魔法使い「魔力とはカロリーと見つけたり」 (30)
勇者「・・・ん?」
戦士「何言ってんだこいつ」
僧侶「どうしたの?お腹すいたの魔法使い?」
魔法使い「いや、そうではない」
魔法使い「魔王討伐のさなか、私は一つの答えを見つけたのだ」
勇者「ほう・・・?」
戦士「何言ってんだこいつ」
僧侶「答え?具体的に何を見つけたの?」
魔法使い「僧侶、あなたの回復魔法。最近、回復力が落ちてない?」
僧侶「む・・・たしかに」
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戦士「そういえば、旅に出初めのころは腕を落とされても簡単に直してたよな」
勇者「最近では、かろうじて繋がっても痛みが3日は続くな・・・」
魔法使い「そう、それは魔翌力が落ちたから」
魔法使い「私も同じ、魔法の威力がガタ落ち」
僧侶「そうなんですかね・・・?」
魔法使い「勇者、魔法のお勉強。魔法とは何?」
勇者「おおう!突然だな」
勇者「えっと、呪文の詠唱によって神の力を現出する手法、だったよな」
魔法使い「そう、では魔翌力とは?」
勇者「神の力を現世に呼び出すための対価、魔法の行使者の信仰の度合いを数値化したもの」
魔法使い「というのが、通説」
戦士「じゃあ、違うっていうのか?」
魔法使い「僧侶は毎朝、神への祈りを捧げている」
魔法使い「祈りに捧げる時間も無駄に長い」
魔法使い「信仰心が落ちてるとは思えない」
魔法使い「それに、そもそも無神論者の私が魔法を使えているのがおかしい」
僧侶「たしかに・・・」
魔法使い「そこで考えた。旅の中、私や僧侶におこった変化」
戦士「そういえば、お前ら痩せたなあ」
勇者「そうそう、初めて会ったときは正直で・・・・ふ、ふくよかだったよなあ・・・」
僧侶「そ!そんなことありませんよ!確かに、毎日の行軍で少し細くなったけど・・・」
僧侶「王国の魔法使いは、みんなあんなもんですよ!」
魔法使い「それ」
魔法使い「私や僧侶が失ったもの、それは脂肪」
勇者「脂肪が魔翌力の源だってことか?」
魔法使い「そう」
戦士「確かに、お前ら尋常じゃないスピードで痩せていったもんなあ」
僧侶「戦士さん!デリカシーがなさすぎます!」
魔法使い「勇者、私の仮説を証明したい」
勇者「どうやって?」
魔法使い「次の村で、たらふく食べさせて」
勇者「お、お財布次第です」
戦士「でも、魔法使いの言うことが本当なら戦闘がかなり楽になるぜ」
勇者「ぐ・・・」
僧侶「あぁ・・・そういえば最近、ろくに食べてませんねえ・・・」
魔法使い「肉・・・エール・・・・チーズ・・・」
勇者「もう!わかったよ!物は試しだ!やってみよう」
魔法使い「わーい」
勇者「・・・ただ食い意地が張ってるだけじゃないよな・・・」
なにそれ
そっちのほうが格好いい
悔しい
砂漠の村
魔法使い「」でぶーん
僧侶「」でぶーん
勇者「」
戦士「ありえねえ・・・どうやったら、あの量の肉が胃袋に収まるんだ・・・」
魔法使い「検証はこれから」
僧侶「ほうでふね」
戦士「お。さっそく魔物のご登場だ」
魔物「がおー」
魔法使い「ほんにゃらほにゃほにゃ」
勇者「なにそれ!?呪文!?」
僧侶「ほお、超極大魔法まで使うとは・・・さすが魔法使いはん」
戦士「おい!囲まれてるぞ!」
勇者「やばい!僧侶も魔法使いも太りすぎて碌に動けない!守るぞ!」
僧侶「ふとってないでふ!」ぷんぷん
魔法使い「ほんにゃらほららら!ほららああああ!」
魔物「ぐあああああああああ!」
勇者「やった!」
戦士「ああ・・・なんて威力だ・・・」
僧侶「・・・」ごくり
魔法使い「ふう・・・」
戦士「あ、めっちゃ痩せてる!」
魔法使い「私の仮説は正しかった・・・」
勇者「いや・・・でもさあ・・・問題ありまくりじゃない?」
僧侶「なんでふか・・・?」
勇者「まずさ、二人のおかげで財布がすっからかんな件」
魔法使い「善処して」
勇者「・・・それにさ、道中どうするの?見てよあの僧侶の姿」
僧侶「なんれふかー!!」ぷんぷん
戦士「まともに旅できる姿じゃあねえな・・・」
戦士「ましてや戦闘じゃ、動きが鈍くて魔物からしたら良いまとだ」
魔法使い「ならば、鍛えて」
魔法使い「私は動けるデブになってみせる」
戦士「へえ・・・あの体重で体術使えたら魔法なしでも戦力になるかもな」
勇者「てかさ、せっかく街で脂肪を蓄えても。旅で歩いてたら痩せちゃうんじゃねえの?」
魔法使い「人間の体は非常に効率がいい。さっきみたいな極大魔法を使わなければ」
魔法使い「そうそう痩せることはないだろう」
戦士「・・・なんとかなりそうじゃねえ?勇者」
勇者「たしかに・・・財布は厳しいがメリットもでかいな」
僧侶「じゃあこのままいきまひょー!」
戦士「だまれでぶ」
魔王城
煙草の煙を吐き出す
蜘蛛の糸のように脈絡も道筋も因果も関係なく
かつては罪人を救うために降ろされた糸が天へと昇っていく
煙はやがて見えなくなる
その曇天の空へと
わずかな光のみに通ることを許した雲へ同化し
この俺の認識すら超えて
はかなく消える
「できあがったな・・・」
勇者は独りごちる
口の端から口内に残っていた煙が立ち上り
そして消えた
戦士の指導に彼女は一言も泣き言を洩らさなかった
本能的に知っているのだ
その泣き言が、自身の弱さと成りうることを
「動けるデブに成ってみせる」
そう宣言した自身の言葉の重さを
数多の魔物を屠り
数多の血を啜った、その両手に
既に魔法は不要であった
魔王「よくぞここまで、たどりついたな」ぶふー
戦士「すげえ!でぶ!」
勇者「流石、魔の王!なんて莫大な脂肪を!否、魔力を纏っているんだ!」
僧侶「ああは、なりたくないでふ」ぶひー
魔法使い「私の仮説が更に裏付けられた」
魔王「・・・さっさとかかってこい」
戦士「よし!まずは俺から行くぜ!」
勇者「ああ、頼む!」
戦士「いくぞおおおお!くらええええ火炎斬り!」
魔王「防御魔法」ぴかー
戦士「ぐあああああ!かてえええ!」
勇者「なんだと!詠唱を省略しやがった!」
魔法使い「あの巨体なら、戦士のスピードに対応できないと思ったが・・・・」
勇者「なんてことだ・・・魔法の発動速度をあげることで、巨体のデメリットを消したのか!」
勇者「やはり、魔法に対抗するには魔法しかない・・・」
僧侶「でも、あんな速さで魔法を打たれたら、打つ手がないでふ・・・」
魔法使い「いや・・・私なら・・・あるいは・・・」
魔法使い「勇者、次は私が行こう・・・」
勇者「たのむ!」
魔法使いもまた、魔王に劣らぬ巨体であった
だが、その見た目とは裏腹に足取りは軽い
魔王「つぎは、貴様か」
魔法使い「よろしく頼む」
両者の視線が交差する
魔法使いは、低く低く前傾姿勢を構える
倒れこまぬよう左手を床につき
ふくらはぎが、まるでバネのように圧縮される
戦士「全体重を、魔王にぶつける気だ・・・」
対する魔王もまた、同様の構え
ただし、上体を少し起こしている
全てを受け止める覚悟が見て取れる
静寂
両者がタイミングを図る
不意に勇者が左手を上げ
振り下ろした!
勇者「のこったのこったあ!!!」
猛然と走る魔法使い
尋常ならざる速度
戦士「魔法で筋力を上乗せしてるんだ!いつのまに詠唱していたんだ!」
巨大な肉塊がぶつかる破裂音
その音が、衝撃のすさまじさを語っている
魔法使い「ぬおおおおおおおお!」
魔王「ぐおおおおおお!」
一歩も引かぬ両者
僧侶「このままじゃ魔法使いさんが負けちゃう!」
戦士「なぜだ!?力は均衡しているように見えるが!」
勇者「魔王には魔法を使っている様子はない・・・対して魔力を使っている魔法使い・・・」
戦士「そうか!このままじゃ魔法使いの巨体は縮んでしまう!」
みるみる、体が縮んでいく魔法使い
だが、その闘志は未だ衰えず
むしろ研ぎ澄まされていく
魔法使いの右手が動く
その巨体ゆえに、届かなかった右手が
腹とともに、魔王までの距離が縮んだことで
魔王の腰帯をとらえた
勇者「うまい!まわしをとったぞ!」
瞬間、魔法使いの体が左足を軸に回った
浮かび上がる魔王の巨体
踏ん張るものをなくしたそれが、地面にたたきつけられた
勇者「決まり手!上手投げ!」
後の世の相撲である。(民名書房 すもうのれきし より)
おわれ
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