女子高生神絵師「TwitterでこんなDMばっか来るし、マジやってらんねー」
女子高生神絵師「私さぁ、フォロワー10万越えの神絵師なんだよね」
女子高生神絵師「人気ゲームのキャラデザもやってるし、ちゃんと会社と契約書結んで、お金貰ってるプロなワケ」
女子高生神絵師「しかも高校に通いながらだよ!?」
女子高生神絵師「そ、れ、な、の、に! 『絵は描くの簡単でしょ?』とか『ぱぱっとやればすぐ終わるじゃん』とか言ってくるクソども」
女子高生神絵師「ああああああもう、いらつく! 一個のイラストに10日以上もかかるのに、無償で描いてとかマジ頭沸いてんのかよ!」
女子高生神絵師「挙句の果てには『こんな乱暴な言葉を使う方なんですね、ブロックします』とか言ってきやがるし」
女子高生神絵師「ふざっけんな! こっちは遊びでやってんじゃねーんだよ! おまえ誰にでも『10日タダで働いてください』とか平気でいうのか!? 正気じゃねえわボケ!」
女子高生神絵師「ねえ聞いてる!?」
おっさん「おお……うん、聞いてる聞いてる」
おっさん「神絵師ってのも、大変なんだねぇ」
女子高生神絵師「そうなの! 本っ当頭来ちゃう!」
おっさん「あはは……」
女子高生神絵師「あ……。てか、ごめんね、あなたに当たることじゃないよね」
おっさん「いやいやぁ、俺なんかで良ければ、いつでも愚痴吐いていいよ」
おっさん「それくらいしか取り柄ないし」
女子高生神絵師「そんなことないってば」
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女子高生神絵師「……ねえ」
おっさん「ん? なんだい?」
女子高生神絵師「最近、小説、書いてなくない?」
おっさん「……ああ」
おっさん「なんていえばいいのかな、俺みたいなおっさんが書く作品は、今の時代にはあまりウケないというか」
おっさん「若い子のトレンドもよく分かってないしね。それにほら、ライトノベルっていうのかな、ああいうのが流行ってきて」
おっさん「俺のような現代群像劇をメインとして描いてる作品は、あまり売れなくなってきたんだ。事実、こないだ出せた本も打ち切りになっちゃってね」
女子高生神絵師「ふーん……」
女子高生神絵師「私、あなたの作品が好きなのに」
おっさん「はは、それは嬉しいな」
女子高生神絵師「もうー、知ってるでしょ?」
女子高生神絵師「私が絵を書き始めたのも、ネットであなたの作品を見て、大好きになって、その中のキャラクターを描きたかったのが理由だって」
おっさん「あ、ああ、そうだったね」
おっさん「熱心なファンの子だなぁ、って思ってたら、凄く上手い絵を送ってきてくれたのが、6年前だった」
おっさん「あの時は嬉しかったな。あでも、俺がそこまで絵に詳しくなくてさ、どう褒めればいいかもわからなくて、その点申し訳なかったけど」
女子高生神絵師「そうそう、語彙力は物凄いのに、絵のこと全然知らないなーって笑っちゃったw」
女子高生神絵師「……でも私、あの時あなたに返事をもらえて、とっても嬉しかったんだ」
女子高生神絵師「だからあれからも、たくさんたくさん、イラスト描いたんだよ、あなたのために」
おっさん「はは、おじさんをからからないでよ」
女子高生神絵師「からかってない! 本心だもん!」
喫茶店店員「お、お客様、お声をもう少し抑えて頂ければと……」
女子高生神絵師「あ、す、すみませーん」
おっさん「……」
おっさん「君と初めて会ったのも、このお店だったよね」
女子高生神絵師「!」
女子高生神絵師「覚えててくれたの!?」
おっさん「そりゃあもちろん」
おっさん「あれは君が12歳、私が32歳の時だった」
おっさん「びっくりしたよ。メールで君は20歳だというのに、会ってみたら12歳だというんだから」
女子高生神絵師「そうそうwww だってあなた真面目な人だから、未成年だと会ってくれないと思ってwww」
おっさん「また大人びた考えだなぁ」
女子高生神絵師「策士と呼んで! テヘ☆」
おっさん「一応俺もさ、売れないとはいえ本も出してる作家だったし、通報されてニュースにでもなるかと冷や冷やしたよ」
おっさん「未成年の、それも小学生の女児と、二人で喫茶店にいるんだからね」
女子高生神絵師「……あなたは帰ろうとしたけど、私がどうしてもって、泣いて頼んだら、一緒にいてくれたよね」
おっさん「いいや違うぞ。『あなたがもし帰ったら、今ここで児童買春ですって通報します!』と、君は俺を脅してきたんだ」
女子高生神絵師「そうだっけ? うふふ」
おっさん「全くもう」
女子高生神絵師「いーじゃんいーじゃん、結局私が高3になるまでも、こうしてお茶する仲になったんだし」
おっさん「いや、あのね、今でも君は女子高生な訳で、こんなおっさんと一緒に過ごしてるのも、基本は良くないことなんだよ?」
女子高生神絵師「まぁまぁ~、私が楽しいからだいじょぶだいじょぶ~」
おっさん「君が良くても世間と法律的には良くないんだってば……」
女子高生神絵師「あ、えと、それで、さ」
おっさん「ん?」
おっさん「ああそうか、今日は相談があるんだったね」
おっさん「何かあったのかい? 彼氏でもできたかな?」
女子高生神絵師「で、できないし! てか興味ないし!」
おっさん「あらら、そんなに美人さんなのに、勿体ない」
女子高生神絵師「ちが、興味はあるけど、好きな人にしか興味がないの!」
おっさん「ほう、じゃあクラスの男子にでも好きな子がいるのかな?」
女子高生神絵師「いない! 同級生とかエッチなことしか考えてない頭悪い奴らばっかだし、年上しか無理!」
おっさん「ま、まぁ思春期の男子はね、そういうものだから」
女子高生神絵師「てか相談! 全然違う内容だから! あいや、あなたとの恋バナならしたいけど、今日はそうじゃないの!」
おっさん「うん、なんだい?」
女子高生神絵師「……仕事のことでさ」
おっさん「ほう」
女子高生神絵師「えと」
女子高生神絵師「……」
おっさん「ん?」
女子高生神絵師「ラ、ラノベの表紙の依頼があって。なんか、アニメ化も視野に入れてるようなやつ」
おっさん「へえ、凄いじゃないか!」
女子高生神絵師「……けどちょっと」
女子高生神絵師「迷ってて……」
おっさん「どうしてだい? 受けていいんじゃないかな? 実績になることは間違いないし、刊行前からアニメ化が進んでる企画なら、作家も相当な売れっ子なんだろう」
女子高生神絵師「そりゃまぁ、そうなんだけど……」
おっさん「?」
おっさん「何か迷ってることでも、あるのかな」
女子高生神絵師「……」
女子高生神絵師「いや、その」
女子高生神絵師「私がこうして、有名なイラストレーターになったのも、あなたがきっかけだし」
女子高生神絵師「あなたのおかげだし……」
おっさん「いやいや、俺は何もしてないって」
女子高生神絵師「そんなことない!」
女子高生神絵師「私ね、小学生の時にいじめられてて、自殺まで考えたこともあったの」
おっさん「えっ」
女子高生神絵師「でもそんな時、あなたの小説を読んで、私は心が救われたんだ」
おっさん「……」
女子高生神絵師「学校とか職場とかの小さな世界で、人は関係性と価値観を植え付けられるけど、そこに決して囚われるなって。外の世界に抜けだせば、常識や価値観も全く違って、多くの可能性が秘められえるんだって。だから、どうせ死ぬなら、たくさんの世界を見てからにしようって教えてくれた」
おっさん「そんな青臭いこと……書いたかな、はは」
おっさん「僕も小さな頃にね、いじめられていたけど、本という世界が、人生を変えてくれたから」
女子高生神絵師「そうだったんだ……」
女子高生神絵師「あ、えと、ごめん話がズレちゃって」
おっさん「ううん、嬉しかったよ」
女子高生神絵師「ええと、だからね、あの」
女子高生神絵師「私は、初めての本の仕事を受けるときは、あなたの小説の表紙を描くって、決めてたの」
おっさん「え……」
女子高生神絵師「夢っていうか、その、憧れっていうか」
おっさん「……光栄だね」
おっさん「でも、これは君のためにあえて言うのだけど」
女子高生神絵師「ん?」
おっさん「俺の小説の絵を描くことなんかより、君の未来のためにも、ライトノベル表紙の仕事を絶対に優先した方がいい」
女子高生神絵師「……」
おっさん「だって、こんなビッグチャンス、受けない理由がないじゃないか」
おっさん「君は今でさえ有名なイラストレーターで、逆になぜ今まで一度も小説の表紙を描いてなかったのか、というくらいの実力を世間に認知されてる。それにファンの人も、実績のある作家さんの表紙を描いたと知ったら、大いに喜んでくれるだろう」
おっさん「それだけじゃない、アニメ化されて人気も出れば、表紙の報酬だけじゃなくグッズや版権使用の際にも君にパーセンテージでお給金が出たりする場合もある。そうなれば君は名実ともに、著名なイラストレーターさんだ」
女子高生神絵師「……別に、お金とか、興味ない」
おっさん「まぁまぁ、今はそうかもしれないけど、フリーランスで絵を描き続けるには必要なことだよ」
おっさん「ご両親もきっと喜んでくださる。誇りに思っていいことだ。だから、同じようなことを繰り返して申し訳ないけど、受けない理由がない」
女子高生神絵師「……」
おっさん「君が俺の作品の表紙を描きたいと言ってくれる気持ちは、とても嬉しいんだが」
おっさん「ほら、俺の小説は、人気もないし……」
女子高生神絵師「そんなことない!」
おっさん「君の夢を実現させたくてさ、絵を描いてもらったところで……逆に君の名が傷つく危険もある」
女子高生神絵師「いいよ別に! 私が好きでやりたいことなんだから!」
おっさん「君が良くても、俺が良くないよ」
おっさん「君には、ずっと表舞台で輝いていてほしいんだ。こんなおっさんなんかの物語より、映える作品の絵を描いた方が君の将来の……」
女子高生神絵師「いやだ! 私はあなたの作品の絵を描きたい、他のやつのなんて受けたくない!」
女子高生神絵師「ゲームのキャラの仕事は仕方なく受けたけど、その時分かったの、私はあなたの小説の絵しか描きたくないんだって!」
女子高生神絵師「それに私……、あ、あなたのことが!」
おっさん「……それ以上、言っちゃダメだ」
女子高生神絵師「えっ」
今日の更新は終わります
おっさん「……君にはたくさんの、未来がある」
おっさん「こんなおっさんに拘ってないで、自分の道をきちんと進みなさい」
女子高生神絵師「っ!」
おっさん「……」
おっさん「ほ、ほら、下を向かないで。せっかくの祝いの席なんだ、今日は奮発してホールケーキを奢――」
女子高生神絵師「もういい!」
おっさん「えっ」
女子高生神絵師「バカーーーーッ!!」
タタタタタッ
カランカラン
おっさん「あ……」
おっさん「……」
おっさん(いや、これでいいんだ、これで)
おっさん(こんなおっさんが何を期待してる、どうせ俺は人生の負け組)
おっさん(彼女の幸せのためにも、これが一番いいんだ)
~スーパーのレジ~
おっさん「いらっしゃいませー」
ピッピッ
おっさん「ありがとうございましたー」
おっさん「ふぅ」
おっさん(小説を書かなくなって収入もないし、スーパーでレジ打ちを始めたものの)
おっさん(いやはや、みじめなもんだな)
おっさん(けど暇な時は小説のネタを考えることはできるし、これはこれでなかなか――)
おっさん「!」
おっさん(いやいや、何を考えてるんだ、俺の小説は売れないんだって分かったじゃないか)
おっさん(Ama●onなんかの通信販売でも、時代遅れの作品だと辛口評価されてしまったし)
おっさん(今の時代に俺の作品は評価されない。誰にも求められていない。出版社にだって迷惑をかけることになる。……これからは、ひっそりと生きていくことが一番いいんだ)
女性「あれ? あんたここでバイトしてるの?」
おっさん「えっ」
女性「あたしだよあたし」
おっさん「おお、幼馴染か、久しぶりだな。こっちに戻ってきてたのか?」
女性「うん、旦那が実家に養子にきたからね」
おっさん「そうかそうか、お前ひとりっ子だったもんな。こんなところでなんだが、結婚おめでとう」
女性「おう、サンキュ。――って結婚したのは5年前だっつの」
おっさん「……そう、だったか、すまん」
女性「まぁアンタ、小さい頃からずっと小説書いてて、他には興味なかったもんねぇ」
おっさん「あはは、かたじけない」
子供「ねえお母さん、これ買って~」
女性「はいはい、買い物籠に入れなさいな」
子供「わーい」
おっさん(……俺の幼馴染には、もうこんなに大きい子がいる)
おっさん(それに比べて俺なんて)
おっさん(時の流れは残酷だな)
女性「なーにシケた顔してんのさ」
おっさん「え、ああいや、すまん」
子供「お母さん、この人だれー?」
女性「えーと、なんていうのかな、お母さんのお友達だよ、小さい頃からのね」
子供「へー」
おっさん(……)
おっさん(俺も、作家なんか目指さなきゃ)
おっさん(普通に会社員にでもなって、普通の家庭を築けたのかな)
女性「……ねえ」
おっさん「ん?」
女性「久々に会ったんだしさ、今夜飲みにでもいかない?」
おっさん「お、おいおい、子供はどうするんだよ、それに旦那さんとしてもよくは思わないだろう」
女性「だーれが二人で飲みに行くっていったよ、隣に住んでんだから、うちに飲みに来いって言ってんの。旦那のこと紹介するし」
おっさん「ああ、そういうことか。なら行かせてもらうよ」
女性「おう、んじゃ19時からな」
おっさん「分かった」
おっさん(……人と飲むのは、久しぶりだな)
~幼馴染宅~
女性「くぉらー! 飲んでんのかおまえー!」
おっさん「お、おう、飲んでるってば」
旦那「うちの妻が……すみません……」
おっさん「ああいえいえ、むしろこちらこそ、夜分まで失礼して申し訳ないです」
旦那「いやいや、妻の幼少期の話が聞けて、とても嬉しかったですよ!」
旦那「それに、大ファンである先生とお話できるなんて、本当に光栄だなと」
おっさん「え、だ、大、ファン……?」
旦那「はい!」
女性「そうよぉ~、こいつに、あんたの、ヒック、本を読ませたら、すっかりハマっちゃってぇ~」
旦那「僭越ながら、妻に勧められるまで本など読まなかった私ですが、あなたが出版された5作品、全て読ませて頂いてファンになったんです」
旦那「私はその時から妻にぞっこんだった訳で……だから当時は、あなたに嫉妬したものですよ。妻がこんなに入れ込んでる作家さんが、幼馴染だというのですから」
おっさん「え……」
旦那「でもあなたの作品は、私の嫉妬心さえも変えてくれるくらい、素晴らしいものだった。彼女が応援する理由も分かるなと」
おっさん「……」
女性「うふふん、あたしはさー、昔から、あんたの応援してたんだよぉ?」
女性「だってさ、幼馴染が小説家って、すごくない!?」
旦那「凄い凄い」
おっさん「あいや、でも俺はそんな……」
女性「あたしはねぇ、こいつと出会ってねえ? あんたの本のことをねぇ、凄く好きになってくれたからねぇ、一緒になったの。あははは!」
おっさん「……」
旦那「ほらほら、もう、酔ってるんだから今日は寝ようか」
女性「だめだ! まだ飲むぅ!」
旦那「まったくもう」
おっさん(この旦那さんは、とても、心が大きい人だな)
おっさん(俺には真似できそうにない。こんな惨めな俺じゃあ)
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