少年聖騎士「ダチの仇! くらえ、魔王!」 (218)
北の孤島
カツーン カツーン……
発掘士「……だいぶ奥まで来ましたね」
「そうだな。我が国の調査が、いや、どの国の調査も及んでいない領域だ」
発掘士「何かしら苦労に見合う成果はありそうです」
「なければまたどやされる。それだけは勘弁願いたいもんだ」
発掘士「はは。頑張りましょう」
「先文明の防衛機構が動いている可能性がある。言うまでもないが。気を引き締めていくぞ」
発掘士「ええ」
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カツーン カツーン……
「……扉?」
発掘士「大きいですね」
「開くか?」
発掘士「道具でならこじ開けることはできるかと」
「よし、頼む」
バキン! ズズズ……
発掘士「っと。開きました」
「ご苦労」
発掘士「入りますね」
「気をつけろよ」
発掘士「大丈夫です。……広い」
「なんだここは」
発掘士「用途は分かりませんが、広間のようですね」
「! おい、こっち」
発掘士「これは……大きい」
「今までいくつもの遺物を見てきたが……ここまで巨大で機構じみたものは初めてだな。へっ、大当たりだ」
発掘士「……」
「どうした?」
発掘士「あ……いえ。ちょっと感動しちゃって」
「そういえばお前は発掘隊に入ってまだ日が浅かったな」
発掘士「この間配属されたばかりです」
「新入りでこんな大物に当たるとはついてやがる」
発掘士「ええ。これで面目もたつってもんです」
「そうだな。大手柄だ」
発掘士「ええ、まあ、それもあるんですけど」
「ん?」
発掘士「ぼく、聖騎士隊候補生の出なんです」
「……こりゃ驚いたな。聖騎士様の卵とは。この職に就くにはずいぶん若いとは思ったが」
発掘士「なりそこないですけどね」
「? なにかあったのか?」
発掘士「落ちちゃったんですよ。落第生です」
「……」
発掘士「だから、これでちょっとでも見返せるかな、と。まあそんな感じです」
「そう、か」
発掘士「はは……」
「まあ、なんだ、あれだ。あっちじゃちっと冴えなかったのかもしれねえが、気にするこたあない」
発掘士「ええ」
「これだけの大当たりだ。この栄誉ある最初の発見は聖騎士様にゃできねえしな」
発掘士「はは」
「故郷を守って戦うのは聖騎士だが、やっこさんらの武器を確保してるのは俺たちだ。胸張って国に帰れるぞ!」
発掘士「はい」
「そうだ笑え笑え。ベースキャンプに戻ったら存分に飲もう!」
発掘士「ご馳走になります」
「よし、じゃあ戻るか。このデカブツを移送する手配もしなけりゃならん」
……ゴウン
発掘士「ん?」
「どうした?」
発掘士「あ、いえ。何か音が聞こえたような」
「音?」
ゴウン……ゴウン
「……なんだ?」
発掘士「分かりません。しかし、何か危険が——」
ガチ! キュイイィィ——
発掘士「!」
「くっ……!」
カッ!
・
・
・
……
剣の国 聖騎士隊本部
少年「……今、なんて?」
「北の孤島に調査に出ていた発掘隊が消息を絶った、だ。繰り返させるな」
少年「ど、どういうことだよ」
「お前も聞いているだろう。先文明の繁栄地、遺物たちの故郷、北の孤島。そこに正体不明の高エネルギー体が発生した」
少年「ああ、でも」
「でも、じゃない。発掘隊は"それ"に全滅させられた可能性が高い」
少年「そんな」
「発掘隊の調査予定地がちょうど発生地点に重なっている」
少年「発掘隊の中にはあいつがいるのに……」
「繰り返すが消息不明だ。気の毒だったな」
少年「……」
少年「……高エネルギー体って、なんなんだ?」
「さきほど言った通り不明だ。だが、島から逃げてきた他国の調査団の言うところによると」
少年「なんだ?」
「極めて意味が不明瞭で恐らく不正確でもあるのだろうが……魔王、と」
少年「魔王……」
「お前がするべきことは二つだ。これから忙しくなる、準備を怠るな」
少年「もう一つは?」
「敬語を覚えろ」
食堂
銃士「ねえ、聞いた?」
少年「……ああ」
銃士「そう。じゃあ知ってるんだね」
少年「あいつが死んだ」
銃士「うん」
少年「殺されたんだ。訳の分からないふざけた何かに」
銃士「……うん」
銃士「その訳の分からないふざけた何かは魔王って呼ばれているらしいよ」
少年「みたいだな」
銃士「魔王の出現と同時に、孤島で死んでいたあらゆる防衛機構も活性化し始めたって」
少年「じゃあやっぱり先文明関連の何かなのか、魔王は」
銃士「多分ね」
少年「そうか……お前の部隊にはどんな指示が?」
銃士「待機」
少年「じゃあ俺と同じか」
銃士「歯痒いね」
少年「全くだな」ギリ……
銃士「それじゃわたしはこれで」
少年「……ああ、じゃあな」
北の孤島。かつてその地で栄えた文明があった。
最盛期においてはどれほど力のある国の干渉も許さない頑健さを誇ったが、突如瓦解する。原因は不明。
ただ、滅びた後もその遺物にために現代への影響は色濃い。
遺物は不可思議な力を発揮する。
国力増強のため、各国は競って遺物の収集、研究にあたった。
遺物は神からの賜物と囁かれ、それを使う人間は「遺物使い」「神官騎士」——剣の国では「聖騎士」と呼ばれている。
……
数日後 聖騎士隊本部 武器庫
少年「ほい、持ち出し許可書」
「——確認しました、どうぞ」
少年「サンキュ」ガチャ
少年「それじゃ」
「ん? お待ちを」
少年「なんだ?」
「許可書には演習のための持ち出しと書かれていますが……」
少年「それが?」
「今日は特にこれといった合同訓練はなかったはずでは?」
少年「……」
少年「俺もよくわかんねえけどよ、先生が稽古つけてくれるんだってさ」
「ああ、なるほど、彼が」
少年「というわけで、行っていいかな。遅れると先生、すげえ怖いから」
「はは、お気をつけて」
少年「ん。……ごめんな?」
「は?」
少年「いや、こっちの話。それじゃ」
タッタッタッタ……
城門前
少年「……」カツ カツ
『ぼく、聖騎士を目指すよ』
少年「……」
『え、君も? そっか、一緒に頑張ろうね!』
少年「……」
『ぼくたちなら、絶対に聖騎士になれるよ!』
少年「……」ギュッ……
「どこ行くの?」
少年「……銃士か」
銃士「わたしはどこ行くのって聞いたんだけど?」
少年「……」
銃士「偽物の許可書で遺物を持ち出して、多分出国許可書もでっちあげ。いかがわしさ満点でどこ行くのか知りたいな」
少年「あいつの仇を討つ」
銃士「……」
銃士「あなた一人じゃ無理だよ」
少年「上の奴らはあてにならない。国同士の折衝だとかで益体もない会議ばかりだ」
銃士「待てないってこと?」
少年「もし調査隊が編成されたとしても俺みたいな若造が入れるわけがない」
銃士「……」
少年「それじゃあ駄目なんだ。あいつの仇は俺が討つ。俺が、討ちたい」
銃士「……」
少年「止めるなよ。もし邪魔するならお前も……お前も斬って進む」
銃士「仇を討てるとは限らないよ」
少年「それが分からないほど馬鹿じゃない。でも、それで止まれるほど利口でもない」
銃士「追手がかかるかも」
少年「覚悟はしてる」
銃士「武器庫の人はどやされちゃうね。かわいそう」
少年「それは悪いと思ってる。だから謝っといた」
銃士「わたしも連れてって」
少年「……え?」
銃士「わたしも……わたしもあの子の仇を討ちたい」
少年「銃士?」
銃士「分かるでしょう。わたしだって幼馴染なんだから」
少年「……」
銃士「お願い」
少年「仇が討てるとは限らないぞ。追手がかかるかもしれない」
銃士「それが分からないほど馬鹿じゃないし、それで止まれるほど利口でもない。覚悟もしてきた」
少年「遺物ほどじゃないが銃だって貴重品だ。勝手に持ち出したのがバレたら担当管理官はどやされるな」
銃士「だからわたしも謝ってはきた。ごめんねって」
少年「……」
銃士「……」
少年「っへ」
銃士「……」
少年「へへ、ははははは!」
銃士「……ふふ」
少年「さて、じゃあ行くか」
銃士「うん」
——ザッ
……
「わたしの部下が、ですか」
「そうだ」
「彼には参ったものです。まるで言うことを聞こうとしない」
「……」
「それで、わたしは何をすれば?」
「分かっているだろう?」
「……」
「連れ戻せ。それが無理ならば殺せ」
「大事な聖騎士の一人ですよ?」
「大事だからこそだ。他国に付け入る隙を与えるわけにはいかん」
「……分かりました」
「行け」
「は」
続きます
おつ
……
少年「さて。北の孤島は剣の国から見て二つ国を越えた先にある」
銃士「うん」
少年「今はここ、一つ目の槍の国に向かう道の途中」
銃士「もう少しで到着だね」
少年「ああ。可能なら立ち寄らずに済ませたかったけど」
銃士「もともと剣の国から持ち出せた物は少なかったから。買い物しなきゃ」
少年「そうだな。その通りだ」
銃士「馬車も調達できればいいけど」
少年「そんな金ねえなあ……」
銃士「だよね」
槍の国 城門
門番「お前たちは?」
少年「旅人だ。この先に行くために食料の買い足しや道具の買い替えをしたいんだけど」
門番「どこから来た?」
銃士「南の方にある小さな村から」
門番「ふうん?」
少年「この国に迷惑はかけないよ。買い物して一拍したらすぐに出る」
門番「……いいだろう。行け」
少年「サンキュ」
門番「ん? ちょっと待て」
少年「なにか?」
門番「もしかしてその包みは剣か?」
少年「……ああ」
門番「ずいぶんでかいな」
少年「南方の流行りだよ。物々しいのが好き奴が多くてね」
門番「へえ……」
少年「……」
銃士「行っていい?」
門番「ああ、かまわん」
門番「ちょっと待て」
少年「んだよまたかよ」
門番「門を抜けた大通り、すぐ右の路地」
銃士「?」
門番「割安のいい宿がある。使え」
少年「お? マジ? サンキュ!」
門番「礼は要らない。さっさと行け」
……
宿
少年「っと。買い物もだいたい終わったな」
銃士「お疲れ」
少年「これで後は明日に備えて休むだけだ」
銃士「うん」
少年「俺は風呂入ってもう寝るよ」
銃士「じゃあわたしは部屋に戻るね」
銃士「あ。そういえば」
少年「ん?」
銃士「気になるね」
少年「あー、あれか」
銃士「どう思う?」
少年「どうっていわれてもな。決まったわけじゃないしもう入っちまったし」
銃士「……。じゃあ交代で休もう? 壁ノックで合図」
少年「まあ念のためか。了解。おやすみ」
銃士「おやすみ」
続きます
……
『聖騎士がなんで聖騎士って呼ばれてるか知ってる?』
『聖騎士は先文明の遺物を武器として使う人たち』
『先文明の遺物は不思議な力を持ってるんだ。それは神からの賜物と考えられている』
『そして遺物は選ばれた人にしか使えない。聖騎士にしかね』
『つまり聖騎士は神に祝福された人たちなんだ』
『だから聖なる騎士。聖騎士っていうんだよ』
少年「——」
少年「……ううん」ムニャ
少年「銃士か」
銃士「早く準備して」
少年「やっぱり来ちゃったな」
銃士「うん。聖騎士——この国では神官騎士ってよばれてるんだっけ。来ちゃったみたい」
少年「まああの門番は怪しかったし、わざわざ宿を教えてくれたのは妙だと思ったけど……チェッ、めんどくせえな」
コンコン
少年「もうか、早いな。銃士は物陰に」
銃士「了解」
少年「ううん……なんだよこんな夜遅くに」ガチャ
「剣の国の聖騎士だな?」
少年(一人……違う。階段下に二人。外にも二人ってとこか?)
少年「セイキシ? なんだそりゃ」
「とぼけるな」ガッ!
少年「ぶッ!」ドサ!
少年「な、何すんだよ!」
「知らないふりは必要ない。もう調べはついている。遺物はいただくぞ」
少年「っは、バレちゃってんのか。そりゃ手間無くていいぜ! 銃士!」
銃士「……」バッ!
ズキュウゥンッ!
ブワ! モクモクモク——ガシャアァン!
少年「っと!」スタ!
銃士「ん」スタ!
少年「よし、裏には誰もいないな。行くぞ!」
銃士「うん!」
タッタッタッ——
少年「あれは煙幕だったのか?」
銃士「黒色火薬の空砲。煙がすごいの」
少年「なるほど」
銃士「それより、路地の出口」
少年「……!」
「回りこめ! 通すな!」
銃士「どうするの?」
少年「こいつだ。"剣"を使う!」ジャキ!
少年「俺に掴まれ銃士!」カッ!
少年「おおおおおお!」ダンッ!
「跳んだ!?」
「高い!」
少年「もういっちょ!」ダダンッ!
銃士(壁蹴り——いたっ、舌噛んだ)ガクンガクン!
少年「ふっ!」スタ!
銃士「うぅ……」ヨロ
少年「銃士! ふらついてないで逃げるぞ!」
銃士「りょ、了解」
門
タッタッタッ——
少年「もうすぐ外だ!」
銃士「待って、前」
少年「!」
神官騎士「……」
少年「っと!」ズザ!
少年「……ったく」
神官騎士「……」
少年「遺物をのこのこと持ちこんだ俺も俺だけどよ、欲しいからってちょっとしつこすぎるんじゃねえか?」
神官騎士「……」
少年「国際問題的にそちらさんに怪我させる分けにも行かねえしよ。少しは配慮してほしいもんだぜ」
神官騎士「……」ジャキ!
少年「チッ」
少年(獲物は槍か。多分遺物だな)
少年「銃士。門の方を頼む。こいつを片付けたら即逃げられるようにしといてくれ」
銃士「戦うの?」
少年「あまり時間はかけねえよ。後ろが来てるからな」
銃士「分かった。気をつけてね」タタッ!
少年「おう」ジャキ
神官騎士「長大な剣だな」
少年「なんだ喋れるのか」
神官騎士「それだけ大きいと筋力で保持してるわけではあるまい」
少年「いや、聞けよ」
神官騎士「加えてあの跳躍力と運動性能。恐らくは身体能力を底上げする遺物だな」
少年「……ふうん?」
神官騎士「気に入った。もらうぞ」
少年「そこまで理解できてるんなら簡単に手に入るわけねえってのが……」
少年「分かるだろうがッ!」ダンッ!
——ガキンッ!
神官騎士「……」グググ……
少年「あ?」ギギギ……
少年「受けとめた……?」
神官騎士「ふん」
少年「……もういっちょ!」ブン!
カィン!
少年「また?」
神官騎士「無駄だ」
少年「ちょ、おいおい!」
神官騎士「ふッ!」ガス!
少年「へぶし!」
少年「つぅ……いってぇ……」
神官騎士「これ以上痛い思いをしたくなければ遺物を渡せ。素直に渡せば勘弁してやらんことも——」
少年「いやあ、凄い知覚能力だな」
神官騎士「……!」
少年「それだけ鋭いと、全てが止まって見えるんじゃねえか?」
神官騎士「貴様」
少年「なんであの場に居合わせてなかったお前が俺の跳躍力を知ってたのか疑問だったけど、遺物の力なら納得だな」
神官騎士「……」ジリ……
少年「それはあんたの五感を極度に鋭くする遺物なんだ」
少年「それさえ分かれば怖くない。だって身体は普通の人間なんだからな!」バッ!
神官騎士「ぬかせ!」
キン! ガキン! ガン! ズガン!
少年「おおおおお!」
神官騎士「ぬううううん!」
少年「手数を増やせばこっちが有利!」
神官騎士「……ッ!」
少年「知覚できても! 対応できなければ意味がない!」
神官騎士「だが! すぐに仲間が来る! そうなれば! わたしの勝ちだ!」
少年「ばーか。時間が経てばこっちも有利だ」
神官騎士「……?」
ゴガン!
神官騎士「ぬお……!?」フラ
——ドサ
銃士「門の方が片付いたから助けに来たよ」
少年「ふう。サンキュ」
銃士「ちょっと手加減できなかったけど大丈夫かな?」
少年「まあ予想外の所から打撃をくらってびっくりしたのもあるんだろ。知覚がすごくても一点に集中しちゃうと他が無防備だからな」
銃士「よくわからないけど」
少年「ん、いいんだ。それじゃさっさとずらかろうぜ」
少年「この馬車は?」
銃士「門番の人のみたい」
少年「へえ? ラッキーだな」
銃士「苦労の分の見返りには十分だよね」
少年「ちょうどよかったな」
「待てえ!」
少年「お、来たか」
銃士「それじゃあ出すよ」
少年「おう、頼む」
ヒヒーン! ガタン!
・
・
・
続きます
数日後
『我らの偉大なる神よ』
『剣、そして戦う術を我らに与えられた主よ』
『我らがあなたに背くことのないようお導きください』
『これより我らはあなたの手足。全てをお捧げし、御心に従うことを誓います』
『我らと我らの国にあなたの守りがありますように』
『永久の繁栄がありますように——』
少年「……」
銃士「どうかした?」
少年「いや……先生のこと考えてた」
銃士「先生?」
少年「正確には俺の上司」
銃士「なんで先生って呼んでるの?」
少年「俺は歴代三番目だったかの若さで聖騎士になっただろ?」
銃士「うん」
少年「そんな若造に手放しで仕事は任せられないってんで、上司兼教育係にあてられたのが先生なんだ」
銃士「へえ」
銃士「それで、その先生がどうかしたの?」
少年「うるさくはないんだけど厳しい先生でさ。多分今すげえ怒ってると思うんだよな」
銃士「怖い?」
少年「めっちゃ怖い。帰ったら俺、マジで、本当に殺される。きっと骨も残らない」
銃士「ふうん」
少年「いや反応薄いな。いいけどよ。まあそれで今から憂鬱なわけだよ」
銃士「頑張ってね」
少年「うわぞんざいな」
銃士「そんなことはともかく、いい天気だねえ」
少年「そんなことってほどそんなことでもないが……そうだな」
銃士「昔三人で、ピクニックに行った時のことを思い出すなあ」
少年「……」
銃士「あの日は雨に降られちゃって大変だったけど。楽しかった」
少年「ああ」
銃士「それぞれ忙しくなったから、最近は三人で一緒になることもなくなっちゃったけど」
少年「また……行きたかったな」
銃士「うん」
少年「……」
銃士「……」
少年「もうそろそろ次の国に着く」
銃士「そうだね」
少年「俺は、剣はどっか国の外に隠してから入るけど、そっちはどうする?」
銃士「持ってく」
少年「そうか? 見つかったら面倒くさいぞ?」
銃士「銃はわたしの心を上手に代弁してくれるから」
少年「?」
銃士「これを手放すのは言葉を失うのに等しい……」
少年「よくわからねえが……そこまで言うなら止めねえよ」
銃士「ありがとう」
少年「ただし、注意はしろよ」
銃士「分かってるよ」
少年「ならよし——見えてきたぞ」
銃士「あれが矛の国だね」
……
「——あれが矛の国か。もうあの二人は入国しただろうな」
「……」
「生徒を痛い目にあわせるのは気が引ける」
「できれば素直に戻ってほしいものだが」
「……まあ無理だろうな」
「わたしを恨んでくれるなよ」
続きます
乙
矛の国
少年「——っと」
銃士「これで全部?」
少年「そうだな、必要なものはだいたいそろったよ」
銃士「そっか。じゃあ後は任せるね」
少年「え?」
銃士「わたし、もうちょっと見たいものがあるんだ。行ってくる」タタタ
少年「おーい」
少年「……」チラ
荷物の山<ずおーん
少年「……うおーい」
少年「ちっ……くしょー」フラフラ
少年「お、もい……」ヨロヨロ
少年(宿は、あっちだったっけか?)
少年「……近道しよ」
人気のない路地
少年「どっこい……しょ」
少年「あと、もう、ちょい……!」
ドン!
少年「おう!?」ドサドサドサァ
少年「誰だ! 荷物が落ちちまったろうが!」
ジャキ!
少年「な……!?」
「……」
少年「……。いきなり人に刃物向けるたぁどういう了見だ?」
「……」
少年「おまけにクソ怪しいフードまでかぶりやがって。顔見せろよ」
「いいだろう」バサ
少年「あ……」
黒騎士「しばらくぶりだな」
少年「せ、先生……!」
少年「なんで……なんで!」
黒騎士「決まっているだろう。お前を連れ戻すためだ」
少年「連れ戻す……?」
黒騎士「当然だ。遺物を使える者は、聖騎士は貴重だからな。失うわけにはいかない。もちろん勝手を許すわけにもな」
少年「……」ジリ……
黒騎士「逃げるか?」
少年「……」
黒騎士「お前は神の御前から逃げるのか?」
少年「それは……」
黒騎士「我らは神より遺物を賜り忠誠を誓ったはずだ」
少年「う……」
黒騎士「わたしの前から逃げるということは神に背を向けるということ」
少年「うう……」
黒騎士「逃げることは許さん」
少年「……それでも」
黒騎士「……」
少年「俺は、それでも……それでも」
黒騎士「神に背いてでも?」
少年「そうだ。神に背いてでも」
「やるべきことがある。だよね」
黒騎士「っ!」
ズキュウウゥゥン!
続きます
この効果音だと誰かが黒騎士にキスしたみたいだなwwwwwwww
あーそういえばジョジョですね
擬音の難しいところです……
銃士「……。外した」
黒騎士「……ふむ」ズザ
少年「銃士!」
黒騎士「……」ジリ
銃士「動かないで。そのままゆっくり下がって。わたしの銃はわたし自身より雄弁だよ」
黒騎士「分かった。従おう」
銃士「……」
黒騎士「これでいいか?」
銃士「……よし。逃げるよ」
少年「おう!」ダッ!
タッタッタッ……
黒騎士「……」
黒騎士「連れ戻せ。それが無理ならば殺せ、か」
黒騎士「仕方がない。……仕方がない」
黒騎士「この世界には神はいない」
黒騎士「人に慈悲を与えるべき主は存在しない」
黒騎士「つまりはそういうことなのだろうな」
黒騎士「せめて、苦しまないよう送ってやろう」
黒騎士「……それがわたしにできる精一杯だ」
・
・
・
銃士「どうするの?」タッタッタ
少年「相手は先生だ」タッタッタ
銃士「やっぱり。手ごわいね、あれは」
少年「ああ。地の果てまで逃げるかもしくは」
銃士「今の内に潰してしまうか」
少年「……そうだ」
銃士「どっち?」
少年(……先生)
少年「……言うまでもない! 迎え撃つぞ!」
銃士「分かった」
少年「まずはこの国を出て剣を回収する!」
銃士「了解」
門
門番「ん? なんだお前たち!?」
少年「悪い、通る!」
門番「ま、待て!」
銃士「ごめんね」ズキュゥン!
門番「ひい!」
門番(い、いったいなんなんだ!?)
門番「はっ! 不法出国! 早く上に連絡を!」
黒騎士「すまないな」トン
門番「はぅ!?」ドサ!
街道
少年「よし、あった」ジャキ!
少年「これで……」
少年(やれる、か? 先生を?)
少年「……」
銃士「大丈夫?」
少年「……俺、先生にも、それどころか神様にも背くんだな」
銃士「……。今なら、引き返せるかもよ?」
少年「……」
『ぼくたち、一緒に聖騎士になろう!』
『そしてこの国を守るんだ!』
『絶対! 約束だよ!』
少年「やる」
銃士「そう。……安心した」
少年「お前一人で行かせるわけにはいかないもんな」
銃士「一緒じゃなきゃ困るよ」
少年「悪かった」
……ジャリ
黒騎士「話は終わったか?」
少年「……」
少年「フゥゥゥゥ……」
黒騎士「……」
少年「ん!」ジャキ!
黒騎士「そう。そうか……」
銃士「……」ジリ……
黒騎士「抵抗は勧めない。が、止めもしない」
少年「行くぞ!」バッ!
黒騎士「——粛清を開始する!」
続きます
今さらだけれど。今回久しぶりに地の文使わないバトルシーン試してみてます
何か気になることがあったら指摘してもらえるとありがたいです。それでは
ガキャアァァン!
少年「く……」ググ
黒騎士「……」ギギ
少年(受けとめられたか……あんな短剣でよくもまあやすやすと)
黒騎士「ふッ」
キャアァンッ!
少年「っと」ズザ
黒騎士「ん」ズザ
黒騎士「全力か?」
少年「あ?」
黒騎士「今のは全力だったかと訊いている」
少年「はっ、冗談!」
黒騎士「そうか。ならばわたしも舐められたものだな」スッ
少年(もう一本の短剣……)
少年「遺物か!」
黒騎士「わたしの方は全力で行くぞ」ズズ……
——ダンッ!
少年(はっや!)
ズギャギャギャギャギャッ——
少年「く、そ……!」
少年(斬撃がまるで嵐だ畜生!)
黒騎士「遺物の全力が危険なのはその通りだな」
少年「うう……」
黒騎士「だが出し惜しみしてわたしに勝てると思うか?」
少年「ううう……」
黒騎士「……せめて敬語を覚えてから死んで欲しかったよ」
少年「! この!」
ガキキ——ガキャンッ!
少年「舐めやがって!」ゴッ!
少年「おおおおおおお!」ビシュシュシュシュ!
黒騎士「……ふん」
キキキキン!
少年「まだまだ!」ギュン!
黒騎士「……」カキキン!
少年「加速するぜ!」ズジャジャッ!
黒騎士「まだ足りないな」ガキン!
少年「おらァァァァッ!」
・
・
・
少年(あれ、から、何分だ……?)ゼイ ゼイ
少年(まだいくらもたってねえのか……?)ハァ ハァ
黒騎士「……」
少年「く、そ……涼しい顔しやがって」ジャキ!
黒騎士「シッ!」ビッ!
少年「いつっ!」ズシュ! ドサ……
黒騎士「どうした? 終わりか?」
少年「ハァ、ハァ……」
——ズジャ! ズキュウゥンッ!
黒騎士「ゼイッ!」チュイン!
銃士「!?」
銃士(今、完全に不意を……死角を突いたはず)
黒騎士「わたしとしたことが、君のことを忘れていたようだ」
銃士「……」
ズキュキュキュキュウゥンッ!
黒騎士「はッ!」
ガキュキュキュキュンッ!
銃士「……嘘」
銃士(人間が銃弾に対応できるはずが……)
銃士「! 遺物!」
黒騎士「……さて、どうだろうな」
少年「チッ、まるっきりでたらめな防御力じゃねえか……」
黒騎士「終わりだ。祈れ」ジャキ
少年「くっ、銃士、撤退だ! 掴まれ!」
銃士「分かった」
少年「あばよ!」ダンッ!
黒騎士「待て、逃がさ——」
銃士「はっ」
ズキュウゥンッ!
黒騎士「む……」カキン!
黒騎士「……」
黒騎士「まったく。逃げると言っても限界があるだろうに」
黒騎士(だから。一時的な撤退と見て間違いないだろうな)
黒騎士(一旦矛の国に引き返し潜伏。勝利の算段をつけてから再戦といったところか)
黒騎士「妥当だな。だが……わたしもただ待っているわけではないぞ」
黒騎士「すぐに追いつく……すぐにだ」
ザッ……
続きます
乙
……
矛の国 ある空き家
少年「あれから……二日か」
銃士「うん」
少年「どう思う?」
銃士「遠からず死ぬと思う」
少年「同感だ……」グゥゥ
銃士「お腹すいたね」
少年「運よく空き家を見つけて潜りこんだものの、武器以外の荷物はあまり持ってこれなかったし」
銃士「だから食べ物もこれっぽっち」
少年「このパンひとかけを食べたらもう何もないぞ……」
銃士「買い物、行く?」
少年「却下。先生が怖い」
銃士「そんなにすごい?」
少年「故郷にいたころのたまに訓練をサボったんだけど、一度たりとてサボり通せたことがないんだ」
銃士「見つかって?」
少年「そしてボコられて」
銃士「なるほど」
少年「だから外に出るのは、先生を倒す方法を考えてからだ」
銃士「うーん……」
少年「まず……何と言っても遺物の能力を見極めないとな」
銃士「戦ってみてどう?」
少年「思ったより腕力があるわけじゃない。ただ、精密」
銃士「精密……」
少年「この剣をあんな短剣で受けるのはそう簡単な訳がない」
銃士「そう、だね」
少年「正確なタイミング正確な位置正確な角度。全てがそろわないとあんな真似はできない」
銃士「……」
少年「ただ、遺物がなくても同じことを先生はできるだろうな」
銃士「じゃあ遺物の能力は?」
少年「逆に聞くけどお前はどう思うわけよ」
銃士「……。あの人は銃弾をそらして見せた。あんなの人間業じゃない」
少年「そこだよな。俺の遺物の能力は身体能力を上げること。そのほぼ全力に対応してきたんだからやっぱりただごとじゃない」
銃士「あなたの遺物と同じ能力?」
少年「あり得る……いや違う。それにしては力、筋力の増加が感じられないんだよ」
銃士「五感をブーストする能力は?」
少年「それで銃弾を防げるか?」
銃士「……無理だね」
少年「身体能力増強者と銃弾に対応することができ運動性能も五感もいじってない」
銃士「……わからないよ」
少年「俺にも分かるか。そんなのもう人間じゃない、獣だろ」
銃士「……はあ」
少年「っへ……」
銃士「……」
少年「……」
銃士「獣……」
少年「ん?」
銃士「あ、うん。確かに野生の勘で動く動物みたいだなって」
少年「え、ああ。そうだろ? 考えながら対応できる訳がないんだよ。だからそれが何か遺物の力で……って」
銃士「?」
少年「考えて対応できるわけがない……」
銃士「どうしたの?」
少年「……」
銃士「ねえって」
少年「……考えてなかったとしたら?」
銃士「え?」
少年「それどころか見てすらもいなかった……」
銃士「それって、どういう——あ」
少年「つまり、そういうことか?」
銃士「そう、かも」
少年「もうちょっと考えてはみよう。でも、もしこれで当たりだったら」
銃士「対策もいくつかあるね」
少年「いつしかける?」
銃士「どうせもう食料がないよ。遅くても今夜じゃないかな」
少年「ん、だな」
銃士「準備は?」
少年「どうせろくな支度はできねえだろ。できるとしたら……」
銃士「できるとしたら?」
少年「覚悟。それだけだ」
続きます
……
夜
タッタッタ……
銃士「……いる?」タッタッタ
少年「いいや。気配はないな」タッタッタ
銃士「安心していいの?」
少年「そんな訳がない。先生は間違いなくこっちの動きを把握してるはずだ」
銃士「じゃあどこへ行く?」
少年「できればこっちが先に相手を見つけて先制できればいいが……無理だな」
「そうだな。確かにそれは無理だ」
少年「!」ズザ!
銃士「いた、ね」
黒騎士「……」
少年「ん」チャキ
銃士「……」ジャキ
黒騎士「もう逃げることはできない」
少年「……と、いうと?」
黒騎士「矛の国の遺物騎士団にお前たちの存在をたれこんでいる。もう門にも主要通りにも人員が配置されているだろうな」
銃士「なるほど」
黒騎士「……これが最後の確認だ。戻る気はないんだな?」
少年「ない」
銃士「愚問」
黒騎士「そうか……それは残念だ」
黒騎士「せめて安らかに逝け」ジャキ
少年「……」ジリ……
黒騎士「……」ジャリ……
——……
少年「はッ!」
黒騎士「ふッ!」
ズガキイィィン!
キン! ガキン! キャァン!
少年(ここまではこれまでと一緒……)
少年(だがここからだ! 行け! 上がれ! 遺物出力を最大に!)
少年「おおおおおおおッ!」ズギユォォゥッ!
黒騎士「!」
カアァン!
少年(よし! 跳ね上げた!)
少年「今だ!」
銃士「ん!」
ズキュウゥゥン!
黒騎士「ふん」
少年(体勢を崩したその状態でもあんたは受けきるだろうな、先生)
少年「だが!」
黒騎士「!?」
パキャン! ——カラカラカラ……
黒騎士(短剣が……弾きとばされた?)
少年「……身体は通常脳からの信号で動いてる」
黒騎士「……?」
少年「そしてまた脳は身体からの信号を受け取って判断を下してる。だから通常は何かの刺激を受けて、それを脳が処理をしてから対応がなされる」
黒騎士「……」
少年「だが、脳の処理を経ない、無意識的な反応機構も身体にはある」
黒騎士「……気づいたのか」
少年「反射。明らかに人間の限界を越えている先生の反応速度の正体がそれだ」
黒騎士「……」
銃士「反射能力を極限まで引き出すのがあなたの遺物の力」
黒騎士「……」
少年「なんも言わないってことは正解でいいんだな? そうじゃなくてもこの結果がそれをこれ以上なく物語ってる」
黒騎士「反射能力増強の弱点は二つだ。対応できない手数、もしくは」
少年「威力。そうだ。今銃士が使ってるのはいつもより口径が大きく火薬量が多い」
黒騎士「してやられた、というわけか」
少年「弾きとばされた遺物までは八歩ほど。俺の攻撃を受けずに取りに行くのは無理だ」
黒騎士「どうだろうな」
少年「先生。俺たちをほっといてくれないか?」
黒騎士「どういうことだ?」
少年「先生を斬るのは気が進まない。このまま国に帰ってくれないかって言ってるんだ」
黒騎士「見逃してやるから自分たちも見逃せと?」
少年「そうだ」
黒騎士「……くく」
少年「先生」
黒騎士「繰り返しになるが……わたしをあまり舐めるな」ダン!
少年(な!? こっちに!?)
黒騎士「はああああッ!」
銃士「危ない!」
少年(斬らなきゃやられる!)
少年(——斬る? 誰を?)
——先生をか?
少年「ぐっ! ちくしょうッ!」
ズバシュゥ!
続きます
乙
・
・
・
黒騎士『腕は悪くない。才能もある。見る目もある。これはわたしにもお前にもということだが』
少年『——』
黒騎士『では足りないのはなんなのだろうな。——起きろ』ゲシ
少年『うぐっ』
黒騎士『立て』
少年『あれ? 俺……』
黒騎士『あの程度の一撃で沈むな』
少年『気絶してたのか?』
黒騎士『そうだ』
少年『ちっくしょー! またかよ!』
少年『俺、強くなったよな? 遺物の使い方だって悪くないよな?』
黒騎士『さてな。もっと別のものが欠けているんじゃないか?』
少年『別のもの?』
黒騎士『大事なものだ』
少年『ううん? 頭の良さか?』
黒騎士『確かに足りないな。よく筆記審査が通ったものだ』
少年『言うなよ! 俺だって気にしてんだ!』
黒騎士『だが違う。わたしが言っているのはさらに大事なことだよ』
少年『なんだよ』
黒騎士『お前はわたしに師事し、教えを乞う身なんだ。目上の人間への礼儀はしっかりしておけ。敬語を覚えろ』
少年『けっ、石頭』ボソ
黒騎士『……訓練を再開するぞ。さらに絞るから覚悟しておけ』
少年『うげ……』
・
・
・
ボタボタ ボタ……!
少年「ぐっ」ドサ
黒騎士「……」
少年「あが! ぐうぅ!」
銃士「そんな。なんで……!」
黒騎士「お前たちは結局最後までわたしを舐めっぱなしだったな」スッ
少年(二本目の……短剣……!)
銃士「まさか」
黒騎士「そうだ。二本で一組の遺物だ。油断したな」
銃士「この……!」ジャキ!
ビュ——ッ!
銃士「うっ!」ドサ
黒騎士「油断したな、と言ったんだ。もう手遅れという意味だな、銃士。距離が近すぎだ」
ドガスッ!
銃士「っ……」ビクン!
少年「銃士……!」
銃士「——」
少年「くっ……」
黒騎士「終わりだ」
少年「こ、の……!」グググ……
黒騎士「無駄な抵抗はやめておけ。苦痛が長引く」
少年「ゼィ、ゼィ……」
黒騎士「最後通牒は……もうしたか。残念だが今更後戻りはできない。後悔して、死ぬんだな」ジャリ
少年「…………しない」
黒騎士「?」
少年「後悔は、しない」
少年「俺は、国の所有する遺物を持ちだしてここまで来た……重大な背任行為であり、犯罪行為だ」
黒騎士「そうだな」
少年「神を裏切り、祖国を裏切り、国民を裏切り、先生を裏切った」
黒騎士「ああ、その通りだ」
少年「そんなの許されるわけがない。許されるわけがない……」
黒騎士「罪悪感か?」
少年「違う……」
黒騎士「……若いというのはやはり愚かと等しいな。どうせ仇打ちの覚悟と称して行動を正当化したのだろう?」
少年「それも違う」
黒騎士「なに?」
少年「そんな大層なもんじゃない。俺には後悔する資格がない。それだけだ」キッ!
少年「俺には幼馴染がいる。いや、いた。一緒に聖騎士を目指してたんだ」
黒騎士「発掘隊の、か」
少年「そうだ。一緒に聖騎士を目指して、俺だけが聖騎士になった」
黒騎士「……」
少年「あいつは発掘士になった。聖騎士には、なれなかったんだ……俺のせいでだ!」
黒騎士「……?」
少年「俺のせいで、あいつは発掘士になった。発掘士になったから死んだ! 俺のせいであいつは死んだんだ!」
黒騎士「詳しいことは知らないが……お前はそんなことを気に病んでいるのか?」
少年「知るかボケがッ! 俺があいつの死の一端になったことは間違いねえんだ!」
少年「だから……」ズ……
少年「俺には何かを後悔する資格なんてない」ズズ……
少年「俺にあるのはあいつの仇を取らなければならないという義務だけだ。それ以外はもう、どうだっていいんだ!」ズゴゴゴ!
少年「ハァ、ハァ……」
黒騎士(遺物の力を極限まで使って立ち上がったか)
黒騎士「それは長く持たないぞ。寿命も縮む」
少年「言ったろ……どうでもいいって」チャキ!
少年「身が痛む、心が痛む……痛む。でもそんなの全部些細なことだ……」
黒騎士「結局罪悪感から逃げてるだけのようにも見えるがな」
少年「全ての後、きっと神が俺を裁く。それまでは俺は俺の義務を果たす」
黒騎士「……愚かな生徒だ」
黒騎士(ああ、愚かだ)
少年「行くぞ!」ズダン!
黒騎士「……」ジャキ
続きます
乙
・
・
・
——キィン!
少年「……っ」ズザ!
黒騎士「……」ザス!
少年「……」
黒騎士「……」
——ヒュオオォォゥゥ……
少年(く……軋む)ギシ
少年(構えているだけでつらいぜちくしょう)
黒騎士「……」ジリ……
少年(先生……先生。俺、先生に勝てるかな)
少年(勝てなきゃこれで終わりだな。きっと、殺されるもんな)
少年(……血が流れ過ぎたか。もうだいぶ視界が狭い)
少年(……さて)
少年(先生は多分最後の一撃に出るはずだ。反射能力を最大に引き出して、いわば一匹の獣になる)
黒騎士「……」ジャリ……
少年(手がつけられなくなる。人間の俺には、勝つための術がない)
少年(……いや)チラ
銃士「——」
少年「ある、か。あったな、銃士」ヒョイ
黒騎士「……?」
少年「俺たちは、俺たち三人は……"三人なら"。なんだって」
——なんだってできるよな
少年「おおおおおおおおおッ!」ダンッ!
少年「んッ!」ビッ!
黒騎士「……」スッ
少年(これは避けられる。反撃が来る。だから)
少年「——ッ!」ズダン!
少年(即後ろに跳ぶ! 距離を取る!)
少年「くらえ!」
ブンッ! ヒュンヒュンヒュン——ッ!
少年(投擲した剣は! 目標を貫く!)
黒騎士「——!」サッ!
少年(とはいかねえか! 今の先生は獣だ! だが!)
少年「獣なら!」ジャキ!
少年「行動も単純ってことだ!」
ズキュウウウゥゥゥン!!
・
・
・
少年『——はッ』
黒騎士『起きたか』
少年『俺は……』
黒騎士『軟弱者め』
少年『また気絶したのかよ……』
黒騎士『ふん』
少年『……下ろしてくんね?』
黒騎士『まだ足がふらつくはずだ。おぶさっておけ』
少年『大丈夫だって!』
黒騎士『遠慮するな』
少年『するだろ!』
黒騎士『では上司命令だ。おぶわせろ』
少年『……そういう趣味?』
黒騎士『好きに思え』
少年『げー、きんもちわりい……』
黒騎士「……ふふ」
・
・
・
続きます
乙
(……わたしは)
(わたしは、泣けなかった)
(彼が消息不明と、恐らく死んだのだろうと聞かされたあの時)
(動揺はした。怒りもした。悲しみもあった)
(それでも泣けなかった)
(……分かる気がする。わたしは銃でしか自分を表現できないんだ)
(銃の方がわたしより、ずっとずっと雄弁なんだ)
(わたしは……わたしは……)
銃士「——」
銃士「ごふッ、げふッ」
銃士「……ハァ、ハァ」ムクリ
銃士「……生きてる?」
銃士「いったい……」
少年「……」
黒騎士「——」
銃士「あ……」
銃士「倒した……の?」
少年「反射の速度を最大限に確保するには、思考は捨てなきゃならない」
銃士「え?」
少年「先生は本気だった。俺を本気で殺すつもりだった。だから最大出力だった」
銃士「……」
少年「そうなれば行動はこちらからある程度誘導できる。……拳銃、返すぞ」
銃士「あ……うん」
少年「さて」ジャキ
銃士「……なに?」
少年「もう騒動は辺りに響いてる。この国の聖騎士もすぐに来るだろ。さっさと済ませなきゃな」スッ
銃士「まさか……殺すの?」
黒騎士「——」
少年「先生は強い。ここで確実に殺しておかなきゃ絶対追ってくる」
銃士「……でも」
少年「俺はもう、一人殺してるんだ」
銃士「え?」
少年「発掘士は、俺が殺した。俺はそう思ってる。だから、もう躊躇する必要も資格もない」
銃士「そんな」
少年「……」
少年「……」
銃士「無理だよ」
少年「無理じゃない……」
銃士「手がそんなに震えてるじゃない」
少年「そんなことは理由にならない……」
銃士「……泣いてるの?」
『軟弱者め』
少年「泣いてなんかないさ。泣く資格なんか、ないんだから」
黒騎士「——」
少年「さよなら、先生」
銃士「……」
——カッ! ドゴオォォ!
少年「!?」
銃士「……なに?」
ドゴゥッ! ドゴゥッ! ドゴゥッ!
少年「くっ、砲かなんかか!?」
銃士「分からない。でも、危険だよ」
少年「どこからだ? どこへ撃ってる?」
銃士「音の方向からすると——」
ガッ!
少年・銃士「!」
ドゴオオオオォォウ!
少年「がッ」ドサ
銃士「うっ!」ドサァ
少年「立てるか!?」
銃士「うん」
少年「なら逃げるぞ!」
銃士「分かった」
黒騎士「——」
少年(先生……)
ガラガラガラ!
少年「!」
ズズン——!
少年「先生!」
少年「くっ」
銃士「……早く」
少年「分かった……掴まれ!」
……ズダン——ッ!
矛の国を見下ろせる丘
少年「ハァ、ハァ……」
銃士「……ひどいね」
——ゴオオオオォォォォ……
銃士「一区画が火の海……」
少年「ああ……何が起こったんだ?」
銃士「分からない。でもあの規模の破壊は」
少年「砲か……もしくは遺物か」
銃士「……戦争?」
少年「このタイミングで起こる理由が分からないな」
銃士「あとは……魔王」
少年「……それも分からない。ただ分かるのは」
銃士「分かるのは?」
少年「俺が先生をも殺したってことだけだ」
銃士「……」
少年「行こう。進むんだ」
銃士「……」
少年「どうした? もう矛の国に戻ってる余裕はないぞ」
銃士「そうじゃなくてさ」
少年「……」
銃士「……そうじゃなくて、さ」
少年「……」
銃士「……」
銃士「……駄目。上手く言えない」
少年「お前、昔から口下手だもんな」
銃士「そうだね」
銃士(わたしは、銃でしか、弾丸でしかものを語れない)
銃士(こんなときに言うべき言葉なんて見つからない……)
少年「行こう」
銃士「……うん」
ザッ……
・
・
・
続きます
追記
完結までのめどが立ちました。明後日辺りには終わるかと思います。それでは
早いな
……
魔王「……」
『搭乗者、バイタルサイン良好』
魔王「……」
『共振機構、異常なし』
魔王「……」
『充填率100%』
魔王「……」
『解放手順開始の許可を』
魔王「——」ボソ
『……申請棄却を確認。待機』
魔王「……」
・
・
・
『どっちが先に聖騎士になれるか競争?』
『その方がハリが出るって……』
『別に嫌なわけじゃないけど』
『自信がないわけでもないってば』
『でもなあ……』
『……えっ? 勝った方が先にあの子に告白!?』
『負けたら発掘士降格って……乱暴だなあ。別に発掘士は聖騎士より下の仕事ってわけじゃないし』
『でも、告白かあ。うん、それは譲れないな』
『よし、その勝負、乗った!』
……
海辺の町
医者「ほれ終わりじゃ」ドン!
少年「いったぁッ!」
銃士「ありがとうございます」
医者「まったく、よくそんな怪我で矛の国から来れたもんじゃ。あんな下手糞な応急措置では取り返しがつかなくなるところじゃったぞ」
少年「ジジイと違ってちんたら傷に構ってる暇がねえんだよ」
医者「なるほど自分の怪我の面倒も見れないお子様なんじゃな」
少年「んだと!?」
銃士「まあまあ」
医者「しかし……その傷、いったいどうしたのかの?」
少年「……」
医者「見たところ刃物によるものじゃ。おまけに矛の国から来たという。不審な襲撃を受けた矛の国からのう」
少年「……すまねえが」
医者「ほほ、言えぬか。なら無理して言うことはない」
銃士「すみません」
医者「かまわんよ。小さな港町じゃ。お主らを信用はできんが、かといって変な輩が狙うような場所でもないしの」
少年「……そういえば矛の国を襲撃したのがなんなのか、爺さんは知ってるか?」
医者「詳しいところまでは知らん。だが、鉄塊のような輩が襲ったという噂もある」
銃士「鉄の塊?」
少年「鎧じゃなくてか?」
医者「さてのう。常識的に考えればどこぞの国の鎧兵が攻め込んだと言うのが妥当じゃろうが」
少年「もしくは、魔王」
医者「不吉じゃ。あまり聞きたくはない単語じゃの。まあそういう噂もある」
銃士「この港から孤島に行けるんですよね?」
医者「そうじゃよ。ただ……」
少年「ただ?」
医者「魔王と呼ばれる何者かが孤島に出現し、先文明の防衛機構も動き出したわけじゃ。そううかつに近寄れなくての」
銃士「どう対処するか、国同士の主導権争いもある」
医者「そうじゃ。今のところ勝手に船は出せないんじゃよ」
少年「参ったな……」
医者「なんじゃ? もしかして島に用か?」
銃士「いや、ええと」
少年「忘れてくれ」
医者「なんだか訳ありみたいじゃの」
少年「色々あるんだよ」
医者「まあ聞かんよ。巻き込まれたくはないしの」
少年「利口な判断だ」
……
港
少年「……で、もうあれから二日か」
銃士「進展がないね。どうしよう」
少年「島に行くにはどうしたってそのための足がいる」
銃士「船が出ないのは痛いね……」
少年「ああ」
銃士「どうする? もう宿に戻る?」
少年「いや、もう少し」
銃士「そっか」
少年「あれ? お前も残るの?」
銃士「少しだけ」
少年「……そうか」
少年「……」
銃士「……そういえばさ」
少年「ん?」
銃士「あなたが持ち出した剣ってさ」
少年「……ああ。元はあいつのだな」
銃士「あの子がお父さんから受け継いだ物なんだっけ」
少年「そうだ。それをさらに俺が受け継いだ」
銃士「それで仇を討つんだね。絆?」
少年「そんな綺麗なもんじゃないさ。この剣は……」
銃士「……」
少年「……この剣は、俺があいつから奪ったようなもんだ」
銃士「……奪った、か」
少年「俺はそう思ってる」
銃士「……。ごめん」
少年「いや——」
少年「……?」
銃士「どうしたの?」
少年「あれ、なんだ? ほら、あそこ」
銃士「海?」
少年「何かが近付いてくる……」
ジャババババババ……
「目標地点視認。上陸まで、3、2——」
少年「来る!」
銃士「……っ!」ジャキ!
ザパァッ! ドスン!
機械兵「上陸完了。行動、開始」
少年「なんだ、こいつ?」
銃士「なんか、危ない……」
機械兵「!」ピピ!
少年「……?」
機械兵「"剣"」
少年「……??」
機械兵「回収対象と合致。回収行動開始」ダン!
少年「うお!?」ガキン!
少年「こいつ、この剣を狙ってる!?」
銃士「退いて!」
少年「!」バッ!
ズキュウゥン!
機械兵「……」カキン!
銃士「効かない……」
機械兵「……」キュイイィィン……
少年「なんだ……?」
機械兵「——ッ」カッ!
ドゴオォォウッッ!
少年「うぐぅ!」
銃士「っ……」
機械兵「ピピ!」
少年「これは、矛の国の時の……」
銃士「間違いない、遺物、いや魔王関連だよ」
少年「まずい、人家まですぐそこなんだぞ!」
銃士「ここで止めなきゃ」
少年「分かってる」グッ
少年「っつ……!」ズキズキィ!
少年(傷が……)
銃士「危ない!」
少年「!」
機械兵「ピピ!」ブン!
ズガン!
少年「ッ……」
機械兵「……」
少年「……?」
機械兵「……」フラ
——ガシャン
「機械兵。父から話は聞いていたが本当にいるとはな」
少年「あ……?」
銃士「あ」
「しばらくぶりだな。どうだ? 敬語は覚えたか?」
少年「せ……」
「死人を見るような目で人を見るんじゃない」
少年「先生……」
黒騎士「目上の者に失礼だ。そうだろう?」
続きます
明日の夕方までに後三回ほど投下して終わらせます
乙
・
・
・
海底洞窟
ピチョン ピチョーン……
黒騎士「……」ザッ ザッ
少年「……なあ」ザッ ザッ
黒騎士「なぜわたしが生きているか、か?」
少年「俺は……死んだもんだと」
銃士「普通はそう思うよね」
黒騎士「わたしの遺物の能力は覚えているか?」
少年「反射能力の増強」
黒騎士「つまりそういうことだ」
少年「どういうことだよ」
銃士「意識がなくても刺激に対して反応できる……」
少年「あ」
黒騎士「その通り。遺物の力で意識がないままに退避した」
少年「そんなのありかよ……」
黒騎士「それだけ先文明の技術が優れていたということだな。だが」
銃士「?」
黒騎士「二本の内一本の遺物を失ってしまった。重大な損失だ」
少年「……だから?」
黒騎士「おまけに連れ戻すはずの脱走兵には負けて、任務に失敗したと言える。武器を減らして再度試しても成功する見込みも低い」
銃士「……?」
黒騎士「そこでわたしは考えた。紛失した遺物は恐らくあの混乱だ、見つからないだろう。それでも国に帰るには一つでも成果がないとならない」
少年「だから何が言いたいんだよ」
黒騎士「お前たちを手伝おう、ということだ」
少年「は?」
銃士「え」
黒騎士「わたしはせめてお前たちを連れ戻さなければならない。力づくでそれができないならばもっと合理的な手段を取る」
少年「それが……俺たちを手伝うってことか?」
黒騎士「そうだ。仇討ちの目的を果たした後は無論、帰るのだろう?」
少年「帰れる、のかな? 犯罪者だぞ?」
黒騎士「そこは心配するなわたしがなんとかする。帰ってこい」
銃士「なんでそこまで」
黒騎士「教師は生徒を守るものだろう」
少年「先生……?」
黒騎士「……と、これは建前で、わたしはわたしの地位を失いたくないのでな」
少年「てめえ!」
少年「あー、一瞬でも敬意を示そうとした俺が馬鹿だった」
黒騎士「恨むな。それに敬語は覚えておいて損はない」
銃士「……素直じゃないですね」
黒騎士「……」
少年「……?」
銃士「まあそんなことより。ここはいったい何なんです?」
黒騎士「孤島に続く海底洞窟だ」
少年「そんなのあったのかよ」
黒騎士「ああ。先文明人たちは大陸側との交流は断っていたといわれているが、実はそうではない」
銃士「この洞窟はその時の道?」
黒騎士「そうだ。ひそかに開通させ、ここからいろいろとやりとりをしていた」
少年「なんで先生がそんなこと知ってるんだよ?」
黒騎士「わたしは先文明人の末裔だからな」
銃士「え?」
黒騎士「わたしの家系は外に流出した先文明人から始まっている」
少年「先生が、先文明人?」
黒騎士「わたしはもう先文明人とは言えないだろう。とにかく、父からは先祖が先文明人と聞かされている」
銃士「なぜ剣の国に?」
黒騎士「さて、それは知る由もないが。それ以外ならば色々聞かされたよ。この洞窟もその一つだ」
黒騎士「……まさか使うことになるとは思ってもいなかったが」
少年「魔王のことも知ってるのか?」
黒騎士「ああ」
銃士「それは、いったい?」
黒騎士「先文明人が滅んだ理由であり、わたしの先祖が先文明を見限った理由だそうだ」
黒騎士「先文明人は探究者たちだった。遺物はその探求の副産物だ」
少年「あれで、副産物?」
黒騎士「そうだ。あんなものは余計なものに過ぎなかったのだろう。先文明人たちの目指すところは別にあった」
銃士「なんですか?」
黒騎士「……。魔王は探究の最終到達地点だ」
少年「何者なんだ?」
黒騎士「魔王自身は哀れな実験体に過ぎない。だが、先文明壊滅の原因だ」
銃士「先文明崩壊の時にも魔王が造られたんですね」
黒騎士「そうだ。それはその時限りの結果のはずだった。それが何故か現代に現れた」
少年「まさか……またなんか起きるのか?」
黒騎士「先文明崩壊と同じか、それ以上の被害が出るとわたしは見ている」
銃士「そんな」
少年「先生は……なんでそんな大事なことを黙ってたんだよ!」
黒騎士「黙っていたとは?」
少年「だって、壊滅被害が出るんだろ? 剣の国だって危ないかもしれない。だったらそのことを上に報告すべきだったじゃないか!」
黒騎士「……」
少年「重大な背任行為だ」
黒騎士「お前がわたしに不義理を説くか? 国を裏切ったお前が」
少年「っ……」
黒騎士「まあ似た者同士であることは間違いないな。なにしろ教師と生徒だ」
少年「……」
黒騎士「……わたしはどうでもよかったんだ」
銃士「?」
黒騎士「剣の国が、ひいては世界がどうなろうともな」
少年「……なんでだよ」
黒騎士「さて。だがとにかくこれで理由はできた。機会も得た」
少年「……!」
黒騎士「魔王を始末するぞ」
続きます
……
魔王「……」
・
・
・
『筆記試験は無事通過だな!』
『君はギリギリだったけどね』
『う、うるせえ! 実技で取り戻せばいいんだよ』
『明日がその最終試験だね』
『遺物を実際使って見せる、ってやつだな』
『ぼくらの鍛錬の成果を思いっきり見せつけてやろうよ』
『ああ! あの剣を共用して練習してきたもんな、絶対に一緒にパスしようぜ!』
『うん!』
・
・
・
魔王「……」
孤島 遺跡内
タッタッタ……
少年「……なんにも出てこないな」
黒騎士「防衛機構が働いているもんだと思ったが」
銃士「怪しい」
少年「……扉だ。壊れてるけど」
黒騎士「いるな」
銃士「魔王ですか?」
黒騎士「恐らくこの向こうだ」
少年「……」
ギィ……
魔王「……」
少年「……お前が」
魔王「……」
少年「お前が魔王か」
魔王「……」
少年「でっかい玉座に踏ん反りかえりやがって。なんかしゃべれよコラ鎧野郎」
魔王「……」
少年「チッ……」
黒騎士「御託はいい。さっさとけりをつけるぞ」チャキ
銃士「はい」ジャキ
少年「最初から全力で行くぜ」ズズ……
魔王「……」スク
少年「……!」
魔王「……」ツカ ツカ
少年(なんだ?)
銃士「危ない!」
——チュィン!
少年「うお!?」
銃士(見えなかった……けど鋭い)
黒騎士「ただでは殺らせてはもらえんか」
少年「……行くぜ」
銃士「……」バッ
ズキュウゥゥンッ!
少年「はッ!」ズダン!
黒騎士「……」ズダン!
魔王「……」
少年「ダチの仇! くらえ、魔王!」
ガキイイィィ————ン!
魔王「……」
ピシピシ……
少年(脳天一撃……効いたか?)
——パキン
少年「——え?」
「……」
少年「そんな……え?」
「……」
少年「……発掘士?」
発掘士「……」
続きます
あともうちょいなので一気に行けるかも
『……なんで』
『なんで……! なんで!』
『動け! ぼくの剣だろ。動けよ!』
『——違うんです。ちゃんとできます! ちょっと待ってください!』
『……動け、動け動け』
『お前は父さんの形見だ。ぼくの誇りだ。ぼくの剣だ。動けよ』
『ちくしょう動けよ! ぼくを聖騎士にしてくれよ! なんであいつに使えてぼくに使えないんだ!』
『動けよおおおッ!』
・
・
・
少年「……発掘士」
発掘士「……」
少年「発掘士! お前、生きて……生きてたのか!」
発掘士「……」
少年「……発掘士?」
黒騎士「! さがれ!」
ドゴォッ!
少年「がは……ッ!」ズサァ
カラン カラン……
発掘士「ぼくノ剣……」ガシ
発掘士「ぼくノ剣……! 取り戻しタ!」ジャキ
少年「発掘士……」ゼィ ハァ
発掘士「ハハ……ハハハ!」
銃士「な、何がどうなって」
——ガコン! ザッ
機械兵「ピピ!」
黒騎士「……ずいぶんたくさん出てきたものだな」
発掘士「クハ! クハハ!」
少年「発掘士……俺はお前の仇を討ちに……なのにいったい、いったいどうして!」
発掘士「……死ネ」
少年「え?」
発掘士「死ネ、死ネ。死ぃネ、死んデしまエ」
少年「…………っ」
機械兵「……」ジリ
黒騎士「チッ、逃げるぞ」
少年「……っ……っ」
黒騎士「立て!」
少年「っ!」ビク!
黒騎士「聞いているのか!? 逃げるぞ!」
少年「俺……俺……」
銃士「……立って。行こう」
少年(…………)
少年「……分かった」スク
……タッタッタッ
発掘士「ハァーハッハッハッハ…………」
どこまでも笑い声は聞こえてきた。
どこまでもどこまでもそれはついてきた。
……聞こえないはずの所まで逃げても、耳にこびりついて離れなかった。
海底洞窟
少年「……」
銃士「……」
黒騎士「携帯食料だ。とりあえず食え」
少年「……いらない」
黒騎士「ショックか?」
少年「……俺は、あいつの仇を討つためにここまで来た。あいつは俺のせいで死んだから」
黒騎士「だが生きていた」
少年「訳がわかんねえよ……」
黒騎士「可能性がないわけではないことは、実は知っていた」
銃士「え?」
少年「……?」
黒騎士「お前たちの幼馴染が魔王化している可能性だ」
少年「知ってたのか……!?」
黒騎士「そうだ」
少年「じゃあ……じゃあなんで!」
黒騎士「なんで言わなかった、か? 憶測で動揺させるわけにはいかなかったんだよ」
少年「そんなの……!」
黒騎士「まあ座れ」
少年「……」
黒騎士「いいから座れ。全て話す」
少年「……分かった」
黒騎士「先文明人は探究者的気質を持っていたことは言ったな?」
少年「……ああ」
黒騎士「では何を探究していたかは分かるか?」
銃士「……分からない」
黒騎士「彼らは"人間とは何か"を探究していたんだよ。ひいてはその可能性をな」
少年「可能性……」
黒騎士「そうだ、人間の潜在能力を全て引き出すのが彼らの研究の目的であり、遺物はその成果の一つだ」
銃士「ってことは」
黒騎士「そうだ。遺物は神が人間に賜った遺産ではない。あれはれっきとした"人間の物"だ。先文明人は神を信じていなかった。皮肉な話だな」
少年「それが発掘士とどうつながるんだ」
黒騎士「遺物は探究の一成果だと言っただろう。探究の最終目標は別にあった」
銃士「それは?」
黒騎士「人間の全知全能化」
少年「え?」
黒騎士「魔王だ。先文明人は神を信じてはいなかったが、神に似たものは造れる、なれると考えていたんだ」
銃士「そんな無茶な」
黒騎士「あの大きな玉座を見ただろう。あれがそのまま神を造る機械だ」
少年「じゃあ。発掘士はそれを見つけて魔王になったのか」
黒騎士「そういうことになるだろう」
銃士「そういえば壊滅被害って……」
黒騎士「結論から言う。神を造る装置は失敗作だ」
少年「え?」
黒騎士「不安定過ぎたんだよ。人間というものを先文明は甘く見ていた。人間の力をな」
銃士「制御できずに暴走した……?」
黒騎士「だろうな。それを見越して外に逃げたわたしの先祖は全てを見たわけではないだろうが」
少年「……」
黒騎士「余ったエネルギーが外に放射した。先文明はそれで滅びた。しかし人造神の装置は残った。そういうことだろう」
少年「……俺はどうすればいいんだ」
銃士「え?」
少年「そんな話はどうでもいい。世界の破滅だって同じだ。俺はあいつの仇を討つためにここまで来た。でもそれも意味がなくなった」
銃士「……」
少年「俺はどうすればいい?」
銃士「それは……」
黒騎士「一つ不可解なのは」
少年「……?」
銃士「なんですか?」
黒騎士「ああ。なぜ魔王出現からかなり時間がたった現在まで破滅的被害が出ていないか、ということだが」
銃士「そういえば……」
少年「……」
黒騎士「何か理由があるのだろうが、わたしには分からない」
銃士「……なんでしょう」
少年「分かった」
黒騎士「?」
銃士「え?」
少年「なぜまだ被害がでていないのか。多分それは……」
銃士「それは?」
少年「……」
銃士「なに? わたしがどうかしたの?」
少年「いや。多分、あいつ自身は世界を壊したくないんだ」
黒騎士「彼が破滅を抑えていると?」
少年「そうだ」
銃士「でも…………いや、そっか。うん。あの子らしい」
黒騎士「……?」
銃士「あの子、優しいんです。気弱だけど、芯は強い」
少年「行こう」
黒騎士「武器もなしにか? だが」
少年「あいつが待ってる」
黒騎士「……」
少年「行こう」
銃士「……うん」
少年「あいつを、助けに行こう」
銃士「うん!」
次こそラスト。のはず
乙
もう終わりか
・
・
・
遺跡内
機械兵「「「ピピ!」」」
少年「これだけたくさん並んでると、さすがに壮観だな」
黒騎士「普通に考えて全て相手にしていては持たないな」
銃士「わたしが引き受けます。二人は先に」
少年「銃士?」
銃士「いいから」
少年「でも」
銃士「泣くときは一人がいい。でしょ?」
少年「え?」
銃士「それからさ。これ持っていって。わたしの一番の愛銃」
少年「は!? それで戦えるのか!?」
銃士「スペアはあるから大丈夫。それに」
少年「……?」
銃士「一番伝えたい言葉は、一番の銃でじゃないと伝わらないと思うんだ」
少年「……」
銃士「わたしにとっての"言葉"は、この子たちだから」ジャキ
少年「銃士」
銃士「ちゃんとあの子に伝えてね」
少年「……任せとけ」
黒騎士「終わったか? 行くぞ」
少年「銃士、頼んだぞ! また後でな!」
タッタッタッタ……
機械兵「……」ジリ
銃士「……」スチャ
銃士(やっぱり一人になっても泣けないか)
銃士(駄目だね、わたしって)
機械兵「ピピ!」
銃士「……」ズキュゥン!
機械兵「ピ!?」ボスン!
銃士(……それでも語ることはできる)
銃士(叫ぼう、わたしの"言葉"で)
銃士(そして、神様。いないかもしれない神様。叶うならばわたしに悼むための涙を)
——ズキュウゥゥン……
少年(銃士……)タッタッタ
黒騎士「集中しろ」タッタッタ
少年「分かってる」
黒騎士「!」
——ズザッ
黒騎士「こいつは……」
少年「……」
ガショーン ガショーン!
大機械兵「目標確認」
大機械兵「攻撃行動、開始」ピピ!
黒騎士「デカイな」
少年「……ああ」
大機械兵「……」ガション!
黒騎士「ここはわたしが引き受けよう」
少年「……いいのか?」
黒騎士「あの少年に会うべきはわたしか? 違うだろう」
少年「そう、だな」
黒騎士「行け」
少年「分かった」ダッ!
黒騎士「待て!」
少年「なんだよ!?」ズザ
黒騎士「持っていけ」ヒュ!
少年「?」パシ
少年「短剣? って……」
黒騎士「大事にしろ」
少年「先生!?」
黒騎士「わたしのような愚かな教師がお前に遺せるのはこのくらいだ。恨むなよ」
少年「……」
黒騎士「じゃあな」
少年「先生!」
黒騎士「……?」
少年「今までお世話になりました!」
少年「またいつか!」
タッタッタッタ……
黒騎士「………………」
大機械兵「ピピ!」
黒騎士「見たかデカブツ。あれがわたしの生徒だ」
大機械兵「?」
黒騎士「羨ましいか? やらんぞ。わたしの生徒だからな」
大機械兵「最大出力に設定。攻撃開始」
黒騎士「教え子に道を開いて死ぬ。悪くない気分だ」
大機械兵「チャージ」キュイイィィン!
黒騎士「シッ——!」ダンッ!
カッ————!
ドゴオォォウゥ……
少年(……)
少年「……」
少年「……発掘士」
少年「発掘士!」
ドバタン!
少年「ハァ、ハァ……」
発掘士「……」
少年「来たぜ。相棒」
発掘士「……」ジャキ
少年「……」ジャキ
——……
『聖騎士になろう! 一緒に!』
少年「うおおおおおおッッ!」ダン!
発掘士「————ッッ!」ダン!
——ガキンッ!
キン! カン! カァン! キュイン!
少年「……思い出すなあ発掘士。思い出すだろ?」
発掘士「……」
ズガ! ガン! ガガンッ!
少年「あの頃もこうやって、一緒に稽古してたよな」
『やあああああッ!』
『おおおおおおおおッ!』
発掘士「……」
——カィン! ズザ……!
少年「あの時、あの試験の時、お前が剣を使えなかったのは、俺がそれを借りる頻度が多すぎたせいだ」
少年「あまりに俺が使いすぎたせいで、俺用になじんでしまったんだろうな」
少年「……そのせいでお前にはつらい思いをさせた」
発掘士「……」
少年「お前がその人造神の装置に取りこまれたのも俺のせいだろう? 剣も、聖騎士の座も俺が奪ったから」
発掘士「……」
少年「……ごめんな」
発掘士「……っ」
少年「……」
発掘士「ォォ……」
少年「……」
発掘士「オオオオアアアアアアアアアアッッ!」ズオッ!
少年「……」
発掘士「ガアァッ!」ブオンッッ!
ズザシュウ——ッ!
少年「発掘士」
発掘士「!?」
少年「避けられたのが不思議か? 先生からの餞別だよ。超反射。でもそんなことはどうでもいい」
少年「……俺からの言葉はあれで全てだ。だから次のこれは」
少年「銃士からの"言葉"だ」ジャキ!
発掘士「! ガ——」
少年「銃士はお前のことが好きなんだ」
発掘士「……っ!」
少年「小さい頃からずっと。俺なんかよりもずっと。お前のことが好きなんだよ」
発掘士「ぁ……」
少年「だから! 受け取ってやってくれ!」
——ズキュウウゥゥ……ン
発掘士「……」
少年「……」
発掘士「グガ……」ドサ
少年「……発掘士」
発掘士「——」
少年「発掘士!」
——ごめん
少年「……っ」
——ありがとう
少年「発掘士……っ!」
銃士「ハァ、ハァ……」
銃士「……っ、ハァ」
銃士「発掘士……」
少年「……」
発掘士「——」
『——エマージェンシー、エマージェンシー。搭乗者のバイタルサイン消失を確認』
少年「……」
『余剰エネルギーの緊急放出手順へ移行』
少年「発掘士」
発掘士「——」
『繰り返す。余剰エネルギーの緊急放出手順へ移行』
少年「行ってくるよ。これ、また借りるな」ガシ
発掘士「——」
少年「……」キッ!
ツカ ツカ ツカ……ジャリ
少年「……」
少年「……」ジャキ
『危険を感知。防御機構を発動』
少年「世界の破滅か」
『危険対象の排除を開始』
少年「聖騎士としては、見過ごせねえな。だろ、発掘士?」
——……
少年「……俺たちにできないことなんて、なんにもない」
『聖騎士は神の加護を受けて、神のために、祖国のために、世界のために戦うんだ』
少年「神様」
少年「いるかどうかも定かじゃねえ神様」
少年「この俺が、俺たちがあんたの名を背負って戦ってやろうってんだ」
少年「がっかりさせないから、そっちも俺をがっかりさせんなよ」スッ
少年「スゥゥゥ……」
少年「——」
少年「……ッ!!」カッ!
少年「行くぞ発掘士! 銃士! 先生!」
少年「お、らアアアアァァァァァァッ!」
・
・
・
・
・
・
エピローグ
北の孤島 小高い丘
少年「——っと、こんなもんかな」
銃士「うん、いい感じ」
少年「もっと立派に造ってやれればいいんだけどな」
銃士「我慢してもらうしかないね」
少年「まあ見晴らしはいいし、チャラだろチャラ」
銃士「うん……安心して眠れるはずだよ」
少年「二人の名前。誰も覚えておいてくれないんだろうな」
銃士「そうだね」
少年「いきなり現れた魔王は、いきなり姿を消した。世間的にはそんな感じか」
銃士「うん……」
少年「寂しいな……」
銃士「だからさ。わたしたちが覚えておいてあげよ? ずっと、ずっと」
少年「ん……そうだな」
——ポツ ポツ ——ザアアァァ……
銃士「あ。雨」
少年「……ちょっと強いな」
銃士「あの日のピクニック……思い出すね」
少年「……」
銃士「行きたかったな。ピクニック。四人で」
少年「……」
銃士「……雨、やむかな」
少年「やむだろ。いつかはな」
銃士「そしたら虹がかかるね」
少年「ああ……かかるといいな。虹」
銃士「かかるよ。絶対」
少年「ああ」
銃士「絶対……」
少年「ああ……そうだな」
——ザアアアァァァァ……
終わり
辛抱強いお付き合いありがとでした
乙
乙
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