鬼姫「早く来ないかしら」 (37)
「痛い? それとも、気持ちいい?」
笑ってんじゃねえ馬鹿野郎!! 痛いに決まってんだろうが!!
クソ女め、答えられねぇの分かってて聞いてやがるな。
人を痛めつけて何が楽しいんだよ。畜生め、給料良いからって、こんな所に来るんじゃなかった。
大体、こんなのが見つかったら、この女だってタダじゃ済まない筈だ。
「その目、最高だわ。とっても、ゾグゾクする」
死ね。拷問好きの変態女め。
此処へ来て初めて会った時は、淑やかで美しい女性だと感じたよ。
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正直、見惚れた。
こんなに美しい女性がいるものかと、目を丸くして驚いたさ。
でも、現実はこれだ。
「ふふっ、次は……」
女ってのは怖い生き物だよ、本当に。
男は馬鹿だ。
見た目や上っ面に、まんまと騙される。いや、オレだけなのかもしれないが。
五日前に地下へ連れられてから、その美しさは剥がれ落ち、抱いていた全ての想いは憎しみに変わった。
貴方に大事な話しがあるの……なんて言われて、心躍らせてた自分が情けない。
今や、頭の中で何度殺したか分からない。
「姫様、奴が到着しました」
「あらそう、思ったより早かったわね。ごめんね? もう行かないと……」
二度と来んな、そんで死ね。
つーかこっから出せ、クソったれが。
「やっぱり素敵」
触んな、顔掴むな、目玉を舐めるな。
手下が待ってるぞ、さっさと服着て出てけ、変態。
「すぐに戻るから。少しだけ待ってて、ね?」
やっと行きやがった。
あぁ畜生、体中が酷く痛む。とてもじゃないが、人に見せられる体じゃない。
『その目、最高だわ。とっても、ゾグゾクするの』
オレは、小さい頃から目つきが悪いと言われてきた。
それを好きだと言ってくれた唯一の人は絶世の美女で、拷問好きの変態。
何だそれ? ふざけんな。オレが何かしたのか?
それでもこんな目に遭うのが、不幸ってやつか。
不幸っつーか、理不尽だろ。
死なずに済んでんのは、あの女がオレを気に入ってるからに過ぎない。
はぁ、普通に愛してくれりゃあ、最高だったのにな。
ーーーーーー
「鬼姫よ、お主も遂に結婚か。知らせを聞いた時は驚いたぞ」
鬼姫「魔王様自ら来て下さるなんて……有り難き幸せに御座います」
魔王「良い、お主の父には世話になった」
魔王「奴自身に恩は返せないが、せめて、お主の式を盛大に祝ってやりたいのじゃ」
結婚なんてしない。
私は家庭なんて欲しくない。欲しいのは、そんな下らない物じゃないの。
老いぼれの魔王様、貴方が作り上げた人間との和平、それも今日でお終り。
これからは、暴力が支配するの。
地下拷問部屋
「ーー!! ーー!!」
やっぱ、ダメだ。
どんだけ叫んでも声が出ねぇ、あの女が珍妙な力で声を奪ったせいだ。
喉を潰されたわけじゃねぇのに、これが魔法ってやつか?
ん? 何か、上が騒がしいな。
この部屋にまで響くなんて相当だぞ、爆弾でも爆発したのか?
それとも、拷問趣味がバレて踏み込まれたのか?
いいぞ、派手にやっちまえ。
出来れば死んで欲しい、爆弾如きで死ぬ奴じゃないだろうが。
「ーーー!?」
何だ何だ何だ!?
何かが、落ちて来やがった!! 屋敷から地下まで突き抜けて来たのか!?
つーか、煙が酷過ぎて、落ちてきたのが何なのか分からねえ。
「誰か、おるのか?」
人!? あり得ねえだろ、普通なら原型留められる筈が無い。
ここに落ちるまでに、皮膚やら肉やらが削ぎ落とされてズタボロ……って事は、魔族か?
上で一体何があったんだ?
「死体、ではないな。時間が無い……賭けるしかあるまい」
「ーーー!! ーーーーー!!」
何だ畜生!! 何かが、何かが入って来やがる!!
うえっ、気持ちわりぃ、吐きそうだ。
クソッ、何しやがった!!
「もう少しで終わる。辛抱してくれ」
ふざけんな!! すっげえ痛いんだぞ!! せめて何してんのか教えろ!!
クソッ、吐き気の次は、中が熱い、体が燃えるみてえだ。
「儂の魔力を、全て与えた。その力を以て、鬼姫を打ち倒してく……れ」
この爺さん、読心術でも使えんのか?
それは兎も角、鬼姫……あぁ、あの変態女か。
あの女を倒せ? ああ良いさ、殺しても構わねえならな。
たが今じゃねえ、魔力とやらの使い方も分からねえのに戦いを挑んでも、負けんのがオチだ。
つーか、爺さんの魔力で勝てるかも怪しい。
取り敢えず、此処を出ないと始まらねえな。
魔族領・貧困街
何とか抜け出せた。そこかしこで戦闘が始まってたのが好都合だったな。
あの爺さんは結構な要人だったのか? まあ、今はいい。
追っ手は居ないが、魔族領にいる限り安全とは言えない。
人間領まで行ければなんとかなるか? いや、見てくれはゾンビみてえなもんだ。
化け物だと思われて兵士に殺されるかも分かんねぇしな。
何しろ声出せないのがキツい。
取り敢えず、ぼろ切れでも羽織って夜を待つか……
魔族領・森林
魔物「ギャアッ!!」
なる程、なる程な。
確かに前とは違う、内から力が溢れてくるのが分かる。
以前なら、魔物なんて怖くて怖くて仕方なかったのに、今は全然だ。
魔物に怯えずに暮らせるなんて、魔族ってのは幸せだな。
さっさとあの変態女を殺せりゃあ最高なんだが、魔法も使えないんじゃ話しにならない。
どんなに汚い手段を使っても、必ず追い詰めて、殺してやる。
魔族領・鬼姫の屋敷
鬼姫「今頃、彼は牙を研いでるのよね……はぁ、待ち遠しいわ」
側近「本当に、逃がして良かったのですか? 危険なのでは?」
鬼姫「貴女は分かってないわね。それが良いのよ。彼は、必ず私を殺しに来るわ」
鬼姫「それまでは、平和呆けした各地の領主を潰して行けば良い」
鬼姫「人間は関与して来ないでしょうし、私も人間に手出ししないわ。此方が片付くまでの間だけれど」
側近「全く、相変わらずですね」
鬼姫「なにが相変わらずなのかしら?」
側近「相変わらず、狂っておられます」
鬼姫「あら、酷いわね。私はやりたい事をやっているだけよ?」
側近「でしょうね。女の私に、あの男の声を与えるなんて事、普通はしませんし」
側近「ですが、それが強き者の特権。間違ってはいないでしょう」
鬼姫「そうね、強さが正しさ。私は、誰よりも正しくて、強いのよ……」
終わり
終わりとかまたまた冗談を
今日の投下はってことでしょ……だよね?
魔族領・山中
魔狼「くぅーん」
あれから二週間経った。
オレは、未だ魔族領で呑気に魔法の練習中だ。
その間に出来た友達が、この狼。
魔物だが、ふかふかしてて、中々可愛い。
オレを見て悲鳴を上げる奴等とは、全然違うな。
魔狼「グルルル……」
大丈夫だ。何も怖く無い、安心しろ。
魔狼「…………」
よし、偉いぞ。
依然、追っ手は来ない。それはいいんだが、外がやけに騒がしい。
人間領には、出れそうにないな。まあ、出るつもりもないが。
外がああだから、こいつも気が立ってるんだろうな。
あの変態女が戦でもおっ始めやがったのかも……
魔狼「……!!」ピクッ
ん、どうした? 魔物か?
「おっ、本当にゾンビがいやがった」
魔狼「ガルルルッ……」
「うおっ!? ず、随分でけぇのを従えてんな……」
待て、話しを聞いてからだ。オレ達の練習成果を見せてやろう。
行くぞ……集中、集中しろ。
魔狼「「 オマエは、だれダ? 」」
チッ、やっぱ、まだ不安定だな。
ドガンッとか入れても大丈夫? 後、早めに終わると思う。
ーーーーー
魔狼「「 それハ本当か? 」」
トロール「ああ、本当だ。魔族領は鬼姫の所為で滅茶苦茶さ」
トロール「二週間で、多くの領主がやられちまったよ。オレ等の親方もな……」
魔狼「「 デ? こんなゾンビになんの用だ? 」」
トロール「力を貸してくれ、仇を取って欲しいんだ」
トロール「此処に居座ってた魔物を退治したのはアンタだろ?」
魔狼「「 そうだケドよ、あんな魔物なんテ 」」
トロール「あんな魔物だって? オレ達だって手を焼く魔物だぞ?」
トロール「それを、アンタは二週間足らずで全滅させたんだ」
トロール「だから、その力を貸して欲しい」
魔狼「「 仇ハ取れるか分かんねェが、鬼姫の居所は分かるのカ? 」」
トロール「それは、協力してくれると受け取って良いのか?」
魔狼「「 アあ、オレは、鬼姫殺せりゃあいいんだカラな 」」
トロール「……そうか、じゃあ、付いてきてくれ」
魔狼「「 マテ 」」
トロール「ん? ッ!!」
ザヒュッ……ドサッ…
トロール「……ッ、片腕で、満足か?」ボタボタッ
トロール「信じてくれるなら、目玉だってくれてやる」グッ
魔狼「「 イや、悪かった 」」
シュウウウ……
トロール「腕が……これは、幻惑の法か?」
魔狼「「 そうイウのか、つーカ、オレの傷治せる? 」」
トロール「そんな高等魔法使えるのに、回復の法は使えないのか?」
トロール「今から向かう場所にはエルフも居る。何とか出来るさ」
魔狼「「 えるふカァ…… 」」
二週間前、森で話し掛けたら逃げられたんだよな。だから、この山に来たんだっけ。
見た目ゾンビじゃ、仕方ねえのかもな。
ーーーー
ーー
エルフ「済まないが、無理だ」
魔狼「「 エ? なんで? 」」
エルフ「そういう風にされている。状態を維持されているような感じだ」
魔狼「「 維持ネ、まあいいや 」」
あの変態女を殺せば良いんだ。姿格好は関係無い。
まあ、体が痛いのは変わりない。
トロール「オレ達が道を開く。後は頼むぜ?」
魔狼「「 なあ、鬼姫は強イのか? 」」
トロール「殆ど鬼姫一人で殺ったようなもんだ。間違い無く強い」
エルフ「我々は、主によって逃がされたに過ぎない。魔王様も……亡くなられたよ」
魔族の王様まで殺したのか、あの変態。
そりゃあ強いんだろうな。
まあ、話しを聞くに、この連合軍で一番強いのはオレらしいし、居場所も分かってる。
後はコイツ等に着いて行くだけだ。
鬼姫「あら、遅かったわね。牙は十分に研いできた?」
黙れクソ野郎。
人を散々傷付けた変態女、殺しに快楽を得る殺人狂が。
普通にやって勝てる相手じゃねえのは、何となく分かる。
まあ、勝てりゃあ良いんだ。
鬼姫「楽しみにしていたのに、何て芸の無い……」
ドッ!! ガガガガガガッ!!
鬼姫「けほっ、けほっ。全ての魔力を使った爆裂の法」
鬼姫「死体は、何処かしら? 残っていれば良いけれど……」
魔狼「「 死ネ 」」
鬼姫「えっ?」
ドブッ……ズルリ……
鬼姫「そう……最初か…ら」
お前には、髪の毛一本やらねえよ……
死に姿は、まあまあ綺麗だな。
「そう? ありがと」ニコッ
「鬼姫ッ……あれ、声、何で……」
ギュッ…
「もう離さない。貴男の全て、髪の毛一本まで、全部私の物」
「貴男の瞳が、私を狂わせたのよ?」
「ふざけんな、離せ変態。お前は間違ってる。お前の全てが、間違ってる」
「私は間違って無いわ」
「だって、この世界で唯一正しいのは、私なのだから」
終わり
乙ー
「今日」は終わりだろ?
紛らわしいじゃないか
あの御方は、未だ、何かを求めているかのようだ。
魔族領も人間領も、全ての枠を暴力で破壊して、全てを手に入れたのに。
決して強欲という風では無い。
今や城から一切出ず、たまに天守から外を眺めるだけだ。
誰と誰が争った、反乱軍が組織されている等々。
そんな話しを聞いても、あの御方は一切動かない。
自身の作り上げた世界に、望んだ世界に、興味が無いのだろうか?
あの御方にとって、世界すら玩具に過ぎないのだろうか?
あれ程の力を持っていれば、分からない話しでは無い。
強き者のみが持つ虚しさ、なのかもしれない。
私如きには想像も出来ないが、あの御方は、寂しいのだろう。
だが、ある時から、笑う事が多くなった。
たった一つの、それも眉唾物の情報が、あの御方の心に何かを灯したのだ。
それは、屍の王と呼ばれる男の噂。
傍らに魔狼を従え、桁外れの魔力を持ち、あの御方に戦いを挑む時を待っているらしい。
それを聞いた時の、あの御方の表情は、今でも忘れられない。
強き者は、美しい。
私は、改めてそれを知った。
あの御方は、力の化身であり、美そのものだ。
屍の王が実在し、如何に凄まじい力を持っていたとしても、あの御方には及ばない。
あの御方は世界であり、万物の理なのだ。
「ふふっ、待ち遠しいわ」
「あら、今日も来ないのね……」
「今でも、貴男が来るのを待っているわ」
「あの瞳を見られるのなら、何年、何百年だって……」
「あぁ、早く来ないかしら」
「私だけを憎む瞳、私を狂わせる瞳を、早く見せて……」
男と鬼姫のかつての関係が気になるな。
凄くそそる
待ってる
復活
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