王「勇者よ、死んでしまうとは情けない!」 (45)


王「勇者よ、死んでしまうとは情けない!」


王「出かけて数分で命を落とすやつがあるか!」


王「なに・・・?腹を下して?草陰で用を足していたら?襲われたあ???」


王「・・・それはまあ、仕方ないか?」


王「・・・いやいやいや!」


王「不用心すぎるぞ勇者!そういう時こそ、旅の仲間とフォローしあってだな!」

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王「む・・・?そういえば、勇者よ旅の仲間はどうした?」


王「一人で街を出た!?」


王「そんな無茶をする者があるか!」


王「・・・勇者たるもの、一人旅ぐらいやってのけるだと!?」


王「できとらんやないかーい!!!」


王「そういうのは、強くなってからやりなさい!」


王「ふう・・・、もうよい」


王「次は、仲間を集めてから街を出るのじゃぞ」


王「ん・・・?どうした?」


王「何処で仲間を集めればよいか、じゃと!?」


王「酒場に決まっておろう!」


王「酒場で旅の仲間を集うのは勇者の伝統!そんなことも知らんのか!」


王「怖くて酒場に入れないだと!なんと情けない!」


王「ううむ・・・いや・・・まあ・・・」


王「今回の勇者は、未成年であるしな・・・」


王「酒場に行かせるのも、教育上よろしくないか・・・」


王「よおし!わかった!大臣よ仕度せい!儂が征く!」


王「政は大臣に任せた!」


王「なんじゃ勇者!情けない顔をしおって!心配するでない!」


王「これでも、先々代の勇者!旅など慣れたものよ!」


王「ははは!久々に血湧き肉躍るのう!」


王「さあ征くぞ!勇者よ!」




王「勇者よ、女に振られたぐらいで泣くな!情けない!」



王「たかが町娘ではないか!」


王「ふむ、確かに美しい娘ではあったな、心身ともにな!」


王「ふふふ!儂も、もう少し若ければ手を出しておったかもしれぬ!」


王「ああ、すまんすまん!冗談じゃ!」


王「だから泣くのではない!」


王「致し方ないではないか、勇者よ」



王「わし等と共に町を救った、あの若者」


王「聞けば、あの町娘と良い仲だったと言うではないか」


王「ぽっとでの貴様じゃ敵わんさ!叶わんさ!」


王「ははははは!」


王「なに!女なぞ星の数ほど居る!ただし侮るな!」


王「ライバル足り得る男達も星の数ほどおる!」



王「我が国の人口比で見ると男の星のほうが多いがな!」


王「どれ!ちょいと一杯引っ掛けに行こうではないか!」


王「かつての儂が如何に姫騎士を口説き落としたか」


王「教授してやろうではないか!」


王「それに、そろそろ酒の味も覚えても良かろう!」


王「剣技に関しては、一人前と言っても過言ではない!」



王「一端の男たるもの、酒ぐらい嗜まなくてはな!」


王「まあ、女の口説き方も知らんでは、まだまだ未熟じゃがな!」


王「それになんだったら、よい店を知っておるぞ!」


王「この町はな、かつて冒険のさ中に立ち寄ったことがある!」


王「実は儂もな、この町で大人の男になったのじゃ!」


王「まあ、あの店がまだあるかは定かではないがな!」



王「そんな情けない顔をするな勇者!」


王「兎にも角にも、まずは酒じゃ!」


王「女の口説き方を覚えたら、さっそく実践しに行こうではないか!」


王「さて今宵は長くなりそうじゃ!」


王「ほら!行くぞ勇者!」




王「勇者よ、人が斬れないとは情けない!」



王「こやつらは、旅人襲って食ってたのじゃぞ!」


王「邪悪な魔物と何が違う!?」


王「自分の姿を見てみよ!」


王「この戦闘で最も傷を負ったのは貴様ではないか!」


王「こやつらを生け捕ることに固執した結果がそれじゃ!」


王「言葉が交わせるなら分かり合える、じゃと?」



王「なるほど、人間だから斬りたくないというわけではないのか」


王「じゃが、それは甘すぎる」


王「如何に語り合おうと分かり合えぬ相手は必ず居る」


王「ましてや、貴様を騙ろうとする者は如何とする!?」


王「先代勇者の顛末は貴様も知っておろう?」


王「和平を申し出た魔王に気を許したがばかりに、騙し討ちされた男のことを!」



王「同じ轍を踏むつもりか?」


王「・・・ふむ、貴様のその甘さは先代ゆずりじゃのう」


王「じゃが、ならぬ」


王「なに、何事も慣れじゃ」


王「肝心なのは最初の一人」


王「幸いなことに目の前のこやつらは、斬ってもよい人間じゃ」



王「ならぬ、とどめを刺すのじゃ勇者」


王「為さぬというなら、こやつらを今すぐ解き放つ」


王「こやつらは、また森に潜み人々を襲うであろう」


王「その責は、貴様が負うのだ勇者よ」


王「やるのだ、やらねばならぬのだ」


王「・・・」



王「よくやった勇者よ」


王「ほら泣くな!情けない顔をするな!」


王「胸を張れ!貴様はまだ見ぬ人々を救ったのじゃ!」


王「ほれ!行くぞ勇者!」




王「勇者よ武闘大会で初戦敗退とは情けない!」



王「まったく何たる体たらく!」


王「仮にも勇者じゃぞ!この程度の大会で一勝もできんとは!」


王「うむ・・・」


王「・・・いや、まあ貴様に黙って出場した儂も悪かった」


王「・・・いや、準決勝ぐらいで当たって驚かしてやろうと・・・」


王「まさか初戦で貴様とあたるとはな!」



王「ははは!」


王「しかし!勇者よ貴様も腕を上げたな!」


王「ついうっかり儂も本気を出してしまったわ!」


王「なに?わしが放っていた眩しいオーラは何かじゃと?」


王「・・・はて?なんのことかな?」


王「魔法ではないかと?」



王「な!?ズルじゃないわい!」


王「あれは魔法ではない!魔法ではないからズルではない!」


王「・・・」


王「はい、勇者にもたらされる秘められた力です・・・」


王「すみません・・・」


王「魔法とは違うんです・・・だから運営に告げ口するのは勘弁してください」



王「ああもう!わかったわかった!」


王「本当は、自身で秘められた力を引き出してほしかったんじゃが!」


王「使い方を教えてやるから勘弁せい!」


王「ほら!せっかく優勝賞金も貰ったんじゃ!」


王「まずは祝杯をあげに行こうではないか!」


王「秘められた力の話は、そのあとじゃ!」




王「なに?純粋な剣技じゃない以上、やっぱりズルじゃないかじゃと!?」


王「しつこいのう!」


王「さては貴様、優勝賞金にたかるつもりじゃな!」


王「わかったわかった!今日は好きなもの頼むがよい!」


王「今晩で使い切るつもりで臨もうぞ!」


王「ほら!いつまでも拗ねてないで!行くぞ勇者!」




王「勇者よ、仲間が死に瀕したぐらいで立ち止まるのか!情けない!」



王「儂らは、楽しいハイキングに来たわけでな無いのじゃぞ!」


王「目的を見失うでない!」


王「魔王を目前にして何故立ち止まる!」


王「貴様、この旅で何を学んだ!」


王「その甘さは、いつになったらなおるのじゃ!」


王「ロートルなんぞ捨て置け!」



王「行くのじゃ勇者!」


王「勇者としての責務を果たせ!」


王「・・・なに、魔王を倒した帰り道に儂の亡骸を拾ってくれればよい」


王「懐に儂のへそくりが入っておる、王国への帰途で全部使ってくれ・・・」


王「国へ帰ったら、貴様も英雄じゃ・・・」


王「もう好き勝手に旅することも、遊郭に行くこともままならぬ」



王「ゆっくり遊びながら帰るとよい」


王「ああ・・・儂も、もう一度、あの思い出の店へ・・・行きたかったなあ・・・」


王「・・・なに?傷の割に意外と元気じゃないか、じゃと?」


王「馬鹿者!瀕しておるは!死に瀕しておるわ!」


王「貴様に檄を飛ばす為に、力を振り絞っておるわ!」


王「ほら!さっさと行け勇者よ!」



王「さっさと世界を救ってこい!」


王「・・・やっと行ったか」


王「まったく・・・情けない顔をしおって」


王「さすがにしんどいのう・・・」


王「しかし、久々に楽しい旅であった・・・」


王「やはり玉座よりも、こっちのほうが向いとるのじゃろうなあ・・・儂」



王「先代勇者・・・あやつとも旅をしてみたかった・・・」


王「わしが一緒なら、無様に死なせなかったものを・・・」



王「・・・行け勇者」




王「世界を救え・・・」





王「我が孫・・・」






王「・・・次代の王アルスよ!」





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王「どうした大臣?血相を変えて」


王「まさか?魔王か!?」


王「もう復活したのか!?まだ10年と経たんぞ!?」


王「次代の勇者は、まだ幼子だ・・・俺が行くしかないか・・・!」


王「なに・・・?違う・・・?」


王「・・・先王が?」


王「書置きを残して出奔!?」


王「・・・書置きには何と?」


王「『思い出の、あの店へ行ってくる』だと!?」


王「まったく、いい年をして!」



「なんて情けない人だ!」

おわり

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