魔王の娘「四天王とデートする」(120)
魔王の娘「こちとら人間と戦争なんかしてる場合じゃねえんだよ」
勇者「えっ」
魔娘「大体こっちはこの星一つ外敵から護ってる訳よ」
魔娘「ウチらで内戦してる時じゃないの、分かんないかな」
勇者「何を言って……」
魔娘「特にここ最近は襲撃も激しくなってきたってのに、お前ら人間とヤってる場合じゃないんだよね」
魔娘「あんたらはレベル上げか何かに躍起になってるみたいだけどさ」
魔娘「彼らにだってちゃんと命があるわけよ。復活もタダじゃないんだよ?」
魔娘「出費が嵩むんだよ、この損失どうしてくれんの?」
勇者「いや知らんが……」
魔娘「大体さぁ、人様のうちに断りも無く入るとか教育がなってないよ」
勇者「勇者ですし」
魔娘「ハァー、口を開けばやれ一族の血だの特権だのほんと人間性が無いよね」
魔娘「もういいや。お前ら、この野郎をつまみ出せ!」
モンク「おうおう、兄ちゃんよ。いい度胸しとるやんけ」
竜「主君の機嫌損ねるたぁふてえ奴め!」
犬男「調子こいてんじゃねぇぞコラ……」
鳥乙女「覚悟出来てんのか?」
勇者「え、なにこの事務所……」
勇者「アッー!」
娘様「……なにこれ」
竜「我が社のスタジオで作った『人気無き戦い』のPVです。雰囲気出てるでしょう?」
娘様「竜さん何やってんの……確かうちの城の中で起業したんだっけ」
娘様「仕事目当てに入ってくる人達が増えたのはいいけど」
竜「はい、軍の規模が大きいのは悪い事じゃないでしょう?」
竜「それに我が軍の収入源はこちらがメインですからね」
竜「もっと企業拡大して、世界を目指しませんと」
娘様「それはそうなんだけどさぁ……」
娘様「この魔王軍グッズとか……出来はいいけど、需要あんのこれ?」
竜「はい、最近は小説化、漫画化、ついにはアニメ化までして色んな方々に魔王軍を知ってもらう事ができたんです」
竜「そのお陰で、魔界はもちろん地上に地底、天蓋の方々にも魔王軍は人気を博しているんですよ」
私は魔王の娘。
地上の住人と魔界の住人の長きに渡る戦いの最中に生を授かった女の子。
ダディの命令で私も魔王軍の一員で戦う事になりました。
ダディは私に国境線の城と四天王をくれました。
娘様「……しかし平和だなぁ」
魔王軍サイドと王国軍サイドが戦ってる所は見たことがありません。
王国は勇者を何度かダディに差し向けているようですが
勇者とダディが出会うと、楽しくワイワイ雑談して帰って行きます。
……何やってんの?
娘様「……仕事しよっと」
モンク「おす、娘様。今日の運送終わりましたよ」
娘様「ん、ご苦労様。向こう、ちゃんと仕事してた?」
モンク「いえ、魔王軍総出でピクニックに行ってました」
娘様「私も呼べよ!」
鳥乙女「ただいま娘様、不要なダンジョンの改装終わったで」
娘様「ん、ご苦労様。どう? 手強いの出来た?」
鳥乙女「モーマンタイやで。持ち込み不可能の99階立てにしてやったわ」
娘様「不要なダンジョンが不思議なダンジョンになって問題だらけに!」
犬男「マイロード。掃討作戦が終了した」
娘様「ん、ご苦労様。……何の話?」
犬男「領空に侵入した小型偵察機を……」
娘様「国際問題!?」
モンク「今日は疲れたぜー」
モンク「おい鳥乙女、ポーションとってくれよ」
鳥乙女「ポーションは酒感覚で飲むもんやないで……」
鳥乙女「といいつつ、はいハイポーション」
モンク「お、ありがてぇ」
鳥乙女「ちなみにこれレシピね」
モンク「なになに、チオ硫酸ナトリウム……」
モンク「SANチェックいいすか」
鳥乙女「1d10/1d100からやで」ニヤリ
娘様「えいせいへーい!」
モンク。
私に与えられた第一の四天王。
その強靭な肉体と拳は幾多の神々をぶん殴って来た。
ちなみに、人間である。
モンク「ゲッ、肉切らしてんのかよ……」
モンク僧の癖に肉をたらふく食うせいで軍一のピザデブです。
三度の飯や女より肉、肉、肉!
大陸の食糧問題に不安が残ります……
モンク「ちょっと牧場行って来る」
娘様「ちょっと感覚で牧場経営者を困らせないであげて!?」
竜「娘様、こちら本日の収支報告書です」
娘様「これ全部読むのー? めんどくさいよう」
竜「めんどくさくても目は通しておいてください、主君の役目です」
娘様「はーい」
娘様「……支出金が、給金税金肉肉肉酒肉肉肉肉維持費肉肉肉……」
娘様「肉がゲシュタルト崩壊して来たぞ。ぐぬぬ、収入は……」
娘様「貝、酒、軍手、冷蔵庫、魔王軍フィギアにポスターに薄い本……?」
娘様「竜さん、この薄い本って……何?」
竜「ナンノコトデショウネ?」
娘様(私の軍は大丈夫なのか……)
竜さん。
私が拾った第四の四天王。魔王軍四天王の一人とは従兄妹らしい。
ドラゴンの状態と人間の状態とを制限付きで変身できる。
戦力としては頼りないけど……
竜「……私が描いたんじゃないですよ」
娘様「あーもう分かったよ、ハイこれ持ってって」
我が軍と魔王軍の金庫を管理し、大陸の経済をも回す裏世界の覇者。
それが彼女の本当の姿なのだ。
……商品のラインナップは珍妙だが。
竜「じゃあちょっと貝の養殖してきますね」
娘様「私の城がどんどん知らないことだらけに……」
鳥乙女「今日は何にしようかなー」
犬男「……」
鳥乙女「おっしゃ、今日はネクロノミコンにしとこ」
犬男「……」
鳥乙女「んっふふー……今日という今日は読破したるで、覚悟しーや」
犬男「……」
鳥乙女「と思ったけど、未読のラノベが溜まっとったの忘れてたわ……」
鳥乙女さん。
第三の四天王。鳥なのは顔だけの鳥人族さん、
ハーピーとかセイレーンとかじゃないの。
自称、属性地獄・混沌。得意な武器は爆弾。
鳥乙女「と思ったけど正直コミックスの方が面白いねん」
かなり自由奔放だけど、その正体は世界を一つ任されている高位の神様……
の、化身とまで言われている。
ところで私は彼女の実力を疑っていない。
鳥乙女「と思ったけど実は聖書読んでる途中だったんや……」
娘様「目移りし過ぎなんですが……」
娘様「で、犬男さんは何して……」
犬男「……zzz」
娘様「あ、寝てたのね……」
犬男さん。
第二の四天王。ライカンスロープとかじゃない、純ワードッグ。
モンク以上にガタイが良くて筋肉質。
その腕力から繰り出されるパンチは小惑星を砕く程の威力だ。
犬男「……zzz」
基本的に口数は少ない……はずだ。紳士的であり、しかしその目は
獣の眼光を湛えている。常に強者との戦いを探し求めている。
私の軍に居るのも、私が強い奴を引き付ける力があるから……だそうだ。
犬男「zzz」
娘様「こうして寝てる分には普通の犬……」
犬男の下半身「……」
娘様「……には見えないよねぇ」
娘様「うん、今日も皆よく頑張った!」
娘様「明日はお休みだから、みんなと遊びに行こうと思う」
娘様「そうと決まれば、計画を立てなくっちゃね」
娘様「誰から誘いに行こうかな?」
おつ
娘様「竜さーん、ここかな?」ガチャ
竜ちゃん「娘様?」
娘様「あれ、メイド姿ってことは掃除中だった?」
竜ちゃん「ええ、掃除の際はこっちの方が動きやすいですからね」
竜ちゃん「ところで、何かご用でしょうか」
娘様「明日みんなで遊びに行こう!」
竜ちゃん「また唐突ですね。いいですよ、どちらへ?」
娘様「明日の気分次第!」
竜ちゃん「流石です娘様。先程計画を立てると自己申告された気もしますが、気のせいでしょう」
竜ちゃん「まぁ明日は休日。社員やバイトの方々が居ないので、城が空いてしまいます」
竜ちゃん「セキュリティの方は私で考えておきましょう。娘様はこれから他の方にも提案を?」
娘様「うん、次はモンクの所に行くよ。じゃあね」
竜ちゃん「……さて、お弁当でも作っちゃいますかね?」
娘様「モンク! モンクは何処だ!」
モンク「はいどうも、モンクですよ」
娘様「よし、明日の予定を空けておけ! 遊びに行くぞ!」
モンク「あー、いいですね。特に用事もありませんし、行きましょう」
モンク「で、何処へ?」
娘様「明日の気分次第」
モンク「今決めろ」
娘様「だけどこの辺で遊べるとこなんてあったかしら」
モンク「王国まで行けば公園や遊園地がありますけど」
娘様「うーん、敵対関係にある王国に入りたくないなぁ」
モンク「注文が多いですね。あ、そうだ。今一番ホットなおもしろアトラクション俺知ってるんですよ」
娘様「ほぉ、言ってみろ」
モンク「ここです」
娘様「……は?」
モンク「この城ですよ。城門を潜ってまっすぐ行けば玉座の間」
モンク「だと思っていたのか?」
娘様「なん……だと……?」
モンク「貝の養殖地、酒造ライン、軍手紡績工場、冷蔵庫生産ベルト、スタジオ、漫研、その他……」
モンク「竜に配分された部屋でこれだけあるんですよ」
娘様「そ、そういえば……私の城は一体どんな構造になってるんだ!?」
モンク「俺が修行する場所は決まって林の中にある寺……」
モンク「しかし俺は自分の部屋で修行をしている……」
娘様「えっ」
モンク「さらにその林は迷いの林……気が付けば同じ場所をぐるぐる回り、出られる保証も無い」
モンク「林には川が流れてるんですけど、はい。上流にその寺があるんです」
モンク「ちなみにそのまま上流に登って行くとやがて滝があって山があるんですよ」
モンク「そこには岩魚とかいるんでたまに修行がてら焼いて食べたりもするんですけど」
モンク「いや~、たまに喰う魚もいいもんだと思いましたね、はい」
モンク「そして、寺の大きさとこの城の大きさは同じくらいなんですよ」
モンク「俺の部屋凄くないすか?」
娘様「……」
娘様「犬男さん、犬男さんや」ユサユサ
犬男「……?」
娘様「犬男さんの部屋って何処?」
犬男「……こっちだ」スタスタ
犬男「ここだ」
娘様「廊下の端の犬小屋……」
犬男「俺には入口が狭いから、普段は玉座の間に居る」
娘様「そういうことは早めに相談しようよ……」
犬男「俺にはどうでもいい事だ」
娘様「犬男さんにはいいかもしれないけど、主君としてこれはどうかと思うって!」
娘様「こん中どうなってんの……」ヒョイ
犬男「不思議のダンジョンだ」
娘様「ここもか!?」ガバッ
犬男「ちなみに犬小屋はあと3つある」
娘様「なんで? で、そっちは何があんの?」
犬男「たまに流木が流れ着く」ヒョイ
娘様「何処から!?」
犬男「アーカンソー州ミシシッピ川」
娘様「アメリカじゃねーか! しかもやたら限定的!?」
娘様「私の城は四次元ポケットか何かなのか……?」
鳥乙女「あ、娘様。何してはるん」
娘様「鳥乙女さん。そうだ、鳥乙女さんの部屋も見せてよ」
娘様「先行視察を兼ねておきたいの」
鳥乙女「刺殺?」
娘様「うん、漢字が違うよね」
娘様「明日、みんなで遊びに行くからその為のね」
鳥乙女「へ? あたしの部屋にですか?」
娘様「うん? そうだよ?」
鳥乙女「ま、まじですか?」
娘様「あれ?」
鳥乙女「あ、あたしの部屋はやめた方がいいんじゃないですかねぇ……?」
鳥乙女「ちょっと特殊なんで……」
鳥乙女「あたしの部屋は踏み込んだが最後、何が飛び出すかわからんし」
娘様「まぁまぁ、ちょびっと見せてーな」
鳥乙女「せやかて……」
鳥乙女「……しゃあない、サニティーだけかけておくで」シャラン
娘様「サニティー?」
鳥乙女「狂気状態の回復、予防の魔法や」
鳥乙女「SAN値が幾ら減っても狂気に走らん、ごっつええ魔法やで」
鳥乙女「しかしSAN値減る」
娘様「地獄行くみたいなノリで言わないで!?」
鳥乙女「ほな行ってみましょか」
鳥乙女「ここや……」
鋼鉄の処女もどき「……」
娘様「これ地獄への入口の間違いじゃないの?」
鳥乙女「惜しい、2点」
娘様「やたら点数低いね!?」
鳥乙女「混沌への入口やでぇ……」
娘様「どう違うのか分からん……」
鳥乙女「ほな、アイアンメイデンの中入りや」
娘様「やっぱり地獄への入口だー!?」
鳥乙女「死にはせんからはよいけ」
娘様「……何ここ?」
鳥乙女「混沌……まぁ、分かり易くいえばカオスさね」
娘様「難易度変わってないと思うんですけど」
鳥乙女「カオスは全てに通じてるんや」
娘様「いや知らんが……」
娘様「大体何も無いじゃない。ただ見渡す限り地平線が広がっ…て……」
鳥乙女「そらそうよ、ここは宇宙にも等しい場所やで」
鳥乙女「果てが見えるわけ無いやろ」
鳥乙女「お、始まりそうやで」
娘様「え、何が?」
鳥乙女「極超新星(ハイパーノヴァ)」
娘様「さあ逃げようすぐ逃げよう早く逃げよう」
娘様「死にはしないって……言ったじゃないですかぁッ……!」ゼェゼェ
鳥乙女「そんな珍しいことや無いで? 大宇宙では星の生まれるスピードと死ぬスピードは半々やし」
鳥乙女「今も何処かで超新星爆発が……」
娘様「あ、あんな部屋にいつも居る訳?」
鳥乙女「せやで。ここはまだパターンある方やから慣れると対策できる」
娘様「どう慣れろと?」
鳥乙女「習うより慣れろって言うやん?」
娘様「慣れる前に死にます」
鳥乙女「蘇生魔法は一通り使えるで~」マハマーン
娘様「やっぱり死ぬの前提なのね……」
娘様「これは命がけの遠足になりそうだぞ」
翌朝―――
娘様「と言う訳で、予てより伝えたとおり鳥乙女さんの部屋に遊びに行こう!」
鳥乙女「ぱちぱちぱちー」
竜「えっ」
モンク「は?」
竜「あれ、遊びに行くんじゃ無かったんですか?」
娘様「言ったよ?」
モンク「どうしてこうなった」
犬男「その話を聞かされなかった俺が説明しよう」
『遊びに行くよ!』
↓
『お部屋みせて!』
↓
『お部屋に行くよ!』
犬男「ざっくり」
竜「あー…なるほど」
竜「こりゃモンクの所為だわ」
鳥乙女「モンクの所為やねー」
モンク「そうだぞモンク!」
犬男「やはりモンクだったか」
娘様「おいコラモンクコラ」
娘様「なんだー、勘違いかー」
鳥乙女「勘違いならしゃーないね」
娘様「じゃあどうしよ。また行くところ考えなきゃだ」
娘様「明日も休みだから、今日は解散。自由にしていいよ」
モンク「じゃあ俺、焼肉屋行くから……」
犬男「俺は……二度寝する」
鳥乙女「ありゃ、主神に呼ばれてもうた……ほな、あたしはこれで!」
娘様「……あーあ、今日他にやる事無くなっちゃった」
竜「ふぅ、仕方ありませんね。今日の所は私の会社を見学でもしませんか?」
娘様「いいの!? あ、ちょっと待って」
娘様「要するに、養殖地とか製造工程とかのことだよね……?」
竜「いぐざくとりぃ……」
娘様「発音下手過ぎない?」
竜「めんごめんご」
娘様「それ謝ってないよね!」
娘様「……まぁ、一回見ておくのもいいかな」
竜とデート (社会見学編)
※表現の一部に不適切な文章があります。
竜「我が社が誇る軍手製造ラインです」
竜「品質は最高級、一切の妥協を許しません」
娘様「凄い……素材が違うのがわかる」
竜「当然です。設計から素材まで全て私が管理してるんですよ」シュル
竜ちゃん「安心と信頼のメイド・イン・ドラゴンですよ♪」
娘様「メイドだけにか……」
竜ちゃん「……それはよろしいのですが」ニョキ
竜「とにかく我がMadeInDragon社製の商品は他者の追随を許しません!」
竜「お次は養殖場に行ってみましょうか」
貝「あわびあわびあわびあわび」
貝「あわびあわびあわびあわび」
竜「こちら、養殖場になります。主に扱っているのは」
娘様「見ればわかる」
竜「そうですか。じゃ次行きましょう次」
貝「あわ~び!?」
竜「だってあなた達について語る事なんか無いですよ?」
貝「あわ~び……」
娘様「そこはかとなくシュールな……」
竜「こちら、冷蔵庫になります」
娘様「ラインナップについて改めて問い質したい」
竜「嫌ですねぇ、私は需要の無いものは供給しませんよ」
娘様「それにしたってもう少しあるでしょ……」
竜「そして、私が開発したご奉仕型セキュリティー兵器、初代冷蔵子がこちらになります」
初代冷蔵子「ドウモ、レイゾウコデス」
娘様「喋った!?」
竜「喋りますよー、ご奉仕型ですからね」
竜「そして二代目がこちらになります」
二代目冷蔵子「どうも、冷蔵子です」
娘様「わ、人間味溢れてる!」
竜「はい、人間がアテレコしてますから。ただし初代より機動性に優れますが、パワーは劣ります」
娘様「で、何処が冷蔵庫?」
竜「トランスフォームですよ」
竜「私が竜型と人型を変われるように、彼女達もTFが可能なんです」
娘様「ふーん……」
娘様「で、お値段は?」
竜「結論を急がないでくださいヨ」
竜「そして最新型がこちらになります」
新型冷蔵子「どうも、冷蔵庫です」
娘様「んー……竜さんよ」
竜「なんでしょう?」
娘様「冷蔵庫を人型にしてなんで売れると思ったの……?」ゴゴゴ
竜ちゃん「私がそういう趣味じゃ悪いですか……?」ゴゴゴ
娘様「オーケイ、まずはそのチャカから手を離すんだ。穏便に済ませようぜ……」
竜ちゃん「同意ですわ……さて」
竜「この子にはオプション(別売り)があるんですよ」
娘様「オプション?」
竜「はい、まず電子レンジ(600W)機能です」
新型「ちーん(笑)」ホッカホカ
娘様「おおっ、こいつできる!」
竜「さらに蛇口を付ければ有能カランの出来上がりです」
新型「じょぼじょぼ」
娘様「うわぁ、すっごい便利」
竜「これは人型の時にもつけられるんですよ~」
新型冷蔵子「!」ピク
娘様「わーっ、何処に付けてる!」
竜「見て分からないんですか?」
娘様「くっ、やめーい!」ズボ
新型冷蔵子「きゃうんっ」
娘様「わーっ、わーっ!」
竜「初心い初心い……若いですねぇ」
娘様「何言ってんだばかぁ!」
新型冷蔵子「また来てくださいね~」
娘様「……あの痴態機能は外しておけな?」
竜「しょうがないですねぇ、結構な力作だったんですけど」
娘様「おばか! 歩く猥褻物陳列罪なんか売ったら私が風評被害に遭うだろ!」
娘様「この歳で前科一犯になりたくないよ!」
竜「ちなみに彼女には20000体の姉達(おねえちゃんズ)がもう居たり……」
娘様「うわー、なんか独自のネットワーク繋いでそう……」
竜「他にも機能を紹介したかったのですが、オフィスの方の紹介もありますのでね」
娘様「オフィス……漫画……スタジオ……うっ、頭が」
竜「はいこちら、MadeInDragon社ことMIDハウスに」
娘様「略さなくていいから!」
竜「総社員数700人、月収は最低で200万円、出勤必要時数は週5日」
竜「時間厳守をモットーに、夜勤・残業も無しのピュアッピュアにホワイトな企業でっす!」
娘様「おおっ! 地味に魔王軍より高収入!」
竜「ただし労働環境はこちらのようになっております」ガチャ
血塗れのデスク「……」
投げ散らかされた包帯や絆創膏「……」
カビの生えたタオル「……」
娘様「……は?」
竜「いやぁ、今週も私の見ない間に随分と大変なことになってますねぇ」
娘様「他人事!?」
竜「掃除はしろって言ってるんですけどねー」
竜「たまにムキになり過ぎて、時間以上に労働する人もいるから困るんですよ」
竜「折角ホワイト企業なのに本末転倒ですよねー」
娘様「監督ー! 監督はいらっしゃいませんかー!?」
竜「仮にもオフィスの入口なんだからもう少し丁寧に扱ってくれてもいいですよね~」
竜「ちなみに2階はもっと凄惨たる有り様」
娘様「知ってるなら何とかしろよ総支配人!」
竜「私に言われても……大丈夫です、休日にはお掃除さんが来ますから」
娘様「お掃除さん?」
竜「なんでも、その道のプロらしいんでほっといて平気でしょう」
竜「来たようですね」
ガチャリ
冷蔵子「あ、どうも冷蔵子です」
娘様「またお前かー!?
竜「さて、我が社は出版の方も力を入れております」
竜「今週の月刊中日は……」
娘様「週売りなのか月刊なのかはっきりしろよ」
竜「ほら、今刊は特に人気作が目白押し!」
竜「『龍の如く』、『ダンジョンズ&タイガース』『ドラゴンファンタジー外伝』」
娘様「おう、喧嘩売ってんのか?」バチバチバチ
龍「ねーちゃん、ここは初めてか? ケツの力抜けよ」バチバチバチ
娘様「出版の差し押えを待て!」
竜「そうは言いますが、内容は各々のオリジナル」
竜「ストーリーをご覧ください! 多少のインスパイアリスペクトはあれど、基本がしっかりとした話達です!」
竜「それでいて、4コマ、萌え、王道、邪道が揃う夢書籍ですよ! 売れるに決まってるじゃないですか!」
娘様「うっ……」
竜「お陰様で毎号8桁部数突破するマガジンなんです! お陰様なんです!」
娘様「血涙!? その商魂を軍事に活かせよ!」
竜「しょうがないね」
娘様「諦めんなよ!」
娘様「ったく、まともな商品は無いのか……お?」
娘様「私の……フィギア?」
竜「あ、それクレイロイドですよ」
竜「精巧に出来てるでしょう~? 3Dコピー機を使って大量生産体制に入ったんです」
娘様「へ~……」
竜「ちなみに以前はねんどろい「待ったーッ!」
竜「その以前はネンドーr「それも待ったーッ!」
娘様「消される!消される!」
竜「これ位で消されたら私達には冒険は出来ないんですよッ!」
娘様「こんな所に居られるか!私は自分の部屋に帰る!」
竜「逃げられると思っていたのか?」
娘様「はっ、この部屋は……!」
竜「その通り、私の部屋こと社長室」
竜「まんまと引っ掛かってくれたぜ」
娘様「開かないぞ!?」
竜「無駄ですよ……その扉は私の『どうぞ』という言」ガチャ
娘様「サラダバー!」
竜「が、駄目っ・・・…!」ヒョイ
娘様「回り込まれた!?」
竜「知らなかったのか?」
竜「四天王の魔の手からは絶対に逃れらない!」
娘様「何をするだァーッ!」
竜「動くな、私は異常性癖だ」
娘様「知ってるよもう! レズなんだろ!そうなんだろ!」
竜「それだけじゃないですよ……」
娘様「ま、まさかこの部屋に置かれたフィギアの年齢層……」
娘様「それらから察するに……幼女趣味……!」
竜「いぐざくとりぃ……」
娘様「お前無類の天丼好きか?」
竜「天丼も悪くないけど、親子丼や姉妹丼も嫌いじゃないです」
娘様「知らんがな……」
竜「という訳で、全ての恵みに感謝していただきます」
娘様「何の訳で!?」
娘様(このままじゃ食べられちゃうよ~)
竜ちゃん「大丈夫……お姉ちゃん痛くしないからね~」
娘様「ちょ、何キマっちゃってんの!? マジ怖い!」
竜ちゃん「天上のシミ数えてりゃすぐ終わるからね~」
娘様「誰かさんのお陰でシミ一つ無いんだが……」
竜ちゃん「さぁ、脱ぎ脱ぎしましょ~ね~~~……」
娘様「こ、の……」
娘様「調子に乗るなーッ!!」ドカーン
竜ちゃん「キャ!」
娘様「ああもう台無しだよ! この休日私がどんなに…遊びに行こうと…楽しみにしていたと……」
娘様「うぐっ、ぐすっ……」
竜ちゃん「あわわわわわ」
竜ちゃん「すみません許してください何でもしますから!」
娘様「ん?」
竜「食べる筈が食べられていた……何を言っているのか」
娘様「黙れ犯罪者。アレとは別にお仕置も考えておくから覚悟するように」
竜「はいっ!」テカテカ
娘様「……」
娘様「不安だ……一番の側近だと思っていた竜さんがまさか……」
娘様「事前情報のあるモンク、宇宙の鳥乙女、ミシシッピーの犬男……」
娘様「私の前に待ち受けるデートスポットの数々! 私は生き延びることが出来るか」
娘様「で、これの何処がデート?」
竜とデート MISSON COMPLETE!
うぜぇ魔王娘だな。勇者よ…こいつらブッ殺してよし
娘が居なくなったら、誰がこいつらにツッコミを入れるというんだ
魔王「……」
側近「魔王様。その書簡にはなんと?」
魔王「我が娘からの戦況報告だ。また一つ大陸を制圧したらしい」
秘書「まぁ……それは?」
魔王「……ムー大陸、とある――――」
娘様「さぁ忙しくなるぞ。アトランティス民族とムー民族の間の溝は深い」
娘様「この2つが手中にある今、確執を終わらせることが出来るのは我々しかいない!」
娘様「理解は難しいかもしれない……だが、不可能では無い!」
娘様「この私が、それを証明してみせるッ!!」
勇者「……とりあえず城に入ったが、もぬけの空だった」
魔法使い「何よ此処。邪悪というか、神聖というか……」
魔法使い「嗚呼もう! なんか色々混ざり過ぎて混沌とした場所だわ!」
僧侶「一体、どんな人達が使っていた城なんでしょうか……?」
勇者「帰るか……ん?」
冷蔵子×20002「侵入者発見、侵入者発見!」
新型冷蔵子「不法侵入の疑いにつき……排除します」ジャキン
新型冷蔵子「全砲塔、射撃開始!!」
勇者「うッ!? うわぁーッ!!」
カオス神「……お前の所の主君、少し自重させてやってくれんかのう」
カオス神「さっきから十字神とか柱神とか太陽神から苦情が来てるんじゃが」
鳥乙女「あー……すまんな、世界征服の一環やししゃーない」
鳥乙女「とりあえず全部終わるまで待ってて貰えへんかな」
カオス神「その頃には唯一神や邪神勢からも苦情が来そうじゃが……」
カオス神「まぁ、お前の事じゃ。何か考えがあるのじゃろう?」
鳥乙女「当然や。あたしに任せとき」
カオス神「……ならば、一任しておこう」
カオス神「あー……しかしどうやって処理したもんかのう……」
鳥乙女「外部があたし達の行動に感付き始めたようやね」
犬男「……予想通りだな」
竜「我が軍の世界征服は順調に進行中……これを阻止できる陣営は知る限りでは存在しません」
竜「果たして、いくつの勢力が我々に対抗しうるだけの戦力を用意できるか……」
鳥乙女「それは考えるだけ無駄やね」
鳥乙女「どんな奴が相手になろうと、あたしらの敵やない」
鳥乙女「刃向う奴には死あるのみや」
犬男「同感だ」
竜「……ではその方向で行きましょう。次の侵攻予定地ですが」
竜「東方の麻薬シンジゲート、北西の連合国などは……」
娘様「全く! 主君様に買い物させるなんて自分達の身分分かってんのかしら!」プンプン
モンク「仕方ありませんよ娘様。戦術参謀、資金管理、頭脳が揃っての会議」
モンク「俺達の出る幕はありませんからね」
娘様「主君を抜きにしてそういうのどうかと思うんだけど……」
モンク「でも魔王軍も王国軍もそんなもんでしょ?」
娘様「否定できないのって辛いね」
モンク「世知辛いですねぇ」
モンク(? ゴミ捨て場に人間が3人頭から突っ込んでら……)
モンク(かくれんぼかな?)
モンクとデート (修行編)
娘様「アトランティス?ムー?二度と出てこない地名の話はどうでもいいでしょ」
娘様「軽く仲裁してやったら大人しく軍門に下ってくれたわ」
娘様「明日予定を空けておいてね。モンクの部屋に行くから」
モンク「え、俺の部屋っすか」
娘様「そうだ! 私は全てのデートスポットを制覇しなければならないからな!」
モンク「なんか話が飛躍してる気がするが、今の俺にはどうでもいい事だった」
モンク「分かりました、じゃあそうしておきますね」
娘様「うむ!」
娘様「自分で言っておいてなんだが、なんで私はデートスポットを巡っているんだ……」
娘様「なんでだっけ?」
娘様「というかなんでアイツの部屋がデートスポットなんだっけ?」
娘様(……あれ?)
モンク「となれば、部屋を片付けておかねーとな……」
モンク「とは言ったものの……」
林「ざわ……」
川「さらさら……」
風「ふぅー……」
モンク「どうしたもんかな」
モンク「……」
モンク「特に……」
モンク「特に何も出来ること無い……」
モンク「やる事無いし他の奴に話聞いて来るか……」
モンク「そんな訳で犬男の部屋にやって来たのだ」
モンク「犬男! 犬男じゃないか!」
犬男「……今更?」
モンク「そう言うなよ犬男」
モンク「俺達は友情という名のどす黒い糸で結ばれた仲だろ?」
犬男「そんな糸に結ばれた覚えは無い……」
モンク「そう言うなよ犬男」
モンク「娘様が俺の部屋に来る」
犬男「……お前の……部屋に?」
モンク「そこでだ。お前に相談があるんだが―――」
犬男「―――……無理だな」
モンク「そういうなよ犬男」
犬男「お前の部屋は迷いの林、飾る場所などあるまい」
犬男「第一、お前そんな外見整えるタイプじゃないだろ」
モンク「そういう気分になったんだ」
犬男「……明日は台風か?」
モンク「天気予報じゃ快晴だぜ」
犬男「……しかし俺にはそういうセンスは無い」
犬男「どちらにせよ力にはなれん、他を当たれ」
モンク「そういうなよ犬男」
犬男「仏の顔もって知ってるか?」
モンク「お前が仏の面かよ」
犬男「……何に見える」
モンク「お前ほどの狂犬面は他に居るもんか」
犬男「……」ピシッ
犬男「屋上へ行こうぜ……」
モンク「いいですとも」
カツカツカツカツ……
犬男(俺としたことが失念していた……)
モンク(やべぇ、超疲れた……誰だよこの城改築したの)
((屋上が遠いッ!!))
ビュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
犬男「……」ヒューヒュー
モンク「……」ゼェハァ
犬男「……」
モンク「……」
犬男「調子こいてんじゃねぇぞこら」
モンク「……おうおう兄ちゃんよ。いい度胸しとるやんけ」
犬男(今……覇気出し損ねた)
モンク(やべ今タイミング超間違えた気がする)
犬男「……虫の息じゃねえか、そんなんで俺に勝てるのか?」
モンク「そういうなよ犬男……お前だってグロッキーだろ……」
モンク「条件は五分五分……久々に拳を交わそうじゃねえか……」
犬男「……そうかい、なら……」
『正々堂々としょうb「増築作業開始につき、関係者以外は立ち退きくださ~い」ピンポンパンポン
冷蔵子256「工事機材投入しま~す」
冷蔵子1024「資材運搬中でーす」
冷蔵子64「あら、モンク様に犬男様。お疲れ様です」
冷蔵子16「すみません、これから私達でエレベーター使いますので、階段で退出願えますか?」
『……』
モンク「……仲間割れって……空しいな……」
犬男「……そうだな……」
モンク「さっきのは謝るよ、悪かった……」
犬男「そうか……そうだな……」
鳥乙女「なんやあんたら、ボロボロやんけ……」
竜「何かあったんですか?」
モンク「何も……」
モンク「結局、何の準備も出来なかった……」
娘様「約束通り来たぞ!」
娘様「しかしこうしてみると私部下の事とか意外となんも知らなかったんだな……」
娘様「こう……幾つも修羅場を超えて来たのに、未だに分からん事もある」
モンク「あー。考えてみりゃそうでしたね……」
娘様「という訳で、今日はお前について根掘り葉掘り聞くからな」
モンク「あ、いいっすよ」
モンク「さて、ここが俺の部屋です、開けますよ」
わさわさ……
扉を開けた先に視覚を奪われるのは鬱蒼とした木々に満たされた林……
川の潺と葉が靡き、小鳥の囀りの音響が耳に優しい。
天を仰げば雲一つない青海が縦横無尽に広がり、
吹き過ぎる風が身を撫ぜれば、一瞬の冷たい感覚が神経に鋭敏に反応する。
娘様「ここが……室内だと……?」
第一の修行『迷いの林』
てくてく
娘様「……モンク、お前の好きな物は?」
モンク「肉」
娘様「知ってた……じゃあ嫌いな物は?」
モンク「小難しい事」
娘様「それも知ってた……」
モンク「あの娘様。俺達が知らなきゃいけない事ってのはそんな小手先の事じゃなくて」
モンク「もっと、本質的な事だけでいいんじゃないですかね」
娘様「どういう事?」
モンク「例えば娘様は魔王様に命じられて世界征服を手伝っています」
モンク「しかし、その本当の目的は外部から来る敵から星を守る事」
モンク「勇者と魔王の戦いなど、眼中にはもう無いでしょう?」
娘様「―――言うな、奴等はただ変わらない日々を過ごしていればそれでいい」
娘様「私達は私達に出来る事をするだけだ。その為にどんな犠牲が出ても、な」
娘様「世界征服も、これ以上意味の無い星内部での争いを無くすが為……」
娘様「いずれ奴等と戦う時、私達は争っている場合じゃなくなるの」
娘様「その為に、一人での優秀な部下が必要になる……お前の様な戦士がな」
モンク「……そうですか」
モンク「ま、俺みたいな奴(人間)がこの先出るとは到底思えませんがね!」
娘様「だよなぁ……神を殴れる人間なんかそうそう輩出しないよなぁ!」
『HAHAHAHAHAHAHAHA!』
娘様「で、ここは何処?」
モンク「ぶっちゃけ談笑してて考えてませんでした」
娘様「あれから川を探していたら夕方になっていた……」
モンク「となればここを上るだけで寺に着きますよ」
娘様「もうクタクタだよ~、お昼も食べてないし……」
モンク「まぁまぁ、部屋に着いたら肉がありますから」
娘様「おおっ、いいぞいいぞ」
娘様「ところで何の肉を普段から買ってるんだ?」
モンク「牛、豚、鳥は基本でしょう」
モンク「たまに羊肉なんかも取り寄せますよ。軍資金で」
娘様「あの支出金の肉、全部お前だろうとは思っていたよ」
第二の修行『肉膳寺』
娘様「それで、寺に着く頃には真っ暗だった訳だが」
モンク「夕食にしますかね。俺ちょっと料理の腕に自信あるんですよ」
娘様「なら見せて貰おうか。暴食家の料理の腕前とやらを」
モンク「任せろー」
モンク「という訳でこんがり肉です」
娘様「上手に焼けましたー♪」
娘様「……ってオイ! 料理の腕前を振るうんじゃなかったのかよ!?」
モンク「存分に振るった方ですぜ。俺の料理スキルは5ですよ!」
娘様「バッカじゃねーの!? それでよく自信ニキを名乗ったな!?」
モンク「食べないんすか」
娘様「喰うよ!」
娘様「ガツガツムシャムシャ」
モンク「肉はまだありますからねー」
娘様「うぷ……流石に野菜かなにか食べたくなってきた」
娘様「油が濃い……何かあぶら取り紙みたいなの無い?」
モンク「娘様。あぶら取り紙で顔拭くと必要な油まで吸収するから、ティッシュの方がいいらしいですよ」
娘様「はえ~、お前におよそ似合わない薀蓄……」
モンク「はいティッシュ」
娘様「ん、あんがと……ふぁ、眠くなってきたな……コレ借りていい?」
モンク「あ、それ俺の寝袋……ま、いいですけど」
娘様「……ふごっ」
娘様「なんだ……? 外が騒がしい……」
モンク「ヤッ、トッ、サッ!」バシ、バシ、ドォッ
モンク「魔神拳! 怒号魔破拳! タイガーブレイク!」ドガガガガガ
モンク「超究武神エターナル闘舞覇斬!」バァーン
黒曜石「ちゅどーん」
モンク「ふぃー……今日の分、終了!」
モンク「おっ、娘様じゃないですか。起こしちゃいました?」
娘様「何やってんの……こんな夜中」
モンク「丁度0時になったんで、これから寝ますよ」
モンク「風呂沸かしておいたんで入りますか?」
娘様「あー、うん、入ろう」
娘様「しかしなんだ」
カポーン
娘様「この部屋は一体どうなってんだ」
モンク「俺に聞かれても困ります」
モンク「多分あのドアがディメンションゲート的な役割を果たしていると思うんですけど」
娘様「まー、それっぽい魔法の類がかけてあることは間違いない」
娘様「しかしお前……こんな時間にいっつも修行してるのか?」
モンク「朝昼は軍事に携わってるんで、基本早朝か夜にトレーニングしてるんすよ」
モンク「動かなきゃ錆びますからね」
娘様「ん、背中流してくれるか?」
モンク「いいですよー」ザバァ
娘様「前隠せ」
モンク「今更ですか」
娘様「ふー、あっつー」
モンク「ポーション! ポーション!」
娘様「しっかし、私も身体動かさないとなー」
娘様「でも無計画で始めると絶対続かないんだよなー。何かいいもんないかな」
モンク「じゃあ明日一日修行チャート使いますか?」
娘様「どんなチャートだ?」
モンク「初心者向けに買っておいたんですけど……これです」
娘様「……なんだこれ、体操ばっかりじゃないか」
モンク「初心者向けチャートですからね」
モンク「チャートは他にもありますけど……こっちも見ますか?」
娘様「……何このシルクロードシャトルランって」
娘様「こっちは死者管理をロッククライム!?」
娘様「次に簡単な奴でナイアガラ滝登り!?」
娘様「なんだこのぶっ飛んだチャートは!?」
モンク「あれ? この位うちの軍なら誰でもできますよ?」
竜「私には出来ませんよ?」
娘様「うちの軍は安泰だなー」
モンク「ま、それでもダメな時はダメですけどねー」
娘様「あぁ、スターサイドホテルには二度と行きたくないな」
モンク「いやあ、バレンタインは災難でしたね」
『HAHAHAHAHAHAHAHA!』
娘様「本当にな……生きてるのが不思議な位だ……」ズーン
モンク「何度内部分裂の危機に瀕した事か……」
娘様「正直思うんだけど、これからは打って出ようじゃないか?」
娘様「今までは後手に回ってたから命の危機に……」
モンク「カオス神の時はどうしようもなかったじゃないですか」
娘様「……あー」
娘様「とりあえず、敵対勢力を全部潰さないことには本当に外部に太刀打ちできん」
娘様「そうだな。私自身の強化も必要だ……明後日からは本格的に動く…ぞ……」
モンク「ハイ。んじゃま、寝袋返してください。布団敷きますんで、娘様はそっちで寝てくださいね」
娘様「ん……おやすみ……」
モンク「はいおやすみなさい」
モンク「……俺もまだ未熟」
モンク「本気になった犬男と鳥乙女を相手にした時、何処までやれるか……」
モンク「娘様の四天王を預かった身。二度とあのような下手はしない」
モンク「……絶対に」
山から太陽が顔を覗き出す頃……
娘様「むに?」
ドゴォッ
娘様「なんだなんだ!?」
モンク「あ、起きましたか娘様」
娘様「こんな朝早くから一体なんだ!」
モンク「いや別に、日課の鍛錬を始めたとこですけど」
モンク「それより娘様、チャートやらないんですか?」
娘様「チャート? ……あ」
第三の修行『チャート』
レイディオ「ラジオ体操第一~♪」
娘様「……あのさぁ」イッチニ
モンク「はい?」サンシ
娘様「あの体操チャート本当に強くなれんの?」ゴーロック
モンク「初心者向けですからね。運動は大事です」シッチハッチ
娘様「何度見てもラジオ体操、準備運動、ビリーズブートからの新体操……」
娘様「このプログラムを作ったのは誰だぁっ!」
モンク「地道にやるのも大切ですよ」
モンク「特に娘様は……そこまで体力も腕力も無いですし……」
娘様「お陰様で普通の小児よりは鍛えられてるよ……」
娘様「一番、まおうのむすめ! 行きます!」
ダーン、クルクル……スタッ
モンク「流石です娘様。今のはウルトラC級でしたね」
娘様「よし」
娘様「……で、コレでどうなるって?」
モンク「次のチャートの準備運動ですが何か?」
娘様「……え?」
モンク「ナイアガラチャート、やるでしょ?」
娘様「やんないよ!? 滝登りなんて出来る訳ないでしょ!?」
モンク「やりましょうよ」
モンク「ホラホラホラホラ」
娘様「わーッ、何処に連れてくつもりだー!」
それから月日は流れた―――
魔王の娘は来る日も来る日も修行の日々に明け暮れた
己の身を護れるのは己の他には居ない
それを理解している彼女は幾度とない挫折にも絶望せず
ただただ生への執着の一心で戦い続けた……
夏になり、秋になり、冬が過ぎ、また春になり、
太陽を遮るもの一つ無い空の下でも、
豪雨が降り雷が鳴り響く台風の中心でも、
冷気が手足の指先を凍らせる吹雪の日も、
決して彼女は諦めなかった。そして……
娘様「……来たぜ」
モンク「ここまでついて来れたのは貴女が4人目です」
娘様(意外と居るな……)
モンク「……正真正銘最後の試練です」
モンク「準備はいいですか、娘様」
娘様「いつでもいいぜ……かかって来いよ」
モンク「……行きますよ!」轟ッ!!
娘様「破ぁ!!」BOOOOOOOOM!
カッ
モンク「……合格です」ピシッ
娘様「……当然だぜ」スパッ
モンク「まさか俺のチャートを突破されるとは思いませんでしたよ」
娘様「私もだよ。人生、やって出来ないことってないんだな」
『HAHAHAHAHAHAHA!』
モンク「良い子は真似しちゃダメだぞ」
娘様「出来ねーよ」
モンク「では、また明日」
娘様「うん、じゃあまた明日ー!」
娘様「……あれ? 私なんでこんな修行の日々送ったんだっけ……?」
娘様「こんな年で健忘症にはなりたくないものだ……」
モンクとデート MISSON COMPLETE!
いらっとするな…こいつら。はよ勇者よ…クズ娘ブッ殺せ
「……私?」
そう、私はお前であってお前は私。
お前の精神はこうなっているんだぞ……
誰もが夢を見る。
それは破壊か?もしくは再生か?
それとも大した内容もない?
『もう少し待って……』
お前らは生まれてから何度そのセリフを吐いた……?
世間はお前らの母親ではないっ……!
お前らクズの決心をいつまでも待ったりはせん……!
そう、私は神だ。
人間の世界を我が物にしようとしたら
誰かが言った。待て、と。
それに……
お前は戦ってきた敵に狂気を見出した。
変でいい、変でなきゃダメだ……
狂ってなきゃ、逸脱してなきゃ悪魔は殺せない……!
常軌を逸してこそ開かれる勝ちへの道が……!
お前らは今置かれている
状況の急がわかっていない……!
火の手はもう足を焼いてんだよっ……!
この状況で『やめようか』なんて発言は寝言同前……!
だが……お前は違う。
お前ときたら絆とか信頼とか……
そういうわけのわからない
寝惚けたことをまだ言っている……!
目の前の者を救いたいという欲求……
そんな魂の神側の声もある……
だが、その声はあまりにか細く小さいので
通常は極あっさり……
消し飛ぶっ!
いいんだよ……
他人がどう苦しもうと全く問題無い……
唯一問題なのは自分の幸福だけ!
何時だって人は、その心は孤立している……
心は理解されない、伝わらない、
誰にも伝わらない……
時に伝わったような気になることもあるが
それは、ただこっちで勝手に相手の心を
わかったように想像しているだけで
本当のところは結局わかりようがない……
それは親だろうが、友人、教師、
誰であろうと例外なく無理なのだ……
心は解けない、心はどうにも解けぬ……
袋小路、迷路、時にその本人ですら
迷い込み出口を失う迷路、伏魔殿……
他人に解けるはずがない……
ゆえに欲している、理解を、愛情を……
求めている、求めて、求めて、求め続けて……
結局近づけない、ますます遠ざかるようだ……
誰も心の核心に近づけない……
世界に72億の民がいるのなら、
72億の孤独があり、
そしてその全てが癒されぬまま死ぬ……
孤立のまま消えていく……!
「長い、そしてくどい」
「全てのものに手は届かない、触れられない、全て遠くに離れている……」
「出来る事は通信、通信だけ……!」
「闇の中を尽きる事無く交差する言葉達、繰り返される通信……」
『マイッタヨ』『ソレデ……?』
『チガウチガウ』『コレカライク』
「不確かで、心許無いその言葉達、通信は基本的に一方通行だ……」
「本当に自分の心が相手に届いたかどうかは誰にもうかがい知れぬ……」
「返信があったとしても、どこまで理解しての返信やら……」
「しかしそれで仕方ない…………」
「通信は通じたと信じる事、伝達は伝えたら達するのだ……」
「それ以上を望んではいけない、理解を望んではいけない……」
「真の理解など不可能、そんなことを望んだらそれこそ泥沼……」
「打てば討つ程、焦燥は深まり、孤独は拗れる……」
「そうじゃない、そうじゃなく打とう……!」
「無駄ばかりの誤解続き、人間不信の元、理解とは程遠い通信だが」
「しかし、打とう! あるから! 確かに伝わることがひとつ!」
「温度、存在、生きているものの息遣い、その儚い点滅は伝わる……!」
「生還するんだっ……! 終わらない悪夢からっ!」
娘様「うわぁっ!」ガバッ
娘様「……夢?」
娘様「懐かしい……夢を見たんだよね」
モンク「娘様もですか? 俺もなんですよ」
竜「珍しい事もあるものですね。私もふとそんな夢を見た気がします」
犬男「……」
鳥乙女「こりゃ、参ったね。夢を管理しなきゃいけないあたしとしたことが、とんだヘマしちゃったみたいやね」
竜「ちょっと鳥乙女様……そんな事をすれば主神カオス様が黙ってないでしょうに」
鳥乙女「へーきへーき。あたしから謝っておくさかい、気にすることないで」
モンク「おいおい、大丈夫かぁ?」
魔王「……我が娘の居城は何処だったか……」
側近「あの辺りだと思われますが」
魔王「……よもや、天を貫くあの巨塔の下にあの城があると申すまいな」
秘書「いえいえ、それしかないでしょう」
魔王「ふーむ……不思議なこともあったものだな……」
王様「勇者よ、あの塔を制圧して参れ!」
王様「魔物が潜んでいるかもしれん、仲間を連れて行くがいい」
勇者「というかあの辺りは確か……」
冷蔵子「出直してきてくださいね」ポイポイポイポイ
竜ちゃん「今日は不燃ゴミの日でしたね……おや?」
勇者「……」
戦士「……」
魔法使い「……」
僧侶「……」
竜ちゃん「……かくれんぼですか?」
戦士「魔王の手先だな! 覚悟しろ!」
竜ちゃん「うわいきなり襲い掛かって来ました」
魔法使い「羽生やした人間が居る訳無いでしょ!」
竜ちゃん「あ、それは有翼人差別ですよ!」
竜ちゃん「全く、人間は自分と違うものを見るとすぐ比較したがるんですから……」
魔法使い「なんですってぇ~! 私の最大魔法でも喰らいなさい!」
魔法使い『ファイアⅣ!』ボボボボゥ
竜ちゃん「おーっと、これはいい魔力ですねー」
竜ちゃん「でも、全然ダメ。なってない。やり直し」
竜ちゃん『シャンパンファイト!』プッシャーッ
魔法使い「わぷ!?」
勇者「……」チーン
竜ちゃん「やめてくださいよね、本気出したらあなた達が私に勝てるわけ無いでしょう?」
竜ちゃん「あなた達とは背負う物と覚悟が違うんですよ。お引き取り下さい」
竜「って言ってやりましたよ」
貝「あわ~び」
竜「言うようになったでしょう~? 私だって日々強くなってるんですからね」
竜「いずれ魔王軍の翼竜様にお会いして、私の強さを見て貰いたいですねぇ」
竜「そうすれば、足りない部分も分かるようになるはずです!」
翼竜「ブフ!」クショーイ
竜子「パパ、風邪?」
翼竜「大丈夫だ、竜子。……誰かが俺の噂をしたんだ」
翼竜「流石に俺も有名になって来たかなー?」
竜子「パパすご~い!」
キャッキャッ
竜「……でもあなたに言ってもしょうがないですよねぇ」
貝「あわ~び」
竜「そろそろ出荷どきですかねぇ」
魔王「魔王軍四天王、集合!」
エルフ「暗黒のエルフ!」
翼竜「蒼天の翼竜!」
死神「地獄の死神!」
忍者「影の忍者!」
侍「さ『我ら、魔王軍四天王!』
魔王「それで今日は娘様軍の抜き打ち検査に入る」
魔王「監督内容は実力の調査だ。もし世界征服に不足するようであれば解雇も考えねばならん」
魔王「それを見極めるの役目をお前達に与える」
魔王「行くぞ!」
娘様「ダディが来る?」
モンク「はい。今管制塔から魔王以下5名が城を出たとの情報が」
娘様「ふぅん。通してあげてね」
翼竜「あ、やっぱ見間違いじゃなかった……」
忍者「何度見ても壮観でござる……」
魔王「と、ともかく。娘よ! 私だ。ここを開けよ!」
娘様「ダディ、いらっしゃい」
魔王「……ふむ。では、世界征服は順調なのだな」
娘様「うん。次はマダガスカルを制圧しに行くよ」
魔王「はっはっは、流石我が娘だ」
魔王「……ところで、お前にやった四天王はちゃんと働いているか?」
娘様「もっちろん!」
魔王「今日はそれを確かめに来たのだ」
魔王「勝負形式は一対一。どちらかが戦闘不能と判断されるか、降参するまで!」
モンク「お前さんが相手かい?」
エルフ「人間が四天王? フッ」
竜「翼竜様。従兄妹とて手加減は無用ですよ」
翼竜「ああ、こっちもそんなつもりは無い」
死神「魂まで奪うつもりはねえから安心しな」
犬男「……」
忍者「よろしく頼むでござる!」
鳥乙女「よろしゅうたのんまっせ」
魔王「では、開始!」
モンク「くにへかえるんだな・・・おまえにもかぞくがいるだろう」
竜「あら、翼竜様。手を抜いては検査になりませんよ?」
犬男「……」
鳥乙女「あちゃ、やり過ぎたかな?」
四天王の山「……」
魔王「あれー?」
娘様「さっすがだよ皆! ダディ、分かった? 私達の事なら心配いらないって!」
魔王「……そ、そうだな。流石は我が娘。部下の扱いも慣れたものだな!」
魔王「安心したので、我々は帰る! では、また会おう!」
娘様「うん、また来てねー!」
娘様「もう少し手加減してやらんのか」
モンク「サーセン、小足入れて無限決めるには最適な体型だったんで」
竜「高級軍手の威力テストを兼ねたのですが……これじゃデータになりませんね」
犬男(一睨みしたら泡拭いて倒れおったわ……)
鳥乙女「うーん、火薬量が多すぎたかなー?」
娘様「あ、こいつらに容赦なんて出来る訳ねーの忘れてたわ……」
鳥乙女とデート『掌編』
「町へ買い物に行かへん?」
それは唐突な誘いだった。
あの鳥乙女さんから、買い物に行こうと言われた。
それまで私の中にあった鳥乙女さんのイメージが音を立てて崩壊するのが分かる。
「うん、いいよ」
その時の私は頭の中が真っ白のままに返事をしてしまった。
冬も終わりに近づいてきたけど、外はまだまだ寒い。
現に、肌を打ち付ける冷気の所為で、たまにぷるると身体が震え上がる。
私は暖をとるためにヒートテックス、黒いローブを纏って出て来た。
けれど鳥乙女さんは相変わらず寝間着に見える洋服と、ジーパンのまま繰り出してしまっている。
「……寒くないの?」
「あたしが? 全然よ。心配してくれるんか、嬉しいなぁ」
そういって、鳥乙女さんは魔法のマフラーを編み出すと私の首元に巻いてくれた。
「プルプル震えとる娘様の方が、ずっと寒そうやで? 温かくしとき」
「……ありがと」
鳥乙女さんはいつも笑顔だ。その顔が、怒りや悲しみに歪んだ事は無い。
時に狂気に視線が散乱することもあるが、それでも口元は常に笑みを浮かべている。
そのくらい、鳥乙女さん=笑顔のイメージが私には根強く住み着けいているらしい。
怒った時は分かり易いが、そうでない時は何を考えているのか分からない、不思議な女性だと思っていた。
例えばこのような買い物の誘いなど、自分から提案するなんてどんなに珍しい事か。
「だけど、今日はどんな本を探しに行くの? 城に大抵の本は揃ってるはずなのに」
「あたしが向こうの書店で注文しとった新しい本なんや。娘様を呼んだのは、一人じゃ寂しいからやで」
寂しい? 鳥乙女さんはどちらかといえば一人で居る事が多いように思う。
犬男さんと同じく孤高を嗜んでいるのかと思っていたのに、本当はそれが本音なの?
「それに、街にはもしかしたら娘様の興味を惹くモノがあるかもしれんし。ウィンドウショッピングと洒落込もうや」
「そうだね……」
鳥乙女さんの身長は、私より2頭身も高い。
私だって成長期に入って色々伸びる頃なのに、とても敵わないのが分かる。
細くすらりとした足は長く、一歩ごとの歩幅ももっと長いはずなのに、私に合わせてくれている。
「お財布も重くなってきたし、そろそろ使わんとな。娘様も欲しい物があったら言うてや、あたしが買ったるで」
「そんな、自分で払うよ」
「ええてええて。小銭が溜まって、財布の中がいじりにくくてたまらんのや」
「そうお? じゃあ、お言葉に甘えようかな」
最後に私が街に来たのは半年前。あれから竜さんの会社と提携して、建築ラッシュが行われた。
その結果、この街は今では大陸一を誇る大都市になってしまった。老若男女を問わないユニバーサルデザインに富んだ設計であり、
道路の整備、水道、様々なジャンルのエリアからなる住宅地まで管理の手が行き届く。
中心にはランドマークであるドラゴンズヘヴン市庁舎があり、華々しく厳かな雰囲気が漂っている。
それはかつて制圧した花の都や水上都市にも引けを取らない姿だと感じた。
最後に見た時とは似ても似つかない場所に、私は右も左も分からぬ迷い子となるのも時間の問題に思えた。
「娘様、離れ離れになったら危ないで。あたしに間違いなく着いて来てぇな」
ぎゅっ、と繋がれる手。寒空の下冷えた私の手が、鳥乙女さんの手で温まるのが分かる。
街路は人だかりがあって、皆忙しなく行き来している。その中には、家族連れやカップル、スーツ姿の男女などがチラホラ目に映る。
鳥乙女さんに半分引っ張られるようにして、私達は目的の本屋に辿り着いた。
「よう、本屋の兄ちゃん。頼んでおいた本あるかいな?」
「鳥乙女さんですね。ありますよ、新刊レシピ。お料理を始められるんですか?」
「せやで、あたしも手料理の一つや二つ、出来るようにしときたいと思うてな」
「お買い上げありがとうございます」
竜さんの会社の技術提供によって、電磁気を扱った電子貨幣が流通するようになった。
道行く人々も皆片手に携帯端末を持つのが常なのか、外の騒めきが途絶える事は無い。
「娘様が買いたい本、ありましたやろか?」
「ううん、ここにあるのは大体読んじゃってるや」
「さよか、じゃあ帰る前に街を回る事にしよか」
「うん」
「またのご来店をお待ちしております」
暖房の効いていた本屋を出ると、またその寒気にびくりと身体が震えた。
目の前に聳える市庁舎をふと見上げると、空が灰色だったことに気が付いた。
「せめておてんと様でも顔出してりゃ、もちっとはマシやったかもしれへんなぁ」
「そうだね……うぅ」
「……せや、モール街に行こか。そこなら寒くないし、娘様の欲しいものもあるかもしれへんな」
モール街。例によって例の如く竜さんのお店が立ち並ぶ、室内型大商店街のことだ。
今の商品のラインナップはこれまでと異なって、需要のある物全てを並べる方向になっている。
例えば、今の時期は新学生や新卒などが増えるから、ランドセルやバッグ、スーツが沢山売れているという話を耳にしたことがある。
だから、街中に子供や成人の人々が多いように見える。
「ほら、手繋いでこうや、逸れたら大変やで」
「うん」
それからモールを回って、洋服屋に家具屋、雑貨店などを見た。
竜さんの提携の店だけあって、数多くのブランドが並ぶ姿は壮絶だった。
金銀に輝く装飾、最高品質を語るだけある布地……
宝物庫か何かかと見紛うほどの、贅沢な品揃えがそこにはあった。
「色々あって、目移りしちゃうなー……」
「でもこれらは竜の会社から出てる物なんや。元を糺せば、全部娘様の財産にもなるんやで」
「私の?」
「せや」
「……でも私、何もしてないし」
「竜がこんなん作れるんは、娘様がちゃんと世界を統率して来てるからやで。民衆はここを信用しとるから色々納めてくれて、それであたしらはまんまに預かっとるんやで?」
そう言って鳥乙女さんは、商品棚にあった真っ赤なリボンで私の後ろ髪を結った。
「うん、似合う似合う♪」
「私、もうそんな歳じゃないよ」
「な~に言ってんの、まだまだ若いんやから、お洒落の一つもせんと勿体無いねんで!」
朗らかに、ケタケタ笑ってそう言う。
だけど、私だっていつまでもチビっ子のままじゃない。
ぷい、とそっぽを向くと、束ねられた後ろ髪がふわりと頭を引っ張るのが分かった。
それから、
「…あ」
トップに黒いアゲートの勾玉が付いたそのペンダントに、いつの間にか手が届いていた。
「うんうん、着飾りたいんやろ、そうなんやろ。付けてみ?」
「……こう?」
肌触りのいい銀色の紐が、首にしゃらりと掛かった。
「おー……なんや、結構大人びて見えるやん!」
「そうかな?」
「うんうん、ジュエリーも大事なアクセサリや! ほな、それとこれ買うか」
「え、でも……」
「ええっていうたやん! 今日はあたしも財布を軽くしたくて来とるんやし、協力してーな」
両手を合わせて、そう言ってくる鳥乙女さん。
確かにその財布は小銭が詰まっているのか、未だパンパンに膨らんだままで重量感があった。
それから店を出た私は、気分がいいのが分かり易かったらしい。
自覚は無いが、その足取りはとても軽い物だったという。
それから私達はモールの隅から隅まで歩き回った。ゲームセンターでは鳥乙女さんの脅威の腕前で次々とハイスコアを塗り替え、ジャンクショップでは爆弾の材料を買った。
昼頃になって、私がお腹を鳴らすと大人気もなくゲラゲラ笑ってくれた後に、蕎麦屋を見つけてくれた。こういう時はファミレスだろ……なんて野暮な事は言わない。
目の前に座った鳥乙女さんの顔は、いつもの仮面のような笑顔ではない、自然の笑顔だったように見えた。
「♪」ちゅるっ
「今日の鳥乙女さん、いつにも増して楽しそうだね」ズゾゾ
「せやな、誰かと一緒に買い物するんがこんなにも楽しいなんて知らんかったわー」
「したこと無かったの?」
「無いでー。主神に創られて以来、誰かと何かするって事はよーせんかったし」
「……そうなんだ」
2人してざる蕎麦大盛りを平らげて、またモールの人波に紛れてお店を回った。途中で寄った電気街では、タブレット型やハンドベルト型のコンピューターなんて物が売っていた。数年前は百万を軽く超えるデカブツばかりだったのに、今はこんなにコンパクトで、数千円からと来たものだ。時間の流れの速さを感じる……。
「鳥乙女さんも電子書籍にすればいいのに」
「せやな~、たまにそう思う事もあるけど、あたしはやっぱり本を手に取って読むのが好きやねん」
玉座の間にある鳥乙女さんの小部屋には本棚があって、その中に本がぎゅうぎゅうに詰め込まれていることを私は知っている。本当に本を読むのが好きなんだなぁ、って思った。
「ほら、紙の質感を楽しみながら読むっちゅうんも中々乙なモンなんやで」
「うーん、分かるような、分からないような……」
「……ま、長い事そうして来たからっちゅーのはあるけどな。娘様にはまだ早かったかいな?」
「むー、また子ども扱いする」
買う物を買って、両手が埋まったのでモール街を出て帰路についた。
「はー、買った買った! また来ような、娘様!」
「うん!」
灰色の曇り空は裂けて、夕陽が街を照らしていた。冷え切った空気は、道行く人々の熱気に負けて押し退けられ、喧騒の中に掻き消えていった。
「さーて、今夜は腕によりをかけて頑張るでー!」
「鳥乙女さんたら、料理した事無いんでしょ?」
「あちゃー、それを言われたら弱いやん……ええんやで、皆最初から出来る奴なんかおらへん、地道に繰り返して覚えるねん!」
「あはは、頑張ってね」
鳥乙女さんの突き抜ける様な高い笑い声が響き渡った。
「ただいまー」
「おや、娘様に鳥乙女様。……今日はお疲れ様のようで」
「やー、竜ちゃん、ちょいとあたしにコーヒー入れてくれへん?」
「あ、私ホットミルクで!」
「はい、ただいまお持ちしますね」
「ふぅ、重かったー」
「娘様、あれから色々買いましたねぇ」
「うん、買い物あんまりしたこと無いから……」
「なんや、娘様もした事無いんかい?」
「いちおう、魔王の娘だからね……買い出しとか、させてくれなかったし」
「あー……」
「お持ちしました。ホットミルクと、キリマンジャロです」
「早いね」
「竜ちゃんのスペックを甘く見ないでくださいね」
「……ぷくく」
「ははっ……」
それから、間抜けな2人は盛大に笑い転げた。
なんだ、私達って結構世間知らずだったんだねって。
「うふふ、楽しそうで何よりです」
「やー、竜ちゃん聞いてーや、娘様なー」
「あー、鳥乙女さんだって―――」
鳥乙女とデート MISSION COMPLETE!
初めてデートらしいデートだったな
まだかな?
つまらん…いらん
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