道明寺歌鈴「短冊に願い、貴方の側に」 (12)

道明寺歌鈴ちゃんのSSです。

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短冊をたなびかせて風に揺れる笹の葉。昼間は雨降りだったために室内で窮屈そうにしていましたが、今は風にその身を委ねながら月明かりに照らされています。

私の飾った短冊はどこら辺だっけとぼんやりと眺めていたら法子ちゃんの声が。

「歌鈴ちゃん!」

「法子ちゃん。どうしたの?」

「歌鈴ちゃんが此処にいるのが見えたから気になって来ちゃった」

法子ちゃんはそう言うとベンチに座った私の隣へと腰を下ろしました。ふわっと漂ってくる甘い香り。

「ふふ、そっか」


「なにしてたの?」

「んー、特になにもしてないよ」

「え、そうなの?」

「うん、ただぼーっとしてただけ。そういえば法子ちゃんはお願いした?」

「うんっ!」

尋ねると嬉しそうに笑って頷く法子ちゃん。

どんなお願い事をしたのでしょうか。法子ちゃんですしやっぱりドーナツ関係……ドーナツを飽きるくらい食べたい、とか? でも飽きないでしょうし、と考えていたら法子ちゃんが、

「あーっ! 私のことだから『ドーナツをお腹いっぱい食べられますように』とか書いたって思ってるでしょ!」

と、見抜いてきました。


「ふぇ!? お、思ってにゃいよ!?」

少し思ってました、と心の中で謝りながら否定するも法子ちゃんはぷんぷんと頬を膨らませていて。

よしよしと宥めるように彼女の頭を撫でて、「それじゃあなにをお願いしたの」と聞きました。

「誤解されたままなのは嫌だし教えてあげる! 私はね、もっともーっとお仕事をして、色んな人にドーナツの良さを知って貰えるようになれますように、ってお願いしたの!」

へえ、と感嘆の声が漏れました。ドーナツ関係だっていうのは合ってたけど、全然違って。頭上で私たちを照らしているかのようなお月様の輝きにも負けない笑顔でその目標を語る法子ちゃんがとても眩しく見えました。


「歌鈴ちゃんはなにをお願いしたの?」

「みんなのお願い事が叶うように、って」

私のお願いを聞いた法子ちゃんが驚いた声をあげて、凄いと褒めてきました。なんだかこそばゆくて、「そうかな」と言った私の表情が変じゃないか気になりました。

「でもドジが治りますように、とかじゃないんだね」

と、本当に不思議に思っているような口調の法子ちゃん。

さっきの仕返しなのかなと思いましたがその語調でそんなことはないとはっきり分かりました。

「それは昔にもお願いしたことがあるし、それに」

そこで一息つけます。「それに?」と法子ちゃんに先を促されて。


「私はお星様に祈って叶えてもらうよりも、自分の力……じゃないや。プロデューサーさんと一緒に二人の力で達成したいから」

ずっと思っていたことだけれど、改めて口にするとやっぱり恥ずかしくて。

火照った頬を撫でる風の冷たさを感じてると、法子ちゃんなポツリと漏らした「やっぱり凄い」と言う声が聞こえました。

「ありがとう」と返事をしてから夜空を見上げます。あいにく天の川は見えないけれど、たくさんの星がきらきらと光り輝いています。

法子ちゃんに「星が綺麗だよ」と告げ、二人で空を見上げます。


瞬く星々を見て法子ちゃんが「あの星とこの星を繋ぐとドーナツみたい!」とか、私がそれに応えるように、「じゃああれは鈴みたいだね」とかたわいも無いお話をしながら盛り上がっていたら彼女のプロデューサーさんが法子ちゃんを呼ぶ声が。

「あ、プロデューサー!」

「探したぞ法子……」

「ご、ごめん」

「全く、ドーナツ買いに行こうって誘っておいて居なくなるなんてやめてくれよ」

「はうっ!? わ、忘れてた……」

「おい……」

隣で広げられたやり取りにクスリと笑いが溢れてしまいます。

ただ、法子ちゃんがそんな大事なことを忘れるくらい、私とお話するのが楽しかったのなら嬉しいなって思いました。


「ああ、道明寺さん。法子に付き合ってくれてありがとうね」

「いえ、どちらかと言うと付き合わせたのは私の方なので」

「そっか。あ、道明寺さんのプロデューサーも探してたからもうすぐ来るんじゃないかな」

「ふぇ? そうだったんですか、教えてくださってありがとうございます」

「どういたしまして。と、帰るぞ法子」

「はーい。じゃあまたね、歌鈴ちゃん!」

「うん、またね」

「それじゃ、お疲れ様でした」

ぺこりと頭を下げる法子ちゃんのプロデューサーさんに会釈し返して、手を振る法子ちゃんには手を振り返して見送ります。




さっきまでとは変わって私一人となったテラスはとても静かです。そっと目を瞑ると風が笹を揺らす音と私の息遣いだけが感じられます。

するとタッタッタッと小走りでこちらへ向かってくる足音が。プロデューサーさんかな、と目を開けてそちらを見るとやっぱりプロデューサーさんでした。

「はあ、はあっ。ここにいたのか」

「ふふ、ごめんなさい」

息を切らしているプロデューサーさんに謝りつつ、隣に座るように促します。隣に座ったプロデューサーさんは少し暑くて。

「こんなとこでなにしてたんだ?」

「うーん、徒然と……?」

「はは、なんだそれ」

なんでしょうね、と笑いながら返事をしてプロデューサーさんに凭れかかります。夜風に晒されて少し冷えた身体に心地よい温もり。


「プロデューサーさん」

「うん?」

「……これからも、頑張りましょうね」

「……あぁ、もちろん」

届くか届かないかくらいの小さな呟きだけど、プロデューサーさんにはちゃんと聞こえていて。彼の手に触れたら私の意図を察して握ってくれました。

「そろそろ、帰りましょうか」

「ん、そうだな」

テラスから室内に入る前、振り返って笹を一目。実は法子ちゃんに言ったお願いとは別にもう一つ短冊を吊るしていました。

「歌鈴?」

「いえ、行きましょ?」

そう言ってから、その短冊に記したお願い事を思い出して熱くなった顔を隠すように駆け足で先へ。


「そんな走ると転ぶ、ってあぁっ!」

後ろから聞こえたプロデューサーさんの注意も間に合わず、私の足はもつれて転けてしまいます。パタパタと近寄って来るプロデューサーさんに、「えへへ」とはにかんで。

「大丈夫か?」と様子を伺ってくるプロデューサーさんの頬に口付けをして、すぅっと息を吸い込んで告げるのは短冊に記した願い事。

「プロデューサーさんっ、これからも、よろしくお願いしましゅっ!」




───大好きなあの人と、これからの道も歩み続けられますように。

以上です。
読んでくださりありがとうございました。
今年の七夕は久しぶりに綺麗に晴れてる気がします。

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道明寺歌鈴「貴方の瞳に映る、線香花火」
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