サシャ「中味が大事なんですよ」(223)
・サシャ「じっくり吟味しましょうか」の続き
・長いので分割して投下します
―― 夜 女子寮 屋根の上
サシャサシャ「ふーんふふふーんふーんふーんふふふーん♪」ザクザク
ミカサ「……」ザクザク
サシャ「どうも今年は大雪になりそうですね。今の当番の他に、新しく雪かきと雪下ろし当番が割り振られるとは思いもしませんでしたよ」
ミカサ「なんでも、今回は数十年に一度の大寒波が来ているらしい。アルミンが言っていた」
サシャ「ああ……最近朝起きれば大体雪が降ってますもんね。納得です」
ミカサ「それでも、積雪量自体は少ないほうみたい。雪が降っている時間より、昼間晴れてる時間のほうが長いから」
サシャ「そうなんですか? でもまだ営庭にたくさん雪が残ってますし、あまりそういう気はしませんが」
ミカサ「トロスト区に積もった雪が今も運ばれ続けているから仕方がない。雪捨て場を新たに整備するための土地もお金も時間もないから、結局ここに持ってくることになる。……と、アルミンが言っていた」
サシャ「ままならないですねぇ」ザクザク
ミカサ「……」ザクザク
サシャ「……」ザクザク
ミカサ「……サシャ」ザクザク
サシャ「はーい、なんですか?」ザクザク
ミカサ「私はあなたに手を貸すと言った。あれからもう二週間以上経った」
サシャ「えっ? もうそんなに経ってましたっけ?」
ミカサ「経っている。――それで、どうするの?」
サシャ「? 何がですか?」キョトン
ミカサ「私は何を削げばいいの?」
サシャ「えっ、削いじゃうんですか? 物騒なのでやめときましょうよ」
ミカサ「……何を調べればいいの?」
サシャ「えっと……なんでしょうかね? わかりません」
ミカサ「…………何をすればいいの?」
サシャ「……」
ミカサ「……」
サシャ「さあ……?」
ミカサ「サシャ?」
サシャ「はい、なんでしょう」
ミカサ「なんでしょうじゃない。――私はどうしたらいいの?」
サシャ「……応援、とかですかね」
ミカサ「それじゃあ今までと同じ。何をどうすればいいのかわからないと、手を貸すこともできない。ちゃんと考えて」
サシャ「でも正直、私もこういうことってはじめてですから……何をどうしたらいいのかわからないんですよねー」
ミカサ「そんな悠長なことを言ってる場合じゃない。山岳訓練は来週だし、卒業試験もそろそろ。はっきり言って時間がない」
サシャ「はぁ、そうですねぇ」
ミカサ「あなたには危機感が足りなさすぎる。やる気はあるの?」
サシャ「ありますよ?」
ミカサ「悪いけど、とてもそうは見えない」
サシャ「でもでも、他人が秘密にしてることを無理やり暴くのって、やっぱりよくないことなのかなーなんて思っちゃったりなんかして」
ミカサ「それを知らないと先に進めないと言ったのはあなた」
サシャ「そうなんですよねぇ……困りました」
ミカサ「困ってるのはこっち」
サシャ「はぁ、すみません」ヘコヘコ
ミカサ「あなたはのんびりしすぎ。戦わなければ……勝てない!」バッ!!
サシャ「わぁ、ミカサのそういう立ち姿ってキレイでかっこいいですよね。スコップをブレードに持ち替えるともっとよく映えると思います」
ミカサ「えっ? ……そ、そう? そんな風に言われると照れる」テレテレ
サシャ「はい、きっとエレンやアルミンが見たら惚れ直すと思いますよ! とっても素敵です!」ニコニコ
ミカサ「……それは置いといて、話を元に戻そう。何かいい案はない?」
サシャ「案ですか……食べ物で釣るとかどうですかね」
ミカサ「それはあなたにしか通用しない」
サシャ「うーん、他に何かありましたかねぇ……」
サシャ「ねえミカサ。例えばの話なんですけど、エレンがミカサに何か隠し事してたとしたらどうします?」
ミカサ「エレンは私に隠し事なんかしない!!」クワッ!!
サシャ「わかってます、わかってますよ。仮にですよ仮に」
ミカサ「エレンが、私に…………」
サシャ「そうです」
ミカサ「……」
サシャ「……」
ミカサ「…………………………エレン」ジワッ...
サシャ「あああああ、すみませんすみません」ヨシヨシ
ミカサ「想像しただけで、とても悲しくなった……」グスッ...
サシャ「ええと、じゃあアルミンにしましょう。アルミンの隠し事が」
ミカサ「アルミン……酷い、私に黙って……」ポロポロ
サシャ「あわわわわ」オロオロ
ユミル「……おい、お前らさっきから何を小芝居してんだ。雪下ろし終わんねえだろ」
ミカサ「……そうだ、ベテランに聞こう」ポンッ
ユミル「誰がベテランだ誰が」
サシャ「教えてくださいユミルさま」
ミカサ「教えてユミル。じゃないと削ぐ」
ユミル「やだよ削ぐなよ」
ミカサ「あすなろ抱きの素晴らしさを私に伝授してくれたユミルなら……ユミルならきっとなんとかしてくれる……!」グッ
サシャ「あすなろ抱き……? ってなんですか?」キョトン
ミカサ「こういうの」ダキッ
サシャ「ああ、なるほどなるほど……こうやって後ろから抱きつくのをあすなろ抱きって言うんですね、はじめて知りました――って、みっ、ミカサっ、ミカサー! 重いですー!」ジタバタジタバタ
ミカサ「ふふふ、重かろう重かろう」ニヤニヤ
ユミル「寒いから帰っていいか?」
ミカサ「だめ」
ユミル「……ふーん、ライナーの隠し事ねえ」
サシャ「そういえば、この前のユミルは何やら訳知り顔でしたよね。――もしかして、ライナーが何か隠してること、本当は知ってたんじゃないですか?」
ユミル「さて、どうだかな。――と言いたいところだが、実は知ってる」
サシャ「えっ!? 本当に!?」
ミカサ「……なんと」
サシャ「いつ、いつ知ったんですか!? ライナーに教えてもらったんですか!?」ユサユサユサユサ
ユミル「揺ーすーるーなー。――あいつに教えてもらったわけじゃねえよ。それに、情報の中身はたぶんお前と大して変わらないはずだ」
ミカサ「言わなきゃ削ぐ」
ユミル「削がれても言わねえよ。ってかそもそも中身は知らないしな」
サシャ「……? 知らないのに知ってるってどういう……?」
ユミル「今はまだ言えない。私が持ってる情報はおいそれと出せるもんじゃないんでね。……ただまあ、一つだけ教えてやるよ。周りを見渡せば怪しい奴が一人か二人いるもんだぜ」
サシャ「はい? 怪しい奴……??」
ユミル「まあ、そういうわけでだ。私もその隠し事の中身には興味があるから混ぜろ」ズイッ
クリスタ「ねえねえ、みんなで何の話?」ヒョコッ
ユミル「ライナーの秘密を探る会だ」
クリスタ「へえ、楽しそう……! 私も混ざる!」キラキラキラキラ
ユミル「おう、混ざれ混ざれ」
サシャ「……一応この会合って、後ろめたいことをしてるはずなんですが」
ミカサ「違う。これはそもそも雪下ろしと雪かき当番の会。――ところでサシャ。ライナーが隠してる秘密って、ずっと前に話してくれたこととは別なの?」
サシャ「……? 私、何か言ってましたっけ」
ミカサ「ライナーに、好きな人がいるって話」
サシャ「……あー、なるほど」
ユミル「はぁ? あいつ好きな奴いるのか?」
クリスタ「それってサシャのことじゃないの?」
サシャ「違いますよ。その話を聞いたのは、キスの味を教えてもらう前ですし。私ってことはありえません」
ユミル「ほー……好きな奴がいるのにお前とキスしたのか?」
サシャ「私が無理に頼み込んじゃいましたからね。――でも、そのこととは違う気がするんですよね。もうちょっとこう……本当に、これが知られたら終わりみたいな」ウーン...
クリスタ「これが知られたら、終わり……」ウーン...
ミカサ「難しい……」ウーン...
ユミル「実はあいつ男色家とか?」
クリスタ「『ダンショクカ』って何?」キョトン
サシャ「それっておいしいんですか?」ジュルリ
ユミル「一部の層にはな」
ミカサ「ユミル。話が逸れてる」
ユミル「まあ、現状は他の理由も思いつかねえし、潰せる可能性はどんどん潰してったほうがいいだろ。――というわけでライナーに本当のこと聞きに行っちゃおうぜ」ワクワク
サシャ「……楽しんでるでしょう、ユミル」
ユミル「当然だな」キリッ
ミカサ「決着はいずれつけなければならなかった。それが今になっただけ」
サシャ「恋する女子ってやることがいっぱいあるんですね。これなら営庭五十周のほうがまだ楽です」ハァ
ミカサ「現実逃避してはだめ」
サシャ「……ぐぬぬ」
ユミル「でもよ、具体的にどうやってライナーから聞き出すんだ? あいつ、口はかなり堅そうだぞ」
クリスタ「うーん、そうだねえ……」
ミカサ「うーん……」
ユミル「うーん……」
サシャ「うーん……」
クリスタ「ライナーなら正面から聞けばちゃんと答えてくれるんじゃないかな? 根はとても優しい人だもの!」
ミカサ「じゃあクリスタ。あなたの好きな人を教えて」
クリスタ「えっ、私!? ……は、恥ずかしいよぅ」モジモジ
ユミル「ユミルが一番に決まってるじゃない! そんなこともわからないの!?」
サシャ「声真似下手ですね、ユミル」
ミカサ「というわけで、真正面からは無理。クリスタを見ても明らか」
ユミル「そうだな。……つまり、回りくどくあいつから聞き出すしかないってこった」
サシャ「それしかないですかね。でも私、小細工って一番苦手な分野なんですが」ウーン...
ミカサ「ならばユミルに習うといい。世渡り上手だから」
ユミル「褒めてるのかけなしてるのかわからないんだが」
ミカサ「……そろそろ、片付けよう」スクッ
ユミル「そうするかー。このままじゃ埒があかないしな」スクッ
クリスタ「……あっ! どうしよう、ずっと話してたから営庭の雪かき終わってないよ? 全然手をつけてない!」オロオロ
ユミル「んなもん明日の当番がやるだろ。それに今日の私たちは重要任務についてたからな。自動的に免除だ免除」
クリスタ「重要任務?」
ミカサ「お話会は女の子の嗜み」
クリスタ「そっかぁ、じゃあ仕方ないね」
サシャ「……あの、私もうちょっとここにいてもいいですか?」
ミカサ「だめ。落ちたら大変」
サシャ「大丈夫ですって。軒先に行ったりはしませんから」
ミカサ「でも――」
ユミル「わかったわかった。その代わり、梯子は自分で片付けろよ。教官への報告が終わった後で迎えに行くからな」
サシャ「はい、それでいいです。――お願いしますね」
―― 女子寮 軒下
ミカサ「……」チラチラ
ユミル「ほっとけって。まずは一人で色々考えたいことがあるんだろ。部屋だと私やクリスタがいるから、気になって集中できないだろうしな」
ミカサ「私たちは、いたら邪魔なの?」シュン
ユミル「んな極端に考えるなってば。あいつが頼りたくなったらちゃんと頼るだろ。お前とサシャは友だちなんじゃなかったのか?」
ミカサ「……うん。友だち」
ユミル「だったら信じて待ってやれよ。いつでもべったり側にいるってのが友だちってわけじゃないんだぞ。……あとクリスタ、なんでニヤニヤ笑ってんだ。かわいらしいぞ結婚しよ」ツンツン
クリスタ「ふふっ、笑ってごめんね? ……結婚はそのうちしようね」クスクス
ユミル「……へっ?」キョトン
クリスタ「冗談だよ」
ユミル「……っ、この野郎っ、生意気だぞ生意気だぞ生意気だぞ!!」グリグリグリグリ
クリスタ「あははっ、ユミルってばくすぐったいよ!」ジタバタジタバタ
ミカサ「……? ねえユミル、クリスタ。今、あっちの森のほうで何か動かなかった?」
クリスタ「森? ……ううん、気がつかなかったけど」
ユミル「どうせ野犬か何か入り込んでるんだろ。……っていうかこの暗さでよく見えたな」
ミカサ「今日は満月だから、遠くまでよく見える。――本当にあれは野犬なんだろうか」
ユミル「野犬じゃなかったらなんだってんだ。まさか巨人でも入り込んでるってか?」
クリスタ「えっ!? ――どうしよう、教官に報告しなきゃ!」ダッ
ユミル「こらこら、冗談を真に受けるんじゃありません」ガシッ
ミカサ「……気になるから、ちょっと見てくる」ザクザク...
ユミル「はいよ、行ってらっしゃい」
クリスタ「待ってミカサ! 万が一のために信煙弾と立体機動装置を持って行って!」ジタバタジタバタ
ユミル「……お前はもうちょい嘘と本当を見わける力をつけような。将来誰かに騙されるぞ?」
―― 女子寮 屋根の上
サシャ「……はぁ」
サシャ(なんだか、今まで色々後回しにしていたツケがきてるって感じですね)
サシャ(ユミルの言ってたことも気になりますし……というか、怪しい人って誰のことなんでしょう?)
サシャ(あの言い方だと、ライナーの隠し事とその怪しい人ってのが一致するって言い方でしたし)
サシャ(……うあああ、考えたらわからなくなってきちゃいましたよ!! もう!!)ジタバタジタバタ
サシャ(でも、本当にもう時間がないんですよね……山岳訓練が終わったらすぐ卒業試験ですし)
サシャ(あっ……そういえば、その前に二人で食堂に行くんでした)
サシャ(……楽しみだなぁ)
サシャ「……」
サシャ「むふふ、お肉ぅ……」ジュルリ
―― 男子寮 エレンたちの部屋
ライナー「――てな具合だな。他に聞きたいことはあるか?」
エレン「いや、今のところはいいかな。やっぱり他の班の話を聞くのって勉強になるなー」カキカキ...
ライナー「あとでベルトルトにも聞いておくといいぞ。俺とはまた違った考え方をするからな、参考になるだろう」
エレン「わかった、帰ってきたら頼んでみる。――あー、緊張してきたー……もう来週だもんな、山岳訓練」
ライナー「そう気負うなよ。何もお前一人でやるわけじゃないんだからな。……今回は通る道筋があらかじめ決まっているが、班員の奴らともどう動くか事前に話し合っておけよ?」
エレン「そうだな、そうする。……色々ありがとな、ライナー」カキカキ...
ライナー「これくらいならお安いご用だ。また何かあったら言ってくれ」
エレン「おう、任せとけ! ……じゃねえや。頼ってばっかりじゃ悪いから、自分でなんとかできるように頑張るよ」
ライナー「……? なんだ、遠慮しなくてもいいんだぞ?」
エレン「遠慮してるわけじゃねえって。俺だってそろそろ自立しないとなー」
アルミン「二人ともお疲れさま。――これ、入れてきたからどうぞ」ガチャッ バタンッ
ライナー「おお、アルミンか。――悪かったな、なんだか追い出しちまった形になって」
アルミン「ううん、僕は僕で用事があったからいいんだ。話し合いはうまくいった?」
エレン「おう、ばっちりだぜ! これで雪山を駆逐する準備も万端だ!」グッ
アルミン「雪山は駆逐できないと思うけど……まあいいや。はい、こっちはエレンの分ね」スッ
エレン「……? これ、ただの白湯じゃねえのか?」クンクン
アルミン「うん、ホットレモン作ってきたんだ。この前ミカサに作り方教えてもらったからさ」
ライナー「ん? レモン……と、なんだこれ? 他の味もするが」
アルミン「ライナー、よく気づいたね。それね、レモンだけじゃなくて生姜も入ってるんだよ。生姜には身体を温める作用があるからね」
エレン「へー……なんだかクセになりそうな味だな。おかわり」ゴクゴク
アルミン「はいはい」トポトポ
ライナー「なあアルミン。作ってもらえたのは嬉しいんだが、何もヤカンで持ってこなくてもよかったんじゃないか? 重かっただろ?」
アルミン「ああ、これは違うんだ。ミカサたちが今日雪下ろし当番だから、この後差し入れで持って行ってあげようと思ってさ」
エレン「今日の当番誰だっけ? ――おかわり」
アルミン「ミカサとクリスタとユミルとサシャだよ」
ライナー「……」ピクッ
アルミン「エレン、あまり飲むと夜中にトイレに行きたくなっちゃうからその辺にしておこうね」
エレン「夜中に布団から出たくないな……よしアルミン、早くミカサたちのところに持って行ってやれよ。目の前にあったらもっと飲んじまいそうだ」
アルミン「そうしたいんだけどね……実はまだ片付けてないレポートがあるから、まずは先にそっちをやらないとだめなんだ。今日中に提出しなきゃいけないんだけど」チラチラ
エレン「はぁ!? 今日提出なのになんでそんな落ち着いてるんだ!?」
アルミン「うんうん、だから本当に困ってるんだよね。レポート書き終わる頃には雪下ろしも終わっちゃってるし、せっかく入れたホットレモンも冷めちゃってるだろうからさー」チラチラ
エレン「自分のレポートの心配しろって! どうすんだよ俺はアルミンより座学の成績悪いから手伝えないんだぞ!?」オロオロ
ライナー「……アルミン。手伝ってやろうか?」
アルミン「そんなに言うなら仕方ないなぁ。じゃあライナーにお願いし――」
エレン「よしわかった! 俺がヤカンをミカサたちに届けてくればいいんだな!」スクッ
アルミン「エレンエレン待って待って違う違う違うから!」ガシッ
エレン「……? どこが違うんだよ。ライナーがレポートを手伝ってくれるんなら、俺がヤカンを届けるしかねえだろ?」
アルミン「今日はライナーじゃなくて、エレンの意見“が”聞きたい気分なんだよ。だから君が残って。ね? いいでしょ?」
エレン「? ?? けど俺よりライナーのほうが成績いいじゃねえか」キョトン
アルミン「……ねえエレン。例えば君は、魚を食べる時はどこから食べる?」
エレン「ん? ああ、えーっと……腹からだな。うまいし」
アルミン「ライナーはどう? どこから?」
ライナー「俺か? ……気にしたことないが、尻尾のほうからが多い気がするな」
アルミン「なるほどなるほど。――ちなみに僕は頭から食べる派なんだけど」
エレン「いや、魚の食べ方が今関係あるのかよ」
アルミン「大アリだよ。……いいかいエレン? 魚の食べ方一つ取っても、三人でこんなに違うんだよ? それが巨人相手の作戦行動なら、尚更個人の好みや性格が色濃く出ると思わない?」
エレン「お、おう。……そうなのか?」
アルミン「うん、そうなのそうなの。だからね、今回のレポートはエレンの直感的な戦術を聞きたい気分なんだ。わかった?」
エレン「まあ、なんとなくは……でもなぁ」
アルミン「ライナー早く行って!! エレンが余計なこと言う前に持ってって!」シッシッ
ライナー「だがエレンの言うことも一理あるんじゃねえか? 本当に俺じゃなくても――」
アルミン「ねえライナー。……君は頭も悪くないし、鈍感な人でもないでしょ? 僕の意図もわかるよね?」ニッコリ
ライナー「…………行ってくる」モソモソ
アルミン「はい行ってらっしゃい!」ブンブン
アルミン「……ふう。やっと行った」ホッ
エレン「それでアルミン、レポートは? どんな内容なんだ?」
アルミン「ないよそんなもの」
エレン「はぁ!? アルミンお前……嘘吐いたのかよ!! 嘘吐くなんて人間として最低なことだぞ!」プンスカ
アルミン「エレン、人には時として必要な嘘もあるんだよ。状況に応じて柔軟に使い分けなきゃ」
エレン「そっか、なるほどな。……柔軟な嘘っと」カキカキ
アルミン「メモってどうするの」
エレン「山岳訓練の時に使えるんじゃねえかなって」
アルミン「……うん、まあ使えなくはないかもね」
エレン「……なあ。アルミンは、ライナーとサシャのこと応援してんのか?」
アルミン「うーん……どっちかっていうと、あの二人っていうよりはサシャの応援かな」
エレン「サシャの? なんでだ?」
アルミン「サシャってさ、前と比べたら随分変わったと思わない?」
エレン「そんな気はしねえけど……背でも伸びたのか?」
アルミン「違うよ。外見じゃなくて中身の話。――ミカサから聞いたんだけどね、サシャって女子寮に帰っても勉強してるらしいよ」
エレン「は? なんで寮で勉強してんだ? ってかどこでやるんだよ勉強なんか」
アルミン「……エレン、この部屋にある机は物置場じゃなくてね、本来は自習するところなんだよ? 知ってた?」
エレン「知らなかった……!」ガーン...
アルミン「……僕、何回か言ったんだけどなぁ」ハァ
アルミン「まあ、それだけじゃなくて他にも色々あるよ。僕のところに技巧や座学について聞きに来たのなんか一度や二度じゃないし、しょっちゅうライナーに勉強教えてもらってるし」
エレン「……そういえば、前にアニと対人格闘の特訓してたの見たことあるな」
アルミン「でしょ? ――あんなに頑張ってるサシャを見てるとね、僕もやればできるんじゃないかって気がしてくるんだよね。だから、つい応援したくなっちゃうんだ」
エレン「……そんなもんか」
アルミン「そんなもんだよ。深い理由はないんだ。――ねえ、エレンはどう思ってる? あの二人のこと」
エレン「俺か? ……うーん、よくわかんねえや」ポリポリ
アルミン「? わからないって?」
エレン「あの二人、春頃から妙に仲はいいなって思ってたけど……この前、き、き、ききき……」
アルミン「キス」
エレン「……をするところを見るまでは、普通の仲間同士だと思ってたんだよ。あいつらがくっつくことなんか考えたこともなかった」
エレン「ライナーは……すげえ奴だと思うよ。聞けば大抵は答えが返ってくるし、何より強ぇしな。できるならあいつみたいな男になりたいって考えたことも、一度や二度じゃない」
アルミン「サシャはどう?」
エレン「あそこまで食い意地張った奴にはなりたくねえな」キッパリ
アルミン「あはは、はっきり言うね」
エレン「なりたくないが……アニに特訓つけてもらってるサシャを見て、俺も頑張らないとなって思ったのは確かだ」
アルミン「じゃあ、ライナーだけじゃなくてサシャもエレンにいい影響を与えてくれたってことになるね」
エレン「あー……そういうことになるのか? よくわかんねえけど」
アルミン「うん、そういうことだよ。……仲間に恵まれてよかったよね、僕たち」
エレン「そうだな。……ここに来て、よかったよな」
エレン「……なんかウズウズしてきた。俺走ってくるわ」スクッ
アルミン「ダメだよ。エレンは熱中しちゃって帰る時間忘れるじゃないか。おとなしくここにいて」ガシッ
エレン「ちぇっ、つまんねえのー。……ところで、ベルトルトはいったいどこに行ったんだ? メシ食った後から姿が見えねえが」
―― 営庭隅 とある林の中
アニ「ふぅん……あいつ、まだ悩んでるんだ」
ベルトルト「アニはどう思う?」
アニ「はっきりしないのは傍から見ててイライラするけどね。――でもまあ、あいつの好きにさせておけば? まだ時間はあるんだし」
ベルトルト「……もう、一ヶ月と少ししかないよ」
アニ「……そうだね。もう少しで、この兵士ごっこともお別れか」
ベルトルト「……」
アニ「ところで、その話題の本人は? 姿が見えないけど」キョロキョロ
ベルトルト「夕食の後すぐに、寮でエレンに捕まっちゃったんだ。山岳訓練について聞きたいことがあるんだって。僕はなんとか見つかる前に逃げ出してきたんだけど」
アニ「そんなことしていいの? 急にいなくなったら逆に怪しまれるんじゃない?」
ベルトルト「だって僕が来なかったら、アニはここで一人待ちぼうけじゃないか。こんなに寒いのに」
アニ「寒さで音をあげるような柔な鍛え方してないよ。馬鹿にしないで」ムッ
ベルトルト「でもアニは女の子じゃないか。無闇に体を冷やすのはよくないと思うよ」
アニ「……女の子?」
ベルトルト「? だってそうでしょ?」
アニ「……………………そうだけど、さ」
ベルトルト「こんなに寒いんだから、せめて手袋とマフラーだけでもつけてくればよかったのに。本当に寒くない? 僕の手袋貸そうか?」
アニ「寒くないよ。……それに手袋やマフラーつけてきたら、外に出かけてるってことバレちゃうでしょ。あんたも馬鹿正直に手袋つけてこないで、少しは考えなよ」
ベルトルト「それはそうかもしれないけど……どっちにしろ、僕らが外にいたのはバレちゃうと思うよ? 今のアニ、顔が真っ赤っかで火照ってるし。それって寒くてそうなってるんでしょ?」
アニ「……」
ベルトルト「? ねえ、本当に大丈夫? 僕のマフラー貸そうか?」
アニ「……も、もう帰るっ」クルッ ザクザク...
ベルトルト「えっ? ちょっ、ちょっと待ってよアニ! 僕何か変なこと――」
―― ガサガサガサッ
アニ「!」
ベルトルト「! ――誰?」サッ
ミカサ「こんばんは、ベルトルト。……と、後ろに隠れているアニ」ヒョコッ
アニ「隠れてるわけじゃないよ。……ベルトルト、邪魔。どいて」
ベルトルト「あっ……ご、ごめん」シュン
アニ「ミカサ、あんたこんなところに何しに来たの? エレンはここにいないよ?」
ミカサ「この森に何かいるような気配がした。……ので、来た」
アニ「野良犬かあんたは」
ミカサ「あなたたちこそ、こんなところで何してるの? 夜道は危険。暗殺し放題」ニンニン
ベルトルト「え? あっ、いや、僕たちは――」アセアセ
アニ「山岳訓練の打ち合わせだよ」
ミカサ「そうなの? ……でも、一人足りないみたい」キョロキョロ
アニ「クリスタだね。あの子は体力が不安だから、どうフォローするか二人で考えてたんだ」
アニ「そういうのって、クリスタを前にする話じゃないだろ? 食堂や談話室でおおっぴらに相談できるものでもない。それくらいあんたにもわかるでしょ?」
ミカサ「それもそうかも。……邪魔してごめんなさい。私は帰るから、話し合いを続けて欲しい。それでは失礼する」ザクザク...
アニ「はいはい、また後でね」
ベルトルト「危なかったね……うまく誤魔化せてよかった」ホッ
アニ「誤魔化したのは私だけどね。……あとあんた、顔に出すぎ」
ベルトルト「えっ!? ……ごめん、今度からは気をつける」シュン
アニ「そもそもなんで私を隠そうとしたの? 足跡が残ってるんだから、ここに私たち二人がいるのはどうせバレるのに」
ベルトルト「それはそうなんだけど……ミカサはダメでも、他の人だったら騙せたかもしれないし」
アニ「まあ、コニー辺りなら騙せたかもね」
ベルトルト「それに……僕だって男なんだから、何かあったら前に立つよ」
アニ「……」
ベルトルト「……ライナーよりは、頼りなく見えるかもしれないけど」
アニ「……そんなことないよ」
ベルトルト「ははは、そう言ってもらえると嬉しいな」
アニ「……じゃあ、私帰るから。また定期報告の日に」ザクザク
ベルトルト「あっ……うん、おやすみ。いい夢見られるといいね」
―― 女子寮裏手
アニ「……」ザクザク...
アニ「……」ピタッ
アニ「……」
アニ(……何、あれ)
アニ(いきなり女扱いして……変なの)
アニ「……」
アニ(……二人きりだと、ああいうことも言うんだ)
アニ(ベルトルトのくせに……)
アニ「……」
アニ(……明日の対人格闘で、ライナー投げてやる)ザクザクザクザク
―― 男子寮 裏口
ライナー(雪下ろしって言ってたな……そろそろ終わってる頃だろうし、屋根下までまずは行ってみるか)チャプチャプ
ライナー(……よし、見回りはいないな。さっさと出よう)コソコソ
コニー「あれ? おーいライナー! こんな時間に出かけるのかー? ――むぐっ!?」
ライナー「大声出すんじゃねえよ、裏口から出る意味ないだろうが……! 何かあるなら黙って喋れ……!」ヒソヒソ
コニー「」コクコク
ライナー「よし、離すぞ。――いきなり掴みかかって悪かったな、コニー」
コニー「……」ブンブン
ライナー「……小さい声でなら喋ってもいいぞ」
コニー「こんな時間にどっか行くのか? もうじき消灯だぞ?」ヒソヒソ
ライナー「ああ。ミカサたちに差し入れを届けに行くんだ」チャポン
コニー「そのヤカンが差し入れなのか? 変なの」
ライナー「正確にはヤカンの中身だけどな。……もういいか? 早く行かないと冷めちまう」
コニー「もしかして、その面子の中にサシャはいるか? いるならさ、ついでにこれやっといてくれよ」ポン
ライナー「これは……みかんか。まだ残ってたのか?」
コニー「ああ、それで正真正銘最後だよ。残りは俺が全部食う」ムシャムシャ
ライナー「歩きながら食べるなよ。廊下が汚れる」
コニー「むぉんむぁむぉむぉむぁむむぁむぁ」モグモグ
ライナー「食いながら喋るな。……もう俺は行くぞ。じゃあな」コソコソ
コニー「むぉう、行ってらっしゃ――っと、そうだ。そういやミーナもサシャのこと探してたんだよな。見かけたら声かけてやってくれよ」
ライナー「ミーナもか? ……わかった、そうする」
―― 屋外 とある倉庫前
ライナー(ミーナミーナっと……おっ、いたな)
ライナー(だがあの格好はなんだ? かなり薄着じゃないか)スタスタ...
ライナー「おいミーナ、上着くらい着て外歩け」
ミーナ「あっ、ライナー……こんばんは、いい夜だね」
ライナー「おう、こんばんは。――じゃなくてだな、そんな薄着でどうしたんだ? 上着はどうした」
ミーナ「ああ、これね。すぐ部屋に戻る予定だったんだけど、サシャになかなか会えなくてさ」サスサス
ライナー「俺のでよければ上着を貸そうか? そのままじゃ冷えるだろ?」
ミーナ「ううん、もう戻るからいいよ。それに、ライナーから上着なんか借りたらサシャに怒られちゃうもの」
ライナー「いや、これくらいで怒ったりは………………………………するかもな、サシャは」
ミーナ「でしょ? ――っていうか聞いてよ! サシャったら今日一日中追いかけたのにちっとも捕まらないんだよ? おかしくない?」ムー...
ライナー「あいつの動きは俺でもよくわからん時があるからな……まあ、今日は運が悪かったとでも思っとけ。怒るだけ損だぞ」
ミーナ「うーん……そうだね、そう思うことにする。――じゃあ、これよろしくね。サシャに渡しておいて」スッ
ライナー「……何故俺に渡す」
ミーナ「え? だってサシャのところに行くんでしょ?」
ライナー「…………まあ、行くけどよ。ていうか、あいつ女子寮の雪下ろし当番だろ? 今から俺も行くから、一緒に行けば手っ取り早いんじゃないか?」
ミーナ「はい、それではここで問題です。――これなーんだ?」チャリンッ
ライナー「ここの倉庫の鍵だな」
ミーナ「正解! ――さて、ではどうして私はこれを持ってるんでしょうか?」
ライナー「……? 何か関係があるのか?」
ミーナ「はい時間切れ! 正解は『サシャを探して外をうろちょろしてたら、教官に倉庫の片付けを押しつけられたから』でしたー!」
ライナー「……運がなかったな」ポン
ミーナ「まあ、もう終わったからいいんだけどさ……こういう時に限ってミカサもアニもいないしぃ……」ブツブツ
ライナー(あっ……そういや忘れてたが、アニからの定期報告終わったんだろうか)ハッ
ミーナ「――というわけで、私はこれから教官室にこの鍵を返しに行かなきゃいけないんだよね。帰る頃には消灯時間だろうから無理なの。渡せないの。……ねえちょっと、ライナー聞いてる?」
ライナー「え? ……あ、ああ、聞いてるぞ」
ライナー(後でアニに謝って、ベルトルトから話を聞かないとな)
ライナー「お前の事情はわかった。――だが、何も今日渡すことにこだわらなくたっていいだろ。明日以降に仕切り直したらどうだ?」
ミーナ「そうしたいのは山々なんだけど、明日から私当番続きなんだよね。暇な時間取れるのって今日だけだったんだ。――だから、明日以降ってのは無理」
ライナー「なら、寮の部屋に置いてくればいいじゃないか」
ミーナ「この瓶の中身お菓子だから、物だけ置いといたらすぐに食べられちゃうよ。それに私からだって伝わらないと意味ないし」
ライナー「置き手紙でも書いておけよ」
ミーナ「読むと思う?」
ライナー「……同室のユミルかクリスタに伝言頼めばいいだろ」
ミーナ「ユミルに頼んだら物を要求されそう。クリスタに何か頼む時はユミルを通さないと後で怒られるから無理」
ライナー「…………朝晩狙えば会えるんじゃないか? 同じ寮だろ?」
ミーナ「それも無理。最近サシャって消灯近くじゃないと部屋に戻ってないんだもん。朝は一番に食堂向かってるから全然会えないし」
ライナー「なんでそんな八方塞がりな状況になってんだ……? たかがお礼を渡すだけなのに……」ウーン...
ミーナ「女の子は色々あって大変なんだよ、ライナー」
ライナー「それなら仕方がないな。俺からでいいなら渡しておこう」
ミーナ「やったぁ、お願いね! ――あっ、この前当番代わってもらったお礼って言えばわかると思うから、ちゃんと伝えといてね?」
ライナー「わかったわかった、伝えておく。――ところで、この瓶の中身はなんだ? 砂か?」ザラザラ
ミーナ「違う違う。金平糖っていう砂糖のお菓子だよ。知らないの?」
ライナー「ああ、はじめて見たな。……第一、こんなに小さくて腹の足しになるのか?」ザラザラ
ミーナ「あはは、お腹の足しにはならないかな。こういうのって見た目や味を楽しむ物だからさ」
ライナー「……サシャはこういうもんが好きなのか?」
ミーナ「うーん、どうかな……もちろん、お肉が一番好きなんだろうけどね。だけどサシャだって女の子だもん、こういうのもよく食べてるよ?」
ライナー(……そういやあいつも女だったな。たまに忘れそうになるが)
ミーナ「でもよかったぁ、ライナーに預けておけば安心だよね」
ライナー「……? なんで俺に預ければ安心ってことになるんだ?」
ミーナ「え? だってライナーが呼べばサシャが出てくるんじゃないの?」
ライナー「エレンに呼ばれたミカサじゃあるまいし、サシャにはそんな芸当できんだろ」
ミーナ「ふーん……そうなんだ。サシャならできそうなのになぁ……っくしゅんっ」プルッ
ライナー「おい、大丈夫か?」
ミーナ「あはは、平気平気。……というわけで、後はよろしくね? 私は教官室に鍵返してから部屋に帰るよ。じゃあおやすみー」フリフリ
―― 女子寮 屋外
クリスタ「……ミカサ、遅いね」
ユミル「班長のあいつが戻って来ねえと報告にも行けねえってのに、のんびりしてるなー……っと、向こう側から誰か歩いてきたぞ? ミカサか?」ジーッ...
クリスタ「ううん、ミカサにしては背が大きいし、がっしりしてるみたいだけど……って、あれライナーじゃない?」
ユミル「……ついに夜這いに来たか」ボソッ
クリスタ「夜這い?」キョトン
ライナー(預かった物が、見事に食うもんばっかりだな。まあ、サシャらしいか)
ライナー(女子寮の雪下ろしってことはこの辺か? ……ん? あそこにユミルとクリスタがいるな……二人だけか?)ウロウロ
クリスタ「ライナー、こんばんは!」
ライナー「ああ、こんばんはクリスタ、ユミル」
ユミル「お前、こんなところで何してんだよ。ここは女子寮だぞ? 夜這いでもしに来たか?」
ライナー「人聞きの悪いことを言うな。アルミンからの差し入れを持ってきたんだ」チャプン
ユミル「ほー……流石アルミン、気が利くな」
ライナー「……ところで、ミカサとサシャはいないのか?」チラチラ
クリスタ「ミカサは林のほうに散歩しに行っちゃったの。サシャは屋根の上にいるよ」
ユミル「お前が呼べば飛んでくるかもな」
ライナー「呼べば……」
ライナー(ミーナが言ったことを信じてるわけじゃないが……試してみるくらいならいいか)
ライナー「……よし。――おーいサシャ、食い物だぞー」ブンブン
クリスタ「……」
ユミル「……」
ライナー「……」
クリスタ「……来ないね」
ユミル「来ないな」
ユミル(ってか本当にやったよこいつ)チラッ
ライナー「……」シュン
クリスタ「え、えっと……ライナー、元気出して? きっと距離がありすぎて聞こえなかっただけだよ。ねっ?」オロオロ
ライナー「いや、別に……気にしてねえけど…………いや、ちょっと待てよ?」ハッ
ユミル「なんだよバナナでも落ちてたか?」
ライナー「もしかしてあいつ、上で腹減ってぶっ倒れてるんじゃないだろうな……!?」
ユミル「あーはいはい、そんなに心配なら行ってこい。梯子はあっちな」
―― 女子寮 屋根の上
サシャ「……」ポケーッ...
ライナー「……」ヒョコッ
ライナー(あいつ、屋根の上で座って何やってんだ……? 考え事でもしてるのか?)ジーッ...
ライナー(……ちょっと見てるか)コソコソ
サシャ(そういえば、来週の山岳訓練って雪山でやるんですよね)
サシャ(……ということは、うさぎ獲れませんかね? もしかしたら、うまくいけば食堂に行く前にお肉食べられるんじゃないですか!?)ハッ
サシャ(でも、罠を仕掛けたりしてる余裕はないでしょうねー……今の時期って、雪のおかげで足跡が残って狩りがしやすいんですけど)
サシャ(ああ、うさぎ食べたいです……)
サシャ「……」
サシャ「……ふーんふふふーんふーんふーんふふふーん♪」ユラユラ
サシャ「うっさぎーうっさぎーうっさぎっさんー♪」
サシャ「うーさーぎーおーいしーぃゆーきーやーまー♪」
ライナー「…………………………」
ライナー(……今出て行ったらどうなるんだこれ)
ライナー(戻るか……? いや、梯子が軋む音でバレる可能性のほうが高い)
ライナー(……もう少し様子を見よう)コソコソ
サシャ(って、そうじゃなかった! ちゃんとライナーの隠し事について考えないと!)ブンブン
サシャ(でも、小難しいこと考えてたらお腹が空きました……今日の晩ご飯も、いつもより量が少なかったですし)グーキュルルルル...
サシャ(だいたい訓練兵団もケチですよね……いくら食糧難だからって言っても、あれじゃ何の足しにもなりませんよ)
サシャ(戦争なんておいしいもの食べてるほうが勝つに決まってるんですから、もったいぶらないでどかんと一発、うまい肉くらい出せばいいんですよ。燻製肉なら保存もききますし――)
サシャ(……燻製肉、食べたいなぁ)
サシャ(もう、村を出てから三年近くになるんですね。――しばらく、帰ってないな……帰りたい……)
サシャ(ああっ……! 故郷の森に帰って、お父さんが作った燻製肉をお腹いっぱい食べたい……!)ジュルリ
サシャ(あそこを出たらおいしいものが食べられると思ったのに、全然そんなことありませんし……全く、どうなってるんですか)ハァ
サシャ「……」
サシャ(故郷、か……)
サシャ(ライナーも実は訛りとかがあったり……は、しませんよね。そういうこと、気にしなさそうですし)
ライナー(……静かになったな。今ならいいか?)ギシッ
サシャ(……ライナーが、私みたいに単純で素直な人なら楽だったのに)ハァ
サシャ(大体、ライナーもライナーですよ。好きな人がいたんなら、何が何でも嫌だって拒否してくれればよかったんです。そしたらこんなに悩まないで済んだのに――)
サシャ(……違いますよね。ライナーは、嫌でも『やってほしい』って言ったらやってくれる人なんですもんね)
サシャ(……今も、私と一緒にいるのが嫌だったりするんでしょうか)
サシャ(でも……あの時ならまだしも、今はちゃんと言ってくれてもいいのに)
サシャ(言えないなら……そういう気持ちも、秘密も……もっと上手に隠してくれれば、気づかなかったのにな)
サシャ「そんな大事なもんなら、しまっておけばいいんに……」ボソッ
―― ガタンッ!!
サシャ(ミカサ……? 迎えに来てくれたんですかね?)スクッ
ライナー「あっぶねえ……」ギシッ...
ライナー(梯子から落ちるところだった……)ドキドキドキドキ
サシャ「ミカサ、どうかしたんですかー?」ヒョコッ
ライナー「……あ」ビクッ
サシャ「……………………」
ライナー「……よ、よお、いい夜だな」ギクシャク
サシャ「え、あ……あの、いつから……?」
ライナー「……お前が歌い始めた、ちょっと前くらいだ」
サシャ「……」
ライナー「すまん、上に登るからちょっと手を貸してくれないか?」
サシャ「……どうぞ」スッ
ライナー「よっと」グイッ
ライナー「助かった、ありがとな。――梯子から落ちそうになるなんて、俺もまだまだ甘いな」ハハハ
サシャ「…………」スタスタ...
ライナー「……? おーい、どうしたサシャ」スタスタ...
サシャ「こっ、来ないでくださいよぅ……」モジモジ
ライナー「なんだ、さっきの気にしてるのか? お前山岳訓練の時も変な歌歌ってただろ。さっきのなんてあれとそう変わらんぞ」
サシャ「この前のは、なんていうか……よそ行きの歌だからいいんです。でもさっきのは……人に聞かせるために歌ってたわけじゃないので、すっごく恥ずかしくて……」イジイジ
ライナー「歌によそ行きがあるのか?」
サシャ「あるんですよぅ……ううっ、穴があったら入りたいです……さっきのは、忘れてくださいぃ……」モジモジ
ライナー「いや、ありゃちょっと忘れられそうにないな。――また歌ってもいいんだぞ?」
サシャ「~~~~っ!! も、もうっ、からかわないでくださいよっ! さっきのは他の人には言わないでくださいね!?」
ライナー「どうすっかなー」ニヤニヤ
サシャ「ぐあああああああああああ!!」ジタバタジタバタ
ライナー(……もったいなくて話せるか。独り占めするに決まってんだろ)
ライナー「それで、こんな寒いところで何してたんだ? もう雪下ろしは終わったんだろ?」
サシャ「……鳥を見てたんです。部屋からじゃ、よく見えませんし」
ライナー「鳥? こんな時間にか?」
サシャ「いますよ。今も飛んでます。――ほらあそこ」
ライナー「……どこだ?」ジーッ...
サシャ「あれです、あれ」
ライナー「んん……?? ――もしかして、あの動いてる白い点か?」
サシャ「そうですそうです、その点です」
ライナー「こんな暗いのに、よくあの点が見えるな」ジーッ...
サシャ「狩人は目が命ですからね。遠くの獲物を射るのなんかしょっちゅうでしたし、鳥を見つけるのは割と得意なんですよ」
ライナー「ほー……お前、弓もできるのか?」
サシャ「百発百中ってわけじゃないですけどね。銃を使った射撃よりは得意です。――ところでうさぎって空飛ぶんですかね」
ライナー「いきなり何の話だ。……うさぎは飛ばねえだろ。少なくとも俺は見たことない」
サシャ「だってうさぎって、一羽二羽って数えるじゃないですか。なんで鳥と同じ数え方なんです?」
ライナー「知らん。――今度アルミンに聞いてみるか」
サシャ「そうですね、そうしましょう」
ライナー「! ――そうだ、忘れるところだった」ゴソゴソ
サシャ「……金平糖と、みかん?」
ライナー「ミーナとコニーからの預かりもんだ。下にいけばアルミンからの差し入れもあるぞ」
サシャ「……」ジーッ...
ライナー「……? どうした? 早く受け取れよ」
サシャ「ライナーの上着のポケットを叩いたら、ビスケットとか出て来ません?」ペチペチ
ライナー「出ねえよ。……こら、上着を叩くな」
サシャ「じゃあ上着ください!」
ライナー「やらん」
サシャ「ちぇっ……いいなぁ、私も食べ物がいっぱい出てくる上着がほしいです」ムー...
ライナー「ということは、こっちの食い物はいらないんだな」ゴソゴソ
サシャ「ああああああああ!? すいませんすいませんいります必要ですください!!」ガシッ!!
サシャ「わぁ……っ! 金平糖、キレイですね……!」キラキラキラキラ
ライナー「……」ジーッ...
サシャ「……? なんです? 金平糖食べたいんですか? 欲しいならあげますよ?」キョトン
ライナー「みかんよりもそっちの菓子のほうが好きなのか?」
サシャ「へ? ……ええと、まあそうですね。今はちょっと頭使いすぎて、肉か糖分が欲しい気分だったので……こっちのほうが嬉しいです」
ライナー「そんな小さい砂糖粒じゃ、お前の腹の足しにはならんだろ。それでもそっちがいいのか?」
サシャ「うーん……足しにはならないかもしれませんが、お菓子ってそもそもお腹いっぱいになるために食べるものじゃないですからね。……もちろん、お腹いっぱいになるまで食べられたらいいなぁとは思いますが」ジュルリ
ライナー「涎出てるぞ」
サシャ「はっ! ……いけないいけない」フキフキ
サシャ「ええと、それでですね……何の話してたんでしたっけ?」
ライナー「お前の胸ポケットにしまったみかんは食わないのかって話だな」
サシャ「ああ、そうでしたそうでした。――えーっと……本当にひもじい思いしている時なら、私も迷わずみかんを選んだと思いますよ。でも、今は腹の足しより別の物が欲しいなあって思ったので、金平糖を選んだわけです」
ライナー「別の物ってなんだ?」
サシャ「さあ……?」
ライナー「おい」
サシャ「だって、今までそんなの考えたこともありませんでしたし……急に聞かれても困りますよ。これでもない頭で一生懸命考えたんですから、無理矢理にでも納得してください。ていうか、なんでいきなりそんなこと聞くんです?」
ライナー「いや……お前もちゃんと女だったんだなぁと思ってな」シミジミ
サシャ「むむっ! 失礼ですね、今まで私のことなんだと思ってたんですか!」
ライナー「食い意地の張った子ども」キッパリ
サシャ「……まあ、子どもですから否定はしません」シュン
サシャ(そういえば、今って二人っきりですよね)
サシャ(……聞いてしまいましょうか。他の誰かに聞かれる心配もないですし)
サシャ(『今も好きな人、いるんですか?』って――)チラッ
サシャ「……ライナー」
ライナー「? なんだ?」
サシャ「好きな……………………………………………………好きな、食べ物なんですか?」
ライナー「は? ……なんで今更」
サシャ「……ほら、今度食堂に二人で食べに行くじゃないですか。その下調べですよ」
ライナー「……好き嫌いは特にないぞ。前にも言わなかったか?」
サシャ「ですよねー……知ってまーす……」
ライナー「?」
サシャ(ううっ、私のお馬鹿ぁ……意気地なしぃ……)
ライナー「話を戻すが……お前、なんで鳥なんか見てたんだ? 弓も銃もないんだから、仕留めたりはできんだろ?」
サシャ「仕留めるって……なんでもかんでも食べる方向に持って行かないでくださいよ。――来週の山岳訓練のために、色々慣らしておこうと思ったんです」
ライナー「慣らす?」
サシャ「はい。目とか寒さとか……まあ、色々ですね」
ライナー「目はわからなくもないが……寒さはこれ以上慣らす必要ねえだろ」
サシャ「でも、雪山ってここよりもずーっと寒いですし。備えは必要ですよ」
ライナー「そうじゃなくてだな、山に行く前にしっかり防寒対策していけば済む話じゃないのか? なんで自分が耐える方向に持っていくんだ?」
サシャ「……なんかその言葉、ライナーには言われたくない気がするんですが」
ライナー「何言ってんだ。事をやらかす前に手を尽くすのは当然だろ」
サシャ「それはその通りなんですけど、でも……」ブツブツ
ライナー「その髪型だったら、耳も気をつけないとな。剥き出しにしてると凍傷になるぞ」
サシャ「そんな大袈裟な……なりませんよ、今までなったことありませんし」
ライナー「今までならなかったからって、これからもならないって保証はない。……お前、今日は外に何時間いた?」
サシャ「え? ……えーっと、しばらく時計は見てませんが二時間半くらいですかね。たぶん」
ライナー「それだけありゃ充分冷える。少なくとも俺の手よりは冷えてると思うぞ? なんなら試してみるか?」
サシャ「? 試すってどうやって――」
ライナー「触ればすぐわかるだろ」ギュッ
サシャ「ひぇっ!?」ビクッ
ライナー「ほら、両耳とも冷えてんじゃねえか」ムニムニ
サシャ「あ、あの……何を……」
ライナー「だから、耳がどれだけ冷えてるかを教えてやってんだろ?」グニグニ
サシャ「それはわかります、わかりました、わかりましたけど――ひぁっ!?」ビクッ!!
ライナー「? なんだ、変な声出して」
サシャ「……さっきから、何を……何を、してるんですか?」
ライナー「はぁ? 話聞いてなかったのか? つまりだな、防寒対策をしておかないと耳が凍傷になるって――」
サシャ「だから、それはわかりましたよ! ……でもそれって、私の耳を握る必要はあったんですか? 耳たぶ摘むだけとかでも、よかったんじゃないですか?」
ライナー「……」
ライナー「……だ、だよな、握る必要はなかったよな? 痛かったか?」パッ
サシャ「いえ、痛くはありませんでしたけど……くすぐったいので、やめてください」
ライナー「そう……だよな、すまん」
サシャ「……第一、いつまで触ってるんですか。少し触ればわかるでしょうに」
ライナー「そりゃ、思ったより触り心地が――」
サシャ「……」
ライナー「……触り心地が、よくて、だな」
サシャ「……」
ライナー「……」ポリポリ
サシャ「……」
ライナー「その、……悪い」
サシャ「……別に、いいですけど」
サシャ(……耳、隠しておきましょう。なんだかまだくすぐったい気がしますし)ササッ
ライナー「ところで、すっかり聞きそびれてたんだが」
サシャ「はい? なんです?」
ライナー「さっき一人で話してたのは、お前の故郷の言葉なのか?」
サシャ「……何の話です?」
ライナー「独り言だよ。俺が登ってくる前に何か言ってただろ」
サシャ「…………」
ライナー「いきなり頭の上から聞き慣れない言葉が聞こえてきて驚いたぞ。そのせいで梯子から落ちかけるとは自分でも思わなかったがな。……そうか、あれが元々のお前なのか」
サシャ「……ち、違います」
ライナー「? 違うって何が――」
サシャ「それ、私じゃありません。……きっと鳥の鳴き声か何かだったんですよ。きっとそうです」
サシャ「そもそも、私にはなんにも聞こえませんでしたよ? ライナーが来るまで、今日は静かな夜でした」
ライナー「聞こえなかったって……お前が言ったんだろ。独り言」
サシャ「何を言ってるんですか? 私、歌った以外には口開いてませんけど」
ライナー「いや、ありゃどう考えても鳥じゃなくて人の――」
サシャ「聞ーこーえーまーせーんーでーしーたー! 全っ然、なーんにもっ、聞こえませんでしたっ!!」バンッ!!
ライナー「わかった、わかったから静かにしろ! 女子寮の真上だぞここは!」シーッ
サシャ「……ライナーが変なこと言うせいですよ。私は悪くありません」イジイジ
ライナー「……」ポリポリ
ライナー(サシャがずっと隠してたのはこのことか……なるほどな。故郷の言葉が恥ずかしいから、ずっと敬語で話してたのか)
ライナー(かわいらしい悩みで羨ましいもんだ。……さて、どうするか)
ライナー「そうだな、お前の言ったとおり、俺が聞いたのは鳥の鳴き声だったのかもしれん。――ちなみに、その鳥の名前はわかるか?」
サシャ「え? いえ、私は、その……鳥の声は聞いてないので、ちっともわかりません」
ライナー「できればもう一度くらいは声を聞きたいと思ったんだが、名前もわからないんじゃ無理だろうな。残念だ」
サシャ「何言ってるんですか、変な鳴き声だったでしょう? 正直に言ってください」
ライナー「正直に言ってるんだがな……だいたいお前、鳴き声を聞いてもないのに悪く言うなよ」
サシャ「いいじゃないですか。そんなの私の勝手でしょう」
ライナー「好きなもんを悪く言われたら、お前だって腹が立つだろ」
サシャ「――す……好きって、一度しか聞いてないのに、好きだなんて……おかしいですよ、ライナーはおかしいです」ブツブツ
ライナー「そうか? 聞いてもない鳥の声を嫌いだって言い張る奴も大概おかしいだろ」
サシャ「もう聞かない方がいいですよ。あまり聞きすぎると耳が腐って落ちますから」
ライナー「サラリと怖ぇこと言うなよ……少し独特かもしれんが、俺は変だなんて思わなかったけどな」
サシャ「……嘘ばっかり」プイッ
ライナー「嘘吐いてどうするんだ。鳥がここにいるわけじゃあるまいし」
サシャ「いいえ、もしかしたら物陰で聞いてるかもしれませんよ。……きっとライナーは思ってもないことを言った罰で、鳥さんにツンツンつつかれてそのうち穴だらけになっちゃうんです。――ああ、かわいそうに」
ライナー「人を勝手にかわいそうな奴にするな。大体なんでつつかれなきゃならないんだ?」
サシャ「その鳥は、自分の鳴き声が恥ずかしいから……今まで誰にも聞かれないように、必死で隠してきたんです」
ライナー「いい声なのにな。もったいない」
サシャ「ライナーはそう思っても、他の人は違うんですよ。変だって思う人は必ずいます」
ライナー「……気にしなけりゃいいんだ、そんなもん。他にも色々言われてるだろ」
サシャ「他のことは、別に気にならないんですけど……言葉に、声について何かを言われるのって、自分の故郷まで馬鹿にされてるような気がして嫌なんですよ。……考えすぎって言ったら、それまでかもしれませんけど」
ライナー「……確かに、故郷のことを悪く言われれるのは嫌だな」
サシャ「そうでしょう? ……その故郷の森が好きだったら、悪く言われるのは余計に嫌ですよ」
ライナー「それなら、その鳥には悪いことしちまったな。無理に聞こうって気はなかったんだが」
サシャ「……大丈夫ですよ。ちゃんと、わかってますから」
ライナー「そりゃ助かる。穴だらけにされないで済むな」ハハハ
サシャ「あの……さっき言ってたの、本当ですか?」
ライナー「? どの話だ?」
サシャ「変じゃないっていうのです。嘘じゃないんですよね?」
ライナー「確かめてみるか?」
サシャ「いえ、いいです。……信じます。ライナーの言ってること」
サシャ「ただ、もうちょっとだけ……時間をください。ほしいって、言ってました。……もうちょっと経ったら、また聞かせてあげてもいいそうです」
ライナー「鳥が言ってたのか?」
サシャ「そうですよ。……私じゃないですからね」
ライナー「そうか。……楽しみにしてるって、その鳥に言っておいてくれ」
サシャ「……わかりました。伝えておきます」
―― 女子寮 軒下
ミカサ「ただいま、遅くなった。……二人とも、何してるの?」
ユミル「なあミカサ……どう思う? あれ」
ミカサ「どれのこと?」
クリスタ「屋根の上の二人だよ。あそこ」
ミカサ「……にゃんにゃんしてるように見える」
クリスタ「にゃんにゃん?」
ユミル「だよなぁ。……で、あっちの森のほうには誰かいたのか?」
ミカサ「うん、いた。アニとベルトルトがにゃんにゃんしてた」
クリスタ「にゃんにゃん……??」キョトン
ユミル「へー……ベルトルさん、やるなぁ」
クリスタ「ねえねえユミル、にゃんにゃんって何?」クイクイ
ユミル「いつも私とクリスタがやってるようなことだよ」
クリスタ「ふーん……よくわかんないけど、まあいいや」
―― 翌日夕方 営庭
エレン「……」
アルミン「……」
ライナー「……」
ジャン「……」
エレン「昨日まで、ここに道があったよな」
ジャン「ああ、あったぜ。それぞれの建物を繋ぐ道がな」
ライナー「地味に便利だったよな、あの道」
アルミン「雪を漕いで歩くと服もブーツも濡れちゃうもんね。今の時期は乾かすのも大変だし」
ジャン「なくなってわかるありがたさ、か……これがそうなのか」
エレン「こんなもんで感じるなよ」
エレン「なあ、昨日の夜って雪降ったのか?」
ライナー「……まあ、多少は降ったんだろう」
ジャン「多少な……へえ、これが多少か」
アルミン「今日の昼間も降ったからね。……いくらかね」
ライナー「……埋もれちまったんだろうな。雪で」
エレン「駆逐してやる」
ジャン「じゃあやれよ。今すぐ溶かせ」
エレン「……」
ライナー「ジャン、あまり無茶を言ってやるな。エレンもできないことを簡単に口にするんじゃない」
アルミン「それに、道はなくなったわけじゃないよ。……ほら、ここにうっすらとあるじゃないか」
ジャン「うっすらとな」
エレン「街の人が引いていった轍もあるぞ」
ライナー「全く役に立たんがな」
ジャン「……サボったんだろうなー。当番」
エレン「でも昨日やってたんだろ? ライナーは見たんだよな?」
ライナー「そのはずだが……今思えば、営庭までは手を付けてなかったような気がするな」
ジャン「誰だよ昨日の当番! 一言言ってやんねえと気がすまねえ!」ダッ
アルミン「ミカサたちだよ」
ジャン「……まあ、腹でも痛かったんじゃねえの?」クルッ
ライナー「変わり身早いな」
エレン「さてはあいつら、昨日手ぇ抜きやがったな……!」
アルミン「まあまあ、昨日は女子寮の屋根の雪下ろしもあったみたいだし、きっとここまで手が回らなかったんだよ。そういうことにしておこう、ね?」
ライナー「いくら文句言っても雪は減らないしな。……手分けしてやってくぞ」ザクザク
―― しばらく後 営庭
エレン「……」ザクザク
アルミン「……」ザクザク
ジャン「……」ザクザク
ライナー「……」ザクザク
一同(飽きた……)
エレン(なんだこれ、すっげえつまんねえ……雪下ろしの時はあんなに楽しかったのに、なんでだ……?)ザクザク
ライナー(やることがあらかじめ決まってる作業って、退屈だな……)ザクザク
ジャン(むさ苦しい男ども四人で単純作業って、どんな罰則だよ……いや罰則じゃなくて当番だが)ザクザク
アルミン(うーん、猫車で引かれた轍が地味に邪魔だなぁ……気を抜いたら足元取られるし、転ばないように気をつけないと)テクテク...
アルミン「エレン、足元には気をつけてね。轍に引っかかって転ぶと危ないよ」
エレン「大丈夫大丈夫、そんなヘマしねえよ。……っと、危ね」ヨロッ パサッ
アルミン「もう、言った先から転びそうにならないでよ」
エレン「はは、悪い悪い。……あれ? スコップに載せてた雪はどこ行った?」キョロキョロ
アルミン「……後ろのジャンにかかったよ。全部」
ジャン「……」モッサリ
エレン「ああ、悪いなジャン。後ろにいるの気づかなくてよ」
ジャン「……それくらい確認しろよ。お前が雪かけたせいで上着が汚れちまっただろうが」パッパッ
エレン「はぁ? 少しかかっただけだろ? 神経質だな」
ジャン「……」イラッ
ライナー「……」
アルミン「……」
ライナー(……嫌な予感がする)
アルミン(まだ大丈夫だ……まだ……)
ライナー(無駄かもしれんが、先に手を打っておくか)
ライナー「ジャン、ちょっとこっち側手伝ってくれ。量が多いんだ」
ジャン「ああ、わかった。今行く。……おっと」パサッ
エレン「!? 冷てぇっ、何すんだよジャン!」
ジャン「ああ悪い、手が滑っちまった」
エレン「……おい」
ジャン「なんだよ。手が滑ったって言ってんだろ?」
エレン「…………そうかよ」イライラ
アルミン「ねえライナー。僕もう部屋に帰っていい?」
ライナー「ダメだ」ザクザク
アルミン「いいでしょ? だってもうオチが読めるもん。実は予言者だったんだよ、僕」
ライナー「ダメ、絶対」ザクザク
エレン「……」ザクザク
アルミン「……」ザクザク
ジャン「……」ザクザク
ライナー「……」ザクザク
エレン「……」
ジャン「……」
エレン「あーああー手元が狂ったぁっ!」ブォンッ!!
ジャン「やっべぇ足が滑ったぁーっ!」ブォンッ!!
――ガキンッ!!
エレン「うぉっ!? ――あっ、危ねえな、当たったら頭砕けちまうだろうが!」
ジャン「うるせえよてめえもやってんじゃねえか! それにその石頭なら道具のほうが先に砕けちまうだろうよ!」
エレン「ああ!? やんのかこら!!」
ジャン「上等だかかってこい!!」
アルミン「あーあ、はじまっちゃった……」
ライナー「……飽きねえな、あいつらも」
ライナー「おい二人とも、そこまでにしろ。素手ならまだしも、道具なんかで殴り合えば一発で営倉行きだぞ? 試験前の今の時期に問題を起こすのはまずいんじゃないか?」
ジャン「ぐっ……それもそうだな」ポイ
エレン「お互い、こんなことで怪我はしたくねえよな……」ポイ
ライナー「で、どっちが悪いんだ?」
エレン「ジャン」
ジャン「エレン」
ライナー「わかった。どっちも悪いってことでいいな?」
ジャン「はぁ!? 元はと言えばこいつが俺に雪をかけてきたのが悪いんだろ!? 俺は悪くねえよ!」
エレン「だからあれはわざとじゃねえっての! なんでそんな心狭いんだお前!!」
ジャン「ああ!? やんのかこら!!」
エレン「上等だかかってこい!!」
ライナー「同じやりとりするな! いいからお互い離れろ」グイグイ
ライナー「さっき打ち合った時点でどっちもどっち、喧嘩両成敗だ。――納得いかないなら俺が相手になるぞ? どうする?」
エレン「よし!! ライナーを倒すチャンスだ!!」ギュッギュッ
ジャン「おっしゃ助太刀するぜ!!」ギュッギュッ
ライナー「ばっ……!! 馬鹿かお前らは!! 誰がまとめてかかってこいなんて言った!?」
エレン「ライナーが言った!」ブンッ
ライナー「言ってねえよ!! ――こら、雪玉投げるんじゃない!」ササッ
ジャン「おとなしく当たっておいた方が後々楽だぜライナー!」ブンッ
ライナー「意味がわからん!!」ササッ
アルミン「もう、エレンもジャンもやめてよ、遊んでたらちっとも終わらな――うわっ!!」ベシャッ!!
エレン「あっ」
アルミン「……」ポタポタ...
エレン「あ、アルミン……悪い……」
アルミン「……」
エレン「ごめんな? 顔に当たって痛かったよな? お前にぶつけるつもりはなかったんだ、悪かった」オロオロ
アルミン「……」
ジャン「俺からも謝る。――悪ぃな、どうも頭に血が上ってたみたいでよ」アセアセ
アルミン「……」
ライナー「すまん、まさか避けた後ろにお前がいるとは思わなかったんだ。……ハンカチ貸すか? 顔拭いた方がいいぞ?」スッ
アルミン「……」バッ フキフキ
エレン(ライナーからハンカチ奪い取った……)
ジャン(……拭き方が丁寧で逆に怖いな)
ライナー(さっきから少しも表情変えてないんだが、大丈夫か……?)
エレン「な、なあアルミン、俺が悪かったって。頼むから何か言って――」
アルミン「――私はとうに、人類復興のためなら心臓を捧げると誓った兵士」ギュッ
ライナー「……アルミン? 何故雪を握りしめる?」
アルミン「その信念に従った末に命が果てるのなら本望」ギュッギュッ
ジャン「お、おい……何してんだお前……? そんなに雪玉作ってどうすんだ?」
アルミン「人類の栄光を願い……これから体力が尽きるせめてもの間に」グッ
アルミン「駆逐してやる……っ!! 一人残らず!!」ギリッ...
エレン「」
ジャン「」
ライナー「」
―― 同刻 とある廊下
サシャ「――それでですね、ライナーの上着からは食べ物がいっぱい出てくるんですよ」
コニー「へー、すげえな。食べ物ばんばん出てくるなら、食糧難もすぐ解決しちまうよな」
サシャ「ですよね! だから私、ライナーの上着をくださいって何回もお願いしてるんです。でもちっともくれる気配がないんですよ。ケチですよね」ムー...
コニー「ふーん。――いいな、俺も欲しいなー。ライナーの上着」
サシャ「えっ? コニーもライナーの上着が欲しいんですか?」
コニー「おう。それだけ便利なら一着くらい欲しいな」
サシャ「…………だ、だめです。コニーにはあげられません」
コニー「あぁ? なんでだよ」
サシャ「なんでって、それは……あの、なんででしょうね」
コニー「俺が知るかよ。そもそもなんでお前からダメ出しされなきゃなんねえんだ。お前のじゃなくてライナーの上着なんだろ?」
サシャ「それはそうなんですけど、そのぅ……」モジモジ
コニー「よーし、今度会ったら頼んでみようっと」
サシャ「!? ――だっ、だめです! ライナーの上着は私のなんです!!」
コニー「……」パチクリ
サシャ「あっ……す、すみません。何言ってるんでしょうね私ってば」アセアセ
サシャ(私のじゃなくて、ライナーの上着はライナーの物ですもんね。……本人がいなくてよかったです)
サシャ「あのですねコニー、今のは言葉の綾というかなんというか――」
コニー「ライナーの上着ってお前のだったのか?」
サシャ「……はい?」
コニー「つまり、元々の持ち主がお前だったってことなんだろ? なんてこった、上着って兵団の支給品じゃなかったのか……!」
サシャ「……」
コニー「なあサシャ、俺からも上着をお前に返してやるように言っておいてやるか? 二人で頼み込めばライナーだってきっと返してくれるんじゃ――」
サシャ「……コニーは毎日が楽しそうでいいですね」ハァ
コニー「は? なんだよ急に」
サシャ「……っていうか、たまたま近くにいたから雑用押しつけるなんて、教官も酷いと思いません? 私たちにだってやることたくさんあるのに」ブーブー
コニー「俺、何もねえぞ」
サシャ「私はあるんです。コニーとは違いますからね」
コニー「まあ俺は天才だからな。馬鹿のお前とは違うところがたくさんあるだろう」フフン
サシャ「……そうですよ。私は馬鹿だからコニーと違っていっぱい頑張らなくちゃいけないんですよーだ」ムスッ...
コニー「才能の差って恐ろしいな……」フフン
サシャ「私はコニーの思考回路が恐ろしいです。……ところで、倉庫遠くありません?」
コニー「営庭突っ切れば早いぞ」スタスタ...
サシャ「あっ、コニーってば待ってくださいよー!」タタタッ
―― 営庭
コニー「んんー? おっかしーなー……」キョロキョロ
サシャ「どうしました? 何かありました?」
コニー「何かあったっていうか、なくなってるって言うか……なあ、昨日まではこの辺に道があったよな?」
サシャ「……いえ、ありませんでしたよ」
コニー「いや、絶対あったって。俺、昨日だけで何回もここの道使ってるし。――ということは、昨日か今日の雪かき当番がサボったんじゃ」
サシャ「いいですかコニー。――同じ道を行く限り、細くても道は繋がっているんですよ」ドヤッ
コニー「いきなり何言い出したんだお前」
アルミン「……コニー、サシャ。ちょっといい?」ヒソヒソ
サシャ「おやアルミン。こんなところで何をしてるんですか?」
アルミン「合戦だよ」
コニー「へえ、大変だな」
サシャ「食べられますか?」
アルミン「食べられないよ。――それより、二人とも聞いてくれ。大変どころの騒ぎじゃないんだよ」
コニー「俺たち馬鹿だから説明は簡潔に頼む」
アルミン「戦況は治まるどころか悪化する一方でね。四つあった勢力は幾度も統廃合を繰り返して、今は大まかに二つに分かれて争っているんだ。ライナー・エレン組とジャンだ」
コニー「なんでジャン一人なんだよ。かわいそうだろ」
サシャ「アルミンは加勢しないんですか?」
アルミン「僕は一分しか保たなかったんだ」ゼエハアゼエハア
コニー「よし、俺でよければ助太刀するぜ! ジャン一人だと大変だからな!」
サシャ「コニーはどうしてそう安請け合いするんですか。この荷物どうするんです? 倉庫に持って行かないと怒られますよ?」
アルミン「荷物は僕が倉庫に持っていくよ。参加したら後でサシャにパンを半分あげるね」ヒョイ
サシャ「私たちに任せてください!」グッ
アルミン「うん、後はよろしくね。僕は倉庫に荷物を置いた後、クリスタとユミルをスカウトしに行ってくるから」コソコソ
―― 営庭
エレン「……いたか?」コソコソ
ライナー「いや、こっちにはいなかった」コソコソ
エレン「アルミンが抜けたからすぐ見つかると思ったんだけどなー……ん? 今あそこで何か動かなかったか?」
ライナー「ジャンめ、ようやく尻尾を出したか……よしエレン、お前は迂回してあいつに近づけ。俺は正面から行く。挟み撃ちにするぞ」コソコソ
エレン「了解。ヘマすんなよ」
ライナー「お互いな」
ライナー(……よし、これくらいが限界だろう)
ライナー(エレンは……あの位置か。そろそろ仕掛けるか)グッ
ライナー「もらったぁっ!!」グッ
サシャ「こんにちはー」ピョコッ
ライナー「っ!?」ビタッ!!
コニー「隙ありぃっ!!」ブンッ!!
ライナー「ぐおっ!?」バシッ ――ドサッ!!
エレン「ライナー!? ――くそっ、アルミンの奴助っ人呼びやがったな!?」
コニー「余裕ぶって分析してられるのも今のうちだぜエレン……!」シュッシュッ
サシャ「さあ、どうします……? 頼りのライナーはダウンしてしまいましたよ……? 二対一じゃ勝ち目はないんじゃないですか……?」シュッシュッ
エレン「二対一だと……? ――そいつはどうかな」ニヤッ
―― 少し離れたところ
ジャン(流石アルミン、あの馬鹿二人を瞬く間に味方に引き入れるとはな……)ギュッギュッ
ジャン(よーし、あいつらがライナーを引きつけてるうちにっと……おっ、いたいた)コソコソ
ジャン「エレン覚悟ぉっ!!」バッ!!
ミカサ「……」ニギニギ
ジャン「……」
ミカサ「今日の夜から天気は下り坂。明日の朝には晴れるでしょう」ギュッギュッ
ジャン「……」
ミカサ「晴れるでしょう」ブンッ
ジャン「うおっ!?」ササッ
ミカサ「ジャン、避けないで」ブンッ
ジャン「いくらミカサの頼みでもそれだけは聞けねえな! あばよ!」ダッ
ミカサ「あっ! ――待って、雪玉をあなたに当てないとエレンに怒られる!」ダッ
―― とある倉庫
ミーナ「やーっと掃除当番終わったー……あー、疲れたぁ」ノビー
アニ「……年寄りくさい」ボソッ
ミーナ「うぐっ……し、仕方ないでしょ? 私そんなに体力ないし」ブツブツ
マルコ「まあまあ、早く終わってよかったよね」
ベルトルト「……よし、鍵もしっかりかけたよ。はいマルコ、鍵」チャリンッ
マルコ「ありがとう。――じゃあ、みんなで兵舎に戻ろうか」
ミーナ「そういえば、営庭の雪かきもう終わってるかなぁ……行きは道がなかったから、ブーツ汚れちゃったよ」
アニ「遠回りしてくればよかったのに」
ミーナ「……だって急いでたんだもん」ムー...
マルコ「今日はジャンたちが雪かき当番だったから、もう道も戻ってるんじゃないかな」チラッ
マルコ「……」
ミーナ「……」
ベルトルト「……」
アニ「……」
マルコ「うわぁ……」
ミーナ「……ぐっちゃぐちゃだね、営庭」
ベルトルト「雪かき、どうしたんだろう……? やってないのかな」
アニ「当番が遊び呆けてるんじゃないの」
マルコ「いや、ジャンがいるんだからそんなはずは……そういえばジャンは? いる?」キョロキョロ
ベルトルト「……あそこで追いかけっこしてるよ。ミカサと」
アニ「気持ち悪いくらいいい笑顔で走ってるね」
ミーナ「アニ、失礼だよ? ……あ、こっち来るみたい」
ジャン「マルコ! ベルトルト! 俺、俺! ミカサと! ミカサと追いかけっこした!!」キラキラキラキラ
マルコ「うん、そうだね。よかったね」
ベルトルト「ミカサと接点があればなんでもいいのかな、君は」
ジャン「うん!」
アニ「うんじゃないでしょ。あんたはそれでいいんかい」
ジャン「いい!」
ベルトルト「いいんだ……?」
ミーナ「恋は盲目って言うからねー」
マルコ「いいんだ……ジャンはこれでいいんだよ。幸せそうだからそっとしておこう」
ベルトルト「まあ……幸せそうなのは間違いないけど」
ミカサ「ジャン、待って」タタタッ
ジャン「……! ミカサが来た! じゃあなマルコ! 俺はもう少しこの状況を楽しむ!!」
マルコ「うん、行ってらっしゃい」
ジャン「はっはー! 捕まえてみろってんだー!」ダッ
ミカサ「……? アニ、ここで何をしてるの?」ピタッ
アニ「掃除当番の帰りだよ」
ミーナ「こんにちは、ミカサ」
ミカサ「うん、こんにちは。……それともこんばんは?」キョトン
アニ「どっちでもいいよ。――ところで、あんたたち何してるの?」
ミカサ「合戦」
ミーナ「わあ、素敵な響き」
ベルトルト「あまり混ざりたくはないけどね」
マルコ「雪かきは終わったの?」
ミカサ「私は当番じゃないから知らない。――ちょうどよかった。マルコ、戦況が混乱してきたから審判として前に立ってほしい。無理ならベルトルトでもいい」
ベルトルト「マルコはわかるけど、なんで僕?」
ミカサ「背が高いから」
ベルトルト「……」シュン
マルコ「それよりミカサ。ジャンが行っちゃったけど追ってあげないの?」
ミカサ「大丈夫。追うのをやめたらそのうち自分からこっちに向かってくる。少し見てるとわかるはず」
ベルトルト「……あ、本当だ。こっちに来たね」
ジャン「おいミカサ! 俺はここだぞ! 俺に雪玉当てねえとエレンのところに行けねえんじゃなかったのか!?」ピョンピョン
ミカサ「という具合にこちらに来てくれるので、そこをすかさず仕留めるのがコツ」ブンッ
ジャン「おっと危ねえ!」ササッ
アニ「避けられたよ」
ミカサ「距離があるから命中率は大体三割程度。それでも、ずっと追ってるよりはこっちのほうが楽」
ジャン「はっはぁー! 俺は簡単に当たってやらねえぜー!」ダッ
マルコ「また逃げたよ」
ミカサ「大体この繰り返し。あまり放置してると拗ねるのでたまに追う」
ミーナ「完全に遊ばれてるねー」
アニ「本人が幸せそうだからいいんじゃない?」
今日はここまで ちょっと忙しいので続きは月曜日投下します それではまた来週
乙!待ってました~
皆仲良くてほっこりします
続き楽しみにしてます!
みんな可愛いなw
ジャンwww
可愛い奴めw
そろそろ完結なのかな?
結末も気になるけど終わって欲しくない…
複雑な気持ちです
1です
投下前に読み返していたら直したい箇所がかなり出て来たので、今日の投下はなしです すみません
火曜か水曜には投下できると思うのでもう少しお待ちください
楽しみだけど無理しないでなー
>>96さん お気遣いありがとうございます
そんでもってすみません、まだ書き直し分できてません
年末で忙しくてなかなか書く時間が取れなくて悔しい
取り敢えず書けた分&キリのいいところまで投下します
アルミン「おーい、クリスタとユミルを連れてきたよー!」ザクザク
クリスタ「あれ? なんだかアルミンに聞いてた人数よりも多いね」
ユミル「ベルトルさんたちも参加するのかよ、雪合戦」
ベルトルト「ううん、僕たちはミカサに呼び止められただけで――」
マルコ「ねえアルミン、ルールブックはある?」
ベルトルト「えっ」
ミーナ「ええー……? マルコ、審判やる気なの? 本気?」
マルコ「最近みんなで遊ぶことなんてなかったからね。それに、試験前に少しは息抜きしてもいいんじゃないかなって思って」
アルミン「マルコ……君はこの混沌とした戦場に秩序をもたらそうと言うんだね」フッ
アニ「……頭でも打ったの? アルミン」ヒソヒソ
ユミル「雪玉かなんか食らったんじゃねえの」ヒソヒソ
アルミン「こうなったら他のみんなも呼んでルールを統一しよう! ――おーい、みんな一旦集合ー!」ブンブン
エレン「ミカサ、俺お前が来るのずっと待ってたんだぞ! コニーとサシャの相手しながらずーっと待ってたんだぞ!?」ボロッ...
ミカサ「ごめんなさいエレン。意外とジャンは手強かった」シュン
ジャン「なんだぁエレン? お前、ミカサの助けがないとろくに雪玉も投げられねえのかよ? 情けねえな」ギュッギュッ
エレン「あぁ? 今なんて言った?」ギュッギュッ
ジャン「エレンくんは一人じゃ自分の始末もつけれねえお子ちゃまなんですねーっつったんだよ」ギュッギュッ
エレン「よく言うぜ……ミカサから逃げ回るしかできなかったくせによ。それでも男かよ?」ギュッギュッ
ジャン「ああ!? やんのかこら!!」ニギニギ
エレン「上等だかかってこい!!」ニギニギ
コニー「雪玉握りながら睨み合ってるってのがシュールだよなー。……ほいサシャ、そっち置いてくれ」ギュッギュッ
サシャ「はいはい、わかりました。なーんか緊張感とか色々吹っ飛んじゃってますよねー。――あっ、ライナー雪ください。できるだけふわふわしてるの」コロコロ
ライナー「ほらよ。……本当に飽きないな、あいつら。同じやりとり何回もしてるぞ」ギュッギュッ
ミカサ「エレンは口下手だから罵声のバリエーションが少ないのは仕方がない」ギュッギュッ
コニー「……あれ? ミカサ今エレンたちのところにいなかったか?」
ミカサ「気のせい」ギュッギュッ
ベルトルト「二人とも、そこまでにしてよ」
マルコ「そうだよ、このままだと雪かきどころか雪合戦も終わらないよ? そもそもなんで雪合戦なんかはじめちゃったの? 原因は何?」
エレン「すまん、さっき俺がアルミンの顔面に雪玉ぶつけちまったんだ……」グッ...
ライナー「いいや、エレンは悪くない。悪いのはエレンの雪玉を避けたこの俺だ……!」グッ...
ジャン「二人は悪くねえよ! 元はと言えば俺が我慢していれば……!」グッ...
アニ「あんたたちそのまま仲直りしなよ」
クリスタ「雪玉いっぱいあると雪だるま作りたくなるねぇ」コロコロ
ユミル「よし、ここを雪だるまの王国にしよう」コロコロ
アルミン「じゃあ僕も手伝おう」コロコロ
ミーナ「アルミンは雪合戦に参加する側じゃないの?」コロコロ
アルミン「……あーあー聞こえなーい」コロコロ
マルコ「それで、どういうルールでやってたの? 雪は何個当たったら終わり?」
コニー「んなもん生きるか死ぬかに決まってるだろ」キリッ
マルコ「ああ、一発までか。それなら確かにスリルがあっていいかも――」
ライナー「いいや、相手がぶっ倒れるまでだ」
ベルトルト「君たち来週山岳訓練あるのわかってて言ってる? そんなにはしゃいでたら風邪引くよ?」
ジャン「ここは戦場だからな。生半可な気持ちで参加されちゃ困るんだよ」
マルコ「でも、そんなルールだといつまで経っても終わらないじゃないか。ただでさえ体力おかしい人が何人もいるんだからさ」
エレン「そうなんだよなー……今のルールだと、ミカサが圧倒的に有利だしよ」
サシャ「あっ、でしたらいい案がありますよ。これならミカサにハンデをつけられます」ハーイ
マルコ「ミカサ相手に並のハンデは意味がないと思うけど……一応聞こうか。何?」
サシャ「――全員、素手で戦うんです」
ミカサ「……エレン、サシャがいじめる」クイクイ
エレン「そっか、雪玉が握れなくなったら自然と戦闘不能になるってことか……! よし、これならミカサに勝てる!!」
ミカサ「エレン!?」
サシャ「ちなみに夕方とはいえまだ太陽が出てるので、他の防寒具も一切禁止です。訓練服だけでの勝負です」
ミカサ「サシャ、マフラーは!? マフラーはいいの!? あとレッグウォーマーとアームウォーマーと毛糸のぱんつは!?」
サシャ「マフラーは……まあ、いいことにしましょうか。レッグウォーマーとアームウォーマーはダメです。毛糸のぱんつは履いてるかどうか確かめる方法がないので、いいってことにしておきます」
ミカサ「……着替えてくる」ダッ
ユミル「あいつ……遠回しに毛糸のぱんつ履く宣言してったぞ」
クリスタ「わっ、私も行く! ユミルとサシャもついてきて!」グイッ
サシャ「ええー、私は何も着なくてもいいのにー……」ズルズル...
ミーナ「私も! ほらアニも行こ!」グイッ
アニ「わかった、わかったから引っ張らないでよ。フードが伸びる」ズルズル...
ライナー「……女子全員行ったな」
ベルトルト「みんな優しいんだね」
コニー「ん? なんでそうなるんだ?」
アルミン「ミカサだけ寮に戻ったら、一人だけ毛糸の……毛糸のアレを履いてるって丸わかりじゃないか。だからみんなミカサに気を遣って、全員で寮に行ったんだよ」
ジャン「なるほどな、女同士の友情か……」シミジミ
エレン「え? これって友情になるのか?」
マルコ「まあまあ。――ミカサたちが戻ってくる前に、僕たちは雪かきの道具片付けちゃおうよ。このまま出しておくと危ないし」
アルミン「……あっ、そういえば僕たち雪かきしてたんだった」ポンッ
ライナー「途中から完全に忘れてたな」
コニー「なんだよお前ら、雪かきサボってたのかよ。なーんか道がねえなぁと思ってたんだよなー」ブーブー
ジャン「サボってねえよ、ちゃんと途中まではやってたぞ。……どこかの誰かさんが雪をかけてくるまではな」チラッ
エレン「まだ根に持ってんのかよ、いい加減しつこいぞ」ギロッ
ベルトルト「はいはい、そこまでにしようね」グイグイ
―― しばらく後
ミーナ「おまたせっ! 女子は全員準備してきたよー!」タタタッ
クリスタ「ねえユミル、これじゃあ前が見えないよー……」モコモコ
ユミル「上着も手袋もないんだからそれくらいしないとな。……ったく、変なルール思いつきやがって」ギロッ
サシャ「ええー……そんなこと言われても……」ムー...
アニ「……寒っ」プルッ
アルミン(う、うぅーん……)
マルコ(みんなの心遣いはよかったけど、ミカサ以外は毛糸のぱんつは履いてない……よね)チラッ
ミカサ「……私、完璧」モコモコモコモコ
マルコ「女子のみんなも準備できたことだし、組み分けでもする? 確かエレンたちとジャンたちの二つに分かれてたんだよね?」
アルミン「ああ、組み分けは必要ないよ。――全員敵だから」
ベルトルト「なにそれこわい」
ミーナ「組み分けが必要ないって言っても、実際二つに分かれてるじゃない」
ジャン「そりゃあ、お互いの利害が一致したら誰とだって組むさ。何度か俺とエレンで組んでたりもしたんだぜ」
アニ「あんたたち本当は仲いいんじゃないの?」
ユミル「んな殺伐とした戦場にクリスタは放り込めねえな……よし、私とクリスタは中立を宣言する。雪玉適当に生産するから構わず勝手に持って行け」コロコロ
クリスタ「ええーっ!? ユミル、私も雪合戦したいよ! やろうよ!!」ブーブー
ユミル「はいはい、今度の休みの日にいくらでも付き合ってやるから我慢しなさい」
クリスタ「……もう、勝手なんだから」ブツブツ
サシャ「ところで、アニやミーナは雪合戦やったことあります? ミカサはエレンやアルミンとやったことがあるって言ってましたが」ギュッギュッ
ミーナ「うん、何度か家の近くの広場でやってるのに混ぜてもらったことがあるよ。ユミルやクリスタは?」
ユミル「私らは去年サシャに連れ回されて色々やらされたからな。一通りの雪遊びは経験済みだ」
クリスタ「今年は雪が多めだからかまくらも作りたいなぁ……ユミル、作ってもいい?」クイクイ
ユミル「よし、王国のための城を建設しよう」キリッ
ミーナ「アニはどう? 雪合戦やったことある?」
アニ「……私、ない」
サシャ「おや、一度もないんですか?」
アニ「そういうの……したことない。知り合いがやってるのを見たことはあるけど、私は一緒にやらせてもらえなかったし」チラッ
ライナー・ベルトルト「……」ギクッ
ベルトルト(アニが言ってる「知り合い」って、僕たちのことだよね……仲間はずれにしたわけじゃないんだけど、悪いことしたなぁ)
ライナー(男の中にアニ一人だけ混ぜてやるってのもな……今更言ってもどうにもならないが)
アニ「私は邪魔にならないように、端に座って見てるから。後はみんなで勝手にやって」スタスタ...
サシャ「何言ってるんですか、一緒にやりましょうよ」ガシッ
ミーナ「そうそう、ルールなんてあってないようなものだし、大丈夫だよ!」ガシッ
アニ「いいってば……私はクリスタの雪だるま王国の建設を手伝うから」
ユミル「いいやダメだね。クリスタ王国の建設事業に関わるにはな、過去に雪合戦に参加したっていう経歴が必要なんだ」
アニ「今作ったでしょそのルール」
クリスタ「まあまあ、ユミルの言ったことは置いといて。――せっかくの機会なんだから、私はやっておいたほうがいいと思うな。次にいつやれるかなんてわからないんだし」
アニ「……じゃあ、ちょっとだけなら」
ミーナ「それなら、早速練習してみよっか。――はい、この雪玉を投げてみて」スッ
アニ「投げるってどこに?」
ミカサ「ちょうどあそこにエレンとライナーとベルトルトが並んでいる。ので、狙って投げてみるといい」
エレン・ライナー・ベルトルト「えっ」
エレン「ちょっと待てミカサ、なんで俺たちにぶつけるんだよ!」
ライナー「そうだそうだ、練習するならその辺の木でもいいだろ!」
ミカサ「木じゃ面白味がない」
ベルトルト「面白味のために僕たちに当てないでよ!」
ミカサ「何かをする時に、具体的な目標を設定することはとても大事。……三人とも、避けてはダメ。そこにいて」
サシャ「そうですよー、おとなしく当たってくださいねー?」
ミーナ「アニのためなんだからねー? 逃げないでよー?」
ライナー「気をつけろよエレン、ベルトルト。――あのアニのことだ、とんでもない豪速球を投げてくるに違いない……!」
エレン「ああ、あいつの蹴りの威力は凄まじいからな……!」
ベルトルト(今までの恨み辛みが詰まって、雪玉が石みたいに固くなってるかも……)
ミーナ「さあアニ、やってみて」
アニ「……うん」ギュッ
ミカサ「大丈夫、あなたならできる」
アニ「……」スーハー
アニ(投げる……投げる…………あいつらに向かって投げる………………!)ドキドキ
エレン「くそっ……! 俺たちは黙って見てることしかできねえのかよ……!」
ベルトルト「いい人生だった……かなぁ……?」
ライナー「俺の終わりはここなのか……」
アニ「……ていっ」――ペシャッ
ミーナ「あっ」
サシャ「あー……」
アニ「…………………………………………あれっ? 雪玉は? あいつらに当たったの?」キョロキョロ
サシャ「地面に落ちました。アニの足元にめり込んでるのがそうです」
アニ「……」
ミカサ「アニ。早めに手を離さないと、雪玉が前に飛んでいかない。気をつけて」
サシャ「もうちょっと肩の力抜いても大丈夫ですよ」
アニ「わ、わかってるよ……こうでしょっ」ヒューン
サシャ「あー……、今度はすっぽ抜けちゃいましたね」
ミーナ「……あ、コニーに当たった」
コニー「冷てえ!!」ギャー!!
アニ「……」プルプルプルプル...
ミカサ「あ、アニ、もうちょっと頑張ってみよう。……はい、新しいのをあげるから、これを使って」
エレン「……おいアニ、お前ふざけてるのか? ちゃんと投げろよ!」
アニ「別に、ふざけてなんか……ないし……」ボソボソ
ライナー「面倒だからって手は抜くなよ? 俺たちは真剣にやってるんだからな!」
アニ「これでも、一生懸命……やってるんだよ…………」ボソボソ
ベルトルト「ねえアニ、もしかしてどこか体の調子が悪いの? 医務室行く?」オロオロ
アニ「悪くないもん……どこも、悪くない……」ボソボソ
ジャン「……アルミン」ヒソヒソ
アルミン「うん……間違いないよ」ヒソヒソ
ジャン「やはりそうか。――伝説上の存在かと思っていたが、本当にいたとはな」
アルミン「大概のことはなんでもできるけど、何故かボールを投げるのだけは異常に下手くそな女の子」
ジャン「すげえ……俺たち、奇跡の瞬間に立ち会ってるぜ」
エレン「いや待てよ。――もしかすると、アニは手を抜いてるわけじゃなくて……あれで全力なんじゃねえか?」ハッ
ライナー「!? なんだと……? エレン、それはどういう意味だ?」
ベルトルト「エレンが言ってること、僕にはわかる気がするよ。――アニは優しい子だからね。雪玉に怯える僕たちを見て、知らず知らず手加減してしまったんじゃないかな」
エレン「ああ、そういうことだ。――つまり、俺たちがあいつの足を引っ張ってたんだよ」
ライナー「そうだな。冷静に考えれば、アニが雪玉を投げるのが下手くそなわけがない」
ベルトルト「全力を出せないまま色々言われるのは辛かっただろうに……ごめんね、アニ」
アルミン「そしてその存在をクソマジメに否定する三人」
ジャン「気持ちはわかるぜ……俺もまだ信じられねえからな」
アルミン「だけどそこに付けいる隙がある」スクッ
ジャン「おう、行くか」スクッ
アニ「……」
サシャ「大丈夫ですって、アニはちゃんとやれてますよ」
ミーナ「そうだよ、自信持って!」
アニ「……自信なんか、持てないよ」
ミカサ「そんなことはない。誰だって最初は下手に決まっている。練習すればきっと必ず上達する。だから――」
エレン「おいアニィッ! ――俺はな、お前の雪玉なんかこれっぽっちも怖くねえぞ!!」
ライナー「そうだ、俺たちに気を遣う必要なんてない! 思いっきりお前の全てをぶつけてこい!!」
ベルトルト「僕たちのことは気にしないで! 手加減なんてしなくていいんだよ!」
アニ「…………」プルプルプルプル...
ミカサ「三人とも静かにして! 今はとても大事な場面!」ガミガミ
ジャン「いやはや、ひでえ奴らがいたもんだぜ」ポンッ
アルミン「本当だよ、困った困った」ポンッ
ミカサ「アルミン、ジャン。今は私たちがアニと話をしている。邪魔をしないで」
ジャン「おいおいミカサ、アニはお前の所有物なのかよ? 違うだろ?」
アルミン「そうそう、少しくらいお話させてよ。すぐ終わるからさ」
アニ「……何? あんたたちも何か言いに来たわけ?」ギロッ
アルミン「まさか! ――僕たちはただ、アニの力になりに来ただけだよ」ニコッ
ジャン「なあアニ、このままあいつらに舐められっぱなしでいいのか?」
アニ「よくはないけど……今の私じゃあいつらに勝てないし」
ジャン「そうだな。今のお前じゃはっきり言ってあいつらには勝てない。仮に戦場に放り出されても、雪玉を投げられないんじゃ囮にすらなれねえだろうな」
アルミン「だけど僕たちに協力してくれるなら、あの三人に一泡吹かせてやることもできるよ?」
アニ「……確証もないだろうに、大した自信だね」
アルミン「そうだね。今のところは『僕たちのことを信じてくれ』としか言えないけど……でもアニがこっちについてくれるなら、その可能性はぐんとあがる」
ジャン「直接じゃなくて間接的な仕返し、ってことにはなるが……まあ、お前も少しはスッキリするだろうよ。――どうだアニ、俺たちと手を組まねえか?」
アニ「……」
ベルトルト「……なんでアルミンとジャンがアニに言い寄ってるの?」
エレン「言い寄ってるってか、なんとか味方に付けようとしてるって感じだな」
ライナー「わからんな……アニを引き入れて、あいつらに何の得があるんだ?」
エレン「ええっと、今のところ俺たちの組が俺とミカサとライナー、ジャンの組がジャンとコニーとサシャだろ? 確かにアニを味方にしたら、数的には有利になるよな」ウーン...
ベルトルト「でも僕たちの怯え様を見て手加減しちゃうくらいだから、戦力にはならないと思うんだけど」
ライナー「戦力にならない……? ――!! しまった、そういうことか! エレン、俺たちもアニを説得するぞ!」
エレン「は? なんで?」
ライナー「理由は後で説明する! いいからあいつに呼びかけろ! ベルトルトも手伝え!」
ベルトルト「僕も!?」
エレン「何が何だかわかんねえけどわかった! アニを俺たちの味方にすればいいんだな!」
アルミン「ジャン、急いで! ライナーが気づいた!」
ジャン「急かすなよアルミン。――アニ、お前はあいつらと組むのがいいと思うのか? お前の気持ちを少しも酌み取ってくれない、繊細さのカケラもねえあいつらと?」
アニ「……」
ミカサ「ジャン! ライナーとベルトルトはともかく、エレンは繊細さのカケラくらいは持っている! 訂正して!」
ジャン「なあミカサ。あの死に急ぎ野郎を信頼するのは結構な……………………結構、羨ましいな…………ちくしょうめ………………」グスッ...
アルミン「ジャン! しっかりして! 今いいところだから!」ユサユサ
ジャン「……結構なことだが、あれを見てもそう言えるのか?」
エレン「おーいアニ! 俺たちの仲間になってくれ! 頼む!」
ライナー「ダメだエレン、そんな言葉だけじゃあいつの心に響かん! ――アニ、俺たちの側についたら夕食のパンはお前にやろう!」
サシャ「ください!」ピョンッ
ライナー「うおっ!? い、いや、俺はアニにくれてやると言ったんであって、お前には――」
サシャ「いいじゃないですかライナーの上着を叩くと食べ物がいっぱい出てくるんだからパンの一つや二つくらいでケチケチしないでくださいよ!! ください!!」ペチペチペチペチ
コニー「俺も欲しい! くれ!」ペチペチペチペチ
ライナー「こら、纏わり付くんじゃない! 離れろって!」ジタバタジタバタ
ベルトルト「ええっと……アニー、味方になってよー」フリフリ
アニ「……」
ミーナ「あーらら」
ミカサ「くっ……どうしてみんなお馬鹿さんになってるの……!? こんな時に限って……!!」ギリッ...
ジャン「ほらアニ見ろよ。あいつらは物で釣ったり、一方的に要求することでお前を味方にしようとしてる。……お前自身の気持ちを聞こうともせずにな」
アルミン「その点、僕たちは彼らとは違う。もし君が本当にクリスタ王国の建設に携わりたいのなら、僕たちはそれを止めやしないよ。どこにだって、好きなところに行けばいいさ」
ジャン「俺たちはな、お前自身の境遇や気持ちをきちんと考えた上で、俺たちの仲間になることが最善だって提案してるんだ。――さあアニ、どうする?」
アルミン「こんな僕たちに……君の力を貸してくれないかな」
アニ「私の、力……」
ミカサ「アニ、騙されてはダメ。この二人が言ってることはかなり適当」ユサユサ
アニ「……本当に、こんな私でも役に立てるの?」
ジャン「ああ、もちろんだ」
アルミン「むしろ君が要といっても過言ではないよ」
アニ「要……?」キュンッ...
ミカサ「アニ、こっちを向いて。うっとりしないで」ユサユサユサユサ
アニ「適当かもしれないけど……私の心には響いたよ。あんたたちの言葉」
アルミン「アニ、それじゃあ――」
アニ「……駆逐してやる。一人残らず」ギュッギュッ
ジャン「よっしゃアニがこっちついたぞ!」
アルミン「やったぁ! 僕らの勝ちだ!」ワーイ
ライナー「ああ!? しまった!!」ガーン!!
コニー「おおーっ、なんだか知らねえうちにアニが味方についた」ギュー
サシャ「不思議ですねー。これがアルミンマジックですか」ギュー
ベルトルト「二人とも、ライナーが重そうだから離れてあげてよ! 腰に悪いよ!」
ライナー「……こうなったら」チラッ
ベルトルト「え? 何?」キョトン
ライナー「ベルトルト、お前は俺たちの組だ! こっちに来い!」グイッ
アニ「いいや、あんたも私たちのほうに来るんだ。ベルトルト」グイッ
ベルトルト「え、いいよ。……僕、マルコと一緒に審判やるよ」
ライナー「何言ってんだ俺とお前の仲だろ!」グイグイ
アニ「あんたがいるといないとじゃ大分違うんだよ! こっちにおいで! そして盾になりな!」グイグイ
ベルトルト「いたたっ、痛い痛い痛い! 腕を引っ張らないで! 抜けちゃう!」ジタバタジタバタ
ライナー「おいアニ。お前、いつもの知らないフリはどうしたんだ? ベルトルトは俺に譲れよ」ヒソヒソ
アニ「背に腹は代えられないんだ。ベルトルトは私たちのところでもらうよ、ライナー」ヒソヒソ
ベルトルト(なんだろう……取り合われてるシチュエーションなのに、なんにも嬉しくない……)グスッ
コニー「おーい、ベルトルトが嫌がってるぞー」ギュー
サシャ「そうですよー、かわいそうですよー」ギュー
ライナー「お前らはいい加減俺から離れろ! 重い!!」グイグイ
クリスタ「ねえ見てユミル、雪だるまに帽子をかぶせてみたの」スッ
ユミル「そうだな、偉いぞクリスタ」ナデナデ
ミカサ「もう……馬鹿! エレンもライナーもベルトルトも馬鹿! どうして静かにしてくれないの!」ドコドコ バシャバシャ
コニー「おお……見ろよサシャ、ミカサが地団駄踏んだら見事な雪飛沫が立ったぜ」
サシャ「雪飛沫ってか雪柱ですね、あれ。キレイですねー」
エレン「なんだとぅ!? おいミカサ、馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだぞ!」
ミカサ「そんなの知らない! エレンのわからずや!」ポイポイ
エレン「あっ、こら! 雪玉投げるなよ! くそ……っ! ミカサのおせっかい!」ポイポイ
ミカサ「今それは関係ない!」ポイポイ
エレン「そうか、関係ないのか……えーっと、ミカサの馬鹿!」ポイポイ
ミカサ「馬鹿って言ったほうが馬鹿だってエレンが言った!」ポイポイ
エレン「うぐ……っ! えーっと、じゃあ……なんて言えばいいんだ……?」ウーン...
サシャ「考え込んじゃいましたね」
コニー「ミカサの勝ちだな」
ジャン「……なんだあれ羨ましい」ギリッ
一旦ここまで 最後にage 後で来れたらまた来ます
仲良し楽し
続き期待乙乙!!
乙!続き来てた!
みんな楽しそうでなごむなあ。
―― エレン・ミカサ・ライナー組 作戦会議中
ミカサ「……」ムスッ...
エレン「なあ、俺とライナーが余計な真似をしたのは悪かったとは思うけどよ、そんなに怒ることか? 俺たち三人が組めばそう簡単には負けねえだろ?」
ライナー「いや、エレン。そういうことじゃないんだ」
ミカサ「そう。この場合、個人の技量は関係ない。……戦力外のアニが雪玉作りに徹することで、あちらの陣営は安定した供給が得られる。この差は大きい」
エレン「は? ……すまん、言ってる意味がよくわかんねえんだけど。ちゃんと説明してくれよ」
ミカサ「説明も何も、そのままの意味」
エレン「だってよ、雪玉はクリスタたちが作ってるじゃねえか。アニが雪玉を作って何の意味があるんだ?」
ライナー「エレン、よく考えろ。あそこにある雪玉……もとい小さい雪だるまを取り上げたら、ユミルはどうすると思う?」
エレン「ぶち切れそうだな。……あれ? 使えねえじゃん、雪玉」
ミカサ「だから、さっきからそう言っている。ユミルたちは、中立どころか高みの見物をしている。――つまり雪玉の生産は、あくまで自分たちでやらなければならない」
ライナー「いくら砲台が優秀でも、砲弾がなければ意味がないだろ?」
エレン「! そうか、そういうことか……! なんてこった、アルミンはそこまで考えていたのか」
ミカサ「さっきのはとても重要な局面だった。なのにエレンやライナーが邪魔をした」ジトッ...
エレン・ライナー「……ごめんなさい」シュン
ミカサ「ところでライナー。――さっき遠くから見ていたのだけれど、どうしてサシャに雪玉を当てなかったの?」
ライナー「あれは……突然目の前に予想外の人間が現れて驚いただけだ。――次は当てる」
ミカサ「本当にそれだけ?」
ライナー「……なんだ。何が言いたい?」
ミカサ「何か特別な感情があって、サシャに当てられないのでは?」
ライナー「俺が私情で手加減してると思ってるのか?」
ミカサ「そう見える。……そういう感情はこの戦場には不要。ちゃんとサシャにも当てて」
ライナー「……お前、もし仮にエレンが敵に回ったら、雪玉当てられるのか?」
ミカサ「それがエレンのためになるのなら、やる」
ライナー「……」
ミカサ「あなたがサシャに雪玉を当てられないなら私が代わるけれど、どうする?」
ライナー「……いいや、俺があいつらを仕留める。そこまで言われちゃ心外だからな」
―― ジャン・コニー・サシャ・アルミン・アニ組 作戦会議
ジャン「焦ってる焦ってるぅ」ケケケ
アルミン「揉めてる揉めてるぅ」ウフフ
コニー「お前ら笑い方怖ぇぞ」
サシャ「ところで、アルミンはこの後どうするんです? アニが後方支援に回るのはわかりましたけど」チラッ
アニ「私が要……私が重要……」ギュッギュッ
アルミン「僕はあっちでクリスタ王国の建設を手伝ってくるよ。手を貸すのはここまでだ」
ジャン「アルミン……お前はエレンとベタベタつるんでばっかで、こういう時はあいつの味方するんじゃねえかと思っていたが……意外とやるんだな」
アルミン「……僕だってね、たまにはエレンやミカサをぎゃふんと言わせたいんだよ。――自分の力じゃなくて、最終的に君たちに頼らなきゃいけないってところが情けないけどね」
ジャン「いいや、その心意気はいいと俺は思うぜ。――お前のお望み通り、エレンとミカサは俺たちがぎゃんぎゃん泣かせてやるよ」
コニー「あいつらギャンギャンって鳴くのか? 一度も聞いたことねえけど」
サシャ「コニー、違いますよ。一度も聞いたことないから今回は鳴かせてみようって話をしてたんですよ。ジャン、そうですよね?」
ジャン「大方その通りだ。――コニーとサシャは何も考えなくていい。とにかくあいつらに当てまくれ。手は抜くなよ?」
コニー「ほーい了解」
サシャ「わかりましたー」
ジャン「そして……俺たちの勝利はアニ、お前の働きにかかっている」
アニ「……!」
ジャン「お前の雪玉生産能力には期待してるぜ……!」ポン
アニ「そ、そこまで言うなら頑張ってあげてもいいかな……」テレテレ ギュッギュッ
―― 営庭中央
ベルトルト「……」ポツーン...
マルコ「……」ポツーン...
ベルトルト「……ねえマルコ。僕たち審判ってさ、本当に必要だった?」
マルコ「言っちゃダメだ、ベルトルト」
ベルトルト「みんな思い思いにおっ始めてるし、具体的に何がどうルール違反してるのかよくわからないし、誰も脱落する気配がないし」
マルコ「付け加えるとすれば……例えばミカサがルール違反したとしても、僕たちに止める術はないんだよね。残念ながら」
ベルトルト「……」
マルコ「……」
ベルトルト「……それにしても、アニがジャンたちにつくとは予想外だったなぁ。てっきりミカサのほうにつくと思ってたんだけど」
マルコ「そうかな? 僕にはこの展開が予想できたけどね」
ベルトルト「だってあのジャンだよ? 誰かを仲間に引き入れるって、すごく不得意そうに見えるけど」
マルコ「確かに協調性はあまりないけどさ。ジャンは強い人じゃないから……弱い人の気持ちがよく理解できる。雪合戦をしたことがないアニの気持ちもちゃんと酌み取ってくれるって、僕は確信していたよ」
ベルトルト「……よくわかってるんだね、ジャンのこと」
マルコ「親友だからね」
ミーナ「マールコっ!」ヒョコッ
マルコ「やあミーナ、どうしたの? 途中から姿が見えなかったけど」
ベルトルト「もう組みわけ終わっちゃったよ? ミーナはどっちの組に入る?」
ミーナ「そうだなぁ……それじゃあ、私はマルコの敵になろうかな!」ギュッギュッ
マルコ「ミーナ、僕は審判だよ?」
ミーナ「やだなぁマルコったら。審判だって知ってて血祭りにあげるんだよ?」
ベルトルト「ミーナ、ミーナ。目が笑ってなくて怖いんだけど」
ミーナ「――そう、あれは忘れもしないお祭りの日」
ベルトルト「なんか始まった」
ミーナ「嫌がる私を連れ回して、トロスト区中を東奔西走……目当てのブツは数量限定・開催三十周年記念という刺繍入りの、王室謹製ハンカチスカーフベルトその他諸々限定品……」
ベルトルト「君たちそんなもの買いに行ってたの?」
マルコ「そんなものとは心外だなベルトルト。この壁の中で王が築き上げてきた歴史を聞けば、君だってあのハンカチが欲しくてたまらなくなるはずだよ」キリッ
ベルトルト「うーん、なるかなぁ……?」
ミーナ「ベルトルト、続けていい?」
ベルトルト「あ、ちょっと待って。――ねえマルコ、どうしてミーナも連れて行ったの? 欲しいなら一人で買いに行けばよかったじゃないか」
マルコ「限定品はお一人様一つまでだったんだよね。僕は保存用と普段使い用にどうしても二つ欲しかったから、ミーナに一緒に来てくれるようにお願いしたんだよ」
ベルトルト「お願いした結果あんな顔になる?」
ミーナ「……」ジトッ...
マルコ「おかしいなぁ、確かその祭の当日にお礼もしたよ?」
ミーナ「うん、もらったよ……? 半日拘束されて、パン一つだけもらったかなぁー……?」
ベルトルト「……マルコ。そりゃミーナも怒るよ」
マルコ「でもミーナはずっと笑顔だったんだけどな」
ベルトルト「怒りを笑顔で誤魔化してたんじゃないの?」
マルコ「そうなの? ミーナ」
ベルトルト(ああっ、マルコってば、どうしてそう真正面から聞くんだよ……!)ハラハラ
ミーナ「そうだよ? だからね、今日はマルコのところにお礼参りに来たんだぁ」ニッコリ
マルコ「ほら、お礼だってさ。やっぱり怒ってないよミーナ」アハハ
ベルトルト「マルコ、お礼参りってたぶん君が思ってるような意味じゃないよ。いい子の君にはわからないかもしれないけど」
ミーナ「楽しみだなぁ……マルコにお礼するの。私、この機会をずうっと待ってたんだよねぇ……」ニギニギ
マルコ「そうか……そんなに楽しんでもらえたのなら、僕も嬉しいな」エヘヘ
ベルトルト「マルコ、悪いことは言わないから君は今すぐ逃げたほうがいい」
ミーナ「逃がすわけないでしょ?」ポイッ
マルコ「おっと。……ねえミーナ、どうして雪玉を投げてくるの?」ササッ
ミーナ「そんなの決まってるじゃない。マルコを駆逐するためだよ?」ニコニコ
マルコ「……」
ミーナ「……」ニコニコ
マルコ「暴力反対!」ダッ
ミーナ「あっ! こら待てえっ! 絶対に逃がさないんだから!!」ダッ
ベルトルト(マルコ、どこかに行っちゃった……審判はどうするんだろう)ウロウロ
ベルトルト「……あれ? アニ、物陰に座り込んで何してるの?」
アニ「必殺玉の準備」ニギニギ
ベルトルト「必殺……玉? 技じゃなくて?」
アニ「名前は――エターナルフォースブリザード」
ベルトルト「……」
アニ「相手は死ぬ」
ベルトルト「えっ? 死ぬの?」
アニ「中に氷柱を仕込んだんだ。……ほら、危ない感じがするでしょ?」ギラッ
ベルトルト「……」
アニ「この玉は強力すぎるからまだ使ったことがないんだよ。封印してたんだ」フフン
ベルトルト「……あのねアニ。言いづらいんだけど、雪玉の中に何かを仕込むのはルール違反だと思うんだ」
アニ「……お願い」
ベルトルト「お願いしてもだめ」
アニ「……ちっ」ポイ
アルミン「あはは、みんな元気だなぁ」ホンワカ
クリスタ「見てみてユミル、ちっちゃい雪だるまがいっぱい!」チマッ
ユミル「ははは、かわいいなぁクリスタは」ナデナデ
アルミン「いいね、僕も作ろっと」コロコロ
クリスタ「三人で大家族にしようね」コロコロ
ユミル「よーし頑張っちゃうぞー」コロコロ
短いけど追加 そして今日はここまで
次回は明日か明後日です がっつりライサシャが入る予定
待ってる!!
アニに雪投げの楽しさ教えてあげたい
言いくるめられて気分は良くても雪玉つくりだけじゃ結局振り出しに戻ってるもの
ライサシャ関係ないパートもすごい好き
いつもありがとー
>>140さん >>1もアニとキャッキャウフフしながら雪玉の投げあいっこをしたいです
まあそんな願望は置いといてお待たせしましたが続きです
最後まで……と思ったんですが予定よりイチャイチャが増えてるので途中までです 取り敢えず投下します
―― 営庭 物陰
サシャ「……コニー、いました?」コソコソ
コニー「いいや、エレンもミカサもライナーも見当たんねえ。ミカサだけでも早く仕留めたいんだけどなー」コソコソ
サシャ「当たったら痛そうですもんね、ミカサの玉」
コニー「ライナーも痛そうだぞ。あの体格だし」
サシャ「寒いのはいいですけど、痛いのは嫌ですよねー……まあ、私たちにはそう簡単に当てられないでしょうけど」フーッ
コニー「狩人の勘様々だぜ」ドヤァ
サシャ「三人とも、いったいどこにいるんでしょうね。ジャンも見つけられなくてウロウロしてますし」
コニー「さてはあいつら、先に雪玉を作っちまうことにしたんじゃねえか?」
サシャ「なら生産拠点を叩くのが一番ですね。探しましょうか」
コニー「だな。――それにしても、攻撃に集中できるってのはでかいよな。アニ様々だぜ」
サシャ「アニって仕事が丁寧ですよね。見てくださいよこの形。シュッとしてツルッとしてクルンッてなってます」ヒョイ
コニー「俺らなんか当たればいいと思ってるから形なんて適当だしなー。……ほら、丸いコブが二つでクマさん」ヒョイ
サシャ「わあかわいい。でもそれをぶつけるのってもったいないですね」
コニー「そうだな。当たったら砕けちまうもんな」ニギニギ
サシャ「コブ二つを尖らせたらネコに見えますかね? ちょっとやってみますか?」
コニー「いいなそれ。――よし、ここに動物の帝国を作ろう」
サシャ「じゃあ私はウサギさんでも作りましょうかね……ところで、王国と帝国って何が違うんですか?」コロコロ
コニー「さあなー。気分で決めてるんじゃねえの?」コロコロ
ライナー「国を支配する人間の違いだな。王国は王が、帝国は皇帝が国を治めている」コロコロ
サシャ「へえ、違いなんてあったんですか。初耳です」
コニー「王様と皇帝って何か違うのか?」
ライナー「お前らにわかるように説明するとかなり時間がかかるが、そこまでして聞きたいのか?」
サシャ「あんまり興味ないです」
コニー「どっちが偉いのかだけ教えてくれ」
ライナー「昔の史実上では、皇帝のほうが王より偉いぞ」
コニー「マジかよ……! つまり俺は、この壁内で一番偉い人間になったってことか……!」
サシャ「おめでとうございますコニー。では偉くなった記念に、このウサギさんを贈呈しましょう」スッ
コニー「クマとウサギ、そして俺が今作ったばかりのネコ……」
ライナー「話してる間に作ったイヌもあるぞ」スッ
サシャ「わあかわいい。しかも垂れ耳にちっちゃいリボンまでつけて、ライナーってば器用なんですねぇ」パチパチ
コニー「スプリンガー帝国の歴史は、ここから始まるのか……! 胸が熱くなるな……!」
コニー「……」
サシャ「……」
ライナー「……」
コニー「うひょうっ!?」ピョン
サシャ「わひゃあっ!? らっ、ライナーってばいつの間に来たんですか!?」ピョン
ライナー「ついさっきだ。……お前ら気づくの遅すぎるぞ? いくら勘がよくっても、事前に気づけないんじゃ宝の持ち腐れだな」ニヤリ
コニー「ち、ちくしょう……! こんなに近くにいたのに、なんで今まで気がつかなかったんだ……!? まるでミカサのように気配がなかったぞ……!?」
サシャ「もしかして、ライナーもニンジャだったんですか……!?」ニンニン
ライナー「普通に歩いて近づいて来たんだけどな。――せめてもの情けだ。十秒、ここで待っててやろう」シュッシュッ
コニー「十秒か、十秒ならかなり遠くまで――」
ライナー「いーちにーいさーんしーい」
サシャ「早い!? 数えるの早くないですか!?」
コニー「よしサシャ撤退だ! 急げ!」クルッ ダッ
サシャ「ええっ!? コニー、ちょっと待ってくださいよ! 置いていかないでください! ていうかせめて雪玉一つか二つくらいくださいってば! なんで全部抱えてっちゃうんですか!」ダッ
コニー「俺にはこいつらを守る義務がある!」キリッ
サシャ「なんですかその使命感は! ――わぁっ!」ベシャッ
ライナー「もらったぁっ!」ブンッ!
サシャ(――当たる!)
サシャ「ひっ……!」
ライナー「――!!」ピタッ
サシャ「おっ、落ち着いて、落ち着いてください、ライナー……転んだ人に、当てっ、当てるのはっ、ダメですよっ? ねっ?」ビクビク
ライナー「……」
サシャ「あ、当てるならっ……せめて、せめて痛くないところで、お願いします……っ!」ビクビク
ライナー「……」
サシャ「……あ、あれ?」
ライナー「……」
サシャ「あの、どうしました……?」
ライナー「……」
サシャ「ライナー……?」
ミカサ「ふんっ!」ブォンッ
ライナー「ぐあっ!?」ドゴシャアッ バターン!!
サシャ「あっ」
エレン「ああっ!? ――おいミカサ、何やってんだよ! ライナーは味方だぞ!?」
ミカサ「倒れた人を狙うのは卑怯。そして、棒立ちで戦場にいるのは危険」
サシャ「あのぅ、雪玉が人に当たった時とは違う音がしたんですが……」
ミカサ「よくあること。……ついでだからサシャにも当てておこう」ポイ
サシャ「あうっ」ポコッ
エレン「お前手加減してるだろ!」
ミカサ「してない。気のせい」フルフル
コニー「おーいサシャ、大丈夫か? 雪玉当てられたのか?」ヒョコッ
サシャ「いえ、何も……何も、されてません。平気です」
コニー「そうか、よかったな。俺も国民、もとい国だるまはこの通り守り切ったぜ。一人も欠けてねえよ」スッ
サシャ「そうですか、よかったですね。私は見捨てられましたけど」
コニー「だってお前国だるまじゃねえだろ? ……ん? おいライナー、顔色悪いけどどうかしたのか? 頭でも打ったか?」
ライナー「……いや、なんでもない。悪いが、少し休んでくる。みんなはこのまま続けてくれ」スタスタ...
エレン「おう、任せとけ! ライナーの仇は俺が取ってやるぜ! ミカサ覚悟!」
ミカサ「受けて立とう。エレンが相手でも、私は手を抜くつもりはない」スッ
ジャン「はっはぁー! エレンめ、ついにミカサに見捨てられたかぁっ!」ピョン
エレン「うおっ!? ジャン、お前どこから飛び出してきた!?」
ジャン「んなこたぁどうでもいい! ミカサもライナーもいないんじゃ孤立無援だな死に急ぎ野郎ぅぶっ!?」ビタンッ!!
ミカサ「……油断大敵」シュッシュッ
コニー「あーあ、エレンとミカサとジャンの三人でおっ始めちまったな。俺たちはどうする? 混ざるか?」
サシャ「……いえ、いいです。私、ちょっとライナーのところ行ってきます」
コニー「なんだか具合悪そうだったもんなー。医務室に連れて行ってやったほうがいいんじゃねえの?」
サシャ「そうですね、逆方向に行っちゃいましたし……ちょっと追いかけて、説得してきます」
コニー「一応ベルトルトも呼んできたほうがいいんじゃねえか? お前一人じゃライナー担げねえだろうし」
サシャ「そうですね、でも……ベルトルトはアニと話してるみたいなので、今はやめておきます」
コニー「まあ、なんかあったら呼びに来いよ。俺はここでスプリンガー帝国の平和を守ってるからな!」キリッ
サシャ「はいはい、頑張ってください。――じゃあ行ってきますね」タタタッ
ベルトルト「……今の見た? アニ」
アニ「見たよ」
ベルトルト「僕の見間違いじゃないよね?」
アニ「さあね。あんたが何を見たのか言ってくれないと、私には何のことだかわからないよ」
ベルトルト「ライナーが……サシャに雪玉を投げるのを、躊躇ってたように見えたんだけど」
アニ「……そうだね。私にもそう見えたよ」
ベルトルト「どうしよう……僕も、追いかけたほうがいいのかな」
アニ「今はやめておけば? サシャが行ったみたいだし」
ベルトルト「……正直、あそこまで入れ込んでるとは思ってなかった」
アニ「それはどうかな。……あの子に入れ込んでたせいで投げられなかった、ってわけじゃないと思うけどね」
ベルトルト「何か他に理由があるの?」
アニ「なまじ頭がいいと、全く関係ないことまで結びつけて考えようとするからね。……そういう風に、私には見えたよ」
ベルトルト「……」
アニ「まあ……本人じゃないと、本当のところはわからないけどさ」
ベルトルト「アニにも、覚えがあるの? そういう風に考えたことある?」
アニ「……さあ、どうだか」
ベルトルト「……」
アニ「……」ホジホジ
ベルトルト「……雪玉作り、楽しい?」
アニ「うん。楽しい」コロコロ
ベルトルト「……よかったね」
アニ「……? ねえベルトルト、ちょっとそこどいて」
ベルトルト「何? 何かあった?」スッ
アニ「なんか、見たことあるものが……よいしょっと」ズボッ
ベルトルト「あれ? それってまさか――」
―― とある倉庫裏
ライナー「……」
ライナー(……投げられなかった)
ライナー(たかが雪玉だぞ? ……あんな遊びぐらいで躊躇ってどうする)
ライナー(次に壁を……ウォール・ローゼを壊す時は、シガンシナ区やウォール・マリアの時とは違う。顔も素性も知ってる奴が、きっと何人も死ぬ)
ライナー(あいつらの家族も、故郷も……全部奪うことになる)
ライナー(こんな状態で……俺は、任務を果たせるのか?)
ライナー(……いや、いつまで目を逸らしてるんだ。そうじゃねえだろ)
ライナー(さっきのサシャは、何度か見たことがある。……あれは、本気で怯えた時の顔だ)
ライナー(……忘れていたわけじゃない)
ライナー(いつか、サシャが……俺のことをあんな目で見る日が、来るんだろうか)
ライナー(……馬鹿みてえだな。壁を壊すことよりも、あいつのああいう顔を見るほうが何倍もきついなんて)
ライナー(なんでこんなに考えが甘くて浅いんだ、俺は。そういうことも覚悟して、ここまで来たんだろうが……)
サシャ「ライナー、待ってください! どうしたんですか?」タタタッ
ライナー「――来るな」
サシャ「え? で、でも……顔色が悪いですし、雪玉が当たって具合が悪いとか、どこか痛いとかなら医務室に行ったほうが――」
ライナー「なんでもねえよ。……お前はミカサたちのところに戻れ、サシャ」
サシャ「なんでもないなら、ライナーも一緒に戻りましょうよ。ね?」
ライナー「俺は行けない。……頼む。しばらくの間、一人にしてくれ」スタスタ...
サシャ「あっ……」
サシャ(これ……この感じは、この前と、この前断られた時と、同じ……)
サシャ(ライナーが、行っちゃう……)
ライナー「……」スタスタ...
サシャ「……」スタスタ...
ライナー「……」ピタッ
サシャ「……」ピタッ
ライナー「……」
サシャ「……」
ライナー「女子寮はあっち、食堂は向こうだ」
サシャ「迷子じゃないです」
ライナー「上着は渡せない」
サシャ「食べ物目当てじゃありません」
ライナー「……来るなって言ったろ」
サシャ「でも……今のライナー、放っておけなくて」
ライナー「……」イライラ
ライナー「……わかった。正直に言う。今から俺は便所に行くんだ」
サシャ「はぁ、トイレですか」
ライナー「そうだ、便所だ便所。――まさか、中までついてくる気じゃないよな?」
サシャ「…………え、えと、じゃあトイレの前まで」
ライナー「……あのなぁ、いい加減にしろよ。少し考えれば嘘だってわかるだろうが。それともお前、俺をからかってんのか?」イライラ
サシャ「え? ち、違っ……からかってるなんて、なんでそんな」
ライナー「だってそうだろ? 俺は一人にしてくれってさっきお前に頼んだよな? なのになんでしつこくついてくるんだ? からかってるつもりじゃなけりゃなんだ、嫌がらせでもしたいのか?」
サシャ「嫌がらせって、そんなつもりじゃ……私は、ライナーのことが心配で」
ライナー「お前にそんなつもりがなくても、実際に俺はそう感じてるんだ!! 本当に心配してるなら、俺の都合も考えろよ!!」
サシャ「……」
ライナー「……もう、お前の子守りはうんざりだ。面倒見てもらいたいなら、ミカサたちのところに行け」
サシャ「……そう、ですか。それがライナーの気持ち、ですか」
ライナー「ああそうだ。――わかったらついてくるなよ。じゃあな」クルッ スタスタ...
ライナー(くそ……何やってんだ俺は)
ライナー(追い払うにしたって、もう少し言い方があっただろ。……自分勝手に当たり散らすなんて、まるで小せえガキみたいじゃねえか)
ライナー(あいつは……サシャは心配してくれただけだってのに)
ライナー(……人の都合を考えられないのは、俺のほうだな)
―― バシッ
ライナー「……」
―― バシッ
ライナー「……」
―― バシッ
ライナー「……」クルッ
サシャ「あっ、やっとこっち向いてくれましたね! よかったぁ、気がついてないんじゃないかと思いましたよ!」ギュッギュッ
ライナー「……おい。今何をした」
サシャ「追っかけてくるなと言われましたので、雪玉を三つほど投げました!」ニギニギ
ライナー「……」
サシャ「あらら、また眉間に皺寄せちゃってますね。何か考えごとですか?」コロコロ
ライナー「色々言いたいことはある。あるんだが……まず、どうしてそんなにはしゃいでるんだ? さっき言ったこと聞いてなかったのか?」
サシャ「? 聞いてましたよー?」ニギニギ
ライナー「……さっぱりわからん。なんであそこまで言われて機嫌がよくなるんだ? 普通逆だろ?」
サシャ「え? これは……その、なんだか嬉しくなっちゃって」モジモジ
ライナー「……は? 嬉しい??」
サシャ「だってはじめてじゃないですか? 『俺の都合も考えろ』なんて言ったの!」
ライナー「あ、あぁ……? そうだったか……?」
サシャ「そうですよ! やっとそこまで話してくれるようになったんだなーって思ったら、もう私ってば嬉しくて嬉しくて!」
ライナー「そうか、そういう意味か、なるほどな……っていやいやちょっと待て! 前から思ってたがお前どこかおかしいぞ!? この前も犬扱いされて喜んでたろ!!」
サシャ「別に喜んでたわけじゃないですよ。それを言うならライナーだってノリノリで飼い主やってたじゃないですか」
ライナー「俺はいいんだよ。お前はダメだ」
サシャ「えー? それってずるいですよー」ブーブー
ライナー「……それで、雪玉を投げてきた理由は? 何かあるんだろ?」
サシャ「これは、普通に呼び止めるだけじゃ無視されるって思ったのと――それっ!」ポイッ
ライナー「いてっ。……思ったのと、なんだ?」サスサス
サシャ「私なりの、ささやかな仕返しです。――雪玉を一方的に投げつけられるのって、結構痛いんですよ?」
ライナー「……」
サシャ「ね?」
ライナー「……そう、だな。痛いな、これは」
サシャ「でしょう? ……というわけで、この雪玉をどうぞ」スッ
ライナー「……? 普通の雪玉に見えるんだが」
サシャ「普通の雪玉ですよ? それじゃあ私は離れますので――さあ、こっちに向かって投げてください!」ヘイヘーイ
ライナー「は? ……当ててほしいのか?」
サシャ「違いますよ! 当ててくれじゃなくて、投げてくれって言ったんです! もうっ、ちゃんと私の話聞いてました?」ムー...
ライナー「いや、聞いてたが……やっぱりお前、そういうのが好きなんじゃ……?」ササッ
サシャ「だから違いますってば! 人を勝手に変態にしないでください!」プンスカ
サシャ「私はですね、さっきみたいに一方的に投げつけるよりも、お互い投げ合う関係のほうがずっと好きなんです。さっきは私が投げましたから、今度はライナーの番ってだけです。別に痛いのが好きとかじゃありません。――というわけで、どうぞ」
ライナー「どうぞって言われたってなぁ……」
サシャ「……あっ、痛いのは嫌なので加減してくださいね? 全力で振りかぶるとかはよしてくださいよ?」ビクビク
ライナー「……」
サシャ「……」ビクビク
ライナー「……」ポイッ
サシャ「おっと危ない」ヒョイ
ライナー「避けるなよ」
サシャ「投げ合う関係と言っただけで、ぶつけ合う関係とは言ってませんので!」フーッ
ライナー「……さっきは、悪かったな」
サシャ「いいえ、私もすみませんでした。ライナーがせっかくわがまま言ってるのに、私ったら全然気づかなくて。これでおあいこってことにしておいてください」
サシャ「それで、ええっと……」スタスタ ズイッ
ライナー「な、なんだ?」ビクッ
サシャ「んー……顔色もさっきほど悪くないですし、これなら大丈夫そうですね。私はもう戻りますけど、具合が悪くなったら倒れる前に医務室に行ってくださいよ? ――というわけで、後はごゆっくり」クルッ スタスタ...
ライナー「あっ……おい、もう戻るのか?」
サシャ「へ? だってさっき『一人にしてくれ』って言ったじゃないですか。私の用事は済みましたから、もうここにいる意味もないですし」
ライナー「用事?」
サシャ「医務室に行ってくださいって説得することです。でも雪玉投げられたくらいですし、心配することありませんでしたね。それじゃ、先に行ってます」スタスタ...
ライナー「……ちょっと待った」
サシャ「はい? なんですか?」クルッ
ライナー「気が変わった。……そこにいてくれ」
サシャ「ええー……? あっち行けとかそこにいろとか、本当はどっちなんですか?」
ライナー「今言ったのが本当だ。……頼む」
サシャ「むぅ……仕方がないですね。ライナーのお願いなんですから聞いてあげしょう。――でも、ここで一人で突っ立ってるってのも、それはそれでさびしいものがあるんですが」
ライナー「それもそうだな。……よし、俺も座るから隣に来い。ここだ」ドスッ ポンポン
サシャ「はぁい。――じゃあ、隣失礼しますね」ポスッ
サシャ「……」
ライナー「……」
サシャ(取り敢えず座ってはみましたが……何か喋ったほうがいいんでしょうかね)ソワソワ
サシャ「……」チラッ
ライナー「……」
サシャ「膝枕でもします?」
ライナー「何言ってんだお前」
サシャ「だって、さっきは本当に具合悪そうに見えたんですもん。座ってるよりは横になってるほうがマシかなぁって思うんですが」
ライナー「……俺は別にどこも悪くない。第一、そんな柔じゃないぞ」
サシャ「そうですか……膝枕は嫌ですか」シュン
ライナー「膝枕というか、こんな寒いところで寝っ転がるのはなぁ……」ウーン...
サシャ「ああ、そうですね……上着着てるならまだしも、訓練服で雪の上に寝っ転がるのは冷たいですね……濡れちゃうかもしれませんし」ブツブツ
サシャ「膝枕がダメなら、じゃあ……私に寄りかかってみるのはどうでしょう? きっと楽になりますよ!」
ライナー「断る」
サシャ「ええー……、これもダメなんですか? 他に何かありましたかね……?」ブツブツ
ライナー「寄りかかるなんて膝枕よりも無理だろ。お前に俺の巨体を支えきれるとは思えん」
サシャ「むっ……そんなのやってみなくちゃわからないじゃないですか! 最近私鍛えてますし、意外と平気かもしれませんよ?」
ライナー「だがなぁ……」ウーン...
サシャ「遠慮なんかしなくていいですから! ほら、肩のこの辺りにでもどうぞ! さあ!」ポンポン
ライナー「……そこまで言うならやってみるか」ノシッ
サシャ「ふぎゃっ!?」ビクッ
サシャ(お、重っ……! ライナーってば、体重どれだけあるんですか……っ!?)
ライナー「な? 重いだろ?」ノシッ...
サシャ「……そっ、そんなことっ、ないですよ……っ? 軽くて……軽くてっ、紙っ、みたいですっ……!」プルプルプルプル...
ライナー「……ほう。じゃあもう少し負荷かけても大丈夫そうだな」ググッ...
サシャ「へ? 負荷って――んぎゅっ!?」
ライナー「どうした? 平気じゃなかったのか? ここで止めとくか?」ニヤニヤ
サシャ「ぃやっ、やめませんよっ……! ちょっとびっくりしただけですからぁっ!」グググッ
ライナー「おお……よく押し返したな」
サシャ「ほっ、ほらぁっ……! 言ったとおり、平気でしょう……?」プルプルプルプル...
ライナー「…………」
サシャ「う、うぐぐぐぐ…………」プルプルプルプル...
ライナー「……ぷっ」
サシャ(あ、笑った……)
ライナー「止めだ止めだ。俺には誰かをいじめて楽しむ趣味はないんでな。……誰かさんはいじめられるのが好きみたいだが」チラッ
サシャ「なっ……! 別にいじめられるのが好きなわけじゃないですよ! そもそもいじめられてませんし! もっと負荷かけても平気です!!」
ライナー「馬鹿、無理するな。お前に支えてもらわなくたって俺は大丈夫だから、そこまでやらんでも――」スッ
サシャ「やっ……! へ、平気って言ってるじゃないですか!! 本当に全然無理してませんから!!」グイッ
ライナー「おい、引っ張るなって。袖が伸びるだろ」
サシャ「だ、だって……!」ギュウッ...
サシャ(笑ってる顔、もう少し近くで見ていたいですし……)
サシャ「大体、寄りかかるならちょっとずつじゃなくて全体重かければいいじゃないですか! 手加減するなんて卑怯ですよ! ほらほら遠慮しないでやってみてください!!」グイグイ
ライナー「卑怯って、どこをどう取ったらそういうことに――ぅわっ!?」グラッ
サシャ「ひゃっ!?」グラッ
―― ドサッ
ライナー「……」
サシャ「……」
ライナー「……」
サシャ「……あ、あの。どいてくれないと、起き上がれないんですけど」
ライナー「!! ――す、すまん! わざとじゃない、わざと押し倒したんじゃないぞ!?」バッ
サシャ「は、はい、わかってますよ。大丈夫ですから」
ライナー「今のは事故で、変な意図があったわけじゃ……っと、そうだ、どこか痛いところはないか? 背中打ってないよな?」オロオロ
サシャ「まあ背中は打ちましたけど、そこまで痛くはありませんし、別に――」
ライナー「上着着ろ上着!」バサッ
サシャ「えっ? えっ? えーっと、ありがとうございます……? でも、そこまで焦らなくても」
ライナー「……そ、そうだな。焦る必要ないよな? だよな?」
サシャ「深呼吸します?」
ライナー「したほうがいいな、よし、やっておこう」スーハースーハースーハー
サシャ「……落ち着きました?」
ライナー「取り敢えずはな。……本当に、すまなかった」シュン
サシャ「いえ、元はと言えば私が引っ張ったのが悪いんですし……ところで、ライナーって体重どれくらいあるんですか?」
ライナー「春に測った時は、確か……90はあったな。あれからしばらく経ってるし、いくらか増えてるかもしれんが」
サシャ「きゅっ、きゅうじゅう!? そんなに!?」
ライナー「だから言ったろ。重いって」
サシャ「う、ううーん……数値を聞いたら余計に重たく感じてきましたね……寄りかかられるのはまだしも、担ぐのは無理かも……」ブツブツ
ライナー「は? 担ぐ気だったのか?」
サシャ「だってライナーが倒れたらいちいちベルトルトを呼びに行かなくちゃいけないんですよ? それって不便じゃありません?」
ライナー「倒れるのが前提なのか」
サシャ「そうですよ。……もうこうなったらソリに乗せて引き摺っていくくらいしかないですかね。それか猫車に載せるとか……?」ウーン...
ライナー「……」
サシャ「……? なんですか? 変な顔して黙りこんじゃって」キョトン
ライナー「いや……お前って、本当に馬鹿なんだなぁと思ってな」シミジミ
サシャ「ばっ、馬鹿!? 今更馬鹿だってことは否定しませんけど、改まって言うことないでしょう!?」
ライナー「いいや、お前は馬鹿だ。――普通の人間だったらな、こんなでかい図体の奴が倒れてたら放っておくぞ? もしくは他の誰かを呼んでくるはずだ」
サシャ「そんなこと言われたって……近くに誰かがいるとは限りませんし、それに――」
サシャ(……他の誰かじゃなくて、私は、私の実力だけでライナーを支えたいのに)ムー...
ライナー「お前みたいに馬鹿な奴は、壁の外にもいないだろうなぁ」ハハハ
サシャ「巨人レベル!? ちょっと待ってくださいよライナー、私そこまで馬鹿じゃないですよ!?」
ライナー「ばーかばーか」ニヤニヤ
サシャ「~~~~っ!! もうっ、馬鹿って言ったほうが馬鹿なんですからね!!」プンスカ
―― しばらく後
ライナー「あー笑った笑った。久しぶりにここまで笑ったな」ハハハ
サシャ「そーですかー、よかったですねー……」ムスッ...
ライナー「拗ねるなよ。……ほら、膝抱えてないで顔見せてくれ」
サシャ「……」チラッ
ライナー「……………………ぷっ」
サシャ「また笑ったぁっ!!」ポカポカポカポカ
ライナー「わかった、わかったから叩くな! 俺が悪かったから!!」
サシャ「……」プクーッ...
サシャ(むぅ……馬鹿馬鹿言われてるのは気になりますが……)
ライナー「いてて……お前、本気で殴るなよな。結構痛ぇんだぞ?」サスサス
サシャ「………………そんなの知りませんっ」プイッ
サシャ(……まあ、ライナーが楽しそうなのでよしとしますか)
今日はここまで 次回で最後まで行けると思います
今更だけどこんなイチャイチャさせていいんだろうか……?
いいんです!!見たいです!
可愛いのね
心がホンワカ温かい
続き楽しみにしてます
イチャイチャも大好物です!
続き楽しみです
サシャ(そういえば……ライナーが笑った顔、こんなに近くで見たのはじめてですね)
サシャ(笑ってる顔、好きだなぁ……)ジーッ...
ライナー「……? なんだ?」
サシャ「あぁ、いえ……なんでもないです。――それよりこれ、上着返しますからちゃんと着てください」スッ
ライナー「……いいのか?」
サシャ「風邪引かれたら困りますから。試験前ですし」
ライナー「これくらいで引かねえよ。そんなにひ弱に見えるか?」
サシャ「ひ弱かどうかは知りませんけど……鼻の頭、真っ赤ですよ」
ライナー「……」ギュッ
サシャ「摘んでも一時的にしかあったかくなりませんって。いいから着てくださいよ」
ライナー「けどなぁ、お前二回も雪の中に倒れ込んだから上着が濡れちまってるだろ? そのままだと冷えるぞ?」
サシャ「平気ですってば。それを言うなら今のライナーのほうがよっぽど寒そうな姿してますよ。見てるとこっちまで冷えそうなので、早くなんとかしてください」
ライナー「……それじゃあ、忠告通り着ておくか」モソモソ
ライナー(急に元気なくなったな。少しからかいすぎたか?)
ライナー(かといって、上着を持って帰られても困るしな……腹でも減ったんなら、何か食わせればいいんだろうが)ウーン...
ライナー(……何かあったっけかな)ゴソゴソ
サシャ(上着も、笑ってる顔も……本当は私のじゃなくて、他の誰かのなんですよね)
サシャ(早くはっきりさせなきゃいけないのに……ここまで、ずっと聞けなかったのは)
サシャ(こういう時間がなくなっちゃうことが、……怖かったからで)
サシャ(私のわがままで、散々振り回して……うんざりだって言われても、追いかけちゃうくらいそばにいたくて)
サシャ(嫌がられてるかもしれないって思っても……一緒にいるのが心地よくて)
サシャ(……なんで私、こんなにずるくて、臆病で、弱虫なんでしょう)
サシャ(せめて……ずるい子のままでは、いたくないな……もう遅いかもしれませんけど、そんな風に思われたくない……)
サシャ(ライナーの優しさに寄りかかるのは、やめないと……やめなきゃ、いけないのに)
サシャ(……ああ、怖いな……すごく、怖い……ライナーから、「嫌だ」って聞くのが、怖い……)
サシャ(でも、今聞かないと……また……)
サシャ「……」
ライナー「……」ゴソゴソ
サシャ「……」
ライナー「……」バサバサ
サシャ「……早く着てくださいよ。何してるんですか」
ライナー「食うもんないか探してるんだ。……やっぱりないか」シュン
サシャ「お腹空いたんですか? 私、昨日もらった金平糖なら持ってますよ。食べます?」ゴソゴソ
ライナー「おお、用意がいいな」
サシャ「休憩時間中に摘んでたんですよね。えーっと、確か胸ポケットに突っ込んでたはず……あっ、あった」ヒョイ
ライナー「そんなところに入れてたのか。転んだ時によく零れなかったな」
サシャ「前にぶちまけちゃったことがあったので、その点は対策済みです。――ほら、ちゃんと無事でしょう?」ジャーン!!
ライナー「紙と布の二重包装か。無駄に気合入ってるな」
サシャ「もうあんな思いをするのは真っ平ですからね。――はいどうぞ、ライナーも遠慮せず摘んでください」スッ
ライナー「おう、ありがとな」
ライナー「……」ポリポリ
サシャ「……」ポリポリ
ライナー「甘いな」ポリポリ
サシャ「おいしいですよねー、金平糖」ポリポリ
サシャ(……あれ? 何か忘れてるような気が)ポリポリ
ライナー「昨日は腹の足しにもならんと言ったが、菓子も馬鹿にしたもんじゃないな」
サシャ「まあ、小さくても砂糖の塊ですし。……あ、もうなくなっちゃいましたね」シュン
ライナー「あっけなかったな。――それで、元気出たか?」
サシャ「? まあ、そこそこ幸せにはなりましたけど」キョトン
ライナー「そうか、ならよかった」
サシャ「……お腹が空いてたわけじゃないですよ?」
ライナー「それくらいわかる。お前の表情は見分けやすいからな」
ライナー「こういう時はうまいもんでも食っておけって誰かさんに教えてもらったから、実践してみようと思ったんだが……今回は失敗したな。今度からは俺も何か持っておくか」
サシャ「……私、そんなに元気なさそうに見えました?」
ライナー「ああ、見えた。……さっきは笑い過ぎたな。悪かった」
サシャ「いえ……馬鹿馬鹿言われたのは気にしてません。本当のことですし」
ライナー「じゃあ、いったい何に落ち込んでたんだ? ――ってのは、聞かないほうがいいか」
サシャ「……聞いてくれます?」
ライナー「話したら少しは楽になるかもしれんしな。……いいぞ、話してみろ」
ライナー(……どうせ俺にはこれくらいしかしてやれないからな。なんとか気が晴れればいいんだが)
サシャ「あの……こうやって二人で過ごすのって、珍しくなくなりましたよね」
ライナー「ん? ……ああ、そういやそうだな」
サシャ「最初はこそこそ会ってたのに、少しずつ一緒に行動することが多くなって……今では、そばにいるのが当たり前みたいになっちゃってて」
ライナー「今にして思えば、訓練の時もあまり接点なかったよな。せいぜい同じ班に割り振られた時ぐらいか?」
サシャ「そうですね、それくらいだったと思います。私とライナーってほぼ真逆の性格ですから、いまいち生活圏というか、活動範囲が重ならないんですよね。対人格闘とかでも全然組んだことありませんし。……だから、今でもこうして一緒にいると、なんだかとっても不思議な気分になります」
ライナー「確かに、俺もお前といると珍妙な体験ばっかりしてるな。……いったい何度振り回されたことやら」ハァ
サシャ「あはは、すみません。――でも、ライナーは嫌だったかもしれませんが……私、結構この時間気に入ってたんですよ」
ライナー「……ああいや、別に嫌だって言いたいわけじゃないぞ?」
サシャ「いいですよ、嘘吐かなくても」
ライナー「嘘じゃねえって、今のは――」
サシャ「……好き、なんです」
サシャ「私、こうやって二人で過ごすのがすごく好きなんです。いろいろ話したり、何か食べたり、遊んだり……何か特別なことしてるわけじゃないのに、ライナーと一緒にいるだけでとっても楽しくて」
サシャ「一番最初に……最初は、キスの味を教えてくれましたよね? あの時私、本当に嬉しかったんですよ? 他の人とは違って……ちゃんと、私のこと見てくれて、向き合ってくれましたから」
サシャ「あれから、一緒にいる時間が増えて……会う度に、ライナーは私が知らない味をたくさん教えてくれて」
サシャ「こういう気持ちがはじめてで、戸惑った時もあったんですけど……それでも、ずっとこのまま……そばにいたくって……いたいって気持ちは、変わらなくて」
サシャ「一緒にいちゃいけないってわかってても、離れたくなくて……諦めきれなかったんです」
サシャ「本当は、今だって……他の子に渡したくないくらい、この時間が好きなんです。でも――」
サシャ(好きな人がいるのに、私が独り占めしてちゃダメなんですよね)
サシャ(振り回すのは……もう、終わりにしないと)
サシャ「――ライナーが嫌なら、もうやめようと思います」
サシャ「……」
ライナー「……」
サシャ(……? 返事がないですね、どうかしたんでしょうか)
サシャ「ライナー? 聞いてます?」
ライナー「……聞いてる、聞いてたが」
ライナー(今のは…………告白されたわけじゃ、ないんだよな?)
ライナー(しかも、俺の勘違いじゃなけりゃあ……告白されたすぐ後に、フラれたような気がするんだが)
ライナー「…………あの、なぁ」
ライナー(まいったな……サシャはあくまで悩みを相談してる気なんだろうが)
ライナー(薄々気づいていたとはいえ、こうして改めて言われてみると――)チラッ
サシャ「?」キョトン
ライナー(ああくそ、安請け合いするんじゃなかった……)
ライナー(……いや待てよ? こいつのことだから、今の話にも深い意味なんかないかもしれん)
ライナー(はっきりさせる方法が、ないわけじゃないが……)チラチラ
サシャ(なんだかチラチラ私のほう見てきて挙動不審ですね……もしかして、まだ私に気を遣ってくれてるんでしょうか)ムー...
サシャ「あの……言いたいこととか聞きたいことがあるなら、なんでも話してくれていいですよ? ……私、どんな答えでもちゃんと聞き入れますから」
ライナー「……なあ、サシャ」
サシャ「はい、なんでしょう?」
ライナー「お前、肉を持ったベルトルトと何も持ってない俺がいたらどっちを選ぶ?」
サシャ「へ? ……えーっと、ベルトルトが持ってるのは何肉ですか?」
ライナー「……そこは関係あるのか?」
サシャ「大ありですよ! ――それで、何肉なんですか? 鶏ですか? 豚ですか? 馬ですか? ウサギですか? 猪ですか?」
ライナー「そうだな、じゃあ……牛肉ってことにしておくか。高そうだしな」
サシャ「そうですか、牛肉ですか……うーん、ベルトルトにお願いしたら分けてくれませんかね」
ライナー「あいつは食いしん坊だからくれないぞ」
サシャ「えっ、ベルトルトって食いしん坊だったんですか?」
ライナー「そうだ。いくらお前がお願いしたってくれないんだ。だから、肉だけベルトルトからもらって俺を選ぶとかはなしだからな。……それで、どっちなんだよ」
サシャ「それじゃあ、仕方がないですね――」
ライナー「……」ドキドキ
サシャ「お肉はもったいないですけど、ライナーにします。……お肉は一緒に食べに行けばいいだけの話ですし」
ライナー「……」
サシャ「……?」
ライナー「……いっ、いいのか? 本当に俺でいいのか? 何も持ってねえんだぞ?」オロオロ
サシャ「いいって言ってるじゃないですか。答えは変わりませんから、何回も確認しなくていいですよ」
ライナー「金も何もないんだぞ? 一文無しじゃ食うのにきっと困るだろ?」アタフタ
サシャ「別にお金目当てじゃないですし。食べれなくなったらその辺から狩ってくればいいだけの話ですよ」
ライナー「いいやお前は何もわかっちゃいないっ!! ――いいか、何も持ってねえってことはな、俺は裸同然ってことなんだぞ!? お前は裸の男を選ぶのか!?」ダンッ!!
サシャ「はだっ……!? そ、そんな大声で言わなくってもいいじゃないですか!! 誰か通りがかったらどうするんです!?」シーッ!!
ライナー「お前が考えなしなのが悪いんだろうがぁっ!!」
サシャ「なっ……! 失礼ですね、ちゃんと考えましたってば!!」
ライナー「……」ゼエハア
サシャ「……」ゼエハア
ライナー(……取り敢えず、今の答えではっきりした)
ライナー(こっちの細かい事情を知らないとはいえ……こいつは、サシャは本気で俺のことを好いてくれてるらしい)
ライナー「…………」
ライナー(……やべえ、なんて答えたらいいんだこれ)ドキドキ
ライナー(先に誤解を解いたほうがいいのか? けど俺フラれたんだよな? いやでもさっき一緒にいたいって言ってなかったっけか? どっちなんだ??)グルグルグルグル
ライナー(返事をすりゃいいんだよな? ……返事ってどっちのだ? なんて言ってやりゃいいんだ?)
ライナー(だああああもうっ!! 展開が早すぎてついていけねえよ! なんだよもう! どこからどう答えればいいってんだ!!)アタフタアタフタ
サシャ「あの……黙られちゃったら、どうしたらいいのかわからないんですけど」
ライナー「……お、おう。そうだな、困るよな」ギクシャク
ライナー「……わかった、じゃあこうしよう。まず、これから二人で営庭に戻る」
サシャ「? 戻るんですか?」
ライナー「そうだ。――そこでみんなと合流して、そのまま食堂に向かうだろ? 食事を取った後は、寮に戻ってお互い明日の準備を済ませる。それから風呂に入って、消灯のあと就寝だ。以上」
サシャ「なるほど……って答えになってないじゃないですか!! 誤魔化さないでくださいよ!!」プンスカ
ライナー「バレたか」チッ
サシャ「さすがにそこまで馬鹿じゃないです!!」ムキーッ!!
ライナー「お前さぁ……疲れてんだよ。ちょっと休んだほうがいいぞ? なっ?」ポンッ
サシャ「…………」ジトッ...
ライナー(おお、ジト目もなかなか……じゃねえな。いかんいかん、意識したら余計可愛く見えてきやがった)ブンブン
ライナー「あー……せめて、答えるために考える時間がほしいんだが」
サシャ「でも私は今聞きたいんですけど」
ライナー「そうか、今か…………今!? 今聞くのか!?」
ライナー(お前よくこの状態の俺に聞けるな!? なんでそんなに容赦ねえんだよお前は巨人か!! ……あっ巨人は俺だった)
ライナー(そもそもこっちは浮かれたくても浮かれられねえってのに……! 気軽に好き好き言ってきやがって、こんな状態で頭回るわけねえだろ!!)イライラ
ライナー(……落ち着けライナー・ブラウン。お前は兵士だろ? 己の感情を抑制しろ)ググッ
サシャ(眉間の皺が更に深くなりましたね……なんだか怒ってるように見えるんですが……)
ライナー(そうだ。俺は、今は兵士だが……その前に、戦士でもある。だからサシャの気持ちに応えてやることはできん。……じゃない、何考えてんだ俺は)
ライナー(あいつは純粋に相談を持ちかけてきただけだ。返事もそれに沿ったものじゃないといかん。相談してみろと言った手前だ、俺はこいつの悩みを解決してやる義務がある。サシャもきっとそういう答えを期待しているんだろう)
ライナー(しかし、サシャ・ブラウンもライナー・ブラウスもなかなかいいな…………じゃねえよ!! 違うだろ!! そうじゃあねえだろ!!)ブンブン
ライナー(このまま話を有耶無耶にするのは、さっきの反応からして無理そうだ……仕方がない、話してる間に頭も回ってくるだろうし、とにかく思いついた順番から片付けていくしかないな。ということでまずは――)
ライナー「あのな、サシャ。俺は……お前と一緒にいるのが嫌だなんて、一言も言った覚えがないんだが」
サシャ「さっき私の子守はうんざりだって言いました」
ライナー「そんなこと言ったか?」
サシャ「言いましたよ」
ライナー「……そうか、言ってたのか」
ライナー(俺の馬鹿野郎……)ズーン...
ライナー(くそ、勢いとはいえ失敗したな……謝ったくらいで撤回できそうにもねえし)
ライナー(だが、どうもそれだけが原因ってわけでもなさそうなんだよな……もう少し詳しく聞いてみるか)ウーン...
ライナー「大体、なんで今更そんなこと言い出したんだ? お前がやめたくないって思ってるなら黙っておけばよかっただろ?」
サシャ「……ダメですよ、そんなの」
ライナー「なんで」
サシャ「だって……他の子に、悪いですもん」
ライナー「それだ。他の子ってのはいったい誰のことだ? その話はどこから出てきた?」
サシャ「どこからって……元はといえばライナーが言ったんじゃないですか」
ライナー「……? 俺が何か言ったのか?」
サシャ「覚えてないんですか?」
ライナー「……すまん、ちっとも思い出せない。教えてくれ」
サシャ「……一番、最初の……キスの味を、教えてくれる前に」
ライナー「前に? ……後じゃなくて、前にか?」
サシャ「そうです。その時に………………………………好きな人、いるって言ってました。けど」
ライナー「……誰に?」
サシャ「だからぁ……ライナーに、ですってば」
ライナー「…………いつの話持ち出してんだ、お前」
サシャ「いつの話って……私はずっと気にしてたんですよ? この前断ったのだって、本当は好きな人がいるからなんじゃないかって思って――」
ライナー「この前……?」
サシャ「私が贈り物したいって言った時ですよ。……いらないって、言いましたよね」
ライナー「……お前、そんな風に思ってたのか」
ライナー(そうか、サシャが引っかかってるのはこれか……俺に好きな奴がいると思って、遠慮しようとしてたのか。……してたかぁ??)
ライナー(……まあいい、これで今回の理由もはっきりした。――解決はしてないが)
ライナー(本当は、ここで突き放すべき、なんだろうが……)チラッ
ライナー「……」
サシャ「……」
ライナー「……あのな、それ嘘だ」
サシャ「……はい? 嘘?」
ライナー「半分だけな。気になる奴は確かにいた。……いたんだが、そこまで本気じゃなかったんだ」
サシャ「……な、なんで、嘘なんか」
ライナー「あの時ああ言えば諦めると思ったんだが……お前が想像以上に馬鹿だったんだよ」
サシャ「うぐっ……馬鹿ですみません」シュン
ライナー「そうだな、今からでも遅くないから治してくれ。――それは置いといてだな、この前のはその話とは別だ。他に好きな奴がいるから断ったとか、そういうわけじゃない」
サシャ「そうなんですか……」ホッ
ライナー(あの時は……もちろん、サシャのことも考えてはいたが)
ライナー(俺みたいなクソ野郎が、壁内の誰かと一緒になるなんてことは……そんな可能性は、完全に諦めていたからな)
ライナー(今も、サシャの想いに応えてやることはできそうにないが……しかし、あれだな。誰かに本気で好かれるってのは、悪い気がしないな)
ライナー(……ったく、あからさまに嬉しそうな顔しやがって)
サシャ(嘘、だったんだ……よかったぁ……)
サシャ(ということは私、このままライナーのこと好きでいていいんですよね?)
サシャ(わぁっ……嬉しすぎて、ほっぺた落ちそうです……! でも、あまりだらしない顔してたら変に思われちゃいますよね!)キリッ
ライナー「……」
サシャ「……」キリッ
サシャ(……ふへへ)ヘニャン
ライナー(何やってんだこいつかわいい)ニヤニヤ
サシャ(このままじゃいけませんね……落ちないように持ち上げときましょう)ムニー
サシャ(……あれ? でも好きな人はいないって言っても、気になる人はいたんですよね?)
サシャ(なんか、言い方が違うだけで……結局は、同じな気がするんですけど)
サシャ(…………気にしなくても、いいんですよね?)
サシャ「……」
ライナー「そういうわけだからな、あの時俺が言ったことは水に流しといてくれ。……大体、あの時とは俺の心持ちも変わってるしな」
サシャ「……それで、誰だったんですか?」
ライナー「? 何がだ?」
サシャ「その、ライナーが気になってた女の子です。……誰だったんですか?」
ライナー「いや、それは流石に伏せさせてくれ。そのせいで、お前とそいつとの関係が悪くなられちゃ困る」
サシャ「じゃ、じゃあ……その子、お料理できたんですか? 勉強は? 立体機動は上手でした? 馬術とか技巧とか、得意な物はなんでした?」
ライナー「おいおい……その質問全部に答えたら、誰なのかわかっちまうだろ。却下だ」
サシャ「だ、だって……」
ライナー「そんな無理矢理張りあおうとしなくたってな、お前はお前でかわいいぞ? ――だから安心しろ」ポン
ライナー(……まあ、これくらいはいいよな。うん)ナデナデ
ライナー「……? サシャ、どうした?」
サシャ「いえ、その……ありがとう、ございます。嬉しいです。とっても」モジモジ
ライナー「あー……まあ、その、なんだ。――どういたしまして」
サシャ「最初に言った好きな人が、嘘だったっていうのは……わかりました。信じます」
ライナー「そうか、信じてくれるか」ホッ
サシャ「はい。……それで、今はいるんですか?」
ライナー「……」
サシャ「いるんですね?」
ライナー「いないいない」ピーヒョロロ
サシャ「なんですかその反応」
ライナー「……なあ、疲れたからちょっと一旦休憩挟まないか?」
サシャ「何言ってるんですか。ダメですよ」
ライナー(こっちはもう余裕ねえんだよ……勘弁してくれって)ハァ
サシャ「あの……ライナーは、私と一緒にいるの……嫌じゃなかったんですよね? 今までのこと、否定しなくてもいいんですよね?」
ライナー「……お前、あの時から今まで、ずっと気にしてたのか?」
サシャ「してましたよ。ずっとじゃないですけど……付き合わせて悪いなって気持ちは、いつもどこかにありました」
サシャ「でも、私からやめるなんて……どうしても、怖くて……言えなくて」
サシャ「自分でも……わがままで、悪い子だなって思ったんですけど」
ライナー「……そうか」
ライナー(こういう時は、抱きしめてやるべきなんだろうな……好きな女なら、余計に)
ライナー(……いいや、ダメだ。そこまでやったら本当に戻れなくなりそうだ)グッ
ライナー(俺だって、安心させてやりたいんだがな……全部話しちまえたら、どんなに楽か……)
ライナー「なあサシャ。――巨人は、怖いよな」
サシャ「へ? ……まあ、怖くないと言ったら嘘になりますけど」
ライナー「だよなぁ……」
サシャ「? なんでいきなり巨人が出てきたんですか?」
ライナー「……俺にだってな、逃げたくなる時くらいある。嫌なもんや怖いもんがないわけじゃない。……巨人だって、そこそこ怖い」
サシャ「はぁ、そこそこなんですか……それはそれですごいですね」
ライナー「それはともかく。――お前には、俺が色々上手く押し殺してるように見えるんだろうが……本当はそうでもないんだ。いくら格好つけようったってまだガキだしな。誰かに当たり散らしたくなる時だってある」
ライナー「今まで、そういうことができる相手なんかベルトルトぐらいしかいなかったんだが……さっきは、ついお前にもやっちまった。――悪かったな」
サシャ「いえ、私は私で嬉しかったので……もう気にしてませんよ。大丈夫です」
ライナー「それでな、その上で、聞いてほしいんだが…………その」
サシャ「聞いてますよ。……ちゃんと、聞いてます」
ライナー「わかってる、急かすなって…………あのな、俺もこういう時間は嫌いじゃないんだ。お前みたいな奴と……本音を出せる相手と一緒にいるのは、正直ほっとする」
ライナー「それで、お前がもし、よければなんだが――これからも、付き合ってほしい」
サシャ「……」
ライナー「――と、思ってるんだが……どうだろうか」
サシャ「……本当に、私でいいんですか? 他の子がよかったんじゃないですか?」
ライナー「いや……他の、誰かじゃなくてだな」
サシャ「……」
ライナー「……っあー……………………続きも、言わないとダメか?」
サシャ「だめです。……ライナーから、今聞きたいです」
ライナー「そうか…………そう、だな。また変にこじれても困るよな」
サシャ「……」
ライナー「他の奴じゃなくて……お前がいいんだ。お前じゃないと、ダメだ」
サシャ「……そうですか。私じゃないとだめ、ですか」
ライナー「ったく、こんなこと言わせんなよ……あー、恥ずかしい」ブツブツ
サシャ「えへへ……すみません」
サシャ「いやぁ、それにしても……おかげで色々すっきりしましたね! 今日の夜は気持ちよくご飯が食べられそうです!」スッキリ
ライナー「そうかぁー……よかったなぁー…………」グッタリ
ライナー(ちくしょう……脳天気な馬鹿が羨ましいと思ったのは、生まれてはじめてだ……)
サシャ(そういえば……好きな人がいないなら、もうちょっとだけ甘えてもいいんですかね)
サシャ(……ちょっとだけ、ちょっとだけ)
サシャ「……」ピト
ライナー「!? ……ど、どうした? 俺の腕は食い物じゃないぞ?」ギクシャク
サシャ「いえ……やっぱりちょっと寒くなってきちゃったので、暖を取らせてもらおうかなぁって思いまして」
ライナー「そ、そうか、そうだな、もう暗くなってきたしな、やっぱり上着貸してやろうか? 寒いだろ?」モソモソ
サシャ「上着もいいんですけど……こっちのほうも好きなんですよね」ギュッ
ライナー「……矛盾してるぞ。それこそお前、昨日は耳触られて嫌がってたじゃねえか」
サシャ「あれはびっくりしたっていうか、くすぐったかっただけで……その、基本的には」
サシャ「ライナーに触られるの、……好き、なんですけど」ギュッ
ライナー「……」
サシャ「だって、ライナーの手って大きいから……頭撫でられると気持ちいいんですよね。すごく安心するっていうか」モジモジ
ライナー「…………」
サシャ「あっ、そうだ! よかったら手の比べあいっこしませんか? ライナーと私じゃ、指の太さとかも大分違うと思うんですよねー」
ライナー「……………………」グイッ シュルッ
サシャ「わっ……何、なんで髪ほどいたんですか? 髪ゴム返してくださいよ」ピョンピョン
ライナー「…………………………………………」ガシッ
サシャ(? 頭掴んで、一体何を――)
ライナー「ったくお前は人の気も知らないで!!」ガシガシガシガシ!!
サシャ「いっ!? ――ぎゃああああなにするんですかぁっ!!」ジタバタジタバタ
ライナー「うるせえ仕返しだ!! お前はもうちょっと言葉選んで喋れ!! ……こっちは辛抱たまらん」ボソ
サシャ「え? ――だから、我慢しなくてもいいですって」
ライナー「お前が構わなくても、俺が構うんだよ……もう身がもたねえっての……」ブツブツ
サシャ「? ??」
サシャ「ライナーってば掻き回しすぎですよ、髪の毛ぐっちゃんぐっちゃんじゃないですか……ううっ、クリスタに怒られる……」ワシャワシャ
ライナー「抜かなかっただけありがたいと思え」ツーン
サシャ「ああ、この年でハゲは嫌ですね……じゃなくて。髪の毛まとめたいので、それ返してくださいよ。髪ゴム」
ライナー「ん? ああ、これか。……そういえば、前も同じの買ってなかったか?」
サシャ「そうですよ、よく覚えてますね。――それ、他のと比べて一回りくらい安いんですよ。すぐ切れちゃうのが難点ですけど」
ライナー「……」ビョ-ンビョ-ン
サシャ「ああっ、あんまり伸ばさないでください! 切れちゃいますって!!」アタフタアタフタ
ライナー「この髪ゴム、今は予備があるのか?」
サシャ「この前街に出た時に買い足しましたからね。まだいっぱいありますよ」
ライナー「そうか。……じゃあ、これはもらっとく」ゴソッ
サシャ「へ?」
ライナー「代わりに今度、街に出た時に新しいの買ってやるよ」
サシャ「ま、また……? って、そんなのダメですってば! 私ばっかり色々もらって悪いですよ!」ブンブン
ライナー「だから、これと交換するんだよ。俺がもらっても困らないんだろ? じゃあいいじゃねえか」
サシャ「ライナーってば、そんなものがほしいんですか? っていうか、髪ゴムなんて何に使うんです?」
ライナー「なんでもいいだろ。お前には関係ない」
サシャ「だって、ライナーの髪の長さじゃまとめられないと思いますよ? 無理やりまとめても鳥のしっぽみたいになっちゃうと思うんですが」
ライナー「髪を結うわけじゃない。心配するな」
サシャ「お菓子の袋でも留めるんですか? だったら寮に戻って新しいの持ってきますけど」
ライナー「いや……これでいいんだ」
ライナー(これくらいなら……持っていても、邪魔にはならないだろうしな。切れちまったら諦めもつく)
サシャ(使わない髪ゴムなんかもらって、ライナーったらどうするんですかね……変なの)
ライナー「そろそろ夕食の時間だな。すっかり暗くなっちまった」
サシャ「ああ、そうですね……日が落ちるの早くなりましたよね」
ライナー「一旦営庭に戻ってから食堂に行くか。……あいつらにも謝らないとな」
サシャ「そうですね、すっぽかして話し込んじゃいましたからね。……というわけで、はいどうぞ」スッ
ライナー「……? 掴めばいいのか?」
サシャ「いつもは私がライナーから手を借りてるので、たまには逆もいいかなって思いまして。さあさあ、遠慮しないで掴まってください!」
ライナー「それじゃ、ありがたく借りるか。……よっと」グイッ
サシャ「わわ……っと、やっぱりライナー重いですね」ヨロッ
ライナー「お前は軽そうだよな。……どれ、ちょっと試してみるか」ヒョイッ
サシャ「え? 試すって――わぁっ!?」
ライナー「何度か運んじゃいるが、やっぱり軽いな」
サシャ「あ、あの、ライナー……っ!? この年で抱っこされるのは……恥ずかしいんですけど……っ!」
ライナー「何言ってんだ、担ぐよりマシだろ?」
サシャ「そりゃそうかもしれませんが、これっ、手はどこに……!」
ライナー「そこまで面倒見切れるか。……取り敢えず、頭でも掴んでろ」
サシャ「は、はい……」ギュッ
ライナー「お前、身長の割に軽いな。アニと同じくらいか?」
サシャ「え? ……さあ、どうでしょう。アニと比べたことありませんし」
サシャ(アニと同じくらいだって、すぐにわかっちゃうってことは……アニの体重知ってるんですかね)
サシャ(そりゃあ、対人格闘の時にアニと組んでるのよく見かけますし、それでまあ、持ち上げることもあるでしょうし……でも…………他の女の子と、比べるなんて)
サシャ「……」ムカムカ
サシャ「……」ナデナデ
ライナー「……おい、何してんだ」
サシャ「ぐちゃぐちゃにされた仕返しです。……それに、ライナーの頭に触れる機会ってあまりありませんからね。やれる時にやっておこうかなって思いまして」ワシャワシャ
ライナー「……下ろすぞ。手を離せ」
サシャ「もしかして、照れてます?」ニヤニヤ
ライナー「……」
サシャ「かなり素直になりましたねぇ、ライナー」ナデナデ
ライナー「……悪いか。――背が高いから、こういうのは慣れてねえんだよ」ブツブツ
サシャ「じゃあ、たーっぷり撫でて甘やかしてあげないといけませんねー」ナーデナーデ
ライナー「……」ポイッ
サシャ「あいたぁっ!? ――なっ、何も雪の中に放り投げることないじゃないですかぁっ!!」プンスカ
ライナー「遊んでないで行くぞー」ザクザク
サシャ「遊んでたのはライナーでしょうにぃ……」ブーブー
―― 同刻 営庭
エレン「ミカサ、もう行こうぜ? 座るところなくなっちまうよ」ツンツン
ミカサ「もうちょっとだけ待って」
エレン「早く見せたいのはわかるけどさ、大したものでもないんだから食堂で渡せばいいだろ? ――ほら、行くぞ」グイッ
ミカサ「行かない。サシャを待ってる」ブンブン
エレン「……ああそうかよ。そんなにサシャがいいのかよ」イラッ
ミカサ「そんなこと言ってない」フルフル
アルミン「まあまあエレン、そこまでにしときなよ。……ミカサ、先に行って席取っとくね」スタスタ...
ミカサ「うん、また後で」フリフリ
エレン「いいんだな!? 行っちゃうからな!? 本当にいいんだな!?」
アルミン「ほらほらエレン、わかったから行こうよ」グイッ
エレン「ほら行っちまうぞ!? 本当にいいのか!? 止めるなら今だぞ!? 行っちゃうぞ!?」ズルズル...
ミカサ(あっ……せっかく今まで一緒に待っていてくれたのに、お礼も言わないで別れてしまった。……後で二人に謝ろう)
ミカサ(サシャは、うまくライナーから聞き出せただろうか……)コロコロ...
ミカサ「……」コロコロコロコロ...
ミカサ「……」ゴロゴロゴロゴロ...
ミカサ「……」ゴーロゴーロゴーロゴーロ ノシッ
ミカサ「……ふぅ、できた」
ミカサ(調子に乗って大きくしすぎてしまった。……どうしよう、エレンに見えない)シュン
ミカサ(これはベルトルトということにして、次はエレンを作ろう)コロコロ...
ミカサ「……」コロコロコロコロ...
ミカサ(……楽しくなってきた)ゴロゴロゴロゴロ...
ミカサ「♪~」ゴーロゴーロゴーロゴーロ
ライナー「……何やってんだ、ミカサ」
サシャ「随分と大きい雪だるまですねー」
ミカサ「! サシャ、おかえり。……あとライナーも」
ライナー「俺はついでかよ」
サシャ「ミカサってば、こんなところでずっと待ってたんですか? 寒かったでしょうに……手は冷えてません?」
ミカサ「平気。ミーナが上着と手袋を持ってきてくれたから」モコモコ
サシャ「そうですか、よかったですねぇ。――ところでこの子は誰ですか? もしかしてエレンとか?」
ミカサ「違う。この子はベルトルト。今作ってるのがエレン」
ライナー「最初にベルトルトを作ったのか?」
ミカサ「本当はエレンとアルミンを作る予定だったのだけれど、間違った」
サシャ「ライナーと同じくらい背丈あるのに、よく雪玉のせましたねー」
ミカサ「こうやって持った」ガシッ
ライナー「持ち上げてるっていうか雪玉にしがみついてるみたいだな」
サシャ「それにしても……こんなところで雪遊びなんかしてどうしたんです? エレンとアルミンはどこに行ったんですか?」キョロキョロ
ミカサ「食堂に行った。私は置いて行かれた」
ライナー「珍しいな。一緒じゃないのか」
ミカサ「さっきまでここにいたのだけれど、流石に待ちきれなかったらしい。宝物を渡したら、すぐに追いかけるつもりだから大丈夫。心配いらない」ゴソゴソ
サシャ「宝物……?」
ミカサ「そう。……はい、サシャにあげる」スッ
サシャ「これは……みかんですか? でも確か、昨日ので最後だったんじゃ」チラッ
ライナー「コニーはそう言ってたぞ。――ミカサ、これはどこから持ってきたんだ?」
ミカサ「雪の中」
サシャ「雪の中って、なんでそんなところから…………あっ」
ライナー「……この前の、化石か」
ミカサ「そう。発掘者はベルトルトとアニ。あとでお礼を言うといい」
サシャ「そうなんですか……取り敢えず、皮を剥いてみましょうかね。……ふぐぐぐぐ」ググググ...
ライナー「そんなにガチガチじゃ剥けねえだろ。少し溶かしたほうがいいんじゃないか?」
ミカサ「そんな時はこれ。―― なんでも切れちゃうはんばとうしーん」チャララチャッチャラー
ライナー「どうやって持ってきた」
ミカサ「細かいことは気にしちゃいけない。――さあ、開けてみよう」ザクッ パカッ
ライナー「……」
ミカサ「……」
サシャ「……」
ライナー「……これは、食えるのか?」
ミカサ「さあ……?」
サシャ「……中味、見なきゃよかったですね」
おわり
というわけで雪合戦回でした 書き直しまくってたら今回とんでもなく長くなりましたが、好きな人発言もようやく回収です
それと今後についての話を少しだけ
今のペースだと年内に終わるのが絶望的になってきたんですがっていうかもう無理なんですが、駆け足で仕上げたくないのでじっくりやります というわけであと5話です もう少しだけお付き合いください
それではまた次回、山岳訓練・冬です どうなるかわかりませんが予定通りだとイチャイチャは少なめ たぶん年明けになると思います 少し早いですがよいお年をー!
乙!やっと思いが伝わった…こっちまで感慨深いな…
あとちょっとで終わっちゃうのかと思ったらまだ5話もあると聞いて安心した
乙
待ってました!あと5話もあるなんて嬉しいな。
乙!あと5話かあ…寂しいような。
好きな人はやっぱり女神だったのかな。
乙!
伝わって良かったのに切ない!
髪ゴムに切ない予感がするのは俺だけか…?
あけおめ
次はまだでしょうか。待ってます。
あけましておめでとうございます 今年もよろしくお願いします
年末年始で忙しかったりラストに向けてお話練ったり気分転換にコニーというかマルコSS進めたりしてました、申し訳ありませんがもう少しお待ちください
書きためはちゃんとしてますのでご安心を 来週辺りには投下したい……です
あけましておめでとう
>>1のペースでいいんだよ
ピンクわたウサギの赤ちゃんの方も楽しませてもらってるよ
>>221 ありがとうございます そう言っていただけるとありがたいです
そんなわけでお待たせしてすみません、やっと目処がついたので今週中に次スレ立てて山岳訓練前半投下します
ですのでこのスレはageないようにお願いします
ライサシャ描写少なめと予告しましたが、やっぱり欲が出てしまいまして現在大幅に追加中です
おおっ!楽しみにしてます!
このSSまとめへのコメント
このシリーズめっちゃ好き
あと5話で終わっちゃうのか
執筆者さま大好きです!!!頑張ってください!楽しみにしています!