【とある居酒屋】
P・はづき・千雪「お疲れさまでーす」
ゴクゴク
はづき「はぁ~……仕事終わりの一杯ってなんでこんなに美味しいんでしょうね~」
千雪「もぅ、はづきったらおじさんみたい」
はづき「ふふ、プロデューサーさんの気持ちを代弁してみました」
P「ははは、いや、俺はそこまでお酒好きでもないですよ。付き合いで飲む程度です」
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千雪「そうなんですか。今日は誘ってしまってご迷惑じゃなかったですか…?」
P「もちろん誘ってもらえて嬉しいよ。千雪とはづきさんが2人で食事に行くって話は聞いてたからさ」
はづき「みんな忙しくてスケジュールの空いてるタイミングなんてなかなか合わないですからね~。
たまには、大人組で集まって話すのもいいかなーって思ってたんですよ」
P「そうですね。お酒の席じゃないと話せない話もあるだろうし」
はづき「あ、プロデューサーさん、言っておきますけど今夜は仕事の話は無しですよー」
P「え?無しなんですか?」
千雪「ふふ……“え?”って、そんなに意外ですか?プロデューサーさん、おかしい……」
はづき「もー、プロデューサーさんはどこででも仕事しようとするんですから~。面談じゃないんですよ?」
P「いや、俺が呼ばれるって事はてっきりそういう話なのかと……」
千雪「ただ、いつも私たちのために頑張ってくれてるプロデューサーさんとゆっくりお話でも出来たら、と思っただけですよ」
P「そうだったのか。ありがとうな」
はづき「仕事の話をしたら、残業代を払ってもらいますからね~」
P「はは、気を付けます」
はづき「プロデューサーさん、こんな時でも固さが抜けないんですよね~……
じゃあ、リラックスするためにゲームをしましょうか」
P「ゲーム?」
はづき「私にため口で話してみて下さい」
P「え、それは……」
千雪「そういえば、はづきの方が年下なのに敬語使われてるよね」
はづき「そうそう。私は敬語じゃなくていいですよって言ったのに、先輩だから~って」
P「283プロに入社した当初ははづきさんに事務系の業務を教えてもらってたから、頭が上がらないんだよ……」
はづき「アイドルの子達は呼び捨てにしてるじゃないですか。その感じでいけばいいんですよ」
P「最初から呼び捨てならいけるんですけどね……どうしてもやらなきゃダメですか?」
はづき「ダメです(にっこり)」
P「それなら……ちょっと勢いつけさせてください」
ゴクッゴクッ
はづき「お~、一気にいきましたね。そんなに気合入れなきゃ出来ないですか?(笑)」
ゴトッ
P「ふ~……」
千雪「プロデューサーさんはお酒強いんですか?突然ペースを上げたから心配で……」
P「普通だと思う。自分の限界は分かってるから平気だよ」
はづき「それではため口、いってみましょーか。3、2、1、ハイ」
P「はづき……こんな喋り方でいい……のか?」
はづき・千雪「(笑)」
千雪「ふふふ、プロデューサーさん、ロボットみたいにカタコトな喋り方になってますよ」
P「あー、やっぱり無理だ。学生の頃から先輩への言葉遣いが体に染み付いてるんですよ俺……」
はづき「仕方ないですね~。頑張りを認めて及第点はあげましょう」
千雪「耳まで真っ赤になって、かわいい……」
P「酒のせいだよ……勘弁してくれ」
はづき「初心な男の子みたいな反応しますね~。
プロデューサーさんは今までお付き合いしていた女性っているんですか?あ、話したくない話題だったら無理にとは言いませんけど」
P「別に気にしないですよ。高校と大学で1人ずつ付き合ってました。
社会人になってからはゼロですね。出会いが無くて」
千雪「出会いが無い…?」
はづき「あんなにたくさんのアイドルに囲まれててよくそんなセリフが言えますね~」
P「いやいや、プロデューサーが自社のアイドルを交際相手として考えていたら問題ですよ……」
千雪「もし良い人が見つかれば、付き合いたいとは思っているんですか?」
P「うーん……どうだろうな。もし付き合ったとしても上手くいかないと思うよ。こんな仕事だから2人の時間もなかなか作れないし」
千雪「仕事に理解のある人がいればもしかしたら……という感じでしょうか」
P「そうなる……のかな?」
はづき「じゃあ~、プロデューサーさんに質問です。283プロのアイドルと付き合うとしたら誰がいいですか?」
P「いきなりすごい質問しますね……」
千雪「ちょっと、はづき……そんな質問」
はづき「ちなみに“いない”は無しですよ。女の子に失礼ですからね~」
P「……じゃあ、“全員”で」
はづき「はぁ……そんな逃げの答えじゃつまんないですよー。
それに、“全員”だったら果穂ちゃんも含まれちゃいますけど、プロデューサーさんはロリコンさんなんですか?」
P「はづきさん、プロデューサーとして冗談でも言えない事があるのをわかってください……」
はづき「まだ真面目さんモードなんですね~。
ifの話ですから気軽に答えてください。もし自分がプロデューサーじゃなくて、みんながアイドルじゃなかったら誰と付き合いたいですか?」
P「……もし、その条件だったら……千雪ですね」
はづき「おぉ~!そうなんですね」
千雪「あ、う……す、すみませんプロデューサーさん。気を遣わせてしまって……
私が目の前にいるから選ばないと失礼だと考えてくださったんですよね…?」
P「そういうわけじゃ……」
はづき「千雪が魅力的だと思ってるんですよねー?」
P「当たり前ですよ。そう思ってなかったら本気でプロデュースなんて出来ません」
はづき「ちなみに、どういうところが魅力的だと思うのか聞いてもいいですか?」
千雪「はづきもプロデューサーさんももうやめてください……恥ずかしくて死んじゃいそう……」
はづき「ふふ、千雪顔赤いよ?そんなに酔っちゃったの?」
千雪「うぅ……誰のせいだと思ってるの!」
はづき「ですって。プロデューサーさん、言われてますよ~」
P「はづきさん、酔うと悪ふざけが過ぎるようになるんですね……」
はづき「そう言うプロデューサーさんは、酔うと恥ずかしいセリフもスラスラ言えちゃうようになるんですね~」
千雪「あぁ、もう。お酒の力を借りないと頭が変になりそう……」
はづき「そうそう、夜はまだ長いんだから楽しく飲んでこ~」
□□□□□□□
【2時間後 タクシー内】
会計を終えて居酒屋を出た私たちは、タクシーで帰路に着いた。
はづきが助手席に乗り、私とプロデューサーさんは後部座席に収まる。
雑談していたらあっという間にはづきの自宅付近に到着してしまった。
「それじゃ、プロデューサーさん今日はありがとうございました」
「えぇ、俺も楽しかったです」
「千雪も、また行こうね」
「うん、またね」
タクシーから降りたはづきはリアウィンドウから姿が見えなくなる間際、私にしか見えない角度でウィンクして口だけを動かした。
『ファイト』……って言ったのかな?
もう、何を頑張れっていうの。
その答えに薄々気付きながらも、意識を向けないように注意する。
お酒を飲み過ぎたのかも……考えようとすると頭が痛い。
「具合が悪いのか?」
「えぇ……ちょっとだけ飲み過ぎたのかもしれません」
「無理しないで眠るといい。寮までまだしばらくかかるからな」
「そうさせてもらいます……」
眠れば具合も良くなるのかもしれないと思い、ゆっくりと目を閉じる。
でも、酔ってるせいか頭がグラグラとして落ち着かない。後部座席の窓枠に頭を預けようにも、車の振動が直に伝わってきて余計に気分が悪くなってしまう。
何か、良い方法は……と、1つの考えが思い浮かんだ。
普段の私なら即座に否定する方法。
けれど、今の私は酔っているから正常な判断が出来ない。
そう、自分に言い訳する。誰が聞いてるわけでもないのに。
「すみませんプロデューサーさん、肩をお借りしてもいいですか…?」
「え?あ、あぁ……」
返答に動揺が含まれている事には気付かない振りをして、同意を得た私は座席一つ分距離を詰めてプロデューサーさんの左肩に頭を預ける。
具合の悪そうな私の頼みを、プロデューサーさんが断らないのは分かっていた。
断らないとわかっている人にお願い事をするのは、甘えだ。
でも、甘えてしまう原因はプロデューサーさんにもあるんですよ。
付き合うとしたら私だ、なんて……例えお世辞だとしても舞い上がってしまうに決まってるじゃないですか……
お酒のせいもあって、我慢なんか出来ません。
プロデューサーさんに触れている部分にばかり注意が向いて、手元への意識が希薄になっていた。
太腿の上に置かれていた右手が横に滑り落ちる。
すると、定められていたかのように、そこにあったプロデューサーさんの左手と重なった。
一瞬、プロデューサーさんの手がビクリと反応する。ほとんど同時に私も驚いて反応していた。
「千雪……寝てるのか?」と、耳元で囁く声が聞こえる。
私の中で天使と悪魔の論争が始まった。
ただ、天使は酔い潰れてしまっていて、一瞬で勝敗が決してしまう。
「…………」
そうなんです。
手が重なっているのは、私が寝ているから偶然起きた事故なんです。だから、振り解く必要なんてないんですよ?
プロデューサーさんは重なる手をそのままにしてくれた。それが、嬉しい。
掌と指先の触れ合う部分が熱を持つ。
プロデューサーさんの手が私の指を微かに握ったような気がしたけれど、気のせいかもしれない。
心臓の鼓動がうるさくて、細かな感覚にまでは注意を払えなくなっていた。
夜の街を駆けるタクシーに揺られて、目を瞑ってプロデューサーさんに体を預けていると、夢を見ているような心地になってくる。
安心感と幸せで心が満たされる。
映画に出てくるヒロインに憧れていた、少女だった頃の自分に戻ったような気がした。
□□□□□□□
「千雪、着いたぞ。具合は良くなったか?」
軽く肩を揺すられて目が覚める。
いつの間にか本当に眠ってしまったらしい。
もう手が触れ合っていないことに気付いて、寂しさを覚える。
「はい、だいぶ良くなりました。あの……ありがとうございます」
今更になって自分の行動が恥ずかしくなって、語尾が萎んでしまう。
「あぁ、気にしなくていいんだぞ。体調が戻ったなら良かったよ」
あんな事をして気にしないなんて無理に決まってるじゃないですか……プロデューサーさんはなんでいつも通りなんですか?
自分でも理不尽だとは思うけれど、内心少しムッとしてしまう。
いつまでも運転手さんを待たせるわけにもいかないので、タクシーを降りる。
「今日は本当に楽しかったです」
「俺もだ」
「また一緒に行きましょうね」
「そうだな。また行こう」
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
タイミングを見計らってドアが閉じられ、タクシーがゆっくりと発進する。
私が胸の前で小さく手を振ると、プロデューサーさんも軽く手を振ってくれた。
交差点をタクシーが曲がり、見えなくなるまでその場を動けなかった。なんだか、今夜が終わってしまうのが名残惜しくて。
夜風が身体の火照りを冷ましていくにつれて、理性が呼び戻されてくる。
「ふぅ……」
思わず溜め息を吐いてしまう。
けれど、今夜の行動を後悔してるわけじゃない。
プロデューサーさんを想う気持ちとアイドルのお仕事、この2つは“どちらが大切か”なんて軽々しく言えるものじゃない。どちらも大切な、私の宝物。
そして、私とプロデューサーさんが等しく大切に思っている宝物がある。
それはアルストロメリア。
私たちは何よりもアルストロメリアを優先して考えなきゃいけない。
だから、自分でももどかしくなるようなアプローチも、遠慮してるわけじゃなくてこれが今の私の精一杯なんです。
壊してはいけない関係があるから……
それならせめて、プロデューサーさんの意識の片隅だけでも私でいっぱいにしてしまいたい。そう考えてしまうのも仕方がないと思いませんか…?
私のワガママがプロデューサーさんを困らせてしまうのはわかってる。
それでも甘えてしまうのは、プロデューサーさんがとても……とっても優しすぎるせいなんですよ。
□□□□□□□
自分以外の乗客がいなくなり、静かになった車内で一人呟く。
「“プロデューサーが自社のアイドルを交際相手として考えていたら問題ですよ”……か」
そう……そうなんだよ。
当たり前の事を自分で確認しなきゃいけないくらい混乱してるのか?
たまたま重なった千雪の手を握ってしまいそうになった時の事を思い出してしまい、人目が無ければ叫び出したい程の羞恥心に駆られる。
別れの挨拶の時も動揺を悟られないように淡白な返事しか出来なかったけれど、不自然に思われなかっただろうか……
そもそも、仮定の話だとしても、なんで付き合うとしたら千雪だなんて迂闊にも口走ってしまったんだ……だから、心が惑うんだ。
なにより、その気持ちに偽りが無いのが一番の問題だった。
プロデューサーの役割は、アイドルをより輝かせるために尽くす事だろ……しっかりしろよ、俺。
今夜の行動を遡ってみると、失態の原因はわかり切っている。
全部、酒のせいに違いない。
(了)
最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。
『薄桃色にこんがらがって』は素晴らしいコミュでしたね。
今回はPと千雪の話を書いたけれど、Pに想いを寄せてるアイドルは全員幸せになってほしいと思ってる。
アイドルのみんなが酒を飲んだらどう変わるか考えるのは楽しそうやけどね。
Pの年齢が知りたい。
人間性が出来てるから勝手に25歳より上だと考えてるがどうなんだろう。
Pの過去の一端を描くイベントやってくれないかなぁ。『プレゼン・フォー・ユー!』の社長みたいな感じで。
過去に書いたシャニマスSSをいくつか置いておくのでよければ読んでみてください。
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