【艦これ】脱、アルコール依存計画 (28)
鎮守府内に建てられた白いプレハブ
15畳ほどの集会室。6畳の二人部屋がいくつかと鉄格子で囲われた区域が一つ。
填め込み型の開かない窓と閂のかかる玄関。
入口は一つ。入るのも出るのも一箇所。
まるで牢獄か、留置所か期間工の寮か。
23区内激安アパートよりはいくらかマシな程度の建物に暗い顔をした女達が入っていく。
ある者は姉妹から
ある者は自ら
ある者は警察から
依存症の治癒命令を出され、送り込まれた女達。
そんな彼女らの居住機関である白い建物。
鎮守内、医療福祉機構リハビリテーションセンター。
通称アル中病棟。
このお話は、人生の墓場に送り込まれた彼女達の更生と反省の物語なのである…
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医師「はい、早く着替えろ」
医師「じゃ一列に並んで、順番とかいいから早く!」
医師「先頭から点呼!」
隼鷹「1」
那智「…2」
ポーラ「さーん」
瑞鳳「4」
早霜「5」
医師「総勢5名。05:00 受け入れ!!」
医師「今日から半年間。貴様らが一滴の酒にも触れぬよう監視させてもらう」
医師「ビシバシやってくれ。とのことでいいんだよな。提督さん」
提督「はい、宜しくお願いします」
筋肉質の男が満足そうに頷く。
その外見は医師と言うか軍曹。銃に名前を付けさせそうな偉丈夫であった。
隼鷹「て、提督ぅ 助けてくれよぉ」
ポーラ「ポーラお酒やめるの無理ですぅ。死んじゃう」
提督「そうだ! このままでは君たちが死んでしまうからこの施設を作った」
提督「ポーラ。君のガンマ値はいくつだ」
ポーラ「1780」
提督「どういう肝臓してんだ」
提督「隼鷹、君の医師との面談結果」
「たまに内なる自分が説教をしてくるので気分が悪い」
提督「幻聴かよ」
提督「那智は5キロ太った」
那智「個人情報!?」
提督「そんな君たちを心配し施設を作った、医師を雇った、本人拒否しても親族か裁判所の要請で強制収容できるよう法改正もした」
那智「やりすぎだろ」
提督「諸君が半年間の課程をクリアして、また戦場で活躍してくれることを切に願う」
隼鷹「…わかった。わかりたくないけどわかった。」
隼鷹「だけど一つだけ聞かせて」
隼鷹「千歳は?」
提督「親族からの要望がなかった」
隼鷹「ってことはつまり」
提督「飛鷹、ザラ、妙高は収容に諸手を上げて賛成したのでな」
「わかってはいたんだけど」
姉妹に裏切られたことを知った3人は膝から崩れ落ちる。
隼鷹「へへへ、そうかよ畜生…信じてたんだけどな。迷惑がっても最終的には許してくれてるって」
提督「お前らのために苦渋の選択だったと考えろ。それも愛だ。」
ポーラ「ううう、そんなぼーじゃくぶじんな愛はいらんですたい」
隼鷹「くそっずりーよ千歳だけ」
那智「祥鳳も妹を施設送りにしたのか。意外だな」
瑞鳳「ちがうよぉ 未成年飲酒だって街で捕まって施設送り」
隼鷹「未成年で飲むやつなど99%だろ!?」
那智「そんなに飲んだのか!?」
瑞鳳「燗で3本だけ」
隼鷹「嗚呼、嘆かわしい。それだけで入院?」
ポーラ「かけつけ3本だけで? oh ニホンジンオカシイヨ」
那智「なんて横暴な。貴様らには人の心がないのか」
提督「お前らのモラルよりはあるよ」
隼鷹「くっ…公権力の暴走っ…」
那智「早霜 お前も警察が原因か」
早霜「いえ…自分から入所を…。酒量が過ぎてきたので…」
那智「せ、正常な判断力を失ったか…」
瑞鳳「酒を控えたほうがいいと思うよ」
提督「お前らがな」
だけど「はいはい、お話はそこまでで」
アルコールに浸された脳から繰り出される会話にうんざりしたのか
医師は話を切るとさらりと一言
医師「それでは皆さん。そろそろあの部屋に入ってください」
!?
指が刺された先は先程から視界にチラチラしていた鉄格子。
医師「最初の1週間は禁断症状との戦いですので頑張りましょう」
医師「大和型でも壊せないよう作った部屋ですので、多少暴れてもかまいません」
医師「ただ他の方のことを考えて、お静かに願いますよ」
隼鷹「ははは」
ポーラ「さすがにそこまでは~」
那智「落ちてはいないぞ」
彼女らは肩を落とし鉄格子の中へ入る。
鉄格子に入ることが悲しいのではない
歴戦の軍人である自分らが信用されていないことが悲しいのだ。
たかがアルコール切れで暴れるような小物と思われていることが悲しいのだ。
?24時間後?
隼鷹「手が手が震えるよぉ…誰? 今、笑ったのは」
ポーラ「あれ~ 壁の染みさんなにかご用?」
那智「小指が…小指がうずく」
?48時間後?
隼鷹「うるさいなあ。わかったから、わかったから」
ポーラ「大変ですねぇ 壁から動けない日々は」
那智「動かさせてくれぇ せめて外で体を動かさしてくれぇ」
ポーラ「わー みんな動けなーい たいへーん」
瑞鳳「マジかよ」
僅か48時間で…3名が壊れた。
たった2日の断酒で己が揺らぐ
誇張と思うなかれ、これが中毒 酒の恐怖!
瑞鳳「早霜ちゃんは普通だね
よかった、ああはなりたくないね」
早霜「……」
瑞鳳「早霜ちゃん?」
うふふふふ
うふふふふ
うふふふふ
瑞鳳「眼が据わってやがる…っ」
瑞鳳「だ、出してぇ
こんなところにいられるか私は帰るぅ!!」
力の限り鉄格子を叩く
だが、非力な軽空母の腕力。 壁、微塵も動かず!
医師「ふむ、48時間経過」
医師「幻聴幻覚が二人 震えも一人。暴れるのが一人とわけわからんのが一人」
提督「…嘆かわしい」
医師「それでは全員プログラムに入るので、終了時には治癒度の確認をお願いします。」
提督「よろしく…お願いします」
深々と頭を下げると、わめき声を背後に提督は立ち去った。
この日から、5人を襲う治療の数々。
それは彼女たちから笑顔と希望と血中アルコール濃度を奪う、辛く悲しいものであった…
いきなりであるが禁酒施設において最初の一週間は大きな山場。
一旦、アルコールに浸された臓器を清めるため拘束ないし監視することで酒を摂取する自由を奪う。
多くの患者はここで手足の震えや幻聴幻覚。被害妄想などに苦しむという。
幻聴に苦しむ隼鷹
震えに苦しむ那智
両方のポーラ
鉄格子を叩き、釈放を願い出る瑞鳳は被害妄想か
しかしそれも長くは続かない
皆、概ね7日経てばアルコールはおおよそ抜けて
以降、幻覚や幻聴はフラッシュバック的に起こる、単発現象となる。
医師「諸君達の一番辛い時間は終了しました」
隼鷹「なんだ大したことなかったな」
ポーラ「たまには清々しいかもしれませんね~」
那智「皆よく頑張った。祝いに一杯…いかんいかん」
瑞鳳「…あんだけの醜態晒しといてよくもまぁ」
早霜「酒呑みは醜態晒し慣れてますから…」
血中にアルコールが含まれていた間の行為はすべて無罪。
酒飲みの間では共通の認識。
医師「では鉄格子から出て雑居部屋に入りなさい」
医師「隼鷹ポーラはA室 那智早霜はB室だ!」
瑞鳳「あっ、私は個室なんだ。やった!」
医師「まあ当然だろう」
瑞鳳「そうだよねそうだよね。違うもんね!」
医師「ああ違う」
瑞鳳「というかもう釈放してもいいんじゃないかな! むしろすべきだよ!
医師「は?」
医師「家族の要望や自主的な入所者はある程度の自治と自由を持たせ管理する。」
医師「貴様のような逮捕→入所者は監獄と同じ扱いだ」
瑞鳳「……えっ?」
但し、逮捕までされればそれは有罪。
酔って酷いことをしても笑い話だが、微罪でも逮捕…されればそれは…有罪。
多くの酒の上での失敗談。それが失敗談で済んでいるのはただ穏便に済んだから。
それだけなのである。
以降退院までの間
瑞鳳は常に鉄格子の中にいた。
最初の一週間が終った日
他の四人はあの日が彼女と会話した最後の日であったと記憶している。
医師「はい、では君たち4人はこれから施設内で共同生活をしていただきます」
医師「食事洗濯掃除にレクリエーション。皆、自分のことは自分でやるように」
4人「はーい」
ポーラ「ひっひっひ 監視の目があまーくなればー 甘ーいお酒がひっそりとー」
医師「あと皆。毎朝これを飲むように」つ
那智「なんだこれは」
医師「シアナマイド これを飲んだ状態でアルコールを飲むと嘔吐して苦しむ」
早霜「ふふふ 信用されていないのね」
~翌日~
ポーラ「うえっ げぼっ ゲロロロロロロロッ ゴベッ」
医師「はい というわけでシアナマイドを服用した状態で飲むとこうなります」
医師「すげぇな。よく服用した状態でエタノール1本も飲んだな」
ポーラ「ポーラ飲んでません。ただオレンジジュース割っただけですぅ」
医師「というわけでこうならないため 本日からミーティングを開始します」
那智「ミーティング?」
医師「 グループメンバーと体験談、想い、情報、知識などを分かち合い。気づきを呼び起こすことが必要なのです」
早霜「洋画で薬物依存者達が辛い体験とか語り合うアレですか?」
医師「そうそう 本日のテーマはなぜ アルコールに溺れるようになったか」
隼鷹「あたしは昔からこんなんじゃなかったんだ そうさ 昔は…」
それから半年間
色々なことがありました。
ポーラ「ねぇ 知ってますか? 不凍液って飲めるんですよ?」
隼鷹「眠れないんだよぉ 頼むよぉ 後生だから睡眠剤を」
那智「なぜコーラがダメなんだ! せめて炭酸を飲ませろ!!」
暴れたりわめいたり泣いたり笑ったり吐いたり叫んだり
早霜「フッフッフッフッフッフッフフフフフフ」
よくわからなかったり。
だけども皆、どんどんと禁酒ということに向き合うようになっていき
医師「本日のテーマ 酒がもたらす被害について」
早霜「臓器が…ちょっと…」
ポーラ「ザラ姉さまが悲しむ… たまに…泣いてる…」
隼鷹「今の… 軟禁かな」
那智「皆!騙されるな酒は円滑なコミニケーションを推進し、先日羽黒に絡んで汚いようなものを見る目で」
那智「うわぁぁああああ 消え去れ記憶 消すための酒を 酒を」
医師「そこで酒に逃げるのがいかんのだ!」
そしてついに明日は退院の日
強制的な断酒と継続的な治療を受けた結果彼女達がどう変わったか
医師「全員見違えるように変わりましたよ」
様子を見に来た提督を出迎えたのは
隼鷹「あら司令官様 お久しぶりでございます お元気でしたか?」
提督「誰や」
ポーラ「この人変なんですよぉ 毎晩毎晩 自分の中の誰かと喧嘩してて叫んでうるさくて」
提督「…大変だったな」
ポーラ「はい。壁の染みさんも困ってました~」
提督「お、おう」
ポーラ「で、ある日気が付いたら髪のハネがなくなっててこう大人しく」
提督「それ人格乗っ取られてね?」
橿原丸「あらやだ 私そんな不埒なことは」
提督「ええぃ 去れぇ! 悪霊め」
提督「ちなみにポーラはどうなんだ? ちゃんとお酒止められたか?」
ポーラ「はーいもうばっちり。もう飲みたいって気持ちもありませーん」
ポーラ「でもたまに寂しくなるんです」
ポーラ「とても寂しくなるんです」
ポーラ「切なくて辛くて苦しくて。なにか大切なものを失ったような気持ち。なんでしょうこれは」
提督「先生 なにしました? ロボトミー?」
医師「そんな野蛮な コレ中国五千年の漢方の力あるよろし」
提督「えー 他の奴らは…」
提督「早霜…はあんまり変わってないけどなにかを失っているような」
早霜「すっかり毒気が抜けましたわ うふふっ」
提督「単なる正統派黒髪美少女になってしまった」
早霜「うふっ 私服は白のワンピース」
提督「そして那智は…」
那智:[ピザ]リ
早霜「那智さんは毎月3キロ×6ヶ月の増量を…」
那智「酒への依存を甘味で補った。今では反省している」
提督「ムッチムチやなお前」ゴクリ
那智「駄目ぇ、見ないで…見ないでぇー!」
なにはともあれ6ヶ月の断酒成功したので退院は決定。落伍者は0
医師「あ、強制入院の方は入院期間1年間となりますので」
提督「了解しました」
4人は晴れて放免。
飛鷹、ザラ、妙高、夕雲
出迎えに来た家族と無言で抱擁を…
飛鷹「え、なに?ちょっと キモっ…」
するわけではなかったが無事に自室へと帰り付いた。
ただ、退院が依存症との終わりではない
むしろ始まりとも言える。
統計によるとアルコール依存矯正施設を退院後の再飲酒率は大よそ80%
多くは施設へ逆戻り。若しくは体を壊し医療施設への入院となる。
その要因を「気持ちの弱さ」「意識の低さ」など患者本人の責とすることは簡単だ。
だが、その考えには「依存症という病気」という事実への配慮が
いささかばかり不足しているのではないだろうか。
例えば両足を骨折した患者には車椅子が
腕を失った患者には義手が
毛髪を失った患者には植毛が
その外傷に応じた配慮と共に用意される。
だが依存症患者には?
千歳「みんな大変だったみたいね」
隼鷹「酷いですわ千歳さん。自分だけ入院を逃れて」
千歳「姉妹の調教が足りません。まぁ無事に出ててなによりです」
那智「無事とは言い難いがな…」
早霜「素敵ですよその肉付き」
隼鷹「では4人揃っての社会復帰を祝って」
千歳「……乾杯だけ飲みます?」
那智「…いやそれは マズイ… だろ」
早霜「…ああ その」
隼鷹「ヒャ… ヒャ…」
ポーラ「飲み…ま…」
千歳「あら冗談だったんですけれど」
もし、人口股関節の人に重量物を持たせれば労災認定。
貴方の会社ではメンタルを病んだ社員にクレーム対応をさせますか?
依存症患者が酒を飲める状況を与えているソレ即ち
医師「はい 以上4名 再入院!」
提督「のんでしまうとはなさけない!」
4名「…」
周囲の責任もあるとは思いませんか?
おわり
自宅待機の暇があかんかったらしく
このたび叔父さんが7年ぶり(6度目)の再飲酒発覚。再入院?
アルコールこわーい。
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