古泉「それはマズいですね……」
キョン「やっぱりそうだよな?」
古泉「ええ。しかし涼宮さんは……あなたもご存知の通り、常識のあるお方ですから」
キョン「嘘松を真に受けることはない。……俺もそう願ってるよ」
古泉「ただひとつ懸念があるとすれば、彼女が嘘松を創作だと認識した上で、『それでもやっぱり面白い』と思い込んでしまうことでしょう」
キョン「なるほどね。たとえネタであっても、自分から進んでそういう類いのつぶやきをしないことを祈るばかりだぜ」
古泉「そういった意味では、涼宮さんがSNSを利用していないのは好都合でしたね。めっきり更新頻度が下がった公式HPへの書き込みにだけ注意しておきましょう」
キョン「…………あー」
古泉「?」
キョン「実はだな、古泉。お前には言ってなかったかもしれんが、ハルヒはツイッターを始めたんだよ」
古泉「ええっ! では嘘松も まとめサイト等を通してではなく、ツイッター上で直接 影響を受けているということですか?」
キョン「ああそうだ。純度100%のやつをな」
古泉「それはちょっと……厄介かもしれませんね」
キョン「今のところその手のツイートがないことだけが救いだがな」
古泉「……ところで、ツイッターはいつ頃から? ついこの間、あなたと二人一緒に携帯電話をスマートフォンへ機種変更しに行った、というお話はお聞きしましたが」
キョン「勝手な解釈をするな! 一緒にも何も、たまたま契約のタイミングが同じだっただけだ。ツイッターもその日から……」
古泉「ほう?」
キョン「……ハルヒの奴が『SOS団の公式アカウントを作るわよ!』とかなんとか言い出して、アイツと俺で共同アカウントを作ることになったんだよ」
古泉「共同アカウントですか……付き合いたてのカップルのようで微笑ましいですね」
キョン「うるさい、黙れ。お前とはもう口を利かん」
古泉「ちょっとしたジョークですよ。しかしそうなると、涼宮さんが面白半分に“嘘松ネタ”をつぶやいてしまうのも時間の問題……というところでしょうか」
キョン「それだけは勘弁してほしいがな。なんてったって…………」
古泉「ええ。涼宮さんには、自身の願望を実現させる能力があるーーー」
キョン「ということは、だぞ」
古泉「はい」
キョン「電車の中でホモカップルがイチャイチャしたり、マナーの悪い高校生を叱ったOLが拍手喝采を浴びたり、自動車免許の教習所で真っ赤なパーカーを着たイケメンのお兄さんにばったり遭遇したり……なんてことが世界中で当たり前に起きるようになっちまうってことだろ!?」
古泉「そうですね。この世界の秩序は崩壊するでしょう」
キョン「やれやれ。本当に迷惑な奴だぜ……」
ハルヒ「おまたせー!」
古泉「……噂をすれば、ですね」
キョン「タイミングがいいんだか悪いんだか……」
古泉「ところで、涼宮さんはツイッター……に限らず、スマホは頻繁に弄られるんですか?」
キョン「あぁ、そうだな。授業中もずっと俺にスタンプ爆撃を仕掛けてきやがる」
古泉「……おやおや。僕はノロケ話を聞きたかったワケではないのですが」
キョン「お前いい加減ぶっ飛ばすぞこの野郎」
古泉「アハハ、それは手厳しい。嘘松であることを願いますよ」
キョン「大マジだ。……というか、お前もスマホにしたらどうだ? そろそろガラケーも化石だろう」
古泉「我々の機関には、その“化石”のような人間も多いんですよ。連絡手段はシンプルであればあるほど良い」
キョン「言われてみればそうか……」
ハルヒ「ちょっと、そこ! な~にコソコソやってんのよ」
古泉「……ああ、すみません。少しばかり 携帯電話の機種変更について彼に相談があったものですから」
ハルヒ「あら、古泉くんもついにスマホ? スマホはいいわよ~。キョンへの嫌がらせも便利、便利」
キョン「俺はこれほどまでに文明の発達を本気で憎んだことはないぜ」
古泉「嫌がらせというのは……たとえば?」
ハルヒ「ま、大したことじゃないんだけどね。フェイスタイムっていう……まぁ、いわゆるテレビ電話? あれでイタ電 掛けたりとか」
古泉「それはそれは」
キョン「ああいう深夜の突発的テロ行為は控えていただきたいね」
ハルヒ「なかなか眠れないときなんか、ああやってアンタのマヌケ面見るとスッキリすんのよ」
古泉「お熱いですねぇ……」
ハルヒ「……は、はぁ!? 古泉くん、アンタなに言ってんの? ちょっと……バカじゃないの!?」
キョン「珍しくハルヒに同意だ」
古泉「ふふ。調子に乗りすぎましたかね」
ハルヒ「そうよ。次言ったらこんなじゃ済まないんだから……もう」
古泉「気を付けます」
ハルヒ「…………さて。みくるちゃんと有希が来るまではまだかかりそうだし、ツイッターでもチェックしようかしら」
キョン「ご依頼のDMなら来てないと思うがな」
ハルヒ「あら、そんなこと気にしてないわよ。それをチェックすんのはアンタの仕事。あたしはbotでも読んで暇潰してるわ」
キョン「おいおい、職務放棄かよ」
ハルヒ「だから! そんなモンは雑用の仕事でしょうが。つまりキョン、アンタ」
キョン「はぁ」
ハルヒ「それを有益な情報かどうか見きわめて、あたしのところに持ってきなさい。そっからが団長の仕事よ」
キョン「……へいへい。分かりましたよ、団長様」
ハルヒ「なによ、文句あるワケ?」
キョン「いいや」
ハルヒ「むー」
キョン「そんなに見つめても愚痴しか出ないぜ?」
ハルヒ「なんも出すな、バカ」
古泉「……」
ハルヒ「……にしても暇ね。なんかつぶやこうかしら」
キョン「!?」
ハルヒ「ええと……『ちょっと待って! いま」
古泉「!!」
キョン「お、おいっハルヒ、あんまりそういうのは……」
ハルヒ「なに?」
キョン「……ほ、ほら、これはその……SOS団 公式アカウントなワケだろ? 私用でつぶやくのはどうかと思うぜ」
ハルヒ「ふーん……なるほどね。それも一理あるかも」
キョン「だろ?」
ハルヒ「でもね、キョン。もう遅いわ。あたし、つぶやいちゃってるもの」
キョン「はぁあ!?」
ちょっと待って!
いま、巨乳のドジっ子がキックボードに乗りながら全速力で部室に駆け込んできたwww
勢い余ってドアに激突www
キョン「……おい、なんだこれ」
ハルヒ「知らないの? ツイッターでは今、こういうのが流行ってんのよ」
キョン「知らん!」
ハルヒ「アンタってホント……なんていうか鈍いわよね、色々と。SOS団の団員なんだから、こういうアンテナはしっかり張っておきなさい」
キョン「(うるせぇ! 本当はな、よ~く知ってるんだよ! 嘘松のことも、お前がいずれこういうことをしでかすだろうな……ってことも!)」
ハルヒ「そんなことより……どう、このツイート? 我ながら傑作だと思うんだけど」
キョン「駄作も駄作だ。馬鹿馬鹿しい」
ハルヒ「はぁ~つまんないヤツね。そんなんだからモテないのよ、アンタ。ほら、ドアに激突~のところなんて爆笑じゃない」
キョン「笑えないね。だいたい、いくらなんでもキックボードなんて……」
みくふ「す、涼宮さぁ~ん! 遅れてすみませぇ~…………いたっ!」
古泉「!」
ハルヒ「…………え?」
キョン「(ーーー可能にしちまうんだよな、この涼宮ハルヒさんはよ)」
みくる「ごめんなさい、今日は掃除当番で……すぐにお茶を淹れますね」
ハルヒ「いえ……みくるちゃん、そんなことより……」
みくる「え?」
ハルヒ「どうしたのよ、そのキックボード! なんで学校でこんなモン乗り回してるワケ!?」
キョン「(お前がそう つぶやいたからだろうが!)」
みくる「なんで、って……えっ、あっ、なんでだろう……? あれぇ?」
ハルヒ「もう、ちょっと! みくるちゃん? しっかりしてよね」
キョン「(お前がな)」
ハルヒ「……いまちょうどね、みんなで『みくるちゃんがキックボードで突撃してきたら面白いわね』って話をしてたとこなのよ。ホントに偶然! こんなことってあんのね~」
みくる「えっ、そうなんですかぁ?」
キョン「いえ。盛り上がっていたのはコイツだけです」
ハルヒ「うっさい」
キョン「……朝比奈さん、その、怪我は大丈夫ですか? かなり派手な音だったし……痛むようなら、俺たちに構わず保健室に行ってくださいね」
みくる「あ。全然大丈夫ですよ! キョン君は優しいなぁ」
ハルヒ「……あたしにはそんな気遣いしたことないくせに」
キョン「お前は殺しても死ななそうな奴だからな。ちょっとの怪我くらいで心配なんかしないさ」
ハルヒ「ふんっ」
キョン「な、なんだよ……」
ハルヒ「別に? ところで、有希はなにやってんのかしら」
キョン「コンピ研の方にでも顔出してるんじゃないか? なにやらまた新たなゲームを作ってるって話もあるしな」
ハルヒ「それじゃあなによ、有希はSOS団より向こうを取るってワケ? ふーん。面白くないわ……」
キョン「いや、別にそうと決まったワケじゃないが」
ハルヒ「うん……」
普段はおとなしい文学少女が「どこぞの世紀末ですか?」って格好で突然現れて困惑しているアカウントはこちらです←
キョン「…………って、なにしてんだ、オイ!」
ハルヒ「だってやることがないんだもん。あたしを退屈させるアンタが悪いのよ」
キョン「(桝田省治もビックリの 暴れん坊プリンセスッ!)」
古泉「またしても……。それではええと、つまりーーー」
長門「…………汚物は消毒」
ハルヒ「有希!!」
キョン「(なんかヤバイのきちゃったーーー!)」
長門「どう?」
キョン「どうもこうもねーよ、さっさと着替えろ! 今すぐ着替えろ!」
長門「……何故?」
キョン「そんなカッコで外を出歩いていたら、即刻 頭のイカれたヤツ認定だ。今日からこの街のイロモノ枠に即戦力として選抜入り出来るだろうぜ」
長門「記憶情報の改竄は容易。それに、今日よりも明日」
キョン「種もみ爺さんもそんなつもりで言ってねーよ。いいからとにかく、黙って着替えなさい!」
長門「……(コク)」
キョン「はぁ……やれやれ」
ハルヒ「……」
みくる「な、長門さん……すごい格好でしたね」
キョン「(朝比奈さんもメイドやらバニーやら、引けはとっていないんだが……これはもう、慣れだな)」
ハルヒ「……ねぇ、キョン」
キョン「な なんだよ」
ハルヒ「おかしいと思わない? さっきのみくるちゃんもそうだし、今の有希もだけど……普段ならあり得ないことがどんどん起こってるのよ。それもあたしのツイート通りに……」
キョン「それは……(さすが鋭い!)」
ハルヒ「もしかしたらこれって…………」
キョン「……!」
古泉「これは緊急事態ですね……すみません、涼宮さん! 彼と一緒にお手洗いの方へ行ってもよろしいでしょうか?」
ハルヒ「え、二人一緒に? うーん……仕方ないわね、さっさと行ってきなさい」
古泉「ありがとうございます、では……」
キョン「……あぁ」
古泉「ーーーほんの冗談のつもりが、笑えない状況になってきましたね」
キョン「ハルヒが自分の力に気が付いちまったら……この世界は崩壊するんだよな?」
古泉「ええ。確実に」
キョン「クソッ、だがあの様子じゃもう止められそうにねぇぞ!? なんだって今回はこんなにあっさりなんだよ」
古泉「いつもは彼女の中にある常識的な部分が ある種のストッパーとして作用しているようですが……今回は涼宮さんの願望が“文字”という形で現れています。これは神の思し召しを言質に取られているのと同意ですよ」
キョン「……どういうことだ? もう少しわかりやすく説明してもらえるとありがたいんだが」
古泉「つまり、単純に“心で思うよりも、言葉にする方が気持ちが伝わる”ということですよ。自己暗示の一種です。そしてそれを、ツイートとして記録までしてしまっているものだからタチが悪い……」
キョン「言霊、ってやつか? それこそ馬鹿馬鹿しいオカルトじゃねーか。そんなモンに世界が壊されてたまるかよ」
古泉「心底 僕もそう思いますよ。しかし……正直なところ不安でいっぱいです」
キョン「とにかく今はハルヒを信じるしかないのか……」
古泉「そうですね。どちらにしても……僕達が部室に戻った瞬間が この世界の命運、その分かれ目となるでしょう」
キョン「なんだってんだよ……クソッ!」
古泉「せめてそれまで……二人で愛し合いませんか?」
キョン「ああ、来てくれ、古泉…………って、はぁ!?」
団員の男子が二人でトイレに……あっ……(察し)
このあとめちゃくちゃ(略)
完全にラブラブモードです。本当にありがとうございました。
キョン「……んのクソハルヒ! こんなときに!」
古泉「あれっ……でも、今回は命令が実行されませんね」
キョン「ああ、そういえば…………あっ」
古泉「どうかされましたか?」
キョン「……いや。今 俺、さっきのツイートが気持ち悪すぎて咄嗟に削除したんだよ」
古泉「ほう」
キョン「もしかしたらそれが原因なんじゃないか……?」
古泉「なるほど……そういえば、このアカウントはお二人で一緒に運用しているんでしたね」
キョン「気持ちの悪い言い方をするな」
古泉「つまりこれは、大チャンスですよ。あなたには涼宮さんのツイートを削除する権利がある。今後、彼女の無茶な命令が実行されてしまうより前に、先ほどと同じように発言を撤回していくことが出来れば……あるいは……!」
キョン「おっ……おおっ! 希望が見えてきたな……!」
『未読の新着ツイートが1件あります』
古泉「…………おや、これはこれは」
キョン「まったく……なに考えてやがんだ、アイツは」
古泉「ここは男らしく、ガツンと決めてくださいよ?」
キョン「やれやれ。本当に世話の焼ける奴だぜ……」
キョン「おいっ! ハルヒ!」
ハルヒ「……! なによ、キョン」
キョン「悪いが さっきのツイート……消させてもらったぞ」
ハルヒ「…………そっ」
キョン「そもそも、つぶやいたことが現実になるということ自体がおかしな話なんだ。そんなことは普通、ありえないワケで……」
ハルヒ「うっさいわね! それくらい わかってるわよ、あたしだって」
キョン「あ、あぁ、そうだな。あれは全部 奇妙な偶然だ。それに…………」
ハルヒ「それに?」
キョン「あんなインチキじみたトリックみたいなモンがなくてもな、最初から俺の気持ちは決まってるのさ」
ハルヒ「……聞きたくないわね」
キョン「言わせてくれよ。俺はな、そんな眉唾物のおまじないに関係なく……お前のことが好きなんだ。元からな」
ハルヒ「…………はぁ!?」
みくる「えぇぇ……」
長門「……」
古泉「これはこれは……思ったよりストレートでしたね」
ハルヒ「アンタ、いま……」
キョン「好きだって言ったのさ、ハルヒ お前のことがな」
ハルヒ「ば……ば……ば……」
キョン「……だけどな。勘違いするんじゃないぞ。さっきも言ったように、これはツイートのおかげなんかじゃなく 俺の本心さ」
ハルヒ「…………バカ!!!!! この、バカキョン!」
キョン「これは失恋と捉えていいのか?」
ハルヒ「ダメよ。絶対ダメ。ダメったらダメだからね」
キョン「やれやれ」
ハルヒ「アンタは ほら、ムードとか……その、TPOみたいなものがワケ? こんな……みんなの目の前で」
古泉「我々としてはやはり どうも見せつけられている感じがして、少し妬いてしまいますねぇ」
みくる「……ちょっと黙っててください」
キョン「全世界に向けて“あんな”ツイートをされたらたまったモンじゃないからな。なんとしても お前の誤解を解いてやりたかったんだ」
ハルヒ「……あたしにそれをやめさせるために その場しのぎで告白してるんじゃないでしょうね?」
キョン「さっきの罵倒をそのまま返すぜ、バカハルヒ。これは俺の本心だと言っただろうが」
ハルヒ「なっ」
キョン「ツイッターを絵馬代わりにするな。くだらない嘘や願望を書き込むな。そのかわり、お前のしたいことや やりたいこと、なんでも……とは言えんが、可能な限り これからは俺が叶えてやる」
ハルヒ「…………」
キョン「……それで、返事は? まだもらえないのか?」
ハルヒ「おっ……OKよ、OK! 偉そうなこと言ったんだからね、見せてもらおうじゃないの!」
キョン「俺はSOS団の団長様じゃなく、涼宮ハルヒに告白したつもりなんだがな。お前の本音も聞かせてくれよ」
ハルヒ「……うっ」
キョン「…………」
ハルヒ「あ、あたしも……キョン、のことが……す、すきです……」
古泉「エンダァァアアアア」
みくる「涼宮さん……よかった……よかったですぅ~!」
長門「……ユニーク」
ーーー
古泉「ーーーそれで、その後はどんな様子でしょう?」
キョン「毎日 スキスキ攻撃が鳴り止まなくて大変さ」
古泉「……おや、ノロケですか?」
キョン「あぁ ノロケだね。問題あるのか」
古泉「いえ……全く。構いませんよ」
キョン「なんだ、張り合いねぇな」
古泉「近頃は、吹けば飛ぶような小規模な閉鎖空間が定期的に出現しています。彼女も素直じゃないですからね……今まさに、人生の絶頂期、といったところでしょう」
キョン「そうかい」
古泉「この理想的な状況が続いているのは、あなたのおかげですよ」
キョン「そりゃどうも。……ただな、こっちは色々と大変なんだぜ?」
古泉「あれっ、そうは見えませんが……なにか問題が?」
キョン「実はな…………最近、ハルヒがイキリトに興味を持ったらしい」
涼宮ハルヒの嘘松【完】
くぅ~疲れました!w
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