Elona×魔王勇者です。
基本ストーリーは調べてから書いてますが間違ってたらごめんなさい。
所々ゲーム中のネタやイベントを盛り込もうと思ってますがVer1.16fix2(クリスマスではありません)しかやってないので他Verのイベントとかは分かりません。その辺はご容赦ください
ゲームしながらのんびり書こうと思いますので超遅筆ですがよろしくお願いします。
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ザアアアアア……
天候は雷雨、海辺にて。遠目からは水死体としか思えないようなものが、雨に打たれていた。
???「う…ぐ……魔王め……」
???「戦士、何があった……魔法使い、状況は?……」
???「……どこだ、俺の……俺の大切な…………」
男の目は、開かれていなかった。まるで男は何かを掴むように手を伸ばす。
当然の事ながら、手の先には何もない。そして…
…ガクッ
力尽きた。
この世界にこの男の存在は完全な異物であった。
しかし何故異なる世界から、似て非なるこの世界へ男が飛ばされたのか。
まだ誰にもわからない。
雷雨が勢いを増して、いよいよ男の命が消えそうな時、とある二人組が現れた。
男「雨がひどいな……あそこに洞窟がある。そこでひとまず休もう」
女「ちょっとまって、人が……」
男「また、水死体だろう。最近どこかの船が沈没したらしいからな。」
女「……」タッ
男「おい?」
二人組の女の方が、倒れている男に近づいた。
女「この人生きてるわよ!」
男「……早く洞窟へ避難するぞ」
男はそんな彼女を見て、これ以上面倒事を増やすな、と思ったがすぐに別の案が浮かんだ。
ー洞窟ー
???「……う」
男「もう意識が戻ったのか?驚いたな。てっきりこのまま衰弱死すると思っていたんだが。」
???「……」
目は完全に開き、ゆっくりと体を起こす。
男「君は重傷を負い海辺に倒れていた。この雷雨で君の命が吹き消される前に、癒し手の力を持つ我々に発見されたのは全くよくできた偶然だ。」
???「……癒し手…魔法使い?」
男「そうだ。我々に拾われた幸運を素直に喜ぶべきだな。瀕死の君を回復させることは、ここにいるラーネイレ以外の何者も不可能だったろう。彼女はエレアの…」
ラーネイレ「ロミアス、喋りすぎよ。たとえ意識の朦朧とした怪我人が相手だとしても。」
ロミアス「…そうだな。私の悪い癖だ、わかってはいる……」
介抱された男が一番最初に得た情報は、男の名前がロミアス、女の名前がラーネイレだという事だけだった。
ロミアス「さて……君の名前は?」
???「俺…は……」
???「勇者だ」
ロミアス「……それはユウシャという名前なのか、勇者という職業でもあるのか」
???「…わからない。それ以外何も思い出せない……」
ロミアス「……仕方ない、これから君の事は勇者と呼ぶ。」
勇者「ああ、構わない。……多分ずっとそう呼ばれていた…気がする。」
ロミアス「まあいい。勇者、見たところ君はノースティリスの人間ではないようだ。余計な世話でなければ、雷雨が止む前にこの土地での生活の知恵を授ける程度の時間は割けるのだが。」
勇者「ノースティリス?」
ロミアス「……どうやら重度の記憶障害のようだ。」
ラーネイレ「この世界の事を話せば思い出すんじゃないかしら?」
ロミアス「ううむ面倒だが……どうせ旅はまだ再開できない。いいだろう」
勇者「すまない、ありがとう」
ロミアス「ふん……」
*保存*
とりあえずここまで
勇者はロミアスから、以下の事を聞いた。
数年前、一ヶ月の間降り注いだ雨が止んだ後、東の大陸では人の住めない異形の森が急速にその範囲を拡大するという現象が起きていた。
東の大陸から、ここノースティリスと呼ばれる大陸へと難民が続々と流れ着く中、西の大陸のとある国の王子は、この異変は10番目の文明、レム・イドを滅ぼした災厄によるものだと主張し、異形の森とそこに住む民を根絶するべきだと言う。
異形の森は正式名称をヴィンデールの森といい、そこに住まう民はエレアと呼ばれているが、
エレアが人の住む土地から離れても対立の溝は埋まらず、人類によるヴィンデール掃討は目前へと迫っている。
勇者「つまりまとめると、前の文明…レム・イド?…が滅んだ災厄が、その異形の森のせいで今世界に降りかかろうとしている」
勇者「西の大陸の国はその異形の森とそこに住む民を根絶しようとしている。」
勇者「異形の森…ヴィンデールの森の民エレアは、それまでは普通に人と暮らしていたのに、その話によって逃げるしか無くなった……」
勇者「そして話は進み、人類はその森と、その民を掃討しようとしている…」
ロミアス「私達は本当にその異形の森のせいなのか、エレアは掃討されなければならないのか。それを調べて伝える旅に出ているのだ」
ラーネイレ「ロミアス……」
勇者は、ラーネイレが何故ロミアスの名を呼んだのか、気にも留めなかった。
勇者「なるほど?」
ロミアス「そこでだ、君にも手伝ってほしい。真実を得るために。」
勇者「……わかった、あんたがたは命の恩人だからな、やれることはやってみよう。」
ロミアス「頼んだ……それと、君が倒れていた所にあったものがアレだ。記憶にあるかどうか分からないが一応確認しておいてくれ」
勇者は立ち上がり荷物を確認する。しかし案の定、その荷物が本当に自分の物なのかさっぱりわからないままだった。
勇者「何から何まですまないな…ん?この鞘だけってなんだ?剣は?」
ロミアス「残念だがその中身は最初から無かったぞ。」
勇者「うーん……何か大事な物だったような気がする……一応持っておくか」
勇者は記憶の微かな欠片を拾った。
ロミアス「そうだ、君は冒険者のような格好をしているが……ああ、記憶が無いんだったな」
勇者「ああ、すまない」
ロミアス「…戦う事はできそうだ……」ゴソッ
ロミアスはモンスターボールを取り出した。
ロミアス「今からモンスターを召喚する。実力を知りたい。倒してくれないか?」
勇者「おいおい、武器ないぞ」
ロミアス「大丈夫だ、弱い敵だからな。素手でも勝てる。が、私はどう戦うのか知りたい。君も、自分がどう戦っていたか思い出したくはないか?」
勇者「……そうだな…わかった」
勇者がそう言うと、ロミアスは勇者の足元にモンスターボールを投げた。
割れたモンスターボールからは、プチが現れた。
プチを見た勇者は無意識に、言葉を発した。
勇者「……スライムみたいだな」
ロミアス「スライム?そいつはプチというモンスターだ。あの厄介なヤツと一緒にするな」
勇者「……?」
勇者は自分でも自分が発した言葉にひっかかった。勇者は少し記憶を取り戻した。
この世界にも、スライムと呼ばれるモンスターはいる。この世界のスライムは酸を分泌し、武器や防具を傷つけるのだという。
*ぷちゅ*
ラーネイレ「やるじゃない」
勇者「なあ、弱すぎないか?」
ロミアス「……そうだな」
話にならないほどに瞬殺だった。しかしプチとはいえ素手で瞬殺できるという事は、やはりこの男、相当に実力を持っているようだとロミアスは悟った。
…しかしこの後二人組はさらに驚愕することになる。
ラーネイレ「雨、止んだみたいよ」
ロミアス「よし、最後にノースティリスの地理について少し説明しよう。シエラ・テールには幾多の国が存在するが、ノースティリスはどの国の支配も受けておらず、《ネフィア》と呼ばれる迷宮群が存在する特殊な場所だ。この地では、地殻変動とともに新しい迷宮がしばしば作成される。」
ロミアス「迷宮の主を倒すと貴重な物資や財宝が手に入るため、冒険者にとっては格好の収入源になるわけだ。」
ロミアス「最初は南の方角にあるヴェルニースを訪れるといい。ネフィアの迷宮群を巡るのも、戦いで自分の記憶を取り戻す貴重な経験になるだろう。」
勇者「わかった。……ここに落ちてあるものはとっていいのか?」
ロミアス「ああ、しばらくはここが君の家だ。家を建てるのもいいが、権利書が無いとダメだからな」
勇者「ふんふんなるほど」
ロミアス「私達も、そろそろ出発する。今のうちに分からない事は聞いてくれよ?」
勇者「そうだな……この折れた剣は武器として使えないのか?」
ロミアス「君は倒せない武器で敵に挑むのか?まだその辺りの棒を使った方がマシだぞ」
勇者「この杖は?」
ラーネイレ「さあ?もともとこの洞窟に落ちていたものだから、誰かが落としていったか、置き忘れたかじゃない?」
ロミアス「そうだ、拾ったばかりで鑑定の済んでないものは何が起こるかわからないから安易に……」
勇者「……ふーん」ブン
使わない方が良い、と言おうとした……が遅かった。
ロミアス「おっおい!?」
ラーネイレ「ちょっ……と!!」
勇者が振った杖はサモンモンスターの杖だった!
ランダムでモンスターを呼ぶ、場合によっては恐ろしい事になりかねない杖だ!
……そして今、その恐ろしい事になっている。
ロミアス「……厄介な事をしてくれたね……」
現れたモンスターは、カミカゼイーク・ファイアハウンド・ファイアドラゴンだった!
ラーネイレ「私はファイアハウンドを倒すから、ロミアスはイークをすぐに!」
ロミアス「わかった!!」
二人は慌てて武器を取りに行こうとした……が。
ファイアドラゴン「ゴアッ!!」
ボオオオウッ!!!
ファイアドラゴンの放った炎の壁に遮られてしまった!
ラーネイレ「嘘でしょ!?」
勇者「すまん、召喚の杖だったか。俺が招いた事だ。俺が片付けよう」
二人は目の前に居るファイアドラゴンの強さを知っている。だから勇者が言ったのんきな言葉など微塵も聞いていなかった。
が。
勇者は身体に染みついた戦闘能力を思い出しながら無意識に動いた。
勇者の魔法ですけど、「メラ」系のドラクエ基準と、Elona基準と、オリジナルの魔法どれがいいですか?
一応僕はドラクエやったことないのでドラクエだと呪文調べて使わせます。Elona基準は……別世界から来たのに勇者が使うと違和感が。
そしてオリジナル魔法は「獄炎!」とか「超氷結呪!」とか、そういうの。
おっけーです、オリジナル…とは言えないですけど火炎呪とかでいきます
ロミアス「おい無茶だ!一度外に……」
勇者「火炎呪!」ボオオオッ!
ファイアドラゴン「ガアアッ!!」ボォオウ!!
ヒョイッ!
勇者「あーそうか……」
だんだん思い出すモンスターとの戦い方。呪文。
勇者「超氷結呪!!」ヒュウウウ!!
ファイアドラゴン「ガ…ガ…」パキパキパキ……
ファイアドラゴンは一瞬で氷漬けになった。
二人は勇者の戦いに見惚れ、言葉を忘れた。
しかし次から次へと行う勇者の行動に、すぐに言葉を思い出す。
ファイアハウンド「ガルァッ!」ボボオウッ!
ロミアス・ラーネイレ「っあぶな…!!」
勇者「この程度の炎……」ダッ!
勇者はファイアハウンドの吐く炎ブレスに正面から突っ込んだ!
ヒュッ!
ファイアハウンド「ガルァ!?」
勇者「ハッ!!」ザンッ!!
勇者はファイアハウンドを一薙ぎして瞬殺した……折れた剣で。
カミカゼイーク「ケキャーーーッ!!」
しかしこの隙にイークに近づかれていた!
このイークは自爆する危険なイーク。しかしそんなものとは勇者は知らない。
ドォオン!!!
勇者は爆発をもろに食らった。
勇者「悪いな、今度から注意するよ」
ように見えないほどにピンピンしていた……
ロミアス「……私達は、とんでもないヤツを介抱したらしい」
ラーネイレ「ええ……そうね……でも」
ロミアス「ああ……"敵"になってしまう前で良かった……」
二人は心の底から安堵する。こんなのがエレア掃討戦の人類側であったなら、一瞬で決着が着いてしまうだろう。
しかし二人は勇者の命の恩人である。だから…
エレアである二人に敵対することは無いだろう。
ロミアス「君、あまり本気を出さない方が良いかもしれない。」
勇者「どうして?」
ロミアス「おそらく、利用される。国に。」
国。勇者は記憶の欠片を拾った気がした。
(……を倒しにいくのじゃ……)
勇者「……?」
ロミアス「どうした?」
勇者「ああ……わかった。気を付ける」
勇者「本当にありがとう。この恩はいつか必ず返すよ。」
ロミアス「ああ、必ず返してくれ。」
ラーネイレ「……仇で返さないでね。」
勇者「なんでだよっ!俺はちゃんと普通に返すよ!?」
ロミアス「はは、…そうだな。念のためだ。」
勇者「ちぇ、信用されてないなあ」
ラーネイレ「私達にも事情があるのよ。」
勇者「そっか……」
二人はやらなければならない用事がある事を伝えると、洞窟を出た。
勇者はお供しようかと言ったが、やんわりと断られた。
ロミアス「君は…まだ、巻き込むわけにはいかない」
ラーネイレ「その時が来たら、私達を選んで欲しい。けれど、結局はあなたの意志ね。」
勇者は何のことかさっぱりわからない。
けれど、恩を返すという意志は固くなった。
*スタスタ*
ラーネイレ「私達……エレアの、味方をしてくれるかしらね」
ロミアス「きっと味方になってくれるさ……」
ラーネイレ「だといいわね……」
ロミアス「それより、アイツ折れた剣で攻撃してたぞ?常識というものも忘れてしまったのか?」
ラーネイレ「前代未聞ね、ふふっ」
ロミアス「コレ、食べさせなくて良かった」
ラーネイレ「……そうね、そんなもの渡したら敵対は必至ね」
ロミアスは……乞食の死体を捨てた。
この世界では、食人をしてもあまり咎められない。むしろ好んで食べる者も居る。
どこかにはエレアの肉を好む為、エレアの民を見つけては惨殺する輩もいるらしい。
人殺し……国に仕えていない者や国民でない者、乞食等を殺しても……一般論としては咎められる事だが、この世界の法的には関係ない。
……勇者も、今まで生きてきた世界とこの世界の格差を思い知る事になる。
勇者「え、と。南のヴェルニースだっけか」
二人が出発した1時間後、勇者は南へと向かった。
…真南へ。
勇者「腹……減った……」
行けども行けども街は見えず、森は深くなり、最初こそ弱い敵だったが、だんだん強くなってきた。
――それでも、瞬殺できるレベルであったが。
起きてから何も食べていなかった。
そして襲撃。
普段なら一瞬で倒せる敵も、腹が減っては戦ができぬ。
勇者「途中途中薬草っぽいの見つけて食ってきたが……限界だ……」
勇者はモンスターに囲まれ、死を覚悟した……
その時。
???「やあっ!」ザン!
???「はあっ!」ドン!
薄れかけた意識の中で、甲高い声が近づいてくる。
???「あらら死んじゃってる」
勇者は助かった……と思っていた。しかし。
???「んー………ふふ~ん♪」ゴソッ
勇者(何ぃいいい!!!???)
なんと彼女は、勇者の所持品を漁り始めた!
???「見たところ飢えとモンスターのダメージだね、お気の毒ぅ~♪」
???「あれ?お肉あるじゃん。なんで食べなかったのこの人」
勝手がわからない勇者にとって、わけのわからないものを食べる、使うというのは、洞窟で反省したばかりだった。
???「あ!これプチのお肉じゃん!ラッキー!」
…彼女は、瀕死の勇者よりも、勇者が持っていたプチの肉に興味を示した。
プチの肉は肌がつるつるになる効果があるからだ。
???「持っててよかった携帯調理道具♪」
彼女はその場で肉を調理し始めた。
勇者(こ、この……)
いい匂いがたちこめる。この匂いが、勇者に最後の力を振り絞らせた。
勇者「こ、の、女あああああ!!!」ガバアッ!
???「ぎゃあああああ!!!」
彼女はびっくりして装備品を落としてしまった!
???「ああっ!?ちょっ待ってっ!」
勇者「待つかああああ返せ肉ぅう!」
???「あ、え?」
彼女はてっきり殺される事しか考えて無かったが、よくよく考えれば飢えで倒れていたんだから優先順位は肉だった。
勇者「食えるんだなコレ!?食えるんだな!?」
???「あ、うん…食べれる…よ……?」
勇者「うおおおお!!」ガツガツガツ!
???「…………」
勇者の間抜けな姿に唖然と眺めるしかなかった。
勇者「…ふう~~~なんとか生き延びた……」ツルツル
プチに肉の効果で肌が若干つるつるになった勇者を尻目に、
???「……餓死しなくてよかったねっ!じゃ、私はこれでっ!」
勇者「まあ待てや」ガシッ
???「……」ダラダラダラ
彼女から冷や汗が一気に流れ出す。
勇者「死体漁りってさ……盗賊とかがするもんじゃない?」
この世界の事を知らなくても死体漁りが道徳的に悪い事はわかっていた。
???「ぁぁ……はい……」
勇者「で、君は盗賊なわけ?立派な紋章つけて立派な防具持っててさあ。」
???「あ、いや、あの……」
勇者「見たところ正規に雇われてる戦士かなー?」
???「…………」
勇者「さあて!ちょっくら街に案内してくれないか!ね!?犯罪者じゃなければいいだろ!?」
???「あ、あの………」
勇者「んん?」ニコォ
???「すみませんでしたーーーっ!!」
土下座した。
しかし少女の内心は。
???(なーんてっ!隙を見せた瞬間に逃げてやるもんねーっ!)
なんとも思っていなかった。
が。
勇者「このくらいの木がいいかな、よいしょ」
ズバッ!ズシーン!
???「……ぇえ?」
勇者は近くに生えていたそれなりに幹が太い木を、真っ二つにして切り株を作った。
……折れた剣で。
勇者「ほい、土下座はいいからそこに腰かけてよ。」
???「はいっ!!!」シュバッ
スクッ!
勇者「早いな」
少女は心の中で土下座していた。
勇者「じゃあ、ヴェルニースはとっくに過ぎてるの…?」
???「はい……ここからだと北東です」
勇者「なんだよもーあの二人め……案内してくれない?」
???「えっ!あの!その……」
勇者「ん?」
???「そのぉ……今回の……」
勇者「ああ死体漁りの件か。俺の言うとおりにしてくれたら言わないから」
???「……わ、わかりました……」
勇者「そだ、君の名前は?」
???「クレアです」
勇者「んじゃ、クレア。よろしく」
少女のクレアが仲間に加わった!
クレア「あなたの名前は…?」
勇者「俺は……勇者と呼んでくれ」
クレア「ぷっ!!」
勇者「何で笑った!」
クレア「わひゃあごめんなさいぃ!!」
既に脊髄反射で土下座していた。
クレア「その、昔読んだ本にそういう登場人物いたなーって」
勇者「気になるな」
クレア「あ、でも今はもう無いですよ?」
勇者「……残念だ…内容は覚えてるか?」
クレア「うーん……登場人物に勇者と魔王が出てきたくらいしか」
ピタッ
クレア「勇者さん?」
"魔王"。この言葉に思わず勇者は立ち止まった。
勇者「………魔王……」
クレア「……?」
少女は不思議そうな顔で覗き込む。
勇者「ダメだ、まだ何も思い出せない……でも…魔王…引っかかる…覚えておこう」
勇者は記憶の欠片を少し得た。……まだ足りない。
――ある雪原の中の村。ある子どもは母親に甘えていた。
「おかあさん、またあのご本読んで~」
「はいはい、パエルはあの本好きねぇ」
「早く早く~!」
……
「勇者は魔王を倒し、平和を取り戻しましたとさ。めでたしめでたし……あら」
「…すぅ…すぅ……」
「ふふっパエルったらいつも途中で寝ちゃうんだから……」
微笑ましい家庭。母親はその例に漏れず優しい笑顔で子どもをなでた。
ただ……
普通は布団の中の子供に聞かせるが、この母娘だけは違った。
母親が布団の中で、子供が布団の上に乗っていた……
「うっ…うっ……」
笑顔なはずの母親の目からはいつの間にか涙が……
3本、軌跡を残していた。
*保存*
ここまでっす
そういえばサモンは階層に影響されるから初期家でドラゴンなんぞでないな…
まあ……ゲームの細かい設定はご都合処理で
あとストーリーざっと見したけど、だいぶ変わると思います
ヴェルニースまで、あと12マイルの地点。
クレア「あのー」
勇者「なんだ?」
少女はずっと気になっていた事を聞いた。
クレア「なんで折れた剣で戦ってるんですか?」
勇者「ああ、拾ったからだよ」
クレア「……それ武器とはいえない物なんですけど……」
勇者「だってこれしか無いし……呪われた武器とかつけたくないしさ」
クレア「えー…拾ったものもいつかは自然鑑定できるでしょう……」
偶然にも、"呪い"の知識は勇者の世界とこの世界、同じ意味を持っていた。
クレア「というか!その折れた剣だって呪われてる場合もあるんですからね!」
勇者「え」
クレア「まったく……それでもノースティリスの……あ」
クレア「……本当にノースティリスの人間ですか…?」
ようやく少女は気づいた。ヴェルニースの場所を知らない。プチの肉の効果も知らない。武器では無い物を武器として使う。
エレアだったらどうしようとも思ったが、先に思った通り、基本がなってないのだ。エレアどころか全く異質な地から来たのでは無いかと少女は感じていた。
勇者「実は……」
勇者は包み隠さず今までの出来事を話した。
クレア「いわゆる記憶喪失ってやつですか?」
勇者「そうだな。自分が勇者だって事くらいしかわからないんだ」
クレア「うーん…"勇者だ"…ということは、ユウシャという名前ではなく職業か異名ですかね」
勇者「異名?」
聞きなれない言葉に聞き返す。いや、勇者にとってはほとんどが聞きなれない言葉なのだが。
彼の異名は『○○の勇者』になるのか、それとも『勇者の○○』になるのか
クレア「はい。二つ名とも言いますね。私の知ってる人だと……"歌の純白"ニレイさんとか」
勇者「おー」
クレア「"幻の剣闘士"アルギスさんとか」
勇者「おおカッコいいな、有名なのか??」
クレア「はい。名声が高い、とも言いますね。強い主がいるネフィアを攻略したり、難しい依頼をこなしたり。」
勇者「となると、やっぱ強いのか」
クレア「ですね。アルギスさんは名声ランキング2位で、かなり強いです。」
勇者「ほほー、じゃあその、ニレイって人も?」
クレア「ニレイさんは職業がピアニストで、パーティー会場で盛り上げる依頼をこなして名声が高いんです。」
勇者「ああ、職業によるのか……じゃあ強くはないって事だな」
クレア「……」
勇者「ん?」
急に黙った少女に勇者は、何か間違ったかな、と記憶を辿ろうとしたとき。
少女は話し始めた。
少女「私が、漁業と音楽の盛んな街ルミエストにいた時の話です。」
少女「ある日パーティー会場で、そのニレイさんの演奏に出くわしたんですよ!」
勇者「ほう」
少女「いや~あれはすごかったなあ……」ポワーン
勇者「それは良かったなぁ」
少女「……」
勇者「……」
少女「……」
勇者「えっ終わり!!??」
少女「ハッ!」
勇者は別世界に行ってしまった少女を呼び戻した。
勇者「君が話し始めたんだから最後まで話してくれよ…?」
少女「すいません、つい……続けます。」
勇者「ん。」
少女「次の仕事に向かうためにニレイさんが街を出たんですね。私はちょっとサインが欲しくて追いかけたんです。」
勇者「その場でもらえばよかったのに」
少女「書くものが無かったんですよっ!!あっごめんなさい!」
思わず怒鳴ってしまった。それに対し思わず謝ってしまった。
勇者「おう……いいから続けて?」
少女「はっはいぃ!」
勇者は脅し過ぎたかな、と反省した。
この世界の最高級の演奏はアーティファクトを投げ打ってしまうレベルの素晴らしさ(実話)
実際ピアニストプレイを極めると銭には一切困らないもんなぁ…
なぜか急に少女になってる……すまん
少女でもよくね?
俺らElonaプレイヤーにとってはそっちの方がなじみ深いし
んじゃそうします。(実は自分もそう思ってたけど最初に名前書いちゃったからそのまま書くしかなかったなんて言えない)
少女「で、あれだけ目立っておいて護衛もつけず次の街へ向かったわけですよ。」
勇者「護衛付いてないの!?なんとなく予想つくなあ。」
少女「はい、盗賊団に襲われました。」
勇者「ああ……大丈夫だったのか?」
少女「……結論から言うと、瀕死の重傷を負いました……」
やっぱり、と勇者が言おうとしたら。
少女「盗賊団が。」
勇者「……はっ?」
……少女は遠い目をして語り始めた。
少女「やっぱり、それなりに有名だとそれに応じて盗賊団も強いのが襲ってくるんですよ。」
少女「私はもう少しでニレイさんに追いつく所だったんですけど、既に盗賊団に囲まれてて……」
少女「一応助けようと思ったんですけど……その……お恥ずかしながら、武器は色紙とペンでした……」
勇者「……くっ」プルプル
勇者は我慢強くなった!
少女「まあ、助けを呼びに戻ってもとても間に合わなかったので、ハラハラしながら見てたんですが……」
少女「ニレイさん、会場に居るときはギター持ってたのに、いつのまにかピアノを"持って"たんですよ。」
勇者「ちょっとまっておかしい」
少女「そして次の瞬間には……見るも無残な……盗賊達の山が……」
少女は、勇者に植え付けられたものとはまた別の恐怖を思い出していた。
勇者「……」
少女「ニレイさんは笑って叫んでました……」
少女「『私が護衛付けない理由がわかるぅ!?てめぇらみたいなバカが売れるものを持ってきてくれるからさ!!ハッハァー!!』」
勇者「……」
少女「私は無心で街へ戻って、宿で真っ白な色紙を眺めながら小一時間固まってました……」
プラスには『釘ストラディバリウス』というアーティファクトがあってだな…
少女「とまあ、ニレイさんの本当の姿を見れたという話です」
勇者「ドン引きだな」
少女「はい……演奏は素晴らしいんですけどね……ああ一応、他のぼちぼち有名なピアニストさんは基本護衛付けて移動してますよ。」
少女「よく掲示板に護衛の依頼として書かれてますからね。私の生活費を稼ぐ手段の一つでもあります。」
少女は現実離れした例外がいるだけであって、皆が皆そうではないと注釈する。
勇者「……なるほど、個人によるのか」
少女「……そうですね」
勇者「ピアノを振り回すとか……」
少女(あなたも大概ですけどね。)
少女にとって勇者も十分例外な存在だった。
*保存*
ここまでなんだけどまだヴァルニース着いてないな…('A`)
乙だ
ヴェルニースの酒場では安心してピアノを弾くといい(ニヤリ
乙
×ヴァルニース ○ヴェルニース
>>77
あの赤いヤツか…懐かしい…
それとたかがヴァリアントの話題一つでぶち切れる人もいるんだね
ぐわっギターじゃないストラディバリウスはバイオリンだちきしょー
>>78
ありがとうヴェルニースだ
SSの中では間違ってなくて良かった
書き溜め無いけどちょっとずつ投下しまっす
勇者「ここがヴェルニースか」
少女「じゃっそれでは!」
勇者「ん?」
少女「ヴェルニースまでの案内でしたよね!」
勇者「何言ってるんだ君は」ガシッ
少女「ええーーっ!もういいじゃないですかーー!!」
勇者「みなさーんこの子は倒れてる人の装備品を漁るムグッ」
あわてて少女は勇者の口をふさぐ。
少女「ごめんなさいついていきます勇者様ぁ!」
条件反射土下座。
勇者「よろしい」
と、コントをやっている所へ兵士が近づく。
ザッザッザッ
兵士「おい!!」
勇者「…ん?」
兵士「そうだお前らだ!」
少女「はあ」
兵士「貴様らはエレアか!?」
勇者「エレア…たしかヴィンデールの?」
少女「違いますよ!あんなのと一緒にしないでください!」
勇者「……」
…勇者は、エレアと聞いて一変した少女に驚いた。
兵士「~~~」
少女「~~~!」
兵士「わかったもういい……」
兵士は様々な尋問をしたが、少女の剣幕に負かされた。
少女「ふんっ!」
勇者「なんでこんな質問するんです?」
勇者は怪訝な目で兵士を見た。
兵士「……今はザナンの皇子、サイモア様がはるばるヴェルニースに遊説に来られている。」
兵士「不審な人物を近づけさせぬよう警戒しているのだ。……貴様らも早く遊説を聞きに行くがよい」
勇者「はぁ…」
少女「なぁんだそうだったんですか!行きましょう勇者さん!」グイッ
勇者「あ、ああ……」
勇者(……)
勇者の、少女に対する何とも言い表せぬ感情が膨らんでいた。
ストーリー理解するのに時間かかってる……
イルヴァ史料館でも見てきたら?
公式サイトからリンクor「イルヴァ史料館」で検索でいけるはず
>>92さんくす!じっくり読んでくるよ
ざっと見たけど思ったより長くて複雑だったわろえない
まあでも勇者が入ってきた時点でパラレルストーリーだと思っていただければ…
要するに、今後ともご都合主義をよろしくお願いします。
ー広場ー
ザナンの皇子サイモアは、貧弱な体ゆえに側近に支えてもらいながら、演説を行っていた。
サイモア「戦争…シエラ・テールを襲うかつてない危機に、血と炎に身を染めた国々は気づかないのだろうか?災いの風が我らの森をむしばみ、今このときにも多くの同胞が命を落とし、その土地を奪われているというのに。異形の森と異端の民エレアが、レム・イドの悪夢の残骸《メシェーラ》を呼び覚まそうとしているのに。」
サイモア「イルヴァに遣わされた大いなる試練は、同時に結束の機会である。もし我々が互いに争うことをやめ、他者を理解することを学び、共に手をとり立ち向かうならば、腐った森と異端児をこの地から一掃し、災厄に打ち勝つことも可能なのだ。」
サイモア「今日のザナンに大国を動かすかつての影響力はない。然るに、私が成せる事は、諸君に知ってもらうだけだ。二大国に迎合せず確固たる地位を築いたパルミア、そしてその忠実な民の決意こそが、シエラ・テールの希望であることを。」
イルヴァ:この地。地球に値する名称。
ザナン:西の大陸に存在する国家の一つ。
皇子サイモア:亡き兄・クレイン皇子のあとを継いだ。
二大国:魔法大国エウダーナと、新王国機械文明イェルス。戦争を行っていたが、今は停戦状態。
シエラ・テール:時代の名前。十一紀「シエラ・テール」。前の十紀が「レム・イド」。
サイモアは、
「イルヴァの大国、「エウダーナ」国と「イェルス」国の休戦からの傷もいえぬまま、
異形の森とエレアが、先文明を滅ぼせしめた《メシェーラ》という災いを呼び起こそうとしている。
これまでは、大国同士でいがみ合っていたが、今は手を組み、
人類存亡の脅威である異形の森とエレアを一掃すべきであり、二大国のどちらにも属しておらず、
中立姿勢を保っている大国、ここパルミア国民の支持を得る事が必要不可欠なのだ」と説く。
ワアアアアアアア………
勇者「む?」
少女「ありゃ」
勇者と少女が広場についた時、既に演説は終わっていた。
皇子サイモアは観衆を見渡し、その貧弱な体で側近の手を借りながら護衛の元へ行く…予定だったが……
サイモア「……」
勇者「……」
一秒にも満たなかったのか、あるいは数秒だったのか。
目が合った二人は、互いの内に存在する何かを感じ取った。
少女「ゆーしゃさん!」
勇者「はっ!?」
少女「どうしたんです?」
勇者「あ、いや……」チラ
皇子は既に護衛を周りにつけ、どこかに用意してあるだろう宿へと向かっていた。
少女「んー、演説聞けなかったなあ……そうだ、これからどうするんです?」
勇者「そうだな……」
……
ー子犬の洞窟ー
少女「まってぇぇぇぇええ!!」
子犬「わんわん!」タタタッ
勇者「……」
勇者は洞窟の隅で少女と子犬の微笑ましい追いかけっこを眺めていた。
少女「あれっ!?どこに……」
子犬「わんっ!」
少女「そこかっ!うおりゃーーー!」ダッ
子犬「わんわんっ♪」タタッ
少女は完全に弄ばれていた。
勇者「ふぁ……寝るか」ゴロン
少女「はあっはあっ……て、手伝ってくださいよ!!!!」
勇者「やだよ、君の受けた仕事だろ?」
少女「うう…そうなんですけどぉ……すばしっこくて……」
勇者「はぁ……なんでこんな事になってるんだか……」
少女「……すみませぇん……」
*保存*
~回想~
少女「んー、演説聞けなかったなあ……そうだ、これからどうするんです?」
勇者「そうだな……」
勇者「とりあえず、依頼をこなしてみよう。どんなのがあるんだ?」
さっそくネフィアを潜るのも良いかと考えたが、この町にお世話になるだろうと思い、掲示板の依頼というものをこなしてみようと考えた。
少女「それではこの街の掲示板を見てみましょう。こっちです」
…
ガード「どうもこんにちは、お名前を聞かせてもらえますか?」
ガード。この町を守る兵士であり案内役でもある。
様々な年齢層が働いているが、重要な役に付いているガードほど実力が高い。
勇者「え?」
少女「ああ、名声に合った依頼を選んでくれるんです」
少女「名声が低いと依頼主の不信感から断られたり、実力もないのに高度な依頼を受けて命を落としたりしますからね」
勇者「なるほど?……あー」
少女「……二つ名だけでも確かいけます…よね?」
ガード「ええ大丈夫ですよ♪」
勇者はまだ自分の名前は思い出していない。二つ名だけでも大丈夫ということに安堵した。
勇者「じゃあえっと、"勇者"で」
ガード「了解しました、勇者様ですね。ええと……」
ぱらぱらと、名簿のようなものをめくっていた。
ガード「んー…一覧に無い……ので新規ですね。ではこちらの依頼をどうぞ」
勇者「どーも、なになに……収穫依頼に…料理に……研究として動物の骨……しょ、しょぼい……」
少女「あは!そんなもんですよ!たぶん今の勇者さんは高度な依頼受けても、依頼主さんに断られちゃいます!」
勇者「むぅ……じゃあこの、動物の骨で」
ガード「かしこまりました。ではガードのエロレーの所へ行って依頼を受けてきてください。」
勇者「あ、ガードの人も依頼するんだ……」
ガード「はい、一応この町の住人ですからね。」
勇者「ああえっと、エロレーさんはどこにいるんです?」
ガード「私です」
少女「ぶっ!」
勇者「……」
ガード「期限はここにある通り4日後です!お願いしますねっ♪」
二人は完全に意表を突かれた。目の前にいるのが依頼主だと誰が気づけようか。
勇者「……あの、動物の骨なんて何に使うんです?」
勇者はなんとなく聞いてみた。
ガード「…知りたいですか?♪」
勇者「あ、やっぱいいです」
ガード「そうですか♪」
なんとなく聞いてはいけない気がした。
???「あっお姉ちゃん!!」
勇者達が依頼を受け終わると、9歳くらいの女の子が走ってきた。
少女「んっ?」
勇者「……妹いたのか」
少女「いや、いないですけど……あれ?この子どっかで……」
少女は何か大事なことを忘れていたような気がして、必死に記憶を辿る。
勇者「君、名前は?」
リリアン「あっえーと、リリアンって言います!」
少女「んー……リリアン……?」
……少女はだんだん、自分がやってはいけない事をやっている事に気づく。
勇者「どうしたんだい?」
少女「あっ!!!」
リリアン「お姉ちゃん、ポピーまだ~?」
少女「………」ダラダラダラ
少女はあろうことか依頼をすっぽかしていた。
勇者「……んーと…詳しく聞かせて?」
要約すると少女は、子犬さがしの依頼を受けているのにも関わらず、その依頼を忘れて冒険、勇者と出会うに至るということだった。
~そして今に戻る~
勇者「なんで忘れたんだよ」
少女「だって宝の地図が出たんですよ!?行くしかないじゃないですか!」
勇者「……宝なんてあるのか?」
少女「ええそれはもうスゴイレアな武器や防具がわんさかですよ!」
勇者「そんな物持ってないように見えるが?」
少女「……」
勇者「お前まさか宝の地図に釣られて依頼をすっぽかした挙句、結局見つからないっつー……」
少女「ええそうですよ悪いですか!うわーん!!」ブワッ
少女は泣きだした。
勇者「……まあなんだ、期限のない依頼で良かったな。もし期限あったら名声下がるんだろ?」
少女「ぐすっ……まあそうですけど……」
勇者「はぁ……もう帰るぞ。動物の骨あったし、これ以上は暇だ」
少女「わー!せめて子犬捕まえてからでお願いしますよーーー!!」
勇者「だから、帰るぞ」ダキッ
勇者は、少女がいくら頑張っても捕えられなかったものを持っていた。
子犬「くぅん♪」
少女「えー……」
勇者「バカだろお前、追いかけたら逃げるんだから追いかけずに餌やりゃいいだけだろ」
少女「がはっ……」orz
少女の精神は痛恨のダメージを負った!
*保存*
うわあ一週間以上もあいてる……眠くなるまで投下します
ー同刻・ヴェルニースの酒場ー
下級兵士「~……あぁダメだ、酒がまずくなってるなあ」チラッ
ザナン軍の下級兵士はわざとらしくつぶやく。
下級兵士「つうかよ~、ここはちゃんとした服も着れない貧乏人が来るところじゃねーんだよなあ~」
下級兵士「……てめぇの事だよ!!」ガタンッ!
???「……」
下級兵士「おい!聞いてるのか!?」バン!
ゴトッドボドボドボ……
兵士がボロ布をまとった男のテーブルを強くたたいた。酒の入った瓶が倒れ、中身が零れた。
バーテンダー「ちょいとロイターさんよ、ああいうのは困るんだが……」
ロイター「……」グビッ
ガタッ
部下の騒ぎに赤髪の仕官、"ザナンの紅血"ロイターは手元の酒を飲み干すと、静かに席を立った。
下級兵士「こういう布はなあ!テーブルを拭くのに使うんだよ!!」ガッ!
兵士がボロ布をまとった男の頭を掴んで水浸しになっているテーブルに押さえつけようとした。
しかし。
ヒュッ
下級兵士「あ!?」
ガタンッ!
下級兵士「いでぇっ!?」
バーテンダー「おおっやるな兄ちゃん!」
からまれた男は素早く、かつ無駄のない動きで逆に兵士をテーブルに叩き付けた。
下級兵士「てめぇええ!!」バッ!
逆上した兵士が剣を抜こうとしたその時、
ロイター「何事だ」
下級兵士「!!!」
兵士は我に返り、剣を抜こうとする手を離して上官に向き直った。
ロイター「……お前は……」
ロイターはボロ布をまとった男の正体を知っていた。
下級兵士「隊長!なんでもありません、ただこのボロ布をまとった男が我々の酒をまずくしているのは事実!少し痛い目に合わせて追い返しましょう!」
ロイター「やめておけ」
下級兵士「しかし隊長、そうしておけば物乞い箔がつくってもんです」
下級兵士は既に、みっともない姿をさらけ出してしまった事に対して仕返しがしたいだけであった。
ロイター「誰のために言ったと思っている?ザナンの白き鷹、それがお前の目の前にいる男だ。…しばし二人だけにさせてもらう。」
ロイター「こんな所に居たのか……そのなりはなんだ、世捨て人にでもなったつもりか?」
???「……」
ロイター「国中の誰もが認めたその才能を、功績を脱ぎ捨ててこんな小汚い酒場の隅で死人の目をしている」
ロイター「これが俺の好敵手であった"ザナンの白き鷹"ヴェセル・ランフォードか?」
ロイターが話しかけているのは、かつて"ザナンの紅血"ロイターと対をなすライバル・"ザナンの白き鷹"ヴェセルであった。
しかし国を捨てたヴェセルに、昔ほどのオーラはなく、代わりにぼろ布をまとっているばかりで、ロイターは酷く落胆した。
ロイター「……そうして欲望を捨て、罪人のように暮らす事があの娘の供養になるとでも?」
ヴェセル「その話は聞きたくない。」
ロイターの昔話に、初めてヴェセルは反応を示した。
*保存*
少しだけですまない…難しい…
金貨千枚一万枚持ち歩くとかちょっとおかしいので、千円、一万円みたいな感じで十金貨、五十金貨、百金貨、五百金貨、千金貨、五千金貨、一万金貨があるものとします。
書き溜め無いけど投下スルヨ
ヴェセルは素直に拘束された。
同刻、勇者と少女は依頼の品と子犬を届けにヴェルニースに戻ってきた。
リリアン「おかえりポピー♪えへへ」
犬好きの少女リリアンはやっと帰ってきた子犬を抱きしめて撫でる。
リリアン「おねえちゃんありがとー!あっこれ依頼料です!」チャリ
差し出したのは千金貨2枚と百金貨5枚、それにプラチナ硬貨2枚。
少女「はーいどういたしましてー」
勇者「待て」
少女「はう!」
勇者が間に入った。
勇者「今回お前捕まえてないだろ」
少女「……」
……
少女「もぉおおお!!依頼なんですからもらってもいいでしょう!!??」
勇者「ダメだ。自分でやって初めて依頼完了だ」
少女「く……クーラーボックスはもらっておいて……」
リリアンは無料で依頼をしてもらうのは母に怒られると言い、かわりにクーラーボックスを渡してきたのだ。
勇者「コレは俺の報酬だ。俺が捕まえたんだから当然だろ?それに旅には欠かせないからな」
少女「この……自分で持っててくださいよ!!私持ちませんからね!!」
勇者「?…ああそのつもりだが」
少女「……シャーーー!!!」
少女は威嚇して感情をあらわにしたが勇者は気にも留めていなかった。
勇者「腹減ったな。飯はどうするんだ?」
少女「知りませーん!餓死すればいいじゃないですかー!」ベー
勇者「死体漁…」ボソ
少女「ご案内しまーす」
ーヴェルニース・酒場ー
ヴェセルの拘束で少し兵士は減ったものの、まだロイターや残りの兵士は酒盛りを続けていた。
*がやがや*
勇者「あれ?あっちにパン屋があったが違うのか?」
少女「あっちはどっちかというと旅用の食糧、って感じですね」
少女「それに売ってるものは小麦粉や生麺で、自分が調理しないといけませんし」
勇者「ふーん」
少女「まあ、宿屋でも食事はありますけど、まだそんな時間でもありませんから」
太陽は傾きかけているが、まだ高い。
少女「このへんで適当に頼みましょう。すいませーん!」
???「はぁーい」
兵士「……」ジロジロ
勇者「……?」
勇者達は空いているテーブルに座った。心なしか周りからの視線が集まる。
少女「あっシーナさんだ!ラッキー♪」
勇者「ラッキーなのか?」
少女「はい♪看板娘さんですから、中々人気で応対してくれないんですよー♪」
さっきまでの不機嫌だった少女は一遍して上機嫌になった。
勇者「なるほど、どうりで……」
勇者は数々の視線は自分たちではなく、看板娘シーナに向けられているものだとわかった。
シーナ「ご注文お伺いします♪」
少女「えーと、目玉焼きとー、ピリ辛炒めとー…勇者さんは?」
勇者「んあー、適当でいいよ。腹がふくれたら」
少女「そうですか、それじゃー……あ、二つずつで!」
シーナ「はいかしこまりました~♪」ニコ
スタスタスタ……
少女「あーかわいいいいいー!!」
勇者「……」
大興奮する少女。
勇者「そんなにか?」
少女「いやかわいいでしょ!!そう思いません!?」
勇者「いい尻してんなとは思ったけど」
少女「…………」
飯っすー
…
少女「っぷはー!食ったぜぃー!」
勇者「ちょっくら酒飲もうかな、酒場だし。すいませーん!」
シーナ「はぁーい」
勇者「酒って何があるんです?」
シーナ「あ……お酒は……その」チラ
勇者「?」
シーナが恐る恐る見た方向には、豪遊するザナンの兵士達。
勇者「……ああ」
シーナ「申し訳ございません……」
少女「まったく、ああいう権力に物言わせてる人は嫌いです」
シーナ「普段はもっとあるんですけどね……」
下級兵士「聞こえちゃったなぁ~」
少女「!!」
少女の言葉を、偶然下級兵士が耳にしていた。
下級兵士「権力にもの言わせてるだあ?俺らはなあ!ちゃーんと働いて!ちゃーんと金払ってんだ!悪いかコラ!」
少女「……酔っ払いが」
下級兵士「ああ!?」
勇者「まあまあ!!お前も煽るなって!」
少女「……」プイ
少女は反省もなくそっぽを向いたまま動かない。
シーナ「ひぇぇ……やめてくださいー……なんて……ああ……」
下級兵士「あんたこいつの彼氏か?つまんねー女に引っかかったもんだなあ!」
少女「ななっ!彼氏ぃ!?」
勇者「はは、そんなんじゃないよ」
少女「む…」
なんとなく少女はイラっとした。
真面目兵士「おい待てって!またロイターさんに叱られるぞ!!」
様子を見ていた真面目な兵士が止めに入る。
下級兵士「ぐ……わかったよ……覚えとけクソアマ」
少女「べ~っ!!」
勇者「……」バシン!
少女「あだあ!!!」
勇者は、少女がこんなに嫌悪の感情を出すのは何か理由があるのかと思い、言及するのはやめて引っぱたくだけにしておいた。
勇者「勘定するか……すいませんね」
シーナ「いえいえ…えーとお会計は8000金貨になります」
少女「えっ」
勇者「どうした?」
少女「いやぁー……はは……どうしてそんなに高いのかなーなんて……」ダラダラ
ゲリラ豪汗。
シーナ「えと、本日は特別に祝福された肉と卵を使用しておりまして……」
シーナ「一応外の看板とこちらのメニューに注意書きがございますが……」
少女「あっあぁ~確かに……どうりでいつもよりおいしかったわけだーあははー……」
勇者「お前まさか……」
少女「……」ダラダラダラ
シーナ「あのーぅ……」
勇者「……」
少女「……」
少女「勇者さんがあの時報酬受け取ってれば足りてたんですよおおおお!!」
勇者「知るか!お前がちゃんと確認せず適当に注文したのがいけないんだろ!!」
少女「勇者さんだってなんでもいいって言ったじゃないですかー!!」
勇者「なんでもいいとは言ったけど限度があるだろ!!」
シーナ「あの、もしかしてお勘定……」
勇者・少女「ええと……」
勇者・少女「何か依頼はございませんか?☆」
下級兵士「あはははははは!!なんだアイツ等ヴェルニース初めてか!?良いザマだ!!」
下級兵士はうまくなった酒を呑む。
下級兵士「…………そうだ」ニヤリ
真面目兵士「…どうした?」
下級兵士「へへっ……いやあ……ロイターさん直々に成敗してくれるように仕向けりゃいいんだ」
真面目兵士「お前まさか…!」
下級兵士は勇者達の元に行った。
下級兵士「へいお前ら!金無いんだって!ざまあみろ!!」
少女「くっ!!」ギリギリ
勇者「はぁ……災難だ……」
下級兵士「俺が依頼してやろう」
勇者「え」
下級兵士「なーに簡単だ。そこにグランドピアノがある、ちょっくらこの場を盛り上げてくれよ」
下級兵士「も・し!好評で盛り上がったなら足りない金を出してやろう……良いだろう?」
少女「……何企んでるんですかっ……」ジロ
下級兵士「あーやっぱ依頼やめようかな!そうしたら……あんたらは食い逃げとなるわけだ」
少女「この」
勇者「ありがとう。その依頼受けさせて頂こう」
下級兵士「彼氏はものわかり良いな!ははっ!」ニヤ
少女「勇者さん!絶対コレ罠で…」
勇者「まーまー、どのみち金無いんだから。」
少女「……わかりました…」
下級兵士「あ!そうそう演奏するのは女な!男に演奏してもらっても盛り上がらねぇよ!!」
少女「……いいでしょう……私の演奏スキルがどれほどか見せてあげます。これでも副業としてたまに演奏してるんですから!」
勇者「ほぉ」
シーナ「あのあの、やめたほうが……」
少女「だいじょーぶ!結構上手いから!そこらの吟遊詩人にも負けないよー!」
シーナの言葉の、本当の意味に気づかず少女は腕をまくってグランドピアノの前に座った。
シーナ「どうしよう……そうだ!彼氏さんに言えば……」
「シーナちゃんお酒おかわりー!!」
「こっちもー!」
シーナ「ああ……」
下級兵士の計画は順調だった。
ロイター「ほう、ピアノか……」
少女は、ヴェルニースという町は知っているがロイターという人物は知らなかった。
"ザナンの紅血"ロイターは演奏にうるさく、この酒場でいい加減な演奏をしようものなら容赦なく石や瓶を投げて重傷を負わせていた。
少女「よっし!」
ポロン♪
ポロロン♪
勇者「へぇ、なかなかじゃないか」
他の客「………」
下級兵士「……ふ、ふん……これで……」
誰もが少女の演奏に聞き惚れていた……が、声には出せない。何故なら……
シーナ(あああ……一般人なら好評でも……うう……)
少女の演奏は、ロイターが認める演奏には及んでいなかった。
ロイター「なんだこの演奏は…!!」ガタッ
下級兵士「きた!」
他兵士「あーあかわいそーに」
兵士達は心配する声を出しておきながら、心の中ではニヤリとこの後の展開を楽しみにしていた。
勇者「………そういう事か……まったく、世話の焼ける……あ、そこどいてくれる?」
シーナ「え?は、はい」サッ
座って頬杖をついている勇者は気づく。そして、ルートを確保する。
ロイターはテーブルの上の空き瓶を容赦なく少女に向かって投げようと振りかぶったその時!
ロイター「下手くそ!!」バッ!
勇者「魔弾」ボッ!
パリィイイン!!
ロイター「!!!」
空き瓶はロイターの手を離れる前に破壊された。
この一瞬の出来事は、勇者以外に二人だけが理解していた。
シーナ「な……」
一人目は、シーナ。勇者に声をかけられて勇者の方に目を向けていた。
ロイター「………!!」バッ!
二人目は、ロイター。視界のギリギリ端から雷のようなスピードで、かつ威力を最小限に抑えた魔弾を捉えていた。
すぐに発射元を見たが特定はできなかった。なぜならヴェセルを無意識に探してしまっていたからだ。
自分に対抗できるのはヴェセルだけ……しかしヴェセルは拘束して別室にいる……
しかも放たれた魔弾は、明らかに自分やヴェセルより上の精度とスピードを誇っていた。
ロイター(…………………)
ロイターはこの魔弾一つで、格上の存在を身に刻んだ。
勇者「いいぞー!」
何もわからなかった他の客は、思考停止したロイターがこの娘を認めたと思い、勇者の掛け声もあって……
客A「いいぞいいぞ!」
客B「へいへい♪」
酒場はふつうに盛り上がった。
*保存*
なんとか食い逃げを阻止した二人は、酒場を後にした。
勇者「普通にうめーのな」
少女「ふふん、見くびらないでくださいよ!ほら、おひねりもらえました!」
勇者「どれどれ」
演奏をしていると、たまにお金の代わりにおひねりをもらえる事がある。
少女「マントとブーツですね!早速鑑定しに行きましょう!」
勇者「鑑定って無料なのか?」
少女「あ」
勇者「……全く、なんで演奏することになったか覚えてないのか……」
まずはお金を集める事だと勇者が次の依頼を見に行こうとした時。
シーナ「待ってください!」
勇者・少女「え?」
二人は慌てて追いかけてきた看板娘シーナに呼び止められた。
シーナ「助けてください!」
勇者「要するに、ヴェルニースを拠点としている盗賊団が酒樽を盗んでいる、と」
シーナ「はい……」
少女「なんで掲示板に書き込まないの?」
勇者「盗賊団がここを拠点にしてるっつーことは、掲示板に書くとバレちまって依頼主が危ないだろ」
少女「あ、なるほど」
シーナ「そうなんです……軍の人はそもそも護衛の為にいるだけですから依頼は受けてくれませんし……」
勇者「で、俺たちに依頼か」
シーナ「はい……かなり強い方みたいですし……」チラッ
シーナは勇者を見て言った。
勇者「ああそうか君は見てたのか……わかった。受けよう」
シーナ「ホントですか!?」
勇者「ただし!」
勇者「やるのはコイツだ」
勇者の指は少女に向いていた。
少女「……はいぃ!?いや、受けるのはいいんですけど、私一人でですか!?」
勇者「大丈夫、危なくなったらサポートするから」
シーナ(なるほど、この子に経験させてあげようとしているのですね!素晴らしいです!)
シーナ「……あの、お名前お伺いしていいですか…?」
勇者「俺?」
シーナ「はい!」
勇者「勇者だ。わけあって二つ名しか言えないんだ。すまん」
シーナ「いえいいです!……勇者さんかぁ……」
少女「ふふん、私の名は…」
シーナ「ありがとうございます!では店に戻りますね!良い報告お待ちしておりまーす!」タタタ…
少女「…………」
勇者「…そういえばアジト聞いてねえな……」
少女「あの、勇者さん」
勇者「ん?」
少女「まさか今から行動ですか…?」
勇者「あたりまえだろ?善は急げ、思い立ったが吉日だ」
少女「ちょ、ちょっと休憩欲しいんですけど……演奏ってスタミナ使うんですよ?」
それほど疲れているようには見えないが、疲れているのだろう。
勇者「あーそうか。んじゃ適当に座って休憩しようか」
少女「それじゃあ宿屋に行きましょう。あそこに椅子が置いてあったはずです。」
少女「あ、ついでにその隣のパン屋も行きましょう。動けばお腹減りますから、買いだめしておくのも大事です……まぁ、そのお金で鑑定できるんですけど」
勇者「おーけーおーけー」
ーヴェルニース・宿屋ー
*がやがや*
勇者「むお」
少女「あれーー?なんでこんなに人いるんだろ」
宿屋は基本寝泊りと食糧調達以外に人は来ない。それゆえに初めての混雑で店主はあたふたしていた。
宿屋の店主「あっごめんなさい混雑してて!」
少女「あ、いえ……大人気ですね?」
宿屋の店主「そうなんですよ!何故かここ最近になって"いい夢が見れる宿屋"で噂が立っちゃって!」
勇者「へぇ、良かったじゃないですか」
宿屋の店主「ふふ、ありがとう。もしかして今日泊まるのかな?」
勇者「あー……たぶんそうですね。」
宿屋の店主「なら予約しておきますね!ふふっ」チラッ
店主は意味深な笑顔を少女に向けた。
少女「……???」
勇者「ここが空いてる、座ろう」
ドサッ
少女は荷物を降ろして椅子に座った。
少女「ふぅ~やっと休める~…それにしてもいい夢が見れる、ねぇ」
勇者「それだけでこんなに繁盛するもんか?」
少女「んー、夢ってのは結構大事でですね、夢で見た事が現実になってることってしょっちゅうあるんですよ。」
勇者「……まじで!?」
そう、この世界は夢と現実が結びつくことがよくあるのだ。だからいいベッドを求める人が後を絶たない。
少女「……あ、黒猫だ」
少女はふと、黒猫が入ってくるのが見えた。
黒猫「みゃ♪」
この店が繁盛する理由。
黒猫「うみみゃ♪」
なぜ居ついたのかはわからない。
黒猫「うみみゃあ♪」
全身真っ黒の猫。ただこの猫の存在が、この店の繁盛する理由だった。
*保存*
黒猫「みゃ♪」タッ
少女「あ、こっちきた」
黒猫「みゃっ!?」
黒猫は勇者の姿を見ると、
黒猫「みゃぁ……」
がっくりして引き返した。
勇者「なぜっ!?何かしたか俺!?」
少女「あはは!たぶんその席が黒猫ちゃんの特等席なんじゃないですか?ほら、日が当たってるから」
勇者「ああそういえば。んしょ」ガタッ
勇者「ほれ、座るか?」
黒猫「みゃ!?」ピクッ
黒猫「うみみゃあ♪」タタッ
勇者に席を譲ってもらった黒猫は丸まって心地よい眠りにつき始めた。
勇者「よっこいせ」
少女「ななっ!?」
勇者「仕方ないだろ、猫に席をゆずったら俺が座るとこ無いじゃん」
少女「むぅ……」
少女の隣に勇者が強引に座り、小さめの円形テーブル、二つあるイスの内の一つは黒猫が、もう一つに二人が半分ずつ座る形になった。
勇者「そういえばその荷物の中は何が入ってるんだ?」
少女「え?そりゃあ……拾った巻物とかポーションとか……そうだ、勇者さんも何か武器持ったほうがいいですよ?」
勇者「うーん……適当でいいよ」
少女「適当て…じゃあ余ってる武器使います?ええと…鎌はどうですか?」
勇者「怖ぇよ」
少女「たまに首ちょん切れますよ?」
勇者「怖えよ!!グロい!嫌だよ!」
少女「えー?……じゃあどれがいいです?」ガラガラッ
少女は鞄の中から色んな武器をテーブルの上にぶちまけた。
勇者「うーん鎌に短剣に刀に……うわ、拳銃がある」
少女「弾が無いんですよ」
勇者「ふぅん……つかこれだけ持ってて重くないのか?」
少女「だいじょぶです!重量挙げを習いましたから!」
勇者「習って持てるようになるもんなのか……」
少女「まあ、効率ですね!どこを持てば持ちやすいとか……あとは普通に筋力ですかね」
勇者「そらそうだろうな……あ、気になってたんだけどその背負ってるのは?」
勇者は少女が背負っている大剣に目をやった。
少女「ああこれですか。これは私の……」
客A「ふざけんなてめえ!」
客B「ああ!?てめえこそふざけんな!
少女が言いかけた時、近くにいた客が騒ぎ始めた。
客A「俺が先に予約とってただろうが!なんでてめえが割り込んで来るんだよ!」
客B「お前が予約通りに来ないから俺が使っただけだろうが!遅いのが悪いんだよ!」
客A「はあ?ふざけんなてめっ」ガシッ
客B「やんのかコラ!!!」ガシィ!
勇者「あーあー」
少女「はぁ……人が多いとこういうのも増えますよね……」
客A「オラア!!」
バキッ!がっしゃあああん!!!!
勇者「うおっ!」
少女「きゃっ!」
黒猫「みゃっ!?」
店主「ちょっとお客様!?」
殴られて体勢を崩した客Bが二人と一匹が座るテーブルに突っ込んできた。
客B「ぐ……くそがあ!!」ススッ
勇者「……」ピクッ
この客Bの行動を、勇者は見逃さない。
客A「ハッ!バァーカ!」タタッ
客B「待てコラァ!!」ダッ
店主「ああ……大丈夫ですか…?」
少女「あはは…びっくりしましたけど大丈夫ですっ」
勇者「……」
黒猫「シャー!!」タタッ
少女「ああっ猫ちゃんっ!」
黒猫は寝ている所を起こされて不機嫌になり、どこかへ行ってしまった。
勇者「さて、行こうか」
少女「え?どこへです?」
勇者「盗賊団のアジトだよ」
少女「え、でもそのアジトの場所が………」
勇者「だから、聞きに行くんだよ」スタスタ
少女「????……あ、待ってくださーい!!」がちゃがちゃ
タタッ
少女は急いで床に落ちた武器や荷物をまとめて勇者を追いかけた。
客B「うーんしょぼいな。3千金貨しかねー」
客A「他には?」
客B「短剣」
客A「うわ、売れなさそー」
客B「まあいいじゃん、ノルマは達成できそうだし」
客A「うーん……とりあえずはいいか」
客B「はーあ、ハズレだったかー」
客A「でもお前の演技めちゃうまいよなー」
客B「ははっ!まーな!お前も殴ったふりうめーよ!俺殴られてないのに音鳴ってるじゃん。どうやってんだ?」
客A「んーそれは企業秘密だ」
客B「気になる」
客A「まぁまぁ、次行こうぜ」
勇者「喧嘩するほど仲がいいとはよく言うが、赤の他人だったのにずいぶん親しげだな」
客A・B「!!!!」
*保存*
少女「……え、と……どういう事です?」
なんとか勇者の後をついてきた少女が尋ねる。
勇者「どーもこーも、ありゃ演技だよ。さあ、盗った短剣と3千金貨を返してもらおうか」
少女「え?…あ!無い!」ゴソッ
客B「っ!!」
少女はここで初めて物が無くなっていることに気づいた。
客A「くそっ逃げるぞ!」ダッ
客B「ああ!」ダッ
勇者「尾行できるか?」
少女「……え、私ですか!?」
勇者「ここからはお前だよ。俺はもう手伝わないからな?」
少女「う……」
勇者「ほら、早く尾行しないと見失うぞ」
少女「わ、わかりましたよっ!!」タタッ
勇者「さて、お手並み拝見といこうかな?見た感じ相手は見習い盗賊といったところか……」
勇者は相手の細かな動き、姿勢、魔力量を感じて相手の強さを測っていた。
相手の強さを測るということは前に居た世界では必要不可欠であったからだ。
勇者「さてと」
少女をさらに"尾行"しはじめた勇者の足元に……
黒猫「みゃー」
先ほどの黒猫が現れた。
勇者「…よっ、さっきはお互い災難だったな」
黒猫「みゃー」
勇者「すまんが俺は取り込み中だ。餌が欲しいのならよそを当たってくれ。おっと見失う……」タッ
黒猫「うみみゃ」タタッ
黒猫は勇者を、勇者は少女を、少女は盗人を追いかける。
…
ここはヴェルニースの端にある墓場。墓参りをしに来る人以外は特に来る必要が無いが…
ある二人には墓参りとは別の用があった。
客B「撒いたか!?」
客A「ああ!」
客B「くそっ俺の盗みスキルを見破るとは…」
客A「いいから見られないうちに入るぞ!」ゴンゴン!
大きめの墓の裏、ある程度墓参者が居ても気づかないような場所で、客Aは一見何もない地面を叩いた。
返ってきた音は地面を叩いたとは思えない音だった。
???「41642173」
客A「……37」
ガチャッ
合言葉を交わすと、鍵が外れる音がした。
すると地面が観音開きのように開き…
???「早かったな」
客A「ああ……」
客B「ひでぇ目にあったぜ」
???「15354085」
客B「ん?」
???「15354085」
客A「一人一人だぜ」
客B「あーはいはい、えーと……1535が……15で……」カリカリ
客A「暗算しろよ」
客B「うっせー!よし!55!」
???「ん、入れ」
客B「この暗号やめません?」
???「却下」
客B「ちぇ」
合言葉…というより何かの暗号化と複合化である。それを無事クリアした二人は中へ入る。
パタン…ガチャ
そしてまた殺風景な墓場に戻るのだった。
……ガサッ
少女「うーん、暗号かあ……」
尾行は成功していた。強い敵から逃れるための隠密スキルがここに来て効果を発揮していた。
しかし中へ入るための合言葉がわからないと入れない。
少女「ええとたしか…41642173が、37で」カリカリ
少女「15354085が、55と」
少女「……なんのこっちゃ!!!!」
とりあえず地面にメモってみたものの、わけもわからず叫んだ。
勇者(…あの程度の暗号……解読できないか…?)
さらに離れた場所で少女を見守る勇者。耳が怪しく光り、魔法により聴力を大幅に上げていた。
少女「うーん……」
――客B「あーはいはい、えーと……1535が……15で……」
少女「あ、分けるのか……つまり1535と4085を分けて考えて……」
――客A「暗算しろよ」
少女「何かの計算……暗算てことは、計算の鍵さえわかれば簡単なはず……」
勇者(そうそう)
少女「足し算か掛け算か……全部足すのか特定のものだけ計算するのか……」
少女「答えが55で……たしか1535が15って言ってたから……」
少女「……分かった!!」
勇者(よし!)
少女は大きな墓の前に立ち、地面を叩く。
少女(私の計算が合っていれば……)
???「12345678」
少女「……68」
ガチャッ
勇者「さて、見学見学……お?」
タタタッ!!
勇者が無事暗号をパスし中に入った少女を見届けると同時に、黒い物体が盗賊団隠れ家に向かって走って行くのが見えた。
盗賊団暗号担当「うわっ誰ぐあああっ!!」
盗賊団首領「なんだ!?」
少女「……なんだかんだと聞かれたら!」バッ!
少女「答えてあげるのが世の情け!」ビシィッ!
盗賊団員「「………」」
盗賊団員全員が不思議そうな、あるいは残念そうな顔で少女を見つめる。
少女「世界の破壊を防ぐため!」バッ!
少女「世界の平和を守るた」
盗賊団首領「やれ」
盗賊団員「「ハッ!!」
少女「わああ!やらせてよ!子供の頃見た本のセリフ言うの夢だったんだから!」
勇者「……ついて来るなと言ったのに。危ないぞ黒猫ちゃんよ」
黒猫「みゃ」
勇者は中に入ろうとする黒猫を抱きかかえ、空いてしまっている入口から中の様子を眺めるのだった。
盗賊団員A「あってめーは!!」
盗賊団員B「あっ!!!」
少女「はろー♪ご案内ありがとねー♪」
盗賊団首領「……てめぇら…つけられてたな……」
盗賊団員A「ひいいすいません!!」
盗賊団員B「うああ……おいやるぞ!!」
盗賊団員A「わかってる!」チャキ
盗賊団員Aは短剣を構える。が、それを見た少女は激昂する。
少女「それはっ!!!わたしんだろがーーー!!」ジャキン!
少女は背負っていた大剣を鞘から抜き取り両手で持つ。
勇者「両手持ちか……」
盗賊団員A「っこのぉ!」バッ!
少女「痺れろっ!!」ザン!
盗賊団員A「ぐはっ!!」
盗賊団員B「おい大丈夫か!」
盗賊団員A「これしき……ぐあああああああ!!!」バチバチバチバチ!
勇者「……なるほど、あの武器に雷攻撃がついてるのか……いいね」
冷静に少女の動きを見て正確な実力を測る。
黒猫「みゃぁぁ……」
勇者「…ん?」
しかしここで、黒猫の雰囲気が変わったのに気が付いた。
黒猫「うみみゃあ!」キッ!
盗賊団員B「うわっしまった!!」グラッ
少女(!!相手がバランスを崩した!ここだっ!!)ザンッ!
盗賊団員B「ぐはぁっ!!!」
勇者「……へぇ………」
ここで勇者は、この黒猫がただの猫では無い事とここに来た理由を理解した。
黒猫「みゃぁ…」
勇者「待ったストップ!」
黒猫「……みゃあ?」ギロ
勇者「……居眠りを邪魔されて怒るのはわかるが邪魔しないでやってくれ。アイツの手柄にしたいんだ。」
黒猫「…みゃー?」
勇者「頼むよ」
黒猫「…………みゃっ♪」
勇者「いい子だ」なでなで
*保存*
ゴールデンウィーク中は更新できそうにないので今のうちに吐き出しときます。
太陽がかすかに赤みを帯びてきた頃、シーナはぽっかり開いた入口から中を覗く。
少女が解決の一報をシーナに報告したのは、盗賊団首領が情けなく逃走、それを見た盗賊団員も慌てふためいて首領を追いかけ、最後の一人がヴェルニースから見えなくなって30分後の事だった。
シーナ「こんな所に隠れ家があったんですね……ほんとに、あなたが?」
少女「本当ですよう!暗号解くのも頑張ったんですから!」
シーナ「暗号?」
勇者「隠れ家に入るための合言葉みたいなもんだな。よく解けたな?」
少女「ふふん、まあ天才たる私が本気出せばちょちょいの……」
勇者「結構悩んでたっぽいが?」
少女「……見てたんですか」
勇者「うん」
少女「ぐぬ……」
シーナ「と、とにかく!追い払ってくれてありがとうございました!これ、お礼です!」
少女「やった!」
シーナ「鑑定の杖にモンスターボール、4500金貨とプラチナ硬貨2枚です」
勇者「……お、鑑定の杖って」
少女「ラッキーですね!これで手持ちのいくつかを鑑定することができます!」
少女は喜々として貰ったアイテムを鞄の中に詰め込んだ。
鑑定は基本街に住む鑑定士に金貨を払って鑑定してもらうものだが、鑑定の杖を使うと自分で鑑定することができる。鑑定の費用が浮くのだ。
シーナ「ではまた酒場にいらしてくださいね!今度は特上のクリムエールやビアを出せると思いますので!」
勇者「ああ、また行くよ。」
少女「またねー!」
晴れ晴れとした笑顔で酒場に戻ろうと一歩踏み出した時…
シーナ「あ、そうそう」
笑顔が消えた顔で勇者達の方へ振り返り―
勇者・少女「はい?」
シーナ「…来月は9月です。気を付けて」
少女「……はい、ありがとうございます」
勇者「?」
真剣な眼差しで何かの注意を施し、少女はそれを深々と受け止める。
勇者「……何の話なんだ?」
少女「エーテルの風です」
勇者「エーテル?」
少女「はい。3か月毎の月初めに、決まってエーテルの風が吹くんです。」
勇者「……どうなるんだ?」
少女はエーテルについて語りだした。
エーテルの風は異形の森から発生する、光る気体状の物質であること。
これに触れ続けると体内にエーテルが溜まり、ある一定を超えるとエーテル病を発症するということ。
エーテル病になると足が蹄になったり、背中に羽が生えたり、顔がただれたり、目が増えたりすること。
エーテル病が悪化すると必ず死に至る病であるということ。
そして……
少女「お父さんは、エーテル病で死にました」
勇者「……」
少女は盗賊団隠れ家を隠していた、フェイクであろう墓石に体重を任せ、自分の過去を勇者にこぼし始めた。
「わたしと父と母の三人で、決して裕福な暮らしではありませんでしたが、そこには確かに幸せはありました」
~~~~~
幼少女『まだー!?』
少女母『はいはい、それじゃ行きましょうか』
少女父『おう』
幼少女『わーい!!!』
数々の荷物を荷車に乗せ、引っ越しの準備が完了……否、
最後に少女の父が大剣を担ぎ、これで準備が完了した。
少女母『持った?』
少女父『ああ、もちろんだ。この辺りのモンスターなら俺でも倒せる』
少女母『……長年住んできたノイエルともお別れね』
少女父『仕方ないさ。俺の実力じゃここの依頼は受けられるのが少ない。ヴェルニースやパルミアなら、色んな依頼を受けられるからな。』
少女母『私も、昔お義母さんから教えてもらったせっかくの高効率の栽培法……そもそもここじゃ栽培はしてないしね』
少女父『親父が生きてれば……いや、俺がもっと強ければここでずっと暮らせたんだがな……すまない』
少女母『いいのよ、色んな所に住むのもまた楽しいわ』
少女の父の父……少女の祖父は、強かった。名声も高く、高度な依頼をこなしていた。
しかし少女という孫娘が生まれ、出稼ぎにパルミアでますます依頼をこなしていた時……
よくある魔法の失敗か、意図的な召喚か…何者かが街に放ったモンスターが、依頼をし終わったばかりで疲れていた祖父の命を奪った。
街中のガードや滞在していた冒険者によりモンスターは討伐されたが…
少女の父の元へ帰ってきたのは、既に冷たくなった祖父と、祖父が装備していた大剣だった。
少女父『行ってきます。親父』
少女母『行って参ります、お義父さん』
幼少女『いってきまーす!』
ノイエルのはずれに作った簡素な墓の前で、3人は手を合わせた。
幼少女『ごーごー!!』
少女父『こらこら、疲れてもないのに荷車に乗るんじゃありません』
荷車を引いてノイエルを後にしようとしたとき、前からもまた、荷車を引く二人が現れた。
???『こんにちは』
少女母『あ、もしかしてリリィさん?』
リリィ『……てことは、あなたがたが家を貸してくださる……』
少女母『ええ、初めまして。』
少女の母は荷車を引き続けて疲労困憊の男性にも挨拶する。
『……どうも』
リリィ『あなたったらまた無愛想な……ごめんなさいね』
少女母『いえいえ、長旅ご足労様です。奥さんの体を労わる優しい人だということが分かりますから』
リリィのお腹には、これからこの世で育つであろう命が大きく芽生えていた。
身重である妻に荷車を引かせるなど言語道断であると、男性の疲れ方から見てわかる。
幼少女『ねーねー、ここに赤ちゃんいるの?』
いつの間にか荷車を降りた少女は、リリィのお腹に興味津々だった。
少女母『あ、こらっ』
リリィ『ふふっ構わないですよ。……触ってみる?』
幼少女『うんっ!』
少女はおそるおそるリリィのお腹に手をあてた。
幼少女『わぁ……あっ!今動いたかな!?』
リリィ『動いたねー!』
少し話をしてから、はやく休ませてくれと言わんばかりの男性の目が少女の父に届き、少女の父は話を切り上げた。
リリィ『では家、お借りしますね』
少女父『ええ。多分帰省することはあってもまた住む事は無いと思いますんで、ゆったりとお過ごしください』
リリィ『ありがとうございます!帰省した際にはこの子の顔をお見せできると思いますので是非。』
少女母『はい、期待してます』
幼少女『ばいばーい!』
リリィ『ばいばい、またね』
これにて、少女達はノイエルを出発した。
~~~~~~~~
勇者「エーテルの話は?」
少女「まーまーこれからですから」
勇者「そういえばノイエルってどんなとこなんだ?」
少女「そうですね、年中雪が降ってますね。行こうとすると雪のせいで荷車を引くのが大変なんですよ。」
勇者「ふーん……話どのくらい続くんだ?太陽沈んだんだが」
少女「あ」
話すのに夢中だった少女は、辺りがすっかり真っ赤に染まっていることに初めて気づいた。
宿屋の店主「あ、予約してたお二人さんね?」
勇者「はい」
宿屋で予約してたはずだと勇者が思い出し、とりあえず部屋で話そうと切り出したのだった。
宿屋の店主「こちらの部屋です。どうぞ ご ゆ っ く り 」ニコォ
勇者「はーい」ガチャ
少女「どうもありが……んっ!?」
店主の笑みの意味に少女は気づいた。
少女「あのあの!!部屋もう一つ空いてませんか!!??」
店主「すみませぇんただ今満室でぇ」
少女「いや!!隣り空いてるようにしか見えないんですけど!?」
店主「そこはVIP部屋ですね。10万金貨頂きます」
少女「ばかな!!!!」
勇者「おーい早く入れー」
少女「お、お、あ……」
ドアの前で狼狽える少女。
店主「すいません後がつかえてるので早くお入り頂けますか?」
少女「……はい」
バタン
一歩踏み出して部屋に入った瞬間、店主はすかさずドアを閉める。
が、すかさず―
ガチャ
店主「ゴムは二番目の引き出しです☆」
バタン
少女「………」
少女は店主の爆弾情報に硬直して、我に返るのはこの5分後の事であった。
*保存*
地味にリリィの髪の毛が金か青かで悩んでる
画像が青なのにドット絵は金という
あの画像は使い回しっぽいからドット絵優先でいいかな……
http://www.elonaup.x0.com/src/up11482.jpg
おうけい
勇者「何の話してたんだ?」
少女「二番目の引き出しは呪われているので触らないでくださいとのことです」
勇者「なんじゃそりゃ……で」
少女「あ、続きですね」
少女は荷物を置いて続きを話し始めた。
~~~~~~~~
少女父『それじゃ、行ってくる』
幼少女『お父さん次はいつ帰ってくるの?』
少女父『そうだなぁ……』
街の隅にある小さな安い借家に住まう事にして5年が過ぎた頃。
いつものように少女の父は依頼を受けにでかけるのであった。
ぐはっ投下直後にミスが
街の隅にある小さな安い借家に住まう事にして5年が過ぎた頃。
↓
王都パルミアの隅にある小さな安い借家に住まう事にして5年が過ぎた頃。
少女父『ノイエルへの届け物だから、次に帰ってくるのは2週間後くらいかな』
幼少女『ノイエル!?』
少女母『あら』
ノイエルと聞いて少女は歓喜した。最後に故郷に帰ったのは2年前であるからだ。
幼少女『行く行く!!』
少女父『だめだ』
幼少女『なんでー!?』
少女父『……1週間後はエーテルの風が吹く』
幼少女『…………ならお父さんも危ないじゃん……』
少女父『今月の税金がまだ未納なんだ。働かないわけにはいかない……俺なら大丈夫だ。ヴィンデールクロークがあるから』
ヴィンデールクローク。エーテルの風を防ぐ特殊なマントである。
少女の祖父の遺品であった。
少女母『クレア、今日と明日は栽培の勉強よ』
幼少女『うぇぇ……』
またかと言わんばかりに苦い顔をした。
少女父『はは、お母さんの言うことちゃんと聞くんだぞ』
幼少女『むー、パエルちゃんに会いたかったなー』
少女父『クレア、そろそろ12歳の誕生日だろう?帰ってきたらお祝いをしよう』ニコ
幼少女『あっそっか!じゃあ早く帰ってきてね!!』
少女父『ああ。またな。』
少女母『行ってらっしゃい。無理せずシェルターに入ってもいいんですからね』
少女父『うん、なるべくそうするよ。そっちも、風が吹く前にシェルターに入っておけよ』
少女母『ええ』
都市ではエーテルの風が吹く頃にシェルターが開放される。
この間の食糧は税金により賄われるので、市民であれば無料で利用することができる。
~~~~~
少女「父の元気な姿を見たのは……これが最後で」
少女「この後の話は、母から教えてもらいました」
~~~~~
少女父『こんちはー』
行商人『……こんにちは』
少女の父はノイエルへあと1日といった所で、正面から馬で荷車を引く行商人達に出会った。
荷車はとても大きかった。人が10人は入りそうな。しかし巨大な布で覆っており、中身は見えない。
行商人の他に護衛だろうか、5人ほどの剣や弓などの武器を持った者が荷車の周囲を囲っていた。
少女父『えらく大きな荷物ですね。どちらまで行くのです?』
行商人『ポート・カプール辺りまでですよ』
少女父『そんな遠くへ!?数日経てばエーテルの風が吹くのでは!?』
行商人『ええ。ですから途中パルミアでシェルターを借りようかと』
少女父『間に合いますか?』
行商人『あはは、こう見えて足早いんですよ、ご安心を』
少女父『へぇ……』
ダンッ!
行商人『!!!』
突如音がした。行商人は少し大げさに驚いた。
少女父『あれ?今何か荷車から音しませんでした?』
行商人護衛『ああすいません、ちょっとぶつけてしまいまして』
少女父『あらら気を付けてください』
行商人『……』ほっ
行商人は護衛の機転に、安堵した。
行商人『ああそうそう、ノイエル南の林に大量のプチが湧いていますので気を付けて』
少女父『あ、ありがとうございます』
行商人『では』
そう注意して、行商人達は荷車を進め始めた。
少女父『……あの人らも大変なんだな』
少女の父もノイエルへの足を運び始めた。
―――悲劇への足運びとも知らず。
……
男『ちっなめたマネしやがって!!』
ガンッ!
薄暗い、巨大な布で隠された荷車の中、男が金髪の女を殴る。
男『次やったら……娘を殺す』スッ
女『っ!!ごめんなさい!もうしません!しませんからその子だけは!!』
女の娘であろう子供の首にナイフが当てられているが、子供はぐったりしていて動かない。
……
ノイエル市民『あ!これですどうもご苦労様です~』
少女父『……よっし!これですぐ戻れば風が吹く前に帰れるかな?…と、その前に』
ノイエルに着いた少女の父はとりあえず依頼を完遂させ、リリィ達の住む家に向かった。
元々少女達が住んでいた家だが、ノイエルからパルミアへ引っ越す際に二人の夫婦に家を貸したのだった。
その夫婦も、ノイエルに移ってひと月もたたぬ内に3人家族となり、今や5歳になる娘がいた。
少女父『久しぶりだなこの家……』コンコン
少女の父はかつて住んでいた家のドアを叩く。
……が。
少女父『……あれ?留守かな?』コンコンコン
普段なら、ここで引き返すのだが……
少女父『………』スッ
妙な胸騒ぎに、手が勝手にドアのノブを回す。
ガチャ
少女父『……開いてる!?』
すでにまた引っ越ししていた……わけではない。何故なら……
家の前に作りかけの雪だるまが、転がっていたからだ。
バッ!
少女父『っ!!』
慌てて中に入ると、そこには散乱した小物、倒れた洋服掛け…一目見て、事件に巻き込まれた事が分かる。
*保存*
少女父『くそっ!!!ガード!!!』
少女の父は慌ててガードを呼びにいった。
ノイエルガード『このような………すぐにガードを集めてノイエル周辺を捜索します』
少女父『頼みます』
ノイエルガード『しかし……』
ノイエルのガードは目線をそらす。
少女父『……ええ』
ノイエルガード『…申し訳ありません……私たちが動けるのは、おそらく明後日までです。それ以降は…エーテルの風がいつ吹くかわかりませんので』
少女父『いえ、それでもお願いします』
ノイエルガード『……』コクッ
ガードは頷き、他のガードに指示を出す。
ここでふと、ある可能性が浮かび上がる。
少女父『そうだ、あの行商人……何か知ってるかもしれない!』
ノイエルガード『行商人?』
少女父『はい、ここへ来る途中大きな荷車を引く行商人に出会いまして。おそらく昨日ノイエルを出発した感じで、何か知っているかなと』
ノイエルガード『……行商人……』
少女父『今からちょっと追いかけてみます。最低限の食糧を持って軽くすれば追いつけるはずですから』
ノイエルガード『その行商人、どこが目的地と?』
少女父『ポート・カプールです。途中パルミア辺りで風を防ぐそうで』
ノイエルガード『ポート・カプール……?あの西端の港ですよね?』
少女父『そうですね』
ノイエルガード『……そのような依頼ここ一週間無かったはずですが』
少女父『…………!!!!!』
かすかに感じていた予想が、
――ドン!
――『ああすいません、ちょっとぶつけてしまいまして』
確信へと変わる。
10人も乗れそうな、巨大な布で隠された不自然な荷車。
行商人の驚きよう。
あの音は。あの音はまさか。
必死で自分に求めた……
エスオーエス。
少女父『くっそおおおおお!!!!』ダッ!!
ノイエルガード『あっちょっと!?』
どうして気づかなかった。あのSOSに。
もし荷車の中があの家族ならば。
行先はポート・カプールではなく……
人身売買が平気で行われる無法都市……ダルフィだ。
ダルフィには盗賊ギルドもある。おそらくその一味。
エーテルの風が吹きそうな時期に移動しているのは、ガードが追ってこれないようにするため。
おそらくあの者達はどこかにシェルターを展開している隠れ家があって、そこで風を凌ぐつもりだ。
パルミアなど寄れるはずもない。
少女の父『くそっ!くそっ!!!』タタタタタタ……
もうすぐエーテルの風が吹く。ガードはあてにならない。
自分が、やるしかない。
はらはらと降り出した雪の中へ、少女の父の姿が溶けていった。
*保存*
本当は昨日の時点でここまで書きたかったのですが寝落ちしそうだったため中断。
朝起きたら時間あったんで、投下したかったとこまで投下です
少女父『はぁっ!はぁっ!』ざっざっ
積もった雪の中を進むということは凄まじく体力を使う。
しかし荷車を置いてきているから、ノイエルに向かった時の倍以上のスピードは出ている。
ならば食糧が無いという話だが、とても栄養価が高いストマフィリアというハーブを食べてなんとか食いつないでいた。
そして。
少女父『荷車の跡……』
ようやく、追いついた。
少女父『……見つけた!!!』
護衛『はーやっとついた』
行商人『休んでるヒマ無ぇぞー、急げー。』
コソッ
少女父(……シェルターに入られる前に助けないと……エーテル的に安全を考えるならシェルターの中がいいんだが……)
少女父(……いや、自分を信じろ……いざとなれば……)
盗賊団はダルフィで人身売買するつもりなのだろうが、シェルターに入っている間何もされないとは思えない。
護衛A・B『うっしじゃあ俺らは馬つないできやす。餌あったっすよね?』
行商人『確か一週間分の藁くらいあったと思うが』
護衛A・B『うぃっす』
行商人『…さーて俺は商品を中に入れるか』
少女父(……2人離れた……よし、今がチャンス!)ポイッ!
ガサササッ!
少女の父は石を遠くに投げて、茂みに放り込んだ。
行商人『誰だ!!』バッ!
護衛C『見てきましょうか?』
行商人『ああ。場合によっては……』
護衛C『……了解っす』チャキ
これで、3人の護衛がいなくなり、残り3人となった。
少女父『すぅ……はぁ…………っっ!!』スッ
荷車の近くに残るは頭領と思わしき行商人と、2人の護衛。
うまく注意を引き付ける事ができた。全員茂みの方を見ている。
死角ができた位置から、荷車へと駆け寄る。
バサッ
荷車の中を覗くと……
リリィ『!!!』
居た。
少女父『……』チョイチョイ
身振り手振りで音を出さぬよう来るように伝えると、もう一度外を見てまだこちらに気づかれてない事を確認して、
リリィはパエルを抱きかかえ、荷車の外に出た。
……荷車の中は割と暖かかったのだが、外の出た瞬間に冷気が襲い掛かる。
それは、パエルにとっては厳しいものだった……
パエル『くしっ』
リリィ『!!!』
少女父『!!!』
行商人『ん?……あ!?おい!!!!!』
護衛D・E『っのやろぉ!!』チャキ
少女父『走れっ!!』
リリィ『っ!!』ダッ!
ダァン!ダァン!
後方から発砲音が聞こえる。しかしすでに、雪に姿をくらませた三人には当たるはずもなかった。
……
1・2時間経っただろうか。追いかける盗賊団達の足が止まった。
行商人『……ちっ、ここまでだな』
護衛D『まだ追いつけます!』
行商人『馬鹿かお前は。向こうの空を見ろ』
明らかに雪雲ではない、光の帯が迫っていた。それを見て護衛Dは息をのむ。
行商人『エーテルの風にさらされた奴など売れん。こんな雪道のど真ん中でシェルターも無しにどうするつもりなんだか』
護衛E『ちっ』
護衛D『上玉だったのになぁ~』
隠れ家に戻る盗賊団。少女の父は正しかった。明らかに護衛の方は少女の父の予想通り、シェルターの中でのお楽しみを期待していた。
……
少女の父は、既に盗賊団が追ってきてないことに気づいていた。
しかし、その足は止まらない。
追ってこないということがどういうことかも分かりきっていた。
ザッザッザッ
少女父『……すまない』
少女父『あのままシェルターに居れば、エーテルの風に当たらなかったかもしれないのに』
リリィ『そんなことありません!』
無言で少女の父について走ってきたリリィが数年ぶりに交わした会話は、謝罪だった。
リリィ『あのまま居れば……私とこの子は、死ぬよりも辛い道を歩かされる事になっていましたから……それに』
リリィ『パエルにヴィンデールクロークを貸してくださって……あなたこそ私たちがこんなことにならなければ……』
防寒と"風"を防ぐために、ヴィンデールクロークをパエルに巻きつけて抱えていた。
少女の父が頑としてヴィンデールクロークを貸し付けたのだ。
―――雪は止んでいた。
―――代わりに、光る胞子が辺り一面に流れ始めていた。
―――神々しくも思えるその光景と裏腹に、クロークにより守られているパエル以外の二人は。
―――非情にもエーテルが体内に蓄積されていく他なかった。
*保存*
すまない、筆が全然進まない……
なんとか町に戻った三人が見たものは、人ひとり居ないノイエルだった。
少女父『まぁ……そうだろうな』
リリィ『エーテルの風が吹いてる時の町ってこんな感じなんですね』
二人は初めてエーテルの風が吹いている時の街の様子を知った。
エーテルの風に吹かれると少し体が軽くなり、移動速度が上がる。よって普段よりも早くノイエルに帰ることができた。
しかし早く帰れたからといってエーテルの蓄積は毛ほども和らいだ事にはならない。
そして――
――既にリリィの腕は鱗のようなものに覆われ、少女の父の足は蹄へと変化していた。
少女父『とりあえず、早くシェルターに入ろう』
リリィ『でも……私たちはもう……』
少女父『確かに、シェルターの中にいる他の人達には避けられちまうな……』
少女父『それでも、その子の為だ。ヴィンデールクロークは完全にはエーテルの風を防げないからな』
リリィ『…わかりました』
ーシェルターの中ー
がやがや……
少女父『ローブを深めに被っとけば大丈夫だろ……勝手に家から取ってきたが構わなかったか?』
リリィ『ええ、ありがとうございます……』キョロキョロ
少女父『……旦那…か?』
リリィ『……はい……』
少女父『妻と娘が誘拐されたってのにのんきにシェルターに居るわけねぇよな……探してくる』
リリィ『あの…無理に行かなくても……あの人なら、どこかでエーテルの風をやり過ごしてます……きっと』
少女父『……ならいいがね……』
――行商人『南の森に大量のプチが湧いているので気を付けて……』
少女の父の勘。行商人は盗賊だった。あの言葉が引っかかる。
少女父『……なんだ、この胸騒ぎは……』
リリィ『大丈夫ですか?』
少女父『……やっぱり行ってくる!』ダッ!
リリィ『あ!ちょっと!?』
リリィとパエルは既にシェルターの中。ヴィンデールクロークは返してもらっていた。
ザッザッザッ!
少女父『……南の森……』
エーテルの風の中を、少女の父は南の森へと向かう。
少女父『ふぅ、ふぅ……確かにプチが群がってる……』
もぞもぞと動くプチの群れを発見。少女の父は……
少女父『っ!!!!!!』
プチが"何"に群がっているのかを見て……最悪の予感が当たっていた事に落胆した。
ザシュッ!!ザシュッ!ザシュッ!!!
プチを駆除、そして少女の父が見つけたのは―――――。
少女父『…………………くそっ』
……
エーテルの風が止んで数日。リリィと少女の父は、リリィの家に隣接する、雪の重みに耐えているモミの木の前に居た。
木の根元にあるのは、ただ石を積み上げただけの、墓。
リリィ『…………』
少女父『……俺はもう行くよ……よかったら、ウチへ来るか…?』
リリィ『……いえ……私はパエルと……この人と共に、この町を過ごします』
盗賊団がリリィ達を誘拐する際に、邪魔となったリリィの夫に傷を負わせ、南の森に捨てて行ったのだった。
弱った彼は、大量のプチに捕食されるしかなかった……。
少女父『……本当に、大丈夫か』
リリィ『…ええ……大丈夫……』
少女父『……じゃあ、お元気で』
リリィ『さようなら……』
そうして、少女の父はノイエルを後にした。
……
少女父『……エーテル病、か』
少女の父は、リリィ達のこれからを考えて鬱になりながらも
自分の今後についても悩まなければならないことに、パルミアまであと数マイルの所で気づいた。
クロークで蹄になった足を隠し、我が家のドアを開ける。
ガチャ
少女父『ただいま』
……タッタッタッ
少女母『おかえりなさい!』
少女父『あれ、クレアは?』
少女母『訓練所。今安いのよ』
少女父『ほー』
少女母『服脱いで。洗うわ』
少女父『…………』
少女母『……どうしたの?』
少女父『……クレアがいなくてよかった』バサッ
クロークを脱いで、足を見せる。
少女母『………………あれほど、シェルターに入ってと言いましたのに……』
少女の母は蹄になってしまった足を見て顔を伏せる。
少女母『……何が…あったんですか』
少女父『……実はな……』
少女の父は、ここ2週間の出来事を話した。
*保存*
少女母『リリィさん達が……!!』
少女父『俺がもう少し早く異変に気付いてりゃ……』
少女母『そんな、あなたは自分を犠牲にしてまで……』
少女父『俺は…………』
~~~~~~~
少女「父はその後も、エーテルの病を隠して働き続けていました。」
少女「そして……」
~~~~~~~
少女はいつも通りに起きると、家がいつもと違う雰囲気であることに気付いた。
幼少女『おかあさん?』
不穏な空気を感じながら家のドアの方を見ると……
そこに居たのはパルミアのガード。そしてその前で、少女の母が泣き崩れていた。
幼少女『おかあさん!?』タッ
パルミアガード『心中、お察しします……』
幼少女『おかあさん!何があったの!?おとうさんは!?』
少女母『クレア……おとうさん、ね……』
~~~~~~~
少女「父は……ある依頼を受けていたら、ハリねずみの集団に出くわしたそうです」
少女「単なるハリねずみならよかったんですが……その中の数匹がエーテルを持っていて」
少女「大量にエーテルの針が刺さり、急激にエーテル病が悪化……結果、命を落としたそうです」
勇者「……そっか……エーテル……」
少女「だから、エーテルの風の発生源……異形の森が……エレアが、憎いんです」ギリ
勇者「なるほどね……」
勇者は、最初に出会った二人を思い出していた。
異形の森の真実。エレアの真実。
勇者(でも、話からしてエーテルが人々に害をなしているのは事実……)
勇者(そして、そのエーテルは異形の森から出ている…というのも、おそらく事実……)
勇者(あの二人は、"真実"と言った。……なんだろう、このモヤモヤした感じは……)
勇者(事実に隠れた真実……二人は―)
少女「勇者さ~ん?」
勇者「んあ!?」
少女「すみませんこんな暗い話になっちゃって」
勇者「……なあ、レム・イドを滅ぼした災厄…って知ってるか?」
少女「メシェーラのことですか?」
勇者「メシェーラ?」
少女「またの名を星を食らう巨人、前の文明レム・イドを滅ぼした病魔でしたかね。訓練所で習いました。どうしたんですか?」
勇者「……病魔…ね。その病の症状については?」
少女「それは知らないですよう。なんかこんな事があって滅んだっぽい、的なノリで教わりましたから」
勇者「ふぅ…ん」
少女「もう!なんなんですか教えてくださいよー!」
「うっせー何時だと思ってやがる!!!」ドンッ!!
壁ドンを食らう二人。大声をあげた少女が悪いのだが。
時計を見た勇者は確かに、こりゃ怒るなと思った。
勇者「とりあえず、もう寝るか」
少女「……そうしますかね」
…ふと、少女はとんでもないことに気付く。
少女「……あれ?ベッド一つなんですけど」
勇者「みたいだね。まあいいか」
少女「え…ちょ……良くはないと思うんですけど……」
勇者「んだよアレか?近くに人が居ると眠れないタイプか?それとも枕か?」
少女「いやいやいやそういう問題では無くてですね……」
ドサッ
少女が言い終わると同時に、勇者は床に倒れこんだ。
勇者「安心しろ、ベッドはお前が使え」
少女「あの」
勇者「ぐー」
少女「……ばからしくなっちゃった……寝よ……」ボフッ
少女「もう……男の人と泊まるなんて……でも私に興味は無さそうだし……嬉しいやら悲しいやら……はぁ」
複雑な気持ちで目を閉じる。
少女「……明日は、何をしようかな……」
この夜二人は夢を見た。
勇者の夢。それは別世界での過去。
王様の前で片膝をついている自分。
???『勇者よ、……を……に行くのじゃ』
逞しい男が暑苦しく自己紹介。
???『俺は……だ!』
杖を持ちローブを纏った女が
???『……………。……こと……でね』
そして元気な女の子が
???『私は…………です!……をよろしくお願いします!』
勇者(こいつら誰だ…?何か、懐かしいような……安心するような……)
勇者(………誰だ……)
記憶の欠片が一つ、埋まった。
少女の夢。それは少女の話の続き。
勇者に話さなかった過去。
タッタッタッタッ!
幼き少女は街灯に照らされた道を走る。
向かうところは街の噴水。少女はある言い伝えを信じて走る。
幼少女(井戸や噴水の水を飲んではいけないって、大人の人たちは言ってた……でも)
幼少女("願い"の神様は、水のあるところに現れる……ノイエルで歌を歌ってた人から聞いた!)
ザッ!
噴水の前にたどり着く。夜は危険。そんなことはわかっている。
幼少女『はぁ、はぁ……』
噴水の水。この世界の水は結構汚い。ちゃんとした水は、然るべき機関を通して信用を得、売り場に出されているものでないと危険である。
ある乞食が噴水の水を飲み、苦しんで死んだ事を少女は見たことがあった。
その上で、覚悟を決める。
幼少女『お願い!!!!』ゴクッ!
???『何を望む?』
幼少女『え…?』
奇跡は起こった。
*保存*
とりあえずここまで、また夜に投下します
ようやく順調に進められそうです
???『何が欲しい?』
幼少女『え、え……え!』
姿は無いが聞こえてくる謎の声。
???『願いを叶えてやろう』
幼少女『………』
少女は冷静になる。そして、願う。
幼少女『おとうさんを生き返らせて!!』
しかし――
???『それはできない。』
幼少女『そんな……かみさまなんでしょ!?』
???『何を望む?』
神が現れたというのに、叶えてほしかった願いは拒否された。
幼少女『っ!!……じゃあえーてる病を無くして!』
父を亡くす事になった元凶の消滅を願う。しかしこれも――
???『それはできない。』
幼少女『なんでよっ!何も叶えてくれないじゃない!……ひどいよ……』
???『何を望む?』
幼少女『もうダメだよぅ……誰か……』
幼少女『誰か助けて…………この世界を、救ってください……』フラッ
絶望した少女はおぼつかない足のまま家へ向かう。そして……
幼少女『……いつか、救世主が現れますように……』
つぶやいたこの一言が。
???『承知した』
この世界を大きく変えるとも知らず……
*保存*
すません眠いので少ないですがここまでで寝ます
……
少女「…あふ……あの夢か……」
すっかり寝癖がついてしまった髪の毛も気にせず上体を起こして目をこする。
勇者「どんな夢だよ」
少女「うひゃっ!?」
不意に声を掛けられ変な声を発する少女。
少女「起きてたんですか」
勇者「ああ。なんか息苦しくてな、実は1時間前に起きた」
少女「1時間前って…6時ですか……はっ!まさか私に何か」バッ
勇者「ちょっと外の空気吸いに行ってた」
少女「…はい」
勇者「腹減った、宿の飯食おうぜ」
少女「はいはい!」
勇者「何怒ってるの?」
少女「怒ってません!!」
荷物を持って部屋を出ると、他の宿泊客に混じって空いているテーブルを確保する。
勇者「すみません、朝食お願いします。」
店主「はぁい、二人分で、280金貨です!」
勇者「やっす……おい」
少女「えーと荷物の確認確認……大剣よーし!」
ガシッ
少女「はう!」
ギギギ……
勇者は少女の頭を鷲掴みにして強制的に顔を向けさせる。
勇者「昨日のあの飯はいくらだった?ん?」
少女「だだだだって宿の食事は朝と夜しかでませんしぃ……あの時はまだお昼でしたしぃ……」
勇者「今度から飯は宿屋な」
勇者は青筋を立てた笑顔でそういった。
……
勇者「さて、掲示板に行くか!」
朝食を食べ終えた二人は席を立つ。
少女「ネフィア探検もしましょうよ~」
勇者「…そうだな、今日はそうするか」
少女「やった!」
勇者「君は探検好きなの?」
少女「そりゃもう!ゲットしたアイテムを鑑定してもらう時のあのドキドキ感はたまりませんね!ぐへへ」
勇者「ぐへへ言っちゃったよこの子」
勇者「ちなみにどの辺いくか決めてんのか?」
少女「ここから南東にある洞窟です。なんか鍵のかかった扉があって気になるんですよね~」
勇者「ふぅん……おっけ。でもそれだと日が暮れるんじゃないか?」
少女「あー…寝袋買いましょう!あ、ちなみに私は持ってます!」
勇者「野宿前提かよ……いいけど」
少女「野宿嫌いですか?」
勇者「いや慣れてる」
少女「あっそうなんですか……」
勇者「……あれ?慣れてるのか?」
少女「なんで私に聞くんですか……」
思わず即答してしまった勇者だった。
???『さて、今日はここで野宿だな』
???『勇者、今日は俺が見張ろう』
???『すまんな。ありがとう…士。』
勇者「……んん?」
記憶の欠片がまた一つ、埋まった。
……
雑貨屋「8百金貨頂きます!まいど~」
勇者「よし……残りの手持ちがなんか頼りないな……」
少女「依頼でもやります?」
勇者「そうしよう。即時依頼がいいな」
少女「となると、魔物討伐あたりか、収穫依頼か……」
勇者「とりあえず掲示板見に行こうか」
少女「そうですね」
コソッ
???(奴がアジトを潰した……くく、盗賊を怒らせた罪は重い……)
…タッ!
先日叩きのめしたはずの盗賊団員が二人の会話に聞き耳を立てていた。
二人が気付かなかった理由は二つ。
まず変装していたからという理由が一つ。
もう一つは、大胆に近くで聞き耳を立てていただけだったから、買い物に意識を向けていた二人は特に気にしていなかったのだ。
この男の向かう先は、掲示板。
盗賊「……急げ」
二人が来る前に数々の依頼に目を通し、そして……
盗賊「これだ」
最適な依頼を発見した。
盗賊は懐から依頼文を出し、掲示板にある依頼内容の"ある部分"を似せて書き……
ビリッ…ピトッ
盗賊「……よし」
ガードが見ぬ間に入れ替えたのだった。
勇者「こんちわー」
盗賊「!!」ビクッ!!
盗賊(見られたか?)
少女「こんにちは!何受けるんです?」
盗賊(……大丈夫だ。怪しまれてはいない。)
遅れて、掲示板の前に立つ二人。
盗賊「あはは、そうですね……僕はこの、星1の収穫依頼をやろうかなって」
少女「あ!いいなあ!勇者さん先越されてますよ!」
勇者「まじか」
盗賊「……あの、即時依頼が良いなら…ほらここ、星2の魔物討伐依頼がありますよ」
入れ替えた偽の依頼文を指差す。
少女「星2つ!勇者さんこれ!これベストですよ!!」
勇者「……なあ、星1とか星2ってなんだ?」
盗賊「え?」
少女「あー、単純に難易度とか、危険度って思って頂ければいいです」
勇者「基準がわからんのだが」
少女「うーん……星3の魔物討伐は、私は万全の状態で戦ったらギリギリいけますね……4つは無理です」
少女「5つはもう自殺行為ですね。ってか、そもそもガードさんが受けさせてくれないかもです」
勇者「なるほど……」
ガード「こんにちは!」
掲示板の前で話している3人にガードが加わる。
ガード「確か勇者…さんでしたね。動物の骨ありがとうございました!」
勇者「…ああ!そういえばそうでしたね!」
ガード「それで、その依頼受けられますか?」
勇者「ええ、お願いします」
盗賊(かかった!!!)ニヤ
盗賊「それじゃお二方、頑張ってくださいね」
少女「どうもありがとう!」
勇者「さて、ちゃっちゃと終わらせようか」
盗賊は、早足でその場を去る。
…笑いを堪えるのに、限界が来たからだった。
盗賊「……く」
盗賊「あっははははははははは!!!!!」
盗賊「やった!やってやったぜ!!くはははははは!!」
盗賊がやった事。それは……星の数をいじったのだった。
盗賊「じゃあな!自殺しろ!あはははははははは!!」
ガード「さて…あれ?掲示板に星5の討伐依頼があったはずだけど……取り下げたのかな?」
…
勇者「ここが討伐区域か」
少女「そうですね……さ!気合いれて……って……」
勇者「どうした?」
少女「サウンドハウンド……ストーンゴーレム……デスゲイズ……嘘でしょ……」
少女「この依頼、明らかに星2つじゃありません!見つかったら殺されます!逃げましょう!!」
勇者「見つからなかったらいいのか」
少女「だから早く逃げ」
勇者「広域雷撃呪」
ドガアアン!ドガン!ドゴォン!ガァアン!ドォォオオオオン!!!
エリアを制圧した!
少女「えーと」
勇者「よし帰ろう」
少女「…………はい」
……
盗賊は、変装が崩れる前に買い物をすまし、
奴らを始末できたことを伝えに新アジトへ向かおうと街を出ようとした……が。
前から歩いてくる二人組を見て思考停止してしまった。
少女「あのぅ、広域雷撃…呪?教えてくれませんか?」
勇者「ん、いいけど俺もどうやってやってるのか分かってないよ?」
少女「えー」
盗賊「なっ……」
勇者「お?そっちも収穫依頼終わったんですね!」
盗賊「ばか…な……」
勇者「いやーなんか依頼ミスだったとかで4千金貨もらえました!」
盗賊「そ、そう…ですか……」
まさか無傷で帰ってくるとは思いもよらなかった盗賊は、ここで時間をくってしまった為に……
少女「……あれ?なんかほっぺ剥けてますよ?」
盗賊「え?」
ポロッ
変装が解けた。
少女「……あ!?」
盗賊「ちっ!!」ダッ!
ガード「あれ、どうしまし……指名手配中の盗賊だ!捕まえろ!!!!」
盗賊「く、くそっ!!」
勇者「……なんだったんだ?」
少女「今の見たことありますよ。昨日の盗賊団員でした。……あ、なるほど」
勇者「何が分かったんだ?」
少女「要するにですね、高難易度の依頼を低難易度に見せかけて依頼を受けさせ」
少女「事故死を狙った悪質な依頼文操作です」
勇者「依頼文操作されてたのか?星2ってあんなもんなんだよな?」
少女「……あは!できなかったんでしょう!それよりネフィア探索行きましょう!」
少女は勇者に説明することを諦めた。
すまぬ>>309の 南東の洞窟→南西の洞窟 でお願いします
……
ザッザッザッ…
少女「勇者さんの、その強さの秘密って何ですか?」
勇者「ん?」
ヴェルニースから、少女の言う南西の洞窟へと向かう道中。
不意に少女は勇者に尋ねた。
勇者「うーん……」
~~~~
ロミアス『君、あまり本気を出さない方が良いかもしれない。』
勇者『どうして?』
ロミアス『おそらく、利用される。国に。』
~~~~
勇者「そう……だな……俺自身も、知りたいよ。だから……記憶を取り戻」
少女「プチだああああああああ死ねえええええええええ!!」
プチッ
少女「っしゃあああ肉ゲットぉおおお!!ふふーん♪持ってて良かった携帯調理道具♪」
勇者「……」ぷつん
少女「あ、そういえば何か言いました勇者さ」
ヒュバッパクッ
勇者「あーうめぇ。さて行こうか」
少女「ああああああああああああ!!!!」
*保存*
順調に進められそうとか言いながら二週間空けるって駄目じゃん……
そして少女は足を止める。目の前には灰色に染まった洞窟。
少女「さて、着きましたよ勇者さん。ここの4階への扉に鍵がかかってるんですよねー」
勇者「……っ!」ゾクッ!
勇者は、背筋が凍るような……まるでこれから、最後の敵が居る城へ入るような……
そんな感覚に襲われた。
少女「3階には危ない部屋がありましたし……勇者さん?」
勇者「……あれ?」
が、その気配も一瞬で消え去った。
少女「ほら、行きましょって」
勇者「ん、ああ」
そして二人は、洞窟へ入る。
ー謎の洞窟・1階ー
勇者「あれ、てっきりモンスターがいっぱい居るのかと思ったんだが」
少女「あー…私、この洞窟の地下3階くらいまで探索済みなんですよ。だからもうこの辺は討伐しきってます」
勇者「そうなの」
少女「さ!行きましょう!目指せ最奥部!!」
勇者「…おー」
少女「…テンション低くないですか?」
勇者「逆に君のテンションの高さはなんなんだ……?」
少女「ちょっとちょっと!」バッ!
少女は"止まれ"をするがの如く手を前に突き出す。
そして、不思議なダンスを踊り始めた。
少女「私たちはッ!」バッ!
少女「冒険者ですよ!!?」ビシッ!
少女「ネフィア探索でッ!!」サッ!
少女「テンション上がらなくてッ!!」クルッ!
少女「どうします!!??」ビシィッ!!!
少女(決まった!!!)
少女「……」チラッ
しかし目前には勇者の姿は無く、なにやらおかしなポーズを決めている少女の絵だけが、そこにはあった。
少女「…あれ?」
「はやくこーい」
地下への階段から、勇者の声が響く。
少女「ああっ!待ってくださーい!!」ダッ!
マヌケとは今の少女の事を言うのだろう。
そして、地下2階も通り過ぎ、地下3階へ。
ここで適当に歩いていた勇者が、開いてない扉を見つける。
1階・2階はすべて探索済み、つまり開いてない扉は無かった。
つまりこの先は未探索という事だった。
勇者「…ん?この扉はなんだ?」
少女「あ!?だめですそっちは!!」
勇者「なんでだ?」
少女「なんでじゃありません!扉に耳を付けてみてくださいよ!」
言われた通りにする勇者。…扉の向こうからは、
グルルル……
グルルルル……
ガルルル……
アオーーン!……
勇者「あー、うじゃうじゃいるなこりゃ」
少女「でしょ!?所謂モンスターハウスです!しかも鳴き声からして、ハウンドですね……」
勇者「ハウンド?」
少女「はい、犬みたいなやつなんです。本当に犬だったら全然楽なんですけど……」
少女「これがもし属性ブレスをするハウンドだったりしたら……」
少女「そりゃー1匹なら勝てますけど、多分この中は10匹以上いますね。生きて帰れません!」
勇者「属性ブレス……犬の……あ、あの時の犬か!」
勇者はサモンモンスターの杖を振ってしまった時に出現したファイアハウンドの事を思い出した。
勇者「なんだあの程度か」ガチャ
少女「ええええええ!!!」
勇者のなんの躊躇いもない扉の解放に少女は思わず叫んだ。
アイスハウンドの群れ「「ガルッ!!」」
そこに群れていたのは、薄く青がかった毛色をしたハウンド……アイスハウンドだった。
少女「うわ!うわわわ!」
勇者「あわてんなって。扉は一つ、出てきたハウンドを1匹ずつ叩くんだ」
少女「あ、な、なるほど!」サッ!
二人は空いた扉の両端に移動し、扉から出てくるハウンドを挟み撃ちにする。
「ガルッ!」バッ!
入口が狭いため、勇者の作戦は悉く思い通りに進むのだった。
そして、10分後。
勇者「な?こうすれば一人でもいけただろ?」
少女「ふぅー、なるほどなるほど!」
少女は戦術スキルの上達を感じた!
*保存*
ちょっと小ネタ。
タッタッタッタッ!
幼き少女は街灯に照らされた道を走る。
向かうところは街の噴水。少女はある言い伝えを信じて走る。
幼少女(井戸や噴水の水を飲んではいけないって、大人の人たちは言ってた……でも)
幼少女("願い"の神様は、水のあるところに現れる……ノイエルで歌を歌ってた人から聞いた!)
ザッ!
噴水の前にたどり着く。夜は危険。そんなことはわかっている。
幼少女『はぁ、はぁ……』
噴水の水。この世界の水は結構汚い。ちゃんとした水は、然るべき機関を通して信用を得、売り場に出されているものでないと危険である。
ある乞食が噴水の水を飲み、苦しんで死んだ事を少女は見たことがあった。
その上で、覚悟を決める。
幼少女『お願い!!!!』ゴクッ!
少女は水の中に金貨を見つけた。
幼少女『やった!おこづかい増えた!』
幼少女『じゃない!もう一回!!』ゴクッ!
この水は清涼だ。
幼少女『おいしい!』
幼少女『違う!!!もう一回!!』ゴクッ!
少女は変容した!少女の腕の贅肉が増えた。
幼少女『ふぇぇ……じゃなくて!もう一回!』ゴクッ!
少女は墨を浴びた!少女は盲目になった。
幼少女『うっ……もう一回!!』ゴクッ!
金貨を見つけた。
幼少女『もう一回!』ゴクッ!
金貨を見つけた。
幼少女『っ!』ゴクッ!
この水は清涼だ。
ゴクッ!
ひどい頭痛におそわれた!
ゴクッ!
少女は痺れた!
ゴクッ!
少女は変容した!少女の皮膚は冷たくなった。
ゴクッ!
『何を望む?』
幼少女『q!!』
幼少女『……あっ』
小ネタ「q!!」終わり
お待たせしました、今晩23時か0時あたりに投下します
少女「しかしよくもまあたくさん出現しますねぇ……ん?」
……と、少女はモンスターハウスだった部屋の奥で、何かがうごめくのを見た。
勇者「どうした?」
少女「何かが……うっ!!!」
そこには、アイスハウンドに体を喰われ…下半身が無い男の死体があった。
勇者「……あれだけのハウンドに囲まれて…力尽きたんだな……」
ハァ…ハァ…
少女「うわ!まだ息してますよこの人!!」
――まだ、死体では無かった。
瀕死の男「ぼ、冒険者…か?」
勇者「……ああ、そうだ」
少女「い、生きてる…の?」
瀕死の男「はは、重傷治癒のポーションで痛みを和らげてた甲斐があったよ」
勇者「…すまんが、その状態じゃ助けられないぞ?魔法使いが居りゃ望みはあったが」
少女(……魔法使い?)
瀕死の男「いやいいんだ、そんなことは……それより頼みがある…私はパルミアの斥候…王の命令でレシマスに潜んでいた者だ…」
瀕死の男「詳しく説明する体力はもう無い……王に…ジャビ王にこの書簡を届けて頂きたい……」スッ
勇者「ああ、わかった……」
瀕死の男「二つの大国の衝突を……シエラ・テールの危機を防ぐために……」
瀕死の男「そ、そこにある私の所持品は好きにして構わない…だからこの知らせを……パルミア……に……」
そういって男は、二度と喋ることは無かった。
勇者「……ジャビ王…か。パルミアに行けばいいんだな」
少女「……そうですね……あ、この人の所持品…どうします?」
勇者「何言ってんだ」
少女「そ、そうですよね!埋めた方が良」
勇者「もらっていく」
少女「あれ?」
少女は初めて会った時を思い出し、死体漁りを咎められていた故に意表を突かれた。
勇者「この人が死ぬ前に、所持品は好きにして構わない……と言ってたろ?つまりこれは遺言だ」
勇者「この人の意思を無駄にするわけにはいかねーよ」
少女「……そっか」
勇者「……ああ」
書簡と所持品を受け取った勇者は、意を決して少女に告げる。
勇者「なあ」
少女「なんです?」
勇者「もういいよ、ついてこなくても」
突然の縁切りだった。
少女「…ほほぅ、これで私は晴れて冒険者に戻れるってわけですか」
勇者「ああ」
少女「……なぜです?」
勇者「この人の背中を見てみろ」グイッ
少女「堂々と可憐な少女に死体を見せますか…………って、この傷は……」
勇者「ああ、明らかに人為的な傷だ。これが致命傷だったんだ」
少女「つまり、この人はアイスハウンドにやられたんじゃなくて……」
勇者「そう、殺されたんだ。口封じの為にな」
少女「っ……」
勇者「犯人はこの男に致命傷を負わせた後、どうやったか知らんがこのアイスハウンドの群れの中に送ったんだ。そうすれば勝手に食ってくれるからな、ハウンドに食い殺されたという状況が出来上がるというわけだ」
少女「あ、それはたぶん……テレポートの杖を使ったか、テレポートアザーの使い手……でしょうかね」
勇者「テレポート?転移呪の類……か?」
少女「私にとっては転移呪ってなんですかって感じなんですけど……まあ、たぶん合ってますよ」
勇者「そうか…ま、つーわけで……君はこれ以上首を突っ込まない方がいい。命を狙われる事になるかもしれない」
少女「……」
少女は答える。
少女「わかりました」
少女「私の身を案じてって事ですよね?」
勇者「当たり前だ。……ありがとうな、ここまで」
少女「……いえいえ」
勇者「まあ、短い間だったが楽しかったよ」
少女「んふふーそうですか♪私もです♪」
勇者「……洞窟の外までは送るよ」
少女「いえいいですよ。私はこの洞窟を探検しに来たんですから!」
勇者「そうか……じゃ、元気でな!」
少女「はい!また会いましょう!3分後にでも!」
勇者「俺はラーメンかよ」
少女「あはは!…よっ!」
*ガサッ*
勇者「あっおい!?」
勇者からある巻物を一つ奪い、逃げる。
少女「気になる巻物があったので貰っていきますねーーー」タタタタタ……
そうして少女は洞窟の奥へと消えていった。
勇者「くそっ泥棒娘め……まぁいいか。俺には分からねーし」
このとき勇者は、その巻物の知識さえ知っておけばと、すぐに後悔することになる。
……少しだけ。
勇者「……さて行くか」
こうして勇者はパルミアへ、少女は洞窟の奥へと進むのだった。
10分後。
勇者は洞窟の外へ出たはいいものの、そこから一歩も進めずにいた。なぜなら……
勇者「……パルミアってどこだ……?」
勇者「うわああああ!パルミアの位置だけでも教えてもらえばよかった!!」
勇者「はあ……とりあえずヴェルニースに戻るか……」
とそこへ、まるで待ち伏せていたように勇者を見つけた冒険者が歩み寄る。
???「おやおや冒険者さん!洞窟から出るの遅いですよ!ラーメンだったらもうふにゃふにゃにのびてます!!」
???「あっ!もしかしてパルミアへの道が分からないんですか!?案内してあげましょか!?」
勇者「……一度も抜かれてないはずだ」
???「当たり前です!脱出の巻物を読みましたから!」
勇者「……そうか、あれは洞窟から脱出できる巻物だったのか……」
???「それで、どうします~?」
勇者「そっちこそいいのか?危ない旅になるかも知れないんだぞ?」
???「どんとこいです!あっ!」
勇者「……なんだよ」
少女「そのかわり、プチのお肉は優先的にくださいね!!勇者さん!!」
こうして、勇者と少女は共に旅をすることになるのだった。
*保存*
書き溜め無いけど17時まで投下します
勇者と少女は、王都パルミアへ向かう……はずだったのだが。
ザアアアアアアアアア!!
勇者「のわあああああ!」バチャバチャ
少女「ひーーー!!」バチャバチャ
洞窟を離れた直後、二人は突然の雷雨に見舞われていたのだった。
勇者「くっそー!どうすりゃいいんだ!?」
少女「とりあえずさっきの洞窟に戻りましょうよ!」
勇者「いや!そのはずなんだがな!!」
少女「まさか……」
勇者「うるせぇ!!こんな雷雨じゃ方向感覚なんぞわかんねぇよ!!」
二人は豪雨のせいで前が全く見えず、適当に走り回っていた。
少女「へっくし!」
勇者「おい、大丈夫か!?」
少女「…平気ですよ!慣れてますからー!」
―――うみみゃ
勇者「何か言ったかー!?」
少女「慣れてると言ったんですーー!勇者さんこそ大丈夫なんですかー!」
勇者「ああー!!こんなの平気……ぶえっくし!!」
少女「あーもー!!……あ!!勇者さん!!」
勇者「何だー!?」
少女「あれ見てください!明かりです!!」
勇者「でかした!!」
少女「……なんだか奇妙な建物ですね……」
勇者「そうだな……へっくし!あー」
少女「…とりあえず入りましょう……といっても……入るところが無いんだけど……」
ウィーン
少女「ふおっ!!」
???「ひどい雷雨…って!あなたたちずぶ濡れじゃない!」
突然、壁と思っていた所から、緑色の軍服に赤のアーミーベレー帽を被った女性が現れた。
少女「何今のすごい!」
???「は?」
勇者「おい…何でもいいから入らせてもらおうぜ」
少女「あ、ああそうでした!」
???「えと、冒険者さんね?とりあえず中でゆっくりしていきなさいな」
勇者「すいません、お言葉に甘えます」
???「あ~、この雷雨で方向感覚がわかんなくなっちゃったのね」
勇者「そうですね。いやー助かりましたよこうしてブランケットも頂いちゃって」
勇者(この部屋はこの人のなのかな?棚と……よくわからん機械?があるだけだな)
勇者(それと隅にある鉄の棒っぽいのはなんだろう……あぶない気配がする……)
助けてもらい、ブランケットも貰っている以上あまり口に出さない勇者。
???「ふふふ……誰が無料だと言いました?」
勇者「……あー、いくらです?」ゴソッ
バックパックを開け、持ち金を確認する。
???「あ、お金はいいのよ?代わりに私のお願いを聞いてくれればいいの」
勇者「はあ……お願い…ですか」
???「そ。お願い」
勇者「えと、全然構わないんですけど、まずここってどこですかね?随分ヴェルニースとは違った雰囲気ですね」
???「あー…あなたここ初めて?」
勇者「はい」
勇者(ここどころか全部初めてだよ……)
???「えっとね、ここはアクリ・テオラ。科学の街よ」
勇者「街ですか?街というよりハウス」
???「黙りなさい」
勇者「ドー…もすみません」
???「私はここの…そうね、科学者よ」
勇者「はあ……わかりました。じゃあ、科学者さん。話戻りますど、お願いってなんですか?」
謎の科学者「それは……あら?お連れの女の子は?」
勇者「……あれ?」
ウィーン…ウィーン……
セールスマン「ちょっと困るよお嬢ちゃん……」
少女「だってこれ面白い!うぃーん!!うぃーん!」
ドアを開け閉めして遊んでいる少女の姿が映った。
勇者「……」
謎の科学者「……えっと」
勇者はやっぱり縁を切ったほうがよかったかなと本気で思った。
勇者「ちょっと待っててくださいね」
謎の科学者「はあ…」
「あ、君はこの子の連れかい?いい加減にして欲しいんだけど……」
「え、これ?1000金貨だが」
「……毎度」
「あははは!うぃーん!うぃー……あっ」
「いやあの…あはは……なんですかその紐……」
「なな何するんですか勇者さ、アン!」
謎の科学者「……」
少女「……」
勇者「さっきの続きお願いします」
謎の科学者(ペットになっちゃったわね)
謎の科学者「ええと、リトルシスター……って知ってる?」
勇者「いえ」
少女「あ、私見たことあります!たしかビッグダディっていうすごく強い機械の肩に乗ってる小さい女の子ですよね!見た目アレですけど」
謎の科学者「(首に紐つけられてるのに元気ね)…その通り。……ちなみにその時あなたはどうしたの?」
少女「特に何も。アレって、こっちから何か仕掛けない限り何もしてきませんよね?」
謎の科学者「……そうよ。良かった」
少女「?」
謎の科学者「よく聞きなさい。もしあなたたちがいつかリトルシスターに出会ったら、あの子達に救いの手を差し伸べてあげて。見た目こそ化け物のように映るかもしれないけど、彼女たちがまた元の可愛らしい笑顔を取り戻せるように、私は研究を続けている。だから、お願い。この道具を使ってリトルたちを私の元へ運んで。あなたへのお礼は、いつか必ず。」
謎の科学者は紫色のボールを差し出した。
勇者「これは?」
謎の科学者「私が開発した、リトル捕獲玉よ」
勇者「捕獲玉……」
謎の科学者「ああ、そんな物騒な物じゃないわよ?これを投げつければ、玉が壊れて中の気体がリトルの神経に作用、"敵"という概念を失くすの」
勇者(ずいぶん物騒な気がするがな……)
謎の科学者「そうすれば、おとなしくついてくるようになるわ。」
少女「……でもそういえば、リトルの肉って……」
謎の科学者「……そう……リトルたちを、終わりのない苦痛から解放するべきだという人もいる。でも大抵の人間はあの子たちの力が欲しくて殺すのよ。」
勇者「まてまて!それってどういう事なんだ!?」
少女「リトルシスターの肉…それを食べると……」
謎の科学者「そう、確かにリトルの肉は人の肉体を進化させる」
勇者「…それで狙う奴が居るのか……」
謎の科学者「ええ……それでも、私はあの子たちを救う別の道があることを信じているの。…そして覚えておいて。もしあなたたちがリトルの命を奪うようなことがあれば、いつかその酬いを受けるときがくるから。」
謎の科学者「ああ、ちなみにその玉はリトル専用よ。リトル以外には何の効果も無いから」
勇者「……わかった。とりあえずそのリトルシスターを見かけたら連れてきたらいいんだな」
謎の科学者「そうよ」
勇者「ちなみに、そのリトルシスターを肩に乗せてる、ビッグダディ?ってやつは何なんだ?」
謎の科学者「…アレは言わば、リトルシスターと共生の関係にある機械よ」
勇者「へぇ……ん?共生なら別に放っておいてもいいんじゃないのか?」
謎の科学者「……確かに共生と言ったけど、その関係は崩れつつあるの」
勇者「……リトルシスターとビッグダディについて、もう少し詳しく頼む」
少女「これを解いてくれたら教えてあげなくもないですよ勇」
謎の科学者「分かったわ」
少女「……」
リトルシスター。周囲から特殊な栄養素を溜め込む性質を持っている。故にその肉を食べると人の肉体に進化をもたらす。
ビッグダディ。リトルシスターを肩に乗せる機械。リトルシスターからその栄養素を貰い受け、駆動する。そのかわり、リトルシスターを誠実に守っている。
謎の科学者「ここで気を付けるのは、肉を食べると進化するという部分。"栄養素を溜め込んだ肉"ではなく、"栄養素を溜め込むその性質を持った肉"を食べることで進化できるの」
勇者「……読めた。言っていいか?」
少女「えっわかったんですか!」
謎の科学者「…どうぞ?」
勇者「さしずめ、その"栄養素"とやらが無くなってきたんだろ?"栄養素"が無くなればビッグダディは動けない。するとリトルを守る者が居なくなる。"栄養素を溜め込むその性質を持った肉"…という事は栄養素を溜め込んでいるいないに関わらず、単純にリトルの肉を食えばいい話だ」
謎の科学者「……」
勇者「そのリトルを守る機械が動かないなら、恰好の餌食だろうな。だからその前に保護する。そういう事だろ?」
謎の科学者「……大正解よ」
勇者「分かった。協力しよう」
謎の科学者「……ありがとう。玉が無くなればまた来るといいわ。結構重いし、リトルはそんなに居るものじゃないから」
少女「あれ?でもさあ、ビッグダディはリトルを守ってるんでしょ?どうやってリトルを捕獲するの?」
謎の科学者「……アレに心は無い。ただリトルを守るという命令だけを忠実に守る、ただの機械。遠慮はしないで」
少女「力ずくって事か……でもビッグダディは滅茶苦茶強いって聞くんですけど」
謎の科学者「そうね、無理しなくていいわ。話を聞いてビッグダディと戦闘して返り討ちにあうなんてよくあることだから」
勇者「肉が欲しくて?保護しようとして?」
謎の科学者「……どっちもよ」
ゴロゴロゴロ……
謎の科学者「…雷雨がひどいわ。今日はここで泊まっていきなさい」
ようやく話は終わったが外は雨、それに話し込む内に、とっくに日は落ちていた。日など見えないが。
勇者「……そうっすね。じゃそれもお言葉に甘えて」
少女「ベッドあるんですか?」
謎の科学者「案内するわ」
少女(ん?なんか嫌な予感)
的中。
少女「だからなんでダブルベッド……」
*保存*
勇者「おお、でけーベッドだ」
謎の科学者「あら?あなた達ってそういう関係じゃないの?」
少女「違っ!勇者さんも反論してください!」
勇者「ん、ああ…すまん、今日は疲れた…悪い、先に寝る……」ボフッ
少女「あーもー!」
謎の科学者「…そだ、お風呂入る?」
少女「あ、お願いします……ん?」
スルッ
少女の足元に黒い物体がすり寄っていた。
「みゃあ」
少女「うおわっ!」
謎の科学者「あら、ふふっあなたも一緒に入りたいの?」
少女「…びっくりした……猫ちゃんか……あれ?この猫どっかで……」
黒猫「うみみゃぁー」
少女「この鳴き声……毛並の良い綺麗な黒毛……あのときの黒猫ちゃん?」
ヴェルニースの宿屋に住み着いていた黒猫。盗賊団の件があった時にどこかへ行ってしまったらしかった。
黒猫「うみみゃ♪」
謎の科学者「この子知ってるの?」
少女「はい、ヴェルニースの宿屋で見かけたんですよ。そのあといなくなっちゃったんですけど……こんな所に居たんですね」
謎の科学者「居たというか…この子が迷い込んできたのよここに。雷雨になる少し前にね」
少女「そうなんだ……もしかしてついて来てたのかな……ってそりゃないか!」
黒猫「うみみゃ?」
少女「ふふ、一緒にお風呂入る?」
黒猫「うみみゃぁ!」
*ちゃぷっ*
謎の科学者「湯加減どうー?」
少女は部屋の隅にあるバスタブに使っていた。
顔が真っ赤なのはお湯が熱いからではなく……
少女「あ、いい感じです…けど…あの」
謎の科学者「どうしたの?」
少女「仕切りとか…無いんですか」
目線の先には、ベッドで寝ている勇者。
謎の科学者「無い!」
少女「ぐ……」
少女達の居る部屋はなぜかベッドと浴槽が一緒になっていた。
それというのも、勇者がアクリ・テオラで遊んでいた少女を縛るために使った紐のせいである。
少女の首につけられた紐の先は、勇者が下敷きにしていたのだ。
よって少女は一定以上の距離をおけず、なくなく部屋に付属していたバスタブに浸かる事になったのであった。
少女「うう……起きませんように起きませんように……」ぶつぶつ…
黒猫「うみみゃ♪うみみゃ♪」チャパチャパ
少女「……猫ってお湯嫌いなもんだと思ってましたけど、そうでもないんですね」
少女は黒猫が溺れてしまわないように抱いて風呂に浸かっていた。
謎の科学者「大抵の猫は嫌いだと思うけど?」
少女「そうですか…ふふっ、君は風呂好きなんだね♪」ザパッ
少女は黒猫を正面に向ける。
少女「あ、女の子なんだ」
少女は黒猫の下腹部を見て、判断する。
少女「ぅうん……」
少女は悩んでいた。どこで寝ればよいのかを。
勇者はダブルベッドの片隅で寝ているため、一応隣は空いている。
黒猫は風呂が終わり、少女に体を拭いてもらうのが終わるや否や、またどこかへ走り去っていた。
謎の科学者は「お楽しみに♪」と言ったまま自分の部屋へ戻ってしまっていた。
よってここには勇者と少女二人きり。勇者は既に睡眠中だが。
他の部屋にもベッドはあると科学者は言っていた。しかし首にかかっているこの紐が、それを許さなかった。
少女「……うう」ギシッ
恐る恐る勇者の隣に入る。ヴェルニースの宿屋では、勇者は床で寝てくれていたが、今回は全く違う状況なのだった。
……
ムクッ
少女「……朝だ」
悶々と考え事をしているうちに、いつの間にか意識を失い、朝を迎えていた。
少女「ふあ……二回目かぁ……もう……ちょっとは意識してくれてもいいのに……」
ちらりと、隣で寝ている勇者の顔を覗く。
少女「……え」
そして少女は、ふざけている場合では無いと気づく。
勇者「……はぁ、はぁ……」
勇者の顔はほんのり赤く、荒い呼吸をしていた。
謎の科学者「うーん、昨日の雷雨のせいかな……でもあなたも同じようにびしょ濡れだったし、こりゃあなたの方が馬…元気だったみたいね」
少女「ちょっと今馬鹿って言おうとしませんでした?」
謎の科学者「そんな馬鹿な」
少女「ぬぅ……」
謎の科学者「ま、あんな強風にずっと当たってたんなら無理もないやね」
少女「え?昨日ってそんなに風強かったですか?」
謎の科学者「……何言って……そういう事か。あんた、この人に感謝するこったね」
少女「え?……あ」
少女は、昨日勇者がいつも少女に対して少しでも風が当たらないよう風上に居た事に気づく。
少女「……ばか」
熱を発している勇者の顔を見て、少女の胸は熱くなった。
パチッ
勇者「……」
少女「あ、起きた」
ムクッ
勇者「あー………くそ、風邪ひいちまったのか」
上体を起こした勇者は体の気だるさを感じ、自身の状況を把握する。
謎の科学者「もう…しばらく泊まっていきなさい。悪化されたら私がお願いした意味が無くなっちゃうわ」
勇者「いや、そういうわけにはいかない」ギシッ
スタッ
謎の科学者「ちょ、ちょっと!?」
勇者「これくらいはどうって事ないさ。外はまだ雷雨なのか?そんなに音は聞こえてこないが」
謎の科学者「えっと、嵐は過ぎて今は単なる雨が降ってるだけよ。でも本当にその状態で出発するの?」
少女「そうですよ勇者さん、あんまり無理しないほうが……」
勇者「書簡」
少女「…あ」
謎の科学者「え?」
勇者「すみません、本来急いでパルミアへ向かう所だったんです。嵐が止んで進めるのなら、行きたいんです」
少女「そうでした……」
謎の科学者「えっと、そんなに急ぐの?」
少女「…はい」
勇者「お世話になりました。この恩は、リトルの件で返そうと思います」
謎の科学者「…ありがとう。本当に、無理しないでね…」
勇者「ええ、それでは。」ガサッ
少女「ありがとうございました!」ガチャッ
勇者と少女は荷物をとって、アクリ・テオラを出るのだった。
*保存*
お待たせしました、投下します
時は勇者と少女が、ネフィア探索へ乗り出すべくヴェルニースを出発した時刻。
ヴェルニースの町は体の弱いザナンの皇子『サイモア』率いる軍に宿営所を提供していた。
一人の伝令兵が、報告すべくサイモアの居るドアの前に立つ。
伝令兵「サイモア様、酒場であの《白き鷹》を捕えたと、ロイター様はおっしゃられてますが」
サイモア「確かなのか?」ガチャ
安全確認もせず堂々とドアを開けた。確かにこの伝令兵の声は既にサイモアに記憶されているのだろうが、サイモアはザナンの皇子なのだ。安全確認もせずドアを開けたということは、その伝令兵を信用しているから…
ではなく。
その内容《白き鷹》の情報のおかげだった。
伝令兵「…昔の面影はあるのですが、風貌も違い、尋問をしても一言も……私は別人のように思えます…」
サイモア「ふふ、変わったか…そうだろうな。昔のままでいられるわけがない。……捨て置け」バタン
伝令兵は初めて、サイモアが笑った所を見たのだった。ゆえに返事が少し遅れてしまった。
伝令兵「……御意」
サイモア「皮肉なものだ。ザナンを出て以来行方を捜させていたが、今になって見つかるなんて」
サイモアの側近、青い髪の青年ヴァリウスが答える。その風貌は……勇者が出会った緑の髪の男と似ていた。否、髪の色以外は全く同じ雰囲気を醸し出していた。
ヴァリウス「ザナンの白き鷹…今更あの男に何を期待しておいでで?」
サイモア「期待などしていない。ただこれから起こる喜劇の証人になってくれればいい。あの男がいないと、私の物語は完結しないのだから。」
サイモア「さて、そろそろジャビ王の所へ出発するか?」
ヴァリウス「残念ながら、嵐が来るそうです。出発するのは明日か明後日にしましょう」
サイモア「そうか……まぁ、1日や2日くらいどうってことないな」
サイモア「世界の終わりは、もうすぐそこまでせまっているがね」
…ザナン軍がヴェルニースを出たのは、嵐が止んだ朝だった。
…
そして現在。
サアア……
少女「ん~!蒸れるー!」
二人はアクリ・テオラで買ったローブで小雨を凌ぎつつ、勇者と少女はパルミアまであと少しの所まで来ていた。
勇者「ちゃんと深くかぶっとけよ、風邪ひくぞ……コホッ、俺みたいに」
少女「どーせバカなので風邪ひきませんよーだ!」
勇者「そんなこと言ってないが……」
少女「……パルミアについたらちゃんと、休んでくださいよ?」
勇者「ああ、そうするよ」
少女「…そだ!魔法使いって誰です?」
勇者「え?魔法使い?」
――『…すまんが、その状態じゃ助けられないぞ?魔法使いが居りゃ望みはあったが』
勇者と瀕死の男との会話を思い出す。
少女「勇者さん言ってたじゃないですか。瀕死のあの人に向かって、魔法使いが居たら望みはあったって」
勇者「そんなこと言ってたっけ……?」
少女「言ってましたよ?勇者さんの知る魔法使いってすごいんですね、あの状態から助けられるなんて」
勇者「魔法使い……魔法使い……」
目をつぶって記憶と辿る。…もっとも、その記憶が喪失しているからこそ今の今まで困っているのだが。
しかしきっかけというのは重要だ。些細なことでも……
――『私は魔法使いよ。変なことしないでね?』
――『……よろしく、勇者さま』
記憶を呼び覚ますトリガーとなる。
勇者「……そうだ、俺が旅をしてきた仲間に魔法使いが居たんだ」
勇者は記憶の欠片を拾った。
少女「旅?」
勇者「ああ、俺は前にもこうして旅をしてきた……していたんだ」
少女「ふむふむ」
勇者「そのパーティーの一人に、魔法使いっつーのが居たはずだ」
少女「パーティーの一人って事は、他にも居るって事ですかね?」
勇者「……そう、そうだ……確か……あと二人……居たはずなんだ」
勇者「誰だ……何故俺は思い出せない……げほっ!げほっ!」
少女「……無理しないでください。いずれ必ず、全部思い出しますよ」
勇者「……さんきゅな」ニコ
少女「っ!」カアア…
勇者「あれ?顔赤いぞ?もしかして風邪を…」
少女「ひいてませんってば!っもう!いきますよ!!」スタスタ
熱がこもっているからと自分に言い訳して、足を速める。
勇者「ぬ……」スタスタ
それに合わせて、勇者も歩幅を大きくする。
勇者「……そういやパルミアまでどんくらいだ?っとわぁ!」ドンッ!
少女「…………」
しかし少女は、急に足を止めるのだった。思わずぶつかる勇者。
勇者「おい急に止まるなよ……どした?」
少女は目の前を凝視して、動かない。
否、睨みつけている。
二つの人影を。
少女「……」チャキ
少女は無言で、背中に携えている大剣に手をかける。視線は、相手から外さない。
勇者「おいどうした!?」
少女「敵ですよ勇者さん。そんなことも分からないほどやられてます?」
勇者「な……」
先ほどとは一変した少女の態度に、勇者は既視感を覚える。
勇者「つっても……どう見たって人なんじゃ……!」
少女「んなわけ無いじゃないですか。あの青髪と、緑髪……そして雰囲気……」
少女「エレアです」ギロッ!
勇者「あの"異形の森の民"…か?」
勇者「って待てよ、こっちには気づいてないじゃないか!後ろから切りかかるつもりか!?」
少女「……勇者さんがどんな世界に居たかは知りませんが……正々堂々なんて、アリーナでの決闘でしかあり得ませんよ……!」ダッ!
勇者「おいっ!」
少女「……お父さんの、仇ッ!!!」タタタタタ!
走りながら大剣を構え、父の仇である"エレア"を討とうとする。
???「……敵か!?」バッ!
冷静さを失い、一直線に走る少女の殺気と足音に当然二人は気づく。
こちらを向いたその顔。
勇者「あ、あいつらは!!」
勇者は知っていた。
ロミアス「やれやれ、困ったものだな……どうするラーネイレ?」
ラーネイレ「正当防衛よ、悪く思わないで」スラ
またか、という顔をしながら素早く腰の短剣を抜き、向かってくる敵に対して臨戦態勢をとるラーネイレ。
その二人はかつて、勇者を助けてくれた恩人だった。
勇者「く、くそっ!!」
ロミアスとラーネイレは、あの倒れていた自分を介抱してくれた。
少女は、ボケたりツッコミしたり…明るく元気に、一緒に旅をしてくれた。
その恩人と恩人が。
殺しあおうとしている。
ロミアス「そっちはまかせたラーネイレ」バッ!
ロミアスは素早くその場を離れ、少女の片割れ…つまり勇者に向かって弓を番う。
フードを深く被っていたため、かつて自分たちが助けた勇者だと気づくことは出来なかった。
勇者「やめ……げほっ!!」
風邪のせいで叫べない。
少女「わあああああ!!」タタタタタッ!
ラーネイレ「悪く思わないでね」ユラッ
勇者「!!!」
染みついた元の世界の経験則から感じ取ってしまった。
対峙する二人の強さが。
圧倒的に、ラーネイレの方が強いという事。
そしてその眼は……
少女を殺す眼をしている事を。
勇者「っ超加速呪!!!」ポウッ!
ロミアス「何だ!?」バシュッ!
ロミアスは矢から手を離し、弓が矢を打ち出す。しかしその矢は空を切っただけであった。
ロミアス「ッ!ラーネ……」
ロミアスは、ラーネイレの方に少女の片割れが向かった事を伝えようと顔を向けた時には……
既に終わっていた。
少女とラーネイレが衝突、少女は大剣を振りかざし、ラーネイレは大振りな攻撃の隙間から少女の首を狙った………
瞬間。
ガキィン!!!
少女「いっだ!」
ラーネイレ「っっ!?」
少女の大剣はいつの間にか宙を舞い、ラーネイレは短剣を持つ手を勇者に握られ、そのまま首元に短剣を押し付けられていた。
勇者「二人とも動くな!!!」
ロミアス・ラーネイレ「「っな!!」」
普段の温厚な勇者の眼ではなく……目が合えば思わず怖気づいてしまうような、鋭い眼をしていた。
……ザクッ!!
ようやく落ちて地面に突き刺さった少女の大剣は、今までの滞空時間からかなり打ち上げられていた事が分かる。
ロミアス「っ貴様!!」バッ
即座に弓矢を勇者に向ける…が、ラーネイレの首元に短剣が突きつけられている事と……
フードが取れてあらわになったその顔を見て、踏みとどまる。
ロミアス「……君は……」
ラーネイレ「あなたは……!」
勇者「どーも、また会ったね。こんな形で会うとは思いもよらなかったけど。」
ラーネイレ「……離して、くれるかしら」
未だ首元に突き付けられた短剣からの解放を、願う。
勇者「……」パッ
短剣ごと握られていた手をほぐして、短剣をしまいながら訴える。
ラーネイレ「……でも、襲いかかってきたのはそっち、こっちは正当防衛だとは思わないかしら?」チラ
少女「……」
茫然自失としている少女に目線を向ける。
少女「どう、して……」
蹴り上げられてジンジンと痛む右手を庇いながら、少女はぐるぐると考えていた。
何故、勇者がエレアなんかと話をしているのか。
勇者「……すまん、この人らは俺の命の恩人なんだ。雷雨の中倒れていた俺を安全な洞窟まで運んで、介抱してくれたんだよ」
少女「そん、な」
勇者「まさか、エレアだとは思わなかったけど」チラ
ロミアス「……黙っていた事については、謝るさ」
ラーネイレ「……私たちはこの通り、エレアというだけで迫害されてきた。だからいつもは隠していたのよ」
勇者「こいつがエレアを憎むのは、異形の森から発するエーテルで、こいつの父が死んだからなんだよ」
ラーネイレ「……」
勇者「なあ、エレアとエーテル、関係あるのか無いのかハッキリしてくれるか?」
少女「っ何言ってるんですか!!エーテルはエレアがっ」
勇者「クレア!!」
少女「っ!」ビクッ!
ラーネイレ「……わかった。本当の事を言いましょう」
ロミアス「ラーネイレ!?」
ラーネイレ「黙って、ロミアス。この人達には真実を知っていてほしいと思うの」
*保存*
遅筆で申し訳ない
ラーネイレ「まず大前提として信じて欲しい事がある」
ラーネイレ「私達エレアは……レム・イドなんて滅ぼしていない」
少女「馬鹿な!」
勇者「……」ペシッ
少女「あたっ…」
チョップをして黙らせる。
しかし、それでも発言する。今度は感情を抑えて。
少女「……では何故、エーテルの風なんて起こしているの?」
少女「エーテルを利用し、他の種族を滅亡させようとしているのは何故?」
ロミアス「ふん、これだから…」
ラーネイレ「ロミアス、刺激させないで!」
ロミアス「……」
ラーネイレ「私達エレアはね、"何もしていない"」
少女「っ!!!!」
どうしてそんな事が言える。異形の森に住みエーテルを発生させておきながら――
父を殺しておきながら――どうしてそんな事が。
また怒りでどうにかなってしまいそうな所をどうにか抑える。
ラーネイレ「エレアは、ただ住んでいるだけ。エーテルに対して抵抗があるだけ」
ラーネイレ「ただ、それだけ。」
少女「ふ、ふ、ふざけ――」
ラーネイレ「そもそも!」
少女「っ……」
ラーネイレ「……エレアがエーテルを発生させたなんて、どこに確証があるというの?」
少女「そんなの!ザナンの皇子、サイモア様が」
ラーネイレ「あなたはエレアがエーテルを発生させようとしている所を見たの?」
少女「な…」
ラーネイレ「エレアが、エーテルの発生源である異形の森の民だからというだけで掃討されようとしている」
ラーネイレ「もう一度言う。エレアはただ単に、エーテルに抵抗を持っているだけの種族なのよ」
少女「そんなの――」
ラーネイレ「信じて欲しい」
少女「……いきなり襲ってくるエレアは?」
ラーネイレ「……元々エレアは非戦的な種族。そういう好戦的なエレアは、酷い仕打ちを受けてきた恨みで動いているに過ぎないのよ」
少女「……こっちから仕掛けたとでも言いたいの」
ラーネイレ「その通りよ。私達は普通に過ごしてきただけなのに、勝手に決めつけ、勝手に同胞を殺した」
ラーネイレ「エレアが非戦的でなければ、とっくに戦争になっているわ」
少女「……どうやって、信じろと」
ラーネイレ「……」スッ
ラーネイレは収めた短剣を再び抜き――
少女「何を……え」
刃先を自分の眼の前数ミリの所に置く。
ロミアス「ラーネイレやめろ!!」
勇者「お、おい!?」
ロミアスと勇者の静止を聞き流し、少女へ近づく。
少女「な……」
ラーネイレ「これが覚悟。私の本気。あなたが私の腕を少しでも押せば、私の眼は潰れる」
少女「ちょっ…と」
ラーネイレ「どうぞご自由に。私は片目を失うかわりに、あなたの信用が欲しい」
ラーネイレ「……なんなら、両目でも構わない。光を失っても、希望の光は見失わない」
勇者「何もそこまで…!」
ロミアス「やめろラーネイレ!そんな事になったら俺はそいつを攻撃するぞ!!」バッ!
勇者「!!」バッ!
再び矢を番い力を込める。
それに対し勇者もまた、戦闘態勢を取る。
ラーネイレ「お願い。信じて……」
片目は短剣に隠れて見えないが、もう片方の目はラーネイレの心の中を映し出すように
真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐに少女を見つめていた。
少女「……」スッ
少女は、短剣を持つ手に向かって手を伸ばす。
ラーネイレ「…え?」
ラーネイレは、"両目"で少女の顔を見る事ができていた。
少女の手は、目を貫かんとする短剣を持つ手を掴み、
やさしく下へ降ろしていた。
少女「……分かった。もういいよ、信じるから……」
ラーネイレ「……ありがとう」
ロミアス「…はー…」
勇者「…ふぅ」
二人の緊張は解け、勘弁してくれと言わんばかりに脱力する。
少女「……あなたの言っていることが本当なら、サイモア様の言っていることが嘘だというの?」
ラーネイレ「……そうよ」
少女「それこそ、サイモア様は何か証拠があってエレアを――」
ラーネイレ「そもそもあの人の演説、本当に聞いたことあるの?」
少女「や、それは……あまりに有名でよく聞く事だから……」
ラーネイレ「まあ私はエレアだから先入観はあったかもしれないけど、そういうの抜きで私が初めて見た時……そうね…」
ラーネイレ「ただ音を発しているだけの言葉、そんな風に感じたわ」
少女「……本心では無いって?」
ラーネイレ「…多分ね。」
少女「そんな事分かるの?」
ラーネイレ「まぁ、人の嘘っていうのは、よく注視すれば分かる事だからね」
勇者「じゃあ演説の時に違和感を覚えた奴って、それなりの実力者なら結構いたりするんじゃ?」
ラーネイレ「…そうかもしれないわね」
ラーネイレ「これから私達はパルミアの王・ジャビ王に、エレアの民とシエラ・テールのために異形の森の使者として力を貸してくれるよう頼みに行くんだけど」
ラーネイレ「…よかったら、ついてくる?」
少女「……行きます。いいですよね?勇者さん」
勇者「ああ。ちょうどパルミアの王には用事があるところだしな」
ロミアス「用事?」
勇者「ああ。とある洞窟で、パルミアの斥候にこの書簡を王まで届けてくれと頼まれたんだ」
ラーネイレ「…興味深いわね」
勇者「シエラ・テールの危機を防ぐために…って言ってたかな」
ラーネイレ「シエラ・テールの危機……その人は何を知ったのかしら……それ、見せてくれない?」
勇者「うーん……破って開くタイプだから、そうすると王の信用を得られなくなるぜ?」
ラーネイレ「……そうね、じゃあお互いに、ジャビ王との謁見に同行しましょう」
こうして、ロミアス・ラーネイレと共にパルミア王宮・ジャビ王の下へ向かう事になった。
*保存*
2ヶ月ぎりぎりで申し訳ない
でも完結はさせるよ!
ー同刻ー
――場所はパルミアから東へ60マイルほど離れた所。ちらほらと雪が舞う。
――人が通るゆえに草の生えていない道より、さらに外れた平野。
――そこから見えるさらに東の山は真っ白で、ここが地形の変わり目であることを醸し出している。
その平野に洞窟が顔を出している。ネフィア。自然発生した魔物の巣窟である。
そしてその洞窟から出てきたとある集団が、荷車に戦果を積み込んでいた。
盗賊団頭領「流石名声高い冒険者。あのビッグダディを捕えるなんて、雇った甲斐がある」
ビッグダディ「ォオオ……オオオオ……」
ロープで縛られた金属の塊が、荷車の上に鎮座していた。
高名冒険者「まあな。それでも脆弱のポーションと麻痺のポーションをかけ続けてないとロープなんぞ引きちぎられるから気をつけろよ」
盗賊団員A「了解っす」
荷車の中には大量のポーション。盗賊団員は一定間隔でビッグダディにポーションを浴びせ続けていた。
高名冒険者「それより分かってるだろうな?」
盗賊団頭領「ああ……おい!」
盗賊団員B「へい!……どうぞ!」ジャラッ
高名冒険者「…よし、ちゃんと5万金貨あるな。それと……」
盗賊団頭領「分かってるって」グイッ!
リトルシスター「…Mr.……Mr.Bubbles……動、いて、お願い……」ブツブツ
盗賊団の乱暴な扱いに何の抵抗もしない…いやできない、この小さな少女がリトルシスター。
勇者達が依頼された保護の対象だ。
高名冒険者「あれ、まだ生きてるのか」ザクッ!
リトルシスター「死、死にたくない……いやぁ…ぁ……」
躊躇なくリトルシスターの胸にナイフを突き立てる。
既にいくつものリトルシスターの血肉を食らってきたこの冒険者に、この行動はもはや作業になっていた。
ビッグダディ「ォォオオオオオ!!!!オオオオオオオオ!!!!」ガチャガチャガチャ!!
ビッグダディが怒り狂っているが、どうしようもなく雑音を響かせるだけだった…。
盗賊団頭領「うわっ!殺すなら言ってくれよ!血が付いちまった……」
高名冒険者「はは。…俺はあんたらにビッグダディの生け捕り、報酬はリトルシスターと金貨…これで依頼完遂かな」
盗賊団頭領「いやー、ある貴族がビッグダディを欲しいっつーもんだからねぇ…ま、あんがとさん」
盗賊団頭領「いやしかし、あんたが強い理由ってのがリトルシスターの乱獲って、ファン減るんじゃねぇのか」
高名冒険者「……」
盗賊団頭領「有名なアンタがこんな裏稼業してるとわかればどうなるか……」
高名冒険者「死にたいのか?」
盗賊団頭領「……わ、悪い。俺たちゃアンタみたいな奴にしか依頼なんてできねぇから、これからもよろしく頼むぜ」
高名冒険者「ふん、まあ困ったときはお互い様だな。裏の顔がバレそうな時にゃ、逆にあんたらに暗殺を依頼することもあるしな」
盗賊団頭領「はっは、違いねぇ」
盗賊団員C・D「…誰だ!!」
盗賊団頭領「ん?」
見張りをしていた盗賊団員CとDが少し離れた木の陰に人が隠れていたことを発見する。
……というのも、その者が何故か自分から身を現したからだった。
高名冒険者「……あらら」
「……」
フード付きローブに身を包んでいて、顔は見えない。
しかもそのローブは身の丈に合っていないようで、余った袖は腕を完全に隠し、裾は大分地面を擦っていた。
高名冒険者「だっぼだぼだなぁ……小せぇ……身長150㎝無いんじゃないか?子供?」
盗賊団頭領「てか見られちまったな…どうする?俺らは別に気にしないが、あんたは名声に響くんだろ?」
高名冒険者「とか言いながら始末報酬もらおうとしてるだろ。気にしないとか嘘くせぇ、どうせ捕まえるくせに」
盗賊団頭領「はっは、バレバレだな……うおっ!!」
ビュウウウゥゥウ!!
突如強風が吹き荒れる。地形の境界ではよくあることだ。
……パサッ
しかしこの強風で、盗賊団を見ていた人物のフードが外れ、顔があらわになった。
盗賊団員C「おおっ!!女だ!!!」
「……」
小柄な少女は完全な敵意を持って睨み付けている。が、盗賊団は興奮して意にも介さない。
高名冒険者「あーあ、絶対に捕まえるだろ……ん?」
盗賊団頭領「当たり前だ!はぁああどうしようか、犯そうか売ろうか……」
盗賊団頭領「まあとりあえず……捕まえろ!!!」
盗賊団員C・D「よっしゃあっ!!!!」ダッ!
盗賊団員CとDが小柄な少女に襲い掛かる。
高名冒険者「………………待てッ!!!!」
……完全に相手を見誤っていたことを認識したのは、この冒険者だけだった。
――おかしい。この距離だと声も聞こえるはず。しかもリトルシスターを殺害した所も見られている。
――何故逃げない。
――さらに盗賊団は見逃していたが、先ほどの強風であらわになったのは顔だけではない。
――脚が見えた。しかし重要なのはそこではない。その脚と一緒に見えたもの。
――鞘。それも両側。
――つまり、双剣。
――そして、明らかな敵意。
その不安は、的中した。
小柄少女「……」バサッ!!
盗賊団員CとDが目前まで迫った時、少女はローブを投げつけた。
盗賊団員C・D「うわっ!なんだこの……」
視界を遮られた二人はそのローブをはたき落とす……が、十分すぎる隙だった。
ズンッ!!!
盗賊団員C「あがっ!!!」
盗賊団員D「……う、そだろ」
既に後ろに回り込んでいた少女は、いつ抜いたか分からない二つの剣を
無慈悲に、リトルシスターにやったように、
貫いた。
ズボッ!!
ドサッ……
小柄少女「……」シャッ!
ビチャッ!
剣をすぐに抜き、付着した血を払うさまは、手慣れた暗殺者の様。
盗賊団頭領「な…な……」
ようやく全身が目に入る。
数々の行商人を襲い色んな着物を見てきたが、今までで見たことの無い服装をしていた。
だがかなり動きやすそうであることは分かる。それはまるで絵本に出てくる――
――勇者のようだった。
小柄少女「……」スタ、スタ
次はお前だというオーラを出しながら、盗賊団員に近づく。
盗賊団員B「こ、この野郎!!」スチャッ!
パンッ!
ビシッ!
小柄少女「…!」ピタッ
盗賊団員が取出し、撃ったのは拳銃。引き金を引くだけで簡単に命を奪える代物。
だが。
焦りから初弾を外してしまったのはミスだった。
小柄少女「飛び道具…?へぇ」
この少女、拳銃を知らなかったのだ。ゆえに初弾だけは絶対に当てるべきだった。
小柄少女「……ふふ」ダッ!
盗賊団員B「う、うわああああ!!」パンッ!パンッ!!
シャッ!シャッ!
少女は超スピードでジグザグに走り徐々に近づく。
かろうじて目では追えるが、拳銃を向ける頃には既にそこにはいない……
やはり、初撃が盗賊団員の運命を分けた。
小柄少女「当たらないね」ザンッ!!
…ボトッ
盗賊団員B「うっぎゃあああああああああああ!!!!!」
拳銃を落とす。
腕ごと。
盗賊団員A「ひ、ひいいいいいっ!!」
ビッグダディにポーションをかけていた盗賊団員は荷車から飛び降り、そのまま逃げ出した。
小柄少女「……」スッ
特に追いかけるわけでもない。しかし、逃げる盗賊団員に向かって手をのばす。
小柄少女「……魔弾」ボッ
ドゴォンッ!!!
盗賊団員A「ぐぇあっ!!!」
見逃す事は無かった。
だがこの隙を狙って――
盗賊団頭領「らあっ!!」ブンッ!
戦斧を少女に向かって振り落とす。
かなり重い武器だが、筋肉をつけている盗賊団頭領にとっては扱いやすい自慢の武器だ。
―しかしこの少女にとっては
小柄少女「ふっ」ひらっ
ザンッ!
盗賊団頭領「っぎぃぃいいああああ!!」
振り落ちるまでに脇腹を斬りぬけるほど、鈍すぎる攻撃だった。
高名冒険者「……な、なんなんだこいつはっ!」
この一連の間に、結構な距離をとり、帰還の巻物を起動させていた。
発動するのには時間がかかるが、なんとか時間さえ稼げばこの場から脱出できると踏んだ。
やはり堕ちても冒険者、格の違いはわかってしまうのだ。
――圧倒的に、上だと。
リトルシスター「……ぅ……」
小柄少女「……!」スッ
少女は足元に倒れて血を流しているリトルシスターを抱きかかえる。
リトルシスター「Mr.Bubbles……」
意識があった。しかし既に助からない状態であることは明白だった。
小柄少女「……」ギシッ
少女は荷車の上の物体がリトルシスターと親密であることを勘で理解し、リトルシスターをビッグダディの前へ移動させる。
リトルシスター「Mr.Bubbles……ごめんなさい……」
ビッグダディ「ォォォォォ……ォォォォォォォ……」
小柄少女「っ……」
最期の会話を交わしているということは、なんとなくではなく確実に分かる。
それほどに会話の哀悼を感じさせた。
リトルシスター「………ありがとう」
一番最後に少女に向かって礼を言って、絶命した。
ビッグダディ「オオオオオオオ!!」
小柄少女「……悔しい?」
ビッグダディ「オオオオオ!!」
小柄少女「……魔法使いさんほどじゃないけど……“解呪”“退痺”」ブゥン
ビッグダディ「オオオオオ!!!」ブチブチッ!!
ポーションの効果を打ち消す事に成功。当然力が戻ったビッグダディの怒りの矛先は当然――
高名冒険者「うっ……だ、だがビッグダディならっ」
この冒険者はビッグダディよりは強い。でなければビッグダディを捕えられるはずがない。
――そのままのビッグダディだったなら。
小柄少女「“加速付与”“烈撃付与”」ブゥン!
ビッグダディ「オオオオオオオッ!!」ダッ!!!
ビッグダディの素早さが格段に上昇し、薄青いオーラを纏う。
高名冒険者「なっ速……」
ビッグダディ「オオオッ!!」ブンッ!
ドゴォン!!!
急速に間合いを詰められるが、間一髪で"直撃"は免れた。
…が、少女の支援魔法により上昇した攻撃は、地面を軽く抉り、石つぶてが冒険者を襲う。
高名冒険者「ぐああっ!!」どさっ!
体勢が崩れる。それをビッグダディは逃さない。
ビッグダディ「オオオオオオオオ!!!!」グワッ!
高名冒険者「帰還しろよっ!!早く早く早く早……」
―――グシャッ
バシュンッ
今更になって帰還の巻物が発動。死体だけが町へ転送された……
…
小柄少女「お墓、こんなのでいい?」
ビッグダディ「オオォ……」
小柄少女「いい…のかな」
割と意思疎通できるものだ。
小柄少女「……じゃね。私、探してる人いるから」
その場を去ろうとする。しかし…
ガシャッガシャッ
小柄少女「……つ、ついてこられてもなあ……」
ビッグダディ「ォォオオ!」ガシャ
小柄少女「……え、乗れって?」
大きな手のようなものを差し出され、そう理解する。
ビッグダディ「オオオ!」
小柄少女「……じゃあ」スッ
ぐいっ!すとんっ
小柄少女「おお、高い」
ビッグダディ「ォォオオオ!」
肩に座らされる少女。優しい生き物なんだと感じる。
小柄少女「お供してくれるの?」
ビッグダディ「ォォオ!」
小柄少女「……ありがとう。よろしくミスターバブルス……だよね?」
ビッグダディ「オオォ!」
小柄少女「……ふふ」
少女は人探しを再開する。
――緑色のツインテールをなびかせて。
*保存*
今日一日かけてゆっくりと投下していきます
ーパルミアー
ガードA「身元確認急げ―!」
ガードB「うわ、ぐっちゃぐちゃだな……うっぷ」
ガードC「とりあえず市民の目に入らないようにしないと……」
清掃員「……帰りてぇ」
勇者「なんか慌ただしいな……」
少女「そうですね…何かあったのかな」
勇者「聞いてみるか?すいま…ごほっ!」
先ほどの戦闘により、勇者の風邪が悪化していることは明らかだった。
少女「大丈……」
ラーネイレ「本当に大丈夫なの?」
ラーネイレに先を越されてしまう少女。
勇者「んあ、気にしないでくれ……ありがとう」
ラーネイレ「ならいいけど」
少女(なんか、むかむかする……)
少女「あの!」
ガードA「…なんの用だ?」
少女「何かあったんですか?」
ガードA「……死体だよ、見ない方がいい。原型を留めてなか……おえええ!!!」ダッ!
勇者「…物騒だな」
ラーネイレ「どの町にも危険な人物は居るものよ……気を付けてね?」
勇者「ああ……にしても、そんなに姿隠さなくても……」
そういうラーネイレとロミアスは、正面からよく見ないと顔も見えないようにフードを深く被っていた。
ロミアス「どこぞのお嬢さんみたく、エレアというだけで襲われかねんからな」
少女「なっ…」
ラーネイレ「ロミアス!」
ロミアス「事実だ」
勇者「ちょ、ストップストップ!」
もしかしてこのロミアスという男は、すごく扱いにくい性格の男なのではと思う勇者だった。
勇者「あ、そう!そういえば俺に、国に利用されるって言ってなかったか?」
なんとか話を逸らす。
ラーネイレ「そうね…パルミアなら大丈夫よ。いえ、パルミア以外信用しないで。特にザナンは。」
勇者「……パルミアに対しては好意的なんだな」
ラーネイレ「…そうね。ジャビ王は……昔から良くしてくれていたから」
ラーネイレは哀愁ある記憶を懐かしみ、曇った空を仰ぐ。
ラーネイレ「私は幼いころから、友好の使者としてパルミアに訪れていたの」
ラーネイレ「だからジャビ王は少なからずエレアに対して理解してくださっている」
ラーネイレ「…実際、あの方がヴィンデール掃討に反対しているからこそ、エレアはまだ存続できている」
少女「ジャビ王が…ヴィンデール掃討に反対?」
ラーネイレ「ええ。ジャビ王だけは私たちの事を信じてくれている。だから私たちもそれを裏切りたくないから、エレアの真実を伝えようと躍起になってるの」
ロミアス「それももう限界だがな」
勇者「……どういう事だ?」
ラーネイレ「イルヴァの東部に位置するイェルス国と、イルヴァの南部に位置するエウダーナ国が戦争しているのは知っているわよね?」
少女「まあ…」
勇者「俺は初耳だが」
ラーネイレ「でも今は停戦状態で、二大国間に歯止めをきかせているのがこのパルミア国」
ロミアス「三竦みとなっているからこそ、未だ戦争は再開されていない」
ラーネイレ「そう。ただ……ヴィンデール掃討の問題だけは、共通してどの国もザナン皇子の論に賛同しているの」
ラーネイレ「特にヴィンデールの森がすぐ東にあるイェルス国はね」
少女「つまり、パルミア国がその問題に対して異論をたてたら…」
勇者「なるほどね、パルミアは諸国を敵に回すことになる……」
ロミアス「ああ。様々な国から集中砲火など受けたらひとたまりもないだろう」
勇者「……パルミアが滅ぼされ三竦みが解かれれば、この世界はまた戦火にまみえるというわけか」
ラーネイレ「その通りよ。そうなる前にヴィンデールの森の真実を示せればいいんだけど……」
勇者「それでその、ヴィンデールの森の真実が明らかになったとして……どうやって国々に伝えるんだ?」
ロミアス「それで、これからジャビ王のところへ行って、まあ、演説だな。そういう場を設けて欲しいということだ」
少女「……そこらへんで勝手に演説すればいいんじゃ」
ラーネイレ「私たちはエレア。そんなの信じてくれるわけが無いわ……」
ロミアス「だから、ジャビ王公認の下で演説できれば、ちょっとは信憑性が増すというものだ。無駄かもしれないが。」
ラーネイレ「一言余計なのよロミアス」
勇者(待てよ?確かあの男……)
――瀕死の男「二つの大国の衝突を……シエラ・テールの危機を防ぐために……」
勇者(もしかしてこの書簡……めちゃくちゃ重要なんじゃ……)
勇者(…とにかく、早くジャビ王に会わないとな)
そうこうしている間に、王宮の前にたどり着く。
門は無いのだが、ここから先は王宮であるという雰囲気を醸し出すように、二人のガードが道を挟んで立っていた。
勇者「で、どうやって謁見するんだ?」
ラーネイレ「簡単よ、あのどっちかの門番に申し込んでOKされれば謁見できるわ」
勇者「へぇ」
少女「じゃあ……」
片方は強面の老ガード、もう片方は若く真面目そうな青年ガードだった。
少女「う…怖い……あっちのガードさんに話しかけましょう……ってぇ!?」
しかしラーネイレは迷うことなく老ガードの方へ近づく。
勇者(だ、大丈夫なのか……?)
ラーネイレ「あの」
老ガード「…何用だ?」
ラーネイレ「……」パサッ
深く被っていたフードを取り、顔をあらわにする。
すると老ガードの強面が破顔し……
老ガード「……これはこれはラーネイレ殿。またジャビ王への謁見ですかな?」ニコ
ラーネイレ「ええ」
老ガード「しばらくお待ちを」スタスタスタ…
奥に引っ込む老ガード。
勇者と少女は老ガードのギャップに少し驚く。
少女「おお……」
勇者「見かけに騙された……顔見知りなのか?」
ラーネイレ「まぁ、パルミアに来てジャビ王に謁見するまでに、必ずガードには顔を見せないといけないから」
ラーネイレ「何回も来るうちに、あのガードには覚えられてるの」
勇者「なるほどね…」
10分後。
老ガード「お待たせしました」
「久しぶり、ラーネイレ」
ラーネイレ「…あ」
紺色の髪の大人びた女性がガードの後ろから現れる。
「久しぶりね」
ラーネイレ「はい、お久しぶりです」
「えっと、私はエリステアと申します。城の応接と図書館の司書を努めております」
エリステア「あなたがたは付き添いかしら?それならすいませんがここで待っていただく事になるのですが」
勇者「あ、俺は別件でジャビ王に謁見を申し込みたいんだ。たまたま話が合って同行してただけで」
エリステア「分かりました。では名前をお願いします」
勇者(げっ……)
勇者「……二つ名は…だめかな?」
エリステア「まあ構いませんが……」
勇者「じゃ、"勇者"で」
エリステア「はい……ではお二方、ついてきてください」
少女「あれ、私はダメなの?」
エリステア「また別件ですか?」
少女「勇者さんと同じなんですけど」
エリステア「すいません、要件一つにつき一人と決まってますので……」
勇者「すまん、ちょっと待っててくれ~」
少女「あ、ちょっ!」
エリステアの後を勇者とラーネイレがついていく。
すると必然、残ったのは……
ロミアス「……」
少女「……」
少女(き、気まずい……)
ー王宮内部ー
エリステア「とりあえず武器をお預かりします」
ラーネイレ「……はい」カチャッ
勇者「あー、俺は持ってないよ。ほら」
エリステア「分かりました」
エリステア「既にジャビ王には話は通っていますから、そのままラーネイレは王の間へ」
ラーネイレ「はい、案内ありがとうございます。では」
何度も訪れている故に、迷うことなく廊下を進んでいった。
エリステア「…よし、じゃああなたはこちらの部屋へ」ガチャ
勇者「……図書館?」
エリステア「ええ。ラーネイレはほとんど顔パスだからいいけど、あなたの素性は調べさせてもらいますからね」
勇者「あ」
エリステア「…どうしました?」
勇者「いや、なんでもない。どうぞ」
好都合だった。もし何かしらの名簿に登録されていたら。
もしかしたら、"自分"が見つかるかもしれない。
……その場合、ブラックリストでないことを祈りたいが。
エリステア「…あら?どこにも載ってないですね」
勇者「……そうですか」
期待していただけに、少し落胆してしまう。
エリステア「……困りましたね……それでは謁見を認められないんです」
勇者「うーん……クレアに頼めば良かったな……」ゴソ
エリステア「それは?」
勇者「ヴェルニースから南西の洞窟で、パルミアの斥候だっていう人から預かった書簡なんだけど」
エリステア「なんですって!!??」
勇者「うおわ!」
エリステア「レシマスに行ったのですか!?」
勇者「レシマス??」
エリステア「……すいません、取り乱してしまいました」
勇者「あ、はい…」
エリステア「失礼、お借りしますね」
勇者「ええ」スッ
ピリピリ……カサッ
勇者(あ、開けちゃった)
エリステア「……確かにこれはスランの字………っっ!!」
食い入るように書簡を読むエリステア。
勇者「えと、何が書いてあるんです?」
エリステア「………」
勇者「あのー?」
エリステア「分かりました。特例としてあなたのジャビ王への謁見を許可しましょう」
勇者「おお…」
ー同刻・王の間ー
ジャビ王「よくぞ参った、ラーネイレよ。この時勢、そなたの立場では楽な旅路ではなかったろう」
ラーネイレ「お久しぶりです、陛下。われら異国の民でさえ、このように傷一つなく王都に辿り着けたのは、ひとえに陛下の御威光の賜物」
ラーネイレ「異形の森の使いとして参じたのも、今一度エレアの民とシエラ・テールのためにその御力を貸して頂けないかとの願いからです」
ジャビ王「…ラーネイレよ、残念だがその期待には応えられぬ。エレアの民にふりかかる災難については、わしも心を痛めておる」
ジャビ王「しかしそなたも知っておろう、イェルスとエウダーナの肉薄した力関係とその天秤のバランスを保つパルミアの役割を」
ラーネイレ「では、二つの大国のために、エレアは犠牲になれと仰せられるのですか。罪無き異邦の民の血により築かれた、ひと時の脆い平和のために」
ここで奥から、青い髪の青年が現れた。
ヴァリウス「……罪がないとは心外な。あなた方の異形の森が、そしてエーテルの風が我等にもたらした損害を知らぬわけでもありますまい?」
ラーネイレ「いらしたのですか、ヴァリウス閣下。確かに、エーテルの風により森に異変が起きているのは事実」
ラーネイレ「しかし、シエラ・テールの有史以来何事もなく共存してきたヴィンデールの森が、今になってなぜエーテルの風を呼び起こしているのか、その原因を調べずにして糾弾するとは、異質なものに対する偏見ではないでしょうか」
ラーネイレ「森の異変も、エーテルの風も、かの災厄とは違う現象です。陛下、よくお聞きください。もしザナンの皇子の主張が間違っているとしたら…」
ジャビ王「それ以上申すな、ラーネイレ。」
ラーネイレ「陛下、しかし真実は…」
ジャビ王「やめるのだ。続きは明日聞くことにしよう。今日の宿はわしが手配させる。今は…話をする時ではないのだ。わかってくれ。」
ラーネイレ「陛下…わかりました。しかし明日また参ります。陛下の決断が最後の希望です。」
そういってラーネイレは出て行った。
ジャビ王「……」
奥からさらに肌の白い皇子が現れる。
サイモア「最後の希望とは恐れ入る。…まさか、あの娘の戯言を信じてはおりますまい、ジャビ王。」
サイモア「私は、幼い頃から災厄の研究を進めてきたのだ。《メシェーラ》は、またの名を星を食らう巨人と言う」
サイモア「大地を蝕み、不浄の根を広げる異形の森こそ、まさにそれではないか」
サイモア「たとえ娘が言ったように災厄とは違った現象だとしても、我らの土地を奪い、醜い怪物を生み出す事実は変わらぬ」
サイモア「ジャビ王、あの娘は私に預けるのが賢明だぞ」
ジャビ王「ふん、ラーネイレが真実を握っているからか?」
サイモア「私の見解こそ真実だ。あの娘に対する関心は別にある。それに王よ、ザナンあってのパルミアであることをお忘れではないかな?」
ジャビ王「ラーネイレは大事な客人。ザナンの皇子の頼みでも聞けぬ」
ジャビ王「…まだ用事がある。今日はもういいだろう?」
サイモア「ふふ、ではまた」
次いで、サイモア達も城を出る。
あと、資料館が最近地味に更新してるから見てないなら呼んでみるといいかも
ー王宮前ー
少女「……」
ロミアス「……」
少女「……」ウロウロ
ロミアス「……」
少女「……」ウロウロ
ロミアス「……落ち着きが無いな」
少女「……っ」ピタッ
何か言い返そうかと思ったが、それも癪なので黙ってロミアスとは逆の方向を眺める。
少女(は、早く帰ってきて!!!)イライラ
ロミアス「……」
少女はこれほど時間が経つのが遅く感じた事は初めてだった。
ロミアス「君は」
少女「!」ビクッ
意外にも、緑髪のエレア・ロミアスから話しかけられる。
ロミアス「どうして勇者と共に居るんだ?」
少女「え、あー、まあ……成り行き?」
ロミアス「ほう、手の早いことだな。酒には気をつけろと教わらなかったのか」
少女「……ん?」
少女「ち、違う!そういうんじゃない!!」
ロミアス「そうなのか?まあどうでも良いが」
少女「どうでも良くない!!!」
ロミアス「うるさいぞ。目立ってしまったらどうする」
少女「こっ、の……」
この緑髪のエレアだけはいつか一発殴ると心に決めた少女だった。
*保存*
また多分21時くらいからぼちぼち再開します
>>470
ありがとうございます、一応毎日見てるのでそこは大丈夫です
ラーネイレ「…行くわよロミアス」
少女「わあ!!」
いつの間にかラーネイレが背後に立っていた。
ロミアス「む、もう終わったのか。結果は……まあ、聞かないでおこう」
ラーネイレの醸し出す雰囲気から結果は明らかだった。
少女「あれ、勇者さんは?」
ラーネイレ「順番があるから、もうちょっとかかると思うわ」
少女「そうですか……」
ラーネイレ「頼りにしてるから。もしかしたら、エレアを救えるのはあなたたちかもしれないもの」
少女「はあ……」
ラーネイレ「じゃあ私たちは今日はこれで。また会うことがあれば、次は名前を聞くわ」
少女「は、はい」
少女(次は緑色抜きでお願いします)
ー王の間ー
エリステア「失礼します」
ジャビ王「ふう……何用かね」
エリステア「この者が、スランから書簡を受け取ったそうで」
勇者「……どうも」
ジャビ王「ふむ」
……
ジャビ王「…なるほど、恐れていたことが現実になったというわけだな」
ジャビ王「知らせにあるよう、悪しき者がレシマスに眠る秘法を狙うのであれば、パルミアの王の名誉にかけてそれを阻止せねばなるまい……」
ジャビ王「勇者とやら、大儀であった。直ちに謝礼を用意させようではないか。少将!コネリー少将!!」
コネリー「へい!」
ジャビ王の護衛らしき武装した中年の男・パルミア少将が荷袋を用意する。
コネリー「ほら、褒美だ。中身は城の外で確認……っておい!?」
勇者に褒美を手渡そうとした…が。
勇者「うう……王…様……?」ヨロッ
ジャビ王「む、どうした!?」
勇者の脳内で、何かを思い出そうとする働きが強くなる。
――『勇者よ、……を倒しに行くのじゃ』
――『このままだと世界が滅ぼされてしまうであろう』
勇者「はあっ!はあっ!!!」ズキンズキン
エリステア「ちょ、ちょっと!?」
――『仲間と共に』
勇者「っ頭……が!!」ズキンズキンズキン
――『魔王を倒すのだ!!!』
ドサッ……
~~~~
少女「……遅いなぁ……」
ぐぅ~
少女「……おなかすいた…絶対昼過ぎてるよ……」
曇っており正確な太陽の位置はわからないが、腹の具合と明るさからそう推測する。
とそこへ、城の中から慌ただしい足音が聞こえてくる。
タタタタタ……
エリステア「っいた!!」
城から飛び出し、すぐに少女を見つける。
少女「あれ?……勇者さんは?」
エリステア「急に倒れてしまったの!!すぐに来て!!」ダッ!
少女「え!!??っはい!!!」ダッ!
唐突過ぎて何が何やらわからぬままエリステアを追いかけた。
ー王室ー
少女(……状況整理をしようと思う)
少女(勇者さんが倒れたと聞いたので急いでエリステアさんについて行ったのはいいですけど)
勇者「はぁ……はぁ……」
少女(なんで王様のベッドで寝てるんですか!!!???)
少女(ちゃっかり王宮の見ちゃいけない所まで来てしまったような……)
エリステア「急に倒れちゃって……熱もあるみたいで……」
少女(そ、そして……極め付けはぁぁああああ!!!)
ジャビ王「何か持病はあるのか?」
スターシャ王妃「替えのタオル持ってくるわね」
少女(ジャビ王とっっ!!!スス、スターシャ王妃がこんなに近くに!!!)
少女「じゃ、じゃジャジャビ王!!ええええっと!!ささ最近は風邪気味のような気ぎゃっ、気がしました!」
ジャビ王「……少し落ち着け」
少女「そんにゃっ!わ、私のような一介の冒険者風情がこんな所に来てしまい大変申し訳なく思っておりああ武器着けたままだぁただ今外しますのでっあああ引っ掛かった!!」ガチャガチャガチャ
軽く、いやかなりのパニック状態に陥ってしまっていた。
スターシャ王妃「一応聞きますけれど、あなたとこの男の子、どういう関係かしら」
少女「ええっと!え~~~~~っと……」
――少女『ちょっと勇者さん!そろそろ首輪外してくださいよぉ!!』
何故かアクリ・テオラでの出来事を思い出す。
少女「ペットです!!!」
スターシャ王妃「………もう一度聞くわね?どういう関係かしら?」
少女「あれ!?ああ!!ええっと……」
少女(ペットじゃない!……そう!付き添い!付き添いつきそい……)
少女「 付 き 合 っ て ま す ! ! ! 」
スターシャ王妃「あら~、やっぱり。じゃあ明日は流石に一般の宿屋に移ってもらうから、付き添ってあげてね?」
少女「はい!!!付き添いです!!」
少女がここでの発言を思い出すのはかなり後になってからだった。
*保存*
ちょっと今のテンションで投下したらミスしてしまいそうなので今日はここまでにしておきます。
投下間隔がすごく長いのに見て頂いてる方、本当にありがとうございます。
ーパルミア・ザナン軍宿営ー
サイモア「……"奴"に感謝しておかなくてはな」
ヴァリウス「しかし安易に信用しては……」
サイモア「"奴"の目的は知らんが、腕は確かだ。聞けば見たことも無い術を使うらしいが」
ヴァリウス「……"奴"の、サイモア様に対する無礼に怒った大佐が、ならず者を雇って仕向けたらしいのですが……」
ヴァリウス「後日、全員肉塊となって発見されたそうです」
サイモア「ふ、頼もしいではないか」
ヴァリウス「危険です!」
サイモア「かまわん。"奴"がザナンを利用しようとしているのはわかっている」
サイモア「その上で利用してやるのだ。見張りはつけているんだろう?」
ヴァリウス「ええ……」
サイモア「どちらが利用し、利用されるか……これも面白いものだ」
サイモア「それにしても驚いた。あのエレア、かの娘にそっくりではないか。」
ヴァリウス「白き鷹に続きラーネイレとかいう娘。ようやく運命の歯車が回り始めたのでしょう。」
サイモア「運命など今更信じる気にもならないが、舞台が予想以上に賑やかになったことは歓迎すべきだ」
サイモア「あの二人には、相応の役柄を用意しておいてくれ。君の手腕を信頼しているよ、青い髪のヴァリウス。」
ヴァリウス「…」
ーパルミア郊外ー
ラーネイレ「……」
ロミアス「……」
思い通りに行かず…どころか、パルミアにさえ見捨てられそうになっている事を知り重い空気が流れる。
ロミアス「やはりそんなものだろう……エレアに対する扱いというものは」
ラーネイレ「……」
「ラーネイレ様!」タタッ
ラーネイレ「……?」
王の使い「探しましたよ、宿屋の案内をさせて頂きますのでついてきてください」
ラーネイレ「…ああ、そういえば宿屋は手配される事になっていたわね」
ロミアス「やれやれ……」
ジャビ王の話をラーネイレが聞き逃すなど、よっぽどジャビ王との交渉がうまくいかなかった事がショックだったのだなとロミアスは思った。
ー宿屋ー
王の使い「こちらの二部屋を手配致しました。どうぞおくつろぎください」
ラーネイレ「ええ、ありがとう」
王の使い「……それとジャビ王から伝言があります」
ラーネイレ「?」
王の使い「"悲愴の戦闘狂"がパルミアに向かっているらしい。用心棒をつけることをお勧めする…と。」
ロミアス「おいおい舐められては困るな。これでも私たちはエレアの中でも」
上位の実力を持っている、と言おうとしたが…
ラーネイレ「"悲愴の戦闘狂"……」
ロミアス「……なんだ?その、悲愴の…とは」
ラーネイレ「別名"エレア殺し"……彼は対エレア装備を揃えている上、かなりの実力者よ」
ラーネイレ「そして異名から分かる通り…エレアを中心に狙い、エレアを尋常じゃない程に憎んでいるわ」
ロミアス「ああ、またその類か。どうせまたエーテルの風を受けた身内の敵討ちだろう?」
王の使い「いえ、彼の場合恋人をエレアに直接殺害されているんです」
ロミアス「……」
王の使い「恋人と都市間を移動中、どこからともなく放たれた矢が恋人を貫き」
王の使い「その後奇妙な笑い声が聞こえ、エレアが走り去る姿を見た…と。」
ラーネイレ「…とにかく事情は分かったわ。それでその用心棒とやらは?」
王の使い「はい。酒場にいけば、金次第でどんな任務でも引き受ける者が居ます」
王の使い「ひとまず仲介人のリアナという女性を探してください。これはその経費です」ジャラッ
ラーネイレは金袋を受け取る。
ロミアス「そいつが"エレア殺し"でない理由は?」
王の使い「大丈夫です。彼の行動は見張りをつけてますから。まだパルミアには到着していませんが、今日の夜には着く予定です」
ラーネイレ「分かったわ。ロミアス、早速行きましょう」
二人は王の使いに言われた通り、酒場に向かった。
ーとある裏路地ー
建物と建物が作り出す暗闇。そこには用事を終え、王宮に戻らねばならぬはずの人物が居た。
王の使い「……」
そこには対面する形でもう一人。
???「ちゃんと伝えましたか?」
王の使い「……ええ」
王の使い「ヴァリウス閣下」
急速にあたりが暗くなっていく。
ただ単に日が山に隠れ始めているだけなのだが、裏路地という場所がさらに光量を削っている。
ヴァリウス「ご苦労」
王の使い「……では」
ヴァリウス「約束通り、あなたの娘は解放しましょう。見知らぬ者にはついて行くなと教育させておきなさい。たとえ女性でも」
王の使い「卑怯者がっ……ヴァリウス……いつか天罰が下る事を覚えておけ」
ヴァリウス「ふっ……、"あなたの娘は"解放すると言いましたが」
ヴァリウス「"あなた"は解放するつもりはありませんよ」パチン
ヴァリウスが指を鳴らした直後
ドスッ!
どこからか放たれた矢が、王の使いに命中する。
王の使い「く……口封じか…」
ヴァリウス「当たり前です。遺言は?」
王の使い「……ラ、ラーネイレ様……どうか……ご無事で……」
ヴァリウス「…………さようなら」
ー酒屋ー
普通にフードを被るだけで顔の識別は難しくなっているはず暗さのはずだが二人は深くフードを被り、
ロミアスは自分たちを深く詮索しなさそうな人を探して尋ねる。
ロミアス「リアナという女を探している。心当たりはないか?」
女「…その女に何の用?」
ロミアス「金次第でどんな依頼も受けるとだけ聞いている」
ロミアス「護衛を雇う必要などないのだが、王の使いより通達があってな」
女「金次第でどんな依頼も受ける、か…ふふ、確かにどんな危険なヤマであろうと関係ない」
女「ただし、あの男の場合はね、金次第じゃなくて気分次第なのよ」
ロミアス「……あの男…?もしや」
女「ええ、あたしがリアナよ。二人とも付いて来なさい」
まさか一人目で当たると思っていなかった為に、二人は少し遅れてリアナの後を追った。
街道を進むこと10分。
リアナ「……入って」
何の変哲もない一軒家の中へ2人を案内する。
ガチャ
しかしドアを開けた瞬間、中の空気が二人を不快な気分へと誘う。
ロミアス「む……ごほっ!!」
ラーネイレ「ごほっ!ごほっ!!」
リアナ「もう、またクラムベリーの煙を吸って!ほら依頼人に挨拶して、ヴェセル!」
ヴェセル「……」
用心棒とは、かつて"ザナンの紅血"ロイターと肩を並べた"ザナンの白き鷹"……
ヴェセル・ランフォードであった。
ロミアス「素晴らしい。我々の頼る剣の主は、薬漬けで意識の朦朧とした病人か」
この男の持つ雰囲気と態度に毒舌を言い放つ。
ロミアス「ラーネイレ、どうやら無駄足だったようだ」
ロミアス「この男がかつてどのような腕を誇っていたかは知らないが、療養に付き合ってる時間はない。」
リアナ「まぁまぁ…そう急かさないで。ヴェセル、気にしないでいいのよ」
リアナ「あなたがどんなに惨めでひどい目にあってきたのか、この人たちは知らないの」
リアナ「あたしは、あなたの悲しそうな瞳を一目見て、すぐに直感したわ」
リアナ「この人は計り知れない苦悩を抱え、断ち切れない過去を引きずった可愛そうな人だって」
リアナ「そして、あたしが付いていれば、きっと全てを乗り越えて一人前の男になれるって」
リアナ「でもね…そろそろ仕事をしないと、食べる物もないのよ!」
ヴェセル「君と飢え死にするのも悪くない。」
リアナ「いやぁん、ヴェセルぅ!!」
ヴェセル「ふふ、リアナ。君にまであの世に付き添ってもらうつもりはない」
ラーネイレ「……茶番はいい加減にしてもらえるかしら」
ヴェセル「ああそうだったな。依頼を…」
言いかけた所でラーネイレの顔を見た瞬間、静止する。
ヴェセル「…貴女は…エリシェ…?」
ラーネイレ「エリシェ?」
彼はラーネイレに、自分の中の"彼女"の面影を重ねていた。
ヴェセル「いや、気にしないでくれ。依頼を聞こう」
ロミアス「もういい。こんな男に護衛など無駄なことだ」
そう言ってロミアスは吐き捨てる。
ー同時刻・街道ー
とある大柄な男が武器に身を包み、仁王立ちしている。
大柄な男「情報は確かなのだろうな」
小柄な男「もちろんでさぁ!あの家にエレアが二匹潜んでやす!」
猟犬「グルルルルル……」
大柄な男「ふむ、確かにエレアが居るようだな……!!」ギロッ!
狂気に満ちた男の目が、4人の居る一軒家を睨み付ける。
市民A「ちょ、ちょっとあの人って……」
市民B「か、帰ってきてたのか!」
市民B「"悲愴の戦闘狂"ギーラ!!」
ヴェセル「……なるほど、護衛か……そうだな。あなたがたは既に血気盛んな"護衛"とやらをつけているようだ」
ロミアス「何を言っている」
ヴェセル「何とは何だ?この家に向けられている殺気からそう推測しただけだが」
ロミアス「何!?」
ラーネイレ「っまさか既に!?」
ヴェセル「どうやら話をしている暇はないようだ…私の背を見失わないように。裏路地から街を出る!」
……
バキァアッ!!!
ザッ!
大柄な男「……」
猟犬「ガルルル……」
玄関が派手に破壊され、ギーラとその猟犬が侵入する。が…
大柄な男「……もぬけの殻か……ふ、ふふ……少しはできる奴が居るようだな……」
大柄な男「ん?この匂い…クラムベリーか……ラジ!」
猟犬「ガルッ!」
ラジ、と呼ばれた猟犬が反応する。
大柄な男「この辺りの匂いを記憶しろ」
猟犬「……」ウロウロ
小柄な男「既にエレアの匂いは記憶してるのでは?」
大柄な男「いや、考えたのか考えてないのか知らんが」
大柄な男「これだけクラムベリーの煙が充満していたらエレアの匂いは上書きされている可能性がある」
大柄な男「さっきは、ドアの前までの匂いをコイツは拾ったんだ」
小柄な男「な、なるほど……」
猟犬は辺りの匂いを次々と記憶していく。
大柄な男「覚えたか…?よし行けっ!!」
猟犬「ガルッ!」ダッ!
大柄な男「くはは……逃がしゃしねぇ!!!」ダッ!
小柄な男「ああっ待ってくだせぇ!!」ダッ!
"悲愴の戦闘狂""エレア殺し"ギーラに、完全に標的としてロックオンされたラーネイレ一行。
ギーラから逃げ切るのに、3日を要する事となった。
*保存*
さて、このあたりからどんどん原作に手を加えていこうと思います。
最近すごい筆が進むのである程度溜まったらまたすぐ投下します。
いやっ!生きてます!
書き直しや引越しがあって投下できませんでした
とりあえず筆が進むとかいう大嘘ぶっこいてすいません!
3月中には投下しますっ!多分!
勇者「……ぅ」
勇者の脳は無くした記憶を取り戻そうと必死に整理する。
ジグソーパズルのように少しずつ、しかし確実に埋まっていく。
そのカタチは、勇者の夢となって現れる。
―――
――
―
そこは王宮。内部の広場に、20人ほどの男女が集められていた。
『いよいよだな!!』
『ああ!』
『私だったらどうしよ~~!』
『なあ、もし君が選ばれたらどうする!?』
少年『…………』
『……んだよ、暗いなあ』
ざわつく人ごみの中に、自分が居た。
初老の剣士『皆の者!静粛に!!』
『来たっ!!』
初老の剣士『陛下…』
国王『うむ……まずは16歳の誕生日おめでとう、皆の衆』
『『ありがとうございます!!陛下!!』』
国王『この制度が始まって三十余年……』
国王『もう魔王の復活も間近だというのに、この"勇者の証"を抜くことのできる者…』
国王『勇者がまだ現れない』
左手には鞘に入った剣。柄を握ろうとすると、バチッ!という音と共に閃光が走り、拒まれる。
国王『50年前から始まった異常気象・魔物の狂暴化が、暗黒時代の再来・魔王の復活を予期している事は皆知ってのとおり』
国王『先代国王はこの"勇者の証"を探し出し、勇者の力が芽生える年と言われている16歳の若者を集め』
国王『この剣を抜く事の出来る者……すなわち勇者を探し出す制度を作った……が』
国王『この三十余年、未だにこの剣を抜いた者はいない……』
国王『……今年こそ、勇者が現れてくれる……そなたらの誰かが、抜いてくれると信じておる』
国王『では』
初老の剣士『はっ、我こそはと思うものから来るが良い!』
『っしゃあっ!』
『よおしっ!』
『重そう~~』
初老の剣士『……次っ!!もういないのか!!』
『あーあ、勇者なんておとぎ話じゃねーのー?』
『でもあの剣からすごい力を感じるよ、拒まれちゃったけど』
『手がひりひりする……』
初老の剣士『……陛下、やはり今年も』
国王『待て』
初老の剣士『?』
国王『あの少年がまだだ』
少年『……』
初老の剣士『おいお前!なぜ来ない?』
少年『……』
無言で国王に近寄り、手を差し出す。
初老の剣士『貴様、少しは礼儀を…』
国王『良い』
初老の剣士『陛下…』
対する国王も、少年の持つ何かを感じ…剣を差し出す。
少年『……夢を見ました』
国王『…?』
少年『この世界を、救ってください…と』
少年『女の子が泣きながら、お願いしてくる夢でした』
少年『だから俺は!!』ガシッ!
初老の剣士『なっ!!』
国王『おお!!』
『うそっ!!』
『えええええ!』
剣は、己を掴むその手を拒まなかった。
少年『あの子を助ける為に!勇者になる!!!』シャッ!
抜いた剣を高く掲げる。
カッ!!
剣は煌めき光の束を放出し、王宮の天井をすり抜け天へと昇る。
その光は、勇者の誕生を世界に知らしめた。
*保存*
続きはまた夜に
―――
――
―
勇者「!!!!!」バッ!!!
少女「きゃっ」びくっ
布団を跳ね除け飛び起きる。
勇者「今のは……ぐっ!」ズキン
勇者「くそ、どうしたんだ俺っ……」グラグラ
少女「まだ熱下がってないんですから安静にしてくださいよ、はいタオル」
額から落ちてしまったタオルをもう一度額に当て、勇者を寝かす。
勇者「クレアか……すまん」ドサッ
勇者「案外面倒見が良いんだな」
少女「案外って何ですか……まあ、慣れてますから」
勇者「そうなのか……慣れ?」
少女「ああ、お母さんの―」
ガチャ
と、ここでドアが開いて少女の話が遮られる。
スターシャ王妃「あら、目が覚めたのね」
少女「スターシャ王妃」
勇者「……んん!?そういえばここは!?」ガバッ!
少女「ああ、またタオル落ちた……ジャビ王の寝室ですよ」
少女「全く、うらやましい限りですそんなもふもふのベッド……」
勇者「え、ちょっと待て!なんで俺がそんなところに」
少女「はいはい安静にしてくださいねー」ピトッ
またタオルを勇者の額に引っ付ける。
スターシャ王妃「ふふ、ラブラブねぇ~あなたも良い子をゲットしたものね~」
勇者「…はい?」
少女「なっ!?」
スターシャ王妃「どっちから告白したの?私の予想だと女の子の方からかな?」
少女「待ってください!そんな関係じゃないです!!」
スターシャ王妃「あら?でもあなた付き合ってるって……」
少女「つ、付き添いですっ!付き添い!!」
スターシャ王妃「そうだったかしら?でも……」
少女「付き添いなんですぅ!!」
ガチャッ
ジャビ王「こらこら、病人の前ではしゃぐでない二人とも」
スターシャ王妃「あら、ごめんなさい」
少女「ひいごめんなさい!!」
勇者「…はは」
ジャビ王「少しは楽になったかね?」
勇者「まあ、なんとか……すいません、ベッドお借りしてしまって」
ジャビ王「良い、それよりその状態で旅をしてきたのか?」
勇者「旅の途中から調子がおかしくて……」
ジャビ王「ふむ……君が寝ている間に、医者を呼んで診てもらったんじゃが」
勇者「ああ、本当何から何まですいません……」
ジャビ王「この街の医者が言うには、初めての病状だそうじゃ」
ジャビ王「君……持病は持っているか?」
勇者「……それが……」
勇者は自分が記憶喪失である事、何者かも分からず、途方に暮れている事を話した。
ジャビ王「なんと……」
勇者「……あ、王様に剣をもらったのを思い出しました」
少女「え?」
勇者「ああすまん、さっき夢で昔の情景を見たんだ。それで少し思い出したんだよ」
ジャビ王「王……ふむ、そなたとは初対面のはずじゃ。となると他の国の王となるが……」
スターシャ王妃「スパイ?」
勇者「…え」
少女「ちょっ!」
ジャビ王「には見えんがね。スパイが正直に記憶喪失などと怪しまれる事をするとは思えん」
ジャビ王「…剣をもらったと言ったな?そなたの持ち物にはそれらしき物は無かったはずじゃが」
勇者「…あ!鞘ありませんでした?思い出したんですけど、その剣を収めていたのがあの鞘のはずです」
スターシャ王妃「……これかしら」スッ
案外近くに勇者の持ち物が置かれていた。
危険なものが入っていなかった為に問題なしと判断されていたからだ。
ジャビ王「ふむ……ここに"勇者の証"と彫られているな」
スターシャ王妃「…勇者……まるでおとぎ話ね」
勇者「おとぎ…話?すいません、詳しく聞かせてください」
スターシャ王妃「なんて事無いわよ?巨悪があって、勇者がそれを倒しに行く。それだけよ」
勇者「その、巨悪とは?」
スターシャ王妃「ええっと……」
少女「魔王とか?」
スターシャ王妃「そう!魔王!魔王を勇者が倒してハッピーエンド。そんな物語よ」
スターシャ王妃「でもこれ、子供に読ませる絵本レベルよ?」
少女「そうですよね、私も思い出しました。幼い時読んだことありますよ」
勇者「絵本、か……うーん」
ジャビ王「その話、おとぎ話では無いぞ」
勇者・少女「「……え?」」
ジャビ王「その話の元となった物語……王族より代々伝承される言い伝えがあるのじゃ」
スターシャ王妃「もしかして、アレが?」
ジャビ王「うむ。アレは空想やおとぎ話ではない、事実なのだ。私はそう信じておる」
勇者「……お願いします」
ジャビ王「……よかろう。心して聞くがよい」
ジャビ王「時は六紀、闘争の時代」
人間は、神と神が己を主張する争いに振り回されていた。
当時の人間と神との違いは、それぞれ神に従っているかどうか。それだけだった。
神が主、人間が下僕なのではなく。
主が神、下僕が人間。
人間と神との力の差とは、力に長けた人間が束になれば神に勝てる程、個々の力は凄まじいものであった。
人間はいつまでも続く闘争に呆れ果てていた。
ここでとある人間が、別世界の存在を感知した。
イルヴァの地を見限った人間は、世界を移り渡る"ムーンゲート"なるものを創りあげた。
人間たちは神を捨て、新天地へ向かおうとしたのだ。
しかしここで
邪神が現れた。
神々が争っている間、力を蓄えイルヴァ奪回を企んでいたのだ。
邪神の配下にも4人の負の神が存在し、個々では歯が立たない事を知ってしまった神々は
ついに、永遠の盟約を結ぶのだった。
人間は戸惑いながらも、主達が一致団結したことに歓喜した。
イルヴァの地に希望を見い出し、"ムーンゲート"は無用になったと思われた。
しかし時すでに遅し――
絶大な力を蓄えていた邪神は次々と神を葬り去り、イルヴァの支配まであと少しになってしまっていた。
そこで神々と人間が結託し、"ムーンゲート"を使用して別世界に追放する計画を立てた。
神々は協力し、負の神達を追放することに成功した。
しかし邪神だけは歯が立たず、神々が敗れそうになった時――
人間の中から、1人の"勇者"が現れた。
神々を見かねた人間たちは、自身の力を、1人の人間に集めたのだ。
これにより人間たちは、個々としては、吹けば飛ぶ存在になってしまったが――代わりに
邪神と同等の力を持った、"勇者"を発現させる事に成功したのだった。
邪神と勇者の戦いは凄まじく、イルヴァの地は大きな痛手を負ってしまった。
イルヴァの地をこれ以上傷つけるわけにはいかないと考えた勇者と人間たちは――
人間たちの最後の力により"ムーンゲート"を強化――
勇者は邪神を"ムーンゲート"へと誘い込み、人間たちは邪神を道連れにイルヴァの地を去ったのだった。
こうしてイルヴァの地に平穏が訪れた。
人間達を失い、己の過ちを学んだ神々は本来の領域へと去り
闘争の時代は終わりを告げた。
ジャビ王「……これが王族に代々伝わる、六紀・闘争の時代の話じゃ」
少女「"邪神"……"勇者"……」
スターシャ王妃「なるほど、この話が徐々に変化して、魔王と勇者という話になったのね」
ジャビ王「うむ。……どうじゃ?」
勇者「……うーん」
ジャビ王「…まあよい、記憶はじきに戻るじゃろう。それよりそなたの病についてじゃ」
ジャビ王「このパルミアより腕の良い医者となると、ルミエストに住む医者しか見当たらん」
ジャビ王「紹介状を出そう。行ってみてはどうかね?」
少女「ルミエスト……」
勇者「遠いのか?」
少女「まあ、それなりに……途中で倒れちゃうかも……」
ジャビ王「心配するな、使いの者を出そう。馬車の荷台に乗ると良い」
勇者「そこまで……本当にありがとうございます」
ジャビ王「……不思議と、おぬしには本当に今の問題を解決してくれる"勇者"のような気がしてな」
ジャビ王「もしその病が治れば、また報告に来てほしい。よいか?」
勇者「はい、もちろんです!!」
こうして勇者と少女は馬車へと乗り込み、ルミエストへ向かう。
*保存*
ちょっと勢いに乗りすぎた感がありますが今回はここまでです
ワアーォ!ほんとだありがとう!
すいません、書いては矛盾見つけて書き直しの繰り返しで中々進んでないっす…
とりあえず今日は投下したいと思います
今から外出するので今日中には投下します…今日中には……
ガタッ…ガタタッ……
二頭の馬が引く薄暗い馬車の中で、2人は隣り合って座っていた。
勇者「……そういえば俺ってどんくらい寝てた?」
少女「大体2日間くらいですねー」
勇者「そっか」
勇者「は!?2日間!!??」
少女「そうですよ。本当は民宿に移動しなきゃならなかったんですけど、あんまり熱がひどかったんでそのまま」
勇者「まじか……本当にジャビ王には迷惑かけたなぁ……」
勇者「なあ、ルミエストってどんな所なんだ?」
少女「そうですねー、前にも言ったと思いますけど、漁業と音楽の盛んな街ですねー」
勇者「あー言ってたな」
少女「あと魔法師ギルドがありますね。魔法に特化した人達の集まりで、そこでしか入手できない貴重な魔法書やスキルがあります」
勇者「ほほう」
少女「他には、魔法師ギルドとかいう魔法に特化したサンドイッチがとてもおいしくて~」
勇者「は?」
少女「例えば……掲示板には勇者さんには食べられたかもしれなくて~」
勇者「…クレア?何言ってるんだ?」」
少女「他にも海の上に像が立ってて、それは食べられないんですよ~」
勇者「おーい?」
少女「………」ポスッ
勇者「クレア?」
少女の頭が勇者の肩にもたれかかる。
少女「………すぅ」
勇者「なんだ寝ちゃったのか……ん?」
熟睡してしまった少女を眺めていると、目の下にクマが出来ていることに気付く。
勇者「お前……もしかしてずっと付きっきりで……」
勇者「……」
勇者「ありがとな」
ー同刻・ルミエストー
普段は賑やかなルミエスト。どこからともなく吟遊詩人の奏でる音色が
市民達のBGMになっている…はずなのだが
市民A「おいっ!見たかアレ!!!」
市民B「何が?」
市民A「っいいから来い!信じらんねぇ事が起きてる!!」
市民B「ああ?なんだってんだよ……」
ガシャッ…ガシャッ…
市民A「あ!見ろ!アレだアレ!!!」
市民B「なん……うわっ!!」
小柄少女「わぁ、人気者だね」
ビッグダディ「ォォオ?」
今だけは、ルミエストを歩く…歩いていた人々はその異常な光景を、
ただただ唖然として見つめる他なかった。
市民B「あ、ありえねぇ……ビッグダディとリトルシスターが町まで来るなんて…!」
市民A「だろ…?しかもあのリトルシスター、リトルシスターにしてはでかいんだよ」
市民B「特殊な個体ってことか?」
市民A「さあな……なんにせよ、こっちが何もしなけりゃ向こうも何もしてこないんだ」
市民A「見るだけなら俺達の命は保障されてるはずだ」
市民B「…けどここには冒険者が居るはずだ。もしかすると……」
市民A「……無いと思うがね。リトルシスターに関しては、表向きは保護という話でまとまってるはずだ」
市民A「こんなとこで奴らを殺して血肉を得ようなんて、そんなバカな事をする冒険者なんざ居ねぇよ」
小柄少女「ねぇ」
市民A・B「!!!!!!!!」
話に夢中で、いつの間にかビッグダディの肩から降りて近づいていた小柄な少女に気付かなかった。
小柄少女「げほっ…この辺にお医者さんいない?ちょっと調子悪くてっ」
市民B「ぇええええっと……」
フードに身を包む少女。リトルシスターのイメージとはかけ離れ、笑顔で明るく社交的。
細かな仕草や整った小さな顔から、すれ違った人達を魅了する人物であることが予想できる。
ビッグダディ「ォォォ…」
――――後ろにビッグダディがいなければ。
市民B「え、えっと確か南西の方角にいけば居る…と思います……」
小柄少女「そっか。ありがと」
市民B「いえ……」
小柄少女「…あと」
市民B「ハイッ!!」
小柄少女「"勇者"を探してるんだけど、知らない?」
市民B「はあ……"勇者"?……それで、特徴は?」
小柄少女(……"勇者"という単語すら存在しない世界かぁ……)
小柄少女「えっと、とても強い人で……」
小柄少女「まるで異世界から来たような人」
市民B「……お前知ってる?」
市民A(俺に振るな!!)
市民A「えっと…とりあえず情報屋のカハードさんの所へ行けば、冒険者の情報がもらえますよ」
小柄少女「カハード…さんね」
市民A「あとは……アリーナに行けば、人対人、人対モンスター、モンスター対モンスターが見れますんで」
市民A「そこでしばらく観戦するのもありかと……」
小柄少女「そ、ありがとう」
小柄な少女は笑顔を返し、ビッグダディの元へと戻り、去る。
市民B「……」
市民A「チビるかと思った」
市民B「俺はチビった」
市民A「え」
「し、知らないです……」
「いやっ…き、聞いたことないですね……」
小柄少女(この街には来てない…か……)
小柄少女(仕方ない、先に医者に診てもらお)
…
医者「うーむ……急に咳が?」
小柄少女「うん」
医者「…もうちょっと具体的でないとどうにも…」
小柄少女「……空気が悪いと思うんですけど」
医者「空気…?このあたりはかなり澄んだ空気だと思うがねぇ」
小柄少女「え…」
助手「……」
ビッグダディ「ォォォ……」
助手(…………助けてぇえ!)
助手「ま、またお越しくださいませぇぇ……」
小柄少女「ありがとうございましたー」
小柄少女(……原因不明なわけない)
小柄少女「げほっ!!」
小柄少女(どうして皆、こんな空気を平気で吸ってるのかな……)
…
助手「それにしてもすごいですね、あんな状況でも平静を保つなんて」
医者「……」
助手「先生?」
医者「……」
助手「……気絶してる」
もうちょい投下しようと思いましたけど、キリが良かったので今日はここまでっす
あと、僕に何かあったら知り合いにこのトリップで書き込むように言っておきましたので、何かあったら皆さんにすぐ伝えます
あるという事にしておいて下さいすいません!
今日は無理なんですが明日投下します
小柄少女(さてと、次は情報屋ね)
小柄少女(……場所、教えてもらって無かったや)
……
しばらく街の人々に質問し、情報屋カハードの家までたどり着く。
……ここまでも、一度も人々の視線が途切れる事は無かった。
小柄少女「すいませーん」ドンドン
「はーい」ガチャ
小柄少女「……あれ?間違えた?」
少女が思うのも無理は無い。なんせドアを開けて出迎えたのは……
エプロンにオタマ、サンダル。どこからどう見ても夕食の支度をしている主婦だった。
情報屋「あら?こんにちはフードのお嬢ちゃん、その反応は情報屋としての私に用があるのね」
小柄少女「その反応……って」
情報屋「ふふ、ルミエストの情報屋・カハードとは私の事よ!何か知りたい情……報……は……」
情報屋の目線は小柄な少女と話すため下を向いていた。
しかしチラリと映った異様な脚に気付き、目線を上げると……
ビッグダディ「オオオ…」
情報屋「……変わった仲間をお連れなのね……」
小柄少女「あの、冒険者の情報を教えてくれるって聞いたんだけど」
情報屋「あ……ああ!そうね!じゃあとりあえず入って」
小柄少女「お邪魔します」
ここで少女が家に入るのを見たビッグダディが、後を追う。
情報屋「え?」
ビッグダディ「オオオォ」ガッ!
情報屋「あー…ごめんなさいね、あなたは外で待っていてくれないかしら?」
ここは情報屋カハードの自宅である。ドアも当然といえば当然だが、人間用だ……しかし。
ビッグダディ「……オォオオオ!!」メキメキメキ!
ビッグダディは少女についていこうと努力する。
情報屋「ちょちょちょ!!あなたはどう頑張っても入れないサイズ的に!!!やめて!!!」
小柄少女「あっはは!!バブルス!外で待っててくれる?」
ビッグダディ「オオ……?」
小柄少女「んっ?大丈夫だよ!女の人だし!」
ビッグダディ「ォォ……」ズシン…
少女の言葉を信じ、ドアから離れる。
情報屋「……ありがとう、もう少しで家の玄関が強制リフォームされる所だったわ」
情報屋「ごめんね、わざわざ私の家まで来てもらって……ああ、座ってくれて構わないわ」
小柄少女「…ども」ガタッ
情報屋「……家の中くらいフード取ったらどうかしら?」
少女に対して疑問があった。ビッグダディという注目の的を連れておきながら、自身は身を隠している。
目立ちたいのか、目立ちたくないのか、はっきりしない。
小柄少女「……」
情報屋「……まあいいわ、何の情報が欲しいの?」
小柄少女「……全部」
情報屋「……ん?」
小柄少女「この地の名前、常識、歴史、世界情勢……あなたの知っている事全て教えてほしい」
情報屋「…………えっ…と……記憶喪失?」
小柄少女「………まあそんなものです」
情報屋「ふうん……ま、詮索はしないでおこうかな」
情報屋「それで、この世界の基本を学べば思い出すと?」
小柄少女(そういう事にしておこう)
小柄少女「…………そうですね」
情報屋「じゃあ、ノースティリスはわかる?」
小柄少女「……ノースティリス?」
情報屋「あー……長くなるけど、いいわね?」
小柄少女「もちろん」
――――。
小柄少女「イルヴァ、ノースティリス、パルミア、ザナン、サイモア、ヴィンデール、エーテル、エレア……」
小柄少女「……そしてあの子は、ビッグダディ……」
情報屋「…念のためもう一度聞くけど、あなたはあのビッグダディのリトルシスターでは無いのよね?」
小柄少女「はい……あの子の本当のリトルシスターは……殺されました……」
情報屋「……リトルシスターの肉は肉体を進化させる……よくある事よ」
情報屋「それと知っておいて。動力維持のための供給源が無い以上、あの子はもう永くない」
小柄少女「……」
情報屋「でも、できるだけ近くに居てあげて。……私自身、ビッグダディは所詮機械だと思ってたから、到底信じられなかったけど……一目見て感じたわ。」
情報屋「あの子があなたに寄せる信頼は、リトルシスターと同じ。あなたに危害が及ぶなら、全力であなたを守ってくれるはず」
小柄少女「…はい」
情報屋「それで、何か思い出した?」
小柄少女(思い出すっていうより、知らなかっただけだけど……)
小柄少女(……次は……)
小柄少女「そういえば、兄……が居ました」
情報屋「おお、お兄ちゃんの存在かぁ!どんな人?」
小柄少女「……とても、強いです」
小柄少女「まるで異世界から来たような人」
情報屋(……なんじゃそりゃ)
小柄少女「……そういえば情報屋さん…あなたは冒険者の情報も扱っているんですよね?」
情報屋「本来はそっちメインなんだけどね」
小柄少女「冒険者の情報を、もらえますか?もしかしたら載ってるかもしれません」
情報屋「……はい、どうぞ」ドサッ
少女は冒険者の名声ランキング表を渡され、目を通す。
パラッ………パラッ………
小柄少女「……うーん」
情報屋「お探しのお兄ちゃんは見つかった?」
小柄少女「居ないみたいです……これ最新ですか?」
情報屋「そうね……大体最新かな……でも、ここから数百マイル離れた所で新米冒険者が現れても知ったこっちゃないでしょ?」
小柄少女「……確かに」
情報屋「というわけで、定期的に冒険者の名簿に目を通せば、いつかは見つかるかもしれないわ。」
情報屋「その"お兄ちゃん"が冒険者になっていれば、ね」
情報屋「それで、お兄ちゃんの名前は?」
小柄少女「………"勇者"」
情報屋「……き、聞いたこと無いわ……」
小柄少女「そうですか……」
情報屋「結局の所、これからどうするの?」
小柄少女「とりあえず色んな街を見て、兄を探そうと思います」
情報屋「そう……そうね。それが一番良いかもしれないわ」
情報屋「ああでも、今から次の街へ行くのはやめておいた方が良いわ」
小柄少女「………エーテルですか?」
情報屋「そうよ、3日後には9月。パルミアまでは2日程度で行けるけど、途中で何があるかわからないから」
小柄少女「………盗賊」
情報屋「それもあるし、天候が悪化すれば目も当てられないわ」
外はすっかり太陽が落ち、街灯が海を照らし、街に神秘的な雰囲気を醸し出す。
ビッグダディ「ォォオオ」
小柄少女「よいしょっと」ストン
すっかり手慣れた動作でビッグダディの肩に乗る。
小柄少女「……今日はありがとうございました」
情報屋「結局そのフードは取ってくれないの?」
小柄少女「……ごめんなさい」
情報屋「そ。じゃあまた会った時、お兄ちゃんに会えてれば…その時は、見せてくれる?」
小柄少女「…………いいですよ」
情報屋「ふふっ!じゃあまたね!!」
小柄少女「…はい」
バタンッ……
情報屋「ふう、不思議な子だったわね……」
情報屋「あれ?そういえば、あの子のお兄さんが異世界から来た人なら、あの子も異世界から来た人……?」
情報屋「…………この世界の事をまるっきり知らなかったのも、辻褄が合う………」
情報屋「……」
情報屋「……まさかね!!」
ガシャッ…ガシャッ…
ビッグダディと少女は、街の夜風に吹かれながら"街の外"へと向かう。
小柄少女(さてと……エーテルの風が吹くのは3日後……今からパルミアに向かうと2日……)
小柄少女(………行こう。エーテルは一度起きると数日は続くらしい……もう情報の得られないルミエストに居ても時間の無駄だ)
ガシャッ………
と、不意にビッグダディが停止する。
小柄少女「……?どしたの、バブルス」
ビッグダディ「ォォォ」
小柄少女「……本?」
ビッグダディの目の前に、一冊の本が落ちていた。
少女はビッグダディの肩から飛び降り、手に取る。
小柄少女「……"これから日記をつけようと思う"……」
小柄少女「あれ、これだけ?」
本は日記だった。但し1行しか書かれていなかった。
辺りを見回すと、道端で座り込んでいる人が目に入る。
小柄少女「………あの~」
???「……」
少女が話しかけるも虚しく、返事が無い。
まだ薄暗いというのに、闇に溶けてしまいそうな黒紫の髪、
切れ目に赤を使った黒のマントに身を包むその男性は、
虚ろな目をしたその表情が、雰囲気をさらに暗いものにする。
小柄少女「これ、あなたのものですか?」
「私は…生きている価値があるのかな?」
小柄少女「…え?」
「才能のある者の努力とない者の努力は、果たして同じなのだろうか?」
小柄少女「は、はあ」
脈絡の無い返事に、困惑する。
「私の妹は、このルミエストの都で絵描きを目指していた。
彼女は美しいものを愛したが、画家としての才能には恵まれてなかった。
自分の限界に気付いた彼女は精神を病み、周りの者に当たり散らかした。」
小柄少女「はぁ~」ザッ
突如語り始めたその男の話などに構っている暇は無い。無視してパルミアへ急ごうと、男に背を向けた……が。
「罵られ、蔑まれ、誰からも理解されないまま、冬のある日、湖に身を投げて死んでしまった……」
小柄少女「っ……」ピタッ
今の話で何を感じ取ったか、少女の足はパルミアへ向かうのをやめた。
「私は知っていたよ…身体を壊すほどに、妹が絵の勉強に励んでいたこと。
常人離れした情熱と、名声への憧れ。だが、妹が死んで間も無く、一人の天才がこの都にやって来て、
何の努力もなしに彼女が望んでいた全てを手に入れてしまった。名声、幸福、富…」
小柄少女「……」スタ…スタ…
少女は男に近づいていく。
「恵まれたもの、恵まれないもの、全ては運命の偶然に過ぎない…何がいいたいかよくわからないか?
そうだな、私自身、この感情をうまく説明できないんだ。
ただ、私には人生の意味が分からなくなった…ただそれだけだ。」
話は終わったようだ。男の目の前に立った少女は男を見つめ、そして……
パアンッ!!!!!!
ルミエストに、強烈な平手打ちの音が響いた。
「……すまない。迷惑だろうね、君にとってこんなどうでもいい話――」
小柄少女「わかるよ」
「……なに?」
小柄少女「誰からも理解されない……それはとても……とっても、辛い事」
小柄少女「……でもね、あなたお兄ちゃんだったんでしょ?」
小柄少女「どうして理解してあげなかったの?どうして守ってあげなかったの?」
小柄少女「どうして傍に居てあげなかったの!!??あんたはお兄ちゃん失格だ!!!!」
「な……」
男の目に、光が戻る。
小柄少女「……私の"お兄ちゃん"は、そうしてくれた。"お兄ちゃん"のおかげで、今の私が居る」
小柄少女「だから私は、"お兄ちゃん"の傍に居るって決めたんだっ!!!」
「……はは」ツー…
小柄少女「何がおかしい――あ」
今まで同情、励ましの言葉しかもらえなかった男に
少女の言葉が、男に涙を与えた。
「私の名は『レントン』、魔術師だ。……ありがとう、ここまで罵倒されたのは初めてだよ」スクッ!
レントンという名の男は勢いよく立ち上がる。男を包んでいた暗い雰囲気は消え去っていた。
レントン「兄失格……ははっ!その通りだ!」
小柄少女「……?」
レントン「何か吹っ切れた気がするよ。…確かにその日記は私の物だ。ありがとう、拾ってくれて」
レントン「だけどそれは君にあげるよ。好きに使ってくれ」
小柄少女「え、あの」
レントン「ありがとう、見知らぬ人。ついでにこれもプレゼントだ」
レントンが何かを唱えると、少女の周りに白い霧のようなものが舞い始める。
小柄少女「これは…?」
レントン「ホーリーヴェイルだ。しばらく君を悪しき呪文から守ってくれるだろう」
小柄少女「はあ……」
レントン「では!」
黒マントを翻し、ルミエストの街へと消えていく。
小柄少女「……なんだったんだろ……それに日記なんていらないんだけどな」
小柄少女「………」
小柄少女「恵まれなかったからなんだ……」
小柄少女「……私なんて……」
小柄少女「"人間"として生まれる事もできなかったのに」
*保存*
次の日、太陽は姿を現さず、暗雲が空を覆っていた。
「ではごゆっくり」
ザナンの皇子宿営地で、朝食を終えた二人分の皿を家来が片付けた所で
白子の皇子・サイモアとその側近・ヴァリウスは話を再開させる。
サイモア「そういえば、お前は"奴"とは話した事が無いのだったな」
ヴァリウス「ええ……」
サイモア「気になるか?私が"奴"と話した内容を」
ヴァリウス「…………はい」
ヴァリウス「しかし、サイモア様がお気をつかわれる事はありません」
サイモア「良い、話してやろう」
ヴァリウス「……よろしいのですか?」
サイモア「大したことではないのだ。むしろ、私が話をしたい」
ヴァリウス「…では、拝聴致します」
サイモア「ヴァリウスよ、お前は"神"を信仰しているか?」
ヴァリウス「神……ですか。失礼ながら、特に……」
サイモア「ふふ、私もだよヴァリウス。私は神が嫌いだ」
サイモア「信じなければ何も与えない、傲慢な神どもだからだ」
ヴァリウス「……それで、"奴"と何の関係が?」
サイモア「……"奴"は私に、"神"について聞いてきた」
サイモア「今存在する神の名と特徴の全てを教えろ……とな」
ヴァリウス「……」
サイモア「……元素のイツパロトル、地のオパートス、風のルルウィ、
収穫のクミロミ、癒しのジュア、幸運のエヘカトル、機械のマニ……」
ヴァリウス「……七柱……ですね。神の名など、常識のような気がしますが」
サイモア「ところが"奴"は私が言い終えた後、こう呟いた」
サイモア「『新しい名が2つ』……とね」
ヴァリウス「どういう事でしょう?」
サイモア「……最後に現れたのは機械のマニ、現れたのは600年前とされている」
サイモア「恐らくマニの前は幸運のエヘカトル、少なくともこの1000年以内だろう。」
ヴァリウス「"奴"はこの2神を、"新しい"…と?」
サイモア「……奴は、最も神に近い者の名も教えろ、とも言ってきた」
ヴァリウス「…………"最も神に近い者の名"……とは?」
サイモア「それは信仰心が最も高く、神に愛されている者の事だろう」
サイモア「その者は、信仰している神と交信・さらには神を呼ぶ事もできるらしい」
ヴァリウス「神を?そんな事が――」
サイモア「できる。私は"あの"研究の過程で偶然、1人だけ知り得ることができた」
サイモア「"風の民"ナルレア……彼女はこのノースティリスで最も信仰の高い冒険者だそうだ」
ヴァリウス「……確か名声ランキング37位の中堅冒険者ですね」
サイモア「覚えているのか。流石だなヴァリウス」
ヴァリウス「恐縮です」
ヴァリウス「しかし彼女は……特に変わり種の無い冒険者だった気がしますが」
サイモア「ここからは噂だが……彼女を襲った盗賊が、返り討ちをうけた話だ」
サイモア「逃げ延びた盗賊の話はこうだ」
サイモア「『瀕死まで追い込んだはずなのに、ヤツが祈った瞬間傷が全て回復した』」
サイモア「『そしてさらに突然人が変わったように高笑いを始め、ヤツが消えた』」
サイモア「『俺が次に見たのは血の海だった』」
サイモア「『ヤツは……もう息の無いメンバーをミンチになるまで……』」
サイモア「盗賊がこのあと発狂死して、続きは聞けなかったらしい」
ヴァリウス「……サイモア様は、これを……」
サイモア「うむ。"憑依"と見ている」
ヴァリウス「そんな貴重な情報を……」
サイモア「面白いが、私にとってはどうでも良い情報だ。くれてやった」
ヴァリウス「"奴"はその者を利用して、何……を……」
ヴァリウスは気づいた。
ヴァリウス「ま、まさか"奴"は、神を……!!」
サイモア「できると思うか?」
ヴァリウス「あ……あり得ません!!」
サイモア「……今日は天気が悪いなヴァリウス。」
サイモアは呟き、ニヤリとヴァリウスを見つめる。
ヴァリウス「っ!!……ご…御冗談……を」
サイモアの言わんとする事を理解し、冷や汗が流れ出す。
サイモア「もしこの後嵐になれば……"奴"は本物の……」
……
…
「へっくし!」
行商人「風邪ですか?ナルレア殿」
とある街道にて、行商人とその護衛が次の街を目指していた。
ナルレア「あら、この"風の民"に向かって"風邪"とは、面白い冗談じゃない」
行商人「はっは、それもそうですなあ」
ナルレア「冗談を言う暇があったらさっさと荷車引いてよね、そろそろエーテルの風が吹くわ」
行商人「手厳しいですな」
ナルレア「ルルウィ様も、エーテルの風までは面倒見切れないとおっしゃっているわ。さあ早く」
妙に高飛車なこの女性。軽装備をマントで覆い、腰には短剣と小さな盾を装備
背中には身の丈ほどもある長弓とその矢筒を掛けている。
……イルヴァにおいて、一般的な冒険者の装備に近い。
行商人「……それなら荷車で寝ているあの子、起こしてくれませんかね?」
ナルレア「……諦めなさい」
行商人「そうは言ってもですね?重量を軽くしないと移動が……」
「おい人間、この私が乗る事で重量が増すと?」
行商人「あ……起きてらしたんで
「さて、どうミンチにしてやろうか……」
行商人が荷車の上を見上げるとそこには
ピンクのツインテールに漆黒の翼を広げ
不敵な笑みを浮かべて見下している美少女がそこに居た。
行商人「……あ」
行商人は何かに気付き、前を向いて馬を引く。
「ふん、怖気づいたか人間め。神の化身であるこの黒天使デイフォード様の恐ろしさが」
ナルレア「フォーちゃん、パンティ見えてるわよ」
「…………」
黒天使と名乗った少女はスカートだ。そして彼女は荷車の上に立っている。
当然の結果だった。
*保存*
また夜投下します
ゴトッ…ゴトッ…
行商人「それで、また荷車の中でお休みですか」
ナルレア「諦めなさい、私も諦めてるのよ」
行商人「そういう事ですか……ん?」
「……」ザッザッ
行商人は馬に乗っている為、視線が高い。
ゆえに、遠くの方で歩いてくる人物にいち早く気付いた。
行商人「向こうから人が歩いてきてますな」
ナルレア「え?」
行商人「冒険者さんですかねぇ?」
「……」ザッザッ
ナルレア("歩いてきている"……?もしや!)
行商人「ちょっと寄り道してもいいですかな?行商人としての本分を」
ナルレア「ダメ」
行商人「は?」
ガタッ!!
黒天使「ご主人ッ!!!!」
ナルレア「フォーちゃんが出てきたってことは、大当たりか…」
行商人「ちょっと!?まだ盗賊と決まったわけじゃ」
ナルレア「考えて!街は近く、もうすぐエーテルの風が吹くというのに」
ナルレア「何故"こちら"へ向かって来るのかしらね!!」
行商人「……でも、本当に商いがしたくて向かってるだけじゃ……」
ナルレア「仮に遠くから見かけたとしても、商いをする気なら街付近まで待てばいい!それに!」
ナルレア「フォーちゃんが敵と認識した!それを外した時は無い!!」バッ!!
黒天使「ハッ!」バッ!!
敵との距離はそれなりだ。二人は弓矢を構え、遠距離攻撃の準備に移る。
――――これが、間違いだった。
「……」
フッ…
黒天使「えっ」
ナルレア「あれ?消えた……?」
行商人「ナル、レア殿……」
ナルレア「商人、今は話しかけないで!」
黒天使「ッ!!ご主人ッッ!!!」
行商人「お逃げ……くだされ……」ズルッ
ナルレア「商……うっ!!」
さっきまで元気だった行商人は……半分になっていた。
ナルレア「いつの間に……!!」
「……お前が"風の民"ナルレアだな……情報通りだ」
ナルレア「貴様ッ!!」バッ
「遅い」ヒュッ
ガッ!!!
ナルレア「が……あっ………」
「弓を持ったのは間違いだったな、せめて剣を持つべきだった」
黒天使「ご主人を離せッ!!!」バッ
「よかろう」パッ
ナルレア「っは!!」ドサッ
「そのかわり……」パチンッ
男が指を鳴らした瞬間、辺りが暗転した。
ナルレア「げほっ!……なっ!?さっきまで街道だったのに…っ!!」
黒天使「ご主人ッ!」
気づけば二人は、コンクリートで造られた、広く、薄暗い建物の中に居た。
ボッ
ボッ
ボッ
突然、かがり台に火が次々と灯る。
「"風の民"ナルレア……貴様は最も信仰心溢れる冒険者だそうだな」
ナルレア「なんのつもりだ……!」
男は奥にある、数段段差を上がった所の"王座"に座って眺めていた。
「さて、神は本当に助けてくれるのかね?」
黒天使「主を愚弄するかッ!貴様なぞルルウィ様のご加護があれば!」バッ!
激昂し、男へ一直線に向かっていく。しかし……
ナルレア「駄目フォーちゃんっ!!!」
「『フリージア』……やれ」
フリージア「はいにゃ」
茶髪、猫耳、猫の手、無地の白服に短パン。そして茶色の尻尾を振りながら、
身長180cmはあろう美女が男の座る王座の影から現れた。
ナルレア「ッッ!!フォーちゃん戻って!!!」
フリージア「遅いにゃあ」スタッ
黒天使「な……」
黒天使と、フリージアと呼ばれた女性との間にあった20メートル以上の距離は
次の瞬間には0となっていた。
フリージア「にゃっ」バシッ
軽く腕を振り、黒天使を叩いて軽い音を鳴らす。しかしそれだけで……
ドゴオッ!!!
黒天使「がぁ………」
ナルレア「フォーちゃんッ!!!!」ダッ!
フリージア「殺してもいいのかにゃー?」
「駄目だ、半殺しにしろ」
フリージア「……難しいにゃあ」
黒天使「首をちょんぎってやる!!」シャキンッ!
取り出したるは鎌。
その姿はさながら、美しき死神。
黒天使「"ブースト"ッ」キィンッ
ナルレア「やめなさいデイフォード!!力の差がわからないの!!??」
ナルレアの制止も虚しく、敵に向かっていく。
黒天使「こんのおおおおおっ!!」シャシャシャシャシャッ!!
"ブースト"により大幅に上昇した速度で、敵をかく乱させる。
フリージア「にゃああ!?」
黒天使「もらったッ!!」シャッ
完全に後ろを捉えた。
……つもりだった。
フリージア「にゃあ~」ヒョイッ
黒天使「っあ……」スカッ
フリージア「……羽音にびっくりしたにゃあ」スッ
バチィンッッ!!!!
まるで虫か何かを叩き落とすかのように、黒天使は地面に叩きつけられた。
ナルレア「フォーちゃんっ!!!!」
……呼びかけ虚しく、返事は返ってこない。
フリージア「し、しまったにゃあ!」ヒョイ
黒天使の片足を持ち、目線を同じ高さに合わせる。
脱力した黒天使の手や髪から、真っ赤な液体が滴り落ちている。
フリージア「……よかったにゃ~!かろうじて生きてたにゃ!」
「フリージア……我はあっちの女を半殺しにしろと言ったのだ。そんなゴミはどうでも良い」
フリージア「にゃあ!?」
ナルレア「………………」
フリージア「間違えたにゃあ」ポイ
黒天使を投げ捨て、ナルレアの方に向きなおす。
ナルレア「……い……………ろ」
フリージア「……にゃ?」
ナルレア「……いい……にしろ」
ナルレア「……いいかげんにしろぉぉおおおお!!!」ダッ!
ヒュッ
フリージア「といってもにゃあ」バキィッ!
ナルレア「~~~がッッ!!!!」ドゴォンッ!!
「分かっているんだろう?奇跡でも起きなければ勝てる相手ではないと」
ナルレア「……だったら……」
ナルレア「だったら奇跡を起こすまで!!」
ナルレア「……ルルウィ様!!!!」
*保存*
寝落ち申し訳ない
―――後でおしおきよ
フワッ……
突然、室内であるにもかかわらず風が舞う。
…スタッ
ナルレア「ごめんね、フォーちゃん」
黒天使「あ……う……」
フリージア「にゃあ!?」バッ
視界に捉えていたはずなのに、ナルレアは一瞬で黒天使の元へ移動していた。
ビュオッ!
フリージア「ッ!!」
ナルレアが風に消え、またも視界から消える。
スタッ
ナルレア「ほら、治癒のポーション飲んで」スッ
黒天使「……」ゴク……ゴク……
フリージア「あんにゃ所に……!?」
またも一瞬で、部屋の一角に移動するナルレア。
黒天使に治療を施し、そっと床に寝かす。
ナルレア「『フリージア』……とか言ったね」
フリージア「……っ」
さっきまで感じていた実力の差は、歴然としていたはずだった。
しかし今フリージアが感じているのは……恐怖。
ナルレア「………許さないから!」バシュッ!!
フリージア「にゃあ!??」ダンッ!
弓を触ったと思った瞬間には矢が放たれていた。
危険を察知し、バックステップで距離を開ける。
――しかし眼の前には、矢。
フリージア「ッ!!!」グルッ!
ズザアッ!!
フリージア「……この私に傷を……やるにゃあ」ツー
頬に一筋の赤い線が刻まれ、血が伝う。
ナルレア「ルルウィ様のご加護を受けた以上、もうあなたに勝ち目は無い!」ビュオッ!!
風の様に軽くなった体は、フリージアの圧倒的なスピードをさらに上回っていた。
フリージア「くっ!!」バッ
ナルレア「どうした遅いぞ!!!」ヒュッ
ドカアッ!
フリージア「がっはっ!!」
ナルレアの蹴りが炸裂し、フリージアは床に転がる。
ナルレア「……とどめだ!!!!」シャッ!
短剣を抜き、一気に詰め寄る。
フリージア「ッ!!!」
男「この時を待っていたッ!!!!」バッ!
ブウンッ!
ナルレア「!?」
短剣が、フリージアの喉元を皮一枚の所で、止まった。
ナルレア「体が……動かな……」
床全体が青黒く光る。
ナルレア「これはっ……魔法陣!?この床に描かれた模様全てが!?」
男「そうだ。"貴様ら"を捉えるためだけに、我は"向こうの世界"でずっと研究していた」
ナルレア「あなた……何者!?何が目的なの!?」
男「…………"人間"にもう用はない。話があるのは……」バッ!
……キィィィイイイン!!!
男「……貴様だ!!」
ナルレア「ッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!」バチバチバチバチッ!!
まるで、魂と肉体が引き離されるような感覚。
もはや痛覚という次元ではない痛みだった。
ナルレア「……かはっ」ドサ
しかしその痛みからは数秒で解放され、一気に体が軽くなる。
…が、体は動かない。糸の切れた人形のように、その場に倒れる。
体から"何か"が抜けたような感覚だった。
ナルレアの体は動かないが、五感と意識ははっきりとしていた。
目に映るのは、二人。
男「……出たか」
王座の前に立つ男と
「……私を引きずり出すなんて、オマエ、人間の範疇を超えているわ」
ナルレア「な……」
肩までは届いてないショートの黒髪をなびかせ、
背中からは純白の羽。
そして一枚の純白の布で肢体を…否、
一枚の純白の布"が"、うまく恥部のみを隠しているだけの…
ほぼ全裸の女性が、浮いていた。
一般的には痴女と思われてもおかしくはない姿。
しかしそのような概念は、人間だけ。彼女には当てはまらない。
そう、なぜなら彼女は、正真正銘本物の――
男「久しぶりだな……"風のルルウィ"よ」
――神なのだ。
*保存*
また夜再開します
すいませんちょっと用事出来たので明日投下します
ナルレア「……ル……」
ナルレア「……ルルウィ……様……!?」
ルルウィ「ナルレア、後で覚悟なさい。オマエの信仰心はそんな無様な姿を見せるものだったかしら」
ナルレア「……ッ!!…も、申し訳、ありませんっ……!」
ルルウィ「我が下僕・デイフォードも…と言いたい所だけど、何、ミンチ寸前じゃない」
隅で横たわる黒天使を、特に労わる事も無く一瞥する。
フリージア「……にゃあッ!!」バッ!
…グニッ!
ルルウィ「……ん?」
突然フリージアは飛び起き、ルルウィへ攻撃する。
しかしそれは、まるでゴムのような分厚い空気の層により、遮られる。
ルルウィ「なあに、子猫ちゃん?遊んで欲しいのかしら?」スッ
ビュオッ!!!
フリージア「ッ!!!」
鋭い風がフリージアを切り裂き、瞬く間に切り傷が無数に生まれる。
フリージア「ッに゛ゃあ゛あ゛!!」バッ!
――しかし床に爪を食い込ませて堪え、もう一度攻撃をしかける。
グニイッ!
フリージア「~~~ッ!!」ブシャッ
ボタボタボタ……
が、当然空気の層にぶつかり、停止する。
ズタズタになっているにもかかわらず力を入れている為、
傷口から血がどんどんあふれている。
ルルウィ「なるほど」
フリージアが神であるはずの自分に向かってくる。
本来ならば、ありえない。なぜなら実力のある者ほど、
相手との実力差が正確に分かってしまうものなのだ。
ゆえに、ある結論に達する。
ルルウィ「…………"支配"ね」
男「ご名答」
ルルウィ「さっき"久しぶり"と言ったわね……」
ルルウィ「私はこの数百年か千年かから、ナルレア以外の人間に姿を見せたことはないわ」
ルルウィ「ミンチになる前に聞いてやる」
ルルウィ「オマエは何だ?私の何を知っている」
男「……」
コツ…コツ…
ナルレア「…!」
実はナルレアは、一瞬で城に連れてこられたり
奥の薄暗い王座に座っていたりして、この男の姿をはっきりと見てはいなかった。
段差をゆっくり降り、かがり台に照らされる面積が増えていく。
怪しく光る紅い眼・青黒い肌・長く尖った耳・そして二本の角。
ルルウィ「……人間…ではないようね」
ルルウィ「答えなさい。オマエは何者だ」
男「……確かに"この姿"は、かつての我の姿ではないからな」
男「分からぬのも無理は無い」スッ
ルルウィ「…話にならな――」
…フィィィイイン!!
男が手を掲げた瞬間、今度は部屋全体に青白い模様が浮かび上がる。
ルルウィ「ッ!!」
ルルウィが自身の状況を理解した時には、遅かった。
ルルウィ「な……に……」パサッ
ふわふわと漂い、ルルウィを纏っていた布が、力無く落ちる。
――"風"が、止んだ。
ルルウィ「こ、この魔法陣は……あのときの!!!」
ルルウィの遠い記憶が、一気によみがえる。
男「そう。"神封じ"の魔法陣」
男「規模はまるで違うが」
男「……かつて、"邪神"たる我の力を奪った忌々しい魔法陣だ」
ルルウィ「…………"邪神"……だと!!馬鹿な!!」
男「懐かしいなァ……貴様らに"邪神としての力"をこの地に封印され」
男「さらにこの地を追放されて何千、何万年になるか……」
男「おかげで向こうの世界では本来の力の塵程も出せなかったよ……まあ」
男「それでもあちらでは"魔王"という名でよろしくやってたがね」
男「中々に気に入っていたが……いやはや、あちらの"勇者"には苦労した。」
ナルレア「…"勇者"……"魔王"……?」
ルルウィ「……どうやって、戻ってきた」
男「簡単な事だ。"ムーンゲート"を"復元"したまでの事」
男「時間は十分にあったからな」
ルルウィ「……おしおきは撤回してあげるわ、ナルレア」
ルルウィ「どうやらあなたを、"こちら"の戦いに巻き込んでしまったようね」
ナルレア「ルルウィ…様……」
ルルウィ「"邪神"ベルネム……覚えているわ」
男「……その名も懐かしいものだ」
ルルウィ「ふん、今度こそ貴様を完全に消滅させてやる」
男「だろうな。"邪神"としての力を取り戻していない"今"ならあり得るな」
男「しかし今のお前には、何の説得力も無い」
ルルウィ「……私を殺したら、他の神が黙っちゃいないわよ」
男「その通り。"今"の我では、奴らに今度こそ滅せられるだろう」
男「だから」パチンッ
ボオウッ!!
男が指を鳴らすと、男の前で青い炎が一瞬燃え上がり、消える。
そこにはとある彫刻物が現れていた。
男「お前は人間どもが模したこの"ルルウィ像"の中で永遠の時を過ごしてもらう」
ルルウィ「……そういう、事か」
男「こうやって、"神の力"を分散させ、"本体"は封印することで」
男「他の神に気づかれる事が無くなる」
ルルウィ「……」
男「さて、フリージア」
フリージア「…にゃ」バッ!
ガシッ!
ルルウィ「ぐっ!!」
神の力を封じられ、最早全裸で翼が生えただけの女性に成り下がったルルウィは
いとも簡単にフリージアに拘束される。
男「自分の像に縛り付けられる気分はどうだ?」
ルルウィ「…痛い……わね。久しぶりの痛覚だわ」ギチッ
男「他には?」
ルルウィ「……この封印が解かれ、"力"を取り戻した時がオマエの最期と知れ」
男「ふむ、威勢が良いな。では我が"力"を取り戻した時、貴様を"負の神"にしてやろう」
男「ああそうだ、貴様の下僕共も一緒に……む」
ナルレアと黒天使はいつの間にか血痕だけを残し、消えていた。
ルルウィ「……今頃気づいたか。馬鹿ね」
ルルウィ「私がオマエと話している間、残っていた力を使って彼女達を脱出させたわ」
男「フリージア、この像はお前にやる」
フリージア「やったにゃー!」
男「……次はどの神にするかな」
男「……」
男「"勇者"……か」スゥゥ……フッ……
フリージア「……にゃ?誰と話していたのかにゃ……?」
フリージア「……にゃああ!?痛いにゃああ!!いつの間に怪我したにゃあああ!?」
フリージア「……あれ?この像は何にゃ?……よくわからないけど、宝物にするにゃ!!」
すいません、>>700と>>701の間に以下が入ります
男「……貴様も大概に馬鹿だな。自分が脱出すればよかろうに」
ルルウィ「邪神なんかとは考え方が違うのよ」
ルルウィ「太古の化石風情が、今更私たちに――」
男「"封印"」スッ
ズオオオオッ!!
ルルウィの体が、像と一体化していく。
ルルウィ「ぐうっ……はっ!"また"勇者が現れてっ……オマエを滅するわ!!」
バシュウウウゥゥゥゥッ!!!!!
ルルウィ像「――――」
男「……眠れ、"風の神"よ」
*保存*
最後にレスが入れ替わってしまった……くそう
神秘的な光の胞子が辺りを包む。
勇者「結婚しよう、クレア」
少女「……はいっ!!」
そこは王宮。王の座まで伸びた赤いカーペットの両脇には、それを祝うために集った者たちが皆、祝福の拍手を王宮に響かせる。
見渡すとそこには、風を聴く者『ラーネイレ』、異形の森の使者『ロミアス』、他にもエレアと思わしき者数名。
ザナンの紅の英雄『ロイター』、ヴェルニースの看板娘『シーナ』、犬好きの少女『リリアン』、『謎の科学者』。
そして、少女の父と母が居た。
ジャビ王「汝 健康の時も、病めるときも、富ときも貧しき時も、幸福の時も災いにあうときも」
ジャビ王「これを愛し敬い慰め助け、永久に節操を守ることを誓いますか?」
「「誓います」」
スターシャ王妃「では、誓いのキスを」
二人は向き直り、互いに唇を寄せ――――
……おい、おきろ……おきろクレア……
少女「……んあ?」ぎゅぅぅぅぅ
勇者「た、頼むから起きてくれぇぇぇえ!!」
目の前には勇者の顔があった。
少女「…………ぎゃあああああああああああ!!!!!」
少女「…………ああ、夢でした。夢ですよね。そうでしょうとも」
勇者「……起きたか?」
少女「はい起きましたよ、この非情なる世界へと」
勇者「全く、急にのしかかってくるし……」
勇者「かと思えば首に腕を巻きつけて逃げられなくなるし……」
少女「うう……すいません……」
勇者「一体どんな夢を見たらそうなるんだ?」
少女「それを露呈するという事はすなわち私の自殺を意味します」
勇者「……ああそう」
少女「……」
勇者「……」
少女(な、何か話題を……!)
…とそこへ、丁度良く話題が"吹きつける"。
ビュオオオオオオオッ!!!
ガタガタガタ……
少女「……風、強いですね」
勇者「ああ……早朝から起きてるが、ここにきて急に風が出て暗くなったな」
少女「……え?早朝?今が朝では?」バサッ
荷車から外を覗く。薄暗く、気温が低い。
明らかに早朝としか言いようのない空模様だったが……
勇者「……今はもう昼だ」
少女「え、これが昼?」
勇者「ああ。ちなみに朝の方がもっと明るかった」
少女「……急激な気候変化……もしや……?」
勇者「何か知ってるのか?」
少女「はい。晴れていた天気が突然大雨になったり、嵐が突然晴天になったり」
少女「こういった明らかに"自然現象"ではない気候変化は、ルルウィ様の影響とされています」
勇者「ルルウィ……様?」
少女「本当に知らないんですね……はぁ……」
――少女説明中。
勇者「……なるほど、七柱……ね」
少女「人によって信仰している神が違いますし、さらに地域によっても結構偏りがありますね」
勇者「で、その中のルルウィとやらの機嫌が悪いと、悪天候になんの?」
少女「様をつけましょうよ……まあそうなりますね」
勇者「ずいぶんと自分勝手な神だなあ」
少女「本当に天罰が下りますよ!?でも本当に困ったとき、ルルウィ像に祈れば天候を変えてくれるとも聞きました」
勇者「……」
少女「……稀に……ですけど」
勇者「やっぱ気分なんじゃねぇか!」
少女「うう、もういいです」
ビュウウウウウ……
風は徐々に強くなっていく。
勇者「……なあ」
少女「は、はい」
勇者「エーテルに対抗する手段は無いのか?」
少女「……一応、あります」
勇者「ほお」
少女「まず予防。ヴィンデールクロークと呼ばれる、エーテルを防ぐクロークを着用することです」
勇者「異形の森の外套(ヴィンデールクローク)……ね。クレアの父さんが使ってたやつか」
少女「覚えてたんですね……私の父の話」
勇者「まあな」
少女「それを纏う事で、エーテルの風を防ぐ事ができます……が」
少女「希少すぎてまずお目にかかれません」
勇者「……なーる」
少女「次に、薬を飲んで症状を和らげる事」
少女「抗エーテルポーションと呼ばれる薬を飲めば、ある程度症状を遅らせたり、消したりできます」
勇者「遅らせたり、消したり……?」
少女「……個人差があるんです。薬との相性ですね」
少女「飲んで、体内に蓄積されたエーテルを完全に排除する事ができる人もいれば」
少女「……薬の効果がほとんど得られない人も、います」
――少女は思い出す。ノイエルに住む悲劇の妻も、自分の父も。
――後者だったことを。
少女「……それに市場に並ぶのは月に1度あるかないか……さらにかなり高価で、一般人にはまず手が出せません」
勇者「それほどまでに苦しまされているのか……」
少女「……そうですよ。本当に、エーテルは……!!」ギリッ!
拳に力が入り、爪が食い込む。
勇者「……だが」
少女「分かってます。エレアの仕業ではない……んですよね?」
勇者「ああ。信じてやってくれ」
少女「……はぁ……」
……ゴオッ!!!!
メキメキメキィッ!!
数マイル先で、突風が木をへし折り、宙へ吹き飛ばす。
それは確実に、近づいていく。
それはただの"現象"。悪意のないもの。
ゆえに、いくら勇者といえど気づくことは適わなかった。
少女「勇者さん、あなたは――」
少女が発した言葉は、ここで途切れた。
*保存*
~~~
ジャビ王「汝 健康の時も、病めるときも、富ときも貧しき時も、幸福の時も災いにあうときも」
ジャビ王「これを愛し敬い慰め助け、永久に節操を守ることを誓いますか?」
「「誓います」」
少女(……これってさっきの夢……?)
スターシャ王妃「では、誓いのキスを」
勇者「……なあ」
少女(あれ?)
勇者「なんで父親を見捨てたんだ?」
少女「!!??」
勇者「抗エーテルポーションなんて物があるのなら……何故父親に飲ませなかった?」
少女「それは……飲ませたかった……けど……とても高くて……手が出せなくて……」
勇者「……体を売ればいいだろう」
少女「なっ!!??」
勇者「ポート・カプールに行けば、物好きが高く買ってくれるだろう」
少女「何を……言ってるの……」
神秘的な光の胞子が辺りを包みこむ。
その胞子が周囲の者達の内部へと溶けていく。
その結果、
周囲に居た人々は形が崩れ、モンスターへと変貌していく。
少女「な……!?」
勇者?「なあクレアァ……抗エーテル薬……どうして飲ませてくれなかったぁぁあ?」ズリュッ
勇者の顔が崩れ、少女の父の顔へと変貌する。
少女父「俺ェェ……このエーテルのせいデェェ……こんナ姿になっチまったァァァ……」グチャッグチャッ
さらに目が増え、鱗が生え、翼が生える。
少女「ひいいっ!!!!」ダッ!!
バタァンッ!
少女は赤いカーペットを走り、王宮の外へ通じる扉を突き飛ばして開ける。
しかしそこにはまた赤いカーペット。両脇には人の形をした肉塊。そして扉。
少女「~~~ッッ!!」
ひたすらに走る。
走る。走る。扉を開ける。開ける。開ける――
いつのまにかベチャベチャと音を立てて走っている事に気づき、よく足元を見ると
赤いカーペットの赤は全て血に変わっていた。
少女「いや……」
少女「いやああああああああああああっ!!!!!!」
~~~
少女「はっ!!!」ガバッ!!
少女「はあっ!はあっ!はあっ…………夢……」
現実に戻り、五感が冴えていく。
少女「……?」
辺りを見渡し今の状況を理解する。
赤みを帯びた空、肌寒い風、冷たい泥の感触、泥の匂い。
そして、散乱した荷車の破片。
少女「……っ!!!!」
クレアは思い出す。自分がどうしてこんな状況に陥ってしまっているのか。
―
――
―――
少女「勇者さん、あなたは――」
「危ないッ!!」
外で馬を引く者がとっさに叫んだこの一言を、二人は即座に理解することができた。
身を以て。
ッガアアアン!!!!!!!
勇者「ッ――!」
少女「――!」
叫ぶ暇も無かった。
一瞬で荷車はバラバラになり、二人は放り出される。
少女「勇……者……さ――!」
途切れゆく意識の中で、手を伸ばす。
しかしそれは届くことは無く、視界が暗転した――
―――
――
―
少女「そうだ……私達吹き飛ばされて……」ベチャッベチャッ
豪雨により泥道へと変化した元・街道を歩く。
少女「……どのくらい気絶してたんだろ……確かあの時が昼って勇者さん言ってたから……」
空を仰ぎ、雲が赤く照らされているのを確認する。
少女「太陽沈んでるし、4~5時間ってところかな……つっ!!」ズキッ!
身体中が痛む――主に脇腹に違和感。おそらく肋骨が折れている――が、
手で抑えておけばなんとか耐えられる。歩くのに問題は無いと判断した。
所々に自分たちが乗っていたであろう荷車の残骸が散らばっており、この付近に勇者が居ると踏んだ。
少女「っあ、私の大剣……と」
その散らばった残骸の中に、少女達の荷物が混ざっているのを見つける。
少女「……よし、装備は大丈夫」ガチャッ
大剣を背負い、食料や金貨等が入った荷物を回収し、また勇者を捜索する。
――そして。
少女「ッッ!!!」
大きな倒木の、下敷きになっている人影を見つけた。
少女「……」ベチャッベチャッ
おそるおそる近づく。一目で分かる。胸部から下が完全に下敷きになっており、即死以外無い。
もしそれが……勇者だったら……
少女「っ…………」
少女「………………は……ぁ……」
馬を引いていた者だった。
少女「この木が飛んできたんだ……余程強い突風だったんだ」
この辺りが最も多く荷車の残骸がある。よって勇者はここから近いと踏み……
少女「……ッ!!勇者さん!!!」ベチャッベチャッ!
発見する。
少女「……大丈夫ですか!!」
勇者「……」
返事は無い。身体のあちこちに傷はあるものの、致命傷は無いように思える。
少女「勇者さん……!!」ピトッ
呼吸と脈の確認をする。――生きてはいるようだが、脈は速く、息も荒い。
少女「ッッ!熱い!!?」
勇者の額は、少女の手が雨で冷えている事を考慮しても、ずっと熱くなっていた。
少女「風邪がぶり返してる!早くルミエストに……!」グイッ!
少女「っぁ……」
勇者をおんぶしようとしたが、今少女の背中には……父の遺品である大剣が既にあった。
少女「…………」
少女「ごめん、お父さん」ガチャンッ
大剣を下ろし、勇者を選ぶ。
少女「また取りに帰って来るからね」ベチャッベチャッ
ガサッ
大剣を茂みの中へ隠す。いずれこのバラバラになった荷車を見つけた者が、ガードへ届け出ずにそのまま漁る可能性は低くない。
勇者と出会った時そうだったように。
少女「よし……んしょっ」グイッ
ズキンッ!!!!
少女「~~~~~っ!!」
当然ながら大剣より重い。そのせいで少女の傷にひびく。
少女「……気にして……られるかぁーーー!!!」ベチャッ!ベチャッ!
気合を入れ、少女は進む。
少女「えーと、向こうの方が明るいから……南はこっちか」
目的地ルミエストはもっと南のはずだ。少女は赤みを帯びた空から方角を算出する。
勇者「……クレ……ア……?」
朦朧とした意識の中、ぼやけた視界に少女の頭部が映る。
勇者「お前……なにして……」
少女「勇者さんは安心して寝ててください!この調子だと、えーと……夜には着きます!」ベチャッベチャッ
勇者「……嘘……つくな……俺を背負って……」
勇者「…………剣はどうした……祖父や父の形見……なんだろ……」
少女「……お父さんから教えられてるんです」
少女「目の前に助けられる人がいるなら、迷うなと」
勇者「……」
勇者「……なら、俺と……最初に出会った時に……助けてくれても……良かったんじゃないか」
少女「…………それは言わない約束です」
勇者「はは……」
少女「……ふふ」
これなら大丈夫、気力さえ持てば、日が変わる前に……
エーテルの風が吹く前に、着くことができるかもしれない。
という希望は、ことごとく絶望へ変わる事を、少女は思い知る事になる。
少女「はっ……はっ……」ベチャッベチャッ
何度も意識が飛びそうになる。しかし脇腹の痛みでなんとか持ちこたえていた。
少女「少し、休憩、しますね……」スッ
ゆっくりと勇者を下ろし、寝かせる。
少女「ふう……1時間歩いてこれか……本当にぎりぎりになるかも」
少女の懸念は、エーテルの風だった。明日は月が変わり、9月のはずだ。
エーテルの風が吹く危険。もちろんそれはまちまちで、必ず1日から吹き始めるとは限らない。
だが、いきなり吹き始める可能性も絶対に捨てることはできない。
少女は歩きながら考えていた。
気絶していた時間を考慮しても、エーテルの風が吹く「明日」になるまでには、到着できると。
思っていた。
少女「…………………え?」
異変に気付いたのは、ふと右の空を見た時だった。
太陽が昇っている。
少女「…………」
自分の、今までの考えに致命的なミスがあった事に気づいた。
気づかされた。
空を確認して歩き出した時、赤く染まった空から夕方だと思い込んだ。
―――赤く染まるのは、夕方だけではない。
少女「う……そだ……だったら……今は……!!」
昼に意識を失い、朝に目が覚めたという事は。
"明日"は既に"今日"だった。
夕方ではなく朝だったというのなら。
赤い空を"西"と思い込み、南へ向かっているはずが、逆。
ルミエストから遠ざかる方……北へと進んでしまっていたのだ。
これではもう、今日一日歩いても間に合うかどうかわからない。
―――否。
既にもう、間に合わない。
少女「はぁっはぁっはあっはあっ!」
動悸が激しくなる。
少女の目には、太陽光を遮りながら、しかしそれは輝きながら、近づいている"光の帯"が映っていた。
*保存*
少女「ああ……あああああ……」ガチガチガチ
歯がぶつかり合い音が鳴り、足が震える。
少女は知っている。あの光の帯を。
それは、父を奪った光。
エーテル。
少女「い急がないと……ど、ど、どこか……洞窟でもなんでも……どこ……どこ!?」
パニックになりながらもエーテルの風を凌げる場所を探す。
しかしこんな時に限って、全くもって見当たらない。
そんな少女に、"希望の音"が近づく。
……ッ……カッ……パカッ……
少女「!!!」
パカッ……パカッ!パカッ!パカッ!!
少女「すいませーーーん!!!」バッ!
「……!」
パカッ……パカッ……
茶馬「ブルルル……」
青年「……おいおいなにやってんだ!もうすぐエーテルが来るぞ!!」
カウボーイハットを被りクロークを纏った青年。
エーテルが迫っているというのにこの冷静さ、十中八九エーテルを凌ぐ場所を知っている。
少女「そうなんですけどっ……エーテルから逃れる場所も、移動手段も無くて……!!」
青年「………わかった。乗れ!!」
少女「わ、私は後でいいですんで先にこの人を!!……病気なんです!!!」
青年「いや!君が乗るんだ!彼を1人で運ぶのは無理だ!!途中で落ちてしまうと1人じゃ時間がかかりすぎる!」
青年「どうせ往復するんだ!アジトにまだ馬がいるから、もう一度ここへ来て運ぼう!」
少女「っわかりました!」バッ!
少女「待っててくださいね!すぐに戻ってきますから!!」
青年「飛ばすぞ!しっかりつかまってろ!!!」ゲシッ
茶馬「ヒヒーーーン!!」ダッ!
勇者「……クレ……ア…………?」
……パカッ!パカッ!パカッ!パカッ!
青年「しかしなんで君たちあんなところに!?」
少女「ほんとはルミエストまで荷馬車で移動してたんですけど……突然嵐に遭って……」
青年「アレか……災難だったな」
青年「でももう安心しろ!俺が来たからにはもう大丈夫!!」
少女「ありがとう……ございます……!」
青年「よし見えた!あそこだ!」
ひょっこりと顔を出す洞窟。
少女「あれってネフィアじゃ……!?」
青年「ああ、攻略済みのな!基本的に危険なネフィアだが、攻略しちまえば逆に安全なエリアなんだぜ!」
少女「な、なるほど………」
パカッパカッパカッ……
青年「よし着いた!」
少女「ありがとうございます!」バッ!
少女「えっと……馬、もう一頭はどこにいますか!?早く行かないと!!」
青年「洞窟の中に避難させてあるよ」
少女「わかりました!お借りします!!」ダッ
青年「……………ククッ……」バッ
バサッ!
馬を降りる青年。
クロークを脱いで露わになった彼の右腕には、
鷹が描かれていた。
ガチャッ!
洞窟に入ってすぐの扉を開ける。そこには――
「……あ?」
武器を手入れする者、酒を飲んでいる者、賭けをしている者……
そして、痣や裂傷でにまみれ横たわっている男数名。
少女の第六感が、"この集団"が何であるか一瞬で判断した。
「なんだなんだァ!?」
「おおっ女だ!!」
盗賊団に青年のアジトが乗っ取られている――
少女「伝えないと……!」
バタンッ
扉を閉めたのは、青年だった。
青年「よォおめーら、"女を調達してきてやった"ぞ」
少女「……え?」
盗賊A「さっすが!!あんたにかかるとイチコロだなァ!!」
青年「いやー今回も楽勝だったわ」
少女「え……え……」
まさか。
まさかまさかまさか。
少女「そんな……馬は……」
青年「あ?まーだその話してんのかよ?」
少女は括目する。
盗賊達の腕。青年の腕。
同じ鷹の模様。
少女「っ!!」バッ!
青年「おっと」ガシッ
少女「離……してっ!!!」
青年「どこいくんだよ?」
少女「決まってる!勇者さんを助けに!!」
青年「ほっほー、じゃあどうぞ」パッ
少女「っ!!」ダッ!
少女「まだ……まだ間に――」
青年「合わねえよ。あの男はもう手遅れだ」
ヒュォォォォォ……
少女「そん、な…………」
辺りは既に、エーテルが満ちていた。
……
ヒュォォォ……
勇者「…………」
エーテルが勇者の体内に入り込む。
それは、イルヴァの地に住む人々を絶望へと落としていった光の粒子。
勇者「……」ムクッ
勇者「すぅぅぅぅ…………はぁぁぁぁ…………」
しかし目を覚ました勇者は、敢えて最大限エーテルを取り込んでいく。
勇者「……なるほど」
体に蓄積された"毒物"が、一気に浄化されていくのを感じる。
勇者「俺にとって有害だったのは、このイルヴァの地そのものだったのか」
勇者「イルヴァの人にとってエーテルは有害……だったら俺は一体……?」
勇者「……」
勇者「……ん?……馬の足跡……」
―――少女『待っててくださいね!すぐに戻ってきますから!!』
勇者「クレア……」
勇者「"加速"!!!」ダンッ!!!
…
バタン
盗賊A「はいおかえり~」
少女「離せっ!!この……」
青年「うるせぇなぁ!」ドグッ!
少女「ッ……うげぇ……」
青年「んじゃぁ例によって、調達した俺からいただくぜぇ~」ガバッ!
少女「っ!!!」
盗賊C「早めに交代してくれよ~」
青年「はっはぁ!!そりゃ無理だ!!」ビリィッ!
少女「離せ!!っこのっ!!」バタバタ
青年「暴れんな!脱がせにくいだろうが!!」バキッ!
少女「あぐっ!!」
盗賊D「おいお~いあんまり傷つけんなよぉ~~」
盗賊A「いや無理だろ~……青年の後の女は大抵ボコボコだからなぁ」
盗賊E「おい女ァ!俺ら相手にするんだからおとなしくしとけ!!」
少女「っや……誰か助け――うぐっ!!」ドグッ
青年「無理無理!!このエーテルの中だぞ!!??」ビリッ!
少女「い、いや……」
青年「そうら後一枚ぃ!!」
少女「いやあああああああああああ!!」
「 " 魔 弾 " 」
バコォォオンッ!!!
バラバラバラ……
青年「な、なにぃ!?」
盗賊達「「な、なんだぁああ!?」」
鍵をかけていたはずの扉が粉々に散る。
少女「ゆ……ゆ……勇者……さんっ!!!」
勇者「おう、待ちくたびれたから来てやったぞ」
青年「おっお前なんで!!??エーテルに冒されたはず!!」
勇者「いやぁ、ちょっと深呼吸したら全快した」
少女「あ、は、ははっ」ジワッ
最初に出会った頃の元気な勇者だった。この上ない安堵に思わず涙腺が緩む。
青年「………なるほど、お前エレアだな?だからエーテルで復活したんだ」
勇者「どうかな?」
青年「とぼけやがって……おいお前ら!!やっちまえ!!!」
盗賊達「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」バッ!!
勇者「あらら……広域雷撃」パリパリパリ……
勇者「"焦雷"!!」 カッ!!!
ッドォオオオオオオオオオオオン!!!!
盗賊達「「「ぁ………がっ……」」」プスップスッ
青年「…………え?」
勇者「さーてもうお前1人だが……どうする?」
青年「ひっ……来るなァ!!!こいつを殺すぞ!!!」バッ!!
少女「あうっ!」
勇者「……」
青年「ひ、ひひひひひひひ!!」
勇者「魔氷弾」ヒュッ!
パキンッ
青年「っああああ!?腕が!!??」パキパキパキ
少女「!!」バッ
少女「はあっ!!!!」ヒュオッ
ドゴォッ!!!
青年「うげえっ!!!」
勇者「おー、回し蹴り炸裂!」
少女「今までの分!!!お返しだアアアアアアア!!!!」バキッドゴッメキッ!!
勇者「ぉ~……」
青年「っひいいいいい!!!!」ガバッ!!
少女「あっ待てコラ!!」
青年「た、助けっ」ダダダダダダ
少女「………っそっちは!!」ダッ!
勇者「待て」グイッ
少女「ぁ……勇者さん………」
勇者「無事で良かった、クレア」ギュッ
少女「~~~ゆ、勇者さんっ……こそ」ジワッ
勇者「……ごめんな、ここまで付き添ってくれて……俺を背負って、歩いて……ありがとう」
少女「…………うう~~~」ポロポロ
勇者「もう大丈夫だ、今度は俺が守る」
少女「っうわああああああん!!ああああああああああ!!!!」
洞窟には、少女の泣き叫ぶ声が響くばかりであった。
………ダダダダダダ
青年「わ、わかっは!あいふがなんでエーテルがへいひなのか!!」ダダダダダダ
青年「ふまり!エーテルは、無害になっはってこトだ!!」ガスッガスッガスッガスッ
青年「アは、あはハははは――あ?なんれ……蹄……?」ジュルッ
青年「なンら、コノ緑ノ液体……」ドクンッ!!
青年「お゛ッ」ミチッ…グジュルッ……
青年「ッッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」
……
…
*保存*
実はElonaの世界ってナウシカと似てるんだよね
サイモア「ふふ、"奴"は本物のようだな」
ヴァリウス「まさか……本当に"風のルルウィ"を!?」
サイモア「物語はついに"神"さえも巻き込んだか……最高に面白くなりそうだよ」
少女「あ゛~~気持ちぃぃ~~~……」バシャッ
勇者「おーい、タオルここに置いとくよー」
少女「あ、ありがとうございます~」
岩陰から勇者の声。
少女と勇者は洞窟の奥へと進み、水が湧き出ている場所を見つけた。
二人は嵐の中投げ出されている故に、当然服は泥まみれ。
水浴びをすることにした二人だが、長旅・嵐を経て勇者を背負い歩き続けた少女の身体は
どうしようもなく汚れに汚れ、一応冒険者ゆえに匂いや汚れには慣れているつもりだが
それでも耐えられなくなっていた所にコレはまさに、オアシスだった。
勇者「……なあ、俺はエレア……なのかな」
岩の向こうの少女に呼びかける。
恐怖や畏怖の対象とされていたエーテル。
しかし実際は逆に、勇者にとって心地よく、まさに浄化の光と思えるようだったのだ。
少女「………違うと思います」
勇者「何故だ?」
少女「もし勇者さんがエレアなら、あの二人のあの態度はあり得ません」
勇者「……確かに」
あの二人。緑髪のエレア・ロミアスと、水色の髪のエレア・ラーネイレ。
もし勇者がエレアなら、その二人は"仲間"として話しかけていただろう。
少女「しかも、エレアはエーテルに抵抗があるだけで、完全に無害ってわけじゃありません」
勇者「そうなのか」
少女「でもそのエーテルが完全に有利に働くなんて……今でも信じられません」
勇者「……それに、この地の空気自体が俺にとって毒らしい」
勇者「日に日に調子が悪くなって、エーテルにさらされた途端体が軽くなった」
勇者「俺は……何者なんだ……?」
少女「………………勇者さんは、本当に別世界から来たのかもしれませんね」
勇者「別世界……ね」
少女「だってほら、本当にこの地の空気自体が毒だとしたら」
少女「どうやって今まで生きてきたんです?」
勇者「……確かに」
少女「勇者さんがあのエレア達に介抱されて――私と出会ってから今日で一週間です」
少女「一週間でここまでひどくなるんだったら、次のエーテルが発生するまでの間どうやって過ごすんですか?」
少女「……そして勇者さんほどの実力があれば、なにかしら情報や噂があったはずです」
少女「となると、勇者さんはこの世界に"いきなり現れた"……と仮定すれば、しっくりきますね」
勇者「異世界人…………か」
少女「とりあえず記憶さえ戻れば全て分かると思いますけどね。どうですか?」
勇者「……まだ断片的だな……4人で旅をしていた事だけは覚えてるんだが」
勇者「仲間3人の顔も思い出せねぇ」
少女「……そういえば、勇者さんがこの世界に来たということは、仲間もこの世界へ来てるんじゃないですか?」
少女(そろそろ出ようかな)ザバァ
勇者「…………そうか!」
勇者「仲間と合流できれば、記憶も、俺が何者かも全部分かるかもしれねぇ!」
勇者「ありがとうクレア!これで今後の方針が決まっ」バッ!
記憶喪失の打開策が浮かび上がり、思わず岩陰から飛び出る。すると当然――
少女「えっ」
勇者「あ」
勇者の目に、一糸纏わぬ少女の身体が映る。
―――
パチパチパチ……
少女の着ていた服を適当な棒に掛けて干している。その横で……
少女「……」
勇者「ゴメンナサイ」
たき火に照らされているのは毛布に包まった少女と、その前で土下座している勇者。
少女「それで、他に言う事は?」
勇者「……いや言い訳のしようもナイデス」
少女「いやそうじゃなくて……ぇとその……す、スタ…ィ…ル……と、か、」
勇者「え?」
少女「~~~なんでもないです!!次は勇者さん水浴びしてきてください!その間服洗ってますから!!」
勇者「ぉ、ぉぅ」
赤く染まった少女の顔は、たき火に照らされているためか、もしくは――。
ガシャッ、ガシャッ……
「うわっバラバラだ」
「ォォオ」
光の粒子――エーテルの風が舞う中、機械でできたその巨体……ビッグダディは、残骸と化した荷馬車の前に止まる。
「あの嵐だもんねぇ……」
そのビッグダディの肩に乗っている小柄な少女が呟く。
ビッグダディ「……オオオ!」
小柄少女「なぁに……ん?」
「アァ……えーテルはァ……ムガイぃぃいい」ヨロヨロ
道の向こうから、緑の鱗に覆われた肌、蹄の脚、トカゲの頭を持つモンスターが近づいてくる。
「ヒト……ヒトォ!!」ダッ!
ビッグダディ「ォォォオ!」ガシャッ!
小柄少女「待ってバブルス。ここの所、雑魚は任せっぱなしだったからたまには私が倒すよ」バッ!
スタッ!
小柄少女「この光が出てきてからなんか調子良いし!あ、フード持っててバブルス」バサアッ!
ビッグダディ「オオ」
小柄少女「さて」
身長140cm程度のその少女はフードを渡すと
「アあぁァァオンナはオレガオカすぅゥウ!!」ダダダダダ
小柄少女「一本で十分かな」チャキ
ヒュオッ!
「……ァア?」ズルッ
トカゲの頭と鱗の身体に二分されたモンスターは力無くその場に崩れる。
二本ある剣のうちの一本に手をかけた瞬間小柄な少女の姿は消え――
小柄少女「うん、いい切れ味」シャッ
いつのまにかモンスターの後ろで剣についた緑の血を払っていた。
ビッグダディ「オオオオ!!」
小柄少女「え、何バブルス……ありゃ」
賞賛の呼びかけではなく注意の呼びかけだと少女は認識する。
辺りを見回すと――
「グルルル……」
「クスクスクス……」
小柄少女「っと……いつの間にか囲まれちゃったか」
襲撃。目の前のトカゲモンスターに気を取られていた隙に囲まれていた。
小柄少女「……丁度良い運動になりそう!さあかかってきなさい!!」
ファイアハウンド「ガルァァア!!」ボォオオオオオッ!!!!
小柄少女「火を吐く狼か」ダンッ!!
ファイアハウンド「ガルッ!?」
自ら放った炎のせいでターゲットを見失い、今になって後ろを取られている事に気付くが……
小柄少女「遅いねぇ」ドスッ!
喉元に剣を突き立てられ、即死する。
「……」スゥ……
小柄少女「……!!」バッ!!
シャシャシャシャッ!!
小柄な少女の居た所、四つの鎌が空を切る。
緑のローブを纏い、四つの腕がそれぞれ鎌を持っている。
小柄少女「っとと!……おお、四刀流カックイ~!じゃあこっちは……」カチャ…
小柄少女「二刀流で!」シャキンッ!
キン!ギィンッ!ザシュザシュザシュッ!!!
「……!」ドサッ
小柄少女「手数が多けりゃいいってもんじゃないよ~!次……うわキモい!」
塊の怪物「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛………」グジュルグジュル
小柄少女「あーやだやだ」ザンッ!
塊の怪物「ァ゛ァ゛………」ズルッ……
ズルルルルルルッ!!!
塊の怪物「「「「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛~~~~」」」」
小柄少女「増えた!?……なるほど、そういうタイプか……なら!」チキンッ
小柄少女「……広域雷撃……」スッ
小柄少女「"焦雷"!!!」カッ!
バリッ!ッドォォオオオン!!!
シュゥゥゥ……
小柄少女「……うーん、やっぱお兄ちゃんの方が威力高いなぁ」
小柄少女「さて、あと一体だけど……あれ?逃げたのかな――」
ヒュンッ!
小柄少女「――ッッ!!!」バッ!
ダンッ!
小柄少女「……矢か」ツー…
一筋の血が、間一髪で避けた事を告げる。
地面に刺さった矢を確認――
ヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッ!!!
――する暇もなく。
小柄少女「ッ!!」ババッ!!
ダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!!!!
ビッグダディ「オオオオオ!!」
小柄少女「……だいじょーぶ!まかせといて!」
シャッ……
小柄少女(見つけた!)
視界ぎりぎりで何かが高速で移動するのを捉える。
クイックリングの弓使い「ケケッ!何ガ起キタモカワカラズ死ンデイケ!!」シャシャシャシャシャッ!!
小柄少女(速い!そしてこの攻撃速度!反撃する暇が無い……!)
全長100cmもない小人、クイックリング。その速さはトップクラス。しかし――
小柄少女「……仕方ない、久しぶりに"なる"か」
小柄少女「広域炎撃……"火炎旋風"」ゴオオッ!!!
クイックリングの弓使い「ム……無駄ナコトヲ……」バッ
少女の広域炎撃から逃れる為に少し距離を取る。これにより攻撃の手が止まる。
小柄少女「よし」バサッ!
少女はさらに服を脱ぐ。
現れたのは、元の世界ではビジネス用として使われていた衣装。
赤色のネクタイに紺色のブレザー、濃い灰色のスカート。
小柄少女「やっぱスカートが一番動きやすいかな…………」
小柄少女「……すうっ」
深呼吸。
小柄少女「ヴオオオオオオオオ!!」ザワッ!!
少女が叫ぶと同時に、小柄な少女の髪が緑から水色へと変わっていく。
猫のような耳が頭から生え、さらにスカートの内から先だけ白くなった水色の尻尾がしゅるりと顔を出す。
*保存*
寝落ちすまぬ、また夜に
小柄少女「ふ~……この姿に"戻る"の久しぶりだな~」
耳をぴこぴこ、尻尾をふりふりと動かし、感覚を確かめる。
小柄少女「……よっし」ぴこっ
耳を立てて集中する。
小柄少女「……!」スッ
少女が少し身体を傾ける。
――直後。
ダンッ!!
少女の元居た位置を矢が通過し、地面に突き刺さる。
最初に避けた時とは違う、余裕を持った回避。
小柄少女「そこか」ググッ……
そして矢の軌道から敵の位置を割り出し、姿勢を低くする。
クイックリングの弓使い「チ……」シャッ!
目にも止まらぬ速さで後退し、矢を放つ。
だが。
小柄少女「ふッ!!!」ダンッ!!!
シャシャシャシャシャシャッ!!
クイックリングの弓使い「!!??」
放った矢を全て紙一重で避け、一直線に近づく。
クイックリングの弓使い「バカナ!!」
最速の種族・クイックリング。これに出会った者は、自分が既に殺されている事にも気づかず絶命する。
はずだが。
このスピードについてくるこの少女は、何者――。
ザンッ!!
クイックリングの弓使い「――――」
小柄少女「……ふぅ、耐久力は無いのね」チャキンッ
スゥゥ……
小柄な少女に生えていた耳と尻尾は小さくなっていき、水色から緑へと髪の色が変化する。
ビッグダディ「オオオォ」スッ
小柄少女「ありがと」シュルッ
元の服をそのまま上から着ると、小柄な少女はまたビッグダディの肩に乗り――
小柄少女「行こうか、バブルス」
エーテルの風が舞う中、次の街を目指すのだった。
*保存*
異世界組の邂逅はまだもうちょっと先です
お待たせしました、21時から投下します
時は少し遡る。
~ルミエスト~
ザアアアアアアアアア…………
市民「くそっ!急に嵐なんてついてねぇ!!せっかく有名な吟遊詩人が来てたってのに!」
市民「ぐちぐち言っても仕方ねーな……早く家に帰って洗濯物取り込まないと!!」
持っていたフードを深くかぶるが、全く意味をなしていなかった。
市民「よし、あのルルウィ様の像を左に行けばもう着いたも同然……ん?」
視線の先にあるルルウィ像には、何か赤っぽいものが覆いかぶさっていた。
市民「誰だあんなイタズラしたのは!天罰が下…………」
怒りを露わにするも一瞬で冷静になる。覆いかぶさっているのは、人。それも二人。
そして、赤いものは……血であった。
市民「っっおいおいおい!!!どうやったらあんなことになるんだ!!??」
市民「……ガード!ガードォ!!!」
…………
…………
「う……ん」
医者「やっと気が付いたか」
「ここ……は」
医者「私の家のシェルターだ。今はエーテルの風が吹いているのでね」
「……エー、テル……」
医者「……自分の名前はわかるかい?」
「……ナルレア」
医者「ふむ、記憶障害は無……ナルレア?」
医者「……まさか"風の民"の!?」
ナルレア「……ええ、そうよ」
医者「これは失礼した!まさかルルウィ様の寵愛を受けられているナルレア殿だったとは!」
ナルレア「いいのよ。こちらこそ治療してもらって、感謝するわ……はっ!」
ナルレア「それよりフォーちゃんっ!……フォーちゃんは無事なの!?」
医者「……」スッ
医者は無言で、こちらを向くナルレアの反対側を指さした。
ナルレア「?………あ」
黒天使「……すぅ……すぅ……」
所々に傷跡はあるものの、元の艶を取り戻した羽を綺麗にたたみ、
ナルレアのベッドに寄りかかって眠る神の化身・黒天使デイフォードがそこにいた。
医者「いやはや、君のペットはすごい回復力を持っているね。私が少し手助けしただけですぐに傷が癒えてしまった」
医者「外傷はその子の方がひどかったのだが、内傷は君の方がひどかったようだ」
医者「傷が癒えるや否や、ずっと君の心配をしていたよ」
ナルレア「……フォーちゃ…………っ!!!!」
医者「……」
ナルレアは体の違和感に目を見開く。
医者はそれを悟り、口を開けようとした……その時、
黒天使「ふあ…………はえ?」ムクッ
黒天使・デイフォードが目を覚ます。
ナルレア「あら、起こしちゃった……おはようフォーちゃん。……といっても今何時か分からないけど」
黒天使「ご、ご主人……?」
ナルレア「心配かけたようね」
黒天使「……ご主人~~~~!!!!!!!」バッ!
ナルレア「ふふっ」
黒天使「うああああああん死んじゃうかと思ったよご主人~~~!!!」ぐしぐしぐし
ナルレア「……」
黒天使「……はっ!」バッ!
ナルレア「……?」
黒天使「オイ人間!恩を売ったからって調子に乗るなよ!?」
医者「ぇえ……?」
ナルレア「こら!礼は言いなさい!」
黒天使「う……ご主人がそう言うなら……あ、ありがとう……ござい、ました……」プイッ
ナルレア「もー」
医者「はっはっは、構わんよ」
ナルレア「ところで、私達はどれくらい意識を失ってたのかしら……?」
ナルレア「エーテルの風が吹いているとなると、かなり時間が経ってる気がするのだけど」
医者「今回エーテルの風は珍しく早く、9月1日から吹き始めたからね」
医者「君たちがここへ運び込まれたのは8月31日の夜で、そこから君たちは3日間意識を失っていたよ」
ナルレア「3日間……」
医者「ルルウィ様に感謝することだ」
黒天使「!!!!」
医者「君たちは、血だらけでルルウィ像に被さっていたそうだよ。そのおかげで発見できたも同然なのだ」
医者「いやはや、ルルウィ様のご加護を受けられているあなた達がうらやましい」
黒天使「そうだルルウィ様がっ!!ご主人!こうしちゃいられないよ!!!」
ナルレア「フォーちゃん……ルルウィ様があの後どうなったか分かるの?」
黒天使「あっ…………う……」
俯く。分からないからではない。分かっているからこそ、口にするのを躊躇ってしまう。
黒天使「私はルルウィ様の化身だからね……ルルウィ様とは頭の中で会話できるんだ……でも」
黒天使「何度話しかけても……返事が無いんだ……」グスッ
医者(……)
ナルレア「……」
黒天使「ご主人!エーテルの風が止んだらすぐ出発しよう!」
ナルレア「どこへ?」
黒天使「それは……あ!"フリージア"が居るネフィアを探せばいい!」
ナルレア「探して、どうするの?」
黒天使「どうって………」
ナルレア「"フリージア"にあそこまでやられたの、忘れたわけじゃないでしょう?」
黒天使「う…………っじゃあ!!……癪だけど……神々の休戦地へ行こう!!」
ナルレア「なるほど、他の神を頼るのね」
黒天使「私ならあそこで他の神と交信できる!」
ナルレア「でも、私はそこへ行けない」
黒天使「~~~っ…………」
黒天使「……何故ですか……?ご主人様」
ナルレア「考え自体はそれで良いのよ」
黒天使「じゃあッ!」
ナルレア「……ごめんねフォーちゃん……あのね」
ナルレア「身体が、動かないのよ」
黒天使「……………え?」
黒天使「身体が動かないって……どういう事……?」
ナルレア「おそらく、憑依を強制的に解除したあの時よ……」
医者「……私の考えを言っていいかな?」
黒天使「どういう事だッ!!説明しろッ!!!!」
医者「……ナルレア殿の神経は今……脳と繋がっていない状態にある」
黒天使「な、なにっ!?」
医者「話から察するに、"憑依"を強制的に解除された、と」
ナルレア「……ええ」
医者「これでも一時期憑依について研究していた時があってね」
医者「ここからは憶測なのだが……」
医者「今、ナルレア殿の神経は……おそらくルルウィ様の元にある」
黒天使「どうしてそんな事が分かる……」
医者「"憑依"は、神が肉体をほぼ乗っ取る形になる」
医者「その際肉体の神経はその神が支配しているという事になるが」
医者「ナルレア殿の場合、強制的に解除された事により」
医者「ルルウィ様がナルレア殿の肉体神経を解放する前にルルウィ様が居なくなってしまった」
医者「だから、ルルウィ様がナルレア殿の肉体神経を解放しない限り………元に戻ることは無い」
医者「……考えたくは無いが、ルルウィ様が既に――」
黒天使「人間。いくらご主人の命を救ったとはいえ、それ以上口にすると本当に殺すことになるぞ」ギロッ
医者「……失礼した。私の見解は以上だ」
ナルレア「あなた、かなり達観した考えをしているのね。普通考えもしないわよ?」
医者が黒天使に遮られた言葉の続きを、敢えて言い放つ。
ナルレア「"ルルウィ様が死んだかもしれない"……なんて」
医者「まあね。患者を助けるために全ての可能性を考えるのが私の仕事だからね」
黒天使「ごッ、ご主人ッ!?」
信仰している神に対してなんたる非礼。
だが、驚く黒天使を無視して話を続ける。
ナルレア「そういえば、ここはどこの街かしら。ルルウィ像に被さっていたということは……ルミエスト?」
医者「ああ言ってなかったね。そう、ここはルミエストだ」
ナルレア「……ルミエストの医者……って!ノースティリス一医学に精通していると言われる……!?」
医者「あー、それは言い過ぎだと思うがね……」
ナルレア「なるほどね。だから私達の話にもついてこれたのね……あなたの話、信じるわ」
ナルレア「……フォーちゃん、こんな状況よ。……今は何を言っても、ルルウィ様は出てこない」
黒天使「ぅ…………」
ナルレア「だからフォーちゃん……私の事はいいから、神々の休戦地へ行って」
黒天使「いやだよご主――」
ナルレア「行きなさい。このままここに居ても何も変わらない」
ナルレア「それに、ルルウィ様を助けるという事は私を助けるという事につながる。そうでしょう?」
黒天使「そ、それはそう……だけど……」
ナルレア「エーテルが吹いている今なら通常より早く移動できる」
ナルレア「エーテルの影響を受けない、神の化身であるあなたにしか頼めない事なのよ」
黒天使「……わかったよ……」
ナルレア「……いい子ね」
黒天使・デイフォードは意を決し、シェルターの外へと向かう。
黒天使「……人間!」
向きを変えずに叫ぶ。
医者「む?」
黒天使「……ご主人の事、よろしくお願いします」
医者「……まかせたまえ」
黒天使は素早くシェルターから脱出し、エーテルの風が吹く中
首都パルミアのさらに北……"神々の休戦地"へと向かう。
*保存*
少しだけR-18的内容入っていいですか
……
黒天使「とは言ったものの……っこのぉ!」ザシュッ!ザシュッ!
光の粒が舞う中、黒天使・デイフォードは鎌を振り回し次々とモンスターを倒していく。
ルミエストを出発した黒天使だったが、ある程度進んだところでモンスターに囲まれ足止めを食らっていた。
黒天使「エーテルの風が吹いているときは強い個体の出現率が高くなる……でも」
ぞろぞろぞろ……
黒天使「あくまで強個体の出現率が高くなるだけであって、モンスター自体の量は増えないはずなのに……」
斬っても斬ってもいつのまにかまた囲まれている異様な状況を、不審に思わずにはいられない。
黒天使(やっぱりおかしい……何かが……)
*ジュルッ*
黒天使「……!今の音……もしや!!」
周りのモンスターの鳴き声や音の中から聞こえた、今の状況に答えを出す"音"。
デイフォードはこれを聞き逃さなかった。
黒天使「邪魔だッ!!!"ブースト"!!」キィンッ
黒天使「ハアアアアアアーーーーーーッ!!!」ザシュザシュザシュザシュ!!
一直線にモンスターをなぎ倒していく。そしてその先に見えた元凶。
黒天使「っいた!……やはり……!」
ジュルジュル……
黒天使「街道付近までこんなモンスターが近づいていたとは……」
黒天使「シュブ=ニグラス!!!!」
浮遊している緑色の物体。至る所から触手が伸び縮みしており、
得体の知れない粘液を垂らしているその姿は
見るだけで狂気に包まれてしまいそうである。
黒天使(こいつはモンスターを次々と召喚する厄介な存在!)
黒天使(だからモンスターを倒してもキリが無かったんだ!)
黒天使「まずは元を……ちょん斬る!!」バッ!
宝石のように輝く瑠璃色の鎌を振りかざす……が。
ブゥン
黒天使「っくそ!あと少しのところで!」
シュブ=ニグラスの移動手段はショートテレポート。
当たる寸前で消えてしまったが、しかしデイフォードはすぐに切り替え、辺りを見渡す。
黒天使「次はあそこか!」バサッ!
漆黒の翼を羽ばたかせ、鎌を構える。
ブゥン
黒天使「っまたテレポート……!」
ブゥン
ブゥン
ブゥン……
しかしどんどんデイフォードから離れていき
ついには視界から消えてしまった。
黒天使「逃がしたか……ま、いっか」
黒天使「シュブ=ニグラスはショートテレポートを繰り返すから本当に厄介」
そう、ショートテレポートしかできないはずだ。
黒天使「それにしてもあのモンスター、やけにあっさり逃げたわね」
黒天使「……できるなら戦わないで越したことはないけどね……キモイし」
だからまさか、
黒天使「まあでも、異常なモンスター数の元は消えたし、これで先に進む事が――」
ブゥン
黒天使「……えっ」
いきなり目の前にテレポートしてくるなど、思いもよらなかった。
デイフォードは既に戦闘態勢を解き、鎌から力を抜いていた。
完全に虚を突かれていた。頭が状況を理解するのにかかった時間は
シュブ=ニグラスの攻撃を許すのに十分な時間だった。
シュルッ!!バシッ!
黒天使「……っしまったッ!!!」
触手が鎌を弾き飛ばす。
……ここでデイフォードは弾かれた鎌に視線を向けてしまった。
シュブ=ニグラスから伸びる触手はその隙を逃さない。
シュルルルルルッ!!
黒天使「く、くそっ!!!」
瞬く間にデイフォードの手足を拘束する。
黒天使「鎌が無くてもッ……"ブース――」
――しかしそれだけでは収まらない。
ジュルルルルルッ!!
黒天使「ひあっ!?」
緑の身体から伸びる新たな触手が、足を伝いながら登っていく。
黒天使「う、うそでしょ!?そん……むぐぅ!!!」
黒天使(しまったっ!これじゃ詠唱が……!!!)
別の触手がデイフォードの口の中へ強引に入り込む。
粘液でどろどろになっている触手が服の内側へ侵入する。
黒天使「んんっ!んっんんーーーっ!!!」ビクンッ!
まるで"味見"をしているかのように容赦なく触手が伸びる。
触手からあふれ出ている粘液は既に、デイフォードの全身を濡らしている。
黒天使(力が……入らないっ……そう、かっ!こいつ……マナを吸い取ってる……!)
黒天使(このままだと……こいつにっ……食われる!!!)
このような状況になってもデイフォードは諦めない。
しかしそれを感じ取ったのか――シュブ=ニグラスの触手はさらに進む。
黒天使(そ、そこはっ!!!)
触手は下着を押しのけ、敏感な所にまで達しようとしていた。
黒天使「ッん゛ん゛ん゛ーーーーーーッッ!!!」
急に冷静さを欠いたデイフォードが半狂乱になって暴れる。
黒天使(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だそれだけは!!!!!!)
黒天使(こんな所で純潔を失いたくない!!!)
黒天使(純潔でなければルルウィ様の寵愛が受けられない!!!)
黒天使(僕はルルウィ様の誇り高き下僕なんだ!!)ジワァ
気丈だった今までの威勢とは反転し、目には涙が浮かび上がる。
黒天使(―――――――だれか……たすけてッ!!)
ズバンッ!!
ドサッ!!
黒天使「ウぐッ!」
地面に叩きつけられ全身に痛みが走り、触手の動きが停止する。
黒天使「うげえええええっ!!!げええっ!!」ビチャビチャビチャ
胃酸と共に触手を吐きだす。
「――大丈夫か?」
黒天使「……」ボーー…
既にマナはわずかしか残っておらず、最後に暴れた事もあって意識は朦朧としていた。
「待ってろ、コイツを倒したらすぐに助けてやるからな」
黒天使「大、剣……?―――」ガクッ
デイフォードは大剣を片手にシュブ=ニグラスに挑む何者かの背中を
途切れゆく意識に垣間見た。
……
少女「……で、それが、謎の美少女と私の大剣がべっとべとになってた理由ですか」
勇者「仕方ないだろ?触手に絡め捕られてて、遠距離攻撃すると巻き添えにしちまうかもしれなかったんだから」
少女「はぁ……エーテルの風の中、食料集めと私の大剣拾いに行ってくれたのはありがたいんですけど」
少女「まさかこんな子まで拾ってくるとは思いませんでしたよ?」チラ
「……」すぅ……すぅ……
少女「……とりあえずあの気持ち悪いべとべとは洗っときました」
勇者「サンキュな、流石に俺じゃまずいしな」
少女「はぁ……人間以外も助けちゃうなんて……」
勇者「え?」
少女「もしかして知らずにお持ち帰りしたんですか?背中に翼生えてたでしょう?」
勇者「いや、街でも数人見かけたし……そういう装飾だってお前が……」
少女「この子を洗った時見ましたけど、アレ直に生えてましたよ」
勇者「……まじ?」
少女「そもそもエーテルの風の中うろついてる時点で人間じゃありませんって」
勇者「……俺―」
少女「勇者さんは例外です!」
勇者「あ、はい」
少女「そういえば食料の方は……」
勇者「ん、向こうの調理器具がある所に置いといた」
勇者「それで悪いんだが、食料の選別しといてくんね?俺じゃあ食えるかどうかわかんねーからさ」
少女「りょーかい!……あでも、その子に変な事しないでくださいよ?」
勇者「するか!」
少女「ま、知ってますけど」
勇者「なら聞くなよ……」
少女「んじゃーついでにもうごはん作っちゃいますね」
勇者「おう、頼んだ」
少女「……なんか、新婚みたいですね」
勇者「どこが?」
少女「…………」
少女「異世界人なら、食の常識なんて通じない可能性ありますよね……」スッ…
勇者「ん!?待て!お前俺に何食わせようとしてる!?」
「う……ん……?」
勇者「あ!?目を覚ましたぞー!!おーいってば!!……あーもー!」
勇者「えと……大丈夫か?」
「…………そう、か……助けて……もらったのか……」
勇者「まーな」
「……す、すまな……い?」パサッ
上体を起こした為、布団がずりおちる。
「…………白い……服…………?」
勇者「あー、べとべとだったんで洗ってやったぞ」
勇者「そんで代わりにその辺の――」
「……う」
勇者「う?」
「うわああああああああああんもうダメだああああああああああああああ!!!!!!!」
勇者「!!!??!!???」
「純゛潔゛し゛ゃ゛な゛く゛な゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
勇者「おっ、落ち着け!まず……おちつけ!!」
「あ゛あ゛あ゛犯゛さ゛れ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
勇者「ちょっ!なんもしてないって!話聞け!!」
「嘘゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!こんな美少女前にして[ピーーー]しないわけないだろぉぉおおおお!!!!」
勇者「自分で言うかね……てか、ほんとに……落ち着いて……」
ドタドタドタ
少女「何の騒ぎですか!?」
「どうせ既に●付け[ピーーー]してッ!僕の[ピーーー]には白い[ピーーー]がたっぷりとピイイイイイイイイ!!!!」
少女「勇者さんッ……そんな……やっぱりッ!!!」
勇者「っだあああああああああああああちょっと本気で黙れェェェェェェエエエエエアアアアア↑↑↑!!!」
「ほんとか?ほんとのほんとにボクの[ピーーー]はまだ破られてないんだな!?」グスッ
勇者「俺は君をここまで運んだだけ、君の身体をきれいにしたり服洗ったりしたのはコイツだよ」
少女「ごめんね、勝手に洗っちゃって」
「そ、そうか……」ほっ
勇者「どーやら誤解は解けたようだな……」
少女「よかった仲良くなれそうで……あなたの名前は?」
「…………」
少女「……?……あの――」
「黙れ人間、図に乗るなよ」
少女「エーーーーーーーーーーー」
黒天使「この黒天使・デイフォード様を介抱した事については褒めて遣わす。ご苦労であった」
少女(何この子)
勇者「……」
黒天使「良い匂いがするな?食料を出してもらおうか我は腹が減っているのだ」フフン
勇者「……」スッ
黒天使「む、なん――」
ゴチンッ!!!!
黒天使「はう!!」
勇者「そこまで感謝の気持ちが無いと腹が立つぞ?んん?」
少女(……あ、この笑みは出会った頃の勇者さんだ)
黒天使「神の下僕である我に向かって何をする!!今から貴様に天罰を――」ゴチンッ!!
黒天使「ぐっ……こんな事してただで済むと思って――」ゴチンッ!!
黒天使「っ……殺す!貴様は絶対に――」ゴチンッ!!
黒天使「ぁぅ……に、人間ふぜ――」ゴチンッ!!
黒天使「助けて頂いて本当にありがとうございました」ズザー
少女(あぁ、懐かしの土下座だぁ)
勇者「ったく、最初からその気持ちさえあれば何もなかったのに」
少女「ちょっと、やりすぎと思いますけどね……はい、ありあわせだけどシチュー」
勇者「おーうまそう」
黒天使「……」ギュルルル…
少女「はい、もちろんあなたの分も」スッ
黒天使「……ふ、ふん」スッ
勇者「うおうんめぇ!」
少女「でしょ!?どんなもんです!!」
黒天使「……ん」
黒天使「!っ……はむ、はむ」
黒天使「~~~っうぅ」グスッ
勇者「嫌なら黙ってていい。もう拳骨はしない。君さえよければ話してくれ」
勇者「その涙の理由を」
少女(うわぁ勇者さんそれはクサイですよ)
ゴチンッ!!
少女「ひぎい!」
黒天使「……ボクはルルウィ様の下僕、黒天使・デイフォードという」
勇者「それ、マジで言ってたのか……」
少女「え、ちょちょ、ちょっと待ってください!ル、ルルウィ様の下僕!!??」
黒天使「そうだよ……信じてなかったのかよ」
勇者「ふつーは信じないと思う」
黒天使「……やっぱいい、この先は到底信じてくれそうにないし」ムス
勇者「あー悪かった悪かった!信じるから!」
黒天使「……ボクは、ルルウィ様が最も寵愛している人間――"風の民"ナルレアへ遣わせた"神の化身"」
黒天使「最初こそボクは認めて無かったけど……ナルレアはボクが初めてご主人と認めた人間だ」
黒天使「……事が起きたのは数日前。ボクとご主人は謎の男に襲われた」
謎の男が仕向けたフリージアという猫の化身に、手も足も出なかった。
ご主人は"憑依"を使ってルルウィ様を宿し、フリージアを追い詰めた。
しかしそれが男の罠だった。男は部屋に仕込んでいた魔法陣を発動し
ご主人からルルウィ様を引きはがした――。
黒天使「ルルウィ様のおかげでその場から逃げきれたけど」
黒天使「ご主人はその戦いの後遺症で……か、身体が、動かなくなった」
黒天使「し、しかも、そこからルルウィ様と交信できなくなって、それで……」ポロポロポロ
少女「……ここ最近の急な嵐は……」
黒天使「……うん……ルルウィ様がいなくなって、力のバランスが崩れてしまったんだ」
黒天使「でも他の神は……いつもの気まぐれだと、思ってるだろうね」
黒天使「だからボクは、パルミアの北にある"神々の休戦地"へ行って他の神に知らせようとしたんだ」
勇者「そして今に至る……か」
黒天使「……男は"邪神"ベルネムと名乗っていた」
勇者「邪……神……ベルネム………?」
パズルのピースが一つはまる。
黒天使「……さっきから気になってる事がある」
黒天使「男が言っていた。"あちらでは魔王という名でよろしくやっていたが"」
黒天使「"あちらの勇者には苦労した"……と。」
勇者「……!」
黒天使「さっきからキミは"勇者"と呼ばれてるけど……何か関係あるのか?」
勇者「ぐあ……頭、が……!」ズキンズキンズキンッ!
少女「勇者さん!?」
――『追い詰めたぞ……"魔王"!!』
――『ク……ク……クハハハハハハハハ!!!この時を待っていた!!!』
――『何!!??』
――『来てくれて感謝するよ勇者一行!!最後に良い事を教えてやる!!』
――『我の本当の名は"邪神"ベルネム!!600年前!この地に追放されてやってきた!!』
――『だがそれも終わりだ!全ての条件は揃った!!!』
――『この場に存在する魔力を利用し!!"ゲート"を開く!!』
――『っっっ!結界を解除しろ魔法使―』
――『もう遅い!!!!!』
――ゴォオオオオオオオ!!
――『っうあああああああああああ!!!魔力が……吸い取られ……』
――『ぐ……ああああああああ!!!』
――『魔法使いっ……戦士!!!』
――『 開け!! "ムーンゲート"!!! 』ゴゴゴゴゴゴゴ……
――空間が歪み、そこから月明かりのような光があふれ出る。
――『クハハハハハハハ!!さらばだ"勇者"ども!!』
――『次に会うとき!力の差に恐怖するがいい!!クハハハハハハハハハ!!!』スゥゥ…
――"魔王"は光の中に消えていく。
――『なんだ……これは……!!皆掴まれ――』
――『わ、わっ!!』フワッ
――『!!っしまったっ!!』
――『お、お兄ちゃ……』スゥ……
――しかし"ゲート"はさらに飲み込んでいく。
――『くそぉおおお!!俺のッ!俺の大切な妹を――!!』ダンッ!
勇者「"邪神"ベルネム……そうか、ここは奴の地だったのか」
少女「勇者……さん?」
黒天使「……?」
勇者「少し思い出したよ、ありがとうデイフォード」
黒天使「む……なんなのさ」
勇者「俺は……"異世界"から来た"勇者"だ」
勇者「"魔王"……いや、"邪神"ベルネムを……倒すためにこの地に来た」
黒天使「な、なんだって……!?」
少女「思い出した……んですか」
勇者「ああ……俺は本当に"異世界"から来た。その"邪神"を追ってな」
勇者(……いや、少し違うな。……何かが……まあいい)
黒天使「"邪神"ベルネムを知ってるのか!?」
勇者「……すまんが、思い出したのはここまでだ」
黒天使「お、思い出したってなんだよ!?」
少女「えっと、その"異世界"から来たときに記憶喪失になってるらしくて……ですよね」
勇者「ああ」
黒天使「ふ、ふざけるな!!じゃあ何か!」
黒天使「貴様が奴を逃がしたせいでボク達はあんな目にあったって事じゃないか!!!!」
勇者の胸倉を掴み、訴える。
勇者「ごめんな……」
黒天使「く、くそっ!」
勇者「君の言う通り、君の置かれている状況には俺にも責任がある。だから俺も同行するよ」
黒天使「……」
少女「神々の休戦地へ行く……って事ですか」
勇者「そういう事になる」
黒天使「仲間になれ……か?……ボクはご主人しか認めてない」
勇者「あー、あくまで"同行"だ。そんな堅苦し――」
黒天使「だから、今から"マスター"と呼ぶことにする」
勇者・少女「「……ぇえ?」」
黒天使「ボクは下僕として生まれた。誰かに従う事はあっても誰かを従える事はできないよ」
黒天使「だからこういう形にするしかないのさ」
勇者「いやだから、そんなんじゃなくても――」
黒天使「君にはボクらを助ける義務がある。そうだろう?」
勇者「……う、そうだが」
黒天使「だからこれは一種の"契約"さ。君の下にいる限り、君はボクを見捨てる事はできない」
勇者「……いいのか?お前にはご主人がいるんだろう」
黒天使「そう、ご主人はご主人、マスターはマスターだ。問題ない」
少女(へ、屁理屈だーーーーー!!)
勇者「……わかった。じゃあ、よろしくな」
黒天使「ふん、あくまで馴れ合う気は無いからね。"マスター"」
黒天使「……それと、クレアとか言ったっけ?」
少女「え、あ、うん」
黒天使「……その。シチュー……おいしかった……あ、ありがとう」
少女「……どーいたしまして!」
黒天使のデイフォードが仲間に加わった!
*保存*
すいません、只今書き溜め中です
遅筆なのに見にきてくれてありがとう
未だ降りやまぬ光の胞子。
雪の様に舞い、大地へ沈んでゆく。
そんな中、とある洞窟内部では焚き火の光が壁に人の影を映し出していた。
パチッ……パチッ……
ラーネイレ「……どう?」
ロミアス「ああ、もう動ける」
ラーネイレ「よかった……」
ロミアス「助かったよ。"癒し手"の君が居てくれて」
"悲愴の戦闘狂"ギーラは強かった。
ロミアスが応戦した時もあったが、対エレア装備は完璧――
全くと言っていいほど歯が立たず、逆に重傷を負ってしまう始末だった。
なんとかエーテルの風が吹くと同時に洞窟を発見し、逃げこみ
数日、緑髪のエレア・ロミアスの回復に勤しんでいた。
ヴェセル「だから私について来いと言ったのだ。全く、君のせいでこんな洞窟に逃げこむはめになったのだからな」
ロミアス「ふん、どうとでも言うがいい。護衛のくせに一度も戦わず逃げてばかりの輩め」
ロミアス「ここまでの金はやる。だからもういい、こんなクラムベリー・ジャンキーに頼るのが間違いだったのだ」
ヴェセル「いいだろう。その金で貴様の墓を建ててやる」
ラーネイレ「ストップ!!!ロミアスいい加減にして!」
ロミアス「……ふん」
ラーネイレ「あなたもよヴェセル・ランフォード」
ヴェセル「……」
ラーネイレ「護衛はまだ続けてもらうわ……ただ――逃げてばかりでは前へ進めないのよ」
ヴェセル「前へ進んだ先に待つのが絶望であってもか?」
ラーネイレ「……何?」
ヴェセル「私は進んだ。進んで進んで進んで――――大切なものを失った。」
ヴェセル「進まなければ良かった。あのまま、密かに暮らしていれば」
ヴェセル「エリシェは死ななかったかもしれない……」
ラーネイレ「エリシェ……?そういえば初めて会った時もそんな名前言ってたわね」
ヴェセル「君と同じエレアの娘だよ。お互いに支え合って生きていた」
ヴェセル「……昔、な」
ラーネイレ「……似ているのね。その子と、私が」
ヴェセル「まあな……だがエリシェは君と違って治癒術は使えなかった」
ヴェセル「普通の、娘だった」
ラーネイレ「……」
ヴェセル「……」
ヴェセル「……すまないな。感傷に浸ってしまった……こんな話をするつもりはなかった」
ヴェセル「だが、誤解を一つ解いておこうか」
ラーネイレ「……誤解?」
ヴェセル「ああ」
ヴェセル「私は別に逃げているわけではない」
ヴェセル「……戦える"場所"を探していたんだよ」
ラーネイレ「どういう意味?」
ヴェセル「…………そろそろエーテルの風が収まる。"奥に引っ込め"」
ロミアス「……何を言っている?」
エーテルの風が収まったのならすぐにでも出発するべきだろう。
しかしヴェセル・ランフォードは"奥に行け"と二人に命じていた。
その理由は、洞窟入口から侵入してきた。
「ガウッ!ガウッ!!!」
「ご苦労、ラジ」
エーテルの風は収まり、差し込んだ太陽光を背に受けている。
ゆえに逆光となり、はっきりとは見えない。が、声と雰囲気からエレアの二人は直感した。
ロミアス「ッ!!」
ラーネイレ「~~!!!!」
―――見つかった。
ギーラ「さて、どう料理してくれようか……」
ヴェセル「まぁ待て」ザッ
ギーラとエレア二人の間に割って入る。
ギーラ「そういやお前は何だ?そいつらと行動してるようだが……エレアじゃないな」
ヴェセル「護衛さ。こいつらに雇われてる」
ギーラ「……ハッ!馬鹿言うな!そこの緑髪のエレアをぶち殺そうとした時、護衛しなかったじゃねぇか!!」
ヴェセル「ああ、あのときは街が近くにあったからな」
ギーラ「街……?何わけわかんねぇ事言ってやがる」
ギーラ「とりあえずどけよ。俺の目的はエレアを殺す事だけだ。邪魔するならてめーも殺すぞ」
ヴェセル「あー、それなんだが」
ヴェセル「ギーラとやら。ここはひとつ交渉というか、提案がある」
ギーラ「ああ?物言いできる立場と思ってんのか?」
ヴェセル「できるさ」ドサッ!
ロミアス「……ッッ貴様!!!!」
ラーネイレ「貴方……!」
二人にとっては信じがたい光景だった。
ヴェセルはいつの間にか二人から奪っていた装備を敵に渡したのだ。
ギーラ「……なんのつもりだ?」
ヴェセル「これで後ろのエレア二人は丸腰だ。加えてこの洞窟はどこにもつながっていないから逃げられもしない。」
ギーラ「……つまり?」
ヴェセル「簡単な話だ。俺と一騎打ちしろ」
ヴェセル「俺を殺せば後ろの二人も殺せると同義。俺がお前を殺せば俺は護衛任務完了だ。分かりやすいだろう?」
ギーラ「……クッ」
ギーラ「ハァーーーーッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
ギーラ「"戦闘狂"の俺に、一騎打ちだと!?」
ギーラ「追跡も得意だが……一騎打ちの方が得意なんだぜ!!」
ギーラ「これまで1対1で負けたことがねぇ!!!」
ヴェセル「そうか。ならばそれは今日で終わりだ」
ギーラ「……ムカツク野郎だな……いいぜ。まずはお前からミンチにしてやる……ラジ!!」
ラジ「ガウッ!」
ギーラ「奴らの装備銜えて外出てろ!!」
ラジ「ガウガウッ!!」タタタタタタ……
ギーラ「一応確認しておく。一騎打ちの間にそいつらが逃げた時は?」
ヴェセル「その時は、俺は護衛をやめる。戦闘も中断、好きにするがいい」
ギーラ「……いいだろう」
ギーラ「さぁて……」カチャ…
ヴェセル「……」
対峙する二人。ギーラは背の戦斧に手をかけ、戦闘態勢を取る。
ギーラ「どうした?腰の剣は飾りか?」
戦闘態勢を取らないヴェセルを煽る。
ヴェセル「……はっきり言おう。貴様は強い」グッ
柄を握る。
ヴェセル「常に戦いに身を置いてきた貴様に、今の私では少々危うい」
ヴェセル「できるだけ使いたくなかったが……」
ヴェセル「この剣に頼らざるを得ないだろうな」シャッ!
鞘に収まっている腰の"剣"を抜く。
―――瞬間
ズオオオオオオ……
ドス黒いオーラが剣を取り巻き始める。
ロミアス「!!!」ゾクッ!!!
ラーネイレ「ひっ!!」
ギーラ「ッッ!!!」
異質なモノ。"剣"のような何か。
この場にいる全員に悪寒が走った。
ヴェセル「早めに終わらせるぞ。このオーラが濃くなってしまう前にな」ダッ!!
ギーラ「くっ!!」ブンッ!
ヴェセル「戦斧か。刃で攻撃するもよし、腹で防御するもよしの攻防一体の武器だ」ヒュッ
ギーラ「チィッ!ちょこまかと……!」
ヴェセル「だがその大きさゆえに鈍重、そんなものが当たると思っているのか?」シャッ!
ギーラ「くっ!」
ガギィンッ!!ギィン!!
ヴェセル「これでエレア殺しとはあきれる。スピード重視のエレアと相性最悪の武器だ」
ギーラ「……」
ヴェセル「エレアを殺すのなら――」
ドンッ!!!
ヴェセル「ッ!!」
ラーネイレ「なっ!!」
ヴェセルがうずくまると同時に漂う硝煙の匂い。
大男の手には、その体からは似合わぬ拳銃がいつの間にか握られていた。
ギーラ「……ふっ、ハハハハハハハハ!!!」
ヴェセル「そう。エレアを殺すには別の武器が必要だ」スクッ
ギーラ「なにっ!?命中したはずだ!!」
不意を突いたはずだが、ヴェセルは悠々と立ち上がる。
ヴェセル「次は私の番だ……」スッ
剣を天に掲げる。すると――
……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
剣から滲み出る黒いオーラがさらに濃くなっていく。
と同時に洞窟全体が共鳴し始め、大きく揺れる。
ギーラ「なんだ……なんなんだそれはァッ!!!!」
ロミアス「ッ……!」
ラーネイレ「……!」
エレア達は恐怖で身動ぎ一つさえもできなくなっていた。
この距離でこれだけの圧迫感・絶望感が漂ってくるのだから、
相対している"エレア殺し"はこの比ではないだろう。
ヴェセル「終結させろ……"ラグナロク"ッッ!!!!」ドスッ!!!
剣を地面へ突き立てた瞬間――
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
ギーラの足元にひびが入った瞬間、火柱がギーラを襲う。
ギーラ「ぐぁああああああああああああッッッ!!!」ドガンッ!
ギーラ「がっは……」
勢いよく吹き飛ばされ、天井に打ちつけられる。
ドサッ!
力無く落下し、地面にも叩きつけられたギーラは、もはや意識は残っていなかった。
――――ドクンッ!!!
勇者「ッッ!!!」バッ!
少女「どうしました?」
黒天使「幽霊でも見えた?」
勇者「いや……」
勇者(鞘が、脈打っている…………共鳴?)
勇者(勇者の証と彫られたこの鞘。この世界に来てから剣が外れたものと思っていたが、思い出した記憶によるとこの鞘……)
勇者(元の世界で王様から勇者として譲り受けた時から剣が入っていなかった)
勇者(……もしかしてこの世界に…………)
*保存*
/ ̄ ̄\ 。 。
/ /二\ 丶/ /
||(の丶Y/⌒ヽ すいません
(((\\二ノノ ・ ・) 今月は投下できそうにありません
\ ̄ ̄ ̄ UノU
黒天使「あ、エーテルの風止んでる」
勇者「おっ!んじゃあ出発するか!」
少女「……」
勇者「どうした?」
少女「その……勇者さんはこの地の空気自体が毒……なんですよね?」
勇者「ああ、そうらしいな」
少女「次のエーテルの風まで3ヵ月……どう過ごすつもりなんですか?」
勇者「………………ま、どーにかなるだろ」
少女「なりませんよ!わかってるんですか!?少なくとも勇者さんはこの世界に来て2週間もしないうちに症状が出てるんですよ!?」
勇者「ならば1週間で全てを終わらせるまでだ」
少女「……そんなこと……」
黒天使「ねぇ、それならマスターがエーテルに触れ続けてればいいんじゃないの?」
少女「……あ」
勇者「エーテルに触れ続ける?エーテルの風は止んだのにか?」
少女「なるほど……その手があったか……」
勇者「おーい、その手ってなんだ~?」
少女「実は武器や防具には、エーテルで造られたものがあるんです」
勇者「……なるほどね。それを身に着けてればいいってことか」
少女「はい。ただ……滅多に市場に出回らないのと、一般武器の十倍以上もの値段がしますから、入手は困難……モンスターが落とすのを狙った方が早いレベルですよ?」
勇者「ふーむ……」
黒天使「じゃ、貸そうか?」
勇者・少女「「…………え?」」
黒天使「ん~~~しょっと!」ズモッ
少女「ちょっと待って、今どこからその……弓?出したの?」
勇者「なんかえげつない音がしたぞ」
黒天使「この弓はウィンドボウと言ってな、ルルウィ様から頂いたエーテル製の弓だ」
勇者・少女((スルー!!))
黒天使「これを身に着けていれば、エーテルの風ほどではないが常にエーテルに触れていることになる」
黒天使「これでこの世界の空気を吸っても相殺されるだろう」
勇者「いいのか?神様からのプレゼントなんだろ?」
黒天使「いや~~ルルウィ様に頂いたのはいいんだけど、ボクあんまり使わないし」
黒天使「でも、事が終わったらちゃんと返してよね」
勇者「……さんきゅな」
黒天使「ふんっ!じゃあさっさと出発だよ!」
勇者「あ~~~久しぶりの太陽!!気持ちいいな~~!!」
少女「…………」
勇者の元気な姿に、自然と口が緩む。
そんな少女に黒天使が耳元で話しかけた。
黒天使「良かったな、これでまだ一緒に旅ができるぞ」ボソ
少女「ッ!!!!」
黒天使「不安だったのだろ?片や通常の空気が毒、片やエーテルが毒」
黒天使「しかし……根本的な解決にはなってない。いずれ立ちふさがる"壁"だ」
少女「……わかってるよ」
少女(なんで出会って1日しか経ってないのに分かるかな……)
勇者「そういや、パルミアの北に神々の休戦地はあるんだよな?」
黒天使「そうだよ」
勇者「パルミアってジャビ王に謁見した街だよな?」
少女「そうですよ?」
勇者「……よし」
ーパルミアー
黒天使「………………」
少女「………………」
勇者「さて、まず宿屋で朝飯食おうぜ~」
少女「ちょちょちょちょっと待ってください勇者さん!!何が起きたのかさっぱりです!!」
黒天使「あっれぇさっきまで洞窟の外に居たはずなんだけどナー……」
勇者「ああ、俺一度来た街なら転移で瞬間的に戻れるんだよ」
少女「帰還の巻物無し・タイムラグ無しだとぅ…………いやっ!それ相応の何かが……!」
少女「勇者さん!!その魔法はどのくらいのマナを消費するんですか!?」
勇者「マナ……?魔力の事か?いやほぼ消費しないけど」
少女「チートだ!この犯罪者!!」
勇者「犯……え!?」
黒天使「あー確か、荷物運びの依頼最中にテレポートの類を利用して街を移動するのは犯罪なんだよね」
勇者「前々から思ってたがこの国の罪の基準が分からん」
ーパルミア・宿屋ー
勇者「神々の休戦地へは、ここからどのくらいの距離にあるんだ?」モグモグ
黒天使「えーと確か半日あれば着くはずだよ」
勇者「往復で1日か……食料が必要だな……ついでに旅糧も買っておこう……すんません!おかわり!!」
少女「あのもう4回目のおかわりなんですが……」
勇者「いやー体調戻ったら腹が減って減って」
少女「く、くそうその体のどこに……」
黒天使「大丈夫だ。まだ成長するよ君は」
少女「……どこを見て話してるノ?」
黒天使「君は若いからね。今後の対応でいくらでも変わる」
少女「決してムネの話をしているわけではナイヨ?」
黒天使「心配するな。身長は遺伝するが胸は遺伝しない。大事なのは女性ホルモンとマッサージだ」
少女「決してムネの話をしているわけではナイヨ?」カキカキカキカキ
黒天使「ならばメモをとるその手を止めて食事に集中したらどうだい?食事も大きく影響するしね」
少女「すいませんおかわり」
勇者「はー食った食った!!旅糧も買ったし、行きますか!!」
少女(女性ホルモンとマッサージ……女性ホルモンとマッサージ……)ボソボソ
黒天使「行こうか……ん?」
勇者「どうした?」
黒天使は視界の端に奇妙な光景を垣間見た。
黒天使(あれは……へぇ……)
しかし黒天使の目的はあくまで自身の神・ルルウィを助け出す事。
ここでこの話題を出すとまた時間を食ってしまうと感じた黒天使は、あえて気にしない事にした。
黒天使(ま、いいか。)
黒天使「なんでもないよマスター。準備ができたなら早く行こう」
黒天使(珍しい事もあるもんだ……)
黒天使(ビッグダディが街に現れるなんて)
*保存*
しばらく空いてしまいすいませんでした
ちょっとルルウィ様に調教されてきます
少し展開悩んでます
ーパルミアから北へ30マイル地点の洞窟ー
ザアアアアアアアア……
勇者「はーまた雨か」
少女「これがルルウィ様の影響……すごいね。数時間おきに天気が変化してる」
黒天使「ルルウィ様……」
勇者「……じゃあさっさと助けないとな」
少女「といってもこの雨じゃ……日も暮れてきたし、今日はこの洞窟に泊まります?」
勇者「しか無いな」
少女「あ、それじゃあ安全確保しに少し洞窟探検しましょう!」
少女「道中あんまりモンスター襲ってきませんでしたし、思いっきり動きたい気分なんです!」
勇者「りょーかい、んじゃクレアはこのフロ――
少女「このフロアはまっかせましたーーーーー!!」ダダダダダダ…………
勇者「……」
黒天使「……なんか、急に元気になったねあの子」
勇者「ははは……まぁアイツは元々冒険者で、ネフィア探検に目がなかったからなぁ……」
勇者「このフロアのモンスターを掃除してから後を追うとすっか」
黒天使「ボク、パス」
勇者「おい」
黒天使「だってダルい……このネフィア全然強い気配感じなかったし」
黒天使「マスターだってそう思ったからあの子を追わなかったんでしょ?」
勇者「まぁ、な。でも、アイツだってそれなりの実力は持ってる。多少の危険は任せるさ」
黒天使「ふぅん……でも知ってる?雑魚ネフィアにもたまに危険なヤツが居るって事」ニヤ
勇者「……なんだよ」
黒天使「基本的には中立だから、こっちから攻撃しない限り何もしてこないんだけど――
勇者「ビッグダディの事か?」
黒天使「寝るね。晩御飯できたら教えてね」ドサ
勇者「うぉおい!」
勇者「ったく……」
……しーん
勇者「…………」
黒天使「……モンスター倒しにいかないの?」ゴロン
勇者「……いや、妙に静かだと思って」
黒天使「確かに、モンスターの気配あんま感じないね」
黒天使「……既に他の冒険者が攻略してたりして」
勇者「……」
黒天使「ふふ、マスターが今思ってること当ててみようか」
黒天使「もし他の冒険者がこのネフィアを訪れてるなら、先に行ったあの子と出くわす可能性がある」
黒天使「そしてもし、その冒険者が"悪い奴"だったら…………」
勇者「……」
タタタタタタタタ…………
少女「ぬああああモンスターいなぁあぁあい!!!先越されてたーーー!!」
ガツッ
少女「ぬわ!」ベシャッ!
少女「いったぁ……もー…って……ぉおおっ!魔力の結晶!!」
少女「ラッキー♪こういうマテリアルは色んな素材として使えるんだよね~♪」ごそごそ
…………ォォオ……
ピタッ
少女「今の……」
…………ォオオオオ……
少女「……間違いない、この声は……ッ!」ススッ
クレアは音を消して声のする方へと向かう。
少女(この扉の向こうかな……)キィ……
ビッグダディ「……」
少女(……うお、久しぶりに見た……勝てるかな?)
ビッグダディ「オオオオオォオオオオオォ~~~~」
少女(あっ無理だ帰ろ)
パタン
少女(どうせリトル捕獲玉は荷物の中だし……)
少女(……あれ?そういや今リトルシスターいなかったよう、な)クルッ
小柄少女「…………」
少女「…………」
少女(いやいやいやいやいやいや待って待って待って待って!リトルシスター!?)
少女(なんでビッグダディから離れてるの!?いやそれ以前にこのリトルシスター大きいような)
小柄少女「ねぇ」
少女(キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!しかも話しかけてキタァァァァァアアアアア!!!)
少女(……ど、どーしたらいい!?こんなの初めてだよ!とりあえず返事するしか……)アタフタ
小柄少女「オマエ……お兄ちゃんとどういう関係なの?」
少女「……はい?」
小柄少女「今朝、パルミアでオマエがお兄ちゃんとご飯食べてるの見た」
小柄少女「どういうこと?」
少女「あの、どういう事と言われましても何が何やらさっぱり…………」
小柄少女「ふぅん」
スタッ
小柄少女「 と ぼ け る ん だ 」
少女「ッッ!!!」バッ!!
いきなり間合いを詰められたクレアはとっさに大剣を振りかざす――が、既に小柄な少女の姿は無く
代わりに、ガチャッと後ろの扉が開く音。
小柄少女「バブルス、ローブ持ってて」バサッ!
ビッグダディ「ォオ」
少女(何なのこいつ!?リトルシスターじゃないはずなのに、ビッグダディと会話してる!?)
少女(いやッ問題はそこじゃなくて……)
小柄少女「お兄ちゃんを誘惑する女は私が排除する」ギロ
はっきりと向けてくる殺意。
小柄少女「お兄ちゃんはオマエなんかに渡さない」シャキンッ
腰の両側にある短刀を両手にとり――そして
小柄少女「オマエは私が殺す!!」ダンッ!
少女「く……」ギンッ!!!ギンッギィンッ!!
小柄少女「……へぇ、ほんの少しはやるみたいだね」
少女「そりゃ、どう、もッ!!!」ギィンッ!!
少女(このスピードッ……速すぎる!けど、ついていけない速さじゃない!)
少女(襲われてる理由が意味不明だけど、どうやら戦うしかなさそうだね!)ダッ!
少女「くらえッ!!」ブンッ!
小柄少女「舐めてるの?……そんな大振り」スッ
少女「今だッ!地雷流し!!」ドスッ!バチチチチチチッ!!!
地面に突き刺した大剣から、周囲に雷撃が走る。
父から受け継いだ大剣は雷の力を宿しており、少女もまた、その力を使いこなしていた。
小柄少女「ッ!?」ビリッ!
緑髪の少女の動きが鈍る。そしてこの隙を、クレアは逃さない。
少女「ここだッ!」シャッ!
小柄少女「ッ!」バッ!
……ツー
小柄少女「……血」
少女「かすめただけか……次こそ!」
小柄少女「私の頬に……」
小柄少女「……もう許さない」ギンッ
少女「――ッ!」ゾクッ
かつてない殺気がクレアを襲う。
少女(集中!!この間合いなら、最初のような不意打ちは受けないはず!)
クレアは相手の出方に細心の注意を払いつつ戦略を組み立てる。
――が、それも圧倒的な力の前には無意味であった。
小柄少女「 魔 弾 」ボッ
少女の意識はここで途絶えた。
*保存*
……苦しい。
何でこんなに苦しいの?
ああ、わかった。息ができていないんだ。
息をしなければ。空気を取り込まなければ―――!!
少女「ッはあっ!!!!がはっ!がはっ!!!」
体中に酸素が供給される。視界に光が戻り、洞窟の床の冷たさを全身に感じる。
そしてやっと理解した。自分に何が起こったのか。
間合いは十分なはずだった。しかし"魔弾"という言葉が聞こえた瞬間、
圧倒的なエネルギー弾によって吹き飛ばされ、壁に激突したのだ。
少女("魔弾"?どこかで聞いたような……いや、それよりも!!)
少女はその言葉を前にも聞いたことがあった。しかし今はそれどころではなく……
小柄少女「あぁ、やっぱ生きてた」
目の前に立つ、この災厄をどうにかする事に頭を回転させるべきである。
少女(このままだと殺される!何か……)
小柄少女「じゃ、死ね」ヒュォッ!
少女(えぇーー容赦ないよこの子ーー!せめて辞世の句を!!)
少女(ええとええと……わが生涯に一片の悔いなし!)
少女(……いやありまくるわ!こんなフルボッコにされて悔いがないわけあるか!!)
少女(あぁ、時間がすごく長く感じる……これが死ってやつなのかな……)
少女(勇者さん、ごめんなさい……デイフォードちゃん、ごめんなさい……)
少女(パパ、今行くからね……)
「うみみゃあ」
少女(そうそう、この鳴き声で思い出したけどあの黒猫ちゃん今頃何してるかなぁ……)
少女「って、あれ?私、生きて……ひぃ!」
小柄な少女の剣は首の皮一枚で止まっていた。
黒猫「うみみゃぁ~」
少女「……黒猫、ちゃん?」
小柄少女「……どいて、そいつ殺せない」
黒猫「みゃ、うみみゃぁ、みゃあ」
小柄少女「……でも私には関係ない」
黒猫「みゃぅ、ぅみゃ、みゅうみみゃ!」
小柄少女「……」
黒猫「うみみゃ!みゃあ!」
小柄少女「……わかったよ……」スッ
少女(ぇええーーーー!!和解成立!!??)
黒猫「うみみゃ、うみみゃぁ♪」ペロペロ
少女「うひ、くすぐったいってば……」
小柄少女「猫好きなら……許してやる」
少女(……なんかよく分かんないけど助かったぁーー!!!)
……タタタタタタタ
勇者「凄まじい音がしたから来てみれば……!」
少女「あ、勇者さん」
小柄少女「!!!お、おにいちゃ――」
勇者「大丈夫かクレア!」ダッ!
小柄少女「……え」
勇者は一直線にクレアの元へ駆け寄った。
勇者「頭から血が出てるじゃねぇか!」
少女「あはは……キツいの一発もらっちゃった」
勇者「……アイツがやったのか?」ギロ
小柄少女「!!」ビクッ!
少女「や、もう大丈夫だから……」
勇者「待ってろ、今治癒魔法かけてやっから」パァァ
少女「おぅ……かたじけない……えへへ」
勇者「なんで嬉しそうなんだよ」
少女「いやあ、心配してくれたんだなぁって」
勇者「……当たり前だろ、"仲間"なんだから」
小柄少女「仲間……?ねぇおにいちゃん、今仲間って言った?」
勇者「……?誰だお前」
小柄少女「ッ!!!!……そう、そこまで洗脳されちゃってるんだ。その女に」
勇者「……おいクレア、こんなガキにやられたのか?」
少女「いやぁ……人は見かけによらないもんですねぇ……」
小柄少女「…………これはもう、力ずくしか無いみたい……」ユラァ
小柄少女「だねッ!!!」ダンッ!!
一蹴りで一気に勇者の目前まで迫る。
勇者「危ない!!」バッ!
対する勇者はとっさに少女を抱えて回避する。
ドゴォンッ!!!
小柄少女「……」
小柄なはずの少女の蹴りは、洞窟の壁を易々と破壊した。
……スタッ
少女「うぉお……お姫様だっこだ」
勇者「大丈夫かクレア……ん?黒猫?」
いつの間にか少女の腕の中には黒猫が。
黒猫「うみみゃぁ」
少女「あ、さっきはこの子のおかげで助かったんだよ」
勇者「そうか。ありがとうな」ナデナデ
黒猫「うみみゃぁ~♪」
勇者「……お前らはここに居ろ。どうやら相手はやる気みたいなんでね」
小柄少女「おにいちゃんの匂いに女の匂いが染みついてる……許さない」
小柄少女「おにいちゃんに治癒魔法をかけてもらうなんて……許さない!」
小柄少女「おにいちゃんにお姫様だっこしてもらうなんて……許さない!!」
勇者「……おい、なんかこいつ怖いんだが」
少女「気を付けてください、あの子、めちゃくちゃ速いですよ」
勇者「ああ、さっきので速い事は分かった。だがあの程度なら大したことは無い」
小柄少女「……まぁ、おにいちゃんにとったら"この状態"の攻撃なんてノロくて当たり前だよね」シュルッ
スルッ、ドサッ、ドサッ
小柄な少女は"羽織っていた物"を外していき……
赤色のネクタイに紺色のブレザー、濃い灰色のスカートになった。
そして。
小柄少女「すうぅ…………」
小柄な少女「ヴオオオオオオオオ!!」ザワッ!!
頭には猫耳が出現し、
濃緑だった少女の髪は水色へ。
スカートの中からは先だげ白くなった薄青色の尻尾が現れた。
少女「へ、変身した……」
勇者(……なんだ?あの姿、見たことあるような…………)
小柄少女「ふぅ……"この状態"なら、おにいちゃん相手でも"対等"に喧嘩できる……」
勇者(……こいつ……さっきとは比べものにならない程にヤバい何かを感じる!!)
勇者は気を引き締めて集中する。
小柄少女「……」
勇者「……」
小柄少女「……」
勇者「……」
小柄少女「……」
勇者「……」
フッ!
少女「消えた!」
勇者「ッ!!上だ!!」バッ
勇者が見上げた先には、天井に張り付く小柄少女。
長くは張り付いていられないはず。そこから右か、左か。正面か。
しかしこの一瞬、勇者に強烈な既視感が襲う!
勇者(……違う!あれは幻影だ!本命はこの後――)
小柄少女「また引っかかったね、おにいちゃん」ヒュオ
勇者「!!!!」
バキィィッ!!
"正面からの回し蹴り"が勇者に炸裂した。
ズザァッ!
勇者(くそっ!わかってたはずなのに……!)
勇者(……"わかってた"?なんだ?なんで俺は正面からの回し蹴りが来るとわかってたんだ?)
小柄少女「本気出しなよ、おにいちゃん」シャッ!シャッ!シャッ!シャッ!シャッ!
少女「う、わ……残像しか見えないけど洞窟の壁も天井も、重力無視して走り回ってる……」
小柄少女「広」シャッ!
小柄少女「域」シャッ!
小柄少女「雷」シャッ!
小柄少女「撃」シャッ!
勇者(ッ来る!!)
ヒュッ!スタッ!!
勇者の後ろに着地――
勇者「まずいッ!!!対雷防御――」バッ!
小柄少女「"降雷陣"!!!!」
ッッッガアアアアアアアアンッ!!!
小柄な少女を中心に、全方向へ円状に雷が落ちた――
……シュゥゥゥゥゥゥ…………
小柄少女「……まだまだこれからだよおにいちゃん。どうせ対雷防御魔法で防いだんだろうけど」
小柄少女「次は今のようには行かな……」
勇者「……が、っは…………」ドサッ
小柄少女「……え?」
勇者は小柄な少女の攻撃をまともに受け、全身黒焦げになっていた……
小柄少女「どうして……おにいちゃんなら今の攻撃は必ず対雷防御魔法で防いでたはずなのに……」
少女「勇者さんッ!!」バッ!
小柄少女「ッ!またあの女……」
小柄少女「……!!!!!」
小柄な少女は理解した。防御魔法はちゃんと発動していたし、ちゃんと攻撃から防いでいた。
勇者に駆け寄る、その少女を。
小柄な少女の攻撃は全域に及ぶ。
勇者は瞬時に判断したのだ。
クレアが危ないと。
小柄少女「そんな……」
少女「勇者さん!勇者さん!勇者さ……」
勇者「――」
少女「え、何?」
勇者「――、――……」
少女「ちょっと!勇者さんッ!」
勇者「―――……………」ガクッ
少女「ッ!!!……し、死んじゃ、った……」
小柄少女「……な、何言ってるの?おにいちゃんが私の攻撃なんかで死ぬわけ……」
少女「うっ……うわぁーーーん!!勇者さーーーん!うわーーーーーん!!」
小柄少女「え、うそ……そんな……」
少女「うわぁーん!!うわぁーーーーん!!うぐっ!」
小柄少女「や、やだぁ……」グスッ
小柄少女「……やだよおにいちゃあああああん!!!」
小柄少女「死なないでええええええええ!!!!」
小柄少女「おにいちゃんが他の女と仲良くするはいやだけど、おにいちゃんが死ぬのはもっとやだあああああああ!!!!」
小柄少女「わかったからああああああああ!!!ヤクネさんの他にも例外作るからあああああああ!!!」
小柄少女「あ゛や゛ま゛る゛か゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ! !」
勇者「ほんとだな?ケシィ」むくっ
小柄少女「……え?」
勇者「クレアよ、お前演技下手くそだな。なにが「うわぁーーん」だよ。棒読みにも程があんぞ」
少女「いやぁ……私としては会心の出来だったかなーと」
勇者「そんなわけあるか!そんで途中「うぐっ!」って笑いそうになってんじゃねぇよ!台無しじゃねぇか!!」
少女「勇者さんの無茶振りに対応したんだから役者になれると思う」
勇者「とんだ大根役者だよ。畑に埋まってろ」
少女「ひどい」
小柄少女「………………え?」
小柄少女「……えと、おにいちゃん?」
勇者「あぁそうだ、俺はお前の兄のユウだ。そんでお前は俺の大事な妹、ケシィだ」
少女「やっと全部思い出したんですね」
勇者「あの雷撃のおかげでな。強い刺激が脳みそ駆け巡ったおかげでパズルのピースがそろったみたいだ」
小柄少女「思い出したって……?」
勇者「ごめんなケシィ。俺さっきまで記憶喪失でさ、お前の事がわからなかったんだ」
勇者「でもお前の雷撃を受けてやっと記憶が戻った。ありがとな」ギュッ
小柄少女「え、あ、そ、そうだったの?そうとも知らずにごめんなさいお兄ちゃん。えへへへへへ」
少女(実はチョロい……?)
勇者「さて、例外作るって言ったなケシィ」
小柄少女「う……」
勇者「クレアは記憶の無い俺についてきてくれた大事な仲間なんだ。分かるな?」
小柄少女「…………わかった……例外にする……」
勇者「よし、いい子だ」ナデナデ
小柄少女「うひ、ふひっ、えへへへ」にへら
少女(……かわいい!)ズキューン!
少女「私もなでなでしたい!」バッ!
小柄少女「触るな!!」フッ
少女「うわぁびっくりした!!瞬速で逃げられた!!」
小柄少女「……いいか、私にはおにいちゃん以外誰にも触れさせないからな」
少女「うお、いつの間に後ろに……」
勇者「……一度殺されかけた相手によくそこまで心開けるな」
少女「だってかわいいんだもん!かわいいは正義!特にその猫耳!!くしくししたい!触らせて!」
妹「ひぃ」シュゥゥ……
猫耳と尻尾は引っ込み、水色の髪は濃緑へと戻っていく。
少女「ああっ!そんな!私の猫耳!!」
妹「お前のじゃない!!おにいちゃんのだ!!」
少女「お兄さん!ケシィちゃんを私にください!」
勇者「とりあえず落ち着けお前ら」
勇者「んじゃ改めて……俺の名前はユウ。そんでこいつは俺の妹、ケシィだ」
少女「こちらも改めて!クレアです!よろしくユウさん!ケシィちゃん!」
妹「ふんっ!一応例外としておにいちゃんと仲良くするのは許すけど、それだけだからね!」
妹「おにいちゃんに手出したら、今度こそ殺すから!」
少女「ケシィちゃんに手を出すのはいいって事だね……ぐふふ」
妹「おにいちゃん!!やっぱこいつ殺していい!!??」
勇者「うーん……だめ」
少女「勇者さん悩まないでください」
……状況は一段落して、妹・ケシィが洞窟に入った際に狩ったモンスターの肉を
少女・クレアが調理し、夕飯を囲んだ。
妹「ちっ……うまかった……」
少女「それにしても記憶が戻って良かったです」
勇者「ああ。だからちょっと頭ん中整理したい。色々思い出し過ぎてぐちゃぐちゃだ」
少女「私も、なんで妹ちゃんがビッグダディと仲良くしてるのかとか、今は考えないようにしてます」チラ
ビッグダディ「オォオ」
勇者「……うん……それな…………」
妹「ビッグダディじゃない。バブルスっていうんだからね」
少女「そ、そうなの……」
勇者「……とにかく、今日はもう寝よう!おやすみ!」ドサッ
妹「私、おにいちゃんの隣ね!お前はあっちいけ!」
少女「……ぐすん」
こうして、妹・ケシィが仲間に加わり、
勇者・ユウ、勇者の妹・ケシィ、少女・クレア(と、もう一体?)は眠りにつく。
少女「勇者さん」
勇者「んー?」
少女「何か忘れてません?」
勇者「そうか?気のせいだろ」
少女「うーん、まぁいっか」
黒天使「あいつら遅いな……お腹すいたよぉ……うぅ……」
*保存*
もう1000近いし、このスレはこれで一旦終わりにしようかなと思います。
次スレはまた近いうちに立ててURL貼りますんで、その時はまたよろしくお願いします。
次スレからはもうちょっと内容的にも筆速度的にもペース上げたいと思います。
それでは、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
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【Elona】勇者「ノースティリスを守る!」
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今後ともよろしくお願いします!
このSSまとめへのコメント
Elonaのss初めて見た、割りと面白いわ
素晴らしいです