モバP「雨の日の過ごし方」(26)
以前利用させて頂いていた投稿掲示板が利用できなくなってしまったため、こちらに投稿させていただきます。
・地の文有で短いオムニバス形式
・各アイドルの雨の日の過ごし方を描いた作品です
・登場人物については、随時リクエストを募集しております。
拙い作品ですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
過去の作品
・渋谷凛「不思議なお店?」
~梅木音葉の場合~
僕が担当しているアイドルの一人『梅木音葉』は音の流れが『視える』らしい。
その『視える』という感覚が視覚的にどう映っているのか僕には分からない。
ただ、もし、日常風景の一部に音が視覚的に映り込んでいるなら、
都会は音葉にとって、恐ろしく住み辛い場所なのだろう。
様々な騒音が混ざり合っているこの汚れた都会は、一体どう見えているのだろう。
大きな音を流すスピーカーは彼女にどんな風に見えているのだろう。
一度だけ聞いたことがある、辛くは無いかと
その問いに対し、音葉はとても困った表情を見せた。
時々、不便なことがあるらしい。
森林浴が趣味な音葉だが、雨の日も好きらしい。
雨の日の音葉は大抵、事務所の窓際に腰かけている。
雨が灰色の都会を染める音と僕がキーボードを叩く音、
時折、通過する自動車の音。
それを目を細めながら聞いている。
寒くなると、僕が温かい飲み物を入れる。
ココアかミルクティー。
それを啜る音が静かな事務所に響く。
「いつか、見せてあげますから」
雨の日の度にするこの約束を、僕はとても楽しみにしているのだ。
1人目「梅木音葉」編は以上になります。
本当に短い文章で各キャラクターに適した内容にできればと思います。
今夜中にあと1~2話程投稿させていただきます。
~三船美優の場合~
僕が三船さんをアイドルとしてスカウトしたのは梅雨半ばだった。
営業先からの帰りに紫陽花を眺めていたのを目にしたのがきっかけ。
とても儚げなその表情と静かに降る雨が調和していて、まるで映画のワンシーンのようで。
気が付けば、スカウトしていた。
三船さんは雨の日が嫌いらしい。昔の事を思い出すから。
でも、僕は雨の日に見せる三船さんの物憂げな表情が観たくて、独占したくて、
たまに三船さんを雨の中、散歩に誘う。
戸惑った顔はするけど、断ることはしない。そんなところも、三船さんらしいと思う。
しばらく事務所の周りを歩いて、戻る。それだけの散歩道。
その短い時間の間に三船さんの表情はコロコロ変わる。
紫陽花を見れば目を細め、幼い子供を見れば微笑む、
偶に立ち止まって空を見上げる、
本当に運がいい時は、散歩中に雨が止む。
その時の三船さんの安心したような優しげな笑みだけは、絶対に公開したくないと
プロデューサーにあるまじきことを思うのだ。
2人目「三船美優」編は以上になります。
本サイト様の改行制限に慣れないので本日は以上とさせていただきます。
雨の夜の静かな雰囲気に合わせて読んで頂けると幸いです。
しっとりしてるのお
おつ
~渋谷凛の場合~
雨になると、凛はなるべく早く実家に帰る。
外に出している花を店内に運ぶ作業があるからだ。
営業の合間に様子を見に行くことがあるが、忙しそうなので声は掛けない。
花を覆っているビニールの部分に雨粒が滴り、それを凛が抱えている。
特段、綺麗な光景なわけではないが、僕にとっては落ち着く光景だ。
「ふーん、変なプロデューサー」
一度それを凛に話すと怪訝そうな表情をされた。
僕はただ、凛が仮にアイドルを止めたとしても、きちんと帰る場所があることに安堵していたのだけど、それは言わない。
凛を送る帰りの車の中、雨が降っていると落ち着く。
かつては、社長、事務員のちひろさん、僕と凛しか事務所に居なかった頃を思い出す。
別に現状に不満を抱いているわけではない、なんとなくのノスタルジー
昔は良かったとは言わない。
別に会話をすることもない。静かな車内と雨の音。
時折、凛が静かに歌ってくれる。
この時間がプロデューサーである僕の特権だったりする。
~千川ちひろの場合~
雨の日もちひろさんは変わらない。
いつも通り、淡々と事務をこなしてくれる。
ただ、暗黙のルールが一つ。
雨の日は僕がコーヒーを入れて、ちひろさんはスタドリを売らない。
それだけの違い。まあ、大きいと言えば大きいけど。
別に雨の日だからといって何かが変わるわけじゃない。
社会人になれば、同じ仕事の繰り返し。
毎日、繰返して、繰返して、繰返す。
たまに全てが嫌になる。
特別な日なんて無い。
でも、ちひろさんは全てが嫌になることはないらしい。
お金とかそういう問題じゃなくて、小さい幸せを見つけるようにしているらしい。
「雨みたいなものですよ。いつか止みますから」
それは良いことなのか、悪いことなのか未だに分からない。
ただ、少し達観したような表情を見せるちひろさんは少なくとも、
僕より精神的に成熟しているのだろう。
そんなことを思う、物憂げな雨の日の社会人の午後
~佐久間まゆの場合~
雨の日になると、まゆは必ずと言っていい程、事務所から居なくなる。
何処に行っているのか、何をしているのか僕以外は知らない。
雨の日は、僕がスカウトや営業に行く可能性が低いので、まゆにとって都合のいいらしい。
僕の部屋を掃除してくれている。
雨の日、帰ると部屋がいつも綺麗になっている。
「いつも、ありがとう」
「いいえ、まゆが好きでやっていることですから」
咎めても、まゆが止めることは無い。
鍵を変えても、まゆを止めることなんてできない。
人間がいきなり雨を止められないのと一緒の事。
まゆを止めることなんて、僕にはできない。
雨は優しいなんて小説でたまに見るけど、雨は人間の意図なんて考えてくれはしない。
だから、諦めて、ため息をついて、机でグテーって5分くらい休憩をする。
雨の日だから、マスコミも少ない。それも全部分かってて行動している。
勝てないなぁなんて思いながら、書類と格闘する。
この雨が、血の雨に変わりませんようになんて、祈りながら。
嘘だけど、まゆは存外優しいから。
~鷺沢文香の場合~
文香は様々なジャンルの本を読む。
小説、哲学書、ビジネス書、雑誌、画集、自伝…etc。本当に何でも読む。
海外文学にも精通しているらしく、以前にアーニャとロシア文学について語っていた。
雨の日でも変わらない。別に天気に合わせて読む本を選択しているわけではない。
ただ、ブックカバーが天気によって変わる。雨の日は水玉模様のブックカバーに。
曇りの日は灰色のブックカバー、晴れの日は向日葵柄のブックカバー。
面白いことに日中に突然、天候が崩れた日も文香のブックカバーは変わっている。
天気予報代わりになるので、僕は結構助かっている。主にアイドルの送迎関連で。
本人は割と無意識に選んでいるらしい。
将来的にはキャスターの仕事もできるかもしれないと期待が膨らむ。
ただ、僕が一番心温まるのは、雨で暇を持て余した年少組が文香と居る時、
本当に稀だが、文香が絵本を朗読してくれる。
それに聞き入る年少組。
疲れが抜けるその光景に、なんとも言えない幸福感を僕が抱くのだ。
もし、文香がアイドルを引退したら、誰かに物語を読み聞かせる仕事をして欲しいと思う。
静かに染み入る雨の音のように、それはきっととても自然な姿な気がする。
本日は以上とさせて頂きます。
リクエストは随時募集しております。
~白坂小梅の場合~
申し訳ないとは思っているのだが、雨の日に一緒に居たくないアイドルが数名いる。
小梅はその一人だ。
昔から言われている話だが、水場にはよく幽霊の類が出るらしい。
そのためか、とても嬉しそうなのだ。雨の日になると小梅が。トモダチが増えるから。
普段から何も無い所をよく見ているが、雨の日は特にそれが顕著だ。
霧の日とかも多いらしい。
小梅が眺めている窓に、水滴が集まって手形を構成していても気にしてはいけない。
ナニカが後ろを横切った気がしても、振り返ってはいけない。
何故か、小梅の傘に影が重なって見えても気にしてはいけない。
小梅の真後ろに誰かがいるのが割とはっきり見える。
降り注ぐ雨が見事に人型にくり抜かれているから。
尋ねたことは無い。絶対に知りたくない。正直、怖い。
雨が降る度に、小梅から徐々に僕の方に近づいている気がする。
小梅の友達である以上、害は無いのだろう。
それでも、気になるものは、気になるのだ。
寒くないのだろうかと
~北条加蓮の場合~
関東地方の雨は夜間に雪に変わるらしく、今日の人通りは少ない。
交通機関が麻痺する前に、前回の教訓を踏まえ、皆、帰路を急ぐ。
天候が悪い日はなるべく加蓮を車で送る様にしている。
元々体調が弱い加蓮が季節の変わり目や気温の変化で体調を崩さない様に。
アイドルの送迎に使用している社用車は基本的にスモークグラスだ。
マスコミや過激なファンに対する対策の一環として社長が提案したものだ。
車が動き出すと加蓮は肩に顎を乗せてくる。ふんわりと柑橘類の香りが鼻孔を擽る。
コンコンと雨が車体を叩く音がする。
「今夜は雪らしい」
「皆、言ってるよ」
「温かくしなよでしょ?」
ため息交じりの苦笑。大体、いつも言うことは決まっている。
同じでないと僕が不安になるから、いつか、そんなことすら言えなくなりそうで。
僕は雪が嫌いだ。雨はまた降るけど、都内では次の雪を見るのに長く待たないと行けないから。
加蓮が埋もれてしまいそうで怖くて、僕は雪が嫌いだ。
何故、雨は大丈夫なのか、自分でもよく分からない。
僕が以前に送った、ピンク色のウールのセーターを加蓮はよく着てくれている。
そう言えば、これを勝ったのも雨の日だった気がする。
「マフラー欲しい」
「分かった」
「ちゃんと選んでね」
「春先でも着れそうなものにするよ」
春になれば少しは気分が楽になるのだろうか。
~あるプロデューサーの場合~
大抵の場合、帰るのが終電か、その後タクシーで帰宅する形になってしまう。
この業界を志した時に、覚悟をしていたことではあるが、毎日コレが続くとさすがに辛いものがある。
なんのために生きているのだろう。
そんな答えの出るはずの無い自問自答を繰り返してしまう。
強めのウィスキーを流し込んで、冷えた体を温める。
残業代が出ない年俸制のこの業界では、まず基本的な節約から始めなくてはいけない。
飲み代と電気代はその筆頭。アイドルとプロデューサーが飲みに行くことは皆無に近い。
ちなみに、景気回復に伴う賃金上昇なんて、自分とは無縁の話だ。
プライベートの携帯電話のメールと着信履歴を確認。
クレジットカードの使用履歴以外何も新しいものは無い。
外は相変わらず、雪なのか、雨なのかよく分からない天気が続いている。
Daniel PowterのBad dayを選択して、イヤフォンをはめる。
コートは適当にベッドに投げ捨て、寄りかかって眼を閉じる。
疲れたなぁって、この時だけは口にする。
次は10Feetのライオンを選択して、適当な音量で流す。
雨の音と好きな音楽の中、ゆっくり目を閉じる。
なんのために生きているのか?
僕の担当アイドルの一人の塩見周子はこう答えた。
「さあ?でも、なるべく自分が楽しめる様に頑張ればいいんじゃん?」
ああ、周子らしい答えだと思った。
ニート系アイドルこと双葉杏に同じことを訊ねてみた。
「ダラダラして、楽するため。生きてないとダラダラもできないじゃん」
ああ、杏らしい答えだと思った。
2曲が終わると、イヤフォンを外して目を瞑る。
ザー、ザー、という雨音が全部をリセットしてくれそうな気がする。
雨は好きだ。自分だけが世界が切り離された気がするから。
朝、出勤時間の30分前後前に目が覚める。
朝食を食べている時間などもちろんない。
シャワーを浴び、髭を剃り、くたびれたスーツに手を通す。
それから、担当アイドルが歌っている曲が流れるイヤフォンを耳に差し込む。
素顔をよく知っているためか、歌詞と歌い手の性格に若干ギャップを感じる。
くだらないけど、役得だよな。
なんて、少し晴れ始めた空を見上げて、気合を入れる。
さて、今日も地道で、曖昧で、終わりの見えない毎日の始まりだ。
本作品は以上となります。
週末の首都圏の曖昧な天候に合わせて書いてみました。
また、明日から天候が悪い中、いつも通りの日常が始まりますが、お気をつけてお過ごしください。
乙乙
いい雰囲気だった
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