女子高生神絵師「は? 無料でイラスト描いてくれないかって? 無理無理www」 (21)


女子高生神絵師「TwitterでこんなDMばっか来るし、マジやってらんねー」

女子高生神絵師「私さぁ、フォロワー10万越えの神絵師なんだよね」

女子高生神絵師「人気ゲームのキャラデザもやってるし、ちゃんと会社と契約書結んで、お金貰ってるプロなワケ」

女子高生神絵師「しかも高校に通いながらだよ!?」

女子高生神絵師「そ、れ、な、の、に! 『絵は描くの簡単でしょ?』とか『ぱぱっとやればすぐ終わるじゃん』とか言ってくるクソども」

女子高生神絵師「ああああああもう、いらつく! 一個のイラストに10日以上もかかるのに、無償で描いてとかマジ頭沸いてんのかよ!」

女子高生神絵師「挙句の果てには『こんな乱暴な言葉を使う方なんですね、ブロックします』とか言ってきやがるし」

女子高生神絵師「ふざっけんな! こっちは遊びでやってんじゃねーんだよ! おまえ誰にでも『10日タダで働いてください』とか平気でいうのか!? 正気じゃねえわボケ!」

女子高生神絵師「ねえ聞いてる!?」

おっさん「おお……うん、聞いてる聞いてる」

おっさん「神絵師ってのも、大変なんだねぇ」

女子高生神絵師「そうなの! 本っ当頭来ちゃう!」

おっさん「あはは……」

女子高生神絵師「あ……。てか、ごめんね、あなたに当たることじゃないよね」

おっさん「いやいやぁ、俺なんかで良ければ、いつでも愚痴吐いていいよ」

おっさん「それくらいしか取り柄ないし」

女子高生神絵師「そんなことないってば」



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女子高生神絵師「……ねえ」

おっさん「ん? なんだい?」

女子高生神絵師「最近、小説、書いてなくない?」

おっさん「……ああ」

おっさん「なんていえばいいのかな、俺みたいなおっさんが書く作品は、今の時代にはあまりウケないというか」

おっさん「若い子のトレンドもよく分かってないしね。それにほら、ライトノベルっていうのかな、ああいうのが流行ってきて」

おっさん「俺のような現代群像劇をメインとして描いてる作品は、あまり売れなくなってきたんだ。事実、こないだ出せた本も打ち切りになっちゃってね」

女子高生神絵師「ふーん……」

女子高生神絵師「私、あなたの作品が好きなのに」

おっさん「はは、それは嬉しいな」

女子高生神絵師「もうー、知ってるでしょ?」

女子高生神絵師「私が絵を書き始めたのも、ネットであなたの作品を見て、大好きになって、その中のキャラクターを描きたかったのが理由だって」

おっさん「あ、ああ、そうだったね」

おっさん「熱心なファンの子だなぁ、って思ってたら、凄く上手い絵を送ってきてくれたのが、6年前だった」

おっさん「あの時は嬉しかったな。あでも、俺がそこまで絵に詳しくなくてさ、どう褒めればいいかもわからなくて、その点申し訳なかったけど」

女子高生神絵師「そうそう、語彙力は物凄いのに、絵のこと全然知らないなーって笑っちゃったw」

女子高生神絵師「……でも私、あの時あなたに返事をもらえて、とっても嬉しかったんだ」

女子高生神絵師「だからあれからも、たくさんたくさん、イラスト描いたんだよ、あなたのために」

おっさん「はは、おじさんをからからないでよ」

女子高生神絵師「からかってない! 本心だもん!」


喫茶店店員「お、お客様、お声をもう少し抑えて頂ければと……」

女子高生神絵師「あ、す、すみませーん」

おっさん「……」


おっさん「君と初めて会ったのも、このお店だったよね」

女子高生神絵師「!」

女子高生神絵師「覚えててくれたの!?」

おっさん「そりゃあもちろん」

おっさん「あれは君が12歳、私が32歳の時だった」

おっさん「びっくりしたよ。メールで君は20歳だというのに、会ってみたら12歳だというんだから」

女子高生神絵師「そうそうwww だってあなた真面目な人だから、未成年だと会ってくれないと思ってwww」

おっさん「また大人びた考えだなぁ」

女子高生神絵師「策士と呼んで! テヘ☆」


おっさん「一応俺もさ、売れないとはいえ本も出してる作家だったし、通報されてニュースにでもなるかと冷や冷やしたよ」

おっさん「未成年の、それも小学生の女児と、二人で喫茶店にいるんだからね」

女子高生神絵師「……あなたは帰ろうとしたけど、私がどうしてもって、泣いて頼んだら、一緒にいてくれたよね」

おっさん「いいや違うぞ。『あなたがもし帰ったら、今ここで児童買春ですって通報します!』と、君は俺を脅してきたんだ」

女子高生神絵師「そうだっけ? うふふ」

おっさん「全くもう」

女子高生神絵師「いーじゃんいーじゃん、結局私が高3になるまでも、こうしてお茶する仲になったんだし」

おっさん「いや、あのね、今でも君は女子高生な訳で、こんなおっさんと一緒に過ごしてるのも、基本は良くないことなんだよ?」

女子高生神絵師「まぁまぁ~、私が楽しいからだいじょぶだいじょぶ~」

おっさん「君が良くても世間と法律的には良くないんだってば……」



女子高生神絵師「あ、えと、それで、さ」

おっさん「ん?」

おっさん「ああそうか、今日は相談があるんだったね」

おっさん「何かあったのかい? 彼氏でもできたかな?」

女子高生神絵師「で、できないし! てか興味ないし!」

おっさん「あらら、そんなに美人さんなのに、勿体ない」

女子高生神絵師「ちが、興味はあるけど、好きな人にしか興味がないの!」

おっさん「ほう、じゃあクラスの男子にでも好きな子がいるのかな?」

女子高生神絵師「いない! 同級生とかエッチなことしか考えてない頭悪い奴らばっかだし、年上しか無理!」

おっさん「ま、まぁ思春期の男子はね、そういうものだから」

女子高生神絵師「てか相談! 全然違う内容だから! あいや、あなたとの恋バナならしたいけど、今日はそうじゃないの!」

おっさん「うん、なんだい?」

女子高生神絵師「……仕事のことでさ」

おっさん「ほう」

女子高生神絵師「えと」

女子高生神絵師「……」

おっさん「ん?」

女子高生神絵師「ラ、ラノベの表紙の依頼があって。なんか、アニメ化も視野に入れてるようなやつ」

おっさん「へえ、凄いじゃないか!」

女子高生神絵師「……けどちょっと」

女子高生神絵師「迷ってて……」

おっさん「どうしてだい? 受けていいんじゃないかな? 実績になることは間違いないし、刊行前からアニメ化が進んでる企画なら、作家も相当な売れっ子なんだろう」

女子高生神絵師「そりゃまぁ、そうなんだけど……」



おっさん「?」

おっさん「何か迷ってることでも、あるのかな」

女子高生神絵師「……」

女子高生神絵師「いや、その」

女子高生神絵師「私がこうして、有名なイラストレーターになったのも、あなたがきっかけだし」

女子高生神絵師「あなたのおかげだし……」

おっさん「いやいや、俺は何もしてないって」

女子高生神絵師「そんなことない!」

女子高生神絵師「私ね、小学生の時にいじめられてて、自殺まで考えたこともあったの」

おっさん「えっ」

女子高生神絵師「でもそんな時、あなたの小説を読んで、私は心が救われたんだ」

おっさん「……」

女子高生神絵師「学校とか職場とかの小さな世界で、人は関係性と価値観を植え付けられるけど、そこに決して囚われるなって。外の世界に抜けだせば、常識や価値観も全く違って、多くの可能性が秘められえるんだって。だから、どうせ死ぬなら、たくさんの世界を見てからにしようって教えてくれた」

おっさん「そんな青臭いこと……書いたかな、はは」

おっさん「僕も小さな頃にね、いじめられていたけど、本という世界が、人生を変えてくれたから」

女子高生神絵師「そうだったんだ……」

女子高生神絵師「あ、えと、ごめん話がズレちゃって」

おっさん「ううん、嬉しかったよ」

女子高生神絵師「ええと、だからね、あの」

女子高生神絵師「私は、初めての本の仕事を受けるときは、あなたの小説の表紙を描くって、決めてたの」

おっさん「え……」

女子高生神絵師「夢っていうか、その、憧れっていうか」

おっさん「……光栄だね」


おっさん「でも、これは君のためにあえて言うのだけど」

女子高生神絵師「ん?」

おっさん「俺の小説の絵を描くことなんかより、君の未来のためにも、ライトノベル表紙の仕事を絶対に優先した方がいい」

女子高生神絵師「……」

おっさん「だって、こんなビッグチャンス、受けない理由がないじゃないか」

おっさん「君は今でさえ有名なイラストレーターで、逆になぜ今まで一度も小説の表紙を描いてなかったのか、というくらいの実力を世間に認知されてる。それにファンの人も、実績のある作家さんの表紙を描いたと知ったら、大いに喜んでくれるだろう」

おっさん「それだけじゃない、アニメ化されて人気も出れば、表紙の報酬だけじゃなくグッズや版権使用の際にも君にパーセンテージでお給金が出たりする場合もある。そうなれば君は名実ともに、著名なイラストレーターさんだ」

女子高生神絵師「……別に、お金とか、興味ない」

おっさん「まぁまぁ、今はそうかもしれないけど、フリーランスで絵を描き続けるには必要なことだよ」

おっさん「ご両親もきっと喜んでくださる。誇りに思っていいことだ。だから、同じようなことを繰り返して申し訳ないけど、受けない理由がない」

女子高生神絵師「……」

おっさん「君が俺の作品の表紙を描きたいと言ってくれる気持ちは、とても嬉しいんだが」

おっさん「ほら、俺の小説は、人気もないし……」

女子高生神絵師「そんなことない!」

おっさん「君の夢を実現させたくてさ、絵を描いてもらったところで……逆に君の名が傷つく危険もある」

女子高生神絵師「いいよ別に! 私が好きでやりたいことなんだから!」

おっさん「君が良くても、俺が良くないよ」

おっさん「君には、ずっと表舞台で輝いていてほしいんだ。こんなおっさんなんかの物語より、映える作品の絵を描いた方が君の将来の……」

女子高生神絵師「いやだ! 私はあなたの作品の絵を描きたい、他のやつのなんて受けたくない!」

女子高生神絵師「ゲームのキャラの仕事は仕方なく受けたけど、その時分かったの、私はあなたの小説の絵しか描きたくないんだって!」

女子高生神絵師「それに私……、あ、あなたのことが!」

おっさん「……それ以上、言っちゃダメだ」

女子高生神絵師「えっ」

今日の更新は終わります


おっさん「……君にはたくさんの、未来がある」

おっさん「こんなおっさんに拘ってないで、自分の道をきちんと進みなさい」

女子高生神絵師「っ!」

おっさん「……」

おっさん「ほ、ほら、下を向かないで。せっかくの祝いの席なんだ、今日は奮発してホールケーキを奢――」

女子高生神絵師「もういい!」

おっさん「えっ」

女子高生神絵師「バカーーーーッ!!」

タタタタタッ

カランカラン

おっさん「あ……」

おっさん「……」

おっさん(いや、これでいいんだ、これで)

おっさん(こんなおっさんが何を期待してる、どうせ俺は人生の負け組)

おっさん(彼女の幸せのためにも、これが一番いいんだ)


~スーパーのレジ~

おっさん「いらっしゃいませー」

ピッピッ

おっさん「ありがとうございましたー」

おっさん「ふぅ」

おっさん(小説を書かなくなって収入もないし、スーパーでレジ打ちを始めたものの)

おっさん(いやはや、みじめなもんだな)

おっさん(けど暇な時は小説のネタを考えることはできるし、これはこれでなかなか――)

おっさん「!」

おっさん(いやいや、何を考えてるんだ、俺の小説は売れないんだって分かったじゃないか)

おっさん(Ama●onなんかの通信販売でも、時代遅れの作品だと辛口評価されてしまったし)

おっさん(今の時代に俺の作品は評価されない。誰にも求められていない。出版社にだって迷惑をかけることになる。……これからは、ひっそりと生きていくことが一番いいんだ)


女性「あれ? あんたここでバイトしてるの?」

おっさん「えっ」

女性「あたしだよあたし」

おっさん「おお、幼馴染か、久しぶりだな。こっちに戻ってきてたのか?」

女性「うん、旦那が実家に養子にきたからね」

おっさん「そうかそうか、お前ひとりっ子だったもんな。こんなところでなんだが、結婚おめでとう」

女性「おう、サンキュ。――って結婚したのは5年前だっつの」

おっさん「……そう、だったか、すまん」

女性「まぁアンタ、小さい頃からずっと小説書いてて、他には興味なかったもんねぇ」

おっさん「あはは、かたじけない」

子供「ねえお母さん、これ買って~」

女性「はいはい、買い物籠に入れなさいな」

子供「わーい」


おっさん(……俺の幼馴染には、もうこんなに大きい子がいる)

おっさん(それに比べて俺なんて)

おっさん(時の流れは残酷だな)



女性「なーにシケた顔してんのさ」

おっさん「え、ああいや、すまん」

子供「お母さん、この人だれー?」

女性「えーと、なんていうのかな、お母さんのお友達だよ、小さい頃からのね」

子供「へー」


おっさん(……)

おっさん(俺も、作家なんか目指さなきゃ)

おっさん(普通に会社員にでもなって、普通の家庭を築けたのかな)


女性「……ねえ」

おっさん「ん?」

女性「久々に会ったんだしさ、今夜飲みにでもいかない?」

おっさん「お、おいおい、子供はどうするんだよ、それに旦那さんとしてもよくは思わないだろう」

女性「だーれが二人で飲みに行くっていったよ、隣に住んでんだから、うちに飲みに来いって言ってんの。旦那のこと紹介するし」

おっさん「ああ、そういうことか。なら行かせてもらうよ」

女性「おう、んじゃ19時からな」

おっさん「分かった」


おっさん(……人と飲むのは、久しぶりだな)



~幼馴染宅~


女性「くぉらー! 飲んでんのかおまえー!」

おっさん「お、おう、飲んでるってば」

旦那「うちの妻が……すみません……」

おっさん「ああいえいえ、むしろこちらこそ、夜分まで失礼して申し訳ないです」

旦那「いやいや、妻の幼少期の話が聞けて、とても嬉しかったですよ!」

旦那「それに、大ファンである先生とお話できるなんて、本当に光栄だなと」

おっさん「え、だ、大、ファン……?」

旦那「はい!」

女性「そうよぉ~、こいつに、あんたの、ヒック、本を読ませたら、すっかりハマっちゃってぇ~」

旦那「僭越ながら、妻に勧められるまで本など読まなかった私ですが、あなたが出版された5作品、全て読ませて頂いてファンになったんです」

旦那「私はその時から妻にぞっこんだった訳で……だから当時は、あなたに嫉妬したものですよ。妻がこんなに入れ込んでる作家さんが、幼馴染だというのですから」

おっさん「え……」

旦那「でもあなたの作品は、私の嫉妬心さえも変えてくれるくらい、素晴らしいものだった。彼女が応援する理由も分かるなと」

おっさん「……」

女性「うふふん、あたしはさー、昔から、あんたの応援してたんだよぉ?」

女性「だってさ、幼馴染が小説家って、すごくない!?」

旦那「凄い凄い」

おっさん「あいや、でも俺はそんな……」

女性「あたしはねぇ、こいつと出会ってねえ? あんたの本のことをねぇ、凄く好きになってくれたからねぇ、一緒になったの。あははは!」

おっさん「……」

旦那「ほらほら、もう、酔ってるんだから今日は寝ようか」

女性「だめだ! まだ飲むぅ!」

旦那「まったくもう」


おっさん(この旦那さんは、とても、心が大きい人だな)

おっさん(俺には真似できそうにない。こんな惨めな俺じゃあ)

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