これはミリマスssです
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「茜、海に行かないか?」
きっかけは、とっても唐突だったね。
特に用事もなかったけど、なんとなーく事務所に行ったあの土曜日の朝。
ドアを開けた茜ちゃんに向けられた一言目は。
茜ちゃんの思考をフリーズさせるには十分だった。
「おやおや?どしたのプロちゃん、デートのお誘いかにゃあ?」
一旦自分を落ち着けるため。
状況を理解するため。
そしてプロちゃんをおちょくるため。
そんな冗談を言ってみて。
「あぁ。最近の茜、かなり頑張ってたからな。リフレッシュにどうかなって」
「お、おぉう…まぁいいよ!プロちゃんにエスコートされてあげる!」
ありゃりゃ、ほんとにデートのお誘いだったんだね…
って、それ普通にご褒美につれてってあげるって事でしょ?
それってデートになるの?
それに、もっと早くに言ってくれればオシャレしてきたのに。
まぁ茜ちゃんは毎日エブリデイオシャレガールだけどね!
こんな美少女と一緒に海にいけるなんて、プロちゃんは幸せ者だにゃあ…
なーんて、ふざけてみても。
こころはまるで高跳びでメダルを狙うみたいに、一気に跳ね上がって。
「んじゃ、行くか」
「え、プロちゃん仕事は?やるべき事やらずにデートなんて感心しないよ?」
「大丈夫だよ、そもそも俺今日休みだったし」
…って事は。
わざわざ茜ちゃんをデートに誘うために事務所に来たの?
それこそ連絡してくれなきゃ。
茜ちゃんがなんとなく事務所に来てなかったらどうしてたのさ。
「車と電車、どっちがいい?」
「車!で、どこの海?茜ちゃんを満足させるにはアドリア海とか美ら海水族館じゃないとダメだよ?」
「千葉」
「現実的過ぎるよ!」
「いやでもほら、千葉凄いぞ。夢の国もあるし」
ロマンがないにゃあ。
そこはせめて湘南とか伊豆とか…
って、お互い明日は仕事あるもんね。
遠くまで行くのは難しっか。
「それじゃ小鳥さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい。運転、気を付けて下さいね」
車の中はやけに無音で。
プロちゃんも疲れてるのかな?
だったら尚更茜ちゃんが盛り上げてあげないとね。
せっかく近くにいるんだから、楽しんで貰わなきゃ!
「ねぇねぇプロちゃん。どして茜ちゃんだけなの?まぁプロちゃんが二人っきりで出掛けたかったってだけかもしれないけど」
「そらそうだよ。ほら、こないだおっきなライブあっただろ?それなのに練習の合間合間で茜は別の仕事も頑張ってたからな」
「まぁ茜ちゃんだからね!元気は人一倍あるんだから、もっともっと色々やってアピールしていかなきゃ!」
確かに、にゃんにゃんパークは色々大変だったけどね。
最初はほんとに一人で手作りしてた茜ちゃん人形だし。
でも頑張って良かったよ、うん。
今ではこんなにメジャーになったし、プロちゃんも一緒に頑張ってくれたからね。
窓の外を流れる風景が、少しずつ人工物から天然物にかわっていく。
マンションに囲まれた市街地を抜け、少しずつ遠くのものまで見えてくる。
普段見ているものが減って、少しずつ見たことのない風景が増えてゆく。
それだけで、なんだか楽しくなってきた。
「そいえば、こないだのライブの茜ちゃんどうだった?」
「そうだな…最高だった」
「でしょー?もっと褒めていいよ?ナデナデは…降りてからでいっか」
多分いつもと変わらない、ありふれた日常会話。
でも、場所が違えば感じ方も違う。
海の見える道を走りながら、普段とは異なった心地よさを感じて。
気付けば、目的地が近づいてきた。
「さて、到着。車止めて砂浜まで歩くか」
「らじゃー!砂浜までかけっこする?多分茜ちゃん勝っちゃうけど!」
なんて言いながら太陽を身体中で感じて、海の匂いを吸い込む。
春が近いとは言え、まだまだ気温は低い。
少し寒いくらいだけど。
一緒に歩いてると、何故だかあったかくて。
「うーん、まだ流石に寒かったかな」
「茜ちゃんは寒くはないよ?でも泳ぐのは無理だね、氷漬けになっちゃう」
強い海風で砂が舞い上がり、ワンピースを揺らす。
近付いてきた海は、キラキラ光ってすごく綺麗。
水平線は遠く、端は見えない。
大きな雲がフワフワと、綿飴の様に空に浮かぶ。
「ひゃっほーう!ね、ね!靴脱いで少し遊ぼ!」
「おいおい、まだ冷たいんじゃないか?」
「だいじょぶだいじょ冷たっ!」
ひゃー!なんて声を上げながら、それでもバシャバシャ足を動かす。
跳ね上がった水飛沫が裾を濡らすのも構わず、あっちにこっちに行ったり来たり。
海水を両手で掬って砂浜へ掛けたり。
仕方ないな、なんて靴を脱いだプロちゃんの靴ギリギリに掛けてみたり。
「あ、ごめんほんとごめん。謝ったからもう終わり!はいっ!」
「はぁ…にしても、海来るの久しぶりだなぁ」
ふと、プロちゃんに顔を向ければ。
水平線の彼方を眺め、なんだか寂しそうに照らされていた。
…まったく、しょうがないにゃあ。
そばに茜ちゃんがいるのに、そんな表情はさせないよ?
「よーしプロちゃん!向こうの岩場まで競争だよ!」
「…おっけー、やるか!」
打ち合わせた訳でもないのに、二人して波打際で水飛沫を上げながら走る。
普段ダンスをやってる茜ちゃんに負けじと、いい大人のプロちゃんも全力疾走。
最初は並走してたけど、少しずつ差は開いて。
…あ、こけた。
「だ、だいじょぶ?プロちゃん」
「おっと、服は…濡れてないか。砂浜で良かったよ」
幸い痛くもなさそうで、笑いながら立ち上がる。
よかったよかった。
やっぱり笑ってないとね!
「さて、茜…まだ勝負は終わってないぞ!」
「あっ!ず、ずるいよプロちゃん!」
立ち上がって砂を払い落としたと当時、再び競争は開始する。
あはははは、なんて笑い声をあげながら。
もう勝負なんて諦めた茜ちゃんが、プロちゃんに海水を掛けたり。
プロちゃんがまた砂浜で転んだり。
笑い声が息切れに変わり。
さすがの茜ちゃんも体力が尽きてヘトヘトになってきた頃。
溶けたアイスみたいに広がった雲が、太陽の光を遮った。
たったそれだけで、少し気温が下がった気がする。
「…冷えてきそうだな。そろそろ車に戻るか」
「あ、ねぇねぇプロちゃん。今日はまだ一回も茜ちゃんナデナデして貰ってないよ?」
「そうか?まぁいいか。いつもありがとな」
「…ねぇ、プロちゃん。何かあった?」
なんとなく、言葉の端から寂しさを感じて。
何かを惜しむかの様な、まだ迷っているかの様な。
そんな当のプロちゃんは、にこりと笑って。
ポケットから、何かを取り出した。
「うん、茜なら大丈夫だ。これ、俺からのプレゼント」
渡されたのは、綺麗なピアス。
茜ちゃんが普段つけてるのより、よっぽと大人っぽいもの。
え、このシチュエーションでこういうもの渡しちゃう?
茜ちゃん、勘違いしちゃうかもよ?
「普段から頑張ってくれてる茜に、そしてこれからも頑張ってくれるように、ってな」
何かを言おうとして、我慢してる様に見えて。
しょうがないね、まったく。
プロちゃんは茜ちゃんがいないとダメダメなんだから!
「遠慮しなくていいよ?その代わり茜ちゃんもしないから!」
ふー…と一回深呼吸して。
プロちゃんは、此方に向き直った。
その目には、まだ不安はあるけど…
「…なぁ、茜。俺はーー
あの日から、季節は二巡して。
また、この日がやってきた。
あの日と同じように、砂浜へ向かって歩く自分の隣に。
一緒に歩いてくれる人は、今は、いない。
まったくもー…
あの日の翌日、プロちゃんは事務所で皆にハリウッドへ研修に行く事を打ち明けた。
当然みんな驚いたし、困惑もしてたし。
もっと言うと、本人だって前日まで迷ってた。
背中を押してあげたのは茜ちゃんなんだけどね。
迷いを振り払いたかった、とか。
不安だったから茜から元気をもらいたかった、とか。
プレゼントを渡すのにいい機会だったから、とか。
色々言い訳してたけど、多分茜ちゃんの事が好きなんだよね!
出発前のいい思い出になったんじゃないかな?
こんないい女を待たせるなんて、罪作りな人だにゃあ。
待ってる方も待ってる方なんだけどね。
…うん。
すこしだけ、寂しくて。
幸せに溢れてたあの日の午後を思い出す為に、時々一人で此処に来る。
周りを見ても、人はいない。
移り行く景色は夕焼けに染まり、少しだけ茜色に滲んだ。
寒くなってきて、帰る前に。
なんとなく思いついて、砂浜に傘を描く。
その片側に、自分の名前を。
もう片方は、あけたままで。
あと一年くらい、だったかな?
そのくらいなら、全然よゆーで待てるよ。
だから、帰ってきたら絶対に。
あの日は遠慮した思いと、それから積もった分を。
全部の休日で、返して貰わなきゃ。
合宿最後の夜のイラストが大好きです
お付き合い、ありがとうございました
過去作です、よろしければ是非
春日未来「めめんと・もり」
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