた。
小鳥さんもプロデューサーさんもいなくて、ただ亜美一人だった。
春香「小鳥さんは?」
亜美「さぁ? なんか買い出しに行ったっぽいよー」
春香「ふーん…」
亜美はゲームをやりながら気のない返事をした。
熱中しているのか、画面から目を離そうとしない。
体がソファーからずり落ちて、だらしない格好になっている。
私は亜美の隣に腰掛けた。
亜美「……あっ」
私が座ってから数秒、亜美が声をあげた。
それと同時に聞こえてくる、ゲームオーバーの音。
春香「何やってるの?」
亜美「ちょっ、勝手に見ないでってばー」
身を乗り出して画面を覗きこんだが、すぐに隠されてしまった。
見せてくれたっていいのに、と言う前にそそくさと側においてある鞄にしまってしまった。
亜美「はるるん何しに来たの?」
春香「何しにって、うーん……なんとなく?」
亜美「ふーん…」
仕事が増えてきても、なるべく事務所には顔を出すようにしている。
大した理由はないけれど、ここに来れば誰かしらと会える気がしたから。
亜美「じゃあさ、これから毎日この時間に来てよ」
春香「…えっ?」
亜美「どうせはるるん暇っしょ? だから来てよ」
春香「暇って…」
必ずしも暇というわけではない。
家は遠いし、そもそも来る時間がないときもある。
春香「えっと、流石に毎日は無理かな?」
亜美「ふーん…あっそ」
亜美は素っ気無く答えた。
いつもより冷たく感じたし、何かに怒っているようかのようにも感じられた。
春香「どうして来て欲しいの?」
亜美「…。」
それを聞くと黙る亜美。
肝心なところには答えてくれない。
春香「えーと…そうだ、ゲームの対戦相手になってほしいとか?」
亜美「はるるんじゃ相手にならないっしょー」
春香「むっ、言うね亜美。私はこれでもゲームには自信が」
亜美「そうじゃなくて! そうじゃなくてさ…」
言葉を遮られる。
語気を強めて話す亜美に、私は戸惑い、言葉を発せなかった。
亜美「えっと……手」
春香「…………はい?」
亜美「手出してって言ってんの! はるるんのニブチン!」
春香「わ、わかった、わかったから…。手でいいんだよね。はい」
脈絡なく、手を差し出せと言う亜美。
また何かの悪巧みかと勘ぐってしまった。
亜美「ん…」
春香「えーと…?」
亜美「…。」
春香「何しているの?」
亜美は、差し出された私の手を手にとって揉み始めた。
春香「ハンドマッサージ?」
亜美「…。」
春香「えっと……?」
一心不乱に揉み揉みする亜美。
その表情は真剣で、硬い顔だった。
小鳥「ふぅ、ただいま帰りましたー」
亜美「……あっ、ピヨちゃんおっかー!」
春香「えっえっ?」
小鳥さんが帰ってくるがいなや、態度を急変させる。
さっきまでの真剣な顔つきの亜美は何処吹く風で、帰ってきたばかりの小鳥さんを弄り始めた。
春香「一体、なんだったの…?」
意味がわからなかった。
またイタズラでもしてるんじゃないかと思った。
でもこれが、今思うと、最初だった。
糞スレ
あみはる・・・だと・・・!?
全力で期待する
春香「ただいま帰りましたー…」
亜美「おっ、はるるん来たんだ」
春香「う、うん。来たよ」
さぁなんでも来い、そんな気持ち。
亜美「んーとね、じゃあ今日は肩揉んであげるよ」
春香「分かった。じゃあそこに座ってくれる?」
亜美「何いってんの? ちがうよー。亜美がはるるんの肩を揉んであげるって言ってんの」
春香「……は?」
亜美「何ぼーっとしてんのさー。早く座ってよ」
どういうことなのだろう。
てっきり私がパシられるのかと。
春香「えーと…お手柔らかにお願いします?」
亜美「んっふっふ~、まかしときんしゃい!」
少し身構えたが、特に何かをするわけでもなく、普通に肩を揉んでくれる。
思えば前回のハンドマッサージも、私が受け身の立場だったような。
亜美「お客さん凝ってますねぇー」
春香「そ、そうかな?」
亜美には悪いが、正直言うとそれほど肩は凝っていない。
しかし途中で止めるのも悪いので、そのままさせておく。
亜美「……ん」
春香「……亜美?」
突然頭部に体温を感じた。
春香「どうしたの?」
どうやら後ろから抱きしめられたらしい。
亜美が私の後ろから手を回して抱きしめて、私が亜美をおんぶするような形。
その状態のまま、亜美は何も言わない。
春香「……何かあったの?」
亜美「…。」
春香「聞くよ? 悩みとかあったら」
亜美「…。」
亜美の表情は見えない。
体温と息遣いは感じられた。
が、亜美が何を思っているのかは考えつかなかった。
小鳥「ふぃ~、ただいまー」
亜美「んっふっふー! ピヨちゃん、例のものは買ってきたかい?」
小鳥「あら亜美ちゃんまだいたの? はい、ちゃんと買ってきたわよー」
亜美「やったー! さっすがピヨちゃん太ももー」
小鳥さんが帰ってくると、また態度が急変した。
増々わからなくなる。
何も言わない亜美に戸惑う。
春香「はぁ…」
その一方で、亜美の体温をまだ感じていたいとも思った。
春香「ただいまー……ん?」
亜美「んにゃー! また負けたー!」
真美「んっふっふー、腕が落ちましたな亜美」
亜美「ぐぬぬぬ…真美絶対ずるしてるっしょ! チートだよチート!」
真美「はっはっは、なんとでもいいたまへ。勝者のよゆーだかんねー」
どうやら今日は真美がいる模様。
それに奥で小鳥さんも作業しているし。
そもそも事務所に一人だけという状況自体、中々無いことでして。
春香「ただいまー」
真美「あ、はるるんおはー」
亜美「真美、もう夜っぽいよ。それなのにおはーはないっしょ」
真美「亜美知らないの? げーのーかいではその日初めて会う人には、何時であろうとおはーなのだよ」
亜美「ふーん。じゃあ今度から亜美も偉い人におはーって言おっと」
春香「あはは…それはやめといたほうがいいんじゃないかな…?」
人がいるといつも通り。
亜美がああなるのは、必ず私と二人っきりの時だけ。
春香「あ、そうだ。亜美、肩揉んであげようか?」
亜美「えっ」
だからちょっとからかってみたりする。
真美「えーいいなー。真美もはるるんにもみもみされたいよー」
春香「真美も後でしてあげるよ。じゃ亜美、そこに座って?」
亜美「え~……い、いいよ別に」
真美「ええっ断っちゃうの!? 旦那ぁ、それはいくらなんでも惜しすぎまっせ! 女神はるるんにもみもみしてもらうなんて早々無いよ!」
春香「それはちょっと言い過ぎじゃないかな…?」
亜美「や、やるよ! 亜美すっごい凝ってるから、気合入れてもみもみしてよね!」
春香「うん、春香さんに任せておきなさい。それじゃあ始めるよ?」
亜美「よしこい!」
真美「どう? はるるんのもみもみ」
亜美「よくわかんない!」
体が強張っているのを感じる。
緊張しているのだろうか。
すっごい凝ってると言っておきながら、全然凝ってない気がする。
真美「でもどうしていきなり肩もみなの?」
春香「どうしてだろうねー。亜美なら知ってるんじゃない?」
真美「そうなの亜美?」
亜美「ええっ!? えっ…えーと、それはー…」
狼狽えているのが手に取るようにわかった。
心なしか顔も赤くなっている気がする。
亜美「いや、亜美は何も知らないよ! 全部はるるんの思いつきで…」
真美「んー? 嘘が見え隠れしてますなー。そうなのはるるん?」
春香「そんなことないよ。ねー亜美?」
亜美「!」
問いかけるのと同時に、あの時と同じように手を回す。
今度は私の番。
やられてばかりの春香さんではないのだ。
抱きしめるとシャンプーのいい匂いがふわりと香った。
亜美「あっ…あのっ……はるっ……」
真美「ん? なんか亜美顔赤くない?」
春香「もしかして照れてる?」
期待
亜美「っ……ぅぅうわぁぁああん!」
春香「わっ! ちょ、亜美!?」
突然私の腕を振り払って走り出した。
そのまま事務所を出て行ったしまった。
春香「あー…」
真美「……変なの」
ちょっとからかいすぎたのかもしれない。
そんな後悔をしてしまった。
今はるあみの大きな波が気始めている
事務所の屋上に来て欲しい。
そんなメールがある日突然届いた。
差出人は亜美。
亜美「ん、来てくれたね。はるるん」
春香「えーと、何かな?」
先日のことだろうか。
やっぱり謝ったほうがいいのだろうか。
亜美「んっとね…。誰も居ないよね?」
春香「えっ…。うーん多分誰も付いてきてはいないと思うけど…」
亜美「そう…。じゃあ、今はるるんと二人っきりってことだよね」
春香「そうなるかな? それがどうかしたの?」
驚きだった。
同時に合点がいった。
亜美は私に寄り縋った。
いつの間にか身長は追いつかれ、すっかり大人になってしまったように見えた。
しかし中身はまだ子供で、心の支えが必要だ。
春香「亜美……?」
亜美「……はるるん」
春香「何…?」
亜美「もうちょっと……ぎゅってさせて…」
春香「……うん」
亜美の声は普段の天真爛漫な声ではない。
切なく、微かな声だった。
私は今までにそのような声を聞いたことがなかった。
大いに戸惑ったし、何をすればよいかわからなかった。
ただ、それでも、彼女のために何かをしてあげたいと思えた。
亜美「不安」
春香「亜美が?」
亜美「うん……」
春香「どうして?」
亜美「………わかんない」
春香「そう……」
亜美「苦しい」
春香「……大丈夫だよ」
亜美「うん……」
いつもの亜美が蜃気楼のように感じた。
彼女の本当の姿は、不安で、寂しくて、泣いてしまうような姿だった。
明るい亜美は何だったのだろうか。
無理して作った偶像なのだろうか。
亜美が、二人っきりの時私に甘えるようになったのは、そこからだった。
もうかれこれ半年になる。
相変わらず強く抱きしめるし、しおらしくなる。
だけどこれでも随分と変わった方だ。
最初期は小一時間何も話さなかったが、今では冗談を言うようになった。
少しずつだが成長を感じる。
私は、姉か母親のように接した。
抱きしめられたら拒否しないし、大いに受け入れた。
背中を擦るよう要求されたら、もちろん応じた。
その他諸々の要求も同じだ。
だが、決まって二人きりの時だけだった。
私以外の人、特に真美には見られたくないようであった。
以前そのことについて聞いたことがある。
亜美は、とにかく見られたくない、と言った。
自分が売れるようになってから、真美との関係がわからなくなってしまった。
真美がライバルと言っていた。
真美はライバルだから、弱みを見せたくなかった。
亜美にとっての真美は支えであり、失いたくなかった。
本当はライバルなんかになりたくなかった。
様々なことを話してくれた。
少しずつ、細切れに話した。
二人きりの時は少ない。
だから色々な場所で事に応じた。
事務所の屋上、階段、楽屋、人の少ない公園。
夜の事務所で、小鳥さんから見えない、仕切りで区切られた応接間でも抱きしめられた。
特に悪いことをしているという気持ちはなかったが、自分だけに見せる亜美の姿がとても愛おしかった。
今日も亜美は私に寄り縋る。
春香「ねぇ亜美」
亜美「…ん」
春香「まだ苦しいの?」
亜美「……もうだいぶ楽」
春香「うん。なら良かった」
亜美は本来の自分を出す人がおらず、苦しがっていた。
今まではそれとなく真美にくっついていたのだが、件の一件でそれができなくなってしまった。
そもそも真美は、亜美のそのような行為を日常の挨拶程度にしか思っておらず、記憶に残るようなことではなかった。
これは真美に聞いてわかったこと。
春香「ねぇ亜美」
亜美「…ん」
春香「もうやめようって言ったら?」
亜美「…………やだ」
春香「……知ってる」
二人きりでない時の亜美は至って普段通りである。
よく笑うし、イタズラもする。
とても無理しているとは思えない。
だから私は、きっとこの亜美も本来の亜美なんだろうと思っている。
だから……
だから、この関係はあまりよくないと思っている。
亜美の抱きしめる力が僅かに増す。
これから私が言うことについて、悟ったのだろうか。
春香「仲は悪くないんだよね?」
亜美「……うん」
春香「じゃあ正直に打ち明けたら?」
亜美「……いやだ」
春香「どうして?」
亜美「……いかないで」
春香「私はどこにもいかないよ」
亜美「いやだよ……はるるん……」
春香「亜美のことが嫌いってわけじゃない」
亜美「いや……いやだよ……」
春香「でもね、私と同じくらい真美は亜美のこと好きだと思うな」
亜美「ごめんなさい……」
春香「大丈夫、謝らないで」
亜美「……ごめん」
春香「うん。私もごめんね。ちょっと嫌な話しちゃったね」
亜美「嫌じゃない……。はるるんの話…だから……」
春香「ふふっありがとう。それじゃあ今日は特別に延長しちゃおうかな」
彼女だって頑張っているのだ。
それを思うと無理に突き放すのはできないことだ。
でもその頑張りも逆に良くないことがある。
こう見えて勘のいい子だ。
私が考えていることの本質を見抜いている。
いつ捨てられるのか不安でたまらなくなるのだ。
亜美「……頑張る。はるるんの言う通りにする」
春香「大丈夫? 亜美はそれでいいの?」
亜美「それでいい」
嘘。
さっきまであれ程嫌がっていたのに。
春香「……そう。よかった」
何も良くないのに。
亜美「はるるん」
春香「なに?」
亜美「はるるんは嫌?」
春香「嫌じゃないよ」
亜美「だって普段はこんなことしないし……亜美すっごいわがままだよね」
春香「そんなことないよ」
亜美「やっぱり亜美がおかしいんだよ…。全部、ぜーんぶ亜美が悪いんだ…」
春香「やめよう、そういうの」
亜美「ごめんね、すぐに元に戻るから…。こんな亜美見なくていいようにするからさ…」
春香「やめて」
亜美「こんな亜美見たくないって…。こんなの亜美じゃないって言って…お願い…」
春香「やめて」
亜美「言ってよ…ねぇ…? 離れないで…。嫌だよ……嫌いにならないでよ……」
春香「亜美」
それを言ってしまえば、亜美はいつもの亜美に戻るだろう。
だが、絶対言ってはいけない。
今の状態の亜美があるから普段の亜美があるのであって、片方を無くすことは両方無くすことを意味する。
亜美は壊れてしまう。
亜美「わっぷ」
幾度と無く経験してきたこの負の連鎖。
私の精神を保つためにも、こういう時は紡ぐ言葉を奪ってしまえばいい。
私が強く抱きしめると、強張っていた亜美の体が弛緩するのを感じる。
春香「いいよ。もういいから、考えるのはやめにしよう」
亜美「……うん」
春香「はぁ~、明日何時だっけ?」
亜美「はるるん…ありがとう」
春香「ん、どういたしまして」
亜美「あ、そうだ。どうしてはるるんなのか教えてあげようか?」
春香「あー確かに知りたいかも。どうして?」
亜美「それはね……欲しかったんだよ」
春香「欲しかったって……何が?」
亜美「んっとね」
亜美「私だけが知っている、はるるんを……ね」
終わり
楽しそうなはるあみ書きたかったがいつの間にか病んでるはるあみになってしまった。反省はしていない。
はるあみもっと流行って欲しいです
乙!
しかしこのタイトルだと、他に全員分、何かしら対応できそうだな・・・
乙!
早く他のアイドルと春香さんの話を書く作業に戻るんだ!
違うんだよはるあみなんだよ
素晴らしい乙
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