速水奏「虚像と実像と偶像」 (41)


・主体が地の文です
・初SSです。ご指導のほどよろしくです


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十二回

高校に入ってから告白された回数

薄ら笑いを浮かべながら紡がれる愛の台詞

汚い唇で綺麗な台詞をいわないで

愛する人に言われたとき、汚れて聴こえてしまうから


彼等は私に何を求めているのだろうか

彼等は私を通して何を見ているのだろうか

彼等が見ている私は誰なんだろうか

私は“誰”なんだろうか


その日は何となく映画を観たくなった


(あら、学生特別割引なんてやっていたのね)



そのせいなのか、映画館には学生がいつもより多い気がする


人気アイドルが出演している恋愛映画が公開中とあってカップルも多い



(一人で来たのは間違いだったわね…)



人が多いと一人者は浮いてしまう


そして一人の女はナンパの対象となりやすい



(旧作を借りて家で観ることにしましょう)


観る気を削がれた私はナンパ男を適当にあしらい、映画館を後にした

#

「あ…すみません!!」



『ん?』


出た直後に声を掛けられる


振り返るとまさにサラリーマンといった感じのスーツの男性が、獲物を見つけたように駆け寄ってくる



(お仕事中なのかな。道を尋ねるにしても、わざわざ私を狙って声をかける必要はないよね。まさかナンパ……は無いか)



そんなことを考えてたら男性が口を開いた



「アイドルに興味はありますか?」


『え?』

(アイドル?ああ、あの恋愛映画の事?新しい切り口のナンパなのね)

勘違いを無理矢理納得させる


『あの映画の事ですか?すみません、恋愛映画は苦手なので…』



「え?ああ、三浦さんが出てるやつですね。いえ、そうじゃなくて…」



「アイドル、やりませんか?」


『え?』



勘違いじゃなかったらしい


返答に困っていると、男性は名刺を渡して映画館に入っていった

#

家に帰り、名刺を見る



彼の名刺には新興プロダクションであるCGプロの社名と電話番号、そしてプロデューサーという肩書きと彼の名前が書かれていた



(本物のプロデューサーだったのね…)



CGプロ。
765プロが火を着けたアイドルブームの波に乗り、今もっとも注目を集めているプロダクションだ。



(そんなとこのプロデューサーから直々だなんて)



少し誇らしく感じ、話だけでも聞いてみようかと思いスマホを手に取る



(アイドルになって何が変わるの?)




不意に聞こえた、自分の声



普通の生活を捨ててまでするべきことなのか



数多の人々を魅了し、信仰の対象とも成りうるアイドルに憧れていないわけではない



今回のようなチャンスがとても貴重であることも理解している



しかし、ファンが熱い視線を送るのは私では無いのだ



彼等が目にするのは造られた偶像“アイドル・速水奏”なのだから



あれから数ヶ月がたったが、電話を掛ける事はなかった




いや、できなかった




これ以上、自分を失いたくない



ただただ後ろ向きの理由で

期待


#


この事を、電話をしない理由は話さずに、友人に相談した。



返ってきたのは「もったいない」という予想通りの言葉



読めてた反応




なのになぜ相談したのだろうか



自慢したかったのか、未練があるのか



どうやら私は思っていたより小さい人間らしい




そんなもやもやした感情を吹き飛ばすために、放課後、久しぶりに友人達と遊ぶことにした



外見から勘違いされることが多いが、根は真面目な方だ



遊びも程々に勉学に励む



そんな私にとってカラオケは数少ないストレス発散法




“歌うのは好き。キモチイイから”




過去の私の発言を覚えてくれていたのか、カラオケへ行く事に決まった


#



「おや、これはお久しぶりです」



歌うのも一息ついて、ドリンクバーを取りに来たとこで、そう声を掛けられた。



『あ。どうも』




またあのスーツの男性




二回も偶然遭うとは…



今日は平日だろうに何をやっているんだろうか




「お電話頂けなかったということは、振られてしまいましたかね」



彼は苦笑い


『あー…ごめんなさい』



「いえ、貴女が謝ることはありません。でも、ひとつだけ。理由を教えていただけませんか?」



まるで理由さえ聞けば説得できるとでも言いたげに、彼は言う




『んー…なんというか。自分が変えられる、造られるのが嫌で…』




つい、考えをそのまま伝えてしまった




彼の自信ありげな言い方のせいかもしれない




説得できるならしてみろ。と



「造られる…ですか」



『えぇ…。特にCGプロさんは個性派で売ってるようですので』



具体例を挙げ痛いとこを突いた



つもりだった



「ああ!そういうことでしたか!」



彼はなにか閃いたようだ




「それなら…いえ、百聞は一見に如かず。十分ほどお時間いただけませんか?」


#


連れてこられたのは彼が使用しているカラオケボックス



(未成年をこんなとこに連れ込もうなんて…危険な香りね)



少し身構えたが、扉を開けると力強い女性の歌声が聴こえてきた



そこにいたのは







渋谷凛



齢15にしてCGプロの看板アイドル


類い稀な容姿と確かな歌唱力、そして年齢にそぐわないクールさが売りのアイドルだ



その本人が今、目の前に


渋谷凛がこちらに気づき、歌うのを止める



もう少し聴いていたかったが口には出さない



「はぁ…。プロデューサー、またスカウトしたの?」



呆れたように渋谷凛は言う



“また”なんだ



「前に話しただろ。映画館で原石を見つけたって」



「営業サボって三浦さんのグッズ買ってきた日ね」



「て、敵情視察だ」



「言い訳しない」




どちらが大人だか分からない


しかし、彼が言いたいことはすぐに分かった

彼女の大人びた雰囲気は造られたモノではない



そしてCGプロではアイドルとプロデューサーの距離が近いが故に意見も出しやすい



すなわち私が造られる事はないと言いたいのだ


共に造ることはあっても



と、理解すると同時に一つ疑問が浮かぶ



“なぜ彼は私をスカウトしたのか”



造られる事がないのなら、容姿だけで選んだのでは無いだろう



それを聞く前に渋谷凛が口を開いた



「初めまして、渋谷凛です。知っててくれたら嬉しいけど…」



少し不安そうな表情が年相応で可愛らしかった



『ふふっ…初めまして。もちろん知ってるわ。速水奏よ。これからよろしくね』



その言葉を聞いた彼は



「速水奏さん…か。これからよろしくお願いします」

と微笑んだ



……そういえばまだ名乗ってなかったわね


#


アイドルになることに両親は反対しなかったので、すんなりと契約はまとまった



学校の方も、真面目だったこともあり、あっさりと許可が下りた



そして今日が出社初日



顔合わせとレッスン見学だ



まずはCGプロの近くにある喫茶店へ



そこでプロデューサーのPさんと待ち合わせなのだ


暖かい日差しに照らされたお洒落な喫茶店



彼はその窓側の席でノートパソコンを広げて無防備に寝ていた



(営業中にアイドルのグッズを買ったり、平日に担当アイドルとカラオケ行ったり、真面目そうに見えるけど意外と適当なのかも)



そんなことを考えながらしばらく寝顔を見つめる



(可愛い寝顔…なんだかキスしたくなるわね…)



Pさんの規則正しい寝息が、日差しと相まって眠気を誘う



(いけない…寝てしまうわ)



『Pさん、起きて』



「…ん。ん~…あっ!失礼!もうそんな時間でしたか」



『ふふっ。Pさんって意外と抜けているのね』



「いや、面目ない。とりあえずなにか飲みますか?速水さん」


『いえ、遠慮するわ。寝てしまいそうだもの』



「ははっ…手厳しいな。それではさっそく事務所に行きましょうか」



『それと、奏って呼んで。私もPさんって呼ぶから。敬語も無し。年下だし、貴方は上司なのよ』



「あんまし、そういうの気にしないけど…。まぁ分かったよ。それじゃ行こうか、奏」


事務所までの道中で大まかな説明された



CGプロはアイドルを三つのグループ、Cute・Cool・Passionに分けて活動しているらしい



自己申告で決められるらしいが、大抵はスカウトしたプロデューサーが決めたので本人が納得する



プロデューサーは一人当たり1~5人のアイドルを担当



私はPさんの五人目の担当アイドルだそうだ




Pさんが立ち止まる



「さぁ着いたよ。CGプロへようこそ」


#



その日から私のアイドル生活が始まった



基本的に

平日は放課後にレッスン

土曜は半日レッスン

日曜は休養日


遊べなくなったが苦ではない



専属のトレーナーさんが事務所にあるレッスンルームで指導してくれる



内容はヴォーカル、ダンス、ビジュアルなど様々



いきなりデビューなんてことはなく地道なトレーニングが続く


それでもこれだけしっかりした環境で基礎を養えるのはとてもありがたい



レッスンに明け暮れる日が続いた


#



「奏、料理できる?」



Pさんがいきなり聞いてきた



『あんまりやらないけど、得意な方だとは思うわ』



「テレビでバレンタイン特集があるんだ。そこのミニコーナーでアイドルがチョコを作るってあってな」



『えっ、テレビ?』



「うん。奏に合いそうだなーって」



『ふーん。それって私からチョコ欲しいってことかしら?』



「甘いものは好きだな」



『どうせなら、チョコより甘いキスをあげましょうか?』



「チョコよりちょこっと甘い…ふふ」





……楓さん、いたんですか



この事務所は担当プロデューサーに想いを寄せているアイドルが少なくない




しかし、Pさんは凛のようにストイックだったり、楓さんみたいな不思議な人の担当だったからか免疫があまり無かった



そう、無かった



以前は私がキスをほのめかすたびに慌てて可愛かったが、今では上手く誤魔化されるようになってしまったのだ




それが面白くなく、最近は少しアピールが過剰になっているかもしれない





こんな私じゃないのに



「楓さん、いたんですか。そうだ、楓さんもやってみませんか?」



「おつまみを作るのは得意なんですけど…お菓子はちょっと」



「そうですか。分かりました。それで奏、どうする?」



今までの小さなお仕事とはわけが違う




けど、彼が私に合うと言った仕事なのだ



きっと、何かしら掴めるだろう


『ええ、やってみるわ。少し緊張するけど』

自分も最近書き始めたので支援
地の文いいよね、描写がむずいけど


#


『へぇ、今回はこういう衣装なのね』



「似合ってるぞ、奏」



正直、予想外



番組内容からして可愛いものだとは思っていたけど、ここまでとは



(Pさんはよく見てるのね)



自分でも予想できなかった私を彼は造り上げた



でもそこに造られた感覚はない



引き出されたという表現が合うだろう



─ホンバンハジメマース


スタッフの声が響く



「よし!行ってこい。速水奏、全国にお披露目だ」



『もう、余計に緊張させないでよ』



すまん、と彼は笑う


『まったく…貴方は変わらないわね…でも、』






『そんな貴方が気づかせてくれた私がある。ありがとう。感謝しているわ』




突然の言葉に驚く彼の首にキスをする



久しぶりに見た赤面する彼の顔


顔が熱い



きっと私も紅くなってる


何か言おうとする彼の唇に、人差し指をそっと当てる



(綺麗な唇…)






『終わったらキスより甘いのをあげる』


#

Pさん、お疲れさま


ふふっ…そんな恐い顔しないの

ねぇ、Pさん

貴方が見てるのは誰?



そう、速水奏

速水奏って誰?



…嬉しいこと言ってくれるのね


貴方が造り上げた偶像は

貴方の元で実像となるの

ファンに映るのは虚像だけど

貴方がミてる私が私になるの

これからも導いてね




『ハッピーバレンタイン、Pさん』




彼は私に何を求めているのだろうか



彼は私を通して何を見ているのだろうか



彼が見ている私は誰なんだろうか



分からないけれど
きっとそれが私なのだろう

以上になります

レスありがとうございました


バレンタインと蒼翼のセリフから自分なりに考えたんですけど難しいです

途中削りたい



最高だった


だが、2ヶ月早くね

>>34
本当は10ヶ月前に書きたかったんです

>>35
よし、一回書いて慣れただろうし再来月も期待してる



次回も期待してます

いい雰囲気のssだった

奏が出てくるssは少ないからな
これからも期待しているよ、キミィ

乙 良かった


いいね

乙乙!よかった!

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