京子「お姫様の勇気」(195)

~ごらく部~

ちなつ「すっかり肌寒くなりましたね」

結衣「もう冬だからね」

京子「私はちなつちゃんがいてくれるなら無問題!」キラーン

ちなつ「はぁ、そうですか」

京子「うぅぅ、ちなつちゃんの反応が冷たい」シクシク

ちなつ「もう慣れましたから」

ちなつちゃんも入学当初はオドオドとしていて、可愛い反応が見られたのになぁ……。
今では軽くいなされてしまうのが落ちで、少しつまらない。

あかり「冬はお茶が美味しいねー」ニコニコ

ちなつ「お茶のおかわり、いる?」

あかり「うん、ありがと」エヘヘ

キャッキャッ

京子「むむむ」

面倒臭いので私をスルーするつもりのようだ。
のんびりとお茶を飲む姿に動揺は見られず、あかりと談笑を始める始末である。

京子「………」ソワソワ、ウズウズ

京子「ふふっ」ニタァ

ちなつ「」ビクッ

これは御仕置きが必要だろう。
今更慌てたって、許してあげないんだから。

京子「ちなつちゃーn」

結衣「おいこら」ガシッ

京子「ぐぇ、何をする!」プンスカ

結衣「それはこっちのセリフだ」

つい表情に出してしまったせいで、行動を阻止されてしまった。
せっかく可愛い後輩とスキンシップを図ろうとしたのに、結衣も野暮な奴だ。


チョット、ハナシテヨー ダメッ


ちなつ「まったく、京子先輩ときたら!」プンプン

あかり「京子ちゃんを見てるとこっちが元気になれるね」アハハ

ちなつ「……あかりちゃんは本当に純情ね」ハァ

ヒュー ヒュゥー

あかり「……っ」ビクッ

ちなつ「大丈夫?」

あかり「うぅぅ、さむいよぉ」ブルブル

ちなつ「隙間風だけでも、なんとかできたらいいのにね」


ハーナーセーヨー アッ、コラ


あかり「こたつが欲しいけど、難しいかな?」ブルブル

ちなつ「それ、いいかも!……でも電気使いすぎると、部室の無断使用が問題になるし」

あかり「ううぅ、どうにかして寒さ対策しないと凍死しちゃうよ……」ブルブル

ちなつ「あかりちゃんったら、仕方ないんだから」

フワッ

あかり「えっ」キョトン

ちなつ「私のカーディガン、貸してあげる」

あかり「ちなつちゃん、でも……」

ちなつ「私は平気だから、あかりちゃんが使って?」ネッ

あかり「……ありがとう」ニコッ

ちなつ「礼を言われるほどのことじゃないし」

あかり「ちなつちゃんは優しいね」ニコニコ

ちなつ「なっ、何言ってるの!」ウガー

あかり「照れなくてもいいのに」ニコニコ

ちなつ「うぅっ」

きたがたっ


ユイノバカー オイ、アブナイダロ

ちなつ「そっ、そういえば先輩、去年の冬をどうやって乗り越えたんですか?」

ドタドタ、ガッ

京子「えっ、私らが一年の時?」イタタ

結衣「……京子、上からどいて、重い」グタッ

揉み合いになった結果、気が付けば結衣に馬乗りになっていた。
結衣のお腹にまたがって、結衣を見下ろしている状態だ。

京子「重いとは失礼な、この妖精みたいな京子ちゃんに」プンプン

結衣「京子……」ハァ

痛みに濡れた瞳と着衣の乱れが扇情的で、思わず胸の鼓動が早まる。

ちなつ「ちょっと!きょ京子先輩、結衣先輩から離れてください!」アセアセ

京子「……ははーん」ニヤッ

結衣「おい、何を考えt」

京子「結衣にゃん、ちゅっちゅー」ガバッ

チュー

あらわになった結衣の白い首筋に、口付けを落とす。
何だかイケナイことをしているみたいで、ちょっと興奮する。

ちなつ「あぁ、結衣先輩が……」ガクッ

結衣「京子……」イラッ

京子「あっ、やば、って痛い痛い痛い!」バタバタ

あかり「」アワワ

まったく、結衣も冗談がわからない奴だ。
ちょっとした、単なるじゃれ合いじゃないか。

京子「それで、何の話してたっけ?」グスッ

上手く話の前後を思い出せない。
涙ぐむまでヘッドロックを続けた結衣は鬼畜だ。

ちなつ「防寒の話ですよ」

京子「ああ、ここは暖房ないもんね」

秋には過ごしやすかった部室も、今では木枯らしが吹き抜けている始末だ。
ちょこまかと落ち着きのない私は、さほど寒さを感じることもないが。

ちなつ「結衣先輩、去年はどうしてたんですか?」

結衣「去年は確か、毛布を被って乗り切ったかな」

ちなつ「なるほど、毛布ですか」

あかり「お気に入りの毛布、持ってこようかなぁ」ワクワク

そういえば、そろそろ寒さ対策が必要かな。
去年はガムテープで風を止めようとして、結衣に怒られたっけ。

京子「……寒さを防げそうなもの、探すか」ヨシッ

結衣「そんなものあったか?」

京子「私物を漁れば、何かありそうじゃん?」

あかり「あっ、あかりも手伝うよ」

京子「それじゃいくか、あかり隊員!」

あかり「はーい!」

あかりは結構付き合いがいい子だ。
結衣やちなつちゃんは冷めているところがあるので、正直助けられている。

パタパタ パタン

ちなつ「………」

結衣「………」

ちなつ「急に、静かになりましたね」

結衣「賑やかなのもいいけど、のんびりできるのもいいね」

ちなつ「あの元気が、ある意味羨ましいです」

結衣「それが取り柄みたいになってるからね」

ちなつ「……お茶、おかわりはいかがですか?」

結衣「ありがとう」

ちなつ「私も丁度おかわり欲しかったので、お安い御用です」エヘヘ

結衣「ちなつちゃんのお茶は美味しいから、嬉しいよ」

結衣「あぁ、そうだ」ポンッ

ちなつ「どうかしました?」

結衣「お煎餅を持ってきてあるから、一緒に食べようか」

ちなつ「……京子先輩に怒られちゃいますよ?」

結衣「ばれたらあいつに食べ尽くされそうだから、こっそりね」

ちなつ「共犯ですね」フフッ

結衣「二人の秘密だよ?」

キャッキャッ

紫煙

~物置~

京子「あー、これ、こんなところにあったんだ」ガサゴソ

あかり「京子ちゃん、ここ埃臭いよぉ」ケホケホ

京子「あはは、何ヶ月もほったらかしだったからね」

部室から近いので、この部屋をごらく部の物置として利用している。
勿論、バレないように最低限のカモフラージュはしているけれど。

あかり「おまけに、寒い……」ブルブル

京子「ちなつちゃんのカーディガンしておいて、贅沢な悩みだな!」

あかり「こっ、これだけは渡せないよっ」ササッ

京子「いや、とらないから」ナイナイ

流石に、ちなつちゃんの好意を無下にするようなことはしない。
誰かが極端に悲しむ悪戯なんてしたくないし。

しえん

あかり「あかりはこっちを探すね」

京子「じゃあ私はこの辺りを見てみるよ」


ガタゴト……バサバサ……ドサッ……


京子「………」

京子「………」ガサ

京子「うーん、防寒に役立つものはないなぁ」ポィ

京子「これもいらないっと」ポィ

京子「あかりー、そっちに何かあった?」

あかり「えっと、まだ何も見つからないよ」

京子「大人しく毛布を持ち込むか……」ハァ

手分けして五分程探しているが、特に使えそうなものはない。
残念だが、諦めたほうがいいかもしれない。

京子「ん?」

ふと、古い絵本が目に入った。

京子「……これって」ガサッ

それを手に取った瞬間、古い思い出が私の頭を駆け巡った。

いつごらく部に持ってきたのか、記憶にはない。
ただ確かなことは、これが私の記憶のピースだったということだ。

いつの間にか私の意識は、過去に遡っていた。

~過去~

京子「………」

京子「………」トコトコ

幼い私は引っ込み思案な子供だった。
自己主張ができず、アクションがとれず鈍臭い、そんな子供だった。

ドンッ

京子「………ッ」

「いってー」

京子「………」

「なにしてんだよ!」

廊下を走る子にぶつかって、頬をつねられた。
私はただ歩いていただけなのに。

地の文を特定の誰かの視点にする場合、
その人物がいない場面といる場面との切り替えには
相当な注意を要するのではなかろうか

京子「………」

世の中なんて不条理だと思った。
自己主張するものが得をして、それが出来ないものは淘汰されるのだ。

「なんだよ、その目は」

京子「………」

「……おまえなに持ってるの?ちょっとみせてよ」

京子「……いや」ギュ

部屋の片隅で絵を描いて、絵本を読んで、母親の訪れを待ち続ける、それが私の常だった。
そんな私のお気に入りのタイトルは茨姫。いつも肌身離さずに持ち歩いていた。

私は、お姫様みたいになりたかった。
誰に傷つけられることもなく、皆に構ってもらえて、最愛の人に愛してもらえる。
それはきっと、心穏やかなものなのだろう、そう思っていた。


「みせろよ!」


京子「………」ビクッ

私を拒むこの世界から、距離を置くことに夢中になっていた。
自分から遠ざけて、けれども構って欲しくて、そんな自己矛盾を抱えたままで。

でも……。

「おいお前、その子をいじめるな!」

「はぁ、お前だれ?」

「あっちいけ!」シッシ

「なんだよ、チッ」

「二度とちょっかいだすなよ!」

「うっせーな、わかったよ男女」フン

これまでの私を取り巻く環境はどこか少し冷たくって、私は独りだった。
自己の認識ができず、まるで決められた役割をプレイしているような、そんな感覚。

けれど、あの日、
君と出会ってから、私の世界は色付いた。

「もう大丈夫だよ」

京子「……うん」トコトコ

「………」ジィー

京子「………」カタン

「………」ジィー

京子「………」カキカキ

「……絵、上手だね!」

京子「……それくらいしか、することないから」カキカキ

「色水つくったりしないの?」

京子「……お花がかわいそう」カキカキ

「つみきとか、ブランコとか」

京子「ほかの子のじゃまになる」カキカキ

「うーん」

京子「………」カキカキ

「じゃあ、私と遊ぼうよ」

京子「……どうして?」

「お友達になりたいから!」

京子「……友達?」キョトン

「私、結衣!」

「君の名前は?」

京子「……京子」

結衣「よろしく、京子!」

自分を守るのに必死だった私に、歌うように軽い調子で君は笑いかけた。
知らない何かがこみ上げてきて、私はこの世界に産声を上げた。

結衣「えっ、あれ、大丈夫?」オロオロ

京子「……うん」グスッ

泣き出した私に、困り顔の君がおかしくて。
心配してくれる君の姿に、安心して。

「お待たせ、京子」

京子「お母さん!」パタパタ

「遅くなってごめんなさい」

京子「お母さん、あのね、今日は楽しかった」

「あら、それはいいことね」

京子「結衣ちゃんっていう子と、友達になったの」

「ひょっとして、苗字は船見さんじゃなかった?」

京子「……知ってるの?」キョトン

「お母さんの友達の子供さんなの」

京子「お母さんの友達の?」

「丁度紹介しようと思っていたけれど、自然と仲良くなったのね」

「あなたも物心つく前に、何度か会っているのよ?」

京子「ものごころ?」

「京子が覚えていないだけで、元々あの子と仲良しだったということ」

京子「ほんと?」

「だから結衣ちゃんは、きっと大事なお友達になるわね」

京子「…うん!」

結衣ちゃんは長いツインテールが可愛いのに、どこか男まさりでカッコイイ。
私を助けてくれたその姿は、まるで童話の王子様のようだった。

ふーん

しえん

京子「………」カキカキ

結衣「何の絵、描いてるの?」

京子「ひゃっ」ビクッ

結衣「王子様とお姫様?」

京子「あっ、みちゃだめ」ワタワタ

絵を描くことに没頭していたようで、人影に気がつかなかった。
慌てて絵を隠そうとしたけれど、それは手遅れだった。

結衣「これってひょっとして私?」

京子「う、うん……」モジモジ

結衣「わぁ、かっこよく描いてくれてありがとう!」

あかり「すっごく上手だよ、京子ちゃん」

怒られないかと心配していたのに、褒められてしまった。
こんな時にどんな顔をしたらいいのか、私にはよく分からない。

京子「……そうかな」エヘヘ

それでも、嬉しくて、楽しくて、心が躍る。
友達というのは、こんなにも暖かなものだったんだ。

あかり「いいなぁ、結衣ちゃん……」ジィー

京子「その、次はあかりちゃんを描きたいんだけど、いいかな?」

あかり「ありがとう!可愛いのがいいなぁー」ワクワク

京子「がんばる」

私のモノクロの世界は、いつの間にか綺麗な色で満ちていた。
誰かと世界を共有できる、それはきっと幸せなことなんだ。

気が付けば、私は自然と笑顔になっていた。

支援

~公園~

結衣「命拾いしたな!」フン

「こっちのセリフ!」ベー

今日は三人で楽しく遊ぶはずだったのに、変な子に絡まれてしまった。

京子「………」グスッ

突如現れた女の子は、嵐のように場を荒らして、あっさりと去った。
いきなりいじめられて、喧嘩になって、みっともなく泣き叫んでしまった。

結衣「ごめん京子、こわかった?」

京子「……だいじょうぶ」

楽しく公園で遊ぶ予定だったのに、お気に入りの服もボロボロだ。
それが悲しくて、楽しく遊べなかったことが悔しくて、また涙が込み上げてくる。

支援

結衣「京子、もう大丈夫だから」

京子「……うん」ゴシゴシ

結衣「いい子、いい子」ナデナデ

チュッ

京子「ぁ……」

ファーストキスを、結衣に奪われてしまった。
それは王子様のためにとっておいたものだけど、それでも結衣が相手なら悪くない。

京子「……結衣、かっこよかった」

私はずっとお姫様を夢見ていた。
でも、そんなかっこいい王子様を見ていて、頑張りたい、そう思えた。

結衣「京子は私が守ってあげる!」

結衣の勇ましい言葉、それは今までの私がずっと望んでいたもので。
でも、守られているだけなんて、もう嫌なんだ。

~就寝中~

あかり「………」ムニャムニャ

結衣「………」クー

京子「………」スヤスヤ

パジャマの胸に抱きしめた、お気に入りになった絵本。
それは愛を探す旅に出た、小さな姫の冒険のストーリー。

天使に勝るあどけなさ、剣士に負けぬ剣捌き。
胸に勇気を、瞳に焔を、振りかざす剣は壁を切り裂いて。

旅の果てに剣は欠け、振り返れども城は遥か遠く。
それでも愛の歌を口ずさむ、小さな姫の勇敢なストーリー。


私も、そんなお姫様の勇気が持てたなら……。
原初の夢は叶わなかったけれど、それは形を変えて、私の心にそっと根付いた。

~現在 ごらく部~

あかり「京子ちゃん?大丈夫?」

京子「……いや、何でもないよ」

本を手にとったまま、過去に思いを馳せていたようだ。
二人との出会い、懐かしい思い出だった。

あかり「その古い絵本、確か京子ちゃんの……」

京子「ああ、持ってきてたみたいでさ」アハハ

京子「そんなことよりも、何か面白いもの探そっか!」パタン

あかり「えぇぇ、防寒は?」

京子「楽しいことがあれば、体もあったまるって」

あかり「あっ、それもそうかも!」ポン

京子「ほら、早く探すぞっ」

あかり「はーい!」

私の大好きだった、遠く古い国の御伽話。

今はこの場所に仕舞っておこう。
あの日の涙を笑い飛ばせるくらい、私が強くなれるまで。

~ごらく部~

あかり「おまたせー」

京子「愛と正義の魔女っ娘ミラクるん、華麗に登場!」キュピーン

ちなつ「先輩は本当にミラクるんが好きですね」

京子「ミラクるんさえあれば、私は幸せなのさっ」フフン

ミラクるんは、要は私の目標とする姿なのだ。
挫けない、いつも明るく元気を振りまいて、それでいてお茶目、そういう人に私はなりたいのだ。

結衣「そんなにか」

京子「………」

結衣「京子?」

京子「………」

結衣「おい、京子」

京子「な、何?」

結衣「大丈夫か?急に動きを止めて」

京子「おうともよ」

結衣「熱でもあるんじゃないか?」ピトッ

京子「問題ない」

ふと思えば、結衣も昔に比べて落ち着いたものだ。
女たらしなところは変わっていないみたいだけど。

京子「ところでさ、結衣はどうして私の友達になってくれたの?」

結衣「……急にどうしたんだ?」

京子「いいから」

今まで、改まって聞いたことがなかったから。
予想はついているけれど、結衣の口から直接聞いてみたい。

追いついたよぉ

支援支援

結衣「……ほっとけなかったからな」

京子「それだけ?」

結衣「やけに突っ込んでくるな、今日は」

京子「たまにはいいじゃん」

結衣「……私は昔の京子みたいな子に、憧れてたんだよ」

京子「ほほぅ、初耳ですなぁ」

結衣「からかわれそうだから、言わなかったんだよ」プィ

赤くなっちゃってまぁ、可愛いやつだ。
私たちはお互いに、無い物ねだりをしてきたのかもしれない。

京子「心配しないでも、結衣は可愛いよ?」

ちなつ「そうです、結衣先輩はとっても魅力的です!」

あかり「うんうん」ニコニコ

結衣「何か照れるからやめて」モジモジ

座布団を抱えるほどに照れなくてもいいと思うけど。
まぁ、そんな乙女なところも可愛いから、それでもいいか。

京子「あっ勿論、ちなつちゃんも可愛いよー」ガバッ

ちなつ「ひゃぁ」ビクッ

京子「にゃーちなつちゃーん」スリスリ

ちなつ「離してくださいよ、もぅぅ」バタバタ

結衣「こら」コツン

京子「あいたっ」

結衣「まったく、目を離すと直ぐにこうなんだから」

京子「えへへ」イヤー

しえんぬ

あかり「京子ちゃん、そろそろあれ、お披露目しようよ」コソコソ

京子「そうだな」

話が脱線して、本筋のことをすっかり忘れていた。
今回の搜索の成果を発表しないと。

京子「ほら、色々物色して、面白いもの見つけてきたぞ!」ジャーン

ちなつ「お姫様のドレス、ですか?」

京子「多分、演劇部の衣装が紛れ込んでたんだと思う」

結衣「防寒には全く関係ないな」

ちなつ「でも可愛いです、これ」ウフフ

京子「ちなつちゃん着てみなよ!」

ちなつ「そんな、恥ずかしいですし……」モジモジ

あかり「王子様の衣装もあるよー」ジャーン

京子「今なら、王子様の結衣もついてくるよ」ヒソヒソ

ちなつ「……ちょっと着てみようかな」ボソッ

京子「よしっ」グッ

将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、有名で有効な兵法だ。
結衣は恥ずかしがって、素直に衣装を着てくれないだろうから。

あかり「結衣ちゃん、はい!」

結衣「私が、これ着るの?」

京子「まさか期待してる皆を裏切るようなこと、しないよね?」ウフフ

ちなつ「………」チラチラ

あかり「………」ワクワク

結衣「……分かったよ」ハァ

流石の結衣も、二人の期待する目を無視できなかったようだ。
渋々ながらも、同意を取り付けることに成功した。

なるほどあれか
支援

京子「お着替えいってらっしゃい」ニパッ

あかり「あかりも着てみようっと!」ルンルン

パタン

京子「………」

京子「……さて、皆がいない間にカメラを用意しないと」

重要なのはここからだ。

ちなつ「わぁ、結衣先輩の王子姿、かっこいいです!」キラキラ

結衣「そ、そうかな」

あかり「ちなつちゃん、ドレスとっても似合ってるよ」

ちなつ「ありがとう、あかりちゃん」

結衣「ところであかり、それ……」

あかり「木の衣装だよ?」エヘヘ

ちなつ「あかりちゃん、自分から背景になろうとするなんて」ホロリ

あかり「……えっ?」

パタン

京子「おぉ、皆似合ってるじゃん」

私が席を外している間に、着替えも終わっていたみたいだ。
結衣にはやっぱり王子様姿が似合う。

ええねえ

ちなつ「どこに行ってたんですか?京子先輩」

京子「小道具用意してた」ハイ

結衣「何これ、薔薇の造花?」

京子「それ口にくわえて、ちなつちゃんと並んでみなよ」

結衣「ちょ、ちょっと、待て!」

ちなつ「いいですね、素敵です」ポッ

ちなつ「……でも、やっぱり結衣先輩は、お嫌ですよね」ウルウル

結衣「うっ……」

ちなつ「結衣先輩……」ウルウル

結衣「一回だけね」ハァ

ちなつ「ありがとうございます!」パァァ

京子「……流石ちなつちゃん」

嘘泣きでも可愛く見えてしまうあたり、女の武器と言われるのも納得だ。
いや、勿論ちなつちゃんは何時でも可愛いんだけど。

あかり「あかりの存在感……」ズーン

アッカリーン

いいゾ~これ

結衣「これでいい?」

ちなつ「薔薇をくわえた結衣先輩、素敵……」キラキラ

京子「それから、ちなつちゃんの顎に手をそえて」

結衣「おい、まて、おい」

京子「ちょっと、結衣!喋ったら薔薇が落ちちゃったじゃん」プンスカ

ちなつ「結衣先輩……」キラキラ

結衣「……あぁ、うん、わかった」

私の経験上、場の空気に飲まれた結衣には、強気に出ても何とかなる。
そして、その経験則はやはり正解だったようだ。

結衣「………」クィ

ちなつ「………」ドキドキ

京子「はい、チーズ」パシャ

騙すような真似で申し訳ないが、世の中はそんなに甘くないのだ。

結衣「あっ、京子!」

ちなつ「結衣先輩、ありがとうございました!」ヤッター

結衣「カメラよこせっ」

京子「ちなつちゃんにも、写真を焼き増ししてあげるからね」グッ

ちなつ「写真は家宝にします」ウフフ

あかり「あっ、あかりにもちょーだい!」

京子「いいぞー」

当初の狙い通り、結衣の王子様コスプレを激写することに成功した。
これでアルバムの中身も充実するというものだ。

結衣「………」ポカーン

後は結衣にカメラを取られなければいいが、放心しているから問題はなさそうだ。
ちなつちゃんも欲しがっていたので、協力を取り付けるのは簡単だった。


ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2364259.jpg
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2364263.jpg

京子「しかし、ぷっ、くくっ」

結衣「何だよ」ジロッ

京子「だーっはっはっはっ!」バンバン

結衣「わ、笑うことないだろ」カァァ///

京子「結衣王子!ひーっひっひっ、お腹痛い」バンバン

自分で画策しておいて何だが、意外と少女趣味な結衣が王子様なんて、何だか面白い。
結衣の複雑な心中が察せられて、つい大笑いしてしまった。

>>58
これか

いいよぉ

京子「ゆーい」

結衣「………」グスッ

京子「すねるなよ、結衣」

結衣「……すねてない」プィ

京子「すねてるじゃん」

結衣「別に」

結衣は座布団を抱えて、部屋の隅に引っ込んでしまった。
つい楽しくて、少しやりすぎたようだ。

京子「機嫌なおして、ね?」

結衣「知らない」フン

京子「結衣は誰よりも可愛くて、カッコイイよ」

何時でも、私は君に助けられてきた。
君のことを王子様みたいに思っていたんだ。

やっぱ主人公には木が映えるよな

結衣「………」

京子「あっ、照れた」

結衣「……京子の馬鹿」ギュー

京子「ほっぺひっひゃらにゃいへよ」

照れると可愛くなるんだけどね、ちょっと暴力的にもなるけど。

可愛いなあ

京子「さて、結衣のご機嫌も直ったし、明日の夜に天体観測しようか!」


結衣「………」ムスッ

あかり「結衣ちゃん、あかりの飴さんあげるから、元気出して?」ネッ


京子「せっかく明るい星も多くて、空気も綺麗なんだからさ、やろうよ」


結衣「……星見たって、すぐに飽きるだろ」プィ

あかり「はいっ、お茶だよ、結衣ちゃん」アワアワ


まだご機嫌の安定しない結衣だけど、あかりの活躍があれば元に戻るだろう。
利用しているようで嫌だけど、あかりが困ったときには助けるので、帳消しにしてもらいたい。

京子「景色に飽きることも想定済みだよ、ワトソン君」フフン

京子「飽きを防ぐために、皆で星座を探そう!」ドンッ

ちなつ「……また、面倒な話ですね」

あかり「うぅ、分厚い本」

事前準備が必要なこともあってか、あまり食いつきが良くない。
ここはやはり攻略しやすい人間から崩していくべきか。

京子「全部覚える訳じゃないから、大丈夫だって」

京子「ほら、この写真、実際に見てみたくない?」ペラッ

あかり「わぁ、すっごく綺麗だね!」パァァ

京子「それで、山あいの公園に見に行こうかと思って」

あかり「それ、あかりもいく!」ハーイ

お姫様の勇気か……と言おうと思ったらまさにスレタイがそうだった

京子「あかりに夜ふかし出来るかなぁ」ニヤニヤ

あかり「それくらい平気だよ」ムゥ

京子「じゃ、あかりは参加ね、お二人さんはどうする?」

あかりは単純なところもあるので、割と思い通りに動かせたりする。
まぁ限度はあるし、やりすぎると結衣とちなつちゃんに制裁されるわけだが。

結衣「……私も行くよ」

京子「さすが結衣、この可愛い京子さまのことg」

結衣「何よりあかりが気の毒だからな」

京子「っておいっ」

ちなつ「私もあかりちゃんの保護ついでに、結衣先輩と星を楽しみます!」

京子「ちなつちゃんまで!」ガーン

あかり「?」ニコニコ

京子「くっ、やるじゃないか、あかり……」

あかり「えっ?」

京子「……いや、何でもない」コホン

あかり「途中で止められると気になるよ、京子ちゃん!」ムッ

あかりの自分への無頓着さ、どうにかならないものかな。
好かれているということに、いささか自覚が足りないと思うんだ。

しえーん

しえんぬ

結衣「ところで、夜に出歩くのは危なくないか?」

京子「固まって行動してれば大丈夫っしょ」

結衣「補導されないといいけどな」

京子「あ……、まぁいざとなったら振り切ろう」

ちなつ「先輩らしい答えですね」ハァ

京子「そんなに褒めないでよ、ちなつちゃん」ハッハッハ

天上天下唯我独尊、私は私の道を進むのだ。
もし捕まったら色々と言い訳をして、煙に巻いてやるさ。

京子「とりあえず明日の夜9時くらいに見るから、それまでに結衣の家に集合ね」

結衣「私の家なんだ」

京子「結衣の家に泊まるのでお泊りセット、用意してきてね!」

結衣「私の家に泊まるんだ」

京子「結衣の家以外に、場所ないし」

結衣「しょうがないな」ヤレヤレ

せっかく一人暮らしの幼馴染がいるんだから、これを利用しない手はないだろう。

勿論結衣が本気で嫌がるなら、始めから提案したりはしない。
何だかんだで寂しがり屋さんの結衣は、理由なく誘いを断らない、私にはお見通しなのだ。

ええねえ

ふう

ちなつ「結衣先輩の家に、お泊りかぁ」ポワワーン

あかり「楽しみだねー」ニコニコ

京子「さっさと冬の大三角形と冬のダイヤモンドを暗記するぞー」

結衣「望遠鏡はどうするんだ?」

京子「あぁ、私が小さいの二つ用意するよ」

ガヤガヤ

下校直前までかかったけれど、何とか冬の基本的な星座を覚えることができた。
その熱心さを勉強に活かせと、結衣にお説教くらったけど。

~天体観測~

結衣「綺麗だな」

京子「こんな星空を見るのは久しぶりかも」

街中では見られない、星のまたたきが綺麗だ。
夜のヴェールに様々な宝石が散りばめられて、言葉にできないくらい美しい。
小型の望遠鏡で覗いた世界も、それはそれで中々に面白い。

京子「……星屑の絵の具とか欲しいなぁ」

結衣「何色になるんだよ、それ」

芸術の究極とは自然の中にあるのではないか、そんなことを思ってしまう。
近代芸術は写実主義から印象派、果てにはキュビズムなんてものにもシフトしてきたけれど、
現実からの乖離を現実への意識と捉えれば、芸術は自然への挑戦という側面を持つのかもしれない。

ちなつ「………」キラキラ

あかり「綺麗だね……」ウットリ

無限の広がりを見せる宇宙で、億千の星が生まれては消えていく。
それは何だか壮大で、私たちの矮小さと、その存在の奇跡を意識させる。

京子「はぁ……」

夜の冷え込みは厳しく、吐いた息は白く濁って大気に消える。
初雪も降っていないけれど、冬の訪れをひしひしと実感する。

京子「そろそろ星座探すか!」

結衣「はええよ」

景色に感動するなんて、一瞬あれば十分じゃないか。

~星座探し~

ちなつ「オリオン座があそこだから、シリウスはあれかな」

あかり「あかり、冬の大三角形みつけたよぉ!」

ちなつ「えっ、ホント?」

京子「冬のダイヤモンドは意外と難しいな」

結衣「アルデバランが見つからない」

意外と星座探しも楽しいものだ。
みんなと一緒なら、それだけで笑顔でいられる気がする。

京子「ところで結衣、あの星、見える?」

結衣「どれ?」

京子「あれだよ、あれ」ホラ

結衣「分からないって」

私の指先は星を示すけれど、それは幾万の星の中に紛れてしまって……。
近づく結衣の気配に、すぐ傍に感じる息遣いに、胸がトクンと脈打つ。

結衣「京子、どれ?」


チュッ


結衣「えっ」

近付いた分、いつも自分から遠ざけていて、何時しかこうして触れる事は諦めていた。
けれど、背伸びをしたら驚く程に容易く、触れることができてしまった。

キマシ

京子「どうしたの?結衣」

結衣「いま、頬っぺたに何か……」

京子「気のせいじゃない?」

結衣「いや、確かになんか……、お前いたずらしただろ」

京子「いやぁ、心当たりはありませんよっと」

結衣「嘘くさいんだけど」

京子「気のせいだって、ほら、星座探そうよ」

そっと口付けた結衣の頬は、柔らかかった。

しえん

~結衣の家 就寝中~

あかり「………」ムニャムニャ

ちなつ「………」クー

結衣「………」スースー

京子「………」

繰り返していく毎日、ふと気付けば君のことが少しずつ膨らんで、私の心を埋めていく。
街の灯りが消えた頃に、私の心には君が灯る。

京子「………」ウトウト

眠りにつく少し前に、この心は君への想いを綴る……。

京子「………」zzz

キマシタワー

~お泊り翌朝~

京子「ん……」

京子「ふぁぁ……あ?」

目が覚めたと思ったら、結衣の顔が目の前にあった。
抜け出そうにも体が拘束されているようで動けない。

京子(あれ?何で抱きしめられてるの?)

京子(えっと、こっちは結衣のお布団だから)

京子(私が潜り込んで、それを結衣が抱きしめたのかな?)

京子(どうしよう……)

京子(起こすのも悪いし、結衣の寝顔でも眺めるかぁ)

京子「………」ジィー

結衣「………」スースー

穏やかな顔をして眠る結衣。
その切れ長の瞳は目蓋で隠れていて、長いまつげが妖艶さを醸し出している。
かすかに聞こえる寝息が、そこはかとなく色っぽい。

結衣「……んっ」パチリ

京子「………」ジィー

結衣「………」ゴシゴシ

京子「おはよう、結衣」

ゆっくりと目を開けて、寝惚け眼をこする姿が可愛い。
早起きした甲斐があって、いいものを見た気がする。

結衣「……きょうこ?」

京子「うん、京子ちゃんだぞっ」エヘヘ

寝ぼけている結衣の瞳に、段々と理性の光が宿る。
起き抜けに私の笑顔を見られるんだから、結衣も幸せな奴だ。

結衣「うわっ!」ベシッ

京子「いてっ」

飛び起きた結衣に頭を叩かれた、理不尽だ。

ウフフ

~起床~

結衣「悪かったって」

京子「私の心は傷ついた、誠意ある謝罪を望む」グスッ

結衣「起きたらじっと見られてたんだから、驚いても仕方ないだろ」

京子「でもさぁ……」イジイジ

結衣「……ホットココアでいい?」

京子「うむ、許す」

相変わらず結衣は、私の扱い方が上手い。
そんなものに釣られるなんて屈辱的だが、気持ちが勝手に浮上するのだから仕方ない。

ちなつ「餌付けされてますね、京子先輩」

京子「あっ、おはようちなつちゃん!」

ちなつ「おはようございます」

髪を下ろしたちなつちゃんも可愛い、いやいつもの髪型も可愛いけど。
朝でもその皮肉気味な調子は変わらないようだ。

結衣「おはよう、朝食の用意できてるから、顔を洗っておいで」

ちなつ「おはようございます!結衣先輩」パァァ

ちなつ「朝から結衣先輩の手料理が食べられるなんて、幸せです!」キャー

京子「朝からテンション高いなぁ」

ちなつ「京子先輩はもっと有難がるべきです、大体京子先輩は」ムスッ

京子「あっ、ちょっとあかり起こしてくるね」

ちなつ「って話はまだ」

パタン

京子「危ない危ない」フゥ

藪をつついて蛇を出すのは御免だ。
朝から結衣についての説教は、出来ればやめてもらいたい。

支援

京子「あかり~」

あかり「………」ムニャムニャ

京子「あかり、朝だぞ」

あかり「………」ウーン

気持ちよさそうに寝ていて、起こすことをついためらいそうになる。
まぁ、今日は学校があるので、無理やりにでも起こさないと。

京子「早く起きろー、ねぼすけさん」

あかり「………」ゴロン

京子「……起きないと、布団剥ぐぞー」

あかり「………」スピー

バサッ

あかり「ふぁぁっ」ビクッ

京子「あかりちゃん、朝だよ」

あかり「……おはよぉ、きょうこちゃん」

京子「おはよう、一緒に洗面所に行くよ」

あかり「うん……」トコトコ

京子「そっちは玄関だぞ」

あかり「?」コテン

京子「連れて行ってあげるから」ギュ

あかり「ありがとぉー」ネムネム

小さな子みたいで可愛らしいけど、危なっかしくて見ていられない。
まぁ、流水で顔を洗えば流石に起きるだろう。

支援

支援

~朝食後~

キョウノオテンキハ…

京子「今日も学校かぁ……」

結衣「天体観測を週末にあわせておけば、ゆっくり出来たのにな」

京子「まったくだよ!」

ちなつ「企画したの、京子先輩じゃないですか」ハァ

あかり「でも、朝から皆と一緒にいられるのは楽しいね」ニコニコ

結衣「飲み物は緑茶でいい?」

京子「うん」

ちなつ「あっ、手伝います!」

あかり「みんなあかりをスルーしすぎだよぉー!」エーン

支援

~登校~

京子「走らないと遅刻かな」

結衣「朝のアニメなんて見てるからだろ、馬鹿」

あかり「遅刻したら先生に叱られちゃうよ、急がないと」アワワ

ちなつ「あかりちゃん、鞄忘れてるよ!」

京子「じゃ、いくぞ!」グィ

結衣「わっ、急に引っ張るなって」

冬の空は高く澄んでいて、蒼天が心に清々しさをもたらす。
木枯らしが街を吹き、枯葉が宙を舞う、それが特別に思えてくるのだから不思議なものだ。

~授業中~

「であるから、この式を……」カッカッカ

京子「………」カリカリ

理論というものは面白い。
それは人間社会のしがらみに囚われることはなく、ある種の美しさすら感じさせるものだ。

じゃあ恋や愛なんてものはどうだろう?理論を構築して、定義することはできるだろうか?
『好きだからそれでいい』なんてのは思考を放棄した暴論のようで、少々短慮に思える。
しかし実際問題、曖昧な概念の定義というのは難しい。

「ここで注意すべきなのは……」

京子「………」カリカリ

例えば、法曹世界にはリーガルマインド(法的思考)というものがあるとされる。
それは法律家が取得するバランス感覚のようなものだが、実は言葉だけが一人歩きをして、
その実態を体系立てて学ぶことはできない。

自分の感覚で身につけることしかできないなんて、それは定義する必要があるのだろうか?
……あると言い張ることでしか確認できないのに、それは本当に存在するのだろうか?

「……以上の方法で、この解を導きだすことができる」

京子「………」カリカリ

昔の文豪はアイラブユーを『月が綺麗ですね』『死んでもいい』なんて訳したけれど、
それはあまりの難しさに、その定義を躊躇したからかもしれない。

ならば、私達は好きを開き直ることでしか、それを表現できない。
そんな不自由な生き物なのかもしれない。

「歳納、ここの答えは?」

京子「X=36です」

「正解」

カッカッカ

「この場合、この定理を軸にして……」

京子「………」カリカリ

結衣「………」ジィー

いつもそうやって真面目にしてろ、そんな視線を隣から感じる。
普段はマイペースだから、いざというときに力を発揮できるんじゃないか。

京子ちゃん頭良すぎぱねえ

~帰宅中~

京子「その、今日も泊まってもいい?」

結衣「許可はもらってるの?」

京子「うぐっ」

結衣「……夕飯は何がいいんだ」ハァ

京子「えへへ、ハンバーグとか」

結衣「じゃあ、帰りに合挽肉とパン粉を買わないと」

京子「荷物持ちは任せろ!」

結衣「お前はその間に、親に頭下げて許可もらってこい」

京子「そうでした……」ガクッ

ずっと一緒にいられないのだから、現実というやつは無情だ。
それでも、織姫や彦星に比べたら恵まれているのだろうけど。

結衣「まぁ京子は成績いいんだし、多少の無茶も効くだろ」

京子「そうだけど、流石に二日連続の外泊は言い出しにくくて」アハハ

結衣「……私が京子に来て欲しがった、そう言ってもいい」

京子「それって……」

結衣「二回は言わない」プィッ

京子「そっか」エヘヘ

結衣の気遣いに、胸が暖かくなる。
私が結衣を求めているように、結衣も私を求めてくれるのだろうか。

結衣「さっさと帰るぞ」

京子「時間の節約に、途中まで一緒に走ろっ」

結衣「またか」ジトー

京子「ほら、おいていくぞ!」ガシッ

君の手を掴んで走り出す。
このまま、地の果てまでも、どこまでもいけそうな気がした。

素晴らしい

~結衣の家~

ピンポーン

京子「外泊許可もらえたぞー」

結衣『今料理してるから、鍵を使って入って』

京子「はーい」

親の外泊許可はあっさりともらえた。
放任主義な家庭でよかったというべきか、晩ご飯の分量が狂うと文句が出たくらいだった。

ガチャ

バタバタ

京子「私にも料理を手伝わせろ!」バーン

結衣「命令かよ」

京子「普通に聞いたら手伝わせてくれないじゃん」

結衣「二人でやると効率が悪いし」

京子「うぅ、そうだけど、そうじゃないんだよ」

結衣「どっちだよ」

一緒にやることに意味があるんだよ、結衣の馬鹿。

支援

~料理~

結衣「私は味噌汁の準備するから、とりあえずハンバーグのもとをこねておいて」

京子「感触が気持ち悪いんだよなぁ……」グチャグチャ

結衣「よくこねたほうが美味しいんだから仕方ない」

京子「………」グチャグチャ

結衣「………」ガタンッ

京子「………」ニチャニチャ

結衣「………」トントントントン

料理は化学のようなものだから、結衣のようなタイプに合っているのだろう。
私も簡単なものはできるが、複雑なものになるとお手上げになる。

京子「これの次は?」

結衣「形を整えて、中の空気抜いて」

京子「ああ、その作業苦手だ……」

結衣「変わろうか?」

京子「全部私がやるっ!」

結衣「無理はするなよ」ハラハラ

京子「……難しい」ペタンペタン

結衣「お手玉みたいにやるんだよ」

京子「勢いよくやると吹っ飛びそうで怖いな」ペタンペタン

結衣「形さえまともならそれでいいからやめろ、私が悪かった」ガシッ

京子「もうちょっと信用してよ」ムッ

私は初めて包丁を握った小学生じゃないんだからさ。

うん

~夕飯~

京子「いただきまーす」

結衣「いただきます」

ご飯、ハンバーグ、小鉢のサラダ、味噌汁、おひたし。
割と普通のメニューだが、結衣と作るとそれだけで豪華なもののように思える。

京子「」モグモグ

結衣「」モグモグ

京子「美味しいぞぉー」パァァ

結衣「そうだな」

京子「なんてったって、私と結衣の共同作業だもん!」

結衣「」モグモグ

京子「」モグモグ

京子「……この溢れる肉汁が添えつけのキャベツのシャキシャキとマッチして専用ソースがまたk」

結衣「黙って食え」

グルメ評論家っぽく褒めてやろうと思ったのに。
食事中に話をするのは、マナーとしてよくないって知ってるけどさ。

いいね

しえんた

~お風呂~

カポーン

結衣「京子、少しやせた?」

京子「あっ、分かる?」ヘヘ

結衣「……あんまりダイエットとかするな」

京子「心配してる?」ニヤニヤ

結衣「ばか」

京子「結衣のご飯食べてたら、すぐに太っちゃうし」ヘヘ

結衣「一生太ってろ」

京子「酷い言い草だなっ!」ウガー

結衣「京子が悪い」

結衣なりの心配と照れ隠しの言葉だろうけど、年頃の乙女にそれは失礼だよ。
何だか謝罪と賠償を要求したい気分だよ。

京子「ところで結衣はちょっと太ったね」ニヤニヤ

結衣「えっ」

京子「このあたりに、無駄な脂肪の塊がさ」ボヨ-ン

結衣「」ピキッ

京子「あっ、冗談です」

結衣「いい度胸してるね」

京子「まって、あの、セクハラは禁止だって」アセアセ

結衣「先にやったのは京子だろ」

京子「いやいや、そういう問題じゃな」

あっちょっとやめてくだs

すごく良い

ストーリーがいいね

~就寝~

京子「……結衣の人でなし」

結衣「体を洗ってあげただけじゃないか」ハァ

京子「……結衣の馬鹿」

結衣「京子が悪い」

京子「……結衣の変態」

結衣「京子は痴女だな」

京子「うぅぅ///」ジタバタ

乙女の柔肌を好き勝手触っておいて、反省の色はなしか。
赤ちゃんみたいに扱われて、ものすごく恥ずかしかったんだぞ。

ほうほう

結衣「……今日は綺麗な満月だな」

京子「えっ、……ホントだ」ワァ

月には、不思議な魅力がある。
単なる風雅だけではなく、月満つればすなわち欠く、なんて諸行無常な捉え方もある。

京子「………」

結衣「………」

丸々としたお月様を見ていると、このまま吸い込まれてしまいそうだ。
そんなノスタルジックな気分になるのは、私たちに作用する引力の影響かもしれない。
なんて、ちょっと馬鹿げているだろうか。

京子「兎もお餅ついてる頃かな?」ジュル

結衣「兎の餅を盗るのはやめろ」

京子「ちょっと味が気になっただけじゃん」ブー

結衣「もう寝るよ」

京子「えぇ~」

結衣「おやすみ、京子」

京子「……おやすみ、結衣」

パチッ

~真夜中~

京子「………」

『どうせ無理』なんて心にもないことを思って、傷つかないための切り札にしていた。
でも、月明かりに照らされて、私の臆病な魔法は解けてしまった。

結衣「………」スースー

この澄んだ満月の夜に、私の嘘は解き明かされてしまった。
側にいる君の髪の匂いで、深い茨の眠りから醒めたから。

京子「結衣……」

頼りなげに揺れる君の髪、そっと漂う微かな匂い。
この瞬間は儚く消えてしまうものだけれど、だからこそやっと分かった気がする。

私は、君が好き。

ええねえ

京子「………」モゾモゾ

結衣「……眠れないの?」

京子「……ごめん、起こした?」

結衣「……おいで」

京子「……うん」

寝ぼけた結衣も優しいなぁ。
思わず涙が滲んで、それを隠すように結衣の胸元に寄り添う。

京子「………」ウトウト

結衣の鼓動を感じて、
このまま、ずっと結衣の体温を感じていたいのに、眠気が訪れて。

京子「………」zzz

これが、きっと最後なのに。

支援

しえん

~朝~

チュンチュン

京子「ねぇ、結衣」

結衣「ん?」

京子「放課後、帰りにちょっと付き合ってくれる?」

結衣「どうしたの?」

京子「話したいことがあって」

結衣「今話せば?」

京子「えっと……今は、その」

結衣「……えらく歯切れが悪いな、放課後に付き合えばいいの?」

京子「うん、ありがと」

抱えておくには重たくて、偲ぶるには大きくて。
気がついた時には、もう抑えられない状態だった。

不穏な

支援

~放課後~

結衣「こんなところになんの用事があるんだ?」

いつもの私との違いを察してのことか、結衣の顔色は芳しくない。
まぁ、ふざけたキャラの人間が急に真顔になるなんて、誰だって不審に思うだろう。

京子「伝えたいことがあって」

結衣「伝えたいこと?」

京子「あなたが、好きです」

結衣「急にどうしたの?」

京子「急じゃないよ、私は結衣が好き」

結衣「……えっと、悪質な冗談はやめなよ」

京子「………」

支援

結衣「本気……なんだ……」

京子「うん」

これが冗談でも、親愛の情でもないことが、理解できたらしい。
私の沈黙でドッキリの可能性を捨て去った辺り、この幼馴染は私のことをよく理解している。

結衣「……京子、私は」

京子「わかってる」

京子「結衣にとって、私は保護対象のようなもので」

京子「そんなこと、考えたこともなかったんでしょ?」フフッ

結衣「………」

京子「それくらい分かるよ、何年の付き合いだと思ってるの」

この想いの成就を望んでいるけれど、本当は分かっていた。
私の想いと、結衣の想い、少しずつすれ違って、別物になっていたこと。

せつない

京子「私のわがままで困らせてごめんね」

京子「ずっと振り向いてもらえないことだって」

京子「気持ち悪い、怖いって、そう言われることも覚悟してる」

結衣「……ッそんなこと」

確かに、今の結衣の心を占めているのは困惑の念だ。
けれど、それが嫌悪や拒絶に変わらないなんて、誰が保証できるだろうか。

京子「私は普通じゃないけど」

京子「それでも、もしも許してもらえるなら」

京子「これからも友達でいてくれたら、嬉しいかな」エヘヘ

自分でも不思議なくらい、綺麗な笑顔を形作れたと思う。
今ならきっと、別離だって受け入れられる。

結衣「……うん」

泣きそうな結衣の表情が、切なく細められた瞳が、眩しかった。

京子「まぁ、ちょっと気まずくなっちゃうけどさ……」

京子「私が関係を壊しちゃったから自業自得だね!」アハハ

結衣「………」

肯定も否定も返せないところからして、結衣は混乱の極地にあるようだ。
同性の親友に告白されたのだから、それも当然か。

京子「ごめん、結衣」

結衣「…………謝るなよ、謝ることじゃないだろ」

京子「それでも、ごめん」

結衣「……京子」

告白に失敗した私よりも、断る側の結衣の方が辛そうで胸が軋む。
そんな結衣の助けになりたいけれど、その苦しみの原因は私というジレンマ。

京子「……先に帰るね」

このまま傍にいると、私たちの友人関係は完全に壊れてしまいそうだから。
悲しいけれど、結衣に悪いけれど、これでお別れにしよう。

イケメン結衣ちゃん期待支援

結衣「待って」

京子「……何?」

踵を返した私を、結衣が呼び止める。

結衣「逃げるなよ、京子」

京子「へっ?」

京子「やだな、逃げるって、何言ってるの?」

結衣は何を言っているんだろう。
私は、ただ、決着を付けようと思って、そのはずで。

結衣「とぼけるな」

京子「だから、逃げてないってば!」

結衣「なら、私の目を見て言えよ」

京子「………ッ」

おかしいな、結衣の顔を直視できない。
私の全てを見透かそうとする、その瞳が怖くて。

結衣「仮面を被るのは、やめろ」

京子「そんなこと……」

結衣「私を見くびらないでよ、京子」

京子「結衣?」

結衣「確かに、今はわからないことばかりだけど」

結衣「それでも一番大切なものは、手放したくないんだ」

京子「……欲張り」

結衣「構わないよ、それで京子といられるなら」

京子「………」

結衣「お前、私から距離を置くつもりだろ」

京子「……なんでわかっちゃうのかなぁ」

結衣「京子のことなら、わかるよ」

距離を置こうなんて一言も口にしていないのに、友達でいて欲しいと言ったはずなのに。
結衣はいつだってそうだ、私が抱えているものを直感で見抜いてしまう。

支援

イケメンすなぁ

え?真っ赤な誓い?

京子「……だって」

京子「だって、私たちは女同士で、幼馴染でさぁ!」

京子「これは世間にも両親にも、顔向けできないような気持ちなんだよ!」

京子「今も、結衣の傍にいるだけで、こんなに、こんなに苦しいの……」

京子「私には耐えられないよ……」

やってしまった。
気が付けば、全てを打ち明けていた。

京子「………」

この胸の内のドロドロとしたものを、結衣にぶつけてしまった。
知られたくなかったのに、胸に秘めておくつもりだったのに。

京子「……結衣には、わからないよ」

爪が食い込むまで、強く手を握り締める。
穏やかだった私の心はとうに乱されて、制御できなくなってしまった。

結衣「そうだな、わからない」

京子「……ッ」

結衣の言葉に、胸の奥が締め付けられる。
覚悟していたつもりでも、やっぱり辛いなぁ。

結衣「わからないから、探したいんだ」

結衣「私を置いていかないでよ、京子」

待っていた拒絶の言葉は届かなくて、私は結衣に抱きしめられていた。

京子「結衣?」

結衣「傍にいてよ……」ギュッ

結衣の体は少し震えていて、縋るように私の体を強く抱き寄せる。
私が結衣に依存していたように、結衣も私を求めてくれていたのだろうか。

京子「……どうして」

結衣「京子がいないと、私が困る」

京子「……私は結衣の恋人になりたくて、キスだってしたいんだよ?」

結衣「京子がなりたいなら、恋人にだってなる」

京子「……ずるいよ、私が欲しいのは結衣の心なのに」ポタッ

私を好きでもないくせに恋人になるなんて、それは振られるよりも残酷で惨めだ。
こんなにも近くにいるのに、結衣の心は手に入らなくて。

すばらしい

結衣「どうしたら一緒にいてくれるの?」

京子「……そばにいても、いいのかなぁ」

結衣「どんな京子でも受け入れるから、受け入れてみせるから!」

京子「結衣、ゆいぃ……」ポロポロ

私と結衣の想いは、すれ違ったままだ。
結衣は必死に説得するけれど、それは変わらない事実だ。

結衣も大人になって、男の人に恋をして、結婚だってする。それは普通で当たり前のことだ。
誰かの隣で幸せそうに微笑む結衣、……そんな彼女を祝福するなんて嫌だ。

それなのに、傷ついてでも、苦しんでも、ずっと一緒にいたいなんて思ってしまった。

結衣「泣かないで、京子」

京子「むちゃ、いうなよぉ……」グスッ

結衣「京子の泣き顔は見たくないんだ」

結衣「ほら、昔約束しただろ、京子を守るって」

京子「……おぼえてたんだ」

結衣「大事なことだから」

成長しても関係の根底に残った、幼き日の誓い。
私を見つめる結衣の瞳は、あの頃のままだ。

結衣の指が涙をそっと拭って、私の頬を優しく撫でる。
涙で歪んだ視界の中で、結衣だけは不思議とはっきり見える。

ほう…

うむ

結衣「笑ってよ、京子の笑顔が見たいんだ」

ああ、この人にはかなわない。
恋なんて先に落ちた方の負けなんだ。

京子「……うん」

京子「結衣が、それを望むなら」

結衣「……京子!」ギュッ

私の笑顔に感極まったように、結衣は喜んでくれた。
ふわりと結衣の香りがして、とめどない切なさが胸に押し寄せる。

まるでヤマアラシのように、身を寄せ合うほどに私の心は傷ついてしまう。
結衣の気持ちが痛くて、胸の中でままならない感情が疼いて、胸が苦しい。

それでも、私の心はこの人に絡め取られて、雁字搦めになっていて。
再び結衣の腕の中に囚われて、もう離れることはできそうになかった。

やだ……イケメン……

~その後~

京子「………」グスッ

結衣「落ち着いた?」

京子「うん……」ゴシゴシ

結衣「そう、よかった」

京子「……うあぁぁぁ、もぅ!」ブンブン

結衣「急にどうしたの?」

京子「結衣の前でこんなに泣いちゃうなんて、なんたる不覚!」ガッデム!

結衣「あれだけ泣いたのに元気だな」クスクス

さっきまでの女々しい私は、私じゃない。そう、あれは、気の迷いなのだ。
この京子ちゃんが結衣に好き勝手泣かされるなんて、あってたまるものか。

京子「うぅぅ」ドヨーン

結衣「よしよし」ナデナデ

京子「こっ、子供扱いするな!」バシッ

京子「言っておくが、私は守られるだけのお姫様待遇は嫌だからな!」ビシッ

結衣「こんなにやんちゃなお姫様はいないと思うけど」

京子「うっさい!」フン

結衣「……でも、それが京子らしくて素敵だよ」

京子「なっ、なにいって……///」ワタワタ

なんでこいつはポーカーフェイスで、そんな恥ずかしいこと言えるんだ。
私ばっかり真っ赤になって、馬鹿みたいじゃないか。

京子「必ず惚れさせてやるからな!」

結衣「はいはい」

京子「京子のことが好きで好きでしょうがないって、言わせてやるからな!」

結衣「楽しみにしてる」

京子「余裕そうな顔しやがってぇー!」ムキィー

結衣「京子が私のこと大好きなのは、もう分かったから」

京子「悪かったな!どうせ私は結衣が大好きだよ!」

結衣「拗ねるのか求愛するのか、どっちかにしろ」

あぁ、完敗だ。なのにどこか清々しい気分で、こういうのも悪くない。
君と出会えた奇跡がこの胸に溢れていて、今なら空だって飛べそうなんだ。

良い

京子「んっ」コホン

京子「えっとぉ……」モジモジ

京子「……好きだよ?」

結衣「……私も好きだよ」ニコッ

京子「じゃあさ、ちゅーしよっか?」ネッ

結衣「調子に乗るな」ベシッ

こんなに私を弄んでおいて、お試しキープするようなまねをしておいて。
……結衣だけ平気な顔だなんて、そんなの不公平だ。

ええな

可愛い

京子「……私のファーストキスは奪ったくせに」ボソッ

結衣「はっ?」

京子「私の、ファーストキスを、無理やり奪ったじゃん!」

結衣「えっ」

京子「責任とって、私をお嫁さんにしなさいっ!」

結衣「ちょ、ちょっと京子?」

京子「私は、結衣とキスしたいの!」グィ

チュー

ゆるゆりい

京子「……っぷは」

結衣「………っ」

キス、してしまった。
胸の高まりが収まらなくて、心臓がバクバクと五月蝿い。
唇を触れ合わせるだけなのに、どうしてこんなにもドキドキするんだろう。

京子「…………怒った?」

結衣「別に」

予想に反して結衣は冷静で、少し照れた素振りを見せた程度だった。
突き飛ばされることも考えていたから、正直言って拍子抜けだ。

結衣「驚いたけど、京子の無茶はもう慣れっこだし」ハァ

京子「気持ち悪くない?」

結衣「ない」

支援支援

京子「……えへへ、そっかぁ」

同性からのキスに抵抗がない、それが分かっただけで嬉しくなる。
この想いが成就する可能性は低いけれど、夢を見るくらいは自由でありたい。

結衣「で、御仕置きを受ける準備はいい?」

京子「えっ……」ビクッ

結衣「無理やりキスしておいて、何もないと思った?」ポキッ

京子「あの、それはその」アワワ

結衣「……まぁ、今回は特別にチャラにしてあげる」ハァ

京子「本当?」

結衣「私がファーストキスを奪ったらしい件は、これで相殺な」

京子「やったぁ!って、覚えてないのかよ!」ガーン

http://beebee2see.appspot.com/i/azuY1sinBQw.jpg

結衣「どうせ子供の時の話だろ」

京子「そ、そんなことないよ」

約束は覚えていたのに、初チューは忘れるってどういうことだよ。
こだわってた私が間抜けみたいじゃないか、そんな天然気味なところも好きだけれど。

結衣「あと、キスしていいわけじゃないから、そこは勘違いするなよ」

京子「はーい」

結衣「本当に分かってるのかな……」

京子「分かってるって」エヘヘ

私たちの行く末はわからないけれど、それでも足掻いてみよう。
積もり積もった想いを伝えるから、結衣が呑気に笑っていられるのも今の内だな。

京子「そろそろ一緒に帰ろっか!」

結衣「調子いいんだから」フフッ

気が付けば辺りは薄闇に包まれていて、風が身を切り裂く寒さを運んでくる。
それでも、この心はあったかい。

京子「寒いから、手を繋いでもいい?」ソワソワ

結衣「もう好きにしなよ」

京子「ちゃんとついてくるんだぞっ、王子様!」ギュ

結衣「お姫様の仰せのままに」

運命に屈するなんて嫌だから、今はこの胸の勇気を大切にしよう。
暗い夜道だってこの祈りを携えて、一緒に駆け抜けていこう。

ボロボロのお姫様は、向かい風の中で鋼鉄の愛を叫ぶ。
容赦無い勝負だって勇ましく戦ってみせる、その誇りは誰にも譲れない。

いいわあ……

京子「好きだよ、結衣」

何度でも、何度だって、伝えてみせる。

小さなお姫様の愛のストーリー。
その物語の結末は、いつか私自身が描くんだ。

だから絵本を閉じて、とっておきを着て、外に飛び出そう。
恋する少女を、世界はきっと待っているから。



おわり

超乙

すごく良かった
乙乙

乙乙


今まで見た中で一番好きかもしれん

京子ちゃんがBADに進もうとして大変だった
キャラ壊さないことを意識したら内容が膨れてごちゃごちゃになった

元ネタは曲5つと妄想3つと画像2つ、支援保守サンクス

凄いなぁ

垂れ流した妄想を使ってもらえると嬉しい

乙!

色々詰め込まれててボリュームがあった

もう一度、ありがとう

すばらしかったです


これはかなりいいわ

良かった~ ありがとう

乙~

あとでよむあげ

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