青年「とんでもない奴隷を買ってしまった」 (72)

青年「今日からここがお前の家だ」

青年「まぁ、今まで酷い仕打ちをされたのはわかってる」

青年「だから…急にとは言わない。ゆっくり慣れてくれたらそれで構わないよ」

奴隷娘「……」ウツムキ

青年 (やっぱり、すぐには心を開いてくれない……よな)

青年「えっと…どこでも寛いでくれ。お前の好きにして良いんだからな」

奴隷娘「うるさい豚」

青年「ちょっと待て」

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*


奴隷娘「?」キョトン

青年「なにキョトンとしてんだよ、さっき言った言葉もう一度言ってみろ」

奴隷娘「…こ……と、ば…?」

青年「おせーよ!今更言葉がわからないフリすんな!」

青年「流暢にオレの悪口を言ったこと忘れないからな」

奴隷娘「豚(とん)でもない奴隷……ふふ…」ボソ

青年「ボケたつもりはない」



青年「好きにして良いとは確かに言った」

奴隷娘「その結果が」

青年「コレだよ!うるせーわ」

青年「ちょっと来い!」グイッ

奴隷娘「ひゃっ……そうやって無理矢理犯して陵辱の限りをつくすのですね……」

奴隷娘「貴方もきっと他の人と同じ」

奴隷娘「優しくしておいて、懐いたところを蹴落とす」

奴隷娘「まさにド畜生です」

青年「お前本当に奴隷なのか…?」

奴隷娘「だと思いますよ」

青年「クソ…なんてこった」

青年「まぁいい。再度言うが、今日からオレが主人だからな」

青年「次、豚と言ったら…」

奴隷娘「言ったら?」

青年「そうだな…。お前を豚のように鳴かせてやる」

奴隷娘「ぶひ~ぶひ~」

青年「バカにしてるだろ?」

奴隷娘「はい」

青年「するなよ」


奴隷娘「はぁ…では、何とお呼びすれば?」

青年「ご主人様って言え」

奴隷娘「えぇ……」

青年「嫌がるなよ。お前は自分の立場がわかっていないようだな」

奴隷娘「わかっていますよ、旦那様」

青年「オレはまだ独身だ」

奴隷娘「ですよね」フフ

青年「ですよねってなんだよ、売り飛ばすぞ」

奴隷娘「そうしたければ、どうぞ」

青年「むぐぐ~!」


*

> 表通り


青年「おいこら商人、何だあの不良品は!」

商人「おやおや旦那、また随分とお怒りで……」

青年「お前言ってたよな、従順で大人しい奴隷だと」

商人「えぇ」コクリ

青年「全くもって従順じゃない。それどころか主人を豚呼ばわりと来たもんだ」

商人「ほうほう……では、返品しますか?」

青年「しない。どうせお前の事だ、払った金は帰ってこないんだろうよ」

商人「よくご存知で」

商人「しかしながら旦那……アナタはあの奴隷が可哀想だと同情して買った」

商人「だと言うのに、従順じゃないから文句を言うのは筋違いでは?」

青年「そうだよ!ちっ。急にお前から連絡が来たと思ったら…」

青年「そういう訳だ。だから躾が必要だと思ってな」

青年「だがオレは躾の仕方なんぞ知らん」

商人「奴隷を買った事が無いから、ですね」

青年「そうそう。なんか良い案ない?」

商人「口調、忘れてますよ」

青年「っと……んん。躾をするに当たって、何か良さそうな案は無いだろうか?」

商人「ではまず、服を脱ぎます」

青年「待て」

商人「何です?」

青年「躾をする側が、何故服を脱がなきゃならんのだ」

商人「注文の多い旦那様だこと」

青年「お前に聞いたオレが馬鹿だったよ」

商人「なら……これなんてどうです?」スッ

青年「『指南書~奴隷の躾け方~ M編』……何だ、これは?」

商人「文字通り、躾の仕方を書いてある書物です」

青年「こんなものどこで手に入れたんだよ…」

商人「ふふっ。まぁ、とある特殊な方からのルートでして」

青年「ほーん」

青年 (指南書、ねぇ……『M』?Mってなんだ…?サイズか?)

青年「この指南書、他にもあるのか?」

商人「ありますよ。こちらのM編、それと対を成すS編」

商人「あとは……こちらは禁断の書物なので、特殊な適性のあるお方にしかお売りしていません」

青年「特殊な適性…?ちなみにオレはどうなんだ?」

商人「ハハッ、旦那は昔からオールラウンダーですよ。もちろん売っても構いませんが」

青年「全てに適性があるオレ…完璧だな」

青年「そっちの禁断のなんちゃらは、後でまた買うとするかな」

商人「ふふ……では、こちらで?」

青年「あぁ。このM編を頼む」


*


> 自宅


青年「待たせたな」

奴隷娘「はあ……」

青年「ククッ…今からお前の泣き叫ぶ姿を想像すると笑いが抑えられん…!」

青年「そこに立て!」ビシ

奴隷娘「嫌です」

青年「嫌とか言うな。立って」

奴隷娘「仕方が無いですねぇ」ヤレヤレ

青年「ふん…そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだ」

青年「えーと、なになに……」ペラ

青年「『まずは服を脱ぎます』、か」ヌギヌ…

青年「だからなんでオレなんだよ!」ズバンッ

奴隷娘「喉が乾いたのですが」

青年「おっと動くんじゃない」

奴隷娘「あ、わざわざすみませんね」テレ

青年「オレが飲み物を取っくるわけじゃねーよ!」

青年「はぁ~。服を脱ぐ項目はスルーしよう…」

青年「次は……拘束具で自らを縛る…?」

青年「んん?オレを…?いやまて」

青年「縛ってもらってもOKと書いてあるな」

青年「拘束具なんて持ってないぞ…?」

奴隷娘「ここに」スッ

青年「おっとすまんな。それで手首を縛ってくれるか」 

奴隷娘「……」ゴソゴソ

青年「よし……しまった」ハッ

奴隷娘 (ようやく気がつきましたか)

青年「これじゃあ本がめくれないぞ!」

奴隷娘「バカ?」

青年「馬鹿でも良い。ちょっと次のページにめくってくれ」

奴隷娘「はいはい……」ペラ

青年「えーと…『最後に、ご主人様に忠誠を誓えば貴方も立派な奴隷です』、か」

青年「ほら、誓え」

奴隷娘「誓いました。はい」

青年「……」

奴隷娘「……」








青年「なんなんだ、これは…?」ウーム

奴隷娘「とんでもなくバカですね」

青年「くそ、オレは騙されたのか」

奴隷娘「さぁ?」

青年「悪い、ちょっとこの拘束具を外してくれないか?」

奴隷娘「……」ジー

青年「おい。聞いてるのか?」




奴隷娘「い や ですっ」ニコ

青年「は?おいお前―――

奴隷娘「気安く話しかけないでくれます?」ゲシッ

青年「痛ぇ!」

奴隷娘「どうやって仕返しをしようかと思っていましたが……」

奴隷娘「まさか自分から…ぷっ…くく。これほどのおバカさんは初めて見ましたよ」

青年「てめぇ…覚えてろよ!」

奴隷娘「その負け犬の様なセリフも吐けないほど、遊んであげましょうか?」

青年「ハッ。お前ごときに屈するとでも?」

奴隷娘「フフっ…『余裕ぶっていられるのもいまのうち』、ですよ」クスクス

青年「くっ…!」


―――


――


――




青年「あ"あ"あ"っ!いく…!い"っ……でしま…う!」ジタバタ

奴隷娘「もうイクんですか?だらしがないですねぇ」ギュゥ

青年「す、す…ま……ん!なんで、も欲しいもの…げほ。買ってやる、から」ジタバタ

奴隷娘「だーめっ。このままイッてスッキリしましょう?」

青年「ぐうぅぅ……」

奴隷娘「ほら…イっていいですよ。イッてくださいっ」

青年「うぅぅぅ………





青年 「ぬ…ぐぅ……ああぁぁぁ!!!」ガバッ

奴隷娘「ひゃっ…何するんですか!」

青年「何をするだァ!?死ぬわ!!もう少しで逝く所だったっつーの!」

奴隷娘「逝ってスッキリしましょうよ」

青年「スッキリしたら帰ってこれねーだろ!トイレ感覚で言うな」

青年「げほ……げほ。…こいつ、マジで殺す気で首締めやがって」

奴隷娘「それより、さっき言ったこと覚えてます?」

青年「はぁ?なんの事だかな」

奴隷娘「まだイキ足りないようですね」

青年「そうだよ、オレはまだ生き足りない。死ぬわけにはいかん」フッ

奴隷娘「死んだ方が楽だと思いますけどね」

青年「それ、オレの前で言うのは構わんが、他人の前では言うなよ」

青年「生きたくても生きていけない人間だって居るからな」

奴隷娘「死にたくても死ねない人だって居ますよ」

青年「……そうだな。ごめん」

奴隷娘「……」ゴソゴソ

青年「ふぅ。ようやく解放された」

奴隷娘「それで…私にお仕置きをするのですか?」

青年「とりあえずそれは保留にする」


青年「はー、疲れた。そろそろ夕飯にするぞ」

奴隷娘「…はい」

奴隷娘 (何なのでしょうか。このアホな人は……」

青年「心の声が漏れてるぞ」


―――
――

今日はここで終わります


*


奴隷娘「―――ということが、ここ一週間続きまして」

奴隷娘「その他にも、色んな食べ物を食べさせてきますし、毒味でもさせられているのでしょうか?」

商人「色んな食べ物……なるほどね」

商人「しかし、何故それをワタシに?」

奴隷娘「相談できる相手なんて商人さんくらいしか居ないですもん…」

商人「ワタシはお悩み相談所では無いんですがねぇ」

奴隷娘「あの人は私をどうしたいのでしょうか…?」

商人「ワタシに聞かれましても」

奴隷娘「そう、ですか…」

商人「む? その鍵は?」

奴隷娘「これですか?」スッ

奴隷娘「家のですよ。もちろんあの人の」

奴隷娘「外に行く時は鍵を持って行けって渡されました」

商人「ほぅ、それはそれは」

奴隷娘「こんな大事な物、私が持っていて良いのでしょうかね」

奴隷娘「あ、ついでに甘い食べ物とかありませんか。あの人が好きみたいで……」

商人「お土産かい?それなら、今日入った新鮮な果物なんてどうかな」

奴隷娘「お…、お土産とか違いますし!自分で食べようと思っただけです!」

商人「ふふ…。そういえば、旦那の仕事について、何か聞きました?」

奴隷娘「いえ。特には」フルフル

商人「そう……。ワタシと旦那は同業者でしてね」

商人「まぁ正確には、ワタシが旦那の後を追ったのですけど」

商人「ワタシらはね、自分の財産に関わるものは、余程の事が無い限り信用のある人にしか渡さないのです」

商人「金が入った袋は絶対に自分で持ちますし、他のものも同様に」

商人「家の鍵も例外では無く、信用していなければ渡したりなんてしないのです」

奴隷娘「そうなんですか…?」

商人「えぇ。例えば、適当な使用人に鍵を渡して家を空け、いざ帰ると家の中の物がカラッポ…なんてこともありますからね」

奴隷娘「つまり、私も家の物を売り払えば良いんですかね」

商人「ハハッ。そんなことキミはしないでしょう」

商人「鍵を渡したのは、キミのコトを信用している。そして帰ってきて欲しいから…じゃないかな」

商人「良かったじゃないか。居場所ができて」

奴隷娘「私の居場所なんてありませんよ」

商人「そうかな。ワタシにはそう見えないけどね」

奴隷娘「…そろそろ戻ります。遅くなるとあの人うるさいですし」



商人「最後に一つイイかな」

奴隷娘「何でしょう…?」

商人「旦那はね、キミが望んでいるコトとは真逆のコトをしてくれる人ですよ」

奴隷娘「なっ…、何を言ってるのか…わかりませんね……」

商人「ふふ……旦那によろしくと伝えておいてください」


*


ガチャ


奴隷娘「戻りました」

青年「お帰り。買ってきたか?」

奴隷娘「はい、【S編】ですよね。それと美味しそうな果物もついでに」スッ

青年「っしゃ!今度こそいけるな」グッ

奴隷娘 (躾をする相手に買わせてくるのもどうかと思いますが……)

青年「あぁ、そうだ。服がさっき届いたから、明日からはそれを着てくれ」

奴隷娘「服……ですか。なぜ私に?」

青年「流石にずっとオレの服を着るわけにはいかんだろ」

奴隷娘「私、お金払えませんよ」

青年「何でお前が払うんだよ」

奴隷娘「それに服なんて―――

青年「そうやって素直じゃないから、オレが勝手に買ってきたんだよ」

奴隷娘「…一応、お礼を言っておきます」ペコ

青年「おう、有り難く着てくれ」


*


青年「おーい、ちょっと肩が凝ったからマッサージしてくれないか」

奴隷娘「わかりました。少し準備をしてきますね」スタスタ

青年「えっ、準備…?何の??」




奴隷娘「お待たせしました。始めましょうか」

青年「アホか。服を着ろ」

奴隷娘「おや?えっちなマッサージでは無いのですか」

青年「そんなの頼んでねーよ!」

奴隷娘「おかしいですねぇ。【M編】にはそう書いていたのに」

青年「読むなよ」

奴隷娘「ま…私の体では興奮なんてしませんよね」ゴソゴソ


青年「……お前は、その…。今までもそうやってしてきたのか?」

奴隷娘「三回ほど主人が変わりましたが、そういった事は一度もありませんでしたね」

奴隷娘「そういう事をする奴隷は他に居ましたし」

奴隷娘「私はストレス発散や気晴らし、暇潰し用の為の物ですよ」

青年「そうか…。服は体の傷が目立たない様に作ってもらってある」

青年「お前は割りと、何でもそつなくこなすから、家から出たくなければ出なくても良いんだぞ」

奴隷娘「お気遣いありがとうございます」

青年「き、気遣いとかじゃねーし!///」

奴隷娘「うわぁ……貴方の照れ顔は、なかなかの破壊力がありますねぇ」ドンビキ

青年「締め出すぞコラ」


*


青年「オレはそろそろ寝る。お前は?」

奴隷娘「私もご一緒に」

青年「わかった」

奴隷娘「それで、その…この服は?」

青年「寝る時に着る用だ」

奴隷娘「そんな、贅沢な……」

青年「寝る時はゆったりした服で寝ると、オレは決めてるんだよ」

奴隷娘「なら貴方だけ着れば良いじゃないですか」

青年「お前はこの家に住んでる。そして家主はオレだ」

奴隷娘「もぅ、わかりましたよ」モゾモゾ


*


奴隷娘「…あの……もう寝ましたか…?」ボソ

青年「起きてる。コーヒー飲み過ぎて目がギンギンだ」

奴隷娘「はぁ…貴方って人は……」




奴隷娘「……今日は外出のワガママを聞いて頂き、ありがとうございました」

青年「礼を言わせる為に許可したわけじゃない」

奴隷娘「……貴方は、なぜ私にお優しくしてくれるのですか?」

青年「なんとなく」

奴隷娘「なんとなくって…。」

青年「お前見てると昔のアイツ思い出すんだよな~。ナチュラルに毒を吐く所とかソックリだ」

奴隷娘 (誰の事でしょう…?)

奴隷娘「…貴方はこの一週間、私に何もなさらない」

奴隷娘「私に甘くして。そうやって信じ込ませて、どうする気なのですか」

奴隷娘「私はこんなにも反抗的で、従順とは言い難い行為をしているのに……」

青年「自覚あるじゃん」

青年「本当、困ったもんだ」

青年「オレと暮らしたいって言ってたらしいが、何でオレの所に来たのか疑問しかない」

奴隷娘「え…?どういう……」

青年「お前、オレの話を商人から聞いて、ここに来たいって言ったんじゃないのか?」

奴隷娘「いえ…。そもそも私は貴方の話を聞いたことすら」

青年「んん?どうなってるんだ…?」


青年「まぁいいや。今日は寝るか…」モゾモゾ

奴隷娘「……あの」

青年「どうした、トイレか」

奴隷娘「デリカシー無さ過ぎます。本で読みましたよ、そういう人はモテない、と」

青年「モテなくても死にはしないし困らんだろ」

奴隷娘「私が困るんですよ。主人が格好悪いと言われるのは嫌です」

青年「…わかったよ。善処する」




奴隷娘「…あ、あのぅ……」

青年「今度はなんだ」

奴隷娘「…手、握っても良いですか…?」

青年「ん」スッ

奴隷娘「なぜ断らないんですか」

青年「手を握るくらい構わん」

奴隷娘「…変な人……」ギュ


*

> 表通り


奴隷娘「おはようございます」

商人「おはよう。朝早くどうしたの?」

奴隷娘「商人さん、一つお聞きしたいことが…」

商人「何かな」

奴隷娘「なんだか私が、自ら望んで旦那様の所へ行った……みたいに話していませんか?」

商人「ほぅ、『旦那様』…ね」

奴隷娘「ぁっ…えっと……べ、別に特に深い意味は無いですよ…?」

奴隷娘「ただ、食事や寝る場所も頂いてますし、服だって買ってもらいましたので」

奴隷娘「私も失礼かな~と、考え直しただけですっ」アセアセ

奴隷娘「決して、優しい人だな~とか、ちょっと信じてみようかな…とか、そんなこと思ったりしてませんよ!///」

商人「はははっ…。わかっていますとも」

商人「ようやく気づいたのですね。旦那にしては遅い……。勘が鈍ったんでしょうかね」

奴隷娘「どういうことなんですか…?」

商人「そうですねぇ……」

商人「キミが前に、私の恩人に会ってみたいって言っただろう?」

奴隷娘「えっ…それが旦那様、ですか?」

商人「そうですよ」

奴隷娘「あんなにアホな人が恩人…?」

商人「ええ。あのアホな人が、です」

奴隷娘「にわかには信じ難いのですが…」

商人「それより、早く帰らなくていいのかい? その芳ばしい香りをさせているものが冷めてしまうよ」

奴隷娘「あっ、玉子サンド買ってたの忘れてました。そろそろ帰ります」ペコ

商人「フフ…またね」


*


ガチャ


奴隷娘「…た、ただいま」

青年「お帰り。売ってた?」

奴隷娘「丁度四つほど残ってましたよ」スッ

青年「危ねぇ。あそこのサンドイッチ、人気だからすぐ売り切れるんだよな」

青年「さっそく、二つずつ食おうぜ」

奴隷娘「そうなんですね。だから朝早くに…」

奴隷娘「少し準備をするので待っていてください」

奴隷娘「そういえばこれ、端が余ったから良ければって言われて貰いました」スッ

青年「こ、これは!きまぐれ限定カツサンド!…の、端っこの部分!」

奴隷娘「限定?珍しい物なんですかね」

青年「『きまぐれ』とある通り、店に並ぶ時間帯はいつもバラバラ。更に悪ければその日並ぶことすら無い…」

青年「しかし、拘り抜いた豚肉を二度揚げすることによって外の衣はサクサク、中は肉汁が溢れるほど…」

青年「そのカツに特製のソースを絡め、焼きたてのモチっとしたパンに挟んだもの……それがこのカツサンドだ!」

奴隷娘「熱弁するくらいお好きなんですね。せっかくですし、どうぞ」スッ

青年「いや…その戦利品は、お前が……くぅぅぅ!食べてくれぇ…」ガクッ

奴隷娘「端の部分ですし、そんなに悶えるほどなら、お食べすれば良いのに」

青年「例え端の部分だとしても、味は変わらん…!お前の…ものだ……」

奴隷娘「じゃぁ…」スッ

青年「あぁぁ~……」



奴隷娘「……半分こ、します?」

青年「いいのか!?」

奴隷娘「いいですよ。元々無かったものですし」ゴソゴソ

奴隷娘「……」ジー

青年「どうした…?」



奴隷娘「あ、あ~ん…なんて」スッ

青年「あむ。んむんむ……」モグモグ

奴隷娘「あっ……」

青年「ウマイ!例えどの部分だろうとやはりウマイな」

奴隷娘「ぅ……は、はい…。そう、でしゅね…///」モジモジ

奴隷娘「私のぶんも、食べますか…?」

青年「流石にそれは…」

奴隷娘「私は玉子サンドでお腹いっぱいになりそうなので、残すのは勿体無いかと」

青年「そ、そうだな!残すのは勿体無い。うん」

奴隷娘「えっと…あ~ん///」スッ

青年「うんむ」モグモグ

奴隷娘「なんでそんな簡単に食べるんですか」

青年「食べて良いって言ったじゃん」

奴隷娘「言いましたけどっ……もぅ///」


奴隷娘「私の触ったもの、嫌じゃないんですか…?」

青年「えっ、手洗ってないの?」

奴隷娘「洗いましたよ! そうではなくて……」

青年「なら気にしない。あと明日はカツサンド買いに行くぞ」

奴隷娘「……わかりました。また早起きしなきゃいけませんね」フフ

青年「あぁ…辛い戦いになるぞ。持久戦だ」


―――
――

レスありがとうございます

今日はここで終わります


*

*


青年「さて、カツサンドを買いに朝早く来たわけだが…」ササッ

奴隷娘「なぜ物陰に隠れなくてはならないのですか…」ササッ

青年「バカヤロウ!真面目に買いに行って、もし無かったら恥ずかしいだろうが!」

奴隷娘「いえ全く」

青年「よし、お前はここで待機してろ。偵察に行ってくる」タッ

奴隷娘「あっ…もう。私を一人にしないでくださいよ」



青年「今日も良い天気だな~散歩が捗る捗る」スタスタ



青年「……」チラ



青年「……」スタスタ


*


青年「売ってなかった!」

奴隷娘「見ればわかりますよ」

奴隷娘「普通に聞けばいいのでは?」

青年「やだよ恥ずかしい」

奴隷娘「子供ですか」

青年「心は子供だ」

奴隷娘「精神年齢も子供ですね」

青年「うっせ。そんなこと言うなら、お前のお手並みを拝見させろ」

奴隷娘「嫌です」

青年「行けよ!」

奴隷娘「一人じゃ…嫌です……」ウツムキ

青年「ほれみろ、お前だって恥ずかしいんじゃないか」

奴隷娘「むぅ。違います~」プクー

青年「はん、どうだか―――お?」

奴隷娘「どうしました?」

青年「あれを見ろ。商人だ」ジー

奴隷娘「商人さんもまさか…」

青年「ちっ、何を話してるのかわからねぇ」

青年「奴隷娘、ちょっと盗み聴きしてこい」

奴隷娘「え~……もう。わかりましたよ」タッ



商人『――――――』


奴隷娘「……」ササッ


*

タッタッタッ


青年「どうだった?」

奴隷娘「どうも商人さんは、『いつもの』と言うのがあるかどうかを聞いてますね」

青年「いつもの…?……っ! まさか、カツサンドか!?」

奴隷娘「あっ、丁度できたみたいですよ」

青年「なんだと!?オレらも行くぞ!」グイッ

奴隷娘「ひゃっ…///」


*


*


青年「そこのカツサンド!オレらも買わせてもらうぞ!」ズザザッ

奴隷娘「けほっけほ……走るの早すぎますよ」

商人「おや旦那、おはようございます」

青年「おはようじゃねぇ!カツサンドだ!」

商人「おはカツサンド?」

青年「おめーのボケに付き合ってる暇は無えんだよ!」

商人「それは残カツサンドですねぇ」

青年「奴隷娘、お前はこのトンチンカンを相手してろ!」

奴隷娘「はあ……」

青年「おい店主のおっさん、カツサンドをあるだけ全部くれ」

「申し訳ない。今日は丁度今、売り切れてしまってね…」

青年「なんだと!?少なくとも、あそこの客しかまだ買っていないはずだろ!」ユビサシ


商人『あ、よろしければこれ食べます?美味しいですよ』ガサゴソ

奴隷娘『え…。これは…! 貰ってもいいんですか…?』


「今日は材料が少なくてね。少ししか作れなかったんだ」

青年「ちっくしょう…!」ダンッ


商人『ええ。キミともぜひ、この美味しさを共感し、分かち合いたくてね』

商人『一応、あそこで駄々をこねてる子供の分も入っておりますので』

奴隷娘『わざわざすみません…。ありがたく頂きます。感想は後ほど』ペコ

商人『はいよ。じゃ、ワタシはそろそろ帰るね』

奴隷娘『はい。また今度』フリフリ


青年「くそ! 今日は材料が少なかっただァ!? 毎日多めに用意しとけよ!」

青年「ったく、在庫が尽きないようにするのは商いの基本だろーが!」

青年「豚肉はどこのなんだよオラ!」

「それは企業秘密ってやつですよ」ハハハ

青年「ハハハじゃねぇ!絶対割り出してやるからな!」

「……お客さん。あんまり好き勝手されるのでしたら……出禁にしますよ?」

青年「しゅみません……」ペコ

青年「あの、ホントすんませんした。玉子サンド四つください」

「毎度お客さんも懲りないねぇ。はい、玉子サンド」ハハハ

青年「これ、お金れす……」スッ


タッタッタッ…


青年「すまん…。戦利品は玉子サンドだ……って、おいそれ」

奴隷娘「商人さんからカツサンドを頂きましたので、冷めないうちに帰って食べましょうか」ニコ

青年「神…かよ……」


*

*

> あれから幾日か経った、ある日の表通り


『買う物はこれに確か……』ゴソゴソ

『あれ?いつものお使い帳じゃない』

『なんだい、これは?』

『私にもわかりません…。旦那様のを間違えて持ってきちゃったのかな?』

『ほうほう…。せっかくですし、読んでみましょうよ』

『で、でも…』

『ならワタシだけ読みましょうかねぇ?』

『やっぱり私も…!』


>―――――


この頃アイツが妙に大人しい

最初のクソ生意気な態度がウソのようだ

馬鹿なことをするのはカナリ恥ずかしいが

打ち解ける時間を縮められるなら安いもんだと思うことにしよう


>―――――




>―――――


最近おねだりをする様になってきた

掃除をすれば、やれ頭を撫でろだの

買い出しから帰ってきたら、やれハグをしろだの

まぁ家事全般を任せてるとはいえ、それに甘えている自分もいる

この程度の褒美をやるのも主人の務めだろう


>―――――


>―――――


アイツにもだんだんと笑顔が増えてきた。喜ばしいことだ

喜ばしいこと、なんだが……

最近はおねだりが段々とエスカレートしている

昨日も、オレが着ていた服を着たいだの言いだして困った

匂いが好きと言っていたが、男の匂いなんぞのどこが良いんだか…


>―――――


>―――――


ヤバイ! マジでやべぇぞアイツ!

ひっつき虫のようにずっとくっついてきやがる!

しまいにはトイレまで着いてきそうだったので、流石に怒ってしまった

そしたらすんごい落ち込んだ。もうそれは見てられないくらいに

仕方が無いから

「大きい方の時だけは勘弁して。小さい方の時は許すから」

とかアホなこと言ってしまった死にたい!!!


>―――――


『はわわわっ……///』

『ほぅ~?また凄いものを拝見してしまいましたね』

『わ、私は、もう帰りましゅねっ……///』タッ


『おや、行ってしまわれた』




『ん…? まだ続きが……』ペラ


>―――――


奴隷娘が朝になっても布団に潜り込んで来ない

部屋に様子を見に行くと、朦朧としながらこちらの手を握ってきた

どうも昨日から咳をよくしていたから、風邪でも引いたのだろう

今日は風邪に効く薬でも買いに行ってくるかな



と、思い駆け回っているうちに夜が明けようとしていたのは自分でも驚いた

その日は一緒に寝てくれとせがまれたので、渋々だが承諾した

良い匂いするなコイツ!


>―――――



>―――――


あれから一ヶ月と少し経った

最初は可愛げの無い奴と思っていたが…

懐かれるのも悪い気はしないな



奴隷娘がオレにあんな態度を取っていたのは、きっと終わらせて欲しかったんだろう

昔、何もかも諦めていた、似たようなヤツが居たから直ぐにピンときた

残念だったな

殺してくれと願われたら、殺したく無くなるもんなんだよ

……あんなヤツでも今じゃあ立派な商人になった

なら…奴隷娘だって、きっと何か夢を追えるはずだ

それを応援してやるのも、主人の務めってもんだろう


>―――――


商人「……」

商人「やれやれ。旦那には叶いませんね…」

商人「今度何か美味しい物でも―――ぅ"っ!?」ゴスッ

青年「人の日記を読むなんて、悪趣味なヤツだな」

商人「い"ったぁ……不意打ちはズルいですよ~」

青年「うるせぇ!返せ!」パシッ

商人「もー、旦那は強引ですね」ギュゥ

青年「お前までくっついてくんな!キモい!」

商人「あの子にご褒美あげているんでしょう?」

青年「それがどうした」

商人「ワタシも商い頑張ってます。ご褒美が欲しいな~」フー

青年「耳に息を吹きかけるな!」

青年「言っておくが、頑張らなくていいんだぞ? その代わり野垂れ死ぬだろうけどな」

商人「酷いお人だぁ」









奴隷娘「なに…やってるんですか……!」ワナワナ

青年「奴隷娘、コイツに余計なもん渡しちゃダメだろう」

奴隷娘「そんなこと、今はどうでもいいんですよ!」

奴隷娘「旦那様が慌てて出て行ったから、心配で見にくれば……!」

奴隷娘「そんなに商人さんの事が好きなら、ずっとイチャついてればいいんですよ!ばかっ!」タッ

青年「ちょっ、おい!」

商人「ありゃぁ~、これは困ったことになりましたねぇ」ニヤニヤ

青年「……居るの知っててわざとやったな」

青年「本当に外面以外は真っ黒だな」

商人「商いをする人間はそんなもんでしょう? 旦那も同じくね」

青年「うるせぇよ。思い通りになるのは癪だが、放っておくわけにもいかんしな…」

商人「ええ。存分にあの子と仲を深めてきてください」


*


> 自宅


ガチャ


青年「おーい、居るか?」

奴隷娘「…居ません」

青年「居るじゃん」

奴隷娘「居ません!」

青年「何でそんなに怒ってるんだよ…」

奴隷娘「ふんっ…。クソ生意気な私の相手なんかしていて、いいんですか」プクー

青年「…見たのか?」

奴隷娘「見てないと言えば嘘になります」

青年「は~ぁ…いい加減、日記につけてしまう癖、何とかしないとなぁ」ボソ

奴隷娘「私がいると迷惑ですか…?」

青年「読んだんだろ? 何でそうなる」

奴隷娘「だって……」

奴隷娘「私の体は商人さんみたく綺麗じゃないんですよ…?」

奴隷娘「商人さんに勝てるところなんて、胸の大きさくらいしかありません」

青年「そこで勝負すんなよ」

奴隷娘「だっで……ぐす。商人さんと話してる旦那様…楽しそうだもんっ」グス

奴隷娘「わたしなんかより…」

青年「まぁ確かに、アイツはそこら辺の女性、顔負けの容姿だとは思う」

青年「性格は悪いが、外面は良いからモテそうではあるしな」

青年「『腰まで伸びる綺麗な淡黄色の長髪は、思わず視線が行き』」

青年「『整った顔立ちだが、どこか幼さも感じる愛嬌のある顔は人を魅了させる』」

奴隷娘「やっぱり……」

奴隷娘「そんな人に比べ、私は…」

青年「さっき言ったのはオレの感想じゃない」

青年「あくまで、商人を見てきた人達が言った言葉だよ」

奴隷娘「でも旦那様だって、そういう人がいいんでしょう…?」

青年「お前は本当のアイツを知らないから……」ブツブツ

青年「いや、むしろ知らない方が良いか……」ブツブツ

奴隷娘「…?」

青年「とにかく。商人と特別な関係でもなければ、好きとかそういう感情も無い」

奴隷娘「本当ですか?」

青年「オレが嘘ついたことあったか?」

奴隷娘「ありました」

青年「忘れろ」

奴隷娘「私を置いてどこかに行ったこと、忘れません」

青年「用事で家を一晩空けただけじゃん…」

奴隷娘「私も連れて行ってくださいよ…!」

青年「お前は体調悪かったんだし、あの時は仕方がなかっただろ」

奴隷娘「おんぶしてくださいよ」

青年「どんだけ図々しいんだよ」

奴隷娘「ずっと…ずっと一緒に居てくれるって言ったのにっ」

青年「あれ? そんなこと言ったっけ?」

奴隷娘「難聴な豚」ボソ

青年「聞こえてんだよ!」

奴隷娘「旦那様がとぼけるからです」

青年「ずっとなんて居られない。人には寿命ってもんがある」

奴隷娘「では、死ぬまで一緒に居てください」

青年「嫌って言ったらどうする」

奴隷娘「旦那様を怨みつつ死にます。そして毎晩、化けて出ますので」

青年「それは困るな」

奴隷娘「…もぅ!」

奴隷娘「……いじわる…しないでください」

青年「何をすれば、許してもらえるだろうか」

奴隷娘「私、寒いです…。誰かの温もりが必要なくらいに」

青年「…わかったよ」


―――
――

今日はここで終わります

もう少しで終わるかなと思います


> 青年と商人


*

ガチャ


奴隷娘「あ、いらっしゃいませ…ですっ」

商人「いや~凄い雨だね。お邪魔します」

商人「今日はお招き頂きありがとう。これ、よければ」スッ

奴隷娘「わぁ…美味しそうな果実……ありがとうございますっ」ペコ

商人「いえいえ。それで、旦那は?」

奴隷娘「『後ろを守る』…? とかで、着替えに行きました」

商人「へぇ……後ろ、ねぇ」ニコ


*


青年「よう。待たせたな」

商人「そんなにズボンをお履きにならなくてもいいのでは?」

奴隷娘「重ね着というやつですね!本で見ました!」

青年「カッコイイだろ?」

奴隷娘「はいっ♪」

商人「凄く懐きましたねぇ」

青年「まぁ座れよ」

商人「これはどうも…」スッ

奴隷娘「あっ。すぐ準備しますから、少し待っててくださいね」

商人「ありがとう」ニコ






商人「しかしまた珍しい。ワタシを食事に招くなんて」

青年「お前には、オレも奴隷娘も色々と世話になったからな」

青年「お礼も兼ねて、久しぶりにな」

商人「お気遣い、どうもありがとうございます」

青年「……お前も少し気を抜いたらどうだ」

青年「ここなら誰も見てないだろ」

商人「そうですねぇ……では」



商人「は~、疲れた!」

商人「特定の人と仲良くし過ぎているのを見られると、結構面倒ですからね~」

青年「誰がどこで見てるかわからんしな」

商人「そうそう。……で、青年さんはどうやってあの子を懐かせたんですか」

商人「ワタシなんて、少ししか打ち解けられなかったのに」

青年「さてな。たまたまじゃないか?」

商人「またまたご冗談を……」


奴隷娘「お待たせしました~…っと、私はお邪魔でしたか?」

商人「いえいえ、丁度話は終わったところですよ」



*



*


商人「美味しい……これ、売ったらなかなかの儲けが出そう」

青年「絶対に売らん。オレだけのものだ」

奴隷娘「大丈夫です、私は旦那様だけのものですよっ///」

商人「半分ワタシにも旦那を分けてくださいよ」

奴隷娘「だ、ダメです!」

商人「えぇ~ケチ」

奴隷娘「いつも全く安くしてくれない商人さんに言われたくありません」プクー

商人「あれでもここら辺で売ってる値段より、結構安くしてるんですけどね~」

青年「コイツは昔からケチなヤツだったからな」

商人「ワタシがケチなら、青年さんはドケチですぅ~」

青年「このやろうっ!」


*


奴隷娘「そういえば、旦那様と商人さんはどう知り合ったんですか?」

商人「ワタシたちの馴れ初め、知りたい?」

青年「馴れ初め言うな」

商人「ワタシと青年さんが出会ったのは、丁度今日のように強い雨が降る日でしたね」


―――
――



『ぅ……』バシャッ


商人「まず、ワタシがボコボコにされたところから始まります」

奴隷娘「何事!?」

青年「オレがしたわけじゃないからな」



『……はぁ』

『あの店主、なかなか勘が鋭いね……』

『あ~……む。 雨を飲んでも腹はふくれない…か』

『よいしょっ。さてと……』ムクリ


『また盗みに行きますか!』



商人「捨て子だったワタシは、毎日食べるものを探すのに必死でした」

奴隷娘「探すというより、盗むって思いっきり言ってますよね」


『どこかにチョロそうなカモは……いた!』


商人「この時にターゲットにしたのが、後の青年さんでした」

奴隷娘「複雑な出会いですね……」


『とまった! バカめ、そんな所に荷台をとめるとは…』

『ご自由にお取りくださいって言ってるようなもんだよね』ササッ

『もう少し…もう少しで……』ソロリ


『取った! よし!!』ダッ



商人「そしてまんまと出し抜き、荷物の食べ物を盗みました」

奴隷娘「バレなかったんですか…?」

商人「それがですね……」


『ふぅ。昨日は贅沢な夕飯だったな~』

『さて、今日のカモは―――あれは…!』

『またあんな所にとめて……今日も頂戴しておきますかね!』


商人「で、まんまと青年さんの罠にかかって捕まりました」アハハ

青年「こういう奴は味をしめると、二度三度繰り返すからな」ニヤリ

奴隷娘「旦那様すごい!」


男『お前、飯も買えない程に金が無いのか』

『だったらなにさ』

男『家と家族は』

『いない』

男『お前が昨日盗んだ食いもんはな、結構良い値がしたものだったんだ』

『ふ~ん。ごちそうさま』

男『あぁ。だから借金にしといてやる』

男『それとここら辺で盗んだ物の金額分も、盗んだ相手に返せ』

『お金持ってないって』

男『金の稼ぎ方くらい教えてやるよ。あとは自分で何とかしろ』

『どういう…?』

男『今日からオレについて来い。どうせ帰るところも無いんだろ?』

男『オレは青年。お前は?』

『……ボクは―――



――
―――


商人「そうして数年の間ワタシは、青年さんと国や街を渡り歩いて商いをしました」

奴隷娘「なんだか、旦那様らしいですね」

青年「コイツが食ったものは本当に高価なものだったけどな! 大損だよ!」

商人「ワタシと出会えたんですし、むしろ得したのでは?」

青年「お前が言うな! そうだけども!」

商人「まぁでも、フラれちゃったんだけどね」

奴隷娘「まさか、告白したんですか!?」

商人「うん。ワタシね、ずっと青年さんと居るうちに、いつの間にか好きになっちゃって」

奴隷娘「私も旦那様のこと好きですよ!」

青年「張り合わなくていい」

商人「長い間、寝食を共にし、どうしようもなかったワタシに色々と教えてくれて……」

商人「それで、ある時に青年さんに伝えたんですよ。好きだって」

奴隷娘「旦那様…? まさか」

青年「いやいや、無理だろ」

青年「コイツ男だぞ?」

奴隷娘「えっ」

商人「ワタシはそんなの気にしませんよ!」

青年「オレが気にするわ!」

青年「コイツがそう伝えてきた時、破門にしてやったよ」

青年「時期的にも、もうオレが居なくても一人でやっていけると思ったしな」

青年「考えてもみろ。弟子で、しかも男に好意を伝えられるとかどうすりゃいいんだよ」

商人「女ならって言われたから、ワタシは美を追求したんですけどねぇ」

青年「そういう問題じゃない!」

*


*


奴隷娘「ん……」スースー

商人「寝ちゃいましたか」

青年「今日は商人さんに一杯料理作るんだ、って張り切ってたからな」

商人「そうだったのですね…」


 ザ
 | ザ
 | | 
   |


商人「…あの子ね、廃棄物と一緒に置かれてたんだ」

商人「ワタシがそれを見つけた時も、丁度こんな雨の降る日だったな~…」

商人「自分と重ねちゃって。でも青年さんの所に連れてきて正解でしたね」

商人「あ、ワタシ的には連れてこなかった方が良かったのかも…なんて」ハハハ

青年「…急に連絡が来て驚いたよ、本当に」

青年「何も言わず居なくなるから心配してたんだぞ」

商人「あはは……すみません」

青年「そろそろまた…行くのか?」

商人「鋭いですね。えぇ、そろそろ離れようかなと」

商人「なんならついてきますか?」

青年「行かない」

商人「…ですよね」

青年「寂しいなら、お前がここに残るって選択肢もあるぞ」

商人「ははは……何でもお見通しですか」

商人「そうです、ねぇ。 ワタシも、そろそろ腰を落ち着ける場所を探しましょうかね」

青年「…商人の人生だ。好きにするといいよ」


*


奴隷娘「~♪」

奴隷娘「……」ゴソゴソ

奴隷娘 (旦那様から手帳をプレゼントされちゃいました…!///)

奴隷娘 (汚れないうちに大事にしまって―――

奴隷娘 (……いえ、せっかくですし、私も旦那様の様に日記を書いてみましょうか…?)


*


私の一日は、旦那様のお布団から始まります


奴隷娘「旦那様、朝ですよ~」

奴隷娘「ほ~ら、起きてください。 今日は大事な取引先の人と会うんでしょう?」ユサユサ


旦那様はいつも、『あと一時間~』と仰るので


奴隷娘「一時間は長すぎ……あむ……まひゅよ~」


と、耳を優しく、歯を立てずに咥えると飛び起きてくれます




*


青年「ごちそうさん」

奴隷娘「…美味しかった、ですか…?」


私はいつも旦那様の反応を伺ってしまいます

しつこいとわかっていても、言葉を聞かないと不安になってしまうから…

そんな私に旦那様は


青年「美味しかったよ。そういえばこの前の―――


と、愛想も尽かさず答えてくれる


奴隷娘「あっ…もう行かなきゃ、ですね」

奴隷娘「旦那様…あの……///」モジモジ


用事で家を出る時は必ず、ぎゅ~ってして欲しいと催促します

そんなワガママにも応えてくれる旦那様

私は幸せ者です


奴隷娘「ん……行ってらっしゃいませ」ギュ


*


お昼はよく、商人さんの所へ買い出しに行きます


奴隷娘「こんにちは」ペコ

商人「いらっしゃい~」ニコ


笑みを浮かべ、柔らかい声で商人さんは話しかけてくれます

綺麗で優しくて、私の憧れの人……でした


なぜ今は違うのかと言うと、衝撃の事実を知ってしまったからです


商人「どうしたの、そんなにワタシを見て」

奴隷娘「いえ……」


*


奴隷娘「ただいま~…と、旦那様は居ないんでしたね」


買い出しから帰ると、夕方までお勉強をします

理由は単純に、旦那様の仕事のお手伝いをしたいから。

しなくていいと言われましたけど、そんなの嫌です

私も、旦那様のお役に立ちたい…

お役に立てれば、ずっとそばに居られるかもしれない

だから私は、お勉強をします


*

ガチャ


青年「ただいま~……おっ、良い匂いがする!」

奴隷娘「おかえりなさい。ご飯はもう少し待ってくださいね」


ご飯の匂いで子供のように喜ぶ旦那様

なんでも、今まではあまり自分でご飯を作ってなかったみたい

旦那様は私が料理を作るのが得意と思っています

でも実は、ここに来た初めの頃に、お小遣いで商人さんから料理の本を買ってコッソリ覚えました

今では本に載っていないのも自分で作れるようになりましたよ。 ふふんっ


奴隷娘「はい、お待たせしました」コト…コト…

青年「待ってた!」


青年「うん!うまいうまい!」モグモグ


そう言って美味しそうに食べる旦那様の顔を見るのが、私は好きです


しかし……


青年「ふ~、ごちそうさん」

奴隷娘「……旦那様」

青年「ん?なに?」

奴隷娘「お野菜がまだ残っていますよ?」

青年「へ、へぇ~…そうなんだ……」

旦那様はお野菜が嫌いみたいで、たまにさりげなく残します


奴隷娘「もうっ、ダメですよ。ちゃんと食べないと」

青年「この野菜たちは、どうやらオレの胃袋には入りたくないらしいんだ」


毎度のこと、よく屁理屈が思い浮かぶなぁ


奴隷娘「い~え。この子たちは食べて欲しそうに旦那様を見ています」

青年「仲間になりたそうみたいに言うなよ」

奴隷娘「ほらっ、お口を開けてください」

青年「こ、子ども扱いするな」

奴隷娘「駄々をこねる旦那様は子供です」

奴隷娘「はい、あ~んしてください」スッ

青年「なぜこんな目に……」

奴隷娘「は~や~く~」

青年「あーん」

奴隷娘「…ん。よ~く、もぐもぐしてくださいよ?」

奴隷娘「ふふっ…えらいえらい。よく頑張りましたね」ナデナデ


いつも頑張って食べ残さないように食べていますが

今回みたく残す時は、ついつい子供扱いしてしまいます

でも、たまには私にも食べさせて欲しいな……

ご飯を残せば、旦那様もしてくれるのでしょうか?


奴隷娘「……」ジー

青年「どうした、お腹いっぱいになったのか?」

奴隷娘「お、お野菜…私も嫌いだから食べられないな~…」チラ

青年「お前、野菜大好きって言ってたじゃん」

奴隷娘「くっ…!!」


*


夜は旦那様と背中合わせに座って、日記を読むのが最近の趣味です

日記と言っても、旦那様が昔立ち寄った街や村の様子

それと、多く流通している物やどんな人が多いかなどを記録したものです

外の世界は広いと、いつも旦那様は仰ります

確かに外の世界には色んなものがあると思います

でも、旦那様の居ない世界なんて私には必要ありません


奴隷娘「旦那様は……私のそばにずっと居てくれるんですよね…?」

奴隷娘「どこにも行っちゃいませんよね…?」

奴隷娘「もしここを離れるのでしたら、その時は私も絶対に連れて行ってください…ね」


何度も言った言葉

その度に、旦那様が私より大きな腕で抱いてくれます


奴隷娘「ぁ……えへへ…ありがとう、ございます///」

奴隷娘「旦那様…今日は一緒に寝ても良いですか…?」


本当は毎日一緒に寝たい

本当は一時も離れたくない

そうすると旦那様に迷惑がかかっちゃう

でも、寂しくて不安で耐えられなくなるとワガママを言ってしまう


奴隷娘「私……悪い子、ですね」グス


そんな呟きに、旦那様は


『悪い子でもいい』


と、頭を撫でながら仰ってくれました


奴隷娘「本当に良いんですか…?」

奴隷娘「頭を撫でてって。ぎゅっとしてって」

奴隷娘「他にも色々、いっぱい、い~っぱいワガママ言いますよ…?」

奴隷娘「それでも……いいんですか?」


『いいよ』


旦那様はそう一言優しく仰ると、その日の夜はずっと抱いて寝てくれました

やっぱり私は、幸せ者…ですねっ

今日はここで終わります

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