勇者「君は?」魔法使い「魔法少女でぇーす!よろしくにゃん☆」 (79)

王「兵も疲弊し、我が国に戦うだけの力はない。もはやお前だけが頼りだ」

勇者「はい」

王「もう勇者の血を引くお前が人類の最後の希望なのだ。頼む。世界を救ってくれ」

勇者「分かりました。これも我が一族の宿命でしょう。必ず魔王を倒します」

王「すまない……。もっと、もっと力があれば……うぅ……」

勇者「陛下……」

王「旅に必要な武具や資金は用意させてある。それと腕利きの傭兵もだ。数人いるからその中からお前が選ぶと良いだろう」

王「無論、全員連れて行っても構わないし、気に入らなければ誰も選ばずとも良いが……」

勇者「何から何まで、感謝します」

王「何を言うのだ。これぐらいはさせてくれ。おい、傭兵のリストを」

兵士「こちらが魔王討伐に志願した傭兵の一覧です。名前、性別、経歴が載っておりますので参考にしてください」

勇者「どうも」

勇者(戦士……僧侶……魔法……魔法少女? 魔法を行使する魔法使いは聞いたことがあるが……魔法少女って一体……)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375267240

勇者「あの、この魔法少女って人に興味があるのですが」

兵士「はっ。すぐに呼んできます」

勇者「お願いします」

勇者(魔法少女か……。しかし、少女となると俺よりも年下になるな。15歳ぐらいの女の子が過酷な旅に耐えられるのか……)

兵士「勇者殿。お連れしました」

勇者「はい」

魔法使い「どもー! 勇者さまー!!」

勇者「……君は?」

魔法使い「勇者さまに選ばれた稀代の天才魔法少女でぇーす! よろしくにゃん☆」キラッ

勇者「……」

魔法使い「にゃんっ」

勇者「女性に対してこんなことを訊ねるのは失礼であることは重々承知していますが、その、貴女の年齢は?」

魔法使い「永遠の15歳ですっ!」

兵士「書類のほうには19歳とありますが」

魔法使い「それはアレですよぉー。人間の年齢にするとってかんじですにぇー」

勇者「19歳か。俺よりも年上だし、旅をしても大丈夫か……」

兵士「ああ、失礼しました。先月、誕生日を迎えているようなので20歳ですね」

勇者「そうですか」

魔法使い「ちがいますぅー。15歳ですぅー。間違えないでほしいにゃー」

勇者「……はい」

兵士「勇者様。ほかの傭兵はどうされますか?」

勇者「ええと、では、戦士と僧侶のかたを」

兵士「はっ」

魔法使い「実はですにぇー。この二人も私の友達なんですよにぇー」

勇者「そうなんですか」

魔法使い「みんな、ちょーつよくって、かっこよくってぇ、かわいいよんっ☆」キラッ

勇者「はい」

兵士「勇者様。お連れしました」

勇者「どうも」

戦士「……」

勇者「始めまして」

戦士「……」

勇者「あの……」

戦士「……」

勇者「もしもし?」

僧侶「無駄よ。そいつ、感情がないから」

勇者「感情がない?」

僧侶「そう。過去に色々あってね」

勇者「そうなんですか?」

僧侶「そうよ。それはそうと。私に気安く話しかけないでくれる?」

勇者「はい」

兵士「勇者様。以上が志願した傭兵です。どうされますか?」

勇者「そうですね……」

魔法使い「私がいれば、世界平和は間違いなーっし!! ぴろんっ☆」

戦士「……」

僧侶「別に選ばなくてもいいわよ。薬草を買うついでに志願いただけだから」

勇者「一晩、考えてもいいでしょうか?」

兵士「ええ。それは勿論です」

勇者「この四人だけなんですよね?」

兵士「申し訳ありません。何分、有能な者は先の戦いで――」

魔法使い「勇者さまー!! よろしくにぇー!!」

戦士「……」

僧侶「行っちゃったわね」

魔法使い「……ねえ」

戦士「なんだ?」

魔法使い「このキャラきついんだけど」

戦士「バカ。僕たちみたいな凡庸な人間を勇者様が仲間にするわけがないだろ」

魔法使い「いや、だからって、キャラで非凡性をアピールしようっておかしくない?」

僧侶「私も、そう思います……」

戦士「勇者様の仲間になりたいって二人も言ってたじゃないか」

魔法使い「もっと他に方法あったんじゃないの?」

戦士「あったか?」

魔法使い「……ないけどね」

戦士「だろう?」

僧侶「しかしですね。考えてみれば長い旅になるんですし、このキャラを続けるのは無理があるような気も……」

戦士「実力は旅をしていれば自然と上がっていくだろうし、大丈夫」

魔法使い「そうなの……?」

兵士「――みなさん」

魔法使い「にゃにー? へーししゃんっ」

兵士「今日のところは帰ってもらって結構です。ご苦労さまでした」

僧侶「ふんっ。勇者だからって人を待たせるとか、何様よ。こっちは薬草を買いにきたついでなんだから、さっさと決めて欲しいわねっ」

翌日

兵士「おはようございます」

勇者「どうも。昨日の3人は?」

兵士「あちらの部屋にお集まりになっています」

勇者「分かりました」

勇者「――失礼します」ガチャ

魔法使い「あー! ゆーしゃさまー! おはようにゃん☆」キラッ

勇者「おはようございます」

僧侶「ちょっと。朝早くから呼び出して何の用なの? 私はこれから薬草を買いに行かなきゃならないんだけど?」

戦士「……」

勇者「少し迷いましたが、魔王討伐に志願したということはそれなりの覚悟と勇気があったからだと思います。ですので、是非とも俺に力を貸してください」

戦士「……」

魔法使い「やっほーい! もっちろんいいよー!! わたしぃー、勇者さまのために張り切っちゃうからにぇー!! イェイっ☆」

僧侶「ふん。ま、薬草を買いに行くついでに魔王をぶっ飛ばすつもりだったし、別にいいけどね。私の足だけは引っ張らないでよね」

勇者「はい。気をつけます」

王「そうか。出発するのか」

勇者「必ず、魔王を」

王「すまない……。お前一人にこんな役目を……」

勇者「いえ。自分には陛下がご用意してくれた武具と頼もしい仲間がいますから」

王「うむ」

戦士「……」

僧侶「ちょっとー、いつまで待たせる気なの? 置いていくわよ?」

魔法使い「もー。勇者さまが王様と話してるんだからぁ、もうちょっと待ってあげようにぇー」

僧侶「女を待たせるとかサイテーね」

勇者「どうやら待ちくたびれているようなので、そろそろ……」

王「頼む」

勇者「お任せください。魔王の首をここへ持ってきますよ」

魔法使い「きゃー、げろげろー。それってチョーグロいよー。私、そういうのいやぁー」

勇者「そうですか。では、やめます。――陛下!! 行って参ります!!」

王「皆の者!! 勇者が旅立つ!! 見送れ!!!」

兵士「ご武運を!!!」

兵士「勇者さまー!! がんばってくださいー!!!」

勇者「ありがとうございます」

魔法使い「イェーイ! 私のピカピカ魔法でモンスターなんて星にしちゃうんだからねぇー!!」

僧侶「うるさいわね。静かにしてもらえる?」

戦士「……」

勇者「みなさん。町の外に出れば魔物に襲われることもあります。気を引き締めましょう」

魔法使い「まっかせといてぇー! 私、一生懸命ガンバるからぁ! ひゃっほー!!」

僧侶「メンドクサいことは勇者に任せるから。よろしくね」

勇者「はい」

戦士「……」

勇者「長く辛い旅になると思いますが、よろしくお願いします」

魔法使い「はぁーい! がんばるにゃん☆」キラッ

僧侶「ふん」

戦士「……」

街道

勇者「……」

魔法使い「……」

僧侶「ふわぁ……」

戦士「……」

勇者「ん? えーと……。すいません」

魔法使い「はい!? にゃーに?」

勇者「次の町まではこの道を進めばいいんでしょうか?」

魔法使い「えー? 勇者さまって、方向ウンチっちですぅ?」

勇者「申し訳ありません。地図を見るのは苦手で」

魔法使い「あはっ。かっわいい~。まっかせて! 私が地図をみてあげるんるんっ!」

勇者「お願いします」

魔法使い「えーと……んーと……わかんにゃい!! てへぺろっ☆」

勇者「そうですか。困りましたね。確証も無しに進むのは危険ですし」

魔法使い「私が空からみてあげよっか?」

勇者「そんなことができるんですか?」

魔法使い「ちっちっちっですぅ。私の職業をわすれたんですかぁ?」

勇者「魔法使いでしょう?」

魔法使い「ぶっぶー。魔法少女ですぅー! もー、間違えちゃやーだっ」

勇者「それはどういうことですか?」

魔法使い「じゃじゃーん! まほうのほうきぃ~」

勇者「……?」

魔法使い「まだわかんにゃいの? これで空をとぶんだよっ。これ、魔法少女の鉄則なんだからぁ」

勇者「それは魔女のような気も……」

魔法使い「どっちでもいっしょっしょ! それじゃあ、見ててねっ!」

勇者「はい」

魔法使い「いっくよぉー! えいっ! えいっ!」ピョンピョン

勇者「……」

魔法使い「あれれー? おっかしぃなぁ。昨日まではできてたんだよぉ? ほんとだよぉ?」

勇者「そうですか」

魔法使い「えいっ! やーっ! すぐに箒が空を飛ぶ~」ピョンピョン

勇者「すいません」

僧侶「……なによ? 気安く話しかけないでって言ったでしょ」

勇者「できれば次の町までの道を見てもらいたいのですが」

僧侶「知らないわよ」

勇者「……あの」

戦士「……」

勇者「道、わかりますか?」

戦士「……合っている」

勇者「この道でいいんですか?」

戦士「……」コクッ

勇者「よかった。ありがとうございます。では、いきましょう」

魔法使い「おっおおー!!」ピョンピョン

勇者「そうか……この道でよかったのか……」スタスタ

魔法使い「……はぁ」

ガサガサ……

勇者「ん?」

魔物「――ガァァァウ!!!!」バッ

勇者「魔物か!!」

戦士「わぁ!?」

僧侶「きゃ!?」

魔法使い「おおっ」ビクッ

勇者「みなさん!! 気をつけてください!!」

戦士「……ああ」

僧侶「あ、あんたに任せるわ。勝手にやれば? 骨ぐらいは拾ってあげる」

魔法使い「きゃぁふん! 勇者さまぁ!! チョーこわいよぉー!! たすけてよぉ!!」ギュッ

勇者「なんとかしてみます。援護をお願いできますか?」

魔法使い「いいよー! アツアツの魔法できゅんきゅんいわせてやるんだからにぇー!!」

魔物「ガァァァァ!!!」

勇者「来ます!!」

魔物「アァァァウ!!!」

勇者「であぁ!!」ザンッ

魔法使い「いっくよぉー!! 火の妖精さん、私に力を貸してっ。アツアツ、グツグツ、アッチアチのぉ……ふぁいあー☆」キラッ

ゴォォォ!!

魔物「グゥゥゥ……!!!」

勇者「怯んだ!! チャンスだ!!」

戦士「……」ザッ

魔物「――ガァァァァ!!!」ザンッ!!

戦士「いたっ!?」

僧侶「あぁ!! すぐに治癒を!!」テテテッ

勇者「こんのぉぉ!!」

魔物「ガァァ!!」

勇者「せぇぇい!!」ザンッ!!!

魔物「アァァァ……!!!」

魔法使い「やったぁー!! 勇者さまつおーい!! かっこうぃー!!」キャッキャッ

勇者「ふぅ……。よし」

魔法使い「やったにぇー! 勇者さまっ」

勇者「貴女のお陰です。助かりました」

魔法使い「てへっ。うれしいなっ。今日は勇者さまに初褒められ記念日にしよっと!」

勇者「そうだ。傷は大丈夫ですか?」

戦士「……ああ」

勇者「そうですか。先ほど「痛い」と叫ばれたみたいでしたから」

戦士「……」

僧侶「ちょっと、こいつは感情がないのよ? そんな叫ぶとかありえないから」

勇者「感情がなくても痛覚はあるんじゃ……」

僧侶「喜怒哀楽がないの。だから、苦痛を苦痛とは思わない。感情がないってそういうことなんだから」

勇者「なるほど。では、あの声は魔物の声だったということですか」

僧侶「そういうことよ。勘違いしないでよねっ。ふんっ」

勇者「申し訳ありません。怪我も大したことがなければ先を急ぎましょうか。夜になれば魔物と遭遇しやすくなりますし」

魔法使い「そんなのこわいにゃん。はやく、町にいこうにぇー」

町 宿屋

勇者「では、また明日。何かあれば向かいの部屋まで来てください」

魔法使い「ふわぁーい! 勇者さま、おやすー☆」キラッ

僧侶「早く寝なさいよ。寝坊したら置いていくからね」

戦士「……」

勇者「はい。気をつけます。おやすみなさい」

バタン

戦士「……行ったか?」

僧侶「うーん……。はい。部屋に入ったみたいです」

魔法使い「あー!!! もう、いやぁー!!!」

戦士「何を言っているんだ。結構、ノリノリだったじゃないか」

魔法使い「本当にそう思ってるの!? バッカじゃないの!?」

僧侶「勇者様、私の言葉で不快になってないでしょうか……」

戦士「それより、僕の設定だと勇者様と話せないんだが、どうしたらいいと思う?」

魔法使い「いや、知らないわよ。あんたが決めたんでしょ、それ。感情がないほうがミステリアスだって言って」

翌朝 町

勇者(……思いのほかよく眠れた。さてと、みんなはもう起きているのかな)

勇者「……」コンコン

『はぁ~い』ガチャ

僧侶「だれですかぁ?」

勇者「ああ、いえ。起床されたかなと思いまして……」

僧侶「きゃぁ!!」バタンッ

勇者「どうかしたんですか?」

勇者(俺に何か問題があったのか……?)

ガチャ

僧侶「ちょっと、あんたぁ?」

勇者「は、はい」

僧侶「勇者だかなんだか知らないけど、ちょっとは遠慮してくれない? 女の子の部屋にいきなり来るとか、なに考えてるの? ありえないわよ」

勇者「も、申し訳ありません。以後、気をつけます」

僧侶「ふんっ。朝食ならもう少し待っててよね。女の子は色々と準備があるんだからっ」

バタンッ

僧侶「……びっくりしたぁ。てっきり、ルームサービスかと」ドキドキ

魔法使い「ふわぁぁ……おはよー」

戦士「ねむ……。なにかあったのか?」

僧侶「あの! やっぱりやめませんか!?」

戦士「どうしたんだ?」

僧侶「こんなの勇者様を不愉快にさせるだけですし、そのうちボロが出ますし……。こういうことはまだ引き返せるうちに……」

戦士「何をしても平凡な僕たちが勇者様の仲間になるためには、雰囲気だけでも只者ではない感じにしなきゃいけない。普通の人間を魔王討伐の旅に連れて行くと思うのか?」

僧侶「その考えは、わかりますけど……」

戦士「実力がついてから明かせばいいだけだ。それまではこの普通ではない人を演じる。そう決めたはずだ」

僧侶「……」

戦士「勇者様と一緒に旅がしたいだろ? 僕だってしたい」

僧侶「私も……したいです……」

戦士「今は我慢だ。旅を続けてさえいれば僕たちは強くなれる。強くなったとき、勇者様の仲間だと胸を張れるようになったとき、本当の僕たちを伝えればいい。それだけだ」

僧侶「……わかりました。がんばります」

食堂

勇者「……」

魔法使い「おはおはー! 勇者さまっ! 今日もいい天気になったにゃん☆」

勇者「ああ、おはようございます」

魔法使い「もうお腹ペッコペコだよぉー。ごはんにしよ! ごはん!」

勇者「そうですね。ここはバイキング形式なので、好きなのをとって良いみたいですよ」

魔法使い「わぁー! ラッキー! それじゃあ、お腹いっぱいになれるにぇー!! でもでも、たべすぎるとぉ、ブタさんになっちゃうから食べすぎ注意だお。これ魔法少女の鉄則ぅっ☆」

勇者「はい」

僧侶「どれも私の口には合わなさそうね。こんなところで朝食なんて生まれて初めてだわっ」

勇者「……」

戦士「……」

勇者「何か取って来ましょうか?」

戦士「……」

勇者「取ってきますね」

戦士「……」

魔法使い「どれにするかまよっちゃうにゃー。これもいいしぃー、あれもいいしぃー。あ~ん、まよっちゃう~☆」

客「すいません。取らないなら、どいてください」

魔法使い「あ、はい。すいません、どうぞ」

勇者「――お待たせしました」

戦士「……」

勇者「何がいいのか分からないので、とりあえずサラダとパンを取ってきたのですが」

戦士「……」

僧侶「なんでも食べるわよ。ほっといたら?」

勇者「好き嫌いはないんですか?」

僧侶「だから、感情がないんだっていってるでしょ。何回言わせる気よ」

勇者「そう……でしたね……。申し訳ありません」

戦士「……」

魔法使い「イェーイ!! こんなにゲットしちゃったにょん!! 勇者さまの分もあるからにぇー!! はい、あ~ん」

勇者「いえ、俺はもう食べたんで結構です。ありがとうございます」

魔法使い「ふぇぇ~ん。勇者さまにふられたぁ~。ショックぅ! もう今日はやけ食いの日にしちゃうんだもんにぇー!」

勇者「お世話になりました」

店主「また来てください」

勇者「はい」

店主「ああ。そうだ、旅の人。ここより西へは行かないほうがいいですよ」

勇者「……なにかあったんですか?」

店主「先日、魔王の手下が進軍してきたらしくて、かなり危険らしいんですよ」

勇者「それは……」

店主「だから、比較的安全な北へ行くことをオススメします。とはいえ、今の時代に安全な街道はありませんがね」

勇者「……そうですね。情報ありがとうございます」

店主「いえいえ。またのお越しをお待ちしていますよ」

勇者「はい」

僧侶「ちょっと、いつまで待たせる気なの? 早く出発するわよ」

勇者「そうですね。申し訳ありません」

魔法使い「勇者さまっ。今日はどこにいくにゃん?」

勇者「北へ行きましょう。半日以上はかかるでしょうが、小さな村もあるみたいですし。今日はそこを目指します」

街道

魔法使い「うーん……はぁ……」

僧侶「……」

戦士「……」

勇者「――みなさん」

魔法使い「は、はぁい! にゃーに? にゃーに? ゆーしゃしゃまー☆」

僧侶「なによ。とっとと歩きなさいよ」

戦士「……」

勇者「途中、森があるみたいなので警戒していきましょう。森には多くの魔物が住み着いているみたいなので」

魔法使い「あいあ~い! 私のミラクルマジックにおっまかせだよっ☆」

僧侶「どうでもいいわよ。魔物を倒すのは勇者の役目でしょ?」

勇者「そうですね」

戦士「……」

勇者「いえ、でも、貴女も是非とも前衛にいてほしいんですが」

戦士「……了解」



勇者「くれぐれも気を緩めないでくださいね」

魔法使い「わぁー、ちょーブキミにゃんだけどぉ。こわい、こわいぃ~こわ~いっ☆」

僧侶「草木が鬱陶しいわね。蒸し暑いし。さっさと出ましょうよ」

戦士「……」

勇者「みなさん。あまり声を出すと――」

ガサガサガサ……

戦士「ひっ」ビクッ

魔法使い「なんかいる?」

僧侶「……」ギュッ

魔法使い「ちょっと、離れなさいよ」

僧侶「別に、いいじゃないですか、これぐらい。ふんっ」

勇者「……少し様子を見てきます。みなさんは待っていてください」

魔法使い「ああ、ちょっとぉ! 勇者さまぁ! おいてかないでぇ☆」

戦士「……」

僧侶「行っちゃいましたね……」

戦士「……」

魔法使い「あんた、キャラになりきってるのか怖いから黙ってるのか、どっちなの?」

戦士「……うるさいぞ。食べられたいのか」

僧侶「うぅ……」

ガサガサガサガサガサ……

魔法使い「あぁー、勇者しゃまぁー。わたしたちをぉ、こんなところに置いていくなんて、ひっどいですぅ! ぷんぷんっ☆」

魔物「ガルルルル……!!!」

戦士「きゃぁ!?」

魔法使い「マジ?」

僧侶「ひぃぃ……」

魔物「ウゥゥゥゥ……!!!」

魔法使い「ちょっとあんた、前衛でしょ。ほら、いきなさいよ」ググッ

戦士「そんなこと言っても、勇者様いないし……!!」

僧侶「治癒ならまかせてください!!」

魔物「オォォォォォォ!!!!!!」

戦士「ひっ!」ビクッ

魔法使い「来るわよ!!」

魔物「ガァァァァ!!!!」ダダダッ

戦士「く、訓練どおりにやれば……!! やぁぁ!!!」ブンッ

魔物「ウガァァァ!!!」サッ

戦士「そんな、避けられた……!?」

魔法使い「所詮は獣でしょ。炎見たら、ビビっちゃうでしょ!! ファイアァ!!」ゴォォォ

魔物「ウゥゥゥ……」

魔法使い「トドメを!!」

戦士「よし! せやぁー!!!」ザンッ!!!

魔物「オォォ……ォォ……」

僧侶「やりました!!」

戦士「はぁ……はぁ……」

魔法使い「まぁ、これぐらいはできないとね。この先、死んじゃうかもしれないし」

魔物「オォォォ!!!!」

勇者「ふっ!!」ザンッ

魔物「グロロ……ォォ……」

勇者「こんなものか」

「きゃぁー!!! いやぁー!!!」

勇者「この声は!? いけない!!」ダダダッ

勇者「――みなさん!! 大丈夫ですか!?」

戦士「あ――。……」

魔法使い「き、きゃぁー!!! もうやばいよぉー!! ゆうしゃしゃたまぁー!! たすけてにゃぁーんっにゃんっ☆」オロオロ

僧侶「ちょっとぉー。早く倒しなさいよー。怪我したって私が治してあげるんだから、思いっきりやりなさいよねぇ」

魔物「ガァァアァ!!!!」ダダダッ

戦士「……!!」ビクッ

勇者「今、助けます!!」

魔法使い「勇者たまぁー。がんば、れぇーい☆」キラッ

勇者「はぁぁ!!」ザンッ

勇者「これで最後か……」

魔物「オォ……ォ……」

魔法使い「勇者さまぁ、さっすがぁ! チョーかっこいいぴろんっ」キャッキャッ

僧侶「あんた、勇者でしょ? 女の子を危険な目にあわせといて、謝罪の一つもないわけ? ありえないんですけど」

戦士「……」

勇者「申し訳ありません。実は少しだけ貴方達を試してみました」

魔法使い「ふぇ?」

戦士(キャラ作ってるの、バレたか……)

僧侶「試すってなにを?」

勇者「ここより西の地で魔王の手下が暴れているらしいのです」

魔法使い「それでぇ? それでぇ?」

勇者「このまま放っておけば、魔王の軍団はこちらまで進んできてしまう。そうなれば、この国は終わります」

僧侶「そうね」

勇者「だから、その魔王の一味を倒しに行きたいと考えています」

魔法使い「それでどうして、私たちをおいてけぼりにしたのぉ? もうね、プンプンなんだよぉ?」

勇者「はっきり言って、俺が3人を守りながら戦うことは難しいでしょう」

僧侶「はぁ? あんた、勇者でしょ?」

勇者「それでも、自分の身は自分で守って貰わないといかない場合もあるでしょう」

勇者「故にこうして貴方達だけで戦ってもらいました。何も言わなかったのは不測の事態にも対処できるのかを見てみたかったからです」

魔法使い「なによぉー!! 抜き打ちテストなんて、きいてないよぉ!?」

勇者「申し訳ありません」

僧侶「……それで?」

勇者「なんですか?」

僧侶「私たちは合格なの?」

勇者「見たところ、心配ないようですね。少なくとも逃げ出せるだけの実力はあると思います。それができれば負けはしません」

魔法使い「うわぁーい!! ごーかくだぁー! うれしいな! うれしいなっ!」キャッキャッ

戦士「……」

僧侶「……そ、それは、あの、実力を認めてくれたって、ことで、いいのです……わね?」

勇者「ええ。このまま西へ行きましょう。みなさんとなら、きっと魔物に勝つこともできるでしょう」

戦士「……」

勇者「では、西の地を目指します。急ぎましょう」

魔法使い「うぇーい☆」

僧侶「あー、もうメンドクサいわね。こっちは薬草を買いに行くついでで付き合ってやってんだから、あまり連れまわさないでくれる?」

勇者「すいません」

戦士「……」

勇者「あの」

戦士「……」

勇者「貴女の力が必要です。過酷な戦いになると思いますが、俺の背中を守ってくれますか?」

戦士「……」

勇者「お願いします」

戦士「……分かった」

勇者「よかった。それが聞ければ十分です。ありがとうございます」

戦士「……」

魔法使い「よぉーしぃ! 箒で空を飛んで偵察にいってくるにぇー!! えーい、えーい」ピョンピョン

勇者「はい」



勇者「みなさんはもうテントで休んでください。野営時の見張りは俺が引き受けますから」

魔法使い「いいのぉ? いっしょにねよぉよぉー、勇者さまぁー☆」

僧侶「何言ってるのよ。勇者って言っても男なんだから、夜這いされちゃうわよ」

勇者「そんなことしませんよ」

僧侶「男はみぃーんな、そういうのよ。ふんっ」

魔法使い「それじゃあ、勇者さまぁ。おやすみにゃんっ☆」

僧侶「任せたわよ」

戦士「……」

勇者「はい。おやすみなさい」


魔法使い「――もうやめない? 勇者様も認めてくれたし」

僧侶「ですよね……」

戦士「……何も分かってないな、二人とも。勇者様は飽く迄も『自力で逃げるだけの実力はある』としか言っていない。僕たちに最低限の戦闘力があるかどうかを調べただけだろ」

魔法使い「そうなの……?」

戦士「凡人だってバレたら、町に帰されるに決まってる。これは遊びじゃないんだから」

僧侶「しかし、貴女の力が必要ですって面と向かって言われたじゃないですか」

戦士「……でへへ。まぁ、そうなんだけどさぁ……いやぁ、もう、口元緩みっぱなしで……えへへ……」

魔法使い「もう、正直に話しましょうか。私だってあんなキャラ演じたくないし」

戦士「ああ、いや、待て。なら、訊いてみたらいい。凡人でも魔王討伐の旅に加えるのかを。それで凡人でも受け入れるというなら、打ち明けてもいい」

魔法使い「そうね……。誰が訊きに行く?」

僧侶「キャラ的には貴女が行かれたほうが」

魔法使い「まぁ、そうね。それじゃ、行ってくるわ」

僧侶「お願いします」

魔法使い「――勇者さまぁー」テテテッ

勇者「どうしたんですか? 休まないと明日が辛くなりますよ?」

魔法使い「なんだか、ねむれなくってぇ。魔法少女も悩みが多くって、困っちゃうの。てへっ」

勇者「みなさんには壮絶な過去でもあるのでしょうね」

魔法使い「ねえねえ、勇者様? あのね、もしも私がぁ、15歳の天才魔法美少女じゃなくって、ただのふっつーの魔法使いだったとしてもぉ、仲間にしてくれたぁ?」

勇者「人柄だけで選出したかどうかって話ですか。それはないでしょう。実力がなければ、無様に死ぬだけですから。やはりある程度の能力は有していないと困ります」

魔法使い「あ……うん、だ、だよにぇー。そうだよにぇー。勇者さまは才能の塊だもんにゃー。仲間もつおくないとだめだよにゃー。テヘペロっ。にゃはははっ☆」

魔法使い「ただいま」

戦士「どうだった!?」

僧侶「勇者様は寛大でしたか?」

魔法使い「……寝ましょう。明日も早いんだから」

戦士「……」

僧侶「まぁ、そうですよね……」

戦士「みんな。勇者様の足を引っ張らないように心がけろ。それが僕たちの努めだ」

僧侶「あとキャラを崩さないように、ですね」

魔法使い「あぁ……もうやぁ……。なにが、永遠の15歳だっつーの。痛すぎるわ」

戦士「君だってそれいいって言ったじゃないか」

魔法使い「こんなにも辛いとは思わなかったの!!」

僧侶「ケンカはやめくださぁーい」オロオロ

魔法使い「あんたはまだいいわよね!! 感情ないからただ黙ってればいいんだしぃ!!」

戦士「バカ。感情がないってことは驚いたりもできないし、お礼だって言えないんだ。まだそっちのほうが楽だろ」

僧侶「私なんて心にもない罵詈雑言を口にしないといけないんですけど……。勇者様、絶対に私のこと嫌いになってますよ……」

数日後 街道

勇者「……見えてきました」

魔法使い「わぁーい、まっちだぁー。これでお風呂にはいれるぅーん☆」

僧侶「早く行きましょう。体が気持ち悪くてしかたないのよね。やっぱり、拭くだけじゃダメね」

戦士「……」

勇者「そうですね。急ぎましょう。俺も疲れましたし」

魔法使い「えい、えい、えーい!!」

勇者「……」

魔法使い「あー! えいえいおーだったにぇー。間違えちゃった。てへぺろっ☆」

勇者「はい」

僧侶「……ちょっと、町の入り口……誰か、倒れてない?」

勇者「え?」

兵士「……うぅ……ぅ……はぁ……はぁ……」

勇者「どうしたんですか!?」

兵士「あぁ……? あ、あなたは……?」

僧侶「傷はないみたいです。……わね! ふんっ」

兵士「ふぅ……はぁ……」

勇者「すいません、水を」

戦士「……はい」

勇者「ありがとうございます。さ、これを飲んでください」

兵士「あぁ……ぁ……!! す、すまない!! んぐっ……んぐっ……!!」

魔法使い「にゃにかあったのかにゃぁ?」

兵士「もう……三ヶ月以上前になりますが、魔王の4幹部の一人である魔物がこの国をたった1週間で支配してしまったのです……」

兵士「その魔物は暴力で我々を屈服させ、奴隷にし、ずっと……満足な水すらも与えられず……働いています……」

勇者「なんてことだ……」

兵士「もう何人もの死者が……。ですが、あの魔物に敵う者が……もう……おらず……うぅ……」

魔法使い「なにそれー。ひどすぎぃ! プンプンを通り越して、プーンプンだよ! プーンプン!!」

勇者「その魔物とは……?」

兵士「それは――」

「ブーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!!!! おらぁ!!! 人間共ぉ!!! 汗水流して、俺様のために働けぇ!!!」

兵士「まずい。隠れてください」

勇者「あれが……?」

僧侶「なに、あの筋肉マン。私は苦手だわ」

戦士(無駄な筋肉が多いな。魔物からすれば理想なのかもしれないが)

兵士「あの魔物がこの国を支配した暴君イフリートです」

イフリート「んんー。どうだぁ? 俺様の家はいつ完成するんだぁ?」

手下「あと1週間ほどでできあがるかと」

イフリート「遅いなぁ。――おい、そこのお前」

町民「は、はい……!」

イフリート「俺様の家は、あと三日で仕上げろ」

町民「そ、そんな……むりです……。これでも皆、寝ずに……」

イフリート「あっ、あっ、あぁー!!! 奴隷が口答えしたぁぁ!!! あぁぁ、こりゃあ、死刑にするかぁ!!! おぉぉい、つれてけ」

手下「ケーッケッケッケ。こっちにこい」グイッ

町民「あぁ……ぁぁ……」

イフリート「生きてれば、いつかは!! いいことがあるのになぁ!!! ブーッヒッヒッヒッヒ!!!! ああ、それから、人間のメスをそろそろ貰っとくか。今のが壊れかけてるんだぁ」

女性「ひぃ……!!」

イフリート「お前でいいかぁ。どうせ、用があるのは首からしただけだしなぁ。ブッヒッヒッヒッヒ!!」

女性「いやぁ……!!」

イフリート「いやじゃねえよ!! 奴隷は主に従ってれりゃあ良いんだよ。それで全てが上手くいくんだぁ!!!」

女性「うっ……うぅ……」

イフリート「よし。巡察もこれぐらいにして、もどるかなぁ」

手下「はぁい。ところで、あの、壊れかけの人間は……」

イフリート「ああ、好きにしろぉ。もう飽きたしな」

手下「ケッケッケッケ!! ありがとうございますぅ!!」

イフリート「ブッヒッヒッヒッヒ!!!」

兵士「……」

勇者「……っ」ギリッ

魔法使い「……」

僧侶「人の命をまるで玩具のように……」

戦士「気分悪い」

兵士「炎と暴力を司る魔物と聞きました。誰もあいつには……」

勇者「奴はいつもどこにいるんですか?」

兵士「え……? あ、ああ……。町の南側にある大きな屋敷です。元は町長の屋敷だったのですが……」

勇者「ありがとうございます」

兵士「な、なにを……?」

勇者「奴を倒します」

兵士「や、やめてください!!」

魔法使い「どうしてにゃぁー!?」

兵士「もし、奴を怒らせたら……きっと、この町の住人は……皆殺しに……」

勇者「……」

兵士「いつか、きっと……奴を倒す絶好の機会があるはず……。それまで我々は暴力に耐えて……」

勇者「その機会は今です」

兵士「え……?」

勇者「暴力に怯え、屈するのは、今日で終わりしましょう」

兵士「な、なにをいって……。あなたは……一体……?」

町 廃屋

魔法使い「マジで戦うんだ……。あんなヤバそうなやつと……」

戦士「……」

僧侶「あの、大丈夫ですか?」

戦士「……ま、まぁ……」

魔法使い「ちょっと、震えてるわよ?」

戦士「き、きにしないで……くれ……」

魔法使い「大丈夫? 流石に今回ばかりはキャラは封印してもいいと思うけど――」

勇者「――みなさん、お待たせしました」ガチャ

魔法使い「うぇーん!! やっぱり、こわいよぉー!! 勇者さまぁー!! あんな化け物にかてるわけないよぉー」ブルブル

僧侶「薬草を買うついでの仕事にしては、中々の労力よね。特別手当とかあるんでしょうね、全く」

戦士「……」

勇者「ああ、ええと。もし戦いたくないというなら、ここにいてください。万が一、敗北した場合は命を落とすでしょうから」

魔法使い「ふぇぇぇーん!! しにたくにゃぁーいっ☆」

戦士「……」

僧侶「で、何をしてきたのよ。女の子をこんな汚い場所に待たせておいて、何もないじゃ許さないんだからね」

勇者「屋敷周辺の状況を調べていました。想像通り、監視警備は甘いです」

魔法使い「そうにゃの?」

勇者「魔物の数は結構いますけど、頭を押さえてしまえば問題はないと思います」

僧侶「それで、どうやって頭をおさえるの?」

魔法使い「こーやって?」ググッ

戦士「……いたい」

勇者「屋敷を燃やしてしまいましょう」

魔法使い「え?」

僧侶「それってどういう……」

勇者「奴の住処を燃やし、そこにいるイフリートの手下などを一網打尽にし、イフリートも外へ出す」

魔法使い「まって。あの屋敷には捕まった人とかがいるんじゃ……」

勇者「町を救うためです」

戦士「……!」

僧侶「そ、そんなこと……」

屋敷

イフリート「ブヒヒヒヒ!!! ふぅー。少し休憩するかぁー」

手下「イフリート様」

イフリート「どうした?」

手下「この者が面白い情報を持ってきてくれました」

イフリート「んん?」

兵士「あ……へへ……」

イフリート「なんだぁ?」

手下「なんでもイフリート様を倒そうと外からやってきた旅人がいるそうです」

イフリート「あぁん? なにぃ?」

手下「今、廃屋で作戦を立てているようです」

兵士「へへ……あの……イフリート様に喜んでもらおうとおもって……」

手下「今、下の者が偵察に向かってます」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!! それは面白い!!! お前、よく知らせてくれたなぁ!!!」

兵士「そりゃあ……はい……。ですので……あの……今後はもう少し水と食糧を私に……恵んでいただけると……へへ……」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒ!!! いいだろう!! いいだろう!! お前のそのゲスさは愛らしいからなぁ!!」

兵士「そ、それはどうも……へへ……」

魔物「イフリートさま」

イフリート「ブッヒッヒッヒ!! どうだった?」

魔物「問題の旅人はどうやら、この屋敷を燃やしてしまおうと考えているようです」

イフリート「燃やす? 燃やすだって!? ブーッヒッヒッヒッヒッヒ!!!!! ブヒヒヒヒ!!!! この俺様を燃やすのかぁ!? ブヒヒヒヒ!!!」

イフリート「なんて頭の悪い人間だ。怒りを通り越して哀れになるなぁ」

魔物「どうしますか? 今すぐ仕掛けますか?」

イフリート「そうだなぁ……。その旅人の中に、メスはいたのか?」

魔物「はぁい」

イフリート「よし。ならば――」

兵士「あ、あの……」

イフリート「なんだぁ? まだいたのか?」

兵士「折角、相手の手の内が分かっているんですから、ここは……あの……泳がせてみてはどうですか……? 逆に罠にはめてやれば、やつらの絶望も一入でしょうし……」

イフリート「ふふん。確かに。人間が暴力と絶望に怯える様は最も愛いものだ。その表情を見ながら、メスを……ブヒヒヒ……。よし、そうするか……」



イフリート「人間共はいつ仕掛けてくる?」

手下「0時丁度のようですので、あと1時間ほどです」

イフリート「ブッヒッヒッヒッヒ!!! 手筈は整っているな?」

手下「無論です。部下の配置は完全に替えています。もし屋敷に火を放とうとすれば、すぐに捕まえられます」

イフリート「オスはどうでもいい。メスだけは首より下は傷つけるなよ」

手下「わかっておりますとも」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒ!!!! 絶望に歪む顔が楽しみだぁ!!! ブーッヒッヒッヒッヒッヒ!!!!」

手下「ケッケッケッケッケ!!! まことにその通りですねぇ!!!」

兵士「……」

イフリート「お前も、もっと喜べ」

兵士「は、はい……あははは……はは……」

イフリート「ブヒヒヒヒヒ!!!!!」

兵士「は、はは……」

兵士「……」

明朝 廊下

兵士「……」ガチャ

兵士「こちらへ」

勇者「どうも。魔物たちは?」

兵士「皆熟睡しています。もう諦めたと高を括っているようでした」

勇者「申し訳ありません。とても危険な役目を……」

兵士「いえ。旅のお方を危険に晒してまで、生きようなどとは思っていませんから」

勇者「信じてくれて、感謝します」

兵士「言葉は悪いですが、もう我々は藁にもすがる思いなのです」

勇者「……では、みなさん」

魔法使い「はいにゃ!」

僧侶「わかってるわよ。奴隷の人たちを助けてだして、あんたに合流すればいいんでしょ?」

勇者「危なくなったら俺を置いて逃げてください」

戦士「……了解」

勇者「では、ご武運を」

勇者「ここか……」

勇者「……」ガチャ

勇者「……いない?」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒッヒ!!!!!」

勇者「!?」

イフリート「ようこそぉ!!! 俺様の屋敷へぇ!!!」ドゴォ

勇者「がはっ!?」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒ!!!!!」

勇者「ど、どうして……」

イフリート「俺様は賢いから、人間のいうことなんて、信じないんだよぉ!!! ブーッヒッヒッヒッヒ!!!!」

勇者「……」

手下「ほらよ。こいつから聞いたぜ、全部なぁ。ケッケッケッケッケ!!!」ドンッ

兵士「ぐっ……もうしわけ……ない……」

イフリート「お前たちの作戦はお見通しだぁ!! さぁて、オスには興味ないんだよぉ!! この場で死刑にしてやるぅ!!! ブーッヒッヒッヒッヒ!!!!!」

勇者「くそ……」

イフリート「奴隷たちを助けに行ったメスは俺様がちゃんと可愛がってやるからよぉ、安心しろぉ。ブーッヒッヒッヒッヒ!!!!」

兵士「くっ……」

勇者「……」

手下「ケッケッケッケッケ!!!!」

イフリート「いいぞぉ!! その絶望に落ちた顔!!! 可愛いぜぇ!!! 人間で唯一良い所はそこだなぁ。なぁ!?」

手下「その通りです」

勇者「……お見通しだというから、負けたと思ったのに」

イフリート「あぁ?」

勇者「見通せてなかったか」

イフリート「はぁぁ?」

勇者「いや、仮に全て読まれていても、ここまで来たなら俺たちの負けはない」

手下「なにいってんだよ」

勇者「俺の仲間は普通じゃない。こうなれば勝ちだ」

イフリート「負け惜しみを――」

「そのとーり!!!!」

イフリート「だれだぁ!?」

魔法使い「愛と正義の魔法少女!!! ただいま、参上!! 悪い子にはおしおきしちゃうにゃんっ☆」

イフリート「……」

魔法使い「にゃんっ」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒ!!! ゴミが一つ増えたところでなにができる!!!」

手下「イフリートさま!!! あぶない!!」

イフリート「あん?」

戦士「……」ザンッ!!!

イフリート「ぬぁぁ!!! なにぉぉ!!!」

勇者「お前を倒すために戦力を分散させるわけがないだろ」

イフリート「ブーッヒッヒッヒ!!! だが、ここに入り込んだ時点でお前達は袋のネズミだ!!!」

魔法使い「氷の妖精さんっ、私に力を!! ヒエヒエ~、カチカチ~、サッムサムのぉ~、あいすにーどるぅ!」ヒュン

イフリート「きくかぁ!!!」パキィン

勇者「はぁぁぁ!!!」ザンッ!!!

イフリート「がぁ!! ブッヒィィィ!!! 許さん!!! なぶり殺しにしてやる!!! 部下を全員、ここへあつめろぉ!!!」

地下室

魔物「おい!! 侵入者がイフリート様の部屋にいるらしい!! 急げ!! 加勢するぞ!!」

魔物「「おぉー!!」」

女性(誰かが……戦って……?)

僧侶「……誰もいませんね?」キョロキョロ

女性「え!?」

僧侶「しーっ。怪我はありませんか?」

女性「あ、あの……」

僧侶「貴女を助けに来ました。他に捕らえられている人はいますか?」

女性「……今は……もう……私だけです……」

僧侶「……わかりました。急ぎましょう」

女性「でも、ここから逃げるなんて不可能です。魔物も多いですし……」

僧侶「大丈夫です。燃やしますから」

女性「燃やす……?」

僧侶「はい」

手下「お前たちもイフリート様を援護しろ!!!」

魔物「「オォォォ!!!」」

勇者「邪魔だぁ!!」

魔物「ガァァァァ!!!!」

戦士「……ふっ!」ザンッ

イフリート「ブッヒッヒッヒッヒ!!! まずはお前からだぁ!!!」

魔法使い「きゃぁー!!! 勇者さまぁー!! ヘルプっ! ヘルプ!! ヘルプっぷー☆」

イフリート「潰すのは顔だけにしといてやるよ!!! 俺様、紳士だろぉ!!! ブッヒッヒッヒッヒ!!!!」

魔法使い「やぁー!!」タタタタッ

イフリート「逃がすかぁ!!!」

魔法使い「うっ……!?」

勇者「せぇぇい!!!」ギィィン!!!

イフリート「邪魔をするなぁ、オスがぁ!!!」

勇者「顔は女性の命だ。鬼畜にはわからないだろうが」

イフリート「この……!! まずはその生意気な口をきけなくしてやるぅ!!! 焼け死ねぇぇ!!!」ゴォォォ

勇者「……!」

戦士「このぉ!!!」ザンッ!!!

イフリート「ごぉぉ!!! ぎ、ぎざまぁ……!!!」

勇者「もう一撃だ!!」ザンッ!!!

イフリート「ふぐぅ……!!! バカな……!! なんだ……この力……!!」

魔法使い「勇者さま、つおーい!!」

イフリート「勇者……? 勇者だと……?」

戦士「……」ガクガク

魔法使い「あー!! うしろ、うしろー!! ヤバいよー!!!」

戦士「……え?」

魔物「ガァァァ!!!!」

戦士「しまっ……!!」

魔法使い「ふぁいあー☆」ゴォォ

魔物「アァァ……」

戦士「あ、ありがとう」

イフリート「勇者……ブヒヒヒ……!! なるほど……!! ならば!! ここで殺しておく必要があるなぁ!!!!」

勇者「……」

手下「何をしている!! たった数人の人間あいてに……!!」

ゴォォ……ゴォォォ……

手下「ん? な、なんだ!?」

僧侶「――火はつけたからねぇー!!!」

勇者「よし!」

戦士「……」

魔法使い「もーおそーい!! ぷんぷんっ☆」

イフリート「なんだと……?」

勇者「これだけの敵をまともに相手はできない。だから、燃やす作戦はどうしても必要になる」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒ!!! 逃げられると、思っているのかぁ!?」

勇者「二人は早く脱出を!!」

魔法使い「勇者さまは!?」

勇者「時間を稼ぎます。行ってください」

戦士「……」コクッ

魔法使い「勇者様!! 死なないでにぇー!!」

勇者「はい」

イフリート「ブーッヒッヒッヒッヒ!!! 無駄だ無駄だ!!! 勇者と言えども俺様たちを倒すことなど、できはしまい!!!」

勇者「俺の先祖は、魔王の力を封じ込めることに成功した」

イフリート「ブヒ?」

勇者「人間にして魔王と戦うだけの能力があったから、それだけのことができた。そして、来るべきときのために勇者の血族はお前達を殺すための技術を磨き続けてきた」

イフリート「……!!」

勇者「お前に苦戦するようでは、魔王には勝てない」

イフリート「この……この……!! 人間の分際でぇぇぇ!!! ブヒィィィィィ!!!!!」

勇者「くたばれっ!!!」ザンッ!!!

イフリート「がっ……あぁ……!! く、くそ……まさか……まだ……ゆうしゃを……のこして……い、たなんて……!!」

勇者「……」

イフリート「だが……おれさまを、たおしたことで……おま、えは、やつ、に、ねら、われる……ぶひ、ぶひ……やつには、かて、ない……オス、で……は……ぁ……」

勇者「脱出しないと」

手下「ひぃぃぃ!!! イフリートさまがぁ……!!! まずい……にげないとぉ……!!!」

手下「これは魔王様にご報告をしなければ……!!!」

兵士「まて……」

手下「き、きさまはぁ……!!」

兵士「よくも……!! 私の娘を……!!!」

手下「な、なんのことだ……!?」

兵士「ふんっ!!!」バキィッ

手下「ぐへっ!!」

兵士「はぁ……はぁ……」

手下「き、きさま、ぐらいなら……」

兵士「……」

手下「キシャー!!!!」

勇者「はぁ!!」ザンッ!!!

兵士「あ……」

勇者「逃げましょう」

「やったぁー!!! 暴君がしんだぁー!!!!」

「悪夢がおわったんだぁー!!!!」

魔法使い「魔物たちは?」

僧侶「逃げ出したみたいです」

戦士「……勇者様って、やっぱりすごいな」

魔法使い「私たちなんて必要ないのかもね」

僧侶「で、でも、サポートは重要だと思うんです」

戦士「勇者様がそれを欲してるかどうかだな」

勇者「――みなさん」

魔法使い「あぁー!? おぉー!!! 勇者さまぁー!! 無事だったんだぁーっ。よかったぁ。私ね、とっても、とーっても心配したんだにゃんっ」

勇者「はい」

僧侶「全く。一人で戦うとか、こっちの身にもなってほしいわね」

勇者「心配させてしまってもうしわけありません」

僧侶「別に心配なんて、これっぽっちもしてないけどね」

勇者「そうですか」

宿屋

兵士「――怪しい情報を相手に掴ませ、裏を読ませることでかく乱させるとは」

勇者「単純な作戦ですけど、あの魔物はあまり頭が良くなさそうだったので」

兵士「とはいえ、あのイフリートを倒せる実力がなければ、どんな奇策でも通用はしなかったでしょう。流石は勇者様です」

勇者「それより、貴方も……」

兵士「この町の人間には私と同じ境遇の人は多いですよ。理不尽に子どもや妻を殺された人は……」

勇者「……」

兵士「でも、これからまた頑張れます。勇者様、本当にありがとうとうございました」

勇者「いえ。貴方の協力がなければ上手くはいきませんでしたから。いくら俺でも正面突破は厳しいですからね」

兵士「実は不可能ではなかったのでは?」

勇者「いや、楽に倒せるなら楽な方法を選ぶのは当然でしょう」

兵士「ははっ。なるほど。貴方はすごい人だ」

魔法使い「勇者さまぁー!! もしもしーん!! いるー!?」

勇者「どうしました?」

魔法使い「町のみんながお礼したいっていってるにゃん!! いこうよぉー、イェイ、レッツ、カーニバルゥ☆」

町 広場

「今日、勇者様のおかげで町は平和を取り戻した!! いや、町だけでなく、国にも平和が戻ることだろう!!!」

「勇者さま!! ありがとうございます!!! 大したお持て成しはできませんが、せめて今日は大いに飲んで食べて、騒いでください!!!」

勇者「では、お言葉に甘えて」


戦士「……ねえねえ」

僧侶「なんですか?」

戦士「感情があること、バレた?」

僧侶「どうでしょうか。あのときは戦いに集中してましたし、バレてないんじゃないですか?」

戦士「だといいけど」

魔法使い「でも、益々このキャラをやめられなくなったわね」

僧侶「まさか、あれほどまでの才能があるとは……」

戦士「だ、大丈夫。前にも言ったけどこれから強くなればいいだけの話だろ」

魔法使い「強くなっても、勇者様に……」

僧侶「認めてもらえるか、わかりませんよね……」

戦士「……」

魔王城

魔王「……イフリートがやられたか」

「魔王さまぁ。こんばんはぁ。今日は、あの……えっと……」モジモジ

魔王「イフリートがやられた」

「え? あの筋肉ダルマが? 誰にですか?」

魔王「どうやら、人間のようだ。それも、恐らくは……勇者の血を受け継ぐ者だろう……」

「わぁ。今更ぁ?」

魔王「その者に接触しろ」

「あたしが、ですかぁ? あたし、その、お仕事もあるんですけどぉ」

魔王「ふふ……。頼みを聞いてくれるのなら、今宵はお前の気が済むまで愛でてやろう」

「ほ、ほんとうですかぁ!? な、なら、やりますぅ……えへへ……うれしいなぁ」

魔王「ふふふ……」ナデナデ

「ふふっ。で、勇者をどうすればいいんですかぁ?」

魔王「そうだな……。まずは――」

宿屋

魔法使い「あー、だめぇ。ちょっとのみすぎたぁー」

僧侶「はしたないですよ。きちんと着替えてから寝ないと」

魔法使い「べーつに、いいじゃーん。すきにさせてよぉー」

戦士「……」

僧侶「どうかしましたか?」

戦士「いや、これからあんなのと戦わないといけないのかって思うとな……」

魔法使い「やっぱり打ち明けましょうか。バレるより、バラせ! これは私のお母さんが言ってたこと」

戦士「でも、折角ここまできたのに」

僧侶「そ、それになんというか、もう話しにくいというか……」

魔法使い「そうねぇー。今から素の状態で接するのも変な感じがするしねー」

戦士「僕たちは普通でいるわけにはいかないんだ。これからもこれを貫こう」

僧侶「……はい」

魔法使い「はぁー。私、高飛車なお嬢様にしとくんだった……」

戦士「それも結構きついと思うけど」

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