魔王「勇者が我を殺しに来るらしい」
男「そのようですね」
魔王「たぶんワシは負ける。そんで殺される」
男「え? いやいや、そんなことはないでしょう。魔王様はお強いですし」
魔王「そりゃまあ強さで言えばワシの勝ちだけど、あいつら群れるし、死んでも蘇るし、飲むだけで傷が全て癒える薬とかいっぱい持ってるからな」
男「むむ、ならば魔王さまも頼りになるご朋友と一緒に・・・・・・」
魔王「・・・・・・」
男「あ、失礼いたしました。魔王様は友達がいらっしゃら」
魔王「言うな!」
魔王「そもそもだな。魔物とは勝手気ままな生き物。連携して事を成すのは得手ではない」
男「存じております」
魔王「従ってワシに共に闘う仲間がいないのは、別にコミュニケーションスキルに問題があるとかそういう訳では断じてないのだ」
男「はい」
魔王「魔『王』といえど、はっきり言ってワシの命令を素直に受け入れる魔物など極少数」
魔王「敬ってくれるのはゴブリンやオークなど、人間に似た社会を営む魔物がほとんどだ」
魔王「なのに自分の種族がピンチになった時だけは都合よく魔王さまー、魔王さまーと」
魔王「食料が不足しそうですー、援助お願いしまーす」
魔王「人間が巣を攻めてきましたー、援軍たのみますねー」
魔王「大事なお祭りがあるんですー、魔王様ちょっと手伝ってー」
魔王「ふざけるな! ワシは便利屋ではない! ベンリーではない!」
男「お怒りはごもっともでございます」
魔王「まったくだ。まぁ、お主に言っても仕方のないことだったな。すまぬ」
男「いえいえ」
魔王「本題に戻ろう。勇者の奴らが来れば、ワシ独りでは勝ち目がない」
男「そのようなことはありません! 魔王様は最強です!」
魔王「そうやって慕ってくれるのは有難いのだがな、異世界から取り寄せた書物読んだワシには分かるのだ」
男「分かる、とは?」
魔王「勇者に魔王は絶対に勝てない。どれほど力があってもな」
魔王「ワシが可愛らしい女の子ならば、まだ生存の可能性もあった。そのような女魔王が勇者とイチャつく話なら幾つか存在した」
魔王「しかしワシのようなジジイの場合、容赦なくブッ殺される」
男「なんとむごい」
魔王「もう少し若ければ女装してやり過ごす手も」
男「いえ、それは不可能でしょう」
魔王「そうか」
男「そうです」
魔王「そこで、だ。王が魔王を倒すために勇者という代役を立てたように、ワシも王を倒すために代役を立ててやろうと思う」
魔王「その役目を、お主に頼みたいのだ」
男「嫌です」
魔王「そこをなんとか」
男「魔王様でも倒せない勇者を私が倒せるはずがないでしょう」
魔王「いや、頼むよ」
男「・・・・・・クックックッ」
魔王「!?」
男「絶対死ぬと分かっている旅へと狩り出されるくらいなら、一か八か貴様をここでブチ殺し、この俺が魔王へと成り代わってやるっ!」
魔王「待て、待て、勝算はある! とっておきの魔具を作らせたのだ!」
男「ほほう。流石は魔王様でございます」
魔王「急に態度を変えおってからに。これだから魔族は信用ならん」
男「誰だって命は惜しいですから」
魔王「まったく・・・・・・。まぁいい。これがその魔具だ」
男「指輪、ですか?」
魔王「うむ。こいつでモンスターを従えることができる」
男「協調性に欠けるという魔族の弱点を補えるわけですか」
魔王「それだけではないぞ。主人の魔力を三倍ほどに増幅し、従えたモンスターに与えることができるのだ」
男「便利ですね」
魔王「ただし理性を持ち、ヒトに近い魔物、それも雌にしか効果がない」
男「なぜ?」
魔王「人間の結婚という儀式を元に作った魔具だから、と言っておったな」
男「それならば使用者のほうも、ヒトに近い雄でなくてはならないのでしょうか?」
魔王「その通り。そしてお主は姿形はヒトとまったく変わらず、ワシにそこそこ忠実で、その上魔力だけは大量に持っている!」
男「魔法が使えませんので宝の持ち腐れなのですがね」
魔王「まぁ、そういう事でお主に勇者を倒してもらいたいのだ。これならば勝算も十分にあるだろう? 頼めるよな」
男「了解しました。必ずや勇者の首を取ってきましょう」
魔王「そんな恐ろしいことはせずともよい。生首をポンと目の前に置かれてみろ、夜に夢に出る」
男「じゃあ反省文でも書かせます」
魔王「それぐらいがいいな。それでは早速出発してくれ。あぁ、そうだ、路銀としてこいつをやろう。人間の間で通用する貨幣だ」
男「金と銀に、銅・・・・・・」
魔王「世の中には五百ゴールドなどというはした金で勇者を送り出す王もいるらしいが、ワシは違うぞ。これだけあれば半年は食いつなげる」
男「ありがとうございます。それでは行ってまいります」
魔王「うむ。そうそう、初めに仲間にするのはアレが良いだろうと言っていたな」
男「なるほど。分かりました」
アレとはなんですか? 好きなモンスター娘を書いて下さい。安価三つ下。
魔王「婆の猛獣・・・・・・」
男「!?」
魔王「いや、やっぱり牛鬼かな」
男「ちょ、ちょっと!? 魔王様?」
魔王「とまあ冗談はともかく、そうだな、ハーピーあたりが手ごろだろう」
男「ビックリさせないで下さいよ」
魔王「すまんすまん。やつらはアオミドリの森にいるはずだから、がんばれよ」
男「ふふっ、たかが鳥ごときに遅れは取りませんよ」
魔王「それは頼もしい」
男「それでは失礼いたします」
古武具屋
男「おい、そこのゴブリンさん」
ゴブリン「いらっしゃいませ! 何をお求めでしょうか」
男「ハーピーに通用する武器って、何かない?」
ゴブリン「そうですね、剣や槍でも追い払うには十分でしょうが、倒すなら矢が一番です」
男「矢かー。あんまり残酷なことはしたくないな」
ゴブリン「うーん。だったらこれですかね?」
男「縄?」
ゴブリン「投げ縄です。先端が二つに分かれていまして、それぞれに石が結ばれています。これを振り回して投げれば目標の脚に絡まる、という寸法ですね」
男「なんだかカッコいいな。よし、それをいただくよ」
ゴブリン「銅貨十枚となります。はい、確かに。ありがとうございました!」
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません