モバP「言の葉よりも素直なこと」 (61)



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○月1日 夕刻・事務所


スタスタ…

奏「……ねぇ、Pさん。ちょっといいかしら?」

P「ん……おお、奏か。あー、ごめん、今ちょっとPCでの事務処理で手が離せないから、このままで良いか?」カタカタ

奏「……ええ、その方が良いわ」

P「で、どうかしたのか? 今日はもう仕事終わりだぞ-?」カタカタ

奏「……隙ありっ」チュッ

P「おひぃゃお!?」ッターン!





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奏「ふふっ、『おひぃゃお』だって。いくらビックリしたからって、どこからそんな声出るの?」

P「そ、そりゃあ首元に突然キスされたらビックリするわ! というか、そういうことはしちゃ駄目だって言っただろ!?」

奏「あら、てっきり唇はダメって事かと思ったんだけど。プロデューサーさんの首もと、良い匂いがしたわよ?」

P「ったく、またそんなこっ恥ずかしいことを……」


Prrrrrrr!




P「っと、電話か。ああ、すまん奏、何か聞きたかったんだろ? この後で聞くからさ」

奏「ううん、今日はもういいわ。それじゃあPさん、お疲れ様でした。お仕事頑張ってね?」

P「え……お、おう、お疲れ様。……まぁ奏がいいならそれでいいか」カチャッ

P「……お待たせ致しました、お電話ありがとうございます。シンデレラガールズプロダクション、プロデューサーの――」




奏「……まずは1カ所、っと。ふふっ」




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○月2日 朝・事務所


奏「ふぁ……おはようございます」

ちひろ「あら奏ちゃん、おはようございます。今日は早めに来たのね?」

奏「ええ、ちょっとやる事があって……あ、居た居た」


P「――よし、今日は△△レコードでいつものラジオ収録だな。眠気眼のリスナーを、凛の落ち着いた声でバッチリ覚まさしてやれよー」

凛「うん、分かってる。今日もしっかりとやるから、私のこと見ててよね?」

P「おう、まかせとけ。既に俺は凛の声でバッチリ目覚めてるからな!」

凛「……も、もう。じゃあ行くよ、プロデューサー」

P「運転は任せろー……っと、おう、おはよう奏。珍しいな、今日はやけに早いじゃないか?」





奏「おはよ、Pさん。凛ちゃんもおはよう」

凛「おはようございます……あれ? 奏さん、今日はレッスンの時間にはまだ大分あるけど……?」

奏「ええ、この時間じゃないと、誰かさんが居なくなっちゃうから、ね?」

P「? 要は凛か俺に何か言いに来たってことか?」

奏「ん、そうね。大体正解、かな」




P「そっか。丁度凛も俺も、これから出るところだったからな」

凛「そうだね。それで奏さん、私とプロデユーサー、どっちに用なの?」

奏「用ってわけじゃないんだけど……まぁ、直ぐに終わるわ。というわけで……ちょっとごめんね、Pさん」グイッ

P「んおっ!? ちょ、ネクタイ引っ張」

奏「んっ」チュッ

凛「!?」

ちひろ「ほぁ!?」

P「What's!?」





奏「……おはようと、いってらっしゃいのキスだよ。唇はダメらしいから、今回は頬だけど」

凛「か、奏さん!?」

ちひろ「み、見事なキス捌きだったわね……」

P「か、奏っ! お前、昨日に引き続いてまた……だから唇だけじゃなくてだなぁ!」

凛「昨日!? 何、プロデューサー、昨日もしたの!?」

P「えっ? いや、したというかされたというか」

奏「Pさんが仕事してたから、後ろから首に、ね? 良い匂いだったわよ?」

凛「う、うらやま……じゃなくてっ、奏さん何してるの!? 何してるの!?」




P「り、凛、そんな声を荒げるなって。これからラジオなんだから喉は大事に……」

凛「だったら、話は送迎中にみっちり聞くよ! ほら、さっさとこっちに来る!」

P「わ、分かった、分かったからお前もネクタイ引っ張るなって! こら、ネクタイはリードじゃない、俺は犬じゃないってうおおおおお」ズルズル

凛「それと、か、奏さんもいきなりするなんて大胆すぎ! もっと場所とか選んでっ!」

奏「あら、ごめんね。でも、唇じゃなかったらチャンスはたくさんあるから、凛ちゃんも頑張ってね?」

凛「う、うぅ……と、とにかく2人とも、私達は行ってくるよ!」

ちひろ「あ、はい、いってらっしゃーい」




<オイ、リン! サスガニ カイダンオリナガラヒッパルノハアブナオワァァァァァァ!?

<ホラ、キリキリアルク!

<アルケテナイ! オチテル、オレスベリオチテル!





奏「……ふぅ、満足した。あ、ちひろさん。私、お昼のレッスンの時間まで仮眠室で休んでるわね」

ちひろ「えっ、まさか奏ちゃん、プロデューサーさんにキスするためだけに早く……?」

奏「どうかしら? それじゃあまたお昼に……ふぁぁ、朝早くはやっぱり眠いわ……」スタスタ

ちひろ「こ、これがキス魔……こいつぁグレートな……!」




奏「……これで2カ所目、ね」




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同日 お昼過ぎ・レッスン場


ルキトレ「……はい、そこまで! では今日はここまでにします! 水分をきちんと摂ってから事務所に戻って下さいね!」

奏「んー……すっかり目が覚めたわね」ノビー

茜「あっ、奏ちゃん、おっつかれーっ!! はい、スポーツドリンク!!」

奏「あら、ありがとう。茜もお疲れ様。今日も一番笑顔が弾けてたわよ?」

茜「おおお、ホント!!? えへへ、ありがとっ! 私は元気が取り柄だから!!」




奏「そういえば、お茶じゃなくてスポーツドリンクなのね。茜、お茶好きでしょう?」

茜「いやー! 前に泰葉ちゃんが、お茶は喉の油がどうとかでレッスン中は飲まない方が良いって言ってくれたから!!」

奏「なるほど、だからスポーツドリンクなのね……」

茜「そう、さすが芸能界のセンパイ、って感じだった!! 1歳下なのに凄いね!! 憧れます!!」

奏「ふふっ、茜は本当に元気ね。キスしてあげたくなっちゃうわ」

茜「それはドッキドキしちゃうね!! 奏ちゃんのキスボンバーを喰らったら、みんなイチコロだっ!!」

奏「ボンバー……もっと勢いがあってもいいかしらね」

茜「あれ、どうしたの? 考え事なら気合いでなんとかしましょうっ、おー!!」

奏「もう、圧倒されちゃうなぁ……それじゃ、お昼を食べに事務所へ戻りましょ?」

茜「りょーかいっ!!!」




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数分後・事務所


P「……お、2人ともお疲れ。これからお昼か?」

茜「お疲れ様です!!!」

奏「ええ、そうよ。Pさんも一緒に、どう?」

P「あー……ごめんな、まだちょっと手が離せない状態なんだ。俺は後で食べるよ」

奏「あら、残念」

茜「そうですかっ、頑張って下さいね!!」

P「おう、ありがとうな。じゃあ2人とも、しっかり休憩するんだぞー?」




奏「……あ、そうそうPさん。私、茜から学んだ事があるの」

茜「へ? 私ですか!? 何ですか!?」

P「学んだ事? ……当の本人は分かってないみたいだけど」

奏「それはね……こうっ」ダッ

P「!?」

奏「今回は、ここっ」ガシッ

チュッ

P「でこっ!?」

茜「おおおおお!!!?」




P「なっ、奏、お前また懲りずに……!」

奏「ふふっ、茜のボンバーな勢いを真似てみたの。どう? ビックリしたでしょ?」

茜「奏ちゃん、だ、大胆だね!!! プロデューサーにキスなんて、大、胆!!!!」プシュー

奏「……あれ、茜? なんだか煙噴いているけど……大丈夫?」

P「うおお、茜がオーバーヒートしてるぅ!? 奏、濡れタオル、濡れタオル! それとボンバー真似るの禁止な!」

茜「キスって、結婚する時のやつでしたっけ!? あれ、それはまた違うんですか、分からなくなってきましたたたた!!!!!」

奏「残念、禁止かぁ……って、それどころじゃないわよね。えっとタオルタオル……」



奏「……とりあえず3カ所、かな」





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○月3日 事務所・廊下


スタスタ…

奏「あ、Pさん。こっちには……まだ気付いてないみたいね」

P「……」テクテク

奏「……良いこと思いついた」ピーン




P(……ふむ、今日も問題なく順調。良いことだ)スタスタ

P(この後は雪美を迎えに□□スタジオに行って、その流れで薫と舞も迎えるには良い時間になるかな……)テクテク

奏「……」コソッ

P(ん、そうか、莉嘉も良い頃合いになるな。今日は車が賑やかになりそう……)

奏「……Pさん」トントン

P「んおビックリしたっ! おいおい、急に誰だ……」クルッ

奏「んっ」チュッ

P「!? ……おわあっ!?」




奏「ふふっ……私、だよ」

P「か、奏、お前また、またお前……!」

奏「唇にされると思った? 今回は耳で我慢してね」

P「我慢も何も、すること自体ダメなんだって! あー、もう、あー、本当にびっくらこいた……」ヘナヘナ

奏「安心して。もしもPさんが心臓麻痺になって倒れたら、私が人工呼吸してあげるから、ね?」

P「心臓麻痺に人工呼吸は必要ないっつーの!」




P「何度注意しても聞かないとは……はぁ。……奏、次やったら本当に怒るからな?」

奏「……冗談ではないって顔ね。Pさんにそういう表情似合わないわよ?」

P「それくらい本気って事だ」

奏「Pさんは、キスされるのはイヤ?」

P「嫌とか嫌じゃないとか、そういう話じゃないんだよ。……分かんないかなぁ」




P「あのなぁ……そうやって軽い気持ちで、男性にキスしようとしちゃダメなんだよ」

奏「軽い……」

P「奏にとってはスキンシップとかなんだろうけど……そういうのは、もっと大事な人にしてあげた方が良い」

P「少なくとも、俺には駄目だ」

奏「…………そっか」

P「……奏?」

奏「ううん、何でも無い。ごめんねPさん、今度からはしないように気を付けるから。……じゃあね」スタスタ

P「おう、気を付けてくれよ。……ふむ、これで大丈夫、か?」




奏「……」

奏「……あーあ、やっちゃった」

奏「…………拒絶、されちゃった」

奏「……」




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○月4日 事務所


奏「……」ボー

P「お、奏、ここにいたのか。そろそろ撮影の時間だから、スタジオまで送るぞー」

奏「……あ、Pさん」

P「……どうした? 優れない顔して……体調悪いのか?」

奏「ううん、なんでもないわ。あ、ごめんなさい、話聞きそびれちゃった。どうしたの?」

P「ああ、これから撮影だから、スタジオに送るぞって話。まぁまだ30分くらい余裕はあるんだが……」

奏「……ええ、分かったわ。それじゃ、お願いするわね」スッ スタスタ

P「ん、おいおい、そこまで急ぐ必要も無いぞー! ……って、行ってしまった。しょうがない、俺も行くか」テコテコ




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○月5日 某スタジオ


奏「ふぅっ……お疲れ様でした」

P「お疲れ様、奏。仕事は良かったんだが……やっぱり、何かあったのか?」

奏「……どうしてそう思うのかしら?」

P「いや、思うというか、勘かな。今日の奏は、いつもの奏じゃない感じがしたんだ。心此処にあらずというか……」

奏「……大丈夫よ、私は私。何かあったわけでもないし、何でもないわ」

P「おう……そうか、それならいいんだ。じゃあ、事務所に戻るぞー」

奏「ええ、分かったわ」






奏「……何かしたのは、私だし。……うん」





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○月8日 夜・事務所

奏「……」ボー

ちひろ「……奏ちゃん、奏ちゃーん?」

奏「……あれ、ちひろさん。どうかしたの?」

ちひろ「どうかしたのって、それはこっちの台詞ですよ? 今、何時だと思う?」

奏「何時って……わ、もうこんな遅く……」




ちひろ「そう。奏ちゃん、夕方から今までの数時間、ずっと窓の外を眺めていたのよ。それも身動きひとつもせず、まるで銅像みたいに……」

奏「……ちょっと考え事してたから、かな。ごめんなさい、荷物まとめて直ぐに帰るわ」

ちひろ「奏ちゃん、大丈夫? 最近、いつもここで考え事してるわよね?」

奏「そうかな…………ううん、そうかも知れない、ね」

ちひろ「何か思い詰めている事とかあったら、いつでも私に言って良いんですよ?」

奏「あー……ありがとう、ちひろさん。何かあったら、きちんとちひろさんに伝えるから」




ちひろ「それと、何かあるのならプロデューサーさんに言ってもいいんですからね? ああ、デリケートな話題なら私が聞きますけども」

奏「デリケートってわけでもないけれど……Pさんには言わない方が、いい、かなぁ」

ちひろ「え?」

奏「っ、ううん、なんでもないわ。ちひろさん、心配掛けてごめんなさい。それじゃ、私はこれで」スタスタ

ちひろ「あ、ちょっと、奏ちゃ」

バタン

ちひろ「……むむむ、これはこれは……」





ガチャッ


P「ふぁぁ……あ、ちひろさんお疲れ様です。そろそろ自分が書類整理するので、ちひろさんは休んで大丈夫ですよ」

ちひろ「あ、諸悪の根源さん、良いところで起きてきてくれましたね!」

P「のぉ!? な、何ですか、その突然なレッテル貼りは!?」

ちひろ「レッテル貼りも何も、貴方以外に原因が思い浮かばないんですよ! ちょっと話がありますのでそこに正座っ!」

P「ちょっとちひろさん、俺、今起きたばかりで体ガチガチで」

ちひろ「なら五体倒置で構いません。さぁ、そこに直って下さい! 奏ちゃんについてお話があるんですよ!」

P「五体倒置は直るって言いませんからね!? ……って、奏の話ですか?」


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○月9日 夜・事務所


奏「……」ボー

P「……奏。おーい、かなでー?」

奏「あ、ちひろさん、ごめんなさ……ああ、P、さん」

P「ちひろさんじゃなくてすまないな。俺以外はみんな帰ったよ」

奏「……そうじゃないわ。昨日はちひろさんが声をかけてくれたから、今回もそうかと思ったの」

P「ちひろさんと俺の声、全然違うのにか?」

奏「……ぼーっとしてたんだもの。聞き間違いだってあるわ」

P「……」




P「うむ……そうだな、単刀直入に聞くとするよ。……奏、最近何があった?」

奏「それ、前にも聞いたじゃない。何も無いって……」

P「何も無いはずがないんだ。奏の調子が悪そうなのは原因が俺にあるかもしれないと、ちひろさんからも聞いた」

奏「……そんなこと無いってば。それに、仕事は全部問題なくやってるでしょ?」

P「ああ、問題なくやってくれてる。けれど、奏に何かがあったのは確実なんだ。確信してる」

奏「……どうして言い切れるの?」

P「そんなの、俺が奏のプロデューサーだからに決まってるだろ?」




奏「……」

P「俺が奏のプロデューサーになって、もう2年近く経つんだ。何かがあったことくらいは、お見通しだ」

奏「……」

P「だが流石にエスパーじゃないから、奏に起きた出来事自体が分かるはずもない。だから前、奏に聞いたんだ。『何があったのか』ってな」

奏「でも、Pさんは納得したわよね?」

P「奏が『何にもない』と言ったからな。きっと奏ひとりで解決したいことだと思って、追求はしなかった。でも解決は……出来てないよな?」

奏「……」

P「そこに、ちひろさんから奏の話だ。それで確信したよ。奏は、俺が原因で何か抱えてるんだって。……今更なんだけども」




奏「……別に、Pさんがいけない訳じゃないの。全部、私の責任だから」

P「誰の責任とかの話じゃないからな? ただ、奏の問題を取り払ってやりたいってだけだ」

奏「そんなの……平気よ。わざわざPさんがしてくれるほどのものじゃないわ」

P「あー……何て言えばいいのやら。わざわざ、というのじゃなくて、俺が奏にそうしてあげたいって言えば良いのかね?」

奏「……?」

P「そうだな、言えることは……俺はプロデューサーという職業だけで、奏と向き合っている訳じゃ無いってことだ」

奏「……」

P「んー……ああ、そうだな、奏が何かに苦しんでいるのを見ていたくないんだよ。自分の事みたいに思っちゃうわけで」

P「ましてや、そこで原因が俺と来た。原因の俺がなんとかしないと、奏が楽になるはずもない」

P「だからこうやって今、奏にもう一度聞いたんだ。……申し訳ないけど、俺の原因、教えて貰えるか?」




奏「……」

P「……」

奏「…………狡いわ、Pさん。何かもう、狡い」

P「狡い……それが原因か?」

奏「そうじゃないわ。とにかく、その言い方は私には狡すぎるの。もう、踏み入れるだけ踏み入れて、ずるい」

P「……ど、どういう事だ? 結局、俺の何がいけなかったんだ?」

奏「だから、Pさんが悪いわけじゃないのよ。……今から訳を言うから、ちょっと腕、巻くって出して貰える?」




P「腕か? ああ、分かった。今捲るから…………っと、ほら」

奏「ありがと。……それじゃ、失礼するわね」スッ

P「?」

奏「……んっ」チュッ

P「っと!? おいおい、腕を捲ってくれってそういう……。奏、あれほどキスはするなって」

奏「そう、それなのよ」

P「……それ?」

奏「それよ、それ。今私がした、それが原因、なのよ」

P「って事は……キス、のことか?」

奏「ええ、そうよ。『Pさんへキスをすることを禁止された』……それが、私の原因なの。何度も言うけれど、Pさんのせいじゃないからね?」




P「そんなことが……いや、すまん。奏にとってはそんなことじゃない訳だよな」

奏「そうね、説明し辛いんだけど……私のPさんへのキスは、予防線……嫌いになっていないかの確認だったの」

奏「もしも慌ててくれるのなら、それはまだ私を嫌いと思っていないって事。それで、もしも拒絶されたのなら、それは私を嫌いになったってこと」

奏「Pさんに出会ってからはキスで色々からかってたけど……あれ、すごく信用してきてたからなのよ。学校じゃ男子にそんなこと絶対しないけど、Pさんなら……ってね」

奏「最近はその気持ちが大きくなって……だから、Pさんにキスをしたわ。唇に気持ちを灯して、でも心の奥底は伝わらないようにごまかしながら、確認するように沢山キスをしてきた」

奏「でもこの前……本気で拒絶されちゃった」

P「……」

奏「まぁ、ただの自業自得よ? 駄目だって言われていたのに、ずっと繰り返したんだもの。Pさんに呆れられるのも当然」

奏「それからは、これ以上Pさんには迷惑を掛けないよう、仕事でミスを出さないようにして、ちょっと打ちひしがれてたってトコロ……かな」




P「なるほど……。……奏、すまなかった」

奏「もう、だからPさんは悪くないって言ってるでしょ? 悪いのは私。嫌がるPさんに対して、キスを繰り返した私なの」

P「ああ、キスを禁止したって事じゃなくてだな……その、奏の考えに対して、な」

奏「考え?」

P「俺、奏はどんな人にも簡単にキスする子だと思ってたんだよ。ほら、前のバレンタインで、他のアイドルの子に『キスしてあげたいくらい』とか言ってたからさ」

奏「あ……そうね。同性の子達へのキスは、また意味合いが違うから……紛らわしくてごめんなさい」

P「いや、勘違いだったからいいんだ。それと……まさか、俺なんかにそうやってキスしてくれる人なんて居ると思って無くて」

P「……お見通しとか言っておいて、全然分かってやれてなかった。だから、本当にごめん」

奏「……『なんか』じゃないからなんだけどなぁ」

P「?」




奏「なんでもないわ。……ありがと、Pさん。そう言って貰えるだけで、ちょっと気持ちが楽になったかも」

P「そ、そうか。……ああ、それとだな、キス禁止の件についてなんだが」

奏「何かしら?」

P「その、俺が奏のキスを禁止にした理由は、奏のキスに対する軽さからだったんだ。でも、実際は違った。だから……」

奏「……」

P「……まぁ、解除しようと、思ってな? というか、解除するよ、うん」

奏「!」




奏「……本当に?」

P「あ、ああ。要は、俺の勘違いだったわけだからな……」

奏「嘘じゃないわよね?」

P「……こんな場面で、嘘なんてつけるはずないだろ?」

奏「つまり、今までみたいにキスしても良いって事よね?」

P「いやそれは……あー、禁止ではないが、その、時と場所を考える事前提かつ不意打ちは無しで頼むぞ? 心臓に悪いから本当に頼むぞ?」

奏「……ふふ。うふふっ」

P「……奏?」

奏「ふふっ、Pさんっ!」ガバッ

P「って、のわっ!? か、奏っ、急に抱きついてくるなって……!」




奏「狡い、Pさん、やっぱり狡いわ。ホント、ビックリしちゃうくらいに、掻っ攫って行くんだものっ」

P「だ、だから何が狡いんだ? さっきから言われてるけどさっぱり分かないぞ?」

奏「そんなPさんには、私からのプレゼントっ」

P「? プレゼントって、なん」

奏「……ん」グイッ

P「んむぁ!?」




奏「ん……ぷはぁ。……ふふふっ、あげちゃった。Pさんに、私の……ファーストキス」

P「……え? 初めて? 嘘ぉ!?」

奏「あ、信じてくれないのね。それじゃあ」

ガシッ

P「うお」

奏「セカンドも、サードも、その後も全部。Pさんにあげちゃうわね? ……んっ」

P「むぐぅ!? んむ、むぁ!? おま、ちょ……」

奏「ひゃべると、らめよ。あ、した、いれてあげる。……んちゅ、んー……」

P「んむー!?」




――十数秒後


奏「…………ん、んー……ぷあっ。ふぅ……これで、セカンドかつフレンチ。1度で2つもプレゼントしちゃった」

P「おっ、お、お前なっ! 禁止令を解除したからって、いきなりそれはどうかと思うぞ!?」

奏「それじゃ、サードもこのまま勢いで。次はもっと、もっと凄いことしてあげる」

P「まだすんの!? ちょっといい加減にしとけって!」

奏「もう、暴れちゃダメよ。……あ、そうそう。私、言い忘れていたことがあるの」

P「……な、何だ、急に?」




奏「今までのキスの場所。意味があるの……知ってた?」

P「え? ……意味?」

奏「そう、意味があったの。……首は『欲望』」チュッ

P「うぉ!?」

奏「頬は『親愛』」チュッ

P「のわ!?」

奏「耳は『誘惑』、腕は『恋慕』」チュッ チュッ

P「ちょ、奏っ」




奏「そして唇は……『愛情』。これは知らなくても分かるわよね」

奏「もうキスで言っちゃったけど…………好きよ、Pさん。ふふ、大好き」

P「えっ、今!? 今それ言うの!?」

奏「やっと言えた……やっぱり、キスって良いわね。言葉よりも素直なんだもの」ガシッ

P「……ま、まぁ、確かに。意味を知っていれば、これほど分かりやすいボディランゲージも無いかも知れないけど……」

奏「でしょ? クセになっちゃうでしょ?」

P「お、俺は分からないが……なぁ、奏さんや?」

奏「何かしら?」




P「いや、質問なんだけどさ」

奏「うん」

P「……あの、今こうしてさ、俺の顔面を両手でガッチリホールドしてきた意味も……あったりするのか?」

奏「……」

P「こ、答えて頂けると嬉しいんだけど……?」

奏「ふふっ……ええ、あるわよ? だってこうすれば、Pさん逃げられないでしょ?」

P「……え?」




奏「大丈夫。私のサードキスも……私の唇も、Pさんに全部ぜーんぶ、あげちゃうから」

P「!? 大丈夫じゃない、だいじょばないぞ!?」

奏「もう、暴れないの。暴れたら……もっと凄いの、しちゃうわよ?」

P「キスしか未来がないぞそれぇ!?」



奏「そう言うけど……Pさん、私とキスするの、嫌になった?」

P「前も思ったんだが……そ、その質問は卑怯じゃないか?」

奏「私は、Pさんとキスするのが好きよ。Pさんなんかじゃなくて、Pさんだから。大事な人だから、ね?」

P「よ、よくそんな恥ずかしいこと言えるな、奏……」

奏「ふふ、キスすると饒舌になるのかもね。それとも、キスで言いたいことは言い切ったからかも?」

P「……さいですか。……なんか、すっかりいつもの奏に戻った、か?」

奏「ふふっ、そうね。全部Pさんのせいで、Pさんのおかげっ」




奏「っと、話、逸らされちゃうところだったわ。それで……Pさんは? 好き? 嫌い?」

P「……き、嫌いじゃないぞ」

奏「素直じゃないなぁ……でも、嫌いじゃないって事は、してもいいのよね?」

P「いや、だからしていいって話でもないんだって! さっきも言っただろっ、時と場所を考えてくれって話!」

奏「……みんな帰っちゃった時間で、私達以外はもう誰もいない場所よ?」

P「……あっ」

奏「ね、いいでしょ?」

P「……じ、事務所! ここ、仕事場っ、事務所!」

奏「仕事場だからって、しちゃイケナイ理由にはならないと思うんだけどなぁ」




P「な、なぁ。そろそろこのホールド状態を解除してくれないか?」グググ

奏「だーめ、これからもっとするんだから。……本気で抵抗してくれても、いいのよ?」グググ

P「ぬぅ……それは、出来ないな。抵抗した勢いで奏が怪我したらどうするんだ。只でさえも奏が俺のせいで傷ついていたってのに……」ブツブツ

奏「そっか…………ねぇ、Pさん」

P「だから……って、何だ? 離してくれる気になったか?」

奏「時と場所を考えて欲しいって事は、それが成立していたらキスし放題って事よね?」

P「ほぁ!? いや、違う違う言葉の綾みたいなものだからな!? というか今までの話どこ行った!?」




奏「それじゃあ話を戻すけど……どこでならキスしても大丈夫なのかしら。Pさん、教えてくれる?」

P「そ、そうだな……外とか?」

奏「パパラッチに撮られたら大変よ?」

P「ぐ、そうか……それじゃあ、家とか?」

奏「あら、Pさんの家に行っていいの? それとも、私の部屋がいい? ふふ、私はいつでもいいわよ?」

P「ぬぐぅ、それも駄目だっ……えーとだな……えーっと……」

奏「……ね? 事務所が一番良いでしょ?」

P「ぬぬ……うぬぬ……そう、なるな。そう、なっちゃうよな……」




奏「ふふっ、と言うわけで……時も場所も成立してるから、ね?」

P「待て待て待って! だからといって、流石にそこまでキスしなくてもいいだろ!?」

奏「私のPさんへのキスは、もう今では会話みたいなものなの。愛の言葉は、優しいくせに口にするのは大変でしょ? だから私は、キスで伝えるわ」

P「それ、キスしなくてもさっき伝えられてたと思うんだけどっ……!」

奏「ううん、全然伝えきれてないわ。唇に歌を灯すように……優しく、愛を込めて、Pさんに奏でるの。だから唇の触覚だけじゃなくて、聴覚でも感じて欲しいかな」

奏「ふふ……私、浮かれてるかも。Pさんと居られて嬉しいんだもの。乙女ってそういうものよね」




P「ちょ……浮かれてるんだったら、ちょっと落ち着こう奏。な、なっ?」

奏「Pさんは……どんな味がするのかな。さっきは夢中で味わってなかったし……甘いのかしら?」

P「なっ、味ってお前……俺なんか美味しくも何ともないから! とにかく落ち着いてくれって!」

奏「だから、『なんか』じゃないんだってば。Pさんだから……おいしそう、かも?」

P「」




奏「ふふっ。そう考えたら、ますますキスしたくなってきちゃった」ググッ

P「ちょっ、奏、顔近づかせるなって……ち、近い近いっ!」

奏「赤くなっちゃってかわいい……でも、さっきまで零距離以上だったんだから、これくらいは慣れて欲しいかな?」

P「そ、そんなの、慣れられるわけないだろっ」

奏「安心して。Pさんを味わう代わりに、ちゃんと私の味も……しっかりPさんに味わわせてあげるから」

P「安心する要素が無いんだけど!?」

奏「もしもPさんの味を確かめられたのなら……もう、唇どころじゃすまないかも。……ね?」

P「あ、あっ、奏、眼が据わって――」







奏「それじゃ、続きもディープに……私のキスを、召し上がれっ♪ ……んー」

P「ちょ、まっ……んむむー!?」






お わ れ




キス魔な奏が愛おしくて仕方なかったので、つい。奏はまさにCoアイドルだと思います堪らないです。
一部の奏の台詞は、今までのレアリティから出た台詞と、とある歌詞を参考にさせて頂いております。今回は2曲ほど。

アイプロで心を射貫かれ、蒼翼ガチャで大爆死。最終的にはちひろさんを頼って手に入れたので、奏には色々と思い入れが凄いです。
ボイスが付いてくれたらこの上なく嬉しいですね。周子と一緒にデビューしてくれないかとそわそわしていたり。

ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました。
狐周子が値下がることを祈りつつ、鷺沢さんのSRを楽しみにしております。



こんな夜遅くまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

おとハニの発売、いつまでも待っております。

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