三匹の子豚「オオカミに負けない家を作ろう!」(49)

親元から離れ、独立することになった子豚三兄弟。

長男ブタが、弟二匹に注意をうながす。

長男ブタ「我が弟たちよ!」ブヒッ

長男ブタ「これから我々ははなればなれで暮らすことになるが──」

長男ブタ「我々子豚は、常に捕食者から狙われている!」

長男ブタ「特にオオカミには注意を払わねばならん!」

長男ブタ「各自、棲み家は捕食者に負けないようなものを作るようにな!」ブヒッ

次男ブタ「フッ、十分承知していますよ、兄さん」ブヒョッ

三男ブタ「う、うん! 分かったよ、兄ちゃん!」ブー…

どのような家にするか、思案する子豚たち。

長男ブタ「我が力をもってすれば──」

長男ブタ「オオカミに負けぬどころか、打倒する家を作ることも容易い……!」



次男ブタ「フフフッ、簡単なハナシです」

次男ブタ「ようするにオオカミが近づけないようにすればいいんですから」



三男ブタ「どうしよっかな……」

三男ブタ「とりあえず、材質にこだわってみようかな……」

一ヶ月後──

子豚たちの独立を聞きつけたオオカミが、ついに動き出す。

オオカミ「ぐへへへ……」ジュルリ…

オオカミ「いい情報を手に入れたぜぇ……」

オオカミ「ガキとはいえ、ブタは食いでがあるからなぁ」

オオカミ「三匹とも、このオレ様がいただいてやる!」

オオカミ「さぁて、まずは長男から食ってやるとするか……」ジュルリ…

長男ブタの住所を調べ、近くまでやってきたオオカミ。

オオカミ「ここら辺のはずだが……」

オオカミ「!?」

オオカミ「なんだありゃあ……!?」

オオカミ(あちこちにレーダーが張り巡らされ)

オオカミ(兵隊があちこちをうろついてやがる……!)

オオカミ「ま、まるで要塞じゃねえか!」

長男ブタ宅 司令室──

側近「司令、エネミー“狼(ウルフ)”の接近を確認、ただちに排除させます」

長男ブタ「うむ、頼んだぞ」

長男ブタ(ようやく来たか……オオカミ)

長男ブタ(あのオオカミはブタが好物で、今までも沢山の同胞を殺されている)

長男ブタ(キサマとの因縁、今日ここで断ち切ってくれるわ!)

長男ブタ(5平方キロメートルという膨大な敷地を持つ我が家……)

長男ブタ(周囲には無数のレーダーが張り巡らされ、外敵の接近は容易にキャッチする!)

長男ブタ(さらに家をA~Hまでの8ブロックに分け)

長男ブタ(約30000名の兵士を機能的に配備!)

長男ブタ(各ブロック間での連絡、連携はスムーズにいくようになっている)

長男ブタ(しかも、我輩の部屋の周囲は最強の部下である“四天王”が守護)

長男ブタ(つまり、オオカミが我輩のもとまで来られる確率は……0パーセント!)

長男ブタ(いや……我が家に入れる確率からして0パーセントだがな)

外ではオオカミに対する一斉射撃が始まっていた。

隊長「撃て撃てぇ~い!」ガガガガガッ

兵士A「ヒャッハ~!」ガガガガガッ

兵士B「この家には入れさせん!」ガガガガガッ

兵士C「喰らえッ!」ボシュッ…

ズドォォォォォンッ!

ロケットランチャーの弾丸がオオカミに命中した。

隊長「や、やったか……!?」

モワモワモワ……

オオカミ「ふん……この程度かよ」モワモワ…

隊長「な、なんだと!?」

オオカミ「マシンガンやロケットランチャーぐらいじゃ、オレ様は倒せねえよ」

オオカミ「てめえら全員……噛み殺してやる!」

ヒュッ!

隊長「き、消えた!?」

ザシュッ! ザシィッ! ズシャァッ!

入り口を守っていた警備兵、約1000名はあっという間に全滅した。

司令室──

長男ブタ「な、なんだと!? オオカミの侵入を許しただと!?」

側近「申し訳ありません……」

長男ブタ「まぁよい、この家にはまだ約3万の兵士がおるのだ」

長男ブタ「これを突破できるわけが──」

『し、司令官……こちらAブロック!』

『“狼(ウルフ)”の猛攻で、Aブロックはほぼ壊滅……』

『うっ、うわぁぁぁぁぁっ!』

『ザザッ……ガガッ……』

『…………』プツッ…

長男ブタ(侵入されてからまだ五分も経っておらんというのに!?)

『こちらCブロック! 大至急応援を……ぐわああああっ!』

『Fブロッ……ク……ぜ、全滅……』

『Eブロック、八割の兵士を損耗!』

『こちらBブロック! ただちにEブロックに救援を向かわせ──ぎゃああああっ!』

『司令……Dブロック突破され、ました……もう、しわけ……』

『Hブロック……“狼(ウルフ)”により私以外、全員……がはっ!』

長男ブタ「なんということだ……!」

長男ブタ「そうだ、残るGブロックは!?」

側近「先ほどから連絡が取れません……おそらくすでに……!」

長男ブタ「…………!」

長男ブタ(だが……心配無用!)

長男ブタ(四天王がいる限り、この部屋には絶対たどり着けん!)

長男ブタ「大至急、四天王と通信をつなげ!」

側近「はっ!」

ライオン『四天王リーダー、ライオンです』

長男ブタ「おお、ライオンか!」

長男ブタ「侵入者の情報は入っていよう。必ずやオオカミを葬り去ってくれ!」

ライオン『いえ、それは不可能です』

長男ブタ「?」

ライオン『なぜなら、トラ、カバ、ゾウは“狼(ウルフ)”にあっけなく殺され』

ライオン『私もすでに死んでいるからです』

長男ブタ「死んでるって、しゃべってるではないか!」

ライオン『れ、れ、れ……れおっ!』ドッパァァァン

ライオンの頭部が破裂したような音を最後に、通信が途絶えた。

長男ブタ「もしもし!? ……もしもし!? どうした!?」

側近「オオカミに秘孔を突かれていたようですね……」ゴクッ…

長男ブタ(3万の兵士と四天王が、15分足らずで全滅するとは……!)

側近「ど、どうしましょう!」

長男ブタ「うろたえるな、この司令室は核シェルターより頑丈だ!」

側近「そっ、そうですよね!」

直後──

ボゴォッ! ガシィッ……!

壁を破壊して伸びてきた手が、側近の頭をわし掴みにし──

グシャンッ!

頭を砕いた。

長男ブタ「ま、まさか……!?」

オオカミ「ぐへへへ……ここが司令室か」ジュルリ…

長男ブタ「オオカミ!?」

オオカミ「あの程度の兵器と兵力じゃ、オレ様にかすり傷も負わせられないぜ?」

長男ブタ「ま、待ってくれ! どうだ、我が兵士にならんか!?」

長男ブタ「金だって食い物だって、いくらでもくれてやる!」ブヒッ

オオカミ「いいや、金も食い物もいらねえよ」

オオカミ「オレ様がここまで来たのは」

オオカミ「お前を食べるためさあああああああ!!!」





ギャアァァァァァ……

長男ブタの死は、次男ブタの家にも伝わった。

次男ブタ「兄さん……!」ブヒョッ

次男ブタ(やはり忠告しておくべきでした)

次男ブタ(どんなに財力や武力があっても、オオカミと対決してはならないと!)

次男ブタ(しょせん私たちは食べられる側の動物なのですから……)

次男ブタ(とはいえ、兄さんの死を悲しんでいる暇はありません)

次男ブタ(もうまもなく、食事を終えたオオカミはここにやってくるでしょう)

次男ブタ(対オオカミ用に建てたこの家を、活用しなくては!)

オオカミ「ぐへへへ……なかなかいい味のブタだったぜ」

オオカミ「さぁてお次は、次男のブタをいただくとするか」ジュルリ…

オオカミ「……あれが次男の家だな?」

オオカミ「要塞だった長男の家に比べ、ずいぶんちっこいじゃねえか」

オオカミ「こいつはちょろそうだ!」ダッ

オオカミ(一気に侵入して、中でおびえてるブタを喰らってやる!)

オオカミが次男宅に近づくと、突然家が走り出した。

ギュアッ!

オオカミ「!?」

オオカミ(なんだ今のは!? オレ様が近づいたら家が逃げやがった!)

オオカミ「待ちやがれえっ!」ダッ

ギュアアアッ!

オオカミ「なんだとォ!?」

オオカミ(時速200kmは軽く出てやがる……!)

次男ブタ(無駄ですよ、オオカミ)

次男ブタ(兄さんの家が巨大要塞なら、私の家は移動要塞!)ブヒョッ

次男ブタ(私は地上最速の獣チーターに追われても平気なよう、この家を作りました)

次男ブタ(この家に追いつける者など存在しな──)チラッ

次男ブタが窓を見ると、オオカミが並走していた。

次男ブタ「いっ!?」

オオカミ「ぐへへへ……」シュタタタタッ

オオカミ「この程度のスピードで、オレ様から逃げられるわけねーだろ」シュタタタタッ

次男ブタ「だ、だったら海に逃げるまでです!」

次男ブタ「水深一万メートルまで潜れるこの家には、さすがについてこれないでしょう!」

ジャバァァンッ!

次男ブタ宅はあっという間に、水深一万メートルまで潜った。

ゴボゴボゴボ……

次男ブタ「フフフ、オオカミといえどさすがにここまでは来れないはず!」

次男ブタ「食糧はたっぷりありますし、しばらくは海底で過ごすとしますか」

コンコン……

次男ブタ「──ん? 窓に深海魚がぶつかったのでしょうか?」

オオカミ「よう」ゴボゴボ…

オオカミ「オレ様は深海だって余裕なんだよ」ゴボゴボ…

次男ブタ「なんですって!?」

次男ブタ「くっ、緊急浮上!」ポチッ

グオオオオッ!

すぐに海面に上がると、次男宅は空へと飛び上がった。

次男ブタ「ならば宇宙です! 宇宙まではついてこれまい!」

瞬く間に大気圏を突破し、宇宙空間にたどり着いた次男宅。

次男ブタ「おお、地球が青い! 美しい眺めですねぇ……」

次男ブタ「フフフ、いかにオオカミといえどここまでは──」

ところが──

ズボォッ!

外から、つまり宇宙空間からオオカミが侵入してきた。

次男ブタ「!?」

オオカミ「残念だったな……オレ様にとっちゃ宇宙空間ぐらいどうってことないぜ」

次男ブタ「わわわっ!」

次男ブタ「チーターより速く走り、深海や宇宙でも生きられる……」

次男ブタ「あなた、本当にオオカミなのですか!?」ブヒョッ

オオカミ「ぐへへへ……もちろんだとも」

オオカミ「なぜならオオカミは、狙った獲物は逃がさねえからな」ジュルリ…

次男ブタ「ま、待ってくれ! 命だけはぁっ!」

オオカミ「いっただっきまぁ~す!」





ウギャァァァァァ……

次男ブタをも胃袋に収め、地球へと泳いで舞い戻ったオオカミ。

オオカミ「ふぅ~、食った食った。それにいい運動もできたぜ」

オオカミ「たまには生身での宇宙旅行もいいもんだ」

オオカミ「さて、残るは三男の家だが……この近くだったはずだ」

オオカミ「ぐへへへ……とっとと平らげちまおう」ジュルリ…

オオカミ「ん、なんだありゃ?」

オオカミの目の前には、レンガでできた小さな一軒家が建っていた。

オオカミ「レンガの家……あれが三男の家だな、ようし!」

レンガの家に息を吹きかけるオオカミ。

オオカミ「フーッ!」

オオカミ「フーッ!!」

オオカミ「フーッ!!!」

オオカミ「ハァ、ハァ、ハァ……」

オオカミ「フーッ!!!」

オオカミ「くそう、オレ様の息で吹き飛ばせないなんて!」

オオカミ「なんて頑丈な家なんだ! レンガってすげえ!」

オオカミ「そうだ! レンガを吹き飛ばせないんなら、煙突から入ればいいんだ!」

オオカミ「よいしょ、よいしょ」

屋根についている煙突から、三男ブタ宅に侵入するオオカミ。

すると──

ザバァンッ!

オオカミ「ぐわあっ!?」

オオカミ「あちちっ! あちちちっ!」バシャバシャ…

三男ブタ「やった!」ブー…

オオカミは煙突の下に用意してあった、熱湯が入った大鍋にハマってしまった。

オオカミ「あちちちっ!」

オオカミ「た、助けてくれえっ!」バシャバシャ…

三男ブタ「今までみんなを食べてきた罰だ、ざまあみろ!」

オオカミ「あづいよぉぉぉぉぉ!」バシャバシャ…

オオカミ「あ……づい……」

オオカミ「…………」ブクブク…

三男ブタ「仇はとったよ……兄ちゃんたち!」ブー…

三男ブタ「これも材質にこだわったおかげだ……やっぱりレンガは最高だね!」

三男ブタ「家はレンガで建てるに限るよ!」





家はレンガ♪ レンガ♪ レンガでつく~ろう~♪

──

────

──────

長男ブタ「──というTVコマーシャルを作ってみた」ブヒッ

次男ブタ「大勢のエキストラを雇い、海外ロケを行い、CGも駆使した超大作です」

三男ブタ「これを放映すれば、絶対レンガの注文が増えるよ!」ブー…

オオカミ「ぐへへへ……どうだ? このコマーシャルを買ってくれよ」

レンガ職人「お前らふざけてんの?」

長男ブタ「広告の依頼が全くないから」

長男ブタ「先にコマーシャルを作ってから、それを売りつけるという方法を考えたが……」

長男ブタ「失敗だったか……」

次男ブタ「いい方法だと思ったんですがねえ……」ブヒョッ

三男ブタ「ま、いいじゃない! また次の方法を考えようよ、兄ちゃんたち!」

オオカミ「そうだぜ! 失敗したってくよくよしねえのが、オレ様たちの取り柄だ!」




三流広告代理店『ピッグ&ウルフ』の挑戦は、明日も続く!





                                   ~おわり~

というわけで終わりです
兵士たちがなんの動物かはご想像にお任せします!

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