盗賊「な、なにを……!」
剣士「震えてるのがよくわかるよ。切っ先がブレブレだ」
盗賊「そ、そんなことはない!」
剣士「碌に剣も握ったことないな、あんた」
盗賊「う、うるさいッ。お前の与太になんか付き合ってられるか!」
剣士「剣は素人、斬りかかる気概もないんじゃな……」
剣士「こっちも斬る気がしないよ」ヤレヤレ
盗賊「ば、バカにして……! うああああああーっ!」
剣士「……」ヒョイッ
盗賊「ひゃあっ!」ズテンッ
剣士「足元がお留守だよ」
盗賊「う、うう……鼻うった」
剣士「そりゃ顔から落ちればな」
盗賊「ち、ちっくしょう……なんなんだよ……」
剣士「さて、狼藉者の顔でも見せてもらいますかね」
盗賊「あ、やめ……ッ!」
剣士「聞く耳持たん」スッ
盗賊「あぅ……」ピョコン
剣士「……耳」
盗賊「くっ……!」
剣士「お前さん、ライカンスロープか……」
盗賊「殺せよ、人間! この耳を見られた以上、覚悟は出来てる!」
剣士「あんたね……人間がいつまで亜人族を弾圧してきたと思ってるんだよ」
盗賊「今も昔も、ずっとずっとだろう!」
剣士「とっくにんな差別は消え去ってるよ。どんな田舎から出てきたんだ……」
盗賊「え、ええ……?」
剣士「どうして人里に下りてきたかは知らないけど、少しは世の中を勉強しなよ」
盗賊「……そんな、まさか……いや、しかし……」
剣士「……」
剣士「はぁ……」
剣士「見てられないなあ……」
剣士「なああんた、これから行く当てはあるのか?」
盗賊「ないよ。あるわけないだろう。賊に身を堕とした奴に」
剣士「だよな。実を言うと俺もないんだ」
盗賊「何が言いたいんだよ、人間」
剣士「大した事じゃない。もし良ければ一緒に旅しないかって提案さ」
盗賊「旅ィ?」
剣士「気ままな旅さ。ただぶらぶらと大陸中を巡るんだ」
剣士「でもこれが一人じゃつまらないからな。話し相手と華が欲しいんだ」
剣士「あんたは結構べっぴんだしさ」
盗賊「……私にメリットはあるのかよ?」
剣士「一人よりは楽しいぜ。あと路銀にちょっと余裕が出来る」
盗賊「…………」
盗賊「次にお前が立ち寄る街までだったら、ついていってやる」
剣士「ああ、それで構わない」
盗賊「……もし変な気でも起こしてみろ。すぐに噛み千切ってやるぞ、人間」
剣士「さすがはライカン、おーこわ」
盗賊「バカにして……」
剣士「で、あんた名前は?」
盗賊「一族の真名は人間には発音出来ない。好きに呼べばいいだろ」
剣士「じゃ盗賊で良いか。俺は剣士だ」
盗賊「興味ないね。人間は人間だ」
剣士「……ま、いいけどさ」
剣士「なあ嬢ちゃん、どうして人里に下りてきたんだ?」
盗賊「……」
剣士「ライカンは山や森の奥で静かに暮らしてるって聞くし」
盗賊「……」
剣士「郷から出てくるのは滅多にないんじゃなかったか」
盗賊「……その郷がなくなったら、出てくる他ないだろ」
剣士「……ああ、なるほど」
盗賊「同情なんかいらないからな。人間からの同情なんて」
剣士「はいはい」
盗賊「……」
剣士(……山賊か何かにやられたんだろうか?)
おもしろそう
【街】
剣士「お、なんだかんだすぐに着いちまったなあ」
盗賊「フン……それじゃあな、人間」スタスタ
剣士「おいおい、待てよ。どこ行くのさ」
盗賊「適当に歩くよ」
剣士「金も持たずに?」
盗賊「ああ」
剣士「賊に身をやつして路銀を稼ぐってかい?」
盗賊「……」
剣士「お天道様に顔向けできないなあ……」
盗賊「じゃあお前が金をくれるのかよ? ええ?」
剣士「一緒に旅すりゃ、路銀の心配はないって言ったろ」
盗賊「う……」
剣士「十分なメリットだと思うけど」
盗賊「……くそっ、つきあってやりゃ良いんだろ! 人間め!」
【酒場】
盗賊「で? この街で何をするんだよ」
剣士「何も」
盗賊「はぁ……?」
剣士「気が向いたら飲みに出るし、気が向いたら金を稼ぎに行く」
剣士「気が向いたら色街に出て行くし、気が向いたらずっと宿で寝てる」
剣士「そんなもんだよ」
盗賊「……付き合ってられないよ」スタスタ
剣士「どこ行くんだ? 街から出たらあんた行き倒れだぜ?」
盗賊「夜風に当たる!」
剣士「……」
客A「おい聞いたか?」
客B「あん? なにをだ?」
客A「最近噂になってるだろ、夜盗の話」
客B「ああ……金持ちの屋敷に忍び込んでは貧しい奴らに配って回る義賊サマか!」
客A「なんでもこの街の貴族様が次の標的とか聞いたぜ」
客B「はー……俺達にもおこぼれ貰えるのかね?」
客A「ははは、望み薄だな」
剣士(へー……)
剣士「さってと……盗賊はどこかな」
ボカッドカッバキッ
剣士「穏やかじゃない音だなぁ……」
剣士「……」スタスタ
ドガッ
盗賊「……誇り高いライカンの耳に手を伸ばして、ただですむと思うなよ」ギロッ
町人「う、うぅ……」ズタボロ
剣士「おいおい……なにしてんだよ嬢ちゃん」
盗賊「……なんだ、人間か」
剣士「そこでズタボロになってんのも人間だけどな」
盗賊「こいつら、私の耳を触ってきたからな。半殺しにしている」
剣士「……無知は罪、っちゃあ罪だけど……」
剣士「にしたってやり過ぎだ」
盗賊「ライカンの耳を触ったんだ、こいつは。半殺しに決まっている!」
剣士「落ち着け」サワッ
盗賊「ひゃああっ!?」ビクンッ
剣士「うおっ」
盗賊「人間、お前も半殺しにされたいのか! ええ!?」
剣士「あんた、全方位に牙剥きすぎだ。ちょっと落ち着け」
盗賊「よ、よくもライカンの耳を……この……ッ」
剣士「はいはい、とっととずらかるぞ」
盗賊「待て、話は終わってない!」バッ
剣士「……」ヒョイッ
盗賊「ふぎゃっ!」
剣士「動きが直線的すぎるんだよ……」
展開何も考えてねー
寝る 付き合ってくれて有り難う
乙
期待してる
【宿】
盗賊「同じ部屋だと? 舐めてるのか? 噛み切られたいか!」
剣士「あのな、路銀だって無尽蔵にあるワケじゃないんだ」
剣士「節約出来るところは節約する。これが旅の鉄則」
剣士「そもそも同じ部屋だがベッドは二つあるだろうが」
盗賊「ぐぬぬ……」
剣士「はい、それじゃおやすみ。明日はお仕事だ」
盗賊「仕事? 気が向かなきゃやらないんじゃなかったのか」
剣士「気が向いたんだよ」
盗賊「……」
盗賊「くそ……どうも調子が狂う」
盗賊「おい人間、そのベッドから手足の一寸でもこちらに飛び出させてみろ」
盗賊「問答無用で噛み千切ってやるぞ。ライカンの牙は貴様の柔肉などいとも容易くだな……」
剣士「……」スヤスヤ
盗賊「こいつ……」
盗賊「……変な奴だな……」
盗賊「なんなんだ、まったく……」
盗賊「…………」
盗賊「……」スヤスヤ
期待
はげ
支援
続きはよ
支援
つづきおねがいします
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