高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「春隣のカフェテラスで」 (37)

――おしゃれなカフェテラス――

北条加蓮「やっほ、藍子」

高森藍子「~~~♪ ……あっ。こんにちは、加蓮ちゃんっ」

加蓮「店員さんが、藍子ならこっちにいるって言ってて。テラス席なんだ」

藍子「はい。今日は、こっちですよ」

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レンアイカフェテラスシリーズ第108話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「雪の降らないカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「くもりのち晴れのカフェで」
・北条加蓮「Zzz...」高森藍子「加蓮ちゃんが寝ているカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「色々思い浮かべるカフェで」

藍子「……もしかして、加蓮ちゃん。まだ、もうちょっとだけ、寒い?」

加蓮「だから心配ばっかりすんなっ」

藍子「ふふ。ごめんなさい」

加蓮「大丈夫だってば。ここに来る時も、暑くなってセーターを脱いじゃったくらいだし」

藍子「今日は、すごくぽかぽかしていて……♪ とってもいい天気ですよね」

加蓮「…………」

藍子「……? 加蓮ちゃん?」

加蓮「あぁ、ううん……。そうだね」

藍子「私、今日は晴れるといいなって思っていたんです」

加蓮「ふうん?」

藍子「ほら、昨日まで雨が降っていて……。今日は、加蓮ちゃんとここに来る約束だったから」

藍子「晴れるといいなぁ、って! そうしたら、テラス席でのんびりできそうかなって思ってました」

加蓮「椅子も完璧に乾いてるみたいだね」スワル

藍子「気温が高くなった日は、店員さんがいつも以上にお手入れをされているみたいですよ」

加蓮「へー? 聞いた話?」

藍子「ううん。見たお話……ううん? 聞いたお話なのかな……?」

加蓮「あははっ。どっちなのー?」

藍子「今日、来た時に店員さんがテラス席の方にいて」

藍子「すぐに私のことに気付いてくれて、ぱたぱたってお店の中に戻って――」

加蓮「そこは物陰に隠れて眺めるところでしょ」

藍子「もう。加蓮ちゃんっ」

藍子「それから、中に入って……。テラス席は使えますかって聞いたら、店員さん、ぱあって笑顔になってくれて♪」

加蓮「お客さんが店員を笑顔にする、って。なんか藍子らしいっ」

藍子「さっきまで、お客さんがいない間にテラス席を使えるようにお手入れしていたそうなんです」

藍子「ほら、昨日が雨だったから、やっぱりいくつか濡れちゃってる場所があって……」

加蓮「あー……。ああいうの面倒くさいよね」

藍子「ふふ。ちょっぴりめんどうですよね」

加蓮「……藍子ー? "嘘"はダメだよー?」

藍子「ぎくっ」

加蓮「どうせ、その面倒をどうにかするのも楽しい、とか思ってるでしょ。藍子のことなんだから」

藍子「ばれちゃいました。……自分では、自然に言えたつもりなのに~」

加蓮「甘い甘い。ま、私以外なら騙せたかもしれないけどね?」

藍子「む~」

加蓮「濡れた場所を、って言うけどさ。木の椅子とかテーブルとか、完璧に乾いてるじゃん。どうやったんだろ」

藍子「それは、私もどうやったのかなって思いました。店員さんに注文をする時に聞いてみたら――」

加蓮「聞いてみたら?」

藍子「残念ながら、内緒だそうですっ」

加蓮「えー。何それ」

加蓮「内緒、内緒かぁ……ふうん?」

藍子「あっ。加蓮ちゃんの目が光った……」

加蓮「……、」ジー

藍子「?」

加蓮「ダメじゃん藍子。そこは店員さんが吐――店員さんが喋り出すまで粘らなきゃ!」

藍子「それこそ駄目ですっ。内緒って言うんですから、内緒なんですよ?」

加蓮「藍子はまだまだ人生経験が足りないね。内緒、っていう言葉は暴かれる為にあるんだよ?」

藍子「……では、本当に隠したいことがある時には、どんな言葉を使えばいいんですか? 秘密、とか?」

加蓮「秘密って言葉は、暴かれる為に――」

藍子「どっちも同じじゃないですか!」

加蓮「くくく。藍子なら、無言でじーと見つめるだけで店員さんの方から喋ってくれると思うんだけどなー」

加蓮「それに、藍子も気にならない? びしゃ濡れになった木の素材の物を一瞬で乾かす方法」

藍子「それは……。そう言われてしまうと、気になってしまいます」

加蓮「でしょ?」

藍子「で、でもっ。店員さんは内緒って言っているんですから!」

加蓮「むぅ。変なとこで意地っ張りなんだから……」

藍子「ねっ?」

加蓮「はいはい」

藍子「……無言で、じ~、と見つめる……」

加蓮「?」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「……何?」

藍子「じ~」

加蓮「……」

藍子「じぃ~」

加蓮「……」

藍子「……な、何か、私に喋ることがあるんじゃない……です、か……」

加蓮「……」

藍子「……あぅ」

加蓮「……まあ、セリフは間違ってないと思うよ?」

藍子「こういうのは、なかなかうまくできませんね」

加蓮「やろうと思ってはみたんだ」

藍子「はい。今の加蓮ちゃんのお話で……ほら、この前の、演技のお話」

藍子「二面性のある役を見てみたい、って、加蓮ちゃんが言ってくれたじゃないですか」

加蓮「うん、言ったね」

藍子「あれを聞いて……やっぱり、二面性の役柄のことはうまく分からないというか、ぴんと来ませんでした」

藍子「モバP(以下「P」)さんにも相談してみたんですけれど、なんだかすごい剣幕で止められてしまって」

加蓮「……それかぁ」

藍子「?」

加蓮「この前さ、Pさんとミーティングしててね。だいたいその時に決めないといけないこととか話さないといけないこととか終わらせた後に、どーでもいい話をしたりするの」

藍子「どうでもいいお話」

加蓮「どこそこでポテト食べたー、とか、Pさんが昔の懐メロ? を久しぶりに聞いてみたとか、ホントにどうでもいい話」

藍子「ふふ。なんだか気になっちゃいますね」

加蓮「ホントのホントにどうでもいい話だよ?」

藍子「だからこそ、ですっ。それに、加蓮ちゃんがそういう言い方をする時は……たぶん、何か聞いておいた方がいいお話が――」

藍子「ううん。聞いておいた方が、というのは少し違うかもしれません」

藍子「そうですね~。聞いておくと、おトクになるお話? が、混じっていそうな気配がしますっ」

加蓮「かもね?」

藍子「くすっ」

加蓮「とにかく。いつもはそんな感じなんだけど、この前のミーティングの時にPさんずーっと堅い感じで」

藍子「ふむふむ」

加蓮「終わった後に、こう、いつも通りにーって感じじゃなかったから、何かあったの? って聞いてみたんだ」

加蓮「そしたら、少し悩んだ後にさ――」

加蓮「藍子に二面性の演技の話をしたの加蓮だろ、って」

加蓮「今までで一番マジ顔してたなー、Pさん」

藍子「なるほど……?」

加蓮「おかしいよね。私、今までもう藍子に変なこと吹き込みまくってるのに。今さら?」

藍子「それ、加蓮ちゃんが言うんですか?」ジトー

加蓮「私以外が言ったらただの陰口になっちゃうし、陰口ってどんな理由があっても言ったら嫌なヤツになっちゃうよ。他の誰かが嫌なヤツになるくらいなら、私が言う方がマシでしょー?」

藍子「…………」ポカーン

加蓮「……え、何。大きく口を入れて。春っぽい風でも送ってほしいの?」

藍子「あ、いえ……。その……。ふふっ♪」

加蓮「1人で完結すんなっ」

藍子「加蓮ちゃんの考えだなぁ、って思ったら、つい笑っちゃいました。……違いますっ、馬鹿にして笑った訳ではありませんっ」

加蓮「それくらい分かってるって。で、二面性の話だけど……。別に、藍子っぽくないことをやったらそれが二面性に繋がる訳じゃないと思うよ?」

藍子「はい。そこは、なんとなく分かっているつもりです」

加蓮「ふぅん」

藍子「今でも、加蓮ちゃんの言ってくれたことは……分かってはいるんですけれど、なんだかぴんとこなくて。ごめんなさいっ」

加蓮「はいはい。悪いと思うならPさんの誤解を解いておいてね」

藍子「は~い」

藍子「それで、他にも……ほら、今までやったことのない、演技? にも挑戦してみたいなぁ、なんて!」

加蓮「ふふっ。アグレッシブー」

藍子「加蓮ちゃんからお話を聞く時には、頑張って、いろいろな言葉を使ったり、考え方を使ったり……とにかく、お話していたじゃないですか」

藍子「だから、さっき加蓮ちゃんの言った、無言でじ~って眺める……っていうのにも、挑戦してみたくてっ」

加蓮「……生真面目ー」

藍子「か、加蓮ちゃんの目が急に冷たく……!?」

藍子「負けませんよ~っ。じ~」

加蓮「……」

藍子「じぃ~」

加蓮「…………」

藍子「じいぃ~」

加蓮「……にらめっこでもするつもり? 分かった。そーいうことなら、本気で行くよ!」


――4分後――

加蓮「」チーン

藍子「……いえ~い?」

加蓮「……勝って喜ぶならもっとそれっぽく喜びなさいよ。なんか負けた私がすごい弱かったみたいになるじゃん」

藍子「じゃあ……。い、いえいっ!」

加蓮「そうそうそんな感じー……」ヨロヨロ

藍子「もう、加蓮ちゃんっ」

加蓮「今度は何……」

藍子「もうちょっと、加蓮ちゃんの目を見ていたかったのに。顔ごと、ぐい、って逸らしちゃうんですから」

加蓮「倒した相手にもっと甚振りたかったって宣言するのはどーかと思うよ……」

藍子「?」

加蓮「はぁ……。……ん?」<カランカラン

藍子「店員さんっ。こんにちは。はい、この通り、加蓮ちゃんが来てくれましたよ」

加蓮「こんにちは、ゲストの加蓮だよー」

藍子「……ふふ。加蓮ちゃん、ゲストなんですか?」

加蓮「……つい反射で。え、何店員さん。来てくれてありがとうございますって……ちょ、私がここに来るのは普通のことでしょ? 何その、ようやく念願の人と会えた出演者みたいな反応!」

藍子「くすくすっ♪」

藍子「そういえば、加蓮ちゃんはまだ注文していませんでしたね。私も、お話していたら何か飲みたくなってしまいました」

加蓮「藍子はさっきまで何飲んでたの?」

藍子「紅茶です。レモンティー♪ テラス席と言えば、紅茶じゃありませんか?」

加蓮「……そだっけ?」

藍子「残念」

加蓮「何にしよっかなー……」

藍子「加蓮ちゃんが、今飲みたそうにしているものは――」パラパラ

加蓮「自分が飲みたい物で決めなさいよ……。あ、そうだっ。私1回言ってみたいセリフがあったんだっ」

藍子「言ってみたいセリフ?」

加蓮「ごほん。――店員さん。私は、今日のオススメでお願い」

藍子「……あぁ。店員さん、びしっと固まってしまいました」

加蓮「え。……これ、よく常連が言うセリフみたいなイメージあるけど、実際言われたら困る感じ?」

藍子「ふんふん。なるほど~。加蓮ちゃんが言うから、緊張しちゃったみたいですね」

加蓮「……じゃあ藍子。試しに同じセリフを藍子が言ってみてよ」

藍子「私が? わかりましたっ」

藍子「……ごほんっ。店員さん。今日のおすすめを、お願いしますっ」

加蓮「ほーら、私が言うよりも藍子が言った方がもっと緊張して――」

加蓮「ってちょっと、ちょっと! 何張り切って厨房に行こうとしてんの!? 私が言ったらガチガチになるのに藍子が言ったら張り切るっておかしくない!?」

加蓮「あと私まだ注文してないんだけど!!??」


□ ■ □ ■ □


藍子「注文、よかったんですか?」

加蓮「うん。店員さんの考えるオススメって、私も気になっちゃったし」

加蓮「あとさ」

加蓮「……店内まで追っかけていった時、私相当ヤバい顔してたんだろーね」

加蓮「他のお客さんがぎょっとなって私見たし、店員さんはなんかぷるぷる震えながら涙目で――あ、それでもなんか睨み返されたけどね。負けるもんか! みたいな感じで」

藍子「加蓮ちゃん」ジトー

加蓮「わ、分かってるっていうか自覚してるしっ。だからすぐ、あ、これヤバいことしてるかもってなって戻ってきたんだし」

藍子「だから、帰ってきた時にちょっぴり不安そうにしていたんですか」

加蓮「まーね……」

藍子「店員さんとお客さんには、あとで謝りましょうね?」

加蓮「店員さんは分かるけどお客さんにはやめとくー。アイドルバレする可能性もあるんだし」

藍子「あ~……。そう言われてみたら、あまり声をかけに行かない方がいいのかも?」

加蓮「そーそー。誰かさんと違って、私は知らない人と平気で相席したり、電車に乗った時に隣に座った人とお喋りしたりしないからねー」

藍子「……なんだか、悪口を言っていますか?」

加蓮「陰口じゃないからセーフ」

藍子「ってことは、やっぱり私の悪口を言ってるっ」

加蓮「ふふっ。悔しかったら反論してみたら? ほらほら。藍子だって何言ってもいいんだよ?」

藍子「そんなこと言われても……」

加蓮「まっ、そこで言えなくなるのが藍子ちゃんの優しさだけど、そーいうのって甘さでもあるよね。アイドルは甘いだけじゃやっていけないの。時にはライバルを容赦なく蹴り落とす厳しさ――」

藍子「……。……加蓮ちゃん」

藍子「今言ったことって、やらないことではなくて、できないことなんじゃ?」

加蓮「あああァ!?」

藍子「わっ。だってほらっ、加蓮ちゃん、初めて行くカフェの時はハムスターさんみたいにぶるぶるってなっててたまに私の服の袖を摘んだりしてて――」

加蓮「ちょっ、それっ」

藍子「違いますか?」ジトー

加蓮「……それ昔の話! 昔話はNGだって言ってるでしょーが!」

藍子「さっきいいよって軽い調子で言ったのも、あと今何言ってもいいって言ったのも加蓮ちゃんですよっ」

加蓮「何言ってもって限度があるでしょ! 今はそんなんじゃないしちょっとは克服……あーあー、藍子ちゃんが昔のことネチネチ言う子だとは思わなかったなー!」

藍子「むっ。確かに、昔のお話かもしれません。でも、それは加蓮ちゃんの言う昔話ではなくて、思い出話です」

加蓮「そんな思い出今すぐ忘れろ!」

藍子「じゃあ加蓮ちゃんは、私との思い出を忘れろって言われて納得できるんですか!」

加蓮「だから物によるでしょ物に!」

藍子「物によると言うのであれば、私にとってこれは大切な思い出です!!」

加蓮「どーこーが! 単に加蓮ちゃんをイジメたいだけの思い出――」<カラン

加蓮「……あっ、店員さん」

藍子「……あっ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……うん。ごめん。中まで響いてたよね……」

藍子「ごめんなさい~……」

……。

…………。

加蓮「許してもらえてよかったね……」

藍子「ついヒートアップしてしまいました……。うぅ」

加蓮「……まぁ、ほら。店員さんも。またかって顔はしてたけど、大丈夫って言ってくれたし? 藍子が気にしすぎることないでしょ」

藍子「それなら、いいんですけれど……」

藍子「それと、加蓮ちゃんも。さっきは、勢いがついてしまって、ひどいことを言っちゃって。ごめんなさいっ」ペコ

加蓮「うむ。許してしんぜよう。……私もごめんね?」

藍子「……ふふ。は~いっ」

加蓮「さて」

藍子「さっぱりした匂いのコーヒーと、たっぷりシロップのかかったホットケーキ。とっても美味しそうです♪」

加蓮「そっか。オススメって飲み物だけじゃないよね」

藍子「ちょうど、ちょっぴり何かを食べたくなる時間です」

加蓮「ね。私、さっきメニューめくってた時についでに何か食べよっかなーって考えてたし」

藍子「店員さん、もしかしてその加蓮ちゃんの考えを読んで……?」

加蓮「えー。やだよ。そーいう風に読んでくるのは藍子1人だけで十分」

藍子「私1人だけで、いいんですか?」

加蓮「隠したい人とそうじゃない人の違い」

加蓮「じゃ、いただきまーす♪」

藍子「ああっ、ずるい!」

加蓮「早いもの勝ちー♪」

加蓮「あむあむ……」

加蓮「……あっま!」

藍子「これだけシロップがいっぱいかかっているんですから、当然ですよ……。はい、加蓮ちゃん。シロップがほどよくかかったところ、切り分けますから。ちょっとだけ、待っていてくださいね」

加蓮「ありがと。……あんにゃろ。さては私が威圧したからその仕返しだね?」

藍子「そんなことしないと思いますし、もしも本当にそうだったとしたら、悪いのは加蓮ちゃんです」ジトー

加蓮「そうだけどさー……」ズズ

加蓮「……あ。このコーヒーは美味しい。なんか舌に合うかも」

藍子「ふむふむ」ズズ

藍子「本当っ。加蓮ちゃんの好きそうな味……。これ、オリジナルブレンドのコーヒーかな? 少し、味つけを変えたのでしょうか」

加蓮「分かるんだ?」

藍子「分かっちゃいますよ~。ほらっ、加蓮ちゃん。店員さんは、ひょっとしたら加蓮ちゃんに怒っていたかもしれませんけれど、仕返しをしようだなんて思っていないみたいですね」

藍子「そうでなければ、こんなに加蓮ちゃんの好きそうなコーヒーが出てくることは、ないと思いますから」

加蓮「それとこれとは別っ」

藍子「もう。加蓮ちゃん!」ズイ

加蓮「……、」

藍子「む~」ジー

加蓮「……分かった分かった。冗談冗談。ほら、私達が騒いでるのを見て、喧嘩してるとか思ったんじゃない?」

加蓮「で、疲れた後には甘いものを的な」

加蓮「それに、よく見たらこのホットケーキ、シロップが全然かからないように重ねてるのが1枚だけあるし」

藍子「……あ、本当ですね」ハイ

加蓮「そこまでは見抜けなかったんだー?」アリガト

藍子「加蓮ちゃんに負けちゃいましたねっ」

加蓮「楽しそーに」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

藍子「ふわ……。やっぱり、食べた後にはちょっぴり眠くなっちゃう……」ゴシゴシ

加蓮「ね。中なら横になれるけど。入る?」

藍子「ううん、今日はもうちょっと、テラス席のままで」

藍子「春が近づいてくる、この感じ……味わえるのは、今だけですからっ」

加蓮「大人ー」

藍子「えへへ」

藍子「あっ、向こうの木の枝に小鳥さんが――ああ、すぐに飛んで行っちゃいました」

藍子「……そよ風が、気持ちいいなぁ。ふふっ」

加蓮「…………」

藍子「……? 加蓮ちゃん?」

加蓮「ん……。藍子。今さらだったらホントごめん」

藍子「??」

加蓮「今日さ、もしかしていつもよりがっちりメイクしてる? それともそういう撮影の後だったりする?」

藍子「……??? ううん。がっちりどころか、メイクはぜんぜんしていませんよ」

加蓮「あぁ、そう……?」

藍子「え~っと……?」

加蓮「いや……あのね。笑わないで聞いてほしいんだけど――」

藍子「……はい。どうぞ?」スワリナオス

加蓮「……、」

加蓮「……やっぱなんでもなーい」

藍子「えっ」

加蓮「どーせ何言ってるのって笑われて、次から会う度にネタにされるもんっ。思い出話だーって誤魔化されてー」

藍子「まだ根に持ってるっ。もう、加蓮ちゃん? 真面目な顔をしている加蓮ちゃんが、笑わないでほしいって言うのなら、私は笑ったりしませんよ?」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……藍子がね?」

藍子「私が」

加蓮「藍子のことが、なんだか綺麗に見えるの」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……へ?」

加蓮「ほら! やっぱりそーいう顔になるでしょ!」

藍子「そ、それは……ってそれはそうですよ。急に何のお話なんですかっ」

加蓮「私にも分かんないの! ただ、今日ここに来て初めて見た時とか、あとさっきとか、藍子が今までより綺麗に見えるから――」

加蓮「メイクしてる訳じゃないっていうなら……。でも、そんな急に大人っぽくなる? って思っちゃって。……なんか、心当たりとかってある?」

藍子「う、う~~ん。心当たりは、特には……」

加蓮「だよねー……。もし何かあったんだったら、他の誰かも気付いてておかしくないし。だけどそーいう話とかって全然聞かないし……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……ねえ、加蓮ちゃん」

加蓮「ん?」

藍子「本当に、私には何の心当たりもないんです」

藍子「ひょっとしたら、私が自覚していないだけで……周りから……ううん、加蓮ちゃんから見る私は、何か変化していたり、成長していたり、大人になれたり……それは、完全には否定できません」

藍子「でも。私、もう1つ別の可能性を思いついて――」

藍子「……さっきの加蓮ちゃんじゃありませんけれど、笑わないで聞いてくれますか?」

加蓮「うん。教えて?」

藍子「それは――」


藍子「それって、私ではなくて、加蓮ちゃんが変化したから……かも、って」

加蓮「……えーっと? なんで私が変わったら、藍子が綺麗になるの?」

藍子「私が綺麗になったんじゃなくて、私が……私のことが綺麗に"見えてくれた"んですよね?」

藍子「私には心当たりがありません。それなら……加蓮ちゃんの見え方が、変化したのかな、って」

藍子「よく、見る目が変わる、って言いますよね。あれと同じです――」

藍子「ううんっ。ちょっと違うかなぁ……」

藍子「目が変わる――」

藍子「……見る世界が、変わる?」

加蓮「見る世界が……」

藍子「ほら。加蓮ちゃんが成長して、いろいろな考え方をするようになって。そうしたら、そこにあった幸せや、暖かさに、気がつけたように」

藍子「加蓮ちゃんの見る世界が変わったから、私のことも、違って見えたのかな? って、思うんです」

加蓮「…………」
(自分の両手を広げ、それを見下ろす)

藍子「……ねっ? そんな気がしませんか?」

加蓮「それは……。……そういうものなのかな」

藍子「加蓮ちゃんは」

藍子「……加蓮ちゃんは、自分の悪いところに敏感ですけれど、自分の良いところに気付くことが、ちょっぴりだけ苦手ですよね」

藍子「だから、ほら。私のことに加蓮ちゃんが気付いてくれるのと同じように、加蓮ちゃんのことは、私が気付けたってことなんですっ」

加蓮「……あはは。言うねぇ?」

藍子「あ、でも。加蓮ちゃん」

藍子「加蓮ちゃんの、ゆっくりと変化していく世界の中に……ちゃんと、私を映してくれることは、とても嬉しいです。でもっ」

藍子「私だって、まだまだ子どもで、加蓮ちゃんと同じ16歳ですから」

藍子「ときどきでいいので、私のこと、前と同じように見てくださいね」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……えー、何それ。普通、成長した自分の姿とか、変わった自分の姿を見てーって言うとこじゃないの?」

藍子「あはは……」

加蓮「なんてねっ。言いたいことは分かるよ」

加蓮「何て言うか、……例え話だけど、私達はアイドルとしてステージに上がって、それを多くの人に見てもらうじゃん?」

加蓮「それはすごく嬉しいけど、でも素の自分だって誰かに見てほしい」

加蓮「そういうこと……でいい?」

藍子「え~っと……。きっと?」

加蓮「アンタね。さっきから自信があるのかないのかはっきりしなさいっての」

藍子「それはごめんなさい。自分でも、もしかしたらそうなのかな? って思ったお話ですから」

加蓮「ま、そっか。そんな感じになっちゃうよね」

藍子「はいっ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……春が来るねー」

藍子「春が、来ますね」

加蓮「すぐに暑くなっちゃうのかな?」

藍子「その前に、春だからこそできること。いっぱい見つけましょ?」

加蓮「変わった世界の中で?」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃん。なんだか大げさ」

加蓮「先に言ったの、藍子の方」

藍子「そうですけれど~」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……藍子」

加蓮「今の話……さっきの話さ」

加蓮「藍子の言う通りでもいいと思う。最近、物の考え方とか、見方とかかな。けっこう変わって来てるなーって、なんとなく感づいてはいたし……」

加蓮「でもさ」

加蓮「やっぱり、藍子に何かあって、藍子が綺麗になったから……って理由でもよくない?」

藍子「え~。だって、本当に何も心当たりはないんですよ」

藍子「それに、加蓮ちゃんの見ている世界がもっと良くなった、って考えた方が、すてきじゃないですか」

加蓮「私からすれば、藍子が綺麗になったって考えの方が素敵だし」

藍子「も~。意地っ張り! せっかくなら、そういう意地っ張りなところも、ちょっとは変わってくださいっ」

加蓮「元の自分を大切にしてほしいって言ったの藍子だよ?」

藍子「そっ、そういうすぐにそのっ……そういう風に、言いくるめようとするところもっ」

加蓮「あはははっ」

藍子「……も~」アハハ

藍子「それなら、両方ってことにしましょ?」

加蓮「両方」

藍子「加蓮ちゃんは、見ている世界が変化した。私は、前よりも綺麗になっ――」

藍子「……こ、これって、自分で言うとそうとう恥ずかしいですね……」

加蓮「藍子が言えないなら、私が代わりに言ってあげよっか?」

藍子「そうですね。お願いします、加蓮ちゃん」

加蓮「ん。じゃあ、私のことは藍子が言ってね?」

藍子「はいっ♪」


加蓮「……くっくっく」

藍子「?」

加蓮「さてと。藍子のお墨付きをもらっちゃったことだし? どーいう風に言っちゃおうかなー」

藍子「待ってください。ちょっと待ってください加蓮ちゃん。どうしてまた、目を光らせて――」

加蓮「ライバルに容赦しないのも大切だけど、褒めちぎって藍子の顔が真っ赤になるところも見てみたいし?」

藍子「ちょっと、」

加蓮「やっぱり藍子が参加してる番組で言いまくるのがいいかな? 編集でカットされないようにタイミングを見計らってー。あっ、じゃあ台本も読み込まなきゃ。Pさんにも相談してからそれから――」

藍子「もう、もうっ! 加蓮ちゃん! ……加蓮ちゃんっ!! も~っ!!!」


【おしまい】

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