北条加蓮「藍子と」高森藍子「2人きりのカフェで」 (40)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮(前回のあらすじ。加蓮ちゃんは、藍子ちゃんが大好きだってことを自覚しました。おしまい)


加蓮(……さて、どうしよっか)

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レンアイカフェテラスシリーズ第72話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で ごかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「爽やかなカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「写真日和のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「物静かなカフェテラスで」

加蓮(藍子が来るまで、あと5分切ったくらいかな? さて、どうしよっかー)

加蓮(いやー困っちゃった。加蓮ちゃんってこんなに藍子ちゃんのことが大好きだったなんてね。一応アイドルなのに。ふふっ)

加蓮(……)

加蓮(……そうだよ。私は藍子のことが大好きだよ。もう強がる意味もないと思うし、それは素直に認める)

加蓮(でもさ……)

加蓮(それで私、どうしたいんだろ)


加蓮「……あ、店員さん。こんにちは……」

加蓮「藍子? もうちょっとしたら来るよ。注文は……そうだね……」パラパラ

加蓮「後でいい? お水、ありがと」

加蓮(……店員が一礼してから去っていく。私は頬杖をついて、外を眺める)

加蓮(なんとなく、今日は落ち着いた気持ちになりたくて。カフェテラスじゃなくて、店内を選んだ)

加蓮(偶然だけど、今日はぜんぜんお客さんがいない。今日は1人もいない。私以外は、ね)

加蓮(困ったな……)

加蓮(「他の人がいるから」って言い訳が、使えないじゃない)

加蓮「……」パラパラ

加蓮「……」

加蓮「……」ポイッ


加蓮(藍子と一緒にいたい)

加蓮(メニューを見るなら、藍子と一緒に見たい)

加蓮(水を飲むなら、藍子と一緒に飲みたい)

加蓮(ここに来た瞬間から、何をやるにも藍子の顔と声が浮かんでくる。ずっと指先をくるくる回して、両足でリズムを刻んで、それでも落ち着かない)

加蓮(……あーあ。だいぶ毒されちゃったなぁ。私)

加蓮(それでも私はまだ悩んでる。贅沢だね。昔の自分からは、想像もつかないくらいに)

加蓮(私って、どうしたいのかなぁ……)


加蓮「……」

加蓮「……ん」ノビ

加蓮「ふうっ……」

加蓮(どうしたい、って言っても、選択肢がある訳じゃないの)

加蓮(ただなんとなく、何かをどうにかしたくて、ただ具体的には何も思いつかない)

加蓮(だから今、こうして1人で……藍子にはわざと、ほんのちょっとだけ遅い時間を指定して、先回りして。1人で考えてる)

加蓮(……)

加蓮(……どうしたいのかな、私)

加蓮「あれ、メッセ来てる……」

加蓮「……なーんだ、ただのキャンペーンじゃん」

加蓮「つまんないの……」


加蓮(……例えば藍子に、早く会いたいって、素直にそう伝えれば。小走りで来てくれるかもしれない。あるいは、私の方から迎えに行ってもいいのかもしれない)

加蓮(でも……こればっかりは、1人で決めておかなくちゃいけない)

加蓮(どれほど心の中に入り込まれても、これは私が考えなくちゃいけないこと)

加蓮(私は、どうしたいんだろう)

加蓮(……)

加蓮(……いつだったかな。こっちにおいで、って手招きしてくれた藍子に、転がり落ちたくない、って突っ張ったのは)

加蓮(あの時と、同じ感じがする……)


加蓮「……足音、まだ聞こえないなぁ」

加蓮(……)

加蓮(……くるくると回る指先に苦笑いする。ホント、悩んでばっかり)

加蓮(面倒くさい女だよねー私。何かある度に、立ち止まって。屁理屈を捏ねて。ワガママばっかり言って、周りを困らせて――)

加蓮(でも、藍子はいつだって向かい合ってくれて、隣り合ってくれた)

加蓮(私が嘲笑っても、怒鳴っても、泣いても、いつもそこに……)


加蓮「違うってば……」


加蓮(そういうことじゃなくて)

加蓮(やりたいのは、再確認じゃなくて、これからのことを決めること)

加蓮(……私、どうしたいんだろ)

加蓮(藍子に何って言いたいんだろ)

加蓮(どこにいたいんだろ……)

<からんころーん


加蓮「!」


加蓮(足音が聞こえる。不自然に背筋が伸びた)

加蓮(息を吸って吐いて吸って吐いて両手を小さく握って瞑目して目を開けて、やっといつもの表情を作れた。そして藍子がやってきて――)


高森藍子「……こ、こんにちは、加蓮ちゃんっ」


加蓮(……なんでこの子こんなに緊張してんの?)

加蓮「こんにちは。藍子……?」

藍子「こ、こんにちは~。元気みたい、ですね?」

加蓮「……???」

藍子「えと、注文っ。注文、どうしましょ。あっ、今日は他にお客さんがいないんですね。それならすぐに注文、も……」

藍子「あ……」

加蓮「????」

藍子「……」

藍子「……ほかにおきゃくさんいないんだ……ふたりきり……?」ボソ

加蓮「……とりあえず、なんか食べる?」

藍子「そ、そっ、ですねっ。何がいいでしょうか」

加蓮「サンドイッチとかパンケーキとか?」

藍子「そうしましょうっ。うん、そうしましょう!」

加蓮「す、すみませーん。パンケーキを2人分……」

……。

…………。

加蓮「……ごちそうさまでした」

藍子「ごちそうさまでしたっ」


加蓮(藍子はやっぱり単純で、食べ始めて数分で、いつものゆるふわ笑顔に戻った)


藍子「……!」

藍子「……、あ……はは……」


加蓮(……と思ったら、私と目が合うなりさっと逸らして苦笑い。なんなのこれ?)

藍子「あの……。加蓮ちゃんっ!」

加蓮「わ、びっくりした。……急に立ち上がったらびっくりしちゃうよ?」

藍子「あっ……」

加蓮「って言っても、今日は他に誰もいないんだけど。ふふっ。びっくりしたのは私だけだね」

藍子「……そ、そうですねっ」

加蓮「ほら、座って、続けて? 深呼吸してからでいいから」

藍子「すぅ~、はぁ~……」

加蓮「はいもう1回ー」

藍子「すぅ~~~、はぁ~~~~~……」

加蓮「落ち着いた?」

藍子「ありがとう、加蓮ちゃん」

加蓮「ん。で、どしたの?」

藍子「はい。……あの、この前のこと――」

藍子「……」

藍子「……こ、この間、テラス席でご一緒した時、なんですけれど……」

加蓮「この前ってこの前の? 私がお仕事の話をした時の」

藍子「はい」

加蓮「何か話し忘れたことでもあった?」

藍子「ううん、そうじゃありませんけれど――」

加蓮「あ、分かった。食べ忘れた限定メニューの話でしょ」

藍子「そうでもありません。……あれ、でも、限定メニューは確かに食べていなかったような……。メニュー、何でしたっけ?」

加蓮「藍子ちゃんでも忘れることあるんだ。カフェのことなのに」

藍子「あはは……。加蓮ちゃんだって、今日、ネイルしてないじゃないですかっ」

加蓮「……えー。それは違くない?」

藍子「……? 加蓮ちゃん、ネイルしていないのに、なんだか嬉しそう」

加蓮「それも違うってー」

加蓮「実はさ、あの時ホットケーキのアレンジメニューだったの」

藍子「あっ、なんだか見た覚えがあります。メニューの何ページ目かに、ど~んっ、って大きく乗っていましたよね」

加蓮「うんうん。めくった時にびっくりしちゃった」

藍子「ホットケーキを3枚くらい載せて、たっぷりと――」

加蓮「チリソースをかけたヤツ」

藍子「そう、チリソースを……チリソース!? いやどう考えてもホットケーキにかけませんよねそれ!? ……加蓮ちゃんっ、ウソついてる!」

加蓮「かけてみたら美味しくならない?」

藍子「なりませんっ」

加蓮「分かんないよ? この前店員と話したんだけど、マイブームはピリ辛と激辛なんだってさ」

藍子「えっ、そうだったんですか?」

加蓮「藍子ー。甘いよ? いつも行くカフェだからって、取材とか話聞くとかぜんぜんしてないでしょ。それでもカフェコラムのライターなの?」

藍子「ううぅ……。実は気にはなっていたんです。いつも行くこのカフェのことこそ、実は知らないことがいっぱいあるなって……」

藍子「でも、私にとって、このカフェは加蓮ちゃんと一緒にいる場所だったから……。コラムにも、SNSにも書くことはなかったから――」

加蓮「だから調べる必要も知る必要もないって? それってちょっと店員が可愛そうじゃないかなー」チラ

藍子「……!」チラ

加蓮「あー、大丈夫大丈夫。いないから。でも聞こえてるかもしれないねー?」

藍子「そ、そんなこと言わないで~~~~! そういうつもりじゃなかったんですっ」

加蓮「藍子がそうでも、相手からしたら……?」

藍子「……!! うぅ~……」ナミダメ

加蓮「っと……。あははっ。ごめんごめん。ちょっといじめすぎちゃったかな」

藍子「むぅ~」

加蓮「ごめんってばー。藍子的にはいろんな考えがあるかもしれないけど、でもやっぱりこのカフェのことを一番詳しく知ってるのは藍子だよ」

加蓮「胸張っていいと思うよ? そこは、加蓮ちゃんが保証してあげよう」

藍子「ぐすん。……ぐしぐし。ありがとうございます、加蓮ちゃんっ♪」

加蓮「ふふっ。やっといつもの藍子になれたね」

藍子「……あはは。それも、お見通しなんですね」

加蓮「そりゃーね? 藍子はちょくちょく私のことを見破るけど、私だって藍子のことくらい見れば分かるし」

藍子「そうですか……」

加蓮「……なんかビミョーに嬉しそうにしてない?」

藍子「そうですか? でも、嬉しいのは本当のことかもしれません。だってそれって、加蓮ちゃんが私のことをわかってくれてるってことだからっ♪」

加蓮「あはは……」

加蓮「さてと。話したいこと、何かあったんでしょ?」

藍子「はい。……その……」

藍子「この前の……。テラス席の時、お話の途中、私、加蓮ちゃんに抱きついてしまって――」

加蓮「……あー」

藍子「その後、加蓮ちゃんが、ここがテラス席だって言ってくれた時に、私、気付いたんです」

藍子「確かに、その通りだって……。だから、ごめんなさいっ」

藍子「あの日は、つい……。その……勢いづいてしまっちゃって!」

加蓮「そっか。……って、話したかったことってそれ?」

藍子「はい。そうですよ」

加蓮「そ……」

藍子「……、」

加蓮「……、」

加蓮「……藍子は何飲む?」

藍子「じゃあ……アップルティーで」

加蓮「なら私はストレートティー。すみませーん」

……。

…………。

加蓮「ごくごく……」

藍子「ずず……」

加蓮「……、」

藍子「……♪」

加蓮「……」コトン

加蓮「……藍子」

藍子「?」

加蓮「そうだね。外で抱きついて来たのは、ちょっとやりすぎ」

藍子「うぐ」

加蓮「しかもあの時、結構長い間しがみついてたからね? 藍子」

藍子「あぅ」

加蓮「私も、まぁ……。気づかなかったっていうか指摘できなかったっていうか、そういうところあるけどさ」

加蓮「別に、藍子が私に抱きつこうがスキャンダルとかトレンド入りとかはないと思うけど、そもそもそれ以前に人の目って言うか、アイドルとか関係なく外には人がいるんだから、」

加蓮「――……ぁー」

加蓮「ごめん、今回は別にいじめたい訳じゃなくて」

藍子「……ううんっ」クビヲフル

藍子「わかっていますっ……けれど……。……なんでだろ。前より……」

藍子「前より……なんだか、心が痛くて……」

加蓮「……? そこまでキツイこと言った? 私」

藍子「違うんですっ。その、私が悪かったこと、なんですけれど……」

藍子「……この前から、ずっと、加蓮ちゃんと……楽しい時間、ばっかりだったから」

加蓮「あぁ。なんか藍子って叱られ慣れてないイメージあるもんね」

藍子「そ、そんなことありませんよ? よく、トレーナーさんに叱られちゃいますし」

藍子「厳しいことを言われるの、慣れているつもり……だったんですけれどね」

加蓮「……、んー……」

加蓮「……」

藍子「か、加蓮ちゃんはそういうこと気にせずズバッと言ってくださいっ。私は、大丈夫ですし――」

加蓮「どっちかっていうと藍子より私の方が大丈夫じゃなくなるわよ。目の前で悲しい顔されちゃ……」

藍子「……あぅ」

加蓮「ま、わかった。私もネチネチした大人みたいに面倒くさい感じになりそうだったし」

加蓮「逆に、藍子がいいところで止めてくれたよ。ありがと」

藍子「…………」ズズ

藍子「……」コクン

加蓮「はいはい。反省会しゅーりょー。飲まないならそれ私がもらうよ?」

藍子「……、」ゴクゴク

加蓮「ふふっ」ズズ


□ ■ □ ■ □


藍子「私、このところ、自分でも自分のことを、ちょっぴり暴走がちかも? って思ってるんです」

加蓮「……は? それ、藍子から一番遠いワードな気がするんだけど」

藍子「普段なら、そうかもしれませんね。でも、最近は……」

藍子「加蓮ちゃんといると、楽しい、って気持ちが、前よりずっと大きくなっていて……」

藍子「それだけじゃなくて、隣に座りたい、もっと近くにいたい、……抱きついていたい。そんな気持ちが、ときどき大きくなりすぎちゃうんです」

藍子「だからきっと、この前も――」

藍子「……そ、その、そういう訳で加蓮ちゃんにはちょっぴり、ううん、だいぶご迷惑をおかけしてしまいました。ごめんなさいっ」ペコッ

加蓮「あ、うん。いいけど」

加蓮「……ふうん」

藍子「あ、あははは……」ズズ

加蓮「……、」


加蓮(自分で言ったことに、言い終えて気がついたんだろうね。藍子は顔を真っ赤にして、もうほとんど残っていないアップルティーを、ちょっとずつ啜る)

加蓮(……どうでもいいけど、これ2杯目なんだよ。でも分かるー。間が保たない時って、何か飲みたくなるよね)

加蓮(それはさておき。私もホント、この子のゆるふわに毒されちゃったんだろうね)

加蓮(藍子の言っている言葉の意味を噛みしめるのに、ちょっと時間がかかっちゃった)


加蓮「……あははっ。藍子、アホみたい」

藍子「ふぇ?」

加蓮「藍子のばーかっ」

藍子「む。どういうことですか~っ」

加蓮「だってさ。別にいいじゃん。隣に座りたければ隣に座って、近くにいたければ近くにいて」

加蓮「外でいきなり抱きつかれたら困る、っていうのはさっき言ったけど、それ外での話だしさ」

加蓮「いや、カフェの中でもされたらちょっと困るかも。お客さんとか、」キョロキョロ

加蓮「……お客さん、今日いなかった」

藍子「いませんね……」

加蓮「……、」

藍子「……、」ウズウズ

加蓮「はいはい。今日は我慢しときなさいパッションアイドル」ズイ

藍子「なんでっ。だって今、加蓮ちゃん、いいって――」

加蓮「別にいいけどそれはまた今度の話なの。今日の気分とか、あるでしょ?」

藍子「ありますけれど……」

加蓮「私といて嫌とか悲しいとか、そういう気持ちが大きくなったんじゃないんでしょ? 藍子が楽しいなら、それでいいんじゃないの?」

藍子「……でも、加蓮ちゃんにご迷惑――」

加蓮「前にも言ったけど迷惑云々ってならアンタもう手遅れだからね? 今まで何回も、それもとんでもない深いところまで心を土足で踏み荒らしたの、藍子だからね?」

藍子「そ、そういう言い方しないでもいいじゃないですか~っ」

加蓮「じゃあ何って言ってほしいの。他人の心を土足でお散歩?」

藍子「あんまり変わってないっ。それに、それではまるで、お散歩が悪いことのように聞こえちゃいますよ」

藍子「あっ。私、知ってるんです。加蓮ちゃんが最近、こっそりSNSに"おさんぽ日記"をちょっとずつ書いて出してい――」

加蓮「アカウントを乗っ取られました。犯人はアイドル仲間のTさんです」

藍子「私、そこまでスマートフォンに詳しくないですっ」

加蓮「藍子ちゃ――Tさんは、その巧みな話術と、ゆるふわ空間というよく分からない術を使って私のスマフォをのぞき見した挙げ句、一緒に写真を撮ろうとか言いはじめたんです」

藍子「こちらが、その時の写真です♪」スッ

加蓮「あー、この前の事務所で撮ったヤツじゃんこれ。衣装の改良案ってことで、私達も着せてもらったんだよねー」

藍子「加蓮ちゃん、さっき言いましたよね。相手が楽しいなら、それでいい、って」

藍子「この写真の加蓮ちゃんは、こんなに楽しそうです。なので、これは悪いことではありませんっ」

加蓮「……そう来るかー。しかしTさん――面倒くさいからやめた。しかし藍子ちゃんはゆるふわ空間とかいうよく分からない――」

藍子「待ってくださいっ」

藍子「……あっ、えっと、こういう時はこう言えば加蓮ちゃんは乗ってくれるって、前に凛ちゃんが教えてくれました」

藍子「い、いぎあり~っ」

加蓮「それに乗るの私じゃなくて奈緒だけどね。で、気が抜けているので却下します」

藍子「ええっ」

加蓮「藍子。裁判所は戦争の場なんだよ。ファンの心に届けるには、もっとシャキッとしないと」

藍子「しゃきっと……」

加蓮「私が見本を見せてあげる。……ごほんっ」

加蓮「異議あり!」ズバーン!

藍子「わ……!」

加蓮「こんな感じ。さ、次は藍子の番――」

藍子「私の、負けみたいです……」

加蓮「ちょっと」

藍子「……ですが、待ってください。これだけは言わせてください! ゆるふわ空間は、よく分からないものなんかではありませんっ」

加蓮「うるさいっ。人のつぶやきの語尾に"#ゆるふわ"ってつける呪いをかけて!」

藍子「ゆるふわの輪、みなさんで作っていきましょう♪」

加蓮「はぁ……。ゆるふわって反則でしょ、もう。……さっき藍子を待ってる時にさ、ぼーっとしながら思ってたの。私、藍子に毒されてきたなぁ、って」

藍子「……毒しちゃいましたっ」

加蓮「そこ。イタズラっぽく笑わないの」

藍子「は~い」

加蓮「でさ――」

藍子「……?」

加蓮「……、ん……」

藍子「……??」

藍子「レモンティー、おかわりしますか?」

加蓮「いい。いらない」

藍子「はい」

加蓮「……」

藍子「……じゃあ、私は、加蓮ちゃんがお話してくれるまでゆっくりお待ちしますね」

加蓮「別に話しづらい内容じゃないんだけどね。話しづらいんじゃなくて、ただ……分かんないけど、話しにくいだけ」

藍子「分かりますよ」

加蓮「嘘でしょ」

藍子「分かりますもんっ」

加蓮「だからっ……って、あぁ、そうだよね。藍子なら分かるよね」

藍子「はい。加蓮ちゃんのことなら、分かります。分からなくても、分かれます」

加蓮「藍子だもんね。こういうの今でも慣れないなぁ。私の気持ちとか、分かってくれる人なんてろくにいなかったし……。押し付けの同情とか、嫌って程に見た――」

加蓮「っと。いけないいけない。せっかく藍子といるのに、暗いお話なんてよくないよね」

藍子「だから、気を遣ってくれなくても大丈夫ですよ? それよりは、そのままの加蓮ちゃんのお話を、聞いてみたいですから」

加蓮「別に素の私って訳でもないし隠し事でもないし、毒を吐いて愚痴るばかりの姿が素の私ってただのヤバイ奴でしょ」

加蓮「……ただ藍子といたら何もかも話したくなっちゃうだけだよ」

藍子「それが、そのままってことじゃないでしょうか」

加蓮「どーだか」

加蓮「んー……」

藍子「?」

加蓮「ねーねー藍子」

藍子「はい、何ですか?」

加蓮「さっきのイタズラしてる子供みたいな笑顔、もっかい見せてー」

藍子「えっ? いたずらしている時のような、って……? えっと……こう、ですか?」ニコー

加蓮「違う違う。それただの可愛いだけの藍子ちゃん」

藍子「じゃあ、こう?」ニパー

加蓮「それも違うよー。それはこの前公演やってからひそかにハマったオモチャ屋さん巡りをしてる時の藍子ちゃん」

藍子「それでしたら――って、待ってっ。どうしてそれ知ってるんですか!?」

加蓮「私だから」

藍子「……うぅ。納得できてしまうからズルい」

>>33 申し訳ございません。最後の藍子のセリフを一部修正させてください。
誤:藍子「……うぅ。納得できてしまうからズルい」
正:藍子「……うぅ。納得できてしまうから、ずるいです」



藍子「いたずらっぽい笑顔は、やっぱり分かりませんよ。加蓮ちゃん、お手本を見せてください」

加蓮「ん。んー……」

加蓮「……、」

加蓮「…………クククク……!」

藍子「い、いたずらを通り越して邪悪な何かになってますっ」

加蓮「え、そこまで?」(素に戻る)

藍子「いったい何を想像したんですか――あっ、やっぱりいいです。聞きたくないです」

加蓮「あれあれ、藍子ちゃんは加蓮ちゃんのお話なら何でも聞きたいんじゃなかったっけ?」

藍子「その時の気分ですっ!!」

加蓮「ふふっ」

加蓮「さっきの話だけどさ。藍子がさっき言ったじゃん。ちょっと自分やりすぎてるなーって。そんな感じで、私もちょっと悩んでて」

藍子「はい」

加蓮「私、藍子のことが大好きなんだな、って」

藍子「はい――…………!?」

加蓮「でさ。どうしたいんだろ、って考えてた」

加蓮「そうだとして私は何がしたいの? 何がやりたいの? 藍子みたいにひっついていたいの? なんて」

加蓮「結局、答えが出ないまま藍子が来てさー。そしたら……ぷぷっ」

加蓮「藍子ちゃんが初めてオーディションの、それもメチャクチャ大きいヤツに挑むアイドル候補生みたいな顔してたから、悩みがどこかに吹っ飛んじゃった」

藍子「~~~~~っ」

加蓮「しかも藍子の話を聞いててさ。藍子が、すごくアホみたいに見えちゃって」

藍子「~~~っ。加蓮ちゃん、いきなりっ……」

加蓮「……?」

加蓮「……で、そしたら悩んでる自分も、もしかしたら藍子と同じくらいに馬鹿なんじゃないかって思っちゃって。なんかもういいやー、ってなっちゃった」

加蓮「以上、今日の加蓮ちゃんの身の上話でした」

加蓮「……うん。改めて話すと、なんか自分がもっと馬鹿みたいに思えてきちゃった。どういう悩み方してんだろ、私」

藍子「……ご、ごほん。えっと、これは前にモバP(以下「P」)さんから聞いたお話ですけれど……」

藍子「悩むことや、考えることは、悪くないことだって思います」

加蓮「そう? すごい馬鹿なことなのに?」

藍子「そんなことないですっ。私だって、晩ごはんに何を食べたいかなって悩んだり、今日はどこにお出かけしようかなって、考えることもありますから」

加蓮「うんうん」

藍子「けれど、悩みすぎるのはよくないことらしいですよ。そのうち、悩むこと自体が目的になっちゃって――」

加蓮「悩むこと自体が目的……」

藍子「そうしたら、気持ちがすごく疲れちゃいますから。悩むのも、考えるのも、ほどほどってことですよねっ」

藍子「……も、もし、私が思っているより加蓮ちゃんの悩み事が深刻なら――」

藍子「その時は、一緒に解決しましょ?」

藍子「ほら、どんなお話だって聞いちゃいますよ~。私が、ここにいますよ~」

加蓮「……、ここに来るまで緊張してどもりまくってた子の言うセリフ?」

藍子「それとこれとは別じゃないですかっ!!」

加蓮「しかも私の気持ちを計ることもしないで、勝手にどうでもいい悩み事って決めつけちゃってさー。自分勝手ー」

藍子「ばっ――変な悩み事だって繰り返し言ってたの加蓮ちゃんの方ですよ!? 本音を誤魔化してるって感じにも見えませんでしたしっ……」

加蓮「あはははっ!」

藍子「もうっ……!」

加蓮「それこそ、藍子がこの前テラス席でやらかしちゃった時にもさ。私、似たことを考えてたの」

加蓮「ここで藍子とお喋りしていたい。一緒にいたい。テキトーなこと言って、笑って……」

加蓮「まー、たまには? 愚痴をぶつけちゃったり、お悩み聞いてもらったりして?」

藍子「……くすっ。そうですね。悩んでいることや困りごとを、いつも加蓮ちゃんに聞いてもらっています」

加蓮「聞いてあげています」

藍子「聞いてもらってますっ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「…………うん。私が聞いてもらってることの方が多いけどね」

藍子「あはは……。まあまあ。そういうのは、お互い様ですよ」

藍子「でも、加蓮ちゃん。それって、いつもの私と加蓮ちゃんのことですよ?」

加蓮「でしょー? だから今はそれでいいの。特別何かをやりたいなんて思ってないし」

加蓮「けど、また何かやりたいなって思ったら――」

加蓮「その時は私に付き合いなさいよ? 藍子」

加蓮「私にここまで毒を回らせた罪は重いわよ。どんなことでも聞いてもらうんだからね?」

藍子「はい。じゃあ、加蓮ちゃんがどんなことを言ってくるのか、楽しみに待ってますね」

加蓮「ありがと」

藍子「どういたしまして」

加蓮「……、」ズズ

藍子「……、」ズズ

加蓮「ふうっ」

藍子「ふ~」

加蓮「ごちそうさまでした」

藍子「ごちそうさまでしたっ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……なんか余裕しゃくしゃくなのムカつくなー。なんかとんでもないこと言ってやらせよっかなー」

藍子「加蓮ちゃんなら絶対そう言うって思いました! ……む、無理なことは無理ですからね?」

加蓮「あははっ」


【おしまい】

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