【モバマス】P「天国の扉を鳴らせ」 (83)


地の文メイン。
独自設定あり。
未熟者ゆえ、人称等でミスがあるかもしれません。
どうかご容赦ください。

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「……あなたが辞めるとなると、ずいぶん苦しくなりますね」

「そんなお世辞を言われてもね。寄る年波には勝てんさ」

「お世辞ではありませんが……まあ、言っても仕方ありませんしね。ともかく、あと一年。よろしくお願いします」

「ま、ボチボチやらせてもらうよ。今まで通りだ」

「それで結構ですよ。……あ、引き継ぎなんかの準備は、しっかりと!お願いしますね」

「……引き継げるやつ、いるのかね」

「……頼みますよ、ほんとに」

「一癖があまりに強いからなあ、あの子たちは……」



幼い頃の私には、夢があった。

ブラウン管越しに見る輝く世界に、いつか私も、なんて。
子供ならではの、無垢でありきたりな願い。

あのときは、きっとなれるって思ってた。

少し経って、たぶんなれるって思うようになった。

もうちょっと経つと、なれるといいな、っていう希望に変わった。

そこからしばらくすると、なれないかもな、って後ろ向きになって。

それからすぐに、無理だよ、って諦めるようになった。


ありきたりだった私の夢。
すぐに散ってしまった私の夢。

それを、今更拾えと言われても。

どうすればいいのかなんて、わからないよ。




「……北条さん。ちゃんとやる気、ありますか?」

「えー? あるよ、あるある。ちゃんとやってるつもりだけどなー」

「……本当ですか? どうにも、こう……手応えがないというか。全力を尽くしているような気がしないんですが」

「そうかな? でも、ちゃんと今日のメニューもこなしたよね。上がっていいでしょ?」

返答がくる前に、レッスンルームの端にまとめてあるカバンの元へ向かう。お小言なんて聞きたくない。態度や意欲はともかく、やれと言われたことはやったんだ。

「あ、ちょっと!北条さん!?」

「じゃ、お疲れ様でーす。また次のレッスンでー」

ひらひらと手を振って、逃げるようにトレーナーから離れる。退出したルームのドアを閉める寸前に、

「……もうっ!」

という怒ったような、呆れたような声が聞こえたけれど、別に振り返ったりはしない。

シャワー室で少し滲んだ汗を流し、帰途へ着いた。


レッスン場から一番近い駅の前に、大きな交差点がある。
そこに建つひときわ大きなビルの外壁には、私が所属している芸能プロダクションに関連する広告が頻繁に載せられる。

島村卯月がリリースする新しいCDのジャケット。
本田未央が行なったライブのダイジェスト。
渋谷凛がタイアップした他社商品のイメージ画。

(……すごいすごい。ほんとにすごいと思うよ)

こんな有名人たちがいるプロダクションに、私もまたスカウトされた。

今をときめくアイドルたちを間近で見る機会もある。
身体的な距離はすごく近い。

だけど、私の心は遠く遠く彼女たちから離れてる。

私は、もう夢から醒めていたから。


家に帰ると、まっすぐに自室に向かった。

やたら綺麗な勉強机にカバンを放り投げ、ベッドに倒れこむ。軽く流したつもりでも、アイドルのダンスレッスンは中々に疲れる。目を閉じて力を抜けば眠ってしまいそうだった。

重くなるまぶたをなんとか持ち上げ、ポケットからスマートフォンを取り出して画面を点灯させた。

メッセージが溜まっている。

学校の友達からのものが多い。
グループトークが大半か。
私が返事をする必要がありそうなものにだけ返信をした。

家族からも一件。
大した要件じゃない独り言のような内容だった。

最後に残ったのは、プロダクションからのメッセージだった。事務を担当している千川さんから。

トレーナーさんからレッスンの件でも聞いたかな、とあたりをつけたけれど、その予想はまるで外れていた。

千川さんからのメッセージ内容は、

『あなたの担当をするプロデューサーが決まりました。明日出社し次第、指定する事務所を訪ねてください』

というものだった。

結構大事な要件なんだろうと思ったけれど、私にとっては睡眠欲を妨げられるほどのものじゃなかった。

了解した旨を送信したあとは、そのまま目をつぶって眠りに落ちた。

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