肇『水泳を教えて欲しい、ですか?』
加蓮「うん、たしか肇って泳げる人だったよね。よかったらお願いできないかな?」
肇『泳ぎは結構得意だけど…どうしてこの時期に?』
加蓮「2月にトライアドプリムスで海外ロケがあってさ。南半球はちょうど夏だから、水着での撮影もあるんだよね」
肇『わぁ、海外でお仕事だなんて凄いね』
加蓮「あはは、ありがと。それでさ、凛も奈緒も私がカナヅチなの知ってるから、こっそり泳げるようになって二人をアッと言わせてやりたくて」
理由はそれだけじゃないんだけどね。
今日のレッスン後に自然と来年の海外ロケの話題になった時、凛も奈緒も不自然なくらい砂浜での撮影のことには触れようとしなかった。
二人とも泳ぐの好きなくせに。私を気遣おうとしてるのなんてバレバレなんだから。
それに私だってみんなで一緒に南国の海を泳いでみたい。
こんな本音は照れくさくて言えないけどさ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483255993
肇『…ふふっ、なるほど。分かった、コーチ役引き受けるよ』
加蓮「助かるよ、ありがと!」
肇『どういたしまして。練習する場所と時間はどうしようか?』
加蓮「えーとね、今週の日曜日はトレーニング用のプールが空いてるみたいなんだけど、そこでお願いできる?」
肇『ちょっと待ってね…うん、私もその日の予定は空いてるから大丈夫』
加蓮「よかった、じゃあ日曜日のお昼過ぎからでお願い。あと、このことは事務所の皆には秘密にしてもらっていい?」
肇『秘密特訓だね、了解』
加蓮「本当にありがとね」
肇『いいよ、私も久しぶりに泳ぎたかったし。それじゃあまた明日事務所で』
加蓮「うん、またね」
電話を切り、ほっと一息。
突然のことなのに、快く引き受けてくれた肇に感謝しなくちゃ。
そして約束の日曜日、肇と待ち合わせてプールへ向かう。
加蓮「トレーニング用の設備として温水プールがあるんだから、うちの事務所って凄いよね」
肇「そうだね。私はまだ数回しか使ったことないけど、初めて行ったときは綺麗だし広いしで驚いたな」
ちなみに私は今日が初めてだ。行ったことがないアイドルも多いんじゃないかな。
更衣室に入ると、外の寒さが嘘のように暖かかった。
肇が服の下に水着を着こんでいたのにまず驚いたけど、何よりその水着が…
加蓮「ごめん肇、教えてもらう立場で言うのもなんだけどさ…なんでスクール水着?」
肇「昔使ってた水着はサイズが合わなくなってて…似合わないかな?」
加蓮「いや、似合ってるけど…」
ゼッケンの【藤原】の文字が達筆なのがまた肇らしい。
ちなみに私は前に南国ロケで使った水着を用意していた。
肇「あ、可愛い。私も来年のシーズンまでに新しい水着を買いに行こうかな」
加蓮「それなら今度一緒に買いに行かない?オフシーズンでも売ってるお店があるんだ。今日のお礼もしたいし」
肇「ありがとう、こっちのお店はあまり詳しくないから是非お願いしたいな。それじゃあ今日は頑張らないとね」
むんっと気合を入れる肇。これは私も頑張らないとだね。
プールサイドでひとしきり準備運動をしてから、肇の水泳教室が始まった。
肇「それでは本日コーチをさせて頂きます、よろしくお願いします」
加蓮「うん、よろしく…ところでなんで口調変えたの?」
肇「今の私は加蓮ちゃんのコーチですから。あ、私を呼ぶ時もコーチでお願いします」
加蓮「肇って意外と形から入るタイプだったんだね…」
肇「コーチ、です」(ぷく
加蓮「はーい。よろしくお願いします、コーチ」
肇「ええ、任されました。一緒に頑張りましょうね」
そう言って微笑む肇は、私と同い年なのに随分大人びて見えた。
伊達に年少組アイドルの子たちのお姉さんポジションではないということかな。
まあそんな肇だからこそ、私もコーチ役をお願いしたんだけどね。
肇「さて、まずは前提条件として加蓮ちゃんはどのくらい泳げますか?」
加蓮「…人間の体が水に浮かぶとは信じられない程度、かな?」
この前の南国ロケで浮く練習はしたけど、すぐに沈みかけてしまってプロデューサーさんに助けられたとは言えないなぁ。
肇「なるほど…ではその辺りから始めましょうか」
肇と一緒にプールに入ったけど、思ったより深いなぁ…
とはいえ首元までしか水には浸からないから、万が一にも溺れることはないよね。
肇「泳ぎ方の練習の前に、まずは水に浮かぶ感覚を掴んでもらおうと思います」
加蓮「はいっ、コーチ!」
奈緒が好きな熱血スポ根アニメのように返事をすると、肇は少し照れくさそうに笑った。
自分でそう呼ぶように言ったのに、可愛いなぁもう。
肇「コホン…それでは深呼吸をして、深く息を吸ったところで後ろに倒れるようにしてみましょう。私が背中を支えますから、安心して倒れこんでください」
加蓮「よーし…スー…ハー…スー…んっ!」
軽くジャンプして後ろに倒れこむ。
うわ、顔に水がかかった!?
肇「ちゃんと支えていますから、慌てないで大丈夫。軽く顎を引いて、ゆっくり息をして、落ち着いてきたら目を開けましょう」
肇の声を頼りに少しずつ心をなだめて、そっと目を開く。うん、大丈夫そう。
プールの天井って妙に高いなぁ、なんてことを考える余裕も出てきた。
加蓮「ふぅ…よし、落ち着いたよ」
肇「それじゃあ胸の前で組んでいる手をバンザイの形にしましょう。手は組んだままで、耳の後ろ辺りに二の腕が来るように、はいっ、ばんざーい」
加蓮「ば、ばんざーい」
よいこのすいえいきょうしつ、みたいな雰囲気になってきてるよねこれ。
ちょっと恥ずかしい…周りに誰も居なくてよかった。
肇「では次は足を動かしてみましょうか。足首の力は抜いて、太ももの付け根からゆっくりと両足を交互に上下させてください」
加蓮「えっと、こ、こうかな…わ、動くよ!?」
肇「ふふ、私も一緒に進むから大丈夫ですよ。あ、水面は叩かないようにしましょう。水中でゆっくりと、蹴り上げる足を意識して。いち、に、いち、に」
掛け声に合わせて足を動かすと、体が水面を滑るように流れていく。
肇「うん、上手です。それじゃあそのままそのまま…」
凄い凄い、支えてもらいながらだけど、まるで一人で泳げてるみたい!
夢中になって足を動かしていると、視界の片隅で肇が親指を立てているのが見えた。
……あれ、何かがおかしい。
加蓮「!? え、ちょっゴボゴボ!?」
肇「わわ、落ち着いて加蓮ちゃん!足をつけましょう!」
背中を支えていた肇の手が無いことに気付いて軽くパニックになってしまった。
足が付く深さだったから大丈夫だったけど…うぅ、鼻が痛い。
咳き込みながらプールサイドに上がると、一緒に上がってきた肇は私が何も言わずとも正座をしていた。察しが良いね。
加蓮「さて…申し開きはある?」
肇「あはは、いえ、ほら、その…自転車の練習でも後ろで支えていた父親がこっそり離したりするじゃないですか」
加蓮「それをやられた娘がどんな風に思うか、肇なら分かるよね?」
肇「…うん。ごめんね…」
加蓮「まったくもう…でも、確かに一人でも泳げてたみたいだしね。少し休んだら練習の続き、しよっか」
肇「う、うん!それじゃあ今度は私が加蓮ちゃんの手を持つ形でスタートしましょう」
加蓮「はーい。引き続きよろしくね、肇コーチ」
休憩の後、私はすぐに一人でも泳げるようになったのだった。
泳げるようになるとプールも気持ちいいね、水泳が好きな人の気持ちが少し分かったかも。
背泳ぎが出来るようになったところでプールサイドに上がると、肇から爆弾発言が飛び出した。
肇「さて、背泳ぎはもうバッチリですね。次の練習に移りましょう」
加蓮「え、次?」
肇「ええ。実は海で泳ぐには背泳ぎはあまり向いてないんです。プールと違って波がありますから、顔に水がかかりやすくって」
加蓮「えー…じゃあなんで背泳ぎの練習をしたの?」
肇「泳げるという自信をつけてもらうためです。腕の動作や息継ぎを考えなくていいから、初心者が泳ぐには背泳ぎが一番だと思ったので」
なるほど、いろいろ考えた上でコーチしてくれているみたい。
加蓮「そういうこと…分かった、頑張るよ。で、次は何を教えてくれるの?平泳ぎ?それともクロール?」
肇「いえ、これから加蓮ちゃんに教えるのは息継ぎの必要がなく、熟練者ならば服どころか鎧を着たままでも泳げるというとっておきの泳ぎ方です」
加蓮「おー、なんだか凄そう。なんていう泳ぎ方なの?」
肇「それはですね…【のし泳ぎ】です」
そこからの練習は苛烈を極めた。
肇「右手で無理に水をかこうとしないで。右手はかじの役割です、左手でしっかり水をかいてください」
加蓮「えっと、こうかな」
肇「そうです。あっ、あごを上げすぎないで!進行方向を確認する時以外は足元をみるくらいでいいです」
加蓮「はっ、はいコーチ」
肇「いいですよ!手の動きと足の動きを連動させて、足は挟み込むように!」
加蓮「はいっコーチ!」
肇のテンションに引っ張られてしまい、らしくもなく熱血してしまった。
まあ、たまにはいいかな。
肇「…うん、完璧ですね。免許皆伝です」
加蓮「あ、ありがとう、ございました…」
肇の手を借りてなんとかプールから上がり、仰向けになる。
普段レッスンで鍛えている部分とは違う筋肉を使うのかな、疲労感が凄いや。
でも、おかげでちゃんと泳げるようになった。良かった、これで…
肇「これで凛ちゃんや奈緒ちゃんと一緒に泳げるね」
加蓮「うん…って、え!?」
思わず体を起こすと、肇は笑みを深めてこちらを見ていた。
肇「あ、やっぱり。鎌掛けだったんだけどね。加蓮ちゃんならそう考えてるんじゃないかなあって」
加蓮「………二人には言わないでね?」
肇「ふふっ、秘密特訓だもんね?」
ほほえましそうにこちらを見る肇と目を合わせられない。
これは水着を買いに行くときには肇のプロデューサーさんを一発で悩殺できるようなやつを選んであげないとね、お礼の気持ちを込めて。
(2月某日・南半球のとある砂浜にて)
スタッフ「はい、今日の撮影は以上です。お疲れ様でした」
TP「「「お疲れ様でした!」」」
奈緒「ふー、終わったな!撮影の後はしばらく遊んでいいってことだったし、砂山でも作るか?」
凛「ちょっと子供っぽいけど、たまにはいいかもね」
加蓮「いやいや二人とも、折角の南国のビーチなんだから、泳がなきゃ嘘でしょ」
奈緒「そ、そうか?ならちょっと待ってろ、浮き輪を借りてくるから」
加蓮「もう、そんなのいらないってば。行こっ!」
凛「あ、ちょっと加蓮!」
止める間もなく海に入っていく加蓮を慌てて奈緒と追いかける。
するとそこには、驚きの光景があった。
加蓮「ほら、ちゃんと泳げてるでしょ!いつまでもカナヅチのままの私じゃないんだから!」
奈緒「お、おい、凛…」
凛「うん…凄い、加蓮が泳いでる…泳いでるけど…」
凛・奈緒「「………忍者だ………」」
顔をこちらに向けたまま、横方向へ滑るように泳ぐ加蓮の姿はまさしく忍者のようだった。
奈緒「北条…そうか風魔か!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
凛「奈緒は少し落ち着こうか」
錯乱する奈緒をなだめながら加蓮を見ると、驚く私たちを見て満足したのか眩しいほどの笑顔だった。
もう、さっきの撮影の時にその顔をしたらよかったのに…泳ぐ姿はともかくとして。
奈緒が落ち着いたところで、私たちも加蓮を追って海に飛び込んだ。
楽しい休憩時間になりそうだね。
以上になります。読んで頂きありがとうございました。
そして以下肇さんの広告になります。
モバマスにて現在開催中のガチャで復刻枠としてクワイエット・ズィール 藤原肇が手に入ります!
その影響でフリトレも随分お求めやすい価格となっております。
和服の特訓前、サイバーな特訓後、どちらも大変すばらしいのでこの機会にお手元にいかがでしょうか。
性能を見ても23コストの攻撃特化、Co,Pa絶大-超絶バフと大変強いです。ちなみに人気度付けたら攻撃が30000超えます。
また、デレステではスカウトチケット販売中!【SSR ただひとつの器 藤原肇】が入手できます!
和風の衣装が大変美しく、またコミュやトップ画面の台詞も大変すばらしいので、是非お迎えしてあげてください。
最新の紗枝さんや芳乃などの和服SSRと並んだMVは圧巻ですよ!
それでは2017年が皆様方にとって良い年となりますように。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません