速水奏「飾りじゃないのよ涙は」 (9)
高校に入学して1年が経った
音楽を聴きながら散歩をしていて、そう言えば私が最後に泣いたのはいつだったか考えていた
昔親とフランダースの犬を映画館で見た時、隣で号泣する父を見て
お化け屋敷が停電して隣で泣き始める友達を見て
私は泣いていなかった。なんだか違う気がして
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アイドルになって暫く経って
ようやく、演技として泣ける様になった
ファンやカメラに投げキッスしたり、仲間のそれを受け取ったりもした
中学生時代の友達とは疎遠になってしまったことを少し寂しく思ったりもするけれど
やっぱり本当に泣くのはまだ違う気がしている
私は泣いた事がない
きっとそれは恋を、愛を知らないからだと誰かに言われた
そんな気は確かにする
結局私はまだ、誰の前でも、独りでいるときも本当の涙は見せていない
いつか、いつか恋を知った時、愛を知る事になった時、その時はもしかしたら泣いてしまうかもしれない
そんな気がするだけだけれど
本当の涙は、まだ大切に取っておこう
演技で流す嘘の涙とどう違うのか、今の私には解らない
彼の結婚を聞いた時、私は初めて恋を自覚して、初めて恋に破れ、初めて本物の涙を知った
泣き喚きながら好きだと暴れた私は、とても無様だったろうと思う
それ以降私は演技の嘘泣きすら出来なくなった
嘘でも誠でも、涙はちょっと悲し過ぎる様に感じるから
きらりと光るその粒は、真珠の様に綺麗かもしれないけど
私にはちょっと、悲し過ぎるから
おわり
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