澪「ムギとハーブ」 (37)

最初の異変はムギから少し変わった匂いがしたことだ。
私がいつものようにさわちゃん達に玩具にされてムギに慰めてもらった時、知らない匂いがした。

ムギはいつだっていい匂いがするけど、それとは違う鼻にスッとくる匂い。
香水でも変えたのかなと思ったけど、異変はそれだけじゃなかった。

部活が終わった後、用事があるからと言って1人でどこかへ消えてしまうことが度々あった。
私達と一緒に帰ることをあんなの楽しみにしてたムギにしては変だ。

心配が半分。
好奇心が半分。

ある日のこと。
「用事がある」と言ったムギを追うため、私は律と唯に「私も用事がある」と言ったんだ。

楽しいハーブのお話か

物陰に隠れながらムギの後を追った。
途中、何度か周りの生徒に変な目でみられたけど、口に指を当てて「しー」のポーズをとると、みんな笑って見逃してくれた。

ムギが向かったのは温室がある方向で、園芸部が野菜や花などを育てているところだった。
……と、そこで私はムギを見失ってしまった。

周りを見渡してみたけれど、ムギは見当たらない。
諦めて帰ろうとした、その時、突然後ろから大きな声がした。

「わあっ!!!」

「あ、ムギ。そんなところにいたんだ?」

「……おどろいてくれないんだ」

ムギは私に気づいていて、驚かすために隠れていたみたいだ。
私が驚かなかったので、ほっぺたをぷくーっと膨らませている。

しかし、ちょっと困ったことになった。
ここに来たことをどう説明しようか。

「澪ちゃん、もしかして私を心配してついてきてくれたの?」

……全部お見通しだったみたいだ。
やっぱりムギはさすがだ。

「うん……なにか面倒に巻き込まれているんじゃないか--」

言いかけて思い直した。
ムギが面倒に巻き込まれて困っているところなんて、全然想像できない。
なんでも上手にこなしてしまいそうだから。

私が言い淀んだので、ムギは不思議そうな顔をしている。

「ごめん、好奇心からついて来ちゃったんだ」

「そうなんだ」

「うん。ごめん」

「別にいいの。隠すようなことでもないから」

支援

「そうなのか?」

「ええ、ちょっとついてきてくれる?」

連れられてきたのは、ある花壇の前だった。
その花壇からは、以前感じた匂いがした。

「ムギ、この匂い」

「あれ、澪ちゃん知ってるの?
 まだ、お茶に使ったことはないんだけど」

「ううん、ムギからしてた匂いだなって」

私がそう言うと、ムギは頬を赤らめた。
匂いを嗅がれていたと知って、恥ずかしかったのかな?

「これは、やっぱりハーブ?」

「ええ、自家製ハーブティーを作ってみたいなって思って。
 でも家の庭でやると、庭師さんに悪いから」

庭師がいるんだ……。

支援

面白そう
支援

「……でも水やりとか大変じゃない?」

「それは大丈夫。普段は園芸部の子に頼んでるから。
 こうやってたまに見に来て、雑草を抜いたり、剪定をするだけでいいの」

「ふぅん……そっか」

私はしゃがみこんで、雑草を抜き始めた。

「澪ちゃん?」

「私にも手伝わせてくれないか?」

「いいの?」

「うん。ちょっとだけ園芸に興味あったから。」

「そっか」

ムギはクスっと笑って頷いた。

本当は違う理由があった。
いつもムギにはお世話になってるからその恩返したしたかった。
あと、もっとムギと一緒にいてみたいと思った。

でも、気恥ずかしくて言えなかったんだ。

てすと

△▽△

こうしてムギの秘密の行いに、私も加わることになった。

最初はどれが雑草でどれがハーブかを教えてもらうところから。
ムギは1つ1つ丁寧に教えてくれたので、すぐに覚えてることができた。

大変だったのが剪定だ。
花をうまく咲かせるために不要な芽を摘み取ったりするんだけど、これがなかなか難しい。
ムギは意外とスパルタで、1通り教えてもらった後は、私の判断でやることになったんだけど、どうしても迷ってしまう。
切ってしまった後、ムギが採点してくれるんだけど、何度も辛口の評価をもらってしまった。

園芸部のお手伝いもやった。
ムギと園芸部は持ちつ持たれつのようで、植物の植え替えの時期には、ムギも積極的に手伝っているそうだ。

黒い紙コップのようなもの(育苗ポットと言うらしい)から苗を取り出し、花壇に植えていくのだけど、ムギは早くて綺麗に植える。
私はというと遅いし、苗はちょっと傾いてしまう。

秘密か
いい響きだ

ムギのお手伝いをはじめて数ヶ月。
いろいろうまくいかないこともあったけど、楽しかったと思う。
少しづつ上達していくのはベースとおんなじで、やり甲斐がある。
それに土に触っているのも嫌いじゃなかった。
人間本来の姿に戻る感じがするからかな?

ある日のこと、ムギが育苗ポッドを5つ持ってきた。

「それ、なんていうハーブ?」

「メリッサよ」

「へぇー、それがメリッサなんだ」

「知ってるんだ?」

「うん。そういう名前の歌があるんだ」

「そうなんだ?」

きーみのてっでー

田村正和「ムギとホップ」

「いい曲だから、今度CDを貸すよ」

「それは楽しみね」

「で、そのメリッサを植えるの?」

「あ、そうだそうだ。ね、澪ちゃん」

「うん?」

「このメリッサ、澪ちゃんが全部やってみない?」

「私が?」

「ええ、どうかな」

なんだか嬉しかった。
ムギから園芸の免許皆伝をもらったみたいで。
ううん。卒業試験みたいなものかな。
なんにせよ嬉しかったから、2つ返事で頷いた。

育苗ポッドから慎重に苗を取り出し、花壇に植えた。
……ちょっと不格好になってしまったけれど、私にしては上出来だったと思う。

朝はちょっと早めにきて、水やりをした。
本当は園芸部の人がやってくれるんだけど、自分でやりたかったから。

剪定も慎重にやった。
ほとんど失敗はしなかったと思う。

ムギはそんな私を見守ってくれていた。

その甲斐もあってか、2ヶ月もすると、メリッサ達は結構な大きさに育ってくれた。
あと1週間か2週間かしたら、葉を摘んでお茶を作ろうかと話していた頃、事件は起こった。

その日は、台風でもなんでもなかった。

ただ、夜風がうるさくて、真夜中に一度だけ起こされた、それだけのこと。

朝、目が覚めてから、庭を見て愕然とした。

植木がほとんど全部倒れていた。

パパが育てていたトマトも根っこからポッキリ折れていた。

私は朝ごはんも食べずに、学校へ走った。

園芸部の花壇へ行くと、たくさん生徒がいた。

みんな風のせいで作っていた作物が駄目になったのを嘆いていた。

そんな中に、彼女もいた。

メリッサの前に立ち尽くす、ムギがいたんだ。

「澪ちゃん……」

「ムギ……泣いているの?」

「ごめん……ごめんね……」

「ムギ……しょうがないって」

「でも……」

「大丈夫だから」

ムギのこういう涙をみるのは初めてだった。
私はムギを抱きしめた。
ムギは声を殺した、私の胸で泣いた。

泣いているムギはいつもより小さく見えた。
でも、いつもと同じいい匂いがした。

しばらく泣いた後、ムギは落ち着きを取り戻してくれた。

「ごめんね、澪ちゃん。取り乱しちゃって……」

「はい、ハンカチ」

「ありがとう……」

「な、ムギ。これ、こうしたらどうだろう?」

私は根本から折れているメリッサを立てて、筆箱から取り出したマスキングテープでぐるぐる巻いてみた。
一瞬立ったけど、すぐに倒れてしまう。

「駄目か……」

「澪ちゃん、こういうときはこうするの」

ムギも筆箱を開き、鉛筆を取り出した。
それから鉛筆とメリッサの茎を束ねて、マスキングテープでぐるぐると巻いた。

カワイソス

「添え木っていうの。
 復活してくれるかは、わからないけど……」

「きっと大丈夫」

「……そうだね」

私達は毎日のようにメリッサを見に行った。
毎日水をやり、毎日願った。
その願いが叶ったのか、メリッサは徐々に回復していった。

他の4本は駄目になってしまったけど、この1本だけは無事に育ってくれた。

私はとても嬉しかった。
でも、そのことを一番喜んでくれてるのはムギだった。

私のことで喜んでくれるムギ。
そんな彼女を見ていると、ちょっとくすぐったかった。

恥ずかしいようで、うれしくて。
それでいてとってもあったかな気持ちになれる。

花が咲いて、種を収穫した後、ムギと一緒に葉を全部摘み取った。
葉っぱを摘んでしまっても、根っこの部分は死なないので、来年また生えてくるそうだ。

「ね、澪ちゃん」

「え……」

ムギが私の鼻の前に指を近づけていた。
指はすりつぶした葉っぱで、緑色に汚れている。

「あれ、この匂い……」

「なんの匂いかわかるかしら?」

「メリッサ……だけどレモン?」

「ええ、メリッサはメロンバームとも言うの」

「レモンバーム……聞いたことがあるかも」

「お料理とかによく使う有名なハーブだから……。
 それでどうしよっか。
 お茶に使うのは決まりとして、お料理に使ったり……ミントみたいにアイスに乗せてもいいんだけど」

「お茶づくり、私もやってみたいな」

「もちろんいいわ。澪ちゃんが育てたんだもんね」

「うん」

「ねぇ」

「なんだ?」

「この子を育ててみて楽しかった?
 ずっと澪ちゃんを私の事情に巻き込んじゃったみたいで申し訳ないなと思ってたんだけど……」

私はムギの頭をぽかっと叩いた。
今更そんな野暮なことを聞いてきたお仕置きだ。

ムギは私の表情からそれを悟ったのか、えへへと笑って、私から逃げる素振りで距離をとった。

……と、その時、後ろから声をかけられた。

メロンバー無
レモン場0無

あれ?(難聴)

振り向くと女の子がいた。
何度か話したことのある、園芸部の子だった。

「今年のハーブも終わったんだー。ありがとね」

「あ、私達の方こそ花壇を使わせてもらって……ありがとう」

「それはお互いさまだって。
 ハーブのおかげで私らも助かってるし」

「え、ハーブで助かってる?」

「うん。コンパニオンプランツって知らない?」

「ごめん、知らない」

「ハーブを植えるとね、小蜂とかが匂いにつられて集まってくるわけ。
 そのおかげで野菜とかも受粉しやすくなるってわけよ。
 あと、害虫を寄りつかなくする効果とかもあるんだけどね」

「そうなんだ」

「うん。そういうわけだから、来年もどかよろしくー」

話が終わった後、私はムギに駆け寄った。
ムギが「なんの話をしていたの?」と聞いてきたから、コンパニオンプランツの話をした。

「そういえば、その話は澪ちゃんに教えてなかったね」

「うん……」

「どうしたの?」

「なんだかムギみたいだなって」

「私みたい?」

「うん」

「どこらへんが?」

「紅茶でみんなを惹きつけてるところとか……かな」

ムギはちょっと照れた。

……本当は甘い香りで私を惹きつけるところが似てると思ったんだけど、やっぱり恥ずかしくて言えなかった。
だからかわりにムギの手をとって、そのまま駆け出した。

ムギは私の手を強く握り返してくれた。


おしまいっ!


たまには澪ムギもいいな

ムギちゃんがマリファナ吸いまくる話かと思った

危ない話かと思ったら良い百合だった乙

おつ

玩具って比喩かよ
まあ乙

乙!
せつねぇ

乙乙

大麻の話じゃないのか

ダッポウハーヴじゃねえのかよ!

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