文香「月飼い」 (18)
文香視点の地の文多め?です
短めです
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貴女はいつもどこか不思議で、突然思いもよらぬ事を言い出す人でした
以前からそう感じることがあり、ふとした時にこの心中を漏らしてしまったことがあるのですが
「あなたも大概よ」
と言われてしまったことがありました
貴女がそう言うのであれば、そうなのかもしれません
それでも、自身が不思議だと言われたことについて、貴女は否定しなかったのを覚えています
貴女のそういったところが、私を惑わせ、心を惹きつけ、私を驚かせ、貴女をもっと紐解きたいと思わせたのでしょう
そんなある日のことでした
「月を飼うの」
月が綺麗な真夜中のこと
窓辺に腰掛け背中をもたれかけながら、夜風に煌めくその満月を横目で見上げる貴女は
なんとも詩的で美しさと儚さを醸し出しておりましたが
その側へと唐突に持ち出された水槽がなんともアンバランスで
その時の姿は、まるで水面のように揺れ動いているように感じられました
飽きもせず
触れもせず
その小さな水槽にいとも簡単に捕獲された小ぶりな月を
ただじっと眺めている
静寂と沈黙をそのまま形にしたかのように佇むはずの貴女が
夜風に揺られるかのように
雫の触れた水面のように
揺れ動いて見えたのです
しばらく経った後のことでした
「大事にしてね」
貴女はそう言い残し、ゆらゆらとドアへと歩いて行きました
こんな真夜中に何処へ行くのだろうと思い、呼び止めようとしたのですが
「ただの散歩よ」
そう告げて月夜の世界へ歩む貴女を
私はただ呆然と見つめることしかできませんでした。
そしてその日
貴女が帰ってくることはありませんでした
ほんとうに、何処へ行ってしまったのでしょうか
貴女の居ないこの部屋は酷く静かに感じられ
私と月とが二人きり残されたのみ
二人で住むには少し狭いかもねと苦笑いしていたこの部屋も
海のように広く思えました
久しく忘れていた静寂
書のことのみに執着していた時からは信じられない程に
この無音の空間が恐ろしく
水面の月を抱えながら
貴女との夜を思い出すことに意識を向けたのでした
貴女は月をよく見上げていましたが
闇夜もまた好んでいました
見せたくないものをきれいに隠してくれるから、と
たびたび静止が効かなくなり
必要以上に踏み込んでしまう私は
それを許してくださる貴女に少々甘え過ぎていたのかもしれません
そしてあの夜もまた、そうだったのでしょう
満月がとても綺麗な夜でした
開け放たれた窓は何一つ拒むこと無くその月明かりを受け入れ
まるで朝が来たかのように、私の隣に寄り添う貴女が照らし出されました
私達にとって朝とは、一日の始まりでもあり、同時に終止符でもあって
そのせいもあってか
その日の夜の太陽は
始まりを告げるスポットライトのように思え
私は、貴女に夢中になってしまいました
朝は嫌いと
全てを白々と見せるからと
貴女がいつの日かそう言っていたのも忘れて……
大事にしてねと言われましたが
月は空へと返そうと思います
月は船のように
優しい夜風を受けて
星の海を流れ行く
西へ西へと
遥かな時と思いを乗せて
その船が行く先に
きっと貴女が待っている
私もまた向かおうと思います
月の無い暗闇では
読み解くことができませんから
大切に
大切に手を伸ばして
歩く速さで近づこうと思います
短いですが以上です
こういう形式では初めて書くのでアレですが読んでくださった方々はありがとうございます
過去作です
新田美波「美しい少女役?」新田美波「美しい少女役?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474507410/)
アーニャ「最後の一振り」アーニャ「最後の一振り」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475335108/)
知ってる人いて嬉しいです
カップリングにしておくには勿体無い良曲
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