魔王「性別逆転ビーム!」ビビビ 男勇者「ぎゃあああ!」(70)

女勇者「ぎゃああああ……って、あれ? なんともないぞ?」

魔王「ふふふ、貴様の名前をみるが良い」

女勇者「なにっ!? メニュー画面、ステータス表示……女勇者だと?」

魔王「ふはははは! 名前だけではないぞ! わが必殺技性別逆転ビームは、全ての男らしさを女らしさに、またその逆に変換する。己の身体を見るがいい!」

女勇者「へっ? ヨロイがぶかぶかに……うわっ!?」

魔王「まさにお前は男の中の男であった。つまり私の超必殺技である性別逆転ビームにかかれば、百戦錬磨の益荒男が、純情可憐な乙女となる!」

女勇者「てっめえ! ふざけんな! 元に戻しやがれ!」ブンッ!

魔王「くっくっく、その細腕で豪剣を振るうのは難しかろう?」ヒラリッ

女勇者「くっ……剣も、ヨロイも……重……こんにゃろっ!」ブンッ ブンッ

魔王「こらこら、そんなに無理をしたら、腕を痛めるぞ」パシッ

女勇者「な……刀身を素手で!? くそ、放せ!」

魔王「なんと、鈴を転がしたような素晴らしい声だろう」

女勇者「なめてるのかこの野郎!」

魔王「ああ、まったくその通りだ。先ほどまでのお前は全ての魔族の恐怖の対象、私でさえお前の刃が恐ろしかった。だが今は……」ずいっ

女勇者「う……顔近づけんなぁ!」ガーッ

魔王「はっはっは! そのなりでは、あなどるなという方が難しい」

女勇者「てめえ……」ゴゴゴ

魔王「しかし、こんなヨロイは今のお前には似合わぬな……」ぐっ

女勇者「へっ?」

魔王「むんっ!」バキッ! ガシャン

女勇者「バカな! 神鉄のヨロイが砕けるはずがない!」

魔王「ふん、勇者としての力も失って、ヨロイへの魔力の供給が絶たれたのだ。これはもう、ただの鉄のヨロイに過ぎん」

女勇者「ただのって……ヨロイを素手で砕きやがるのかよ」

魔王「その程度、造作もない。しかし……」

女勇者「なんだよ?」

魔王「ヨロイごと服をはぎ取っておいて言うのもなんだが……前は隠さないのか?」

女勇者「え? あ……ああ……」

魔王「ふむ、ずいぶん華奢な身体になっ……」

女勇者「きゃああああ!」べっちいいいん!

魔王「ふぶっ!?」

女勇者「見るなああ! ばかああ!」

魔王「ふっ、四天王を倒し、私を追い詰めた男の出す声とは思えんな」じんじん

女勇者「畜生……ちくしょう! 煮るなり焼くなり好きにしやがれ!」

魔王「もとより、そのつもりだ」すっ……

女勇者「ひっ」ビクン

魔王「そうおびえるな……おい、誰ぞここへ!」

ガチャ……

メイド「はい……決着……つきましたか?」オズオズ

魔王「見ての通り、私の勝ちだ。この者に服と湯浴み桶を持って参れ」

メイド「はーい! ただいま!」トテトテトテ

女勇者「何をするつもりだ……」

魔王「なに、たっぷり可愛がってやろうと思ってな」

女勇者「くっ……」

メイド「お待たせしましたぁ!」

魔王「うむ、ご苦労」

女勇者「な、なんだそれは!?」

魔王「見ての通り、湯浴み桶だ……メイド、あとはまかせた」

メイド「はいはーい! それではこちらへー……」

女勇者「ちょ、おい!」

メイド「わっ! ほこりっぽーい! 女の子がそんなんじゃダメですよ!」

女勇者「俺は男だ!」

メイド「どこが?」

女勇者「どこがって……えと、その……」

メイド「こんなにかわいい顔してて、小さいけどおっぱい膨らんでて、ここも……」さわっ

女勇者「ひゃんっ! そんなとこさわんな!」

メイド「ほら、ここにも何も無いじゃないですか……」さわさわっ ふにふにっ

女勇者「ひゃっ! あっ! ひゃああっ!」

魔王「……」ニヤニヤ

女勇者「てめえはどこからブランデーなんか出したんだよ! あとニヤニヤ笑いやめろ!」

魔王「おやおや、そんなこと言っていて良いのか?」

女勇者「なに? あれ? 俺のブーツ」

メイド「はーい、残りの服もぬぎぬぎしましょうねー」

女勇者「や、こら! 勝手に脱がすな!」

メイド「えー でもー、湯浴みの時はハダカになるんですよ?」

女勇者「そんなこと、俺は頼んでねえ!」

魔王「メイド、かまわん……やれ」

メイド「あいさー! とうっ!」シュピパパパッ

女勇者「ふぇっ!? あ、あれ?」

魔王「コンマ3秒で相手の衣服を脱がし去る、アーマーブレイクの進化形、クロースアウト……また腕を上げたな」

メイド「おそれいりますー」

女勇者「ハダカなんていやだ! 服返せ!」

メイド「ダメですー 返しませんー! でも、湯浴み桶に入れば身体は隠せますよぉ?」

女勇者「く……わ、わかったよ。入れば良いんだろ?」ちゃぷん

女勇者「……あっ♡」

メイド「お湯加減はいかがですかぁ?」

女勇者「あったけぇ……」ぽわわん

メイド「はーい、頭にお湯かけますねー」ざぷん

女勇者「わぷっ!? なにす……」

メイド「シャンプー シャンプー あわわわー」

女勇者「ふわ、お花の香り……はわわぁ……」とろん

………………
…………
……

……
…………
………………

メイド「身体拭いて、髪乾かしてー はい、完成」

女勇者「う……ううぅ……」つるつる ぴかぴか ふわっふわ

魔王「ははは! お似合いの姿だな! どこからどう見ても風呂上がりの美少女だぞ!」

女勇者「く……いっそ殺せ!」

魔王「いいや、まだまだこれからだ」

女勇者「なに? な、なんだそれは!?」

魔王「私の作ったふりふりドレスだ……かわいいだろう?」

女勇者「まさか……それを俺に着せるつもりじゃないだろうな!?」

魔王「まさしくそのつもりだ。お前が風呂に入っている間に急いで作ったんだからな」

女勇者「そのクオリティの服をこの短時間で!?」

魔王「どうだすごいだろう! さあ、着るが良い!」

女勇者「もし、断ったら?」

魔王「べつにお前を殺しはしないさ……だが、手近な人間の村を襲って皆殺しに……」

女勇者「……好きにしろ」

魔王「良い心がけだ。おい、着せてさし上げろ」

メイド「はいはい! おお! さすがは魔王さま謹製。すばらしい出来映えにございます」

魔王「ふふふ、そう褒めるな」

メイド「ボタンを閉じて、リボン結んで……っと、はい、できました」

女勇者「ううう……怖いくらいサイズがぴったりだ」

メイド「髪も整えて、リボンも結んじゃえ!」くいくい

女勇者「やっ! こら!」

メイド「完成! 鏡をどうぞ」

女勇者「え? こ……これが……俺?」

魔王「ふふふ、可愛いではないか」

女勇者「ちが……ちがう! 俺は……俺は世界を救う……うわあああ! かわいいいい!」

魔王「アイデンティティが崩壊しかけてるな」

メイド「四方が鏡の箱に入れたら面白そうです」

魔王「がまの油売りか……まあ、そういじめてやるな」

メイド「はいはいー 鏡は撤収します」

女勇者「ぜえ……ぜえ……くっ、なんて恐ろしい攻撃だ」

魔王「さて、身だしなみを整えたところでお茶にするか……準備を」

メイド「かしこまりました」

……

女勇者「……」プルプルプル

魔王「マカロン、タルト、ショートケーキ、それに紅茶。美少女と菓子は、なんとも絵になるな」ほっこり

メイド「はい、まったく」ほわわん

女勇者「テメエはなにがしたいんだ!」

魔王「単に、お前を愛でたいだけだ」ニマニマ

女勇者「何をたくらんでやがる」

魔王「べつに悪巧みなぞしておらん……ほら、どうした食べないのか?」

女勇者「……」ぐーきゅるるる……

メイド「毒なんて入ってませんよ? 何日もまともな食事をしていないんですよね」

女勇者「ったく……もらうぜ」モグ

メイド「……」ワクワク

女勇者「……あ、うめえ」

メイド「えへへ……お茶もどうぞ」タパパ

女勇者「おう、ありがとな」モグモグ

魔王「……」

女勇者「なに見てんだよ」モグモグ

魔王「ふむ、この戦争を終わらせるかと思うてな」

女勇者「……な、そりゃあ、どういうことだ!?」

魔王「どう言うこととは、なんだ?」

女勇者「おまえらが今まで研究してきた新兵器とか、大魔法が完成して、人間世界を滅ぼすってのか!?」

魔王「違う違う。落ち着け。そこのアップルパイでも食え。私の手作りだ」

女勇者「むぐ……もぐもぐ……うまい」

魔王「なあ勇者よ、私はどう見える?」

女勇者「どうって? 魔族の親玉がどうした?」モグモグ

魔王「その親玉よ、見たままでよい。申せ」

かわいい
続けて

女勇者「んー……思ってたのと違う……かな」

魔王「どう違う?」

女勇者「男だとは聞いてたからさ、筋肉がガッシリ付いた戦士とか、顔色の悪い魔法使いみたいなヤツだと思ってたんだよ。でもお前、角が2本生えてる以外、フツーの男だよな」

魔王「普通か……まあ、そうだろう? 他にはどう思う?」

女勇者「背は高めで、顔も役者ってほどじゃないけど整ってるよな。どっちかってーと細身だし……もしかして、それって化けてるのか?」

魔王「いや、これが正真正銘私の素顔だ。信じてもらえるとは思わんが、私は根っからこういう男なのだよ」

女勇者「害のない奴って事か?」

魔王「そうだ」

女勇者「信じられるか。それならどうして今までこの戦争を止めなかった」モグモグ

魔王「曾祖父の代より続く戦だ。戦線は膠着し、最前線近くに村ができる始末。もう、戦などあってないようなもの。それなら無くするよりは続けてしまった方が楽……皆そう思っておる。人間も同じくな」

女勇者「違う。だれも続けた方が良いなんて思ってない。戦争が終われば、終わらせるために俺は……」

魔王「戦争を始めるのも、戦争を続けるのも、戦争を終わらせられないのも、つまりは皆死にたくないからだ。戦争を終わらせるなら、一気呵成にせめるなり、いっそ降伏してしまえば全て終わる。しかし誰もそうはしない。攻めれば自分たちが死ぬし、降伏すれば相手にどうされるかわからないだろう?」

女勇者「だから戦争が終わらないってか」

魔王「終わらないと言うより、終わらせることができないのだ。終わらせる方法を見失ったのが、この戦争の悲劇だ。それに肝心の軍を掌握する者たちが、戦いのために得られる利益と自己満足に拘泥し、戦争を終わらせる芽さえ摘み取ってしまっていた」

女勇者「でも、お前は終わらせたいと思ってたんだろ」モグモグ

魔王「もちろんだ。民の多くもそう思っているだろう。しかし、主戦派の連中もまた強大だった。王とはいえ、戦をやめるなどと言う大決断を、主戦派を無視して行うわけにもいかなかった……今までは、だ」

女勇者「今までは? 何か事情が変わったのか」

魔王「わが配下は強大な力を持った軍人が多く、戦時下ゆえ主戦派の発言力が強くなりすぎていた。彼らはその力も強大で、穏健派の連中は鳴りを潜めるしかなかったのだ」

女勇者「ちょ……ちょっと待て。たしか俺、三大臣とか四天王とか五虎大将軍とか六魔人とか、お前の部下を片っ端から殺してきたんだが」

魔王「それが、くだんの主戦派連中だ」

女勇者「つまり……てめえ……」

魔王「お前の剣を利用させてもらった。この世の膿を抜くためにな」

メイド「お菓子のおかわりです、シュークリームどうぞー」

女勇者「いや、膿を抜くって言ってんのに、なんつータイミングで……まあ、食うけどさ」モグモグ

魔王「まったく、お前は良い餌だった。戦線を突破し、わが領地に単身深く切り込んで。血に飢えた主戦派の連中には名を上げる良い機会に思えたのだろう……もっとも、私への忠誠から散った者も居たようだがな」

女勇者「……」モグモグ

魔王「気にするな。これは戦争なのだ。正しい思いを持つ者同士が殺し合い、どちらかが、もしくはその両方が死ぬ。それが戦争だ。だからこそ……」

女勇者「こんな馬鹿げたことはやめなくちゃならねえ」

魔王「……そうだ」

女勇者「俺に、何かできることはあるか?」

魔王「まだわからん。しかし、お前のその力が頼りになるだろう」

女勇者「わかった……戦争を終わらせるって言うなら、俺がお前を倒す理由もない。もうお前に剣は向けない。元の姿に戻してくれ」

魔王「それは断る」

女勇者「なんでだよ! そこは『よし、これからは同志だ。共に平和を作ろう』ってなって、魔法解いて、熱い男の握手だろ!?」

魔王「もちろんそういうのも味わい深いが、お菓子に夢中になる美少女は値千金。それに……」

女勇者「な、なんだよ」ゾクッ

魔王「天下無双の豪傑を、魔法で少女に変身させて、思いきりいたぶる……とても素敵だと思わないか?」

女勇者「思わねえよ!」

魔王「そうか? なら教えてやろう」ガタッ

女勇者「な、なに立ち上がって……」

魔王「そう邪険にするな」ガシッ

女勇者「俺は男だぞ!」

魔王「元は、だろう? ……メイド、魔道式映像記録装置を用意しろ」

メイド「かしこまりましたー」トテトテトテ

女勇者「なんだよその不吉そうな道具!」

魔王「ふふふ、お前にこれから、女の悦びを教えてやろうと思うてな。せっかくの初体験だ、映像で記録せんともったいないだろう」

女勇者「〜〜〜っ!」ゾゾゾッ

魔王「怖がらんで良い……力を抜け……やさしくしてやろう」

女勇者「く、来るな!」

魔王「ふふふ、そうは言っても、お前の中の女の本能は、期待に打ち震えているのではないか?」

女勇者「やめ……さわんな! あっ……あ♡」

………………
…………
……

いいですね

大変にいいですね

大変非常によろしいですね

とってもよろしいです

続きはよ

はよ

お前ら変態かよ













最高です

……
…………
………………

カーテンの閉まった薄暗い部屋に、押し殺した少女の吐息が響いていた。

女勇者「む、無理ぃ……こんなの、入るかよぉ……」ハァ ハァ

魔王「やはり、初めてか?」

女勇者「ったりめーだろ!? 女になったばかりだろーが」

魔王「男の時にこういう経験はなかったのか? 尻とか……」

女勇者「あるワケねーだろ! ぶっ殺すぞこのヤロー!」

魔王「そうか、道理で入らないなずだな。きちんと慣らしてやろう……」

女勇者「ひゃっあ!? その手つき、やめろぉ」ピクピク

魔王「うむ……やはり、ここは一気に……」

女勇者「ま、まて! まだ心の準備が!」

魔王「力を抜け……行くぞ」

女勇者「や、ちょ……」

ズッ!

女勇者「かは……ぁ」ピクピク

魔王「なんだ、入るではないか」

女勇者「い、痛ぁ……」

魔王「これしきのことで弱音を吐くな」

女勇者「そりゃあ、お前は大丈夫だろーが……ううぐ……」ハァ ハァ

魔王「もっと奥まで……」

ズズズ……

女勇者「ひぎっあ! い、息できな……死ぬ……」

魔王「ふふふ、こうしていると、もはや年頃の娘にしか見えんな」

女勇者「か、顔見るなぁ……」

魔王「さて、少し自分で動いてみろ」

女勇者「できるわけないだろ……こうしてるだけで死にそう……」

魔王「そうか……なら、手伝ってやろう」グイッ

女勇者「ひぐっ! 動かすなぁ」

魔王「ふふふ、どうした震えているぞ? もっと腰を動かせ」

女勇者「ああぐ……うあぁ……」カクカク

メイド「あのー……お楽しみのところ申し訳ありませんが……」

魔王「どうした?」

メイド「やっぱり勇者さまにはコルセットは厳しいのではありませんか?」

魔王「そうか? なあ勇者よ、まだ腰のあたりにゆとりがあるのではないか?」

女勇者「息できねえっていってるだろ……はやく……解いてくれ……」ゼェゼェ

魔王「しかし、コルセットは淑女のたしなみだぞ?」

女勇者「無理……ほどけ」ゼェ……ゼェ……

メイド「あー、余裕がなくてオークみたいなしゃべり方になってますね」

魔王「仕方ない……紐を解くぞ」シュルル

女勇者「ぷはっ……はーはー……し、死ぬかと思った」

メイド「コルセットを着けるには、何年もかけて慣らさないといけませんから、まだ勇者さまには無理ですよ」

魔王「しかし、この寸胴ではなぁ……わたしの洋裁の腕が振るえん」

メイド「魔王さまのお手前なら、着る人に合わせたドレスも出来るはずです!」

魔王「それはそうだが……しかし、画家がキャンバスからこだわるように、私も着用者を出来るだけ美しくだなあ……」

女勇者「てめえら、なんの恨みがあって俺を……」ハァハァ

魔王「まあ、同胞を万単位で殺された恨みはあるが、それが理由ではない。なあ、メイドよ」

メイド「はい……失礼ながら勇者さま、あなたには圧倒的に足りないものがあります」

女勇者「足りないもの?」

メイド「さきほどのティータイムで私は確信いたしました。勇者さまには気品と礼儀作法がまったく足りません」

女勇者「は……はぁ?」

メイド「長年の修行や旅で、作法や礼儀にまで気をつけられなかったのはお察しいたします。ですが! いまの勇者さまのお姿! どうか、ご自身のかわいらしいお姿にあった振る舞いをなさってくださいませ!」

女勇者「な、なんだよお前……」タジ……

魔王「メイドはな、こう見えて私の祖父の代から使える最古参で、私にもしつけに厳しく……」

メイド「魔王さまも! いくら元・宿敵とは言え、殿方がご婦人を締め上げるなどもってのほかです!」

魔王「しかし、私もこやつを一人前の淑女に仕上げようと……」

メイド「言い訳無用!」ピシャーン!

魔王「は、はい! ごめんなさい!」

女勇者「ええー……」

魔王「……ふむ、戯れはここまでだ。メイドよ勇者の世話を頼むぞ。とびきりかわいらしく仕上げよ」

メイド「はっ! 仰せのままに」

女勇者「おうコラ、なにふざけたこと言ってんだ」

魔王「勇者よ、もし世界を救いたいと思うなら、まずは、うるわしき姫君になって見せよ」

女勇者「はあ!? なんだそれ、意味わかんねーよ!」

魔王「騙しはしない。今は私を信じろ」

女勇者「なんだよ真剣に……わかったよ」

メイド「では、勇者さまこちらへ」

女勇者「お、おう」

魔王「ふふ、しっかりな……」

ガチャ……パタン

魔王「さて、噂を流しておかねばなるまい。誰ぞおらんか!」

………………
…………
……

コルセットかよ騙された

……
…………
………………

人間の王国 女王の執務室

将軍「……と、申し上げましたように、我らの防備は完全無欠。攻勢に向けて騎士団の準備も着々と進んでおります」

女王「心強い限りです。騎士団の働きにも期待していますよ」

将軍「はっ! ありがたきお言葉にございます」

大臣「南方戦線への物資補給は、上申書の通り処理いたす。それでは、今日の謁見は……ん?」

ザワザワ

将軍「番人ともめているようですな」

大臣「そのようだな……さわがしいぞ! ここをどこだと心得る!」

ガチャ……

兵士「で、伝令にございます。女王陛下と将軍閣下に」ハァハァ

将軍「いかがした?」

兵士「勇者様が……勇者様が……」

女王「勇者様がどうしたのですか!? 勇者様はご無事で!?」

兵士「勇者様は、おひとりで魔王城に乗り込まれ、四天王をはじめ主要な魔族の将軍を撃破……」

将軍「おお!」

兵士「そして勇者様は……あの罪深く傲慢にして愚かな魔王との戦闘において……」

将軍「魔王を仕留めたか!」

兵士「いいえ、勇者様は、奴の、魔王の魔法を受け……神の御許に逝かれました」

大臣「なんと……今、なんと申した!?」

兵士「密偵が戦線を越えて持って参りました。魔族の領地で、この布告文が大量に撒かれております」ガサッ

将軍「見せてみよ! なんと……これは……」

女王「将軍、読みなさい」

将軍「姫様、これは……敵の欺瞞です。騙されてはなりませんぞ!」

女王「ならばこそ、聞いてもかまわないでしょう?」

将軍「では……失礼ながら……『愚かなる人間の勇者は、去る日、薄汚いネズミのように我らが魔王城に忍び込んだものの、我らが崇高にして偉大なる魔王様の、ゲージ3本消費の必殺技、ファイナルブラックディザスターにより、風の塵と消えた』……とあります」

女王「ファイナル……」

大臣「ブラック……」

将軍「ディザスターとあります。まさか、あの勇者様が……なんと恐ろしい」

大臣「将軍、口が裂けても恐ろしいなどとは!」

将軍「こ、これは失礼をば!」

女王「あの勇者様が……勝てなかったのですか?」

兵士「この紙を魔族の領地から持ってきた密偵は、戦線を越えてきたためケガを負って治療中ですが、その者は確かに、魔族の首都の広場で、勇者様の神鉄のヨロイが、灰まみれで晒し物になっているのをを見たそうです」

将軍「勇者様のヨロイは、女神様より賜った不滅のヨロイだぞ! 勇者様が身につけておられる限り、勇者様の御身を絶対に守り……」

兵士「その神鉄のヨロイが、紙のごとく引き裂かれていたそうです」

大臣「まさか! 見間違いでは……」

兵士「その密偵は、現地で勇者様に情報と食料を渡していたそうです。ひどく壊れていましたが、広場に晒されていたのは、間違いなく勇者様のヨロイだと申しておりました」

大臣「四天王をはじめ、魔王城の中で被害をあたえたというのは?」

兵士「魔王城の城下町は噂で持ちきりだそうです。どうやら四天王をはじめ魔族の将軍、強硬派とみられる連中は、ほぼ勇者様が成敗されたとか」

女王「わかりました。部屋を用意させますから、下がって休んでください」

兵士「……ありがとうございます、失礼いたします」

大臣「……」

将軍「……」

女王「将軍、私は勇者様ほど力に溢れた人を他に知りません」

将軍「はい、勇者様は間違いなく、この100年、いえ、1000年にひとりの使い手です。剣も魔法も、我らの国に敵う者はおりません」

女王「だからこそ、私もあなたも、勇者様に希望を託した。その勇者様を……魔王というのは、それほどまでに強大なのですね?」

将軍「奴らの社会は、力が支配する野蛮な世界です。その長ともなれば、もっとも強力な魔族であることは確かでしょう」

女王「この期をどう見ますか?」

将軍「魔族がこれほど大々的に勇者様の殺害を公表するのは、勇者様による魔族側の被害も甚大だったためと思われます。被害を隠そうとしても、重要人物が多く死ねば、噂にもなるでしょう」

大臣「隠すよりは、あえて公表し、魔王の力と政権の強気な姿勢を示す狙いですな」

将軍「はい。人の口に戸は立てられません。魔王は確かに強大ですが、四天王を失った魔王軍は、確実に弱体化しております。攻める好機と存じます」

女王「……騎士団の攻勢準備を進めなさい。勇者様の死を、決して無駄にしてはなりません」

将軍「御意」

………………
…………
……

……
…………
………………

王城内 女王の自室

女王「……勇者様」

女王「まだ信じられない……あの人が、もうこの世にいないなんて」

女王「でも、勇者様がその身で作ってくださったこの機会、きっと果たして見せます」

女王「この戦争を終わらせる……」

女王「天国で見守ってください、勇者様」

………………
…………
……

……
…………
………………

魔王城 地下の暗い部屋

女勇者「もう……てんごく見えぅ……ふあぁ」ピクピク

淫魔「そんなに気持ちいい? ふふふ、嬉しいわ……ここはどう?」

女勇者「そこ、らめえぇ……」とろとろん

メイド「勇者様、いかがですか?」

女勇者「この子、ひどい……気持ちよすぎ……んはあぁ……」ぴくぴくんっ

淫魔「ふふふ、かーわいい」

メイド「礼儀作法のレッスンでお疲れの勇者様に、エステ形式のマッサージを施しているだけなので、誤解されませぬよう」

女勇者「誰に言って……」

淫魔「そうですよー これはただのマッサージ。次は、またこれ使いましょうねー」

つθ ヴヴヴヴ

女勇者「それ、それだめええええ! 帰ってこれなく……おぁっ!? あああああっ!?」プシャアアア

…………

メイド「いかがです? 身体が軽くなったでしょう?」

女勇者「色んな意味でな……心は重い」ズーン

メイド「女性の身体で、っていかがでした? 男性と比べて……」

女勇者「やばかった。全身の力が抜けて、もうどうにでもしてくれって感じ……っておい! やっぱりそっち系のマッサージかよ!?」

メイド「まあ、施術者がサキュバスですし。でも、百聞は一見にしかずと言いますし、わかっていただけたかと」

女勇者「……何が?」

メイド「女性の立ち居振る舞いには、ああいう状態になってしまう事への恥じらいが不可欠なのです。座るときに足を開いてはいけないのも、スカートの裾を気にするのも、ああいったはしたない状態を恥じるからこそです」

女勇者「うぐ……」

メイド「女性としての、恥ずかしいという気持ちをわからないままに、作法が身につくはずがありませんから……さあ、次はテーブルマナー講座ですよ!」

女勇者「もう、カンベンしてくれ……」

………………
…………
……

……
…………
………………

夕食の卓

魔王「レッスンをはじめて1週間か……ずいぶんと見違えたな」

女勇者「ふふ、恐れ入ります」

魔王「服の着こなし、微笑みかた、食器の扱い、どこの姫君にも引けを取るまい」

女勇者「まあ、おたわむれを」クスクス

魔王「ときに勇者よ、お前が死んだという噂を、人間側に流しておいた」

女勇者「え?」ピクッ

魔王「お前が我が軍にあたえた被害についても、おおよそ正確にな」

女勇者「……何をたくらんでやがる?」

魔王「うむ、それでいい。その方が私も話しやすい」

女勇者「俺を殺したって触れ回るのはわかる。四天王が死んだって事は、おまえらの軍が弱ってるって事を宣伝するようなもんだろ」

魔王「そうだな」

女勇者「わからねえ。そんなことして、おまえらに何の得がある?」

魔王「軍として得は皆無だ。相手に弱点をさらけ出すだけだな」

女勇者「それならどうして」

魔王「……勇者よ、お前たちの王はどのような人間だ?」

女勇者「王って、女王陛下のことか……あの方は、去年ご両親の国王夫妻を亡くされたばかりだ。まだまだみんな姫様って呼ぶような歳で王位を継いでさ。でも、よく国を治めてるよ。軍事の将軍、内政の大臣が左右を固めてるし、家臣の信頼も篤い」

魔王「うむ、それくらいの事は私も知っている。敵ながら名君だとな。しかし、そうではない。王としてではなく、どのような人間だ? この戦争を、あの女王はどう思っているか……お前にわかるか?」

女勇者「あの方は、俺と同じかそれ以上に、戦争を憎んでる」

魔王「先の国王夫妻が死んだのも、この戦争のせいだと?」

女勇者「……たぶんそう思ってる。俺がお前を倒しに行くって名乗り出たときには、あの方は可能な限りの援助をしてくれたよ。不安と後悔と希望を目に浮かべながら、魔王を倒せって命じたな」

魔王「戦争を嫌いながらも、力による解決という手段を捨てない。両手を敵と味方の血に染めながら、平和を求める覇道の姫君……か。なるほど、私の見立ては正しかったワケだ」

女勇者「……まさかお前」

魔王「勝利による戦争の終結を望むのは、覇王の証。姫君はときを置かずに攻めてくるだろう。たとえそれが罠だとしてもな」

女勇者「てめえ、汚ねえマネを!」

メイド「なーんか、部屋の空気がクサいですねえ……換気しまーす」

ひゅおおぉぉ……

魔王「……」

女勇者「……」

メイド「換気終了です」

魔王「……つまりだな」

女勇者「お、おう」

魔王「お前が我が軍を引っかき回してくれたおかげで、戦況はかなり流動的になっている。ここで女王が軍を進めるのも当然のことだが、この戦場の流動性は、戦火を拡大する方にだけ働くとも限らんのだ」

女勇者「なんでだよ、四天王がくたばって、魔王軍は総崩れだろ? いちど戦局が傾けば押し返すのは難しいはずだ」

魔王「自分のことを計算に入れておらんな」

女勇者「俺? 今の俺を戦線に引っ張り出したところで、この身体じゃ何も出来ないし、仲間に剣を向けるつもりはねえぞ?」

魔王「そうではない。こう言うのもなんだが、お前は人間としては破格の戦士だ。精霊の祝福も受け、お前に並ぶ戦士は人間の国にも、我らの領地にもまず居ない。単騎で大軍を相手に出来る力を持つからこそ、お前は私を殺しに来たのだろう?」

女勇者「褒めすぎな気もするが、そうだな」

魔王「かくいう私も、まあ、お前のような存在なのだよ。お前が人間の切り札であったように、私は魔族の切り札なのだ。人間側は軍こそ健全なまま士気も高いが、切り札であるお前を欠いている。我が軍は切り札たる私が居るが、指揮系統の混乱はまだ続いている。我が軍が戦闘能力を回復しきる時間を女王は与えてくれまい。つまり……」

女勇者「事実上、両軍に戦力差は無い。人間側への、見せかけのチャンスって事か?」

魔王「そうだ」

女勇者「なら、王国軍をおびき出してどうする。戦力が拮抗しているなら、泥沼のつぶし合いになるぞ」

魔王「戦闘にはならん。講和を引きずり出してやる」

女勇者「どうやって講和なんて出来るんだよ! ハイやめましたが出来れば、誰も苦労しねえんだ!」

魔王「方法ならあるさ。それこそ、お前にしか出来ん仕事だ」

女勇者「……は?」

………………
…………
……

はよう

……
…………
………………

魔王城 一番高い塔の最上階

女勇者「ふう、はあ……ずいぶん登ってきたな」

魔王「特別な場所だからな。私と限られた者しか入れない。そこの窓から外を見てみろ」

女勇者「ん? おー、城下町も、平原も……その先の山脈まで見えるな! あの山は鹿が多くて、食い物には不自由しなかったっけ」

魔王「あいつも、その窓からの眺めを気に入っていた。もっとも、山の万年雪の白さを好んでいたようだがな」

女勇者「……あいつって?」

魔王「今から会わせる……来い」

魔王「このドアだ」コンコン

女勇者「ノックに返事がないぞ?」

魔王「……入るぞ」

ガチャ バタン

女勇者「へえ、けっこう中は広いんだ……天蓋つきのベッドもあるし……ん?」

魔王「そこに寝ている女性に、見覚えがあるか?」

女勇者「見覚えがあるも、何も……これ、俺か!?」

魔王「お前の姿の元になった人と言う方が正しいな」

女勇者「この……えーと……かわいい人は誰だよ?」

魔王「私の妻だ」

女勇者「へー、なるほどね……ん、妻?」

魔王「そうだ」

女勇者「えええええ!? おま、お前、結婚してたのか?」

魔王「驚くこともあるまい。私はこの国を治める王だぞ。妃がいるのが普通だろう」

女勇者「そりゃ、そうだけど……でもなんで国王の奥さんが、こんな塔の誰も来ないような部屋に居るんだよ?」

魔王「見てわからんか?」

女勇者「わかんねえよ。こんなところでぐーすか寝て……あれ?」

魔王「気付いたか」

女勇者「ああ……この人、息してない。死んでるのか?」

魔王「いいや、時を止めて封印してある。敵に、強力な毒の霧を嗅がされてな、解毒の方法が見つからんのだ」

女勇者「毒の霧を嗅がされたって、いつ?」

魔王「つい去年の事だ」

女勇者「……おい、待てよ」

女勇者「俺たちの人間の国王王妃両陛下も、去年、毒の霧で殺されたって聞くぞ」

魔王「そうだな。私もその現場にいた」

女勇者「なに!?」

魔王「去年の、ちょうど今頃だったか。私と妻は、そちらの国王夫妻と密談を行ったのだ。あわよくば、講和条約の締結まで視野に入れてな」

女勇者「そんな話、聞いてねえぞ!」

魔王「あくまで非公式な接触だった。しかし会談は順調に進み、講和の条件として、お互いの王妃を大使として互いの国に派遣する事まで約束し合った」

女勇者「大使って……つまりは人質の交換か」

魔王「そういうことになる。しかし、こいつとお前たちの王妃は、両国の争いを止めるにはそれが一番だと。自分たちのみの危険も顧みず、手を取り合って笑っていた……だが、会談も終わりに近づいた頃、毒の霧に襲われた」

女勇者「……」

魔王「残念だが、人間である国王夫妻は即死だった。そして我ら魔族は、男の方が身体はずっと頑健に出来ている。私に毒はほとんど効かなかった……しかし、妻には」

女勇者「効いちまったか」

魔王「ああ。毒に犯されても意識を保つことは出来た。だが、そう長くは保たないことは目に見えていた。私は、毒に弱っていくこいつを抱きかかえ、空を飛んでここに帰り着き、その場で妻を封印した」

女勇者「去年てことは……お前、俺が旅に出る前にはもう、この戦争を止めようとしてたのかよ」

魔王「そうだ」

女勇者「それなら、俺の旅は……おれは、なんでお前を殺そうと……」

魔王「過ぎたことだ。気に病むな」

女勇者「……何で俺を、ここに連れてきた?」

魔王「妻がこの部屋にいることを知るものは少なく、封印のいきさつを知るものは信頼できるわずかな者に限られている。妻は、病で伏せっている……ことになっているんだ」

女勇者「それで?」

魔王「近日中に、勇者の打倒と王妃の回復を祝って祭りを行う」

女勇者「俺の打倒はまあ良いけどさ、奥さんの回復って、解毒の方法がわからねえんだろ?」

魔王「だからこそ、お前を替え玉に使うのさ。祭りを催し、人間たちに我々が油断していると思わせる……戦闘を仕掛けさせるのさ。どうだ?」

女勇者「……まだ、わからねえ。どうして俺を替え玉にするんだ? 姿を変えられるなら、他の誰でも良いだろ」

魔王「たしかに、祭りで手を振るだけなら、誰を化けさせても良いだろう……だが、お前にはその先まで頼みたい」

女勇者「先?」

魔王「講和の使者……人質として、人間の国に行ってもらいたいのだ」










つづく

単に性別逆転させてアヘアヘさせるスレだと思ってたら
すごく真面目な展開でびっくりしたけど面白い

……
…………
………………

人間の王国 大臣の執務室
大臣が一人で書き物をしている。ノックの音。

コンコン

大臣「入れ」

役人「お休みのところ失礼いたします。密偵より報告がございます」

大臣「勇者殿が亡くなった報せなら、もう届いておる。軍の密偵に先を越されるなど、我が国の諜報機関も堕ちたものじゃな」

役人「いいえ、その追加情報にございます」

大臣「ふむ……申してみよ」

役人「はっ、報告によりますれば、魔族は勇者様の殺害を祝い、1週間ほどの祭りを準備しているとのこと」

大臣「ふむ……まあ、わからなくもないな。国内の士気を高めるには良い方法であろう」

役人「さらにその祭り、魔王妃の快復祝いも兼ねているとのことです」

大臣「なんじゃと!?」

役人「勇者が攻めてくる恐れがもはや無くなり、今までは秘密の場所で療養していた魔王妃を、公の場所に復帰させる判断がなされたようだと、密偵のメモにございます。今まで魔王妃は病気で療養中との事でしたが、なるほど戦闘力に乏しい重要人物を隠していた訳ですな」

大臣「……他に報告はあるか?」

役人「いいえ、祭りと魔王妃の復帰のみです」

大臣「わかった……下がれ」

役人「はっ、失礼いたします」

ガチャ……バタン

大臣「療養……復帰だと? 魔王ならまだしも、所詮は一介の魔族に過ぎない魔王妃が、毒の霧を喰らって無事で済む訳が無い」

大臣「人間である両陛下より、少しは持ちこたえることも出来ようが、1日と保たずに死ぬはず。発表が無いだけで、もはや魔王妃は亡い者と考えていたが……」

大臣「何か裏があるのか?」

大臣「しかし祭り……やはり好機か」

………………
…………
……

……
…………
………………

数日後 
魔王城の広場

メイド「魔王様魔王様! すっごい人ですよ! こんなに広場に人が集まるのは、魔王様の戴冠式以来ですよ!」

魔王「そうカーテンをゆらすな。お前が揺するたびに、民が万歳でざわついているではないか」

女勇者「すっげえ声……なんか緊張してきた……」

魔王「案ずるな。お前は特にしゃべらず、にこやかに手を振っていれば良い。元よりあいつも、民衆の前での演説は好かなかったからな」

メイド「そうですね。一言も発さないで、にこにこ手を振っているのが、一番似ていると思います」

魔王「全て私に任せておけばよい。まず私が出る。呼んだらお前も出てこい」

女勇者「……わかった」

魔王錠前の広場は、魔族の民衆に埋め尽くされていた。
広場に面した魔王城のテラス、その赤いカーテンの揺れに、民衆の視線は集中していた。

民衆「あ! 魔王様のお出ましだ!」
民衆「本当だ! 魔王陛下ばんざーい! ばんざーい!」

魔王「親愛なる国民諸君、今日はよく集まってくれた。街頭に貼り出したように、つい先日、我が城は勇者の襲撃を受けた。あの者は単騎で乗り込み、勇猛と賢知で名高い我が四天王をはじめ、多くの将校を殺害した」

民衆「ブーブー! 勇者くたばれ!」
民衆「てか、本当に四天王様は殺されてしまったのか……」

魔王「勇者は強かった。敵ながら素晴らしい剣と魔法の使い手だった。しかし不倶戴天の敵同士。我が執務室へやって来た勇者を、私は迷うこと無く始末した。もはやあの者は、肉片のひとかけら、髪の毛一本さえ残さずこの世から消えた」

民衆「魔王陛下ばんざーい!」
民衆「さっすが魔王様! ばんざーい! ばんざーい!」

魔王「これで我々は、いつ来るともしれない強力な暗殺者を恐れることもない。勇者がうろついている間は、外出時に特別の注意を呼びかけていたが、もうその必要もなくなった。そう! あの人間の暗殺者は、もはやこの世にいないのだ!」

民衆「そーだそーだ! 勇者は地獄に堕ちろ!」
民衆「地獄で死んで、死んで、死に続ければ良いんだ!」

テラスのカーテンの裏

女勇者「ううぅ……俺、嫌われてるぅ……」

メイド「当然でしょう、敵国の、忍び込んでくる暗殺者で、剣も弓矢も魔法も効かない厄介な相手だったんですから」

女勇者「女子供や一般市民に手出してないし、兵士相手でも、殺したのはほんのちょっとなんだけどなあ」

メイド「仕方ありませんよ。敵同士なんですもの……あら?」

魔王『そう、今まで我々は、勇者という暗殺者に怯えていなければならなかった。この私も、真っ向勝負なら負けないものの、もし、我が最愛の妻を勇者に人質に取られたら!? そのため我が妻には、今日に至るまで、病気の療養と称して極秘の場所に隠れてもらっていたのだ』

メイド「あら? そろそろ呼ばれそうですよ」

女勇者「本当だ。よし……いつでも良いぜ」

広場に面したテラス

魔王「だが、それも今日までのこと。我が妻も諸君らに会いたがっている……さあ、こちらに来なさい」

民衆「魔王妃様のお出ましだ!」
民衆「魔王妃様! 魔王妃様ばんざーい!」

魔王「……少しだけ、挨拶しろ」ボソッ
女勇者「ええ、そんな……」ボソボソ
魔王「少しだけで良いから……さあ!」

女勇者「えと……国民の皆さま、お久しぶりです。ご心配をかけました。わたくしは、ご覧の通り元気です」ニコッ

民衆「おおおお! 魔王妃様! ばんざーい!」

魔王「最初は、本当に体調を崩していたのだがな……治った後も、勇者の襲撃に備えるため、隠れてもらっていたのだ。しかし、国民の皆を欺いていたことにもなる……諸君、どうか許して欲しい」

民衆「どよどよ……」
民衆「魔王様が頭をお下げに……」

民衆「す、全て勇者のせいだ! 魔王妃様のご快復おめでとうございます!」
民衆「おめでとうございます! 魔王魔王妃両陛下! ばんざーい!」

魔王「さあ、すでに報せにもあるように、勇者の成敗と我が妻の快復と復帰を祝い、本日より1週間の祭りを執り行う!」

民衆「おおおおお!」

魔王「祭りの間は城の食料庫も開け放つ! 諸君、存分に、飲み、食べ、歌おう! 勇者は倒れた! この戦の終わりも近い! 我らが勝利の前夜祭を、共に祝おうではないか!」

民衆「勝利だ! 勝利だ! 我らの勝利だ!」
民衆「魔王陛下ばんざーい! 魔王妃陛下ばんざーい!」

………………
…………
……

女勇者「……」グッタリ

メイド「大丈夫ですか?」

女勇者「なんつーか、民衆の熱気にあてられた……かな」グッタリ

魔王「なかなかの演技だったぞ」

女勇者「そうか? ただ手を振ってただけだったけど」

魔王「それで良いのさ、下手に芝居をして怪しまれたら意味が無い」

女勇者「はぁ、お前はよくあんなのに耐えられるな」

魔王「慣れさ。人間の女王も同じようなものだろう」

女勇者「……たぶんな」

メイド「それと魔王様、お祭りの夜会の準備が整いましたが……いかがなさいます?」

魔王「ううむ……見た目は我が妃とはいえ、中身は勇者殿だからなあ……皆には悪いが、今回はやめておこう」

女勇者「夜会って何するんだ?」

メイド「祭りの開催を祝って、神を称えるのです。お食事も出ますが、どちらかと言えばミサに近いですね」

女勇者「あんたらの神も、俺たちの神も、たしか同じ神様なんだろ? 俺はべつに出ても良いぜ?」

魔王「しかし……うーむ」

メイド「ほら、勇者様が良いっておっしゃってるんですから。準備も出来てますし、これ以上皆さまをお待たせするわけには参りません」

魔王「本当に良いのか?」

女勇者「ああ、もちろん!」

メイド「それでは勇者様、こちらへ……」

メイド「こちらのマントを身につけてください」

女勇者「すげ……輝いて透きとおって……綺麗だな」

メイド「春の風を縦糸に、秋の月光を横糸に織り上げた最高級品です」

女勇者「肩にまわして……これでいいか?」

メイド「いえいえ、そのマントだけ、を身につけてください」

女勇者「は? 全裸にこのマントだけ着ろって?」

メイド「はい」

女勇者「はい……って」

淫魔「メイドー? 準備出来た?」

女勇者「うわ、出た! 変態!」

淫魔「変態言うなー! ありゃ? まだ服着てるじゃない。みんな待ってるよ」

メイド「着替えて、すぐ参ります」

淫魔「……手伝おうか?」

女勇者「いや、結構だ!」

淫魔「そっか……残念。んふふ」ペタペタペタ

メイド「みなさんお待ちかねのようですね。さあ、着替えましょう」

女勇者「今のあいつの格好も、ほぼハダカだったよな……」

メイド「そうですね。魔王様と魔王妃様以外は、みなさん好きな格好で参加されますから。ほら、服を脱いで……脱がせましょうか?」

女勇者「もう、わかったよ、脱げば良いんだろ? 脱げば!」スルスル

メイド「そうそう、ふふふ、肌キレイ……」

女勇者「ううぅ……」ハラリ

魔王城の地下 おどろおどろしい夜会会場

どんどろどんどろ〜

魔王「うむ、なかなかの雰囲気だな。おお、元帥よ、久しぶりだな」

元帥「陛下、よくぞご無事で。此度の勝利は陛下の武勇の賜物。四天王は残念でしたが……」

魔王「うむ。これでようやく、私の計画を実行に移せるというものだ」

メイド「魔王妃様のおでましー」

どんどこ どんどこ

女勇者「ううぅ……うううう……」カアァ

魔王「おお、よく似合っているぞ」

元帥「魔王妃、立派になって」ウルウル

女勇者「魔王様……ちょっと」グイッ

魔王「どうした? おっとっと」

女勇者「どうして俺だけハダカなんだよ!」ボソボソッ

魔王「マントを着ているではないか」

女勇者「周りの連中がめちゃくちゃ見てくるし……」

魔王「お前が主催者のようなものだからな。一年ぶりの王妃のお披露目となれば、皆見て当然だろう」

女勇者「うぐ……ただ食事するだけだよな? べつにその、この格好だからナニするって訳じゃないよな!?」

魔王「いいや? お前にはきちんと儀式をやってもらうぞ?」

女勇者「何だよ、儀式って?」

魔王「簡単な劇みたいなものさ。果物を渡されるから、それを食べればいい。あとはその場の流れ次第だな」

女勇者「それなら、まあいいけど……あと、あのヒゲオヤジは誰だよ?」

魔王「元帥殿のことか。あれはお前のお父上だぞ」

女勇者「お父上? 魔王妃のとーちゃんって事か!?」

魔王「まあ、気にするな。上品に振る舞っていればバレないだろう」

淫魔「魔王様、そろそろお時間です」

魔王「おおそうか、よし、行ってこい」

女勇者「ふぇっ!? ちょ、引っ張るな!」

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保守

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このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月22日 (水) 15:16:30   ID: 0U-fTswv

更新まだかなぁ・・・面白いのに

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