京太郎「穢れた体に清浄なる心を」(468)


それはもう昔の話

ううん、最近の話

あれは半月前のことかしら?

あら? 1ヶ月前のことかしら?

……時間の感覚が狂ってしまっていた

私に宛てがわれた部屋に時計はない

誰かに連絡できる携帯はない

もちろん、電話もテレビもなにもない

鉄格子のついた小さな窓と、鍵のかけられた鉄の扉

私は自由に動けない。呼ばれた時だけ部屋から出ることが許される

……思い出したわ

私がこうなってから、まだたった1週間しか経っていないのよね


――1週間前、鹿児島(石戸家)


「――え?」

部活を終え、小蒔ちゃん達といつものような会話をしながら下校して

いつもの道で分かれて、いつものように帰ってきた私

そんな私を待っていたのはお母様でもお父様でもなく

見知らぬおじ様だった


「ほう……これはこれは」

「っ……」

あからさまにいやらしい視線を向けてくるおじ様は

私の体を舐めるように見渡しながら笑う

「何か御用……でしょうか?」

「あぁ、実はキミを買ったのだ」

――買った?

その言葉の違和感に私は言葉を失い

おじ様から目をそらし、自分の体を抱きしめた

言葉の意味は解る。でも、意味が解らない

買ったということは売られた?

私の意思は関係なく……売られ、買われた?

深夜ですると聞いて

おいまだか


「どういうこと……でしょうか」

「言葉通りの意味だ。キミのご両親がキミを売り、私が買ったのだ」

「そ、そうではなく……」

冷静でいなければ……

そう思いながらも、あまりの事態に動揺の色は隠せず

そんな惨めな姿がおじ様にとっては面白いものなのか

嘲るように笑う

「まぁ、といってもキミではなくとも良いんだ」

「え?」

「――妹が、いるんだったね」

その言葉は音ではなく電流のように私の体を駆け巡り

総毛立たせるとともに、目を見開かせた


「わ、私達のどちらかが売られる……と?」

「売られるのではなく売られたのだよ。それは確定している」

「っ…………」

「ただ、どちらか片方に。との話でねぇ……それを今見に来たというわけだ」

おじ様の嫌な瞳は私を通して妹を見る

どちらか片方は必ず連れて行かれなければいけない

妹は中学生、私は高校生

どのみち3年で卒業して、学校は通わなくなる……

自分にまで遠まわしな言い方をする頭を振り

思わず笑みをこぼしてしまった


「どうかしたかね?」

「ふふっ……白羽の矢が立った。と……」

このような人に連れて行かれる……いいえ

このような人に買われたという事実が心苦しいけれど

それを妹に押し付けるという方が、私はもっと辛い

「私が買われます……貴方に」

「それを決めるのはお前ではない。私だ」

おじ様は侮蔑の瞳で私を睨む

品物の分際で指図をするなと

言い換えるなら……買われるのを待つ犬なのに吠えるなと

そう怒るかのような……瞳

「私は若い方が好みでねぇ」

覚悟したことを悟り

おじ様は私の心を深く抉り、気づかせた

もうすでに……始まっているのだと

私が奴隷になるか、反乱者になるかの選別が始まっているのだと

「っ…………」

「くくっ……どうかしたのかね?」

強く歯を食いしばり、目を瞑り、拳を握り締めながらも……

私は手を出すことも、怒ることも何もできず

膝を付き、手をつき、頭を地につけ……乞う

「私はこのようなことには無知ですから……どうか、ご教授下さい……」

おじ様は笑う

私の醜態を見て……満足そうに笑った


「キミはペットショップに行った事はあるかね?」

「ええ……何度か」

質問の意図が分からず、頭は上げず素直に答えると

おじ様はまた笑う

ううん、ずっと、私を挑発するように笑っている

「では聞くが……ペットは衣服を身につけているのかね?」

「え……?」

「キミは買われることを望む動物だ。つまりペットといっても良いわけだが……」

声は変なふうに響く

何度も何度も頭の中で繰り返され、自尊心を傷つける

「ぬ、脱げと……?」

「別に無理にとは言わんよ? 指示さえ聞かぬ駄犬を買うとも言わんがね」

買われたいなら衣服を脱ぎ捨てて裸体を晒せ

おじ様はそう言っているということは理解できているし

そうしなければ妹にその魔手を伸ばすということも理解できた

羞恥心と自尊心を自らの手で引き裂かなければ

大切な妹が……連れて行かれる

「っ……くっ」

そうは言っても、見知らぬ男性の前で

買われるためという卑しい理由で裸体を晒すなんて簡単なことではなく

それはおじ様もわかっていること

だからこそ私の背中を押すように、おじ様は言い放つ


「そうか、では……妹君を連れて行くとしよう」

おじ様は非情な言葉を吐き捨てて

跪く私の横を通り過ぎていく

ダメ、ダメ……っ

それだけは……それだけは……っ

「待って!」

「………………」

思わず叫び、足を掴んだ私をおじ様は汚らわしいものを見るような

蔑んだ瞳で見下ろす

「買われたいというのに噛み付くのかこの駄犬は」

おじ様は言うやいなや

なんの躊躇もなく私の頭を踏みつけ

床にこすりつけるように力を入れてくる


痛い、悔しい、悲しい、辛い……でも、でもっ

「申し訳ありませんっ……どうか、どうか……お考え直しください」

「……………………」

緩むことのない足の重さに耐えながら

タイを緩ませスカートを脱ぎ、ブラウスなども頭の方までは引き上げていく

羞恥心も自尊心も捨てる……でなければ買われない

「はじめからそうしていれば、一考くらいはしたやったのだぞ?」

頭から重みが消え、上げるよりも先にブラウスなどを脱ぎ捨てる

「おじ様……どうか、どうかこの私を買ってください……」

「駄犬は人間の言葉を喋れるのか?」


「え……」

「駄犬は人間の言葉を話し、買ってくれなどと言うのか。これは怖いな」

おじ様は苦笑し、立ち去るように踵を返す

「そんな犬は買えんな」

「ま……っゎ、わんっ!」

裸体を晒しながら犬の真似だなんて……

心がズタボロに引き裂かれてしまいそうなほどで

堪えきれない涙がこぼれ落ちていく

でも、決して声には出さない

「わんっ、わんっ……く、くぅ~ん……」

「どうやら私の気のせいだったようだな」


「よかろうお前を買ってやろう」

「ぁ――ゎんっ」

私はおじ様の前では全てを失った

日常も、人権も、自尊心も、羞恥心も、人間としての言葉も

……身につける衣服でさえも

私は人間からただの動物……ペット

ううん、それ以下の奴隷にまで飛び降りさせられてしまった

「服も何もいらん。そのままついてこい。立つなよ?」

「わ、わん……」

そして……私の奴隷生活が始まった

恋愛さえ未経験だった私は当然、性体験も未経験だった

だから……初めての相手は50代のお爺さん

比較的優しい方で、初めてだって伝えると

優しく……相手をしてくれた

痛みではなく悲しみで泣く私の頭を撫でながら

その理由さえ知らないのに……大変だね。と

慰めてくれた上に、料金とは別に……数万円も頂いてしまった

とは言っても……監獄から出られない私には

紙幣なんてただの紙でしかなかった


「おらっ、ちゃんと口に貯めろよ!」

「ぅぐっ!?」

思いっきり喉奥にまで男性器を押し込んでおきながら

そんな無茶なことを言う男性も相手した

「げほっ……けほっ……ぅぇ……」

「おいっ、ちゃんと残せって言っただろうが!」

「も、申し訳ありません……」

それでも、お金を支払い私なんかの相手となったお客様

全て悪いのは私……そう、言い聞かせる必要もない

だってもう、そんなことが必要になる人数以上の相手を

私はしてきているのだもの……


中には……排泄器官は私のものではなく

人のものを排泄される器官にする人だっていた

「やべっトイレ……面倒だし、一度やってみたかったんだよな」

男性はそんな風に言いながら

私の排泄するための穴をほぐしていく

まずは様子見で小指を差し込み、問題なく入ることを確認して人差し指

「ぁっ……んっ……」

「おいおい……お前ケツでもやれるのかよ……」

皮肉ぶった男性の言葉に

私は機械のように……いつもの営業文句を口にする

「私、霞は皆様のどのような性癖でさえもお相手できるように万全の開発を施されています」

「へぇ……やるねぇ」

「ただ、処女の方は再現できかねますので、ご了承ください」


今までの私だったなら絶対に言わないような言葉の数々

それを平気で口に出来てしまうのは

厳しい躾をされたから? 心がもう、壊れてしまったから?

それとも――私が望んでいることだから?

「そんなことぁんっ……どうでも……んんっ、いぃっ」

ただの女として淫らに乱れ、快楽に溺れていく

辛い、悲しい、苦しい。そう思うよりも、気持ちよくなった方がいい

理性を超えた本能がそう言う

「はっ、この淫売めっ!」

「んっ、ぁっあぁっっ……んぁっ」

私はお勤めの最中であれば

男性の軽蔑の言葉でさえ悦んでしまうような……卑しい女に成り果てていた


男性の二つの親指が私の排泄器官を広げ

体温よりも低い空気が入り込んできて

その僅かな刺激に、口元が綻ぶ

「漏らすんじゃねーぞ」

「ぁっあぁぁああぁぁっ!」

体の内側を抉る生暖かい男性器の感触

閉じれない扉がヒクヒクと疼き、入れて貰えない前の扉が切なさに涙をこぼす

「出るかな……っと、おっ……女の中にションベンできるとかすげーっ」

「あぁっ……あっ……んっ………」

体の中の中腹部よりも下に、流れ込んでくる液体を感じる

そんな、お手洗いに置かれた道具のような扱いでさえ私は受け入れられる

「ゎ、私霞はぁんっ……お客様の……んんっふぁ……全てを受け入れるっ道具ですからぁっ」


それでも、監獄に戻ればひんやりとした冷たさと

孤独である寂しさから……冷静になって……自己嫌悪する

1週間で相手にした男性の数はすでに数えられないほど

日常にいた私では、まず……ありえない人数だった

それもそうよね……複数人相手に一人でやったことだってあるんだもの

「……ふふっ、私、もう立派な身売りでしょう? お父様。お母様」

泣くための涙も、心さえもない

今の私にあるのはいつ飽きられ、捨てられるとも知らない体と

快楽を欲し続ける淫らな頭だけ

出番を待つ私の体は……出番に備えて疼く

そんなこと、躾けられた記憶なんてないのに……


中断

……色々しくじった。描写も希薄

なんもかんも行数制限が悪い

とてもいい

行数のせいにするのは天江

さて、京太郎はいつ出てくるか


そんな私の卑しい心を呼び覚ます、鉄の扉を叩く音

「お勤めかしら?」

「あぁ、お前をお気に入りのじじいだよ」

私を気に入ったお爺さん

それは、私のはじめての相手

「ふふっ……今日はゆっくりできそうだわ」

「ふんっ、じじい相手なんだからお前が動くんだぜ? 犬」

部屋を出て早々、性格の悪そうな男性の言葉

でも、私が犬だということは否定できない

巫女服に似た純白の浴衣みたいな服を身に纏い

首には私の名とご主人様の名を記した首輪

「お前クサいな……大丈夫かよそんなんでよ。大事な客を逃すんじゃねぇぞ?」

「ならもう少し、まともな入浴させて欲しいわね」


「ちっ、犬風情が調子のんじゃねぇよ!」

「っぁ!?」

力強く胸を引っぱたかれ

けれど………痛くはなかった

「ぁっ……ぅ……」

体が快楽に震えてしまう

恥部からいやらしく淫らな水滴を滴らせていく

睨みたいのに睨めない……牙を抜かれた犬

「叩かれて発情するとはとんだ駄犬だな」

「はぁっはぁっ……んっ……悪いわね……私、被虐性欲者でもあるのよ」

仕方ないじゃない……

そうあれるように、貴方達が私を変えたのだから


「気色悪い犬だな、さっさと行って来いよ。気持ち悪く鳴いてこい」

「そんなに私の声が聞きたいなら……買う?」

「最初の初心さはどこへ行ったんだかな」

「心なんて、とうの昔に捨てたわよ」

言い捨てて、部屋へと向かう

一歩、また一歩、お爺さんの居場所へと向かう

あの人は優しい。私をものではなく女の子として扱ってくれる

だから……あの人との時間は好き

淫猥に乱れることもなく、ゆったりとした交わり

ほかに人よりはずっと……楽な仕事

「お待たせしちゃったかしら。お爺様」

「……だいぶ、変わってしまったようだね」

お爺さんの残念そうで悲しそうな声が響いた


「最後にお爺様にお会いしたのはいつだったかしら」

「5日前だよ。その前は最初だったね」

お爺さんは笑いながら言うと、私のことを見つめ

悲しさを見せないためか顔を逸らしてしまう

「……とりあえず、座り給え」

「はい」

私は犬……だから、床に座る

子供の頃から学んできた正座ではなく

足を広げ、お預けを受けた犬のように座る

「そんな座り方を望んだわけでは……」

「ぁ……ごめんなさい。癖なんです」


「霞君……」

「……ふふっ、お爺様にお会いしたときはまだ、普通だったのに」

思わず笑い

あの時を思い出し、ない悲しみを漏らしていく

「っく……ぅ……ふふっ、うぁ……ふふふっ」

「いいんだよ。私はキミを汚すつもりはない。泣きたければ泣けばいい」

「なにを……」

「私はキミがこれを仕事にしていると思った……でも、違うんだね?」

お爺さんの優しい言葉

温かい声が私の空虚な心に響く

お勤めをする上で、必要のないものが戻ってくる

「ゎ、私は、私は好きでこの仕事を……」

でも、真実は語れない

私は売女としての生き方を好んでここに居るという、設定だから


「ではなぜ泣く」

「お爺様が私と遊んでくださらないから……体が切ないの……」

「……霞君」

体を抱きしめ、切なさに身悶え……悲喜に震える

淫猥な液体を滴らせながら、涙をこぼす

「ほらぁ、んっ……ここはぁっんぅっ……こんなにも求めているわ……」

恥部を自ら弄りまわし、快楽に浸りながら

汚らわしく淫らな音を響かせて、見せつけ……誘惑する

「止めるんだ。その必要はない」

「あるわ。んぅっ、私もぁっあぁっ……貴方も……この先にぃんっいる、ために」

真っ昼間なのに勃って仕方ない


人身売買をされた私は

もはや存在自体が違法……その人生が違法

それを語ることは、それを知ることは……罪

「んっ、あぁっ……お爺様、見てっ、んっ、あぁっ、イキますっ、私っ、私ぃっ!」

お爺様に見せつけるように腰を浮かせ大股を開く

はしたない。汚らわしい。淫ら、軽蔑……したいわ。自分でも

「ぁっ、んっんっぁあぁっ……あぁああぁぁぁっ!」

一人で果てて、体を大きく震わせながら

淫猥な体液を撒き散らし、綻んだ口元からよだれを垂れ流す

それでも手は止めない。お爺様が情欲に流され

私を汚すまで……その優しさを失うまで……

「お願いしますっ……ぁっんんっ……いれて、いれて欲しいのぉっ」

自分のものとは思えないような甘える声が……響いた


でも……お爺さんは入れてくれない

悲しげな表情で私を見つめるだけ……

「お願いっ……お爺様ぁっお爺様ぁぁっ」

独り遊びの限界

複数回果てれば体が慣れて……達することはできなくなる

淫猥な音は止むことはなく、情欲もさることはないのに

果てることができない……

「んっあっあぁぁっ、んっ……んんっ……ぁうっ……」

「………………」

「はぁっはぁっ……お爺様、霞をっ霞をぉっ……」

救いを求めて手を伸ばす、イかせて欲しいと――願う

でも、お爺様は何も言わずに、目をそらしてしまった


「嫌ですお爺様ぁんっ! このままなんてぇっ! ぁ、んっんぁっ」

「っ……霞君。よく聞き給え」

「んっふっ……ぁんっ……んくっ……」

陰唇の内側に左手の人差し指を挿入し

釣り上げるように引き上げていく

体液が空気を孕み、くぷっと不可思議な音を響かせて

淫らな液体が潤滑剤として働き……指を滑らせ

抜けた指が敏感な部分を弾く

「ふあぁぁぁんっあぁっ……あぁっあっ……」

それでも果てられずにお爺様を見つめると

お爺様は悲しげな表情で……告げ――

「キミをここから逃がしてあげよう……キミは、もう汚れなくて良いんだ」

――私を優しく、抱きしめてくれた


中断

すげー気持ち悪い


「キミはいくらで買われたんだ?」

「え?」

お爺さんの想像してなかった言葉に唖然とし

手の動きが止まってしまう

何を言っているの? ではなく

なぜ知っているの? と、不安が募る

ただの想像? ただの仮定?

めぐる思考に悩まされていると

お爺さんは続けた

「私がキミの倍の値段でキミを買おう。そうすれば、キミは自由になれる」

「っ……私は買われたわけじゃ」

「だったら何故こんなことをする。親はどうした?」

お爺さんの質問攻めに奥歯がギリっと唸る

答えられるわけがない

答えれば罪を着せ、罪を着る

それは死を意味するようなもの……

お爺さんは殺され、私は二度と口が聞けないようにされ、

両手両足を引き裂かれ……本当の人形に変えられてしまう

「親は……すでにいません」

「それは済まないことを聞いたな……だが、なればこそキミを引き取らねばならん」

お爺さんは私を救おうとしてくれてる?

卑しい私の中の僅かな自分を……救おうとしてくれてる?

頼めば、私は自由になることができるの……?

もう、こんな地獄から抜け出せるの?

でも、そうしたら……私はもう気持ちよくなれない?

そんな卑しい心残りを押しつぶし、お爺さんを見つめる


「どうして……私にそんな親切をして下さるのですか?」

「キミが子供で、私が大人で……私が初めにキミを汚してしまったからだ」

お爺さんはあの時のことを悔やんでいる

それは2回目に来た時にすぐにわかった

でも、あれくらいで私を買うだなんてこの人は一体……

なんて悩んでいるとお爺さんは微笑み、問う

「さぁ、キミはどうしたいんだ?」

「私は、私は……」

ここまで言われ、ここまで優しくされ

ボロボロの私は縋りつかずにはいられなかった

「私は自由になりたい……助けて……欲しい」

何度も果てた私の煩悩よりも理性が勝り

本当の、本当の本心を……私は言い放つ

「そうか……」

お爺さんは笑う。さっきまでとは違う、

身の毛もよだつ嫌な笑みだった

「お爺……さん?」

「キミはすべての性癖を受けてくれるという話だったね」

「ぇ……?」

お爺さんの不気味な笑みに私は体が震え

見せつけているかのように見える白い歯が

私にはとてつもなく恐ろしいものに見えてくる

切られた手足はどこに行くという話を私は聞かなかった

気持ちが悪いから、そんなことになるつもりなんてなかったから

でも、聞いておくべきだったと……後悔する


「いやぁ、罪を同じく背負うのなら……構わないと言ってくれてねぇ」

「な、何を言って……いるんでしょう……?」

わからない

わからない、わからないっ、解らない!

この人が何を言いたいのか

この人が何を言ってるのか……

「あとはキミが罪を背負えば良かったんだ」

「つ、罪って……」

「でないと、手足を切り落とす許可が出なかったんだよ」

お爺さんは感極まったように高笑いし

抱きしめていた私の体を引き離し、視界に全身を収めた

「ところで……」

冷酷で、冷徹で、非情に非常な……笑みで問う











       「キミはカニバリズムというものを知っているかな?」










中断

気持ちが悪い? 褒め言葉として受け取らせてもらうぜ

流石にここまで行くと着いてけねえや

「ぁ、あぁ………」

本能が逃げろと叫ぶ

でも、上回る恐怖が体を縛る

そして、それを上回るのは……私が愛した神々

「っあぁあああぁぁっ!」

体中の力を振り絞ってお爺さんを蹴り飛ばす

加虐性欲者でもある私にとって加減も加減なしも簡単

どこが痛くて、どこが痛くないかも簡単にわかる

被虐性欲者にとっては激痛は痛み。されど痛みは快楽

だからこそ、痛みにはならないように注意して責めるがやり方

痛みだけしか与えないのはSMではなく、ただの暴行

今必要なのは――痛み!

「きさ――」

「お爺様のこと……少し、好きでした」

そう告げて、痛みを与えて部屋を飛び出した


外は大雨で、体はずぶ濡れになり

靴を履いていない足は泥だらけで傷だらけ

それでも私はひたすらに走り続ける

どこだかわからないような道を

死に物狂いでかけていく

「はぁっはぁっ……っ、はぁっ」

あそこから追いかけてくる人たちに捕まれば、食べられる

それが怖くて仕方がなくて、是力で走り続けて

「のあっ」

「きゃぁっ!」

私は通りすがりの男の子にぶつかってしまった

カニバとか達磨が無くてよかった…
無いよね?

後は上がるだけと思いたい

「すみません。大丈夫ですか?」

「あ、貴方こそ大丈夫なの?」

男の子は高校生らしく制服を着込んでいたのに

私とぶつかったことで傘が手放され

もうすでに傘の意味が成せなくなるほどに濡れてしまっていた

「いや、俺は。それよりキミ……なんで犬の首輪なんて」

「っ……」

慌てて首元を隠しても遅く、

どうやら、私の足も遅かったらしい

「どこいったぁ!」

男性の怒声が雨音さえ霞ませるほどに大きく響く

捕まりたくない……いや、いやっ、いやっ!

「こっちです」

「え――」

震えるだけだった私の手を取り、走り出した


男の子に連れられてきたのは

須賀。という表札のかかっていた一軒家

でも、一軒家というには少し……大きいような気もした

「ちょっと待っててください。タオル取ってきますから」

男の子は私を玄関に待たせたまま

恐らくは脱衣所の扉を開け、中へと消えていく

「……た、助かったの?」

私の疑問には誰も答えず

降りしきる雨音と、私の体を伝う雫

男の子の足音だけが家に響き、声が響いた

「すみません、お待たせしました」

「い、いえ……ありがとうございます。ご主人様」

私の言葉に男の子は唖然とし

私は慌てて口を押さえ込んだ

爺共が出てこないことを祈る


「一体、どういう……」

「言えないわ……お願い。聞かないで」

男の子には申し訳なくて

顔を見れず、俯いたままの願い

でも、男の子は怒ったり突き放したりすることもなく

頭からタオルをかけてくれた

「……とりあえず拭いてください」

「ぁ……」

「風邪……引きますよ」

私にとってその優しさは……凄く、心に沁みるものだった


「服も変えないとですよね……でも、合うような服が」

男の子はちょっとだけ恥ずかしそうに頬をかきながら

私の胸から目をそらす

それを見て、私はにやけてしまう

「裸でもいいのよ? 私……露出でもイケる口だから」

「ば、馬鹿なこと言わないでください!」

そして、大声で小気に戻って……嫌悪する

「……ごめんなさい。相手に合わせてつい、変えてしまうの」

普通の会話をしたいのに

……普通の会話がわからない

エッチに関することくらいしか……思い浮かばない……

たった1週間が――私の知識を性一色にしてしまっていた


「ねぇ……私の事気持ちが悪いって思う?」

「急に何ですか?」

男の子のジャージを借りつつ

リビングのソファに腰掛けながら……ココアを飲む

そんな、一時の平穏の中にいながら

私の問は平穏からかけ離れたものだった

「犬の首輪をして、ご主人様なんて呼び方をしてあげく……露出でも平気だなんて」

「それは……」

「いいのよ……自分でも気持ちが悪い女だって思ってるから」

ジャージのズボンの中は蒸れていていて

女の淫らな匂いが篭っていた

自分で自分を罵り、男の子の奇人を見るような目が

たまらなく……心地いい

嫌なのに……嫌なのに……体は、発情してしまっていた


「……ねぇ、貴方は経験ある?」

「もう止めましょう。そんな話」

「無理よ……私にできるのはこんな話しかない」

自覚しているのだから質が悪いにも程がある

でも、本当に無理

どんな会話からだって下品な会話に繋げられるように

知恵をつけさせられたし、経験をさせられた

「今も、体が疼いて仕方がないの……貴方の匂いが、私を発情させているのよ」

「そんな……」

「ごめんなさい……私は貴方が思う以上に汚らわしくて卑しい売女なの」

私は黙っていられなくて告げてしまった

追い出されてもおかしくないような事を、親切で純粋な男の子に……


「ば、売女って」

「私の経験豊富な女性器を見たい? 貴方の理想を裏切る醜い姿だけれど」

「ま、待て待て待ってくれよ! そんなの良いから!」

ズボンを脱ごうとした私に対して

男の子は無理矢理手を掴み、それを止めた

「何があったんだよ……アンタ。名前は?」

「私霞は皆様のどのような性癖でさえもお相手できるよ――」

私の言葉を遮るように机を叩き

男の子の握り締めた拳が痛々しい赤色に染まっていく

「ふざけんな! なんだよそれ……自己紹介がセールストークなのかよ!」

「ええ……苗字は捨てられ、名のみを残された。私は霞。大好きなのはエッチなこと」

「霞さん……」

男の子の同情するような瞳が辛かった

軽蔑せず、嘆き悲しむような表情が私には辛くて……目を、逸らしてしまった


「同情するなら……私を感じさせて頂戴」

「俺はアンタに手を出さない」

「っ……」

「アンタを追ってた奴らにも差し出さない。普通に戻れよ。霞さん!」

男の子は私を鋭く睨み

有無を言わせないような凄みをきかせる

「須賀君……」

「霞さん、俺はアンタを救いたい……なんにも知らねぇけど、苦しんでるということだけはわかる」

須賀君は私に対して微笑み、手を差し出してくる

「だからもう止めてくれ。変なこと考えんなよ。変なこと言うなよ」

「……………………」

「これからは普通の人間として生きろよ!」

それは普通は望まなくても得られること

でも……異常となった私には努力しなければ得られないもの


「でも、私はこんなにも汚れているわ」

「汚れなんて洗えば落とせるだろ」

「でも、私は追われているわ」

「なら隠れてればいいさ」

「でも、私は身寄りのない……迷惑な女だわ」

「この家があるし、霞さんよりも迷惑押し付けてくる人だっている」

須賀君は笑い、伸ばすことを躊躇する私の手を強引に取り

そして抱き寄せ――告げる

「心配しないでください……俺が、霞さんを守ってみせます」

その温かく、優しい言葉に

私は思わず…………微笑みを返してしまった


寝る

おつ

乙です

あの霞さんが全裸土下座でワンワン言うってヤバくね?

期待

凄まじい精神力だな

「ねぇ、須賀君」

「なんです?」

「お風呂……借りたいの」

部屋番の男の人にも臭いって言われちゃったし

きっと、須賀君だって臭いって思ってるはず

私自身……男の人の匂いが染み付いてるって思うし

「も、もしあれなら水桶1杯でも良いから……お湯で体が洗いたいの」

あそこでは水でしか洗わせてくれなかった

巫女なんだから水行で十分だろって……水で流すだけしか許されなかった

「必要なら体で支払うわ。貴方のどんな命令だって聞く。だからお願い……」

私のそんな懇願を、須賀君は悲しげに聞きながら

首を横に振った

「お風呂は沸かしてあります。シャンプーとかも好きなだけ使って良いです」

そして、「だから」と続けた

「体を大切にしてください。それが俺の命令です」


「そんなお願いでいいの? 私、貴方の性処理道具にだって……」

「お断りです」

「どうして? 私にそんな魅力はない? 遊びすぎた女には……価値はない?」

私の問いに対して

須賀君はやっぱり悲しそうで、辛そうで

そしてそれは……全部私のための感情だった

「スッゲー魅力的ですよ。少し問題ありですけど……好みのタイプです」

「じゃぁどうして? 貴方は私を……」

「女の子への絶対命令なんて妄想だから良いんです。現実では罪悪感で萎えるだけだ」

須賀君は困ったような笑みを浮かべて

私の頭を撫でてくれた

「とりあえずお風呂入ってきてください。洋服も準備しておきますから」

「うん……ありがとう。ごしゅ……須賀君」

そう返して、私は浴室へと向かった


1週間ぶりのお風呂

温かい湯船、温かいシャワー

「はぁ……」

気持ちがいい

卑猥な意味じゃない、心地よさ

「こんな当たり前のことが、こんなにも幸せなことだったなんて……」

男の人に弄ばれ続けた体。胸の先端部はまだ色の変化は起きていない

そこを吸うよりも、乳房で男性器を挟む方が多くて助かったのかしらね……

でも、須賀君に言った通り女性器の方はもう見る影もない

色は変わりかけているし、力を入れたりしないとほんの少し開いたまま

それもそうよね……腕を入れられた経験だってあるんだから

「んっぁっ……あっ……っ!」

その喘ぎ声が自分のものだとすぐに気づき

慌てて恥部から手を引き剥がした


私……やっぱり離れられないのかしら

今までされた嫌な経験を思い出す。それを糧としてまで

快楽に浸ろうとした

「須賀君……私、死んだほうがいいのかもしれない」

浴室に響く私の声

須賀君には聞かせられない胸の内の声

でも、須賀君は言った。体を大切にしてと

だから、粗末に扱う自殺という行為は許されない

それは新しいご主人様……ううん。

私の恩人である須賀君の命令だもの……破るわけにはいかない

「霞さん、着替えここにおいておきますね。父さんのでっかいやつだから多分平気だと思います」

「ええ、ありがとう」

名前を呼ぼうとすればご主人様が先に出てきてしまう

まずはそれを……直さなきゃ


「ねぇ、ご主……須賀君」

「なんですか?」

「これ……」

食卓に並べられた料理は、どれも美味しそうで

口の中が潤って、飲み込んでも飲み込んでも唾液は溢れ出てくる

食べたい。食べたい……

男の人の汚い体液がかけられたご飯じゃない

綺麗な食事……1週間ぶりの普通の食事

「冷凍とか残り物ですけど、霞さんに食べて貰おうと思って。早い夕食ですが」

「た、食べていいの? ゆ、床でもなく机の上で? 人間のように?」

「っ……そういう質問はしないでください。貴女は人間です。紛れもなく俺と同じ人間なんですから」

須賀君はそう言いながらエスコートするかのように

食卓の椅子を引き、手招いた


「っ……ぅ……うぅっ……」

涙が溢れてきてしまう

嬉しくて、嬉しくて……涙がこぼれてくる

視界が乱れて膝から崩れ落ち

それを、須賀君が支えてくれた

「大丈夫ですか?」

「嬉しいの……嬉しいのっ……人間だって、久しぶりに言われた……から」

「っ…………」

須賀君の拳が強く握られ、震える

私のための……怒りを感じる

「貴方に会えて良かった……本当に、本当に良かった……」

「喜んでくれたなら……良かったです」

須賀君はそう言いながら私を抱きしめてくれる

男としての心地よさではなく、人としての心地よさを。須賀君は……私に与えてくれた

「ご両親に私の説明はどうするの?」

「しばらくは家にいませんから大丈夫かと」

「……家にいないって、じゃぁ2人きり?」

「そうですよ。俺みたいなのは嫌かもしれませんが、我慢してください」

須賀くんの言葉に私は首を振り

誘惑しようとする笑顔ではなく、普通の笑顔を思いだし、笑う

「ううん。須賀くんが良い。貴方じゃなきゃ……嫌よ」

「あはは……か、母さんの部屋使ってください。俺はもう寝ます」

須賀くんは照れ笑いを交えて言い捨てると

逃げるように部屋へと駆け込む

「…………須賀くん」

燻ぶる情欲

襲いたくなる衝動を押さえ込み、部屋から目をそらす

「おやすみなさい、須賀くん」

扉越しに言い、私も部屋へと向かった


「んっ、ぁっ、ぁはっ……んんっ、んぅっ……」

須賀くんに手を出したくない

須賀くんにこんなことをさせたくない

「んあぁっんっふっふぐぅぅぅっ」

左腕に噛み付き、声を殺す

惨めで虚しい独り遊戯は、大切な恩人を守るため

私はどうせこの快楽地獄からは抜け出せない

覚えてしまった。それを、私の最も望む感覚として定めてしまったから

「んっふぁぁんっ……ふぅぅっ……ふーっ、ふーっ、んんっ!」

自虐するように激しく、狂う

須賀くんに手を出そうとしないほど、欲望を枯渇させるために

ごめんね。ごめん……ごめんなさい

何度も何度も、須賀くんに謝りながら

私は自慰に耽り、夜を明かした

また後でな


寒いから早めに頼む

早く続きたのんます

紳士スタイルはこの時期辛い

京太郎がまともでありますように


「……懐かしい」

須賀くんのために料理を作っていると

小蒔ちゃん達のために作っていた頃を思い出し

思わず顔を顰めてしまう

「みんな……私の事、なんて知らされたのかしら」

何の連絡もなしに突然いなくなって

心配させたかしら? それとも、無難な嘘に平穏を与えられているのかしら

気にはなるけれど

今もまだ幸せにいてくれているならそれで……良い

連絡なんて出来はしない。電話して場所がバレたりしたら困るものね

「ん? 霞さん?」

私を弄ばない男の子の声が背中にぶつかって

顰めていた顔を、微笑みへと変える

「あら、おはよう」

笑顔のままに振り向き、須賀くんのための料理を食卓に並べていく

「材料、勝手に借りちゃってごめんなさいね」

「それはいいんですけど……まさかまたお勤めだからとか言いませんよね?」

「お世話になるからには、貴方のために何かしようと思ったの。人間らしいことをね」

私からそんな言葉が来たことが嬉しかったのか

須賀くんは嬉しそうに微笑み、椅子へと座った

「女の子に手料理なんて、すっげー嬉しいです」

「ふふっ、これからは毎日作るわ。朝も夜も。必要ならお弁当も」

それまた予想外らしく、須賀くんは握った箸を落として私を呆然と見つめた

「ま、マジですか? お弁当まで作ってくれるんですか!?」

「え、ええ。嫌? 一応こんな女でも料理くらいは人並にできるのよ?」

「人並みじゃなくても大歓迎! 大嫌いな勉強が好きになっちゃいますよ!」

須賀くんのその純粋な笑顔を見ることが私にとっての幸せ

笑顔を見ながら笑顔になって、頭の中を……そんな風に書き換えていった

明星は無事なんかねえ…


「家のことやってくれるのは嬉しいですけど、電話は俺の名前以外は出ないでください」

「ええ」

「申し訳ないんですけど、家の外にも出たりはしないでください」

「解ってるわ。男の人達がどこにいるか判らないもの」

「テレビ見たりなんだりは全部自由です。お風呂に入りたかったら好きなだけどうぞ」

「それはいいわ。着替えがないし……」

そう答えると

須賀くんは慌てて頭をかき、目をそらす

「そ、そうでした……今日。色々買ってきますよ。そのために……その、サイズも聞いたんですから」

「でも、本当に買ってくれるの? 貴方の家のお金なのに」

「ま、まぁ……お金はありますし。店員には彼女のものとでも言えばなんとか」

その言葉で、私たちの時間が止まり

須賀くんは自分が失言したかのように「あ」っと、声を漏らした

「す、すみません、彼女なんて……」

「う、ううん。なんでも良いわ。飼い主と飼い犬という関係でも受け入れられちゃうから」

「っ、それ禁止です!」

慌てた子供みたいな表情から一転して

須賀くんは真面目に怒った口調で言い放つ

「霞さんは霞さんです。犬じゃないんだから。首輪だって外れてますよね?」

「ええ……」

「服も買ってきたら着てくださいよ? 裸とか俺の目に毒ですし」

襲ってくれてもいいのに。と

考える卑しい自分に目を背き、笑う

「じゃぁ、センスの良いお洋服をお願いするわね」

「ぐっ……」

「ふふっ。冗談よ。着れるならなんでも良いわ。外出は……しないから」

「……出来るだけ良いの選んできますよ。行ってきます」

手を振る須賀くんを笑顔で送り出す。そして、家には私一人だけが残った

新妻か……いいな

ネット使えないんかね?

家の外には出られないけど

でも、鉄格子のついた窓じゃない

鉄の扉じゃない

お手洗いだって人に見られながら路地裏でしたりするようなものでもない

全部、全部当たり前のことだけど

私にとっては特別なこと

「さて、と。とりあえず食器を洗ってその後お洗濯。ベランダでも危ないし、部屋干しかしら?」

須賀くんのために出来ること

家の中のこと、私がやってもいいようなことを

一つ一つ、やっていく

いつもなら男性の相手をしている時間

喘ぎながら、腰だけを動かしていた時間

でも今は鼻歌を歌い、須賀くんのために家中を駆け回っている

それがたまらなく幸せで、私は終始笑顔のままだった


中断

正直嫌な予感しかしない…

上げて落とす展開って分かってても面白いな

もう爺は見たくねえな…

鬱エンドまったなしだろうな

何言ってるんだ……このまま終わるんだろ
京太郎が帰ってきてセンス無い服ばっかで笑いあって

幸せENDだろ、それしか見えないぜ

上げて落として上げるんだろ(願望)


お掃除も、お洗濯も、食器洗いも

全部終えて暇になって……テレビを見る

でもあまり面白そうなものはなくて、チャンネルを何度も変えていく

でも、それが番組を彷徨っているのではなく

テレビの中の男性を彷徨っていることに気づいたのは

「……エッチしたい」

無意識のうちにそんなことを呟いたから

すぐに気づいてテレビを消し、下腹部に伸びていた右手を押さえ込む

「はぁっ、はぁっ……んっ……」

そろそろ、出番の時間

体が熱くなって疼き、男性を欲して唾液をこぼす

「っ……ね、寝た方が良さそうね……」

すぐに考えを改めて部屋へと向かう……つもりだった

でも私は与えられた部屋ではなく、須賀くんの部屋に入ってしまった

そういやカピはどうしたんだろ?

「ダメ……ここ、須賀くんの……」

頭ではわかっていても、快感を欲する体が言うことを聞いてくれない

だってここは男の子部屋。男の子の匂いしかしない部屋

私にとって、猛毒に等しい空間

「っ……やっ……ダメっ……」

ポタポタと、床に雫を滴らせて

須賀くんの部屋に、卑しく汚らわしい私の匂いを混ぜ込んでいく

「んっ、ぁっ……んっあっぁっ……だめっ、ダメっ……」

ダメとは言っても、右手はもう敏感なところを刺激していて

止めるための左手は、自分の胸を鷲掴む

「ぁっんっぁあっんんっあっあっあぁ……っ」

罪悪感に涙を溢し、その背徳感にゾクゾクと体を震わせる

最低……最低っ……こんなのっ、こんなの……

そう思っても手は止まらない。快感に身を委ね、心はまた快楽に沈んでいく

そんな治りかけの心をあざ笑うように、体は淫猥な音を響かせ続けた


「はぁっはぁっ……んっ……ふっ……ぁ、ふふっ……ふふふっ」

悲しくて、悲しすぎて……笑いが溢れてしまう

解った。

ううん、解ってた

自分がもうどうしようもないほどに堕ちた人間だって

でも、須賀くんとならなんとかなるかもしれない。なんて

バカみたいな希望抱いて……結局1日たりとも、私は抑えられなかった

どうしよう。どうしよう、須賀くん

エッチな気持ちが全然収まってくれない

「はぁっはぁっぁんっあぁっふぁんっ……ぁ……」

欲しい。須賀くんの男性器が、欲しい……

滅茶苦茶にして欲しい……今までの男性みたいに

玩具のようにでいいからエッチして欲しい

そんな最低という言葉でさえ足りないほどのことを思ってしまう

たった5日でここまで酷くなるか……

はよ永水全員堕とそう(ゲス顔


でも、須賀くんは居ない

けれど、それで諦めはせず

部屋を見渡し、須賀くんの机のところにあったリコーダーを手に取る

「小学生で使っていて、今はもう使っていないはず……」

考えた言葉は声に出ていて、ゴクッと喉が鳴り

それを私は下腹部の方へと移動させていく

「っ……ごめんなさい。本当にごめんなさい」

謝るくらいならやらなければ良い。初美ちゃんの悪戯に対して

そう怒ることが何度もあったのに、私自身がそんな立場になるなんて……でも

どうしてもしたい。したくてしたくて仕方がなくて

私は須賀くんのそれを差し込み

「ふあぁぁっ、あぁっんんっあぁっ……須賀くんっ須賀くぅっんぁぁんっ」

何度も何度も、上下に繰り返していく


無機質な感触が肉壁をゴリゴリとえぐっていく感触

男性器のような暖かさも、脈動もなく

不意を付いた快楽を得られるわけでもない

でも、それが須賀くんの物であるというだけで私は気持ちが良かった

「はぁっはぁっんっぁっあぁっ、また、また、須賀くんっ、見てっ、みてぇっ!」

そこにいない須賀くんを幻視し

醜態を晒しているという被虐的快楽を得ながら

須賀くんとエッチしているという快楽を得て、乱れ狂い、達し続ける

須賀くんの部屋はもう完全に私の汚らわしい淫猥な匂いが充満していて

今帰ってこられたら弁解のしようもないほどに私の体液にまみれていた

にも関わらず、私は快感を貪り続けた

リコーダーを奥まで入れて子宮口を突き、その衝撃に震え

体を仰け反らせてだらしなく口を開き、唾液を上からも下からも撒き散らす


あと少し頑張れば子宮口の奥にまでいけそう……

そんな危ないことを考えて、首を横に振る

ダメ、それだけは危ないわ。と、そう思うのと同時に、

もしもできれば、今まで得られたことのない快感が得られるかもしれない

そう思ってしまった私は

煩悩に従って、それをさらに奥へと押し込んでしまった

「んっぁっあぁっんぅくっうぅぅっ……」

ぐにゅっと、いうような初めてゆえの不快な感覚

そして、それがどうしようもない過ちだと……気づく

一旦抜いてからもう一度やろうとしたけれど

軽く引っ張っても抜く事が出来ず

少し強引に引っ張った結果

「ぁっ……ぅ、嘘……」

先端部分以外だけしか、出てきてはくれなかった


血の気が引いて、体の熱が一気に冷めていく

やらなくても解るけれど、セルフフィストでは絶対に届かないし

お箸とかを使って届いたとしても引っこ抜くのは不可能

病院に行くか、誰かに腕を入れてもらう他ない

「……でも」

馬鹿らしい非常事態だけれど、そのおかげか性的要求はおさまっていて

快感を求めようとする心も感じられない

「それなら、このままでも……」

とは思いつつ、頭のないリコーダーをどう説明したらいいのかと

必死に言い訳を考えながら須賀くんの部屋を掃除していく

「……挟まってるのかしら。挟んでるのかしら」

変な感触がお腹の中に残ったままで

その違和感に顔をしかめ、ため息をつきながら部屋を出ていった


結局、言い訳が思いつかないまま

須賀くんは家に帰ってきてしまった

「お、お帰りなさい」

「……ただいま」

「須賀くん?」

出かけた時とは全然違う須賀くんの雰囲気に

私はかける言葉を見つけられず、須賀くんから声をかけられた

「霞さんのこと、探し回ってるみたいです」

「え?」

「普段は見ないような人達がそこらじゅうにいましたよ」

須賀くんの険しい表情がその異常さを示し

悲しげな声が私への不安を感じさせた

「……須賀くんのところにいるっていうことは?」

「まだバレてはいないと思います。昨日はあんな雨でしたし、目撃者も多分いませんから」

胃に優しくないな


須賀くんは少し無理矢理な笑みを浮かべると

私の頭を撫でてくれた

「大丈夫です。バレても霞さんは渡さない」

「須賀くん……」

こんなにも私のことを心配して

大切に扱ってくれている須賀くんの部屋に私は勝手に入り

あんなことをして、今も……。

正直に言うべきかしら……と、考える頭が揺れ、瞬きの中に須賀くんが映った

「霞さん、どうかしたんですか?」

「え?」

「ぼうっとしてたから……」

「う、ううん。なんでもないの。本当に……なんでも」

言えるわけない……リコーダーで独り遊びして抜けなくなっただなんて……絶対

アナルに乾電池が入ったスレを思い出すなぁ

アナルにビー玉入ったコピペを思い出した


「そうだ、ちゃんと洋服とか買ってきましたよ」

「荷物の量が凄いって思っていたけど……こんなに良いの?」

「ええ」

須賀くんは優しく微笑み、袋を差し出してきた

「とりあえず、知り合いの女子にちょっとアドバイスもらったので悪くはないと思います」

「知り合いの女子?」

「中学からの知り合いですよ。まぁ、どういう服が―――」

須賀くんの苦笑混じりの言葉は半分くらいしか聞き取れなかった

そうよね……須賀くんにだって女の子の友達はいる

私なんかより、ずっと良い女の子がいる

純粋無垢で、卑しくない女の子が……

そう思うとなんだか嫌な気分になって

私は須賀くんを見ることができなかった


「サイズはぴったりよりはちょっと大きいのね」

「すみません、ぴったりだと締めつけがあって嫌なんです。俺」

「あら、私は……っと、ごめんなさい。なんでもないわ」

また卑猥な会話へと運ぼうとする私

体の中の異物の感触にも慣れて、今では動いた時に僅かな違和感を感じるくらいで

性的な欲望もまた……戻りつつあるらしい

「霞さん、今日はなにしてました?」

「えっ?」

「?」

思わずびくっと震えて

無駄に大きい反応をしてしまった

「か、霞さん?」

「か、家事をやってそのあとはえっと……ね、寝ちゃったわ」


羞恥プレイというものも問題なく受けられる私にとって

それは快感を得られるだけなのだけれど

でも、須賀くんの部屋でリコーダーで独り遊びしてたなんて言えるわけなくて

私は勝手に追い込まれてしまっていた

「そっか。なら良かったです。また、悪いことになってたらどうしようかと」

「ぅ……」

そう言って笑う須賀くんの表情を見て

私は心が痛み、目をそらしてしまう

「霞さん?」

「な、なんでもないのよ? ほ、本当……」

けれど、嘘をつきかけて、ギュッと唇を噛み締め

須賀くんをしっかりと見つめ、答える

「ごめんなさい……貴方の部屋で独りエッチ。しちゃったわ」


嘘を付けばよかったのかもしれない

でも。こんなにも心配してくれていて

私の嘘で喜んでいる須賀くんの顔が

真実を知った時には悲しいものに変わると思うと

嘘は付けなかった

「お、俺の部屋……?」

「ええ……欲望に負けちゃったの」

須賀くんは驚きを隠せず、私は真実を隠さずに話す

気持ちが悪いし、追い出されちゃうかしら……

不安になって須賀くんを横目で見ると、かなり険しい表情だった

「ごめんなさいっ……ダメだって解ってたのでも、でもっ……我慢できなくてっ」

何で泣いてるのかしら。許して欲しいから? ううん、そうじゃない

須賀くんに捨てられちゃうのが怖いから……だから泣く。だから言い訳をする


「嫌なら嫌って言って……そうすれば私、ここから出て行くからっ」

「霞さん……」

「お洋服買ってもらったり、お風呂貸してくれた恩を仇で返してごめんなさい……」

どうしようもなかったとしても

それは私がしたことだから。紛れもない、私の罪だから

「貴方の部屋で貴方のリコーダーを使って自慰に耽るような卑しい売女なんて嫌でしょう?」

やっぱり、私は笑顔だった

笑顔でそう言いながら答えを待つ

返って来たのは

「お、俺だって自慰くらいしますよ!」

そんな、想定外な言葉だった


「す、須賀くん?」

「女の子の下着とか手に入れたらついつい使っちゃったりするかもしれませんし!」

「えっと……」

「だから!」

私が追いつけないままに

須賀くんは大声でそう言って、私を見つめてきた

「だから、霞さんは普通ですよ。我慢できなくなったから自慰をした。ただそれだけ」

「で、でもっ」

「気にする必要なんてないですよ。逆に、今日の俺の自慰に使える妄想ゲットでラッキーですよ」

須賀くんは私に合わせた卑猥な会話で笑いながら言う

許そうとしてくれてる。私の罪を聞いても、裁こうとはしないでくれてる

その優しさを私は受け取り、小さく笑う

「ごめんなさい……ありがとう」

そういった私に対して、須賀くんは照れくさそうに笑っただけだった


そんな良い会話のあとすぐ。その問題は発覚してしまった

その問題というのは、膣内にリコーダーの頭が残っていること

なんでバレたのかは……正直にリコーダーを使ったと言ったから

「ど、どうやって取り出すんですか?」

「す、須賀くんに手を入れてもらうしか……」

「ほ、本気で言ってます?」

「そ、それ以外は病院に行くしかないの……でも、行けば私……」

それは半ば脅しのような言葉

でも、実際にそうなのだから仕方がない

須賀くんは顔を真っ赤にしているし、私だって……心なしか恥ずかしく感じる

「う、腕なんて入れて平気なんですか?」

「貴方よりも太い腕だって……入れたことあるから」

嫌な経験。今思えば、あんなことされて良く平気だったわね。と、

思わず感心してしまうほどひどい遊び方をされてしまった

「っ……」

須賀くんの困った表情

居た堪れなくて、私は小さく笑う

「ごめんなさい、無理はしないでいいわ。慣れてきたしこのままでも……」

「いや、炎症起こしたら大変だってネットにもありますし抜かないと」

須賀くんはすぐにそう言って、私の心配をしてくれる

でも、女性器を見たりするのは初めてな感じがするし

そんな子にいきなりフィストファックの真似事なんて……

「す、須賀くん」

「なんですか? このままでいいなんて無しですよ?」

「ううん……エッチ、経験してからにしない?」

単刀直入のその言葉に、須賀くんは目を見開き赤い顔をさらに赤くする

「そうすれば、女性器を見たり触ったりしやすくなるでしょう?」

「でも……」

「無理にとは言わないわ。私が初めてなのは嫌だろうから」

「そ、そんなことっ!」

「……一部の人はね? 私をビッチって呼んだのよ。無節操な女って意味らしいわ」

「っ……」

「そう言われるような醜い性器なの。だから、貴方は無理に私としなくていい」

私が微笑むのとは対照的に、須賀くんは悲しそうに顔をしかめて拳を握り締める

「それで貴方が楽になればって思っただけだから。最悪、掃除機でも差し込んでみるわ」

「そ、掃除機なんてバイキンだらけだから病気に……」

「それでもいい。自業自得だわ」

「ふざけんな! 粗末に扱うなって言っただろ!」

「ぁっ……っ……」

須賀くんが怒った

私のために、私を心配して、私の境遇に悲しみながら……怒った

「準備してください、今から取り出します」

「須賀く…………」

「掃除機なんかやられるくらいなら、俺が取る! 初めてで怖いし、なんか複雑だけど……俺がやるよ」

「んっふぁっ……ぁぁっ……」

「っ……ぁ、あんま声出さないでくださいよ……」

「らっりゃっへぇっんあぁっ……ぁっんんぅっ!」

「くっ……」

「入ってくるっんぁっあぁっ」

果てないように堪えることで精一杯で

声を気にする余裕なんてなかった

温かくて太い須賀くんの少し筋肉質な腕が

私の膣内に入り込んでいく

手の甲が肉壁を擦っていく感覚にゾクゾクと震えが止まらない

でも、ここまで感じるのは須賀くんの腕だからこそだと思う

須賀くんの腕だから、私の体は敏感になってより強く快感を得ているのかもしれない

「あぁっ、んっ、奥っもっと奥ぅんっ」

「も、もうちょっとって……」

そう呟く須賀くんの伸びた指が、リコーダーを突き子宮が震えた

「ふあぁぁぁぁぁぁんぅぁっ!!」

「うわぁっ!?」

耐え切れなくて絶頂して、私の体液は須賀くんに降り掛かり

私は倒れこみ――

「んぁぁぁぁっ!?」

須賀くんの腕が私の膣内を持ち上げるような形になり

その強い刺激でまた果てる

「ぁっあぁっ……うぅっ……」

ピクピクとする私の中で、須賀くんの手がリコーダーを掴み

彼は「よしっ」と声を上げた

「霞さん、今抜きますから。我慢してくださいね?」

「まっだめっ、今やられたら――」

素早く腕を引き抜かれ――

「ふあぁぁぁんぁぁあぁっあぁぁ……っ!」

私は再び大きく果てて、気を失ってしまった

寝る

ハッピーエンドよりもバッドエンドを好む人が多いのだな

僕はハッピーエンドがいいです


ハッピーエンドの方が俺は好きです

パッドエンドでオナシャス

バッドエンドも嫌いじゃないがこの話は最初からその辺のバッドエンド以上なので
さすがにハッピーエンドで終わって欲しい

ハッピーエンドがいいです

>>123
菫さんはお帰りください

このスレタイってアイマスでも似たようなの見たが
同じ人なのか?
文体も結構似てるし……ただ、そうなら救いはないな。確実に

ハッピーエンドでオナシャス

乙です

仕掛けは陳腐で構わないからお涙頂戴のハッピーエンドが最高だってどっかで聞いた

これはハッピーエンドにするしかないね 頼みますよ ヒヒヒ

別にバッドでもいいな(ゲス顏

ハッピーエンドのが良いに決まってる
嫌な予感を吹き飛ばしてくれ

ハッピーエンドでお願いします


――――――

――――

「大丈夫だ。おじさんは優しくするよ」


「すまなかったね……本当にすまなかった」


「元気かい?」


「私はキミを汚さないよ」


「泣きたければ泣けばいい」


「助けて欲しいかい?」


「そうか」


「キミが罪を被れば良かったんだ」


「ところで――」











       「キミはカニバリズムというものを知っているかな?」





―――

―――――――


「いやぁぁあああぁぁっ!!」

飛び起きて叫び、頭を抱えて強く振る

優しかったお爺さん

あの地獄の中の、救いだったお爺さん

でも、全部嘘だった

私に優しくしてくれたのも

私に救いの手を差し伸べてくれたのも

全部、全部っ、全部っ

「はぁっはぁっ……うぅぅっ……」

体中汗でべったりで、顔は涙でグシャグシャ

なんであんな夢を見たの?

なんで、あのお爺さんとの夢を見るの?

「霞さん!」

「須賀……くん」

これ以上落ちるとか勘弁して下さい


私のために駆けてきてくれたこの子も

私を騙しているの? 私の事……食べようとしているの?

「だいじょ――」

「触らないで!」

ただ、優しくしてくれているだけなのに

あのお爺さんとの経験が……私の心を蝕んで

須賀くんを拒絶してしまった

「霞さん……」

「ごめんなさいっ……夢、見ちゃって……」

優しくされればされるほど、余計に怖くなってしまう

夢が私の現実を侵していく

「怖い夢ですか?」

「優しいお爺さんの夢……優しく優しくして……私の事……食べようとしたお爺さんの夢」


「た、食べようとってそんな……そんな人が……」

須賀くんは驚きながらに悲しみ、怒り

辛そうな表情でそう呟きながら、私へと手を出そうとして、引っ込めてしまう

「須賀くんは違うってわかる。解るの……でも、少し、一人にして欲しい」

「……解りました」

「ごめんね……須賀くん」

私のその言葉に対して須賀くんは何も言わない

ただ、悲しげな笑みを浮かべて首を振っただけだった

「俺、今日も学校なので……すみません」

「うん……お弁当、作ってあげられなくて、ごめんね」

謝ってばかりの私

でも、それくらいしか……私にはできなかった

ハッピーエンドじゃなかったら>>1にハギヨシ嗾けるぞ

須賀くんが出かけたあとの静かな家

落ち着くどころか涙が溢れてきて……どうしようもなかった

須賀くんは優しい。それはすごく嬉しい

でも、もしかしたらまたかもしれない

私はどこかでそんな不安を抱いていて、だからあんな夢を見てしまった

「……美味しいもの食べさせてくれて。体をきれいにさせてくれた」

その優しさに裏があるように思えてしまう

美味しいものを食べさせて、お肉を美味しく

体を綺麗にさせて、劣化を防いで……なんて

「こんな疑いを持つなんて……最低だわ。私」

自己嫌悪していてもこのトラウマは拭えない

須賀くんのこと、悲しませちゃった……

作ってあげるっていたご飯も、作ってあげられなかった……

「私の……馬鹿っ」

自分に怒鳴り、部屋を出てリビングへと向かった


『温めて食べてくださいね。 京太郎』

「……須賀くん」

怒鳴って、突き放した私のために

須賀くんは朝食を用意しておいてくれた

「……ありがとう」

優しさへの感謝

須賀くんへの感謝

でも、それを聞かせるべき相手はここにはいない

「お夕飯は作ってあげなく――」

ピンポーンと

インターホンが鳴り響く

カメラ付きのインターホンのようで、壁についた電話機のようなものには

来客の姿が映っていた

出ることはできないけれど

相手の姿を確認するくらいは許してくれるはず。と

画面を見てみると、見えたのはどこかで見たようなスーツの男性

セールスに来たようにも見えるけれど……

出てこないことを確認してから男性は去っていく

「……やっぱり、ただのセールスかしら」

静かに息をつき、窓の方に振り返った時だった

カーテンに当たる陽の光。それに誰かが重なって出来た人型の影

誰もいないからこそ、中を覗いて確認しようとしているのかもしれない

もしも私が隠れていたら、居留守を使うのは当然だものね

「ありがとう……須賀くん」

カーテンを締め切って外から見えないようにする

それも、須賀くんが私を守るために決めてくれたこと

そうしていたからこそ、中を見られず私を見られることはなく

その人影もすぐに立ち去ってくれた

面白いが胃にダメージ受けるな

「……バレたわけじゃないわよね?」

須賀くんは目撃者はいないはずといった

でも、もし目撃者がいたら?

私を連れて行ったのが、須賀くんとまでまではいかなくても

長身で金髪の男の子だと知られていたら?

そして昨日、私を探し回っていたのではなく

その金髪の男の子だとしたら

そして、それを須賀くんだと仮定し

常に、ついて回っていたのだとしたら……

「須賀くん……無事でいて……」

何も出来ない事がもどかしく、ただ待つことしかできないことが悔しい

助けてもらうだけの無能な私を守ってくださる神様

どうか、須賀くんをお守りください

どうか……どうか………どうか……

須賀くんのために祈る。子供の頃から学び続けた巫女としての記憶を辿り、祈り続けた

夕方ころになって、電話が鳴り響く

すぐには出ずに相手を確認する

名前は須賀京太郎。それを見た瞬間受話器を取り、叫ぶ

「須賀くん!」

『ちょっ……急に大声は止めてくださいよ』

「ご、ごめんなさい……貴方からの電話だったから嬉しくて」

須賀くんの声だった。誰のものかも解らない声じゃなくて、大好きな須賀くんの声

『やっぱ、1日中一人じゃ不安ですか?』

「そ、そうじゃなくて、あのね……できるだけ早く帰ってきて欲しいの」

男の人が来たことは会ってから話すべきだと思うし

電話しながらじゃ逆に危ないかもしれない

「須賀くん、もしかしたらね。貴方が危ないかもしれないから……お願い。気をつけて」

そんな唐突な言葉に対して、須賀くんは聞き返したりもせず答えた

『うん、わかったよ。母さん。じゃぁ、できるだけ早く帰るから』

そして、電話を切った


「はぁっはぁっ……けほっ……ふぅ……」

「須賀くん……走って来たの?」

家に帰ってきた瞬間、

須賀くんは大きく息をつき、その場に座り込む

「霞さんが危ないから急いでって言ったので……つい」

須賀くんはそう言いながら笑う

走ったせいで疲れているけれど

何かされたようにも見えないし、私の考えすぎだったのかしら……

それなら、それでいいけれど……

「須賀くん、お夕飯作ってあるから」

「それは嬉しいんですけど……大丈夫なんですか?」

笑顔から一転

真面目な表情で、須賀くんは聞いてきた


「朝、あんなに怖がってたのに……」

「あれは……その……」

須賀くんのことが心配で、そんなことはどうでも良くなっていた

でも、須賀くんを突き放したということは事実で

今も、心のどこかで不安なのは変わらなくて

言われると、少し不安になる。けれど……私は笑う

「優しさが怖い。怖くて仕方がない……でもね、貴方のことを失う方がもっと怖いの」

「……………………」

「だから、時々怯えちゃうかもしれないけれど……貴方のそばに居て良い?」

私の言葉を須賀くんは笑顔で受け止めて

簡単に頷いてくれた

「もちろんですよ。霞さん」

「ありがとう……本当に」

涙をこらえて微笑み、須賀くんと一緒にリビングへと向かった

親に売られたってだけでもトラウマもんだよ

今朝の男性のことを話すと

須賀くんは神妙な面持ちでため息をつき

ソファに深々と座り込んだ

「実は知り合いが声をかけられたんです」

「え?」

「なんていうか、身長は低いんですけど、似た感じの人がいてですね……」

須賀くんはそう言いつつ、ちらっと私の胸元を見てきて

羞恥心なんてないはずなのに、恥ずかしくなって隠してしまった

「な、なに……?」

「あ、いえ、その……まぁ、そのあたりが似てて。お前か? って言われたらしいです」

須賀くんは照れながらも、不安そうに、怯えるように……呟く

「まぁ、全然違うし、すぐに離れていったんですけどね……」

「私がこのあたりに隠れているっていうことは、確実だと見てるのね?」

「ええ。多分」

お金も携帯もお洋服も何もなかった私が遠くに行けるわけがない。そう考えての動き


加えて、誰かが匿っているっていうことも

きっと考えているはず。そしてそれは

昨日の人影の行動理由と一致する

「須賀くん、私。ここに居て良いのかしら」

「霞さん?」

「貴方とは居たいわ。でも、そこまで危険が迫っているなら……自分よりも貴方を優先したい」

須賀くんは辛そうな表情でため息をつき

冷たい飲み物で喉を潤す

「だからって……霞さんが出て行ったらどうなるんですか?」

「それは……」

それは、きっと……ボロボロにされる

逃げる足を奪われて、立つための手を奪われて、希望を奪われる

それで……目の前であのお爺さんに食べられる

もしかしたら、私が自分で食べさせられるのかしらね……


「でも、貴方が無事なら……」

「俺は嫌ですよ。俺はもう共犯なんだ。霞さんが死ぬなら俺も死ぬ」

須賀くんのその気持ちは嬉しくない

幸せにもならない。嫌な気持ちになるだけ

「ダメよ。私は死ねない。一生玩具にされて、罰として目の前で貴方が殺される」

「っ……」

でも、多分それだけなんかじゃない

できれば言いたくはないけれど、須賀くんを考え直させるためなら……と

吐き気を押さえ込んで、冷徹な笑みを浮かべて。告げる

「私の足、食べたいの?」

「た、食べるって……そんなの嫌ですよ!」

「じゃぁ、ダメ。貴方はなんにも関係ない。それで終わりにしましょう?」

私の精一杯の笑顔を受けて

須賀くんは、首を振り、手を握りしめて……泣いてしまった

また後でだな

バッドエンドとハッピーエンドはどっちが先が好みだ?

1、幸せな夢を見てから絶望の現実に終わるか
2、絶望の現実から幸せな夢に逃げて終わるか

好きな方を選ぶといい

…ハッピーエンド?

1のが好きかな

なんかどっちもバッドエンドに見える
2で

どっちもバッドじゃないですかーやだー!

し、幸せな現実はないんですか?

メリーバッドエンド期待して2で

ハッピーエンドじゃないだろ

2

ま、待て…奴のIDをみろ!
これはN●K放送だ! バッドエンドなんてあり得ない!

他に選択肢は無いのか(白目)

夢も現実も幸せでいいんじゃなんですかねぇ?

もう書きたいように書いたらいいんでないかな(嗚咽)

これって
1がハッピーエンドの後にバットエンド書く
2がバットエンドの後にハッピーエンド書く
って意味じゃないの?

どっちが先が好みだって聞いてるから両方やるってことだね
2で
後味悪いのはちょっとねぇ・・・

1の方がバッド見たくない人は切れるんじゃね?

バッドエンドが先な


その日の夜、私はこっそりと家を出ていくことにした

須賀くんは私のことを守ろうとしてくれるけれど

私だって、貴方のことは守りたい

「………………」

須賀くんの部屋のドアノブを掴みながらも、開けることはできず

そのまま離れていく

見ちゃったらきっと、私は出ていけなくなる

抱きついて、死にたくない。離れたくないって……泣きついちゃうから

「ごめんね……」

お礼と謝罪を混ぜ込んだ書置きをリビングに残し、静かに家を出ていく

鍵は……未練を感じちゃうから持っていけない

「さようなら。須賀くん。ありがとう。貴方のことは……大好きよ」

告げて、走り出す

時間は深夜。人通りの全くない道をただひたすらに走り続ける

これなら逃げきれると思った。でも……














       「おい、おまえ。霞だろ?」











そんな声が、後ろから聞こえ、

私は驚きと恐怖に震えて立ち止まり、誰かの足音が近づいてくる

「違うわ。人違いよ」

「ふぅん。じゃぁ、ちょっとこっち向けよ」

「無理な話だわ。急いでいるから」

そう答えて逃げ出す

須賀くんが買ってきてくれた靴

須賀くんが買ってくれたお洋服

それが私に力を貸してくれているのかしら……

すごく、早く走れている気がして

このままなら、生きてまた須賀くんに会えるかもしれないって思った

でも、男の人の言葉で、私は捕まるしかなくなった

「じゃぁ、お前の妹に仕事してもらわなくちゃなぁ!」

「え?」

「連帯責任いや……保証人制度ってやつかねぇ?」


「ま、待って……どういうこと?」

「アンタが逃げたら妹が代わりになるのは当然の話だろ? 違うか?」

「違うわ! 私が買われたんでしょう!? 明星ちゃんはもう関係ないはずよ!」

私の必死な形相を見て、男の人は嬉しそうに笑う

その絶望が蜜の味だとでも言うかのように、舌なめずりをしながら……

「なぁに言ってんだよ。お前が任期満了できてねぇなら、妹が残りをやるんだよ」

「ふ、ふざけないで! そんな、そんなの……」

ありえることだった。逃げたらそうなることはありえない話ではなかった

でも、私は考えなかった……違う。そんな可能性は考えたくなかった

「おらぁっ!」

「あぅ゛ぁっ」

立ち止まった私のお腹への重い蹴り

男性の本気の蹴りは想像以上に痛くて動けず、地面に転がったまま蹲る


「痛いっ……痛いっ……い――」

うずくまる私を見下す男の人は

嬉しそうに笑う。愉しそうに嗤う

そして、振り上げた踵を勢いよく振り下ろす

「い゛ぁ゛ぁあ゛ぁぁっぁ、あぁっゃ、あっ」

体の中が潰れてしまったかのように

鈍く、じんわりと痛みが広がっていく中で

かかとの当たったところだけがズキズキと痛む

「ごめ゛んなさいっ、やめてっ……戻るからっ!」

「戻るのは足り前なんだよ、糞犬!」

「う゛ぇっ……ぁ゛っ……あ゛ぁ゛……」

お腹を蹴られるたびに胃の中のものが這い上がってきて

ついには溢れ出し、口の中が気色の悪い感覚に包まれていく

どっちも絶望の現実ならbad じゃん聞いた意味あんのか


「うわ、きったねー」

「あ゛あぁっ……」

目の前に広がる嘔吐の後

須賀くんとの夕食が、フラッシュバックする

「しっかし、良いもん食ってたみたいだな!」

「ぶぁ゛っあ゛ぁ……」

幾度目かの蹴りによって視界に火花が飛び散って

ほとんど一瞬で真っ暗になり

消えゆく意識の中で、何度も何度も蹴られ体が揺れていることだけを感じながら

私は完全に意識を失った

>>175
茶目っ気でしょ(ハナクソホジー


気がつけば、またあの監獄の中だった

手もあるし、足もある

でも、首輪もまたつけられていて

今度はリードにまで繋がれていた

「っ!?」

お腹の鈍い痛みもまだ残っていて

青い痣が生々しく残っていた

「お目覚めかね?」

「っ……ご主人様」

最初に目に入るのは、私を買ったおじ様

今は、私のご主人様である男性

「まったく、逃げだすとは思わなかったぞ? とんだ牙を隠し持っていたものだ」

「ご主人様が加虐性欲者にしてくださったおかげです」


皮肉を言いつつ笑うと

ご主人様も微笑み、そして杖で私の頬を殴ることで

強い痛みの後に、ジンジンと長い痛みが襲う

その痛みは、被虐性欲者の私は快感として受け取り女性器を湿らせる

「舐めた口を聞くなよ。駄犬め」

「っ……く、くぅ~んっ」

「まぁよい。とりあえず飯を食え。そのあと仕事だ」

ご主人様はそう言い

目の前の床にご飯と数枚のお肉をばらまく

「さっさと舐めとらんか」

「っ……わんっ」

腰を突き上げ、犬のように這い蹲りながら

様々な汚れの残る床のご飯を食べていく

どんな顔して書いてんの?wwwww


ニヤニヤと……気持ちの悪い視線を浴びながら食事を進めていく

私にとってはこれが普通で

須賀くんとの食事が異常だった……楽しい、夢だったわ。と

思い出に浸りながら、お肉を口にする

柔らかいし、食べごたえはあるけれど味は今一のお肉

安いお肉なのか、消費期限を過ぎたお肉なのかは解らないけれど

あまり食べたくはないお肉だった

ご飯は変に黄色みがかっていて、酸味があるというか

正直、食べられた味ではない

でも、残せばクスコか何かで口を開けさせられ

なにかと一緒に流し込まれる以上食べるしかなく

私は泣く泣く感触に至った

完食?


「ぉぇっ……けほっ……」

「残さず食べたな……早速仕事なのだが。その前に話しておこう」

ご主人様は嬉しそうに微笑み

外の人たちに指示をして大きなテレビを持ち込ませると

私のことを見下ろし、手を叩いた

「実は、妹君がキミの仕事をお手伝いしてくれたのだよ!」

「え?」

どういうこと? え? なに? 妹がどうしたの? と、

頭の中が滅茶苦茶になっていく中でご主人様は言う

「お前が蹴り飛ばした爺さんがなぁ? 肉を食わなきゃ怪我が癒えないとか言い出したんだよ」

思考が完全に止まり、浮かんでいた言葉は雨のように崩れて落ちていき

それは涙となって、ご主人様は嘲笑を浮かべながら

私の頬をなぞり、溢れ出ていく涙を舐めとり、告げた

こっちだけでも飛ばせるように名前欄なんか入れてもらえないか?












「お前が食べたご飯は妹の体液で炊けたご飯で、肉は……太ももの貴重な肉だったんだよ」







エグすぎる…もっとましなバッドエンドにならなかったものか


『霞……お姉様……』

声が、聞こえた

懐かしい……大事な妹の声

そしてそれは、幻聴なんかではなくて

ご主人様が運び入れさせたテレビの画面に映る

見るに耐えない、ボロボロの妹の口から出ていた

『お姉様がこんな辛い経験をなさっているとは知りませんでした』

涙でぐしゃぐしゃな明星ちゃんは、無理矢理な笑みを浮かべて

私への言葉を紡ぐ

『何も言わずに旅立たれたことを酷いと思った自分に後悔してます……』

誰のものかも解らない体液を恥部から垂れ流し、

それはほんの少しの赤色を混ぜ込んだ薄い色

『お姉様、どうか……どうか。ご無事で。お姉様の幸せが明星の幸せです。どこかで幸せでありますように』

その妹の笑顔を遮るように男性は動き回り、様々な調理道具を用意していく

「や、止めて……」

「一時停止かね?」

ご主人様は楽しげな声でリモコンを操作し

足元に包丁を置かれ、恐怖に怯えながらも笑顔を向ける妹のまま止める

「違うっ……妹は、明星ちゃんは……関係ないわ! 殺さないで!」

「ふぅむ……それは無理な話だ。これは録画で執行は昨日だ。遅いねぇ?」

「明星ちゃん……明星ちゃん……」

ポロポロと涙をこぼしながら、耐え切れずうつむく私の頭を

部屋番の男性が掴み、テレビへと向けさせた

「止めて、止めて! 見たくないっ、嫌! 嫌ぁっ!」

「それはできぬ相談だ」

閉じる瞼も、男性によって強引に開かれ……テレビが視界に映る

『霞お姉様……大好きです』

そう言ってくれた妹は、生きたまま解体され、調理され……

痛みに呻き、断末魔の悲鳴をあげながら――骨さえも残さずに食べ物へと変わっていった

「あっあぁぁっあぁああぁぁぁぁっ!!」

またがる男性を押しのけ、目の前の飼い主へと飛びかかろうとして

首輪に強く首を引かれ、止まる

どんなに手を伸ばしても、目の前のおじ様には届かない

この恨みも憎しみも怒りも……何も届かない

「あぁああぁっ、返してっ、返してぇっ! 妹、妹を返してっうあぁぁああぁぁぁっ!!」

叫び、とめどなくあふれる涙をこぼしながら睨む

けれどおじ様は我関せずと、微笑み、告げた

「返しただろう? キミはしっかりと……妹君を食べたのだから」

「ぁっ……あぁっ……いやぁあああぁぁぁぁぁっ!!」

絶望しかなかった。膝から崩れ落ちても支えてくれる人はいない

見下し、あざ笑う視線を受け続けるだけ

『霞……お姉様………』

「嫌っ、嫌ぁっ、止めて止めてぇっ! 聞きたくないっ、見たくないっ、嫌っ、嫌っ、嫌ぁああぁぁぁぁあぁっ」

泣き叫び続ける私に対するあてつけのように、動画は何度も何度も再生されていった


何十回、明星ちゃんの死を見たのかしら

ううん、何百回……悲鳴を聞いたのかしら……

仕事という名の罰を受け、私の精神は限界まで来ていた

それでも完全に壊れるまでいかないのは、男性による壊れない程度のやり方のせい

「ん~壊れちまったんじゃないですかねぇ?」

「かも知んねぇな。まっ、俺たちは指示通りこいつを同室に繋げばいいだろ」

仕事でもなく開かれた扉からはそんな声が聞こえ、

3人の男性が袋に包まれた何かを私の正面の壁の鎖に繋いでいく

「っ……ぐ」

3人の男性が出て行き、繋がれた誰かが顕になって……

「ぁ……ぅ、嘘……」

そのつながれた相手を見て、

私は………今すぐにでも、死にたいと思った


「す、須賀……くん」

「霞さん……?」

「どうして、どうして貴方がここに……」

私の大切な人

私に優しくしてくれた大好きな人が……今目の前にいる

感動の再会なんて優しいものじゃない。絶望しかできない最悪の再会

「……よく覚えてません。登校中に殴られて気づいたらここにいました」

「そんな……どうしてっ……どうしてなのよ……」

妹が殺された。そして、今度は須賀くんが殺される

テレビなんかじゃない。目の前で……きっと殺される

その圧倒的な絶望を前にして、私の枯れ果てた涙腺は涙を搾り出す

「ごめんなさい……ごめんなさい……っ貴方まで、貴方まで……死なせてしまうっ!」

私の言葉に対して、須賀くんは笑った。あの楽しい時間のように……そして、答えた

「気にしないでください。覚悟してましたから」


「ほぉ、覚悟ですか」

「っ、お前!」

「ご主人様……」

私達の間を裂くのはやっぱり、ご主人様

全ての元凶であるおじ様だった

「アンタかよ……霞さんにこんな酷いことさせるのは!」

「そうですねぇ……まぁ、そういうことでもいいでしょう」

おじ様はたからかに笑うと

私たちを交互に見つめ、まるで遊びであるかのように言い放った

「須賀君は霞の足か腕を食べるのだ。霞は彼を殺せ」

「え?」

「そんなことできるわけ――」

「どちらか片方で良いぞ? やらねばほかの人間が代わりになる。霞は良く解っているだろう?」

嫌味な笑みを浮かべるおじ様に対して私は反論できず、頷くことしかできなかった

中断だ

バッドエンドが先か、ハッピーエンドが先か
どちらが好みかと聞いたはず。どっちもバッドエンドなわけではないぞ

バッドエンドが先でお願いします

バッドエンドが先で


「俺を殺してください、霞さん」

「嫌! 貴方が私を食べて! そうすればどっちも生きられる!」

「俺は霞さんを傷つけたくなんかない!」

「だったら私に貴方を殺させないで!」

大切な人との大切な人を守るための言い争い

矛盾したその状況に神経をすり減らしながら、私たちは怒鳴り合う

「目の前で自分の手足が食べられるんですよ!? 目の前で調理されるんですよ!?」

「それでもいい! 貴方を救えるなら手足なんて要らない!」

「大切にしろって言ったじゃないですか! 約束したじゃないですか!」

「そんな約束破るわ! 守ることで失うなら! 失うことで守る!」

おじ様はそんな私たちを見てあざ笑う

バカみたいだと、見下していた


「おい爺さん! アンタが俺を殺せよ!」

「断る。霞が殺さねば意味がないのだよ」

「意味がないって……こんなことしてなんになるって言うんだよ!」

須賀くんはおじ様に怒鳴り

おじ様は少し不愉快な目をして、答えた

「罰だよ。この犬が逃げ、屑が勝手に飼おうとした。その罰だ」

「須賀くんは屑じゃないわ。貴方より……ずっといい人よ」

歯向かう私の瞳を見て、おじ様は嬉しそうに笑う

まるで、私が僅かでも希望を持ったことを喜ぶように

「ならば貴様がこの男に自分の肉を捧げれば良い」

「っ……私は捧げるわ! 捧げたいわ!」

「俺は嫌だ! 霞さん傷つけてまで生きたくない!」

「私のために生きて! お願い! 私の手足を食べて、私のために生きて!」


「っ……くっ……」

「いつまでも決められないようだからな。良い事を教えておいてやろう」

おじ様はそう言いながら須賀くんを見つめ

5枚の写真を床へとばら蒔いた

「お前は清澄高校の麻雀部だそうだな」

「これ……っ、これ……」

「宮永咲、片岡優希、原村和、染谷まこ、竹井久の5人。この中から貴様の代わりに誰かが死ぬ」

そして今度は私の方を見て、4枚の写真をばら撒いた

「滝見春、薄墨初美、狩宿巴、神代小蒔。この中の誰かが食われることになる」

私が守りたい人たち……小蒔ちゃん達も須賀くんも

全員、守りたい人

「……ふ、ふざけんなよ。関係ないじゃないか! 咲や和たちは何も関係ないだろ!?」

須賀くんの怒りをも、おじ様は楽しいと感じるのか

にこやかな笑みで首をかしげた


「何を言っている。お前はこの駄犬に関わった。こいつらは、お前に関わった」

「っ…………」

「お前も悪いが、逃げたこの女の方が悪い。どうだ? 切り取らず噛みちぎっても良いのだぞ?」

おじ様の挑発

須賀くんは私を見て、写真を見て……首を横に振った

「だけど一番悪いのはあんただろ」

「ふむ。勘違いしているようだが。一番は犬の両親だろう。娘を売ったのだからな」

須賀くんはその衝撃的な言葉に目を見開き

私のことを悲しげな瞳で見つめた

「売られたって……」

「ごめんなさい……黙っていて」

「なんだよそれ……なんで……なんでそんな」

須賀くんは体を震わせながら私から目をそらし

おじさまを睨んだ

「アンタがなにか仕組んだんじゃないのか?」


「誰がこんな駄犬を狙うものか。こいつは分家だが本家のある神宮がな。負債を抱え込む羽目になったのだよ」

「負債……?」

「年々、参拝客などが減少していき、利益よりも維持費がかかるようになった」

「結果、負債を抱え込む羽目になり……金を借り返せず……娘を売らねばならなくなった」

「ま、待てよ! 霞さんを売らなくても、ほかにいろいろあったはずだ!」

「一千万だぞ? 期限もすぎて今すぐ払わねばいけない。だから私は娘を差し出せといったのだ」

おじ様は私の髪を掴むと強引に持ち上げていく

「痛いっ、痛いっ、痛いっ!」

「本家の方が良かったのだが、石戸家が家なら娘が2人いるから片方なら。と、言いだしたのだ」

それは知らなかった。聞いてなかった

負債があるということさえ……知らなかった

両親が、泣く泣く差し出したのではなく、言い出したなんて……知りたくなかった

「まぁ、どうでもよかろう」

「っ、ぁっ……ぅ……うぅっ……」

「霞さん!」

須賀くんは放され、倒れ込んだ私を助けようとしてくれたけれど

手は届かず、その手は宙を切った

「さて、どうするのだね? 喰うか、殺すか」

「霞さん、俺は……」

「須賀くんは、須賀くんはそばに居て……私の事……捨てないで……」

精一杯の力を出して言った言葉はそんな震え声で

須賀くんは力強く床を何度もたたき、痛そうな鈍い音が響く

「くそっ、くそっ、くそっくそぉっ!」

「それで?」

怒り心頭の須賀くんに対しておじ様は愉快そうな声で尋ねる

「俺が……俺が……ッ……俺が、霞さんの手……食べます……」

「よろしい。では早速調理に取り掛かろう」


死ねないように麻酔を使われた私の左腕は力なく垂れ下がり、

根元から綺麗に切断され、左肩から先は失くなってしまった

「っ……霞さん、すみません……」

「ううん、元々私が逃げたのがいけないの……気にしないで」

切り取られた腕は、完全に血を抜かれたあと

調味料で臭みを消し、ただグリルしただけの……私の左腕そのままだった

「残さず食べるのだぞ?」

「っ…………くそっ」

目を瞑れば美味しそうな匂いだけど、

もうすでに見てしまった私たちにとっては気持ちの悪いものでしかなく

須賀くんはそれを食べなければいけない

そのことが申し訳なくて、私は見ていられなかった


グチュグチュと、嫌な音が聞こえる

ゴクンッと、飲み込む音が聞こえる

須賀くんの悲しそうな声が聞こえる

目は閉じれなかった。閉じれば、見ていないその光景をより酷く見てしまいそうだったから

「っ……ぅぇっ、かふっ……」

「ぁ……」

お皿の上にあった私の手は綺麗に骨だけになり

須賀くんの光のなくなった瞳が私を悲しげに見つめていた

「ほうほぅ、以外と美味しいのかね? 中々に早かったではないか」

「もういいだろ……あっち行けよ」

須賀くんはおじ様にそう言い放ち

おじ様は機嫌がいいのか怒ることもなく笑った

「残念だが、まだあとひとつあるのだよ」


「え?」

「何言ってるんだよ……」

私達の罰は終わったのではないの?

そんな疑問を口にする前に

おじ様は包丁を手に須賀くんの背中にまたがり、首元にそれを充てがう

「ぁ……ふみは……」

「嘘……嘘っ、やめ――」

非情な一線が須賀くんの首元に描かれる

それは一瞬のできごとだった

最初は手の小皺のような線が入り、そしてそれは赤く染まっていき

勢いよく血が吹き出して……私の体は真っ赤に染まり、目の中、口の中

記憶の中に、入り込んでいく

「一緒に居たいとお前が望んだ結果だ。馬鹿犬」

「あっ、あっあぁぁぁっ……あぁぁぁぁあああぁぁぁあぁああぁあぁぁあっ」

須賀くんの体が血だまりに沈んでいってもそれはピクリとも動かない

私の体についた赤い水滴が、ポタポタと滴り落ちていく

「須賀……くん?」

「………………」

「ねぇ……起きて。ねぇ……京太郎くん……」

右手を伸ばし、支える左手がなくて血だまりへと私の体は浸り

そんなことも気にせずに、私は須賀くんへと手を伸ばす

「ねぇ……嫌よ……嫌……私を一人にしないで……」

手は届かない

声も届かない

思い届かない

「―――――――――――――」

目の前で奪われ続けた私。失い続けた私は

須賀くんを失ったせいかプツッと何か大切なものを……切り落としてしまったのか

なにも感じられなくなってしまった





――――――――



―――――



――

マジキチ
飯食うんじゃなかった…

何と言うスレを開いてしまったんだ(嗚咽

バッドエンドでここまでするならハッピーエンドはこれを忘れるくらいのものにしてくれるはずだ


「……はぁ……ダメじゃね? これ」

「あぁ、その達磨か……名前なんだっけ」

「確か霞だった気がする」

「あぁ……もう胸だって食われたしガバガバだし。捨てちまうか」

「でも、生きてるんじゃなかったっけか?」

「そうだっけ? んじゃぁ……次来る巫女さんの飯にでもするかな」

「鹿児島本家の娘だろ? おっとり天然だとか。くくっ躾が楽しみだなぁ」

「おーい! ご到着だぜー!」

「っしゃ、じゃぁ行くか」



「じ、神代……小蒔、です……宜しくお願いします」

「おう、じゃぁとりあえず。肉と味噌汁でも食えよ。仕事はそれからだ」

「は、はい……」


                  ― B A D E N D ―

一旦乙
こっちが後だと立ち直れなくなる所だった
ハッピーエンド期待


ルート分岐は>>153からだ

言っておくが、霞が売られたりした事象は変わらんからな

乙!面白かった!

乙です

明星ちゃんは無事なんでしょうか、それも気になります

そらそうよ
おつ

いいバッドだった

別にハッピーじゃなくて本来したかった話でもいいのよ?

>>153から


須賀くんの嘆き悲しむ姿を見て

私は何も言えず、何もできず

ただただ時間だけが過ぎていく……そんな中

インターホンの音が鳴り響いた

「ま、また……かしら」

「霞さん、下がっててください」

「す、須賀くん……」

恐る恐る画面を見てみると

男の人ではなく、綺麗な女の人が映っていた

「だ、だれ?」

「お、俺の親……」

「え?」

「これ……俺の母親です」

須賀くんのご両親が帰ってきてしまったらしい

そういやそんな問題も有ったな
全然大した問題に思えないが


そんな冷静でいられるのも一瞬で

ドアをドンドンっとお母様がたたき、言い放つ

「きょーうーちゃーん。あーけーてーっ」

「や、やばい……こんな急に帰ってくるとは」

「どうするの? 私、どうしたら……」

須賀くんの慌てふためく姿に影響されて

私も何だかドキドキとしながら須賀くんの指示を待つ

「と、とりあえず俺の部屋にでも隠れててください」

「む、無理よっ貴方の部屋なんて入ったらまた……」

「なんとか我慢してください。早く!」

須賀くんのそんな無茶な指示を受け

急いで須賀くんの部屋に駆け込み、ドアを閉めると同時に

鍵ががちゃっと開かれ、玄関のドアが開く音が響いた

「我が家ーっ!」

「こらこら。もう暗いのだから静かにしなさい」


ドアに耳を当てると

お母様と須賀くんの会話が聞こえてきた

『お、お帰り』

『たっだいま~。良い子にしてた?』

『悪いことはしてないな。良い事もしてないかもしれないけど』

ううん、貴方は良い事ばかりしてくれたわ

なんて、須賀くんの言葉に答えて小さく笑う

貴方が悪い子なら、世界中のほとんどの人は悪い子よ

『ふ~ん。親の留守中に女の子連れ込んでないでしょうね?』

『な、なんだよ急に!』

『ほら。高校生だし、親がいないと連れ込んでーみたいな?』

『仮にも聖職者が何を言ってるんだ……』

『気にすることはないぞ。母さんは神様にとりつかれて調子がおかしいんだ』


元気なお母様の声とは対照的に

落ち着いた安心できるお父様だと思う人の声

「……良い、家庭なのね」

私も良い家庭ではあったけれど

でも、もう……それは壊れてしまった。失くなってしまった

その砕け散った幸せの欠片が心に深く突き刺さり

胸がズキッと痛んだ

『あ、あのさ!』

『ん?』

『いやその……もしも俺が女の子連れ込んでたらどうする?』

須賀くんはいきなり本題へと入るつもりなのか

そんなことを言い出した


『えー。言い出す時点で嘘だし拒否権で』

『い、いや……もしもだからさ』

『節度を守るなら別にいいんじゃないか? 私は別にとやかく言ったりはしない』

節度……お父様の言葉は痛い

だって私は節度を守れていない

ううん、節操無い貞操観念の薄い女

今だって煩悩と必死に戦わなければ手を伸ばして快楽に浸っているような女

『……じゃぁ、もしも困っている女の子を匿っているとかだったら?』

『その理由にもよるわねぇ』

お母様はそう言いつつ笑いながら手をパンパンっと叩く

『どうせいるんでしょう? だれか』

『え?』

『京ちゃんはいつものシャンプー。でも、お母さんのシャンプーの匂いがするわ』

『それは……』

『誰か女の子がいて、その子がお母さんのを使ったんでしょ?』


自分の髪を払うと、確かに女性用シャンプーの香りがする

「……失敗、しちゃった」

須賀くんと一緒だから

自分が変な匂いなのは嫌で、つい……そういうのを使っちゃったのよね

覚悟を決めて部屋を出て

お母様達のいるリビングへと向かうと、3人の視線が私へと集まり

お母様だけは胸をじっと見つめ、自分の胸を見て

大きくため息をついた

「よしっ、出てけ」

「話ぐらい聞いてもいいのではないか?」

「巨乳はお母さんの敵なのよ。授乳にどれだけ苦労したことか……」

明らかな私念でそう言いながら笑うと

私のことを見つめて、クスッと笑った

「冗談よ。とりあえず座りなさい」

そして、私を含んだ家族会議が始まってしまった


「名は霞です」

「上は? 苗字」

お母様の当然な質問に、私は答えることができない

私は売られた。つまり、石戸の人間ではなくなっている

だから、石戸霞とは名乗ることはできない

その沈黙でお父様は理解したらしく、私のことを悲しげに見つめると

「仕方がない。別にこの家にいても良いだろう」

何の迷いもなく、そう言い出した

「え、どうして?」

「苗字が無いか、言いたくないか。そのどちらかだろう」

お父様の言葉にお母様と須賀くんは驚き

私のことをじっと見つめてきた

「そして、こんな子が素直に名前を言えないとしたら前者だろう。違うかな?」

「ぁ……その……」


何も間違っていない

私は苗字を失っていて、だから言えない

そのことをお父様はあの沈黙で察してくれた

「言いたくなければ言わなくてもいいが……何があったんだい?」

お父様の優しい言葉

お母様の優しい瞳

須賀くんの心配そうな瞳

私はゴクッと生唾を飲み、3人を見渡して俯いた

「私は……娼婦です」

「………………」

お父様もお母様も何も言わず、ただ黙って私の言葉を待つ

その表情は怖いというよりも悲しそうに見えた

「売られたんです……親に。妹か私。どちらかは確実で、それで……私が」


お父様も、お母様も、須賀くんも

誰一人疑ったりすることはなく、3人で顔を見合わせ

須賀くんは皮膚と皮膚が擦れ合う音がするほどに強く拳を握り

お母様は悲しげな表情で私を見つめて近づき、そっと頭を撫でてくれた

「もういいわ……もういい。言わなくていいわ」

「でも……」

「キミが辛い経験をしてここに来ているということは解った。もう言わなくていい」

お母様も、お父様も

静かな怒りを携えた、震える声で私に優しく言う

「ただ、最後に教えて欲しい。キミの名前は?」

「名は霞……姓は石戸でした」

そう言うと、お父様はそうか。と頷き少しためらってから言い放つ

「キミはもしかして、霧島神宮の分家かな?」

「はい……確かに私は霧島神宮分家の元石戸家長女です」

正直に答えると、お母様とお父様は小さく唸り

ため息をついた

「キミ、外出は?」

「売られて逃げた娼婦なので……追われる身です」

「ふむ……なら早朝にでも出発しようか。京太郎も一緒に」

お父様は急にそんなことを言いだし

お母様は全くの異論なしという表情で頷く

「ど、どういうことだよ。どこに行くんだ」

「鹿児島だ。娘を売らなければいけないほどの理由を聞きに行く」

「そ、そんなことなさらなくても……」

「私はそういうのは許せないんだ。神社に関わる人間ならば……尚更ね」

「そーだねぇ。お母さんも嫌いかな。子供をお金にするような人」

2人はそこで初めて、すごく怒った表情を垣間見せ

私の視線に気づいたのか、苦笑しお茶を飲み干した

寝る


須賀家が少し狡い家柄になるが……まぁ気にするな

おお、何か正義の鉄槌が下りそうな予感

須賀家が須賀神社と関わりがあると言う風潮
ロマンあるよね

「母さんは神様に~」とか言ってるから「ん?」ってなってたけどそうか、須賀か

京太郎も仮にも聖職者が~って言ってるしな
巫女さんか?

乙ー

良いところで切るなぁ

須賀家は金持ちだし違和感ないからなぁ

1千万くらいならすぐに出せそう(KONAMI

ただ妹は…ナムナム
おつん

これが終わったら次は松実宥ちゃんでもお願いします薬たくさん与えてあげてくださいよろしくお願いします

名字が名字だから違和感ないね。
大人は狡いぐらいがちょうどいい


「そういえば、霞ちゃんは部屋どこ使ってたの?」

「すみません……お母様のお部屋をお借りしていました」

「あぁ、ううん。別に良いけど……帰ってきちゃったし、京ちゃん。あんたリビングね」

「ん、別に良いけど」

「そ、それは困ります!」

お母様達の申し出はすごくありがたいし

お母様が帰ってきた以上、あのままお部屋をお借りすることができないことも事実

でも、須賀くんの部屋を借りることだけはできない

「あら? どうして?」

「その……私、男の人の匂いで発情するような体になってしまっていて……ですから、その……」

「……匂いでって、そこまで深刻なことになってるの?」

お母様の神妙な面持ちに対して、私は静かに頷き答える

「はい。今も須賀くんの部屋にいたせいで服の中は……ぐちゃぐちゃです」


「ちょ、ちょっと良い?」

「は、はい」

お母様に連れられて脱衣所へと向かい

その醜態を晒すと、お母様は唖然と口元を抑え……首を横に振った

「貴女……」

「1週間ほどで30人以上お相手いたしましたから……単純計算で60回以上は……」

「い、言わなくていいわ!」

お母様は悲しげに怒鳴り、私のことを抱きしめると

優しい声で、言う

「辛かったわね……ほんと。こんな体になるまでやらされて……可哀想に……」

「いえ……もう良いんです。快楽を貪る卑しい女に身を堕としてでも護りたいものがあっただけですから」

その私の言葉で、お母様は涙を溢し

お疲れ様。頑張ったね……もう大丈夫だからね。と、

何度も何度も、褒めて、頭を撫でてくれた

また後でな

>>238
宥は同人があるだろう

乙です

ロッカー「出番はありますか?」チラッチラッ

>>244 喰われたいのか

考えてみると、石戸家の姉妹を捨てるなんてよっぽどじゃないか?
姫様が、どころか日本がヤバい。
まあ権力闘争の線もあり、か……
いずれにしろ、妹も無事じゃないな。


「ねぇ、アナタ。やっぱり……今すぐにでも行かない?」

「ん? 何だい急に」

「霞ちゃん……ちょっと想像以上だわ」

お母様はどんな風にかは語らず、お父様に急用だと言う

でも、私は赤の他人でお父様達はついさっきまでで出かけていたし

私なんかのためにこんな時間からだなんて申し訳なくて……首を振る

「大丈夫です。私は平気ですから」

「でも、何も問題は片付いていないでしょ? 貴女が本当に笑えるように今すぐにでも手を打つべきだと思う」

「ですが……私は」

言葉を返そうとした私の唇に人差し指を当て、お母様は首を横に振り

お父様を見つめた

「ねぇ……どう?」

「ふむ……まぁ良いんじゃないか? お母さんがそこまで真剣になるのなら、急いだ方が良い」


「ま、待ってください! 私は他人です! そんな疲れた体に鞭を打つような……」

「良いのよ。自己満足だから」

お母様はそう言いながら

私の肩に触れて、須賀くんを見つめた

「貴方も。良いわね?」

「俺はいつでも良いよ。霞さんのためならどこへだって行く」

「す、須賀くん……ダメよ? 私、そう言う言葉には弱いの」

男の子っていうだけで体が反応しちゃうのに

私がすがりつきたくなるような言葉を言われたら、本当に縋りつきたくなってしまう

そんな私の言葉に、須賀くんは照れくさそうに笑い

「あらあら~? うふふ~」

「う、うるさいっ」

須賀くんはお母様に少し茶化されながら。私はそんな光景に胸を痛めながら

……鹿児島へと向かう

中断

おっ、明星ちゃん助かるか?

裏では「極悪がんぼ」もビックリな
くらいの権力争いがあるんだろう。

権力争いだけじゃ説明つかないぐらいの外道だけどな…

密室と言っても良い車内に

「はぁっ……はぁっ……んっ……うぅっ……」

そんな熱く湿った艶かしい声が響く

「か、霞さん……」

「ごめっ……ぁん……ふぅっ……ふぅ……んぅ……」

助手席にお母様、運転席は当然お父様

後部座席、運転席側に須賀くん、助手席側に私という配置をしているせいか

私は体が凄く熱くなっているせいだった

熱すぎて頭が痛くなってきて、視界が霞む……ううん

視界には須賀くんしか映らなくなってしまっていた

「大丈夫? 私が隣の方がいい?」

気を利かせるお母様の言葉……でも

「だめ……後ろから、襲っちゃうっ」

須賀くんへと伸びそうな手を精神力で必死に押さえ込みながらも

隙を突く左手は股ぐらへと伸びていく


今日は発散しなかったせいで

手は止まらず、服の上からでも容赦なく刺激していく

「んっ、ぁっふあぁっあぁっ……やっ、ダメ……ぁっんんぅぁっ」

須賀くんが見てる。須賀くんのすぐ横でしている

そう考えるだけで体はさらに高ぶって上気し、かき乱す手の動きをさらに速めていき

私の服の中はもうびしょびしょになっていて、それでも止まってはくれない

「パパ、車停めて!」

「こんなところでは停められないんだ。もう少し我慢できるかい?」

「ふぁぁっ、あっんっ……あっあっあぁっ」

ダメだとわかっているのに、最低なことだと解っているのに

快楽を求める体が、快感を欲する頭が、私に自慰を強要する

「ごめんぁっ……あっあっ……しゃぁぁいっあっ、んっ……んんんぅぅぅぅっ!」

車のわずかな揺れを利用して、私は強く、激しく、淫らに……達してしまった

「はぁっはぁっぁっ……あっ……ごめん、なさいっ……ごめんなさいっ……」

座席からポタポタと、足元に淫猥な液体が滴り

その音は嫌に大きく響く

「ごめんなさいっ、ごめんなさい……」

「……京ちゃん。後ろにタオルない? 霞ちゃんに貸してあげて」

「あ、わ、解った……」

須賀くんが後ろを向き、積まれた荷物の中を漁る

お母様は座席の横から私の方へと、顔を出して微笑む

「どこかに停まってお着替えするまで我慢してね?」

「遠慮します……どうせまた濡らして、どうせまた……エッチなことしちゃうわ」

「霞ちゃん……」

お母様の悲痛な声。でも、私はその考えを改めることはない

だんだんと冷たくなっていくスカート。その下に、須賀くんに渡されたタオルを敷いただけ

それだけでも、私は良かった


なのに、お父様は車を止めて須賀くんと一緒に降りていく

「霞ちゃん、早く着替えちゃいましょ」

「で、でも……」

「そのままじゃ気持ちが悪いでしょ?」

お母様の優しさが辛い。暖かさが……痛い

締め付けられる胸の辛さに、涙がこぼれ落ちていく

「気持ちが悪いのは私です……すぐ発情して、すぐ、こんなことして……気持ち悪い」

「仕方がないじゃない。そういう体になっちゃったんでしょ?」

お母様はカバンの中から替えのスカートと生理用のナプキンを取り出し

私へと差し出しながら、微笑んだ

「これから治していけばいいの。私も、パパさんも。それで怒ったり、蔑んだりはしないわ」

「だけど……須賀くんが」

「あぁ……あの子は初心だからねぇ。でも、平気よきっと。そんな貴女を救いたいと。あの子が言い出したんだから」

ふぅ……

薬か病気か知らんが、けしからんな!


「っ……」

「京ちゃんが好き?」

「す、好きかどうかは解りません……私、男性というだけでドキドキしちゃうから」

でも。でも……どうなのかしら

須賀くんの前では羞恥心があったり、須賀くんの笑顔に癒されたり……

それは平穏を失った私がまた平穏を手に入れられたからかもしれないけれど

それを与えてくれるのが須賀くんだから……なのかしら

仮にそうだとしても……きっと。

「私が好きでも須賀くんは嫌だと思いますし……普通だって、考えておきます」

「あらあら……まぁ、そういう事にしておきましょうか」

お母様は愉しそうに笑うと、着替え終わったのを確認してから

お父様達を呼ぼうと車を出ていった


中断する


長引きそうだ

変なフラグ立てて離席するとは…
引きがうまいよね

乙です


「京ちゃん。しばらく寒いと思うけど、窓は開けておいて良いわよね?」

「お、おう……別に」

須賀くんは車に戻ってきてからぎこちなく

私のことをチラチラと見ながらも、目が合うとビクッとしてそらしてしまう

それも仕方がないことだとは思う。あんな淫猥な姿を見せたのだから……気になるのは当たり前

「……ごめんなさい」

「え?」

「貴方の前であんなことして……部屋で馬鹿なことした反省、何も活かせてないわ」

私はそう言いながら笑う。自分に対して嘲笑う

もう本当にダメなのね……と、諦めのため息をつく

須賀くんはそんな私を悲しげに見つめながらも、どこか恥ずかしげな感情を交えて頬をかき

目が合うと、やっぱり反らしてしまう

「べ、別に良いですよ。霞さんはしたくてしてるけど、でもしたくてしたわけじゃないっていうのは解ってますから」


心と体の乖離

ううん、今ではもう心まで2つに乖離し

心と体が情欲に溺れて快楽を欲し、欠けた半分以下の心が平穏を望む

今の私はそんな状態。男性が居れば発情し乱れてしまう

でも一部の心がそのことを嘆き、悲しんで苦しむ………辛い状態

「霞さん」

「……なぁに?」

「もしもまた体がおかしくなったら、俺のことを考えてくれませんか?」

唐突な大胆発言に私が驚き、目を向けると

須賀くんは複雑な笑みを浮かべながら、ほんの少し紅潮する顔を私へと向けていた

「べ、別に俺じゃなくていいんだけどっ、その、あの、ほら……」

「ん?」

「だ、誰か特定の一人を思って乱れるっていうか……ああいうことするなら……まだ健全かなって……」

須賀くんはあははっと苦笑しながら頭をかき

何言ってるんだろ……俺。と、私とは逆の窓へと視線を移す

そんな優しくて、ちょっと天然なのかしら……大胆な発言を出来てしまう須賀くんを見つめていると

私はまたドキドキとしながら体を熱くし、顔が熱くなって須賀くんを直視できなくなってしまった

していいとは言われたけれど、こうも節操なく発情するのは好ましくない

黙り込めばさらに酷くなっていき、会話をすれば卑猥な発言を連続させてしまいそうな今

取るべき選択はまだ抑えられそうな後者しかなく、言葉を考え紡いでいく

でも、出てきたのは私でも予想できなかった言葉だった

「……須賀くんでエッチな事してもいいの?」

「えっ?」

「あっ……」

すぐに発言のミスに気づき、弁解の言葉を考えるけれど

混乱した頭ではまともな答えを見つけることは……できなかった

「あ、貴方がそう言ったじゃない……俺でしてくれって」

「そ、それは、その……ほかに気になる相手がいないなら……的な、感じで」


須賀くんのしどろもどろなその言葉に

私はなぜか準備していたわけでもないのにすぐに答えられたけれど

「気になるのは男性。でも……凄く気になるのは……須賀くん。かしら」

そんなちょっとどころじゃなく間違った……ううん

ある意味では何も間違っていないもので

私たちは互いに顔を赤くしながら、見つめ合う

「お、俺が……ですか?」

「え、ええ……嫌?」

「そんなことはないっていうか、むしろ嬉し……け、けど、なんで俺なんですか」

須賀くんは照れくさそうに問う

そんなことを聞かれても……と、頭の中をかき乱してみるけれど

上手い言葉は何一つ見つからなくて、黙り込んでしまって

じんわりと広がる下腹部の熱、恥部の湿り気を感じながら私は思わず笑う

「なんで……かしらね。私でも良く解らないわ。でも、貴方を思うとちょっとだけ感度が違うみたい」


「か、感度って……」

「……変なこと言ってごめんなさい。でも、事実だから」

そんなことを平然と言えてしまうのは

私がおかしくなっているからなのだけれど

須賀くんを思うと恥ずかしかったり、ほかの男性とはまた違った感じになるのは

誘惑しようとする女の思いではなく、霞のまだ正常な心が抱く想い。だと思う

「そ、そう……ですか……」

「そ、そうなの……」

互いにそんな崩れた言葉を漏らしながら、見つめ合っていた視線をそらす

馬鹿なことを言ってしまった。と、後悔しても今更遅く、ため息をつきながら外を見る

でも……もしも須賀くんへの思いが私の正常な心のものだとしたら

それって、私が須賀くんに恋をしているってことになるんじゃないかしら

そう思いながら須賀くんを見つめると、ドキッとして、恥ずかしくなって

発情したわけでもないのに体が熱く、鼓動は高鳴り……私は顔を覆い、俯いてしまった

また後でな

許さないよ早く宥ちゃんを奴隷にしてあげて

この会話両親にも聞こえてるだろうに、京太郎男やな


夜に出てきたは良いものの

深夜に鹿児島まで飛んでくれる飛行機もなく

車で直接は時間がかかるということもあって

私たちは東京のホテルに一泊することとなった

「深夜に飛行機がないなら、早朝でも良かったんじゃ?」

「んー、そうすると始発に乗り遅れるかもしれないじゃない」

「始発って何時?」

「6時半くらいよ」

須賀くんの家から東京までだいたい4時間くらいかかって

今は深夜2時

6時半頃の飛行機に乗るとして、合わせて家を出るなら

深夜2時くらいに起きて出発しなくちゃいけない

それなら、先に来ておいて乗り遅れる心配を無くしておく方が良いとお母様は言った

でも、私なんかのためにホテルや飛行機だなんて……


「自己満足のための出費よ。気にすることじゃないわ」

「え、あの……」

「こういうことだからかもしれないけど貴女、意外と表情に出やすいのね。申し訳なさそうだったわよ」

お母様はそう言いつつ苦笑する

自己満足のための出費……でも、それにしてはお金がかかり過ぎているような……

ホテルだって決して安いところではないし……飛行機だってきっと。

「貴女は私達のお金の使い方に不満があるかもしれない」

でもね。と、お母様は続けた

「使わなければお金は回らないし、使い方を考えていれば決してマイナスにはならない」

「………………」

「……ごめんね。そんな話。貴女は嫌よね」

お母様はそう謝罪し、私たち四人は女性2人、男性2人で部屋を別れた

後で

乙です


お母様は言った。

使い方を考えていればマイナスにはならないと

なら……どうして私は売られなければならなかったのかしら?

そこは単純に、使い方を誤ったと考えるべきなのかもしれないけれど

使い方を誤ったところで子一人売らなければいけないほどのマイナスになるのかどうか……

霧島神宮という大きな神社の本家ではないとは言え、一応は最も近い分家

それにも関わらず、私か明星ちゃんが売られるまでに至った

その事実は変わらないし、私がいくら考えたところで……その理由はきっと解らない

なにより、あまり知りたくはない。

私が買われていく時、両親が姿さえ見せなかったこともあるし

きっと……凄く嫌な理由だと思うから

「あら、また考え事?」

「ぁ……いえ」

シャワーを終えたお母様は私にはない色香を漂わせながら

隣のベッドへと倒れこむ

一応、女性相手の性的行為も行うことはできるけれど

それは一度もなかったおかげか、発情したりすることもなく……ようやく平和な時間が訪れた

「ゆっくり休んでいいわよ」

「私より、長旅疲れを癒した方が……」

「んーん。京太郎と会ってからも、貴女気を休めたことないでしょ。あそこまで……酷い事になっていたんだもの」

お母様は私を見ることなく、言う

確かに、しっかりと休めたことはなかったと思う

一晩中、自慰に耽り性欲を満たそうとしたし

昼間はお勤め直前の発情に負けて―入ってしまったけれど―部屋に入ったりしないように

気をつけたりしていたし

なにより、いつバレるかと不安で不安で仕方がなかった


「早めに出たのも、貴女に休んで欲しいからよ。精神的にもね」

「……お母様」

「ふふっ。お母様だなんて……貴女のお母さんだったら、良かったのか悪かったのか」

お母様は複雑な笑みを浮かべ

私のことを調べるように見つめて、小さく笑いをこぼした

「貴女のお母さんなら、こんなことにならなかったけど……」

「けど……?」

「貴女のお母さんだったら、京ちゃんがとっても困っていたわね」

そんなことを言いながら

私の反応を待っていたみたいだけれど

「そう……ですね」

と、いう私の反応は不正解だったのか

お母様はちょっと困ったように笑うと、難しかったかな。と苦笑した

中断

この霞さんには幸せになって欲しい


私たちは3時間ほどの休憩のあと

鹿児島行きの飛行機始発に搭乗した……のだけど

「……ファーストクラス?」

「あら? しらない?」

「知っています……知っているからこそ……」

案内された席と、お母様を何度も見つめる

こんなの……驚かないなんて無理な話だわ

一機につきあったりなかったり。あっても十数席しかないファーストクラス

国内線とは言え、それを赤の他人の私なんかのために借りてくれるなんて……

「普通の座席でも私は……」

「キミはあまり密集した場所には居ない方が良いだろう?」

金有るな~


そう言ったお父様は微笑み、言葉を続けた

「私たちがいる以上は出来る限りのサポートをするつもりなんだ。いわばサービス。無償だ」

「で、ですが……」

「気にすることはない。キミはまだ子供だからね。大人に頼り切っていい。そしてそれを申し訳ないと思う必要も……ないよ」

お父様は言い終えて、自分の座席へと着く

大人に頼りきっていい。申し訳ないと思う必要もない

それは私が今まで持っていた平穏の中でも

決して持つことの出来なかった事

分家とは言え、最も近い血筋の人間なのだからと

長女なのだからと……私は幼い頃から責任と共に生きてきた

それが、こんなことになって……思えば

辛かったり、苦しかったり、泣いたりしてきた私の高校3年までの人生は

全部無駄になった……それどころか、1週間程度の穢れた知識に汚染され忘却さえしているのよね……


改めて考えるとその虚しさに泣き叫びたくなるけれど

それを失うことも覚悟して、私は明星ちゃんを庇ったのだもの

今更後悔したりしないし、妬んだり羨んだり恨んだりも……するつもりはない

「……貴女の事、お友達にはどう伝わっているのかしらね」

「私も解りません……でも、あまり良い伝わり方はしていないと思います」

私は売られたなんていうことを、率直に伝えるわけはないし

小蒔ちゃんの身の回りのお世話などを放り出しての突然の失踪

……もう、死んだことにされている可能性だってありえなくないわ

それが一番……簡単で、説明のしやすい嘘だものね

「私は友人に会わないようにした方が良いですよね?」

「んー極力。ね。一応変身セットあるから安心していいわよ」

変装ではなく変身の時点で、安心はできないような気もしたけれど

あえて何も言わずに、笑うだけで流した

私が閉じ込められていた部屋よりも広いファーストクラスの部屋

密室とは言えないし、男の人もいるけれど女の人もいて

私が反応するほど密着しているということもなく

何事もなく2時間と少しの時間をかけて、鹿児島空港へと到着した

「……帰って来ちゃったわ」

「そうですね」

「……………………」

逃げたことは伝わっていないのかどうか。どちらにしても、親に会うということはそれを教えることになる

怒られるかしら……ううん、あの男性達に連絡が行ってまた地獄に戻されるんじゃないかしら……

不安に思う体は震えると同時に、果てしなく続く快感を想像してまた濡れていく

そんな私の手を、須賀くんはそっと握り引っ張った

「行きますよ」

「須賀くん……」

「俺はこの手を離しませんよ。霞さんを連れて行かせたりなんかしません」

そう言う須賀くんは真面目で格好良く見えて、優しくて暖かくて……やっぱり特別な胸の高鳴りを感じた

今日は終わりだな
飛ばせるところは飛ばしていく

乙です
バッドエンドは崖下へ突き落とすようにそそくさでいいけど
ハッピーエンドは崖の上へ押し上げるようにじっくり書いてくれていいんですよ?

乙です

長くてもええんやで?


鹿児島県霧島市

私の生まれ育った、大切なものが沢山ある場所

そして、私が全てを失った場所

「………………」

「変身、バレないかしらねぇ」

「ん~…………」

須賀くんは小さく唸りながらも見つめ、苦笑する

その視線が恥ずかしく、ちょっと息苦しくなるのは

胸を晒しで締め付けているから……だと思う

自分で言うのも問題かもしれないけれど、晒し程度で抑えられるようなバストではない

でも、必要だから。と、お母様の半ば血走った瞳に睨まれながらやられてしまった

サラシでバストマイナス数cm+金髪の桂+私が着そうもない派手な服

と、なんだかあれな感じがするけれど

道行く人の中の、私が幼い頃から知るおば様達が気付かないあたり、変装は完璧なのかもしれない


「ねぇ……須賀くん」

「なんですか?」

「今の私って……貴方の姉妹に見えるかしら?」

「見えてるかもしれませんね」

須賀くんは少し嬉しそうに笑いながら、私の手を少しだけ強く握る

今は仲の良い兄妹……ううん、姉弟かしら

そう見えていたら嬉しいわ

でも、同時にちょっと複雑な気持ちにもなる……

仲良く見られるのは嬉しいけれど、でも――

そんなことを考えていたから

だから、私はそれを許してしまったのかもしれない

「霞ちゃん……?」

私をよく知る

最愛の妹とも言っていい。大事な、大切な――小蒔ちゃんの接触を


私が反応に困っていると

小蒔ちゃんはその憔悴しきった表情を暗く、悲しげに歪めて

困ったように微笑み

「……申し訳ありません。人違い……ですよね」

そう呟き、危ない雰囲気のまま去っていく

人違いなんかじゃないと

私は霞よ。と、告げてあげたかった。でもそれはできない

私は本来いてはいけない人間

なにより、小蒔ちゃんの知る私はもう……いない

だから正体を告げられない、声をかけても上げられない

それがたまらなく苦しくて、悲しくて……握っていた須賀くんの手を強く握ってしまう

「すべてが終わればまた……きっと話せますよ」

痛いはずなのに痛いと言わず。須賀くんはそう言いながら……私を優しく抱きしめてくれた


「……やっぱり、殺されちゃったのかしらね」

「母さん!」

「京ちゃんそれが大人の世界なのよ」

お母様は悲しげにつぶやきながら私の頭を軽くなでると

お父様の方へと目を向けた

「ねぇ、パパさん。私の手……手錠しておく?」

「そうなる時はなるべくしてなるものだよ。できるなら、しないで欲しいものだけどね」

私と須賀くんには伝わらない会話

手錠という言葉から連想できるのは拘束、緊縛プレイなのだけれど

この場面でそんな発言の意図が解らないし

お父様もお母様も真剣で、そんな巫山戯たことではないことは明白だった


「須賀くん、もういいわ」

「でも……」

「このままだと私……達しちゃうわ。もうビショビショだから」

「え、ご、ごめん!」

冗談と言えないのが悲しい

慰めるために須賀くんは抱きしめてくれたのに

それを利用して発情して、ナプキンを湿らせているなんて……と

申し訳なく思うと同時に、事実を述べられ困った表情の須賀くんを見て

やっぱり、私が恋をするなんて許されないのね。と、実感する

「霞ちゃん、ナプキン換えておく?」

「まだ平気です。それより、早く両親のところへ向かいましょう」


「そうね……」

お母様は頷き、お父様と共に歩き出す

私は――

「霞さん、手を」

「ううん、大丈夫」

私は一人で歩いていく

すべてが終われば、須賀くんとの関係も終わり

小蒔ちゃん達との関係を取り戻して、霧島に残る

須賀くんといたら辛いだけ。だって、須賀くんに私は相応しくないんだもの……

考えれば考えるほど胸は痛み、心は苦しくなって――

「俺が大丈夫じゃない」

思考を遮る須賀くんの声と、手を握る力強さと優しさ

顔を上げれば、須賀くんの背中が見えた

>>最愛の妹
明星ちゃんェ……


「嫌なんですよ……何もしないまま見てるだけなんて」

「須賀……くん?」

「俺に出来ることなんてきっと些細なことだけど……でも、だからこそ出来る事はしたいんだ」

須賀くんは私に振り向くことはせず

でも、その手を決して離すことはない

「出来るのが些細なこと? そんなことはないわ」

「え?」

少しだけ早く歩き、須賀くんの隣に並ぶと、

驚いた須賀くんの瞳が私へと向けられ、私は微笑みを返す

「貴方の言動は私の救いだったわ。だから……些細なことなんかじゃないわ」

「霞さん……」

すべてが終わるまでの付き合いかもしれないけれど

でも、終わるまでは一緒に……居ても良いのよね

「行きましょ……京太郎くん」

そう言って京太郎くんの手を引き、私たちは石戸家へと――向かった

今日はここまでだな

最近ここが一番楽しみ

乙です


霞さんはいじらしくてかわいいなぁ


私達が案内された、私の馴染み深い大広間

その一角にある曽祖父や曾祖母またそれ以前の先祖のための仏壇

両親が来るのを待つ間、座り込む私達の視界に映るそこには――写真があった

「っ……」

「ダメだ、姉ちゃん」

名を隠すための姉弟設定を使い

京太郎くんの手が私を掴む。優しく、温かく、何より……力強く私を押さえ込む

「……京太郎くん」

「俺もすげー嫌だけど、でも我慢してくれ」

そういう京太郎くんが見つめる写真。それは、私が見た仏壇にある写真

映っているのは……私。いつの日かの、微笑む私

「大丈夫よ、京太郎くん」

その手を強く掴み、私はそう呟く

本当に大丈夫だった。だって

怒りも、憎しみも、悲しみさえも感じていなかった

ううん、感じることができなかった

それらを感じる心の余裕なんてない程に、私の心は踏み躙られているんだもの。当たり前だわ

「姉ちゃん……」

「大丈夫だけど、手……握ってても良いわよね。抱きしめてなんて欲張らないから……手くらい、握らせて……」

情欲にまみれ、穢れた心と体が男性の匂いと肉体を求めているのではなく

京太郎くんという存在に安らぎを求めていて

「欲張れよ、姉ちゃん」

そんな声が聞こえたかと思えば

頭が京太郎くんの肩に当たり、京太郎くんの腕が私を包み込んでいく

それは、私の欲望を聞き入れてくれた京太郎くんの優しさ

「ばかっ、家では応えてくれなかったのに」

「……弁えてるつもりですからね」

京太郎くんはそう言っても冗談めかして笑ったりしなかった


お父様はもちろん、お母様も余計なことは何一つ言わず、瞳を閉じて両親の到着を待ち

「お待たせして申し訳ない」

と言う言葉とともに、石戸のお父様が大広間へと入ってきた

小蒔ちゃんのように、私が死んだという現実であり非現実な事象を未だに引き摺っている様子はない

それは大人だからなのか、私が死んでいないということを知っているからなのか

後者にせよ、私を売りたくなかったのなら悲しみを引き摺っていてくれても良いんじゃないのかしら。なんて

いつもなら苦笑も交えているようなことを思いながら、石戸のお父様を見つめる

「……それで、どのようなご用件でいらしたのでしょうか?」

「あの仏壇の女の子、私も良くお会いしていたのに。石戸霞ちゃんですよね?」

「え?」

「とても心優しい子で、大人びていて是非とも私の息子のお嫁さんにでもと思っていたのに」

お母様は言葉を並べ、返す余裕さえ与えずに進めていき――開いた瞳は鋭く

まるで人を殺めることを厭わないとでも言われたような恐怖を抱いてしてまう


「石戸様も、大切な娘さんを亡くされてさぞ――お辛いことでしょう」

「ええ……先週突然」

「突然? ご病気ですか? とても元気が良さそうに見えたのに……」

「い、いえ……」

「では、交通事故か何か――」

――バンッ! と、音が響き

黙り込んでいた石戸のお母様が口を開く

「なんなのです? 娘の死の辛さをもう一度経験しろとでも言うのですか?」

お母様を睨む、私のお母様の瞳

……でも―優劣を決める必要はないのかもしれないけれど、敢えて決めるとしたら―私のお母様は明らかに劣っていて

それは本当にそれを経験し、本心から嫌悪しているものではないということを、明確に示していた


「失礼しました。私もこの子達も霞ちゃんとはご懇意にしていたので……信じ難かったんです」

「……………………」

「……………………」

黙り込み、堅苦しい空気に包まれていく中で、ようやくお父様が口を開いた

「用件は簡単です。霧島神宮現当主である神代の者に会わせて頂きたいのです」

「……………………なるほど」

お父様の一言で、石戸のお父様の表情は一変し厳しく鋭い視線をお父様へとぶつけていく

けれど、お父様は全く動じることなく返事を待ち、石戸のお父様は頷いた

「良いでしょう。ただし、私達も同席させていただきます」

「……簡単に通しても良いの?」

お母様は疑問をすぐに口にして、横目の鋭い視線を突き立てていく


本来、現当主との会合は事前に面会のお約束をしていないと出来ない

それは私も良く知ることであり、こうも簡単に通すことには違和感を覚えた

「全国各地にその名を置く須賀神社の当主ともあればこその……対応です」

石戸のお母様は静かに答える

私はそんな対応を聞いたことがない。でも、お母様達は知らない

そして、そんな対応がないということを知っている私が、今ここに存在していることを知らないからこその嘘

「そうですか……それは、嬉しい限りです」

私の動揺をお母様は確認し、再び、石戸の両親を見渡してそう答えた

「では、話を通しておきますので……正午に本家へとお越しください」

その言葉で両親との会合が終わり、私たちは石戸家を後にした


言いたいことは沢山あった。したいことも沢山あった

でも、それをすることが出来るのは……まだ先のこと

「……ねぇ、お姉ちゃんと弟くん」

「その設定、今はもういいんじゃ……」

「ううん。どこで見てるか分からないもの。用心は常に。ね」

お母様はそう言いながら京太郎くんと私を見つめて微笑む

それは多分、私の心に気付いているからこその笑顔

「学校でも見てきたら?」

「え?」

「心配なんでしょ? みんなのことが」

みんなのことが心配。小蒔ちゃんがあんな状態だった。だから多分、明星ちゃん達も……


「行こうぜ、姉ちゃん」

「京太郎くん」

京太郎くんが私の手を引く。ついて来いと――

「姉ちゃんが行きたい場所。俺も行ってみたいんだ」

――とは、いかなかったみたいだけれど

でも、その気持ちは嬉しかった

「仕方がないわね……貴方に言われたら。断れないわ」

どれほどのことになっているのか心配ではあるけれど、同じくらいに怖い

だから、尻込みしてしまいそうな私を手助けしてくれるその言葉に私は救われる

ね? 些細なことじゃないでしょ? と、声には出さずに見つめる

「姉ちゃん?」

「ふふっなんでもないわ……お母様、お父様、行ってまいります」

「お昼前にはちゃんと戻るのよ? 神宮前にいるから」

お母様達と別れ、私達は高校……ではなく、大切な妹のいる中学校へと向かった

ここまで

単独行動か

乙です

「ここよ」

「永水女子中……ですか」

「なぁに?」

「いやぁ……その」

京太郎くんはバツの悪そうな顔で頬を掻きながら校舎から目をそらす

お母様が学校と言っていたのだから

行きたい場所なんて学校だと理解は出来ていたでしょうに……ふふっ

でも、女子中とは思わなかったのかしらね

「黙っていてごめんなさいね……気を悪くしたかしら?」

「いえ、来たいと言ったのは俺ですし」

でも。と、京太郎くんは困ったように苦笑しながら

私のことを見つめてきた

「女の子を見てたら俺……変質者じゃないですかね……」

「あっ……」

ごめんなさい……それは考慮していなかったわ

京太郎って男の子時々女の子だから大丈夫

「貴方は先に戻っていても良いのよ?」

「いや、流石に霞さ……姉ちゃんを置いていくわけにはいかないな」

「……そう。なら、私のことを見ていてくれる?」

言ってすぐ誤ちに気づき、京太郎くんを見れば、

唖然とした瞳で私を見つめていて気不味く、慌てて目線を逸らす

何言ってるのよ……何言っているのかしら……私

言い訳を必死に考えても、混乱する思考ではうまくいかずに黙り込んでしまって

京太郎くんが先に口を開いた……わけでもなく

「そこで何をしているのですか?」

体育の授業を受けていた明星ちゃん達がフェンス越しに近寄りながら

私達に忠告を並べ立てていく中で

「ここは永水女子中学です。男女問わず覗きをするというのであれば通報――」

間近に迫った明星ちゃんは言葉を止め、目を見開き

「霞……お姉様……?」

私を見つめて……言葉を漏らした


失敗したな。中断

ここから宥ちゃん虐待までどうやって持って行くのか期待だな

性懲りもなく宥宥言ってる奴はBOTか何かか

霞さんが妹設定は出来ないのか…無念

>>320 botバカにしすぎ

>>320
本人は面白いと思って言ってんだろうからスルー安定


「明星さん、何を言っているのですか?」

「……ごめんなさい。よく見たら違いますね」

ううん。違わないのよ? 私は貴女の姉……でもね

それを言うことは出来ないの。ごめんね? ごめんね……ごめんね……明星ちゃん

言いたい言葉を全て飲み込んで、京太郎くんの手を握ると

返される力強い優しさが、私の気持ちを支えてくれて少しだけ楽になる

「いや、こっちこそすみません。中学校が懐かしくて……つい」

「そうですか……悪い方のような感じはしませんし、通報は致しません」

「ごめん、ありがとな」

京太郎くんが私の代わりに明星ちゃんと話し、なんとか問題を無くしてくれたし

こんなこと聞くのは自分でも馬鹿みたいとは思うけれど

でも、全てが終わっても……

考えを振り払うように頭を振り、問う

「……ねぇ、貴女の言うお姉様は貴女にとって大切な人だったの?」


「え?」

「貴女……なんだか悲しそうだから」

それに対して明星ちゃんはすごく辛そうに、悲しそうに苦しそうに、悔しそうに答えた

「……いつまでも傍に居て下さると。導いて下さるとお約束しておきながら、突然旅立たれるようなお姉様は大嫌いです」

「っ……」

「ですが……」

明星ちゃんは微笑む。悲しく辛い涙を零しながら

偽りの私を本物の私、石戸霞として見ながら言い放つ

「とても大切で、大好きなお姉様でした」

その切実な言葉、思いに私達は一瞬言葉を失ってしまう


「………ごめんなさい、辛いこと聞いちゃって」

「いえ……お姉様なのかお兄様なのか解りませんが、どうかお幸せに」

明星ちゃんはそう言い残して去っていき

私はその哀愁漂う背中を見送りながら呟く

「……ごめんね」

「霞さん?」

「ふふっ……嫌われるって、結構辛いのね」

やや無理矢理に笑みを見せてしまった私

京太郎くんはやっぱり私の気持ちを察して手を少しだけ強く握る

「言ったじゃないですか、全部終わればきっと話せますよ」

「…………そうね」


と、京太郎くんには答えたけれど

でもね? 私は殺されているのよ?

石戸霞を知る全ての人々が私が死んだと思い込んでいるの

それはつまり、生きていましたと。ただ、娼婦に成り下がっていただけなのよ。と

真実を暴露するということは

石戸家がみんなを騙していたということを告げるようなものであり、そうなれば石戸家の立場は無くなる

ううん、もしかしたら小蒔ちゃん達の立場まで危うくなるかもしれない

「ねぇ、京太郎くん」

「なんです?」

「全部終わったら……私の秘密。教えてあげるわ」

そう言いながら微笑むと、京太郎くんは照れくさそうに笑って顔を逸らす

そんな京太郎くんの姿を見ながら、私も同じように苦笑して……2人揃って握る手に力を込める

傍から見たら姉弟? それとも、兄妹?

貴方はどう見られたいのか解らないけれど、私はね?

恋人同士に見られたかったりするのだけど……


「ふふっ」

「霞さん?」

思わず笑ってしまう

勝手に思っておきながら、身勝手だとは思うけれど……でも

そんな気持ち、貴方は気づいていないでしょうし、気づかれちゃうと困るのよ

だって、せっかく出来た覚悟が無駄になっちゃうんだもの

「なんでもないわ。行きましょ、本家に」

そう言いながらちょっと強引に身を寄せて、笑う

京太郎くんと寄り添い合えるという小さく、一時でしかない幸福に浸りながらも

それを壊すための会合を行うために……私達は本家へと向かった


中断

なぁ…これハッピーエンドになるのか?
全て終わったら霞はどうするんだ?

>>331
そら京太郎と毎日ヤりたい放題だろ。

>>331
幸せな二人はキスをして終了


重要なことを名乗るために
京太郎の母親の名前が必要だ……適当に京子とでもつけて問題ないか?

なら一捻りして都とかそんな感じでいいんじゃないかな

清々しい名前を付けてあげてくれよ

「翠」なんかが語呂的に良いと思ったが変なの出てくるから

なんの捻りかは知らないが>>335借りて「都姫」とでもするか

都は京=京都=都か?

姫は奇稲田姫から一つ貰っただけだ

単純に京にはみやこって訓読みがあるんよ

その捻り要らなくね……?

似た名前って書く側も読む側もめんどくさい

似た名前がめんどくさいって…

親とかじいちゃんばあちゃんから一文字貰うってのは今の感性ではないのか…

現実では家庭内で親と子供が同様に名前で呼ばれることあんまりないし不都合少ないけど
文章作品ではそうもいかないじゃん

地の文ありのssなら台本形式みたいに名前連打にならないし混同したりはないと思うけど、まあ>>1の好きでいいんじゃね?

(なんでこんなことで伸びてるんだ…?)


「霧島神宮、現当主……神代です」

「現当主……ですか」

お父様は特に注目するようなこともないその言葉を抜き出し、呟く

「なにか?」

「いえ……なんでも」

お父様のその静かな声が当主様の気に障ったのか、視線は鋭く、空気は張り詰めたものへと変化し

経験……いや、知識あれど、深淵を覗いたこともないような子供である私達には

霧島神宮当主、神代。分家、石戸。須賀神社当主、須賀

この三家の中に流れる重苦しい空気を理解することなんて容易ではなく

あの陽気なお母様ですら気を緩めることはなくて

毅然としたその姿勢は正しく巫女―実際に巫女―のように見えて勇ましささえ感じるほど。

そんな中、その三家の一つである石戸家が口を開いた

「それで、須賀様はなぜ、わざわざ鹿児島へといらしたのですか?」

「その前に……私達の名前ですでにご存知ではあるかもしれませんが、改めて」

お母様はすぅっと息を吸い、神代、石戸両家を見つめ言い放つ

「須賀神社当主筆頭、須賀都姫です」

「え……当主筆頭?」

「なんで京太郎くんが驚いてるのよ……」

「いや、当主なのは知ってたけど筆頭とは」

京太郎くんは困ったように漏らし、お母様を見つめる

当主筆頭つまり、何人もの当主の中で最も有力な人ということなのだけれど

そんな家系の教育を受けたようには見えなかったわ……全く

そう思いながらも、お母様の雰囲気が私たちを黙らせて大人の会話は続く

「遠まわしなお話は退屈でしょうし単刀直入に申し上げます。先日、須賀神社当主総会を行いました」

私たちみたいな本家と分家の両親が集まることも総会だけれど

それに似て非なるより高度な総会。それが当主総会

本家と分家のように地位の強弱がはっきりしているわけではないため

各々が仕切ろうとして会合自体が崩壊してしまうのが普通

だからこそ高度で、それを行えるということはそれだけ協調性が高く結束力の強い神社ということになる

全国に広まりながらそれらが全て結束しているとなれば、

たった一つの大きな神社よりも強力な財力や人力などを保持しているということになるし

その筆頭ともなればいくら霧島神宮当主といえど、話を適当に流すことはできない……それが目的?

「そこで小耳に挟んだのよ。霧島神宮本家分家が少しおかしな動きをしている。と」

「………………………」

「小さな所ならともかく、大きな所であれば一挙一動が耳に入るのよ。といっても、噂好きがいるからかもしれないけれど」

お母様は小さな笑みを浮かべながら私を一瞥し当主様を見つめ、

当主様は変わらない厳しい瞳をお母様へと向ける

でも、その中には僅かな動揺の色が見えたし

私でも気づいてしまうようなものを、お母様が気づかないわけがなかった


「ねぇ? 当主様? アナタ……動揺してる?」

「何を言っているのか解らんな」

「そう。じゃぁ聞くけれどアナタ……博打が好きよね」

お母様の流し目は妙に艶かしい色っぽさを持ちながら

まるで鋭い刃物を喉元にあてがわれたかのように緊張感が走る

会話の相手ではないにも関わらず思わず息を呑むほどのそれは相手である当主様にとってどれほど恐ろしいものなのか

聞かなくても、表情に見える焦りと汗がその辛さを示す

「それは別に良いのよ。大人だもの。ちょっとした刺激が欲しいのも理解できるわ」

でもね? と、お母様の声が空気を裂く

ただでさえ緊張するような重苦しい空気を押し潰して……その言葉は響く

「自分の娘を賭けに出すのは頂けないわ」

「そのようなことはしておらん! 現にわが孫娘は今も学校で勉学に励んでおる。嘘だと言うのであれば呼んでも――」

「良いの?」

「なに?」

お母様の嘲笑混じりの鋭利な言葉が当主様へと突き立てられ

言葉が止まり、続いたのはお母様の声

でも、瞳は当主様ではなく……私のこと見つめていた

「娘さんは悲しむんじゃない? 自分の身代わりとなって大切な人が売られたなんていうことを知ったら」

「…………」

それは紛れもなく私のこと……だから悲しげな同情混じりの瞳で見つめていたのね

知っていたわ、石戸家が神代家の悪い部分をカバーしなければいけないということは

だって、私が手懐ける怖い神様は本来小蒔ちゃんが降ろしているものだし

それが凶悪だからという理由で私が請け負うことになったということは聞いていたもの……でも

まさか、代わりに売られるようなことになるとは思っていなかったわ

「姉ちゃん」

「大丈夫よ……京太郎くん」

京太郎くんの優しい手を頼って握り返し、顔を見つめながら微笑むと京太郎くんもまた、小さな笑みを浮かべた


「違うわ、娘は事故で死んだのよ! 霞ちゃんだってわからなくなってしまうほどに酷い事故で!」

そんな唖然とさえしてしまいそうな大嘘を

私のお母様は鬼気迫る悲しげな叫びとともに言い放ち

「へぇ……そう。そっかぁ……そうなのね……ふぅ~ん……」

お母様は馬鹿にするようにそんな声を漏らし、口元は笑っていたけれど

瞳は全く笑っておらず、喜楽とは真逆の怒哀を感じさせた

それは、お母様なりの私の気持ちの代弁だったのかもしれない

「都姫さん」

お父様が静かに名前を呼び、お母様は首を横に振って雑念を払い、悲しげに頷く

「お姉ちゃん、そろそろ良いわ」

「……はい」

金髪の桂を外し、派手な上着を脱ぎ、中のサラシを切り取って……三家を見渡す


「え……?」

「なっ」

石戸・神代両家が驚嘆の声を漏らし、呆然と私を見つめ首を振る

それは何の動きなの? 石戸のお母様。お父様

私の存在を否定したいの? それとも……ただ驚いただけなの?

心の中で何度も問いながら、言葉を紡ぐ

「石戸霞……ただいま、帰りました」

「なん……で、だって、貴女は……」

石戸のお母様がうわごとのように呟き、当主様は石戸家を睨む

「どういうことだ!」

「っ……霞! 貴女がどうしてここに居るのよ! 説明なさい!」

「…………」

泣き叫びたい気持ちを、怒鳴り散らしたい気持ちを

私は散々抑えてきたのに、我慢してきたのに……なのにっ

今まで押さえ込んできた気持ちが爆発して

言いたい言葉さえ消えていく、怒りを通り越した悲しみに暮れて……頭の中が空っぽになっていく

睨みつけることすらできず……涙がこぼれていく

そんな私の手を握っていた京太郎くんの手が離れていき

京太郎くん自身が離れていく。お父様たちの横を通り過ぎ、石戸家の前で立ち止まると――

「っざけんな!」

怒鳴った

「アンタ達が売り飛ばしたからここにいるんだろ! 交通事故? 滅茶苦茶? 嘘ついてんじゃねーよ!」

胸倉を掴んで、強引に引き上げながら

あの温厚で、優しい京太郎くんが……怒鳴る

目上とか、大人とか、空気とかなにも気にしないで……私のために、私の気持ちを代弁する

「説明するのはそっちだろ!? 違うのかよ!」

「っく……野蛮なご子息なのだな、須賀神社当主殿!」


石戸のお父様はお母様を睨みつけながら

自分たちのことなんて棚に上げてそんなことを言い出し、お母様とお父様は顔を見合わせて、苦笑した

「何がおかしい! は、早く止め――」

「須賀神社が祀るは素戔嗚尊。彼は天命に背くような神ゆえ、息子も影響されたのでしょうね」

「ふ、ふざけ……」

「霞ちゃんがここに居るのは助けたからよ。正確には逃げ出したところを息子が助けた……じゃぁ、売られた理由は?」

お母様は問う。優しさも暖かさも微塵もない声で

それに影響されてか神代・石戸両家はびくっと震え、口を開いた

話された内容はとてもじゃないけれど受け入れられるようなものではなかった

泥酔していた時に小蒔ちゃんを賭けにしてしまったとかその時の誓約書で脅されたとか

差し出さなければもっと酷い事になっていたとか

当主様の語ることもだけど……私の元両親の言葉が一番、受け入れられないものだった

「霞ちゃんか明星ちゃんを差し出す代わりに、次期の本家にして貰う……?」

お母様が声と体を震わせながら、呟く


その震えは恐怖ではなく怒り、お母様はとんでもなくお怒りで

京太郎くんも同じかそれ以上……にも関わらず、私の心は濁りさえなく

正反対の澄んだ青空のように真っ新だった

「……なんだよそれ、アンタら一体何考えてんだよ!」

「貴方に話したところで解るわけがないわ」

石戸のお母様は悪びれる素振りさえなく言い放つ

「石戸家の先祖は神代の先祖と親を同じくしているのよ」

「だからって……」

「……これは霞。貴女も知らないことだけど――」

石戸家のお母様は京太郎くんを気にせず自分の話を進めていき

そして、衝撃的な真実を告げた
















「神代は妾の家系、石戸こそ、本家の家系だったのよ」












「え……?」

「なぜ、貴女が強力な鬼の神を憑依してなお意識を保ち、神代の娘が無意識でなければ憑依さえ出来ないのか疑問に思ったことはない?」

それは確かに疑問を持ったことはあった

でも、九面の神様という数の多さを宿しているから。と説明を受けていたし

それなら……と、私達はみんなそれを信じてきた。でも、違った?

それは全部嘘で、本当は……本当はっ……

「貴女の方が才能があるのよ。血統的には紛れもない……霧島神宮の正式な後継だから」

「ならどうして入れ替わったの?」

お母様の問いに、石戸のお母様は悲しげな表情を浮かべ

そして……真実を言う。信じがたい真実を


「数代前の本家の男がね……正妻よりも妾を取った。結果、そっちが本家となり、正妻側は当主を失い分家へと落ちたのよ」

「……………………」

みんなが黙り込む中で、京太郎くんだけが怒鳴った

「だからって霞さんを売っていい理由にはならないだろ! アンタの大事な娘なんじゃないのかよ!」

「っ……」

「本家になることがどれだけ大事なんか解らない……でも、それでもさ……絶対におかしいって俺は思う」

「………………」

「娘の人生ぶっ壊してまでならなきゃいけないようなことじゃ……絶対にない」

私には見えない京太郎くんの表情

でも、その声が悲しんでいるということを知らせるように――響いた

今日はここまでだ

乙。とりあえずパンツ履いときますね

なるほど……そういう解釈もあるのか>>神降ろし

この解釈は面白いな
本家が降ろさないものをなんで分家が、とか不思議に思ってるんだが本編で語られることはないだろうし

>>361
いや本編で霞さんは姫様の天倪(凶事を身代わりに受けるもの)って言われてるぞ
だから代わりに降ろしてる

乙です

その辺りは>>349で言ってるしな
なぜそれを手懐けられるのか
なぜ小蒔と違って意識的に可能なのか
これの理由だろう

あぁ上手く言葉が出なかった

そういった厄災の類いってルーツが同じなら一族郎党やられるだろうにって思ってたんだが、祓えるくらいなら本家がやっても問題ないんじゃね?とかそんな感じで

乙ー
これ言い方悪いけど、石戸家は神代家助けなかったら跡継ぎの姫様いなくなって本家に戻れたんじゃねーの?

理由が理由だから神代と石戸クズ過ぎる

>>366
親が生きてるしそんな確執があるなら石戸家は本家にさせて貰えないだろう
馬鹿なことした自業自得とも言えるけど

子のためなら地位を捨てられる神代家(妾)
地位のためなら子を捨てられる石戸家(本家)

の話だよな

>>367 今更過ぎるだろww

>>368
言い出したのが神代(事の発端も神代家が娘を賭けに出したこと)だし、約束を守るかも怪しいけどな
破ったところで追求できる内容じゃないし

>>370
もうすでに引き継いでそうだけどな
現当主って自分で言ってるし、現がつくってことは次代は違うって事だろうからな


「……さて」

パンッ……と、お母様の手が音を立てて

重苦しく暗い空気を切り替える

「霞ちゃんが売られてしまった理由は解ったわ。あとは、正式に取り戻さないとね」

「取り戻す……だと? 不可能だ! 彼らは金で解決したりはしない!」

「そうねえ……じゃぁ、本来あるべき形に戻せば良いんじゃないかしら」

お母様の言う本来あるべき形

頭で考えるよりも早く私の口は動き、手は畳を叩いた

「それはダメ!」

「…………」

「私がしたような経験は、小蒔ちゃんにはさせたくないっ! あんな経験、私だけでいいの!」

「でも、向こうにいるのが嫌で逃げたんでしょう? このままじゃ面倒なことになるわ」

お母様の真剣な言葉

解ってる……このまま本家分家に話して解決なんて

そんな簡単な話じゃないっていうことくらい

私が逃げたままで終わらせてくれるような人達ではないことくらい……だから

「私は戻ります……彼らのところに」

本来あるべき形に戻す。簡単なことだわ

私は売られ、彼らの元に行き、罪を冒して食べられる寸前で逃げた

だから……逃げなかった場合の、本来の形に戻せばいい

「それでどうなるか解っているの?」

「手足は確実に失うと思います……人権だとか尊厳だとかはもう、とっくに失っていますから問題ではありませんから」

なぜか、笑みがこぼれてくる

理由の解らない意味無きものであれば辛かったと思う

でも、大切で、大好きな小蒔ちゃんの為だって言うのなら……きっと大丈夫だわ


そう覚悟しているからこその笑み

けれどそれを揺さぶるかのように京太郎くんが私の肩を掴み、揺らして――

「っ……そんなの俺が許さない!」

凄い剣幕で怒鳴り、その怖い瞳を私へと向ける

その威圧感に足が震える、やっぱり止めます。と覚悟した気持ちが折られそうになる

でも、でも……

「京太郎くん、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないだろ! 全部終わったらまたみんなと笑い合うんじゃなかったのかよ!」

「それは…………」

そうしたかった。そうするつもりだった

でも、京太郎くん……私は

ゆっくりと立ち上がり、私と向き合う京太郎くんの体を抱きしめる

これが最後だと思うと……どれだけ吸い込んでも物足りなくて

どれだけ強く抱きしめても物足りなくて

体は切なさだけしか感じてはくれなくて……笑顔でいようと思った私の頬を涙が伝っていってしまった


「私はここには戻れないの」

「何言って……」

「私は行方不明とかじゃなく……死んでるのよ? きっと、戸籍上でもね」

言いながら石戸のお母様を見つめると

表情を暗くし、視線を落とす

それはきっと、否定できないからこその反応

そうよね……戸籍上生きている人間では何らかの調査でバレないとも限らない

だから、本人かも解らないほどの交通事故で死んだことにした

遺体は誰のかしら……私と同じような人? 自殺志願者? この際、それは関係のないことよね

「だから、石戸霞がここに存在するということはあってはならないの」

「勝手に殺されただけじゃないか! なのになんで霞さんが譲歩しなきゃいけないんだよ!」

「小蒔ちゃん達の為……かしらね」

そんな問題が発覚すれば、霧島神宮は終わってしまう

そうしたらほかのみんなの人生まで狂っちゃうだろうし

なにより、本家の巫女と偽っていることがバレたりしたら大変なことになるものね……

「なんだよそれ……ふざけんなよ……ふざけんな……だったら俺が――」

「京ちゃん!」

血走った瞳の京太郎くんは何かを言いかけ

静かに熱く燃える青い炎のように、お母様の声が響く

「相手は人間よ。たとえ悪魔のような人間であってもね」

「っ……」

「惚れた人の為に化物を狩れる行動力は褒めてあげる。でもね、時代がそれを許さないわ」

「惚れた人……?」

思わず呟いたその言葉に、京太郎くんは顔を赤くする

その部分が大きく印象に残ってしまうのは

やっぱり……私が京太郎くんを好きになっているからなのかしら

そう思うとこっちまで恥ずかしくなって、目を逸らしてしまった

中断

乙です

乙です

青臭くていいねぇ
なんかこの京太郎なら実行出来そうな強さがあるけど、オカルトに。

乙乙

どうなるかな

保守

ここ読んだら霞さんの同人で抜けなくなった…

投下止まったな

復活したの気付いてないんじゃ…

気付くの期待age

更新まだかな?

待っているのよ~

ほ?

おいまだか…

放置は悲しいなぁ

誰か乗っ取りでもいいから書いて

まだー

おいまだか…

エターナルフォースブリザード 相手は死ぬ

まだかー

まだー?

madaka

まだか

まってる

まってる

いつまでも待つ

待つさ!!

舞ってる

まってる

おまえら、いつまで待つ気なんだ…


俺も待つ


「じゃぁどうするんだよ……このままなんて俺は」

「解ってるわよ。正攻法で行きましょ」

そういったお母様は私を見つめると

大丈夫だからね。と優しく呟き、また両家へと目を向ける

蛇に睨まれたカエルのように

両家の……特に神代の現当主様の表情が険しくなる

「とはいえ相手の組織を訴えると霞ちゃんのお願いは叶わなくなるわ」

「……………………」

「相手を法的に潰すには霞ちゃんの存在が否応なく引きずり出されるからね」

そうなった場合

私が死んでいないということがみんなに伝わって

娼婦に身を堕としていたこともきっとばれる

それに死んだと偽った石戸家も罪に問われてきっと……


なんでここまで来てお母様達の事まで心配しているのかしら

良いじゃない別に

どうせ私の体はもう元には戻らないんだから

全部バラして、悪い人たちを全員捕まえて貰えば良いじゃない

「……ううん、出来ないわ」

どうして

「小蒔ちゃん達のため」

自分のことはいいの? こんな目に遭わされて憎いでしょう?

こんな目に合わせた人たちみんなを裁いて欲しいでしょう?

「思うわ……でも、それが小蒔ちゃん達にまで及ぶのは嫌よ……」

心の中の激昂する自分に向けて答える

きっと、世間の責め立てる言葉は無関係な小蒔ちゃんにも及ぶだって

あの子もまた……神代なのだから


「となると……別路線で行くしかないわね」

お母様は私が黙り込んだのを見て

自分の成功法ではダメだと判断したのか話を進める

「霞ちゃん以外にも過去はありそうだし、そこら辺を使って警察に引っ張る」

「だが、それは少し難しくはないか? これまで見つかっていない組織だろう?」

「見つかっていないからこそ見つかるわけには行かない。だからこそ、今は表に出てるはずよ」

お母様は私のことを一瞥し

察したお父様が「しかし……」と心配そうに零す

「……何をするつもりだ」

「献身的な娘さんの願いを叶えるのよ」

お母様の声とは裏腹に

その言葉は力強い余韻を残し、神代・石戸両家が言葉を失う








「霞ちゃんを捕まえようとしてる人たちを逆に捉えて自白させましょう」







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>>417修正








「霞ちゃんを捕まえようとしてる人たちを逆に捕らえて自白させましょう」








お母様とお父様以外の全員が全員

揃って「え?」と声を漏らす

両家はあの人達の恐ろしさを知ってる

京太郎くんもきっと、長野で見かけているから知ってる

私もまた身をもって知っているからこそ……そんなのはダメだと思った

「き、危険です!」

「危険を冒さずして、アクを裁けるとでも?」

「それは……」

お母様の瞳は冗談でもなんでもないのだと強く示し

一瞬だけ見せた笑みは不思議と安心感を抱かせた


「昔から勇者も英雄も誰も彼も、みんな危険を顧みずに戦って悪を裁いてきたわ」

唐突な語りが部屋に響き

誰も馬鹿にするような余裕もなく、呆然と言葉を聞く

「だから私たちもするのよ……無理でも無茶でもなんでも。裁く為に」

危険だと言ったのに

お母様はだからこそやるのだと言いながら笑みを浮かべる

なぜ、どうして

なんで他人であるはずの私のために……

そう思った私への答えをお母様は言う

「霞ちゃんを助けてあげたいと。大事な息子が心の底から思ってるから。かしら」


思わず京太郎くんを見つめると

京太郎くんは一瞬だけ合った視線を即座にずらしてお母様を睨む

「何言ってんだ!」

「あら、違うの?」

ニヤニヤと笑うお母様に対して

余裕のなさそうな京太郎くんは軽く頭をかいて

ちがくは……ないけど。とぼそっと呟く

聞こえないように言ったのかしら?

でも聞こえちゃったわ……京太郎くん

バレないように視線を送る

なんだかドキドキする……でも

異性だから欲情したとか、そういう不純な理由ではないような気がした


「正直、私としてはご両家も裁きたい気持ちは消えません」

「……………………」

「ですが、霞ちゃんは次世代の子供達のことを考えてそれを良しとしなかったんです」

それをしっかりと肝に銘じておいてください。と

お母様は優しく、静かに

それでいて刃物のように鋭く、厳しく言い放つ

「霞さん」

「京太郎くん……」

この場所とはお別れ

それは私がみんなを守るために必要なこと……そうでなくてもそれ以外にはない


何か言い残すことは……あったかしら

最期に何か言うこと

思った以上に何もなかった

裏切られてしまったっていう気持ちが強いからかしらね

「……お父様、お母様」

かすれ声で呼ぶと、2人は私のことを見上げる

申し訳のないといった表情

それに対しては怒りよりも悲しさや虚しさが沸く

「お世話になりました。これまで育てて頂いたこと感謝しています」

ありがとうございました。と一礼して一足先に部屋を出ていく

顔を上げた先、お母様たちの瞳が見開かれているのが見えた、震えているのが解った

「お母様……お父様……っ」

私はこれで完全に――石戸霞という名を捨てることとなった

待たせて済まなかったな。諸事情で何も出来ない状態だったんだ
まさか残っているとは思わなかった


クズ共の末路というか、お母様たちの頑張りの結果は
霞さんのモノローグで簡潔に済ませる予定
だから次の投稿で終わるかもしれん
待たせてしまった割にその程度ですまんな。構想……記憶になくて即興なんだ

すまん中断するといい忘れた
久しくてミスが目立つな

乙~ 舞ってたかいがあった

乙です


一人外へと出て、すでに懐かしく感じる本殿前へと進み出る

私はもう石戸の人間ではない

だから今は参拝客としてになっちゃうのね

「………………」

いつ見ても立派な神社よね。ここは

私がいても、いなくても

関係ないってことがよくわかる

いいことだとは思うんだけれど……ちょっと複雑ね

木々をざわつかせる少し強い風が吹く

私を偽る金髪の髪が流され、思わず目を瞑る

「…………?」

じゃりっと誰かが近づいてくる音が聞こえる

京太郎くんかもしれないと開いた瞳

映ったのは……今朝も見たあの子だった


小蒔ちゃんって叫びたかった

憔悴しきって今にも崩れてしまいそうな体を抱きしめてあげたかった

無事だからねって、やつれた頬に手を宛てがって優しく教えてあげたかった

でもそんなことが許される訳はなくて

そうするなんて訳にはいかなくて……噛み切れそうなほどに強く唇をかみしめて

強く、強く拳を握り締めて

出来るだけの笑みを浮かべ、出来るだけ他人行儀で口を開く


「……今朝も、お会いしましたよね?」

「……………………」

ぼーっとした小蒔ちゃんは何も返さずに私を見る

もしかして気づいてない?

私がいることも、自分が今どこで何をしてるかっていうのも

「ねぇ、大丈夫?」

「……? こんにちは、今体育ですか?」

はっと気付いたように瞬きした小蒔ちゃん

漏らした言葉を聞くまでもなかったけれど

いろいろとダメそうね

でも

私が失われたからこそのこの状態なのに

私にはどうしてあげることもできない


「それはわからないけど……ここは霧島神宮よ?」

「……え? あら、どうして……っ」

「………………」

ツゥーっと、小蒔ちゃんの瞳から涙が伝う

拭っても、拭ってもそれは止まらない

そこまで大事に思っててくれたのね

ありがとう、小蒔ちゃん

でもそんな無理しなくていいから

もう忘れて……前を向いて生きていって小蒔ちゃん

言いたくて言えない気持ちを抱くように小蒔ちゃんを抱きしめる

「!」

「……何があったのかは解らないけれど、そんな泣いてばかりじゃ駄目よ?」


我慢できなくて抱きしめてしまったけど

それくらいはきっと許される

勝手にそう判断してより強く抱きしめようとした私の腕……というより

胸の中? の小蒔ちゃんは紐のように垂れ下がるだけだった腕を上げて

その手で私の胸に触れる

「ちょっ……と……」

「霞ちゃんですか……?」

突き放そうとした私を止める一言

「違うわ」

「……違わないです」

否定を否定する一言

「この温かさ、この優しさ、この感触は……霞ちゃんです」

決め付ける一言

違うとは言えない。正解とも言えない。もどかしてくて唇を噛み、目を強く瞑った


「……お礼も何も言わせずにいなくなるなんて酷いです」

「……………………」

違う。違うわ小蒔ちゃん

私は石戸霞じゃないの……

ううん、私はここに居るの

否定して言いたい言葉が二つ浮かび

後者は選択肢に並ぶ段階で消えていく

「霞ちゃん……っ、霞ちゃ……ぅぅっ……っ」

ぎゅぅぅっと

私の体に回された小蒔ちゃんの腕が強く締め付ける

痛いとは感じず、拘束プレイの一種だと認識する狂った頭を振り、抱きしめ返す

否定はダメ、肯定もダメ……なら今だけは付き合ってあげても良いでしょう?

石戸霞の代理人として小蒔ちゃんの気持ちを受け止めてあげるだけ……許してください


泣き続ける小蒔ちゃんを抱きしめること数分

視界の端で京太郎くん達が本殿のところから出てくるのが見えた

……もうお別れ

最後まで付き合ってあげられなくてごめんねと

そう言おうとしたところで京太郎くんが来なくていい。と

ジェスチャーをしているのに気づく

最後まで付き合ってあげていいってことなのかしら

「……………………」

「……っ」

思わず腕に力がこもる

手放したくないけど手放さないといけない温もり

記憶と体に染み込ませるように強く抱く


それからまた少しして小蒔ちゃんが泣き止み

私の体に回っていた腕の拘束が解ける

もう少しだけ……なんてわがままはダメよね

ダメダメばかりだけど、自分の選んだことだから

「……ごめんなさい、泣きついてしまって」

「ふふっ。別に気にしないで」

ごしごしと目元を拭った小蒔ちゃんは

さっきと打って変わったすっきりとした表情を見せる

「ねぇ、その霞さんは私に似てるの?」

「そっくりです。本当に……霞ちゃん本人だって思うくらいに」

その本人なのよね。私は

とは言わずに「そっか」と、ちょっとだけ上機嫌に答える



「……そろそろ行かなくちゃ」

「もう、ですか?」

「ええ、待たせてる人がいるの……だからお別れ」

名残を惜しみながらも

小蒔ちゃんの肩に手を置いてぐっと離す

小蒔ちゃんが気持ちを吐露して

少しでも前に進む手助けが出来た

それだけでもう満足だから

「あの、ありがとうございました」

「……その霞さんのためにも、頑張ってね。これから」

「……はいっ」

いつものとはちょっと言えなかったけれど

でも、さっきまでの小蒔ちゃんからはありえないほどの明るい笑みが返る


さようなら、霧島神宮

さようなら、小蒔ちゃん

さようなら、霧島の……みんな

さようならと手を振ると

小蒔ちゃんもまた笑顔で手を振り返す

全てが変わる前

あの通学路でも同じことをしたのよね

これで、本当にお別れ。さようなら

「元気でね」

聞かせる気もなくぼそっと言い残して踵を返す

足取りは軽かった

それはきっとちゃんとしたお別れができたからでしょうね

明星ちゃんにも言いたかったけど、あの子は出来た子だから大丈夫

安心を胸に私は京太郎くんたちと共に長野へと戻った






          それからひと月の時が流れた





私を捕らえていた組織は戻ってから意外と早く捕らえる事ができた

というのも、目的である私が夜にホンの少し出歩くだけで簡単に出てきてくれた上に

かなり強引な手で捕まえようとしたために現行犯逮捕となったから

あとから聞いた話

数日経っても捕縛出来ないことから幹部の人に裁かれると思って焦っていたらしい

そしてそこから……いいとは言えない事

でも、ある意味では良かったということのできる事が次々と露わになった


良いと言えるのは、次々と犯罪が公になって組織が完全に捕まってくれたこと

その罪はかなり重く、しばらくしたら出てこれるなんていうものではないこと

良いと言えないのは罪が重くなった理由

私以外の被害者がたくさんいたこと

そしてそれが、過去形の言葉でしか言い表せないこと

なぜそれが発覚したのかというのは

遺体無き少女達の遺物……私を捕らえていた場所に

その子達が遺した物があったから

犬の部屋だって決めて衛生面を放っておいた罰だった

それらが全て終わったのが半月前、そしてその半月後である今日

私は寝坊しそうな京太郎くんの部屋へと忍び込んでいた


「京太郎くん、朝よ」

「ん……あと少し」

「京太郎くん」

昨日も遅くまで部活に勤しんでた京太郎くん

とはいえ、それは私も同じだから手加減したりはしない

というより、してたら2人揃って遅刻しちゃうのよね

「……京太郎くん! 起きなさい!」

「っはい!」

すっと息を吸っての大声に京太郎くんが飛び起きる

初美ちゃんのための起こし方だけど誰にでも効くのね。これ

「おはよう京太郎くん。準備しないと遅刻しちゃうわよ?」

「ごめん、ありがとう」

「ふふっ、じゃぁ先に下に降りてるからね」

言い残して下に降りると

すでにお母様達は出かけてしまっていて「京ちゃんをよろしくね(。・ ω<)ゞ」と書かれた手紙が机に残されていた


私は石戸霞を捨てたことで全てを失ったけれど

お母様達から新しく須賀家の一員としての名前と

清澄高校の3年生というものを頂いた

存在を失った私が学校に通うのはおかしいと言ったけれど

そんなの関係ないから。と、お母様に強引に勧められたのよね

そのあとについては

大学に行きたければ行っても良いし、行きたくなければ行かないで

須賀神社の巫女として働くという道がある

「……ここまでして頂くなんて、本当。ありがとうございます」

何度言ったかもわからない感謝を述べて

ドタバタと階段を下りてきた京太郎くんに振り返る

「そこまで慌てなくても平気よ?」

「またせたら悪いって思ったんですよ……やっぱり、ご飯食べずに待ってたみたいですしね」


「俺なんて放っておいて食べてても良いんですよ?」

「嫌よ……京太郎くんとが良いの」

「っ……そうですか」

京太郎くんは恥ずかしそうに顔をそらす

私は基本的に京太郎くんと行動することにしてる

登校や下校、お昼とか、寝るのも時々京太郎くんと一緒

男性の匂いが恋しくてとかいう理由ではなく

その方が安心できるから……だけど、

その分ドキドキしたりもする

「ね、ねぇ京太郎くん」

「な、なんですか?」

二人して空気に押し負けてぎこちない会話になっていた


「私ね……今幸せよ」

「………………」

「失ったものも沢山あったけど、得られたものも沢山あるから」

体だって所構わず発情することはなくなったし

少し前までは日に4~5回は必要だった自慰行為も

今では1日ならしなくてもしなくて平気になってきた

といっても、それは京太郎くんといる時だけなんだけどね

羞恥心が戻ってきたのか……京太郎くんの前では恥ずかしくて出来ないのよね

「……あの時京太郎くんと出会ってよかった」

自然と笑うことができる

嬉しいという気持ちで、幸せな気持ちで笑うことができる

「ありがとう、京太郎くん」

言ってから恥ずかしくなって、さっさと食べましょ。とお箸を進める


「姉ちゃ……いや、霞さん」

「ッ!」

不意に空気が変わる

姉と弟してではなく

霞と京太郎……別々の存在としての会話になると直感した

「ど、どうしたの?」

「…………………」

真剣な京太郎くんの瞳

それに合わせるような空気に高鳴る胸に手を当てる

「俺も霞さんと入れて幸せですよ……ほんと」

「そ、そう……?」

京太郎くんは止まるだけだったお箸をお椀に乗せて私をまっすぐ見つめて

そして――言う











      「だから、これからもずっと一緒にいてくれませんか?」










言葉の意味を理解した瞬間

発情してしまったかのように体が、顔がボッと熱くなって

持っていたお箸がカランっと音を立てて床に落ちる

「っ……ッ!」

なんでかしら……なんでこんなっ

嬉しい……嬉しいっ……

ポロポロとこぼれていく涙を拭う余裕もなく、京太郎くんに向かって

ただ必死に首を縦に振る

「うんっ……うんっ……一緒……一緒にいたいっ」

口と鼻を覆うように顔に手をあてがって少しだけ俯く

涙が手を濡らし、スカートに滴り

京太郎くんはそんな私にハンカチを差し出すのではなく、涙を拭いながら椅子ごと抱きしめる


こんな私なんて京太郎くんは選びはしないと思ってた

だって、そばには沢山可愛い女の子がいる

私なんかよりもずっとふさわしい子が……なのに

「俺は霞さんと一緒が良いんですよ……それが幸せなんだ」

「京太郎くん……っ」

気持ちを勝手に読み取って答えた京太郎くん

嬉しくてもう……どうしようもなくて

学校に遅刻するなんてことも忘れて……京太郎くんの温かさを体に感じて

「京太郎くん」

「…………はい」

そっと、唇を重ねると

穢れた私には勿体なさすぎる京太郎くんの純情で清らかな心が流れ込んできたように感じる

言葉にしづらい、でも敢えてするなら心の底から救われたんだと思う

穢れていると思っていた私から流れた涙は――透明だった


                    ~Happy end~


This is the end of story thank you for reading 

See you again


待ってて良かった

訊くのは野暮かもしれませんが、
清澄の霞さんは、永水の霞さんと外見の違いはあるんですか?
さすがにそのままではまずい気がするんですが。

は? 続きは?
霞ちゃん絶望のどん底に叩き落とす絶望は?
メチャクチャに凌辱される展開は?
半月待たせてこの終わりはねーだろ!!!!!!!

ハッピーエンド万歳!

乙乙
待った甲斐があった

>>453
バッドはもう書かれてんじゃん

乙です

>>456
このあとだよ!
幸せの絶頂期から叩き落とすんだ

色々と乙
京太郎イケメン

すばら!

>>458
終わらない夏休みでも読んでろ

>>458
ハッピーEDがバッドEDで現実逃避してた時の夢だとか思ってればいいんじゃねえの
他人に強要する奴は嫌われるとだけ言っておく

永水へ行った帰り、霞さんが言ってた私の秘密って何なん?

乙です!
霞さんと京ちゃんの学園生活もみてみたかった!

きちんと完結するとは思わなかった
戻って来てくれてありがとう

ありがてぇありがてぇ
このあとのほのぼのか京太郎のイチャイチャも見たいけどそれは高望みしすぎか

>>463
恐らく京太郎を好きなこと
もしくは殺されていることだな

面白かった!!
京太郎との恋愛スレあさって、これを見つけて本当に良かった

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