ラウラ「いちごぱんつ!?」 (41)

 嫁と2人で過ごしたい

 嫁と大事な時間を分かちあいたい

 私の大好きなものを知ってもらいたい

 そのために──

ラウラ「よし! いちごぱんつだ!」

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 窓から木漏れ日が差し込んでいる。柔らかい秋の午後の日差しが心地いい。

 目の前に置かれた茶碗を取り、作法通りに二回回転させて口に運ぶ。ごくり。抹茶の苦味の後に感じる爽やかさは、いつも心を鮮明にさせてくれるのだ。
 そして私は頭を下げる。

「結構なお手前で」

 私の大好きな、心静かに過ごせる時間。

 ここはIS学園、部室棟茶道部。今は部活動の時間だ。

 私はラウラ・ボーデヴィッヒ。
 ドイツ軍人だが、今はここ日本のIS学園に通う高校一年生だ。故あって通う事になったこの学園で、私は茶道部に所属している。

 きっかけは──まあ、なんとなく、だが。日本での生活に慣れるうちに、少しずつ茶道というものにも親しみを覚えてきた。
 今では抹茶の苦味に顔をしかめることも、正座で足が痺れることも無い。

 何よりも気に入ったのは、この空間の心地良さだ。

 爽やかな畳の香り。
 適度に緊張した場の空気。
 礼を重んじる姿勢。
 そして和やかな談笑。

 その全てが──私に安らぎをもたらしてくれていた。

ラオウ「いちごぱんつ!?」
に見えてびびった

 そして心が静まると思い浮かぶのはいつも同じ顔。

 織斑一夏──。
 私のドイツ時代の教官、織斑千冬女史の弟にして、世界唯一のIS操縦者。
 戦闘マシーンとして生きてきた私の命を救ってくれた恩人。
 そして私にいろんな世界を教えてくれた人──。
 私の最も大事な人。愛しい嫁。

 まあ鈍感で移り気なのが玉に瑕だがな。
 この間は私が誘った夏祭りに、他の同級生達を誘いおった。全く、私がどんな気持ちで声をかけたと思っているのだ!

 でも嫁の顔を思い返すといつも胸にさざ波が立つ。やっぱり好きなのだ、嫁が。

 いつからだろう。私は嫁と2人、ここでお茶を飲みたいと願っていた。
 とても落ち着くこの茶室で、大切な嫁と2人過ごせたら──。それは未経験ながら、とても素敵なことに思えたのだ。

「ほぅ──」

「ラウラ、何そのため息ー。変なのー」

 しまった、嫁の事を考えていたらいつの間にか声に出ていた。

「ラウラって時々変だよねー」

 この女は同じ茶道部員だ。

「いや、考え事をしていたのだ」

「なになにー? 相談に乗るよー?」

「うむ。実は──」

 ちょっと待て。ここで嫁の名前を出すのは危険だ。 何しろ嫁は学園唯一の男子生徒。女子どもが盛りのついた猫のように周りをうろついていて、私が嫁との逢瀬を邪魔されたのも一度や二度ではない。

「友達──とここでお茶を飲みたいなと思ってな」

 なんとなくはぐらかしてしまった。まあ良い。軍人の嘘は武略だ。

「へー。なら連れてくれば良いじゃん」

「いや、それが最近ISの特訓で忙しいようで」

 これは本当だ。先日のトーナメントで外部から謎の襲撃があって以来、嫁は特訓に血道をあげている。
 既に何度か茶室に誘っているのだが、いつも言葉を濁らせてうやむやにされてしまっていた。

「んー……、それは『いちごいちえ』の精神が足りないね!」

「ん!? なんだそれは?」

「にゃはははー、実は私も良く知らないんだよねー」

 ……なんだそれは。適当な女だ。

「でもね、茶道ではとっても大切な言葉だって聞いてるよ」

「ふうむ……」

 私に足りないもの。嫁を振り向かせるのに足りないものとは一体なんだろう?

 ああ。こんな時にうってつけの人間がいたな。
 クラリッサ。ドイツの黒ウサギ部隊での私の副官。日本文化に詳しく、頼りになる副官だ。

 部活が終わると、早速私はクラリッサとの通信回線を開いた──。

「クラリッサ、『いちごいちえ』とはどういう意味だ?」

「『いちごいちえ』……!? 大至急調べますので少々お待ちください。」

 ほう、クラリッサの知らない日本文化があるとは、珍しいこともあるものだ。

「……隊長、お待たせしました。私の端末の日本語変換ソフトでは『苺一衣』と変換されます」

「うん。それで?」

「苺の一枚の衣……これは日本の伝統衣装『いちごぱんつ』の事と推察されます」

「いちごぱんつ!?」

 なんだそれは!? 初めて聞く日本語だ。

「はい。大和撫子が着用する由緒正しい下着です。私の蔵書にも、多数描かれています」

 下着だと? では私に足りない『いちごいちえ』の精神とは……。

「クラリッサ、私は『いちごいちえ』の精神が足りないと人から言われたのだ」

「それは隊長がいちごぱんつを着用していない、日本の伝統に近づいていないという意味でしょう」

 ううむ。日本の生活に慣れたつもりだったが、まだ勉強が足りなかったか。

「私の装備にいちごぱんつは含まれていない。どうすれば良い?」

「大丈夫です。私の調査によりますと、伝統衣装だけあって入手難易度は容易。学園購買部や一般の衣料品店で購入可能かと」

 そうか! これで嫁と距離を縮めることが出来るぞ! クラリッサ、なんと優秀な副官なんだ!

「わかった。私はこれよりいちごぱんつ入手の任に着く」

「隊長のご武運をお祈り致します」

 クラリッサとの通信を切り、目的地に向かう。
 目指すは学園購買部。

「よし! いちごぱんつだ!」

「いちごぱんつをくれ! サイズはSSだ」

 私は高らかに宣言した。
 購買部の職員と周辺にいた生徒たちが、何故か奇妙な目を向けてくる。ふん、ドイツ人が日本の伝統衣装を購入するのがそんなに珍しいか。

「しょ、少々お待ちを……」

 職員が品物を探す間、購買部をぐるりと見回す。女生徒向けなのか、下着のデザインもいくつか種類があるようだった。

「お待たせしました。こちらでよろしいですか?」

 職員が取り出した下着には、白の生地に小さな苺が無数に散りばめられていた。

「これが、いちごぱんつ……」

 手に取ってじっくりと確認してみる。簡素ではあるが、赤と白のコントラストが何やら楽しげな気分を呼び起こすかのようだ。

「これが、私に足りないもの……」

 頭上に戴き、仰ぎ見る。灯りに透かしてみると、苺の赤が静かに情熱をたたえているかに見える。これが大和撫子のたしなみか。
 すると近くにいた生徒が私をまじまじと見て通り過ぎていった。ふん、日本文化を理解しようとする私の何がおかしい。

「あの……えーっと……」

 ああ、日本の伝統を堪能するあまり、職員の存在を忘れてしまっていた。

「すまない。これを貰おう」

 会計を済ませていちごぱんつを手に入れた私は、日本の心に、嫁の心に一歩近付いたような気がして、足取り軽く購買部を後にしたのだ。

>>5
世界唯一の『男の』IS操縦者
ですな

大体クラリッサのせい。

ラウラ可愛いよラウラ。

クラリッサァァアアア!

 夜、風呂で一日の疲れを洗い流した私は、早速いちごぱんつを装備することにした。

 スッスッキュッキュックイクイクイッ。

 ふむ。フィット感よし。機能性、問題なし。さすがは日本の心いちごぱんつ。あとは耐久テストを兼ねて、今日は着用のまま就寝しよう。

「あれー? そのショーツ可愛いねー」

 姿見で確認していると、同室のシャルロットが声をかけてきた。

「ん? ああ。今日購買で入手したばかりだ」

「へぇー。白のブラに合わせるといいかも」

 おっと。いちごぱんつにばかり気を取られて、ブラをどうするかまでは考えが及ばなかった。『いちごいちえ』とは奥が深いのだな。

「それにしても……ラウラが自分で下着を買うなんて珍しいね?」

「うん。たまには感性を磨かなければと思ってな」

 着衣も軍支給のものばかりを使用していたせいで、日本の精神にも一夏にも近付けなかったのだ。

「そっか。それはとっても良いことだよ! ラウラは可愛いんだから、もっと磨かないと勿体ないよ!」

 そうか。いちごぱんつ着用の私はかわいいのか……。シャルロットに改めて言われると、少し恥ずかしいやらくすぐったい感じがする。

 ──そうだ! せっかくならこの姿を一夏に見てもらおう!
 日本の心『いちごいちえ』いちごぱんつ着用の私を見れば、嫁も一緒にお茶を飲んでくれるに違いない。

 一夏にまた一歩近付くための素晴らしい作戦を胸に、その日の私は眠りについたのだった。

 朝5時。嫁の寝床に潜入する私の朝は早い。
 昨夜は、一夏に私のいちごぱんつ姿を早く見せたくて、居ても立ってもいられずにあまり眠れなかった。
 それで誰にも邪魔されない早朝に、嫁の部屋の前へとやってきたのだ。

「(よし。作戦開始)」

 カチャリ。ドアのキーを解除してそろそろと中に入る。侵入成功。あとは嫁のベッドに潜り込めばミッションコンプリートだ。

「……」

 ベッドの一夏は静かに眠りについていた。
 カーテンから僅かに漏れてくる朝日に照らされた嫁の顔は、陰影を浮き彫りにされて美しい。まるでティーガーのように。

「……(一夏)」

 この世で一番愛しい顔を見つめながら、愛しい体を包んでいるシーツに私は手を伸ばした。

 もぞもぞ。

「ん!?」

 目の前でシーツが蠢いている。一夏のものとは違う、もう一個の塊がベッドの中にいるようだ。

「んふぅ~ん」

 私のものでもまして一夏のものでもない、怪しいうめき声が目の前の布の中から聞こえてきた。

「(──これはまさか!)」

 バサアッ
 思いきってシーツをめくると、そこには一夏が。そして存在してはならないものがいた。

「あふぅ~ん……なーにー?」

「お、お前……何をしている!」

 それは更識楯無。IS学園の生徒会長だが、私にとっては一夏に群がる盛りのついた猫どもの親玉だ。
 その泥棒猫が、下着姿で何故か嫁のベッドに潜り込んでいた。私より先に!

「なにって……人肌恋しくて? あなたも入る?」

「一夏は私の嫁だ! 私の占有以外は認められん!」

「んー……なんだ……? 寒……いいっ!?」

 訳のわからない理由を喋る泥棒猫と睨み合っていると、一夏が目を覚ましてしまった。

「ラウラと……楯無さんっ! なんなんですかっ!」

「嫁に会うのに何か問題が?」

「時間とシチュエーションが問題だよ!」

「わたしは温もりを求めてたら、いつの間にか一夏くんと一緒に寝ちゃってたの」

「誤解を生む言い回しはやめて下さい! 勝手に入ってきただけじゃないですか!」

 むう。どうも一夏は眠りを邪魔されておかんむりのようだ。──よし! 今こそ日本の心、いちごぱんつの出番だ!

「見ろ! 一夏!」

 バサッ。
 私はおもむろに着衣を脱ぎ捨てる。

「うわあッ! ラウラ! やめ……」

「今日は下着をつけてきた! いちごぱんつだ!」

 シャルロットのアドバイスに従って、上はいつもの白のブラにした。

「ああー、そっかぁ。いつもは裸でベッドに入ってくるから良かっ……良くねーよ! 早く服着てくれ!」

「良く見ろ! いちごぱんつだぞいちごぱんつ! 日本の伝統装束、大和撫子のたしなみいちごぱんつだぞっ!」

「分かった! 分かったから尻を押し付けてこないでーっ!」

 むー。こんなに頑なに私を拒むとは、一体何が不満なのだ嫁は。

「一夏くーん? いつもは裸でベッドに入ってくるってどういうこと? お姉さんに解りやすく説明してくれるかなー!?」

 泥棒猫がちょっかいを出してきた。一夏は私の嫁だからに決まっているだろう。

「それと……一夏くんはいちごぱんつが好きなの!? ごめんねっ、わたしもいちごぱんつの方が良かったかな!?」

「いや、そういう話じゃ」

「水色レースじゃ駄目なの? わたしじゃ駄目なの!? ねえー、良く見て──!」

「わー! 押し付けてこないで下さいっ!」

 けしからん。こんな泥棒猫にいちごぱんつが似合う訳がなかろう。身の程を知れ。

「分かった! わたしもいちごぱんつにするから、今日はこれで許してねっ!? ねっ!」

「一夏! こんな女より私を見ろ! じっくり見ろ! いちごぱんつを見ろぉ──っ!」

「ひえ──っ!」

「お前ら! こんな時間に何をやっている! やかましいぞ!」

 そこには鬼がいた。

上官の問いに漢字変換するだけで調査報告するとは

「なんだ。それで苺柄のショーツを」

 寮の自分の部屋で、私は昨日と今日の出来事をシャルロットに話していた。

 今朝、寮の巡回をしていた織斑教官に見付かった私達3人は、正座でこってり絞られた上に校庭50周と反省文20枚のペナルティを受けた。
 そして体力的にも精神的にも深い疲労を覚えて部屋に戻り、ため息をついていたところをシャルロットに問われたのだ。

「あのね、ラウラ。一期一会っていうのはね──」

 シャルロットは『いちごいちえ』の正しい意味を教えてくれた。

「そうか。この相手とは一生に一度しか会えないと思って、相手を大切にする思いやりの心のことだったのだな……」

「だからいちごぱんつは関係なかったね」

 そうだったのか。クラリッサにも教えてやらなくては。
 しかし、私に一期一会の精神が足りないというのか? 嫁にはいつも最大限に好意を伝える努力をしているつもりだぞ。

 疑問を口にすると、それにもシャルロットは答えてくれた。

「ラウラは今の一夏をどう思う?」

「嫁だ」

「……まあそれは置いといて。しょっちゅう寝起きに迫られたら、一夏も疲れちゃうんじゃないかな?」

 そうだろうか。夫婦の営みを求めてはいけないのだろうか。

「たまには一人になりたい時もあると思うよ。学園にたった一人の男子で、悩んだりストレスが溜まったりするだろうし」

 そういえばシャルロットは男としてこのIS学園に派遣されたのだった。その言葉にはリアリティがある。

「世界でただ一人のISを操縦できる男性ってことで注目されるプレッシャーとかね。ラウラも雑誌見たでしょ?」

「ああ。勿論だ」

 取材を受けた一夏のインタビューとグラビアが掲載された雑誌のことだ。嫁はかっこ良かった。

「その中で、みんなは俺が守るって言ってたよね。」

「うん。さすがは一夏だ」

「でもこの間の無人機の襲撃では思うように動けなかったって言ってた。一夏今すごく辛いと思う」

 あの時、私はシャルロットとのコンビで何とか無人機を破壊した。だが一夏は激しい戦闘でエネルギー切れを起こしてしまったのだ。

「……嫁は一本気なところがあるからな」

「誰も言わないけど、織斑先生と自分を比べてるんじゃないかな。実力をつけたいからこそ、今は特訓頑張ってるんだよ」

 ISに乗れる男性ゆえの注目と重圧。優れた姉への劣等感。そして守りたい仲間への思いと、度重なる襲撃に晒される過酷な現実──。

「一夏は、優しいからね」
 そう言って微笑むシャルロットの表情に、僅かに悲しいものが見えた。

「ISとだけではなく、目に見えないたくさんの物と一夏は戦っていたんだな……」

 それなのに、私は──。

「うっ……ひぐっ……」

 なぜだろう。急に胸いっぱいに広がった熱いものが溢れ出てきた。

「一夏が悩んであがいている時に、私は自分を押し付けてばかりだった……」

「ラウラ」

 シャルロットが寄り添ってくる。

「自分の気持ちを伝えるっていうのは、当たり前のことだよ」

「うん。嫁が大好きだ」

「……一生懸命な一夏に、ラウラなら一期一会の心でどう接するのかな?」

 深い問いかけが来た。でも答えは──。

「……何とかしてあげたい……一夏のために何でもしてあげたい」

 シンプルなものしか見付からなかった。

「うん。じゃあ一夏のために何ができるか一緒に考えよう」

 シャルロットは優しさに満ちた微笑みを浮かべてそう言ってくれた。

 それから私はシャルロットと相談の上、綿密な計画を練り上げた。
 一夏のためにという思いと、一夏と同じ時間を過ごしたいという欲求を最大限に近付けた、完璧な独仏合同作戦。それは。

 ──特訓後の一夏にお茶とお茶菓子を差し入れする。

 ……うーむ、時間をかけて立案したのに、まとめるとごく短くなってしまった。しかしちゃんと考えたのだぞ!
 特訓を終えた後の一夏は体力を消耗している。汗をかけば喉も渇く。しかし疲れているから、茶室に誘ってもいつも来てくれない。

「なら逆に考えたら? 茶室の方から一夏のところへ行くの」

「組み立て式の茶室か?」

「じゃなくて。ラウラがお茶を淹れて持っていくんだよ」

 シャルロットの素晴らしい逆転の発想で、計画の骨組みは決まった。お茶を水筒に入れて持っていけばいいのだ。
 さて次は茶菓子だ。

「お茶菓子ねぇ……茶道部ではどんなの使ってるの?」

「饅頭とかきんつばといったごく普通の和菓子だな」

「普通だね」

 大体が購買部で仕入れるので変わったものはない。

「ああ、この間出た芋ようかんというのは旨かったな。甘くて食べ応えがあった」

「イモヨウカン……? どんな模様?」

「そうではない。スイートポテトのみを使った、プディングのようなジャパニーズスイーツだ」

「へー。美味しそうだね。どんなお菓子なんだろう」

 説明しながら思い出した。茶菓子にしては食べ応えのある食感。特訓で腹を減らした一夏には丁度良いかもしれない。
 それを話すとシャルロットも賛成してくれた。

「じゃあ今から購買に探しに行ってみようよ」

 この気の善い同居人は、閉店時間の迫った購買部にまで付いてきてくれた。

 ──しかし芋ようかんは無かった。部活で供されたものは、どうも外部からのお土産だったらしい。

「焼き芋ならあるんですけどねえ」

 購買部の職員が見せたのは焼き芋だ。特訓後にお茶と焼き芋か……うーん。

「……ねえ、これ使って僕達で作れないかな?」

「ああ。簡単にできますよ。芋を裏ごしして固めるだけですから」

 思案に耽った私の横で、意外な会話が交わされていた。一夏に手作りのお茶菓子を出せるのなら、それに越した事は無い。

「もうすぐ閉店ですから割引しておきますね」

 私達はお買い得になった焼き芋を何本か購入して部屋に戻った。

 キッチンで準備をしながら、情報端末で芋ようかんの作り方を調べてみる。

「基本的に裏ごしして型に入れるだけみたいだね」

「よし、やってみよう」

 料理部所属のシャルロットのおかげで、必要な道具と調味料は部屋に揃っていた。
 まず焼き芋を軽く温め直し、皮を剥いてひたすら潰していく。

「軍でマッシュポテトを作ったのを思い出すな」

「すごい! 手際いいね。コツはあるの?」

「……芋を嫌いなものだと思って潰す事だな。泥棒猫とか」

「ねこ?」

 次は裏ごし。芋が温かいうちにザルで濾していく。

「んっ……なかなか面倒だ」

「この過程は食感に出るからね。力任せじゃなくて……そうそう、丁寧に」

 手間がかかったが、芋が冷める前に終わらせる事ができた。

 そしてペースト状になった芋を鍋に入れ、水、砂糖、ゼラチンを加えて火にかける。
 今回は滑らかさとコクを出すために、シャルロットのアイデアで微量の生クリームも足してみた。

「いい匂いだ」

「おいしくなーれおいしくなーれ」

「なんだそれは?」

「おまじないだよ。愛情は最高の隠し味だからね」

「愛情!? 私も負けんぞ! おいしくなーれおいしくなーれ!」

 ほどよいところで、空気が混ざらないようにパッドに入れる。冷えて固まったら出来上がりだ。
 完成品を二人で味見してみると素晴らしく良くできていた。

「美味しいね! これなら一夏も絶対喜ぶよ!」

 太鼓判を押してもらった。大事なことを気付かせてくれたのも、この茶菓子が出来たのもシャルロットのおかげだ。礼を伝えなくては。

「どういたしまして。結果は聞かせてね」

 良い返事だった。ああ、私が男だったらシャルロットを嫁にしたいくらいだぞ!

 自分で淹れたグリーンティーを水筒に詰めた。最高の芋ようかんも用意した。作戦準備は完了。あとは任務を遂行するのみだ。

 そして私は今、特訓後の一夏が出てくるのを待ってロッカールームの前にいる。

「はあ……」

 ──このお茶と茶菓子を一夏は気に入ってくれるだろうか……それにどうやって渡そう。
 かつてない緊張を私は覚えていた。

「ここまでの段取りは完璧だ! 大丈夫……でもちょっと練習しておこうかな」

 万が一にも失敗は許されない。シミュレーション試行回数は多くても良いだろう。
 よし、こんなのはどうだ。

「嫁! 茶だ!」

 ……ストレート過ぎるな。もう少し柔らかく攻めてみるか。

「嫁! お茶にするか? 茶菓子にするか? それとも私か!?」

 ……口にしてはみたがどうも私らしくない気がした。それにどれを選ばれても困る。うーむ。

「一夏。お茶を持ってきたぞ。飲むか?」

「お、ラウラ。ちょうど喉がカラカラだったんだ」

「そうかそうか………ってええええぇっ!」

 ──待ち伏せをしたつもりが遭遇戦に突入した。

「なんで驚いてるんだ? ラウラが声を掛けてきたんだろ?」

「あ、ああ……特訓で喉が渇いているだろうと思って用意してきたんだ」

「じゃあご馳走になろうかな」

 練習の最中にターゲットの一夏が現れるとはな……。しかし動揺を隠して巧くお茶に誘えたぞ。

 手近な椅子とテーブルに着席して、水筒からお茶を淹れて一夏に渡す。

「いただきます……うまい! それにちょうどいい温かさだ!」

「そうか……良かった」

 60度の適温で淹れたお茶をしっかり保温したこの水筒は、高性能な軍支給品だ。ドイツの技術力は世界一なのだ。
 しかし何よりも……一夏のうまいという言葉を聞いて安堵した。

「体を動かした後には、たっぷり飲めるこれくらいの温度が良いな。ラウラ、おかわりある?」

「ああ。まだあるぞ」

 お茶が美味しく飲める、かつ水分を求めているだろう一夏に、最も適した温度だったようだ。狙い通りで良かった。

>>4
おう、俺

【閑話休題】

~世紀末覇者ラオウ「いちごぱんつ!?」名言集~


我がいちごぱんつに 一片の汚れなし!!!


名もいらぬ 光もいらぬ
このラオウが望むものは いちごぱんつ!


このラオウ
いちごぱんつを洗うに人の手は借りぬ!!


どんな小さなほつれも断つ
それがおれの穿き方だ!


このラオウに必要なのはいちごぱんつだ!
フリルなど男には不要だ!!


拳王のいちごぱんつは
汚れぬ!折れぬ!!シワにならぬ!!!


心魅かれた総レース下着は
男にとって最大の屈辱!!

俺に勝負下着はない!!
あるのはいちごぱんつのみ!!


今や天をめざすおれのいちごぱんつ!
とくとみせてやるわ!!


きさまは知らぬ
いちごぱんつを穿いた人間の力をな!!


勝負下着に金を捨てるのもよいだろう
だがそれが一体なんになる!!


見せようぞ!!
世紀末覇者ラオウのいちごぱんつを!!

 一夏が2杯目のお茶を一口啜ったあたりで、茶菓子を勧めてみた。

「おっ、至れり尽くせりだな……んっ、旨いぞ。」

 シャルロット印の太鼓判は有効だ。大きめにカットした芋ようかんを一夏は2口で平らげてしまったのだ。
 そんな嫁を見ていると、なんとも嬉しい気分になってくる。

「もしかしてこれ、ラウラの手作りか?」

「シャルロットと二人で作った。まだあるぞ。食べるか?」

「ああ。腹減って夕飯まで持たないかと思ってたんだ。助かったよ」

 笑顔で芋ようかんに食い付く嫁の姿を見ているうちに、私も自然に笑みが浮かんできた。
 ──この不思議に落ち着く気持ちは、何だろう。

「ふー、美味しいお茶とお菓子で生き返ったー。ありがとな、ラウラ」

 屈託の無い笑顔の一夏に礼を言われた時に気付いた。
 この気持ちは一夏を思う私の心──お茶と茶菓子のもてなしに、一夏が応えてくれたからだ。

「嫁が喜んでくれて良かった」

 別に一夏を茶室に誘うまでもなかったのだ。
 お茶と思いやりの心と私と一夏。それがあれば──私の大好きな茶道を、大好きな一夏と共有できたのだ。

ラウラはかわいいなあ!

「おかげでまた明日も特訓頑張れそうだ」

「……一夏。毎日、辛くは無いか?」

 疑問が口から出る。期待と注目に晒され続け、特訓漬けの日々をどう思うっているのだろう。

「俺の実力不足のせいだしな。『みんなは俺が守る!』なんて言ったけど、誰かを守るのって敵を倒すのよりずっと難しいって思い知ったよ」

 そのとおりなのだ。一夏は義務感やプレッシャーから無理はしていないか、と口から出そうになった時。

「でも千冬姉みたいになりたいんだよなー。国家代表でキラキラ眩しかった、それを捨てて俺をテロリストから助けてくれた千冬姉みたいにさ」

 言葉を飲み込んでしまった。

「世界中の誰よりも格好良かった。千冬姉はずっと俺のヒーローなんだよ」

 一夏は活き活きとした瞳で教官のことを語る。

「ヒーローに憧れて、なんて言ったらちょっと子供っぽいかな」

「……わかる気がするぞ」

「え!?」

「教官は私に戦闘マシンではなくて、人間として生きる道を示してくれた。強さだけではない魅力のある人だ」

 教官は機械として使い捨てにされそうだった私を救ってくれた恩人だ。一夏の憧れにはシンパシーを感じた。

「そっか。わかってもらえてよかった」

 一夏ははにかむように笑った。

 ああ、私は──この笑顔に惹かれたんだろう。学園唯一の男子だからでも、織斑教官の弟だからでもない。憧れに向かって真っ直ぐ前向きな一夏だから。

「でもこの話は千冬姉には内緒だぜ。何言われるかわかんないからな」

 うむ。『ヒーローではなくてヒロインだろう!』などというチャチな切り返しではなく、もっと恐ろしい突っ込みが来るのが容易に予測できる。

「わかった。二人だけの秘密だ」

「じゃあそろそろ寮に戻るか。一緒に行こうぜ」

「ああ!」


 いずれまた一夏にお茶を勧める日が来るだろう。愛情をたっぷり注いだお茶に、お茶菓子と思いやりを添えて。たまには織斑教官やシャルロットもその場にいるかもしれない。
 そして、ひたむきな嫁の疲れを癒す茶席にしよう。私と一夏と思いやりとお茶。私の大好きな時間を、大好きな一夏と共有するために……。


 【独仏合同作戦 一夏にお茶とお茶菓子を差し入れする】──任務完了。



─完─

>>21
確かに>>9だとクラリッサがあまりにも馬鹿なので改訂。以下の文と差し替えで



「クラリッサ、『いちごいちえ』とはどういう意味だ?」

「『いちごいちえ』……? 大至急調べますので少々お待ちください。」

 ほう、クラリッサの知らない日本文化があるとは、珍しいこともあるものだ。

「……隊長、お待たせしました。私の使用する日本語変換ソフトでは『苺一衣』と変換されます」

「うん。それで?」

「その『苺一衣』を黒ウサギ部隊データベースで検索しました。結果を表示します」

◇◇◇

いちごいちえ 苺一衣 検索

もしかして:いちごぱんつ

いちごぱんつとは

いちごぱんつと幼馴染

ラブコメにおける苺パンツ率は異常

いちご1000%




◇◇◇

「なんだこれは?」

「画像も表示します……。苺の一枚の衣……日本の伝統衣装『いちごぱんつ』です」

「いちごぱんつ!?」

 なんだそれは!? 初めて聞く日本語だ。

「はい。大和撫子が着用する由緒正しい下着です。私の蔵書にも、多数描かれています」

 下着だと? では私に足りない『いちごいちえ』の精神とは……。

以上で完結です
ご覧いただきありがとうございました

おつー

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