早坂美玲「アイドルサバイバルin仮想現実」 (983)


前スレ
渋谷凛「アイドルサバイバルin仮想現実」

渋谷凛「アイドルサバイバルin仮想現実」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1393849705/)


【概要】

池袋晶葉の協力の下、とある企業で作られたデジタルで作られた空間で仮想現実を体験する機械がつくられる

そのPRの為にキュート、クール、パッションの属性から6名ずつ、計18名のアイドルがその仮想現実空間に送られた。

・参加者がアイドルであるので、ただ実験的であるだけでなくバラエティ要素を加味すること

・デジタルが現実に準拠してどこまで不確定要素に耐えられるかをテストすること

これらの点を考慮してアイドルたちは現実の肉体が傷つくことはないその世界で模擬実戦、戦争ゲームに身を投じことになる。

そこで対戦相手として用意されていたのが、アイドルの性格をトレースしたロボット、通称「ボット」

ボットたちは銃や刃物とはまた違う武器である「能力」を躊躇なく使いアイドル達を追い詰める

現実から来たアイドルたちは、空間内のどこかにそれぞれのアイドルに用意された特定のアイテムを手に入れることでしか能力を使えない

それでもなんとかボットに勝利を納めていくアイドルたちに対し、ボットたちも手を組み、策を巡らせていく


【用語】

・プレイヤー

今回の企画に選ばれた18名のアイドル、現実の方から晶葉の造った機械を通じて仮想現実空間にアクセスしている

初期の段階では能力がない

・ボット

多数のアイドルの協力により池袋晶葉が造ったプログラム上の存在。実在のアイドルの人格をかなりの精度で再現している

ただし、戦闘行為をするにあたって多少ばかり好戦的な部分が加えられている

練習用ボット:プレイヤーの姿を模したボット、チュートリアルとして用意されたため戦闘力、スタミナ共にほとんどない

通常ボット:プレイヤーの対戦相手のボット、最初から能力を所有している

・アイテム

仮想空間内に点在するボットやプレイヤー以外のモノ

銃、剣、車、戦車などの武器や乗り物、回復作用のあるドリンクなど


・キーアイテム

プレイヤーが能力を発現させるために必要なアイテム

どこかに隠していたり、ボットが持っていたりする


・スタミナ

プレイヤー、ボットに初期値100%で与えられている。これがゼロになるとゲームオーバー

あくまでもらったダメージをカウントするだけのもので、体調を表しているわけではない

プレイヤー同士がユニットを組むことでその合計値を全員で共有できる。


・CHIHIRO

仮想現実空間運営用自律ボット

戦闘とは別の用途で作られたボット。仮想空間におけるプレイヤーとボットの動きを観察し現実世界へ報告する

また能力の使用により空間内に生じたバグや負荷を処理している

所在、外観などは詳細不明

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396415964




【プレイヤー】

・活動中

クール

渋谷凛 神谷奈緒 北条加蓮 白坂小梅 大和亜季 ?

キュート

佐久間まゆ 緒方智絵里 輿水幸子 早坂美玲 小日向美穂 双葉杏

パッション

星輝子 三好紗南 諸星きらり 堀裕子 小関麗奈 ?


・行動不能

なし


【ボット】

・活動中

クール

高峯のあ アナスタシア 森久保乃々 水野翠 望月聖 佐城雪美 八神マキノ 二宮飛鳥

キュート

遊佐こずえ 白菊ほたる 棟方愛海 島村卯月 古賀小春 

桃井あずき 前川みく

パッション

高森藍子 村上巴 本田未央 



・行動不能

練習用ボット18名

上条春菜 梅木音葉 橘ありす 結城晴 塩見周子

福山舞 向井拓海 市原仁奈



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
安価もありますがストーリーに影響はあまり出ません

数時間後に本編投下します

なんかストーリーが進むにつれて凛の黒歴史台詞が増えていく気が...

楽しみにしてます
なんかボットでもやられたらとても悲しい……
ニナチャーン……しゅーこぉ……(グスン

ageてしまった…
ほんとすみません

プレイヤーで未登場がまだいるのには驚いた

おつ

ってかスレタイで美玲いたの!?ってなったわ
確認してみたら>>744でのあさんの台詞に1回出てきたきり逃走中とか……このスレで活躍期待

不明プレイヤーはクールとパッションか……だりなつ?

ゆいちなかも知れん




タタンタタン・・・ タタンタタン・・・



智絵里「えと、あの......わたしなんかで、いいんでしょうか...?」

杏「ゲームってさー、体を動かさなくてもできるってトコに意義があると思うんだよね、杏は」

P「それはテレビゲームだけだろ杏。それに智絵里、そういう心配はしなくて大丈夫だ、何があっても大丈夫なように現実の方で待機してるからな」

地下鉄か、長いトンネルを走っているように、車窓から見えるのはただの暗黒だけである

その闇の中を走る電車内で向かい合わせになった座席には四人の人間がいた。

一人は緒方智絵里、座席の端に詰めるようにちょこんと腰を下ろしている


智絵里「...わ、わかりました...プ、プロデューサーさんがそう言ってくれるなら、わたし...」


もう一人は双葉杏、智絵里の隣で座席に脱力したように浅く腰掛け、緩慢な空気を全身から醸し出していた

杏「今、杏が見てるものがバーチャルだーって言われてもねぇ・・・あ!じゃあプロデューサー、リセットボタンないの?リセットボタン!」


二人の対面の座席に座っているのはスーツ姿の男、モバP

プロデューサーとして今回の企画の実現にあたって東奔西走し、あちこちで打ち合わせと段取りを行ってきた影の功労者でもある


P「ありがとうな智絵里・・・それと杏、そういうゲーム思考は今回いらないぞ」


彼は仮想現実に18名のアイドルを送り込むにあたってその過程となるこの仮想現実の電車で企画の趣旨を説明しているところだった

18名のアイドルを3名ずつに区切り、同じ内容でもアイドルそれぞれが分かり易いように噛み砕いたり、場合に応じて適切な比喩を用いたりと工夫することも忘れていない

P「えっと、こんなところだな・・・」


その説明もここにいる三人で最後だった

ふう、とPは一息つくと隣に視線をやる


P「で、お前は何か質問とかないのか?」

そこに見えるのは目に優しくないピンク色に包まれた背中だけ

P「美玲ー?なんでさっきからずっと窓の外ばっかり見てるんだ・・・なにか見えるのか?」

この場における四人目、彼女はPの説明の途中辺りから窓の外におでこをくっつけるようにして窓の外を覗き込んでいた

外にある何かに興味津々であることがその背中からひしひしと伝わってくる


早坂美玲「おい、プロデューサー。 か、かそう現実?とかいうヤツ何も見えないぞ!」


座席のうえに膝立ちのままPを振り向く、隣に座っているPと目があった


P「はは、楽しみにしてくれているのは分かるけど、面白いのが見れるのはまだ先だからな?」


美玲「なッ、た、楽しみになんてしてないぞ!これはあれだ!オマエが嘘ついてないか確かめただけなんだッ!」


P「嘘ってなんだよ、嘘って」


美玲「むー!えっと・・・で、デジタルとかバーチャルとかよくわかんない言葉でウチらをドッキリにはめようとしてるかもしれないし!」

P「そんなことしないって・・・折角楽しみにしてくれてるんだもんな?」

美玲「~~っ! だ、だから楽しみなんかじゃないって言ってるだろッ!」


美玲は振り向いた姿勢から改めて体ごと向き直るとムキになって言葉を並べはじめた

こういう照れ隠しもまた彼女にはよくあることなので隣に座るPもその対応は慣れたものである


美玲「う~~~!」

智絵里「あ、あの...美玲ちゃん、落ち着いて...」

杏「じゃ、杏ちょっと二度寝するから駅に着いたら起こしてねー」

P「こら」


タタンタタン・・・ タタンタタttttt・・・


突如、規則正しく響いていた車輪の擦れる音が変調する


智絵里「あれ...?」

美玲「なんだこのヘンな音・・・」

P「おっと、転送が始まったみたいだな」

事情を把握していたPだけが落ち着いて、次にかける言葉を吟味する


P「智絵里、杏、そして美玲。この仕事は間違いなくお前達が今まで経験したものとは違ったものになる。だが、俺はお前たちがそれぞれ自分の持ち味を存分に生かしてくれると信じてる。」

「難しいことかもしれないが、でもまずは思いっきり楽しんでくれると嬉しい」

言い終えて、Pは三人のアイドルを見渡す、自分の思いは伝わったのか確かめるために

智絵里「......はい!」

杏「・・・・・・・・まあ、ほどほどにやるよ」

美玲「うー・・・言われなくたって、ウチはうまくやるし」


個性派アイドルだけあってその返答もてんでバラバラだった。思わず彼も苦笑を漏らす


P「・・・元気のいい返事をくれたのは智絵里だけかぁ、はっはっは」






美玲「・・・・・・・・・」




美玲は眼帯に覆われて半分になった視界にその横顔を映す

困ったようにタハハと小さく笑った表情

精一杯の励ましに対し、思ったよりいい反応が返ってこなかったのだから当然といえば当然か


タタtttttttttttttt...


電車の中に明かりが差す、強い光が車内に満ちた

彼の言葉を借りるなら”転送”とやらが始まったんだろう



まず杏の姿が光にくらんで見えなくなった

次に、智絵里の姿が光の中に消えていく



最後に隣にいるPの姿が美玲の目の前で光の中に溶けていこうとしていた



美玲「プロデューサー!」


眼帯をしていない方の目を光に負けずしっかりと開く


ほとんど姿の見えなくなったPが美玲の声に反応してこっちを向いた、ように見えた




でもどうせもう聞こえてないだろうから言ってしまえ、と美玲は口を開いた





美玲「ウチ、頑張るからちゃんと見とけよッ!」










___ステージ"シティ"へのダウンロードを開始します___



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そのボットは夢を見ている


プログラム上の人格である彼女に睡眠の概念はないはずなのに


だが彼女自身は自分は夢を見ていると確信していた



彼女は首を巡らせる、彼女は自分が白い床の上に直に座り込んでいたことに気づいた


ペタンと足を広げ、ふらふらと視線を漂わせる


ツルツルとした床の手触り、彼女は床に顔を近づけてみた


うっすらと床を透かして何かが見える、この床は白く着色されたガラスのようだ


「............」


遠い


第一印象はそれだ。

ガラスでできた床、そこから下に広がっていたのは数え切れない程のビル、家、道路

摩天楼が自分の今いる場所のずっと、ずっと下に存在していた。


「.....?.....」


彼女は考える。

あれほどたくさんのビル、しかも高層ビルの群れを一望できてしまうここは一体どこなんだろうかと

展望台だろうか?それにしては高すぎる。それに今彼女が座っている床を支える柱は下には見当たらない

じゃあ飛行機だろうか、UFOだろうか?自分はそこに乗り込みその床面のガラスを覗いているんだろうか

だが今の眺望が動いているようには見えない、従って彼女がいる場所も移動はしていないはずだ


「.........」

まあいいか、と彼女は顔を持ち上げる、白い床がどこまでも続いている、突き当りの壁は見当たらない

一体どこまで広いんだろうか、この白い床は




「......?......」


高層ビルの群れを上から俯瞰できる場所、彼女はそれをやや持て余し始めた

一体何だろうこの夢は、そろそろ何かが起きはしないのだろうか


こつこつ


指で床ガラスをこづく、硬質の感触がしたような気がした

自分の柔らかい指じゃあ何をどうすることもできないと分かった


コツコツコツ


次に聞こえたのは足音だった

ガラスを踵で叩くような音が彼女に近づいてくる


「............」



彼女が振り向いた先にいたのもまたボットだった

胸元に赤いバッジを光らせた少女だ


コツコツコツ

コツコツコツ

コツコツコツ


気がつくと彼女の周りに何人ものボットが立っている

だがいずれのボットもその視線は足元、床のガラスを通り過ぎた先にある都市に向けられていた

床にへたりこむようにして周りをぼんやりと眺めている者はいない


「............」


彼女はそのことに少しだけ疎外感を感じる


カツ・・・・・・・・・ン!


彼女以外のボットが床を軽く蹴っ飛ばした、


するとそれが合図だったように床のガラスに丸い穴があきはじめる


割れたのではない。静かにガラスの表面が震え、水面に広がる波紋のようにまん丸の口を開けたのだ


直径は1メートルもない、人一人が通ることができるくらいのものだ

その穴から遥か下には高層ビルからなる摩天楼


彼女以外のボットたちはそれこそが自分のために用意された出口なのだと躊躇なくそこに飛び込んでいく



何人ものボットたちが降り注ぐ雨のように仮想の都市へと落ちていく

長い金髪のボットも

着ぐるみを着たボットも

メガネをかけたボットも

爬虫類を抱いたボットも

カチューシャを付けたボットも

みんながそれぞれ自分の足元に空いた出口から仮想空間へ飛び込んでいく


「............」


彼女はそれを上から見下ろすしかない、ガラスの床は彼女に対して沈黙したままだ

これはなんの夢なんだろう

この夢は何が言いたいんだろう



ぐらり



視界が急速にぼやけていく


夢から醒めるのだ


彼女はうつぶせに床に体を倒した、白のガラスを透かして眼下に街が見える

彼女以外のボットはあそこに行けたのだ


やがてその眺望もぼやける

夢の終わり


彼女はぼそりとつぶやいた



「......いいなぁ」




その言葉を発したのは夢の中か、それとも外か


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



こずえ(ボット)「.........」


こずえ(ボット)「.........ふわぁ...」



どこかのビルとビルの隙間で彼女は目を覚ました

仮想現実の中は晴天だった。

だが彼女のいる場所に人工太陽の光は届かない



彼女は自分の置かれている状況を他人事のように観察する

どうやら手足を投げ出し、ビルの壁にもたれて眠っていたようだ



こずえ(ボット)「.........んぅ...」



空を見上げる、並んだビルで細長く区切られた青い空、

もちろん白いガラスが浮かんでいたりはしない



こずえ(ボット)「...?...」



彼女は自分の体を調べ、自分にプログラムされた記憶やデータを確認する

彼女はそこで自分に「能力」が備わっていないことに気づいた




こずえ(ボット)「.........」



ボットなら間違いなく最初から所有しているはずのもの

それが自分にだけない



こずえ(ボット)「......ぁ...」


なんとなく、彼女はそこでさっき視た夢を思い出した

自分にだけ用意されなかったモノの夢を

あの夢は今の自分のことを暗示していたのかとぼんやり推測する




こずえ(ボット)「.........いいなぁ...」








ゲーム開始0分

全ボット行動開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
まず導入部


巴の新SR特訓後で手首に鎖がついてたの見てびっくりしました


次回からしばらく早坂美玲が中心です

安価はまだとりません

コメントありがとうございました

乙です
>>1さん、すいませんが前スレへのリンクを作って貰えませんか?

>>21
渋谷凛「アイドルサバイバルin仮想現実」
渋谷凛「アイドルサバイバルin仮想現実」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1393849705/)

>>21

1にあるリンクじゃ駄目なの?

モバPは文字が読めないからしゃーない


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲


美玲は唸っていた


予想を裏切る展開の連続に歯噛みするように犬歯を剥き出し威嚇していた


美玲「う~! がおーッ!!」


うなっている原因は3つある


まず一つ目は美玲が意識を取り戻した場所がよく分からない工場だったからだ

壁を見れば工場内の空気を入れ替えるための換気扇が一直線に並んでいる

天井はとんでもなく高い。そこに肋骨をイメージさせるような鉄骨が規則正しく敷き詰められているのが見えた

広いはずの空間は何も運んでいないベルトコンベアと、まるで自販機の親分のような馬鹿でかい機械が床面積を狭めている

しかもそういった機械や設備のあちこちに吹き出物のように取り付けられているボタンや血管のようにあちこちを結んでいるコードやパイプの類がまるで生き物の体内のような生々しさを出していた

いきなりこんなところに放り出されれば不機嫌にもなる


次の原因はボットの存在

見ず知らずの工場に放り出されて十数分、工場の外から聞こえてきた晶葉のスピーチが終わってから数分

美玲もそこで留まっているわけにもいかず散策を開始しているうちに出会ったのだ

その姿は早坂美玲と瓜二つ、ほの暗い工場内にあっても目に鮮やかに映るピンクのフード

ケモノミミ、眼帯、鋲の打たれた装飾品で飾った体、爪の手袋、鏡で確認するまでもない美玲本人のボットだった

スピーチを聞いていなければ大いに混乱して、唸るどころではなかっただろう


早坂美玲(ボット)「・・・・・・」



唯一違う点といえばライブで使った手袋、獣の爪を模したそれをつけていたこと

美玲の普段着は割と派手な方であるが、それでもその装飾は浮いていたからすぐ分かった

もちろん本物の美玲にはない、日常生活を送るにはやや不便なデザインな上、ライブ専用の道具だから今つけていないのは当然ではある

その手袋のデザインも自分の普段着も美玲のお気に入りではあるが、それを同時に着用しているせいで美玲のボットのファッションがややちぐはぐな印象になっていた


見知らぬ場所。ちぐはぐなボット


そして最後の原因が否応なく美玲の警戒心を高めていた



美玲「ガルルルルルルルル・・・!」



美玲(ボット)「・・・・・・」




美玲はボットの方向を強く睨みつける

工場内を歩き回って数分後に遭遇してからずっとこの状態が続いていた

眉間に皺の寄った強い視線を向けられたまま美玲のボットは無言で直立したままだ

だらりとぶら下げられた両腕の先で三本の爪がゆらゆらと揺れている














そして美玲のボットは力尽きたようにその場に倒れた



そのまま手袋を残してその姿が霧のように消えていく

だが、自分の映し身が消えても美玲の視線は揺らがない

美玲は最初から自分のボットと一緒にいたそのボットの方向をずっと睨んでいたのだから


そのボットは、右腕をふらふらと降る。

さっきまで美玲のボットを後ろから串刺しにしていたから腕が疲れたのかもしれない



彼女は消えていく美玲の方をちらりと一瞥したあと、離れた場所から自分に唸りを上げている美玲の方を見やる










アナスタシア(ボット)「アー...、えっと」




アナスタシア(ボット)「私......ボットと本物...間違え、ました?」










ゲーム開始10分経過

早坂美玲(ボット)消失

アナスタシア(ボット)VS早坂美玲

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



練習用ボットの存在は知っていた


戦闘力、スタミナ共ほぼ0で、あくまでこの世界での戦闘行為になじませるためのボットだと

あとは偶にキーアイテムを持っているのがいたりするそうだが、有体に言うと踏み台なのだろう

だから開始数分、あるいは数秒で倒されるボットだというのが通常ボットからの見解だった


だからこの工場の中にはプレイヤーの早坂美玲がいるとは仲間から聞いたとき

先陣を切るつもりでこうやって一人侵入し、美玲の後ろ姿を見つけたときにすかさず攻撃したのだけれど


まさかまだボットの方が生きていたとは。工場の内部が複雑だったから遭遇できなかったのだろうか

晶葉の仕事のちょっとしたミスだろうか


まさか今倒したと思った人物が曲がり角から出てくるとは思わなかった



アナスタシア(ボット)「...びっくり、ですね」



美玲「なッ、なななにがびっくりだ!ウチの、ボ、ボットとかいうヤツに何してるんだオマエ!」

アナスタシア(ボット)「プレイヤーと間違えて、えっと...攻撃、してしまいました」

美玲「なんだそれ、間違いで攻撃したのか!?」


プレイヤーの方の美玲が吠えてくる

アナスタシアはそれに返答しながら足元に視線を落とす

そこに転がっているワンセットの、あまり実用的なデザインとはいえない手袋

おそらくあれがキーアイテムだろうとアナスタシアはあたりを付ける


美玲「いくら自分じゃなくても何かイヤな気持ちになるだろッ!何考えてんだ!」


目の前にいる美玲は相変わらず元気よく噛み付いてくるが、まだこの世界のルールを把握できていないようだ

思わぬ形とはいえチュートリアルを飛ばしてしまったのだからそれも仕方ないか


アナスタシアは歩き始める

アナスタシア(ボット)「なんといわれても...こちらにも、理由があるのです...」


美玲「ッ!?」


ゆっくり歩きながらアナスタシアは自分の右腕に能力を発動させる

腕の表面に冷気が奔る

肩口から肘へ、肘から手首へ、手首から指先へとそれが広がっていく

ピシピシと角ばった音が鳴る、右腕がその硬いものにパキパキと包まれていく


美玲「なんなんだそれ・・・?何する気だよ」

アナスタシア(ボット)「もちろん、戦います」


それはまるで氷柱、

アーニャの右腕を氷が包み、その先端が肩から指先に向かうに連れて鋭く尖っている

その様はカマキリの腕にも、馬上槍を構えた騎士にも見える

包丁やナイフといった凶器とはどこか現実離れした外観が逆に脅威として美玲の瞳に映っていた

美玲「はぁ!?」

美玲はまだ状況が飲み込めない、チュートリアルを強制的にスキップされたから頭が追いつかない

アナスタシアの一部を覆う氷の中に細身の女性的な腕が見え隠れする、氷の表面がチカチカと光を反射していた

アナスタシア(ボット)「この氷は...正直、重くて邪魔なのですが、これも能力を使うには必要なのです」

美玲「は、能力・・・晶葉の言ってたヤツ、か・・・?」

アナスタシアは歩く、美玲は動かない

先頭というなれない行為に移れない


美玲「(なんだ、なんなんだよ!なんでアーニャが刺はやしてるんだッ!?あれか?ボットとかいう・・・)」


アナスタシアはゆっくり歩いてくる、その所作があまりにいつも通りなのでまだ現実での感覚が抜けきらない

美玲は彼女の右腕を見る、彫刻にでも使えそうなサイズの氷塊がくっついていることだけがこの場における唯一の不自然だった

そしてその氷の中に誰かがいた

こっちを不思議そうな顔で見つめている


美玲「(だれ、じゃない・・・)」


氷の中ではなかった。それは氷の表面に映った顔だった


美玲「(あれ、ウチの顔じゃん)」


氷の表面に映った自分の顔が見えるくらいの距離

アナスタシアと美玲の間は数十センチに縮まっていた




アナスタシア(ボット)「...痛くは、ありません」



氷に映った美玲がブレる

氷の槍がが振るわれた

精神的な意味においてスタートダッシュの地点で致命的に出遅れたプレイヤー、早坂美玲

不十分な理解、そして不足した経験の彼女を無慈悲な暴力は待たない


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ぱちっ


きょろきょろ


ぱちぱち、


ぱくぱく


地面の上を何かが這い回る、甲虫のようなそれに肢はない

オタマジャクシのようにひょろひょろと目的もなくどこかへ漂っていく


みく(ボット)「にゃあ、のあチャン?何見てるのにゃ?」


のあ(ボット)「何を見るべきか、何を知るべきか......それを見極めることもまた、観察には欠かしてはいけない要素...」


みく(ボット)「よくわかんないけど、のあチャンの体からいっぱいお目目が這い出てくるのは軽いホラーにゃ、何やってるのか説明をよーきゅーするにゃ!」


アナスタシアが潜入した工場の入口脇で二人のボットが座っている

だがいささか奇妙な光景だった

一人は猫のように手足を地面にぺたりと付けて座っているし

もう一人に至ってはもたれかかった壁に半分溶けかかっていた

まるでその工場のコンクリが生乾きであったのかと疑いそうになるほど自然に溶け込んでいる

ゼリーに差し込んだスプーンのようだ



さらに妙なことにその人物を中心に壁が波打ち、その度に小さな虫のようなものが蠢きながら地面へ滑り降りていく


いや、虫ではない、それははっきり言ってまぶただった。


人間の瞳を覆う皮膚の部分、それが何枚も何枚も地面へと走り出していた

よく見るとまぶただけでなく耳たぶのようなものもある

もうひとりの少女はそれを怖々と眺めているだけ


みく(ボット)「で、どうなの?なにか面白いもの見えたにゃ?」

のあ(ボット)「少し待って頂戴...いま視覚をつないでいるところよ」


そう言うとのあは目を閉じ、能力の精度を上げる作業に入った


みく(ボット)「にゃあ、アーニャも、のあチャンが工場の中からプレイヤーを見つけた途端に意気揚々と行っちゃったから暇にゃあ・・・」

のあ(ボット)「.........」

自分の体から切り離した部分を建物と混ぜ、擬似的にボットとして自分の一部にする

そうやって作られた眼球や耳は合計で15個

これ以上のことをやるにはもう少し能力の出力を上げなくてはいけないがまだこのままでいいだろう




__?___・・・___。___!___




のあ(ボット)「......!...」


走らせた「耳」がこの近くから何かの声をキャッチした


ゲーム開始からまだ30分と経っていないにもかかわらず既に接触を始めた者がほかにもいるのだ


その耳が拾う音に集中する




「あの、扉、開きません...それに能力も使えなくなってるみたいです......」


「あらら・・・あたしの尻尾もなんか三本しか出せなくなってるし。どゆこと?」


「能力、確かに発動しませんね?どうしたんでしょう・・・う~ん」


「なんだか...眠くなって、きました...」


「あぅう...私たちボットなのに...このままじゃ、役割を果たせません、どうしよう...もしかして...わ、私のせい?」


「まあまあ、待ってればそのうち開くって」


どうやら一箇所に集まっているようだがその会話の意図するところが読み取れない

能力が発動しない、それに閉じ込められている・・・?



のあ(ボット)「これは、知っておくべきことね」



その耳のいる場所に他の眼球を移動させるよう支持を飛ばす

自分の一部であるそれらは一糸乱れぬ動きでその命令に従った

耳のいる方向にひょろひょろと肌色の虫もどきが集まっていく

視覚を共有しているのあにもその映像が見え始めた


のあ(ボット)「(家?...それにしては...あまりにも朽ち果てている...どうゆうこと?)」


視界に映る建物はまるで何年も放置されていたかのようにそこらじゅうにヒビが入り、窓も割れていた

眼球が視界に捉えたその、廃墟というべき建物に近づいていく


遠く離れたところからの眺めが徐々に距離を詰める

建物の窓から中が覗けそうだ

もう少し、もう少し



ザザッ・・・!
ッザザザザザ!



のあ(ボット)「(......?何かしら...映像に乱れが......)」







ブチュンッ!!!!














廃墟に近づいた眼球が全て破裂した









のあ(ボット)「!!?」


みく(ボット)「にゃにゃっ!?どしたの、のあチャン?」


のあが閉じていた目を見開く、表情は驚愕一色だ

みくが心配そうにその顔を覗き込む


みく(ボット)「何見たの?何があったのにゃ?」


のあ(ボット)「.......ただの廃墟じゃなかったのよ...」

落ち着きを取り戻したのあが言う、自分が知ったことを


みく(ボット)「...?」


のあ(ボット)「あの家は朽ちていたんじゃない...」


のあ(ボット)「私の一部が潰れたことで遅まきながら理解したわ」


のあ(ボット)「あの家があれほど壊れかけて見えたのは、内に封じた者達の影響よ」


みく(ボット)「にゃあ・・・ぜんぜんわからないにゃあ」

まるで自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐのあにみくが小首をかしげる


のあ(ボット)「埓外の能力が含む情報量が、あの家を内側から崩壊させようとしているのよ、私の眼球を押しつぶしたように」


みく(ボット)「にゃあ?能力が家を、ほーかい?」


のあ(ボット)「......みく、準備しなさい...」


みく(ボット)「にゃ?」



のあ(ボット)「見るべきものよりも、知るべきことよりも......今はもう、動くべき時よ」



のあ(ボット)「こうしてはいられないわ、あれが解き放たれれば私たちも無事では済まないもの」



のあ(ボット)「レッスンよ、アーニャに合流するわ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日は短め

色々はじまるのはもう少し先かも

コメントありがとうございました

>>21 前スレのリンクは冒頭に貼ってますえ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
早坂美玲



「ぎゃん!?」


背中がヒリヒリする

ウチがまず感じたのがソレだった

思いっきり吹っ飛ばされてザリザリって変な音がして目の前に天井が飛び込んできた

視界の隅の方でアーニャが右腕を不自然に掲げているのを見てようやくウチがあの右腕にブン殴られたと分かった

ウチはいつの間にかは仰向けに地面に横たわって天井を眺めていた


美玲「何するんだオマエぇ!?」

地面に手をついて起き上がる、意外と痛くなかったからできたけど頭の中はまだハテナマークがぐるぐるしてた

アーニャはなぎ払った右腕を構え直して、よく見ると足元に氷のカケラがいっぱい散らばって鈍く光を反射してた

ウチを殴りやがった時に壊れたみたいだ

フン!何も言わずにいきなり暴力振るうからだし!!

アナスタシア(ボット)「.......やはり痛いのと、それに似た感覚がないと...すぐに起き上がってきます...ね」


ゴリっ、

アーニャは床に散らばった氷を踏んづけるとまたこっちに歩いてきた

しかも、右手にはまた氷が張り付きはじめてるじゃん!


美玲「それズッこいぞ!何回も使えるなんて!」


少しずつアーニャの腕が太く重くなっていくように見える、しかも先っぽがどんどん鋭くなってるし!

ウチは後ろを向いて逃げ出した。

出口がどこにあるかわかんないけどとりあえず訳のわかんない機械よりもあの尖ったのから逃げる方が先決だった


アナスタシア(ボット)「...逃がしま...せんよ?」


ガリッ

後ろから、硬いもので地面を引っ掻いたような音が聞こえた

そして強い足音

アーニャが走って追いかけてきたんだ!

ウチはでっかい変なマシンに狭められた通路を走り抜ける


美玲「はあっ、はあっ、はあ・・・!」


なんだよこれ!めっちゃ疲れるじゃんか!?プロデューサーのヤツ、こんな大変なのを楽しめなんて言ってきたのか!?

丸っこいボタンやスイッチが壁にセミみたいにビッシリ張り付いてるのが気持ち悪い


美玲「あっ!」

植物のツタみたいに垂れ下がった導線とかチューブの向こうに扉みたいなのが見えた

あちこちを見回しながら走っていたウチはそこに方向を決めて足に意識を集中した



後ろからはガツンガツンと騒音がなってる、

アーニャのデカい腕ががいろんなものにぶつかって走りにくいんだな


工場の壁にこじんまりと付けられた小さい扉、

モノを運んだりするんじゃなくて作業員用の入口だからあんなちっちゃいのか?


工場の地面の上ででっかいワニみたいに横たわってるベルトコンベアを飛び越えて扉までの道をショートカット

もうちょっとだ!


美玲「むぎぎぎぎぎぎ!」

運動会のかけっこの時みたいに手もぶんぶん振って走る、眼帯のせいでちょっと距離感がわからないけど

そして、ドアノブをがっちり掴んだ、そのままの勢いで体当たりする

美玲「だあっ!」

でも引き戸だったみたいで、ウチは扉に跳ね返されて、


その扉に氷柱が突き刺さった


アナスタシア(ボット)「凍らせた水は...とっても硬い、です」


扉にかじりつくような位置にいたウチに間違って刺さりそうな場所、

扉と床を一緒に縫い付けるみたいに透き通った氷が貫通してる

これじゃ扉はあかない




美玲「あ、あ・・・」


振り向くとベルトコンベアの向こうにいるアーニャが、こっちに向かって何かを投げつけるようなポーズをしていた

右手の氷は剥がれてる。剥がれた氷は今ウチの十センチ横に突き立ってた

氷の表面に映ったウチの顔は、今度は青ざめてた


美玲「こ、こっちくんなバカああああああ!!」


壁沿いにむちゃくちゃに走り出す、壁から生えてるボタンに方がぶつかるくらいスレスレに、アーニャから少しでも離れるように

どうしよどうしよどうしよ、扉あかなくなっちゃった!逃げられないじゃんか!


ウチの声のせいで後ろから足音が聞こえてるのかわからない、だから余計に混乱して大声を上げる


美玲「があああおおお!!」


蛇みたいに床をのたくるコードに足が引っかかる、けど無理やり立ち直して走り続ける右に曲がってり左に曲がったりもしたけど機械がジャングルみたいに入り組んでいてわかんない

そのジャングルが急に開ける

美玲「!?」

ちょっと離れたトコに氷の粒が散らばっている

そこはさっきウチがいたところだった

美玲「戻ってきちゃった・・・」


ガゴンガゴンガゴン

いつの間にか工場のあちこちから駆動音、この部屋の中をぐるっと一周するベルトコンベアが動き始めていた

アーニャの足音は聞こえなくなった

ウチはアーニャの姿を探そうと周りをきょろきょろ見まわす

ベルトコンベアは床だけじゃなくて、山を描くみたいに斜面になって、ウチの背より高いところでも動いていた


ガコンガコンガコンガコンガコンガコンガコン・・・


灰色の機械がまるで内臓みたいにおんなじ動きを繰り返してる

その中に一つだけ灰色じゃないものがあった、色鮮やかなピンクのものがポテッと置かれている


美玲「ウチの手袋・・・」


ボットが付けてたヤツがそこに残っていた。

ウチはそれに近づいて手に取る、なんでこれだけ残ってたんだ?しかも両腕とも



ピロン



美玲「わっ!??」


いきなりどっかから電子音が聞こえてきた。

携帯のメール着信みたいだ

手袋を両手に掴んだままあわてて周りを見渡す

周りには誰もいないから上もついでに見上げてみる


ガコンガコンガコンガコンガコン



















アーニャと目があった





ウチの頭の上を走るベルトコンベアから身を乗り出してこっちをじっと見ている

瞬きもせず見開かれた二つの碧眼にそのまま吸い込まれそうな気がした

こっそりウチの近くまで移動してきたアーニャが右腕をこっちに向けたままそこから飛び降りる

キラキラ光るでっかい氷柱が落っこちてきた




美玲「うわあわあああ!!」


その場から横にジャンプする


なんとかアーニャが飛び降りる前に気づけたから間に合う____



アナスタシア(ボット)「...先手は打って、ます」



___はずだったのにウチの足が動かなかった



その場で転ぶ、今度はうつ伏せで地面に叩きつけられた


美玲「がふっ」


声を漏らそうとした瞬間、ずぶり

ウチの肩を凍った槍が貫通していた

針とかバラのトゲの十倍くらいの大きさのとげが背中から入って鎖骨のあたりから出ている

床に突っ伏したウチのすぐ真横に突き立った


なのに

なのに


アナスタシア(ボット)「...痛く、ないでしょう?」


冷たくも、熱くも、しびれたりも、ましてや痛くもなかった



アナスタシア(ボット)「...私の能力は、知覚消失」


ぐぐぐ、


体に刺さった刺に力が加えられたのが感じられる、痛くなからそれを冷静に理解できた

体の中を通っているはずなのに、それがわからない。

ちょっと押さえつけられているだけのような気がしてくる


アナスタシア(ボット)「えっと...麻酔、を打たれた部分を触られても分からないのと同じです。私の氷は一切ダメージを体感させません、ただスタミナを減らすだけです」


背中側からアーニャの声が聞こえる


何が言いたいのかわかんないけど、ようするにアーニャに殴られても痛くないってことか

そういえばさっきも地面にぶつかったときは痛かったけどそのまえに殴られたのはわかんなかった


地面に押し付けられた、いや縫い付けられた?その状態で首だけ動かしてアーニャを振り返る


アーニャの左腕に氷が張り付き始めていた。

ゆっくりとだけど腕の周りに角ばったガラスのようなものがまとわりついてる



そのときウチの足が見えた

針のように細くて、シャーペンくらいの長さの氷柱がウチの足と床をつないでいた

美玲「はぁ・・・?」


いま目で見るまでわかんなかったし、今見ても信じられない

なんにも感じなかった


アナスタシア(ボット)「美玲がこちらに気づく少し前に...上からこっそり落としました......うまいこと足に刺さって、よかったです」

ウチの足が動かなかった理由がわかったけど、どっちみち足と肩を抑えられてて身動きできない


パキ...ピシ...


左腕に氷が集まってる

こっちは氷柱というよりハンマーだ。丸っこい氷の塊が左の拳を中心にどんどん大きくなっていく



アナスタシア(ボット)「撲殺でも...痛くは、ありません...一瞬です」

美玲「やッ!」


美玲は思わず目を強く瞑った

アナスタシアはそれを確認し、ほっと息をつく


槍の右腕、槌の左腕

槍で牽制して槌を振るう

だが元より痛みのない世界、さらに彼女の能力なら痺れすらも感じさせない

だが、どうせなら何も感じずに済むに越したことはないのだ


目を閉じていれば、何も知らずに終わらせられる、私の能力はそういうものだ


アナスタシアはずっしりと重くなった左の拳を肩の高さまで持ち上げる

あとは足元に押さえつけた小柄な少女に叩きつければ十中八九何も知らずにゲームオーバーにできる

目を閉じていれば彼女はいつ自分が攻撃されたかすら知ることはできないだろう




アナスタシア(ボット)「まずはодин...一人目、です」




せめて一撃で終わるように、手加減をなくすために、肩よりもさらに腕を押し上げていく、少しずつ氷のグローブがもち上がるにつれ、左手が不安定に揺れる

振り下ろす。


重いものが落下する速さと、それに相乗させた腕力が氷塊に致死の破壊力をもたらした




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アナスタシアの左腕は美玲の背中の中心、

丁度心臓を後ろから叩ける場所に命中していた


アナスタシア(ボット)「・・・?」


だが、手応えがない

クッションのようなものに止められている


柔らかい素材でできたもの

それは手袋だった


早坂美玲がライブで使っていた3本の爪をモチーフにした手袋

その爪は柔らかい素材で出来ていて、ありえないことにそれが重さ数キロの氷の拳を止めていた


だが、それはおかしい。

その手袋は美玲が腕の中に抱えていた

そして彼女は今うつ伏せに倒れているのだから、手袋は彼女の体と地面のあいだにサンドされているはずだ



アナスタシア(ボット)「.........なんです、それ...」




アナスタシアは美玲の心臓を背中から攻撃した



そして手袋は、なんの弾みでそうなったのかは知らないが

その攻撃を止めることに成功していた















美玲の心臓を体の前面から貫通し、背中側から飛び出ることで



ゲーム開始14分経過

早坂美玲 能力獲得


早坂美玲VSアナスタシア(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

短め


能力解説は次回


美玲のチャプターはハードモードなので能力一つ程度じゃプレイヤーに有利にはなりません。悪しからず

コメントありがとうございました

乙乙、開幕からクライマックスとはいえ美玲ちゃんに厳しすぎやしませんか?

乙 美玲ちゃん頑張れ~
のあさんより強い三人の能力が気になる


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


チャプター
早坂美玲


仮想現実の世界において出血はない、骨折もない、肉体損壊などもってのほかだ

晶葉とプロデューサーによりそういう仕様になっている


だから美玲の肩を貫いてる氷の槍に血液や体液の類は付着していない

それにここで槍を引き抜いても体に穿孔が残ることはない

それはそれで不気味だが、もしそうじゃなかったらもっと洒落にならない光景になるのでそれを思えばマシだった


と、ボットでありながら人間臭い思考を辿り、アナスタシアが美玲を傷跡一つ残さず叩き潰すはずだった

だがどうだ、決定打となる氷の大槌は不自然に止められている

ピンク色の三本の爪が美玲の体を前から後ろに貫通し、あまつさえ自分の氷にまで食い込んでいる



見る限り、いやどう考えても布に綿を詰めて作られた爪だ

氷に傷をつけられそうな素材ではないし人体にめり込むようにも見えない

まさか本当に獣の爪にでもなったというのか



アナスタシア(ボット)「(抜けない、この爪?私の氷に刺さって...ます?)」

美玲「・・・・・・?」



いつまでも訪れない攻撃を疑問に思い美玲がうっすら目を開く

氷点下で無痛の槍と偽物の獣爪に前と後ろからえぐられてもなお未だ致命傷に至ってない

だが美玲にとって視覚的な衝撃は十分だったようだ、眼帯で隠されていない方の目を驚愕に見開く


美玲「ウ、ウチの爪、氷!?」

アナスタシア(ボット)「!・・・美玲っ!」


とにかく次激のために一旦腕を、だが左手は爪に取られている

アナスタシアは右腕を肩から抜いた、美玲の体が引っ張られる、だがそこに痕はない

引き抜いた拍子に指先の纏う氷柱が折れて砕けた

肩の楔が取れた拍子に逃げ出そうとした美玲に爪ごと左腕を押し付ける




この爪はまずい

アナスタシアはその直感で動いた



アナスタシア(ボット)「(右手を完全に氷柱にするまで十秒・・・ですが五秒、いや三秒で、します)」



握っていた右拳を開き、貫手にする

指そのものを氷柱にするイメージ

そのまま肌の表面だけに霜のように氷を薄く貼り付ける

氷ですっぽりと腕を包んでしまうのではなく、氷のコーティングだけに済ます事で攻撃準備時間を大幅に短縮した



美玲「おお、おい!?」

アナスタシア(ボット)「つぎこそ・・・!」



左手が重しになっている美玲はまだ動けない


氷を貼った右手は氷柱よりリーチが短い

だからアナスタシアは倒れこむように膝を着き、

そして右手を突き出した


揃えられた五本の指が空を裂く

今度は美玲も目を閉じてなかった、間近に迫る攻撃に戦慄し、指先がこわばった



アナスタシアの尖った指

美玲の震えた指



バキンッ!







先に相手に届いたのは美玲の「氷の爪」だった



美玲の体から突き出て、氷に食い込んだ爪が

氷を破壊すると同時にまるでネイルアートのように爪先に氷をくっつけたまま動いた

いやそれはただ単に氷の重さで爪の一本が倒れただけかもしれない


自分を固定していた左手の氷がいきなり砕けた瞬間、アナスタシアの姿勢が崩れる

しかも美玲のすぐそばに膝をついた態勢、氷の爪の攻撃圏内だった


アナスタシア(ボット)「ヤー...私の...こ、おり!?」


まるで自分自身の左手に殴られるような錯覚

もともと大きめだった氷塊、

亀裂が入り、尖ったそれが爪となって自分に向かってきた

美玲「もうなんなんだよ!」



自由になった左手を翻し、美玲の横から飛び退いた

その美玲も慌てて立ち上がった


アナスタシア(ボット)「よく分かりませんが、能力に救われましたね、美玲...」

美玲「能力・・・?ってなんだよこれぇ?!」


立ち上がった美玲が自分の体を見下ろして叫ぶ

手袋が二つとも、ひとつは心臓の上、もう一つはその少し横、右胸に埋まっていた

それを両方とも一度に引き抜く、普通体に異物が食い込んでいたら無闇に引き抜いてはいけないのだが、混乱した彼女の行為を咎める者はその場にいない


ガリッ ゴトッ



心臓に刺さっていたものを抜いた時、背中側に突き出た爪先にくっついていた氷がこそぎ落とされた。あれだけ強固に食い込んでいたものも外れるときはあっという間だ


美玲「はぁー・・・はぁー・・・」


爪の手袋を両手に持ったままここまでの怒涛の展開に乱れた呼吸を整える


それぞれ少しずつデザインの違う爪、共通点はどちらも3本であること

そしてそのどちらも美玲の体に一切ダメージを与えてなかったこと

美玲本人も背中に目を向けるまで刺さっている自覚がなかったくらいだからその点においてはアナスタシアの氷と似ていないこともなかった


無痛の氷と無害の爪



だがアナスタシアはそうは解釈しない


アナスタシア(ボット)「(あの、能力......見たことがあります)」


体を貫かれてなおノーダメージでいられる能力、その能力が似ているのはむしろ自分よりも・・・



アナスタシア(ボット)「(...のあ、)」



物体と一体化する能力を持つ高峯のあに物理的攻撃はほぼ無意味


槍も銃弾も全て飲み込まれる、だからといって肉弾戦を挑もうとコンクリや鉄と一体化すればそれも効かない


手袋の刺さっていた美玲の様子はそれを彷彿とさせた


アナスタシア(ボット)「(...ですが、まだ美玲の能力がそれと決まったわけでは、ありませんし...)」


左手を見る、そこに纏わせていた大玉の氷は叩き割られたようにえぐり取られ、手指がむき出しになっていた

あのなんでもないおもちゃのような爪モドキのせいで、だ。

アナスタシア(ボット)「(例えば、あの爪は、刺さった”物体だけ”を破壊できる、とか......それなら体は無傷だったこと、とも繋がります...)」


美玲を見ると彼女は既に手袋をはめていた。自分の体に刺さていたものとはいえさっき自分の身に起きたことからアレが武器になることを察したのだろう

しかし・・・やはり何度見ても破壊力のある装備とは思えない



美玲「ガルルルルルル・・・・・・」


アナスタシア(ボット)「............」


アナスタシアからは美玲がどういう思考の末、逃亡から戦闘に意識を切り替えたのかはわからない

あの爪が武器になると確信したからか、使いこなせる自信があるからか、すでに能力の全容を把握したからか


なんにせよ、戦わなくてはいけない


アナスタシア(ボット)「......гвоздь 」


水晶のような透き通った物質が指先にくっつく、そこに更に氷がまとわりつく

だらりとぶら下げた両腕。そこから伸びる指全てに、鍾乳洞のように少しずつ下へ下へと氷がコーティングされていく

指の一本一本が細長い氷柱になっていく、最初のものよりずっと細く、ずっと脆そうだ


アナスタシア(ボット)「私も......爪、です」


出来上がったのは十本の細長い氷爪

その本数もリーチも美玲のものを上回っていた



美玲「が、が・・・がおおおおおおッ!!!」


一瞬ひるんだ美玲がそれでも果敢に飛びかかってくる


狼を模したおもちゃの爪2×3本、鶴の嘴のようにピンと伸びた氷の爪10本

装備”だけ”見ればアナスタシアに分があった


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


よくわかんないけどこれがウチの武器なんだ

手袋の中身がぎゅうぎゅうと指を圧迫してくる

この爪で自分の体を触ろうとは思わない、また刺さったらなんかヤだし


地面を蹴っとばす


アーニャに飛び込んでいく




美玲「が、が・・・がおおおおおおッ!!!」


両手を振りかぶる

まだノーリョクとかちゃんと使える気はしないけど

多分、さっきみたいにぶっ壊したりなら普通にできるんだッ!


パキンッ


ウチの左手に手応え。アーニャの氷が折れていた

攻撃に合わせて持ち上げた右手、その小指についていた氷の爪が指を離れてくるくる回って飛んでいく



アーニャはそっちを見もしない、ただ右手首を回しただけ、

それだけで残った四本の爪が弧を描きながらウチを狙う

爪が長いから手首を動かすだけでもウチに当てられるんだ!

目を瞑って反対の爪をむちゃくちゃに振り回す、また手応え。パキパキって二回も

でも急に手が動かなくなった、空中でぴたっと釘付けにされる

ウチは目を開けた


アーニャの左薬指から伸びた爪が手首に刺さってウチの手の動きを止めていた


感覚がないから目で見るまでわからなかった

美玲「・・・やめ、ろッ!」

アナスタシア(ボット)「ニェート...やめません」

反対の手首にも爪が刺さる、今度はアーニャの右親指の爪

痛くないけど動けない、串刺しにしている爪が長いせいでウチとアーニャは近づけない

アーニャの爪は残り7本

その内の2本がこっちを向いた、左右の中指がゆっくり曲がっていきその先端についた氷がウチに狙いをつけてる

アーニャは指を動かすだけでウチを狙えてる

ウチは手首を固定されたまま足を踏ん張ってアーニャ体当たりしようとするけどそれも食い止められる


美玲「んぐぐぐぎぎぎ・・・」

アナスタシア(ボット)「力押し・・・ですか・・・!」


ウチの手首を通った氷の爪にヒビが入っていく

アーニャは攻撃を一旦やめてウチに対抗してきた、押し合いだ

でもウチの体はちっさいからちょっとずつ負けてきた

でも二人分の力で挟まれた氷の爪はどんどんヒビが増えてきてる


美玲「がるるるるうう!!!」

アナスタシア(ボット)「・・・・・・!!」


氷が割れてもウチの爪がアーニャに当たるかは分かんない

それくらい氷の爪は長いんだもん



靴が地面に擦れる音


二人で歯を食いしばる音


ウチとアーニャをつないでる氷がゆっくりひび割れる音



ぴきぴきぱりぱり


この音が次の動きまでのカウントダウン


爪ごと拳を握る、刺された手首にも力を込める




アナスタシア(ボット)「...っ!?」



アーニャもうちを抑えてる爪に力を込める、でも爪が長くて拳が握れないから力が込めにくそうだ



美玲「がるうぅぁあ!!」











ぱきっ!







溜めに溜めたウチの腕の力が自由になった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

早坂美玲は直進する

突き出した両手をアナスタシアに向けて

美玲「がおおおッ!!!」


アナスタシアは一歩後ろに下がった

そして右足を振り上げた

美玲と同じアイドル、若林智香がチアリーディングでやるように、足を高く真上に


パキパキ



右足の踵には既に氷のナイフが作られている



美玲は突き進むつもりだった、だから氷の楔をへし折る気で突貫している

アナスタシアは迎え撃つつもりだった、だから氷の楔をへし折られても良かった

仕込んだ刃物は研がれていたのだから

二人で力比べをしている間に着々と踵を尖らせた氷で覆っていたのだから



アナスタシアが一歩下がったことでできた間合いに美玲が踏み込む



右足を振り下ろせば脳天に氷のナイフが突き刺さる





アナスタシア(ボット)「...ふっ!」







だから振り下ろした




わざわざ氷の爪を十本も用意したのは囮だ。質より量のブラフ

どうせ美玲の爪で破壊されてしまうのなら最初から脆くていい、数だけ増やせばそれで事足りる



天に向けて持ち上げられた白い脚がしなやかに動き、

氷の刃が落下するより速く美玲に迫る



それは、美玲にとって雷のようだった




美玲「   」


アナスタシア(ボット)「   」





破壊音





アナスタシアの足は美玲の脳天をかすめ、その腕に振り下ろされていた



氷が砕ける音、アナスタシアのではない





美玲の”爪に貼り付けられていた氷”が砕けた音だ






まるで磁石で砂鉄を集めたように美玲の爪には今まで砕いた氷がくっつき、

その攻撃を硬く、強く、リーチを長くしていた


アナスタシア(ボット)「げほっ!......シトー...?」

美玲から距離を取る、一歩ではない、1メートル以上、3メートル距離を置いた



美玲「・・・どうだ!!い、痛くないけどビックリするだろッ!!」



アナスタシア自分の体を見下ろす






腹に刺さった氷柱の中に銀髪と碧眼が映りこんでいた



踵のナイフが届く前に美玲の爪が

いや、爪の先に貼り付いた氷柱がアナスタシアに命中していた

足より短かった分、至近距離では腕に分があったようだ


いたくない、いたくない、何も感じない


アナスタシア(ボット)「(...大体分かりました)」


氷柱が腹から滑り落ちる、地面に叩きつけられて三つに割れた

美玲は腕を蹴り下ろされて地面に倒れている


アナスタシア(ボット)「(爪は氷をただ破壊したわけでなく......おそらく食い込んだところから氷を分解して、爪の”パーツ”にした...)」


そしてそれが通用するのが物体だけだったのだ、体にめり込んでもそれは分解できないから無害だった

アナスタシア(ボット)「(爪自体は本当にただの飾り、だから能力がその強度を補って......)」


ベギギ、ボゴッ


美玲「ぐるるる・・・手が重いい!!」


アナスタシア(ボット)「......アー...」



美玲が立ち上がろうとする

手袋は工場の床に埋まっていた、さっきの踵落としのせいで

それを引きぬこうとしていた


ボゴゴゴ、バギン、ギギギギ


コンクリらしき床に亀裂が広がる


もちろん14歳の腕力で砕けようとしているのではない

美玲の手袋の能力が発動しているのだ

コンクリを剥がして、爪を強化するパーツの形にしている

アナスタシアの左手の氷で作った氷の爪のように


美玲「んがああ!!」




亀裂が弾け、床がえぐり取られる



えぐり取られた部分は小さな少女の両手に凝縮されていた




アナスタシア(ボット)「...強そう......ですね?」



その手袋に、最初のおもちゃじみた印象はない、

重量を持った灰色の破片がバスケットボール大の拳になり、そこから骨組みの鉄材が鋭く飛び出ている

釘バットよりも大きくて凶暴な見た目、脅しではない殺傷力が見て取れた


少なくとも氷で作った盾で防げる質量ではなさそうだ

アナスタシアは次の動きに迷う、逃げるか?どこに?闘う?氷と鉄同士で?


美玲「さっきのお返しだし!!」


美玲が再度突っ込んでくる、さっきの失敗から学んでいないのか、だが今度は失敗しなさそうだ

アナスタシアは足に力を込める、避けるために



アナスタシア(ボット)「......?...!?」


ぐらり


視界が揺れた、腰に踏ん張りが効かない


アナスタシア(ボット)「(さっきのおなかへの一撃が...思ったより効いてた......?)」


痛みも感覚もないと致命傷が分からない、自分の能力が裏目に出た結果

美玲によるまぐれの一撃がアナスタシアの足を一瞬だけ引っ張った


ほんの一瞬


美玲の両腕の先、コンクリから飛び出した太い鉄棒が振り下ろされるまでの時間だった


アナスタシア(ボット)「(氷は___)」


____自分の身をコンクリから守れるほどの強度はない


























みく(ボット)「ねこぱんち☆」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで

美玲ちゃんはまだまだハードパート

美玲ちゃんに投票したから許してください



日本語が特に大変なことになってたのでここだけ訂正

できればほかの場所も訂正したいけど多すぎて断念

>>1

池袋晶葉の協力の下、とある企業で作られたデジタルで作られた空間で仮想現実を体験する機械がつくられる



池袋晶葉の協力の下、とある企業でデジタル上の空間で仮想現実を体験する機械がつくられる

コメントありがとうございました



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲


無我夢中とかいうヤツでアーニャに両手を突き出したとき、

ウチの両手には変なのが付いてた

そのまま突き出すとアーニャのお腹に刺さって、でもウチも踵落としされてそのまま突き抜けたりはできなかった

ウチの爪は今度は床に埋まりこんだ、しかも抜けない

前を見上げたとき、アーニャに刺さった氷柱を見て、初めてウチは自分の爪にくっついてたのがアレだったと分かった


美玲「(え?・・・ウチの爪になんでアーニャの氷柱が・・・?)」


でもそんなの考えてる余裕なんてない

ウチの頭にあったのは


美玲「(もっとデっかくて、強そーなのを・・・!!)」


踵落としのせいで無理やり頭が冷やされた

ウチはこの手袋だけじゃあ何もできない

さっきの風景を頭に描く

爪の先っぽに接着剤で付けられたみたいになってた氷のトゲを思い出す


美玲「(刺さるときはスポッと刺さるのに抜けない!!)」


手袋が何かとくっついたセでウチの手が動かない



美玲「ぐるるる・・・手が重いい!!」



地面に切れ目が入ってくる、ビシビシって音が聞こえる

でもウチの腕の力のおかげという感じはしない


美玲「んがああ!!」


地面とウチを無理やりつないでたモノが断ち切れて、勢いよくウチの両手が跳ね上がった


美玲「(また・・・くっついてる!!)」


ウチの両手はゴツくて重たそうな鉄とかと合体してた

うまくやれた!

アーニャを睨む、さんざん怖い思いさせやがって!!

いやいやいや!!!別に怖くなんてなかったしッ!言ってみただけだし!



美玲「さっきのお返しだし!!」



ずっしり重たくなった両手に振り回されて、フラフラした走りだったけどアーニャに向かって走って

アーニャが近づいてくる、綺麗な目がこっちを見てた

そのデカいのを一気に振り下ろす



みく(ボット)「ねこぱんち☆」


それを横から飛んできたヤツが邪魔しやがったんだッ!

上から下への一直線の動きのはずだったのに、それを思いっきり横に押し出されたウチはその場でくるくる独楽みたいに回りそうになる

ウチの右手は丈夫だから無事だったけどその重さに振り回され転びそうになる



みく(ボット)「にゃあん!危機一髪のとこだにゃ!」



ウチの右からすごい速さで体当たりみたいなことしてきたのはみくだった

さっきまでいなかったし、足音もなく一気に近づいてきてた

今は猫耳と尻尾の飾りを揺らしてアーニャの側に立って、心配そうにその顔を覗き込む

よく見たら少しだけアーニャの顔色が悪い



アナスタシア(ボット)「アー...すいません、みく...すこし、急所をやられました」

みく(ボット)「だいじょーぶにゃ、みくも来たからには安心にゃよ?」

アナスタシア(ボット)「...ところで、どうしてここに...?...ここの、プレイヤーの相手は私のはず、です」

みく(ボット)「ん~、のあチャンが、何かを見たらしいんだけど・・・みくよくわかんないにゃ」




みく(ボット)「にゃ?」

美玲「がぁあおぉおおッ!!!」


二対一、ウチはそれでも突っ込んだ

いきなり襲われるし、ウチの爪が変なことになるし、ここに来てからよく分かんないことばっかだ

プロデューサーはゲームだとかなんとか言ってた。手を抜いたら多分良くないことになる、それぐらいは分かった


みくはアーニャの肩を抱えて後ろに跳んだ、びっくりして飛び退いた猫みたいな動きでいきなりウチと離れていく

いくらアイドルがレッスンで鍛えてるからってあんなアクション映画の主役みたいな動きはできない


そのまま後ろ跳びで壁の真ん中らへんの高さのベルトコンベアに飛び乗った、その上を運ばれていく


みく(ボット)「にゃはははん!垂直跳びにゃ!」

美玲「に、逃げるのか!?ずっこいぞッ!」


アナスタシア(ボット)「...みく...?美玲は、どうするんですか...?」


ベルトコンベアの真下まで慌てて走っていったけど、みくのいるとこまでは高過ぎて爪も届かない

ゴトン、ボロボロ

ウチが走ってる間に爪にまとわりついた部品が取れていった、ウチの足跡をなぞりながら破片が散らばる

接着剤が剥がれたみたいだと思った、肩が軽くなったけど武器がなくなったみたいで心細くなった


みく(ボット)「アーニャはみくと一旦離脱にゃ」

アナスタシア(ボット)「...シトー...?」

二人がコンベアの斜面を上がってどんどん遠のいていく、何か話してるけど聞こえない



美玲「うぐぐぐ・・・いきなり襲ってきて逃げるとか・・・!」



みくたちはベルトコンベアからさらに上の方にあるパイプとかに飛び移って天井に向かっていく

工場の壁のそばにはコードやボタン、おっきい箱がいっぱいあったから壁は登れそうだった

でも登れたとしてもウチの体力と腕力じゃあ追いつけそうもない、




美玲「(・・・登る、か・・・)」








壊す?


ウチはその思いつきを実行に移した。

目の前にある壁に思いっきり両手の爪を突き刺す

何の抵抗もなく柔らかいはずの手袋の爪先は埋まりこんだ

ウチが壁に突き立てたトコを中心として勝手に亀裂が走り出す

手袋に包まれたウチの手にゴツゴツものが寄ってくる

亀裂は落ちてきた雷を下からなぞるみたいにジグザグしながら工場の天井に広がっていく

コンクリがさっきよりずっと大きく抉れそうだ

みく(ボット)「げっ!?っにゃ!」


壁から鉄の板っきれとかボルトが弾き飛ばされてウチの上に落ちてくる

工場の壁中のあちこちを固定してる金具がゆるくなって、落っこちていく

アナスタシア(ボット)「!? 揺れて、ます...!」


美玲「がるるる・・・は・ず・れ・ろぉお!!」


ケーキを荒く切り分けるみたいに亀裂の入った壁が崩れ始める

完成した巨大ジグソーパズルをひっくり返したみたいだった

今、壁から生えてるパイプを登ってたみくたちが一緒に落ちてくる

ウチの頭の上にもいっぱい瓦礫が降ってきてる

逃げようとしたけどウチの両手がそれを止めてきた


美玲「爪・・・?」


今度の両手の材料はコンクリートじゃなくて鉄だった

黒っぽくて、鈍く光ってて、さっきのコンクリートの爪より小さいのにそれよりも重たい

壁の中の一部、水道管とか、ネジ、ボルトがギュウギュウに集められてる

ウチはそれで頭を覆い隠した、上から降ってきたガレキがいっぱい衝突する

ガンガンガンガンガン、鍋をたたいたみたいな音が頭のすぐ上で鳴り続ける


美玲「む!!が!!あ!!」

みく(ボット)「にゃあああああ!??」

アナスタシア(ボット)「...おち、る...!!」


爪の隙間から見上げると二人がバランスを崩してパイプもろともこっちに落ちてくるのが見えた

みくがさっきやったすごい速い動きならあの高さからでも着地できるだろうけど、一緒に落ちてくるいろんなものの下敷きになるかもしれないし

でもウチも逃げないと


ガンガンって音が止まった隙にウチは鉄とかガレキの雨が降る壁から逃げ出す

両腕の先が重くて肩がちょっと痛くなった気がした


美玲「どうだ!!」

「ウチだってやればできるんだモン!!」

走りながら壁の方を振り返ってウチは叫ぶ


ウチの勝ちだろ!コレは!





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

手、腕

右手 左手

右腕 左腕

右手 左腕 右腕 左腕

右腕 左手 右腕 左手

右手 左腕 右手 左腕

右腕 左手 右腕 左手


それらが固く握り締め合っていた


友情を確かめる男たちの握手のように

平和条約を締結した大統領たちのように

アイドルとの握手会で感極まったファンのように



のあ(ボット)「みく、詰めが甘すぎるわ...爪だけに...あら?これは私の芸風じゃあ...ないわね」


今にも工場の床に滝のように降り注ごうとしていたガレキの雨

大粒の流星群にも似たそれらが、映像の一時停止のように






全て、空中で静止していた





わずかに残った壁の一部や、空中にあるガレキ

その中からまるでイソギンチャクの触手のように生えてきた腕たちによって






美玲「はぁああ!?キモチわるッ!!」


至るところから出現した腕は互いにその手を握り合い、落下しようとする重力と渡り合っている

大きなガレキをつなぎ合わせて支える様はまるで不細工なジャングルジムだ。


そこにみくとアナスタシアも掴まっている



みく(ボット)「!!にゃあ、たすかったにゃ!」

アナスタシア(ボット)「...ダー、のあ、そこにいたんですね...」



ベコベコと工場の天井がめくれ上がる、そこにできた穴の淵から高峯のあが美玲を見下ろしていた



美玲「げっ・・・三人目、ってやっぱり逃げる気だろオマエらッ!!」


工場の天井は高い、美玲とのあの直線距離は十メートル近く離れている

みくがアナスタシアを担いで天井の穴を飛び越えるとのあのすぐ隣に着地した


美玲は完全に逃げ切られてしまった



美玲「ぐるるるる・・・!!」


のあ(ボット)「.........もう少し、強い輝きを持った星でいて欲しいところね。」

「私たちがいずれ相手にしなければならない...禍々しい存在に備えるためにも」



アナスタシア(ボット)「シトー...のあは、何を言っているのでしょうか......みく、あなたは知ってます?」

みく(ボット)「うんにゃ、みくもまだちゃんと聞いてないのにゃ」



のあ(ボット)「さあ、行きましょう...こうしている間にも星と時は巡っていくのだから」



美玲「あっ!!待てコラーッ!!・・・ああもう!!」




穴の淵から三人の姿が見えなくなった、美玲は急いで出口の方に走る、さっきは氷柱に封鎖されたが今なら自分の能力で開けられるはずだから





この瞬間、逃げる者と追う者の立場が逆になっていたはずだった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ものの数秒で工場から離れた三人たちが次の目的地への道中、言葉を交わしている


アナスタシア(ボット)「アー、のあ、今回はすいません、でした私の、失敗で...」

みく(ボット)「アーニャ・・・大丈夫にゃ!プレイヤーはまだまだいるんだし美玲チャンはあとでリベンジすればいいんだにゃ!」

アナスタシア(ボット)「はい、今度は、負けません」






のあ(ボット)「いいえ、アーニャ......再試行という行為は確かにデジタルの特権だけれど」



「この世界では”今度”なんてないわ」







その言葉はひどく冷たく、有無を言わさぬ強さをもってアナスタシアに届いた

アナスタシア(ボット)「!......そう...ですか」



名誉挽回の意志を否定されたと感じ、アナスタシアが俯く


みく(ボット)「え、それはアーニャにひどくない?のあチャン」

のあ(ボット)「私はアーニャのことを責めているつもりはないわ」


反駁するみくにのあが平然と返す、視線は前を向いたまま、工場を振り返ろうともしない


アナスタシア(ボット)「...?」

みく(ボット)「にゃ、どういう」








のあ(ボット)「こういうことよ」


パチッ


のあが指を一度鳴らした



そして背後から三人の背中に叩きつけられる倒壊音

ダイナマイトが何百発と爆発したような轟音

ガレキの滝などという生易しい音量ではない



アナスタシア(ボット)「!?」

みく(ボット)「なんや!?」





二人が振り向く






















美玲のいた工場がペッしゃんこになっていた















ゲーム開始15分経過

早坂美玲

VS

高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)&前川みく(ボット)


ボット側の戦闘放棄により続行不可能

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
背後から爆発音がした

彼女たちは振り返った


今日はここまで

次回から他のプレイヤーいきます


コメントありがとうございました

おっつおっつ

のあにゃん容赦なさすぎ



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










チャプター
神崎蘭子









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


トタタタタタタタタタタタ





神崎蘭子(ボット)「ククク...我こそは幻夢の住人にして、汝の影なり...」





蘭子(ボット)「この場にて、其の方を討たせてもらうぞ!」




トタタタタタタタタタタタ


照明は電源が切られている、辛うじて飾り窓のようなところから外の光が降り注ぐ

その施設内は三階建てだったが上から下までを見通せる吹き抜けがあり、そこを通じて一階にも明暗をつくり


水たまりほどの大きさの、ほんの少しの光の円が規則的に並んでいた


蘭子(ボット)「この万物の集う要塞こそ墓標にふさわしい・・・!」


影に隠れた部分ではマネキンが各々好きなポーズをとっている

別の場所には統一性のない色とりどりの菓子類がパッケージごとに積まれ、

また別の方向に視線を移せばケイタイショップの店頭に陳列されたスマホのモデルを確認できただろう



トタタタタタタタタタタタタタタタタタ


そこはデパートのショッピングモール

壁一面に所狭しとジャンルを問わず店舗が敷き詰められた施設

だが人口密度は限りなくゼロ、営業準備すらされていない、光源は窓からの細い明かりのみ



そこで活動しているのもたった二人だけだった



蘭子(ボット)「さて、何処まで、そして何時までその逃走が、許されるか、拝見させてもらおうではないか!」



数少ない光に照らされたその二人のシルエットは全くの同一

同じような歩幅と同じような腕の振り方で、一人が逃げ、もう一人が追いかけている



一つ追記しておくと追う者の胸の一点は赤く点灯しており、その走行に合わせて真っ赤なラインを闇に描いていた

ボットのバッジだ。どうやらプレイヤーとボットの戦闘が始まっているらしい



蘭子(ボット)「・・・と・・・時の針は、止まらず・・・我もまた・・・」



トタタタタタタタタタタタタタ



二人の足音が吹き抜けを反響する





蘭子(ボット)「し、しばし待たれよ・・・し、しば」




横方向に広い施設の中で追いかけっこが続く





蘭子(ボット)「・・・・・・しば・・・」




ちなみに、



その逃走劇が始まってからもうすぐ十分が経過しようとしていた








蘭子(ボット)「ちょ、ちょっ・・・いい加減に、ちょっと・・・止まってよぉ・・・!」





神崎蘭子「ド、ド、ドッペルゲンガー怖いぃ!!(げに恐ろしきは我が影よ!!)」





トタタタタタタタタタタタ








ゲーム開始10分経過

神崎蘭子VS神崎蘭子(ボット)

開始延期

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







チャプター
十時愛梨








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

人はいつ容赦をなくすか


どのようにして戦うことを受け入れるか


どのあたりで武力を振るうことに慣れるか



渋谷凛は思い出のために

北条加蓮は自分を貫くために

佐久間まゆは仕事の成功のために

緒方智絵里は報恩のために

小関麗奈はプライドのために



引き金を引ける。能力の使用に容易く踏み切れる

もちろんそれは仮想現実空間をフィールドとしているという前提においての話ではある

この世界ではどれだけ傷つこうと現実に戻ればリセットが効く

それは匿名の掲示板ならば普段言えない、あるいは言わないような言葉を書き込めるのと似ている

とにかく、その事実があるからこその実力行使、



取り返しがつくから、やりすぎていい



早坂美玲を始めとした他のプレイヤーの戦闘行為の底には少なからずそういう考えがあった






だが、これはあくまで例だ

人が引き金を引くに至る理由は一つ二つに限らない











十時愛梨「えっ、これ、私のせいですか?」


 

十時愛梨は引き金から指をどける


おそるおそるといった様子で視線を手に持ったエモノから足元の人影にスライドさせた


そこで仰向けに倒れているのもまた十時愛梨

豊満に突き出た胸の頂点で赤いバッジがほのかに光っている、ボットだ。



プレイヤーの愛梨は両手で保持していた鉄砲を下ろす

その銃身は長く、弾丸を装填するようなポンプが備え付けられている

片手で扱うには明らかに持て余すサイズで、内蔵されている弾となるモノがずっしりと重い



愛梨「ああ、ど、どうしましょう?でもこれって倒しちゃって良かったんですよね?」




誰にともなく呟く、何が起きたのかわからず戸惑っているようだが





ほとんど何の迷いも躊躇もなく自分の映し身に向けた鉄砲の引き金を絞ったのは間違いなく彼女だ




倒れたボットが霧のように消えていく、数秒後、そこに残ったものはなかった



愛梨「あれ?消えちゃいましたよプロデューサーさん!?・・・って、いないんでしたか」

「うーん、じゃあさっきの人、晶葉ちゃんの言ってたボットだったんですね」



ひとしきり戸惑ったあと愛梨は鉄砲を携え、どこかへと歩き始めた


愛梨「う~ん、でもこんな簡単にやられちゃうのかなぁ、ボットって」




手に持った武器を見下ろす



ちゃぷん


歩くのに合わせて中に詰まった液体が揺れた













愛梨「水鉄砲なのに」







『銃器に人を傷つけるほどの威力がない』


それが、十時愛梨が容易く引き金を引けた理由だった



幸い、水鉄砲にしては比較的強力だったため練習用ボットには効果があったようだが



ゲーム開始10分経過

十時愛梨(ボット)消失

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カラン

コロコロコロ・・・

コツン


ガラスの空き瓶が硬い床を転がっていく

やがてその先に置かれていた同じ空き瓶にぶつかり止まった

回復アイテム、ドリンクの空き瓶がまた無造作にほうられたらしい



その部屋はそこそこ広いのだが、窓も閉じられ照明もつけず真っ暗、

一応どこからか漏れてくる炎の赤さに照らされてはいたが部屋の中を立ち歩くには不十分だ



?「・・・・・・」



だがその人物は動く必要はなかった、ただ目の前に置かれた装置の中から赤々と覗く炎を見つめていればいいのだから


まばたきもせずその装置を眺める。その中は高温で触れることはできないし、触れる気もない

というか自分の作業を自分で邪魔する気はない




?「・・・・・・」




小さな丸椅子にちょこんと腰掛けた少女、そのまん丸の瞳が闇の中にうっすらと照らされた

胸元には炎のように赤いバッジ




?「・・・まだですかー?」


別に今ここにいない仲間にかけた言葉ではない


一人つぶやきながら足をパタパタとゆする


カンッ

カラカラカラ

コツン


その足に蹴られ、また別の空き瓶が部屋の奥に転がっていった

暗闇の中にさっきの瓶にぶつかって止まる


?「・・・・・・ん、誰か来ましたかねー」


部屋の外、どこか遠くで足音が聞こえた気がして彼女は椅子の上から立ち上がった

彼女が前から立ちのいたおかげで装置から漏れる光が部屋の奥まで届き、

空き瓶全体が赤く照らされる


なんてことない空き瓶だ、その中身によってプレイヤーが体力を回復できる代物

ただその中身がないというだけの話





問題とすべきはその本数





最初転がっていった空き瓶

それがぶつかった空き瓶

その隣に倒れている空き瓶、そこに折り重なっている空き瓶、その向こうに積まれている空き瓶

etc、etc...




夥しい数の回復ドリンクの空き瓶が天井に届きそうな勢いでピラミッドを作っていた




今にも崩れてきそうだし、もしそれがだれかの上に崩れたら大ダメージは免れない、そんな量だった

まるで軍隊かどこかに向けた支援物資をまるごと盗んできたような有様だ



?「・・・気のせいですか」



椅子の上に腰を戻す。また爛々とした目で装置を眺める

「出来栄え」を期待する、美味しく出来てるだろうか






ボットたちは自分にあるルールが課せられていることを知っていた





『アイテムの直接的破壊を禁ずる』




武器の使用、破壊は認める

だがプレイヤーが回復アイテムを使ってしまわないようにするのはルールとして禁じるというものだ


回復キャンディを砕いたり、ドリンクを下水に流したりなどの行為は禁止

そして何よりキーアイテム

能力の開花を恐れ、これを破壊することもボットのプログラムは許可しなかった


あまりプレイヤーを不利にしすぎないためにと用意された、初期から能力を使える通常ボットたちへの数少ないハンデのルールだ












そして彼女に与えられた能力はそのルールを覆す









?「・・・・・・」



壁際にうずたかく積まれた空き瓶のタワーがその証左

そのビンの中身は現在進行形で、その装置と彼女の能力によって破壊されている



破壊され、別のものへと変化している



?「ドリンク結構たくさん使いましたけど・・・これ、美味しくなりそうですね」



メラメラと燃える炎の音色が少女の耳をくすぐり続けている

部屋中に食欲をそそる良い匂いが漂い始めてきた



その匂いにうっとりと鼻をひくつかせ、少女は近くの机の上に目をやる


?「さて、こっちは大丈夫そうですし___」


机の上に置かれているのはドリンクとはまた違う何か

闇に紛れてよく見えない





?「___これ終わったら、このキーアイテムもあたしの能力で処分しちゃいましょうかね」






ゲーム開始15分

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今度の敵は誰でしょう


次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下

1、神崎蘭子
2、十時愛梨


>>66
そりゃこの先、住宅街壊滅させる人ですから・・・

1

1

2

1


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
十時愛梨


ちゃぷん


そういえば、どうしてこの水鉄砲に最初から水が入っていたんでしょうか?


自分の身長の倍ほどある高さの棚に挟まれた通路を駆けながら疑問を抱く

棚の中にもまた水鉄砲、その隣には浮き輪

向かいの棚にはぬいぐるみが小奇麗に並べられてますね


ここっておもちゃ屋さん?


電気が点いてないのでうっすらとしかわかりませんがものすっごい高い棚ばっかりです

さっき思わずこの水鉄砲を手にとったのもこの棚のうちのどこかでした


でも、どうにも真っ暗な足元と事あるごとに立ちはだかる棚で思うように進めません

このおもちゃ屋さん、そこそこおっきいんでしょうか?


ガシャン!

愛梨「きゃっ!」


通路を曲がろうとしたのですが暗くて曲がりそこねてぶつかりましたぁ・・・

鼻がちょっぴり痛いです

いたた・・・

・・・?



愛梨「ひゃっ!?」




薄闇の中、見上げた棚の表面が生き物のみたいにうぞうぞー、ってなってますよ!




あわてて後ろに下がった拍子に水鉄砲の引き金を引いちゃって、勢いよく飛び出た水が命中しました

するとうぞうぞしてたのがいくつか取れて床に転がり落ちました

よく見るとそれはどれもおもちゃの人形でした



うーんと、棚に宙吊りにされてたからぶつかった時に一斉に揺れ始めて、暗かったからそれが変なふうに見えた、ってことでしょうか・・・



変な勘違いしちゃったなぁ


改めて黒々とした壁、いえ、暗くてよく見えない棚をじっと見つめます

うん、やっぱりただ吊られたおもちゃが揺れているだけですね!

下からゆっくりと、目線を上げていきます





そんな風に私が一人納得していた時でした





棚の上から大きな箱が私の上に落下してきたのは






真上を見上げた私の真正面で、


半分だけ開いた箱の中身にはぎっしりと何かが詰まっています


暗くて見えないはずだったのに中身が薄明かりを反射して、


何本もの、硬そうな瓶が




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


足音はしない

だが規則正しく素早いリズムを保って走り続けている

彼女は前を見据える


??「!」


彼女の目が何かを捕捉し、鋭く細められた



たんっ



一度だけ足音が聞こえた、彼女が足を強く踏み出したのだ

そのまま流れるような動作でベンチの影に隠されていたドリンクの瓶をひっ掴むと、また足音なく駆ける



??「(これで、何本目でしょうか・・・)」



肉食獣を思わせる俊敏さで回復アイテムを奪い去った彼女の片手には紙袋が抱えられている

その中には先と同じ回復ドリンク、銃弾、刃物、その他諸々の、所謂アイテムが無造作に放り込んである

ここまでの道中で彼女が集めてきたものだ




??「(他のボットの方々は今頃、各々が能力を奮いつつ独自の兵法にてプレイヤーを討っているのでありましょうな)」




視線を絶えず巡らせながらも足の動きにブレはない

照明もない通路の中、彼女の姿はシルエットでしか見えない





だが彼女の目には闇の中でも視えるものがあった




??「(あのマネキンの装飾品・・・)」




「(キーアイテムですね)」




彼女の目にはアイテムだけがぼんやりと光って見えていた




彼女の走っている周りには雑多なものが陳列されている

だがそれらはあくまで飾りのオブジェ、他のマネキンの衣装もまた布製のオブジェクトでしかない




彼女の能力はそこに紛れたアイテム、つまり何らかの効果を持った物体を浮き彫りにする





??「(この術があれば、いずれはプレイヤーに利するモノ全てを先に見つけ出し、ボット側の手に収めることができますな)」



直接戦闘向きでなかったのはやや惜しいが、この能力ならボット達の勝利を影から支えることができる


模擬戦闘、このゲームの表舞台に立つことはなくとも、その陰であることができる


むしろ自分にぴったりの能力ではないか


だから彼女はその広い施設内を隈なく移動し、一つの漏れもなくアイテムを回収しようとしていた



駆け足のルートを折れ、暗がりに立ちすくむマネキンの頭に乗った装飾品をかっさらう

そして彼女の足は止まらない、流れるように紙袋の中身を増やしていく



??「(ややっ?)」



視界の隅に見逃してはならない仄かな光を見出す

彼女の能力が見抜いたアイテムの塊だが





??「(ドリンク・・・いやそれにしても多すぎる、箱詰めではありませんか・・・)」



今まで見つけてきたものは全て非常灯のような微かな輝きだったが、今度のものはそれらと違い

それらがいくつも寄せ集まって強く光って見えた

もちろんそれはそう見える能力を持つ彼女だけに許された光景だが


??「(これぞ大収穫)」



その”光る箱”を見上げた、何やら高い場所に置かれているようで走りながらでは取れない


だがプレイヤーならそもそも見落としていただろう、あらためて自分の能力の有用性を確信する


身軽な彼女は一旦荷を置き、近くに手を引っ掛けられる箇所を探りつつ上に登り始めた


垂直な壁かと思ったらどうやら棚らしい、指をかける所には困らなかった


それに人一人の体重にもグラつかないくらいしっかりと床に固定されていた







??「(・・・ふう)」


容易く棚の頂上、外からはそうは見えないが確かにドリンクの詰まった箱に手が届く




??「(さて、どうやって下まで下ろしましょうか。どうせボットにはアイテムの破壊が出来ませんし、ここから叩き落すのもありですが・・・)」

「(・・・そういう荒っぽいのは最後の手段ですね、ここはもっと隠密に、静かに遂行すべき場面で)」




タタタ・・・

静かに、気配もなく思考に耽る彼女を邪魔したのははっきりと響く足音、場所も近い



??「(むむ・・・何奴)」





だが彼女は焦らない、気配は完璧に消せているのだ、それに自分がいるのは天井近くまで伸びた棚の頂点

この暗さで見つかる道理は__



ガシャン!


愛梨「きゃっ!」



??「(!?・・・気づかれた!?)」


ぶつかられたことで彼女の足場が大きく揺れ、慌てて態勢を整える



だがその間に隣に置かれた箱がずり落ちようとしていた




一瞬、自分の身を優先した彼女にそれを止める術はない

??「(・・・そんな)」


愛梨「ひゃっ!?」


下にいる人物の胸元にボットであることを示す赤はない

このままではプレイヤーの手に、戦況を確実に左右する量の物資がもたらされる


この模擬戦闘という戦

その影に潜んで動くつもりだった彼女はここで戦闘の必要を迫られる


??「(こんなに早くわたくしが暴かれることになるとは・・・)」

「(ですが・・・・・・仕方ありません)」

しかし迷いはなかった





















浜口あやめ(ボット)「いざ、参ります!」





ゲーム開始15分経過


十時愛梨VS浜口あやめ(ボット)


開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ホタル・シュバルツなんとかのハイライトの無い目がすごいイイ





次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下

1、神崎蘭子
2、早坂美玲

安価ありがとうございました


踏み台
安価なら2

1

2

1


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲


工場の内部、その特にたくさんの機械が密集していたり、多人数で作業するために広いスペースを確保した箇所は柱が少なめになっている

そのため屋根の裏には丈夫な梁が組まれてたりするのだが、この場合それらは屋根を支えるものでなく美玲を押しつぶすための追い討ちにしかならなかった


雨粒の数千、あるいは数万倍の質量を持つ豪雨がひとしきり降り注いでから、数分後





結論から言うと早坂美玲の腕力では自分の頭の上に落ちてくる分さえ支えきれなかった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

美玲「______」 




美玲「______」




美玲「_____?」



ウチは真っ暗なトコで目を覚ました、

目を開けても閉じても見えるものが変わらない

起き上がろうとしても両手がどっかに挟まってる


美玲「ぐぎぎ・・・ふんぬっ!」


ピンと横に広がったままビクともしないので起き上がることもできない

そもそも寝ているのか起きているのかも暗くて分かんない

上下の感覚がうまくつかめない


美玲「やばいじゃん・・・ウチ閉じ込められた・・・?」


美玲「・・・・・・・・・」


美玲「うがあああ!!」


足を上に振り上げる 思ったより近くにぶつかった

ウチは思ったより狭いトコに閉じ込められてる、脚すら伸ばせない

続けてガンガン蹴り続けると土埃が顔に降ってきて目にも入った、手が動かせないから目をこすれない


美玲「い、痛くないモンッ!!うがあああ!」


身動きできずに蹴りだけでウチを閉じ込めてる殻みたいなのに攻撃する

多分、ウチはガレキの隙間すっぽり入り込んでる、だから腕以外は動かせる

何発蹴った忘れたけど膝がだるくなってきて力が抜けてきた


美玲「くぅ、開けよコラ!!」


最後に両足を揃えて蹴り上げたところで一旦蹴るのをやめて足を下ろす

次に両腕を引き抜こうともがく、でもこっちは手首のあたりでがっちり固定されてる


美玲「でも、これ・・・手袋から手だけ引っこ抜いたら・・・」



腕ではなく指だけ動かす、キツキツだけどちょっとだけ動いた


美玲「このまま・・・このまま、ゆっくりゆっくり・・・」


ベキッ




美玲「・・・っつ・・・?」




小石がおなかの上に落ちた感覚、見えないからわからないけど痛くなかったし重さからそれくらいだと思う

さっきは埃しか落ちてこなかったのに



指を引き抜くため力を込める




ベギギギ


パラパラ・・・



美玲「あ・・・え?」


ウチが指に力を加える度にどこかでガレキの軋む音がする



腕とか足じゃなくてなんで指?

でもウチにそういうのは分かんないからとにかく指だけでもがく




ベギギ



パキッ




美玲「うぐぐうううぐぐ!!!」




バギッ




ウチの頭とかお腹とか倒した脚の上にちっちゃい石がいっぱい降ってくる

でもくらいからわかんないし今は土まみれでも外に出たい


目の前は真っ黒、そこに白い穴が開いた




___光が外から漏れてきてる!





美玲「むっがああああああ!!!」



むちゃくちゃに手を開閉させた


点がちょっとずつ広がって、丸になる

それが伸びていって線になる、ウチの目がそこから届く光に眩む

線が折れ曲がりながら長くなっていく




ウチの前にジグザグの光が口を開いた




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




運良くがれきの隙間に逃れたおかげで美玲は助かった


なんてことには勿論なってない



高峯のあはそんな余地は残していなかった


天井に張り巡らされた梁の鉄骨は正確に美玲に落ちていくようにしていたし、

それと同時に床材も美玲を取り囲んで逃さないように操作していた



美玲「ぷはっ!!!」



そして美玲の体にそれに抗う力はなかった


美玲「ぺっぺっぺ!!うえぇ・・・服もぐちゃぐちゃじゃんか」



だが現に、美玲の周りにはガレキや鉄材が寄せ集められ簡易シェルターになっていた




美玲「なんだこれ・・・・・・卵の殻?」





美玲の能力によって、






美玲「ってウチの手くっついてるし!!」


自動的にそうなったのか、彼女が無意識にそうしたのかは不明だが、



美玲の両腕の爪はそこらじゅうの物を引き寄せ取り込み接着し変形させ、

最終的に美玲の小柄な体躯をすっぽり覆い尽くしていた


その爪の根元は手袋であり、それを装着している美玲の腕が重みで動かせなかったわけだ



美玲「うわ・・・ぐちゃぐちゃだし・・・ここホントに工場か何かだったのか?」


手袋にまとわりついた廃材の爪が崩れる、腕を引き抜き美玲はようやく解放された

立ち上がって、手袋をつけたまま手首を軽く回し、調子を確かめる


美玲「うわ・・・でっか・・・」


一通り身体チェックを終え、改めて周りを見渡す

まず目に付くのが工場を形作っていた建築材の成れの果て

その先には 見上げることすらできない高さの高層ビルの林

どの建物も角ばった頂点を思い思いに天に向け、押し合うように並んでいる

自分がひどく小さい動物にでもなったかのように錯覚しそうだ


美玲「ぶぺっ、埃っぽい・・・とりあえずここから動こっと」


小さな足でがれきを踏み分け、怪我をしないよう慎重に動き始めた

何かの弾みで崩れたがれきの下敷きになったら今度こそ洒落ですまない















パタン






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


美玲の足元が揺れる

それはがれきの均衡が崩れたせいではない

底から突き上げられていた


美玲「わっわっわ!?」


だが、美玲にはそこまではわからない

あわてて足場の上でバランスを取り揺れを収めようとするが原因が彼女ではない以上揺れは止まらない


やがて地面から飛び出したのは1メートル四方の立方体の箱


青系の色でまとめられたそれの存在は廃材の中では明らかに浮いていた


美玲「いっ・・・サ、サイコロ?なにこれ・・・」


美玲の問いかけを無視し、箱はなんの動力もないまま転がり始める




パタンパタンパタンパタンパタンパタン




美玲「あっ!おい待てッ!」


不可思議極まりない青い箱、今の今まで自分のいたところから出し抜けに現れた不審な物体


美玲はそれを追いかけた。今の所、行動の指針が定まっていないならこれについていくのもアリだろう


工場の倒壊から生き残ったという余裕がそれを選択させてしまった









______________

 早坂美玲+  80/100



______________


ゲーム開始19分経過


報告事項なし



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下


1、神崎蘭子
2、十時愛梨


急なお知らせですが個人的な事情で投下が不安定になる可能性がでてきました。

明日は投下できそうですが、そのうち2、3日に一度ペースになるかもしれません

ご迷惑をお掛けするかもしれませんがこれからもよろしくお願いします


安価ありがとうございました

1

1


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神崎蘭子




自分そっくりの人間がこの世界には少なくとも三人いるという





どこからどう発生した俗説なのか、どういう根拠に基づいてそのような言葉が人口に膾炙しているのか蘭子は知らなかった






蘭子「我は魔王!この世に唯一無二にして絶対の者ぞ!!」




とりあえず、初めてその話を聞いたときの感想がそれだった




蘭子「はぁ・・・ふぅ・・・!!」


蘭子(ボット)「時よ止まれ!(待ってくださいぃ!)」



蘭子は自分の映し身から逃走していた、いきねり受け入れるには蘭子は幼かったらしい

同年齢の三好紗南と違って未だにこの世界がゲームである事実に馴染んでいないようだ



蘭子「(うう、足疲れてきた・・・このまま逃げ続けるのも・・・)」

蘭子「(どこかに逃げ込んで、えっと・・・武器?能力? を探すんだっけ?)」


デパートはかなり横に広い、まだ階段を上がることなく直進し続けても店の端には着かない

後ろから追いかけてくるボットともそれほど距離が離れていない

がむしゃらに逃げ続けるのはもう無理




蘭子は直進から折れ、近くに開いていた店舗に飛び込む

商品棚が多く、店内の通路は狭かった




その間を転びそうになりながらも手を付きながら駆け抜ける

その後をボットが続く。店の奥は窓もなくさらに暗くなっていた




蘭子(ボット)「夜の帳が降りたようではないか・・・(暗くてよく見えないです)」




そこで思い出したように慎重に走りを止め、一歩ずつ進み始めた


ガンッ


蘭子(ボット)「!?」



いきなり

すぐそばで硬質な音、足元に何かが落下した音だ。

ガンッ ガンッ




蘭子「えいっ!!」




ガンッ

立て続けに音が鳴る、同時に床からボットの足を通じて振動も伝わる

店の奥に引っ込んだ蘭子が何かを投げつけてきている音だと気づいたときにはもう遅かった





ゴスッ




蘭子(ボット)「流星の衝突!?(いたぁーっ!・)」



頭に命中する。



ふらふらと後ろによろめき、闇の外へ逃れる




蘭子(ボット)「なに、これ・・・」



それは偶然だった

たまたま蘭子が逃げ込んだ店が暗く、外からは蘭子の姿が見えにくかったこと

そしてボットの胸に光るバッジは、闇の中では大きな目印になったこと

そしてそこがケータイショップで、手元にあった携帯のモデルは投げるのに適していたこと




蘭子「消えた・・・?」




長かった割に拍子抜けするほどあっさり決着がついてしまった

たった一発携帯のおもちゃをぶつけられただけでボットが消失していく





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



















?「蘭子さんのボットが倒されたみたいよ」


??「やっとかい!どんだけまたせんねん!」


?「そもそも14歳の子に対人戦闘なんて土台無茶な話なんだから、これでも早いほうでしょ」


??「そんなもんなんか?まぁこっちも準備整える時間もろたと思っとこか」


?「そうね、そっちは大丈夫?」


???「はぁい!大丈夫でぇす!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


この世界に流血はない

どんなダメージを受けようと体に傷ができることはなくそれゆえ血を流すこともない





蘭子「うぅ?」


蘭子「いない?・・・もういない?」




外からは見えない暗がりの中、壁に背をくっつけて蘭子は呼吸を整える

一応彼女もここにくるまでにプロデューサーからこの世界のことは聞いていたのだがそれでも彼女には何もかもいきなり過ぎたようだ

ぜえぜえと息を吐いている、スタミナに変動はなくとも疲労は存在するのだ

蘭子「つ、翼を休める時。この地は雌伏には難き、安寧を求めよ・・・(疲れちゃった、でもここ床硬いし、どこかで休もうっと)」

暗がりの中おっかなびっくり立ち上がる

壁に手をつき、商品棚を頼りに真っ暗な場所から、そこよりは少しだけ日の差す場所に踏み出そうとする



蘭子「・・・?」



初めに地面に落ちた携帯電話に気づいた

自分が投げたおもちゃのものだ、



それがひどく汚れている



暗くてよくわからないがペンキのようなものが付着しているように見えた

色までは見えないが、液晶が漏れ出したということもないだろう





蘭子はそれに近づくように店から出た

窓から注がれた細い光の領域にその身がさらされる

今まで闇に染められていた身に日が差す










蘭子「ひっ!?」



その姿、自分の姿を見て息を呑む


自分のお気に入りの服

黒衣、フリル付きのスカート、少し厚底のブーツ




それらが全く別の「色」に汚されていた




泥が擦り付けられたように所々

大部分とは言わないが、明らかに無視できるようなシミではなかった


袖口も、スカートの裾も、それだけでなく手のひらにはべったりだ


もしかしたら背中や尻の部分にも付着しているのかもしれない



蘭子「こ、ここここれって」




闇に溶ける黒色を台無しにするような目の覚めるようなビビットトーン




ピンク色のそれはいつの間にか蘭子の体中を乱雑にペイントしていた





だが闇の中、明るさのないその場においてその色は___






蘭子「血・・・?」





自分がまるで血まみれになったようだ



何の色?血?いつ付いた?これって私の?どうしてケイタイにも付いてるの?

私いつ攻撃されたの?


ゲームの設定や仕様についてまだ明るくない彼女の思考が混乱する







しかし彼女はまだ攻撃されてない

これはただの準備だ





蘭子が実際に血を見ることはない


だが血まみれになっていしまうほどの致死級の攻撃が来るまでにはもう少し時間がある












具体的には、あと3秒ほど








ゲーム開始13分経過

神崎蘭子(ボット)消失


神崎蘭子VS?&??&???

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

短め

次回は2、3日の間にでも



次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下


1、神崎蘭子

2、十時愛梨

3、早坂美玲


安価ありがとうございました

1

2

3





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
早坂美玲



パタンパタン

灰色の建物が見下ろす道路の真ん中を青い箱がコロコロと転がって自走している

直方体のビルに立方体のサイコロが明らかに不自然だった


美玲「っ・・・っく待てって!」


行動するにあたってなんの指標もなかった美玲にとって、それは見逃せない異変だった

1メートル四方の箱、美玲から見て中型犬くらいの大きさのそれを追いかけていく


美玲「(あのヘンな箱って、どうやってウチのいたトコから出てきたんだ・・・?)」


崩れた工場跡の残骸の中から飛び出てきた異物を追跡し続ける

その速さは小走なら並走できるほどで、決して早いものではない

だが、止まる気配が全くない


美玲「っはぁ・・・っはぁ・・・どこまで転がってくんだ、よ・・・!」


パタンパタンパタン

パタンパタンパタン


都会を模しているにもかかわらず人気のない道

そこを駆け抜けること数分、異変が重なった


パッタンパタパタパタ

横道から飛び出してきた別の箱が合流するように転がってくる

その見た目も先のモノと全く同じだ


美玲「もう一個!?」

パッタン


今度は反対側の道からも


パッタン


また一つ建物の二階の窓から転がり落ちてくる


パッタン


目の前を走る異物が増え始める



美玲「え、これ・・・」


パッタンパッタンパッタンパッタン
パッタンパッタンパッタンパッタン
パッタンパッタンパッタンパッタン

パッタンパッタンパッタンパッタン
パッタンパッタンパッタンパッタン
パッタンパッタンパッタンパッタン


美玲「はぁ!?」

パッタンパッタンパッタンパッタン
パッタンパッタンパッタンパッタン
パッタンパッタンパッタンパッタン


無機的な構造物がまるで生き物の群れのように転がる様は不気味でしかない

パタンパタンという小さな音も多く重なると不安を煽る嫌な音だ

夥しい数の同じ物体がまるで一つの目的地に向かうように集結しつつある

何かとんでもないものについてきたのでは

美玲がそう思うのも仕方ない、

美玲「(やっぱりここは一度離れて・・・)」


パッタンパッタン


だが少し遅かった。すでに箱は美玲の後ろからも迫って来ており

そこで足を止めることは後ろから追突されることになる


箱の数はとっくの昔に美玲が把握できる範囲を超えていた




足を止め、振り向いた美玲に、雪崩のように圧し掛かる


美玲「いつの間に、こんないっぱい増えたんだ、よッ!!!」


大量の箱が美玲に衝突する寸前、美玲は地面に両手を突き刺した、能力により美玲の腕が手首まですっぽりと埋まる





そしてちゃぶ台返しの要領で一気に掬い上げた




美玲「どぉだあ!!」


美玲の両手がアスファルトの破片を纏い、三倍ほどの大きさに膨れ上がっていた

今までに比べると小さい爪だが、かといってそのまま振り上げることは彼女の腕力では出来ない

だが、後ろから迫る箱への防壁にはなる、彼女の小さい体だけなら充分カバーできるだろう



次の瞬間から容赦なく箱がぶつかってきた



だが、ずっしりとした重さがそれに耐える



そのおかげで美玲が轢かれることはなく、箱はゴツゴツと互いにぶつかり合いながら美玲の両脇に流れていく


青い箱が川の水のように流れていく、美玲はまるでその流れに耐える杭のようだ




美玲「ぐぎぎぎぎ・・・!」



しかしあまりの物量に小さな防壁が圧される、すべてを横に受け流せているわけではなさそうだ




パキッパキキ





美玲「!・・・?」

ゴツゴツガツガツと顔をしかめたくなるような衝突音の奔流の中に違う音が混じり始めた



卵の殻が割れる音

それを想起させるような響きだ


美玲からは自分の肥大化した手で隠れて音の正体は見えない



パキリ



それは箱が分解し始める音



一つの箱から六枚の板へ、転がる箱から宙を彷徨う板へ





そして板は青いタイルようなパネルへと構造を変えていく





箱の形が崩れ、中にしまわれていたものがそれぞれこぼれ落ちていく


それは、手榴弾

それは、拳銃

それは、回復ドリンク


美玲の腕とタイルに板挟みになったアイテムが絡み合う



一つ、密室を作ること


一つ、能力者の決定に基づきプレイヤーを閉じ込めること



一つ、その中で失われたスタミナを森久保乃々へ移すこと



一つ、それ以外の時はどんなアイテムでも自動的に集め続けること




それがそのタイルたちの役目

そして収納していたアイテムをぶちまけてしまったタイル達は次のアイテムを探し始める




美玲「ふぅ、大分勢い収まったか・・・?」




それはすぐそこにあった


キーアイテム、手袋



本来、キーアイテムは一度能力が発現してしまえばその後は必要なくなる

あくまで”鍵”、プレイヤーが能力を得るためだけのものだ



だが例外的に、美玲の手袋はキーアイテムであると同時に、能力使用の要となるアイテムでもあった



タイル達は誰からの示唆もなくそれを認識した


パタンパタンパタンパタンパタンパタンパタンパタン!!!!!!


塞き止められていたタイルたちが防壁、美玲の手をよじ登り始める


明確な意志を持ち、美玲に襲いかかっていく


美玲「っな!?なんでいきなりこっちにくんだよッ!」



いままで自分を避けるように流れていった箱とは別に

中身をこぼした箱たちが美玲に飛びかかる、よじ登る、のしかかる


もう防壁など意味はない、もともと後ろから迫る物量に対し美玲だけを守る大きさしかなかったのだから、登るほどの高さもない



美玲「う~~がぁあ!!」



手に腕に肩に頭にタイルがくっついてくる

一枚一枚は重くないが視界が塞がれ、体が圧迫され、非常に邪魔だ



美玲が指に力を込めるとアスファルトが剥がれていく、どうやら能力が解除されたようだ

美玲は自由になった手を振り回した、タイルに爪がぶつかる


ぶつかって、はじかれる


美玲「ウチの爪が、刺さらない・・・?」


いつもなら不気味なほどの手応えのなさで爪が対象に埋まるはずだった

なのにタイルは美玲の爪にはじかれて飛んでいくだけだ

そしてまた襲いかかってくる



能力同士のぶつかり合い

どうやらこの時点ではタイル、つまり乃々の能力が優っているらしい




美玲「うがががあああ!!!離れろよおッ!!」




顔もない、手足もない、声もない

だが確かな実感を伴いベタベタと美玲にまとわりつく何枚ものタイル

美玲の小さな体はあっという間に覆い尽くされ、外からはくぐもったうめき声だけしか聞こえない












それが次の瞬間、爆ぜた



蜘蛛の子を散らすように、美玲から一斉に離れていく

後には地面にへたりこんだ美玲が一人


先程までの粘着質な様子が嘘のようだ

箱の群れは、またどこかに向かって黙々と転がっていった




美玲「・・・・・・なんだったんだよ・・・ん?」




美玲は自分のすぐそばにいくつもの武器が転がっているのを見つける

防壁のあたりにせき止められていたものだ





手榴弾、拳銃、何かの瓶

美玲にとってはゲームかテレビでしか見ないような代物が大半だ

箱からこぼれたままにされたらしい








美玲はその一つを手に取る

拳銃のグリップを握り

引き金に人差し指をかける










手榴弾を反対の手にとってみる

手のひらにゴツゴツと硬いものが当たる

深緑の部品に飾られた外見の中、一つだけ鈍く光る輪っかがあった

美玲の知識だとこの輪っかを引くと爆発するであろう、ということぐらいしかわからない




右手の銃、左手の手榴弾

それらを握った両手を交互に見る




美玲「あ・・・・・・・・・え?」







とんでもないことに気づいた

新しく手に入れた武器なんてどうでも良くなるくらいの大事だ






それは自分が他のアイテムを握っていること












手袋のなくなった両手で









美玲「ウ、ウチの武器・・・とられたぁあああッ!!??」



美玲は立ち上がり箱が去っていった方向を振り返る




ずっと先の曲がり角を右折していく最後尾の箱だけ辛うじて見えた



そして視界から消えた箱を追ってあわてて走り出す


こうして次の戦いは幕を開けた


誰の能力なのか

誰と戦っているのか

何処に行けばいいのか

何時まで追いかければいいのか

何をどのようにすれば自分の勝ちなのか



美玲はまだそれを知らない




ゲーム開始24分経過

早坂美玲VS森久保乃々(ボット)

開始?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

乃々は遠距離自動追跡型スタンド使い



次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下

1、神崎蘭子
2、十時愛梨
3、早坂美玲

踏み台
エラーのせいで上がってないので

踏み台上げ


1

3

1

なんだ、乃々はムーリィハートアタック使いだったのか(混乱)

シアーハートムゥーリィー・・・



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神崎蘭子




??「うおぉ重たっ!? 泉、台車とかないんか、ここデパートやろ?」


?「ん...あとで探そっか......でも摩擦係数を書き換えたから引きずって運ぶのはだいぶ楽になったはずなんだけどね。さくら、蘭子さんはまだ見えるところにいる?」


???「うんと・・・あ、まだ一階だよぉ。イズミンのピンク攻撃にびっくりしてるみたぁい」


?「さくらがピンクじゃないとダメって言ったんでしょ......とりあえず第一段階は完了したのね」


??「よっしゃ、今のうちに押せ押せ!アタシらこの妙にごついのしか武器ないんやしこれで決めなアカンで!」


???「アコちゃんイズミン、ファイトだよぉ!」


?「手伝いなさい」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










血と言うにはあまりに鮮やかすぎる桃色


何故か服や肌に染み込まないのでその色がにじむこともない

まるで蛍光塗料のようだ、いつ塗られたのかはわからない

蘭子の体が闇の中に浮かび上がっている


蘭子「な、なに、これ・・・!」


慌てて自慢の黒衣を拭うも消える気配はない、それどころか腕についた分が伸ばされて広がるばかりだ


自分が這い出てきたケータイショップを見る

咄嗟の判断で逃げ込んだ場所だった上、今いるところよりさらに暗がりとなっているため気づかなかったが、よく見ると店の奥の壁が淡く発光しているように見える

この桃色の蛍光塗料らしきものがペンキのように塗られていたようだ


蘭子「(ひぇ・・・どうしよう・・・とりあえず、お水の使えそうな場所に・・・)」



デパートの水場で思いつく場所といえばお手洗いくらいしかないが、それならたくさんあるだろう

もっともこの仮想がどこまで現実に似せているかによるが



三階から一階まで一気に見通せる吹き抜け。三階に設置された天窓のような場所から届く細い明かりを頼りに通路を進む

通路の両脇には実際には機能していないであろうが実際のデパートを真似た店舗が設置されている

そこらに目をやりながらどこに行くべきか思案する

そうしていると逃げている最中には気づかなかったものが見えてきた




蘭子「・・・なんと異様な光景か、我は斯様な事象を前に瞳を曇らせていたというのか(...なにこれ、さっきは気づかなかったのに)」




あちこちに、真っ暗場所でもうっすらと目を引く色が塗りたくられている


そのピンクの蛍光塗料らしきものは通路そのものではなく店舗を少し入った床や壁、手摺などを中心として分布しており、

踏み入ればうっかり踏んづけたり手に付着したりしそうな仕込み方だった

現に蘭子は逃げ込んだケータイショップで迂闊にもその仕掛けにやられている



蘭子「(・・・そういえば幸子ちゃんが仕掛けられたドッキリでもこんなのあったなぁ・・・)」

「(確か、扉を開けた先の床がローションまみれの斜面になってるとかいうの・・・)」



だが、意気揚々と自信たっぷりに部屋に踏み入ったせいで、綺麗に尻餅をついた挙句ヌルヌルになりながら滑っていった愛すべき仲間のことは今は置いておく




蘭子「奇っ怪なり...(へんなの...)」




そうとしか言えないが、なんとなくマズいというのは分かる

光源の少ないフロアにおいてこの色をつけていると目立ってしまうということが。


つまり敵、さっきのようなボットがいたとすれば自分は狙い撃ちにされてしまう


蘭子「(ここは明るい場所に逃げるのが先かな・・・)」

と、蘭子が落ち着きを取り戻し移動を決意したとき






コツン


蘭子「古の玩具?...(さっきの携帯電話?)」


靴のつま先に携帯のモデル、ついさっき自分が投げつけたものの一つがぶつかった

それもべったりとピンクに着色されている



逃げ出そうとした矢先、それを牽制するようなタイミング



というか、蘭子はまだつま先どころか足を動かしてすらいない

なのになぜ足元に転がったモノがぶつかり音を立てるようなことがあるのだろうか

そのケータイのおもちゃが自分で動いたわけでもあるまいし



と、蘭子が考える時間はなかった、とっくに時間切れだった。





けたたましい音とともにガラスが砕ける




それはデパート三階から一階を見下ろす吹き抜けの手摺、鉄枠に囲われたガラスだった


「それ」が勢いよくぶつかった拍子にガラスがひび割れ、欠片が蘭子の近くに降り注ぐ


蘭子は足にぶつかった小道具より数倍大きい音に対し、反射的に吹き抜け越しに三階を見上げる




土屋亜子(ボット)「はいどーもーどーも!おまっとさん。倒しに来たで!」



村松さくら(ボット)「蘭子ちゃん、覚悟してくださぁい!」



大石泉(ボット)「ガラスを突き破っちゃってるけど......まぁ、待ち構えてた甲斐があったし良しとしますか。」





三階の、吹き抜けの手すりから身を乗り出すようにして三人のアイドルがいた

蘭子からは暗さに加え、少ない明かりも逆光になっていて顔は見えない

ボットであることを示す赤い点のような灯りが三つ浮かんでいるのは見えた


だが聞き覚えのある声。事務所で聞いたことのあるそれと同一の声



蘭子「・・・泉さん、さくらさん、亜子さん」



亜子(ボット)「大あったりー!!」


ガラスのヒビが広がる

ガラスから突き出た「それ」が亜子の手によって動かされたからだ




その鉄製の長い筒が蘭子のいる階下に向けられる




その筒はガラスのむこうで金属のパーツでできた外装につながっている





外装に包まれた内部には、弾丸を装填して発射する一連の動作を高速で行う機構が詰め込まれている





そこに連結されたハンドルに亜子の手が添えられる





三本の足で支えられた本体、



その側面部から垂れ下がってるのはくすんだ金色の装飾品



それは長く長く、一つにつながった銃弾




これらが一つずつ機構に飲み込まれていき、一つずつ凶器と化す



泉(ボット)「お高いところからではあるけど、」


さくら(ボット)「いっぽー的にプレゼントでぇす!!」


亜子(ボット)「出血大サービスですわ、これ」




女子高生三人でも扱うには重厚すぎる銃器



設置型のマシンガンが火を噴く



秒間数百発の凶弾が蘭子に降り注いだ








ゲーム開始13分経過

神崎蘭子VS大石泉(ボット)&土屋亜子(ボット)&村松さくら(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



森久保乃々の世界は狭い




しかしそれでも充実している。と本人は思っている




一メートル四方のタイル、それともパネルと呼ぶのだろうか、

それを5、6枚組み合わせた即席の箱

乃々の体はその箱にすっぽりと収まっていた

真っ暗にするわけにもいかないので一面だけ開かれた場所から外の景色を見るともなしにみていた

といっても薄暗い部屋の天井だけなのだが、彼女は別にそれでも問題なかった


乃々(ボット)「......はずなんですけど」







みく(ボット)「んにゃ?どしたの乃々チャン?」


のあ(ボット)「.....なかなか面白い力よ、乃々。これが貴方を象徴するイコンというわけね」


アナスタシア(ボット)「アー...この、板?...勝手にどこかへ、飛んでいったみたいです、ね」






 
どうやって自分のことを探し当てたのか、乃々の隠れ家には闖入者がいた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


_________

______

___



のあ(ボット)「___つまり、ボットの中に明らかに規格外の者が紛れているみたいなのよ」


みく(ボット)「...ふーん、よくわかんにゃいにゃ。とりあえずそれが急いで美玲チャンとの勝負を片付けた理由かにゃ?」


アナスタシア(ボット)「アー、だから途中で私と美玲のところに駆けつけたのですね......タイミング良すぎだと思いました」


乃々(ボット)「そんなこといわれても、もりくぼはここでおとなしくしているしかないんですけど...」


みく(ボット)「確かに、みくものあチャンが何を心配してるのか分かんにゃいにゃ」


アナスタシア(ボット)「ダー......強いボットがいることは、なにも悪いことではない、ような...」

乃々(ボット)「物騒なのはごめんなんですけど...」


どこかの建物の地下の部屋、のあは自分が能力を通して知った事実を話題にあげていた



しかし情報の共有自体には成功したがその危険度までは共感を得られていないらしい。

物体と一体化する能力、それをのあ以外が有していない以上は実感できないのも仕方ない


あの得体の知れない圧力に自分を潰される感覚は。


話を聞いていたみくが疑問を挟む


みく(ボット)「でも近づいただけで潰されるってどういうことなのにゃ?」

アナスタシア(ボット)「ンー...そういう能力だったんじゃ、ないでしょうか?」










乃々(ボット)「...はい?」

のあ(ボット)「...」





部屋の中の空気が一瞬だけ不安定になった



四人いる全員が全員、疑問符を浮かべている



会話に消極的な乃々もおもわず顔を上げた





乃々(ボット)「えっと...あれ?もりくぼがおかしいんですか...」

のあ(ボット)「みく、アーニャ...あなた達は知らないの?」



みく(ボット)「にゅん?」

アナスタシア(ボット)「シトー?」




乃々とのあ、みくとアナスタシア

両者の間に目に見えない差のようなものが現れていた


見解の相違、というより相互理解のパーツの欠けたような感覚




乃々(ボット)「あの...もしかしたらもりくぼの勘違いかもしれないですけど...」


「容量の大きすぎる能力はそれだけで周りに影響があるとかなんとか聞いたような...」




のあ(ボット)「そうよ、能力の規模はそれすなわち空間に与える歪曲の大きさ......大きすぎる力は存在そのものが世界への重しになる」




乃々が自信なさげに言葉を紡ぎ、のあがそれを引き継いだ



みく(ボット)「んー?みく、晶葉チャンからそんなこと聞いてないにゃ・・・」

アナスタシア(ボット)「ヤー、私もです」



だが、二人は知らなかった。

これがのあの危機感を共有できなかった理由だ



乃々(ボット)「私の場合...能力が容量を圧迫してるせいで、スタミナまで削られるんですけど......いい迷惑なんですけど」


みく(ボット)「ふーん、でもどうしてのあチャンと乃々チャンが知っててみくたちが知らないのにゃ?」

アナスタシア(ボット)「ダー、仲間はずれ、私...悲しいです......ぷくー...」


箱の中で膝を抱えたままの乃々から視線を外し、みくが首をかしげる

壁際に座り込んだアナスタシアも不満げに頬をふくらませた。


のあ(ボット)「私も今の今までこれを周知の事実として話していたのよ。黙っていたつもりはないわ」







みく(ボット)「んん?それじゃ・・・ボットの間に共有できてない情報があるってことにゃ?」

アナスタシア(ボット)「......ボットはみんな仲間のはずなのに、変ですね」



つまりそういうことだった

のあと乃々、みくとアナスタシアの間に知識の隔たりがあったのだ

そして「ボット同士なら知っているだろう」という思考がその発覚をこの瞬間まで妨げていた

偶然か、仕組まれていたのか、



乃々(ボット)「どっちにしてものあさん、ボットにやられたんですよね...」

のあ(ボット)「それは正鵠ではないわね、あれは私の落ち度でもあったのも事実...」



乃々(ボット)「だとしても......もう、もりくぼには誰が味方かわかったもんじゃないんですけど......ふれんどりぃふぁいあ、とかごめんですけど」

アナスタシア(ボット)「アー...ふれんどりいふぁいあ...ってなんです?」

みく(ボット)「味方から撃たれることにゃ・・・・・・でも乃々チャンは大げさだとは思うけど確かにお互いの能力以外の隠し事があるかもしれないっていうのは、変な話にゃ」



プレイヤーと敵対することを当座の目的として動作しているボットでありながら、ボット同士も一枚岩ではない。

乃々が今恐れたのはその可能性だった。


今はそれほど大した情報ではなかったとはいえ、もしかしたらここにいる四人も知らない情報を独占したボットが他にいるかもしれない。


だとすると本当に万が一とはいえ、最悪の場合同じボットすらも敵になる可能性も否定できない



みく(ボット)「うにゅにゅ・・・のあチャン、まだなんか隠してないよね?」

のあ(ボット)「隠すという表現は適切でないわね......これは齟齬というものよ」

アナスタシア(ボット)「アー、ちょっと不安になります、ね?」

のあ(ボット)「そうね...一度お互いが知っていることを教え合ってみるのがいいかしら...」



乃々(ボット)「あの...結局、私の隠れ家にきた意味は...」

アナスタシア(ボット)「...のあのことですし...深い意味があるようで無い...かもしれません」

のあ(ボット)「ちょっかいを出しに来たのよ、無意味ではないわ」

乃々(ボット)「ええぇー...」





アナスタシアが箱にこもって膝を抱える乃々を覗き込む。

のあとみくはあれこれと言葉を交わしている。プログラム上の記憶から重要と思えることをピックアップしあっているようだ

しかしのあの話す内容が途中から出世魚に関する豆知識になっていたのでみくがギャーギャー騒いでいる



乃々(ボット)「うう......『夜』が来るまではスタミナをなんとかやりくりするつもりでしたのに、もう不安なんですけど......」

アナスタシア(ボット)「夜...ночь...なんですかそれ、教えてください乃々」


乃々がボソッと漏らした単語にアナスタシアが食いついた。

その反応に思わず乃々もぎょっと顔を上げる



乃々(ボット)「え...あの、もしかして...」



まさかと思いつつも確認を取ろうとおずおずと口を開いた


アナスタシア(ボット)「ダー、私、知りません...ですから教えてください」

みく(ボット)「みくもー」    

のあ(ボット)「......のあもー」
    



乃々(ボット)「や、やぶへびぃー......」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




・・・なるほど、そんなものがあるなんて知りませんでした・・・・・・




 ザザッ!




・・・みくもにゃ!晶葉チャンは不公平にゃ!みく、ヨルとかちっとも知らなかったにゃ!・・・




ザザザッ!




・・・私もよ...乃々、教えてくれたことに感謝するわ。・・・

・・・やはり今のままではダメね、このままではただ押しつぶされるだけ・・・




ザザ ザザザッ...



・・・なんでしたら『夜』が来る前にプレイヤーを全滅させるか、すくなくとも『夜』に負けないように強くなる必要はあるんじゃないですか?...もりくぼは知りませんけど・・・


・・・はぅ...もりくぼは慣れない説明に疲れたのでしばらく自分の世界に籠ります・・・





ザザザ__ザザザ、ザッザザ_ザ。ザザ___......
































飛鳥(ボット)「へぇ・・・なかなか興味深い話だったね」



どこかのビルの一室、周囲からは簡単にのぞき込めない位置取りの部屋


飛鳥はアンテナのように広げていた指を閉じた

傍受していた会話は聞こえなくなる

もともと彼女の能力は一人分の音声しか聞き取れないため、連続して複数人の会話を盗聴するためにはいちいち一人ずつチューニングして行かないといけないから骨が折れるのだ



彼女はいま部屋に一人だ、そのつぶやきを聴く者はいない

仲間がいないわけではないがその全員がとある作戦のために動いている



飛鳥(ボット)「廃墟のボット、能力の容量、そして夜......どうやら晶葉さんは隠し事が好きらしいね」




ゲーム開始22分経過

報告事項なし



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


チャプター
早坂美玲




アイテムを自動的に探索、主人である森久保乃々のもとに運搬する

そして命令さえあればプレイヤーすら監禁し、スタミナの材料にする


見た目は青いパネル

ときに部屋になり、箱になり、机になる



そして今は箱となって転がりながら何処かへ向かっている

その中に入っているのはとあるキーアイテムだ

最初に確保した他のアイテムを放り出してでも奪取する価値のあった品



美玲「なんだよこれ......」



箱の中には美玲の手袋が入っている

そのこと自体は問題でない、箱が転がっていく速度は美玲でも充分追いつけるものだったのだ





問題は追いついた後だった



美玲「これじゃ、どの箱に入ってるのか分かんないじゃんか!?」



途中いくらか崩れたとはいえ、美玲が追いついたときには全てのタイルは箱の形を取り戻し

牧場の羊の群れのように、あるいはサバンナのシマウマのように密集し、一群となって行動していた。

どの箱も同じ大きさ、同じ色合い、同じ移動速度


小走りで最後尾から追跡している間にも、
まるで青くて角ばった巨大な生き物の背中を見ているような錯覚を覚えそうだ




美玲「うぅ・・・そうだ!普通にかんがえたら一番後ろを走ってる箱の中だろ!」


そうだ、確か自分にまとわりついた青い板はあとから遅れて群れについていったんだから後ろの方のはず



美玲は箱の群れの最後尾を転がる箱に飛びついた、ポケットには無理やり詰められた手榴弾が入っているにもかかわらず。

それでも箱は止まらずしがみついた美玲を引きずっていく


美玲「むぎぎぎぎぎぎ・・・!」


美玲は片手で引かれたまま反対側のポケットに突っ込んでいた銃を取り出した

そのまま銃のグリップをハンマーのように振り下ろす

箱がその程度で壊れることはなかったが板同士の継ぎ目が少しだけ緩んだ

中身がわずかに光に照らされる


が、


美玲「(うぅう!なんだまたよピストルかよッ!!)」



隙間からのぞいていたのは自分の望んだものではない

箱はすぐに閉じてまた転がり始めた

これで自分の手袋を見つけるための最初で最後の目星が尽きた


美玲「ぐぎぎぎ、この箱止まんないし!!」


それでも近くの箱にしがみつきながら辛うじて追いすがる

箱は止まらないし、よく見るとあちこちでぶつかりながら箱どうしの場所が絶えず入れ替わっている


美玲「これじゃあウチの手袋、どこか分かんないじゃんか・・・」


全く同一の入れ物が数十個、そのどこか二つ、あるいは一つに探し物


入れ物は絶えず動き回っている。トランプの神経衰弱どころの難易度ではない




美玲「どうしたらいいんだよコレ・・・」

変なモノ追いかけてくるんじゃなかった



いきなり出てきた青い箱

いきなり増えて、いきなりまとわりついてきて

いきなりとんでもない不意打ちを食らった



そうして美玲から思わず弱音が吐き出されたときに起きた、

今度の事態もいきなりだった





美玲「ぎゃんッ!?」





無防備だった美玲の顔面に何かが衝突する

痛々しい音がビルの壁に反響した

箱を追いかけることに気を取られていた彼女はその一撃をモロに喰らっていた


美玲「・・・な、はぁ!?」





それは件の青い箱のうちの一つ




まるで後ろから見えない糸で引っ張られたように流れに逆行し、

その最後尾にいた美玲に突貫した。



美玲「(なんでいきなり・・・)」



唐突な展開、ゲーム内だからあまり痛くないとは言え虚を突かれ一瞬、意識が霞む



工場の廃材から飛び出した謎の箱


大移動


奇襲


紛失、


ここまでは乃々の持つ能力の範疇だった


だが一部の逆走は明らかな異常、


早坂美玲はもちろん、森久保乃々すら把握していない事態が起きていた








ゲーム開始26分経過

森久保乃々(ボット)
VS

早坂美玲

VS
???



継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
更新遅れてすいませんでした。ライブツアーしてました



次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下

1、神崎蘭子

2、十時愛梨

3、早坂美玲


安価、コメントありがとうございました

>>129 >>130
逃げるどころかこっちから追いかけたくなるスタンドですね



グラップラーアキがメダルガチャで出たけど

ホタル・シュバルツは手に入りませんでした

なんでや、今までのイベントでは得点報酬だけはなんとかゲット出来てたやないか

CuのSRだけなんで手に入らんのや

事務所内がローションまみれ、ってどこかで見たな・・・ksk

自分はその逆でした
グラップラーアキなんで出んのや・・・
ksk
安価なら1

2

渋谷凛
シンデレラガール
おめでとうございます

私が投票した子は全員圏外でした

しぶりんおめ

ユッキと文香に声ついたんで僕は満足です

>>152
すいません誤爆しました

多分今ならどのモバマススレに書き込んでも黙ってれば誤爆と思われないと思うの

>>152
今夜は無礼講です
荒れない程度に書き込んじゃえー

でも更新はもう少しお待ちください

保守



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
十時愛梨


危機感



どれだけ危機感を持って事に当たることができるか

今回の企画に限らず何かに挑むためにはそのことが肝要だ

危機感のなさはこの場において油断にしかならない


だが愛梨が遅まきながら抱いた危機感はただ目の前のアクシデントに対する反射的なものでしかなかった


愛梨「きゃっ!」


とっさの判断で慌てて飛び退いた場所に鈍重な音を立ててダンボール箱が墜落した

中に詰め込まれていた何かの瓶が衝撃で飛び出す、そのうちのいくつかが愛梨の足元に転がってきた

アイテムの性質なのか見た目がガラス質にかかわらず今の落下で割るどころかどの瓶にもヒビすら入っていない。


愛梨「あっぶないですね・・・」


愛梨は肝を冷やしたように後ずさろうとする。

だが、まだ危機感が足りなかった


後ずさるのではなく即刻退避するか、少なくともどこから落ちてきたのか即座に確認するべきだった


そうすれば闇に浮かぶ赤い光にも気づけたのに



あやめ(ボット)「ニンッ!!!」



それは落下しながら上から下へ一直線、愛梨の右腕を一閃した


全くの不意打ちに、痛みに似た痺れが走る




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


愛梨「っ!?」


声が出ない

私は腕を抑えながら後ろに倒れそうになって、慌てて足を出して体を支える

水鉄砲も腕と胸のあいだに挟まったからなんとか落とさなかった


えっと・・・ガチャーンって大きな音がして

上から落ちてきた何かをよけたと思ったら腕がバチってなって・・・


愛梨「・・・ぇ、え?」


赤いランプ?発光ダイオードみたいな光がひゅんひゅん動いてる


私のすぐそばにいたそれがさっき落ちてきた何かの箱を私との間に挟むみたいにして私から離れた

よく見るとただの光じゃない

人影みたいなのがいて、シルエットが薄く見えてる。その胸のあたりの一点が赤く光ってるんだ



愛梨「・・・だれですか・・・?」



「・・・・・・・・・」


その、人?というかボット、は何も答えない


赤い光だけがゆらゆらと宙を漂っているように見えている

私はしびれの抜けきらない腕で手の中のおもちゃを構えた

ちゃぷんと中の水が揺れる


愛梨「・・・あの・・・」


続けて言葉をかけるけど・・・・・・何だろう?

自分の行動がどこかずれてるような、うっかり脱いじゃいけないとこで脱いじゃった時みたいな場違いな感じが・・・


あれ、そもそも私、さっき何されたの?



愛梨「!」


そう思ったときには赤い点は赤い線になって


流れ星みたいに光の尾を引いてこっちに向かってきた

その瞬間私は見た

その赤い光を鈍く反射する尖った何かを、二つ


愛梨「(あ、わかった)」 


光の点を狙って水鉄砲を構える

今更ながらこれが心もとない装備だと確信する

相手の武器に比べてなんと頼りない



愛梨「(私、本気で狙われてる)」


がむしゃらに引き金を引く

一直線に水が飛び出すと同時に腕に訪れる反作用が飛沫を作った



この水鉄砲に攻撃力はない。

だが人一人なら充分のけぞらせることができる


そしてなにより、

この武器に銃声はない

そして暗がりではその銃口の先も読めない



だからこそ必発必中の不意打ちだった



「!」



なのに


それはよけられた


真横に飛び退くように、光が真横に軌跡を真っ赤に描く


狭い通路の壁際ギリギリに影が身を寄せ、そこからもう一度愛梨に飛びかかった



愛梨「いったぃ!?」


腕の次は二の腕への切りつけ、

影と交差する刹那、愛梨の右肘より上に熱さが発生した


たたらを踏みつつ振り返る。愛梨の踵が瓶の一つに当たった




止まらない

追撃は止まらない



危険色、赤色の灯りがめがけて膨れ上がるような錯覚

ボットが一直線に向かってきたのだ

姿の見えない敵を闇の中から見出す唯一の目印

それが獣の眼光のようにぎらりと光る


愛梨「なんなんですか!なんとか言ってくださいよぉ!!」


水鉄砲をボットに向けて構えるのは間に合わない、だから盾にした。

両手で保持して使うサイズのそれの横側はある程度の面積がある

胸に横抱きにすれば急所は守れるし、まっすぐ飛び込んだ攻撃ならまず間違いなく防げる







「甘いですよ、愛梨殿」





愛梨「!? あやめちゃ」


水鉄砲がカバーしていた範囲のわずかな隙間を縫って潜り込んだモノ


それは苦無。忍者の使うオーソドックスな刃物だった




鎖骨のすぐそばの肩口にざっくりと

横腹、腰の淵を貫通するようにさっくりと



2本の刃物が愛梨の体に潜り込む





あやめ(ボット)「わたくしの眼には、暗闇でもその武具の形がよく見えておりますので」








_____________

 十時愛梨  75/100



_____________



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



?「・・・ゲームとはいえ、パパッと出来上がったりはしませんか・・・」


どっしりと据え付けられた装置からわずかに漏れる光に赤々と照らされた部屋、

そのボットは既に十分以上その近くの椅子に腰掛け、自身の能力のもたらす効果の成就を待っていた


?「そのほうが出来上がった時の喜びも大きいですけどね!」






あやめ(ボット)「浜口あやめ。ただいま戻りました」


その部屋にもう一人のボットが足音騒がしく踏み入る

その手にはダンボール箱、中には何かの瓶がぎっしりと詰められていた

もちろんアイテムだ



?「おかえりなさい!またたくさん集めてきましたね」



がしゃんと乱暴に箱が机の上に放られ、瓶がぶつかり合う


あやめ(ボット)「ええ、途中プレイヤーとあいまみえましたが・・・」

?「倒したんですか?」


ボットが椅子から立ち上がり、箱の中身をあらためる。

これらもじきに彼女の能力により機能を失うのだ


あやめ(ボット)「いえ、しばらく動けなくなる程度のダメージを与えましたが、今回はアイテムを優先しました」

?「それがいいですよ、あたしたちは正直戦闘向きの能力じゃないですし。まぁあやめさんは運動神経が高いですけどね」




あやめ(ボット)「それにしても・・・ふむ、美味しく焼けているようですね」

?「でしょう?」



装置から漏れる煙と匂いにあやめが反応する


ゴツゴツとした煉瓦に外装を覆われ、小さな鉄の扉が固く閉ざされている

中で燃えたぎる火炎の光以外が漏れ出してくることはない







あやめ(ボット)「ところでこの”パン”、どれくらいで完成するのですか、みちる殿」


大原みちる(ボット)「うーん・・・あたしのオリジナルの記憶によると、普通のパンなら一時間もかからないと思うんですけど」





ふたり揃ってその装置を眺める

どこか古めかしいデザインで、オーブンというよりは窯に近い



あやめ(ボット)「うむむ・・・あまり悠長にしていることもできませんよ?もう少し早められないですか?」

みちる「んー・・・あたしが誰かにやられちゃわない限りはこのパン焼き機の能力も止まらないし、そんな焦らなくてもいいんじゃないですかー?」


アイテムをパンに作り変える能力を持つパン焼き機

それを操作する能力者、大原みちる


広大な仮想空間のどこかに紛れ込むように隠されたアイテムを見抜き、探り当てる目を持つ能力者、浜口あやめ



あやめ(ボット)「あ、そうです。これもキーアイテムですので、そちらのものと共に後でよろしくお願いしますね」

みちる(ボット)「おお、これで二つ目ですね」




あやめが懐から取り出したものをみちるが受け取り、机に置く

これで彼女たちが抑えたキーアイテムは二つ





一方は黒と濃い目のピンクでデザインされたウサ耳カチューシャ

おもちゃよりはしっかりと作りこまれているようで、どうやらバニーガールの衣装の付属品のようだ




もう一方はどこにでもある市販のものらしきスケッチブック

開かれたページには天使のような悪魔のような、形容し難い格好の少女が描かれていた


















みちる(ボット)「あ、できたみたいです。やっぱり現実のより早かったみたいですね」



「次のパン、いきますか!」














ゲーム開始16分時点

十時愛梨VS浜口あやめ(ボット)

ボット側の戦闘放棄により続行不可能


ゲーム開始21分経過

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
更新遅れてすいませんでした

保守ありがとうございました。元気が出ました

凛Pのみなさん、おめでとうございます


次回、チャプター神崎蘭子から開始になります

安価はちょっと休みます


更新待ってたー次も楽しみにしてます

超☆保守


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神崎蘭子



ハチの巣


おびただしい量の銃弾に貫かれたあとの人体をそう比喩することがある


だがここは仮想の現実、そして何より「見るに耐えない表現」は規制されている

人体に潜った鉛の粒が抉るための肉はない、ただダメージの数値として処理が施され、目に見えないスタミナだけが減らされていく

そのあとは潜った場所の反対側から抜けていく


だから神崎蘭子の電子の肉体が感じたのは痛みに似た何か

そしてその身に余る衝撃のみ




蘭子「_______」




14歳がモデルの体は無様に跳ね飛ぶ。


現実なら弾が命中した箇所が爆ぜていてもおかしくないが、それが起こらなかった分が吹き飛ばすエネルギーにされたようだ

だが皮肉なことにそのおかげで雨のように降り注いだ弾丸の大部分を回避できていた



蘭子「けほっ!!えほっ!・・・」


背中を打ち付け咳き込む

壁際に並んだ店舗の一つ、さっき出てきたケータイショップの一つ隣のスペース

そこが蘭子が偶然吹き飛ばされた場所だった。3階からは完全な死角になっている


ひどく痺れる箇所、肩や腕を抑え蘭子は自分の体を引きずり店舗の奥に避難した


蘭子「(うぅ、ぴりぴりする・・・)」


リアルな痛みではないがそれでも内心は動揺どころではなかった。いきなりの銃撃に呼吸が乱れ目眩までする

動悸が激しくなったような気もしてきた、どこまでがリアルの感覚かわからない


べちゃ


蘭子「けほ・・・!」


床に手を付き、後ずさるときにぬるりとした感触

その店舗の床にもまたあのピンクの塗料が撒かれていた

塗りたてのペンキのように蘭子の手足や靴に上塗りされていく

銃声はしない。

蘭子を死角に吹き飛ばしたところでぴたりと止まった


蘭子「(ここに隠れてたら上から撃たれない、よね?・・・でも降りてきたらどうしよう・・・)」



他にも仲間がいたらどうしよう、逃げるとしたらどこに、この店の奥のスタッフルームはどこかにつながっているだろうか、そこにも敵がいたらどうしよう

反撃する手段もないし、状況を覆せる手段がない



とうとう壁際の、小物やら装飾品の飾られた棚の取り付けられた面に背中がぶつかった

よく見ると他にも壁から生えたフックからおしゃれな服が吊るしてあった、どうやらブランドものの服屋を模しているらしい

ついさっき自分のボットから逃げた時と全く同じ構図である。

違いは逃げ込んだ場所がケータイショップではないこと

スタミナも精神力も大幅に削られていること

手足の一部が動かせないほどに痺れていること

自慢の黒衣がピンクに染められていること



その後、体感で何十分も経過した、



だが実際は十分もたっていないかもしれない

蘭子は身をこわばらせ無音のままこちらを伺っているであろう三人に神経を尖らせ続けていた




こつんっ


蘭子「ひゃうっ!?」


静まり返ったスペースに小さく音が鳴る

蘭子の靴に何かがぶつかった音だ


蘭子「・・・・・・・・・・・・・・・?」

手のひらサイズのそれを手に取る

蘭子「これって」

それはピンクに汚れた携帯電話、今は静まっているが銃撃が起きる少し前にも足元に転がっていたのと同じおもちゃだ


蘭子「どうしてここに・・・?」

さっきこれが転がっていたのは通路であり店内ではなかった

まさか都合よく自分と同じ方向に弾き飛ばされた?

だとしてもその機体の表面に弾痕はないのはおかしい

これでは自分を追いかけてきたようではないか




その疑問はもうすぐ解消される

第二波とともに



_____________

 神崎蘭子 79/100



_____________


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~









亜子(ボット)「21ダメージかぁ・・・」






マシンガンのハンドルから手を放し、亜子はひび割れたガラス越しに階下を覗き込んだ

そこには痛々しく穴だらけになった床しかない、蘭子は横方向に逃れ、しっかりと三人の死角に入っていた

そしてそのまま何の動きもないまま時間だけが経過しているところを見ると自棄になって通路側に飛び出してくることはなさそうだ



さくら(ボット)「あれぇ?もっとあたってなかったかなぁ・・・」

泉(ボット)「弾みで飛んでいったせいで外れたんでしょ、至近距離なら決まっていたわね。無理だろうけど」

マシンガンの横から帯状に伸びた弾丸はまだ十分な長さがある、プレイヤー1人屠るくらいなら十分お釣りがくるだろう

それでも泉は先ほどの不意打ちが完全には決まらなかったのが不満らしい


亜子(ボット)「だいじょーぶやって泉、弾なら融通きくんやし」


ガラスにもたれながら何も掴んでいない右手を握り込む

いつの間にか、その手の甲には数字のような紋様が浮かんでいた



21



たしかにそう読める、先ほど蘭子に与えたダメージと一致する数字だ


亜子(ボット)「アタシの能力があればなぁ!」

マジシャンのように右手を一気に開く

先程までそこにはなかったはずのもの

マシンガンの弾丸がその手のひらからジャラリとこぼれ落ちた

同時に手の甲に浮かんでいた紋様が消えていく


さくら(ボット)「はわぁ、手品みたぁい」

泉(ボット)「プレイヤーにダメージを与えると武器が手に入る能力、だっけ」

亜子(ボット)「そんなかんじやね、しかもうまいこと食らわせたら使った分よりようけ手に入るんやで!」


そう言うと亜子は足元に散らばった弾を立てて一列に並べ始めた


等価交換


それが土屋亜子の能力だった。

彼女の周囲でプレイヤーが受けたダメージを貨幣として、それを他の武器や銃弾と交換できる

削ったスタミナを別の何かにする、という意味では森久保乃々のそれと非常に似ている。

乃々はそのすべてを自身のスタミナという概念に変換し、亜子は武器、装備という現物に還元するというだけの違いだ



亜子(ボット)「ひのふの・・・なんや1ダースぽっきりかい・・・」


「もうちょい近づいて一発でも急所なんかに当たってくれたら大ダメージで大儲かり、もらえる弾丸も倍々ゲームやってんけどなぁ・・・」


泉(ボット)「そこは痛し痒しかな、接近戦だと足元を掬われかねないし」

さくら(ボット)「うーん?・・・えっと、うん!そーだねぇ!」


手すりに手をかけ身を乗り出し吹き抜けから蘭子のいた地点を見下ろす。

穴だらけになった床板がめくれ、飛散しているが泉が探しているソレははっきり見えていた


泉(ボット)「うん、ちゃんと塗料にまみれたみたいだね」


血糊には程遠い、闇目に鮮やかな桃色が引きずったような軌跡を残している

それはすぐそばの店舗の中に伸びていて、そこに蘭子がいることは上からでも瞭然


泉(ボット)「ま、どこに隠れても意味はないんだけど」


手すりにかけた手から能力を発動させる


その影響が現れたのは手すりと一体の鉄枠、そしてそこにはめ込まれたガラス

マシンガンの銃筒に貫かれ派手な蜘蛛の巣模様のできた分厚いガラス


その蜘蛛の巣模様が消えて、溶けた


ガラス全体がドロドロに変質し、ぬるりと波打ったことで表面の傷も含めて滑らかに均されていた


泉(ボット)「亜子、銃口を左に、あと角度も10度ほど下げて」

亜子(ボット)「がってん!」


ハンドルを握り直した亜子が泉の指示通りマシンガンの向きを微調整する

本来なら割れたガラスに引っかかるはずの銃筒が、柔らかくなったガラスを掻き分けるようにスムーズに動いた

そして矛先が蘭子の逃げ込んだスペースの出口付近に向けられる


さくら(ボット)「わぁ、水飴みたぁい!」

泉(ボット)「食べちゃダメよさくら。硬度と粘度の数値を書き換えただけで、これはガラスなんだから」


波打つガラスという不可思議に感嘆の声を上げるさくらを泉は冷静にたしなめる




プログラムの改竄



大石泉のその能力は出力と規模こそ小さめだが、応用力だけで言うなら島村卯月に並んでボット内トップである

仮想空間に設置されたあらゆるオブジェクトの、現実のものと似せるために設定された数値、

質量、動摩擦係数、静摩擦係数、粘度、硬度、粘着力、照度、密度、etc...そして色までもを書き換える


壁の表面だけをピンク色の、少しの粘着性を持ったペンキのような性質に変え

設置型のマシンガンと地面との間の摩擦を減らすことである程度の運搬を可能にし

そして今もガラスを柔らかくし、音もなく銃口を調整することに一役買った


泉(ボット)「さくら、あとお願いね」


さくら(ボット)「はぁい!」



お膳立てはした

トドメの一手が放たれる


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


こつん


ことっ


からん


蘭子「・・・ふぇ?」


最初は足の先、ブーツのつま先にケータイが小突くようにぶつかってきた

それだけでない、インテリアとして背後の棚に置かれていた小物までもがひとりでに棚から転げ落ち始めた

ポルダーガイスト現象のように、次々に棚からこぼれ落ち、転がり出す

そして蘭子のもとに集まりだす


磁力に引き寄せられた砂鉄のように見えない力に引き寄せられる

蘭子「何事ぞ・・・え、え?」

だが蘭子にそんな自覚はない


もとより蘭子さえも何かに引き寄せられ始めているのだから

ずるり、と膝と床が擦れ合う

背中を預けていた壁から離れていく


蘭子「あれ?わ、私・・・どうして」


ケータイと小物が共にベルトコンベアに乗せられたかのごとく引きずられていく

慌てて立ち上がろうとした蘭子だが、すぐに転倒した

不安定な姿勢で転んだせいでしたたかに顔面を床に打ち付け、悲鳴が漏れる


蘭子「ひう、なにこれぇ・・・」


顔を拭おうと腕を上げる

そこでようやく気づいた

顔の近くに持ち上げた腕が横から何かに引かれているような感覚


引いているのは腕そのものではなかった

服の袖が引かれるようにピンとつっ張っているのを見る限り、


蘭子「引っ張られてるの、袖・・・服?」


束の間だけ冷静な思考を取り戻す。体全体に及んでいる謎の引力をよく観察した


蘭子「(私を、というより・・・私の服が引っ張られている?)」


自分の黒衣を見直す、今それはピンクのペンキもどきに汚れている。

手足に付着していたものもつい拭ってしまったせいでピンク色の手形のようなものまで付けられて、見る影もなくなっていた


蘭子「これって・・・」


周りを見渡す、地面を転がっていく小物たち、それらは不自然にピンクの彩りを加えられていて、

棚の上に残ったままの小物には暗くてわかりづらいが、見た感じ妙な色付はされていない。






蘭子「薄紅の、吸引力か?(ピンクのペンキがついたものだけ・・・動いてる?)」






そこでまた蘭子は不自然に態勢を崩した

引く”力”が強まっている

いきなり横薙ぎに視界が揺さぶられた


蘭子「___む_」

店の出口、デパートの通路、敵の射程圏内に向けて

数多のガラクタにまみれて蘭子の体がスライドしていった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



さくら(ボット)「ピンクのものをい~っぱい集めちゃうよぉ!!」


さくらが力むように両の手をにぎる


それだけで周りの状況は一変していた



トラップとして泉が施していたピンクの塗装

それがスライムのように、あるいは壁画が動いているような不気味さで床や壁を伝って動き始めた

他にも近くの店舗から大小様々な雑貨がこぼれ落ち始める。

それにも例の塗装がこびりついていた


亜子(ボット)「おおっ、今蘭子ちゃんのスカートのはし、チラッと見えたんちゃうか?」


ハンドルを握りながら下を監視する亜子が声を弾ませる


泉(ボット)「次に姿を見せたら、また吹き飛ぶ前に集中放火ね」


さくら本体の足元に転がってきたピンク色の帽子を足で踏み止め泉が呟く

早いとこさくら能力で蘭子を引きずり出さないと先にさくらがピンクまみれになってしまう



さくら(ボット)「ふぬぬ~~!!」




ピンクのものを集める



村松さくらの能力の説明はそれに尽きる

ピンクのものを操る、ではなく一直線にさくら本体に引き寄せるだけ

能力としての強度は高いが、この「ピンク色」の定義がかなり曖昧なためどうにも実用的でない


だからこその泉の仕掛けだ


ピンクに塗装された壁や床のある場所に踏み入るもよし、あらかじめピンクの液体まみれにされた品物に触るもよし

どこかしらを着色しさえすれば、さくらの力は有無を言わさず発動する


最低でも銃弾の届くエリアまで引きずってこれれば、あとは亜子がハチの巣にしてくれるだろう


亜子が武器を補充し

さくらが敵を集め

その間を泉が取り持ち

武力に物を言わせ問答無用で叩く

それがニューウェーブの戦法だった


泉(ボット)「.........」


亜子(ボット)「.........」


さくら(ボット)「ふんぬぬぬ~!」



3階から1階を見下ろす、死角となっていた店舗のスペースから少しずつ小物にまみれた黒衣のはしが見え始めていた

蘭子が中で何かにしがみついているのか、その動きはひどく緩慢だ


泉(ボット)「さくら、力を強めてみて?」

さくら(ボット)「! はぁーい!」


次の瞬間、俄かに周囲が騒がしくなった

あっちこっちの店舗に仕掛けられていたピンクの置物や商品が棚から一斉に転げ落ちたのだ

まるで地震が起きたようだが、人間や床は一切揺れていない

地鳴りのような音を立てて雑音の合唱が始まる


もちろんその影響は蘭子の着ていた服にも訪れて、






亜子(ボット)「___出たぁっ!!!」




引っこ抜かれたように蘭子の服がまろびでる

逃げ場のない通路の中央まで引きずられ、



吹き飛ぶ猶予もなくハチの巣にされた



途切れない銃声がボットの聴覚機能を圧迫する



ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


さくら(ボット)「ひゃわっ!?」

さくらが能力の発動をやめ、反射的に耳を塞ぐ


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


亜子(ボット)「・・・やっかましいなぁあああ!」

亜子が声を張り上げる


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


泉(ボット)「え、なに!?聞こえない!!」

泉がマシンガンの付近から距離を置く


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


銃口はマズルフラッシュを噴き出し、

そこから吐き出された鉛の雨が蘭子の黒衣を穿ち続けた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





みちる(ボット)「~♪」



あやめ(ボット)「みちる殿、こっちのパンはこんなものでいいのでしょうか?」


みちる(ボット)「いいですね!美味しく焼けた姿が今から楽しみです!」

あやめ(ボット)「はぁ・・・美味しくなるのでしょうか?」

みちる(ボット)「大丈夫ですよ、小麦粉は無敵です!」


みちるの能力が作り出した大型のパン焼き機の前で二つの人影が作業を続けている

手元にある物体に力を加え、こねて伸ばして丸めたあと仕上げに形を整える


あやめ(ボット)「聞くところによると酒の類の入ったパンというのもないことはないらしいですが・・・」


二人はパンを作っていた

ドリンクと、キーアイテムを盛大に放り込んで

大量の空き瓶がそばに転がっている。

みちるの能力の下準備のため、アイテムたちをパンらしくしなくてはいけないのだ


みちる(ボット)「できました」


小麦粉がベースの生地に包まれた塊をそっとプレートの上に乗せる


若干ひらべったい四角形で端っこからは、黒地にピンクのアクセントが効いたウサ耳が見えている



あやめ(ボット)「それ・・・食べられるのですか?」

みちる(ボット)「はい!焼けば、あたしの能力でアイテムとかがいい感じにパンの具になりますから、決してゲテモノ食いではありませんよ!」



恐る恐るといった様子のあやめからの問いにみちるは自信満々に胸を張る。

そしていつの間にか装着していたキッチン用手袋でプレートを確保するとパン焼き機の鉄扉の奥に設置した



みちる(ボット)「もちろん小麦粉があっての話ですけどね」

あやめ(ボット)「そうですか、ところでその小麦粉の方はみちる殿の能力で捻出できないのですか?」


鉄扉をしっかりと閉めた途端その中からゴウとくぐもった炎の音が漏れ出した



みちる(ボット)「あー、無理ですね。だからこうやってデパートの食品街の一角を占拠してるわけですし」



あやめ(ボット)「やはりですか、ニンニン」



みちるは先に焼いていたパンに手を伸ばすとそれを頬張りだした

反対の手で別のパンをあやめに差し出しながら



そうしている間にもキーアイテムが焼けていく

そのプログラムが全く別のものに書き換えられていく



みちる(ボット)「フゴ!フゴフゴフゴゴ?(ほら!美味しいでしょ?)」

あやめ(ボット)「あ、これ本当にパンですね」



広い広いデパートの中、二人の暗躍に気づく者はいない



ゲーム開始24分経過

報告事項なし



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










長い長い数秒が過ぎ、ようやく銃声が止む





さくら(ボット)「はぅ、耳鳴りしちゃう」

泉(ボット)「ボットなのに何言ってるの」


亜子(ボット)「えーと、残弾は・・・まだあるな」


さくらの能力もマシンガンの大音声も止まり、三人の声以外の音が消える


亜子は自分の手の甲に注目する、そこに蘭子に与えたダメージが表示されるのだ


亜子(ボット)「(蘭子ちゃんがアタシらに会うまでノーダメやったとしたら今ので79ダメージ・・・)」


「(そんだけありゃ今ぶっぱなした分の弾に色付いて返ってくるどころか、プレイヤー撃破ボーナスも合わせて新しい武器もゲットできるで!)」


「(手榴弾か、それともライフルか・・・さくらや泉でも使えるやつやないとな・・・)」


亜子の人格をトレースしたボットの知能が、予測をもとに戦略を組み立てていく

彼女の能力は攻撃の要なのだから、ここでの細かい計算が次の戦闘に波及していくのだろう





亜子が見守る中、手の甲をなぞるように紋様が浮かび上がった





































      0


















_____________

 神崎蘭子  79/100



_____________


ゲーム開始24分経過

神崎蘭子

 VS

大石泉(ボット)&土屋亜子(ボット)&村松さくら(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまでです

保守ありがとうございました


そら(本田くんと違って)そう(服を脱ぐ)よ

ということは今の蘭子の格好は・・・

ウッヒョー!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
一ノ瀬志希&池袋晶葉



志希「あたしさ、匂いで人間を作れって言われたことがあるんだケド・・・この話聞きたい?」



壁に並んだ、全部で18機のカプセルを眺めつつ、志希が話を振ったのはちょっとした暇つぶしのためだった

晶葉「君の海外での思い出話にも興味はある、だが先に報告することがあるだろう」


志希に背中を向ける形でディスプレイと向き合っていた姿勢を解き、肩のコリをほぐしながら晶葉が振り返る

その視線の先にいる志希は、さっきまで使用していた機器とそれをカプセルとつないでいた端子をくるくると巻き取るように回収していた。

志希「? あーうん、プレイヤーの本体はみんな健康体だったよん♪血圧心拍数発汗量のどれも異常値は無し、ばっちぐー」

仮想空間に切り離した意識を送り込まれ、無防備になったプレイヤーの肉体は転送装置も兼ねたカプセルの中で保護、管理されている

かといってその本体に何かないとは限らない、だからこその精密検査だ。

志希は先程まで別の装置を用いてカプセルの中に人を納めたままその身体検査を行っていた


志希「状態としてはそれこそ夢を見ている状態かな? ちょっとばかし汗っかきの子がいるけど脱水症状起こすほどじゃない、悪い夢に魘されてるな~ってくらい」

晶葉「ならいい。三十分後にもう一度途中経過を診てもらうから、そのつもりで頼む」

志希「頼まれたーん♪」


晶葉の隣にぽすっと腰を下ろした志希がはだけた白衣を整えもせずに晶葉と同じ画面を眺める

晶葉「で、さっきの話の続きはどうなるんだ」

志希「あ、聞く?聞いちゃう?」


晶葉「興味がある。”匂いで人間を作る”という意味がわからないしな、匂いは感覚であって物質ではないのに」

晶葉はじっと眺めていた画面から目を引き剥がし、メガネをずらして目を擦った。流石に疲れたらしい


志希「順を追って話すって」

「きっかけはギフテットのあたしのことがどっかのお金持ちさんの耳に入ったってコト」

「ある日研究室でハスハスしてたとこを留学先の先生、あれ教授?だったかに呼び出されて連れてかれたとこにいたのがお金持ちだけど目の見えないおじいさん、」

「で、その人に頼まれたのがさっきの内容。お金は積むから匂いで人間を作れってさ」

「つまりなんてゆーかな...人間が”そこにいる”と思えるような匂い?」


「よーするに体臭だよ体臭。そのオジサマは亡くなった奥様の体臭を香水で再現しろって言ってきたんだよね~」

「香水ってフツー、体臭をごまかしたり飾ったりするためのものでしょ?その逆をあたしにやれだってさ」


晶葉「それはまた..........奇天烈な」


晶葉が目頭を揉みながら感想を言う。志希は伸ばしっぱなしの前髪に指をくるくる巻きつけていた


晶葉「で、それは上手くいったのか?」

志希「う~ん、かなり難航したんだよねぇ。体臭といったってまさか加齢臭作るわけにもいかないし。そのおじいさん目が見えない代わりにあたし並に鼻が良かったから誤魔化しも効かないし。それに何より匂いのモデルがお墓の下だったのがチメー的」

「そのおじいさんは妻の形見で生前着てたドレスとかお高いコートだのについた匂いから再現してみろー、とか言うし」

晶葉「ふーむ。体臭なんぞその日のコンディション次第で変わってしまうものだろう。匂いに敏感な人間にとっては尚更だ。そのご老人には無茶を言っている自覚はあったのか?」

志希「うん、いくつか作ってみたけどどれも気に食わないって没にされちった、投げ出さなかったのが今でもフシギー」

志希「まー、オジサマもギフテットなら出来ると思ってたんじゃないかなー?天才なんだからなんでもできるんだろー! というよくある誤解と偏見だねー」


「んまー、結果的にはオジサマを満足させるモノは出来たし、間違ってはないかもね」


晶葉が意表を突かれたように片眉を上げて横を見る。志希はあっけからんと笑っていた

晶葉「ギフテットの面目躍如だな。難航したとか言いつつちゃっかり成功しているではないか」



志希「あー・・・なんてゆーか満足させたわけだけど成功したわけじゃないんだよ・・・」

晶葉「?」



志希「実を言うと香水は完成しなかったのにゃあ」





晶葉「・・・は?」


志希「にゃはぁん」


呆気にとられた晶葉は今度こそ体ごと隣を向いた。

晶葉「待て待て待て・・・難易度の高い香水作りを頼まれて、しかも相手は鼻のきく盲人で、結果として香水無しに満足させた?意味がわからんぞ」


志希「発想の転換というか認識と感覚の違いだね、極論そこに死んだ妻がいると思わせられればそのオジサマにとって匂いなんてなんでも良かったんだよ」

「つまり死んだオクサマの匂いが漂ってればいいってわけじゃなかったってゆー、あたしの苦労はなんだったのだー」

志希はその時のことを思い出すように肩をすくめやれやれとため息をついた


晶葉「つまりなんだ?例えばその妻とやらそのものの体臭ではなく、間接的に妻を連想させるもの、料理や化粧なんかの香りでお茶を濁したということか」

志希「半分正解にゃん」

「その亡き妻ちゃんが生前使ってたってゆー香水を邸宅の使用人がこっそり隠しててね、色々誤魔化してそれを嗅がせたらビンゴだった”これぞ私の妻の香り”だってさ」


晶葉「ギフテットとはいえ十代の少女を呼びつけておいて随分粗末な幕切れだな・・・、」

成功譚とは呼べない、そんな志希の昔話に興が削がれたとでもいうように晶葉はディスプレイに視線を戻した

志希「で、どー思う?」

その隣でゴロンと寝っ転がった志希が晶葉の顔を下から覗き込む

晶葉「ふむ、匂いというのも突き詰めて言えば脳に対する刺激なわけだから案外研究を重ねれば脳を騙し、その手の感覚を喚起する芳香も出来たかもしれないな」

志希「うん、やっぱそう思う?」

晶葉「おそらくそこまで行くと幻覚剤というか完全に危険な薬品に分類されそうだがな」

志希「にゃふふん」

もとよりなんのオチもないただの雑談だったらしく、そこで会話が途切れる

カプセルや他の機材から流れる低く唸るような駆動音を除いて沈黙する

志希「そういやこの晶葉ちゃんの発明した機械も似てるよね。ありもしない場所、居もしない人物を脳に錯覚させてるんだから」

晶葉「そうだな、たしかに原理はその香水と同じだ。そっちが化学物質を使っていて、こっちは電子制御を用いているというだけの違いだな」

「あと訂正しておくと、完成品こそ私の手が大幅に加えられているが、元となるシステムの発明自体は企業のしたことだ」

志希「あーそだっけ、あと街の仮想モデルもその企業のだっけ?」

晶葉「そうだ、私の専門はロボットだからな。街一つ再現する超高精度物理シュミレーションソフトなど私一人では到底無理だ。というか君はその説明もされていたと思うのだが...」

志希「とか言いつつちゃっかりうちの事務所のモデルも混ぜ込んでるじゃん・・・ってことは純粋に晶葉ちゃん謹製なのはボットだけかぁ」

晶葉「君が香水でやろうとしたことを電子信号でやってるだけだがな」

志希「でもあたしと違ってそっちは成功してるよね、それにちゃんとした人間のイメージを作れてるし」

今頃は仮想の電子世界で跋扈しているであろうボットのことを思いながらずらりと並んだディスプレイに目をやる

その画面は見知らぬ街を鳥瞰するものや何かの数値をグラフにしたもの、得体の知れない英数字の羅列を流し続けるものなど様々だ


晶葉「......ちゃんとは...してないな」

志希「うん?」


晶葉「このボットたちは所謂人間味をテーマに事務所のアイドルの手を借りたのだが」

志希「手じゃなくて脳みそでしょ?」

晶葉「言葉の綾だ。とにかくボットというのはそのモデルになったアイドルの思考を真似て行動するロボットだ。だから今回の模擬戦闘のように共通の目的を与えられても解決までのアプローチに違いが発生する」


志希「あとゲットした能力にも差が出てるよね。で、ちゃんとしてないってどゆこと?」

晶葉「ボットの、なんというかその・・・感情のようなものが薄いのだよ」

志希「かんじょう?ロボットなのに?」

晶葉「そうだ、CHIHIROが読み取ってくるデータを見るにボットたちは限りなく人間に近い思考プロセスをたどって行動してはいるし、言動も人間そのものなのだが...なんだろうな...それでも人間には見えない」

志希「...?例えばどんなトコが?」

歯切れ悪く言葉を探しながら画面を睨む晶葉に志希が疑問符を浮かべる

晶葉「まず一度決めた行動に迷いがない。発砲も捨て身も長時間の待ち伏せも、コンマ一秒の躊躇もなく実行に踏み切っているあたり人間のプレイヤーとは違う。まるで容赦のない歴戦の兵士のようだ」

「だから、それを踏まえて客観的に眺めているとどうしても人間のふりをしているようにしか思えないのだ」

志希「まぁ...ロボットだし?そういうラグとか思考停止って機械には再現できないものでしょ」

晶葉「そうなんだがな......躊躇、恐怖、焦燥そして混乱。もしロボットに感情を与えられる日が来たとしても彼女らがこれを得ることはないかもしれないな」


志希「混乱、ねぇ...機械の混乱ってそれただの故障だもんね」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神崎蘭子




ボットに混乱はない



推測と違うことが起きたならすぐさま思考を立て直す

考えることをやめない、電源が切られるその時まで


さくら(ボット)「あれぇ!?アコちゃん、それどうしてゼロなのぉ?」


人間じみた発言を繰り出そうと、電子の頭脳は冷静に視界から消えた相手を探している


泉(ボット)「見なさい、どうやら亜子が撃ち抜いたのは蘭子さんの服だけのようね」


索敵に使う目と耳のセンサー、焦燥もなくそれらはなんら支障なく稼働し


亜子(ボット)「むこうに逃げよったで...大損こかせよって...今度こそ往生せんかい」


怒りを真似ながら、次なる攻撃への移行をスムーズに完了させた




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




チャックを力任せに引っ張り上げる

腕の引っかかった袖を無理に通す

はだけた襟元から覗いた肩を乱暴に隠す

その間も走る足は止めない


背後からは囮にして近くの棚の足に袖口をくくりつけた服が引き裂かれていく音がする

いや、それは聞こえていると思っているだけだ。

今蘭子の鼓膜を叩く音は数十数百の弾丸が火薬を爆ぜさせ空を裂く音だけ

その銃弾の撃ち手が囮に気づき、今にも自分に銃口を向け直すのではないかという恐怖が蘭子の足を急き立てる


蘭子「い、忌々しき...!!あぅ...もういやぁ......」


着ていた服を囮にし、近くの棚に飾られていたブランド物の衣装を身につけながらの逃走

足はもつれ、息は上がり、涙で景色がにじんでいる

そこは仮想の世界でも、蘭子にとって恐怖も混乱も焦燥もすべてが本物だった

蘭子「はぁ...はぁ...!」

とっさの判断で選んだためサイズが合わずだぶついた袖から無理に指を突き出す

特に汚れてしまっていたブーツは脱ぎ捨て今は裸足にスニーカー履きだ

蘭子「わぷっ!?」

つまずいたはずみで視界にかかったフードを頭を振って振り払う


薄手のワンピースに前の開いたパーカー、そしてスニーカー

カラーを黒に統一したのはアイドルとしてのセンス故か。それが今の神崎蘭子の格好だった


横の店には逃げ込めない、ピンクのコーティングのある空間には踏み込めない

逃げるなら直線を行くしかない、行き止まりの無い横道が見えるまでまっすぐまっすぐ、それがマシンガンの射線上だとしてもそこを走りぬき逃げ切るしかない

だがデパートは広い、逃げても逃げても視界の両脇を流れていくのは何かの店舗のみ


そしてだしぬけに

絶えず蘭子の背中を叩き続けていた発砲音が止まる

蘭子「......!...」

それが弾切れの証なのか、囮がバレてしまったということなのか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「今度こそ倍プッシュや!」

「待って、あそこまで離れちゃうと亜子の能力の効果範囲外じゃない?」

「あっ、うわ...ほんまや」

「ま、大丈夫でしょ、仕込みは他にもあるんだから。ね? さくら」

「はぁい、もおちょっと強めにするんだよね?」

「うん、お願い。私はこっちに来た”流れ弾”を防ぐ盾を作るから」

「はぁ、アタシは一旦休業かい」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ぐにゃり



蘭子の見ていた景色が歪んだ

水面に写っていた風景が波紋で揺れるように

蘭子「夢か...現?(なに、これ)」

その正体は蘭子の視界を占めていたピンクの塗料

暗闇の中浮いたその色が一斉に動き始めたのを見て、まるで風景が揺れたような錯覚が起きた

いや、実際はさっきから少しずつ動いていた。だからこそ蘭子は横に逃げることができなかった


蘭子「解せぬ...はその収斂の、急速たるや?(どうして、さっきより動くのが早くなってるの?)」


村松さくらの能力はその使いにくさに反比例して強度は白眉だ

有無を言わさずプレイヤーを引きずり出し、数を問わず多数の物体に同時に均等に作用する


それが手加減抜きの強度限界まで発動された


十分距離を開けたはずの蘭子の周囲にすら多大に影響を及ぼすほどに

ニューウェーブの波状攻撃に対し

神崎蘭子の安全圏は未だ遠い


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ペンキ?


さっき私の体にこびりついていたあのベタベタした変なのが壁から剥がれるみたいに通路に流れてきた

さっきからちょっとずつ動いてたけど、あれはもっとゆっくりだったのに

私が走るさきにも流れてきた、うん、本当に流れるみたいにさらさらっと


「......!!えいっ!」


思った以上に急速に動き始めたそれが道をピンクの川で塞いじゃう前に飛び越える

靴の裏についちゃわないように手加減抜きで、転びそうになりながらも着地できた

靴のつま先に目を落とす、少ない明かりだけど私の足は何もない暗い部分を踏んでいた

うん汚れてな...

「っ!?」

その足元めがけてピンク色のボールが転がってきて慌てて飛び跳ねる

それはピンクに塗られた林檎だった。

どこからか転がってきて私の足元を通過し後ろに引っ張られていく

ただそれだけの動きなのに私からすればそれは罠にしかならない

少しでも触れれば同じように後ろに引っ張られて...


蘭子「我を、戦慄せしめんとするか...(怖いよぉ...)」

コロン

前を向き直したところに今度はコップが転がってきた、やっぱり口紅みたいにピンクの汚れつきだ

足元を見ながら躱す。他にも通路の床を水溜りみたいにピンクが侵食してきている。

でもここを一気に駆け抜けないと後ろの三人が追いかけてくるかもしれない



蘭子「........」


蘭子「......よしっ」


足元から視線を上げる。見据えるのは闇の先、見えない出口









だったのに




ソファ、レモン 目覚まし時計、麦わら帽子、消化器、ベルト、買い物かご、ハンガー、三輪車、事務椅子、枕、マネキン、鉛筆、消しゴム、不細工なぬいぐるみ、ゴミ箱、クッション、電気スタンド、電話機、エプロン、辞書、豆電球


蘭子「......は」


果物、文房具、家具、衣類、書籍、etc etc...


蘭子「...いつの間に」


大きな物小さな物丸い物四角い物尖った物重そうな物軽そうな物


そのどれもが少しだけピンクに汚されていて



その「少し」の部分に全体が引っ張られて


津波のように私に押し寄せた



蘭子「っ......きゃああああああ!!!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さくらの能力はピンクであればあるほど強く働く」

「だからちょっとしかピンクじゃないものだと力は弱い」

「でもさくらが能力の出力を上げて強く引っ張ればそんなのは関係なくなる」

泉(ボット)「そうよね、さくら?」

さくら(ボット)「えぇと...はい?」

亜子(ボット)「さくらぁあ!!?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一番大きな物

ソファがワイヤーに引っ張られたみたいに倒れてくる

蘭子「っあ、わわ!!?」

逃げないと! 逃げないと!!


その影を避けるように横に方向を変えて走る、でも店のスペースには踏み込まない、ピンクの水溜りができてるから

そこにも鉛筆がコロコロと転がってきたからつんのめるように足を止めた

ぬいぐるみが地面を這いながら滑ってくるのを踏みつけないようにジャンプ


蘭子「ククク.......み、見切ったもん!」


これは別に私を狙ってるんじゃない、その移動の線上に私がいるからこうなるんだ

だから全部はよけなくていい、ぶつかりそうなのだけを避ければ


蘭子「...!」


マネキンが着ている服をアピールするように腰に手を当て、そのポーズのまま私に迫る。

私より背の高い人形が足を動かさずに暗闇の中を動いてくるのはすごい怖いけど


蘭子「えいっ、やぁっ!!」


そのマネキンが着ている服の、ピンクじゃないとこをつまんで力いっぱい横に受け流す

マネキンは最初グラッと揺れてからこけた。でもやっぱり腰に手を当てたまま私が来た方向に滑っていく

蘭子「さらば桃の傀儡、よ!」

言いながらまた転がってきた男性物の傘をまたいで、座布団を迂回し、スイカを飛び越える




ガガガガガガガガガ!!!!



蘭子「ひゃっ!?」




何の前触れもない銃声、さっき散々聞いたあの怖い音がまた聞こえた、ほんの少しだけ


後ろの三人に見つかった!?


私は足を止め振り返る。地面を転がったり滑ってきた物はもう大部分が私の後ろに流れて行った

他にも私の進行方向からいっぱい転がってきてるけど私にはぶつかりそうもない離れた場所ばっかりだ


蘭子「...はぁ...はぁ...」


後ろには暗闇、その奥に向かっていく大小様々なピンクのオブジェしか見えない

さっきの三人からは距離を取ったし、あのボットは上の階にいたからもっと離れてる


蘭子「なにゆえの銃撃か.........?」


ソファの背もたれが破けてぽっかりと穴が空いていた

さっき避けたソファ、穴が開いたその部分からポツポツと穴が地面に続いている。

そこに銃弾がめり込んでるんだ。ソファを越えてこっち側に蟻の行列みたいに弾痕がまっすぐ伸びている

でたらめに私を狙ったみたいだけど、私が横に避けてたから全然当たりそうもない方向に続いていた


蘭子「...自棄を起こしたか...外れておるぞ」


パリ...カチャン!


黒い穴がポツポツと続いていく先を目で追った先に商品棚があった。

私の道を通せんぼするみたいに進行方向にズラッと並んでいて、その引き戸のガラスが軒並み割られている


パリ、パリ...

ガラスのヒビが広がる


あれ?


この棚にはピンクのあれが塗られてない...?

蘭子「む?」

ガラスはゆっくり割れていく、銃弾のせいで脆くなっているみたい...

蘭子「我は、」

ペキペキペキ、ペキ


ガラスごと戸が外れそうになっている


蘭子「前途を塞がれて、」


ピシピシピシピシピシピシピシ


なんだろう?...あれって


蘭子「どこに逃げるのだ?」



ガラスが内側から押し出されてるみたい



ガッシャアアアアアアアアアン!!!!!!


蘭子「!!」


ヒビの入ったガラスが完全に砕ける、棚の内側から爆発したみたいに____




   痛い




   フォーク



蘭子「     」



    右  
        足


           ナイフ


お 腹


    柄 の長い フォーク


蘭子「      」



        肩

  
痛い


   果物 ナイフ

痛い


 左 腰? 胸? 太もも? 全部?



     包    丁


痛い 痛い痛 い


               血の色じゃな


蘭子「    ぁ   」


いたいたいたいたいたいたい



刃先  だけが

 べっとり ピンク色の





棚に詰め込まれていた刃物が通路全体に炸裂して


その一部が私のいろんなとこにいっぱい刺さった




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
デパート三階


通路の横の道を封じ、一直線上のその先に溜め込んだ刃物をさくらの能力で爆発的に引き寄せる

おそらくそれは作動したはずだが念の為にさくらの能力は発動したままだ。

そのせいで未だにさくらによってくるあれこれを泉が盾で防御している。その盾も近くの店舗の看板を剥がし軽くて丈夫に改造、もとい改竄したものだ


亜子(ボット)「あ~~やっぱアタシの能力届かんわ」


泉(ボット)「さてと、一回きりの罠まで使ってるんだから......あ、ガラスなら私の能力でくっつけて直せるか」

さくら(ボット)「これ終わったら追いかけるの?」

亜子(ボット)「そりゃ、これが決定打になるかはここからじゃよく見えんしな。トドメ差しに行かなあかんやろ」

泉(ボット)「即死じゃなくてもしばらく動けない位にはやれているかしらね。マシンガンはどうする?置いておく?」

さくら(ボット)「わたしの能力なら簡単に引っ張れるよぉ?」

泉(ボット)「それだと何かの拍子に壊れるかもしれないからだめ」

亜子(ボット)「じゃあ、今さくらんとこに集まってきてるモンでやるか。しもたな、アタシらがおる階までピンクずくしにするのは余計やったかもしれん。」

さくら(ボット)「わはー、散らかってるー!」

泉(ボット)「さくらに寄ってきてるのよ...全く、あなたが能力を発動している間、飛んできた色んなものからあなたを守っている私の身にもなって頂戴」

亜子(ボット)「しっかし...この戦法、連続しては使われへんな。いちいち片付けなあかんし...」

さくら(ボット)「ええ、お片付けぇ?」

泉(ボット)「蘭子さんに止めをさしたらね」


亜子がマシンガンの弾丸を抜き取り、タスキのように肩にかける

この銃器は置いたまま蘭子のもとへ行くつもりだから、これはマシンガンが奪取された時のための備えだ。

泉は転がってきた物品の中から手頃な武器になりそうなものを吟味し、その横でさくらが能力の発動を止めようと四苦八苦していた。

能力の出力こそ下がったようだがまだ完全にOFFにできず足元にピンクのキーホルダーをくっつけている


さくら(ボット)「あれぇ...能力切れないよぉ?」

泉(ボット)「ゆっくりやってみなさい。あっと...これでいいかしら」

亜子(ボット)「なんやそれ、金属バット?・・・武器にするにやったら、できれば一発で相手をいてこませそうなヤツがええけどなぁ」

泉(ボット)「それって能力の関係上?」

亜子(ボット)「そやそや、一撃必殺もボーナス対象やでマイナス分は取り返さなあかんし」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





それは


高速で移動していた



最初こそ地面を引きずられていたが、あまりの速さに今ではほとんど地面から離れて飛んでいるようだ



それは



あちこちにその体をぶつけながらも止まらない



目的地に向けて一直線に飛んでいる






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みちる(ボット)「あれ?」


あやめ(ボット)「どうされました?」


みちる(ボット)「パン焼き窯、というかパン焼き機の調子が...悪いみたいで...」


あやめ(ボット)「はぁ...わたくしには分かり兼ねますが」


みちる(ボット)「う~ん、火は止められませんし、置いとくしかないんでしょうか」


あやめ(ボット)「みちる殿の能力になにか不調が?」


みちる(ボット)「いえ、んー、なんでしょう。窯の中のパンがなにかの干渉を受けてるような...」


あやめ(ボット)「その戸を開けて確認できないのですか?」


みちる(ボット)「そんなことしたら能力が制御できなくなっちゃいます、あとパンが生焼けどころかキャンセルされるかも...」


あやめ(ボット)「では静観しかないでしょうな」


みちる(ボット)「でも、うぅん......なんなんでしょうこの感覚...」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







ボットは混乱しない





予定外の出来事に直面してもその思考に1ビットのゆらぎも起きない。

それが起きた瞬間には次の思考が開始されている



例えばデパートの三階に存在する数少ない光源である天窓


そこを「何か」が突き破って猛スピードでさくらに向かおうと





ガッシャアアアアアアアアアアアアン!!!




粉状に散らされた天窓のガラスが地面に降り注ぐよりも

さくらにソレが衝突するほうが早い、そのことが一目瞭然なほどにソレは速かった


さくら(ボット)「ええぇ!?」


亜子(ボット)「さくらぁ!」

泉(ボット)「避けて!!」


軌道は一直線にさくらをめざしている



その青い箱は、



村松さくらの能力で引き寄せられたものではない


さくら(ボット)「とうっ」


だからさくらは横っ飛びで受身も考えずに精一杯その場から逃げた

地面に散らばったピンクの座布団が彼女を受け止めてくれるだろう


そのはずだった





「うわああああああああああああッ!!??」



さくら(ボット)「______へ?____」

さすが、ハードモード……




さくらが引き寄せていたピンクのもの



それは森久保乃々の青い箱ではなくその中に閉じ込められたピンク色の手袋だったり、

その箱に必死にしがみついていた早坂美玲の濃いピンクのパーカーであったりした







美玲「止おおおまあああれえええええええええええッ!!!」






横っ飛びでは逃げるには足りない。箱はほんの数ミリ軌道がずれただけでは勢いは豪ほども緩んでいない

能力の最高出力で引き寄せられ、さらに落下の加速まで付加された一辺1メートルの立方体が





村松さくらの体ごと三階の床をぶち抜いた






ゲーム開始28分経過

森久保乃々(ボット)

VS

早坂美玲

VS

村松さくら(ボット)



神崎蘭子

 VS

大石泉(ボット)&土屋亜子(ボット)&村松さくら(ボット)


継続中


痛い・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





ボットは混乱しない






予定外の出来事に直面してもその思考に1ビットのゆらぎも起きない。

それが起きた瞬間には次の思考が開始されている



たとえデパートの片隅でこっそり稼働させていたパン焼き機の、



その鉄扉を紙屑のように吹き飛ばしながらパンがロケットのように飛び出そうとも


それが黒地に”ピンク”のウサ耳とスケッチブックを混ぜ込んだパンでも





けたたましい爆発音を立てて鉄扉が弾ける

そこから見える赤々と燃えた炎を背景に小麦粉にまみれたそれらが飛び出した

近くにいたボットに目もくれず飛び去っていく



あやめ(ボット)「っ!!」



瞬時に浜口あやめは能力を発動させ、

その目は自分たちのいる場所から高速で離れていく2つのキーアイテムを捉えた



あやめ(ボット)「みちる殿!?今のは一体...?」



何が起きたのかはわからない、アイテムを確保したいが明らかに追いつける速度ではない

だから状況把握を優先した。アイテムを追っていた目線をみちるに戻す

そういえばさっきから随分パン焼き機を心配しているかのように鉄扉の前に陣取っていた

この異変の前兆を感知していたのかもしれない。なら今のも彼女には何かわかったのだろうか



あやめ(ボット)「みちる殿...?」



みちる(ボット)「    」



彼女は無言で窯の口を覗き込んでいる、鉄扉が外れ、むき出しになった炎を。

あやめからはその背中しか見えない




ぐらり


大原みちるの体が傾き


どさり


天井を見上げるように倒れた



胸の真ん中に鉄扉の破片を深々と食い込ませながら



あやめ(ボット)「.........みちる殿...」





ボットは混乱しない


予定外の出来事に直面してもその思考に1ビットのゆらぎも起きない。

それが起きた瞬間には次の思考が開始されている


だが今回は間近で起きたゆえにそれでも間に合わなかっただけの話




炎が霞んで消える

プレートが歪んで消える

残った窯も砕けて消えた




あやめ(ボット)「..........」



ボットは混乱しない


予定外の出来事に直面してもその思考に1ビットのゆらぎも起きない。

それが起きた瞬間には次の思考が開始されている


人知れず武器やアイテムを一箇所に集めること

彼女の暗躍の意味がたった今消えた


だが彼女の次の策は既に組み上げられている



こうして機械の電脳も人間の頭脳も裏切って、戦闘は次のステージに移項した




ゲーム開始28分経過

大原みちる(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



今日はここまでです

保守、コメントありがとうございました


ぼっと怖い


ぼっとこええ


蘭子は大丈夫なのか…?

ひたすら恐怖体験させられてるだけの蘭子ちゃんに救いはあるのか

おつおつ
今回もすごくおもしろかったっす

おつおつ
今回もすごくおもしろかったっす

おつおつ
今回もすごくおもしろかったっす

保守はいらないぞ

■ SS速報VIPに初めて来た方へ
■ SS速報VIPに初めて来た方へ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399385503/)

4 :dos ★ [saga]:2014/05/06(火) 23:14:29.71 ID:???
◆HTML化依頼に関して

≪この板はニュース速報(VIP)とは異なり、自動で落ちることはありません≫

スレッドを立てた作者はこれ以上投下をしないと決めた時、必ずHTML化を依頼してください。
完結した場合、未完で終わらせる場合、どちらも依頼するようお願いします。

依頼のやり方は、依頼スレッドにスレタイとURLをコピペするだけです。
また、HTML化依頼は慎重にするようお願いします。HTML化するとそのスレッドには二度と書き込めません。
もし、依頼を取り消したい場合は依頼スレッドにその旨を書き込んでください。
>>2に記載した依頼スレッドに更に詳しい注意事項が書かれています。
そちらも合わせてご確認ください。

生存報告
もうちょっと待っててください


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美鈴

____________

 早坂美鈴+ 70/100


____________


____________

 土屋亜子+  95/100


____________


____________

  大石泉+  95/100


____________


____________

 村松さくら+ 36/100


____________



泉(ボット)「さくら、隕石まで引き寄せたの?」

亜子(ボット)「いや、それはないやろ。あれはプレイヤーや」


美玲が、正確には彼女が掴んでいた箱が天窓を難なく貫通し三階の床に大穴をあけた。

そこから広がった亀裂はすぐそばにいた村松さくら以外の二人も巻き込み、泉と亜子は二階の床に尻餅をついていた。

10

亜子の手の甲に数字が灯る。すぐそばでプレイヤーが受けたダメージの数値だ

亜子(ボット)「こんだけとはいえ、突っ込んできた側すらダメージ受けとるんか......さくらはどうやら無事みたいやな...」


泉(ボット)「亜子、わかるの?」

「あのプレイヤーとさくらだけ一階まで落ちていったのよ?」

亜子(ボット)「まぁ、分かるもんは分かるんよ」


へたり込んだ二人からわずか数メートル隣、そこにも三階のものよりは少しだけ小さいとはいえ明らかな破壊による大穴があいていた

泉(ボット)「私が迂闊だった、でもあの瞬間に打てる手は打ったわ」

そういって右手の手のひらを、調子を確かめるように握って開いた



突如飛来した物体がさくらに衝突しようとした瞬間

泉は自身の能力を三階の床の一部に発動させ”床の弾力”を換えていた

トランポリンやエアバックのように、上からの衝撃を地面に逃がせるようにしていた。

これで少なくとも上と下からはさまれ潰れた蛙のようになることはないと踏んでいたが、泉の能力はそこまでが限度だった

泉(ボット)「でも、あの勢いを完全には相殺しきれなかった」

出力と規模の限界、泉の能力は一度に広範囲には使えず、そのためさくらの足元にしか適用できず、

そして完全に衝撃を吸収しきれる程までの改竄はできなかった

結果として三階はおろか二階まで崩落させられている。

頼みの綱、マシンガンもどうやら一番下まで叩き落されたらしく、見当たらない。例え見つけても再使用は難しいだろう



亜子(ボット)「まっ、しゃーない。プレイヤーいてこまして、挽回するしかないな。そんで一旦根城換えるしかあらへん」

「アタシらの能力がありゃ、どんな逆境もひっくり返るで」

立ちあがった亜子の手にはいつの間にか小振りな拳銃が握りこまれている、落下により美玲が受けた10のダメージを彼女の能力を通じて武器と交換したのだ

泉(ボット)「そうね、まずはさくらを助けないと」

二人並んで穴の淵に立つ。影になっているためその向こうを覗き込むことさえできない

ただ一つわかっているのはそこに敵と仲間がいること



泉(ボット)「ところでその銃の弾って」

亜子(ボット)「三発こっきり」

泉(ボット)「...十分ね」



ボットに躊躇はない

二人のボットは一階につながっている破壊の痕に足を踏み入れた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



美玲「げほっ!なな...なんだったんだッ!?」


美玲は瓦礫の山の頂点で起き上がると砂埃を払うようにかぶりを振る。仮想現実内に埃は存在しないのだが反射的に体についた汚れを取ろうとしている

美玲「あー!!ウチの手袋!!」

すぐそばにはバラバラの6枚に分かれた青いパネル、あれほどの衝撃にかかわらず傷一つついていない

その隙間から両揃いで美玲の手袋がピンクの爪をのぞかせていた。

それを手に取り、両手にはめる。使いこなせたとは言えないがそれでも強力な能力がその手に戻った


美玲「ふう...う~。なんだか体がヒリヒリする...どっかで休もっと」

美玲の持ち物はこれで手袋と拳銃、手榴弾、ドリンク。一人で戦うにはやや心許なかったが能力次第でどうとでもなるだろう

慎重に、足を踏み外さないように瓦礫の小山を下っていく、幸い大した高さはない。すぐに一階の地面を踏めるだろう


だがボットは待ってはくれない

次の攻撃は







下からだった


さくら(ボット)「いないいない...ばぁ!!!」



瓦礫の隙間から鉄の棒が突き出される。

あてずっぽうに放たれたそれは美玲の鎖骨のあたりに鋭くぶつかりうめき声を上げさせる


さくら(ボット)「ボットだけどいたぁい...」

美玲「うぐぎぎ...えっ、ゾンビ!?」

肩で瓦礫を押しのけるようにしてさくらが美玲の足元から上半身を抜け出させる。下半身は埋まったままだ

以前小梅に見せてもらった映画で、墓の下から次々とゾンビが飛び出すシーン。今のさくらはまさにその様相をなしていた

思わず後ろに後ずさる、鉄の棒で突かれた痛みでよろめいたというのもあるが、とにかく一度さくらから離れたかった


美玲を突いた棒は床や壁の中に埋め込まれていた骨組みの一部で、その先は尖ってはいない。



美玲「あぐッ!?」


さくら(ボット)「にがしませんよぉ...!」




だが鉄の棒は美玲の体に食い込んで離れない

ぐいぐいと美玲の肌を突き破るかのように押し込まれていく

いや、これはむしろ

美玲「(ウチの方から近づいて行ってるぞッ!? なんだよこれ!!)」

さくら(ボット)「スタミナちょうだ~い...いたいよぉ~」

ぎりり...

特徴的なピンクのパーカーから覗く美玲の首元、鎖骨を通じて野太い金属が食い込んでいく音がした

村松さくらの能力が少しだけ発動している。美玲のとさくらの距離が縮まり、それに応じて美玲の体に痛みが入り込む


美玲「いたいたい...やめろぉッ!!」

鉄棒を振り払う

すぐさま能力が発動し、それによってベキリと折れ曲がった骨組みがさくらの手を離れ、美玲の手袋に巻きついた


さくら(ボット)「あれっ?」


硬くて重いはずの、さっきまで自分が武器にしていたモノが振りほどかれ

まるで飴細工のようにグニャグニャになって小さな少女の両腕に巻きついていくさまをさくらは茫然と見る


美玲「今度の爪はウチでもなんとか持ち上げられるぞ...!」


さくらの腕力で支えられる程度の大きさと重さだったそれが今、湾曲した一本爪となって美玲の両腕に宿る

そのシルエットはカマキリのようにも見えた。


美玲「でりゃあああああああああ!!」


それを振りかぶり、振り下ろす。

未だ瓦礫から抜け出せていないさくらに逃げる術はなく、それを跳ね返す力もなかった

そこで美玲の片足が不自然に横滑りしなければ命中していただろう

さくら(ボット)「へ?」

振りかぶった勢いもあって、小さい体はがれきの斜面から投げ出されたように転げ落ちていく



美玲が足元の瓦礫の表面がまるで研磨剤に磨かれたようにツルリと光っていた。




泉(ボット)「間に合ったわね」

さくら(ボット)「イズミン!」



瓦礫の山の頂点に着地した泉がそこに押し付けていた手のひらを離した


亜子(ボット)「ほれ、さくらもはよ抜け出ぇや」

さくらの脇の下を抱え、その体を野菜のように引き抜く。すでにさくらと瓦礫の間の摩擦も泉により軽減されている

美玲「げほっ!な、何だお前ら!!」

瓦礫山の麓に転げ落ちたところから起き上がり、頂上の三人を睨む

がらん、と音を立てて両手に巻きついていた廃材が落下する。能力が切れたのだ

亜子(ボット)「見ての通りボットやけど?」

そう言いながら右手の銃を眼下に向け__

美玲「っ!!?」

攻撃の気配を感じた美玲がその場から逃げ出した。走りながら近くに落ちてきていた岩のような瓦礫を掠るようにひっかくとそれだけで美玲の爪は建材を纏い硬化した

引き金が引かれる、美玲の左手がはじかれた

美玲「んがっ!」

ビリビリと振動が腕を伝い、肩まで達する。硬質な素材で守られていたとは言え衝撃は素通りしていた

泉(ボット)「さくら」

美玲「うわわっ!?」

態勢を崩した美玲の体が宙に浮いた。さくらの能力で三人の元に猛スピードで引き寄せられていく。亜子が2発目を撃つ準備は出来ている

とっさに体をかばう、ゴツゴツとした岩のようになった手袋は美玲の矮躯の、その急所を守るには十分な大きさだ。

亜子(ボット)「便利な能力や...なぁっ!!」

二度目の発砲

さくらに引き寄せられる力と真っ向からぶつかる銃撃。美玲にとっての盾にヒビが入る、だが貫通はしない

美玲「うあっ!!効くかそんなもんッ!!」

今度は美玲の攻撃だった。引き寄せられる勢いを上乗せし腕をなぎ払う。

それはハンマーに近い威力だ。美玲を逃がさないための力が手袋を通じて美玲の腕力に上乗せされていた

引き金を引いたばかりの亜子にそれが振るわれる



泉(ボット)「___なるほどね、周りのオブジェクトを武器にする能力か」


ぐにゃ


美玲の爪が泉に命中する、彼女は亜子をかばうように一歩前に出ていた

べきべきべきと、美玲の手が纏った瓦礫がその勢いに変形するほどの衝撃。誰がどう見ても会心の一撃だった。爪が泉の胸にめり込んでいくように___



泉(ボット)「___私には、効かないかな」


ぐにゃ


確かに瓦礫は変形していた

その硬度と弾性力をゴムと同じくらいに”改竄”されたせいで


美玲「はッ!?」

さくら(ボット)「わぁい」

亜子(ボット)「ほれ、最後の一発」


至近距離の3発目が美玲の肩肉を抉る。実際にはそうならないがそれと同じだけの衝撃に、またも彼女の体は瓦礫の山から転げ落ちた


 8


美玲「ぎゃんッ!?」


土煙が立つ、近くの廃材が音を立てて崩れ落ちる、ピンクのソファが停止する


亜子(ボット)「なんや8かい、やっぱちっこい武器だとここらが限度かい」

そういう亜子の空いた手には今使っている銃のマガジンが握られていた。能力により還元されたものだ。今度は3発ではなくしっかり全弾装填されている

ジャコッ、と音を鳴らし8発の銃弾が亜子の銃にリロードされる。


さくら(ボット)「もぉいっかいー...美玲ちゃんよせちゃう?」

砂煙のたった山の麓に目をやりさくらが尋ねる

泉(ボット)「うーん、どう亜子?次は仕留められる?」

亜子(ボット)「小粒だろうと鉛玉や、ドタマに当てれば一発やで。ガッポガポや!」

その保証を合図にさくらの能力が発動する

瓦礫の山のあちこちから砕けてバラけたピンクのガラクタが転がってきた。

砂煙は晴れず美玲の姿も見えない。だが能力で引っ張り出せば__


泉(ボット)「?」

亜子(ボット)「出てこうへんな。どっかにしがみついてんのかい」


からんからんと他のモノが煙を飛び出し山の麓から登ってくる中、美玲のパーカーだけが見当たらない。

さくらが不思議そうに首をかしげた


さくら(ボット)「だったら能力、もっと強めにす____」


「んんん...!!」


突如視界そのものを上下する地響きが三人を襲った。元々不安定な足場にバランスを崩し膝をつく

泉(ボット)「地震!?でも、それにしては...」

亜子(ボット)「ちょちょちょい待ちぃ!?」

右に左に風景が揺れる。何の前触れもない地震に対応が遅れる。そしてそのことに気づいたのは泉だった

さくら(ボット)「な、なにこれぇ...」



泉(ボット)「嘘でしょ__これ......私たちの足元しか揺れてない」




美玲「んんんがあああああああああ!!!」



亀裂

地鳴り

崩壊


「は?」


ニューウェーブの乗っていた瓦礫の山が左右にパックリと割れた。




モーセが海を割ったという逸話のように、上から下へ一刀両断、二つに掻き分けられる。三人の足場が消える


美玲は両腕に力を込めて引っ張るがそれはビクともしない。その両腕は二つに分かれた瓦礫の山にそれぞれ突き込まれている


彼女の能力は瓦礫の山そのものを二つに裂き、美玲の両手の爪にしていた。

高峯のあ達との戦闘で崩れ落ちてきた天井から身を守ったときのような、彼女の体躯を凌駕するサイズの両爪を再現している

足場を奪われた三人が美玲の巨大な爪の間に落ちてくる。山といっても高さは精々2、3メートル。墜落死するほどのものではない

しかも能力のデメリットとして美玲自身が腕の重さで身動きが取れなくない。しかし、風上にいた三人を引きずり下ろした美玲にはこの隙を突いた決め手が必要だった


だから


美玲「ふんッ!ぐぎぎぎぎ...」

瓦礫の中に埋めていた手を握る。何かの石や鉄材が指の動きを阻害するのも構わず全身全霊の握力で「パー」を「グー」に


亜子(ボット)「やってくれるやないけ...!...あり?」

聳え立つ爪の間に挟まれる形で落下し尻餅をついた三人、その一人は既に立ち上がって、しかし手持ちの武器をなくしたことに気づいた。

さくら(ボット)「アコちゃん、ピストルなら上の方に引っかかってるよぉ?」

泉(ボット)「ここからじゃ、届かないわね」

残る二人も続々立ち上がる、美玲から視線を外すことはない。しかし美玲は動けない。その指を除いて


亜子(ボット)「...泉、なんとかならんか...?」

泉(ボット)「...刃物くらいなら用意できるわ」


美玲の右の人差し指が、狭い空間の中力任せに曲がっていく


美玲「うににに...!!」


泉が自分たちを挟む双璧、それを構成する廃材に手を伸ばす、その手を戻した時には捩じり取られ、先が鋭く尖ったパイプが握られていた

美玲「(力強ッ!?)」

泉(ボット)「一度柔らかくして、ちぎり取ってから硬くしたわ」

泉から即席の槍を受け取った亜子が美玲に狙いを定める。ボットに躊躇はない


美玲「ほ、本気かよッ!?」

未だ腕は抜けない。だから指だけでも精一杯握る

亜子(ボット)「わるぅ思わんといてや?これがボットの仕事やねん」

ただでさえ彼我の距離はそう広くない。だからさらに距離を詰めて直接刺すようなことはしない。亜子は槍投げをするように構える


美玲の指が”それ”に引っかかった


美玲「!!」

亜子「美玲ちゃん倒して、そのポイントで商売再開や!!」



槍が一直線に放たれる


美玲が右手を一気に握りこむ











そして美玲が瓦礫の中にあらかじめ埋めておいた拳銃の引き金が絞られた





美玲「(モノに埋まって腕が動かせなくなるなら、そのモノの中に別の武器を入れちゃえばいいんだッ!)」


槍の数十倍の速度で鉛が飛ぶ


銃身は瓦礫に埋まる事でしっかりと固定されていた。おかげで一分のブレもなく弾丸は狙い通りまっすぐと直進し、


さくらの右胸を貫いた


それは急所ではなかった。だが大ダメージであることに変わりはなく、


さくら(ボット)「あ...ぇ?」

泉(ボット)「さくら!?」

すでに大部分の体力を失っていたそのボットの体はそれがトドメだったようで、宙に溶け、消えていった。


能力の発動限界時間に達した。美玲の手が瓦礫の山から嘘のようあっさりと抜ける。右手には拳銃が握られている。

引き金を引くにはあまりにも不釣り合いに太いぬいぐるみじみた爪。だが彼女の能力のせいかその引き金のカバーは広げられたように歪み、発砲を可能にしていた。

美玲「へへっ!お返しだッ!!」

泉と亜子はさくらの居たあたりに目を向けていた。ボットでなかったら茫然としていたのかもしれない

勢いづいた美玲が二発目を放つ、柔らかい両手でしっかりと銃をホールドしながら。


パンッ!


美玲「っ!?」



だがその引き金が引かれるより早く、美玲の頭のすぐ隣で小さな爆発が起きる

亜子(ボット)「やってくれたやん...」

それはさくらの方を向いたまま無造作に発砲された一撃、狙いも適当な美玲を一瞬止めた牽制の攻撃


パァンパンパンッ!!


さらに撃ち込まれ、美玲から狙いを外れた流れ弾が廃材たちを爆ぜさせる。美玲が慌てて後退し、亜子から逃げだした。近くの物陰に飛び込む


泉(ボット)「亜子!?ここで無駄弾は...!」


亜子(ボット)「......この手ぇだけは使わんと済ましたかった...」


亜子が悔しそうに唇をかみながら言葉をこぼす

泉(ボット)「?...どういうこと?」




弾丸はたった八発きり、その残弾すら減っていく。そして亜子たちから離れてしまった美玲を引き戻す能力者もいない。

状況はボット側にとっての不利、あるいは亜子に言わせるところの__


亜子(ボット)「損失や」

発砲が止まる。同時に銃を構えた亜子の変化に泉が気づいた。

泉(ボット)「亜子...その左手...」


亜子(ボット)「商売っちゅうのは損して得取れ、や......一方的に稼ぐだけが全てやない」


亜子の左手、ダメージがポイントとして表示されていた右手の反対の手に紋様が浮かび上がっていく


泉(ボット)「!...それって、もしかして...!」

亜子(ボット)「アタシの最後の手段...能力のもう一つのボーナス効果...」


「...損害ほ__いや...ちゃうな」


左手の紋様、それはくっきりと数字を象徴していた




亜子(ボット)「生命保険や」






 100







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神崎蘭子



______________

 神崎蘭子    45/100



______________





「現実の肉体に全く外傷を与えることなく、痛みだけを脳に送り込む機械」


そのような技術がもしも、万に一つも”企業”から外部に漏れてしまった場合に起きうる悲劇は少なくない

例えば尋問の新体制、拷問用の新兵器、証拠の残らない新手の暴力手段、などの開発


十四歳の少女とはいえ天才の名を欲しいままにする池袋晶葉がそのリスクを見逃すはずもなく、だからこそ仮想現実内での痛みは緩い。

視覚、聴覚、嗅覚を始めとした五感にリアルな感覚を送り込むシステムにこそ技術の粋を凝らしたが痛覚に関しては細心の注意を払い”開発しすぎないように”していた。


現実でも脳が痛覚を麻痺させる物質を分泌させることがあるように、この世界でもある一定以上の痛みを再現する仕組みは存在しない。



まるで天井をまるごと崩落させたかのような体の芯に響く倒壊音

それが蘭子の鼓膜を揺らしたのが数分前










蘭子「_____ぁぅ__」





ちゃりん、ちゃりんと小さな刃物がこぼれ落ちていく。もちろんそこに血など付いてはいない

神崎蘭子はゆっくりと起き上がっていた。その体は小さく震えている。

痛みではない。恐怖と、そして痛みの代替品の倦怠感のせいで、今にも体を支える腕が肘から崩れてしまいそうだ。


蘭子「(な んの 音__?)」


いま自分が逃げてきた方向から断続的に物騒な音が響き、それは地面を伝い蘭子の腕を奔っている

闇のむこうは何も見えない。そして多分、向こうからもこちらが見えていない。


蘭子「(誰 か来たの ?)」


火薬の炸裂する発砲音 何かがガラガラと崩れ落ちる音 幽かだが、確かに慟哭らしきものも聞こえる



蘭子「い、戦の鬨が...我をさし置いて...鳴り響くというのか...(私じゃない誰かがボットと戦ってる?)」



刃物は全て抜け落ちた。地面からゆっくり手を離し、覚束無い膝だけで体重を支える。


これはチャンスだ。


自分に執拗なまでの追い討ちと罠を張り巡らせてきた敵からの追撃はない。もしかしたら最後の罠で仕留めたと判断したのかもしれない

だが現状、自分を追っていたニューウェーブは追撃の手を止め、蘭子から離れた場所で別の誰か、十中八九他のプレイヤーと戦っている。

なら隙だらけだ。いま蘭子に照準を合わせる者はいない。未だに体の動きが鈍いが、それでも進行方向にある商品棚の一つをどかして進むことぐらいなら余裕のはずだ。

体力の殆どを持って行かれた蘭子はよろよろと立ち上がった。

そして自分の逃走を邪魔していた商品棚の一つに手をかける、あとはこれを引き倒すなり横にずらせばいい。


これで彼女の逃走は完遂され___







蘭子「た、助けなきゃ」







商品棚の中に残っていた果物ナイフの柄をしっかりと握る。

向き合うは、闇。自分が逃げてきた場所

また撃たれるかもしれない。

また刺されるかもしれない。

そもそも本当に他のプレイヤーがいるのかも実際のところ保証はない。


それでも、蘭子の選択肢から逃走の二文字は消えていた


着慣れない服で、履き慣れない靴で、持ちなれない凶器で、確かな一歩を刻む。


その勇気と優しさに何者かが応えたのか


ぽすっ


と、商品棚を背にした蘭子の前に”それ”が落ちてきた。


蘭子「......?」


最初は白っぽいボールに見えた

次はピンクのウサギに見えた

最後に大きめの本に見えた


蘭子「......!」


蘭子は慌ててそれに駆け寄る。いまだふらついた足取りで


それはパンだった

正確にはパンになるはずだったモノだ。今それは能力者の消失によりパンとしての形を保てず、小麦粉の生地が白い粘土のような塊と化している


蘭子「なにゆえこのような地に!?(どうしてここにあるの!?)」


そのまるっこい塊から飛び出たそれに蘭子は既視感を覚える

もし商品棚を越えて逃げ去っていたのならそれを目にすることもなかっただろう。








蘭子「グリモワール!?」



神崎蘭子のスケッチブックに





ピコン











ゲーム開始31分時点


村松さくら(ボット) 消失


ゲーム開始32分経過


神崎蘭子 能力獲得



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日はここまで

ゆきのん引いたーん♪

必要なかったとしても保守ありがとうございました


今回も面白かったわ
僕は50k出してもユッキもままゆも三船さんも出ませんでした

楽しみに待ってます!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神崎蘭子


神崎蘭子は中二病である。

それ故に自身の中に持つ、理想の姿を追い求め続けることに心血を注ぎ続けている。

例えその姿が他人の目からどれほど奇異に見えようと、現実的なそれとかけ離れていようと彼女はそれに憚ることはない。

黒衣をまとい、髪を灰色に染め、赤い眼差しを輝かせる。

そして彼女はまた、幸福な中二病でもある。

青春を費やし続け今なお発展途上にある彼女による彼女のための彼女のイメージ。

それはアイドルの個性として特筆すべき武器と認められ、その姿を追求し表現することを止めるものはいなくなった。

もう彼女を否定する者はいない。ファン、事務所、仲間のアイドル、プロデューサー、その全てが彼女の支持者であり肯定者だ。


神崎蘭子は幸福な中二病である。




蘭子「......これは...」


その場にかがみこみ、スケッチブックのページをめくる。そこに描かれているのは彼女描いてきた自分の姿の一部

ブリュンヒルデ、魔王装束、見よう見まねで描いた城や魔法の杖。一部は衣装のデザインにも取り入れられたことのある彼女のための、彼女の絵。

デジタルの世界でそれが完璧に再現されていた。

蘭子「私の、絵」

その絵を一枚一枚めくっていく。はるか上の天井から細く伸びた日の光にページを当てながら。

自分の手や体が影にならないようにスケッチブックを体から少し離し、ページの端をちょこんとつまみながら眺める。

蘭子「誰にも、見せたことないのに...」

実際にはライブ衣装のデザイン案としてプロデューサーには嬉々として頻繁に見せていたし、事務所の机の上などに無造作に置き忘れることなどが多々あったため、人目につくことも多かったのだがそれを差し引いてもかなりの再現度である。

そこまで確認すると蘭子それを手にとったまま、ついでにグリモワールと一緒に引っかかっていたウサ耳もパーカーのポケットに押し込み立ち上がる。


どこまで再現されているのかをページをめくり確かめつつ、駆け足を再開する。いささか以上に不注意だが、誰かの危機の可能性に劣らず自身の根幹を成す記帳も彼女は捨て置けなかった。

相変わらず不足した光源では先は見えない、だが今も断続的に火薬の破裂音や瓦礫の軋る音が届いてきていた。最初に聞こえていたようなまるで隕石の落下のような轟音よりは小さかったが___



新たな轟音でたった今、騒音の記録が塗り替えられた。



蘭子「!!?」

足元の床にまで亀裂が駆け巡る、壁を伝った衝撃が天窓のガラスを粉微塵に粉砕する、見えない衝撃に後ろへ飛ばされそうになる

蘭子「な、何事だ!?」


天窓だった破片がキラキラと少ない明かりを反射しながら降り注ぐも闇の向こうは見えない。

だが、戦況が一変したことぐらいはわかった。このむこうで誰かが戦っているのは間違いない、それもおそらくほぼ丸腰の蘭子では太刀打ちできないレベルで。

ポケットの忍ばせた果物ナイフが急に頼りないものになる、腰がひける、今更ながら迷いが生じる。


!!!!!!!!ー!!!!!!!!!!!!!!!!ー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


もはや音として聞き取れるかも怪しい。

蘭子「......ラグナロク」


先ほどの騒ぎが川のせせらぎだったと思えるほどの振動、衝撃。隕石どころか流星群がこのデパートを廃墟に変えようとしているように絶えず降り注いでくるかのような音の擾乱。


ピリピリ...


だから蘭子の手元で小さく上がったその音にはなかなか気付けなかった


ピリピリピリピリ...

ドサッ

蘭子「あっ」

手にかかっていた小さな重みが消え、スケッチブックがこぼれ落ちる。残ったのは綺麗にちぎれたページ一枚だけ

スケッチブックのリングの跡が残った紙を片手に、落ちた本を拾おうとかがみ込んで「きゃっ!」

態勢を崩し、盛大に転んだ。かがんだところで腕をぐいっと引っ張られたように不自然に肩を床にぶつける。

蘭子「ぁう...なんで...」




腕を見る、何もない

手を見る、何もない

ちぎれた絵を見る。




”何も描かれていない”



蘭子「え...?」


足元を見る、


そこには当然のように巨大な「鎌」が転がっていた。


三日月のようにぐにゃりと伸びた刃に禍々しく牙が並び、石突には眼球のアクセサリが誂えられ、全体が有機的に脈打っている


蘭子「これって...私の、[覚醒魔王]のときの...」


かつて彼女がデザインしたライブでのアイテム。ステージの上で理想を実現させた彼女の姿を振りまくための重要なファクターだったもの


考えるだけ非現実的だが、ここは仮想現実。ありえないことなどありえない世界

ならばこれは非現実であれど事実なのだろう。



蘭子の描いた絵がこの世界で形を成し、顕在化した。



蘭子「...すごい......すごい!!」



拾ったスケッチブックを膝に置き、鎌を持ち上げる。ライブ用の軽い素材のものとは違う、紙の数十倍の重みがズシリと蘭子の肩に伝わる

その重みに蘭子は確かに現実的な強さを感じとった。アイデアの再現ではなく、顕現だった。もう迷いはない

夢にまで見た虚飾の存在が、いまここで仮想の中に実像を伴っている。



彼女は今もなお幸福な中二病だった




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

猛追、衝突、瓦解、煩雑、掃射


人体の数十倍の重量と人力を超えた速度がデパート中の柱も置物も商品も蹴散らし、壁にクレーターを量産し、震動で上階から転がり落ちてきた何もかもを平等に真っ平らに圧していく


泉(ボット)「......ひとつ聞きたいんだけど、亜子」


亜子(ボット)「なんや泉!!もうちょい大きい声で話してくれんか!?あっちこっちがしっちゃかめっちゃかでよう聞こえんねん!!」


泉(ボット)「これ、なんでハンドルの部分がゲームのコントローラーなのよ!?これ、おもちゃじゃないの?!」


亜子(ボット)「そりゃアタシも泉もオリジナルは運転免許なんてもっとらんやろ!!アタシの能力で変換するための妥協点みたいなもんや!」


搭載された無線で二人は言葉を交わす。泉は内側で操作に、亜子は外側で攻勢に、それぞれの役割を遂行する。


亜子(ボット)「ボットやねんからはよ学習してまえ、美玲ちゃん逃げよるで!!」


泉(ボット)「きょ、距離感を掴むのに手間取るわね、これは...」


装甲板が壁から生えた店舗の看板をこそぎ落とし削り取っていく

美玲の体よりも一回り大きなタイヤが荒々しく轍を刻み付け進路を描き

跳ね飛ばし轢き潰しエンジンが獣の彷彿とさせる唸り声を上げた


美玲「うがあああ!!なんだよそれッ!!どっから出したッ!?」


両手を振り回し、降りしきる瓦礫に足を取られながらも懸命に逃走する。その両手には即席の爪、そこらの石粒と鉄片だけでできた小さなそれは辛うじて美玲の盾になっていた。だがその爪も亜子から繰り返し放たれる銃撃に耐えきれず、痛々しく穴ボコだらけにされていた。

美玲を追いかける「それ」は操縦者が不慣れなせいか、ハンドルに妙な仕様が凝らされているせいか真っすぐには走れていない。ジグザグに走りながら左右の壁を凹ませ、デパートを建物ごと破壊的に鳴動させる。


ガオオンガオオンガオオンンン!!!


マンモスより大きく、亀の甲羅より硬く、イノシシより速く、人間と同じくらい凶暴。

ハンドルがボタンとカーソルに改造されているが、兵器としての価値に曇りはない。




上部に機関銃を備え、大型装甲車が早坂美玲を追い上げる





ゲーム開始35分経過

大石泉(ボット)&土屋亜子(ボット)

VS

早坂美玲

継続中



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


美玲「んがあああ!!」


ヒビだらけの地面に両手を突き立て、ちゃぶ台返しの要領で持ち上げる。

それに呼応して放射状に盛り上がった地面が建材と鉄材の爪になった。しかし全く効果がない

即興のバリケードは装甲板と重厚なタイヤの前で爆散するだけで、その速度を緩めることはない。辛うじてタイヤが乗り上げ、方向が変わるが美玲が逃げ切る程の時間は稼げない。

亜子(ボット)「無駄やでー!!!」

たたらを踏んだところに亜子の手元で銃口が火を噴く。わずかに残った部品が美玲を守って吹き飛んだ。

美玲「ッ!!なんっだよそれぇえッ!!」

美玲にはわからない、薄暗いデパートの中、なんの前触れもなく通路の道幅いっぱいまで埋め尽くさんばかりの巨大車両が出現した原理を、それに対する対策も。

泉が手元のコントローラーを操作し、アクセルの「ボタンを押す」

本来ならハンドルやブレーキが設置されているはずの位置からコード一本で繋がったそれがタイヤとエンジンに命令を送る


ガオオンガオオオンンン!!!

美玲「ちょ!?」

破壊し尽くされた床の凹凸を踏み鳴らし直進した装甲車が0.1秒前に美玲がいた地点を蹂躙する、ショーウィンドウを突き破りマネキンを轢死体に変えた。

美玲「何考えてんだよオマエ!危ないだろッ!!」

自分の身長の倍以上の車高、その上に据えられた機関銃に陣取る亜子に向かって怒りをぶつける。

亜子(ボット)「無論、アタシらボットの勝利や!!」

泉(ボット)「つまり、プレイヤーの打倒、スタミナを削り切ることね」

十字キーを押し込む。突き割ったガラスを踏みにじりながら巨大な車がバックし、機敏に方向を変えた。狙いは美玲

装甲車にとって十分とは言えない通路幅が機動力をいくらか奪っていなければとっくに美玲はやられていただろう。だが、それも限界が近い

オリジナル由来のバイク乗りの矜持として、単車で直接相手を轢くことはしなかった向井拓海のボットとは違いこの二人の攻撃に制約や躊躇はない。


ガオオオオオオンンンンン!!!


急発進、エンジンが吠える


美玲「ウウウウウウゥゥガアアアアアア!!!!」


一際高く積もった瓦礫の山を爪にまとう。美玲の腕力ではビクともしないそれは能力の引力により動き出した

装甲車の進行方向に転がりこんだ猥雑な石塊が数トンの車両を押しとどめる両手になる

それは、しくじれば自分が潰されかねない能力の大出力。美玲自身が動けない程の質量とサイズの物質をまとったバリケード



ズズンン!!!


亜子(ボット)「うおっ」

泉(ボット)「きゃっ!」


美玲「ぐぎッ...!!!」


衝突した震動が美玲の両腕から肩、そして背骨にビリビリと伝導し仮想では存在しないはずの内臓を揺らされる。

装甲車がしばし停止した。

美玲「(あとは何秒か待って、この両手が抜けてから逃げれば...!!!)」



泉(ボット)「ギアチェンジはこのボタンかな」



タイヤの表面がほぼ垂直にそそり立ったバリケードの壁面を噛む、車体が傾き持ち上がる

ガオンオンオンン..........!

美玲「は?...あ?」

美玲を照らす少ない明かりに影が差した。美玲が顔を上げる

唸るようなエンジン音に合わせてゆっくりタイヤが摩擦力を発揮する。装甲車が爪の表面を登る、バリケードを乗り越える


美玲「えええええええええ!!??」

泉(ボット)「ゆっくりゆっくり、慎重に......亜子?屋根から落ちてないわよね?」

亜子(ボット)「お、オーラーイ...」


急勾配になった車体、その上部に設置された機関銃に亜子がしがみついている。美玲の腕はまだ抜けない、頑強な装甲を纏った車がバリケードをのし上がり美玲を上から覗き込む。

フロントガラス越しに泉と美玲の目があった。


美玲「こんなんありかよッ!!」

泉(ボット)「馬力の差よ」



クライミングが終わる。バリケードを乗り越え、前輪タイヤが空中に躍り出た。



そして美玲をめがけた落下が始まる


泉(ボット)「せー...のっ!」


亜子(ボット)「どっせえええやあああああああああ!!!」


美玲「やめろおおおおおおおおおおおああああああ!!!」


彼女は動けない










蘭子「えっと...わ、わぁー!!」



闇にまぎれた少女が無謀に飛び出す、唯一無二の力を振りかざして

美玲の後方から、重爪を踏み越えようとした重量級の車両の真正面に躍り出た

これで何の手もなければ美玲と共に蘭子も被害を免れない、そんな位置からの迎撃態勢

蘭子「えいやっ!!」

ほぼ落下に近い角度で猛進する装甲車に対し下から斬り上げる。

異形の鎌は勢い余って蘭子の手から離れ、回転しながら真っすぐな軌道を描き飛んでいくと___


美玲「はぁッ!?蘭_」

蘭子「伏せてっ!!」




装甲車のフロントガラスが砕け散る、

デパートの床に新たにクレーターが残される、

猛回転する後輪が石つぶてを噴水のように巻き上げながら摩擦音を甲高く鳴らす、

美玲の爪がただの瓦礫の山に戻り地鳴りを上げて崩れ去る、

蘭子は思わず悲鳴を上げ、

美玲は吠える


その全てが同時に起きた。


一瞬の時間にすべてが圧縮されてしまったような大音量がデパート中に反響する




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

交差するその瞬間


泉(ボット)「(なにか飛んできた!?)」


くるくると回るそれは棒状の何か

まっすぐ泉に飛んでくる


「(空中じゃ方向なんて変えられないのに___)」


がんっ!


それは急降下する車両のフロントガラスに弾かれた

泉の視界からフェードアウトしていく


「(!!...そりゃ投擲で防弾ガラスが割れたら苦労しないわよね)」


泉は意識を切り替えた

ここからが問題だ。いかにしてこの重量級の車体を横転させずにうまく着地させられるか

ハンドル代わりのコントローラーを握り締める


「(アクセル全開で止まらず走り抜けるしかないわね。美玲ちゃんを下敷きにしちゃうだろうけ......ッ!?)」


視線

視線

死線

視線



”なにか”がガラス越しに泉を見た


「(...なんなのこの感覚!?)」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

同時に

車の上部にしっかり固定された銃座にかじりつくようにしていた亜子もその視線を感じた


亜子(ボット)「(なんやあれ)」


その発生源は紛れもなく、”あれ”だ

泉の運転する車が中空ではねた長い棒状の何かの、その先端!!


「(目ん、玉_?)」



くるくる回る棒、その先から伸びた刃の根元についた目玉の飾り

その目玉が見開かれている


「(なんでこっち見れてんねん、あないくるくる回っとるのに___)」


思考の猶予はない、すぐそこは地面

一瞬の間にボットが思考できたのはここまでだった



「「__!__」」



見えない魔力に引かれ、鎌が動く

刃の縁にピアノの鍵盤のようにずらりと並んだ牙が蠢く

誰かの魔王的な妄想を具現させるように、恐怖を実行する






機関銃を、装甲板を、フロントガラスを


上からガブリと噛みちぎった









装甲車が墜落する



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



パラパラ......


蘭子「__ぅん?」

美玲「...いっててて...」


先ほどの一瞬に比べれば静かとしか言い様のない静寂が場を満たす。エンジン音はしない


美玲「...蘭子?」

蘭子「よ、よもや瑕疵などあるまいな...(大丈夫?)」


崩れてきた瓦礫に半分だけ埋まったような状態の二人、抜け出すのは簡単そうだ。

美玲はいきなり現れた蘭子に戸惑う、逃走だけで手一杯だったのだから気づかなかったのだ

だが、自分のピンチに駆けつけたか、それに近いものだと美玲なりに解釈し瓦礫に埋もれた自分の足を引っこ抜くと手袋を外し、蘭子の手を引っ張った


蘭子「あ、ありがとう...」

美玲「たぶん、こちらこそだぞ」


見ると蘭子の格好が随分見慣れないものになっていた。黒いパーカーに簡素なワンピース、足など普段のファッションとは似ても似つかないスニーカーだ。


美玲「......蘭子も頑張ってたんだな」

蘭子「?__あっ!」


パンパンとスカートについた砂粒を払いあっていると蘭子が声を上げた。

その視線の先には彼女が放った魔王の鎌、その牙と眼球をイメージした生物的な武器が地面に刺さっていた

美玲「あの長いのが蘭子の武器なんだな...」

蘭子「うん...あれ?」

鎌の石突に埋め込まれた目の瞼が閉じた。

すると鎌全体が幻のように消えていく。夢の終わりのように跡形もなく消失した


美玲「あれっ、おい消えちゃったぞ!?」

蘭子「消えちゃった!?...あ、でも...だ、だ、大丈夫だよ?きっと......ページはまだ残ってるから...多分」

パーカーの下にしまった画帳を服の上から撫でる。蘭子は大体自分の能力を把握した


蘭子「魔王の力が虚実の境を越えるのは、刹那の刻限に至るまでだったのだろう...(少しの間しか私の能力は使えないんだね、きっと)」

美玲「うん?」

蘭子「うむ、如才ない」

美玲「...お、おう」




二人はいくらか落ち着いてきていた。一方あたりには土煙がもうもうと立ち上り視界が塞がれていて足元の悪い中ではうかつに歩き回れない



ギャキュッ!

ガオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンン!!!

ギギギィキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ!!!



「「!!!??」」


キーを回す音、エンジンの慟哭、タイヤのスリップ音

やにわに音が充満する

ヘッドライトが灯る。それは薄闇のデパートの中に獣の双眼のようなギラギラとした光をばらまく



泉(ボット)「あなたたち、受けたダメージはどれくらい?」



奇跡的に横転しなかった装甲車が動く音が反響する。

前後の壁にぶつかりながらバックと前進を繰り返しながら少しずつ車体の方向を変えていく、砂の雨が蘭子たちの頭に降る


ライトが二人を照らした。爪のバリケードを越えたあと勢い余って20mほど直進していたようだ。瓦礫の山に光が反射し、間接照明のように装甲車の全貌を浮かび上がらせた


蘭子「むむ...」

美玲「うっそだろ...」




毟り取られている。




機関銃が、銃座が、車の天井が、フロントガラスの上部が




もはやそこに何かあったとは思えない。装甲車はまるでオープンカーのように変貌していた

装甲車の側面に貼り付けられた装甲の上側が何かの「歯型」をのこして消滅している。フロントガラスも下半分しか残っていない



そこからコントローラーを握った大石泉の姿が覗いていた。座席のネック部分も千切れている




泉(ボット)「聞くだけ無駄か......あの変なのが、みんな食い散らかしちゃったもんね」




「武器も、屋根も......亜子も...」



ガオオオオンガオオオオンガオオオオオオンンン!!!


エンジンが怒っているかのように繰り返し唸る。孤軍となったボットを嘆くように慟哭する


蘭子「ま、まだ走れるの...!?」

美玲「くっそ、こうなったら...」


美玲がポケットをまさぐる、拳銃と、もう一つ武器があったはずだ。

そこで装甲車が再発進した、美玲の作った瓦礫の山で二人をサンドイッチするように一直線に。

美玲の手にそれが握られる

蘭子「あわっ、新しい武器出さないと...!!」

ポケットから引き抜く

美玲「これで、どうだぁッ!!」



尖った犬歯にピンを引っ掛けるように引っこ抜かれた手榴弾が投げられた。



森久保乃々の能力の落とし物、拳銃とドリンク、そしてパイナップル型の手榴弾


泉(ボット)「.........」


猪突猛進する装甲車に天井はない。ハンディサイズの爆弾は容易く車内に飛び込んでいった、そこは泉に致命傷を与えるには十分な至近距離で



美玲「やったッ!入った!」

蘭子「美玲ちゃんすごいっ!」



フロントガラスがあったところを越えたそれは、車内の何処かへ転がった瞬間に炸裂し、最小限に調整された火薬が飛散させた破片がボットの肉体をえぐるだろう








泉(ボット)「それが奥の手なのね」




だから



泉(ボット)「それの仕組みは知ってるわ」




泉は






手榴弾を





泉(ボット)「要は破片に当たらなければいいんでしょう?」












空中で握り潰した






ドォンッ!!!



泉の手から離れた瞬間、火薬が炸裂する。だが手を離れた以上その火薬が与えられるのはわずかな火傷だけ

そのエネルギーのほとんどは火薬の周りにくっついた榴弾。その破片を吹き飛ばすことに使われる。


だが泉は爆発の一瞬前に握り潰していた。


正確には”少女の握力で潰せるくらいにまで柔らかくなるように榴弾の硬度を改竄していた”


能力を限界出力まで使用した結果だ。泉の至近距離で爆散したそれらのほとんどが泉に命中するがその肉体をえぐることはなかった

榴弾の一つ一つの硬さは既にグミやナタデココと同じになっていた。彼女の制服には焦げ目すらついてない。

泉(ボット)「攻撃より防御向きなのよね、私の能力」

コントローラーから離していた手を戻した。アクセルのボタンを押しなおす


蘭子「もういっ...かい!!」

美玲「ガルルゥアアァッ!!」


蘭子はまたもいつの間にか出現させた武器を手に持っていた。デザインから判断してさっきの棒状のものとはまた違うようだ

美玲はその手にさっきよりかなり小型な爪を装備してこっちに向かってくる。背後に逃げ場がないからそうするしかないのだろう


両者の距離、10m。あと2、3秒ほどで二人にぶつかるだろう

だが二人は既に得物を振りかぶっている。美玲はともかく、蘭子の武器がまたも”得体の知れない攻撃”を放ってくることを考えれば___




泉(ボット)「(よくて相討ち、か...お互い背水の陣ね、でも)」



ボットは学習する

混乱せず、自暴自棄にならず、次の策を練り上げる


泉(ボット)「(摩擦力を操作...)」


コントローラーを握ったまま能力を発動させる。

その効果はコントローラーを伝い、コードを伝い、装甲を伝い、そして厚いタイヤに達した







泉(ボット)「(タイヤ表面の、床に対する摩擦力を私のできる最大にまで上げて、一気に加速する!!)」



ギャリッ!!


タイヤ表面の凹凸が地面を”噛む”。



亀裂、石粒、瓦礫の残骸を踏む度にスリップや空転を起こしていたタイヤが今、がしりと地面を捉えた



タイヤの回転エネルギーが全て直進するための運動エネルギーに注ぎ込まれる。



泉(ボット)「ッ!!」


次の瞬間起きた急加速に泉は背後のシートに叩きつけられた



蘭子「__!?」

美玲「ッ!!」




2秒はあったはずの猶予が1秒以下になり___



蘭子の武器の振り下ろしは間に合わず____



美玲の爪は加速を止めるには力不足で____















泉(ボット)「冷たっ...!?」


泉の目が冷たい何かに遮られた。涙を流したように視界がにじむ


だがそれは涙ではない。

ただの、水だった


泉の体に水がぶつかっていた。制服が濡れて透ける



泉(ボット)「(雨__冷却水__いや__)」



ずるっ


高圧で噴射された水が泉の肌から摩擦を奪い、コントローラーがその手から滑り落ちた。

泉の膝にぶつかり、誤った方向キーが押し込まれる



泉(ボット)「(そんな___ここにきて、ただの水で_)」



水の摩擦力を変えるのは間に合わない、既にコントローラーは手からこぼれた

逆に摩擦力を上げられたタイヤは律儀にもドライバーの手を離れたコントローラーからの指示に従い、進路を変えてしまう


装甲車の進路が折れ曲がる。フロントガラス越しに見えていた蘭子と美玲がスライドアウトしていった


代わりにヘッドライトが照らしたのは__



泉(ボット)「(水て、っぽう?)」



二階から、下階いるこちらに向けておもちゃを構える十時愛梨だった。



装甲車は今、最高速度で走っている


眼前には頑強な壁面



ブレーキは間に合わない







衝突の衝撃から彼女を守るはずだったシートベルトとエアバックは蘭子の攻撃で食われていた



ゲーム開始40分経過


土屋亜子(ボット)消失

大石泉(ボット)消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
車は安全運転を心がけましょう

今回はここまでです

2週間も空けてすいませんでした

ちょっとしたおまけを置いていきます




最初の電車内での車両ごとのグループ分け

クール
凛 奈緒 加蓮/小梅 亜季 蘭子

キュート
まゆ 美穂 幸子/美玲 智絵里 杏

パッション

裕子 輝子 紗南/愛梨 きらり 麗奈



練習用ボットの消失に至った原因

消失時刻が早かった順


・小関麗奈 3分

キーアイテム、レイナサマ砲の暴発で自爆
___________________
・三好紗南 3分

たまたま近くにあった消化器の噴射を至近距離で吹きつけられ負傷
___________________
・渋谷凛 5分

腹部への膝蹴りと踏みつけで負傷
___________________
・佐久間まゆ 5分 

リボンで首を絞められ、窒息前に頸部の物理的圧迫のダメージで負傷
___________________
・大和亜季 6分

軍隊式格闘術に勝てず負傷
___________________
・神谷奈緒 6分

ハリセンを取り上げられ3発ほどひっぱたかれ負傷
___________________
・堀裕子 6分

超能力による攻撃を試みて自滅
___________________
・諸星きらり 6分

きらりん☆パンチで返り討ちにされる
___________________
・星輝子 7分

キノコの扱いを間違え、オリジナルの逆鱗に触れる
___________________
・輿水幸子 8分

オリジナルとカワイイ合戦中に石につまづいて転倒、後頭部を強打し負傷
___________________
・白坂小梅 9分 

オリジナルから長袖の余った部分でペシペシ叩かれたことによる小さいダメージの蓄積
___________________
・十時愛梨 10分

高圧水鉄砲の直撃によるダメージの負傷
___________________
・早坂美玲 10分

アナスタシアによりオリジナルと間違われて体を貫かれる
___________________
・北条加蓮 10分

オリジナルがゲームに対し真剣に取り組むようスパルタ的に励ました後、自殺
___________________
・神崎蘭子 13分

携帯のモデルが額にクリーンヒットしたことによる負傷
___________________
・緒方智絵里 18分

逃げ回るオリジナルを追いかけている途中に遭遇したまゆにより通常ボットと間違われて刺殺される
___________________
・双葉杏 36分

オリジナル諸共きらりに抱きしめられる
___________________


ではまた次回に

追加

・小日向美穂 15分

戦闘意欲が極端に希薄でおとなしく叩かれる


いやー面白いわ次回も期待してます

乙乙
次も楽しみにしてる
改めて見るとまゆやべぇ

乙乙、水鉄砲最強説

幸子のボット消失原因がひどいなwwww


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「私たちボットがプレイヤーに勝利、彼女らを倒すというのは...本来とても難しいことです...」



「それこそ...プレイヤーがボットを倒す何十倍も」

「いえ、あやめさん...これは決して弱音や諦念ではありません...純然たる事実...ボットの限界の話、です」



「そして限界を踏まえたうえで、ボットがプレイヤーを圧倒する方法の話です」


「...そもそもボットがプレイヤーに優っている点はいくつかあれど、それらは全て『早さ』......この一言に収斂されます」

「ゲームが始まった段階で既に能力を持ち、余分な思考を除いた判断速度でプレイヤーの足並みが揃うのを待たずしてボット同士が手を組み、罠を仕掛け、息を潜めて待ち構える、その間になんの躊躇もなく、即決即断,,,」


「ですが、所詮それだけなのです」


「私たちに出来るのは先回りだけ、最後の一手が決定的に足りないのです」


「それもそのはずです、私たちを動かしているのは...結局はモデルとなったアイドルたちの思考回路、の贋作......戦闘マニュアルではないのです」


「人間の本能には闘争心が眠っているそうですが、ボットに本能はありません。そして、その差が戦闘の土壇場での分水嶺となっているのです」


「たとえルンバが...メイドや召使より優秀な掃除夫であろうと留守番や料理ができないように...有能であって万能でない、といったところでしょうか...」



「”出来ることしかできない”、要は、ボットたちは不可能を可能にできないのです...」



「これが人間と機械の、致命的な格差...」



「すいません...そのような顔はしないでくださいあやめさん、話はここからですから」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ガラス張りの自動ドアを粉微塵にしながら歪な装甲車両がデパートを飛び出す。

その装甲車両は屋根の大部分が不自然に引き剥がされていたので宙を舞ったガラス片が降り注ぐのを止められない



美玲「うわったったた!?」

蘭子「ひぇっ」

愛梨「きゃあっ!」


美玲が天に向けるようにかざした爪がガラス同士をくっつけ足跡のパラソルを作り、やや大きい欠片を防ぐ

装甲車は本来通行人が上るためのステップやスロープにタイヤをバウンドさせながらなんとか道路に乗り付けた

そこで愛梨がおっかなびっくり操作していたコントローラーからようやく顔を離し、蘭子と美玲に向き直る


愛梨「はふ~、なんとかなったぁ~!ところでどうして私が運転手なの?」

美玲「だってウチら免許持ってないし」

蘭子「加えて、愛に充ちた果実の持ち主は我らの中で長寿を生きし者なり(それに、愛梨さんが一番年上ですし)」


車内に落ちたガラス片を爪で掻き出しながら美玲がいい、片手に凝った意匠の杖を持った蘭子が続いた

愛梨「う~、たしかに私もそろそろ自動車免許を取ることも考えてるけど、なんだか納得いかないよ~。これゲーム機だよ?」

下半分だけ残っていたフロントガラスと乗っていたボットを盛大に吹き飛ばしながら壁に衝突した装甲車は幸いにもまだ走行可能だった。

今そのコントローラーは十時愛梨の手にある。結局なにかしらの能力を作動させずに終わった蘭子の二つ目の武器は消失しないまま能力者の手に収まっている


蘭子「(う~ん、不発のままだったから消えないのかな、これ?)」


ひとつ目の禍々しい鎌と違ってこちらはなにやら白い羽があしらわれた短い杖で、所在なさげにいじるもなにも起きない


美玲「とりあえずどっか行こう!誰かに会えるかもだしッ!」

愛梨「はーい、でもあとで運転交代してね?」

蘭子「鎧と車輪の行脚なり!!」


人気のないビル街にエンジンの回転音を反響させながら装甲車は消えていった。



ゲーム開始45分経過

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゲーム開始43分時点


ドゴンンンッ!!!


「うわっ!!なに?なんなのさ!?」


あたし目の前の道路が弾け飛んだ。アスファルトの黒っぽい塊が飛んでくる

あたしは空から何かが落ちてきたのかと思って思わず上を見上げた

ところがそこであたしが見たのは何かがどこかに”飛んでいった”跡みたいな煙の尾だった



愛海(ボット)「なんだったのあれ...」


地面に目を向けるとそこにはぽっかりと穴が空いていて地下かどこかに繋がってるみたいだった。

あたしは恐る恐る穴に近づいていく、さすがに覗き込んだりはしないけど。


愛海(ボット)「えっと、さっきのは...空から降ってきた音じゃなくて、地下から飛び出した何かが空に向かって飛んでいった、ってことかな?」


穴に目を向け、飛び出してきた何かの軌道を目で追うように上を見上げる

雲一つない青い空といろんな高低の建物だけで視界が埋まった。

飛んでいった何かはもう見えない。その代わりにあたしの視覚はさっきまでなかったものを捉えていた

愛海(ボット)「あれ...だれかいる?」

十階建てくらいの雑居ビルの屋上に人影があった。さっき一度見上げたときは気づかなかったはずなんだけどな...

その人影もどうやらあたしと同じものを見ていたらしく、空のどこかに視線を固定していた


??「____」

ここからじゃ距離が遠くて顔はおろか胸にバッジがついているかどうかも見えない

愛海(ボット)「ボットかな?プレイヤーかな?」

呼びかけて確かめたいけどこんなとこで大声は出せないし、もしプレイヤーだったらあたしの能力じゃ負けちゃうだろうし...

??「__!___」


愛海(ボット)「あ...」


こっちみた


と思ったら消えた


えぇっ!?

愛海(ボット)「あれ!?いなくなっちゃった!?」

誰かは判別できなかったとは言えはっきり見えていた人影が掻き消えるようにいなくなった。瞬きした隙に隠れちゃったのかなんて思いたくなるほど予備動作もない一瞬だった

だからあたしはもう一度穴の方に視線を戻した。今とりあえず思考できるのがこっちだけだから





マキノ(ボット)「なるほど、あの砲弾はここから飛んできたというわけね。地下に基地でもあるのかしら?」


愛海(ボット)「のわぁっ!?」


当たり前のようにそこにいたマキノさんが穴の淵に立ってその中を覗き込んでいた。いつの間に!?


マキノ(ボット)「あら、驚かしてしまったかしら」


愛海(ボット)「うん、思考回路に問題は起きなかったけどびっくりはしたかな...」


マキノ(ボット)「ごめんなさいね、こういう能力なのよ」


愛海(ボット)「こういう、っていうと?」


マキノ(ボット)「視覚と聴覚、あと会話機能だけを時間制限付きで瞬時に離れた地点に座標移動できる、といったところかしら」

愛海(ボット)「なんだかすごいね...」

よく見ると確かにマキノさんの体は半透明に透けていた。うっすらと体の向こうにひび割れたアスファルトが見える

マキノ(ボット)「でも飛び石伝いに連続で移動ができないから、いちいち移動前にいた拠点に戻らないとならないのだけど」



愛海(ボット)「拠点?」


能力について愚痴らしきものをこぼしたマキノさんの言葉の中の馴染みのない単語に反応する

マキノ(ボット)「ええ、拠点よ。何人かのボットがそこに詰めているの」

愛海(ボット)「そうなの?」

マキノ(ボット)「そうよ、愛海さんも一人でプレイヤーを相手にできそうにないなら来てみたらどうかしら?私たちなら他のボットと愛海さんで一個戦力に仕上げることもできるわよ?」

愛海(ボット)「へー、なんかお山がいっぱいありそう!あたしも混ぜてよ!」



なにやらボットもボットでいろんな動きを始めているみたい。そうだ、それにあたしは今情報が欲しいんだった。

ほたるちゃん、藍子さん、聖ちゃんがどうしてあの廃屋もどきの中でくすぶっているのか

あたしのしていることは余計な世話かもしれないし、それに多分あたしはボットとして味方を増やそうとしているだけだろうけど



マキノ(ボット)「じゃあ私は徒歩の移動はできないけど、今から少しづつ道案内するからついてきて頂戴」


そういうとマキノさんはその場から消え、3秒ほどして少し離れたところにまた現れた。一度拠点に戻ってからもう一回こっちに来てるんだと思う 


あたしはそうやって消えては現れてを繰り返すマキノさんを追いかけていった。



マキノ(ボット)「ところで愛海さんの能力を聞いてもいいかしら」

愛海(ボット)「おっぱいを触った相手の能力がわかる能力だよっ!うひひ...お山を通じてあんなこと(能力の効果)やこんなこと(効果範囲)を...」

マキノ(ボット)「なら、ちょうどいいわ。見てもらいたい子がいるのよ」

愛海(ボット)「えっ」

マキノ(ボット)「えっ」




一方その頃、穴のそこ深く、地下に大きく開いた空間に敷き詰められた戦車の上で


  「あの一台だけ砲台が上を向いて、る・・・?」

 
  「・・・誰かいるんですかね?」




裕子「・・・・・・ま、いいでしょう!!意外と地上まで近かったようですし、壁でもよじ登れば脱出できるでしょう!問題は戦車をどうするか、ですか」



プレイヤーとボットは錯綜する。誰も意図しない形で、あるいは誰かの思惑通りに


ゲーム開始45分経過

堀裕子

VS

棟方愛海(ボット)&八神マキノ(ボット)

開始失敗


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おや、愛梨さんたちは...行ってしまったようですね...」



「なんとも歪な装甲車、まるで...オープンカーです」



「先ほどの話の続きですが、まず質問です。」




「私たちは、どうして能力が使えるのでしょうか?」




「......私たちの頭の中にはモデルとなったアイドルの思考パターンと知識しかないはずにもかかわらず、どのように能力を認知、行使しているのでしょうか?」


「...考えうる解答は一つ。私たちには新たに知識が追加され続けているのですよ」


「最初から与えられたものか、あるいはボットたちが学習しているか。おそらくは後者でしょう」


「この学習機能...これが....ボットが、そして機械が人間に追いすがる、唯一の切り札なんですよ」


「これを踏まえて、ボットがプレイヤーを上回る戦術的思考を手に入れればいいのです」

「その方法は至ってシンプルです...戦いを観察し続けること、これに尽きるでしょう」

「負けそうになったら逃げる、あるいはいっそ戦いに参加せず他のボットとプレイヤーの戦いを観戦し続ける」

「遠距離攻撃、近距離攻撃、真っ向勝負、不意打ち、多対一......どのように手を変え品を変えてもボットたちは一度に勝負をつけようとし、だから負けるのです」

「純粋に経験から学ぶ力においてもボットはプレイヤーを大きく凌駕しますし......戦いを長引かせ、回数を重ねるだけそこから得ていく経験値の差が開いていくのですよ、あやめさん」

「これは極論、というか詭弁ですが......高い学習能力をフル回転させ、ボット同士が本気でぶつかりあえば際限なく互いの実力を高め合うことができるでしょうね」




「矛盾...絶対に貫く矛と絶対に守る盾の例えとは違いますが......常に、必ず相手を上回る策を練り続けようとする私たちボット、これを二つ戦わせれば......」



「あやめさんは、気になりません...?」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





幸子「どうなってるんですか!?なんであのキノコ...キノコ?...いきなり歩き出しましたよ!?」

小梅「体が...おおきいから...は、速い...」

輝子「カムバック!マイフレェエエンド!!」

ミドルキノコ「fFfF」



申し訳程度の照明が点々と連なる地下の下水道、そこを大きな影がのっしのっしと突き進み、その後ろを小さな影が三つ並んでちょこちょこと追っていた。

星輝子の能力により生み出される足の生えたキノコ

本田未央、島村卯月を始めとした「戦力外たちの宴」の防衛部隊から痛手を食らわされ、逃げ出したあと呼び出したそれは茸の平均どころか三人の身長も抜くほど大きかった

そしてそれがなぜか今、どこかへ向かって歩き去ろうとしているのだ。もともと輝子の指示に従うでもなく湿度の高い場所を探し歩くような性質だったが、それにしても勝手である。


小梅「はぁ......ふぅ......!」

幸子「小梅さん!大丈夫ですか!?」

輝子「あぅ、ご、ごめん、うめちゃん...わ、私のトモダチが...」


一番年下の小梅の息が乱れ始め、三人が足を止める。事の発端である輝子の表情がキノコを追わなければという焦りと友人を置いていけないという義務感の間に揺れる


小梅「う、ううん...だ、大丈夫...だよ...?」

幸子「そうですよ!輝子さんの友達はボクらの友達でもあるんですから!彼...?は今ちょっとボクのカワイさにあてられて照れ隠しに逃げてるだけなんですよ!そうに決まってます!」

輝子「さっちゃん,,,うめちゃん...」

小梅「あ、あれ...キノコさん、は...?」

幸子「えっ?」


立ち止まり、小梅に目を向けていた数秒の間にキノコは姿を消していた。薄明かりではその姿は追えない上、もしかしたらどこかの曲がり角を折れたのかもしれない

輝子「ひゃっ!?ノォオオオオ!マイフレェエンド!」

幸子「小梅さん、走れますか!?」

小梅「う、うん...!」

薄暗い中で散らばって走るのは危険だ。キノコが消えたと思しき方向に全力でダッシュする輝子、その後ろを幸子が小梅の背中を支える形で追いかける




輝子「はっ、はぁっ!...ぜえぇっ!...ゼェエエェェッ!!!」

幸子「ちょ、輝子さん!呼吸音が!変な呼吸音が!」

小梅「はぁっ...!...はひゅ...はひゅんっ!」

幸子「こっちも!?」




下水道の湾曲した壁面に伸びた影が慌ただしく揺れている。その先頭を行く輝子が突き当たりの道を曲がった。幸子たちの視界から消える



幸子「あ、ちょっと輝子さ」




ドンンンッッッ!!!





ミドルキノコ「fffFFfff!!?」

小梅「っ!?」

幸子「ひっ!?」




まばゆいばかりの閃光が地下下水道を白一色に染め、爆音と爆風の起こす震動に二人が膝をついた

曲がり道のむこうで突如発生した爆発。そこを曲がる前だったため大したダメージはなかったが


幸子「え...これ、輝子さんは...」

小梅「っ!しょ、しょーちゃん...」

立ち上がり、曲がり角の向こうへ走り出す





輝子「オ、オォォ......マイフレェンド,,,」



引き剥がされた壁の破片が転がっている中、腰が抜けたよう輝子が座り込んでいる。


そこにあのキノコはいない。


爆発を直接くらい消失したのだろう、輝子はそれを盾にした形で直撃をまぬがれたようだ。

そしてその向こう側にいたのは二人のプレイヤー

屈指の実力を持つボットを手に入れたばかりの能力と機転で出し抜き、辛くも勝利を収め、

その後幸子たちと同じく下水道に逃げ込み、身につけた能力の理解を深めていたところ、その音でキノコを引き寄せてしまった実力派のプレイヤー




亜季「う...」

麗奈「あ、亜季?大丈夫なのあんた!?」


幸子「はい?」

小梅「...ぇ?」

大和亜季と小関麗奈だった。




ゲーム開始55分経過

______________

 大和亜季  105/200


______________
______________

 小関麗奈+ 105/200


______________


______________

 輿水幸子  200/300


______________
______________

 白坂小梅  200/300


______________
______________

 星輝子+  200/300


______________



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

______________

 双葉杏+  44/200

ユニットメンバー
・諸星きらり

______________

______________

 諸星きらり 44/200

ユニットメンバー
・双葉杏

______________



杏「杏の能力ってこれ?」


______________

 双葉杏+  49/200
        
ユニットメンバー
・諸星きらり
・  
______________

______________

 諸星きらり 49/200

ユニットメンバー
・双葉杏

______________


きらり「うゆ、この数字なんだ   にぃ?」

杏「あー多分、これライフゲージ的なあれでしょ」

きらり「そーゆーの、きらりわかんない...」

杏「あーっと...これがゼロになったらアウトって感じだよ」

きらり「うーん...でも今その数字増えたにぃ?」

杏「それが杏の、のーりょく?...とかなんじゃないの?」



仮想空間内の公園


ボットがどこかへ消え去ったあと、なんとか体を持ち直した杏ときらりは今ベンチに座り、目の前に浮かんだボードのようなモニターを並んで眺めていた。


杏「あーもー、それにしても回復能力ねえ...何もせずダラけるのにはちょうどいいっちゃいいね...」

きらり「んもー、そんなだと杏ちゃん、うゃーってなちゃうゆ?」

杏「でもさー、変に動き回ってまた変なことになるのもやだし......きらりだっていやでしょ?」

きらり「んー、でもでも!今度はちゃんときらりが杏ちゃんを守ってあげるにぃ!」

杏「それは......まぁ、すっごく嬉しいけど...」


きらりの膝の上で安楽な姿勢を取りながら杏は画面をぼんやり眺める。




自動回復能力

何もせずともただただスタミナが転がり込んでくる。そしてそれはユニットを組んでいる相方も同様に。

印税生活を夢見る彼女にふさわしいかといえばこれほどふさわしい能力もないだろう。



杏「まぁ回復役、ヒーラーって普通は後衛だしねー。きらりが杏を守ってくれるなら......杏もきらりを助けるよ」

きらり「うるるる、杏ちゃーーん!!」

杏「うぐぇ!ちょ、しまってるしまってる!」



ズン...



杏「!」きらり「!」


ベンチが揺れた。



地震によるものではない。二人は直感で理解した。地震にしては、揺れが突発的すぎる。



ズン...



それに何より

杏「これ...」

きらり「近づいてきてるにぃ...」



ズン...!



ベンチごしに二人の体に振動が走る。地面の底の底から突き上げるような何かの気配

きらり「杏ちゃん逃げるにょ!」

杏「わかった!きらり、出口はあっちだよ!」



だが、遅かった



きらり「にょわ!?」


二人のすぐそばの地面が大きくひび割れる。

地下にいる何かが地盤ごと公園の土を突き上げているのだ。

それほどの衝撃、震動。

杏「ひっ、なにこれ...」



ズン!!!


分厚い土塊がめくれ上がる。なんの変哲もない公園の地面に大穴が空いた


きらり「杏ちゃん!」

杏「わっ」



きらりが杏を腕の中に抱える。二人の逃走は間に合わなかったのだ





??「.........」


何かが地の底から上がってくる


地面にぽっかり空いた空洞はどうやら地面に通じるトンネルらしい



ズガガガガガガ

ゴゴンッ


??「......ふぅ」








裕子「さいきっく!大!脱出!ショー!」






杏「はぁ?」

きらり「んにぃ?」


二人の目が点になる。それもそうだろう

地面に空いた大穴から見知ったアイドル仲間の一人が意気揚々と飛び出してきたのだから



彼女の身長と不釣合に長大なサイズの戦車を後ろから押しながら



裕子「いやー!我ながらナイスさいきっく!」

「天井まで壁をよじ登れなかった時はどうなるかと思いましたよ!」

「ふふん、ですが壁を砕いて地面を斜め上に掘り進む!さいきっくパワーのおかげで上手くいきましたよ!」



誰に聞かれるでもなくここに来た経緯を一人噛み締めるように語っていた

彼女の能力、通称さいきっく力技はあくまで物体の変形、破壊にしか発動しない。だから壁をよじ登るなどの運動能力は彼女本来のままだったため失敗した

最終的には地面を斜めに掘り進むことが地下軍事基地に放り込まれた堀裕子の脱出方法だった。

その方法で斜め上斜め上へと坂道を作りながら、その突貫工事の出口がどこに向いているのかも把握せず戦車を手土産に地上を目指し、その行為が実を結んだらしい

裕子「おや?」

杏「......」

きらり「...ユッコちゃん?」

裕子「ああっ!きらりさん、杏さんと会えたんですね!私のさいきっくが役に立って良かったです!」



ゲーム開始55分経過

双葉杏 諸星きらり

ユニット結成




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ま、待ってくださいあやめさん...これはあくまで思考ゲームの一つですよ」



「私の能力は一部のプレイヤーにしか有効ではありませんから、あなたと戦ってもきっと勝てないでしょう」


「え?ああ,,,この、格好ですか?どうやらオリジナルのライブ衣装だったそうで...えっと、初期装備?でした」



「話が少しだけそれましたね...ボットがプレイヤーに勝つ方法...でしたか」


「まずは前提として、ほぼ初期パラメータのままボットがプレイヤーに勝つのは非常に難しい」

「それを覆すことができるのが、学習能力と...そして、それが生み出す膨大な経験値です」

「ですがここにジレンマが生じますよね...?」

「普通に戦ってもボットは敗北し、消失してしまう。,,,なのに戦闘を行わなければ経験値を得ることもできない...」

「適度に戦い、適度に逃げる...これも難しい...」

「でも...あるんですよ、自分がプレイヤーに消失させられる前に一気に経験値を稼ぐ方法が」





「”蠱毒”ってご存知ですか?」




「...甕の中に閉じ込めた大量の毒虫を殺し合わせる...するとその中で最後まで生き残った一匹が、常識を超えたな呪いをもつ、というものです...」




「古代中国ではその一匹を呪術的な素材として用いていたそうですが...」

「ああ、たしかにボットを毒虫に、この仮想現実全体を甕に見立てることはできますね...」

「難しい?...確かに難易度は高いでしょうね...私の能力では到底できそうにもありません」

「でもですね、これだと甕が大きすぎますよね...それに生き残った時にはボットは一体切りですし」

「もっと小さくていいのです...」

「そしてポイントはプレイヤー...この場合は、そうですね...呪術対象、とでも例えましょうか。毒虫と呪いたい相手を同時に甕に閉じ込めるのです...」

「複数のボットとプレイヤーを同じ場所に集め、我武者羅に戦わせる」

「プレイヤーにとってその混戦状態は不利でしかありません......が、ボットにとっては混沌としていればいるほどそこから学び取る内容も多いのです」

「なにせ、ボットは混乱しないのですから」

「どのような状況に直面してもその思考に1ビットのゆらぎも起こしません」

「蠱毒、毒虫の甕...この場合毒虫はボットの比喩ですが、この毒というのはボットの能力のことでしょうか?」

「それとも......ボット自身になるのでしょうか...?」

「なんにしてもこの蠱毒状態こそが......ボットにとって次の段階に至るためのレッスンになるでしょうね」




「あるいは地獄の釜、でしょうか...?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その場所は元々広い住宅街だったが、いまそこは見渡す限りの石塊と瓦礫、残骸の海と化していた。

荒涼としたその土地は見晴らしがよく、ほとんど真っ平らになったそのフィールドでは、誰が逃げようとしてもすぐに見つかってしまうだろう

そう言う意味ではこの場所は心理的に封鎖されていた

誰ひとりとして逃がさない閉ざされた空間だった


まるで口に蓋をされた甕のような




のあ(ボット)「.........」





______________

 神谷奈緒  46/200


______________
______________

 北条加蓮  46/200


______________

______________

 佐久間まゆ  70/100


______________
______________

 小日向美穂+ 65/100


______________
______________

 三好紗南+  50/100


______________

______________

 高峯のあ+  98/100


______________
______________

 前川みく+  95/100


______________
______________

 アナスタシア+ 70/100


______________
______________

 村上巴+    80/100


______________




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



巴(ボット)「ほれ、まだスタミナはあるじゃろ!立てや!そんでもってうちに全力で食らいついてこい!」






加蓮「ぜぇ...はぁ...い、いわれなくても...!」



奈緒「す、好き勝手...言いやがって...」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みく(ボット)「にゃんにゃにゃ~ん♪美穂ちゃんも紗南ちゃんも動きが遅すぎにゃ!あくびが出ちゃうにゃん」







美穂「あ、あぅう...みくちゃんの方が速すぎるんだもん...」



紗南「あいててて...そんな身体パラメータなんてチート級だよっ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


まゆ「...うふ、うふふ、うふ......」




アナスタシア「アー、無理して笑わなくてもいいのでは?...まゆ...膝がガクガクしてます」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



地獄を思わせる、ひたすらに荒れ果てた地で、

レッスンという名の地獄の釜の蓋が開いていた





ゲーム開始55分経過

神谷奈緒&北条加蓮&佐久間まゆ&小日向美穂&三好紗南

VS

村上巴(ボット)

VS  

高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)&前川みく(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで

次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、神谷奈緒&北条加蓮&佐久間まゆ&小日向美穂&三好紗南

4、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨


コメントありがとうございました

乙ー
踏み台

乙!

待ってます



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
佐久間まゆ




殺陣、凝闘



いわゆる演技での戦闘行為というものは知っていた



ここ最近だと剣士、拳闘士、ガンスリンガー、海賊などの役に扮した事務所の仲間が鬼気迫る演技を見せていた

鍔迫り合い、決闘、銃撃戦、海上戦

剣、篭手、リボルバー、ナイフ、大砲

多人数戦、一騎打ち



そういったアクション面に特化した演技のことは知っていた


今ここで、彼女にも、その技術があれば



この状況を変えることができただろうか






アナスタシア(ボット)「無理ですよ」

「ここは現実であって現実ではありませんし。演技力でどうこうできる程度の...アー...逆境、ではありません」



まゆ「ぜぇ...ぜぇ...で、ですよねぇ...」





まゆの両指に絡まるように果物ナイフが揺れる

その刃は氷と何度もぶつかりあったせいでギザギザに刃こぼれし、とても使い物になるようには見えない

アナスタシア(ボット)「むぅ、氷にしては耐久度が低いですね...本来氷はもっと硬いものなのですが...」

そう言いながらもアナスタシアの両手を中心にかたまった篭手のような氷の装備の、
そのひび割れた部分を覆い隠すように細かい氷の粒が貼り付いていく



最初、まゆには武器の数でアドバンテージがあった。


集めに集めた夥しい本数の刃物と少ない銃器

それに対してアナスタシアの武器は途絶えることなく補充され、形成され、まゆに振るわれた、


比較的大きなサバイバルナイフには、腕をまるごと防御する氷塊が


細長く伸びたダガーナイフには、それを上回る長さの氷の槍が


まゆの武器、攻撃手段は多彩であり、豊富なはずだった。


だがそれに即座に対応し、相性のいい形態変化を行われては威力も半減



そして今も、小ぶりな刃物を破壊すべくアナスタシアの両手にはゴツゴツとした透明の篭手が冷たく装備されている




まゆ「(ちょ...っと、不利すぎますねぇ。何をやってもやり返されてしまいますし...)」


さっと周りに視線を走らせる。その瓦礫の隙間にはここ数分でアナスタシアに切りかかった際に、あるものは弾き返され、刃が欠け、どこかに飛んでいった武器がいくつも転がっているはずだ


まゆ「(あと何本くらいでしょうか...)」


アナスタシアを見据えたままスカートのリボンに手の平を走らせる、リボンに挟む形で服に固定したナイフが数本ほど指に触れた


まゆ「(右手側に二本、左手側に一本...今使っている刃こぼれしたのが一本ですかぁ...)」

アナスタシア(ボット)「そうやって」

まゆ「!」




アナスタシアが地を蹴る。闘いの最中に足元にこぼれ落ちていた、水晶のような氷の粒がジャリリと踏みにじられる

5メートルとなかった距離がわずか2、3歩で縮められ、その3歩目に拳が振り下ろされた

まゆ「っつぅ!」

果物ナイフの背で攻撃を受け止める。まるでボール大の雹となった拳がひび割れる


アナスタシア(ボット)「今更残りの武器を気にするくらいなら、他のプレイヤーに武器を分けたり...しなければよかったのです...」


ヒットアンドアウェイ。振り下ろした右拳を戻しながら一歩引く


そして返す刀で左の拳が突きこまれた。まゆの胴に吸い込まれるようにえぐりこまれる


彼女の軽い体は受身も取れずに背中から地面に叩きつけ得られる





まゆ「あいったぁ...」


背中にしびれ、しかし一番ダメージの大きいはずの胴体には何の違和感もなかった


ダメージの感触を与えない。それがアナスタシアの能力だからだ。だからまゆは背中を抑えながら即座に起き上がれた



まゆ「...ま、まゆだけ生き残っても......その後全てのボットを相手はできませんから...」


アナスタシア(ボット)「なるほど、えっと...打算的? ですね、まゆ」



アナスタシアはまた数歩下がり、自分の両手を検分している。右手の篭手に深い溝が入っていた。

力加減を顧みず振り下ろしたため武器自体が損傷したらしい。これでは追撃はできない

だがそれでも構わない、まゆのものと違い彼女の武器は尽きないのだから



まゆ「ぜぇ...はぁ、まゆは、こ、これでも...仲間思いなんですよぉ...?」


カラン

まゆの手から刃先の曲がったナイフが放られる



アナスタシア(ボット)「アー、そうですか...ですが、みんなで生き残りたいのはこちらも同じなので...」


アナスタシアが篭手をフラフラと振ると氷の破片が剥がれ飛び、空中でキラキラと日の光を反射した

「ちゃんと、倒させてもらいますよ。」

「そしてこの戦いを糧に...私たちは他のボットよりも高みにのぼります...」

「...бедствие......アー」




「...災厄から...生き延びるためにも」





ゲーム開始56分経過

佐久間まゆVSアナスタシア(ボット)

継続中



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
小日向美穂&三好紗南



美穂「だ、だだ大丈夫かなぁ?ま、まゆちゃん、痛そうだよぉ...」

紗南「いやいや!!こっちも大変だから!となりの画面にも注意を向けとく的な場合じゃないって!」



そこはまゆとアナスタシアのいる地点から10メートルと離れていない場所

建物の残骸がごろごろと積もり、それがいい具合にボットから身を隠す障壁となっていた


この場合もちろん身を隠さなければいけない相手は前川みくだ


今もそこらじゅうにある瓦礫の岩場のどこかからこっちを睨めつけているはずだ。

そして狙われている二人、小日向美穂と三好紗南の装備は奇妙の一言に尽きた

一人はクマのぬいぐるみを小脇に抱え、手にはオートマの銃を一丁怖々と握りしめている

もう一人はポータブル型ゲーム機を現在進行形で片手操作しながらもう片方の手で五連の回転銃を持て余していた

戦闘にそぐわないアイテムはどちらも彼女たちの能力の象徴、それ以外はまゆから手渡されたものだ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
まゆ「頑張って生き残りましょうねぇ?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
美穂「うぅ、そんなこと言われても...」

引き金にホンの少し指をかけては引っ込める動作を繰り返す

手の中にある殺傷力の権化。それを振るうのがどうにもためらわれるのだ



紗南「美穂さん、ちゃんとそっち見張っててね!」

美穂「う、うん...」


美穂の背中に自分のそれをぶつけるように紗南と二人、背中合わせに立つ

だが身長が噛み合っていない上、銃の扱いが覚束無いせいでその臨戦態勢が即興であることがバレバレだった


美穂「......みくちゃん...ど、どこだろ?」

紗南「......しーっ、静かに」


みくの姿は見えない。二人お囲むようにあちこちに散らばった鉄筋やコンクリの小山の影に潜んでいる

氷に金属が叩きつけられる鈍い音がそう遠くない場所でしきりに鳴っている。まゆの戦闘は未だ続いているようだ

だがそっちに視線は向けられない。手の中で無骨な銃器を握り締める




美穂「(...あ)」

空中の一部がちらちらと光っている。アナスタシアの手から細かく散った氷が細雪のように宙を舞っていた

なのに美穂は思わず横ではなく上を見上げてしまった。




そしてみくと目があった




みく(ボット)「にゃあああああああああああ!!!」


美穂「ひゃああああああっ!?」



前でも後ろでもない、空中に飛び上がっての上方からの奇襲




反射的に美穂の腕が上へ跳ね上がる。だが、引き金が引けない




紗南「ぅえっ!?」

遅れて紗南も上を見上げたが、もう遅い

みく(ボット)「ねこきっく!」

頭から地面に着地する瞬間、ほぼ同時に両足を回転させた蹴りが二人の背中を反対方向に突き飛ばす

見上げるほど高くまで跳躍を可能にする脚力をまともにくらい、受身も取れずにうつ伏せに倒れたままザリザリと地を滑る

美穂「きゃあっ!」

紗南「うあっ!」

二人を蹴りつつ空中でくるりと回転したみくが着地した。まるっきり高所から落下したときの猫の動きだ

みく(ボット)「ふふん、窮鼠猫を噛むなんてことわざもあるし、みくは油断なんてしないにゃあ!」


猫耳を揺らし、ボットが追撃に移る

砂塵を巻き上げ、みくが跳ねる。その方向は水平、飛ぶそうな速度で地を駆る。


二人の敵が態勢を崩しているのなら強そうな方から突き崩すのが定石。二人のうちの年上、美穂にみくが肉迫する


美穂「__っえぇ!?」


銃を警戒してかその軌道は縦横無尽。右に左へ三角飛びを繰り返しながら確実に距離を詰めている

だが、もはや美穂の目では人間大の猫と化したみくの姿を追うことはできない


紗南「美穂ちゃん!!」


起き上がった紗南が銃を構えるが狙いがつけられない。足跡型のクレーターを点々と目で追うだけだ、それも見る間に増えていく


ダンッダン、ダンダンダンダンダン!!!!!!


みく(ボット)「おーそーい――――――にゃっ!!!」


ボットは容赦しない

武器がないなら肉弾戦を選択することにも躊躇はない



美穂「ひっ!」


超超至近距離、

顔面数センチ先にみくの瞳が割り込む


銃の射程どころではない、両手を広げれば抱きしめることすらできる距離



紗南「能力を___!」



驚愕に白く染まった美穂の脳裏に紗南の言葉はかすかにしか届かない

代わりに届いたのは猫の手にしたみくの掌底だった。

加速の勢いの乗った一撃は胸の中央に深く深くめり込んで___









ぼふっと弾んだ






みく(ボット)「にゃ?」






みくの手の平から手応えが消える





ぼふんっ、ぽふ、ぽふ





そのまま地面にバウンドしながら転がって行く



紗南「ま、間に合っ...た?」



離れた距離にいた紗南が息をついた



美穂「わぷっ」




殴り飛ばされたはずの美穂のいた地点、



そこに転がっていた”プロデューサーくん”から美穂の声が漏れ出る




ぬいぐるみと一体化する能力。それにより布と綿の体はみくの一撃を受け取め、受け流していた



みく(ボット)「にゅにゅう...美穂チャンが消えた?」


殴った相手がぬいぐるみと入れ替わった感覚に、能力を知らない彼女の動きが止まる


紗南「(チャーンスッ...今だっ!!)」



パン!!



後ろからの紗南の発砲。みくの死角へと銃弾が潜り込む。猫のように動けても銃弾より速くは動けない

みく(ボット)「____っにぁ!?」

対応が遅れたみくにその致死級の攻撃を避けることはできなかった









だが、銃を構えた人間を見てから動くことができる者はいた



紗南の動きを見逃さなかったボット




高峯のあが

いたのだ







ガキンッ!!!




銃弾が弾き返される。みくの背後を守るように生えた鉄製の柱に一筋の弾痕が刻まれる





そのほっそりとした柱はまるで女性の指にも見えた




みく(ボット)「ふ、ふぅ...のあチャン助かったにゃ!!」

背後を顧みたみくがのあに声をかける。彼女は遠く離れた場所に静かに直立したままだ

のあ(ボット)「注意すべきは窮鼠だけではない...見えない敵にこそ注意を払うものよ...みく」

物体との一体化、および操作。物体に満ちたこのフィールドでは、高峯のあにとって距離は関係ない。今この時この場所で、彼女にとって全てのプレイヤーは射程圏内なのだ

ボロボロとみくの背後を守った柱が崩れ落ちていく

崩れ去ったとき、そこにもう人猫の姿はない。みくは音もなく疾駆していた

みく(ボット)「不意打ちするような悪い子には~~~ねこぱんちにゃっ!」

紗南「か、かかってこぉい!!」



敏捷な猫

音速の銃弾

ゲームの電波

三つの速さが激突する



ゲーム開始56分経過

小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット)

継続中



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒




巴(ボット)「はん、この修羅場でなにぼんやりつっ立ってるか思たが、のあさんはあの立ち位置で十分やれるんけ」




紗南からみくへの銃撃を能力たやすく防いだ高峯のあの手並みを遠目に眺めて、巴が感心したように声を上げる

首と視線は完全に敵であるプレイヤーからそれている。油断もいいところだ


ぎりっ


巴(ボット)「おっ」


右腕が”鳴る”


その瞬間には引き金が絞られ地面をビリビリと震わせる豪音とともに巴の銃が火を噴いていた



よそ見をしたまま放たれたそれはまっすぐ伸ばされた腕のずっと先、小高い瓦礫山に命中し、巴の身長より数倍巨大なそれが




ダイナマイトで吹き飛ばされたように跡形もなく破裂した




奈緒「ぅおおおわああっ?!!」

加蓮「あっぶなっ!!」



ほぼ更地になったその影から慌てて二人のプレイヤーが逃げだした、間近で起きた小規模の爆発に無意識に耳を抑えている


巴(ボット)「おうおうおう!身ぃ隠すモンがドンドンのうなっとるでの!そろそろ逃げてられんぞ!!」


身を潜めていたプレイヤーと真逆、周りに何の遮蔽物もなく盾も持たず、チャカ一つで巴は荒廃した土地に一人立っていた

右腕に巻き付いた、拳銃から伸びた手錠の鎖がさらに”太く、長くなった”



ぎりり



巴(ボット)「ヒリヒリするのぅ、これがスリルとかいうヤツけ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


加蓮「なによあれ!なんであの程度の銃でバズーカみたいな威力なの!?」

奈緒「知らねえよ!そういう能力なんだろ!あとそっち詰めろ」



加蓮「いや奈緒が連れてきたんだし、なんか能力のヒントとかもらってないの!?」

加蓮が奈緒に詰め寄る。別の瓦礫の影に二人して転がり込みながらも焦燥が抜けきらない


それでも息を切らせながら奈緒が途切れ途切れに覚えている限りの情報を紡ぐ


奈緒「ここに、合流する前、あたしの前で...一発だけ撃ったんだが、その時は別にあんな威力じゃなかった、しっかりと確かめたわけじゃないけど」

加蓮「じゃあ、やっぱり...そういう武器を強くする的な能力ってことなの...?」


うんざりしたような声が漏れる、まだいくらか身を隠す場所が残っているとはいえ、これではジリ貧だ


奈緒「そう考えるしかねえな、でもそれなら攻撃が当たらないように逃げながら反撃すれば...」

加蓮「......本当に出来ると思ってる?」


対応策を提案する奈緒に加蓮は目を鋭く細め指摘する


奈緒「...やるしかねえだろ、それにほら今の所あたしらのダメージって銃じゃなくて吹き飛んだ石とかがぶつかったときのばっかだし」

加蓮「それは巴がなぜかテキトーな狙い方しかしないからでしょ、本気で狙ってきたらどうするのよ...」

奈緒「う...そうだよな....」

加蓮「それにその方法なら、さっきから何度もやってるのに全部失敗してるじゃない」

奈緒「あー、やっぱそれが一番謎なんだよなぁ...」


瓦礫の端に身を寄せ、向こうを覗く。離れた場所では相変わらず巴が身を守ろうとする素振りさえなく直立している


その右腕には手首から二の腕にかけて蛇のように太い鎖が巻きついていた


明らかな変化、最初は手錠のものと同じように十数センチもなかったにも関わらず、今や腕を2周3周して余りある長さだ



奈緒「威力が上がることと、あの伸びる鎖は関係あるのか...?」



加蓮「それも考えなきゃね...でも一番考えないといけないのは...」





「アタシたちが攻撃しようとするのと同じタイミングで反撃される現象のことね」





奈緒「...現象ってのは比喩としちゃ大げさだろ」


加蓮「でもそうとしか言えないよ、それのせいでアタシたちはあんなに無防備に突っ立ったままの巴に手も足も出ないんじゃないの...」




それが二人が防戦一方である理由だった


二人の装備はもう貧弱ではない。まゆの武器を分けてもらった結果、加蓮リボルバーには6発の弾丸がこめられ、奈緒の手にも巴の銃に勝るともとも劣らない大きさのオートマが収まっていた



なのに勝てない



攻撃するには十分な装備に1対2の状況、そして無防備なボット



きっかけは巴の右手首にかかっていた手錠の鎖が伸び始め、銃と腕を一体化するように巻き付き始めたことだ


がっちりと固定された銃から放たれる不自然で規格外な威力の豪砲


それを避けつつ反撃することも二人には出来たはずだったし、実際何度もその機会は巡ってきていた



最初は瓦礫の影を通じて巴の背中側に回り込んでの反撃

次は二人が別々の位置から挟み撃ちにするような不意打ち

最後には、片方を囮にしてもう片方に奇襲もかけさせた




だが全てが失敗に終わった、否、終わるどころか始まりすらしなかった



巴の背後を取った時にも、瓦礫の影から銃を構えた時も、囮に気を取られた瞬間に引き金を引いた時も___



___巴は全く同じタイミングで引き金を引いているのだ



しかもその度に鎖がより長く太くなっているような気もする

危機察知能力か、センサーか。なんにせよこっちの攻撃を見抜いた上で大砲級の銃撃を行われては作戦など木っ端微塵だ

加蓮「一体どんな能力ならそんなことができるんだろ...」

奈緒「やっぱり能力なのか?鎖が伸びてるのは...多分銃の威力を抑えるだけのものだろうけど...」


プレイヤーの攻撃を先読みする能力

ボットの武器の攻撃力を強化する能力


奈緒「巴が能力を二つ持ってるってのは?」

加蓮「...それは最悪の可能性、だけどありえない、もしそうだったらもっと早くケリをつけに来る」


奈緒「そっか......ちっきしょー、でも能力がどうとか考察してる場合じゃないんじゃねえか?」

加蓮「......アタシは相手の能力を見抜けたおかげで暴走バイクに乗ったボットにも勝てたけど?」

奈緒「まじかよ...」

奈緒の驚愕混じりの声を聞きながら、加蓮は積み上がった瓦礫のわずかな隙間越しに巴の姿を見て取った

加蓮「諦めちゃダメだよ、奈緒。そしたらきっと、なんだってできるんだから」

拓海さんの時よりは楽だといいな

そうして思考を開始する


ゲーム開始56分経過

北条加蓮&神谷奈緒VS村上巴(ボット)

継続中



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで

次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

4、渋谷凛&緒方智絵里


コメントありがとうございました


ひさしぶりにしぶりんが見たい
4

ひさしぶりん

待ってまーす

生存報告
2014上半期モバマスSSオススメスレで、私の過去作紹介してくださった方、ありがとうごさいました。
こひなたんのだけでなくしおみーのまで挙げてくれる人がいたことに感無量です

待ってまーす



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛&緒方智絵里



あずき(ボット)「逃っげろーい!大脱走大作戦!!」



凛「っ!!逃がさない...!」



跳ねるようにあずきが駆け出し、その後ろを凛が追う

二人の進行方向には事務所。現実感を喪失する仮想世界の中にあって唯一現実との共通点ともなりうる特異点。既知の場所でありながら未知の要素の詰まった建造物

凛の手には猟銃が握られているが既にその弾はない。彼我の距離は5メートル





智絵里「...ぁぅ」

そこに智絵里はいない。状況に置いていかれたまま、仁奈から受けたダメージも抜けきらずその場にへたりこんだまま、既に戦意も失せている


なぜなら彼女は見てしまったから。

能力の渦中から生還した人間を

自分の能力の被害者を

その憔悴した姿を



なまじ一度発動させてしまうと取り返しがつかず

そして何より

その”末路”を知らずに済ませられる能力だけに、

一度自分がしでかしたことを知ってしまった智絵里にもう一度能力を、少なくとも戦闘に使うことはできなかった



智絵里「...ごめんなさい...凛さん...」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



あの事務所みたいな建物に逃げ込ませるのは絶対ダメだ!


それまでに追いついてピアスを取り戻す!



ギリギリで手の届かない所にあずきの背中、追いつけそうで追いつけない

着物の裾がひらひらと手の届かないところを揺れる



凛「...っふ!」


手に持った銃を構える、多分狩猟に使う感じのそれで、撃つんじゃなくて、打つ


あずき(ボット)「うぇっ!?」


バットみたいに銃筒を握る、実際金属バット並みに痛いだろうけど、走りながらだから足元が危うくなる


凛「止」



頭の高さに銃を振り上げたまま必死で態勢を整える



凛「まっ」



あずきがちらりとこっちを見た後、足をはやめる

右足を思いっきり踏み込む、地面と一体化した感覚



凛「てぇっ!」




速度差で逃げ切られる前に一気に振り下ろす、鉄の棒があずきの背中を捉える






あずき(ボット)「やーだよっ」




私のフルスイングが空振る、空中で小さな鞠の脇をかすめていく



ここで使ってきたんだ、あの変身能力...!




しかも



あずき(ボット)「それだけじゃないよっ」

凛「っ!!」




鞠だけじゃない、


小さな星型の何かが鞠の周りに撒き散らされたみたいに

いくつもいくつも、あずきが変わり身のさなかにバラまいて___



鞠を外した銃がそのうちの一つにぶつかって、それが合図だったみたいに他の星諸共一斉に爆ぜた



あずき(ボット)「逃げながら反撃大作戦っ!大・成・こー」





だけど私が





あずき(ボット)「う?」



伸ばした指先は、鞠に引っかかった



凛「今度は、私のピアスをだしなよ」


引き寄せる、私の腕には尖ったガラスみたいなカケラがいくつも刺さっている、痛みは気にならない

あずき(ボット)「り、凛ちゃん痛くないの!?」

あずきが人型に戻る、でもその着物の襟元は私ががっちり掴んだままだ

ゼロ距離であずきと相対する、あずきは私が不意打ちに怯まなかったことに驚いてるみたい。予想が外れたような顔だ





凛「さっきまでもっと怖くて危ない場所にいたからね」




柔道の試合ならこのまま背負い投げができる間合い、着物の襟元を引っ張る


あずき(ボット)「あ、ちょ...やんっ...!」


そこには黒い箱、私のピアス


それに手を伸ばす前にあずきがアイスピックを突き出してきた、


頭の動きだけで避ける


そのまま返す刀で頭突き


あずき(ボット)「みゃっ!?」

凛「っ!」

鞠に変身して直撃はよけられた。




でもあずきの胸元から黒い箱がこぼれ落ちて、二人の間に放られる



凛「返してもらうよ」

あずき(ボット)「っだ、め_!」



着物から放した手を伸ばす、



あずきが声を上げるけど人型に戻るより私の手の方が少しだけ速いから___








ゲーム開始58分経過

渋谷凛 能力獲



























智絵里「____凛さんっっっ!!!」







遠くから焦ったような、悲痛そうな智絵里の声がして






次の瞬間私とあずきはとんでもない力で地面に叩き伏せられた





狙いも何もない上からの大威力の攻撃

問答無用でアスファルトに頭をうちつけられる

上下左右の狂った世界観の中、衝撃に破裂した鞠の赤や青の色紙だけが鮮やかで____




_____________

 緒方智絵里+ 59/100


_____________

_____________

 渋谷凛+  20/100


_____________


ゲーム開始58分経過

桃井あずき(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日は一旦ここまで、このチャプターはあと少し続きます

私用が終わりました。しばらくは安定して更新できそうです

待たせてすいませんでした。安価は1休みで

待ってました!

乙です!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛&緒方智絵里



本田未央の『ミツボシ効果』 領域へ踏み込んだ侵入者への罠

水野翠の『二律反省』 対象を地面に縫い付け動きを止める技

市原仁奈の『U=パーク』 圧倒的体格差で敵を蹂躙する特質

それらを影から支える島村卯月『M・M・E』、佐城雪美『黒猫電話』


この布陣は鉄壁である。


だがこれらはあくまで地面を走り来る敵に対してのみ発揮される防御力である


陸、海、空 ここに海はない。


では空は?

万に一つ空から攻めてくる敵、プレイヤーがいたときどう対処するのか?



バサァッ、バサァッ



凛「...っつ、うぅ...」



シュルルル




智絵里「...あ、ぁああ.......」



これがその答えだ




広げられた翼が空気を叩く音がする。振り下ろされた尻尾を巻き取る音がする



小春(ボット)「ヒョウくん、あずきお姉さんまで攻撃したらダメですよ~!」




ヒョウくん「.....」



事務所二階の窓から小春が非難めいた声を上げる、だがそれに返事はない。なぜなら彼は爬虫類だからだ




例えその体長が10メートルに届こうとも、背中から翼竜を思わせる翼を生やしていようとも




この大型生物が、ヒョウと名付けられたペットが、古賀小春の能力『美女と聖獣』こそが、この防衛部隊の対空兵器だった


ヒョウくん「.........」



空中に静止したまま尾をゆする。上空から強襲し、アスファルトに凛とあずき諸共振り下ろしたそれには傷ひとつ付いていない



ヒョウと名付けられたそれはボットではない。古賀小春というボットのアイテムである。それ故に能力はない。だが同時にスタミナという制限もない。つまり、古賀小春に何かが起きない限り永久に動き続ける



ゴッッッ!!!



両翼が唸る。空中を滑るような速移動、次の標的は緒方智絵里







智絵里「...ひっ!?」



無機質な、餌をみるような爬虫類の目が彼女を捉えて離さない







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

最初はあずきちゃんと凛さんがつかみ合ってるように見えた


不意にそこに影が差して、いきなり、上から伸びてきたのは...しっぽ?


顔を上げると当然のような顔をして恐竜がいた。それがわたしの方を向いて始めて小春ちゃんのイグアナだとわかった

今、まっすぐ私の方へ飛んでくる。その動きを追うように、翼の風圧に負けたビルの窓ガラスが順に砕け散る



「いっ、いや...」



声が続かない、足に力が入らない、まだ痺れてる。


でも痺れてなかったとしても逃げるなんて絶対できない



手元のアクセサリを握り締める、四つ葉のクローバーを模した飾り、わたしの能力の鍵




でも、これは___使えない






ぐんっ



ヒョウくん「......!」



影が私の上に差すと同時にそのイグアナが空中で一回転する、背中のトゲや翼が空を切る音がわたしの耳にまで届く



「...あ」



ぎゅるんっ!!!



翼と胴の回転に遅れて


 長い   長い    長い



ザラザラしてそうな、しっぽが、ギロチンみたいに、隕石みたいに


ゴツゴツとした表皮
          
        何を考えているのかわからない瞳

  筋張った翼


 わたしに向けて振り降ろ





   まっくら





  に
 




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「智絵里ちゃん、跡形もなくなったね」

「倒しちゃった?」

「......きっと、スタミナ...なくなった...」

「凛お姉さんはまだ生き残ってるみたいです~」

「しかし、あずきさんまで巻き込んでしまいましたね...」



圧倒的戦力差




ただでさえ強力な大型生物が、卯月による能力強化により翼をも有するに至った存在

本来空中戦を想定されていたそれの、地上戦にみせた戦果に五体のボットが感嘆じみた声を漏らす



卯月(ボット)「でも仁奈ちゃんがいなくなったのは残念だったね」

未央(ボット)「でもくよくよしてられないよ!」

雪美(ボット)「...卯月...次にやること...わかる?」


ボットは状況を学習する、そして最善手を打つ


卯月(ボット)「うん、それは大丈夫、もう出来てるから」

翠(ボット)「しかし、これで私たちの決め手はあのヒョウくんだけになるんですね...」

未央(ボット)「大丈夫だって!小春ちゃんをあたし達でガードしている限りここに攻め込まれることはないんだから!」

島村卯月、他人の能力を強化する能力者、なんの気も衒わない普通にして万能の能力

ミツボシ効果の星型を増加させるために、

黒猫電話の精度を向上させるために、

聖獣ヒョウくんの翼を生やすために、

着こなせる着ぐるみの重量制限を突破するために

融通が効かない代わりに有無を言わせぬ強制力を有した能力の持ち主である翠を除いて、そのポテンシャルは今まで他のメンバーに均等に分割した上で発揮されていた


そしてその一角が崩れた今、


小春(ボット)「じゃあ卯月お姉さん、ヒョウくんをお願いします~」

卯月(ボット)「うんっ!」



能力を再調整し、そして再始動する動作が卯月の電脳で処理される





ドクン



仁奈に回されていた分がそのままヒョウくんを強化する力に、そして翼竜の強さは倍加する



ヒョウくん「...............」



ドクン




小春()「わあ~!ヒョウくんかっこいいです~!」






ドクンッ!




道路いっぱいに血管の透けた爬虫類の翼が広がる



四車線でもその幅は足りず、翼の先がガラスを押し割る


地面に着陸すると同時に体重でアスファルトが足跡型にクレーターを作る



尻尾をひと振り。その動きでだけで旋風がびゅうびゅうと空気を唸らせる



緑の肌は鎧のように金属的な、それでいて有機的な滑りを帯びた輝きをたたえる




体長 15m 体重 推定80キロ 開翼長 20m越え



巨体に見合わぬ軽量化されたボディ、そして大きな翼



それが




動いた




次の狙いは渋谷凛


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





地面が振動している




まるで横たえた頭を跳ね上げようとするみたいに激しい揺さぶりに即頭部が痛い


でもそれ以上に全身がだるい、骨をまるごと引っこ抜かれたように力が入らない




90度傾いた世界の中、背中から大きな翼を生やした...恐竜?

それが地面を走ってくるのが見える。尖った爪が地面を粉々にして粉塵を巻き上げ地鳴りを生む

起き上がる力はない、自分の耳を触る、柔らかい耳たぶに硬質な感触、ここに来たとき最初につけていたピアス




それを引きちぎる




金具が曲がったような気がするけど大して痛みもなく耳からピアスが外れる

近くにはひしゃげた黒い箱、さっきの衝撃で箱はダメになったけど中身は無事みたい

凹んで歪んだ蓋の隙間から蒼色の、蒼い石のピアスを両手につまみ取る



もうなにも聞こえない、地鳴り以外は

もう何も見えない、爬虫類の巨大な足の裏以外は



指先で金具を外す、ピアスの尖ったピンの部分が日光を反射している



そして耳に突き刺した



「____これで」






「能力とかが使えるんだっ...け__」



ゲーム開始59分経過

渋谷凛

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~














「......えぐっ......ぐすっ...」








赤い空 緑の大地 




「......結局...すんっ...グスッ...つ、ちゃった」




緑を彩るのは野草





「......使っちゃった......能力...」



その全てはクローバー




「......う、うあああん...ぐしゅ...」




四葉のクローバーの装飾が施された扉

薄く戸が開かれたその下にうずくまり






「もう、こっ...こんなところには......誰もいれないって、ぐすっ、決めた、のに...」





たった一人の世界で緒方智絵里は悔い続ける



雲一つない、風もない平野でクローバーは静かにさざめく



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
























00:00:59:00.00




































00:00:59:01.01



















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



日の当たらない路地裏を二つの影が横切る




___きっとそれは『夜』のことだろうね___




マキノ(ボット)「どうして、ああいう大事なことを黙っていたのかしらあの子は......!」

戦力外たちの宴の創立メンバーの一人、二宮飛鳥の話した情報を反芻しながらマキノはひとりごちる

愛海(ボット)「うーん、でもあたしの持ってきた話と組み合わせて初めて意味が分かる感じだったし」

狭い通路を一列になるようにマキノを先導する愛海がフォローする




___愛海の言う動けないボットたち、能力のせいでそれが枷になっているというのなら間違いないだろうね___




マキノ(ボット)「何より度し難いのは、ボット間に情報格差が生じているという事実...諜報活動が聞いて呆れるわ」

愛海「そうだねーおかげであたしもあちこち走り回ったし」

マキノ(ボット)「で、愛海さん。その廃墟とやらはこの先でいいのよね?」

愛海(ボット)「うんっ、この通りを抜けて街外れに出たら見えてくるはず」



八神マキノ、棟方愛海の二人は今、高森藍子らのいる街外れの廃墟を目指し走っていた


ほとんど戦闘力を持たないため通る道はどうしても目立たない小道になっているが、それでもかなりの速さだ


さらにマキノは生身だ。


能力による分身は偵察には向けど、移動能力は皆無なため他のボットをスカウトしたようにこうして直々に出向いている


愛海(ボット)「一時間で外出が解禁されること、あの三人は知ってるのかなぁ...」

マキノ(ボット)「知らなかった場合、それを教えることも含めていまこうして走っているんでしょう。おそらく、この戦争ごっこ開始から一時間が経つまで猶予はないわ」



愛海(ボット)「それにしても飛鳥の能力ってすごいね、おかげであたしの抱えてた問題解決しちゃったし!」

マキノ(ボット)「せっかく手に入れた情報も話そうとしなければ無意味ね。でも、あとで本人にもそう言ってあげなさい」


飛鳥は語った。事の全貌を



___『夜』というのは所謂、エコノミーモードのことだそうだよ___



___この世界を構成する要素の一部、光とその反射を極端に制限する。そしてこの街が暗くなるから『夜』なんだ___



___仮想の中で電気代を節約したところで何も変わらない?確かにそうだね___



___でもよく考えてご覧よ愛海。僕らがこの空間を認識できるのはまず視覚センサーのおかげで、そして視覚は光を捉えるものだ___



___逆に言えばこの世界は常に僕らに大容量の視覚情報を光という存在を通して送り続けていることになる___



___例えばボクが手元にあるボールを投げるとしよう、するとこの世界はそのボール一つの動きに対し重力や空気抵抗、そしてそれを見るボクらの目に届く光の動きまで演算しなければならない___



___マキノさんは高校生だからもう物理は習っているだろう?放物線運動の式だよ、えっとh=vt-1/2gt^2、とかそんなのだよね、中二だからよく知らないんだ___



___とにかくボール一つでこれだ。だから何人もの人間が好き勝手動き回るこの状況は世界にとって、そう、終わらない計算問題のようなものらしいんだ___



___それに例え誰もいなくてもビルの壁に反射する日光や風向きの変化は絶えず起こっているしね___


___そこで『夜』だよ。光を絞ることで世界への負荷を減らすのさ___



___ここで愛海の話とつながってくるんだけどわかるかい?___



___おそらくその三人の能力はこの世界にかかる負荷が大きすぎるんだ___



___残念ながらボクの想像力ではそれがどんな能力かはわからないけどね___



___だから他の負荷が軽くなる夜まで、行動を制限されているのさ___




___えっ、その夜がいつ始まるかって?確か僕が盗み聞いた限りでは___





愛海(ボット)「この仮想世界って時計ないんだけど、一時間ってもう経ってるんじゃないかな!」

マキノ(ボット)「まだ空は明るいわよ。____それに愛海さん、気づいているかしら」

愛海(ボット)「何が?」

マキノが神妙な様子で愛海に声をかける、二人の速度は変わらない、狭い通路に声が反響する



「この仮想現実にはないのよ___太陽が」



愛海(ボット)「へっ?」

思わず上を見上げる



しかし路地裏から見上げる空は狭いが、確かに太陽は見えない。



愛海(ボット)「そういやそうだね。じゃあなんで今こんなに明るいんだろ?」

マキノ(ボット)「さあね、調査が必要なのは確かだわ。」

「それに......太陽のない世界における『夜』というのは、どういう定義なのかしらね?」

愛海(ボット)「う~ん...」



そうこうしている間に二人の足元に路地裏の終わりから光が注がれる。



愛海(ボット)「あっ!あれだよ!あのビルの向こうに見えてるボロっちいやつ!」

愛海が警戒もなく声を上げる、マキノはそれを窘めない

マキノ(ボット)「わかったわ」



その体が透け始める、肌や衣類を透過して背景が見える。彼女の能力が発動しようとしているのだ



マキノ(ボット)「私は先に行くから後からいらっしゃい」

愛海(ボット)「いきなり言って大丈夫?」

マキノ(ボット)「ボット同士で問題なんて起こらないでしょう」

「それに私は能力発動中は相手に干渉できないけれど、逆に相手からも干渉されないから何も起きようがないわ」



マキノが足元から順に消え始める、目標の座標に転移しようとしていた。そして電子の幽霊が跳ぶ



愛海(ボット)「あ、いっちゃった......」

「あたしも急ごうっと、ほたるちゃんたち、まだプレイヤーのこととか全然知らなさそうだしねー」

そのあとを追い、二人目も廃墟に向け走り始めた


  そして


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~













飛鳥(ボット)「これで良かったのさ」







「こうすればボットは勝てるんだろう?」




「本当ならボクも一緒に行くのが正しいんだろうね」



こずえ(ボット)「.........あすかー?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
















のあ(ボット)「......動いた」



「......乃々、あなたの言う通りだったのね」



「でも、こんなもの。認めないわ」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






飛鳥(ボット)「マキノさんも、愛海も、考えれてみればそうなる可能性があるくらいはわかるじゃないか」


「ほたるや聖、藍子さんにとっては」








「他のボットがいなくなった方が能力を使いやすいって可能性が」







「だから、これが世界の出した最善策、ボットの正解なんだろうね」



「___だったらボクは徹底的に世界に抵抗してやるさ」
























ゲーム開始60経過


『夜』を開始します


八神マキノ(ボット) 消失

棟方愛海(ボット) 消失



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで

飛鳥ちゃんの説明が分かりにくいと感じたら「世界」の部分を「サーバー」「メモリ」「マザーコンピューター」とかに置き換えて読んでください


次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

4、神谷奈緒&北条加蓮&佐久間まゆ&小日向美穂&三好紗南

4


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&北条加蓮&佐久間まゆ&小日向美穂&三好紗南




三好紗南には今、二つの景色が見えている



「にゃぁぁぁぁぁあーはっはは~!!」

「ひゃあぅ!?」



一つは荒廃した住宅街、今彼女が置かれている状況そのもの



もう一つは



紗南「(ああもうどうなってんの!?他の戦車は!?)」



車載カメラの映像とでも言えばいいのだろうか、それはゲーム画面を通して見える風景だった

彼女の能力は現在、ゲーム機を通じてこの仮想世界のどこかにある戦車とリンクしていた



だが、つながっているだけで動かない。主導権が何か別のものに奪われているようなのだ



紗南「んもうっ!他のとはアンテナ立たないし!この一台だけが頼りなーのーにー!」


美穂「あの...紗南ちゃん?」



紗南の隣に置かれたぬいぐるみが恐る恐るといった風に声をかける。それは能力を発動した美穂本人だ

美穂「みくちゃんの動きが早すぎてもうどうしようもないよ?」

紗南「う~ん...動きの速い敵には範囲攻撃がベターなんだけどねぇ、それも難しそう...」



ぬいぐるみに化けたおかげで一度は致命傷を避けた美穂だったが、それも能力でぬいぐるみになったと見抜かれるまでの一時凌ぎにしかならなかった





だからこうして、二人揃って小さな瓦礫の隙間を縫うようにみくの猛攻から逃げ回っている


みく(ボット)「むぅ...逃げ回られると猫だから追いかけたくなっちゃうのにゃ」


あたりを見渡せる高所に、不安定な足場にも関わらず猫のようにしなやかに着地し、周りを睥睨する


紗南「ぬぬぬ...戦車の主導権さえこっちが握れば自動照準で焼け野原にできるのに~!」


美穂「焼け野原!?」





反撃の目は、まだ出ない




______________

 小日向美穂+ 65/100


______________
______________

 三好紗南+  50/100


______________




ゲーム開始58分経過

小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ガタンガタンガタタタン



「はいよーはいよー進めや進めー、っと」

「この乗り物、すっごく揺れるにぃ」

「そうですか?私、気になりませんっ!」



ガタコンガタコンガタコン




数キロ先の戦場の喧騒を何も知らないような風で、その戦車は呑気に行進していた



杏「裕子ちゃん、飴もってない?」

裕子「飴?そんなものあるんですかね?」

杏「うん、きらりがちょっと前にくれたんだよね」

裕子「そうなんですか」

きらり「そうだゆ!」



操作方法が簡易化されているため戦車の中には二、三本のレバーとブレーキペダルらしきものしかないとはいえそこはあまり広いとは言えない



幸い杏がかなり小柄なためそれほど窮屈している様子はない。



杏「しかしラッキーだったねきらり。戦車で移動なんて。これもうこのゲーム楽勝でしょ」

きらり「で、でもでも~何が起こるかわかんないゆ?またよくわかんないのが、えとえと...うや~って」

裕子「ふふっ!ご安心を!何があろうと私のさいきっくが一捻りですよ!」

杏「あー......これは不安だわ」


ガタタンガタタン



車一つ通らない道をキャタピラがのんびりなぞっていく





杏「___ところでさ、このゲームの終わりってなんだろうね」

きらり「終わり...にゅ?えとえとー...ぼっとってゆーのをみんなエイヤーってやっつけるんだゆ?」

裕子「確か私たちが最初にあったのがボットでしたよね、他にもたくさんいるんでしょうか」

杏「まー、いるんだろうけど、全然会わないよね。そのほうがいいんだけどね」

裕子「プレイヤーが18人ということはボットとやらも同じ数なんじゃないですかね、あっと...でもそれだと私たちの偽物だけで18人になってしまいますし...」

きらり「きらりは杏ちゃんといるときに一人しかあってないゆ」

杏「杏はベンチで昼寝してた時に愛海のボットを見たねー」

「この街の広さはわからないけど、まあそれなりの人数いるんだろうね...はぁめんどくさ」

裕子「ううむ、全員倒すにも情報が少なすぎますね!あぁっと、方向転換しますよ、気をつけて」

運転席にいた裕子が手元のレバーの傾きを変える。戦車内の部屋が振動し、それが進行方向の変化を乗り手に伝える

杏「おっとと...」

きらり「ところで裕子ちゃん、きらりたち、どこに行くんだにぃ?」

裕子「あぁ、はい」


きらりの膝にいた杏が体勢を直す。きらりの問いかけに裕子が振り返る


裕子「さいきっく自分ダウジングで決めた方向ですよ!」

きらり「にう?」

杏「おい」

裕子「? これもサイキックパワーですよ?」



こともなげに言い放たれた方針。だがそれは、

杏「あてずっぽうじゃんか!?」

裕子「いえいえ!サイキックパワーですって!」

杏「いやいやいや...一旦止まってよホント!ボットの連中に会っちゃうフラグじゃん!」

裕子「さいきっく却下!」



面倒なことが起きそうな予感を察した杏と自信満々に操縦桿を握る裕子がぎゃーぎゃーと言い合う




きらり「きらりも心配だにい...」

それを見てきらりがぼそりと不安をこぼすと同時に、




ガクンッ!




「ふわっ!?」「にっ?」「言ってるそばから!?」



車内が急激に傾き、杏が転げ落ちそうになる、高低差の急変に運転席の裕子が椅子から飛び上がる

そのままぎりぎりと床の勾配が増加していく。座り込んだきらりが杏とともに壁際に滑り出す。



裕子「なんですかなんで、すか...」


慌てて車載カメラ越しに外の様子を確認した。そして事態を把握する



ぎぎぎぎぎぎ...



裕子「下の車道に移る、歩行者用の階段に踏み込んじゃったみたいですねっ!」



杏「じゃあ早くバックしてよ!?」




ついにきらりの膝からこぼれ落ちた杏が無我夢中で操縦桿にかじりつく



杏「むぎぎぎ!固っ!!きらりも手伝っ...」


ガクンッ! 


キャタピラが階段を一段踏み外す


杏「のわっ!?」

きらり「杏ちゃん!アブナイに!」


安定しない足場できらりが杏のもとに這い寄る







裕子「おっとと」



天地の傾いた車内の中、裕子は腕一本で体重を支えていた




裕子「杏さん杏さん、こういう時は一回エンジンを止めてキャタピラをロックしちゃえばいいのです」

杏「はぁっ!?」


そのまま、もう片方の手をひょいと伸ばしてレバーのそばにあったスイッチをひねった

ゴゴン...


簡易化された操作性によりエンジン停止がサイドブレーキのような役割とも兼任されていたのか、車体の傾きが止まる


傾いたまま床が停止する。どうやら窮地を脱したらしい


きらり「よかったにい~杏ちゃぁん...」

杏「あぁもう、ロクでもないったらありゃしない」

裕子「?」

杏「なぜそこで不思議そうに小首をかしげる!?」










______________

 双葉杏+  59/200
   


______________

______________

 諸星きらり 59/200



______________

______________

堀裕子+   90/100



______________





ゲーム開始58分経過

報告事項なし


道路の横から細く伸びる階段

本来歩行者が使用するはずのそこへ乗り出した1台のタンクボット、戦車

戦車は停止している

戦車は停止している

戦車は停止している

戦車は停止していた



杏「え?」




きらり「んに?」



裕子「はい?」




突如、駆動音を漏らし、砲塔が動き出す


そして機械音を立てて砲弾が自動装填される


そしてどこか遠くへ狙いを定める


そして



















紗南「繋がった___!!!」



エンジンが切られ、主導権をなくした戦車は容易く外部入力で操作された


轟音

破壊をもたらすそれが立て続けに響いた

何発も何発も何発も

狙いは


前川みく



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
このチャプターはもう少し続きます
今日はここまで



現実だったらみくにゃんがえぐいことになりそうにゃあ

乙乙


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒



攻撃は最大の防御というのなら今の村上巴がそれだ




ドガァン!!!




奈緒「のわぁ!?」

また一つ、バリケード代わりの瓦礫が粉塵に帰す

加蓮「う~ん...」



何度目かわからない遁走、次第に逃げ込める場所も減ってきている。そんなジリ貧状態のさなか加蓮は思考を巡らす

降り注ぐ粉塵を防ぎつつ二人揃って走り出す



加蓮「確かに映画とかで見るピストルとは比べ物にならない威力なんだけど...無限に上がり続けてるわけじゃないんだね...」

奈緒「お前、意外と余裕!?」



小岩の影に転がり込む、既に巴からは20メートル近く距離がある、拳銃があるとは言え二人の腕では命中させることは難しいだろう


巴(ボット)「つーまーらーんー...」

だがその距離は巴には意味がない。ジャンパーからマガジンを取り出し、小さな手のひらで問題なく弾のリロードを終えると、そのまま流れるような動作で腕を伸ばし、発砲



「のぉ!!」

伸ばした腕の先、着弾点がまとめて吹き飛ぶ。照準も何もない範囲攻撃に二人はまたも逃走を強いられる

加蓮「っ!...いったいなぁ。でも、さっきから攻撃がワンパターンになってる。やpっぱりあの銃もこれ以上は威力が上がらないのかな?」

奈緒「っだ、だとしてもこっちの攻撃を先読みされたらっ、意味ねえだろ!」

加蓮「そうだよね。でも、今思えば...」

巴(ボット)「何をコソコソ話しとるんじゃ!」

追撃、さらに一発の弾丸が撃ち込まれる。それは二人から少し外れた地面に命中した



それでも衝撃で石礫が飛散する。



加蓮「きゃぁっ!!」

奈緒「あっぶねええ!!!」




思わず顔をかばった手のひらに大粒の石片が食い込む。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



頬がチクチクする。いつの間にか地面に倒れていた。近くには奈緒がいる


さすが年上というか、アタシと違って既に立ち上がっている。



奈緒「加蓮、早く起きろ...」

その言葉はあたしの方を見ないままかけられた。奈緒の目線はずっと向こうを見ている


奈緒「巴の奴がしびれを切らしやがった...」



その視線に沿って首を動かす。


瓦礫と砂利の海の向こうの人影が見える



奈緒「こっち来てんぞ、おい...」



鎖が巻き付いたせいで、右腕だけが太くなったような異様なシルエット



巴が足元の石を踏み分けながらこっちに来る。



加蓮「これマズイって...」

奈緒「だから言ってんだろ。ほら、早く立てって」

加蓮「うん...でもどうしよう、まだ能力の謎、解けてないのに」

奈緒「こだわりすぎだろ...」



ジャリッ!



高く、砂利を踏みつける音が鳴る。巴はすぐそばまで来ていた。



巴(ボット)「おうおうおう、割と元気そうやないけぇ!」


致死級の小型兵器を片手に、二人のプレイヤー相手に泰然自若を崩さない





加蓮「ッ!」

巴(ボット)「こっちも真面目にやっとったのに、応えてないとちょい凹むの」


ざらり


鎖が軋み、巴が銃を構える、片手での鷹揚な構えではなくしっかりと両手でホールドされている


奈緒「てめっ...!」


思わず手に持ったオートマのグリップを握る。だが今まで巴に先読みされ続けてきた苦い経験がその腕を止める


ここで銃を抜いたら間違いなく、先に撃たれる。その確信が経験則に刻み込まれていた。おなじく加蓮も地に膝をついた態勢で中途半端に動けずにいる


彼女らは攻撃に踏み入れない。対して巴はいつでも引き金を弾ける。今はただとっさの判断で回避されないかを吟味して言えるだけの時間だ。


ボット一人に一方的に押し付けられた膠着状態。



二人は今、巴の能力の前に屈しようとしている



それももう終わる


巴(ボット)「じゃあ____」

















キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!









加蓮「うるさっ!?」






それは空気を切り裂く音。それは空を驀進する音。





突如降り注いだ大音量が、巴の動作を止める



奈緒「なんだよあれ......さっきの倍以上はあるぞ」


加蓮「は?」


巴(ボット)「はっ!!また来よったんじゃのう!」



それは隕石に見えた


1、2、3............計10発の砲弾



抜けるような雲一つない青い空に黒いシルエットを転々と投射し、そしてどんどん地面に近づいてくる

奈緒「だ、誰だよ、こんな事しやがるのは...!?」

加蓮「これって...」



巴(ボット)「はん、邪魔しよってからに!!」

銃の構えを解き、巴がまだ空高くにある砲弾の雨に体を、そして銃を向ける

奈緒「なっ(隙だらけ!?)」



状況の急変。いきなり自分たちに背を向けた巴に奈緒の思考が停止する

一方、加蓮は___銃を抜いていた

この距離なら先読みも何も___ない!!






巴(ボット)「どけ」



その加蓮が横からの衝撃に吹き飛ばされる



加蓮「あっ_ぐぅ_!?」

奈緒「加蓮っ!!」

起き上がりかけたところを張り倒され、無防備に倒れ伏した加蓮に駆け寄る



ゴトンッ



奈緒「...なんだ、それ」


そして巴に視線を戻した彼女の目にまたも理解の外の出来ごとが起きる


ズズッ


巴(ボット)「......撃ち方よーし、じゃ」



それは肥大化した鎖。


手錠どころか、碇を吊り下げることさえできそうな野太い鎖が巴の上半身を覆っていた。


長さが余った分が地面に垂れ下がり、まるでアルマジロと鎖帷子を混ぜたような奇怪な風貌で。そこから伸びた細腕が狙いを空へ定める


加蓮を弾き飛ばしたのもその鎖の一端だった。


その威力はもはや鈍器に等しい



キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンン!!!!!!



巴(ボット)「おどれらも邪魔じゃ!」



幾重にも巻かれた鎖がその頑強さと攻撃性を誇示し、


村上巴という一体のボットを巨大な何かに変貌させていた。


引き金に指がかかる














そして世界から音が消えた











数瞬遅れて、

それがあまりに大きすぎる発砲音による暴力的な静寂だったと知る


ドォッ___














___オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンン!!!!!








大砲の爆音を間近で聞かされたようなものだ。


二人は耳を抑えるが、音どころか衝撃波が巴の周囲2メートルをクレーターにする勢いで吹き払う


わずかに遅れて空から爆発音。


空から舞い降りようとしていた砲弾のいくつかが今ので空中爆散した。





巴(ボット)「全部まとめては無理けぇの。ま、いいわこっち向いとったのは逸れたじゃろ」

銃を下ろすと同時に鎖が収縮し、分厚く巻かれた鎖の鎧の中から巴の赤髪が覗く


銃弾が空中で砲弾と衝突することで起きた大爆発はほとんどの砲弾の軌道を捻じ曲げ、


結果として奈緒と加蓮は累を逃れていた


巴(ボット)「さぁ、やろか......い?」




その二人は消えていた。空へ向けていた姿勢を戻した巴の前から忽然と、


巴(ボット)「今の見て尻尾巻いた言うんか...イラつかせよんのぉ!!」


だが、怒り心頭といった言葉と裏腹にボットは索敵を開始していた

______________

 神谷奈緒  39/200


______________
______________

 北条加蓮  39/200


______________

ゲーム開始58分経過

北条加蓮&神谷奈緒VS村上巴(ボット)

継続中



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「___おい、こんなとこ隠れても長くはもたねえぞ...?」

「奈緒、声大きい」

「お、おう。でもどうすんだ?お前の予想大外れじゃねえか、なんだよあの必殺ゲージ三本消費したみてえな大技はさぁ...」



「ねぇねぇ奈緒?」

「あん?なんだ加蓮、その声」


「あんたさ、最初、ここに連れてこられるまでは巴に攻撃されなかったんだよね」


「ん?...おう、まあ色々言われたり脅されたりしたし、撃たれかけもしたが基本、何もされてねえな」


「うんうん...そっか、あははっ」

「何笑ってんだお前」




「ふふっ.........わかっちゃった」

「は?」



「やっぱり能力は一つだけだったみたい」

「それって...」






「巴の能力、解けたよ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まだ続く

今日はここまで



倍返しとかの能力かな?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
小日向美穂&三好紗南



高峯のあの能力による物体の操作は無制限に、無秩序にいつでもどこでも行えるというものでもない


そもそも建造物でできた腕も遠隔操作できる感覚器官も能力の応用によるものであって、そしてそれらも事前に物質がのあの支配下に置かれたことで出来る芸当だ


支配下にして一体化、全にして一の能力。例えば一度手に触れるか、データ上の肉体の一部を溶け込ませることが彼女にとっての条件である


そうして彼女はそこにいる一個体でありながら仮想世界に浸透する”全”にもなりうる。そう言う意味では、この住宅街全体はとっくに彼女の手のひらの上だ



すでにこの住宅街は一度、完膚なきまでに満遍なく彼女の能力に掻き混ぜられ瓦礫の海と化しているのだから。



のあ(ボット)「......どうやらさっきのも含めて紗南の仕業みたいね」


空の彼方より飛来する破壊の象徴、砲弾が巴の攻撃により一部が撃墜、残りが軌道を捻じ曲げられて数瞬の後


のあの背後の瓦礫の山、それが突如崩れさると磁石に集まる砂鉄のように一定の規則を持ってまとまり始める

それは柱を形成し始める。のあの細身をたやすく凌駕する直径の柱が螺旋状に石を砂を鉄骨を飲みこんでいく。最初の一山では飽き足らずさらに周囲のガラクタが引き寄せられ、柱を太く巻きながら上へ上へと伸びていく

やがて有機的なうねりをまとい、何かのオブジェの体を成し始めた。そのイメージは腕、モザイク状に組み上げられた巨人の腕



紗南「ラスボス巨大化フラグ...!?」

奈緒「悪魔の実の能力者かよ...」

天に掲げられた巨腕。自由の女神像が地中深くより出土したかのような光景

のあ(ボット)「流星というには」


腕の素材同士の軋轢が不協和音を発し、腕が動く。鉄骨の指が砲弾を包み込むようにキャッチした


「随分と剛気なことね...」


威力を相殺しきれなかった分が、手のひらに亀裂を生んだが、こうして村上巴と高峯のあにより紗南の砲撃は完全に封殺されてしまった


「返すわよ」


硬質な石材がしなり、軋る。弓なりになったそれが戻ると同時に砲弾は遥か彼方へ唸りを立てながら消えた




紗南「な、なにそれ...」


一方、自失しているのは紗南だ。ほとんど必殺と言って差し支えなかった奥の手が何の手応えもなく返されてしまったのだからそれも当然だ。


美穂「...あれも、紗南ちゃんの能力だったんだ...」


同じく目の前で起きたSFアクション映画さながらの異常事態の連続に半ば言葉を失っていた美穂が紗南に向き合う

紗南「もうこれ、無理ゲーでしょ......捨て身の必殺技の効かない相手とかバグじゃん...」


ゲーム機を握る力も弱々しく垂れ下がる。


美穂「...でっでも、のあさんの目をご、誤魔化せばなんとかできるよ...!」

紗南「......できるの?...ぬいぐるみとゲーム機で?」

美穂「で、できるもんっ...!」

紗南「ガンも使えないのに?」

美穂「うっ...」

すっかりナーバスになった紗南の隣にかがみこんだ美穂が励ますもあっけなく腰を折られる

みく(ボット)「んんにゃあああ!!!美穂チャンも紗南チャンもどこいったにゃあ!」

美穂「!?」

紗南「...」


隠れ場所にしている背後の瓦礫、その向こうからきんきんと甲高い声が届く

みく(ボット)「ぬいぐるみに隠れたって無駄にゃあ!」

「今度はぬいぐるみもろとも爪とぎに使ってやるにゃ!」

美穂「...ひぇっ」

紗南「!」

凶暴な宣誓に思わずぬいぐるみを抱きすくめる。拳銃を握るのにはまだ躊躇いがある。紗南同様、彼女も彼女で何ら攻撃の手がないのだ

紗南「......ねえ美穂さん、ホントに勝てると思う?」

美穂「ぇ...?」

その隣で静かにゲーム機がリスタートされた


紗南「じゃあもう一回、試させてよ」


______________


 小日向美穂+ 65/100


______________
______________

 三好紗南+  50/100


______________

ゲーム開始58分経過

小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
佐久間まゆ








ガリンッ!!




まゆ「なんなんっ、ですかっ、ねぇっ、あれはっ...」



ガリンッ!! ガリンッ!!



アナスタシア(ボット)「の、のあの力、です」



ガリリッ...!!



まゆ「そうですかぁ...巴ちゃんといいのあさんといい、能力持ちの方が羨ましいです、ねっ!」



ガツンッ!!


アナスタシア(ボット)「!?」



アナスタシアの右の耳にナイフが突き立つ。




すっかり刃が損壊し、一見するとノコギリにしか見えないそれは、


まゆの手の中で凶悪な威容を醸し出していた




その上に馬乗りになったまゆは次の刃物を取り出す





二人の状況は一変していた

______________

 佐久間まゆ   60/100


______________
______________

 アナスタシア+ 60/100



______________


佐久間まゆの武器はナイフでもまだ見ぬ能力でもなく、

その人間性、

特筆するなら「集中力」である


料理をこなし、炊事をこなし、編み物をこなす集中力

秘めた思いのために、秘めた想い人のために手練手管、試行錯誤、権謀術数をこらす集中力

それは刃物にも銃器にも能力にすら比肩する可能性をありありと内包していた


目的のためにならどこまでも思考をクリアに、なんの雑念も介在しない、させない

執着心、そう言い換えてもいいかもしれない




__戦場が停止したあの一瞬___




紗南の能力により投入された砲弾の局地的な雨の中、無力なプレイヤーが惑い、ボットが状況の把握及び対処に思考を割いた一瞬


佐久間まゆだけは不変だった。

彼女だけは戦闘から目を逸らさなかった。



そもそもボットは二転三転する状況を滞りなく把握し常に思考を止めない、そういう存在である以上あの紗南の攻撃を無視するなどできなかった

有能ゆえに変化を見逃せない。

ポテンシャルが大きいからそれを満遍なく分割し振り分けてしまう

わずかな間隙に全ての集中力をもって執着する、一局専心集中の攻撃にここで遅れを取った

これが機械と人間の差、

あくまで考えてからしか動けないボットと、考えそのものを排除して動ける人間の差だった




ガリンッ!!

まゆ「硬いですねぇ」

まゆの手に握られているのは文化包丁だった。それが氷と氷の隙間に捻じ入れられ、ぐりぐりと削り始める

その小柄な体にのしかかられたまま地に倒れたアナスタシアは必死で次の氷を生成する。

本来の氷なら刃物で削ることなどできないはずだった

だが崩れた端から継ぎ接ぎのように形取られた氷には接着が甘い箇所などいくらでもあった


ガリンッ!!


ゼロから氷を纏いなおす時間などない。まゆの前にそんな十分な猶予はない

両手で顔を覆い、そこに纏いつかせた氷が追加される端から次々と剥ぎ取られる

しかも破壊の方が早い




アナスタシア(ボット)「ぐっくくく...同じアイドル相手に容赦のない、ことですね...」

「(のあは,,,能力を大規模に使いすぎましたし、こっちにまで手を回す余裕はなさそうですね)」


まゆ「同じアイドル、ですかぁあ?」


ガツッ


アナスタシア(ボット)「ん、うっ...!?」


氷の隙間に刃先を食い込ませ、まゆがそこに体重を乗せながら上半身を近づけていく



まゆ「まゆは確かにアーニャちゃんとは一緒にCDデビューした仲ですけどぉ...」



ピシピシと氷に入った亀裂が広がっていく、


腕力では互角でもこればかりはどうしようもない。



まゆの顔がアナスタシアの顔を覗き込む


まゆ「所詮あなたはまねっこのお人形さんですしぃ...」


ビシッ

アナスタシア(ボット)「っ!」

今、まゆからアナスタシアの顔は見えない、両腕の氷に隠されている



まゆ「まゆに言わせてもらえば......ちぃっとも似てないんですよぉ!」



バキリと音を立て氷が大きくめくれ上がる、


まゆの上半身の体重が全て乗った一撃が



アナスタシアの顔面につきこまれた







今までとは比べ物にならない鈍い音、今までと違う手応えがまゆの腕を這い上がる



















ゴンッ







まゆ「______え?」



それは、氷の仮面だった



まゆの攻撃をいなす間、その時間稼ぎの間にゼロから作られた、100%の硬度をたたえた氷の鎧面

硬さ故に生じた衝撃が、びりびりとまゆの腕を痺れが這い上がる

アナスタシア(ボット)「そうですか」

剥がれ落ちた両腕の氷と違い、指先はまだ氷が貼り付き氷柱のトゲになっている

まゆ「っ!!?」

顔面で攻撃を受けたことにより、アナスタシアの両手は既に自由を得ている、



そして、氷柱がまゆの首に突き立てられた


それがこの世界での死であろうとも


彼女に痛みは訪れなかった


痛みのないまま___









______________

 佐久間まゆ    0/100


______________

ゲーム開始58分経過

佐久間まゆVSアナスタシア(ボット)

勝者:アナスタシア(ボット)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




今日はここまで、無能力者には厳しい世界

まゆが最初の脱落者だとは・・・

あら、能力覚醒もせずにゲームオーバーか
おりま乙

まゆの能力が気になるなーなんて

能力あれば相当強かっただろうけど仕方ないね、乙乙


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒



のあ(ボット)「これもまた...星の巡り合わせ、だったのね」



一人のプレイヤーが虚空に溶けていく。その光景を静かに見つめ言葉を漏らす

そのあとゆっくりと周りを見渡す。

遥か先まで荒廃した地に潜んでいるプレイヤーは四人


のあ(ボット)「死線を共にした盟友の敗退、その否応ない波紋を彼女たちは受け流すのかしら、それとも受け止めるのかしら...?」

アナスタシア(ボット)「アー......どうなのでしょう、ボットにはわかりかねます...ね」


その隣にたった今死闘を終えたばかりのアナスタシアが涼しい顔で並ぶ。

氷の仮面をまとった姿は実際は涼しいどころか冷たいのだろうが


アナスタシア(ボット)「...それにしてものあ、あなたの言った通りでしたね。レッスン、効果がありました」


のあ(ボット)「......美玲のことね」


アナスタシア(ボット)「ダー、勝ち負けに関係なく、美玲との戦闘を経験することで能力が......アー、洗練、されていたのが、わかりました」


のあ(ボット)「そう、アーニャ......次はどうするのかしら?」


アナスタシア(ボット)「アー、次、ですか...」



二人は視線を巡らすとその姿を認めた

それは混沌としていた戦場の片隅にあって不遜に仁王立ちする影、村上巴



のあ(ボット)「あなたが加蓮や奈緒とも戦うというのなら...」



「私があの子を”取り除い”てもいいわよ...?」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


巴(ボット)「...向こうが一歩先んじよったのう」

「うちの相手も、もうちぃとばかしガっついてくれたらやり易いんじゃが...」


さっきまでの威容から元に戻り右腕だけに細く長く鎖の巻き付いた姿で、崩れた足場を歩きまわっている

じゃらんじゃらんと腕の動きに合わせて鎖が鳴る。


巴(ボット)「..................」


警戒心もそこそこに足を止める。巻きついた鎖が少し太くなっていた


巴(ボット)「......(来るか?)」


右腕をまっすぐ伸ばし、周囲に向かってゆっくりと回していく、360°全方位を警戒するように体ごとゆっくりと回っていく


じゃらり、じゃらり、じゃらり


巴(ボット)「............」


じゃらり、じゃらり、






ぎちっ


巴(ボット)「そこかぁ!!!」


拳銃を振り下ろす、同時に引き金が引かれ銃弾が飛び出す


銃口が向けられたのは、巴の足元。

彼女は地面めがけて貴重なはずの銃弾を躊躇いなく発射していた。


ぎちちっ


いつの間にか鎖から蛇のように太くなっていた鎖が巴の腕と肩を固定し、

彼女の細い体に去来する反作用を押さえ込んでいる

ボゴンと巴の両足の間に小規模のクレーターが発生するが、

巴にそこにいた”何か”を吟味する暇はない

すかさず上体を捻るようにして真後ろに突如出現した”何者か”に発砲、返す刀で腕から伸びた鎖を別方向にいた”それ”に叩きつける




巴(ボット)「何や気色の悪い,,,」


頭や腹らしき部位に大穴を開けて”それ”が倒れ伏す。それは全くもって奇妙な物体だった


石ころや金属片をまとめ、それをワイヤーや鉄骨で無理やり人の形に縛り上げたような無骨で不気味なヒトガタ


指もなく目鼻のようなものもない。

酸性雨で風化しつくした銅像の方がまだ人間味がありそうな”何か”が巴の前後に二体。

おそらくは最初の一発を打ち込まれた巴の足元にも一体いただろうから計三体だろう


巴(ボット)「これは、どういうつもりかのう...」


「のあの姉さん」


眼光鋭く視線を向けた先には二つの影、アナスタシアと高峯のあ。

巴の視線はその後者に注がれていた


副次的とはいえ物質の操作と再構成を司ることさえ可能な能力者


のあ(ボット)「私は自身の宣言をたがえたつもりはないわ......言ったはずよ、貴方も私たちの糧であると...」


そう言ってパチリと指を鳴らす




それだけで状況は零から一へ、無から有へと変化した


ゴゴンッ!ゴバァッ!


地平線の果てのビルディングを除いて何もないかに見えた光景、それが急変する



「◇■◆△~(▲▼◇)▽!!!」
「□◇ッ□◇◆◇ッ◆△◆△▲ッ▼▽!!!」 
「▼■ーー▽◇!!!」
「■□◇◆△▲▼▽~~~!!!」
「■△~▲□__▼▽◆ー!!!」

おおよそ言語化できる範囲を超えた大音声があちこちから連続して立ち上る。鎖の音どころか銃声を打ち消された

悲鳴にも雄叫びにも聞こえるそれは声ではない。石と金属が唸りをあげ、軋みあい、擦れ合う音だ。

先ほどの土塊と鉄片の編み人形が五体。それぞれの足らしき部位を二本、よろよろと動かしながら巴のもとに近づいてくる

その姿は醜悪の一言、ひび割れたレンガを人の形に積み上げただけに見えるもの。太い木の枝に鉄骨をくっつけただけのもの。鉄条網を無茶苦茶に丸めて辛うじて人型に体裁を整えたものなど到底自走できそうな人形には見えないが、それでも確実に動いていた

強いて例えるなら「物体のゾンビ」の行進。捨てられた玩具が元の持ち主への復讐へ訪れたような悪趣味な光景が巴を包囲する

巴(ボット)「...ほっほ~う、逃げよったプレイヤーのあほんだら探す前の肩慣らし___」




ゴドンッッ!!







「__にもならんわ」




鈍重な音を立て鎖が巴の体を包むほど大きくなり、その一瞬の後




放たれた銃弾は一発


アナスタシア(ボット)「___!?」



のあ(ボット)「__っ」



それが巴の前方の三体のヒトガタをまとめて粉砕し、



背後にいた二体も衝撃はだけで崩壊させると






高峯のあの上半身を吹き飛ばした



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





加蓮「なに、仲間割れ...?」


奈緒「いやそれどころじゃねぇって!なんだよ巴のやつ、のあさん倒しちまったぞ!?」


バリケードと鳴る瓦礫があらかた吹き飛ばされた巴の周辺。


奈緒と加蓮は瓦礫の後ろではなく、その下にいる。


のあにより崩された数多の瓦礫と地面のわずかな隙間に身を潜め、

何かの拍子に天井代わりのコンクリの塊が崩れないことに賭けて身を隠していた


加蓮「んー、ちがうくない?」

二人はそのわずかな隙間から、のあが腰から下だけの姿に成り果てた様子の一部始終をのぞき見ていたところだ

奈緒「違うって...」



加蓮「ほら見て、のあさん自己再生してる」


奈緒「それはそれで怖いわ...ってマジじゃねえか!?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


石材や鉄材、果てはただの土さえもピースに見立てたパズルを解くように高峯のあの上半身が「積み上げられていく」

やがてその表面が液体のように波だったかと思うと皮膚や髪、衣類の質感まで完全に再現した高峯のあが現出した


巴(ボット)「...えっぐいのお、おどれ」


元の細さに戻った鎖を持て余すように腕を振りながら巴が苦い顔をする。

大威力にもかかわらず手応えがなかったのが気に入らなさそうだ


のあ(ボット)「■◇△...そうかしら?私たちは所詮は実体を持たない人形、0と1の傀儡、目に見えるものなど意味をなさないわ」

アナスタシア(ボット)「ニェート、のあ......こちらとしてもさすがに見てて、クるものがあります...」

のあ(ボット)「えっ」



物体との一体化、それは突き詰めればのあ自身もまた物体に過ぎないということだ。

そして物体を人形に出来るのなら、人形である自身を物体として扱うことも彼女に限定すれば可能だった


しかし、これは無限に使えるやり方ではない。

ただこの住宅街の至る所に「高峯のあ」の一部が混ざり込んでいるからこそガラクタ類を自分の部品にできただけのこと。

無論そこまで種明かしをするつもりは毛頭ないが




巴(ボット)「なんじゃ、やっぱうちの獲物をぶんどろういう魂胆け?」



のあ(ボット)「...それだけでもない、かしら?」


アナスタシア(ボット)「ダー......巴とも戦ってみたい、です...私はまだ、レッスンしたりません」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



奈緒「しっかし、あれだな...のあさんの未来からきたアンドロイド疑惑がさらに強まったな」

加蓮「何言ってるの?アタシの説明聞いてた」


奈緒「聞いたけど、まだちょっと半信半疑だぜ。確かにパッションっぽい感じだけど、巴はそんなシンプルな能力なのか?」


加蓮「間違いないって、奈緒の話を聞いて、のあさんとのさっきのバトルを見て確信した。」


「それにシンプルだけに境界線の見極めがすごく難しいんだからね?そこんとこわかってる?」


奈緒「わかってるよ、...でもちょっとワクワクしてきたな。ここに凛もいりゃさらに良かったんだが」


加蓮「...巴を倒して、ここを生き延びたら凛のこと探しに行こっか」


奈緒「......そ、そうだな...(言えねえ、そのセリフに死亡フラグがビンビンに立ってるとか言えねえ...!)」


そして加蓮は奈緒にオートマを手渡す。

幾分軽く感じられるそれを奈緒は片手で受け取った


加蓮「じゃあはい、任せたよ」

奈緒「おう、お前を信じるぞ」

その短いやり取りで心構えは完了する。

二人の間にまどろっこしい能書きはいらない




こうして二人の進退、ひいては生死を賭けた「とっておきの仕掛け」が作動をはじめた





ゲーム開始59分経過

北条加蓮&神谷奈緒

VS

村上巴(ボット)

VS

高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで

次回はみくにゃん回もあるよ

のあの素の反応に草

のあにゃんwwwwwwwwwwww


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
小日向美穂&三好紗南


みく(ボット)「にゃんだか、あっちはあっちで楽しそうにやってるにゃあ...」


「紗南チャンもそう思わないかにゃあ?」


紗南「いーや全然!ゲームバランスがなっちゃいないから見てられないよ」


しっぽを振りながら瓦礫の山の上に仁王立ちする小柄な少女と相対する

二人の距離は5メートルといったところ、みくの能力の恩恵である動物的な身体能力ならその程度の距離はなんら問題ではないのだが、かといって無謀に飛び掛ったりはしない。

紗南「......」


ハーフパンツのポケットからゲーム機が覗いている、空いた手は銃に添えられみくに照準を合わせている


みく(ボット)「当ったるっかにゃ~?当ったるっかにゃ~?」

みくが体を揺らしながら挑発する。まるで5メートルという距離なら反射神経で銃弾など回避できるとでもいうように

紗南「当てるよ__あたしが、いや」

みく(ボット)「にゃ?」

紗南の表情はあくまで不遜不敵、そのまま静かに続ける


「__みくちゃんは、あたしたちが撃つ」


その言葉を合図に、みくの背中側のがれきにまで近づいていたぬいぐるみが起き上がる。

美穂「...うぅ、できるかな、できるよね」

その腕にはふわふわの体と正反対な重厚な拳銃が抱き込まれていた

紗南と交わした先ほどの打ち合わせを思い出す。

_紗南『まず美穂さんはぬいぐるみモードでみくちゃんの後ろまで回り込んで攻撃して』_

体躯より明らかに小さすぎるぬいぐるみから這い出した美穂がその拳銃をうけとった

_紗南『当てなくてもいいよ、でもまず一発で注意を引いて』_

体を起こす、慣れない手つきで拳銃を支える

美穂「できる、出来るに決まってる...!」

みく(ボット)「にゃにっ!?」

指を握り込むと引き金が引かれた。最初の号砲が鳴らされる



______________

 小日向美穂+ 65/100


______________
______________

 三好紗南+  50/100


______________



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

美穂の放った銃弾はみくにかすめることもなく、やや離れた地面を削るだけだった。そして当のみくの姿も既にその場から消えている


みく(ボット)「びっくりしたにゃあ、またぬいぐるみに隠れてコソコソしてたにゃ?」


足元の瓦礫を蹴り崩す勢いでみくが駆ける、跳ぶ。ジグザグに軌道を変えながら美穂へ迫った


美穂「ひっ!」


美穂の体が固まる


みく(ボット)「これで___」



紗南「あたしを忘れないでよっ!!」



第二射、みくの背後からの射撃




みく(ボット)「にゃうっ!」美穂「ひやっ?!」


それがどれほどの高速移動であろうとも目的地は一つ、紗南は美穂に当たらないように、それでもギリギリを狙い打つ


_『その後あたしも攻撃するから、みくちゃんはこれであたしたち二人の両方を警戒するはず』_


攻撃の手が美穂に届く直前、急ブレーキをかけたみくの状態が後ろに反り返る。その瞬間、みくの動きは止まったも同然だった。

美穂「...えいっ!」

反撃の一発が後ろに反り返ったみくに放たれる、だが一歩遅かったその攻撃はまた外れた

常人を超えた脚力で後ろに跳ねる。そしてみくは美穂と紗南を三角形の頂点にするような位置に着地した

みく(ボット)「うにゅにゅ、美穂チャンも積極的になったにゃあ」



_『そしたら、あたしがみくちゃんに全力で攻撃する。』_



銃声が鳴り響く、何度も何度も。その全てがみくを狙い、たとえ逃げてもそれを追って追撃が行われた


_『みくちゃんは美穂さんにも警戒しなきゃいけないからこれで大分優位に立てるはずなんだ』_


みく(ボット)「よっ、ほっ、にゃっ!」

銃撃、狙撃、乱射、掃射、紗南の手から放たれた銃弾が一発二発とみくの逃げ道を追い込んでいく

地面が踏み割られた上に鉛に削られ銃痕を残す音が連続する。

美穂「紗南ちゃん、大丈夫だよね、まだ弾、残ってるよね...?」



みく(ボット)「にゃんにゃんにゃ~...んっ!」


しっぽを振り、耳をパタつかせ、上へ横へと猫がはねる。その後を火花と硝煙が追いかけるが一向にその姿を捉えることはない


紗南の体では発砲と並行して走り出すことなど到底不可能である以上、そこにどうしようもない機動力の差が生まれていた

そして_

紗南「___あ、」

みく(ボット)「んにゃ?」


_『でも、それが通じなかったら』_


紗南の手元で引き金が空を掻く、銃弾を撃ち出していたという手応えが消えていた


_『...美穂さんに助けてもらうね』_


みく(ボット)「...もうおしまい......にゃあ?」



三好紗南、残弾ゼロ



紗南「___っ!」


万が一命中することのないよう、つかず離れずの距離で逃げ回っていたみくの動きが停止、否、終了する

紗南とみくの動きは同時にして全く同じだった。

地を蹴り、一点に向かって走り出す。ふたりの共通の目的は

美穂「二人とも...!?」


丸腰になり弱体化した相手を放置して武器を持った別の相手を先に潰しにかかるみく

丸腰になり弱体化した自分の身を守る庇護を求めて別の仲間を先に頼りに向かう紗南


_『でももしかしたら武器を持ってる美穂さんの方に行くかもしれないから......そのときはごめん』_


美穂「紗南ちゃんっ!!」


_『...確かに無茶だけどさ、のあさんの目が逸れてる今この時がチャンスなんだよ?』_


明らかに、みくの方が何倍も速い、そして素早い。


_『だったらやるしかないじゃん。それに策はもう一つあるし』_


美穂が瓦礫の山から飛び出しながら発砲した。それは適当につけたような狙いではなく、まっすぐみくを目指して飛んでいく


みく(ボット)「にゃやっ!?」


今までとは違う、真剣でそれ故にボットからは危険な攻撃がみくの予想と反応を上回った





みくの衣服、その胸の中央に穴があく



真正面からの衝撃にみくの体が真後ろに転がり、頭から地面に落下した。


紗南「美穂さんっ!!」


一拍遅れて紗南が美穂の腕の中に飛び込む。拳銃を地面に放り美穂もそれを受け止めた


美穂「...私、人を仲間のアイドルを撃っちゃた...」

紗南「いやいや、これゲームだって!それに相手はロボットなんだし!」

テンパっているのか、大げさなくらい落ち込んだ様子の美穂を鼓舞し、紗南は離れた場所の戦闘風景に目をやる



2本足で歩く奇怪な物体の軍隊、自己再生する実力が未知数の存在、氷の鎧を自在に操る少女、全身に鎖を巻きつけた異様な風体の怪物



魑魅魍魎の跋扈する空間が、そう離れていない場所で現在進行形で展開されていることに今更ながら戦慄した



紗南「あっちじゃなくてよかったね、ほんと」


美穂「う、うん」


言葉少なに自分たちの幸運に感謝した。



紗南「でも当初の予定と違ったけど、美穂さんのおかげでなんとかなったよ、ありがとうっ」



美穂さん「いやいや、そんな、お礼だなんて...」


「__お礼を言うにはまだ早いよ
                        




にゃあ?」



二人の体がくの字に折れ曲がる、猛烈な速度で突進したみくが紗南と美穂に衝突し、そのままの勢いで地面に叩きつけた。



叩きつけられた二人を中心に円を描くように瓦礫が砕け、小規模のクレーターが発生する。それほどの衝撃だった




美穂「_____っか、ふ__?!?」

紗南「いっ~~~~~~~~たぁ!!?」



みく(ボット)「猫はそう簡単に自分の死体を見せたりはしないのにゃよ?」




並んで倒れた二人を両足で踏み付け、服の胸元に穴を開けたままみくがころころと笑った。


その穴からひしゃげた銃弾が一発、ぽろりと転げ落ちた


よくみると穴があいたのは彼女服だけで、美穂の攻撃はそのすぐ下で止まっていた




アナスタシアにより作られた硬度100%の氷のチョッキの表面で



紗南「なに、そ_れ」

みく(ボット)「アーニャンの作った氷をのあにゃんに加工してもらったのにゃあ。ピストルなんか簡単にハジいちゃうにゃ!」


辛うじて言葉を発せた紗南の質問にこともなげに答える。

美穂「そ___ん、な」

みく(ボット)「じゃあ、ピストルもないみたいだし___」

みくがどこか艶かしい動きで自身の豊満な胸の間に手をいれる。引き抜かれたその手には手のひらに収まるような小型の拳
銃が握られていた

紗南「ちょ、ちょちょっと待って!!」




パンッ!



紗南の頭のすぐ隣、わずか数センチの場所に着弾する

紗南「____ひっ!?」

みく(ボット)「みく、犬じゃないから『待て』はできないにゃ。それにこのピストルは二発しか弾が入れられないから無駄撃ちはできないにゃ____」





「____だからばいばい美穂チャン」



紗南の頭のすぐ隣、そこには美穂の頭があった



みく(ボット)「じゃ、つぎ紗南チャンね」


コキリと軽い音がして二発目が装填される音がした。



紗南「じゃ、じゃあ、待たなくてもいいから!せめてあたしに電源を切らせて!!」



みく(ボット)「にゃあ?」



電源、というここでは聞きなれない単語に戸惑う。まさか電池を自分の命の比喩にでもしたのだろうか



紗南はみくの足の下で苦心しながらゲーム機、彼女の能力の象徴を取り出し、みくに示した


みく(ボット)「なにそれ?」


紗南「あたしの能力装置!でも電源切ったら使えない!!」


みく(ボット)「...!」



能力、という単語にみくが片眉を動かす



紗南「ゲーマーを自称するからには、セーブもせずゲームを点けっぱなしで放ったらかしにはしたくない!すぐ終わるから!ね!?」

ボットは迷わない。紗南の能力を知らないだけにここで悪あがきに何かされるより、自分から戦闘不能になってくれるならそれでいいだろう

みく(ボット)「......じゃあ、にゃんにゃんにゃんに引っ掛けて二秒ね。スイッチ押したら切れるでしょ?嘘付いたら許さないよ?」

紗南「うん、あたしは嘘つかないよ...じゃあいくね」







三好紗南は思い出す、美穂と交わした会話の最後を



_『ああ、もう一つの策?これは美穂さんの能力が使えない時の奥の手みたいなものかな』_



スイッチを押す。もちろん電源を切るスイッチではない


三好紗南には二つの光景が見えている


一つは目の前にいるボット、前川みくの顔



そしてもう一つは




















_____________

コントロールモード

→ ・プロデューサーくん
  ・戦車
           1/1 
_____________


ゲーム画面を通して映される、ぬいぐるみから見た彼女の後頭部だ



紗南「ほら、嘘じゃない。約束通り___」



プロデューサーくんが、美穂の半身が、

紗南の力を借りて美穂の落とした銃を拾い、

引き金を引いた













紗南「みくちゃんは、あたし”たち”が撃つ」







______________


 小日向美穂+ 0/100


______________
______________

 三好紗南+  36/100


______________

ゲーム開始59分経過 小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット)

勝者:三好紗南


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日はここまで

ライフ共有してなかったから美穂もこれで脱落か
おっつ



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒



のあ(ボット)「......みく...」



消えていく。守ろうとした仲間が消えていく



巴(ボット)「よそ見たぁ余裕じゃのう!」


その横顔に叩き込まれた銃弾がのあの肩から上を真っ平らに吹き飛ばした


そして、数瞬の後には元通りに......少なくとも見た目だけなら全く同じ姿に再生する



アナスタシア(ボット)「のあ。...みくが...」

のあ(ボット)「......ええ、見落としたわ。まさかぬいぐるみまで動かせるなんてね...」

アナスタシア(ボット)「みく...三人で一緒にいたかったです...」



そう言うアナスタシアの体を何箇所か覆う鎧、氷でできたそれにもいくつか穴が空いていた


内部まで貫通してないのが救いだが、得体の知れない攻撃力の巴の前にこの防御力もいつまで続くかわからない


のあ(ボット)「ここはもう退いてしまいましょう、刻限も近いことだし」


アナスタシア(ボット)「そうで、っ!?」


バキンッと音を立ててアナスタシアの仮面が半壊する、半分に割れた仮面の奥から端正な顔が覗いた。

その表情は一見すると無表情。たった今消失した仲間に対して何も思うところがないかのような顔つきだった


巴(ボット)「なぁにをべちゃべちゃ喋くっとんじゃ!おどれらの売った喧嘩じゃろ!!」


巴の声が二人を叩く。


のあ(ボット)「____そうね。じゃあ終わらせましょう」


それはあっけないほどに単調な声。目的を奪われたような空虚な声



この戦闘に、彼女の言うレッスンにはもう価値などなくなったとでも言いたげな雰囲気でゆっくり腕を持ち上げる


巴(ボット)「っ!させるかいっ!!」


先んじた巴の銃撃がのあの腕から先を吹き飛ばす。

だがそれも効果はない

変化はすでに起きている



巴(ボット)「なっ!?」


粉塵を巻き上げ巴の足元が畳返しのようにめくれ上がる。

それも前後左右から巴をすっぽり包み隠すように

いくら強力な能力であろうともそれが最大限に発揮できるのは一度に一方向のみ。


その隙を突かれた


巴(ボット)「しゃらくさい!」



壁のように四方から立ち上がった壁の一枚に弾丸を撃ち込む。


一発では砕けず、続けざまに何発か撃ち込んだことでようやく壁の一枚が中程で崩れ落ちた


それを蹴倒して包囲から抜け出す。


その頃にはあの二人の姿は消えていた。



巴(ボット)「......ほう」




その代わりに




奈緒「よう、巴」





本来の敵、ボットが討伐すべき対象がそこにいた。







ゲーム開始59分経過

北条加蓮&神谷奈緒

VS

村上巴(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



じゃらり


巴の右腕から細身の鎖がぶらさがる。

鎖は元の細さに戻っていた


奈緒「...わるいな、逃げてばっかで」


まるっきり悪びれず、飄々とした様子で、あまつさえひらひらと手を振りながらそんなことを言う奈緒に巴の銃口が持ち上がる


もう片方の手に握られた銃も狙いを定めるでもなく垂れ下がっている


巴(ボット)「ようやっと覚悟決めよったかいの...あ?もう一人はどこじゃ」

奈緒「巴ならわかるんじゃねえのか?」

「今まで完璧なタイミングでアタシたちにカウンター決めてきたじゃん」


彼我の距離は10メートル、声は届くが銃弾を当てるのは素人にはやや難しい。そんな距離


しかし巴にこの距離は関係ない。ただひたすらに強力な攻撃は攻撃範囲などに縛られない。




___のだが、巴はその攻撃を放たない。鎖は相変わらず細いまま静かに巻きついていた。



巴(ボット)「__?」


その鎖が長く、そして太くなるのはなにも示威行為ではない。それは大砲に匹敵する威力を銃弾に付加させる際、反動を抑えるためだ。

逆に言えば鎖が細いままの今、彼女の武力、ひいては攻撃力は拳銃一丁分か、あるいは____



奈緒「ばんっ!」


手に持った銃をもち上げ


パンッ!


巴(ボット)「!」

奈緒が巴に向けて引き金を引いた、


「遅れて」巴も反撃の一発を放つ。


二人の攻撃はどちらも外れた。

しかも奈緒めがけて放たれた巴の弾は外れるどころか大した威力も発揮せず土煙を上げるだけだった

巴(ボット)「(どうなってるんじゃ...うちの能力がなんも反応しよらん)」

その違和感を何より受け取るのが能力の使役者本人だった。目の前で起きている事実と本来起きるはずの予想が違いすぎる

本来なら巴に向けて攻撃をしようとしたプレイヤーは今頃、粉微塵のはずだ。なにせこれほどあからさまに敵対しようとしているのだから__




奈緒「っはは。マジで巴の能力発動してねえじゃん」

巴(ボット)「っ!」



奈緒「おいおい、無茶するなよ、それにそんな細い腕だけじゃ銃の反動を抑えきれないんだ、ろっ!!」


スタートダッシュ


次の攻撃代わりに奈緒が走り出す

銃を持った相手に無謀極まりないが、それでも一目散に


ダンッ!


巴もそれに応戦し、発砲するが細いままの鎖と細い両腕だけでは大型の銃の反動を殺しきれず。弾がうまくは当たらない


パンッ!


逆に走りながらの奈緒から牽制に放たれる銃声に反応してしまう


もちろん走りながら撃たれた弾丸が巴に当たることはない。

それどころかどこに飛んでいったのかもわからないことからかなり見当違いの方に飛んでいったようだ

巴(ボット)「どぉなっとるんじゃこりゃぁあ!!?」


本来なら、自分に仇なす輩に有無を言わせぬ攻撃が叩き込まれていたはずだ

本来なら、相手が自分を追い詰めようとした時にはそれを返り討ちにしていたはずだ


なぜならそういう能力だから


奈緒「ロボットだろ!自分で考えろ!」


巴の正面を回避し、横っ飛びに転げるようにしながら奈緒が挑発する。


巴(ボット)「言いよるやないけぇ!!」


素早く態勢を整えて発砲するが、反動を抑えきれず、すでに2、3メートルまで接近している奈緒にかろうじてあたらない


だが今は、自慢の武器は威力を発揮せず、自分は追い詰められている


パンッ!

奈緒が腕を無理にひねり、巴に銃を向けると銃声が響き渡る

巴(ボット)「___っしゃらくさい!!」

反射的にその射線からのけぞる。奈緒はもうすぐそこに来ていた

巴(ボット)「_じゃったら、こんだけ近けりゃ当たるじゃろぉが!!」

奈緒「ぅおっ!?」

逆襲。巴は地を蹴ると奈緒へ体当たりした。

右手に銃を掴み、左手で奈緒の体に掴みかかる。たとえ奈緒が銃を持っていようと、このゼロ距離ならむしろ小柄な巴の方が有利だ




がしっ

巴(ボット)「なっ」

奈緒「やっとここまで近づけたぜ」



その唯一の武器を手放して奈緒は巴の銃身を掴んだ。自分の体に当たらない方向に捻じ曲げる。


巴(ボット)「...っちぃ!!なんでうちの能力が...!」

奈緒「うん?ほらあたしの銃をよく見たら分かんじゃねえのか?」

巴(ボット)「あん!?」


奈緒の拳銃はつかみ合うように互いに膠着した二人のすぐそばに落ちている。


どこにでもあるようなオートマの、巴の得物より少しばかり小さくそれでいて無骨な銃器


なんの変哲もないといえば確かに無い。



黒く固い引き金、撃鉄、遊底、排莢口、照門、安全装置、銃把......そこで終わり



巴(ボット)「おい、おいおいおい...!?」



そこで終わり



つまり銃把の先がない。そこに見えているはずのものがない




”そこ”には暗く、黒い穴があいているだけだった



巴(ボット)「奈緒さん、おどれ、気でも触れたんか!?」



奈緒「でも、加蓮の言った通り、お前の能力発動しなかったみたいだな



巴、お前の能力は__」






巴(ボット)「なしておどれ、チャカに弾どころか弾倉すら入れとらんのじゃ!!?」




奈緒の銃。


そのマガジンを装填するはずの場所にぽっかりと四角い穴があいていた






「お前の身が危険になるほどお前を強くするんだよな?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

加蓮は隠れていた瓦礫からそっと見を起こした


彼女の手にはもう一丁の銃が握られ、その銃口から細く消炎の煙が立ち上っていた。


今まで隠れていた彼女は一体何に向けて発砲を繰り返していたのか?


それは奈緒の持っていた空っぽの銃のことを考えれば簡単にわかる。


加蓮は奈緒の「撃つふり」に合わせて適当な場所めがけて発砲し銃声を立て、

あたかも奈緒が発泡したように見せかけていた


奈緒に武器があるように見せかけるように騙すため、奈緒が巴にとっての脅威であると錯覚させるために





奈緒「___で、実際はあたしは丸腰、だから巴の能力も反応せず鎖も細いままだったってわけ」


巴(ボット)「っち、それでなんでうちの能力が自動発動って分かんねん!うちが自分で威力変えられる思うんが普通じゃろ!」



手錠につながった大型の銃が巴と奈緒の間で四つの手に掴まれ、綱引きのようにギリギリと音を立て押さえつけられる

奈緒「んあ、それは__」




加蓮「___それだと、巴のあの予知の説明がつかないからね」



巴(ボット)「二人目、そういやおったのぅ、こうなるんを待っとったわけかい」


加蓮「まぁね、アタシあんまり体動かすの得意じゃないし?」



巴を強敵たらしめていたもうひとつの特性、


予知としか思えない反射速度のカウンター


これも彼女の能力が彼女自身の危険に反応する性質だからこそ出来た技だ。


加蓮「巴が誰かに狙われたのを察知して、手錠の鎖が太くなる。で、巴は腕に巻き付いた鎖の変化で自分の危機を知る。」


「そしたらすぐに周りを攻撃すればいい。威力が上がってるんだから狙いがテキトーでもなんとかなるってこと」


奈緒は巴が、その能力を特に大きく発揮した場面を思い返す。

高峯のあの物量作戦、三好紗南の空爆、そのいずれもが彼女自身を危機に追い込むものだった。



__『なんにせよ、ワレみたいなボロボロの相手なんぞお断りじゃ』___

__『うちは奈緒さんを助けるつもりは微塵もないけえ。ただ奈緒さんのコンディションが回復して十分戦えるようなるのを待っとるだけじゃ』___


奈緒「今思えば最初に会った時のセリフもヒントだったな、あれは自分を脅かすような敵じゃないと逆に戦えないって意味だったわけだ」

巴(ボット)「ぐっ...」



加蓮「さて、どうしよっかな...ここでアタシが巴に銃を向けるとまた能力発動しちゃうし...」


奈緒「おい!そこは考えてなかったのかよ!」


加蓮「いや、冗談だって」


そう言うと、両腕を奈緒に掴まれたままの巴の服の襟元を掴み、


地面に引き倒した。空を仰ぐように背中から地面にぶつかる



巴(ボット)「げっほ_!?」

奈緒「うおっ、加蓮!?」

加蓮「どれだけ強くても、引き金が引けなきゃ意味ないよね?」

そのまま背中にのしかかる、巴の右手と銃は、狙ってか偶発的なものか巴の体の下敷きになっていた。


さらにその上に加蓮が膝立ちで体重をかけている


奈緒「いや、こえぇよ加蓮」


巴の額に銃口をぶつける、奇しくもそれは以前巴が奈緒にした行為と似ていた

加蓮「じゃあね___」


そして加蓮は引き金を











引かれた








巴が背中の下で引いた引き金は銃弾を放ち、

それは巴の肉体を背中から腹へ貫通した

そのまま加蓮に命中する


______________

 神谷奈緒  31/200


______________
______________

 北条加蓮  31/200


______________



加蓮「っいったぁ!?」


命中と言っても二の腕のあたりで、それは急所ではなかったようだが思わずのけぞる


次の瞬間、加蓮の下で膨大な体積と質量が爆発的に発生する。



ゴドッゴガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!



それは鎖、いやもう鎖かどうかわからない。

2トントラックのタイヤのような大きさの鉄の塊が加蓮を押しのけ

いくつもいくつも渦をなして巴に巻きついていく。

ガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴン!!

鎖同士が火花を散らしながらぐるぐると巨大な何かへ変貌していく


「げほっ...うちの能力、よう見抜いた、のぅ」


奈緒「加蓮、早く逃げろっ!!」

加蓮「な、なによこれ」


巴の上から弾かれ、尻餅を突いた加蓮を奈央が引きずりながら巴のいた場所、そこにいる鎖の怪物から逃げ出す

「そうや...う...ちの能力は特攻、ほんでカチコミ向きじゃ。修羅場であるほど...熱く、熱く滾ってくるんじゃ...」


ギャリリリリリリリリリッ!!


鎖どうしが引き締め合うように固まる。そこにいたのは全長3メートルはあろうかという生物


いや、生物とは言えない。ただ野太い鎖を全身に巻きその肌を一辺残らず覆い尽くした巴だ



「けど、考えが甘かったのぅ、逆にこうも考えられたはずじゃろ?」



「うちがダメージを負って弱ってもうても能力は発動するってなぁぁあああ!!!」



自分が危険な状態であるほど、その逆境を覆すように強くなる能力


それは向き合う相手が強くあればあるほど強くなるということ

なら逆に自分自身が弱く、弱体化するごとに強くなるというのもまた自明



____________

 村上巴+  9/100


____________




「人間ばらが!!!こっから先は全滅必至じゃ!!覚悟せえよ!!」




鎖のうずから光が漏れる。それは破壊の光。限界の限界を超えて強化された銃の、その銃口から噴き出す閃光、マブルフラッシュ



___ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!____



ただの銃弾が隕石のように炎と光の尾を引き、遥か彼方に飛んでいく




その数瞬の後、遠くに見える都会のビル群の一角が、崩れ落ちた。




奈緒「っつ、どこまで強くなる気だよ!!」

加蓮「しかも、巴が弱ってるこの状態じゃ、アタシたちが丸腰だとか全然関係ないし...!!」


もう鎖が細くなることはない、もうその肉体が無防備になることはない、力ずくで押さえ込まれることもない


巴のボットとしての命が風前の灯にある今、その能力が解除されることはない


致命傷に近い傷を負い、誰よりも弱体化した彼女に勝てる強者など存在しない



銃口が角度を修正し、奈緒と加蓮に向く

鉄と鎖の巨人が二人に狙いを定め___



加蓮「___っ_!!」

奈緒「_____!!」

















紗南「なに、あの黒いの」








その姿が崩れ落ちた








ガランガランと鎖がほどけ地面に落下していく


奈緒「は?」

加蓮「え?」


あまりにもあっけなく、あともう少しというところで無残に、まるで天寿を全うしたように静かに、自然に落下し鎖の残骸が積み重なっていく


奈緒「おい、なんだよこれ」

加蓮「鎖が__溶けてる?」


崩れ落ち積み重なった鉄の塊が泥のようにあるいは砂のように融解し瓦解し風化していく。

早送り映像を見ているように、みるみるうちに跡形もなくなっていき、


消え去ったあと、そこには鎖の切れた手錠付きの大きな銃が残っているだけだった


紗南「奈緒さん!加蓮さん!」

加蓮「さ、紗南?」

奈緒「お、おう...お前も生き残ったのか?」


紗南「それどころじゃないよ!!周りを見て!!」

加蓮「周り?」



そして二人は気づく

空がゆっくりと赤くなっていることに。ゆっくりと日が暮れていることに


ゆっくりと夜が近づいていることに。


そして何十、何百、否、何千何万という存在がその空にいることに

巴を消し去ったのもその一群の仕業だったということに



奈緒「なんだよこれ何なんだよこれ...!!」

紗南「今調べたんだけど......あれ全部ボットみたい」

加蓮「嘘でしょ...何匹いるのよ...まるで雲じゃない」


バサッバサッバサッバサッ
ア”ーーー!!バサッバサッ
ア”ーーー!!バサッバサッ
ア”ーーー!!ア”ーーー!!






闇に翼を溶かし、空を蹂躙しながら飛翔する

今この時、この瞬間、仮想空間の空全域をカラスが埋め尽くしていた


ゲーム開始61分経過

村上巴(ボット) 消失

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










「...ああ、どうしましょう...どうしましょう......ご、五万羽だなんて」









「こんなにたくさんのカラス、私に制御できそうにありません」






「しかもカラスの一羽一羽、その全てに能力が備わっているというのに、私の命令なんて聞くんでしょうか...?」







「ボットの皆さんにまで迷惑をかけていなければいいんですが...」








「はう...私のせいで、またボットの誰かが...迷惑を被ってしまうのでしょうか...」







「で、でも私が、頑張ってプレイヤーの人たちをみんな倒してしまえば___」






白菊ほたる(ボット)「___誰も不幸になりませんよね...?」






___夜が、始まる






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日はここまで

なつきち引きました

次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

4、渋谷凛&緒方智絵里


コメントありがとうございました

4

2

4

1

待ってます

生存報告



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛&緒方智絵里




ヒョウくん「..........」



空中に静止したまま爬虫類の目がぎょろりとあたりを一瞥する


大なり小なりビルが道路沿いに連なっている都会ならありふれた光景


それが一変していた。



黒、黒、黒黒黒黒黒黒黒黒


すべての建物の、その屋上や窓枠沿いが無造作に漆黒に染まっていた


右から左、前から後ろに巡らせた視線いっぱいが黒く線引きされている



その全てが黒い。

嘴が、翼が、瞳が黒く染められた鳥類、カラスが見える風景すべてを不自然に埋め尽くしていた



ヒョウくん「......」



視線を戻す


つい先ほど地面に叩きつけた尻尾がプレイヤーの一人を地面のクレーターの一部にしたはずだった



そこにあるのは己の尻尾の先。



もぎ取れた己のしっぽのみ

ヒョウくん「......!」



小春(ボット)「ヒョウくん!?し、しっぽ...どうしちゃったんですか...!?」




いつの間にかその巨体に見合う野太い尻尾が本体から離れ、大蛇の死体のように地面に横たわっている


ガァーガァー

アァアー


イグアナを取り囲んだカラスの群のどこからともなくかすれた鳴き声が漏れる。笑い声のように


ピシ、ミシ...


家鳴りのような音がどこからか、いや周囲全ての建物から細く響き出す


ア”アァアー


カラスを中心としてビルの壁面に亀裂が広がる


ガァアアアー!!!


卯月(ボット)「うそ、建物が...」

翠(ボット)「...とてつもない早さで...古びて、ますね」


朽ちていく、朽ち果てていく、荒廃していく


無機的な灰色のコンクリートがセピア色にくすみ、節くれだち、波打ち、そしてひび割れていく


周囲の風景が蝕まれていく。白から黒に、灰色から錆色に


ヒョウくん「......」


考える考える。

叩きつけた尻尾が予備動作もなくもぎ取れている


それは問題ない。

ボットとしての古賀小春が存在する限りこの肉体に敗北はない。



既に尻尾は新しく生え始めている



だが、尻尾をちぎったのがカラスの能力なら








あのプレイヤーはどこに行った?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





ごつり、と後頭部をざらざらした感触が撫でる


凛「...な、なに?」


先ほどよりかはいくらか安定を取り戻した頭と視界で体を起こす、目の前には壁と砂利

日光らしきものがうっすらと差し込んできているがそれでもやや薄暗い。上を見ると天井らしきものがすぐ近くに目に入った



凛「あれ、私...たしかあの、羽の生えた恐竜みたいなのに...」



確か地面にめり込む勢いで叩き伏せられたはずだ。その証拠に今自分がいる場所が周りより幾分か沈み込んで



凛「地面...平らだね」




正確には真っ平らという訳でもなく、コンクリートのザラつきが臀部と手のひらから伝わってくる



コツンと硬い音がして地面をなでていた手が鉄のようなものに当たる。よく見るとその鉄は落ちているのではなく地面にくっついているようだ。


どうしてそんなものが車の走る道路にあるのかは分からないが、それより自分のいる場所を把握する必要がある。凛は上半身だけを起こしたままぐるりと周りを見渡す



凛「あれ...ここ、どこ?」



なにやら見える景色に違和感がある。見たことがあるのに見たことがない、そんな風景だ


腰を下ろしたままの地面も、すぐ目の前の地面も見たことある素材、コンクリート



それはいい、だがまずひとつ変なのがこの場所は天井が著しく低い。立ち上がろうとして気づいたが女子にしては背の高い凛がおそらく中腰でも辛い態勢になるほどに天井と地面が近い

そしてこの地面も何かのパイプや鉄の枠のようなものがあちこちに配置されとても歩きやすいようには見えない。

そしてその地面の先。



凛「道が...ない?」



今いる地面をずっとたどった先からは光が届いていたが、ぷっつりと途切れ、狭い地面と天井の隙間から向こう岸(?)の建物が細く覗いていた



凛「なんなの...ここ」





だまし絵のような、


何かを見間違えたような。


知っているのに知らない風景。


壁に手をついて立ち上がる。


天井が低いので中腰だが、これで移動ができる

じゃり

手をついた拍子に壁の一部らしきもの、小石程の破片が取れ、手のひらに残る

凛「...?」

なんとなく手にとったその石ころから手を離す、石は地面に垂直に落ちていくだろう




こつん




だが石は凛から見て、水平に落ちていった




凛「......は?」



壁を見る、さっきの石が張り付いている。


磁石のようにぴったりと貼り付き、地面に落ちる様子はない



それをもう一度拾う、磁力のような抵抗は感じない。手を離すと、また壁の元に戻る



凛「なにこれ、重力が横向きに働いてるとか、いやでも私は」



苦しい態勢で視線を巡らす、確かに今いる地面は鉄やパイプを除いてほぼ真っ平らで、ゴミや石はない、全て壁に張り付いてボコボコとしたシルエットを見せていた



パリッ!

凛「わっ」

何気なく移動した先、ガラスのようなものを踏み割ったらしい、足元で小さく割れる音が鳴る



慌てて足をどける。そこにあったのは四角いガラス、鉄の枠にはまり、今は割れた四角いガラス、その向こうには小さな部屋があって・・・






凛「これ...窓、ガラス?」




遅まきながらゆっくりと凛の頭が状況を把握し始める。




凛「なんで、地面に窓ガラスが、窓があるの...?」



どうして地面に窓があるのか、

どうして石が自弁から見て水平に落ちていくのか、

どうしてこの天井が低いのか、

道が途切れているのか、

どうしてアスファルトだった地面がコンクリートになっているのか




窓ガラスの一部が青く光る

渋谷凛の足跡の形に蒼く光る



地面に、いやもうそれは彼女にとって地面ではない。


そこに目を向けたことで彼女は自身の靴の裏がかすかに青く光っていることを自覚した


渋谷凛の能力はとっくの昔に発動している





彼女はさっき倒れていたクレーターそばのビルの隙間、



路地裏の間隔の狭い”壁面”に立っていた





ゲーム開始61分経過

渋谷凛

VS

白菊ほたる(ボット)

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

4、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南


遅くなってすいませんでした

次回予定作のプロット練ってました

4

1

3

しかしこんなに沢山の視点から安価で書いていけるって凄いなあ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨



 ぴょこん ぴょこん

 ぴこぴこ ぴょこぴょこ



うさぎの耳がフラフラと揺れている、カチューシャの上でピコピコと


愛梨「あっ!これすごいですよ!頭を振って揺らしたほうが、効果が早いみたいです!」


それはウサ耳のカチューシャ、

最初は神崎蘭子が偶然拾ったものだったが、どういうめぐり合わせかこうして合流したことにより彼女の手に渡ったものだった

バニー衣装の付属品にして十時愛梨のキーアイテム、黒を基調とした細長い耳が風のない車内で自由気ままに振れていた

そう、そこは車内。

蘭子、愛梨、美玲の乗り込んだ装甲車の車内であった

美玲「......」

とはいえ激戦を経て天井をはじめとした車体上部をえぐり取られ、迷彩色のオープンカーもどきと化したその場所を車内と呼べるのか


蘭子「おぉ......不思議の国のアリス...!(わぁ...魔法みたい...!)」


スケッチブックを小脇に、そしてそこから生み出した用途不明の杖を握り蘭子が驚嘆の声を漏らす


その視線の向いた先、装甲車の天井は目に見える速度で”修復されていた”


痛々しくギザギザの痕を残して食いちぎられた装甲板がうねうねとその面積を増やし、フロントガラスの亀裂が消え天井が形作られていく



物質の修復、それが十時愛梨の能力だった






美玲「......」



愛梨「ぴょーんぴょーん♪こうやって跳ねたらもっと早く治るかな?」

座席に座ったまま呑気に上半身を上下させると頭頂部から生えたウサ耳も機敏に反応する


美玲「......」


運転を交代していた美玲がコントローラー、ここではハンドル代わりとなるそれを静かに握り締める。

視線は道のずっと先を見据えたままだ

後部座席にはシンデレラガールの一代目と二代目

蘭子「ふむ、愛の果実の力を以てすれば我らが覇道に曇りなし...!!(愛梨さんの能力があればなんとかなりそうですねっ!)」



美玲「むっがあああーーーーーーーー!!!!」

愛梨「ひゃっ」

蘭子「!?」




ついに堪忍袋の切れた美玲がコントローラーを握りながら吠える。細い両足をばたつかせ運転席についたまま地団駄を踏む。無論そこにブレーキやアクセルの類はない




美玲「そんなこと言ってる場合かっ!!?」

「思いっきり曇りまくってるじゃんかぁああああああ!!」


ビシッ!!バキョ!


フロントガラスに黒い影が飛び散る


それは装甲車の真正面から飛び込んできたカラスのボット


すでに何羽、いや、何百羽目かわからない数のカラスが装甲車のボンネットやガラスに衝突し、美玲の眼前のフロントガラスをキャンバス代わりにその死に様をまざまざと見せつけている


美玲「もうやだぁあ...なんだよこいつらぁ、どこに行っても飛んでくるしぃ!」


カラスが装甲車の速度に追いついてくることはない。

だが前後左右、どの方向に逃げ込もうと、どれだけ速く走ろうと向かう先には必ず黒い群れが向かってくるのだ

街は完全にカラスの庭となっていた。

カラスの羽音の聞こえない場所がない、

その耳障りな鳴き声が聞こえない場所がない、

高速で飛翔する影を見かけない場所がない


蘭子「隻眼の狼牙よ、騎馬の担い手を継承するか?(美玲ちゃん、運転代わろっか?)」

ボットである以上、カラスの死骸が血を吹き散らしフロントガラスを彩ることはなく、衝突してすぐに霧のように消えていく。

それでも延々と鳥類の集団自殺じみた異常な光景が眼前数センチで展開され続けている美玲を見かねて蘭子が声をかける

美玲「そ、それもそれでイヤだっ!誰がココで投げ出すかっ!...ていうかコレ、絶対止まったらダメなヤツだろぉっ!!」



バリンッ!!


美玲「うええぇっ!?」


美玲の近くでガラスが蜘蛛の巣状にヒビ割れる、

だが装甲車の丈夫なガラスなのでそれ以上亀裂が広がることはなく、愛梨の能力により徐々に元通りになっていく


美玲が運転を交代できない理由、それはこの状況にあった。


愛梨の能力は結構な速さで装甲車を修復している、しかしその修復は一向に終わらないのだ


それもカラスが車体のどこかに衝突するたびにその箇所が凹み、剥がれ、赤錆び、壊れていくからだ

いくら元が廃車寸前だったとはいえ、鳥の体当たりで壊れるような車種ではないにも関わらず



まるで【不幸にも】カラスのぶつかった場所が脆くなっていたかのように、


頑丈な装甲が為すすべもなくボロボロにされていく

今は猛スピードでカラスの大部分を振り切っているからこの程度で済んでいるが、もし交代のために速度を緩めようものなら全方向から襲い来るカラスの猛攻によりあっという間に廃車に追い込まれてしまうだろうことは容易に予想がつく


現に今も天井は完全に修復されきっておらず大きな穴があいている


愛梨「でも、十分で交代って決めましたし...」

美玲「いいからっ!!愛梨は早くクルマ直せっ!!」




蘭子「むぅう...かくなる上は」

荒々しく走行し、それに連動して不安定に揺れる車内で、ぎゅっと握った杖を見つめる

あの禍々しいい鎌同様、自分の能力で生み出された道具マイクと羽根のあしらわれたデザイン

蘭子「よしっ!」

愛梨「あわっ!?」

ひとつ息んだ蘭子が座席から立ち上がる

愛梨「蘭子ちゃんあぶないよっ!?」

美玲「ちょ、何してんだオマエ!」

大して天井の高くない車内、座席から立ち上がり、彼女は更に座席の上に土足で立った

蘭子「わぶっ!?!?」

そうなると自然、彼女の上半身は天井の大穴から乗り出すことになる。強い風が彼女の整えられた髪を強く吹き抜け、顔面を叩いた



ガァアアアアー!!!!



吹き荒れるのは風だけではない、黒い竜巻のように荒れ狂うカラスの大群が装甲車への正面衝突から蘭子へ狙いを変える

天井は幾分か修復されてもそこに設置されていた銃座は未だ影もない。彼女の上半身は無防備だった。



そこへ黒い大きな影が殺到する




蘭子「__我が魔砲、喰らうがよいわ__」

「__えっと......えいっ!!」


その声は風に巻かれて彼女自身にも聞こえない



だが前方から迫るカラスの群れに向けて、確かに杖を振った


蘭子「(えっと、こうやったら前の武器も使えたよね......これでいいかな?)」



強風により綺麗なフォームとは言えないがとにかく杖を前めがけ振った直後にそんな心配が頭をもたげる





その不安は全くの無用だった


美玲「___あぁ?___」




上も前も黒々とした影に覆われていた視界がにわかに明るくなった



愛梨「わっ!?」




___ゴッ!!___





黒と対になる白が空間に充満する



そして蘭子を中心として破壊的な光が拡散した



それは日光が影を消し去るようにカラスを飲み込み羽一枚残さず消滅させていく




やがて光が収まったとき、そこには道路を走り続ける装甲車が一台あるだけだった



美玲「うおっ!?なんだ今のッ!?蘭子がやったのかッ!!すげぇッ!!」

蘭子「ふ、ふん!他愛ない!これぞ魔王の力ぞ!」

蘭子「(あわわ......周りのビルまで跡形もなくなってるぅ......こ、ここまでのことになるなんて思わなかったよぅ......びっくりした)」

愛梨「目がチカチカします...」


身を乗り出した蘭子を愛梨が優しくひっぱり戻しながら目を瞬かせた。


蘭子の手からあの杖は消えている。どうやら効果は一度きりらしい




美玲「ビルの二階から上が全部消し飛んでる......って、うえぇあのカラス野郎、まだまだいるじゃんか」


安心したのか美玲が装甲車の速度を落とす。


辺り一面の”見晴らしが良くなった”ことで美玲たちは朧げに状況を悟り始める


どうやらカラスは自分たち以外にも標的があるようで、遠目に見ていくつかの場所に集中して飛び回っていた


特に高層ビルの集中しているあたりと、逆に都市郊外の住宅が立ち並んでいそうな場所の二箇所が顕著だった



そして、


愛梨「あれ?カラスさんのせいかと思ってましたけど......お空が暗くなってきてますね?」


装甲車の窓越しに空を見上げた愛梨が指摘した

美玲「ホントだ。日が暮れたのか?...でも太陽なんかウチ見てねえぞ?」

蘭子「訪れた黄昏よ.........うむ?」



赤と紫のグラデーションからすこしずつ黒くなっていく空を天井の穴を通して見上げていた蘭子が何かに気づく

暗くなっていく空の中に何かある。


それは最初から当然のようにそこにあったかのごとく動かないまま姿を浮かび上がらせる


まるで昼時には明るさに紛れて見えなかっただけのように、暗さに比例して輪郭をあらわにし始める



愛梨「あれって......」

美玲「太陽はないのにコッチはあるのかよ」

蘭子「ふむ、美しい...」





それは月だった




夜が訪れる事で隠れていた姿が見えるようになったのだ


まるで、昼の空に姿を隠しこっそりと下界を覗くことに飽きたように

ちなみに池袋晶葉はその月を、

否、月の形をしたボットを「CHIHIRO」と名づけていた


空が完全に暗黒に満ちる。

ここでようやく三人は空の変化が自然現象に比べて早すぎることに気づいた


愛梨「はわー...きれーですね!」


装甲車を停め、三人でしばしの間夜空を見上げていた

やがて空を覗かせていた天井の穴も愛梨の能力により閉じていく


愛梨「あらら、閉じちゃいます...」

蘭子「果実の魔法よ(愛梨さんの能力ですね)」

美玲「じゃあ蘭子、ウチと運転交代だなッ」

少しずつ見えていた空が狭まっていく。

美玲は運転席から後部座席へ小さい体を滑り込ませ、入れ替わるように蘭子が運転席に腰を下ろす



美玲「そーいや、蘭子って今パーカーなんだな、その黒カッコいいぞッ!」

蘭子「え?...そう?......えへへ」

愛梨「私も今うさちゃんですよ?ほら、ぴょーんぴょーん♪」

美玲「ウサギはオオオカミの餌だぞッ、がるるる!!」

愛梨「ええっ!?」


美玲が蘭子の座っていた位置にぽすっと腰を下ろすともう一度空を見上げた

ほとんど直りかけた天井には今や丸い穴はなく、多少大きめの亀裂を残すのみとなっていた

細長い隙間から明るい満月が覗いている



その月を何かが横切った



美玲「げっ、またカラスかッ!?」

小さな黒い影が一つ、美玲から確認できたのはそれだけ

愛梨「どうしたの美玲ちゃん?」

美玲「カラスが飛んでいっただけだ、アイツらまだウヨウヨいやがるからなッ!」

愛梨「でもこの近くのはみんな蘭子ちゃんが追い払ったんじゃないのかな?」

美玲「だから一羽だけだったぞ...がるる、一羽なら怖くないモンッ!今度会ったら引っ掻いてやる」

愛梨「う~んでも私には羽音は聞こえなかったような...?」

美玲に並んで愛梨も空を見上げる、うさ耳もそれにならってぴこんと揺れる

運転席では蘭子がコントローラーの操作をなんとか覚えようとしていた

美玲「そりゃ...離れたところ飛んでるんだから聞こえるわけないだろ」

愛梨「でも羽音が聞こえないくらい離れたらシルエットが小さくて見えないと思いますよ?」


偶然か気の迷いか洞察力か、そうして生み出された愛梨の指摘により車内の空気に疑問符が漂う


美玲「......あれ?」

愛梨「......うん?」

蘭子「古の魔導機械...(操作方法がよくわからないよぅ...)」


次の瞬間、影が装甲車内部に侵入してきた。


美玲「んにゃッ!?」

正確にはそれは錯覚で、実際には月明かりにより少しは明るかった車内が完全に闇に閉ざされただけだった

蘭子「ひゃうっ!?」

ゴォンッ!!

目の前を照らしていたガラス越しの光が途切れ、慌てた蘭子が車を急発進させる


愛梨「きゃんっ!」

美玲「わぷっ」

反動で小柄な美玲が愛梨の胸に飛び込む形で態勢を崩す


蘭子「あっ、こうやるんだぁ...!」

調子づいた蘭子がそのまま車を走らせる

美玲「ぷはっ、こら蘭子!安全運転だぞッ!」

愛梨「あんっ......美玲ちゃん、この状態でしゃべられると...」


やがて車の中に光が戻る。

月光を遮っていた何かの影から脱したようだ

美玲「なんだったんださっきのは...がるるる...」

後部座席で体が絡まったまま、愛梨の肩ごしに美玲が後部ガラスから外を見上げた



一体何の影が装甲車に闇をもたらしたのか、

今度はもっと巨大なカラスの大群だろうか、

警戒心も露にキッと空を睨む



美玲「___がるっ?」



睨んだ先に美玲に視線を返す者はいなかった、それは生物ではなかったからだ


さっきの「何か」とは比べ物にならない巨大な影が月を覆い隠しながら地上に迫っている



美玲「___蘭子...」



呆然とした様子で言葉が漏らされる

蘭子「うむ?」




どんどん近づいてくる。

それが風を切る音が聞こえてきそうだ




美玲「走れ!!!」


それは落下していた。

数千トンの質量とともに






美玲「ペッしゃんこになるぞぉぉおおおおおおおおおおッ!!」






見た限りで十数階はありそうな



高層ビルが降ってきた










































望月聖(ボット)「............」




ゲーム開始63分経過

早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

VS

白菊ほたる(ボット)&望月聖(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



安価についてですが、しばらく一個下にします

次回開始するチャプターを選択してください
安価下


1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南

コメント、安価ありがとうございました

3


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南







________________

name:烏

category:ボット

skill:
周囲に存在するボット、プレイヤー、
オブジェクトの防御力及び耐久力を
一定の時間間隔でゼロに近づけ続け
る。オブジェクトは耐久力がゼロに
なると自壊する。
________________





紗南「ど、どく状態、的なぁッ!?」

奈緒「ガード崩しとか言ってる場合じゃねえっ!!」

加蓮「いいから走りなってゲーム脳!!」



破壊の限りを尽くされた住宅街跡地を三人が並んで全力疾走する

その背後からはカラスの群れが迫る。

月明かりの下ではその群れの姿は巨大な獣の威容を持ち、何千の羽音が重なり合い渦巻き合い、エンジンの唸りに似た響きを立てている



加蓮「っはぁ、はぁ...!」

奈緒「ああくっそ、走りにくいなぁ!」

紗南「でも、コレって...なんだろ、追い込まれてる気がする...」




並んだ加蓮と奈緒の間に挟まれる形で並走する紗南が視線だけ周りに走らせながら呟く

そこには其処此処に転がった瓦礫の山、その上にはまた別の群れが電線の上の雀のように静かに並んでとまっている

それは三人をどこかに追い込むための障壁のようでもあり、

プレイヤーの逃走を見張る番人のようでもあった


奈緒「だよなぁ...!これ絶対誘導されてるよなぁ...!」

加蓮「かといって、はぁ、今の戦力じゃ...他の方向に、はぁ、突っ切れそうもないでしょ」


三人は駆ける、追い詰められていく方向へ、

建物の密集する都会の中心へと為すすべもなく。

そこには住宅街跡地の数十倍の数を引き連れた、カラスの本隊がいる


紗南「でも、なんかないの...!このままじゃジリ貧だって...!」


佐久間まゆ、小日向美穂。

霧のように消えていった二人の姿を思い出す


そして背後からは明確な存在感を伴った黒い霧、

このボットの群れがどこかの誰かの能力なのか、

ネトゲなどにおけるイベントようなものなのか、まだ判断はつかない



だが少なくとも何も分からないままにゲームオーバーするのは、ゲーマーとして我慢ならない



紗南「けほっ!こんなとこで、中ボスの仕掛けたトラップみたいなので、あっさりやられ、ぎゃふんっ!?」

奈緒「うおっ、紗南!?」


三人の中で一際小柄な紗南が転倒する。

あたりは暗く、地面は凸凹で何に蹴躓いたかも判然としない


奈緒「ちょ、早く起きろ!」

奈緒が足を止めて声を上げる。その声もカラスの立てる鳴き声と羽音の前では無残に散った


加蓮「!」

紗南「いったぁ......くはないんだけど、ちょ、ちょっと待...って」

加蓮も足を止める。

紗南の靴の先が瓦礫の隙間に突き込まれるように挟まっていた

奈緒「あぁもう、ほら手ぇ貸せ!!」

引き返した奈緒がやや乱暴に紗南の腕を引いた、

手に握られたゲーム機が乱暴な動作にさらされ通信中の画面が乱れる

______________

name:___

category:___

skill:___

______________


紗南「あうっ、やばっ......結構深くまで入っちゃったかも、足抜けない」

奈緒「うおおい!?なんっだよ、その死亡フラグ!?」

ア”ア”ァアアアアアアアー!!!

黒い大群から耳障りな雷鳴がいくつも降り注ぐ。尖った嘴を矢にして一直線に飛来した

紗南「う、腕がイタタ...!!」

奈緒「言ってる場合か!加蓮、お前も手伝え!!」




加蓮「_____いや」

紗南「え?」




必死になって叫ぶ奈緒の耳に加蓮の返事が短く刺さる。


加蓮の視線は紗南の足、そのつま先を潜り込んだ先をを見つめていた

奈緒と対照に冷静そのものといった様子で、



加蓮「多分それは___」





__ゴッ!!!___




混乱も、焦燥も、冷静も、その瞬間意味をなくした。

白くて、そして明るすぎる光が視界を塗り替える

三人には何が起きたかわからない、カラスも同様にわからない

とにもかくにもそこでそこで起きたこと、都市の中心から爆発的に漏れ出した光が郊外の住宅街を飲み込みその場にいた全てから視界を奪った








ゲーム開始63分経過

北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南

VS

白菊ほたる(ボット)

継続中











カツン カツン カツン






加蓮「アタシは『いや、必要ないよ多分その下に道があるから』って言うつもりだったのにぃ」





奈緒「いや、悪かったって...てっきり紗南を見捨てるのかと思ってさ」


紗南「でもあの状態でよく気づいたよね、マンホールとか、すごいよ加蓮さん」



三人は今地下下水道に降りる梯子を上から下へ一列に並んで降りていた。




仮想現実においても住宅街に水回りが再現されているなら下水道も再現されているだろうと、そこまで考えていたわけではないが、


とにかく彼女は紗南の足を見て、そして蓋が剥ぎ取られたマンホールとその上にかぶさった瓦礫との隙間に気づいた



加蓮「とにかく、カラスが追ってこないうちに先に進むよ」

紗南「うん......よいしょっ!」



梯子の一番下を降りていた紗南がこれといって不潔さのない下水道の足場に着地する

照明らしきものもあるがここも地上に負けず劣らず足元は覚束ない



しかし指針はあった



奈緒「で、そのサーチモードだったか?それを使えば他のプレイヤーのいる方向がわかるんだよな?」

紗南「うん、距離までは分かんないけど、ゲーム機の向いてる方向の直線上にいることはわかるよ」

紗南のポケットの中から取り出されたゲーム機の画面がチカチカと明滅する。不安定ではあるがかろうじてどこかと通信を行えているらしい


______________

name:_us_k_

category:_l__

skill:_dfsd__?

______________



奈緒「なんかバグってね?」

遅れて着地した奈緒が暗闇の向こうに機械を向ける紗南の手元を後ろから覗き込む

紗南「だから同心円状に電波みたいなのを飛ばすコントロールモードと違ってこっちは一方向にしか通信できないんだって...」

薄闇の中、ゲーム画面のバックライトにより三人の顔が浮かび上がる。紗南はゲーム機の向きを慎重に調整する。どこにいるとも知れないプレイヤーにピントを合わせるように。

実際それは針の穴に糸を通すよりも難しいだろう。方向も距離もわからない場所にいる相手を目隠しでスナイプするようなものだ

加蓮「街の方向に向ければ少なくともさっきの光を出した相手にはつながるかもねー」

紗南「うん、やってる......あ!」


蜘蛛の糸を掴むようなか細い手がかり、紗南の能力が何かを掴む












______________

name:大和亜季

category:プレイヤー

skill:

・・・Now Loading・・・

______________








紗南「亜季さんだっ!!」


奈緒「プレイヤーとして来てたのか、あの人ミリオタだし強そうだな」


加蓮「これ、能力のところロード中みたいになってるけど、どういうこと?」

紗南「うん?ホントだ能力なしの人は『なし』って出るんだけどなぁ...通信状況が悪いのかな」


そうこうしている間に画面は乱れ始めた。

通信状況の悪化している、おそらく通信先の人物である亜季が移動を始めているのだろう



奈緒「うおっ、急げ!見失うぞ!」

加蓮「わかってるって...紗南、まだ走れる?」

紗南「大丈夫っ!ここまできたらぜーーったい最後まで生き残ってやる!!」



そうして三人はまた走り出した、細い糸をたぐり寄せるように。


こうしてプレイヤーたちは集い始める







ゲーム開始65分経過

大和亜季 能力獲得


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

4、渋谷凛&緒方智絵里

最近クロスも含めてデレマスのバトルものSSが増えてきましたね。どれもクオリティが高くて焦ります


乙です
4で


4


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛&緒方智絵里


今まで平然と歩いていた地面、いや壁に対しておっかなびっくり足を踏み出す



足は平然と彼女にとっての前方に着地し、ほんの一瞬片足で壁に立つこととなっていた凛本人も重力に引かれることもなかった


凛「どこにでも立てる...ってこと?舞の能力に似てるといえば、似てるのかな」


いくらか調子を取り戻した頭で冷静に能力を精査する。

福山舞。重力を無視した一輪車さばきを振るうための能力

今の凛の状況はそれに近い。


凛「でもそれじゃあ、私がさっきの場所から逃げられた説明にはならないし......」


壁に立ってかがんだ姿勢のまま視線を動かし、壁の途切れた先、つまり路地裏から出た先の道路を見る



ア”アァアアアアアーー!!



巨大な翼竜が宙を暴れまわり、それにまとわりついた黒い鳥が齧られ、振り払われ、そして尻尾や羽に叩き伏せられる

だが次から次へと途切れることなく、無限と見紛うほどにカラスは到来し続ける


凛「なんなの、あれ......でも、私のいる位置はさっきの場所からそう離れてないみたい」


少し考える。

離れた場所に瞬時に移動して、そしてその場で重力を無視した姿勢をとることができる

凛は取り急ぎそう解釈することにした



ズズン!!!



凛「わっ!?」

ムチのようにしなる尻尾が凛のいるビルの壁面を叩く。

だがそれは叩くという生易しい表現では済まず、直方体のビルは大きく折れ曲がり崩落を始める

それは一撃の威力もさることながらカラスの能力により耐久力が大幅に下げられていることも原因だったが、

凛にそれを察する余裕はない


凛「うっそ、でしょ...」


本来の重力に従い崩れ、隣のビルとの隙間が崩れ落ち始めた巨大な破片に埋まっていく

自分めがけて水平に飛んでくる岩塊は凛にとって大砲を連発されるようなものだ。

反射的に走り出すもその地面さえも亀裂とともに平らな部分をなくしていく


凛「まっ、間に合えっ...!!」

だが、間に合ったらどうなる?今自分が走っているのはビルの壁、なら自分には今水平方向に重力が働いている。もし壁のない場所に出たら、道路の上を水平に落ちていくのか?


凛「って、言ってる場合じゃな...い!!」



前に向けて壁を蹴り、飛び出す。

背後ではビルが完全に原型をなくしていた

凛の体は本来の地面にほど近い、空中に飛び出していた

凛「...」


薄暗い狭い場所から月明かりの下へ躍り出た凛の目に、周囲の風景が一気に実感を伴い襲い来る


今にも倒壊しそうな危うげな、まるで廃墟のようになった街並み、その中で事務所だけが無事だった


月を覆い隠すほどの巨大な生物、その周りを、時に旋回し時に攻撃をしかけている小さな鳥の群れ


カラスの群れをかすめるように突き立つ矢と、そこから同心円上に広がるモノクロの模様


同じように空中のあちこちで大小の規模で爆発を繰り返す星型のディスク


それらの全てが事務所に飛来するカラスを食い止め、爆破し、蹂躙する。だがどこかから次の群れが現れ、一向に減る様子はなさそうだ


凛「......!」

事務所の中には明かりが灯っている、二階の窓には何人かの人影。人数を数える余裕もなく逆光で姿も見えないが、




卯月(ボット)「・・・!」




その中の一人と確かに目があった

胸元に赤い光を宿したボットが何かを言ったが、距離があって聞こえない

凛「(あの場所へ...!)」

不自然な方向へ働いている重力が凛をどこかに引っ張っていくのを感じた瞬間、凛はそう念じていた

念じるというほどの強いニュアンスはなかったかもしれないが、それでも彼女の能力は応えた




凛の視界の端、靴が蒼く光る。月夜に蒼い光が灯る



次の瞬間には凛の着地は終わっていた






凛「なんだか、慣れ親しんだ場所に帰ってきた気分、かな?」




それなりに空いていたはずの距離を一瞬で詰め着地した事務所の壁面にしゃがみこむ

今の彼女には階段は必要ない。

二階も三階も外から地続きに歩いていける場所にあるのだから





そして、そこに窓があるのなら___




未央(ボット)「うえっ!?しぶりん!?」


アスファルトの地面と違い平坦なコンクリートの壁面に障害物などほとんどない

それはボットからすればまるで凛が壁を垂直に駆け上ってきたようで、





ビシッ






カラスの迎撃のために開かれていた窓とは別の窓に踏み込む




蒼い足跡が刻み込まれ、砕け散った



卯月(ボット)「凛ちゃん!?ここ二階だよ!?」


翠(ボット)「......隙を突かれましたか」


未央(ボット)「どっちにせよしぶりんとはいずれ戦う運命だったんだね!」


小春(ボット)「あ、あわわわ...どうしましょう~」


雪美(ボット)「.........知ってた...」


十の瞳が彼女を捉えて離さない、対する彼女は涼しげな表情で部屋の中心に降り立った




凛「さぁ、残していこうか___」





「強化」「規制」「地雷」「殲滅」「予知」


それぞれが強力無比な能力を誇る五体のボット


だがそれはあくまで距離をおいたうえでの防衛戦にこそ力を発揮するものばかりだった

そう広くない密室。外からは絶えず襲い来る『夜』のボットの力、内には正体不明の力を使う『敵』のプレイヤー

挟撃。

「戦力外たちの宴」にとって、ここが分水嶺であり正念場だった








ゲーム開始63分経過


渋谷凛
VS
白菊ほたる(ボット)
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

改め

渋谷凛
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)
VS
白菊ほたる(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

できればマメに更新したいので今回も短くなりました

次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨



1

2

3


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季






【ドックタグ】







「金属やステンレススチールなどの小さな板」に個人を識別するためのデータを打刻して用いる、

板は「二枚式」のものと一枚式のものがあるが、一枚式のものは中折式となっており二枚に分割できる

主に「軍隊」において兵士を識別するために使用され、

一枚は戦死した兵士の戦士報告用に、

もう一方は遺体を判別するために付けたままとなる






ピコン





下水道に小さく電子音が響く







ゲーム開始65分経過

大和亜季 能力獲得


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


幸子「......で、たまたまボクらが持っていたこのセンスのない首飾りがそうだったと...」

輝子「フヒヒ...た、確かに、その説明を聞いたら...亜季さんの、き、キーアイテム?......だな」

幸子「より効率的に使える方がいるのならお譲りするのを渋る理由もありませんよね!ふふん、ボクは太っ腹ですからね!」


小梅「えっと、えっと...これって、あのお屋敷で、み、見つけたんだよ...ね?」

輝子「そうだ、たしか...うめちゃんが、も、持ってきたん...だよな、すごいぜ」

幸子「フフーン!さすがボクの仲間だけあっていい働きをしましたね!褒めてあげます!」


輝子「フヒヒ...よしよし......すごいぞ、うめちゃん...マイフレンド」

小梅「え、えへへ...」


それはプレイヤーのグループ同士における、お互いの装備の確認中の出来事だった


このゲームのルールに沿うのなら、本来他のプレイヤーもまたボットの討伐数を競い合う相手ではあった。

だがボットの強力すぎる能力を目の当たりにした以上、今更人間同士で争うという発想はなかった



そういった経緯のもと五人、正確には二人と三人は互いの装備を確認しあい、いくつかの銃器に埋もれたブレスレットに亜季が反応し、今に至った



亜季「幸子殿、輝子殿、小梅殿...それで、こちらは本当にいただけるので?」

幸子「小梅さん、いいですよね?」

小梅「う、うん......いいよ?」

亜季「かたじけない!!!」

小梅「ふわっ...!?」

亜季「この恩は戦果を以て返させていただくであります!!!」

輝子「フヒヒ、ちょっと、お、おおげさな...ような」

小梅「あう...」



大仰なまでに感謝の姿勢を示す亜季に尻込みする。




麗奈「で、どーなのよ亜季?」



そんなやりとりを横目に、

通路の床に並んだ物騒な装備をぼんやり眺めていた麗奈が顔を上げる



麗奈「なんか変わった?」

亜季「むむ、変化でありますか...ところで麗奈は何を?」

麗奈「いや、別に...ただアタシは能力のせいで銃とか使えないなーって思っただけ」




幸子「...?、そういえばさっきの爆発も麗奈さんの能力なんですよね」

麗奈「そーよ、触ったものがバクハツするの、おかげで石ころとかゴミしかつかめないわ...」

小梅「あ、そっか、ぴ、ピストルだと...ぼ、暴発しちゃう.......ね?」


数丁の拳銃とショットガン、マガジンを前にどこかふてくされた様子でいる麗奈だが、先ほどの誤爆の責任を感じてか覇気がない



麗奈「アタシのことは今はいいのよ...で、亜季はどんな能力な訳?」

亜季「ふむ、これといって体調に変化は見られないようでありますが...」


右手にドックタグを掴みぶら下げたまま、自分の体を見回す。

五人の中で最年長の上しっかりとした体つきの亜季は身長もそれなりにあるが、その体に見かけ上これといった変化はない


小梅「う、腕がグロ、グロテスクな触手に変形、したりとか...!」

輝子「か、髪から、胞子が飛んだりとか...フヒヒヒ!」

幸子「なんですかそれ!?」

麗奈「やめなさいよ変な予想は!アタシのユニットなのよ!?」



その後亜季はくるくるとその場で回ってみたり、輝子のように手拍子を叩くもなにも起きなかった



亜季「それより私が気になるのは...このタグの打刻された内容であります」

麗奈「内容?あんたの話じゃなんだか個人を見分ける文字だそうだけど」

幸子「何が書かれてるんです?」

亜季「50、であります」

小梅「ご、ごじゅう...?」



亜季が細い鎖につながれたプレート二枚を四人の前に持ち上げる

輝子「ホントだ...50って、数字だけ書かれてる」



暗がりの中だからわかりにくいが、わずかな光を跳ね返し確かにそこに「50」の字が刻まれていた



麗奈「なんの数字なのかしらね、残弾数?それとも能力とはなんの関係もないのかしら...」

幸子「というか...これだけではちょっと判断がつきかねますね...」

輝子「ま、まぁ...ここならあ、安全だし...いろいろと、試したらいいんじゃない、かな...」


首をかしげている亜季たちに恐る恐るといった風に輝子が提案する。


彼女もここまでの戦闘や闘争で精神的に疲弊していることもあり、休憩したいという思いもあった




_そして_



小梅「う、うん、それが...いいと、お、思う......お外は、怖いし」




_ボットたちは_





亜季「そうでありますなー、ではもう少しだけブリーフィングとしましょうか」




____そんなプレイヤーの事情など察しない














浜口あやめ(ボット)「......見つけました」


















この数秒後、下水道の一部が文字通り消滅する







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

浜口あやめ(ボット)「......見つけました」




???「...何人ですか?」



あやめ(ボット)「【銃】が2丁、別々に動いている気配...これは2人ですね

そして反対方向から【キーアイテム】が一つと同じく銃が数丁、これは......2、いえ3人?」



???「ということは多くて五人...蠱毒を行うには申し分ない人数ですね」

仮想現実の街並みは変化をはじめる。

月明かり以外の光源として街灯が灯り始め、しかしビルの灯りは点いておらず、それによってゴーストタウンじみた空気を街中に漂わせている



今その街を支配しているのは空を埋めつくすほどのカラスだけだ


その街灯の一つが作り出した小さな光のスポットの中、二つの影がひっそりと存在していた


あやめ(ボット)「そうですか、しかしわたくしは忍ゆえ、正面きっての白兵戦は不得手なのですが...」


???「...史実では忍者の仕事は間諜と暗殺だったとも言われてますが......暗殺は戦闘とは違いますね...」


その一方、浜口あやめはアスファルトに手をつき、地面を睨んでいる



正確には【地面の向こう側にあるアイテム】を見極めていた



彼女の能力、アイテムを見分け、見抜く力、その応用だった。



???「『夜』はボットの能力の性能が上げる......それによってレントゲンのように...アイテムや、武器だけを見透かしているわけですか」


あやめ(ボット)「元々私の能力は重要なアイテムほど光って見えるというもの、闇の中でこそ力を発揮することは分かっていました」


地面につけていた手を離し、かがんでいた態勢を起こしたあと、もう一人の方を見遣る

その一人は街灯の光の輪の届かない場所に佇み、半身を闇に沈めているため表情は伺えない



あやめ(ボット)「で、どうするのです......どこかのマンホールから侵入するのですか?」

???「いえ、実は...あやめさんには会わせてませんでしたが...私はもう一人、別のボットと一時的に...そう一時的に手を組んでいるので、そちらの方に」

あやめ(ボット)「それは共同戦線、ということでしょうか?」


闇の中で静かに、ゆっくりと言葉を紡ぐもう一人のボットから聞かされた事実にあやめはやや怪訝そうな顔をしながら質問する


デパートを出た後に偶然遭遇できたボット、『夜』が訪れてもなお一切の戦闘に備える兆しを見せようとしない、その能力さえ不明なボット

街灯が逆光になり表情は見えないが、月明かりが辛うじて浮かび上がらせた長髪が揺れたように見えた。

顔をこちらに向けたらしい

???「......いいえ?」


あやめ(ボット)「いいえ、と言いますと?手を組んでいるということは共同戦線とは違うのですか?」


???「...あの子は私と違って一騎打ちがお望みだそうなので...今も街中を駆け回って相手を探しているのでしょう」

あやめ(ボット)「一騎打ち、一対一......なるほど、あなたの言う蠱毒、集団戦とは真逆ですね」



???「ですが...そろそろ、戻ってくるでしょう...場合によってはあの子は私の能力が必要でしょうし」

あやめ(ボット)「......あなたは、」


あやめが一歩足を動かす、もう一人から離れるように


あやめ(ボット)「能力ぐらいは明かしても構わないのでは?あなたの話では我々ボットは、できるだけ多くの情報を有していたほうが有利なのでしょう?」



???「先ほどから常時、使わせていただいてますが...」



一歩、光の輪の中に踏み込んできた。

あやめが警戒の意図から離れた距離を詰めてくる

首から下が光の中に浮かぶ。

あやめ(ボット)「...?なんですか、それ」

首から下、腕の中に何かを抱えていた。

あやめが目を凝らすが能力は発動しない。アイテムではないようだ

なら何を持っているのか、あやめの能力に引っかからない物品はそれは何の効果もないものか、ボットやプレイヤーのみだ



???「分かりませんか?......さっきからあちこちで見掛けているので、知らないということはないでしょうけど...」



黒っぽいものが腕の中で蠢く、それは



あやめ(ボット)「あの厄介なカラスではありませんか...!」



あやめが更にもう一歩、後ずさる。

もぞもぞと、目の前の腕の中で動いているのは確かに一羽のカラスだった



仮想現実を蝕み無差別に荒廃させる能力を振りまく災厄の一部。



それが無抵抗に抱かれていた



その行為によって彼女の体に変調があるようには見えない。



???「違和感を覚えませんでしたか?......私たちの周りだけカラスが来ないのが...」


あやめ(ボット)「!...そういえば.........っ!?」



あまりに周りが静かすぎる。

遠くからは羽音や鳴き声が絶えず鳴り響いている。

だが、それが一向に近づいてくることがない



そして辺りを見回したあやめはその違和感を正体を見つける



???「......そろそろ、あの子も戻ってくる頃でしょうか...一応この付近から離れはしないと伝えておきましたが...」



大人しくなったカラスは一羽だけではなかった


街灯の作る影だけではない、道路のあちこちにカラスはいた、おそらく大分前から。


だがどの個体も動こうとしていない


あやめ(ボット)「これは......」

例外を除いてボットの死体はこの世界に残らない、ならこのカラスは倒されたものではない。



だがどの一羽にしても飛ぶどころか攻撃的な様子も見せない



道路にも能力が使われたような亀裂や風化は見られない



全くの無害な様子で、躾のされた伝書鳩のごとく鳴き声ひとつ立てずそこにいた



???「ほら、あやめさん...来ましたよ」

あやめ(ボット)「...これは一体...」


???「あの子が先陣を切ってくれます、私たちは少し下がっていましょう」





闇の中、停止した鳥の群れの中、ボットたちは動き出す







この数秒後、下水道の一部が文字通り消滅する




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そこは都市の中の死角、

建物と建物の間の奥まったスペースにひっそりと存在した





こずえ(ボット)「あすかー......これなにー?......」





小柄なボットが窓から漏れる薄い月明かりだけを頼りにした室内を器用に歩き回っている中、「それ」に気づいた


それは一見するとただ壁に貼り付けられただけの紙切れ、

だがそこには今となっては連絡の途切れたボットの一人が残した有用な情報となるはずのものだった



飛鳥(ボット)「ありすが残してくれたメモさ、彼女が己にできること以上を残そうと足掻いた証、といったところだろうね」



橘ありす

ボットとプレイヤーの位置情報の収集に関してトップレベルの能力を有したボット、

タブレットや遠距離でも使える連絡手段を持たない味方のボットのために彼女が残した情報



こずえ(ボット)「......ありす...?......でもー、ありす...いないよー?」

白い髪を揺すり小柄な少女が小首をかしげる

窓際に腰掛け、エクステを垂らしながらもう一人の少女は静かに外を見た



飛鳥(ボット)「...そうだね......確かに彼女はもういないよ」



視線をメモに、今となってはおそらくなんの価値もない情報の群れに戻す



そして絵本でも読み聞かせるようにメモの一枚を読み上げ、言葉を添えていく



『A、三人ひと組で行動中のボット、一人のプレイヤーと接触中』



飛鳥(ボット)「これはニューウェーブ、そして蘭子のことだね」

こずえ(ボット)「...そうなのー?」

飛鳥(ボット)「ああ、あれは蘭子の声だった......ボクの能力で探った結果が正しいとするなら、ね」




『B、同じく三人ひと組のボット、ただしプレイヤーと接触後一人が別行動を開始』



価値をなくした不完全な情報の不足部分を補う。

それはまるでメモを残した者への弔詞のようで、



飛鳥(ボット)「これはにゃんにゃんにゃんの三人だよ......最も、別行動中だったのあさんは合流したうえ、人数も二人になったようだけどね...プレイヤーの方は美玲、だったかな....?」



『C、一人で行動、何人かのボットとプレイヤーと接触するも戦闘はなし、原因不明』



飛鳥(ボット)「ここに書かれているものが示しているのはとあるボットのことだよ、こずえも会ったはずさ...記憶をたどってご覧よ」

こずえ(ボット)「...うーん......えっとー...あつみー?」

飛鳥(ボット)「正解、愛海のことさ......彼女とはもう少し話をしたかったね」



『D、三人ひと組、町外れにて待機中?』




こずえ(ボット)「...これはー?」

飛鳥(ボット)「...ほたる、聖、そして藍子さんだよ......今頃思う存分能力を振るっているんだろうね、それがボットの存在意義だと言わんばかりにさ...」

こずえ(ボット)「のーりょくー......いいなぁ...」




こずえの隣に並びながら壁に貼られた文字を目線だけでなぞっていく


不意にその目線が止まる。


視線の先には他の物と同じ一枚のメモ




こずえ(ボット)「ねー...あすかー......これはー......?」


立ち止まった飛鳥の服の裾がくいくいと引かれる



飛鳥(ボット)「................」

メモを二度、三度見直す。

自分の能力で盗聴した中にこれに該当する者はいなかった。



だったらこれは



飛鳥(ボット)「......これは......いや、君は......」



『E、休むことなく街中を走り続けているボット、マキノさんによる勧誘は困難』



......誰だ......?





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ジ、ジジジジッ



輝子「フヒ...?」


それは小さな物音だった



幸子「では、こちらの弾丸は頂いても?」

麗奈「アタシたちの武器に入るサイズじゃないものね...まぁ、精々感謝しなさい!」

小梅「これ...しょ、ショット、ガン...?」

亜季「そうでありますな、残りの弾数が数える程しかないのが不安ではあります」



他の四人は並べた装備を吟味し、その分配を決めていいる

そこから少し離れた場所で暇を持て余し気味だった輝子は壁に備え付けられた照明器具の、その向こうから届いた音を感じた



輝子「あ、あの...さっちゃん、うめちゃ...」

幸子「というかそもそも!...これだけでは圧倒的に戦力不足なんですよ!どこかに武器を探しに行きましょう!」

亜季「なるほど、まずは補給ということでありますか、五人もいれば探索能力も期待できるでしょう」

輝子「あぅ...き、気づかれて、ない...」



いつの間にか話は今後の行動指針の話にシフトしていた。彼女の声が掻き消える



ジジッ!!


その間にも音は鳴り続けている。心なしか音量が大きくなっているような気もしてきた


輝子「(何の音だろう...?)」


ひんやりとした壁に恐る恐る耳を当て、音源を確かめる



小梅「あ、亜季さん...まだ、の、能力...分からない...?」

亜季「残念ながら、音沙汰なしであります」




ジジジジジジ!!!


厚い壁の向こうには確かな存在感があった。輝子はその音の心当たりを胸に聞く


輝子「(蝉の声...?...じゃなくて、蛾...)」



ジジジ!



輝子「(飛んでる蛾が...夜の街灯の近くでこんなふうに...音を)」



輝子「(ううん?......あれって蛾の飛ぶ音じゃなくて)」



ジジジジジジジジジジジ!!!!!


輝子「(誘蛾灯とかに近寄り過ぎた蛾が......)」






ジュウッ!!

輝子「(焼ける音)」






バギン!!!


内壁を断ち割り、

亀裂を押し広げながら下水道内を膨大な量の光源が侵食し始めた



麗奈「ふわっ!?」

下水道が昼日中と同じくらい明るくなる。

ここにきてようやく他のメンバーも異変に気づいた


輝子「フ、フヒ!?」



ギャリリリリリリリリ!!!


チェーンソーのように火花と音を立てながら、姿を現した何かが下水道をじわりじわり突き進む


小梅「しょ、しょーちゃん!...こ、こっち!!」

輝子「お、音が...!!し、してたのに...教えられなかった...」

幸子「それはいいですから!」

腰を抜かしかけている輝子を幸子が引っ張り、その幸子を亜季が引き寄せる。反対側の腕には麗奈が既に確保されていた

ジリッ!ギャリリリ!!!!

それは例えるなら「侵食」

アセチレンバーナーの光の塊に似た何かが音と光をまき散らしながら暗闇と、そして壁材を食い尽くしていく


光の柱が下水道の壁をゆっくり動いていく、

その後ろには鉱物が焼き切られたような痕が細く続いていく



ジジジジジジジ!!!


プレイヤーの方を向くわけではなく、ただ淡々と右から左へ一定の速度でその通り道にあるものを断ち切っていく。


麗奈「なによこれ!?光ってて何がなんだかわからないじゃない!!」

小梅「ま、眩しい...みえ、見えない...」


そして光の柱が反対側の壁に埋もれていく、下水道から喧騒が去る。暗闇が戻る


小梅「えっと、あれ...?」

亜季「こっちの被害はないでありますな...?」

幸子「フフーン!どうやらどこかのボットさんのはカワイイボクには掠りもしなかっ」

ギャリリリッリリリ!!



輝子「フヒヒャッ!?」

幸子の腕の中で輝子が飛び跳ねる、

輝子が振り返った先、数メートル離れた場所からまたもあの光の塊が壁を断ち割ってきていた



ギャリリリリジジジジジジジジ!!!!



亜季たちがそこから距離を取る。

さっきの切断痕が未だに熱されたように赤く発光している


麗奈「これって、アタシたちを挟み撃ちにするつもり...!?」

亜季「相手はおそらく大まかにはこちらの位置を掴んでいるのかもしれませんね...」

小梅「ち、チェーンソーで...扉を壊されて...家の、中に...侵入、される...ホラー映画で見た...!」


光の刃が出てきた方とは反対側の壁に抉り込む。火花が散る

亜季「しかし、一旦この付近から離れるべきなのは確か...」

輝子「に、逃げるか...」

亜季「退避します!」


光の刃が完全に壁の向こうに消えた。

その後には焼き切られた壁材が赤く熱された痕を引いている



幸子「今のうちですっ!!」



麗奈「ちっ、ここは逃げてやるわよ...」

小梅「ま、また、走るのぉ......?」

輝子「み、道が...見え、ない...」

だが暗闇の中を強烈な光に侵され、そのあと闇に戻された今、五人の目もまた闇に不慣れな状態に戻されていた


そして、敵対者、ボットの目的は既に半分以上果たされていた


ガゴォンッ!!


「!?」

重力が狂う。
世界が反転する。


「光」が断ち切った部分が歪み始め、五人のいる地面が持ち上がり始めた


地震のあとの地盤のズレのように、
切り取り線のように、


五人のいた区間だけが周りから切り離され、傾き始める


麗奈「ぎゃふん!!」

幸子「げふっ!...が、顔面からぶつかってもカワイイボげふっ!?」

小梅「わ、わ、わ...す、すす滑ってく...!」

輝子「ヒャアアアッハアアア!?」

狭い空間に破壊音と阿鼻叫喚が綯い交ぜのままコダマする

亜季「...まさか......これは...!」

一秒と同じところに立っていられない程の震動の中、

亜季が手の届くところを「転がり落ちそう」になっていた麗奈と輝子を腕に抱え、なんとか態勢を整えようとする


ベキッ!ベキャベキャベキキッ!!


下水道の天井がひび割れる、いや天井かどうかはもうわからない。

明らかに致命的な破壊を実感させる規模の亀裂が下水道を覆いつくさんばかりに拡散する


亜季「まさか...」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!!

地面が持ち上がるような感覚が足を登ってくる




亜季「私たちを下水道と地盤ごと地上まで持ち上げっ」



天井に広がった亀裂から明かりが覗く。

それは月光だった___




こうして亜季の予感は的中し、下水道の一部が消滅した

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


固い土壌の地面をスコップでめくり返したように、下水道も地上もその区別をなくして隆起する。


ガゴンッ!!


五人の体が石材とともに宙に投げ出された。


唯一地面の割れ目に引っかかるようにして投げ出されずに済んだ幸子が這々の体で石塊から抜け出す



???「.........1、2...やはり五人ですか」

幸子「え?」



混乱する頭で、それでもその静かな声を捉えた

その影は絶妙な位置取りで街灯から全身を照らされない地点にいたため首から上は見えない


幸子「な、なんですか、その格好...」

自慢の髪や、衣服を乱しながらやっとのことそれだけの言葉を吐く。

???「なにか...変な所があったでしょうか...?」


身を隠すためなのか闇に紛れる暗色の青を基調とし、

しかしそれと対照的になるな金の装飾が施された「衣装」

あまつさえ背中には長いマントがひらめいている。そして腕の中にはカラス


明らかに今までのボットとは違う、装備が、雰囲気が、

そして危険度が


???「幸子さん、そろそろ気をつけたほうがいいですよ?」

幸子「へっ?」


ゴガァン!!!

幸子の上に瓦礫が降り注いだ。

破壊と自壊がその地点を埋めつくす。



幸子の姿が見えなくなった

他の四人を巻き添えにしながら上空に放り上げられていた巨大な瓦礫の数々が重力に引かれまた落ちてきたのだ

???「.........これで終わられても困りますね」

バコッ

壊れた瓦礫の山が膨れ上がる、下から何かが押し上げていた

バガァン!!







輝子「ヒィイイイイイヤッハハァアアアア!!!」

ミドルキノコ1「FFfFFfFFF!」

ミドルキノコ2「FFfffff!!」


大小の差をものともせず瓦礫を吹き飛ばしながら姿を現したのはキノコだった。

だがその身の丈2メートルはある上、雄叫びを上げている

そしてキノコの傘に守られるようにして他の四人の姿があった


麗奈「おおう、やるじゃない...」

小梅「ま、マタンゴ...み...みたい」

幸子「し、死ぬかと思いました...ボ、ボクはカワイイので、そんなことはあるはずありませんけど...」


亜季「...これは、あのボットの仕業ですかな」


亜季が足元の岩をどかしながらいち早く敵に狙いを付ける。

いつの間にかベルトやポケットにさっきまで並べていた拳銃が挟んである。

どさくさの際に確保していたのだろう



輝子「知るかァ!!ヒャッハァアアア!!蹴散らせ!!」

ミドルキノコ1「FFf!」



危険にさらされたことで神経が昂ぶっているのか、テンションが吹っ切れた輝子が影に向かって叫ぶ。

そしてそこ目掛け足を生やしたキノコが魚雷のように突進する。


???「私では...ないのですけどね」




光剣


その何かを表す言葉はそれしかない




有り余る長さの、光の刃が猛進するキノコを上下に真っ二つにし、周囲を昼間と同じ程に目映く照らし、五人のいる場所を切り裂きなぎ払った


輝子「マイフレエエェンド!!??」

小梅「ま、またっ...まぶしい」


どこから伸びてきたのか分からないほどの長さの、大蛇のように時折しなる様な動きを見せながら光る何かが場を蹂躙する




ガアアアアアアンン!!!!

五人がバラバラの方向に吹き飛ばされた



亜季「(戦力の差がっ、ここまで...!!)」

麗奈「亜季!!」

幸子「こ、小梅さん、輝子さっ」

ある者は背中から墜落し、ある者は地面の上を転がっていく




輝子「うめちゃん、あ、亜季さん...み、みんな...!」



一体残ったキノコが自動的にその身を守っていた輝子だけが、

呆然としながらも周りを見回す余裕があった。



亜季が一際遠くに転がっていく


麗奈が路地裏の方向に投げ出されていた


小梅と幸子は偶然同じ方向に飛ばされている



自分は、キノコが一体いるだけ。

そしてすぐ前には影となったボットが一体



輝子「(違う、ボット...もう一体...いた!)」

???「気を付けてください...」

輝子「ヒッ!?」

???「どうやらこのカラスには...物が壊れやすくなる力があるようなので...」



ビシッ



輝子「ハ?」



轟音、

光剣、

倒壊


仮想現実の一角で

一棟のビル一部が





ナイフにスライスされたバターのように「斜めに削げ落とされた」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
星輝子



耳鳴りがしそうな音が止んだあと、私はマイフレンドの下から這い出した



輝子「フヒゥ......なんてこった...マイフレンド」


四つん這いのまま背後を振り返ると、丁度石やガラスまみれになって潰れたおっきいキノコが消えていくところだった


輝子「すまない...ゴメンよ...」


周りは崩れたビルが高く高く積み重なっていてバリケードみたいになってた。

高さが私の身長の何倍もある

さっちゃんもうめちゃんも、いない......またボッチになっちゃった



亜季「輝子殿、大丈夫で...ありますか?」

輝子「フヒッ!!?」

亜季「落ち着いて」



いつの間にか亜季さんが膝をついた状態で隣にいた

よ、よかった......ボッチじゃなかった。あれ、じゃあ麗奈は...


亜季「いいですか、よく聞いてください」

そのまま亜季さんがヒソヒソバナシをするみたいな小さい声で話しかけてくる。視線は別の方向だ

亜季「私たちはどうやら分断されてしまったようであります」

輝子「ぶん、だん...?...フヒッ!?」



亜季さんの目線を追った先にさっきのボットが立っていた

顔は相変わらず見えないけど、マントみたいなのがヒラヒラしているのは見えた



???「......」



亜季さんはえっと...警戒心?を張ってそのボットを睨んでいる

亜季「私たちはそれぞれ別のユニットを組んでいます、なのでここで私たち二人を倒すことで結果的に五人全員を倒すつもりなのでしょう」

輝子「.........あっ!?」

最初何を言われたのか分からなかった、けど思い出した。

さっきの地下で麗奈が言ってたこと




ユニットメンバーがひとりでも倒されると残りのメンバーもゲームオーバーになる......!



???「確かに...それも効率的、ですね」

亜季「!!」


???「一つ訂正を加えるなら、これは私ではなく......もう一人の意向によるものです」



パァン!!

輝子「っ!?」

亜季「この音は、麗奈の能力...」


ビルの瓦礫を挟んだ向こうから破裂音が小さく響いてきた。


......誰かと誰かが戦い始めてる?


バガァアアン!!!


破裂音が聞こえてきた方向から次は太陽みたいな眩しい光が溢れ出てきた


亜季さんや私、あとボットのいる場所が一瞬だけ明るくなる




???「おや、これはいけないですね...」


輝子「あ...」






その光がボットの全身を照らした















古澤頼子(ボット)「...怪盗は、そうそう正体を表さないものなの...ですが」






シルクハットに片眼鏡、マントとスーツをはためかせて、そこに立っている



頼子(ボット)「.......では、壺の中に多少の『仕切り』が出来てしまいましたが___」



カラスの羽音がどこか遠くから響いてくる

隣で亜季さんが銃を構える音がした






頼子(ボット)「蠱毒の舞台を始めましょう」





ゲーム開始70分経過

大和亜季&星輝子

VS

古澤頼子(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
輿水幸子



今のボクは全く「らしくない」



意気揚々と小梅さんと輝子さんを導いているつもりで、あっさりと返り討ちにあい、

薄暗い地下におめおめと逃げた矢先に爆発事故、危うく輝子さんを傷つけさせてしまうところでした

挙げ句の果てには土の中にこそこそ隠れているモグラを堀り返すみたいに、あっさりあぶり出される始末



幸子「これでは、いけません......ボクはカワイイのですから...何者にも屈してはいけないのです」


手の中の重さをもう一度確認する


あの光剣?とにかくぴかぴかと眩しいばかりの妙な攻撃で地盤ごと掘り起こされようとしていたとき、とっさに掴んだ一丁の銃

弾丸は確か...8発。

亜季さんにもらった弾はすべて装填してあります。

逆に言えばこれがボクらを守る最後の盾にして矛なわけです



幸子「どうやら...また、あの光っている何かで壊されたビルが障壁になっているようですね」

あたりに人影はない、はぐれましたか?



小梅「......さ、さっちゃん」

と思っていたら近くの別のビルの影から小梅さんが顔をのぞかせました

どうやらボクより先に身を隠していたようです。

ボクもそれに倣い小梅さんの横に駆け寄りました



幸子「小梅さんは無事だったんですね...ところで薄々予想はつきますが他の方々は......」

小梅「た、多分...瓦礫の向こうに...ば、バラバラに...なっちゃった...?」

幸子「ですよね...ユニットメンバーのボクらが無事ということは輝子さんも無事ではあるんでしょうが」



さっき見たカラスを持ったボットはいません、しかし空を見上げると其処此処に黒い影が飛び回っているのが見えます



幸子「このカワイイボクが目を離したせいで、随分と街が様変わりしてしまいましたね」

小梅「ご、ゴーストタウン...」


その小梅さんの例えは的を得ていました、確かに目に付く建物はどれもガラスが割れ始めていますし建物シルエットもどこか古ぼけています



幸子「十中八九あのカラスのせいでしょうね、確かそんなことをあのボットが言っていました」

小梅「そ、そうなんだ...カラスの...の、呪い...だね...」

幸子「とにかく!輝子さんに合流しましょう!」



ボクは勢いこんで座り込んだ状態から立ち上がります、背後では朽ちた壁からぼろぼろと小石のような破片が取れましたが気にしません


小梅「で、でもどうやって..」

幸子「ボクらの身体能力ではあのバリケードは越えられません、道路を通って向こう側まで回り込みます」

ここはどうも大通りのようなので道幅はかなり広いです、

まあそうでないと下水道など掘り起こせませんが。

ここを回り込むには随分な遠回りが必要になりそうですね


小梅「.......わ、わかった...頑張って...は、走る...!」


ボクの隣で小梅さんもトレードマークの長袖を揺らしながら立ち上がりました


幸子「さぁ行きますよ!目的地までは迂回しなければなりませんから、早く着くに限ります!」






カラン







「...あの......すいません」






幸子「え...?」

道路に一歩踏み出した矢先に声をかけられました。

思わずそっちに目を向けます



幸子「ひっ!?」



豪華な装飾、鋭い刃、鈍く跳ね返される月光



そんなサーベルが視界に入り、ボクは思わず飛び退きました





「...私の能力が、なぜか不調らしくて...」




彼女は月の光を浴びて妖しくシルエットをゆらめかせながらこっちに歩いてきます

小柄な体躯、

禍々しい凶器、

胸元には赤い光、

彼女がボットであることは間違いありません




幸子「小梅さん...いきなり問題発生です」

小梅「う、うん......」



後ろ手に小梅さんを庇いながらボク自身も一歩下がります






「...えっと、このあたりで私のカラスに何かがあったようなので、様子を見に来たのですが......」





ア”アァアアアアアー!



今になってカラスの鳴き声が耳につき始めました

目の前にいる彼女は事務所で何度か見かけた普通の格好でした。

だからこそ手に持たれたサーベルが一層不気味で___











ほたる(ボット)「...何か、知りませんか...?」







ゲーム開始70分経過

輿水幸子&白坂小梅
VS
白菊ほたる(ボット)

開始
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
小関麗奈





麗奈「アーーッハッハッハッハッハ!!」




アタシは上機嫌に笑う。

かそうげんじつ?とやらのおかげか、途中で咳き込んだりなんかもしないで笑えたのがさらにアタシの機嫌をよくする


数分、いや数秒前までのイライラした気分はぜーんぶ吹き飛んだわ



麗奈「もう一発喰らいなさい!」


都会の中のそれほど狭くない路地裏、そのビル壁を蹴っ飛ばすと一部が剥がれて落ちた

どういうわけか昼間の時よりビルが古くなってたみたいで、表面をちょっと壊すくらいならアタシの脚力でも十分だった

手のひらに収まるほどの平たい石みたいなのを右手で掴む、ギュッと握って、それがアタシにとっての必殺兵器になったと確信した



麗奈「そーれっ!!」

パァアン!


さっき投げたものより強く投げつけてやったわ!


相手は手に持った光の剣でまた石を弾いたつもりだろうけど、爆発のせいで大した防御にはなってないみたい


もっとも、こっちの攻撃も未だに弱いままなんだけど



麗奈「アッハ!みっともないわね!さっきのバカみたいな大きさにすればいいのに!」



できないのを分かって煽る。

アタシにとって狭くは感じないけど、相手は剣を振り回すために隣接したビルの隙間幅に気を使ってそのサイズを小さくしている。


だからなーんにも怖くないわ!!

地下下水道を抉りとった時に比べると蛍光灯か、精々大きめのサイリウムでも持ってるようにしか見えないわ



麗奈「アタシはこういうのを待っていたのよ!こういうカタチとは言え、アンタをボッコボコにしてやれる日をね!!」



ちょっと前、地下から追い出されたり薙ぎ払われたり、

目の前にいる「コイツ」に散々してやられたけどそれはもういい

今からやることを思うと笑いが止まらないわ!



麗奈「このレイナサマの前にひれ伏しなさい!」


もう一回、さらに強く壁を蹴り付けると面白いくらいにポロポロと石塊が転がり落ちてきた、

石の塊、

アタシの弾丸



?「そうか...」




麗奈「さぁ!!いつか来る、アタシが『本物』を倒す日のための練習台になりなさい!!」



?「......悪いな麗奈、」


「それは聞けない!!」



視線は動かさず、両手に手頃な石を掴む、イヤでも気分が高揚するのを感じる




麗奈「ここがアタシ、レイナサマの世界征服の第一歩よ!!」


向こうもアタシに応戦するかのように生意気にもこちらに向けてあの変に眩しい剣を構えた


?「いや、麗奈の世界征服はここで終わりだ......」



そして暑苦しい‎能書きを垂れ始める。















南条光(ボット)「なぜならその野望は!!ここで!!アタシが!!打ち砕くからだ!!!」







まぁいいわ、叩き潰してあげるわよ!!







ゲーム開始70分経過

小関麗奈VS南条光(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ありすのメモ帳に関しては前スレ>>833のあたりに描写があります


次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

2、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

3、渋谷凛&緒方智絵里

4、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南

1で

4

3

2
頼子さんきてたー

走り回って勧誘不能とかいうのはナンジョルノか

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
堀裕子

ゲーム開始8分時点




裕子「さーいきっく...ダウジング!!」

ヂャリーンッ




その掛け声と共に金属食器が振り上げられる。

勢い余ってすっぽ抜けたそのスプーンは硬質な音を立てて地面に墜落し、しばしの間コンクリートの上を跳ねた


カラカラカラン...


くるくると緩やかに回っていたスプーンが停止した。

裕子が注目したのはその柄の部分だった。




裕子「ふっふっふ、なるほど、わかりましたよ...このスプーンの指し示す方向こそが私の進むべき道であると!!」


要は占いの一種だった。棒を倒して次の進行方向を決めるだけの。

だがそれでも自分を信じている裕子には強い確信になったらしい



摩天楼の根元で、ほぼ丸腰に等しい装備、スプーン一本を携え無人の道路を臆することなく進んでいく





裕子「おや......?あそこで誰かが動いてますね...?」



そうして進んでいくこと数秒、裕子の目が何かを捉えた。

ビルとビルの切れ目から伸びる坂道のずっと奥、比較的こじんまりとしたオフィスビルの密集地の中の一件



裕子「うーん、胸は光ってはいないのでプレイヤーの方でしょうか?ここからじゃよく見えません...」

「はっ!?...こんなときこそ、さいきっく双眼鏡!」

はむっ、とスプーンを口に咥え両手をレンズに見立てて遠くに目を凝らす









輝子「フヒ...だ、誰も、いなかっ...た。ボッチ、だな...とりあえずあっちに行こう」



が、既にその人影は角を曲がり見えなくなっていた



裕子「...えーっとなになに...」



代わりに彼女の視界に入ったのその人物が現れた建物の看板のみ










裕子「...あれって私たちの事務所ですかね?」








結果から言えば彼女はその建物には踏み込まなかった。

この時点では___






ゲーム開始6分時点
堀裕子(ボット) 消失
堀裕子 能力獲得

ゲーム開始7分時点
星輝子(ボット) 消失
星輝子 能力獲得


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
双葉杏&諸星きらり&堀裕子


______________

 双葉杏+  153/300
   


______________

______________

 諸星きらり 153/300



______________

______________

堀裕子+   153/300



______________




ビュンッ



裕子「なるほど!こうしているあいだにも私たちのスタミナ?とやらが回復していくわけですか!」

杏「まー、そんな感じ?ダラダラしてても楽できる能力なわけ」

きらり「杏ちゃんらしぃにぃ」



ビュンッ



裕子「それにしてもボット?とやらは一向に姿を見せませんね」

杏「杏はそのほうがいいんだけどねぇ」

きらり「うゆ......きらりもあんな怖いのはコリゴリだゆ」

裕子「ほほう、お二人にはなにやらあったようですね、聞きませんけど」

杏「あーうん、説明めんどくさいからそれでいいよ。正直杏も何が何だったのかわかんないし」

きらり「いっぱいいっぱい痛い思いしたにぃ」


三人は、正確には杏はきらりの背にいるので二人は今都心をやや外れた道を歩いていた。

道を一本横にずれれば車線の多い大通りに望める場所である。「目立つ場所は変なのに見つかりそうだし」という杏のアイデアだった


ビュンッ


最初にアシとして使っていた戦車。歩行者用の階段に乗り出し転げ落ちかけたそれのキャタピラを窮余の一策として止めた直後、

謎の原因で砲撃を開始したせいで攻撃に使える砲弾は底を突いていた。

まさか数キロ離れた地点からのハッキングじみた外部操作だとは思いもよらない三人はそこから脱出していたのだった


ビュンッ

しかし、傾いた内部から苦労して外に出たはいいものの、その頃には街の様子は様変わりしており、そうなると車両も迂闊には乗り捨てられなくなっていた

街には夜の帳が下り、闇に紛れてカラスが襲い来るのをどうにかしなくてはいけない。

その結果が現状だった





裕子「さーい...きっく、ハエ叩き!!」


ビュンッ

ア”ァッ!


杏「しかし大した能力だよねぇ、サイキック力技。特撮好きの光あたりがプレイヤーとして来てたら大喜びしそうだよ。スーパーマンパワーとか言って」

きらり「でも~、もうちょっと離れて使って欲しいにぃ...さっきからぶつかりそうだゆ...」

裕子「了解しましたっ...ほいさっ!」



掴んだ手に力を込め、一息に振りかぶり、振りまわし、ビュンと振り下ろす。

その度に三人目がけて飛翔してきた黒い一群は薙ぎ払われ、叩き落とされ消えていく



裕子「おや?いなくなりましたね、カラスさん」

杏「裕子に構うより他のところに行ったほうが成果が上がるとか判断したんじゃないの」

きらり「ユッコちゃんすごーいにぃー!」



そうしてカラスのボットを時に追い払い、時に難無く返り討ちにしているうちに三人の周囲を旋回していた一団はいなくなった。


三人をターゲットにするのを保留にしたのか、実は他の地域を飛び回っている別の一団が向かってくるまでのインターバルなのかは判断がつかない

とにかく、三人に一時の休息が訪れた。

実際に忙しく動いていたのは裕子一人だが

ビュンッ

裕子「むむ、どうやらいなくなったようですね!さいきっくおしまい!」

杏「おつかれー、さすがはパッションというかきらりとは別方向にアグレッシブだね」

きらり「うゆ?きらりって何か変かなー?」

杏「いや.....きらりはずっとそのままでいてね」

きらり「んに!」

裕子「じゃあ一旦”これ”下ろしますね」

掴んでいた砲筒から手を離す。キャタピラが大袈裟な音を立てて路面に減り込む

装甲はカラスの能力や用途から外れた使い方によりあちこちに穴が空き凹んでいる

こうして裕子の怪力により長く伸びた砲口を掴まれハエ叩きのように振り回されていた戦車は既に廃車になった


ゲーム開始65分時点

堀裕子 双葉杏 諸星きらり

ユニット結成

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


高所から何度も墜落したようにシルエットを歪めた戦車、そのキャタピラを覆う装甲部に杏が腰を下ろした

きらりがその横にぴったりとくっつくように腰掛ける



杏「せっかく静かになったんだから、しばらくここにいよっか」

きらり「裕子ちゃんの能力のおかげだにぃ!」

裕子「そ、そうですか!?いやぁ照れますね!さいきっく照れり...」



実際今の彼女たちの状態で動き回っても遭遇できそうなのはカラスの群れくらいなので、動かないという選択肢はあながち間違ってはいなかった

裕子はどういう意図があってかわざわざ装甲部ではなくひん曲がった主砲の上に飛び乗った



杏「しっかし、ここまでくるとあれだよね、逆にきらりの能力も見てみたくなるよね」

きらり「うにゅ?んー...確かにきらりも面白ーいことしてみたーい!」



裕子「うーん、そういえばきらりさんにとっての能力の鍵は何になるんでしょう?」

杏「鍵ぃ?」



裕子「ほら!私のスプーンや杏さんのぬいぐるみのことじゃないですか!!キィィアイテェェム!!ですよ!」

杏「あーそれね、杏の場合は勝手に押し付けられただけだからなぁ」

きらり「そうなんだー、きらりのキーアイテム?はどんなだろーねー?」

杏「どんなんだろーって...きらりにもなんかないの?こう、なんていうか、これぞきらり!みたいな」

きらり「んゆー?.......いっぱいありすぎてわかんないにぃ...」



キーアイテム

それらは明言はされていないがモデルとしては現実世界でアイドルのトレードマークのようになっているものが多い

現実世界で杏が愛用していた古びたぬいぐるみや裕子が常備していたスプーン、麗奈の手製のイタズラ道具

輝子のキノコの鉢、凛が愛着を持っていたピアス、美穂のぬいぐるみ、蘭子のグリモワール、美玲のケモノ手袋



中には例外も存在する。


例えば、紗南のゲーム機や亜季のドックタグ、そして愛梨のウサ耳などは厳密には本人の持ち物ではない


ただアイドルの個性や仕事を説明する上で欠かせない要素、この場合「ゲーマー」「ミリオタ」「バニー」といった記号に関連づいていただけである


ちなみに今もこの仮想現実のどこかを彷徨しているであろう緒方智絵里のキーアイテムであるアクセサリも、「四つ葉のクローバー」という記号以外に彼女とは接点を持っていないものだった




裕子「....きらりさんはかわいいものならなんでも集めていましたしね、そうなると特定のものに当てはめるのは難しそうです...」

「......はっ!?ま、まさか今こそ私のさいきっくダウジングを使う時では!?」

杏「いや、それはいらない」



きらり「んにぃー.......かわういーものー...きりんさんにーぞうさんにー...」

杏「なーんかあれじゃない?あのきらりんハウスに入ってるおもちゃとかだったら大体きらりのアイテムなんじゃないの?」

きらり「うゆー、でもきらりんハウスはきらりのおうちだしー」

杏「まぁ忘れかけてたけどここはゲームの中だしねぇ、きらりの自宅があるわけもないかぁ」







裕子「へ?でも事務所ならありましたよ?」




杏「...は?」

きらり「...にょ?」


思わぬ横槍に、そしてその内容に杏ときらりが一時停止する


杏「じ、事務所...?」

きらり「きらりたちの事務所...あるの?」

裕子「はい、そうですよ。看板もかかってたので間違いありません!」

杏「じゃあそれ最初に言っとこうよ!!絶対重要なヤツじゃん!」

裕子「うーん?...でもボットとは出会わなかったので!」

きらり「そういう話でもないにぃ」


ゲーム開始直後からボット共々雑魚寝をしていた杏と、その杏を探し回っていたきらり

その二人に比べると今まで謎だった裕子のこれまでの行動履歴があっさり明らかにされる


そのなかで裕子は事務所を目撃していたらしい



杏「まーいーか、ユッコだし...で、どの辺で見たのさ」

裕子「ふっふっふ、遂にこれを話す時が来ましたか...そう、あれはこのイベントが始まって間もない時分のことでした...」

杏「あっ、そういうのいいんで」


ぴしゃりと冗長になりそうな裕子の言葉を断ち切る




杏「きらりんハウスとまではいかなくても事務所とかならきらりにゆかりのありそうなブツの一つや二つは見つかるんじゃないの?」

きらり「きらりもそー思うゆ、裕子ちゃん、きらりたちに事務所の場所教えて欲しーにぃ」

裕子「ふふん、いいでしょう......うん?あれ?」



きらりに請われ、裕子は得意げな顔で腕を組みながら事務所の位置を思い出そうと記憶を探り始めたが、すぐにその眉が八の字に曲がった



裕子「そもそもここ、どこでしたっけ?」

杏「あっ」

裕子「初めて来る場所なのでイマイチ地理がつかめないんですよねぇ...」

きらり「うゆっ」



困り眉のまま小首を傾ける裕子を見ながら杏ときらりが同じような表情でぽかんと口を開けた

確かに全く知らない街で、しかも晶葉の意図によるものか時計や地図の類がどこにも見当たらないのだ

空に浮かでいるのも月だけである以上、星を見て方角を知ることもできない

この状況での道案内は裕子にとっては無理難題に等しかった




杏「ほ、ほら、なんかないの?近くで目印になるものとか!」

裕子「目印...ですか...うむむむ、あっ」

きらり「ゆっ?」



裕子「そうです!確か周りより一際大きなビルが見えました!!元々私がいた場所には背の高い建物が多かったんですけど、その中でもさらに大きかったですね!」


杏「ふうん...たしかに目印としては心強いけど、そのビルからどれくらい離れてたとかはわからない?あんまり離れてると探すのめんどくさそうじゃん」

きらり「それもだけど...そのおっきなビルってどれのこと?よいしょっと」

杏「おっとっと」


杏を肩車し立ち上がったきらりが戦車の上で背伸びをしながら周りを見回す



裕子「えっとですねー...」


裕子が主砲の先の方に足をかけながら遠くを見通す仕草をする

月明かりのおかげで辛うじて真暗ではない景色にビル群が墓標のように直方体のシルエットを浮かべている

裕子はその中を右から左へと視線を流す。裕子たちを囲んでいるビルもあってかその視界は良好とは言えないが、




裕子「あっ、あれですね!あの方向にある4つ並んでいる、その中で一番大きいやつです!!天辺にある避雷針が特徴的なんですよ!!」


きらり「杏ちゃーん、おねがーい!」

杏「うわわ...ただでさえ高いのに更に持ち上げないでよ......避雷針ねぇ、うわっ遠っ...」

裕子と杏が同じビルを目で捉える。

確かに件のビルは周りより頭一つ抜け出た高さで、長大な避雷針のせいか尖ったシルエットも、墓標というよりは卒塔婆に似ていた



これは三人は知る由もないが、その高層ビル内では数十分前まで渋谷凛とボットの死闘が行われていた

高層階の窓から事務所を見つけられないようにするという理由の下、能力とキーアイテムが絶えず入り乱れた戦闘が、

一人の能力持ちプレイヤーの乱入によりその結果は最終的にはプレイヤー側を利したが、もちろんそれを知ることもない





そのビルの隣をナニカがふわりと飛翔している





裕子「ん?今あのビル光りませんでした?」

きらい「窓がひかってゆの?」

杏「んー、めんどくさくて見えなかったけど」


それが見えたのは一瞬のことで、光る何かはその高層ビル向こう側、裕子たちの死角に消えた





そして




杏「はえっ!?」


見るともなしにビルを眺めていた杏が頓狂な声を上げる








視線の先でビルが丸ごと一棟消えていた







地上百数十メートルの高さと、

それに見合う膨大過ぎて勘定するのも馬鹿らしい質量と巨大さを誇る建造物が、

いともたやすく、


その場から消えたように”吹き飛ばされた”


きらり「にょわっ!?」

裕子「あれもさいきっくぱわーですか!?」


きらりと裕子の目にも嫌が応にもその光景は飛び込んでくる

空のダンボール箱を蹴り上げるような気軽さで、高層ビルが空高く舞い上がっていく光景は

やがてビルはミサイルのように避雷針を地に向け落下していく。

あれの墜落、いや着弾した付近は無事では済まないだろう

幸いなのは3人にとってその惨事事態は対岸の火事であり、自分たちには累は及ばないであろうということだが、





聖(ボット)「.........」





死角を作っていた建造物が人智を超えた力で取り除かれたことでそれの正体が明らかになる


直線距離にして遠く遠く離れた場所に彼女はいた。


裕子にも、杏にも、きらりにも、その姿ははっきりと見える


丸く浮かんだ月の少し下方向、空中にふわりと浮かんだ望月聖の姿が、

月明かりを一身に受け、さらにその光に対抗するように自身もまた光を発している





__左右に3対、計6枚の、白く輝いた翼が広がっていく___





聖(ボット)「......ふぅ...」



聖なる天使の姿を借りて


『夜』のボットが空を支配する





そして忘れてはいけない

地上にいる者が天空を舞う瞳から逃れる術はないことを


聖(ボット)「あっちにも......います」


ゲーム開始70分経過

双葉杏&諸星きらり&堀裕子

早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨
VS
望月聖(ボット)

開始
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しのしの相談箱の方を読んでくださった方、ありがとうございました


次回開始するチャプターを選択してください
安価下

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季

2、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

3、渋谷凛&緒方智絵里

4、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南

4


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨


真っ逆さまに墜落した高層ビル。
建材で出来たそのミサイルが地盤ごと大地を減り込ませていく。
着弾の衝撃で爆散した何千枚のガラスが霧となってその下のクレーターを覆い隠す

6枚の羽を震わせ大空に陣取った望月聖からはその光景を正確に把握することができた


だが一滴の雨粒でも蟻にとっては天災であるように、そのミサイルの着弾点付近にいた者たちからにとってその瞬間、現状把握ほど難しいものはなかった





蘭子「ら、ラグナロクッ!!...ノアの大洪水!!...ジャッジメント・デイ!!(も、もうおしまいだよぉ!!)」

美玲「よくわかんないこと言ってる場合かッ!!もっとスピードだせッ!!」

蘭子「こ、こころえっ...きゃんっ!?」

美玲「ああもうウチに替わ、ぎゃふっ!?」

愛梨「あぁ!美玲ちゃん走ってる車の中で動いちゃ危ないよっ!」


波紋状に波打つ地面に揺られ、上下左右不規則に振り回される車内で、それでも奇跡的に横転しないまま装甲車は猛スピードで駆ける


運転席に座った蘭子がコントローラーを握る手に力を込める。

もう後ろを振り返っている余裕はない。

破壊的な地響きが座席を伝い蘭子の背中を絶えずノックし続けている


愛梨「美玲ちゃん落ち着いてっ」

美玲「わぷっ!?」

愛梨が、後部座席から身を乗り出そうとして盛大に転びかけた美玲を宥めながら胸元にホールドする

美玲の顔に合わせて形を変える胸にも構わず、背後のガラス越しに後ろを見やる。

既にガラスも天井も彼女の能力がすっかり直してしまっていた

背後に広がる光景、ガラス越しでは全景を捉えられないほどの塔、実際はビックビルディングが土煙とガラスの霧をまといながら変貌していく


重力と落下の加速で地面に近い階から粉微塵になっていく、その瓦礫を積み重ねながら次の階がずり落ちる、また次の階が粉
砕されずり下がっていく


下から順番に破壊されながら全体は斜めに傾き始めている。ロケットがエンジンを切り捨てて飛ぶように、地面側のフロアを犠牲にしながら着実に”こちらに倒れてきている”


愛梨「蘭子ちゃん!どこか横道に曲がれない!?このままじゃ追いつかれる!!」

蘭子「ひゃいっ!?」

美玲「もがっ!もががっ!!」

愛梨「ちょ、美玲ちゃ、ぁんっ...」


近距離で発された筈のその声は届かない、街そのものを揺るがしかねない破壊音は装甲車内も例外なく埋め尽くしていた


そもそも今まで何とか横転はしていないが、今このとき避難のための速度で曲がってもそうならない保証はなかった



信号の灯らない交差点を最高速で突っ切る。

数秒後、その信号機も瓦礫の雪崩に埋もれた



だがいくら高層ビルとはいえ天を衝くほど高いわけではない。

完全に横向きに倒れきってしまえば爆薬でも積んでいない限り、その時点で脅威ではなくなるはずだった

倒れた塔に潰されるか、迫ってくる塔の影から逃げ切るかのデッドレース





そして




蘭子「ひぇ...」

愛梨「行き、止まり...」

美玲「もごっ!?」




前方50メートルばかりで直線道路は途切れていた。そこからは右か左へ折れる道路しかないT字路


袋小路でなかっただけマシかもしれないが、

いくら道路の車線が多く道幅が広くともそこを最高速のまま安全に曲がるテクニックなど蘭子にも愛梨にもなかった


背後からはガラスとコンクリの土石流が迫る


蘭子「ぶ、ブレーキ?ブレーキ!?これ曲がれるのぉ!?」

愛梨「と、止まっても後ろから来てるよ!!」

美玲「もごもっ!」


大声で声を掛け合う、そのほとんどは後部座席と運転席の間で外の音に阻まれる



蘭子の悲鳴を聴く者はいない。

愛梨の警告を聴く者は、



美玲「っぷはぁあっ!!」

美玲だった。



愛梨の豊満な胸から半ば押し付けられる形だった顔を引き剥がす


美玲「んがぁッ!!!」


不安定な姿勢で両腕を振り上げ両手の爪をうならせる。



その切っ先が愛梨を捉えた



非現実的なピンクの獣爪が二つ、胸と腹を突き抜けるように愛梨を貫く






愛梨「____え...?」

美玲「ガルルルルッ」



愛梨の目が見開かれる、信じられないという風に目の前の小柄な少女の細腕に穿たれた己を見下ろす





そして何より彼女を混乱させたのが、”それが全く痛くないということ”だった




美玲「愛梨ッ!!ウチに捕まってろよッ!!」



愛梨はそのことを知らなかったし、美玲はそのことを伝えそびれていた

このゲームの始め、アナスタシアとの戦闘で判明した事実。



早坂美玲の能力はプレイヤーに全くダメージを与えずにすり抜けるということを



美玲「とにかくッ!!」

愛梨の胴のむこう、装甲車の後部座席を通して装甲車に触れた爪が能力を装甲車全体に及ばせる



メキィッ!!


蘭子「ひゃうっ!?」

突如、車体左側の装甲が大きく膨れ上がり硬い装甲板が軋んだ音を立てる

運転席側のドアがその歪みに引っ張られ無残にも車外に剥がされた

蘭子「あっ、え...?」

ドアの形切り取られた外の風景が轟音を立てて後ろに流れていく中蘭子の目はそれを捉えた




美玲「ムリヤリ曲がっちゃえばいいんだろッ!!」




剥がれたドアと歪んだ装甲がそれぞれ飴のごとく捻られドリルのような何かを形作っていく



そこに作られていたのは爪だった。


鋭く曲がった巨大な3本の爪が装甲車の左側だけから生えた



愛梨「わっ...すごい」


早坂美玲の能力、破壊と変形が車体の片側一部を獣の爪に仕立て上げた



ガッ!!!ガリリリリリリリリリリ!!!



3本の爪が一息に地面に突き立つ、

猛スピードで走行する車両の左側から地面を引っ掻いた傷痕が白線のように引かれていく



美玲「んがあああああああああ!!!蘭子ッ!ブレーキ押すなよぉおおお!!」




ガリリリリリリリリリリリリリリ!!!



いよいよ目と鼻の先には頑強なビルが迫っていた


蘭子「こ、これは...!!」



ガギッ!!


道路に長い引っかき傷を付け続けていた装甲爪が地中のどこかに引っかかった

その瞬間装甲車の左側だけが急停止する。


そして爪の刺さった地点を軸に、


タイヤと地面を盛大にスリップさせながら装甲車は左に急回転した



正面の壁までわずか数メートルでの急カーブ。

爪を使った疑似ドリフトだった


蘭子「ま、曲がっ...た!!」

美玲「走り続けろォッ!!!」

愛梨「め、目が回る...」




ノーブレーキで左折した車が歪んだ形のままに走行し、その後ろをかすめながら高層ビルだったものは完全に倒れ伏し崩落した

生き延びた三人が快哉を上げる



美玲「いよっしゃー!!ウチやったぞッ!!」

蘭子「あっあははっ......やったぁ」

愛梨「すごいよ美玲ちゃん!!えいっ!」

美玲「わぷっ、ま、またそのムネかッ、ふぐぐ」



感極まった愛梨が美玲を抱き寄せ胸に埋める。

美玲の両腕まだ愛梨を貫いたまま後部座席に固定されている

一方運転席の蘭子はコントローラーをおっかなびっくり操作し速度を緩めた。

当座の危機は脱したがまだ油断はできない

愛梨の能力が修復したバックミラーで背後を確認する。

そこでは天変地異でも起きたかのような惨状が横たわっていた



蘭子「わ、我らノアの方舟にて、滅び行く世界を脱け出さん...(なんとか助かった...?)」

ほっと一息をつく。

だがそもそもさっきの事態が埒外すぎて失念していたが、これは誰かの攻撃だったのか?


美玲の能力により引き剥がされたドアの方を見る。

外では静かな街の夜景が広がっていた




___そして見上げた先、そこに月を背後に据え、六枚の翼を広げた影がいた


蘭子の能力が事前に周囲の建物を消し去っていたおかげでその姿を見つけるのは容易だった



蘭子「美玲ちゃん、愛梨さん...あれ、見てください」

美玲「もごぐ...なんだあれ...」

愛梨「と、飛んでるね...」


直線距離にして遠く離れた

その神々しいとさえ言えそうな人影をしばしの間呆然と眺めていた






突如三人が見ている前でその姿が掻き消える


望月聖は急降下していた。

6枚の翼のうち2枚を使い空から地へと垂直に加速する



そして先ほど「弾」にした高層ビルに比べると圧倒的に背の低い建物の密集した区画に接近すると次の行動を起こした



しかしそれは行動と呼べるほど活発なものではなかった

飛行に使った2枚とは別の4枚の翼をふわりと舞わせただけだ



そよかぜでも起きればどこまでも飛んでいきそうなほど儚げな翼が何棟かのビルを連続して撫でていく





たったそれだけの動作で、たったそれだけの接触で





何十トンもの重量をもった建物がゴムボールのように吹き飛ばされた




何棟もの建造物が畑の野菜でも引き抜くような手軽さで地中に埋まった基礎ごと弾かれ、投げられ、宙を舞う


聖(ボット)「プレイヤー...いっぱいいますから...これくらいしないと...」


飛行する聖の通った場所がクレーターを残して破壊されていく。


道路沿いの建物が次々に空へ消えていく


さっきの攻撃から逃げていった車のいるあたりと、

空から見たときにチラリと見えた戦車のような乗り物のあったあたりを狙うつもりで小石の代わりにビルを投げる



神聖なる存在に抗えるものなどいない。


光り輝く翼が齎す破滅の前に万物はなされるがままに消えていく





望月聖の能力はつまり「そういうもの」だった



この仮想現実における森羅万象の全てより俊敏で、柔軟で、強固で、そして神々しい




相対的にではなく絶対的な強さを持つ翼



そんな不条理な物質を6枚背中に携え聖は攻撃という名の作業を続ける


蘭子の能力が既に破壊していた物件も含め、舞い上げられたビルが重力に従い落下し、仮想の街全体に直方体の大型隕石が雨霰と降り注いだ


空を飛べないプレイヤーたちは地上を逃げ惑うしかない



あるいは戦うか





「さーいきっく!戦車バーット!!」

「むっがぁあー!!!アイツぜってー引っ掻いてやるッ!」






ゲーム開始71分経過

双葉杏&諸星きらり&堀裕子

早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

VS

望月聖(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで
このチャプターはもう少し続きます
安価は少し休みといいうことで

続きが楽しみすぎる


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨




堀裕子の能力の特色はざっくり言うとその怪力にある


街灯を手刀で断ち割り、戦車を持ち上げ、地盤を砕き進む


特にその能力が発揮されるのが、直接的であれ間接的であれ、何かを壊す時だ


例え超能力でスプーンを曲げることができなくとも、彼女は戦車砲くらいなら片手で曲げられる





「さーいきっくぅ.........ホームランッ!!!」



廃車どころか原型をとどめているかも怪しい戦車が乱暴に振り回され、空からビルを打ち返す

亀裂だらけだった窓ガラスを完全に吹き散らしながらコンクリの隕石は再度宙を舞い、少し離れた場所に落下した

戦車の方は廃車寸前でも戰爭を耐え抜くための装甲板だけあって建造物に叩きつけられてもビクともしない



杏「アメコミのスーパーマンじゃないんだから...」

きらり「にょわぁ...」


裕子の振り回す戦車の巻き添えにならないような、

それでいて裕子が打ち漏らした建物に潰されない距離をキープしながら杏が呟く



杏「そんでもってあっちはあっちで神話の神様みたいだしさぁ...」

きらり「にょわわぁ...」




首を向けた先には月と翼。部屋の模様替えでもするような手軽さで周囲のビルを持ち上げ、吹き飛ばすシルエットが空を踊っている



裕子「ヒットエンドルルラァアン!!」



体を一回転させるように戦車を回しビルの上半分を打ち飛ばす。


それを最後に建造物の空気を切り裂く落下音は止んだ



杏「おっ、終わったっぽい?」

ガッゴォオン、とけたたましい音を立ててくの字に折れ曲がった車体が放られる




裕子「いやー!いい汗かきました!...と思ったらかいてませんでした!」

杏「そりゃゲームだしね」

きらり「裕子ちゃんかーっこいいゆー」



そうして裕子も杏ときらりの隣、落ちてきたビルの影に腰掛けた。


そこは聖からは死角になっている


裕子「それよりなんなんでしょうね、あれ?」

杏「チートキャラとかじゃないの、いきなり夜になるわヤバげな敵は出るわで大変だよもう、面倒くさいなぁ」

ポケットから出したスプーンをさすりながら裕子がきょとんとした顔で疑問をあげ、杏がげんなりした表情で返す



きらり「ゆゆ?」


崩れた建物の隙間から飛行する影を見ていたきらりが何かに気づいたような声を出す


きらり「にぃにぃ、杏ちゃん裕子ちゃん、あのぴかぴかしてるの見て見て~」

杏「んあ?きらり、あんまり顔出し過ぎたら危ないよ?」

きらり「うゆ...でもでもあれ!きらりたちとは違う方向ばーっかりアタックしてるゆ!」

裕子「おおっ!確かにそうですね!どういうことでしょう?」

杏「杏たち以外のプレイヤーでもいたんじゃないの?今のうちに逃げる?」



きらり、杏、裕子と並んで遠くを睨む。


きらりの言うとおり確かに月明かりの下、翼をはやし縦横無尽に空を駆ける影は別の方向へと飛翔し建造物を投げつけていた

それが空を飛んでいるということに加え、周囲数百メートルの目立った建物が根こそぎ消えたからこそはっきり見える



杏「あっちからはこっちが見えてないっぽいねー」

裕子「つまり反撃のチャンスですか!?」

杏「ちゃうわ、今のうちに事務所に行くんだよ。んでもってきらりのキーアイテムとやらを探しちゃうんだよ」



きらり「杏ちゃん...なんてゆーか...働き者してう?」

杏「っち、ちがうし...どうせだから三人揃って能力あったほうが後々楽できると思っただけだよ」

裕子「そうでしたね!では早速向かいましょう!」

杏「だから待ってってばタイミング見てよ」

思わず力んだ風に裕子が立ち上がろうとするのを杏が服の裾を掴んで止める



きらり「でもでも~、事務所ってあのぴかぴかしたのがペっちゃんこ~ってしちゃったんじゃないかにぃ?」

そこにきらりが口を挟む。

聖の攻撃により事務所が既になくなっている今、確かにその可能性は大いにあった


裕子の言によれば事務所の近くあるらしい高層ビルを始めその周辺の建物は根こそぎにされている。

その中に事務所そのものが混じっているか、

あるいは他の建物に圧し潰されているのも否定できなかった



裕子「それはたどり着いてから考えましょう!」

きらり「んにぃ!?」

裕子「いえ!もしかしたら無事かもしれないじゃないですか!」

杏「ポジティブすぎる...」



裕子「それに周りの建物が壊滅したおかげで逆に探しやすくなったでしょうし!」

きらり「裕子ちゃん...ものすごーくぶっそーな発言だゆ...」

杏「じゃあ危険地帯を迂回しつつ~って感じで行こっか...はぁ、めんどくさい」


そう言う間にきらりが杏を背負う、ここらへんは二人の無言のコンビプレイだった

一方、裕子も周囲、正確には聖を警戒するようにこそこそと建物の影から這い出す



先頭を切った裕子が四つん這いのまま視線を巡らせ、安全を確認したあと後ろを振り向く

裕子「敵もどうやら別のものに夢中みたいです!さぁ!私について来てください!」

杏「うんありがとー。でもハイハイで行く必要はないんじゃないかなぁ...」

きらり「裕子ちゃん、赤ちゃんみたいだにぃ...」


裕子「むむっ!これが私なりのさいきっく隠密で___」


まだ建物の影に待機していたきらりの指摘に反駁しようとした裕子の声が突如途切れる

杏たちの眼前で、横薙ぎに飛来した物体が衝撃と共に裕子を吹き飛ばした




その物体には羽が生えていた




裕子「いたた...なんですか!?敵襲ですか!?」



地面の上をゴロゴロと数メートルばかり転がっていったところで裕子が勢いよく起き上がる

大したダメージではなかったようだ



きらり「一応無事でよかったゆ...」

杏「...言わんこっちゃない、さっき飛んできたのはなんだったのさ...」


それを見てほっとしたように息をつき飛んできた物体に目をやる。



それは背中から羽を生やしていた。

といってもそれは望月聖のものより数段小さいもので、



「あう、ぶつかっちゃった......もう、スピード出しすぎだよぅ」



「た、手綱が我が手を振り切ったのだ...うぅ(うまく操作できなかったんですよぉ...)」



そして杏たちの目の前でパラパラと解けながら消えていった




それは望月聖の能力とは別のルーツより発生した飛行能力

杏「は?」

きらり「ゆ?」


局所破壊から広域殲滅、そして飛行まで可能にする能力者、神崎蘭子


そして、彼女の胴にしがみつくようにして一緒に飛んでいた十時愛梨


裕子と衝突した二人が腰や背中をさすりながら起き上がった





愛梨「あわっ!?裕子ちゃん大丈夫っ!?ごめんね!」

蘭子「す、すまない超能力者よ...」

裕子「飛んできましたね!?さいきっく飛行ですか!?」


二人が慌てて裕子に駆け寄るが本人はそれほど堪えてないようだ。

ユニットを組んでスタミナに余裕があるおかげだろう


蘭子「然り...でも本当にごめんね?......飛んでたら他のプレイヤーが見えたから、つい嬉しくて飛び込んじゃいました...」

杏「え?なに?蘭子ちゃん、空も飛べるの?」

きらり「羽、ぱたぱたちっちゃかったにぃ」




蘭子「い、否...我の能力は一つにして一つにあらず...」

愛梨「って、それどころじゃないんだよ!」

能力の説明をしようとスケッチブックを取り出した蘭子を遮る形で愛梨が焦った声を上げる




杏「それどころじゃない?まぁそうだよね。さっさと逃げないと...」

愛梨「それです!」

蘭子「失念していた...火急の用なり!(そうだ!大変なんです!)」

杏「わっ!?」

裕子「わぷぷっ」

きらり「にょ?」

杏の言葉に愛梨が身を乗り出し、抱き起こされていた裕子の顔が胸にもぐり込む



同時に遠くから倒壊音が届く。

聖の翼がまた何か巨大なものを壊したらしい





蘭子「獣爪の......みっ、みれ、美玲ちゃんが!」




愛梨「私たちを逃がすために一人で...!」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




周囲数百メートル上の道路が地図から消えた



望月聖は下界を見下ろし、そう判断した




眼下には地盤ごと掘り起こされ無造作に放られ、一つとして直立を保った建物は見当たらない



道路もなぎ倒された建造物の下に完全に埋もれてしまっている



幼児に散らかされた積み木のような無秩序の荒廃の風景



彼女の能力は、この状況をものの数分で作り上げてなお傷一つ付けず夜空に照り映えていえた



聖(ボット)「だいたい...こんな感じ、ですか...?」



それでも仮想現実は広く、視線を遠くにやれば数えられる程度とはいえ無事の建物はまだ残っている



それでも、この近くにいた存在は全て瓦礫の下敷きだろう



聖(ボット)「.........」



翼の角度を調整し、高度を落とす。完全に着地することはない。



度を越して派手な破壊活動のあとだ。いつまでも空にいれば目立って仕方ないだろう



斜めに傾いたり、完全に天地が逆転したビルが何の法則性もなく並んでいる




聖(ボット)「...私を、守って」



飛行と攻撃のために広げられていた翼が繭のように背中から前へかけて聖を包み込む


外の様子を伺う隙間を作るためと、最低限の移動のため二枚だけは閉じられずに広がっている


その翼の白さのせいか、聖の外見が羽を生やした卵そのものになる


聖(ボット)「......ほたるちゃんや、藍子さんは...上手く出来ているでしょうか...?」


ボットが今どのくらいいて、どのくらいプレイヤーを圧倒しているのか、少ない情報で推測を行う


聖(ボット)「(ほたるちゃんの能力は、ほぼ自動操縦だから、本当ならどこかに隠れていればそれだけで十分勝てるよね)」

どこかを固まって飛び回る鳥類の群れについて考える


聖(ボット)「(藍子さんの能力は、能力の範囲が狭いし、藍子さんものんびりしてるからプレイヤーに逃げられたら不利...かも)」

自分とほたるより遅れて出発した仲間のことを考える



聖(ボット)「でも...藍子さんの能力は、勝ち負けとかそんなじゃないし...考えるだけ無意味」

しばらくして思考を打ち切る


なぜなら複雑な作戦は必要ないから。

自分の翼は絶対の存在であることは確定している


どんな大きさの、

どんな固さの、

どんな鋭さのものが、

どれだけの速さで自分に向けられようと


私の翼に触れれば全て塵になる



聖(ボット)「だから...気をつけたほうがいいのは、変な能力を持ったプレイヤーだけ」


物理的に自分の敗北はありえないが、能力がプレイヤーに何をもたらすかはわからない


自分が既に持っている情報を見直しても、塩見周子や高森藍子という予測不能な例外がいるのだ


用心するならその一点だ。

と聖が結論を出したところで


ガゴォン!!!


聖の近くで不安定な角度で立っていたビルが崩れる

空を飛んでいる聖には砂粒一つ当たらない、だが


聖(ボット)「......?」

滝のように流れ落ちた瓦礫が停止する

それは次の瞬間一固まりにより集まり、巨大な腕の形になった

腕の先には一本一本が氷山ほどの大きさもある爪が生えている


美玲「ウチが相手だぞッ!」


重力に逆らい能力により稼働したコンクリの腕と爪が空中の聖を襲う

その手のひらだけでも卵のように丸まった聖を握り潰せるほどの大きさだ


美玲「らぁっ!!」


美玲の腕力ではなく能力そのものの力が爪を食い込ませる


聖(ボット)「...むだ...」


そしてそのまま、握り締めた爪も指も消失した


聖は何もしていない、翼も聖を包みこんだままピクリとも動いていない


それでも翼に衝突した爪は、腕や指もろとも粉塵になっていた


美玲「オマエ......聖か...?」


自分の攻撃がみじんも効果をなさず砕けていく中、美玲が警戒心を露にしてつぶやく

翼の盾の隙間から聖の顔が覗いていた



瓦礫に半ば埋もれ、倒壊した建物の中にいる美玲と何もない空を浮かぶ聖の視線が交差する



美玲「ウチらのことムッチャクチャに攻撃してきやがって!!ぜってー許さないかんなッ!!」

聖(ボット)「......そう」




獣が吠え、天使が見下ろす

森羅万象を砕き操り自らの武器とする早坂美玲

森羅万象を寄せ付けず一方的に破壊する望月聖



そして戦闘が始まる


地面は掘り返され土くれの山に


建造物は粉々に砕かれ灰色の砂に


形あるものが消え、街の名残が消えていく


二人の戦いが終わったとき


仮想現実の一部が完全な砂漠と化すことになる




そのとき、倒れ伏しているのは___




______________

 双葉杏+  147/300
   


______________

______________

 諸星きらり  147/300



______________

______________

 堀裕子+   147/300



______________

______________

 神崎蘭子+  69/100
   


______________

______________

 十時愛梨+  61/100



______________

______________

 早坂美玲+  50/100



______________

ゲーム開始75分経過
早坂美玲VS聖(ボット)
開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
星輝子&大和亜季




キノコ型ボットは強くなる



自身の生みの親である能力者、星輝子の危機の応じて。



彼女のスタミナが減るごとに体積を増し、力を増す


完全逆襲型の能力者ならぬ能力茸


ボットが輝子を追い詰めれば追い詰めるほどに

その敵の前により高い壁として立ちはだかる




ジャイアントキノコ「FFFFFFF!!!」


ガァンッ!


2メートル近くまで膨れ上がったキノコの、その笠が頭突きを振るう


くらった相手はその体をくの字にひん曲げ地面を転がっていく



頼子(ボット)「なるほど...大した威力ですね...」



頼子の声は平淡で、それでいて好奇に満ちていた



輝子「ど、どう...どうして...!」



対する輝子の声はその真逆、混乱と焦燥、目の前の光景を許容できない、

あるいはそれを拒否するかのように焦点が定まっていない




地面に膝をついた輝子のすぐそば


亜季「ぐ、くくく...」


大和亜季が苦しげに呻きながら体を起こす





”キノコから頭突きをくらった”肩を押さえながら





ジャイアントキノコ「FFFFFF!!」

頼子(ボット)「ふむ、やはりこちらのキノコさん...輝子さんのダメージにのみ、反応するようですね...」



ゆらゆらと頭を揺らすキノコの横に怪盗が並び立つ


まるで今ここにおいては古澤頼子こそがそのボットの主人であるかのように



輝子「どうして......どうしてなんだマイフレェェンド!!」




何羽ものカラスが黒い円を描いて三人の頭上を飛ぶ

キノコが足の形をした根っこで地面を踏み鳴らす



それらはそれぞれ白菊ほたる、星輝子の「所有物」だった



頼子(ボット)「どうしてでしょうね...わかりませんよね...?」


「...いつ、どこで、何を盗まれたかなんて...」





それらは今

古澤頼子の「コレクション」となっている




ゲーム開始75分経過

大和亜季&星輝子
VS
古澤頼子(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次回開始する戦闘シーンを選択してください
安価下

1、南条光 白菊ほたる 古澤頼子

2、望月聖

3、本田未央&島村卯月&水野翠&佐城雪美&古賀小春

4、高森藍子 

これの続編で二十代以上が参戦したらこの戦いはどうなるんだろうなとか考えてたけど

しゅがーはぁとが物理的に無双している姿しか見えない

あと芳乃ちゃんとかもいるしなー

次回作はモバマスで妖怪大戦争とかしたい(未定)


4

そういや、博士達はどうしてるんだ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゲーム開始60分経過時点



八神マキノ

自分の分身の立体映像を遠隔地に出現させる能力



例えるなら幽体離脱

仲間に説明するときそうは言ったが

実際のところそれは千里眼に近い能力だった


距離を無視した視界を確保し、それと同時に本体はこの世界から一時的に消える

100%安全な状態で一方的に情報をかき集めることができる



望月聖が干渉するもの全てを破壊する「無敵」だとするなら

八神マキノは全てのものから干渉されないという「無敵」



彼女がボットではなく人間だったらなら、やや驕りととも取れるそんな感情を持っただろう

その能力にとって、仮想現実は「テレビ画面の向こう」だった






そして今




「___ほかの方の協力は必要ありません」





もし彼女が人間なら、そこにある感情は恐怖だった






藍子(ボット)「だってほら、フロントメンバーの攻守交代はもう始まってますし」

マキノ(ボット)「か...らだ...動かない...?」



テレビの向こうから伸びた手が彼女を掴んでいるかのような、ありえない状況




八神マキノは捕らえられていた

目の前にいる高森藍子に





マキノ(ボット)「い、いきなり...どういうこと...」

藍子(ボット)「...いきなりって...私の目の前に急に現れたのはマキノさんじゃないですか」



実際に藍子の手指がマキノに触れているわけではない

だが、現に藍子が何らかの動きを見せ、マキノの体が動かなくなった



マキノ(ボット)「(どういうこと...元々転移先からの移動はできなかったけれど...)」

「(指一本動かなく...それに...離脱、能力の解除すらできないだなんて)」


能力を無効化する能力?いや、能力自体は発動している。ただし解除ができない

相手の体を動かなくする能力?それも違う、そもそも私の体はここにあってここにないのだから

今分かっているのはただ一つ、自分は藍子の能力の範囲内に踏み込んでしまったこと



藍子(ボット)「あ...皆さんはもう出発されるんですね?」

マキノ(ボット)「......あなたたちは...」



目線だけを藍子から外す。

藍子の背後からほたると聖が歩いて来ていた

聖は寝起きのように足元が頼りなく、ほたるは気が急いているのか頻りに周囲を気にしていた



ほたる(ボット)「あ、藍子さん...そちらの方は?」

藍子(ボット)「私の能力に引っかかったんですが、こっちで何とかしておくのでほたるちゃんはほたるちゃんで頑張ってきてくださいね?」

ほたる(ボット)「?...分かりました、えっと...頑張ってきます」


それと同時にほたるの背中が気球のように膨れ上がる。

黒を基調とした衣服の背面が彼女の身長の数倍に達し、そして破裂した

そこから黒い血飛沫となってカラスが四方に飛び出していく



マキノ(ボット)「(これは...音葉さんの生み出す武器どころの量じゃない......!)」

そのうちの一部がほたるに取り付き、羽ばたく。

何十羽ものカラスが彼女を引き上げ、その体が地面から浮かび上がり始めた



聖(ボット)「.........なら、私も」

そういう聖に後光が差す。

そして彼女の背中から後光の正体、輝く翼が六枚姿を現した

ほたる(ボット)「それでは、行ってきますね...」

聖(ボット)「行って...きます...」

藍子(ボット)「行ってらっしゃい」

黒い羽と白い翼をまとい、少女たちが空へと消えた



それを見送ったあと藍子がつぶやく

藍子(ボット)「......あの子達も大変なんですよ」

マキノ(ボット)「...どういうこと?」


藍子(ボット)「あの子たちは能力のはこの仮想世界に対して容量が大きすぎるんです、だから『夜』まで能力の使用を待つしかなかったんです」

マキノ(ボット)「それは知ってるわ、光の反射や屈折を逐一計算している状態の世界ではサーバーの処理が追いつかないんでしょう?」


藍子(ボット)「......光だけではダメなんですよ」

マキノ(ボット)「なに?」


マキノが聞き咎める、この能力の本文は情報収集。

会話からだけでも得られるものはあるはず


藍子(ボット)「この世界は一つのテーブルの上にあるのと同じです...」

マキノ(ボット)「そして、そこに我々ボットやプレイヤーが乗っていると?」

藍子(ボット)「乗り切らないんですよ......光の計算処理を一部除いただけでは」

マキノ(ボット)「乗り切らない...?......ぐぅっ!?」


藍子が手を差し伸ばす、マキノとの距離が少し短くなる

同時にマキノの体が縮こまった、全方位から圧力をかけられたようにその体が折れ曲がる


藍子(ボット)「聖ちゃんの翼はもちろん、ほたるちゃんの使うカラスは見た目こそ小さいですが、スペックはボット一人と同等...そんなものを数万羽、テーブルに乗り切るわけがありません」

マキノ(ボット)「だ、だから...他のボットまで、仲間まで...手にかけようというの...!?」

藍子(ボット)「これが私たちの下した結論......人工知能が導いた結果です」



マキノ(ボット)「だったらせめて...」

今ここに、自分より少し遅れて愛海が来ている

ここにこさせるのはまずい、どうすればいい


なんとかしてこの事実を、『夜』が味方でないという事実を愛海に伝えなければ


藍子(ボット)「乗り切らないどころか、無理に乗せればテーブルそのものに大きな穴が空いてしまいますから...」

マキノ(ボット)「せめて...最後に、あなたの能力を......教え...」


どうすればいい、時間を稼ぐ?能力の謎を解く?

この世界のどこにもない体で?




藍子(ボット)「能力...私のですか?」

マキノ(ボット)「そうよ...私を縛ってる、この、能力くらい、教えてくれても......」



藍子(ボット)「ん......えっと...?」

マキノ(ボット)「......?」


マキノの言葉を受けた藍子が何やら難しい顔をする、

先刻の言葉に何か腑に落ちない点があったかのように


藍子(ボット)「.......そうですね...なんと言いましょう」

マキノ(ボット)「......」


時間を稼いだところで自分は助からない

だが今の自分で最大限にできることは、ある


マキノのボットとしての知能は一つの可能性を見出していた


”二宮飛鳥が今の自分たちを盗聴している可能性”に


愛海が、藍子に倒されるマキノを見て、さらに逃げおおせる可能性もないことはないが、

遠く離れたアジトで飛鳥が『夜』についてより詳しい情報を手に入れてくれる公算の方が高かった


マキノ(ボット)「(元々私は戦闘向きじゃあない...これだけの時間が経った今プレイヤーも一筋縄ではいかない......足でまといになるくらいなら、残った仲間に能力の情報だけでも...!)」


”残った仲間”


向井拓海については聞いていたが、

彼女はそれ以外も予測がついていた

梅木音葉、橘ありす、結城晴、福山舞、桃井あずき


これだけの時間が経過しても戻らない、仲間たちの辿った結末を


マキノ「(戦力外たちの宴...正直ふざけた名前だと思ったけど、私は確かに最期まで戦力外だったみたいね)」


今、「戦力」として動いているのは六人

島村卯月、本田未央、佐城雪美、水野翠、古賀小春、市原仁奈

そして予測がつかないのが二人

二宮飛鳥、遊佐こずえ

飛鳥は拱手傍観を決め込んでいるし

こずえに至っては戦力どころか戦闘力すらない

この世界がテーブルで、その上にボットがいるというのなら、こずえはどこにいるのだろう

マキノ(ボット)「.........(小梅さんの遺体といい...結局、私に理解できたことは何もなかった...)」


藍子(ボット)「あの...マキノさん...”この能力”って言ってましたけど...」

マキノ(ボット)「!!」



思考を巡らせていたのはマキノだけではない

藍子が考えをまとめ終わったように口を開く

その間もマキノの体は指一本動かず、今にも押しつぶされそうな圧力がかかっている



「まだ使ってないんです、能力」


「............は...?」


困ったような笑みを浮かべ、藍子は言う


「マキノさんの今の状況は、あくまで能力の過剰な容量による副産物です」


「そん、な...」


がさり、マキノは背後からの物音を聞いた


最悪のタイミンげで、同胞が訪れる


愛海(ボット)「あっ!藍子ちゃ__」


マキノ(ボット)「あつっ...逃げ____」


藍子(ボット)「それでは、能力を使いますから___」





「___ちゃんと感じてくださいね?」





八神マキノ(ボット) 消失

棟方愛海(ボット) 消失

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゲーム開始?分時点



それは一人の少女の夢の続き



一面の真っ白なガラス越しに街を見下ろす曖昧な夢



こずえ(ボット)「.........」



ガラスの床は所々丸く切り取られている。


人一人が通過できるほどの丸穴



小柄なこずえならなおさら余裕を持って通過できる直径だ



こずえ(ボット)「......これ...ちがうー...」


だがこれは彼女の「入口」ではない

確かに見た

別のボットがここを入口に使っているのを


ならばこの穴はその彼女のものであり、こずえのものではない



入口はひとつではない、


大きさの大して変わらない丸穴はそこかしこに用意されている


だがどれもこずえではない誰かが潜っていった





仮想の世界の”歪み”を象徴するポッカリと空いた穴から

ボットとしての”能力”

世界を歪める力を授かりながら



こずえ(ボット)「...こずえのは...どこー...?」


ここに留まっている自分には無いもの


ここを抜け出すことで手に入るもの






にゃあお




こずえ(ボット)「.........ねこー?」


白い世界に黒点


その子猫の黒い体はこの場所によく映えた



こずえ(ボット)「...ねこー......」



てくてくとどこかへ歩き出した猫を追う


穴だらけの床を恐れることなくまっすぐ歩んでいく



にゃぁあおー



こずえ(ボット)「......待ってー...」



やがて猫が立ち止まり、こずえもそこに並ぶ

そこにあったのはまたしても丸い穴、

だが他の物より数段小さい。


それこそ子供しか入れなさそうなほどに


こずえ(ボット)「!...これぇ...これ...だよー」


根拠はない、だが確信があった

ついにみつけた。


猫に連れられ見つけたこれこそが遊佐こずえの能力のための歪み



座り込んで、丸い入口の外周をなぞる


傍らを見ると黒い子猫もまたじっと佇み、こずえを見返していた



こずえ(ボット)「...ありがとう...こずえ...いくねー?」


にぁおう


ガラス越しではなく直接に下を覗き込む

そのまま落ちていこうとしたところで



ふしゃーーっ!!



突如、子猫が吠えた

尾を立て、毛を逆立てて対象を睨んでいる


こずえ(ボット)「...どう...したの...?」

子猫の視線を追う

そこにはただ白い背景があるだけ

誰かがいるようには見えない、だが


ぴしり


こずえの入口、その外周にヒビが入った


何者かが体重をかけたように


正円に歪みが生まれる、子猫は未だ吠え立てている

知らず知らず、宙を見つめたまま視線が動かせなくなる

こずえ(ボット)「......あなたー...だぁれー?」


ぴしりぴしり


これは侵略だ

誰かがこずえの物を横取りしようとしている

世界の条理に逆らって

遊佐こずえにしか使えないものを遊佐こずえ以外の誰かが使おうとしている


「     」



猫でもこずえでもない誰かがこの場にいる


亀裂がその存在証明だ


丸い穴が歪曲する



こずえ(ボット)「...だめ...だめー」



今やはっきりとその存在を感じ取れる

誰か、侵略者の見えない姿を

それを食い止めようと、せめてもの抵抗に手を伸ばす







「      」

こずえ(ボット)「ぇ?」



何かを言われたような気がした


気配が消える


こずえの入口の向こうへと

こずえの歪みの向こうへと







こずえ(ボット)「.........だれかを...さがしてる、のー?」





夢が終わる



ゲーム開始?分時点

遊佐こずえ(ボット) 能力未獲得

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


死者の行進


十数分前に夜の帳が下りた仮想世界にそんな光景が展開されていた


のあ(ボット)「......損傷が酷い...ここに来るまでにどれだけが無事でいられるか」


カラスの飛び交う空を忌々しげに見つめる

問題はこのカラスの存在そのものではなく、カラスがこの街へ蓄積させていくダメージだ


カァアアーーー!!

ザシュッ!!


地面すれすれを飛行していたカラスが切り裂かれる

切り裂いたのは死者のごとき存在

枯れ枝のように細くなった手足に申し訳程度の肉付き


スプーンでくり抜かれたように大きくえぐれた胴体

人間の形を保っているのが不思議なほど歪んだシルエット


それが何体も何体も何体も何体も何体も行進している


共通の目的地へ向けて、崩れそうな足を引きずり


指の代わりに誂えた槍のように尖った腕でカラスを追い払いながら


盲進し、前進する



アナスタシア(ボット)「...このカラス...やはりなにかの能力が...あるようですね、私の氷、ボロボロです...」


のあの側で武器である氷柱を構え、

同じく飛びかかってくるカラスをいなし、叩き、突いていく


のあ(ボット)「この街全体に散らしていた『私』の一部がこれほど減らされるなんて...」


暗くなった街の小さなオフィスビルの屋上から道路を見下ろす

そこに広がっているのは自分

つまり高峯のあというボットの「本体」へ戻ろうと足を動かす死者の群れ

村上巴に襲い掛かった人形達のような風貌の、瓦礫でできたゾンビたち

これら一体一体がかつて高峯のあの一部であり、

物体の中に侵食することでそれを支配し、操っていたものの正体

そうして仮想現実の街中に張り巡らされたのあの骨肉が今、彼女の下に帰還している


カァアアアーー!!


そして同時に先程から、何百体と並び眼下を埋め尽くす行進にカラスが襲来していた

のあのコントロールが可能な範囲では迎撃が試みられている

だが粗末な人形のボディで飛ぶ鳥を落とすことはボットにとっても非常に難しく

瓦礫の人形からただの瓦礫へと朽ちていき

カラスの体当たりに次々と沈んでいく



アナスタシア(ボット)「アー、地面や建物の中を...潜らせてはダメなのですか...?」

のあ(ボット)「そうしたものはどれも最初の段階で朽ち果てていったわ...あのカラスに触れられるだけで消失してしまったみたい」


だからこその死者の行進

だからこその人形形態

高峯のあの一部をカラスから守りながら本体へ運搬するための手段



アナスタシア(ボット)「...まさか『夜』がここまでのものとは...思いませんでした」

のあ(ボット)「そうね、街中に同化させていた『私』のうち...いきなり三割近くが使い物にならなくなったのは予想外だったわ...」


高峯のあ、物体と一体化する能力者


その能力により直接攻撃により受けるダメージを散らしてきた


上半身が破壊されようと修復は容易だったし痛手でもなかった


ア”ァアアアアーー!


だが、こうして散らばった彼女全体に同時に攻撃を仕掛けられれば___


白菊ほたる

彼女は間違いなく高峯のあの天敵だった



数百体に及ぶ死者の行進と死肉を漁るカラス


世界の片隅に地獄絵図が花開く



_____________

 アナスタシア+ 60/100


_____________
_____________

 高峯のあ+   55/100


_____________




ゲーム開始80分経過

報告事項なし

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



その地獄絵図を遠く眺める者がいた


藍子(ボット)「......あのあたりですか...ちょっと遠いですかね」


町外れの廃屋を出てのんびり歩くこと数分

藍子はようやく街に踏み込んでいた。

他の二人と比べるとやはりその速度は数段落ちる

散歩でもしているようにしか見えない進行速度、だがボットである彼女に無駄はない



藍子(ボット)「あっちの建物がなくなって閑散としてる場所は...多分聖ちゃんがいるのかな」

「カラスは......その逆方向に集まってますね....近いほうから向かうとしましょう」


月明かりを遮る黒い雲、幾千のカラスの流れを観察する


彼女はカラスたちの、ボットやプレイヤーを優先して攻撃する習性、否、「機能」を知っていた


そして自分とほたるだけはカラスの災禍が通じないことを把握していた

ガ、ガァア...ガアガ...


「あぁ、私のところにも来てたんですか...」


藍子もまた現在進行形で無差別破壊の標的だった。

彼女の周囲には二重にも三重にもカラスが飛び交い、そして嘴を向け飛来している



すでに廃屋から街に来るまでの間に、カラスによる藍子への攻撃は三桁を超えていた



そしてその全てが失敗していた




「そういうのは、私には効果がありませんよ?...あぁ、ほたるちゃんに言わないと意味はないですね」


藍子はゆるりとカラスに目を遣る、



彼女の周囲数メートルで空中に剥製のように固まったカラスたちに、


片腕を振る、その動きだけで停まっていたカラスの体表にノイズが走り、消滅した



『夜』が始まってから今の今まで、


藍子に攻撃を仕掛けたモノは何であろうと不可視の壁に阻まれ、停止した


そして彼女の判断次第ではその姿も最初からなかったかのようにかき消されていった


「あぁ、もう...次から次へと...ほたるちゃんに、私のところへは来ないようちゃんと頼んでおくべきでした」


のんびりとした歩みの彼女は素早いカラスには格好の標的で、

同時に彼女の能力は途方もない障壁だった


「...あれ?あの家...カラスがいっぱい集まってますね」


学習することなく自分に向かってくるカラスが流れ作業的に消滅していく中、

彼女の視界はそれを捉えた



ボロボロに朽ちた住宅が並ぶ中、周りより少しだけ小奇麗な屋敷が鎮座している


カラスの能力が及んでいない建物、

それはつまり建物よりも優先される存在が中にいるということだ



「ボットでしょうか......プレイヤーだといいですねっ」



そして彼女は丁寧に玄関口に回り、扉を開けた



___________

 高森藍子+ 100/100


___________




ゲーム開始80分経過

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
???



小さな白い女の子を押しのけたのが一時間前




人形のように空っぽの体を手に入れたのも一時間前




そこから一時間、体の動かし方を延々と試し続けていた




起き上がるどころか瞬きすらできなかったようだ



だから死体と間違われ、置いていかれてしまった



そばにいた友人に何度か呼びかけたが聞こえなかったらしい




静かな部屋に咀嚼音が響く



「それ」は何かを食している



仮想の世界の中で食事に勤しむというのは異常事態だが



それは栄養補給のためではないだろう



その行為の意図するところを少ない判断材料から推測するに、


「それ」が摂取しているのは容量だった



他人の入口に横入りし、

別人の体を乗っ取って、

あちこちにガタが来ているのかもしれない


こうして動けているのがギリギリである今、

余分なスペックが必要だったのだろう




窓から入ってきていたカラスを咀嚼している

部屋の隅に生えていたキノコを食い尽くしていた




他のボットを吸収することで肉体を保とうとしている




断っておくと、これらの記述は全て推論に過ぎない




生あるものに、ましてや現代科学でそれを完璧に説明することなどできない




部屋の扉が開いた



藍子(ボット)「えっと...おじゃまします」



そして邂逅する




「    」


「うーん...あなた、ボットですよね...?バッジがついてますし...」


「    」



「あの...?...」



「 . ・」



「それ」は小さくて細い指を蠢かせた



呼応するようにその肉体が変化する。


吸収したボットがその動きに応える



カラスの羽が寄り集まり、背中から黒い翼が


キノコの細い根が捻り合わされ手足の短さを補うような触手が



藍子(ボット)「あぁ、あなたも他のボットはいらない、と...」





藍子(ボット)「...小梅ちゃん」



小梅(ボット)「 . ’ ..・」






藍子は自分に向けて鎌首をもたげた触手からその意味を悟る


大きすぎる能力にとってこの仮想世界は非常に窮屈だ


味方のボットすらも障害でしかなくなってしまう程に


だから敵意を向けてきた、と判断した



彼女が知らないのは唯一つ


相手が望んでいるのは彼女のスペックであること


そして彼女の相手はボットではないということ

もしかしたらプレイヤーでもないということ




遊佐こずえの能力を奪い

白坂小梅の死体に取り憑いた




科学の世界にとって冒涜的な存在



藍子(ボット)「それにしても...小梅ちゃんは変わった能力ですね。もう、原型をとどめてないじゃないですか...」












小梅(あの子)「 ・.. ・ ’・’ 」











ゲーム開始86分経過

高森藍子(ボット)

VS

白坂小梅(あの子)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
星輝子&大和亜季



倒壊したビルと周囲を渦巻くカラスの群れが状況を密室じみたものにしていた



頼子(ボット)「見知らぬ街、見知らぬ世界、初めて体感する虚構...」



亜季「輝子どの!私の背後に!あなたのダメージはこの状況を悪化させます!」

輝子「ごっ、ごめんなさい...わ、私のせいだ...」

接近戦は3メートル近くなった図体を縦横に振りたくるキノコが対応し

離れた場所からの銃撃はカラスが視界を遮り狙いをつけられない



頼子(ボット)「そんな中プレイヤーが信用できるもの、それは他の人間と、そして自分の能力です...」



そして遠くも近くもない距離、キノコからもカラスからも絶妙な間隔を保ったまま

古澤頼子が独り言にも似たつぶやきを漂わせる

怪盗のマントが闇にはためく





頼子(ボット)「私が盗むのはそういうもの.....絶対の信用を置いた、絶対に安全だと思われていたモノを頂いていくのです...」




亜季「訳のわからないことを...!」

輝子「そういえば、亜季さんの能力あ...まだ、わからないんだったな...」



手に持った小回りのきく拳銃を振り回し、カラスを追い払う

発砲してもいいのだが群れの数に対して残弾が足りない



亜季「輝子どの!あの菌類を消す手段はないのですか!」

輝子「わ、わかんない...出すのはわかる、けど、また盗られるのは...ヤダ」

亜季「たしかにご遠慮願いたいでありますな...っと!」



向かってきた一羽に亜季の長い脚から繰り出される上段蹴りが命中する



頼子(ボット)「......あぁ、それはやめたほうが良かったですね」



余裕のつもりか腕を組み、あまつさえよそ見していた頼子が言う


亜季「こんな風にチマチマとみみっちく攻撃してきて何をっ...!?」

輝子「ッ!?...ど、どうした!?」



亜季の顔が苦痛に歪む、上段蹴りから下ろした足に強い違和感があった


幸い痛みは一過性のものだったが、思わず膝をつく



頼子(ボット)「このカラスの能力は耐久力の低下、生身で触れればプレイヤーさえも対象です」



__もしこれが仮想でなければ、足の骨が砕けて別の方向を向いていたでしょうね___



そんなありもしない仮定を口にする



亜季「...油断したであります...」


輝子「(頼子さん...どこ見てたんだろ?)」


亜季の背に隠れながらこっそり頼子の目線を追う

そこは崩れてきたビルの残骸で出来たバリケード。

その上にカラスが何羽かばかりとまっている


輝子「(どうして一気にかかってこないんだろう...?...あ!)」


電源が切れたように微動だにしなかったその中の一羽が慌てたように羽ばたき始め、

辺りを飛ぶ一団に加わった


輝子「(さっき...亜季さんが倒したから?)」

細い指で亜季の背中をぐっと掴む


亜季「!...なんでありますか輝子どの?」



輝子「よ、頼子さん...なんかヘン...だよ?」

亜季「それは...どういうことで?」

輝子「...えっと___」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


頼子(ボット)「...二対一、いえカラスたちを併せて二対十ですか...」

「ボットはボットでも...もう少し高度な思考回路を備えたものも交えたいのですけどね...」

「蠱毒と銘打ったからには...この仕切りをどうにかしたいものです」



頼子はバリケードを見る、これを破るには頼子自身はやや火力が足りない

壊そうと思えば壊せる策もあるのだが、少し時間がかかる



頼子(ボット)「他の戦いが終わっていなければよいのですが...」



確認事項としての独り言をこぼす間にも輝子から盗んだボットは彼女の側で泰然自若としている

プレイヤーも何やら密談をしているようだ


頼子(ボット)「.......人間がモデルの機械である私にとって、人間の脳が考え出す作戦というのは未知数にして脅威...一体何が飛び出すんでしょうね?」



彼女が戦闘スタイルとして選んだ「蠱毒」は混戦をこそ望む



能力も戦力も火力も武力もぐるぐるにかき混ぜられ、狭い空間に戦闘情報が横溢していく

その中から必中の策を見つけようというものだ


頼子(ボット)「だから、あまりじっとしていられても困ります」


指を鳴らす

ガァアア”アァ!!

二人を自分側に追い立てるようにカラスが二人の背中を襲う


亜季「...ぬっ!...輝子どの!とにかくその方法で行くであります!」

輝子「フヒッ!?...分かっ、た!」



パンッ!

輝子の柏手を打つ音が瓦礫に反響した

その小さな手の平を出口に彼女の倍はありそうな菌類型ボットが顕現する


パンパンッ!


続いて二体、合計三体のボットが輝子と亜季を囲むように立ち上がった



頼子(ボット)「...ほう、打って出ましたか...!」

亜季「行くでありますよっ!」

輝子「ッシャオラァアア!!行けェ!!」


シャウトを上げキノコの一体にしがみつく、同時にキノコは走り出した。


輝子を傘の上に乗せて


頼子(ボット)「捨て身ですか...」

ジャイアントキノコ「FFF!!」


輝子「目ェ覚ましやがれマイフレェエエエンド!!」


頼子を庇うように立ったキノコと輝子の乗ったキノコが衝突する

大きさ力ともに互角。

2本の足を踏ん張り押し合いになった



そこに輝子の2体目が追撃を加える



輝子「押していけえええ!!!」

同じ力量なら数の差で勝るまで。

頼子側にキノコが傾いていく



頼子(ボット)「おやおや」



だがそれは飽くまで正攻法での話



頼子(ボット)「...そこには私の手が届きますよ...?」



直径2メートルもない円内、古澤頼子の能力範囲


輝子「フヒッ!?」

三体が三体とも頼子の手にかかる。力比べが止まる

頼子(ボット)「さて、亜季さんは...と」

キノコ同士の間から目を通す。その瞬間、輝子はキノコの上から頼子に飛び掛った



頼子(ボット)「!」



輝子「アァイイキャァアンフラァアアイイイイ!!!!」



頼子(ボット)「___まぁ、それはいいとして」

その決死の特攻をこともなげに躱す



そこに亜季の銃弾が飛び込んだ。

頼子(ボット)「!...っと」

亜季「掠るだけでしたか...!」


離れた場所、一体だけ残ったキノコの側で頼子に向けた銃を構えなおす


頼子(ボット)「全く、おいたが過ぎますね...」

三体のキノコが頼子を守るように取り囲む、亜季と輝子から姿が隠れる


同時に飛行していたカラスが亜季めがけて一斉に飛び掛った


亜季「輝子どのっ!!」

輝子「う、うん!」

亜季の側にいた一体が地面に向けて飛び込んだ。


そのまま逆立ちの態勢になる

キノコの傘が独楽の軸のように回転し、胴体と足もそれにつられて回転する



そして飛びかかったカラスが叩き落とされた


糸がほつれるようにしてバラけ、鞭のように伸びた足によって



輝子「き、菌類の根っこ...舐めるな、よ?」



その言葉と同時に足ではなく根としての姿を取り戻した部位が四方八方に唸りを上げてカラスを狙い始めた

ガッ! ガァアッ!



元来、茸にとって重要なのは地中に伸びた根っこである。

ボットであってもそれは同様らしく、

カラスの能力にも簡単には屈せず、結果、飛んでいたカラスは全滅した


亜季「撃ち方よし!」


そして確保された亜季の視界は良好


キノコの陰に隠れた頼子に狙いを定め、引き金を引く

頼子(ボット)「っ!!...」



鉛の弾丸はあっさり盾としてのキノコの体ごと頼子の肩を貫いた




輝子「ごめんよ、マイフレンド...」



だが、まだ浅い。

ボットである頼子はまだまだ倒れない



頼子(ボット)「...なるほど、これをキノコではなくボットとして見ていた私ではできなかった攻撃ですね」



瓦礫のあちこちに留まって待機していた他のカラスが一斉に飛び立つ


逆立ちしたキノコの根が一斉に振り回される


頼子がボットの裏側に完全に身を隠す


亜季の視界に黒い影がちらつく


輝子が叫ぶ



輝子「マイフレンド!最後のひと踏ん張りだァアア!!」


ジャイアントキノコ「FFFFFFFFFF!!!」


頼子(ボット)「今度は先ほどの倍の数です...!!」


亜季「悪あがきを...!」



空気が裂ける音

カラスの悲鳴

銃声



最初に倒れたのは亜季を守っていたキノコボットだった



カラスの能力を直に喰らい続けた根がついに朽ち果て、

その隙を縫うようにして殺到したカラスがその本体を消し去った



そして次に累が及んだのは亜季だった



能力だけでなく、突き出したクチバシでその肉体を狙う


亜季「づあっ!!」

銃廷でカラスを打ち払うが2本の腕ではその攻撃の半分も防げない



頼子(ボット)「輝子さんの捨て身で目を引いてからの亜季さんの中距離銃撃、それもここで打ち止めです」


唯一攻撃を食らった右肩を抑える、当然、流血はない


頼子(ボット)「さて、亜季さんが済めば......あぁ、ユニットなのでスタミナは妙に多いんですね...」






輝子「よ、よぉ...」

頼子(ボット)「......は?」



ずぼっ、と



頼子の周囲を固めていたキノコとキノコの隙間、そこから輝子の顔が覗いた



彼女のコレクションに輝子が無防備に踏み入っていた



至近距離で顔を合わせる




頼子(ボット)「......いつの間に...それに、どうして」


彼女を守っているはずのキノコはピクリとも動かない



友人である輝子を傷つけたりしないとでも言うように



輝子「や、やっぱりだ...!」



『やっぱり』

元々無口な彼女はそれ以上の言葉を発さなかった


ただ服の下から、亜季に渡されたもう一丁の銃を取り出し


ほぼゼロ距離で頼子に銃弾をブチこんだだけだ




タァンッ!!


頼子(ボット)「かふっ......!?」


星輝子が気づいたこと


『多数のカラスを支配下に置いているにも関わらず一度に使う数が少ない』


一羽が亜季に倒された後、近くにとまっていたカラスが動き始めたのを見て、彼女はそれに気づいた


どうして物量で一度に決めてしまわないのか

どうして何羽かを動かさないまま待機させているのか

それを亜季に伝えた。



そして彼女は一つの推論を立てた


それは塩見周子の能力の欠点を見抜いた時のような確固としたものではなく当て推量のようなものだったが、


打開策のために他にすがるべき仮説はなかった





『古澤頼子はボットを何体でも盗むことはできるが、一度に操れる数に限度がある』





キノコ一体も含めてカラス数羽

彼女はそのリミットギリギリで二人を相手していたのでは

だからこそ物量で押し返す作戦を取った

ほとんど賭けのような捨て身の戦法だった

だが、どうやら成功したらしい



輝子「ヒャアッッハアアアアアア!!!バンバンバァン!!」

頼子(ボット)「水を得た魚ですねっ...」


一発当たったのが嬉しかったのか輝子はさらに連射する

頼子はキノコの包囲を抜け地べたを転がるように回避した



怪盗の怪しげな優美さは既に無い



頼子(ボット)「(大体分かりましたよ二人のとった作戦は...)」

「(おそらくどこかで私の能力の限度を見抜いたのでしょう)」

「(だからこそキノコを増やし、私の目を近距離の輝子さんに向けさせた...)」

「(さらにその後...亜季さんの攻撃により今度は中距離に気を引かせる...)」

「(亜季さんの射撃の腕は、この世界でも本物...だからこそ私はそちらを潰すことを優先した)」

「(...亜季さんの近くにいたキノコは、その注意をさらに強く向けさせるためのもの...)」

「(そうしてまんまとカラスを総動員した私は...すぐ近くにいたキノコを待機状態にしたまま...輝子さんの接近を止める手段を持たなかった)」




怪盗は夜の存在だ


だが古澤頼子は『夜』のボットではない


だから能力の質もたかが知れていた


白菊ほたるのように五万羽を操るスペックを持たなかった


怪盗は華麗に盗むだけ

盗んだものをどう扱うかまでは考えない

ただただ観客の意表をついて魅了するだけの存在だ



___だから


頼子(ボット)「私の舞台は...まだ終わりません」

輝子「ハアァッ!?」



ぼたっ

亜季「むっ!」

カラスが地に落ちる。

模造品になったかのように無抵抗にぼたぼたと地面横たわった

同時に三体のキノコが動き出す。

頼子のコントロールがカラスからキノコへ移動した証だ


ジャイアントキノコ1「FF!!」

ジャイアントキノコ2「FFF!!」

ジャイアントキノコ3「F!」


亜季めがけてミサイルのように三体が突貫した、輝子の捨て身を真似るような一直線の攻撃

ひとかたまりに飛び込んできたそれを危なげなく躱す


亜季「っと...自棄になったでありますか?」


輝子「ヒャッハ!よくもオレ様のダチに手ェ出してくれたなァ!オイ!」


頼子(ボット)「......」


1メートルの近距離で輝子が、5メートルの中距離で亜季が銃を構える


輝子の腕前の程は知らないが、これだけ近ければ弾も当たるだろう。亜季なら言わずもがなだ



引き金が引かれ___





頼子(ボット)「.............ライトアップ」




銃声をかき消すような轟音を立てて瓦礫が粉砕される

キノコボット三体の体当たりがバリケードを勢いのままに突き破っていた



頼子(ボット)「知らなかったでしょう?カラスの能力は常時発動型......私が操っていなくてもいいんですよ?」


そこは先程まで頼子が盗んだカラスたちが待機していたポイント

そこだけが特別脆くなって、正確には脆くされていた



次の瞬間、そこから強烈な光が噴き出す



周囲が昼間のような明るさを取り戻す



麗奈「あぁん!?亜季、そこにいたのアンタ!?」

光(ボット)「余所見とは随分と余裕だな!」

麗奈「うっさいわね!!」

そこにいたのは目映く光る剣を構えたボット南条光と、

両手いっぱいに小石を握り締めた小関麗奈



亜季「麗奈...!?」

亜季の注意が一瞬逸れる、だが輝子が銃弾を放った

しかしそこに既に怪盗の姿はない。

二人の中間あたりに飛び込んでいた



急激に空間を満たした激光により亜季と輝子の影がグンと伸びている


その影を踏めるような位置に彼女はいた



頼子(ボット)「さて、怪盗の奥の手をお見せしましょう」



そこは彼女のテリトリーだ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


______________

 大和亜季+  80/200


______________
______________

 小関麗奈+  80/200


______________



______________

 輿水幸子  140/300


______________
______________

 白坂小梅  140/300


______________
______________

 星輝子+  140/300


______________



怪盗の指が妖しく蠢く



ポンッ

そんな間抜けな音を立てて

古澤頼子の盗みは完了した



幸子「なっ、なんですかコレ!?」


小梅「しょ、しょーちゃんが...!」



麗奈「はぁっ?なにコレ!!アタシは何もしてないわよ!?」



壁の向こうでそれぞれが驚嘆の声を上げる

観客の意表をつくどんでん返し



怪盗が最後に盗んだものは



頼子(ボット)「言ったでしょう?............『他の人間と、そして自分の能力』」



「『私が盗むのはそういうもの。絶対の信用を置いた、絶対に安全だと思われていたモノ』と......!」


______________

 小関麗奈+  79/100


______________
______________

 輿水幸子  139/200


______________
______________

 白坂小梅  139/200


______________




______________

 星輝子+   1/100


______________
______________

 大和亜季+  1/100


______________



五人の目の前にパネルが浮かび上がっていた


それは五人のユニット登録のときに表示されたもので___



亜季「こ、れは...!!」

輝子「ぼ...ボッチになっちゃった...」



頼子(ボット)「ユニットを組むというのもプレイヤーにのみ許された能力だったんですよ?」


「...だから盗みました。驚いたでしょう?私が盗んでいたのはボットではなく...能力の一部だったんです」





亜季「!!......だがもう一度組み直せば.........ッ!?」


トン


輝子「フヒっ?」


トン


肩を叩かれたような軽い感触


見ると、そこには小枝のように細い、

大したダメージも与えられなさそうな、



それでいて鋭く尖った刃物が刺さっていた















あやめ(ボット)「生憎と、忍のわたくしは直接戦闘は不得手ゆえ」





彼女は頼子の背後、ビルと瓦礫の隙間にずっと潜んでいた、

それら二本を投擲したあと暗闇から姿を現す




あやめ(ボット)「かような、暗殺の真似ごとになってしまいました」




亜季「____」

輝子「____」



彼女の能力なら武器を持った人間を闇討ちすることなど容易い


細い刃物一本、たったそれだけの、痛くも痒くもない攻撃だったが


だがそれでも、ダメージはゼロではない




頼子(ボット)「やはり混乱は良いものですね......光さんがビルを倒壊させた時にはどうなるかと思いましたが...」

「光さんとの約束も守れました......正真正銘、あなたが望んだ麗奈さんとの一騎打ちです」


あやめ(ボット)「多人数戦なら勝てると申していたのは、こういうことですか......」



頼子(ボット)「ふふっ......怪盗の手管に驚いていただけましたか?忍者さん」









______________

 星輝子+   0/100


______________
______________

 大和亜季+  0/100


______________



蠱毒の壺の一角が落ちる

怪盗と忍者だけがそこに立っていた






ゲーム開始78分経過


小関麗奈VS南条光(ボット)

継続中



大和亜季&星輝子
VS
古澤頼子(ボット)


勝者:古澤頼子(ボット) 浜口あやめ(ボット)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下

1、輿水幸子&白坂小梅&小関麗奈

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨

4、渋谷凛


イレギュラーチャプター

(安価+5までに過半数の投票で閲覧可能。別の安価との同時投票は有効)

5、池袋晶葉&一ノ瀬志希&佐城雪美&岡崎泰葉



4と5、っていう風に指定していいの?

そういう意味じゃないなら4で

>>537
そう言う意味です
わかりにくくてすいません

4 5

5

2 5

大和軍曹死んでしまった…
残念だ

4

そう言えば、軍曹はせっかく獲得したのに能力が判明しないままだったな……

軍曹のアイテムは確か……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛


雪美(ボット)「............」



にゃあおー



予知能力者、佐城雪美の腕の中に抱かれた子猫の電話が鳴く



凛「......っはぁあ...はぁ...!」



現実世界に帰ってきたのかと錯覚するほど見慣れた風景


完全にリアルのままに再現された事務所の風景


唯一つ致命的に違う部分、


そこにいるはずの仲間が敵であること


ライバルなどと言う生優しい言葉ではない

見知った顔全てがその死力を尽くして自分を狙ってくる恐怖

この仮想現実に来て分かっていたはずだった



卯月(ボット)「凛ちゃん、いくらなんでも武器もなしに来るっていうのは...」

未央(ボット)「いやいや~!普段のクールさの中に見せるこういう向こう見ずなとこもしぶりんの魅力だってあたしにはわかるよ!」

雪美(ボット)「.........でも...そんなのじゃ......勝てない」




そこは事務所の応接室、二つのソファと間にテーブルを挟んだ形でボットとプレイヤ-が向かい合う


凛「......ふぅ...っつ...!」


プレイヤーである凛がふらつく体を必死で支える



仮想現実ではダメージは痛みではなく疲労として現れることもある


音葉により一度に大量のスタミナを削られた奈緒しかり

NWの罠にかけられ、全身を刃物で貫かれた蘭子然り


今の凛がまさにその状態だった


凛「(あの変な星爆弾で未央が攻撃...卯月がそれの補助、あの星をばらまいてる)」


背後の壁にもたれることはできない。2本の足だけでバランスをとる


凛「(それで...その二人に指示を出してるのが雪美......あの子が一番厄介だなんて思わなかったよ)」



雪美(ボット)「............」



これまでの趨勢を思い出す


入り込んだ建物が中身まで事務所と瓜二つであることの驚きを隠しながらも、まず武器を調達しようと考えた

幸い自分の能力は移動や回避には非常に優れていた

そこそこ広い事務室の天井や壁面、ときにはロッカーにくっつくようにして重力無視の縦横無尽に逃げながら室内を物色しようとしたはずだった


小春の攻撃手段であるヒョウくんは外から中へは入れないだろうし

翠はどうやら自分を直接攻撃するつもりはなさそうだし、外のカラスの対応で手が離せない


そこに雪美が動いた


凛「......っはぁ...モグラ叩きのモグラになった気分だよ...」


自分でも何を言っているのかはわからない。

だがそう例えるしかない



雪美が参戦しても攻撃手段は変わらなかった

未央がどこからか星型のディスクを滑り出させ、

それを強化した卯月とともに凛に投げつける


ただし雪美が参戦した瞬間その命中率が大きく変動した。


具体的には100%に



ビリヤードのように壁を複雑に反射した星が凛に命中する


爆散した破片が凛の逃げきれないぎりぎりの範囲から飛来する


瞬間移動した先に地雷のようにいつの間にか星が設置されている



それは自分の一挙一動一投足を先読みされているに等しい驚異を凛に与えていた


凛「(......逃げても逃げても...そこを叩きに来るんだもんね)」


衝撃を増殖させ、

スーパーボールのように部屋を跳ね回り、

一定量の振動を越えたあたりで爆散する

そのパッション由来の大味な攻撃は範囲が広いが弾幕が薄い。


だから移動に制限のない凛にとっては恐れるほどのものではなかった


だが絶妙に、未来を知った上で最大限効果的に配置されれば話は別だ


今の所クリティカルヒットは避けられているが攻撃の度にどこかに必ず攻撃が掠めていく


凛は把握していない事実だが、卯月の能力により未央の能力は数量以外に威力も強化されている

それが少しずつ凛へのダメージを蓄積させていた


卯月(ボット)「ダメだよ凛ちゃん?雪美ちゃんをそんな怖い顔で睨んだりしたら」

雪美(ボット)「.........いい...私も.........目を離さない......から」



詰将棋のように一手ずつ追い詰めていく


駆け引き、そして読み合い


それは機械の得意分野だ




ゲーム開始70分経過

渋谷凛
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)
VS
白菊ほたる(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



未央(ボット)「そ~れ~じゃ~あ~!みおちゃんアタックやっちゃおっかな!」

凛「.........!」


手品師のトリックさながら、未央の両の手の平に星が浮かんだ


雪美(ボット)「.........」


そのまま右手を振り上げ、


雪美(ボット)「............みお」


それを合図に振り下ろされる


凛「(また、来た...!)」


3つの星型が机に衝突し、倍速で跳ね返る

振動の増幅により物理法則を無視した勢いが飛び石伝いに凛を狙った



凛「(今度は絶対に当たらない...!)」



これ以上のダメージは看過できない

地面に平行に滑るようにして、凛の体が応接室の棚に着地する

視界の中で未央の姿が直角に折れ曲がった


「......うづき」

「頑張りますっ!」


パァンッ!!


卯月が足を踏み下ろす。

その動きで足の裏のもう一つの星が踏みつけられた

未央の左手からあらかじめ落とされていたそれに衝撃が加わる

振動の無線伝達により、凛が躱したはずの三つの星が空中で破裂した



凛「(...よけた、のに...!)」


重力に対しさらに直角に折れ、次の瞬間には天井に貼り付く



それでも



凛「なんで...」






投擲は終わっていた


両手に三枚ずつ顕現した星型のうち、

右手の三枚を投げつけ、

左手の一枚を「スイッチ」として卯月の足元に落とし



残った左手の二枚が既に天井に向けて飛んでいた



凛「目の前に...!?」



どのタイミングかはわからない、

だが凛が天井に着地するピッタリのタイミングで二枚の星型は到着していた



雪美(ボット)「...いち」

卯月(ボット)「にのっ!」

未央(ボット)「さんっハイッ!!」



一度踏まれてバラけた「スイッチ」の星の破片

三人が散らばったそれを一斉に踏んだ



凛のゼロ距離で星が炸裂する



手榴弾のように細かく飛び散った破片がダーツよろしく壁を穿つ




雪美(ボット)「.........」



未央(ボット)「あらら......しぶりん...やっる~!」


その破片の一つに凛が立っていた。

重力に対してやや斜めに向いた体幹で、頭が天井スレスレに届いている



卯月(ボット)「敵ながら流石だねっ!」


飛んでくる破片を能力により足場として「設定」したことで出来た回避


凛「......あっぶない...」





とある映画でピーターパンがフック船長の突き出したレイピアの刃先に立つシーンがあるが

それよろしく能力により飛んでくる切っ先と同じ速度で移動すれば少なくとも空中では破片は体に刺さらない

そして元々狙いなど付けられてない大部分の破片は凛が急速に離れたことでその体をそれた


卯月(ボット)「すっごーい!クモみたいだねっ!」

未央(ボット)「いや、言ってる場合じゃないから...雪美ちゃん!」

雪美(ボット)「......」


それでも、全ては躱せなかった


凛「......っ」


右腕に食い込んだ三角形のトゲを払い落とす


凛「(あまかった...ありすたちもあずきも逃げてばっかだったし、ヒョウくんも外にいる...明らかにヤバそうな仁奈も偶然とはいえ倒せた...)」

「(事務所の中にここまで攻撃的なのがいるなんて想定してなかった......)」

ましてやそれが雪美だなんて

ちゃんとした床に着地しながら件の少女を見つめる


雪美(ボット)「...凛......いたい?...」

凛「ううん全然?所詮ゲームだし」


未央(ボット)「でもー...ゲームだからって手を抜くしぶりんじゃないよねー?」


そういう未央の手にはもうすでに次の星型が準備、装填されている


卯月(ボット)「そうそう、小春ちゃんたちを通過してきたんだから、それだけで凛ちゃんの実力と真剣さは本物だよ」

次は卯月の手の中にも構えられていた。弾数を増やすらしい


凛「(それにしても...くらくらしてきた、まるっきりいつもの未央と卯月なのに、しっかり私を攻撃する準備を整えてる)」


いつもの友人がいつもの表情のまま襲い来る。まるで悪夢だ

応接室の窓を背中に雪美を挟んだ二人が武器を構える



にゃあおう



猫が鳴く


凛「.........(一旦逃げる?でも何もできてないし...なにか一矢報いないと)」

卯月(ボット)「...(私は雪美ちゃんの合図で投げればいいんだよね...よし、頑張ります!)」

未央(ボット)「......(ゆきみんがこっそりサインを出して...それであたしが動く!)」

雪美(ボット)「.........」



未来を知る方法は存在するか


実際はないこともない

天気予報、株価予想、ハザードマップ

過去の情報、現在の情報を積み立てて未来の情報に手を伸ばす

そういった方法を本当に予知と呼べるかはともかく



雪美の能力はその方法を予知に用いていた



そしてこの場合、現在進行形でこの世界の情報を無差別に収集、整理している存在は一つ


雪美(ボット)「......お月様......見てる」


凛「......?」



CHIHIROだけだ


プレイヤーとボットの動向、能力の発動とそれが引き起こす世界の歪曲全てを監視、処理、記録するボット


にゃあおー


雪美の能力の要はそこにいた

そしてすべてを見ていた


卯月(ボット)「雪美ちゃん?」


雪美(ボット)「.........未央、右に動いて」


未央(ボット)「...オッケ」



ボットは余計な思考を挟まない。

地面を蹴るようにして右手側に飛ぶ



そのタイミングに合わせたように、外から内へと応接室のガラスが突き破られた


三人にガラスの粉を降らしながらも致命的な衝突を避け、一抱えほどの瓦礫の石塊が通過する



一発が壁に大穴を開け



凛「__ぁぐっ__!?」



もう一発が壁際にいた凛の胴にまともに命中し、そのまま一直線に大穴へ吹き飛ばした




予測、あるいは予知通りに



雪美(ボット)「......凛......ばいばい...」



仮想現実空間が稼働して72分と数秒



CHIHIROが望月聖の能力による最大規模の破壊を観測した頃



彼女の翼の余波が瓦礫を通じ、必殺の威力で凛を打ち砕いた頃




事務所の上にビルが降る


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


凛の姿はもうない




卯月(ボット)「なんだか...すごいです」

未央(ボット)「あ、あたしたちの事務所が...」



窓もソファも机も瓦礫が飛び込んだ衝撃でひっくり返り、向こうの部屋が覗けるほどの大穴をこしらえ


たった一度の攻撃で応接室がその体を無くしていた


未央(ボット)「ゆきみんはこれを予知したわけ?」

雪美(ボット)「.........ううん......まだ...くる」

未央(ボット)「へ?」


疑問の声が掻き消える


落ちてきたビルが着弾し、

事務所のすぐ隣に建っていた建物が沈んでいく

一棟の建物がまるごと四散し、地響きが応接室の三人、そして事務所にいた全員の足場を揺らした


卯月(ボット)「あうっ!!?」

未央(ボット)「のわあっ!?」


卯月が窓の外を振り返る。

そしてついさっきこの部屋に飛び込んできた瓦礫などただの切れ端でしかなかったことを理解した



事務所の倍以上の体積とさらにその倍々の重量をもったビルディング



次は運良く隣の建物に当たることもない、まとめて潰されることは明白なサイズ比だ


雪美(ボット)「......まに、あう...」



雪美がそう言い終わると同時

事務所の表、応接室の割れた窓越しにそれが姿を現した


エレベーターのように下からその巨体を上昇させ、卯月と目を合わせる


卯月(ボット)「え......ヒョウくん?」

ヒョウくん「............」


首にリボンを巻いた翼竜が両翼を唸らせ、風を切り、真正面からそのビルに向かう


爬虫類らしく変化のない表情はこの状況下では勇ましくもあったが、そのままでは行為は蛮勇でしかない


いくら巨体とはいえ相手は一棟の、そして高層の建造物

二歳児と2トントラックほどの覆せない体積差。重量ならばそれ以上だろう

落ちてくるそれへ、真下から迷いなく突っ込んでいく

そして


「___流鏑馬...というのなら分かりますが...」


天へ向かう龍の背に掴まっていた彼女が姿を現す



翠(ボット)「...仮にも竜に乗って弓を射る機会が訪れるとは思いませんでした」



翼竜は、ぐんっと胴を回転させる勢いで背の角度を垂直から水平へ修正する

それにより彼女もまたその背にまっすぐに立ち直す




深呼吸


脱力


集中


弓を構える


腕を天に向けて



翠(ボット)「.........」



矢を添える


矢尻を握った手が耳元に来るまで引く


目線はまっすぐ


狙いを定めて


呼吸を止める


そして矢は放たれた



蚊の刺すような一撃がコンクリートの巨塊に食い込む

射られた点を中心に的の図柄がじわりと浮かんだ



翠(ボット)「......能力、発動」



水野翠の能力


『矢の範囲にある、いかなるものも彼女の60メートル以内を侵すことはない』


強引に、即座に、抵抗もなくコンクリの大型隕石の軌道が逸れた

その急カーブに暴風が吹き荒れ、翠が姿勢を崩しかける


翠(ボット)「...っと...危ない」


同時に、直下のカラスを軒並み下敷きにしながらビルは豪快な音を立て墜落した


ギリギリで事務所からは外れた位置で







卯月(ボット)「た、助かりました...?」


未央(ボット)「ほへー...みどりんカッコイー」


二人が応接室の窓から身を乗り出す


小春(ボット)「ヒョウくん素敵です~!ペロペロです~!」


別の部屋でもまた、窓に駆け寄った少女が喜びの声を上げた




雪美(ボット)「.........?...」



そして予言の少女は一人疑問を漏らしながら窓と反対側

壁に空いた大穴を見つめていた


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

望月聖の能力の絶対性

六枚の翼に無限の攻撃力と無限の防御力

どんな攻撃も通用せず、どんな防御も意味がない



事務所に飛来した瓦礫の礫にもまたその余波が上乗せされていた


凛は間接的とはいえ聖の一撃をまともに食らったことになる



スタミナが少しでも残る可能性などなく


助かる道理もない



本来ならば





「っけほっ!...うぇ、がふっ」




空から落ちてきた地面に対して斜めに傾いたビルの下側

そこに蓑虫よろしく逆さまに貼り付いた凛が息を整えていた


「隕石...かと思ったら次は建物が丸ごと...どうなってるの、これ」


その隕石に直撃されたにしてはありえないほどの気丈さで呟く


「......あれが雪美の能力...?じゃないよね、多分。雪美のはあのやたら当たる勘の方だろうし」


よく見ると凛の服の一部、ちょうど腹にあたる部分が淡く光っている

その薄明かりが布越しに凛の周囲を把握させるだけの光源となっていた



「ふぅ......皮肉だよね」



服をまくり上げる、隕石に穿たれた胴を晒す



「ボットの能力がボットの攻撃を防ぐなんて」



そこにあったのは薄い板、青い光を四角に放射する物体


橘ありすのタブレットがスカートに挟まれるようにしてそこにあった



『ボットは直接的にも間接的にもアイテムを破壊できない』



それはこの世界の掟の一つ

大原みちる以外には、例え望月聖であろうと破れない不可侵のルール

最後の最後で佐城雪美の予測の陥穽を突いたアイテム

それらが盾になり、凛を皮一枚のところで救っていた


「画面にヒビも入ってないや...よっぽど丈夫だったんだねコレ」



彼女はそれを知らない

「......(あと、これだね)」

タブレットをしまっていたところとは別、スカートのポケットをまさぐる

「(...大切そうにしまってた、いや隠されてた?みたいだけど...これって明らかに__)」

応接室の壁のむこう、現実世界では半ば物置と化した資料室に当たる場所

致死の攻撃に凛が打ち抜かれていたはずの場所、

そこで運良く命を繋いだからといってただ逃げだす程、彼女は素直ではなかった


「__奈緒の髪飾りと、加蓮のネイル、だよね」


ボットはアイテムを破壊できない、だが隠すことはできる

そして隠されていたそれらの一部は今ここにあった


____________

 渋谷凛+  32/100


____________

ゲーム開始75分経過

渋谷凛
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

プレイヤー側の戦闘放棄により続行不可能

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)
VS
白菊ほたる(ボット)

一時中断


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
イレギュラーチャプター

《不気味の谷》

池袋晶葉&一ノ瀬志希&佐城雪美&岡崎泰葉




_________________

  すべて/不在着信   編集


tfPnvsoE/ifevvszerRs490o 今日

    助手       月曜日

    助手       土曜日

    助手       金曜日

__________________________________







「ふうむ...では本当に雪美は私の携帯電話には掛けてきてないんだな?」


「...うん......その時......私、お仕事......してた」



「はすはす♪...うんうん、やっぱり泰葉ちゃんはたんぽぽの香りだね~」

「...蒲公英ですか?香水の類はあまり付けないようにしていますけど...」

「あふん...そーじゃないんだなーこれが~」




晶葉「...何をやってるんだ君は」

泰葉の隣に腰掛け髪の匂いを嗅いでいる志希をたしなめる

晶葉の向かいのソファには雪美がちょこんと腰掛けている


ここは談話室、そして簡素なソファとウォーターサーバーだけが備え付けられた室内には四人の人間しかいない


池袋晶葉、一ノ瀬志希、岡崎泰葉、そして佐城雪美


ボットではなく生身の人間としてそこにいる。膝の上で気持ちよさげに欠伸をする猫も同様に生身だ

だが、こうしている間にも彼女のラボでは18台のカプセルが稼働している

それでも二人がその場を離れているのには理由がある


岡崎泰葉「...えっと、先ほどの話が聞こえてしまいましたけど...晶葉さんの携帯に着信があった時間帯は私と雪美ちゃんは一緒でしたよ?」


佐城雪美「......同じスタジオで......撮影...してた」


晶葉「ふーむ、だが......声紋を調べた限りあの声は雪美のものだったのだがな...」

志希「にゃふ?...ケータイを変な機械に繋いで何かしてるなーって思ってたけど、声紋調べてたんだ」

雪美「......せい...もん...?」

泰葉「何やってるんですか貴方たちは...」


晶葉の携帯電話の不可解な着信、判読不能な電話番号にノイズまみれの音声

最後に一言だけ残った誰かの声。晶葉と志希の二人はそれらの解明に動いていた

その最初の一歩が、声の持ち主だと推測された雪美への聞き込みだったのだが

晶葉「...まさかボット制作時に使わせてもらった音声データがどこかで漏れたか...?」



雪美「...ボット...今、みんなが遊んでる...ゲームの...?」

志希「ゲームか...本人たちは多分ガチになってるだろうけどね~」

注意されたからか、泰葉から少し離れた場所に座りながら志希がケラケラと笑う

泰葉「ゲーム...あぁ、プロデューサーさんから聞きましたね。なんでも最新の技術を導入したとか...?」

晶葉「むむ、助手にしては説明が曖昧だな...ゲーム自体は確かにこれまでにない技術だが私は仕上げにしか関わっていないぞ...」

雪美「そう...なの...?」

志希「そーそー、箱庭はほぼノータッチのテスト品だよん。晶葉ちゃん謹製なのは電子のお人形さんたちだけ」



泰葉「............人形...ですか?」


飄々と解説する志希の言葉に泰葉が反応した

いつの間にか志希の白衣の端をその手に握っている


泰葉「それって_」

晶葉「_おいおい、人形とは違うぞ志希」


雪美と自分の携帯電話に交互に向けていた視線を切り晶葉が聞き咎めた


晶葉「確かに外部からの命令がなければ動かないのは事実だが、ただ言われるままに動くというわけではないのだからな」

志希「そーだっけ?......えっと、そーだったね、さっき聞いたっけ」

泰葉「............」

雪美「...?...気に...なる......」


頭越しに交わされる二人の会話に興味を惹かれたのか、雪美が小首をかしげる

表情に大きな変化は見られないが子供なりに好奇心を刺激されたらしく目を輝かせている

晶葉「んん?...ほうほう、私が言えたことではないがその歳で私の研究に関心を持ってくれるか!」


晶葉はそれに気分を良くしたらしく、携帯電話を白衣にしまい雪美に向き合うと講義でもはじめるかのようによどみなく話し出した

一応それも子供向けにかなり噛み砕かれた抽象的なものらしい


晶葉「私が作ったボットの最大の特徴はそれぞれが必ずしも最適解を出すとは限らないということだ。」

「あらかじめ刷り込んだ事務所の一部の人間の思考パターンを参考にしてそれに沿って行動するようになっている」


「言ってしまえばモノマネでしかないのだが、ふふふ...それも最初のうちだけさ」


雪美「...最初......だけ...?」



晶葉「そうだ。最初は模倣だが、それを軸に周りの環境から学習し個性へと昇華させるのだよ」

泰葉「模倣を個性に...それって具体的にはどういうことなんですか?」

晶葉「具体的に?...うむ、なんと説明しようか...」


体を雪美と泰葉両方に向けるようにして顎に手を当て沈思する

専門用語をなるべく使わないで説明するにはどうしたらいいだろうか



晶葉「___例えば、水の入った容器が一つあるとして、君たちならどうする?水の量や容器は自由に規定してもらって構わない」


雪美「...お水......飲み物...コップ?」

泰葉「飲む...と言いたいところですが、アイドルですし喉のことを考えるとそのままというのは抵抗がありますね、加湿器にでも入れましょうか」

志希「にゃはっ!そりゃフラスコに適量移して実験開始でしょ~」



例示として出された質問に綺麗に三者三様の答えが返される


晶葉「とまぁ、今のように水と容器という二単語からコップ、薬缶、フラスコという意見を引き出せたわけだ」

「他に想像のつく限りでは......茜ならランニング後に盥いっぱいの水を頭からかぶるかもしれないし、凛や夕美なら花瓶に花でも挿すのかもしれない」

「では次に......迷子になった猫を探すならどうする?」


雪美「...居場所...ペロに......教えてもらう......」

泰葉「探し中の張り紙か、ネットで呼びかけますかね」

志希「ハスハスして匂いを辿るよ!」



晶葉「という風に同じ問題でも解決方法は多岐にわたるわけだ」

泰葉「まるで心理テストみたいですね」

晶葉「そうだな。ボットに入力された最初の情報がそれだ。『お前のオリジナルはどういう時にどう行動するか』その心理テストの答えを一通り網羅した上で生まれる」

志希「なーるほどね~、物事に対するリアクションが本人と全く同じなら少なくともボロは出ないもんね」


雪美「......リアクション......みくと...お魚さん...とか?」

晶葉「おおう、分かってくれたか。みくのボットにも魚を見たときの反応はインプットされているのだよ」


10歳児にもある程度は分かるように説明できたことが嬉しいのか顔を綻ばせる

その向かいで思案顔をして同じく自分なりに理解に努めていた泰葉が怪訝そうに口を開いた


泰葉「それって、つまり決められた刺激には決まった反応しか返さないということですか?」

志希「シミュレーションゲームみたいだねー、まぁ実際物理シミュレーションソフトなわけだけど」


面白がった志希がその指摘の尻馬に乗る。いつの間にか泰葉のすぐ隣に戻っていた


志希「よく知らないけど恋愛ゲームみたいな感じ?話しかけ方とかプレゼントとかで返事が変わっていくし、そっくりだよねー」

泰葉「それはよく知りませんけど...」

晶葉「あの手のゲームは所詮、最初から用意された選択肢の幅しか反応がないだろう。私のボットはそうじゃないぞ」

特にそれに気を悪くするでもなく晶葉の説明が続く

晶葉「ボットは唯反応を返すだけではなく、常に思考している。ここで、さっきの心理テストとやらが活きてくるのだよ」

「ボットは周りの変化だけでなく自分についても考察を重ねている。”自分は何故水の入った容器をタライでも薬缶でもなくコップだと考えたのか”」

「”何故猫を探すのに、その匂いを重要なファクターに据えたのか”といった具合に自分の性格、人格、存在にも解答を出そうとしているわけだ」

雪美「......ペロは...そんなに...匂わない...よ?」

志希「そなの?嗅いでいい?」

泰葉「.........」




晶葉「数値解析という学問では答えとなる数字だけで未知の数式を導き出すわけだが、やろうとしていることはそれに近い」

「凛のボットだとするなら...”水に花を挿すということは自分は花好きか花に詳しい人間かもしれない”という推測を心理テストの答えの数だけ積み重ねていく...」

「こう言うとなんだが、プロファイリングにも近いな、手掛かりや物的証拠から人物像を描き出すというところが...」

雪美「プロ...フェイ...フェイ?」


志希「でもそれってさー...完全に同じ人間にはならなくない?」

泰葉「そう...ですよね...いくら表面を全く同じ風に演じて、その内奥を再現したとしても、それは演技でしかありません...」


水を差すようなことを言われても晶葉は特にそれを否定するでもなく続ける


晶葉「だな...さらにボットと人間では周りの環境が違いすぎる。同じ人格に育つほうがおかしいが......私はそれをボットの個性だと思っている」


雪美「.........」


泰葉「じゃあそれって最後には、別人格になってしまうんですか?」

晶葉「...別人格に成る、か...あるいは育つ、とも言えるな」

「最初は模倣でも成長を続けていけば最後は誰にも模倣できない個性になる......といいんだがなぁ」


そこで話はおしまいとでも言うようにソファから降り、白衣の裾を正し始めた


晶葉「時間を取らせて悪かった。一旦ラボに戻るよ」

雪美「......別に...いい......」

泰葉「...こちらも興味深い話が聞けましたし」


志希「ねぇねぇ泰葉せんぱーい、もうちょっとの間ハスハスしていーい?」

泰葉「......はすはす?」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

談話室を出た二人が事務所の廊下を並んで歩く

年齢も身長も差のある二人の白衣の裾が同じようにはためいていた



志希「にゃふん......さよなら、たんぽぽの君...」



晶葉「君には留守番を頼んだほうがよかったのかな」

志希「やーん、そんなことされたら失踪しちゃうぅー」



冗談ともつかない志希の軽口に付き合いながらも晶葉の足並みは乱れていない


志希「...で、晶葉ちん、電話の件はもういーの?」

晶葉「いいわけない、だが泰葉と雪美が嘘をつくはずもないしな。もう一方の可能性にアプローチするよ」


志希「もう一方?」


晶葉「ボットが”こっち”に来た可能性だよ」



志希「んん?...なにそれ、電子のお人形さんがコンピューターの中からこっちにお話しに来たってこと?」

晶葉「何をしたかはまだ分からないが、可能性は絶対にゼロというわけではない」



そう言いながらも晶葉の口調は断定のそれに近かった。そのことに気づいた志希が歩きながら晶葉の顔を覗き込むように上体を曲げる

志希「うーん...晶葉ちゃん、なーんか隠してない?」

晶葉「隠す?ボットのことか?」


顎に手を当てるようにしてしばし考える。その間も歩行速度は変わらない

やがて意を決したように話し始めた。心なしか声が平坦になっている

晶葉「......最後には別人格になる、といったな」

志希「うん、さっき言ってたね~」


晶葉「実は...私が思うに新しく人格を作るのは飽くまで途中経過であって、最後ではないのだよ」

「正直、実現の目は限りなく小さいがな...」





最初は人間の粗雑な模倣、

それが周りの環境に影響を受け、あらゆるものに絶えず疑義を持ち、解を求め

プレイヤーを通して人間の思考と触れ合い、思考し、行動し、

やがて全く別の人格と思考を持つに至る



志希「___で、それ以上ってあるの?」


事務所の奥にあるラボの扉が見えた二人の歩が少しだけ緩やかになり、扉の前で完全に停止した



晶葉「__人間になるんだよ」



携帯電話を取り出し、手早く信号を入力する。

厳重にロックされていた扉から開錠音が鳴った


一瞬言葉の詰まった志希が開いたドアの奥の景色、

機械の立ち並んだ区画に目をやり、もう一度晶葉を見る


怪訝そうな、面白がっているような、虚を突かれたような表情で聞き直した


志希「......人間に?ボットが?」


晶葉「ボットが、だ......途方も無い処理能力のコンピューターがあればの話だがな」


志希「本気で言ってる?」


晶葉「......さぁ、どうだろうな」


外出中だったせいでラボの中は薄暗い。

その暗闇のなかに白い衣が消えていった

やがて二人の姿が廊下から見えなくなり、

自動的に閉まったドアがその闇も遮断した



ゲーム開始81分経過

行動中のボット 全16体

高峯のあ アナスタシア 森久保乃々 

水野翠 望月聖 佐城雪美 二宮飛鳥 古澤頼子  

遊佐こずえ 白菊ほたる 島村卯月 古賀小春 

浜口あやめ 高森藍子 本田未央  南条光


白:坂|小>{梅;




行動中のプレイヤー 全14体

凛 奈緒 加蓮 小梅 蘭子

智絵里 幸子 美玲 杏

愛梨 紗南 きらり 裕子 麗奈




全ボットのプレイヤーとの接触が完了しました

1件の不審なデータがあります



次回開始するチャプターを選択してください
安価+3下

1、輿水幸子&白坂小梅&小関麗奈

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

3、早坂美玲

4、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南


ニュージェネの漫画で泰葉さんが烏龍茶は喉の油を取り過ぎちゃうとか言ってましたね

泰葉さん書くの難しい。ただの敬語キャラになっちゃう、あの雰囲気が出ない

本編は次回からまたドンパチやりますので

今回はちょっとした休憩だと思ってください

ありがとうございました

1

4

4

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



地上での戦闘が激しさを増す中、地下もまた腹の底を揺さぶるような地響きが絶えず起きていた


壁に吊るされた照明のもたらす仄かな明るさとは別の白光、ゲーム画面のバックライトがそこにいた三人の表情をくっきりと浮き彫りにしている


奈緒「あっ?」

紗南「あれ...!?亜季さんが!」

加蓮「消えちゃった?」


地図もないままに地下下水道を踏破することはできない。

だが、自分たちの進むべき方向だけでも見出す必要があった

そこで羅針盤の代わりとなったのが三好紗南の能力の一つ、一直線上に存在するボットかプレイヤーを発見し情報を詳らかにする能力だった

彼女たちはこの『一直線上』を利用し、入り組んだ地下下水道を迷うことなく進んでいた

それはさながら空にあって不動である北極星を目印に見失った道を探る遭難者に近い


だが数分前、その指標は消えた


加蓮「亜季さんが動いたってこと?」

奈緒「そりゃ、ある程度は動くだろうけどさ、でもさっきまでは何とか照準合わせてたじゃねえか」

紗南「いや、大丈夫だよ...亜季さんがやられてなければ...」


一時的に足を止め、壁にもたれて休憩を始めた加蓮を尻目に紗南が手元のゲーム機を傾ける

圏外に置かれた携帯電話でなんとか電波を拾おうとするような動きに対してその画面に変化はない

サーチモードという表示だけが無常に輝くだけだ


奈緒「......やっぱ...やられちまったんじゃねえか...?」


壁に体重を預けた加蓮とは別に、その場にしゃがんで足を休めていた奈緒がぽつりと言う


紗南「でも亜季さんだよ?この手のサバゲーでほいほい負けるはずないって!」

奈緒「でもよぉ、まゆも美穂もやられちゃったじゃんか...美穂はともかくまゆはボット相手にかなり押してたのにさ」


弱音とは少し違う。

どちらかというと今、自分たちのいる仮想世界の厳しさ、難易度を紗南に説こうとしているような、


”ここでは誰かの勝ち負けを予想なんてできない”


奈緒の言葉はそう言いたかったのかもしれない


紗南「でも、だったら!アタシたちどうするの...!?」

ゲームを掲げていた腕をだらんと下ろし、奈緒に向き直る

画面が漏らしている、目に眩しい光が紗南から外れその表情が闇に沈む



紗南「あんなカラスまみれの地上にレベル1の装備で出たって死にゲーだしさぁ...」


それは間違いなく弱音だった



加蓮「それにしたっておかしいでしょ?」



切り込むように加蓮が疑問を投げつける。

奈緒か紗南か、あるいは両方に言っているかのように

二人と同様に疲れているはずの彼女の声に弱った部分は見られない


加蓮「亜季さんが負けたのなら、必ず亜季さんの位置を探っている間に敵のボットの情報が飛び込んでくるはずなんだから」

紗南「そりゃ、そうだけど...でも今までは引っかからなかったのに今になって見つかる?」

加蓮「それは紗南の腕がいいからでしょ、今まで途切れることなく歩きながら、見えない遠くの亜季さんの位置にゲーム機を向け続けてきたんだから」

奈緒「だから余計な情報はキャッチしなかったってか...まぁ、亜季さんを脱出の目印にすることしか頭になかったしな」

加蓮「っていう風に考えると亜季さんは負けたんじゃなくて、紗南の能力の届かない場所に追いやられたんじゃないかな」


紗南「う...確かにこの能力、直線でどれくらいの距離までカバーできるのか検証できなかったけど...」

加蓮「あるいは亜季さんか、それともアタシたちが電波を遮断するような攻撃をされてるとか?」


ともすれば自分たちの危機とも取れる言葉を、いっそあっけからんと言ってのける


加蓮「なんにしても亜季さんを仕留めたのならアタシたちのところにその手掛かりが入ってくるはずなんだから、それはないよ」

そしてそう締めくくった



もちろん加蓮は知らない、残りの二人も知る由もない



電波よりももっと高速で強健な存在、


「光」を使った攻撃が、

数百メートル先の亜季を含む5名を地上に掬い上げたことを


それが数分前であり、そしてたった今、加蓮の言葉を借りれば大和亜季は「仕留められた」ことを




ゲーム開始81分経過

報告事項なし

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


真っ赤な色が真っ黒な世界に浮かぶ


その赤はボットのバッジの色だ


かつての摩天楼、今となってはゴーストタウンと成り果てた風景を見下ろす


高い高い視界から


高いビルも低いビルも、その窓ガラスの枚数も


屋上に設置されたタンクの大きさも全て見通せる位置


高空からの光景



カラス型ボットの彼、あるいは彼女のそれは鳥瞰という



彼らは群れで飛翔する、群れで攻撃する


防御はない、

休憩や撤退もない、

仲間を援護することも勿論ない


それ以上のプログラムは組み込まれていない


彼らの主はそれ以上を与えていない


変わりに賜ったのは錆びた剣


斬るもの全てを腐敗せしめるおぞましき刃


彼女に代わって、この現実全てを無に帰す力




それを振るうべき相手を眼下に見つけた


群れと共に急降下する。


両翼を震わせ、ビルを横目に垂直に地面へ向けて加速する


いる。

何人も何人も何人も、いる


どこを見ているのかわからない瞳で、それでもどこかをじっと見たまま歩いている


集団で、もしかしたらカラスよりも大群で、どこかへ向けて歩き続けている


だが、カラスたちはその集団の行き先を知ろうとは思わない、思えない


ただ、最短距離で、効率重視で標的を朽ちさせるのみ


そして集団の頭頂部が目と鼻の先になるまで接近したところで一度、羽ばたく


嘴を突き刺した、鈎のような肢で引っ掻く、能力で腐敗させる


主の指令どおり、小さな鳥類の体で標的相手に精一杯に暴れまわった



しかしその攻勢は永遠には続かない



宙をジグザグに飛翔していたその姿は敵に捕捉され貫かれる


鉄屑とアスファルトでできた槍に


同時にカラスに触れた部分がボロボロと崩れていく


それはガラクタの人形、ガラクタの軍隊、偽者の偽物


高峯のあの細胞を核に単調な動きを繰り返すだけの粗末な分身


地を這うように練り歩くボットと、黒い稲妻として捨て身の荒廃を振り撒くボット


どちらも主の命に忠実に行動を続け、決して止まらない




ぶつかり、突き、刳り貫き、刺し、薙ぎ、切りつけ、腐らせる


石が、土が、羽が、鉄が、軋轢音が、鳴き声が、零れ落ちていく




そして、そして、そして



その付近で飛んでいるカラスは最後の一羽だけとなる



対して、結果としてカラスに体格差で勝っていた人型は十数体



それでも最初は百体近くいたのだから、損害は軽くない

損害、つまり高峯のあの受けるダメージだ

一羽の鳥はそれでも攻撃をやめない、体格、物量ともに負けていても躊躇はない



カラスは最短距離での体当たりを敢行する。主人の命の下に

対して人形は歪に捩じくれた槍で迎え撃つ。主人の命の下に



一羽と一人が接触し



二つは横薙ぎに殴り飛ばされた



「___。。、。。__」



横槍ならぬ横殴りを入れられる。しかもそれはただの一撃ではない



いくつものボットを犠牲に増幅された威力。

それが一人と一羽を撃ち抜き一緒くたのごちゃごちゃした塊となって爆ぜさせた



「____・。、」



そしてそれも吸収される。一緒くたのごちゃごちゃした塊となって

カラスはもう一羽もいない、だがガラクタ人形ならまだいる

それは周りを振り仰いだ。更なる容量を求めるために


「。・__?_?__」


そこでそれは違和感を持った




周囲の人形が全て消えていることに



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


アナスタシア(ボット)「...シトー?何が起きているんですか?」

のあ(ボット)「分からないわ...でも、これが夜の洗礼なのかもしれない。そうじゃないのかもしれない...」

「どちらに転ぶにしても転がり始めた事象は私たちの手に負える大きさでは...ないみたいね」


のあは最後のカラスがいなくなったタイミングで残りの人形を「解体し」

地中を潜らせ、迅速に回収した

元々ガラクタの部分にはカラスの能力から自身の一部を保護するための被膜の意味合いしかなかったのだからそれも当然だった


二人は今崩れかけた背の低いビルの3階に隠れていた。

近くを飛ぶカラスを打ち払い終えた後のしばしのインターバルの間に


のあ(ボット)「もはやボット同士であることが味方同士であるとは限らない...プレイヤーとの見境もないのね」


ひび割れた窓越しに外を見下ろす。

先程まで分身のいた場所を小さな少女がてくてくと歩いている


アナスタシア(ボット)「あのボットたちに...プレイヤーは勝てるでしょうか?」

のあ(ボット)「裕子をはじめとして...何人かのプレイヤーには戦闘を行わざるを得ない状況に追い込んだりもした...」


地下の戦車格納庫に落としたプレイヤーを回想する


わざわざ敵に塩を送るような真似をしたのには、少なくとも最初は理由があった



のあ(ボット)「全ては今陥っているこの状況に対処するため...だったというのに」


プレイヤー側の戦力をある程度まで引き上げたところでそれを打ち負かし


その戦闘で得た、あるいは学習したデータを元に自分たちをボットとして上のレベルに上げる


そして『夜』に訪れるであろう強敵と、その能力から生き残る


彼女たちは自己評価を誤らない。

この世界に来た時のままのステータスと能力だけで敵を打倒しうるとは考えていない

概要だけみるならそれは「経験値稼ぎ」だ。

敵が強いほどにより多くの値が得られるのなら、敵を打倒可能なギリギリまで強化する、それがのあたちの戦い方


今現在、別の地点で古澤頼子が画策していた「蠱毒」と根幹は同じ


のあ(ボット)「...なんにしても始まってしまったのなら足掻くしかないわ。全ての手札を切ってでも」


違いは高峯のあがプレイヤーの「質」にこだわったとすれば

古澤頼子はプレイヤーの「数」を重要視していたことか


アナスタシア(ボット)「あれは...小梅ですか?ボットだったんですね...」

のあ(ボット)「相手をする必要はないわ...今の戦力だともう回りくどい手段は取れない。プレイヤーを直接叩くしかないわ」


覗いていた窓辺から離れる。

人形、ひいては身体の一部が随分と失ってしまった。

この状態でもこれから起きるであろう戦闘に備えなければならないのだ


ボットは混乱しない

予定外の出来事に直面してもその思考に1ビットのゆらぎも起きない。

それが起きた瞬間には次の思考が開始されている





だから



「__・。、!・__」


窓越しに小梅らしき少女と目があったときも

ガッシャアアアアアアン!!!

窓ガラスを粉砕しながら

小柄な肉体に見合わぬ跳躍力で3階の窓まで飛び上がってきたときも

「みつけましたよー?」

小梅を追って高森藍子が現れた時も

のあとアナスタシアの心は折れない




ゲーム開始95分経過

高森藍子(ボット)

VS

高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)

VS

白坂小梅(あの子)

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ゲーム開始90分時点



異形、醜怪、埒外


一瞬たりとて同じ形を保たない。

不定形にして変幻自在


目線を一度でも切ってしまえば、次に目を向けた時にそこにいるものは全くの別物になっている


高森藍子の相手はそういうボットだった


それを白坂小梅と呼ぶのは余りにも憚られたし、実際それは白坂小梅ではなかった


「___・・。_。」


藍子(ボット)「どういう能力なら”そんなこと”になるんですか...」


狭い屋内を「根」が這い回る。

キノコの軸から生えたそれらが天井や床をのたくりながら藍子を目指す


その軌跡もまたは複雑怪奇に曲線を、Z字を、渦巻きを描いていた


空間を縦横した根が養分を求めるように藍子の背中に飛び込む


彼女の目は、ボットの目はめまぐるしく変わる目前の状況の把握に使用されていた


だが、それでも


藍子(ボット)「幸い、ただの物理攻撃なようなので私には届きませんが」


ぴたり


藍子の背中まで悠々1メートルは残したまま根の触手が停止する


そこにある不可視の壁に閉ざされたかのように、先へと進もうとしない


いや、正確には完全には止まらず、ゆっくりと先端を伸ばしてはいた



だが余りに遅い、遅い、遅すぎる



たった一メートルを突き抜けるだけで何時間もかかってしまうのではないか、

そう思わせるほどに鈍重な進行


「___?・・__?_。」


藍子(ボット)「......私には追いつきませんよ?__絶対に」


既にその先端、切っ先を向けている触手は一本ではない。だがその全てが


何本もの触手が、何回もの刺突が、鞭打が、巻きつきが、"停まっている"


「・・._・。、||・__」


ぐちゅりっ


触手の先端が花の蕾のように咲き裁たれ、裂き割れる

そこからカラスが首をもたげた。鋭くとがった黒い嘴が太い爪のように藍子に狙いを定め、

首だけが発射された

ぐちゃんっ


だがそれもすぐさま空中で停止する。藍子自身に害はない


それでも藍子の顔が曇った。

すぐそこにカラスの生首が浮いていればそれも当然だが



藍子(ボット)「本当に...いやな攻撃ですね」



改めて小梅だったものを見つめる

その小柄だった体にはキノコの根が絡み、カラスの肉が貼り付き、ひとつのボットとなっていた

それぞれのパーツが勝手気ままに蠢き、犇く。

例えるなら今、その形はカタツムリのようで、

だがそれも次の一瞬で別のなにかへ変貌する。

次は猿に似た形へ、次は蛸へ、次は樹木へ、次は___


「___・。。、_・/>>・・」


複数のボットを一体のボットへと混ぜ合わせる能力。


そしてその能力は今、一体の部品に藍子を組み込もうとしているのだ





だが、それは叶わない




__ブヅッ__


藍子が一歩踏み出し

一本の触手が消える

足の下でノイズを立てて掻き消えた触手に目もくれず、

藍子はまた一歩を踏み出す


ノイズ


藍子(ボット)「他にできそうなことも無いようなので、こちらから行きますね?」


「・・・_・_??__??_」


藍子を取り囲んでいた触手の包囲網の一部、本体へ通じるエリアが突破される


ノイズとともに消滅し、素通りされた


触れることも無く、無かったことにされていく


「?_?<?」



藍子の歩みは遅い、だが誰にも止められない

近づけば減速し、停止し、消滅する

『高森藍子の空間』を侵せない



藍子(ボット)「大丈夫ですよ?私の能力はダメージとは無縁のものですから。痛くは、ありません」


狭い廊下をひたひたと、ゆっくりと、まっすぐに


ぐちゅりぐちゅりぐちゅりゅ


包囲網の残った部分、藍子の進行方向の逆、背後側の触手が花開いた


先端を十字に裂いてまたもカラスの首がミサイルのように発射される


こんどは何本も何本も、何発も何発も、何度も何度も


尖った嘴がスティンガーミサイルのように再接近する


「____・・。。_」



藍子はそれを見ない。

どの攻撃も彼女に触れる前に動きを自粛することは分かっていた

彼女の歩みは変わらない、距離が詰まっていく

対して、小梅だったものは変わった

四方へ伸ばしていた触手を縮ませ、カラスの羽を纏め上げる

ぐねぐねと揺らいでいた形態が、一つの定まった定型へと蠢きだす


藍子(ボット)「もう攻撃はやめですか...」


壁や天井に拡散していた部品が本体へ

藍子とその周囲の空間を避けながら小梅だったものの下へ


一つの散在が一つの存在へ


ついに形ばかりの障害物すら無くなった通り道を

それでもマイペースに藍子は進む


藍子(ボット)「......小梅ちゃん?」

「_______」


最後、そこにいたのは一人の少女だった


見た目だけなら、彼女はどう見ても白坂小梅で、




藍子(ボット)「......じゃ...ない、?」


雰囲気、そして表情は全くの別物だった



「__!__」


”それ”が膝を曲げ、腰を沈め、地を蹴った

その動作だけで床板は爆発したように割れる

文字通りのロケットスタート


破壊的な踏み込みを助走に、その勢いのまま”それ”は



高森藍子の、そしてボットの知覚センサーを軽く越える速度で衝突した



藍子(ボット)「っ!?」


びたっ!


果たして、それは停まった。

今までとなんら変わりない結末


二人の距離は1メートルの間隔を開けて固定された


逆に言えば、二人の距離は瞬きする間に1メートルまで詰められてしまっていた


「~~~~___~~~~~~」

藍子(ボット)「なんですかあなたは......なんですかあなたは!」


それでも届かない、見えない壁に遮られたように


だが、止まろうとしない。


引っ掻くように、齧り付くように、じわりじわりと指を伸ばしてくる

カラスのミサイルにもキノコの根にもなかった力押しで、文字通り力尽くで


「”・、。!”__>。。。・。。_」


木の洞から漏れる澱んだ空気のような、頭の底に吹き込んでくるような音

それが小梅らしき、小梅以外の何者かの口元から聞こえてくることに気付く


藍子(ボット)「どうやら...他のボットの容量を自分の身体パラメーターに上乗せしたようですね...!」


機械的な推測で状況を把握し、藍子は次の一手を打つ


それは至極単純で効果は絶大



いつの間にか止めていた足を再度、一歩踏み出しただけだ



停止した相手に藍子の方から歩み寄る、その動きだけで

彼女の能力は次の段階へ移る



藍子(ボット)「どんな感じですか?自分が押しつぶされるって」


停止から消滅へと


__プツッ__


”それ”の両腕から先が消失した



「___?!?。・。、」

藍子(ボット)「あれ?この世界だと...ボットは一息に消えてしまうはずなんですが」


仮想現実では流血はない、肉体の損壊もない。

だが、確かにその両腕が肘から失せていた


ぐじゅる


その断面から何かが飛び出す

管のような、紐のような、粘土のような

血管のような、神経のような、筋肉のような、何かがまろびだしまとまり__


「__、。、。。」


両腕は元通りに生え変わった


藍子(ボット)「吸収したボットを使ったんですね?」


それを見てもボットの彼女は動揺しない

ここまでの動きから、このくらいの異常事態は予想がついていた

藍子(ボット)「ですが___」

だから。

もう一歩を踏み出し、もう一度押し潰そうと


「___!!!__」



高森藍子は足を動かし



白坂小梅に似た何かは腕を動かした


屋敷の廊下の壁面に向けて両腕が振り抜かれ、床板の時同様それは爆散した

複数のボットのスペックを全開にした一撃


狭い廊下にしばし暴風が吹き荒れる


藍子(ボット)「きゃっ!?」


屋敷全体が倒壊しかねない衝撃、波打つように引き剥がされる床板


埃ではなく、粉微塵になった木屑が藍子の周囲を漂う

尖った木片や木の板は空中で停止していた


藍子(ボット)「けほ、けほっ!」



小さな小さな、取るに足らない木の粉にむせる

嫌がらせじみたそれも、相手からの精一杯の抵抗だったのかもしれない

残ったのは天井にまで亀裂を波及させた大穴だけ


あの不定形のボットの姿はない


藍子(ボット)「逃げられました...?」


耳障りなノイズと共に

採集標本さながら空中に縫いとめられていた木片が軒並み消失させる

それでも消えきらずに残った木屑の粉が宙に浮く中、また足を進めた


あくまでマイペースに、ただし方向だけは変更して


藍子(ボット)「変形に、自己強化に、再生...ずいぶん多彩な能力の方でしたね...」


先の怪物が空けた穴のフチに足を掛ける、だが痛々しく破砕された木片の鋭利な先端は彼女を傷つけない


藍子の存在、その周囲の空間に削り取られるようにノイズを鳴らし消えていく

地面以外のすべてが高森藍子に道を空けながら消尽する



藍子(ボット)「...私やほたるちゃんや聖ちゃん以外にあそこまでこの世界に負荷を掛けるボットがいるなんて...」



そんな存在は取り除いておくべきだろう

自分たちの能力を全開にするためにも


ボットはそう決定を下した


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛



目に見える範囲にならどこにだって行ける


どこにだって足跡を残せる


彼女は自分の能力をそう推理した


凛「......せーのっ!」



表面が朽ちたビルの屋上のへりに足をかけ、空中に身を投げる



十数階はある階層からのジャンプ。

遥か下に細くなった道路を見下ろす


そのままトン、と軽やかに着地した。

大通りを挟んだ向かいにあるビルの窓ガラスに



凛「(空を自由に飛ぶ、とは違うけど...こういう自由さも悪くないね)」

そのまま次なる屋上に向けて窓ガラスを垂直に歩く。ちょうど彼女と敵対したボットの一人、福山舞が一輪車でやってのけたように

凛「......(それにしても真っ暗...街灯と月がなかったと思うとゾッとする)」



ガァアー!


難なく壁面を登りきり、正確には歩き切り屋上に到達したところでまたあの耳障りな鳴き声


凛を察知したカラスがビルの屋上よりも上空から殺到していた


だが、カラスが到達した時には凛はもうそこにいない




凛「___よっと」


隣接する同じくらいの高さの建物の屋上に着地し、態勢を整える



少し離れた場所ではカラスたちが無人の屋上を彷徨うように旋回していた



凛「見つけてから動くより、見た瞬間に動き終わってる方が速いよね?」



カラスには凛が消えたように見えているのか、未だにすぐ隣のビルに移動した彼女に気づかない


それでも念のために死角となりそうな給水タンクの影に腰を落ち着け、服の中に手を入れた



そこからタブレットを取り出す


凛「(どういうわけか武器が見つからない...みんなが探し尽くしちゃったのかな...)」


みんな、というのがボットを指すのかプレイヤーを指すのかはともかく

未だに故障どころか充電も切れることなく稼働しているその画面を確認する

いくつかの赤い丸、そして青い丸が不規則に散らばっている

いや、いくつか固まった丸点が見受けられるようになっていた

それは凛を中心としたボットとプレイヤーの方角と距離のデータ


今の彼女を突き動かすもの


凛「とりあえず...まず会わなきゃいけないのはプレイヤーだよね。戦力的な意味合いも含めて」


それにちょっと寂しくなってきたし

とは口に出さないが否定もしない



凛「ここから...一番近い所にいるのは......」


彼女の細い指が画面をなぞっていく


凛「この辺にいる子かな...さっきからあんまり動いてないし」


やがてある一点で止まった。

この世界に来て久しぶりにコンタクトをとる、智絵里以来のプレイヤーを決める


凛「それに三人で固まってる...私のことも受け入れてくれるかも」


三つの点がひと固まりになって移動している

見たところ近くにボットはいない

タンクに背を預けながら凛は画面のその部分を指でコツンと叩いた


凛はまだ知らない


自分が選んだその三人の中に北条加蓮がいることも、神谷奈緒がいることも




ゲーム開始80分経過

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲



廃墟と化した町並みを一人のボットとプレイヤーが駆ける


渋谷凛と同様に、早坂美玲もまた自身の能力の舵を取り始めていた


美玲「(大体分かってきたぞ...ウチの能力は二つの方法でボットのヤツを攻撃できるんだ)」


倒壊し地面に対し斜め刺さった建物、その影に滑り込み、特徴的な手袋の爪を地面に突き立てる

柔らかい素材で出来ていたはずのそれは何の抵抗もなく石材を貫通する


美玲「(普通に腕の周りをコンクリとか鉄で固めて、ウチの力で振り回すやり方)」

アナスタシアと戦った時の、工場の壁を引き剥がそうとした時の、ニューウェー部の操る装甲車に立ち向かった時の力


ボゴリ、と地面が小さくまくり上がり美玲の両手を駆け上がるようにしてまとわりついていく



美玲「(こっちはウチの手に長くくっついてるけど、動かすのがキツい...!)」


その音をボットの耳は聞き逃さない



聖(ボット)「......そこ...」


地表すれすれに高度を落とした聖の、6枚あるうちの2枚の翼が地面を撫でる。

同時に地響きが割れた窓ガラス達を震わせる

翼の先の軌道をなぞりながら起きた地割れが美玲のいるビルへとジグザグの口を開いた


底なしの割れ目にビルが沈んでいく。ビスケットのように外装が砕けて地下へ吸い込まれていく

その影の美玲もろとも


美玲「......(もう一つは能力そのものの力...ウチの手に”引き寄せる力”そのものを使って爪を動かすやり方)」


崩れ落ちてきた工場の屋根から身を守った時の、ニューウェーブのさくらを倒すキッカケになった時の、装甲板の一部を変形させて急カーブした時の力


美玲「(こっちはウチの手からすぐに離れる、時間制限が短い...)」


周囲に転がっていた何もかもが亀裂に飲み込まれながら美玲を押し流す

彼女は動かない、動けない。地面から重力に逆らい両腕をかけ登っていく廃材は既に背中を覆い始めていたからだ

それでも、流れ落ちる瓦礫に下半身まで埋まったまま吠えた



美玲「だけどなぁッ!!こっちの方がスッゴく強いんだぞッ!!!」

聖(ボット)「...!」



ビルの崩落が、瓦礫の流れが、停止した

写真に撮られた一風景のように一切が鳴動をやめる。


まるで絵画の中に迷い込んだような停滞感

そして逆流、形成、襲撃


美玲の数千倍の体積の建物が屋上から一階まで真っ二つに別れ、2本の塔に変形した

しかも地上から上へ向けて三叉にさらに分割されそれぞれが尖塔をなしている

三つに裂けた2本の塔。その姿は


聖(ボット)「......腕、と爪?」

美玲「そうだッ!!」


ビルが倒れる。今度は重力ではなく、美玲の能力に従って

聖の6枚の翼に向けて6本の爪が倒れ込んでいく

たった一本であってもその爪のサイズは尖塔ほど。聖や美玲の何倍もの大きさと重さで


美玲「こんだけデカいとスグに解除されるけどッ!」

「そのまえに一回でも食らえぇッ!!」


地表近く、望月聖の小柄な体を包み込みながら数十トンの攻撃がもう一度地響きを起こした

今度の震動には瓦礫の山から腕の抜けた美玲も吹き飛ばされる


美玲「ははッ!どうだッ!」




もちろん、聖にとってどうということはない



倒れこみ、崩れ落ちた爪の塔。

二方向から聖に向けて振り下ろされた尖塔がはじけ飛ぶ


聖「......見つけました...」


翼が繭のごとく聖を包んでいる

周りの瓦礫を押しのけながら優雅に開帳された


闇目に眩しい光の中、傷一つない聖と泥まみれの美玲の視線が交差した


美玲「チッ!!しぶといなぁもう!!」

聖(ボット)「それはこっちのセリフです...」



早坂美玲は知らない

自分の力では望月聖に届かないことを

彼女では聖と肩を並べるには一手足りないことを



早坂美玲は知らない

その一手が、すぐそばに隠されていることを



ゲーム開始80分経過

早坂美玲VS聖(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

長いこと開けてすいませんでした


次回開始するチャプターを選択してください

1、輿水幸子&白坂小梅&小関麗奈

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

3、早坂美玲

4、渋谷凛

安価下

1

4

しえ
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org5403935.jpg.html

色もつけたい

>>595ありがとうございます!
更新がんばります!

待ってまーす


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
輿水幸子&白坂小梅&小関麗奈




アイテムの探しどころとは



例えば三好紗南は入り込んだビルの中で幸運にも自身のキーアイテムを見つけ


渋谷凛は事務所の中で加蓮と奈緒のキーアイテムらしきものを手にしたし


小関麗奈と大和亜季はアーケードのシャッターの空いた店の中で多数の銃器を得た


いくつかの例外は確かにあるが基本的にこのゲームではアイテムの類は屋内、室内に隠されている傾向が強いらしい




小梅「そ、そういえば...武器、は建物のな、中の方が、多いって...亜季さんが」


幸子「なるほど!つまりこの倒壊したビルの瓦礫の中からならこの窮地を脱する何かが手に入るかもしれませんねっ!」




ガァアアーーー!!


幸子「__いや無理でしょう!?」


向かってきたカラスに石を投げつける、やや大きめのものだったため辛うじてヒットした

ビル一棟が丸々崩壊した恩恵というべきか、大きめの破片ならそこら中にあったのだ

窮余の一策、ではなく苦肉の策としか言い様のない反撃


幸子「しっ、しかもこのカラス...凄くシツコイです!カワイイボクにお近づきになりたいのは分かりますけど!」


その細腕で投げつけられた破片は重石となり、カラスを地面に押さえつけていたが、

それでも這い出そうと懸命に羽ばたいていた

さらにカラス単体の能力によりそのストッパーは脆く、今にもカラスを解き放ちそうだ


小梅「しょ、しょーちゃん...どう、なったんだろう?」

幸子「この壁の向こうで生きているでしょう!そうに決まっています!輝子さんの能力はとっても強いんですから!」


もう一つの瓦礫を持ち上げ、地面に縫い付けられたそのカラスに追い打ちをかけた


迎撃一つにしても彼女の丁寧さはこういうところに表出している


小梅「さ、さっちゃん...だ、だいじょうぶ...?」

幸子「問題ありません!小梅さんは早くなにか役に立つものでも発掘しててください!」



崩れたビルのバリケードを背に、小梅をかばうような位置でカラスの群れに相対する



幸子「ふぅ......カワイイボクにこんな肉体労働を強いるなんて、許されない重罪ですよ!」


ガラン、と音を立てて亀裂に刺さっていた鉄のパイプを引き抜いた

仮想の現実ではそんな荒事で手の平に傷が付くこともない



カラン、と音を立てて研がれた剣先が地面をなぞる



ほたる(ボット)「......それでも、かまいません」



二人から届かない、そして怪しい動きを見落とさない絶妙な距離でサーベルを保持する

仮想の現実では彼女の一挙一動の全ては世界を傷つけることになる



幸子「ふ、フフーン!なんですかさっきからチマチマと!」

「そんな野蛮な鳥類の一羽二羽でボクらを止められると思っているんですか!」


ビシっとパイプの先を目の前のボットに向ける。

彼女の気勢は未だ削がれていない


というのもほたるがその攻撃に本腰を入れていない、否、「入れられない」状況にあったからだ


ほたる(ボット)「私の能力は手加減が肝心なのですよ...」



サーベルを掲げ、振り下ろす



ボッ!


風を切る音が耳に届く、だが斬撃は当然届かない



幸子「何を......ひっ!?」


強気に言葉を返そうとして、手元を見た幸子が息を飲んだ



幸子の握っていたパイプが半分以下の長さになっている



指のすぐ上で切断されたように、だが切断されたはずの先端が見当たらない

鉄パイプの先は完全に消失していた、

能力により脆弱に腐蝕し粉微塵に風に溶けていたのだ

サーベルを振り下ろす一瞬の間に


ほたる(ボット)「やり過ぎてしまうと......何も残らないですから」



ヒュンヒュンと剣先を縦横に振る

その先端の描くラインを追って黒い線が空を走っていた


ほたる(ボット)「私のカラスは......こういう使い方もできるんです、よっ!」


突きを放つ

夜の空気が切り裂かれ、その動きをカラスが一列に追う



その姿は突き出される黒い槍と化し、



幸子「(さっきより断然疾いっ......!?)」


咄嗟に体をずらした幸子の肩をかすめ、小梅の背中を打った



小梅「うぁっ!?」

幸子「小梅さんっ!!」


崩れ落ちた小梅の体を支える、小梅が被さっていた場所に深く穿たれた穴を見てその威力に背筋が凍る


穿たれた穴からはカラスの黒羽が覗いていた、

だが特攻に耐え切れないボットの体は間もなく立ち消えた


ほたる(ボット)「さて...」


サーベルを天に突き上げる、その動きだけでほたるの頭上でカラスが黒く渦巻いた



だがまだ、彼女は決め手となる一撃を放てない



ほたる(ボット)「(問題は一つ...誰かが私のボットに干渉......いや、はっきりと侵食してること)」



誰かが自分の能力を脅かしている。

その一点が彼女の攻勢を後一歩のところで留めていた



そもそも自身の能力に違和を感じたからこそこの場所まで彼女は足を運んだのだ

おそらく幸子や小梅によるものではないはずだが、確信が持てないうちに大味な攻撃はできない


幸子「カワイイボクたちをいたぶろうだなんて...!」

小梅「けほっ...!」


ほたる(ボット)「(せめて、あのバリケードのそばから離れてくれれば...少なくともその向こうにいる誰かの脅威は取り除けるのですが...)」



バリケードの向こう

そこにはまさにほたるを脅かしている張本人、古澤頼子がいる


蠱毒の仕掛け人



直接の戦闘力を持たないはずのボットが二人ものプレイヤーを討ち


逆に圧倒的戦力差を有するボットが丸腰のプレイヤー相手に二の足を踏んでいる


それは全く不条理で奇妙な状況だった



無作為に寄せ集められた者たちによる化学反応ならぬ科学反応


その毒はボットもプレイヤーも飲み込んでいく


もちろんそれは残る一角でも例外ではなく___


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
小関麗奈




麗奈「たぁっ!!」



投げつけられた小石がミサイルとなって狭い路地を跳ね回っていく



麗奈「(大体分かってきたわ...アタシの能力の特性)」


足元には大小のがれきと石、彼女の攻撃の唯一の手段にしてプレイヤーとしてのライフライン

それらを削ってボットを討つ

今もまたひび割れた壁面に跳ねた石がボット目掛け飛来し、


だが打ち払われた


圧縮された光量、あるいは熱量により強制的に誘爆させられて


麗奈「(そんでもってアイツの弱点もね...)」



光(ボット)「どうした麗奈!!そんな離れた場所から石を投げるだけじゃアタシは倒せないぞ!!」



闇を照らしながら、勇ましく戦意をみなぎらせ麗奈と対峙する姿は変わらない

こともなげに火薬玉となった石を退けた剣、目映く光るそれを構えなおした


麗奈「はん、今のうちに精々吠えてなさい」


手の中でジャラジャラと次の小石を弄びながら綽々と言い放つ

その視線は南条光ではなくその武器、光剣に固定されている


よく見るとその長さは不安定に伸縮していて、

光が掴んだ柄から離れるほどにその「ブレ」は顕著だ


麗奈「(最初はバカみたいに蛍光灯でも振り回してるのかと思ったけど...)」

「(......あれは棒が光ってるとか、そういうショボいのじゃないわよねぇ...)」


イメージとしては花火、それも市販されているような手で持って遊ぶタイプのそれ

順手に構えられた手の中から鮮やかな白光が吹き出している



光(ボット)「さぁこい!」


麗奈「(だからなんだって話だけど...形のないただの光の塊で殴れるわけないし......だから”その辺”がアイツの能力ね)」


光(ボット)「言っておくがアタシの能力は!この世界の光を自由自在に変形させる力!」

「生半可な攻撃では傷一つ付きはしない!よく肝に銘じておけ!」


麗奈「(自分で言ってるし......そもそも光を変形ってなによ)」


駆け引きも何もあったものじゃない、いきなり手の内を明かす行為

確かにボットの戦い方にはオリジナルの性格と特徴が顕著になるものだが、


最後の最後まで理解の追いつかない千変万化の奇策を披露し続け、

しかし結局底力を見せないまま消えていった塩見周子とは大違いだった

尤も、「光線を変形」などというのも、仮想現実でなければ到底理解しようもない言葉だが



麗奈「教えてもらわなくて結構よ!弱点は丸分かりなんだからっ!」


両手で石を持ち上げる、片手で投げるにはやや大きすぎた




麗奈「特大のレイナサマボム!喰らいなさい!」

光(ボット)「させるかっ!!」



5メートル程の距離を光が詰める、


その前に石は麗奈の手から放られた


突進する光の眼前を石塊が遮る、だが彼女は止まらない


手に持った剣の構えを変えた。突きの型に


ガッ!


剣先が空中で石に食い込む、


ボットとボムとの距離は1メートルを割っていた



光(ボット)「いっけぇえええええええ!!!」





思わず麗奈がひるむほどの雄叫びをあげる





その声に呼応するように剣先が伸びた





変幻自在は伊達ではなく、剣よりもむしろ槍となって石を遠ざけた


麗奈「そんなのアリなの!?」


遠ざけた先、狭い路地の一直線上にいる麗奈に向かって穂先が伸び続ける


光(ボット)「やたらめったら能力を使ったバチだ!」



カァン!


剣先、今は穂先を離れ、石が前方に弾かれた



麗奈「___っ!!」

「(アタシの能力はっ......!!!)」



なまじ大きめの石を選んだだけに、そのしっぺ返しは麗奈にとって手痛いものになるだろう


麗奈の手を離れ、光の能力に跳ね返され、


そして結果的に麗奈の手前でそれは爆散した










    ポフッ


冗談じみた貧弱な効果音と共に




光(ボット)「......は?」

麗奈「ばぁーーーーーーーーーーーーっか!!!」



槍を構えたままの光の耳に嘲弄の声が届く、だが声だけだ

麗奈の姿は先の、爆発とも言えない「散布」によって生じた煙の向こうにある


麗奈「アタシの能力が一番効きやすいのは、アタシの手のひらに収まるサイズのヤツだけなのよ!!」




その煙幕の中で彼女は野球投手よろしく腕を大きく振りかぶる


しっかりと握り締められた拳の中には小さな小さな石礫がギッチリ詰められていた

そう。小さな礫が


「持つ」でもなく「掴む」でもなく


「拳の中に握り締められて」いる



麗奈「(そりゃそうよね、火薬の威力は凝縮した方が強いに決まってるわ)」


塩見周子との戦いを思い出す


あの時は手に持っていた紙屑を適当にちぎってそのまま投げていた


地下下水道での能力の練習と、その後の誤爆を思い出す


最初は爆発の具合を見るために手の平より大きい欠片で練習ばかりしていた


そのあとキノコが来た時は咄嗟のことだったため爆散して小振りになった破片しかなく

そしてそれを緊張で強く握り締めていた





光(ボット)「これはっ!?」


極小の爆弾の弾幕が南条光を取り囲み、



麗奈「そして光!気付いてるかもしれないけど言ってあげるわ」



極光を打ち消すほどの閃光が満ちて



「アンタの能力はねぇ、使えば使うほど弱まっていくのよ!」




極悪な威力が暴風のごとく吹き荒れた





ゲーム開始78分経過

輿水幸子&白坂小梅 VS 白菊ほたる(ボット)

小関麗奈VS南条光(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

光るものを物質として固定し、使役する


そんな能力だからこそ南条光はその名の示す通り光を剣として振るうことができた


だが、その能力はどうしても有限のものだった



なぜならその光剣は”目に見える”のだから



一般的に明るい場所で人間が物を見るとき、それは物体そのものを見るというよりも

厳密には物体に反射した光を目で捉えることでようやくそれを一つの物体として認識している


能力により生み出された光剣も例外ではない。

麗奈も光も、そして亜季も輝子も幸子も小梅も


その光剣から”漏れ出して”いる光を通して、その武器を認識していた


南条光の能力の範囲はその手元にしか作動しない。

そのためどうしても能力の効力の弱い箇所が生じる

だからこそ、そこから崩れた光線により彼女の武器は武器としての姿を成していた


諸刃、ではなく脆い刃の剣

南条光が武器として集めた光は時間とともに流れて消えていくのだ



ちなみに、麗奈はそこまで難しく理屈立てて事態を理解したわけではない



麗奈「アーーハッハッハ!!聡明なアタシは気づいてたわよ!」

「アンタが剣を振り回すたびに!壁に伸びたアンタの影が短くなってたのをね!!」

「そんなの見たらアンタの眩しいだけのガラクタの光がちょっとずつ薄まってることぐらい分かるわよ!」


爆光から目を庇いながら勝ち鬨を上げる


もしも二人が戦っている場所が壁の間隔の狭い路地でなければ、

そこに投射された光の影が麗奈の視界に入ることはなかった


もしも二人の戦いが夜に行われていなければ、

麗奈は相手の武器の光量の微妙な変化を見抜けなかった


もしも塩見周子との戦いを経験していなければ、

周囲を神経質に観察し状況を把握することの重要性を理解していなかっただろう



麗奈「というかやっぱり周子と比べるとやり方が単純だったわね...」


苦戦の記憶を振り返る。

光のボットはほぼ最大威力のレイナサマボムにより半壊したビルの壁だったものに埋もれ姿も見えない


爆風にえぐられた壁面からはビルの内部、オフィスらしき部屋が覗いていた


閃光がその有様をくっきりと浮かび上がらせ続けている


麗奈「亜季は無事なんでしょうね......途中でなんか変な表示が出てたけど」



振り返り、足元の崩れた破片を踏みつけながら路地の外へ向かう、

次は倒壊したビルのバリケードを超えなければならない


麗奈「厄介なことしてくれたもんね...これ爆破して大丈夫なのかしら...でも、幸子は爆破とかそういうのに巻き込まれそうだし...」


背後からの光で延長された自分の影に向かって歩く


麗奈「さっきからカラスの鳴き声ばっかりしてるんだけど......ここってホントにゲームよね?」


文字通りついさっきまで地下に潜っていた麗奈に白菊ほたるのことを知る余地はない

積み上がった足場に乗り上げ空を見上げると確かにカラスが輪を描いて飛んでいるのが見えた


背景は闇夜だったが月光と背後から照らされ続ける閃光が相まって視認は簡単だった


黒羽の艶まで見通せるようだ。それを見て麗奈が言葉を漏らす



麗奈「いやいや...いやいやいやいや......」



麗奈「おかしいでしょ......」



振り返る




麗奈「なんでアタシの爆弾がこんな...こんなに何秒も長いこと光ってんのよ!!!」





光(ボット)「知らなかったのか?」



そこにあったのはまん丸の鏡。

だがよく見ると鏡ではない。


光を反射するのではなく光そのものを放っているのだから

それは光子の塊そのものだから





光(ボット)「光は何より速いんだぞ!」


起爆した瞬間。


爆風よりも爆熱よりも早くに、爆光は南条光に到達していた


そしてそれは彼女にとっては剣であり槍であり、盾だった


爆発の猛威も、二次災害としてのビルの半壊も彼女はしのぎ切った

南条光の能力は小関麗奈の能力を出し抜いた



麗奈「このアタシの___能力が」


盾の形が変わっていく


光(ボット)「ちゃんと覚えておくんだな!!!」



まん丸だったものから、神殿を支える柱のような円柱に

そしてやがて細く平たく凝縮されていく



空を突き上げる見上げんばかりの大剣の形状へと、



全ての影を打ち消さんばかりの光量で路地の空間を埋め尽くす


身長の何倍もの大剣を両腕に掲げた光と、

小さな手のひらに小石を込めただけの麗奈の視線が刹那、かち合う





麗奈「......ひ、光ぅうううううう!!!」



光(ボット)「__麗奈ァアアアアアアアアアアア!!!」






ほんの一秒にも満たない時間



仮想の世界は、


夜が訪れる前の明るさを取り戻した





_____________

 小関麗奈+ 0/100 


_____________



ゲーム開始80分経過

小関麗奈VS南条光(ボット)

勝者:南条光(ボット)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

待たせてしまい申し訳ありませんでした



次回開始するチャプターを選択してください

1、双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

2、早坂美玲

3、渋谷凛

4、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南

安価下

3

次の更新楽しみに待ってます!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛




跳ぶ、飛ぶ、そして翔んでいく




明かり一つ灯さず立ち並ぶコンクリート製の巨大な墓標の間を次々に移動していく



凛「(こうして見ると、本当にゴーストタウンだよね...)」



音も軽やかに垂直な壁面に着地し、右手に伸びる遠い地面を見下ろす

彼女はとっくに能力を使いこなしていた


凛「私の目標は、と...」


タブレットの画面の中心には自分を示す赤い丸、

少し離れた場所にはボットを表すいくつもの青い丸

彼女の視線はその中の一点に止まる

そこでは3つの赤丸がゆっくりと進んでいた。どういうわけだかその周りにはボットはいない


凛「アプローチするならこのチームだよね...ほかの人たちじゃあ私が入り込めなさそうだし...」


そう言って視線をずらした場所では赤い丸と青い丸が多重に円を描いて行き交っていた。

絶えず戦闘が行われている証だ。ほぼ丸腰の彼女では巻き込まれるだけだ




ぶわり




凛「......っ!」


覗き込んだ画面からそんな音が聞こえてきた気がした

小さな青い丸が霧のように画面を侵食し始めている。カラスの大群だ


凛「(追いついてきてる...というよりまた別の塊が私に狙いをつけてきたんだね)」



膝を軽く曲げ、跳躍の姿勢をとる。


次に瞬きを終えた時には別の建物に着地していた


そのまま飛び石伝いの要領で数十メートル単位のショートカットを行っていく


凛「私が余計なものを連れて行くわけにはいかない...合流するなら振り切ってからじゃないと!」


背後でガラスの割れる音が滝のように連続して鳴り響く

一羽一羽の能力が少しづつこの世界を朽ちさせていく

それの数倍、幾千のカラスが倍の速度で壁面を荒廃させ、窓ガラスが羽の風圧にうち負けていく


凛「(追いつかれる...?)」


機動力においては渋谷凛が現状での最上位のプレイヤーではある


しかしその事実をして、黒いボットは彼女に肉迫する。


その圧倒的な物量で


アァアア゙ーー!!



ガラスが粉々の飛沫に変貌していく破裂音が木霊する

凛「__っ!!?」


前方に黒い羽が霧のように立ちはだかっていた



凛「ビルの隙間を飛び跳ねてるだけじゃアレの視界からは逃げられないか...!」


耳元を風がよぎって行く。

その音にまぎれてはいるが確実に羽音が背後に迫っていた

かと言って地面を走るのは得策ではない。

なにせ相手は空一面を覆う程の群れだ、地面に降りることはすなわち逃げ場を塞ぐことに等しい

だからこうして高層ビルの、決して低くない階の窓ガラスを蹴って進んでいる。


それでもカラスはその「空路」を埋め尽くし始めていた


凛「じゃあ、上に行く...!」




最初に能力が発動した時のことを思い出す


凛「(私の能力はただ何処にでも立てるだけじゃない...)」


建物の間を緩やかなジグザグを描いて跳んでいく



その軌道が直角に近い角度で上空へ折れ曲がった



あくまで道路に沿っていた移動経路を、脱する


凛「視界に入る場所になら...どこにだって行ける!」


目指すは上階、屋上、


凛「避雷針...!」




そして、上空




靴の裏が蒼く瞬いた。



凛の姿が消える



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


腕力ならば堀裕子が


破壊力なら小関麗奈が


回復力なら双葉杏が


修復力なら十時愛梨が


機動力なら渋谷凛が暫定的にこの世界でのトップだ


そしてその機動力をもって駆け回った結果、彼女は大量の情報を手に入れることと相成った





凛「.............」




耳を聾する羽音の嵐から抜け出て数秒。

恐らくこの世界の中に現存する中で一番の高所に到達した凛は沈黙する

彼女の目には仮想世界の全景が映っていた


背の低いオフィスビル、斜めに傾いた高層建造物、大穴のあいたデパート、車の一台もない道路や駐車場


夜の影に飲み込まれかけながらも緑がかった月明かりが浮き彫りにするその姿、


地平線を埋め尽くす直方体の黒い森、そしてここで彼女は初めてこの街は四方を低山に囲まれていることを知った


その山の向こうの景色は見えないけれど、この呑み込まれそうなほどに広い仮想現実の有限を見た


自分たちがいた世界は意外に狭かったのだ



凛「......、...」




ビルの全体に比べてあまりにも細い避雷針の頂点に危なげなく直立し、しばしその光景に見惚れたように静止する


凛「.........」


凛「.........」


凛「.........」



凛「.........あっちの方と」


凛「...こっちの方」


もちろん見惚れてなどいなかった


見渡した限りで明らかに危険地帯、アンタッチャブルな方角を見定めていた


そしておおよその距離を元にタブレットと見比べる



凛「(あの翼を生やして飛んでいるのは、ボットか......すぐ近くにプレイヤーが一人)」

「(でも、少し離れた場所に五人...一人が気を引いている間に、何かしようとしてるの?)」

タブレットで知ることができるのは位置情報だけ、あとは彼女自身が推測するしかない


視線を別のポイントへ向ける


凛「(あそこの”穴だらけ”の建物にはボットが三人、いや四人?)」

「(なんでかプレイヤーもいないのに戦ってるみたい...仲間割れ?)」


首を回す


凛「(あのとんでもなく光っている所は...)」

「(ボットが4人も...それに対してプレイヤーが2人だけ、か)」

「これじゃあ、あそこのプレイヤーはもう......ん?」



凛「ん?」



彼女は見た。

タブレットの上で起きたその「変化」を

だが、その意味するところを正確に理解することはできなかった

できないままに彼女は次の移動を開始する


凛「(まずはさっき目星をつけた三人の場所に!)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


機動力は情報収集力につながった


高所から見渡した景色と手元にあったタブレットは安全な道程を示し


一時の間、彼女の目は全てを見通した






同様に






彼女もまた見通されていた






同じく高所、上空にいた存在に















聖(ボット)「.........じぃー...」







美玲「なっ、なに他所見してんだお前ッ!!」



タブレットで知ることができるのは方向と距離のみ


何をして、何を見ているかは分からない


ましてや、画面上のドットが自分を見つめているかなど

凛には知る由もなかった



ゲーム開始87分経過

望月聖(ボット)VS早坂美玲&渋谷凛

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

生存報告の更新、もっとたくさん書きたい


次回開始するチャプターを選択してください


1、双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

2、早坂美玲

3、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南

4、輿水幸子&白坂小梅

安価下

3


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南





奈緒「マジか、紗南!?」





不必要に大きな声は窘められることなく返答された


紗南「だからちらっとだけど反応したって!」

加蓮「本題はそっちじゃなくって、その反応した相手ってのは間違ってないよね?」

紗南「うん!間違いないよ!」


どこまでも続く広い下水道の中、身を寄せ合うようにして三人で画面を覗き込む


その喧騒と対照的にサーチモードにされたまま保持された画面は沈黙したまま


だが確かに、ゲームで鍛えられた紗南の目は画面の変化と表示された文字を読み逃がさなかった



______________

name:渋谷凛

category:プレイヤー

skill:・・・Now Loading・・・

______________





紗南の能力を司るゲーム機、

そのサーチモードは直線上にしか作用せず、動いている相手には非常に相性が悪い


ましてや三人は知る由もないが、凛はおそらく現在時刻この世界で一番機敏に動き回っている


だというのに渋谷凛の能力の軌道と、

三好紗南の直線は偶然の刹那交差した


そのほとんど起きないであろう偶然が起きるくらいにお互いの距離は近づいている



加蓮「とにかくこのチャンスを逃しちゃダメだよ...大体どの方向で反応したとかわかる?」


小柄な紗南に背後からもたれかかるようにして画面を覗き込む


奈緒「や、やっぱ地上に出たほうがいいのか!?」

加蓮「最終的にはそうなるかもね」

紗南「でもどこから?やっぱりマンホールとか登っていくの?」

加蓮「なんにしても早いほうがいいよね、凛だっていつまでもフラフラはしてないだろうし」

奈緒「でもあのカラスがなぁ...」

紗南「あぁそっか...どうみてもザコなんだけど数が多すぎるよね」


いよいよ移動範囲を下水道から地上へ移そうという段階になってもまだ三人を憂慮させるのがそれだ


地下にいる自分たちに対し、上空を舞うそれらのボットは十分に距離があるのだが


時折その存在を紗南の手元の画面上に表示しては三人を牽制していた


加蓮「___でもこのタイミングしかないでしょ?」


その事実をして加蓮は言う


奈緒「...そりゃ、凛には会っときたいけど」

紗南「カラスのせいで巴ちゃんが一瞬で撃破されちゃうの見ちゃったし...」

加蓮「あーもう、臆病だなぁ...!」


文字通り千載一遇の契機、凛との合流というカードが目の前にぶら下がってなお消極的な二人に焦れる


加蓮「というか奈緒、アンタ体力ゲージギリッギリの体ひきずってアタシらのとこに来たじゃん。あのガッツはどうしたのよ?」

奈緒「いや、あのときは何故か巴が手伝ってくれてたし...」

「というかお前も単車相手に特攻かましたりしてたらしいじゃねえか」


紗南「へ、へぇ...?」



頭上を行き交う二人の会話の剣呑な内容に紗南が若干顔を引きつらせる


そのとき画面上に、ついに待ち望んでいた変化が訪れた


紗南「りっ、凛さん出たよ!」


奈緒「なにっ!?またか!?」


上ずった紗南の声に奈緒が食ってかかる


加蓮「どこなの?どの方向に凛がいるの...!?」

より一層両側から掛かる圧力が増加し、ゲーム機を取りこぼしかけた

紗南「わわっ、ちょっ落ち着いて!」


強風から蝋燭の火を守るように、凛へと繋がったリンクを断ち切らぬよう期待を保持する

それを察した二人の追求も自然に収まった


奈緒「えっと...確か直線上に居る相手に作用するんだろ......?」


加蓮「で、つまり画面の上が向いてる方向なわけで...」


紗南「うん......そういうこと」


見やすい角度に掲げられたゲーム機から視線を持ち上げる


上へ、そこにあるのは冷たさしか感じられない下水道の天井


だから、凛がいるのは



紗南「アタシたちの真上だよ」





ゲーム開始87分経過

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲



ゲーム開始86分時点



目に付く限りの高層建築物は全て塵芥に帰した


完全に全ての建物を破壊し尽くしたわけではないし、それもできない


美玲「(アイツ等...逃げられたか?)」


破壊をまぬがれた背の低い2、3階建てほどのテナントビルに身を潜ませる


美玲「(あんまりウチが暴れすぎて流れ弾が飛んでったら危ないからなぁ)」


爆心地にしか見えない風景を見回す、

望月聖との戦闘の余波をまぬがれたきれいな街並みは随分遠のいた


美玲「(あの無事に残ったビルのどれかに隠れて逃げ切れたらいいんだけど)」


にゃんにゃんにゃん相手に攻撃を凌ぎ切り、単体での撃破ではなかったとは言えニューウェーブを下した


彼女にはその経験値があった、いきなりポッと出の敵には負けないという気負いもあった


だから結果として今、味方を逃がすべく殿を勤めている。



ここまでの戦力差、つまり能力の差は圧倒的だ。

壊して作り直す美玲と何もかも壊し尽くす聖

それでも美玲は勝つつもりだった、勝てるつもりだった



見せつけられたのは


埃でも払うようにあしらわれ砂礫となっていく街並みと傷だらけの自分


そして

それほどの惨状の中でも傷ひとつ付くことなく泰然とした聖の姿だった



美玲の自信が瓦解していく、


能力への自負が氷解していく



彼女の中で、

仲間のもとへ無事に帰れるだろうという心算はとっくの昔に___



美玲「がぅっ!!」



ビルの壁に裏拳を叩き込む


ズプリとその拳が壁に飲み込まれたのを感じた


美玲「がぁるるううぅう......」


この世界はまやかしだ。自分たちが興じているのもただのゲームだ



だがアイドルとしての仕事でもある



だったら、どんな実力差を見せつけられようと



アイドルとして、負けていい理由なんてない


美玲「そうだ...そうだぞ...諦めてる時間なんてないんだッ!!」


聖(ボット)「......?」


外壁を伝い、地面を伝い、能力が波及して


かつてビルだった破片を持ち上げながら爪が現れた、

その何もかもが巨大だ


聖(ボット)「......こりてない」


同じく破片でできた爪が投石器のように弧を描き、

そこに載った2トントラック大の瓦礫が宙を飛んだ

自分めがけて飛んできたそれを聖はわざわざそれを打ち返したりしない

翼一枚かざせばそれだけでぶつかった方から砕けていった


美玲「とりゃああああああ!!!」

雨後の筍のように次々と地面から爪が生え始める。

そしてその全てが地上を埋めてつくしていた瓦礫を投げていく

能力で可能となる事象の限界ギリギリまでの酷使。

それは地面から生えた爪が一度の投擲と同時に衝撃で崩れていくことからも察せられた

隕石の間逆、地上から空への土石流、破壊力を装填した土の花火

だが彼女の表情にさしたる変化はない

聖(ボット)「......質より量で来ても無駄、です」

6枚の翼のうち4枚がふわりと聖の体を包み込んだ

次の瞬間、繭に包まれた聖を無数の岩塊が打つ

だが、

打ち抜けない、繭となった翼を貫けないまま砂と散っていく

それどころか彼女の位置を空中に保っていた2枚の翼の羽ばたきすら止められない

何度も見た光景、見飽きた展開、予定調和の攻防



美玲「へへっ、今度こそびっくりさせてやるッ!!」


最後の爪が掘り上げた地面を投げ飛ばしたのを見届ける間もなく

美玲はその場を離れていた

半壊して何階建てかもわからなくなったビルの埋まりかけの窓に飛び込む



美玲「逃げるのも防御するのももうやめだッ!!」

ビルの中に隠していた、

いざという時の逃亡の手段だった「それ」に左の爪を突き立てた


耳鳴りを起こしそうな甲高い音と共にバラけた「それ」が美玲にまとわりついていく


あるいは美玲が飲み込まれているようにも見える


美玲「(”ウチに直接装備する”モード...これを使うとしばらくウチは重さでほとんど動けない...)」


能力の副次的効果で動かしていた先程までの投擲とは違う


ここからは美玲自身が打ち、殴り、削らなければならない


ガゴンッ


美玲「うぐぎぎ...!」


ギギギ...


背中に金属特有の冷たさと重量がのしかかる。

だがそれでも完全ではない。

彼女が押しつぶされるのも時間の問題だ


美玲「もういっちょ!!」


左腕を中心に背中におぶさった巨大な質量が右腕にまとわりつく前に地面に振り下ろす


美玲「”ウチから離れた位置に作る”モードを...」


「...このビルに使う!」



次の瞬間、彼女のいたビルが全壊した



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ゲーム開始87分時点


聖(ボット)「.........もう終わり...?」


彼女を包んでいた翼が開く


聖(ボット)「......逃げた...?」


光り輝く繭の中から見た外の風景は、端的に言って荒廃と終末


神話において地上に舞い降りた天使が人間の世界を見たとき、今と同じ感想を持ったかもしれない


聖(ボット)「...!」


そしてその目は確かに見た

遥か遠くの街並みを取り巻くカラスの

不自然な旋回を



何かを追っている?



聖(ボット)「.........じぃー...」


目を凝らせば、いた

蒼く光る何かがビルの屋上、その尖塔のような避雷針の先にいる


ボットではないし、ボットだったところで構わない



美玲「なっ、なに他所見してんだお前ッ!!」



次なる標的を定めたところで、活きのいい声が飛んできた、同時に近くのビルが全壊する

転回しかけた体を戻す、そこで聖はまたも神話じみた光景を目の当たりにした


それはまさにバベルの塔


3本でもない、4本でもない、たった1本きりの塔

全壊した跡地からうずたかく固められた瓦礫と鉄骨の爪が高く高く伸びていた

聖が破壊してきた高層ビルの分まで空へ近づこうとするかのように

天に遊ぶ神を討たんとするかのように




美玲「正真正銘!これが最後だッ!!!」




その爪先に、聖と同じ目線にのし上がった美玲が吠えた


天の使いと、地を這う獣が並び立った


月夜の中でありながらその姿は黒々として月光を返さない


聖(ボット)「.........変なの...」


美玲の「その姿」をみて短的に感想をこぼす


ピシリ、バベルの爪塔に修復不能のヒビが入った

塔全体が大きくしなっていた、

今から美玲そのものを投擲するために



ボットである聖もすぐにそれを察した



これをいなすのは簡単だ

飛んでくるタイミングに合わせて自分を翼で完全に覆い隠せばそれでおしまい

哀れ、空を夢見たケダモノは光の盾にはねつけられ、遥か眼下の地面に真っ逆さま



だが、


今はそんな回避行動の手段を選択するつもりはない



次の標的「渋谷凛」がいるのだから

短期決戦を挑もうというのなら望むところだ

さっさと終わらせよう

こっちも一々”石っころ”を防ぐのに退屈していたのだ




聖(ボット)「...おいで...?」





地割れやビル丸ごと投げみたいな間接攻撃はもう終わり



無限の力を直接ぶつけてあげる




二枚の翼が空中の位置を保持し


二枚の翼で自分の前を薄くガードし


二枚の翼を槍のように美玲に向けた



何者にも冒されない3対6枚の翼による攻防一体の構え



美玲「言われなくても行ってやるよッ!!」



塔が完全に崩落する0.1秒前、


美玲は射出された



最後の装備として


丸ごと一台作り変えられた装甲車と共に



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

ゲーム開始85分時点



きらり「そーこーしゃ?」


裕子「走・攻・守?」


杏「装甲車?なんなのそのチート」



愛梨「うん、美玲ちゃんが言うには最初はボットさんの持ち物だったって、ねっ蘭子ちゃん?」


蘭子「しかり...我と隻眼の獣爪が幾度もあの鎧の車輪の轍となりかけたことか...(そうです!私と美玲ちゃんは何度もあの装甲車に轢かれかけたんですよ!)」


地下下水道でもなく、道路でもない場所を疾走する


杏はきらりに背負われ、蘭子はスケッチブックを抱え、愛梨の頭上でバニー耳が揺れる


後方で裕子は曲がったスプーンを元に戻そうと躍起になりながらも器用にペースを乱さず足を動かしている


裕子「それで、そのお車は美玲ちゃんが乗ったままと?」


目線を手元に向けながら愛梨たちに相槌を打っていた裕子がそう返した


愛梨「聖ちゃんを...その、倒した後に私たちに追いついてくる手段がないといけないかなって」


豊満な胸と細長いバニー耳を存分に揺らしながら答えた


蘭子「かの獣爪が我らの中で最も操舵の才があったのも事実(それに美玲ちゃんが一番あのコントローラーの操作が上手でしたし)」

杏「へえー、このステージに車とかあったんだ...そっちに乗った方が楽だったかな」

きらり「杏ちゃんゲームでもなまけてちゃ、メッ!だゆー?」




杏を背負いながらも先頭を走っていたきらりがそんな風に背後の少女を窘めながら身を沈めた




きらり「きらりーん......キーック!!」



杏「えっ、ちょ」


沈めたカラダを戻す反動を利用して、

一般的な女子の平均を上回る長い脚から強烈な前蹴りが放たれた



それによってオフィスらしき部屋から廊下に出ていく扉が蝶番ごと吹き飛ぶ


愛梨「あわ~」

裕子「おおっ、流石きらりさん!私のさいきっくにも負けず劣らずですね!」

けたたましい音を立て顔を出したのは蛍光灯一本機能していない通路


今、五人が通路として使っているのは数あるビルの一階廊下だった


建物間の移動を最小限に、裏口や窓に入り込んだり

場合によっては裕子の能力により力技で入口をこしらえながら屋内を縫うように移動している

こうすれば少なくとも空から狙われることはないし、上空を飛ぶ物体にとって一階は死角となる


愛梨「それで...私たちはその事務所の偽物?みたいな場所に行くんですよね?」


裕子「はいっ!何があるかわかりませんけど、何かあるかもしれませんし!」


杏「とりあえず何かあるんだ...」


扉一枚吹き飛ばすきらりの蹴りの反動が返ってきたせいで若干苦し気な杏が補足するように言葉を継ぐ

杏「まぁ他に行くとこもないし...それにダラけるならやっぱ事務所でしょーって話ね」

蘭子「なるほど、解した...してこの指針は正しき星辰となるか?(わかりました...ところで方向あってますか?)」

杏「どうだろね...裕子、こっちであってる?」

裕子「さいきっく大丈夫です!」

今の所、唯一目的地についての情報を持つ裕子が自信満々にスプーンを掲げた


杏「不安だ...」

きらり「にょわぁ...」

既に乗り捨てたが、かつては戦車の道案内を任せて痛い目を見た二人が顔を曇らせる

愛梨「なるほど!裕子さん、頼みますね!」

裕子「お任せ下さい!ムムーン!」



杏「.........まぁいいか」

諦念じみたため息をつき、きらりのうなじに頬をこすりつけるようにもたれた

きらり「うぇへへ、くすぐったいにぃ」




杏「...そういや蘭子さ」

蘭子「如何した、小さき妖精よ」

杏「その美玲だけどさぁ、杏たちに追いついてくるときってどうするの?

蘭子「む?」

杏「いやほら、探知機でも持たせてないとダメっぽくない?」


現在、愛梨と蘭子をかばって聖と戦闘中の美玲について、

逃走か勝利か、いずれかの形で決着がついた彼女が自分たちに合流するにはどうするつもりなのか


蘭子「ふむ...なんら問題ない」


彼女は小脇に抱えた画帳を示す


万物を喰らう鎌、視界を灼きつくす杖、そして空路を舞う羽を生み出し

取扱説明もなく、法則もなく、ただし確実に状況を好転させてきた力の象徴を、


彼女は既にそのページを一枚ちぎり、取り次なる力を使っていた

美玲と別れたすぐ後に


あまりにも扱いづらく、あまりにも予測できない能力



だが、彼女はある種の確信を持っていた


この能力は必要な時に自分を助けてくれた


だから___


蘭子「___我が願えば、力は我に応えん」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲


ゲーム開始88分時点


防弾ガラスと装甲板が捻り合い、

得体の知れないボルトやパイプがそれを彩った爪


その長さはすでに本体の身長を抜いている、

両腕に三本ずつ全部で六本


さらに分厚いタイヤや座席を解体したような歪な集合体が美玲自身を背中から抱きしめていた


彼女の小柄な体を包むには多すぎた”材料”が両腕だけに飽き足らず背中や足にまで牙と爪を形成している


毛羽立った背を丸め、牙と爪をむき出しに、

今にも飛びかかろうとする姿は狼に似ていた


美玲「(ここまでのものになるなんて思わなかったけどな)」


そんな美玲がミサイルとなって空を飛ぶ


装甲車一台と早坂美玲一人。その重量差は恐らく百倍ではきかない


それに蘭子が運転する車をドリフトさせた時とは違う

車から爪を生やすのではなく車そのものを爪にしている

その重さは全て美玲の双肩にかかっているはずだ


美玲「ぅううぅがあああぁあ!!!」



そんなものを振り回す膂力はない、

だから能力をもう一段階使い自身を「投げさせた」



もう装甲車としては使えない、

乗れない、逃げられない

美玲「そぉれがどうしたぁああああ!!!」


空中で加速のついた1トンの凶器が突っ込む


鉄と人と爪と牙が防御を捨てて振るわれた


聖(ボット)「......えい」


美玲の右手の3本の爪と、聖の左肩から生えた一枚の翼が交差し



ザクンッ

切り落とされた右の爪が落ちていった



美玲「まだっ__」


ギャリッ

右肩の翼が美玲の左の爪を突き貫いた


美玲「だッ!」

背中に据え付けられた爪が伸びる


ガィンッ

聖の体にかかっていた翼の盾に弾かれて折れ曲がった


聖(ボット)「...」

美玲「___!」




削ぎ落とされていく


鉄の鎧が、爪が、装甲が


移動も防御もかなぐり捨て攻撃のみに全てを懸けて、

だがその攻撃の全てが夜闇の中に剥ぎ落とされた


聖(ボット)「...」


あとは美玲をはたき落とせばいい

槍として突き出していた二枚が内側に曲がった

聖の射程圏内に飛び込んできた美玲を包み込んで押しつぶすために


美玲「__ん」


しかし忘れてはいけない

美玲はもう止まれないということに


「__がぁっ!!」


滞空のための二枚は聖の背後で静かに揺らめきながら


攻撃のための二枚は美玲の両の爪を切り落としながら


防御のための二枚は美玲の頭上から聖へ伸びた牙を遮りながら






美玲自身がそのまま聖の胴体めがけて飛び込んでくるのを防げなかった




腕も足も届かない

能力もまだ解除できない

だから、噛み付いた


そもそもビル一棟を犠牲にして1トンの鉄塊を投げ飛ばしたのだ

ちょっとやそっとで止まるはずもない



それでも聖ならそれを止められたはずだった

ハエ叩きのように地面に叩き落とすか、

繭の完全防御態勢を取ればそれだけで完封できた


そしてそのまま凛を追えばよかったのだ


だが彼女は迎え撃ってしまった


無限の攻撃力と防御力を正しく使い、


空中を突進してくる美玲を真正面から瞬殺しようとした



美玲「がぶぅぅぅッ!!」

聖(ボット)「...ゃ!」


自前の牙をむき出しにした美玲に対し両腕で自分を庇う


ここにきて初めて、聖は翼以外の手段を行使した


そして当然、それは効果を成さなかった

13歳の少女に装甲車一台分の慣性の掛かった人間を止めきれるはずもない

細腕ごと押し込まれる 



虫歯一つない丈夫な犬歯が聖の白い肌に食い込んだ




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南


ゲーム開始88分時点



加蓮「行くわよ奈緒!紗南!」

奈緒「あーもう...わかった!こうなったらヤケだ!」

紗南「まだ真上にいるよっ!」

縦に並んだ三人が下水道を走る、といっても長距離を移動するつもりはない


加蓮「あった!」


10mも走らないうちに先頭の加蓮が急ブレーキをかける

そこにはマンホールに通じる梯子が伸びていた、地上への数少ない出入り口だ


紗南「でもっ、本当にいいの!?もしかしたらこの真上にビルがあって凛さんがどの部屋にいるか分かんないなんてことも...」

奈緒「マンホールが近くにあんだからそこまで心配するほどでもないだろ、つっても賭けではあるな」


いまだに怖気づいた様子の紗南と吹っ切った奈緒もそう言いながら足を止めた

加蓮は既に梯子の段に飛びついて登り始めている

地上へ続く穴へ、照明のない暗くて狭い空間に突き進んでいく


奈緒「ほれ、紗南」

その後ろを追って奈緒が紗南を担ぎ上げた、

ゲーム機をポケットにしまわせ梯子の最下段を掴ませる


紗南「わわっ!アっ、アタシから?!いいの?」

奈緒「そりゃここまで来れたのもお前の功績だし、というか紗南の身長じゃ登りにくそうだから支えてやらないと」

紗南「奈緒さん...」


狭い空間の中を加蓮、紗南、奈緒が並んで梯子を登る

そして詰まった


加蓮「奈緒......」

奈緒「あ?どうした早く登ってくれよ、パンツ見るぞ」

加蓮「バカ...あのさ」


「マンホールって、どれくらいの重さだったっけ?」


紗南「あ......」



奈緒「...えっと...原則として普通のマンホールは50kg以上...って、え?」


加蓮「いま、アタシの頭の上にあるのよね......ごッついのが」


紗南「ゲ、ゲームだとステージ移動のときとか案外簡単に持ち上げてたりするよ!」


状況を察し始めた他二人をフォローするように紗南が声を張り上げた、わんわんと暗闇に反響する


奈緒「お、おうそうだ!アニメでも自称普通の高校生のくせに簡単にマンホールを開けたりしてたぜ!」

紗南「ほら、だってさ!加蓮さん!そういうのもあるって!」

奈緒「......そうそう!普通のマンホールだったらボルトで地面に固定されてるのにな!」


今度こそ全員が静止した


耳が痛くなるほどの静寂が満ちる


試しに加蓮が天井の黒い蓋を押し上げようと力む


無機質で無反応な手応え



加蓮「......ここにきて、こんな」


奈緒「くそっ、変なとこまでリアルにしやがって!」

加蓮が愕然としたうめき声を上げて、奈緒が誰に向けるでもなく悪態をつく

一旦態勢を整えようと奈緒が梯子から降りかけたところで



「ううん、そんなことない」


その声は奈緒と加蓮に同時に届いた



紗南「いけるかも...」



誰に聞かせるでもない、

思考をまとめた頭から口へ不意に漏れ出たような呟きも


狭い空間にはよく響く


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲


ゲーム開始88分時点


聖の視界が大きく傾く


空中での姿勢を保とうと背後に控えた2枚の翼を忙しなく動かす


「がぁるるるうううううううううう!!!!」

「や、やめ......ゃ!」


獣耳を飾った頭を腕で押し返すが思うように力が入らない

懐に潜り込んできた彼女の上下の犬歯が聖の右肩を鎖骨ごと喰らい、齧りついていたからだ


ギャリンッ!


美玲の両腕の延長線上、その体躯を上回るサイズの鉄爪二対が翼に無造作に切り裂かれていく


食いつき絡み合う不安定な二人から、滑らかな断面の金属片が落下していった


「がっぎぎぎぎ...!!!」

「...お、重い...」


噛み付きのしかかるようにして今、聖もまた装甲の重量を前から背負わされている

逆に美玲は余分な部品が背中側で連結されているおかげで負荷が両腕以外にも分散されていた

その美玲の背中から聖目掛けて伸びていた牙が反り返される、聖の頭を覆っていた翼二枚によって


聖(ボット)「......潰れて...ください」


ザクン、とついに最後の爪を切り離された


そして翼が花びらのように上下左右対称に開いていく、美玲を包み押し潰すために


「がるっ!?」

美玲も両爪を持ち上げようとする


ほとんどが抉り取られ、両腕で辛うじて動かせるほどに軽くなってしまった貧相な武器を振るうため


もはや武器というより鉄くずの廃材に手を巻き込んだようにしか見えないそれを聖にぶつける



しかし元々重厚な装甲板でできたそれと、


文字通り”羽のように軽い”翼では速さが違う



美玲「____あ」


グキャッ


美玲の目の前に真っ白なシェルターが降りて、


輝く翼は蕾のように閉じた





パチィッ!


聖(ボット)「ん...」


柔軟さと剛健さの同居する翼同士が擦れ合う音が一つ

プレイヤーを包んだその四枚が互いに重なり繭を形成している

ただし今回のものは聖を守護するのではなく美玲を圧殺するためのもの

何の音もしない、望月聖の翼は音すら通さない



聖(ボット)「....おっとと」


静寂を取り戻した世界で聖の体が傾く


自身の前面に人一人と削り取ったとはいえ装甲車一台近い重量がぶら下がっているのだから当然だ

美玲の最後の突貫による慣性もなくなった今、この存在は重しでしかない

文字通り強力無比ではあるが所詮は翼、バランスを崩せば飛べるものも飛べはしない


パチッパチチ...


ダメ押し、とばかりにもう一回り白い蕾を縮こませ、中身を押しつぶす


聖(ボット)「...じゃあ、さようなら」


不安定ながら二枚の羽で態勢を維持して四枚の翼をそろそろと開いていく

尋常ではない圧力をかけられた鉄片や配線、装甲板が奇怪な形状のゴミとして隙間こぼれていった


バラバラと、パラパラと、ボタボタと...


聖「.......重たくなってきた」



翼が完全に開き切り、

聖の前面から背面へと戻っていく


その前に


何かが翼に引っかかった

唐突に開閉が中断される






「.....がふっ」




ぐねぐねに折れ曲がった爪が内側から翼を掴んでいた

両腕からそんな物体を伸ばした、人間の形をしたそれを聖は認められない


「な、なんだこれ...?」


全身に食い込んだ鉄片がウロコ状にその矮躯を覆っている



聖(ボット)「...!...」


ベグシャ!


開きかけた翼の四枚を再度閉じた、すりつぶすように



聖の眼の前から意味不明の存在が消えた



だが彼女ははっきりと感じていた




聖(ボット)「お、重たくなってる...?」



この中にいるのは剥き身のプレイヤーだけのはずだ


凶器も武器も、勢いさえも通用しなかった早坂美玲だけのはずだ


それに自分の翼に触れて無事でいられる存在がいるはずもない


聖(ボット)「こうなったら...」

二枚の翼だけではもう支えきれない

早急にこの蕾に閉じ込めた存在を地面に叩き落とすべく急降下した

重力加速に翼の推進力を加えて落下するより速く落下していく

そして、中身をぶちまけるように翼を開いた、その中身を二度と見ないで済むように急旋回しながら

ガシャンッ!

無造作に打ち出された装甲板が地面に突き刺さった音だけが響く


だがそれでも


「何すんだコイツッ!!」


それはしっかりと翼にしがみついてきていた


聖(ボット)「ッ、また...!」


今度はちゃんと開いた六枚羽、その一枚に長く、歪曲した爪が絡まっている

全身を醜怪なウロコ状の鉄片に包んだ存在もそのままだ



聖(ボット)「どうして...まだ、生きているんですか...!?」

美玲「ウチにもわかんないしッ!!」



そのウロコが剥がれるように体表を移動し、早坂美玲は顔を出した

美玲の纏った装甲が移ろいでいく、翼を掴んだままの爪も同様に


聖(ボット)「ううん...おかしい、掴んだりできるはずがないんです...絶対に...」

美玲「そんなの知るかッ!!」


刻一刻と変化していく自分の装備を顧みることもなくより一層爪を握り込む


ガオオォオンン!!!


聖(ボット)「!?」

そこで二人の耳に届いたのは確かに装甲車のエンジン音だた


それに連動して美玲の体が機械的に持ち上げられる、聖と美玲の視線が数センチの間隔を空けてかち合う


美玲「やっと...やっと、ウチの番、だッ!」



ゴツンッ!!!!!!


聖(ボット)「~~~~~~!?」



いくつもの偶然を越えて辿り着いた対等な土俵で


最初に炸裂したのは美玲の頭突きだった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨



杏「愛梨、そのバニーの耳ってどーなってんの?」

愛梨「はい?あぁこれですか?なんだかさっきからずっと動いてるんですよね~」

きらり「とーってもかーわうぃーにぃ♪」



外から見られないように窓枠の下に三人並んでしゃがみこみながら会話する

杏の指摘した兎耳はもちろん十時愛梨の能力「修復」を司るもの

それはこうして静かにしている最中も吹きもしない風に揺れるようにぴこぴこと動いていた



なぜならその能力が現在進行形で発動しているからだ

その対象を早坂美玲が壊して作り直した「装甲車」にして



きらり「愛梨ちゃんのはどんなものでも直してきれいきれいにしちゃうの?」

愛梨「そうんですよー、ただ壊れた街までは直せないみたいで...今は動いてるだけかな?」



望月聖の能力の本質は無限の破壊力にある


それを使えばいくら装甲車のパーツに身を包んでいようとも紙くずと同じだ


ただし、


たとえ彼女にとって紙くず程度の強度しかなかろうと例外として


”存在しなかった物”を存在する前に破壊することはできない


そして十時愛梨の能力はその存在しない物を補い続けるものだ



最初、蘭子の力により食い破られた装甲車の天井を元通りに修復し


次に雨あられと降り注ぐカラスとそれらが宿した破壊の奔流に同じく対抗し続けた


無から有を生み出すこともデジタルの世界なら非常に容易い


杏「直すっていてもどんなもんなのよ、それ。やっぱゲームだし一瞬で直るの?」

愛梨「う~ん、一瞬ではありませんけど、物凄く早いのは確かですね...割れたフロントガラスにヒビが広がるよりも早いです」

きらり「すっごーい!」


欠損した部分、失くなってしまった部分を生産し、補填し続ける愛梨の力

偶然か必然か

その生産力は聖の破壊力をギリギリで上回り、美玲を完全なる破壊から守りきっていたのだ


美玲は聖の翼を掴めてはいない、掴んだ部分から弾け飛んではいる

ただその欠損が補われ続けているだけだ



しかし同時に美玲の力もまた装甲車には働いている



破壊と再構成の力は無限の生産と結びつき、決して壊せない装備を作り上げていた


さらに歪な融合は装甲車のエンジンさえも再構成し

その馬力を美玲の爪を振るう力に昇華させた


だが、それを正確に知る者が現れることはない





きらり「それにしてもユッコちゃんたち...大丈夫かにぃ?」


杏「まぁ、杏のスキルがあれば大丈夫でしょ、蘭子は知らないけど」


愛梨「はうっ、そうでした!でも蘭子ちゃんは私とユニットっていうのに設定したから平気だよね?」



現在”別行動”をとっている裕子と蘭子の安否を気遣う



杏「まぁ、ユニットメンバーになんかあったら分かるでしょ」

「こんなに事務所の近くにいるんだし」


壁に背をつけたきらりの腕の中で身じろぎする、そこからは窓の外は伺えない


だが、窓の外には今、

下手な建物よりも長大な爬虫類が静かに佇んでいることだけは確かだ




ヒョウくん「.........」




愛梨「ヒョウ君ってあんなに大きかったんですね~」


きらり「きらりよりもずっとずっとおっきいー」


杏「いや、ゲームだからね?......はぁ、それにしてもメンドくさい」

「まさか事務所がボットの巣窟になってて、しかもそこに突入することになるなんてね」


愛梨「時計はないですけど、多分そろそろ蘭子ちゃんたちが仕掛けますよ...」


今になって小声になった愛梨が耳打ちする

今から少し前、五人は今事務所から数えて六軒隣のビルにまで近づいてきていた

しかし一筋縄で踏み込める場所でないことを知った彼女らは作戦を立てた


その内容は五人中三人がパッションだけあって、シンプルかつ大胆






裕子「エスパーユッコここに推・参!!」



蘭子「我こそは仮想の庭園に降り立つ悪姫ブリュンヒルデなり!」






かつて幸子たちが通った坂の上に顕然と並び立つ

感情の色のない爬虫類の視線にも怯むこともなく威風堂々と


たった二人でボットの部隊に立ち向かうプレイヤーとして





杏「裕子たちが動いたよ...」

きらり「ゴーゴーだにぃー」

愛梨「こっそりですよねっ、こそこそ~っと...」



ボットの目線を、事務所の裏手へ向けて動き出した仲間から逸らす陽動役として









ゲーム開始90分経過

双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


全然終わらないや、なんでだろ、もう次回作考えてるのに

ここまでお読みいただきありがとうございました



次回開始するチャプターを選択してください


1、双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

2、早坂美玲

3、神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南

4、輿水幸子&白坂小梅


安価下

3

3

あけましておめでとうございます
もうしばらくお待ちください

わくわくが止まらん!

待ってまーす

生存報告

待ってますぜ

更新はよ!(期待)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南


緑の月に照らされた夜景

半壊した摩天楼


それらを鳥瞰しながら飛んでいるカラスの群れ


その中の一羽が方向を変えた

うねる黒羽の流れを無視し地上を目指す


他の数千羽から外れ、急降下していく。決して力尽きて墜落しているのではない

確固たる目的を持ち、そこへ向けて加速していく

月明かりの届かないビルの谷間へ吸い込まれるように


目標はすぐにそのカラスボットの視界センサーに入った

茶色がかった長い黒髪、

淡く輝く蒼色の靴、

現在進行形で夜を生き残るプレイヤー


彼女はボットの接近にまだ気付いていない。



そして既に気付いたところで反応出来る速度ではなかった



そのカラスの目標は渋谷凛___





ガィン!!






___のすぐ隣、


マンホールの蓋









凛「わっ!?」


風圧でなびいた髪の隙間から、矢のように突き立ったカラスが見えた


凛「(見つかった...!?)」


瞬間、凛の姿が消え、近くのビルの日除けの下に移動した

飛んできたカラスは一羽だけ。そのカラスも自殺ものの突貫により消失した


凛「(いない...?今までだと一羽でもこっちに来たら群れでついてきてたのに...)」


ガィンッ!!!


凛「ひゃっ!?」


再度、同じようにカラスが急降下し、マンホールの蓋に体当たりし、同じ音が響いた


凛「(なに?...狙いは私じゃなくて......地下?)」


カラスのバンザイアタックの目的は明らかにその下水道への入口だった


だが油断はできない、それは空からの死角である日除けの下から彼女が出ていい理由にはならない


ガィンッ!

ガィンッ!

ガィンンンッ!!


動物の集団自殺現象が凛の目の前で起きている、

一つ違和感があるとすればそのペースが一羽ずつであることか



ガキョッ!!!



音が変わった。同時にマンホールに深い亀裂が生じる


凛「!!」


ボットの狙いはプレイヤー、そのボットがこじ開けようとしていた入口が今、開いた


凛「(これ...まずいんじゃないの?カラスが狙ってるのはあの下にいる誰か...!)」


タブレットの画面を思い出す、三つ並んで表示されたプレイヤーの証を

ゴトリ、とマンホールの蓋だった半円の鉄板がずれた




凛「(あそこにいるのは私が探してた三人...!!)」




手元を探るとヒビの入った窓硝子が指に触れた


凛「(向かいのビルに瞬間移動...その軌道上でマンホールに向かってくるボットにこれを突き刺す!)」


手首をひねって硝子の破片をもぎ取る

武器は即席、視界は不良、だが覚悟はできた


凛「......誰かは知らないけど...目の前でみすみすカラスの餌にはさせないよ」


ゴトリッ

アァア”ーー


蓋の破片が押し上げられ、カラスが鳴いた


凛「!...今出てきたら__!」






「ぃよっしゃあああ!やっと開いたぁあああ!!」


凛「な?」



「お手柄だよ紗南ちゃん!!」

凛「か?」



「それほどでもないって、アタシのゲーム機でカラスが操れるかも賭けだったし!」

凛「さ?」



「一羽ずつしか動かせなかったけどな」


「贅沢言わないの、アタシたちに至っては能力なしだし」



自分の緊張状態など素知らぬというような、場違いな大声

四苦八苦しながらも三本の腕が二つに割れた破片を押し上げていた


そのマンホールと蓋の隙間から漏れ出る声に聞き覚えが無い訳もなく


凛「奈緒、加蓮、紗南?!」

加蓮「あ、凛やっぱりいた」


その声に応えたように最初に加蓮が地上に顔をのぞかせた



奈緒「はぁっ!マジで凛か!?おい加蓮、早く登れって!」

加蓮「ちょっお尻触んないでよ!」

紗南「せ、狭い...!」


地上の地獄絵図を知ってか知らずか姦しくも壮健そうだ

徐々に加蓮の上半身が地上に押し上げられる


凛「はは...」


一時間ほど前とまるっきり変わってない友人の様子に脱力したような笑いが漏れる

日除けの下から一歩外へ踏み出す、カラスの羽音はとっくの昔に遠ざかっていた

だから、次の群れが上空を通過する前に、安全な場所へ友人を連れ出さなければ...


凛「ほら、加蓮...手、貸すよ」

加蓮「ありがと」

地面から上半身だけを覗かせた少女に手を伸ばす

凛「......って、これ二つに割れた蓋が邪魔だね」


50から60キログラムのマンホール蓋だったもの、

カラスの能力を利用する形で真っ二つに割られたそれの半分は押しのけられ、依然もう片方が蓋として加蓮の脱出を妨げたままだった


凛「急いでね...早くしないと見つかるから」

加蓮「見つかるって...もしかしてあのカラス?」

凛「そうそう、さっきまで向こうからこっちにかけてものすごい大群がいたんだから...」


加蓮の手を繋いだまま、視線を遠くに向ける

まだ空は黒くない



それに万一の時は自分の能力を使えば逃げられる



凛「(ん?逃げるにしても、この能力って...他の人も引っ張って行けるのかな?)」




わずかの間、頭をよぎった疑問



自分の能力の限度、何ができて何ができないかについての疑惑



もし、これがなければこの後、渋谷凛がとった行動も変わっていたのかもしれない











__ゴォオオオオオオオオッ!!!!!













凛「!!」

加蓮「何アレっ!!?」


地上に乗り出していた二人は見た

空が白く灼けるのを



紗南「うるさっ!」

奈緒「何の音だ!」


地下にいた二人にとってその光景はただの轟音で

加蓮にとってそれは避けられない破滅で

凛にとってそれは回避できた攻撃で



だけど


凛「加蓮!!」

加蓮「___え?」

奈緒「わっ!?」

紗南「きゃあっ!」


彼女は逃げるより先に、友人の安全を優先した

掴んでいた手を離し、加蓮もろとも三人を地下に突き落とすことで


自分も飛び込もうにもその穴は四人が入るほど広くなくて

だから自分は地下の逆、上空へ跳ぼうとした


もしかしたら加蓮の手を掴んだまま跳べたかもしれない

だが、跳べなかったかもしれない。それに跳べたとして、奈緒や紗南はどうなる?


そんな疑問が一手、凛を遅らせた


そして凛は一歩だけ、逃げ遅れた


ゲーム開始90分時点
_____



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神崎蘭子?


ゲーム開始89分時点





ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた





それはカラスのいない空を飛ぶ


カラスも通らない領域を悠々と通過する


行き当たりばったりでプレイヤーを探すカラスとは違う


それは夜目が効いた。しっかりと前を見据え、翔んでいく





ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた





カラスの真逆、真っ白な羽を優雅に振るいながら


目指す先はひとつ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
早坂美玲



美玲「むぎぎぎ...!」

聖(ボット)「むぅう...」


膠着状態


全てを破壊する攻撃力と、無限に修復する回復能力は拮抗したまま


自身の能力に両腕を抑えられている美玲は自前の歯を立てようと首を伸ばし

六枚の翼だけで対抗している聖はその頭を腕づくで押し返す


聖(ボット)「(私の翼はなんにでも勝てる......

例え美玲さんが千人で襲ってきたって、美玲さんが今の千倍大きな体でも...一瞬でぺちゃんこにできる

そういう能力なんだから...当然そうなります)」


ちらりと押さえ込んだ美玲の頭部から翼の先へ視線を向ける

そこでは進行形で破壊と再生を続ける装甲車の破片が有機的な動きでまとわりついていた

硬質な鉄板が高速で膨張しながら破裂する様は、もはやそれが人工物であったことすら忘れさせる



聖(ボット)「(でも、倒しても壊しても、蘇ってこられたら...!)」



美玲「がるぅあっ!!」


ゴゴォン!


装甲車一台分、もはや一台という単位で数えられるかは不明だが、

その重量を伴って二人は「また」墜落した


ここまで力関係は確かに拮抗している、


荒ぶっているのは二人の状況だ


四枚の翼で美玲一人を包み込むように押しつぶしている今、

二枚の羽で姿勢など保持できるはずもなく、食らいつく美玲を引き剥がす意味も含めて

二人は巨大なスーパーボールとなってそこらじゅうを破壊しながら上下左右に跳ね回っていた


勿論聖自身は飛行に用いている翼で身をかばいながらだ。



ガッゴォオン!ガガァン!!


美玲「(くっそ!聖のやつ!ウチが離れないからってムチャクチャな飛び方しやがって!)」


プリンをスプーンで削るように、翼が擦れた跡の地面がめくれ上がっていく


美玲「(というか、これホントにヤバい...!)」


石礫が上から横から降り注ぐ、押しくら饅頭の二人がそこらじゅうの瓦礫を砂礫に変えていく



そして、その時は訪れた



ジグザグに破壊を撒き散らす二人の軌道が一棟のビルを「また」貫いたとき、


一階の窓ガラスを突き破り、そのまま屋上に至るまでの十階分の天井と設備を砕きながら屋上へ突き抜けたとき、



美玲は聖の元から剥がされ、丸腰で宙に放り出された



そのままビルの屋上、大穴の開いたそのすぐ横に背中から落下する



美玲「___あがぁっ!?」

聖(ボット)「___やっと」



四枚の翼の中には抜け殻となった装甲板の獣爪だけが残った

どれほど修復されようと、その繰り手がいなければなんら脅威でない


グシャリッ


聖(ボット)「もうコレ、いらないですよね?」


爪の原型をなくした装甲が修復を繰り返しながら落ちていく


聖(ボット)「初戦から散々、でしたが...」

六枚の翼を拘束するものはもう何もない、


美玲「あ__あ、あ...能力の、時間切れが、こんなとこでッ......!」


緑の月を背後に、対称な円弧を描いて翼が開く


聖(ボット)「ばいばい、です」


健闘した敵へのせめてもの餞別に、全力で翼を振った、無限の力が空気を叩く


竜巻がビルを丸ごと飲み込んだ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた



聖(ボット)「............」


回転するミキサーに投げ込んだウエハース

カラスにより老朽化させられていたとはいえ、建物一棟がまるまま粉微塵に消えていく


もう一度、今度は軽やかに風を起こすとその砂塵も掻き消えた

あとには何も残らない、鉄骨すらも風に舞っていった



聖(ボット)「でも、まだ生きてる......」


「(装甲車が、まだ直り続けてるから...)」


眼下にある物言わぬ瓦礫にまみれながらも確かに活動している物体をみて、推測する


確かに十時愛梨の能力は今もまだ運転手のいない車両を修復している


しかし聖はその修復を”早坂美玲の”能力による現象だと誤解していた


だからこそ能力の主はまだゲームオーバーになっていない、という認識


翼の角度を緩やかに調節しながら360度を慎重に見渡す。装甲板の軋りを耳で聴きながら



ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた



聖(ボット)「......なに、あれ」



結果から言えば、誤解ではあったが誤認ではなかった




ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた


そこに見えたものは至ってシンプル


自分から遠く遠く離れた小さなシルエット


美玲がいて、空を飛んでいた。


しかも白っぽい羽が生えていた



聖(ボット)「........ふくろう....ミミズク?」



美玲「............げ、みつかったぞッ!急げよお前ッ!!」



羽は美玲のものではなく、美玲の首元を掴んで飛翔する鳥類のものだった


速度こそ心もとないが確かな力強さで美玲を難なく運搬している


その、自分の後頭部のあたりで懸命にはばたく”鳥型ボット”を急かす


美玲はそのボットの鳥に見覚えがあった。そして彼女の推測が正しいのならそれは__





美玲「お前あれだろッ!蘭子のCDジャケットで蘭子の手に乗ってたトリだろッ!?」





___神崎蘭子の能力が寄越した伏兵だった




カラスも近寄らないこの空間においてどのタイミングで美玲に合流したのかはわからない

だがそのボットは蘭子の望みに応え、美玲を救ったことだけは事実で

そして今、彼女らの姿も聖から遠く離れたビル群の中に潜もうとしている



聖(ボット)「いつのまにあんな遠くにっ...!!」



完全なるボットとしての不覚、装甲車に能力が発動しているのなら、美玲自身も近くにいるだろうという誤解


それが蘭子の手引きによる美玲の逃走を助長した


十時愛梨もまた、美玲を間接的に救ったのだ




美玲の姿が見えなくなる


バサァァアッ!!!!


その場で六枚の翼が聖の背後に翻る



聖(ボット)「(追いつき、貫き、トドメを差す...)」



ロケットスタートのための、一瞬の溜め

無限の攻撃力を加速に転化するためのラグ



美玲「ヤバッ!アイツ追いつく気だ!!急げ急げ鳥ィ!」

聖の力を知る美玲の声が焦燥にまみれる


ぱたたたたたぱたたたたた


聖(ボット)「(速くなった?...でも、関係ない!)」


きりきりと翼が引き絞られる、最高速の体当たりを敢行するために__



ガゴン・・・



美玲「ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!」

その光景は美玲にとって、ギロチン台の上で刃が引き上げられていくのを見ているようで


ガシャンッ・・・




聖(ボット)「今度こそ___」


美玲「__なんとかしろォ!!!」






ジャキッ・・・!


翼が羽ばた


ドガガガガガガガガガガガッ!!!!


 
   「は?」


 銃
   弾が


      聖  を



ドガガガガガガガガガガガッ!!!!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


最初に用意したのは土屋亜子だった


そこを、神崎蘭子が毟り取った


十時愛梨はソレを戻そうとしたが


白菊ほたるがそれを許さなかった


最終的には


ソレは早坂美玲の支配下に置かれた



ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!



聖(ボット)「____こ__」



乱射された数十発の弾丸の内、聖に命中したのはたった二発

だがそれで充分、致命的だった

仮想でない現実だったなら、たった一発でも聖の体を飛び散らせる威力なのだから



装甲車の、”固定銃座”から放たれる、大口径の弾は



美玲「......おい、なんだアレ?ウチが...さっきまで使ってたパーツだろ?なんで勝手に動いてんだ?」



彼女も気付いてなかったことだが、装甲車の銃座自体は少し前に修復されていた


そして愛梨と美玲の能力が同時に作用した結果、そのトリガーは美玲の制御下にあったのだ


ただ、彼女は爪と牙以外の武器の存在を知らず、その機銃は無駄な重しとなっていて


たった今、ようやくその出番が来たのだ



聖(ボット)「____が____ぃあ___」


翼を全て移動のためだけに使おうとして、防御をしていなかった

足元のずっと下からくる遠隔操作攻撃に対してなどなおさらだ


ハンドガンやマシンガンとは訳が違う。装甲車に固定してしか使えないほどの口径と反動を誇る威力を浴びて




もう何も見えない




唯一自分を見下せる月も、逃げ延びようとする美玲も、

正体不明な鳥のボットも、

渋谷凛も


ただ落ちていくだけ、

そして多分地面に墜落する前に彼女は消失する

それは聖本人にも分かっていた



パチィッ!




だから





パチチチィッ!


美玲の耳に嫌な音が届く、硝子を引っ掻くような耳障りな音が


「アイツ...何やってんだ...?」


パチチチチチィッ!!


翼と翼が擦れ合っていた

それの意味するところは【矛盾】

パチィンッ!!


無限の攻撃力と無限の防御力の衝突

どんなものでも貫く翼と

どんなものでも防ぐ翼の



パチチチチイイィイィィイィイ!!



そこに秘めたエネルギーを無限に押し込んでいく

六枚の翼が四枚に、二枚に、最後に一つの小さな球体にまで圧縮され



聖(ボット)「なくなっちゃってください」




爆ぜた






__ゴォオオオオオオオオッ!!!!!








夜空が白く灼ける












ゲーム開始90分経過


望月聖(ボット) 消失

早坂美玲+   0/100

渋谷凛+    0/100

神谷奈緒  能力獲得

北条加蓮  能力獲得


望月聖(ボット)VS早坂美玲&渋谷凛

引き分け


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

CAUTION!

仮想現実空間運営用自律ボット

CHIHIROより池袋晶葉へ


・過度の情報が処理されました。容量不足によるパフォーマンスの低下にご注意ください


仮想空間稼働90分経過


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

こんなに遅くなるとは思わなかった

待たせてしまって申し訳ございません

待ってくれてありがとうございます


次回開始するチャプターを選んでください


1、双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

2、輿水幸子&白坂小梅


安価下

1

まさかのしぶりん退場だと!?

乙です!
今回もすごく面白かったです(小並感)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨


ゲーム開始88分時点



裕子「エスパーユッコここに推・参!!」

蘭子「我こそは仮想の庭園に降り立つ悪姫、ブリュンヒルデなり!」



陽動作戦開始


蘭子「今こそ我に力をもたらせ...!グリモワールよ!」


不本意ながら着込まざるを得なかった黒のパーカー、そのポケットは蘭子のスケッチブックを丸め込んで収納するにはちょうど良かった

破られた白紙のページが変化する。この状況に最適な道具へと



ヒョウくん「......」

翠(ボット)「今までで一番活きの良いお客様ですね」

四本の矢が翠の矢筒に装填された、これで彼女の能力はリセットされたことになる

翼竜の周囲の大岩、数分前に落ちてきた聖と美玲による流れ弾が同時に崩折れた

彼女の能力による固定が無くなったそれらが脆く倒れていく



裕子「おぉっ!地震ですか!?」

蘭子「ち、地形が変わっていくだと...!」

翠の能力を知らない二人からすれば、なんの前触れもなく周囲の瓦礫が倒れたようにしか見えない

その隙に一人と一匹は突く、瓦礫の砂塵を振り切って血管の浮いた羽が空を切る


裕子「むむっ!先手は取らせません!」


急接近する巨大な敵に彼女が選択した武器もまた瓦礫、自身の倍からある大きさのそれを担ぎ上げた


「さいきっく 念動力!!」



それはただの投石、ただし必殺の威力で翼竜とその背の翠を襲う



対して彼女は弓を引かず、爬虫類の背にしっかりとしがみついた

それに応じるように翼竜は急上昇して、壁のようなサイズの岩石を躱し、降下する

そうして温存した矢を弓につがえる、相手を釘付けにして動きを制限する能力のために




翠(ボット)「___いない?」




ただし相手がいなければ意味はない


蘭子はおろか投石した本人である裕子の姿さえ消えていた


ズズゥン!!


大岩が一面のガラス窓を粉砕しながらビルに減り込む音が背後から聞こえた


翠(ボット)「岩に気を取られている内に隠れて...そのまま事務所まで抜けるつもりですか...」


矢をつがえたまま周囲を警戒しながら後ろへと体を回していく、背後には今まで守護してきた事務所があるのだ


翠(ボット)「(今となっては通してしまっても”構わない”んですけどね......まだそれには少し早いそうですし)」


数分前の仲間との会話を思い返す


それは、変わり果てた状況に対する自分たちの取るべき指針についてのやり取り



佐城雪美の能力によりもたらされた情報



八神マキノを始めほとんどのメンバーが消失したという事実にまつわる話し合いを___


ズルッ


ヒョウくん「......!」

翠(ボット)「!」


平衡感覚が狂い、視界が急勾配で傾いた



翠(ボット)「これは__!」


足場が傾いている、この場合足場とは翼竜と化したイグアナそのもの



「さーいきっくぅうう...」



完全に後ろを向ききった翠の目に裕子の姿が飛び込む


さっき自分の投げた岩の上に陣取り、大綱ほど太さの尻尾をむんずと掴んでいる姿が


裕子の傍らには蘭子がいた

ただしこっちは岩の上には着地していない、ふわふわと宙に浮いていた


その手の中には黒い傘

さっきまでなかったはずのそれがタンポポの綿毛のように蘭子を空へと引っ張り上げている


蘭子「我が力は刹那、超常の使い手よ...早急に決めてしまうのだ!(私の能力はすぐに切れちゃうので、裕子さん、さっさとやっちゃってください!)」


裕子「ううううぬぬぬぬ......!」


イグアナの翼が虚しく空を掻く、崩された体勢では満足な揚力など得られず

その巨体が大岩の上の裕子を軸に回転を始めた


翠(ボット)「(蘭子さんの能力は飛行?...それで裕子さんと共に死角から回り込んできたのですか!)」


猛スピードで流れる視界、弧を描く足場、傾く爬虫類の背中からでは姿勢を保てない


弓を射るなど以ての外だ


今の翠にできることはその翼の根元にしがみつくことだけ


翠(ボット)「だったら.........ヒョウさん!」

ヒョウくん「......!!」

翠がイグアナに合図を送る。そして傾いた背中から滑り降りた







裕子「テーレーポォオオオオト!!!!!」







同時に巨大な翼竜は、遥か遠くへ向けて背負い投げられた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゲーム開始89分時点


きらり「翠ちゃん以外は見張りもいなかったねー?」


愛梨「他の人たちが中にいるんですよ、きっと窓から見えただけでも四人くらいいましたし...」


杏「うぇえ...じゃあ杏たちの方が危ないんじゃないの...?めんどくさ...」


裕子と蘭子が姿を見せる少し前から行動を開始していた隠密組が事務所の裏手に到着した


きらり「杏ちゃん、そんなこといっちゃダーメ!ユッコちゃんたちも頑張ってるにぃ?」

その証拠に今も地響きやガラスの割れる音がそう遠くない場所からビル壁を反響してきていた

愛梨「でも武器がこんなものしかないのも事実ですしね...頑張らないと...!」

そういって手に掲げたのは料理用のナイフ、元は蘭子の体に刺さっていたものの一部だ

ニュウェーブの罠により蘭子を貫いた後、

何かの拍子に刃こぼれした一部がパーカーのポケットの中に引っかかっており、

それを愛梨が修復し、一本の新品のナイフになるまで復元した

ちなみに刃物に軽いトラウマを負った蘭子自身はそのナイフを使うことを忌避した


きらり「何かあったら~愛梨ちゃんにお願いだにぃ...」

愛梨「任せてください!ふんす、です!」


不慣れな手つきでナイフを構え意気込む愛梨をきらりがはやし立てる



その様子を杏はやや冷めた目できらりの背中越しに見ていた



杏「(愛梨が刃物を武器にねぇ......似合わない、というか先制攻撃とか無理だろうなぁ...)」



確かにこの世界はゲームで、敵は機械人形だ。

ここで誰をどう傷つけようと現実の人間関係は変化しない

だからといって自分のよく知る人間、それも仲間にナイフを突き立てられるか?

レーザービームや巨大な恐竜、動く箱といった現実離れした現象とはわけが違うのだ。

刃物などあまりにも現実的すぎる


杏「(水鉄砲とは違うんだから...完全にゲームだと割り切ってないと咄嗟に仲間のそっくりさんを攻撃する、なんてできないでしょ...)」


きらりの背中で心持ち態勢を整えた。事務所の中からは目立った音は聞こえてこない


杏「(いざとなったらこれ、杏が働かなきゃならない流れかなぁ......)」


がちゃり...


愛梨「それじゃ、入りますよ...私に続いてください...」


きらり「にょわぁー」

きぃい...

三人にとって正念場となるはずの扉が開く


杏「............」


愛梨の手の中で、ふらふらと揺れる頼りないナイフ

小声になってはいるものの、警戒心の欠けたきらりの掛け声


杏「...まぁ、もらった飴の分は頑張るよ...」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
堀裕子&神崎蘭子



世界が静止した



裕子「あれー?」

蘭子「__!?」


裕子の足場となっていた岩が完全に崩れる前に、

蘭子の空飛ぶ傘に捕まることで避難はできていた

生地の薄い黒い傘は二人分の体重を感じさせない余裕さで宙を漂う


そんな二人を至近距離で眺める眼球が二つ



ヒョウくん「........」



裕子「本気で投げ...いえ、テレポーテーションさせたんですけどねー」

蘭子「目と鼻の先の危機に猶予はない!?(そんなこと言ってる場合じゃないですよ!?)」


投げ飛ばしたはずの大型翼竜がほぼ眼前にいた


裕子の能力を全開にした上で投げ飛ばされたはずのそれが、悠々と空中で態勢を整える

巨大な生物というのは体重も大きい分、動かすのは容易ではない。

だがその体重の大きさは一度速度がついてしまえばそれだけ大きな遠心力がかかるはずだ


いくら翼があるとは言え空中で急ブレーキをかける手段などあるはずが






翠(ボット)「......間一髪、ですか」





いや、一つだけある



裕子「ん?あのイグアナさん怪我してませんかね?背中のとこ」

蘭子「そんなことより、は、早く逃げないと...!」


裕子の指摘のとおり、イグアナの背中は僅かだけ傷ついていた


水野翠が突き刺した一本の矢により


翠(ボット)「能力発動......です」


「これで...ヒョウさんは私から60メートル以上離れることはありません」


コンクリートの地面に受身を取っていた彼女が毅然と起き上がる


翼竜の背中から”故意に”滑り落ちる寸前、

彼女は矢を足元、つまりウロコの背中に突き立てていた


これにより能力の対象となった翼竜は最低でも地に足をつけた翠から見て60メートルの一に固定される

鎖につないだ碇を海底に下ろした船が波に流されないように、こうして裕子の怪力も遠心力も全てキャンセルされた



翠(ボット)「足場ごと振り回された状態では弓は引けませんが......自分の足元に矢を突き刺すくらいは出来るんですよ...?」

裕子「???」

蘭子「この世界は我にそぐわぬ!!三十六計なり!(に、逃げますよぉ!)」




二人は翠の能力を知らない。だが状況のまずさは理解した。

不意打ちに失敗したのだ

蘭子が体を傾けると同時に重心の移動した傘はふわりと動き出す


だが遅い


翠(ボット)「能力...解除」


翼竜を保護する戒めが解かれた。碇が上がる


ヒョウくん「.........」



バサァッ!!



蘭子「ひっ!」

速度、重量、攻撃力、全てが段違い

今度は尻尾ではない。ヒョウくんの頭突きが二人に振り抜かれた



裕子「さ、さいきっく...えっと、ジャーーーンプ!!」



頭突きに合わせて両足を突き出した。膝を緩衝に頭突きの衝撃を相殺する

しかしそこは踏ん張りの効かない空中、結果として二人は風に巻かれる枯葉のように吹き飛ばされた


蘭子「きゃああああああ!!」

裕子「しっぱいですかーーー!?」


きりもみ式に回転しながらあっけなく遠ざかっていく


翠(ボット)「.........本当にこれで、よかったんですよね」

ヒョウくん「......」


消えていく二人の方向を見ながら、確認するように呟く




二人は、事務所へ向かって飛ばされていた

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
十時愛梨&諸星きらり&双葉杏


愛梨「一階はスルーして...一気に二階まで行きますよ...」


そういったのは十秒前


きらり「じむしつに踏み込むにぃー」


そういったのが五秒前


杏「なんで誰もいないのさ......」


そして現在

電気が通っていないせいで、窓から不自然なほどに燦々と注がれる月光だけが光源となった部屋

三人は知る由もないが、少し前に凛が踏み込んだことで荒らされた事務室にはいくらか人のいた形跡はあった

パソコンの備え付けられたデスク、倒れたソファ、割れた窓ガラス、穴の開いた壁


しかし、ここにいたであろうボットだけがいない


杏「えっとさ...最初、遠目に見たときは確かに誰かいたよね...?」


愛梨「はい...窓のそばに。それに今も外には翠さんたちがいるってことは...ここを守ってたはずじゃあ」

きらり「じゃあじゃあ~、みんな逃げちゃったゆ?」


暗い室内の中心できょろきょろと周りを見渡す

杏「誰もいないならいないで、早いとこ見つけるもん探したほうがいいのかもねー」

内心ほっと息を吐きながら、散らばった室内を目を凝らして観察する

元々ここにはゲームを有利にする何かを探しに来たのだから妨害はないほうが好ましいのだがこの状況は不自然だった


杏「(きらりのキーアイテムってなんだろ...きらりの場合...趣味関連のものとか...?)」

「(ダメだ、心当たりがありすぎる...なにせ小物集めが趣味みたいなもんだしね...)」


カタンッ


「!?」



びくりと三人が震える。気配のなかった室内、その隣の部屋からの物音


「だっ、誰かいますねっ!!」

最初に武器を構えたのは愛梨だった。しかし動いたのはきらりだった

「にょぉおお、わぁあ~~!!」


「ちょ、慎重に行動しないとっ...!」


杏を背に負ったまま一気に駆け出し、隣の応接間への扉を蹴破った

静寂を破壊して、一気に未知の空間が開ける


「あれあれ~?」


だが、そこも無人

ただし何もなかったわけではなかった


カラン、と乾いた音を立てて応接間の床にそれが落下する


愛梨「今、扉の裏から何か落ちませんでした?」

きらり「にゅ?これかに~?」

杏「なにこの安っぽいおもちゃ...」


きらりが拾い上げたそれに対して背中越しに杏が毒づく。

きらりの手のひらに乗るような大きさの、他愛ないおもちゃ



星形のディスクに対して



愛梨「そんなものが仕掛けてあるなんて...何かあるんですかね?」

三人は知らない、本田未央の能力を、それが遠隔で振動を伝えることを

その振動が応接間での物音を演出したことを



それが事務所に来た三人の気を引き、

時間を稼ぐためのものであったことを




ゲーム開始90分経過



ガッシャアアアアアアアンンン!!






裕子「ほわぁああっ!!」

蘭子「きゃあっ!!!」




突然の闖入者、すでに割れていた窓ガラスを窓枠ごと粉砕して、

黒傘とスプーンを構えた少女たちが飛び込んだ


愛梨「えぇっ!!?」

きらり「にゅにゅっ!!?」

杏「!...な、なんでこっちに来てんのさ!?」





驚愕した三人の表情がそこで白く染まる






白く灼けた夜空の照り返しを受けて





90分

それは命運を分かつ時間




___ゴォオオオオオオオオオ!!!!





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


カタカタカタ


翠(ボット)「.........」


懐から出した星型ディスクを眺める。それは先程から絶えず震えていた


これは合図だ。『そこから逃げろ』というメッセージを込めた


「ヒョウく~~~ん!」


ビル街の死角、カラスの行動パターンから漏れた一画に翠を乗せた翼竜が着地すると同時にその足元に少女が駆け寄ってきた


小春(ボット)「うふふ~、無事に帰ってきてくれて嬉しいのです~」

翠(ボット)「小春さん、大事なお友達を貸していただいてありがとうございました...」

小春(ボット)「いえいえ~!」



未央(ボット)「いや~!まさにゆきみんの予言通りの展開でしたなー」

雪美(ボット)「......ぶい...」

卯月(ボット)「もーのすっごい大きな音でしたね!」



小さな少女に続いて、暗闇に潜んでいた他の影も姿を現す


その内の一人は振動を伝える能力で翠に合図を送った張本人

もう一人はその合図を送るタイミングを予知したボット

そして最後の一人は普通のボットだ



卯月(ボット)「それで翠さん!首尾の方は!?」

翠(ボット)「雪美さんの予言通りなら三人が事務所にいるはずですから...ヒョウさんが吹き飛ばしたのを含めて五人ですね」

未央(ボット)「おお~!つまりつまり、五人まとめて一網打尽!というわけだね」


本田未央、島村卯月、水野翠、古賀小春、佐城雪美


防御において最強と評された彼女らは拠点を放棄して、避難した


原因は二つ、「戦力外たちの宴」の情報班、戦闘班が共に壊滅したこと

そして彼女らが防衛していた事務所もまた、取り返しのつかないダメージを負うことが予見されたこと


どちらも雪美の能力がもたらした過去と未来の情報。無論、それを疑うものなどいない


だが、それですごすご逃げ出す彼女たちでもなく、ギリギリまでプレイヤーを待ち構えた


これがその結果だ


卯月(ボット)「それにしても...とんでもないですねー」

翠(ボット)「はい、私ももう少し脱出が遅れてしまえばどうなっていたことか...」


卯月が背伸びをして遠くを注視する

たった今、事務所を丸ごと飲み込んで街の一部が消滅していた。

そこには瓦礫すら残っていない


未央(ボット)「まさかひじりんがここまでやっちゃうなんて、みおちゃんビックリ!」


ボット、望月聖の最期の自爆には狙いなどなかった

割れた水風船のように無秩序に、無作為に四方を灼き尽くした


翠(ボット)「しかし...次はどうしたものでしょうか...」


居場所をなくしたボットが呟く


しかしそれは迷いではない、次なる行動への思索だ


なにせボットが成すべきことなど一つしかないのだから





ゲーム開始91分経過


双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

暫定勝者:ボット


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



何もない、何もない


聖の能力を浴びた痕には何も残らない



「はぁっ...、はぁっ......!」



そこに新たに音が生まれる



「な、何が......?」


ガラリ

聖の攻撃から彼女を守っていた壁の最後の破片が脆く崩れる



もちろん、ただの壁で聖の攻撃を防げるわけもない



ただし、完全に破壊され貫通する前に【修復し続ければ】話は別だ





「...あれ?」



尻餅を付いた姿勢のままキョロキョロと首を振る、それに合わせてウサ耳が揺れる


寸前で能力を発動させ、事務所の壁の一部をバリケードにして、


彼女は生き残っていた







愛梨「......事務所は...どこですか?」




「...街の景色もなくなっちゃって......それに」




「...みんなは...どこに行ったんですか...?」





彼女だけは、生き残っていた





ゲーム開始90分経過

双葉杏+  0/300

諸星きらり 0/300

堀裕子+  0/300

神崎蘭子+ 0/100

望月聖(ボット) 消失

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

CAUTION!

仮想現実空間運営用自律ボット

CHIHIROより池袋晶葉へ


・過度の情報が処理されました。容量不足によるパフォーマンスの低下にご注意ください


仮想空間稼働90分経過


比較的早めに更新できて満足

安価は一回休み、次回はさっちゃんのチャプターです



それと蘭子ちゃんが能力で顕現してた武器一覧

http://i.imgur.com/xwmDo6b.jpg

蘭子Pなら思い当たる節があったかもしれませんが、一応画像にしておきます

お読みいただきありがとうございました


どんどん減っていくなー


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
輿水幸子&白坂小梅



聖の攻撃が一帯を灼き尽くす少し前



それよりは少し狭いとはいえ広範囲を薙ぎ払う一撃があった


南条光のものである


光を参考にしたボットは特徴として手加減を知らず、そして何より

【必殺技を決めたがる】

だから彼女は麗奈の攻撃を逆利用したことで手にした膨大な力のほぼ全てを放出した



頼子(ボット)「...参りましたね...私の集めたボットが全て無に帰してしまいました...」



ほたる(ボット)「...うぅ...折角ボットとしての役をもらえたのに...私ばかりか頼子さんにまで...」




光(ボット)「っす、すまない!アタシが逆転勝利にこだわったばかりに!」




数分前までは舗装されていた道路があったとは思えない惨状と静けさ


光の攻撃は麗奈は愚か勢い余ってその延長上にあった瓦礫のバリケードを巻き込んでいた


ほたるの能力により周囲の建物が老朽化していたのもあり、周囲の建物もその攻撃の前に砂塵と散った

近辺の空を埋めていたカラスの群れも例外なく消え失せた。

ほたる曰く新たな群れを呼ぶにはまだ時間がかかるらしい


そして件の攻撃がもたらした結末はそれだけにとどまらない



頼子(ボット)「死んで花実が咲く、などと言いますが...なるほど圧巻な光景です...」



シルクハットを指で押し上げ、荒れた都心を見渡す。平坦さの消えた地面

そこに月の光を鈍く照り返す粒がいくつも転がっていた。

どれも指先ほどのサイズで、波打ち際の貝のようにきらきらと存在を主張する



ほたる(ボット)「...こ、これ.....全部銃弾なんですか...?」



頼子(ボット)「弾丸だけでなくいくつか銃身も転がっていますね...それと見覚えのある瓶も...」


仮想世界のルール、【ボットは積極的にアイテムを破壊できない】


今、三人の周りを埋め尽くす銃器の類は全て、ビルの中に隠されていたものだが

先の攻撃により隠し場所だけを葬り去られ、こうしてその身を晒していた

砂金採りにおいて泥の中から金だけがザルで濾し取られるように


頼子(ボット)「私とほたるさんは一時的ではありますが...戦闘に能力が持ち込めなくなってしまいましたし...」


「...これらもありがたく使わせていただきましょう」


銃弾の海の中からいくつかサルベージする。壊すのではなく使用する分にはボットでも問題ない


ガシャンッ、カチッ


ほたる(ボット)「じゃ、じゃあ私も...この小さいのを一丁だけ...」

光(ボット)「アタシは自分の力だけでやっていくぞ」


次の戦いに向けての準備を進めていく


頼子(ボット)「それと光さん...しばらくしたら私とほたるさんは別行動をとりますので...」

ほたる(ボット)「わ、私と頼子さん...ですか?」

頼子(ボット)「ほたるさんの能力はどうやら敵味方お構いなしのようなので...出過ぎた真似、でしょうか...?」

ほたる(ボット)「あっ...す、すいません!こっ、こちらこそよろしくお願いします...!」

頼子(ボット)「いえいえ、こちらにも利があっての判断ですので、感謝されるようなことなど...」

光(ボット)「そっか、じゃあアタシはもう行くよ!」


次の戦い


つまりもうここにプレイヤーはいないのだ





少なくともボットの三人から見える範囲には




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

丸く削れた天井から月が見える



「ぜぇ、ぜぇ...な、なな...なんなんですかもぅ!」


「さ、さっちゃん、すごい...映画の主人公みたいな、だ、脱出劇...」


元々、密かに行動していたところを一掬いに戦場に放り上げられたのだ

だから、隙を見て隠れなおした。下水道へ回帰する



幸子「全く、全く全くもう!カワイイボクがどうしてこんな日の当たらない場所をこそこそと...!」



度重なる衝撃や地割れの影響で照明すら疎らになった通路に臆することなく足を踏み出す

幸子は勇ましく、小梅はややホラーじみた雰囲気に興味津々な様子で


小梅「でも...しょ、しょーちゃんも、亜季さんも...れ、麗奈ちゃんもいなくなっちゃった、から...」


幸子「うぐ...まさか最年長でこの手のイベントに強そうな亜季さんが倒れるなんて俄かには信じられませんが...ボクたちだって負けません!」


走りながらスカートの裾に挟んでいた物を取り出す。小梅もさきほど同じものを手に入れた

幸子「幸い何故か武器が大量に転がっていたので、これでボクたちも戦えるはずです!」


小梅「...うん、しょーちゃんの分も、頑張る...」


女性の小さな手でも扱えるような小振りな拳銃、その銃身が破れた天井から届く月光の中で揺れた




二人は知らない

光を見ているのが自分たちだけではないことに



______________

 輿水幸子  119/200


______________
______________

 白坂小梅  119/200


______________


ゲーム開始85分経過

報告事項なし



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「............」




「(...どうしたものでしょうか......)」




散らばった武具、見晴らしのよくなった夜空

背を預ける瓦礫も少なくなった場所で、あやめは黙考する



あやめ(ボット)「(奥の手を隠していた頼子どのはおろか、ほたるどのまで無力化してしまうとは)」



視線の先では三人が装備を吟味している、まるで死体の骨を拾うような作業

しかしあやめには能力を通してその光景は違ったモノに見えた


あやめ(ボット)「(わたくしにとって、全ての隠し刃は薬籠中の物、その場所は明らか)」


【音が視える】という音葉に似た能力の彼女にとって、アイテムは絶えずその所在を主張する灯火である


だから彼女にとって今の光景は


あやめ(ボット)「月見草の畑...といったところですかな」

頼子(ボット)「...?どうか、しましたか?」

あやめ(ボット)「いえ、お気になさらず...選別はお早めに...」


少し離れた場所にいた三人の一人の怪訝な表情に静かに返す



あやめ(ボット)「(そう、お早めに...)」



彼女にとって武具は灯火、だからこそ地下道に隠れていた一団を見透かした


だからこそ、今も少しずつこの場を離れようとしている二人分の存在も認識していた



あやめ(ボット)「(麗奈はおそらく光どのに敗れたとして...幸子に小梅ですか...)」


「(やはり大味な攻撃は悪手...)」


「(やはり光どのと別行動をとってから...頼子どのと追撃に参るとしましょう)」


そして彼女が選択したのが沈黙だった


南条光の能力、そして攻撃手段は忍の美学とはあまりに反する


ここで下手に地下道をひた走る二人の存在を示唆すればそのあとどんな乱戦、混戦が起きるかは想像するにあまりある


だからこそ今は、小さな二つの灯火を目だけで追い続ける


あやめ(ボット)「(委細支障はありません...まるで夜闇がわたくしに力を与えてくれるよう...今なら二人の息遣いすら伝わりそうです)」


正面突破を不得手とするボットとして、せめてこれくらいはしなくては

傍にあった丁度いいサイズの岩に腰掛ける


あやめ(ボット)「(今だけは束の間の解放を味わうといいです...)」


ゆらゆらと離れていく二つの反応、こうして地面を隔てて補足されているとは夢にも思うまい



グギッ



急にその二つの灯火が消えた、代わりに見えたのは大きな丸い反応



それが自分たちの真上にあった月だと気付いたのは、ゴキリと体内で音が鳴ったとき




いつの間にか

自 分の首 が真上を向 いてい



「(いや、向けられてッ...!!?声がっ!)」



いつの間にか自分の首元が締め上げられている

そのまま真後ろに無理やりひねられた


ゴギッ


真後ろを向いた視界が下手人の顔を捉える


「(なぜ、あなたが...?)」


目の前で揺れる「50」の数字が刻まれたプレート

それが彼女の見た最後の光景





?「ドッグタグ...」


?「本来、持ち主の死後にこそ真価を発揮するものではありますが...」



他の三人はこのナイトアサシンに気付いていない

それは、忍びの暗殺に匹敵する近接格闘技術




大和亜季「まさか”ゲームオーバーになった後に効果が発動する”と解釈されるとは」


星輝子「...あ、晶葉ちゃんなりの...ジョーク?...フヒヒ」


____________


大和亜季+  50/100


____________

____________


星輝子+  50/100


____________




ゲーム開始86分経過


浜口あやめ(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ちょっと過激な暴力描写がありました。すいません



今回のSRで頼子さんの泣きボクロに初めて気づいた

惜しむらくは>>1が攻コストに全然ステ振ってないせいで走れない

そろそろどっかに所属するべきか


お読みいただきありがとうございました



次に開始するチャプターを選択してください

1、北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南

2、輿水幸子&白坂小梅

3、大和亜季&星輝子


安価下

3

まさかの敗者復活能力だったとは

3

めっちゃ面白い!
続きはまだか!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季&星輝子



亜季「頼子殿の能力によりユニットが強制解除されていたこと、それと我々が近くにいたこと」



輝子「そ、それが...私も一緒にい、生き返った...理由?」


亜季「で、ありましょうな...」


輝子「あぅ......れ、麗奈ちゃん、には...悪いことしちゃったな...」





頼子とほたるが去り、光が駆け去った後

代わってその場にいた二人が状況を整理していた

敗残処理にも似た空気が満ちる中で



亜季「それを言うなら、大恩ある幸子どのや小梅どのに報いることのできなかった私こそが愚物であります」

輝子「麗奈だけじゃなくて...さっちゃんやうめちゃんもいなくなったもんな...」

亜季「十中八九、戦死したのでしょう......」



心底から悔いた声で亜季が言う。急造ではあったが、あのプレイヤー五人のチーム中では自分が最も実戦に強いという自負があった


だが現実はどうだ


二人分の効力を発揮したことでおそらくもう使いものにならなくなったであろうドッグタグに目を落とす


亜季「おそらく私の蘇生能力はこのプレート二枚で品切れでありましょう...つまり私はまた、無力であります」

輝子「そ、そんなこと...ない、よ?」


最も破壊に向いていた麗奈はおろか、自分たちが命を拾うきっかけ、キーアイテムを授けてくれた幸子や小梅まで姿を消した

亜季「.........」

輝子「.........」

亜季「......ふぅーーー...」

輝子「.........?」

亜季「この腰抜けめがッ!!!」

輝子「フヒッ!?」

亜季が両手で自分の頬をひっぱたいた

破裂音が闇夜に響く

亜季「軍人たるもの、屍を乗り越えてこそ!!愚痴るだけの豚になるのはここまでであります!」

輝子「あ、はい...(一人で落ち込んで一人で立ち直った...)」

反省会はここまでとばかりに頭を切り替えた様子で力強く発された宣言

言うが早いか瓦礫を跳ね上げる勢いで地面に散らばった物資をかき集める

この場合の物資とはすなわち武器だ



拳銃、猟銃、散弾銃、コンバットナイフにアサルトライフルがテキパキと亜季の体に装着されていく



亜季「頼子たちが残りのアイテムを処分していなくて良かったであります」

輝子「フヒヒ...亜季さん、コ、コマンドーみたいな格好に...」



ガンベルトといったご都合主義で便利なアイテムまで発掘したことで亜季の全身が凶器に埋まっていく


輝子「(私はユニット切られちゃたけど...さっちゃんたちはそのままやられちゃったんだよな...)」


相方の勇猛さに押されるようにして輝子もまた手近に転がった武力に手を伸ばす


輝子「(ぶっちゃけピストルの反動は私の腕力じゃ扱えないし...あっ、このナイフちっちゃいキノコみたいなのが付いてる...)」


技術を持たないことを自覚している輝子は多くを持たず一本だけ懐に忍ばせることにした





亜季「弾は装填!覚悟も充填!今こそ敵を殲滅し、最後は玉砕する覚悟であります!」





__ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



二人のいる場所から何本かの大通りを挟んで極太の破壊光線が横断したのはその宣誓と同時


よって輝子の耳にその口上が届くことはなかった


亜季「さぁ、輝子どの!!ともに手を取り戦いましょう!!」


網膜を灼くような激光を背景に歪な立ち姿が切り取られる


輝子「お、おお...!」


だが、何かは伝わったらしい

彼女は、差し出されたたくましい腕を、確かに掴んだ




ゲーム開始90分経過

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
ボット



ほたる(ボット)「...あの」



頼子(ボット)「はい、なんでしょう」



光と別行動をとった後、高架の道路を並んで歩いていた


都会の中にあって広く視界を確保でき、カラスのいる空に少しでも近い地を探した結果だ


ほたる(ボット)「えっと、あやめさんはどこに...?」

頼子(ボット)「まさか光さんの攻撃に巻き込まれたとは思いませんが...」

ほたる(ボット)「ませんが...?」

頼子(ボット)「あの方のことですから...どこかに、隠れているのかもしれませんね」


マントを揺らす長身の影と剣を引き摺る小柄な影がアスファルトに伸びる


頼子(ボット)「それと、私の方からも伺いたいことが」

ほたる(ボット)「な、なんでしょう...?」

頼子(ボット)「ほたるさんの能力、おそらくそれと同等であろう藍子さんについて、です」

ほたる(ボット)「藍子さん、ですか?」

頼子(ボット)「はい、聖さんについては先の戦闘の前に聞きましたので」

ほたる(ボット)「は、はい...といってもどう説明したらいいのでしょう」

頼子(ボット)「少なくとも...貴女方三人が散開しているということには事情がある、とお見受けしますが」


ほたる(ボット)「そうですね...」




「藍子さんの力が操るのは、『重さ』です...」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


小柄な体が宙を回転し、異様に長い袖がその動きを追従する


「・.・・。!」


アナスタシア(ボット)「っあ!」


差し向けた氷柱の槍に袖が絡んだ。次の瞬間には袖はその姿を変える


アナスタシア(ボット)「(変身能力は...なんでもあり、ですか)」


植物の蔓のように、人体にありえない角度と長さに伸びた触手を頭の動きだけで躱した

同時に手首に纏っていた己の氷を巻き付いた袖ごとパージする


アナスタシア(ボット)「(しかしこの、小梅のボット...?どうして)」


改めて対峙している敵に注目する、それの見た目は白坂小梅のボットだった

少なくとも攻撃さえしてこなければ


「..・..。..・...」


その身体能力は13歳の少女どころか人間のものでもなく

びっくり箱のようにタイミングも本数も選ばず触手を飛び出させる様子は生物にすら見えない

本来なら能力を持たないはずの練習用ボットであるはずだが、アナスタシアはそれを知らない


アナスタシア(ボット)「シトー...?どうしてボット同士で、争わなくてはいけないのでしょうか...」


のあ(ボット)「...この不条理を踏まえた結末を、この子達の電脳が望んだからでしょう...」


五指に透き通った爪を形成する彼女に背中合わせになるようにして、のあが立った

その彼女の右腕もまた、瓦礫と鉄骨を取り込んだ異形


ただし大幅に抉られている


「...そうなんですよね」


廃墟ビルの中で月明かりがゆらいで、のあの対敵が姿を浮かばせる



藍子(ボット)「...仮想現実の容量の都合上、私みたいなのが全力をだそうと思ったらこうするしかないんです」


高森藍子


『夜』のボット


全方位からの攻撃を強制的に減速し、


果ては完全に消滅させる


のあ(ボット)「(でも、それだけじゃ...いえ、そういう能力じゃあ、ない)」


物体に潜行し、同化する力を持つ彼女だからこそ感じる違和


彼女が操っているのは少なくとも『速さ』ではない


それだけでは最初、自分が忍ばせた遠隔操作の目玉が破裂することもなかった



のあとアナスタシアが背中合わせに立ち、それを藍子とあの子が挟んでいる

だが、この中で明確な味方同士であるのは身を寄せ合う二人だけ



この混戦状況は何も進展していない、


だからこそスタミナの続く限り何度でも仕切り直される


茶番のように、歌劇のように



コツ、と

藍子の靴音が鳴る。


ゆったりとした服がありもしない風にたなびく




藍子(ボット)「.........」




パキ、と

肉食獣のツメを象った氷爪がアナスタシアの両手を包み込む




アナスタシア(ボット)「.........」




ゴトリ、と

のあの体内で重量を持った鉄塊がその位置を変えた




のあ(ボット)「.........」




ぶしゅる、と

小梅に似たボットの、細かった両腕が赤黒い風船のように膨らんでいく




「..・.。・...」




 無音


 無音


 無音



____カツンッ!




「!!!!!!」





死角となる背中に隠されていた”氷の剣”が振り下ろされ




爆発した両腕から血まみれのカラスが”噴射”され




体内に同化させていた尖った鉄片がダース単位で”砲撃”される__







___その前に






藍子は移動を終えていた





のあと、アナスタシアと、小梅もどきの、全員に手が届く懐へと




同時に目の前の藍子がノイズのようにブレて消えた



のあ(ボット)「瞬間、移動...!」


藍子(ボット)「ちがいますよ?」



減速 消滅 そして高速移動


高森藍子の手は二つに留まらなかった


その右手が大きく弧を描く

彼女は触れない、ただ近づけただけ

それだけで最も近くにあった小梅の、左肩からぶら下がった風船のような肉塊が掻き消え

能力を使いだす前の小梅の体に戻された

「・・・。・!・..」

アナスタシア(ボット)「シトー...!?」


右肩の肉風船が破裂し、カラスが発射される

それはアナスタシアの顔をかすめるようにして窓ガラスを突き破り、赤い飛沫と共に落ちて行った


藍子の手は止まらない



小梅の姿が掻き消えた、痕跡すら残さず



スイッチを切り替えたように、デスクトップ上のファイルでも削除するようにあっけなく



藍子の手は止まらない


アナスタシア(ボット)「!」

突き出された氷の剣が見えない何かに食い止められた

そのまま藍子の体から数センチのところで、凍った切っ先が消失していく



藍子の手は止まらない



のあが振り向きざまに含み針を放った

その唇から放たれたのは針とは到底言えないサイズの鉄杭で

しかしそれも藍子に触れることはなく、数センチ手前で杭の時が止まる


にこやかな表情が窓から漏れる月光で淡緑に塗られる



藍子の手は止まらない



次の瞬間、その顔が白く照らされた






___ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!!





藍子(ボット)「ああぁぁっ!?」


引き戻した両手で目を覆う



窓の向こうから殺到した夜空を灼く白光が、藍子の瞳に注ぎこまれた



藍子(ボット)「ひっ、聖ちゃん...!」



ボットである彼女の網膜がダメージを負うことはない


それでも一瞬以上の時間、隙ができた




アナスタシア(ボット)「...一体何が起きた、のですか?」


のあ(ボット)「...この場の全員にとっての想定外の事象よ」



アナスタシアは彼女の急変の理由がわからない、

のあも理解までに一瞬を要した


なにせ彼女たちからは高森藍子は

『薄暗い部屋の中で』いきなり悲鳴を上げたようにしか見えなかったのだから


のあ(ボット)「...退くわよ、何かがくるみたい」


アナスタシアを抱えてひび割れた壁に肩からぶつかる


体が肩から内壁に沈み込み、次の瞬間外壁へと吐き出された。壁抜けトリックのような光景


そのまま二人そろって落ちていく

その鼻先をかすめるようにして



のあ(ボット)「彼女のブラックボックスも...これでタネが割れたわね」



藍子が残ったままのビルを、聖の最期に放たれた波が包み込んだ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ほたる(ボット)「重さ、というのは...実際の体重のことじゃないんですよ?」

「ボットのデータとしての重さ、容量の大きさ?、そういうもの、らしいです」

「私の能力もそれなりの容量ですが...それはあくまで作り出したカラスの分も合わせれば、の話です」

「藍子さんはその重さを変えて......えっと、つまり」


頼子(ボット)「それは、”この仮想現実の処理速度を部分的に変更する、ということでしょうか?」


ほたる(ボット)「コンピューターの知識はあまりないのですが、そんな感じだそうです」


頼子(ボット)「......大まかには、わかりました...」

「私たちボットにとっての現実であるこの仮想世界ですが、その実体は膨大な量の演算と結果」

「...こうして話し歩くことができるのも...別の現実、プレイヤーたちが元いた世界に設置された巨大なコンピュータが重力や摩擦、音の振動伝達を計算を行っているから」

「その計算が終わらない限りは...このデジタルの世界で枝から離れたリンゴが地面にまっすぐ落ちることも、カラスの羽が揚力を生む事実も起こらない、と」

「......そういう理解でよろしいでしょうか?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



のあ(ボット)「藍子の能力...おそらくコンピューターの処理作業に介入し、それに負荷をかける力」


アナスタシア(ボット)「アー......なんとなく...わかります。」

「...古いゲーム機やパソコンで...一つの画面の中でたくさんのことが起きると、動きが鈍くなる...アレですね?」


のあ(ボット)「その理解でいいと思うわ...彼女は自分を中心とした空間に能力を及ぼしていた」

「だから近づくものは仮想での動作処理に荷重がかけられ、遅くなったように見える」


アナスタシア(ボット)「ンー、でも、私たちの武器や...小梅が消えてしまったのはどうしてでしょう?」


のあ(ボット)「......その現象を...強いてゲームに当てはめる......非現実的だけれども」



「...処理落ち、なのでしょうね」



アナスタシア(ボット)「...アー、処理、落ち?...藍子はずいぶん手の込んだことをしていたの、ですね?」


のあ(ボット)「途中の彼女の瞬間移動も、彼女の体に”反射して私たちの目に入る月光”を減速したことで、相対的に光より速く移動したから...つまり残像を作ったわけね」


「私たちが破壊光線の接近に気づくのが遅れたのも、あの部屋に飛び込んでくる光が減速して私たちが知覚するまでにラグがあったから、私たちには部屋が真っ暗なままに見えた」


「藍子が真っ先に反応していなければ脱出も叶わなかったでしょう」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ほたる(ボット)「藍子さんの能力は相手のデータを重くし続け、最後にはこの仮想現実が扱えない容量になり、弾き出されてしまうそうです」

「晶葉ちゃんなら詳しくわかるんでしょうけど...藍子さんの言葉を信じるなら、ここはそういう風になっている...とか」

「でも、藍子さんは心配もしていました。自分の能力のせいで仮想世界全体が”落ちて”しまわないかと...だからこそ省エネモードである夜にしか動けなかったんです」


頼子(ボット)「...でしょうね」

「...伝聞でどこまで真実を把握できたかは分かりませんが...文字通り埒外な方というのは伝わりましたし」


ボットの持つ能力の幅は多岐にわたる


卯月や泉のように「設定値」を操作するもの


のあや周子のように姿を変えるもの


輝子や音葉のように何かを生みだすもの


マキノや拓海のように条件付きで無敵になるものもいた


だが、これらはあくまで仮想現実という容器の中を泳ぐ為の尾鰭であって、そこから外の世界へ出ることはない

高森藍子は違う

彼女の力は容器の中に注がれた液体そのものに干渉する

外の世界、容器に液体を注ぐ蛇口を好き自由に引き絞る、そういう力だ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


のあ(ボット)「そんな彼女にも例外があった...」

「...というよりその弱点が切欠で能力の全容が推察できたわ」


アナスタシア(ボット)「それがсвет、自分の目で知覚している光...ですか」


のあ(ボット)「そう。自分の瞳に触れる光まで遅くなれば...それは視える景色まで遅くするのと同じ...満足に歩くこともできなくなるでしょうから」


アナスタシア(ボット)「正体はわかりませんでしたが...あの光線に感謝、ですね...?」


のあ(ボット)「高確率で藍子は無傷でしょうけどね」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「はぁ...まだチカチカします...」


腰掛けた地面がゆっくりと降下していく


足元に荒廃した摩天楼を広げながら藍子はクシクシと目をこすっていた


目立った建物はもうどこを探しても跡形もない


「聖ちゃんも危ないです...あのタイミングであんな力を出すなんて...」

「もし、私がもうすこし能力を使っていたら容量オーバーじゃすまないですよ、もう...」


藍子が腰を下ろしているのはエレベーターではない。そういったものは先の一撃で分子一つ残さず消滅した



それは藍子の能力の加護を受けることで破壊をまぬがれた1メートル四方程のブロック


本来なら重力に引かれ速やかに落下しているはずだが、藍子の能力下においてその落下速度は鳥の羽のようにゆっくりで、


だからこそ、こうして安全かつゆるやかに藍子の体を地上に運ぶべく機能していた


「はぁ、のあさんはさっきので私の能力、理解しちゃっただろうなぁ...」

「見た限り、のあさんの能力って大容量だったから先に倒しておきたかったのに」

月に一番近い座標で、ふわふわのスカートが靡く


「............」


白光に灼けかけた瞳も既に大過ない、その視線まだ見ぬ標的へ定められる


「...やっぱり最優先はプレイヤーさんたちですねっ」


視線が一点に止まる


「あっ!丁度あそこにカラスさんが集まってるじゃないですか♪」


わざとらしくぽん、と手を打った


高森藍子は休まない

ゆるやかな侵蝕も止まらない




ゲーム開始92分経過


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギリギリ一ヶ月以内に更新できました

ここまでお読みいただきありがとうございました


・活動中ボット

高森藍子

白菊ほたる 古澤頼子

南条光

高峯のあ アナスタシア

佐城雪美 本田未央 島村卯月 水野翠 古賀小春

二宮飛鳥 遊佐こずえ


次に開始するチャプターを選択してください


1、白坂小梅&輿水幸子 

2、十時愛梨

3、北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南


安価下


2

2

活動中ボットに森久保をいれ忘れてました


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
十時愛梨


「けほっ」


「だれもいない......」


「というか...みんな、なくなっちゃった?」


バニーのウサ耳は動かない

修復可能な対象が消えた世界では


「私のことを守ってくれた事務所の壁も...これ以上は治らなそうです」


背中を預けていた瓦礫が自重で倒れた。あっけない音と共に瓦解する

愛梨もまた、その上に仰向けに倒れる


「...はぁ、ここって本当に事務所だったんですよね...?」


聖の最期の攻撃が掠った場所は塵一つ残らなかった

唯一の例外が愛梨と、その防壁及びその周辺部分

それらが小石程度のパーツとなって窪んだ地面を静かに埋めている


十時愛梨の能力は「修復」

脱いだ服だって元に戻すことができる


だが小石程度の残骸からビル一棟まで修復するほどの出力は、ない


背もたれをなくした愛梨が起き上がる

手をついて起き上がると、そこを中心に地面が膨張する

「わわっ!?勝手に能力が...!」

既に元気を取り戻した体で跳ね起きるも、彼女が手をついた場所から伸びた土くれは柱を象り、

不安定な地盤に生えたそれは自重でへし折れた


「きゃあっ!?」


起き上がり、立ち上がり、

そしてまた飛び退くようにして倒れこんだ

背後にまた瓦解の音を聞く

受身を考えなかった彼女を受け止めるには地面はささくれすぎている



「あいたたた...滑っちゃいましたぁ...」


今度は迂闊に地面に掌を押し付けないよう腹筋を使って起き上がり、背中を軽くはたく


「くすん...蘭子ちゃん達が運転する車はほとんどスリップとかしなかったのに...」


誰も返答するものがいない中、一人愚痴をこぼしながらも愛梨の指先が小粒の石を落としていく


その硬い手触りの中、一つだけ指の中で柔く折れる何かが挟まっていた


二本指でつまんだそれを月明かりに掲げる


愛梨「...これって」


それは緑色に照らされ、ひらひらと___









「___傀儡とは悲しいものね__」







静寂が破られた


手のひらサイズの膨張どころではない、地盤が山なりに隆起していく



「___どれだけ消耗しようと、損壊しようと」



盛り上がった体積があっという間に月から愛梨を覆い隠す



「一度相手を認識してしまえば___」



山頂が小さくひび割れる。声はそこから鳴っていた




のあ(ボット)「全力を振り絞るほかないのだから」



それは唇だった



愛梨「ひゃいっ!?ののののあさんの声がっ!?」


どこか抜けている、と評される彼女だが目の前で起きた現象から敵意を感じるのは早かった

くしゃりっと手の中のものを握り、膨らみ始めた石山から背を向け走り出す。同時に山の方も姿を変える


”鎌首をもたげる”とでもいうのか、山そのものが不自然に歪み山頂が愛梨に向けて折れ曲がる

愛梨の身長を上回る大きさがシャチやサメの頭部に似た形のシルエットを夜にくり抜いた


そのまま、射出される


荒々しく削れた地面の表面を滑るように愛梨の背中を追う

それは海面から突き出たサメの背びれのようで、


愛梨「わっわっ、何でそんなに速いんですかぁっ!?」


全力疾走を続けながら振り返り、よろけて地面に手を付く

バニーの耳が揺れる


愛梨の手のひらが触れた場所から柱が芽吹いた


後から迫る石の背びれ目掛け、柵となって立ちふさがる



愛梨「(私の能力って...こういうふうにも使えるんだ...!)」


立て直した姿勢を再度、次は意図的に崩すと両手で地面をなぞった

映像を逆再生するように、その場からメキメキと梁、柱、壁面が再生される


不完全で不安定なせいですぐさま根元から倒れていくが意味はあった


追跡者たるのあへの障害物として___



ガブリッ



のあ(ボット)「邪魔...でもないわね」



___微々たるものだが



愛梨「の、飲み込まれてます...」



____________

十時愛梨+  34/100


____________
____________

高峯のあ+  30/100


____________
____________

アナスタシア+ 40/100


____________



ゲーム開始101分経過

十時愛梨
VS
高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

物体と同化する能力にとって障害「物」など存在しない


愛梨「どこかに逃げ込まないと...普通に走っても追い詰められちゃいます...!」


ガシャンッ!


ガラスの扉が倒れると同時に光の差さないフロア内に踏み込んだ

それなりに大きなビルなのであろう、奥行の広いエントランスを一直線に横切っていく


「(ちょっとやそっとじゃダメなら、ビルの壁や天井で邪魔しちゃいます!)」


背後を振り返る。ついさっき自分が突破した玄関を人間大の小山が、体を縮めながら入ってくるのが見えた

同化できるとはいえ、天井や支柱を破壊しないよう難儀しているようだ

それを認め、迷いなく奥の階段室へ向かう

どこからか漏れ入った月光が無機質に連なった足場の様子をはっきりさせている


愛梨「すーっ、ふーぅ......すーっ、ふーぅ...」


階段を前に深呼吸


右手は階段の手すりをしっかりと握っている

上の方から降ってくる月光のおかげで、階段の状態はよくわかった


「すーっ...ふーぅ、すーっ...ふーぅ」


白菊ほたるの能力により、形を保っているのが不自然なほど老朽化しているのは


触れた右手を中心に階段が修復されていく。左手は拳の形に握り締められたままに


「すーっ...」


それでも全てを元通りにはできない。もっと上階にまでは修復も追いつかない


「ふうっ!」


それでも駆け上がった


同時に階段室の扉が真っ二つに割れた。そのまま取り込まれる

それは高峯のあであって高峯のあだけではない

いくつもの無機物のパーツが編み合わさり、大きく膨らんだ体は既に人の形をなしていなかった


のあ(ボット)「万物を直す能力...いえ」


獣の爪のように尖った部位で手すりを切断する


「元の形を維持させる...そういう力ね」


すぐさま失われた部分が再生する。それに加え”同化できない”


「あの黒鳥のせいで私の本体も随分減らされたのもあるのでしょう」


上階からは足音が一定のペースで遠ざかっていく


「...ちゃんと手順を踏んで登る...それ以外の選択肢を奪ったつもりかしら」


今の高峯のあに定められた形はない

その歪な体が軋み変形すると、昆虫のような細長い多脚が姿を現した

「___この程度で?」



ダガッ!

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!



追跡を開始する


二本足の人間には決して真似できない、多重の足音、そして速度で階段を駆け上る



愛梨「こっ、怖すぎですよー!?」


吹き抜けを通して愛梨の目にも異形の姿が飛びこんだ

階段の狭い空間を埋め尽くす体が時に手すりや壁を蹴飛ばしながら猛然と這い上がってくる


愛梨「はやくっ...上へ逃げないと!」


水平移動においては障害物の通じないのあに叶わない以上、他の階には逃げられない


上へ、上へ



愛梨「(でも、どこまで上がって行けば...?)」



ガガガガッガツッ!



のあ(ボット)「気づいているのかしら...?」



ガガガガガッガガッ



愛梨「っふぅ!」



非常灯よりも強い光が階段を緑に照らす中で行われる追いかけっこ



「......もう、逃げられないことに」



終わりは近い


愛梨「あれ......?」


惚けた表情が緑に照らされる



愛梨「階段がなくなって...え?屋上...?」



彼女を覆い隠すものは何もない


階段室は途中で途切れていた。逃げ込む部屋もなくなっていた


摩天楼をどこまでも見通せそうな開けた視界


残酷なまでの開放感



愛梨「建物の上が......ない」




白菊ほたると望月聖の力


その影響から逃れられる建築物などない


今ある階段を全て登りきった彼女を迎えたのは虚空

柱すら残さず全ての上階が消滅した跡

文字通り何もなかった。そこがゴールだった



ガガッガガガガガガガガガガガッ!!


足元から音が這い寄る



愛梨「どど、どうしよう...逃げるばかりで気づかなかった...!」



くしゃり

と、左手が握られる

右手が手すりから離れる


修復能力の外れた階段が変形する

高峯のあの意思にそって


その瞬間、階段が崩れ、彼女は落ちた


愛梨「きゃああああああっ!!」


背中から落ちていく、空に浮かんだ月がスローモーションで離れていく


逃げ場も今いる足場も奪われ、空に向かって手を伸ばした


くしゃっ


愛梨「___あ」


左手からこぼれ落ちた


何もなくなったと思っていた場所で見つけ、なんの気なしに拾い上げた


大事な仲間の忘れ物




『__我が望めば、我に答えん___』





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ガガガガガガガガガッ!

ガゴンッ!


のあ(ボット)「..........」


廃屋の蓋を跳ね除け、姿を現す

ねじれ曲がった階段の一部が打ち捨てられた


のあ(ボット)「どういうことかしら...」


見渡す限り、本来は廊下や室内の床だったであろう地面

柱も壁も、そして誰もいない平坦な荒廃


「どこに逃げたというの...」


歪な足を動かしビルの淵に立つ。そこから見えるのは隣に並んだビル

だが、決して飛び越えて行ける距離ではない。そのまま絶壁に目を落とす


「まさか、身を投げた...?」


パリンッ

地面に落ちたガラスが割れる。遥か高所から叩きつけられたそれは微塵に散った


「...わけ、ないわよね。捨て鉢になるような器じゃあ...ないもの」


顔を上げる


ボゴゴッ!!


同時にその体表を目玉が埋め尽くした

増殖した視野が正面のビルをつぶさに、睨めつけるように探索する

カラスの影響でひび割れ、ささくれ、傾いた壁面、荒廃と、



「......あの窓だけ...割れ方が不自然」



一点の違和




「老朽化じゃあない......誰かの力が及んだような」


のあの腰元から生えた鉄材の肢が一本発射される

回転しながら飛んだそれは違和感を消し去るようにその窓付近を抉りとる


「きゃっ!」


微かに聞こえたのは紛れもない標的の声。落剥した外壁のむこうにその姿もあった


愛梨「み、見つかっちゃいました...」


純粋にどうして見つかったのかわからないと言いたげな驚いたような顔の、数センチ横に鉄の肢に突き立っている

彼女へ向けて次の肢を発射しようとして、体を傾ける。互いに距離があるが命中させるのはボットの彼女には造作もない

粉砕された壁が老朽化の影響で粉となって、土煙のようにビルの谷間を舞う


のあ(ボット)「どうやってこの距離を克服したのかは知らない...だからその謎ごと沈んでもらうわ」


そんな煙幕など歯牙にもかけず、一本、二本......五本の肢が鉄槍として順次狙いを定めていく

既に一撃目で剥き出しになった通路では一瞬の間に愛梨が逃げて行ける方向などない


「......?...」


愛梨「よいしょっ...!」


「立ち向かうつもり?」


両者を遮るものはない、そこにあって彼女はまっすぐ立っていた



バサァッ!!



突如、土煙が強引に吹き散らされた


「......十時愛梨...何かしら、ソレは...」

「これまでの貴方の力の形とは...随分乖離しているわね」


明るい夜光が愛梨の背中から生えたソレに照り返される



それは羽だった



かつて、ほんの短い間だけこの世界にあって、

そして今、夢幻のように消えていくそれは

望月聖を早坂美玲が引き付け

廃屋の街から迅速に退避するために

神崎蘭子が顕現させた小さな異能






愛梨「蘭子ちゃんが使ってた時よりも持続時間は短いけど......」


彼女が拾ったのは小さな切れ端


スケッチブックのひとかけら


それは彼女の握られた手の中で修復され、萌芽の時を待った



「ちょっとだけお借りします!!」



次に愛梨の手の中に握られたのは、禍々しい鎌





ゲーム開始109分

十時愛梨
VS
高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一投目


山なりに跳んだ肢が愛梨の足元を粉砕した

「肢」と表現するには太すぎるそれが床に穴があける

愛梨「ひゃあうっ!?」

後ずさりながら通路の奥に引っ込んだところに、


二投目


床ではなく窓ガラスが壁材もろとも吹き込んだ

一投目に比べると格段に細長く、派手な音や破壊はもたらさなかった。だからといって当たって無事に済むものでもない


「(私が直したのは能力そのものじゃなくて、スケッチブックのページだけ...)」


構えた鎌を使うに使えず、必死で足場を確保しながら頭を回す


愛梨「(だから一回使ったらページが消えて...今度はもう直せない...!)」


三投目


砕き落とされた壁の穴を通過し、愛梨のすぐそばにあった戸を貫通する


愛梨「ッ!(ここに逃げ込まなくてよかった~!)」


のあ(ボット)「.........」


向かい合う両者を遮る壁は剥がれ落ちて、逃走経路となる通路は穴だらけ

すぐそばの部屋に突き立てられた鉄肢は強力な牽制となった

愛梨「(一撃で当てないと...!)」


四投目



今度こそ外れなかった、退路もなかった



愛梨「きゃうっ!!」



衝撃が愛梨の腕を通して体を突き抜けた





正確に愛梨の胸元に食いかかった肢が、咄嗟に構えた鎌の柄に弾かれたにも関わらず



愛梨「あ、当たっちゃうトコでした...」


反動で痺れの走る両腕。防御が成功していながらダメージとして残留するほどの威力



それは愛梨にとってだけのダメージだけではない



愛梨「ああっ!!!?」



両手を見る、両手の間を繋ぐ柄を見る、禍々しくも頼もしい刃を見る


その鎌が茫として透け、消えかけていた


愛梨「ささ、さっきのガードだけで使った事にカウントされちゃうんですかぁっ!?」


慌てて振りかぶる。このまま黙って丸腰になるわけには行かない


かといって両者の距離は軽く見て10メートル、ビル同士の間隔としては狭く、対人戦において絶望的に広く遠い



結果


愛梨「でえぇーーーい!!!」


ぶん投げた


異形の装飾を振り乱して回転しながら飛んでいく


のあ(ボット)「........」


対してのあは既に動いていた、最後の一本を構え




見る間に愛梨への距離を詰めながら



愛梨「...え?」


合体したビルの一部を自分ごと大きく引き伸ばして


愛梨「ええ...!?」


スプーンですくい取った蜂蜜や水飴のようにビルが”引っ張られる”

その伸びきった頂点に高峯のあの上半身があった


のあ(ボット)「逸ったわね、十時愛梨」

愛梨「そんなことできるんですかぁ!?」


尾を引いて一気に肉薄する。両者の距離は3メートルを切った

投げられた鎌はのあに触れることもなく、空中ですれ違い向かいのビルへ飛んでいく


白菊ほたるの能力によりすり減らされた肉体

その残骸全てを投じた絶対不可避の捨て身技


ゴッ!


愛梨の胸が、今度こそ鉄槍に突かれた


「......あっ、え...?」


それはどちらの漏らした困惑だったか


鉄槍は深くは刺さらなかった

心臓まで届かなかった



のあ(ボット)「これは...?」


愛梨「ら、蘭子ちゃん...」



愛梨は見た


投げた鎌の能力が発動し、荒廃したビルの一角を食い尽くすのを


のあの”根元”がザックリと欠損するのを


愛梨は知る由もないが

それは装甲車や、土屋亜子を噛み砕いた時と同じ光景だったかもしれない


支柱を失い、必殺の勢いに歯止めをかけられた長大な体が重力に引き落とされていく

壁も窓も通路も破壊した、掴まって身を助ける箇所などない


のあ(ボット)「_____」


しくじった、たった一手の情報不足で


遠ざかっていく、十時愛梨の姿が頭上へと


瞳は驚きを隠すことなく向かいのビルに釘付けになっていて


そのまま落ちていく自分を見下ろした。まるで自分でも予想外だったと言いたげだ


そうよ、もっと驚愕した表情を向けなさい



こっちを見なさい



敗者を注視なさい



勝利を確信なさい



安堵しなさい



のあ(ボット)「____それが」





投げつけられた二本目の肢

肢というには余りにも太かった

それが真っ二つに割れる



その中央

くり抜かれた空間

そこから飛び出した華奢な体



アナスタシア(ボット)「небрежность......油断、です」





振り抜かれた拳

落ちる体



___________

 十時愛梨+ 11/100


___________





ゲーム開始110分

十時愛梨
VS
アナスタシア(ボット)

継続中



ゲーム開始111分経過

高峯のあ(ボット) 消失



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



次に開始するチャプターを選択してください


1、白坂小梅&輿水幸子 

2、北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南

3、大和亜季&星輝子

安価下

2

ついにのあさんが倒されたか…

生存報告


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南




凛が消えた



自分たちが探し続け、同じく自分たちを探し続けてくれていた仲間が

一辺の希望も残さない極光に灼かれていった


「ホント、どうしよ...」

「あぁ、頭が追いつかねえ...」


獰猛なまでに開放された空を見上げる。地上から下水道の天井までが丸ごと消失した今、それを遮るものはない

辛うじて残った地下の地面に仰向けに横たわった加蓮の声に、隣にへたりこんだ奈緒が反応する


加蓮「アタシのせいで凛が......まぁ、間違いなくやられちゃったよね」

奈緒「いや加蓮のせいじゃ...無理に後ろからケツ押してたアタシだって...!」

加蓮「そういうのを言いたいんじゃなくってさ」

奈緒「うん?」


自責を感じさせるセリフに、反射的に反駁しようとして先回りされる


加蓮「えーと、ほら...なんていうか」

奈緒「なんだよ」


加蓮「バカみたいにデカいビームだったじゃん?」

奈緒「あ?」


加蓮「あんまりに現実離れしすぎてて、凛に対する申し訳なさとかが吹き飛んじゃった...」


奈緒「.........あー、ごめん、わかる」



仰臥する彼女の横に並んで横たわる、癖っ毛が加蓮の耳元まで広がった





現実感の乖離



加蓮「とりあえずアレだね。現実に帰ったら凛にケーキでも奢ってあげるんだ」

奈緒「...おいやめろ、それ死亡フラグだぞ」



高度な演算で再現された仮想世界にいる間に無意識のうちに刷り込まれていた錯覚


感じた痛みが本当に自身の死へ直結しているような恐怖

他者の命を奪える本物の凶器を扱っているような昂揚

敵を殲滅することが最重要目的であるような逼迫感


昼の間にボット相手に繰り広げた戦いにのめり込んだ結果、生まれたそれらの感覚は



夜が始まってからの怒涛の展開の連続の前に吹き飛んだ



熟読していた漫画がトンデモ展開に突入したせいで醒めてしまうような

ありえない展開のせいで自分が夢を見ていることに気付いたような





「すっごいの見つけたよーーーっ!!」




加蓮「わっ!?」


地上から顔を覗かせそのまま下水道の底、加蓮の隣に滑り降りてくる小柄な影

奈緒「(なんだかんだで紗南の切り替えが一番早いんだよなぁ...)」

「(まゆや美穂がゲームオーバーになんのを間近で見てたから仕方ないんだろうけど)」




紗南「ほら!これ!タブレット!電源生きてる!」



探索から帰った少女は元気いっぱいにその戦利品を掲げた



掴んだ機器ごと両腕をぐっと前に突き出す

奈緒「うわっ、ホントじゃん......なんかのアプリが起動しっぱなしだけど」

加蓮「地図...だよね、これ......ってこれもしかしてアタシたちの...?」

紗南「そう!これアタシたちや他の人たちの居場所をマッピングしてるんだよ!」

身を起こした二人が紗南の手元に目を瞠る

奈緒「マジかっ!?」

加蓮「そっか...これで凛はアタシたちを見つけられたんだ...」

紗南「そう!!これさえあればアタシたちも仲間を見つけられるんだ!」

奈緒「やったぜ!」

「これにアタシらの能力もあれば鬼に金棒ってやつだ!」


パンッ、と軽やかな音とともに三人が自然とハイタッチを交わした



破壊しつくされた世界は一周回って娯楽としての一面を顕し

結果として三人から過剰な緊張感を取り除いた



ちょっとばかし無茶苦茶なだけで

所詮はゲームだから、と




______________

 神谷奈緒+  67/300


______________
______________

 北条加蓮+  67/300


______________
______________

 三好紗南+  67/300


______________








数分後






ゲームと現実の垣根は瓦解する







ゲーム開始110分経過

北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南

ユニット結成


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



チャプター
大和亜季&星輝子

____________


大和亜季+  50/100


____________
____________


星輝子+  50/100


____________





「いるでありますな...」

「フヒ?」



軍靴に包まれた忍び足が止まる、並んでいた細い足も動きをやめた

その後ろをついて回っていた菌類の歩みも続いて止まった


亜季「この並んだビルの向こう...不穏な存在を感じるであります」


大規模破壊の影響を免れたものの、ゴーストタウン化を避けきれなかったビル街のあいだを縫う道路


その一角で、静かに戦いが始まろうとしていた



ズンン...



輝子「......足音、地響き?...い、いるな、たしかに」


周りをキョロキョロしだした輝子も改めて亜季と同じ方向を向く

その視線の先、路地の隙間から細く切り取られた月明かりが漏れ出している



そこを巨大な影が遮った



ズンン...




亜季「相当なサイズでありますな」

輝子「わ、私のキノコよりも...重たそうだ」


根っこを手足のように生やしたボットが輝子の背後に揺れた


亜季「ですが、我々に撤退する基地などありません」


「ただ進むのみであります」


宣言と同時に亜季の手の中でグリップが回った


速やかに安全装置が外れ、引き金に指がかかる


輝子「フヒヒ...き、キノコ付きのナイフのちから...見せて、やるぜえ...!」


全身を銃器で包んで探索すること10分と少し、それらが振るわれる時が来た

ビルを挟んでもう一本向こうの通りまで約15メートル、そこへ至る道幅は1メートル半ば

その脇に背を壁につけて立つ、輝子も遅れて亜季に習った立ち姿で並んだ



亜季「いいですか輝子どの、まずビルの隙間を一気に走り抜けます...」

輝子「お、おう」

亜季「私が先行し、できる限りの弾幕を張りながら相手を攪乱します」

輝子「わ、わかった...」

亜季「そこで後援として輝子どのは新たにボットを召喚して下さい」

輝子「まかせろぉ...」


亜季「ですので今ここにいる分はここに置いていきます」

輝子「フヒッ!?」

ビックキノコ「ffFF!?」

亜季「いえ...その図体ではビルの隙間に入りませんし...」


ごくごく小規模のブリーフィング


だが、重要なことはここに至るまでに話し終えていた


ズン...



亜季「行くでありますよ...」


ここにきて亜季の声に緊張の火が灯る

何度となく繰り返された戦い。多対一、混戦、能力合戦


だが今から打って出る戦いはある一点において今までと違う


輝子「初めてだぜ...わ、私たちの方、から、い、挑むのは...」


自分たちから攻勢に出る、という点で


亜季「で、ありますな」



ジャキッ!!



亜季「3、2、1、0で一気に通り抜けます...いいですね?」

輝子「お、おっけー...」

腹の底に響く足音は少しずつ遠ざかっている



「3」



作り物の世界の作り物の銃が重みを増す



「2」



輝子のナイフが鈍い緑色に光った





「1」





「......こっそり......なんて...」





亜季「0!」













雪美(ボット)「......私には...お見通し......」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


まず初めに夜景が揺れた



ズズ...ズ


薄緑の夜空を闇色に切り取る建物の影が緩慢に揺らぐ



亜季「こ、れは...!?」




そしてビルが動き始めた



輝子「ヒャアアアァァハアアアァァァア?!」


たった今まで体を預けていた盾であり障害物そのものが牙をむく


ビルの隙間を駆け抜けるどころではない、その隙間は目の前で挟み潰された



亜季「向こうから...力尽くでこっちを押し潰す気でありますか!?」


倒れるでもなく崩れるでもなく、押し進んでくる広大な壁面

かといって同じようにこちらから押し返すことができる重量ではない


亜季「てっ、輝子どのォ!!」

輝子「ッシャアアア!!出番だぜ!!」


作戦ともいえない作戦は変更された


力押しのパワーゲームに


ビッグキノコ「FFFFff!!」


輝子の横に待機していたボットが傘頭を大きくもたげる

「ブチかませェエエエ!!」



ドゴォオォォオンンン!!!!!!




ビルの壁に大穴が開く、それでもビルの移動は止まらない


目に見えないレールに乗ったように容赦なく道路を横断していく

だから二人はそこに乗り込んだ、目指す目的地は変わらない

ビルの動きと逆行してビルの内部を走り抜ける


亜季「常識の通じない戦場であります、なっ!!!」

輝子「き、キノコが無駄に、ならなくて...よ、よかった、ぜ...」


ビルの中に取り残された資材、オフィス用の椅子や机を押しのけ飛び越えながら足を動かす

輝子の前ではキノコが無理やり道を切り開いていた

すぐにビルの裏手、向こうへ繋がる窓ガラスへ到達した


亜季「出鼻は挫かれましたが、我々に撤退はありません!!」

輝子「お、おお!!」


両手に構えられた二丁の銃口が火を噴く、ガラスが粉砕され、道がつながった


亜季「いっせーっ!!」

輝子「ノッォオオ!!!」

ビッグキノコ「F!!」




ガッシャアアアアアアンン!!




割れたガラスを蹴破って、ボットが一部の壁を叩きくだいて





そのとき一本の「矢」が壁から外れた



翠(ボット)「おや、力技で切り抜けましたか」


そして対峙する



「ヒョウ君、ファイトです~!」

「矢でも鉄砲でももってこいっ!」

「雪美ちゃんはちょっと離れててね」

「......私も......戦う...のに」


亜季「五対二!!?上等であります!!」

輝子「五対三、だけど、な...」


手始めに亜季の両手から鉛の雨が噴射した





ゲーム開始115分

大和亜季&星輝子
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

開始





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



円盤投げの陸上選手を思わせる動きで未央の腕がしなる


亜季が銃弾をばら撒くと同時、いやそれよりも若干早く振り抜かれたときには出現している



未央の肩から背中を覆う星型の円盤が


亜季「ぬうっ!?」


五芒星型の盾が銃弾の衝撃を振動として吸収し、跳ね返す

未央(ボット)「ふっふーん!見よこの防御力!」


反対側の腕にも出現させたそれを前面に掲げる


「しまむーの能力全てを注ぎ込んだ、ちゃんみお☆シールドは伊達じゃない!」


そのサイズは道路脇の用水路に潜ませていた時の小道具めいたものとは違う

盾として体幹の側面を十分に覆いながら、尖った五つの矛先を伸ばし地面に轍を穿っている


亜季「(面積、リーチ、硬度ともに厄介極まりない...,...ふざけた見た目の割に攻防一体でありますか)」


輝子「フヒヒ...こんだけおっきいなら......関係、ない!」

一歩遅れて胞子をまき散らしながらキノコの傘頭が振り下ろされた



島村卯月の能力は”能力の強化”

シンプル故に何にでも使える

ルールで雁字搦めにする能力である翠を除いて

小春を強化したことでイグアナを翼竜へと進化させ

雪美の危機感知能力を予知能力へと押し上げる足がかりとなった

無論その恩恵は未央にも及んでいたが、それは一度に出現させる数量に関してのみ



市原仁奈が欠けた今、彼女に「割り振られていた分」は




「ヒョウ君、カミツキ攻撃です~」



未央を押し潰す勢いで振り下ろされた頭突きが横殴りに阻止された


輝子「ヘェアッ!?」

ビッグキノコ「ffF...」


建物の二階ほどまで成長していた菌類は、それ以上の存在に咥えられ


植物食の動物にあるはずのない牙で真っ二つに断ち裂かれた



小春(ボット)「おっきなお羽だけじゃなくて~、かっこいいキバまで生えちゃいました~」



輝子「あ...ああぁあ...」

亜季「こっちも、別の方向で厄介であります、な!」


未央相手に牽制を続けていた銃弾が切れる、と同時に最後にそれを投げつけた


未央(ボット)「うおっ!?危なっ!?」

空いた片手には既に手榴弾が握られている



「輝子どの!伏せてください!」



犬歯を引っ掛けるようにしてピンが引き抜かれ手の平大の炸薬が宙を舞う

小春(ボット)「はい~?」


一瞬の間を置いて、爆発


巨大爬虫類の背中の上が炎上する



ヒョウくん「.....!」


羽ばたかせた翼が爆煙を吹き払い、ゴツゴツした背中がさらされる



小春(ボット)「はうぅ~、とっても熱かったです~」



そこには五体満足のまま、暢気に爆炎を浴びた感想を漏らす少女の姿があった



亜季「なんですと?!」

輝子「じょ、丈夫だな...おい...」


少女にあるまじきタフネス

これは卯月による強化だけでなく小春の能力による恩恵もある

古賀小春とヒョウ君はいわゆる一心同体の状態にあり、ユニットのように一つのスタミナを共有している

だがプレイヤーと違って、彼女たちはそのことを弱点としてはいない



小春(ボット)「うふふ~、ヒョウくんがへっちゃらなら、小春もへっちゃらです~」



彼女たちは防御力、耐久力といったステータスまでもを共有していたのだ

文字通り一心同体、つまり


「ヒョウ君がいる限り小春は負けませんし~、小春がいる限りヒョウ君もピンピンです~」


輝子「知るかァ!」


パンパンパァン、荒々しい手拍子が三度続けて鳴り響いた


その所作だけで輝子の身長の倍の背丈のボットが背後に並ぶ


輝子「キノコの恨みをォ思い知りやがれェエエエャヤアアア!!」


腹の底から響く雄叫び、それがゴングだった

菌糸と翼と根と牙が絡み合いシャウトが木霊する





亜季「ッ!...輝子どの...あまり離れては...」



未央(ボット)「あーらら、始めちゃったね~」



輝子を追った亜季の前に未央が躍り出た


亜季「...!」


未央の背後で爬虫類と菌類がビルを破壊し、奥に潜り込んでいく

人外同士の怪獣対戦を繰り広げながら遠ざかっていく輝子への道に立ち塞がれた



未央(ボット)「あっちはあっち、こっちはこっちでやろうよ、ね?」


亜季「.........上等であります!!」



こっちの戦いにはゴングはなかった

地面を蹴る音と発砲音と

跳弾音だけ







卯月(ボット)「うーん、ちょっと割り込めませんね~」



趣の異なる二種の戦闘から距離を置いて、そんな言葉が漏れた


翠(ボット)「仕方ありませんよ、不注意で卯月さんが欠けては元も子もありませんし」


能力を解除しながらも手に弓矢を携えたまま答えが帰る


雪美(ボット)「...大丈夫......すぐに......忙しく...なる」


戦場の真ん前の緊張の中、ポツリと呟かれた予言は不穏極まりなかった


「.......そう、ですか。だとしたら私の出番でしょうね」

しかしボットはそれが瞞しの類でないことを知っている




「......うん...いっぱい......近づいてきてる...から...」





ゲーム開始116分

大和亜季&星輝子
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


チャプター
三好紗南のゲーム画面



_____________

name:神谷奈緒

category:プレイヤー

skill:倒したボットを通貨と
してチャージする。それを用
いることで、ストアを経由し
て仮想世界内に存在するアイ
テムを購入し現在地点に取り
寄せる
_____________


_____________

name:北条加蓮

category:プレイヤー

skill:自分以外のプレイヤー
1人をマークした地点に瞬間
移動させる。マークできる回
数はネイルの数だけ
_____________


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前の更新からひと月経ってた

でも完結はさせる予定なので

今回は安価なしです

お読みいただきありがとうございました

おつ



チャプター
大和亜季&星輝子

__________

本田未央+ 95/100


__________

__________

大和亜季+ 49/100


__________



ダァン!ダァン!


ガィイン!!ガィイン!!


発砲、跳弾、発砲、跳弾


ダンッ!タタンッ!


踏み込み、のけ反り


ギィイイイインン!!!

ガリガリリリリリ!!


未央の通った道筋が削り取られる音



「(どういう仕組みなのか...あれに触れると皮膚が擦り剥けるどころでは済みそうもありません...)」



亜季の武器は銃火器、どれも当れば必殺の威力であることは保証されている

しかし相手の武器もどうやら玩具ではないらしい


未央の両肘を中心にそれぞれ広く展開された五芒の星型


四本の切っ先が上半身への攻撃を妨げ、残る一本が彼女の力強い腕に沿って真っ直ぐに亜季を目指す

そのシルエットは甲殻類の両肢を思わせた


「おっと、逃げられるとさすがの未央ちゃんもマズいからね~!」


それに弾丸を跳ね返す硬度の素材でありながら非常に軽いらしく、

身体能力では上のはずの亜季相手に身軽に立ち回り、的確に追走してくる


ギイイィィィインッ!!



「ぐぅうっ!!」


右からの突きを咄嗟に銃筒で止めた


その一撃だけで深い切り込みが口を開け、弾丸の出口がお釈迦になる


「とんだ粗製品であります、なッ!!」

突きの方向を逸らし、反対の手に握り直していた別の銃に火を噴かせる

「あぶなっ!?」

狙いもつけずに放たれた銃弾に未央が一歩引いた

だが、すぐに足を戻しながら追撃してくる

今度は両手の銃廷でそれを止めた、未央と両手同士で組み付く


未央(ボット)「ぐぐぐ~」


カリカリカリカリカリカリカリ...!!!


力比べ、に見せかけた時間稼ぎで思考をまとめる

亜季「......(やはり単純な筋力では私が上、この状態を維持したまま...何か策を)」


こうしている間も未央の矛先と接触した部分が目に見えてすり減り、削れていく


亜季「(なら、この妙な攻撃力は一体...恐らくこれが弾丸を弾いたトリックでもあるのでしょうが)」


カリカリカリカリカリカリカリカリカリ!!


「ふんぬぬぬうううう~~~!!」


銃廷の削り節が散り、夜闇に溶けていく


「(なんとか、しなくては...!)」


ガリッ!


耳障りな擦過音を立てて銃廷が滑った

肘に力を込め、腕を開くように未央の星の矛を押し返す

「わわっ!」

力押しにあっさりバランスを崩す未央、


亜季はそこへ踏み込んだ

破壊の両矛に抱かれるような位置取りへと、死中に活を見出すために


ゴッ!


未央(ボット)「あぃっ!?」


頭突き、開いた両腕で未央の肘を矛ごと抑える


ボッ!


「はぶっ!?」


よろけた胴に追い打ちの右膝、完全に体勢を崩させる

そこでようやく本命、二丁の銃を構えた腕が亜季に追いついた




タンタァン!!


命中


未央(ボット)「ご、ふっ...」



心臓と左胸に真っ暗な銃痕が並んだ

未央の体が真後ろに飛んでいく


破壊力を形成するためのサイズゆえに超至近距離からの攻撃を防げない


それが未央の”矛と盾”の弱点

亜季が銃を構えたまま残心する



亜季「で、あります



 がッ......!?」



視界が黄色に染まる


手の中の銃が落ちる


肩口から痛みが破裂する



亜季「あ、ぐぐ......?(反射的に避け、ましたが...)」



彼女の左肩にそれは突き立っていた



未央(ボット)「ふ、ふふ......ちゃんみおキャノン...だよ」



制服とジャージの隙間、銃痕の下からディスクサイズの星型がこぼれ落ちた



これは矛と盾ではない、


星型のチョッキだ


「これって、ある程度の衝撃を受け...ると爆ぜるんだよね...

まぁ、ちっちゃいサイズだと全然ダメージないんだけどね?」


開放された両腕をさすりながら体を起こす、鉛を体内に潜らせたとは思えない気丈さで


「...ちえりんや、ほっしーみたいなちっちゃい子も倒せないくらいだし?

でもこれと連動して吹き飛んだ、大きい方はどうかなー?」


体を起こした未央の傍らで、

さっきまで武器となっていた星型は切っ先を分離するように五つの小さな破片になっていた


チョッキに食い止められ形の歪んだ二発の銃弾とともに


亜季の左肩に刺さった三角錐の矛が少しずつ食い込んでいく

未央の手元を離れていながらも愚直に、ピラニアが肉を食い破るように


亜季「...連、動、ですと...!?ぐくっ、それにこれは!」


左腕は動かせないまま銃を手放した右手がその矛先に触れたとき、今更ながら未央の能力の一側面を理解した


亜季「(直に触れて初めてわかりました...これは高速で振動している!)」


削岩機やテーザーソーと同じ理屈

振動を衝撃の連打として破壊力を生み出し、対象を瞬時に蝕む仕掛け


亜季「がっ!!!」


首ごと持って行かれそうな振動を浴びながら星の刺を殴り飛ばす

空を裂く甲高い音を鳴らしながら飛んだそれは地面に刺さり、アスファルトを彫った


亜季「(ぬぅ!?風景がブれる...船酔い?、視界不良であります...!)」


痛みこそセーブされているとは言えダメージと振動の残響が目眩を引き起こす

亜季が膝を着くと同時、未央が立ち上がった


「(...ヒョウ君の翼の裏側に貼っつけた星から振動を送ってもらっててよかった~!)」


決して無傷ではないが大した痛手でもない、準備運動のように未央はその場で肩を回す


亜季「これだからボットの能力というのは...!」


近距離には星の矛と盾、遠距離からの攻撃には星の鎧が対応する

そして中距離までなら星の分解され、射出される


「厄介極まりない...であります!」


幾分か動作を回復した両腕で銃を構えた

最初のネックであった彼我の距離は充分開いた



未央(ボット)「おぉっと!!」


ガガンッ!!


銃弾の軌道が星の盾に衝突して地面に転がる

今度の星は一つだけだが更に大きくなり、彼女の身をカバーしていた

矛よりも盾としての役割を大きくしたらしい


亜季「(今の音は...?それに銃弾が...)」


彼女は預かり知らぬことだが翼竜の翼の下に仕込まれた星もたった今破裂した

だから今の未央は能力を通じて振動エネルギーを増幅することができていない

亜季が一瞬感じ取ったその違和を掻き払うように




「そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおれっ!!!」




未央は投擲した



少女一人の身の丈と同等の尖った円盤が空中で唸る

冗談のような大きさの手裏剣が亜季の首筋に飛び込む


亜季「ッ!...今度はこんな手を!」


空中で打ち落とせる質量と速度ではない

痛む左肩をかばいながら右側に飛んだ

その背後にあった空気を裂きながら車輪大の流星が奔った

無論逃げに徹するわけではない、そのまま落とした銃を拾い



亜季「(ここで牽制しておかなくては!)」


不安定な構えのまま、狙いを定めず未央の方向だけを頼りに引き金を引いた




そのときに、見た




亜季「_____!」



銃口の少し向こうで



右足を勢いよく振り下ろす未央を



亜季「(マズいマズいマズいであります!)」



彼女の足元には小さなスイッチ



それは星の鎧よりもわずかに小さな星型で



「はい、ドーーーン!」



未央の靴の下で小さな音が破裂する



そして衝撃は、振動として伝播して



亜季の真後ろで大破裂が起きた


必殺の尖端が空中で飛散する



亜季「(これは...避けられません!!)」






「ヒャアアアアッッッハアアアアアアアアアアアアア!!!??」

「は?」




飛んできたのは敵の武器だけではなかった


触手のような根と猥雑に絡みあった輝子が吹き飛んできた


星と尖端を絡め取り、亜季も巻き取られ、ゴロゴロと転がっていく





小春(ボット)「わ~い、やりました~!」



ウロコの背中で小春がはしゃぐ

さっきまでまとわりついていたキノコ三体を振り払い、その様子はすっきりしていた

本人としては輝子はおろかそれより更に年上の亜季まで倒してご満悦なのだろう

未央(ボット)「あらら......ここは確実に決めときたかったんだけどなー」

決定打を逃した未央としては面白くないが標的を一箇所にまとめられたと考えることにした

月があるとはいえ、少し目を向ければ光の届かない闇などいくらでも目に付く


「あれ?」


そんな風に誰かが隠れる可能性のあるポイントに走らせた視界がある事実を見つけた


「しまむー?...ゆきみん?...みどりん?」


仲間が見つからないという事実を



老廃したビル壁がひび割れ、粉を吹き

崩折れた二人の体にはらはらと降り注いでいた


亜季「しょ、輝子どの...」

輝子「フヒ......す、すまん」


壁にめり込んだキノコボットが消失する中、輝子は亜季の胸に上下逆に飛び込んでいた


自分の下で呻く亜季に、咄嗟に輝子が咄嗟に腰を上げたが、



亜季「実にナイスであります」



続く言葉は肯定の一言だった



輝子「フヒ?」

亜季「いいですか...そのまま少し耳を傾けていいてください」



そうしてその体勢のまま輝子にある作戦を耳打ちする


さっきまでは未央によって完全に「詰んで」いた亜季


だが輝子が将棋盤をひっくり返し、その命を拾った今


恐れるものなど何もない




ゲーム開始119分

大和亜季&星輝子
VS
本田未央(ボット)&古賀小春(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今回はここまで

まだまだ続く、安価はなし


次回

大山鳴動して奈緒、奔る

おつ

おつおつ
毎回楽しみにしてるよ!

生存報告

待ってます!

まだかのう...


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



>チュートリアルボット
___________

北条加蓮  10MC

神谷奈緒  10MC

三好紗南  10MC
___________

>ノーマルボット
___________

向井拓海 

単独撃破報酬 4800MC
___________

村上巴

ダメージ報酬 1200MC
___________

前川みく

多対一報酬  2400MC
___________


計8430MC


手のひらサイズの小さな画面を更に小さな文字が走る

奈緒「ポイントが貯まるって...まじでゲームじゃねえかよ」

紗南「美穂ちゃんと二人で倒したみくにゃんより加蓮さんが一人で倒した拓海さんの方がもらえるポイント高いんだ...細かいなぁ」

__________________

ハンドガンA 800MC  在庫わずか

ハンドガンB 800MC  在庫わずか

ハンドガンC 800MC  在庫わずか

マガジンA  400MC  在庫あり

マガジンB  400MC  在庫あり

マガジンC  400MC  在庫あり

ナイフ    300MC  在庫あり

ライフル   1000MC  在庫わずか

対戦車砲  3000MC  在庫わずか

手榴弾    600MC  在庫あり

自転車    500MC  在庫なし

戦車    15000MC  在庫あり

砲弾     3000MC  在庫あり

ジャンク品▽ 50MC  在庫あり

__________________


加蓮「戦車って何なのよ...知らないんだけど」

紗南「ん?言ってなかったっけ?この街のどこかに戦車が置いてるって」


ゲーム機とタブレットを装備した紗南が加蓮を振り返りながらきょとんと首をかしげる


奈緒「そういや、巴と戦ってる時に何回か爆弾落とされたような...」

紗南「それアタシー、戦車おいてる場所までは分かんないけど一応操作できたから」

加蓮「え?そのタブレットでわかんないの?」

紗南「うーん、アタシもそれは考えたんだけど...」

そういってタブレットの画面をあちこちとタッチする事に画面が波立つ

よく見ると画面に地図が表示されている状態は固定されたまま、そこに漂うドットだけが切り替わっていた


奈緒「これは?なんかあたしらの周りのプレイヤーが消えたり付いたりしてるけど」

紗南「多分感度みたいなのを調整してるんだと思う...」

加蓮の横から画面を覗こうとした奈緒の疑問にぼんやりとした答えが返った

紗南「ほら、今は空いっぱいをカラスが飛んでるし、何でもかんでも感知してたら画面見れなくなっちゃうから」


彼女の指が画面上を滑ると同時に画面が青い丸で埋め尽くされた。それらは全てボットの位置情報だ

アイドルも、戦車も、キノコも、カラスもその地図上では区別がつかない


加蓮「はぁーあ、これじゃ接触できそうなのはプレイヤーだけみたいだね」

奈緒「だから今まさにそのプレイヤーんとこに向かってんだけどな」

改めて、目的地となる方向を目視する

三人は今ゴーストタウンから廃墟へ、そして廃墟から跡地へと変貌した道を進んでいた

潤沢な装備への伝手を手に入れた彼女たちだったが、空を我が物顔で支配するカラスの群れを避けなければならないのは変わらず、自ずとそのルートは限られた

奈緒「しっかし、ネズミか虫にでもなった気分だ。あるいは洞窟探検隊」

低い天井から漏れ出した月光のエリアを回り込んで空からの視界をクリアする

崩れ、倒れ、均されたビル街。彼女たちが選んだのはその瓦礫の「下」だった

剥がれた壁材と建材がぶつかり合い支えあって出来たトンネル、不安定で不十分な隙間

しかし彼我の物量さを鑑みればその偶然の産物だけが彼女たちの細い命綱だった


紗南「トンネルが崩れてもアウト、トンネルの上から見つかってもアウト...スリリングだねっ!」

加蓮「はしゃいで壁倒さないでよ紗南」


余裕の表れか、自分たちを覆い隠すか細い通路を軽く小突く紗南を加蓮が窘める

奈緒が立ち止まり、それに続いて二人も足を止めた


「あそこか...」


誰ともなしに呟く

彼女たちはタブレットの指し示す激戦区を見通せる一にまで到達していた

大通りらしき平坦な道路を挟んですぐ向こうからはもう危なっかしい音が断続している


望月聖、高峯のあ、白菊ほたる、神崎蘭子、etc...

度重なる大規模破壊がもたらした街への傷跡

それらの間隙に立地していたおかげで全壊をまぬがれ、辛うじてビルの体裁を保った区画


奈緒「ここで止まれ。輝子と亜季さんも心配だがブリーフィングしとこう」

瓦礫と廃材の海の上の暗闇にくっきりと立ち並ぶ影を背景に足を休める

奈緒「状況を整理しようぜ」

「まずアタシたちは今、味方を増やすって方向で動いてる」

紗南「情報収集力とウエポンだけ偏って集まってるしね。あとは兵力でしょ」

奈緒「そーそ、アタシのスキルで武器はなんとかなるし、紗南のアイテム二つで他の誰かを探すのもぐっと楽になった、あとは実行するのみだ」

加蓮「で、とりあえず一番近いプレイヤーかユニットかな?...に会いに行こうってことで」

紗南「その前にボットとのバトルをクリアしないとね!」

ぱん、と音を立てて紗南の手がタブレットの画面を叩く

その指の下では赤と青の丸が震えながらぶつかり合うように位置を変えていた

その攪拌されたような蠢きはそのまま戦いの激しさを物語っている


奈緒「のんびりしてる時間もないが特攻かますわけにもいかねえ」

「相手の能力を把握した上で、必要となる最低限度の火力を”取り寄せる”ってことでいいな?」

加蓮「元々大荷物運べるメンツじゃないしね。アタシも紗南ちゃんも」


奈緒「にしてもどうだ紗南?相手か味方の能力は読み取れたりしたのか?」

紗南「うーん、何人かは...やっぱり離れてるとうまくいかないね」


タブレットを支える手とは反対の手に握られたゲーム機は少し前からサーチモードのままだ


彼女の能力は強力でありながら不便だ

今のサーチモードの場合だと広大な距離を開けたまま一方的に対象の情報を素っ破抜くことができるが、

それにはセンサーの直線上に正確に動く対象を捉え続けていなければならない

ましてや今は夜、対象は遠く、そして不可視だ


紗南「一応今まででちらほら読み取れたのが~~っと...」


記憶を掘り起こすようにゲーム機の角でこめかみをこする

地下下水道で偶然亜季の能力情報を探知したのがずいぶん昔に感じる

それから今に至るまで何度かアクセスを試みてはいた

しかしそれは、目隠し、物干し竿で金魚すくいをするようなムリゲーで___


紗南「輝子さん、未央さん、卯月さん、翠さん、小春ちゃん...大体ほとんどだよ!」


彼女が全力を以てチャレンジするに足るゲームだった


加蓮「さすがピコピコ娘」

「で、誰がボットだったっけ?確かその近くにいる亜季さんはプレイヤーだったよね?」

紗南「輝子さんと亜季さん以外は皆ボットだよ」


低くて脆い天井に気を遣い、足元に注意を払いながら質問を投げてくる加蓮の腰元では銃身が窮屈そうに挟まれている

このちっぽけで強力な武力のまま先を急ぐか、奈緒の助力を要するかは紗南からの情報次第だ


紗南「完全に囲まれてるのにまだ生き残ってるだけあって結構強キャラなんだよねー」

奈緒「ほーん、どんな能力よ?その様子だと画面から消える前になんとか頭の中にたたき込めたんだろ?」

紗南「うん!えっと...まずはねー」


ちらりとタブレットに目を落とす

地図上の青丸の一つを小突きながら記憶を掘り起こしていく



紗南「うぅん、ちょっとまってね。ちゃんと思い出すから...」

ゲーム機の能力と違い、タブレットは情報が揺らぐことはない

その薄い板は天上からの確固たる視点でこの街を見下ろしている


紗南「......まず、卯月さんの能力は強化系でね?...他のボットの能力だけに作用するみたい」




だが忘れてはいけない。その視界は何も彼女の持つ機械だけの特権ではない





「......言っちゃ.........ダメ...」





ゲーム開始120分


北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)



開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


カシャン


奈緒「?」



慎重に足場を確認しながらあるくさなか小さな音を耳が拾った。


ともすればその足音にさえかき消されそうな小さな破裂音


奈緒「ストップ......どっかに誰かがいやがる...」

紗南「いや、それはわかってるけど」

警戒心を引き上げる奈緒に対し画面を小突いて紗南が言う


奈緒「そういうんじゃなくて...なんか変な音聞こえたろ、今?」





ズズズ...




加蓮「ん、この何かを引きずるみたいな音?」

奈緒「そうじゃなくて、もっと小さな......そう!ガラスが割れるみたいな」


前を見ていた奈緒が振り返る




ズズズズズズ!



だから動き出した光景の第一発見者は紗南だった

紗南「いやいやいやいや!ガラスどころじゃないでしょアレ!」



地面に生えた標識やガードレールをこそぎとり

電線を引きちぎり、カラスの群れを押しのけ



紗南「ビ、ビルまるごと動いてるじゃん!!」



加蓮「あんなの動かすって......のあさんレベルのボットがまだいるの?」

コンクリートの巨大墓標が動き始めた

奈緒「マズいマズいマズいって!!」

アスファルトが波打ち、際限なく粉々に砕けていく

そこをビルが砕氷船さながらに強引に割り進む

ビル街と奈緒達を隔てていた道路を横断して、彼女らを挽き潰そうと


奈緒「あれを避けて回り込むぞ!」

加蓮「逃げきれるのこれ!?」

紗南「避けゲーなら得意だし!」

ビルの直線軌道上を大きく迂回するように走る


紗南「あっぶな、いっ!!!」

波打ち、逆立った地面を飛び越えた紗南の、数メートル背後をゴリゴリと蹂躙して通り過ぎていく

そして、奈緒たちがいた荒れた地面に突っかかるようにして停止した


加蓮「(このままビルのないとこまで逃げ切れる?)」

紗南「(よっし、どーやら曲がったり追尾したりはしないみたいだね!)」



だが猛追は止まらない



「...翠......次......あっち...」


ゴッゴゴン

走る三人の前にまたもビルが躍り出る。先のものより階数も少なく、その分速い


加蓮「二棟め!?」

奈緒「そりゃそうくるよなぁっ!?」


道路の先が横車を押すように無理やり遮られる

ガゴォン

紗南「うえっ!?」

三棟目、それは今までとは違った軌道を描いた

建材の基礎を引きちぎるように不自然に折れ曲がり、ビルディングの根元から大きく折損を起こしながら


そして二棟目の上に倒れ、完全に道路を封鎖した


数十トンの倒壊の衝撃で壁一面のガラスが煙のように宙に向かって噴き出す

紗南「いぃいいっ!?」

極小の凶器が月明かりの下降り注ぐ


奈緒「うわああああっ!?今までで地味に一番あぶねぇ!!」

加蓮「きゃあああ!」

来た道を急旋回、共に引き返す

軋む窓枠が荷重に負け、ガラスを吐き出しながら歪曲し破断する

何もかもが歪んでいく


その中にあって、厳然と真っ直ぐ天を向いた矢を見た


紗南「(......なにあれ?壁のひび割れのとこに...)」


四棟目は既に動いていた

退路と背後を封じた上での本命

ガードレールが飴細工のようにひしゃげ、道路に乗り上げる



奈緒「くっそ!!挟まれたか!?いや、ビルの隙間を抜ければあるいは?」


加蓮「いや、道路から降りて今まで来た道を引き返したほうが安全だって...」

奈緒「それじゃ味方と合流できねえし、向こうの思うツボだろ!」

加蓮「じゃあアンタがバズーカでも取り寄せて、ビルごとぶっ飛ばしなさいよ!」


決してパニックに陥ってはいない。だが焦りが二人の声を荒げさせていた


そして突破と撤退に揺れる二人を尻目に事態は際限なく悪化する




紗南「あ、それどっちもむりかも」



ア”ァア”アーーー



「カラスに気づかれた」



黒の奔流がなだれ込む


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季&星輝子


亜季「この地鳴りは...」

輝子「...また、何か、やらかしたな...これは」


ズズン...


未央(ボット)「あらら...折角この辺はまともな建物も残ってたのになー」


四角いシルエットが時にチェスのコマのように平行移動し、時に将棋崩しのように瓦解していく光景は遠目にもよく見えた

「...みどりん、最初の頃とは能力の使い方変わってきてるねぇ...」

小春(ボット)「あんな風にドカーンってしちゃうと、プレイヤーさんが見えなくなるんじゃないですか~?」


未央(ボット)「んー、だからゆきみんがいるんだろうね」


矢を中心とした能力範囲内の物体を強制的に翠から60メートルの位置へ固定する

瓦礫の巨塊も、人間も、恐竜も、建造物も、引き離され、あるいは引き寄せられ固定される

しかしそれを利用した攻撃はどうしても翠を中心とした円上の単調な直線移動にしかならない

だから彼女がいる


雪美(ボット)「これで.......ぺちゃんこ......できた?」


卯月の力の恩恵により勝ち得た月を侵食しCHIHIROの視界をジャックする力


仮想現実全域をも見通す力と、反撃不能の大規模破壊


未央(ボット)「だから、すぐ終わるでしょ」

ヒョウくん「...............」


爬虫類の翼竜は黙して語らない、その翼の下に星型のディスクが改めて備え付けられた

カリカリと空気を震わせる音が未央の両腕を覆う


「んじゃま!こっちも終わらせよっか!」


「は~い、わかりました~!」




  戦闘再開


対するは痛手を負ったプレイヤー二人

先程から動きがないままにボソボソと何やら言葉を交わしているようだが

未央(ボット)「待つわけないって」

小春(ボット)「ですです~」


ゴォオッ!!


未央の頭上を小春とその相棒が翔んでいく

亜季と輝子ビルに向かって一直線に、そのまま衝突寸前に急上昇


「あれ、避け......フヒッ!?」

「伏せるのです!!」


一拍遅れてウロコを纏った尾が叩きつけられた


巻き起こった風に前髪を吹き上げられながら未央が口笛を吹いた

尾先は窓も柱も叩き壊して壁の向こうに突き抜けている





ヒョウくん「.........!」


小春(ボット)「どうかしましたか~?」


尾先を食い込ませたまま一度、大きく羽ばたく


しかし、動かない。しっぽが抜けない。何かが尾先を掴んでいる


「フヒ、フヒヒヒヒヒ......」


瓦礫に埋もれたどこかで笑声が転がる


三体の巨大なきのこが根を伸ばし一体となって




「第二ラウンド開始だァアアア!!!」



翼竜を地面に縫い止めていた



小春(ボット)「むぅっ!ヒョウくん!」

短い呼びかけに即座に応じる


地響きと共に着地し、四本足で踏ん張るとともに尾を引きずり出す


「FffffF!」

尖った爪先が地を穿ち、菌類の群れはあっさり釣り上げられた

キノコのボットとプレイヤー1人が宙に投げ出される

小春(ボット)「ヒョウくん~食べちゃってください~」


自身を縫い止めていたビルから一歩退き、牙をむきだし真上を仰ぐ

自由落下する菌類と人間に狙いを定め

絶命必至の尖端を並べ陥穽が大口が天を向いた


未央(ボット)「ここで残る一人も追撃!」


入れ替わりに未央が破壊の跡地に踏み込んだ


「(輝子ちゃんが引っこ抜かれてったから......亜季さんはっと...)」


カラン...


「(!...はっけーん!)」


崩れた天井の一部が仕切りと化していた

その向こうから物音と確かな存在感


ギャリリリリリリリン!!!


把握した瞬間に未央の攻撃は遂行された


高速振動する刃を右から左へ一閃する、アスファルトが粉へと削られ砂塵が舞う

狙いは心臓、長身の部類である亜季の胸元にラインを引くイメージで

何の抵抗もなく刃先は硬い土くれに滑り込み、するりと隙間を切り開いた


「いっちょあがりぃ!」


両断された部分が盛大に砂煙を巻き上げながら崩折れた

そして、その向こうで真っ二つに断たれた人影を見た



「さらば亜季さん...今までで一番冷や汗の出る戦いだったよ......」



同時、未央の背後


ヒョウくんの牙がキノコのボットに刺し込まれ、彼らは食いちぎられた


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一棟のオフィスビルの屋上、空っぽの貯水タンクの影


雪美(ボット)「...かれん...も...みんな、生きてる...」


白く小さな指が一点を指す。その先には密集、ではなく圧縮されたビル群

隙間風の吹く空間を全て蹂躙した跡地

しかし彼女の「眼」はそこまで追い込んでなお活路を見出したプレイヤーを見落とさなかった

だから次なる一手を支持しようと__


「ッ!」


__したところで瞠目する。その目は月に向けられたまま、しかし彼女の目には見えていた

見通せていた


卯月(ボット)「ど、どうしたの雪美ちゃん?お目目がものすごくパッチリしてるよ...?」


雪美(ボット)「...み、みお...こはる......」


翠(ボット)「お二人がどうかしましたか?」


四本目の矢を放ち、雪美からの次の指示を待っていた翠もその呆然とした少女の表情に戸惑う


「.....あぶない......避けて..........!」


届かぬ警告が知らず漏れ出す

なまじ全てを見通すことができるからこそ、伝える術がないもどかしさ


だが、


「......」

それで止まるようなボットではない


「あっちに」


次の対応策が動き出した




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


小春(ボット)「ヒョウくん!!?」


未央(ボット)「ちょっ......えぇ?」


最初は音、次にたなびく煙

最後に哄笑


「いかに恐竜とはいえ、手榴弾入りのキノコソテーは辛いでありましょう」


「引ィっかかったなァ!!ヒャッハハア!!!」


翼竜の背中に新たに着地する影がある

翼竜は口から黒煙を吐き出しえづくように首を振っている

安定を欠いた飛行態勢が翼や肢を周囲にぶつけさせ不本意な破壊を生む

最もダメージを与えるであろう体内からの、それもほぼベストタイミングでの爆発

キノコボットに仕込まれていた爆弾は、食いつかれた衝撃で作動する仕掛けが施されていた

今、この戦場でそんなビービートラップに精通している者は一人しかいない




両断された「キノコボット」の影から身を出す小柄な影がある

未央の周囲には既に瓦礫の下を地脈のように走る根が張り巡らされていた

それは菌類が繁殖するための土台であり、同時にキノコの本体

それは死角から未央の武器に狙いを定めていた

「っ、このっ!!...とれないし!」

触れるだけで物体を切断する振動刃に幾重にも巻き付き、切り裂かれながらもさらに拘束を厚くしていく

今、この戦場でそんな不運にきのこボットを使いこなせる者は一人しかいない





亜季「銃は強力無比な武器ではない、よく思い知りました」

輝子「だから、フヒヒ...て...適材適所」




波打つウロコに足を踏みしめ引き金に指を添える

対するは無防備な少女




砕けたフロアに繁殖した沢山のトモダチと並び立つ

対するは孤軍の少女






小春(ボット)「ヒョウくん......どうしてこんな」



亜季「状況に応じた部隊編成の結果でありますよ」



未央(ボット)「ぬぬぬ...みおちゃん一人にこの多勢...キッついなぁ」



輝子「ヒャハッ!!」

ビッグキノコs「FFffFF!!」



雪美(ボット)「......翠...」



翠(ボット)「...行ってきます!」



卯月(ボット)「あわわ、わ、私はどうしたら...!?」







ゲーム開始122分経過

大和亜季 VS 古賀小春(ボット)

星輝子 VS 本田未央(ボット)

開始

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで

パソコンのインターネット治りました

お待たせしてすいませんでした


待ってた

乙!
今回も相変わらず面白かった!

最近アニメと同じくらいここの更新が楽しみ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



ビルには二種類の側面がある


住人や来訪者、日光や風景を受け入れる面

最低限度の通風孔と窓、排気口だけの面

前者は言わずもがな玄関口、だが実際は一面に限らず通りに相対する面、

通行人の目に触れる面は自ずとこれと同じように窓が大きいデザインにも建築家の意匠が凝らされるものだ


そして後者は建物間の狭い隙間、そちらへ向いた面だ

日の当たらない、車はおろか人の通らない、通れない空間

都会に限らず隣接するビルの隣り合う面は大抵が物寂しい

一棟のビルが更地となったとき、かつて隣接していた建物の壁は日の下に剥き出しになる。


それを見ればよくわかる

そこに並んだ窓は日光も人の出入りも丸ごと拒絶するように小さいのが



だからこそ水野翠は「その面」で三人を押しつぶすよう操作した

なぜならボットは学習するから


大和亜季と星輝子がやったような、迫り来る建造物に対し窓を叩き割って正面突破するような真似をされないように

人が通過することを想定していない壁面が向くような位置にプレイヤーを追い込み、潰す

元より、破壊こそ免れていたがカラスのせいで老朽化の進んでいた街並みだ。雪美の手、否、眼を借りればそれらの調整は容易い


かくして、完全に逃げ道を奪った上での囲い込み作戦は十全に成功した




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


___________

対戦車砲  -3000MC 


  残5430MC
___________



「つかっちまった...

......使っちまったぞおい!」


「うるっさい、聞こえてるってば...」


「あはは、危機一髪......」


光の差さないエントランスフロア奥


入り組んだ通路の先に彼女らはいた


加蓮「仕方ないって、奈緒の能力で壁をぶっこぬかなきゃ潰されてたし」


そう言う加蓮が腰掛けているのは対戦車砲の一撃に飛ばされた壁の破片だ

壁が衝突する直前。奈緒は初めて能力を使った

人の通る隙がないのならこじ開けえてしまえ、と見様見真似でぶっぱなした

ゴン、ゴン、と硬質な音が暗い廊下に反響する。奈緒が早々に役目を果たした砲身を拗ねたように蹴る音だ


奈緒「しかもこれ、弾一発しか入ってねえじゃねえか...コスパ悪すぎんだろ」

加蓮「はぁ、そんな愚痴んないでよ。次どうするか考えよ?」

身体的にはともかく、精神的には早くも回復したらしい加蓮が奈緒に歩み寄り肩に手を置く


加蓮「で、そっちは何か分かった?」

タブレットを眺めながら寝っ転がっていた紗南に声を投げる

紗南「これは、多分翠さんの能力かなー」

床の上に仰向けになった彼女の胸の上に置かれたゲーム機は「コントロールモード」にされている



奈緒「翠さんの?」

紗南「うんうん、なんでも...能力の範囲にあるものを60メートル先まで動かせるんだってさ!」

加蓮「だからってビル動かすの...?」

げんなりした表情で改めてボットの非常識っぷりに呆れかえる


そこで急にハッとしたように息を吸った

加蓮「60メートルってことは...」

奈緒「...げっ!」

加蓮の雰囲気から奈緒も続いて察した

「...そう遠くないところにいるってことか...気を付けねえと」


紗南「隣のビルだよ」


神妙な顔つきで芽生えた警戒心にあっさり事実を突きつける

タブレットの画面が奈緒に見えるような角度に構えながら


二次元図面上では三体のボットが三人のプレイヤーの傍にいた


奈緒「おぉう...シビアだ」

加蓮「だよねぇ...」

その事実を認識し、奈緒は床面に項垂れ、加蓮は嘆きながら天を仰いだ


加蓮「じゃっ、奈緒ばっかに負担もかけられないし」

ここでも最初に思考を切り替えたのは加蓮だった


加蓮「アタシの持ってる能力とやらで華麗に脱出しますか!」

加蓮の手の中で着け爪が踊った




ゲーム開始124分経過

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季


どれだけ防壁の高い城砦であろうと、乗り越えてしまえばこんなもの

縦横無尽に空を駆けることのできるヒョウくんであろうと

背中に乗ってしまえば容易に振り落とされることはない


小春(ボット)「あわわわ...」

ヒョウくん「.........」


恐るべきことに同じ生物の背にいながら亜季と小春の間には10メートル近い距離があった

その二人の足元では動くに動けない翼竜が伏している。牙の隙間から漏れる煙の糸が途切れない

彼が亜季を振り落とそうとすればまず先に小柄な小春に危機が及ぶだろう


亜季「なにせ、同じ土俵に上がっているのですから。下手な擾乱は下策でしょうな」


プッ、と手榴弾のピンが吐き出された

それはウロコの上を2、3回跳ねながら視界から消えていった

代わって二丁のハンドガンが両の手に握られている


亜季「どうやら内側からの爆破は...効いたようですな!」


発砲開始

爬虫類の背中が戦場と化す


小春(ボット)「きゃう!」


放たれた三発の内、二発が小春の肩と腕に命中する

だが、小春とヒョウくんは一心同体。耐久性を共有しているため手応えは薄い


「ヒョウくん、おねがい~」


小春の姿がヒョウくんの背に並んだトゲのような背ビレに隠れる

巨大な爬虫類は背びれすらも巨大で、小春の頭の高さほどもある


亜季「逃がしません!!」


小柄な姿が消えた辺りに弾幕を張りながら駆け出す

ヒョウくんの背中を縦断しようとして、それはすぐに阻害された



ヒョウくん「...!......」


バサァッ!


弾丸の前に薄い膜が展開し、視界を遮る

亜季「ぬっ!?」


亜季の前に張り出したのは翼だった

本来飛行のためであるそれは外ではなく内に向き、亜季の進路を遮断した

緑と赤に脈打つ障壁にたたらを踏む


そこに追撃


亜季「!!?(尾が!?)」


彼女の体幹を凌駕する太さのウロコの鞭が

左右からの妨害に気を取られた亜季の脳天めがけて振り下ろされる

ダダン!!

発砲、二発の弾が対象を食い破る

そのまま体当たりした


亜季「(流石にアレはどうしようもないであります!)」


尻尾ではなく目の前の翼のバリケードに向けて

銃弾の衝撃でわずかにほころんだ防壁の間隙をこじ開けるように転がり込む

間一髪でウロコを帯びた鞭打を躱した

「っ!......ヒョウくん!真上に飛んでください~!」


鱗状の大地を転がりながらそんな声を聞いた

同時に飛翔音、大地の揺れを背中で感じる


亜季「無理やり飛ぶつもりでありますか!」

完全に身を起こすより前にコンクリの大地が遠ざかっていく

爬虫類の翼が羽ばたくたびに規則的に足元が揺れる


亜季「......ぬぬ、まさかこのまま暴れたりはしないでありましょうが...」


二丁銃の片方を収納し、空いた手で背びれの一本を掴み走り出した

足の下に広がるウロコの流れに注意を払い、足を滑らさないように慎重かつ迅速に


亜季「(さきほどの小春殿の声、何かに気付いたような様子でしたが...)」


視界の隅では真っ暗で規則的に並んだ窓が背景として下方へ流れていく

その速度へ追いすがるように前へ前へと地を蹴る


そして


小春(ボット)「あう...」


接敵した


規則性を持って並んだトゲの背びれに身を隠すようにして、小春はいた

空中では逃げ場はない。それはボットたる彼女も同様

そして両者は今、背びれを間に相対している

たった1メートルの間隔で


亜季「ここが、戦場であります」


動けない少女に銃口を突きつける

ゼロ距離に小さな額が迫る

引き金を引いた




ゲーム開始124分経過

大和亜季VS古賀小春(ボット)&水野翠(ボット)

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



奈緒「いや、ここをお前の能力だけで乗り切るって...無理じゃねぇかな」

加蓮「うーん、やっぱりこの能力はアタシだけは対象外なんだね」


_____________

name:北条加蓮

category:プレイヤー

skill:自分以外のプレイヤー
1人をマークした地点に瞬間
移動させる。マークできる回
数はネイルの数だけ
_____________


”自分以外”

紗南のゲーム画面上に表示されたその文字を再度確認する

三人は悠長にも床に座り込んでいた


奈緒「この”マーク”ってのはどうやるんだ?」

加蓮「うん?それなんだけど、こうネイルでタッチする感じ?」


ギターピックのように指先に摘んだネイルで床を引っ掻く

すると加蓮の指の動きを追うように青いラインが闇に薄く浮かんだ


加蓮「こういう使い方はネイルが趣味の身としてはなんかこう......釈然としないけど」

紗南「赤外線に反応するインクみたい、ぼんやり光ってる感じがキレイじゃん!」

奈緒「これか...凛の好きそうな発色だな」


加蓮「ちなみにこれ、手でこすると消えるよ」

紗南「やり直しはアリかー、でも回数制限あるってことは...」

加蓮「最後には使えなくなるんだろうね」

ネイルは10枚。使える回数は10回

奈緒「少ないんだか多いんだか......うん?」


額に手を当てた奈緒の視線が紗南の隣に置かれたタブレットに吸い寄せられる


奈緒「ボットが動いてるな...しかも離れていってる」

紗南「うえっ?」


三つの丸の一つが群れから別れ、自分たちから遠ざかっていく

しかしそれは決して好機だけの意味合いを持たなかった


離れていったボットの目的地が紗南達には容易に想像がついたからだ


加蓮「もう一人のプレイヤーの方...亜季さんか輝子の方に近づいたね」


しかもそのプレイヤーは既に別のボットと戦闘中

二対一に持ち込まれようとしているのは明白だった



奈緒「様子見もここまでだな」


宣言するなり立ち上がる


加蓮「うん、今のうちにこっちからも攻めないとね」


奈緒の手に持たれたMP3プレイヤーの電源は既に入っている


紗南「よっし!ひっさびさにこっちのターンだ!!」


ゲーム機片手に奈緒と加蓮に並び立つ

加蓮「一応ボットが行った方向と逆から出よっか。そしたらアタシの能力も節約できそうだし」

奈緒「おっけ、あたしはライフルでも準備しとくよ」

紗南「じゃあまず出口探さないとね、一回の出入り口は他のビルでぶっ潰されてるし」


前方の二人が狭い通路の手を付き、暗い道を歩き出した

後ろに着いた紗南がふと、タブレットのバックライトを光源に使おうと思い立つ


「あれっ?」


そこで今しがた座っていた地べたに置き忘れていたことに気付いた


紗南「おっと、置き忘れてた...」

加蓮「忘れ物?早く来ないと置いてくよー」


数歩戻って床の上で煌々と光る四角形に手を伸ばす











そこで紗南の視界は








ゲーム開始125分経過

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季


とげで射抜かれた


亜季「ぐ、ぬ...」


足元にいる爬虫類の背には尖った背びれが並んでいる

それは分かっていた

このイグアナという種の特徴なのか、その背びれの形は「皮膜」というより「柵」に近い


身の丈に追いつくほどの長さの硬質なトゲだけに警戒はしていた


小春(ボット)「......」


引き金と指の隙間を射抜くように真っ直ぐに伸びたとげ

銃弾は小春の右側頭部を遥か遠く外れて飛んでいった


亜季「(こういうところが苦手なんであります...)」


硬直する

未だ自分は傷ついてはいない。だが少し手を動かせばその限りではないだろう


その”木製”のとげの”持ち主”が少し捻れば

とげの先に付けられた”鏃”が何をするか



亜季「(まるで全員で一体の戦闘マシーンであるかのような連携が...!!)」




翠(ボット)「.........」



ヒョウくんの背びれの向こう


亜季からの死角に飛び込んでいた翠の握った矢が銃を”射抜いて”止めていた




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


トゲのように亜季の動きを牽制する矢


「こういう使い方は甚だ不本意です...」


変化は一瞬

翠も小春も亜季も動かないままにそれは起きた


「?!」


トリガーカバーに潜り込んでいた鏃を中心に白が拡散する

それは弓道における的の模様。白地に黒線のターゲットパターンが黒鉄を侵食していく


亜季「これは!!」

構えたまま銃のグリップから指を抜く

矢先以外の支えを失った銃が鏃に引っかかったままくるりと半回転した


そのまま射出される。60メートル先まで

翠が手を離した途端、矢は彼女の手を一人でに飛び出した


亜季「(この距離で、いやそもそもノーモーションで矢を!?)」


それが彼女の能力、放たれた矢とその周囲を60メートル先まで強制に排斥する

上半身を千切れんばかりに捻る。矢は彼女の脇腹の少し横を通過した

崩れた態勢を戻そうとする最中、彼女は見た


上方へと飛び続けたヒョウくんの高度がビルの屋上に並ぶほどになっていることを

その屋上に佇み、亜季へと視線を向ける二人の少女を




亜季「(___まさかあのボットが)」


少女たちの胸に灯る赤いバッジが警告灯に見えた



翠(ボット)「___初撃で亜季さんの手にも印をつけられたと、思ったのですが」


___あまくはありませんね__


亜季「!!」


ウロコに足音は響かない


眼下の光景に気を取られた隙に翠は「柵」のこちら側にいた


背負った矢筒に入っているのが二本


弓につがえられたのが一本


亜季と翠の距離は2メートルを切った



「___!!___」




翠の指が握っていた矢筈を放し

亜季の指はナイフの柄を掴んだ



一射



亜季が暗い闇の中に落ちていった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


小春(ボット)「翠さん、ありがとうございます~おかげで小春もヒョウくんも助かりました~」


上昇を止め、姿勢を立て直して滞空する翼竜の背で小春は息をついた

翠は背びれの向こう、ウロコの地面の端に片膝をついている

どうやら亜季が落ちていった行方を見ているらしい


小春(ボット)「大丈夫ですか~?」


背びれをかき分け、足を滑らさないよう翠に近寄る

翠は警戒の姿勢を解かない。瞬きも許さない何かを、異常を察しているようだ


小春(ボット)「(異常...といえば~、どうして翠さんは最後亜季さんに”矢で”攻撃したんでしょうか~?)」


水野翠の武器は「弓」ではなく「弓道」、そしてそれにまつわる規則


だからこそ彼女は今まで弓矢によるプレイヤーへの直接的ダメージを与えることはなかった

多人数で挑んできた142'sにも、瞬間移動を得意としていた渋谷凛にも、それどころか暴走した仁奈にも、空を埋め尽くしたカラスにも

足元を狙い、建物を狙い、時に不利になろうとその矢に原始的な暴力を許さなかった


小春(ボット)「変ですね~?もしかして、狙ったのは別のものだった、とかでしょうか~?」


よじよじと、一応の安全を図って四つん這いで慎重に翠の側に寄った

「あ......亜季さんです?」


眼下には手足を大の字に広げ、ぐったりとした長身の彼女の姿

腰に装備していた武器の一式が彼女を中心とした放射状に散らばっている


それがまるで地面に叩きつけられた彼女の飛び散った内臓や骨に見えた


「えっと~......」


言うまでもなくこの世界に肉体の爆損などというショッキングなエフェクトは存在しない


それに

ここが現実だとしてもそうはならなかっただろう、

何故なら



「亜季さん、近くないですか~?」



彼女が落下した地面は遥か下のアスファルトではなく、ビルの屋上のコンクリの床面だったから




翠の放ったらしき矢は亜季からだいぶ離れた場所に深々と刺さっている


老朽化したビルだからこそコンクリート相手にそんな業ができたのだろう


小春(ボット)「う~ん、ヒョウくんをもっとお空へ向けて飛ばせるべきでした~」


最後の一射の交差、翼竜の高度はビルの屋上を少し越えたところだった

あそこで翠の攻撃を避けても、不安定な態勢は完全に崩れ、地面への落下は避けられなかった


だから亜季はヒョウくんを、蹴ったのだ

自分を屋上へ向けて着地させるために


小春(ボット)「(すごい脚力ですね~。ヒョウくんの背中とあの屋上まで結構遠いのに~)」


だが、翠は残心を忘れなかったらしい

亜季に止めを差しきれなかったことにすぐさま気づいたのだから

ボットの知能でそこまでの考えに至り、すごいな~と小春は思った


翠(ボット)「...上......です...」


小春(ボット)「へ?...はい?」



「上へ...飛んでください......」



いままで沈黙していた翠から絞るような言葉が聞こえた

その意図するところは亜季への追撃、ではない


小春(ボット)「え、でも...折角のチャンスですよ~?」


脳震盪でも起こしているのか、動かない亜季を見下ろしていた視線を持ち上げ翠に向ける




その小春の目の前で


傾いた矢筒から二本の矢がするりと抜け、こぼれ落ちていった


「へ?」



翠の武器であり能力の要であり、誇り

それがあっけなく彼女の手を離れ夜闇を落ちていった



「翠さん...?」


「上です......遥か、上空まで........私を」



傾いたのは矢筒ではない

それを担いだ翠の体だ




「翠さん!!!!」




ナイフの刃が彼女の胸を貫き

その金属の「とげ」を背中側から覗かせていた




ゲーム開始125分経過
___________

 大和亜季+ 26/100
 

___________

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
輝子『フヒヒ...き、キノコ付きのナイフのちから...見せて、やるぜえ...!』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


視界が朦朧とする

亜季「(輝子どのの言う『キノコ付き』が何を指すのか不明でしたが...)」


咄嗟に受身を取ったがそれでも全身が痺れ指に力も入らない

震える手の中からナイフの柄が転がっていく



そのナイフには「柄」と「ボタン」しかなかった



「(......一説では、実用化には適さず、戦場での普及率は低いと聞きましたが...)」

「(......なかなかどうして...良い拾いものでありました)」


スペツナズナイフ


ボタン一つ押せば強力なバネの弾性力で刃を射出する武器

輝子に渡したものと同じものを彼女も持っていた



「(ただ、最後の瞬間そのことを思い出せたのは輝子どのの特徴的な比喩のおかげでしたな......はは)」



最後の一射



足元を蹴ると同時、腰に装備していたナイフのキノコ、もとい丸っこいボタンを押し込んだ

翠への反撃、と同時にビルの屋上へ向けて飛ぶための力に反作用を上乗せして


「...ま、まさしく”一矢報いる”でありま、けほっ!....」


月を背負い、巨大な翼を生やした竜が遠ざかっていく

「(.....とどめは必要ないと判断したのでしょうか?)」

あるいはそれは


今このビルの隣の屋上にいる二人のボットの役目なのか



パラパラ、と


矢が降って来た


「(おや、あれは翠どのの......ふふ、どうやら一矢報いることには成功していたようですな)」


力なく落ちたそれは、地面に刺さるどころか傷ひとつ付けなかった


「......しかし、私も早く回復しませんと...」


なにせ目下、最大の敵は依然健在なのだ

やっと倒した一人とはいえ戦いは終わらない

わずかに痛む腕で身を起こす


「......あれは...卯月どのに......雪美ちゃん?」


ぼやけた眼で隣のビルの屋上の影を認識した










そこで亜季の視界は










ゲーム開始125分経過

___________

 水野翠+ 0/100


___________


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「翠さん、翠さん...!!戻りましょうよ~!」



小春が翠にしがみつく

そうしないとぐったりと力の抜けた彼女の体は今にも堕ちていきそうだ


「卯月さんに頼みましょうよ~!卯月さんの能力で強化すればこんなのダメージになりません~!」


卯月の能力はそういうものではない、小春にもそれは分かっているはずだった



「まだ、あと......数秒...あるうちに......上へ...」



受けたダメージは致命傷だ

水野翠というボットが消失することは決定事項である

だからこそ高く飛べと彼女は言う



「ほら、見てください...小春さん」



だらりと垂れ下がった腕で遥か下方を指す

翠を支えていた小春が首だけを動かし、その指先を追う



「...............わぁ......」


「...あと2、3秒で、私は往きます......だか、ら」




戦場においてなお、

弓道に敬意を払い続けた実直な彼女の

最後の一手



「......一矢報いますよ、私は......」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


全員の視界が傾く



加蓮「ッ!!ちょ、脱臼しちゃうってこれ!!」




奈緒「おいおいおいおいおいいい!!!うっそだろぉ!?」




紗南「もうやだこのクソゲーーーーーーーー!!!」




亜季「.........やられた...!」





屋上の亜季、一階の加蓮たち四名の


阿鼻叫喚を閉じ込めて




コンクリートビルが一棟、夜空に浮かんだ






見えない糸に引き上げられるかのようにぐんぐんと高度を上げていく



卯月(ボット)「はわぁー...すっごい...」

雪美(ボット)「.........みどり......ごめんなさい...」



巨大なビルとは言えないが、それでも膨大な質量と体積の塊を見上げる



未央(ボット)「.........天空の城?」

輝子「.........フヒ、ひ、飛行石?」



対象を水野翠から「60メートルの距離」に固定する能力



そして彼女は今、上空「60メートルの高度」をとっくに超えた位置にいた



カラスすら飛べない高空の層へと竜が飛び、その後を巨大な建物が続く



そして



「......翠、さん......」



見えざる糸は切れた



あとは物理の世界だ

致死の衝撃を蓄えて

コンクリ製の棺桶の

自由落下が始まる





ゲーム開始125分経過

水野翠(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日はここまで

キリのいいところまで書こうとするとこうなる


今のところ多分残り9人くらいだから、この4人が全員ゲームオーバーするとデカいな…どうなるんだろ
楽しみ



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
星輝子



「まっさか、ほっしーがここまでの天敵に化けるとはねー...」



チュインッ!!

振動する刃同士をぶつけ、ハサミのように間にあった根を切断する


「フヒヒヒ、そ、その星飾り...見覚え、ある」


寸断された蔓に似た根がシュルシュルと輝子の背後に巻き取られた


「さっちゃんたちと、事務所に...行こうと、した...した......した」


崩れた天井や壁だったものの破片で床の模様はもう見えない

降り注いだ瓦礫で平坦な足の踏み場は消え失せた

そこを豪快に踏み砕く音がする。輝子の背後で濃密な気配が蠢く


「したときのヤツじゃねえエェエエカァアア!!?」

「「「FFFFFFFFFFF!!!」」」


輝子の両隣に並んだボットが一斉に駆け出した


未央(ボット)「もーう......やっとこさ縛りから抜け出したのにい!」


両腕を大きく振る、ブンと風を切る音が鳴る

それを上塗りして未央の肩から手首にかけて星がズラリと犇めき並んだ

地響きが近づく、彼女の体躯を縦にも横にも凌駕する図体を揺らし、群れが迫っていた


「また同じ手は食わないよっ!!」


もう取り囲まれるつもりはない

二本足を生やして走ってくる肉厚な壁にこちらからも突貫する

足元を這ってきた根を踏みつけ、先頭のキノコをぶん殴った

それだけで勢いを乗せた拳にボットの隊列が一気に崩れる


「ffFf!?」


少女の細腕から生み出される限界を超えた膂力

未央の倍近い体躯が吹き飛んだ


「くぅ~、効くなぁ...!」


___________

本田未央+  85/100


___________


キノコの群れ、その懐に完全に飛び込んでしまった

だが、距離さえ詰めてしまえば動きを拘束してくる根よりも疾く動ける


殴り抜いたのとは逆の腕での裏拳

キノコの体軸を真芯で捉えると、そこを中心にボットがくの字に折れ曲がる

___________

本田未央+  82/100


___________


「F!」

キノコの傘で視界が埋まる。別のボットによる頭突きだった

「ふんっぬ!!」

両腕をクロスさせて防御する。柔らかいが重量ある一撃に未央の膝が崩れた


次の瞬間彼女の腕が爆発する


輝子「うおっ...?」


爆発したのは両腕を覆っていた星型の篭手だった

かつて輝子の体前面を刺し傷だらけにした星の破片、それをさらに大きくしたものがボットに食い込む

ゼロ距離での炸裂の威力がボットの耐久力を上回った



その威力は使用者本人をも無事では済まさない


___________

本田未央+  79/100


___________



「いったた......」

痺れる腕をさする


「(やっぱ至近距離戦となると拳が武器になっちゃうんだよねぇ...)」


未央の能力が増幅させるのは振動、そして衝撃

亜季と戦う時はその能力の象徴たる星型をそのまま武器として振動させ

今、輝子と戦う中においては篭手として腕にまとい殴打の衝撃を増幅している

星型そのものを武器として成立させているのはその振動だが、それはどうやら相性が悪かったらしい


「(だからこそ、この肉弾戦用スタイルなわけだけど...)」


インパクトの瞬間に複数の星型を通して腕全体で衝撃を増幅する

これなら蔓を巻きつけられても振動を殺されることはない

爆薬を塗りたくったハンマーで物を叩くのと同じだ


「(........だから私もめちゃくちゃ痛い!!)」


立て続けに三体のボットを消滅させ、彼女も無傷では済まなかった


「ここが正念場...というか修羅場か、な!!」


瓦礫の下から生え出た新たなキノコに上段蹴りが決まる


___________

本田未央+  75/100


___________



未央のくるぶしから膝にかけて、脚線に沿って星型が並んでいた

輝子「......菌類の...根強さは、この程度じゃ...!!」

小さな手拍子とともに輝子を中心に重苦しい気配が充満した

彼女は相性としては有利なはずがジリジリと追い詰められていくような錯覚を感じている

輝子の倍の体長の物体がドスンドスンと物々しく進軍していく

そして


「みおちゃんパンチ!!」

「フヒッ!?」


のでんっ

間抜けな効果音を立て、

輝子の足元に吹き飛ばされたキノコが傘の部分から墜落した

距離は確実に詰まってきている



「な、なんでだ......?さ、最初の一撃をよけられたの......まずかったか.....?」


多人数で囲んで離れた場所から縛ってしまえば中距離から近接にしか対応していない未央に勝ち目はない

しかし、輝子は理解していなかった


ボット相手に同じ手を使い続けることの愚を


ゴォンッ!!


「あ......フヒ?」


アッパーを食らったキノコのボットが天井に突き刺さった

___________

本田未央+  71/100


___________


既に対応策は練り終わっている


「あう......亜季さんから貰ったのは...」


腕力に心許ない者にナイフは不向き

そう言われた輝子の懐には女性向けの小型の拳銃


「でも、こんなの...当たるわけないぞ......」


小さめに設計されたグリップはギリギリで輝子の手の平にも納まる

しかし、だからといって暗闇の中で一人大立ち回りを演じる未央を捉えられる根拠にはならない

だから輝子は友達を呼び続ける


「さあ!さあさあさあ!!この程度じゃ、止まらないっ、よ!」


身を削りながら未央は距離を詰め続ける


「フヒュウ......わ、私だって...友達に頼ってばっかりじゃ...」

___________

本田未央+  65/100


___________




ゲーム開始124分経過


星輝子VS本田未央(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


キノコの鳩尾らしき箇所を下から上へ向け殴り抜く



手の甲から肘にかけての小規模で痛烈な連爆、未央の顔が歪む


「これホントきつい...しまむーの能力強化が完全に裏目だよ......」


今の所未央は自分より体の大きいボットを全てほぼ一撃で沈めている。それも10体以上だ

キノコ自身が物理攻撃に弱いというのもあるのだろうが


「またきたよ...」


暗い正面に目をやればまたも傘をかぶった図体の、顔のないボットがこっちを向いている


「ふっ!!」


視認の直後には地を蹴る

このボット相手に距離を取られたまま立ち尽くすのは悪手

相手と違ってこちらには遠距離を攻撃する手段が地雷型しかないのだから


ベギッ

「うおっ!?」


踏み込んだ瓦礫が沈み込んだ。未央の膝から下が地下に潜り、そのまま食い込む

次の瞬間、未央の膝周りの瓦礫が吹き飛んだ。

膝の関節部に付けられた星型の爆発により


「ここで、足止めされるわけにはいかないからねっ!」


自由になった足を引き抜こうとし



「FFffff!!」


キノコが二本だけの肢体である足を踏ん張り、水平に跳ぶ

ミサイルのような尖頭を向けて飛んできた



三方向から同時に




「(ここにきて戦法切り換えた!?)」


今までは遠距離からの根を伸ばしての拘束を主眼にしてきたボット

それを前触れなく放棄してのバンザイアタック


「(私の腕は二本しかないってのに......!)」


たとえ一体でも体重も体長も未央の倍近い存在である

体当たりされて無事で済む道理がない


「(やっば、まだ足抜けてないのに...!)」


未央の背中に甲羅ができた

それは星の形をしている


「こんな不安定な状態で殴れるかっ!!」


ならば斜め右方、斜め左方、背後の三方へ対処するにはこれしかない

胴を守るように両腕を交差させ、膝を踏ん張る



背中、両肘に三つの弾頭が着弾した



ドォン!!!



和太鼓を強く叩いたような音が一発

同時に三方から飛来したキノコの弾頭は同時に跳ね返された


「ぐふぇ......キッついこれ...」


衝撃の伝播と増幅


それによって三つの衝撃を足し合わせ、三つの方向に反射した


突撃した勢いの三倍の勢いで弾き返されたのと同じだ


未央の周りでボットの姿が掻き消える

そして消えていたのはボットだけではない




「って...ほっしー?......輝子ちゃん?」



文字通り闇に飲まれたように


星輝子の姿が消えていた


未央の足元に転がった小石の音を残し、

フロアだった空間が、光だけではなく音すらなくしたように静寂に満ちる


「.........」


無音


「.........」


音はなかった




「はうっ!?」



それでも肌が感じた。文字通りに


「フヒヒ、力強い......カエンタケの...ような、たくましい足だ」



地面を埋める瓦礫と岩塊



そこにキノコの根っこを張り巡らし補強し


”トンネル”としての強度を上げた



「やっぱり、親友の、机の下の方が...居心地よかったけどな...」


そして今、輝子は未央が踏み抜いた地面の下にいた

ひんやりとした手ではっきりと未央の片足を掴みながら


「あー、だから根っこは使わなかったのね......」

「亜季さん...いらない、と...思ったけど...やっぱり、使うね」


地面の下から見上げる輝子、地面の上から見下ろす未央

二人の能力から考えて状況はどっちの優勢ということもなく対等である

ただし、輝子はこの場で機先を制していた

未央の足を掴んだのとは別の手にもった小さな拳銃の先が未央の顎を向く


パンッ!


「  こ、 ふっ...  ?」

鉛玉の威力に未央の顎が反り上がる

だから、ソレが見えた

輝子も未央の動きを追う中でソレを見た


未央(ボット)「.........天空の城?」

輝子「.........フヒ、ひ、飛行石?」


月を背景に余りにも大きく四角いシルエットが浮かぶのを


ゲーム開始125分経過

星輝子VS本田未央(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



冗談のような速度で窓の外の風景が流れていく


見るもの全てが傾き、それに追従してフロア中のものが一斉に転がり始めた


急変する状況、”床を”自由落下しながら咄嗟に曲がり角を掴んだ


加蓮「ッ!!ちょ、脱臼しちゃうってこれ!!」

両肩から弾けた痛みに顔をしかめる彼女の少し下で

奈緒「おいおいおいおいおいいい!!!うっそだろぉ!?」

通路の壁に精一杯手足をつっぱり体重を支える奈緒がいた

小柄な彼女にはそれだけで苦行だ。それに両足を広げるのはあまり女子のしていい格好でもない


紗南「もうやだこのクソゲーーーーーーーー!!!」


そこに背中で滑りながら紗南が落ちてきた

地面に落ちたタブレットを拾おうとした所でのこの災禍である

あっさり態勢を崩した彼女はタブレットもろとも加蓮の元に転がり込んだ


奈緒「どうなってんだ!?じ、地盤沈下か!?」

紗南「逆だよ!浮いてるんだよ!!このビル!」

加蓮「うっそぉ......とも言い切れないんだよね」


ガランガランと派手な音とともにフロア内のソファやモニュメントがパチンコ玉のように視界からフェードアウトしていく


奈緒「浮いてるって...まさか大気圏外にでも捨てられるんじゃないだろうな!?」

紗南「あ~あるある!」

加蓮「なくもない......のかな?」


自棄気味な奈緒の叫びだったが、それを否定する材料は思い当たらない

向井拓海、梅木音葉、高峯のあ、古賀小春

ボットの中でも特に非現実的な力を行使していた層を相手取っていた彼女たちにとってはそれすら想定できるのだ


とにかく今やるべきことは強制的に一つに絞られた


「ボットが近くにいるとか関係ねぇ、脱出だ」

「脱出ゲー、タイムリミット付き、だね」

「紗南ちゃん、ちょっと重い...」

意志は固まった。あとは実行するのみ

奈緒「...で、どうしよう」

紗南「んー、とんでもない高さになるまでに、どっかから飛び降りるしかないよ」

奈緒「そうするか」

加蓮「......そっか」

言うと同時、奈緒が手足の力を弱め、すこしずつ通路をズリ下がっていく

紗南も加蓮にしがみついていた手を離すと小柄な体がすべらないようにそろそろと降りて行く



加蓮「............」


見上げると空が見えた。天窓ではなく壁ガラスを通して、

迫ってくる月と夜空の速度は異様に速い

残された時間は殆どないのだろう


加蓮「(ユニットが解消できればよかったんだけどね......)」


ポケットの中身を意識する。そこに眠るのは転送能力を持った十の爪

それがあれば奈緒も紗南も助けられる

だが、そのあとの生存の道は、ない


加蓮「(だってアタシが死んじゃえば...ユニットを組んでる二人も自動的に終わるし...)」


そして彼女の能力は彼女には作用しない

仲間を助けるためには、まず自分が助からなくてはいけない

全員が助かるか、全員が死ぬか

落としどころも妥協も折衷案も加蓮には残されてなかった


奈緒「加蓮!!」

加蓮「わっ!?」


足元のあたりから焦りを帯びた声が飛んでくる

見ると奈緒は少し降りた先、L字路の壁面に対し垂直に立っていた

隣にはタブレットとゲーム機をなんとかしてズボンに挟み込もうとする紗南


奈緒「早くこっち来いって!奥ならアタシがあけた穴が残ってるはずだろ!」

加蓮「あ、うん...」


つい気のない返事を返してしまう


彼女には予感があった。この脱出はうまくいかない、と


おそらくここはもう、飛び降りて無事に済む高さではないのだ



紗南「奈緒さん、やっぱりちょっとこれ持ってて」

奈緒「おう」


衣類の中に納まらなかった機器を手渡す

二人の間でタブレットの画面が暗闇を照らした

赤、青の点模様が束の間、通路を彩る


加蓮「.........あ」


ふつり


壁に映った丸が一つ、マッチの火のように消えた

色は青、ボットの色だ



どこかでボットが一体消えたのだ



小春(ボット)「......翠、さん......」




つまり、時間切れ

落下の時間




ゲーム開始125分経過

水野翠(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
星輝子

___________

星輝子+  42/100


___________



建物が風船のように宙に浮く異景に


放心していた輝子と

反応していた未央と


先に次のステップに踏み込んだのは後者だった


右肘を中心に星形の盾が顕現する。篭手の時のような小ぶりのものではない

この盾は矛としても使うのだから

「せぇ...っのぉお!!」


ガリガリガリガリッ!!!


「ひっ!?」


未央の足元の地面、その下の輝子に向けて切り払う

足の踏み場もなかった大地が切り開かれ、輝子の通ってきた隠しトンネルが口を開けた


「こんな狭いトコよく通ってきた、ねっ!!」


自分の足を掴んでいた小さな手はもう離れている

輝子はモグラのように地面の下の隠し通路のどこかに引っ込んでいた


「かと言って真面目にモグラ叩きする気はないけどね~」


半分沈んでいた足を引き抜き、両肘を後ろに引き絞る

肘には既に星型が装備されていた。騎馬槍のごとく切先は長い


「(このモードならアタシも跳ね返ってくるダメージはないもんね!)」


小嵐さながら未央の腕が振るわれる

絨毯爆撃に地面がめくれ上がっていく


輝子「フヒヒ...ヤバいヤバい...」


頭の数センチ上で続く破壊音を聞きながら輝子は這っていた

キノコの根による補強はそう長くもたない

フロアの本来の床に積もった瓦礫を固めて作った擬似地下道



「キ、キノコは...本来、じ、地面の下のが.......本体だし...フヒヒ」


そんな狭い、道とも言えない道を逃走経路にできるのは輝子しかいない


「...これは、流石に無理......アレに気を取られなかったらなぁ...」


不意打ちは決定打にはならなかった

自分の策がおままごとに見えてしまうような圧倒的光景


「万一、未央ちゃん、倒しても...アレ、見せられると...」


亜季直伝の作戦は最初の一撃をきっかけに盛り返され、自分で考えた策も逆に自分がい表を突かれ

あげくに天変地異では済まない現象の目撃者になってしまった

要は逃げ腰だった。ここにきてボットの優勢を目に見えて感じてしまった

パラパラと、砂礫が降り注ぎ輝子の長い髪に絡まる


「ごめん、亜季さん......

ごめん、さっちゃん、うめちゃん......仇、まだ、取れない」


知らず、懺悔は漏れるが地べたを這い進む手は止まらない


どこかにいる敵を探し攻撃を続けるボットと

どこかにいる敵を恐れ逃走を続けるプレイヤー



結果的に逃げる者に運は味方しなかった



「どっせい!!」



未央がデタラメに振り続けた攻撃


その一つが偶然輝子に致命傷を与えた


___________

星輝子+  5/100


___________


「ぐえっ!?」


未央(ボット)「おっ?」


乱暴に裂かれた包装紙のように地面に細い亀裂が空き、輝子の姿が覗いた

今の彼女はもう、安穏とした住処を暴かれた蝉の幼虫のようなものだ


「下手な鉄砲なんとやら......努力って報われるんだね、やっぱ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

咳き込んだら血が出た、というわけじゃないけど


でも、体の、芯の部分...何か大事なものが漏れそう


輝子「ぉお、おぉお......っ...ごほっ!」


すごく、痛い


ハンパないぞ、コレ......フヒ


腰と、お腹になにか当たったと...思ったら


「う、動けない、くらい痛い...な...」


細い手でお腹をかばう、我ながら頼りない

背中の中が、ビリビリして、足の感覚が消えてる

だからもう逃げられないな...


「フ、フヒヒ......き、聞こえる...」


狭くて暗い、キノコ特製の地下道に私の声が染み込む


あ、足音が聞こえる


数センチ上の地面...誰かが歩いてきてる、軽やかに



「ほっしー、みーつけた!」



壊された、私の...大事な隠れ家が上から覗き込まれた

妙に明るく降ってくる声は間違いなく本田未央ちゃんだな


誰とでも仲良くなるのが上手だったな、そういえば

私にはすごく難しいことだけど

だったのに


「じゃ、私みどりんの方にも加勢いかなきゃだから、ここでサクっとやっちゃうね?」


体中からトゲトゲが出て、ハリネズミみたいで


...そんな格好じゃ、だれとも仲良くなれないぞ......?


お腹から手を離す

一体でもいいからボットを呼びたい

べ、別に...悪あがきじゃあ、ない


できるなら


最後に、キノコのそばで

グラグラする視界の中で

手を叩こうと



「だめだって」


したのに

未央ちゃんの...槍...かな


手と手の間に割り込んで きて

てててて



   私


 お でこに刺


頭 の



  
 み
 ん

 な


___________

星輝子+  0/100


___________


ゲーム開始125分経過


星輝子VS本田未央(ボット)

勝者 本田未央(ボット)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



重力が消え、皮膚が泡立つ

内臓が喉元まで持ち上がる



紗南「あばばば!?」

奈緒「っ!?掴まれ紗南!!」

加蓮「そりゃこうなるよ、ね!」


近くにあったドアノブに両手でしがみつく、足は宙に投げ出されていた

今度は加蓮が下流になる番だった

頭上で、踏ん張る足場をなくした紗南を奈緒が掴み止めている

そしてその立ち位置からは否応なく分かる


奈緒「お、落ちてるじゃねえか!!?」


ビルの前面に貼られていたガラスを通して地面が見える

俯瞰での景色へと致死の速度で近づいていく


加蓮「(なんかないの!?なんでもいいからここで全員まるっと助かるような一手!!)」


ボットを探り操る紗南


武器を取り寄せる奈緒


加蓮「(でも、今ここなんだ、アタシが尽力するべきなのは!!)」


立つどころか座ることもできない傾斜に、もはや目視できる全滅の未来

どれほど加蓮が決意を固めようと猶予はない


ゴツッ!


加蓮「はぷっ!?」



鈍い痛みが思考を断ち切る


紗南「あっ、加蓮さんごめんっ!!」


前頭葉から後頭部まで響くような硬さと重さに頭痛がする


加蓮「いたた...これ、タブレットじゃん...」


さっきまで下方にいた紗南から落ちてきた薄くて硬い精密機器

それをキャッチする余裕はなかったが落ちる前になんとか確保した


加蓮「(これは失くせないって...!)」


手は使えないので膝と床、今は壁と同じだが、その間で力任せに押さえつけた

膝の圧力に負けタブレットの液晶画面が少し歪んだ


加蓮「.........あ、もう...」



落下が終わる



眼下のガラス越しにどこかのビルの屋上がアップに迫るのが見えた

それはまるでゲーム画面のようで


奈緒「加蓮!どこか別の部屋に飛び込め!!」

紗南「ソファか何かに捕まって!」


上から声が降ってくるが、もう遅い


加蓮「いや、この態勢でそれっ___」




   墜落


   衝撃


   轟音



  もう、掴まる場所はない



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「_____なんで___?」


「ちゃんと、やったじゃん...私、倒したじゃん...」


「ちえりんや、しぶりんの時みたいに...逃がしたりなんてしなかったよ...?」


未央を襲った現象を説明する要素は三つ


第一に、輝子は自分の発言を忘れていたこと

茸の本体は地中の根であるということについて

そして最期のとき、フロアには十分な量の根が存在していた



第二に、今までキノコのボットは輝子の危機にこそ立ち上がってきたこと

傘を振りたくり、胞子をばら蒔き、巨大化してきた

輝子のスタミナが減少する度にそれは起きていた



第三に、未央は知らなかった

橘ありすのタブレットや向井拓海のバイク、村上巴の銃砲の例を

本体の消失後もこの世界に遺り続ける存在のことを



「.........マキノンについていって、しまむーに会って」


「仁奈ちゃん、みどりん、ゆきみん、こはるんと会って」


「五人組ユニットみたいなの組んで」


「事務所守って、でも守りきれなくて...」


「それでもやれるだけの事しようとして...」


「最後がこれって...」




「こんなのってな





ゲーム開始126分経過


本田未央(ボット) 消失

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



「...............あれ、生きてる?」



背中の痛みに閉じていた眼が開く


「奈緒...?紗南...?」


二人はすぐそこにいる、自分の上に折り重なっているが大して重くは感じない

傾いたフロアの隅に他のインテリアやソファも自分たち同様折り重なって溜まっていた


加蓮「いやいやいや、傾きって...」

「こんなに緩やかではなかった、よね?」


状況が変化している


いや、変化が中断された?


割れたガラスの向こうに映っていたはずの俯瞰の地面

それもいつの間にか普通の摩天楼に戻っている


加蓮「(この廃墟街を普通って言っちゃうあたり...麻痺ってるなぁ)」


不安定な角度で落下していたビルが何故か水平に着地していた

しかも自分たちに降り注ぐはずだった致死級のダメージもほぼなし


加蓮「いや、まさか綺麗に着地したからセーフとか......」

奈緒「ないない、ないよな.......?」

紗南「ぼ、防御魔法でも使った?」

奈緒「ねーよ」


積み重なってた三人の一番上から降りた紗南がガラスに近寄る

流石に紗南も無事に着陸出来たなどとは思っていない

不条理極まりないこの世界にもルールはあるのだから


紗南「考えられる展開としては...浮かぶ能力がまた発動したか、他のプレイヤーの助けかな?」


ビルは浮いているのか、どこか安全な場所に降りたのか

積み重なった観葉植物の鉢をどける、結果はすぐに出た


紗南「......どこだここ」


割れたガラスの向こうは地面だった

しかしコンクリートでもアスファルトでもない


紗南「月のせいで色までは分かんないけど......土、じゃないよね」


視線を向けると頂上らしき稜線も見えた。どうやら小さな山らしい

まさかビルごとワープでもしたのかと周囲の風景を見渡す


加蓮「あの半壊したビルは見覚えがあるね...」

紗南「ってことはこの小山がいきなり生えてきて、アタシたちが助かったってこと?」


今いる場所は周りのビルよりかは少し高い場所らしい

展望台から見たような風景が360度に広がっている



「紗南!!!加蓮!!あれ見ろ!」



切迫した声に紗南の背がはねる

「またカラスだ!!」

すでに羽音がそこらじゅうから聞こえ始めていた。空の一部が黒い

この街において高所は彼らの支配下にあるのだから

こんな場所にいれば寄ってくるのも当然だった


加蓮「......」

紗南「まずいまずい!」

奈緒「くそっ、奥の部屋に一旦引っ込むぞ!」

倒れた椅子を蹴っ飛ばしながら紗南の手を引き奥へ駆ける

内側へ向かう逼迫した二人を置いて加蓮だけが外を見ていた

奈緒「加蓮!お前も早く___」



加蓮「でも多分、このビルもう保たないよ」



静かにビルが震動する

ビルの窓枠や屋上に取り付いたカラスを中心にヒビが広がっていく


奈緒「げっ!」


だがビルの震動は老朽化だけが原因ではない

落と仕掛けたところを危なく回収したタブレットを覗く


加蓮「(あれ......このビル...もう一人プレイヤーいたんだ)」


何故か頭の中が静かになっていく

緊張と集中が程よい塩梅で胸に宿る感覚

これはチャンスなのだ。さっきまで何もできなかった自分への


加蓮「今度こそ」


カラスの羽音は聞こえるが、それに対処しようとする自分がいた

ポケットから手を出す、タブレットを体にしっかり引き寄せる

加蓮「奈緒、パス」

奈緒「はぁっ!?」



小さな薄片が奈緒の手に転がり込んだ。落とさないように慌ててキャッチした

紗南「ネイル?」

加蓮の能力のキーがささやかな青色を灯す

だが、ここで渡される意味がわからない


加蓮「...アタシにそれは使えないから。」


震動は続く、屋上のあたりにとどまっていた羽音は加蓮に迫っていく


加蓮「適当に時間稼いだら、それ使ってアタシを追いかけてきてね!」


ヒビだらけのガラスに靴底をぶつけるようにして蹴りつけた

けたたましい音を立て、絨毯サイズのガラスが飛び散った


そのまま足を踏み出し、

ビルの外へと踏み出した




「加蓮!?」



同時、ビルが軋む

二度目の落下に今度は奈緒達も素早く対応し、近くの柱に掴まる

遠ざかっていく背中に叫んだ


奈緒「___説明不足すぎる!!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

八神マキノというボットがいた

彼女の移動能力の最大の特徴はその「安全性」に限る

即移動、後の、即退陣

どんな戦場に踏み込もうと、一方的に情報を集め、何処かへ消えていく

たった一人で諜報隊員として機能する



一方、加蓮の能力は一人では全く機能しないどころか安全の欠片もない

移動と撤退はできるが、それも対象となるのは他人だ

そして最後、戦場には加蓮だけが取り残されてしまう



加蓮「なんとなくわかった...アタシの能力は後衛向けだったんだ」

少し考えれば戦闘用でないことは分かることだが、それを実感として噛み締めていた

安全な場所から味方のプレイヤーを戦場に送り出し、ときには戦場から回収する



加蓮「(つまりまず、アタシが安全な場所に隠れて、それからあの二人を移動させる!)」



前線で戦うのではなく自陣に控えるのが彼女の本来の在り方ということだ

それは、かつては入退院を繰り返していた彼女のためのような能力



加蓮「(なんかそれって、アタシがまだ病弱だと思われてるみたいでムカつく......)」



カラスが迫ってくるのが背後から伸びた影でよくわかる

コンクリートでもない、、アスファルトでも土でもない地面に足音は響かない

柔い斜面を登らず、横凪に走り抜ける

このままいけば斜面は途切れている、その向こうは見飽きたビル群だ

加蓮「(現実なら捻挫じゃすまないよね...)」

斜面が途切れたふちで、足を踏み切り、跳んだ


背後から二人の声が聞こえた気がした



加蓮「(逆にアタシが自分の安全を確保してもあの二人がやられちゃ意味ないんだけどね)」


___でも、あの二人なら大丈夫だろう



思ったより隣のビルの屋上までは近かったようだ

着地の衝撃に足の裏から膝に痺れが伝播する


「いったぁ...」


膝をさすりながら状況確認、周りは無人で屋内に続く扉が空いている

丸で少し前までここに誰かがいたような痕跡


「......というかタブレットが指してた場所だねここ。さっきまでボットが三人くらいいたはず」


自分が今飛び降りてきた場所を振り返る。カラスは目標を見失い頭上を旋回している



そこで加蓮の口が惚けたように開いた



「なにこれ......」


屋上の端という危険な場所でありながら、呆気にとられた


さすがに”これ”はおふざけが過ぎる


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


あまりに巨大過ぎると、それそのものを認識することすら難しい


地球が球形であることを知る術を地を這う虫が持たないように


高所から落下したビルを受け止めたのはコンクリートでもアスファルトでも土でもない山


そしてそれは山ですらなかった、

加蓮たちから見えていたのはそれの天辺の僅かな傾斜だけだったのだ


一般にその部分は「傘」と呼ばれている




「...これ...キノコじゃん」




それは菌類の塔


樹齢数百年の大樹のような軸と、ドーム施設のような傘


ビル一棟を突き刺してもその重量をものともしないサイズのキノコが生えていた



加蓮「...輝子ちゃん......?」

連想されるのは一人の少女

しかし、加蓮にそれ以上の連想を続ける手がかりはない


輝子の遺した最後のボットが限界まで巨大化し、

敵のボットを無残に押し潰したことなど知る由もない




それに、そんな終わったことを考えている場合ではなかった




   「..・・-。・・__・・:・;_・」




握っていたタブレットが掠め取られた



誰の気配もなかったはずだ。

それにどこから盗られたかも分からない


加蓮「はぁ!?」



振り返ろうとして視線が止まる。不届き者の姿をその目に捉えた

一羽のカラスが飛び去っていく、その手にタブレットを持って


加蓮「(って、なんであのカラス...手が生えてるの!?)」


そう、”手”に持って


カラスの嘴にカラス羽、そこから触手のような細い手が伸びていた

真っ黒な全身に対し赤くぬめった光沢を月に照り返して

それに月の光を反射しているのは手だけではない


そのカラスは何故か片翼にピアスを付けていた


加蓮「っか、返しなさいよ!!」


現状に思考が追いついてないままに追い始める

この数分間、予想通りにことが運んだことがない


空飛ぶイグアナに空飛ぶビルディング

巨大なキノコにピアスのついたカラス


「(マズいマズいマズい......もう少し後ならまだ良かった!)」

「(”このタイミング”はまずい!!!)」

ピアスのついたカラスが奪ったのはただのタブレットだ

だが、これがなくては



「奈緒達に、会えなくなるでしょうが!!」


奈緒に渡したネイルが頭をよぎる


「か、返しなさ___」


足場が消えた


「___え?」


足元が崩れて、視界が直下に落ちていく

三度目の正直、今度こそ地面に向かって加蓮の体が落下した


奈緒のこと、紗南のこと、凛のこと、輝子のこと

ネイルのこと、タブレットのこと、ピアスのこと

キノコのこと、カラスのこと


最後に考えるべきは建物の老朽化具合についてだった




「 .・__・・。。・・ ・」




異形のカラスが飛んでいく


今日はここまで

伏線とか忘れ去られる前に更新します

頑張ります



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
十時愛梨



ゲーム開始115分経過時点

___________

 十時愛梨+ 11/100


___________



アナスタシア(ボット)「......いませんね...」


手の平に残った氷の粒を払う

久方ぶりに降り立った地面に散らばったそれはすぐに溶けて見えなくなった


十分前 十時愛梨を突き落とした


突き落とした、というか殴り落とした


本当なら文字通り突き刺して完全に息の根を止めておきたかったのだが、

最後の瞬間に拳周りに纏う武器としては槍は時間がかかりすぎた


「本当に、落下、したのなら...」


一から穂先を作るより拳をコーティングさせ硬化させた方が早い

そして、その通りの結果も出た


「......あるはずなのですが」


のあの部品内の狭い空間に潜み、背後から不意を打つことに成功した



だが、ない



完全に倒したという確証がない


「......地面に、人が落ちた痕が、ありません、ね?」


高層ビルは軒並み朽ち果て倒壊していったが、それでも愛梨がいたのはそれなりの高さだ

だが、痕跡がない。この世界の性質上死体が残ることはないが、それでもだ


「(あの妙なノート...?もありませんし...)」


右腕の先を延長、補強するように氷柱が伸びると腕と一体化するようにして槍が生まれた

箒で人払いするように地面を薙ぐとそれだけで大した手応えもなく轍が地面を断つ


「(これほど...хрупкий......脆くなった地面が凹んですらいません...)」


カラスのもたらす破滅は確実にその波及する範囲を伸ばしている

最初から形骸に過ぎなかったこの街がその体裁さえ取り繕えなくなるのもそう先のことではないのかもしれない


「......あの翼?...は何故か、消えていたので、飛んで逃げられたりはしていないでしょう...」


月明かりが眩しいとは言え、それは建物間の暗い隙間にまでは届かない

だから愛梨の最期を確認できなかったのだ

自然と月を見上げる

毒々しいまでの蛍光緑が丸く浮いていた


「......月はありますが......星はないのですね...」


何故自分が星を探すのかは分からない、ただじっと夜空を眺めてしまう

みくはあっけなく不意打たれたが戦果を残した

のあは最後の最後まで戦場の主導権を握り続けていた



自分は___



「___ッ!」



その場を全力で飛びずさった



右腕に不自然に偏った重量と咄嗟の反射行動のせいでバランスを崩しかける

それでも氷の槍を杖に転倒を回避、視線は自分がさっきまでいた場所から外さない

「何ですか......」

視界の端が確かに動く影を捉えた


ボットに気のせいなどありはしない


この世界で動くものなどボットかプレイヤーくらいのものだ


「......今度は狙われている?」


まさか十時愛梨が?

何らかの方法で安全を確保したあと

自分を待ち伏せしていた?



いや、ちがう



「...愛梨の能力は...こんなものでは、ないですね」


彼女の能力はこんなものではない



こんな不気味な気配を撒き散らすものではない



月明かりが周囲の風景から黒く切り取った影

その隙間を縫いながら移動してきたりはしない


それに


「__どうして」


右方に消えたと思いきや正面に、

壁を這い上がったと思ったら反対側の壁から

影と影で同化するようにして姿を消しては現れ、アナスタシアを追い続ける


生物的な乱雑さ撹乱するように死角を探りながら迫りくる


「___どうして姿が見えないのですか?」



シルエットだけが存在する

シルエットだけが追いかけてくる

武器も持たない、実体もない相手だ

なのに何故自分はこれを振り切れない?


「____私は...」



両手に薄氷を張る

カミソリを模した薄くて硬い刃物を大きくしたものを武器に仕立てた



ここで前川みくの機動力があれば逃げ切るのは容易だった


「____私は...」


ここで高峯のあの空間制圧力があれば逃げる必要すらなかった


「___私だって」


早坂美玲を追い詰めたときを思い出す


佐久間まゆを出し抜いたときを思い出す


「____私だって一人でできます!」


また、音もなく影が現れた

後退を続けたアナスタシアの正面を滑るように突っ切ってくる


次は避けない、


活路を切り拓く


みくの分も、のあの分も生き延びる


「...行きます」



足を踏み出す

両手を重ねる

手にまとったカミソリは重なり

厚い剣となった


ハート型の影が爪先に触れるタイミングに合わせて


氷の大剣を振り下ろした


















ゲーム開始116分経過









アナスタシア(ボット)

シグナル消失


画面に浮かぶ赤い丸を見ているそのカラスはカラスではなかった

ボットでも、ひょっとしたらプレイヤーでもなかった



ただの小梅の友人だった



空に群れる他のカラスたちと逆行していく

そのカラスたちの隣を掠めるたびに

血濡れた黒羽が一枚、一枚抜けていく

タブレットを支える触手も枯れ木の如く動きが鈍い


高森藍子から逃げるために体の一部を切り離し、

残りのほとんどを置いてきた

残留物となった肉体の寿命も残り少ない



彼、あるいは彼女はいたずらを交えて遊びたかっただけなのだ



だから機械の回線に無理をして潜り込んだのに



ここまで深刻な事態にするつもりはなかった


今はただトモダチに会いたい

いつものように会って話がしたい




タブレットの表示を頼りに翔んでいく



だが、間に合わなかったらしい



やがてその姿は糸屑のようにほどけていき、消滅した



成仏したかどうかはまだ誰も知らない






ゲーム開始128分経過

白坂小梅(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季




「......情けない話で、あります」



ナイフを握るが手応えがない


ビスケットを噛み砕いたような音が聞こえる

ふやけた視界の中、


手の中でナイフの柄が砕けていくのが見えた



「一度諦め、そして拾った命を無駄に散らすことになるとは...」


最後の落下のさなか。自分はこのゲームの続行を諦めていた

亜音速で墜落する戦闘機でさえ脱出方法を残しているというのに

自分にはもう退路がないと、全てを放棄していた



だが、どうだ



ビルの落下が何らかの要因で食い止められ、自分はこうして生きている


「無事、ではありませんでしたが......」


胸のポケットからこぼれ落ちた銃弾がボロボロの粒にほぐれた

自分の声も聞こえない



バサバサバサバサバサバサバサバサ!!!!!

ア”ァーー!!



カラスの爪が体中に食い込む

頭の横で鳴る羽音が耳障りだ


立ち上がるための体力すら失くし、

カラスが自分に群がっていた



「......この烏合を振り払う余力もないであります」


気付いたときには身に纏っていた装備は全てガラクタに変わり果て

爪が食い込んだ場所から体から力が抜けていく

我が事ながらまるで死ぬ前から死んでいるような有様だ


「このまま黙って朽ちていくのは...悔しいであります」


打つ手は少ない


ドックタグは使い切った


装備した武器は無に帰した



だが、まだ周囲に散らばっている


翼竜の背から突き落とされたときに散らばったのが手付かずのままで


「私の体から離れていたのなら...カラスも触れてはいないはず...ですが」


大の字に倒れたまま、腕だけを動かして最後の悪あがき

痛みを感じるどころか、感覚もなくなった指先が何かとぶつかった

残存した力を振り絞り、手の中に握り寄せる


これが亜季の最後の戦力だった



「.........手榴弾、なんとも芸のない...」


小関麗奈を思い出した


彼女は爆発や火薬にまつわる能力の持ち主だった

もしここに彼女がいたら今の自分を笑っただろうか



「......いや、麗奈なら」



もう片方の手を伸ばす

最後の花火がたった一個じゃつまらない

反対側にも同じような爆弾が転がっていたはずだ


「......『もっとド派手にやりなさい!』...でありますかな」


地面が頼りなく沈み始めた

おそらくこの下、ビル内にもカラスが飛び回っているらしい



精一杯伸ばした両腕にもカラスが貪りつき始めた

もう、体中を覆われて月も見えない

だから、思い残すことなどない




「これだけ老朽化してれば......」


「......ビル内の敵戦力を削ぐのも簡単でしょう」



親指がピンを弾き飛ばした




ゲーム開始127分経過

__________

大和亜季+ 0/100


__________


カラス(ボット)の稼働数が100羽を下回りました


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南



「か、加蓮の馬っ鹿やろぉぉおおおお!!」


階段を二段飛ばしで駆け上る。全力で太ももを上げ続けるのキッつい!

しかも紗南の手も引っ張ってるからなおさら!!

狭い通路だってのに上から下までみっちり詰まったカラスが追いかけてくる


いや、追うというよりもはや詰まったまま後ろから押し込まれてるみたいだ

カラス同士の鳴き声にも悲鳴じみたのが混じってる気がする


数ばっかり多くて、しかも疫病みたいに街をボロボロにさせやがる

その証拠に、こうやって上ってる階段が下の方から砂みたいに消えていってるし!!


「なっ、なおっ、奈緒さん!!」


紗南がさらに強く手を握ってくる

もはや鳥の羽音が集まりすぎてプロペラの回転音にしか聞こえない

だから紗南も負けじと声を張り上げてきた


「加蓮さんのネイルッ!持ってるよね!!」

「あぁっ!!あるよっ!!」


でも、どこで使えってんだよ!!


ちょっとでも立ち止まったら黒羽のプロペラに巻き込まれてミンチだぞおい!!


加蓮の言いたいことはなんとなく分かった


要するにあいつの能力的に二手に別れないと意味がないってことだろ


「でもタイミング考えろよぉおお!!?」



階段を上りきり、次の階にたどり着いたが


そこも壁中ヒビだらけのカラスだらけ



はい、もう一階上けってーい!



「このビルがっ、高所に、突き立ってるせいなんだろうねっ」


紗南が息を切らせて話しかけてくるけど聴こえにくい


「だからっ、ココを狙ってっ!!仮想世界中の!カラスが!攻撃し始めてるんだっ!」

「こっちはなんで助かったかも分かってないけどな!」


一体何があんな高さから落っこちたビルを受け止められたってんだ?

巨人でもいたか?

だったらもう少し目立たない場所に下ろすくらいの仕事はしてくれよ!


どこもかしこも闇に溶けたみたいにカラスだらけ


月が出てなきゃ詰んでたぞ!








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「げっ......」


よく上ったなアタシ...

それが最初の感想だった


「うぇ......一番上の階...」


厳密には屋上という手段もあるのだが、この階段は屋上につながっているタイプのじゃなかった

天井が丸でアタシ達をこのビルに閉じ込めて置くための蓋に思えてくるぜ


ガゴガゴゴキゴキと腹の中をかき混ぜられるような嫌な音が追いかけてきた


振り返るとアタシたちが登ってきた階段が「掻き混ぜられていた」



蹴込や踏み込み、踊り場が渦巻き状にひび割れ、黒い水がそれを吸い込んだ

飛沫や泡のようなものはよく見ると全てカラスの嘴や羽だった

洗濯機...じゃねえや。これはダム穴だ

底なしに周囲のものを飲み込む陥穽だよ



「このカラス......詰まってんじゃねえか...?」

「はぁー、はぁー...お互いに能力を発動し合ってる、とか...?」


もうこれは鳥類どころか生物かどうかも怪しい

最上階はこのビルの展望フロアだったのか少し天井が高い

そして部屋の数も少なく目に付くのは柱ばっかりだ


だから


「来てる......来てるってば...」

「分かるぜ...」


柱の間を縫いながら見飽きた黒い濁流が来ているのが見えた

背後の黒穴は数千羽のカラス同士がぎっちり詰まって逆に食い止められている



猶予は数秒


奈緒「加蓮、借りるぜ」

紗南「ワープ能力とか初めてっ!」


ここがゲームで助かった


現実だと疲労で手が震えて、ポケットの中を漁るどころじゃなかったし

紗南もホットパンツのポケットの小銭入れにしまっていたそれを取り出した

ここに来て紛失騒ぎとか起こさなくてよかったよ


さて、じゃあこのちっこい爪みたいなのを......




「えっと...紗南...どう使うんだこれ?」

「えっ___」



小さな命綱と共に戸惑うアタシを尻目に、

シュンと軽い音を立てて紗南の姿が消えた



「............」



紗南のいた場所には薄青い、線香の煙のような残滓だけ



おおおおおおいっ!?

お前はわかったのかよっ!?

あるいはゲーマーの勘か?


だが今はそういうギャグ展開やってる場合じゃねえんだよっ!!


カラスはもう群れとかいうレベルじゃねえ

羽毛の密度が膨れ上がって向こう側が見通せない

恐竜でも相手してる気分だ


背後で階段室がぶっ壊れる音がして詰まってた別群が放出されたのが分かった


「ちっきしょおおおおおおおお!!!」



指先につまんでいたネイルを両手で握りしめる

ボタンみたいに押すのか?

加蓮がやったみたいにどっかをなぞるのか?


チケットみたいにちぎればいのか?




使い方がわからないままに弄り回す___


バサバサバサバサバサササササササササ!!!!!!!!


___なんて時間はない!




アタシを取り囲んでいた空間が圧縮されて



真っ黒でバカでかい手の平がアタシを握り潰___




上から降ってきた天井が逆にそれを押しつぶした




同時に柱が、壁が、床が、蛍光灯が、窓が、窓枠が降り注いでくる



このバカみてえなカラスの物量と能力でビル自体が保たなかったか、って当たり前だろ!!


いったい何万羽ここに群がってきてると思ってんだよ!


多分それに加えて何らかの衝撃があったからだろうな!




強襲される瞬間思わず拳を握り込んだからか

加蓮のネイルがアタシの中指の爪に重なっていた


「___ん?」


気づいたときには景色は青一色塗りつぶされた



目に痛い月の緑色も、

目障りなカラスの黒色も、

目の前から消えていく



カラスの鳴き声が聞こえなくなって初めて、



アタシは加蓮の能力が使えたことに思い至った

そりゃ爪に装備する物だもんな




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

こうして紗南の脱出から2秒ほど遅れてなんとかアタシも脱出できた


しかしこうしてネイルの使い方は分かったが

結構大事なことがまだまだ分かってない

別れ際に加蓮がぶん投げてきたセリフ

『適当に時間稼いだら、それ使ってアタシを追いかけてきてね!』



『追いかけてきてね』、と



あいつは確かにそう言った

だがこの能力的に考えてアタシ達は追うより追われる方だ


能力が一度しか使えないし、行ける場所は一箇所......らしい


加蓮がどこかにあらかじめマークしていた場所に先着していて、それをアタシたちが能力で追っかける?


そう考えたとしても瞬間移動よりも加蓮が早く遠くに行けるわけないし...

加蓮の足で先に着けるとしたらかなり近場だし、そんな場所じゃ避難にはならないし


咄嗟の弾みで言った可能性もあるにはあるが......





そもそもあいつはいつの間に、




そしてどんな場所にマークをつけてたんだ?






ゲーム開始127分経過

______________

 神谷奈緒+  47/300


______________
______________

 北条加蓮+  47/300


______________
______________

 三好紗南+  47/300


______________


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
輿水幸子&白坂小梅




「カワイイボクと!!カワイイお化けっ子!!復活、です!!」

「お...お化けっ子...?」


久々に見上げた月に向かってボクはカワイク宣言しました


元きた...入口?というか陥没した地面の穴の場所には戻れませんでしたし

そのせいで下水道を右往左往する羽目になりましたよ


小梅「ふふ...薄暗くて...狭い、逃走劇」

「...ホラー映画...みたい...だった...!」

幸子「ひっ!!」


思い出させないでくださいよ!もう!


ボクは周囲の地理に目を配り、ここがどうやら橋桁の下の地下水路入口だと把握しました

下水道もそうでしたが、この水路には水が一滴もなかったので靴が濡れることもなく普通に歩いてこられたわけですね


「......?」

「どうしました小梅さん?」

「ゾ、ゾンビカラス...いない...ね」


袖をブラブラさせながらキョロキョロと周りを見渡していた小梅さんがぼそっとつぶやきました

ゾンビカラスというのは小梅さん命名で、まとわりついた物がボロボロに朽ちていったのを見て思いついたそうです


「ふふん、カワイイボクに恐れをなしたんでしょう」


なんて言ってる場合でもありませんが、大事なことなので

確かに地下に逃げ込む前は散々困らされたカラスも随分と疎らになりましたね

スカートと髪をパフパフとはたいて埃を落とします。特に汚れはないようでしたが気分的な問題で

勿論、周囲への警戒も怠りません。なにせボクはカワイイですから



「...それにしても」

「次はどこに向かったものかと思っていましたけど...」

「流石は輝子さんですね...」


かなり遠くに離れてはいますが特徴的なシルエットは見間違いようがありません

街中のどこにいてもあれなら特に注視することもなく嫌でも目に入ります




「お、おっきなマタンゴ......」



目に付く高層ビルが軒並み倒壊している中、

とんでもない大きさの茸が一本直立していました


そういえば以前に輝子さんから聞きましたね。世界一大きなキノコの......オニナラタケ、でしたか?


なぜか頂点のあたりにビルが突き刺さっているのが気になりますが


しかしまぁ、次の行動方針は決まりですね!!


「まず間違いありません!あれは輝子さんが生きていて、ボクたちに目印を残してくれたんですね!」


ビシッと遠方の茸へ向けた指を小梅さんに示します


「でも、あんなの...他の、ボットも集まっちゃうよ...?...ゾンビみたいに...」

「むむ...それは、そうですが...」


悔しいことですがボクたちは未だ白星を上げていません

仁奈さん、小春さんとヒョウさん、ほたるさん、光さん

その全員から敗走しているのが現状で、精々がカラスを何羽か追い払ったくらいです

むむう、と伸ばしていた腕を折りたたんで腕を組みました


「しかし...輝子さんがボクたちを待っていると思うと...」

「じゃ、じゃあ...もっかい...地下、通る?」

「それは固辞します」


確かにそうなると迂闊に近寄れません

物理的にも心理的にも遠のいた茸モニュメント(ビル添え)を改めて眺めます


って、あれは


「......へ?」

「.....ば、爆発...」


茸の傘とかいう部分に刺さっていたビル、

そのさらに屋上のあたりで小さな火が灯ったと思ったときにはもう崩れていました


折れるというより完全にぺっちゃんこ、柱や基礎が脆くなっていたんですかね

そのまま茸の上から斜めに滑り落ちていき、ビルだった物は見えなくなりました


「なんだったんでしょブッ!?」


ベチンと頭を叩き下ろされました!!何なんですか!?


「て、てて敵襲ですよ小梅さん!!」


痛む頭を庇う前に小梅さんに覆いかぶさります

まさかこのカワイイボクが何者かの接近を許してしまうとは!


「あぅぁぅ......さっちゃん、これ見て...これ...」


小梅さんが地面に倒れたまま何かを袖でぽふぽふ示します

見ると小梅さんの袖が下から照らされ薄明るく透けてました


「これは......スマートフォン、ではなくタブレットですか」


どうやらこれが上空から落ちてきたようですね

小梅さんの上からどきつつ袖をのけた下からそれを拾い上げました

画面には見慣れない地図、それに見慣れないマークが分布していますね




「青と赤の二種があるようですがこのマークはポキュッ!?」



今度はおデコに何か当たりましたよ!?銃弾ですか!?

ボクのカワイイ額に手を当て、カワイさが損なわれないうちに必死でさすります


動体視力に自信はありませんが、何かがタブレットの画面にぶつかりボク目掛けて跳ね返ったとみました


「はぅ......ボクのカワイイ頭になんの恨みが...」


顔をしかめながらも耳は音を逃しませんでした

キィン、カラカラと金属質の小さな小さな落下音が足元で囁いてますね

小梅さんに振り返りながら注意喚起を忘れません


「小梅さん、危ないから気安く拾わないでくださいね!それはこのボクのカワイイ額目掛けて落ちてくる不届きな___」



「......あ、これ......私の...ピアス...」

「あっさり拾った!?」


ピコン


「ほらぁ!不注意に拾うから変な音がぁ!!これは罠ですよ小梅さん!!」



ダメですよ!輝子さんに続いて小梅さんまでどこかに行ってしまうなんて!

我ながら外聞もへったくれもなく騒ぎ立て過ぎた気がします

この後に起きたさらなる急展開に比べたらこんなのちょっとしたハプニングだったんですから



奈緒「あ?」


紗南「おっ」


幸子「は?」


小梅「.....?」



気づいたら目前数センチのとこに人の顔


びっくりしすぎて今度こそボクは腰を抜かしました



ゲーム開始128分経過

白坂小梅 能力獲得


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅



「加蓮の言ったまんまだったんだな」



アタシは加蓮の奴が持って逃げた筈のタブレットを裏返す



「あいつ、タブレットにマークしてたのか」



どこかのメーカー、多分晶葉が適当に考えたであろう架空のロゴマークの側に二本、青い線が走っている

回数制限があったせいで能力の使い方を練習する機会が全くなかったってのによくこんなの思いついたな


「カラスにキルされるか否かの瀬戸際でタブレットに落書きする余裕があったことの方がスゴいよねっ」


適当に座れる場所を見つけ一息ついた紗南の声が妙に弾んでいた。確かにゲームなら裏コマンドみたいなもんか


「いきなり持ってたタブレットの上に飛んでこられたボクの気持ちも考えてくださいよ...」


紗南の隣で幸子が膝を抱えて頬を膨らませている


幸子「むー!なんで仮想の世界に来てまでドッキリ三連発を味あわなければならないんですか!」

紗南「あはは、まぁまぁ奈緒さんはアタシとは時間差あったし...」

幸子「だからなんだというんですか、もう...」


聞けば空からタブレットが落ちてきたりピアスが落ちてきたり、それが尽くヒットして散々だったらしい


うーん、なんというか......相変わらず持ってる子だな...




「......で、だ」



タブレットはどうやら普通に動いてるな、液晶画面が割れてるなんてこともない

そして改めてためつすがめつ画面上を検める、注視すべきはさっきまでの戦場周辺

確か赤がプレイヤーだったな...

しかし、何度見直しても問題は解決していない





「.....加蓮はどこに消えた?」






ユニットを組んでいるアタシと紗南がこうして健在なんだ

つまり加蓮も間違いなくこの仮想世界にまだ生きている


幸子「どうやらその地図も街全域をカバーしているわけではなさそうですし。地図の範囲外にいるんじゃないですか?」

紗南「いやいや、それでもまだ三分も経ってないんだよ?そんな短い時間に十数キロも移動できる?」

奈緒「しかもあの加蓮がだぜ?......地下に逃げたってこれには映るってのに...」


なんかの間違いかと思って画面をタップするが、それでも変わるのはボットの表示数だけ

カラスとかアイドル以外のボットを感知するモードに切り替わってるんだろう

画面上に浮かぶアイドルのマークは変わらない




ずっと4つ


アタシたち四人分だけだ




幸子「まさかボクたち以外のプレイヤーが全滅しているとは驚きです」

「カワイイボクが勝ち残ったことは驚くに値しませんが!」


 はいはい、カワイイカワイイ

しかし幸子のブレなさは一周回って頼もしくすらあるな


紗南「加蓮さんは生きてるって......多分、ユニットだし」

幸子「どうですかね......頼子さんのような方もいましたし断言は難しいんじゃないですか?」

紗南「いや頼子さんの能力をアタシは知らないけども...」


積み重なった問題の山はまだ切り崩せそうにない
 
腹いせ混じりに画面を強く小突くと、最初よりずっと青い丸が少なくなった

これが恐らく残ったアイドルのボット


「これを全員アタシらで倒さなきゃなんねぇのかよ......」


「...でも...私、頑張る...よ...?」


ぶじゅる


並んで座った幸子と紗南の後ろ、瓦礫の影から小梅が顔を覗かせた

こいつもあるい意味、積み重なった問題の一つな気がする

ほら、幸子の笑顔も引き攣ってるし


「ほ、ほら...」

ぐしゅ、じゅる


そういって影になってた箇所から体を引きずり出す。文字通りに


「...もんすたー...ま、負けない、よ......?」

「おう、そうだな...」


小梅の右耳には赤く濡れたピアスがぶらついている

この世界じゃ流血表現は避けられてるみたいだし、だったらアレに付着してるのは血じゃないよな?


「しっかし、小梅ちゃんも随分化けたね...」


紗南が感心したように言う。まぁ紗南ならこういうのも見慣れているんだろう


「え、そう?えへへ...」


小梅が照れたように頭を掻く。いやなぜ照れる

あとそれをヒラヒラさせるな怖い


そう、怖い


「なぁ....それホントに能力の一部か?」


頭を掻く小梅の腕は見慣れたそれとはかなり違っていた



あの指先を隠した華奢で細い腕は、血管の浮いた触手に取って代わられ


少しだけ開いた首元では薄い鎖骨を包むようにして羽毛が生え揃っていた


美少女フィギュアに鳥や蛸の模型からちぎりとった部品を瞬間接着剤でまぜこぜにくっつけたビジュアル


そのパーツ同士がじゅるじゅると滴りながら蠢いていた




一応言っとくとこれでもだいぶマシになった方だ

能力覚醒時には人間の原型すらどっか行っちまってたんだから




「...えへへ......ゾンビみたいに、なれるなんて...夢みたい」


「仮想だから夢ではあるんだけどな」




________________

name:白坂小梅

category:プレイヤー

skill:
自律して動く物を吸収して自分の血
肉として使役する。硬度、耐久度な
どは吸収したものに由来するがスタ
ミナは増減しない
________________




多勢に無勢

消えたプレイヤー

化物になった仲間

一向に減らないボット




紗南「どうなっちゃうんだろこのゲーム......こんなグダグダでさ」






ゲーム開始136分経過

報告事項なし

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁっ......はぁっ...!」

「......っ......!」




プレイヤーとボットによる盛大極まりない「潰し合い」

一目散にその場から逃げ去ろうと駆ける影がある

災禍に飲まれまいと、能力を使う間も惜しんで逃げていく



島村卯月と佐城雪美だ



「一旦退くにしても、どこに逃げましょう!?」

「そこ.....まっすぐ.........」


卯月が自分より小柄な雪美の手を引き、肩を抱えるようにして並んで足を動かす


「この二人で戦うにはもっと頑張らないと...」

「卯月......次......左」

「はいっ!逃走頑張ります!」


本田未央、市原仁奈、水野翠

戦力になる味方があらかた消えてしまった今、卯月の能力はほとんど意味を成さない

雪美の能力も今や卯月のサポートなしに高感度のアンテナとして機能していた

カラスの飛んでいない区域、プレイヤーのいない道へと舵を切っている



「.........でも...もう無理.....」


「ゆっ、雪美ちゃん今、何か言いましたかっ?」

疾走しながら問う。走りながらうまくは声を拾えなかったようだ


「プレイヤー......カラスさん......からは...逃げられる」


荒れ果てた街並にカラスは見当たらない



「でも___」



これまでの積み重なる能力闘争による被害に、大和亜季の自爆が引き起こした大量死が止めを刺したのだ


プレイヤーとも出くわさない。今や雪美の「目に映っている」のは四人だけだ


ボットも見当たらない、プレイヤーとの戦いに敗れたか___





「あ!卯月さんに雪美ちゃん!」




___彼女に取り除かれたからだ



彼女の歩みは非常にゆっくりしている

銃弾と能力が街をのたくり、傷跡だらになった街を観光でもしているように

二人の足が止まった


雪美(ボット)「......!...」

卯月(ボット)「...あれっ?藍子ちゃん!?」



藍子(ボット)「こんばんわ、夜のお散歩ですか?」



カラスが集まる場所に目星をつけ、

こうして出向いた頃には戦闘は終わっている

だから彼女がやることは残った者を一掃するだけであり、そこに分別はない



どれほど心強い味方であろうと彼女の能力にとっては使用を阻害する余分なデータでしかないのだから


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


雪美は知っていた、高森藍子の行動方針を

そこにどんな原因があるかは分からないがとにかく彼女には見境がない

だから雪美はカラスやプレイヤーを避けながら、彼女も避けようとしていた



「少しずつ...『夜』が静かになってきましたね」



藍子の背後には彼女が出てきたビルがある

といっても扉から出てきたというわけではない

トンネル工事がされたように大きく穿たれ壁の穴からだ

回線を限界まで絞り処理速度を落とし、仮想の世界の盤上から払い落とす

オブジェクトもプレイヤーもボットも全て例外なく

だから彼女が通る道には何も残らず

彼女が歩けばそこが道になる


「...卯月.....!」

「きゃっ!」


今度は雪美が卯月の手を引いた。細い横道へと折れていく


「えっと!どうしたんですか雪美ちゃん!藍子ちゃんもボットでしたよ!?」

「......いいから...!...」


真新しい排水管の間を縦に並んですり抜けていく

そのまま2回3回と狭い角を曲がっていき、最後に開けた通りに出た
 
行き止まりや通れないほどに狭い道、崩れやすい壁の近くを避けた最短ルートを見つけるのは雪美にとってはお手の物だった


それでも



「いきなり逃げるなんて...私まだ何もしてませんよ?」




抜けた先の大通りに彼女は既にいた、

その歩いてきた軌道上の建物をすべて無に帰して


彼女は道を選ばなくていいのだ

真っ直ぐ歩くだけで追いつく


その緩やかな破壊を目にして遅まきながら卯月も理解した。目の前にいるボットは味方ではないのだと


「で、でもなんで...」

「仕方ないじゃないですか」


大穴の開いたビルが支えを無くし順に倒壊していく

その一部の藍子に雪崩ていった部分は例外なく減速し消失していった


「元々私たちは『夜』という第二ステージ用だったんですから」

「...?」


マイペースな藍子の解答はまだ要領を得ない

理解を求めるボットの脳か卯月の人格のどちらかがその続きを要求するように一歩踏み出した


「...そこ...じゃない.....!」


その一歩を雪美が引っ張り戻す

低い身長の彼女から下に向かって全力で引かれ、卯月の態勢が崩れる




そのまま二人の足が地面から離れた




「お久しぶりです~」


ウロコの尻尾に巻き取られ、翼竜の背にそっと下ろされる


最高速で飛んでいたわけではないが既に地面は遠く離れていった



「わわっ、小春ちゃん!?追いついてくれたんですか!?」

「ヒョウくんならひとっ飛びです~」



雪美はただ藍子から距離を取るためだけに逃げていたのではない

空を飛ぶ翼竜とその背の古賀小春から見つけやすい地点に移動していたのだ



「えっと~、逃げてたってことは藍子さんは拾わなくていいんですよね~?」

「うん......藍子も......私たち......狙ってる.....」

「へぇ~?」


眼下の大通りが遠ざかっていく

藍子の姿が手のひらに乗るほど小さく見える程に

卯月(ボット)「.....藍子ちゃん...どうして...」

ウロコに足を引っ掛けバランスを保ち藍子を見下ろす

その藍子がこっちに手を伸ばしているように見えた。決して手を振っているのではない

そんな友好的なものではなかった




その証拠に


景色が止まった



「ほら、カラスさんがほとんどいなくなったおかげで...」


「能力の範囲がこんなに広がったんですよ?」




いや、止まったのは自分の方だった




ヒョウくんの翼が止まる、


重力によるヒョウくんの落下も止まる


急停止により慣性が働き、


三人の体が前に投げ出されるがそれもすぐに止まった


雪美の能力も止まり、


街を見下ろしていた目からの情報も止まった


風になびいていた卯月の長い髪さえもなびいた形のままに止まる







動いているのはマイペースな彼女だけだ


「昼の間にボットのほとんどが負けちゃって」

「プレイヤーの相手がいなくなったところで、『夜』が始まる予定だったそうですよ」

「だから私たちの能力は他のボットたちに割かれる分の数倍重いんです」



「だからもう、私たちと交代してください」



手のひらに包めるほどに小さく遠ざかった彼女らに伸ばした手


それを握り締めると同時に三体と一頭は消えた




ゲーム開始133分経過

島村卯月(ボット) 消失

佐城雪美(ボット) 消失

古賀小春(ボット) 消失

今日はここまでです

お読みいただきありがとうございました

長々だらだらやってますが

一応ストーリー自体はこのスレ内で終わらせる予定です

でもこれ、終わるかな...

おつおつ
やっぱり想定されてる事態とズレまくってるのね


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「......これが風評被害ですか」

「え、ええと、あはは......所詮はゲームですし...」

「でもあれ...ボットとして成立しているのかはともかく......もう藍子さん要素皆無では?」

「ま、マイペースなところ...とか」



最もゆるやかで

最もふわふわで

最も有無を言わせなかった破壊の足痕を眺める


藍子の能力は今や、容易に近寄ることすらできない次元に到達していた

だから頼子とほたるも、距離をとって観察を続けているしかない

といってもなにも後方十数メートルの物陰から顔を覗かせている、なんてことはない

尾行出来る程度の距離では返り討ちに合うであろうことは分かっていた


だから空を飛んでいる

百羽のカラスの背に乗って


頼子(ボット)「これ...私、大丈夫ですよね?」

ほたる(ボット)「は、はい...!私のカラス、これは能力オフにしてますから...」


夜風にはためくシルクハットにマント、タイトスカートにモノクル

夜を彩る濃い青色が、夜に紛れる羽の上で静観を決め込んでいた

派手な青色のハイヒールの下では黒い羽毛が絨毯の形をとって足場を形成している


「忍者やヒーローと手を組むことはありましたが......」

「.....そんな怪盗でも、魔法の絨毯に乗ることになるとは思いもしませんでしたね」


そういえばあの二人はどこに行ったんだろう


ヒーローこと光さんはすぐに立ち去ってしまいましたし、忍者ことあやめさんもすぐに姿を消してしまいました

案外、藍子さんの能力の錆にでもなっていたりして



どちらにしても...



「藍子さんを徒に歩き回らせるのはよくありませんね...」



「はい...ですよね......あんなこと言ってたのに...周子さん以上に”性格補正”が入ってますもん...」


ボットは時折、ゲーム上の役目を果たすためにオリジナルの人格とは似ても似つかぬ部分をのぞかせる

容赦のない攻撃性だったり、奸佞極まりない深謀鬼略だったり、倫理なき捨て身だったり


「それもそうですが、先程からボット側の被害だけが顕著です」


プレイヤーの数が減っている上、まとまって行動し始めているのもありますが

なにより彼女のマイペースな進行では追いつくものも追いつけないでしょう


「...じゃあ...どうしましょう?」


背中から黒い翼を生やし、神話の悪魔のような姿で飛ぶほたるさんが聞き返してきました

といっても、彼女もボットならこの限られた条件下で私とそう大差ない案に思い至っているでしょう

それでもこちらへ確認をとるのは自分から提案すればそれが不幸につながると思い込んでいるからか


「私たちに出来る考えうる限りの」

「最大限の、攻撃...」


「......」

「..........」



「藍子さんを残りの皆さんのところまで導く」

「皆さんを藍子さんのところまで追い込む」



「ですよね」

「で、ですよね...えへへ」


「では恙無く進めましょうか」



黒幕気分で指を弾けば能力発動


一羽のカラスが私の盗品に早変わり


さぁ、道しるべを放ちましょう


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅



いきなりだった



まず話し合いの末、拠点を確保することが決定した


能力を持たないか、あるいは直接戦闘に向かない奴もいる中で加蓮を捜索するのは難しいだろうと意見が一致したからだ


それにアタシには、アタシたちが遅かったからといって加蓮がホイホイやられるとも思えなかった


これでもアイツはここまで生き延びてきた。間違いなく猛者の一人なんだから




じゃあ、次はどこに拠点を据えるべきかという話になった

これだけ荒廃した世界でまともな土地が残っているのかは甚だ疑問だったが候補がないわけでもなかった



そんな時だ、それなりに近くにあったビルが音を立てて崩れ出したのが

もともと建物は全部亀裂が入るか割るかしてたしカラスのせいで地盤とか基礎がやられてたのか傾いていた

変な言い方だがそういう事態には慣れてしまってたから、危険もなさげな距離だったのもあってぼんやりと眺めるに徹していた


遠くの方でゆっくりゆっくりと壊滅的な風景が進行していくのはどうしようもない

紗南はタブレットでそのビル付近のボットの所在を照らし合わせていて、

小梅は映画でも観てるような集中してんだか楽しんでんだかわかんない表情

幸子はなんか慌ただしく騒いでいた




そんな風に遠くに焦点を合わせてたから気付かなかったんだろうな



目線を遠くから近くへ、ビルからすぐそばの塀へ、上から下に動かしたときにはそいつはいた


塀の上にあしらわれた鉄柵の一本にちょこんと捕まった一羽のカラス


これまで散々苦しめられてきたそいつが何故か一羽だけ、そういえばあの鬱陶しい羽音が聞こえなくなっているのに気づいたのもここだった

いままで我が物顔で群れては襲ってきたそいつらのうちの一羽



大方他のボットやプレイヤーの能力で一網打尽にでもされたんだろう

一羽だけならぶっちゃけ拳銃一つのアタシにだって倒せる



だからアタシは銃口を向けた。カラスの野郎はまだこっちを見ている




いや、見てたんじゃない

後になってからわかった

あれは監視だったんだ






「こんばんわ......お会いできて幸いです」








”本隊”が来るまでの









ゲーム開始141分経過

白菊ほたる(ボット)

VS

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅

開始



地上に舞い降りた堕天使


蘭子さんが喜びそうなフレーズですね

しかし、ボクは自分のカワイさを余すところなく表現するためにそれなりの語彙力こそ持ってますが

他にその直観を例えようはありませんでした



ほたるさんの小柄な体躯に二対の黒翼が生えた姿は



奈緒「撃つべし!撃つべし!撃つべし!!」

紗南「エイムしてショット!エイムしてショット!」



頭の上から切羽詰った声と発砲音が降り注いできます

もう少し静かにお願いできませんかね!


しかし弾切れになる度に新しくマガジンを手渡すカワイイボクにそんな非難をする暇などありません

状況が非常に逼迫しているのは間違いないんですから



ほたるさんの飛び方は決して真っ直ぐではありません。だからこそ恐ろしいのです


下方に飛んだ時にはビルの割れた窓の中に潜り込み、そのままビルを倒壊させます


そうでなくともボクらよりも上方に向かって飛んだ時には割れたガラスが粉雪のように降り注ぎ危険です


その度にボクらの退路は狭められ、選択肢は目減りし、どこかへ追い詰められていくようです


彼女が縦横無尽な軌道を描くたび、近くに建っている建造物が崩壊しボクらに、そしておそらく彼女にも牙をむくのです






ぶちゃっ!!




幸子「ふぎゃーーー!!小梅さん小梅さん!!肉片がぁ!肉片がぁぁあ!!」



小梅さんの触手の先っぽがニキビのように潰れた拍子にボクの前髪に盛大に何かが降り注ぎました

慌てて頭を振ると、目に映った遠い地面にクラっときます。不安定な高所ではどうしてもスカイダイビングのトラウマが...



奈緒「次の弾幕張るぞ!!マガジンよこせ幸子ォ!!」

幸子「は、はいぃ!!」



不安定な状態から精一杯手を伸ばして手の中のズシリとした塊を手渡します

奈緒さんが投げ捨てた空マガジンは回転しながら落ちていき、闇の中へと見えなくなりました


小梅さんが能力を使いこなし始めてきたおかげで随分速く動けるようになりました

それでもやはり四人分の重さを背負ったままでは空を飛んでくるほたるさんを振り切るには速度不足です


小梅「最近のゾンビは...速く走れる...から、ふふふ」


耳元で銃声がエコーしてきました。



改めて状況を確認しておきましょう



ボクたちは今、四人でおしくらまんじゅうのような状態に密着、密集しています

そのまま小梅さんから伸びた触手?に梱包されるように巻き付いて固定された形です


小梅さんが長く伸ばした触手が蜘蛛の肢のように力強くしなりながら窓枠や柵を掴んで、

それを足場に壁を高速で這い進み、ビルの谷間をジャンプし、蜘蛛のように縦横無尽に恐怖の逃走中です




ほたるさんは自分の体躯以上の大きさの羽を自在に操り空を滑ってきてます


奈緒さんと紗南さんが絶えず攻撃を続けていますが、小梅さんの「肉塊」に巻かれている状態な上


モモンガとオランウータンを足したような移動方法で狙いなど付けられません


ほたるさんとは20メートルほどの距離がありますが小梅さんが一度でもブレーキをかけてしまえばジ・エンドなのは簡単に分かります!




なんたってボクはカワイイで___


紗南「幸子ちゃん弾倉パス!!」

幸子「は、はいぃい!!」




ゲーム開始146分経過

白菊ほたる(ボット)

VS

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


現実はゲームのようにいかない


でもアタシ達がいるココは間違いなくゲームのはずで、

なのにシューティングゲーで鍛えた腕前でも弾は掠りもしないし

中ボスくらいのはずのほたるちゃんの動きの軌道は法則性を読み取れない


それに何より


紗南「なにもかも怖すぎるんだって!!」


勇気を出して銃を両手でホールドして、撃つ

反動で一気に崩れたバランスを小梅ちゃんからうにょうにょ伸びた「部位」を掴んで立て直す


でも弾が届く前にほたるちゃんは急降下してアタシたちの背後から消えた

ほたるちゃんが消えた先を目で追うと、どこかの建物の屋上が見えた。改めて落ちたらデス確定な高さにいる事実にヒヤリとする


小梅ちゃんが飛び移ったビルが傾きはじめた、根元からメキメキと嫌な音を立てて

そのまま紙吹雪みたいにガラスを吹き散らしながらほたるちゃんが飛び出した


背中から生やした羽を一度大きく羽ばたかせると、ガラスを散らして向かって急上昇を始める

あのカラスの羽でビルの芯をボロボロにしてきたんだ!

シロアリが柱の中を食い進んでいくみたいに!


「ちゃんと......つかまって、ね...」


小梅ちゃんの声が頭の後ろからぼそりと聞こえた

同時に触手がアタシ達に巻き付きぬちゃっとしたボディに引き寄せられる

幸子ちゃんがギャーギャー言ってたけどこのままじゃ舌噛んじゃうよ?



「せー......のっ」




蜘蛛みたいに何本も何本もあちこちに伸ばしてはビル壁を高速這い這いしていた腕、じゃなくて肢が大きくしなる



そのまま向かいのビルの窓へ跳躍した



眼下数十メートルを大通りが通過して行くのが見える



ゾンビは筋力が強いと言ってもそれでも四人分の重みに小梅ちゃんが落ちていく




いや、そもそもこのままじゃ速度も落ちて__





白菊ほたるの翼が一斉に震えた




__追いつかれる!!





羽毛でできた真っ黒な噴霧を吹き散らして爆発的に加速する





奈緒「近づけるもんなら!!!」


___________

対戦車砲  -3000MC 


  残2430MC
___________



奈緒の肩の上にずしりと大筒が体重をかける

弾切れの銃が放り捨てられ、同様に手からこぼれ落ちたストアの画面が開かれたMP3プレイヤーは幸子がキャッチした

弾頭に火が付いた瞬間、小梅の能力が奈緒達をより強く抱きしめ



「近づいてみやがれ!!」



ほたるの目が見開かれ

周囲数千枚のガラスが爆風にはぜた


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「...奈緒さん...ちょっと、危なかったよ...?」

「いや、ほんとゴメン...一応知識としてはあったんだけど」


無反動砲の原理

奈緒がほたるに向けてミサイル弾頭を放つと同時、

砲身の反対側からは発射の衝撃を相殺するガスが噴射していた

実は砲身自体は晶葉により軽量に「設定」されていたが作用反作用はその限りではない。

下手をするとほたるを攻撃するどころか全員が反作用で空中分解するところだった



小梅が対戦車砲を体の一部として取り込んでいなければ



無反動の機能を意図的に潰し、逆に反動を利用して飛躍していなければ




幸子「というか小梅さん...無機物も能力の対象でしたっけ?」

紗南「アタシも違うと思うんだけど...いろいろ曖昧な能力なのかな?」


キノコやカラスとRPGと人体が曖昧に混じり合った小梅の体をまじまじと眺める

今、彼女らは小梅が形成した羽により滑空していた 


小梅「...武器人間、みたいな感じだった...」


奈緒が放った砲撃の反動は小梅らをより高く押し上げ、雲間を抜けるようにビル街を上へ突き抜けた

急上昇した後の束の間、自分立ちよりも低くなった摩天楼を見下ろす

月を除けば今やこの仮想現実の世界で一番高所にいるのは彼女たちだけだった


奈緒「カラスがいなくなっちまってるな...」

紗南「すっごーい...どんだけ作りこまれてんだろこの街」

幸子「い、今更ながら、たたた...高すぎません!?早くちゃ着地しましょう!」

紗南「えー、もうちょっとこの風景を楽しみたーい」

小梅「...でも、ほたるちゃんに見つかるよ?このままじゃ...」

奈緒「まぁ、タブレットに表示されてるし生きてるのは間違いないだろうな......無事かはともかく」


銃を構えていた間、幸子に預けられていたタブレットを窮屈な姿勢から受け取る




結果的にほたるへの攻撃は成功した


速度を落とした小梅に肉迫しようと一方向に急加速したほたるに対して真正面からのカウンターが決まった形で

咄嗟に翼でガードしたようにも見えたが、彼女の翼はカラスが寄り集まったもの



その能力は何かを壊すことは出来ても、何かを守ることには絶望的に適していなかっただろう



小梅はコウモリに似た、血管の浮いた皮膜を展開させてバランスをとっていた。着陸に備え触手を太く捻り合わせてもいる


幸子「気のせいでなければあのあたり......地割れができてませんかね...」

紗南「うわ、ホントだ...何があったんだろ......あっちもでっかいクレーターしかないし」

奈緒「なんで観光気分なんだよ」





ゲーム開始151分経過

白菊ほたる(ボット)

VS

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅

プレイヤー側の戦闘放棄により続行不可能


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「...............」

「...............」

「...............」

「...............けほっ」

___________

白菊ほたる+ 43/100


___________



いくらなんでもバズーカはないでしょう


追い詰めるつもりが逆にダメージを受けすぎました

逃げ道を塞ぐためとはいえ、ビルを倒すのに集中しすぎちゃいました

はしたなくも大の字に手足を投げ出したまま月を見上げるしかありません


「...............」


こうしてみて、初めて分かりました

月がとっても綺麗です

でももうすぐ見えなくなるでしょうね


私の傍らには折れ曲がったサーベルがどこに刺さることもなく転がっています

このサーベルはカラスさんの動きを統御するための唯一のアイテムにして武器でした

カラスさんに防御させようと使用し、そのまま爆風でこの有様


そのせいでカラスさんは混乱してしまいました


見上げた夜空には無軌道で無謀な、黒々とした混沌が舞っています

カラスさん同士が空中で衝突し、もみくちゃになった幾つもの死体に

割れたガラス窓にきりもみ降下した子は自分からズタズタの死体に


「............けほっ......けほっ」


あぁ、地面に寝そべった姿勢だから分かります

大地の振動を背中で感じ取れています

私が自分の意志で、自分の能力で、限界ギリギリまで老朽化させてきたこの街が

カラスの擾乱によるダメ押しを受けて

私の真上に崩れかかってくるのが


「あぁ......あれは助かりませんね」




見える風景は単調に移ろう


私を月から覆い隠してしまうように傾いたビルが一棟


そのまま重力に耐えきれずにサックリ折れた建物の上半分、

10階から15階くらいの部分でしょうか?




不幸にも私の真上に降る数十トンの塊


その影はカラスの羽より真っ黒な闇色




「...私がいなくなったら.....藍子さん...どうなっちゃ





破砕音






ゲーム開始153分経過

白菊ほたる(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あらっ?」



気づいたときには目印のカラスさんが見えなくて

とっても慌ただしく暴れだしたと思ったら霞のように溶けちゃった


ほたるちゃんのカラスは確か、半自動...だったかな?

外部からの命令がない限り一番”狙いやすい”ボットやプレイヤーを追いかけるとか言っていたような...

だからこそ私には近づいてきませんし、カラスさんの集まる場所にいけば誰かしらに出会えると踏んだのに



「うーん...これは......」



でも、どっちにしても私の能力ではここは通れないか...


こんなに大きな切れ目が地面に走って、底なし川が干上がったみたいです


大きな崖の下を覗き込むとどうやら底はあるようで、何か車のようなものが沢山並んでるのが見える

でもこの高さは飛び降りれないかな、足場代わりにできそうなガレキでもあればいいんだけど


石ころひとつ残さず地面がぬぐい去られたみたい

こんな消滅の仕方を見ると聖ちゃんの仕業かな

私の能力ならどんな大きな障害物でも素通りできるけど

存在しないものは消せないもんね


「......あれっ?」


下へのお散歩は諦め、視線を戻せばひらひらした影が月に浮かんで

うにょうにょしたその影が、よぉく見ると何人かの子が

ぎゅっと肩を寄せ合った形だと分かって



「.............あはっ」








やっと会えたね、プレイヤーさん








ゲーム開始153分経過

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日はここまで

実は終わりが近かったりする

お読みいただきありがとうございました

わくわくしてるで!つぎをまつ


続きが楽しみだけど藍子相手で勝負になるのかこれ…?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一本の道があった



特に何の変哲もない道路にぽっかりと空いた穴から地中へと進む道

とあるサイキッカーが小刻みな破壊を積み重ねて掘り進み残った道だ


それは地下深くの空間から長く長く、地上に向かってゆるやかな傾斜を描いたままその形を保っていた

地面の下にあることで白菊ほたるも、望月聖も、高森藍子も自身の能力を深く及ぼすことはできなかったのだ

もっとも最後の一人の能力に関してはもはや地中の存在を押しつぶすのも時間の問題ではあるが、今はその時ではない



「...んー......ふわぁ...」



パタンパタンと小さな板が将棋倒しの要領で倒れていく

それは荒々しく掘り抜かれた地面の上を滑るように階段状に連なり、道と言うにはあんまりだった悪路を「通路」にした



「ただの識別信号でしかなかったバッジがここでは道を照らす灯火となる。原始時代、松明に灯る赤い火と共に洞窟を探検に踏み行ったボクらの祖先を想起せずにはいられないよ」



その光なき路に作られた青い階段を赤い警告色が三つ、ふらふらと揺れながら降りて行く

一本道を足跡で舗装していく彼女らの顔が狭い通路の中濃い赤色に照らされていた



「...先祖返りとかお断りなんですけど......でも洞窟の奥に籠ったままでいられるならそれもソレでありな気がしてきました...」



遊佐こずえ

二宮飛鳥

森久保乃々


戦場からも取り残され、彼女らは地下を目指す


全ての壊滅の起点となった月の、その光の当たらぬ場所へと逃れるように


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
白坂小梅&輿水幸子&神谷奈緒&三好紗南



まるで黒い大河



月の光ですら照らしきれないほど深い溝が横たわり

右から左へと首を巡らせどその最果てを見ることはできない

辛うじて向こう岸に建造物の骸が並んでいるのが見て取れる


だからこそ川だ、それも特大の



奈緒「えっげつねえ...」



小梅の背から下界を見下ろし、呻く。幸子は逆に下を見ないように月を見ていた


紗南「あれ?...ゲームどこいったかな...」

ぶらり、紗南の身じろぎに連動して小梅の肉体も揺れる


彼女ら四人は今、宙空にいた。

廃墟と廃墟の辛うじて残った建材に触手を引っ掛けるように

道路をまたいでいるので長さにして30メートルほどの肉のハンモックだ


幸子「ああ、あの!そろそろ降りませんかね!?こんな高いところだとボットの方達にみ、見つかりますよ!?」


ハンモックを極力揺らさないように身を乗り出し小梅に声をかける

紗南が小梅の肉体に巻き込まれたゲーム機を引き抜こうと引っ張っているのでどちらにせよ揺れはひどかったが


小梅「でも、さ、幸子ちゃん...ここからだと遠くまで、みえる、よ?」

幸子「見晴らしなんて今はどうでもいいでしょう!紗南さんの道具があれば距離は無視できるんですから!」

奈緒「いや、ちげーよタブレット見ろ......この亀裂の向こうにボットがいんだよ」


愚痴る幸子を奈緒が窘める。自分たちは既に臨戦態勢を強いられているのだ

未知の敵はこの大河を挟んだ向こうにいる、ただその事実だけが重い

紗南「よい...しょっ」

そうこう言っている間に絡み合った触手とバズーカの間から紗南が目的のものを探り当てた

小梅「...ぁんっ...」

腕を引き抜くと同時に小梅から妙な声が出たが誰も気にしない


電子の世界においてさらに電子らしく振舞うバックライトが四人を照らす


紗南「さぁ、ここまで生き残ったエネミーの能力、暴かせてもらっちゃおうか!」


タブレットで敵の方角と距離を捕捉し、ゲーム機の能力でその正体をテキストに解き明かす

ここに来てようやく掴んだ磐石な布石を実行せんと機器を掲げた

ぶらり、真っ直ぐに腕を伸ばした勢いにつられ小梅の体がまた揺れる



幸子がうわずった悲鳴を上げかけ、すぐに止んだ

同時、

奈緒の瞬きも止まり

小梅の蠢きも止まり

紗南の笑顔も固まった





ブブブ



...ブツン




「は?」


彼女らの旅路を照らしてきた灯火がノイズを吐き


画面が消えた




紗南「ちょ、ちょっと待ってよ!!バッテリー切れなんて表示されてない!!」



真っ先に色を失ったのは紗南だ。彼女にとってゲームは命綱以上の意味を持つ

焦る手で電源ボタンを丁寧に入れ直す、だが黒く沈んだ四角の返事は雑音のみ


紗南「このタイミングで電池切れって絶対やばいフラグだって!点いてよ!」

奈緒「ノイズみたいなのがここまで聞こえてるんだけど...それ、故障じゃねえか?」

幸子「というか揺らさないでください...」


ブブブ、ブチッ


揺れる視界と腹に食い込む腕モドキに気分が悪くなる

そんな幸子の耳に届いていたノイズの音が変質する

もっと、生々しく、危機感を煽るような身近さをもって


ブチッ、ブチチチッ



幸子「というか」



ブチチィッ



それは電子音ではなかった






小梅「ぐ、ぁう...ぎ」





ゆがんだ眉宇、固く瞑られた目


端的に言って、小梅が苦しんでいた



「小梅さん!?やっぱり重かったんですか!?」

さっきまで縮こまっていた身を伸ばして小梅に手を伸ばす

バランスを崩せば小梅の体から真っ逆さまに落ちかねない姿勢への恐れより友人の異変の方が重要だった


「ち、ちがう...引っ張...」

「え!?」

「ひ、ひっぱら、れる...!」


ビチビチと破断していく音をその場にいた全員が聞いた

その中で、少しでも小梅の近くに寄ろうとしていた幸子は見た

カラスとキノコの根とバズーカとなんだかよく分からないもので構成された少女の体が裂けていくのを



両手側のビルを掴んでいた「腕」が細く、頼りなくちぢれていく


彼女らは気付くのが遅かった


ゆっくりと、ゆっくりと事態は進行していたのだ



奈緒「おい、おい、このビル...倒れてんじゃねえか......!!」



彼女らは高所で不安定な場所にいることを意識しないために、下を見なかった


だから気付かなかった。


小梅が掴まっていたビルの一階に起きていた異常に


斧を打ち込まれ続けた大木のごとくごっそりと一階が失われていたことに

瓦礫の一片も残さず、破壊音もなくまるで最初からそんなデザインであったかのように



その状態で建造物が建つ訳もなく、倒壊は始まった


ただし、音もなく”ゆるり”と、”ふんわり”と



「も、もう、む、りぃ...」

「ちょ、小梅さん落ちるっ!」

「アタシのゲームも落ちてるし!」

「意味がちげぇ...」



逃げ場のない空中で混乱と焦燥だけが膨らんでいく


そこは亀裂が限界まで充満した薄氷の上、


球皮に穴を空けた熱気球のゴンドラの中




ブヂンッ




命綱は切れた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あれ?あれれ......?」


プレイヤーさんが消えない?


やっぱりいくらなんでも遠すぎた?

ヒョウくんの時の倍は開いてるし


私の能力は重くて大きなものから順に”落として”いくもんね


だからなんとか上手いことビルの根元だけ消し飛ばせたけど


あんまり遠いと能力の密度も下がるし...


プレイヤーのみんなに能力を使うにはもっと近づかないと



あるいは


「いち、に...三人と...?...」


落ちていく人数はここからではよく見えない。

なんだかよく分からない形のもいるし


このまま地面に叩きつけられちゃうのかな


「そんな簡単にはいかないよね...」


ちょうど目の前に谷があることだし




「...もうひと押しっ」



地面も消しちゃえ




ゲーム開始154分経過

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「これは...」



その威容は強固

その秘するは破壊

居並ぶ姿は千騎の鉄馬



乃々(ボット)「なんか、すごいんですけど......」

こずえ(ボット)「...んー......?...なぁにこれー?」


乱雑極まりないサイキック工事をされたトンネルを乃々の即席舗装で降りた先

そこは鉄と鋼に覆われた無人の軍事国家だった


「裕子さんと杏さんの会話を傍受したときはまさかと思ったけどね...」

「ほんとに戦車が並んでるんですけど...ゲームバランスとか崩壊なんですけど...」


乃々の言う通り、改めて見てもなんて光景だ。ここがもっと積極的に使われていたらボットの能力などなんらアドバンテージにならなかっただろう


「くるまー...?...のるのー?」

「そうだね...もしかしたらこれは、ボクらのような弱き存在への伏せ札だったのかもしれない」

ボクのオリジナルと同い年とは言え晶葉さんの思索はボクらの想像を超えているから何とも言えないが


こずえはさっきからずっと宙に浮いている

乃々が操っているタイル、いやパネルかな?

それによって形成された空飛ぶ箱からちょこんと顔を出して

なかなかに非日常な光景だ、そして同時に不可思議なマスコット性も感じる



「.........」

「そんな顔されても飛鳥さんを載せるのは重すぎてむ~りぃ~...」

「...何も言ってはいないさ。乃々はここまでボクらを助けてくれたしね、これ以上の無茶を要求する気はない」


それに聞くところによると彼女の能力は自身のスタミナを消費して成り立っているそうだ

やはり無茶はさせられない


ボクは無骨な手すりに肘を載せる、ここからは眼下に留め置かれた戦車を一望できた


空には大きく亀裂が開いているが残念ながらここは深淵、上から月光も届かない



「で、どうするんですか...?こんなもの...もりくぼには運べませんよ...?」

「問題ないさ、こういう場所には運搬用の通路なりエレベーターがあるものなんだから」



何もここにあるのは戦車だけではない。今こうして体重を預けている手すりも然り、

暗くて分かり辛いが、コントロールルームのような設備もここにはあるようだ



「懸案事項はこの施設にはどう見ても電気が通っていないということだ」

「......あー、ですね...もはや胸のバッジの灯り以外...何も見えませんし」

「そして万一電源を入れることができたとして、ここが遠からず発見されてしまうということだよ」


生憎とボクたちボットも一枚岩ではない、

藍子さんのように味方を必要としないどころか味方すら障害になる人もいることだし

翻って、プレイヤーの総数ももう片手で数えられるほどしかいないんだろうけど、一部脱落したにしては不自然な人物もいる


ボクは一向に好転しない事態を嘆くように目の上に手をかざし、ボクらの十倍以上背の高い天井を見上げる


そこに見えるのはまるで暗闇を細長く切り裂いたように覗く夜空


月光は見えど月は望めそうもない、もともとその月から逃げてきたようなものだけど

数分前までと違い派手派手しい破壊音もしない、コンクリの破片や鉄骨もとんでこない

だからこそ

今までで一番理解(わか)らなかった


乃々(ボット)「ひゃうっ!?」

飛鳥(ボット)「.......ジーザス」



ボクらは何を見ている?

手品?

隕石?

世界の終焉?




「......おつきさまー...」


遊佐こずえ、正解

月が見える、満点の大夜空だ



天井はもう見えない




どうやら高森藍子さんが

土地ごと消し飛ばしてしまったらしい




「......んー?......あれー...さちこー?」

「そのようだ...」


その上に建っていた人と、ビルは残したまま



「まっままま、街が降ってきてるんですけどぉぉぉぉっ!!!???」


_____________

 森久保乃々+ 34/100


_____________
_____________

 二宮飛鳥+ 98/100


_____________
_____________

 遊佐こずえ+ 100/100


_____________

ゲーム開始154分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日はここまで


コメントありがとうございます


無課金ぼっちプロだけど最近SランクPになりました


お読みいただきありがとうございました


戦闘を避けていたとはいえ、この熾烈な戦いが行われてきた中無能力のはずのこずえが未だ無傷で残ってるのはすげえな
敵ながら飛鳥GJ

しかし藍子さんどう倒すんだ…?
次回を楽しみに待ちます







また、夢を見ていた





陥穽だらけのガラスの部屋の夢を



こずえ(ボット)「       」



音はない

目の前に空いた穴のそばにペタンと座り込んで

ぼんやりガラスの向こうに広がる風景を眺め下ろす

壊れた都市

割れた地面

疎らな街灯

慌てる人々

今はただでさえ歪んだ風景が輪をかけて歪んでいる



「      」



透き通っていたガラスは見る影もない

びっしりと亀裂に覆われていた



崩壊は近い




でも、



誰に何ができるんだろう

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


手榴弾まで使って残りポイントが心許ないああもうどうしてこんなことに痛た無事か
小梅の能力むぅーりぃーしかし一体全体何だってんですかおい見ろ戦車だここももう
崩れるかもしれねぇ早く逃げないと一体どこに窓から出るかまるで塔だ排水管を伝っ
て下へへふわぁヤバいもうダメっぽいあれれ?ここどこぉ誰か怪我してねえかなるほ
ど自分を核とした空間をまるで粘菌のように動かして取り込んだ対象を除去している
のですかうおおおおお敵はどこだぁああああああああ!!!!このクローバーは四葉
早く脱出098osdするぞdgあっ!!アdsタシのゲーム直ったsdfgg!あの戦車をr5tthrd
動かして攻撃そのloiまえに;oボットの詳細をタブdfhdfレットはどdfgこですか急げ
5e22:24 2015/10/2167yまた次の攻撃がuy658e来るぞzzzzzzzz98uy0ws4ujhsjp;ka/gsu
09swe4046yi,u9olok0serfandfkjjfkdaauaweiofjojoioiojooioajoigkdvmz/.dd/z,./.:
]@;]:][;dc:@aew@;a[e:;d@;a][w@efr;fa@[[;wrfvv@l;s[erplgks@okjreolfmv:s;lerkg
poskl;9,kl099987777880001010100000001010111100010100100100010101001000101001
01010100101010101010110010101110110101

00 1 10 1 0 0 1 10 0 ___




痛いかい?

ボクは頭がガンガンするよ



ザッピングされた情報が頭の中をのたくる



誰かと誰かと誰かの発した声が頭蓋の裏側をひどく引っ掻くんだ



加えて胸元の赤い光が視覚からも同じ場所をジクジクと突き刺す



「......CQ、CQ、こちら二宮......他の隊員の無事を確認されたし...」



ボクはちゃんと言葉を発せているだろうか、自分の声すら他人の雑音に塗りつぶされる



「*ちら森久****ずえさんは無事です...もりく**精神**クラッシュです...もうやめたいぃ...」


「このはこー.+++..じょ+*ぶー..+++」



なんとか頭の中の音と頭の外の音を聞き分ける

さぁ、そのまま対処し、対応し、適応するんだ


ボクはボット、時計の針より実直な傀儡

熱くも冷たくもならないレディオ__



「あの、飛鳥さん...?」



幸い、早いうちにチューニングのずれていた耳が精彩を取り戻した

ボットでありながら自身の能力を制御できないなんて笑い話にもならないからね


制御。今、乃々の能力が瓦礫を支えているように


「相変わらずだ、君の力は土壇場ほど強い...」

「褒められても......もう何もできませんよ...?」


地震や土砂崩れが起きたとき、生存者が瓦礫同士の小さな隙間から見つかるなんてことを聞くが、今がまさにその状況だろうか?


いや、ボクらは恵まれている方だね、別に地中深くに埋もれたわけじゃない

ちゃんと空も見える


どうやら乃々はこちらへ雪崩込んできた瓦礫を塞き止めてくれていたようだ

おかげでプレイヤーからこちらは見えない。あのタブレットさえなかったら、だけど





「......しかしプレイヤーの方も中々どうして規格外じゃないか」



空に向かってそびえ立つビルの残骸を見上げる

随分とうずたかい山になってしまったものだ。

もしかしたら降ってきたのは街ではなかったのか?


「あれ、なんですかね...?」


相対的に高空から落ちてきた建造物の成れの果てとしては幾分不自然なモニュメント

不如意とはいえ会話を傍受していたボクにはそこまでの過程を見てきたように語ることができた


「どうやら高所からの落下で十分な速度がつく前にビルに着地したようだ」

「何言ってるんですか.....そんなのありえないでしょう...」


普段からなにかと眇められがちな乃々の目がさらに細まる

小梅や奈緒さん、そして紗南の能力を把握しているボクだからこそ組み立てられた推測だからね、それも仕方ない




奈緒さんの能力により出現した手榴弾


それを体内に取り込んだ小梅はすかさず他の三人を空中で確保する


対戦車砲で見せた時のように爆発に指向性を持たせ、推進力を得た


そして落下していくビルの一つに全員でしがみついた、あるいは小梅のボディをクッションにして着地した


あとは砕けたビルがわずかながらの緩衝材になってくれたんだろう


色々と無理のある危機の脱し方じゃないかな



「ふわぁ...」

「寝ている場合ではないよこずえ、いずれここも騒がしくなる」


藍子さんの能力範囲外に逃れた紗南のゲーム機が機能を取り戻したみたいだからね

そしてここには操作するにはうってつけの戦車が所狭しと並んでいるんだから


「乃々、こずえ...そろそろ耳を塞いだ方がいい」


さぁ、始まるよ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅




________________

name:高森藍子

category:ボット

skill:
自分を中心とした周囲の回線速度を
落とす。効果範囲は仮想世界全体に
負荷をかけない程度に増加していく
________________





紗南「見えたっ!」


地面に斜めに墜落して、傾斜のついちゃった壁面をズルズルと滑りながら必死で愛機を掲げる

小梅ちゃんと奈緒さんの機転でビルにしがみつけたのはいいけど限界が来た


手榴弾という小さな破片しか飛ばせない。

だから小梅ちゃんは体を軽量化してさらに反作用を得るために触手の一部を吹き飛ばした

今は幸子ちゃんと奈緒さんが両側から抱えている


「よくやった小梅!!よーしよしよしよし!」

「流石小梅さんです!あとはボク達に任せてください!!」


といってもそのままアタシと一緒に滑り落ちていくだけ、なんとか速度が増す前に窓枠にでも捕まらないと!

このままじゃアタシのお尻も摩擦で限界だし!


奈緒「むんがぁっ!!!」


同じく尻餅をついたまま滑っていた奈緒さんが不安定な姿勢のまま地面、つまりビル壁に踵を落とした

流石にその程度で割れはしないはずなのに、ガラス面に蜘蛛の巣が広がり爆ぜた

ガラスともどもアタシたちもフロアに転がり込む



幸子「なるほど...そういえばカラスのせいで何かと脆くなってましたね」


勿論ビル内の床だって盛大に傾いている。そこを柱にもたれて座るようにして転げないように耐えた

それにしてもまさか藍子さんがボットだったなんて

藍子さんはその場から動いていないのか、ゲーム機の角度を調整すると簡単に捕捉できた


奈緒「もしかして...これ、ラスボス藍子か?」

紗南「そりゃ、ここまで残ってるんだしね...」


まさしく、ラスト、だよね?


幸子「今度はこっちから攻勢に出ないといけませんね...」


アタシの手元を覗き込む奈緒さんに加え、アタシを挟んだ反対側からも幸子ちゃんがのぞき込んでくる

小梅ちゃんは幸子ちゃんの膝の上で休んでいる。お疲れ様小梅ちゃん

幸子「といっても今の所カワイイだけのボクにその手段はありませんが...」

今となっては幸子ちゃんだけが能力を持ってない。おそらくキーアイテムもこの動乱の中で壊れちゃったんだろう

あるものといえばスカートに挟んだちっさい拳銃くらい、でもそれならアタシや奈緒さんも持っている


紗南「大丈夫だよ幸子ちゃん、何事も適材適所!編成次第!役割理論!」

奈緒「最後は違う...」


何が出るかはお楽しみ

モードをサーチからコントロールへ切り替える

奈緒さんと小梅ちゃんだけにいいところは譲れない!

______________________
      MENU


→・戦車 
     アクセス可

 ・戦車
     アクセス可

 ・戦車
     アクセス可

▽ 1/5
______________________


あるじゃん

デカい砲弾《タマ》が!

さぁ、始まるよ!



ゲーム開始155分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


私こと高森藍子の能力。その効果範囲はちょっと変わってるのかな...

まず、この世界の許容量を考慮してしか強化されないこと


そして次に、この能力は私を中心として回っているわけではない、ということ

仮想世界に存在する全てに重さを押し付ける空間...?...みたいなものは私が核であればそれで機能する



「私を中心点とした数メートル圏内」ではなく「私を含んだ数立方メートル内」が正解



だってそうじゃない歩くだけで地面が消えちゃってまっすぐ歩くことすらできないもんね

生物の授業でみた粘菌やアメーバの「偽足」と呼ばれる器官みたいなもの、かな?

彼らが核は動かさず体を細く細く伸ばして餌を取り込むように



私だって体積さえ一定ならこの空間をどこまでも細く小さく伸ばせる。さっきビルの根元だけを消し飛ばしたように

まぁ、あんまり遠くを狙うと先っぽの密度が小さくなっちゃうんだけど


打ち上げ花火が上がる。耳を突き刺す音が三つ四つ...鳴り止まない

そのまま月を撃ち抜くわけもなく正確に放物線を描きながら私に飛んできた

私に当たることもなくその小さな隕石の速度はゆるやかになっていく

それが戦車とかバズーカから発射される砲弾だと分かったのは完全に空中に止まってから


「......まだこんなものがあったなんて...」


向こう岸に伸ばしていた分を引き戻し、不可視の領域で砲弾を完全に包み込むとノイズと共にそれらは消えた

そのまま慎重に崖のふちに近づく、座り込んで恐る恐る覗き込んでも底はよく見えない

ただ、私が落とした建物のいくつかが斜めに立てかけて...建てかけて?あるのが辛うじて見えたから消しとこうっと

手をかざす、私の空間を操作する

建物は屋上の方から少しずつ、そしてあっけなく虚空に溶けていく

谷底が光ったのはそれと同時


「......ん?」


砲撃の第二波だった


時間差を置いて光っていった回数は全部で五回

五発の砲弾が私を狙って放たれたみたい


崖の底へ向けていた能力を上空に......いや、やめておこう


最低限身を守れる程度に空間を身に纏い、残った部分を細く鋭く長く研ぎ澄ます

その見えない切っ先で積み上がったビルを二つに割った。失敗しただるま落としのように建物は崩れていった


「さてと、できるかな」


立ち上がり、首を上へ向ける。そこにはゆっくりと私に近づいてくる五つの火薬塊

能力の密度を薄くしているから遅くなることはあっても消滅まではしない

だから、さわれる。



背伸びして手を伸ばせば届く高さに最初に達した一発に指先を当てる


「よいしょっ、よいしょっ...」


よく見ると回転している鉛の砲弾に爪を引っ掛ける、弾頭はほんの少しだけ向きを変えた

私ではなく、谷底へ向くように。そのちょっとした作業を合計五回


「これでよしっ!」


一歩、二歩三歩...後ろに下がる。砲弾が私の能力範囲から外れるように


ゴォオッ!!!!

「きゃっ!!」


風が爆発したような音を立てて五発の砲弾が再出発したのが分かる

直後に今度は比喩ではない爆発音が崖中に響いた



私の空間では私以外の全てが致命的にゆるやかだ、

私からの干渉を妨げられない程に



「でも...何が起きてるか...暗くて見えない...」


音だけが私に状況を伝えてくれるけど、混ざりすぎてて何が何かわからない

支えをなくして倒れていくビル、埋もれる戦車...想像できるのはこの辺りかな


「...じ~~~......」

「......ダメか、見えない」


足を滑らさないように覗き込んでいた谷底から離れる


「やっちゃった...かな」


この場に見切りをつけて離れるべきか、とどまるべきか。判断材料は土塊に埋もれちゃった

よいしょ、と膝を伸ばして立ち上がる

月の光も届かない、倒壊音は止まない


「これ以上は...私じゃ何も出来ないかな...」


崖に背を向け歩き出す。次はどこに誰を探しに行けばいいんでしょう?


ほたるちゃんのカラスはみんな混乱したままいなくなっちゃ_____





足が沈んだ




踏みしめていた地面がガクンと消失した感覚、ふわりと浮いた髪が目の前を斜めに漂う

そんな、嘘...私は地面には能力は使わないようにしてるのに___


「や、やっと...登れた ね?」


首をねじるように方向転換した視線の先。私の足元へ向けて地面を縦横に走る亀裂

傾いたビル、隆起した崖の縁、太い指、凹凸だらけの巨腕、瓦礫の体、ぽっかり浮いた白い肌


「よっしゃ!すまん小梅ぇ!もう一働き!」


巨人?ハリネズミ?怪獣?

何か大きな岩の生き物が崖の縁に手をついてこっちに身を乗り出して...?

ようやく尻餅をついた痛みがじんわりと染み入る

現状把握に専心していた電脳が、その正体を捉え始めた

あれは戦車だ

植物の根?やキャタピラでぐるぐる巻きにされた砲台の塊だ


「ファイヤです!!」


幸子ちゃんの声が聞こえ、光が拡散した

真昼のような風景に目を開けてられず

十発以上の攻撃的な花火が全て私に放たれたのが分からなかった



ゲーム開始157分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中

更新頻度をこれ以上落とさないために途中投下

次回この部分を奈緒サイドからお送りします

お読みいただきありがとうございました

チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅



藍子にとっては自分に出来ることを出来る程度に行使しただけに過ぎないんだろうが

ただそれが波及していく先が大惨事なのでは逃げる者にとってはたまったものじゃねえ



紗南「ロックオン!」


ゲーム機の画面がどうなっているのかは分からないが藍子をロックオンしたらしい

どん、と下腹部を持ち上げてくるような音が崖中に反響した

立て続けに撃ち上げられていく砲弾

アタシと幸子は見ているだけ。ただし、今辛うじて足場の体裁を保っているビルに何かあったら紗南と小梅を担いででも生き延びてやるつもりだ


「ファイヤー!!!」


攻勢の第一投、内臓ごと揺らすような重い音がここまで届いた

空気を切る音が遠ざかっていく


奈緒「..........」

紗南「..........」

幸子「......?...おかしいですね」


沈黙するアタシらの代わりに幸子が疑問符を浮かべた

そのあと続くはずの爆発音が聞こえない


幸子「紗南さん、本当に戦車を使ったんですよね?」


ガラス片を踏まないよう気をつけつつおそるおそる幸子が割れ窓に近づき、下方を覗く

だが、この暗闇で傾いたビルの中層からまともな風景が見下ろせるわけもなく、今度は視線を上へ向けた

ぶつぶつとボヤきながら窓枠をつかみ、身を乗り出す。そこで言葉は止んだ


奈緒「おい、どした?」


小梅に肩を貸したまま疑問の声を投げる。次いで訝しげに幸子の横顔を注視したとき、その様子に気づいた

幸子の口はパクパクと動いていた。黙っていたのではない、ただ呆気にとられ話す言葉をもたなかったのだ

雄弁な顔芸に紗南も異変の予兆を感じとったらしい、手元のキーを操作し戦車に次弾を装填する


「に、」

混乱しほつれていた思考が幸子の中で形を成す



「逃げましょう...!」



この現象を説明するには言葉と時間が足りなかった


奈緒「逃げるって、どこに...上の方に何かあるのか」


幸子「ちっ、違います!!その”上”がないんですよ!!!」



「このビル現在進行形で消えてるんですから!!」



その叫び声に轟音が重なる。

「は?」

それはこの世界に起きた何度目の現象となるのか

もたれかかる支点を失ったビルがさらなる角度へと倒れ始めた



アタシたちの現在いるビルは藍子の対岸の崖に斜めに立てかかっていた、

それが倒れ始めている、幸子曰く支えとなっていた上階が消えていくことで

紗南「に、逃げっ!」

ゲーム機をポケットに押し込んだ紗南が階段の方を見る

奈緒「いや、逃げ場ねぇぞこれ...」

小梅「ぅえ...?」


肩を貸していた小梅を持ち替え、背負った。多分この方が逃げやすい

アタシたちがいた窓際とは反対側が崖壁と衝突し順々に押しつぶされていく

階段室もエレベーターも支柱も窓も、上から消滅し折れ曲がって消えていく


「というかっ、床がとんでもないことになってるんですよーーー!!」


小梅を背負ったアタシの手を紗南が掴む。紗南の肩を掴んだ幸子が手近な手摺にしがみついた

床の傾斜はどんどん酷くなる、このままでは反対側の窓から滑り落ちて戦車の硬い装甲の上へ放り出されちまう

それに多分こうしている間もビルは上から消えていっている。アタシたちの階が、あたしたちごと消えるのも秒読みだろう


「くそっ......幸子ォ!!」

「はいぃ!?」

「逆転の発想だ!!!」


言うが早いかアタシは床のカーペットを踏みしめた、急勾配だがまだ立てる!


そのまま小梅を背負ったまま駆け出した、途中で紗南も引っ張り立てる


「へ?え?ええっ!?こっちは割れた窓しかありませんけど!?」


どんどんとキツくなる傾斜に踵を打ち付けて登っていく紗南と幸子も遅れてついてきた

手はしっかりと握ったままだ

加蓮みたいに離れ離れになんて絶対しない


紗南「奈緒さんっ!!どうすんの!?飛び降りるの!?」


アタシたちの足音にガラスの砕ける音が混じった


「ちげぇ...よっ!!」



大きく否定し、窓枠を踏んだ


狭くて暗かった視界が急拡大する


一瞬の浮遊感、でも落下の前兆だったそれはすぐに消えた


幸子「あっ」



アタシたちの足が新しい地面を踏む。ガラスでできた坂を




奈緒「駆け降りるんだよぉっ!!!」




床を滑り落ちるほどビルが傾けば、それは壁だった部分が坂になるのと同じだ

童話のシンデレラはガラスの靴で階段を駆けていったがアタシ達は逆。普通の靴でガラスの坂を全力疾走だ

ビルは崖にもたれかかっていた部分から消えながらどんどん倒れていく。これが完全に倒れきる前に地上に降りてどっかに隠れるんだ

カシャン、と軽い音を立てて紗南の踵がガラスを踏み割る


紗南「おわっ!?」


落下する前にその小さな肩を引っ張った、崩れたバランスを引き戻す


奈緒「急ぐのはいいが力みすぎるな!」


今のアタシ達は落とし穴の上をギリギリで走ってるようなもんだなんだからな!

幸子「奈緒さん!なんでしたらカワイイボクが小梅さんを預かりますよ!」

隣を危うげに走る幸子から声がかかる、よく見ると幸子はガラスの上ではなく細い窓枠を綱渡りのような足運びで走っていた。器用なやつだ


奈緒「いや、お前じゃ担げないだろ!身長一緒だし!」

幸子「うっ...しかしですね_」

奈緒「いいから前見て走れって!」

紗南「やっば!追いつかれる前に撃つよ!!!」

奈緒「いいけどっ!画面見ながら走るな!!」


注意を言い終わる前に向かう先の暗闇に小さな火が見えた。砲火だ

時間差を置いてまた五発


間違いなく藍子にも見えているだろう


「は?」


だって


「えっ」


こんな対応を返してきやがったんだから

幸子の呆けた表情が離れていく。いや、離れているのはアタシたちの方?

デカい切れ目を入れるように

ビルが中央で一直線に消失していた


向こう岸とこちら側、幸子だけが取り残されたまま、分断されたビルが離れ離れに倒れていく

幸子「なんでボクは大抵こんな役回りなんですか!?」

奈緒「言ってる場合か!!」

たまらず立ち止まる、対岸は幸子を乗せたままぐんぐん遠ざかっていく。屋上の方から順次消えていくだけじゃなかったのかよ、おい!

奈緒「幸子!距離が開く前に飛び移って来い!!」

紗南「あ......奈緒さん」

奈緒「なんだ!?」

傾いていく地面、ゴリゴリ割れていくガラスに紛れて紗南の声が聞こえる

紗南「なんかその、ごめん...」

幸子に固定した視線、だがその言葉の意味を測りきれずつい紗南の方を向いた

視線の先、その紗南が申し訳なさげな表情で上を指差していた。上?

紗南「アタシの撃たせた砲弾...なんか、返って来た」

その言葉に遅れて空気を切る音が降ってくる

奈緒「ウッソだろおい...」

小梅「幸子、ちゃん...!」

アタシの背中で小さい体が跳ねた

体中からかき集められたなけなしの素材で無理に触手を練り上げる

奈緒「無茶だ小梅!幸子が飛び込んでくるのを待てって!」

小梅「で、でも...」

奈緒「このままじゃお前本体までなくなっちまう勢いだぞっ!」

さっきの落下のときに材料はほとんど吐き出していたのに!

って、そうだ!

「紗南!これキャッチしろ!」

小梅を背負ったまま変な姿勢で取り出したソレを放る

これで紗南のアイテムはゲーム機、タブレットに続いて三機目だな!

紗南「MP3プレイヤー?奈緒さんの?」

奈緒「そう!アタシがいろいろ取り寄せてたのはそれのおかっ.....!?」

喋ってる途中に着弾。一発はどこか遠くへ反れたが二発はアタシたちのビルの根元で爆発した

まだ二発、降ってくる。ああもう自分の能力を説明する時間なんかあるかぁっ!!

奈緒「ゴミでもいいから!なんか使えそうなもん出せ!」

紗南「えぇっ!?ちょ!」

奈緒「小梅も、紗南が出したモン取り込んで幸子救え!」

紗南「いやまだ操作法聞いてな」

小梅「.......えいっ」

言い終わるのを待ってなんていられない

アタシの頬を掠めながら紗南に向かって細枝のような蔓が突っ切る

そして着弾、足場となっていたビルのガラスが一斉に吹き飛び

アタシたちの視界は爆風の中で攪拌された

紗南の指が我武者羅に画面を走るのと

ビルが吹っ飛ぶのと


どっちが早かったんだ?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幸子「ぷわっ!?」


景色がシャッフルされて

突風に足払いをくらって

周りの風景を把握できない今、


落ちているのか飛ばされているのかもわかりません


ただ一つ分かるのは、奈緒さん達から離されているということだけ


「わっわっわっ...」


ビル壁に掴まれる物はもうありません、あった筈ですが今頃ボクと一緒に吹き飛ばされています



「って、それ危険なんじゃぁああああああ!!!?」



回転する視界が星を撒いたように禍々しく煌めいて

それが月光を照り返す幾千のガラスのナイフだと気づきました

着弾の爆音で耳が麻痺したからでしょうか?音が聞こえません

無音の世界の中でボクはもがいて、もがいて

ものすごい速度で暗闇から飛び出てきた



奈緒さんの二の腕がお腹にめり込みました


幸子「ぼふっ!?」


奈緒「幸子、確保ォオオオオ!!」


そのまま奈緒さんの腕に抱えられてかっ攫われていくボク

というか奈緒さんの速度がボクを抱えても全く低下する気配がないんですけどこの人こんなに力持ちでしたか?

不安定な姿勢で抱えられている内に遠くから喧騒が近づいてくる感覚と共に耳が治ってきました

ォォォオオオオオオオオオンンンンン!!!

代わりに耳朶に入り込んできたのはけたたましいエンジン音でした


幸子「でもまた耳が潰れそうです...」

奈緒「はぁ!?もっと大きい声で!!」

紗南「GOGO小梅ちゃん!!」

小梅「さすがに..ふ、不安定...」


よく見ると奈緒さんの反対側の腕には紗南さん、背中には小梅さんがいます

しかしボクら三人を担いでこの速さでビル壁...床を走れるはずもなく

その秘密は例に漏れず小梅さんにありました

___________

ジャンク   -50MC 


  残2380MC
___________



幸子「なんですかこれ...」

小梅「ふふ...武器人間...みたい?」


ォォォオオオオオオオオオオオンンンン!!


小梅さんの足が回転しています

正鵠を射た言い方をするなら回転しているのはタイヤです


紗南「フュージョンだねフュージョン!!」


小梅さんの体から伸びたあれやこれの管がつながったタイヤ、その他諸々

バラバラに解体されてどう見ても廃棄品(ジャンク)のバイク



それら二つが合体して稼働していました



なんかどんどん人間離れしてません?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



バイク


それも廃車同然のソレにアタシは心当たりはあった

加蓮の奴が言っていたヤツだ。暴走バイクを相手取った、と

一体どういう状況でバイクと戦うことになったのかは聞いてなかったが、その後アタシたちと合流できたということはつまりどうにかして逃げられたか、勝ったわけだ

最初聞いた時は半信半疑だった。その後の加蓮の人が変わったような頼もしさを見るとあいつはバイク相手にマジで勝ったのかもしれないと思ったな


だから今、小梅の足になっているのがその証拠物件になるんだな


バイク...拓海さんか、夏樹さんか里奈の誰かのものだろう加蓮は誰のだったか言ってたっけ?覚えてない


紗南「というかガソリンなしでタイヤだけで動かせるの...?」

小梅「うん...なんでだろ?...体にくっついてる、部分...は、自由に動かせるみたい?」

奈緒「じゃあなんでエンジン音鳴ってんだよ......」


ごついタイヤがガラスを踏み割っていくせいで乗り心地は割と最悪だが、

今の所難は逃れたはず。どうも藍子はその能力のせいか基本受身っぽいとこもあるしな


紗南「すごいよここ......戦車ばっかりだ...」

奈緒「さっきからずっとゲーム機いじってんな...」

幸子「というかタブレットはどこいったんですか?」


前と後ろから生えたタイヤに、車体?小梅の体を支えて安定させる太い蔓

で、他の蔓にまたがったりしがみついてる形だが、小梅に頼るの何度目だよ

不意に激しい揺れが納まる、砂利道から舗装された道へ踏み出した時みたいに

暗がりをただビルに沿って真っ直ぐに進んできたがどうやら地面に到着したらしい、傾斜の感じもなくなった

ようやく小梅が速度を落とした、エンジン音が止む。よく考えたらこの音かなり目立つんじゃ...?

小梅「どうする...とまる...?」

奈緒「ああ、そうだな...次はどっから昇るかって話になるんだが...」


紗南「ふふふ...その心配はないよ」


得意げな声で得意げに紗南の手元でゲーム機がくるりとこちらを向いた

そういやさっきも途中からずっとゲーム機いじってたな

紗南「前照灯ライトアップ!」

カチャッと音を立てて紗南の指が走ると目の前が白くなった。前照灯、確か戦車についてるライトみたいなものだったか?

それがアタシたちに向かって光をぶちまけた

奈緒「うおっ!まぶしっ!!!」

小梅「と、溶ける...」

ライトアップされた方向に対して小梅が影になっていた幸子だけがうまいこと目を守れたらしい

目の眩んでいたアタシたちに紗南の自身の元をなんとか言葉にしてくれたみたいだ

幸子「戦車の...階段?」

十秒ほど経ってようやく目が慣れてきた

なるほど幸子の言うとおりだ

キャタピラをギシギシ言わせながら戦車が戦車に乗り上げ、その上にさらに戦車が乗り上げ、段々違いに積み重なっていた

小梅「これなら...登れそう.....!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


飛鳥(ボット)「行ってしまったね......ボクらには気づきそうなものだけど」


二つに割れたビルが消えかけのまま横たわる

落石にも注意だが、落ちてきた後も崩落のことを考えれば油断はできない


乃々(ボット)「これだけ暗いですし...胸元のバッジは隠してましたし...」


あとさっきから眠ったり起きたりを繰り返すこずえも乃々の箱の中に寝かせておいたしね

「こずえさんはどうして先程から眠り通しなんでしょうか...?ボットなのに変です.....」

乃々の目が静かな立方体を睨める。こっちの苦労も知らずに、とでも言いたげだ

「眠りというのは脳の情報を整理するために行われるそうだよ。もしかしたらボットも同じなのかもしれない」


「......はぁ、でも能力もないのにどんな情報を処理するって言うんですか?」

「それはこずえのみぞ知る....だね。きっと彼女には彼女の世界があるんだよ...そこはきっと広大で膨大なものなのさ」


コロン、と音がして


暗闇の向こうから一抱えほどの箱が転がり出てきた

それは一定の速度で瓦礫の上を躓くことなく進んでくる


「あれは乃々のだね。お使い帰りかい?」

「自動操縦ですけど...多分何か拾ってきたんでしょう...」


さらっと放たれた一言だけれど、乃々の能力は随分多機能なんだね

言葉を投げ合う間に件の箱はボクらの間に到着した


ガシャン

その中身がぶちまけられる



出てきたのは小さな拳銃と、弾が数発と___



「おや......こんな所で」

「今更渡されても困るんですけど......」




...こずえの世界はともかく、この仮想の世界の神はボク達にまだまだ戦いを命じるらしい



「...タブレットだね」

”さっさとプレイヤーを追いかけろ”ってことかな?




ゲーム開始158分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一旦ここまで

また後日よろしくお願いします


___________

ライフル   -1000MC


  残1380MC
___________



船の百倍の威力で揺れる小梅の体

戦車を丸めて固めた巨大な何かが疾駆する

どこからどこまでが小梅なのかを理解するものはいない

その体のあちこちから飛び出た砲塔に掴まっている三つの影がいた

奈緒「見たか......?」

紗南「最初の一撃は効いてた、といってもヨロけただけだけど...」


まるでどこぞの邪神のように足元から這い寄って不意を突く

やったことはそれだけ。だが我武者羅に特攻をかました訳ではなかった

藍子の狙いがビルに向いている内に、彼女の立っていた崖の麓に潜り込んだ

そしてそれは失敗した

後ろからの狙撃も、前からの砲撃の雨も霞と消えた

藍子に着弾する前に緩やかに動きを止め、そのまま消えた


だが、そこまでの行動の中で彼女の能力の死角を見出した

幸子「確かに考えてみれば当たり前でした。自分で自分の足元を危なくする訳ありませんもんね」

藍子の能力の弱点とも言えない程の、強いて言うなら構造的欠陥

自分の真下、足の裏より向こうを消失させられないこと

速度の低下ならまだしも、自分の落とし穴を自分で掘るなど余程の状況でなければ選択しようもない

紗南「ってことは地雷があれば藍子さん倒せるのかー。で、奈緒さん?」

奈緒「手榴弾しかないなー、瓦礫の下にでも埋めるか?いや、消されちまうな間違いなく」

万能に見えた能力に見えた思わぬ穴、だがそれを突くには手も時間も足りない

幸子「落とし穴はどうです?そこにあるものを消す事は出来ても、無いものなら消せないでしょう?」

奈緒「ふーむ、確かにそれが考えうる限りの有効打なんだが...」

紗南「道具は奈緒さんにお取り寄せしてもらえばいいとは思うんだけど...掘ってる時間がないよね」

時間

何よりも甚大なのは時間についての問題だった

歪な巨躯を懸命に駆けさせる小梅の右側の地面が消滅した

ドームサイズのスプーンで掬ったように滑らかな轍が遥か後方から伸びている

幸子「ひいっ!?来ましたよ!藍子さん!!」

奈緒「落ち着け、藍子のやつどうやらこっちが見えないままに狙ってきやがったな」

高森藍子という少女の形をしたボット自体はあまり俊敏な方ではない、広範な能力で補っていても視界が聞かなければ意味はない

いくら月夜でもここまで離れれば捕捉はされない

紗南「小梅ちゃんの攻撃に気を取られている隙に早めに”にげる”を選んでよかったね」

ボゴンッ!!!

たった今通った道に前触れなくクレーターが出現する

数秒出遅れれば消えていたのは地盤ではなく自分だった

紗南「うわーぉ......ヒヤリハット、神業だね」


内心で冷や汗を噴出させながら背後をみやる


見えるのはクレーターと月と暗闇


半壊したビルの間をどこまでも奥まっていく闇の向こう

そこにいる見えない敵が見えない力で自分たちを脅かしている

それはいつになれば終わるか、どこまで逃げれば終わるか分からないのだ

例えばそれは

一寸先から一秒後にやってきても不思議ではない


ガクンッ


幸子「ぶわっ!?」

だしぬけに小梅の逃走が停止した

今までの不安定ながら継続されてきた駆動が夢だったかのように微塵も前に進まない

紗南「なに!?どしたの小梅ちゃん!?」



少女たちの逃走はここで終わる



奈緒「は...?」

小梅「なにこれ、お、押し返せない...!」



薄い青に染められた四角い飛行物体


森久保乃々の手足の延長


おびただしい数のパネルが紙吹雪さながら小梅の巨身に貼り付いていた



幸子「小梅さん!このパネルみたいなのは取り込めないんですか!?」

小梅「うん、やってみたけど...べ、別のチカラで、動かされてる...」

じりじりと巨体が後退する。質量の暴力である小梅に対し物量の暴力が攻め立てる

奈緒「くそっ、やばいって!敵は藍子の他にも残ってたのかよ!!」

紗南「上には逃げられないの!?」

軋みを上げてずり下がっていく戦車の塊の異形から身を乗り出し、上空を見上げる

その目の先を見えない何かが掠める。紗南には何も見えなかったし誰にもそれは見えないだろう

だが、その直後視界にあったビル群の上半分が消滅したのだけは分かった

紗南「あぶなっ!?」

終わりは近い。今はまだ距離が空いているため藍子は能力の空間を細く伸ばすしかない

だが目の届く範囲まで近づいてしまえばもうそのような「絞り」はいらなくなる

ただ押し潰すだけ

幸子「そもそもこれはいったい誰の、にゃっ?!」

奈緒「うおゎっ!?」

ガクンと高度が下がり、幸子が舌を噛んだ

傾いた視界の中、さっきの深すぎるクレーターに踵が半ば落ちていた

重心が狂えばそのまま深く落ちていくのだろう

奈緒「...どうしろってんだ!前には進めねえ後ろは落とし穴!.....耐えようにも時間稼ぎは藍子を近づけるだけ!」

低い悲鳴が聞こえる。小梅と一体化した戦車が無理な荷重に擦れ合う音だ

奈緒「.....................?...」

耳の奥を針金で摩耗させていくような音の中

彼女の頭の中を、画策と機会との符合がひっかいた

奈緒「..........待てよ?」

その言葉は小さく空いた口の中で転がるだけ


紗南「小梅ちゃん!脱出するからなんか架け橋作って!」

小梅「わ、わかった...」


どう見ても機械質の体からつたが這い出ると手近な窓枠や非常階段に絡みついていく

最初に紗南がその中の一本を伝って脱出する

次に幸子が小梅に肩を貸しながら蔦の一本に掴まった

引き剥がされた小梅の体から一本だけ伸びた蔓が神経となって最後まで戦車の体に指令を下している

幸子「奈緒さんも行きますよ!もうココにはいられません!」

届いた声も染み入らず、奈緒の頭にあったのは一本の線

これまで散々振りまかれた大小の点を結んだ曲がりくねった一本の解



奈緒「小梅......多分、最後の一働き、してくれるか」




ゲーム開始163分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふむふむ......」

「なにがフムなんですか......?」

飛鳥が指で側頭部をぐりぐりと捏ねる

ラジオのチューニングをするようにゆっくりと、しかし小刻みに

「この先にいる四人が最後の一手を打つらしい」

「......さいごー......?おわるのー?」

「流石アイドル、流石シンデレラの卵。挫折や苦境に置かれるほど輝きを増すね」

「もりくぼに労働を強いたんですから...説明くらい欲しいんですけど...」

そう愚痴ると眼下を過ぎ行く藍子の後ろ姿を胡乱に見やる

二宮飛鳥、森久保乃々、遊佐こずえ

地下アイドルとは別の意味合いで地下に潜っていた三人は今、空にいた

浮いたパネルに乗って。乃々の能力のさらなる応用である

「説明なら彼女ら自身がしているさ。そしてどんな小さな囁きもボクのチカラならその内容も筒抜けさ」

「私たちにしろって言ってるんですけど......何も知らないもりくぼをタダ働きさせる積もりですか」

「ののー......ふきげんー...?」

宙を浮く箱に腰掛け優雅に足を組む。隣からジトりとした視線が向けられても飛鳥の姿勢は変わらない

「藍子さんがボクらの言葉に耳を貸すことはない以上、知ったところで無意味さ。時計の針は止まらないボクらは針の潤滑油さ」

「......このまま足止めして、藍子さんが残りの四人を倒して万々歳、もりくぼはもうそれでいいですよ...」

変わらず要領を得ない飛鳥にそっぽを向く、そこでこずえと目が合った

「ののー?」

「い、いえ何もないですはい...たまたまそっち見ただけで」

「乃々」

ガチャンと音を立てて飛鳥の手の中で黒い銃が目を覚ます

藍子の背中がその音に気づいた様子はない

「その答えは50点だ。そのままだとプレイヤーたちを屠った藍子さんが君たちを襲うだろう?」

「えぇえ...プレイヤーはこれで全滅でゲームセットじゃないんですか...?」

「なにごとも可能性は考慮しないとね。ボクに何かあったらこずえは君が守るんだよ?」

「何かってなんですか何かって...プレイヤーに特攻するんですか?」

「発想が突飛だよ......ただそうだね...」

撃鉄を弄びながら足を畳み、膝の上に顎を置いた

その耳が何を聞き、その脳裏が何に思いを巡らせているのか知る者は本人を除いて他にいない

空いた手がこずえの髪へ伸び、くしゃりと撫でた

「君たちの可能性に賭けるのも悪くないと思ったのさ」

「...もりくぼに期待しないで欲しいんですけど......こずえさんに任せます」

「............そうだね。きっとこの子は大きな可能性を秘めている」

「んんー?かのー......せー...?」

「ここまで生き伸びたんだ。そうでなければつまらないだろう?」


ラジオのノイズが止まらない


引き金に指をかけ、心を決める


心なんて、ないけども

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ひゅるひゅると遠くから音が近づいてきました

しかしそれも、ひゅぅるひゅうぅる、とゆっくり間延びしていくと

「......」

私の目でも追えるくらい速度になって、そのまま消えていきました

さっきからこうして離れたところかた撃たれてはいるのですが、効きません

ちょっと脅かすつもりで周りに拡散していた”空間”を縮めて丸めて、

「ぐいーーーっ!...と」

手足がどこまでも曖昧に伸びていく、自分の纏う見えない何かを操作する。それだけで月を背景にしていた遠くのビルのシルエットが一つ、消えました

ひゅるひゅると、またミサイルみたいな何かが飛んできました。今度は二発?

いえ、音が重なり合ってよく分かりませんがもっとですかね

「.........ちょっと、いやになってきたかも」

上腕をそらして振りかぶって斜め上へ、


で、振り払う


手の軌道、その延長にあったものが何もかも消えて、夜景を素通りさせました

そして根元の消滅した建物群がだるま落としよろしく、あとは私の手を借りずとも崩壊していきます


「ん、よく見える」


あの、全身デコボコのおおきな人形もよく見えます

「意外と近かったんだ.....もっと遠くに逃げられたものと思ったけ___」


どっ


「.........ふぅ」

そうやって手を振り下ろせばもう見えなくなりました

これでおしまい、のはずですが...

残骸すらない跡地ヘ足を運ぶと、やはりなにもありません。あちこちの隆起した地面だけだったけど

「.........?」

パリッ、耳の中に音が転がりました

うっかり聞き逃しそうな小さな空気のゆらぎ、どこか遠くからの音

上を向いた視界の隅に点滅

「残った人?」

まだあんなに遠くに?手を伸ばしても”空間”伸ばしても届かない距離に?

書割のような茫洋な背景に白い点


「......あやしい」

いくらなんでも、今の私でもすぐには届かない位置にまで一瞬では移動できません

だからここは......

伸ばしていた空間を自分に纏う、お饅頭をこねるように丸く、足元は薄めに

そして台風のように回転させながら拡散

そのまま道路沿いのビルを全て消し飛ばしました

開ける視界、閑散とする周囲、きょろきょろと索敵すると___

「......見つけました、なるほど。遠くと見せかけてちょっと近くにいたんですね」


向かって右手のビル、

を消し飛ばしたもう一棟向こう、

の壁を削り落とした先のフロア



こっそりしていたようですし、今のぎりぎりで届かない場所まで下がってたようですが__

薄く広く伸ばした”空間”をぎゅっと縮めて、

一つの方向に伸ばす

誰にも防げない、跳ね返せない。なぜならそこにはなんにも無いから



奈緒「___!」

小梅「......__...」



一瞬、四人分いた人影のうちの二つが何かしたのが見えて



私の空間はその彼女たちに向けて限界まで伸びきりました




なのに、



届きませんでした


四人の影が離れていきます


そして私も、また、離れて



「__あっ」



踵がおぼつかなくなり、足元をみると。そこには何もなかった



暗い暗い、底知れない”空間”がずっと奥まで



私、落ちてる








奈緒「っしゃあああああ!!」






今回の立役者、小梅を思いっきり抱きしめる

小梅「....あぅっ」


さっき藍子が開けた大穴、クレーターを戦車の塊で一時的に塞ぎ!


紗南のコントロールモードで藍子の視線を足元から逸している間にその罠を作動させた!


全フロアの東方向が半分消し飛んだ部屋で歓喜の声を上げる


幸子「ギリッギリじゃないですか...下手したらボクら消えてましたよ...」

奈緒「しっかたねえだろ!できる限り藍子の能力をこっちに引き寄せとかねえと、落とし穴の作動が遅くなっちまうとこだったんだから」


ゲーム機の説明は漠然としていたがあんだけ喰らい損なえばその概要は掴める


かといってもし藍子が気まぐれで周囲のビルを一斉に消すんじゃなく一棟一棟順番に消すやり方で来てたら危なかった

範囲を狭める代わりに全方位に向けての放射だったからこそのギリギリセーフだ


今頃自分であけた大穴の奥の奥、地の底まで落ち続けているであろう藍子を想像する

あいつは自分には能力を使えない。だから普通の重力加速度と普通の力積のおびて普通に墜落する


紗南「藍子さんからしたら余裕で射程圏内だったろうけど、だからこそ足元がお留守だったね!」

奈緒「だな!」


そこで天井にヒビが入った。文字通り半壊したビルが自壊しかかってるみたいだ

さっさと早く離れないとな。ようやっと小梅を下ろす。しっかし、なんつー軽さだ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幸子「紆余曲折ありましたけど案外これでカワイイボクらのゲームクリアじゃないですか?」

紗南「だとしたらファンファーレの一つでも鳴ってほしいけどね」

小梅「ふぅ、つ、疲れた......」


奈緒は背後に小さい子らの声が遠ざかっていくのを聞きながら外を見た


ビル街の道路の真ん中にポッカリと空いた大穴


その穴の縁にはかつて戦車だったものの破片がこびりついている


すこしでも藍子よりも先に落下していくものがあれば、藍子はその落下速度を緩やかにして足場にしていただろう


彼女ら四人が藍子の力の使い方をそこまで予測していたかは不明だが、とにかく上手くいった


高森藍子はもう助からない

それは落下中の彼女自身も理解していた

せめて一矢報いようと最期の一手を打とうとも

自身の持つポテンシャルを最大限活用し、”空間”を細く細く

針のように、毛細血管のように細め、細長く伸ばそうと

自身が重力に引かれ離れていくのでは届きようがない




















飛鳥(ボット)「いやいや」


「これは驚いた。随分あっさり油断するじゃないか」


「でも、大事なことを忘れてはいけない」


「彼女のもたらす音無き破壊の真骨頂はそこではないだろう?」


「誰かを消滅させる程にその勢いを増す。破壊の輪廻こそが___」



「__まぁ、言葉はここでおしまいにしておこう」


「語るのも、そして聞くのも」


「見ていてくれ乃々」


「ボクは

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


右のこめかみに冷たく、硬い、小さな痛み



絞ろうとする人差し指がひどく重く、遅い



滅多に見開かれることのない乃々の、見開かれた瞳を見た



撃鉄の起きる音、引き金が絞られる音、弾丸が機構の内でせり上がる音すら聞こえそうだ



雑音のひどかったこれまでの世界に



ボクにとって世界一大きな銃声が聞こえた気がした



もちろん、聞こえるはずなどないのだけれど



少なくともその弾丸で自分の頭をフッ飛ばしたボクには



ああぁ、乃々、そしてこずえ



そんな目ではボクを見ないでおくれ



ボットか


プレイヤーか



誰かに負けることを想定して作られたボクの、






これが唯一無二のセカイへの抵抗なんだ



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




最後の最期




自身の消失の未来を察した藍子は精一杯能力を活用した


彼女らの場所は落ちる前に確認していた



だから問題はそこに届かせることができるかどうか


そのままでは無理だった


細く細く伸ばしていっても間に合わない




だが、それは

誰か他のボットが消失しなければの話だ




結果として二宮飛鳥は自身の消失を自身の意思で選択し



藍子の一矢は届き得た




四人全員を屠るほどの体積はなかったが、問題はない



彼女たちはユニットを組んでいたのだから









ゲーム開始164分経過

二宮飛鳥(ボット) 消失

高森藍子(ボット) 消失

輿水幸子   0/200

白坂小梅   0/200


勝者:不明


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はここまで

飛鳥ちゃん声つくんすね

このSS書き始めには想像もしなかったれす

お読みいただきありがとうございました

飛鳥が自滅→ノノこずえも連鎖消滅→藍子パワーアップ→処理落ち効果が幸子小梅に届く→奈緒紗南連鎖消滅→登場人物全員同時消滅

で合ってる?

>>930

ユニット、というのはプレイヤー間のものだったのでボット側の被害は飛鳥ちゃんだけです
ただそれのおかげでギリギリ藍子の能力が届いた結果幸子か小梅のどっちかが消え、連鎖的にもう片方も消えました
ユニットは
①幸子小梅

②紗南奈緒かれん
だったので紗南奈緒の二人は無事れす


生存報告


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

___ゲーム開始171分経過時点



誰も知らない



仮想世界の片隅に巣食った瑕疵を


白坂小梅の傍にいた何者かが残した影響を


生ける命でないものを取り込んだ弊害を




誰も知らない




高森藍子の能力が最後に、わずかに世界の均衡を破ったことを


彼女の力本来の性質ならば起き得なかった事故が起きたことを


制御されたままの世界なら問題はなかった。だがそこには瑕疵があった


それに気づかないまま、限界近い出力を放ってしまったことを




誰かが知る



高森藍子の能力の限界値を僅かに引き上げた二宮飛鳥の行動の行く先を


彼女が撃ち抜いたのは自身のこめかみに留まらなかったことを



自分を砕き、力の上限を緩め、世界の制御機構を小さな瑕疵から破壊する

千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ

そんな連鎖反応の結末を




ゲーム開00111000010101010101始11111000164

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
池袋晶葉&一ノ瀬志希



『CHIHIROに1件のエラーが検出されました』



晶葉「......む?」


ゲームも終盤、ゲームオーバーしたアイドルたちを一足先に現実に回帰させるための準備を、と思った矢先の報せだった

別段エラー自体が予想外というわけではない。

完全に手放しで制御できるものなどないからこそ私と志希がここにいるのだ


志希「どったの?エラーって...」


その志希が後ろから画面を覗き込む。どうでもいいが私の肩に顎を乗せるな


晶葉「大概のケースでは自己修復できるようにしているんだがな。容量に空きがないときは外部から手を貸したほうが早いんだ」


そこまで言ったところで私の耳をくすぐるように志希の癖っ毛がざわめいで、不意を打たれて肩が跳ねた


晶葉「ふわっ!?その姿勢で頭を動かすなっ!」

志希「あのさー......なんかおかしくない?」


慌てて首を振ると特徴的な猫目と間近にかち合う

肩に頭を乗せられると想像以上に距離が縮まるらしい


晶葉「.....おかしい...?......あぁ、そういえば」


志希に言われ、思い返す。さっきまで志希がチェックに回っていたのは何処だった?

「容量が不足するわけがない」

志希が乗せている肩とは反対を向いて振り返る

そこにいるのはよく見知ったアイドルたち18名が無骨な鉄の卵の中で眠る光景

そのなかで特に注目すべきは5名


晶葉「緒方智絵里、神谷奈緒、北条加蓮、十時愛梨、三好紗南」

「今、生き残っているのはこれだけだ...他の物はリタイヤし、そのデータは一時的に別の場所に留め置かれている」


志希「別の場所?.........あー、『アレ』かー」

ようやく頭を持ち上げた志希の中に疑問が生じたがすぐに心当たりに行き着いたようだ

ゲームも終盤、リタイヤしたアイドルは13名

彼女らの意識は今深い眠りの中にある。

仮想の中の過剰な現実で受けたショックを癒し、トラウマの芽を摘むためだ

夢を夢で終わらせる、「さっきまでのは全て作り物だった」とちゃんと自覚させるためのセルフアフターケアのための時間だ


志希「じゃーおかしーよねー。いっちばん容量食う生きた人格データがこんだけ外れてるのに容量不足なんてさー」

晶葉「...だな、早急に対処しよう」



頭を切り替える、これは少しばかり異質な事態だと理解する


prrrrrrrrrrrrrrr


と、回り始めた思索に歯止めを掛けるように出し抜けに電子音が鳴った


晶葉「...なんだ、これから忙しくなるって時に...」


着慣れた白衣を漁ると見慣れた携帯電話が顔を出す。だが、


志希「...あり?晶葉ちゃん......アタシの耳が正しければさ___」


手の中の機械は行儀よく沈黙を守ったままだ


そうだ、数十分前に妙な電話がかかってきたから電源を切ったんだ


志希「___鳴ってるのソレじゃなくて...」


prrrrrrrrrnnrrrrrrnnrrrrrnnnnnn


電子音は鳴り止まない、ただ少しずつ音が変わっている?

耳をつつくような高い音から柔らかさを帯びた有機的、生物的な音に


志希「このコンピューターじゃない?」


nininyniyniniyninynynyiininiiiiiiiiinn


手元から目の前の大画面に視線を戻す


晶葉「なんでこんなものが......ここは外部から遮断されているんだぞ...」


__________________

to:Virtual Reality City System

from:tfPnvsoE/ifevvszerRs490o

sb:
__________________


それはメールの受信画面

だが、このコンピューターにインターネットなど繋がっていないぞ?

仮想現実を管理するので手一杯なんだし、それ専用なんだから

いや、だがこの無茶苦茶なアドレスには見覚えが......

そうだ、確かこれは佐城雪美のボットの___




原形を失くした電子音が最後に一つ鳴いた

猫のように



仮想空間稼働180分経過

ERROR

サーバとの通信処理でエラーが発生しました。アクセスできません

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南


___ゲーム開始179分経過時点




デスビームか!?



さっきまであたしらが隠れていた建物を見上げてそんな感想を抱いた


隣を歩いていた小梅が悲鳴もなく消え、一足遅れて幸子の驚愕した顔が霞のように失せた



そして目の前の建物は斜めに切断されていた


目算、四階の東から三階の西へとばっさり。

確かネットでみた真剣居合切りの動画じゃ藁束があんな風に斬られてたな


紗南「藍子さん以外に誰かいた......って考えるのは不自然だけど」

奈緒「結局、藍子の能力ってどういう仕組みだったんだよ...」


ゲーム機に表示されていたテキストで大枠は掴んだつもりだったが、最後に一矢報いられた

追撃は今のところない。小梅はしっかり仕事をしてくれたみたいだ


まさか最期の仕事になるとは...


あたしだってもうこれで終わりにしたい、なんだかもう色々出しすぎた

体は疲れた気はしないが、頭の中を雑巾絞りされたみてぇだ

近くのコンクリブロックに腰を落とす、紗南は隣でとっくの昔にへたり込んでいた


「ふぅー......」


「......はぁー...」


「あのさー奈緒さん...」


「...なんだ?」


「武器、どれくらい残ってる...?」


「あー...っと、...幸子が持ってたやつ回収してないし、大分減ったなぁ」


「そっか......でも、藍子さん倒したポイントで、また買い直せるよね.....」


「あー、そうだな.........なに買お」



というか、何買えばあの一癖も二癖もある連中に勝てるんだよ



ここに来てからの雑多な戦いを思い出す


メイド服着たあたし、赤い羽根を生やした音葉さん


どういう訳か共闘して、そのあと激闘した巴


何故か地属性みたいな能力だったのあさん、それとにゃん・にゃん・にゃん


いきなり飛んできたカラスの群れ、そしてチート能力者、藍子


「.........正攻法の通じそうな奴が一人もいねえ...」


思わず目元を覆って天を仰ぐ、どうやってここまで切り抜けてこられたの全くわからん


紗南「.....ん?」

奈緒「まーた、これか...」

ほとんど地べたに座っているからか、小さな地響きを肌で感じた

「まーた、どっかでドンパチやってんだろーな」

「もしかしたら加蓮さんかも?」

「だといいが、大分遠いな......」


伝わってくる震動の大きさに比べて、それらしき爆破音も破壊音も聞こえてこないことからそう判断する


それにしても、じゃあ一体今度は何が起きてんだ?


奈緒「紗南ー」

紗南「もう調べてるよー」


隣からカチカチとボタンを繰る音。


あー、現実に帰ったら積みゲー消化しないとな


奈緒「......ははっ」

紗南「?」


ゲームの世界に来てまでゲーム機に執心な紗南と自分に苦笑する


ズゥゥゥゥウウウン


震動はかなり大きくなって、もう地鳴りとか地響きといってもいいと思う







紗南「奈緒さん......これ見て」

奈緒「あぁ?.......ほう、この子もボット役なのか...何考えてんだ晶葉」

紗南「それもそうなんだけど...」


________________

name:遊佐こずえ

category:ボット

skill:
周囲に存在すクトは耐久力が自壊す
るバイクを運転しているプの的ゼロ
になると効果として遠距離攻間プレ
イヤー以外の物理ェ接触を無効よう
に遠方を詳細に視認可能。副次化す
る自立行動しなる的隔でゼロに近づ
け続ける。オブジボットプレイヤー
オブジェクトの防する。ダメージは
自身にしか反映されない
自分を中心とした度に増加していく
メガネを通し部に御力及び耐久力を
一定の時間間い物体と自身命中精度
が飛を溶け合わせ自分の一い程周囲
の回線速度を 落とす。効果範囲は
仮想世界全体に 負荷をかけなてス
コー撃の躍的に上昇する
________________



奈緒「...能力んとこ、バグってんじゃねえか」

紗南「そーじゃなくてさ!ほら気づかない?」

ぶんぶんと本体を掴んで上下に振る、いいのかそんなことして


奈緒「あぁ?」


あたしに分かるのはこうしている今も、画面に表示されてるこずえのステータスがバグって

「だーかーらーっ」

ぐいっと画面を突きつけられる、鮮やかな画面の文字が細かいところまでよく見える



紗南「なんでゲーム機をあっちこっちに向けてるのに、こずえちゃんが映りっぱなしなの?」

奈緒「あ......」



ズウウゥウンン...!!



そういやそうだ。この「サーチモード」とやらは感度が悪いからか、かなり正確に相手に差し向けないといけねぇんだったっけ?

じゃあ、こんなに振り回して画面固定って...


奈緒「本格的にバグったな...これがこずえワールドか...」


っていうか


ズウウウウゥウウウンン!!!



奈緒「次の敵が来やがったな...」


地響きは近づいている、誰かと誰かの戦闘は続いている

大通りを挟んでもう少し先、といったところか?そろそろ動いた方がよさそうだ

奈緒「さっ、紗南。一旦ここを離れよう、戦闘準備だ」


苦労して立ち上がり、紗南に向き合う



紗南「.........」



座ったままの紗南がぽかんとあたしを見上げていた


なんでそんな顔してんだ?ほっペつつくぞ


ガシャンッ!!


奈緒「うおっ?!」


力の抜けた手元からゲーム機がこぼれ落ちた

その意外に大きな破砕音に驚く


奈緒「何してんだおま...」


落ちた機械から紗南へ視線を向ける。

でも紗南の視線はあたしに向いてなかった


ズゥウウウウウウウウウンンンン


いよいよ無視できない大きさとなった地響きに周囲のガラスが割れた


紗南が見ているのは”コイツ”だ


何度も危機に窮しながらも手放さなかったゲーム機を思わず取り落とすほどのインパクトの獣が後ろにいる



「............」



振り返る




そしてあたしも、紗南と並んであんぐりと口を開けた


多分コイツはこの世界の中で一番デカい

半壊しているとは言え、高層ビルですらその威容を隠しきれていないから

地響きはそいつの足音だったんだ。だから移動速度も早く感じたんだ



でもそんな思考は後付けだった


今は頭の中をたった一文が埋めつくす








奈緒「なんでお前がいるんだよ!!!?」




ゲーム開始179分経鐔鰹輯鐔鐔


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ガラスの夢が瓦解する



こずえの世界が瓦解する



池袋晶葉の用意したデジタルの世界において磐石だったシステム



そこの一部を白坂小梅の「あの子」がこじ開け、ひび割れた



こずえにもたらされるはずだった恩恵は根詰まりし、システム制御機構は瑕疵を負った



だから本来なら耐えられたはずの、高森藍子の肥大化した負荷に、わずかに耐え切れなかった



引き金を引いたのは二宮飛鳥で

見届けているのは森久保乃々で

その災禍の中心にいるのは


遊佐こずえ




「こずえねー」




「......みんなののーりょくー......もらったのー」



ボットと、その力を統括していたシステムは瓦解した

管理を離れた能力が一斉に、一箇所の穴からその先、こずえへ向けて流れ出す


乃々(ボット)「...........マジですか...」


ゲーム開始164分経過

遊佐こずえ(ボット)

能力獲得
能力獲得
能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


こずえの髪が逆立つ、意思を得たかのように蠢くそれは毛量を増し、



解き放たれた



___能力発動『白菊ほたる』___



質量の限界を軽く無視する数の鳥がこずえという巣から飛び立つ

しかしその羽色は黒ではない

こずえの髪色を模した柔らかな白だ


数千羽の「白鳩」が黒い空を白く染めようと飛び立った


白い羽が追従するように振りまかれ八方へ拡散していく


乃々(ボット)「なんかこれ...とんでもないことになってる気がするんですけど......」


そう言いながら浮かぶ箱にしがみつく彼女の見つめる先、廃屋の頂点に座り込んだ幼女



遊佐こずえは今、台風の目となる





___能力発動『望月聖』___






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

___ゲーム開始166分経過時点


世界が変わり果て、終わり果てていく



頼子(ボット)「.........終末のラッパが鳴り響いたような風景ですね」


何羽もの天使がいた

白い鳩の姿を借りて、眩く羽を光らせて

絶対の攻撃力と絶対の防御力を湛えた白色の暴力が雲より速く向かってくる

それらは全て白菊ほたると望月聖の能力の混合だが、頼子にその答えを得る推理材料はない


「今の時分は......本当に夜でしたよね?」


鳩たちは重なり合いながら目を焼くような輝きを増していく


空を埋める密度が増すにつれて闇に沈んでいた街が姿を浮かび上がらせる


そこに原形を保っている建造物など残ってはいない

辛うじて建物としての体裁を保っていたものも、鳩の羽ばたきが起こす風に飲まれ消えていく



「......ローラー作戦...誰が黒幕かは知りませんが、戦いの締めくくりとしては...いい手ですね」



問題は敵味方区別なしというところか

闇に潜む怪物をあぶり出すかのように光が街を埋めていく

夜空を天使が食らいつくす


それはついに古澤頼子の周囲にも及んでいく

今の彼女は小さなオフィスビルなら余裕で見下ろせるような高さにいた。鳩に飲み込まれないわけがない



「さて、逃げるのも得策ではないようですし、やるだけやってみましょうか」



くいっと指を持ち上げる。指揮者のように


間髪いれずに振り下ろす。見えない軌跡の切っ先はこちらに最も接近している鳩の一群


頼子がとった動作はたった一つ。


指を上げて下ろしただけ



ただ、それだけで鳩の一群は姿を消した



目の眩むような羽だけを残し、何羽もの鳩の体が掻き消えた


「ふむ、どうやら力の源はその羽だけのようですね...本体になら攻撃は通るようです」


もう一度指を持ち上げると、頼子の背後で細い影が蠢く


うねるそれらは触手のようにも見えが、その正体はキノコの根だ

無論ただのキノコではない


星輝子に生み出され、彼女の脱落を以て極致の成長を遂げた超巨大な菌類


千年の時を経た大樹のような威容、それを支える夥しい本数の根


星輝子のキノコ愛が生み出し育てた能力の結晶も__



「___今...この時に限っては...私のコレクションです」



頼子の指が空を切る


破滅をもたらす鳥たちの洪水に、大自然の生み出した奔流がうねりを上げて雪崩込んだ



ゲーム開始166分経過

遊佐こずえ(ボット)

VS

古澤頼子(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

___ゲーム開始173分経過時点



見渡す限り生い茂ったキノコの根が鞭となり、しなる


「やはり本体....?というか鳩の体を狙うしかないようですね...」


プレイヤーの能力の一部を盗み、自分のものとする

そうして頼子の所有物と成り果てたのが、今の彼女の足場となっている菌類だ


今の頼子が10人並んで両腕を広げてもキノコの傘の端には届かない

彼女が50人縦に並んでもその全長には達しない


そんな菌糸の集合体を盗み、所有し、使役している


「どういう理屈かわかりませんが翼には全くダメージが通りません...」


こちら目掛けて飛翔する小動物の胴だけを正確に狙い打つのは難しい

一度に10の攻撃を仕掛けてもそれが通るのはよくて半数、残りの半数は翼に弾き返されそのまま消えていく

ならば、とばかりに次は100、1000と手数を増やし、攻撃を繰り出すのは普通なら気の遠くなる作業だ


だが古澤頼子はボット。機械的に最適な動きを行うことなど容易い


そしてついに


頼子(ボット)「第一陣は退けましたね......」


目に付く限りの鳥の影が薙ぎ払われたように粉砕された

これで”自分に狙いを定めていた”鳩の群れは殲滅できたことになる


改めて遠くを見やる。黒い夜空のあちこちが白抜きされている。鳩の群れがそう見えるのだろう

ブラックコーヒーに垂らされたミルクのような、夜と昼の歪なモザイクが360度。そんな光景


「っ!.......これは」


遠くばかりも見てはいられない


ソレは頼子の目の前にひらひらと小さな破片が空気抵抗に弄ばれながら降り落ちた

輝く小羽、散っていった鳩の残したものだった

雪というには人工色の強い、落下物。ボットはそれに風情など感じない


「...おそらく、これ一つだけでも充分破壊力を持つんでしょうね...」


そう言って一歩引く、上を見るとまだまだたくさん降ってきそうだ、一度キノコの上から非難するべきかもしれない


「これも、能力の一部ですね......”盗める”かどうか、試してみましょうか」


ちょうど目の前の宙空を漂う一枚に手を伸ばす

古澤頼子は怪盗の一面を持つ

盗むことができる容量に限度はない



だが、忘れてはいけない

古澤頼子が我が物と出来ているのは所詮は一部


対して遊佐こずえは、その身に全ての力を宿しているということを


___能力発動『桃井あずき』__


ぽてっ


激変


「..........んー」


ぽとんっ

頼子の視界が一変する


「.........こずえー...」


ぽすっ、ぽとっ

一時の安息は消えた、むしろ最初からなかった

ぽすんっ、ぽて、ぽとん


「いーーっぱい......なのぉー...」


ぽすん、と軽い音を立ててキノコの傘に着地する

尻餅もつかない、綺麗なフォームだった


頼子(ボット)「.........」



それが大体、30人目くらいの遊佐こずえだった



桃井あずきの能力___『ボットとアイテムの変換』

それは決してこんな不条理な現象を起こす力ではなかったはずだが、確かに現実だった

仮想の中の、現実だった







空から舞い降りていたはずの羽



その全てが次の瞬間には「遊佐こずえ」に変換されていた


小さな羽の一つが、小さな女の子の一人へ


「あれー......」

「......よりこー、ひとりなのー......?」

「それってー」

「とぉっても......らくちん、ねぇー?」


古澤頼子は考えた、ボットの脳は考えた


手持ちの手札でこの状況を覆す術を


遊佐こずえは特に深く考えることなく、ただ行動した







___能力発動『前川みく』____


















___能力発動『アナスタシア』__






___能力発動『高峯のあ』____





___能力発動『大石泉』_____



___能力発動『村松さくら』___


___能力発動『土屋亜子』____


___能力発動『上条春菜』____

___能力発動『結城晴』____

___能力発動『

_______

____

__


ゲーム開始173分経過

古澤頼子(ボット) 消失

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゲーム開始177分経過時点



遊佐こずえと遊佐こずえ、その隣に遊佐こずえ


その前後に遊佐こずえ、そしてその最奥に遊佐こずえ


巨大極まりない菌類の塔の頂点を埋めているのは極小の”一人の少女達”


「...それでー」

「......どうするー......?」

「...だれか.....さがすのー...」

「ここ、たかいー.....」

「でも、まち、むちゃくちゃー......」

「.........さがすのたいへん......だよぉー?」

「じめん......ふわふわ、してるー......?」

「.........」

「みつからない...ならー...」

「みーんな...」

「...ぺっちゃんこー.....」


要領を得ない言葉の羅列


その場にいる全員が同一人物だからこそ辛うじて意思が疎通しているが第三者に真意は読み取れない


ただ、そこで惹起する事態を眺めることしかできない

幼心が引き起こす手加減無き攻勢を


「じゃあー」

「やるよー?」




___能力発動『古澤頼子』____



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


___能力発動『古澤頼子』____



自分達の足の下にあったキノコはこずえの所有物となった



___能力発動『あの子』____



繊維がほどけるようにキノコの巨体がほつれ、ゆっくりと形状が変化していく


キノコの傘が細切れにされたように綻び、開いた隙間にこずえが次々飲まれていく



___能力発動『市原仁奈』____



こずえと巨大なキノコが一体化した

といっても最早その形を「キノコ」と呼ぶ者はいないだろう 



___能力発動『高峯のあ』____



地面の中に張っていた夥しい数の根ごと、地盤がめくれ上がり、剥がれていく



___能力発動『島村卯月』____



出力を限界まで上げた各々の能力が、一つの目的のために稼働する



ズズゥウウウウウウウウウウウンン



ソレはもうキノコではない。キノコに似た繊維で編み上げられた巨獣だった


地面から掘り起こされた短い足を持ち上げ、下ろす。それだけで大地は揺れた






「ちょっとー.....」

「......かわいくないのー」

「みため...かえるー?」


___能力発動『塩見周子』____


巨獣のざらついた肌が鮮やかに色づけられていく

月の光を吸い込んだような際立った緑色に


一歩進むと、ねじくれて節くれだった体表に整った毛並みが


一歩踏みしめると、モザイク状の凹凸だらけの頭部に目や口が


一歩地面を踏み割ると、全体的に丸く膨れた図体に尖った耳が




「......これでいいのー...」

「えへへー......かわいいー...?」

「...これでみーんな...」

「...やっつける、のー......」



ズズウウウウウウウウンン!!!!





奈緒「なんでお前がいるんだよ!!!?」
























『ぴぃぃぃいいいいいいいにゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!』








ボットの能力の集合体は甲高く鳴いた

終末を告げるラッパのように、高く高く


ゲーム開始179分経鐔鰹輯鐔鐔


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



乃々(ボット)「あばばばばば......なんですかこれ」


輝く羽で大災害を引き起こしている鳩

今まで見た生き物のどれよりも大きなぴにゃこら太

その両方の渦中、台風の目となっているのが目の前の幼い少女らしい



乃々(ボット)「こずえさん?ちょっと飛ばしすぎなんですけど......ついて行けないんですけど」

こずえ(ボット)「......んー.........なんでー?」

乃々(ボット)「なんでって...」


どうして攻撃の手を緩めないといけないのか。その問いはもっともだが、かといってこの方法はあまりよろしくない


特に、高森藍子という能力者を知っている以上、”やりすぎ”が何かを起こすということは察しがついている


だが、それを今のこずえに伝えるには乃々には中々ハードルが高そうだ。ボットでなければ不可能だっただろう



乃々(ボット)「飛鳥さんが言ってたじゃないですか......藍子さんは自分の能力を常に加減してたって...もりくぼたちも加減がいるんですよ...きっと...」

こずえ(ボット)「......かげんー...?」

「それって、しないとー.........どうなるのー?」

乃々(ボット)「どうって、そりゃあ.........サーバー全体がダウンしたりするんじゃないでしょうか...?」

こずえ(ボット)「さー...ばぁ?」

乃々(ボット)「だからですね......このゲームの演算処理?みたいなのを請け負ってる部分が......」

こずえ(ボット)「げー...む...」

乃々(ボット)「ほら、晶葉さんがいて...外の世界から...何してるんでしたっけ?」

こずえ(ボット)「あきはー......なかまー?」

乃々(ボット)「そういうんじゃないんですけど......ボットではないですし、生身ですよ...」

どうにもこうにも一向に理解を得られない


おそらくこずえは、この世界がゲームであるということを理解していないのだろう


こずえ(ボット)「.....あきはー?...どこー?」


乃々(ボット)「............外の世界ですよ...」


「...プレイヤーのみなさんは、この世界でどうなろうといずれそこに帰るんです」


こずえ(ボット)「............」



その言葉はこずえにとって青天の霹靂だった


例え自分が「やっつけても」みんな別のどこかに行ってしまうのだ


じゃあ自分がやっていることは何なのだろう?


なんのために?



「..................」


「......こずえさん?」


「......たりない、のー...」


「は?」





こずえは考える




こずえは顔も知らない誰かを「やっつけたい」


でもその誰かはボットと違って倒しても「どこかにいくだけ」




それではどうしたらいいか?



彼女に考えつく結論は一つしかなかった





「......みんな...とじこめる、のー...」





そしてまったく容赦がなかった








___能力発動『佐城雪美』__







乃々(ボット)「え...何するつもりですか.....」



佐城雪美、飛鳥の言うところの《黒猫電話》


予知とは名ばかりの広域観測能力


CHIHIROに侵入し干渉しうる唯一の力





現実と仮想をつなぐ唯一の能力






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

晶葉「...なんだ、これから忙しくなるって時に...」

志希「...あり?晶葉ちゃん......アタシの耳が正しければさ___」

「___鳴ってるのソレじゃなくて...」

「このコンピューターじゃない?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「...せー......の...」



現実と仮想の間をつなぐ一本道

数本の回線からなる出入り口

一匹の黒猫と共にこずえはそこに侵入し




















___能力発動『高森藍子』___





圧し潰した


仮想空間稼働180分経過

ERROR

サーバとの通信処理でエラーが発生しました。アクセスできません

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回はここまで

長らくお待たせして申し訳ございませんでした

このスレ内で終わらすつもりだったのですが様子を見て必要なら次スレたてますね

ここまでお読みいただきありがとうございました

こずえかわいいよこずえ

なんだか恐ろしいことになっちゃったな

ひぇぇ…とんでもねぇ……


無邪気さが恐ろしいぜ……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
一ノ瀬志希&池袋晶葉



「どういうことだ!!!」



”企業側”が用意したそこそこ広かったはずの部屋

今となっては縦横無尽に走るコードと、そこら中に群生したモニター類がモノクロのジャングルを形成している

それで当初より格段に狭くなった室内に私が上げた大声は思う存分反響した


志希「う~、晶葉ちゃんの不意打ち効く~」


背後でゴロゴロと白衣の猫娘が転がる音がする

立ち上がった拍子に私の方に引っかっかって転がったようだがそんなこと知るか

目の前に広がるのは不規則に並んだ液晶の窓。現実から仮想へ通じる覗き窓

俯瞰的な映像から、プレイヤーをランダムに追跡するカメラ映像、あるいはもっと間接的なもの、数値や稼働率を表示していた

いま、その全てが沈黙している。覗き窓は”向こうから”閉ざされた

いや、そんなことはいい。それは飽くまで目に見える変化だ。水面下、画面の下で起きている自体こそが深刻なのだ


「中にアクセスできんぞ!!何が起きた!」


窓だけではない、その向こうへと伸ばしていた”見えざる腕”もぷっつりと断ち切られた

私はCHIHIROへのアクセス権までも失っていたのだ

モニターはただの照明器具、キーボードはただのボタンのついた飾り物に成り果てた

何が起きたかはわかっている。メールが来て、それを開けたらフリーズした

現実にメールを出せる者はいない。だから出したのは仮想世界の住人だ

これがボットの力ということは、直前に雪美に話を聞いていたおかげですぐ頭の引き出しから取り出せた

だから今すべきは現状の早急な回復


「まずいまずいまずい...早く復旧しないと......」


私は何を見た?画面が閉ざされる前に何を目の当たりにした?


光る鳩、増殖するボット、巨大化したぴにゃこら太


なにより、一度は消失した大量の能力を一度に使用しているということ

そのどれもがとんでもない容量を食うのは明白だ。いくらプレイヤーが減ったとは言え、あんなバグを抱えていれば___




志希「___強制終了しちゃう?」


振り返ると、いつの間にか起き上がっていた志希が、それでも座り込んでふらふらと頭を振りながらこっちを見ていた

白衣の下からだらしなく剥き出された肩に、くねった髪がまとわりついている

ふざけているように見せかけてその眼は全く笑っていない


晶葉「それは考えた......実際に強制終了してもアイドル諸君に健康被害が起きるような設計はしていない」

志希「おお、やっぱそのへんの安全設計はちゃんとしてないとだもんね~」


そう、安全設計はしっかりしている。もしここに落雷が来て主電源が落ち、なおかつ予備電源が故障して使えなくなり強制シャットダウンされようと

速やかに仮想世界のプレイヤーを現実に引き上げることができる、そういう命綱に似たものが用意されている

仮に高森藍子の能力が暴走しようと巨大ぴにゃこら太が暴れてサーバーが処理落ちしようと、それで傷つくのはシステムだけ。人間は無事に済むのだ

しかしそれは飽くまで脱出口が確保されていればの話


晶葉「いま、強制終了して......安全が確保できるのは脱落者だけだ...」


晶葉「既にゲームオーバーになったアイドルは、精神が『こっち』にある......だからこの状況も問題ない」

志希「ふぅん?」

晶葉「だが......それ以外の者は今......中に取り残されていることになる」


緒方智絵里、十時愛梨、神谷奈緒、北条加蓮、三好紗南


彼女たちは梯子を外された。命綱を巻き取る装置を止められた。


そんな状態で仮想現実の電源を落とす勇気は、ない

だがこうしている今も仮想の世界では処理能力を超過しかねない事態が立て続けに起きている

いつ、向こうが処理落ちしてもおかしくない



今の状態でそうなったら..................そうなったら?



志希「それってヤバめ?」

晶葉「............」


私は黙って立ち上がると目の前で沈黙する画面に背を向けた

志希「およ?」

そのままつかつかと歩き出す。志希の横を通り過ぎた

アイドルの入ったカプセルの横も通り過ぎた


志希「どこいくのー?」


部屋の隅に置いてある私のカバンを引っつかむと力任せに持ち上げる


志希「帰るの?」


背後から放られた志希の声が背中を撫でる。私の返答はひとつだ





「そんなわけない!」




カバンから引きずり出した私のノートパソコンを持って引き返す


電源が点くが早いか即座にケーブルを取り出し端子を接続する


お飾りのキーボードならいらない。手に馴染んだこれこそが私の”腕”だ


仮想世界へのアクセスの道は未だ閉ざされたままだ。だが外から何も出来ないわけではない、はずだ



「志希、手を貸せ」

「面白そうだからいーよー」



相手はアイドルの人格と個性を詰め込んだ怪物

このままでは向こうの世界でこちらのアイドル五人と共に心中してしまう

だからこれは時間との戦いで、そしてアイドルとしても戦いだ


「いくぞ志希。」



晶葉「私たちのライブバトルだ」



仮想空間稼働182分経過

池袋晶葉&一ノ瀬志希

VS

ボット

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南



「どういうことだよ!!」



ぴにゃこら太のボットなんてどこにいた!?


紗南「いや、あれ...ぴにゃじゃなくてこずえちゃんだよ......」


後ろから声がする。紗南の手はまだゲームを落としたままだ

「はは...こんだけデカいんだもん......そりゃどこ向けてもセンサーに引っかかるわけだ...」

「言ってる場合じゃねえだろ!逃げんぞ!」


ゲーム機を拾い上げ、紗南の手を引き走り出す


『ぴいぃいいにぃいいやあああああ......』


あたしたちが逃げたのに釣られて、ぴにゃこずえ(仮)も動き出す。真っ直ぐ走れないくらいの地響きが追ってくる

走っても走ってもバカでかい影から抜け出せない。月の光に照らされたエリアに届かない

紗南「いくらなんでもクソゲーすぎ......クソゲーすぎ!!」

奈緒「二回言わんでも...」


『ぴぃいいいぃいいにゃああああああああああ......!!』


そこで耳を聾する大音声が物理的にあたしたちを襲った

突風が上から吹き付けられたように、一気に足が重くなって

足払いをかけられたようにすっ転んだ

紗南「きゃあっ!?」


あたしよりちっちゃい紗南も当然、風圧に煽られ地べたに突っ込んだ

地面に転がった拍子に視界が後ろを向く。そしてあたしらは見た

体積が膨らんでいる、いや違う


ぴにゃこら太の体の周囲を何かが飛んでいる


ぴにゃと似たような明るい緑の、

UFOのような隕石のような、そんな”バカでかいなにか”が飛んでる!?


その形状はアルファベットにも下手な子供が書いた平仮名にも見て取れて、

人工物なのにまるっきり意図の読めない


無理に説明するなら都会の広場にありがちな前衛的な彫刻、

それを遠近感が狂うくらい巨大にしたもの


紗南「...何アレ?」


あたしの隣に寝転がったまま紗南がこぼす。気持ちは分かる

あんなにデカいんだからなにか危ないってのは分かる、なのに妙に目を引く所為で警戒の仕方がわからない


あたしは”あんなの”を見たことがある

まだ忘れられない。あんなに苦しめられたんだから




















___能力発動『梅木音葉』___




アレは、ぴにゃの鳴き声を物体にしたヤツだ!!!!




次の瞬間、視界が緑色に染まり、次いで真っ黒に染まった

どうやら墜落してきたらしい






「奈緒!!」


加蓮があたしを呼んでる?

それがここでのあたしの最後の思考


ゲーム開始__分経過

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「............」


「......うんー?」


数十メートルの離れた地面に地割れと共にめり込んだ、キングサイズの彫刻もどきが役目を終えて消えていく

その下には誰もいない。

当然である、無事で済むはずがないのだから消失していて必然だ

現実ならば原型すらとどめていない衝撃である


だから、彼女の疑問は別の点。仮想世界に起きた別の変化


「......はしごー?」


9割方壊滅したこの街において、今はぴにゃこら太のみが周りを見渡せる唯一の存在



遠目には最初それは細い塔に見えた、ひょろひょろと空へ向かって伸びている



問題はその頂上が見えないこと。天から垂らされた糸のように、上を見るとどこまでも伸びているように見える


「...なにあれー.......?」


遠目には分からない。だが、遠目から見て取れることからソレもまた巨大であることが分かる


『・・・・・ゴ・・・・・あ・・・』


変化はそれだけではない

飛び去っていく鳩たちの羽音とそれに随伴する倒壊音に隠れて、誰かの声が響き渡っている

壊れた拡声器を通したような不鮮明な音質の声、廃墟の街にふさわしい廃れた声音


『ここに・・・・・・ール・・・あつ・・・』


プレイヤーでもない、ボットでもない、生物にしては大きすぎる、建造物にしては細くて長すぎる


ぴにゃの頭上、頭の上に乗っていたこずえ達はそれを無視できない。拙い口調で話し合う


「......なにあれー...」


「...みにいくー?」


「じゃあ...こずえ...いってくるねー...」




___能力発動『八神マキノ』___



仮想世界随一の情報剽窃能力を発揮し、その場にいたこずえが一人消えた

擬似的な瞬間移動であの謎の存在を間近に眺めるために

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

移動した先、こずえはまずゆっくりと視線を上にあげた

小さな少女の目には細長い箱が数珠つなぎに延々つながったオブジェに見えた


「...うんー?」


だが、はめ込み式の窓がある、移動に使われるであろう車輪がある、出入りするための扉がある

ボットはそれを見たことがない、この世界に今までなかったから

だが、プレイヤーはそれに見覚えがあるはずだ

声が聞こえる、その箱の連なりには拡声器ではなくとも”車内放送”に使うスピーカーがあるらしい


『・・・こ・・る電・・・・ルだ!!』


響き渡る池袋晶葉の声、それは外部からの干渉


『今い・・・イヤ・・・員ここ・・・れ!!』


それは今から3時間近く前、プレイヤーを詰め込み運んできた電車

現実と仮想を結びつけ安全にプレイヤーとなる彼女達の意識を運搬してきた機械

それが天から垂らされた糸となって、地面に対し垂直に突き立っていた

直接避難はさせられなくとも安全地帯、シェルターを用意する

声は繰り返し告げる。それらが外にいる彼女たちが今現在できる最大限の策




『ここにある電車がゴールだ!!今いるプレイヤーは全員ここに集まれ!!』




こずえに難しいことはわからない

だが「ごおる」とは「ぷれいやぁ」のためのものというのは分かる

だからそれを阻止しないといけないというのも考えついた



『ぴいいにゃああああ......』



八神マキノの力により得た情報が他のこずえにも伝わっていく

そして巨体が動き出す。元々プレイヤーを閉じ込めようとしていたのだから、ここで動かない訳はない



「そうはさせない!!!!」



夜闇を震わす鋭い声、言うまでもなくそれはこずえの声ではない

「ふわ?」

突然の強襲いこずえの反応が遅れる。元々早いとは言えない反応速度の彼女にこれは致命的だ

とくにその武器に対しては


閃光が空中を縫い鞭のようにしなるとぴにゃの体表、腹部のあたりを斜めに突っ切った


その巨体から見れば深い傷にはならないが、それでもぴにゃの肌は傷つき、その断面から中身の根を晒した


彼女はこずえではない、

だがプレイヤーでもない

ボットの中の一人、こずえの破壊的行進の中を能力を駆使して生き延びた強者


「これ以上の破壊活動はこの街のボットとして認められない!」


彼女は別にプレイヤーを助けるつもりは毛頭ない、

むしろ見つけ次第自分の手で決着をつけようと心に決めている

だから今こうしてこずえに立ち向かっている状況は彼女の矜持が生み出した



破壊される街

大量の戦闘員

巨大な怪獣



ここで立ち上がらなければ”ヒーロー”ではない




光(ボット)「アタシと決闘だ!!!!」



こずえ(ボット)「......なんでぇー...?」






ゲーム開始___分経過




南条光(ボット)

VS

遊佐こずえ(ボット)

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
プレイヤーズ



夢から覚めたら、また夢の中にいたんだけど...


あー、具体的に言ったほうがいい?

雲一つない、どこまでも落ちていけそうな青空の下で目が覚めた


どうやら仰向けに寝っ転がってるみたいだけど、背中は痛くないからやっぱり仮想の中かな

なんだか後頭部がふんわりとした何かに受け入れられているし

なんだか二度寝しちゃいそうな......


「紗南ちゃん、起きたかな~?」

紗南「はぁっ?!」


逆さまの顔に思いっきり覗き込まれた。アタシの青空が陰る

飛び起きそうになった、というか飛び起きたけど前頭部を柔らかい何かで受け止められる


愛梨「きゃんっ!?いきなりだねー...」


ここに来てようやく覗き込んできた顔が愛梨さんのもので、

アタシが飛び起きた拍子に突っ込んだのは愛梨さんのおっきい胸だったと分かった


紗南「.............」

「なんでアタシ、膝枕されてるの...?」


愛梨「う~ん、助けに入るのがギリギリだったせいで気絶してたから、かな?」


助け?気絶?仮想世界で?

じゃ、ここはそもそも仮想世界の地続き?

状況把握のために眼前のたわわな胸を避けて体を起こす、手をついた地面には植物の手触り


紗南「見渡す限りの野原...だね...」

愛梨「だね~?」




街はどこいったの?


手元を見下ろす

コンクリート要素なんて欠片もない、地面についた手の指の隙間から伸びているのはどれも細い草


どれも同じ植物の葉、ゲームくらいにしか詳しくないアタシでも分かる種別


紗南「...これってアレ?」

愛梨「そうだよ~?」


わざわざ名前を上げるまでもなくお互いの認識が行き来する


”この野原”から連想できる人物がほかにいない


「よーお、紗南。そっちも目ェ覚めたか...」

紗南「あっ、奈緒さんに......」


声をかけられた先にはアタシ同様、ついさっき起き上がった感じで尻餅をついて座り込んだ奈緒さんと


「......加蓮さん!?」

加蓮「あはは...おひさ...カッコつけて別れたのに、なんかゴメンね?」


奈緒さんの隣で気まずそうに笑う加蓮さんがいた。こっちは膝をたたんで折り目正しく座っている

いよいよもってアタシの頭のキャパを越えようとしている事態に直面し、アタシは自分で考えることを一旦放棄した




紗南「一体何が起きたの智絵里ちゃん!!」

智絵里「ひうっ!?」



見渡す限りのクローバー畑で

最後の一人に質問を思いっきり投げつけた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまででしてー

どんなSレアでもガチャから出れば嬉しいものでしてー


ヒーローとして最高の登場だ南条!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
プレイヤーズ



最初は愛梨さんでした



この空間に引き籠もっていると外の様子が見えないのでどうしても入口を開ける必要があるんです


それで扉を開いたところで愛梨さんが、落っこちてきました


はい、ほんとに。飛び込んでくる、じゃなくて落っこちる、です

驚きますよね、わたしの世界と外の仮想世界は変なつながり方をしてたみたいで...


しばらくは二人でお話しして、杏ちゃんのこと、きらりちゃんのこと、裕子ちゃんのこと、蘭子ちゃんのことを聞いて

外ではわたしの想像もつかない事態が進んでることを知りました


それで、その、わたしもじっとしてる場合じゃないと思って動き始めたんです


できるだけわたしの影が目立たない場所......あっ、わたしが隠れてる影ってハート型、クローバーの葉の形なので目立つんです

青空?...うん、普段は空が夕焼け色なんだけど、わたしが中に入ってる時は青くなるみたいで......え、きれい?...あ、ありがとう

とにかく路地裏の影を選んで動き回りながら様子を見て、それで加蓮ちゃんを見つけました

ものすごい数のカラスに追われてて、だから助けました

先回りして、足元からすぽっと掬い取る感じで。愛梨さんにキャッチしてもらいました


なんだかタブレットを失くしちゃたみたいなんだけど、それは見つからなかったかな...

それで、また話を聞いて......奈緒さんと紗南ちゃんは加蓮ちゃんを探してたんだよね?


ごめんなさい、わたしのせいで二人を不安にさせちゃたよね...



うん、わかった...でも...えっと......


あれ...?外で何かが...





......ゴール?




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


三つ葉ばっかりのクローバー畑と、どこでもドアを百倍お洒落にしたみたいな形の扉

その扉はどうやら智絵里と同室、もとい同じ空間にいる間は開け閉め自由で外も覗き見できるらしい


......ちなみに智絵里がいないとどうなるのかは聞いてない


サッカーボールとか一輪車とか、その他諸々見覚えのある衣服が転がってた気がするけど気にしない


そんなふうに大体の事情を把握したところで事態はまたあたしたちを置いていく


奈緒「ゴール...?」


あたしと紗南が智絵里から話を聞いている間、加蓮はいわゆる見張り係として外の様子を見ていた

相変わらず馬鹿デカいサイズで練り歩くぴにゃこら太だったがそれに対して何故かボットが戦いを挑んでいるらしい

ボットだったのは胸の赤いバッチがチラチラ光っているのが見えたからだが、どの個体なのかまでは暗くて見えん。紗南のゲーム機で調べるには遠すぎる

どんな能力なのか、こっちもこっちで身の丈以上にデカい光剣を振るっている......エクスカリバーかよ...


そして、件の落下物。あたしも覗き見たが、確かに電車が垂れ下がっていた


どこの災害地だよと思わないでもなかったが、この街の見た目は確かに被災地だった

とにかくこの状況は無視できない、なにせゴールだし、終着点だし、決着だし

そんなわけで自然、扉の周りに集まるようにしてあたしたちは言葉を交わす


奈緒「で、あれはどう聞いても晶葉の声だな......久しぶりに聞いたけど」

加蓮「そうだよねー、録音されてるみたいなカンジだけど...」

愛梨「ゴールか~、ついにたどり着きましたね~、でもどうやって近づきましょう?」

紗南「んー、このまま智絵里さんに相乗りさせてもらえばエネミーはオールスルーできるんじゃないの?」

智絵里「で、でも......扉をちょこっと開けて、外を見たりするから...絶対に安全じゃない、かな...?」

奈緒「ええっと...智絵里、今こうして扉が閉まってても移動自体はしてるんだよな?」

智絵里「は、はいっ、えっと、目隠し運転?......みたいなものなので、直進させるだけなら...」

加蓮「はー、改めて聞くとすごい能力...」

愛梨「わぁ~、楽チンですね~」

智絵里「え、えへへ.....」


紗南「でもこのまま電車まで行こうとしたらさー、ぴにゃの近く通ることになりそうだよ?」

加蓮「スルーできれば一番だけど...流れ弾が飛んでくる可能性の方が高いよね...」

奈緒「どうしたもんか......あのボットがこずえを倒してくれりゃ話は早いんだが...」

紗南「戦力差的にムリゲーだよあれは......アタシたちだって智絵里ちゃんがいなかったらデスだったろうし」


加蓮「とにかく、智絵里ちゃんはこのまま電車の方に近づいていける?」

智絵里「はい、やってみます...!」

奈緒「......それしかないかぁ...」

地面の上で暴れまわっている連中に対して地下を行くどころか、別空間を通っていく


多分安全なんだろうけど上手くいくかどうか、って点で完全に安心しきれない

ここに至るまでの2、3時間にいろんなことがあり過ぎた。そのどれもであたしは敗走している


だからかな、どうしても上手くいくビジョンがわかない。どうしたもんかな.....


奈緒「つーか、待てよ...」

紗南「?」

奈緒「うろ覚えだけどさ...このゲームの勝利条件って、殲滅戦じゃなかったか?」

智絵里「せんめつ、戦?みんなやっつけるって...こと?」

加蓮「ちゃんとは覚えてないけど、そういやそのために戦ってたんだっけ......」

愛梨「それって~...へんですよね~?」

奈緒「そーだよ、なんでゴールなんてもんを晶葉が用意するんだ?タイムアタックってわけでもなさそうだし」


まとまりかけた話に水を差すつもりはなかったが、あたしの言葉に全員が静かになっちまった

どこかから吹いてくる風に、クローバーがそよそよ揺れる音が聞こえそうだ

かといって黙りっぱなしじゃ話は進まないが、最初に口を開いたのはあたしじゃなかった


紗南「.........トラップかな?」

加蓮「ん~、でも晶葉の声だし、電車もリアルだよね...」

紗南「能力で晶葉ちゃんの声をコピーしてるとか?」

奈緒「ぴにゃと同じようにして電車も呼んできたとか、か?」

智絵里「うぅ......そ、そんな......もう何を信じたらいいんだろ...」

愛梨「う~ん、ニューウェーブのボットさんもいろーんな能力でしたから......ないとは言えないですね...」

加蓮「晶葉が管理者権限みたいなのでアクセスしてきてるってのは?」

奈緒「能力の線を除いたらそこら辺か...でもなんで今更...」


紗南「あっ!!ちょっと待って!」


あたしの隣に座っていた紗南が急に声を上げた。何故かこめかみの辺りを揉んでいる

何かを思い出そうとしているみたいに


智絵里「紗南ちゃん、どうしたの?急にそんな」

紗南「アタシたちココ...つまりこのゲームに来る前に晶葉ちゃんに説明されたじゃん?」

奈緒「あー、そうだったな...結構直前だったけど...」

愛梨「そういえば~、でもそのあとすぐに機械に入れられたせいでほとんど忘れちゃいましたよねー

紗南「うん、今思い出したんだけどあの時さ、晶葉ちゃん言ってたんだよ」


「”人体の安全面を考慮して、一定時間でゲームを終了する”みたいなことを」


加蓮「あっ!」

奈緒「言ってたような...」


いや、言ってたかどうか完全に保証はできない...あたしらは言ってしまえば「寝落ち」するように仮想世界に来た

その少し前の記憶には正直自信がない...少なくとも晶葉からの提案を断らなかったんだろうとは思うが...

でも少し考えれば分かる、いくらなんでも精神をゲームに飛ばすようなトンデモ装置を無制限に使い続けて体にいいわけない

あたしでも考えつくこと、晶葉だって折り込み済みだろう


愛梨「ん~~~~~...?」


今度はあたしの向かいにいる愛梨が額を指でグリグリしながら眉をしかめた

愛梨「じゃあやっぱりゴールしたほうがいいんですかね~?」

奈緒「だな......ゲームのやりすぎは良くないし」

加蓮「まぁ、体壊しちゃうよりはゲームオーバーの方がマシだしね......智絵里ちゃん、現在地分かる?」

智絵里「え、えっと...」


扉の正面で女の子座りしていた智絵里が腰を浮かせてドアノブに手を伸ばす

どこか上品な音と一緒にノブが回り薄く扉が開く

外の世界が薄く薄く切り取られ、隙間から騒音と暗闇が溢れ出した


















こずえ(ボット)「みーつけ...たー」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「きゃああっ!?」

「智絵里ちゃん?!」


智絵里がほんのり開いた扉が向こうから跳ね除けられる

底抜けに明るい青空の下、扉の外枠に沿って四角に切り取られた夜空

そんな夜空の中のちっぽけな人影、白みがかった髪が闇色の背景によく映える



こずえ(ボット)「......ここどこー?」



ぼんやりまどろんだ視界を見ているとひょっとしたらあたしたちは映ってないのかもしれないなんて思うが、

例えそうだとしても目の前のこの幼女は危険すぎる



奈緒「...きやがった」

智絵里「どうしてわ、わたしの能力の隙を...」

紗南「やっぱり何度見てもこずえちゃんだけ表示がバグる...」



「んん~~~......」

こずえのやつは暢気に髪に手を突っ込んで痒いところをポリポリしてやがる

加蓮が吹き飛んだ智絵里を抱き起こしているのを横目で確認しつつも正面を警戒する

体の後ろに隠したMP3プレイヤーの画面はとっくに目覚めてる、藍子を倒した分で貯金もある!



紗南「ねえ、こずえちゃんの髪、勝手に動いてない......?」

愛梨「...ん?なにか出てきましたね~?」




でも、それでも



「ふわぁ......」




___能力発動『古賀小春』___





入道雲のように膨らんだこずえの髪の中に___なにかいる!!

そいつは短い手足をふるって自分の体を引きずり出した

その寸胴体型はどうみても髪の体積どころかこずえの体よりも5倍はでかい

つまりあたしたちより倍以上デカい!!

その虚ろな双眸が高い位置からこっちを見下ろす

『ぴにゃっ』

愛梨「あ~、またぴにゃこら太ですねぇ...」

紗南「恐竜サイズの?!」

さすがに”外の”とは比べるまでもないが、かといって太刀打ちできるサイズじゃねぇ

これはちょっと規格外だろおい......!!



こずえに受け継がれた能力は少しずつ歪んでいく


カラスは鳩に、天使の翼は羽毛に、アイテム変換はボット増殖に、そして爬虫類は鈍重な獣に


古賀小春の能力は初期設定として「ヒョウくん」がボットの小春とセットであるからこその能力

しかしこずえにそんな分かり易いセットはいない、こずえに付き添うのは彼女の中で膨れ上がった能力だけだ


だからこそ「コレ」がここにいる

『ぴにゃっ、ぴにゃっ』

だから今、大型のぴにゃこら太がクローバー畑を蹂躙している


紗南「かっ、回避回避、かーいーひー!!!」

愛梨「言われなくてもっ!!」


緑の怪獣は短い手足で這うように移動し、プレイヤーを追う

四つん這い、それは人間以外の動物にとって最も早い移動方法だ


その速さで五人を分断する


愛梨、紗南、加蓮が扉に近い側に

奈緒と智絵里からはその三人も、そして扉も見えなくなる


こずえはいつの間にかぴにゃの背に乗っていた


「れっつ...ごーごー...」


丸まった巨大な腹部が地面と擦れ、そこに生えたクローバーを根絶やしにしていく

何の抵抗もなく、他のボットや凛に対して見せた獰猛さは欠片もない

ぴにゃが踏みにじったのは群生した植物だけではない



智絵里「あ...ぁ......」




新緑の世界が壊されていく。智絵里の世界が消えていく

無残な光景を前に膝をつく、仮想世界でなければ涙を流していたかもしれない



奈緒「っておいおいおいおいいい!!智絵里!能力でなんとかできないのか!」


智絵里にはおそらく奥の手がある。奈緒はそう推測していた。しかもボットの残骸からして確信に近い

崩れかけた姿勢を後ろから支え、そのままぴにゃから離れるように小柄な体を引きずっていく

後ろに体が引かれるにつれ垂れ下がった指の隙間を、三つ葉がざわざわと流れていく

だが、いつまでもぼやぼやしてられない。奈緒の呼びかけで濡れた瞳が焦点を取り戻す


智絵里「......わたしの...」

奈緒「うん、なんだ?」


智絵里「...わたしのもう一つの能力は、わたしがこの中にいるときは使えないんです......」


奈緒「......マジかよ!?」

智絵里「ひぅっ!?」


愕然とした拍子に声を上げてしまい、間近にいた智絵里が萎縮する


奈緒「あっと、すまん智絵里!...いきなり大声あげて」

智絵里「......いえ、いいんです...わたしの能力が不自由なせいで...」

奈緒「いや、いいんだ!!」

「逆に言えば智絵里さえ逃せばアイツは倒せるってことだろ!」


智絵里「えっ、えっ!?」


奈緒は智絵里の能力を具体的には知らない。それでも信用することに決めた

抱えていた小柄な体を精一杯の力で引き起こす


奈緒「智絵里、合図したら加蓮のとこに走るぞ...!」


そしてまず奈緒が能力を使った


>ノーマルボット
___________

高森藍子

強者撃破報酬  6000MC
___________

計7380MC



奈緒「よっし!藍子でかなり儲かった!これなら対戦車砲だって___!」

__________________

ハンドガンA 800MC  在庫なし

ハンドガンB 800MC  在庫なし

ハンドガンC 800MC  在庫なし

マガジンA  400MC  在庫なし

マガジンB  400MC  在庫なし

マガジンC  400MC  在庫なし

ナイフ    300MC  在庫なし

ライフル   1000MC  在庫なし

対戦車砲  3000MC  在庫なし

手榴弾    600MC  在庫なし

自転車    500MC  在庫なし

戦車    15000MC  在庫なし

砲弾     3000MC  在庫なし

ジャンク品▽ 50MC  在庫あり

__________________


奈緒「品切れしてるじゃねえか!!」

智絵里「ひゃう!?」

こずえ(ボット)「なにー?」




___能力発動『大原みちる』___

___能力発動『浜口あやめ』___


アイテムを見抜く能力と、アイテムを無効化する能力

プレイヤーたちは知る由もないが、仮想の街では今その二つを使った二次破壊が起きていた

第一次破壊が目に見えるオブジェクト、ボットの大量破壊

第二次破壊が通常ならボットには破壊不可能に”設定”されているアイテム類の除去

この世界にプレイヤーを閉じ込め、さらにその寄る辺を簒奪する



結果として”仮想空間内の任意のアイテムを取り寄せる”という奈緒の能力はほぼ封じられた


奈緒「あぁああああ、どういうこった...これぇ!」



加蓮「奈緒!!!!」


内心では多分に信用を置いていた力を奪われ動揺する奈緒に鋭い声が飛ぶ


智絵里「奈緒さんっ!こずえちゃんがこっちに....!」

ツッコミ気質なのか本気で焦っているのか奈緒の大きい声は、愛梨たちに向いていたこずえの注意を換えた



こずえ(ボット)「........なーおー...」


のそりとした動きで大きな影が二人を包む、それは加速的に濃さを増していく



奈緒「走れ!!」

智絵里「はっ、はいぃ!!」


あまりいいとは言えない足場を思い切り蹴り付ける


奈緒「加蓮のところだ!加蓮を追え!!」


必死に呼びかけながら視線は外さない。智絵里を置いてぐんぐん速度を上げていく



しかし、地面を蹴ったのは奈緒達だけではない、こずえ達もだ



「...とべー......とべよー」



ズンッ!!



___能力発動『大石泉』___



少しばかり開いていた距離が一気に縮まった


地面の弾性力を改竄し、ジャンプ台のようにたわませ、巨体が跳んだからだ


自分の倍以上ある図体がさらに倍以上飛び跳ねるという冗談のような光景に目がそらせない



智絵里「あぅっ!」

不自然な方向に視線を向けていたせいで智絵里が転んだ


そして転んだ先にはすでに奈緒がいた、さっきまで加蓮がいた地点に座り込んでいる


あと2、3秒後には二人のいる地点ピッタリにぴにゃが着地するだろう




奈緒「よく来た智絵里!」

智絵里「えっ」


しかし奈緒はそんなことにはもう頓着しない

表情に安堵すら浮かべ、智絵里の手に”ソレ”を手渡した


「......どーん...」


そんな風に発されたこずえの掛け声の百倍の音量とともに

ぴにゃこら太が二人のいた場所に全体重をかけてのし掛かった






肌を撫でてくれてるみたいな柔らかな草花から離れて、硬い地面に足をつく


いつぶりだろう、この街に立つのは


凛ちゃんを巻き込んで、どこかおかしくなってた自分を自覚して

怖くなって能力の中に引きこもっていた

でも、愛梨さんが来て、加蓮ちゃんが来て、みんなが来て

わたしのうっかりから全員が逃げ惑うことになって



奈緒さんと一緒に潰されかけて



それで___それで?







「ふぅーー......助かったぜ、加蓮」

「それはどうも、......まぁユニットだしね、当然の職務だよ」

「でも加蓮さーん、アタシのゲーム機に落書きするなんてひどいよー」




そうでした、最後の局面で先に脱出していた加蓮さんの置き土産


ネイルのアイテムで......ワープ?したんでした


周囲を見渡すとわたしが最初に入ってきたときにあったものは何も残ってませんでした


空の明るさも、冷たい建物も、緊張の滲んだ静けさも


それに、月も


愛梨「あれ~、お月さまが欠けてますね...月食?」


智絵里「...わたしは夜になる前に隠れちゃったから...」







『ここにある電車がゴールだ!!今いるプレイヤーは全員ここに集まれ!!』




外に出るとより一層大きく聞こえる晶葉ちゃんの声明

リピート再生みたいですけど、ここまでくると罠だと考えるのは無茶な気も...

それになんだか、晶葉ちゃんの声......ものすごく、何かを怖がってる?

罠や嘘で出せそうな声じゃない気がします、わたしが臆病だからそう思うのかもしれませんが


智絵里「い、一度電車の方へ行ったほうが...」


恐る恐るみんなに提案してみる。今まで引き籠ってたわたしの意見が聞き入れられるとは思わないけど


加蓮「あー、そだね」

奈緒「下からその予定だったしな...」

愛梨「ですねー、ちょっと智絵里ちゃんのおかげでいっぱい休めましたし~もうひと頑張りいきましょ~」

智絵里「えっ」

紗南「どしたの?自分から提案したのにそんな驚いて...」


なんだか簡単に話が進んじゃいましたね...


愛梨「あそこでボットとぴにゃが戦ってるあいだに行っちゃいましょう」


愛梨さんがと多くを指差しながら言いました、確かに遠くてよく見えませんが何かが戦っています

そのおかげでぴにゃこら太さんは電車から注意がそれてるみたいですし、やるなら今、ですよね


空へ向けていた視線を地面に下ろしました



どうやら”もう消えちゃった”みたいですね。

わたしの影の中に入り込んだこずえちゃんたちは

半端なとこだけど今回はここまでです

次回、ラストバトル


智絵里怖いぞ……

次回更新は新スレ立ててぱぱっとやります

ラストバトルのあとにエピローグを更新して締めるので

質問とか「このシーンが分かりづらい」とか説明の要望があったら埋めついでに書いてってください

ではまた数日後

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom