美穂子「京太郎くん!」京太郎「……美穂子姉」 (427)
『……そこで、わが校では麻雀部への募集を行っております!女子はもちろん男子の希望者もどんどん歓迎するわ!』
先程の入学式における議会長の発言を反芻して、金髪が特徴的な少年――須賀京太郎は自分の机の椅子に微妙な表情で座り込んでいた。
「…………」
「よっ、須賀。どうしたよ?放課後だってのに神妙な顔しやがって」
「嫁田」
中学からの知り合いの声に振り向いて目を合わせるも、京太郎はすぐに目線を落とす。
「麻雀部、入らないのか?その表情だと決めかねてるって感じだが」
「察しの良い奴だな、相変わらず」
「付き合いも長いからな。まあお前の問題だしつべこべ言う気もねえけど」
「悪いな」
「いいってことよ。……そういや咲ちゃんはどうした?」
「さあ。俺にだってわからないことぐらいある」
「『俺にだって』とはご挨拶だねぇ。咲ちゃんに聞かせてやりたいぜ」
「お前なぁ」
「ははは。じゃ、俺はサッカー部でも見てくるけど。お前はどうする?」
「……とりあえず、見るだけは見てくる。咲に連絡だけつけてな」
「ふぅん。ま、後悔はすんなよ」
「あぁ。ありがとう」
「へっ」
いかにも爽やかな笑顔を作り、嫁田は去っていった。
(さて)
ここで待っているというのも手だが、咲がここにまっとうにたどり着けるとも到底思えない。
京太郎は早々に鞄を取り出し、咲の教室へと足を運び始めた。
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「咲」
「あ、京ちゃん!」
京太郎を視認するなり、咲はまるでしっぽをはためかすように駆け寄ってきた。
「よく動かないでいたな。偉いぞ」
「えへへ。よく知らない所で動くと危ないからね、私」
自慢気に顔をほころばせる咲にやれやれと苦笑した。
「ところで、咲はこれからどうするんだ?俺は麻雀部に向かってみようかと思うんだが」
「あー……そっか、そうだよね」
「……で、どうするんだ?帰るなら校門まで送るけど」
「んぅー……それも捨てがたいけど……京ちゃんに付いて行ってもいいかなって」
「お前が?どういう風の吹き回しだ」
「私にだってそういう気分の時ぐらいあるのっ」
なんでそんなに嬉しそうなのかいまいち測りかねたが、そう言われたらそうなのだろうと強引に納得することにする。
咲の了承も得たので京太郎と咲はそのまま麻雀部の部室へと歩を進めていった。
「なんで旧校舎に部室があるんだろうね?」
「人が足りないから部屋が取れないのか、単に五月蝿いからか……まあそんなとこだろ」
「なるほど、あったまいいなあ京ちゃんは」
「勝手な推測を事実のように思われても困るんだけどな……」
そんななんの気なしの問答を繰り広げる内に、部室の前へとたどり着いていた。
「じゃあ咲、開けろよ」
「なんで?京ちゃんが開ければいいんじゃないの」
「いや、お前のほうが歓迎されそうだしさ」
「私は別にただの付き添いだよ!?それに私は――」
「おや?今日は千客万来じゃのう」
扉の前でギャーギャーわめいていたから先に補足されてしまったらしい。
「おんしらも入部希望者かの?」
「いえ、そこまでは。ですがひとまず見学したいと思って伺いました」
「ほぅ、若いのに礼儀の出来た男子じゃのう」
親の顔が見てみたいの、と部の先輩と思しきメガネの女性はニヤリと笑った。
(親というか、どっちかというと姉の影響なんだろうけど)
京太郎は反射的に脳裏に金髪で柔和な女性を浮かべ、すぐさまそれを振り払うかのように頭を振った。
「ま、こんな所で立ち話もなんじゃ。歓迎するぞえ」
「ありがとうございます」
「お、お邪魔します」
メガネの女性に促されるように京太郎と咲は部室へと足を踏み入れると、そこには3人の女性がまた居た。
「新入生!?」
ダッと効果音が付きそうな勢いでその中の1人が駈け出して来ると、少し前に立っていた俺を素通りして咲の正面へと向かっていった。
「見た?まこ!私は賭けに勝ったのよ!」
「まだ何もわかっとらんじゃろうに、とんだ皮算用もあったものよな」
「あ、あの……?」
件の目を光らせる明るい茶髪の女性――すなわち議会長の剣幕にメガネの先輩は頭を抱え、咲はあわあわと反応に困っている様子だった。
「……咲が5人目だってことでしょう?要するに」
「あら、察しがいいわね。ひょっとしてこの子の彼氏?」
「か、かれ……」
「彼氏違います。ただの中学からの付き合いです」
「う」
議会長がいたく詮索したがっている様子だが、生憎俺たちには掘り下げうるような関係では決してない。
京太郎はひとつ大きく溜息をついて、不敵な笑みを崩さない議会長へと視線を向け直す。
「それに、俺はともかく咲はただの付き添いです。な?」
「う、うん……私、そんなに麻雀は……」
「大丈夫よ、初心者でも手取り足取り教えてあげるし。それに今年は大型新人もいるわけだしね」
「大型新人?……あぁ」
議会長が視線を向けた先の桃色の長髪を誂えた女子へと同じく目線を向け、京太郎は得心したように目を細めた。
「ほぅ?おんし、原村の事を知っとるのか?」
「TVで見たことがあるぐらいには」
「……はじめまして。原村和です」
「初めまして、須賀京太郎です」
ぺこりと恭しくお辞儀をする少女に対し京太郎も同様に礼を返す。
「こらーっ!勝手に二人の世界に入っとるんじゃないじぇ!」
「「「……はぁ?」」」
京太郎と和、まこの言葉が第三者の突っ込みに対してユニゾンを起こす。
その声の主は和の横のまだ中学生……いや小学生とも形容しうるような少女であった。
「そうよ、そのまさかだじぇ!こののどっちに並ぶ逸材、片岡優希様を忘れてもらっては困るじょ!」_
何がまさかなのかはさっぱりわからんが、向こうがどうであれまず礼を尽くすというのは京太郎の体に染み付いた習性であった。
「……片岡優希さんか。さっきも言ったけど須賀京太郎です。片岡さん……って呼んでいいのかな」
「じょっ!?」
ちょっと堅苦しすぎたかな、と思いながら一度目線を落としてから片岡の顔を見直すと、妙に顔を赤らめた姿が京太郎には珍妙に映った。
「ゆ……」
「ゆ?」
「優希でいいじぇ!ちょ、ちょっとトイレ!」
「……あ」
文字通り脱兎のように駆け出していった優希の姿に京太郎は思わず頭を掻く。
「……彼、いつもこうなの?」
「まぁ……そうですね。京ちゃんったらまったく……」
先程にも増してニヤニヤを崩さない議会長と、いかにも面白くなさそうな咲の姿を横目で見ながら、メガネの先輩がこちらへと近づいてきた。
「挨拶が遅れてすまんな。わしが染谷まこ、ここの副部長をやらせてもらっとる。そんでアレが」
「議会長の竹井久先輩……部長……ですよね?」
「アレとか疑問符つけたりとかご挨拶ねぇ。れっきとした乙女なのよ、これでも」
「乙女ってのは和みたいなのを言うんじゃがのう……」
「なんにせよ、覚えてもらってたのは光栄ね。それで、お二人さん」
おどけたような表情から一転、今日一番と言えるほど凛とした表情に思わず京太郎はおろか咲さえドキッとした。
「知っての通り、私は女子の団体戦に出て、全国制覇を目的としているの」
「で、でも私は……」
「……姉さんに逢いたくないから、か?」
「えっ……!?」
こっちを振り返って目をかっと見開いた咲を見て、京太郎の想像は半ば確信へと変わった。
「そういえば自己紹介してませんでしたよね。こいつの名前は『宮永』咲」
「みやなが……あの!?」
「…………」
「悪いな咲。俺も正直確信はなかった……というより下手に詮索したくなかったからだけど。
でもこうでもしないと部長は引き下がってくれないと思ったから」
「京ちゃん……」
「咲に会ったのは中2の時だったから、昔何が会ったかは知らないけどさ」
そこで京太郎は意図的に言葉を切った。
それ以上のことは麻雀雑誌で知っている程度でしかない以上、俺も部長も大差はないからだ。
そのまま京太郎は口を噤んで咲の言葉を待っていると、
「……勝っても、いいんですか?」
「え?」
「私は、勝ってもいいんですか?」
「…………ええ。もちろんよ。大歓迎だわ」
「わかりました。ねえ京ちゃん」
「ん?」
「私と一緒に、入部してくれないかな?不安なんだ、私」
何が、と聞き返すのも憚られたし、何より咲にこうして頼られて断る理由もなかった。
「ああ、わかった。後先になっちまったな」
「なんか良くわからないけれど……入部、ってことでいいのよね?
歓迎するわ。よろしく、宮永さん」
「……はいっ」
部長が差し出した手を咲が両手で掴む様子を微笑ましく眺めながら、京太郎は脳裏で今後のことへと思いを馳せていた。
ここ清澄で……というよりは、長野で麻雀をやっていくならばきっと避けては通れないであろう女性の存在を。
――――――――――――
―――――――――
――――
シャワーを浴びて体を清めた私は、女子寮の自室へと戻り早々に寝る支度を始めた。
明日もまたコーチの厳しい朝練が待っているのだから、早めに休んでおくのがここに入ってからの習慣だった。
「まったく、華菜ったら子供みたいに色んな所触ってくるんだから……」
だがコーチに目をかけられて絞られている華菜を労ってやれるのは上級生の自分しかいないのだ。
「私が守ってあげないとなんにも出来なかったあの子も、もう高1なのよね」
今年の正月に会った時にも随分シャイだったものね。
麻雀をやってるとは聞いたけれど、携帯をまともに扱えない私ではろくに確認する手段もない。
けれど今年も部活動として続けてくれてるのなら、もしかしたら……
「……なんて、考え過ぎかしらね。
明日も頑張るからね。おやすみ、京太郎くん」
ベッドの脇に拵えられた互いが中学生の時の金髪を両目でしばらく見据えながら、私は電気を消してすぐさま眠りへついたのだった。
やっとヒロイン出てくるところまで書けたので立てました
今日はここまで
「……ここは?」
「見ての通り雀荘じゃよ。ウチのな」
まこはやたらと自慢気な様子で鼻を鳴らし、自身の雀荘の看板『roof-top』を指差しながら言った。
「話には聞いていましたけど……どうして俺を?」
「気分転換がてら少し働いて貰おうかと思っての。無論バイト代は出すぞ」
「そんな、急な」
「ちなみにノーレートじゃから勝ち負けに拘る必要はないからの。じゃあ行くぞ」
「だから待っ……」
まくし立てるでもないのにやたら流暢な説明を流され、まこはそのまま中へと入って行ってしまった。
京太郎もまた、心の整理もつかないままにまこの後を追い扉をくぐった。
「いらっしゃい……ってまこじゃないか。部活はどうしたんだ?」
「ちょっとわけあって早退じゃよ。このまま仕事に移っていいかの父さん」
「そりゃ別に構わんけど……後ろの男の子は?」
「件の後輩じゃ。前に寄越すかもしれんて言うとったじゃろ?」
まこに父さんと呼ばれた人物は、まこと京太郎を交互に見据えて得心したように握り拳で掌を叩いた。
「話には聞いていたけど随分なイケメンじゃないか」
「じゃろ?麻雀も大したもんじゃぞ。接待も完備じゃ」
「あの……えっと」
当人の知らないうちに話が進んでいる様に京太郎は落ち着かなさを感じ当惑していた。
「ああ、済まなかったねこっちの話で。それで、君がえっと――」
「須賀京太郎と申します。初めまして」
「おお、すまないね須賀君。しかし本当に恭しい子だね、聞いた通り」
「……ありがとうございます」
自己紹介に、世辞にと、2度に渡って頭を下げる姿にまこの父は改めて敬服していた。
「本当にその年でよく出来た子だね」
「……いい見本が身近にいたもので」
"いた"という言葉の節にまこは目をかすかに細める。
「いい親を持ったものだ。まこをできたらもらって欲しいぐらいだ」
「「!?」」
「あっはっは、冗談だよ冗談。だからそんなに怒らないでくれよまこ」
「誰の、せいだと、思っとるんじゃ」
京太郎からは後ろ頭しか見えないが、大体どんな表情をしているかは語るべくもなく見当がついていた。
「すまんすまん、どうどう!……で、須賀君もまたまこに誑かされた一人というわけだ」
「だから人聞きの悪い事言わんてくれっつとるじゃろうが……!」
まこがそろそろ怒髪天になりそうに感じるも、流石に双方心得ているようでそれ以上に発展することはないらしい。
なのでそのまま話を進めさせてもらうことにした。
「えっと……須賀君『も』ってどういうことですか?」
「そのままの意味だよ。近いうちに後輩……君の同輩ってことかな?も呼ぶことになっているらしいから」
「はぁ」
それならそれで一度に纏めれば……とも思ったが、元々自分のこの件がイレギュラーだったのだろう。
それに、結果的にではあるが女子は女子でまとめて働いたほうが勝手も掴みやすいに違いないと京太郎は自己納得した。
「脱線し過ぎてしまったようだね。そろそろ本題に入ろうか。
結局須賀君はバイトしてくれるってことでいいのかな?」
「今後のことはわかりませんが、とりあえず今日に関しては」
「わかった。それじゃあ後のことはまこに案内させるから。いいね?」
「おうよ。こっちじゃ京太郎」
苦笑いもそこそこに、まこは京太郎を事務所の方へと促した。
「すまんな、あんな親で」
「いえいえ、朗らかないいお父上じゃないですか。それにまこ先輩は十分魅力的ですよ?」
「……このジゴロが。わかってて言っとるんじゃろ?」
「ええ勿論」
「つくづくけったいな性格しとるで、おんし」
わしも大概じゃけどな、とまこはこちらに目線を向けず独り言のように呟いた。
――――――――――
「異論は?」
「ないと思うんですか?」
「思わん。だが、似合っとるぞ。服の方が合わせとるようじゃ」
カラカラと笑い声を上げながら、まこは京太郎の制服――執事服へと目を向けていた。
「普通の制服もあるんじゃがな、こっちの方が売れると思うてな」
「はっきり言いますね……下手な説明されるよりも潔くていいですけど」
「わしだってこの有様じゃ。無論本当に嫌ならやめてもいいんじゃよ?」
「……やりますよ。こんな服着れる機会もそうそうないですし」
「よろしい。んじゃあれがウチのルールなんで、代走・卓割れの時は頼むで」
そこから働く上での内容を大枠を口頭で説明され、こうして須賀京太郎の初バイトが幕を開けた。
朝から引き続き、京太郎の打ち筋のスイッチは至極簡単なものだった。
卓埋め要因としては当たり障り無く打ち、代走としては可能な限り益となるように打つ。
「彼、本当に大したもんだね。お客さんへの気の使い方が初めてとは思えないよ」
「うむ。やろうと思えばやっぱりやれるんじゃな……どうしてああも」
「なに?」
「いんや、こっちの話じゃ。ここで働く分には確かに申し分ない資質なんじゃが……」
呼び鈴が不意に鳴り、まこと父が振り向いた先には妙齢の女性が立っていた。
手には火の付いた煙草が摘まれている。
「や」
「いらっしゃいませ。……珍しいですね、こんな時間に」
「ま、今日は土曜だしな。それに、用もあったし」
「……申し訳ないです」
「構わんよ。若い奴の打ち筋を見るのはいつだって面白い。はいよ。あとカツ丼一つ」
誰の差金か感づいたまこの謝罪を軽く流し、煙草を深く吸って吐き出す。
携帯吸い殻入れに煙草の吸殻を入れて女性は場代を父へと差し出し、卓の方へと歩いて行った。
ちょうど欠けを起こした京太郎の卓へと女性は進み、ほう、とニヤリと笑みを浮かべる。
「……?」
「君が、須賀京太郎君かい?」
「……いかにもそうですけど……どうして」
「誰だ、とは言わないんだね。大したもんだ」
「『まくりの藤田』さんですよね?」
「ふっ。……気に食わないガキだね。けど、嫌いじゃないよ」
先程と似たようなニヒルな笑みをこぼし、藤田と呼ばれた女性は欠けた京太郎の対面へと座り込んだ。
「こんなしがない男子高校生を掴まえてどうしたんですか一体」
「そんなしがない奴の性根を鍛え直してくれってどっかの小娘から頼まれたんでね」
「大した女性ですね」
「随分冷静だこと?」
「染谷先輩じゃなければ消去法で一人しかいませんから」
「はっ。つくづく面白いガキじゃないか」
心底面白いと言わんばかりに藤田は口角を吊り上げた。
「それで俺に何をするつもりなんですか?」
「別に。ただ私とサシウマを握れってだけさ」
「なっ」
「別に大したもんじゃない。カツ丼一杯分でいいさ」
「そんな無茶な」
「どの口がそんなことを言うのかね。目が笑ってるぞ?」
「え?」
京太郎が初めて動揺を見せたところで、藤田は先程までのとは打って変わった温かみのある表情を見せた。
「もっとも、その負け分はわしが出すがの」
「先輩」
「巻き込んだのはわしじゃからの。気にしなくてもいいが、精々わしの顔は潰さんでおくれや」
「……善処します」
「ま、もっともそういうわけでわしは脇には入れんから、誰か2人腕利きが入ってもらうけぇな」
「別にどっちでも構わんけどもな。ま、好きにすればいい」
そうして脇に2人座った後、静かに勝負は始められた。
――――――――――
「……すみません、先輩」
「だから謝らんでいいと言っとるじゃろ。つくづく感服しとるぐらいじゃ。
あの藤田プロに微差まで食らいつけるとかおんし一体何者なんじゃよ」
「――全くだ。お前に迷いがなければ正直危なかったまであるかもしれない」
「迷い?」
そう相槌を打ったのは脇に居た一人の壮年男性だった。
「ああ。何に起因してるかまでは知らないが、打牌にまだ逡巡がある。
……逆に言えば、こいつの底はまだ見えてないってことさ」
「俺にはまるでそんな風には見えなかったけどねぇ。藤田プロにそこまで買われてるなんて大したもんだ」
「いえ……負けは負けですから」
相も変わらず済まなそうにまこへと目を伏せる京太郎に対し、まこはやれやれと京太郎の頭を撫で上げた。
「だから気にするなと言っとろうが。よしよし」
「それにしても兄ちゃんが何に悩んでるのかは興味があるな」
そう言ったのはもう一人の30前といった風な打ち手だ。
「その年は悩み苦しむ若人の時期だけどよ……ま、女か」
瞬間、京太郎の目が軽く見開かれる。それを見逃すメンツではなかった。
「やっぱそうか!若い男の悩みなんて大方そんなもんだよな!ははっ」
「女……その打ち方、どっかで見たと思えばそういうことか」
「どういう――あっ」
「察したようだな。その癖といい打ち筋といい、何か引っかかるとは対局時から思っていた」
「考えてみればすぐわかることじゃったな……どうして気が付かなかったんじゃ」
まこが予め得ていた「風越にいた」「片目を伏せる」という条件にそのまま当てはまる女性が見事に一人存在していた。
「おーい!まこー!」
「なんじゃ、この忙しい時に」
「お前んとこの部長から!なんだか『風越との練習試合が決まった』とかで――」
「……これ以上無いタイミングで事を進めなさりよるな」
どこまで考えていたかはともかく、手際の良さにまこは感心を通り越して呆れを感じた。
そこまで段取りが進んだ所で、京太郎の方が不意に口を開いた。
「誰を想像しているのか知りませんが、まるで関係のない話ですよ?」
「なら練習試合、参加してくれるんじゃろう?何も問題はない」
「うっ……」
負い目がある人間を誘導することがこれほど楽しいとは、とまこは思わず自嘲してしまった。
「ま、俺も実際詳しいことは何もわからんけど、些細な事で行き違いになってるんならそれほど不幸なことはないよ?須賀君」
「貴方ぐらいの年がおっしゃると重みが違いますね……」
「そうそう。おっさんが言う通り、見たところ未練タラタラみたいだし出たとこ勝負ってのも面白いぜ?兄ちゃん」
思いもよらない人生相談の様相を呈し、京太郎は「……はい」と苦笑交じりに応えることしか出来なかった。
「決まりじゃな。来週までは京太郎、ここでしばらく働くとええ。そのうち向こうからお声がかかるじゃろ」
「わかりました……わかりましたよ」
「上手くいくといいな!兄ちゃん」
「ああ全く」
藤田を含めた卓全員からの激励に、京太郎は半ばやけくそ気味に観念するしかなかったのだった。
以上、無駄に話が膨らんでしまったがなんとか纏めた
次でやっとスレタイが邂逅するかと
ところで別の世界線で
「念願のキャプテンと付き合い始めるも、なんでも出来過ぎるキャプテンに対し劣等感に苛まされ続けて不意にキャプテンを暴力的に犯そうとし、
怖がるキャプテンを見て思わず我に返り罪悪感のあまり壊れかけるもキャプテンの溢れる母性に包まれて自分を取り戻す」
って話思いついたんだけど誰か書いてくれないかな
週末は「二日」あったッ!
すいませんちょっと仕事絡みで凹んでました
どこまで書けるかわからんですがいきます
「……咲?」
「うん。その……よかったらでいいんだけど」
妙にいじらしい咲の様子は京太郎にとってもいかにも可愛らしかった。
断る理由もなく快諾しようとしたところ、
「ーーっす、須賀君!」
「……はい?」
背後から聞こえたいかにも聞き馴染みのある声に、若干の怯えを含めつつ京太郎は振り向いた。
「風越の部長さん」
「えっと、その……須賀君、いや、京くん……一緒に組まない……かしら?」
「京くん……」
美穂子のなりふり構わぬと言わんばかりの主張に咲は驚かされるも、京太郎の態度はあくまでそっけなかった。
「…………生憎、もう先約が決まってしまったので」
「そ……そうなの。それじゃ、仕方ないわね」
それは咲からしても只事ではない空気を感じ取れたのだが、だからといって手に入れた席を敢えて譲るほどのお人好しでもなかった。
「じゃあ、美穂子さんは私と組んでぶつかりましょうか」
「た、竹井さん!?」
急に肩を掴まれてトントン拍子に話が進む様子に美穂子は困惑させられた。
「今は何はともあれ接触を増やさなきゃ、でしょ?」
「……それはそうですが……」
京太郎たちに聞こえない程度の小声で意思疎通を図る。
「そういうわけで、いかがかしら?"京くん"」
「……好きにしてください」
「もちろん好きにさせてもらおうかしら。ね?美穂子さん」
「え?あ、はい」
露骨に眉間に皺を寄せた京太郎の返答を久はあっさりと聞き流し、他の部員達にもおいおい卓を囲むよう指示を出した。
―――――――――――
試合展開としてはがっぷり4つの様相を呈したが、その2チームのスタイルは互いに全く異なった。
片や悪待ちとオーソドックスな待ちの使い分けで単純に当たり牌を広げる久・美穂子のペア。
そちらがある意味で全うなコンビネーションであるとすれば、もう片方は異質と呼ぶべきコンビであった。
咲がチラリと京太郎を見やり、京太郎はわかってると言わんばかりにオタ風牌を切り出す。
「ポン」
久と美穂子は意図がわからずに困惑するが、一巡後にその意味がわかった時には既に遅かった。
「加カン!……ツモ!嶺上開花ドラ3、満貫です」
「……!」
相手2人はその息の合い方に驚愕していた。
単純に咲の特性そのものもあるが、それ以上に京太郎の献身に対してだ。
先程京太郎の切った牌は捨て牌の構成的に考えておおよそ持っているはずのない牌だった。
つまり、咲が対子として重ね、かつ有無を言わさず上がれるタイミングまで抱え続けていたことになる。
「……悔しい」
美穂子がボソリと言った言葉は久にしか聞こえなかったが、その心意を図るに十分すぎる一言に、久は内心シニカルな笑みを浮かべていた。
それだけではない。
今度は逆に京太郎が咲を見やり、咲が頷くと、
「リーチ」
それに対しセオリー通りに現物を通す2人に対し、
「カン!」
咲が暗槓を宣言し、それを受けて京太郎が次の牌を引く。
「……ツモ。リーヅモドラ3。裏1で跳満です」
無論、表ドラの3枚は咲が直前にカンしたことによる新ドラだ。
良くも悪くもツモとロンのバランスで考えた戦略の部長ペアに対し、咲・京太郎のペアはいわばほぼガード不能のツモり戦略で組み立っていた。
初見殺しの要素もあったとはいえ、その結果は歴然たる点差として現れたのだった。
「いやー……なんというかとんでもないわね。特に咲、いくらなんでも見えすぎでしょ」
「とんでもないですよ。京ちゃんのおかげで勝てたんです」
「お前の見立てがなかったら2人相手にそうそうリーチなんかかけられないさ。胸を張れよ」
「――うん。やっぱり私達、"ベストパートナー"だよね!」
「ええ、そうね。それじゃあ、そろそろ練習試合もお開きにしましょうか」
「……」
意図的な強調が感じ取れないほど美穂子も子供ではなく、彼女の外面からは考えられないほど内心は強く歯噛みしていた。
見るからに顔が青い美穂子を横目に見つつ、
(悪いわね。でも、これで仕込みは整った。後はその場の状況次第かしら、ね)
見る人が見なければ分からない程度のその微かな笑みを、見る人の一人たる副部長が怜悧な視線とともに見据えていた。
――――――――――
翌日・日曜
roof-top
「――で、成果は上がったのか」
「ええとっても」
「……とてもそうは思えんが」
久の自信満々な顔に対し、いかにも眉唾の様子で藤田プロは問い返す。
藤田からする『成果』とは、無論聞き及んでいる京太郎の美穂子との関係についてだ。
「藤田さんの考える意味ではそうでしょうけど」
「……どういう意味だ?」
「他に優先すべき成果が上がった、というところじゃろうかの」
「あら、まこ」
「……否定しないということは図星か。ろくな運命辿らんで、おんし」
「否定はしないけれど……肯定もしてないわよ?」
「どういう意味じゃ?」
「おい、私を置いてけぼりにするな!」
煙管を2人の合間に通し、説明を要求する藤田。
「つまり、斯く斯く然々で……、――後は龍門渕の動向次第ってとこ」
「下衆じゃな」「刺されても文句は言えん」
あまりにも率直な感想に久は予想通りと自嘲をないまぜにした笑みを漏らした。
「勿論よ。でも、私も必死なのよ、県予選を勝ち上がるために、ね」
「――はぁ。やれやれ。わかった、この一件はわしの腹の底に仕舞っておいてやるわい」
「さっすが、まこは話がわかるわねぇ」
「……‥…まあ、それぐらいの荒療治のほうがあの小僧にとってもいいのかもしれんが」
大会までの一ヶ月半程度を慮り、藤田は吸い込んだ煙管の煙を大きく空へ吐き出した。
今日の投下は以上にしときます
あと数レスで一段落つきますかね……
このSSまとめへのコメント
くそパクリSS
ネタ尽きたからってパクるなよ
まんま久咲キャプじゃねぇか