男「勘違いさせてすまん。これは俺の妹だ」 (14)
彼女「私の方こそ勘違いして歯が折れるほど殴っちゃってごめん」
男「うん、それはホント直したほうがいいと思うぞ。この前も勘違いで歯折られたし」
妹「果たして本当に兄妹かな? 都合のいい嘘って可能性も否定しきれないよ?」
男「やめろ! この人は冗談が通じn」
彼女「おらぁ!」バキッ
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***
男「だから言ったろ?」ポタポタ
妹「ごめん、私らホントに兄妹なんだ……」
彼女「なーんだ、びっくりしたー……」
男「でも殴るなら確認してから殴ろうな? いや、そもそも人は殴っちゃ駄目なんだがな」
妹「まぁ兄ちゃんが殴られれば殴られるほど興奮するどMで良かったじゃん」
男「変な嘘をつくな! まじで誤k」
彼女「おらぁ!」バキッ
***
男「俺の性癖はいたってノーマルだし、殴られたら人並みに痛い」ポタポタ
彼女「ごめん、喜ばせてあげようと思って……」
妹「目にも止まらぬ右ストレート、少し感動した」
男「俺の妹には人の心が無いの?」
彼女「ホントにごめんなさい! 顔、パンパンで痛いよね? 今、手当てしてあげるから!」
男「や、優しい……」
妹「しかし兄ちゃんの心には、彼女のパンチすら避けられなかったという不甲斐なさが渦巻くのであった……」
男「そんな感情ねえk」
彼女「おらぁ!」バキッ
***
男「素人にはまず避けられないよな。だって山籠りしてひたすら正拳突きしてたことあるんだろ?」ポタポタ
彼女「う、うん……己の体力に限界を感じて……。それより大丈夫……?」
男「一つ言えるのは大丈夫じゃないってこと。未だに意識が残ってるのが不思議なくらい」
彼女「だよね……。あー、どうしていつも殴っちゃうかなぁ……」
妹「誰に対しても?」
彼女「誰彼構わずってわけじゃないけど」
妹「私、お姉さんのパンツを盗んでメルカリに売ったことあるよ」
彼女「じょ、冗談だよね?」
妹「うん」
男「悪質で笑えん冗談はやめろ」
妹「盗ったのは私じゃなくて兄ちゃん」
男「?!」
彼女「おらぁ!」バキッ
***
男「悪質じゃないわ。悪だ悪。悪魔だよお前」ポタポタ
彼女「ごめんなさい……」
男「君は謝らないでくれ。そしてできればこの悪魔を君の拳でぶん殴ってくれ」
妹「今の反応、明らかに兄ちゃんに対して過敏になっている……。兄ちゃんの信用の無さが影響しているのか……?」
彼女「信用してないなんてそんな」
妹「しかし兄ちゃんのメルカリの出品記録を見せるまで殴り続けていたことを考えると、信用していないとしか言えないんじゃない?」
男「それは俺も思った。だから俺を信じてくれ。俺は君が悲しむようなことは決してしたくないんだ」
彼女「う、うん。私、あなたのこと信じる!」
妹「兄ちゃんは心からお姉さんのことを愛してるよ。お姉さんも、その他数人の彼女も、決して悲しませたりはしない」
男「お前は俺に死んでほしいのk」
彼女「おらぁ!」バキッ
***
男「そろそろ病院行きたいんだがいいか? 早めに救急車乗っとかないと、霊柩車乗る羽目になっちまう」ポタポタ
彼女「ラッシュかましてごめん……」
妹「今までで一番迫力あったね。いやー、身の潔白の証明のむずいことむずいこと」
男「途中『嘘をつくなっ!』って叫んでたもんな。どんだけ信用されてないんだ俺」
彼女「……私達、別れましょう」
男「……へ?」
彼女「だってこのままじゃあなたを殺しちゃう! あなたのことが好きなのに、気がついたらあなたを血の海に沈めているもの!」
男「だ、大丈夫だぞ! 男はちょっとやそっとじゃ死なないように出来てんだから!」
彼女「さよならっ!」ダッ
男「ま、待ってくれ!」
妹「あらら……」
***
男「はぁ……」
妹「元気ないなぁ。もういい加減忘れなよ」
男「誰のせいでこうなったと思ってんだ」
妹「私が何か言わなくても、あの人が拳を抑えられない限り、いずれこうなってたでしょ」
男「……」
妹「幸い、傷害事件も聞かないし、別れた判断は間違ってなかったと思うけど」
男「いや、俺が全部避けていればよかったんだ」
妹「なんか凄いこと言い出したぞこの人」
男「そうだ。俺はいつも殴る方ばかりが悪いと思いこんでいたが、殴られる方だって悪いんだ」
妹「何その虐められる方も悪いみたいな。殴る方が10対0で悪いって」
男「よし、俺を殴れ」
妹「な、なんでさ?」
男「いいから殴れ! 思いっきりこい!」
妹「や、やだよ、人なんか殴りたくないよ」
男「こい!」
妹「し、仕方ないな……」
妹「おらぁ!」ブンッ
男「!」パシッ
男「これだ……!」
妹「も、もう気が済んだ?」
男「いーや、こんな蝿が止まりそうなパンチでは駄目だ。もっと本気で打ってこい!」
妹「えー……」
男「さあ!」
妹「うー……。おらぁ!」ブンッ
男「!」パシッ
男「もういっちょ!」
妹「おらぁ!」ブンッ
男「!」パシッ
***
1年後
彼女「はぁ……」
男「どうした、ため息なんかついて」ズンズン
彼女「?! ひ、久しぶり……。随分ガタイが良くなったね」
男「ああ。君とやり直すために必死で鍛えたんだ」
彼女「やり直すって……。無理だよ。私といたら貴方が死んじゃう」
男「それはどうかな」
彼女「どうかなって……」
男「そうそう、前に妹が言ってた他の女がいるって話、あれ実はホントなんだ」
彼女「?! おらぁ!」ブンッ
男「!」パシッ
彼女「?!」
男「冗談だよ。でもこれで君と付き合えるかな?」
彼女「……うん」
男「よかった」パッ
彼女「と、油断させておいておらぁ!」バキッ
男「ぐはぁ!」ドシャッ
彼女「ええいホントのこと言え! 他の女がいるのか!」バキッバキッ
男「いないいない! ホントにいない!」ゴロゴロ
***
妹「へー、よりを戻せたんだ。良かったじゃん」
男「ああ、常に警戒態勢を張ってはいるが、今の俺はこの上なく幸せだ」
妹「まぁ幸せの形は人それぞれだし、兄ちゃんがいいならいいんじゃない? それよりさ……」
妹彼「ごめん、お前の金を倍にしてやろうと思ったら全部すっちゃった」
妹「おらぁ!」バキッ
妹彼「ぐへぁ!」ドシャッ
妹「1年間パンチしてたせいですぐ手が出るようになっちゃったの、どうしてくれんの?」
男「さあ……。相手を鍛えてやれとしか……」
おしまい
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