男「立ち話もなんだし、コーヒーでも飲みながら話そう」同僚「分かった」 (35)

男「おーい!」タタタッ

同僚「おう、どうだった!?」

男「奴らについて、重要な情報をキャッチした!」

同僚「本当か!」

男「ここじゃまずい。立ち話もなんだし、コーヒーでも飲みながら話そう」

同僚「分かった」

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店員「コーヒーをお持ちしました」

男「ありがとう」

同僚「で、重要な情報って?」

男「ついに奴らのアジトが分かったんだよ」

同僚「えっ、どこだ!?」

男「町外れのプレハブ小屋だ! そこでニセ札を刷ってる!」

同僚「よし、これを飲んだらさっそく向かおう!」

ブロロロロ… キキッ

男「着いたぞ!」

同僚「今なら油断してるはず、一気に行くぜ!」

男「ああ!」

バァンッ!

手下A「うわっ!?」

手下B「ひっ!」

ボス「なんだ、てめえら!」

男「犯罪特殊捜査班だ! ニセ札作りの現行犯で逮捕する!」

同僚「やったな! 大手柄だ!」

男「……」

同僚「どうした?」

男「今までのやり取り、何か違和感を覚えなかったか?」

同僚「いや、別に……違和感なんてなかったけど」

男「本当に?」

同僚「うん」

男「もう一度聞く。本当になかったんだな?」

同僚「だからないって!」

男「そうか……」

同僚「なんだよ、もったいぶらず教えてくれよ」

男「実は今までのやり取りには、“当然あるべき描写”がなかったんだ」

同僚「は?」

男「それは……」

男「まず、俺たちは立ち話もなんだからと喫茶店に入った」

同僚「ああ」

男「次の瞬間には、俺たちの元にコーヒーが届いてた」

同僚「うん……」

男「つまり、“喫茶店に入ってからコーヒー届くまでの時間”が飛んでるんだ!」

同僚「あ……!」

男「席について、注文取ってもらって、コーヒーを待つっていう一連の流れが省略されてるんだよ!」

同僚「確かに……!」

男「それだけじゃないぞ」

同僚「え?」

男「コーヒーを飲んで喫茶店を出たと思ったら、俺達はこのアジトに着いていた」

男「ようするに、“喫茶店からアジトに向かうまでの時間”も飛んでいる!」

同僚「ああ……! 飛んでるわ……! 全然気にしてなかった……!」

男「これはおかしいだろ、明らかにおかしい!」

男「俺達はちゃんと動いたり喋ったりしたはずなのに、それを省略されるなんてあってはならない!」

同僚「その通りだ!」

男「だから、物語をやり直す必要がある!」

同僚「え? そんなことできるの?」

男「ああ、できる。ただし、やり直したら、さっき省略されたところもしっかり描写しなきゃならないがな」

同僚「そのためにやり直すんだから、なんの問題もないじゃん! やろう!」

男「分かった、やり直すぞ!」

ギュンッ!

……

……

男「おーい!」タタタッ

同僚「おう、どうだった!?」

男「奴らについて、重要な情報をキャッチした!」

同僚「本当か!」

男「ここじゃまずい。立ち話もなんだし、コーヒーでも飲みながら話そう」

同僚「分かった」

男「……」ギィィ…

カランカラン

店員「いらっしゃいませー」

男「二人です」

店員「お好きなお席にどうぞ」

男「どこにする?」

同僚「窓際がいいかな」

男「じゃあ、あそこで」スタスタ

同僚「……」スタスタ

男「ふぅ……」ドカッ

同僚「よいしょ」ドカッ

同僚「で、重要な情報って?」

男「まだコーヒー来てないからダメだ」

同僚「あ、そっか」

男「……」

同僚「……」

店員「お冷やお持ちしました」

男「ありがとう」

店員「ご注文は?」

男「ホットコーヒーで」

同僚「同じで」

店員「かしこまりましたー」

スタスタ…

男「……」

同僚「……」

男「コーヒー来るまでの間、なんか別の話するか」

同僚「そうだな」

男「……」

同僚「……」

男「昨日あれ見た? ドラマの……」

同僚「俺、ドラマ見ないんだ」

男「あ、そう」

男「……」

同僚「……」

男「最近、趣味とかある?」

同僚「いや、仕事忙しくて……」

男「まあ、俺もだけど……。せいぜいスマホいじるぐらいで……」

男「……」

同僚「……」

男「コーヒー……遅いな」

同僚「こういう店って、豆から挽くだろうから時間かかるだろうな」

男「だよねー」

男「……」

同僚「……」

男「……」

同僚「……」

男「……」

同僚「……」

男「……」

同僚「……」

男(ヤバイ……間が持たない)

男(別にこいつと仲悪いわけじゃないけど、二人きりでポンポン会話が弾むような関係でもない)

男(きっとこいつも俺と――)

同僚(――同じことを思ってるに違いない)

男「彼女とか……できた?」

同僚「いや……」

男「俺も……」

同僚「悪いな、話を広げられなくて。犯人追うのは得意だが、こういう雑談は苦手でな」

男「いや、こっちこそ……」

男「……」

同僚「……」

男「……」

同僚「……」

男(あ、店員さんがこっち来る!)

店員「……」スタスタ

男「……」

同僚「……」

店員「……お待たせいたしました」スタスタ

男(あっちの席かよ!)

同僚(紛らわしい……! 早くコーヒー届けてくれ~!)

店員「……」スタスタ

男(また来た!)

同僚(今度こそこっちへ!)

店員「……」スタスタ

店員「お待たせいたしました」

男(やっと来た!)

同僚(よかったぁ!)

店員「コーヒーをお持ちしました」

男「ありがとう」

同僚「で、重要な情報って?」

男「ついに奴らのアジトが分かったんだよ」

同僚「えっ、どこだ!?」

男「町外れのプレハブ小屋だ! そこでニセ札を刷ってる!」

同僚「よし、これを飲んだらさっそく向かおう!」

男「いただきまーす」

同僚「ミルク入れて、と」タラー…

男「……」ゴクゴク

同僚「……」ゴクゴク

同僚「あちっ!」

男「大丈夫か? 急いで飲むから……」

同僚「すまねえ、つい」

男「ていうか、わざわざ喫茶店入った意味あまりなかったな。ぶっちゃけ立ち話でよかった気もする」

同僚「時間飛ばすと、そういう違和感を減らす効果もあるんだな」

男「……」グビッ

同僚「……」グビッ

男「やっと飲み終えた!」

同僚「俺も!」

男「じゃあまとめて会計するから……400円くれ」

同僚「分かった。あ、1000円札しかないから、600円くれない?」

男「分かった」チャリン

同僚「サンキュー」

男「……」スタスタ

同僚「……」スタスタ

店員「ありがとうございました」

店員「ホットコーヒーお二つで、お会計800円になります」

男「はい」

店員「丁度いただきます。レシートはご利用ですか?」

男「いえ、結構です」

店員「ありがとうございました、またお越し下さいませー」

男「……」バタンッ

男「車で奴らのアジトに向かうか」

同僚「ああ。どこに停めてあるんだ?」

男「あっちだ」

男「……」スタスタ

同僚「……」スタスタ

男「……」スタスタ

同僚「……」スタスタ

男「乗ってくれ」

同僚「分かった」

男(シートベルトを……)カチャッ

同僚(締めて、と……)カチャッ

男「……」ギュルルッ

ブルルルル…

同僚「え、こんなとこまで描写すんの? シートベルト締めるシーンなんていらなくない?」

男「しょうがないだろ、やり直しちゃったんだから。やるしかないんだよ」

ブロロロロロ…

男「さて、アジトに向かうぞ」

同僚「どのぐらいかかる?」

男「20分ぐらいかな」

同僚「20分……」

男(また20分、こいつと二人きりか……)

同僚(なに話せばいいんだろ……)

ブロロロロロ…

同僚「えぇと、情報はどうやって入手したんだ?」

男「情報屋からだ」

同僚「あいつかー、結構取られたろ」

男「ああ、だがニセ札犯を捕まえられるなら安いもんだ」

同僚「そうだよな!」

男「……」

同僚「……」

ブロロロロロ…

同僚「焦ることはない。逃げやしないんだ。安全運転で行こう」

男「ああ」

男「……」

同僚「……」

男「……」

同僚「……」

ブロロロロロ…

男「わっ、あぶねえ!」

キキッ!

男「危なかったー、急に飛び出してくんなよ」

同僚「よく反応できたな」

男「俺じゃなきゃ轢いてたかもな」

ブロロロロ… キキッ

男「赤か……」

同僚「……」

男「……」

同僚「……」

同僚「なぁ、こんな場面も描写するの? 無言で信号待ちしてるだけだぞ」

男「……」

同僚「無駄じゃね? これ読んでる奴の“ここ描写する必要ある?”って声が聞こえてくるようだよ」

男「だけど、やり直しちゃったから、描写するしかないの!」

パッ

男「青になった……」

同僚「だな……」

ブロロロロロ…

男「……」

同僚「……」

男「……」

同僚「……」

男「すまなかった……」

男「俺が余計なことに気づかなきゃ……こんなことには……」

男「物語において、“時間を飛ばす”“省略する”ってことがこんなに大事だとは思わなかった……」

男「なにもかも全部描写しても、テンポは悪くなるし、退屈だしで、ろくなことねえわ……」

同僚「いや、いいさ……俺だってお前に同意したんだから……」

同僚「とりあえず、アジトまで頑張ろう。あとどのぐらいだ?」

男「10分ぐらいかな」

二人(10分が長い……)

ブロロロロロ…

一方、その頃――

ボス「ニセ札の生産はどうだ?」

手下A「ボチボチです……」

手下B「まあ、なんとか……」

ボス「だよね……。見れば分かるし」

ボス「あーもう、話すことねえよ! 早くあの二人このアジトに到着してくれーっ!」







おわり

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