竜・少年 『「雨だ……」』その2 (87)

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『「雨だ……」』
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―現在、元プラネタリウム―

竜『これが我の過去の全てだ』

男2「…………」

弟「…………」

竜『バケモノの過去を知って気は済んだか?』

男2「…軽々しく訊き出してすまなかった」

竜『謝罪などいらぬ。我が勝手に語ったことだ、貴様らはただ今の話を己が内に秘めればいい』

男2「これからどうする? もしかしてまた…」

竜『我が死骸が見たくば仮初の骸となろう。でなければこの偽りの空を破ってどこか遠い地を目指そう』

男2「…そうか。俺は生憎死体なんてグロいものには耐性がないんだ。好きな場所に飛んでってくれ」

竜『ああ、そうさせてもらおう。その前に女装、貴様に頼みたいことがある』

弟「…なに?」

竜『どうか少年を支えてやってくれ。それだけが我の最後の願いだ』

弟「……わかった。その代わりに確かめさせて、訊かせて」

竜『もう語ることなど何もない』

弟「いいえ、まだ語っていないことがある。貴方は過去は語った、けれども今については語っていない」

竜『…何が訊きたい?』

弟「あなたは兄を愛していた?」

竜『愛している』

男2「え…? ちょ、はああ!?」

♪アイデンティティの崩壊

男2「え、あれ今の空耳?」

弟「それはどういう意味で? 母性愛? 友愛? 博愛? 恩愛? 敬愛? 慈愛? 憐愛?」

竜『恋愛だ。我は少年に恋しているのだ』

男2「うええ!?」

弟「それはあなたの孤独への恐れが作り出した幻想では? 他者を求める欲望を恋心と錯覚していないと言い切れる?」

竜『! …………それは』

弟「誰かを愛している自分に酔っているだけでは? 恋することそのものに溺れていない?」

竜『違う』

弟「なら愛に餓えていたあなたは誰かを愛することによって無理やり欠けていた心を埋めようとしていたのでは?」

竜『違う!』

弟「そして、なにより」

弟「かつてかけがいのない人達を喪ったあなたは」

弟「無意識の内に兄を彼女達の代用品にしていたのでは?」

竜『ちが、…………あ……? あ、…………ああああああぁぁぁぁぁ…………』ガクッ

竜『違う、そんなはずは。我が愛しているのは……これが、この感情が、想いが幻想だなんて、そんな残酷なことが…』

弟「ずっと不思議だった。どうして人でないあなたが人間、それも同性で、幼すぎる容姿を持つ兄に恋愛感情を抱けたのか。その理由がようやくわかった」

弟「それは愛に飢えていたあなたにとって"竜というバケモノである自分を拒絶しない存在"なら誰でもよかったから。あなたの兄への感情は愛なんて高尚なものじゃなくただ孤独を恐れているが故の醜い執着心に過ぎない」

竜『違う、違う…我は少年が好き、嘘じゃない、愛している。だって、少年だけは我の側にいてくれ……違う!! そんな理由ではない! 我は少年を愛しているはずなんだ…!!』

弟「結局あなたは兄を、かつて自分が存在することを唯一赦された居場所の代わりとしか見ていなかった。そんなあなたに兄への愛を叫ぶ資格はない」

竜『ぐ、ぅぅぅぅぅぅ……!!』

男2「お、おい。お前さすがに言いすぎじゃ…」

弟「愛は妥協するべきものではない。ここに自分の命を賭す覚悟で来たあなたならわかるはず」

男2「! …………」

弟「さあ、早くここから出て行って。ここは過去に縋り続けるあなたとは何ら無関係な場所」

竜『…………そうか、ああ……そうだったのか……』

竜『我は、長い夢を見ていたのだな…』

男2「夢?」

竜『目を覚ましながらありもしない夢を現実に投影していたのだ。もしあの日、運命の歯車が狂わなかったら続いていただろう、我にとって何物にも代えがたい日々の続きの夢だ』

竜『もう何もかも終ったことなのにな……。確かに我は過去に囚われ続けている』

竜『……結局過去しか見ず、喪われた居場所に妄執している我に少年といる資格などなかったのだ。もう、ここに留まる理由はなくなった』

弟「…さようなら、どこまでも孤独なバケモノ」

竜『さらばだ、生まれもって恵まれたニンゲン達よ』バサッ…

バターン!

少年「ま、待てポチ!!」

今日はここまで、次回、最終回♪飛び立てユークリッド空間

一週間後今日と同じ時間に。

竜『! …………』ビクッ

男2「はあっ!? なんでお前がここにいるんだよ!?」

弟「……まったく。盗み聞きとは感心しないな、兄さん」ポイッ、カシャン

少年「あ、ごめん。いや、だってここに戻ってきたらいるはずのない2人がポチと真剣に話してるというわけわからん状況に出くわして、なんか出て行くタイミング掴み損ねた」

男2「まあ確かに意味不明な状況だよな。竜と女装と怪我人と、おまけに小学生まで登場しやがった」

少年「満14歳ですけど」

弟「ちなみに兄さん、いつからここにいたの?」

少年「弟が最近買ったばかりのスマホを意気揚々と掲げつつ部屋に入っていく辺り」

弟「…………」

男2「ていうかお前その格好でその口調だとすっげえ違和感あるな」

少年「でさ、ポチ。いつまで背中向けてるの?」

竜『…………』

少年「あ、ほらカラアゲ買ってきてやったぞ。話し長すぎてもう冷めちゃったけど」ゴソゴソ

竜『…………』

少年「おーい、食べないの? なら僕が食べちゃうぞー」

弟「兄さん」

少年「ん? 弟にはあげないぞ、自分で買え自分で」

弟「もうあのバケモノのことは忘れた方がいい」

少年「えー無茶言うなよ。僕ポチのこと大好きだから忘れられるわけないだろ」

竜『っ! やめろ…』

少年「ポチ?」

竜『その名を呼ぶのをやめろと言っているのだ!!』

少年「え…」

竜『我は竜である。それ以上でもそれ以下でもなく同属も存在しない、故に本来固有名など必要ない。今までは他者が我をどう呼ぼうが自由にさせていたがそれももう終いだ、勝手な呼称は赦さぬ』

少年「な、何言ってるんだよ。だって、今までそう呼んできたじゃん」

竜『すまない、あれは失敗だった。偽りの名で呼ぶことを赦してしまったから我は己がバケモノである事実から目を逸らしてしまった』

少年「ポチは化け物なんて大それたものじゃないよ! だってポチ本当は全然怖くないし」

竜『……これでもそう言えるか?』ギン!

少年「あ、体が動かん。……? なんでそんな難しい顔しながら近づいて来るの?」

弟「待て何をする気だ!」

竜『貴様も動くな』ギン!

弟「ぐっ、くっそ…逃げろ兄さん」

少年「…………」

トンッ、ドサッ

竜『床に押し倒されバケモノに見下ろされる気分はどうだ?』

少年「ええと、胸に置かれたポチの手が重くていささか呼吸が苦しいですはい」

竜『……見ろ。我が今ほんの少し力を加えれば貴様の体など我が爪でいともたやすく貫けるのだ。怖いだろう?』

少年「…怖くないよ」

竜『ほう、これでもか』ザクッ

少年「つっ……全然、怖くない」

竜『強情だな。なら次はもっと深くまで刺してやろう』ズズ…

少年「ひぃっ……や、やめてよポチ」

竜『止めて欲しくば認めろ。己が眼前のバケモノに恐怖している事実を。我が怖いと言え』グリッ

少年「うぁっ!」ビクッ

少年「ふっぁ…い、たぃ……」フルフル

竜『身体が震えているぞ、いい加減素直になったらどうだ。痛みは怖いだろう?』

少年「……絶対に、言わない…」

竜『……貴様死にたいのか?』

少年「そんな、わけない。でも、君に嘘をつくのはもっといやだ」

竜『っ! ふ、ざけるなよニンゲン!!』ガバッ

少年「あうっ……」

竜『これ以上下らん戯言を抜かす様なら、このまま貴様の首を喰らってやる! とっとと命乞いして見せろ!!』

少年「……手、君の手」

竜『何?』

少年「……やっぱり、やっぱりそうだ」

竜『……何が"やっぱり"なのだ』

少年「やっぱりすごい気を付けてる。いつも僕の頭を撫でる時ケガさせないようにって、実はかなり気を使いながら僕に触れてるだろ。その時と今のポチの手、触り方がおんなじ」

竜『! …我は今まさに貴様を傷つけているわけだが』

少年「傷つけたいと思っているひとがそんな辛そうな顔しないよ。だからこんな似合わないことしないで、無理しないで」

竜『無理などしていない! 我はっ、我は…』

少年「君がとんでもなく優しいひとだってこと、僕はもうとっくに知ってるから。もうこんなお互いを傷つけることはやめようポチ」

竜『…………』

少年「君の手はさ、何かを傷つけるためじゃなく誰かを撫でたり抱きしめるためにあると思うな」

竜『…………(駄目だ、勝てない)』スッ

少年「おーいてて、弟包帯巻いて」

弟「もう全部使ったから唾でもつけとけ」

少年「あ、じゃあポチ舐めてよ。さっき言ってた話じゃバイキンとかいないんでしょ?」

竜『…気味が悪いと思わないのか? それも含め我は貴様ら人間とはあまりに体の造りが違いすぎる、自身と他者との極度の差異は多くの場合忌避感を引き起こすはずだ』

少年「そんなの見た目の第一印象だけだろ。実際に一緒に過ごしてみれば評価は変わるよ」

竜『違う…我の少年に対する想いとそれに追随する振る舞いは全て偽りだったのだ……。故にその評価は誤りだ』

少年「だったら今の本音を聞かせてよ、ポチは今僕のことどう思ってるの?」

竜『わからない、情けないことにもう己の心情が理解出来ないのだ。今我は本当に少年を少年として見れているのか自信がない』

少年「…そっか。じゃあ代わりに僕がポチのことどう思っているのか教えてあげるな」

竜『断る、知る必要はない』

少年「聴いて。どうしても知って欲しいんだ」

竜『……勝手にしろ』

少年「うん。僕ポチのこと好きだ」

竜『…………』

少年「結婚しよう」

竜『……………………』

竜『…………』

竜『……んん?』

弟「ちょ、ちょっと何言ってるんだ兄さん!?」

男2「(もう意味わかんねえ)」

竜『けっこん、ケッコン、結婚……? あれ結婚ってなんだっけ……』

少年「一生一緒にいよう、一緒に幸せになろう」

竜『え、あ、うん。…いやいやちょっと待たんかい!』

少年「返事を待ってるのはこっちだけど」

竜『と、とりあえず少年自分の言ってる意味わかってる?』

少年「ばかにするな、よくわかってないでこんな大事なこと言わないよ」

竜『ああそう…。いやならますます意味がわからん、どこをどう間違えればそんな突拍子もない言葉がこの状況で出て来るんだ…?』

少年「返事はー?」

竜『いやだからちょっと待ってよこっちは理解するのに苦しんでるんだから! ……ああ、そうか、そういうことか』

少年「ようやくわかったか」

竜『さっきの話を聞いて同情してるのか俺に。生憎だけどそんな必要はない、だって俺の君への想いは偽物だったんだから』

少年「全然わかってないじゃないかー!」サワサワ

竜『うげええぇ! 逆鱗のところ触るのやめろおお』ビクンビクン

少年「僕が同情してるって!? ポチごときが思い上がるな! 君そんな愛護心をくすぐるような図体してないだろ!」

竜『そんなの指摘されなくてもわかってるよ! でも他にどう君の言葉を解釈すればいいかわかんないんだよ!』

少年「そのまま素直に受け取ればいいだろ!」

竜『はあ!? じゃああれだよ? 結婚って事はやることやるってことだよ? こんなバケモノとマウストゥーマウスだよ? いやもうこの際ストレートに言うとキスだよ!?』

少年「す、すればいいだろ! 初めてだけどポチならまあ構わんし!」

竜『ぷっ、初めてじゃないんだけどー。俺、君が寝てる間に勝手にしてましたしー』

少年「は、はあ!? い、いつだよ!? ていうかいくらなんでもそんなことされたら起きるだろ!?」

竜『俺実は相手の目を見れば強制的に眠らせることも出来るからね、起きそうになる度に無理やり眠らしてました。はい残念ー』

少年「くっそなんだそれずるいっ、返せ僕の初めて!」

竜『はっはっはっ、やだねっ! あんな素晴らしいもの誰にも譲れるわけがない! ……違う話がずれてる!』

竜『少年言っとくけどあれだからなっ! 人間じゃない相手に求愛するとかとんでもないド変態だぞ!? 正直頭おかしいからな!?』

少年「知ってるよ悩んだよ! でもポチならそれでもいいとしか思えないんだから仕方ないだろ!」

竜『よくない全然よくない! きっと君は何か勘違いしてるんだ、俺が君への気持ちを誤解していたように君も俺に対して何かの感情を思い違いしているんだ』

少年「そんなことない! だって僕、気が付いたらいつもポチのこと考えてて、名前を呼ばれるだけで胸がどきどきして、君に抱きしめられるだけでどうしようもないくらい幸せな気持ちでいっぱいになるんだぞ! これを恋と言わずに何と言うか答えてみろポチ!?」

竜『っ! …くそっ、駄目だ認めるわけにはいかない、俺は君のために君の主張する感情を否定しなくちゃならない。だって少年は人間として当たり前の未来と幸せを手に入れなきゃならないんだ』

少年「否定なんてさせない、僕が君を想う気持ちは本物だ」

竜『第一今更君が何を喚こうがもう全部手遅れなんだ。俺はもうここを去らなければならないし君に俺を引き止める力はない。君が言うそのまやかしの想いは時間と共に薄れていくだろう』

少年「何言ってるんだ、僕も一緒について行くに決まってるだろ」

竜『…それが何を意味するかわかっているのか。俺についてくるってことは人としての生活を全部捨てるってことだよ』

少年「わかってる。それでもやっぱり僕は君と外の世界を一緒に過ごしたいから」

竜『全てを失う覚悟はあるのか』

少年「あるよ」

竜『嘘だね。口だけならなんとでも言える、とても信じられない』

少年「……なら信じさせてやる」

竜『何?』

少年「男2このナイフ借りるよ」スッ

男2「お、おい、何に使う気だ?」

少年「こうするんだよ」ヒュッ

ザクッ

ぽた、ぽた…


竜『……その深さじゃ俺の心臓にまで届いてないよ少年』

少年「…痛いよな? ごめんね」

竜『君に殺されるのなら本望かもしれない』

少年「逆だよ、一緒に生きるんだ」

竜『何を……まさか!?』

弟「やめろ兄さん!」

少年「……いただきます」

ゴクリ

男2「の、飲んだのか? その、こいつの血」

少年「うん、飲んだ。まっずい」

弟「…ばっかじゃないのか兄さん」

竜『…………』

少年「これでわかったろポチ?」

竜『…………は』

少年「は?」

竜『吐けえええええええええぇぇ!! 今すぐ吐き出せええ! ぺっしなさいぺっ!』

少年「え、ちょ」

竜『そこの2人何ぼさっとしてるんだ早く少年の喉に手をつっこんで吐き出させるんだほら早くさもないとぶち殺すぞ!?』

男2「え、えー…」

弟「俺がやろう。男2、兄さんの体押さえといて」

男2「お、おう」ガシッ

少年「や、やめろ色々まずいだろおおおお」

少年「う、うかつに手を出したら噛むかもしれんぞ! 危ないからやめとけ!」

弟「噛んだら前歯全部抜歯するから」

少年「いやあああああ助けてええぇ」バタバタ

男2「ちょ、暴れんなっ」

竜『…………やっぱり離してあげて。本当はもう、手遅れだから…』

弟「……男2」

男2「…ああ、わかった」パッ

少年「た、助かった……」

竜『…なんで、なんでだよ少年。永遠に生きることがどんなに辛いことか話聞いてなかったのか』

少年「ううん、ちゃんと聞いてた」

竜『ならどうしてこんな馬鹿なことをしたんだ!? これでもう君は死ぬことも老いることも出来なくなった! 君は自分から人としての幸せを捨てたんだ!!』

竜『それに君は前に血を飲むことを拒んでくれたじゃないか! それがどうして今更なんだよ!? 答えろ少年!』

少年「……うれしいんだ」

竜『なにがっ!?』

少年「だってさ、これでどこにいたっていつでも君の声が聴こえる」

竜『……たかが、そんなことのために…?』

少年「"そんなこと"なんかじゃない。だって、僕は君の声があればどんなに辛い時でも頑張れるから、きっと前へ進めるから」

少年「だからポチがいつでも励ましてくれると思えば永遠なんて全然怖くない」

竜『本気で言ってるのか』

少年「当たり前だろ」

竜『…………そうか、なら』

竜『(……なら、俺は君に声をかけるべきじゃなかった、君に優しくするべきじゃなかった、君に好かれたいだなんて絶対に願うべきじゃなかった。そうすれば少年はこんな取り返しの付かない間違いをせずにすんだ)』

竜『(結局、俺がここでしてきたことの全てがまた大切な人を不幸にしてしまうことだったんだ)』

竜『……前と同じだ。俺のせいで絶対にあってはならない過ちをまた犯させてしまった』

少年「…ポチ?」

竜『俺が好いた人は皆不幸になってしまう。やっぱり俺のようなバケモノは誰かを好きになっちゃだめなんだ…』

少年「ポチってば」

竜『どうすれば、どうすればいいんだ。どうしたらこの過ちを正せるんだ。もう、俺の手で終わらせるしか…』

竜『でも、俺は大切なものをまた自分で壊す苦しみに耐えられるのか。…無理だ、耐えられるわけがない。でも俺がやらなきゃこの子は、だから俺が、俺が…』

少年「聞けポチ! もっとポジティブに考えろよ!」

竜『…………ポジティブってなんだよ』

少年「僕が永遠に生きられるっていうことは、君はもうずっとひとりじゃないってことだよ」

竜『…あ……』

竜『俺はもう孤独じゃない…?』

少年「そうだよ、これでもうさみしさとはおさらばだ」

竜『…………』

少年「だからさ、一緒に行こうポチ?」

竜『…………俺は』

竜『……だめだ』

少年「ポチ…」

竜『だめだ、本当はだめなのに、それなのに、それなのに』

竜『嬉しいと思ってしまった、救われた気持ちになってしまった。そしてなにより、そんな言葉を言ってくれた君を』

竜『愛しいと想ってしまった、心の底から欲しいと願ってしまった。そんな資格バケモノにあるわけないのに!』

少年「…………」

竜『どうして俺は竜なんてバケモノなんだろう? こんなのもう嫌だ、嫌なんだ。誰かを好きになることが赦されないバケモノの姿なんて辛すぎるよ!!』

竜『憎い! 俺は生まれながらに愛し愛される資格を持った人間が憎い! 本当は俺だって誰かを愛して誰かに愛されたいのに!!』

少年「ポチ…泣いてるの?」

竜『お願いだよ、もう孤独を恐れながら生かされたくなんてないんだ。俺は生かされても生きることは出来ないんだよ。ならせめてバケモノを永遠から解放してくれよ。もう、さむいのは嫌なんだ……』

少年「……ヘンだよ」

竜『……?』

少年「すっごいヘンだよそれ。なんで君が化け物なの?」

竜『……皆が、皆が俺をそう呼ぶからだよ』

少年「皆がそう言ったらそうなるの? 白いものを黒と皆が言ったらそれは黒になるの? そんなの絶対おかしい」

竜『…じゃあ、俺は誰なの? 今君に話しかけている存在は何者?』

少年「自分が誰かなんて自分で決めたらいいじゃん。僕はそうした」

竜『そんなの、ただの自己満足じゃないか』

少年「誰も認めてくれなきゃそうかもしれない、でもたったひとりでもそう呼んでくれるひとがいればそれは立派な名前だと思う。"誰かが呼んでくれた瞬間から名乗ることができる"と思う」

竜『……じゃあ、訊くけどさ。君は今、どうしてその名前を名乗っているの?』

少年「大好きなひとが誰よりも優しい声で呼んでくれる名前だからだよ」

竜『(……名前)』

竜『(名前って、なんだろう。かつてあの名前で呼ばれていた自分はあの四文字をどう捉えていたのだろう)』

竜『(あの頃の俺はあの名前を本当に自分のことだと心から受け入れられていただろうか? どんな名前を与えられようと結局自分は"竜"でしかないと心のどこかで思い込んでいたんじゃないだろうか?)』

竜『(……でももうあの名前は捨ててしまった。だからここに来て少年に出会うまでの俺は自分のことを"竜としか名乗れなかった"はずだ)』

竜『(なら……今の俺は誰だ?)』

竜『(名前、名前…俺の名前……)』

竜『(そういえば…なんで少年は俺をあの名前で呼ぶのだろう。初めは適当に付けただけだと思ってたけど、もしかして少しは何か意味があるのかな)』

竜『訊きたいんだけどさ、どうして少年は俺にあんな名前を付けたの?』

少年「ええと、僕達が初めて出会った時のこと覚えてる?」

竜『忘れるわけないじゃないか、君は俺の姿を見ても何故か怖がらなかったね』

少年「うん、君とは逆だ」

竜『…………は?』

少年「あの時の君、とても怯えた目をしていた。突然来た僕にどう対処すればいいのかわからず、不安で一杯の視線を感じたよ」

竜『俺が、少年を怖がっていた…? そんなこと……』

竜『(……あったかもしれない。だって、あの時の俺は孤独という絶望的平穏が永遠に続くと信じていたから。ここにいる限り何も得られない代わりに何も失わずに済むと信じていたかったから)』

少年「それがわかったから君を見ても怖いと思えなかった。君と仲良くなりたいと思った」

竜『じゃあさ、俺が怖がっていたのとあの名前に何の関係があるの』

少年「うん、あの時の君の目がさ、僕にはまるで生まれたばかりの子犬のように見えたんだ。家の外のものを怖がって、散歩に連れて行こうとしても玄関でうずくまってしまうような臆病な子犬。まあ見た目は全然似てないけどさ」

竜『"臆病な子犬"…? ……そうか、だから、だからこそあの名前なのか』

少年「ごめんね、こんなこと言われていい気はしないよな」

竜『……つまり君は一目で俺自身が気付いていなかった俺の内心を見抜いた上で、あの名前を付けたんだ。こんな姿の俺と真っ直ぐ目を合わせることによって』

少年「ひとと話すときは相手の目を見ながらが基本だからな」

竜『…………』

竜『(俺のこの姿は紛れもなく竜そのものだ。名前が姿形や能力を表すものなら俺はやっぱり"竜"なんだ)』

竜『(でも、俺が人を憎み、人を恐れ、人を恋しく思う気持ちに"竜"という名前は本当に相応しいだろうか)』

竜『(もし名前が心を表すものでもあるなら俺にはもう一つの名前もあるんじゃないだろうか、なにより)』

竜『("俺"は誰でありたいのか。……そんなの決まってるじゃないか)』

竜『俺にも…』

少年「なに?」

竜『俺にも、名前を選ぶ権利はあるのかな。君みたいに』

少年「きっとそう望むひとにならこの世界の誰にだってあるよ、もちろん君にもさ」

♪飛び立てユークリッド空間

竜『……俺は今まで自分が竜というバケモノでしかないと思ってた。それがこの世界で俺に与えられた役割、いや"役名"だと思い込んでいた』

少年「他人に与えられた名前が自分に合ってると思えるならそれでもいいかもしれない。でももしそうでないなら、"自分は誰か"なんて自分で変えてしまえばいいよ」

竜『…そっか。じゃあさ、俺も名乗りたい名前があるんだ。竜とかバケモノとかそんな味気ない名前じゃなくて、大好きなひとが大好きな声で呼んでくれるとっても大切な名前』

少年「…君の名前はなに?」

竜『俺の、俺の名前は……だ』

少年「もっとはっきり、自信を持って!」

ポチ『俺の名前は、ポチだ』

ポチ『……なんだかとてもすがすがしい気分だ。例えるならそう、まるで生まれ変わったような』

ポチ『(自分が竜だとか過去に何があったかなんて本当は関係なかったんだ。だって今の俺は"ポチ"だから)』

ポチ『今なら、今の俺なら本当の自分自身の気持ちと向き合える』

ポチ『(今の俺は少年を少年としてちゃんと見れているよ。それでも君への想いは何一つ変わらない)』

ポチ『ようやく答えが出せたんだ、君に聴いて欲しい、俺の本心を』

少年「わかった、聴いてやろう」

ポチ『俺は他の誰でもない少年が好きだ。結婚しよう』

少年「うん!!」

弟「…何を、何を現実から目を逸らしているんだバケモノ?」

ポチ『! 何の事だ』

弟「わかってるだろ、お前のその感情は兄さんに向けられてるものじゃない、亡霊に向けられてるんだ」

ポチ『そのことか……、ああ確かにさっきまでは俺自身がそうだと思ってたよ。でも今は違う』

弟「何?」

ポチ『今の俺なら胸を張って言える。"ポチである俺は間違いなく少年を愛している"ってね』

弟「わかってないな、所詮お前は兄さんを通して今は亡き2人を…」

ポチ「いいや違うね!! こんなにも狂おしい感情を抱けたことは彼女達と一緒にいた時には一度もなかった! この感情は俺が少年と過ごした時間の中で芽生え育まれたものだ!」

弟「何を…」

ポチ「もう俺は少年の全てが欲しくてたまらない! 少年のこと以外何も考えられない! 俺は少年を愛することをやめられない! こんなの誰がどう考えても恋心しかありえないだろうが!!」

弟「ぐっ、くそ…兄さん、本当にこいつのこと…」

少年「ごめんな弟、自分の気持ちに嘘はつけないよ」

弟「…………」ガクッ

少年「あのさ、弟。僕が"少年"になれたのは弟のおかげでもあるんだ」

弟「…なんだよそれ」

少年「弟がその姿のとき本当に違う人に見えた。自分で新しい自分を作り出した弟を心から尊敬してた、だから真似させてもらった」

弟「…兄さんは知ってるくせに、これがただの逃避でしかないことを。常に優等生を演じなければならない自分の運命から逃げているだけだって事を」

少年「逃げ出せた事がすごいんだよ。僕は逃げることもせずただ現状を受け入れていただけだから弟のすごさがわかる」

弟「……でももう無理だ。兄さんがいなくなったら俺のことを本当に理解している人が誰もいなくなってしまう。もう元の姿に戻るのが怖い」

少年「弟…」

弟「これから俺はどうすればいいんだよ!? 結局この格好だって居もしない女を演じているだけだ! 普段優等生を演じているのと何も変わらない! どっちも偽りの俺でしかないじゃないか!!」

男2「ぷっ、あっはっはっはっは!!」

弟「なに、何笑ってるんだよ…!」

男2「いや何、最初はミステリアスな女だと思っていたが実際はただのブラコンこじらせた弟だったとは。これが笑わずにいられるかってんだ」

弟「っ! こいつっ!」

男2「いいじゃねえか。それが本当のお前って奴なんだろ? そっちのお前の方が見てておもしれえ」

弟「ば、馬鹿にするな!」

男2「してねえよ、むしろ褒めてるんだ。たまにはそんくらいのリアクションをあいつもしてくれるとわかりやすくていいんだがなあ」

弟「…くそっ、何だお前、お前みたいなタイプ俺の周りにはいなかったのに」

男2「そりゃ残念。まあ何はともあれ本当のお前とやら知られちまったなあ、俺によ」ニヤア

弟「! ど、どうせもう会うこともないだろ。関係ないね」

男2「いいや、あるぜ。だってお前同じ学校だろ?」

弟「だとしても俺はお前に金輪際接触する気はない」

男2「そりゃ残念。ところでこれなーんだ?」ピッ

《……でももう無理だ。兄さんがいなくなったら俺のことを本当に理解している人が誰もいなくなってしまう。もう元の姿に戻るのが怖い》

弟「」

弟「お、おま、おまままま」

《これから俺はどうすればいいんだよ!? 結局この格好だって居もしない女を演じているだけだ! 普段優等生を演じているのと何も変わらない! どっちも偽りの俺でしかないじゃないか!!》

弟「やめろおおおおおおおおお!」

男2「はあーっはっはっはっはっは!! こいつを校内放送で流したら一体どうなっちまうんだろうなあ!? 優等生君よおおぉぉ!」

弟「何が、何が目的だ…」

男2「うんまあ、これバラされたくなかったら以後俺の言うことを聞くこと。単純明快だろ?」

弟「た、例えば?」

男2「そうだなあ…じゃ、まず今度の休日にゲーセンでも付き合ってもらうか」

弟「…は? そんなことか…?」

男2「どうせ温室育ちの優等生はゲーセンも行った事ないんだろ?」

弟「馬鹿にするな!」

男2「あるのか?」

弟「そ、それは、まあないけど…」ゴニョゴニョ 

男2「兄が壊滅的にセンスないからお前も大概なんだろーなー、こりゃ見物だな」

弟「兄さんなんかと一緒にするな! 失礼だな!」

少年「いや弟の方が失礼だが」

男2「ま、口じゃなんとでも言えるわな。実際にやらせりゃそうも言えんだろうがな」フフン

弟「なっ、くっそ調子に乗りやがって、…見てろよ、絶対完膚なきまでに叩きのめしてそのむかつく顔を歪ませてやる…!」

男2「おーおー優等生はさすが負けず嫌いだ。まっ期待してるぜ」

弟「…ふん」プイッ

少年「…………」パチパチパチ

竜『ぱちぱちぱち、わーこれがツンデレって奴かー初めて見た感動ー』

弟「うっさいバケモノ」

ポチ『ポチだよ。…さてと』

>>51訂正

男2「ま、口じゃなんとでも言えるわな。実際にやらせりゃそうも言えんだろうがな」フフン

弟「なっ、くっそ調子に乗りやがって、…見てろよ、絶対完膚なきまでに叩きのめしてそのむかつく顔を歪ませてやる…!」

男2「おーおー優等生はさすが負けず嫌いだ。まっ期待してるぜ」

弟「…ふん」プイッ

少年「…………」パチパチパチ

ポチ『ぱちぱちぱち、わーこれがツンデレって奴かー初めて見た感動ー』

弟「うっさいバケモノ」

ポチ『ポチだよ。…さてと』

ポチ『皆ちょっと離れて、炎吐いて天井に穴空けるから。ふっ』ゴオッ!

男2「(普通に戦ってたら確実に死んでたな俺…)……ん?」

弟「これは…」

ポチ『……このタイミングでかあ。出来すぎてるなあ』

少年「雪だ…!」

少年「うわあすごいもそもそ降って来る、これなら雪だるま作り放題だ」

男2「血が抜けて寒いとばかり思っていたがまさかなあ」

弟「(スカートだから余計冷える…)」ブルッ

ポチ『うわああんなもの見たら急に寒気を覚えてきた、雪止ませてやろうか』

少年「そんなもったいない! これやるから我慢してよ! ほらっ!」ガサゴソ、サッ

ポチ『…ん? これは、マフラー?』

少年「うん、君寒がりだから作ってみた。いわゆるクリスマスプレゼント」

ポチ『もしかして、これを渡すためにここに戻って来たのかい?』

少年「うん。…でもやっぱりいらないよな、うっかり普通の大きさで作っちゃったからさ」

ポチ『首だけのダイエット法は生憎知らないなあ』

少年「うう…失敗した、連日夜なべして作ったのに……」

ポチ『…じゃあさ、ここに巻いてくれない?』

少年「えっ? いいけどそれ意味あるの?」

ポチ『いいからいいから』

少年「巻いたけど邪魔じゃない? 角になんかつけたらさ」

ポチ『いいんだ、ここにあることに意味があるからさ』

少年「マフラーってそういうものだっけ…? そこにあっても暖かくないだろ」

ポチ『…ううん、いいよこれ。すごく、すごくあったかい。さすが少年だね、ありがとう』ニコッ

少年「…………」

ポチ『少年?』

少年「…あ、な何でもない! それよりさ、そろそろ行こ?」

ポチ『ん。そうだね、じゃあ俺の背中に乗って』

少年「じゃ、2人とも僕達もう行くな」

男2「…本当に大丈夫なのか?」

弟「今更止める気はないけどさ、かなり大変だと思うよ。これから」

少年「そうかもしれない、けど」

ポチ『少年は俺が一生守るし俺が幸せにしてみせる。だから君たちに心配される謂れはないよ』

男2「…お熱いねえ。こりゃ負けてらんねえな」

弟「本当に、頼んだぞ。もし兄さんを悲しませたら」

ポチ『言っただろう、幸せにしてみせると。彼に襲い掛かる不幸は全て我が撥ね退ける』

弟「……ま、そこまで言うなら信じてやろう」

ポチ『さて、じゃあそろそろ飛ぶよ。準備はいい?』

少年「いいよ、飛んでくれ。あ、いやちょっとまって」

ポチ『何か忘れ物?』

少年「一言言い忘れてた。あのねポチ」

ポチ『なあに少年?』

少年「これからもずっとよろしくお願いします」

ポチ『! こちらこそよろしく! 飛ぶよ!!』シュパッ

男2「あー…あっちゅう間に行っちまいやがった。あっけねえなあ」

弟「…………」スタスタ

男2「ちょ、もう帰んの? 切り替え早すぎだろ!」

弟「……男2」ピタ

男2「なんだ改まって?」

弟「その、兄さん、お前と初めてゲームセンターに行ったあの日すごい喜んでた。だから、えと…」

男2「…………」

弟「あ、ありがとう……」ボソッ

男2「……はあ、さすがあいつの弟だ」

弟「は、はあ?」

男2「うし、一緒に帰るぞ弟。独り身の憐れなお前に今日はカラアゲをおごってやろう」

弟「やっすいクリスマスプレゼントだな。…まあ、嫌いじゃないよ」

―空―

少年「寒いいいいいいいいい空の上マジで寒いいいいいいぃぃ」

ポチ『ちょ、ちゃんと掴まってないと危ないよ』

少年「あばばば手がかじかんで手先に力が入らん、腹筋とかより握力もっと鍛えるんだったうひー」

ポチ『なんか思ってた旅出と違うなあ。もっとこう情緒的な雰囲気とかさあ』

少年「いや現実問題そんな余裕ない……あ、ポチほら下見て下」

ポチ『ん? ……おお』

少年「きらきらしてるだろ。町がクリスマスカラーで一色だ」

ポチ『眩しい、まるで地上の星空だ……綺麗だな』

少年「なっ外に出てよかっただろ?」

ポチ『……! うん、久しぶりに思い出せたよ。誰かと見るこの世界は案外美しいんだってこと』

少年「きっと世界にはこれよりもっときれいな光景が待ってるよ。それを君の翼で一緒に探しに行こう」

ポチ『俺の翼で? …………そうか。もしかしたら、俺はそのためにこの姿で生まれてきたのかもしれない。そう考えると…』

少年『考えると?』

ポチ『最高だ。君が望む場所どこにだって連れて行ってあげるよ』

少年「うん頼んだぞポチ!」

ポチ『任せてよ少年! じゃあ早速どこに向かおうか!』

少年「よし、僕達が最初に向かう場所は……!」



END …?

ENDと言いつつちょっと時間を挟んでエピローグ、♪その後の彼らの旅路の一部始終

♪その後の彼らの旅路の一部始終

―数ヵ月後、夜、とある山中―

「うわあ見てみてすごい! いっぱいだ!」

『うん綺麗だね、生命の神秘だ』

「初めて見た……こんな景色が見れるとは」

『君の名前に使われてるのに見たことなかったのか』

「見る機会もなかったし、あの頃は見たくもなかったからな」

『今は見ても平気なのかい?』

「うん、別に彼らに罪はないからさ」

『大人になったね、精神的には』

「こら、遠回しに僕の最大のコンプレックスをつつくな」

『てへっ☆』

『知ってるかい? 彼らは何も大人になってから輝き出したわけではないんだよ』

「え、どういうこと?」

『彼らは卵の時から既に光輝いているんだ。とてもとても小さな光だけどね』

「へーそれは知らなかった、いきなり頑張ってるんだね」

『……俺にとってもそうだった、暗闇の中に閉じ籠った俺には君という存在はあまりに眩しかった。君自身は自分が輝いていることに気付いてなかったみたいだけど』

「…………」

『俺は君の放つ光にどうしようもなく惹き寄せられてしまったんだ。だから俺から見ると君のもう1つの名前もとても似合ってると思うよ』

「…そっか、じゃあさ、君の昔の名前も似合ってると思うよ」

『そう? どこらへんが?』

「んーなんか外国の人の名前ってかっこいいじゃん、だから君に合ってると…………」

『自分で言っておいて赤面するとはいやはや男心をくすぐるのが上手だね』

「にやにやするな!」

「……さて、そろそろ行こうか」

『もういいの? こんな景色そうそうお目にかかれないと思うけど』

「いいよ、僕達には時間があるんだ。途方もない時間の後これ以上の景色にだっていつか出会えると思う」

『……後悔してるかい? 悠久の時の中をさ迷うことになったことを』

「してるわけない、むしろラッキーだと思ってる」

『へえ、それはどうして?』

「だってさ、好きなひととずっといられるんだよ?」

『ああ、確かに。そう考えると永遠も悪くない』

「僕たちほど幸せなふたりなんていないと思うぞ! よかったなポチ!」

『そうだね……好きだよ少年』

「なっ、なんで突然そんなこと言うんだよ」

『少年は俺のことどう思ってる? 聴かせてほしいな』

「ぼ、僕だってその、ポチのこと」

『うん?』

「す、すっ……」プルプル

『うんうん』

「愛してるよバカポチ!!」

『俺もだよ少年んんんんん!』ガバッ

「わああぁ抱きつくなあああぁぁ」

『……さて、そろそろ本当に出発するけど準備はいいかい少年? くれぐれも落ちないでよ?』

「大丈夫だよポチ、飛んでくれ」

『ねえ少年、これから先は何が待ってるんだろうね? わくわくするね?』

「そうだな、楽しみだ。まだまだ色んなものを見たい、聴きたい触れたい。君と一緒に」

『ん。じゃあ行こうか、螢(ひすい)』

「頼んだメビウス」

『…………』

「…………」

『「ぷっ……あははははは!」』

「なんかヘンな感じだな、やっぱりポチはポチだ」

『同感だね、少年は少年が一番しっくりくる』

「…………行こうポチ、ふたりでどこまでも!」

『そうだね少年、ふたりでいつまでも!』



お わ り

これにておしまい。

こんな需要なんてなさそうなお話を少しでも読んでくれた人ありがとうございました。

あまりに時間が掛ってしまったけど最後まで読んでくれた人が一人でもいてくれれば嬉しいです。

本当におつかれさまでした!
この作品とても好きです。
次回作も楽しみにしてます。

>>72

読んでくださったようで本当にありがとうございます!

気に入っていただけたようで大変嬉しいです。

願わくばこのお話を読んで何か心に残ってくれるものが一つでもあればと思います。

おまけ

♪託された未来

1/8

その日はとても天気が良く、まさに春の訪れを感じさせる穏やかな気候でした。

どこかの小さな病院の、小さな病室で一人の少年が目を覚ましました。

ずいぶん長い間眠っていたような気がします。

2/8

少年がふと窓の外を見ると、3羽の小鳥が仲良く電線の上に並んで乗っているのが見えました。

真ん中の鳥は一際小さく、子供のようでした。

そうであるなら両際の2匹はお父さんとお母さんなのかもしれません。3匹は仲睦まじく寄り添っており見るものの心を和ませる平和な光景です。

空はどこまでも青く澄み渡っていて夜になれば満天の星空が眺められるかもしれません。

3/8

少年の腕には点滴の針が刺さっておりベッドの上から降りることは出来ません。

少年はこの点滴が何のために打たれているのか知りません。それどころか自分が何故病院の個室で寝ていたのかも知りません。

なので、彼は目を覚ますまでの記憶を辿ってみることにしました。

長い長い眠りについていたせいか、始めは自分の名前と生い立ちぐらいしか思い出せませんでしたが辛抱強く過去を辿るうちに大変な事を思い出しました。

それは自分が大切な友達を守れず、悪者に連れ去られてしまった苦い苦い記憶です。

4/8

あの子はどうなったのだろう?

少年はいてもたってもいられなくなりましたが、いかんせん点滴の針が腕に刺さっているので身動きがとれません。

部屋には看護師を呼ぶ装置は見当たらず、扉に向けて不慣れな大声を出してもみても返答は一向にないので誰かがこの部屋を訪れてくれることをただひたすらに待つしかありませんでした。

5/8

やりきれない思いを抱えたまま少年は殺風景な白い部屋を見渡します。

窓の外の鳥はいつの間にか大きな鳥と小さな鳥の2匹に減っていましたが少年はそれに気付くことはありません。

何故ならもっと気になるものを見つけていたからです。

6/8

少年が見つけたものは紙で作られた鳥の群れでした。それは名前を千羽鶴といい、少年の祖母が家でつまらなそうな顔をしていた彼に教えたものでした。

東洋の一国出身である祖母曰く、千羽鶴は病気快復の願いを叶えるそうです。ここにあるということは千羽鶴は少年のために折られたものに違いありません。

なら、この千羽鶴は一体誰が折ったものなのでしょう。

7/8

少年は何とかベッドから手が届く距離にある千羽鶴にそっと手を触れます。すると、ポトリと鳥の群れの中から何かが落ちてきました。

それはどうやら手紙のようでした。

少年は手紙を拾い上げ表に書かれていた宛名と差出人を読み上げます。そこには、

8/8

数分後、手紙にのこされた彼女のさいごの願いを叶えるため、少年は自身を縛る点滴の針を引き抜き閉ざされた部屋を飛び出しました。



これでほんとのほんとにおしまい。

ありがとうございました。

あ、助数詞間違えてるごめんなさい。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 19:43:37   ID: yJXRWCtP

超 絶 乙
ハッピーエンドでよかった…
本当によかった!

2 :  SS好きの774さん   2014年11月14日 (金) 22:00:06   ID: 5qYxk10A

最後がわからない…

3 :  SS好きの774さん   2016年08月09日 (火) 00:51:12   ID: 8uHraEqg

あなたのおかげで救われた                    
本当にありがとう

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