京太郎「穢れた体に清浄なる心を」(468)


それはもう昔の話

ううん、最近の話

あれは半月前のことかしら?

あら? 1ヶ月前のことかしら?

……時間の感覚が狂ってしまっていた

私に宛てがわれた部屋に時計はない

誰かに連絡できる携帯はない

もちろん、電話もテレビもなにもない

鉄格子のついた小さな窓と、鍵のかけられた鉄の扉

私は自由に動けない。呼ばれた時だけ部屋から出ることが許される

……思い出したわ

私がこうなってから、まだたった1週間しか経っていないのよね


――1週間前、鹿児島(石戸家)


「――え?」

部活を終え、小蒔ちゃん達といつものような会話をしながら下校して

いつもの道で分かれて、いつものように帰ってきた私

そんな私を待っていたのはお母様でもお父様でもなく

見知らぬおじ様だった


「ほう……これはこれは」

「っ……」

あからさまにいやらしい視線を向けてくるおじ様は

私の体を舐めるように見渡しながら笑う

「何か御用……でしょうか?」

「あぁ、実はキミを買ったのだ」

――買った?

その言葉の違和感に私は言葉を失い

おじ様から目をそらし、自分の体を抱きしめた

言葉の意味は解る。でも、意味が解らない

買ったということは売られた?

私の意思は関係なく……売られ、買われた?


「じゃぁどうするんだよ……このままなんて俺は」

「解ってるわよ。正攻法で行きましょ」

そういったお母様は私を見つめると

大丈夫だからね。と優しく呟き、また両家へと目を向ける

蛇に睨まれたカエルのように

両家の……特に神代の現当主様の表情が険しくなる

「とはいえ相手の組織を訴えると霞ちゃんのお願いは叶わなくなるわ」

「……………………」

「相手を法的に潰すには霞ちゃんの存在が否応なく引きずり出されるからね」

そうなった場合

私が死んでいないということがみんなに伝わって

娼婦に身を堕としていたこともきっとばれる

それに死んだと偽った石戸家も罪に問われてきっと……


なんでここまで来てお母様達の事まで心配しているのかしら

良いじゃない別に

どうせ私の体はもう元には戻らないんだから

全部バラして、悪い人たちを全員捕まえて貰えば良いじゃない

「……ううん、出来ないわ」

どうして

「小蒔ちゃん達のため」

自分のことはいいの? こんな目に遭わされて憎いでしょう?

こんな目に合わせた人たちみんなを裁いて欲しいでしょう?

「思うわ……でも、それが小蒔ちゃん達にまで及ぶのは嫌よ……」

心の中の激昂する自分に向けて答える

きっと、世間の責め立てる言葉は無関係な小蒔ちゃんにも及ぶだって

あの子もまた……神代なのだから


「となると……別路線で行くしかないわね」

お母様は私が黙り込んだのを見て

自分の成功法ではダメだと判断したのか話を進める

「霞ちゃん以外にも過去はありそうだし、そこら辺を使って警察に引っ張る」

「だが、それは少し難しくはないか? これまで見つかっていない組織だろう?」

「見つかっていないからこそ見つかるわけには行かない。だからこそ、今は表に出てるはずよ」

お母様は私のことを一瞥し

察したお父様が「しかし……」と心配そうに零す

「……何をするつもりだ」

「献身的な娘さんの願いを叶えるのよ」

お母様の声とは裏腹に

その言葉は力強い余韻を残し、神代・石戸両家が言葉を失う








「霞ちゃんを捕まえようとしてる人たちを逆に捉えて自白させましょう」







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>>417修正








「霞ちゃんを捕まえようとしてる人たちを逆に捕らえて自白させましょう」








お母様とお父様以外の全員が全員

揃って「え?」と声を漏らす

両家はあの人達の恐ろしさを知ってる

京太郎くんもきっと、長野で見かけているから知ってる

私もまた身をもって知っているからこそ……そんなのはダメだと思った

「き、危険です!」

「危険を冒さずして、アクを裁けるとでも?」

「それは……」

お母様の瞳は冗談でもなんでもないのだと強く示し

一瞬だけ見せた笑みは不思議と安心感を抱かせた


「昔から勇者も英雄も誰も彼も、みんな危険を顧みずに戦って悪を裁いてきたわ」

唐突な語りが部屋に響き

誰も馬鹿にするような余裕もなく、呆然と言葉を聞く

「だから私たちもするのよ……無理でも無茶でもなんでも。裁く為に」

危険だと言ったのに

お母様はだからこそやるのだと言いながら笑みを浮かべる

なぜ、どうして

なんで他人であるはずの私のために……

そう思った私への答えをお母様は言う

「霞ちゃんを助けてあげたいと。大事な息子が心の底から思ってるから。かしら」


思わず京太郎くんを見つめると

京太郎くんは一瞬だけ合った視線を即座にずらしてお母様を睨む

「何言ってんだ!」

「あら、違うの?」

ニヤニヤと笑うお母様に対して

余裕のなさそうな京太郎くんは軽く頭をかいて

ちがくは……ないけど。とぼそっと呟く

聞こえないように言ったのかしら?

でも聞こえちゃったわ……京太郎くん

バレないように視線を送る

なんだかドキドキする……でも

異性だから欲情したとか、そういう不純な理由ではないような気がした


「正直、私としてはご両家も裁きたい気持ちは消えません」

「……………………」

「ですが、霞ちゃんは次世代の子供達のことを考えてそれを良しとしなかったんです」

それをしっかりと肝に銘じておいてください。と

お母様は優しく、静かに

それでいて刃物のように鋭く、厳しく言い放つ

「霞さん」

「京太郎くん……」

この場所とはお別れ

それは私がみんなを守るために必要なこと……そうでなくてもそれ以外にはない


何か言い残すことは……あったかしら

最期に何か言うこと

思った以上に何もなかった

裏切られてしまったっていう気持ちが強いからかしらね

「……お父様、お母様」

かすれ声で呼ぶと、2人は私のことを見上げる

申し訳のないといった表情

それに対しては怒りよりも悲しさや虚しさが沸く

「お世話になりました。これまで育てて頂いたこと感謝しています」

ありがとうございました。と一礼して一足先に部屋を出ていく

顔を上げた先、お母様たちの瞳が見開かれているのが見えた、震えているのが解った

「お母様……お父様……っ」

私はこれで完全に――石戸霞という名を捨てることとなった

待たせて済まなかったな。諸事情で何も出来ない状態だったんだ
まさか残っているとは思わなかった


クズ共の末路というか、お母様たちの頑張りの結果は
霞さんのモノローグで簡潔に済ませる予定
だから次の投稿で終わるかもしれん
待たせてしまった割にその程度ですまんな。構想……記憶になくて即興なんだ

すまん中断するといい忘れた
久しくてミスが目立つな

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