ことり「授業参観」 (32)

ことり「ふわぁ~」

理事長「ちょっと」

ことり「なぁにぃ」

理事長「外で大きな口開けてあくびなんて、みっともないからやめなさい」

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ことり「だって眠いんだもん」

理事長「遅くまで起きてるからよ」

ことり「衣装のデザインがまとまらなくて」

理事長「夜更かししてると、まとまるものもまとまらなくなるわよ」

ことり「はぁ……ふわぁ~い」

理事長「言ったそばからこれとは……」

ことり「本当なら寝てたいのに」

理事長「本当なら起きてる時間よね」

ことり「うぅー」

理事長「たまには母の買い物くらい付き合いなさい」

ことり(付き合ったじゃん)

理事長「家に帰ったらチーズケーキあるから、おやつにしましょうね」

ことり「はーい」

理事長「あら、元気出たわね」

ことり「るんるん~♪」

雪穂「あっ」

ことり「んっ、雪穂ちゃん」

雪穂「こんにちは」

ことり「こんにちはー」

理事長「あら高坂さん。どうも」

ほの母「お買い物ですか?」

理事長「今、帰りです。高坂さんはビシッと決められてますが、どこかへお出かけですか?」

ほの母「いえいえ、今日は雪穂の学校の授業参観の日でしたので」

理事長「まぁ、そうでしたの」

ほの母「この娘ったら、授業参観のこと何も言わなくて」

雪穂「だって来ても面白くないよ」

ほの母「そういう問題じゃありません」

雪穂「お姉ちゃんの時、散々行ったじゃん」

ほの母「穂乃果は穂乃果。雪穂は雪穂よ」

雪穂「ぶぅー」

理事長「それで、雪穂ちゃんはお母さんに良い所は見せれた?」

雪穂「いやー、まぁ、その、えっと」

ほの母「先生に当てられた時、ものすごくテンパってまして」

雪穂「まさか当てられるとは思ってなくて」

ほの母「見てるこっちがハラハラしたわ」

ことり「大変だったね」

雪穂「あははは、ごめんね」

理事長「まあまあ」

ほの母「それでは」

理事長「はい」

ことり「じゃあね、雪穂ちゃん」

雪穂「さよならー」

ことり「授業参観かぁ」

理事長「どうしたの?」

ことり「そういえば、お母さんって授業参観に来たことないなぁって」

理事長「仕事があったから仕方なかったのよ」

ことり「あの頃は色々と忙しかったからね」

理事長「そうよ。だから今があるの」

ことり「分かってる、分かってる」

理事長「ことりはさぁ?」

ことり「何?」

理事長「授業参観にお母さん来れなくて、寂しかった?」

ことり「どうだろ? んー、でも大きくなってからはむしろ来ない方が良かったかも?」

理事長「酷い言い方ね」

ことり「あははは……」

 
ことり「……」



 
ほのか「きょうは『じゅぎょーさんかん』だよっ!」

うみ「おかーさまがみにきてくれます!」

ほのか「うちもおかーさんがくるよ!」

うみ「ことりは?」

ことり「うちはこないよ」

ほのか「えー、なんで?」

ことり「おかーさん。おしごといそがしいから」

うみ「そうなのですかぁ」

ほのか「おやつたべてのんびりしてる、うちのおかーさんとはおおちがいだ」

ことり「それはどうなのかな?」

授業参観の時間が近付くに連れて、

教室に生徒のお父さんやお母さんが集まってくる。

そしたらそこら中から、

「〇〇くんのおとーさんだ」

「おかーさん。みててねー」

とか、

賑やかな声が響いていた。

だけど――

私を見に来てくれる人は、

いなかった――

ほの母「穂乃果、授業中にソワソワするのはやめなさい」

ほのか「はい……」

海未母「お母さんが来て穂乃果ちゃんも緊張しちゃったのよね」

ほのか「うん」

うみ「きをおとさないでください」

海未母「海未さんも盛大に答えを間違ってましたよ」

うみ「うぅ……」

ことり「あそこは『しゃーろっく』じゃなくて『ぽわろ』がせいかいだよ」

うみ「だって『しゃーろっく』のほうがこたえにあってるじゃないですかぁ」

ほのか「ほのかでも『ぽわろ』がせいかいだってわかったよ」

ことり「わたしも」

ほのか「わからなかったの、うみちゃんだけ」

うみ「ってなんでですかぁー!!」

ほの母「そういえばことりちゃんは、ご両親の方は来てないの?」

ことり「おしごとあるから」

ほのか「おかーさんはおしごとないから、これたんだね」

ほの母「こらっ! そういうことを言うんじゃありません!」

うみ「では、うちもひまなのですか?」

海未母「そういうワケではありませんよ」

うみ「よかったです」

ほのか「じゃあ、このあとあそびにおいでよ」

ことり「うん!」

ほのか「うみちゃんもおいで」

うみ「このあとおけいこが」

海未母「今日は休みにして、遊んでらっしゃい」

うみ「はい。ありがとうございます!」

ほのか「うち、ひまだからいっぱいあそぼー」

ほの母「穂乃果ぁぁぁ!!」

穂乃果ちゃんや海未ちゃんが居たからっていうのもあるのかな

別にお母さんが授業参観に来なくても、

特に何も思わなかったなぁ。

 

 
だけど――

 

 
やっぱりどことなく、

寂しさってのはあった……



 
教師「えー、この数式は」

海未「……」カキカキ

穂乃果「zzz」

ことり「……」コクリ

ことり(あぁ、眠いよぉ)

教師「これをXがYで」

ことり(衣装のデザインでまた夜更かししちゃったよぉ)

チラッ

穂乃果「zzz」

ことり(穂乃果ちゃんは呑気だなぁ)

ことり「……ふわっ、ふわぁ~」

教師「南さん?」

ことり「は、はい!」

教師「この問題、解いてくれる?」

ことり「えっと、2ですね」

教師「正解です」

ことり(ふぅー、危ない危ない)

教師「それでは次を……」

ガラガラ

理事長「ちょっと、お邪魔しますね」

教師「理事長」

海未「ん?」

ことり(お母さん?)

穂乃果「zzz」

教師「どうかされましたか?」

理事長「ちょっと授業の見学に」

教師「はて? そのような予定ありましたかなぁ」

理事長「まぁ、予定は未定とも言いますし、その辺は適当に」

教師「はぁ」

理事長「私は後ろの方で見てますから、授業を続けてください」

教師「わかりました」

海未「理事長。どうされたのでしょうか?」

ことり「さ、さぁ」

ことり(ほんと、どうしたんだろ)

穂乃果「zzz」

その時はお母さんが、

どういう意図があってかはよく分からなかったけど、

後々になってなんとなく分かった気がした。

 
そして――

 
穂乃果ちゃんはグーグー寝息を立てて、

涎を滴ながら眠っていた。



 
ことり「おっかあさん」

理事長「あらことり、待ってたの?」

ことり「うん」

理事長「わざわざ待つ必要もないのに」

ことり「まぁ、たまにはいいんじゃないかな?」

理事長「たまには、ねっ」

ことり「それにしても今日は驚いたよ。授業中に急にお母さんが来るんだもん」

理事長「言ったでしょ。ただの見学よ見学」

ことり「分かってるけど、私は嬉しかったよ」

理事長「何が?」

ことり「なんか授業参観な感じがして」

理事長「そう?」

ことり「まぁ、私はそう感じた」

理事長「あっ、そ」

ことり「もしかして最初からこれが狙い?」

理事長「は?」

ことり「昨日、雪穂ちゃん達が授業参観の話をしてたから、だからお母さんも授業参観を」

理事長「なワケないでしょ。本当にただの見学」

ことり「それでも、私は嬉しかったよ」

理事長「そう。良かったわね」

ことり「ありがとう」

理事長「でもおかげで、残りのクラスもやる嵌めになったわ」

ことり「ありゃ」

理事長「娘のクラスだけだと依怙贔屓になるし」

ことり「理事長だもんね。その辺りは公平に」

理事長「てなワケで明日は一年生のクラスにでも行こうと思うの」

ことり「真姫ちゃん達、喜ぶよ」

理事長「だから、一年生には内緒ね」

ことり「はーい」

理事長「それじゃ、買い物でもして帰りましょ」

ことり「うん」

理事長「今日の夕飯は?」

ことり「チーズケーキ!」

理事長「こらっ、ふざけないの」

ことり「えへへっ」

 

 
ことり「お母さん」

理事長「なぁに?」

ことり「大好き」

理事長「はいはい」

 

 
おしまい

以上、おわり

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